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行政サービス向上と行政運営の効率化に向 けた電子政府の施策

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行政サービス向上と行政運営の効率化に向 けた電子政府の施策
行政サービス向上と行政運営の効率化に向
けた電子政府の施策
Measures to Improve Administrative Services and Efficiency of
Administrative Affairs through E-government
あらまし
政府公表の「IT新改革戦略」(2006年1月
IT戦略本部)では,行政手続のオンライン利
用の促進や行政事務・システムの最適化などを推進することにより,国民の利便性の向上と
行政運営の簡素化,効率化,高度化および透明性の向上を図り,「世界一便利で効率的な電
子行政」の実現を目指すこととしている。さらにIT戦略本部では,2007年4月に「IT新改革
戦略
政策パッケージ」を策定し,今後のIT政策に関する基本的な方向性を明らかにする
とともに,IT新改革戦略を加速し,また,新しい可能性を切り開く改革や創造のエンジン
となる政策を取りまとめた。
本稿では,ITの恩恵を国民が実感できる取組みの一つとして,「国・地方の包括的な電子
行政サービスの実現」について具体的に解説するとともに,これまでに電子政府の実現に富
士通が貢献した内容を踏まえ,行政サービス向上のための施策における富士通の取組みにつ
いて紹介する。
Abstract
The government’s “New IT Reform Strategy” (announced in January 2006 at IT Strategic
Headquarters) plans to simplify administrative improvements for more public convenience,
promote greater efficiency, advances, and improvements in transparency by promoting the
online use of administrative procedures, and optimize administrative affairs and the system
itself, in order to realize “the world’s most convenient and effective form of electronic
administration.” In April 2007, the IT Strategy Headquarters also formulated the New IT
Reform Strategy Policy Package that clarifies the basic directions of future IT policy,
accelerates the New IT Reform Strategy, and drives an engine of creative reform that may
afford new possibilities and policy choices. This paper describes the benefits of IT relative
to “realizing comprehensive electronic administrative services nationwide and at the local
level” as one specific action that the nation can undertake. It also describes Fujitsu’s
contributive efforts in helping to introduce and realize electronic government in support of
the measures being taken to improve administrative services.
田中 義孝(たなか よしたか)
官公庁ソリューション事業本部第一
ソリューション統括部 所属
現在,総務省を中心とした電子政府
関連ビジネスのシステムインテグ
レーションに従事。
FUJITSU.58, 6, p.477-482 (11,2007)
477
行政サービス向上と行政運営の効率化に向けた電子政府の施策
ま え が き
2007年7月現在では,以下の状況にある。
・制度面の改正においては,必要な添付書類の削減
行政分野については,IT活用により行政運営の
や手数料の減額を実施し,とくに手数料の減額に
簡素化,効率化,および透明性の向上を図るととも
より,オンラインによる申請件数は増加している
に,利用者の視点に基づき,利便性・サービス向上
傾向にある。また,簡易な手続きにおいては,電
が実感でき,真にIT活用による便益を享受できる
子署名に必要なICカード(公的個人認証の証明
ように,国・地方を含めたシームレスな電子行政の
書など)を発行していたが,申請者の署名を求め
実現を目指すことが重要である。また,オンライン
ないID/パスワードの付与に切り替えたことで利
利用の促進に関しては,2006年3月に「オンライン
便性が向上している。
利用促進のための行動計画」(IT戦略本部2007年3
・国の申請・届出においては,電子政府の総合窓口
月改定)を定め,国・自治体に対する申請・届出な
システム「e-Govポータル(1)」にほとんど集約さ
ど「行政手続」におけるオンライン利用率を2010
れたため,e-Govポータルから申請・届出が可能
年度までに50%以上とするなど,利便性・サービ
な手続きにおいては,PCの環境(JRE:Java実
ス向上が実感できる電子行政(電子政府・電子自治
行環境など)が一元化された。また,e-Govポー
体)を実現することが明確な数値目標として,掲げ
タルに申請・届出の手続きが一元化されたものに
られている。
ついては,一括申請が可能となるようなワンス
富士通は,電子政府実現のために,システムイン
。
トップの機能が具備されている(図-1)
テグレータとしてシステム構築,運用を担当するほ
以上のような施策により,オンライン利用率は若
か,申請・届出など手続きの利用者としての企業と
干向上されている傾向にあるが,現状では,2010
いう二つの側面で行政サービスの高度化に寄与して
年オンライン利用率50%達成には程遠い状況に
いる。
ある。
本稿では,まず現状の電子行政サービスの一端を
紹介し,さらに利用推進に向けた各府省との動向を
紹介する。最後に,富士通社内のオンライン申請シ
現状調査の内容
政府は,オンライン利用率向上に向けて,以下の
ステムの運営における課題をもとにした提言と取組
みについて述べる。
電子政府が提供する行政サービスの現状
2003年度に,国・行政の申請・届出など手続き
の97%がオンライン化され,国民・企業がオンラ
インで申請・届出が可能となる基盤が整備された。
しかし,以下の問題が解決されない状態であったた
め,オンラインによる申請・届出の利用率は低い状
況であった。
(1) 国民・企業にとってオンラインによる申請・
届出の効果が享受できない。
(2) 申請・届出を行う行政団体ごとに,申請者と
して準備するPCの環境が異なる。
(3) 申請・届出の方法が行政団体ごとにばらばら
で,同じ契機(イベント)に対する申請・届出
について,行政団体ごとに実施する必要がある。
これらの問題を解決すべく,2004年の電子政府
構築計画でその対応のための施策を公表しており,
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図-1 e-Gov(電子政府の総合窓口)トップページ
Fig.1-Top page of e-government Website.
FUJITSU.58, 6, (11,2007)
行政サービス向上と行政運営の効率化に向けた電子政府の施策
調査を実施しているところである。以下,本章で紹
(2) 企業
不動産登記関係,商業・法人登記関係,国税関係,
介する内容は,「電子政府評価委員会平成18年度報
告書(2)」に基づいたものである。
社会保険・労働保険関係,自動車登録関係の10手
● 自己評価/ヒアリング調査
続きを対象
当初オンライン利用促進に関する手続きについて
なお,パイロット調査の結果,個人については,
は,175手続きが対象であったが,オンライン利用
認知度は約4割~9割と比較的高い一方,実際に利
促進のための行動計画を策定し,2006年8月31日
用している人の割合は1割前後であった。オンライ
CIO連絡会議で決定した「電子政府推進計画(3)」に
ン申請を利用しない主な理由は以下のとおりである。
基づき,現在,各府省で見直しを進めている。今後,
・直接窓口に行った方が早い
パブリックコメントを経て,CIO連絡会議で取りま
・申請の仕方に関する説明が不十分
とめる予定である。この自己評価については,電子
・電子証明書の取得に時間を要する
また,実際に利用している人の満足度については,
政府評価委員会が主体で実施され,評価指標は,
「施策の進捗状況」,「アウトプット指標」,「アウト
以下のように高い比率で推移している。
カム指標とその目標値・目標年度」
,
「課題」などで
・全般的に便利になったと感じている人が9割以上
ある。
・手続きにかかる時間(手間)が短縮されたと感じ
● 企業アンケート調査とパイロット調査(表-1)
総務省が主体となり,企業に対してオンライン利
ている人が9割前後
・手続きにかかる費用が削減されたと感じている人
が約8割
用の実態調査をアンケート形式で実施した。
また,パイロット調査に関しては,電子政府評価
行政サービス向上のための政府の施策
委員会が,企業・個人に対しオンライン利用促進に
電子政府評価委員会平成18年度報告書によると,
ついての利用者実感調査を実施した。
調査項目は,以下の主要なオンライン申請システ
政府は,「世界一便利で効率的な電子行政」を実現
ムについて,利用者を個人と企業に分けた上でパイ
するために,「申請・届出等手続におけるオンライ
ロット調査を実施し,認知度,利用率および満足度
ン利用率50%以上を2010年度までに達成」,「政府
を把握し,利用阻害要因を検討した。
全体の業務・システム最適化」
,
「信頼性・安全性の
(1) 個人
確保,セキュリティ高度化,先端技術の育成・普
不動産登記関係,国税関係,自動車登録関係の5
手続きを対象
及」という三つの目標に基づく政策を行うこととさ
れている。
表-1 アンケート調査の概要
調査種別
調査目的
パイロット調査(利用者実感調査)
企業アンケート調査
オンライン申請に係る,利用者の「実感」の把握・評価 日本を代表する企業におけるオンライン申請の利用状況
(認知度,利用度,満足度,申請時間・費用等)
及び改善要望等の把握
調査対象
個人
実施主体
企業
企業
電子政府評価委員会
総務省
調査時期
H.18.12.1~12.8
H.18.12.1~12.15
H18.10.10~H19.1.16
調査手法
Webモニター調査
郵送配布・FAX回収
電子メール調査,一部対面調査
回収数
5000件※1
1163件※2
22社
備考
第2回評価専門調査会(H18.10.24)における決定を受け 第2回電子政府評価委員会(H18.9.12)における要請を
て実施。
受けて総務省が実施。
※1
個人調査は,不動産登記関係,国税関係,自動車登録関係の合計5手続について,(オンラインであるか紙ベースであるかを問わ
ず)行ったことがある人を対象に,手続ごとに 回収数が1000になるまでWebモニター調査を行った。
※2 企業調査は,1企業・事業所につき,不動産登記関係,商業・法人登記関係,国税関係,社会保険・労働保険関係,自動車登録関
係の合計10手続について,対象手続を行ったことがあるか否かで事前にスクリーニングすることなく,アンケート用紙を郵送し
て行った。
出典:電子政府評価委員会平成18年度報告書(2)
FUJITSU.58, 6, (11,2007)
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行政サービス向上と行政運営の効率化に向けた電子政府の施策
電子政府評価委員会では,この計画を踏まえた上
2007年4月公表の「IT新改革戦略 IT政策パッケー
で,以下の三つの視点から電子行政の推進における
ジ(6)」では,利用者ニーズを的確に踏まえ,フロン
課題を抽出し,その解決の方向性を検討してきた。
トオフィスとバックオフィスおよびバックオフィス
(1) 利用者視点に立った「見える化」と成果主義
相互間の連携や民間手続との連携を図ることにより,
(2) フロントオフィス改革とバックオフィス改革
様々な行政手続きを基本的にワンストップで簡便に
の連動強化
行える「第二世代の電子行政サービス基盤の標準モ
(3) オンラインに係る共通基盤の整備・普及,府
デル」を2010年度目処に構築することになってい
省内・府省間連携,国・地方連携,官民連携に
る(図-2)。これを実現するための方策は以下のと
よる全体最適の実現
おりである。
利用者視点に立った「見える化」については,前
・課題の抽出と分析,その解決に向けた方向性の整
述の調査内容を整理し,調査の結果を踏まえた「オ
理のため,関係機関・有識者などによる検討体制
ンライン利用促進の行動計画(4)」を定期的に見直す
の立上げ(2007年度)
ことが重要であると,電子政府評価委員会から報告
されている。また成果主義については,「行政効率
化目標の明示」が必要であると同委員会から報告さ
れている。「経済財政運営と構造改革に関する基本
方針2006について (5) 」によると,各府省の業務・
システム最適化計画を集計した結果である,1229
・利用状況の把握及び利用者視点に基づく行動フ
ローの分析やニーズの把握(2007年度)
・国と地方自治体の情報システムのデータ標準化
(2007年度)
・事業化に当たっての個別具体的な課題の抽出と分
析(2008年度)
億円の運用経費と年4750万時間の業務時間の削減
・モデル自治体の選定と実証実験(2009年度)
が,最も重要な数値目標であり,この目標に対する
・標準モデルの構築(2008~2010年度)
進捗状況のチェックが必要であることも提言されて
いる。
富士通からの提言
現在もオンラインによる申請手続きにおいては,
富士通は,オンライン申請システムを企業という
e-Govポータルで一元化されているが,今までに電
立場で利用することから,政府に対し,現状のオン
子化された手続きを集約したに過ぎず,利用者視点
ライン申請・届出などに関する課題をしている。富
でのワンストップサービスの構築ができていない。
士通が届出を行う場合の課題をもとに以下の4点を
出典:電子政府評価委員会(平成19年度 第1回)資料
図-2 次世代電子行政サービスのグランドデザインのイメージ
Fig.2-Whole idea of next-generation “electronic administration” services.
480
FUJITSU.58, 6, (11,2007)
行政サービス向上と行政運営の効率化に向けた電子政府の施策
(4) 属性認証の許可
提言した。
(1) 真のワンストップ・シングルウィンドウへ
従業員の申請を企業が代理で申請する場合,企業
の取組み
が従業員の代理人として申請する場合の認証方法に
富士通では総務部門をBPR(業務改革)するこ
ついて,属性認証の許可を提言した。
とで,総務に関する事務処理を一括し,効率化を
今後の富士通の取組みとしては,「電子政府推進
図っている。現状のオンライン申請システムでは,
委員」として利用者視点からのオンライン申請の使
申請ポータルは一元化されているが,申請様式提出
いやすさを提言するとともに,「関係機関・有識者
先事務所を記入する欄があり,企業側で一括して情
による検討体制」に参画し,「第二世代の電子行政
報を取りまとめても,現状では提出する地方単位に
サービス基盤の標準モデル」の基本構想の策定の一
分割して申請する必要がある。このため,企業側で
端を担う予定である。
一括して申請し,かつ処理する地方事務所などへの
データの振分けは,行政内部の業務システムで実施
富士通の取組み
利用者が実際にオンライン申請を利用する際にど
することを提言した。
(2) 申請データの一括受付(ファイル転送など)
う感じているか,どのような利点を重視しているか,
大手企業では,企業内部でデータ化された大量の
何が利用上の課題・障害であると考えているかにつ
申請情報が存在する。この申請情報について,一括
いての把握や分析が不十分であるため,利用者視点
してオンライン申請可能となるような機能の実現を
に基づく改善に向けた適切な処方箋 の提示ができ
提言した。
ていない状況である。これらの解決に向けた方向性
(3) 関連手続きの審査に関する行政機関の相互
せん
については,「利用者ニーズに基づく業務・サービ
連携
ス改革の推進」が必要であると考える。例えば,個
ある申請に必要な添付書類が別の異なる行政機関
人利用者にとっては,手続き単位ではなく,転居や
から発行される場合,その添付書類については,申
結婚,出産といったライフイベント単位で,利用者
請者から受け取るのではなく,行政機関連携などに
の行動フローに沿って行政サービスの施策を実施し
より行政内部で情報をアクセスし,審査を行うこと
ていくことを検討すべきであると考える。
企業が職業安定所に提出する雇用保険に関する手
を提言した。
続の例を図-3に示す。ここでは,従業員をデータと
従業員分
一括でとりまとめ
図-3 改善後の雇用保険に関する申請の業務フロー例
Fig.3-Improved application procedure for employment insurance.
FUJITSU.58, 6, (11,2007)
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行政サービス向上と行政運営の効率化に向けた電子政府の施策
とらえ,データの発生(入社)からデータの消滅
し,GPMOを中心に総務省などが各行政機関と密
(退社)のライフイベントを整理し,そのライフイ
接な連携を図り,真の全体最適(化)が実現される
ベントにおける行政とのかかわり,すなわち申請届
ことを期待したい。富士通はこれらの政策を実現す
出をどういうタイミングで実施するか,転勤時にお
べく,システムインテグレータの立場を越えたイノ
ける手続きは何が存在するかを,整理する必要があ
ベーションを起こしていきたい。
る。富士通では,データモデリング手法を用いデー
タの変化をサービスととらえ,企業内に業務フロー
を整理しながら,より効率のよい行政サービスの構
築を提言していくべきと考える。データモデリング
により,サービスを明確に定義しSOAによるシス
テム構築を実現していく所存である。
む
す
び
本稿で紹介したIT戦略本部の政策は,重点計画
参 考 文 献
(1) e-Govポータル.
http://www.e-gov.go.jp/index.html
(2) IT戦略本部電子政府評価委員会:平成18年度電子
政府評価委員会報告書.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/ithyouka/
houkoku/huzoku2.pdf
(3) 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議:電子政
2007のIT政策の柱として,記載され,具体的な目
府推進計画.
標と行動方針が書かれている。
http://www.e-gov.go.jp/doc/060831/suisin.html
しかし,府省内,府省間および地方自治体の組織
(4) IT戦略本部各府省情報化統括責任者(CIO)連絡
構造は縦割りであり,本政策の推進のためには,主
会議:オンライン利用促進のための行動計画(平成19
管部門の相当なリーダシップが必要と考える。2006
年3月改定)
.
年4月に内閣官房に電子政府推進管理室(GPMO)が
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/cio/dai23/
設置され,業務・システム相互に関連する必要な仕
siryou1_2.html
様の調整,工程管理などについて,総合調整機能を
(5) 経済財政諮問会議:経済財政運営と構造改革に関
発揮しつつ,中心となって,担当府省間の連携・調
する基本方針2006(平成18年7月7日)
.
整を図ることがミッションとされている。しかし,
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/0707/
現状の体制では,「最適化計画とプロジェクト実施
item1.pdf
かいり
の時間経過による費用対効果の乖離」や「コスト削
(6) IT戦略本部:IT新改革戦略
政策パッケージ(平
減重視によるセキュリティ確保などの費用を割当て
成19年4月5日).
られないなど,近視眼的になること」などのリスク
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/
があげられる。
070405honbun.pdf
本リスクを回避するため,GPMOの権限を強化
482
FUJITSU.58, 6, (11,2007)
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