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乳児の絵本読み聞かせ場面における情緒応答的かかわりに関する研究
乳児の絵本読み聞かせ場面における情緒応答的かかわりに関する研究 一母親と女子大学生の比較一 専 攻 教科・領域教育学 コース 生活・健康・総合内容系(家庭) 学籍番号M07235G 氏 名 高島 由佳子 した。実験終了後,被験者は感情評定とアンケートに 【目的】 親になるまでに子どもとの接触経験がなく,育児に 記入した。 自信が持てずに不安を抱えている養育者が少なくない。 4.分析 (1)対乳児行動:絵本読み聞かせ時の被験者の行動 将来親となったときに,乳児とうまく接することので きる能力を身につけることは重要である。乳児のコミ を分析し,カテゴリーに分類した。乳児の表情得点を ュニケーショ/τ動は,養育者の援助によって成り立 判別した。 っており(Bow1by1969),乳児は養育者との関わりを (2)音響的特徴:録音した音声を,音声分析ソフト 通して,他者との対人関係能力を身につける。養育者 を用いて,被験者の乳児不在時の絵本朗読音声(乳児 が乳児の動きや表情から情動を適切に読み取り,正し 不在音声)と絵本読み聞かせ音声(対乳児音声)を抽 くすばやく適切に対応する「情緒応答性」(Emde& 出し,基本周波数と発話速度の分析を行った (3)発話内容:10分間の録画のうち,絵本読み聞か So説,1981,Bm脾&肋bmson,1991)が求め られているといえる。このような,養育者から乳児へ せ時の映像を絵本ぺ一ジ毎に区切ってコンピュータに の働きかけと情緒応答的かかわりの場として,絵本読 入力し,全発話を抽出した。本文の朗読以外の発話を み聞かせ場面に注目した。これまでの絵本の読み聞か カテゴリーに分類した (4)情動評価:A㎞釦dを用いて,実験前後に自 ぜに関する研究は母親を対象としたものが多く,育児 未経験者を対象としたものはほとんど見られない。本 己評価を行った。 (5)有意差検定:Mえ㎜・Wl■itneyのU検定および 研究では,母親と育児未経験者である女子大学生が, ①どのような読み聞カ曲〒動をとるか,②どのような ㎜oox㎝の符号f寸11回立検定を行い,危険率0.05未満 対児行動を示すか,③どのような音響的特徴がみられ を有意差ありとした。 るか,④どのような発話を行うか,⑤そのとき情動は 喚起されるかについて検討する。そして母親と女子大 【結果と考察】 1.母親と学生の対乳児行動 学生を比較し,それぞれの特徴を明らかにすることを 対乳児行動をカテゴリーに分類した結果,対乳児行 目的とした 動総数及び,接脚下動の「乳児に接触する」と,非接 角桁動の「絵を指差す」,「絵本を動かす」が,母親に 【方法】 1.対象乳児と被験者:対象乳児は生後5ヶ月の保護 有意に多くみられた(pく05)。母親は,乳児の不榊青 者の同意を得た乳児10名,被験者は乳児の母親10名 動を平静化させる行動をとっており,共同注意を促す と女子大学生15名。 働きかけを行っている。日常の乳児の発達的な変化に 2.選出絵本 ブックスタートのおすすめ絵本rかお 触れている母親に特有の行動であるといえる。 かおどんなかお」(藤原良平作,こぐま社う 2.母親と学生の対乳児音声の特徴 3一実験手続き 実験室と操作室からなる生活環境実 母親,学生ともに,乳児音声の基本周波数,持続時 験室で行った。まず別室で,乳児不在時音声を抽出し, 間がともに有意に上昇,増加した(pく.05)。このこと 録音した被験者の現在の感情の自己評定を行った。 は,母親,学生ともに乳児に対する読み聞かせ時にマ 次に,被験者は実験室に入室後,椅子に座り,10分間 ザーリーズが出現することを示している。 乳児を膝の上に座らせて絵本を読み間カせるように指 3.母親と学生の発話内容 示した。実験中の被験者の行動,乳児の表情を4台の 発話内容を分析した結果,r模倣・代弁」の発話数が ビデオカメラで録画した。また,被験者の音声も録音 母親に有意に多く出現していた(pく05)。母親は乳児 一472一 の注視や発声,あるいは顔の表情などを意味のある行 また,乳児のr快」の情動を引き出すような遊戯的 動として解釈しており,乳児の反応に対してより情緒 なあやし言葉とともに,乳児の体を揺り動かす被験 応答的であるといえる。乳児の声の模倣は言語発達を 者もみられた。これらの行動は乳児が「快」の反応 促すことにつながり,乳児にとって重要な養育行動で を示した場合に繰り返し行われており,乳児の情動 ある。次に,被験者の発話からr情動語」,r共感語」 に敏感に反応した結果,引き起こされた行動といえ に関する検討を行ったところ,母親により多く出現す る。このような被験者には同時に,マザーリーズの る傾向がみられた人の心的状況に言及したこれらの 特徴がより強く現れており,乳児の反応を引き出し 言葉かけが,子どもの情動・社会発達に有効であるこ ながら,相互作用を活発に行っていたといえる。 とは言うまでもない。 (5)対乳児音声の特徴と発話内容の関瞳性 4.読み聞かせ時の情動 音声基本周波数の差と「遊戯的音声」(pく01),「受 母親と学生の情動の自己評価において有意差はみら 容的表現」(pくO1)の発話数に相関がみられた乳 れなかった。また,実験前後の情動変化では,実験後 児がぐずる,泣くなどの状態を経験した被験者は, に「快」に変化する被験者が劉噸向があった。本実 受容的な語りかけや遊戯的なあやし言葉を用いて, 験の被験者は,対児感情が良好で意欲が高く,実験を 乳児の情動を収めようとしていた。そして被験者が 肯定的に捉えていたために,「快」の評価が上昇したも これらのあやし言葉を発するとき,より声が高くな のと考えられる。 る傾向がみられた。養育者は乳児の情動をr快」に 5.個人差の検討 変容させるための発話を行うときに,乳児が好むと (1)対乳児行動出現率とレパートリーの関連性 される高い基本周波数を用いていた。 (6)発話内容と対乳児行動の関連性 対乳児行動出現率と,「乳児に接触する」(pく05), 「乳児に接触する」と「模倣・代弁」(pく05),「乳 「絵を指差す」(p〈刀1),「絵本を動かす」(pく.O1)の 児の体を揺らす」と「注意喚起・音声誘出」(pく01), 行動内容出現率との間に相関がみられた即ち,対乳 「遊戯的音声」(pく.01),「絵を指差す」と「模倣・ 児行動のレパートリーの豊富さが,乳児と養育者の相 代弁」(pく05)に相関がみられた対乳児行動のう 互作用を豊かにしているといえる。 ち,r乳児の顔を見る」行動はほとんどの被験者に出 (2)音響的特徴の関連性 乳児不在時と対乳児時の音声基本周波数の差と,音 現していた被験者の中には発言刮寺に乳児と目を合 声持続時間の差の間に相関がみられた(p〈01)。実験 わせながら表情の誇張を行う,マルチモダル・マザー 結果より,マザーリーズを構成する要素が同時的に出 リーズが見られた。一方で,このような特徴の見ら れない被験者もいた乳児の情動の読み取りには, 現。していた。 一般特性の上に経験差がある⑰mde&So鵬,1983 (3)総発話数と発話内容の関連性 総発話数と,「絵の説明」(pく01),「注意喚起・音 )とされており,学習によって習得される能力であ 声誘出」(p〈り1),「f静擬示・命名」(p〈。O1),「問い るといえる。 かけ」(pく.01),「受容的表現」(pく。05),「本文の繰り 返し」(pく05),r遊戯的音声」(pく05)の各発話内容 以上のことから,女子大学生は母親ほどには,対乳 数との間で相関がみられた即ち,乳児への言葉がけ 児行動と発話内容において情緒応答的な養育行動がみ が多い人は,これらの発話数が多いことが分かった られなかった。また,乳児の情動を読み取った言葉が 絵本の内容に関する発話とともに,読み聞方せ時間を けや行動ができない学生がおり,養育行動には個人差 豊かな情動交流の場にするための言葉かけを行ってい が大きいことが明らかになった。これらの行動は育児 たことが例える。 経験によって獲得されるものと考えられる。 情緒応答的な養育態度を育てるためには,乳児とかか (4)対乳児行動と対乳児音声の関連性 対乳児行動の「乳児の体を揺らす」と,音声基本周 わる経験や学習が重要であるといえる。 波数差の間に相関がみられた(p〈刀1)。被験者は乳児 が「不快」の情動を表したときに,読み間カせを中断 主任指導教員 松村京子 し,乳児の体を揺らして情動調律を行う傾向があった。 指導教員松村京子 一473一