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第 1 章 世界の留学生動向と留学の要因 OECD『図表で見る教育 2008

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第 1 章 世界の留学生動向と留学の要因 OECD『図表で見る教育 2008
第 1 章 世界の留学生動向と留学の要因
OECD『図表で見る教育 2008 年版』と UNESCO の留学生データに基づく考察
新田
第1節
功
世界の留学生動向
(1)留学生増加の 3 つの波
1975 年から今日までの間に高等教育機関に在籍する留学生数は世界的に大幅に増加し
た。この 30 数年間に留学生数が大きく増加した 3 つの期間がある。第 1 は 1975 年から
1980 年までの 5 年間であり、留学生数は約 31%増加した。第 2 は 1989 年から 1994 年ま
での 5 年間であり、世界全体で留学生数が約 34%増加した。第 3 は 1999 年以降の期間で
あり 1999 年の 175 万人から 2006 年の 290 万人へと約 66%の増加を見た。この留学生の
3 つの急増期は留学の 3 つの波と呼ばれることもある1。本節においては、OECD(経済開
発協力機構)
図 1-1-1 世界全体の留学生総数の推移(単位:1 万人)
(資料)OECD, Education at a Glance: OECD Indicators – 2008, OECD, 2008, p. 353
(徳永優子他訳『図表でみる教育
OECD インディケータ(2008 年版)』明石書店、
2008 年、355 頁)から作成。
の Education at a Glance 2008 (邦題『図表でみる教育 2008 年版』)に基づいて、世界の
最近の留学動向を見ていくことにする。
本論に入るに先立って、OECD および UNESCO による「留学生」と「外国人学生」の
定義、および「大学型高等教育」と「非大学型高等教育」および「上級研究学位プログラ
船津秀樹「地域経済統合の進展と学生の国際間移動」北海道大学『経済研究』第 56 巻 3
号、2007 年 1 月、1 頁。
1
3
-3-
ム」の定義について触れておくことにする2。まず、OECD および UNESCO は「留学生」
を「勉学を目的として前居住国・出身国から他の国に移り住んだ学生」と定義している。
より具体的には、受入国の永住者もしくは定住者でない学生(実務的に言えば学生ビザま
たは学生としての滞在許可を持っている者)、または直前の教育段階(学生が現在在籍して
いる教育課程に入るために必要な資格)を別の国で受けた学生を指す。他方、
「外国人学生」
とは、
「データを提出した国の国籍を持たない学生」を指す。したがって、外国人学生の中
には永住資格を持つ者が含まれる。
次に、OECD と UNESCO は、高等教育(tertiary education)の中に「大学型高等教
育」
(tertiary-type A education)と「非大学型高等教育」
(tertiary-type B education)と
「上級研究学位プログラム」
(advanced research qualifications)を含めている。2 つの機
関によるこれら 3 種類の教育の定義は明確とは言いがたい。OECD の Education at a
Glance においては、「上級研究学位プログラム」を博士号などの研究資格に直接結びつく
教育プログラムであるとし、通算教育年数をフルタイムで 3 年以上としている。これは具
体的には博士課程(ないし博士後期課程)を意味すると解釈できる。また、
「大学型高等教
育」は通算教育年数がフルタイムで 3 年だが実際には 4 年以上で、上級研究学位プログラ
ムへ進学したり、医学、歯学、建築学といった高度の技能を要求される専門的職業に従事
するのに十分な資格・技能を修得できる高等教育のプログラムを指す。この型の高等教育
の中心は 4 年制大学である。「非大学型高等教育」は通算教育年数がフルタイムで 2 年以
上のものを指し、就職に直接結びつく実践的、技術的技能に焦点を絞った内容の教育を指
す。具体的には短大、専門学校、高専がこれに該当すると考えてよいであろう。なお、OECD
と UNESCO のデータにおいては 1 年未満の短期留学は留学生としてカウントされていな
いといわれている。
(2)留学生受入シェアの上位国
留学生の受入国としては OECD 加盟国が圧倒的な強さを誇っている。最新データの得ら
れる 2006 年の時点で、290 万人の全留学生の 83.5%にあたる 240 万人の留学先が OECD
加盟国となっている。留学の第 3 の波の中で、OECD 諸国中、留学生の受入が急増したの
はチェコ共和国、韓国、ニュージーランド、オランダ、スペインの 5 カ国であり、これら
の国では 2000 年に比べ 2006 年には外国人学生数(受入国の国籍をもたない学生の総数)
が 2 倍以上となった。対照的に、ベルギー、スロバキア共和国、トルコ、アメリカではそ
の伸びは 25%未満であった(わが国は 95%の増加)3。
こうした近年における留学生受入数の伸び率の違いが、留学生受入のシェアにも影響を
及ぼしている。図 1-1-2 は 2006 年時点での留学生受入国別のシェアを示したものである。
アメリカは依然として留学生の受入において世界のトップシェアを誇っているが、そのシ
ェアは 2000 年時点の 25.1%から 2006 年には 20.0%へと 5%ポイント低下した。また、ド
イツのシェアが 1%ポイント、イギリス、ベルギーのシェアがそれぞれ 0.5%ポイントずつ
以下の定義は、OECD, Education at a Glance: OECD Indicators – 2008, OECD, 2008,
p. 362 (徳永優子他訳『図表でみる教育 OECD インディケータ(2008 年版)』明石書店、
2008 年、364~365 頁)による。
3 Ibid., p. 354.(前掲訳書、354 頁)
2
4
-4-
低下したのに対して日本、オーストラリア、南アフリカはそれぞれシェアを約 1%ポイン
ト高めた。
図 1-1-2 留学生の受入国別シェア(2006 年)
(資料)Ibid., p. 353(前掲訳書、355 頁)から作成。
(3)留学生受入上位国に見る留学生の出身国
留学生受入の上位国は、どの国からの留学生をどの程度受け入れているのであろうか。
また、教育機関別に見た場合、留学生は受入国のどのような教育機関で学んでいるのであ
ろうか。
まず、受入上位国における、国・地域ごとの出身者の受入状況から見ていくことにした
い。表 1-1-1 には留学生受入上位 9 カ国のうちロシアを除く 8 カ国の 2006 年時点での留
学生出身国別受入数を示した。これら 8 カ国はいずれも OECD 加盟国である。受入数第 1
位のアメリカは 2006 年の時点で全世界から 56 万 4800 人の留学生を受け入れており、そ
のうち 63.6%にあたる 37 万 2000 人がアジアからの留学である。つまり、アメリカの留
学生市場はアジアからの留学生によって支えられていると言っても過言ではない。アメリ
カの受入留学生の出身国別内訳を見ると、中国の 9 万 3000 人が最多であり、これに続く
のがインドの 7 万 9000 人、第 3 位が 6 万 1000 人の韓国、第 4 位が日本で 4 万人となっ
ている。
5
-5-
表 1-1-1 留学生送り出し国と受入国の関係
送り出し国
アイスランド
アイルランド
アメリカ
イギリス
イタリア
オーストラリア
オーストリア
オランダ
カナダ
O 韓国
E ギリシャ
C スイス
D スウェーデン
加 スペイン
盟 スロバキア共和国
国 チェコ共和国
デンマーク
ドイツ
トルコ
日本
ニュージーランド
ノルウェー
ハンガリー
フィンランド
フランス
ベルギー
ポーランド
ポルトガル
メキシコ
ルクセンブルク
OECD加盟国からの合計
非
加
盟
国
ブラジル
中国
インド
ロシア
4カ国計
大
陸
別
送
り
出
し
数
アフリカからの総数
アジアからの総数
アメリカ イギリス
454
1,139
8,568
346
16,790
14,755
3,338
5,461
2,906
873
オースト
カナダ
ラリア
28
45
172
270
2,931
9,495
1,545
2,847
423
7,582
110
31
4,455
39,770
495
40,265
1,607
1,368
161
645
186
329
6,351
333
46
2,781
40
256
419
9,805
11,870
243
520
10,048
12,390
1,623
29,203
61,117
2,162
1,321
2,680
4,640
4,023
17,676
1,679
223
3,785
4,491
44
288
432
687
168
444
1,607
603
5,225
6,268
2,177
64
299
22,344
23
43
49
425
22
3
38
603
1,293
2,376
2,014
1,631
12,876
42,870
102,178
37,436
10,313
190
712
1,647
3,218
265
13,066
43,582
103,825
40,654
10,578
3,326
3,578
722
960
932
3,327
6,224
642
875
1,603
887
111
106
110
125
342
273
126
129
207
697
5,355
1,700
2,309
591
108
91
23
41
17
174
16
2
25
54
546
3,664
415
694
247
14,285
26,453
22,938
7,491
6,270
255
422
45
71
117
14,540
26,875
22,982
7,562
6,387
9,142
12,035
40,086
962
1,343
860
13,267
2,084
6,200
560
3,059
805
1,601
224
3,305
1,998
1,810
60
1,584
750
1,812
153
288
141
25,251
2,377
64
663
2,746
353
160
1,185
22
1,036
6,565
2,412
2,112
55
346
660
77,071
48,130
60,209
4,065
14,063
7,988
1,171
8,854
826
128
142
192
78,242
56,984
61,035
4,193
14,205
8,180
630
6,876
781
3,127
875
1,787
12,456
2,487
4,325
2,885
82
711
77
175
45
150
7,863
423
723
279
927
6,346
978
16,106
1,612
51
377
52
105
35
27
320
5
10
9
302
2,725
3,427
2,593
9,223
65,224
11,387
35,846
13,646
755
556
156
283
226
9,979
65,780
11,543
36,129
13,872
14,426
53
1,738
838
380
18
1,884
30
1,268
2,307
130
3
59
3
1,479
1,659
25,722
7,389
1,019
4
26,740
7,393
9,085 48,836
40
2,112
18,791 17,132
818,076
19,945
399,053
27,121
1,352
52,473
845,198
21,297
451,526
76
40
89
213,416 136,187 25,742 32,799 107,125 27,100
7,258
1,171
426
741
1,955
468
93,672 50,753 42,008 30,906 27,390 86,378
79,219 19,204 22,357
7,053
4,102
425
4,971
2,187
442
1,581 12,643
366
185,120
73,315
65,233
40,281
46,090
87,637
37,597
30,967
6,000
19,083
23,527
926
372,173 152,020 145,338
75,441
95,829 122,538
73,392 109,287
9,380
北アメリカからの総数
29,718
6,731
南アメリカからの総数
2006年の留学生受入総数
2000年の留学生受入総数
111
440
3,265
1,871
249
ヨーロッパからの総数
オセアニアからの総数
ドイツ
受 入 国
OECD
ニュージ
非OECD 送り出し留
日本
フランス
ーランド
加盟国計 加盟国計 学生総数
14
12
49
3,666
7
3,672
15
22
498
20,110
33
20,143
1,708
2,078
2,771
45,385
3,940
49,325
350
419
2,570
24,398
629
25,027
19,608
24,807 127,648
9,990
4,033
211
7
1,777
251
717
3,083
138,714
34,740
9,402
14,460
148,116
49,200
20,859
23,044
592,452
77,686
670,139
231 111,862
274,977
86,214
361,191
27,081
45,780
1,133,892
282,371
1,416,263
2,868
2,952
51,544
668,868
76,888
745,756
2,007
2,503
4,064
89,672
4,680
94,352
4,869
2,267
3,907
849
409
522
3,877
348
18,246
510
18,756
67,068
8,446
1,970
11,337
8,239
1,256
255
10,779
148,902
33,358
182,261
584,817 330,078 184,710 148,164 261,363 130,124
475,169 222,936 105,764
94,401 187,033
66,607
67,698 247,510 2,440,657
484,022 2,924,679
8,210 137,085 1,583,744
311,048 1,894,792
(資料)Ibid., pp. 367-368(前掲訳書、369~370 頁)から作成。
次に世界全体から 33 万人の留学生を受け入れている世界第 2 の受入国であるイギリス
に目を転じると、同国への送り出しの第 1 位が 5 万人の中国、第 2 位が 1 万 9000 人のイ
6
-6-
ンドと、1 位と 2 位はアメリカと同じ顔ぶれであるが、第 3 位には 1 万 7000 人のギリシ
ャ、第 4 位には 1 万 6000 人のアイルランド、第 5 位には 1 万 4000 人のアメリカ、第 6
位には 1 万 3000 人のトルコが続いている。アメリカの受入留学生の内訳と比較すると、
イギリスの受入留学生の特徴として以下のことを指摘できる。第 1 に、イギリスもアメリ
カと同様にアジアからの留学生の割合が最も大きいが、前述のようにアメリカではアジア
出身の留学生は 63%のシェアを占めているのに対して、イギリスではアジア出身の留学生
のシェアは 46%である。第 2 に、イギリスではギリシャ、アイルランド、トルコが送り出
し国の上位にきていることに象徴されるように、OECD 加盟国、とくにヨーロッパの
OECD 加盟国からの留学生のウェイトがアメリカよりも高い。第 3 に、構成比は 9%強に
過ぎないが、アフリカ大陸からの留学生の割合がアメリカ(6.4%)よりも高いことである。
2006 年時点で 26 万 1000 人の留学生を受け入れている世界第 3 位の受入国であるドイ
ツについては、留学生の出身国の第 1 は中国の 2 万 7000 人、第 2 位はトルコの 2 万 5000
人、第 3 位は 1 万 6000 人のポーランド、第 4 位は 1 万 2000 人のロシアとなっており、
上位国はアメリカやイギリスとかなり異なっている。
2006 年の受入数が 24 万 7000 人で世界第 4 位のフランスについては、UNESCO の同
年のデータを調べると、留学生の出身国の第 1 位はモロッコの 2 万 9000 人、第 2 位が 2
万 1000 人のアルジェリア、第 3 位が中国の 1 万 7000 人、第 4 位がチュニジアの 1 万人
という順になっていることがわかった。したがって、フランスは旧植民地からの留学生の
ウェイトが極めて高いと言うことができるであろう。
続いて、留学生受入数世界第 5 位(2006 年の受入数 18 万 4000 人)のオーストラリア
を見ていくと、留学生の出身国の第 1 位が 4 万 2000 人の中国、第 2 位が 2 万 2000 人の
インド、第 3 位が 1 万 8000 人のマレーシア、第 4 位が 1 万 3000 人の香港、第 5 位が 1
万 1000 人のインドネシアとなっており、アジア出身の留学生が全体の 78%を占めている。
第 6 位のカナダ(2006 年の受入数 14 万 8000 人)に関しては、同国への留学生の出身
国の上位は、第 1 位が中国で 3 万人、第 2 位が 9000 人でアメリカ、第 3 位が約 8000 人
でフランス、第 4 位が 7000 人でインドの順となっている。第 3 位にフランスがランクさ
れたのは、カナダにはフランス語圏が存在するためであることは想像に難くない。
第 7 位の日本(2006 年の受入数 13 万人)については、留学生の出身国第 1 位は 8 万
6000 人の中国であり、第 2 位は韓国の 2 万 2000 人、第 3 位は大きく引き離されて 2100
人の台湾、第 4 位は 2000 人のマレーシアとなっている。上位 6 位までの国と日本との違
いは、受入留学生の出身国が東アジア偏っていることである。OECD の Education at a
Glance 2008 は、わが国の留学生受入について、日本以外の上位国の言語が世界的に広範
囲に使用されているのに対し、
「授業で使われる言語は世界に広く普及しているものではな
いにもかかわらず、多くの外国人学生を受け入れている」4と特筆している。
(4)留学生の主要送り出し国の動向
前項では留学生の動向を受入という観点から考察したが、次に、同じく表 1-1-1 を用い
て送り出しという観点から留学生の動向を見ることにしたい。
まず、2006 年時点で留学生送り出し数世界 1 位の中国は OECD 加盟国に約 40 万人の
4
Ibid., pp. 355.(前掲訳書、357 頁)
7
-7-
留学生を送り出しており、国別では 2006 年の時点で第 1 位がアメリカ(9 万 3000 人)、
第 2 位が日本(8 万 6000 人)、第 3 位がイギリス(5 万人)、第 4 位がオーストラリア(4
万 2000 人)、第 5 位がカナダ(3 万人)となっている。このように中国からの主要留学先
は、日本を除けばいずれも英語圏の国である。
次に、留学生送り出し数第 2 位のインドからの留学生の送り出し先を見ると、53%にあ
たる 7 万 9000 人がアメリカに留学し、15%にあたる 2 万 2000 人がオーストラリアへ、
また約 13%にあたる 1 万 9000 人がイギリスに留学している。したがって、インドからの
留学先は圧倒的に英語圏に集中していることが明らかである。
留学生の送り出し第 3 位である韓国からの留学先の第 1 位はアメリカ(56%にあたる 6
万 1000 人)、第 2 位が日本(21%にあたる 2 万 2000 人)、第 3 位がドイツ(5000 人)、
第 4 位がオーストラリア(4500 人)、第 5 位がイギリス(4000 人)である。
OECD 加盟国全体を見ると、OECD の加盟国から加盟国への留学の割合が極めて高い。
表 1-1-1 に示されているように、2006 年の OECD 加盟国全体の留学生送り出し数 84 万
5198 人のうち 81 万 8076 人が OECD 加盟国に留学している。したがって、OECD 加盟
国からの留学生の 96.8%が OECD 加盟国を留学先として選んでおり、わずか 3%程度の学
生が OECD 加盟国以外の国に留学しているにすぎない。また、OECD 加盟国の送り出し
上位国をみると、第 1 位が 10 万 3000 人で韓国、第 2 位が 7 万 8000 人でドイツ、第 3 位
が 6 万 5000 人のフランス、第 4 位が 6 万 1000 人の日本、第 5 位が 5 万 7000 人のドイツ
である。他方、受入数第 1 位のアメリカの送り出し数は 4 万 9000 人で第 6 位にすぎず、
同様に、受入数第 2 位のイギリスも送り出し数は 2 万 5000 人にすぎない。
(5)人口 1 万人当たり送り出し留学生数から見た留学生動向
ここまでは留学生の絶対数を基礎にして留学の送り出しと受入の現状を考察した。この
ように絶対数で比較した場合、人口規模の大きな国にのみスポットライトが当たることに
なり、人口規模が相対的に小さい国の留学動向は看過されてしまう可能性が高い。そこで
この項では、2001 年と 2006 年の 2 時点について、UNESCO の作成した留学生流出入の
データと国連の人口統計を用いて人口 1 万人当たり留学生送り出し数を算出し、どのよう
な国において留学機会が多いのかを検討する。
174 の国と地域を 2001 年の人口 1 万人当たり留学生送り出し数の多い順位に並べたの
が表 1-1-2 である。この表から、人口 1 万人当たり留学生送り出し数上位 50 位までの大
部分を占めているのが、人口 100 万人未満の小規模な国・地域であることを指摘できる。
このことは上位 10 位カ国においてとくに顕著である。上位 10 位カ国の中で人口 1000 万
人以上はギリシャのみで、人口 100 万人以上 1000 万未満もアイルランドのみで、残りの
8 カ国はいずれも人口 100 万人未満である。なかでもグレナダとサントメ・プリンシペは
人口 10 万人台にすぎない。上位 30 位以内の国・地域についても同じことが指摘できる。
すなわち、上位 30 の国・地域のうちの半数近い 14 の国・地域が人口 100 万人未満であり、
人口 1000 万人以上はギリシャ 1 国のみである。次に、10 位以内の国・地域の 1 人当たり
GDP を見ると、6 カ国が 1 万ドル以上であり、サントメ・プリンシペだけが 1000 ドル未
満であった。また、30 位以内に範囲を広げると、1 人当たり GDP が 1000 ドル未満の国
はサントメ・プリンシペとモルドバのみで、1000 ドル以上 1 万ドル未満が 15 の国・地域、
残りの 13 の国・地域が 1 万ドル以上であった。このことから人口 1 万人当たり留学生送
8
-8-
り出し数の上位の国・地域の多くは所得水準が比較的高いと断言できるであろう。
UNESCO の留学生流出入の 2001 年データを用いて人口 1 万人当たり留学生送り出し上
位 30 カ国の留学生の留学先を調べると、表 1-1-3 のような結果となった。この表を子細に
検討することにより、次のような傾向を見出すことができた。
①距離的に近接している国を留学先として選択する傾向が見られる。その好例がバハマ、
アイスランド、アイルランド、アルバニア、フィンランドである。②かつて植民地化され
ていた国からの留学生は旧宗主国を留学先として選ぶ傾向がある。キプロス、アイスラン
ド、カーポベルデ、サントメ・プリンシペ、シンガポール、スリナム、香港、レバノンな
どはその典型である。③使用言語が共通である国を留学先として選ぶ傾向がある。たとえ
ばバハマは旧イギリス領であるが、旧宗主国であるイギリスと同じ言語圏であり、しかも
距離的に近いアメリカが留学先の第 1 位として選ばれている。バハマ、グレナダ、バルバ
ドス、トンガ、トリニダード・トバゴがこれに該当する。④人口規模が小さいために国内
で十分な高等教育を受ける機会に恵まれていない国では、国外留学によってこうした高等
教育機関の不足を補う傾向がある。総人口が 50 万人、場合によっては 30 万人に満たない
国において充実した高等教育を施すことは困難だからである。ルクセンブルグ、アイスラ
ンド、バハマ、グレナダ、バルバドス、サントメ・プリンシペ、トンガ、モルジブなどに
ついてこのことがあてはまる。
再び表 1-1-2 に立ち戻ると、図 1-1-2 で明らかになった留学生の受入シェア上位 9 カ国
のうち、人口 1 万人当たり送り出し留学生数が 50 位以内に入る国が 1 つもないことを指
摘できる。受入上位 9 カ国のうち人口 1 万人当たり送り出し留学生数が 51 位以上 100 位
以内に入るのは 62 位のカナダ、67 位のフランス、76 位のドイツ、92 位の日本、93 位の
ニュージーランド、97 位のイギリスの計 6 カ国であった。残りの 3 カ国のうちオーストラ
リアは 114 位、ロシアは 134 位、アメリカは 148 位であった。
9
-9-
表 1-1-2 人口 1 万人当たり送り出し留学生数ランキング(2001 年)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
順
位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
1 キプロス
13792
69
137.6
51 アラブ首長国連邦
20309
325
11.6
2 ルクセンブルグ
3 アイスランド
4 バハマ
45780
27822
16697
44
28
31
132.6
85.0
66.0
52 デンマーク
53 スイス
54 ヨルダン
29971
34969
1825
535
726
511
11.2
11.0
10.9
5 カーボベルデ
6 ギリシャ
7 グレナダ
1220
11886
3903
44
1096
10
62.7
56.0
40.0
55 ポルトガル
56 スロベニア
57 マカオ
11251
10132
13824
1015
199
44
10.7
10.1
9.9
27098
8881
536
385
29
14
39.2
37.6
35.8
58 チュニジア
59 ベルギー
60 オマーン
2064
22647
8221
956
1030
248
9.9
9.8
9.8
1383
3789
10
120
34.2
29.5
61 コンゴ共和国
62 カナダ
851
23085
297
3001
9.6
9.5
13 エストニア
14 シンガポール
15 トリニダード・トバゴ
4544
20896
6760
136
333
127
29.0
27.4
26.0
63 グルジア
64 フィジー
65 マレーシア
690
2059
3903
439
80
2401
8.8
8.7
8.4
16 ノルウェー
17 ベリーズ
18 スリナム
37835
3473
1510
452
26
44
25.9
24.1
23.9
66 イラク
67 フランス
68 アルメニア
688
21887
691
248
5919
300
8.4
8.3
7.8
19 ボスニア・ヘルツェゴビナ
20 イスラエル
21 香港
1247
19143
24696
379
644
671
23.2
23.2
23.0
69 トルクメニスタン
70 イタリア
71 ガイアナ
973
19313
969
450
5700
74
7.4
7.3
7.2
22 アルバニア
23 クロアチア
24 オランダ領アンティル
1318
4414
16133
307
444
18
22.3
20.4
19.1
72 オランダ
73 ハンガリー
74 トルコ
25019
5231
2105
1605
1020
6853
7.1
7.1
6.9
25 ガボン
26 モルドバ
27 フィンランド
3863
362
24121
118
363
519
19.1
18.8
18.7
75 セネガル
76 ドイツ
77 ルーマニア
460
22950
1824
967
8235
2241
6.6
6.6
6.5
28 レバノン
29 モルディブ
30 バーレーン
4467
2253
11988
377
28
65
18.6
18.4
18.3
78 スペイン
79 カメルーン
80 ベラルーシ
14950
593
1235
4085
1586
1005
6.5
6.5
6.4
31 ジャマイカ
32 ブルネイ
3111
16404
261
70
18.1
18.1
81 パナマ
82 キルギルスタン
3927
305
287
495
6.0
5.7
33 ブルガリア
34 スロバキア
35 クェート
1711
3917
14918
828
538
223
16.9
16.6
16.5
83 モーリタニア
84 ガンビア
85 ポーランド
422
292
4961
255
138
3825
5.6
5.1
5.1
36 ジブチ
37 サモア
38 スウェーデン
767
1345
25334
73
18
890
16.4
16.2
15.7
86 チェコ共和国
87 アルジェリア
88 ギニアビサウ
6058
1783
141
1023
3087
137
5.0
4.7
4.6
39 赤道ギニア
40 モロッコ
41 マルタ
3845
1280
9836
43
2917
39
15.2
15.1
15.1
89 アゼルバイジャン
90 ブータン
91 中央アフリカ
697
843
246
815
70
386
4.4
4.3
4.2
42 コモロ
43 韓国
44 カザフスタン
306
10243
1486
70
4735
1486
14.7
14.5
14.4
92 日本
93 ニュージーランド
94 ブルンジ
32179
13439
97
12715
382
168
4.2
4.1
3.9
45 オーストリア
46 リトアニア
47 ラトビア
23740
3487
3520
807
348
236
14.2
14.0
12.6
95 ソロモン諸島
96 ウクライナ
97 イギリス
784
785
24432
42
4824
6049
3.8
3.7
3.5
48 カタール
49 モンゴル
50 ボツワナ
27014
470
2796
65
243
168
12.2
12.0
11.7
624
239
5477
1393
540
530
3.5
3.4
3.4
8 アイルランド
9 バルバドス
10 サントメ・プリンシペ
11 トンガ
12 モーリシャス
98 アンゴラ
99 トーゴ
100 リビア
10
- 10 -
表 1-1-2 人口 1 万人当たり送り出し留学生数ランキング(続き)
順位
送り出し国
101 ジンバブエ
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
439
1266
3.2
138 グアテマラ
102 サウジアラビア
8569
2098
3.2
139 タジキスタン
103 ベネズエラ
4943
2305
3.2
140 ドミニカ共和国
104 コスタリカ
105 ニカラグア
4086
796
391
517
3.2
3.2
141 メキシコ
142 ザンビア
6167
341
106 パレスチナ
1168
328
3.2
143 シエラレオネ
248
452
1.3
405
3112
3.2
144 マリ
293
1000
1.3
108 ウズベキスタン
109 シリア
371
1249
2496
1672
3.1
3.0
145 キューバ
146 カンボジア
3027
307
1116
1278
1.2
1.2
110 ウルグアイ
5582
331
2.8
147 ソマリア
271
706
1.1
111 エルサルバドル
2194
640
2.7
148 アメリカ
35006
28511
1.0
112 チリ
113 スリランカ
4396
853
1557
1772
2.7
2.7
149 インドネシア
150 中国
748
1047
20626
127185
1.0
1.0
19648
1877
2.7
151 南アフリカ
2575
4482
0.9
959
828
2.6
152 エジプト
1394
6653
0.9
116 ベナン
117 ホンジュラス
335
1211
642
607
2.6
2.6
153 モザンビーク
154 ベトナム
218
407
1769
7769
0.9
0.9
118 コロンビア
1936
4168
2.6
155 ブラジル
3136
17382
0.9
119 エクアドル
1705
1216
2.6
156 アフガニスタン
122
2074
0.8
120 ハイチ
121 タイ
386
1888
857
6291
2.5
2.5
157 タンザニア
158 コンゴ民主共和国
280
101
3385
5069
0.8
0.8
122 ペルー
2076
2635
2.5
159 パキスタン
488
14177
0.8
123 ガーナ
258
1891
2.3
160 スーダン
461
3163
0.8
618
1654
1693
6613
2.2
2.2
161 ウガンダ
162 マラウィ
227
198
2469
1082
0.7
0.7
126 ギニア
363
820
2.1
163 ナイジェリア
345
11880
0.6
127 ルワンダ
194
818
2.0
164 イエメン
526
1886
0.6
128 スワジランド
129 マダガスカル
1172
272
106
1509
1.9
1.8
165 インド
166 フィリピン
454
915
102861
7793
0.6
0.5
130 アルゼンチン
107 ケニア
114 オーストラリア
115 ボリビア
124 コートジボワール
125 イラン
1626
1168
1.5
173
631
1.5
2757
874
1.4
9972
1021
1.4
1.4
7212
3626
1.8
167 バングラデシュ
320
13052
0.5
131 ラオス
330
538
1.8
168 レソト
394
216
0.5
132 ブルキナファソ
133 ネパール
228
246
379
2318
1.7
1.7
169 チャド
170 エチオピア
195
109
847
6537
0.5
0.4
134 ロシア
2088
14598
1.6
171 ニジェール
157
1079
0.4
135 ナミビア
1681
183
1.6
172 リベリア
171
307
0.4
136 パラグアイ
137 エリトリア
1181
196
546
368
1.6
1.6
173 パプアニューギニア
174 ミャンマー
556
165
519
4588
0.4
0.3
(資料)UNESCO Institute for Statistics, Data Center, Education, All Data, Predefined Tables,
Education, “Table 18 International flows of mobile students at the tertiary level”.
(URL) http://stats.uis.unesco.org/unesco /TableViewer/tableView.aspx?ReportId=171.
United Nations Statistical Division,” Per capita GDP in US dollars. All countries for all years”.
(URL) http://unstats.un.org/ unsd/snaama/dnllist.asp. United Nations Statistical Division,
“Demographic Yearbook Statistics. DYB 2001”. (URL) http://unstats.un.org/unsd/ demographic/
products/dyb/dybsets/2001%20DYB.pdf .
なお、UESCO の留学生流出入データは、アジア文化協
会が筆者の分析用にデータベース化したものを使用した。
11
- 11 -
表 1-1-3 人口 1 万人当たり留学生送り出し上位 30 カ国の留学生の送り出し先(2001 年)
留学生送り出し国
順位
1 キプロス
2 ルクセンブルグ
3 アイスランド
4 バハマ
5 カーボベルデ
6 ギリシャ
7 グレナダ
8 アイルランド
9 バルバドス
10 サントメ・プリンシペ
11 トンガ
12 モーリシャス
13 エストニア
14 シンガポール
15 トリニダード・トバゴ
16 ノルウェー
17 ベリーズ
18 スリナム
19 ボスニア・ヘルツェゴビナ
20 イスラエル
留学先
1位
イギリス(3737人)
2位
トルコ(2465人)
3位
アメリカ(1723人)
ドイツ(1635人)
デンマーク(757人)
アメリカ(1528人)
ベルギー(1403人)
アメリカ(484人)
キューバ(279人)
フランス(1373人)
スウェーデン(335人)
イギリス(125人)
ポルトガル(2497人)
イギリス(28640人)
キューバ(80人)
イタリア(8874人)
フランス(76人)
ドイツ(8017人)
アメリカ(244人)
イギリス(12217人)
イギリス(31人)
アメリカ(942人)
キューバ(7人)
フランス(572人)
アメリカ(561人)
イギリス(289人)
ポルトガル(441人)
アメリカ(163人)
フランス(28人)
トリニダードトバゴ(158人)
アメリカ(11人)
イギリス(13人)
インド(546人)
イギリス(1301人)
ロシア(1814人)
イギリス(4628人)
アメリカ(2516人)
イギリス(3879人)
ニュージーランド(158人)
フランス(1285人)
フィンランド(474人)
アメリカ(3613人)
ドイツ(448人)
マレーシア(278人)
3954人 旧ソビエト連邦。フィンランド語が通用
9119人 旧イギリス領。英語が公用語の1つ
3291人 旧イギリス領
1045人 旧オランダ領
8783人 第2次大戦前はオーストリアの支配下
14911人
アメリカ(105人)
ベルギー(17人)
クロアチア(2200人)
ラトビア(6819人)
ドイツ(2187人)
アメリカ(2951人)
オーストリア(899人)
イギリス(1409人)
アメリカ(6615人)
ニュージーランド(362人)
トルコ(595人)
オーストリア(902人)
アルバ(74人)
フランス(3263人)
ルーマニア(4306人)
スウェーデン(3582人)
カナダ(261人)
ロシア(1107人)
イギリス(2539人)
アメリカ(166人)
ブルガリア(388人)
ドイツ(1014人)
フランス(2798人)
マレーシア(301人)
アメリカ(487人)
アメリカ(1739人)
イギリス(131人)
30 バーレーン
493人 旧ポルトガル領
344人 旧イギリス保護領
3542人 旧イギリス領。18世紀にフランス領
11698人 英語が通用性をもつ
620人 旧イギリス領
アメリカ(424人)
オランダ(871人)
アメリカ(970人)
イタリア(1092人)
マレーシア(95人)
28 レバノン
411人 旧イギリス領
15080人 1949年まで英連邦に加盟
1076人 旧イギリス領
バルバドス(150人)
イギリス(8317人)
29 モルディブ
61355人
デンマーク(1471人)
ドイツ(24人)
イタリア(3386人)
ドイツ(5137人)
アメリカ(152人)
26 モルドバ
2422人 20世紀初めまでデンマークの支配下
2038人 旧イギリス領
2788人 旧ポルトガル領
イギリス(527人)
22 アルバニア
27 フィンランド
特記事項
9491人 旧イギリス領
5828人
アメリカ(1820人)
キューバ(116人)
21 香港
23 クロアチア
24 オランダ領アンティル
25 ガボン
送り出し留
学生総数
イギリス(438人)
ドイツ(499人)
ニュージーランド(25人)
インド(109人)
15440人 旧イギリス租借地
6848人
9064人 旧ユーゴスラビア
364人 アルバはオランダ領
4119人 旧フランス領
6818人 旧ソビエト連邦
9712人
7017人 旧フランス領
512人 旧イギリス保護国
1190人 旧イギリス保護国
注 1)2001 年の UNESCO のデータではオーストラリアの出身国別受入数が不明である
ため、オーストラリアへの留学数はこの表では除かれている。
注 2)イスラエルからの留学先の 1 位がラトビアで 6819 人となっているが、両国の関係から見てもあ
り得ない数字である。UNESCO の原データに誤りがあると思われる。
(資 料 )UNESCO Institute for Statistics, Data Center, Education, All Data, Predefined Tables,
Education, “Table 18 International flows of mobile students at the tertiary level”から作成。
また OECD 加盟国の順位を見ると、人口 1 万人当たり送り出し留学生数 50 位以内に入っ
たのはルクセンブルグ、アイスランド、ギリシャ、アイルランド、ノルウェー、フィンラ
ンド、スロバキア、スウェーデン、韓国、オーストリアの 10 カ国であるが、このうち人
口が 1000 万人を上回るのはギリシャ、韓国の 2 カ国に過ぎない。51 位~100 位にはデン
マーク、スイス、ポルトガル、ベルギー、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ハン
ガリー、トルコ、ドイツ、スペイン、ポーランド、チェコ、日本、ニュージーランド、イ
ギリスの 16 カ国が入った。101 位以下にはオーストラリア、メキシコ、アメリカの 3 カ
国がランクされた。このように、英語を公用語とする国は 50 位以内ではアイルランドの
みであり、51 位以下でもカナダが 62 位である他はニュージーランドもイギリスも 90 位
台と低い順位であることが明らかである。
表 1-1-4 には 2006 年のデータを用いて人口 1 万人当たり留学生送り出し数のランキング
を作成した結果を掲げた。この表から最初に言えることは、2001 年から 2006 年の間に、
12
- 12 -
人口 1 万人当たり送り出し留学生数が大幅に増加した国が多いことである。表 1-1-2 と表
1-1-4 のデータを元に人口 1 万人当たり留学生送り出し数の増減率を計算してみると、次
のことが明らかとなった。2001 年から 2006 年の間に人口 1 万人当たり送り出し留学生数
が増加した国が、データの得られた 172 カ国中 143 カ国、減少した国が 29 カ国であった。
増加した国のうち、送り出し数が 5 年間で 10 倍以上になった国が 3 カ国(レソト、ナミ
ビア、スワジランド)あり、これにイエメンの 5.7 倍とニュージーランドの 4.3 倍が続く。
さらに 3 倍以上 4 倍未満の増加を示した国は合計 9 カ国であり、その中には中国とベトナ
ムが含まれる。さらに 2 倍以上 3 倍未満の増加を示した国は 165 カ国であるが、このグル
ープの中にインド、バングラデシュ、ナイジェリアという 1 億人以上の人口を抱える国が
含まれていることが特筆される。
次に、世界的に所得水準の大幅な上昇が見られたということである。同表に掲げた 172
カ国のうち実に 45 カ国が 2001 年からの 5 年間に 1 人当たり GDP を 2 倍以上に伸ばし、
他の多くの国々もこの期間に 1 人当たり GDP を数十パーセント増加させた。他方、この
期間に所得水準を低下させたのはジンバブエ、ギニア、アルゼンチンの 3 カ国にすぎない。
こうした所得水準の大幅な上昇が留学生の送り出しをプッシュする大きな要因になったこ
とは疑いない。
2006 年のデータに関しても、人口 1 万人当たり送り出し留学生上位 30 カ国に関して国
別に留学先上位 3 カ国を調べた。その結果を示したのが表 1-1-5 である。表 1-1-5 を前掲
の表 1-1-3 と比較することにより次のような所見が得られた。まず、上位 30 カ国の顔ぶれ
であるが、2 時点の間に若干の入れ替わりしか見られなかった。とくにトップテンの顔ぶ
れはほぼ固定している。次に、各国の留学先上位 3 位の内訳も 2 時点間であまり変化が見
られなかった。したがって、先に表 1-1-3 で指摘した、近接している国、旧宗主国、言語
が共通している国を留学先として選ぶ傾向が 2006 年の時点でも継続していると言える。
13
- 13 -
表 1-1-4 人口 1 万人当たり送り出し留学生数ランキング(2006 年)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
1 キプロス
23951
85
224.8
51 ラトビア
8709
229
15.7
2 ルクセンブルク
3 カーボベルデ
4 アイスランド
92049
2317
54503
46
52
30
149.0
87.4
81.8
52 チュニジア
53 ヨルダン
54 赤道ギニア
3031
2461
16748
1022
573
50
15.5
15.2
14.6
5 バハマ
6 トンガ
19058
2365
33
10
74.0
57.2
55 スウェーデン
56 モロッコ
43291
2089
908
3085
14.6
14.5
7 モーリシャス
8 ブルネイ
5187
30269
125
38
56.4
56.4
57 ガイアナ
58 スイス
1219
52014
74
746
14.0
13.6
9 アルバニア
10 グレナダ
11 アイルランド
2863
4815
51920
317
11
422
55.4
54.3
47.6
59 オーストリア
60 カナダ
61 スロベニア
38851
39138
19090
833
3258
200
13.6
13.1
13.0
12 シンガポール
13 ボツワナ
31166
4992
438
186
45.8
44.0
62 スリナム
63 ベラルーシ
3998
3794
46
974
13.0
12.6
14 バルバドス
15 サントメ・プリンシペ
11681
788
29
16
43.9
43.2
64 アルメニア
65 ジンバブエ
2122
167
301
1323
12.6
12.0
16 モルディブ
17 マケドニア共和国
18 トリニダード・トバゴ
3020
3129
13652
30
204
133
40.2
37.8
36.6
66 フィンランド
67 コンゴ共和国
68 アラブ首長国連邦
39834
2002
38806
526
369
425
11.7
11.6
11.3
19 ナミビア
20 ギリシャ
3389
24135
205
1112
36.3
34.2
69 ウズベキスタン
70 ポルトガル
633
18401
2698
1058
10.7
10.4
21 ブルガリア
22 コモロ
23 ガボン
4093
493
7282
769
82
131
33.5
32.1
31.4
71 トルクメニスタン
72 ルーマニア
73 デンマーク
1329
5696
50856
490
2153
543
10.2
10.0
9.9
24 バーレーン
25 レバノン
21421
5612
74
406
31.4
31.0
74 セネガル
75 ベルギー
768
38081
1207
1043
9.7
9.5
26 ジブチ
27 ノルウェー
940
71999
82
467
28.9
27.7
76 フランス
77 カメルーン
35590
986
6133
1818
8.8
8.7
3124
2403
4309
393
113
28
26.5
25.8
25.1
78 ポーランド
79 ドイツ
80 モーリタニア
8938
35251
874
3814
8264
304
8.6
8.5
7.7
889
15744
383
41
25.0
24.8
81 ハンガリー
82 チェコ共和国
11226
14037
1006
1019
7.5
7.2
33 フィジー
34 ジャマイカ
3731
3844
83
270
23.4
22.8
83 トルコ
84 アルジェリア
5458
3492
7392
3335
7.2
7.0
35 モンゴル
36 クロアチア
37 韓国
1224
9422
18481
261
456
4805
22.8
21.9
21.3
85 オランダ
86 シリア
87 キルギルスタン
40924
1689
539
1638
1941
526
6.7
6.6
6.6
38 エストニア
39 レソト
12396
749
134
200
21.3
19.3
88 ブータン
89 ガンビア
1422
305
65
166
6.5
6.2
40 クウェート
41 オマーン
42 リトアニア
35518
14031
8732
278
255
341
19.1
18.6
17.9
90 ウクライナ
91 スリランカ
92 パナマ
2314
1465
5212
4656
1921
329
5.8
5.7
5.6
43 ニュージーランド
44 カザフスタン
25907
5289
414
1531
17.8
17.7
93 イタリア
94 スペイン
31489
28040
5878
4389
5.5
5.5
45 イスラエル
46 グルジア
20863
1747
681
443
17.6
17.3
95 アゼルバイジャン
96 リビア
2496
8333
841
604
5.4
5.0
47 カタール
48 マレーシア
49 ミクロネシア
69121
5990
2212
82
2611
11
17.1
17.0
16.8
97 トーゴ
98 日本
99 オーストラリア
343
34200
38379
641
12795
2053
4.9
4.7
4.7
2425
19
16.4
100 サウジアラビア
14584
2418
4.6
28 ボスニア・ヘルツェゴビナ
29 スワジランド
30 ベリーズ
31 モルドバ
32 マルタ
50 サモア
14
- 14 -
表 1-1-4 人口 1 万人当たり送り出し留学生数ランキング(続き)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
順位
送り出し国
人口1万人当
1人当たり名目 人口(単
たり送り出し留
GDP(米ドル) 位:万人)
学生数(人)
101
102
103
104
105
106
イギリス
ギニア
ウルグアイ
ベナン
ソロモン諸島
コスタリカ
39587
358
5796
538
877
5053
6051
918
333
876
48
440
4.4
4.2
4.2
4.1
4.1
4.0
137
138
139
140
141
142
ドミニカ共和国
アルゼンチン
中央アフリカ
エリトリア
グアテマラ
カンボジア
3709
5475
346
258
2317
512
962
3913
427
469
1303
1420
1.9
1.9
1.9
1.7
1.7
1.7
107
108
109
110
111
112
113
タジキスタン
アンゴラ
タイ
エクアドル
ラオス
ハイチ
ギニアビサウ
426
2999
3258
3136
605
504
185
664
1656
6344
1320
576
945
165
4.0
4.0
3.8
3.8
3.8
3.7
3.7
143
144
145
146
147
148
149
リベリア
イラク
ブルキナファソ
アメリカ
シエラレオネ
ナイジェリア
パキスタン
171
1923
419
43366
288
1005
898
358
2851
1436
30284
574
14472
16094
1.6
1.6
1.6
1.5
1.5
1.5
1.5
114
115
116
117
118
119
120
ケニア
ネパール
ガーナ
ペルー
イエメン
ベネズエラ
コロンビア
623
358
561
3350
878
6786
2985
3655
2764
2301
2759
2173
2719
4556
3.6
3.5
3.5
3.4
3.4
3.3
3.2
150
151
152
153
154
155
156
インドネシア
パプアニューギニア
ルワンダ
南アフリカ
アフガニスタン
ニジェール
モザンビーク
1593
855
312
5325
285
259
326
22886
620
946
4828
2609
1374
2097
1.5
1.5
1.4
1.3
1.3
1.3
1.3
121
122
123
124
125
126
127
ボリビア
ザンビア
中国
チリ
エルサルバドル
イラン
コートジボワール
1224
931
2137
8894
2758
3172
963
935
1170
132847
1647
676
7027
1891
3.2
3.2
3.1
3.1
3.1
3.0
3.0
157
158
159
160
161
162
163
ソマリア
チャド
マラウィ
インド
バングラデシュ
タンザニア
ブラジル
300
634
235
791
387
329
5665
845
1047
1357
115175
15599
3946
18932
1.3
1.3
1.2
1.2
1.2
1.0
1.0
128
129
130
131
132
133
134
スロバキア
ホンジュラス
ロシア
ベトナム
ニカラグア
マリ
パラグアイ
10226
1554
6877
706
958
512
1542
539
697
14322
8621
553
1197
602
3.0
2.9
2.8
2.7
2.6
2.5
2.3
164
165
166
167
168
169
170
エジプト
キューバ
フィリピン
ブルンジ
スーダン
ウガンダ
ミャンマー
1512
4986
1363
117
1164
340
284
7417
1127
8626
817
3771
2990
4838
1.0
0.9
0.9
0.8
0.8
0.8
0.5
135 メキシコ
136 マダガスカル
7969
288
10534
1916
2.3
2.2
171 コンゴ民主共和国
172 エチオピア
141
164
6064
8102
0.4
0.4
(資料)表 1-1-2 に同じ。
15
- 15 -
表 1-1-5 人口 1 万人当たり留学生送り出し上位 30 カ国の留学生の送り出し先(2006 年)
順位 留学生送り出し国
1 キプロス
留学先
1位
2位
イギリス(7203人)
3位
アメリカ(1150人)
ベルギー(1100人)
2 ルクセンブルク
ギリシャ(8966人)
ドイツ(2198人)
3 カーボベルデ
ポルトガル(4086人)
フランス(1659人)
フランス(172)
4 アイスランド
デンマーク(922人)
アメリカ(453人)
5 バハマ
アメリカ(1688人)
6 トンガ
7 モーリシャス
カナダ(378人)
ニュージーランド(257人) アメリカ(173人)
フランス(1987人)
イギリス(1772人)
8 ブルネイ
イギリス(934人)
9 アルバニア
イタリア(10959人)
アメリカ(389人)
10 グレナダ
14 バルバドス
イギリス(16790人)
オーストラリア(11206人)
オーストラリア(764人)
イギリス(491人)
15 サントメ・プリンシペ
16 モルディブ
ポルトガル(556人)
マレーシア(658人)
17 マケドニア共和国
ブルガリア(424人)
アメリカ(3027人)
11 アイルランド
12 シンガポール
13 ボツワナ
18 トリニダード・トバゴ
19 ナミビア
クロアチア(2200人)
イギリス(17676人)
2421人
オーストラリア(90人)
オーストラリア(951人)
572人
7063人
キューバ(59人)
アメリカ(1139人)
アメリカ(4047人)
イギリス(53人)
フランス(498人)
576人
20074人
イギリス(3273人)
20057人
イギリス(652人)
アメリカ(483人)
キューバ(37)
アメリカ(294人)
カナダ(201人)
フランス(29人)
8180人
1286人
669人
オーストラリア(227人)
イギリス(164人)
ドイツ (1450人)
アメリカ(374人)
1207人
7697人
カナダ(561人)
4856人
イギリス(849人)
ドイツ(2187人)
ドイツ(12913人)
23 ガボン
フランス(1211人)
フランス(3263人)
マダガスカル(1063人)
カナダ(261人)
24 バーレーン
25 レバノン
イギリス(988人)
フランス(5083人)
アメリカ(386人)
アメリカ(2019人)
26 ジブチ
27 ノルウェー
フランス(2023人)
イギリス(3059人)
クロアチア(2896人)
モロッコ(103人)
オーストラリア(2437人)
ドイツ(2830人)
南アフリカ(2711人)
アメリカ(478人)
アメリカ(101人)
キューバ(133人)
30 ベリーズ
2438人
イギリス(236人)
2154人
17562人
22 コモロ
28 ボスニア・ヘルツェゴビナ
6871人
4536人
マレーシア(265人)
ドイツ(658人)
21 ブルガリア
29 スワジランド
19019人
オーストラリア(827人)
ギリシャ(2652人)
ドイツ(6552人)
アメリカ(3761人)
20 ギリシャ
キューバ(101人)
イギリス(346人)
送り出し留
学生総数
オーストラリア(899人)
イタリア(5473人)
7431人
37998人
フランス(2876人)
モロッコ(213人)
25809人
アメリカ(166人)
ヨルダン(349人)
4119人
ドイツ(1068人)
マレーシア(96人)
デンマーク(1854人)
オーストリア(2392人)
イギリス(72人)
イギリス(40人)
2629人
2320人
12555人
2365人
12950人
10391人
2929人
708人
(資料)表 1-1-3 に同じ。
(6)OECD 加盟国における高等教育種別に見た留学生・外国人学生の割合
本節の最後に、OECD 加盟国における 2005 年の時点での高等教育種別留学生・外国人
学生割合について若干の考察を行うことにしたい。OECD 加盟国の高等教育種別留学生・
外国人学生割合を示したのが表 1-1-6 である。最初に、国ごとに留学生と外国人学生のデ
ータを対比すると、アイスランドとアイルランドは留学生のデータのみとっていること、
他方、イタリア、韓国、ギリシャ、トルコ、フランス、ポーランド、ポルトガル、ルクセ
ンブルグの 8 カ国は外国人学生のデータのみとっていること、さらに、メキシコに関して
は留学生、外国人学生ともにデータが得られないことが明らかである。
次に、留学生と外国人学生の両方のデータが得られる国について、留学生の割合と外国
人学生の割合との関係について見ていくと、両者の間に大きな差が見られる国の方が多数
派を占め、差が少ない国は少数派であることがわかる。両者の差が 3%以上の国を列挙す
ると、オーストラリア、イギリス、オーストリア、カナダ、スイス、スウェーデン、デン
マーク、ニュージーランド、ノルウェー、ベルギーの 10 カ国である。他方、両者の差が 3%
未満の国は、スペイン、スロバキア、チェコ共和国、日本、ハンガリー、フィンランドの
6 カ国である。前者のグループに属する国々は、移民政策という点から見ると、外国人学
生に永住権を与える傾向が相対的に強いように思われる。とくにカナダとニュージーラン
16
- 16 -
ドに関してはこの傾向が明白であると言える。これに対してもう 1 つのグループに属する
国々では、外国人学生に対して永住権を与えることが相対的に少ないと言えよう。
続いて、高等教育の種別に留学生・外国人学生の在学生に占める割合を見ていくことに
する。表 1-1-6 の最下段にある OECD 加盟国平均と EU19 カ国の平均の欄から、留学生・
外国人学生の割合が最も高いのが上級研究学位プログラム(大学院博士課程)であること、
次が大学型高等教育、そして最も割合が低いのが非大学型高等教育であることが明らかで
ある。上級研究学位プログラムにおける留学生と外国人学生の割合に着目すると、留学生
が 20%以上の割合を占めるのはアメリカ、イギリス、カナダ、スイス、ニュージーランド、
ベルギーの 6 カ国であるが、外国人学生に関してはこれら 6 カ国にオーストラリア、オー
ストリア、スウェーデン、ノルウェー、フランスが加わる。したがって、これらの国にお
いては大学院博士課程において外国人学生が不可欠の存在になっていると言っても過言で
はないであろう。
また、留学生と外国人学生の両方について在学者全体に占める割合を算出している国のデ
ータを対象として、高等教育の種別に在学者割合を比較すると、両方の割合のデータを公
表しているすべての国において外国人学生の方が割合が高く、これは上級研究学位プログ
ラムにおいてとくに顕著であることが明らかとなった。
それでは日本の高等教育機関における留学生・外国人学生の受入は他の OECD 諸国と比
べてどのような特徴があるのであろうか。OECD 加盟国全体の中では、日本は、高等教育
における留学生・外国人学生の割合は全体的に低いこと、留学生受入上位国の中ではこの
割合が最も低いこと、ただし、上級研究学位プログラムに関してはこの割合は相対的に高
い方であることを指摘できる。
17
- 17 -
表 1-1-6 OECD 加盟国における高等教育種別留学生・外国人学生割合(2005 年)
留学生
高等教育在学者に占める留学生の割合
国 名
オーストラリア
合計
17.8
非大学型
高等教育
7.4
大学型
高等教育
19.7
外国人学生
高等教育在学者に占める外国人学生の割合
上級研究学位
プログラム
19.1
合計
20.9
4.5
非大学型
高等教育
7.6
1.3
大学型
高等教育
23.0
12.2
177
-
-
-
-
172
11.6
18.4
42.7
148
6.2
2.3
5.0
196
アイスランド
-
アイルランド
6.8
-
-
-
-
-
-
アメリカ
3.3
2.0
3.1
23.7
-
-
-
-
イギリス
14.1
5.5
15.2
40.8
17.9
イタリア
-
-
-
-
2.4
4.6
外国人学生増
上級研究学位 加指数(2000
プログラム 年=100)
29.7
175
123
12.0
-
13.1
15.1
15.5
-
16.9
20.9
129
オランダ
4.7
n
4.7
-
6.1
n
6.2
-
260
カナダ
7.4
21.4
14.6
-
13.8
38.3
157
-
-
-
-
-
-
0.7
0.5
0.7
4.7
660
2.5
0.8
3.7
1.8
192
13.7
-
-
-
-
6.9
韓 国
13.4
44.4
19.2
16.5
17.0
44.2
152
スウェーデン
5.0
0.5
5.3
5.3
9.8
4.5
9.5
20.6
162
スペイン
1.0
-
0.8
8.5
2.9
3.8
1.8
19.2
200
スロバキア
0.8
0.5
0.8
0.7
0.9
0.5
0.9
0.7
110
チェコ共和国
5.1
0.7
5.4
6.4
6.3
1.1
6.8
8.0
391
デンマーク
4.8
3.7
4.9
7.3
8.4
10.3
7.8
19.2
149
3.9
12.7
オーストリア
ギリシャ
スイス
-
-
-
140
-
-
-
11.4
トルコ
-
-
10.6
0.8
0.2
1.1
2.7
108
日 本
2.9
3.0
2.6
16.1
3.2
3.0
2.9
16.8
195
ドイツ
15.5
16.0
15.1
22.2
28.5
27.6
28.3
42.8
825
ノルウェー
1.9
8.2
1.8
4.6
6.7
11.2
6.2
22.3
164
ハンガリー
2.8
0.3
2.9
7.1
3.3
0.5
3.4
8.1
146
フィンランド
3.7
n
3.4
7.4
2.9
n
2.5
7.5
161
フランス
-
-
-
-
11.2
4.8
12.3
35.8
181
ベルギー
7.4
5.4
8.5
20.5
12.1
9.5
13.5
31.0
121
ポーランド
-
-
-
-
-
-
-
-
0.5
0.1
0.5
2.9
186
4.6
5.9
4.5
7.7
161
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
174
ニュージーランド
ポルトガル
メキシコ
ルクセンブルグ
OECD各国平均
EU 19カ国平均
42.2
-
6.9
3.8
7.3
15.9
9.6
5.5
8.5
18.5
210.9
5.7
1.9
6.3
11.9
8.9
4.0
7.3
15.4
177.8
注)nはゼロまたは無視しうるほどの値であることを示す。
(出所)OECD, op.cit., p. 366. (前掲訳書、368 頁)
18
- 18 -
第2節
留学先の選択に影響を及ぼす要因
(1)Education at a Glance 2008 における留学の人的資本論的解釈
興味深いことに、OECD の Education at a Glance 2008(『図表で見る教育 2008 年版』)
は、高等教育の国際化に関する説明を人的資本論の観点から行っている。人的資本論とは、
1992 年のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のゲーリー・ベッカーをもって嚆矢とす
る経済理論である。この理論は、教育水準の高い労働者はその個人に体化した教育によっ
て高い生産力をもつと考え、人間への投資=教育投資が将来の収益を高めると説く。
人的資本論の議論が展開されているのは、Education at a Glance 2008 の C 章第 3 節
(C3)の中の「政策との関連」と題した項においてである。そこでの議論は以下のように
要約することができる。
資本や商品、サービスの自由化という世界的な傾向が、労働市場の開放ともあいまって、OECD 加
盟国における教育への需要を増大させている。学生が視野を広げ、世界中の言語や文化、商習慣へ
の理解を深めるうえで高等教育機関が果たす役割に対する政府や個人からの期待が高まっている。
学生が他の社会の言語に関する意識を広げて、労働市場での自らの可能性を高める方法の 1 つが国
外の高等教育機関で学ぶことである‥‥‥サービス貿易の自由化をめぐる国際交渉では、マクロ経
済学の視点から、教育の国際化が貿易に与える影響が注目されており、OECD 加盟国の一部では、
教育サービス分野の輸出に特化しようという動きも見られる5。
この引用に示されているように、人的資本論は教育(とくに高等教育)を徹頭徹尾経済
学的な視点から捉えるのであり、教育を産業の 1 つとして位置づけている。
それではなぜ、教育を投資対象として、また産業としてとらえようとするのであろうか。
この疑問に対する簡潔な説明が小樽商科大学の船津秀樹によってなされている。船津は、
「進んだ国の文化や知識を吸収するために、その国に行って学ぶという行為自体は、近代
国家による公教育が一般化する以前から存在していた‥‥‥しかしながら、今日一般的に
なりつつあるのは、いわゆるエリートを要請するための留学ではなく、その活動が必然的
に国際的になった企業の一員として、かなり長期間にわたって働き続けるための準備とし
て、別の国で学ぶという行為である‥‥‥したがって、国家のために留学するという意識
よりは、自らのために留学するという意識が強くなってくる。そのためにはかなりの費用
を払ってもよいと考える人たちが増えてくる。留学の市場経済化が進行しつつある」6と述
べ、私費留学が留学の主流を占め、また、多国籍企業(ないしは留学生の母国で直接投資
を行っている企業)で働きたいという希望のもとに留学を行っていると指摘している。
.....
上記の留学の市場経済化に関する船津の言及は、留学の需要の側面についてなされてい
るが、留学の供給の側面においても市場経済化が進展している。その端的な例がオースト
ラリアである。2005 年の時点で学部学生の約 20%を留学生が占めているオーストラリア
では、教育は産業と見なされ、留学生は消費者とみなされている(たとえば、世界中でオ
ー ス ト ラ リ ア の 高 等 教 育 機 関 へ の 留 学 の 斡 旋 業 務 を 行 っ て い る International
Ibid., p. 350.(前掲訳書、352 頁)
船津秀樹「国際ビジネスと人的資本の国際間移動」小樽商科大学『商学討究』第 58 巻 4
号、2008 年、38 頁。
5
6
19
- 19 -
Development Program(略称 IDP)の出版物ではこうした視点が明示されている7)。後述
するように、自国学生よりも高い授業料を留学生・外国人学生に課しているのもこうした
視点にたっているためである。オーストラリアと同様に留学生・外国人学生に対する授業
料を別建てで徴収しているイギリス、ニュージーランドも(ある程度はアメリカも)高等
教育を産業とみなしていると言えるであろう。
(2)Education at a Glance 2008 における留学先意志決定要因の指摘
人的資本理論の観点から作成された留学生移動モデルについて第 2 章で論じるに先立っ
て、この項では Education at a Glance 2008 で指摘されている留学先の選定要因を見てい
くことにする。
同書において、留学希望者が留学先を選択する主要な要因として挙げられているのは次
の 3 点である。第 1 は授業で使われる言語、第 2 は留学先の授業料と物価、第 3 は留学先
の移民政策である。この 3 つ以外の要因は、「その他の要因」という項で一括して列挙さ
れている。
1)授業で使われる言語
外国語の取得が留学の主要な目的の 1 つであることは疑いないから、授業で使われる言
語が留学先を決定するうえで大きな要因となることは当然である。
表 1-2-1 授業を英語で行う国別頻度
授業で英語を使う頻度
国 名
すべてあるいはほとんどの教育プログ オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、イギリ
ラムが英語で行われている
ス、アメリカ
多くの教育プログラムが英語で行われ
デンマーク、フィンランド、オランダ、スウェーデン
ている
一部の教育プログラムが英語で行わ
れている
チェコ共和国、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイスランド、日
本、韓国、ノルウェー、ポーランド、スロバキア共和国、スイス、
トルコ、ベルギー(フラマン語圏)
オーストリア、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペイン、ブラジ
英語で行われる教育プログラムはほと
ル、チリ、イスラエル、ロシア、ベルギー(フランス語圏)、ルク
んどあるいはまったくない
センブルグ
(出所)OECD, op.cit., p. 355.(前掲訳書、357 頁)
前節でも確認したように、世界的に広く使われている言語で授業を行う国に留学先が集
中している。言うまでもなくその筆頭は英語であり、英語圏諸国(アメリカ、イギリス、
オーストラリア、カナダ、ニュージーランド)が多数の留学生を集めていることは前掲図
1-1-2 に象徴的に示されている。近年では英語圏諸国以外でも英語による高等教育プロ
グラムを提供している国が増加しつつあることが注目される(表 1-2-1)。
そうしたなかで、日本は注目すべき例外である。OECD の報告書は日本に言及し、「日
本は注目すべき例外であり、授業で使われている言語は世界に広く普及しているものでは
拙稿「オーストラリアの IDP による留学生数の将来予測」研究代表横田雅弘『平成 18
年度文部科学省先導的大学改革推進経費による委託研究 留学生交流の将来予測に関する
調査研究』一橋大学留学生センター、2007 年 7 月、118~125 頁。
7
20
- 20 -
ないにもかかわらず、多くの外国人学生を受け入れている」8と述べている。
2)留学先の授業料と物価
留学先を決定する第 2 の要因として指摘されているのが、留学先の授業料と物価である。
図 1-2-1 は国公立の大学型高等教育機関における留学生の平均年間授業料を示したもので
ある。この図に示すように、他の国々に比べ英語圏の国では留学生から徴収する授業料が
際だって高い。他方、Education at a Glance2008 ではデータが表示されていないイギリ
スを除いて、ヨーロッパの国々の授業料は低額であるか、場合によっては無料であるケー
スが多い。デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド、スウェーデンでは自
国学生も留学生もともに授業料が課せられない。このように、これらの国々は授業料を課
さず、しかも英語の高等教育プログラムを多数提供していることから、留学生にとっての
魅力的な留学希望先となっている。事実、これらの国での外国人学生は 2000 年から 2006
年の間に 60%以上増加した。しかし、授業料無料で留学生に高等教育を授けることは受入
国政府にとって大きな財政負担を課すことになる。このためデンマークでは 2006/2007 年
度以降、EU および EEA 域外からの留学生から授業料の徴収が始まり、フィンランド、ノ
ルウェー、スウェーデンでも同様の議論が行われている9。
これに対してオーストラリア、ニュージーランドでは国内の学生よりも高い授業料を留
学生から徴収している。それにもかかわらず、2000~2006 年の期間に両国における外国
人学生数が増加したことから、Education at a Glance2008 は「オーストラリアとニュー
ジーランドでは、留学生には国内学生よりも割高の授業料を適用して成功している」10と
の評価を下している。他方、2000 年~2006 年の期間の留学生の増加幅が小さかったイギ
リスとアメリカに関して、同書は、
「他の英語圏諸国では同様の教育サービスをより低いコ
ストで提供する中、留学生に比較的高い水準の授業料を課していることが影響していると
思われる」11と述べている。
こうした中で、わが国では、韓国と同様に、学生の出身国に関係なく同一の授業料が徴
収されており、しかもヨーロッパ諸国に比べると授業料は高水準である。それにもかかわ
らず、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの 4 カ国において 2000 年~2006
「質の高いサ
年の間に留学生数が急増したことについて、Education at a Glance2008 は、
ービスが提供され、投資に見合うだけの効果が見込めるのであれば、授業料の存在が必ず
しも外国人留学希望者の意志をくじくものではない」12と述べている。
OECD, op.cit., p. 355.(前掲訳書、357 頁)
OECD, op.cit., p. 356.(前掲訳書、359 頁)
10 OECD, op.cit., p. 357.(前掲訳書、359 頁)
11 OECD, op.cit., p. 357.(前掲訳書、359 頁)
12 OECD, op.cit., p. 357.(前掲訳書、359 頁)
8
9
21
- 21 -
図 1-2-1 国公立の大学型高等教育機関における留学生の平均年間授業料(2004/2005 年)
(出所)OECD, Education at a Glance 2008,
3)留学先の移民政策
近年、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドは移民政策を緩和し、留学生の一時
的移住や永住を奨励している。具体的には、外国人学生に対して、移民局が規定する永住
権取得に必要なポイントを加算する政策をとっており、このことによってこれらの国は留
学先として魅力のあるものとなっている13。これに対して入国管理政策の厳格化が留学の
意欲をそぐ要因になることは容易に想像できる。
4)その他の要因
Education at a Glance2008 は、留学先の意志決定影響を及ぼす他の要因として、以下
の 7 つを指摘している14。①特定の教育機関や教育プログラムの学術的評価の高さ、②国
外で取得した単位を卒業単位に換算可能かどうかというプログラムの柔軟性、③出身国で
提供される高等教育の制約、④出身国での大学入学基準の厳しさ、⑤受入国との地理的・
歴史的関係や交易上の関係、⑥就業への展望、⑦出身国と受入国の教育機関での単位互換
を促進する政府の政策、である。これらのうち①と②は受入国の教育機関に関する問題と
して、③と④は送り出し国における高等教育の問題として、そして⑤、⑥、⑦は受入国と
13
14
OECD, op.cit., p. 357.(前掲訳書、359 頁)
OECD, op.cit., p. 357.(前掲訳書、359 頁)
22
- 22 -
送り出し国の双方にかかわる問題とみなすことができるであろう。
以上において、Education at a Glance 2008 において指摘されている留学先の選定要因
を取り上げたが、これらの要因の中には数量的な把握が可能なものとそうでないものとが
ある。また、数量化が可能であってもデータが入手困難であるものが含まれる。次章にお
いては上記のような要因を念頭におきながら、わが国をはじめとする留学生の主要受入国
を対象として、留学生誘引モデルの作成を試みる。
23
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