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エネルギー機能材料学特論 第4回目 担当:西野信博 A3
エネルギー機能材料学特論 第4回目 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] プラズマ実験装置NSTX(Princeton) 授業の内容 • • プラズマの運動方程式を考える前に,まず電磁場内での粒子の運動 を調べる。 これを、単粒子運動(single particle motion)という。 – 荷電粒子と電磁場との相互作用であるローレンツ力 – 特に,磁場内での運動 • 一様磁場 • 空間で一様でない磁場 • 時間的に変動する磁場 – クーロン衝突について 2 電磁場中で荷電粒子にかかる力 • • • 電磁場中の荷電粒子の運動を説明する。 一様磁場中では荷電粒子はサイクロトロン運動(円運動)することは よく知られている。 第一回目の復習をすると,まず,電磁場中では荷電粒子はローレン ツ力を受ける。 F q E v B 広い意味でのローレンツ力は、 電場と磁場の力を意味する • • • ここに、Fは力、qは電荷、vは速度、Eは電場、Bは磁束密度である。 もし、E=0なら、 dv qv B よって、 m F ma qv B • 力は磁場と速度に垂直。すなわち,これは磁場に垂直方向には円運 動の式である。 磁場と平行方向には磁場の力は働かない • dt 3 v B の意味するところは • もし,プラズマ中の個々の粒子が互いに影響なく運動できるなら, – 磁場に垂直方向には • イオンと電子はそれぞれ 反対方向に回る円運動 – 磁場に平行方向には • イオンと電子は自由に動く • すなわち,イオンと電子はらせん状に 動いている • どのように回転するのか試算して みよう 4 サイクロトロン運動とサイクロトロン周波数 • 前に運動方程式から回転運動の部分をとる dv m qv B, v r dt qB 2 • から mr qr B m • • • 毎秒の回転数は速度によらない 各粒子(q、m) により、毎秒の回 転数は磁束密度で決まる この回転運動をサイクロトロン(ラーマー,Larmor)運動と呼び,その回 転周波数はプラズマの特性を表す基本的な量のひとつである。 例 e 2.80 1010 B [ Hz ] 電子サイクロトロン周波数 [例えば、B=1Tで28GHz] 2 i Z 1.52 107 B [ Hz ] 2 A • 質量数A,Z価イオンのサイクロトロン周波数 • ちなみに, 2.45GHzは電子レンジの電磁波(マイクロ波)の周波数で あるが,磁束密度が875gaussでの電子サイクロトロン周波数である すなわち,かなり高い周波数で回転する 5 ラーマー半径 • では,サイクロトロン運動の半径はどうか? 2 mr 2 qr B • • • • • mv v r qB v m qvB r この半径の事をラーマー(Larmor)半径という 特徴は,粒子速度に比例し,磁場に反比例すること,また,mに比例 することからいわゆる重い粒子はラーマー半径が大きい 電子とイオンが同じエネルギーの場合は,イオンのラーマー半径は電 子のそれより mi me / q 倍大きい 理由を考えよ 熱速度で表した電子のラーマー半径は meTe e eB miTi イオンのそれは i eB 1/2 1/2 1/2 T 2.38 106 e e 1 B 1/2 4 1 ATi 1.02 10 Z e [m], 1 B Te [eV ] e Ti [m], [eV ] e 6 ドリフト運動について • 以上のように,磁場中では荷電粒子はかなり高速で回転しながらその 回転中心の部分が磁場に平行に動くと考えるのが基本である。 • この回転の中心を案内中心(guiding center)と呼ぶ。 • すなわち、電磁場中の荷電粒子は,高速回転しながらその案内中心 がゆっくり動いていると考えられる。 • そこで、粒子の運動そのものを記述するより、この案内中心の運動で 粒子の運動を代表させることが考えられた。 • 代表的な案内中心の運動にドリフト(drift)運動がある。 7 ドリフト近似 • 今,一様磁場の空間で,磁場に垂直方向に電場があるとき,この案 内中心の動きを試算しよう。 dv Fm q E v B dt • 速度をサイクロトロン運動の部分と案内中心の部分に分けて, v vc vd m • d (vc vd ) q E (vc vd ) B dt dv c m q vc B dt dv d m q E vd B dt 案内中心はゆっくり動くので,その時間微分を0とすると E vd B 0 EB vd B2 8 ExBドリフト • 前項で求めたドリフトをExB(イークロスビー)ドリフトと呼び,ドリフトの 中でも最も重要なものである。 EB vd B2 • • • • • 特徴は,荷電粒子の電荷によらない 電子も正イオンも同じ方向 すなわち,電流が流れない ドリフトには多くの種類があるが,これは,ExBドリフトのみの特徴で ある。 また、通常実験室レベルでは,他のドリフトより大きい。 一様な静磁界に一般の外力Fがかかった時のドリフト 電荷qがある • FB qB 2 各自この表式を導いてみよう 9 一様な静磁界に空間変動電場が重なった時のドリフト 今、Bはz方向に一様な磁場B0とする。静電場Eはx方向成分のみをも ち、その大きさは以下の式のように周期λ(k=2π/λ)で正弦的に変化す るとして,どのようにドリフトが変わるか調べる • x̂ をx方向の単位ベクトルとして, • E( x) E0 cos kx xˆ • これを • • • • に代入し、粒子の旋回運動1周期 にわたる平均を取ると、 x方向のドリフト速度=0、 y方向のドリフト速度vyは、 dv m q E v B dt v d v y E ( x0 ) / B0 1 k 2 c 2 / 4 10 有限ラーマー効果 • 前頁の結果は、非一様電場のための修正因子として、 1 k 2 c 2 / 4 • をかけたものであり、一様電場よりはドリフト速度は低下する • 一般的な考察によると、 v d v y 1 c 2 / 4 2 E B / B 2 • となり、電場Eの空間2次微分の項が影響する。 • このρcの部分を持つ項を有限ラーマー効果と呼ぶ。 • 注意:イオンのρcは、電子のそれに対してかなり大きいので、 この値は同一のEの空間変動に対しては、イオンの方がはるかに 大きい。従って、ドリフト速度の大きさはイオンと電子と異な り、一般に電流が生じる 11 空間的に非一様な磁場 • • • 磁力線の性質 下図のように、真空の静磁場中で磁力線のある部分Pが曲率半径Rc で曲がっている時、Pでの磁界ベクトルBはその点における接線方向 にある。 そして、磁場の大きさ|B|は湾曲の凹側(曲率中心)に向けて増大し、そ の増大率はその点における曲率半径に逆比例する Bの垂直方向の空間変化率 ▽⊥Bは、結局 B ( B / Rc )(R c / Rc ) ( B / Rc 2 )R c 曲率半径ベクトル 12 非一様磁場中のドリフト • • • 磁力線の曲がりによるドリフトが存在する。 一つは、Bの曲がりによる遠心力ドリフト、 他は磁場の大きさが変化することによって起こるドリフトである。 13 遠心力ドリフト • • • • • • 曲がった磁力線にからんだ粒子(質量m、電荷q)の運動を考える。 粒子は螺旋運動をしながら曲率半径Rcの点Pにくるとしよう。 磁力線に平行方向の速度V//、 磁力線に垂直方向の速度V⊥ として粒子に働く遠心力Fcの大きさ は、曲率半径Rcを用いて Fc m(v / / 2 / Rc 2 )R c • • となる。 この式を前の一般の外力のドリフト の式に代入すると、 v d (m / q )(v / / 2 / Rc 2 B 2 )(R c B) 14 磁場の大きさが変化することによって起こるドリフト • • 磁場が下図のように、上にいくほど大きくなる時、サイクロトロン運動 の半径は上に行くほど小さくなる。 従って、イオンの軌道は図のようにだんだん右の方向にドリフトする。 B ▽⊥B • + わかりやすく書くと 上は円の半径が小さく 下は円の半径が大きい このドリフト速度を計算すると、 v d (W / qB0 2 ) (B / B ) B (m / q ) (R c B) / B0 2 Rc 2 (v 2 / 2) 磁場に垂直な 速度の運動エネルギー 15 非一様磁場中のドリフトの表式 • 最終的には,磁場の性質から二つのドリフトが同時に存在するため, その足し合わせとなるから v d (m / q ) (R c B) / B0 2 Rc 2 v/ / 2 v 2 / 2 ドリフトの方向を 決める • • • • • 凡そ、粒子の運動エネルギー 特徴 磁力線に平行な速度v//と垂直な速度v⊥が同程度の寄与をする 曲率半径Rcの小さなところで増大する 速度が同程度であれば,イオンのほうが電子より大きい 正イオンと電子は逆方向 16 補足 磁気モーメントW⊥ • • 磁場中で旋回運動を行っている荷電粒子の磁気モーメントなる量を 考える。電磁気学ではひとつの閉じた電流ループの電流値Iとループ の面積Sの積の大きさとし,電流の方向に右ねじを回したときにねじが 進む方向の向きを持つベクトルを磁気モーメントと定義する。 磁場中で旋回運動を行う荷電粒子は,サイクロトロン周波数とラーマ ー半径を用いて,電流値が(qΩ/2π),面積が(πρ2)のひとつの電流ル ープを形成しているので, (q / 2 )( 2 ) m v 2 / 2 / B • • となる。 実は,周期系の力学においてqとpを共役な正準変数とするとき、1周 期について取った作用積分 J pdq • が断熱不変量で、速度v⊥、半径ρの旋回運動において、これを求め ると、上記の磁気モーメントになる 「磁場Bをゆっくり増やすと、磁場に垂直方向の運動エネルギーが大きくなる」 磁場に平行成分は? 17 補足の補足 • 断熱不変量とは? – 系に含まれるパラメータが時間的にゆっくり変化する時は保存さ れる量 断熱という意味 • 不変量 では,時間的にゆっくりとは? – この場合は、系の運動が周期的であるから、その周期に比べて ゆっくり起こると考えればよい。 – すなわち、一周する程度ではほとんど変わらない変化のしか たである。 – 当たり前のことになるが、系により上記の時間は変わる。ま た、人間の感覚での評価ではないことに注意しよう。 18 磁気モーメントの断熱不変性の応用例 • • • 下図のようなコイルが平行に置かれた磁場配位をミラー磁場という。 この磁場配位内の荷電粒子の運動を考える。磁気モーメントμmは一 定であるから、Bの増大と共にW⊥(磁場の垂直方向の運動エネルギ ー)は増大し、W//は減少する。 従って、粒子によっては、コイルの近傍でW//が0になり、その結果、 粒子が反射されて戻ってくる(磁気ミラーの由来)。 よって、適当な条件を持つ粒子 は磁気ミラーの間を往復し、外 に抜け出せない プラズマの閉じ込めに利用できる (筑波大学,GAMMA 10) 19 反射の条件 • 磁気ミラーで反射される粒子の条件を調べる。 • 反射されるには、磁場の強い位置で磁場に平行な速度を失う必要があ る。すなわち、磁場の強い位置で、W//=0となることが必要である。 • 今、中央面(磁場最小)での粒子の速度v0とし、それが磁力線に対 する角度をθmとする。この粒子が磁場最大のコイル部に来た時、 • v//=0であるから、v⊥=v0となるから • μmの保存より m v 2 0 / 2) (m v 2 / 2 m Bmax • よって 2 2 m v / 2) / B ( m v 0 max min / 2 / Bmin Bmax v 0 2 1 R 2 Bmin v sin 2 m 20 反射の条件 つづき • すなわち、中央面(最小磁場位置)での初期粒子速度の磁場に 対する角度θがこのθmより大きい粒子はトラップされ、小さい 粒子は逃げ出す。 • 最大磁場と最小磁場の比であるこのRをミラー比と呼んでいる。 • また、速度空間上でこの角度で作られる円錐をロスコーン(損 失円錐)という。下図参照 v⊥ θm v// • 簡単のために、旋回中心が磁場の中心軸の粒子を考えていたが、非 中心軸の粒子でも本質は変わらない。但し、磁束密度Bの半径方向 の勾配のために、磁界の勾配に基づく方位角方向のドリフトが加わ る。 21 静磁場に垂直なプラズマの実効誘電率 • • 一様な電場によるExBでは,電流は生じないが,電場が時間的に変 動した場合はどうであろうか? 下図のような簡単な場合で考えてみる 平行平板の間にあるプラズマ をコンデンサーに例える 一様磁場が電極面に平行で, 電極面に垂直に時間変動する 電場が加わる。 • B ドリフト以外に この場合では,通常のExBに対応する E • • • という振動するドリフト運動が加わる。 Vpは電荷によって方向が逆(qがある),電場の時間変化に比例する 電磁気学で言う分極(現象)である v p m / qB0 2 dE / dt 22 分極電流と誘電率 • 新しいドリフトによる電流(分極電流)jpを求めよう • • より,振動成分は,質量に比例するためイオンによるものが主である イオンの密度ni,質量mi,電荷Ziとして • • • • • より,プラズマを誘電体としてみた時の実効誘電率が直ちに求まる 電磁気の復習 分極ベクトルPと分極電流jpは dP / dt j p 電束密度Dと誘電率εは D E 0 E P すると,実効比誘電率εSは v p m / qB0 2 dE / dt j p eZ i ni v pi ni mi / B0 2 dE / dt s / 0 1 (ni mi / 0 B0 2 ) 1 0 c 2 ni mi / B0 2 1 1.9 1016 ( Ai ni / B0 2 ) 最も軽い水素イオンでもB0=1Tの時, ni= 1017m-3(蛍光灯程度)で, εs~20, ni= 1020m-3でεs~ 104という大きな値である 23 クーロン衝突について 最重要 プラズマの世界で 最も頻度が大きい 衝突過程である。 • • • • クーロン散乱の断面積を調べる 上図は,2体衝突を重心Oから見た図で,χは衝突前後の偏角,bは 衝突係数(impact parameter)と呼ばれる。 衝突の前後で相対速度の大きさuは変わらない(弾性衝突) 今,χ方向の微小立体角dΩへ散乱される断面積をσ(χ)dΩとすると 2bdb ( )d 24 続き(少し式が続きます) • また, d 2 sin d だから • よって, • 質量m,電荷qの粒子と質量m*,電荷q*の粒子がクーロン衝突するとbとχ の間には 2 b db ( ) sin d 4 0 mr bu cot( / 2) qq * mm * mr m m* • の関係が成り立つ。mrは換算質量で • 従って,クーロン散乱(ラザフォード散乱)の断面積は,以下のようになる ( ) (qq*) 2 8 m u 0 r 2 sin ( / 2) 2 2 25 弾性衝突による運動量の変化 • • • 二つの粒子の衝突前の速度をv,v*とし,衝突後のそれをv+δv, v*+δv*とする。 運動量保存より, mv m * v* 0 相対速度u(=v-v*)をつかい m* m u r u m m* m m m v* u r u m m* m* v • • 運動量pで書くと、 p エネルギーの変化δεは p* mr u me u m m 2 m 2 2 v v v mV v mr u v v 2 2 2 mv m * v * 但し、 V は重心の速度で、 V 0 m m* 26 衝突の前後で、エネルギー保存から V2 V2 2 2 m m * mr u m m * mr u u 2 2 よって、 (u) 2 2u u u 前頁のδv等の式を使って、 u n u u χ u u よって u 2 m V v mr V u * m * V v * mr V u 衝突による偏角χを用いると u u sin n (1 cos )u 2 u sin n 2sin u p p* mr u sin n 2mr sin 2 2 u 2 2 * mr u sin n V 2mr sin u V 2 次に、q*、m*の場の粒子が密度n*で分布しており、v*で走っているとする。 そこへ、 q、mのテスト粒子がvで走ると、1回の衝突で前ページの運動量、 エネルギーの変化を受けるが、dtの時間内に受ける運動量、エネルギーの 平均的変化は、それぞれ n * udt p ( , u )d n * udt ( , u )d である。 運動量もエネルギーも表式が似ているので、以下、エネルギーで説明す ると d n * u ( , u )d dt の式の第一項の積分 mr u sin n V は、0であるから(対称性) d 2 4 mr n * u u V sin ( , u ) sin d 2 dt 衝突断面積σにクーロン散乱を用いると cot( / 2)d 積分がχ=0で発散 0 そこで、プラズマ中のデバイ遮蔽を考慮して、デバイ半径λD以上では 電場が0と考える。したがって、積分の下限が0ではなく、ある値χminとし て計算することにより、積分ができる。 ln と書き、クーロン対数と呼ぶ。 1 ln cot d ln 2 sin min 2 min この積分値を、 クーロン対数を用いると n * qq * ln d u V 2 3 dt 4 mr 0 u 2 n * qq * ln dp u 2 3 dt 4 mr 0 u 電荷の積の二乗に比例 速度差の二乗に反比例 2 同様に となる。 式が長いが、主張していることは、デバイの長さ程度でクーロン力が 遮蔽されるため、積分が有限の値で求まることになる レポート • 一様にコイルを巻いたドーナッツ殻状の真空容器(単純トーラスと呼 ぶ)内にプラズマを生成してもそのプラズマは磁場を横切って流出し てしまう。その理由を考えよ。 30