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水分浸透挙動に着目した表層崩壊の発生メカニズムの検討 D - 04

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水分浸透挙動に着目した表層崩壊の発生メカニズムの検討 D - 04
第 49 回地盤工学研究発表会
882
D - 04 (北九州) 2014 年 7 月
水分浸透挙動に着目した表層崩壊の発生メカニズムの検討
表層崩壊
浸透挙動
疑似飽和
大阪大学大学院
学生会員
○村上
一馬
大阪大学大学院
国際会員
小泉
圭吾
大阪大学大学院
国際会員
小田
和広
協同組合関西地盤環境研究センター
非会員
松本
修司
西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社
非会員
小西
貴士
西日本高速道路エンジニアリング関西株式会社
国際会員
上出
定幸
1.はじめに
近年,局所的集中豪雨や大型台風の影響により,表層崩壊が多発している.表層崩壊への対策のため,その崩壊メカ
ニズム解明に関する様々な研究が行われているが,変形および崩壊直前の水分浸透挙動に関するメカニズムの解明に至
っていない.一方,小泉ら
1)
は現地観測モニタリングにより,飽和体積含水率に至るまでに雨水流入量と流出量が平衡
状態になる水分状態を明らかにした.また竹下ら
2)
は,現場では間隙中に取り込まれた封入空気のために完全な飽和状
態とならず,それに近い疑似飽和状態を示すことを明らかにし,檀上ら
3)
は疑似飽和状態と表層崩壊の関係性について
言及している.そこで本研究では,表層崩壊発生までの水分浸透挙動を把握するため,小型模型斜面を用いた表層崩壊
実験を実施し,崩壊発生までの体積含水率の挙動,飽和帯の移動,粒子の移動を明らかにすることで,崩壊発生メカニ
ズムに関する考察を行った.
2.疑似飽和時の体積含水率
本研究では,室内試験によって疑似飽和状態を再現し,疑似飽和時の体積含水率
θfs(field - saturated)を算出した.本研究における疑似飽和状態とは,封入空気が存在
土壌水分計
する地盤において,降雨による水分の流入量と流出量が一定となる状態と定義した.
実験には,一辺 10cm のアクリル製立方体供試体を使用した.供試体底部に空気穴
10cm
を設け,排水条件とし,現場における地盤状態を再現した.アクリル供試体に土試
料を所定の密度で締固め,中心に土壌水分センサ(SM-150)を挿入した(図-1).その後,
空気及び
水分排出孔
供試体
上部より散水を行い,水の収支が一定となる体積含水率の値を θfs と定義した.また,
本研究では,土試料としてまさ土を使用した.本研究で使用したまさ土の土粒子密
10cm
度は 2.613(g/cm3),乾燥密度は 1.60(g/cm3)である.実験の結果,本研究の土試料にお
図-1 実験供試体
ける疑似飽和時の体積含水率 θfs は,θfs=0.303 となった.
表土層
3.小型模型斜面による表層崩壊実験
土壌水分センサ
模型概要を図-2 に示す.本研究では,模型実験を簡便且つ繰り返し
10cm
排水条件
行えるよう W0.3m×L0.6m×H0.245m の土槽模型を製作した.土試料
は2章で使用したまさ土を用いた.本実験の境界条件としては,表土
非排水条件
排水条件(空気穴)
24.5cm
層の低部をすべり面と仮定し,基盤土層と表土層の境界部に粘性土を
現場土
用いた不透水層を設定し非排水条件とした.模型の枠組み及び低部,
斜面向かって左側の側面は鉄板が使用されており,斜面向かって右側
10cm
の側面は浸透流を観察するにアクリル板が使用されている.従って,
35°
不透水層
アクリル板
表土層の側面及び底面は非排水条件とした.散水時,土中の空気圧が
水分浸透に影響を及びさないように,表土層背面の鉄板にφ3mm の空
気穴を 3 か所設置した.実験斜面は,含水比 5%の試料を 0.05m の層
30cm
ごとに,湿潤密度が 1.68g/cm3 になるように木製のランマーで締固め
て作製した.
本実験では①地盤の飽和度の把握,②飽和帯の進展過程の把握,③
水分以外の崩壊兆候現象の把握を目的とする.それぞれの測定方法と
約60cm
図-2 模型概要
しては,①土壌水分センサによる体積含水率の測定,②アクリル板側
Interpretation of Slope Failure based on Seepage Behavior
MURAKAMI, Kazuma (Osaka University), KOIZUMI, Keigo (Osaka
University), Oda, Kazuhiro (Osaka University), MATSUMOTO, Syuzi
(Kansai Geo and Environment Research Center), KONISHI Takashi,
(West Nippon Expressway Engineering Kansai Co., Lid.), KAMIDE
Sadayuki, (West Nippon Expressway Engineering Kansai Co., Lid).
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へのインク注入によるトレーサー試験,③正面及び側面からの写真撮影(30 秒ピッチ)とする.
事前の予備実験により,斜面の体積含水率が疑似飽和時の体積含水率 θfs では崩壊せず,θfs を超えた後に発生すること
が確認された.そこで本実験では,疑似飽和状態において崩壊が発生しないことを確認するために,体積含水率が θfs に
達した後に散水量を調整し,30 分程度平衡状態を維持させた.その後,散水量を初期設定に戻し,崩壊が発生するまで
実験を継続した.散水条件としては,表層のガリ浸食が発生しない程度の散水強度を予備実験により求め,時間雨量に
して 100mm/h を超える豪雨を作用させた.
4.結果
0.40 水率が θfs 付近で平衡している状態化では,斜面上
0.38 方への飽和帯の上昇や土粒子の移動などは確認さ
0.36 れなかった.一方,斜面中腹に設置した土壌水分
0.34 VWC(m3/m3)
実験により得られた結果を図-3 に示す.体積含
センサの値が θfs を超えた直後に,のり尻から細粒
分の流出を捉えた.その後,のり尻部のインク注
入口からインクが流出したことにより,のり尻が
飽和したことを確認した.その直後に,のり尻の
一部で変形が発生した.その後,飽和帯が斜面中
θs
散水量管理による
疑似飽和状態
0.32 θfs
0.30 0.28 0.26 VWC中腹
VWC1
0.24 VWC2
VWCのり尻
0.20 0 10 20 30 経過時間(min)
5.斜面模型の崩壊メカニズム
中腹
飽和
のり尻
飽和
細粒分
流出
0.22 腹にまで上昇し,のり肩から崩壊が発生した.
崩壊
小崩壊
40 50 60 図-3 模型斜面の時系列変化
図-4 は上述の実験結果を基に,本模型斜面に
よる崩壊までのプロセスを Phase1 から Phase4
に区分して時系列に表現した模式図である.
Phase1 では不飽和地盤への水の浸透により体積
下において,体積含水率は θs に到達せず,一端,
疑似飽和と定義した θfs にて平衡状態を維持する
可能性が考えられる.Phase3 では体積含水率が
phase3
phase4
飽和度上昇
崩壊
②
細粒分の流出
体積含水率(θ)
しても水の流入量と流出量が平衡している状態
phase2
疑似飽和
θs
含水率が上昇する過程を表しているが,2章の
実験結果より,Phase2 では散水をそのまま継続
phase1
不飽和
θ fs
①
θの再上昇
のり尻飽和
中腹飽和
のり肩飽和
再び上昇を開始した直後にのり尻から細粒分が
③
浸透挙動
流出する.その後,飽和帯がのり尻,中腹,の
飽和帯の上昇
時間
り肩へと上昇した後に崩壊(Phase4)が発生する
図-4 斜面模型の崩壊メカニズム
ことが確認された.
6.まとめ
今回のまさ土を用いた散水による小型斜面崩壊実験においては,崩壊までに以下の 3 つの現象を確認した.①疑似飽
状態からの体積含水率の再上昇,②細粒分の流出,③飽和帯の上昇である.これらは,それぞれ①地盤の不安定化,②
水みちの形成,③安全率の低下を表す現象であると考えられる.特に,疑似飽和状態からの体積含水率の再上昇が表層
崩壊の予兆を捉える一つの判断材料となる.これらの結果はあくまで模型実験の一事例であることから,今後,同様の
実験事例を増やすことで,その現象の再現性を確認する必要がある.また,実のり面においても,同様の現象が確認さ
れるかどうかの検証を行う必要がある.
謝辞:本研究は JSPS 科研費(2410139)により行われた。ここに記して謝意を表す。
参考文献
1) 小泉圭吾・村上一馬・小田和広・上出定幸・小西貴士・竹本将・藤原優:豪雨による高速道路のり面の表層崩壊監視を目的とした
現場計測結果の評価,Kansai Geo-Symposium 2013-地下水地盤環境・防災・計測技術に関するシンポジウム-,pp.155-160,2013
2) 竹下祐二・森井俊広:土中水分計測データを用いた簡便な原位置試験方法による不飽和砂質土地盤の飽和・不飽和透水係数の測定,
土木学会論文集 C,Vol.62, No.4, 831-839,2006.12
3) 檀上徹・酒匂一成・深川良一・酒井直樹・岩佐直人・Nghiem Minh Quang:降雨量,不飽和浸透挙動,変位量の観測結果に基づく降
雨時表層すべり型崩壊過程の検証,土木学会論文集C(地圏工学),Vol.68, No.3, 508-525,2012
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