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経済産業省 平成 26 年度総合調査研究 企業の持続的成長に向けた競争

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経済産業省 平成 26 年度総合調査研究 企業の持続的成長に向けた競争
経済産業省
平成 26 年度総合調査研究
企業の持続的成長に向けた競争力の源泉と
しての CSR の在り方に関する調査
1
内容
本調査の目的と概要 ............................................................................................................................................. 3
1.
1.1
調査の目的 ...................................................................................................................................................... 3
1.2
調査概要 .......................................................................................................................................................... 3
1.3
調査方法 .......................................................................................................................................................... 4
CSR に関する既存概念の整理............................................................................................................................ 9
2.
2.1
CSR、CSV、CC に関する概念整理 ......................................................................................................... 9
2.2 日本における CSR の発展過程と海外からの影響の考察 ........................................................................ 18
2.3
欧米における CSR の発展過程と国別の企業の CSR 取組動向 ........................................................... 20
CSR 活動等と企業価値創造及び競争力強化の関係分析 ............................................................................. 26
3.
3.1
3.1.1
グローバルな社会課題の動向 ............................................................................................. 26
3.1.2
社会課題と主要なグローバル・フレームワークの動向 ................................................ 28
3.1.3
社会課題と経営課題との関係の考察 ................................................................................. 32
3.2
戦略的 CSR 活動による企業価値創造及び競争力強化の可視化フレームワーク .......................... 36
3.2.1
可視化に向けた三段階構造の考察 ..................................................................................... 36
3.2.2
可視化における評価軸の考察 ............................................................................................. 37
3.3
4.
グローバルな社会課題の概要 ................................................................................................................... 26
可視化フレームワークによる企業の評価軸別分析 .............................................................................. 43
3.3.1
経営者の視点 ......................................................................................................................... 43
3.3.2
多様な人材の能力の最大化 ................................................................................................. 49
3.3.3
最適なガバナンス体制の構築 ............................................................................................. 59
3.3.4
ステークホルダー・エンゲージメント............................................................................. 68
3.3.5
非財務情報の開示 ................................................................................................................. 75
3.3.6
新しいマーケットと製品・サービスの開発 .................................................................... 85
3.3.7
バリューチェーンの生産性の向上 ................................................................................... 102
3.3.8
地域コミュニティとの関連構築等 ................................................................................... 111
提言 .................................................................................................................................................................. 120
【別添資料】 .......................................................................................................................................................... 121
1.国内企業の分析 ............................................................................................................................. 121
2.海外企業の分析 ............................................................................................................................. 139
【参考文献一覧】 .................................................................................................................................................. 152
2
1.
本調査の目的と概要
1.1
調査の目的
「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」への取り組みは、ともすれば企業におい
てコストと認識される他、経営戦略やマーケティング戦略との一体性への課題も指摘されている。
一方で、近年、CSR に関連した「共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)」や「意識の高い資本
主義(CC: Conscious Capitalism)
」という概念が、米国を中心に論じられ始めている。また、いわゆる
SRI(社会的責任投資)のみならず、機関投資家による中長期視点での株式投資においても、
「ESG(環境
(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance))」への取組に対する評価を運用プロセスに組み
込む動きが見られる。
この様な流れの中で、我が国企業においても、CSR 担当部署を設けているところは増えているが、CSR
の取組に、経営や事業面でどのような効果を期待するのかといった点につき、共通理解を得ることや経営
戦略、マーケティング戦略と関連付けることへの難しさがあるとの声も聞かれる。CSR への取り組みが、
必ずしも短期的な企業利益に繋がるものではないものの、それに取り組まない企業は、ビジネス機会を喪
失するリスクがあることや長期的な企業の成長への足かせになり得ることを、組織全体なかんずく経営層
は認識することが求められている。
以上のような問題意識から、我が国及び諸外国企業が、社会的な課題の解決と持続的な企業価値創造及び
企業の競争力向上を両立させるために、どのような対応を行っているか等を把握し、我が国における今後
の在り方、方向性を明らかにしていくことを本調査の目的とした。
1.2
調査概要
1.1の目的を達成するため、①我が国及び諸外国の企業における効果的な取組事例の把握や右取組が如何
に我が国企業或いは諸外国企業の競争力の源泉として機能し得るか、②諸外国のCSR政策の整理及びそ
の評価を踏まえ、我が国の政策の在り方へ如何に繋げていくかを主な目的とし、以下3つの調査、分析を
行った。
(1) 既存概念の整理とその影響や効果の分析
1.1に掲げたCSR、CSV、CCといった概念の構造やそれによって生じる事業活動への影響や効果につ
き、先行研究の精査や文献調査の上、整理、分析を行った。
(2) CSR活動等と企業価値創造及び競争力強化との繋がりの可視化
文献やヒアリング等からのエビデンスを元に、その取組がどのように企業価値創造や競争力強化に繋
がっているという連関の可視化を行った。特にグローバル競争環境下における新興国への事業展開を
念頭に、取り上げた事例が、如何に他社との競争に優位性を発揮しているか(し得るか)といった視
点から分析を実施した。
3
(3) 諸外国の政策に関する調査等
上述(1)、(2)も踏まえ、諸外国のCSRに関連する政策の調査等を行った。
1.3
調査方法
(1) 基礎的文献調査
①CSR、CSV、CCに関する概念整理
先行研究や基礎的文献、企業による公開資料等を元に、既存の概念を整理し、その影響や効果の分析を行
った。加えて、先行研究や基礎的文献、企業による公開資料等を元に、日本のCSRの発展過程と海外か
らの影響の考察を行った。
②社会的課題に関するグローバルな動向の整理
基礎的文献、政府やグローバル・フレームワークのウェブ情報等を元に、社会的課題に関するグローバル
な動向を整理した。
③国別の企業のCSR取組の実態や課題の情報収集
ウェブ情報等を元に、日本と諸外国(米国、英国、ドイツ、オランダ、中国、韓国)の7ヶ国における
CSR取組の実態や課題の情報収集を行った。
④諸外国(米国、英国、ドイツ、オランダ、ノルウェー、オーストラリア)の政策調査
欧米を中心に選定した6ヶ国の政策について、政府や関係機関のウェブ情報等を元に、政策を調査し、評
価した。
(2) 企業の文献調査
国内外の企業55社について、企業による公開資料等を元に、情報を整理・分析し、効果的な取組、課題
がある取組等の整理を行った。なお、企業の持続的な価値創造に具体的にどのような形で資するものとな
っているかという視点を考慮して分析を行った。また、国ごと、企業ごとの特色・違いについて意識して
分析を行った。
下記の調査対象企業の選定に当たっては、CSR、CSV、CCに関する先行研究や基礎的文献1に加えて、企
業の持続的な価値創造に対する効果を明らかにするという観点から、以下の選定基準を加えて、貴省と相
談の上、選定を行った。
1
公益社団法人 経済同友会「第 17 回企業白書 持続可能な経営の実現」(2013 年 4 月)
http://www.doyukai.or.jp/whitepaper/articles/no17.html (最終検索日:2015 年 3 月 27 日)
一般社団法人 関西経済同友会 企業経営委員会「
【提言】戦略的 CSR による企業価値向上~CSV を通じて持続的成長を目指そう~」
(2013
年 5 月)
http://www.kansaidoyukai.or.jp/tabid/323/Default.aspx (最終検索日:2015 年 3 月 27 日)
岩井克人、小宮山宏「会社は社会を変えられる(社会問題と事業を統合する CSR 戦略)」
(プレジデント社、2014 年 7 月)
玉村雅敏、横田浩一、上木原弘修、池本修悟「ソーシャルインパクト」(産学社、2014 年 7 月)
CSR 研究会「経営への CSR の統合による企業価値創造と競争力強化について」
(平成 23 年 3 月)(最終検索日:2015 年 3 月 27 日)
マイケル E. ポーター/ マーク R. クラマー「共通価値の戦略」Harvard Business Review(ダイヤモンド社、2011 年 6 月)
ジョン・マッキ―/ ラジェンドラ・シソーディア「世界でいちばん大切にしたい会社(Conscious Capitalism)」(翔泳社、2014 年 4 月)
4

戦略的 CSR(The 2014 Sustainability Leaders) 2

WBCSD 優良事例3

World’s Most Attractive Employers4

Best Global Brands5

Global ESG leaders index6

ROBECO SAM “The Sustainable Yearbook 2014”
●文献調査の対象企業
(国内 28 社)
(海外 27 社)
王子ネピア㈱
Akzo Nobel(アグゾノーベル)
オムロン㈱
Amcor(アムコール)
花王㈱
Apple(アップル)
キヤノン㈱
Coca Cola(コカ・コーラ)
京セラ㈱
Delta Electronics(デルタ・エレクトロニクス)
キリンホールディングス㈱
FIAT(フィアット)
㈱小松製作所
GE(ゼネラル・エレクトリック)
㈱資生堂
住友化学㈱
住友林業㈱
Gildan Activewear (ギルダン・アクティブウ
ェア)
Google(グーグル)
Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョ
ンソン)
武田薬品工業㈱
Michelin(ミシュランタイヤ)
㈱東芝
Marks & Spencer(マークス&スペンサー)
トヨタ自動車㈱
Novartis(ノバルティス)
㈱ニコン
Novo Nordisk(ノボノルディスク)
日産自動車㈱
Philips(フィリップス)
2
環境コンサルティング会社の GlobeScan 社と SustainAbility 社が共同で毎年発表している、サステナビリティ優良企業のランキング。世
界 87 か国、887 人のサステナビリティ専門家を対象にインターネットを通じてアンケート調査を実施することでランキングを作成してい
る。多様な専門家の声を反映させた公平性のあるランキングであり、サステナビリティに関する優良な取組みを行っている候補先企業を
選定するための基準として使用した。
3
WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のメンバー企業の中で、サステナビリティに関する取組みがケーススタディとし
て WBCSD の Web サイトに掲載されている事例。企業が行っている個々の取組みの中で、特に優れた取組みを見つけ出すための参考情報
として使用した。
4
スウェーデン・ストックホルムに本社を置く国際的な人材コンサルティング会社である Universum 社が毎年発表する、学生にとって魅
力的な就職先についてのランキング。国際的なキャリア・ランキングとしては最も大規模なものである。日本、アメリカ合衆国、カナダ、
イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ロシア、中国、インド、ブラジルの 12 か国約 20 万人の学生を対象に、同社が選定
した優良企業 3000 社の中から学生が就職したいと思う企業をアンケートにより調査、集計している。学生の専攻に応じて、文系(Business)
と理系(Engineering)の 2 つのランキングが独立して発表されている。就職時の人気が高い企業は特徴的で優れたコーポレート・カルチャ
ーを持っている可能性が高いと考え、事例選定の参考基準として使用した。
5
ロンドンに本社を置く世界最大のブランドコンサルティング会社である Interbrand 社が毎年発表する、ブランド価値の世界ランキング。
同社のブランド価値測定手法は、ISO により世界で最初にブランドの金銭的価値を測定するための標準的な手法として認められた。ブラ
ンドの国際的認知度や収益性を根拠に世界中のブランドの価値を測定し、上位 100 社を発表している。CSV によりブランド価値を向上さ
せている事例を探索するための参考基準として使用した。
6
欧州を代表する指数算出会社である STOXX 社が、サステナビリティを重視している企業を対象に算出している投資指標。環境
(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)のそれぞれの項目に関し、100 点満点でスコアリングを行っている。ガバナンスが
独立した項目として設定されていることから、優れたガバナンスを行っている事例を探索するための参考基準として使用した。
5
パナソニック㈱
POSCO(ポスコ)
富士フイルムホールディングス
㈱
Puma(プーマ)
㈱ブリヂストン
Samsung Electro-Mechanics(サムスン電機)
㈱ベネッセホールディングス
Samsung SDI(サムスン SDI)
本田技研工業㈱
Siemens(シーメンス)
三井化学㈱
Southwest Airlines(サウスウェスト航空)
㈱三菱ケミカルホールディング
ス
StarHub(スターハブ)
三菱重工業㈱
The Dow Chemical Company(ダウ・ケミカル)
ヤマト運輸㈱
Unilever(ユニリーバ)
ヤマハ発動機㈱
Volkswagen(フォルクスワーゲン)
ユニ・チャーム㈱
㈱LIXIL グループ
Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケッ
ト)
Yara International ASA(ヤラ・インターナショ
ナル)
㈱リコー
(3) 企業、関係機関、有識者へのヒアリング調査
グローバルに展開する国内外の企業8社へのヒアリング調査を実施した。ヒアリング先選定にあたっては、
(2)の分析を踏まえ、地域やセクターを勘案して、貴省と相談の上、選定した。国内外の個別企業のヒア
リングに当たっては、すべて現地調査を実施した。
また、以下の方法等により、企業や有識者等の39名の方々から意見を集めた。
①企業や有識者等を集めた意見交換の場を3回設定
②有識者との個別の意見交換の場を1回設定
③貴省が設定した企業や有識者等を集めた意見交換の場に参加
●ヒアリング調査企業
(国内5社)
(海外3社)
京セラ㈱
KERING(ケリング(プーマ親会社))
ヤマト運輸㈱
Marks & Spencer(マークス&スペンサー)
ヤマハ発動機㈱
Philips(フィリップス)
ユニ・チャーム㈱
㈱LIXIL グループ
6
●有識者等の一覧(39名/敬称略)
赤羽 真紀子
CSR アジア 日本代表
足達 英一郎
㈱日本総合研究所
荒井 勝
NPO 法人社会的責任投資フォーラム(JSIF)
有川 倫子
パナソニック㈱
ート統括室
理事
会長
ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化グループ
参事
有馬 利男
グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン 代表理事
伊藤 順朗
㈱セブン&アイ HLDGS.
牛島 慶一
EY 総合研究所㈱
遠藤 直見
日本電気㈱
岡田 仁孝
東京国際大学
岡田 正大
慶應義塾大学大学院
奥谷 直也
住友商事株式会社
加藤 浩輝
味の素㈱
金井 司
三井住友信託銀行㈱
金丸 治子
イオン㈱
金田 晃一
武田薬品工業㈱
河口 真理子
㈱大和総研
黒瀬 友佳子
帝人㈱ CSR・信頼性保証部
小林 雅宏
㈱日立製作所
坂野 俊哉
プライスウォーターハウスクーパース㈱
佐々木
㈱東芝
コーポレートコミュニケーション部
佐藤 寛
JETRO
アジア経済研究所
塩島 義浩
㈱資生堂
CSR 部長
ソニー㈱
広報・CSR 部 CSR グループ
智子
シッピー
光
取締役
執行役員
ビジネス調査部
CSR・環境推進本部
国際戦略研究所
主席研究員
シニアエキスパート
CSR・社会貢献室
教授、上智大学
経営管理研究科
名誉教授
教授
環境・CSR 部長
CSR 部長
CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)
グループ環境・社会貢献部
シニアマネジャー
調査本部 主席研究員
CSR グループ長
CSR・環境戦略本部
企画部
担当部長
パートナー 戦略グループリーダー
CSR 推進室
参事
上席主任調査員
損害保険ジャパン日本興亜㈱
末吉 竹二郎
国連環境計画・金融イニシアティブ
鈴木 均
㈱国際社会経済研究所
土橋 重望
第一三共㈱
シニアマネジャー
CSR 部長
特別顧問
代表取締役社長
CSR 部
ロイドレジスター
ググループ
部長
コーポレートコミュニケーション部
嶋田 行輝
冨田 秀美
コーポレ
クオリティ
アシュアランス
リミテッド
経営企画・マーケティン
統括部長
中山 泰男
セコム㈱
常務取締役
総務本部長
名和 高司
一橋大学大学院
野島 嘉之
三菱商事㈱
袴田 淑子
㈱ニコン
畑中 晴雄
花王㈱
濱本 伸一郎
キリンホールディングス㈱
藤井 良弘
上智大学
国際企業戦略研究科 教授
環境・CSR 推進部長
経営戦略本部
CSR 推進部長
コーポレートコミュニケーション部門サステナビリティ推進部 部長
大学院
CSV 推進室 室長
地球環境学研究科
教授(CSR 研究会顧問)
7
水上 武彦
㈱クレアン
三和 裕美子
明治大学
八木 正
三井化学㈱
吉原 徹
本田技研工業㈱
CSV/シェアード・バリューコンサルタント
商学部
教授
CSR 部
経営企画部
CSR 企画室
主幹
(4) 企業の戦略的なCSR活動による企業価値創造及び競争力強化の可視化のための分析
(1)~(3)を踏まえ、整理した企業活動を、①社会課題と経営課題との関係の考察、②CSR活動により企業
の競争力に与える影響、③CSR活動による競争力強化という観点から重要な要素という3点から分析し
た上で、中長期的な企業の競争力強化につながるCSR活動可視化のための分析を行った。
(5) 海外の政策当局等へのヒアリング調査
欧米を中心とした海外4ヵ国(米国、英国、ドイツ、オランダ)の5省庁へのヒアリング調査を実施した。
ヒアリング先選定にあたっては、(1)の分析を踏まえ、企業の 8 つの評価軸に関する政策という観点から
選定した。ヒアリング調査に当たっては、すべて現地調査を実施した。なお、政策当局の選定においては、
あらた監査法人が、対象候補先として10省庁程度の政策当局について根拠を示して貴省に提案し、貴省
と相談の上、決定した。また、ドイツにおける政策の実施状況等の情報収集のため WWF へのヒアリング
調査を実施した。

ヒアリング調査を実施した政策当局(5省庁)
国名
米国
省庁名
環境保護庁(Environmental Protection Agency)
商務省(Department of Commerce)
英国
内閣府(The Cabinet Office)
ドイツ
連邦環境庁(Federal Environmental Agency)
オランダ
社会雇用庁(The Ministry of Social Affairs and Employment)
(6) 戦略的 CSR 活動を促進するための提案
(1)~(5)を踏まえ、企業の競争力に結びつく取組を促進するための提言を行った。
8
2.
CSR に関する既存概念の整理
2.1
CSR、CSV、CC に関する概念整理
企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)については、さまざまな団体等により定義さ
れている。しかし、CSR は、その課題の多様性や国や時代によって捉え方が異なっているため、国際機
関等で認められた定義はまだ存在しないと思われる。一方で、近年、CSR に関連した「共通価値の創造
(CSV:Creating Shared Value)」や「コンシャス・キャピタリズム(CC: Conscious Capitalism)」とい
う概念が、米国を中心に論じられ始めている。ここでは、CSR の基本的な概念を整理し、その上で、CSV
と CC の概念との比較分析を行う。
(1) 企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)の概念整理
我が国においては、日本経済団体連合会等で CSR の概念が説明されている。また、海外では、国際
的な社会的責任の規格として認められている ISO26000 では組織(企業を含む)の社会的責任(SR:
Social Responsibility)が定義されている。また、OECD 多国籍企業行動指針7等で CSR の概念が説明
され、欧州委員会(EU)では「CSR に関する EU 新戦略 2011-2014」の中で CSR が定義されている。
以下、これらの団体等による CSR の概念を比較する。図表 1 は、これらの団体等による CSR の定義
等を一覧表にしたものである。
図表 1 国内外の主な団体等による CSR の定義等
団体名または
CSR の定義等
フレームワーク名
・CSR とは、企業活動において経済、環境、社会の側面を総合的に捉え、競争力の源泉
日本経済団体連合
会
とし、企業価値の向上につなげる8。
・企業は、国の内外において、人権を尊重し、関係法令、国際ルールおよびその精神を
遵守しつつ、持続可能な社会の創造に向けて、高い倫理観をもって社会的責任を果たし
ていく9。
SR(社会的責任)とは、組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次
のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任 10。
ISO26000
- 健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展に貢献する。
- ステークホルダーの期待に配慮する。
- 関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。
- その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される。
7
OECD により作成された、多国籍企業の CSR 活動を推進するための指針
日本経済団体連合会「企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方」(2004 年 2 月)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/017.html
9
日本経済団体連合会「企業行動憲章」(2010 年 9 月改定)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/charter.html
10
ISO26000, 2 用語及び定義、2.18(2010 年 11 月)/日本規格協会編「ISO26000 日本語訳」 P40
8
9
OECD 多国籍企業
行動指針
CSR(Corporate Social Responsibility)。企業の社会的責任。
持続可能な社会の実現に向けて、各企業が、環境や労働、企業統治やコンプライアンス
等の問題に取り組んでいくこと等を言う11。
CSR は、企業の社会への影響に対する責任12。
その責任を満たすため、企業は、下記を目的として、ステークホルダーと協働しながら、
社会、環境、倫理、人権に係る課題及び消費者の懸念を事業活動及び中核となる戦略に
EU
統合すべきである。
①株主と、その他のステークホルダー及び社会との間で、共通価値(Shared value)の創
造を最大化すること、
②起こり得るマイナスの影響を特定し、予防し、緩和すること
出典:各団体の発表資料から引用
概念に関して、①持続可能な社会13・発展との関係、②社会的責任との関係、③価値創造との関係、④事
業活動への影響の4つの項目で比較した。これらの比較項目を元に、各団体等の CSR の概念を整理した
のが図表 2 である。
11
外務省、厚生労働省、経済産業省「多国籍企業の CSR を推進する~「OECD 多国籍企業行動指針」&「日本 NCP」(OECD 多国籍企
業行動指針/2011 年 5 月改定版)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_pa.pdf
12
EU ”A renewed EU strategy 2011-14 for Corporate Social Responsibility” (2011 年 10 月), 3.1 A new definition(P6)の定義をあらた監査
法人が日本語訳
http://ec.europa.eu/enterprise/policies/sustainable-business/files/csr/new-csr/act_en.pdf
13
国連環境計画(UNEP)において我が国がその設置を提唱して発足した「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」により1987 年
に公表された報告書「地球の未来を守るために(Our Common Future)」によれば、「持続可能な開発」は、「将来の世代のニ一ズを満
たす能力を損なうことがないような形で、現在の世代のニーズも満たせるような開発」 と定義されている。(Our common future(通称
ブルントラント報告書)(1987)/ 環境金融行動原則起草委員会事務局・環境省編著「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(パ
ンフレット)(2011年12月)
https://www.env.go.jp/policy/keiei_portal/common/pdf/principlesbooklet.A3.20120106.pdf
10
図表 2 国内外の主な団体等の CSR の概念の比較
団体名または
持続可能な社会・
フレームワー
社会的責任との関係
価値創造との関係
事業活動への影響
「目的は、株主と、その他の
「事業活動及び中核となる戦略に
発展との関係
ク名
CSR の定義自体には
EU
「企業の社会への影響
15
記載されていないが、
に対する責任 」と記載
ステークホルダー及び社会
統合17」との記載があり、事業活動
「CSR に関する EU 新
されており、企業の責任
との間で、共通価値の創造を
全体に影響を及ぼす取組であると
16
戦略 2011-2014」の冒
であると認識している
最大化することである 」と
頭部分14で持続可能な
と考えられる。
の記載があり、価値創造を意
開発に関する記載が
認識していると考えられる。
識していると考えられる。
あり、CSR の目的とし
て認識していると考
えられる。
「持続可能な社会の
18
「高い倫理観をもって
「競争力の源泉とし、企業価
20
「企業活動において経済、環境、
創造に向けて 」との
社会的責任を果たして
値の向上につなげる 」との
社会の側面を総合的に捉え21」との
記載があり、CSR の目
いく19」との記載があり、
記載があり、企業価値の向上
記載があり、また、企業行動憲章
的として認識してい
企業の責任であると認
を意識していると考えられ
の 10 原則22で、幅広い事業活動に
ると考えられる。
識していると考えられ
る。
触れられており、事業活動全体に
日本経済団体
連合会
る。
影響を及ぼす取組であると認識し
ていると考えられる。
14
EU ”A renewed EU strategy 2011-14 for Corporate Social Responsibility” (2011 年 10 月), P3, “1.2 …and in the interests of society as a
whole”
http://ec.europa.eu/enterprise/policies/sustainable-business/files/csr/new-csr/act_en.pdf
15
同上, P6, “3.1 A new definition”
16
同上,P6, “3.1 A new definition”
同上, P6, “3.1 A new definition”
18
日本経済団体連合会「企業行動憲章」(2010 年 9 月改定)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/charter.html
19
同上
20
日本経済団体連合会「企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方」(2004 年 2 月)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/017.html
21
同上
22
日本経済団体連合会「企業行動憲章」(2010 年 9 月改定)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/charter.html
17
11
「健康及び社会の繁
社会的責任の七つの原
社会的責任を重視している
社会的責任の定義で「その組織全
栄を含む持続可能な
則の中で組織(企業を含
と考えられる。
体に統合され25」との記載がある。
発展に貢献する23」と
む)の責任が記載されて
社会的責任の統合とは「社会的責
の記載があり、CSR の
おり24、企業の責任であ
任は意思決定に反映され、活動の
目的として認識して
ると認識していると考
実施においても考慮されるべき26」
いると考えられる。
えられる。
との記載があり、事業活動全体に
ISO26000
影響を及ぼす取組であると認識し
ていると考えられる。
「持続可能な社会の
定義と原則の中で「企業
社会的責任を重視している
「環境や労働、企業統治やコンプ
実現に向けて27」との
はそうした原則及び基
と考えられる。
ライアンス等の問題に取り組んで
記載があり、CSR の目
準を尊ぶ方策を追求す
いく29」との記載があり、各企業が
的として認識してい
べきである28」と記載さ
幅広く問題に取り組むことが示さ
ると考えられる。
れており、企業の責任で
れ、事業活動全体に影響を及ぼす
あると認識していると
取組であると認識していると考え
考えられる。
られる。
OECD 多国籍
企業行動指針
出典:各団体の発表資料を参照し、あらた監査法人作成
上述の CSR 関連の概念に共通するのは、持続可能な社会・発展を目的とした企業の社会的責任であると
認識していることである。また、欧州においては、欧州委員会が CSR を最初に定義した 2001 年から CSR
の概念が拡大してきており、上述の 2011 年の EU の定義では、CSR には社会的責任だけでなく、価値創
造の考え方も含むようになってきている30。
そして、上述の CSR の概念に共通するポイントとして、いずれも企業の事業活動全体に影響を及ぼす取
組であると認識していることである。
この点に関して、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の論考では、以下のように分析されてい
る31。
23
ISO26000, 2 用語及び定義、2.18(2010 年 11 月)/日本規格協会編「ISO26000 日本語訳」 P40
ISO26000, 4 社会的責任の原則 (2010 年 11 月)/同上 P57
25
ISO26000, 2 用語及び定義、2.18(2010 年 11 月)/同上 P40
26
ISO26000, 3.3.4 社会的責任の統合 (2010 年 11 月)/同上 P49
27
外務省、厚生労働省、経済産業省「多国籍企業の CSR を推進する~「OECD 多国籍企業行動指針」&「日本 NCP」(OECD 多国籍企業
行動指針/2011 年 5 月改定版)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_pa.pdf
28
OECD 閣僚理事会「OECD 多国籍企業行動指針」(2011 年 5 月)P11
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_ho.pdf
29
外務省、厚生労働省、経済産業省「多国籍企業の CSR を推進する~「OECD 多国籍企業行動指針」&「日本 NCP」(OECD 多国籍企業
行動指針/2011 年 5 月改定版)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/pdfs/takoku_pa.pdf
30
2.3 章の「欧州における CSR の概念の拡大」で説明。
31
UNESCAP (April 25, 2013) From Corporate Social Responsibility to Corporate Sustainability: Moving the Agenda Forward in Asia and
the Pacific, Studies in Trade and Investment No. 77, P15
http://www.unescap.org/sites/default/files/6%20-%20Chapter%20II_Developments%20in%20the%20concept%20of%20CSR.pdf
24
12
-
一般的に、企業が CSR を事業において実行する方法には 2 種類ある。
-
伝統的なアプローチは、フィランソロピー等の CSR プログラムにより、中核の事業から分離した
形で実行する方法である。また、このアプローチには、CSR は単にブランドイメージ及び評判を
高める方法であるということも含まれる。
-
近年注目を集めているアプローチは、社会や環境に対する事業活動による負荷を最小化するため
に、
企業が CSR を中核の事業活動及びバリューチェーンに組み込むべきであるというものである。
すなわち、CSR は企業の事業活動全体に影響を及ぼす取組であるために、中核の事業活動やバリューチ
ェーンに組み込むべきであるという考え方が主流になってきていると考えられる。
また、世界各国の企業の社会的責任に係るレポーティングに関する統計(2013 年 11 月時点で 170 ヶ国
10,500 社以上32)によると、21 世紀に入ってから「サステナビリティレポート(Sustainability)」の比率が
拡大している(図表 3)。この統計では、「サステナビリティレポート」は非財務要因が企業の業績にど
のように影響を与えるのかという内容が基本的に示されているレポートであるとされている。したがっ
て、企業のレポーティングの傾向から推察すると、21 世紀に入ってから企業が CSR を事業活動に組み
込む比率が拡大しているものと考えられる33。
32
CorporateRegister.com ”CR Perspectives 2013” (November 2013) P.3, P.9
http://www.corporateregister.com/a10723/67880-13th-17513040C2227142800T-Gl.pdf
33
上記の統計では、「CR レポート(Corporate Responsibility)」は非財務要因が業績にどのように影響を与えるのかという内容を示し
ていないレポートであると定義されている。
13
図表 3 企業の社会的責任に係るレポーティングのタイプ別推移
出典:CorporateRegister.com ”CR Perspectives 2013” (November 2013) より引用
以上を踏まえると、CSR が企業の事業活動全体に影響を及ぼす概念であることにより、企業の事業活動
への CSR の組み込みを後押ししている可能性があると考察できる。
(2) CSR と CSV、CC との比較分析
次に、
米国を中心に論じ始められている CSR に関連した「共通価値の創造
(CSV:Creating Shared Value)」
や「コンシャス・キャピタリズム(CC: Conscious Capitalism)
」という概念を CSR の概念と比較する。
比較の前提として、まず、CSV と CC の定義等を見ていく。
図表 4 は、CSV と CC の定義等を一覧表にしたものである。
図表 4 CSV と CC の定義等
概念
定義等
「共通価値」(Shared values) という概念は、経済的価値を創造しながら、社会的ニーズに対応
CSV
することで社会的価値も創造するというアプローチである 34。
コンシャス・キャピタリズムとは、あらゆるステークホルダーにとっての幸福と、金銭、知性、
CC
物質、環境、社会、文化、情緒、道徳、あるいは精神的な意味でのあらゆる種類の価値を同時に
創り出すような、進化を続けるビジネスパラダイムのことである 35。
出典:各文献から引用
CSR と CSV、CC との比較にあたっては、前述した EU の CSR の定義に加えて、米国における CSR の
34
マイケル E. ポーター/マーク R. クラマー”Creating Shared Value” (2011 年 6 月, Harvard Business Review), P8
ジョン・マッキ―/ラジェンドラ・シソーディア著/野田稔 解説/鈴木立哉 訳「世界でいちばん大切にしたい会社~Conscious Capitalism」
(2014 年 4 月/翔泳社)、P42~P43
35
14
考え方も比較対象とした。米国では 1971 年に Committee for Economic Development(CED)が、CSR を、
「建設的に社会のニーズを満たすビジネス上の機能」と定義したが36、民間において「利益を地域社会に
投資する」という伝統的な考え方がある37。
比較項目は、①社会的責任との関係、②価値創造との関係、③事業活動への影響の3つの項目とした。
これらの比較項目を元に、各団体等の CSR 関連の概念を整理したのが図表 5 である。
図表 5 主要な CSR 概念と CSV と CC の概念の比較
団体名または
社会的責任との関係
価値創造との関係
事業活動への影響
「企業の社会への影響に対する責任
「目的は、株主と、その他のス
「事業活動及び中核となる戦略に統合40」
38
テークホルダー及び社会との間
との記載があり、事業活動全体に影響を及
あると認識していると考えられる。
で、共通価値の創造を最大化す
ぼす取組であると認識していると考えら
概念名
」と記載されており、企業の責任で
CSR(EU の
39
定義)
ることである 」との記載があ
れる。
り、価値創造を意識していると
考えられる。
CSR(米国に
「企業の利益を地域社会に投資する」
41
と考えられる43。
「共通価値は、CSR でもなければ、
「経済的価値を創造しながら、
「企業と地域社会が共同で価値を創出
フィランソロピーでも持続可能性で
社会的ニーズに対応することで
46
もない。経済的に成功するための新し
社会的価値も創造する45」との
の記載があり、事業活動全体に影響を及ぼ
い方法である 」との記載があり、事
記載があり、価値創造を意識し
す取組であると認識していると考えられ
業戦略的な意味に重点を置いている
ていると考えられる。
る。
という考え方があり 、企業の責任で
な考え方)
あると認識していると考えられる。
44
42
事業全体に影響するとは認識していない
ていると考えられる 。
おける伝統的
CSV
社会貢献的な意味に重点を置い
」、
「企業の予算全体を再編成する47」と
と考えられる。
36
UNESCAP (April 25, 2013) From Corporate Social Responsibility to Corporate Sustainability: Moving the Agenda Forward in Asia and
the Pacific, Studies in Trade and Investment No. 77, P11
http://www.unescap.org/sites/default/files/6%20-%20Chapter%20II_Developments%20in%20the%20concept%20of%20CSR.pdf
37
2.3 章「欧米における CSR の発展過程と国別の企業の CSR 取組動向、(2)アメリカにおける CSR 概念」で詳述。
38
EU ”A renewed EU strategy 2011-14 for Corporate Social Responsibility” (2011 年 10 月), P6, “3.1 A new definition”
http://ec.europa.eu/enterprise/policies/sustainable-business/files/csr/new-csr/act_en.pdf
39
同上, P6, ”3.1 A new definition”
40
同上, P6, “3.1 A new definition”
41
2.3 章「欧米における CSR の発展過程と国別の企業の CSR 取組動向、(2)アメリカにおける CSR 概念」で説明。
42
同上
43
マイケル E. ポーター/マーク R. クラマー”Creating Shared Value” (2011 年 6 月, Harvard Business Review), P29「CSV と CSR の違
い」およびジョン・マッキ―/ラジェンドラ・シソーディア著/野田稔 解説/鈴木立哉 訳「世界でいちばん大切にしたい会社~Conscious
Capitalism」(2014 年 4 月/翔泳社)、P51「コンシャス・キャピタリズムと企業の社会的責任とはどう違うのか」における CSR の概念
の説明によっても裏づけられる。
44
45
46
47
マイケル E. ポーター/マーク R. クラマー”Creating Shared Value” (2011 年 6 月, Harvard Business Review), P10
同上, P8
同上, P29
同上, P29
15
「社会的責任は、存在目的の一部とし
「あらゆるステークホルダーに
「CC には四つの柱がある。存在目的、ス
てビジネスの中心に位置し48」との記
とっての幸福と、あらゆる種類
テークホルダーの統合、コンシャス・リー
49
載があり、企業の責任であると認識し
の価値を同時に創り出す 」と
ダーシップ、コンシャス・カルチャー/マ
ていると考えられる。
の記載があり、価値創造を意識
ネジメントである。これらは基本であり、
していると考えられる。
統合された基本的な経営哲学を支えてい
CC
る50」との記載があり、事業活動全体に影
響を及ぼす取組であると認識していると
考えられる。
出典:各文献を参照し、あらた監査法人作成
欧州においては、近年、CSR の概念が拡大してきており、2011 年の EU の定義では、CSR には社会的
責任だけでなく、価値創造の考え方も含まれており、事業活動全体に影響を及ぼす戦略的な取組である
ことを重視してきていると考えられる51。
一方、米国における CSR の伝統的な考え方では、企業の利益を地域社会に投資するという社会貢献的な
意味合いが強く、事業全体に影響するとは認識していなかったと考えられる。それに対して、近年論じ
始められてきた CSV や CC の概念では、価値創造を意識し、事業活動全体に影響を及ぼす戦略的な取組
であると認識していると考えられる。なお、CSV は、社会的責任との関係は比較的薄く、事業戦略的な
意味に重点を置いている一方、CC は、社会的責任との関係も認識している点で CSV とは相違している
と考えられる。
このように欧米においては、CSR 関連の概念が、近年、社会的責任に留まらずに、価値創造も含むよう
になってきていると考えられる。この点に関して、企業の CSR は、事業活動の成功のために価値を付加
すべきものであるという多くの論考がある52。換言すれば、欧米においては、企業の CSR はリスク管理
中心であった時代から、事業機会拡大のための戦略的取組を含むものであると概念が拡大していると考
えられる。
このような CSR の概念の拡大が企業の事業活動に与える影響や効果として、例えば、マークス&スペン
サー社(英国の小売業)では、2006 年まではリスク管理中心の CSR であったのに対し、2007 年からは
戦略的なサステナビリティ成長に向けた取組に舵を切り、年間 2 億ドルのコスト削減につなげている53。
また、フィリップ社(オランダの電機・家電製品メーカー)では、中長期的な企業価値創造を目的とし
て、2 年前から循環経済(Circular Economy)という考え方に基づく戦略的な新製品開発の取組を始めて
48
ジョン・マッキ―/ラジェンドラ・シソーディア著/野田稔 解説/鈴木立哉 訳「世界でいちばん大切にしたい会社~Conscious Capitalism」
(2014 年 4 月/翔泳社),P51
49
同上, P42~P43
同上, P43
51
2.3 章の「欧州における CSR の概念の拡大」で説明。
52
UNESCAP (April 25, 2013) From Corporate Social Responsibility to Corporate Sustainability: Moving the Agenda Forward in Asia and
the Pacific, Studies in Trade and Investment No. 77, P15
http://www.unescap.org/sites/default/files/6%20-%20Chapter%20II_Developments%20in%20the%20concept%20of%20CSR.pdf
53
【別添資料】.2. 海外企業の分析①Marks & Spencer(マークス&スペンサー)図表 83「マークス&スペンサー社のサステナビリティ成
長のイメージ図」P.146, P.148
50
16
おり、売上と利益の向上につながっている54。さらに、GE 社(米国の産業コングロマリット)では、2005
年にエコマジネーション(環境と経済を両立させ、持続可能な社会を実現するためのプログラム)を開
始し、取組開始以来、120 億ドルの関連投資により、1600 億ドル以上の関連売上を達成している55。
以上を踏まえると、欧米における近年の CSR 関連の概念の拡大が、一部の企業の事業活動に対して影響
や効果を与え、中長期的な企業価値創造のための事業機会拡大を目指す戦略的取組につながっている可
能性があると考察できる。
日本においては、日本経済団体連合会の「企業の社会的責任推進にあたっての基本的考え方」
(2004 年)
において「競争力の源泉とし、企業価値の向上につなげる56」との記載があり、CSR の概念には従来か
ら社会的責任だけでなく、企業価値向上という内容を含んでいたと考えられる。
日本企業に関しては、経済同友会が 2010 年に出版した報告書「日本企業の CSR-変化の軌跡」によると、
「CSR を企業戦略の中核として組み込む」と答えた経営者の割合が 31%と、2002 年の 8%より 4 倍近く
に増えている57。
しかしながら、CSR の一部である環境に関する日本企業の取組状況について、毎年、環境省により実施
されているアンケート調査によると58、「企業の環境への取組と企業活動のあり方についてどう思われま
すか」という質問59に対する回答結果は以下の通りである。図表6で分かるように、日本の上場企業にお
いては「業績を左右する要素」や「ビジネスチャンス」という回答は過去の 5 年間で低い回答率のまま
で横ばいであり、「社会的責任」であるという回答が多くを占めている。
図表 6 日本企業の環境への取組と企業活動のあり方に関する調査結果(上場企業約 1000 社回答)
(%)
2006 年度
業績を左右する要素
ビジネスチャンス
社会的責任
その他
合計
2007 年度
2008 年度
2009 年度
2010 年度
2011 年度
12.0
10.9
9.8
10.7
11.2
10.0
6.0
5.7
7.8
8.1
8.2
8.0
78.6
79.5
78.6
77.8
76.5
75.0
3.4
3.9
3.8
3.4
4.1
7.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
出典:環境省「環境にやさしい企業行動調査」をもとにあらた監査法人作成
54
【別添資料】2. 海外企業の分析③Philips(フィリップス)図表 85「循環経済」の取組のイメージ図 P.151, P.153
図表 55 GE の事例, P. 95
55
56
日本経済団体連合会「企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方」(2004 年 2 月)
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/017.html
57
経済同友会「 CSR イノベーション-事業活動を通じた CSR による新たな価値創造日本企業のグッド・プラクティス 2007」(2007)
58
環境省により、平成 23 年度まで上場企業の全数調査が毎年実施され、有効回答数は約 1000 社(回収率 40%~50%)。
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/
59
複数の選択肢の中から一つだけ回答を選ぶようになっている。
17
以上、日本の現状をまとめると、日本では従来から CSR の概念に社会的責任と企業価値向上の両方を含
んでおり、「CSR を企業戦略の中核として組み込む」と回答する経営者の割合が増えてきている。しか
しながら、日本企業では CSR の社会的責任の側面を重視する意識が根強く残っていると考察できる。
2.2 日本における CSR の発展過程と海外からの影響の考察
日本においては CSR が注目される以前から、日本独自の概念として、「三方よし」という似た概念が存
在している。
「三方よし」とは、商取引において「売り手」と「買い手」がともに満足しながら、その取
引の結果が「世間」にも貢献するという近江商人の心得を説いたものとされ、企業が CSR に取り組む際
にその考え方を日本的に表現したものとして今なお注目されている。その考え方のルーツは、江戸時代、
現在の滋賀県東近江市の商人中村治兵衛が書き残した家訓とされるが、言葉自体は、滋賀大学教授小倉
榮一郎の「近江商人の経営」
(昭和 63 年)の中で紹介されたのが初出とされる60。
CSRといった概念が日本に取り入れられるようになったきっかけとして、二つの文献による分析を紹
介する。藤井、新谷(2008)では、2000 年代初頭に多発した企業のコンプライアンス違反が CSR の考え
方にスポットライトを当てることとなった61と述べられている。これに対して、谷本(2014)は、経済活動
のグローバル化に伴う社会的環境的な弊害に対して、90 年代後半、欧米企業の間でその対応策として始
まった CSR に関する議論に日本企業も大きな影響を受けるようになるとともに、国内ではバブル崩壊に
よる企業間の株式持ち合いの解消を機に海外資本が流入し、日本の伝統的なビジネス慣行が変化したこ
とを挙げている。すなわち、外国人株主の増加や国際間競争の激化によって株式持ち合い、終身雇用及
び系列取引といった長期的安定的な関係が変化し、日本企業はそれまでより以上に流動的で多様なステ
ークホルダーを受け入れざるを得なくなった。このことがマルチステークホルダーを前提とする CSR を
日本企業が導入する大きな要因となったとしている62。
以下では、日本の CSR 元年と呼ばれる 2003 年頃から現在に至る発展過程について、日本企業が受けた
海外からの主要な影響を踏まえながら考察する。
2000 年代初頭から前半にかけて、日本企業にとっての CSR は、法令順守と社会貢献の 2 つが支配的で
あったと思われる。前者については、2000 年代前半に多発した企業の法令違反に対する概念として CSR
が持ち出されたという一つの背景があり、企業側の意識としても法令を守ることがそのまま CSR を満た
すことにつながる、というものが一般的であった。一方、後者に関しては、日本がアメリカ63の CSR 概
念を導入したことが影響しており、藤井(2005)によると、アメリカの CSR とは「企業が得た利益を地域
社会に還元すること」
、つまり収益の一部を企業が操業している地域に寄付することである。日本企業は
貿易摩擦の際の経験から、企業が操業する地域に根付き、受け入れてもらうことの重要性を実感してお
60
大野正英「三方よしの言葉の由来と現代的意義」(三方よし研究所「三方よし」第 36 号 2011/9)
http://www.sanpo-yoshi.net/pdf02/036.pdf
61
藤井敏彦,新谷大輔著「アジアの CSR と日本の CSR」(日科技連、2008)P2
62
谷本寛治「日本企業の CSR 経営」第 1 章 企業社会の構造変化と CSR,(千倉書房、2014)P2-22
63
後述 2.3(2)で詳細を記載。
18
り、また、地元での評判が事業の成功にとって重要であるとの考えから、伝統的に工場や支店、販社な
どがある地元社会との融和を重視してきた。このような背景から、アメリカ型の CSR は日本企業にとっ
て比較的受け入れやすいものであった64。
しかし、2000 年代半ばとなると状況に変化が表れ始めた。谷本(2014)によれば、その時期における日本
企業の CSR 認識には企業や業界によって大きなばらつきがあり、CSR を社会貢献活動と同義としてと
らえる企業や、本業そのものが社会に貢献しているのでとりたてて CSR 活動を行う必要性はないと考え
る企業も存在したという。
前者の代表的な例が金融機関であり、2006 年 3 月の金融庁調査によると、CSR がフィランソロピー稼働
や環境保護への支援と同義に考えられ、重要な経営課題とは認識されていなかったことが分かる。一方、
後者の代表例が建設業界で、2006 年 11 月の建設業情報管理センター・建設経済研究所の共同調査によ
ると、建設業界において CSR の最も重要なことは何かという問いに対し、65.7%が「品質の良い施工」
であると答え、また、CSR の取り組みをいつから行ってきたかという問いに対しては、62.4%が「すで
に取り組んできた」と回答している。
そして、2000 年代後半に入ると、日本企業の間にも CSR に対する欧州型の認識、つまり CSR とは既存
の社会貢献活動や法令遵守の総称ではなく、社会的・環境的な課題を事業活動の中に組み込み、それを
前提にしたビジネスモデルをとることであるという認識が徐々に広がってきた。
この意識の変化を裏付けるデータとして、
谷本(2014)では『CSR 企業総覧』
(東洋経済新報社, 2005-2013)
を引用している。それによると、例えば CSR 関連部署の設置企業数は、2005 年の 25.6%から 2013 年に
は 73.2%と大きく増加している。また CSR 担当役員設置企業数も、2013 年は 65.8%と、2005 年の 35.2%
から大幅に増加している。また、環境課題のみではなく、社会課題やコーポレート・ガバナンスまで包
括的に開示する報告書を発行している企業数も急増しており、企業が CSR にますますプライオリティを
置いていること、かつより包括的な CSR の概念を取り入れていることが分かる結果が出た65。
このような流れにあわせて、CSR に関する捉え方も徐々に変化していると考えられる。
例えば、経済団体連合会では、1991 年に「企業行動憲章」を発表して以来版を重ねているが、その改訂
過程では企業の定義に変化が見られる。具体的には、初版からの考え方を引き継ぐ 2004 年改訂では「企
業は、公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体であると同時に、広く社会にとって有用な
存在でなければならない。
」としていた。これに対し、2010 年の改訂において、
「企業は、公正な競争を
通じて付加価値を創出し、雇用を生み出すなど経済社会の発展を担うとともに、広く社会にとって有用
な存在でなければならない。
」としている。
また、経済同友会が 2010 年に出版した報告書「日本企業の CSR-変化の軌跡」では、71%の経営者が CSR
を「経営の中核に位置付ける重要課題」と答えており、2002 年の 50.7%と比較して 20 ポイントほど増
えた。また「CSR を企業戦略の中核として組み込む」と答えた経営者の割合も 31%と、2002 年の 8%よ
64
65
藤井敏彦「ヨーロッパの CSR と日本の CSR」(日科技連、2008)P44-45
谷本寛治「日本企業の CSR 経営」
(千倉書房、2014),P90-95
19
り 4 倍近くに増えている。この結果から、経営者にも本来の CSR の在り方が浸透しつつあることが分か
る。さらに経済同友会(2007)は、法律やコンプライアンスに関わる課題に取り組む「受身の CSR」から
次の段階にシフトし、企業イメージやブランド価値向上のために本業を通じて社会課題の解決に取り組
む「攻めの CSR」を検討すべきである、と指摘している66。
2.3
欧米における CSR の発展過程と国別の企業の CSR 取組動向
(1) 欧州における CSR の概念の拡大
欧州は、比較的狭いエリアに多様な民族が集まり、古来、統合と分裂の歴史を繰り返してきた。EU 統合
は、人やモノの動きを自由にすることで経済効率性を目指すものだが、人は経済合理性だけで自由に動け
るものではなく、かえって失業問題を深刻化させた。しかし、EU 加盟各国に課された財政制約は、各国
における財政政策による雇用創出を妨げており、失業問題から派生する社会の不安定化や、それが引き起
こす経済の停滞が懸念されている。こうした状況下、EU 統合のプロセスにおいて CSR 問題を社会・経
済システムに統合しようとする努力は必然といえる 67。以下では、そうした背景において欧州における
CSR の概念がどのように変化してきたのかを概観する。
欧州委員会が CSR を最初に定義したのは 2001 年のことで、CSR を「企業が社会及び環境についての問
題意識を、自主的に自社の経営及びステークホルダーとの関係構築に組み入れること」とした。「持続的
な経済成長が可能で、より多くのよりよい雇用といっそうの社会的結束力を備えた、世界で最も競争力と
活力のある知識基盤型経済圏」の構築を目指すリスボン戦略(2000~2010 年)の目標達成に向け、CSR 活
動の強化を欧州戦略の重要な要素と位置付けたのである68。
次に再定義されたのは、欧州マルチステークホルダー・フォーラムにおいてである。マルチステークホル
ダー・フォーラム報告書(2004)は、CSR をこう定義づけている。
「CSR とは、社会面および環境面の考慮を自主的に業務に統合する事である。それは、法的要請や契約
上の義務を上回るものである。CSR は法律や契約に置き換わるものでも、それを避けるためのものでも
ない69」
このように、CSR はコンプライアンスを超えた、企業による自主的なものとして明確に定義されている。
さらに、欧州委員会は、
「リスボン戦略」に基づいて、2000 年~2010 年に CSR に関する独自の概念を構
想する中で、当該戦略の中間点にあたる 2005 年に戦略の見直しを行い、
「成長と雇用のための新しいパ
ートナーシップ」として再開した。CSR との関連では、欧州を「CSR に関する知の中心」とすることに
66
経済同友会「CSR イノベーション-事業活動を通じた CSR による新たな価値創造日本企業のグッド・プラクティス 2007」(2007)
67
国立国会図書館 調査と情報第 476 号 『ISSUE BRIEF 企業の社会的責任(CSR)―背景と取り組みー』 (2005 年 3 月)
〔http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/0476.pdf〕P5(最終検索日 2015 年 3 月 26 日)
68
寺崎直通「CSR 白書 2014“統合を目指す CSR その現状と課題”」
(2014 年 7 月、東京財団)P214
69
藤井敏彦「ヨーロッパの CSR と日本の CSR」(2005 年 9 月、日科技連出版社)P20
20
焦点が当てられた。ここで確認された新しい CSR の定義は以下である。
「企業が自主的に、その事業活動の中に、または、ステークホルダーとの関わりの中に、社会及び環境へ
の配慮を組み込むという概念70」
そして 2011 年、欧州委員会は、欧州経済危機の中で、CSR の推進により「持続可能な成長」
、
「責任ある
企業行動」
、「中長期における持続的な雇用創出」の条件を整備することを主目的として「CSR に関する
EU 新戦略 2011-2014」を発表、その中で CSR は「企業の社会への影響に対する責任」と新たに定義さ
れた。これを推進するために、企業は法令遵守、労働協約の尊重のみならず、すべてのステークホルダー
と協働しながら経済、環境、社会、人権に関する問題や消費者の懸念を事業活動や事業の中核的な戦略に
統合しなければならないとした。
つまり、CSR は、事業を通じた利益の創出という経営の根幹に関わる事項であると位置づけられ、その
目的を、①株主と、その他のステークホルダー及び社会との間で、共通価値(Shared value)の創造を最
大化すること、及び②社会、環境等に対して起こり得るマイナスの影響を特定し、予防し、緩和すること
である、とされた71。
(2)アメリカにおける CSR 概念
アメリカは国土が広く、その国家の成り立ちとして、まず地域社会が形成され、そこから州ができ、最後
に一つの国家となったという経緯があり、地域社会への指向が強い。また、企業単位においてもそのよう
な指向が根付いているため、成功した者が地域社会に果実の一部を還元することは何をおいても優先する
責務と理解されている。そのため、アメリカにおける CSR は歴史的に「利益を地域社会に還元する事」
の意味合いが強い。
また一方で、アメリカではフィランソロピーとしての CSR は当然の責務であるという認識が「企業の利
益を地域社会に投資する」という考えに通じており、SRI 投資の考え方が古くから存在していた。その起
源は 1920 年代に教会が資金を運用する際に、タバコ、アルコール、ギャンブルなど教義に反する企業へ
の投資を避けたのが発端とされている。このような SRI の考え方は、ベトナム反戦運動など社会運動が
活発化し、市民の意識が高まるにつれ、企業の社会的責任を追及する手段として利用されるようになった。
こ の よ う に 、 ア メ リ カ に お け る CSR の 歴 史 は 長 く 、 1971 年 に は Committee for Economic
Development(CED)が、CSR を、「建設的に社会のニーズを満たすビジネス上の機能」と定義したが72、
上記のとおり、アメリカの CSR は、地域への貢献意識や宗教上の倫理観を基礎として民間から自発的に
発展した歴史を持っている。この点において、環境や社会問題を事業に統合し戦略的に進めようとする欧
州の CSR とは大きく成り立ちが異なっており、欧州委員会は、アメリカの CSR を「フィランソロピー×
地域社会」と表現している73。
70
財団法人 企業活力研究所「CSR の戦略的な展開に向けた企業の対応に関する調査研究報告書~経営への CSR の統合による企業価値
創造と競争力強化~」(平成 23 年 3 月)P4
71
寺崎直通「CSR 白書 2014“統合を目指す CSR その現状と課題”」
(2014 年 7 月、東京財団)P215
72
UNESCAP (April 25, 2013) From Corporate Social Responsibility to Corporate Sustainability: Moving the Agenda Forward in Asia and
the Pacific, Studies in Trade and Investment No. 77, P11
http://www.unescap.org/sites/default/files/6%20-%20Chapter%20II_Developments%20in%20the%20concept%20of%20CSR.pdf
73
藤井敏彦「ヨーロッパの CSR と日本の CSR」(日科技連出版社、2014 年 7 月)P.42~45
21
その一方、近年、アメリカのグローバル企業を中心に、環境や社会的な問題から消費者や NGO などから
激しい非難を受け、それが株価下落や株主利益を損なう要因になることが認識されるようになってきた。
そのため、近時、企業が事業活動において社会的責任を果たすことが、むしろ株主利益につながるとの考
えが広がり、欧州的な CSR 活動の重要性が認識されるようにとなっている74
75
。
なお、そうしたアメリカにおいて、CSR を一歩進めて CSR と収益確保を両立させる考え方として、近時
注目されているのが CSV(Creating Shared Value)である。CSV は、持続的な事業活動を行うためには
企業活動を通じて一定の収益を確保していくとともに、消費者や従業員、株主、地域住民等が求める様々
な社会的な課題にも対応していかなければならないとする考え方で、アメリカの経営学者マイケル・ポー
ターが、「ハーバード・ビジネスレビュー(2006 年 12 月号)
」誌で、マーク・クラマーとの共著の論文
「Strategy and Society」において、従来の「CSR(corporate social responsibility)」から「CSV」への転
換について述べている。
以上、欧州とアメリカの CSR についてみてきたが、以下では、それらの地域も含めて国別の企業の取組
動向を比較・考察する。
(3)国別の企業の CSR 取組動向
ここまで、
主要な経済圏として世界をリードしている欧州とアメリカにおける CSR の取組をみてきたが、
近年はアジアにおいても CSR への取組が拡大している。以下では、欧州、アメリカのほかにアジアの主
要 3 か国を含んだ企業の CSR へ取組における実態について国際的比較を行った。調査対象国は、日本、
米国、英国、ドイツ、オランダ、中国、韓国の 7 か国であり、検討にあたっては 2 つの観点から実施し
た。1つ目の観点は、企業側の視点として、CSR 関連のイニシアティブに対する取組状況の比較、もう
1 つの観点は、ステークホルダー側の視点として、企業の取組に対するステークホルダーの評価の比較で
ある。
前者については広く CSR 関連のテーマを取り扱った国際的なイニシアティブとして、国連グローバル・
コンパクトへの参加の有無を国別に調査することとした。また、後者については、サステナビリティ全
般を対象とする格付けの中では、最も信頼性のある格付けとして認知されている DJSI76への選定状況を
国別に調査することとした。
① 国連グローバル・コンパクト署名企業数に関する国際的比較
国連グローバル・コンパクト(以下、国連 GC)は 2000 年にニューヨークの国連本部で正式に発足。署
名組織は、自らの戦略及び事業を人権、労働、環境及び腐敗防止に関する 10 の原則に整合させるよう行
74
米山秀隆「図解よくわかる CSR」(日刊工業新聞社、2004 年 12 月)P.29~30
国立国会図書館 調査と情報第 476 号 『ISSUE BRIEF 企業の社会的責任(CSR)―背景と取り組みー』 (2005 年 3 月)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/0476.pdf(最終検索日 2015 年 3 月 26 日)
76
SustainAbility “Rate the Raters”
http://www.sustainability.com/projects/rate-the-raters#projtab-0 (最終検索日 2015 年 3 月 23 日)
75
22
動をとる。取組状況は、同組織のデータベースを使い、イニシアティブへの署名企業数を国別に調査し
た。各国の経済規模と比較するために、調査対象国の GDP 合計に各国が占める割合と署名社の占める割
合を算定した。
図表 7 国別の GC 署名と GDP の比較
出典:GC 署名社数 United Nations Global Compact Participant search (United Nations Global Compact)77と
名目 GDP(United Nations)78を参照し、あらた監査法人作成
国の経済規模に比較して、国連 GC の署名企業が多いのが、日本、英国、ドイツ、オランダである。一
方で、米国の署名企業数はドイツと近く、経済規模に比べると少なく、韓国にいたっては署名企業が存
在していない。
② DJSI 選定企業に関する国際的比較
Dow Jones Sustainability Index(DJSI)は、Robeco SAM 社が各社への調査票による調査を元にダウ・
ジョーンズ社が選定した企業の株式指標である。母集団として、時価総額を元に約 3000 社が選定されて
おり、その中から約 250 社が Sustainable Year book member として選出(以下、DJSI に選出と称する)
される。
母集団となる企業群は各国で時価総額の上位に来る企業として、CSR のレベルもその国で高いレベルに
あると考えられる。DJSI への選出率の高さは、外部からの評価において CSR 取組状況のレベルの高さ
を表しているといえる。
77
United Nations Global Compact
https://www.unglobalcompact.org/participants/search (最終検索日 2015 年 3 月 10 日)
78
United Nations National Accounts Main Aggregates Database
http://unstats.un.org/unsd/snaama/dnllist.asp (最終検索日 2015 年 3 月 20 日)
23
図表 8 国別の DJSI 選定企業比較
出典: DJSI Annual Review 2014 (Dow Jones Sustainability Indices) 79
ドイツ、オランダの選定率が高いことと、中国からの選定企業が無いことが特徴的である。中国企業が 1
社も選出されていないのは、DJSI の評価項目の重要な一要素である企業統治について、中国の特殊性に
起因している可能性がある。また、CSR への取組についてアジアの中ではリーダー的存在と考えられて
いたに日本を、韓国が上回っていることは注目すべき結果である。
③ イニシアティブへの参加と投資家からの評価に関する考察
CSR 関連のイニシアティブへの参加に積極的な企業は、CSR の取組みにおいて秀でており、投資家から
の評価も高いとの仮説が考えられる。そこで、国連 GC に署名した上場企業数と DJSI に選出された企業
数と各国比較を行う。経済規模の違いを考慮するために、各国 GDP の割合に対する、DJSI 選出企業お
よび GC 署名企業の割合を比較している。
図表 9 国別の DJSI 選定企業、GC 署名企業、GDP の比較
出典:DJSI 選定企業(DJSI Annual Review 2014)、GC 署名上場企業(United Nations Global Compact
Participant search)、名目 GDP(United Nations)を参照し、あらた監査法人作成
79
Dow Jones Sustainability Indices
http://www.sustainability-indices.com/review/annual-review-2014.jsp (最終検索日 2015 年 3 月 20 日)
24
国連 GC に署名する上場企業の割合は日本が高いのに対して、DJSI 選出企業における日本企業の割合は
少ない。これに対し、米国や韓国は GC 署名に比べて DJSI 選出企業数が多く、特に韓国においては国連
GC に署名した上場企業が存在していないにも関わらず、DJSI 選定企業は 21 社と、日本の 22 社とほぼ
同数である。中国企業は GC 署名企業が存在するものの、一社も DJSI に選定されていない。
国連 GC への署名軸と DJSI への選定軸との 2 軸によって各国をマッピングすると、以下のように分ける
ことができる。
(あくまでも、GDP 構成割合に比べて各評価軸を相対的に評価したものであることに留意
されたい)
図表 10 DJSI 選定と GC 署名の国別状況
出典:あらた監査法人作成
GC 署名の取組は必ずしも外部評価とは連動していないといえる。ただし、DJSI 選出の多い 4 国は、サ
ステナビリティ報告をリードする GRI を参照する企業数が多い国 4 か国(英国、ドイツ、オランダ、韓
国)と一致する80。
④ まとめ
企業が自ら CSR 関連のイニシアティブに取組むことと、外部の評価は必ずしも連動していない。本調査
で扱った DJSI と GRI は共に欧州を拠点としており、欧州企業が評価されやすい面はあるが、DJSI は信
頼性のあるサステナビリティ格付けとして上位に位置し、統合報告を開発する国際統合報告委員会(IIRC)
設立における中心メンバーである GRI も非財務報告のデファクトスタンダードになりつつあり、ともに
実質的な取組がないと対応できないイニシアティブでもある。
日本企業にとっては、DJSI の評価が相対的に低い原因に、情報開示が控えめであるために、実際の取組
より低く評価されている可能性があるという声があった。
80
経済産業省「国際的な企業活動におけるCSR(企業の社会的責任)の課題とそのマネジメントに関する調査」報告書(2014年5月)
http://www.meti.go.jp/press/2014/05/20140523004/20140523004_2.pdf(最終検索日 2015/3/20)
GRI アプリケーションレベルを宣言している企業が多い上位 4 か国はオランダ、ドイツ、英国、韓国。
25
3.
CSR 活動等と企業価値創造及び競争力強化の関係分析
3.1
グローバルな社会課題の概要
3.1.1
グローバルな社会課題の動向
① 気候変動

気候変動の現状
気候変動に関する政府間パネル(IPCC81)が 2013 年に公表した第 5 次評価報告書は、
「気候システムの温
暖化については疑う余地がない」と公表している。
「1880~2012 年において、世界平均地上気温は 0.85℃
上昇しており、最近 30 年の各 10 年間の世界平均地上気温は、1850 年以降のどの 10 年間よりも高温で
ある」ことを示している。また、温暖化の要因については、
「人間活動が 20 世紀半ば以降に観測された
温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い」としている。82

気候変動による影響
気候変動は、気温や降水量といった基本的環境条件を変えるため、影響が様々な分野に連鎖的に波及す
る。さらに、高齢化や都市化の進展、土地利用の変化といった他の要因とも重なり合い、より深刻な影
響が現れる場合もある。例えば、水資源分野では、熱帯・亜熱帯の乾燥地域で現在よりさらに降水量が
減り、水資源量が減少すると予測されており、海岸沿いの地域では、海面上昇に伴い塩水の地下水への
侵入が懸念されている。水災害分野では、豪雨の増加により洪水リスクが増大する地域がある一方、渇
水の時期が長期化する地域もあるという予測がある。
人間生活に係る分野においては、地域によって作物の生産力の低下や、病害虫被害が予想されているほ
か、気温上昇による熱関連疾患の増加、感染症の拡大が懸念されている。さらに、農産物の価格上昇や
冷暖房に用いるエネルギー需要の変化も予想されている。83
② 人口動態の変化
アフリカ等爆発的な人口増加を迎える国がある一方で、日本のように人口減少に直面する国が表れる。
急速に高齢化を迎える特定の国では、全人口に占める労働人口の割合が減少し、労働力不足の社会課題
が生じる。国連の分析によると 2050 年には 60 歳以上の割合が全人口の 21%に到達すると予想されてい
る。その一方で、途上国では若年人口の割合が高く、巨大労働力市場と消費市場となる。潜在的生産力
として若年人口の衣食住、教育、雇用に関わる市場が急速に拡大する。84
経営にとっての課題は、若年労働者が労働慣行および企業組織の構造を変えることである。今後事業を
担う新世紀世代(1980 年代以降生まれ)における優秀な人材の獲得のためにより柔軟な労働環境とイン
センティブ(成果に応じた報酬制度など)が必要となる。また、科学・技術・工学・数学領域の優秀な
人材の争奪はますます激化し、従業員採用はグローバル化する。
81
IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change
82
文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書第 1 作業部会報告書の公表
について」(2013 年 9 月)より引用
http://www.jma.go.jp/jma/press/1309/27a/ipcc_ar5_wg1.pdf(最終検索日 2015/3/25)
83
文部科学省 気象庁 環境省「日本の気候変動とその影響」
(2012 年度版)より引用
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/rep130412/report_full.pd(最終検索日 2015/3/20)
84
UN report World Population Aging 1950-2050
http://www.un.org/esa/population/publications/worldageing19502050/pdf/62executivesummary_english.pdf(最終検索日 2015/3/20)
26
③ 資源不足
新興国が生産中心地域から消費志向地域へとシフトしつつある。密接に関連する新興成長市場間で起き
ている経済的なフローにも目を向ける必要がある。PwC の予想によると 2050 年には E7(中国、インド、
ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、トルコ)の GCP は 138.2 兆ドルとなり、G7(米国、日本、
ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダ)の GDP69.3 兆ドルの 2 倍を超えるまで成長する85。
現在、世界人口の約 50%が都市に住んでいるが、国連の予測によれば 2030 年には 49 億人が都市部に居
住するようになる。また、2015 年には世界に 22 のメガシティ(人口 1,000 万人超の都市)が存在し、
そのうち 17 は新興国である86。急激に発展する都市ではその成長に応じた大規模なインフラへ投資が生
じてくる。
85
PwC『2050 年の世界 BRICs を超えて:その展望・課題・機会』を元に、あらた監査法人により分析
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/archive/assets/pdf/world-in-2050.pdf (最終検索日 2015/3/20)
86
UN Department of Economic and Social Affairs
http://www.un.org/en/development/desa/index.html (最終検索日 2015/3/20)
27
3.1.2
社会課題と主要なグローバル・フレームワークの動向
社会課題としてどのようなものが捉えられているかを分析するにあたり、グローバルに活用されている
主な 3 つのフレームワークを以下紹介する。
■ISO 26000
 ISO26000 は、先進国から発展途上国まで含めた国際的な場で複数のステークホルダー(消費者、政
府、産業界、労働、NGO、 学術研究機関他)によって議論し開発され、2010 年 11 月 1 日に発行さ
れた国際規格である。 認証を意図した国際マネジメントシステム規格ではなく、組織が、任意にス
テークホルダーを重視することによって効果的に社会的責任を組織全体に統合するためのガイダン
ス規格である。87
 ISO26000 は、その中核主題として、
「組織統治」
「人権」
「労働慣行」
「環境」
「公正な事業慣行」
「消
費者課題」及び「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」の 7 つを掲げている。
「組織統治」
を除いた 6 つの中核主題のもとで、さらに複数の課題が紐づけられ、本フレームワークでは合計 36
個の課題が設定されている。
 ISO26000 は企業の規模を問わず、先進国、
途上国まで様々な国や地域で活用することが可能である。
ただし、企業の活動範囲やレベルは千差万別なため、全ての中核主題や課題を網羅することは期待さ
れていない。企業が取り組むにふさわしい関連性及び重要性を有する課題を自社で同定したうえで、
各々にふさわしい社会的責任を果たすことが求められる。また、取り組み内容に関する成果は定期的
に確認し、改善へ向けた施策を策定/実施していくことが重要視されている。
図表 11 ISO26000 の設定課題~7 つの中核主題と課題~
出典:財団法人 日本規格協会 ISO/SR 国内委員会 http://iso26000.jsa.or.jp/_inc/top/iso26000_tool/1.gaiyou.pdf 及び
ISO/SR 国内委員会「ISO26000 社会的責任に関する手引き」(日本規格協会、2011)を参照し、 あらた監査法人作成
87
財団法人 日本規格協会 ISO/SR 国内委員会
http://iso26000.jsa.or.jp/_inc/top/iso26000_tool/1.gaiyou.pdf(最終検索日(最終検索日 2015 年 3 月 26 日)
28
■GRI「G4 サステナビリティ・レポ―ティング・ガイドライン」88
 GRI サステナビリティ・レポ―ティング・ ガイドラインは、組織がサステナビリティ報告書を作成
するための報告原則、標準開示項目および実施マニュアルを提供するものであり、組織の規模、セク
ター、所在地を問わず利用できるガイドラインである。本ガイドラインは 2000 年の初版発行後、
繰り返し改定がおこなわれており、2002 年に第 2 版、 2006 年に第 3 版、近年では 2011 年に第
3.1 版が発行、最新版である第 4 版 G4 が、2013 年 5 月に公表された。
 G4 では、サステナビリティ報告書において開示が必要な具体的な情報として、①「General Standard
Disclosures(一般標準開示項目)
」と②「Specific Standard Disclosures (特定標準開示項目)
」の2
タイプを設定している。①は、本ガイドラインを活用するすべての組織に適用される一般的な情報で
ある。また、②は、具体的な問題を3つのカテゴリーとそれぞれに定められた側面について区分し、
各々のマネジメント手法および具体的な指標が定められている。以下、社会課題に関係すると考えら
れる特定標準開示項目を示す。
以下の特定標準開示項目は、取組の対象とする具体的な項目であり、G4 は、従前と同様、持続可能性問
題を「経済」
「環境」及び「社会」という3つのカテゴリーに分け、さらに「社会」を 4 つのサブカテゴ
リーに分けている。
88
GRI 関連リンク
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-service/sustainability/knowledge/column/csr-sustainability-info/sustainability-column130709.jhtml
(最終検索日 2015/3/20)
https://www.globalreporting.org/resourcelibrary/Japanese-G4-Part-One.pdf (最終検索日 2015/3/20)
29
図表 42 GRI ガイドラインの設定課題:特定標準開示項目
カテゴリー
経済
環境
側面
経済的パフォーマンス
原材料
地域での存在感
エネルギー
間接的な経済影響
水
調達慣行
生物多様性
大気への排出
排水および廃棄物
製品およびサービス
コンプライアンス
輸送・移動
環境全般
サプライヤーの環境評価
環境に関する苦情処理制度
カテゴリー
社会
サブカテゴ
リー
労働慣行とディーセ
ント・ワーク
人権
社会
製品責任
側面
雇用
投資
地域コミュニティ
顧客の安全衛生
労使関係
非差別
腐敗防止
労働安全衛生
結社の自由と団体交
渉
公共政策
製品およびサービスの
ラベリング
研修および教育
多様性と機会均等
男女同一報酬
サプライヤーの労働
慣行評価
労働慣行に関する苦
情処理制度
児童労働
反競争的行為
コンプライアンス
強制労働
サプライヤーの社会
への影響評価
保安慣行
先住民の権利
マーケティング・コミュ
ニケーション
顧客プライバシー
コンプライアンス
社会への影響に関す
る苦情処理制度
人権評価
サプライヤーの人権
評価
人権に関する苦情処
理制度
出典:GRI ウェブサイト G4「報告原則および標準開示項目」より引用
■Sustainability Accounting Standards Board(米国サステナビリティ会計基準審議会)89
 Sustainability Accounting Standards Board(以下、SASB)は米国の非営利団体である。2013 年以来、
89
SASB 関連リンク
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-service/sustainability/knowledge/column/csr-sustainability-info/csr-sustainability-info130517.jhtml
(最終検索日 2015/3/20)
http://www.sasb.org/wp-content/uploads/2013/10/SASB-Conceptual-Framework-Final-Formatted-10-22-13.pdf
(最終検索日 2015/3/20)
http://www.sasb.org/standards/status-standards/(最終検索日 2015/3/20)
30
米国上場企業が SEC(連邦証券取引委員会)に提出を義務付けられている財務書類において、企業
がそのパフォーマンスと長期的な価値創造に影響を及ぼしている具体的な持続可能性問題を説明す
るための簡潔で適切な基準の開発を目指している。
 具体的には、「環境」、「社会資本」、「人的資本」、「ビジネスモデルとイノベーション」及び「リーダ
ーシップとガバナンス」という 5 つのカテゴリーで分類される 43 の課題に関し、インダストリーご
との基準策定をおこない、各インダストリーの重要な課題について最低限の基準を示している。下記
の図表 13 のとおり、インダストリーが直面する社会問題と、企業の戦略、ビジネスモデルおよび商
習慣との間のつながりを明らかにしている。
図表 13 SASB の設定課題
出典: SASB のウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
この基準に沿って開示された情報によって、投資家は、企業の長期的な価値創造に向けた組織体制と、
価値創造能力の鍵となるリスクと機会を評価することが可能となる。
 米国での財務報告については、民間団体である FASB が米国の企業会計の基準をとりまとめる機関と
して SEC に正式に認められているが、SASB は、非財務情報の開示に関して、FASB 同様の立ち位
置として機能することを目標としている。
 今後は 10 のインダストリーにかかる基準が順次公開される予定であるが、2015 年 3 月時点、6 つの
インダストリーにかかる基準が公開されている(ヘルスケア、金融、テクノロジー&コミュニケーシ
ョン、石油ガス&金属・鉱業、輸送、サービス)。2016 年 3 月にすべての基準が完成する見込みであ
る。
31
3.1.3
社会課題と経営課題との関係の考察
我が国企業においても、CSR 担当部署を設けているところは増えている。CSR の取組に、経営や事業面
でどのような効果を期待するのかといった点につき、共通理解を得ることや経営戦略、マーケティング戦
略と関連付けることへの難しさがあるとの声も聞かれる。
本調査では、中長期の経営課題になり得る社会課題90が何で、それをどのように認識し、さらに経営課
題として目標に落とし込んでいるかという点についてヒアリング調査及びアンケート調査を実施した。国
内外の企業へのヒアリング調査 8 社に加えて、国内の企業へのアンケート調査により 17 社から回答を得
た。また、国内外の企業 55 社の文献調査においても、その点を意識して調査した。
その結果、多くの企業が、自社にとって重点的に取り組むべき社会課題の特定を実施している。特定して
いる社会課題は企業ごとに多岐にわたるが、業種による特徴も見られた。例えば、電気機器メーカーにお
いては、
「資源」や「エネルギー」を課題として特定している例が見られた。また、食品関連業では、
「健
康」を課題として特定している例が見られた。一方、サービス業においては、「少子高齢化」を課題とし
て特定している例が見られた。
図表 14 社会課題と経営課題との関係の考察
出典:ヒアリング調査により、あらた監査法人作成
しかし、その社会課題をどういう経営課題として捉え、経営目標に落とし込んでいるという点については
90
社会課題の捉え方には様々な考え方が存在し、時代によって変わりうるものである。例えば東京財団「CSR 白書 2014」P236 では、社
会課題を「社会の持続的発展のため、解決が必要な問題でありながら、その問題解決に十分な経営資源(ヒト、モノ、カネ、技術、知識
等)が投下されていない課題」と定義している。
32
課題となっている企業が多かった。そこで、本調査では社会課題を経営課題につなげる取り組みが、必ず
しも短期的な企業利益に繋がるものではないものの、それに取り組む企業は、ビジネス機会を獲得する可
能性があることなどにより長期的な企業の成長につながりうることについて、可視化することを目的とし
ている。
参考までに、社会課題が経営課題として認識されていると考えられる事例として、ユニリーバ社とプーマ
社の例を紹介する。
33
■ユニリーバ社の「サステナブル・リビング・プラン」(図表 15 を参照)
不確実で不安定な世界で成長を実現するために、ユニリーバは 2010 年、「ユニリーバ・サステナブル・
リビング・プラン」を発表。環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスの規模を 2 倍にすること
を目指している91。
このプランでは、「健康・衛生」「環境負荷の削減」「経済発展」の 3 つの分野で、9 つの目標を設定し
ている。
このプランはサステナビリティを推進するだけではなく、ブランドの利益ある成長やイノベーションの強
化、コスト削減にもつながっている。
図表 15 サステナビリティ取組による成長
出典:Uniliver Website より引用
91
ユニリーバ・ジャパンのウェブサイトより
34
■プーマ社の「環境損益計算書」
プーマは 2011 年に環境損益計算書を公表した(図表 16 参照)
。これは自社とサプライチェーンの環境負
荷を金額で評価したものである。金額による可視化を図ることにより、経営層や事業部門(特に調達部門)
において、環境課題が自社の経営課題であることの理解が進んだ例といえる。プーマでは、環境損益計算
書を①戦略策定や新製品の開発、②持続可能なサプライチェーン構築、③コミュニケーションのツールと
して役立てている。
プーマの環境損益計算書の成功を受けて、プーマの親会社であるケリングでは、2016 年までにグループ
全体の 23 ブランド(グッチ、サンローラン等)すべてで環境損益計算書を作成することを公表し、2013
年までにグループの6つの主要ブランドで環境損益計算書を作成した。ケリンググループでは、ステーク
ホルダーとの対話により経営課題として取り組むべき社会課題を特定している(マテリアリティ分析92)。
しかし、社会課題のうち、環境要因については金額による影響が評価できるため、マテリアリティ分析で
はなく、環境損益計算書を活用して経営課題として取り組むべき社会課題を特定している。ケリンググル
ープでは、環境損益計算書が環境要因に関する最善の経営意思決定ツールと考えている93。
図表 16 プーマの環境損益計算書
出典:Puma の Website を参照して、あらた監査法人作成
92
93
GRI ガイドラインにおけるマテリアリティ分析
ケリングへのヒアリング調査より
35
3.2
3.2.1
戦略的 CSR 活動94による企業価値創造及び競争力強化の可視化フレームワーク
可視化に向けた三段階構造の考察
取組の段階を企業の階層で分けると、おおよそ三つに分解できる。まずは、ミッション、ビジョン等経
営者の意思決定と実行に関わる階層である。歴史に残る経営者が将来の目標を掲げ、それに向かって組
織が邁進してきた例が過去に見て取れる。
その次は設定されたビジョンを実現するために全社横断的な活動であり、人事部や経理部のような内部
管理組織と製造部門、営業部門、さらには R&D 部門をいかに適切に機能させるかであり、個別最適と全
体最適のバランスによって、各部門が調整されながら活動していく段階である。
最後は各部門の構成員が生産性向上や業務の効率化をめざして活動する現場の活動段階である。
この三階層は原則として上位から下位にトップダウンとして指示命令が伝達され組織が機能している。
ただ、シリコンバレーに存在するいわゆるフラット型組織を有するベンチャー的な企業の形態もある。
各人がチームに対して貢献するのみならず、組織全体に貢献する活動を行い、上位から下位のみならず、
下位から上位への情報の伝達と議論が行われる組織である。
以下においてこの三階層を企業価値創造及び競争力強化の可視化のフレームワークの観点から記述する。
1.経営者の視点
経営者は、企業の存在価値としてミッションを策定し、そのミッションを実現するための価値観として
バリューを規定する。さらに長期的視点から将来の「あるべき姿」としての経営ビジョンを作成する。
これらミッション、バリュー、ビジョンが経営の羅針盤となり、将来のビジョン実現にむけて経営資源
の最適配分が実行される。この経営資源の配分活動により、組織のあり方、技術力・コアコンピタンス、
マーケット等が決定され実行に移され、定期的にモニタリングされて企業として運営されていく。持続
的成長を続ける企業は、ミッション、バリュー、ビジョンを組織の末端まで根付かせるよう経営者自ら
活動し、XX 企業文化や XX フィロソフィーとして定着化を図っている経営者の視点が生きている。
2.全社横断的な視点
例えば、部門を超えたチーム体制を重要視する新たなガバナンスを導入する事、女性や外国人を積極
的に活用する多様性、様々なステークホルダーとの積極的対話等を促す活動を行う全社横断的な視点も
持続的成長には重要である。
3.事業部門単位の視点
事業部門単位の視点としては、一般的には、「現場」と言われる領域である。フロントオフィスとして、
また、調達から販売・サービスに及ぶサプライチェーンの一部を構成する事業部門の視点である。最近
のサプライチェーンは ICT 技術の進展により変化のスピードが速く、複雑化しており、この部分の差別
化が持続的成長にとって不可欠な部分である。かつてはオペレーションの最適化で優位性を保っていた
我が国の企業もグローバル化と ICT 技術の進展により、今までにない視点が必要となっている。それは
社会課題を新たな視点から観察して、新サービスや商品として提供する事や、異業種との協業により今
ここで、戦略的 CSR 活動とは、当該企業にとって重要な社会課題を認識し、経営課題として事業活動に落とし込むことにより、CSR
を中長期的な競争力強化につなげようとする戦略的な取組であると定義する。
94
36
までなかった価値を見出すことである。
「現場」がマーケットやサプライチェーンに高くアンテナを張り
いち早く情報をキャッチし、それを全社横断的な活動として取り上げて持続可能なビジネスに展開する
事が求められている。この現場力は、XX 企業文化や XX フィロソフィー等、持続的成長を図る経営者の
現場に対する取組により維持され活性化されている。
3.2.2
可視化における評価軸の考察
上記の企業活動の3つの視点により、戦略的 CSR 活動を評価する軸を検討する。評価軸の検討に当たっ
ては、社会課題解決に向けて、その評価軸に対する戦略的な取組により、中長期的な企業の競争力強化に
資する可能性があるという観点を考慮した。ヒアリング調査で多く指摘されたことは、「中長期という視
点」、
「イノベーションによる新しいビジネスモデルの構築」、
「統合的な企業活動」という点であり、これ
らを踏まえて以下の評価軸を検討した。なお、新しいビジネスモデルの中には、まったく新しいビジネス
モデルを創り出すことのみならず、既存のビジネスモデルを社会課題の観点から再認識し、戦略的 CSR
活動につなげていくことも含まれると考えられる。
1.経営者の視点
調査の結果を踏まえると、戦略的 CSR 活動を推進する力となるのは、そのような活動に対する経営の中
長期ビジョンであると考えられる。ここで、経営の中長期ビジョンには経営理念等の企業ミッションに社
会的価値の向上という要因が含まれていることに加えて、戦略的 CSR 活動に対する経営トップの意志が
明確であることが含まれると考えられる。
例えば、マークス&スペンサー社の「Plan A」やフィリップス社の「循環経済(Circlular Economy)」と
いった戦略的 CSR 活動は、経営トップの明確な意志が取組開始の契機となっている。これらの活動は、
資源不足等のグローバルな社会課題を踏まえた中長期の戦略的な取組であり、中長期的な企業の競争力強
化を目指している。マークス&スペンサー社では Plan A の推進のためガバナンス体制を見直し、新しい
3つの委員会を立ち上げた。また、フィリップス社では循環経済のコンセプトによる戦略的な新製品開発
を推進するためのチームを立ち上げた。
このように、戦略的 CSR を志向した中長期ビジョンは、組織のガバナンス体制や人材の能力の発揮とい
った全社横断的な企業構造に影響を及ぼすことによって、新しい製品開発や持続可能なサプライチェーン
の構築といった事業部門単位の戦略的 CSR 活動を推進する力となると思われる。その結果、戦略的 CSR
活動が中長期的な企業の競争力強化につながっていくことになると考えられる。
2.全社横断的な構造(視点)
調査の結果を踏まえて、全社横断的な構造のうち、戦略的 CSR 活動という観点から重要であると考えら
れる評価軸を4つ取り上げる。
①多様な人材の能力の最大化(経営資源の配分)
調査の結果を踏まえると、我が国の企業の活動、特に新興国における活動において重要なポイントの一つ
になるのは、多様な人材の能力の最大化であると考えられる。これは、社会課題をビジネスにできる人材
を確保・育成することである。事業部門単位で新しいビジネスモデルを創出するための人材のモチベーシ
37
ョンの維持向上やスキルの確保等が含まれると考えられる。
例えば、日産自動車社のダイバーシティへの取組(特に女性従業員の活躍)やユニ・チャーム社の新興国
における女性人材の活用である。日産自動車社では、女性従業員の活用により、女性顧客のニーズに応じ
た製品開発につなげている。また、ユニ・チャーム社では、新興国の女性人材を活用することにより、新
しいマーケットのシェア拡大につなげている。
また、海外企業では、サウスウェスト航空社の「働くのが楽しい会社」というコンセプトに基づく従業員
向け取組がある。サウスウェスト航空社では、魅力的な職場環境を整備することにより従業員の顧客サー
ビスの質を高めることにつなげている。
ヒアリング調査においても、性別、人種、文化等が異なる多様な人材の能力を発揮させるための戦略的な
CSR 取組が重要であるという指摘があった。
このように戦略的 CSR を志向した人材の能力の発揮に取組むことで、事業部門単位の新しい製品・サー
ビス開発等につながり、その結果、中長期的な企業の競争力強化につながっていくことになると考えられ
る。
②最適なガバナンス体制の構築
調査の結果を踏まえると、戦略的 CSR 活動が具体的に企業の中で機能するためには、ガバナンス体制が
構築されていることが必要であると考えられる。これは、社会課題を経営課題に取り込むための具体的な
仕組みを構築することを意味する。
例えば、マークス&スペンサー社では、戦略的 CSR 活動である Plan A 推進のために、ガバナンス体制の
見直しを行い、全社横断的な3つの委員会を立ち上げた。また、基幹システムに Plan A の KPI を組み込
むことで、委員会による月次のモニタリング会議を可能にしている。これらの仕組みにより、事業部門単
位の Plan A 活動の進捗管理を確実に遂行している。
このように戦略的 CSR 活動を支えるガバナンス体制を構築することで、事業部門単位の持続可能なサプ
ライチェーンの構築等につながり、その結果、中長期的な企業の競争力強化につながっていくことになる
と考えられる。
なお、ヒアリング調査で多く指摘されたこととして、戦略的 CSR 活動に関して、日本企業は経営企画部
門、IR 部門、事業部門や CSR 部門等が有機的に統合されていない場合が多いと思われる。この評価軸は
日本企業における課題の一つであると考えられる。
③ステークホルダー・エンゲージメント
調査の結果を踏まえると、戦略的 CSR 活動を実行するためには、社会課題をキャッチするための外部と
のコミュニケーションが必要であると考えられる。企業が CSR 活動を開示し、投資家や地域社会等のス
テークホルダーとコミュニケーションすることにより、企業にとって重要な社会課題を特定することがで
きると思われる。戦略的 CSR 活動として企業が注力すべき重要分野を絞り込んでいく際95には、ステー
クホルダーとの対話(ステークホルダー・ダイアログ)が行われることがある。
例えば、武田薬品工業社では、多様なコミュニティやステークホルダーとの対話を通じ、現在および将来
における自社に対する期待や社会課題の把握に努め、バリューチェーンでの取組強化等を通じて、中長期
的な企業の競争力強化につなげていると考えられる。
95
GRI ガイドラインにおけるマテリアリティ分析等の手法がある。
38
このように戦略的 CSR 活動を支えるステークホルダー・エンゲージメントを推進することで、企業にと
って重要な社会課題を的確に把握することにつながり、その結果、中長期的な企業の競争力強化につなが
っていくことになると考えられる。
④非財務情報の開示
調査の結果を踏まえると、戦略的 CSR 活動を実行するためには、上記のステークホルダー・エンゲージ
メントを促進する方法として、非財務情報の開示が重要であると考えられる。事業活動に影響を及ぼす非
財務情報を積極的に開示することで、投資家等のステークホルダーへの説明責任を果たすことができ、ス
テークホルダーと円滑にコミュニケーションできるものと考えられる。
3.1.3 章で説明した通り、プーマは「環境損益計算書」を開示し、サプライヤーや投資家等のステークホ
ルダーとのコミュニケーションのツールとして活用している。その結果、持続可能なサプライチェーンの
構築につなげている。また、「環境損益計算書」は、経営層に対するコミュニケーションツールとしても
機能しており、経営者の視点に対しても影響を及ぼしている。
このように戦略的 CSR 活動を支える非財務情報を積極的に開示することで、ステークホルダーとの円滑
なコミュニケーションを実施することができ、その結果、中長期的な企業の競争力強化につながっていく
ことになると考えられる。
3.事業部門単位の活動(視点)
調査の結果を踏まえて、事業部門単位の活動のうち、戦略的 CSR 活動という観点から重要であると考え
られる評価軸を3つ取り上げる。なお、この3つの評価軸は、マイケル・ポーター教授の提唱する CSV
の3つの方法と基本的に一致する。
①新しいマーケットと製品・サービスの開発
調査の結果を踏まえると、事業部門単位の活動として、特定の社会課題をテーマに新しいマーケットを開
拓すること、また新しい製品やサービスを開発することが重要な評価軸であると考えられる。これは、健
康や環境負荷の削減といったグローバル経済で満たされていない社会課題を解決するための新しい製品
の開発等を行うことである。
例えば、GE 社の「エコマジネーション(環境と経済を両立させ、持続可能な社会を実現するためのプロ
グラム)」の取組がある。GE 社では、関連製品の研究開発に戦略的な投資を行い、2005 年のエコマジネ
ーション開始以来、120 億ドルの関連投資により 1600 億ドル以上の関連売上を達成した。
また、ホールフーズ・マーケット社の「新しい生産方法による商品供給」の取組がある。ホールフーズ・
マーケット社では、企業ミッションとして高い品質を持った商品の提供や責任ある農業、海洋資源の持続
可能性の維持等を掲げ、自社の基準に合った商品を生産する生産者に認証を与える等の取組を展開してい
る。その結果、全米スーパーマーケット顧客満足度調査で 2012 年に 2 位、2013 年に 3 位を記録した。
また、1980 年の創業から現在では全米 8 位のスーパーマーケットに成長した。
このように戦略的 CSR 活動として新しい製品・サービス開発を行うことにより、新しいビジネスモデル
の創出につながり、競合他社との差別化、マーケットシェア拡大等を通じて、中長期的な企業の競争力強
化につながっていくことになると考えられる。
39
②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構築等)
調査の結果を踏まえると、事業部門単位の活動として、特定の社会課題を見据えて、バリューチェーン全
体を見直し、生産性を向上させることが重要な評価軸であると考えられる。これは、サプライチェーン(バ
リューチェーン上流)においてサプライヤーの生産能力向上に貢献することで持続可能なサプライチェー
ンを構築することや、バリューチェーンの各プロセスを見直すことで自然資源の削減等につなげること等
である。
例えば、キリングループの「スリランカ・フレンドシップ・プロジェクト」がある。キリングループでは、
スリランカにおいて紅茶農園を支援し、高品質な紅茶葉を安定的に調達できるようになった。
また、コカ・コーラ社の「ウォータースチュワードシップ」と呼ばれる水の保護活動がある。NGO や地
域コミュニティを巻き込みながら行う本取組により、2013 年には1リットルの製品を生産するのに必要
な水量の平均を 2010 年比で 8%削減する等の効果が見られている。また、この取組については、米国の
監督当局96向けの年次報告書である 10K レポートにおいても記載されている97。つまり、投資家向けの年
次報告書における非財務情報として活用されていることになる。
このように戦略的 CSR を志向したバリューチェーンの生産性の向上を目指すことで、新しいビジネスモ
デルの創出につながる可能性がある。このような新しいビジネスモデルは、原材料の安定調達やバリュー
チェーンにおけるコスト削減等を通じて、中長期的な企業の競争力強化につながっていくことになると考
えられる。
③地域コミュニティとの関係構築等
調査の結果を踏まえると、事業部門単位の活動として、特定の地域社会において多くのステークホルダー
がビジネスモデルに関与する仕組みを確立することが重要な評価軸であると考えられる。開発途上国にお
いては、ビジネスのインフラが整備されていないことも多く、企業がそれらのインフラの整備を支援する
ことにより、結果として、その企業のビジネス基盤が確立し、新しいマーケットにおける販売シェアを確
保することにつながる可能性がある。
例えば、ヤマハ発動機社のアフリカにおける船外機ビジネスの展開がある。ヤマハ発動機社では、1960
年代からアフリカ市場において漁業開発支援を実施し、船外機ビジネスに結びつけた。その結果、現在で
はアフリカの多くの国と地域に販売網を構築し、船外機で高いシェアを確保している。また船外機ビジネ
スを通じて基盤の構築により、現在ではヤマハ全製品が取扱われるようになり、ブランドイメージの向上
をはかることができた。
また、ユニリーバ社の「Lifebuoy」ブランドのハンドソープに関する取組がある。ユニリーバ社では、衛
生状態の良くない地域において、現地の NGO や行政とタイアップして衛生状態改善による下痢や感染症
の解消を目的とした手洗いの促進キャンペーンを実施した。石鹸で手を洗う習慣が根付いていない 14 ヶ
国で展開し、感染症を減少させた。その結果、「Lifebuoy」ブランドのハンドソープは、売上が拡大し、
世界ナンバーワンの除菌製品ブランドになった。
このように戦略的 CSR を志向した地域コミュニティとの関係構築等に取組むことで、新しいビジネスモ
デルの創出につながる可能性がある。このような新しいビジネスモデルは、競合他社との差別化、マーケ
96
米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission:SEC)
97
Form 10K for Coca Cola (Dec. 2014) - ITEM 7. MANAGEMENT'S DISCUSSION AND ANALYSIS OF FINANCIAL CONDITION AND
RESULTS OF OPERATIONS, Challenges and Risks
40
ットシェア拡大等を通じて、中長期的な企業の競争力強化につながっていくことになると考えられる。
以上を踏まえて関係を整理したのが図表 17 である。すなわち、ここまで説明してきた通り、
「1.経営
者の視点」としての戦略的 CSR 活動に対する中長期ミッションが、人材やガバナンス体制等の「2.全
社横断的な構造」に影響を与える。そして、「2.全社横断的な構造」において、①社会課題をビジネス
にできる人材、②社会課題を経営課題に取り込む統合的なガバナンス体制、③社会課題をキャッチする手
法としてステークホルダー・エンゲージメント、及び④非財務情報の開示のそれぞれが、「3.事業部門
単位の活動」に影響を与える。さらに、「3.事業部門単位の活動」において、①新しいマーケットと製
品・サービスの開発、②バリューチェーンの生産性の向上、及び③ビジネス生態系の確立のそれぞれが、
差別化、マーケットシェア拡大、原材料の安定調達等を通じて、中長期的に企業の競争力強化につながる
ものと考えられる。
なお、今までの説明にも含まれていた通り、以上のような影響の方向性とは逆の方向性の影響もあること
を補足しておきたい。すなわち、「3.事業部門単位の活動」から「2.全社横断的な構造」に対する影
響、さらに「2.全社横断的な構造」から「1.経営者の視点」に対する影響を与える場合もあると考え
られる。
この図は、経営者が、企業の競争力強化を目的とした戦略的 CSR 活動を推進しようとする際に、取組を
検討・評価するための視点になり得ると考える。
41
図表 17 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
3.2 章では、戦略的 CSR 活動による企業価値創造及び競争力強化という観点から社会課題と経営課題の
関係の可視化の必要性を見てきた。また、戦略的 CSR 活動による競争力強化の可視化のための評価フレ
ームワークと8つの評価軸を説明した。次の 3.3 章では、可視化フレームワークによる各評価軸別の分析
を説明する。
42
3.3
3.3.1
可視化フレームワークによる企業の評価軸別分析
経営者の視点
3.3.1.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
最初の評価軸として、経営者の視点を取り上げる。社会価値に対する経営者の視点は、全社横断的な構造
や事業部門単位の活動に影響を与える重要な要素であると考えられる。
(1)取組の概要とその効果
企業は、①経営哲学や、②企業理念(方針・理念・行動規範)をもって、企業の社会的存在意義を明確に
し、それを組織内に浸透する事により、持続的な成長に向けて活動している。多様化する社会課題を経営
課題として落とし込むには、企業の存在意義として経営哲学や理念が、社会的大義と適切に関係づけられ、
包括的である事が望まれており、以下文献調査の対象として経営哲学にはそれが見て取れる。具体的には、
①経営哲学や、②企業理念(方針・理念・行動規範)は、企業の事業運営メカニズムの構築の根本となっ
ており、特に、a.人材育成、b.社内制度、c.組織体制にかかる取組と繋がっている。
以下図表 18 に、取組概要と当該内容に取り組む企業例を挙げる。対象企業は、製造業、通信業、及び運
送業がある。
図表 18 経営者の視点に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、a.人材育成、b.社内制度策定、c.組織体制構築を実施していくにあたり、具体的に取り組んでい
る取組詳細、そのモニタリング方法と効果を以下に記載する。
43
図表 19 経営者の視点に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
44
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
45
(2)フレームワーク分析
3.2.章における「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、全
社横断的な構造の整備、あるいは事業部門単位の活動をおこなうには、推進力となる「1.経営者の視点」
が存在することが大前提となる。つまり、社会的価値の向上をもって持続的成長を目指すというトップの
意志が、組織に浸透していくことで、
「2. 全社横断的な構造」を構築する土台となると考えられる。
同時に、上述のような経営者の視点の存在如何によって、
「3. 事業部門単位の活動」である新しいマーケ
ットや製品の開発、持続可能なサプライチェーンの構築、地域コミュニティとの関係構築等に影響を与え
る場合も考えられる。
図表 20 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰの影響について説明する。
I.
「1. 経営者の視点」が「2. 全社横断的な構造」へ与える影響
「1. 経営者の視点」が明確になっていることで、整備される全社横断的な構造には、
「2-①多様な人材の
能力の最大化」、
「2-②最適なガバナンス体制の構築」、
「2-③ステークホルダー・エンゲージメント」
、
「2④非財務情報の開示」がある。本評価軸の対象企業 7 社においては、経営者の視点が明確になっているこ
とにより、特に「2-①多様な人材の能力の最大化」に影響を与えていると考えられる企業が多かった。
*内訳
2-①多様な人材の能力の最大化
2-②最適なガバナンス体制の構築
5 社、
1社
このような「1. 経営者の視点」から「2.全社横断的な構造」に対して影響を与えていると考えられてい
る企業事例として、ヤマト運輸が挙げられる。

ヤマト運輸は、地域の過疎化や高齢化を社会課題と捉え、
「1.経営者の視点」として長期経営計画(地
域密着型のビジネスを推進していく方針の織り込み)へ反映させ、現場ドライバー主導型の事業を展
46
開することで、「2. 全社横断的な構造」のうち、「2-①多様な人材の能力の最大化」にポジティブな
影響をもたらしていると考えられる。
図表 21 ヤマト運輸の事例
出典:ヤマト運輸ウェブサイト及びヒアリング調査を参照し、あらた監査法人作成
47
(3)まとめ
以上見てきたように、戦略的 CSR 活動を推進するような経営哲学や経営理念等の経営者の視点が、多様
な人材の能力を発揮させることにつながる場合が多いと考えられる。また、そのような経営者の視点が、
事業部門単位の活動につながっている例も見られた。このように経営哲学や経営理念を組織に浸透させる
ことにより、全社横断的な構造の整備や事業部門単位の活動の効果を通じて、間接的ではある
が、中長期的な企業の競争力強化につながっていくものと考えられる。
48
3.3.2
多様な人材の能力の最大化
3.3.2.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、全社横断的な構造の一つとして、企業の多様な人材の能力の最大化を取り上げる。多様な人材
の能力は、戦略的 CSR 活動という観点から考えると、その取組を実行するための重要な経営資本である
と考えられる。
(1)取組の概要とその効果
企業は、多様な人材の能力を最大化するために、自社の社員に対し、主に①人材の確保、②従業員の健康・
福利厚生、③教育とキャリア開発の領域にかかる取組等を実施している。以下図表 22 に、取組概要と当
該内容に取り組む企業例を挙げる。対象企業は、製造業及び航空業がある。
図表 22 多様な人材の能力の最大化に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、a.ダイバーシティの推進、b.グローバル人材育成、c.女性人材の活用、d.健康支援・福利厚生強
化、e.スキル教育を実施していくにあたり、具体的に取り組んでいる取組詳細、そのモニタリング方法と
効果を以下に記載する。モニタリング実施時の KPI に関しては、Web 等で公表している場合とそうでな
い場合があり、日産自動車とブリヂストンでは具体的な指標を記載している。
49
図表 23 多様な人材の能力の最大化に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
50
(2)フレームワーク分析
3.2.章における「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、新
しいビジネスモデルの構築には「2.全社横断的な構造」を整備することが欠かせない。その一つの要素
である多様な人材の能力を底上げすることで、イノベーションを巻き起こすような「3. 事業部門単位の
活動」を展開できると考えられる。
同時に、当該強化によって、企業文化や経営層の意思決定等 「1. 経営者の視点」に影響を与える場合も
考えられる。
図表 24 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰの影響について説明する。
Ⅰ「2.全社横断的な構造」の整備が「3.事業部門単位の活動」にもたらす効果
「2.全社横断的な構造」を整備することで、事業部門単位で新しく生まれる活動として、
「3-①新しいマ
ーケットと製品・サービスの開発」
、
「3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェー
ンの構築等)」
、
「3-③地域コミュニティとの関係構築等」がある。本評価軸の対象企業 7 社においては、
多様な人材の能力を向上させる取組により、特に「3-①新しいマーケットと製品・サービスの開発」に影
響を与えていると考えられる企業が対象企業の半数以上を占めた。
*内訳: 3-1①新しいマーケットと製品・サービスの開発 5 社、
3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構築等) 2 社
3-③地域コミュニティとの関係構築等 1 社
このような「2.全社横断的な構造」から「3.事業部門単位の活動」に対して影響を与えており、企業
の中長期的な競争力強化と考えられている企業事例として、日産自動車が挙げられる。

日産自動車は、女性の活用を通じ「2.全社横断的な構造」を整えることで、
「3.事業部門単位の活
動」のうち、
「3-① 新しいマーケットと製品・サービスの開発」にポジティブな影響をもたらすこと
に成功した。
51
図表 25 日産自動車の事例
出典:企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
また、女性人材の活用に関しては、次のような効果があるという意見もある。「女性がチームに加わるこ
とで、会議や意思決定等の働き方が大きく変わる。CSR は体質改善のための漢方薬のようなもので、即
効性を求めてはいけない。続けることで、業績が悪い時に株価が下がらないという効果がある。その結果、
長期的には株価があがる(ヒアリング調査より)。
」
52
 サウスウェスト航空の場合、従業員の個々の能力を上手に利用し、引き出すことで設備投資を抑えな
がら顧客満足度を高め、収益性も向上させることを目標としている。その一貫として、従業員の満足
度を高めるために従業員の健康維持を目的とした様々な健康支援プログラムの提供や従業員相互で
相手への感謝の気持ちを送りあうと、それがポイントとして蓄積され、マイレージや賞品、商品券な
どと交換できる制度を提供している。
図表 26 サウスウェスト航空の事例
出典:企業のウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
(3)まとめ
以上見てきたように、多様な人材の能力を引き出すことで(全社横断的な構造の整備)、新しい製品・サ
ービス開発、バリューチェーンの生産性の向上等の新しいビジネスモデルの構築に役立つものと考えられ
る。これらの新しい事業部門単位の活動を通じて、中長期的な企業の競争力強化につながっていく。また、
多様な人材の能力を引き出すことで、競争力強化につながる経営者の視点に影響を与える効果もある。
このように、
「多様な人材の能力」に対する戦略的 CSR の取組は、中長期的な企業の競争力強化に役立
つものと考えられる。
53
3.3.2.2 海外の関連政策例
多様な人材の能力の最大化にかかる海外の関連政策事例として、オランダの政策が挙げられる。
■オランダ
政策:
『労働時間差別禁止法』『労働時間調整法』
『就労と育児に関する法律』
『育児法』
所管:社会雇用省(The Ministry of Social Affairs and Employment)
(1) 政策の概要/背景
オランダでは、1980 年代前半に労働需給が急速に悪化し、失業率が 14%に達した。高い失業率や雇用不
安を解消するため、1996 年フルタイム労働者とパートタイム労働者間の差別を禁止した規定(賃金、手
当、休暇、福利厚生等)、労働時間差別禁止法が制定された。また、2000 年労働時間調整法により、最
低 1 年間同一勤務先で勤務した労働者が労働時間の増減を雇用主に要請できるよう保証した法律を制定
することで、就業環境の整備をおこなった。オランダでは女性の大半がパートタイム労働であったこと
から、本施策を通じ、女性の就業機会を促すことがねらいであった。さらに、育児との両立を推進する
ための育児法の制定ならびに育児施設の充実化を推進する法律を制定することで、女性の社会進出を助
けることとなった。98
98
内閣府男女共同参画局、参照日程:2015 年 3 月 26 日、参照先
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/sekkyoku/pdf/h20shogaikoku/sec2-1-1.pdf
54
図表 27 オランダにおける雇用関連法令
法令名
概要
民法典及び公務員に関する規定を修正し、フルタイム労働者とパートタイム労働
者の差別を禁止した法律。オランダにおけるパートタイム労働とは、週約 30~
35 時間以内の労働を指す。パートタイム労働は 3 種に分類されており、週約 30
~35 時間労働で週休 3 日を「大パートタイム労働」、週約 20 時間労働を「ハー
労働時間差別禁止法
(1996 年制定)
フタイム労働」、週 12 時間未満労働の場合を「短時間パートタイム労働」とし
ている。オランダでは、女性の大半はパートタイム労働者として勤務することが
多く、2007 年には 6 割の女性労働者がパートタイム労働をしていた。労働時間
差別禁止法の目的の一つとして、女性の労働力率上昇があったが、同法施行後は
パートタイム労働者(特に女性)が急増したことから、本法令の制定により、女
性の社会参画向上のみならず、経済活動における貴重な労働力を確保することに
成功したといわれている。
最低 1 年間同一勤務先で勤務した労働者が労働時間の増減を雇用主に要請でき
労働時間調整法
(2000 年制定)
るよう保証する法律。雇用主は経営問題等の深刻な事情を証明できない限り、こ
れを拒否できないことになっている。本法令の制定により、女性労働者の人口に
おける出産後の退職者の割合が、1997 年には 25%であったものが、2005 年には
11%まで減少したといわれている。
就労と育児に関する法律は 1991 年制定の育児休暇法が改正されたもので、育児
就労と育児に関する
法律
( 2001 年制定)
休暇として 13 週間の休暇を取得することができるよう保障している。また、8
歳以下の子供を持つ従業員のうち、1 年間の連続勤務等の一定の条件を満たす者
に対し、最大 6 か月間にわたり週の就業時間の半分相当の有給休暇を付与するも
のである。休暇取得に際しては、男女やフルタイム/パートタイム等勤務形態の別
は問わず、雇用主は育児休業の要請を拒否できないとされている。
育児法は、政府・雇用主・被用主(子の両親)の三者が、育児施設利用の費用を
育児法
3 分の 1 ずつ負担することを定めたものである。同法令制定後、その費用を自主
(2005 年制定、
的に支払わない雇用主が多かったため、2007 年の法改正により、雇用主は一旦
2007 年改正)
その費用を国に納付することが義務づけられた。2004 年には、働く母親の 42%
が 1~3 歳児用の育児施設を利用している。
出典:Ibid.
(2) 政策の効果
前項における一連の取組の結果、オランダでは 1980 年代以降女性の就業率は大幅に高まったといえる。
下記、関連施策と女性の社会参加率の相関関係を記載したものである。
55
図表 28 女性の就業率推移
出典:オランダ社会雇用省ヒアリング配布資料(2013)を参照し、あらた監査法人作成
1980 年から 2000 年にかけては、男女比でいえば、女性のパートタイム労働者比率が多い傾向にあった。
パートタイム労働や有期雇用等が広がる分野はサービス部門に必要とされる場合が多く、その理由は、
以下の 2 点に起因する。
① 経済成長が持続するなかでサービスに対する消費が増加していること
② 労働力率の高まりによって、これまで家庭内で提供されていたサービスが企業による提供に肩代わり
される傾向にあること
しかし、オランダ社会雇用省の資料によれば、2013 年時点において女性・男性ともにほぼ同等の比率で
定職ないしはパートタイムの職に就労している。99
(3) 政策が成功した要因/課題
○成功要因
女性の社会進出がオランダで成功した要因として、女性の労働や育児を支援する取組が推進されたこと
が挙げられる。また、政府によるアドボカシー等を通じ、中長期的にオランダの伝統的な家父長制度の
文化を変える取組をおこなってきたことも要因と考えられている。以下、成功要因を記載する。
a. フレキシブルな労働市場の整備
オランダにおいても、自身のライフスタイルの優先や育児と仕事を両立させるために、フルタイム
労働を望まない女性の割合は多い。そのような女性のニーズに対し、パートタイム労働者とフルタイ
ム労働者で、同一内容の仕事であれば同一の時間あたり賃金を支払うよう定めた労働時間差別禁止法
や子どもの成長や個人のライフスタイルの変化に合わせて一週間あたりの労働時間を変えることがで
きる労働時間調整法などが施行された。パートタイム労働者の権利の保証と、選択肢を柔軟にするこ
99
内閣府「ワークシェアリングの成果-ドイツ、フランス、オランダ-」参照日:2015 年 3 月 26 日、参照先
http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh02-01/pdf/sh02-01-02-02.pdf
56
とで、パートタイム労働を志向する女性が参加しやすい労働市場が整備され、女性の社会進出につな
がったと考えられている。
b.
チャイルドケア施設の充実
女性の就労参加を促すにあたり、育児施設を拡充するとともに、育児法などの政策により、育児施設
の利用負担の 3 分の 2 を政府と雇用主が負担するようにするなど、小さな子どもを持つ女性(あるい
は男性も)が就労した場合にかかる経済的負担を軽減し、働きやすい環境を整備した。
また、就労と育児に関する法律では、様々な育児休暇制度を整え、出産後の仕事量を減らしたり、男
性も育児に参加しやすい環境を整えることで、女性が出産と育児をきっかけに職場から完全に離脱し
てしまわないような労働市場の制度設計をしている。
c. コミュニケーションの強化
オランダにおいても70年代以前においては、女性は家庭に入るという考え方が一般的であった。その
ため、女性であっても働いていることは自然なことであるという考え方を、30年以上の長期間にわた
り、政府が政策として浸透させてきた。パートタイム・タスクフォース・プロジェクトと呼ばれる、
アンバサダー(PR大使)によるTV出演などの女性の社会進出に関する啓蒙活動などが行われてきた。
d. 多様なステークホルダーが参加する政策議論の場
経営者、労働組合の代表者、独立した有識者などが集まり、国民的な社会・経済問題を議論する Social
Economic Council(経済社会評議会)のような第三者機関が、このような労働市場の柔軟化や、女性
の社会進出といった政策を後押ししたことも要因と考えられる。
※尚、現在の経済社会評議会のチェアパーソンは女性である Mariette Hamer 氏が務めている。
e. 労働協約
労働組合と企業の経営陣が、賃金や労働時間等労働条件等を話し合う際、女性にとって働きやすい場
を形成できるような取組の推進を交渉・書面で協定する活動をおこなってきた。
f.
教育制度の充実
その他、上記の取組と並行して、女性の高等教育機関への進学率が上昇し、高学歴化したことも
女性の社会進出の拡大と因果関係があると考えられている。
○今後の課題
・伝統的な労働慣習、社会的慣習とのコンフリクト
政府による様々な施策がとりおこなわれてきた一方で、労働にかかる法律のドラスティックな変化に
対して、現場の雇用主及び労働者の価値観は法律のようにすぐに変わるものではない。そのため、法
律を適用することと、法律がその趣旨を反映して効果的に運用されることの間には解決すべき課題が
あるといえる。
・就業時間と育児施設の営業時間の不一致
業界、職種、雇用形態によっては、就業時間と育児施設の営業時間が一致せず、育児施設を利用でき
57
ない場合などがあり、育児中のあらゆる労働者のニーズをカバーしきれていないといえる。
・男女間の給料やキャリアに差がある
全体の傾向として、女性はパートタイムの仕事を志向しているため、労働時間やキャリア形成の面か
ら男性とのギャップがあり、結果として収入格差がある。フルタイム労働を望む女性に対しては、ま
だ厳しい現実があるといえる。また、女性は高学歴になりつつあるが、エンジニアの数が少なく、構
造的に女性が進出しにくい産業分野が未だに存在しているといえる。
こうした課題に対し、政府は以下施策の推進を検討している。

働き方の多様化(e.g. 働く時間の多様化、テレワークの実施)

家庭でできる仕事の平等な分配(e.g.父親や男性が育児に集中できる環境をつくる)

企業の中核で活躍する女性社員を育成する
政府はオランダの全企業を対象として、企業の役員のうち、最低30%を女性にすること(=250人以上)
を提案したガイドラインを定めた。2016年1月までに目標を達成できない場合、企業は実現に至る計画
書を提出しなくてはいけない。2012年時点では、全役員のうち18.5%が女性であるという結果がでて
いる100。
100
あらた監査法人によるオランダ社会雇用省ヒアリングより
58
3.3.3
最適なガバナンス体制の構築
3.3.3.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、全社横断的な構造の一つとして、最適なガバナンス体制の構築を取り上げる。最適なガバナン
ス体制は、戦略的 CSR 活動を行うための基盤である全社横断的な構造の一つとして、重要であると考え
られる。
(1)取組の概要とその効果
企業は、最適なガバナンス体制を構築するために、自社内あるいは自社以外(e.g. ビジネスパートナー)
と連携しながら、主に①組織体制の再編、②経営指標の設定、③ガバナンス研修の提供等の取組を実施し
ている。以下、図表 29 に、取組概要と当該内容に取り組む企業例を挙げる。対象企業は、製造業、小売
業がある。
図表 29 最適なガバナンス体制の構築に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、適切なガバナンス体制の構築にあたり、具体的に取り組んでいる取組詳細、そのモニタリング方
法と効果を以下に記載する。モニタリング実施時の KPI に関しては、ウェブサイト等で公表している場
合とそうでない場合がある。
59
図表 30 最適なガバナンス体制の構築に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
60
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
※企業の公開情報では明確には判断できなかった。
61
(2)フレームワーク分析
3.2.章における「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、事
業部門の活動の構築には「2.全社横断的な構造」を整備することが欠かせない。つまり、基盤となる最
適なガバナンス体制を構築することで、イノベーションを巻き起こすような個別事業部門の活動を活性化
できると考えられる。
同時に、当該強化によって、
「1. 経営者の視点」である企業文化・経営層の意思決定に影響を与える場合
も考えられる。
図表 31 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの影響について説明する。
I.
「2. 全社横断的な構造」の整備が「3. 事業部門の活動」にもたらす効果
「2. 全社横断的な構造」を整備することで、事業部門において、
「3-①新しいマーケットと製品・サービ
スの開発」、「3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構築等)」、「3-③地
域コミュニティとの関係構築等」にかかる取組がうまれ、企業の競争力強化に資すると思われる。本評価
軸の対象企業 8 社においては、ガバナンス体制を構築あるいは強化する取組により、
「3-①新しいマーケ
ットと製品・サービスの開発」及び「3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェー
ンの構築等)
」へ幅広く影響をもたらすことが考察された。
*内訳 3-1①新しいマーケットと製品・サービスの開発
社
3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構築等) 4 社
このような「2.全社横断的な構造」から「3. 事業部門単位の活動」に対して影響を与えていると考えら
れる企業事例として、マークス&スペンサーが挙げられる。

マークス&スペンサーは環境問題の取組や地域への投資によって治安のよい環境が生まれ、店舗が繁
盛するという考えのもと、2007 年にサステナビリティ戦略"Plan A 2020"を発表した。同社は Plan A
62
を実行するにあたり、サステナビリティ・ガバナンス体制の見直しを行い、新たに 3 つの組織を設置
し、進捗の管理をおこなうことで、顧客・従業員・ビジネスパートナー・サプライヤー・地域社会・
自然環境に対する 100 個のコミットメントを実行している。
図表 32 マークス&スペンサーのサステナビリティプラン『PlanA』
PlanA は 7 つの柱より構成されている。各柱のもと、20 の大きな目標と 100 のコミットメントが設
定されている。
(20 の大きな目標のうち、主要項目を以下に記載する)
出典:欧州 CSR 情勢 http://sus-com.net/EU/01_MandS/を参照し、あらた監査法人作成
63
図表 33 マークス&スペンサーの事例
出典:企業のウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
Ⅱ. 「2. 全社横断的な構造」から「1.経営者の視点」へ
本評価軸の対象企業 8 社のうち、最適なガバナンス体制の構築をおこなう取組により経営者の視点に影響
を与えていると考えられる企業は 1 社みられた。このような「2.全社横断的な構造」から「1. 経営者
の視点へ」に対して影響を与えていると考えられる企業事例としてもマークス&スペンサーが挙げられる。

マークス&スペンサーは、もともと「サステナビリティを企業の成長のドライバーにする」というト
ップによる戦略的 CSR 活動の意思が強くあったが、Ⅰで考察したとおり、ガバナンス体制を強化す
ることで、基幹システムにより KPI が可視化され、月次の役員会議においても、改善に向けて議論
することができるようになった。
(ヒアリング調査より)
Ⅲ.「2.全社横断的な構造」における相互作用のケース
本評価軸の対象企業 8 社のうち、最適なガバナンス体制の構築をおこなう取組により、同「2.全社横断
的な構造」に影響を与えていると考えられる企業は、1 社みられた。
「2.全社横断的な構造」を支える要
素として、ガバナンス体制の構築を除き「2-①多様な人材の能力の最大化」、
「2-③非財務情報の開示」が
あるが、後者に影響を与えていると考えられる企業として、三菱ケミカルホールディングスが考えられる。
64
◇三菱ケミカルホールディングスの場合

サステナビリティ取組の達成度を可視化するために、
「地球温暖化の課題解決への貢献」や「アンメット・
メディカル・ニーズへの対応」
「保安・環境事故の削減」
「ステークホルダーとの信頼関係の向上」などと
いった 22 の指標で構成される Management of Sustainability (MOS)指標を開発した。MOS 指標の実績値
と目標値を公表することでサステナビリティ取組の定量的把握を行うほか、統合報告書や Web サイト上
で関連取組や成果の見える化を実現している。

従来から重視してきた資本の効率化による利益の追求、技術開発によるイノベーションに加えて、サステ
ナビリティの向上を経営の重点項目に加え、これら 3 つを総合的に高めることで企業価値の拡大を目指し
ている。

こうした取組が評価を受け、日本政策投資銀行の「環境格付けに基づく融資制度企業の環境に関する取り
組みを「経営全般」「事業環境」「パフォーマンス関連」の 3 分野において、最高ランクを獲得した。その
結果、融資条件において優遇されるというメリットを享受できるようになった。
出典:企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
(3)まとめ
以上見てきたように、最適なガバナンス体制を構築することによって、新しい製品・サービス開発、バ
リューチェーンの生産性の向上等の事業部門単位の活動を促進することに寄与すると考えられる。そし
て、これらの事業部門単位の活動を通じて、中長期的な企業の競争力強化につながっていく。
このように、
「最適なガバナンス体制の構築」に対する戦略的 CSR 活動の取組は、中長期的な企業の
競争力強化に役立つものと考えられる。
3.3.3.2 海外の関連政策例
最適なガバナンスにかかる海外の政策事例として、英国の事例が挙げられる。
■英国
政策:コーポレートガバナンス・コード
所管:財務報告評議会(FRC)
(1) 政策の背景/概要
2009 年、世界的金融危機の発生を背景として、英国財務大臣の委託により作成されたウォーカー 報告書
を踏まえ、FRC101が「統合規範」の内容を分離・再編成し、機関投資家による投資先 企業に対する関与
のあり方について「スチュワードシップ・コード」を、会社側の規律について、「コーポレートガバナン
ス・コード」を策定した。英国のコーポレートガバナンス・コードの初版は、1992 年に キャドバリー
委員会102によって策定以来、今日まで影響を及ぼしている。
会社は、コーポレート・ガバナンスによって方向づけられ、制御されており、取締役会は、それぞれの会
社のガバナンスに対して責任を負っている。取締役会の責任には、会社の戦略的目標 (strategic aims)
を設定し、それを実行するために指導力を発揮し、経営を監督し、自らの受託者責任に関連して株主に報
101
102
FRC:Financial Reporting Council 財務報告評議会
キャドバリー委員会:1990 年代にイギリスで巨額の不正経理事件が発覚したことにより発足された、コーポレート・
ガバナンスのあり方について議論する委員会。
65
告を行うこと、及び取締役会の活動は、法令、規則ならびに株主総会における株主に従うことが含まれて
いる。取締役会議長には、取締役会の任務と実効性に関する原則がどのように適用されたのかについて、
自ら毎年報告を行うことが奨励される。一方、ガバナンスにおける株主の役割は、取締役と外部会計監査
人を任命し、自ら満足できる適切なガバナンス構造が構築されるようにすることである。本コードは、取
締役会が会社の利益を一番に考えてその義務を果たそうする際に、これを支援すべく活用するものである。
英国のコーポレートガバナンス・コードの主要原則は以下である。
図表 34 英国のコーポレートガバナンス・コードの主要原則
出典:FRC「英国・コーポレート・ガバナンス・コード(仮訳)に基づき、あらた監査法人作成
(2) 効果
概ね成功している。企業は、コーポレート・ガバナンス体制に問題が生じた場合の、機関投資家やその他
の利害関係者、マスコミからの批判に伴うマイナス効果やレピュテーショナル・リスク103を重視し、情
報開示に積極的に取り組むようになっている。また、女性の社会進出にも資する効果が出てきている。
例えば、女性取締役の数が増加している。コーポレートガバナンス・コードに女性取締役の具体的な比率
は明示されていないが、ビジネスイノベーション・職業技能省(BIS)104が毎年 FTSE350 企業を対象と
した調査報告書を公表しており、2014 年 3 月時点では、女性取締役比率は 2011 年の 12.5%であったの
に対し、2013 年には 20.7%に向上している。BIS が設定した英国の目標としては、2015 年までに女性比
率 25%を達成すると示している。
103
104
レピュテーショナル・リスク:企業の評判に関わるリスク全般
BIS:イギリスの行政機関の一つで、ビジネスの規制・支援や会社法、コーポレート・ガバナンスや労使関係を所管と
する。
66
(3) 成功要因
英国におけるコーポレート・ガバナンス改革の特徴は、法改正や新規立法等、強制力を持つ改善命令によ
って企業を柔軟性のない規則に従わせるという形式を取らず、従来から英国企業で実践されている好まし
い慣行や運営方法を調査し、特定、規定化してガイドラインを制定した上で、遵守勧告を行うというアプ
ローチを採用している点である。
その背景には、英国が判例法の国であり、企業の行動をコントロールするのは、会社法の条文ではなく、
これまでの慣行の積み重ねである、という発想が定着していることが挙げられる。
このように、コーポレート・ガバナンスに伴う規律を、法規制により強制的に求めるのではなく、企業の
自主性を尊重しながらも情報開示に伴って発生する外部圧力によって企業に求めるという発想のもとで、
英国企業は年次報告書でそうした勧告の遵守状況、方針について詳細な情報開示を求められている。
(4) 課題
企業トップの姿勢:トップの姿勢を重視するような文言が直近のコーポレートガバナンス・コードに追加
された。取締役会議長の指導力のもと、すべての取締役がオープンに議論を行うことは、本コードから効
果を得るための決定的な鍵と思われる。
67
3.3.4
ステークホルダー・エンゲージメント
3.3.4.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、全社横断的な構造の一つとして、ステークホルダー・エンゲージメントを取り上げる。ステー
クホルダー・エンゲージメントは、戦略的 CSR 活動という観点から考えると、企業にとって重要な社会
課題をキャッチする方法として重要であると考えられる。
(1)取組の概要とその効果
企業は、多様なステークホルダーとの対話を通じ、彼らの関心事項や社会課題を把握し、企業活動や意思
決定に反映することで中長期的な事業の競争力強化に役立てている。こうしたステークホルダー・エンゲ
ージメントに係る取組事例として、マテリアリティ分析を通じて抽出された優先課題への取組が挙げられ
る。以下、図表 35 に、取組概要と当該内容に取り組む企業例を挙げる。
図表 35 ステークホルダー・エンゲージメントに係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、ステークホルダー・エンゲージメントをおこなうにあたり、具体的に取り組んでいる取組詳細、
そのモニタリング方法と効果を以下に記載する。
68
図表 36 ステークホルダー・エンゲージメントに係る企業の取組詳細
企業の取組概要
モニタリング例(KPI)
・ホリスティック・アプローチという考え方に基づき、多様なコミュニ
ティやステークホルダーとの対話を通じて、現在および将来におけ
る自社に対する期待の把握に努め、CSRマネジメントに活かすこと
によって、医薬事業の向上に努めている。その際、「ISO26000」や
アカウンタビリティ(説明責任)についての国際規格「AA1000 」の
基準を参考として、ステークホルダー・エンゲージメントを充実させ
ることで、企業価値の創造や保全に取り組んでいる。
武田
薬品
工業
✓2017年度までの中
期成長戦略に加え、財
務、研究開発、マーケ
ティング、CSR、コーポ
レート・ガバナンスの分
野別の戦略的焦点を
詳細に開示し、企業価
値の創造と保全(価値
・2006年度より、財務情報だけでなく、人権、環境、コミュニティへ 毀損の回避)の両面に
の取り組みなどの非財務情報を取り入れた統合報告を開始し、「ア ついて説明。
ニュアルレポート」を統合報告書として発行。2009年度より、「グ
ローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)」のガイドラインを参
照し、CSR活動に関する詳細な情報をまとめた「CSRデータブック」
を発行。また、2011年より、「国際統合報告評議会(IIRC)」のパイ
ロットプログラムに参加。「CSRデータブック」では、このうち主に企
業価値の保全に焦点を当て、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防
止」(ISO26000の中核主題「公正な事業慣行」、「消費者課題」含
む)および「企業市民活動」の5つのカテゴリーに分類して、具体的
な活動や詳細な関連データを開示している。
・多様なステークホルダー(e.g. 従業員、顧客、サプライヤー、投資 ✓マテリアリティ分析
家、コミュニティ)を通じマテリアリティ分析をおこない、社会課題を
把握している。
・投資家とのコミュニケーションツールとしてDow Jones
デル Sustainability Index (DJSI) and the Carbon Disclosure Project
タ・エ (CDP)に参加し、サステナビリティ(自社の非財務情報)にかかる情
レクト 報を開示している。
ロニ ・投資家会議への外国人投資家による参加を歓迎している他、
クス Web上でリアルタイムでの情報発信をおこなっている。
・株主の質問に詳細な回答を提供するためのサービスホットライン
やとメールボックスを提供するとともに、専門のスタッフを配置して
いる。
効果
評価軸への影響
(事業部門単位の活動)
・先進的な情報開示に拠る
企業評価の向上。また、そ
れらに取り組むことに拠る
戦略立案や体制整備の前
進。
・対話により社会リスクを回
避し、企業価値の保全に努
めている。
3-①
新しい
マーケットと製品サー
ビスの開発
・サステナビリティにかかる
自社課題の把握による中
長期的な戦略策定
・社会リスクの回避
・ステークホルダーに対す
る透明性の向上
3-①
新しい
マーケットと製品サー
ビスの開発
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
(2)フレームワーク分析
3.2.章における「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、新
しいビジネスモデルの構築には「2.全社横断的な構造」を整備することが基盤になる。その一つの要素
であるステークホルダー・エンゲージメントにより、企業にとって重要な社会課題を把握することができ
ると考えられる。このように社会課題を把握することで、イノベーションを巻き起こすような「3. 事業
部門単位の活動」を展開できると考えられる。同時に、こうした取組が中長期のミッションや経営トップ
の意思決定等 「1. 経営者の視点」に影響を与える場合も考えられる。
69
図表 37 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰの影響について説明する。
Ⅰ.「2. 全社横断的な構造」の整備が「3.事業部門単位の活動」にもたらす効果
「2. 全社横断的な構造」を整備することで、新しく生まれるビジネスモデルには、
「3-①新しいマーケッ
トと製品・サービスの開発」
、
「3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構
築等)」
、「3-③地域コミュニティとの関係構築等」がある。本評価軸対象企業 2 社のうち、ステークホル
ダー・エンゲージメントにかかる取組をおこなっている企業は、「3-①新しいマーケットと製品・サービ
スの開発」に影響を与えていると考えられる。主な企業事例としては、武田薬品工業の取組が挙げられる。

武田薬品工業では多様なコミュニティやステークホルダーとの対話を通じ、現在および将来における
自社に対する期待や社会課題の把握に努め、CSR マネジメントに活かすことで、中長期的な企業価
値の創造をおこなっている。
70
図表 38 武田薬品工業のステークホルダー・エンゲージメントに係る概念図
出典:武田薬品工業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成105
105
武田薬品工業ウェブサイト参照日程:2015 年 3 月 27 日、参照先:http://www.takeda.co.jp/csr/process/
71

医薬事業関連の知見や課題を把握するために、ステークホルダーに対し、多岐にわたる部門が下記の
ようなアプローチをおこなっている。
図表 39 ステークホルダーとの対話方法
出典:武田薬品工業ウェブサイト
72

吸い上げられた社会課題等を自社の経営課題へ落とし込むプロセスとして、例えば課題が人権である
と認識された場合、国際規範に基づいて、社内規範となるポリシーやガイドラインを整備し、研究・
開発から、調達、生産、物流、販売までのバリューチェー ン各段階における課題の認識に努め、取
り組みを推進している。
図表 40 社会課題と経営課題の結びつき(人権の場合)
出典:武田薬品工業ウェブサイト
73
図表 41 武田薬品工業の事例
出典:武田薬品工業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
(3)まとめ
以上見てきたように、ステークホルダー・エンゲージメントに取り組むことは、新しい製品・サービスの
開発等を事業部門単位でおこなうための基盤として機能するものと考えられる。つまり、企業にとって重
要な社会課題を把握し、経営課題として具体的な取組に落とし込むための重要なツールとして機能するこ
とで、中長期的な企業の競争力強化に役立つものと考えられる。
74
3.3.5
非財務情報の開示
3.3.5.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、全社横断的な構造の一つとして、企業の非財務情報の開示を取り上げる。非財務情報の開示は、
戦略的 CSR 活動という観点から考えると、企業にとって重要な社会課題をキャッチする方法であるステ
ークホルダー・エンゲージメントを促進する方法として重要であると考えられる。
(1)取組の概要とその効果
企業における非財務情報の開示に係る取組例として、環境損益計算書がある。企業はこうした非財務情報
を公表することで、多様なステークホルダーとの信頼関係を構築することができると考えられている。
以下、図表 42 に、取組概要と当該内容に取り組む企業例を挙げる。
図表 42 非財務情報の開示に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
この要素の重要性が増している背景としては、リーマンショック以後に起きた投資家のマインドセットの
変化による ESG 開示要求の高まりなど、資本市場の変化が影響しているとの意見がある(ヒアリング調
査より)。
企業が、適切な非財務情報の開示にあたり、具体的に取り組んでいる取組詳細、そのモニタリング方法と
効果を以下に記載する。モニタリング実施時の KPI に関しては、中期経営戦略等に設定している場合が
ある。
75
図表 43 非財務情報の開示に係る企業の取組詳細
出典: 企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
(2)フレームワーク分析
3.2.章における「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、新
しいビジネスモデルの構築には「2.全社横断的な構造」を整備することが欠かせない。その一つの要素
である非財務情報の開示をおこなうことで、イノベーションを巻き起こすような「3. 事業部門単位の活
動」を展開できると考えられる。
同時に、こうした取組が企業文化や経営層の意思決定等 「1. 経営者の視点」に影響を与える場合も考え
られる。
図表 44 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰ、Ⅱの影響について説明する。
Ⅰ「2. 全社横断的な構造」の整備が「3.事業部門単位の活動」にもたらす効果
「2. 全社横断的な構造」を整備することで、新しく生まれるビジネスモデルには、
「3-①新しいマーケッ
トと製品・サービスの開発」
、
「3-②バリューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構
築等)」
、
「3-③地域コミュニティとの関係構築)
」がある。本評価軸対象企業 1 社のうち、非財務情報の開
76
示にかかる取組をおこなっている企業は、「3-①新しいマーケットと製品・サービスの開発」、「3-②バリ
ューチェーンの生産性の向上(持続可能なサプライチェーンの構築等)」に影響を与えていると考えられ
る。このような「2. 全社横断的な構造」を整備することで、
「3.事業部門単位の活動」に対して影響を与
えていると考えられている企業事例として、プーマが挙げられる。

プーマにおける環境への影響を課題と捉え、環境負荷を金額で評価し、その結果を「環境損益計算書」
として開示している。当該情報は、環境対応素材の評価・開発や、温室効果ガス削減のための戦略策
定に役立てられている。尚、当該計算書から得られた結果をもとにして、開発された環境配慮型の製
品群 InCycle シリーズは、2013 年 Innovator Awards を受賞した。
図表 45 プーマの事例
出典:企業のウェブサイトよりあらた監査法人作成
プーマはこうした環境損益計算書の結果に基づき、自社の改善に向けた取組をおこなうことで、ステーク
ホルダーとの結びつきを強めている。(詳細別添資料参照)
~環境損益計算書とステークホルダーの関わり~
環境損益計算書を作成することで、サプライヤーに課題があることを理解したプーマは、サプライヤーに
対し社会基準と環境基準に沿った事業を実施してもらうため、ヒューマニティーとエコロジーという 2
つのチームを社内に創設した。当該チームは、より環境にやさしい素材の特定やそれらの調達方法におけ
る内的基準やサプライチェーンにおける有害物質の使用を停止するための支援活動をおこなった。
77
また、各サプライヤーが実施する環境保全活動にかかるデータを収集し、活動指針の策定や成功実施例の
共有等をおこなうことで、サプライヤーの生産性向上に貢献した。結果、工場が設立されている地域コミ
ュニティにおける自然環境の改善にもつながり、プーマはサプライヤー・地域コミュニティとの関係が良
好になったばかりでなく、原材料の安定的な調達の確保が可能となった。
こうしたサプライチェーンにおける自然資源や生態系サービスへの悪影響に配慮した新しいビジネスモ
デルをより幅広い層に役立ててもらうため、グループ企業のみならず、他産業の企業にも環境損益計算書
の結果を提供している。結果、企業全体のイノベーションへ寄与するとともに、より大きなインパクトを
社会にもたらすことができるとして、NGO や政府からも高い評価を受けている。106
II.
「2.全社横断的な構造」から「1. 経営者の視点」への影響
また、
「2.全社横断的な構造」から「1. 経営者の視点」に対して影響を与えている企業としても、先述し
たプーマが該当する。非財務情報の開示にかかる取組により経営者の視点に以下のように変化をもたらし
ている。

当初、プーマの目的は環境損益計算書の取組を公開することで自社の説明責任を果たすことであった。
しかし、時間が経るにつれて、管理会計としての機能の重要性が高まり、現在ではビジネス上必要不
可欠な内部管理ツールとなっている。言い換えれば、自社のビジネスが環境に与える損害を金銭に換
算する環境損益計算書は、経営層が環境マネジメントをおこなう際の重要な意思決定ツールとなって
いる。
また、環境損益計算の結果、自社がもたらす環境負荷の大部分が、目の届きにくい外部パートナー
企業に起因していることを把握してからは、内部組織改革に加え、政府や環境団体、他産業の企業等
を巻き込みながら、サプライチェーンがもたらす環境への影響を低減させるための改革をおこなって
いる。
(ヒアリング調査より)
<プーマ会長兼 PPR 最高環境保全責任者 ヨッヘン・ザイツ氏のコメント>
『外部サプライヤーの工場や原材料加工業者がもたらす影響を低減させるために同業他社と協力し、責任を持って役割を
果たさなければいけない。自社の顧客やサプライチェーンがかかわる様々な領域で改革を進めるだけでなく、政策立案者
に協力を仰ぎ、産業全体として、環境を破壊するのではなく、環境と共存し最終的には社会的にも経済的にも存続が可能
な新たなビジネスモデルを実施することが必要だ。』(企業のウェブサイトより)
(3)まとめ
以上見てきたように、企業が非財務情報の開示に取り組むことは、新しい製品・サービスの開発や持続可
能なサプライチェーン構築等を事業部門単位でおこなうための基盤として機能するものと考えられる。ま
た、先進的な非財務情報の公表により、投資家等のステークホルダーから評価され、また自社の経営層や
ビジネスパートナーと戦略的な議論をするためのツールになると考えられる。
このように、
「非財務情報の開示」に対する戦略的 CSR の取組は、中長期的な企業の競争力強化に役立
つものと考えられる。
106
プーマウェブサイト参照
78
3.3.5.2 海外の関連政策例
非財務情報にかかる海外の関連政策例として、オーストラリアの事例が挙げられる。
■オーストラリア
政策:年金制度(Super Annuation)
所管:家族・住居・地域サービス先住民問題省
年金制度の概要
現在、欧米を中心に責任投資原則(PRI)への署名が広がっている。日本においては署名企業が 31 社に
留まる一方、オーストラリアでは日本の約 4 倍にあたる 119 社が署名している。107特に、オーストラリ
アの年金制度であるスーパーアニュエーションに関連したファンド署名が顕著である。本稿では、本制度
が ESG108投資の拡大にどのようにつながっているか、制度の特徴および運用会社の動向に関し、以下記
載していく。
○オーストラリアの公的年金制度概要
オーストラリアの公的年金制度は、1 階が税方式の老齢年金(Age Pension)、2 階が事業主の強制拠出と
被用者の任意拠出によるスーパーアニュエーション・ファンド(Super Annuation Fund:退職年金基金)
の 2 階建て構成である(図表 46 参照)。
図表 46 オーストラリアの公的年金制度の体系
① 老齢年金(Age Pension)
1 階部分にあたる老齢年金は、税を財源とす
る制度である。オーストラリアに一定期間住
多
む居住者(市民権または永住権保持者)で、
65 歳以上の高齢者が受給することができる。
スーパーアニュエーション
(Super Annuattion Fund:退職年金基金)
但し、日本と異なり、全員が受給対象ではな
資料調査(ミーンズテスト)により、一定以
上の所得や資産がある高齢者は、受給額が減
額あるいは停止される。109所得や資産が少な
少
老齢年金(Age Pension)
い。収入テストと資産テストからなる段階的
少
所得
受
給
額
多
出典:丸尾美奈子(2009)Ibid.を参照し、あらた監査法人作成
い高齢者のセーフティネットとしての役割を担い、受給者数は 222 万人、支給開始年齢以上の人口の
約 7 割が受給している110。
107
PRI (2015)”Signatories to the PRI”, 参照日程:2015 年 1 月 20 日 http://www.unpri.org/signatories/signatories/?country=Australia
Environmental(環境)、Social(社会)
、Governance(企業統治:ガバナンス)のこと。企業が ESG の課題に適切に配
慮・対応すると同時に、投資家が、そうした企業の取組みを評価して投資を行うことが、地球環境問題や社会的な課題の
解決・改善、更に、資本市場の健全な育成・発展につながると考えられている。
日本取引所グループ(2015)参照日程:2015 年 3 月 26 日 http://plusyou.tse.or.jp/theme/001/
109
丸尾美奈子(2009)「オーストラリアの年金制度について」ニッセイ基礎研究所 参照日程:2015 年 1 月 20 日、参照先
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2009/08/repo0908-2.pdf
110
Australian Bureau of Statistics(2012), “Income and Community Support,” Year Book Australia, 参照日程:2015 年 1 月 20 日参
照先:http://goo.gl/X9skPF
108
79
運営機関は、家族・住居・地域サービス先住民問題省(Department of Families Housing Community
Services and Indigenous Affairs)であり、2014 年時点で老齢年金の総給付額は、322 億豪ドルである
111
。
② スーパーアニュエーション・ファンド(Super Annuation Fund:退職年金基金)
2 階部分にあたるスーパーアニュエーション・ファンドは、雇用主の強制拠出と被用者(従業員)の任
意拠出からなり、全額積立方式の制度である。受給対象は、正社員だけでなく、パートタイムや短期
労働者も含まれる。また、自営業者・無業者も任意で拠出することができる112。雇用主は、スーパー
アニュエーションの掛け金(従業員の基本収入の 9.5%)を拠出することが義務付けられている113。
スーパーアニュエーションにおける資産は、拠出、運営、給付の三段階で課税対象となるが、税の優
遇措置や政府による助成があるため、有利な投資である。従業員の拠出義務はないが、9.5%以上の
拠出を希望する場合、任意で上乗せすることができる。
スーパーアニュエーションの加入者は、自らが選択した年金基金(ファンド)に口座を開設し、基金
が提供する個別の運用商品を選択する仕組みとなっている(図表 47 参照)。
図表 47 スーパーアニュエーション・ファンドの仕組み
スーパー
アニュエーションファンド
雇用主
ファンド別の運用商品
②
従業員の指定するファンド、
運用商品に給与の9.5%を拠出
運用商品A
運用商品B
運用商品C
①
運用商品D
従業員
運用商品E
運用商品F
運用商品G
運用商品H
①ファンドを指定
②運用商品を指定
運用商品I
運用商品J
運用商品K
運用商品L
出典:あらた監査法人作成
給付は、一括もしくは年金払いで 55 歳から受け取り可能であるが、2025 年までに 60 歳まで引き上げら
れる予定である114。近年、オーストラリアにおけるスーパーアニュエーションの拡大は著しく、資産残
高は 2014 年 9 月時点過去最高の 1.86 兆豪ドルと同国の GDP に相当する規模にまで成長している115。
Australian Government(2014), “9.1 Age Pension”, National Commission of Audit 参照日程:2015 年 1 月 20 日, 参照先
http://www.ncoa.gov.au/report/appendix-vol-1/9-1-age-pension.html
112
中川秀空(2013)「オーストラリアの年金制度の現状と課題」国立国会図書館 社会労働調査室「
『レファレンス』747 号、
参照日程:2015 年 1 月 20 日 参照先:http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8200259_po_074701.pdf?contentNo=1
113
Australian Government(2014),”Super guarantee charge percentage”, Australian Taxation Office, 参照日程:2015 年 1 月 20 日,
参照先:
http://www.aph.gov.au/About_Parliament/Parliamentary_Departments/Parliamentary
114
丸尾美奈子(2009) op.cit
115
ASAF(2014) , “Superannuation Statistics”,参照日程:
2015 年 1 月 20 日 参照先: http://www.superannuation.asn.au/resources/superannuation-statistics/
111
80
○ファンドの種類
スーパーアニュエーション・ファンドは、①企業ファンド、②産業ファンド、③公的機関ファンド、④リ
テールファンド、⑤スモールファンドの 5 種類から構成されている。各ファンドの特徴は以下に記載する
(図表 48 参照)
。①~④のファンドは、Australian Prudential Regulation Authority(金融監督庁)の監督
のもと、専門の運用委託機関が運用する。また、Australian Securities and Investment Commission(オー
ストラリア証券投資委員会)は、金融サービスのライセンス保有者の規制を担当し、スーパーアニュエー
ション基金運営における市場行為規制やディスクロージャー規制を担当する。⑤のファンドに関しては、
Australian Taxation Office(国税局)の監督下で、ファンド加入者が直接運用する。
スーパーアニュエーション・ファンドの種類
図表 48 スーパーアニュエーション・ファンドの種類
ファンドの種類
① 企業ファンド
特徴
・個別企業の従業員向け
・口座数: 約 60 万
・残高:約 560 億豪ドル
設立主体
雇用主(グループ
企業)
② 産業ファンド
・特定産業の従業員向け
・口座数:約 1,100 万
・残高:約 2,670 億豪ドル
労働組合
③ 公的機関
・公務員向け
・口座数:約 300 万
・残高:約 2,220 億豪ドル
公的機関
・自営業者を含む幅広い個
人向け(加入者制限はな
い)
・口座数:約 1,500 万
・残高:約 3,710 億豪ドル
金融機関
・自営業者を含んだ幅広い
個人向け。※本人とそれ
以外の 3 人までの方が加
入可
・口座数:約 91 万
・残高:約 4,390 億豪ドル
自営業者
ファンド
④ リテール
ファンド
⑤ スモールファン
ド
監督官庁
金融監督庁
Australian Prudential
Regulation
Authority
オーストラリア
証券投資委員会
Australian Securities
and Investment
Commission
国税局
Australian
Taxation Office
(注)2012 年時点におけるデータ
出典:Julie Agnew (2013), “Australia’s Retirement System: Strength, Weakness, and Reforms” Center for Retirement
Research of Boston College, 宮井博(2008)「オーストラリアの退職年金保障制度(スーパーアニュエーション)に
おける ESG の取り組み」日興フィナンシャル・インテリジェンスを参照し、あらた監査法人作成
従来、加入者は雇用主の指定するファンドに口座を開設しなければならなかったが、2005 年 7 月の法改
正以降、加入者はファンドを選択できるようになった。例えば、雇用主が企業ファンドを運営する場合で
も、加入者が金融機関の提供するリテールファンドを指定した場合、雇用主は当該ファンドに向けて拠出
をしなければならなくなった。もし、加入者による指定がない場合、公的機関が承認する特定のデフォル
トファンドに拠出される。従来、多様なデフォルトファンドが展開されていたが、2014 年 1 月に公的機
関 APRA が運営する MySuper のみがデフォルトファンドとして認定されることが決まった。それまでデ
81
フォルトファンドに投資されていた資産は順次 My Super へ移管されることとなった116。
尚、スーパーアニュエーションにかかる政策の企画立案及び実施は、財務省にておこわなれる。同省の国
務大臣である金融サービス及びスーパーアニュエーション大臣 (Minister of Financial Service and
Superannuation)が担当する。
スーパーアニュエーション・ファンドの運用会社と企業の非財務情報の開示
企業ファンド、産業ファンド、公的機関ファンドは、各々非営利ベースで雇用主等が運営する。リテール
ファンドの場合、運用会社が運営する。リテールファンドには、生保や損保機能が付加されているものが
多く、運用会社は、主に生保や銀行となっている117。
リテールファンド運用会社上位 10 社のシェアは全体の 9 割を占めており(図表 49 参照)、寡占が進んで
いる。運用会社は、自社の商品だけでなく、他の運営会社の商品も揃えており、加入者は幅広い選択肢を
持つことができる。
図表 49 リテールファンド運用会社上位 10 社(2014 年 6 月末)
(100万豪ドル)
個人向け資産運用会社上位10社
預かり資産残高
(2014年6月)
シェア
1 BT Financial
122,748
18.2%
2 AMP
117,104
17.2%
3 Commonwealth/Colonial
106,277
15.7%
4 National Australia/MLC
99,654
14.8%
5 OnePath Australia
48,577
7.2%
6 Macquarie
43,052
6.4%
7 IOOF
31,222
4.6%
8 Mercer
18,485
2.8%
9 State Super Financial Services
13,402
2.0%
10 Perpetual
9,797
1.5%
その他
64,603
9.5%
合計
674,923
100.0%
(注)表中の預かり資産残高の内、Superannuation の資産残高は 329,873(100 万豪ドル)
出典:Plan for Life (2014),” Analysis Of Retail Managed Funds as at June 2014”を参照し、あらた監査法人作成
2015 年 1 月 20 日 参照先:
http://www.professionalplanner.com.au/wp-content/uploads/2014/09/PFL
-Media-Release-Retail-614-Admin.pdf
参照日:
○運用会社の ESG 投資の取組み
オーストラリアでは、多岐にわたるファンドが展開されているため、運用会社は商品の品揃えの充実化に
加え、加入者向けの報告書の作成や加入者の運用商品の乗り換え対応等のアドミニストレーション機能を
強化している。顧客にとっての利便性をあげることで、他ファンドとの差別化を図っている。また、ESG
投資の取組みを意識することで、顧客からの信頼だけでなく、社会全体に裨益する長期的なパフォーマン
116
野村亜紀子(2013)
「オーストラリアのスーパーアニュエーション」野村市場資本研究所 参照日程:2015 年 1 月 20 日
参照先 http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2013/2013aut06.pdf
117
丸尾美奈子(2009) op.cit
82
ス向上を目指している。例えば、運用会社上位 3 社(BT、AMP、Commonwealth/Colonial)は、スーパ
ーアニュエーション・ファンドの運用に加え、ESG の重要性を理解し、投資プロセスへの組み込みの他、
PRI への署名をおこなっている(図表 50 参照)
。また、上記 3 機関以外にも、各運用会社においては ESG
投資への意識的取組みが散見される。
図表 50 運用会社上位 3 社の ESG 投資への取組み
企業名
取り組み事項
BT Financial
2007年PRIに署名し、投資分析と意思決定のプロセスに ESG 投資の課題を組み込
んでいる。具体的には、持続的なビジネス実現のため、6つの分野:a)ガバナンス、b)
気候変動、c)環境フットプリント、d)投資先コミュニティへの責任、e) 持続的な商品・
サービスの提供、f) 持続可能なビジネスの実践に注視し、ESG投資を活性化させて
いる。
AMP
AMPは1885年世界で初めてスーパーアニュエーションの運用を開始した機関である。
2007年PRIに署名以降、インフラ、M&A、債権、エクイティ、不動産等多岐にわたる
投資活動において、ESG投資リスクを考慮してきた。また、AMP Responsible
Investment Leadersと呼ばれる組織は、国内外において責任投資を中心とした情
報提供をおこなっている。
Common
wealth/
Colonial
PRIへ署名以降、気候変動、カーボン政策、環境汚染、コミュニティへの影響等を考
慮しながら、健全かつ持続可能な多様な投資商品の展開をおこなっている。関連す
るステークホルダーが最終的な顧客の利益を理解し、認識し、顧客の利益のために
行動する責任を遂行している。
出典:各企業のウェブサイト118を参照し、あらた監査法人作成
○企業の非財務情報開示
上記のように運用会社が扱う商品の一つとして、オーストラリアをはじめ欧州では、企業の株式へ投資す
るファンドも存在していたが、多くの企業開示において、非財務的な取組や知的資産、経営方針が、財務
や経営の実績に対し、どのように影響を与えたのかが不明瞭という背景があった。一方、2013 年 12 月国
際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council、以下「IIRC」)が国際統合フレームワーク
(International Integrated Reporting Framework)を公表し、当該フレームワークにそって、経営戦略と
して長期的な企業価値創造をどのように行うのか、財務要因と非財務要因を統合して、分かりやすくスト
ーリー性をもって説明することを企業に対して求めるようになった。 IIRC は、オーストラリアの
Australian Institute of Superannuation Investors(ACSI) 及 び Australian Institute of Superannuation
Trustees (AIST)をメンバーとして含む Integrated Reporting Pension Fund Networking を立ち上げている。
本ネットワークは、メンバー企業に対して、産業別に統合フレームワークの紹介やそのメリット、活用に
かかる支援をおこなうことで、企業の非財務情報の開示の促進を狙っている。
オーストラリアでは、スーパーアニュエーション・ファンドの規模が拡大していく一方、多岐にわたるフ
118
BT(2014),”Corporate Responsibility.” 参照日程:2015 年 1 月 20 日
http://www.btfg.com.au/about-bt-financial-group/corporate-sustainability/corporate-sustainability.asp,
AMP(2014),”ESG and Responsible Investment”, 参照日程:2015 年 1 月 20 日 参照先
http://www.ampcapital.com.au/esg,
Colonial(2014)“RI Transparent Report 2013/2014”, 参照日程:2015 年 1 月 20 日,参照先:
http://www.unpri.org/viewer/?file=wp-content/uploads/Merged_Public_Transparency_Report_ColonialFirstStateGlobalAssetManagementi
ncludingFirstStateInvestments.pdf
83
ァンド間の熾烈な競争が増している。かかるなか、年金の運用会社が PRI への署名や ESG 投資への取組
みを進めていることに対して、企業は非財務情報の開示をおこなうことで、企業は運用会社から選ばれる
存在になることができると思われる。
なお、Integrated Reporting Pension Fund Networking はオーストラリアの年金投資家の団体である ACSI
がイニシアティブをとり、企業の統合報告を促進する取組みを牽引しているが、当該状況を活性化させて
いった背景として、以下が挙げられる(図表 51 参照)
。
図表 51 企業の非財務情報の開示を促進させる背景
出典:
宮井博(2008) op.cit, Australian Government(2014 ),”Financial Services Reform Act 2001”
参照日程:2015 年 1 月 20 日 参照先:http://www.comlaw.gov.au/Details/C2004A00891
を参照し、あらた監査法人作成
84
3.3.6
新しいマーケットと製品・サービスの開発
3.3.6.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、個別事業部門の活動の一つとして、新しいマーケットと製品・サービスの開発を取り上げる。
戦略的 CSR 活動という観点から考えると、新しいマーケットと製品・サービスの開発は企業の競争力強
化に直接的に影響を与えるため、重要であると考えられる。
(1) 取組の概要とその効果
企業は、自社ビジネスが与える環境負荷やヘルスケア関連事業の未整備によるコミュニティでのベーシッ
クニーズ等に対して、環境基準やコミュニティに即した商品開発をおこなうことで、今まで到達できなか
った層に対して、製品やサービスを普及させる取組をおこなっている。具体的には、自社の新規製品やサ
ービスの展開をおこなう際、a.新規事業の展開、b.既存事業の改善、c.投資、d.技術支援/情報提供等の領
域を通じ、幅広く市場開拓をおこなっている。当該企業は、以下のとおり製造業や小売業、自動車産業等
多岐にわたる。
図表 52 新しいマーケットと製品・サービスの開発に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、具体的に本評価軸に関連する取組とそのモニタリング方法を以下に記載する。
売上高や参加人数に紐づけた具体的な KPI を設定し、
Web 上で数値を明らかにしている企業がある一方、
抽象的な取組概要が中心的である企業もみられた。
85
図表 53 新しいマーケットと製品・サービスの開発に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
86
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
87
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
88
(2)フレームワーク
3.2 章における「戦略的 CSR 活動による競争力に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、中長期
的な企業の競争力強化には「3.事業部門単位の活動」の策定及び実行が欠かせない。
「3.事業部門単位
の活動」の要素である新しいマーケットと製品・サービスの開発をおこなうことで、他社との差別化等に
つなげることができると考えられる。
また、当該取組の波及効果として「2.全社横断的な構造」の基盤となる企業の組織体制・人材の能力を
向上させるような状況も想定される。加えて、企業だけでなく、NGO や地域コミュニティと連携するこ
とで生まれた正の効果を非財務情報として開示することで、ステークホルダーとの関係がより良好になる
ことも考えられる。
図表 54 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰの影響について説明する。
I「3.事業部門単位の活動」がもたらす中長期的な企業の競争力強化
本評価軸の対象企業 13 社においては、地域コミュニティとの関係構築等にかかる取組の結果、効果とし
①売上高/市場の拡大、②他社との差別化につながる事例がみられた。
*内訳:①売上高/市場の拡大 7 件、②他社との差別化
7件
例えば、企業の売上高/市場の拡大に資する事例としては、GE が挙げられる。

「事業活動の推進だけでなく、それを超えた様々な価値を社会へ届けるためにイノベーションの精神
とインテグリティの追求にチャレンジしていく」というビジョンを掲げている。当該ビジョンを前提
とし、エコマジネーション(Eco-imagination)というプログラムを推進しており、新しい事業へと
拡大していくことに成功している。
89
図表 55 GE の事例
出典:企業のウェブサイトよりあらた監査法人作成
(3)まとめ
以上見てきたように、新しいマーケットと製品・サービスの開発にかかる取組は、①売上高/市場の拡大、
②他社との差別化につながることが多い。また、他社との差別化に繋がるような新しいマーケットと製
品・サービスの開発の成功例は、中長期のビジョンが明確になっている場合が多いように思われる。
このように、
「新しいマーケットと製品・サービスの開発」に対する戦略的 CSR の取組は、中長期的な
企業の競争力強化に役立つものと考えられる
90
3.3.6.2 海外の関連政策例
新しいマーケットと製品・サービスの開発にかかる海外の関連政策事例として、ノルウェー、米国、ドイ
ツの事例が挙げられる。
■ノルウェー
政策:デザイン・ドリブン・イノベーションプログラム(Design-Driven Innovation Programme)
所管:ノルウェー・デザイン・カウンシル/経済産業省
(Norwegian Design Council/Ministry of Trade and Industry)
図表 56 ノルウェー産業別輸出動向(2008 年)
(1) 制度の概要/背景
2008 年米国のサブプライム問題に端を発する世界金融危機
が深刻さを増すにつれ、ノルウェー政府は、自国の利益を石
原油・ガス産業
油・天然ガスの輸出に依存する経済構造に対し懸念を抱くよ
うになっていた。また、他の EU 諸国と比較し、ノルウェー
企業の製品開発力等イノベーションのレベルの低さが課題
となっており、企業の競争力強化が喫緊の課題となっていた。
かかるなか、ノルウェー・デザイン・カウンシルの調査によ
輸出振興に向けたイノベーション
が必要な産業分野
水産物、鉱物、紙、食品など
り、企業の経営にデザイン思考を取り入れた場合、イノベー
ションのレベルが通常の 2 倍になることが明らかとなった。
そ こ で 、 ノ ル ウ ェ ー 政 府 は 、 同 年 ‘An Innovative and
出典:Ibid.,を参照し、あらた監査法人作成
Sustainable Norway’(政府のホワイトペーパー)において、国のイノベーションレベルの底上げ及び競
争力強化に向け The Design Driven Innovation Programme を立ち上げることを発表した。2009 年、ノル
ウェー経済産業省の要請のもとノルウェー・デザイン・カウンシルが中心となり、デザイン思考を企業に
活用するための制度運用が始まった。本プログラムは企業規模にかかわらず応募が可能である。採択され
た場合、企業は補助金の受給に加え、ユーザー目線に基づいたコンセプトデザイン、ユーザーを満足させ
るための製品開発やビジネスモデル、マーケティング手法に至るまで幅広い経営アドバイザリーサービス
を受けることができる。119
119
Design for Europe (2015), ”Design-driven Innovation Programme’’参照日程:2015 年 3 月 26 日、
参照先:http://designforeurope.eu/case-study/design-driven-innovation-programme
91
図表 57 The Design-Driven Innovation のプロセス
出典:Norwegian Design Council (2010), ”Design-driven Innovation Programme’’
参照日程:2015 年 3 月 26 日、
参照先:http://www.norskdesign.no/getfile.php/Filer/Artikler/Om%20oss/DIP_2010_web.pdf
(2) 効果
本プログラムへの応募申請数は、2014 年時点で 90 セクターにわたり総計 740 件である。うち、採択に
至った案件は 103 件(医療、エネルギー、海洋、家具、建設、出版、食品等多岐にわたる領域)であり120、
補助金の支給総額は、計 800 万ユーロである121。ノルウェー・デザイン・カウンシルは、20 年の歴史を
有する英国の Design Business Association と連携し、以下の 6 つの観点より企業が本プログラムを通じ
て得られた効果を測定している。
120
採択案件は、民間企業だけでなく、公的機関による案件も含まれる。10 万 NOK 以上の事業計画に補助金が受給され、民間企業の場
合総額の最大 50%、公的機関の場合 75%まで受給が可能である。
121
Norwegian Design Council (2010), ”Design-driven Innovation Programme’’参照日程:2015 年 3 月 26 日、
参照先:http://www.norskdesign.no/getfile.php/Filer/Artikler/Om%20oss/DIP_2010_web.pdf
92
図表 58 企業のアウトカム測定指標例
売上高
 売り上げ規模
 顧客数
 サービスのダウンロード数
.
 企業や事業に
対する認知度
- 投資家
- 顧客etc.
認知度
 コスト
 限界利益
 投資回収期間
 株価
採算性
採択事業
 環境意識の
高まり
 環境に優しい
原材料の活用
環境配慮
市場シェア
 新規市場の開拓率
 既存事業の市場
シェア
採択企業例
従業員の
職場環境
 安全衛生環境
 従業員の病欠数
 従業員の能力
補助金額
(1,000NOK)
産業
Move About AS
450
自動車
Gurskøy AS
425
海運
Kysthosoitalet
425
病院
NTE Holding as
350
エネルギー
Wonderland AS
350
家具
Laerdal Medical AS
325
医療
NorDan AS
250,
建設
※金額単位は 1NOK≒16.6 円(2013 年平均)
出典:Ibid.,
従来、83%のノルウェー企業はイノベーションを起こすために、デザイン思考に基づいた経営戦略を策
定した経験を有していなかった。市場の現状を分析し、問題を特定することで仮設検証をおこなうアプロ
ーチが主流であった。しかし、想定されるユーザーを観察し、ユーザー自身が気づいていない潜在的な需
要を把握し、課題の定義をゼロからおこなうデザイン思考の導入により、新たなコンセプトを創造し、市
場を創造していくことが可能となった。
2009 年に採択された 18 社のうち 14 社では、売上高の増加や製品・サービスにかかる市場シェアの拡大
が認められた。122本プログラムは特定の産業領域に限定されることなく、企業の競争力やイノベーショ
ンを高める画期的なアプローチとなった。123
(3) 成功要因/課題
ノルウェー企業がデザインを活用したイノベーション手法に投資をおこなう理由は、主に以下の 3 点が期
待されるためである。
 新規市場の開拓
 高品質な製品やサービスの開発
 顧客に対する付加価値の提供124
122
Ibid.,
Ibid.,
124
Ibid.,
123
93
図表 59 ノルウェー企業の成功事例:Lofotprodukt 社の場合
課題:魚介製品をノルウェー北部で展開していたが、当該地域以外における市場を開拓する課題に
直面していた。しかし、店頭における製品パッケージは、魚介の高い品質をアピールするものでな
いばかりか、競合製品と酷似していた。
解決策:ロゴやパッケージの改善をおこない、競合との明確な差別化を図り、魚介の質や味におい
て一級製品であることを視覚に訴求できるようにした。さらに、社名を変更し(Loft-Delikatesser
から Lofotprodukt 社へ)
、消費者だけでなく、食料品店に向けてマーケティングをおこなうことで、
Lofotprodkut 社は新鮮な魚を売る会社というイメージを作り上げることができた。
結果:ノルウェー全国へ市場が拡大し、全食料品店のうち 67%と取引をおこなうことができるよう
になり、売り上げは 300%増となった。それにともない、従業員のモチベーションは向上し、地域
コミュニティに新たな雇用が創出されるようになった。
出典:Ibid.,を参照し、あらた監査法人作成
上記のように、最終的にデザインが企業のイノベーションにつながるためには、下記に留意することが求
められる。
・アドバイザリーサービスを提供するコンサルタントと企業の経営陣との間で信頼を構築すること
・事業の実施にあたり、消費者の需要や企業の供給を理解すること
・事業戦略の策定に向け、企業の初期段階における必要条件を明確にしたうえで、プロジェクトに落とし
込むこと
・プロフェッショナルなビジネスオペレーションをおこなうこと
e.g. 要点を纏めた文書の作成、入札の管理、手数料・知的財産権・成果物の明確化125
他方、デザインにかかるプロジェクトはしばしば財源を公的資金に依存しており、企業が持続的に投資し
続けるためのビジネスモデルの構築が求められている。また、地域によってはデザインコンサルタントが
94
不足しており、トレーニング等の教育体制も整備することが望まれる。
尚、2009 年から始まった本プログラムは 2014 年に終了予定である。今後、プログラム運営を通じて得
られた課題や教訓に関し、公表されることが期待されている。126
126
REDI / Regions supporting Entrepreneurs and Designers to Innovate,P2, 参照日:2015 年 3 月 26 日、参照先:
http://bsc.smebg.net/redi/resources/WP1_Report.pdf
95
■米国
政策:i 6 グリーン・チャレンジ(i 6 Green Challenge, 2011 年制定)
所管:商務省(Department of Commerce)
(1) 政策の概要/背景
「i6 グリーン・チャレンジ」は、政府が起業のあらゆるプロセスを支援することで国の競争力強化や雇
用創出につながるという考えのもと、クリーンエネルギーの技術革新と経済成長を促すために考案され
た助成プログラムである(予算総額は 2 年間で 1,200 万米ドル)。商務省を中心とした多岐にわたる機関
(エネルギー省、農務省、環境保護庁、国立科学財団、標準技術研究所、特許商務局)のもと、運営さ
れている同プログラムの支援を受けるためには、応募企業は再生可能エネルギー、エネルギー効率、ま
たは環境配慮型建築技術の分野で、イノベーションを実証する必要がある。環境に配慮した技術を持つ
企業のうち、革新的なアイデアを持った上位 6 グループは 2 年間の認証案件として採択された場合、補
助金(1 グループあたり上限額:100 万米ドル)の受給の他、技術的支援及び商用化に向けたアドバイザ
リーサービスを受けることができる。応募者はほぼスタートアップ段階の企業が占める。
図表 60「i6 チャレンジ」参加者内訳
出典:SRI international(2014)
参照日:2015 年 3 月 27 日、参照先:
http://www.eda.gov/tools/files/research-reports/EDA-i6-Program-Assess
ment-and-Metrics.pdf
尚、本プログラムは、オバマ政権が 2011 年に発表した「スタートアップ・アメリカ」イニシアティブの
一つとして位置づけられている。127
(2) 効果
SRI International の調査によれば128、採択された企業による本プログラムに対する満足度は高く、主に①
技術の発展、②製品開発、③人材の成長、④市場開拓、⑤資金調達にかかる恩恵を受けたという。特に、
①技術の発展のうち、技術やコンセプトを発展させることに役立った、あるいは、④市場開拓にあたり
127
USA Economic Development Administration (2015) http://www.eda.gov/challenges/i6/
University of North Carolina, Chapel Hill, SRI International(2014),”The EDA i6 Challenge Program: Assessment & Metrics”, 参照日程:
2015 年 3 月 26 日 参照先:http://www.eda.gov/tools/files/research-reports/EDA-i6-Program-Assessment-and-Metrics.pdf
128
96
必要な新たなネットワーキングの機会が役立ったとの意見が半数以上を占めた。
図表 61 i6 チャレンジの採択企業が享受したメリット
出典: Ibid, page32, 33 を参照し、あらた監査法人作成

採択企業のひとつであるワシントン州における「クリーンエネルギー・パートナーシップ」プロジ
ェクトでは、技術の商業化に向け、デモンストレーションの実施やその結果を適用する企業の選定、
さらには技術を取り扱うための人材育成に向けた取組が地域一体となっておこなわれている。
図表 62 i6 チャレンジの採択企業例
出典: Ibid,page 34 を参照し、あらた監査法人作成
97
(3)成功要因/課題
○成功要因
採択案件は、本プログラムが有する豊富なネットワークや資金調達経路を活用することで、ビジネス基
盤の整備や地域コミュニティとの関係構築等起業の準備をおこなうことができたように思われる。各企
業がパートナーや顧客を巻き込みながらおこなった活動として、下記が挙げられる。
図表 63 採択企業が事業化に向けて取組んだ例
出典:Ibid, page vi を参照し、あらた監査法人作成
○課題:

効果測定方法について
本プログラムでは、採択案件に対し資金提供や支援活動が行われているが、採択案件の技術開発レベ
ル、ネットワーキング能力等が異なるため、①どのような支援が求められており、②どのような支援
をおこなうべきなのかに関して、一律で説明することが容易ではない。企業規模と能力の発展性を踏
まえながら、どのような支援活動が良い結果に結びつきやすいのかを検討する必要がある。
現在 SRI International 社、商務省の経済開発局(EDA)及び North Chapel Hill 大学では、本プログラ
ムを効果的に測定するための指標策定にかかる共同研究をおこなっている。前項における効果測定結
果は、当該研究の一貫として一部の企業を対象にアンケートやインタビューをおこなった結果を反映
した内容である。今後は、採択案件全てを対象に効果測定をおこなうように i6 グリーン・チャレンジ
プログラムに進言しているところであるが、課題の抽出や対応策を検討していくことが求められる。129
129
Ibid.,
98
■ドイツ
政策:ブルーエンジェル(Blue Angel ,1978 年制定)
所管:連邦環境庁(Federal Environmental Agency)
(1) 政策の背景/制度
有害化学物質、騒音やエネルギー消費等の環境に及ぼす負荷が少ない製品やサービスの需給を促進し、
環境面および消費者の両者を保護することを目的に策定された世界初のエコラベルである。
図表 64 Blue Angel 概要
出典:JETRO(2015) 参照先:https://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/qa/01/04A-000971 及び日本環境省「世界の主要
なラベル」参照日程:2015 年 3 月 27 日、参照先: http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/world/germany.html
を参照し、あらた監査法人作成
図表 65 Blue Angel マーク
出典:日本環境省, Ibid.
なお、ラベルに国連環境計画(UNEP)のシンボルマークである Blue Angel を採用している。さらに、
最近の環境問題に関わる動向を踏まえて、従来の基本マークが、気候(Climate)、健康(Health)、資源
(Resources)
、水資源(Water)の 4 ラベルに分類されており、製品群によって、どのラベルを使用す
るかが決められている。130
130
JETRO (2015).op.cit.
99
(2) 効果
① ブランド化による消費者の購買活動への影響
Blue Angel は発効から 35 年経過していることもあり、2000 人の消費者を対象として調査を実施したと
ころ、90%もの消費者が認知しており131、消費者の 49%が Blue Angel 製品に留意して購入している132と
の結果が出ており、ブランドとして定着しているといえる。
Blue Angel エコラベルの高い認知度と、購買行動へ与える影響の大きさから、環境配慮型製品及びサー
ビスは既に大きな市場となっており、企業にとって、環境意識の高い消費者に訴求するため、Blue Angel
に適合した新しい製品及びサービスの開発を行うという経済的なインセンティブが生じている。また、
Blue Angel は他のエコラベルと異なり、紙、テレビ、サービス、カーシェアリング等、幅広い製品及び
サービスに対して適用可能である。
② 企業に対する従業員のロイヤリティ向上
企業が Blue Angel を活用することで、環境に配慮した企業であると社会から認知される傾向にある。そ
れにともない、当該企業に所属している従業員に対する社会からのイメージも向上するため、従業員の
愛社精神を向上させる効果があると考えられている。133
(3) 成功要因/課題
○成功要因
① 健全なチェック体制
Blue Angel が社会に広く普及することになった要因の一つとして、エコラベル認定の適合基準(クライ
テリア)を策定する独立した意思決定機関(Jury Umweltzeichen)と、当該機関とは別に、商品やサー
ビスが適合基準を満たしているかどうかを審査するアセスメント機関(連邦環境庁 or 州政府に加えてド
イツ品質保証・ラベル協会(RAL:German Institute for Quality Assurance and Labelling))が存在するこ
とが挙げられる。エコラベルに認定されるまでのプロセスが厳格であることにより、制度自体の信頼性
を高めることができた。
② コミュニケーションの強化
消費者にエコラベルを広く認知してもらうため、PR 活動を工夫することに力を入れた。PR 予算に制限
がある中、ウェブサイトで動画を掲載したり、エコラベルの啓蒙活動に従事するアンバサダーが地道に
セミナー等の講演活動を実施することでその普及に貢献した。
また、ドイツ消費者センター総連盟(Federation of German Consumer Organisations)の Edda Müller 氏に
よれば、Blue Angel エコラベルの普及のため、エコラベルの 3 つの目標及び恩恵(1.消費者にとって有益
かつ分かりやすいこと。2.環境配慮製品の革新及び普及により製品に起因する環境汚染を減らすこと 3.
製造者にとってエコラベルの適合基準に対応することによって経済的利益が十分に得られること)を社
会に周知することが成功につながったという。134
131
あらた監査法人によるドイツ連邦環境庁ヒアリングより
経済産業省「国際的な環境ラベル制度の動向分析」、参照日程:2015 年 3 月 27 日、
参照先:http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/h18fy/180605-3_jema-mri/180605-3_3.pdf
133
あらた監査法人による連邦環境庁ヒアリングより
134
経済産業省,op.cit., P73
132
100
○今後の課題
① エコ関連ラベルの信頼性低下
昨今、世界には環境関連のラベルが数多く存在する(約 500 以上)
。他方で、環境意識の高い消費者が購
買してくれることを期待して、消費者に誤解を与えるような訴求を行う企業行動(グリーンウォッシュ)
も増加傾向にある。このような動向により、消費者の認識に混乱が生じ、エコラベルそのものへの信頼
低下につながっている。地球環境への優しさを誇大広告することを防止し、本来の環境配慮型商品の優
位性を損ねないようにするため、欧州においては環境広告規定のガイドラインも策定されているものの、
信頼性の低い環境関連ラベルが乱立することは望ましくないため、エコラベル全体の質の底上げや、類
似の製品に関わるラベルの統合化が求められているといえる。
② 基準設定のレベル
上記①のような課題が生じている一方で、企業の製品やサービスがエコラベルを取得するための適合基
準を厳格にすると、エコラベルを取得することによるメリットが、エコラベルに適合する商品及びサー
ビスを開発・提供するためのコストと見合わなくなり、企業からエコラベルを取得するインセンティブ
を奪い、かえって環境適合型製品の開発及び生産を阻害してしまう可能性がある。そのため、現在時点
において利用可能な技術水準や、対策すべき環境問題、消費者の関心や市場動向など、様々な要素を勘
案した上で、妥当な水準の適合基準を決めるのが難しいという課題がある。135
135
Ibid.,
101
3.3.7
バリューチェーンの生産性の向上
3.3.7.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、事業部門単位の活動の一つとして、バリューチェーンの生産性の向上を取り上げる。戦略的
CSR 活動という観点から考えると、バリューチェーンの生産性の向上は企業の競争力強化に直接的に影
響を与えるため、重要であると考えられる。
(1) 取組の概要とその効果
企業は、バリューチェーン136において、自社ビジネスが自然資源に対して与える環境負荷を社会課題と
捉え、資源の効率的な活用に向けた取組をおこなうことで、競合他社との差別化をおこなっている例があ
る。また、サプライヤーの労働環境等を課題と認識し、改善に向けた取組をおこなうことで安定的な原材
料の調達を達成している企業例がある。このように、中長期的なビジネス環境を整備している企業例は、
以下のとおりである。
図表 66 バリューチェーンの生産性の向上に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
企業が、具体的に本評価軸に関連する取組とそのモニタリング方法を以下に記載する。
多くの企業がエネルギーや水の消費等の削減目標を掲げ、具体的な KPI を設定している。
136
「バリューチェーン」とは、マイケル・ポーターが提唱した概念で、製品やサービスを顧客に提供するという企業活動を、購買物流・
製造オペレーション等から構成される主活動と、企業インフラや人的資源管理等から構成される支援活動に分類した上で、それぞれの業
務が一連の流れの中で順次、価値とコストを付加・蓄積していくものと捉え、この連鎖的な活動によって顧客に向けた最終的な「価値」
が生み出されるとする概念をいう。中小企業庁 HP より http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_5_3_1.html
102
図表 67 バリューチェーンの生産性の向上に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
103
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
104
(2)フレームワーク分析
3.2 章における「戦略的 CSR 活動による競争力に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、中長期
的な企業の競争力強化には「3.事業部門単位の活動」の策定及び実行が欠かせない。
「3.事業部門単位
の活動」の要素であるバリューチェーンの生産性の向上をおこなうことで、原材料の安定調達の確保や他
社との差別化等につなげることができると考えられる。
また、当該取組の波及効果として「2.全社横断的な構造」の基盤となる企業の組織体制・人材の能力を
向上させるような状況も想定される。加えて、企業だけでなく、NGO や地域コミュニティと連携するこ
とで生まれた正の効果を非財務情報として開示することで、ステークホルダーとの関係がより良好になる
ことも考えられる。
図表 68 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、Ⅰ、Ⅱの影響について説明する。
I「3.事業部門単位の活動」がもたらす中長期的な企業の競争力強化
本評価軸の対象企業 10 社においては、バリューチェーンの生産性の向上に係る取組の結果、効果として
①安定調達、②他社との差別化、③売上高/市場の拡大、④コスト削減につながる事例がみられた。特に、
安定調達に影響を与えていると考えられる企業が大半を占めた。
*内訳:①安定調達
8 件、②他社との差別化
③売上高/市場の拡大
5 件、
1 件、④コスト削減
1件
例えば、企業の安定調達の向上に資する事例としては、コカ・コーラが挙げられる。

コカ・コーラは、バリューチェーン全体における環境パフォーマンスの向上を目指し、ウォータース
チュワードシップと呼ばれる水の保護活動をおこなっている。2013 年には 1 リットルの製品を生産
するのに必要な水量の平均を 2010 年比で 8%削減する等の効果が見られている。また、自然資源を
105
保護することで、中長期的な視点による原材料の確保を見込んでいる。
図表 69 コカ・コーラの事例
出典:企業のウェブサイトよりあらた監査法人作成
Ⅱ. 「3.事業部門単位の活動」が「2. 全社横断的な構造」へもたらす影響
「3.事業部門単位の活動」を実施することで、
「2.全社横断的な構造」に良い影響を及ぼす可能性もある。
本評価軸対象 10 社においては、「2-④非財務情報の開示」に影響が見られた企業が 3 社みられた。
主な企業事例としては、前項でとりあげたコカ・コーラが該当する。多様なステークホルダー(e.g. NGO
や地域コミュニティ)を巻き込みながらおこなうウォータースチュワードシップの取組は、米国のアニュ
アルレポートである 10K レポートを通じ、外部に公表されている。
(3)まとめ
以上見てきたように、バリューチェーンの生産性の向上をおこなうことで、①安定調達、②他社との差別
化、③売上高/市場の拡大、④コスト削減等に役立つものと考えられる。こうした効果により、中長期的
な企業の競争力強化につながっていく。
なお、バリューチェーンの生産性の向上への取組を通じて、多様なステークホルダーを巻き込むことが可
能となり、ステークホルダー・エンゲージメント強化につながる可能性がある。かかる取組は、企業の統
合報告や CSR レポート等を通じて外部に公表することで、ステークホルダーからの信頼性向上につなが
る可能性もあると考えられる。
106
3.3.7.2 海外の関連政策例
バリューチェーンの生産性の向上にかかる海外の関連政策事例として、米国が挙げられる。
■米国
政策:スマートウェイ・トランスポートプログラム(SmartWay Transport プログラム, 2003 年)
所管:環境保護庁
(1)制度の概要/背景
物流業務における温室効果ガスの削減を目的に設立された『SmartWay Transport プログラム』は、2003
年にアメリカで発足した制度である。官民連携をベースとする自主的な取り組みで、物流関係者(トラッ
ク・バス・船等)や環境保護団体「Business for Responsibility」等ボランタリーな組織が米国環境保護庁
(EPA)と連携し、荷主及び物流業者向けに燃費が向上する輸送システムの改善やグリーンマーケティン
グの導入支援、ベンチマーク値の設定支援等をおこなっている。Smartway Transport Partnership と呼ば
れる官民連携のもとで、主に以下の 4 つのプログラムが推進されている。
図表 70 SmartWay Transport プログラムの 4 つの取り組み
出典:EPA(2015)”SmartWay”,参照日程 2015 年 3 月 26 日、参照先: http://www.epa.gov/smartway/about/index.htm を
参照し、あらた監査法人作成
(2) 効果
2004 年より 15 社の連携から始まった本プログラムは、2015 年時点、大手企業(Wal-Mart, Nike、
ExxonMobil、CSX Transportation、Whole Foods Market、FedEx、Schneider National 社等)3,000 社が
参画する規模となり、企業の社会的責任と持続可能なビジネスの遂行に向け、最新の環境技術を活用する
ための情報交換や取組を推進するプラットフォームへと成長した。
SmartWay プログラム参画した企業は、環境技術の適用により物流網における燃費を向上させ、環境に悪
影響を与える CO2 や NOx、PM 等を削減することに成功している。また、燃費向上にともない、燃料や
石油の使用量が減り、企業のオペレーションコストが削減されている。こうした環境と企業双方に利益を
もたらす持続的なビジネスの構築により、物流業界の経済基盤は強化され、同業界における労働者の雇用
107
も担保されやすくなった。米国では、物流業界の売り上げは GDP の 4%(6,040 億米ドル)を占めてお
り、全人口のうち 16 人に 1 人(1,690 万人)が物流関連業務に従事していることから、本プログラムは
米国経済を長期的に支える重要な施策である。
さらに、環境への負荷が低いサプライチェーンの構築により、オバマ政権が優先課題としている温室効果
ガスの排出量削減目標(e.g.大統領令 EO13514137)達成へも貢献している。本プログラムは政治・経済
両側面へ資する取組となっている。138
図表 71 SmartWay パートナーシップによる効果
効果
SmartWay
パートナーシップ
物流
業界
EPA
内容
環境への負荷
削減
 5160万トンのCO2削減
 73万8,000トンのNOx 削減
 3万7,000トンのPMの削減
企業コストの
削減
 168億 米ドルの燃料費の削減
 1億2,000万バレルの石油の削減
持続的なビジネスの構築(労働者の雇用担保)
温室効果ガスの排出量の削減(政策における優先課題の達成)
出典:EPA(2015)”SmartWay Program Highlights”, 参照日程:2015 年 3 月 27 日、参照先:
http://www.epa.gov/smartway/about/documents/basics/420f14003.pdf を参照し、あらた監査法人作成
(3) 成功要因/課題
○成功要因
上述したとおり、本取組は官民連携による自主的な取り組みである。政府による強制力がないにもかかわ
らず、企業が自主的に SmartWay パートナーシップへ参画した要因とは何だろうか。企業は主に以下の
理由により取組を推進していると思われる。
a.企業のオペレーショナルコスト削減
EPA は企業の CO2 削減施策を評価し、ランク付けと認証をおこなっているが、評価実施前には、企業が
当該施策を推進しやすいように、テクノロジー業者と連携し、最新環境技術のデータや情報提供・検証支
援をおこなっている。結果、企業は 10~20%程度使用燃料量を削減することに成功し、物流にかかるオ
ペレーショナルコストを減らすことができている。また、資金が潤沢ではない中小企業向けには、最新テ
クノロジーを活用した環境関連製品を購入しやすい財政スキームを整備している。金銭面における支援体
制が本パートナーシップにおける魅力の一つである。
大統領令詳細は本リンクより閲覧可能 https://www.fedcenter.gov/programs/eo13514/
EPA(2015) “SmartWay Program Highlights”,
参照日程 2015 年 3 月 26 日、参照先 http://www.epa.gov/smartway/about/documents/basics/420f14003.pdf
137
138
108
図表 72 SmartWay パートナーシップの仕組み
出典: USEPA(2011)” SmartWay Transport Partnership UN CSD 19 Learning Center”, 参照
日程:2015 年 3 月 26 日、参照先
https://sustainabledevelopment.un.org/content/dsd/csd/csd_pdfs/csd-19/learningcentre/pres
entations/May%209%20pm/1%20and%203%20-Buddy%20Polovick%20-%20SmartWay%20
Learning%20Center%20Draft.pdf
b.SmartWay のロゴ活用によるブランディング効果
SmartWay のロゴは物流網において温暖化効果ガスの排出削減に貢献している企業に付与される認
証である。SmartWay パートナーシップに参画している企業は、環境関連の会議やウェブサイト、ニ
ュースレター等を通じ、自社企業の取り組みを PR し、当該ロゴの認知度を向上させた。実際、2005
年から 2007 年の間で認知度は 13%から 32%に増えており、CSR 領域やコーポレートブランドのイ
メージ向上へと資することができたといわれている。こうしたイメージの伝播により、SmartWay パ
ートナーシップへ大企業の参画が増え、さらに本取組の認知度が向上する好循環が生じた。
c.環境先進企業からの受注機会の増加
本パートナーシップに加盟している荷主は、製品配送時 SmartWay プログラムの基準を満たした物
流業者を最低 50%活用することで、はじめて SmartWay のロゴを製品包装に貼付することが許され
ている。SmartWay プログラム基準を満たした物流業者は、環境先進企業(e.g. Walmart、IKEA)か
ら認められ、受注機会を増やす機会を得ることができた。他方、基準を満たさなければ商機を逃すこ
とになるため、当該取組へのインセンティブとなった。
○課題
a. サービスの質の低下
本プログラムへの参画企業が増加する一方で、予算に限りがある状況下においては、プログラム
スタッフの配置を増やすことができず、スタッフの一企業に対する提供可能なサービス時間が減
109
少していることは課題となっている。
b. 差別化要因にならなくなった
本プログラムにおける加盟企業が希少であった時代においては、企業は参画することにより環境
先進企業として特別視され、産業界においてリーダーシップを発揮することができたが、参画企
業が増加するにつれ、加盟自体への価値が薄くなってきつつある。
c. テクノロジーの限界
現在、SmartWay プログラムでは、サプライチェーンにおける環境負荷軽減のため、直火ヒータ
ーやアルミニウム製のタイヤ、エアロパーツ等の活用を促しているが、燃費を向上させるテクノ
ロジーの開発にも限界があるため、負荷を軽減し続けることは理論上検討されているよりも簡単
ではない可能性がある。
以上、課題はあるものの、本取組はメキシコ、カナダ、オーストラリア、フランス等各国に広がり、活用
されている。今後は、本プログラムの改善を通じた環境改善だけでなく、環境関連の規則が策定された際
に企業が試行錯誤できる場として活用されることも考えられる139。
139
Ibid., 及び Kwan and Edgar(2009)“System Dynamics Modeling of the SmartWay Transport Partnership”, MIT Center for Transportation
and Logistics、参照日程:2015 年 3 月 27 日、参照先:
https://esd.mit.edu/symp09/submitted-papers/tan-paper.pdf
110
3.3.8
地域コミュニティとの関連構築等
3.3.8.1 企業価値向上と競争力強化との繋がり
ここでは、個別事業部門の活動の一つとして、地域コミュニティとの関係構築等を取り上げる。企業はな
んらかの地域コミュニティに所属しており、地域コミュニティとの関係は事業活動に大きな影響を与える
と考えられる。戦略的 CSR 活動の観点においても、持続可能な企業活動を行うにあたって重要であると
考えられる。
(1)取組の概要とその効果
開発途上国においては、ビジネスのインフラが整備されていないことも多く、企業がそれらのインフラの
整備を支援することにより、結果として、その企業のビジネス基盤が確立し、新しいマーケットにおける
販売シェアを確保することにつながる可能性がある。地域コミュニティとの関係構築等とは、かかる取組
を戦略的に行うものである。
企業は、アフリカやアジアといった新興国におけるコミュニティにおいて事業を始めることで、自社事業
の発展だけではなく、コミュニティへ幅広い裨益効果をもたらしている。主に、各企業は a.エネルギー管
理・気候変動リスクへの対応、b.新しい市場、c.地域社会への投資にかかる領域に関し、以下の企業が取
組をおこなっている。
図表 73 地域コミュニティとの関係構築等に係る企業の取組概要
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
なお、ヒアリング調査において、地域コミュニティとの関係構築等をおこなうためには、以下の図表 74
のように、通常ビジネスより多くの社会経済コミュニティにおける活動主体の巻き込みが求められるとい
う指摘があった。
111
図表 74 ビジネス生態系140の確立による市場/顧客の拡大
出典:慶応義塾大学ビジネススクール岡田教授資料“企業戦略理論および企業の社会的価値について”
企業が、具体的に本評価軸に関連する取組とそのモニタリング方法を以下に記載する。
具体的な KPI を設定し、Web 上で数値を明らかにしている企業がある一方、抽象的な取組概要が中心的
である企業もみられた。
140
ビジネス生態系とは、本稿における地域コミュニティとの関係構築等の概念に相当する。
112
図表 75 地域コミュニティとの関係構築等に係る企業の取組詳細
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
113
出典: 各企業ウェブサイトを参照し、あらた監査法人作成
114
(2)フレームワーク分析
3.2 章における「戦略的 CSR 活動による競争力に係る評価フレームワーク」で考察したとおり、中長
期的な企業の競争力強化には「3.事業部門単位の活動」の策定及び実行が欠かせない。つまり、
「3.事
業部門単位の活動」の要素である地域コミュニティとの関係構築等をおこなうことで、自社及びコミュニ
ティにイノベーションを巻き起こし、他社と差別化することができる。
同時に、こうしたイノベイティブな取組によって、企業文化や経営層の意思決定等「1.経営者の視点」
に変革が生じることも考えられる。
また、当該取組の波及効果として「2.全社横断的な構造」の基盤となる企業の組織体制・人材の能力
を向上させるような状況も想定される。加えて、企業だけでなく、NGO や地域コミュニティと連携する
ことで生まれた正の効果を非財務情報として開示することで、ステークホルダーとの関係がより良好にな
ることも考えられる。
図表 76 戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク
出典:あらた監査法人作成
以下、上記評価フレームワークのうち、ⅠとⅡの影響について説明する。
I「3.事業部門単位の活動」がもたらす中長期的な企業の競争力強化
本評価軸の対象企業 7 社においては、地域コミュニティとの関係構築等の取組の結果、効果として①売上
高/市場の拡大、②コーポレートイメージの向上、③他社との差別化、④バリューチェーンの生産性の向
上(3-②)につながる事例がみられた。特に、売上高/市場の拡大に影響を与えていると考えられる企業
が大半を占めた。
*内訳:①売上高/市場の拡大
③他社との差別化
5 件、②コーポレートイメージの向上
1 件、④バリューチェーンの生産性の向上
4件
1件
例えば、①売上高/市場拡大及び②コーポレートイメージの向上に資する事例としては、ヤマハ発動機が
挙げられる。

ヤマハ発動機の場合、船外機を販売する前段階とし、ビジネスインフラが十分に整備されていないア
フリカ市場において、現地コミュニティにおける漁業支援やメカニック育成等の支援をおこなった。
115
ビジネスを展開するための基盤を構築後、ヤマハ船外機製品を販売することで、コーポレートイメー
ジもよくなり、販売網を構築することが容易となった。現在、当該製品はアフリカのほぼ全土で高い
シェアを誇っている。
図表 77 ヤマハ発動機の事例
出典:企業ウェブサイト及びヒアリング調査より、あらた監査法人作成
Ⅱ. 「3.事業部門単位の活動」が「2. 全社横断的な構造」へもたらす影響
「3.事業部門単位の活動」を施行することで、波及効果が生まれると考えられる「2.全社横断的な構造」
の基盤となる要素は、「2-①多様な人材の能力の最大化」、「2-②最適なガバナンス体制の構築」、「2-③ス
テークホルダー・エンゲージメント」
、「2-④非財務情報の開示」がある。本評価軸対象 7 社においては、
「2-①多様な人材の能力の最大化」と「2-②最適なガバナンス体制の構築」に影響が見られた企業が 1 社
みられた。
このような「3.事業部門単位の活動」が「2.全社横断的な構造」に対して影響を与えており、企業の
中長期的な競争力強化と考えられている主な企業事例として、リコーが挙げられる。
<2-①多様な人材の能力の最大化>

リコーは、「現地の方々のビジネスを創り・育て、それに寄り添ってサポートをすることでリコーの
ビジネスを見つけること」を基本ポリシーにインフラが未整備であるインド等途上国の農村へ社員を
派遣している。NGO、地域コミュニティ等多様なステークホルダーと関わりを持つなか、社員は現
地ビジネスに必要なビジネスの種やアプローチ法等を学ぶ機会を得るほか、当地において活用可能な
自身のスキルを再認識することとなり、当該活動は社員の人材育成の場として機能していると考えら
れる。
116
<2-②最適なガバナンス体制の構築>

リコーは、上記で紹介したような途上国貧困層における取組等社会的課題の解決と企業の成長の両立
を目指す「価値創造 CSR」を成長戦略のひとつと位置づけている。社会の課題を深く理解し、ステ
ークホルダーと協働して活動することを通じて、課題解決のみならず新たな市場・顧客の開拓やイノ
ベーションの創出など、自社の成長にもつなげることを目指して、自社の技術や商品・サービス、人
材などのリソースを活かしながら取り組んでいる。具体的には、インドの教育支援プログラム、カブ
ールにおける社会貢献から始まった事業展開等が挙げられるが、当初自社内においては馴染みのない
考え方であった。しかし、研究開発部の発起人の呼びかけにより「志チーム」と呼ばれる 10 人ほど
の有志が集まり、当該コンセプトを社内にて説得した結果、CSR 室と新規事業開発センターの共同
プロジェクトに発展させることができた。これは、ガバナンス体制に影響を及ぼしている例ではない
かと考えられる。141
図表 78 リコーの戦略的 CSR の考え方
出典:リコーのウェブサイトより
(3)まとめ
以上見てきたように、地域コミュニティとの関係構築等をおこなうことで、①売上高/市場の拡大、②コ
ーポレートイメージの向上、③他社との差別化、④バリューチェーン生産性の向上、等を通じて、中長期
的な企業の競争力強化につながっていくと考えられる。
また、地域コミュニティとの関係構築等を通じて、全社横断的な構造の基盤となる自社の人材育成等に資
することができるケースもあると考えられる。
141
http://www.projectdesign.jp/201312/venture/000986.php
117
3.3.8.2 海外の関連政策例
地域コミュニティとの関係構築等にかかる海外政策例として、英国の事例が挙げられる。
■英国~国内の社会課題解決を目指す社会的投資市場の形成~
英国では、移民や家族の在り方の多様化によって、求められるサービスは多様化している。そうした状
況の中、教育、医療、福祉等、基本的サービス提供における、公共セクターの財務面、能力面の限界が浮
き彫りになりつつある。こうした変化を背景に、英国政府は、社会的投資市場育成を図り、民間の活力を
利用して社会課題の解決を図る方向を模索しつつある。
(1) 関連政策:Social Investment Market Strategy
Social Investment Market Strategy は、英国での政権交代を機に、社会的企業の促進をめざし新たに策定
された政策である。政策の重点は、社会的企業の資本市場へのアクセスを確保し、社会的企業の可能性を
開花させることにある。その為、単に社会的企業の財政を政府の補助金などによって支援するのではなく、
投資家から社会的企業への投資を拡大させることを目的としている。
(2) 具体的施策事例:Big Society Capital
英国には、様々な社会課題の解決をビジネスにしようとしている社会起業家が 18 万社存在するといわれ
ている142。英国政府は、こうした社会起業家が必要な資金へアクセスできる環境を整えることをめざし、
2000 年より、コミュニティファンドやインパクト投資ファンドを設立する等、様々な試行錯誤を続けて
きた。こうした長年にわたる議論を背景に、2012 年に Big Society Capital(BSC)が設立された。BSC
は、①個人及び機関投資家から資金調達を行うこと、②社会的投資への認知を上げること、の 2 点を通じ
て、英国の社会的投資市場を成長させることをミッションとしている。資本金£600M は、£400M を休
眠口座から、£200M を HSBC、Lloyds、RBS 等の機関投資家から調達している。BSC は直接、社会的
投資家に投融資するのではなく、社会的投資ファンドに対して投融資(Fund of Funds)を行う。BSC は、
これまでに 30 以上のプロジェクトに対し、£150M の投融資を行っている143。
■国際開発におけるインパクトファンド144市場の形成
国内だけでなく、国際協力の場面でも、民間セクターの活用が進められている。英国国際開発省(DFID)
は、従来、貧困削減をめざし援助を行ってきたが、近年、成長(Growth)を重視する方向に転換しつつ
ある。そうした中、DFID は、途上国の社会課題の解決を目指すビジネスに投資するインパクトファンド
への支援を強化しつつある。
(1) 関 連 政 策 : Economic Development for Shared Prosperity and Poverty Reduction: a Strategic
Framework(戦略枠組み)
DFID がインパクトファンドを支援する背景には、DFID が 2014 年に策定した「Economic Development for
Shared Prosperity and Poverty Reduction: a Strategic Framework」(以下、戦略枠組)があると考えられ
142
英国内閣府ヒアリングより
Big Society Capital (2014)“Corporate Social Investment Opportunities”, August 2014 発表資料
144
インパクトインベストメントの定義は、より積極的に、社会的インパクト(開発効果)を生み出す事業に対する投資を行うことであ
る。
143
118
る。以下にあげる戦略枠組の主要な柱のうち、②、④、⑤が、DFID がインパクトファンドを支援する政
策的根拠となると考えられる145。
① 世界の貧困層が繁栄を分かち合えるために国際ルールを改善する。
② 民間セクターの成長を促進する環境づくりを支援する。
③ 困難な脆弱国において投資・貿易フローを促進する(ODA はその触媒になる)。
④ ビジネスによる投資が開発に貢献するように、働きかける。
⑤ 成長がインクルーシブ(包摂的)で、女性や女児の利益になることを確保する。
(2) 具体的施策事例:Impact Fund
DFID は、インパクト投資市場の拡大を目指し、インパクトの高いビジネスへの資金・技術支援や開発効
果測定に関する支援を行う IMPACT Programme を実施している。このプログラムの一環として、CDC
を通じた Impact Fund プロジェクトを実施し、インパクトの高いビジネスの、資金へのアクセス改善を目
指している。
Impact Fund の特徴は、民間ファンドが投資をためらうような事案にも投資を行うことができる点にある。
Impact Fund のミッションは、インパクトインベストメントに対する民間投資家の認知を向上させ、民間
投資を促すことである。当然、投資ファンドとして商業的な利益と社会的リターン両方の確保は目指して
いるが、このミッションに沿っていれば通常のファンドほどのリターンを上げる必要はない。更に、投資
先ごとの期待リターンはなく、プログラムが終了する 2025 年までに Impact Fund 全体で一定のリターン
を上げられればよいという目標が設定されている。その為、案件ごとのリターンに縛られることなく、案
件を選定することができる。
○社会的投資に用いられる指標
社会的投資は、「社会課題の解決」に対する投資である。その為、当該事業が「どのように社会課題の解
決に寄与する予定なのか、そして実際に寄与したのか」を、投資前及び投資後に、投資家が判断するため
の基準が必要となる。
途上国向けのインパクト投資の分野では、比較的、指標の形成が進んでいる。もっとも普及している指標
は、Global Impact Investing Network (GIIN)が開発した、Impact Reporting and Investment Standards(IRIS)
と呼ばれるものである。DFID も Impact Programme を通じて GIIN を支援しているが、本指標は、アク
ティビティ・アウトプットに焦点をおき、400 以上の項目から使用者が目的と用途にあわせて必要な項目
を取捨選択することが可能であり、企業や投資家が参照しやすい構成となっている146。
しかし、IRIS も開発途上の指標であり、また、
「途上国ビジネス」に焦点を当てているため、先進国内で
の社会的投資ビジネスへの汎用性は低い。社会的投資市場を育成するに当たり、企業評価の指標形成は大
きな課題となっている。
145
GRIPS 開発フォーラム 大野泉、長嶌朱美(2014)「英国・ドイツ出張報告」、参照日程:2015 年 3 月 26 日、参照先:
http://www.grips.ac.jp/forum/pdf14/UKGermanyReport2014_final_rev1104.pdf
146
独立行政法人 国際協力機構(JICA)、あらた監査法人、ARUN 合同会社( 2014 )「BOP ビジネスの開発効果向上のための評価及びフ
ァイナンス手法に係る基礎調査」
119
4.
提言
以下の点を踏まえ、企業は、社会課題と経営課題との関係を意識しつつ、事業活動を行うことが重要で
ある。
(1) 戦略的 CSR 活動における経営者の視点の重要性
この点は、ヒアリング調査においても多く指摘されたことであり、中長期的な企業の競争力強化を目
指す戦略的 CSR 活動にとって最も重要な要素であると考えられる。すなわち、企業の評価軸別分析で明
らかになった通り、経営者の視点が、企業における全社横断的な構造や事業部門単位の活動に影響を及
ぼし、さらに中長期的な企業の競争力強化につながっていくと考えられる。そのため、経営者の視点は、
戦略的 CSR 活動の推進力として重要な要素である。
日本企業においては、社会的価値を含む経営理念等を有している企業も多く、そのことを再認識する
ことで戦略的 CSR 活動を推進する力にすることができる可能性があると考えられる。また、海外企業に
おいては、経営トップの明確な意志が戦略的 CSR 活動の契機と推進力になっているケースが多く、この
点も大切なポイントであると考えられる。
このように経営者の視点は、戦略的 CSR 活動が中長期的な競争力強化につながるかどうかの成否を大
きく左右する要素と考えられる。
(2) 戦略的 CSR 活動の基盤としてのガバナンス体制の構築とステークホルダー・エンゲージメントの重
要性
企業が戦略的 CSR 活動に取組むにあたって、ヒアリング調査の結果を踏まえると、企業が社会課題を
どのように経営課題として認識していくかという点が課題であると考えられる。その企業にとって重要
な社会課題を認識し、社会課題を経営課題に取り込む仕組みが必要であると考えられる。重要な社会課
題の認識のためには、ステークホルダーとのコミュニケーションが十分に行われる必要があり、そのた
めに重要な要素が、
「ステークホルダー・エンゲージメント」であると考えられる。また、社会課題を経
営課題に取り込む仕組みとしての「最適なガバナンス体制の構築」も重要であると考えられる。
これらの要素は、全社横断的な構造として、事業部門単位の新しいビジネスモデルの構築を支え、さ
らに中長期的な企業の競争力強化につながっていくと考えられる。
(3) 事業部門単位の活動としての地域コミュニティとの関係構築等の重要性
限りある自然資本の中、グローバル化が加速し複雑化する競争環境において、企業が持続的に成長す
るためには、自社だけでなく、他社や地域住民や NGO 等の幅広いステークホルダーを巻き込んだ取組が
必要となる。このような取組を通じて新たな発見も生まれ、コラボレーションが促進される。そして、
地域コミュニティとの関係構築等が確立されることにより、新しいマーケットの開発や新製品や新サー
ビスの開発につながっていくこともある。また、バリューチェーンの生産性の向上に影響を及ぼす可能
性もある。加えて、ステークホルダー・エンゲージメントにも良い効果をもたらすことも考えられる。
このように地域コミュニティとの関係構築等を確立しようとする活動は、多くの波及効果を生み、中長
期的な企業の競争力強化につながっていく可能性があると考えられる。
120
【別添資料】
1.国内企業の分析
①京セラ
【企業概要】
京セラグループでは、素材から部品、デバイス、機器、さらにはサービスやネットワーク事業にいたる
まで、多岐にわたる事業をグローバルに展開している。
1959 年に設立し、京セラ(株)を含み 230 社のグループ会社を持ち、69,789 人の従業員を有する。
(2014
年 3 月 31 日現在) 2014 年 3 月期の連結売上高は 1,447,369 百万円、当期純利益は 88,756 百万円を計
上している。147
(1) ビジョン
創業者である稲盛和夫氏の実体験や経験則にもとづいた企業哲学であり、人生哲学ともいえる「京セラ
フィロソフィ」を経営の原点としている。
この京セラフィロソフィは、
「人間として何が正しいか」を判断基準として、人として当然持つべきプリ
ミティブな倫理観、道徳観、社会的規範にしたがって、誰に対しても恥じることのない公明正大な経営、
業務運営を行っていくことの重要性を説いている。148
(2) 全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように認識しているか
以下三つの社会課題を認識している。
① 事業に大きく影響する環境・エネルギー分野における省エネ、温暖化対策。
② サプライチェーンにおける社会的責任の推進。
③ 多様な人材がモチベーションを上げて業務を行うことができる環境を作ること。特に海外にグルー
プ会社が存在する、また女性の活躍促進については政府からも様々な取り組みがでている中で、ど
のように作るかが課題である。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
上述(2)に対応して、以下のように社会課題の認識を具体化している。
①
SOFC(家庭用固体酸化物形燃料電池)、LED、それらを一体化した HEMS による省エネサービスの
提供などを行っている。また、新規分野の開拓だけではなく、既存工場の様々な指標に対して毎年
原単位 1%削減する活動、グリーン化として太陽光パネルの設置、省エネなどを実施している。
②
サプライチェーンCSR推進ガイドラインを設け、
資材部門が担当となり CSR の調査をして、
人権、
労働の課題を把握し、対策を行っている。
147
京セラホームページ 会社概要
http://www.kyocera.co.jp/company/summary/company_profile.html
148
京セラホームページ メッセージ http://www.kyocera.co.jp/ecology/top.html
京セラホームページ 経営 12 か条
http://www.kyocera.co.jp/inamori/management/twelve.html
他、京セラホームページ CSR 活動
http://www.kyocera.co.jp/ecology/index.html
他、ヒアリング調査により作成。
121
③
現地主義を原則とし、ローカルスタッフを現地の幹部として登用している。また、女性の活躍推進
を経営課題としてとらえ、社長を総責任者とした体制を整備するとともに、仕事と家庭生活の両立
を支援するための施策を行っている。
(4) 選定した取組の概要
京セラフィロソフィをベースに、以下の経営・財務が行われている。

「アメーバ経営」
京セラグループの企業哲学を実現していくために創り出された手法で、会社の組織をアメーバと呼ばれ
る小集団に分け、その集団を独立採算で運営する経営システムである。
「アメーバ経営」のもたらす従業
員の経営参加意識の高揚、モチベーションの向上が、京セラグループの強さの源泉となっている。また、
「アメーバ経営」における小集団は、効率性が徹底的にチェックされるシステムであると同時に、責任
が明確であり、細部にわたる透明性が確保されている。

「京セラ会計学」
会計上の問題であっても、常にその本質にまでさかのぼって「人間として何が正しいか」をベースに正
しく判断することが重要であり、公明正大でしかも透明性の高いガラス張りで経営することが大切であ
る、という考えに基づいたものである。京セラ会計学は、会社の実態とその進むべき方向を正しく把握
するための実践的な会計原則となっている。

「京セラフィロソフィ」に基づく働きやすい職場の整備
会社行事や“コンパ”を重要視しており、従業員同士の家族のような信頼関係を構築している。京セラグル
ープの“コンパ”は単なる懇親ではなく、仕事の課題について議論を深めたり、決意表明を行ったりするな
ど、一つの目標に向かうため、互いを十分理解し合うことを目的とした交流の場である。役員や幹部社
員とコミュニケーションをとることができ、また、他部門の仲間同士が知り合うことができるため、絆
を深める良い機会となっている。
(5) 取り組みを始めた経緯
創業者である稲盛和夫氏は、京セラ創業当時より、企業を長期的に発展させるためには、正しい「経営
哲学」を確立し、それを全社員と共有することと、組織の末端に至るまでの経営実態を正確かつタイム
リーに把握する「管理会計制度」が必要であると感じていた。そのため、技術開発や製品開発、また営
業活動などに力を注ぐ一方、これらの確立に心血を注いできた。
京セラが急速に発展し、規模が拡大するなかで、“ともに苦楽を分かち合い、経営の重責を担う共同経営
者がほしい”と心の底から願うようになった。そこで、会社の組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団に分
け、社内からリーダーを選び、その経営を任せることで、経営者意識を持つリーダー、つまり共同経営
者を多数育成した。
つまり、アメーバ経営は、共同経営者を多数育成するために考えだされたものである。
122
(6) 取組をどのように推進しているか
京セラフィロソフィが従業員に正しく継承されていくことが重要と考え、グローバルにフィロソフィ教
育を展開している。2013 年 5 月には、フィロソフィ教育を一層強化するために、会長を委員長とする「全
社フィロソフィ委員会」を設置し、フィロソフィ教育方針の策定、フィロソフィの理解促進と実践強化
をはかるための施策の審議、決定を行っている。
①
国内においては、各部門・各拠点・各グループ会社が、業務内容などの実情を踏まえて行う独自の
プログラムと、それをサポートする共通のプログラムに分けて実施している。
(前者は、現場重視の
フィロソフィ浸透活動を積極的に展開し、後者では、経営の要諦である経営 12 ヵ条や責任者に求め
られるリーダーシップについて学ぶ「リーダー教育」
、京セラフィロソフィの基礎を学ぶ「フィロソ
フィ勉強会」を実施している)
②
海外においても同様に、地域の慣習や事業形態に応じた教育活動を展開している。
③
自主勉強会の開催、社内報やウェブサイト、京セラグループフィロソフィ論文の募集を通じた啓発・
浸透活動を行っている。
④
リーダー向け、新入社員向けなど様々な階層別にフィロソフィを考える場が提供されている。フィ
ロソフィの輪読などをしている。
⑤
国によって原則は変わらず、現地の担当者が法律や文化を考慮してフィロソフィの啓蒙・教育をし
ている。
(7) その効果
①ステークホルダーへの効果を具体的に提示することは難しいが、ステークホルダーにも「京セラフィ
ロソフィ」をはじめ「アメーバ経営」、「京セラ会計学」などの考え方をご理解いただくことが必要と考
えている。
②企業の競争力強化への効果
「京セラフィロソフィ」をベースに、
「アメーバ経営」
、
「京セラ会計学」に基づき、持続的な成長(創業
以来、黒字経営を継続、2014 年 3 月期は過去最高の売上高 1 兆 4,474 億円)を遂げている。
京セラフィロソフィが従業員に浸透し、コーポレート・カルチャーが醸成されることで、人材の能力と
モチベーションの向上に良い影響を及ぼしているものと考えられる。そして、この効果が「アメーバ経
営」等を通して、結果として持続的な成長を支えているものと推定される。
(8) 成功要因
京セラフィロソフィの理解・実践と、業務を遂行するうえでの専門的な知識・技術の習得の両面で能力
向上をはかることを目的とした教育体系を整備されており、継続的な啓発・浸透活動を行っている。加
えて、従業員から改善策がでてきた場合、社内で共有される仕組みや風土がある。
例えば、自らの体験を京セラフィロソフィと照らし合わせることで、実践の必要性を深く認識し、フィ
ロソフィを体得することを目的に毎年フィロソフィ論文の募集を行っている。優秀論文は、国内の全グ
ループ会社と衛星中継を結んで開催している創立記念式典で表彰され、その後の論文発表を通じて、内
容が共有されている。
123
(9) 課題
本調査では、課題についての情報を得ていない。
(10) 全体としてどのように機能しているか
京セラでは、京セラフィロソフィを事業活動全体の基盤としている。
「大家族主義」とも言える経営哲学
に基づいた、全世界の従業員教育の統一・徹底と、フィロソフィ教育の明記されたガバナンス体制が、
日常における事業遂行と新しいビジネスモデル構築の基盤となっている。そしてその基盤が醸成されて
いることで、太陽電池事業等の戦略的 CSR となり得る事業が展開され、成功していると考えられる。
②ヤマト運輸
【企業概要】
ヤマト運輸株式会社は、宅急便・クロネコメール便を中心とした一般消費者・企業向け小口貨物輸送サ
ービス事業を営む企業で、中核事業の宅急便は宅配便のシェア NO.1 である。ヤマトホールディングス株
式会社の 100%子会社で、2014 年 3 月時点で 156,877 人の従業員を有する。その歴史は長く、1919 年
に、東京において車 4 台で貸し切りトラック輸送を開始したのが始まりである。149
(1) ビジョン
ヤマトグループは、
「企業姿勢」に「働く喜びの実現」を定めている。約 19 万人の社員一人ひとりが「ヤ
マトグループの社員として、自ら判断し、積極的に行動する」という自立性と自発性を発揮する、活力
と熱気に満ちた、社員と家族が夢と誇りのもてる企業を目指す。150
(2) 全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように意識しているか
ヤマトグループでは 2019 年に創業 100 年を迎えることから、2011 年に「DAN-TOTSU 経営計画」と題
した中・長期経営計画を策定した。「アジア NO.1 の流通・生活支援ソリューション・プロバイダー」と
なることを目指し、各ステークホルダーの満足度をダントツにしていこうとしている。
地域の社会課題としては、過疎化、少子高齢化を認識しており、それらに対して独自の地域のネットワ
ークを活用し、地域の特性に合わせたサービスを打ち出そうと取り組んでいる。つまり、今までの地域
貢献を継続するとともに、ヤマトが持つ物流網 LT 、IT 、FT 自体を地域、行政、NPO、同業他社を
も含めたステークホルダーに使用してもらうことで、新しい価値を提供できると考えている。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
2019 年までの 9 年間を HOP、STEP、JUMP の三つのフェーズに分け、2014 年度に開始した第二フェ
ーズの「DAN-TOTSU 3 か年計画 STEP」では、
「バリュー・ネットワーキング」構想の推進と、
「健全
149
ヤマト運輸企業情報
http://www.kuronekoyamato.co.jp/corporate/index.html
150
ヤマトホールディングス 企業情報
http://www.yamato-hd.co.jp/company/index.html
ヤマトホールディングス 株主・投資家情報
http://www.yamato-hd.co.jp/investors/index.html
他、ヒアリング調査により作成。
124
な企業風土」の醸成を 2 つの大きな柱にし、HOP で構築した基盤を活用するとともに、事業基盤やネッ
トワークの強化を継続して行い、最終の 3 か年計画(JUMP)で大きく飛躍をするためのポテンシャルの
高い経営基盤の構築を目指している。
この計画を推進していく中で、ヤマトはよりグローバルに、また、より地域密着でのローカルにおける
戦略を強化していく方針であり、現場のセールスドライバーや地域社会とのつながりといった既存のイ
ンフラを活用して、社会課題解決に取り組もうとしている。
ヤマトでは、現場のセールスドライバーが、業務上気づいた地域課題やそれに対する提案等をボトムア
ップできる環境があり、後述する取り組みも、現場セールスドライバーの体験をもとに発案されたもの
である。
図表 79 DAN-TOTSU 3 か年計画
STEP
出典:ヤマト運輸ウェブサイトより引用
http://www.yamato-hd.co.jp/company/plan/mediumterm.html
(4) 選定した取組の概要
社訓にも「ヤマトは我なり」という言葉もあるが、
「一人ひとりがヤマト」という社風を代表するユニー
クな CSV の取り組みとして、自治体と連携した高齢者の買い物支援・見守り支援サービスの展開が挙げ
られる。ヤマトホールディングスが宅配事業を通じて形成してきたネットワークをプラットフォームと
して使用し、地方自治体と連携して高齢者の買い物支援・見守りサービスを 2010 年度より展開している。

青森県黒石市の高齢者見守り支援サービス
青森県黒石市では、2013 年 4 月から「高齢者見守り支援サービス」を開始した。市が「一人暮らし高齢
者」向けの刊行物を定期的に作成し、その配達をヤマト運輸に依頼する。セールスドライバーが荷物を
受取人である高齢者に手渡し、あわせて近況を確認する。このとき、2 日間続けて不在であれば、市に報
125
告する。
【高知県長岡郡大豊町の買い物支援・見守りサービス
「おおとよ宅配サービス」
】
地元商工会とも連携しての買い物支援・見守りサービスを 2012 年から展開している。サービスに参加す
る町内の 10 店舗(2014 年 6 月現在)に電話または FAX で注文すれば、自宅までヤマト運輸が商品を届
ける。さらに、配達先に高齢者が暮らしている場合、セールスドライバーが体調を確認し、変調があれ
ば役場または消防署へ連絡する。
何かを実施するには投資が必要であるが、ヤマトでは既存のインフラ・ネットワークを通じた活動に特
化して地域支援サービスの提供を行っているため、ビジネスとして成立している。

満足 BANK
2008 年に中期経営計画「満足創造 3 か年計画」のもと、今よりもどうやってお客様に満足いただくかと
いうことを現場のセールスドライバーも含めた社員一人ひとりに考えてほしいという目的のもと満足
BANK が考案された。これは、社員が生み出した満足をポイントにし、社内イントラで見える化する取
り組みである。ポイントは社員番号で管理され、仲間からの評価、お客様からの評価、会社からの評価
および自分自身が立てた目標を達成したときにポイントが加算される。また、溜まったポイントは金、
銀、銅、ダイヤモンドなどのバッジとして見える化される。
(5) 取り組みを始めた経緯

見守りサービス
ヤマトでは現場完結型を目指している。見守り支援サービスは、岩手での女性セールスドライバーが、
孤独死をしてしまった高齢者に対してもっとできることがあったのではという想いを起点としている。
ヤマトが持つ網の目のネットワークにより孤独死をなくすことができるのではという現場のアイデアが
事業へと結びついた例である。

満足 BANK
現場と本社が乖離しつつあるという、いわゆる大企業病に陥っているのではないかということや、何事
にもチャレンジする姿勢が必要であることをヤマトホールディングス株式会社 代表取締役 社長執行役
員 兼 ヤマト運輸株式会社 取締役会長の木川氏が課題として認識していたことが大きな理由となって
いるようである。その思いから、満足創造 3 か年計画の中で、褒める文化を作っていくことで、コミュ
ニケーションの活性化や、モチベーションアップによりサービスを向上していこうという考えになった。
(6) 取組をどのように推進しているか

研修
社訓をはじめとするヤマト運輸の理念の浸透に力を入れている。色々な職種が存在するため、階層別の
研修も行っている。かねてから、判断軸ではないが、体で反応できるところまで落とし込むことに重点
的に取り組んでいる。

現場
19 万人のグループ会社であるため、上意下達をすることができないくらい末端が広くなってしまった面
もあるが、ヤマトでは現場における小集団の活動を推進しており、現場になるべく権限を委譲し、現場
で判断させている。

社長
126
ヤマト運輸は全国に 10 の支社があり、支社ごとに支社長がいる。半年に 1 回、ホールディングス社長お
よび会長、そしてヤマト運輸社長等、の経営陣が 10 の支社に赴き、エリア戦略ミーティングという地域
版経営会議を開催している。そこで、さまざまな地域課題、法人の企業課題に対するソリューション提
案を経営陣にぶつけることができる機会となる。その中でプラットフォームになりそうなものをブラッ
シュアップし、水平展開していくことになる。

ガバナンス
今期始めたものとして、ヤマト運輸の役員 6 名で全国 69 主管全部を回り、役員ダイレクトミーティング
を開催している。これは、会議室ではなくホテルなどで椅子のみ並べて、自由闊達に役員と支店長(現
場でセールスドライバー等をマネジメントしている)が一緒に「どういうヤマト運輸にしたいか」を話
し合う場である。
(7) 取組の効果
①ステークホルダーへの効果

顧客
顧客の目線に立った接客サービスを個々の社員が提供することによる、満足度の向上。

社員
「褒める文化」の形成によるモチベーションの向上。満足バンク制度創設後は、顧客からのお褒めの声
の増加(ヤマトファン賞受賞者の増加)などのモチベーションの上昇による効果が表れている。
②企業の競争力強化への効果
顧客満足度の向上による他社との差別化。顧客からのお褒めの声の増加や、荷物事故の減少などの、社
員モチベーション向上の効果は、そのまま顧客からの支持を高めることにつながる。またアジアにも日
本の高いサービスレベルを持ち込むことで現地顧客からの支持を狙っている。
満足 BANK は、会社の風土を変革するための施策のうちの一部分であるため、満足 BANK 単体での効果
検証は出来ない。例えば、満足 BANK が始まってからお客様からのお褒めの声は開始当初から約 2 倍に
なっているが、
これが満足 BANK による直接的な要因かは立証できない。ただ、
現場からはこの満足 BANK
の仕組みが感謝を伝えるツールとなることで、上司と部下のコミュニケーションが闊達になった、関係
性の向上に役にたったという声もでている。
(8) 成功要因

セールスドライバー
地元で育ったセールスドライバーが多いため、地元愛や仕事を通じて世のため人のためになっていると
いう自覚、誇りを感じてもらえていることがあげられるが、やはり、
「ヤマトは我なり」という社訓、つ
まり社員が会社の看板を背負っているという意識を一人一人が持っていることである、とヤマトは考え
ている。また、周りから見られている、地域に根差しているという意識がこのようなコーポ―レートカ
ルチャーの醸成につながっているのでないかと考えられる。また、もう一つの社訓が「運送行為は委託
者の意志の延長と知るべし」であることから、荷物を依頼された方の思いがどこからどこにいくのかを
常に考えながら仕事をすることで、日常の配達という行為がただ単に荷物を運ぶとは違ったことである
ことが見えてくはずだと考える。
127

社訓
社訓に、
「思想を堅実に礼節を重んずべし」とあるが、これは健全な企業風土を醸成すること、コンプラ
イアンスを守るということを社員一人一人が社会の一員としてコンプライアンスを果たしていくことを
意識することに繋がっている。これらを社員が毎朝復唱し、実感し、体現することが他社にはない特徴
だと考える。

既存インフラ・リソースの活用
コーポレート・カルチャーを踏まえた上で、人的リソースを活用し、お客様の困りごとを解決するとい
う意味で新規マーケットを創造していったことが成功要因と考えられる。
(9) 課題
新規マーケット開発に伴い、地域コミュニティとの関係を今後どう深めていくのが課題である。
(10) 全体としてどのように機能しているか
ヤマト運輸の、事業における戦略的 CSR の成功要因は、現場のセールスドライバーと、トップの意思の
両方であると考えられる。ヤマトでは、中長期計画において掲げる「アジア NO.1 の流通・生活支援ソリ
ューション・プロバイダー」を目指し、ヤマトが持つ物流網 LT、IT、FT を活かした事業戦略を遂行して
いる。その一方で、ヤマトの現場のセールスドライバーは地域に根差したバックグラウンドを持つ者が
多く、地域の社会問題改善に対する意識が元来高いと考察される。このトップの方針と、現場セールス
ドライバーの意識が全体として有効に機能し、新しいビジネスモデルが構築され、顧客満足度への向上
へとつながっているものと考えられる。
③ヤマハ発動機
【企業概要】
ヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ)は、1955 年に創立し、静岡県磐田市に本社を置く、主にオート
バイを中心とした輸送用機器メーカーである。二輪車にはじまる小型エンジン技術から波及した水上オ
ートバイ、スノーモビルなどのパーソナルモビリティ、FRP 加工技術によるボートやプール、制御技術
を生かした電動アシスト自転車や産業用ロボットなど、多岐にわたる製品・事業を展開しており、その
事業規模は連結売上高 1 兆 5212 億円(2014 年 12 月期)を計上する。また、その約 9 割を海外で稼ぐ日
本を代表するグローバル企業である。
(1) ビジョン
ヤマハでは短期的、直接的な営利を求める通常のビジネスを超えた取り組みを積極的に実践している。
既存の市場における価値を追求するだけではなく、市場の健全な発展や環境保護に配慮した社会的課題
の解決を図り、市場を創出する活動に、1955 年の創立時より取り組んでいる。
(2) 全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように意識しているか
当社の企業目的は「感動創造企業」である。人々に感動と豊かな生活を提供することが我々の使命であ
り社会課題ととらえている。
128
なお、マテリアリティ分析は実施していないが、社会課題に対して、現場から提案する仕組みがある。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
社会課題としては、例えば、新興国における貧困削減に連動する雇用創出がある。
これらの社会課題(Unmet Needs)に対して、中長期的な取り組みとしては事業開発戦略として「多様
性・輝く個性を追究する3つの成長軸」を掲げている。この方針に基づき市場ニーズに合致した商品計
画の立案と商材の投入を行い、事業計画に落とし込んでいる。
図表 80 事業開発戦略
出典:ヤマハ発動機作成の資料より引用
(4) 選定した取組の概要
選定した取組は、アフリカ市場(セネガル、モーリタニア)において、漁業開発支援を実施し、船外機
ビジネスに結びつけた事例である。
1967 年より、モーリタニア、セネガル、ガンビアに進出している。ODA 無償資金を活用し、手漕ぎ木製
ボートに代わる船外機や FRP ボートの導入を支援し、装備の近代化による漁獲量拡大に貢献した。同時
に商品を良い状態で長く使ってもらうためのメカニック育成や、部品・製品供給のための販売店・代理
店の整備、さらに漁法や加工法の指導を含めた包括的な社会基盤の整備も行った。
(5) 取り組みを始めた経緯
1955 年に当社設立してすぐ、海外市場の重要性を認識し、3 年後の 1958 年にはメキシコに最初の現地
法人を設立した。アフリカだけに着目したということではなく、市場開拓を旨として海外進出を試みて
きた。
その後、当時のマネジメントの肝いりで 1977 年に海外プロジェクト室を設立した。これが海外市場開拓
事業部(OMDO)の前身となるが、元々はマリン商品を主体とした事業部であり、これが漁業に進出し
た背景となっている。ODA による水産無償案件に製品ノウハウを供給する事で途上国の漁業市場を動力
129
化してきた。
(6) 取組をどのように推進しているか
上記の選定した取組の概要を参照。
(7) 取組の効果
①ステークホルダーへの効果

船外機や FRP ボートなど先進的な装備の導入により、漁獲量が拡大した。

メカニックの育成や、販売店・代理店設立により現地雇用の創出につながった。

漁法・加工法の指導により水産業の発展に貢献した。
②企業の競争力強化への効果
現在、アフリカのほぼ全土の国と地域に販売網を構築し、船外機で高いシェアを確保している。また船
外機ビジネスを通じた基盤の構築により、現在ではヤマハ全製品が取り扱われるようになり、ブランド
イメージの向上をはかることができた。
(8) 成功要因
一朝一夕というわけではなく、高い信頼性に支えられた商材(ハードウエア)とそれをサポートするサ
ービス(ソフトウエア)の両面において長年にわたり顧客価値を提供していることが、評価に繋がって
いると認識している。チャレンジ精神と適切なリスクテイキングが功を奏していると考えている。
(9) 課題
今後も顧客の期待を裏切らず、感動創造企業として顧客の期待を超える価値提供を行うことが課題とと
らえている。
定性的になるが、船外機では高エンデューロタイプエンジンを軸に非常に高いシェアとなっているが、
モータサイクルでは中国/インドメーカーがマジョリティーとなっており、モータサイクルのビジネス
拡大が当社の一つの課題として取り上げられている状況である。
(10) 全体としてどのように機能しているか
ヤマハは、設立 3 年後にはすでに海外で事業展開をしてきている。さらに、トップマネジメントが醸成
するコーポレート・カルチャーである現場主義、加えて一人一人の社員が社会課題を発見し事業化を提
案するというチャレンジ精神を持ち合わせていることが、全体として戦略的 CSR の取組の成功につなが
っていると考えられる。結果として、CSR という言葉が出てくる前から、戦略的 CSR 的な取組を実行
してきたことになる。
130
④ユニ・チャーム
【企業概要】
ユニ・チャーム株式会社(以下、ユニ・チャーム)は、ベビーケア関連製品、フェミニンケア関連製品、
ヘルスケア関連製品、ハウスホールド製品、ペットケア関連製品等の販売を事業内容とする、衛生用品
の大手メーカーである。代表的な商品には、moony、ライフリー、ソフィ、ウェブなどがある。不織布・
吸収体市場において、世界シェアは約 9%の第 3 位、アジアでのシェアは約 27%の第 1 位を誇り、2014
年 3 月期のアジアにおける売上高は前期比 35%増の 2,562 億円をあげている。
(1) ビジョン
ユニ・チャームは、企業理念「NOLA&DOLA」を掲げている。
「NOLA&DOLA(Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activities)」とは、
「赤ちゃんからお
年寄りまで、生活者が様々な負担から解放されるよう、心と体を優しくサポートする商品を提供し、一
人ひとりの夢を叶えたい」というものである。ユニ・チャームは、この企業理念の実現こそが CSR であ
るとしている。
また、企業の成長発展、社員の幸福、及び社会的責任の達成を一元化する正しい企業経営の推進に努め
る。」という社是のもと、女性たちが活躍する社会を、ユニ・チャームの商品・サービス、働く場から創
造することを目指している。
(2) 全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように意識しているか
ユニ・チャームは、
「超高齢社会への貢献」、
「アジアの生活者の負担を軽減」を社会課題として認識して
おり、ステークホルダーとの関わりから抽出している。
2011 年 11 月に、NPO 法人・有識者・企業の方々を招き、ステークホルダー・ダイアログ151開催した。
その際のテーマは、
「グローバル企業として果たすべきユニ・チャームの社会的責任」であった。ISO26000
の中核主題である「環境、人権・労働慣行、コミュニティ参画及び開発」に沿って、参加者から意見を収
集し、その後の取組に活かしている。
151
<ステークホルダー・ダイアログ 2011 開催概要>
http://www.unicharm.co.jp/csr-eco/stakeholder_engagement/index.html#1191419
131
図表 81 ステークホルダー・ダイアログにおける有識者からの意見とその後の対応
出典:ユニ・チャームウェブサイト152を参照し、あらた監査法人作成
一方、自社のビジネスは、最低限のところを補うビジネス、あるいは「不」を解消するビジネスであり、
多くの企業にみられるように「快(適)
」をより追求するというビジネスではないと認識している。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
「アジアの生活者の負担を軽減」という社会課題に対して、以下で取り上げる女性の社会進出支援の取
組」を実施しているが、社会進出のサポート自体を目的とするのではなく、結果としてビジネスと win-win
の関係にあるファクターをみつけるようと考えており、CSV 的な観点から、社会課題解決と事業の発展
と連結するものがないかを探っている。
(4) 選定した取組の概要153
ユニ・チャームは現在、海外現地法人 35 社を配し、東アジア・東南アジア・オセアニア・中東諸国、北
アフリカなど世界 80 カ国以上で紙オムツや生理用品などを提供している。日本で培った商品開発力やマ
ーケティング力をもとに、国ごとに異なる生活スタイルや商習慣に合わせて展開し、海外事業を拡大し
ているとともに、すでに述べたように、
「アジアの生活者の負担を軽減」という社会課題に関連して、積
極的な女性の雇用を促進する事業を展開している。
以下に概要を説明する。
① サウジアラビア(イスラム教を考慮した職場を整備)
2012 年 5 月、サウジアラビアの首都リヤドに女性だけの工場を設立し、女性が働ける環境を整備した。
工場内を男性が立ち入らない女性限定区域にし、シャッターで区切った受け渡しエリアを設けるなどし
て、書類や製品の受け渡し等、男性との接触が必要な場合にも対応できるようにした。また、2013 年度
には、工場の製造ラインだけでなく事務職まで職域を拡大し、支援を続けている。
152
http://www.unicharm.co.jp/csr-eco/stakeholder_engagement/index.html#1191419
153
http://www.unicharm.co.jp/csr-eco/special01/index.html#1191244
132
② インドネシア(女性の職域拡大)
インドネシアに生産拠点を設立した 1997 年から、女性社員はパッケージャーとして直接雇用されてきた
が、2013 年度からオペレーター担当にも採用を開始し、女性の職域を拡大した。オペレーター担当に採
用された女性社員は、日本やインドネシアで研修を受け、必要な技能を身に着けてから新たな領域に臨
んでいる。
③ インド(初潮教育の実施)
独立行政法人国際協力機構(JICA)や現地 NGO の協力のもと、2013 年 1 月、初潮教育を開始。生理につ
いて、身体面・衛生面の正しい知識や生理用品の使用方法を伝え、知ってもらうことで、女性の就学機
会の向上や社会進出を応援している。
(5) 取り組みを始めた経緯
ユニ・チャームでは新興国の女性の活動的な生活と社会進出を応援することは、将来的に、その国や地
域が発展することにも繋がると考えている。また、国連ミレニアム開発目標の考え方に賛同しており、
今後もアジアにおける女性の地位向上、貧困削減などの目標達成していきたいと考えている。
このような背景がある上で、事業につながる各国の社会課題をピックアップし、それを現地固有の風習
に沿うように取組へと落とし込んでいったと考えられる。
例えば、イスラム教国であるサウジアラビアでは、女性が家族以外の男性に顔や肌を見せることや、同
じ室内に同席する事、話す事が戒律により禁止されており、働ける環境は極端に限られている。また、
インドの農村部では、まだ生理用品を使う習慣が浸 透しておらず、生理用品の存在や、生理のメカニズ
ムなどを知らない女性が多い。また、都市部においても、生理用品を使う習慣は浸透しつつあるが、自
分の状態に合った商品の選択、正しい使い方が浸透していないという現状があった。
(6) 取組をどのように推進しているか
マネジメント層でディスカッションした上で進めている取組と、現地でボトムアップによって進められ
ている取組がある。当報告書で選定した事例については、現地の女性への教育や雇用機会の創出に要す
るコストと、経営資源の配分について、現地の裁量で対応できる範囲で行っている。
(7) 取組の効果
①ステークホルダーへの効果154
2012 年 10 月、上述の(4)①~③の取組を含め、アジア・中東・北アフリカにおけるベビーケア・フェミ
ニンケアを中心とする事業活動が、国連開発計画が推進する「ビジネス行動要請」に応えるものとして
参加が承認された。これにより、同地域に暮らす女性 3,600 万人の生活向上を実現するものであると期
待されることとなった。
②企業の競争力強化への効果155
上述の①ステークホルダーへの効果で述べたように、国連開発計画が推進する「ビジネス行動要請」に
154
http://www.unicharm.co.jp/csr-eco/special01/index.html
155
http://www.unicharm.co.jp/ir/progress/2014/progress7.html
133
承認されたことで、社会からの認知が広がり、他社との差別化につながっていると考えられる。
選定事例のような取組が、企業の競争力強化に貢献していることは間違いないという認識ではあるが、
効果の定量化は難しいとユニ・チャームは捉えている。
(8) 成功要因
※当該取組の成功要因については、3.2 章の「戦略的 CSR 活動による競争力強化に係る評価フレームワーク」
で提示した 8 つの評価軸に沿った形で、ヒアリング調査による回答を得ている。
情報発信という観点からは、「2-④非財務情報の開示」が成功要因といえる。また、環境配慮製品と本
業ビジネスの価値のバランスという観点からは、
「3-① 新しいマーケットと製品・サービスの開発」も
当てはまる。
(9) 課題
すでに述べたように、ユニ・チャームでは、マネジメント層でディスカッションした上で進めている取
組と、現地でボトムアップによって進められている取組があるが、これから現地法人とワールドワイド
全体とで、定量的なものをどう把握するのかも含めて検討することが必要になってくるという認識があ
る。
現在の体制としては、CSR 本部を設置し、関連スタッフも増強したところである。これからは、リ
スク対応という「守り」の部分だけでなく、
「攻め」の部分(トップダウン)で、現地法人と方向性を
合わせて取り組む必要がある。
(10) 全体としてどのように機能しているか
ユニ・チャームでは、企業理念に社会的価値を含めており、さらに海外現地法人、現地スタッフ等のボ
トム層から、社会課題の解決につながる事業や取組が発案され、事業化される仕組みが構築されている。
つまり、3.4 章における「1. 経営者の視点」と「2. 全社横断的な構造」の両方のレベルが充実され、全
体として機能していると推察される。このような前提をもって、ユニ・チャームでは、
「アジアの生活者
の負担を軽減」するという社会課題に対して、新興国における女性の活躍の場を拡大させる、という事
業で解決を図り、且つ、自社の競争力強化へとつなげることに成功していると考えられる。
⑤LIXIL
【企業概要】
株式会社 LIXIL は、トステム株式会社、株式会社 INAX、新日軽株式会社、サンウエーブ工業株式会社、
東洋エクステリア株式会社が 2011 年 4 月 1 日に統合して誕生した、LIXIL グループ最大の事業会社であ
る。傘下には、販売や生産、メンテナンス、サービスなどを担うさまざまな子会社を数多く有し、海外
拠点も 30 カ国以上の国と地域で展開している。
連結売上高 16,287 億円、連結営業利益 691 億円(2014 年 3 月期)を計上し、従業員数 51,419 人を有す
る、総合住生活企業である。
134
(1) ビジョン156
LIXIL グループは、経営理念として下記の 4 つの概念からなる理念体系を掲げている。
 「LIXIL CORE」・・・優れた製品とサービスを通じて、世界中の人びとの豊かで快適な住生活の未来
に貢献する。
 「LIXIL WAY」
・・・地球と調和する「暮らしの理性」を創造する。お客さまの、良い暮らしにつなが
る「絆」を作る。
 「LIXIL VISION」
・・・グローバル No. 1 住生活企業を目指し、お客さまや株主をはじめ、あらゆるス
テークホルダーの方々との良好な関係を、持続的に作り上げていき、住生活産業におけるグローバル
リーダーとなることを志す。
 「LIXIL VALUE」
・・・グループ構成員が共有する中核の価値であり、行動指針や評価のベースとなる。
図表 82 LIXIL グループ経営理念「LIXIL TETRA」
出典:LIXIL ウェブサイトより引用
http://www.lixil.co.jp/corporate/vision/
「LIXIL CORE」の企業理念を中心とする上の図表 82 LIXIL TETRA が LIXIL グループとそこで働く社員
全員の共通基盤となっている。
(2) 企業全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように認識しているか
LIXIL として、事業分野・規模・領域やバリューチェーンを考慮し、社外有識者の意見を反映させた重要
課題の特定と中期アクションプランの策定に取り組んでいる。
LIXIL 総合研究所では、社外の様々な研究機関、学識者とのコラボレーションや長期トレンド分析などを
基に、中長期的に経営課題となり得る社会課題として、人口問題、環境、水、新興国のインフラを捉え
ている。
LIXIL ホームページ・経営理念
http://www.lixil.co.jp/corporate/vision/
156
135
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
日本の人口減少により年間新規着工数が減少していることに対して、企業としてどのように存続してい
くかは、LIXIL の中長期の経営課題の一つである。それを解決する手段は、「優れた製品とサービスを通
じて、世界中の人びとの豊かで快適な住生活の未来に貢献する」という企業理念を実現することであり、
「世界」と「未来」がキーワードとなっている。
それら二つのキーワードと、上述の社会課題4つを突き合わせ、以下のグリーントイレプロジェクトが
発案された。これらの課題は、CSR 方針の7つの具体的テーマのうちの以下の 2 つに合致している。
1.エネルギーと水資源の効率利用への取り組み
2.衛生・安全・安心と高齢社会の共助への取り組み
LIXIL では、単なる社会貢献ではなく、ビジネスとして成り立つシステムを作り、供給側も受給側も、と
もにメリットが生まれるような仕組みを構築し、持続的に事業を展開していくことを目指しており、下
記事項を考慮しながら以下の【選定事例】に挙げた実証試験を進めている。
 将来的には、新興国に技術支援をして現地での生産を可能にし、低価格化と地域の雇用創出を目指す。
 世界では貴重な水資源に依存しないトイレが求められている国や地域がある。また、先進国において
も、災害時などインフラが行き詰った時に対応できるトイレが必要である。
 コストのかかるインフラ設備が不要なグリーントイレは、過疎地や地方の山間部にも有効であり、新
興国での挑戦をリバースイノベーションとして先進国に逆輸入することも視野にいれ、世界のインフ
ラを最適化する開発に取り組む。
(4) 選定した取組の概要
ケニア、インドネシア、ベトナムで「グリーンプロジェクト」を遂行している。
「グリーントイレ」とは、
「循環型無水トイレシステム」のことであり、便器の下に固液分離装置を設置し、便と尿を分離して、
臭いを抑制しながら排泄物を貯留することができる。さらに、泄物を回収・堆肥化する装置を組み合わ
せて、トイレ単体ではなく「循環型無水システム」として商品化することを目指している。
ケニアにおいては、衛生・環境問題と同等に貧困や食料不足による飢餓も早期に解決すべき課題と捉え
ている。 安全な排泄・肥料化を提供する「エコ・サニテーション157」に、生成した肥料を利用した農業
や雇用創出などを加え、生きる為に必要な一連 のサイクルを支えるシステムを「グリーントイレシステ
ム」と名づけ、活動を進めている。
2010 年からベトナムにて、ハノイ建設大学と実証検証を進めており、2013 年よりインドネシアにおい
ても「エコ・サニテーション」の普及を目的とした調査を開始した。また日本では、 徳島県勝浦郡上勝
町にて住民の要望を踏まえた総合的な実証研究を継続中である。
(5) 取組を始めた経緯
LIXIL TETRA のコアである企業理念「優れた製品とサービスを通じて、世界中の人々の豊かで快適な住
生活の未来に貢献する」に関連する社会課題として、人口問題、環境、水、新興国のインフラをピック
「エコ・サニテーション」…し尿の搬送に貴重な水を使わず、地下水や河川、などの水資源を汚染しない。加えて、リンや窒素という
植物の生育に必要な栄養素を含んでいるし尿を、発酵・分解して肥料などの資源として再び有効活用する、というもの。
157
136
アップしている。これらの課題を総合住生活企業として新しいシステムビジネスモデルを構築すること
で解決をろうという考えのもと、無水トイレの開発に至った。
(特に、後述する新興国の劣悪なトイレ環
境による衛生問題を取り上げた)
①
ケニアは近年、GDP 成長率が高く、若年層の人口増加を背景に購買力のある中間層が形成され、 今
後の更なる成長が期待されている一方で、その急激な人口増加と都市集中化にインフラ整備が追い
ついていない状況で、安全な水を飲むことができる割合は 59%に過ぎない。特に衛生設備面におい
て、非都市部で下水道の整備は大幅に遅れており、下水処理施設につながったトイレは 30%に満た
ない。そのため、多くの国民が劣悪な環境で排泄を行い、そのうち屋外排泄をしている者も少なく
ない。その結果、周辺の河川、地下水などの水源が汚染され、腸チフスや下痢が蔓延する原因とな
っており、5 歳以下の乳幼児死亡者数は、日本では 1,000 人あたり 3 人であるのに対し、ケニアでは
73 人と非常に多くなっている。
②
インドネシアでも、下水道の整備の大幅な遅れにより、腸チフスや下痢が蔓延しており、5 歳以下の
乳幼児が毎年 4 万人以上死亡している状況であるが、インドネシアは 1 万 8000 もの島々からなる国
家で、大規模で効率的なインフラ整備は困難である。
(6) 取組をどのように推進しているか
無水トイレ開発にあたって、企業のシステムとしてではなく、個別的にオンデマンドで各セクションか
らアイデアを吸い上げている。また、世の中の動向を検知する専属職員のような者がいて、社会的需要
を敏感に察知し、経営課題へと落とし込むキッカケを生み出す機能が働いている。
<CSR の推進体制158>
LIXIL では、2012 年 7 月 CSR 方針制定に伴い、CSR 推進委員会のもと、
「顧客」
「サプライヤー」
「従業
員」
「環境」のステークホルダー別の 4 つの部会がそれぞれ目標を掲げ CSR 活動を行ってきた。2014 年
4 月からグローバル・マネジメント・コミッティ(GMC)の体制がスタートしたが、2015 年 4 月には事
業部体制に移行予定であり、CSR の推進体制も改めて見直しを行っている。日本中心ではなく、中国、
アジア、北米、欧州含め、グローバルでのマネジメント体制、CSR 推進体制を構築中であり、グループ
としての重要課題についても議論を深めていく。
(7) 取組の効果
① ステークホルダーへの効果
まだ事業化前の実証実験段階のため、効果測定はできない。
② 企業の競争力強化への効果
①と同様、事業化前の実証実験段階のため、効果測定は出来ていない。
(8) 成功要因
まだ事業化前の実証実験段階のため、効果測定はできないが、今度、無水トイレで新興国の衛生問題を
LIXIL ホームページ・・CSR 推進体制
http://www.lixil.co.jp/corporate/csr/commitment/system.htm
158
137
解決しながら、その回収物の二次利用で自社の利益獲得にもつなげるというビジネスモデルが成功する
場合は、「4. 新しいマーケットと製品・サービスの開発」に当てはまると考えている。
(9) 課題
これから事業化する段階であるため、まずは事業として成立していける形をどう作っていくかが現在の
課題である。
(いくつかの成功仮説はあるので、それをどう突き詰めていくか)
同時に、社内の各セクションへのヒアリングがキッカケで事業のテーマになる場合もあるので、ボトム
アップでビジネスが実現できる環境にすることも課題である。
(10) 全体としてどのように機能しているか
5 つの企業が合併して LIXIL グループが設立されたときに掲げた企業理念、
「優れた製品とサービスを通
じて、世界中の人々の豊かで快適な住生活の未来に貢献する」は、事業活動に大きな影響を与えており、
本事例である「グリーントイレプロジェクト」については、トップダウンで戦略的 CSR として新しい事
業活動が推進されている。この企業理念のもとに、社会課題や経営課題を発掘し、それをイノベーショ
ンへと結びつける機能や社内文化、そしてステークホルダー・ダイアログを含むマテリアリティ分析等
によって社会課題に適時にキャッチアップしていく体制が構築されていると思われる。このような社内
文化や体制によって、新しいビジネスモデルの構築が支えられ、グリーントイレプロジェクトという社
会課題解決と企業価値創造の二つを兼ね備えた新しいビジネスモデルの開発プロジェクトが進んでいる。
138
2.海外企業の分析
①Marks&Spencer(マークス&スペンサー)
【企業概要】
マークス&スペンサー社は英国の小売業で、年間売上 160 億米ドル、年間利益 10 億米ドルを上げており、
ビジネスは、食料品と衣料品がほぼ半分ずつである。
英国に約 500 店舗と、フランチャイズ約 300 店舗、海外に約 500 店舗(インド、中東で急成長)を展開
し、サプライチェーンにおいて約 2 百万人の労働者、約 2 千の工場、約 2 万人の農業従事者を有し、毎
日約 2400 万人の顧客が利用し、約 8 万 6 千人のマークス&スペンサー社の従業員、約 29 億点の商品を
取扱う。159
(1) ビジョン
「私たちのブランドをより多くの顧客にとってより身近なものにすることで、伝統的な小売業者から、
業界をリードするマルチな小売店に進化していく」という全体のビジョンのもと、
「世界で最もサステナ
ブルな大型小売店になる」という目標を掲げている。この目標には、社会的価値の要因が含まれている
といえる。160
(2) 企業全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように認識しているか
(1)で前述のとおり、業界をリードするというビジョンを実現するためには、
「世界で最もサステナブルな
大型小売店になる」という目標が達成であると考えている。
つまり、企業として、中長期的な経営課題=社会課題の解決、という認識がある。
社会課題をどのように認識してきたかについては、マークス&スペンサー社の CSR 取組の歴史を遡るこ
とで理解することができる。
マークス&スペンサー社においては、1970 年代は、フィランソロピー(慈善活動)として CSR に取り
組んでいたが、1980 年代には、英国内の地域への投資(コミュニティ投資)によって治安の良い安全な
地域を作ることにより、その地域の店舗も繁栄するという考え方による CSR に移行した。これが
WIN-WIN の始まりである。
1990 年代~2000 年代前半は、CSR 活動として、チェックリストを使ったリスクマネジメントを行って
おり、グリーンピース161、Friend of Earth162や Oxfam163などの NGO に対する評判リスクのマネジメント
159
マークス&スペンサーホームページ Key Facts
http://corporate.marksandspencer.com/aboutus/key-facts
160
マークス&スペンサーホームページ Our Plan for the Future
http://corporate.marksandspencer.com/aboutus/our-plans-for-the-future
他、ヒアリング調査により作成。
161
グリーンピース:オランダのアムステルダムに本部を置く、国際環境 NGO 団体。1971 年に設立、世界 40 以上の国と地域で活動して
いる。
162
Friend of Earth:地球規模での環境問題に取り組む、世界 74 ヵ国に 200 万人のサポーターを有する国際環境 NGO。日本では 1980 年
から活動をしている。
163
Oxfam:世界 90 カ国以上で活動する国際協力団体。貧困を克服しようとする人々を支援し、貧困を生み出す状況を変えるために活動
している。日本では、2003 年から活動開始。
139
が中心であった。
2007 年から Plan A が開始された。Plan A は、社会課題解決のための中長期的な戦略的 CSR 活動という
ことができる。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
Plan A の 100 のコミットメント自体が経営課題としての目標である。
(4) 選定した取組の概要
2007 年にサステナビリティ戦略の実行に関わる方針"Plan A"を定め、5 年以内に 100 のコミットメント
を達成することを宣言した。さらに 2012 年には内容を改訂し、世界で最もサステナブルな大型小売店に
なるという目標を達成するために"Plan A 2020"を新たに宣言した。
コミットメントの内容は、以下の通り大きく 4 つに分類されている。

Inspiration:良好な顧客関係の構築と、そのための組織改革。

Intouch:従業員の多様性、能力開発、福利厚生、国際・地域貢献

Integrity:持続的なサプライチェーンの構築、情報開示

Innovation:環境に配慮した店舗運営
2020 年に向けた”Plan A 2020”では、以下の 5 つのフェーズに分かれており、数年毎に区切って各フェ
ーズに取り組んでいる。
図表 83 マークス&スペンサー社のサステナビリティ成長のイメージ図
出典:マークス&スペンサーへのヒアリングをもとに、あらた監査法人作成
① フットプリントの改善(2007 年~2009 年)
バリューチェーンにおける省エネ、省資源等を推進する。
② インテグレーション(2010 年~2014 年)
業務において、自動的にサステナビリティが考慮されるようにする。例えば、新規店舗出店の
140
際、組織として、環境配慮の建物、施設等を自然に考慮できるようになる。
(Plan A の 100 コミ
ットメントの項目をきっかけにする)
③ エンゲージメント(2015 年~)
8 万 6 千人の全従業員に加えて、2400 万人の顧客すべてが Plan A を意識した行動をすることを
目指す。Plan A のプロジェクトに関わっている約 1000 人の従業員のように大きなコミットメン
トでなく、顧客が少しだけでも行動できるようになることを支援する。例えば、顧客も、少し
だけ洗濯のお湯の温度を下げて使ったり、リサイクルに協力したりすることができるという取
組例をお知らせする。
④ ビジネスモデルのイノベーション
循環ビジネスモデル(顧客が商品を買うのではなく、レンタルするビジネスモデル)のような
新しいビジネスモデルを創出するため、顧客の意識を変えることを支援する。それには、前提
となる「③エンゲージメント」における取組が重要になる。
⑤ システムの変革
マークス&スペンサー社は英国経済の 1%未満にすぎないため、他の経済システムも変革しなけ
ればサステナブルな経済は実現しない、という考えから、世界各国の小売業等の企業のコラボ
レーションによるイニシアティブを進めている。
(5) 取組を始めた経緯
2006 年に就任した当時の新 CEO の Stuart Rose 氏が始めた中長期事業戦略の一環で、サステナビリティ
でリーダーシップを取ることにより、リスク管理ではなく、成長のドライバーにするという考え方に基
づいて開始した。
その際、マーケットにおける競合他社のサステナビリティのレベルの分析が重要で、自社がどのポジシ
ョンを取るべきかという観点でビジネスモデルを決めている。
(6) 取組をどのように推進しているか
Plan A を実行するにあたりサステナビリティ・ガバナンス体制の見直しを行い、新たに以下の三つの組
織を設置した。
① "How We Do Business Executive Committee"
② "How We Do Business Operating Committee"
③ "Sustainable Retail Advisory Board"
【組織体制概要】
① How We Do Business Executive Committee
CEO、CFO を含む社員 12 名で構成され、サステナビリティを含むビジネス戦略全体についての方
向性を決める。
② How We Do Business Operating Committee
ディレクタークラス中心の社員 11 名で構成され、うち 6 名は①”How We Do Business Executive
Committee"と兼任する。この組織のミッションは日々のオペレーションの中に"Plan A"の活動を統合
することと、コミットメントの進捗管理を行うことである。さらに Executive Committee と共同で 6
141
か月に一度対応すべき地球環境・社会的・倫理的リスクの洗い出しをする。
③ Sustainable Retail Advisory Board
他社の役員や NGO など外部メンバーで構成され、同社のサステナビリティ戦略へ助言を与えるのが
役割である。また“Plan A”に組み込まれている 100 種類のコミットメントのうち、マテリアリティ分
析を通じて自社とステークホルダーに関して特に重要と判断されたものに関して外部監査が行われ
ることが特徴である。
業績により、Plan A の進捗が必ずしも順調でないときもあるが、20 年の取組みであるので、できる
ときに進捗すれば良いという考えである。
(7) 取組の効果
①ステークホルダーへの効果

英国社会に対する効果
競合的な市場において、小売業だけでなく、全業種でマークス&スペンサー社は最も信頼できるブラン
ド評価を獲得している。また、若い失業者に短期の職場を提供する"Make Your Mark"プログラムに 1,450
人が参加した。

環境に対する効果
2014 年度の具体的な成果の例として、英国とアイルランドでの CO2 排出量が、2007 年度比で 69 万 8000
トンから 53 万 3000 トンへと 24%削減した。
②企業の競争力強化への効果
省エネ、省資源、パッケージ減少等でコスト節減効果につながり、2 億米ドルのコストを節減した(2013
年)
。その分を新店舗出店や新倉庫建築などに投資することができた。
(8) 成功要因
従業員全体に Plan A の考えが広まっていることである。
1970 年代のフィランソロピーの頃から現在まで、CSR のコアメンバーは同じ 10 人のまま変わっていな
いが、それでも 86,000 人の従業員全員がサステナブルな業務を進められているのは、10 人それぞれが各
部門の従業員の教育研修をし、コーチとなり、メンターとなって支援し、組織全体に Plan A の考えが浸
透しているからである。
(9) 課題
従業員の満足度や離職率などについて統計はあるが、Plan A によるものをはっきりと把握できているわ
けではない。85%の顧客がマークス&スペンサー社を信頼しているが、Plan A による影響は不明である
ため、今後 Plan A による効果を他と分離して把握できるように考えていく必要がある。
(10) 全体としてどのように機能しているか
マークス&スペンサー社では、「サステナビリティを企業の成長のドライバーにする」、という経営者の
意思が企業活動の根幹に在り、戦略的 CSR 活動に大きな影響を与えている。その経営者の意思が、優秀
な人材能力の最大化(従業員教育)や最適なガバナンス体制の構築(Plan A の KPI が組み込まれた基幹
142
システム、役員会議における月次の議論)といった、全社横断的な構造の構築の有効に機能しており、
新しいビジネスモデルである Plan A の推進力を強めている。その結果、レジリアントなサプライチェー
ンが構築され、さらに顧客からの信頼性が確立されることにより、コスト削減や差別化という競争力の
向上へとつながっている。
②Philips(フィリップス)
【企業概要】
フィリップスは、世界最大級の電機・家電製品メーカーであり、循環器疾患ケアや急性期疾患の診断治
療とホームヘルスケア、省エネ照明ソリューション、新たな照明アプリケーション等において業界のリ
ーダーシップを発揮している。
オランダに本社を置き、2013 年の売上は 233 億ユーロ、世界 100 ヵ国以上に約 115,000 人の従業員を擁
している。
フィリップスの重点事業領域は、家電、健康/ウェルネス、パーソナルケアである。
(1) ビジョン
フィリップスでは、2025 年までに年間 30 億人の人々の生活を、イノベーションを通じて向上させ、よ
り健全かつ持続可能な社会を構築することを目指している。164
(2) 企業全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように認識しているか
世界規模の社会課題を解決するためには、社会と環境の両面を考慮した経営とイノベーションの開発が
必要だと考え、再生型の製品・ビジネスモデルの創造を通じて目標の達成を目指している。
ここでフィリップスが経営課題として捉えている社会課題は、資源不足の問題であると考えられる。
「資
源の消費を減らさないままに発展途上国の開発が進めば、将来的には資源不足に陥る可能性が大きい。
そのため、限りある天然資源の消費を減らしつつ人々のニーズを満たす、よりスマートなソリューショ
ンが必要とである」と認識している。これを実現するためには、従来の大量生産大量消費型のビジネス
から、包括的で循環型の経済にシフトさせるためのビジネスの構築が必要であると考えている(図表 84
の縦軸)。循環経済(Circular Economy)は、その戦略的な取組の一環として位置づけられている。
164
Philips ホームページ
http://www.philips.com/philips/shared/assets/global/sustainability/downloads/Philips-approach-to-sustainability-brochure.pdf
他、ヒアリング調査により作成。
143
図表 84 企業の成長とフットプリントの分離
出典:フィリップスの公開情報より引用
http://www.philips.com/philips/shared/assets/global/sustainability/downloads/circular-economy-brochure.pdf
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
フィリップスでは、2 年前から戦略的な価値創造の基本的考え方として、“Preserve(保全)を目的とす
る循環経済“というイニシアティブを始めている。これは、資源不足による今後の資源価格の変動を見据
えて、不確実性を Big Data でコントロールするという考え方、つまり、循環経済(Circular Economy)
=Knowing Economy(下記図表 85 参照)である。Big Data を基にしたバリューチェーン全体の資源循
環の実態を把握し、バランスをとりながら製品価格に反映する戦略である。
144
図表 85「循環経済」の取組のイメージ図
出典:フィリップスの公開情報より引用
http://www.philips.com/philips/shared/assets/global/sustainability/downloads/circular-economy-brochure.pdf
上記の図表 85 のどこで資源循環の可能性があるかどうかを検討し、新しいビジネスモデルを戦略的に考
えている。今回選定した取組である"Pay-per-Lux"は、この図表 85 の中で、一番付加価値が高いとされる
「サービス」のカテゴリーにおける循環経済の取組である。
(4) 選定した取組の概要
"Pay-per-Lux"サービスは、照明を製品として販売するのではなく、使った分だけユーザーに課金するビ
ジネスである。照明機器の所有権を移行することなく、顧客の施設に照明器具を設置し、照明機器が不
要になったときはフィリップスが機器を引き取り、リサイクルするという循環型のモデルである。また、
照明の使用時も LED やエネルギーモニターの使用により積極的に消費電力を削減することで環境に配慮
したサービスとなっている。
(5) 取組を始めた経緯
第一に、Pay-per-lux の取組は、循環経済(Circular Economy)の企業価値創造のための戦略的イニシア
ティブの一環として開発されたものである。
加えて、以下の理由がある。
145
①
照明業界はアナログからデジタルへと変革中であり、デジタルだと使用時のみ電気が点灯するとい
うような省エネの取組が可能であり、改善の余地が大きい。
②
照明関連のメンテナンスが複雑性であり、顧客にとって事務負担が大変である。
③
テクノロジーの進歩により、照明の使用期間が長期化している。
④
設備投資であれば一時的に支払いが発生するため、顧客にとって予算が取りにくい場合であっても、
オペレーションコストとして毎期発生するのであれば、少額であり比較的予算が取りやすい。
(6) 取組をどのように推進しているか
循環経済の取組の柱は次の4つである。
・社内各部門における成功プロジェクトの実例の積み上げ
・対外的コラボレーションの推進
・コミュニケーションと教育のプログラムを開発し各部門に展開
・フィリップスの業務プロセスの中に「循環経済」を組み込む=ガバナンスの仕組み
ガバナンスの体制としては、以下の二つの組織が中心となって機能している。
①
サステナビリティ委員会
取締役 4 名と、業種別・職種別の責任者で構成され、サステナビリティにかかわる取り組み全般に関し
て、年に 4 回開催される。この委員会でサステナビリティ戦略の策定、進捗の管理、軌道修正を行って
いる。取り組みの進捗状況を、従業員に対しては四半期に一回、経営委員会と監査役会に対しては少な
くとも年に一回報告している。
②
サステナビリティチーム
「循環経済」のイニシアティブを戦略的に推進するチームである。フランス、ドイツ、オランダ政府と
のコミュニケーションを持ち、ビジョンを打ち出し、人的資源を配分し、ベンチマークを設定し、テク
ニカルな面の支援を推進している。企業価値を創造する戦略を立て、業務に組み込んでいく役割がある。
2015 年 1 月 1 日には別々の領域のメンバー30 名によりサステナビリティチームが統合され、効率が向
上した。
(7) 取組の効果
①ステークホルダーへの効果
環境への負荷を減らすという観点では、循環型ビジネスモデル構築による資源の使用量やごみの排出量
の削減と、省エネ技術による使用エネルギーの節減が期待できる。また、顧客に対しては、商品の購入、
廃棄、メンテナンスにかかる手間やコストが省けることや、常に最新の照明が利用できることがメリッ
トとして挙げられる。
②企業の競争力強化への効果
Pay-per-Lux が企業側に及ぼすメリットとしては、第一に顧客との関係性の強化がある。従来の照明機器
を販売するビジネスモデルでは、メーカーと顧客との間に販売店が介在し、また顧客との接点も商品の
販売時のみに限られていた。しかしながら”Pay-per-lux”では、メーカーが直接、顧客に対して長期的にサ
ービスを提供する形になるので、顧客とのより深い関係性を構築できる。
146
また、照明機器を販売するビジネスモデルと比較して、継続的に収益を生み出せることもメリットとし
て挙げられる。今後 LED の普及などで照明機器の長寿命化が進み、買い替えの頻度が減少すると、この
メリットが一層魅力的なものとなると考えられる。
コアの取組である循環経済では、経済成長とフットプリントを分離する考え(上述の図表 84 参照)によ
り、売上と利益の向上につながっている。また、循環経済の前段階にある「グリーンオペレーション」
や「グリーンイノベーション」はすでに競争力向上につながっている。ただ、この取組による価値創造
過程を定量データで説明することは困難な状況である。
(8) 成功要因
Pay-per-Lux の成功要因としては、以下の 4 つをあげている。
①サービス料を売り上げとするビジネスモデル
②コラボレーション
新しいビジネスモデルの実現を支えるサブコントラクター
③リバース・ロジスティックス(サプライチェーン)
(例)今まで廃棄物として埋め立てていたものを再使用する(=Create Value)
④メンテナンスコストを下げる製品デザインであること
の4つがあげられる。
循環経済の成功要因としては、以下の 2 つを挙げている。
①CEO のリーダーシップ
2~3年前に循環経済のビジョンを設定し、戦略開発部門が立ち上がり、循環経済への戦略的取組みが
スタートした。現在、関連部署が毎月集まって議論している。
②「経済ストーリー」を前面に押し出したこと
キーワードは、
「環境」ではなく、
「経済ストーリー」である。
(9) 課題
本来、Pay-per-lux であれば、電気を使用しただけ支払いが発生するはずであるが、ベースフィーの支払
やエネルギー会社への支払が発生するため、そうなっていない(まだ、ワンストップサービスになって
いない)。そのため、消費者を混乱させないために Light as a Service と呼んでいる。ただ、将来的には
ワンストップサービスを実現し、エネルギーも再生可能エネルギーで供給することにより、堂々と
Pay-per-lux と呼べるようにすることが目標である。
また、ロールアウトが容易にできるように、標準化することも課題である。
(10) 全体としてどのように機能しているか
フィリップスでは、資源逼迫のトレンドに対するトップの意思が、組織全体にとっての大きなドライバ
ーとなり、
「循環経済」に関する戦略開発部門の立ち上げと部門横断的な月次会議、Thought Leadership
によるコラボレーションの推進のような、新たなビジネスモデル創造の基盤が構築されている。この基
盤を元に、4 つの循環サイクル(図表 85 参照)に着目した戦略的な新しいビジネスモデルを開発し、CSV
を積極的に推進している。
147
③Puma(プーマ)/Kering(ケリング)
【企業概要】
フランスの流通大手企業体ピノー・プランタン・ルドゥート(Pinault-Printemps-Redoute : PPR)の組織
改編・商号変更により 2013 年に設立された、ファッション業界大手企業体の一つである。創業は 1963
年で、アパレルとアクセサリーのカテゴリーにおけるグローバルリーダーであり、グッチを中心に強力
なブランドのポートフォリオを構築している。売上は年間 90 億ユーロをあげており、大きく以下の 2 種
類のビジネスを展開している。
1. スポーツ用品、ライフスタイル用品等(プーマが含まれる)
2. 高級品(革製品(グッチやサンローランが含まれる)、ジュエリー、腕時計等)
(1) ビジョン
プーマは環境への負荷をできるだけ小さくしながら、顧客への価値提供を続け、環境へ価値を還元する
ことに挑戦している。165
(2) 企業全体として、中長期の経営課題になり得る社会課題が何で、それをどのように認識しているか
社会課題のうち、環境要因については、環境損益計算書(以下、
「E P&L」という)が中長期の事業戦略
策定のツールとなっている。それ以外の社会課題については、ステークホルダー・ダイアログに基づい
た伝統的なマテリアリティ分析により事業戦略を策定している。すなわち、環境要因については、サプ
ライチェーンのどの部分に課題があるかについて金額による影響が把握できるため、EP&L が最善の意
思決定ツールであると考えている。
(3) それらの社会課題をどのように経営課題として目標に落とし込んでいるか
プーマの E P&L では、自然環境が自社のビジネス(サプライチェーンを含む)に与える莫大な価値と、
ビジネスが環境に与える損害を金銭に換算することで、それらを正確に測定し、環境マネジメントの意
思決定ツールとしている。ビジネスリスクを最小化し、開示要求など将来起こりうる法的対応コストを
最小限に抑えるためには、環境負荷が金銭的に評価されることが必要である。
(4) 選定した取組の概要
E P&L を用いて、サプライチェーン全体で以下の図表 86 に示されるように環境影響を金額で測定してい
る(円の面積の大きさが金額影響の大きさを示している)
。E P&L は 2013 年には Kering グループの6つ
のブランドで展開され、グループ全体の 73%をカバーすることができた。
165
Kering ホームページ
http://www.kering.com/en/group/about-kering
他、ヒアリング調査により作成。
148
図表 86 環境損益計算書
出典:Kering 発行「A YEAR OF SUSTAINABILITY 2013」より引用
http://www.kering.com/sites/default/files/document/kering_panorama_2014.pdf
プーマでは E P&L から得られた結果を基にして、環境に配慮した製品群「InCycle」の開発を行った
「InCycle」の製品は Cradle to Cradle Products Innovation Institute166のガイドラインに基づき、リサイク
ル性の高い素材で作られている。ユーザーが使用した後は、プーマが設置する回収ボックスに投入する
ことで、化学的・生物学的なプロセスを通じて素材として再利用される。
(5) 取組を始めた経緯
ドイツのビジネス界におけるリーダーであり、プーマの株主でもあった CEO167のザイツ氏の強力なリー
ダーシップによって開始された。ザイツ氏の「私たちの会社が与えているサプライチェーンにおける本
当の環境インパクトはどうなのだろうか?」という素朴な疑問に応えることから始まった。
当初の目的は、公開することで説明責任を果たす事であった。しかし、時間が経つにつれて、管理会計
としての機能の重要性が高まり、現在ではビジネス上必要不可欠な内部管理ツールとなっている。
競合先である Nike や Adidas のサステナビリティの取組が進んでいることも理由の一つである。サステ
ナビリティ先進企業のひしめく中で、差別化を図るために何か特別な取組が必要であると考え、環境損
益計算書に至った。
166
Cradle to Cradle Products Innovation Institute:2010 年に、カリフォルニア州サンフランシスコに設立された認証団体。製品に含まれ
る化学製品の毒性を減らすことを目的としたサプライチェーンの再編成や、製品の環境負荷を取り除き、環境貢献を最大にするために、
根本のデザインや手法を見直すことを理念としている。
167
CEO:chief executive officer、最高経営責任者。
149
(6) 取組をどのように推進しているか
Puma の E P&L の成功を受けて、Kering グループ全体の 23 ブランドについて、2016 年までに E P&L を
作成することを公表した。現在、スケジュール通りに順調に作成を進めているところである。
(7) その効果
①ステークホルダーへの効果
E P&L で明らかになった内容をビジネス運営にフィードバックして、環境負荷を低下させることに成功
している。
例えば、
(a)
製造関連では、生産時の水の消費量が 2010 年と比較して靴で 16%、雑貨で 68%、衣料品で 48%
減少した。
(b)
輸送関連では、製品輸送時の CO2 排出量を 2010 年比で 12.6%削減した。
(c)
販売関連では、全製品中 38%がサステナビリティに配慮した製品となった(2013 年)
。
②企業の競争力強化への効果
企業全体にとってのメリットとしては、以下のようなものがある。
(a) 戦略策定や新商品開発への役立ち
E P&L の作成により環境負荷要因を分析することで、環境対応素材の評価・開発や、温室効果ガス削
減のための戦略策定といった、今後の企業活動にとって重要な領域での判断材料とすることができる。
E P&L 作成により入手した情報を直接的に商品開発に結びつけた例としては、環境配慮型の新商品
InCycle の発売がある。InCycle のシューズは、従来型のシューズに比較して 31%環境コストが安い(環
境負荷が少ない)製品である。
「InCycle」シリーズは 2013 年 Innovator Awards を受賞した。
(b) 持続可能なサプライチェーン構築への役立ち
一番大きな効果は、持続可能なサプライチェーンの構築に役立っていることである。E P&L により、
サプライチェーンリスクを管理できるようになり、ローカル生産(農業など)の開発に役立っている。
また、サプライチェーンにおける環境負荷を分析することで、気候変動や水不足など、環境に起因す
るリスクを回避しやすくする。さらに今後厳しくなることが予想される環境規制等に対応する際のコ
ストが小さくなるというメリットもある。
(c) コミュニケーションのツールとしての役立ち
E P&L を公開することにより、サプライヤーや NGO などのステークホルダーに対する良い説明資料
として活用している。店頭でも販売時に活用している。
一方、当初の目的であった外部公表用よりも、内部目的のほうが現在では効果が大きいと認識してい
る。すなわち、E P&L のおかげでサプライチェーンの環境影響が金額で見える化することができ、経
営層全員の理解が大幅に進み、他の部門(特に調達部門)と戦略的な議論をできるようになった。
(8) 成功要因
成功要因は、第一に CEO のリーダーシップである。加えて、グループ各社のサステナビリティチーム(特
に、プーマとグッチ)がドライバーになった。また、E P&L という共通の言語により、環境影響につい
てグループ会社の全員が理解するようになり、コーポレート・カルチャーが醸成されたことも成功要因
150
である。
(9) 課題
チャレンジとしては、サステナビリティの重要性を理解している消費者を増やすことである。そのよう
な消費者は、欧州においてもまだ少ないと認識している。
(10) 全体としてどのように機能しているか
経営者のザイツ氏の強力なリーダーシップに加えて社会課題を経営課題に取り込むための有効なサステ
ナビリティチームという「1. 経営者の視点」が、戦略的CSR活動の推進力として有効に機能している。
これら二つの重要な要素によって推進される E P&L の作成と開示が、新たなビジネスモデル構築の基盤
となり、持続可能なバリューチェーン(環境適応素材開発、環境リスク分析)の構築を支えている。結
果として、(7)①で前述のような定量的な成果と、資源逼迫のトレンドに対する安定調達の確保につなが
っている。
151
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