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日本と中国における鉄筋コンクリート造建物の 耐震設計法の比較研究

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日本と中国における鉄筋コンクリート造建物の 耐震設計法の比較研究
日本と中国における鉄筋コンクリート造建物の
耐震設計法の比較研究
崎野研究室
1 研究の目的
孫
強
民共和国建築法」
(略称建築法)が公布された。これは日本
最近,日本の建設企業は世界の各地で積極的に建設事業を
の建築基準法に相当するものであり、建築活動の監督と管理、
推進しているが、そのプロジェクトで使用される設計規準は
建築工程の品質と安全性についての基本事項が述べられて
その国の規準の方が承認を得やすいことから、それらの工事
いる。日本の建築基準法の特色は、中国では標準・規範とし
の前提となる設計図書は、その国の設計規準によって作られ
て別途制定されている防火、衞生の安全性に関する規制、都
る事が多い。外国の規準は、日本の規準と違っており、日本
市計画区域等の地域規制、更に、住居法、工作物規制、各種
の設計者・施工者は慣れない外国規準を苦心して使用してい
建築設備規則などの一部が組み込まれている点である。中国
る。現在、中国でも、日本企業が建設を進めていることから、
では、例えば、防火に関する規定が全て規範として建築設計
中国と日本の設計規準を比較検討することは意義のあるこ
防火規範に制定されている。また、日本と同じく中国も建築
とと思われる。
物の質の向上・確保のため、建築法のみならず、建築物の設
本研究の目的は中低層鉄筋コンクリート構造を対象とし
て、日本と中国の設計法の比較を行い、日中両国における設
計、工事・維持管理などの各段階に対応して各種の手続など
が行政機構によって審査される。
計法の健全性、あるいは相違点を明確にする事を目的とする。
1923年の関東大地震は「市街地建築物法」の構造規定
また、日中両国の設計法により設計された建物の耐震安全性
と建築物の耐震研究に多大の影響を与えた。鉄筋コンクリー
の定量的把握も目的としたが、それに関しては、今後の研究
ト造建物の耐震性の向上のために、日本建築学会は鉄筋コン
課題とした。
クリート造に関する研究を推進した。1933年に日本建築
1.2 日本と中国における構造設計規準の体系
学会は「鉄筋コンクリート構造計算規準」を刊行した。この
建築構造規準の体系に関する法規としては、日本では「建
規準において武藤清は撓角撓度法に基づくラーメン架構の
築基準法」があり、中国では「中華人民共和国建築法」
(略
水平力に対する応力計算の実用計算法としての横力分布係
称建築法)という法律がある。
数法(D値法)を提案した。1937年には、
「鉄筋コンク
日本における建築に関する最初の法規は、
「市街地建築物
リート構造計算規準案」の改正案が提出された。終戦までの
法」であった。1920年に「建築基準法施行令」の前身で
時期は室戸台風(1934年)被害に端を発する「終局強度
ある「市街地建築物法施行規則」が公布され,その中の構造
型の計算体系」ヘの指向であった、更に1947年に長期・
規定には鉄筋コンクリート造建物に関する構造詳細の規定
短期概念が、臨時日本標準規格に代わって、日本建築規格建
に加えて,固定荷重・積載荷重・許容応力度・応力計算・断
築三○○一「建築物の構造計算」に採用されることになった。
面算定計算式等の構造規定と計算規定が制定された。それが、
1968年に十勝沖地震が発生した。この地震では、これま
日本の鉄筋コンクリート造建物設計基準の原点である。19
で耐震性に優れると考えられていた鉄筋コンクリート造建
49年から「市街地建築物法」の全面改正の要望に応じて、
築物に多数の被害が生じた。特に鉄筋コンクリート造柱のせ
建設省は全面改正案の作成に着手し、1950年に「建築基
ん断設計に関する従来の法令や学会規準の柱のせん断補強
準法」という名前で公布した。中国では、90年代以前、法
法が地震に対して不十分なことが実証された。それ以後、鉄
律的なものはなかった。90年代末、全国統一的な建築法制
筋コンクリート造建築物の靭性確保の研究が行われるよう
の制定を望む声が強くなり、その結果1998年に「中華人
になった。柱のせん断補強強化の必要性が明らかになり,そ
53-1
の対策として1971年に学会の鉄筋コンクリート構造計
が頒布され,中国に於いて様々な建築構造設計規範に全て極
算規準の改訂と同時に建築基準法施行令の鉄筋コンクリー
限状態設計法を採用することが規定された。1990年 1 月
ト造関係規定が改正された。この後1981年に「新耐震設
1 日に、
「建築構造設計統一規範」に対応する「コンクリート
計法」が発表され,建築物の固用周期により設計用地震力を
構造設計規範」GBJ10-89 が施行された。
変化させる概念や、建築物の「耐力」だけではなく,
「靭性」
2 構造規定の比較
等に関する計算規定が導入されることになった。1995年
本節では、日本と中国の鉄筋コンクリートラーメン構造に
の兵庫県南部地震では十勝沖地震の災害が再現され、既存不
対する設計用地震力、地震時の建物の変形量に関する層間変
適格建築物への対策が大きな社会問題となった。同時に、一
形制限、靭性率などに関する構造規定の比較を行う。
部のピロティ-建築物を除けば、
「新耐震設計法」で設計され
2.1 設計地震力
た建物の被害率は小さく、
「新耐震設計法」の健全性が実証
(1)地震時の層せん断力(日本)
された。現在、日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造計算
「建築物の構造規定 ―建築基準法施行令第三章の解説
規準」は、許容応力度設計法を主体として、終局強度設計法
と運用―1997年版」の第 88 条:建築物の地上部分の地
の考えを取り入れた形式で取りまとめられている。また、終
震力においては,当該建築物の各部分の高さに応じ,当該高
局強度設計法による耐震設計法に関する日本建築学会指針
さの部分が支える部分に作用する全体の地震力として計算
が、建築設計者により、参考とされている。
するものとし,その数値は,当該部分の固定荷重と積載荷重
中国建国前、建築技術の発展は非常にバランスがとれてい
との和 Wi(多雪区域においては,更に積雪荷重を加えるもの
なかった。近代的な建築技術に基づく構造設計はいくつかの
とする)に当該高さにおける地震層せん断力係数を乗じて計
大都市に限られていた。また、鉄筋コンクリート構造の建設
算することになっている。この場合において 地震時の層せ
例も少なかった。中国建国初期の「建築物構造設計臨時標準」
ん断力 Qi は 次式によって計算する。
i
と1955年の「鉄筋コンクリート構造設計臨時規範」は、
Qi=Ci・
当時ソ連の規範中の終局強度設計法をもとに、制定されたも
のである。50年代末、中国の現状を考慮に入れた中国独自
!
Wi
(2.1)
j =i
(2)水平地震作用代表値(中国)
の建築構造設計規範を編成することが始められた。これらの
「中華人民共和国国家標準 建築耐震設計規範 GBJ11−
規範の作成は、中国建築科学研究院という日本建築学会に類
89」の第 4.2.1 条:底部せん断力法により、建築物の水平
似した学術団体が担当している。1966年に、中国で初め
地震作用標準値は次式によって計算することになっている。
ての「鉄筋コンクリート構造設計規範」
(GBJ21−66)が頒布
FEK=α1・Geq
された。この規範には 当時進んでいた多係数極限状態設計
Fi={G
・ FEK(1−δn)
{Gi・Hi/ΣGj・Hj}
ΔFn=δn・FEK
法が採用された。更に1974年に、単一安全係数極限状態
設計法をもとに、「鉄筋コンクリート構造設計規範」
(2.2)
(2.3)
(2.4)
各記号の意味は次のとおりである。
(GBJ10-74)とそれに関する専門的な規定が制定された。1
FEK:構造総水平地震作用代表値
976年に、中国の唐山市で兵庫県南部地震の強さを上回る
α1:構造の基本振動周期,地盤類別,震源距離による
ものであったと言われる直下型地震が発生した,中国の耐震
水平地震影響係数。下限値α1 は最大値αMAX の 20%
構造技術はこの地震により啓発されたところが大である。震
以上であること。
災後,中国は耐震構造設計法の開発に関する実験的研究に力
Geq:構造等価総重力荷重(総重力荷重代表値の 85%)
を入れ,荷重・材料性能と構造部材に関する研究が行われ,
Fi:質点 I の水平地震作用代表値
外国の先進な技術と規準を参考にして,いろいろな耐震規定
Gi,Gj:質点 i,j の重力荷重代表値
が制定された。更に1984年に「建築構造設計統一標準」
Hi,Hj:質点 i,j の計算高度
53-2
δn:頂上部分付加地震作用係数
付加地震作用係数を用いて、水平地震作用代表値を算定する。
ΔFn:頂上部分付加地震作用
しかし、構造の基本振動周期は、1.4 倍の地盤特性周期値以
(3)計算式の比較
下であれば、頂上部分付加地震作用を考慮しなくてよいとさ
(ア) 中国の耐震設計のレベル
れている。
設計の目標として、中国の耐震設計では、地震時の建物の
2.2 建物の層間変位の規定
挙動を次のように規定している。すなわち、
中国では、鉄筋コンクリートラーメン構造及び有壁架構に
①小震不壊:小さいな地震(常遇地震)では、破壊しないこ
ついては、比較的頻度の多い中地震に対して、構造の地震時
における変形の検討が必要である。層間弾性変形Δus は、次
とを目標として、弾性設計を行う。
②中震可修:中規模の地震では、被害が補修可能な範囲に止
式で求められる。
まることを目標とする。設計手法としては、構造規定によ
Δue =VFj/ΣD
(2.5)
る検討のみで、特別な計算は行わない。
Δue/h≦〔θe〕
(2.6)
ここで、
③大震不倒:大地震の時には、建物が倒壊せず、建物内の人
命の安全を確保することを目標とする。弾塑性設計を行い、
VFj:層地震せん断力。
変形性能の検討を行う。
〔θe〕
:層間変形角。ラーメン構造に対する制限値は
(イ) 地盤の分類方法と地震距離。
1/400 である。
日本では、地盤の類別が地層構成又は地盤周期等により、
h: 層高さ
3種類に分けられている。中国では、まず、岩盤と土壌構成、
日本では、1次設計用の地震力に対して、建物各階の層間
あるいは土層せん断波速により、地盤の一般的な類別を決め、
変形角γi が 1/200 以下となることである。各層の層間変形
さらに、建設現場の岩盤の敷地地盤土厚により、敷地地盤類
δi 及びγi は、建物各層の横力分布数値(D 値)が与えられ
別は4種類に分けられている。
ている場合には、次式で求められる。
中国では、遠距離の地震が建物の特性周期値へ及ぼす効果
も考える。すなわち、近震と遠震が分けられている。地震の
δi=Qi/(ΣD
(ΣDi・12EK0/hi2)
(2.7)
γi=δi/hi
(2.6)
ここには、Q
Qi:1次設計用 i 層せん断力
距離によって、地震時の地盤特性周期値も違っている。
hi:i 層高さ
(ウ) 積載荷重と活荷重
中国では、活荷重というのは、積雪荷重、積埃荷重、屋面
積載荷重、階層積載荷重、等価均一分布荷重による階層荷重
ΣDi:i 層の D 値の総和
3 地震層せん断力と水平地震作用代表値の算定
荷重(図書館など)である。設計地震力を計算する時の構造
ここでは、
鉄筋コンクリート5階建て、
x 方向7スパン、
等価総重力荷重は、固定荷重と活荷重組み合せ係数×活荷重
との和の 85%である。日本では、積載荷重の種類は 床スラ
y 方向3スパンの均等ラーメン建物を例にとり、日中の耐震
ブ用、ラーメン用と地震用の三つに分けられている。すなわ
設計規準、設計地震力と層間変位を算定すると、どの程度異
ち、活荷重は、床スラブ用荷重、活荷重組み合せ係数×活荷
重は、日本のラーメン用積載荷重、85%活荷重組み合せ係数
なるかについて比較検討してみる。地盤は日本の第2種地盤
と想定する。中国の場合は、遠震の第Ⅲ類建築用地と想定し
×活荷重は、地震用積載荷重と見なすことができる。
た。
(エ) 頂上部分付加地震作用
頂上部分付加地震作用というものは、日本では、ホイッピ
中国では、政治と経済などの判断により、建物の用途・重
ング効果と言われている。屋上突出物などがあたかも鞭を振
要度を、耐震設計に考慮することになっている。これは、設
るように大きく振れる現象により、建物の頂上部分に与える
計用地震力の大きさに関してではなく、許容される構造形式、
附加効果である。日本では、屋上突出物があれば、ホイッピ
材料、構造詳細、解析法に関して適用されている。
ング効果を考慮するが、中国では、通常の建物にも頂上部分
53-3
35.00
7.00
7.00
形角を計算する。
7.00
7.00
7.00
Y3
5.50
,
5
0.0008
0.0007
-.
Y2
5.50
16.50
Y1
/0
0.00+3
0.00+2
4
0.00+7
0.00+6
5.50
3
0.00+9
0.00+7
2
Y0
X0
X2
X1
X4
X3
X5
0.00+8
+
0
3.55
図1、伏せ図
3.58
18.12
3.58
7.00
X2
7.00
0.00+
0.00+5
0.002
! 1##X2 3 & 4 5 6 7
0.0009
0.0008
/0
3
0.00+9
0.00+8
2
0.00+8
0.00+9
+
X5
0.00+4
0
図2、立面図
-.
0.002+
7.00
X4
X3
0.0025
0.00+4
0.00+3
4
3.58
7.00
X1
0.0005
,
5
3.83
7.00
X0
0.00+4
3.1 地震時層せん断力と水平地震作用代表値の算定
0.0005
0.00+
0.00+5
0.002
!8##923 &4567
0.0025
日本の標準せん断力係数:C0=2.0(許容応力度設計用)
日中両国とも、弾性範囲内で挙動する事を要求される、設
1 階おける層せん断力係数:Ci=Z・Rt・Ai・C0=2.0
計用地震力については図3に示すようにほとんどの差は
中国の水平地震 影響係数:α1= '% Tg $" ×αmax=2.06
& T1 #
ない。ただし、中国の層間変位は、耐震設計において中
また ここで、対象とした建物の場合、
は、日本より厳しいものとなっている。
0.9
震可修と目標にしていることから、層間弾性変形角制限値
T1=0.414<1.4Tg=1.4×0.55=0.77s であることから
4 今後の課題
頂上部分付加地震作用は考慮しなくてもよい。
今後の課題として、日中両国の設計法により設計された建
地震時層せん断力と層水平地震作用代表値を図3に示す。
物の耐震安全性の定量的把握が行うことがあげられる。日中
,
両国のそれぞれの設計法により設計された建物の耐震安全
+725
+626
5
-.
/0
28+3
2858
4
性の定量的把握と直接比較は共通の手法で行う必要がある
ので,現在日本における既存建物の耐震性能を定量化するの
3704
3790
3
に広く用いられている「既存鉄筋コンクリート造建物の耐震
44+0
44+8
2
診断基準」を用いて,それを行うことが望まれる。
4988
476+
+
0
+000
2000
3000
4000
5000
【参考文献】
6000
1)「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」 1991 年版
2)「建築物の構造関係技術基準解説書」2001 年版
!"###$%&'()*(kN)
3.2 層間変形角の算定
3)
「コンクリート構造設計規範」1990 年 (中国)
前節で述べた地震層せん断力によって各階に生ずる層間変
4)「建築耐震設計規範」1990 年(中国)
53-4
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