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中高年のフィットネス
無理を しない! そこが 知 りたい! そこも 知 りたい! 中高年の そこ そこ フィットネス お話 大野 誠 Ono Makoto が知 りた い! も知 りた い! 日本体育大学健康学科教授。同大学院健康科学・スポーツ医科学系教授。生活 習慣病やエネルギー代謝、身体組成を中心に研究を行っている。著書に『肥満 取材・文 / 加藤 由紀子 症の生活指導~行動変容のための実践ガイド』 (共著、医歯薬出版)など他多数。 国民生活センターが発表した情報に関連した話題を取り上げます。今回は「家庭用健康器 具による危害等について-気軽に運動できるはずがケガ! 使う前には注意表示の確認を-」 (2012年6月21日公表)に関連した情報として、中高年向けのフィットネスに注目し、安 全で効果的な運動を紹介します。 健康志向によるフィットネスブームは過熱す でどんな成果が得られるのか」 「続けられなかっ る一方ですが、その目的にかなう安全で効果的 たら何を失うことになるのか」を、毎日、はっ な運動とは、どのようなものでしょうか。 きりと意識することが大切です。 ここでいう「運動」とは、 「体力の維持・向上 効果的な運動を行ううえで、週に何回、1日 を目的として計画的・意図的に行う身体活動」 に何分以上×何セット、という目安は確かにあ を指します(厚生労働省「健康づくりのための りますが、それをノルマととらえてしまうと、身 運動指針2006」より) 。無意識に歩いたり、自 体に負担がかかり、逆効果になることもありま 転車に乗ったり、家事をしたりして身体を動か す。その日の体調を自分できちんと把握し、決 しても、それらは「運動」には含まれません。し して無理をしないよう柔軟に対応してください。 かし、ただ「歩く」 (15分/1km)のではなく、 そして、運動を行うためのハードルを高く設 そく ほ 運動の強度を上げて意識的に「速歩」 (10分/ 定し過ぎないこと。例えば、特定の場所に行っ 1km)(35ページ参照)を行えば、 「運動」に たり、着替えたり、器具を使う必要があると、 なります。つまり、目的意識と運動としての強 不都合が起きた場合、運動しない言い訳が容易 度が必要条件になるわけです。 に立つため、継続しにくくなります。また、運 ただし、どんな運動を、どの程度の強度と量 動そのものがきつければ、気持ちや身体がつい (時間)で行えばよいのかは、年齢や体力、運動 てこなくなってしまいます。 「いつでも、どこ でも、1人でも」 行える運動を考えましょう。 を行う目的などによっても異なります。 ここでは健康増進を目的に、 「メタボリックシ そのような運動の一案として、家の中でテレ ンドローム*1や生活習慣病予防を目的とする40 ビを見ながら、コマーシャル(以下、CM)の 歳代から」と「身体能力の維持を目的とする高 間だけ簡単なフィットネスを行う、という方法 齢者」の2つのグループに分けて、気軽に続け があります。通常、1時間番組のうち10分以上 られる安全なフィットネスの方法を紹介します。 はCMタイムですから、CMになる度に簡単な 筋力トレーニングを行うと、数分×数セット= 無理なく習慣づけるための ポイント 10分のフィットネスを手軽に行うことができ ます(34 〜 36ページ参照) 。 「なぜ、運動をするのか」 「運動を続けること 33 2012 10 国 民 生 活 そこが 知 りたい! そこも 知 りたい! 40歳代からのフィットネス 筋力 トレーニング 腹筋を引き締める 2〜3 セット 仰向けに寝てひざを立て、両手を頭 の後ろに組み、息を吐きながら上体 を 少 し 起 こ し て、 6 ~ 10秒 保 つ。 休憩を挟んで2~3回。 筋力 トレーニング 筋力 トレーニング ウエストを引き締める 太ももを引き締める 10 セット ①肩幅より少し広く 足を開き、手を頭 の後ろで組む。 30 セット ②上体を真っすぐに保 ちながら、左の太も もが床と平行になる までひざを上げ、ゆ っくり元に戻す。右 も同様に。 頭の後ろで手を組み、そのまま上体 を左に倒して5 ~ 6秒静止する。右 も同様に。 無理をせず、休養をとったり、必要に応じて医 運動の前後には必ず 準備運動と整理体操を 師に相談することをおすすめします。 40歳代からのフィットネス 運動を行う前後には、必ず準備運動と整理体 操を行ってください。けがや筋肉痛、急激な血 圧上昇、ふらつきなどが起こるのを防ぎます。 40歳代以降になると基礎代謝*2が下がるた ラジオ体操に組まれている運動を中心に、ひざ め、若い頃と同じような食生活を続けている の屈伸、浅い伸脚、背伸び、手首足首回しなど と太り出し、体脂肪が落ちにくくなっていきま を1~2分ほど行えば十分です。自分で動きが す。この状態をそのままにしておくと、立派な かたいと感じる部分、痛みや故障を起こしやす メタボ予備群に。内臓脂肪型肥満は、高血圧、 い部分の動作を中心に選べばよいでしょう。準 脂質異常症、そして糖尿病といった生活習慣病 備運動の時点でいつもよりも体調が悪いとか、 の引き金になりますから、そうなる前に積極的 どこかに痛みや気になる点があれば、その日は に予防策を講じて、健康な状態を維持していき 34 2012 10 国 民 生 活 そこが 知 りたい! そこも 知 りたい! 40歳代からのフィットネス 筋力 トレーニング ヒップを引き締める ①仰向けに寝て、少し足を 開いてひざを立てる。 20 セット ②お尻に力を入れて、床に背中を つけたまま、お尻をゆっくり持 ち上げ、ゆっくり元に戻す。 筋力 トレーニング 座席に座って 腹筋を鍛える 電車の中で 筋力 トレーニング 立った状態で 有酸素運動と筋力トレーニング ヒップを鍛える 有酸素 運動 座席に座った状態で、 腹部に力を入れ、足 の裏全体を5㎜ほど 浮かせる。 つり革や手すりに つかまり、かかと を浮かせる。お尻 に力を入れ、背筋 を伸ばす。 視線は遠くに あごは引く 胸を張る 可能な範囲 で適宜 速 歩 1日 合計30分 肩の力を抜く 背筋を伸ばす 腕は前後に 大きく振る 脚を伸ばす ましょう。 かかとから着地 太らないことだけが目的ならば、食事を制限 歩幅はできる だけ広くとる 上のフォームを意識し ながら1kmを10分ほ どのペースで歩く。 (参考:厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」 ) するだけで、見た目や体重を維持することも不 速歩や水泳などに代表される有酸素運動と、 可能ではありません。しかし、 健康を維持する、 腹筋体操などに代表される筋力トレーニング 生活習慣病を防ぐ、という観点から考えると、内 では、使う筋肉のタイプが異なることから、 臓周辺や血液中に蓄積される脂肪に注意する必 両者の運動を組み合わせることで、より健康 要があります。 見た目に大した変化がなくても、 増進効果が高まります。どちらの運動も、連 血圧や中性脂肪、悪玉コレステロール、血糖な 続して行う必要はなく、数回に分けて行うと どが徐々に上昇し、気づいたときには生活習慣 いいでしょう。 効果が高まる運動時間は、有酸素運動(速 病を発病、などということにもなりかねません。 歩、水泳など)が1日合計30分、筋力トレー そうなる前に、適度な運動習慣を生活に取り入 ニング(腹筋体操、腕立て伏せなど)が1日 れ、健康な状態を維持するほうが、病気を治療 合計15分です。 するよりも、ずっと簡単で合理的なのです。 35 2012 10 国 民 生 活 そこが 知 りたい! そこも 知 りたい! 高齢者のフィットネス 腕、胸、腹の筋肉を鍛える 下肢の筋肉を鍛えるⅠ 下肢の筋肉を鍛えるⅡ 5 23 3 〜 セッ ト セッ ト 3 セット セット ①胸の前で手を組み、 ひじを張って外側 に引っ張る。 ②手のひらを胸の前 で 合 わ せ、 中 央 に 向けて押し合う(ど ちらも6~7割の 力 で、 ゆ っ く り と 腹式呼吸を行いな がら、6~ 10秒保 つ。 ① ② 合 わ せ て 1セット)。 足を軽く開いて真っすぐ立ち、かかと をできるだけ高く上げて、元に戻す (10回で1セット)。 下肢の筋肉を鍛えるⅢ ※転倒しないよう、必ずつかまるもの がある場所で行う。 下肢の筋肉を鍛えるⅣ 左図のⅢがきつい場合、いすに腰かけて行う方法も。 3 ①足を軽く30度 ほど開いて真 っすぐ立つ。 ②いすに腰かけるように お尻をゆっくり降ろす。 体重が足の裏の中心に かかるように意識する。 足を軽く開いて真っすぐ立ち、右足を 床につかない程度に軽く上げて1分間。 左足も同様に(左右合わせて1セット) 。 セット ③ひざは最大直角まで の間で、無理なくで きる範囲で曲げる。 内股になったり、ひ ざが爪先より前に出 ないように注意。ゆ っくりお尻を上げる (深呼吸をするペース で、5~6回で1セッ ト。休憩を挟んで1 日3セットを目標に) 。 3 セット ①椅子に腰かけ、机 に軽く手をつく。 ②いすから軽く腰を浮かし、 ゆっくり元に戻る。 (深呼吸をするペースで、5~6回で1セット。休憩を 挟んで1日3セットを目標に) ※転倒しないよう、必ず近くにつかまるものがある場所で行う。 周囲のものにも転倒時にぶつけないよう注意する。 (Ⅱ~Ⅳ参考:公益社団法人日本整形外科学会「ロコモパンフレット2010年度版」 ) 高齢者のフィットネス きる範囲で継続して行っていくうちに、少しず つ強度や時間を増やしていけるようになるのが 理想的です。 高齢者にとっての運動は、 体脂肪を落としたり、 生活習慣病を予防することよりも、筋力や持久力 運動習慣を取り入れる際は、必ず医師に相談し を鍛えることで、筋肉の萎縮を防ぎ、日常の生活 てから始めるようにしてください。また、日々の 場面で必要な行動を無理なく安全に実施・継続で 運動の前には、準備運動(34ページ参照)を必 きることが目的になります。歩く機能の保持、す ず行い、少しでも体調が整わないと感じたら、そ なわち下肢の筋力を無理なく鍛えるトレーニング の日は無理をしないようにしましょう。 をメインに行いつつ、速歩(35ページ参照)な どの有酸素運動を組み合わせると、筋力に加え *1 内 臓脂肪症候群。内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、 て持久力も高まり、 より身体能力が向上します。 脂質異常のうちいずれか2つ以上を持った状態のこと。 *2 人が生きていくために必要な最低限のエネルギーのこと。筋肉 どちらの運動も、強度や時間にこだわらず、で や臓器などが活動する際に消費するエネルギー。 36 2012 10 国 民 生 活