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日本語版 - 同志社大学
最後に82年2月、スンナ派の保守的な住民が 多かったハマという第4の都市全体を包囲して ≪10分でわかるシリア内戦≫ 政府軍が猛攻撃をかけ、街中から成人男性が 消滅した。 はじまりは、2010年末に始まった「アラブ の春」。チュニジア、エジプトなどと前後し てシリアにも2011年4月に民主化運動が飛び火。 最初は小規模な反政府運動だった。 多くの専門家は、シリアでは反政府運動は こういう残虐なことをしたために、その記 憶は市民のあいだに深い傷として残った。 父親の死後、2000年にいまのバッシャール が世襲で権力を継承。ほんとは彼ではなく兄 が次ぐはずだったが交通事故で死亡。ロンド 起きないとみていた。1980年代の初頭に、 ンで眼科医をしていた次男のバッシャールが ムスリム同胞団というイスラーム組織が、今 呼び戻された。 のバッシャール・アサド大統領の父親、 世の中、9・11の衝撃で反イスラーム感情が ハーフィズ・アサド大統領の政権にさからっ 世界的に高まったが、すでに80年代には保守 てテロを繰り返した。最初のうち、政府側も、 的なイスラーム主義勢力を叩き潰してしまっ ムスリム同胞団だけを狙い撃ちにして、闇か たシリアの政権は、欧米からむしろ歓迎され ら闇に葬っていたのだが、そのうち大規模な たし、それを利用して「テロと戦うアサド政 騒乱やテロに拡大。1982年には空軍省ごと爆 権」を売り物にしていた。その点では、いま、 弾で吹き飛ばすなどの派手なテロに。【我が 内戦下でもアサド政権側は一貫して「自分た 家もガラス窓を吹き飛ばされた】 ちはテロリストと戦っているのであって一切 Istanbul Countdown News No.7 妥協しない。なぜ、国際社会は自分たちを助 けてくれないの?」と言い張っている。 バッシャールが大統領職を継いでしばらく、 「ダマスカスの春」と言われたように平和で 安定した状況が続いた。独裁ではあるが、 ※当日資料として各自プリントアウトし持参してください。 [主催] 同志社大学高等研究教育機構/同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科/同志社大学大学院理工学研究科 経済活動の自由は保障していたためである。 その中核にあるのは、ムハーバラートとよ 案外このままうまくいくかな、という時に、 ばれた諜報機関。なかでも、軍のムハーバ 2011年、反政府運動が相次ぎ、政権側は、父 ラートは泣く子も黙る機関で、にらまれたら アサドの時代の苛烈な弾圧を再現し、いまの 最後、生きてシャバに戻ることはできない。 内戦状態に陥った。 そこに、親衛隊のような組織が加わっていて、 さて、アサド政権の中核は、スンナ派ムス リムではなく、アサド家を含めてアラウィと どうしようもなく強権的な体制だった。いま も基本的に同じような構造。 いう少数宗派。彼らはシーア派に近いと主張 しているが、それは、イランとの良好な関係 シリアというのはたいした地下資源もない を維持するための方便であって、実際には、 し、工業は発展していない。まったくモノづ ほとんど似ていない。土着の宗教とイスラー くりに向いていない。徹頭徹尾、商人の国で ムなどが混淆したものと言われているが、そ ある。商人たちにとって、領域国民国家なん もそも実態がはっきりせず教典のようなもの てどうでもよく、経済活動は同族間もしくは もなく口頭伝承でサークルの中で継承されて ダマスカスやアレッポのような古代からの蓄 いるため、よくわからない。 積をもつ商人都市を舞台に展開されてきた。 長いこと、スンナ派からは異端あつかいさ れ、差別されてきたことは事実。そんなアラ ダマスカスやアレッポは3000年の歴史をもつ 商業都市である。 ウィ派が、先代大統領ハーフィズ・アサドの 冷戦時代にはソ連、そのあとはロシアが、 ときにバアス党という組織を基盤に、1970年 (到底好んで援助しているとは思えないが) にクーデタを起こして政権を奪取した。【バ どうしてもシリアを手放すことができずに援 アス党というのは、社会主義アラブ復興党の 助を続けてきた。 意味。宗教色なく、民族主義と社会主義をま 手放すことができないのは、他に、中東で ぜてアラブの統一を主張して、一時人気が ロシアの橋頭堡になるような軍事基地をもて あったがいまは凋落。以前はイラクもバアス る国はないからである。無神論のソ連の後継 党だったがこちらもフセイン政権が単なる独 国であるロシアなど、中東地域では、どの国 裁になってしまい、バアス主義なるものは見 も受け入れようとしない。しかし、ロシアに る影もなくなっていた】 とっては、シリアを失うと中東でのプレゼン シリアの場合、アラウィ派がクーデタを起 スはほとんどゼロになってしまうから、絶対 こしたのではなく、あくまでバアス党の軍人 にシリアを手放さない。ロシア軍基地の大き がクーデタを起こしたのだが、中心人物の父 いのは地中海沿岸のタルトゥースにある。 アサドは、虐げられてきたアラウィ派によっ シリア側もそこを知り尽くしていて、徹底 て権力を固め、そこに、アラウィ以外のスン 的に、ロシアからむしり取れるものは取ろう ナ派やキリスト教徒も取り巻きに加わって堅 とする。見方を変えると、ロシアは、悪いや 固な権力基盤が形成された。 つに捕まって、とことん貢がされているよう なものである。 ※当日資料として各自プリントアウトし持参してください。 [主催] 同志社大学高等研究教育機構/同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科/同志社大学大学院理工学研究科 あの、プーチンのロシアに対して、そういう 【アサド政権が、しきりと自分たちこそイス 芸当ができるのはシリアしかない。【シリア ラーム原理主義、アル・カーイダの防波堤だ が米ロのような大国を手玉にとるのは今回が と言い張っているのはそのためである】 初めてではない。ちょうど冷戦が終結するこ 当初、自由シリア軍というのが、アサド政 ろ、1991年に湾岸戦争が起きたが、このとき、 権と戦っているとされた。しかしこの自由 シリアは一夜にしてアメリカ側に寝返って多 シリア軍は、アサド政権のシリア軍から離脱 国籍軍に参加し、イラクと戦った。ちょうど して、あわよくば政権を倒したら大儲けしよ ソ連が崩壊して援助してくれそうもなかった うという不純な動機の軍人たちの烏合の衆。 のでシリアには好都合であった】 どうしようもなくモラルのない軍閥集団。 結局、シリアという国は7割がたスンナ派ム しかし、アメリカをはじめ、西欧諸国は、 スリム、残りの2割ぐらいがキリスト教徒 ロシアやイランの息のかかったアサド政権よ (あの辺は発祥の地なので、それこそ原始キ りは、こっちがましだろうというので支援し リスト教からカトリックまで実にさまざまな てきた。先のジュネーブ2というシリア和平 宗派のキリスト教徒がいる)、残りがアラ 会合の反体制側主役をつとめた国民連合も、 ウィ(1割ほど)など。 シリアから逃げた連中の集まりで国民の支持 アラウィ派のアサド政権は、こういう宗教 バランスの国を統治するために、徹底して は不明。 さらに、イスラーム主義の武装組織が誕生 「世俗路線」をとっていて、別に、キリスト したり、外からはせ参じたりして話をややこ 教でもユダヤ教でもイスラームでも、逆らわ しくしてしまった。 ない限りは弾圧しませんよ、という姿勢を 保っていたのである。 ただ、前述のように、スンナ派ムスリムは ひとつはヌスラ戦線。これは主にシリア人 からなるイスラーム主義武装組織。もう一つ はISIS(ISILとも)というもので、『イラクと 1980年代初頭に、父アサドに思いっきり逆 シャーム(シリアのアラビア語読み)のイス らったから、たえず疑いの目を向けられ、 ラーム国』というイスラーム主義武装組織。 イスラーム主義組織は潰され、敬虔な信徒ほ 困ったことに、今現在、この二つが衝突し ど消されやすいという状況は変わらなかった。 ていて、トルコ国境のキリスの向こう側にあ 今回の内戦は、基本的にはアラウィを基盤 るシリア第二の都市アレッポで両者がにらみ とするアサド体制 vs. スンナ派ムスリムの衝突 合い、2月末に、ISISを追い払い、このあたり ではあるけれど、政権側にはスンナ派ムスリ のイスラーム主義組織はヌスラに一本化され ムもいるから宗教対立としてとらえるのは無 た。ヌスラ戦線もアル・カーイダ系。自由シ 理。世俗的なアラウィとスンナ派等の裏切り リア軍とヌスラ戦線は当然のことながら反ア 者が結託して、世俗的なシリアという国家を サドなのに敵同士。 維持することを装って正当性を世界に訴え、 こうやって、いっこうにまとまらずに政府 反政府勢力と戦うという構図になっている。 軍と戦うから、ずるずる内戦状態に陥って、 出口が見えない状況にある。 ※当日資料として各自プリントアウトし持参してください。 [主催] 同志社大学高等研究教育機構/同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科/同志社大学大学院理工学研究科 アサド政権を支持している外国勢力・・・ ロシア、イラン、北朝鮮、中国 反政府側を支持している外国勢力・・・ MEMO トルコ、サウジアラビア、カタル、欧米諸国 国連安保理は和平にまったく役に立たない。 常任理事国のうちロシア、中国はアサド政権 側、アメリカ、イギリス、フランスは反政府 側。ただし、ヌスラは敵。自由シリア軍サイ ドについている。 2013年8月22日に、アサド政権軍は、サリ ンを含む化学兵器を搭載したミサイルでダマ スカス近郊の村を攻撃。かなりの死傷者を出 した。そのとき、オバマ政権は一線を越えた として軍事介入に傾いたが英国が議会で参戦 を拒否したため、動けなかった。 シリア政府は化学兵器の廃止に協力するこ とにして、攻撃を食い止めた。これにはロシ アのラブロフ外相がかなり強くシリア政府を 説得した。【ということは見返りに、相当の 武器支援をロシアから得ているということ。 どこまでもアサド政権の方が強いのである】 目下、トルコ領側から、トルコのNGOがシ リアのヌスラ戦線などに武器や資金を援助し ている。原資はカタルやサウジアラビアなど からと推測される。 今回私たちが訪ねるキリスは、そういう意 味でも、反政府勢力、とくにアル・カーイダ 系への支援をしているNGO(IHH)の基地にも なっている。 私たちの訪問をアレンジしているキムセヨ クム財団は、アル・カーイダ系とは無関係の 穏健な組織。 Istanbul Countdown News No.7 ※当日資料として各自プリントアウトし持参してください。 [主催] 同志社大学高等研究教育機構/同志社大学大学院 グローバル・スタディーズ研究科/同志社大学大学院理工学研究科