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豊 田 一 郎

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豊 田 一 郎
とよ
氏
名
学 位 論 文 題 目
豊
た
田
いち
一
ろう
郎
MRI reveals edema in larynx, but not brain, during
anaphylactic hypotension in anesthetized rats
(麻酔下ラットにおけるアナフィラキシー低血圧時の
脳と喉頭の MRI 所見)
学位論文内容の要旨
研究目的
アナフィラキシーショックでは,しばしば血管透過性の亢進により局所間質の浮腫
を伴う。臨床上,重要な所見の一つに喉頭浮腫があり,喉頭浮腫により窒息を引き起
こし,致命的な状態を引き起こすこともある。対照的に,脳浮腫の発生は全身性アナ
フィラキシーにおいて問題視されることは少ない。その理由として,脳の血管が脳血
液関門(BBB)を有しているため,浮腫の発生が起こりにくくなっている可能性が考え
られる。しかしながら,不安,拍動性頭痛,めまい,混乱のような中枢神経系(CNS)の
症状は,アナフィラキシーの患者においてしばしば認められる症状である。これらの
CNS の徴候は,低血圧に付随して起こるように考えられるが,脳傷害およびアナフィラ
キシーの直接影響によって引き起こされた浮腫との関連の可能性も考えられる。
脳浮腫はその病態機序として,主として血管性浮腫または細胞毒性浮腫の 2 つに分
類される。核磁気共鳴映像法(MRI)は生体内の水素原子に関して,強力で敏感な生体内
検査法である。それは,他臓器と同様,脳の含水量の変化を経時的に調べることがで
きるためである。水の見かけの拡散係数(ADC)は細胞毒性浮腫の変化に敏感であり,T2
緩和時間(T2RT)は,血管性浮腫を検知することができる。しかしながら,全身性アナ
フィラキシー中に MRI で脳か喉頭の浮腫を検出できるかを検討した報告はない。そこ
で本研究では麻酔下のラットで,アナフィラキシーショック時の低血圧中に喉頭およ
び脳に浮腫性変化が認められるかを,血管拡張剤によって引き起こされた低血圧状態
と比較して,MRI を利用して検討を行なった。
実験方法
雄の SD ラットを,全身麻酔下にオブアルブミン抗原(n=7)投与によるアナフィラキ
シー状態の作成,ならびに血管拡張剤であるニトロプルシド・ナトリウム(SNP; n=7)
の投与による低血圧状態とした。それぞれの状態の脳組織(両側の視床下部,基底核
部,大脳皮質)および喉頭の浮腫状態を,MRI で ADC および T2RT の測定により評価し
た。測定は薬品投与前に 1 回,薬品投与後 68 分間に 4 回行った。さらに喉頭浮腫の存
在は摘出標本による組織学的評価も用いて検討した。脳浮腫の発生の有無は,アナフ
ィラキシー群(n=5)ならびに SNP 群(n=5)のラットおよび血圧正常のコントロール群
(n=5)に対してそれぞれ湿乾重量法を使用し,脳含水量を測定することにより評価した。
また,脳内のアナフィラキシー反応の局在をトルイジンブルー染色による肥満細胞数
ならびに脱顆粒の有無の観察により,形態学的に検討した。
実験成績
平均動脈圧は,アナフィラキシー群,SNP 投与群ともに 35mmHg まで減少した。抗原
投与 13 分後には MRI において喉頭で T2RT の上昇が認められ,これを反映し,T2 強調
画像で喉頭に高信号が認められたが,SNP では信号の変化は認められなかった。組織学
的検査でも,アナフィラキシー群のラットでは喉頭蓋の浮腫が認められた。一方,脳
においては,T2RT または ADC の有意な変化は,研究されたいずれのラットの脳におい
ても認められなかった。脳水分量の測定では,非低血圧状態のコントロール群と比較
して,アナフィラキシーあるいは SNP 群のいずれも有意な差を認めなかった。また,
アナフィラキシー群と SNP 群の間で視床下部中の肥満細胞の数に有意な増加は認めら
れず,視床下部でのアナフィラキシー反応の欠如が示唆された。
総括および結論
本研究の主な発見は,MRI でアナフィラキシー反応時に脳の中ではなく喉頭でのみ信
号変化が観察されたこと,ならびに血管拡張剤によって引き起こされた低血圧中では
喉頭,脳のいずれにおいても同様の浮腫性変化が生じなかったということである。
脳組織に関しては,湿乾重量法により浮腫の有無を検討したが,アナフィラキシー
群,SNP 投与群ともに有意な変化は認められず,MRI の所見に矛盾しなかった。このこ
とから,アナフィラキシー反応時には喉頭で浮腫性変化が発生するが,脳では浮腫性
変化は生じないことが示唆された。これは IgE 抗原の静脈注射により視床下部のアナ
フィラキシー反応を引き起こした犬での報告とは対照的な結果である。この違いは,
研究対象の種差によるものかもしれず,また,異なる免疫反応経路の違いによるもの
かもしれない。
細胞毒性浮腫の発生に関しては,我々は以下のような発生機序を想定した。アナフ
ィラキシー反応で生じた低血圧により,脳の低酸素血症および循環血流量の低下が引
き起こされ,結果として脳浮腫や細胞障害に至る。この変化が ADC 値の減少として検
出可能と想定した。しかしながら,ADC の変化も脳内において検出されなかった。この
結果による細胞毒性浮腫の欠如の示唆は,血圧の低下量が不十分であった,または,
低酸素血症,低血流量状態の持続時間が不十分であった可能性が考えられる。平均動
脈圧は薬剤投与後 10 分で 35mmHg まで減少したが,その後,70 分後には 67mmHg まで徐々
に回復した。我々は,中大脳動脈の閉塞による重症の脳虚血と比較して,この一時的
な低血圧状態が十分な脳損傷を引き起こすのに十分ではなかったと考えた。
アナフィラキシーにおいて喉頭浮腫を MRI の高信号イメージとして検知することが
できるかもしれないことは,今回の実験で初めて報告したものである。この喉頭の変
化は,形態学的に喉頭蓋の浮腫として確認された。MRI 上におけるこの喉頭での変化は,
抗原注入後 13 分の段階で認められた。これは喉頭浮腫が抗原接触後 1 分で発生したと
いう臨床報告に一致する。さらに,血管透過性の増加はアナフィラキシー反応の初期
に認められるという報告とも一致する。
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