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修士論文(要旨) 2016 年 1 月 動的なキャラクタの役割と機能 -TV

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修士論文(要旨) 2016 年 1 月 動的なキャラクタの役割と機能 -TV
修士論文(要旨)
2016 年 1 月
動的なキャラクタの役割と機能
-TV ドラマ『Doctor-X~外科医・大門未知子~』の分析から-
指導 宮副ウォン裕子 教授
言語教育研究科
日本語教育専攻
213J3901
崔琴
Master's Thesis(Research Paper)
January 2016
The Roles and Functions of “Dynamic Characters”
An Analysis of the T.V. Drama Doctor-X Surgeon Michiko Daimon
QIN CUI
213J3901
Master's Program in Japanese Language Education
Graduate School of Language Education
J.F Oberlin University
Thesis Supervisor: Yuko Miyazoe-Wong
目次
第 1 章 はじめに...............................................................1
1.1 研究の動機と背景......................................................1
1.2 研究の目的と意義......................................................3
第 2 章 先行研究...............................................................4
2.1 キャラクタ............................................................4
2.2 動的なキャラクタ......................................................6
2.3 メディア研究の枠組み..................................................7
2.4 本研究における「動的なキャラクタ」の定義.............................10
第 3 章 調査概要及び分析の枠組み..............................................11
3.1 調査概要.............................................................12
3.1.1 調査対象.......................................................12
3.1.2 調査目的.......................................................14
3.2 分析の枠組み.........................................................14
第 4 章 調査結果と分析........................................................15
4.1 主役の固定的なキャラクタ.............................................15
4.2 主役の動的なキャラクタ...............................................26
4.3 脇役の動的なキャラクタ...............................................32
4.3.1 蛭間の動的なキャラクタ.........................................32
4.3.2 秘書照井の動的なキャラクタ.....................................35
4.3.3 原の動的なキャラクタ...........................................39
第 5 章 総合的考察............................................................44
5.1 固定的なキャラクタと動的なキャラクタ.................................44
5.2 オーディエンス.......................................................45
5.3 制作者の製作意図.....................................................46
5.4 考察のまとめ.........................................................47
第 6 章 おわるに..............................................................48
6.1 まとめ...............................................................48
6.2 本研究の限界と今後の課題.............................................48
参考文献・参考 URL・参考ドラマ・参考サウンドトラック
巻末資料
要旨
稿者は以前、日本語のメディア(特に映画とドラマ)を利用しつつ、日本語を学習した経験
がある。このような学習を通し、日本語には男女差があるということに気づき、日本語のこと
ばとジェンダーに興味を持ち始めた。
研究の進行につれ、テレビドラマなどでは意図的に女性に女性特有の表現を使わせている現
象があるのに対し、現実の若者たちの話し言葉には、男女差がなくなりつつある傾向が見受け
られる(水本、2006)ことを知った。来日後、稿者が参加した日本語の実際使用場面において
も、メディアの中の日本語使用においても、ジェンダー差は明示的ではないように感じられる。
しかし、インターネット上などでは故意に自己のアイデンティティ偽り、ステレオタイプ的
な発話を使用しつつ、自分の「○○らしさ」を強調するケースがある。それに対し、
(大橋純・
大橋裕子 2013)は、これを能動的に、意味上の想起とある目的のために戦略的に用いられて
いると結論付けた。金水(2003)はこのような、
「○○らしさ」を強調するために用いられた
「女性語」
、
「男性語」ないし、
「お嬢様語」
「博士語」のような特定の人物像を想起させる役割
を持っている特定の言葉づかいを「役割語」と名づけ、現実に存在しない話し方とはいえ、ス
テレオタイプとして日本人母語話者に共通認識されていると指摘している。それに基づき、定
延(2006)はステレオタイプ化された「お嬢様」、
「博士」のような人物像に「発話キャラクタ」
という概念を導入した。その後、山口(2011:31)は会話中、発話者が一時的に「本来の自分
から離れたキャラクタ」を発動する「他人キャラ」と「遊びやおどけなどの文脈で用いられて
いる発話者本来のキャラクタとは異なったキャラクタ」の「臨時的キャラクタ」
(金水 2012:
14)のようなキャラクタを一時的に変化させている動的な性質に注目し始めた。しかし、この
一連の研究はほとんどが人間の属性という視点から来たものと言われている。
李(2013)は従来の研究で扱われてきた「博士」
、
「お嬢様」のような人間の属性を表す「静
的なキャラクタ」と区別しつつ、
「他人や過去の自分の上演、及び他人や自分に新たなキャラ
クタを付け、動的な性質を持つ発話キャラクタ」のことを「動的なキャラクタ」として検証し
た。本研究は 3 シーズンにわたって、平均視聴率 19%を越える人気のテレビドラマ『Doctor
-X~外科医・大門未知子~』を分析対象にし、
「発話キャラクタ」を含む「キャラクタ」全体
を言語・非言語情報による「上演」と「付与」
、流行語要素による「アドリブ」や「モノマネ」
のような動的なキャラクタをより広く分析対象とした。
当然、メディア分析に当たっては、鈴木(2013)が提唱しているメディア研究のモデルと 8
つの基本概念が必要不可欠である。
李は動的なキャラクタ概念のみを取り上げたにとどまり、動的なキャラクタに対する、受け
手の認識については、ほとんど触れておらず、視点はすべて情報の送り手に固定されている。
その限界点を補うため、本研究は鈴木(2013)のメディア分析の枠組みを援用する。情報の送
り手(製作者)だけではなく、受け手側(オーディアンス)の認識も確認しつつ、作品の中に
繰り広げられた動的な性質を持つキャラクタに焦点を当て、動的な発話キャラクタが果たして
いる役割を明らかした。
一方、海外在住の日本語学習者にとって、生の日本語と接触する機会が非常に限られている
ため、マスメディアで日本語を学習するのが一般的となっている。近年、スマホやタブレット
の普及につれ、映像メディアを提供できるアプリをインストールするだけで、さらに便利に日
1
本語のメディアリソースへのアクセスができる。ステレオタイプの化石化とも言えるメディア
を如何に批判的かつ体系的に活用し、学習者にステレオタイプ的な発話への理解を促すかが今
後重要な課題となってくる動的なキャラクタの役割と機能を理解・認識することで、ステレオ
タイプの回避方法などについても学ぶ機会を提供し、実社会におけるコミュニケーションの理
解や実施の円滑化につながることも期待できる。
2
参考文献
新井潤(2010)
「女性語と役割語の日本語教育」遠藤織枝・小林美恵子・桜井隆(編)
『世
界
をつなぐことば』三元社、 333-346
大橋純・大橋裕子(2013)
「
「らしさ」の語用論的考察-電子掲示板に見え隠れする玉虫色の社
会規範」神田靖子・高木佐知子(編)『ディスコースにおける「らしさ」の表象』大阪公
立大学共同出版会、35-65
恩塚千代(2008)「教科書に表れる役割語-教科書におけるバーチャルリアリティのすすめ
-」
『日本語教育研究』(14)
、韓国日語教育学会、 37-48
金水敏(2003)
『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』岩波書店、205
金水敏(2011)「現代日本語の役割語と発話キャラクタ」『役割語研究の展開』くろしお、 7
-16
金水敏(2014)
『ドラマと方言の新しい関係-『カーネーション』から『八重の桜』
、そして『あ
まちゃん』へ-』笠間書院、11-13
定延利之(2006)
「ことばと発話キャラクタ」
『文学』
《特集》ステレオタイプ、7(6)
、岩波書
店、 117-128
定延利之(2011)
『日本語社会のぞきキャラくり-顔つき・カラダつき・ことばづき-』三省
堂、 200
鈴木みどり(2013)
『最新 Study Guide メディア・リテラシー【入門編】』リベルタ
鄭恵先(2011)「役割語を主題とした日韓翻訳の実践-課題遂行型の翻訳活動を通しての気
づきとスキル向上-」金水敏(編)
『役割語研究の展開』くろしお、71-90
百瀬しのぶ(2014)
『Doctor-X 外科医・大門未知子
II』ノベライズ 宝島社
百瀬しのぶ(2015)
『Doctor-X 外科医・大門未知子
III 前編』ノベライズ
宝島社
百瀬しのぶ(2015)
『Doctor-X 外科医・大門未知子
III 後編』ノベライズ
宝島社
水本光美(2006)「テレビドラマと実社会における女性文末詞使用のずれにみるジェンダー
フィルタ」日本語ジェンダー学会(編)
『日本語とジェンダー』、ひつじ書房、73-94
メイナード、泉子・K(2001)『恋するふたりの「感情ことば」-ドラマ表現の分析と日本
語論-』くろしお
メイナード、泉子・K(2004)『談話言語学
日本語のディスコースを創造する構成・レト
リック・ストラテジーの研究』くろしお、147
山口治彦(2005)
「語りで味わう-味ことばの謎とフィクションの構造-」瀬戸賢一ほか『味
ことばの世界』海鳴社、162-205
山口治彦(2011)
「役割語のエコロジー-他人キャラとコンテクストの関係-」金水敏(編)
『役割語研究の展開』くろしお、27-47
山元淑乃(2013)
「日本語学習者の発話キャラクタに関する研究-日本語学習者の語りの分析
によるその獲得過程,機能,意義の探索-」琉球大学法文学部国際言語文化学科欧米系『言
語文化研究紀要』(22), 57-73
李熙穎(2013)「談話における「動的なキャラクタ」の提唱」山口大学大学院東アジア研究
科『東アジア研究』(11)、 139-166
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