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単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく 銀行業務

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単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく 銀行業務
注:本資料は Deloitte LLP が作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。
この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、オリジナルである
英語版の補助的なものです。
単一監督メカニズム(SSM)
銀行同盟に基づく
銀行業務
欧州等
規制
戦略センター
目次
現状
2
銀行同盟の概要:営業認可から破たんまで
4
監督当局との関係はどのように変わるか
6
監督上の手法はどのように変わるか
8
破たん処理の手法はどのように変わるか
11
まとめ
14
連絡先
15
Deloitteの関連出版物
15
略語集
16
2012年の夏に計画されたとおり、ユーロ圏が「真の経済通貨同盟に向けて」決定的な一
歩を踏み出す日が数ヵ月後に迫っています1。達成が危ぶまれた時が何度かありました
が、銀行同盟のすべての柱について合意がついに形成されました。
単一監督メカニズム(SSM)は一気に現実のものとなりつつあり、ユーロ圏では来る11月から銀行のプルーデンス監督を
同制度が担うことになります。4月半ばに開催された欧州議会の本会議にて、統一された破たん処理の仕組みと単一破
たん処理制度(SRM)に関して合意が形成されました。また、EU(欧州連合)内の統一預金保険制度規則に関する協議も
終了しました。その他各分野におけるEUの単一ルールブック作りも急ピッチで進められています。
まだ詳細が明らかになっていない部分も多くあります。運用の仕組みが実際にどのように機能するかもまだ明らかになっ
ていません。破たん処理の枠組みに関する重要な技術的基準も策定する必要があります。しかしながら、今回の改革の
範囲および改革が実行に移されるペースを踏まえると、各銀行は、それら詳細が明らかになるのを待ってから準備を進
めるといった悠長なことは言ってはいられません。
もちろん、監督当局は既に各銀行との取り組みを進めています。その代表的なものが、欧州中央銀行(ECB)による包括
的な評価の実施です。こうした現在進行形の取り組みにくわえ、銀行同盟を規定する法整備を確認し、また銀行同盟の
目的を万遍なく理解することで銀行は、銀行同盟というパズルのピースを組み合わせ始めるために必要な十分な洞察を
得られるはずです。主要な意思決定者との効果的な連携から、新しい監督基準の遵守、そして実務や事業モデルへの
新監督基準の影響の理解まで、各銀行は慎重に計画を立てる必要があります。11月のSSMの開始までにすべての準備
を済ませる必要はありませんが、相当程度の準備を進めておく必要があります。
本稿では、銀行同盟の重要な「パズルのピース」の概観を示します。2013年9月にデロイトが発行した「単一監督メカニズ
ム(SSM):一元化で強固なものとなるか?」 2では、SSMの主な特徴と課題をとりあげましたが、本稿はそれを基礎とし
て、ここ6ヵ月間の進捗を説明します。銀行同盟の元来の目標とそれら目標がどのように達成されてきたかについて振り
返り、合意された変更がどのように適合しているかを評価することにします。
本稿では、各銀行が遅滞なく対処を開始すべき以下の3つの質問を取り扱います。
1.
規制当局との関係はどのように変わるか?各銀行は、長い時間をかけて築き上げてきた、現在の監督当局との多面
的な関係に依存している部分が多くあります。SSMの監督当局のメンバーが今まさに相次いで指名されています
が、このメンバーと新しい関係を構築する必要があります。
2.
監督手法の変化、そしてそれに伴う監督上の決定の変化による銀行への影響は?各種免除や一部除外など、どの
項目に関する決定が最も重要か?監督上の検証・評価プロセス(SREP)はどのように進化するか?プルーデンスの
問題に対応するための自行のプロセスや手続を変更することが銀行は必要になるか?
3.
破たん処理プロセスの変更による影響は?破たん処理の仕組みの変更による破たん処理計画や破たん処理の実
行可能性評価への影響は?資本コストへの影響など、各銀行が予想するであろうもの以外に何らかの波及的影響
が生じるだろうか?
本稿では、銀行同盟の構築に関する現状を簡単に確認してから、上の質問を順番に取り扱うことにします。私たちは、ユ
ーロ圏のあらゆる地域の銀行や規制当局が諸問題を理解し乗り越えるのを支援してきましたが、ここではそうした経験を
活かして分析を行っています。
これらの変更の管理は、上級経営者が主導する必要があります。また、より広い意味での再生・破たん処理や、改正後の
資本要求指令(CRD IV)および同規則、銀行構造改革に関する要件など、その他の規制改革プロジェクトと併せて検討す
る必要があります。これらはすべて、規制に対する戦略的アプローチの重要性、またそうしたアプローチが銀行業のビジ
ネスモデルや採算性に及ぼす、ユーロ圏にとどまらない広範な影響をあらためて強調しています。
1 「真の経済通貨同盟に向け
て」、欧州理事会議長による
報告書、2012年6月26日
2 http://www.deloitte.com/as
sets/Dcom‑Spain/Local%20
Assets/Documents/Industri
as/FSI/es_fsi_ssm_stronger_
together_031013.pdf
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
1
現状
そもそもの始まり:銀行同盟の目的
銀行同盟プロジェクトのそもそもの始まりは、金融・ソブリン危機を受けてユーロ圏の意思決定者らが抱いた「二度と繰り
返さない」という思いにあります。プロジェクトの規模、範囲、スケジュールは当初から野心的なものでした。金融市場の
安定と秩序を守るという強い政治的意志がその根底にありました。決意が最初に表明された2012年以降、期限は先延ば
しされ、なかにはユーロ圏共通の預金保険制度の創設のように決定がおぼつかない問題もあります。それでも、プロジェ
クト当初に各国のリーダーがした約束に基づいて、銀行同盟の仕組み作りが進められています。
銀行同盟の目的は、銀行同盟がもたらす変化に直結するため、必ず理解しておく必要があります。これら目的を理解し
ておくと、銀行同盟、および銀行同盟を構成するSSMがどのように進化し、詳しい枠組みが実際にはどのようになるかを
解釈するときに特に役立つと考えられます。
表1:銀行同盟の目的
目的3
1:ユーロ圏で統一され
た金融の枠組みを完成
させ、先般の 危機によ
って浮き彫りになった制
度的枠組みにおける構
造的欠点に欧州が足並
みを揃えて対処できる
ようにすること
達成手段
• 責任を負担するレベルをECBに上げることで、SSMを、ユーロ圏全体で監督の一貫性および効率性が確
保されるような仕組みにする。
• 同様に、単一破たん処理機関を創設することで、グローバルなシステム上重要な銀行のみでなくユーロ圏
のすべてのクロスボーダー銀行の破たん処理計画・手続の標準化を図る。このプロセスにおいては、意思
決定プロセスが効率的かつ中立的になるようにする。
• こうした取り組みによっても単一ルールブックの策定が明確に進められる(ただし規則はEU全体に適用さ
れる)。
• これらの措置が銀行市場における競争を一段と激しくする場合は、マーケットの統合をさらに改善する。
2:銀行とソブリンとの
「負の連鎖」を断ち切る
• 銀行とソブリンの結び付きを断ち切るために、銀行同盟は必ず、銀行の破たんコストをまずは民間部門が
負担するようにし、国からの資本注入は最後の手段とする。銀行の再建・破たん処理に関する指令
(RRD)に基づくベイルインの導入が、この狙いを達成するうえでは重要な一歩になる。
3:個別の国特有の衝
撃を吸収できる機能を
構築する
• 民間部門の資金による単一破たん処理基金を創設し、公的資金とは異なる財務クッションを構築する。な
お、当該基金には借入能力を付与する。
• 当該基金の資金を完全に分担した後は、破たん処理のコストをユーロ圏全体で分担する。このようにし
て、個別の国特有の衝撃の吸収を促進しながら、国レベルでの銀行とソブリンの結び付きを弱めることを
後押しする。
• また、SSMを、銀行破たんの可能性および公的資金の必要性を下げるような仕組みにする。すべての銀
行に対して予防的に介入できる権限が新しい監督当局に必要なのはそのためである。ただし、当該監督
当局が直接介入するかどうかは、その銀行の事業の規模および性質によって決められる。
• ユーロ圏で統一されたプルーデンス監督当局、すなわちSSMを構築することが、欧州安定メカニズム
(ESM)が銀行に資本を直接注入する際の前提条件であった。
これら目的を理解しておくと、銀行同盟、および銀行同盟を構成するSSMがどのように
進化し、詳しい枠組みが実際にはどのようになるかを解釈するときに特に役立つと考え
られます。
3 「真の経済通貨同盟に向け
て」、欧州理事会議長によ
る報告書、2012年12月5日
2
銀行同盟の現在位置:現状
銀行同盟を構成する各柱のスケジュールがかなり明確になってきました。
• 2013年12月、SSMを規定する規則について合意が形成されました。新しい監督当局による監督実行の準備は完了間
近であり、全面的な運用開始は2014年11月に予定されています。重要な準備は、ECBが直接監督する銀行の包括的
評価も含め、順調に進められています。
• 激しい議論が交わされ、スケジュールの遅れを巡る懸念があるものの、ユーロ圏は、RRDおよびSRMを通じて、統一さ
れた破たん処理制度の導入に突き進んでいます。SRM内の単一破たん処理委員会(SRB)が、2015年1月までに全面
的に始動する予定です。一方、単一破たん処理基金(SRF)が2015年から2024年にかけて積み立てられることになって
います。RRDは、2016年1月までに実施する必要があります。
• 最後に、預金保険制度指令(DGSD)により、EU全域における各制度のばらつきが軽減されることになります。EU加盟
国には、これに伴う新規則の実施において、2016年1月までの猶予が与えられています。DGSDおよびRRDはいずれ
も、単一銀行ルールブックを策定するというEUの取り組みの一部であり、欧州監督機構(European Supervisory
Authorities)が、当該ルールブックの完成に向けて基準や指針を策定しています。したがって単一ルールブックも、統
一銀行同盟およびEU単一市場にとっては欠かせない要素であります。
総合すると、以上の法整備や制度の構築から、銀行同盟のおおよその完成図が見えてきます。そして、銀行業の認可か
ら(想定上の)破たんまでの、銀行サービスのプルーデンスを確保するための仕組みの大枠が分かるようになっていま
す。
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
3
銀行同盟の概要:営業認可から破たんまで
図2:分類
欧州中央銀行(ECB)
各国の監督当局(NCA)
各国の指定当局(NDA)
単一破たん処理委員会(SRB):
エグゼクティブ・セッション
単一破たん処理委員会:総会
欧州委員会または欧州理事会
信用機関(CI)
図1:営業認可
ユーロ圏で預金取扱業務を
行いたいCI
認可の申請
YES:
申請を認める暫定的認可判定
ECBの判定:その申請はEUの法律
に準拠するか
YES:
申請を認めるか、10 日営業日経過し
ても何ら判定がされない
認可
図4:営業認可
4
3
CIが「重要性がある」か「重要性
が低い」かの初回評価
ECBとNCAの合同チーム
NCAの判定:その申請は
国内法に準拠するか
図3:ミクロプルーデンス監督
2
1
No
申請却下
No
以下の基準のいずれかを満た
す信用機関は「重要」に分類さ
れる。
1. 規模:資産規模が300億ユー
ロを超える。資産の規模は、
年度末のプルーデンスに関
する連結報告書に基づいて
判定する。
2. 国内での重要性:資産が、拠
点がある国のGDPの20%を
超え且つ50億ユーロを超え
る。
3. クロスボーダー業務の重要
性:総資産に対するクロスボ
ーダー資産の割合が20%を
超えるか、総負債に対するク
ロスボーダー負債の割合が
20%を超え、且つ総資産が
50億ユーロを超える。
4. 公的資金を受けている:当該
CIは、EFSFまたはESM経由
で公的資金を申請し、受けて
いる。
5. 重要度が上位3行に入る:特
定のEU加盟国において重要
度が上位3行に入る。重要度
の順位は、規模の基準と同じ
ように決められる。
「重要性が低い」銀行を直接監
督するかどうかのECBの判定
•
•
•
•
ECB は、「高い監督基準の
一貫性のある適用」を確保す
るために、重要性が低い CI
を直接監督することを適宜決
定できる。
ECB は以下の項目を検討す
る。
- その CI が「重要性がある」
基準のいずれかをほぼ満
たしているかどうか
- 重要性が低いその CI と他
の CI との相互関係
- 関係する NCA が ECB の
指示に従い、SSM 規則を
遵守しているか
- その CI が、ESFS や ESM
からの金融支援を要請し
たかまたは間接的に受け
たか
NCA は、ECB に直接監督を
行うよう要請できる。
SSM の「重要性がある」基準
に関連性がある、例外的な
大きな状況の変化があるか
どうか(合併など)。
各銀行が「重要性がある」かどう
かの継続的評価
次の項目が該当するときはその
銀行は「重要」ではなくなる
• 重要な CI 基準のいずれも 3
年連続で満たさなかった
• 金融 支援を 要 請したが、却
下された、全額返済した、ま
たは終了したときで、返済ま
たは終了してから 3 年が経
過した
• ECB が、重要な CI に対し
て、重要性が低い CI の分類
へ割り当てる監督上の判定
をした
図5:再生・破たん処理
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
5
監督当局との関係はどのように変わるか
SSMにより銀行は、新しい監督当局グループと連携を図り、監督上の新しい手法や要求に応えなければならなくなりま
す。また、各銀行がこれまで対応してきた国内の監督当局の役割および責任も変わります。こうした変化による影響は小
さくありません。銀行は、ユーロ圏内の全事業においてこうした環境への対応を図る必要があります。
新しい監督組織
SSMの下での監督は、ECB内に新たに設置される4つの総局(DG)が取り仕切ることになります。「重要性がある」に分類
された銀行は、DG IまたはDG IIのいずれかに割り当てられます。こうした割り当てがどのようになされるかはまだ明確に
なっていませんが、バランスシートの規模が重要な判断基準になると私たちは予想しています。そして、いずれかのDG
からの監督担当者と、国内の監督担当者が、合同監督チーム(JST)と呼ばれるチームを作ります。このJSTはSSMの実
務を担うユニットで、「重要性がある」銀行の直接監督を行ないます。JSTは、監督上のリスク評価、ガバナンスの仕組み
の監視および問題提起、立入検査の調整など、ECBに課せられている日々のあらゆる監督責任を果たすという役割を担
います。
ECBが直接監督する銀行についても、各国の監督当局(NCA)の役割は依然として極めて重要です。NCAは、監督上の
決定の準備および実施の補佐を行います。NCAは、自らも、決定案を提案することができます。とりわけ当面は、そうし
た提案をするケースが多くなると考えられます。また、NCAは今後も、監督上のあらゆる報告の連絡窓口としての役割も
果たし続けます。
DG IIIは、「重要性が低い」に分類された銀行の監督を担うことになります。DG IIIは、対象の銀行に伴う監督上の弱点や
リスクを洗い出し、特定のリスク分野に関する主題分析を実施します。また、ECBが「重要性が低い」銀行をNCAから引き
継いで直接監督し、自らは直接監督の責任を負わないという提案もできます。
4つ目のDGは「横断的」な監督をする組織で、SSMの仕組みを構成する重要な要素です。同DGは、監督手法の策定や
立入検査の調整、内部モデルの検証に対する貢献、再生計画の策定、ユーロ圏内での同等性の確保など、さまざまな
専門的機能を担います。DG IVはまた、SSM全体のリスク分析の実施や、「重要性がある」銀行および「重要性が低い」
銀行のいずれにおいても監督上の意思決定に一貫性があるかを監督します。このように幅広い責任を担うため、DG IV
は権限の強い政策総局である一方、SSMによる監督手法の内部設計組織でもあります。
これらの総局を束ねる局長は、SSMの議長に報告を行ない、そして当該議長は、SSMの主たる意思決定機関である
SSM監督理事会に報告を行ないます。最終的には、監督理事会の決定は、ECBの政策理事会の承認を得る必要があり
ます。なお同政策理事会には、監督理事会の決定に反対する権限があります。
銀行が普段から監督当局と連携を図る頻度や、監
督当局と協力的かつ効果的な関係を構築する重要
性を踏まえると、この新しい仕組みは、銀行の日々
の業務および全般的な戦略の検討に重要な影響を
及ぼすと考えられます。
6
図6:SSMの組織図
出所:EMEA Centre for Regulatory Strategy
新しい監督体制への適応
銀行の上級経営者および規制関連部署は、新しい監督の仕組みにどのように適応すべきでしょうか。SSMの組織設計
図、要職の任命、公表されている運用の詳細を確認すれば、新しい銀行監督システムがどのように機能するかについて
ある程度の概要はつかめるはずですが、その青写真がどのように実行に移されるかはまだ不明な部分があります。例え
ば、「『重要性がある』銀行のうちどの銀行がDG Iのもとで監督され、どの銀行がDG IIのもとで監督されるか」「誰が銀行
のJSTを構成するか」などはまだ分かっていません。これらの疑問に対する回答にはもうすぐ明らかになるものもあります
が、NCAとECBとの間の責任の実際の移管は時間を要し、移管作業は単純ではありません。各銀行は、そうした移管に
対する準備をする必要があるのです。
そうした準備をするために各銀行は、自国の監督当局との関係がいつ・どのように変わるかを検討する必要があります。
いずれは、NCAと自国の破たん処理当局の役割は、顕著に、変化し縮小します。とは言っても、それらの役割が消滅す
るわけでは当然ありません。更には、一部の国の監督当局がフランクフルトに移動するため監督上の関係が変化するこ
とになります。また、NCAの政策機能は、ECBのDG IVへ管轄が移管されるため縮小しますが、今後も必要になる機能も
一部あります。例えば、ECB監督理事会における自国の代表者への助言、EU指令の国内法化、ECBや欧州銀行監督機
構(EBA)が公表した指針および基準の運用といった機能は今後も必要になります。NCAとECBの間での権限の移管は一
日で終わるようなものではなく、こうした移管期間に対応できる柔軟な、監督当局との連携戦略を銀行は構築する必要が
あります。
監督当局との関係構築は、計画的かつ協調的に行う必要があります。すべての決定権が銀行側にあるわけではありま
せんが、各銀行は、組織内のさまざまな序列において、監督当局と連携を図るのは誰が適任で、どのくらいの頻度でそう
した連携を図るべきかを再検討する必要があります。SSMは、ユーロ圏各国からの監督担当者および監督手法を吸収す
るため、銀行自身の事業体にその知識が蓄積されているという場合もあります。総合的に物事を捉え、協調的な戦略を
構築できるかがカギを握ります。最終的には、コンプライアンスやリスク、規制関連機能をどの程度集権化するのが自己
の組織構造にとって最適かを銀行は決める必要があります。また、その集権化をサポートするために必要な報告の仕組
みも必要になります。
こうした変化をきっかけに各銀行は、監督当局との連携に関する自己の手法を全面的に見直し、また、現行のやり方の
なかでどのやり方が効果的であったか、そしてどのやり方が改善の余地があるかを検証することができます。現行の手
法のなかには、時間をかけて構築されてきたが、必ずしも最も効果的または効率的な手法でないものもあるかもしれま
せん。特に、内部連携の観点からはそのような手法があるかもしれません。今回の変化は、そうした過去の問題に対処
するきっかけになります。私たちの経験を踏まえると、各銀行がとり得る優れた実務が多く存在するはずです。
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
7
監督当局の目的、責任の範囲、もっと大まかに言えば監督当局の「言語」を理解することは、監督上の要求がどのよう
に実行に移されるかを十分に把握するためには欠かせない要素です。また、監督上の要求が、銀行自体の目的のど
の部分と合致し、どのように合致するかを把握するうえでも極めて重要になります。さらに各銀行は、新しい当局の監
督手法が確立される動きを注意深く観察し、自己の事業のどの部分が心配の種になり得るかを事前に把握しておく必
要があります。
最後に、各銀行は、ECBによる取り組みのうちユーロ圏と関係ない部分も考慮する必要があります。ECBは、すべての
「重要性がある」銀行グループおよびそれら銀行のユーロ圏での業務の「母国監督当局」と「ホスト監督当局」という両
方の顔を持ち、ユーロ圏外の監督当局と共に、監督カレッジや危機管理グループにも参加します。ECBはまた、EBAな
ど欧州域内の当局とも連携し、バーゼル銀行監督委員会など国際的な基準を作る機関とも連携します。ユーロ圏の統
一された見解を示すことでECBは、これまで存在した協議の流れを変えるようになるかもしれません。これは、可能な限
り早いECBとの強固な関係の構築を促します。
監督上の手法はどのように変わるか
ECBの監督上の手法が実際どのような様相になるかについては不透明な部分がかなり多くあります。中期的に急激に
変わるのでしょうか、それとも漸進的に変わるのでしょうか。ECBは、合意を重視する姿勢をとるのでしょうか、それとも
よりリスク回避的で保守的な姿勢をとるでしょうか。ECBの運用構造が、日々の監督にどのような影響を及ぼすでしょう
か。新しい手法は、国内の実務と著しく異なるでしょうか。もしそうである場合、どの実務と異なるでしょうか。
ECBの役員らによる発言から手掛かりが得られます。SSMの目的が「最善の監督実務を特定・実施し、野心的かつ革
新的になる」4ことであるのは分かっています。同時に、「...2つの条件を満たさなければならない。1つ目は、単一の規
則が存在する必要があるという点。2つ目は、その規則に何らかの裁量権が含まれているときは、その裁量権を公平に
行使できる中央機関を設置する必要があるという点です」5。この点に関して言えば、「同一リスクを公平に扱うことで公
正な競争を確保することと、同時に、実体経済の異なるニーズを満たす限り異なる市場・銀行構造を認めることをうまく
両立させることが特に重要になります」6。
SSMの運用については、フレームワーク規則(Framework Regulation)からある程度のことが分かります。同規則は、
「重要性がある」銀行と「重要性が低い」銀行の2種類の銀行の監督において、ECBがNCAとどのように協力するかを規
定しています。さらに、ECBの監督手法、とりわけ、監督上の検証・評価プロセス(SREP)の実施方法は監督マニュアル
において明らかになる予定です。監督マニュアルはまだ公表されていません。監督マニュアルには、EBAが現在作成し
ているEU全体の監督ハンドブックと共通する内容がいくつか盛り込まれる予定ですが、これら2つの文書がどのように
お互いを補完し合うかは現時点では分かっていません。
当面は、新し
い監督当局
は、各国の監
督当局の知識
や確立された
実務に依存す
る可能性が高
いと言えます。
4
欧州議会の経済金融問
題委 員 会(ECON )の 質
問票に対するダニエル・
ヌイ氏の回答、2013 年
12 月
5
「A regime change in
supervision and
resolution」(監督・破たん
処理体制の変化)、イブ・
メルシュ氏の講演、2013
年9月
6
「 Supervisors without
borders」(国境なき監督
当局)、サビーヌ・ラウテ
ンシュレーガー氏の講演、
2013 年 9 月
8
公的な発言や文書のみにとどまらず、その他の発言・文書を踏まえると、ECBの監督手法がはっきりとした形として見
えるようになるまでには時間を要すると考えられます。当面は、新しい監督当局は、各国の監督当局の知識や確立さ
れた実務に依存する可能性が高いと言えます。ECBは、NCAを深く関与させ、各国で蓄積されてきた情報を活用したい
と考えるでしょう。ECBは当面、新しい監督手法の適用に伴うリスクや、各国の実務と異なる手法を採用することについ
て、慎重な姿勢をとると考えられます。したがって、SSM実施当初のECBによる意思決定は銀行にとっては目新しいも
のにならない可能性がありますが、そうした状況に安心しきらない方が賢明と言えるでしょう。
しかしながら、導入当初から新しい仕組みが厄介なものとなると考えられます。NCAは、「重要性がある」銀行に関する
決定および「重要性が低い」銀行に関する重要な決定の背景を新しい同僚や上司に説明しなければいけません。SSM
規則においては、情報を上申する基準は意図的に曖昧になっています。したがって、これらの基準を設定しなければい
けません。これらの基準は最初は低く設定されなければなりません。なぜなら、最初の段階では慎重に運用を行ないミ
スをおかさないようにという圧力がSSMにかかるためです。これに加え、NCAとECBの間の責任の線引きは、当初は不
透明にならざるを得ない見通しです。「重要性がある」銀行に関する最終的な意思決定の権限はECBにありますが、
NCAは、今後も監督上の決定を提案することができ、おそらく、一部のNCAはそうした提案を引き続き行うと考えられま
す。これは単一の統一された監督手法ではなく、2つの異なる体制に対応しなければならない銀行が出てくるというリス
クをはらみます。最後に、JST間の連携、そしてSSMの縦並び・横並びに配置される各DG間の連携について具体化す
る必要があり、当初はこうした連携が意思決定の遅れの原因になる可能性があります。
時間の経過とともに、情報交換・知識・責任分担における欠陥は解消されると考えられます。しかしながらこうした進化
は、中央集権的な意思決定によくある要素をもたらすと考えられます。ECBは、そのDGおよび監督チームにわたって一
貫した監督を確立したいと考えるため、ECBの監督担当者らは、データやトップダウン型の指針、集権的な内部プロセ
スに頼る可能性が高いと言えます。その結果、監督担当者らの決定は、リスク回避的になり、且つ、個別の銀行の状況
を考慮しにくくなる可能性があります。国レベルからECBの上級役員までの報告・説明・情報提供の流れが、地理的観
点、そしておそらく縦割りの観点からみても長いままであると考えられます。
不透明な部分はありますが、銀行は今すぐにでも、監督手法の予測される変化に対して
準備を始めることができます。おそらくこれまでよりも慎重な新しい監督当局を想定し、
各銀行は、危惧される分野や認識している欠陥を再確認し、それらへの対処方法を遅
滞なく明確に計画すべきです。
いずれは、ECBは、ユーロ圏内の監督手法を統一させるという目的を果たしたいと考えるでしょう。EU指令の国内法化に
関する国家の裁量権は今後も残ると考えられますが、直接適用可能なEU規則や各国のプルーデンス規則が適用される
方法は、ECBが主導することになります。したがって、EU規則・規制の適用方法と監督当局が重視するリスクおよび欠陥
の両方において、新しい監督当局とこれまでの監督当局との優先事項および要求の違いが次第に目につくようになるで
しょう。それにくわえ、SSMは、監督対象の「重要性がある」銀行の分析においては類似企業(ピア・グループ)に対する分
析を多用する可能性が高いと言えます。したがって、同じような規模や事業モデルの銀行が、それぞれ同時に検査を受
けるという状況が生じるでしょう。こうした新しい監督能力の結果、銀行に対する監督の目が以前よりも厳しいものにな
り、また異なる観点からリスクが検証されることになるかもしれません。
各国に存在する潜在的偏りの排除は、SSMが懸命に取り組むことになる重要な要素の一つです。ユーロ圏全体に一貫
した手法を適用することでSSMは、特定の資産クラスまたは特定の国の巨大銀行が現在享受している恩恵を徐々に排
除していく予定です。SSMは、「巨大銀行を作り出す土壌を弱くし、そして、銀行に破たんなどの懸念が生じたときも、監督
の不作為や是正措置の先送りがなされる傾向を小さくする」7ことを模索すると考えられます。各JSTを複数の国籍で構成
しなければならないという要件は、メンバーの移動の問題や言葉の問題を伴いますが、SSMのこうした目的に直結しま
す。
最後に、「重要性が低い」銀行の監督も統一されます。その統一ペースは緩やかになるものの、ECBが指針を発行した
り、現地の監督当局を特定のリスクに対処させたりすることで達成される予定です。
銀行への影響は?
ECBによる新しい監督手法の影響は当然ながら大きなものになります。意思決定権が各NCAから移管されると、銀行も
全組織的に適応作業を行い、自己資本充実度評価プロセス(ICAAP)の実施方法から、リスクアペタイトの枠組みの設定
とその証明方法、さらには再生計画の立て方までを見直す必要があります(破たん処理計画もSRMを通じて見直すこと
になります)。
新しい体制、しかも新しい監督当局グループの監督下に入るということは、少なくとも最初は、従来の手法に関する情報
の提供や根拠の説明を求められることが多くなると考えられます。意図が不明瞭であったり、国内レベルの当局とECBと
の間の責任分担が曖昧であったりする部分もあります。こうした兆候を、資産査定(AQR)に関連して既に感じている銀行
も一部あります。
ECBによるデータの提出の要請は、全般的に見れば、銀行およびNCAのいずれにとっても目新しい作業になると考えら
れます。ECBのフレームワーク規則を見ると、要求されるデータをある程度確認でき、ECBとNCA間の情報交換を理解す
ることができます。とりわけ、国内の監督当局は、ECBと連絡を取り合い、銀行の安定にとって根本的に重要な情報を提
供しなければならなくなります。これは、「重要性がある」銀行であるかまたは「重要性が低い」銀行であるかを問わず言
えることです。したがって銀行は、そうした動きを把握し、またデータの要求に対してどのように対応するか明確にできな
ければいけません。ECBが要求するであろうデータや情報を把握することができれば、そうした要求への銀行内での対
応に役立つでしょう。
不透明な部分はありますが、銀行は今すぐにでも、監督手法の予測される変化に対して準備を始めることができます。お
そらくこれまでよりも慎重な新しい監督当局を想定し、各銀行は、危惧される分野や認識している欠陥を再確認し、それ
らへの対処方法を遅滞なく明確に計画すべきです。現在の監督当局も認識しているが重要視していない問題を、新しい
監督機関の検証によって指摘されるかもしれません。そうした問題を銀行が認識しているのであれば、銀行は問題につ
いて協議し、対処方法を説明する準備をすべきです。
さらに広く見れば、各銀行は、ECBに権限が与えられ実務上行うことができるようになる変更についても検討すべきです。
すでに説明したように、SSMは、EU規則が直接適用される部分についてはEU規則に従い、EU指令が国内法化されてい
る部分については国内の規則に従うことになります。EU規則または国内の規則において認められる場合は、SSMは裁量
権を行使することになります。こうした状況においては、SREPや資産査定、自己資本報告の検証の実施など、監督当局
が行なう決定のなかで何が重大な決定になるでしょうか。これらの例においてECBがどのように裁量権を行使するかはま
だ明らかになっていませんが、各銀行は、要求され得る変更のリストを作成し、人材面、データ処理や記録文書作成の
面、そしてガバナンス体制の面においても、それら変更に対応するための能力強化を図ることはできます。
7
「 EU regulatory reforms:
some implications 」 ( EU の
規制改革:その影響)マウ
ロ・グランデ氏のプレゼン
テーション、エストニア、タ
リン、2013年12月
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
9
長期的には、ユーロ圏において意思決定の一貫性が向上することで、自己のビジネスはどのような影響を受けるかを銀
行は検討すべきです。「重要性がある」銀行グループとユーロ圏のそれらの子会社および支店については、ECBが直接
監督を引き継ぐため、「母国監督当局」と「ホスト監督当局」との区別がなくなります。その結果、グループレベルと子会社
レベルでの監督手法の差異はなくなるはずです。規則の適用において統一が図られれば、銀行は、国内外共通のコン
プライアンスプログラムを構築することで相乗効果を達成できる可能性が高くなります。また、監督上の報告においても
効率が向上することが見込まれます。さらには、ユーロ圏におけるリストラクチャリング戦略を立てるうえでも、監督手法
の相違の重要性が減るに違いありません。また、監督実務が統一されれば、同じような規模および事業モデルの銀行は
同じような監督上の要求に従うことになるため、ユーロ圏の競争環境も影響を受けると考えられます。
最後に、「重要性が低い」銀行のなかにも、ECBが直接監督を引き継ぐ可能性を検討することを望む銀行があると考えら
れます。一貫した監督手法を確立するために必要であれば、ECBの権限によって「重要性が低い」銀行もECBが直接監
督することになります。この権限が軽率に使用されるとは考えられません。この権限を使用すれば、ECBは、「重要性が
低い」銀行の移管元であるNCAと直接対立することになりかねません。というのも、移管元の監督の仕組みに欠陥があ
るという示唆になり得るからです。私たちの見解では、非ユーロ圏に本店がある銀行がユーロ圏に相当程度の拠点を持
っており、それら拠点が単一の持株会社の傘下にないときに、この権限が使用される可能性が高いと考えています。
SSM規則の下では、ECBは、そうした銀行のユーロ圏内の拠点を自動的にまとめて検討することはできません。しかし
ECBは、それら構成要素をそれぞれ直接監督することを決定し、当該グループのユーロ圏での事業の全体像をつかむこ
とができるのです。
業務行為に関する隔たりを埋める
プルーデンスの監督責任のECBへの移管に伴い、国内の監督当局による業務行為に関する監督手法が波及的に影響
を受ける可能性があります。プルーデンスの監督責任がECBに移管された後も、業務行為の監督責任は各NCAにとどま
ることになっています。したがって、これまでより力を入れて、そしておそらくはより厳格に、業務行為の監督がなされるか
もしれません。例えばNCAは、各銀行のガバナンス、利益相反の管理、報酬体系、および統制の仕組みが、金融の安定
ならびに消費者が得る結果にどのようにより広範な影響を及ぼすかに今までより注意を払うようになるかもしれません。
こうした変化は、総合的な銀行監督当局がプルーデンスの監督と業務行為の監督の両方を1つの機関で担当している国
においては、一気に生じ、しかも顕著になりかねません。何故なら、そうした監督当局は、SSMを踏まえて自らの組織お
よび方針を見直すからです。その他の国に関しては、こうした変化はそれほど著しくならないと考えられます。
また、ユーロ圏における監督手法の変更を機に、プルーデンスの監督および業務行為の監督両方に対するアプローチ
を見直し、強化するという当局が出てくるかもしれません。金融サービス機構(FSA)をプルーデンス規制機構(PRA:
Prudential Regulation Authority)と金融行為監督機構(FCA:Financial Conduct Authority)に分割した英国において、そう
した状況が顕著になっています。これを機に業務行為の監督当局が、データや検証、分析において新しい手法を用いた
り(主題分析への依存度を増やすなど)、競争政策との相互作用を考える際に新しい手法を用いることを検討すると考え
られます。
各銀行は、業務行為がどのように進化しているかを常に把握する必要があります。これは、営業拠点がある各管轄にお
いて今まで通りに規制を遵守するためのみではなく、ユーロ圏諸国で事業を行うコストおよび魅力が手法の変化の影響
を受けるかを理解するためにも必要です。EU域内のどこでも顧客が同じように扱われるようにすることが、これまでの
EBAの目的であり今もそれに変わりはありませんが、それよりも差し迫った問題が浮上したため、少なくとも中短期的に
は、国内のアプローチが銀行にとって重要な検討事項になると考えられます。
プルーデンスの監督責任のECBへの移管に伴い、国内の監督当局による業務行為に
関する監督手法が波及的に影響を受ける可能性があります。プルーデンスの監督責任
がECBに移管された後も、業務行為の監督責任は各NCAにとどまることになっていま
す。
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破たん処理の手法はどのように変わるか
SRMは、RRDと共に、ユーロ圏の破たん処理プロセスの統一および集約に向けた大きな前進です。ユーロ圏におけるす
べてのクロスボーダー銀行に関する意思決定が単一の当局に移管されるため、情報のやり取りが改善され、破たん処
理計画の策定の効率が向上する可能性があります。SRMにより、さまざまな点において、グループレベルの銀行ならび
にその銀行の傘下にあるユーロ圏の子会社および支店の取り扱いにおける一貫性および比較可能性を確保することが
出来ると考えられます。例えば、どの金融商品がベイルインの対象外になるかという点や、ベイルインが可能な負債をユ
ーロ圏全体で銀行はどの程度保有しなければならないかといった点で、取り扱いが統一されると考えられます。SRMが
なかったこれまでは、そうした問題に関する各国の監督当局の見解がばらばらであるということがあり得ました。また、同
じ規則がEU全域に適用されれば、各銀行の競争条件が公平になり、またクロスボーダー破たん処理に関して現在存在
する障壁が一部解消されます。さらには、銀行の顧客、投資家、格付機関、および規制当局による、破たん処理プロセス
に対する理解および信頼が深まると考えられます。
しかしながら最初は、銀行および監督当局は複雑な調整期間を耐え抜かなければなりません。RRDにより、特に2016年1
月に導入されるベイルインにより、EU域内の破たん処理計画はより分かりやすくなりますが、銀行および破たん処理当
局には面倒で複雑な調整が求められる可能性があります。同時に、SRMの導入により、新しいデータ共有機能を構築す
る必要が生じ、また、国内の破たん処理当局が保有する膨大な知識をSRBも利用できるようにしなければなりません。現
行の破たん処理計画は国によって大きく異なるため、破たん処理計画を調整し、新しい当局の要求に適応させなければ
ならなくなると考えられます。
SRFと、ベイルインの導入と共にSRMとRRDが整備した、破たん処理に使用する資金の積立制度により、銀行が破たんし
たときも公的資金の拠出は抑制されるはずですが、銀行の立場から見ると、こうした制度設計は資本コストに影響を及ぼ
します。
破たん処理プロセス自体の仕組みは、SRMに関する重大な問題の1つです。SRBの全当事者の利益および意見の調整
は、エグゼクティブ・セッションにおいてでも、簡単な作業ではありません。SRM規則は、合意が形成されないときはSRB
のエグゼクティブに最終決定権があるとしていますが、SRBは合意による決定を模索すると考えられます。こうしたガバナ
ンスおよび意思決定の仕組みは野心的なものであり、必然的に複雑になります。意思決定者が多くなれば、物事がなか
なか決まらなかったり、またはより多くの妥協が必要になるという事態になり得ます。
SRMにより、さまざまな点において、グループレベルの銀行ならびにその銀行の傘下に
あるユーロ圏の子会社および支店の取り扱いにおける一貫性および比較可能性を確保
することが出来ると考えられます。
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
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SRMの組織
SSMの下「重要性がある」銀行として定められたすべての銀行と、ECBが直接監督するその他の銀行、さらには
その他のクロスボーダー銀行の破たん処理当局の役割をSRBが引き継ぐ予定です。この範囲外の銀行について
も、破たん処理当局の役割を引き継ぐ所定の権限がSRBに与えられる予定です。特に、国内の破たん処理機関
に問題があるときは、そうした権限が認められることになります。
SRBのガバナンス構造は、エグゼクティブと総会から成る2層構造になる予定です。SRBのエグゼクティブは、SRB
の議長と4名の常任メンバーで構成されます。クロスボーダー銀行に関する協議を行うときは、当該銀行グループ
およびユーロ圏内のその子会社が拠点を置く加盟国の代表者も協議に参加します。ECBおよび欧州委員会は、
常任のオブザーバーを指名します。一方、問題となっている銀行が重要な子会社や支店を有する非ユーロ圏の
国の代表者およびEBAのオブザーバーを、必要に応じて招聘することもできます。
エグゼクティブは、SRBで行うほぼすべての決定に責任を負います。そうした決定としては、破たん処理計画の作
成・評価・承認、自己資本および適格負債の必要最低額の決定、特定の事業体に対する緩和された義務の適
用、破たん処理が開始された場合の破たん処理手続への関与などが挙げられます。
意思決定は合意に基づいて行われます。合意が形成されないときは、4名のSRB委員と議長が単純多数決によ
って決定します。投票結果が同数のときは、議長に決定権があります。
SRBの総会は、全参加加盟国の代表者、4名の委員会常任委員、および議長で構成され、単一破たん処理基金
の年間計画および予算の策定について責任を担います。また、破たん処理措置が50億ユーロ超を必要とする場
合のSRFの使用に関しても、決定をするよう求められます。このようなケースでは、基金への拠出額の少なくとも
30%を構成する委員会委員の単純多数決によって、総会の決定を行ないます。12ヵ月間における基金の利用額
が累積で50億ユーロを超過するときは、総会が基金の使用を評価し、拘束力のある指針をエグゼクティブ・セッシ
ョンに示すことができます。
SRBは、ユーロ圏の重要な銀行およびクロスボーダー銀行に関する破たん処理当局として、RRDに基づき、単一
破たん処理制度に参加しない国または非EU加盟国との協力に関する取り決めに参加することになります。そうし
た取り決めの例としては、銀行グループの再生・破たん処理計画の作成および評価、グループの破たん処理の
実行可能性に対する障害の除去、ベイルインの承認が挙げられます。こうした協力に関する取り決めについては
覚書を交わす必要があります。RRDの規定によると、カレッジと同じような機能を担っている組織はカレッジの役
割を引き受けられるとなっているため、基本的に、SRBのエグゼクティブが破たん処理カレッジの役割を引き継ぐ
ことになります。
SRMは、SRMの対象であるユーロ圏の銀行に関してRRDを実施する責任を担います。また、RRDが国内レベルの
破たん処理当局に裁量権を認めている場合は、ユーロ圏全体の意思決定を行ないます。
SRBには、現在は各破たん処理当局に決定権があるすべての決定、またはRRDの下で定められているすべての
決定を行う権限が与えられます。そうした決定には、以下のものが含まれます。
•
•
•
•
•
•
破たん処理計画の承認および破たん処理の実行可能性評価の実施
早期介入中の措置の承認
一部の銀行による破たん処理計画策定義務の免除
自己資本および適格負債の必要最低額の設定
破たん処理の決定の承認および破たん処理手法の適用
償却または資本性商品への転換
銀行への影響
RRDにより、破たん処理計画はこれまで一部の間で認識されていたような理論上の課題ではなくなります。損失吸収性
のある資本の場所および水準が、継続中の事業の運営および採算性に影響を及ぼし得るため、各銀行はそうした影響
を把握する必要があります。ホールセール向け債券をグループ組織のトップに近い水準で発行する銀行の資金調達コ
ストは、さまざまな管轄区域で独立して営業している事業体による債券の発行と対比して、いわゆるシングル・ポイント・
オブ・エントリー(SPE)とマルチプル・ポイント・オブ・エントリー(MPE)の破たん処理戦略の選択の問題であるとみなされ
ることがよくあります(当然ながら、業務上の構造と法的事業体の構造などその他の問題もありますが)。私たちの予想
では、銀行グループの間で、適切な経営判断をするために、さまざまな法的事業体における潜在的影響と破たん時の損
失吸収資本の構造をモデル化する動きが活発になるとみています。
12
RRDが発行されそしてベイルインが重視されるようになってから銀行は、ベイルイン適格負債の量ならびに資産・負債の
価値に関する膨大な情報を、短い時間枠のなかで提出できるようにならなければいけなくなりました。求められる時間枠
のなかで必要な情報を提供できるようになるためには、既存のプロセスをかなり強化する必要があると考えられます。
私たちは、「Recovery and Resolution Directive | Putting theory into practice」8という表題の特集で、ベイルインによるグ
ループ組織への影響、新しく必要になる情報、事業の継続性への影響、RRD発行後の破たん処理の実行可能性プロセ
スと銀行に自己のグループ組織の見直しを迫るその他の規制との結び付きについて論じています。
ユーロ圏内においては、SRMにより破たん処理プロセスの予測可能性と一貫性が改善すると考えられます。「重要性が
ある」銀行のうちユーロ圏にある事業体であれば、破たん処理の発動は単一の当局、すなわちECBによってなされ、その
実行は単一の当局、すなわちSRBによって行われることになります。ユーロ圏内のホスト破たん処理当局が、母国破た
ん処理当局と異なる決定(特定の子会社を国内で清算するなど)を下すことができなくなります。事実上の母国破たん処
理当局としてSRBは「超国家的存在」になります。国家間の偏りがこれまでは存在し、破たん処理の決定に影響を及ぼし
ていましたが、そうした偏りは基本的にはなくなるはずです。
破たん処理プロセスの統一と集約は、銀行の破たん処理当局間の連携が改善されることにより、ユーロ圏のSPEによる
破たん処理の実行可能性に影響を及ぼすと考えられます。事業モデルや経営モデルによってはやはりMPEのほうが有
利である銀行もありますが、SPEかMPEかの選択の違いがこれまで明確ではなかったケースにおいては変化が生じる可
能性があります。ただし、破たん処理当局間の連携が改善される一方、銀行に、破たん処理の実行可能性評価において
総合的な資本・経営計画を示さなければならないという圧力がかかるかもしれないという面もあります。
ソブリンと銀行の結び付きは断ち切られるか
銀行同盟の目的の一つは、(国家の)ソブリンと(国内の)銀行の結び付きを断ち切ることでした。今回の一連の破たん処
理案によって、この目的はどの程度達成されるのでしょうか。この目的を達成するうえで重要な要素が1つあります。それ
はつまり、危機時に国が自国の銀行へ資金供給することを余儀なくさせた状況に対処するということです。
ベイルインの導入は大きな前進であり、銀行の破たん処理に民間部門によるソリューションを提供する一歩であります。
破たん処理のコストと公的資金の間にもう一つクッションを設けるためにRRDは、民間の資金による破たん処理基金を創
設することを要求しています。全EU加盟国が、預金保険の各対象預金の1%に相当する資金を2024年の終わりまでに積
み立てなければならなくなります(総負債のほうがこの計算の基礎として適切かどうかを2016年10月までにEBAが決める
ことになっています)。このRRDの要件に従って、SRFは、預金保険の対象預金の1%を2024年1月までに積み立てるとい
う目標を設定する予定です。基金からの累積支出額が預金合計の0.5%に達した場合は、いずれの規則においても目標
期限を4年間延長できます。また、DGSDでは、EU域内の預金者保護の更なる強化が模索されています。10万ユーロ以
下の全預金を対象とする、事前積立型預金保険制度を設立することを全EU加盟国に義務付けるとされています。さらに
は、SRMでは、SRFのいわゆる共同化要求(mutualisation requirements)を導入して、ソブリンとその銀行部門の結び付
きを弱めることが模索されています。国別で管理されるSRFの資金を、8年かけて単一の財布にまとめるとされています。
その間にSRFの資金を使用する必要性が生じた場合は、欧州理事会で調印された政府間協定(IGA)で定められている
ウォーターフォール形式に従って支払いをすることになっています。
破たん処理時の資金の手当てに関して見て見ぬ振りされている大きな問題があります。それは、上述の破たん処理基金
および預金保険基金の規模とベイルインで十分であるかという点、つまり、破たん処理プロセスにおいて公的資金に頼る
可能性が残るかという点です。過去のベイルアウトのコストを物差しにしてこの質問に答えるということがよく行われてい
ますが、これは憶測の域を出ないところがあります。銀行が以前と同じような形で破たんする可能性は低くなっています。
少なくともこれが、2008年以降なされてきた資本・破たん処理制度の変更の狙いです。この評価をさらに難しくさせるの
が、特に破たん処理の最終コストに対する市場動向の影響、そして複数の銀行が同時に破たんする可能性です。
RRDおよびSRMを通じて提供される民間部門によるソリューションに関係なく、国が破たん処理コストを最終的には負担
するだろうという見方を市場が取り入れる場合は、市場の動きは、ソブリンと銀行の結び付きがどの程度断ち切られるか
という点にも影響を及ぼし得ます。市場がそうした見方をするというシナリオ下では、結び付きはそれほど弱まらず、危機
時に発生した債務返済費用の増加による負の影響を受ける高いリスクを国が抱えたままになります。
こうした問題が最終的にどのような展開をみせるかについては、銀行がRRDの実行を開始し、自らの組織を新しい要求
に適合させるという課題に取り組み始めれば、明らかになるはずです。破たん処理計画と破たん処理の実行可能性の
評価において、SRBがどのくらい効率的で厳格であるかが分かれば、ユーロ圏の新しい破たん処理制度が危機時にど
のくらい効果を発揮するかについて示唆が得られます。しかしながら最終的には、ベイルインに対する懸念、またはSRM
の効果に対する疑いが高まりかねないときは、危機時の市場の動きがもたらすリスクに対処するために銀行自身が何
をできるかを各銀行が考えるべきです。
8
http://www.deloitte.com/
view/en_GB/uk/industries/
financial‑services/2a40eb2
4c7a65410VgnVCM300000
3456f70aRCRD.htm
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
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まとめ
銀行同盟の目的を達成するためECBとSRBは、「期待に応えるのに十分タフで野心的になる」と「達成できるもの、特に
短期的なものについて現実的に見極める」の間の微妙な線上を歩むことになります。
SSMとSRMを中心に、合意が形成されるまでの政治プロセスは長引きましたが、ユーロ圏の銀行監督を方向付け、破た
ん処理計画に影響を及ぼし、必要であれば実行に移す強制力が、基本規則により新しい当局に与えられています。こう
した下地作りは、銀行同盟の最初の約束である「ユーロ圏で統一された金融規制」に向けた大きな一歩です。実際にこ
うした目標を達成するには、これまで以上の困難を乗り越えなければならないでしょう。SSMとSRMはいずれも、各国当
局の合意と連携を模索すると考えられます。これらの制度はまた、他の監督当局および各銀行との情報交換のための
太いパイプを作り、それに頼らなければならなくなります。こうした仕組みが円滑に機能するようになるまでには多くの時
間を要すると考えられます。
新しい預金者保護や破たん処理の仕組みにより、新しい銀行危機やソブリン危機に対する十分な予防手段が作られる
か、また作られるとしてもどのように作られるかははっきりしていません。国とその国の銀行部門の間の結び付きがすべ
て断ち切られるわけではありません。つまり、ベイルインが不十分だった場合は、国が今後も、銀行の破たんコストに対
して最終的な防御策を提供し続けるということです。それでも、SRFによりいずれは、破たん処理コスト(の一部)に対す
る備えをユーロ圏内で準備することが可能になります。またSRBは、破たん処理計画においてユーロ圏内の全クロスボ
ーダー業務への影響が必ず考慮されるようにする手段を模索すると考えられます。SRMおよびRRDにとっての課題は、
危機が実際に発生する前に、信用度と破たん処理の実行可能性に関する市場の認識に影響を与えることができるかと
いう点になります。
このように複雑な新しい世界を生き抜くためには、銀行は、SSMとSRMが確立させようとしているユーロ圏レベルの対話
を理解し、そしてその対話に自らの意見を反映させる必要があります。各銀行は、影響を及ぼし得る手段を、自己の組
織および各種事業モデルの組み合わせにおいて検討すべきです。また、監督当局による決定や作業の優先順位付け
に対応できるように柔軟であることも大切なポイントです。これら規則を実施する責任を担う当局と確固とした協力的関
係を築くことがカギになります。こうした課題をクリアできなければ、その銀行は不必要なリスクに自らをさらすことになり
ます。
このように複雑な新しい世界を生き抜くためには、銀行は、SSMとSRMが確立させようと
しているユーロ圏レベルの対話を理解し、そしてその対話に自らの意見を反映させる
必要があります。
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連絡先
Francisco Celma
EMEA FSI Co‑Lead
[email protected]
Nick Sandall
EMEA FSI Co‑Lead
[email protected]
Clifford Smout
Partner, EMEA Centre for Regulatory Strategy
[email protected]
Dea Markova
Assistant Manager, EMEA Centre for Regulatory Strategy
[email protected]
Deloitteの関連出版物
単一監督メカニズム(SSM):
一元化で強固なものとなるか?
本稿は、SSM設立の背景、担当当事者、実施方法などSSMの全体像について説明しています。また、
銀行の監督責任がSSMへ移行するに当たりECBや銀行が直面する諸課題について考察しています。
単一監督メカニズム(SSM):
ビッグデータの問題
本稿は、技術的ソリューションや数学的手法を確立させるためにECBを中心とする当局が、どこへ進
むべきかについての議論を促すことを目的としたものです。技術的ソリューションや数学的手法は、
SSMが設定された高い目標を達成できるか否かを決める差別化要因になる可能性があります。
本稿および銀行同盟に関する他の刊行物はDeloitte UKのウエブサイトでご覧いただけます。
www.deloitte.co.uk/bankingunion
単一監督メカニズム(SSM) 銀行同盟に基づく銀行業務
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略語集
AQR: 資産査定(Asset Quality Review)
CRD IV: 資本要求指令・規則(Capital Requirements Directive/Regulation)
DG: 総局(Directorate General)
DGSD: 預金保険制度指令(Deposit Guarantee Schemes Directive)
EBA: 欧州銀行監督機構(European Banking Authority)
ECB: 欧州中央銀行(European Central Bank)
ESM: 欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism)
FCA: 金融行為監督機構(Financial Conduct Authority)
FSA: 金融サービス機構(Financial Services Authority)
ICAAP: 自己資本充実度評価プロセス(Internal Capital Adequacy Assessment Process)
IGA: 政府間協定(Intergovernmental Agreement)
JST: 合同監督チーム(Joint Supervisory Team)
MPE: マルチプル・ポイント・オブ・エントリー(Multiple Points of Entry)
NCA: 各国の監督当局(National Competent Authority)
NDA: 各国の指定当局(National Designated Authority)
PRA: プルーデンス規制機構(Prudential Regulation Authority)
RRD: 再建・破たん処理に関する指令(Recovery and Resolution Directive)
SPE: シングル・ポイント・オブ・エントリー(Single Point of entry)
SRB: 単一破たん処理委員会(Single Resolution Board)
SREP: 監督上の検証・評価プロセス(Supervision Review and Evaluation Process)
SRF: 単一破たん処理基金(Single Resolution Fund)
SRM: 単一破たん処理制度(Single Resolution Mechanism)
SSM: 単一監督メカニズム(Single Supervisory Mechanism)
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Deloitte(デロイト)とは、デロイト トウシュ トーマツ リミテッド(「DTTL」)(英国の法令に基づく保証有限責任会社)およびそのネットワーク組織を構成するメン
バーファームのひとつあるいは複数を指します。DTTL および各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です。DTTL およびそのメンバー
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