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総政研ジャーナル
総政研 ジャー ナル
創刊号
―東京都議会議員選挙特集―
≪目次≫
〈特集 1・座談会〉2009 年 7 月東京都議会議員選挙・当選議員を囲
む座談会
……pp.1-4
早稲田大学総合政策科学研究所
〈特集 2・論文〉選挙区の構造的特性と候補者の品揃え―2009 年
東京都議選を例として―
……pp.5-14
早稲田大学総合政策科学研究所
(客員研究員)近 裕一
〈論文〉政策の現在
……pp.15-17
早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科
(教授)江上能義
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
2009 年 7 月東京都議会議員選挙
当選議員を囲む座談会
主催:早稲田大学総合政策科学研究所
2009 年 7 月 27 日(月)午後 1 時~3 時 東京都議会会議室
出席者: 石毛しげる(西東京市選出・民主党・当選 2 回)
大西さとる(足立区選出・民主党・当選 2 回)
くまき美奈子(板橋区選出・民主党・当選 2 回)
司 会: 江上能義(早稲田大学総合政策科学研究所所長/早稲
田大学大隈記念大学院公共経営研究科教授)
<敬称略>
江上<司会>:
きたと思います。
皆さん,ご当選おめでとうございます。今回の 7 月
政党レベルでは,追い風の強さを感じました。選挙
12 日の東京都議会議員選挙で,私の所属する早稲田大
運動を開始した初日から,
手ごたえが十分ありました。
学の大学院,公共経営研究科の修了生から 5 名の方々
が当選されました。そして本日はご多忙の中,石毛し
大西:
げる氏,大西さとる氏,くまき美奈子氏の御三名にご
猛烈な追い風でしたね。私にとって今回の選挙は厳
しい選挙だったのですが,選挙運動初日の 2,3 時間
出席いただきました。誠に有難うございます。
早速ですが,今回の都議選について伺います。皆さ
で,絶対に負けないという実感がありました。またく
んにとって今回の選挙は要するに,どのような選挙だ
まきさんも述べられたように,私も 2 期目ですが,現
ったのか,その感想を伺いたいと思います。
職としての強みを痛感しました。
野党議員としての 4 年間でしたので,選挙運動の期
くまき:
間中,
石原都政を批判しました。
新銀行東京問題など,
私は今回,2 度目の選挙でしたが,現職での選挙が
税金の無駄遣いが多いと訴えました。でも石原人気は
前回の新人としての選挙と大きく違うというのが実感
まだ都民の間で高いので,話の中では石原知事をある
でした。前回はまったくの素人が立候補して勝手もわ
程度,持ち上げた上で,でもこうした諸々の問題があ
からず無我夢中だった
るので,そろそろ民主党に変えたほうがいいのではあ
のですが,今回の選挙
りませんか,と訴えました。有権者の反応は良かった
では現職としての認知
ですね。
度もあり,レポートも
出せるし集会での挨拶
くまき都議(民主党)
石毛:
もできるし,かなりス
前回の選挙では 1 万 9 千票だったのが,今回の選挙
ムーズに選挙対策がで
では 4 万 2 千票と,2 倍をこえました。前回とのおお
-1-
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
きな違いは,衆院選と間違う人がいたことです。また
時間をあまり長くならないように留意しました。
前回の選挙では,
「石毛です,よろしくお願いします」
と言ってまわりましたが,今回の選挙では有権者のほ
大西:
うから,
「よろしくお願
石毛都議(民主党)
私は選挙運動期間中,子育て政策や教育問題など,
いします」と声がかか
“子ども”を中心に訴えました。ポスターも子どもと
りました。有権者のほ
一緒でした。東京都は巨額の税金を使っていて,東京
うから握手を求めてく
都の年間予算はカナダ国家予算に匹敵する約6兆円だ
るのです。
「変えてくだ
が,石原都政では新銀行東京や築地移転などに無駄に
さいね」とか「頑張っ
税金が使われている,もっと日本の将来を担う子ども
てくださいね」とか,
たちのために使うべきだと訴えました。私の子ども中
有権者のほうから声がかかりました。自民党に替わる
心の政策には批判もありました。しかし議員定数6の
選択肢は民主党しかないこと,現在の日本の閉塞状況
足立区では,6 名の議員のうち 1 名は子ども中心でも
を打破してほしいと有権者たちが考えていることの表
いいのではないか,と応酬しました。
れだと思いました。窓から懸命に手を振る方々も多く
今回の選挙では,民主党から私に加えて新人が立候
見かけました。この流れは来月の衆院選にも持ち込ま
補しましたので,同じ政党内で現職と新人の戦いにも
れるでしょう。
なりました。新人候補者側から「現職は大丈夫ですか
自民党は,都議選はガス抜きだとか言っているそう
ら」と言ってまわられて
ですが,おそらくそうはならないでしょう。つくづく
焦りました。
また今回は,
麻生さんが首相で良かったと思います。麻生首相でな
自転車で選挙運動をやり
かったらこれほど勝てなかったでしょう。
ました。たすきだけにし
か候補者の名前を書くこ
江上:
大西都議(民主党)
今回の選挙では,どんな戦術をとられましたか?
とができませんので,の
ぼり旗には「本人」と書
いて,妻には「本人の妻」と書いて回りました。
くまき:
前述したように,民主党には強い追い風がありまし
くまき:
たので,従来でしたらパンフレットなどに実績を列挙
私は選挙運動期間中,細かい所にも入っていけるよ
してアピールしたのですが,今回は実績よりも“変化
うに,小型車を使いました。
を”のほうに重点を置いて訴えました。新銀行東京問
題などを取りあげて,こうした問題が生じたのは,こ
石毛:
れまで自民,公明が圧倒的な議席を占めていた東京都
私はインカムをつけてやはり自転車でまわりました。
議会がチェック機能を十分に果たせなかったからだ,
前回の選挙も自転車に乗って選挙運動をしましたが,
自公優位の都議会を変えましょう,と有権者に訴えま
“汗かいて頑張っている”という印象が有権者に伝わ
した。
ったのではないかと思います。自転車でまわっていて
配るパンフレットについては,有権者は細かいとこ
有権者の反応が良いところでは立ち止まって握手をし
ろは読まないだろうと考え,デザインをすっきりつく
ます。民主党のチラシを受け取る人たちはだいたい民
る,一目でわかるように,を心がけて作成しました。
主党に好意的な人たちですから,彼らとたくさん握手
また街頭演説では,そのことであまり迷惑をかけない
をしました。
ように時間帯など気をつけました。演説する街頭を掃
私の西東京市の選挙区は定数 2 で,定数 5 のくまき
除しましたし,1回の演説時間を5分くらいと,話す
さんの板橋区や定数 6 の大西さんの足立区とは選挙区
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総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
の事情がかなり異なります。私自身にとっては,365
出れば大変な騒ぎになるだろうから,それを見越して
日×4 年の活動が選挙運動期間の 9 日間に集約される
石原知事は辞めるかもしれない。
と考え,議会報告に力を入れ,また駅前には毎週,立
ちました。今回の選挙は私にとって“固める選挙”で
大西:
した。
足立区の学力は低いので,足立区の学力を上げるた
選挙区の事情の違いから,くまきさんや大西さんよ
めに取り組みたい。具体的には,足立区には都立進学
り票を取りやすかったと思います。700 名収容の集会
指導重点校が皆無なので,それがひとつの高校でも実
では 500 名を集めることができました。したがって今
現するよう取り組みたい。進学カリキュラムも手がけ
回の選挙では,自ら高いハードルを課しました。つま
たい。保育所の待機児童もこれからどんどん増えてく
り自民党候補者にどれほど差をつけることができるか,
るので対策が必要です。足立区における小児科の緊急
が私の目標でした。今回の選挙結果は,風のせいもあ
医療体制はひとつしかない状態で問題となっています
ったでしょうが,自民候補者に 2 倍の差をつけること
ので,これらにも取り組んでいくつもりです。
ができましたので,自らのハードルを乗り越えられた
と考えています。
石毛:
前回の選挙では,全世帯に 4 回,チラシを配りまし
いま家計が苦しくて共働きせざるをえない世帯が増
たが,今回は 1 回ですみました。ポスターは 4 千枚ほ
えているので,
保育所の待機児童も増えてくるのです。
どつくりました。前回は民主党からもう 1 名候補者が
出たという事情もあってポスターもチラシもたくさん
大西:
配布したのです。
それから公共経営研究科博士後期課程の私の研究テ
ーマである東京全体の交通政策の研究や調査も続けて
いきます。東京都議会の議事録では,私の質問の 7 割
江上:
今後の抱負についてお聞かせください。
は交通政策についての質問です。
くまき:
石毛:
医療制度の抜本的な見直しに取り組みます。具体的
私はまず大西さんと同様,博士後期課程の研究テー
には,国と協働して後期高
マである周産期医療の問題
齢者医療制度の廃止を実現
に取り組んでいきます。そ
したいと考えています。ま
してまた三多摩地域の格差
た医療と介護の問題,特別
問題にも取り組んでいきま
老人ホームの問題,介護士
す。東京 23 区 800 万,三
待遇問題などに取り組んで
多摩 400 万と,
三多摩は 23
いきます。
区の半分の人口を擁してい
ながら,23 区との格差は極
石毛:
めて大きい。八王子病院か
10 月 2 日に 2016 年オリ
ンピック開催地が決定され
るが,もし東京開催に失敗
ら小児科がなくなったし,
三氏そろって
救急医療体制の务化もはな
はだしい。このほかにもい
すると,
石原知事は辞任する可能性が多分にあります。
ろんな格差があるので,こうした格差が尐しでも縮ま
築地問題では民主党は証人喚問するつもりですし,新
るよう努力したいと思います。
銀行東京の問題でも資料が十分出ていない,もし全部
さらに「国際都市東京」と言っているけれども現実
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総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
はそうなっていません。表示言語,インフォメーショ
ン,
通訳不足など,
不備な点がまだたくさんあります。
江上:
4 月と 9 月の入学,入社,就職などの面でも日本はま
本日はお忙しい中,時間を割いて貴重な意見をお聞
だ国際標準から遅れています。日本オンリーでグロー
かせいただき,本当に有難うございました。これから
バル化の時代に普遍性を備えていません。首都にふさ
も皆さんのご活躍をおおいに期待しています。本日は
わしい東京,外国人も快く訪れる東京に改善していく
有難うございました。
べきだと考えます。
「座談会を振り返って」
(江上能義)
まだ当選後の挨拶回りも終わらないご多忙の中,皆
民主党への猛烈な追い風を如実に物語っていました。
さんに時間をやり繰りしてご参集いただき,心より感
石毛議員はこの追い風は来る 8 月 30 日の総選挙でも
謝しています。今回の東京都議会議員選挙では,座談
吹き続けると述べておられますが,さてどういう結果
会の冒頭で述べたように,早稲田大学の専門職大学
になるのでしょうか?
院・公共経営研究科の修了生のなかから,出席者の 3
当選者の皆さんは今回の選挙にあたって,それぞれ
名に加えて,山口拓(世田谷区選出,民主党,当選 2
の立場や選挙区事情から,自分の政策やスタイル,有
回)
,笹本ひろし(江戸川区選出・民主党・当選 1 回)
権者へのアピールにさまざまな工夫をされ,奔走され
の合計 5 名が当選されました。
たことも良く理解できました。選挙区の事情の違いで
今回の御三名の座談会では,やはり選挙運動を実際
選挙の仕方もずいぶん異なってくることもよく伝わり
に展開した本人でなければわからない実感が伝わって
ました。
きました。マイクを握ったとたん有権者の反応から,
それにしても東京都内には課題が山積していて,こ
今回の選挙では「絶対,勝てる!」と 3 名の民主党都
れから大変だなと痛感しました。今回,御出席してい
議会議員は確信をもった,と口ぐちに語っておられま
ただいた皆様を含めて,当研究科出身の 5 名の都議の
したが,
公共経営研究科修了生全員が民主党でしたし,
皆様のいっそうのご活躍を祈念申し上る次第です。
-4-
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
選挙区の構造的特性と候補者の品揃え
-2009 年東京都議選を例として-
早稲田大学総合政策科学研究所・客員研究員
近
裕一
を生むのかという違いは,各党の選挙戦略に大きな
1. 分析の枠組み
選
影響を与える。
②「各党の競合状況」=主要政党が何人の候補者を擁
挙活動において,
政党を互いに競合しあう
「会
立しているかという状況を意味する。
1 対 1,
2 対 1,
社」に例えるならば,候補者はその「商品」
2 対 2 などの競合パターンが考えられる。
ということになる。各社(=各党)はできるかぎり魅
③「各党の基礎票のあり方」=各党の候補者が抱えて
力的な「商品」をそろえ,PRを行い,消費者(=有
いる強固な地盤や組織の票を意味する。ただし,こ
権者)に購入してもらおうとする。もちろん,競合他
れを正確に把握することは難しいため,本稿ではと
社(=他党)も自分たちの「商品」を強力にプッシュ
りあえず,前回選挙における各党,各候補者の得票
してくるから,売り込みは容易ではない。しかし,そ
数が各党の選挙戦略の根底に置かれると考え,これ
うした競争を勝ち抜き,尐しでも多くの「商品」を売
を基礎票とみなす。
りさばいていくことで,各社はマーケットにおけるシ
本稿が分析の対象とするのは,民主党の大勝に終わ
ェア(=議席率)を拡大していくことができる。
った,さきの東京都議会議員選挙(2009 年7月 12 日
本稿では,候補者をマーケットにおける商品に見立
投票)である。ただし,今回の選挙では,議会内第一
てつつ,各党による「商品の品揃え」
,すなわち候補者
党の地位を自民党が死守するか,民主党がこれを奪取
擁立のあり方を考察する。その際,ひとつの仮説とし
するかがおもな焦点とされたことから,自民,民主両
て,選挙区の構造的特性,すなわち選挙区のタイプ,
党の関係に絞って,議論を展開する。
各党の競合状況,各党の基礎票のあり方が,しばしば
相互に影響を与えあいながら,各党の候補者の品揃え
を規定していくものと想定する(図 1)
。
2.
「候補者の品揃え」の指標化
選挙区のタイプ
各党の競合状況
各党による
各
「候補者の
軸上に位置づけ,その相互関係を把握しなければなら
品揃え」
ない。
本稿では,
そうした位置づけを行うにあたって,
各党の基礎票のあり方
党による「候補者の品揃え」を客観的に比較
するためには,各候補者を何らかの形で座標
有権者の視点を重視する。
(選挙区の構造的特性)
有権者は,候補者をさまざまな観点から評価する。
第一に政治的経験である。
「長年議員を務めているから
図 1:分析の枠組み
安心だ」とか,
「多選はよくないから新人を推す」とい
①「選挙区のタイプ」=端的には小選挙区制か大選挙
った投票態度は,広く観察されるものである。第二に
区制かの違いを意味する。二大政党の候補者の激突
年齢である。若さを改革の原動力と考えたり,加齢を
状況を生むのか,同一政党の候補者による同士討ち
経験の豊富さと結びつけて考えることで,有権者はし
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総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
ばしばみずからの投票行動を決定している。第三に性
性別
(Z)
別である。とくに女性候補に対しては,
「同じ女性だか
ら票を入れる」
,
「女性では不安だから他の候補者にす
zn
る」
,
「きれいな女性だから投票する」など,有権者が
候補者 An
(xn,yn,zn)
さまざまな感情を抱いて対応するケースがみられる。
このほかにも,有権者はさまざまな観点から候補者
yn 年齢
を評価している。たとえば,各候補者の掲げる政策こ
(Y)
そが重要だとする見方もあろう。しかし,有権者は各
候補者の掲げる政策について熟知しているとはかぎら
xn
ない。また,尐なくとも都議選に限っていえば,選挙
政治的経験
(X)
区の大半で大選挙区制が採られており,同一政党の候
補者どうしが選挙区内で競合しているため,有権者は
図 2:候補者の位置づけ
各候補者の掲げる(所属政党の)政策を手がかりに投
票態度を決定することができない。
こうした事情から,とりあえず上記の 3 つの指標に
基づいて,候補者への主観的評価が定まると仮定して
3.選挙区の特性と候補者の品揃え
おこう。そして次に,各候補者に対して,以下の手順
でスコアを与えることとする(1)。
①
「政治的経験」
=現職議員の3 期以上経験者には
「2」
,
上
記の手順で得られた結果を,選挙区の構造的
特性と関連づけながら整理すると,次のよう
その他の現職都議には「1」を与える(2)。さらに,職
になる。なお,煩雑さを避けるため,ここでは特別区
業が政治家(=現職都議,前・元区議,党役員など)
(23 区)についてのみ言及している。
である候補者には「1」を与える。これによって,多
A.自民党候補と民主党候補の間の距離
選都議は「3」
,経験の浅い都議は「2」
,政治経験の
候補者間の距離は,対立する政党の候補者間の距離
ある新人候補は「1」
,政治未経験者は「0」のスコア
と,同一政党の候補者間の距離に大別される。まず,
を得ることになる。
前者について検討を加えてみよう。
②「年齢」=各候補者に,その年齢に相当する数値を
(1) 小選挙区型(1 対 1 の激突型)
与える。たとえば,70 歳の候補者は「70」
,34 歳の
定数1で,自民党候補と民主党候補が激突している
候補者は「34」のスコアを得る。
③「性別」=女性候補に「1」
,男性候補に「0」を与
選挙区である。千代田区,中央区がこれに該当する。
える。女性と男性の間に優务関係があるわけではな
両党の候補者間の距離は,それぞれ 5.13,3.28 となっ
く,これはいわゆるダミー変数である。
ており,他のタイプの選挙区に比べていちじるしく大
なお,各指標のスコアについては,基準化(=平均
きい(図 3)
。
が 0,分散が 1 となるようにデータの値を変換するこ
このタイプの選挙区では,当選者がただ一人に限ら
と)の操作を施し,3 つの指標の間で単位の違いに起
れる。当選者が現職の強みを発揮して地盤固めに成功
因する影響力の偏りが生じないように工夫する。
し,当選を重ねていった場合,議会内でも地位を高め
ここで,上記の 3 つの指標をX軸,Y 軸,Z軸とし
ることとなり,それがさらに知名度を高めるという好
て 3 次元空間を構成すると,各候補者はこの空間内に
循環を生む。実際,これまで千代田区では自民党の内
位置づけられる(図 2)
。ここでの候補者間の距離は,
田が6選,中央区でも自民党の立石が7選を果たして
各候補者が示している特徴の違いを可視的に表現した
きた。こうした状況下では,ベテラン政治家は対立候
ものである(3)。
補として立ちにくくなり,現職議員に対抗して清新な
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総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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ける党支持者の票は各候補に集中する。当然,両党の
①千代田区(定数1)
現職議員が再選を果たしやすくなるし,現職以外の候
5.13
内田
(自民)
くりした
補者が立候補する場合でも,議席をできるだけ確実に
(民主)
維持・獲得するため,一定の支持基盤をもつ候補者が
立てられやすい。今回の都議選でいえば,文京区のな
②中央区(定数1)
立石
3.28
(自民)
岡田
かやは元衆議院秘書で前都議,荒川区の新人たちぐち
(民主)
は前区議,墨田区の新人桜井は引退都議の長男で前区
議である(6)。こうした事情から,大選挙区A型では,
現職
政党の違いを超えて各候補者の距離が接近するのであ
新人ないし元職
ろう。小選挙区型に比べれば,自民党と民主党の対立
名前下線…女性
関係をことさらに強調する必要性は低い(7)。
図 4:小選挙区型(1 対 1 の激突型)
①港区(定数 2)
における候補者間の距離
きたしろ
大塚
(自民)
(民主)
新人候補が挑戦するという図式が生じやすくなる。さ
1.40
②台東区(定数 2)
きに挙げた自民党の候補者と民主党の候補者の距離の
大きさは,こうして生まれたものであろう(4)。
今回の選挙の場合,たとえば千代田区では,6 期当
服部
中村
(自民)
(民主)
1.09
③渋谷区(定数 2)
選の経験を誇る 70 歳の内田に対して,政治経験の浅
い 26 歳のくりしたが挑戦し,当初の予想を覆して当
村上
大津
せんを果たした。もちろん,くりした本人のアピール
(自民)
(民主)
0.47
④文京区(定数 2)
能力があってのことではあるが,民主党が国政のあお
りで吹いた「追い風」を受け,さらに現職とはかけ離
なかや
増子
れたタイプの候補者を擁立したことで,勝利がもたら
(自民)
(民主)
1.17
⑤荒川区(定数 2)
されたものと考えられる。政権交代という時流を象徴
する「候補者の品揃え」を行えたことが,勝利の一因
さきやま
たきぐち
だったといえるのではないだろうか(5)。
(自民)
(民主)
1.13
⑥豊島区(定数 3)
(2) 大選挙区A型(1 対 1 の共存型)
定数 2 ないし 3 で,自民党と民主党から候補者が 1
名ずつ立っている選挙区である。両党の候補者間の距
矢島
泉谷
(自民)
(民主)
1.68
⑦墨田区(定数 3)
離は,最大でも豊島区の 1.68 にとどまっており,最小
の渋谷区では 0.47 と極端に小さい。現職議員に新人候
桜井
小沢
補が挑戦した文京区,荒川区,墨田区でも,候補者間
(自民)
(民主)
の距離はそれぞれ 1.17,1.13,1.45 にとどまっている
1.45
図 3:大選挙区A型(1 対 1 の共存型)
(図 4)
。小選挙区型(1 対 1 の激突型)に比べて,両
における候補者間の距離
党の候補者間の距離は明らかに近い。
(3) 大選挙区B型(2 対 1 の競合型)
このタイプの選挙区では,定数が尐ないだけに,同
一政党から複数の候補者が立てば共倒れとなる危険性
定数が 4 で,自民党と民主党の候補者が 2 対 1 の関
が高い。そこで,自民党も民主党も候補者をそれぞれ
係で競合しあう選挙区である。新宿区,江東区,北区
1 名に絞り込むこととなり,その結果,選挙区内にお
がこれに該当する。また,目黒区は定数 3 であるが,
-7-
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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追い風を受けた民主党が 2 名を候補者として擁立した
政党の基礎票が割れてしまい,2 人のうち 1 人は落選
ことで,例外的に大選挙区B型となっている。
しやすくなる。その結果,毎回の選挙で新人候補が擁
このタイプの選挙区では,自民党候補と民主党候補
立されることとなり,それほど強い支持基盤をもたな
の間の距離が,ほぼ小選挙区型と大選挙区A型(1対
い人物も候補者として参入しやすくなる。その結果,
1の共存型)の中間に位置する(図 5)
。大選挙区B型
相手政党の現職議員との空間的距離が広がることにな
の場合,候補者を一人しか立てない政党では基礎票が
るのであろう。
一人に集中するため,当選者を出しやすくなり,現職
こうした傾向は,とくに民主党で顕著にみられ,た
の再選可能性も高くなる。これに対して,もう一方の
とえば目黒区では,自民党の鈴木(58 歳男性)に対抗
政党では,2 人の候補者が同じ選挙区で競合するため,
してとみかわ(30 歳女性)が擁立されている。また,
同様の傾向は自民党でもみられ,新宿区において,民
主党のいのつめ(53 歳に対抗して吉住(37 歳男性)
①新宿区(定数 4)
秋田
が擁立されている(8)。
3.21
(自民)
1.27
吉住
(4) 大選挙区C型(2 対 2 の競合型)
いのつめ
定数が 4 ないし 6 で,自民党と民主党の候補者が 2
(民主)
対 2 の関係で競合している選挙区である。品川区,中
2.93
(自民)
野区,杉並区,板橋区,足立区,葛飾区,江戸川区が
これに該当する。理屈からいえば,両党ともに定数と
②江東区(定数 4)
米沢
同じ数だけの候補者を擁立しうるので,こうした競合
1.13
(自民)
1.21
関係は,定数が 2 以上の場合に生じる可能性がある。
大沢
しかし,それでは各党の候補者が共倒れになりかねな
(民主)
やまざき
いため,実際にそうした危険な戦略がとられることは
1.27
(自民)
ほとんどない。
このタイプの選挙区では,自民党候補と民主党候補
③目黒区(定数 3)
2.41
鈴木
伊藤
の間で,2×2=4 種類の距離を個々に算定することが
(民主)
できる。あるいは,両党の候補者集団の中心的位置を
確定し,その距離をもって両党候補者の距離とみなす
3.09
(自民)
4.04
ことも可能である。いずれにしろ,そうした距離の解
釈は難しく,複雑となる。そのため,本稿ではとりあ
とみかわ
えず大選挙区C型を考察の対象からはずし,今後の研
(民主)
究に委ねることとしたい。
④北区(定数 4)
1.12
(5) その他
原田
定数が 6 以上の選挙区では,同一政党から 3 人以上
(民主)
の候補者が立ち,競合関係がより複雑になることが多
高木
(自民)
2.21
い。練馬区(定数 6)では自民党候補 2 人と民主党候
3.23
補 3 人,世田谷区(定数 8)では自民党候補と民主党
和田
候補が各 3 人,大田区(定数 8)では自民党候補 3 人
(民主)
と民主党候補 4 人が競合している。大選挙区C型と同
様,ここでも自民党候補と民主党候補の間の距離を定
図 5:大選挙区B型(2 対 1 の競合型)に
義・解釈することが難しいため,本稿ではこのタイプ
おける候補者間の距離
の選挙区も考察の対象外とする。
-8-
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
候補者間の距離
6.00
小選挙区激突型
5.00
大選挙区B型
4.00
大選挙区A型
3.00
2.00
1.00
0.00
千
代
田
区
中
央
区
港
区
文
京
区
台
東
区
墨
田
区
渋
谷
区
豊
島
区
荒
川
区
新
宿
区
江
東
区
目
黒
区
北
区
図 6:各区における自民党と民主党の候補者間距離
以上,さまざまな選挙区の構造的特性と,それが自
うな得票状況がみられた。
民党候補と民主党候補の間の距離に与える影響を考察
候補者名
所属政党
得票数
してきた。本稿で考察の対象とした小選挙区型,大選
第1位
伊藤悠
民主党
23,809
挙区A型,
大選挙区B型について,
これをまとめれば,
第2位
東野秀平
公明党
22,749
図 5 のようになる。再度の確認であるが,同図からも
第3位
鈴木隆道
自民党
19,532
明らかなように,自民党候補と民主党候補の間の距離
第4位
宮本栄
共産党
11,876
は,
「小選挙区型>大選挙区B型>大選挙区A型」とい
第5位
矢田慶来
無所属
3,039
う一般的関係にある。
第6位
谷智彦
無所属
1,478
表 1:2005 年都議選の結果(目黒区)
B.同一政党の候補者間の距離
ここで,民主党が 2 人の候補者を擁立したとすれば,
大選挙区B型,大選挙区C型では,同一政党から複
その得票数は単純平均で 11,905 票ずつとなる。これ
数の候補者が立つため,同一政党の候補者間の距離も
は,次点となった宮本の得票数をわずかに上回るもの
生じてくる。次に,そうした距離についても考察を加
の,最下位当選を果たした鈴木の得票にははるかに届
えることとする。
かない水準である。したがって,民主党としては候補
(1) 大選挙区B型(2 対 1 の競合型)
者を 1 人に絞っても,2 人を擁立しても,最終的な獲
大選挙区B型における同一政党の候補者間の距離は,
得議席数は変わらない可能性が高い。実際,民主党で
図 4 に示されている。これをみると,尐なくとも今回
は,今回の選挙の公示日が近づくまで,2 人目の候補
の都議選については,自民党と民主党が対照的な状況
者の擁立は決まっておらず,その後,ようやく富川(30
にあることがみてとれる。自民党の場合,みずから擁
歳女性)の擁立が決まった。ここから推測できるよう
立した 2 人の候補者間の距離は新宿区で 1.27,江東区
に,大選挙区B型では「同一政党から 2 人目の当選者
で 1.21 とたいへん小さい。これに対して,民主党の場
を出すことが難しい」という原則が働き,2 人目の候
合,候補者間の距離は目黒区で 3.09,北区で 3.23 と
補者には本命候補から離れた距離にある新人候補が選
たいへん大きい。
ばれやすくなるものと考えられる(図 7)
。
こうした違いは,しばしば「大選挙区B型では同一
北区(定数 4)では,前回の都議選において,民主
政党から 2 人目の当選者を出すことが難しい」という
党の現職が和田(当時 61 歳)
,新人候補が原田(当時
原則から生まれてくるものである。
28 歳)であった。ここで,やはり 2 人の当選が難しい
目黒区(定数 3)では,前回選挙において表 1 のよ
という原則が作用して,原田が当選,和田が落選とい
-9-
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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うる議席数は合計で 2 議席に限られる。さらに,今回
の選挙では民主党が候補者を 1 人しか立てなかったこ
各党の基礎票の分布
とから,民主党の票が割れることは考えられず,自民
党には 1 議席しか残されない。こうした状況では,自
共倒れの危険性を考える
民党の合理的な候補者数は 1 人となるが,かりにもう
共倒れの危険
yes
性=高い
1 人が立候補しても,上記 4 党以外の政党の候補者に
2 人目は擁立
自民党候補の 2 人がともに敗れるとは想定しにくい。
しない
その結果,分裂選挙も許容されることとなり,まった
くの新人も自民党の候補者として名乗りを上げやすく
no
なる。
実際,今回の選挙では,自民党から現職の秋田と元
2人目の当選
区議である新人の吉住が立候補し,吉住が当選,現職
可能性=高い
yes
の秋田が落選という結果に終わった。新人として元区
no
議が立候補したため,2 人の候補者間の距離が近づい
たが,より距離の離れた候補者が立候補する余地も残
強力な 2 人
2 人目の立候
目の候補者
補者へ門戸を
を擁立する
広く開く
された状況であったと考えられる。
これらに対して,江東区(定数 4)の状況は複雑で
ある。江東区における前回選挙の結果は,表 3 のとお
りであったが,その後,民主党の柿沢が自動車事故で
終了
引責辞任し,今回の選挙では民主党が候補者を大沢に
一本化した(9)。これを受けて,民主党の現職が大差で
図 7:2 人目の候補者擁立を決定する合
勝利するとともに,公明党と共産党が1議席ずつを獲
理的な思考プロセス
得し,残る1議席が自民党に残されるものと予想され
う結果に終わり,今回の選挙では,立場を入れ替えた
た。ここで自民党の対応であるが,自民党から候補者
2 人が再び立候補することになった。前回選挙まで考
が 1 人だけ擁立されれば,その候補者の当選が確実と
慮すれば,
「大選挙区B型では,同一政党から現職議員
なり,また,かりにもう 1 人が立候補しても,おのお
と若手の新人候補が擁立されやすい」という命題が,
のの得票数は単純平均で38,337÷2=19,169票となり,
ここでも妥当するといえよう。
2人がともにその他の候補者に敗北するとは考えられ
新宿区(定数 4)における前回の都議選の結果は,
ない。
候補者名
表 2 のようなものであった。
候補者名
所属政党
得票数
所属政党
得票数
第1位
やまざき孝明
自民党
38,337
第1位
秋田一郎
自民党
27,851
第2位
木内良明
公明党
36,937
第2位
吉倉正美
公明党
22,984
第3位
柿沢未途
民主党
32,961
第3位
大山とも子
共産党
20,888
第4位
大沢昇
民主党
28,274
第4位
猪爪まさみ
民主党
13.109
第5位
東巨剛
共産党
25,671
第5位
富田俊正
民主党
11,935
表 3:2005 年都議選の結果(江東区)
表 2:2005 年都議選の結果(新宿区)
こうした状況を受けて,自民党は前職と元職の長男が
ここで公明党と共産党は 2 万票前後の基礎票をもち,
それぞれ立候補し,競合しあうことを許した。どのよ
当選可能性が高いことから,自民党と民主党が獲得し
うな候補者が立っても,1 議席は獲得できる見込みで
- 10 -
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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あったが,今回は上記のような事情があり,たまたま
第一に,票割りに大きく失敗したケースある。自民
距離の近い候補者が 2 人擁立されることになったと考
党は江東区において,また民主党は目黒区において,
えられる。
候補者間の得票比がほぼ2倍以上に達している(図 8
(2)大選挙区C型(2 対 2 の競合型)
の「自民党はずれ値」および「民主党はずれ値」
)
。こ
大選挙区C型では,同一政党の候補者間の距離が大
のうち江東区においては,先にも述べたとおり,自民
きな意味をもちうる。同一政党から複数の候補者を擁
党の獲得しうる議席数が1議席となることは明白であ
立する場合には,両者の共倒れを防ぐために,あるい
ったため,票割りの成否が党勢の消長に大きな影響を
は両者ともに議席を獲得することができるように,一
与えることはなかった。
定の票割りが行われやすい。ここで,2 人の候補者が
しかし,目黒区のケースは,民主党にとって大きな
それぞれ異なる地盤をもつ区議出身者であるなどして,
失策となった。先にも述べたとおり,2005 年都議選の
その距離が近い場合には,票割りが比較的容易に行わ
結果から推測すると,目黒区の民主党は1議席しか獲
れるであろう。しかし,現職議員と新人候補がペアに
得する見込みがなく,それだけに細かな票割りは必要
なるなどして,両者の空間的距離が開いてしまう場合
ないはずであった。しかし,民主党への追い風が強く
には,票の偏りが生じざるをえないであろう。
吹いたことで,予想以上に同党の得票数が伸び,結果
図 8 は,大選挙区C型に大選挙区B型も加え,同一
政党の候補者間の距離と得票比の関係をグラフ化した
として,民主党は獲得できたはずの追加1議席分を失
うこととなった。
ものである。横軸には基準化した候補者間の距離が示
具体的な数値を挙げて,その点を確認してみよう。
されており,縦軸には同一政党の候補者間の得票比,
表 4 は,
今回の目黒区の選挙結果を示したものである。
すなわち「得票数の多かった候補者の得票数」を「得
ここで,かりに民主党の票割りがうまく行われていた
票数の尐なかった候補者の得票数」で除した値が示さ
とすれば,トップ当選を果たした伊藤と第 4 位の次点
れている。
に終わった富川の票が,おのおの(37,430+16,058)
同図からわかるとおり,候補者間の距離と得票比の
関係は,5 つのケースに分類できる。
÷2=26,744 票となり,両者ともにトップ当選を果た
していたはずである。富川の議席は,票割りの失敗に
2.6
①自民党1
y = 0.0114x + 1.1432
R² = 0.9077
候補者間の得票比
2.4
民主党はずれ
値(目黒区)
2.2
②自民党2
y = 0.2417x + 1.0175
R² = 0.9958
2
自民党はずれ値
(江東区)
1.8
③民主党1
y = 0.0747x + 0.8438
R² = 0.8818
1.6
②
④
1.4
1.2
④民主党2
y = 0.0925x + 1.0578
R² = 0.956
①
③
1
0
1
2
3
4
5
同一政党の候補者間の距離
図 8:同一政党の候補者間の距離と得票比
- 11 -
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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よって失われたということができる。
候補者名
うことができよう。
所属政党
得票数
第四に,票割りにある程度成功した民主党のケース
第1位
伊藤悠
民主党
37,430
である。足立区,板橋区,葛飾区,北区および杉並区
第2位
鈴木隆道
自民党
24,377
がこれに該当する。図 8 では,杉並区は直線④(
「民
第3位
斉藤泰宏
公明党
21,531
主党 2」
)近傍の左端の「△」によって,またその他の
第4位
富川知子
民主党
16,058
区は直線③(
「民主党 1」
)近傍の「△」によって示さ
第5位
沢井正代
共産党
12,383
れている。上述のとおり,自民党が票割りをうまく行
ったケースでは,直線がほぼ 1.2 倍以下の水準で水平
表 4:2009 年都議選の結果(目黒区)
江東区と目黒区は,いずれも大選挙区B型に該当す
に近い状態を維持している。これに対して,民主党の
る選挙区である。この選挙区に特徴的な「同一政党か
場合は,それとは異なる票割りの結果が生じている。
ら 2 人の当選は難しい」という状況が,こうした得票
たとえば,候補者間の距離が 2 程度まで開いても,得
比の拡大につながった点は,注目される。
票比は1倍程度に抑えられているが,その後,候補者
第二に,票割りに成功した自民党のケースである(10)。
間の距離が 1 ずつ増加していくと,得票比は 0.07 ず
葛飾区,新宿区,江戸川区,板橋区,足立区がこれに
つ拡大していく。この増加率は,自民党の7倍の水準
該当する。図 8 では,新宿区,江戸川区,板橋区は直
にあたる。いいかえれば,民主党の場合,候補者間の
線①(
「自民党 1」
)近傍の「■」によって,また葛飾
距離が閾値(≒2)を超えて拡大すると,得票比の拡
区,足立区は直線②(
「自民党 2」
)近傍の左端から 2
大を抑えきれなくなるという傾向がみられる。
番目までの「■」によって,それぞれ示されている。
あくまでも推測ではあるが,こうした違いは両党の
直線①の形状からわかるとおり,このケースでは同一
地盤や組織票の強さに関係している可能性がある。自
政党の候補者間の距離が拡大しても,候補者間の得票
民党の場合,しばしば地盤や組織票に依存する割合が
比は 1.2 未満に抑えられている。とくに江戸川区につ
大きく,しかも今回の選挙では浮動票の上積みが期待
いては,自民党候補の 2 人が票をうまく分け合うこと
しにくい状況にあった。
そのため,
自民党の候補者は,
で,ともに下位当選を果たしており,票割りの成功が
事前の票割りが相対的に成功しやすいと考えられる。
議席の増加につながっている。
これに対して,民主党の場合,基礎票をある程度確保
第三に,票割りがうまくいかなかった自民党のケー
しているとしても,
「弱い支持」
(いわゆる「追い風」
)
スである。品川区,中野区,杉並区がこれに該当し,
に頼る割合が相対的に大きいため,候補者間の距離が
図 8 では,直線②(
「自民党 2」
)近傍の左端から 3 番
拡大するにしたがって,吸収しきれない得票の格差が
目以降の「■」によって示されている。これらに葛飾
拡大しやすいのではないだろうか。
区と足立区を加え,直線②全体の形状を考察すると,
第五に,票割りがそれほど成功しなかった民主党の
候補者間の距離が 1 ずつ増加するのにしたがって,候
ケースである。江戸川区,中野区,品川区がこれに該
補者間の得票比も 0.24 ずつ増加していることがわか
当し,図8では「④民主党2」の左端を除く「△」と
る。この増加率は民主党に比べて大きく,それが直線
して示されている。この場合も,先に述べた第四のケ
②の急な傾きとなって表れている。尐なくとも今回の
ースと同様に,候補者間の距離が 1 ずつ増加するにし
都議選についていえば,自民党の候補者は相互の距離
たがって,候補者間の距離が 0.09 だけ増加する(先の
がわずかに離れただけでも,得票比が大きく拡大する
ケースでは 0.07 の増加)
。言い換えれば,第五のケー
潜在的傾向をもっているといえよう。
スを表す直線④を 0.2 だけ下方に移動すれば,第四の
なお,さきに自民党が票割りに成功しているケース
ケースを表す直線③にほぼ重なる。このことは,民主
を考察したが,自民党の場合,票割りの成否が候補者
党の特徴である基礎票の弱さがつねに作用しているこ
間の得票比にストレートに反映される傾向にあるとい
とをうかがわせる。第五のケースが第四のケースと異
なるのは,基礎票の票割りがあまりうまくいかず,候
- 12 -
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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補者間の空間的距離が小さい段階で,すでに一定の偏
は,
「選挙活動はどのように行われているのか」につい
りが生じているという点である。
ての研究であり,候補者の選定と教育のあり方,PR
ところで,さきにもみたとおり,票割りがうまくい
活動の実際,コミュニケーション技術が選挙に与える
かなかったケースを自民党と民主党で比較すると,そ
影響などが,具体的な研究対象となる。欧米において
の影響は自民党により強く作用していることがわかる
は,こうした研究は「政治マーケティング」
(political
(
「直線②の傾き」>「直線④の傾き」
)
。その理由のひ
marketing)としてひとつの学問分野をなしているが,
とつに,今回の選挙で民主党に吹いた「追い風」を挙
わが国ではいまだ発展途上の段階にある。
げることができるであろう。
「追い風」は,堅固な基礎
本稿では,
選挙の現場において重要な意味をもつ
「候
票の尐ない新人候補にとって,有利に作用する。本来
補者の品揃え」を取り上げ,これを選挙区の構造的特
ならば知名度が低く,票を獲得しづらい新人候補も,
性と関連づけて論じてきた。その内容は,政治マーケ
民主党に所属しているというだけで票の上積みが期待
ティングという新しい視点と,従来の政治学的なアプ
できる状況にあった。
ローチを組み合わせたものである。こうしたアプロー
表 5 は,前回(2005 年)と今回(2009 年)の都議
選の比較において,現職議員と非現職候補(新人候補
チは,今後,さまざまな方向へと発展させていくこと
が可能であろう。
や元職候補など)が選挙でどの程度得票数を増加させ
たかについてまとめたものである(11)。
もっとも,本稿を通じて得られた知見は,いまだ限
定的なものである。たとえば,本稿が研究対象とした
現職議員
非現職候補
のは 2009 年の東京都議選に限られており,他の種類
自民党
1.18 倍
1.25 倍
の選挙や年度の異なる選挙についても同様の結論を導
民主党
1.94 倍
2.79 倍
くことができるかは,今後,これを検証していかなけ
表 5:各候補者の平均得票増加率<2005 年と
ればならない。また,政党による「候補者の品揃え」
2009 年の都議選の比較>
が成功するためのポイントは何か,あるいは各候補者
同表からもわかるように,今回の選挙でとくに得票数
がとるべき,選挙区の構造的特性に見合った戦術とは
を伸張させたのは,民主党の非現職候補である。こう
何かといった点については,完全に今後の研究を待た
した現象が,候補者間の距離の拡大に伴って拡大する
ねばならない。政治マーケティングの視点に立って,
はずの得票比の広がりを抑制し,図 8 における直線③
こうした諸点を明らかにしていくことは,政治を実践
と直線④のなだらかな傾きをもたらしたものと推測さ
する者にとっても,政治を研究する者にとっても,重
れる。
要な意味をもつと考えられる。
3.政治マーケティングと今後の展望
【注】
従
来の選挙研究では,おもに有権者の投票行動
(1) 本稿でスコアを与え,統計処理の対象としている
に焦点があてられ,有権者がなぜ特定の政党
のは,特別区(23 区)および武蔵野市,三鷹市の
に投票するのかを明らかにすることこそが,デモクラ
立候補者である。その他の地域の立候補者は,考察
シーのあり方を考えるうえで重要な研究課題であると
の対象から除外している。これはおもに,データ収
されてきた(12)。また,政治改革との関連で,さまざま
集上の便宜を考慮しての措置である。なお,本稿に
な選挙制度の特徴とその及ぼす影響を明らかにするこ
おける議席数や得票数などのデータは,
すべて東京
とこそが,政治運営に大きな影響を与える重要な研究
都選挙管理員会が発表したものを用いている。
課題であるとされてきた(13)。
(2) 候補者の職業については,選挙公報をもとに判定
その反面,十分に考慮されてこなかったのが,選挙
を下した。
他の資料を用いて各候補者の経歴を調べ
の現場と密接に関連するような研究である。典型的に
あげ,判定を行うことも可能ではあるが,有権者が
- 13 -
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
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候補者を評価する際,
もっとも有効な手段として用
川区を除き,自民党と民主党が 1 位当選と2位当
いるのは選挙公報である(東京都選挙管理委員会
選を分け合っている。
「選挙に関する世論調査報告書」
(平成17年12月)
,
(8) 大選挙区C型では,強い支持基盤をもたない候補
p.49)
。そうした点を鑑み,本稿では選挙公報を用
者も容認されるが,
だからといって強い支持基盤を
いることとした。
もつ候補者が排除されてしまうというわけではな
(3) 政党や候補者の空間的位置づけという手法は,A.
い。たとえば江東区では,自民党が候補者の差別化
ダウンズを嚆矢として,高度に発達を遂げてきた
をあまり図らず,
民主党の現職議員と近い位置にあ
(Downs, Anthony. 1957. An Economic Theory of
る有力な新人候補を2名擁立している。
Democracy. New York: Harper & Row Publishers,
(9) 「読売新聞」2009 年 5 月 15 日朝刊。
Inc.)
。ただし,そうした研究の多くは,政党や候
(10) どの程度の水準をもって票割りの成功とみなす
補者の掲げる政策ないしイデオロギーを基準とし
かについては,
これを一義的に定義することは難し
て,候補者の位置づけを行っており,本稿とはやや
い。本稿では,便宜上,候補者間の得票比が 1.2 以
視点を異にしている。
内のケースを票割りの成功と考える。
(4) 小選挙区制では,
「現職議員 対 新人候補」という
(11) 2005 年選挙と2009 年選挙の双方で立候補した者
対立図式が必然的に生じる。しかし,両党の候補者
については,
「2009 年選挙での得票数÷2005 年選
間の距離の大きさは,
それだけで説明されるわけで
挙での得票数」という計算式に従い,得票増加率を
はない。今回の選挙で,かりに民主党の新人候補が
計算した。また,非現職議員については,次のよう
現職(当選1期)であったと仮定して変数を操作し
な手順を踏んだ。①選挙区ごとに「各党の総得票数
ても,候補者間の距離は千代田区で 5.12 が 4.22 と
-2回連続立候補者の総得票数」
(=A)を計算す
なり,中央区では 3.28 が 2.76 となるだけで,両者
る。②選挙区内の非現職候補(2009 年時点)に対
の距離が遠いことに変わりはない。
候補者間の距離
して,Aを均等に配分する(=B)
。③非現職候補
の大きさは,
「多選議員に対抗して清新な候補者が
のおのおのについて,
「2009 年選挙での得票数÷B」
選ばれる」というメカニズムを想定することで,は
を計算する。
(12) 古典的な投票行動研究としては,以下の文献が挙
じめて説明される。
(5) もっとも,今回の都議選の場合,民主党による「候
げられる。Lazarsfeld, Paul F., Bernard Berelson
補者の品揃え」
はかならずしも戦略的に行われたも
and Hazel Gaudet. 1944. The People’s Choice:
のではなかった。たとえば,千代田区では民主党が
How the Voter Makes Up His Mind in a
6 月下旬まで候補者を決定することができず,選挙
Presidential Campaign. New York: Duell, Sloan
戦では完全に出遅れていた。
and Pearce.; Campbell, Angus, Philip E.
(6) こうした候補者たちには,基礎票固めが強く求め
Converse, Warren E. Miller and Donald E.
られる。文京区を例に挙げれば,なかやは「23 区
Stokes. 1960. The American Voter. New York:
内で唯一空白となっている自民の議席奪還へ,
支持
John Wiley & Sons, Inc.
層のとりまとめ」を行い,増子も「14 年間勤めた
(13) 選挙制度については,数多くの個別研究がなされ
区議時代の支持基盤をもとに再選を狙う」
という具
ているが,たとえば以下の文献などが参考となる。
合である(
「朝日新聞」2009 年 5 月 25 日朝刊)
。
Powell, G. Bingham, Jr. 2000. Elections as
当選を確実とするためには,
浮動層への浸透を図る
Instruments of Democracy: Majoritarian and
ことも重要となるが,
基礎票の流出を許しては意味
Proportional
がない。
University Press.
(7) 実際,大選挙区A型では,公明党の勢力が強い荒
- 14 -
Visions.
New
Haven:
Yale
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
政策の現在
早稲田大学大隈記念大学院公共経営研究科
(教授)江上能義
てきたが,
この都市型社会における市民の日常生活は,
1.政策とは?
政
政策や制度のネットワークで形成されている。日常生
策については,個人でも企業でも団体でもそ
れぞれ語ることができる。松下圭一は「問題
(1)
解決の技術」
と述べてもいる。それほど広範に及ぶ
概念であるが,政治や行政が対象とする政策は一般に
公共政策を指す。以下は公共政策の意味で政策という
言葉を用いる。
しかしこの公共政策の意味での政策も広いし,多岐
にわたる。具体化された政策としては,法律,法令,
省令,計画,予算,行政規則,条例などがある。これ
らは制度化された政策であって,制度化されていなく
ても政策の一部を構成するものがある。例えば首相の
施政方針演説や国会答弁,外国首脳との外交交渉の内
活に不可欠な上下水道,電気,ガス,食糧,交通,安
全,福祉などはすべて,政策・制度による社会の「組
織・制御技術」としてあらわれる(3)。かつての農村型
社会では,ムラという小規模の共同体が生活の単位で
あり,生活に不可欠な食料,水,薪,家などはムラの
自給であった。
工業化が進展することによってムラ共同体が崩壊し
た都市型社会では,地域レベルから地球レベルまでの
政策・制度のネットワークが不可欠となった。そして
政治争点の日常化,全般化が生じたのである(4)。さら
にはインターネットなどの普及によって,各地の情報
は瞬時に世界のすみずみにまで伝わるようになった。
容,首長の演説や談話なども,公式,非公式を問わず
政策的な意味をもつ(2)。
政策を策定し実施する主体も多様である。通常,地
方自治体,国家,国際機関の 3 レベルでさまざまな主
3.市民参加の政策づくり
体が考えられるが,いまでは国際,国内社会で活躍す
今
る NGO なども有力な主体となっている。このように,
進展し,政策策定は議会の掌中から行政部の官僚たち
現在では公共政策の意味も主体も広範囲におよび,か
の専管事項となった。そうした現況で民主主義の原理
つ多様化してきている。
を貫くためには,あくまで市民の参加が土台となる。
いずれにせよ,かつては国家がほぼ独占してきた政
策は,国際機関,地方自治体,NGO などへと次第に
拡散してきて,それと同時にそれらの連関やネットワ
ークが重要になってきた。
日の都市型社会の政治は,行政国家の台頭に
象徴されるように,政策の専門分化が著しく
すなわち市民参加による政策づくりが出発点でなけれ
ばならない。
したがって近年,推進の動きがある地方分権は「地
方主権」とも称されるように,市民に最も身近な地方
自治体に多くの権限が再配分されなければならない
(
「補完性の原則」
)し,市民たちの世論や運動や提案
2.都市型社会は政策・制度の組織社会
こ
の地球社会はテクノロジーの進展に伴って,
先進国,途上国を問わず,急速に都市化し
- 15 -
などが政策の源泉となるべきであろう。政党や候補者
は地方選挙であれ,国政選挙であれ,マニフェストと
して政策のリストを市民たちに提示し,選出されたら
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
そのマニフェストを実行しなければならない。
「市民」として主体的に考え,主体的に行動するこ
とを原点とするまちづくり基本条例(自治基本条例)
も,市民参加の政策づくりを目指すものといえよう。
5.経済・金融危機に直面して
今
回の未曾有の経済・金融危機は地球全体にま
たたく間に広がり,2008 年 11 月に開催され
4.ローカルからグローバルまで
たG20 金融サミットでは,世界の金融制度をこれまで
従
来,ローカルな問題はあくまで国家の内側の
発言が相次いだことは記憶に新しい。今回の経済・金
問題として対処され,国家がゲートキーパー
融危機の直撃を受けるのは,不況にあえぐ日本の地方
牛耳ってきたG7の先進国に対して,新興国の批判と
となって,国際間の課題に対処してきたので,地方は
であり,貧困にあえぐ途上国の人々である。
グローバルなレベルの課題とは縁遠かった。しかし近
世界各国は協調,連動しながら,ドルに代わる国際
年は,交通,運輸,情報などのテクノロジーが飛躍的
通貨や IMF に代わる国際機関の創設もしくはその他
に進歩することによって,人も物も情報も大量に国境
のセーフティ・ネットの構築に迅速に対応していかね
を越えて移動するようになり,その結果,
「ボーダーレ
ば,この危機に対処できないことが明らかとなってき
ス」
と呼称されるように,
国家の壁が非常に低くなり,
た・
曖昧なものになりつつある。そのことによって地球上
それと同時に,ベルリンの壁の崩壊で,共産主義が
の社会の均質化が進んでいく現象が「グローバル化」
欠陥のある思想であると誰もがわかったように,
“強欲
( globalization )と呼ばれる 。冷戦の終結もこの現象
資本主義”をもたらした新自由主義と市場原理主義は
に拍車をかけた。
欠陥のある思想であることを,多くの人々が痛感して
(5)
近年,地方自治体の国際活動が活発になってきた。
いる(7)。
地方自治体は自らを地球社会のひとつの主体であると
いう認識を深めつつある。
「交流」から「協力」へと流
れが変わってきた。自治体は,自治体内の外国人問題
に取り組み,自治体内の問題で国境を越えた主体を相
手に交渉を行ない,自治体が国境を越えて海外で活動
を行なう。地方自治体の国際活動は,政府の政策を補
完したり,国際化を自らの地域活性化のきっかけとし
たり,途上国に技術支援をしたり,多様で幅広い。例
えば,姉妹関係にある熊本県に出向したことのある忠
清南道の公務員がいま,筆者の所属する早稲田の大学
院,公共経営研究科で,両地域の中小企業育成政策の
比較研究を行なっている。
地方自治体のグローバルなネットワークも増えてき
ている。例えば,City Net は,1982 年に横浜市で第 1
回国連アジア太平洋都市会議が開催されたのを契機に
創設され,89 年の第 1 回総会以来,横浜市長が会長を
務めている。ネットワーク型の都市問題解決のために
主として自治体と NGO からなる非営利の国際組織で
あり,100 以上のメンバーが加盟している(6)。
- 16 -
6.公共性の再考
近
年,
「ネットワークガバナンス」という言葉が
用いられるように,地方,国家,国際の諸現
象は相互に関連,提携しながら作用しあう度合いが強
まり,かつ社会の変動の加速化に対応して迅速に政策
を打ち出すことがますます必要になってきた。それと
同時に,いま公共政策の「公共」の概念について再検
討することが急務となっている。
1980 年代から NPM(New Public Management)
が広まり,民営化,民間委託,PFI (Private Finance
Initiative)などの手法が採り入れてきた。しかし NPM
の市場原理によって「効率性」を追求していくと,も
ともと「公共」が備えているべき「公平性」が損なわ
れる危険性がある。この「公平性」と「効率性」のバ
ランスが政策を判断する上で,きわめて重要なのであ
るが,今回の経済・金融危機は,経済性に傾いていた
「公共」の概念について抜本的な再検討を我々に迫っ
総政研ジャーナル創刊号(2009年夏)
早稲田大学総合政策科学研究所
ているように思われる。また一方で,人間活動の総体
【注】
は地球の自然環境自体に大きな負荷を与え,地球温暖
(1) 加茂利男他『現代政治学』有斐閣,1998 年 3 月,
化問題にみるように,地球の持続可能性についてもっ
と考え,対処する必要にも我々は迫られている。
グローバル化が急速に進展していく現代社会におい
て,公共政策もその概念や意義を根本から問い直され
p.110.
(2) 同上,p.112.
(3) 松下圭一『政策型思考と政治』東京大学出版会,
1991 年 12 月,pp.1-5.
(4) 同上,p.5.
ているといえよう。
(5) 加茂利男他,前掲書,p.32.
(6) 松下圭一・西尾勝・新藤宗幸編,岩波講座《自治
体の構想》第 3 巻,
『政策』p.224-228.
(7) ジョセフ・スティグリッツ「恐慌防ぐ手を正しく
打て」
,
『朝日新聞』2008 年 11 月 3 日朝刊。
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総政研ジャーナル創刊号
―東京都議会議員選挙特集―
発行 :早稲田大学総合政策科学研究所(http://www.waseda.jp/prj-ssk/)
〒169-8050
東京都新宿区西早稲田 1-6-1 早稲田大学大隈記念大学院
公共経営研究科・江上能義研究室
編集長:大谷博愛(拓殖大学政経学部・教授)
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