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HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしら
寄稿 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成の概要 1. はじめに 2. 車両デザイン 東日本旅客鉄道 (JR 東日本 ) では、世界自 2.1 エクステリアデザイン 然遺産に登録されている白神山地と風向明媚 エクステリア ( 外観 ) は、白神山地と日本海 な日本海沿線を走る五能線に“リゾートしら に囲まれた沿線の美しい大自然、移ろい行く かみ”を運行している。当社の観光列車の先 季節感、どこか神聖で神々しい空気感を「緑 駆けであり、年間を通して多くのお客さまに 豊かな橅の葉とそこから溢れ出る優しい木漏 ご利用いただいている。また、観光地にふさ れ日」で表現することをコンセプトに橅の木 わしく環境にやさしい車両として 2010 年 立をグラデーションで表現し、ナチュラルな 10 月から、HB-E300 系一般形ハイブリッ グリーンの濃淡で優しい木漏れ日を感じさせ ド車両 リゾートしらかみ「青池」編成の運用 るデザインとしている。これらデザインを実 を開始してきた。今回、2016 年 7 月からの 現するため、前頭部は塗装、側面部はデザイ 青森・函館デスティネーションキャンペーン ンシートをフルラッピングしている。 に合わせて、老朽化したリゾートしらかみ「橅 車両前頭の前面・側面に、現行の「橅」編 ( ブナ )」編成 ( キハ 40 系 ) の後継車両として 成と同様のロゴを配し現行車両の DNA を継 ディーゼルハイブリッド車両を新造すること 承するとともに、車両の側面には HB-E300 とした。 系 の 共 通 ロ ゴ で あ る「RESORT HYBRID 本稿においては、HB-E300 系一般形ハイ TRAIN」を配置した。 ブリッド車両リゾートしらかみ「橅」編成の 概要について紹介するとともに、一度は乗っ てみたいと全国的に人気が高い五能線につい て紹介する。また、3 号車の内装を含む一部 車両製造に係わった秋田総合車両センターに ついても紹介させて頂く。 写真 1 車両外観 2.2 インテリアデザイン 東日本旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター えいらく しゅんご 永樂 俊吾 インテリア ( 内装 ) は、「青池」編成からデ ザインを一新し、内装材には青森・秋田県産 の「ブナ」、「スギ」、「ヒバ」などの木材をふ んだんに使用し、地元の工芸品や木のオブ ジェなどの装飾で沿線の大自然を身近に感じ 15 鉄道車両工業 480 号 2016.10 寄稿 ていただくと同時に温かみと安らぎを演出し スイーツなど沿線の“うまいもの”を中心に ている。また、座席のモケットは、東北の夏 地産地消のカフェのような空間を提供するデ 祭りをイメージした幾何学模様をデザインし ザインとしている。 ている。2 号車にはソファータイプのボック ス席を設け、従来より、さらに開放感や展望 3. 車両形式及び室内設備 性を高める設計として個室間の仕切りの一部 3.1 車両形式 をガラス張りとしている。また、2 号車の通 車両形式は、トイレ付き先頭車を HB-E301 路部には五能線の沿線図をグラフィックでデ 形、トイレなし先頭車を HB-E302 形、一般座 ザインした。3 号車には「ORAHO」カウン 席中間車を HB-E300 形 0 番代、半個室中間車 ター ( フードカウンター ) を設置し、地酒や を HB-E300 形 100 番代とした。定員は、HBE301 形 (1 号 車 ) が 34 名、HB-E300 形 100 番代(2号車)が36名、 HB-E300形0番代(3号車) が28名、HB-E302形(4号車)が44名である。 今回、3 号車に「ORAHO」カウンター (フード カウンター ) を設けたため、合計定員は「青池」 編成より 12 名少ない 142 名となっている。 3.2 室内設備 写真 2 室内 ( 一般客室 ) 一般座席の腰掛は、ゆったりとした空間を 提供するため 2+2 列の回 転リクライニング シートを前後ピッチ1,200 ㎜で配置した。背 ずりの背面に収納式のテーブルを設けた他、 インアームテーブルを設置し、グループのお客 さま等が向かい合わせでご利用される場合に もテーブルを使用できるように配慮している。 半個室の座席は、9 室のうち両サイドの 2 室は、「青池」編成と同様室内をフラット化 できる構造である。中央の 5 室はソファータ 写真 3 室内 (2 号車個室 ) イプとしている。 照明は、すべて LED を採用し間接照明を 中心に、デッキ部や半個室にはダウンライト を用いるなど、お客さまに快適にご乗車いた だけるよう配慮した。また、客室の前後妻壁 には LED 式車内案内表示器、天井には 17 イ ンチ液晶表示器を設置した。液晶表示器は、 前方展望カメラ、イベントカメラ、DVD 映 像などの放映を行う。 1 号車、4 号車の乗務員室と客室の間には、 写真4 室内 (2 号車廊下 ) 前方や側面からの眺望を楽しんでいただける 鉄道車両工業 480 号 2016.10 16 展望室を設けている。リゾートしらかみ「橅」 うなほど海岸線すれすれのところを走る五能 編成のデザインシンボルとなる木のオブジェ 線だが、海が近いところに線路を敷設したた を「ブナ」を用いて装飾している。また、展 め、その建設は 28 年間にも及ぶ難工事の連 望用の椅子には、秋田・青森県内の家具メー 続であった。 カーのスツールを採用した。 開通当初は、地域住民の足として活躍し、 生活路線としてなくてはならない路線だった が、やがてモータリゼーションの影響もあり、 生活路線からの転換を図ることになった。そ の中で 1990 年 ( 平成 2 年 ) ノスタルジック ビュートレインを導入して以来、1997 年に は「リゾートしらかみ」が運行を開始し観光 路線として今や「一度は乗ってみたいローカ 写真 5 室内 ( 展望車 ) ル線」として脚光を浴びるほどの人気路線と なっている。 3 号車には、1・3 位側 ( 五能線内の山側 ) に 海沿いを走る五能線は秋田県の東能代駅と 「ORAHO」カウンター ( フードカウンター ) 青森県の川部駅を結ぶ全長 147.2km のロー を設置し、2・4 位側 ( 五能線内の海側 ) に着 カル線だが、世界自然遺産白神山地、夕陽が 席可能な側カウンターを設置している。カウ 沈む日本海と絶景シーンの連続であり、43 ンターには、 青森県産の「ヒバ」を用いている。 駅にも及ぶ沿線には、世界自然遺産に登録さ 「ORAHO」カウンターにて地酒やスイーツな ど沿線の“うまいもの”を提供する。 れた白神山地や奇石の続く日本海、津軽富士・ 岩木山やりんご畑が広がっている。海の青、 夕陽の赤、山の緑、実りの黄金色など色彩溢 れる沿線の景色を四季を通じてぜひご覧いた だきたい。 写真 6 室内 (3 号車フードカウンター ) 4. 五能線について 一度は乗ってみたいと全国的に人気が高い 五能線は、1936 年 ( 昭和 11 年 )7 月 30 日に 全線が開通してから今年で満 80 年を迎えた。 写真 7 走行写真 ( 深浦~広戸間 ) 【主な五能線停車駅の見所】 1908 年 ( 明治 41 年 )7 月、能代 ( 現東能代駅 ) ・陸奥鶴田駅…絵画のような津軽富士見湖か ~能代町 ( 現能代駅 ) 間が開通、続いて 1918 ら見る岩木山。木造三連太鼓橋では一番長 年 ( 大正 7 年 ) に私鉄の陸奥鉄道が川部~五所 い「鶴の舞橋」。 川原間が開通。この二つの路線が、五能線の 歴史の始まりである。波打ち際に手が届きそ 17 鉄道車両工業 480 号 2016.10 ・五所川原駅…7階建てのビルに匹敵する立 佞武多 ( たちねぶた )。 寄稿 ・鰺ケ沢駅…世界自然遺産白神山地の豊かな 森を体験。 ・千畳敷駅…リゾートしらかみの停車タイムの プチ散歩。 ・深浦駅…夕陽の町、夕陽の絶景が眺められ るスポットが多数。 ・ウェスパ椿山駅…波打ち際の露天風呂が有 名な「黄金崎不老ふ死温泉」。 今回、3号車の車両製作を行ったが、車両 製作の歴史は古く、1911 年 ( 明治 44 年 ) には 秋田県の豊富な木材資源を利用して貨車新製 工事に着手、1938 年 ( 昭和 13 年 ) には蒸気 機関車(D51型)の製作を行った。JR移行後は、 秋田地区を走る 701 系電車の新造工事等を手 掛けている。今回製作したリゾートしらかみ ブナ編成は18年ぶりの新造車両であった。 ・十二湖駅…神秘的な瑠璃色の輝きを持つ青 改造工事も数多く手がけ、平成元年に乗っ 池はリゾートしらかみ「青池」編成の名前の てみたいローカル線として五能線が全国的に 由来。 注目されるきっかけとなった眺望列車「ノス ・岩舘駅…見逃せない海の絶景、岩舘駅と大 タルジックビュートレイン」をはじめ、平成 間越駅間は五能線きっての絶景ポイント。 8年にリゾートしらかみ「旧青池」編成 ( キハ 40 系 ) などの改造工事を行っている。その後、 5. 秋田総合車両センター概要 リゾートしらかみ「橅」編成、同「くまげら」 秋田総合車両センターは、1908 年 ( 明治 編成等の改造工事を行った。 41 年 ) に鉄道院東部鉄道管理局土崎工場とし て発足して以来、 「土崎工機部」 「土崎工場」 「秋 田総合車両センター」と名称は変化してきた が、蒸気機関車から電車に至る技術革新や国 鉄改革という激動の歴史を乗り越えて、「技 術の土崎」として鉄道を支えるとともに、地 域の産業と文化の向上に貢献してきた。 2004 年、秋田総合車両センターとなり、 写真8 完成式典 現在は、電車、機関車、気動車等の車両修繕 をはじめ、JR 東日本管内の機関車や気動車 5. おわりに のエンジンの集中修繕をグループ会社と一体 HB-E300系一般形ハイブリッド車両リゾー となり行っている。また、他鉄道会社の車両 トしらかみ「橅」編成は 2016 年 7月16日よ 修繕も受託している。 り営 業 運転を開 始した。新 型「橅」編 成は、 エンジン・変速機においては高い技術を有 これまでのリゾートしらかみになかったフード しており、2016 年 ( 平成 28 年 ) 1月に JR 東 カウンター「ORAHO」カウンターを設置す 日本がミャンマー鉄道公社へ気動車 19 両を譲 るなど、新たなコンセプトで地域の魅力を発 渡した際には、社員4名が現地に赴き、譲渡 信している。また、鉄道ならではの魅力ある 車両のメンテナンスについて技術支援を行っ 旅の提案などを目的にした車両である。青森・ た。また、1995 年 ( 平成7年 ) から、毎年、 函館デスティネーションキャンペーン後も多く 公益財団法人東日本鉄道文化財団が主催する のお客さまに秋田・青森地区にお越しいただ 「海外鉄道職員研修」を受け入れるなど、東南 く一助となることを期待しており、これから アジア諸国をはじめとした海外鉄道技術者の も沿線及び地域の皆さまと共に更なる発展を メンテナンス技術向上にも大きく寄与している。 目指したいと考えている。 鉄道車両工業 480 号 2016.10 18