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具アルム
環 境 に配 慮 した自 由 貿 易 を目 指 す
(CSR の観 点 から)
20427098
具 アルム
1
目次
序章
第 1章
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1
自由貿易
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.4
1. 自 由 貿 易
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.4
1-1自 由 貿 易
1-2自 由 貿 易 の歴 史
2.GATT の誕 生 と WTO の設 立
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.6
2-1貿 易 制 限 の撤 廃
2-2無 差 別 の原 則
3.WTO の矛 盾
第 2章
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.8
環 境 に配 慮 した貿 易
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.11
1.貿 易 と環 境 の関 係
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.11
2.国 際 的 な取 り組 み
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.13
2-1 環 境 に対 する国 際 協 定
2-2 その他 の環 境 問 題
2-3 その他 の環 境 問 題 への取 組 み
3.CSR を求 められる企 業 活 動 のグローバル化
第 3章
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.15
CSR ( corporate social responsibility 企 業 の 社 会 的 責 任 ) の 観 点 か
ら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.17
1.CSR がもたらす企 業 のメリット
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.17
1-1 リスク・マネジメントの強 化
1-2 ブランド価 値 の向 上
1-3 優 秀 な人 材 の確 保
1-4 市 場 からの評 価
2.社 会 的 責 任 投 資 (SRI:Socially Responsible Investment)・・・・・・・・・・・・p.21
SRI 評 価 手 法
2-1 ネガティブスクリーニング
2-2 ポジティブスクリーニング
3.貿 易 を通 じての環 境 対 策
最終
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.22
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.23
2
序章
現在、世界貿易は比較優位の原理を尊重し、各国は市場を開放し、自由貿
易を推進すべきだとする考え方にたっている。しかし、これらの自由貿易の
取引には不公正なところがあり、その問題点が指摘され続けている。
第1
に、自由貿易とは強い産業を持つ国の理論であるということである。
第2
に、現行の自由貿易の考え方は、輸入制限を禁止する一方、輸出制限を自由
に 放 置 す る 。 つ ま り 、「 買 う 国 」 の 自 由 を 縛 り 、「 売 る 国 」 の 理 論 を 強 制 し て
いることである。指摘される自由貿易の問題はこれだけではない。世界貿易
の分業による不公正、奴隷貿易の問題、植民地支配、多国籍企業による世界
経済の支配、労働者への搾取、環境破壊、南北格差の拡大、貧困等々。これ
ま で の 貿 易 の あ り 方 を 修 正 し な け れ ば 、こ れ ら の 問 題 は 解 決 で き な い だ ろ う 。
もう一つ、これからの貿易では環境を配慮した取引を行わなければならな
い。これまでは、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした市場や社会だ
ったが、省エネ、省資源、リサイクルを前提としたエコスタンダードへと転
換されなければならないだろう。今日、環境と共存し、循環型社会の構築に
向 け て 、 様 々 な 国 際 的 な 取 り 組 み が あ る 。 例 え ば 、 ワ シ ン ト ン 条 約 ( 1975 年
発 効 の 野 生 動 植 物 の 種 を 保 存 の た め の 国 際 協 定 )、 モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書
( 1989 年 発 効 の 地 球 環 境 問 題 の 一 つ で あ る 、オ ゾ ン 層 を 破 壊 す る フ ロ ン 、ハ
ロ ン 等 の 排 出 を な く す 条 約 )な ど が あ げ ら れ る 。1978 年 に ド イ ツ で 始 ま っ た
エコラベル制度(環境ラベル制度)などもある。とくに、これからもっとも
注目されるエコラベルは、国ごとに認定基準が異なるため、基準の緩い国、
厳しい国との格差が貿易障壁となることがある。環境に配慮したこれからの
商取引は、国内外を問わず、様々な規制や基準を理解していく姿勢によって
企業評価とつながっていくのであろう。
ここで、筆者は自由貿易の歴史とその重要性をみた後、自由貿易が抱える
問題点を指摘し、変えなければならない理由と法則、それらに違反した場合
の 罰 則 規 制 の 厳 し さ を 考 え て み た い 。 ま た 、 環 境 に 優 し い 貿 易 を
CSR
( corporate social responsibility 企 業 の 社 会 的 責 任 ) の 観 点 か ら 企 業 の
社 会 的 責 任 を 果 た し て い る 企 業 を 探 り た い 。 特 に 、 CRS の 観 点 か ら 調 べ た い
と 思 っ た 直 接 的 な 要 因 と し て は 、 SRI( Socially Responsible Investment;
社 会 的 責 任 投 資 )の よ う に 、株 式 市 場 や 格 付 機 関 が 企 業 評 価 の 基 準 と し て C S R
の視点を取り入れるようになってきていることを挙げたい。日本ではそこま
では使われていないが、フランス、イギリス、ドイツなどでは年金基金の投
3
資先評価の際に、環境・社会・論理面の評価を法律で義務づけている。フラ
ン ス 、 ド イ ツ で は CSR 大 臣 が い る ほ ど 重 要 視 さ れ て お り 、 企 業 は 社 会 的 存 在
として、最低限の法令や利益貢献といった責任を果たすだけではなく、市民
や地域、社会の要請に応え、より高次の社会貢献や配慮、情報公開や対話を
自主的に行うべきであると考えられている。
4
第 1 章
自由貿易
1.自由貿易
1-1
自由貿易
経済成長の基である生産力を形成するものは、労働力と物的資源である。
労働力は物的資源に働きかけ、物的資本を作り出し、これを蓄積し、生産力
を増強させる。これらの物的資本の蓄積により、経済が発展するのである。
では、なぜ貿易が行われるのだろうか。貿易の目的には、国家の目的と個人
の目的とがある。国家の目的とは、輸入と輸出それ自身だけではなく、一国
経済の収支バランスに対する決済問題の解決のためであり、その手段として
金・銀や外貨が必要なのである。輸入を実現するためには、必要な外貨を輸
出することが必要である。より少なく輸出し、より多く輸入することで国内
資源を節約することによって、経済を効率的に運営するのである。個人の目
的には、個人の利益と企業の利益とがある。このような国家の経済発展、あ
るいは個人の利益を得るために貿易は行われるのである。
貿易は国ごとに違う生産力(物的資源、労働力)を持つことを前提に、他
国の産業より優位である産業に特化・分業することによって得られる物的資
源を交換する。それによって、両国に利益がもたらされるからである。こう
した国際分業の観点から、貿易の要因を説明する考え方を比較優位の原理と
呼ぶ。現代の国際社会は、国際分業による比較優位の原理を尊重し、各国は
市場を開放し自由貿易体制を推進すべきだとする考え方に立っている。
1-2
自由貿易の歴史
15 世 紀 半 ば か ら 18 世 紀 半 ば に お よ ぶ 300 年 の 間 は 、 国 家 の 産 業 と し て
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商業 を特に重要視した経済思想である重商主義、つまり「富とは金や銀、貨
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幣であり、国力の増大とはそれらの蓄積である」と言う認識にたっていた。
この認識からさまざまな貿易という歴史がうまれたのである。
18 世 紀 後 半 か ら 19 世 紀 前 半 に か け 、 産 業 革 命 を い ち 早 く 成 し 遂 げ た イ ギ
リスは,
「 世 界 の 工 場 」と し て 生 産 を 拡 大 し て い っ た 。イ ギ リ ス の 工 業 力 の 優
位 性 が 確 立 す る 1 8 4 0 年 代 後 半 に は ,そ の 圧 倒 的 優 位 を 誇 っ た 工 業 力 を 背 景 と
して、一方的に自由貿易政策を開始した。具体的には、輸入障壁を撤廃し、
関税率を引き下げて、市場アクセスを改善することを内容としていたが、そ
5
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の発端となったのが、穀物法
1
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( Corn Laws) の 廃 止 ( 1829 年 ) だ っ た 。 そ の
結果、都市の労働者は生活費が引き下げられたのに対して、巨大な農地を保
有していた土地貴族(ジェントリー)たちは、地代収入が激減して、ますま
す経済的な実力を低下させていったのだ。こうしたなかで頭角をあらわして
きたのが、新興ブルジョア階級であり、かれらは資本主義の担い手として、
次 々 に 輸 入 自 由 化 を 主 張 し た の で る 。 19 世 紀 末 期 に な る と 、フ ラ ン ス 、ド イ
ツなどはイギリス資本主義国の産業革命に対し、自国産業の育成と輸入代変
化を主な内容とする保護主義的な措置を導入した。
そして、先発国イギリ
スとドイツなど後発国との間には、経済摩擦が発生したのである。 ドイツ
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に お い て は 、自 由 貿 易 を 行 わ ず 、自 国 産 業 を 保 護 す べ き だ と し て ド イ ツ 関 税
H
同盟 が結ばれた。これは、同盟域内の関税障壁を撤廃し、自国産業に優位性
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を与えるものであるが、域内においては自由貿易が実現されることになる。
この自由貿易の利益は、後にドイツが経済的成功を収める基盤の一つになっ
ていた。
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1 9 3 0 年 代 、 世 界 恐 慌 の 猛 威 に さ ら さ れ た 自 由 貿 易 圏 諸 国( 欧 州 、
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米 国 、日 本 な ど 列 強 と そ の 植 民 地 )は 、自 国 経 済 圏 に お け る 需 要 が 貿 易 に よ
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っ て 漏 出 し 、他 国 経 済 圏 へ 流 れ る の を 防 ぐ た め 、関 税 な ど の 貿 易 障 壁 を 張 り
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巡 ら し た 。こ れ は ブ ロ ッ ク 経 済 と 呼 ば れ る 。自 由 貿 易 の 途 絶 に よ り 、各 国 の
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経済回復の足並みがずれて、経済的な不利益が多大に生じた。
図表 1
1776
アダム・スミス「国富論」
(自由主義経済学の始祖、重商主義批判)
1813-28
イギリス、穀物法による保護貿易
1817
デビッド・リカード「経済学および課税の原理」
(自由貿易の理論)
1841
フリードリッヒ・リスト「経済学の国民的体系
(保護貿易の理論)
1846
穀物法の廃止、自由貿易のはじまり
1848
ジョン・スチュアード・ミル「経済学原理」
(自由主義経済学の確立)
1穀
に
さ
貴
下
果
物 法 ( Corn Laws) は 、 ナ ポ レ オ ン 戦 争 後 、 海 外 か ら 安 い 穀 物 が イ ギ リ ス
輸 入 さ れ る の を 拒 ん だ 穀 物 取 引 に 関 す る 法 律 。 1815 年 か ら 1846 年 に 施 行
れていた穀物法が有名である。穀物価格の高値維持を目的としており地主
族層の利益を保護していたが、安価な穀物の供給による労働者賃金の引き
げを期図した産業資本家を中心とする 反穀物法同盟 などの反対運動の結
、撤廃され 自由貿易 体制が確立した。
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1860-
自由貿易の全盛期(保護関税、差別関税の撤廃)
1880-
ヨーロッパ各国、保護主義へ傾斜
1914- 18
第一世界大戦
1929
ウォール街(ニューヨーク)の株価大暴落
1930-
世界大不況、各国のブロック経済化進行
1939- 45
第二世界大戦
1944
IMF( 国 際 通 貨 基 金 ) 誕 生
1947
GATT( 関 税 と 貿 易 に 関 す る 一 般 協 定 ) 体 制 発 足
1960
日本・貿易自由化の本格開始
1971
ニクソン・ショック
2
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(アメリカ、金ドルの交換停止、輸入課徴金制度)
1986
GATT・ ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド 開 始
1995
WTO( 世 界 貿 易 機 構 ) 発 足
2 . GATT の 誕 生 と WTO の 設 立
1929 年 の ニ ュ ー ヨ ー ク ・ ウ ォ ー ル 町 の 株 式 市 場 の 大 暴 落 を 境 に 、世 界 は 大
不況に陥った。主要国(列強あるいは先進国)は、それぞれ植民地を囲い込
みつつ経済のブロック化(高関税と貿易制限、為替管理など行い自国経済を
保護)を行った。これが大きな原因となって、第2次世界大戦がおこったの
である。この悲惨な戦争を反省した戦後の国際社会は、戦争被害が大きかっ
た 西 ヨ ー ロ ッ パ の 戦 後 復 興 を 目 的 と し た 国 際 復 興 開 発 銀 行 を ( IBRD: 後 に 世
界銀行へと改祖
3
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)を設立した。また、国際的な金融支援や為替の安定を図
る 為 の I M F( 国 際 通 貨 基 金
4
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)も 設 立 さ れ た 。貿 易 障 壁 の 抑 制 と 自 由 貿 易 の 推
進 を 図 る た め に 、世 界 貿 易 に 一 定 の ル ー ル を 作 り 出 し た も の が ガ ッ ト( G A T T:
関税と貿易に関する一般協定)である。こうした国際機関・国際金融システ
2
ニ ク ソ ン ・ シ ョ ッ ク と は 1971 年 ア メ リ カ 合 衆 国 が 、 そ れ ま で の 固 定 比 率
に よ る ド ル と 金 の 交 換 を と め た こ と に よ る 、国 際 金 融 の 枠 組 み の 大 幅 な 変 化
を い う 。 ニ ク ソ ン 大 統 領 ( 当 時 )が 国 内 の マ ス メ デ ィ ア に 向 け こ の 政 策 転 換
を発表したことにより、ニクソンの名を冠する。
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3
IBRD: 発 展 途 上 国 の 経 済 発 展 と 、 そ れ に よ る 世 界 経 済 の 安 定 を 目 的 に 、 加
盟国や民間企業などに長期的な資金融資を行っている国際金融機関。一般に
は「世界銀行」と呼ばれている。
4
I M F: 国 際 的 な 通 貨 協 力 を 通 じ て 、国 際 貿 易 の 発 展 と 加 盟 国 の 経 済 成 長 を 促
進することを目的とする国際金融機関。
7
ムの構築によって、主要国のブロック経済化・保護主義を抑制することがで
き、結果として平和維持につなげることができると考えたからだった。
「 GATT」 で は 、 こ れ ま で の 高 す ぎ る 関 税 に つ い て 交 渉 が お こ な わ れ 、 英 米
仏 な ど 2 3 カ 国 が 関 税 の 引 き 下 げ を 約 束 し た 関 税 率 表 を 作 成 し 、貿 易 制 限 の 撤
廃、関税等、貿易政策上の優遇措置は参加国すべてに平等かつ無差別に適用
されるという原則が協定された。
2-1
貿易制限の撤廃
貿 易 制 限 の 撤 廃 と は 、具 体 的 に い え ば「 輸 入 数 量 制 限 の 撤 廃 」で あ り 、
これまでの輸入割当制度の見直しということになる。それまで、各国
は外国からの輸入品と国内産品とが競合することを避け、国内産業を
保 護 す る た め に 輸 入 数 量 制 限 を 行 っ て き た 。し か し G A T T で は 、国 内 産
業の保護は輸入数量制限ではなく、関税をかけることで輸入産品が国
内に入りにくくする「関税手段」によることを定め、しかもその関税
も 引 き 下 げ て い く こ と を 目 標 と し て い る 。 つ ま り 、「 貿 易 は 原 則 自 由 」
の方向を目指しているのである。
2-2
無差別の原則
GATTで は 、 ① 最 恵 国 待 遇 の 原 則 、 ② 内 国 民 待 遇 の 2 つ の 原 則 を 定 め て
いる。
「 最 恵 国 待 遇 」と は 、相 手 国 に た い し て 他 の 国 に 与 え て い る 条 件
よりも不利にならない条件を与えることを協定することである。たと
え ば 、 GATT加 盟 国 の 一 国 と 通 商 条 約 な ど で 有 利 な 条 件 を 与 え る こ と を
取り決めた場合には、その条件がすべてのGATT加盟国に自動的に
適用されることになる。ただし、この「最恵国待遇」の例外として、
先進国が発展途上国の産品に対して有利な関税率を適用する「一般特
恵 関 税 制 度 ( G S P )」
5
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が認められている。また「内国民待遇」とは、
内国税や国内規則の適用などで、輸入産品を国産品に比べて有利に扱
わ な い と い う 原 則 で あ る 〔 貿 易 実 務 検 定 協 会 2 0 0 5 : 2 6 - 2 7 〕。
GATTは 機 関 で あ る だ け で は な く 国 際 協 定 で あ り 、 こ れ ま で も GATT事 務 局
と称されるものはあったが、協定の内容を実施していく法的に根拠のある
5
一 般 特 恵 関 税 制 度 ( GSP : Generalized System of Preferences) は 、 開 発 途 上 国 の
輸出所得の増大、工業化と経済発展の促進を図るため、開発途上国から輸入され
る 一 定 の 農 水 産 品 、 鉱 工 業 産 品 に 対 し 、一 般 の 関 税 率 よ り も 低 い 税 率( 特 恵 税 率 )
を適用する制度である。
8
6
国際機関はなかった。ウルグアイ・ラウンド交渉
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では、これまでのGA
TT交渉と異なり、モノの貿易のみならず、サービス貿易(運輸、保険、
金 融 な ど )や 知 的 財 産 権( TRIPS)な ど の 新 分 野 、さ ら に は 農 産 物 の 自 由 化
などがふくまれたため、法的に根拠のある国際機関の成立が必要となって
き た 。そ の 結 果 う ま れ た の が 、法 的 に 根 拠 の あ る 国 際 機 関【 W T O( W o r l d T r a d e
Organization)世 界 貿 易 機 関 1995 年 】で あ る 。WTO協 定 の 目 的 は 、
「生活水
準 の 向 上 、完 全 雇 用 の 確 保 、高 水 準 の 実 質 所 得 及 び 有 効 需 要 の 着 実 な 増 加 、
資源の完全利用、物品及びサービスの生産及び貿易の拡大」であり、一言
で 言 え ば 、 市 場 経 済 原 則 に よ っ て 世 界 経 済 の 発 展 を 図 る こ と で あ る 。 WTO
協 定 は 、こ の 目 的 に 寄 与 す べ く 「
、関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、
及び国際貿易関係における差別待遇を廃止する」ための相互的かつ互恵的
な取極を締結するため協定するとされている。2つの考え方にもとついて
組 み 立 て ら れ て い る の が W T O 協 定 で あ る〔 経 済 産 業 省 通 商 政 策 局 2 0 0 6:1 6 7 〕。
WTO の 考 え 方 は 、 旧 GATT 前 文 か ら 変 わ る こ と な く WTO に 引 き 継 が れ た
GATT の 伝 統 的 精 神 で あ る が 、 WTO で は そ の 後 の 変 化 を 踏 ま え て 2 つ の 目 的 が
付 け 加 え ら れ た 。第 1 に 環 境 へ の 配 慮 で あ り 、
「経済発展の水準が異なる各国
のニーズ及び関心に沿って環境を保護及び保全し、並びにそのための手段を
拡充することに努めつつ、持続可能な開発の目的に従って世界の資源を最も
適 当 な 形 で 利 用 す る こ と 」で あ る 。第 2 は 、途 上 国 へ の 配 慮 で あ り 、
「開発途
上国特に後発開発途上国がその経済開発のニーズに応じた貿易量を確保する
ことを保障するため積極的に努力する必要があること」を考慮すべきとされ
たことである。
し か し 、 こ の GATT・ WTO の 自 由 貿 易 主 義 に 代 表 さ れ る よ う な 「 比 較 生 産
費説に基づく自由貿易主義」には、いくつの問題点、あるいは矛盾点が隠さ
れている。それらの解決がなされない限り、世界貿易は自由ではなく、保護
あるいは第2次世界大戦の元であった経済ブロック化の再来になる恐れもな
りかねないだろう。
3 . WTO の 矛 盾
①
例 外 の な い 公 平 な ル ー ル は 本 当 に 「 公 正 」 か 、 と い う 問 題
で あ る 。先 進 工 業 国 と 発 展 途 上 国 と を 同 じ 貿 易 ル ー ル で 扱 っ て
6
ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド (Uruguay Round)( 1986 年 - 1995 年 )は 、 世 界 貿 易 上
の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行なわれた通
商 交 渉 。 ウ ル グ ア イ で 1986 年 に 開 始 宣 言 さ れ た こ と か ら こ の 名 が つ い た
9
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は 、逆 に 不 公 正 に な る と い う こ と で あ る 。か つ て の 植 民 地 時 代
も そ の 後 の 独 立 後 も 、途 上 国 は「 安 い 一 次 産 品 を 先 進 国 に 輸 出
し 、高 い 工 業 製 品 を 輸 入 す る 」と い う 経 済 構 造 に 長 い こ と 苦 し
み な が ら 、 工 業 化 を 目 指 し て い る 。 確 か に 、 一 部 の 途 上 国 は 工
業 化 に 成 功 し つ つ あ る も の の 、先 進 国 が 特 許 な ど の 知 的 所 有 権
や 情 報 通 信 や 金 融 な ど の サ ー ビ ス ま で 自 由 貿 易 ル ー ル に 入 れ
て く る と 、途 上 国 が 第 2 次 、第 3 次 産 業 を 通 し て 経 済 的 に 発 展
し て い く と い う 道 は ほ と ん ど 閉 ざ さ れ て し ま う こ と に な る の
で あ る 。
②
W T O は 分 け 隔 て の な い 公 平 な ル ー ル の 適 用 と 言 い な が ら 、実
は 次 の 2 つ の 分 野 が 別 ル ー ル 扱 い に さ れ て い る 。ひ と つ は 繊 維
( 品 ) 分 野 、 も う 一 つ は 農 業 ( 品 ) 分 野 で あ る 。 ど ち ら も 、 途
上 国 に 比 較 的 に 優 位 に あ る 分 野 だ が 、別 ル ー ル を 適 用 し て 先 進
国 の 繊 維 産 業 、 農 業 を 保 護 し よ う と い う も の で あ る 。 前 者 は 、
10 年 間 の 別 ル ー ル の 後 よ う や く 2005 年 WTO ル ー ル に 統 合 さ れ
た 。後 者 は 、公 然 と 助 成 金 が 認 め ら れ る ル ー ル が 取 ら れ て い る 。
通 常 の WTO ル ー ル で は 認 め ら れ な い 輸 出 補 助 金 や 輸 出 に つ な が
る 国 内 助 成 金 が 、農 業 分 野 で は 許 さ れ る の で あ る 。助 成 金 を ふ
ん だ ん に 出 せ る の は 先 進 国 で あ る こ と を 考 え る と 農 業 分 野 で
は 圧 倒 的 に 先 進 国 側 が 有 利 に な り 、農 業 保 護 ど こ ろ か 一 大 輸 出
産 業 と な り 、途 上 国 の 農 業 を 脅 か し て い る の で あ る 。こ の 結 果 、
多 く の 途 上 国 は「 安 い 限 ら れ た 一 次 産 品 を 輸 出 し 、高 い 工 業 製
品 は も と よ り 日 常 不 可 欠 の 食 料 品 ま で も 輸 入 す る 」と い う 以 前
よ り も 悪 い 経 済 構 造 に な っ て い る の で あ る 。
③
現 在 世 界 的 に 急 速 に 広 ま っ て い る 二 国 間 ・ 地 域 間 自 由 貿 易
協 定 ( FTA) の 問 題 で あ る 。 こ の 協 定 は 、 関 税 引 き 下 げ な ど の
自 由 化 を 二 国 間 ま た は 当 事 国 だ け に 適 用 す る と い う こ と で 排
他 的 取 り 決 め で あ る 。こ れ は 明 ら か に 最 恵 国 待 遇 、つ ま り 自 由
貿 易 ル ー ル の 原 則 に 違 反 す る も の で あ る〔 入 門 国 際 経 済 2 0 0 5 :
1.4WTO の 概 要 と 問 題 点 〕 。
以 上 か ら 、 貿 易 上 の 同 一 ル ー ル で は そ も そ も 最 初 か ら 途 上 国 が
不 利 で あ る こ と 、 そ の 上 途 上 国 の 得 意 の 分 野 が 例 外 扱 い に さ れ 先
進 国 有 利 に 自 由 化 ル ー ル が 捻 じ 曲 げ ら れ て い る こ と が わ か る の
で あ る 。 自由貿易は発展可能性があり、他の産業に比べて大きな国民所得
をもたらすことができる、開発途上国諸国の幼惟産業が、先進国の成熟産業
10
に圧倒されて、その成長が助止され、それにより生産力の低い産業に特化す
ることを余儀なくされている。各国の産業を平等に成長させるはずの自由貿
易の理論は、実際には、国際分業による南北格差の拡大や多国籍企業による
世界経済の支配、搾取、貧困化させてしまうのである。
11
第2章
環境に配慮した貿易
1 9 9 0 年 代 に 入 っ て 、G A T T 事 務 局 発 行 の 公 式 資 料 の 中 で は 自 由 貿 易 と 環 境 保
護は両立可能であるとするいくつかの研究成果が紹介され始めた「
。自由貿易
と環境保護」は両立できる、また両立させねばならないとの立場をもたなけ
ればならない。これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄の社会から、環境
と共存し、循環型社会の構築に向けて、国際的に取り組もうという機運が起
こ っ て い る 。こ れ か ら の 商 取 引 に お い て は 、国 内 外 を 問 わ ず 、環 境 に 配 慮 し 、
環境に関する様々な規制や基準を理解していく姿勢がとわれており、それに
よって企業評価とつながる時代になってきているのであろう。企業の長期的
な 成 長 性 や 安 定 性 を CSR( 企 業 の 社 会 的 責 任 ) の 観 点 か ら 評 価 し 、 こ れ か ら
の 投 資 を す る 動 き を 一 般 的 に SRI(社 会 的 責 任 投 資 )と 呼 び 、 第 3 章 で 具 体 的
に述べていきたい。第2章では、自由貿易と環境の関係、国際的取り組みを
調べた上、環境問題を伴う貿易紛争やその影響について述べたい。
1.貿易と環境の関係
国際取引の環境に対する影響に関しては、経済学上、大きく分けて次の2
つの考え方がある。第 1 に、自由貿易は、少なくとも長期的に見れば、環境
の状態を回線させるとの立場である。その理由は、①自由貿易は一般的な利
益をもたらすのであり、そこから、国々は環境保護のための資金を得ること
ができる、②他国が生産できない環境配慮型の産品が貿易を通じて世界中に
販売され得る、③よりよい世界的な資源の配分により、エネルギーおよび原
料の無駄が減少し得ることができる、等にある。他方、自由貿易は環境に対
して利益よりも損害を多くもたらすとの主張がある。その主な理由は、低い
環境基準が比較優位の一つとして利用され得ることにある。すなわち、とく
に低開発国は先進国に対する比較優位として、低い環境基準を利用する傾向
があり、それによって獲得した競争力を維持、強化するために、環境基準を
さらに引き下げざるを得ない事態となる。このため、国際取引の自由化は世
界 的 な 環 境 破 壊 に つ な が る と す る( 例 え ば 、森 林 伐 採 な ど )。一 般 的 な 観 点 か
らこれら2つの立場のどちらが正しいかを直ちに判断することはできない。
しかし、自由貿易「政策」と環境保護「政策」との関係については、両者の
衝突は宿命的ことであろう。なぜなら両者の目的は異なり、しかも目的に達
成 方 法 も 逆 だ か ら で あ る 〔 経 済 産 業 省 通 商 政 策 局 2 0 0 6 : 1 7 4 - 1 7 5 〕。
12
筆者は貿易が環境問題に大きな影響を与えているが、それらの影響は環境
に対するプラスの点が多いと思う。要するに、貿易が環境問題の根本的な要
因ではないだろう。
環境問題の一般的な要因として以下の2つがあげられ
る。①市場の失敗―市場が環境資源の価値の適正な評価と配分を行わない場
合、または財とサービスの価格が環境費用を十分反映しない場合に生じる。
市 場 の 失 敗 は 「 環 境 費 用 の 外 部 化 」、「 生 態 系 の 不 適 切 評 価 」、「 不 適 切 に 定 義
された所有権」などの観点から論じられる。②政府介入の失敗―各種の政府
の 介 入 が 市 場 の 失 敗 を 招 い た か 、そ れ ら の 問 題 を 解 決 で き な い 場 合 に 生 じ る 。
これらの原因により、環境問題が生じており、貿易は多くの場合環境にプラ
ス面の影響を与えていると考える。上述したように、経済学上の利点以外に
も、生産物の移動に伴い、技術やサービス、財等が貿易を通じて国際的に普
及できるのである。また、国際的に行われている環境政策・基準に対する環
境保護等が進展する利点もある。貿易の発展と共に、環境保護を国際社会か
ら進めていくことが可能になるからである。貿易の発展は、国家の経済力を
発展させ、国家、企業または個人の選択の幅を広げていく。そして、生活の
質を向上させる。その結果、各個人は生活水準の向上とともに環境を配慮し
た生活スタイルを選択することが可能になる。更に、貿易により環境に優し
い製品や技術といったものが国を超えて輸出・輸入され、環境保護が進めら
れるであろう。
また、自由貿易が環境に対して損害を多くもたらすとの考え方も無視して
は い け な い 。環 境 保 護 の 観 点 か ら W T O を 批 判 す る 人 々 は 、自 由 貿 易 を 優 先 す る
W T O 体 制 に よ っ て 国 々( 特 に 途 上 国 )の 自 然 環 境 が 破 壊 さ れ る と 主 張 す る 。貿
易(輸出入)が拡大すると、途上国の経済開発が促進されて国内の鉱物や森
林などの天然資源が集中的に採掘・伐採されることで、自然環境の破壊が進
み、結果として貿易が環境を破壊するという考え方である。しかし、環境問
題に対処する経済的余裕がない途上国でも、貿易の促進に伴い、当初は環境
汚染や天然資源の乱獲が進むが、貿易による国民所得の向上に従って環境保
全 へ の 配 慮 が 可 能 に な る の で 、貿 易 の 拡 大 は 環 境 保 護 に 貢 献 す る の で あ ろ う 。
つまり、経済発展のある段階までは、その国の環境悪化は在り得るが、経済
的に豊かになれば逆に環境は改善されるという考え方である。2国間や多数
国 間( 地 球 規 模 )で 発 生 す る 環 境 汚 染 や 健 康 ・ 安 全 保 護 の 問 題 は 、基 本 的 に 、
WTO以 外 の 環 境 関 連 国 際 組 織( 条 約 、協 定 、議 定 書 な ど )で 議 論 さ れ る べ き も
の で あ る 。こ れ ら 国 際 的 な 環 境 関 連 組 織 は 、総 称 し て「 MEAs」
( Multilateral
E n v i r o n m e n t a l A g r e e m e n t s ) と 呼 ば れ る 。〔 馬 場
H
啓 一 2 0 0 5 : 4 3 - 4 4 〕。 地 球
H
規模の環境問題を解決するに当たって、一国ではなく多国間で協調して取り
13
組むことは現在有効な方法であると広く認識されている。その多国間協調の
取 り 決 め で あ る MEAsは 、 現 在 150 以 上 存 在 す る 。 そ の 中 で も 貿 易 措 置 を 含 む
も の は 20 程 度 で あ る 。
M E A s の よ う に 、国 際 社 会 で は 環 境 保 護 の た め の 条 約 や 規 制 、政 策 が な さ れ
て い る 。こ れ か ら は ど の よ う な 国 際 的 な 取 り 組 み が あ る の か を 調 べ て み た い 。
2.国際的な取り組み
1975 年 ― ワ シ ン ト ン 条 約
1989 年 ― モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書
1991 年 ― キ ハ ダ マ グ ロ 事 件 。
1992 年 ― 地 球 サ ミ ッ ト で の「 環 境 と 開 発 に 関 す る リ オ 宣 言 」お よ び「 ア ジ ェ
ンダ21」採択
―パーゼル条約
1995 年 ― 1986~ 1994 年 の ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド 交 渉 を 経 て 、設 立 さ れ た WTO
( 世 界 貿 易 機 関 ) で は 、 WTO 設 立 協 定 の 前 文 に お い て 持 続 可 能 な 開
発や環境保護に言及している。
WTOの も と に CTE
7
F
F
(貿易と環境に関する委員会)が設置される。
2002 年 ― 持 続 可 能 な 開 発 に 関 す る 世 界 首 脳 会 議( ヨ ハ ネ ス ブ ル サ ミ ッ ト )で
は 、「 貿 易 」 が 議 論 の 主 点 の ひ と つ と な り 、 成 果 と し て 採 択 さ れ た
「実施計画」で、貿易と環境、開発の相互支持化
貿 易 と 環 境 の 問 題 が 一 躍 注 目 を 浴 び る こ と と な っ た き っ か け と し て 、 1991
年のキハダマグロ事件が上げられる。この事件は、イルカの混獲率が高い漁
法で漁獲したメキシコ産マグロに対して、米国が輸入禁止措置を発動したも
の で あ る が 、メ キ シ コ の 提 訴 を 受 け 、米 国 の 主 張 を 退 け る G A T T パ ネ ル の 判 断
に対して環境保護団体が強く反発し、貿易と環境の問題が政治問題にまで発
展したのである。
そ の 後 、 1 9 9 2 年 に 開 催 さ れ た 地 球 サ ミ ッ ト で は 、「 環 境 と 開 発 に 関 す る リ
オ 宣 言 」 及 び 「 ア ジ ェ ン ダ 21」 な ど が 採 択 さ れ 、 貿 易 政 策 と 環 境 政 策 を 相 互
7
CTE( Committee on Trade and Exvironment)
1996 年 の 第 1 回 WTO 閣 僚 会 議 で 政 策 声 明 を 発 表 し 、現 在 、教 育 プ ロ セ ス の も
と で 10 の 課 題 に 関 す る 議 論 を 行 っ て い る 。ま た 、2001 年 11 月 の 第 4 回 閣 僚
会 議 ( ド ー ハ ) で 立 ち 上 げ ら れ た WTO 新 ラ ウ ン ド で は 、 CTE 特 別 会 合 で 貿 易
と環境に関する交渉が行われているところである
14
支持的にしてくという方向性が国際的な共通認識として位置付けられた。特
に 21 世 紀 に む け て の 人 類 の 行 動 計 画 で あ る 「 ア ジ ェ ン ダ 21」 で は 、 第 2 章
のプログラムB「貿易と環境の相互支援」として、自由貿易と環境保護とは
相反するのではなく、相互支持的にできるという考え方が示された。
2-1 環境に対する国際協定
A.ワ シ ン ト ン 条 約
絶滅の恐れのある野生動植物の種保存のための国際協定として、通称「ワ
シントン条約(
」「 絶 滅 の 恐 れ の あ る 野 生 動 植 物 の 種 の 国 際 取 引 に 関 す る 条 約 」
1975 年 発 効 ) が あ る 。 こ の 国 際 協 定 を 受 け て 、輸 出 貿 易 管 理 令 お よ び 輸 入 貿
易管理令により当該条約に該当する動植物の種の輸出入が制限されている。
B.モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 ( 1989 年 発 効 )
地球環境問題の一つにオゾン層破壊問題があるが、これはフロン、ハロン
等の特定物質によりオゾン層が破壊され、人間の身体に大きな影響を与える
ことが懸念されるためである。このためフロン、ハロンなどの特定物質の排
出を段階的になくし、他の物質で代替することによってオゾン層を保護しよ
う と い う 国 際 的 取 決 め が な さ れ た 。こ れ が「 ウ ィ ー ン 条 約 」
(1988年発効)
で こ れ に も と づ き「 モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 (
」 1 9 8 9 年 発 効 )が 採 択 さ れ た 。
C.バ ー ゼ ル 条 約
有害廃棄物については、これらの廃棄物処理に関する法規制が厳しい国か
ら緩やかな国へ移動されたり、有害廃棄物の処理費用が安い国移動されたり
して、国をまたがっての環境問題へと発展している。このため、有害廃棄物
の貿易問題を一般の貿易のように自由貿易のルールに委ねることは妥当とは
言えず、このことから「有害廃棄物の国境を越える移動およびその処分の規
制 に 関 す る 条 約 」( 通 称 「 バ ー ゼ ル 条 約 」 1 9 9 2 年 発 効 ) が 締 結 さ れ た 〔 日 本
貿 易 実 務 検 定 協 会 2 0 0 5 : 3 3 - 3 4 〕。
2-2
その他の環境問題
A. 熱 帯 林 の 減 少
熱帯林は地球上で最も種の多様性に富んだ生態系を確立させており、地球
上の生物の半数が生息しているといわれている。熱帯林の減少は、これらの
生態系を破壊し、また二酸化炭素が熱帯林に吸収されなくなることから、地
球の温暖化の原因となっている。現在、地球の熱帯林が急速に減少している
こ と が 問 題 と な っ て お り 、1 9 9 5 年 国 際 熱 帯 木 材 協 定 に 基 づ く 国 際 木 材 機 関 は 、
木 材 輸 出 は 2000 年 ま で に 植 林 な ど で 持 続 可 能 な 形 に 管 理 さ れ た 熱 帯 林 に 限
15
るとの目標を宣言した。
B.遺 伝 子 組 み 換 え 作 物
遺伝子組み換え作物とは、遺伝子操作技術を使って、生産コストの消減、
除草剤に対する耐性や、害虫を駆除する毒素を生産する能力、日持ちをよく
する性質を備えた作物を言う。人体への影響など、まだわからない部分が多
く、消費者を中心に使用が懸念されている。
2-3
その他の環境問題への取組み
A.環 境 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 確 立
企業が地球環境に果たす役割の重要性が叫ばれるなか、従来の規制遵守か
らもう一歩進んだ自主的な取組みが求められる段階に入った。その自主的な
取組みの一つが、環境マネジメントシステムである。近年、環境マネジメン
ト シ ス テ ム の 規 格 と し て 国 際 標 準 と な っ て い る の は 、 国 際 標 準 化 機 構 ( ISO)
が 定 め た I S O 1 4 0 0 0 シ リ ー ズ の 1 つ 、「 I S O 1 4 0 0 1 」 と い わ れ る も の で あ る 。 こ
れは、生産、サービス、経営に際して、環境対応の立案、運用、点検、見直
しといった環境管理・監査システムが整備されているかどうかについて、認
証 機 関 ( 日 本 環 境 認 証 機 構 な ど ) の 審 査 を 受 け 、 審 査 に 合 格 す れ ば ISO14001
認 証 取 得 企 業 と し て 登 録 さ れ る と い う も の で あ る 。( 第 3 章 3 .貿 易 を 通 じ て
の環境対策にて詳しく説明)
B.環 境 ラ ベ ル ( エ コ ラ ベ ル )
「 エ コ ラ ベ ル 制 度 ( 環 境 ラ ベ ル 制 度 )」 は 、 あ る 特 定 の 基 準 に か な っ た 商 品
にのみ、その証として特定のラベルをつけることができる制度で、消費者に
対して環境によい商品情報を提供し、企業に対しては環境負荷の少ない商品
を 促 す こ と を 目 的 と し て い る 。第 三 者 認 証 に よ る エ コ ラ ベ ル 制 度 は 、1978 年
にドイツで導入されて以来、世界20数カ国・地域で実施されており、それ
ぞれ独自のエコラベルをデザインして、認証商品をつけている〔日本貿易実
務 検 定 協 会 2 0 0 5 : 3 6 - 3 7 〕。
3 . CSR を 求 め ら れ る 企 業 活 動 の グ ロ ー バ ル 化
● CSR と は (Corporate Social Responsibility) の 頭 文 字 を と っ た 表 現 で 、
「企業の社会的責任」と一般的にいわれる。
日 本 企 業 は こ れ ま で に も 社 会 に 対 し て 製 品 や サ ー ビ ス の 提 供 、雇 用 の 創 出 、
16
税金の納付、メセナ活動
8
F
F
等の様々な社会的責任を果たしてきた。近年は、
従来と違った角度から企業の社会的責任の定義や範囲が時代とともに移り変
わ っ て い る の で あ る 。そ こ で 、そ も そ も C S R は な ぜ 企 業 活 動 に 求 め ら れ る の だ
ろ う と い う 疑 問 が で る 。貿 易 と は か か わ り の な さ そ う な C S R と い う 言 葉 が ど の
ような背景を持ち、どの位の影響力を持っているのかを見てみたい。
貿 易 は 、 CSR あ る い は そ の 環 境 社 会 配 慮 を ど の よ う に と り い れ る べ き で あ
ろ う か 。 CSR の 促 進 と し て は 、 い く つ か の 側 面 か ら ア プ ロ ー チ し て い く 必 要
がある。国境を越えて経済活動をしている民間企業がある。それらの民間企
業は、業務に関連して、グローバル活動を行っているという性格をもつ、地
球 規 模 の 経 済 活 動 に 関 連 し た CSR の 現 実 と い う こ と を 考 え な け れ ば な ら な い 。
また、今の世の中は、大量生産消費時代から、共生の時代に移りつつあるた
め 、 こ う し た CSR の 考 え 方 を 明 確 に し な け れ ば な ら な い 。 日 本 で は 、 そ れ ほ
ど の 馴 染 み が な い C S R に 対 し て 、米 国 や E U が 非 常 に 熱 心 に 取 り 組 ん で い る こ
とには下記のように大きな背景がある。
第1に、冷戦後の世界市場の成立と、それに伴う企業活動のグローバル化
があげられる。冷戦の終結をきっかけに、本格的に世界企業というものが成
立する条件が整った。それは旧社会主義圏も含めて、地球上すべてがある意
味で市場化したということであろう。その中で企業はグローバル化され、世
界企業になって、世界中から調達をして、世界中に販売する、という形にな
っていくのであろう。現実に大手の企業はこういった形になっている。
第2に、「大きな政府」から「小さな政府」へという大きな変化である。
企業は非常に世界中でどんどん活動をする一方で、政府はある意味で小さな
規模を求められる。そんな中で、企業活動そのものに対して、これまで以上
の 責 任 を も と め ら れ る と い う こ と に な る 。 そ う し た 流 れ の 中 で 、 CSR と い う
社会的責任を企業自ら追及しなければならないと考えられるようになったの
である。
第 3 章 か ら は CSR と い う 概 念 を も っ と 知 り 、 CSR を 果 た そ う と し て い る 企
業を紹介し、それからでるメリットや、デメリットなどをしらべ、環境に配
慮した貿易を考察してみたい。
8
メセナ活動とは、企業が行う文化活動あるいは文化支援活動のこと。具体
的 な 活 動 と し て は 、 各 種 イ ベ ン ト を 主 催 す る 、財 団 を 設 立 し て 文 化 や 学 術 へ の
助成を行なうなどを言う。
17
第 3 章 CSR( corporate social responsibility 企 業 の 社 会 的 責 任 ) の 観 点
から
前 章 に 書 い た よ う に 、 CSR の 意 味 は グ ロ ー バ ル 化 さ れ て い る 世 の 中 で 企 業
の社会的責任の重要性が確実に増やしており、その範囲も拡大しつつある。
特に貿易は企業が海外ビジネスを展開する上では、その地域の事業環境、価
値 観 、 慣 習 の 違 い な ど を 配 慮 し た CSR 対 応 が 必 要 で あ る 。 も ち ろ ん 、 2 章 で
述べたように、今までの日本企業は社会に対してさまざまな貢献を通して社
会的責任を果たしてきた。しかし、今後から企業には今までより一層、企業
の 社 会 的 責 任( C S R )の 定 義 や 範 囲 は 時 代 と と も に 拡 大 し て い く の で あ る 。特
に環境を配慮した企業をつくるためには、狭い範囲ではなく、広い範囲での
ステークホルダーが必要であろう。
ステークホルダーには、顧客、株主、従業員のほか、取引先、地域住民、
求職者、投資家、金融機関、政府など、実に多くの主体が含まれる。企業に
とって、これらのステークホルダーそれぞれとの関係をこれまで以上に大切
にし、具体的かつ実効性のある配慮行動をとることの重要性が増しているの
である。その結果、現代企業に求められる社会的な責任は、従来の経済的あ
るいは法的な企業の責任を大きく超えた概念にまで広がったと言える。
図 1 ) CSR HP
H
U
http://www.csrjapan.jp/ : CSRと は
U
H
1 . CSR が も た ら す 企 業 の メ リ ッ ト
1-1
リ ス ク ・マ ネ ジ メ ン ト の 強 化
CSR へ の 積 極 的 な 取 組 み は 、 各 側 面 に つ い て 生 じ う る リ ス ク を 十 分 に 検 討
分析し、実態を把握するとともに対策を事前に講ずることにつながる、それ
18
により、リスクを回避できる可能性が高まる。
例 ) 21 世 紀 初 頭 、 世 界 の 大 企 業 が 社 会 か ら の 信 頼 を 失 う 事 態 が 続 発 し た 。
米 国 で は 、2001 年 末 に エ ネ ル ギ ー 大 手 の エ ン ロ ン が 、そ し て 翌 年 に は 長 距 離
通信業界で国内第 2 位を占めていたワールドコムが、粉飾決算の発覚により
破たんに追い込まれた。
1-2
ブランド価値の向上
コ ー ポ レ ー ト ・ブ ラ ン ド は 、“ イ ン タ ン ジ ブ ル ・ ア セ ッ ト ”( 無 形 資 産 )と
して近年脚光を浴びている。なぜなら、市場が成熟するにつれてコーポレー
ト ・ブ ラ ン ド こ そ が 、 消 費 者 の 「 製 品 ・サ ー ビ ス の 選 択 動 機 」 と し て 重 要 な 役
割 を 果 た す よ う に な っ て き て い る か ら で あ る 。こ う し た 理 由 か ら 、C S R へ の 積
極 的 な 取 組 み は 顧 客 の ブ ラ ン ド ・ロ イ ヤ リ テ ィ ー を 高 め る 効 果 が あ る と 考 え
ら れ て い る 。「 環 境 」、「 女 性 の 活 躍 」、「 フ ェ ア ト レ ー ド
9
F
F
」 な ど 、 CSRへ の 取
組みをコーポレート・ブランドの強化に役立てているケースは、日本にも海
外にも数多く見出すことができる。
1-3
優秀な人材の確保
グローバル経済や情報化社会が進展するにつれ、優秀な人材を獲得して能
力を最大限に引き出す職場環境を実現することが、企業にとって従来以上に
重要になってきている。また、わが国においては少子高齢化の進展により、
生 産 年 齢 人 口( 1 5 ~ 6 4 歳 )の 割 合 は 、1 9 9 5 年 の 7 0 % か ら 2 0 2 5 年 に は 6 0 % 、2 0 5 0
年 に は 55%ま で 低 下 す る と さ れ て い る ( 厚 生 省 国 立 社 会 保 障 ・人 口 問 題 研 究
所 の 中 位 推 計 よ り )。こ う し た 状 況 を 踏 ま え 、企 業 は 優 秀 な 人 材 の 獲 得 の た め
の差別化戦略づくりに取り組む必要がある。近年、企業の理念やビジョンを
就 職 先 選 択 の 鍵 と 考 え る 人 が 増 加 し つ つ あ り 、 CSR に 対 す る 企 業 姿 勢 を 明 確
化 す る こ と で 差 別 化 を 図 ろ う と す る 動 き が 広 が り そ う で あ る 。 ま た 、 CSR へ
の取組みが従業員の誇りや社内の団結力の強化につながると評価する企業も
あり、労働市場が流動化する中、優れた人材に長く勤めてもらうための有効
な一手段としても注目されている。
1-4
市場からの評価
近 年 、 CSR は 企 業 の 将 来 業 績 を 予 測 す る 上 で 重 要 な “ ノ ン ・ フ ィ ナ ン シ ャ
ル・インディケーター”であるとみなされるようになってきた。こうしたこ
9
フェアトレードとは、貧困のない公正な社会をつくるための、対話と透明
性 、互 い の 敬 意 に 基 づ い た 貿 易 の パ ー ト ナ シ ッ プ で あ る 。フ ェ ア ト レ ー ド は 、
アジアやアフリカ、中南米などの農村地域や都市のスラムなどに暮らす人々
に仕事の機会を提供することで、貧しい人々が自らの力で暮らしを向上させ
ることを支援している。小規模農家や手工芸職人に継続的な仕事をつくり、
農薬や化学肥料に頼らない自然農法や、生産地で採れる自然素材と伝統技術
を活かした生産によって、持続可能な社会を目指している。
19
と を 背 景 に 、 CSR に 前 向 き に 取 り 組 む 企 業 を 評 価 し よ う と い う 動 き が 株 式 市
場 の 中 で も 広 が り つ つ あ る 。 こ の よ う に CSR の 観 点 か ら の 企 業 分 析 を 積 極 的
に 取 り 入 れ た 投 資 手 法 を 「 社 会 的 責 任 投 資 ( S R I )」 と 言 う 。
上 記 の よ う に CSR を 果 た す こ と か ら も た ら す メ リ ッ ト は 多 い 。 だ が 、 企 業
が CSR を 果 た し て い く た め に は 、 や は り リ ス ク を 意 識 し な け れ ば な ら な い 。
CSR を 果 た す に つ れ 、 責 任 と い う 言 葉 が も た ら す ニ ュ ア ン ス か ら 「 コ ス ト が
か か る 」と い う 企 業 の 反 応 も 多 い 。ま た 、
「創業当時から当たり前にやってき
ているから、特に何も新しいことをするつもりはない」という意見もある。
CSR と い う 動 き は 今 後 、 企 業 の 存 続 に 対 し て よ り 厳 し い 要 求 を 突 き つ け て く
る可能性がある。
企業の中で特に貿易がもたらすリスクを考えると、アウトバウンド部分、
インバウンド部分、投資促進などがある。アウトバウンド部分は、有害化学
物質や農薬を含む製品の輸出、輸出先における製品使用後の有害物質発生な
どのリスクが考えられる。インバウンドだと、製品を生産している企業が、
汚染物質や児童労働という形の問題を抱えているかもしれない。あるいは、
資源にかかわって森林の不法伐採などがあるかもしれない。次に、投資促進
としては、中小企業等の海外進出の支援を事業として行っている場合、事業
所、工場からの汚染物質発生、動植物の生息環境の破壊、強制労働、児童労
働 発 生 等 々 が リ ス ク と し て あ げ ら れ る 。 企 業 が CSR を 果 た す た め に は 、 こ れ
らの様々なリスクを意識して、それに関しての国際的な条約、仕組み等を事
前に把握し、活動を行っていくべきであると思う。
こ こ で 面 白 い 研 究 を 一 つ 紹 介 し た い と 思 う 。米 国 の 政 策 研 究 所( I n s t i t u t e
for Policy Studies) に よ る 『 The Rise of Corporate Global Power』 報 告
で あ る 。下 記 の 表 1 は 、1999 年 に お け る 世 界 中 の 国 と 企 業 の GDP と 売 上 を 調
べ 、 国 ・ 企 業 を あ わ せ た 経 済 力 の 上 位 100 位 を ラ ン キ ン グ し た も の で あ る 。
1 位 は も ち ろ ん 経 済 大 国 で あ る ア メ リ カ 合 衆 国 で あ る 。2 位 は 日 本 。以 下 、ド
イ ツ 、 フ ラ ン ス と 国 が 続 く が 、 な ん と 23 位 に 米 国 の 自 動 車 メ ー カ ー で あ る
G M が ラ ン ク イ ン す る と い う の だ 。最 大 の 企 業 で あ る G M の 売 上 は 2 4 位 の デ ン
マ ー ク の GDP を 上 回 っ て い る 。 さ ら に 、 25 位 ウ ォ ル マ ー ト 以 降 、エ ク ソ ン モ
ービル、フォード、ダイムラー・クライスラーと企業が並ぶ。また、驚くべ
き こ と は ト ッ プ 100 の 内 訳 は 企 業 が 51、 国 が 49 で あ る こ と で あ る 。 力 が あ
る企業は、小国を超えるレベルに達している。これほどまでに強大になった
企業が、目先の利益のみを追求するとどうなるのか。その影響はすでに地球
環境問題や貧富の差の拡大となって、地球規模で表面化しているのである。
20
さらに企業対企業の競争激化に伴い、本来社会の役に立つために存在するは
ずの企業の、社会を裏切る行動が目立つようになってきた。相次いだ企業不
祥事は、企業が社会での信頼(企業の社会的責任を果たすことから得られる
信頼)を得るよりも、短期的な視野で競争に勝つことを優先させた結果とも
いえる。
表 1 . Top 100 Economies(1999)
『 The Rise of Corporate Global Power』 よ り 引 用
(一部抜粋)
(GDP/ 売 上 高:億 $)
1
アメリカ合衆国
8,708
2
日本
4,395
3
ドイツ
2,081
4
フランス
1,410
23
GM
176
24
デンマーク
174
25
ウォルマート
166
26
エクソンモービル
163
27
フォード
162
28
ダイムラー・クライスラー
159
29
ポーランド
154
30
ノルウェー
145
31
インドネシア
140
37
三井物産
118
38
三菱商事
117
39
トヨタ自動車
115
41
ポルトガル
107
ここまで強大化している企業に対して、利益追求(経済面)だけが重視さ
れがちであったこれまでの企業の姿勢ではなく、その影響力の大きさを自覚
し て 、「 社 会 」「 環 境 」 ま で も 配 慮 し た 責 任 あ る 行 動 を と る べ き で は な い か 。
それらの責任に対する市民、社会からの要請が高まってきた。企業には“経
済的責任”と“社会的責任”と“環境的責任”の3種があるのではなく、企
21
業が経済・社会・環境をバランス良く統合した活動をすることで「社会的な
信 頼 度 = CSR」 を 得 る と い う こ と で あ る 。
以 下 に 、 CSR に 関 連 し て 、 日 本 企 業 の 実 例 を 紹 介 し た い 。
★企業紹介
ソ ニ ー ( 2002.2.18)
オランダでプレイステーション1のある部品から、オランダの基準値をこ
えるようなカドミウムが検知されてしまったことで、製品を全部回収せざる
をえなくなったという事件があった。リスク・マネジメント強化の失敗であ
る 。 そ こ で ソ ニ ー で は 急 速 に CSR の 体 制 作 り に 取 り 組 ん だ 。
2 . 社 会 的 責 任 投 資 ( SRI: Socially Responsible Investment)
CSRの 潮 流 を 受 け て 、 企 業 の 長 期 的 な 安 定 性 や 成 長 性 を CSRの 観 点 か ら 評 価
をして投資をする動きが急速に広まりつつある。それを一般的に「社会的責
任 投 資( S R I )」と い う 。こ の 投 資 ス タ イ ル は 、米 国 で は 2 0 0 1 年 時 点 で 約 2 8 0
兆 円 の 規 模 が あ る と 言 わ れ て お り ( 出 典 : US Social Investment Forum) 、
欧州においても近年急激に拡大している。日本でも、環境への取組状況から
企業を選定するエコファンド
10
F
F
(投資信託商品)が、より広範な観点から企
業を評価する動きが活発化している。
一 方 で 、 産 業 界 の 中 に も 、 CSR を 企 業 に 新 た な 強 み を 与 え る 鍵 と し て 積 極
的 に 活 用 し よ う と い う 動 き が 広 が っ て い る 。特 に 欧 州 で は「 C S R = 企 業 の 競 争
力強化」という位置づけが一般的に受け入れられつつあり、大企業を中心に
CSR へ の 自 主 的 な 取 り 組 み が 盛 ん に な っ て き て い る 。 そ れ ば か り か 、 国 の 産
業 政 策 と し て CSR を 推 進 し よ う と す る 国 ま で 現 れ て い る ( イ ギ リ ス 、 フ ラ ン
ス 等 ) 。 日 本 で も 、 グ ロ ー バ ル 企 業 を 中 心 に CSR に 対 す る 新 た な ア プ ロ ー チ
は既に始まっている。
SRI は 、 投 資 家 が 投 資 対 象 の 収 益 性 や 安 全 性 だ け で は な く 、 そ の 企 業 の 環
境 や 社 会 に 対 す る 取 り 組 み も 考 慮 し て 、 CSR の 観 点 か ら 評 価 を し て 投 資 を 行
うことである。現在では、環境だけではなく、法令順守、企業統治、市場、
社 会 な ど よ り 広 い 要 素 を 取 り 込 ん だ SRI フ ァ ン ド が 開 発 さ れ る よ う に な っ た 。
世 界 の SRI の 資 産 規 模 は 300 兆 円 を 超 え る と も 言 わ れ 、 株 価 に 与 え る そ の
影響力は無視することはできないであろう。
10
エコファンドとは、従来の投資尺度だけでなく投資対象となる企業の環
境問題への取り組みも投資尺度に加えて銘柄選定を行う投資信託の総称であ
る。
22
●
SRI 評 価 手 法
①ネガティブスクリーニング
SRI 投 資 先 の 選 択 に 際 し て 、 投 資 基 準 に 見 合 わ な い 企 業 を 投 資 先 リ ス ト か
ら排除し、排除後のリストを用いて投資先の選定を行う手法。
欧 米 の SRI
フ ァ ン ド の 多 く で 採 用 さ れ て お り 、 一 般 的 な 排 除 業 種 は 、 (1)軍 需 産 業 、 (2)
た ば こ 産 業 、( 3 ) 原 子 力 産 業( 含 む 原 子 力 発 電 設 備 )、( 4 ) ア ル コ ー ル 産 業 、( 5 )
アダルト産業、である。欧米では、これらの排除基準が広く受け入れられて
い る が 、日 本 に お い て は ( 3 ) 原 子 力 産 業 を 排 除 し て し ま う と 、電 力 会 社 の う ち 、
沖 縄 電 力 と 電 源 開 発 (J-POWER)以 外 の す べ て の 電 力 会 社 が 排 除 さ れ て し ま う
などの問題がある。また、アルコールについては、社会悪であるとの認識に
比較的合意が得られているが、日本において、文化的にアルコールは悪であ
るという認識は少ないなど、欧米のネガティブスクリーニングをそのままの
形で日本に適用することは困難である。
②ポジティブスクリーニング
ネガティブスクリーニングでは、一定基準に満たない企業を投資先から排
除してしまうのに対して、ポジティブスクリーニングは企業が行っている
CSR 経 営 を 評 価 し 、そ の 評 価 の 点 数 に 基 づ い て 投 資 を 行 う こ と で あ る 。 一 般
には、アンケート調査票を企業に送付し、調査機関がアンケート結果に基づ
いて企業の点数をつける。近年、欧米の調査機関から、日本の多くの企業に
もこれらの調査票が送付され、内容を確認せずにアンケートに回答しなかっ
たことから適正な評価が受けられず投資先から排除されてしまうなどの問題
が起こった。
3.貿易を通じての環境対策
①
ジェトロ―貿易、投資促進、民間企業の活動を支援していく立場のジ
ェトロは、貿易促進を行っていく上で、アウトバウンド、インバウンドの部
分 に お い て 、途 上 国 に 産 品 を 輸 出 入 し て い く 際 、製 品 を 生 産 し て い る 企 業 が 、
汚染物質や有害廃棄物などの排出をしているのではないかを確認し、また、
雇用の場、労働の場が強制労働や児童労働という形の問題に直面しているか
どうかを確認して改善を指摘している。また、投資促進の面では、中小企業
などの海外進出の支援している。
② ISO14001
ISO
と は 国 際 標 準 化 機 構 ( International
23
Organization
for
S t a n d a r d i z a t i o n )の 略 称 で あ り 、同 機 構 が 策 定 す る 標 準 化 規 格 の 総 称 と し て
も 使 わ れ て い る 。世 界 約 1 4 6 ヶ 国 で 6 0 万 以 上 の 団 体 が 認 証 取 得 し て い る 。I S O
は 、知 識 ・ 技 術 ・ 商 品 が 世 界 規 模 で 流 通 し て い る 中 、 国 際 的 な 標 準 規 格 が 策
定されることで、消費者や企業間取引において、商品・サービスの信頼性を
担保する大きな役割を果たしている。
終章
こ れ ま で CSR と SRI に つ い て 述 べ て き た 。 そ れ ら を ま と め る と 、 1 ) SRI
によって、社会的信頼度が高い企業が評価され、その株が株価指数や投資信
託に選定され、2)その結果、社会的信頼度の高い企業の株が買われ、その
大きな流れの中で社会的信頼度が高い企業は資金調達が容易になり、一方、
そ う で な い 企 業 が ジ リ 貧 に な っ て い く 。 3 ) そ れ が 進 め ば 、 CSR 的 な 観 点 で
企業の淘汰が進み、4)サステナブル(持続可能な)指向の企業だけで社会
が 構 成 さ れ る よ う に な っ て い く こ と が 期 待 さ れ る 。 こ の 過 程 は 、 CSR の 観 点
からみた理想ではなく、そのように企業の理念がかわらなければならない。
C S R を 国 家 戦 略 に 位 置 付 け 積 極 的 に 推 進 し て い る E U は 、2 0 0 0 年 7 月 の イ ギ
リスでの年金法を改正した。年金基金に対して、それぞれの投資方針におい
て「環境、倫理、社会の側面を考慮しているか否か、しているとすればどの
くらいか」を開示することが義務づけられた。これにより 3 カ月後には数に
し て 6 割 、金 額 ベ ー ス で は 78% の 年 金 基 金 が SRI の 要 素 を 取 り 入 れ た 。こ れ
ら の 効 果 は 絶 大 だ っ た 。 こ れ は イ ギ リ ス 国 外 に も 大 き な 影 響 を 与 え た 。 2001
年 5 月にドイツで、8 月にオーストリアで同様の年金制度改正案が成立し、
フ ラ ン ス で は 2 0 0 1 年 5 月 に 上 場 企 業 に 対 し て 環 境 レ ポ ー ト 、社 会 レ ポ ー ト の
作 成 公 開 を 義 務 づ け る 法 律 が 成 立 し た 。 欧 米 で は SRI は 投 資 の 主 軸 を 伺 う 位
置 に ま で 急 速 に 浸 透 し つ つ あ る 。 CSR を 果 た す か ど う か に よ っ て 国 家 戦 略 を
評 価 し て い く 国 々 も 他 国 の 企 業 に 対 し て 強 力 に CSR 活 動 を 要 求 す る だ ろ う 。
そ の 推 進 力 と し て SRI を 利 用 す る こ と は 間 違 い な い と 思 う 。 ま た 、 米 国 企 業
も 社 会 か ら の 要 求 で あ る 巨 額 の SRI マ ネ ー を 取 り 込 む べ く 、 経 営 の 舵 を 取 る
は ず で あ ろ う 。 日 本 企 業 が 世 界 で 生 き 残 る に は 、 社 会 的 な 信 頼 を 高 め て SRI
マネーを意識した経営が不可欠になる。なぜなら、日本の株式市場において
もすでに資金の約 3 割は海外の投資家によるものだからである。海外で事業
展 開 を し て い な い か ら と い っ て 、 SRI を 無 視 す る こ と は 、 こ の 3 割 の 海 外 資
金を無視することでもある。今、世界を動かそうとするこの分野に注意を払
い続けることが必要ではないだろうか。
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貿易はモノ、カネ、サービスなどが国際的の取引されることを言う。多国
籍になっていく企業は、世界中の流れを把握することが重要であろう。今ま
で 述 べ た SCR の 成 功 モ デ ル の 構 築 の た め に は 企 業 だ け で は な く 、 国 家 戦 略 と
して国、あるいは市民社会はそれらの責任を果たすことに協力していくパー
トナシップが大事であろう。
貿易自由化が環境に影響するという評価を意識し、十分に貿易自由化がで
きるような環境を整えるためには、企業の社会的役割が拡大していき、今後
そ の 役 割 は ま す ま す 重 要 な も の と な ろ う 。 筆 者 は 、 そ の 社 会 的 役 割 を CSR に
限らず、社会の持続可能な発展のために、環境に影響を与えると考えられる
あらゆる政策や計画を策定、実施すべきであると考える。それによって、自
由貿易に従う環境影響を事前に把握し、その影響を予防するなどの期待がで
きるであろう。また、関税を下げるなどの非関税障壁を撤廃する貿易自由化
に限らず、加盟国全体が環境政策による、環境配慮型の自由貿易を作ってい
くべきだと思う。
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CSR
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ARCHIVES
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U
U
http://www.csrjapan.jp/
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U
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