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Nd-Fe-B 系永久磁石の細線化と 高保磁力化に関する研究 大分大学

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Nd-Fe-B 系永久磁石の細線化と 高保磁力化に関する研究 大分大学
Nd-Fe-B 系永久磁石の細線化と
高保磁力化に関する研究
A study of line thinning and improving coercive force of
Nd-Fe-B based permanent magnet
大分大学大学院工学研究科
博士後期課程
博士論文
2011 年
山道
3月
大介
目次
第1章
序 論 ................................................................................................ 1
第 1 .1 節 本 研 究 の 社 会 的 意 義 ......................................................................... 1
第 1 .2 節 本 研 究 の 目 的 ................................................................................... 4
1 .2 .1
微 小 永 久 磁 石 の 磁 気 特 性 ................................................................... 4
1 .2 .2
永 久 磁 石 の 細 線 化 ............................................................................. 9
第 1 .3 節 本 研 究 の 概 要 .................................................................................. 13
第2章
単 ロ ー ル 法 を 用 い た Nd-Fe-B 材 料 の 薄 帯 化 ....................................... 14
第 2 .1 節 緒 言 ............................................................................................... 14
第 2 .2 節 Nd-Fe-B 磁 石 材 料 の 薄 帯 化 .............................................................. 15
2 .2 .1
母 合 金 の 作 製 .................................................................................. 15
2 .2 .2
単 ロ ー ル 法 を 用 い た 磁 石 薄 帯 の 作 製 .................................................. 17
2 .2 .3
諸 特 性 測 定 方 法 ............................................................................... 20
2 .2 .4
Nd-Fe-B 磁 石 薄 帯 ........................................................................... 23
第 2 .3 節 単 ロ ー ル 法 の 改 良 に よ る Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化 ................................ 26
第 2 .4 節 結 言 ............................................................................................... 33
第3章
Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化 ..................................................................... 34
第 3 .1 節 緒 言 ............................................................................................... 34
第 3 .2 節 テ イ ラ ー 法 を 用 い た Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化 ....................................... 35
第 3 .3 節 回 転 液 中 紡 糸 法 を 用 い た Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化 ................................ 38
3 .3 .1
作 製 機 構 及 び 作 製 条 件 ..................................................................... 38
3 .3 .2
細 線 化 の た め の 母 合 金 組 成 ............................................................... 40
3 .3 .3
Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%薄 帯 の 作 製 と 細 線 試 料 の 比 較 ................................... 47
第 3 .4 節 結 言 ............................................................................................... 67
第4章
結 論 ............................................................................................... 68
第 4 .1 節 本 研 究 の 総 括 .................................................................................. 68
第 4 .2 節 今 後 の 課 題 ...................................................................................... 69
謝辞
...................................................................................................... 70
参考文献
...................................................................................................... 71
付録
...................................................................................................... 75
第1章
序論
第 1 .1 節
本研究の社会的意義
表 1 .1 は 厚 生 労 働 省 が 発 表 し た 統 計 調 査 結 果 の 報 道 発 表 資 料 ( 三 大 死 因 )
で あ る [ 1 ] . 上 位 三 疾 患 の 悪 性 新 生 物 ( 癌 ), 心 疾 患 , 脳 血 管 疾 患 は 順 番 こ そ 変
動しているものの,常に日本人の多くの死因となっている事がわかる.
Ta b l e 1 . 1
Cause-specific death rate (malignant neoplasm, cardiac disease,
cerebrovascular disease of Japanese in Japan[1])
表 1 .1
日 本 に お け る 日 本 人 の 三 大 死 因( 悪 性 新 生 物 ,心 疾 患 ,脳 血 管 疾 患 )
別 死 亡 数 [1]
死因
昭 和 55 年
平成2年
(1980)
(1990)
順位
死因
死亡数
死因
死亡数
第1位
脳血管疾患
162 317
悪性新生物
217 413
第2位
悪性新生物
161 764
心疾患
165 478
第3位
心疾患
123 505
脳血管疾患
121 944
死因
平 成 12 年
平 成 20 年
(2000)
(2008)
順位
死因
死亡数
死因
死亡数
第1位
悪性新生物
295 484
悪性新生物
342 963
第2位
心疾患
146 741
心疾患
181 928
第3位
脳血管疾患
132 529
脳血管疾患
127 023
近年,このような状況においてこれらの病症に有効で,しかも患者の体力に
負 担 が か か り に く い 低 侵 襲 医 療 が 先 端 医 療 と し て 発 展 し て い る [2].
抗がん剤治療のためのドラッグデリバリーシステムや心疾患や脳血管疾患の
一部の症例で用いられるカテーテル治療は低侵襲医療の一種である.ドラッグ
デ リ バ リ ー シ ス テ ム と は ,病 変 部 分 に 集 中 的 に 薬 剤 を 輸 送 す る シ ス テ ム で あ り ,
薬の使用量が少なくてよいため,副作用が軽減できるというメリットがある
1
[3]-[7]. ま た カ テ ー テ ル 治 療 と は , 足 の 付 け 根 の 太 い 血 管 か ら ガ イ ド ワ イ ヤ と
よばれるワイヤにより治療器具を病変部まで通し,血管の狭い部分を広げたり
削ったり,また動脈瘤内部の塞栓を行う治療法である.この方法は胸部,頭部
を切開する必要が無いため,手術による傷が少なくて済むというメリットがあ
る.
ドラッグデリバリーシステムやカテーテル治療では,外部磁界により体内に
挿入した磁性体や永久磁石を動かすことで薬剤の輸送を行ったり,ガイドワイ
ヤの方向制御が行われるようになり,より正確に病変部を捉える治療方法へと
発 展 し て い る . 図 1 .1 に 磁 界 に よ り ガ イ ド ワ イ ヤ 先 端 の 方 向 制 御 を 行 う 概 念
図を示す.磁界中に置かれた永久磁石のトルクによってガイドワイヤ先端は曲
げられる.このとき磁界の方向を制御することでガイドワイヤ先端は任意方向
に 曲 げ る こ と が 出 来 る [8].
これらの治療で用いられる永久磁石の寸法は,例えばカテーテル治療のガイ
ド ワ イ ヤ 先 端 に 用 い ら れ る も の で 直 径 が 0.32 mm, 長 さ が 1 mm の Nd-Fe-B
焼 結 磁 石 が あ る [12]. こ の 程 度 の 大 き さ の 永 久 磁 石 を 本 論 文 で は 微 小 永 久 磁 石
と 呼 ぶ こ と に す る .一 般 に 微 小 永 久 磁 石 は N d - F e - B 系 焼 結 体 か ら の 切 り 出 し が
行われている.それは,焼結体の寸法精度が悪いためであるが,加工量が増え
るために微小永久磁石はコストが高くなる.したがって,微小永久磁石を容易
に作製することは永久磁石の価格を下げることとなり,社会的に意義のあるこ
とである.
2
S
Blood vessel
Guide wire
Pole piece
N S
Small magnet
N
Directional control by magnetic field
S
Blood vessel
Pole piece
Guide wire
N
S
Small magnet
N
Fig. 1 .1
Directional control of guide wire in magnetic field
図 1 .1
磁界によるガイドワイヤの方向制御
3
第 1 .2 節
本研究の目的
本節では微小永久磁石の材質や要求される特性を明らかにし,作製方法を提
案する必要がある.
1 .2 .1
微小永久磁石の磁気特性
図 1 .2 に は 均 一 な 磁 場 中 に 置 か れ た 永 久 磁 石 に ト ル ク が か か り 永 久 磁 石 が
動 く 模 式 図 を 示 し た . 磁 場 と 永 久 磁 石 の な す 角 度 は 最 大 の π /2 と す る .
式( 1 )で 均 一 な 磁 場 H 中 に 置 か れ た 永 久 磁 石 の 磁 気 モ ー メ ン ト m に は た ら く
トルク T は
Τ = m H sin θ
(1)
で 表 さ れ る . こ の と き sin θ = 1 と す る .
外部磁界によるガイドワイヤの方向制御を行う場合,体内の中心付近の直径
30 cm の 球 状 の 領 域 で は 最 小 で 約 0.1 T 程 度 の 磁 界 強 度 と な る [12]. 本 研 究 で
目 標 と す る 磁 石 寸 法 は ガ イ ド ワ イ ヤ に 装 着 可 能 な 直 径 0.2 mm, 長 さ 2 mm と
設 定 し ,方 向 制 御 に 必 要 な ト ル ク の 大 き さ が 約 2.5×10-6 N m で あ る の で ,こ の
トルクを発生させるために必要な微小永久磁石の磁化の値を求めると以下のよ
うになる.微小永久磁石内部の反磁界は無視できるものとして,このとき磁気
モーメントの大きさ m は
m =T /H
= 2.5 × 10 −6 × 4π × 10 −6
(2)
= π × 10 −11 Wb ⋅m
= 0.025 emu
と な る . 微 小 永 久 磁 石 の 体 積 V が V = 2π × 10
−11
m3 で あ る の で 微 小 永 久 磁 石 の 残
留 磁 化 Mr は
Mr = m /V
= π × 10 −11 × 1011 × (2π )
−1
= 0.5 Wb/m 2
= 5000 G
(3)
と な る .保 磁 力 H c は 駆 動 用 マ グ ネ ッ ト に よ り 永 久 磁 石 の 磁 化 が 反 転 し な い よ う ,
少 な く と も H c = 10 / 4π A / m ( 1 k O e ) 以 上 は 必 要 で あ り ,目 標 を H c = 5 × 10 / 4π A / m
6
6
4
(5kOe)と 設 定 し た .
図 1 .3 (a), (b)に は 減 磁 曲 線 と エ ネ ル ギ ー 積 を 示 す . (a)で 減 磁 曲 線 を 直 線 と
し た と き , 最 大 エ ネ ル ギ ー 積 (BH)max は
( BH ) max = 49 kJ/m 3
(4)
= 6.2 kGOe
となる.
Pole piece
Small magnet
N
S
N
N
S
S
Magnetic field
Fig. 1 .2
To r q u e o f p e r m a n e n t m a g n e t p l a c e d i n a h o m o g e n e o u s m a g n e t i c
field
Magnetic Flux Density (Wb/m2)
図 1 .2
均一磁場中に置かれた永久磁石にはたらくトルク
(a)
Fig. 1 .3
(b)
Demagnetization curve(a) and energy product (b)
図 1 .3
(a)減 磁 曲 線 と (b)エ ネ ル ギ ー 積
5
図 1 .4 は 永 久 磁 石 の 最 大 磁 気 エ ネ ル ギ ー 積 (BH)max の 推 移 を 示 し た も の で
あ る [15]. ま た , 図 1 .5 は 永 久 磁 石 の 保 磁 力 の 推 移 を 示 し て い る . こ れ ら に
示す様々な永久磁石の中から,微小永久磁石の磁化と保磁力の大きさをそれぞ
れ満たす磁石材料を選ぶ必要がある.アルニコ磁石に代表される鋳造磁石の残
留 磁 化 は M r ,( 残 留 磁 束 密 度 B r ) は 0 . 5 W b / m 2 以 上 で あ る が 保 磁 力 が 8 0 k A / m
以 下 で 磁 化 が 反 転 す る 可 能 性 が あ り , 使 え な い [16]. フ ェ ラ イ ト 磁 石 の 場 合 ,
保磁力は満たしているものの,残留磁束密度は条件を満たしておらず,トルク
が 小 さ く な る [17]. よ っ て 不 適 で あ る . 図 1 .6 に は 金 属 の 生 産 量 と 価 格 の 関
係 を 示 す [18]. Sm-Co 磁 石 は 残 留 磁 束 密 度 も , 保 磁 力 も 満 た し て い る も の の ,
S m は 希 土 類 元 素 の 中 で も 希 少 元 素 で あ り ,同 様 に C o も 希 少 で 戦 略 物 質 で あ る
[20]. 残 留 磁 化 と 保 磁 力 の 両 特 性 を 満 た し Sm-Co 系 永 久 磁 石 よ り も 安 価 な 材 料
で あ る Nd-Fe-B 永 久 磁 石 が 現 在 最 も 多 く 利 用 さ れ て お り , 本 研 究 で 作 製 す る 微
小 永 久 磁 石 の 材 料 に 選 定 し た [18], [21].
目標とする磁石
のエネルギー積
Fig. 1 .4
図 1 .4
Maximum energy product (BH)max of permanent magnet[15]
永 久 磁 石 の 最 大 磁 気 エ ネ ル ギ ー 積 (BH)max[15]
6
Fig. 1 .5
Tr a n s i t i o n a l c h a n g e o f c o e r c i v e f o r c e H c B w i t h p e r m a n e n t
magnets[15]
図 1 .5
永 久 磁 石 の 保 磁 力 HcB の 推 移 [15]
7
Fig. 1 .6
Relations between quantity of metal production and price[18]
図 1 .6
Ta b l e 1 . 2
表 1 .2
金 属 生 産 量 と 価 格 の 関 係 [18]
Crustal abundance of rare earth metal and price[19]
希 土 類 の 地 殻 存 在 量 ( 大 陸 地 殻 ) お よ び 金 属 価 格 [19]
8
1 .2 .2
永久磁石の細線化
微小永久磁石の製造コストを低く抑えるためには成分の最適化並びに加工
する手間が省ければよい.
図 1 .7 に 従 来 法 で あ る Nd-Fe-B 焼 結 体 か ら 微 小 永 久 磁 石 を 製 造 す る 方 法 を
示す.先に述べたように,焼結体は寸法精度が悪いために後加工によって所望
の微小永久磁石を得る必要がある.その際,微小永久磁石の径方向と長さ方向
の両方を削り揃える必要が生じる.
Fig. 1 .7
Conventional method of producing small-sized permanent magnets
図 1 .7
微小永久磁石作製の従来法
そ こ で ,円 柱 状 の 微 小 永 久 磁 石 を 作 製 す る こ と を 考 慮 す る と ,同 じ 径 の 磁 石
細線を作製できれば,長さ方向のみを切りそろえるだけで容易に所望の微小永
久 磁 石 を 作 製 す る こ と が で き る と 考 え ら れ る .図 1 . 8 に そ の 製 造 工 程 を 示 す .
図に示すように,磁石母合金を細線化し,熱処理による保磁力の最適化,切断
表面処理,着磁を行えば従来の方法に比べ製造工程が少なくて済む.また,細
線磁石を切断する前に着磁を行えば,長さがあるので微小永久磁石の形状に比
べ取り扱いが容易であり,反磁界が小さいので着磁がし易くなる.
9
Fig. 1 .8
New method of producing small-sized permanent magnet
図 1 .8
微小永久磁石作製の新しい方法
10
図 1 . 9 は 図 1 . 7 ,図 1 . 8 に 示 し た 従 来 法 と 新 し い 方 法 に よ る 微 小 永 久 磁
石作製の概念図である.焼結体から削り出すのに比べ,細線を切断する方が容
易に微小永久磁石を得ることが出来る.
金属の細線化は通常インゴットから作られた丸材をダイスで線引きする事で
行われる.細い線材を製造するには多くのダイスで少しずつ線径を細くしてい
くためコストが高くなる.また脆弱な材料の線引きは困難である.したがって
ダイスや線引き加工が不要となる溶融金属から細線を直接製造する凝固法が考
えられ,細線作製方法の検討が必要である.以下にその方法を挙げる.
(1)単ロール法の改良による細線作製
(2)テイラー法
(3)回転液中紡糸法
本 研 究 で 用 い る Nd-Fe-B 系 合 金 で は 磁 石 粉 末 製 造 プ ロ セ ス の 一 部 に 凝 固 法
の 一 種 で あ る 単 ロ ー ル 法 が 用 い ら れ て い る [22]― [24]. し た が っ て , 単 ロ ー ル
法による細線作製も検討を行い細線化の知見を得た.凝固法による細線作製法
と し て は , テ イ ラ ー 法 と 回 転 液 中 紡 糸 法 が 知 ら れ て お り , Nd-Fe-B 合 金 を 用 い
た 場 合 の 検 討 が 必 要 で あ る [25], [26].
Sintered method
Sintering
Rapid cooling method
Rapid cooling
wire
large block of sintered magnets
Cutting
Cutting out
Fig. 1 .9 Intellection of producing small-sized permanent magnet with the
conventional and new method
図 1 .9 従 来 法 と 新 し い 方 法 に お け る 微 小 磁 石 作 製 の 概 念
11
従 来 , Nd-Fe-B 溶 融 合 金 か ら 磁 石 細 線 を 得 た 報 告 は な い . し た が っ て , 以 下
の点が課題となる.
( 1 ) い ず れ か の 方 法 に よ る Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化
(2)細線磁石の作製条件の解明
(3)所望の磁気特性を得るための条件や熱処理法の解明
以 上 か ら ,本 研 究 で は N d - F e - B 系 合 金 を 溶 融 状 態 か ら 直 接 細 線 化 し 微 小 永 久
磁石を作製するにあたり,以下の事を明らかにする.
( 1 ) Nd-Fe-B 磁 石 細 線 を V 字 溝 つ き 単 ロ ー ル 法 , テ イ ラ ー 法 , 回 転 液 中 紡
糸法により作製した前例は無いため,それらを用いた細線作製の可能
性
(2)得られた細線試料で所望の磁気特性が得られるか評価
(3)細線試料作製方法が及ぼす磁気特性(保磁力)への影響
以上の観点から,具体的には,下記の点に関して検討する.
( 1 ) に 関 し て は , Nd-Fe-B 母 合 金 を 作 製 し , そ れ を 用 い て 実 際 に 細 線 試 料 の
作製を行うことで細線作製の可,不可を確認する.
(2)に関しては,作製した細線試料を振動試料型磁力計を用いることで飽和
磁化と保磁力を測定し評価する.
(3)に関しては,磁気特性に及ぼす影響がどのような原因によるかを明らか
に す る 必 要 が あ る . 先 に 述 べ た よ う に , Nd-Fe-B 磁 石 粉 末 の 作 製 プ ロ セ ス の 一
部に単ロール法が用いられており,この方法で作製される薄帯試料は永久磁石
となることが分かっている.したがって,薄帯試料と細線試料の特性を比較す
ることで高保磁力材料の作製条件を明らかにする.
12
第 1 .3 節
本研究の概要
本論文は,本章を含めて 4 章で構成されている.以下にその概要を示す.
第 1 章では,本研究の社会的意義を明確にし,目標とする微小永久磁石の特
性を示した.また,本研究の目的を示す.
第 2 章では,微小永久磁石を得るための基礎的検討を行う.先に述べたよう
に,単ロール法で作製した薄帯試料ではハード磁性を示す報告が有る.したが
って,実際に薄帯試料を作製する.また,単ロール法を改良し細線試料の作製
が可能か検討する.
第 3 章 で は ,同 様 の N d - F e - B 系 母 合 金 を 用 い て 細 線 の 作 製 を 試 み る .手 段 は
凝固法であるテイラー法,回転液中紡糸法を用いる.得られた細線試料の磁気
特性は,単ロール法により得られた薄帯試料と比較する.具体的には細線試料
と 薄 帯 試 料 の X 線 回 折 法 に よ る 分 析 や ,走 査 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 断 面 の 観 察 を
行い比較することで,細線試料と薄帯試料の違いを明確にし,細線作製方法が
磁気特性(保磁力)に与える影響を明確にする.
最後に,第 4 章では本研究の総括を行い,今後の研究課題を述べる.
13
第2章
第 2 .1 節
単 ロ ー ル 法 を 用 い た Nd-Fe-B 材 料 の 薄 帯 化
緒言
本章では,微小永久磁石を容易に作製するための足がかりとして,単ロール
法 を 用 い た N d - F e - B 磁 石 薄 帯 を 作 製 す る .こ れ は ,実 験 に 用 い る 母 合 金 組 成 が
ハード磁性を示すことを確認しておく意味がある.同様の組成で細線を作製し
た場合,特性を比較することが出来る.さらに,銅ロールに溝を彫る等単ロー
ル法による細線作製も試み,知見を得る.
一 般 の バ ル ク Nd-Fe-B 永 久 磁 石 は 母 合 金 作 製 時 に 単 ロ ー ル 法 や ス ト リ ッ プ
キャスト法により溶融合金を急冷すると,永久磁石として大きな保磁力が発現
す る こ と が 知 ら れ て い る [27]― [29].
得られた薄帯試料は,アーク炉で作製した母合金と共に,単ロール法で作製
し た 薄 帯 試 料 の 磁 気 測 定 を 振 動 試 料 型 磁 力 計 ( VSM: vibrating sample
magnetmeter ) で 行 う . 薄 帯 試 料 は 粉 末 X 線 回 折 ( PXRD: Powder X-ray
diffractmeter) に よ り , 析 出 相 の 同 定 を 行 う . 粉 末 の 作 製 に は ボ ー ル ミ ル を
用 い た . ま た , 熱 測 定 に は VSM と と も に 示 差 走 査 熱 量 計 ( DSC: Dfferential
scanning calorimetry) を 用 い る .
14
第 2 .2 節
2 .2 .1
Nd-Fe-B 磁 石 材 料 の 薄 帯 化
母合金の作製
母 合 金 の 作 製 は 99.9%電 解 鉄 , 99.9%ネ オ ジ ム , 20%フ ェ ロ ボ ロ ン を 用 い て
所 望 す る 質 量 に 秤 量 し た . こ れ ら の 金 属 は 図 2 .1 , 図 2 .2 に 示 す よ う な 機
構のアーク溶解装置を用いて合金の作製を行った.用いた装置は日新技研製超
小 型 真 空 ア ー ク 溶 解 装 置 で あ る .図 2 . 2 の 銅 受 け 皿 に 秤 量 し た 元 素 を 入 れ ,真
空 容 器 を 一 度 6×10- 3 Pa に 引 き , そ の 後 大 気 と の 相 対 圧 力 - 0.04 MPa ま で
A r ガ ス で 置 換 し た .放 電 電 極 棒 に は ト リ ウ ム タ ン グ ス テ ン 製 の も の を 用 い ,ア
ー ク 電 源 の 放 電 電 流 は 100 A と し た . 組 成 の ば ら つ き を 抑 え る た め に , 母 合 金
は試料作製に用いる分量をアーク炉で作製し,一度の試行で使い切る.
Ar gas
Diffusion
-
+
Electric power supply
Oil-sealed rotary pump
A
Mother alloy
Discharging electrode
Copper holder
Va c u u m c h a m b e r
Fig. 2 .1
図 2 .1
Simple overview of arc melting furnace
超小型真空アーク溶解装置の概略
15
Discharging electrode
Copper holder
Fig. 2 .2
A part of copper holder and discharging electrode
図 2 .2
銅製受け皿と放電電極部分
薄 帯 の 作 製 に 用 い る 母 合 金 組 成 は ,Nd-Fe-B 焼 結 磁 石 の 代 表 的 な 組 成 で あ る
N d 1 5 F e 7 7 B 8 a t . % と し た [ 3 0 ] .こ の 組 成 で 佐 川 ら が 作 製 し た 異 方 性 焼 結 磁 石 の 磁
気 特 性 を 表 2 .1 に 示 す . 薄 帯 試 料 は 異 方 性 化 し て い な い の で 表 2 .1 程 の 特
性 は 得 ら れ な い [31].
Ta b l e 2 . 1
Magnetic properties of Nd15Fe77B8 at.% sintered magnet[30]
表 2 .1
Nd15Fe77B8 at.%焼 結 磁 石 の 磁 気 特 性 [30]
Residual flux density: Br
1.23 T
Coercive force
: Hc
880 kA/m
Energy product
: (BH)max
290 kJ/m3
16
2 .2 .2
単ロール法を用いた磁石薄帯の作製
試 料 作 製 方 法 と し て ,図 2 .3 ,図 2 .4 に 示 す Ar ガ ス 雰 囲 気 で の 単 ロ ー ル 法 を 用
いた.単ロール法は回転銅ロールに溶融した合金を吹き付け薄帯試料を得る液体急冷
法の一種である.以下にその機構と原理を示す.大気中で薄帯を作製する場合,
( 1 ) 試 料 作 製 室 を Ar ガ ス で 置 換 す る .
(2)母合金を挿入した石英ノズルを誘導加熱コイル内に設置し融解する.
( 3 ) Ar ガ ス を チ ュ ー ブ 内 に 噴 射 す る こ と で 溶 融 金 属 を 回 転 ロ ー ル 上 に 放 出 す る .
(4)噴射された溶融金属は回転銅ロールに当り空間に飛散しながら冷却され薄帯
になる.
Crystal Nozzle
Induction Coil
Diffusion pump
Melt
Melt Jet
Ribbon
Rotating Copper wheel
Vacuum chamber
Oil-sealed rotary pump
Fig. 2 .3
Schematic view of single-role apparatus
図 2 .3
単ロール装置の概略図
17
Ar gas
図 2 .4 は 雰 囲 気 置 換 型 薄 帯 作 製 装 置 の 誘 導 コ イ ル 及 び 銅 ロ ー ル 部 分 で あ る . 試 料 作
製部分は真空チャンバーで覆われており,雰囲気制御時はチャンバー内を油拡散ポン
プ で 0.04Pa ま で 真 空 に 引 き , そ の 後 Ar ガ ス を 所 定 の 圧 力 ま で 満 た し た .
Crystal Nozzle
Induction Coil
Rotating Cupper wheel
Vacuum chamber
Fig. 2 .4
A part of induction coil and copper role
図 2 .4
誘導コイル及び銅ロール部分
18
薄帯作製の条件は単ロール回転速度,試料作製室気圧,ガス噴射圧,高周波電源出
力 , チ ュ ー ブ 対 銅 ロ ー ル の 間 隔 が 重 要 と な る . 表 2 .2 に そ の 条 件 を 示 す . ま た , 単
ロ ー ル 法 に よ り 作 製 さ れ た 薄 帯 試 料 を 図 2 .5 に 示 す .
Table 2 .2
Conditions of producing ribbon with single role method
表 2 .2
単ロール法を用いた試料作製条件
Nozzle orifice size
0.6
mm
Gap length between nozzle top and copper role
0.5
mm
Speed of copper role spinning
10.05, 18.9, 42
m/s
Atmospheric pressure of chamber
40
Injection pressure
0.6
Output current
15
Fig. 2 .5
cmHg
kgf/cm 2
Ribbons which are produced with single role method
図 2 .5
単ロール法により作製されたリボン
19
A
2 .2 .3
諸特性測定方法
飽 和 磁 化 , 保 磁 力 お よ び キ ュ リ ー 点 の 測 定 に は 理 研 電 子 製 VSM を 用 い る . 磁 化 方
向 は 薄 帯 の 長 さ 方 向 と す る . ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ の 測 定 に は 最 大 10 kOe, も し く は
15kOe の 磁 界 を 印 加 し た .磁 界 の 掃 引 速 度 は 1 ル ー プ あ た り 5 分 と し た .ま た 磁 化 の
温 度 依 存 性 測 定 で は 20 Oe の 弱 磁 場 で ,縦 置 き 式 マ ッ フ ル 炉 を 磁 極 間 に 設 置 し て 測 定
を 行 っ た . 昇 温 条 件 は , 室 温 か ら 750℃ ま で 1 分 間 に 4.5℃ の 割 合 で 昇 温 し た . 各 測
定 前 に は Ni 片 で 磁 化 の 値 を 校 正 す る .
以 下 に VSM の ブ ロ ッ ク 図 を 示 す .
Fig. 2 .6
図 2 .6
Block diagram of VSM
振動試料型磁力計のブロックダイヤグラム
20
熱 分 析 に 関 し て は ,DSC に よ り 相 転 移 の 観 測 を 行 う こ と で ,析 出 す る 結 晶 相 の 同 定
を 行 う . 装 置 は SII 製 DSC6200 を 用 い た . 以 下 に DSC の 測 定 原 理 を 示 す .
図 2 .7 , 図 2 .8 は DSC の セ ン サ 部 分 で あ る . DSC の 検 出 部 構 造 は , 熱 流 束 型
DSC の 構 造 を と っ て い る .ヒ ー ト シ ン ク は 温 度 プ ロ グ ラ ム に よ っ て 精 密 に 温 度 コ ン ト
ロールされる.ヒートシンクの熱は,熱流入面からサンプル側,リファレンス側それ
ぞれの熱抵抗体を通じ,サンプル,リファレンス各ホルダーに載せられたサンプル容
器,リファレンス容器内に伝えられる.これにより,サンプルおよびリファレンスが
ともに昇温,降温する.各熱抵抗体を通る熱流は,各熱抵抗体の両端,つまり熱流入
面と各ホルダーでの温度差に比例する.ヒートシンクは精密に温度コントロールされ
て い る た め ,熱 流 入 面 で の 温 度 は 均 一 に な っ て い る .し た が っ て ,サ ン プ ル ホ ル ダ ー ,
リファレンスホルダーに流れる熱流の差は,サンプルホルダー及びリファレンスホル
ダ ー で の 温 度 差 に 比 例 す る . 熱 流 束 型 DSC で は , こ の 温 度 差 信 号 を 検 出 し , DSC 信
号 と し て い る . な お 測 定 時 は , 試 料 の 酸 化 を 抑 制 す る た め に Ar ガ ス を 60 ml/min.フ
ロ ー し て あ る .試 料 の 入 る パ ン は 白 金 製 の 物 を 用 い オ ー プ ン に し た ま ま 測 定 を 行 っ た .
リ フ ァ レ ン ス に 用 い る 物 質 は 酸 化 ア ル ミ ニ ウ ム の 粉 末 を 用 い た . 昇 温 速 度 は 10 ℃
/min. と し た .
Reference case
Sample case
Reference holder
Sample holder
Heater
Heatsink
Heat inflows
Heat resistive elements
Fig. 2 .7 Construction of DSC sensing station
図 2 .7
示差走査熱量計センサ部分の構造
21
Reference case
Sample case
Fig. 2 .8
A part of DSC sensing station
図 2 .8
DSC セ ン サ 部 分
作 製 さ れ た 試 料 の 相 分 析 に は リ ガ ク 製 X 線 回 折 装 置 Miniflex Ⅱ を 用 い た . 管 球 に
は Cu 管 球 を 用 い , 管 電 圧 出 力 は 30 kV, 管 電 流 出 力 は 15 mA で あ る . 測 定 試 料 は ,
遊星型ボールミルにより粉末化後試料プレートに充填して測定を行った.
試 料 の 表 面 観 察 は 実 体 顕 微 鏡 と 電 界 駆 動 型 走 査 電 子 顕 微 鏡 ( FE-SEM) を 用 い , 加
速 電 圧 を 25 kV と し た .
22
2 .2 .4
Nd-Fe-B 磁 石 薄 帯
図 2 .9 に は ,Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%組 成 を VSM で 測 定 し た ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ を 示 す .
そ の と き の 磁 界 は 15 kOe で あ る . 測 定 を 行 っ た 試 料 に 関 し て , 母 合 金 の 測 定 に 用 い
た 試 料 の 調 合 は ,ア ー ク 溶 解 炉 で 母 合 金 を 作 製 し た も の を 金 属 カ ッ タ ー で 切 り 出 し た .
ま た そ の 母 合 金 は ,FRITSCH 社 製 遊 星 型 ボ ー ル ミ ル P-6 で 40 分 間 430rpm の 回 転 速
度で粉末化して粉末X線回折測定を行った.ポット及びメディアはジルコニアを用い
た.薄帯試料のヒステリシスループ測定では,単ロール法作成条件である銅ロール周
速 度 を 10.5 m/s, 18.9 m/s, 42 m/s と 変 化 さ せ た .
母 合 金 の ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ は 非 常 に 細 く ,130 Oe の 保 磁 力 で あ っ た .こ の 保 磁 力
の 値 で は 永 久 磁 石 と し て 機 能 せ ず , 磁 界 に よ っ て 磁 化 は 反 転 す る . 図 2 .1 0 は 母 合
金 の 粉 末 X 線 回 折 で あ る が , Nd 2 Fe 1 4 B ハ ー ド 磁 性 相 を 確 認 す る こ と が で き る . こ の
結 果 か ら , ア ー ク 炉 で 作 製 し た 母 合 金 状 態 で , Nd 2 Fe 1 4 B ハ ー ド 磁 性 相 が 存 在 す る だ
けでは永久磁石として高い保磁力を得ることが出来ないという知見が得られる.
し か し な が ら 図 2 .9 に 示 す よ う に , 10.5 m/s の 単 ロ ー ル 周 速 度 で 作 製 し た 試 料 は
V S M で 15 kOe 印 加 時 に 13 kOe の 保 磁 力 を 示 し た .し か も 第 1 象 限 で は 磁 化 が 飽 和
していない.これは,より強い磁場で測定すると,保磁力も増加することが分かる.
18.9 m/s の 銅 ロ ー ル 周 速 度 で は 1.05 kOe の 保 磁 力 を 得 た . こ の ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
も 10.5 m/s の 銅 ロ ー ル 周 速 度 時 と 同 様 に , 15 kOe の 磁 界 を 印 加 し て も , ヒ ス テ リ シ
ス ル ー プ は メ ジ ャ ー ル ー プ を 描 か ず , 目 標 と す る 保 磁 力 5kOe の 2 倍 の 値 を 得 た . さ
ら に 銅 ロ ー ル の 周 速 度 を 上 げ て い く と ,42 m/s 時 で は 保 磁 力 は 減 少 し て 98 Oe と な り ,
永 久 磁 石 と し て の 性 能 を 示 さ な く な る .図 2 .1 0 は Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%母 合 金 の 粉 末 X
線 回 折 の 結 果 で あ る が , 母 合 金 中 に Nd 2 Fe 1 4 B ハ ー ド 相 が 存 在 し て い る . こ れ ら の 結
果 よ り ,Nd-Fe-B 合 金 系 に お い て ,ア ー ク 炉 で 元 素 を 合 金 化 し た だ け で は 永 久 磁 石 と
して大きな保磁力を発現しないことを理解した.さらに単ロール法では,保磁力に対
して銅ロール周速度の最適値があることを示した.
図 2 .1 1 に は 図 2 .9 で 示 し た ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ の 保 磁 力 を ま と め た . こ れ ら
の 結 果 に 鑑 み る と ,凝 固 法 に よ り Nd-Fe-B 磁 石 片 を 作 製 す る 場 合 ,最 適 な 銅 ロ ー ル 周
速度を求めるか,オーバークエンチ状態にしておいて,熱処理により結晶を成長させ
ることで,保磁力を最適化するれば良いことになる.
23
Fig. 2 .9
Mother alloy
10.5 m/s
18.9 m/s
42 m/s
Hysteresis loops of
Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.% mother alloy powder and ribbons
produced by single role method
図 2 .9
Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.% 母 合 金 粉 と 単 ロ ー ル 法 で 作 製 し た リ ボ ン の ヒ ス テ リ シ ス
ループ
24
Fig. 2 .1 0
Powder x-ray diffraction of Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.% mother alloy
図 2 .1 0
Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%母 合 金 の 粉 末 X 線 回 折
14000
Coercive force (Oe)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
Fig. 2 .1 1
10
20
30
40
Circumferential velocity (m/s)
50
Circumferential velocity of copper role versus Coercive force of
specimen
図 2 .1 1
銅ロール周速度の変化による保磁力の変化
25
第 2 .3 節
単 ロ ー ル 法 の 改 良 に よ る Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化
前 節 で は , Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%母 合 金 を 単 ロ ー ル 法 で 薄 帯 化 し た 時 に 13 kOe の 保 磁 力
を 得 る こ と が 出 来 た .し た が っ て ,こ の 単 ロ ー ル 法 で Nd-Fe-B 材 料 を 細 線 化 出 来 れ ば ,
目 的 と す る Nd-Fe-B 系 永 久 磁 石 の 細 線 化 を 実 現 で き る と 考 え ら れ る .
図 2 .1 2 に 薄 帯 試 料 の 細 線 化 に つ い て の 概 念 を 示 す . こ れ は , 薄 帯 試 料 作 製 時 の
条件を検討することで,より幅の狭い試料片を得ようとしたものである.
ribbon
Wire
Fig. 2 .1 2
図 2 .1 2
Line thinning of ribbon
薄帯試料の細線化
26
単ロール法の改良により細線形状を得るために,ノズル先端孔の径,銅ロール周速
度 , 銅 ロ ー ル 表 面 の 形 状 を 検 討 し た . そ の 他 の 作 製 条 件 は 一 定 と し て , 表 2 .3 に ,
その値を示す.
用いた銅ロール形状は,一般的な単ロール法で用いられる溶融金属との接触面が平
ら な も の と , 図 2 .1 3 に 示 す よ う な 中 心 付 近 に 2 mm 幅 の V 字 型 溝 を 彫 っ た も の 用
いた.
Table 2 .3
Producing process
表 2 .3
作製条件
The shape of surface
Flat, V shape
Gap length between nozzle top and
copper role
1 mm
(mm)
Injection pressure
122 kPa
Nozzle orifice size
0.6, 0.2 mm
Speed of copper role spinning
32, 37, 42 m/s
27
2mm
45°
Fig. 2 .1 3
Geometry of copper roll surface
図 2 .1 3
銅ロール表面の形状
28
図 2 .1 4 は 通 常 の 平 ら な 面 を 持 つ 銅 ロ ー ル で 作 製 し た 薄 帯 幅 で あ る . φ 0.6 mm
ノ ズ ル 先 端 の 孔 径 で は , 32 m/s の 銅 ロ ー ル 周 速 度 で 作 製 し た 薄 帯 幅 が 1.37 mm で 最
大 で あ っ た が , 銅 ロ ー ル 周 速 度 を 速 め る こ と に よ っ て , 42 m/s の と き に 0.92 mm と
な っ た . ノ ズ ル 先 端 孔 の 径 が 0.2 mm 時 も 同 様 に 銅 ロ ー ル 周 速 度 を 速 め る こ と に よ り
より細い試料を得ることが出来る.
したがって,より幅の狭い薄帯試料を得るためには,先端孔が小さいものを選び,
回 転 銅 ロ ー ル の 周 速 度 を 速 め れ ば よ い . φ 0.2 mm の ノ ズ ル 孔 を 用 い た 場 合 , 目 標 と
す る 径 0.2 mm の 2 倍 の 幅 を 得 る こ と が 出 来 た が , 薄 帯 試 料 の 厚 み は 10 - 2 mm で あ
った.したがって磁石の体積を得ることが出来ない.
Width of ribbon
1.6
1.4
◆
φ
0.6 mm
1.2
■
φ
0.2 mm
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
30
35
40
45
Speed of copper role (m/s)
Fig. 2 .1 4
Copper role speed versus width of ribbon (Nozzle orifice was changed 0.6
mm and 0.2 mm)
図 2 .1 4
ノズル径を変えたときの銅ロール周速度と薄帯幅
29
図 2 .1 5 は 銅 ロ ー ル 表 面 に 溝 を 彫 り , 細 線 作 製 を 行 っ た 結 果 で あ る . 銅 ロ ー ル 表
面 に V 字 に 溝 を 彫 っ た 場 合 , 0.6 mm で は V 字 の 試 料 片 が 出 来 , 厚 み が 薄 い も の し か
得 ら れ な か っ た . 図 2 .1 6 は そ の V 字 溝 を 彫 っ た 銅 ロ ー ル で 作 製 し た 試 料 片 の 写 真
で あ る . 銅 ロ ー ル 周 速 度 が 32 m/s の 時 は (a)に 示 す よ う に 溝 の 形 状 の ま ま 凝 固 し , 得
ら れ た 試 料 片 は V 字 に な っ た .銅 ロ ー ル 周 速 度 を さ ら に 速 く し ,(b)37 m/s と す る と ,
V 字 先 端 部 分 に 亀 裂 が 発 生 し た .銅 ロ ー ル 周 速 度 が (c)42 m/s の と き は ,薄 帯 の 亀 裂 が
入 っ た 部 分 か ら 裂 け , 完 全 に 二 股 に 分 か れ た 試 料 片 と な っ た . 0.2 mm の ノ ズ ル を 使
用した場合は,薄片は得ているが,薄帯試料と変わりがなく,幅が狭く,厚みを持っ
た試料片を得ることは出来なかった.
Width of ribbon (mm)
1.6
■
φ
0.2 mm
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
30
35
40
45
Speed of copper role (m/s)
Fig. 2 .1 5 Speed of copper role spinning versus width of ribbon (nozzle were used 0.6
mm oriffice and 0.6 mm oriffice)
図 2 .1 5
ノズル孔径を変えたときの銅ロール周速度と薄帯幅
30
1 cm
(a) 32 m/s
(b) 37 m/s
31
1 cm
(c) 42 m/s
Fig. 2 .1 6
Specimens produced by single role method with V runnel
図 2 .1 6
V 字溝つき単ロール法により作製した試料片
32
第 2 .4 節
結言
本 章 で は , Nd-Fe-B 磁 石 片 の 作 製 に 関 し て 単 ロ ー ル 法 に 着 目 し , Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%
組成で磁石薄帯の作製を行った.以下に明らかにした点をまとめる.
( 1 ) 母 合 金 の 作 製 に は ア ー ク 炉 を 用 い た .得 ら れ た 母 合 金 を 切 り 出 し て VSM で 測
定したが,ハード磁性は得られなかった.
( 2 ) 単 ロ ー ル 法 を 用 い て Nd-Fe-B 薄 帯 を 作 製 す る と , 15 kOe の 磁 界 を 印 加 時 に
13 kOe の 保 磁 力 を 得 た .
( 3 ) 単 ロ ー ル 法 で Nd-Fe-B 永 久 磁 石 薄 帯 を 作 製 す る と き , 銅 ロ ー ル 周 速 度 を 変 化
させると保磁力も変化し,最適値を持つ.
(4) 単ロール法を改良して得られる試料形状を薄帯から細線へすることを試みた.
銅ロール周速度を速くすることで,得られる薄帯試料の幅は小さくなる.
( 5 ) ノ ズ ル 先 端 の 孔 の 径 も ,得 ら れ る 薄 帯 試 料 の 幅 に 影 響 を 与 え ,よ り 細 い 薄 帯 を
得るためにはノズル先端の孔の径を小さくすることが有効である.
( 6 ) 薄 帯 試 料 で 幅 は 0.4 mm 程 度 ま で 小 さ く す る こ と が 出 来 た が ,得 ら れ る 試 料 形
状は薄帯である.
(7) 単ロール法で得られる試料に厚みを持たせるために銅ロール表面に溝を彫っ
た.得られた試料片の形状は溝の形と同じ V 字となった.
( 8 ) 0.6 mm の ノ ズ ル 先 端 孔 を 用 い , 銅 ロ ー ル 周 速 度 を 大 き く し て い く と , V 字 先
端部分に亀裂が入り,最終的には二股に分かれた試料片となった.
33
第3章
Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化
第 3 .1 節
緒言
前 章 で は , 永 久 磁 石 粉 末 の 作 製 に 使 わ れ る 単 ロ ー ル 法 を 用 い て , Nd 6 Fe 7 7 B 8 at.%磁
石薄帯を得た.単ロール法の薄帯作製条件であるノズル先端の孔の径や,銅ロールの
周 速 度 を 変 化 さ せ た が , 幅 は 狭 ま る も の の , 厚 み が 10 - 2 mm と 薄 く 所 望 の 寸 法 を 得
る こ と が 出 来 な い .薄 片 に 厚 み を 持 た せ る こ と を 目 的 と し て ,銅 ロ ー ル 表 面 に V 字 の
溝を彫ったが,細線作製は実現していない.
そ こ で ,本 章 で は ,凝 固 法 に よ り 細 線 が 得 ら れ る 方 法 を 用 い て Nd-Fe-B 合 金 の 細 線
化を行う.
細線化の方法にはテイラー法,回転液中紡糸法が考えられる.これらの方法で細線
化 の 条 件 を 検 討 し , 得 ら れ た Nd-Fe-B 細 線 の 磁 気 特 性 を 評 価 す る .
そのとき,細線化が磁気特性(保磁力)に及ぼす影響に関して,単ロール法の知見
を基に明確にする.
34
第 3 .2 節
テ イ ラ ー 法 を 用 い た Nd-Fe-B 材 料 の 細 線 化
溶 融 金 属 か ら 細 線 を 直 接 作 製 す る 方 法 に テ イ ラ ー 法 が あ る [22]. 図 3 .1 に そ の 概
要を示す.この方法は溶融した金属をその周りの溶融ガラスごと引っ張り,細線化す
る方法である.細線試料の作製方法は,まず,下部の閉じた試験管状のガラスチュー
ブに母合金を挿入し,誘導加熱で母合金を融解する.そのとき,溶融金属の熱により
ガラスチューブ先端も融解してくる.溶融金属を溶融ガラスごとガラス棒に付着させ
下方へ引っ張ることで細線が作製できる.ガラスチューブと溶融物を付着させ引っ張
るガラス棒の材質にはパイレックスを用いた.
Pyrex Nozzle
Induction Coil
Molten alloy
Pyrex membrane
Molten Pyrex
Wire
Pyrex stick
Fig. 3 .1
Simple overview of glass coating wire with Taylor method
図 3 .1
テイラー法によるガラス皮膜細線作製の概要
35
図 3 .2 に は テ イ ラ ー 法 で 作 製 し た 細 線 の 拡 大 図 を 示 す . 図 か ら も わ か る よ う に ,
Nd-Fe-B 合 金 の テ イ ラ ー 法 に よ る 細 線 化 で は ガ ラ ス 中 に 合 金 が 疎 ら に あ る こ と が 分
か る . Nd-Fe-B 合 金 は , 溶 融 状 態 で ね ば く , 流 動 性 が な い の で 溶 融 し た ガ ラ ス 中 に 金
属が入っていかない.
alloys
Glass coating
Fig. 3 .2
図 3 .2
Glass fiber produced by taylar method
テイラー法により作製されたガラス繊維
36
図 3 .3 は テ イ ラ ー 法 で 作 製 し た Nd-Fe-B 細 線 の ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ で あ る .こ の
とき用いた母合金は,アーク炉で合金化したものを用いており,その組成は
Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%で あ る .図 3 .2 か ら も 分 か る よ う に 非 常 に 細 い 細 線 の 中 に 金 属 が 疎
らにしか存在していない.したがって,磁化は低い値になっている.
こ の よ う な 結 果 か ら Nd-Fe-B 系 合 金 の 細 線 化 に テ イ ラ ー 法 は 有 効 で は な い と い え
Magnetization (emu/g)
る.
1
0.5
0
-0.5
-1
-1
Fig. 3 .3
図 3 .3
-0.5
0
0.5
1
Field strength (Oe) x 104
Hysteresis loop of Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.% wire pdoduced by taylor method
テ イ ラ ー 法 で 作 製 し た d 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%組 成 母 合 金 を 用 い た 細 線
37
第 3 .3 節
3 .3 .1
回 転 液 中 紡 糸 法 を 用 い た Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化
作製機構及び作製条件
図 3 .4 と 図 3 .5 に 回 転 液 中 紡 糸 機 構 の 概 略 図 と 誘 導 コ イ ル 部 分 の 図 を 示 す . 回
転液中紡糸法は回転するドラム内に冷却液層を遠心力により形成し,そこに溶融した
金属を吹き付け急冷―凝固させる方法である.連続的そのプロセスがとられることに
より,溶融金属は細線形状になる.
Crystal Nozzle
Induction Coil
Ar gas
Melt
Melt Jet
Rotating drum
Coolant
Wire
Fig. 3 .4
Schematic view of in-rotating liquid spinning process
図 3 .4
回転液中紡糸法の概略図
Rotating drum
Crystal Nozzle
Induction Coil
Fig. 3 .5
A part of induction coil and rotating drum
図 3 .5
誘導コイル及び回転ドラム部分
38
細線作製手順を以下に示す.
① ドラムを回転させ遠心力によってドラム内部溝に冷却液層を形成する.
② 母合金を挿入した石英ノズルを誘導加熱コイル内に設置し融解する.
③ こ の と き 母 合 金 が 赤 熱 す る ま で 石 英 ノ ズ ル に Ar ガ ス を フ ロ ー さ せ ,極 力 母 合 金 の
酸化を抑制する.
④ 温 度 モ ニ タ が 900℃ を 超 え た あ た り で Ar ガ ス の フ ロ ー を 止 め て 母 合 金 の 融 解 を 待
つ.
⑤ Ar ガ ス を チ ュ ー ブ 内 に 噴 射 す る こ と で 回 転 す る 冷 却 液 層 中 に 溶 湯 を 噴 射 す る .
⑥ 噴射された溶融金属は冷却液で急冷されて細線形状の試料を得ることが出来る.
細線作製の条件としてはドラム回転速度,冷却液種,ガス噴射圧,高周波電源出力,
ノ ズ ル 先 端 孔 径 が 重 要 と な る . 表 3 .1 に 細 線 作 製 条 件 を 示 す .冷 却 液 に は 日 本 グ リ
ー ス 社 製 水 溶 性 防 錆 剤 ラ ス プ ロ W-57 を 水 道 水 に 添 加 し て ,そ の 濃 度 を 0.75%と し た .
ま た ,そ の 他 に 日 本 グ リ ー ス 社 製 ハ イ ス ピ ー ド ク エ ン チ オ イ ル No.1070 と 水 道 水 の 二
層構造,また,水道水のみの場合で試料作製を行った.石英ノズルにセットする母合
金 重 量 は 1.25 g で あ る .作 製 条 件 の 決 定 は 実 際 に 細 線 試 料 の 作 製 を 行 い ,試 料 作 製 が
可能であった条件である.ノズル径が大きくなるにつれて噴射圧は減少させた.細線
は 図 3 .6 に 示 す よ う な も の が 得 ら れ る .
Table 3 .1
Conditions of producing wire with in-rotating liquid spinning process
表 3 .1
回転液中紡糸法による細線作製条件
Nozzle orifice size
0.1, 0.2, 0.3
mm
0.75 % antioxidant water solution
Coolant
Quench oil. + water
Water
Speed of drum spinning
5.24
Injection pressure
0.32, 0.22, 0.18
Output current
11
39
m/s
MPa
A
Fig. 3 .6
Wires which are produced with in-rotating liquid spinning process
図 3 .6
3 .3 .2
回転液中紡糸法により作製された細線
細線化のための母合金組成
Nd-Fe-B 三 元 系 合 金 で Nd が リ ッ チ に な る と 溶 湯 の 流 動 性 が な く な り ね ば く な る .
そ の 結 果 , 図 3 .7 に 示 す よ う に 噴 射 さ れ た ジ ェ ッ ト が ノ ズ ル 先 端 に 付 着 し , そ の 後
に 噴 射 さ れ る ジ ェ ッ ト の 勢 い が 阻 害 さ れ ,ノ ズ ル 先 端 を 詰 ま ら せ る .し た が っ て ,Nd
リッチな組成では細線試料が作製できないか,もしくは諸特性の評価に十分な量の細
線が得られない.
Nozzle top
Molten alloy
1cm
Fig. 3 .7
Appearance of producing Nd-Fe-B wire
図 3 .7
Nd-Fe-B 細 線 作 製 の 様 子
40
1cm
図 3 .7 の よ う に , 安 定 し て 溶 融 ジ ェ ッ ト が 出 な い 場 合 , 図 3 .8 に 示 す よ う に 作
製された凝固物はゴマ状の粒になる.
こ の ノ ズ ル か ら 噴 射 さ れ る 溶 融 金 属 が 安 定 し て 噴 射 で き る 組 成 は Nd 元 素 の 含 有 量
が 少 な く B が 多 い 領 域 で あ る . 図 3 .9 は , そ れ ぞ れ の ノ ズ ル 先 端 孔 の 径 に つ い て 細
線作製を行った結果を示してある.
5mm
Fig. 3 .8
図 3 .8
Grained coagulation
粒状の凝固物
41
● : water
● : water+ quench oil
● : 0.75 % antioxidant water solution
×: impossible to make wire
Fe 3 B
90
●
●
●
●
●
●
●
× × ××
80
Fe at%
100
●
0
20
×
10
B at%
Nd 2 Fe 1 4 B
10
0
Nd at%
(a) φ 0.3 mm
(a)φ0.3 mm
Fe 3 B
80
Fe at%
20
●
●
●▲
90
10
×
100
B at%
Nd 2 Fe 1 4 B
0
0
10
Nd at%
(b) φ 0.2 mm
42
Fe 3 B
80
Fe at%
20
●
●
▲ 10
▲ ▲ B at%
90
100
0
0
Nd 2 Fe 1 4 B
10
Nd at%
(c) φ 0.1 mm
Fig. 3 .9
図 3 .9
Chemical compositions of mother alloys
回転液中紡糸法で作製した細線の母合金組成
Nd の 含 有 量 が 最 も 多 く ,細 線 作 製 が 可 能 で あ っ た の は ,ノ ズ ル 先 端 孔 の 径 が 0.1 mm
時 に 母 合 金 組 成 が Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at.%の 細 線 試 料 で あ っ た .
43
Table 3 .2
Coercive force and magnetization between Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at% ribbons and
wires
表 3 .2
磁化
Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at%組 成 薄 帯 試 料 と 細 線 試 料 の 保 磁 力 と 磁 化
特性比較
薄帯
細線
保 磁 力 Oe
13000
670
52.6
93.0
emu/g (15 kOe 時 )
表 3 .2 は Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at%母 合 金 を 用 い て 作 製 し た 薄 帯 と 細 線 の 磁 気 特 性 を 比 較 し
た も の で あ る . 薄 帯 試 料 は 15 kOe の 磁 界 で 飽 和 し て は い な い が , 細 線 試 料 で は 保 磁
力が小さい.
この試料の保磁力改善を目的として元素の添加を行った.
(Nd 1-x Tb x ) 15 Fe 77 B 8
Fig. 3 .1 0
Coercive force and Saturation magnetization depend on the amount of
Tb. (Nozzle of 0.1 mm orifice was used.)
図 3 .1 0
Tb 添 加 量 に 依 存 す る 保 磁 力 と 飽 和 磁 化
44
図 3 .1 0 に 示 す よ う に , Tb の 添 加 を 行 っ た . Tb の 添 加 は Nd に 対 し て 置 換 し
た .そ の 結 果 ,Tb の 添 加 量 を 増 す と 保 磁 力 は 向 上 し ,最 大 で 1000Oe に 向 上 し た .そ
の と き の 飽 和 磁 化 は 減 少 傾 向 に あ る . こ の 合 金 系 で 強 磁 性 を 担 う Fe の 原 子 割 合 に 変
化 は 無 い が 飽 和 磁 化 は 減 少 し て い る .こ れ は Tb の 磁 気 モ ー メ ン ト が Fe の 磁 気 モ ー メ
ントと反並行に結合するためである.
ま た , Al を 添 加 し た 場 合 を 図 3 .1 1 に 示 す . Al を 添 加 し た 場 合 も Tb と 傾 向 は 似
て お り Al の 添 加 量 を 増 や す と 保 磁 力 は 向 上 し て , 磁 化 は 減 少 す る . Al は 強 磁 性 体 の
Fe に 置 換 し て い る の で , Al の 添 加 量 を 増 や す と 飽 和 磁 化 が 減 少 し て い る .
Nd 1 5 Fe 7 7 - X B 8 Al X at.%
Fig. 3 .1 1
Coercive force and Saturation magnetization depend on the amount of Al.
(Nozzle of 0.1 mm orifice was used.)
図 3 .1 1
Al 添 加 量 に 依 存 す る 保 磁 力 と 飽 和 磁 化
45
回 転 液 中 紡 糸 法 で 作 製 し た Nd 1 5 Fe 7 7 B 8 at%細 線 試 料 は Tb の 添 加 に よ り 保 磁 力 は
向 上 し 1000 Oe を 示 す . し か し な が ら , そ の 値 は Ar ガ ス 雰 囲 気 中 で 作 製 し た 薄 帯 試
料に比べ十分の一以下である.
そ こ で 回 転 液 中 紡 糸 法 の 諸 検 討 は 比 較 的 細 線 試 料 を 得 る こ と の 出 来 た Nd 6 Fe 7 9 B 1 5
at.%に つ い て 行 う こ と と す る . 図 3 .1 2 に Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%母 合 金 を 用 い , 0.1 mm
のノズル孔で作製した細線試料のヒステリシスループを示す.飽和磁化は160
Magnetization (emu/g)
emu/g で あ り ,母 合 金 と の 差 は 5.2 %と な っ た .こ の と き の 保 磁 力 は 231 Oe で あ っ た .
200
100
0
-100
-200
-1
Fig. 3 .1 2
-0.5
0
0.5
1
4
Field strength (Oe) x 10
Hysteresis loops of as-spun Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.% wire
samples.
(Nozzle of 0.1 mm orifice was used.)
図 3 .1 2
As-spun 状 態 に お け る Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 試 料 の ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
( ノ ズ ル 径 0.1mm)
46
3 .3 .3
Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%薄 帯 の 作 製 と 細 線 試 料 の 比 較
細 線 化 に よ り 保 磁 力 が 発 現 し な い 原 因 を 特 定 す る た め に ,比 較 対 象 と し て ,単 ロ ー
ル 法 で 作 製 し た 薄 帯 を 用 い る こ と と す る . こ の と き の 組 成 は Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%と し ,
元素をアーク炉で融解,合金化したもので薄帯を作製する.また薄帯化するときは,
Ar ガ ス 雰 囲 気 中 で の 作 製 と 共 に ,回 転 液 中 紡 糸 法 が 大 気 中 で の 合 金 加 熱 で あ る こ と を
考慮する.薄帯作製も大気中での場合を比較する.
試 料 作 製 条 件 を 表 3 .3 に 示 す .
Table 3 .3 Conditions of producing ribbon
表 3 .3
試料作製条件
Nozzle orifice size
0.6
mm
Gap length between nozzle top and copper role
0.5
mm
Speed of copper role spinning
42
m/s
Atmospheric pressure of chamber
40
cmHg
Injection pressure
0.6
Output current
15
kgf/cm 2
A
第 2 章 で は 薄 帯 に つ い て ,保 磁 力 が 最 大 値 を 示 す 最 適 な ロ ー ル 周 速 度 が あ る こ と を
述べた.したがって,より簡単にハード磁性を得るためには,オーバークエンチ後に
熱処理をして高保磁力発現を行う.
作 製 し た 薄 帯 試 料 は 粉 末 X 線 分 析 を 行 っ た . そ の 結 果 , 図 3 .1 3 (a), (b)に 示 す よ
う に , 40°か ら 50°に か け て ブ ロ ー ド な ピ ー ク を 観 測 し た . こ の 結 果 か ら , As-spun
状態でアモルファスを確認し,薄帯試料を熱処理することにより保磁力を向上させる
ことにする.
47
(a) at Ar gas atmosphere
(b) at the air
Fig. 3 .1 3
X-ray diffraction patterns of Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.% as spun ribbon produced
(a) at Ar gas atmosphere and (b) at the air
図 3 .1 3
Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%の As-spun 状 態 に お け る Ar ガ ス 雰 囲 気 お よ び 大 気 中 で
作製したリボンの X 線回折
48
熱処理には赤外線熱処理炉を用いた.雰囲気は真空とし昇温速度を一分間に40℃
と し , 保 持 時 間 を 10 分 と し た .
Diffusion pump
Infrared lamp
Gold mirror
Oil-sealed rotary pump
Vacuum chamber
Fig. 3 .1 4
Opaque crystal
Specimen
Frosted glass
Simple overview of infrared-ray heat treat furnace
図 3 .1 4
赤外線熱処理炉の概略
Opaque crystal
Specimen
Thermocouple
Frosted glass
Fig. 3 .1 5 A part of sample stage in heat treat furnace
図 3 .1 5
熱処理炉の試料台部分
49
図 3 .1 6 は 熱 処 理 に よ り 変 化 し た Nd 6 Fe 7 9 B 8 at.%薄 帯 試 料 の 保 磁 力 を 表 し て い る .
こ れ に よ る と , Ar ガ ス 雰 囲 気 中 で 作 製 し た 薄 帯 試 料 は 保 磁 力 が 最 大 で 2546 Oe で あ
る . 一 方 , 大 気 中 で 作 製 し た 薄 帯 試 料 は , 2147 Oe で あ り , 雰 囲 気 制 御 し た 場 合 に 比
べ 84%に 減 少 し て い る .
Fig. 3 . 1 6
Changes of coercive force of Nd 6 Fe 7 9 B 8 at.% ribbon depending on
heat-treat temperature
図 3 .1 6
Nd 6 Fe 7 9 B 8 at.% 薄 帯 試 料 の 熱 処 理 に お け る 保 磁 力 の 変 化
50
図 3 .1 6 で , 保 磁 力 が 大 き く 変 化 し て い る 部 分 に つ い て 相 分 析 を 行 い , そ の 原 因
を明らかにしておく.
540℃熱処理後
530℃熱処理後
(a) Ribbon which was produced in Ar gas atmosphere
530℃熱処理後
520℃熱処理後
(b) Ribbon which was produced in Air
Fig. 3 .1 7
図 3 .1 7
Difference of X-ray diffraction
熱処理温度の違いによる X 線回折パターン
51
図 3 .1 7 は , 保 磁 力 に 大 き な 変 化 が あ る 前 後 で 熱 処 理 を し た 試 料 の 粉 末 X 線 回 折
で あ る .Ar ガ ス 雰 囲 気 ,大 気 中 両 試 料 で ア モ ル フ ァ ス 相 だ っ た も の が ,熱 処 理 に よ り
ハ ー ド 磁 性 Nd 2 Fe 1 4 B 相 の を 発 現 し て お り , こ の 相 に よ っ て 保 磁 力 は 増 大 し て い る .
ま た ,大 気 中 で 作 製 し た 薄 帯 で は Nd 2 O 3 相 を 確 認 し た .こ の 相 は 大 気 中 で 薄 帯 化 を し
た こ と が 原 因 で あ る .さ ら に ,Nd の 酸 化 に よ っ て 相 対 的 に Nd 2 Fe 1 4 B 相 が 減 少 し 保 磁
力が低くなった.
同組成の母合金を用いて作製した比較対照のための薄帯試料と細線試料の磁気特性
を 表 3 .4 に ま と め る .
Table 3 .4
Magnetic properties of ribbon and wire made by using Nd 6 Fe 7 9 B 8 at.%
alloys
表 3 .4
Nd 6 Fe 7 9 B 8 at.%母 合 金 で 作 製 し た 薄 帯 及 び 細 線 の 磁 気 特 性
Ar ガ ス 雰 囲 気 作 製
大気中作製薄帯
( as-spun)
薄帯
保磁力
飽和磁化
Oe
emu/g
φ 0.1 細 線
2546
2147
240
182
180
172
表 3 .4 か ら 分 か る よ う に , as-spun 状 態 で 細 線 試 料 の 保 磁 力 は 薄 帯 試 料 の 一 割 で
ある.細線試料の保磁力向上を目的として,熱処理を行い保磁力の向上を試みた.
図 3 .1 8 に 0.1 mm 孔 の ノ ズ ル で 作 製 し た 細 線 を 熱 処 理 条 件 と し て 所 望 の 温 度 で
1 時 間 保 持 し た 場 合 の 保 磁 力 の 温 度 依 存 を 測 定 し た .As-spun 状 態 で 240 Oe で あ っ た
保 磁 力 は 500℃ で 394 Oe, 600℃ で 最 大 値 441 Oe と な っ た . 650℃ で は 374 Oe で 保
磁 力 は as-spun 状 態 よ り は 増 加 し て い る が ,600℃ で 熱 処 理 を 行 っ た と き に 示 し た 441
Oe よ り は 減 少 し た .700℃ で 熱 処 理 を 行 う と as-spun 状 態 よ り も 小 さ な 保 磁 力 と な っ
た.
52
Coercive force. (Oe)
500
400
300
200
100
0
0
450
500
550
600
650
700
750
Annealing tempearature [℃].
(℃ )
Fig. 3 .1 8
The coercive force depending on the heat-treatment temperature
when the heating time is kept to be one hour (Nozzle of 0.1mm orifice was used, ◇
is as-spun state).
図 3 .1 8
保持時間を 1 時間としたときの熱処理温度に依存した保磁力
( ノ ズ ル 径 0.1mm 使 用 )
53
図 3 .1 8 の 結 果 か ら Nd 6 Fe 7 7 B 1 5 at.%狙 い 組 成 母 合 金 で 作 製 し た 細 線 試 料 は 熱 処
理 温 度 が 600℃ の 時 最 大 の 保 磁 力 を 持 つ こ と を 確 認 し た . こ の 結 果 か ら 熱 処 理 条 件 と
し て 600℃ で 所 望 の 時 間 保 持 し た 場 合 の 保 磁 力 の 時 間 依 存 を 測 定 し た . 図 3 .1 9 に
結 果 を 示 す .な お ノ ズ ル 孔 径 を 0.2 mm,0.3 mm と 変 化 さ せ た と き も 同 様 に 測 定 し た .
図 3 .2 0 に 示 す よ う に ,先 端 孔 が 0.1 mm の ノ ズ ル で 作 製 し た 試 料 に 対 し て と き 保
持 時 間 を 2 時 間 に し た と き 最 大 値 486 Oe を 示 し た . こ れ は as-spun 状 態 の 2 倍 の 保
磁 力 で あ る . し か し 単 ロ ー ル 法 で 作 製 し た 薄 帯 試 料 と 比 較 す る と , 1/5~ 1/4 の 保 磁 力
である.
ノ ズ ル 先 端 孔 が 0.2 mm,0.3 mm で 作 製 し た 試 料 に 対 し て は 1 時 間 保 持 し た と き に
最 大 値 を 示 す . そ の と き の 飽 和 磁 化 の 値 は そ れ ぞ れ 424 emu/g, 300 emu/g で あ る .
各 温 度 で 保 磁 力 の 最 大 値 を 示 す の は ノ ズ ル 先 端 孔 が 0.1 mm で 作 製 し た 細 線 試 料 で
あり,ノズル先端孔が小さい方が保磁力が大きくなるという傾向を得た.
Coercive force (Oe)
600
500
φ0.1
φ0.2
φ0.3
φ0.1as-spun
φ0.2as-spun
φ0.3as-spun
400
300
200
100
0
0
Fig. 3 .1 9
1
2
3
Annealing time (h)
4
Coercive force of the wire samples depending on the annealing time at
600 ℃ . (Nozzles of 0.1 mm (● , ○ ), 0.2 mm(▲ , △ ) and 0.3 mm(■ ,□ ) orifice were
used.)
図 3 .1 9
600 ℃ 下 で の 熱 処 理 時 間 に 依 存 し た 細 線 試 料 の 保 磁 力 ( ノ ズ ル 孔 径 0.1
mm (● , ○ ), 0.2 mm(▲ , △ ) and 0.3 mm(■ ,□ ) 使 用 .)
54
Magnetization (emu/g)
200
100
0
-100
-200
-1
Fig. 3 .2 0
-0.5
0
0.5
Field strength (Oe)
1
x 10
4
Hysteresis loops of heat-treated Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.% wire samples.
(Nozzle of 0.1 mm orifice was used. Heat-treated at 600℃ ×2h)
図 3 .2 0
熱 処 理 後 の Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 試 料 の ヒ ス テ リ シ ス ル ー プ
(b)
(b)
TC
Fig. 3 .2 1
DSC curves of (a) as-spun and (b) annealed wire recorded during heating
from RT to 700℃ at a rate of 10℃ /min. (Nozzle of 0.1 mm orifice and of Nd 6 Fe 7 9 B 1 5
mother alloy were used.)
図 3 .2 1
(a)as-spun 状 態 の 細 線 試 料 と (b)熱 処 理 を し た 細 線 試 料 の DSC 曲 線( ノ ズ
ル 径 0.1mm,600℃ ×2h で 熱 処 理 )
55
図 3 .2 1 は 先 端 孔 径 が 0.1 mm の ノ ズ ル を 用 い 作 製 し た 細 線 試 料 の (a)as-spun 状
態 と (b)600℃ ×2h の 熱 処 理 後 の DSC 曲 線 で あ る .as-spun の 細 線 試 料 で は Nd 2 Fe 1 4 B
相 の キ ュ リ ー 温 度 で あ る 310℃ 付 近 に DSC の 熱 吸 収 ピ ー ク は 見 ら れ な い . こ れ は ,
as-spun 状 態 の 細 線 試 料 に 含 ま れ る Nd 2 Fe 1 4 B 相 が 微 量 で あ る 事 が 原 因 と 考 え ら れ る .
ま た , 640℃ 付 近 に ピ ー ク が み ら れ て い る . As-spun 状 態 で の み 明 瞭 に ピ ー ク が 見 ら
れることから,細線試料中に少量のアモルファス相が存在し,それが結晶化すること
に よ る 熱 異 常 の 可 能 性 が あ る . 一 方 , 図 3 .2 1 (b)に 示 す 600℃ ×2h の 熱 処 理 を し
た 細 線 試 料 の DSC 曲 線 で は ,熱 吸 収 ピ ー ク が Nd 2 Fe 1 4 B 相 の キ ュ リ ー 温 度 の 310℃ に
ほ ぼ 一 致 す る こ と か ら , こ の 試 料 に お け る Nd 2 Fe 1 4 B 相 の 存 在 が 示 唆 さ れ る .
ここで本細線試料の作製条件のとき溶融金属のノズル先端からの流量,流速を考察
する.液体の流量を Q とするとき
Q = CπD 2 / 4 (2 gP / r )
(17)
で表すことができる.C は補正係数でノズル内部の構造による流速の低下や,液体が
ノズル先端孔から噴出する際の圧縮流による計算誤差を補うものである.それぞれの
ノ ズ ル で は 構 造 が 同 じ で あ る の で C = 1 と す る .D は ノ ズ ル 先 端 孔 径 の 0.1 mm,0.2 mm,
0.3 mm を 代 入 す る . g は 重 力 加 速 度 , P は 圧 力 で 0.32 MPa, 0.22 MPa, 0.18 MPa
と し た . γ は 液 体 の 密 度 で 7 g/cm 3 を 代 入 し た . 代 入 し て 得 ら れ た 溶 融 金 属 の 流 量 を
表 3 .5 に 示 す . ま た ノ ズ ル 先 端 か ら 噴 射 さ れ た 溶 融 金 属 の 断 面 積 が ノ ズ ル 先 端 孔 の
面積と等しいと仮定し流量を断面積で割ることによって,溶融金属の噴射速度を見積
もり併記する.また,計算では温度変化による金属の体積変化が無いものとする.
56
Table 3 .5
Flow volume and flow rate depend on orifice size
表 3 .5
ノズル先端孔径と流量・流速の関係
Orifice size (mm)
Flow volume (mm 3 /s)
Flow rate (mm/s)
0.1
75.0
2888.4
0.2
248.9
1980.4
0.3
506.5
1791.3
ノズル径が小さくなるにしたがい,単位時間にノズル先端から出てくる溶融金属の
体積は小さくなる.これは溶融金属を噴射するときの金属の温度が同じだとすると,
単位時間に冷却液と交換する熱容量は体積に比例する.したがって交換する熱量を少
なくするためには熱容量を小さくする必要があり,流量を少なくすることは有効であ
るといえる.また溶融金属の速度は速い方が多量の冷却液との接触ができるので冷却
速度の向上には効果的であると言える.今回用いた作製条件ではノズル先端孔の冷却
スピードを向上させたことになる.
細 線 試 料 の 断 面 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 で 観 察 し た . 図 3 .2 2 は 0.1 mm, 0.2 mm,
0.3mm の ノ ズ ル 先 端 孔 径 を 用 い て 作 製 し た 細 線 試 料 の 断 面 で あ る .そ れ ぞ れ の 試 料 は
破 断 さ せ た 表 面 を 研 磨 す る こ と な く 18 %の 塩 酸 で 5 分 エ ッ チ ン グ し 二 次 電 子 像 で 観
察した.
10μ m
(a)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.1 mm orifice
57
10μ m
(b)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.2 mm orifice
10μ m
(c)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.3 mm orifice
Fig. 3 .2 2
Grain boundary structure of wire produced by in-rotating liquid
spinning process
図 3 .2 2
回転液中紡糸法で作製した細線の粒界構造
58
図 3 .2 2 (a),(b),(c)そ れ ぞ れ の 細 線 試 料 に 粒 界 構 造 を 確 認 し た .薄 帯 試 料 で は 確
認できなかった構造で,回転液中紡糸法の急冷速度が単ロール法のそれに比べ,遅い
ということが確認できた.またそれぞれの粒径について考察する.
10μ m
(a)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.1 mm orifice
10μ m
(b)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.2 mm orifice
59
100μ
(c)
Grain boundary structure of wire produced by using 0.3 mm orifice
Fig. 3 .2 3
Binary image processing of grain boundary structure
図 3 .2 3
Table 3 .6
表 3 .6
粒界構造の二値画像処理
Size of grains and root-mean-square
結晶粒の大きさと二乗平均平方根
φ 0.1
φ 0.2
φ 0.3
平 均 面 積 S a ve
34.6
116.2
4868.6
(S a v e ) ( 1 / 2 )
5.9
10.8
69.8
図 3 .2 3 は 図 3 .2 2 を 二 値 化 し た 画 像 で あ る . こ れ を コ ン ピ ュ ー タ に よ り 面 積 計
算 し , 表 3 .6 に 示 す よ う に , 平 均 面 積 の 平 方 根 を と る と , 粒 径 の 指 標 値 と な る . こ
の 値 は 約 6~ 7 0 μ m で あ る . こ こ で , Nd プ ア な 組 成 の Nd-Fe-B 合 金 の 保 磁 力 に 関
し て , 最 大 値 を 与 え る 粒 径 は 5~50
60
nm で あ る
ナノコンポジット磁石
細線の粒径
Fig. 3 .2 4
Relationship between grain size and energy products[32]
図 3 .2 4
粒 径 と エ ネ ル ギ ー 積 の 関 係 [32]
図 3 .2 4 に 示 し た も の は ナ ノ コ ン ポ ジ ッ ト 磁 石 に お け る 結 晶 粒 径 と エ ネ ル ギ ー 積 の
関 係 を 指 名 し た も の で あ る . Nd プ ア な 組 成 ( ナ ノ コ ン ポ ジ ッ ト 磁 石 ) で は ナ ノ メ ー
トルスケールで微結晶を分布させる必要があり,この冷却速度の遅さが大きな保磁力
を得られない原因である.
また図からわかるようにノズル先端孔径が大きくなるにつれて粒径も大きくなる傾
向にあり,ノズル先端孔径の変化によって急冷速度が変わることを確認した.
図 3 .2 5 に 孔 径 0.1 mm,0.2 mm,0.3 mm の ノ ズ ル を 用 い て 回 転 液 中 紡 糸 法 で 作
製した細線の断面の電子顕微鏡像を示す.
61
100μ m
(a)
Wire produced by using 0.1 mm orifice
200μ m
(b)
Wire produced by using 0.2 mm orifice
62
300μ m
(c)
Fig. 3 .2 5
Wire produced by using 0.3 mm orifice
Cross sectional SEM images of Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.% wire samples produced by
using nozzles of 0.1mm orifice (a), 0.2mm orifice (b) and 0.3mm orifice (c).
図 3 .2 5
(a) 0.1 mm,(b) 0.2 mm (c) 0.3 mm ノ ズ ル 先 端 孔 径 を 用 い て 作 製 し た
Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 の SEM 断 面 図
細 線 の 真 円 度 を 短 径 / 長 径 と 定 義 す る と 図 3 .2 5 (a) に 示 す 0.1 mm の 孔 径 で 作
製 し た 細 線 の 短 径 は 0.153 mm, 長 径 0.167 mm で 真 円 度 0.92 の 比 較 的 円 形 で あ る .
図 3 .2 5 (b)に 示 す よ う に 0.2 mm の ノ ズ ル 孔 径 で 作 製 し た 細 線 で は , 短 径 0.226
mm , 長 径 0.377 mm で 真 円 度 0.60, 図 3 .2 5 (c)に 示 す 0.3 mm の ノ ズ ル 孔 径 で
作 製 し た 細 線 は 短 径 0.147 mm, 長 径 0.489 mm で 真 円 度 0.30 で あ る . す べ て の 細 線
の長径はノズル径よりも広がっている事が確認できる.また,ノズル孔径が小さい方
が円形度が高く,ノズル孔径が大きくなるにつれ真円度が低くなる.
63
図 3 .2 6 は (a)as-cast 状 態 の Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 試 料 と (b)保 磁 力 が 最 大 に な る
600℃ ×2 時 間 の 熱 処 理 を 行 っ た と き の X 線 回 折 パ タ ー ン で あ る . こ の 測 定 で は 細 線
試料をそのままの形状で X 線回折測定を行った.
測 定 結 果 か ら は (a)as-cast 状 態 , (b) 熱 処 理 後 の ど ち ら か ら も ハ ー ド 磁 性 相 の
Nd 2 Fe 1 4 B 相 を 確 認 す る こ と は で き な か っ た . Hexagonal-Nd 2 O 3 相 の 強 い ピ ー ク は 確
認 で き , 細 線 試 料 中 の Nd が 酸 化 し て い る .
(a)
▼
Nd 2 Fe 1 4 B
●
α -Fe
▽
hexagonal-Nd 2 O 3
(a)
Fig. 3 .2 6
X-ray diffraction patterns of (a) as-spun and (b) annealed Nd 6 Fe 7 9 B 1 5
at.% wire samples. (Nozzle size of 0.1 mm in diameter was used.)
図 3 .2 6
(a)as-spun 状 態 と (b)熱 処 理 を 行 っ た Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 試 料 の X 線 回 折
パ タ ー ン ( 0.1 mm ノ ズ ル 孔 使 用 )
64
図 3 .2 7 に 示 す (a)as-spun 状 態 細 線 試 料 の 粉 末 と (b)600℃ ×2h 熱 処 理 を 施 し た 細
線 試 料 の 粉 末 の X 線 回 折 パ タ ー ン で は Nd 2 Fe 1 4 B 相 を そ れ ぞ れ 確 認 す る こ と が で き た .
細 線 材 料 の 形 状 の ま ま で 測 定 し た と き は Nd 2 Fe 1 4 B 相 が 確 認 で き て い な い こ と か ら ,
試 料 表 面 近 傍 の Nd は 酸 化 物 Nd 2 O 3 に な っ て い る こ と が 分 か る .
(a)
▼
Nd 2 Fe 1 4 B
●
α -Fe
■
Fe 3 B
▽
hexagonal-Nd 2 O 3
(b)
Fig. 3 .2 7
X-ray diffraction patterns of (a) as-spun and (b) annealed Nd 6 Fe 7 9 B 1 5
at.% powder samples. (Nozzle of 0.1 mm orifice was used.)
図 3 .2 7
as-spun 状 態 と 熱 処 理 を 行 っ た Nd 6 Fe 7 9 B 1 5 at.%細 線 試 料 の 粉 末 試 料 X 線
回 折 パ タ ー ン ( 0.1 mm ノ ズ ル 孔 使 用 )
65
図 3 .2 8 は ナ ノ コ ン ポ ジ ッ ト 磁 石 の 保 磁 力 と 残 留 磁 化 の 関 係 で あ る [33]. こ の 図
からソフト相が増えると保磁力の最大値は低下している.これは言い換えればハード
相 が 減 少 す れ ば 保 磁 力 は 低 下 す る と い う こ と で あ る .酸 化 に よ り Nd が Nd 2 O 3 に な っ
て い る な ら ば , 相 対 的 に Nd 2 Fe 1 4 B ハ ー ド 相 は 減 少 す る こ と に な る . し た が っ て , 保
磁 力 を 減 少 さ せ な い た め に は , Nd の 酸 化 抑 制 が 重 要 と な る .
Fig. 3 .2 8
Relationship between residual Magnetization and coercive force of
nanocomposite magnet[33]
図 3 .2 8
ナ ノ コ ン ポ ジ ッ ト 磁 石 の 残 留 磁 化 と 保 磁 力 の 関 係 [33]
66
第 3 .4 節
結言
本 章 で は Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化 す る こ と を 目 的 と し , 細 線 化 法 で あ る テ イ ラ ー 法 ,
回転液中紡糸法に関して検討を行った.得られた結果を以下にまとめる.
( 1 ) テ イ ラ ー 法 を 用 い た Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化 は , 合 金 の 流 動 性 の 無 さ に よ り 困
難 で あ っ た . 磁 化 は 0.6 emu/g で 非 常 に 小 さ い .
( 2 ) 回 転 液 中 紡 糸 法 を 用 い た Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化 は 可 能 で あ っ た . た だ し , 細
線 化 し 易 い 組 成 は 化 学 量 論 比 に 比 べ Nd プ ア , B リ ッ チ 側 に な る .
( 3 ) 回 転 液 中 紡 糸 法 に よ り 得 ら れ た 細 線 で は 表 面 付 近 の Nd が 酸 化 し て い る .こ れ
は保磁力低下の一因である.
( 4 ) 細 線 断 面 に は 6~70μ m 程 度 の 結 晶 粒 界 を 確 認 で き た . 結 晶 粒 の 大 き さ の 平 均
を求め,さらに平方根をとり結晶粒径の指標値とした.このとき,指標値が小
さい細線試料ほど熱処理により保磁力は向上した.
( 5 ) 回 転 液 中 紡 糸 法 に よ る Nd-Fe-B 合 金 の 細 線 化 は 冷 却 速 度 が 遅 い .Nd プ ア ,B
リッチな組成はナノコンポジット磁石の組成であり,エネルギー積が最大にな
る の は 5~50 nm 程 度 で あ る .し た が っ て ,よ り 結 晶 粒 を 小 さ く す る 必 要 が あ る .
( 6 ) ノ ズ ル 先 端 孔 を 小 さ く す る こ と に よ っ て 結 晶 粒 が 小 さ く で き る の で ,保 磁 力 を
増大させるのに有効である.
67
第4章
結論
第 4 .1 節
本研究の総括
本論文では,カテーテルのガイドワイヤ先端等に使われる微小永久磁石を容易に作
製 す る こ と を 目 的 と し て , Nd-Fe-B 永 久 磁 石 の 細 線 化 を 試 み た . ま た , 細 線 化 が 磁 気
特性に及ぼす影響を明らかにした.
本研究で得られた知見を要約すると以下のようになる.
( 1 ) 単 ロ ー ル 法 に よ る Nd-Fe-B 磁 石 薄 帯 の 作 製 と 細 線 化
単 ロ ー ル 法 に よ り 得 ら れ た Nd-Fe-B 薄 帯 は 磁 石 と し て の 性 能 を 示 し た .こ
の単ロール法を用いて細線化を試みたが,細線は得られていない.
( 2 ) 凝 固 法 に よ る Nd-Fe-B 細 線 試 料 の 作 製
Nd-Fe-B 細 線 を 作 製 す る に あ た り テ イ ラ ー 法 ,回 転 液 中 紡 糸 法 に よ り 細 線
試料の作製を試みた.これらの方法の中で細線作製が可能であったのは回転
液中紡糸法である.
(3)回転液中紡糸法による試料作製
回 転 液 中 紡 糸 法 で は 細 線 作 製 が 可 能 で あ る 組 成 は ハ ー ド 磁 性 相 Nd 2 Fe 1 4 B
相 の 化 学 量 論 比 よ り も Nd が 少 な く , B が 多 い 組 成 で あ る . 溶 融 合 金 を 噴 射
す る ノ ズ ル の 径 を 小 さ く す る と ,よ り 円 形 度 の 高 い 細 線 を 得 る こ と が 出 来 る .
(4)細線化が磁気特性に及ぼす影響
回 転 液 中 紡 糸 法 に よ り 得 ら れ た 細 線 試 料 は Al や Tb を 添 加 し た 細 線 試 料 で
も ,最 大 で 1 kOe の 保 磁 力 し か 得 る こ と が 出 来 な い .そ こ で ,細 線 試 料 で 高
保 磁 力 が 発 現 し な い 2 つ の 原 因 を 明 ら か に し た .一 つ 目 は Nd の 酸 化 で あ り ,
二つ目は得られた細線の結晶粒径が大きいことである.
68
第 4 .2 節
今後の課題
回 転 液 中 紡 糸 法 に よ り 得 ら れ た 細 線 試 料 が 高 い 保 磁 力 を 発 現 し な い 原 因 と し て ,Nd
の酸化と,結晶粒の大きさを原因に挙げた.しかしながら大気中で作製した薄帯試料
は Ar ガ ス 中 の そ れ と 比 較 し て 8 割 の 保 磁 力 を 発 現 し て い る こ と に 鑑 み る と , 回 転 液
中紡糸法においても,より微細構造を有する細線が得られれば保磁力の向上は可能で
あると考えられる.
細線中の結晶微細化の指針として,ノズル先端孔の径を小さくすることは有効であ
る が ,所 望 の 寸 法 を 作 製 し な け れ ば な ら な い の で ,ノ ズ ル の 径 は 固 定 す る 必 要 が あ る .
したがって,今後は第四元素を添加により細線試料中の結晶を微細化する必要があ
る.
ま た , は じ め に 述 べ た よ う に , Nd の 酸 化 に よ る 保 磁 力 の 低 下 は 明 ら か で あ り , 作
製装置における酸化抑制の対策を講じる必要がある.
69
謝辞
本論文は,著者が大分大学大学院工学研究科博士後期課程に在学中,磁気工学研究
室 に お い て「 Nd-Fe-B 系 永 久 磁 石 の 細 線 化 と 高 保 磁 力 化 」に 関 す る 研 究 に つ い て ま と
めたものである.本研究の遂行にあたって,終始懇切なる御指導と御鞭撻を頂いた大
分 大 学 工 学 部 電 気 電 子 工 学 科 磁 気 工 学 研 究 室 ,榎 園 正 人 教 授 に 心 か ら 感 謝 の 意 を 表 し ,
厚く御礼申し上げます.
本論文をまとめるにあたり数々の有益な御教示と懇切丁寧なるご指導を賜りました,
大分大学工学部電気電子工学科の戸髙孝准教授,大分大学工学部電気電子工学科の槌
田 雄 二 助 教 ,大 分 大 学 工 学 部 電 子 情 報 シ ス テ ム 講 座 の 長 屋 智 之 教 授 ,大 分 大 学 工 学 部
機 能 物 質 化 学 講 座 の 豊 田 昌 宏 教 授 ,大 分 大 学 工 学 部 人 間 シ ス テ ム 工 学 講 座 の 佐 久 間 俊
雄教授に深く感謝の意を表します.
なお,本研究を進めるにあたり,数々のご協力を頂いた大分大学工学部磁気工学研
究室の院生ならびに卒論生諸氏に心から感謝致します.
最後に著者が本研究を進めるにあたり精神的,経済的に支えて下さった妻,陽子と
両親に心から感謝致します.
70
参考文献
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統
計
調
査
結
果
報
道
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資
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74
permanent
付録
論 文 本 章 で は 回 転 液 中 紡 糸 法 に よ り 得 ら れ た Nd-Fe-B 細 線 が 永 久 磁 石 と し
て 性 能 を 示 さ な い 原 因 を 明 ら か に し た .一 般 的 に N d - F e - B 永 久 磁 石 が 磁 気 的 高
特性を得るメカニズムを永久磁石の基礎と共に本付録に記載しておく.また,
Nd-Fe-B 永 久 磁 石 の 代 表 的 な 作 製 方 法 も 記 載 す る .
永 久 磁 石 は 一 度 磁 化 し た ら ,そ の 磁 化 を 失 い 難 い 性 質 が 要 求 さ れ る .こ の 永
久 磁 石 が 外 に 貯 え る 静 磁 エ ネ ル ギ ー U は B を 磁 束 密 度 , H を 磁 界 強 度 , dv を
体積素片とするとき,
U=
1
B ⋅ Hdv
2 ∫∫∫
(1’)
となり,これが最大になる条件での使用がもっとも有利になる.着磁された磁
石 は , N, N’を 反 磁 界 係 数 , Ms を 飽 和 磁 化 , µ0 を 真 空 の 透 磁 率 と す る と ,
Hd = −
NM S
μ0
H d = − N ′M S
⎫
SI単位系 ⎪
⎬
CGS単位系⎪⎭
(2’)
で 表 現 さ れ る よ う な 自 分 自 身 の 磁 荷 に よ る 反 磁 界 H d の 中 に あ る .し た が っ て A
-1 に示すようにヒステリシスループの第 2 象限,つまり減磁曲線上で機能す
る こ と に な り , 反 磁 界 の 中 で 磁 束 密 度 を 減 少 す る こ と に な る が , (1’)式 で 理 解
されるように,静磁エネルギーが大きいほど,又体積が大きいほど性能が高い
こ と に な る .A - 1 に お い て ,B - H 曲 線 が 反 磁 界 軸 に 交 わ る 点 を 保 磁 力 H c ,M - H
曲 線 の そ れ を 固 有 保 磁 力 Hci と 呼 ぶ . 永 久 磁 石 と し て は B ⋅ H が 最 大 の と こ ろ で
用 い る の が 有 効 な 使 い 方 で あ り , こ れ は 最 大 エ ネ ル ギ ー 積 ( BH ) max と 呼 ば れ , 永
久磁石の性能指標として用いられる重要な特性である.最大エネルギー積を大
き く す る に は , ま ず 残 留 磁 束 密 度 B r( こ れ は 材 質 に よ っ て 決 ま る 固 有 の 値 ) が
高 い こ と が 第 一 条 件 で ,次 に 反 磁 界 に よ っ て 残 留 磁 束 密 度 B r が 減 少 し に く い こ
と , つ ま り , こ れ は 角 形 比 で 表 さ れ る 左 肩 が 張 っ た 形 状 ( Br/Bs が 1 に 近 い ほ
ど左肩が張る)であることが第二条件である.第三の条件は反磁界に負けない
保 磁 力 Hc を 有 す る こ と で あ る . 以 上 の 三 つ の 特 性 は 永 久 磁 石 の 三 要 素 と も 言
われ,結晶微細組織に依存するので,製造工程の保全が重要である.これに対
し ,飽 和 磁 化 M s や 固 有 保 磁 力 H c i は 材 質 が 決 ま る と ,ほ ぼ 一 定 に な る 材 質 固 有
75
の特性で,材料配合,原料管理等,素材設計,素材製造保全が重要で,勿論こ
れらの特性が高い値になるほど永久磁石には有利である.
B,M
Br Residual MagneticFlux Density
Ms SaturationMagnetization
Mr Residual Magnetization
M-Hcurve
Initial Magnetization curve
Bd
Demagnetizing curve
B-Hcurve
(BH)max
=Bd×Hd
Hci
Hc
A- 1
N
Hd
Demagnetizing curve of permanent magnet
A- 1
永久磁石の減磁曲線
先 に 述 べ た よ う に ,良 い 永 久 磁 石 の 基 本 は 保 磁 力 お よ び 残 留 磁 束 密 度 ( = 残 留 磁
化 ) の 増 大 で あ り ,角 形 比 を 1 に 近 づ け る こ と が 改 善 の 原 理 に な る .こ れ ら の 基
本になる結晶組織的モデルに単磁区微粒子があるので,単磁区微粒子の磁化機
構から考察する.
バ ル ク 状 強 磁 性 体 は 複 数 の 磁 区 構 造 を と り , A- 2 に 示 す よ う に , そ の 磁 化
過程は可逆的磁壁移動,不可逆的磁壁移動過程を経て,磁化回転で飽和に達す
る モ デ ル で 理 解 で き る . こ の 複 数 の 磁 区 構 造 は A- 3 で 理 解 で き る よ う に , 単
磁区による静磁エネルギーの増加を,最小限に抑えるためにとるもので,その
静 磁 エ ネ ル ギ ー は ( 1’) 式 に 示 し た 通 り で あ る .
76
M
Ms
Reversible rotation
of magnetic domain
Mr
Irreversible displacement
of domain wall
Reversible displacement of domain wall
H
A- 2
Magnetization of ferromagnetic material
A- 2
N
N
N
S
S
N
S
H
Ms
S
N
N
強磁性体の磁化過程
S
S
U = US
A- 3
S
U=
N
Us
U =0
Number of parted domains
U =0
Magnetic domains and magnetostatic energy
A- 3
磁区と静磁エネルギー
この静磁エネルギーは磁区の大きさ v を小さくするほど低くなるが,磁壁面積
が 増 え れ ば 磁 壁 エ ネ ル ギ ー は 増 大 す る . こ の 強 磁 性 体 を サ ブ ミ ク ロ ン ( 1μ m
未満)以下に小さくしていくと,あるサイズから磁壁の存在しない単磁区構造
になることが知られており,このような単磁区微細組織または物質を単磁区微
粒子と呼び,実用永久磁石製造にとっては重要である.
77
柱状あるいは針状の単磁区微粒子が,長手方向に一軸磁気異方性をもった場
合,これが高保磁力,角形比を 1 に近づけることに関係してくる.長手方向に
磁化容易軸をもつ単磁区微粒子では,長手方向に磁界を印加すると,ヒステリ
シ ス 曲 線 の 角 形 比 は ほ ぼ 1 に な り , 高 残 留 磁 化 (=高 残 留 磁 束 密 度 )が 得 ら れ る .
これに対し,磁化容易軸に垂直な印加磁界に対しては,残留磁化(残留磁束密
度)をもたない.
単磁区微粒子が一軸磁気異方性をもつメカニズムとしては,形状磁気異方性
と 結 晶 磁 気 異 方 性 が 重 要 で ,こ れ ら に よ る 保 磁 力 H c は ,次 の よ う に 表 さ れ る .
(形 状 磁 気 異 方 性 )
H C = M S / μ0
(4’)
(結 晶 磁 気 異 方 性 )
H C = 2K / M s
(5’)
ここで
μ0 は 真 空 の 透 磁 率 , K は 異 方 性 定 数 , M s は 飽 和 磁 化 で あ る .
以上のように単磁区微粒子の磁気異方性により発現する高保磁力性は,形状磁
気 異 方 性 メ カ ニ ズ ム( ア ル ニ コ 合 金 ,F e - C r - C o 合 金 ) や 結 晶 磁 気 異 方 性 メ カ ニ
ズ ム ( Nd2Fe14B, Ba フ ェ ラ イ ト 磁 石 ) が 重 要 で あ る .
形状磁気異方性
先 に 示 し た ア ル ニ コ 磁 石 や Fe-Cr-Co 磁 石 の 保 磁 力 発 現 メ カ ニ ズ ム は 形 状 異
方 性 に あ る . こ れ は , ス ピ ノ ー ダ ル 分 解 に よ り 磁 石 の 着 磁 方 向 に bcc 強 磁 性 相
を 細 長 く 成 長 さ せ る こ と に よ り , そ の 方 向 の 反 磁 界 Hd を 小 さ く し 磁 化 容 易 軸
とする事で異方性を得ている.
結晶磁気異方性
強磁性体やフェリ磁性体において結晶の方位により磁化のされやすさが異な
る.この磁化されやすい方向を磁化容易軸とよび,磁化されにくい方向を磁化
困難軸とよんでいる.このように結晶方向によって磁化のされやすさに差があ
ることを結晶磁気異方性という.特に磁化容易軸がひとつだけの場合を一軸磁
気 異 方 性 と よ び , Nd2Fe14B 永 久 磁 石 に お い て 重 要 な 性 質 で あ る . 結 晶 の 方 向
によって磁化に難易が生じるのは,外部磁場が無いときに磁化容易軸方向が最
も内部エネルギーが低く安定しているからである.
先に述べたように,ハード磁性材料の保磁力は,磁気異方性が重要な役割を
78
担 っ て い る .し か し ,こ れ ら の 磁 気 異 方 性 の 高 い 化 合 物 が 材 料 中 に 存 在 し て も ,
直接高い保磁力に結びつく訳ではない.永久磁石に限らず,磁性材料は,自発
磁化に伴って発生する静磁エネルギーを緩和するために,材料内に磁壁を形成
して磁区構造を形成する.ただし,粒子径が十分に小さい場合など,磁壁の生
成により系全体のエネルギーが勝って大きくなる場合には磁壁は導入されず,
単磁区粒子として振舞う.一般に,異方性磁界が高い化合物においても,材料
内に導入された磁壁は外部磁界によって容易に移動する.このことは「磁壁が
存 在 ( ま た は 発 生 ) す る と 磁 化 の 反 転 が 容 易 に 起 こ る 」と い う こ と と 同 義 で あ り ,
磁壁の存在は「
, 外 部 磁 場 が 付 与 さ れ て も ,材 料 内 の 磁 化 の 変 化 が 起 こ り に く い 」
というハード磁性材料の性質を阻害する要因になる,と理解できる.したがっ
て,高い保磁力を得るためには,
(1)
磁 壁 の 発 生 し な い 単 磁 区 粒 子 径 以 下 の 粒 子 径 (結 晶 粒 径 )と し , 磁 化
反 転 が 磁 気 モ ー メ ン ト の 回 転 の み で 進 行 す る よ う に す る .( 単 磁 区
粒子型磁石)
(2)
磁 壁 の 発 生 を 抑 制 す る .( ニ ュ ー ク リ エ ー シ ョ ン 型 磁 石 )
(3)
磁 壁 の 移 動 を 妨 げ る .( ピ ニ ン グ 型 磁 石 )
のいずれかを実現することが有効となると予想できる.
単磁区粒子型磁石
単磁区粒子型磁石では,磁壁移動を伴わず,磁気モーメントの回転のみにより
磁化が反転する.材料内で一方向に揃った磁気モーメントが一斉に回転する場
合 の 磁 化 過 程 は , S t o n e r - Wo h l f a r t h モ デ ル で 記 述 さ れ る [ 3 4 ] . 一 斉 回 転 モ デ ル
に お け る 磁 化 反 転 の 模 式 図 を A- 4 に 示 す .
79
H ≥ H A (= H C )
H ≥ H A (= H C )
H ≥ HA
Invert all together
A- 4
Magnetization inversion
Vi e w s h o wi n g a fr a m e f o r m a t o f m a g ne t i za t i o n i n v e r s i o n w i t h si n g l e
domain particle magnet
A- 4
単磁区粒子型磁石(一斉回転モデル)における磁化反転機構の模式図
一 軸 異 方 性 を 有 す る 物 質 の 異 方 性 磁 界 HA は
H A = 2KU / μ 0 M S
( 6 ’)
と な る .た だ し K U を 異 方 性 定 数 ,μ 0 を 真 空 の 透 磁 率 ,M S を 飽 和 磁 化 と す る .
実 際 の 材 料 で は , 保 磁 力 Hc が HA の 数 分 の 一 以 下 に な る 場 合 が 多 い . こ れ は ,
磁化反転モード一斉回転以外となっているなどの要因が考えられる.
ニュークリエーション型磁石
ニ ュ ー ク リ エ ー シ ョ ン 型 磁 石 の 典 型 的 磁 化 反 転 モ デ ル で は A- 5 に 示 す よ う に ,
局所的な磁化反転核とそれに伴う磁壁が生成し,その後,磁壁が容易に移動し
て,磁化回転が進行する.
80
Magnetic anisotropy:low
and/or
demagnetizing field
Domain wall
H = HC
H ≥ αH A − NM S
A- 5
H = HC
Creation of reverse
Magnetization inversion
magnetic domain
is easily done
Vi e w s ho w i n g a f r a m e f o r m a t o f m a g n e ti z a t i o n i nv e r s i o n w i t h
new-creation type magnet
A- 5
ニュークリエーション型磁石における磁化反転機構の模式図
反 転 核 が 生 成 す る 外 部 磁 場 H は , 結 晶 が 完 全 な ら 異 方 性 磁 界 HA と 等 し く な る
が,実際には,結晶や粒子の一部分の異方性磁界が低下していたり,局所的に
反 磁 界 が 大 き く な っ て い た り す る た め に , HA よ り 小 さ い 外 部 磁 界 H で 反 転 核
が 生 成 し , こ れ が 保 磁 力 HC を 決 定 し て い る と 予 想 さ れ る . こ れ を 数 式 化 す る
と
H C = αH A − NM S
( 7 ’)
となる.第一項は異方性磁界の局所的な低下を示しており,係数αは 1 以下の
値をとる.また第二項は局所的な反磁界の大きさを示しており,反磁界係数 N
は対象とする結晶粒の形状のほかに,隣接した結晶粒からの影響など,様々な
要因を反映した値となる.
ピニング型磁石
ピニング型磁石の典型的な磁化反転モデルでは,ピニングサイトに補足される
ことによって移動を妨げられた磁壁が,外部磁界によってピニングサイトを脱
出すると,磁化反転が進行していく.磁壁のピニングは,母相とピニングサイ
81
Pinning site
Domain wall
H≥
1 ⎛ ∂σ ⎞
JS ⎜
⎟
2 ⎝ ∂x ⎠ max
Domain wall leave by
pinning site
A- 6
Pinning site
H (= H C )
H (= H C )
The reversal of
magnetization
progresses
Vi e w s ho w i n g a f r a m e f o r m a t o f m a g n e ti z a t i o n i nv e r s i o n w i t h pi n n i n g
type magnet
A- 6
ピニング型磁石における磁化反転機構の模式図
トの磁壁エネルギーの差が大きく,かつピニングサイトとなる領域のサイズが
磁壁の幅に近い場合に顕在化する.この磁壁エネルギー差を生じる要因のひと
つ と し て は ,母 相 と ピ ニ ン グ サ イ ト の 異 方 性 エ ネ ル ギ ー E A ( 異 方 性 磁 界 H A ) の 差
が挙げられる.保磁力は,磁壁がピニングサイトを脱出できるだけの静磁気エ
ネ ル ギ ー を 得 る た め に 外 部 か ら 与 え ら れ た 磁 界 の 大 き さ で 記 述 さ れ , 180°磁
壁を有する磁性体の磁化容易方向に磁界を付与した場合,
HC =
1 ⎛ δσ ⎞
⎜
⎟
2 μ 0 M S ⎝ δx ⎠ max
( 8 ’)
で記述される.ここで,σは磁壁エネルギー,x は磁壁の移動方向における変
位 , (δσ / δx) max は , (δσ / δx) の 最 大 値 で あ る .
82
● Nd-Fe-B 永 久 磁 石
希土類元素と鉄族遷移元素からなる金属間化合物の磁性が研究され始めたのは
1960 年 代 初 め で あ る .一 連 の 相 の 存 在 ,そ の 結 晶 構 造 と 磁 性 が 明 ら か に さ れ て い く 中
で,中には高い保磁力を持つものも見出されていたが,当初は永久磁石材料としての
認 識 は 薄 か っ た . 1960 年 代 半 ば , Y-Co 系 化 合 物 の 単 結 晶 に よ る 結 晶 磁 気 異 方 性 の 研
究 が , K. Strnat に よ っ て 行 わ れ た . こ の 研 究 に よ っ て こ れ ら 一 群 の 金 属 間 化 合 物 の
中には高い飽和磁化と高い結晶磁気異方性が共存し,すなわち,永久磁石としての高
いポテンシャルをもつものがあることがその道の研究者には明確に認識され,希土類
磁 石 の 開 発 が ス タ ー ト し た [35].
そ の 結 果 1970 年 代 の 初 め に は SmCo 5 の 希 土 類 磁 石 が 登 場 し , 1970 年 代 半 ば に は
Sm 2 Co 1 7 の 希 土 類 磁 石 が 工 業 化 さ れ た . さ ら に 1980 年 代 に は , 佐 川 の 発 明 に な る
Nd-Fe-B 系 の 希 土 類 磁 石 が 時 代 の ニ ー ズ に も マ ッ チ し て 急 速 に 発 展 ,工 業 化 さ れ て 今
日 に 至 っ て い る [21].
マイクロマシンには磁石を微細加工して使用する.微小な永久磁石を利用するた
めには高エネルギー積を有する永久磁石であるほうが好ましい.よって,近年盛んに
利 用 さ れ て い る 高 エ ネ ル ギ ー 積 な Nd-Fe-B 系 永 久 磁 石 に 関 し て 以 下 に ま と め る .
A- 7
Schematic drawing of the crystal structure of Nd 2 Fe 1 4 B[21]
A- 7
正 方 晶 系 Nd 2 Fe 1 4 B 型 結 晶 構 造 [21]
83
Nd 2 Fe 1 4 B 型 化 合 物 の 結 晶 構 造 は 正 方 晶 系 の Nd 2 Fe 1 4 B 型 結 晶 構 造 で あ る .A- 7 に
Nd 2 Fe 1 4 B 型 結 晶 構 造 を 示 す .こ の 構 造 は Nd 2 Fe 1 4 B の 発 見 に よ っ て は じ め て 知 ら れ た
構 造 で あ る . ホ ウ 素 は Nd 2 Fe 1 4 B 型 結 晶 構 造 を 安 定 化 し , Fe の 3d 電 子 バ ン ド 構 造 を
「コバルトのように」変化させ,キュリー温度の上昇に寄与している.C 軸方向の座
標 を z と す る と , 希 土 類 は ホ ウ 素 と と も に z=0 と z=1/2 の 面 に 存 在 し , 鉄 原 子 の 大 部
分 は そ れ ら の 間 に σ 層 と 呼 ば れ る 稠 密 な 層 を 形 成 し て い る ( 鉄 の 原 子 間 距 離 は α -Fe
の 0.25nm に 極 め て 近 い ).希 土 類 サ イ ト と し て 4f と 4g の 2 種 類 が 存 在 す る が ,い ず
れ も (001)面 内 に 隣 接 希 土 類 イ オ ン , c 軸 方 向 に 稠 密 な 鉄 層 を 持 つ 結 果 , 結 晶 電 場 は 量
子 化 軸 方 向 に 縮 ん だ 4f 電 子 分 布 を も つ R イ オ ン ,す な わ ち Pr 3 + ,Nd 3 + ,Tb 3 + ,Dy 3 + ,
Ho 3 + に 一 軸 異 方 性 を 与 え る . Fe サ イ ト は 4c, 4e, 8j 1 , 8j 2 , 16k 1 , 16k 2 の 6 個 が 存
在する.
この結晶構造をもったバルク磁石の製造方法は粉末焼結法と樹脂成形法の 2 種類に
大 別 で き , 以 下 に そ の 工 程 を 示 す [36].
●粉末焼結法
希土類永久磁石の最も一般的な製造方法は粉末治金法で,粉末を成形し成形体を焼結
して製品とする方法である.以下にまとめる.
(1)
合金調整
原料となる金属を配合し,高周波誘導過熱によって溶解,合金化する.希土類金属
は追いチャージによって導入するのが普通である.
(2)
粉砕
希土類磁石の溶解インゴットは硬くて脆い金属間化合物で,容易に粉砕できる.粉
砕は段階的に道具を変えて行われる.第 1 段階は「叩き割る」で,スタンプミルやジ
ョ ー ク ラ ッ シ ャ ー な ど に よ っ て 行 わ れ る .第 2 段 階 は 碾 き 臼 の 原 理 で ブ ラ ウ ン ミ ル な
ど に よ り「 磨 り 潰 す 」.こ こ ま で で 数 100μ m 程 度 の 粗 粉 が 得 ら れ る .こ の 粗 粉 を さ ら
に 細 か く 粉 砕 し ,平 均 粒 径 3~ 5μ m の 単 結 晶 微 粉 と す る [37].微 粉 化 の た め 以 前 は ボ
ールミルが採用されたこともあったが,現在はもっぱらジェットミルが用いられる.
ジェットミルは不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ,この
高速ガス流により粉体の粒子を加速する.粉体の粒子同士の衝突やターゲットあるい
は容器壁との衝突を発生させて,破砕する方法である.循環する流れに従って,この
84
衝突は繰り返し行われるが,サイクロンを併用し微細粉より回収する.このサイクロ
ンの分級作用によって比較的粒径分布の狭い微粉が得られる.また,ボールミルのよ
うな粉砕メディアを用いないので汚染が少なく,不活性ガス中の水分や酸素量をコン
ト ロ ー ル す る こ と に よ り ,酸 化 を 少 な く す る こ と が で き る .こ の よ う な 特 徴 に よ っ て ,
ジェットミルは希土類磁石の原料粉の一般的な製造法となっている.しかし,ボール
ミルに比べ設備費とランニング費用が高く,また生産性が低いため生産コストは高く
なる.
(3)
成形
電磁石中に置かれた金型内に微粉を充填し,磁場印加によってその結晶軸を配向さ
せた状態で加圧成形する.
微 粉 末 の 充 填 密 度 を 25%程 度 と し ,0.8MA/m 以 上 の 磁 場 中 で ,10 8 N/m 2 前 後 の 圧 力
で 成 形 し て 見 か け 密 度 55% 程 度 の 成 形 体 を 得 る . 磁 場 は 当 然 高 い ほ う が よ い が , 電
磁石の製作上制約を受ける.微粉末の充填度を高くすると,粉末同士の摩擦のため上
述の配向が阻害されて,配向度が低くなる.
磁場の印加方向は,当然最終的に製品が着磁されるべき方向である.このため,製
品の形状によって磁場方向と加圧方向の関係が制約される.磁場方向と加圧方向が平
行な場合を縦磁場成形,垂直な場合を横磁場成形と呼んでいる.一般に横磁場成形の
方 が 縦 磁 場 成 形 に よ る よ り も 配 向 度 が 高 く , 10%程 度 高 い 磁 石 特 性 が 得 ら れ る . 特 性
上は横磁場成形が望ましいが,製品形状によっては横磁場成形が困難で,縦磁場成形
によらざるを得ない場合がある.
(4)
焼結
希土類磁石の焼結は,真空またはアルゴンガス雰囲気で行われる.焼結温度は
Nd 2 Fe 1 4 B 磁 石 が 1100℃ , SmCo 5 磁 石 が 1200℃ , Sm 2 Co 1 7 磁 石 が そ れ よ り や や 高 く
1250℃ の 近 傍 で あ る .以 上 の 焼 結 温 度 は 目 安 で あ り , 組 成 ,粉 砕 方 法 ,粒 度 と 粒 度 分
布の違い,同時焼成の量などの条件によって加減する必要がある.焼結温度での保持
時 間 は 1 時 間 程 度 で 十 分 で あ る .焼 結 に よ っ て 真 密 度 の 97%か ら 99%の 密 度 ま で 容 易
に 緻 密 化 さ れ る .成 形 体 の 密 度 は 50%程 度 な の で ,焼 結 に よ る 収 縮 率 は 80%前 後 で あ
る . Nd 2 Fe 1 4 B 磁 石 は 収 縮 が 異 方 的 で あ り , 磁 化 方 向 が よ り 収 縮 す る . 焼 結 に よ っ て
密 度 化 と と も に 粒 成 長 が 起 こ る .Herzer の 報 告 に よ る と 高 い 保 磁 力 を 得 る た め 結 晶 粒
径 は 小 さ い ほ う が 望 ま し い と さ れ て い る [37]. し か し , 各 系 列 の 化 合 物 別 に 密 度 化 到
85
達時点での粒径はほぼ決まってしまい,任意に制御するのは難しい.粒成長を阻害す
る添加物として知られているものもあるが,際立った効果は薄い.飽和磁化などの特
性を劣化させるので少量を添加するのが好ましい.出発原料の粒径が小さいと,それ
を使用した焼結体の粒径も小さくなるので,微粒化と酸化制御を併用することが望ま
しい.
(5)
熱処理または時効
保 磁 力 を 制 御 す る 重 要 な 工 程 で あ る . A- 8 に 焼 結 , 時 効 の 熱 処 理 パ タ ー ン の 一 例
を 示 す . こ の 図 に 示 し た 490℃ 近 傍 の 熱 処 理 で 保 磁 力 が 大 き く 増 加 し , 必 須 の 熱 処 理
で あ る . さ ら に , 同 図 に 示 し た 950℃ の 熱 処 理 を 焼 結 時 に 行 う と , 保 磁 力 増 大 に 有 効
な 場 合 が あ る .490℃ 近 傍 の 温 度 は Nd リ ッ チ 相 が 液 相 と な る 三 元 共 晶 点 の 付 近 で あ り ,
粒界の構造を滑らかにトリートメントし,逆磁区発生サイトを抑制する働きがあると
考えられている.
Temperature (℃ )
焼結
1000
~ 11 00 ℃
高温熱処理
急冷
低温熱処理
500
~ 5 00 ℃
急冷
0
A- 8
~ 9 50 ℃
Time
One example of conditions of sintering and heat-treating
of Nd 2 Fe 1 4 B magnet
A- 8
(6)
Nd 2 Fe 1 4 B 磁 石 の 焼 結 , 熱 処 理 条 件 の 一 例
加工
希土類永久磁石の製造法は通常のセラミックスと同じであるが,磁場成形を必要と
す る た め 製 品 の 形 状 任 意 性 が 制 限 さ れ ,く わ え て 寸 法 精 度 が 悪 く 後 加 工 が 避 け が た い .
寸法精度が悪い理由は以下の通りである.
z
きわめて流れの悪い粉であるにもかかわらず,通常用いられる造粒が磁場配向を
阻害するため行われていない.したがって,フィードの定量性を保つのが困難で
86
ある.
z
フィードの嵩が高く,均一なフィードができない.さらに,押台が大きいため均
一な加工が困難である.
z
磁場による粉体の偏りが均一な加圧の阻害要因となる.
z
形状と加圧方向の制限により,不自然な加圧方向を強いられることがある.
z
Nd-Fe-B 磁 石 で は 磁 化 方 向 と そ の 垂 直 方 向 で 焼 結 時 の 収 縮 率 が 異 な る .
このような理由から均一加工の困難性が成形体密度のバラツキをもたらし,厳密な制
御を困難にしている.磁場プレス生産性は通常のセラミックスの場合のそれに比べ桁
違いに悪い.これをカバーするため,小物磁石の製作では大ブロックを作り切断して
製品化する場合もあって,一層加工量を増やしている.希土類永久磁石においては鋳
放し製品は皆無に等しい.
(7)
表面被覆
Nd 2 Fe 1 4 B 磁 石 は 錆 び や す く , 環 境 に よ っ て は 腐 食 に よ る 特 性 劣 化 が 起 こ る . そ の
た め , 耐 食 性 の コ ー テ ィ ン グ が 必 要 で あ る . A- 9 に 表 面 処 理 方 法 と 代 表 的 用 途 及 び
特 徴 を 示 す [15].
87
A- 9
Surface treatment method of Nd-Fe-B sintered magnet,
applications and characters
A- 9
Nd-Fe-B 焼 結 磁 石 の 代 表 的 な 表 面 処 理 方 法 と
それらの代表的用途および特徴
耐湿
耐塩
潤性
水性
○
○
(μ m)
寸法精度
用途
絶縁性
表面処理
接着耐久性
耐食性
標準膜厚
耐熱性
( ≧ 3 0 0℃ )
センサ,スピー
エコアル
カ ,光 ピ ッ ク ア ッ
ミコーテ
5~ 2 0
◎
○
○
◎
○
○
○
(○ )
○
○
(○ )
○
○
○
アルミ
プ ,ア ク チ ュ エ ー
ィング
タ,電装モータ
家電用コンプレ
ピュアア
ルミコー
1 0~ 2 0
ッ サ モ ー タ ,全 閉
○
型モータ
ティング
VCM , セ ン サ ,
ニッケル
ス ピ ー カ ,ウ ィ グ
1 0~ 2 0
コーティング
◎
○
ラ ,ア ン ジ ュ レ ー
タ,各種モータ
ス ピ ー カ ,電 装 モ
銅コーティング
1 0~ 2 0
◎
ー タ ,各 種 モ ー タ
窒化チタン
アンジュレータ,
5~ 7
コーティング
○
ウィグラ
家電用コンプレ
ケイ酸
ッ サ モ ー タ ,二 輪
塩系薄
○
無機系薄膜
(薄 膜 )
モ ー タ ,低 腐 食 環
膜コー
境用途
ト
家電用コンプレ
酸化物
ッ サ モ ー タ ,二 輪
系表面
改質
モ ー タ ,低 腐 食 環
処理
境用途
≦ 10
◎
(○ )
<1
高耐食性無機塗
◎
(○ )
<2
○
(薄 膜 )
塩 害 環 境 用 途 ,電
○
88
◎
○
○
○
装(無機複合コ
装 モ ー タ ,風 力 発
ート)
電機等
電着塗装
電 装 モ ー タ ,各 種
1 0~ 3 0
○
○
○
○
○
◎
(○ )
◎
○
モータ
絶 縁 用 途 , CD ピ
樹脂真空蒸着
5~ 1 5
ックアップ
表 面 処 理 方 法 に は 湿 式 (電 気 め っ き 及 び 無 電 界 め っ き )法 ,乾 式( 蒸 着 ,化 学 イ オ
ン蒸着など)法,及び塗装などがあり,目的に応じて適用される.めっき層は要
求される機能を満たすために多層とする場合が多い.静浄性が要求されるハード
デ ィ ス ク ド ラ イ ブ 用 の VCM に 対 し て は ニ ッ ケ ル め っ き ( 湿 式 ), 接 着 信 頼 性 が 要
求 さ れ る サ ー ボ モ ー タ な ど の 磁 石 表 面 実 装( SPM)式 回 転 子 に は ア ル ミ コ ー テ ィ ン
グ ( 乾 式 ), 超 高 真 空 度 で 磁 石 か ら の 脱 ガ ス を 嫌 う 真 空 封 止 式 ア ン ジ ュ レ ー タ な ど
の 用 途 に は 窒 化 チ タ ン コ ー テ ィ ン グ (乾 式 )が 優 れ て い る .表 面 処 理 層 は 磁 気 回 路 の
観点からは磁気ギャップ層として働くので,その厚みは薄いほど良い.また,電
気めっき法では磁石のエッジ部分の電解集中効果によりエッジ部分のめっき層が
厚くなる現象がドッグボーンとして知られている.この現象は磁石材料の寸法精
度に悪影響を及ぼすので,磁石の稜の部分に小さな曲率半径でアール加工を施す
などの,種々の対策が講じられている.
(8)
着磁
着磁法には静磁場によって行う方法と,パルス磁場による方法がある.飽和に近い
着 磁 状 態 を 得 る た め の 目 安 と し て , 自 発 保 磁 力 の 少 な く と も 1.5 倍 , 望 ま し く は 2 倍
程 度 の 着 磁 磁 場 強 度 が 必 要 で あ る . 希 土 類 磁 石 の 場 合 , 一 般 的 に は 20 kOe 以 上 の 着
磁 磁 場 が 必 要 で あ る . た だ し , Nd-Fe-B 磁 石 の 着 磁 磁 場 は 保 磁 力 に あ ま り 依 存 せ ず ,
20 kOe 程 度 で よ い と 言 わ れ て い る .静 磁 場 に よ る 着 磁 法 は ,大 き な 磁 石 を 着 磁 す る 場
合に用いられる.磁場発生には通常電磁石が用いられるが,被着磁磁石体の大きさに
よっては超伝導磁石を用いるのが有利である.
パルス磁場による着磁では短時間で着磁できるので,着磁サイクルを上げられ生産
性が高い.このため量産工程では多用される.
89
●樹脂成形法
永久磁石の主たる製造法は前項の焼結法であるが,このほかに磁石の粉末を樹脂や
ゴムで固めるだけという単純素朴な方法が実際に用いられている.身近にはホワイト
ボード用のペーパークリップ,乗用車の初心者マークなどがある.磁石のエネルギー
積 は 飽 和 磁 化 M s の 2 乗 に 比 例 す る .し た が っ て 充 填 密 度 の 2 乗 に 比 例 し て 低 下 す る .
例 え ば 粉 末 充 填 率 が 50%で あ る と ,エ ネ ル ギ ー 積 は バ ル ク 磁 石 に 比 べ て 25%に 落 ち る .
このことは,エネルギー積あたりの材料効率は半分になることを意味する.それにも
かかわらず,このような樹脂結合磁石(以下ではボンド磁石と呼ぶ)が,材料費の高
い希土類磁石にまで採用され,かなりの市場を形成している.その理由を以下に述べ
る.
z
工程が単純で磁性粉さえ入手できれば少ない投資で製品がすぐできる.
z
機械加工を要せず最終製品形状が得られる.
z
加工ロスが小さい.焼結磁石の加工ロスを考えると上述のエネルギー積あたりの
材料効率もそう違わない製品も多い.
z
ボンド磁石でなければできない形状がある.
z
他部品に挿入成形が可能で組み立て費用を節減できる.
z
ボンド磁石でなければ性能が出ない製品がある.
(1)
ボンド磁石用磁性粉
ボ ン ド 磁 石 用 Nd 2 Fe 1 4 B 粉 は 焼 結 磁 石 と は ま っ た く 異 な る 製 造 法 で 作 ら れ る . 溶 融
液体金属の超急冷である.原料合金の溶湯を回転する銅ロールの上に噴射して,急冷
し リ ボ ン 状 の 製 品 と し て 回 収 す る .そ の 後 リ ボ ン を 粉 砕 し ,ボ ン ド 磁 石 用 粉 体 を 得 る .
急 冷 薄 帯 は 大 部 分 が Nd 2 Fe 1 4 B 微 結 晶 か ら な り , そ の 微 結 晶 の 大 き さ が 保 磁 力 を 決 め
る.
(2)
ボンド磁石製造プロセス
以下にボンド磁石製造工程を示す.基本的には樹脂と磁性粉を混合して固めるだけ
であるが,いかにして磁性粉量を増やすかが重要である.磁性粉と樹脂を混合もしく
90
は混練してペレット化した原料を用いる.これを圧縮,射出,押出しなどの手段によ
り成形し,その後硬化させる.
プラスチック
磁石粉末
助材
磁石粉末
粒度調整
加 熱 混 練・造 粒
射出成形機
造粒粉セット
バインダ混合
被覆
磁場中射出成形
磁場中配向
冷却
加工成形
成形体取出
バインダ含浸
脱磁
キュア処理
着磁
着磁
(a)射 出 成 形 磁 石
A- 1 0
(b)圧 縮 成 形 磁 石
Fabrication process of bond magnet
A- 1 0
ボンド磁石の製造工程
以上がバルク材の永久磁石として焼結磁石とボンド磁石の作製工程である.
ここで,焼結磁石とボンド磁石の保磁力発現機構について触れておく.焼結磁石と
ボンド磁石の保磁力機構は異なると解釈されている.多くの議論はあるものの焼結磁
石は逆磁区核発生の抑制が保磁力の大きさに影響するといわれている.これは,
Nd 2 Fe 1 4 B 単 結 晶 微 粒 子 の 一 部 が 逆 磁 区 発 生 の 芽 と な り , 磁 区 構 造 が 伝 播 す る と い う
ものである.したがって,焼結磁石の保磁力を増大させるためには,焼結後の熱処理
に よ り 逆 磁 区 発 生 サ イ ト を 除 去 さ せ て い る [38]. 一 方 , ボ ン ド 磁 石 は 超 微 細 組 織 が 保
91
磁力の大きさを決めており,急冷速度の適正化によって保磁力が発現することが確認
さ れ て い る [39].
焼結磁石は非常に多くの工程を経て製品となっていることがわかる.本研究で目標と
している細線形状の焼結磁石を作製する場合,寸法精度が悪いために,さらにバルク
材からの切り出しという作業が必要である.この方法では,原料粉末の歩留まりが低
く,また微小加工に労力を要することから,コストがかかるという欠点がある.また
上述したようにボンド磁石は樹脂を使用する場合には磁石含有量が焼結体に比べて少
な く な る と い う 問 題 が あ る .圧 縮 成 型 時 に は 588~980 MPa の 高 圧 を 必 要 と す る た め ,
成型品を金型から抜き出す際にスプリングバックが生じやすい.
92
Fly UP