...

医療的ケアを必要とする子どもの在宅看護マニュアル

by user

on
Category: Documents
10

views

Report

Comments

Transcript

医療的ケアを必要とする子どもの在宅看護マニュアル
≪目
次≫
はじめに
・・・・・・市川百香里
重症心身障がい児とは
・・・・・・遠渡
【各
絹代・・・1
Ⅰ
論】
生活支援
1.観察
・・・・・・市川百香里・・・4
1)バイタルサイン
2)その他の観察ポイント
2.栄養
・・・・・・遠渡
絹代・・・9
1)経口摂取
2)口腔ケア
3.与薬
・・・・・・市川百香里・・・13
4.ポジショニング
・・・・・・遠渡
5.排泄
・・・・・・小谷美重子・・・16
6.感染防止
・・・・・・秋山
絹代・・・14
廣子・・・19
7.家族への関わり(コミュニケーション)・ 本間由佳里・・・20
8.社会資源の活用と連携
Ⅱ
・・・・・・中川奈緒美・・・23
医療的ケア
1.経管栄養
・・・若山志ほみ・古田
晃子・・・27
1)経鼻胃管栄養法
2)ミルク・栄養剤注入
3)胃ろう栄養法
4)胃ろう管理
2.呼吸管理
・・・若山志ほみ・古田
晃子・・・34
1)口・鼻腔吸引
2)気管内吸引
3)気管カニューレ交換
4)気管切開管理
5)アンビューバックの使い方
おわりに
・・・・・・橋本
波枝
はじめに
周産期医療・看護の整備により、新生児の救命率は上昇し、多くの子ども達は助かるよ
うになりました。一方では、高度な医療的ケアが必要な重症心身障がい児(以後、子ども
と略す)も増加しています。以前は、その多くは障がいが重度になるが故に家に帰ること
ができず、病院や施設での生活を余儀なくされ、なかには生まれた病院で一生を終わると
いった子ども達も多くいました。しかし、最近は社会制度が整い、特に療育の場面は病院
や施設というより、家庭での生活へという動きになり、加えて医療技術の進歩により、人
工呼吸器を使用しながら在宅で生活する子どももみられるようになりました。さらには、
人工呼吸器を使用するまでではありませんが、気管切開や酸素吸入、鼻腔栄養や胃瘻とい
ったように医療依存度の高い子どもが家庭で生活しています。子どもにとって家庭での生
活は大切なことであり、家族の一員として、社会生活の一歩になります。家庭で暮らす子
どもには目を見張る成長があります。たとえ言葉を話すことができなくても、体全体で自
分の喜怒哀楽を表現し、表情も大変豊かになります。
在宅の始まりは病院での入院早期からです。病院のきめ細かい看護の提供がその子ども
や家族の今後の生活を支えることはいうまでもありません。ただ、医療機器が設置され、
医療者が常にいる入院生活から在宅生活にすることは、家族とくに主となる養育者にとっ
ては大きな負担となります。医療者側は在宅生活に移行するときは、養育者に大きな課題
を課していることを認識しなしなければなりません。
在宅生活を送っている家族は、本当は誰かここで手を貸してくれたら、「ちょっと息抜き
ができる。」
「買い物にもいける。」
「兄弟の行事にも参加できる・・・。」といった思いがあ
っても、家族だけで乗り越えようとします。在宅生活に移行した子ども達は、在宅療養の
高齢者に比べ、ディケアやショートステイなどのサービスを受けられる施設も限られ、そ
のほとんどは保護者とともに家の中に引きこもっているのが現状です。
今、在宅で暮す子ども達、重度の障がいをもつ子ども達を地域で看護の力で支えること
が必要です。看護を提供する上では、目を見張る成長がないかもしれません。話せない子
ども達から何の反応もないかもしれません。しかし、提供した看護がそのままその子ども
に現れ、結果としてやりがいに繋がります。みなさんの深い愛情と大きな看護の力に期待
すべくこの「医療的ケアを必要とする子どもの在宅看護マニュアル」を作成しました。
なお、子どもはいろいろな課題を持ちながら小児期・青年期・成人期へと成長発達をし
ていきます。このマニュアルは基本となる小児期の重症心身障がい児を対象とした内容と
しました。
重症心身障がい児とは
肢体不自由をもつ重複障がい児である。重症心身障がい児とは本来、医学的に定義され
た用語ではない。児童福祉法に規定された法律用語である。大島の分類(表 1)1)によると「寝
たきり・立てない・歩けない」「言葉がわからない・話せない」「咀嚼できない・上手に食
べられない・むせやすい」「オムツがとれない」など身辺自立が未確立の乳・幼児早期の発
達段階の 1~4 に入る人が定義上の重症心身障がい児ということになる。
超重症児・準超重症児(表2)2)とは、継続する医療ケアが高度に必要なグループである。
「超重症児スコア」で25点以上を「超重症児」、10~24点を「準超重症児」という。
表1 大島の分類による重症心身障害児(者)の分類
運動能力
知
能
指
数
70-80
50-70
35-50
20-35
-20
走れる
21
20
19
18
17
歩ける
22
13
12
11
10
歩けない 座れる
23
24
14
15
7
8
6
3
5
2
寝たきり
25
16
9
4
1
(鈴木康之他:超重症児・準超重視とは;重症心身障害児の看護―小児看護,34(5),2011 より)1)
表2 超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準
1 運動機能 : 座位まで
2 判定スコア (スコア)
(1) レスピレーター管理※2 = 10
(2) 気管内挿管・気管切開 = 8
(3) 鼻咽頭エアウェイ = 5
(4) O2 吸入またはSaO2 90%以下の状態が10%以上 = 5
(5) 1回/時間以上の頻回の吸引 = 8
6回/日以上の頻回の吸引 = 3
(6) ネブライザ 6回以上/日または継続使用 = 3
(7) IVH = 10
(8) 経口摂取(全介助)※3 = 3
経管(経鼻・胃ろう含む)※3 = 5
(9) 腸ろう・腸管栄養 = 8 持続注入ポンプ使用(腸ろう・腸管栄養時) = 3
(10) 手術・服薬にても改善しない過緊張で、発汗による更衣と姿勢修正を3回以上/日 = 3
(11) 継続する透析(腹膜灌流を含む) = 10
(12) 定期導尿(3回/日以上)※4 = 5
(13) 人工肛門 = 5
(14) 体位交換 6回/日以上 = 3
<判定>
1の運動機能が座位までであり、かつ、2の判定スコアの合計が25点以上の場合を超重症児(者)、10点以上
25点未満である場合を準超重症児(者)とする。
合計 点
(鈴木康之他:超重症児・準超重視とは;重症心身障害児の看護―小児看護,34(5),2011 より)2)
1
1)重症心身障がい児の特徴
姿勢:ほとんど寝たままで、自力で起き上がれない状態が多く、座るにはクッション等
で姿勢を整えることが必要である
移動:自力では寝返りも困難であり、車いすなどを使用して移動することが多い
排泄:全介助で、知らせることもできない。自分では処理できない
食事:自力ではできない(スプーン等で介助)、誤嚥(食物が気管に入ってしまうこと)
を起こしやすい。食形態としては、きざみ食、流動食が多い
変形・拘縮:手、足が変形又は拘縮、側わんや胸部の変形を伴うことが多い
筋緊張:極度に筋肉が緊張し、思うように手足を動かすことができない
コミュニケーション:言葉による理解、意思伝達及び声や身振りでの表現が困難
表現力は弱いが、笑顔で答えられる(他人の心が読める)
健康:肺炎、気管支炎を起こしやすく、70%以上の方がてんかん発作を持つため、いつ
も健康が脅かされている。痰の吸引を必要とする子どもが多い
趣味・遊び:音楽、散歩、おもちゃ、ムーブメントが好き
2)原因
表 3 重症心身障がいをきたす疾患
発生時期
出生前
発生割合(%)
29.51%
原因疾患名
染色遺体異常,小頭症・水頭症・脳奇形,遺伝性代謝異
常症,妊娠中毒症,脳血管障害,感染症など
周産期
35.79%
未熟(超低出生体重)・多胎,低酸素性虚血性脳症(新
生児仮死等)・脳室周囲白質軟化症・分娩障害・頭蓋内
出血・核黄疸,脳炎,髄膜炎など
出生後
30.84%
脳炎、・脳症・髄膜炎,頭蓋内出血・頭部外傷,てんか
ん重積,低酸素性脳症,脳腫瘍,予防接種後遺症など
時期不明
3.86%
不明の原因
(樋口和郎:重症心身障害,小児看護 29(8)p1055,2006 より)3)
3)成長発達各期における合併症
乳幼児期:呼吸障害・呼吸感染症・摂食嚥下障害・胃食道逆流症・栄養障害・脱水症・
過緊張・睡眠障害など
学童期
:呼吸障害・呼吸器感染症・摂食嚥下障害・胃食道逆流症・側彎の悪化など
思春期
:摂食嚥下障害・消化器障害・呼吸障害・側彎の悪化・思春期早発/遅発
成人期以降:泌尿器科系合併症・胆石・骨粗しょう症・関節拘縮・運動障害の悪化など
全年齢:筋委縮・てんかん発作・突然死・体温調節障害・褥瘡・皮膚化膿疹・貧血・
結膜炎・外耳炎・副鼻腔炎など
2
4)看護
看護師はそれぞれの子どもが、現在、発達プロセスのどの位置にいるか、発達のスピー
ドはどのくらいかを認識し、子どもの持っている力を十分に発揮させ、よりよい適応がで
きるようにする。子どもの気持ちを尊重し人権を守る意識を持つ。安全で安楽に実施する
ための特別な技術や丁寧さ、ケアの根拠となる専門的知識を持つ。
重症心身障がい児看護の基本姿勢
①重症心身障がい児を受け止めるには
・柔軟な姿勢で判断し行動する
・障がいを日常生活の場面からとらえる
・健康な部分はどこか知る
・「○○ちゃんの場合」を理解する
・健常児との交流を図る
②重症心身障がい児と共にあるためには
・子どものコミュニケーション能力を持つ
・子どもの異常に気付く能力を持つ
・子どもから対応の方法を学ぶ
・緊急に対応できる体制を整える
・日常生活で看護できる基本的技術を持つ
③家族とチームを組むには
・家族が障がいをどう受け止めているかを知る
・家族が行っている対応を知る
・家族と共に目標を定め計画的に行う
④専門職としての看護師であるためには
・「保護」という仕事ができる
・自分で開拓する意欲を持つ
・記録を残す
・子どもの人生をも通して考える
【引用文献】
1)鈴木康之,倉田慶子:超重症児・準超重視とは;重症心身障害児の看護―長期入所者を中心に―,
小児看護,34(5),p543,2011
2)鈴木康之,倉田慶子:超重症児・準超重視とは;重症心身障害児の看護―長期入所者を中心に―,
小児看護,34(5),p544,2011
3)樋口和郎:重症心身障害,小児看護,29(8),p1055,2006
【参考文献】
1)樋口和郎:重症心身障害児とは;重症心身障害児の看護―長期入所者を中心に―,小児看護,34(5)
,
2)田中美央:重症心身障害児の家族へのかかわり;重症心身障害児の看護―長期入所者を中心に―,
小児看護,34(5),2011
3
Ⅰ
生活支援
対象者は、日常生活面から食事・入浴・排泄・着脱など、看護・介護の点で全面介助を
必要としているが、ケアするにあたって緊張・硬縮・変形・骨粗鬆症などによる骨折の頻
度が高いことから、共通した「留意点」として骨折の防止に注意することが肝要である。
1.観察
子どもは、生理的機能の発達が未熟であり、適応力の幅が狭いことなどから些細な外的
変化にも対応できず、体調を崩し状態を悪化させることが多い。
自分の不調を言語として、表現することが困難な重症心身障がい児に対して看護者の観
察はコミュニケーション手段の一種と考えられる。看護者はさまざまな働きかけをし、重
症心身障がい児の非言語的な訴えに対して専門性を活かした細かな観察力で察知しなけれ
ばならない。
在宅で生活する子は特に保護者からの情報が基盤になる。保護者の言葉に耳を傾け情報
を得ることが肝要である。なんとなくいつもと違うという観察力、看護の第六感がおおい
に役立つ。
1)バイタルサイン
バイタルサインは、生命の基本的な徴候であり、一般的には体温、脈拍、呼吸、血圧を
指す。バイタルサインの測定は異常の早期発見や日々の状態を知るうえで大切な情報であ
る。その情報をアセスメントするために発達に応じた基準値を理解しておくことが必要で
ある。
表1:小児のバイタルサインの基準値
新生児
体温(腋下)
心拍数
呼吸数
(℃)
(回/分)
(回/分)
血圧
最大血圧
最小血圧
36.5-37.5
120-140
40-50
60-80
60
乳児
37.2
120-140
30-45
80-90
60
幼児
35.8-36.6
90-120
20-30
90-100
60-65
学童
35.5-36.5
80-
90
16-25
100-120
60-70
成人
36.0-36.5
55-
90
16-18
110-130
60-80
重症心身障がい児の場合は、障がいの程度・種類・経過などから個別性が強く、健常児
と同様には判断することが困難である。
個々の「いつもの状態」を家族の情報や日々の観察から把握し、個々の「正常域」を知
っておくことが大切である。
4
たとえば
・4 歳の子。熱の変動が 35.0℃~38.0℃と一日の内に変動するが室温や衣服による
変化であり、この子にとっては日常であり、38.0℃になってもあわてることはない。
・3 歳の子。熟睡すると心拍数が 40 台になる。このような例も少なくない。
重要なのは基準値を踏まえ、その他の症状と合わせて正常か異常か判断することである。
(1)体温
体温は、熱産性と熱喪失のバランスによって調節される。重症心身障がい児は、体温調
節機能は未熟なことから、低体温・高体温になりやすい。子どもの平熱と、どの様な状況
で高体温・低体温になるかを知り、それに適したケアを行う必要がある。
重症心身障がい児は体の変形や緊張があることが多いため、それを考慮して、体温測定
は口腔、直腸をさけ、腋下や耳内測定が望ましい。また測定部位によっても相違があるた
め、日頃の測定部位を一定にしておく。
① 測定のポイント
・身体の変形、痩せていることなどにより、腋下に隙間が空いていることがあるため、
体温計と皮膚を密着させる
・緊張、痙攣時は筋肉による熱産生が生じ体温が上昇するため避ける
・肩関節の拘縮により腋下での測定が困難な場合は耳内計を用いる
② 観察のポイント
・測定値が基準値ではなく、その子にとっての正常範囲か
・高体温・低体温の原因はないか
◇衣服。寝具の問題
◇緊張・興奮・不随意運動の有無
◇水分バランス
◇覚醒度
◇感染症状の有無(痰が多い。痰の色がいつもと違う)
・熱型
・随伴症状
◇顔色、口唇色、熱感、悪寒、戦慄
(2)脈拍
脈拍は末梢動脈を触知することで測定する。
(橈骨、浅側頭、膝窩、大腿、足背など)
子どもは、変形、拘縮、緊張などにより、末梢動脈の測定が困難である。そのため心拍の
測定がより正確である。
子どもは、緊張や発熱で頻脈になることがあり、夜間入眠時には極端に徐脈になること
がある。こういった個々の状況を踏まえて日々の観察や異常の早期発見につなげていくこ
5
とが重要である。
①測定のポイント
・接触することで、緊張するため手や聴診器の児に触れる部分は温めておく
・刺激を少なくするため、心拍の測定なら衣服の上からでよい
・側彎などにより通常の部位では聴収できない場合もあるため、どの部位で聴収できる
かを知っておく
・基本的には 1 分間測定するが、15 秒×4でも可能である
・心疾患を合併している場合は 1 分間の測定が望ましい
・モニターを過信しない。いつもと違うと感じたら必ず実測する
②観察のポイント
・数
◇徐脈、頻脈はないか
・リズム
◇不整、結代はないか
・小児の場合は呼吸性の不整脈が起こりやすいので、呼吸とのタイミングが重要である
・体温が上昇すると脈拍も心拍数も増加する
・入眠時と覚醒時にも差が生じる
(3)呼吸
小児は呼吸器系においても年齢が低いほど解剖学的、生理学的にも未熟なことが多く
抵抗力も弱いため感染症などおこしやすい。
障がいをもつ子どもはそれに加えて、脊椎、胸郭の変形、呼吸筋の協調運動不全、反
復性の呼吸器感染症によるガス交換の障害、呼吸中枢の障害のため呼吸器系の問題が多
く、死因の第一位になっている。そのため日常生活での呼吸管理は大切であり、観察に
よる異常の早期発見は予防にもつながる。個々のある程度の肺機能を知っておく。
①測定ポイント
・数は児に触れなくても測定できる
・数のみではなく、観察のポイントを念頭において、必ず聴診する
・全肺野できれば背部の聴診も行う
・必要時、経皮酸素モニターを使用する
②観察のポイント
・数
◇頻呼吸
◇徐呼吸
◇無呼吸の有無
・深さ
◇胸郭の動き
◇重症心身障がい児は、胸郭の変形、側彎などにより、浅表性になりやすい
・リズム
6
◇深さ、速さが一定か
◇呼吸中枢に障がいがあると、不規則な呼吸になりやすい
・努力呼吸の有無
◇鼻翼呼吸
◇肩呼吸
◇陥没呼吸
◇呻吟
・呼気と吸気の割合はどうか
◇呼気延長(下気道、末梢気道の狭窄)
◇吸気延長(上気道の狭窄)
・喘鳴、肺雑音の有無
・左右差はないか
◇左右の肺の音は均等か
◇無気肺や炎症があると患側が弱くなる
◇側彎などが著しい場合は圧迫される側の肺の機能が低下し、呼吸音が弱くなる
・随伴症状の有無
◇咳嗽
◇分泌物
◇顔色、口唇色、チアノーゼの有無
◇経皮的酸素飽和度モニター
◇表情、機嫌
(パルスオキシメーター)
◇睡眠時無呼吸症候群
③気管切開をしている子どもの観察
単純気管切開や喉頭気管分離術などを施行してカニューレが挿入されている
・カニューレの抜去や閉塞に注意が必要である
・喉頭気管分離術後は気切孔からしか呼吸ができないために注意が必要である
単純気管切開:肺に空気をおくるため、頸部から気管に単純に孔を開け、孔に気
管カニューレを入れてそこで呼吸することになる
喉頭気管分離術:気管を切断し呼吸と嚥下のための経路を分離する手術。上気道
狭窄(咽頭または喉頭部が吸気時に狭くなること)唾液誤飲の二つが子どもの呼
吸困難の主要な原因であるが、このいずれの原因も取り除くことができる。手術
後は気管孔しか呼吸ができない。カニューレが挿入されていない場合もあるので
注意が必要
④人工呼吸器を装着している児の観察
・設定条件を知る
・呼吸器を装着中の呼吸の設定は合っているか
・ファイテイング(呼吸器と自発呼吸がぶつかり合って咳込んだりする)はないか
・自発呼吸と人工換気の割合
・加湿の状態
・機械と児の両方の観察が重要である
7
(4)血圧
子どもは、四肢の変形や拘縮のためマンシェットを巻いたり、聴診器を当てたりす
ることが困難な子もいる。その場合は自動血圧計を用いる。
注:血圧測定はしない場合のほうが多い。
①測定のポイント
・個々の体型、変形や拘縮などを考慮して測定部位を決める
・測定はなるべく同じ部位で行う
・マンシェットの幅は測定部位の 2/3 を覆えるものを用いる
・聴診が困難な場合は触診法を用いる
・体位変換などのあとは血圧が通常に戻るまで時間を要するので時間おく
②観察のポイント
・測定値(最高血圧・最低血圧)
◇年齢による正常値と比べてどうか
◇いつもと比べてどうか
・脈圧(最高血圧- 最低血圧)
2)その他の観察のポイント
観察のポイントは個々に相違があるため、保護者からの情報や日常の観察が重要とな
る。
(1)てんかん発作の有無
子どもは合併症として、てんかん発作がある、てんかん発作の種類、発作の起こるきっ
かけ、薬物投与の有無を知っておく必要がある。特に緊急を要する大発作は要注意である。
(2)栄養の状態
栄養の摂取の方法(口腔・経管)
、栄養の種類、回数、スピードなど
(3)排泄の状態
排尿回数、色、量、導尿の有無、排便の回数、下剤や浣腸使用の有無
(4)睡眠覚醒パターン
(5)体位
(6)異常を示すサイン
【参考文献】
1)江草安彦:重症心身障害療育マニュアル,第 1 版,医歯薬出版株式会社,2002
2)船戸正久:小児在宅医療支援マニュアル,第1版,メディカ出版,2006
3)浅倉次男:重症心身障害児のトータルケア,第 1 版,へるす出版,2006
8
2.栄養
1)経口摂取
重症心身障がい児の多くは、一言でいえば「上手に食べることができない」。何らかの障
害を有している場合、その障害が重ければ重いほど摂食・嚥下機能障害が起こる可能性が
高い。食べる機能は身体の発達と違い、「今、どのくらいの発達段階にいるのか」が医療関
係者であってもわかりくい。そのため口腔機能に合わない不適切な食物形態の食事などで、
発達を妨げる一因になっている場合もある。また食器の選択・介助方法をはじめとした周
囲のさまざまな環境が、摂食・嚥下機能障害を引き起こす要因となりうる。
摂食機能は本能ではなく『経験・学習し、発達・獲得していく』ものであるから、医療
従事者は機能の発達・獲得を阻害する存在であってはならない。
(1)重症心身障がい児の摂食・嚥下機能障害の要因
摂食・嚥下機能障害をきたす疾患に加え、さまざまな環境因子が摂食・嚥下機能発達の
行方を左右すると考えられている(図1)
図1
摂食機能障がいの要因
不適切な食事環境
過敏
・摂食姿勢
・食物形態
・摂取器具
・介助方法
・指しゃぶりの欠如
・スキンシップ不足
筋の協調運動障がい
摂食機能障がい
形態発育の遅れ
生活リズムの乱れ
・便秘
・睡眠
・食事間隔
・抗痙剤等の薬剤
全身状態の悪化
・胃食道逆流
・呼吸障害
・筋緊張
(2)摂食・嚥下機能の発達段階と症状
全身の発達と同様に摂食・嚥下機能にも発達段階がある
①嚥下機能獲得期(経口摂取準備・嚥下機能獲得期)
嚥下障害(障害重度):拒食、過敏、摂食拒否、むせ、乳児嚥下、舌突出など
②咀嚼機能獲得期(捕食・押しつぶし・咀嚼機能獲得期)
捕食・咀嚼障害(障害中等度)
:口唇閉鎖不全、過開口、こぼし、丸呑み、食器噛みなど
③口と手の協調性運動獲得期(自食準備期・手づかみ食べ期・食器食べ期)
口と手の協調障害(障害軽度):押し込み、犬食い、流し込み、引きちぎりなど
(3)食事を開始するにあたって
①口腔機能の評価を行う
9
・発達段階の評価・嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査・超音波検査など
②食事場面を観察する
・過敏と呼吸状態
・姿勢
・食物形態
・摂食介助方法
・食事中の顎・舌・口唇運動の評価
(4)重症児にみられる特徴的な症状
①丸呑み:噛まずに飲み込んでしまう
②押しつぶし嚥下:すべての食物を、舌で上顎に押し付けてつぶしながら嚥下する
③舌挺出:ダウン症児など筋の低緊張を特徴とする子どもに多い。舌は低緊張状態で前
歯ないし口唇より外に突出している
④舌突出:脳性まひ児などでは全身的な筋緊張にともなって、摂食中に力強く突出する
こと
⑤逆嚥下:上下の前歯部に舌を介在させ、嘔吐するかのように舌の奥で押し広げるよう
にして、食べ物を落とし込んで嚥下する飲み方
⑥過開口:捕食の際に、顎関節の最大可動域まで開くため、なかなか捕食できず、勢い
よく閉じてしまう
⑦スプーン噛み:捕食の際に、スプーンを口唇で挟めずに、前歯で噛んでしまう症状
(5)食事介助
①経口摂取準備段階
・経口摂取準備期
過敏がある場合は脱感作
図21)という訓練を行う
心理的拒否がある場合は拒否の要因を探る
しっかりと抱っこして介助者と信頼関係を築くことが重要である
図2
脱感作
(塩谷友季子他:重症心身障害児の口腔ケア・小児における口腔ケア,小児看護,34(12)2011 より)1)
10
②嚥下機能獲得段階
食品を少量ずつから始める
口唇閉鎖の学習を行うため、下顎と口唇の介助が必須である
③咀嚼機能獲得段階
・捕食機能獲得期
◇口唇を使って食物を取り込む一番初めの運動である
◇下顎と口唇の閉鎖訓練を行う
◇過開口についても下顎の位置を学習する
◇舌突出については舌をしまいこむように捕食させる
◇水分摂取に関しても下顎と口唇閉鎖を介助しながら行う
・押しつぶし機能獲得期
◇食物形態をしっかりと舌と上顎で押しつぶさせるように介助する
(6)食事援助を行うに際してのポイント
①その子の摂食機能を正しく理解する
②楽しい食事にする
③その子にあった食形態、水分の選択
④その子にあった食器を選択
⑤姿勢のコントロール
緊張を緩和する
⑥誤嚥を予防
⑦食事環境を整える
2)口腔ケア
子どもがストレスのない快適な生活を過ごすためには、全身状態が安定していることが
不可欠である。特に呼吸器感染症は呼吸障害・嚥下障害と関連しているため、予防策とし
て口腔ケアが重要である。
子どもは知的障害による非協力、付随運動、異常な筋緊張による開口困難、歯列不正、
口腔内・周囲の過敏性などにより、毎日の口腔ケアが困難である。そのため齲歯、歯周疾
患、口臭の原因となる。また誤嚥性肺炎の原因にもなる。介助者が正しい知識を持ち口腔
衛生が管理できれば口腔清掃状態は良好に保つことができる。
(1)重症心身障がい児の口腔内の症状
①齲歯
ほとんどプラークに起因するものである。摂食・嚥下障害を認める場合は経管栄養な
どの流動食に含有する糖分が口腔内に残留するために齲歯になるケースもある
②歯周疾患
口腔清掃が不十分の場合、プラークの付着や歯石の沈着を引き起こし歯周疾患となる
抗てんかん薬の副作用として歯肉肥大を引き起こす
11
③咬耗症
異常な筋緊張による歯ぎしりが原因で生じる
④歯の脱臼・破折
転落、転倒が原因で前歯に生じることが多い
⑤口唇・舌の外傷
口腔周囲筋の緊張による口唇の巻き込みなどで生じる
⑥動揺歯・乳歯の晩期残存
歯周病や外傷による動揺、学童期の小児で交換期の乳歯の動揺や残存
(2)口腔ケアの実際
①痛みや不快を把握し、避ける
表現することが苦手な子どもは痛みが原因でてんかん発作を起こしたり、自傷行為に
つながるので十分に日頃から観察しておくことが重要である
②口腔周囲の過敏を緩和する
安定した姿勢を確保して覚醒様態を確認してから脱感作を行う
介助者と信頼関係を築くことも重要である
③姿勢の安定と環境整備
安定した楽な姿勢を整え、短時間で効率的に行える方法を見つける
筋緊張など緩めてから行う
(3)口腔清掃の実際
①膝枕、仰臥位や側臥位をとるようにし、車椅子上でも頸部が後屈しないよう注意する
②唾液をうまく嚥下できない場合は吸引器つき歯ブラシ等を使用して誤嚥を防ぐ
③口腔内を観察しながら行う
楽しい時間にできるように声をかけながら姿勢に注意して行う
④歯ブラシを使用できない場合はガーゼクロスなどで拭き取りを行う
⑤それぞれにあった清掃を行う。
【引用文献】
1)塩谷友季子,荒木睦子:重症心身障害児の口腔ケア:小児における口腔ケア,小児看護,34(12),
p1609,2011
【参考文献】
1)向井美恵・著者:乳幼児の摂食指導,お母さんの疑問にこたえる,医歯薬出版,東京,2000
2)小笠原新菜:摂食・嚥下機能障害のある小児の栄養管理;摂食・嚥下機能障害のある小児への発達
支援,小児看護,36(9),2013
3)田村文誉:重症心身障害児から軽度発達障害児までを含めた摂食・嚥下機能発達の基本;摂食・嚥
下機能障害のある小児への発達支援,小児看護,36(9)2013
4)田総一郎:他施設・他職種・地域連携による摂食・嚥下リハビリテーション;摂食・嚥下機能障害
のある小児への発達支援,小児看護,36(9),2013
12
3.与薬
多くの子どもはてんかん発作などその他の合併症をもっている場合が多い。
特に抗てんかん薬は発作の抑制を目指すもので、発作の頻度や強度を下げ、できれば完全
抑制し、服用しながら寛解状態を長く維持することが目標である。服薬は毎日、長年続け
なければならないので、飲み忘れをしないようにすることが必要である。
子どもの多くは経管栄養(鼻腔栄養
胃瘻)からの注入がほとんどで、薬はシロップも
しくは散剤の場合が多いためここでは経管栄養からの注入を示す。
(1) 必要物品
①栄養用注射器
②薬杯
③白湯
(2) 方法
①薬を薬杯に移し白湯を入れて溶解しておく
(薬杯に白湯を準備しておき、薬袋に白湯を注入し薬袋の中で溶解することもある)
②ほとんどの場合は栄養を注入前に注入する
③栄養チューブに注射器をつけひいて胃残がないか確かめる
④溶解しておいた薬剤を注入する
⑤栄養の注入を開始する(薬剤の量や溶解に程度によっては栄養を接続する前に白湯を
少量流す)
(3) 注意事項
①薬剤によっては溶けにくい薬剤があるので注意するその場合は単剤で溶解し、注入す
るときに注射器を振動撹拌しながら注入する
②熱湯は用いない。熱湯は抗生物質などによっては成分を破壊するため必ず、白湯を用
いる
13
4.ポジショニング
ポジショニングとは、ある動作や活動を行いやすくしたり、休息をとったりするための、
姿勢作りや姿勢を調節すること。喀痰を排出しやすくするための姿勢である。
(文中の写真は家族の承諾を得て掲載しています)
(1)ポジショニングの役割
①異常姿勢の出現と固定化を防ぐ
②呼吸の改善
③唾液、痰などの分泌物の排出、気道感染の予防
④胃食道逆流の防止、予防
⑤関節の変形、拘縮、側彎などを防ぐ
⑥上肢、下肢の運動能力の向上
⑦遊びに参加でき、情緒面の発達を促す
⑧身体的、精神的、社会的発達の促進につながる
(2)姿勢の介助
①腹臥位
舌根沈下や緊張が軽減されて、呼吸状態がよくなり
やすい姿勢である。排痰や流涎の多い子どもに有効で
ある。腹臥位が楽にできるように、枕やクッション、
ロールなどを使用する。緊張や反り返りを抑え腹部の
緊張を和らげる工夫が必要である。
②側臥位
ほぼ仰臥位に近い姿勢から腹臥位に近い姿勢
まで、傾きをかえることが出来る姿勢で、よい呼
吸状態を保つことができる。緊張を和らげるには
枕やクッション等を抱かせる姿勢にして、反り返
りが出ないように上肢を前に出し、下肢を屈曲さ
せる姿勢とする。下肢にも重なり合わないように
クッション等を使用する。
両手で遊ぶことのできる姿勢であり、情緒面の発達を促すことにもつながる。
③座位
視野が広くなる姿勢であり、精神運動発達が活発になる。また誤嚥の予防やリラック
スできる姿勢である。
座位姿勢をとらす時は、椅子の背面と腰部に隙間が出ないように深く座らせる。椅子
14
に浅く座ると、緊張ですぐに姿勢が崩れやすく転落の危
険性が高くなる。安全ベルトなどを使用して転落防止に
努める。
④抱っこ
児がのけぞらないような抱き方をする。身体を丸め
るように、抱っこするボールポジションはリラックス
しやすい姿勢である。過緊張の緩和や誤嚥の予防に有
効である。
⑤立位
道具を使用しながら行う。身体的・精神的・社会的発達の促進や拘縮の予防ができる。
⑥仰臥位
緊張の強い児だと反り返
りが強くなり誤嚥しやすく
なる可能性が高い。
(3)看護
重症心身障がい児は姿勢に
よっては呼吸・循環・消化吸収
など基本的な機能に影響を与え、呼吸困難、運動制限、疼痛、嘔吐、便秘などの健康問題
が起こる。看護師はポジショニングの理解を深め、技術を身に付けなければならない。よ
い姿勢は訓練場面だけで習得できるものではなく、日常生活をとおして安全でリラックス
した姿勢がとれるよう、看護師が正確な技術を身に付け、訓練士とともに介入していく必
要がある。
(4)ポジショニングの修正・調整
・患者にあったポジショニングを行う
・異常の早期発見のため、呼吸数、リズム、深さ、呼吸音、胸部、腹部の動きなどの観察
・窒息や呼吸困難を起こさないように吸引や体位ドレナージを行い、分泌物を除去する
・呼吸状態の評価の際には、酸素飽和度モニターを使い、姿勢管理の指標にする
・長時間同じ姿勢をとらない
・姿勢変換時には注意が必要である。骨折の危険性が高い
・介助する際には患者の反応をみながら行う
・できるだけ身体が対称になるようにする
・補助具、生活用具を有効利用する
・現実的、実用的なポジショニングを工夫する
【参考文献】
1)小堀愛司:重症心身障害児の呼吸リハビリテーションとポジショニング;重症心身障害児の看護―
長期入所者を中心に―,小児看護,34(5),2011
15
5.排泄
子どもに対する排泄ケアの必要度は、日常生活のなかでも大部分を占めている。中でも
障がいの要因である知能・運動がいからくる「言えない」「動けない」「理解が困難」とい
った自立するための必須条件が障がいされている点が特徴である。このような現状の中に
あって、ナースの取り組む姿勢によって子どもの人権にかかる。
そのことから安全・安楽で快適に実施され、子どもに対するプライバシーが守られる排
泄ケアを実施することが大切である。
1)排泄介助のポイント
①環境に対する配慮:清潔・プライバシーの保護
②心配り:同性介助・姿勢保持と安全安楽・排泄用具の整備
③排泄ケアの技術の向上:排泄介助・排泄用具使用マニュアルの整備、
個別チェックリストなどを用いて十分な観察を行い、正確な記録を
する
2)排泄介助の実際
(1)おむつ介助
①おむつ介助の特徴
・長期に使用する(ほとんど生涯使用ということが多い)
・重複障がいであっても、病的な状態でなく生活している
・排泄に関する訴えを言葉で表現することが困難で、介助者の言葉の理解も困難なこ
とが多い。それだけに、表情やしぐさなどの排泄に関するサインの構築が重要とな
る
②おむつ介助留意点
・子どもの表情や動きから排尿をキャッチし、なるべく早く交換することが原則
・排尿がわかりにくい場合いは、時間ごとに交換する
・おむつ交換の際は陰部を清拭し、清潔が保たれるように留意
する
・排便の際は、必要に応じて陰部洗浄も行う。清拭は尿路感染
防止に留意して行う
・おむつが股間や下肢の動きを妨げ下腹部を圧迫しないように、
かつ動きによってずれないように当てる。一部だけを厚く
するとそれが圧迫し褥瘡の原因にもなるので留意する
(2)トイレの配慮
①各人にあった便器を使用する。必要に応じて姿勢を保つための
援助を行う
②時間ごとに誘導し、自立を促す(気長な訓練が大切、簡単におむつに移行させない努
16
力をする)
③失敗しても叱らず、成功した時には褒める
④トイレに一人で放置しない、目を離さない、長時間座らせること
のないようにする
(3)排尿の介助
①排尿に関する訴え
尿の出が悪い、残尿感、排尿痛、熱感、尿意頻数など重症児で把握することは困難で
あるが、深く観察すればある程度の症状の把握は可能であり、訴えを洞察できる
一人ひとりの特徴(1回量・ぬれ具合い・色・臭い・1日回数)を把握し、それを頭
において「いつもと違う」に気づくことが求められる
②排尿に関する疾患
尿路感染症・前立腺肥大(高齢者であれば)
・尿路結石・産婦人科疾患による排尿障害・
そけいヘルニア・停留こう丸・陰嚢水腫・出血性膀胱炎や疾患(血尿)・不正生理出血な
ど
③排尿介助の注意点
・量、色、におい、付着物などの観察を行う(いつもと、どう違うか?)
◇交換ごとに少しぬれている:頻尿、膀胱麻痺
◇尿の色が濃く、においが強い:濃縮尿、脱水症
◇結石や砂状の結晶がついている:尿路結石
◇汚染部がピンク色・血液付着:血尿、尿路感染症、尿路損傷、性器出血
◇尿量が多い:糖尿病、尿崩症、寒い時期、多飲
◇尿量が少ない:不完全尿閉、脱水(=水分のインアウトバランス
をチェック)
◇尿の異臭:特有の甘い匂い(糖尿病)
、アセトン臭(ケトン尿)
④導尿
目的:排尿機能障がい、尿閉、尿道狭窄などの場合や、創部汚染防止、検査などでは
導尿を行う
留意点
◇理解力が乏しくても十分な事前説明を行い、不安感をなくすように気を配る
◇導尿による緊張亢進や不随意運動が予測されるので、かならず介助者をおき、不
慮の事態に備える
◇導尿カテーテルは弾力があり、安全なものを使用する
(4)排便の介助
①排便の異常
便秘:重症児は、消化しやすいものを食べ、運動量が少なく、鎮静剤・抗痙攣剤を長
期にわたって服用していることも多く、便秘が多い。これは、腸閉塞(イレウス)
17
や痔疾にもつながる。自然排便を促す工夫を取り入れるとともに、適切な便秘
処置をする
下痢:腹痛や脱水、嘔吐、発熱などの全身状態を観察し、異常の早期発見に努め、早期
の対応をする
②排便介助の注意点
・便の性状、色、においなどの観察を行う
◇タール便:消化管内出血
◇血液混入便:直腸からの出血、痔疾
◇薬剤による影響:鉄剤で黒色など
◇灰白色:肝機能障害
◇粘液混入:腸炎
・大発作後は、便・尿失禁が多いので、発作後は確認する
・緩下剤による軟便と異常便を見分ける
③浣腸・摘便について
浣腸は、排便を促し、腹満を緩和する目的で行う。浣腸をしても排便がなく、硬便
で排泄困難の場合は摘便を行う
留意点は導尿に準ず
換気を十分に!
【参考文献】
1)江草安彦:重症心身障害療育マニュアル,第 1 版,医歯薬出版株式会社,2002
2)中村詩子・松尾圭介:重症心身障害児の生活のリソース;小児看護,34(5)、2011
18
6.感染防止
感染対策の特徴
・重度の障がいのため身体の恒常性(ホメオスターシス)を保つことが未熟で、外的環境
の変化や侵襲によって体調を崩しやすい。子ども自身で感染予防や異変の表現ができな
い。
(1)主な感染症
①呼吸器感染症:呼吸器・嚥下の障がいから重症化遅延化しやすい
例:気管切開している子どもの場合、気管カニューレや、瘻孔部分からお湯が入ら
ないように注意する。上体を挙上させ、シャワーなどで洗う場合は周囲をタオ
ルで保護して湯が入らないようにする。保護する際にはカニューレの口をふさ
がないよう注意する。
②消化器感染症:嘔吐や下痢による脱水に注意が必要
③皮膚感染症:流涎やおむつ使用していることによる真菌症、手足の変形や拘縮による
接触性皮膚炎や皮膚化膿症を発生しやすい
(2)感染予防対策
①発生予防:身体・口腔・外陰部の清潔を保つ。
・環境整備-室内清掃(特に吸引物品の清潔保持)
・介助者の清潔保持や感染対策の遵守-手洗い、うがい
・感染経路の遮断-必要時マスク着用する
②早期発見:発熱や普段と違う表情、感染症を疑う症状を観察する
19
7.家族への関わり(コミュニケーション)
子どもは、どの子もそれぞれ成長・発達をとげることが出来る。また、子どもが障がい
を持っても、家族には「回復する力」が備わっている。一方で退院を機に、家族は支援さ
れる側から支援する側へと立場を変えていくので、これらを踏まえて、地域社会とつなが
る人として子どもと家族を支援する。
(1)看護職員が、サポーターとして受け入れられる
「○○ちゃんの人生です。彼が楽に生きられるように、一緒に考えましよう・・・」結
婚・妊娠・出産を経て現在の子どもと家族に至る歴史を傾聴し、子どもと保護者の置かれ
ている状況を、特に「保護者の中での物語」として、聞き受ける。初めて子どもと対面し
た時の気持ち、自責の念、孤立感など。看護師は、その家庭で起きた事柄を体験すること
や保護者の思いを理解することは出来ないことを自覚し、その上で理解したいと思う立場
で、関わる。初めて関わる時は、子どものことを一番よく知っていて一番に考えている保
護者から、教えを受ける気持ちで接する。
(2)保護者を一人にせず、家族や地域との繋がりを手助けする
「支える人を支え、地域社会での自立を促す」
①家族の中で
保護者は、時間刻み分刻みの生活を送り、子どもの療育を一手に担っているケースが
あるので、家族を巻き込むことを考える。外見的に役割分担が出来ているように見えて
も、保護者の精神的・身体的負担が少ないとは限らないので、まず私たちは、子どもの
体調の安定と健やかな成長を願いチームを組んでいることを共有する。
(保護者と周囲の
家族、看護師などの専門職の課題認識がかけ離れ関わりが効果的ではない時や逆効果な
時期もあるが、子どもに対する大きな目標だけは同じであることを意識して関わる)保
護者が誰に支援を受けたいかを確認し、父親や祖父母が参加できるケアや役割を一緒に
考え、短期目標や具体策を共に考えていく。手技や注意点の伝達など実践を通じて保護
者以外の家族が自信を持てるような関わりをもち、まず子どもに触れてもらうことから
始める。
「○○ちゃん、おばあちゃんといると笑顔が多いですね。
」
「お父さんは、吸引が上手いですね。」
「いいですね。」
「できますね。」
フォーマルなサービス以上に保護者が依頼しにくいところを、看護師が繋いでいける
と、子どもや保護者の大きな力になる。
②地域の中で
20
子どもと保護者には、育つ力が備わっているので、家族や施設看護師・訪問看護師以
外のさまざまな職種との関わりを持てるようにアプローチする。地域の保健師・MSW・
消防署・行政(福祉課など)・ことばの教室・特別支援学校・専門機関など。目的は、情
報の共有と支え合い。最も保護者を支えるために有効なものは、専門職ではなく同じ立
場の親の会であることも多い。地域ではさまざまなネットワーク活動がなされているの
で、そこと電話相談できる、その会に親子で参加できるようになれば、子どもと家族は
地域の中で育っていく基盤が出来たことになる。看護師は、どのようなネットワークが
有機的に活動しているか、情報収集する手助けを行い、外に出ようとする保護者のよき
理解者となる。
(3)利用者と家族の意思決定を支援する
①看護師自身の感情のぶれに気付く
受傷後や発症後初期の段階で子どもや家族に関わる場合は、障がいの受け入れや正し
い理解ができていないケースが多い。また、障がいについて、「いつか治る」「治す方法
がある」「良くなるかもしれない」といった、感情を持っている場合が多い。看護師は、
現実と家族の期待の乖離にジレンマを覚え焦るが、まずは看護師自身の中にある感情を
個人またはチームで分析し、できることを冷静に見極める必要がある。
また、障がいをもつ子どもを抱える苦悩が看護職に対する怒りや苦情として表出され
ることがあり、看護師は、表面的な家族の言動に振り回されることなく、家族の感情を
推察し、冷静に距離を持ちつつ対応する。
②障がい受容やそれぞれの時期での医療の選択に対する3つのアプローチ
・感情の表出から
◇不安なことや悩みを言葉にすることができる
保護者には、子どもに対する大きなこだわりや強い思いがあるので、そのたくさ
んの思いをまず聞く。
◇話を傾聴することで、子どもや家族が気持ちを整理するといった、感情の表出⇒
傾聴⇒受容のプロセスを促す。
・日常のケアから
障がい受容や意思決定といった抽象的な課題ではなく、日常生活での「生活のし
づらさ」にスポットを当て、医療的ケアやリハビリテーションを家族と共に行って
いく。課題を1つ1つ具体的に解決していき、生活が安定し子どもの成長がわずか
でも見られれば、保護者や家族は知らない間に現実を受け止めていくに至ることが
多い。
・成長のイベント
年ごとや季節毎のイベントを楽しむ、子どもができること、持っているものを見
つけて、小さなことから子どもの好きなことを実現できるように関わり、成長発達
21
を喜べる状況を作る。
(4)子どもの体調が安定するように支援するスキルを身につける
家族支援というと、家族に対するアプローチと捉えがちだが、家族の精神的・身体的負
担を軽減し支えるのは、子どもの体調の安定や笑顔である。看護師は、家族の意思決定を
支えるだけでなく家族自身が本来の安定した支援ができる状況を整えるために、子どもの
体調管理や医療行為の代行を行う。子どもの苦痛症状や不快症状・体調の不安定さを取り
除くために、まず看護としてできることに最善を尽くし、看護師が、そのための専門的ス
キルを身につけることはとても重要である。
話を聴いて欲しいと言っているのに、アドバイスをし始めるあなたは
私がお願いしたことをしていない。
話を聴いて欲しいと言っているのにそのように思わない方がよろしいですよと
話し出すあなたは私の心に届かない。
話を聴いてと言うと私の問題を解決するために何かをしなくてはならないと思うあなた、
ひとりよがりに聞こえるかもしれないけれど
そんなあなたに少しがっかりしてしまう。
(中略)
でも、たとえ、どんなに理屈に合わなくとも、
実際に私が感じているものであるということを事実としてあなたがそのままを
受けとめてくれるとします。
私はあなたを納得させようとするのを止めて、
この自分でも分からない思いの底に一体何があるのか見てみることにとりかかれます。
そして自分で分かったら、答えは確かであり、アドバイスを必要とはしません。
野村豊子(2000)「ソーシャルワーク入門」有斐閣より1)
(著者:野村豊子先生の許可をいただき掲載させていただきました)
【引用文献】
1)野村豊子(2000):ソーシャルワーク・入門、有斐閣
【参考文献】
1)野嶋佐由美・渡辺裕子:家族看護選書第 3 巻 子どもとその家族への看護、日本看護協会出版会
2)日本看護協会編:介護施設の看護実践ガイド、医学書院
22
8.社会資源の活用と連携
新生児医療、障がい児医療の進歩によって、医療的ケアを継続的に必要としながら生活
している子どもたちが年々増えている。乳幼児の在宅医療を実現するためには、医学的な
技術提供だけではなく、医療者側が福祉の知識を持つこと、家族への精神的支援を行うこ
とが大切である。
小児の在宅医療は「重症度が高い」「介護保険の対象外」といった点を除けば、成人と大
きな差はないといえる。しかし、小児の在宅療養を支えるには地域の社会資源活用と多職
種連携が不可欠である。
小児在宅療養における「ケアコーディネート」と「地域連携」についての問題点と課
題を考えることにより、小児訪問看護に対して更に積極的に取り組む事ができればと考え
る。
(1)小児訪問看護の現状
図1
図11)に示すように近年 0 歳から 9 歳ま
での小児訪問看護の利用者数は増加傾向
にある。増加の背景には重症障がい児に対
する診療報酬が改正されたことにより、小
児を受け入れるステーションが多くなっ
てきたこと等があげられる。
また図22)に示すとおり小児訪問看護
の利用にあたっては何らかの公費負担医
療制度を活用している割合が 80%以上に
なっている。また利用している公費負担医
保険局医療課調べ
(平成13年のみ8月、他は各年6月審査分)
療制度の内容を見てみると、重症度が高い
ことがわかる。
また平成 22 年(社団法人)全国訪問看護事業協会「障がい児の地域生活への移行を促進
するための調査研究事業報告書」によると、小児訪問看護を行う上で困難なこととして「小
児看護に関する知識不足」「病状の判断が難しい」「症例数が少ないため、対応が難しい」
あげられている。さらに、実際に小児訪問看護を実施している事業所では、上記に加え「訪
問をキャンセルされることが多い」
「連携できる社会資源が乏しい」があげられている。
これらのことから小児訪問看護の需要は高まり、対応する訪問看護ステーションも
増えているが、成人の訪問看護にはない「キャンセルの多さ」や「社会資源の乏しさ」
に悩んでいる現状が伺える。
23
図2
平成 22 年(社)全国訪問看護事業協会
障がい児の地域生活への移行を促進するための調査研究事業報告書より
(2)在宅重症児の生活環境
平成 25 年 4 月 1 日から障害者総合支援法が施行され、平成 26 年 4 月 1 日から重度訪問
介護の対象者の拡大やケアホームのグループホームへの一元化などが実施される。しかし、
支援計画は基本的に本人(家族)が立てるというのが障がい施策となっているうえ、介護
保険のようにレスパイトの施設が充実しているわけではない。
在宅重症児を地域で支える上での問題点として、介護保険制度の対象ではないため「ケ
アマネージャー」の存在がないことがあげられる。
「相談支援専門員」も配置されているが、
人数も少なく対応が十分であるとはいえない。
前述の調査報告書には在宅重症児を地域で支える上での問題点として、
「コーディネータ
ーの不在」「医療機関の不足」「医療機関との連携が困難」「小児訪問看護の経験不足」「訪
問看護のケア内容」「介護者へのケア」「きょうだいへのケア」があげられている。
ケアマネージャー的な存在がないために福祉の情報がタイムリーに把握できず、相談す
る相手も無い中で苦悩する家族に対しどのような援助が必要なのか考えていく必要がある。
24
また児の成長や状態に応じて開催しなければいけない情報共有のための会議も家族以外の
キーパーソンがいないため開催できていないケースが多い現状がある。
(3)在宅重症児の福祉制度
在宅重症児は制度上「障がい児」である。障がい児の医療・福祉にはさまざまな支援制
度、助成があるが、市町村によって独自の制度や助成があるので詳細は関連する機関に問
い合わせる必要がある。
障がい児の制度は申請主義であるため制度の知識は必要だが、対象となる数が少ないう
え小児の制度は複雑なため、市町村の職員が熟知しているとは限らない。ケアマネージャ
ーがいない重症児では、福祉の知識がない児の親が市町村の窓口でたらい回しになること
も珍しくない。こうしたことも小児の在宅療養を阻む大きな壁になっているといえる。
障がい児ではまず「障害者手帳」を申請する。手帳には身体・知的・精神の3分野があ
る。(重症児においては身体障害が中心となるので身体を中心に記述する)身体障害者手帳
は障がいの部位や程度により等級分けされており、医療費や税金の減免等を受けることが
出来るので、在宅に移行するにあったてはまず障害者手帳の申請手続きを勧めるべきであ
る。
また、障がい児やその療育者には特別児童扶養手当、障害児福祉手当、障害基礎年金な
どの年金・手当てがあるので、市町村の窓口で問い合わせるとよい。
各市町村には障がい児のための担当者がいるので、介護給付、訓練等給付、補装具、地
域生活支援事業等の調整については積極的に相談し地域でのネットワークづくりを勧めて
いくことが大切である。
(4)在宅重症児の教育
すべての子どもは、教育を受ける権利を持っている。通学が困難な子どもたちは「訪問
教育」という、教師が家に訪問して行う教育がある。週に6時間程度と短いが、子どもや
介護者にとって社会との接点が広がるという観点からは有意義である。しかし、ほかの子
どもたちとのふれあいは子どもの成長にとって大切なものなので、無理のない範囲での通
学が望ましい。
近年医療依存度が高い重症児の受け入れも積極的に行う学校が増えてきている。今後教
員との連携も不可欠になっていくので、情報交換をスムースに行えるようなシステムの構
築が必要と考える。
(5)在宅重症児を支えるネットワーク
在宅重症児とその家族を支えていくためには、「ケアコーディネート」と「地域連携」が
大切である。児の医療的情報や身体的状況を一番把握しているのは担当の訪問看護師なの
で「相談支援専門員」を中心に行政やヘルパー事業所等に対し情報を提供し、必要なサー
ビスがタイムリーに提供できるよう支援していくことが必要である。
今後定期的に「小児のケア会議」を開催し、顔の見える関係の中で医療、福祉、教育の
連携を深めながら、レスパイトケア等の問題についても色々な立場から考えていくことが
25
大切である。
図33)は厚生労働省が示す小児等在宅医療連携拠点事業の目指すイメージである。
この図のとおり地域の医療・福祉関係者が顔の見える関係でつながり、関係者の連携によ
って問題が解決できるよう努力していく必要がある。
図3
厚生労働省 HP「在宅医療の推進について」より
【引用文献】
1)平成 25 年 5 月 29 日、中医協総-3、在宅医療(その 2)
、スライド 10-11
2)及川郁子・上野桂子・荻野綾子(2010)
:障がい児の地域生活への移行を促進するための調査研究
事業報告書、社団法人全国訪問看護事業協会、29
3)平成 25 年7月 26 日、平成 25 年度小児等在宅医療連携拠点事業説明会資料(資料1)小児等在宅
医療連携拠点事業について、厚生労働省医政局指導課在宅医療推進室、スライド 2
【参考文献】
1)濱田裕子・篠木絵里・木村礼子(1997):障害児の在宅ケアの現状-訪問看護を受ける7事例の面
接から-、日本小児看護研究学会誌、6(2)
2)平原佐斗司他(2009):在宅医療テキスト、財団法人在宅医療助成勇美記念財団、第2版第1刷、
3)河野望(2005):障害児の家族に関する研究、立命館人間科学研究8号
4)上石昌子・住友眞佐美・藤沢衣佐子他(1996):在宅重症心身障害児の訪問看護の
あり方について、平成8年厚生省心身障害研究
5)三沢あき子(2012)
:小児在宅医療の地域連携支援モデル構築、財団法人在宅医療助勇美記念財団
完了報告書
6)及川郁子・上野桂子・荻野綾子(2010)
:障がい児の地域生活への移行を促進するための調査研究
事業報告書、社団法人 全国訪問看護事業協会
7)谷口美紀・横尾京子・名越静香(2004):小児の在宅医療および育児を支えるための訪問看護ス
テーション利用の実状と課題、日本新生児看護学会誌 Vol.10.No.1
8)吉田聡美(2008):訪問看護ステーションにおける小児訪問看護の実際-小児訪問看護の問題
点-、鹿児島純心女子短期大学研究紀要、38号
26
Ⅱ
医療的ケア
医療的ケアとは単に生命を維持するだけではなく、障害の進行を防ぎ、より充実した毎
日を送るために不可欠なものである。医療的ケアが必要な子どもたちにとって、必要なケ
アが適切に行われることが QOL を豊かにすることにつながる。そのためには家族だけが子
どもの生活の全てを支えるのではなく、それぞれの立場の支援者が医療的ケアの方法や注
意事項を理解し、家族との協力体制のもとで、家族と一緒に適切な対応をすることが必要
である。
1.経管栄養
経管栄養とは、口から飲んだり食べたりすることが難しい時に、鼻あるいは腹壁から胃
や腸にチューブを通して水分や栄養分をとることである。
鼻からチューブを通す経鼻胃管栄養法と皮膚から胃内にカテーテルを留置する胃ろう栄
養法が一般的である。
1)経鼻胃管栄養法
(1)準備するもの
・胃チューブ
サイズの基準 未熟児:3.5~5Fr 小児:6~10Fr 青年:12~14Fr
・経口用注射器
・聴診器
・固定テープ(ちょうど良い長さに切っておく)
・マジック
(2)手順
①石鹸で手を洗う
②胃チューブの挿入する長さを決め、マジックでしるしをつけておく
・挿入する長さの決め方
鼻の先端から耳まで+耳からみぞおち(肋骨の一番下のくぼみまで)の長さ
③子どもを仰向けにし、頭を左手で固定する
・体動が激しい、緊張が強い時などは手や身体が動かないようにバスタオルなどで固
定するか、他の人に抑えてもらうと良い
④胃チューブをゆっくり挿入する
・チューブの先端から 5cm ほどの所を持って、静かに鼻(または口)からしるしを付
けた所まで挿入する。挿入角度は、顔面とチューブがほぼ直角になるように真下に向
かって入れると挿入しやすい
27
挿入は嚥下のタイミングに合わせ
て表情を見ながら挿入する。
挿入したら口の中でチューブがと
ぐろを巻いていないか確認する
⑤挿入するしるしの所まで入ったら軽くテープで固定する
⑥胃チューブが正しく胃内に挿入されたかどうか確認する
・チューブに経口用注射器を接続し、胃の内容物を吸引する
・経口用注射器に 5ml(新生児であれば 1~2ml)ほどの空気を入れてチューブに接続し勢
いよく空気を入れて空気の音(ボコボコ・ボコッ)が聞こえるのを聴診器で確認する
【聴診器を当てる場所】
1)左の上腹部でへそと左の肋骨の下
2)気管分岐部
1)の音と2)の音を聞き比べる。
空気の注入音が1)の部分ではしっかり聞こえず、B の部分の音の方が大きければ、
食道か気管に入っている可能性がある。→チューブの入れ替えが必要
⑦確認できたらテープで固定する
≪注意点≫
・挿入時、顔色が悪い、咳き込みが強い、呼吸が苦しそうなどの症状があれば間違って
気管に入っている可能性がある。その時はチューブを抜き、子どもが落ち着いてから
入れ直す
・胃内にミルクが残っていると嘔吐の原因となるため、チューブの挿入は空腹時に行う
・チューブは 1 週間ぐらいで交換し、左右の鼻に交互に入れる
2)ミルク・栄養剤注入
(1)準備するもの
・ミルク、栄養剤
・白湯(流し用)
・イルリガートル
・経口用注射器
28
・聴診器
・S 字フックなどイルリガートルをかけるもの
(1)手順
①石鹸で手を洗う
②ミルクまたは栄養剤を用意する(常温で良い)
③注入中の嘔吐や誤嚥を防ぐため、子どもの状態に合わせて体位を整える
④イルリガートルのクレンメ(ローラーの部分:滴下量を調整する器具)を閉める
⑤ミルクまたは栄養剤をイルリガートルの中に入れ、滴下筒を2、3回押し、滴下筒の
中を 1/2 くらい満たしたらクレンメをゆっくり緩め、チューブ内をミルクまたは栄養
剤で満たす
イルリガートル
滴下筒
クレンメ
⑥胃チューブが胃内に挿入されているか、胃内容が消化されているか確認する
・チューブに経口用注射器を接続し、胃の内容物を吸引する
・経口用注射器に 5ml(新生児であれば 1~2ml)ほどの空気を入れチューブに接続する
・勢いよく空気を入れ空気の音(ボコボコ・ボコッ)が聞こえるのを聴診器で確認する
⑦胃チューブとイルリガートルを接続し、クレンメを開け、速度を調整する
⑧落下速度を調整し、30 分~1 時間かけて注入する(速度については主治医の指示通り
に行う)
⑨注入中は、吐いたり、お腹が急に張ってきたりしないか注意し、症状が出た場合は注
入を中止し様子を観察する
⑩注入し終わったら、5~10ml 白湯を注入する
⑪注入後 1 時間は上半身を挙げ、右向きもしくは顔を右に向けて安静にする
⑫使用したイルリガートル、注射器はよく洗い、乾燥させる
≪注意点≫
29
・注入前には、「チューブの固定がしっかりしているか、ずれていないか」「呼吸状態が
落ち着いているか」「お腹が張っていないか」を観察する
・注入中にゼコゼコが強くなった場合は、いったん中止して嘔吐に注意しながら口腔内
を軽く吸引する
・注入前の前吸引時には、胃壁を傷つけないように無理のない力でゆっくり引く
・胃内容を観察することで状態や対応方法を考えることができる
胃内容の状態
考えられること
対応方法
前に入れたミルクや
消化不良
注入量を減らす
栄養剤、胃液が多量に
胃や腸の調子が悪い
注入の時刻を遅らせる
(30 分から 1 時間以上待っ
引ける
褐色の液が引けるま
胃からの出血、逆流性食道炎によ
て再吸引する)
たは血液が混入して
る食道からの出血の可能性あり
注入の内容を変更する
注入を中止する
いる
緑色または濃い黄色
胆汁を含む腸液が胃に逆流
*あらかじめ主治医に対応
の液が引ける
腸の動きが悪いか腸の通過障害
方法を確認しておく
の可能性あり
*症状が続くときは早めに
受診する
透明または白色の液
胃液(体内の電解質を保つために
が引ける
必要なもの)
空気が多量に引ける
空気を多量に飲み込んでいる
胃の中に戻す
空気を引けるだけ引く
排気することを習慣づける
無限に空気が引ける
チューブが口に抜けているかも
チューブの入れ替え
しれない
チューブの位置確認
腹部が張っているの
チューブが胃に届いていない可
チューブの入れ替え
に何も出てこない
能性あり
チューブの位置確認
3)胃ろう栄養法
胃ろう栄養法とは、皮膚から胃内に直接カテーテルを留置して栄養を入れる方法で、経
鼻胃管挿入による苦痛や介助者のチューブ交換の負担を減らす目的がある。
胃ろうカテーテルにはバルーン型とバンパー型の 2 種類があり、それぞれチューブタイ
プとボタンタイプがある。
バルーンタイプ:胃の中にあるチューブが抜け落ちないようにバルーンがストッパーにな
っているタイプ
*バルーンは水を充填して膨らませている。バルーンの水は時間が経つ
と減少するので、定期的に水の量の確認と補充が必要。
30
バンパータイプ:ストッパーの形状がバルーンではないタイプ
チューブ型:体の外に見えている形状としてチューブが長くついているタイプ
ボタン型:チューブがないタイプ
専用の接続チューブを介して栄養チューブをつなぐ
ボタン型カテーテル
チューブ型カテーテル
(1)準備するもの
・ボタン型カテーテルの場合、接続チューブが必要になる。
(2)手順
①石鹸で手を洗う
②ミルクまたは栄養剤を用意する(常温で良い)
③注入中の嘔吐や誤嚥を防ぐため、子どもの状態に合わせて体位を整える
④イルリガートルのクレンメ(ローラーの部分:滴下量を調整する器具)を閉める
⑤ミルクまたは栄養剤をイルリガートルの中に入れ、滴下筒を2、3回押し、滴下筒の
中を 1/2 くらい満たしたらクレンメをゆっくり緩め、チューブ内をミルクまたは栄養剤
で満たす
⑥注入前には、カテーテルの位置や固定の確認、胃ろう孔の観察をする
⑦ボタン型カテーテルの場合、接続チューブを接続する(接続チューブのクレンメは閉
じておく)
31
印
ボタン型カテーテルと接続チューブの印を正確に合わせてパチンと手応えがあるまで押
し入れる。接続チューブを 3/4 回転し、接続が外れないようにロックする
ボタンの部分を強く押したり、引っ張ったりしないようにボタンの部分を指で挟んでし
っかり保持して行う。ボタンが腹部を圧迫しないように注意
⑧チューブに注射器をつなぎ、接続チューブのクレンメを開けて胃内容物を注射器で引き、
前吸引の量と性状を確認する
注入前には胃内の空気をできるだけ引いておく
⑨前吸引が終わったら接続チューブのクレンメを閉じて注射器を外す
⑩チューブとイルリガートルを接続し、クレンメを開け、速度を調整する
以下、2)ミルク・栄養剤注入の手順に準ずる
4)胃ろう管理
【胃ろうによる経管栄養の合併症と対策】
症状
肉芽形成
対策
清潔の保持に努める
固定方法の見直しと強化
処置が必要になる場合があるため早めに受診
胃ろう孔からの漏れ
漏れがひどい場合は早めに受診
胃出血
固定が強くないか確認
出血が続く場合は早めに受診
発赤
石鹸できれいに洗い、よく乾燥させる
固定が強くないか確認
胃ろう周囲の発赤、びらん、出血の場合早めに受診
カテーテルの詰まり
注射器で吸引
(チューブ型の場合) 白湯を流す(小さい注射器の方が圧がかかって流れやすくなる)
カテーテルの根元からしごく、改善しなければすぐ受診
32
カテーテルが抜けて
① 入ってるカテーテルより少し細めのチューブ(吸引チューブ、
しまったら
導尿用カテーテルなど)を 5cm 程度挿入し、テープで固定し
てすぐ受診
② バルーンタイプの胃ろうカテーテルであれば、バルーンの水
を抜いてそのチューブを再挿入してすぐ受診
≪日常生活での注意点≫
①スキンケア
固定をしっかりしておけばそのまま入浴してもかまわない
一般的に水圧より腹圧の方が圧は高いので、胃ろう孔か
らお湯が入ってくることはない。胃ろうの周りは弱酸性の
石鹸でよく洗う。入浴したあとは水気を拭き取り、しっか
り乾燥させる。
シャワーや入浴の後の胃ろうの周りの消毒は特に必要
ないが、子どもによってはガーゼ、ティッシュペーパーな
どで保護をしても良い。
②使用器具の洗浄方法
注入器具は十分洗浄し、よく乾燥させてから使用する。
濡れたままだと細菌繁殖の原因になる。
③お口のケア
口から食事をしていない人もお口のケアは必要である。
口の中が汚れたままでいると細菌が繁殖して肺炎や気
管支炎などの合併症が起こりやすくなる。
【参考文献】
1)前田
浩利
編:小児在宅医療ナビ、南山堂、2013
2)小川
勝彦
:重症心身障碍児・者医療ハンドブック、三学出版、2010
3)沖
高司、熊谷
俊幸編:小児・障害児(者)のための在宅医療マニュアル、金芳堂、2008
4)横浜「難病児の在宅療養」を考える会
5)松石
33
豊次郎
杉本
健郎
編:医療的ケアハンドブック、大月書店、2009
編:医療的ケア研修テキスト、クリエイツかもがわ、2006
2
呼吸管理
1)口・鼻腔吸引
吸引とは
痰や唾液、鼻汁などを自分の力だけでは十分に出せない場合に、器械を使って取り除く
方法である。吸引は、子どもにとって決して楽なものではない。しかし、痰や唾液を取り
除くことで、呼吸を楽にし、肺炎などの感染症を予防するために必要なことである。
(1)準備するもの
・吸引カテーテル
サイズの基準 0~1 歳:6Fr
1~2 歳:8Fr
2~12 歳:10Fr
12 歳:12Fr
・吸引器
・アルコール綿
・吸引カテーテル保管容器
・水道水(専用の容器に水を入れておく)
(2)手順
①石鹸で手を洗う
②呼吸の観察、呼吸音の聴取
分泌物の貯留位置の確認
③吸引カテーテルを吸引器の接続ホースに接続する
④吸引器のスイッチを押し、吸引カテーテルの根本を折り曲げ
吸引圧がかかること(-15~-20 ㎪ )を確かめる
⑤利き手で、吸引カテーテルの先端から約 10 ㎝くらいの所を、
ペンを持つように握る
⑥吸引用カテーテルの根元を折り曲げ,吸引圧がかからない状態
で口腔又は鼻腔から,咽頭の手前まで挿入する
圧が強い時は
ダイヤルで調整
口蓋垂、咽頭後壁突かないようにする
嘔吐しやすいため注意!
舌の上下と周囲
奥歯と頬の間
前歯と唇の間
・口角から側壁を這わせるように入れると吸引チューブによる刺激感が軽減できる
・入りにくい時は無理をせず反対側から入れてみる
34
① 鼻腔からやや上向きに数
センチ入れる
②すぐにカテーテルを上向きか
ら下向きに変え、底を這わせるよ
うに深部まで挿入する
※鼻から耳たぶのあたりの長
さまで!
⑦奥まで挿入できたら、吸引カテーテルの根元を折り曲げた反対側の指を離して吸引カ
テーテルに陰圧をかけ、ゆっくり引き抜きながら鼻汁や喀痰を吸引する
左右にカテーテルを回しながらゆっく
り引き抜いて吸引する
吸引時間 10 秒まで
1 回で吸引できない場合は、呼吸が落ち着
いたらもう一度行う
⑧吸引が終わったら、吸引カテーテルの外側をアルコール綿で
先端に向かって拭きとる
⑨最後に吸引カテーテルと接続管の内腔を、水で洗い流す
⑩吸引器のスイッチを切る
⑪吸引カテーテルを容器の中で保管する
(3)注意点
・吸引の前後には呼吸音を聴取して、その変化を観察する
・喉の奥側を吸引すると、嘔吐反射が誘発されるので、特に食後間もない時などは、注
意して行う
・十分に開口できない人の場合は、親指と人差し指で両頬を軽く押さえながら吸引をす
ると良い
・鼻腔吸引時、カテーテルを上方向(鼻孔から眉の方向)のまま進めると、鼻がツンと
したような痛みを感じ、児にとって苦痛である。鼻孔から数㎝挿入したら喉を目指す
ように方向を変え、カテーテルを挿入する
(4)トラブル時の対応
状
況
鼻腔からの出血
対
処
法
鼻の粘膜が傷ついた可能性があるため吸引を中止する。吸引が必要な
場合は、反対側の鼻腔から吸引する
出血が止まらないようなら、鼻翼を押さえ止血する
35
吸引中の嘔吐
誤嚥しないよう、顔を横に向けた状態で、口腔内の吐物を吸引する。
嘔吐後の顔色、呼吸状態を観察する
吸引中に顔色が悪く
吸引を中止。呼吸状態を確認し、気道を確保する。安楽な体位をとり、
なった
それでも顔色が悪い場合は早めの受診をする
痰が固くて吸引でき
吸入や部屋の湿度を調整し、気道が十分加湿されてから吸引をする
ない
痰の色がいつもと違
赤色:鼻腔、口腔、気道のどこからか出血した可能性がある
う
少量であれば様子を見るが、大量に出血した場合は速やかに病
院を受診する
黄色:感染を起こした可能性がある
熱を測り、全身状態を観察し、異常があれば病院に受診
2)気管内吸引
気管切開とは・・・
「口腔鼻腔を経ることなく、頸部の皮膚から直接気管に至る道を作ることによって気道
を確保すること」と定義されている。
気管切開を受けた子どもはこの穴(気管切開孔)を通じて呼吸することになる。
(1)準備するもの
・吸引器
・アルコール綿
・吸引カテーテル
サイズの基準
年齢の目安
I.D(mm)
生後 3 か月まで
3.0~3.5
3 か月~9 か月まで
3.5~4.0
9 か月~1 歳半まで
4.0~4.5
1 歳半~2 歳まで
4.5~5.0
2 歳以上
4.0+年齢(歳)/4
・聴診器
・チューブ保管する容器
・水道水(専用の容器に入れておく)
・アンビューバック
・酸素(必要時)
(2)手順
①石鹸で手をきれいに洗う
②吸引カテーテルを吸引器の接続ホースに接続する
③吸引器のスイッチを押し、吸引カテーテルの根本を折り曲げ、吸引圧がかかること
(-15~-20 ㎪ )を確かめる
36
④利き手で、吸引カテーテルの先端から約 10 ㎝の所を
ペンを持つように握る
⑤吸引圧をかけた状態で
吸引カテーテルを気管
内にゆっくり挿入する
・挿入する長さは主治医に決められた長さを守ること
⑥所定の位置まで挿入できたら、吸引カテーテルの根元を
折り曲げた反対側の指を離して吸引カテーテルに陰圧を
気管カニューレから吸引カ
かけ、ゆっくり引き抜きながら痰を吸引する
テーテルの先端が 1~2cm
・1 回の吸引時間は 10 秒以内を目安にする
出る程度の長さが目安
吸引時は、左右に回しながらゆっくり引き抜いて吸引する
⑦吸引が終わったら、吸引カテーテルの外側をアルコール綿で
先端に向かって拭きとる
⑧最後に吸引カテーテルと接続管の内腔を、水で洗い流す
⑨吸引器のスイッチを切る
⑩吸引カテーテルを容器の中で保管する
(3)注意点
・吸引カテーテルを乾燥させて保管する場合は、痰や水滴が残ったままだと細菌の繁殖
の原因になるため、カテーテル内に痰や水滴をきれいに取り除いてから保管する
・吸引カテーテルは 1 日 1 本交換し、容器に入れた水道水または白湯も毎日交換する
・吸引カテーテルを保管する容器も毎日洗う
・気管内に菌が入ると肺炎の原因となるため、吸引カテーテルが周りのものに触れたり
して、不潔にならないように注意する
・SPO2値がいつもの値より低ければ、まず、アンビューバックで加圧し、酸素をあげて
から吸引すると良い。吸引時の SPO2 値の急激な低下を防ぐことができる
(アンビューバックの使い方参照)
(4)トラブル時の対応
状
況
何も引けてこない
対
処
法
吸引チューブの挿入が短すぎる可能性あり。適切な長さで挿入する
気道が乾燥して分泌物が硬くなっている可能性あり。吸入器で加湿
するなどして気道を湿らせた状態で吸引してみると良い
顔色が悪い
吸引により低酸素症になっている可能性あり。吸引を中止し、必要
であれば酸素を投与する
吸引時血液が引けた
37
気管からの出血は気道粘膜の炎症や肉芽、潰瘍等から直接認められ
ることもあるが、吸引カテーテル自体の刺激による出血のこともあ
る。吸引カテーテルを挿入する長さ、カテーテルの種類、吸引圧な
どについて主治医に相談してみる
3)気管カニューレ交換
・気管カニューレは基本的には 2 週間に 1 回交換する
・潤滑剤を気管カニューレにつけておく。ない場合は、水道水でも可
(1)準備するもの
・気管カニューレ
・Y字ガーゼ
・固定紐またはカニューレホルダー
・人工鼻
・シリンジ (カフ付き気管カニューレを使用している場合)
・クリーンコットン(気切部の清拭用)
(2)手順
①石鹸で手を洗う
②カフ付気管カニューレの場合、交換前にカフに空気を入れて膨らむか、破損がないか
確認する。確認した後は空気を抜いておく
③必要物品を用意し、手の届きやすい場所に置く
④首の後ろにバスタオルなどを置き、首を軽くそらして
体位を整える
⑤Y字ガーゼを取り除く
⑥固定紐またはカニューレホルダーを外す
⑦気管カニューレの翼の部分を持って気管カニューレを
静かに抜く
・カフ付きの場合は、必ずカフの空気を抜いておく
・気管カニューレは約 90 度に曲がっているので、その曲り
に沿って抜く
新たに挿入する時もこの角度をイメージして行う
・自分で呼吸ができる子どもの場合は、気管カニューレを抜いた際に、気管切開孔の
皮膚の状態を観察する。皮膚の発赤や腫脹、肉芽ができている場合は医師に相談す
る
⑧気管カニューレの翼の部分を持ち新しい気管カニューレをゆっくり挿入する
カフ付きの場合は、挿入後カフの空気を入れる
⑨固定紐またはソフトネックホルダーを気管カニューレの片側に通し、首の後から回し、
反対側にも取り付ける
38
⑩頸と気管カニューレの間にY字ガーゼを挟む
⑪交換が終わったら、児の顔色や呼吸の様子を観察する
固定の強さは指 1 本が入るくらい
(3)注意点
①カニューレ交換前に、吸引し、呼吸の様子が安定していることを確認する。痰が残っ
ていると、気管カニューレを交換中に噴き出すことがあるので注意する
②カニューレの交換はできれば保護者と 2 人で行うと良い
③人工鼻の交換は 1 日 1 回を目安に行う
痰で人工鼻のフィルターが目詰まりする場合は交換する
④食事直後の交換は嘔吐の原因となるので避ける
⑤必ず次回交換用の予備の気管カニューレを準備しておく
(4)トラブル時の対応
状
況
対
処
法
気管カニューレが抜け
慌てずにゆっくり新しい気管カニューレを入れる。新しいもの
てしまった
が無い場合は、抜けたカニューレを入れ直す
気管カニューレが入ら
体位が適切でない事が考えられる。首の後ろに枕を置いて、首
ない
を伸展させて挿入してみる。どうしても入らない場合は、すぐ
に受診する
啼泣していると力が入り、カニューレが入らない。抱くなどし
て落ち着かせてから挿入する
気管カニューレから大
気管と腕頭動脈の間に瘻孔ができた可能性がある。急いで救急
量に血が出てきた!
車で受診する
4)気管切開管理
(1)合併症
①感染
◇肺炎
吸引カテーテルを不潔な状態で保管すると、菌が繁殖する。そのカテーテル
で吸引すると、肺炎等といった感染症の原因になる。特に気管内吸引をする
時は、清潔に操作をするように心がける。
39
②不良肉芽
◇気管孔肉芽
ガーゼが汚れたらその都度交換することが気管孔肉芽の予防には大事であ
る。治療には軟膏療法(ステロイド軟膏)や肉芽の切除を行うことがある
ため早めに受診する。
◇気管内肉芽
気道粘膜へのカニューレそのものの刺激や、吸引チューブの慢性的な刺激
で生じる。肉芽はカニューレの接触するあらゆる部位に生じる。年少児で
は気管の内径が細いので、気管内肉芽ができると呼吸障害の原因になる。
肉芽が生じたら、ステロイド療法や圧迫療法、レーザー治療などを行うこ
とがあるため早めに受診する。
③皮膚トラブル
カニューレを固定している紐やテープが原因で、皮膚炎が生じることがある。固
定紐やテープの幅が細すぎると、皮膚の狭い範囲に力がかかってしまうため、適度
な太さの物を用いると良い。
分泌物で汚れたテープは、皮膚トラブルの原因になるため、早めに交換する。気
管からの分泌物には唾液が混じっている事が多いため、長時間放置すると皮膚に発
赤やただれを生じ、感染の原因にもなる。これらはこまめに微温湯で拭きとる。
5)アンビューバックの使い方
アンビューバックとは・・・
気管切開を行っている人に、アンビューバックを、気管カニューレに直接つないで手
で圧を加えて人工呼吸を行うことができる。
(1)使用目的
・呼吸停止時や呼吸状態が極めて悪化した時
・SPO2 がいつもの値よりも低下した時
・移動や入浴など一時的に人工呼吸器を外し、
再び人工呼吸器を接続するまでの間
・高濃度の酸素を一時的に与えたい時
・気管内吸引の前後、肺を加圧しながら酸素
を供給し、自発呼吸を整える時
(2)手順
①気管カニューレにアンビューバックを確実に
接続する
40
②片手でアンビューバックを持ち、その子の呼吸
状態に合わせた回数でアンビューバックをもむ
・十分に換気が行われていれば、肺がふくらんで、
胸が持ち上がる
・自分で呼吸ができる子どもの場合は、吸気(息
を吸う時)、呼気(息を吐く時)の呼吸のリズム
に合わせて、吸気(吸う時)にバックをもんで
空気を送り込む
③バックをもんでも気管切開口から空気が漏れ、
胸が持ち上がらない場合、カフ付きカニューレを装着している子どもはカフ圧を膨ら
ませて換気してみる
④顔色が良くなり、しっかり自分で呼吸ができるようになり、処置やケアも終了し、
人工呼吸器を装着するまで続ける
(3)注意点
・普段の呼吸回数(1分間に何回呼吸しているか)を覚えておくと良い
一般的に乳児は40~60回、幼児は20~30回、学童期以上は20回である
・バックをもむ力は強すぎると肺が破れてしまう危険性がある。胸の持ちあがり方を見
ながら、調節する
・SPO2モニターを持っている場合は、装着して換気する
【参考文献】
1)小川
2)沖
勝彦
:重症心身障碍児・者医療ハンドブック、三学出版、2010
3)松石
高司、熊谷
豊次郎
俊幸編:小児・障害児(者)のための在宅医療マニュアル、金芳堂、2008
杉本
健郎
編:医療的ケア研修テキスト、クリエイツかもがわ、2006
4)喀痰吸引等指導者マニュアル‐厚生労働省‐
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/tannoky
uuin/dl/5-1-2.pdf
41
おわりに
日本の医療は、今後さらなる高齢化の進展や疾病構造の変化により在宅医療の充実が求
められています。重症心身障がい児者においても、医療的ケアを継続しながら家族の一員
として生活できる在宅支援が強く望まれています。
現在、在宅で暮らす重症心身障がいをもつ子ども達の多くは、定期的な受診や軽度の体
調不良でも遠方の病院に受診しなければならず、多くの時間を費やしています。また、重
症児の身体的状態は不安定で、日常的に細やかな観察や判断・繊細なケアが求められてお
り、家族(特に母親)の負担は大きくストレスも高い。今後、近くの医療機関や訪問看護
ステーションなど身近なところで相談でき、必要なサポートを受けられるようになれば、
子どもたちも家族も負担の軽減となります。
このマニュアルは、このような重症心身障がい児者看護に携わる人材の育成を図るため
の、平成 25 年度岐阜県障がい児者看護人材確保事業の一環として作成しました。
子どもたちが何処で生活していても安心で安全に必要なケアを受けることができるよう
在宅医療機関・福祉施設・訪問看護ステーション等で働く看護職の皆様に活用していただ
き、重症心身障がい児に温かい手を差し伸べ適切なサポートへと繋がれば幸いです。
最後になりましたが、このマニュアルを作成するにあたり写真等のご協力をいただきま
した子どもたちやご家族の皆様に深く感謝いたします。
平成26年3月
研修プログラム作成委員
氏
名
所
属
職
位
橋本
波枝
公益社団法人岐阜県看護協会
会長
秋山
廣子
独立行政法人国立病院機構
副看護部長
長良医療センター
遠渡
絹代
岐阜県立希望が丘学園
上席看護師長
小児看護専門看護師
若山志ほみ
岐阜総合医療センター
看護師長
小児看護専門看護師
中川奈緒美
公益社団法人
岐阜県看護協会
下呂訪問看護ステーション
本間由佳里
社会福祉法人
管理者
新生会総合ケアセンター
サンビレッジ
医務部門チーフ
市川百香里
矢嶋小児科小児循環器クリニック
看護師
小谷美重子
公益社団法人岐阜県看護協会
事業部長
古澤はるみ
公益社団法人岐阜県看護協会
事業振興課主幹
編集・発行
公益社団法人
岐阜県看護協会
岐阜県ナースセンター
〒500-8384
岐阜市薮田南 5 丁目 14 番 53 号(ふれあい福寿会館内)
℡058-277-1010
fax058-277-1011
E-mail [email protected]
岐阜県健康福祉部
医療整備課看護係
地域医療推進課障がい児者医療推進室
〒500-8570
岐阜市薮田南 2 丁目 1 番 1 号
℡058-272-1111
本書は平成 25 年度障がい児者看護人材確保事業で取りまとめた内容を、平成 26
年度小児在宅医療マニュアル作成事業で冊子にしたものです。
Fly UP