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概要 - 経済産業省

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概要 - 経済産業省
経済産業省「電子債権の管理・流通インフラに関する研究会」報告書 要点
電子債権プログラム
−次世代産業金融インフラの構築を目指して−
1.産業金融の強化と電子債権
(1)産業金融の複線化を支える新しいインフラ整備−電子債権
バブル経済の崩壊と長期の景気低迷を踏まえ、安定的で持続的な経
済成長を支える強靱な産業金融システムを構築するためには、中堅・
中小企業を中心とした企業の資金調達手法の複線化を支えるインフラ
を整備することが重要であり、経済・金融の基本である「金銭債権」
について、取引の安全を確保しつつ、その流動性を高めるための環境
整備が必要不可欠である。近時は、情報技術の発展により膨大な金銭
債権を簡易・迅速・安価に管理できるようになっている。情報技術を
活用しつつ、金銭債権譲渡に共通の事務コストや二重譲渡等各種リス
クの負担を排除する電子債権制度の創設は、金銭債権の流動性を確保
するためのインフラ整備として極めて重要である。
(2)電子債権のメリット
電子債権は金銭債権を可視化する手段・法技術であり、売掛債権の
可視化は、債権者(納入企業)にとってはファイナンスへの活用拡大
につながり、債務者(支払企業)にとっては財務管理の効率化につな
がる。ローン債権の可視化は、債権者(金融主体)にとっては与信ポ
ートフォリオの調整につながり、債務者(企業)にとっては流動性向
上により調達コストの低下と市場性のある資金調達手法の拡大につな
がる。
(3)インフラ整備における検討の視点
次世代の経済・金融の基本インフラとなるべく、電子債権制度は、
多様な電子債権管理機関が創意工夫をこらして様々なビジネス展開を
行うことを前提にするべきである。そして、多くの金融サービス提供
者や企業等が電子債権を活用した経済・金融取引の便益を享受するべ
く、電子債権制度の創設にあたっては、電子債権を管理し流通させる
ためのインフラの在り方について、実務的な観点からの検討が極めて
重要である。
以下では、電子債権構想を具体化するべく、実務から見た電子債権
1
の活用想定事例や情報技術上の論点、電子債権の管理・流通インフラ
の基本的な考え方や今後の検討課題についてまとめる。
2.シンジケート・ローンにおける活用
(1)我が国のインフラ整備の必要性
我が国のシンジケート・ローン市場は、急速に拡大し、2005年
において26兆円弱の組成があり、その残高は35兆円強の水準まで
成長しているが、セカンダリー市場はまだ十分に発達していない。
米国では、2004年の組成額が140兆円、残高は160兆円と
非常に大きく、かつ、セカンダリー市場も発達している。市場参加者
が広範であり、インフラ整備も進展している。情報技術を活用し、多
様なインフラサービス提供主体が連携し、契約・取引、事務、価格情
報等の標準化が進み、市場参加者の利便性を高めて、取引も促進され
ている。
我が国においては、一層のシンジケート・ローン市場の拡大が望ま
しく、セカンダリー市場の成長が重要な課題である。今後の市場の拡
大を見据えた場合には、調達企業の増加や投資家層の拡大の他、多様
なインフラサービスの提供・活用が必要になってくると考えられる。
債権譲渡慣行が乏しく、また、ほとんどの工程がFAXや電話ベース
のやり取りであり、米国のように電子化・共通化されたインフラ基盤
を持っていない我が国においては、不断のインフラ整備が必要である。
(2)電子債権のメリット
電子債権制度を創設・活用することで、我が国の法制において求め
られる債権譲渡に関する繁雑な手続(確定日付ある通知/承諾、代表
者印鑑・資格証明等)を省くことができると共に、市場インフラにと
って必要不可欠である法的な安定性(転々譲渡されても最終譲受人は
確実に権利を取得する)の確保も可能となる。また、譲渡の手続が簡
易になり、その安定性を高める電子債権制度が創設されて拡がること
は、我が国における債権譲渡慣行定着の嚆矢になるとも考えられる。
電子債権制度を活用したシンジケート・ローン市場のインフラ整備が
進むことが望ましい。
(3)エージェントと電子債権管理機関
貸付金の送金や弁済金の受領、債権の譲渡など、シンジケート・ロ
ーンの管理は、エージェントが取りまとめて行う仕組みとなっており、
エージェントは、情報の伝達・書類の授受、資金の授受、資金の計算・
請求等を処理している。エージェントが電子債権管理機関になるか、
あるいはエージェントが関係者から原簿登録の委任を受け、組成・譲
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渡・消滅の都度、管理機関に申請する仕組みとすること等が有用であ
る。
(4)シンジケート・ローンの管理・流通インフラ
まずはシンジケート・ローンを管理する電子債権管理機関が創設さ
れることが必要である。そのためには、シンジケート・ローンは、売
掛債権等と比較し圧倒的に債権者・債務者数及び債権数が少ないこと
から、簡素なシステムとして稼働することが可能なように、電子債権
のインフラが「柔軟」に設計しうることが望まれる。そして、電子債
権原簿を一つの種子として、我が国においても、シンジケート・ロー
ンの業務フローの効率化・電子化、プライシングやローン格付け、情
報の標準化等の市場インフラ整備が進められ、さらに市場拡大を支え
ていくことが望ましい。
今後、シンジケート・ローンを扱う複数の管理機関ができる場合に
は、市場参加者の利便性が損なわれないよう、標準化や連携が図られ
ることが必要であり、統一の管理機関が設けられる場合には独占によ
る利用価格の高騰を回避することが必要である。
(5)将来への展望
将来、調達企業、アレンジャーやエージェント、参加金融機関や市
場関係者の間で、情報収集から契約、貸出実行、返済までの一連の行
為が電子的に可能となり、様々なシステムが有機的に連携される仕組
み(電子債権市場)に発展していくことが展望される。官民挙げての
議論やローン債権の譲渡等についての啓蒙普及が引き続き望まれる。
3.売掛債権における活用
(1)売掛債権のファイナンスへの活用拡大と電子債権
我が国では、企業の資金調達手段として、金融機関借入と並んで企
業間信用が用いられており、今後も引き続き重要な役割を果たしてい
くものと考えられる。従前は、企業間信用の手段として約束手形が用
いられることが多くファイナンスに活用されていたが、近時急激に減
少している(手形交換金額:平成2年4800兆円、平成15年60
0兆円)。企業間信用の法形式が約束手形から指名債権(売掛債権)に
変わるものの、指名債権は法的な不安定性や譲渡の繁雑さからファイ
ナンスに活用することが困難である。ファイナンスに活用する商品と
しては、ファクタリング、一括決済方式やABCPなどがあるものの、
中堅・中小企業を中心に、その使い勝手に対し課題も指摘されており、
今後、売掛債権の譲渡が大幅に拡大し続けていくという現状にはない
との指摘もされている。しかし、売掛金(指名債権)は土地を凌駕す
3
る資産規模があり、ファイナンスに活用することが極めて有益である
(全企業のバランスシートの構成は土地165兆円に対し売掛債権1
75兆円)
。新たなファイナンスの仕組み(売掛債権の流動化の仕組み)
を構築することが求められており、電子債権での解決が期待される。
(2)一括決済方式と電子債権
多数の売掛債権を譲渡し電子的に管理している一括決済方式は電子
債権への応用が最も容易である。現在一括決済方式を運用している銀
行やリース会社等が電子債権管理機関になり、既存のシステムを低イ
ニシャルコストで電子債権原簿とできるよう、電子債権制度を構築す
ることが望まれる。それにより、既存のサービスの事務負担の軽減と
法的安定性の向上に努めることが可能である。
その上で、今後は、サービスの利用対象企業の拡大のため、電子債
権制度の持つ債権譲渡の簡便さを活用した、売掛債権者が譲渡先を選
択できる「新しい一括決済方式」についての検討が望まれる。転々譲
渡される場合の本人確認がポイントであり、管理機関間の連携の可能
性や、新しい一括決済方式についてのインフラ構築・運営にあたるコ
ストと利便性についてのフィージビリティスタディが求められる。
(3)電子手形と電子債権
我が国と同様に約束手形が普及している韓国では「電子手形法」が
成立し、電子手形管理機関が誕生して電子手形が流通している。我が
国でも、中小企業においても利用できる新しい決済手段として、電子
手形の検討が進んでおり、昨年、経済産業省が沖縄県銀行協会の協力
をえて実施した電子手形プロジェクト(125の企業が参加し実際に
電子手形を振り出し、総計6億円強の資金決済がされた)でも、参加
企業から高い評価を得て電子手形の有用性が示されている。電子債権
法の制定に向け、我が国においても、多くの企業・金融機関において
利用可能な新しい決済手段の在り方について、企業の便益性と負担で
きるコスト、システムへの負荷やランニングコスト等の分析、韓国の
電子手形の利用状況や評価等を参考に、グランドデザインの検討を求
める意見が多い。決済の仕組みやインフラの在り方について、今後の
具体的な検討と取組が期待される。
(4)信託業務と電子債権
売掛債権の信託譲渡に電子債権制度を活用することは有用である。
金銭債権の信託譲渡は、金銭債権の帰属・管理と信用リスクの保有者
を分離するために以前から行われているものの、信託設定や受益権移
転には、債権譲渡の繁雑な対抗要件手続や先行譲渡の確認といった手
間がかかるといった課題があったが、電子債権制度を活用することで
それらの手間が不要になる。そこで、信託銀行が電子債権管理業務を
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併せて行い、信託財産の帳簿を活用・連動させて電子債権原簿を管理
すれば、効率的な管理が可能となる。電子債権管理業務に信託機能と
決済機能を連動させることは、債務者企業には支払先の一元管理、債
権者企業には売掛債権のファイナンス活用拡大といったメリットがあ
ると共に、資金決済と電子債権原簿の消し込みを円滑に連動させるこ
とができる。今後は、更なる具体的な検討が重要である。
(5)リース業務・クレジット業務と電子債権
リース債権の回収方法として電子債権での回収が考えられる。リー
ス債権においても、流動化・証券化の取組は盛んであり、譲渡が行い
やすい電子債権との親和性は高く、リース債権を原因債権として電子
債権の登録をし、流動化することが可能になれば、リース債権の流動
化のリスクとコストを下げることが考えられる。
また、クレジット会社が行う回収代行・集金保証業務に電子債権制
度を活用することが考えられ、クレジット会社のメーカー・販売会社
への支払に電子債権を用いることは有益である。さらに、事業会社向
けの物販だけでなく、消費者向けの物販における信用についても電子
債権が活用されることが考えられる。
リース会社やクレジット会社は、一括決済方式等の売掛債権ファイ
ナンスの大きなサービス提供主体であり、かつ、大量の金銭債権をデ
ータで管理して、債権の流動化も行っていることからすると、リース
会社やクレジット会社が電子債権管理機関になり、現在のシステムを
活用して電子債権のサービスを提供できるような電子債権制度となる
ことが必要である。
(6)ABCPと電子債権
債権者が主導して売掛債権をファイナンスに活用する商品としては
ABCPがある。発行残高は米国が約75兆円に対し、日本は5兆円
程度と少なく、直近ではその増加が頭打ちとなっている。その理由と
して、①二重譲渡の問題、②譲渡禁止特約の存在、③フロード・リス
ク、④ダイリューション・リスク、⑤コミングリング・リスクなどが
課題として挙げられる。それぞれの課題に対し、電子債権原簿によっ
て権利が明確に定まる電子債権の活用が解決策になると考えられる。
電子債権制度を活用したABCPは、①対抗要件具備コストやAUP
コストなどの商品組成コストの削減が図られるだけでなく、②電子債
権の活用による前記リスクの削減・低減により、リスクを勘案して設
定していた劣後部分が削減され投資家に販売する優先部分が拡大する
ことにより、資金調達額が拡大することにもつながる。電子債権制度
を活用することで、我が国のABCP市場がさらに拡大する(売掛債
権のファイナンスへの活用が拡大する)ものと考えられる。そのため
には、中小企業を含むより多くの企業に容易に活用される商品設計が
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必要であり、①手形同様の債務者にとって使いやすい支払の仕組みと
②債務者が容易に電子債権の発生を同意できる仕組みを構築できれば、
売掛債権ファイナンスは飛躍的に拡大すると考えられ、その仕組みの
検討と、広く企業に対する電子債権制度の啓蒙普及を行う必要がある。
さらに、電子債権の活用により信用リスク以外のリスクが排除もし
くは極小化されることから、導管体を通さない、信用リスクに特化し
た新しい流動化商品が誕生することも考えられる。アセット・バック・
ローンは、電子債権の活用により、導管体を通さず取組が可能となる
ことが期待される。今後、電子債権と流動化について、実務家等によ
る具体化に向けた検討が必要である。
(7)売掛債権ファイナンスの今後の検討課題
多数の債権を扱うこれら売掛債権ファイナンスにおいては、データ
を一括して電子的に管理しているという共通点があり、電子債権との
親和性が高く、既存のシステムを応用した、低イニシャルコスト・低
ランニングコストでのスムーズな移行が可能となることが望まれる。
電子債権を売掛債権に活用するためには、双方当事者の電子債権利
用の意思が必要であるから、電子債権を活用することで一層の売掛債
権ファイナンスの拡大を図るためには、①債務者に利用の主導権があ
る商品(一括決済方式)では、債権者の譲渡先選択等の自由度を如何
に確保するか、②債権者に利用の主導権がある商品(ABCP等)で
は、債権譲渡を認めた債務者側にいかにしてメリットを生じさせるか、
転々譲渡されても支払事務の不利益を生じさせないかがポイントであ
る。今後は、実務において使いやすい電子債権の在り方やコスト削減・
費用対効果等についての詳細な検討を行って、電子債権の効果が最大
になるような利用の仕組みと普及策についての検討が重要である。
官民を挙げて電子債権制度の啓蒙普及を行うとともに、管理機関と
なり得る主体におけるフィージビリティスタディが進んでいくことが
望まれ、サービス提供者による連携がされることも必要である。
4.電子債権の管理・流通インフラの在り方
(1)電子債権と情報技術の活用
今日、インターネットバンキングは多くの金融機関において標準的
なサービスとなり、その契約口座数は1432万口座に上っている。
また、証券業界におけるインターネット取引口座数は790万口座に
上り、個人の株式売買代金の80%以上をインターネット取引が占め
るに至り、かつ、相次いで有価証券のペーパレス化が進展している。
利用者の中にも情報技術を用いることへの抵抗感が少なくなり、金融
サービスにおける情報技術の活用が進んでいくことが想定され、電子
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債権構想もこれら金融サービスのIT化による情報処理の促進として
位置づけられる。他方、法律の形で情報技術の活用に関して定める以
上は、デジタルデバイドについて配慮するべきである。
①中小企業においても使いやすく、柔軟な制度となること、②情報
技術に対しては法制度が中立的であること(技術的中立性)
、③電子債
権とは、いわば債権原簿が「電子化」されていることが必要であるが、
原簿への登録の各種申請が「電子化」されている必要は必ずしもない
ことが、重要である。情報技術の活用については、電子債権の普及と
共に実際のサービスの中で様々な工夫ができることが望ましく、今後
の情報技術の発展・普及の中で電子債権の使われ方も変化できること
が望ましい。
(2)電子債権と情報処理におけるポイント
電子債権は、発生・移転・消滅のライフサイクルを経ると共に、そ
の間に分割や閲覧といった処理が行われる。各段階や処理を適切に実
現するためのポイントは、①本人確認の方法、②分割時の親子関係の
管理、③閲覧時の開示先の制御、④消滅時の資金決済と抹消登録との
連携の4点である。
①本人確認の方法については、セキュリティの強度とコストとはト
レードオフの関係にあり、一律に高いセキュリティを課すのは現実的
ではなく各商品の性質と利用者のリスク許容度に委ねる部分も必要で
ある。②分割時の親子関係の管理については、管理機関において、分
割自体の可否、分割回数と分割個数に一定の制限を設けることが必要
であり、分割を認める場合には、各電子債権に番号を振り、親子間で
採番体系を整備することが必要である。③閲覧制御については、原則
として、電子債権原簿は非公開で、利害関係人のみが原簿の閲覧を許
されることとするべきで、閲覧者や閲覧範囲について、債権者・債務
者が合意した範囲に制限する、当事者が事前に設定する、あるいは開
示に段階を設ける等の措置が考えられる。④消滅時の資金決済との連
携については、企業グループ内取引や反復継続した取引、あるいはシ
ンジケート・ローン取引など、利害関係者相互に一定の信頼関係があ
る場合には、実務上、厳密な意味での同期性は必要ないと考えられる。
ただ、債務者と最終債権者との間に信頼関係を定型的に期待できない
サービス(例えば転々流通する電子手形)を提供する場合などは、利
用者の利便性確保や二重払懸念の払拭のため、電子債権管理機関と金
融機関(決済主体)との連携を検討する必要があり、電子債権を活用
する商品により様々な連携の方法を認めるべきである。
(3)電子債権と標準化
電子債権は、登録された電子債権管理機関から移管されることはな
いという仕組みが想定されていることから、管理機関のデータ互換性
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や複数の管理機関相互の接続は必ずしも必要ではない。他方、複数の
電子債権管理機関の併存と多くの利用者による活用、利用者や様々な
関係者のシステムやサービスとの接続や連携、電子債権管理機関が破
綻した場合の原簿データの移管や、企業における多端末化の回避等に
鑑みれば、多数の利用者を想定したり、汎用的な仕組みを提供したり
する電子債権管理機関においては、標準化についての考慮が求められ、
実務に応じた使い勝手や既存システムの応用可能性に配慮しながら、
最低限のフォーマットを提示して、標準化の方向を検討していくこと
も必要と考えられる。また、データ仕様の標準化、利用者コード、電
子債権の記番号管理体系や電子債権管理機関の番号体系、認証方式や
認証レベルの標準化(統一化)も検討の必要がある。
(4)電子債権のインフラ設計の考え方
電子債権は既存の金融・情報サービスの効率化や利便性向上のため
の枠組みであり、また、電子債権管理業専業での採算維持のためには
相当なスケールメリットが必要であると考えられる。金融サービスや
データ管理を提供し適切に運用している事業者が電子債権管理業務を
兼業することは認められるべきであり、既存のシステムとの共用など
を認める必要がある。前述のようなサービスを提供している銀行、信
託銀行、リース会社、クレジット会社等が電子債権管理機関になれる
ような枠組みとすることが必要であり、電子債権管理業務の収益・コ
ストについての更なる検討とその点に即したインフラの要件設定が必
要である。
また、電子債権制度は極力柔軟なものとし、新たなビジネスの発生
による更なる経済活性化・産業金融システム強化の可能性を無用に摘
み取らないことが肝要である。電子債権制度の創設の趣旨である「中
小企業金融の円滑化」という観点からは、多くの中小企業が利用でき
るような一般的なサービスが可能とされる必要もある。
電子債権原簿は、預けられた情報を適切に管理する情報システムで
あることから、まずは情報セキュリティの確保を図りつつ、低コスト
でのインフラ構築と業務負担の軽減を同時に図るべく(低イニシャル
コスト・低ランニングコスト)
、既存の金融機関間決済インフラ、一括
決済システム、ファームバンキングシステム、財務会計ソフト、企業
の経理システム等の活用や連携が不可欠であり、今後は、それらの活
用や連携も含めての更なる具体的な検討を進めるべきである。そして、
既存のシステムを応用した電子債権の活用から始まり、その利便性・
有用性が認知され、前述の売掛債権者が譲渡先を選択できる「新しい
一括決済方式」や電子手形等、多様な局面で利用ニーズが発生するこ
とが考えられる。これら新しいサービスの展開にも適応できる広がり
のある制度となることが望ましい。
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(5)電子債権の管理・流通インフラに求められる要件
電子債権管理機関のイメージとしては、本業の効率化やサービスの
一環として提供するイメージが多く、電子債権法で定める行政による
一定の監督を受けつつ、各サービス主体が創意工夫でそれら様々なビ
ジネスに対応できるような懐の広い制度ができる方が望ましい。
電子債権の管理・流通インフラの基本的な要件は、①データの適切
な処理と信頼性の確保、②情報セキュリティの確保の二点が中心であ
る。
まず、電子債権のインフラの基本は、電子債権データ(原簿)の管
理であり、発生・譲渡・消滅の登録や原簿の閲覧が適切に処理される
ことが電子債権管理機関の基本である。また、電子債権管理機関は、
他者から重要な情報を預かることから、電子債権管理業務の中立性や
公正性が求められることは当然であり、一定の社会的信用の確保が必
要である。他方、フィージビリティーについての具体的な検討を前提
とした安全性や信頼性を要求するべきであり、例えば電子手形と一括
決済方式ではコンピューター資源の量、障害時の影響範囲、一定時間
の処理量などに大きな差異があり、電子債権インフラに求められる安
全性や信頼性にも大きな差異が出てくると考えられる。安全性や信頼
性も利害関係者やデータ処理件数の多寡等に応じて柔軟性を持たせて
考えるべきである。
また、電子債権原簿は情報システムであり、管理機関においては情
報セキュリティの確保が図られることが最も重要である。電子債権原
簿において関与する主体の数や層、電子債権の取扱額、規模や種類な
どにより、セキュリティが自ずと異なってくるものと考えられ、今後
は、①情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)や②国際
標準ISO/IEC15408(コモンクライテリア)など、公のセ
キュリティガイドラインを参考にしつつ、電子債権の利用形態やサー
ビスに応じて想定される脅威と対策等、電子債権の情報セキュリティ
の在り方についての具体的な検討が必要である。
5.電子債権制度の創設に併せて検討すべき関連制度等
(1)法制・会計制度との整理と官民を挙げての検討促進
電子債権の普及は、経済社会の基本インフラとして、その影響範囲
も大きく、現行の他法制及び経済社会動向との整合をとりつつ、電子
債権のメリットを極大化させる必要があり、電子債権制度の検討に平
行して、会計等各種制度における取扱い等の関係整理が必要である。
電子債権制度に関心のある実務家や有識者等による「電子債権実務協
議会(仮称)」を設置するなど、引き続き、電子債権制度を取り巻く諸
課題についての官民を挙げての検討が必要である。
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(2)電子債権と各種保護法制
電子債権は、経済社会の基本インフラとして、消費者や個人事業主
も利用することが考えられることから、消費者契約法や割賦販売法等、
電子債権制度の創設に併せて消費者保護制度での手当も検討する必要
がある。また、情報セキュリティの確保や適切なデータ処理の保持の
ための行政関与が必要であり、消費者等の保護の観点から各種行政規
制を含めて検討する必要がある。さらに、電子債権制度の創設に併せ
て下請法についての検討も重要であり、電子債権制度と個人情報保護
制度との関係の整理も必要である。
(3)電子債権の活用促進等
①信用保証制度の活用
売掛債権を基礎とした電子債権を担保とする融資について、信用保
証協会の保証が可能となれば、金融機関の利用が進むと考えられる。
電子債権を中堅・中小企業にまで広く浸透させるためには、信用保証
制度、売掛債権担保融資保証制度において、信用保証協会が電子債権
を担保とすることで、中小企業及び金融機関の両者の利便性が高まる。
電子債権の活用により、エビデンスの確保や譲渡の諸手続が簡素化さ
れ更なる利便性が向上し、売掛債権担保融資制度の省力化ができると
の期待が寄せられている。
電子債権制度の創設にあわせて電子債権の活用が可能となるよう、
信用保証制度の検討が必要である。
②電子債権と税制メリット
電子債権の活用により、従来の手形等にかかる印紙税負担が軽減さ
れる。また、高度な情報セキュリティが確保された情報システム投資
に対して情報基盤強化税制(税額控除10%又は特別償却50%の選
択適用)が適用されるが、一定の電子債権原簿システムへの投資が同
制度の対象として税制メリットを享受し、イニシャルコストが軽減さ
れることが望まれる。
③政府調達への電子債権の活用
国や地方公共団体が支払人となる売掛代金債権は非常に多い(官公
需契約実績額は平成15年度で約10兆円)。官公庁から民間企業に
対する支払を電子債権によって行うことは、電子債権の普及に拍車を
掛けるとともに、譲渡禁止特約を前提としない商慣行への電子債権の
寄与をアピールする効果も高く、国の保証や利子補給等の直接的支援
によらない、中小企業等の資金調達環境の整備にもつながるとの指摘
があった。官公庁向け債権の電子債権登録についての検討が今後重要
である。
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④電子債権の活用局面
前記以外の電子債権の活用局面として、今後次のような検討が必要
である。
・診療報酬債権等のファクタリング
電子債権は反復継続的に発生する債権に有用である。特に診療報
酬債権(調剤報酬・介護報酬等)については、医療機関が診療報酬
債権を担保・譲渡して資金調達を受けることが多くなると共に、レ
セプト(診療報酬明細書)の電算処理システムの普及拡大も進んで
いることから、電子債権を活用することができるとの指摘があった。
・CLO等
CLOや証券化を前提とした住宅ローンのスキームが一般化して
きている。これらにおいては、書面の管理や確定日付取得等の事務
負担が課題とされている上、対象案件のキャッシュフローを統一す
る必要があるため、返済条件等は全案件が同一に設定されることが
多く、電子債権との親和性が高いとの指摘があった。
・地域金融と電子債権
我が国の多くの中小企業が電子債権の利便性を受けるためには地
域の金融において電子債権が活用されることが必要である。
他方、地域金融機関の中にはそれぞれ電子債権管理機関となりサ
ービス提供することが難しいところもあると考えられる。今後は、
地域金融機関による電子債権活用を想定した共同のプラットフォー
ムの設置・運用を検討することが重要である。
・電子債権と国際展開
貿易債権への電子債権の活用、シンジケート・ローン市場の発展
としての、東アジアの域内資金調達市場としての「国際電子債権市
場」などを将来的な構想として考えられる。とくに、急成長が続く
アジアでは、中小企業によるアセットファイナンスの活用が非常に
有効となると考えられており、我が国で電子債権制度が確立し普及
すれば、そのままアジア全体のデファクトとして拡大できる可能性
を秘めているとの指摘もあり、将来的には電子債権制度が我が国企
業の国際展開を支えるグローバルな制度となるよう環境整備が望ま
れる。
6.おわりに
電子債権制度により金銭債権の流動性が向上し、産業金融の複線化が
進んでいくと、金融慣行(融資慣行や調達慣行)が転換していくことが
期待される。流動性のあるシンジケート・ローンの拡充とセカンダリー
市場の発展によって、調達市場全体が金利上昇局面や景気変動に対しよ
り強い市場として成長することが期待される。また、在庫の段階までは
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当該在庫(動産)を、販売後は売掛債権(電子債権)を担保または与信
根拠として融資を行うことにより、事業活動に連動する流動資産を活用
した資金供給が可能となり、与信根拠を細分化し、適正な与信機会を拡
大していく大きな流れになり、中小企業金融の円滑化が進展することが
期待される。
インターネットやICタグ、EDI等、情報技術の活用・普及を通じ
た情報処理の高度化が進む中、金銭債権を電子化する電子債権制度は、
企業の経済活動と金融サービスの融合・一体化を進めていくものと考え
られる。
今後は、電子債権制度の創設に向けて、本報告書に掲げられた諸課題
について一層の検討が進められ官民を挙げた取組が続いて、我が国経済
の一層の発展や生産性向上・効率化に寄与する、新しい経済・金融イン
フラとして電子債権制度が定着していくことが望まれる。
以 上
12
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