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心臓血管外科学教室における 臨床,基礎研究

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心臓血管外科学教室における 臨床,基礎研究
〔千葉医学 90:13 ∼ 17,2014〕
心臓血管外科学教室における
臨床,基礎研究
〔 研究紹介 〕
松 宮 護 郎
Ⅰ.はじめに
臨床教室でしかも手術が直接生命予後に関与する
分野であることから,臨床に直結する研究を主体
近年,生活の欧米化,社会の高齢化などに伴い
としている。現在進めているいくつかのプロジェ
心臓血管疾患罹患率は増加し,それとともに心臓
クトについて紹介する。
血管外科手術数も増加の一途をたどっている。日
本胸部外科学会統計では過去10年間で心臓胸部大
血管手術数は約40% 以上増加しているが,特に動
Ⅱ.重症心不全に対する補助人工心臓治療
脈硬化や加齢に伴う大動脈瘤,弁膜症,虚血性心
現在,心臓移植に替わりうる重症心不全に対
疾患など高齢者や種々の合併症を伴った重症手術
する治療法として最も期待が大きくまた実現性
症例が年々増加している。そのような中で,手術
が 高 い の が 補 助 人 工 心 臓(Ventricular Assist
手技,心筋保護法や体外循環法を進歩させより安
System; VAS)である。補助人工心臓には心臓と
全に手術を行う努力を行う一方,手術侵襲をなる
同じように拍動流を生み出すポンプと,一定の流
べく軽減するための低侵襲心臓手術の開発も重要
れを生み出す定常流(ロータリー型)ポンプがあ
性を増している。
る。1990年代までは拍動流ポンプが使用された
心疾患の最終病態である心不全は循環器領域に
が,これは装置が大型で人工弁を必要とするた
おける克服すべき最も大きな課題である。種々の
め,耐久性,抗感染性,抗血栓性に限界があり 2
薬物療法やインターベンションの発達にもかかわ
年以上の長期使用では合併症が多く成績は必ずし
らず心不全患者は年々増え,現状の治療が無効な
も良好ではなかった。これに対し2000年代から本
症例も増加している。こういった重症心不全に対
格的に臨床使用されるようになった定常流ポンプ
する最終的な治療法としては心臓移植が唯一の有
は,従来の拍動流ポンプに比べて小型でより体格
効な治療法であったが,ドナー不足により一部の
の小さい患者に適応できること,構造がシンプル
患者にしか恩恵を与えることはできていない。わ
で人工弁が不要でありより高い耐久性が望めるこ
が国では特にドナーの不足は深刻であり,心臓移
と,エネルギー消費が少なく低コストであること
植法案の改正により家族の同意で脳死下臓器提供
など多くの長所があげられ,実際に長期成績も大
ができるようになった2010年以降でも年間心臓移
きく改善した。このうち軸流ポンプは回転する
植例数はわずか30例前後にとどまっており,心臓
羽根車の前後に発生する揚力により前方に血液
移植に替わる治療法の開発は急務である。
を送りだすデバイスである。高速回転を要する
このような状況下に千葉大学に新設された心臓
ものの,小型化には最も有利である。HeartMate
血管外科教室は開設後約 4 年と若い教室である。
Ⅱ(Thoratec, USA)はこれまでに既に全世界に
研究はまだ端緒に着いたばかりのものが多いが,
おいて15,000例以上に使用された。遠心ポンプ
千葉大学大学院医学研究院心臓血管外科学
Goro Matsumiya: Basic and clinical research at Department of Cardiovascular Surgery.
Department of Cardiovascular Surgery Chiba University Graduate School of Medicine, Chiba University, Chiba
260-8670.
Phone: 043-222-7171. Fax: 043-226-2596. E-mail: [email protected]
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松 宮 護 郎
ジとしての補助人工心臓治療中に自己心機能の回
復を得て,離脱が可能になるという現象(bridge
to recovery)が注目されている。心筋症による
末期心不全に対し VAS 装着が必要になった場合,
疾患自体が基本的に進行性であることから VAS
を離脱することは不可能と考えられてきた。しか
しながら,1997年に特発性拡張型心筋症患者17人
の VAS 離脱例が報告され 以降この現象が注目さ
図 1 現在わが国で臨床使用されている植込み型定
常流補助人工心臓
れるようになった。
この現象は心臓リモデリングの進展機序を考え
る上で非常に興味深く,多くの基礎的研究が進め
(Centrifugal pump)はロータリーポンプのうち
られている。また,今後どのように VAS 離脱後
羽根車(インペラー)の回転に伴う遠心力を利用
の心不全再発を予測し予防するか,最も効果的な
して羽根車と垂直方向に血液を送り出すシステム
VAS 装着中の unloading の期間やウィーニングの
である。わが国で開発された EVAHEART(Sun
プロトコール,VAS 装着中に心機能回復をいか
Medical)や DURAHEART(テルモ)(図 1 )は
に評価するかといった問題を解決する必要があ
いずれも日本での治験が終了し使用が可能となり
る。著者らは,LVAS 装着時の左室心筋繊維化の
良好な成績を上げている。
程度と心機能回復に相関が認められること,離脱
VAS は,1960年代から心臓移植の代替として
可能性の評価方法としてポンプオフテスト時の左
永久使用(Destination therapy; DT)することを
室駆出率(LVEF)
,左室径(LVDd),肺動脈楔
目的として開発が始まったが,長期成績に問題が
入圧(PCWP)の変化に着目し,PCWP の増加に
あり,1980年代半ばからは,心臓移植へのブリッ
伴い LVEF が低下しないものでは離脱しうるこ
ジ(bridge to transplantation; BTT)が主要な使
とを示した[2]。さらに VAS 治療中に積極的に左
用目的となった。上記のような植込み型定常流
室機能の回復をもたらす方法を付加し,離脱を図
VAS の良好な成績を受けて,現在世界的には再
るという戦略が注目されている。これまでに心不
び心臓移植の代替としての DT が最も多い使用目
全に対する効果が証明されている ACE-inhibitor,
的となり[1],アメリカでは VAS 手術数が心臓移
Spironolactone, β-blocker などに加え,補助人工
植施行例とほぼ肩を並べるレベルまで来ている。
心臓治療中に自己細胞を用いた細胞移植や組織工
わが国でも2010年に 2 種類の埋め込み型定常流
学的手法を加えた心筋再治療法を追加する方法な
LVAS が保険収載され臨床使用可能となり,補助
どが試みられている[3]。
人工心臓治療は新たなステージに進んだ。心臓移
植へのブリッジ使用の場合においても平均待機期
間は3年以上に及んでおり,実際上 DT に近い使
Ⅲ.重症心不全に対する細胞移植
用を余儀なくされており,心臓移植へのブリッジ
近年心不全に対しても,細胞組織工学,再生医
に限らず,長期在宅管理による社会復帰を目指し
学等を駆使した再生型治療が新規治療法として注
た新たな植え込み型 VAS による治療を構築する
目されている。著者らは前任地にて,これら再生
必要がある。千葉大学は千葉県で唯一の植込み型
型治療の実現に向け温度応答性培養皿を用いて心
補助人工心臓実施施設となっており,すでに植込
筋細胞シートを作製し,不全心に移植することで
み型 VAS を装着して在宅管理を行う患者もでて
心機能が改善することを証明し,さらに,自己骨
きている。近い将来心臓移植も含めた重症心不全
格筋芽細胞移植,骨髄細胞移植を用いた心筋再
の治療センターとして機能することを目指してい
生治療を小動物および大動物実験にて確立した
る。
[4]。これらの結果をふまえ,左室補助人工心臓
さらに近年,重症心不全患者が移植へのブリッ
(LVAD)装着を要する重症心不全症例に対し骨
心臓血管外科学教室における臨床,基礎研究
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derived stem cell: ADSC) の 存 在 が 注 目 さ れ,
BM-MSC 同様心筋を含む種々の細胞に分化しう
ることが示された。細胞収率の上では BM-MSC
に比べ良好であること,多くの患者で局所麻酔下
に容易に細胞採取が行いうるという利点がある。
したがって,より苦痛なく採取しうる ADSC を
再生医療に用いることができれば,多くの患者さ
んにとって光明となると考えられる。脂肪組織は
早くから再生医療に用いる細胞供給源として注目
され,脂肪組織から体性幹細胞を採取単離,培養
貯蔵する方法や,その安全性の評価技術の確立を
図 2 骨格筋芽細胞および心筋細胞シートの心機能
改善に関与する因子を示すシェーマ
はじめ,肝細胞,インスリン分泌細胞への分化培
養法などが示されてきた。さらに著者らの共同研
究で ADSC から心筋細胞へ分化誘導し,in vitro
格筋芽細胞シートの臨床応用を行った。
で心筋細胞転写因子,心筋細胞骨格蛋白の発現を
しかしながら,骨格筋芽細胞移植の有効性は,
向上させうることを見出した。また,これらの細
当初期待されたように細胞自体が直接心筋細胞に
胞をシート化して,ラット慢性期梗塞モデルに移
分化するのではなく,これら細胞が分泌する種々
植したところ,in situ において心筋様細胞へと分
のサイトカイン,細胞増殖因子,ケモカインなど
化し,長期にわたり心機能改善効果が維持される
によりもたらされる血管新生,アポトーシス抑
ことを見出した。したがって ADSC は心筋へと
制,抗炎症作用,自己幹細胞の分化誘導などがそ
分化する能力を有しており,広範な心筋脱落によ
の主体であることが明らかにされてきた。完成し
る心不全にも有効性が期待され,当該細胞の採取
た心筋梗塞や心筋症などで多くの心筋細胞が脱落
は簡易かつ安全であることから,心筋細胞再生へ
してしまった状態の心不全に対しては,これらの
の細胞供給源として心筋再生治療に進歩をもたら
いわゆるパラクライン効果は大きな効果をもたら
すことが期待される。
さないと考えられる。したがって,重症心不全治
我々は現在 ADSC を用いた重症心不全に対す
療において心臓移植や補助人工心臓の代替となる
る再生型治療法の前臨床試験として,大動物モデ
ような心筋再生治療に適した細胞源を臨床使用で
ルにおいて ADSC の単離と心筋細胞への分化に
きるようにすることが重要である(図 2 )。
関する検討を行い,心筋シート作製の技術を用
iPS 細胞を心筋に分化誘導させ移植に用いる研
い,心筋細胞を心臓へ移植することによる効果を
究は行われているが,腫瘍化の問題など依然臨床
検討し,ADSC の心筋再生治療における有効性を
応用には克服すべき課題が多い。一方体性幹細胞
明確にすることを目指している。心不全モデルと
の一つである間葉系幹細胞は重症心筋虚血や心不
して慢性虚血および心筋梗塞による心不全におけ
全に対する細胞治療として有効であることは多く
る検討を行い,血管新生などによる血流改善効
の研究で示されてきた。なかでも骨髄由来間葉系
果,心筋として機能することによる収縮性や拡張
幹細胞(BM-MSC)は最も早くから注目され,in
性の改善効果のそれぞれについて検討を行ってい
vitro において心筋を含む種々の細胞に分化しう
る。これは臨床応用面においては虚血の解除が困
ることや,心筋梗塞や心不全動物モデルでの移植
難な部位(冠動脈バイパスにおける ungraftable
の有効性が示されてきた。しかしながら,臨床応
領域),心筋梗塞による心筋脱落が広範に起こり
用においては細胞採取に全身麻酔を必要とし,合
心機能改善が見込めない部位(梗塞完成領域)の
併症のリスクを伴うこと,幹細胞の収率が必ず
両者における本細胞治療の応用を目指した検討と
しも良好ではないことが問題となる。一方,近
なる。また長期の観察を行うことにより心機能改
年脂肪組織由来の多能性幹細胞(adipose tissue
善効果が継続的に得られる否か,心筋細胞の長期
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松 宮 護 郎
生着が得られるかまたそれらが心機能の改善にい
も行われてきた。しかしながら,いずれのサイト
かに関与するかを検討中である。
カインも,小規模な臨床試験では有効性を認めら
近い将来の臨床応用を目指しており,この治療
れるものの,大規模な臨床試験では有効性は認め
法が臨床応用に至れば,ドナー不足など心臓移植
られていない。
が抱える問題を克服することが可能となり,しか
著者らはこれまで,IL-6 ファミリーサイトカ
もより安全かつ患者さんへの負担も少ない治療と
インによる心筋保護に関する研究を行ってきた。
なりうることから,重症心不全治療への貢献意義
IL-6 ファミリーサイトカインである白血病阻止
は大きいと考えている。
因 子(LIF) や cardiotrophin-1(CT-1) は, 心 筋
細胞において,STAT1/3,ERK,Akt のシグナ
Ⅳ.サイトカインによる虚血再灌流障害制御と
外科的心筋保護法への応用
ルを活性化すること,中でも STAT1/3 の活性化
は,細胞保護関連遺伝子,血管新生因子遺伝子,
細胞構築関連遺伝子などを誘導し心筋保護的に
社会の高齢化と食生活の過栄養化により,虚血
作用することを報告してきた。これらの結果は,
性心疾患の発症が増加している。虚血性心疾患の
IL-6 ファミリーサイトカインを用いて心筋細胞の
中でも急性心筋梗塞では,急性期に生じた心筋傷
STAT シグナルを活性化することにより心筋保護
害が急性心不全の原因となるのみならず,さらに
治療が可能であることを期待させるものである。
その後時間をかけて傷害が進行し,慢性期にはよ
IL-6 ファミリーサイトカインは,IL-6,LIF,
り高度な心機能障害,すなわち,慢性心不全に帰
CT-1,IL-11などサイトカインからなるが,これ
結する。急性心不全および慢性心不全の発症を予
らのサイトカインはそれぞれに特異的な受容体
防する戦略として,急性期の心筋傷害を抑制する
(αサブユニット)に結合し,それに引き続いて
ことが有効であるとされており,具体的には,虚
共通の受容体である glycoprotein 130(gp130)を
血性心疾患の急性期治療として,カテーテル治療
活性化することにより,STAT シグナルを活性
や冠動脈バイパス術による再潅流治療が行われて
化する。このことは,心筋細胞に受容体(αサ
いる。このような虚血再潅流治療は,ガイドライ
ブユニット)が発現している IL-6 ファミリーサ
ン上も急性心筋梗塞の治療として強く推奨される
イトカインは,LIF や CT-1 と同様に心筋保護作
に至っているが,再潅流治療の心筋保護効果が,
用を示すことを示唆する。このような観点から,
「虚血回避による心筋細胞死の進展抑制」という有
我々は IL-11に焦点をあて,その心筋保護剤とし
益な効果と,
「再潅流によって新たに生じる心筋細
ての臨床応用に向けた研究を行ってきた。IL-11
胞傷害(再潅流傷害)
」という有害な効果の両面を
に注目した理由としては,IL-11が,米国では血
持つ事が知られている。従って,再潅流傷害を抑
小板減少症治療薬オプレルベキン(oprelvekin,
制し心筋保護効果を最大化することが,再潅流治
Neumega Ⓡ)として承認されておりヒトにおける
療の急性期効果の向上のみならず,慢性心不全の
安全性が確認されていることにある。また,我が
発症予防に意義深いものとなると期待される。
国においても癌患者を対象とした第Ⅱ相試験が行
こういった虚血再灌流障害の機序に関する研究
われ安全性が確認されている。
は長らく循環器領域の大きな研究テーマであり,
IL-11の 心 筋 へ の 作 用 に 関 し て, ま ず, 心 筋
多くの関連因子が明らかにされてきた。それと同
細 胞 に は,IL-11受 容 体( α サ ブ ユ ニ ッ ト ) が
時にそれらを制御する方法についても多くの研究
発現しており[5],IL-11刺激により心筋細胞で
がなされてきたが実際に臨床応用に至ったものは
STAT3 が活性化されることを報告している。ま
少ない。特に心筋保護的に作用するサイトカイン
た,虚血再潅流傷害に先立ち IL-11を投与するこ
を用いた心筋保護治療として,虚血性心疾患を
とで,IL-11が心筋傷害領域を著明に抑制したこ
対象に,顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte
とから,IL-11の心筋保護作用が確認された。ま
colony stimulating factor, G-CSF), エ リ ス ロ ポ
た,冠動脈結紮によるマウス心筋梗塞モデルにお
エチンの有効性が報告され,いくつかの臨床試験
いて,IL-11の梗塞後投与が心筋細胞の STAT3
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心臓血管外科学教室における臨床,基礎研究
を介して心不全発症を抑制することを見出した
の結果をもとに低心機能(左室駆出率 LVEF とし
[6]。さらに,大動物を用いた研究として,イヌ
て40%以下)を有する症例を対象に,心臓手術中
虚血再灌流モデルで再灌流直前に IL-11を 1 回投
に IL-11を含んだ心筋保護液を灌流させ,体外循
与することにより心筋傷害が縮小するとともに,
環からの離脱後の心機能の回復を評価する臨床試
心エコー上,心機能の改善をみることを報告した
験を計画中である。
[7]。以上のような心筋保護効果は,IL-11が血小
板減少症治療薬として用いられている投与量で
ある25-50μg/ ㎏以下の投与量で確認されており,
Ⅴ.おわりに
また IL-11は,過去に臨床試験が行われた G-CSF,
千葉大学心臓血管外科における主な研究内容を
エリスロポエチンのいずれとも異なったシグナル
紹介させていただいた。この他にも千葉大学工学
伝達経路を用いているため,臨床的に有効である
部との医工連携プロジェクトによる心大血管内血
可能性が期待される。
流動態の解析,可視化,人工臓器治療における血
心臓外科領域においても,手術中の虚血による
栓形成の予測,防止機構の確立などのプロジェク
心筋傷害が予後を大きく左右することはよく知ら
トを立ち上げている。今後も心血管病患者の外科
れている。心筋保護液の改良と外科技術の進歩に
治療成績をさらに向上させるために,千葉大学発
より虚血再灌流障害に続発する心不全は以前に比
の新たな治療法を開発していくことを目標に研究
べると減少しているが,既に低心機能を有する症
を進展させていきたいと考えている。
例の手術成績は決して良好とは言えず,如何に心
筋虚血を最小限にするかにより術後の予後は決定
される。また,心臓移植においても,拒絶反応の
みならずドナー心の虚血再灌流障害の程度が治療
成績を大きく左右する。特にマージナルドナーと
呼ばれる脳死時に起こる心筋障害が高度の心臓で
は移植後に心不全を呈する症例もあり,心筋保護
の向上は依然として重要なテーマである。そのよ
うな点から,我々は心臓手術時および心臓移植時
の虚血再灌流障害を軽減し,虚血許容時間を延長
させることを目標としてIL-11を用いた心筋虚血
再灌流障害予防効果を検討している。摘出したド
ナー心の虚血許容時間は冷却保存時で最大4時間ま
でとされているが,より長期の虚血時間を設定し,
ランゲンドルフ還流システムで摘出心臓を再灌流
させ,IL-11を前投与した摘出心臓を,再灌流直前
に同量のIL-11を含んだ加温心筋保護液(terminal
warm cardioplegia)を投与し,その後心筋を再灌
流することにより心筋障害抑制効果を検討評価し,
6 時間を超える虚血時間では再灌流後の心機能に
差が認められることを見出している。
人工心肺装置や心筋保護液の改良とともに心臓
手術の安全性,妥当性および治療成績はに向上し
ている。しかしながら,低心機能を有する症例の
それらは有意に進歩しているとは言えない。上記
文 献
1 )Kirklin JK, Naftel DC, Kormos RL, et al. Fifth
INTERMACS annual report: Risk factor analysis
from more than 6,000 mechanical circulatory
support patients. J Heart Lung Transplant 2013;
32: 141-56.
2 )Matsumiya G, Saitoh S, Sakata Y, et al. Myocardial
recovery by mechanical unloading with left
ventricular assist system. Circ J. 2009; 73: 1386-92.
3 )Miyagawa S, Matsumiya G, Funatsu T, et al.
Combined autologous cellular cardiomyoplasty
using skeletal myoblasts and bone marrow cells
for human ischemic cardiomyopathy with left
ventricular assist system implantation: report of
a case. Surg Today. 2009; 39: 133-6.
4 )Sekiya N, Matsumiya G, Miyagawa S, et al. Layered
Implantation of Myoblast Sheets Attenuates
Adverse Cardiac Remodeling of the Infarcted
Heart. J Thorac Cardiovasc Surg, 2009; 138: 985-93.
5 )Kimura R, Maeda M, Arita A, et al. Identification
of cardiac myocytes as targets of interleukin-11, a
cardioprotective cytokine. Cytokine 2007; 38: 107-15.
6 )Obana M, Maeda M, Takeda K, et al. Therapeutic
activation of STAT3 by interleukin-11 ameliorates
cardiac fibrosis after myocardial infarction.
Circulation 2010; 121: 684-91.
7 )Takeda K, Matsumiya G, Miyagawa S, et al.
Interleukin-11 attenuates infarct size and
improves ventricular function in a canine heart
model of ischemia/reperfusion injury. Circulation
2009; 120: S737.
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