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1 - 一般財団法人鹿島平和研究所

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1 - 一般財団法人鹿島平和研究所
日本財政を巡る課題
法政大学准教授
小黒 一正
1
過去の消費増税時の反動減の比較
(出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版
実質GDP成長率
最近の動き(1)
・想定外の追加緩和(2014年10月31日、金融政策決定会合)
① 2012年末に130兆円(うち保有する長期国債は89兆円)で
あったマネタリーベースについて、14年末に270兆円(同
190兆円)に増やすため、年間60兆-70兆円のペースで増や
すとしていたマネタリーベースを約80兆円まで拡大
② 長期国債の保有残高が年間約80兆円(+約30兆円)のペ
ースで増加するように買い入れを行い、平均残存期間も現
状の7年程度から7-10年程度に延長
③ 上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の保有
残高を3倍に増やし、それぞれ買い入れペースを年間約3兆
円と年間約900億円に増やす。また、新たにJPX日経400に連
動するETFを買い入れ対象に加える。
4
出所)日本経済研究センター
5
出所)日本経済研究センター
6
最近の動き(2)
・補正予算
産経新聞(2014年11月1日記事から抜粋)
14年度補正、2兆~3兆円検討 景気対策、15年度当初と合わ
せ5兆円
「政府は31日、景気対策として、2兆~3兆円規模の2014年度
補正予算を編成する方針を固めた。災害対策に絞った公共事
業や中小企業支援などにあてる。15年10月の消費税再増税が
決まれば、15年度当初予算でも追加の経済対策を盛り込み、
景気対策の総額は5兆円規模を想定する。今年4月の消費税増
税後、景気減速が長期化しており、14年度補正と15年度当初
を合わせ、景気の腰折れを防ぎたい考え。(以下、略)」
※
2014年度補正は、13年度決算の剰余金や今年度の税収上ぶれ等を財源
に新規の国債発行は避ける方針か
7
最近の動き(3)
・GPIFの積極運用に転換
① 約130兆円の公的年金資金
を運用する年金積立金管理運
用独立行政法人(GPIF)は
2014年10月31日、株式運用の
割合を5割に高めることを柱
とする新しい資産構成の目安
を発表
② 日銀が大規模な金融緩和で
国債を大量購入していること
も国債運用を減らす判断を後
押し
8
日本の人口の推移
日本の人口は近年横ばいであり、人口減少局面を迎えている。2060年には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率
は40%近い水準になると推計されている。
人口(万人)
14,000
実績値
(国勢調査等)
平成24年推計値
(日本の将来推計人口)
12,806
生産年齢人口(15~64歳)割合
11,662
12,000
10,000
生産年齢
人口割合
50.9%
8,674
63.8%
(2010)
3,865
65歳以上人口
8,000
生産年齢人口(15~64歳)
高齢化率
39.9%
6,773
23.0%
(2010)
6,000
3,464
高齢化率(65歳以上人口割合)
4,000
2,000
4,418
合計特殊出生率
合計特殊出
生率
1.35
14歳以下人口
1.39
(2010)
0
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
1,204
2020
2030
791
2040
2050
2060
(出所) 総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」
(各年10月1日現在人口) 厚生労働省「人口動態統計」
9
65歳以上人口は2040年頃をピークに減少するが、
75歳以上人口は減少しない
(単位:千人)
出所) 2010年は総務省「国勢調査」、2015年以降は社人研「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の中位推計
10
消滅する自治体
(無居住化=2割、50%以上減少=4割)
出所)国土交通省(2014)「国土のグランドデザイン2050 ~対流促進型国土の形成~」
11
参考)「50%以上減少」の意味
•
•
現在の日本人口が半減するのは2083年(2010年から73年後)
40年間(2010年→2050年)で、人口が50%以上減少する地域は、全国平
均の約2倍以上のスピードで人口減少
12
実質GDP成長率の推移
13
実質GDP成長率の比較
14
人口成長率の比較
15
一人あたり実質GDPは米国と遜色ない
16
実質GDP伸び率の要因分解
17
急速に膨張する政府債務(対GDP)
18
1990年以降の政府債務の増加要因(対GDP)
19
成長のみでの財政再建の成功確率は極めて低い
財政赤字ギャンブル失敗のツケは若い世代・将来世代に
公的債務(対GDP)の変化
=-基礎的財政収支(対GDP)+(金利-成長率)×現在の公的債務(対GDP)
→ 基礎的財政収支の赤字=4%, 現在の債務=200%のとき、左辺がゼロの条件
→ 金利-成長率≦-2%
→ 以下の分布では単年で7.6%の確率。独立分布なら10年連続で7.6%の10乗
「金利-成長率」のヒストグラム分布
800
頻度
700
600
500
400
300
200
0
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-…
-9.0%
-8.0%
-7.0%
-6.0%
-5.0%
-4.0%
-3.0%
-2.0%
-1.0%
0.0%
1.0%
2.0%
3.0%
4.0%
5.0%
6.0%
7.0%
8.0%
9.0%
10.0%
100
(出所)OECD Statsデータから作成
20
金利と成長率の推移
21
中長期の経済財政に関する試算
(2014年7月25日版)
22
23
留意
• 税収では判断前の2015年10月の消費増税を盛り込み
• 他方、歳出では13年度は100.2兆円で補正込みですが、多
分実施する15年度の補正などは盛り込まず
→ 基礎的財政収支(対GDP)の経路がよく見える
(例: 5兆円の補正を打てば、PBは1%悪化)
24
内閣府モデル(中長期試算)との誤差
25
26
年金や医療関係の給付と財政の関係
高齢化の進展に伴い、社会保障給付費が大きく伸びる一方で、社会保険料収入は横ばいで推移し、その差額は拡大
傾向。この差額は主に、国や地方の税負担で賄われる。
社会保障制度を通じて、国民に給付される金銭・
サービスの合計額
(兆円)
(例)年金の受給額
医療・介護の給付額(自己負担見合いを除く)
社会保障給付費
給付費 110.6兆円
財源103.2兆円
+資産収入
介護・
福祉その他
21.1兆円
資産収入等
(%)
一般会計との関係
地方税等負担
11.2兆円
歳 出
恩給関係費
0.5兆円
[うち介護 9.0兆円]
医 療
36.0兆円
国 税 負 担※
29.7兆円
この部分
に対応
社会保障関係費
※
29.1兆円
○社会保障関係費は、国の税収と公
債金収入(借金)を財源としています。
保険料
62.2兆円
○社会保障関係費は、毎年度1兆円規模
で増大していく見込みです。
年 金
53.5兆円
社会保険料収入
2013年度(予算ベース)
※数値は基礎年金国庫負担2分の1ベース。
(出典)社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」、平成25年度(予算ベース)は厚生労働省推計。
27
限界が近づく財政(1)
出所)財務省(2014)「我が国の財政に関する長期推計」
28
限界が近づく財政(2)
29
債務残高(対GDP)の安定化に必要な最終的な消費税率
Q. 毎年1兆円以上のスピードで膨張する社会保障費をどう制御するか
。
・Braun and Joines (2011年 8月)未定稿
【ベースライン】 2017年に消費税率33%が必要(2012年に消費税率10%に
することが前提)
【先送りケース】 2022年に増税するなら、消費税率37.5%が必要(2012年
に消費税率10%にすることが前提)
【2%インフレのケース】 消費税率25.5%が必要
・Sakuragawa and Hosono (2011年7月)
債務残高を安定させるために消費税で賄う場合、2021年に5→16%
、2031年に消費税率21%が必要
・小黒・小林(2011年11月)
2025年に20%、2055年に消費税率31%が必要(機械的試算)
・小黒・島澤(2011年9月)
ピーク時に消費税率33.5%が必要(OLGモデル)
30
Braun and Joines (2011): Revised
•
増税の先送りプラン(消費税5%)と実施プラン(消費税10%)
– 可能な限り、消費税率を5%、または、10%に維持。
– 先送りプランまたは実施プランを持続できる限界とは?
• 公的債務/GDP 比率を発散させないために、消費税率を100%
に上げざるを得なくなるまで、先送りプランまたは実施プランを続
けると想定。
• その限界の時期は?
– 先送りプラン: 2028年まで持続可能。
– 実施プラン : 2032年まで持続可能。
– 今回の政策変更で稼げる時間は4年。
31
Braun and Joines (2011): Revised
• 包括的な政策プラン
①
②
③
④
⇒
-
政治的な現実性あり(?)
2%のインフレ率を実現する
高齢者の医療費窓口負担を20%とする
年金給付の現役時年収半額保証をはずす
政府の経常経費を1%削減する
消費税は段階的に32%まで引き上げ、
その後17%まで引き下げる
32
Braun and Joines (2011): Revised
包括的な政策プランを実施した場合の消費税率の推移
5%増税=5回程度
33
消費税以外の財源:税目別の税収の推移
(出所)財務省ホームページ
34
Hansen and Imrohoroglu (2012)
日本経済に必要な消費税率
35
Hansen and Imrohoroglu (2012)
日本経済に必要な労働所得税率
36
Hansen and Imrohoroglu (2011)
増税による経済への影響
37
経済成長と税制
38
消費税と賃金税の同等性
※
所得控除等がないケース
• 遺産・贈与がない場合
消費税25%
(1+0.25)×生涯消費=生涯賃金
生涯消費=(1-0.2)×生涯賃金
賃金税20%
( 保険料 )
39
消費税に逆進性はない
40
利払い費の予測:日本総研(2011)
• 最も甘い【ケース③】でも、平成21年度で約9兆円の利払い費は、平成31年
度までの10年間で2倍弱の17.3兆円に達する可能性。つまり、金利が現在の
ように1%前後で推移しても、利払い費は急増。なお、平成31年度における
【ケース①】、【ケース②】、【ケース④】の利払い費は、各々、19.4兆
円、23.2兆円、24.3兆円となる。
41
長期金利低下の限界か(1)
42
長期金利低下の限界か(2)
43
長期金利の推移(1997年~)
(%)
大蔵省資金運用部が補正予算分につき国債購入を大幅に減らすことを新聞
で小さく報道。以後、国債の市中消化が大幅に増加するとの懸念が台頭。
3.0
金利の上昇→Value at Risk管理を行う金融機関が反応
(金利上昇リスクに対する含み損の拡大がリスク管理上の上
限を超えたと判断し、国債ポジションを一斉削減)
99/2/5
2.515%
98/12/22
2.070%
2.5
06/5/10
2.005%
2.0
12/4/20
終値 0.935%
08/6/16
1.880%
03/9/2
1.640%
1.5
1.0
98/12/21
1.580%
08/12/30
1.165%
98/10/2
0.740%
0.5
10/10/6
0.840%
03/6/12
0.435%
10年度補正 ・運用部ショック
VaRショック
0.0
1997/04
1999/04
2001/04
2003/04
2005/04
2007/04
2009/04
2011/04
44
財政赤字=世代間格差:「世代交代」の重要性
•
•
-
内国債だから問題ないとは限らない。
むしろ、問題の本質は世代間格差(バロー理論が成立するか否か)
45
世代ごとの受益と負担構造(世代会計)
46
高齢世帯の資産分布のばらつき
•
「平成21年度・家計の金融行動に関する世論調査」(金融広報中央
委員会)によると、金融資産保有額は、60歳代で平均1677万円(中
央値900万円)、70歳以上で平均1379万円(中央値600万円)に過ぎ
ない。金融資産の平均と中央値で770万円程度の開きがあるのは、
高齢世帯の資産分布に「ばらつき」がある証拠
(%)
60歳代
25.0
70歳以上
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
47
「シルバー民主主義」仮説
(出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版
改革の全体像と役割分担
(拙著『2020年、日本が破綻する日 危機脱却の再生プラン』)
公平性
効率性
課題
主な政策手段
将来世代の利益保護、政治均衡と経
済均衡の乖離縮小
世代間公平基本法+世代間
公平委員会
世代間公平
社会保障(年金・医療・介
護)の事前積立
世代内公平(課税の水平的公平性)
社会保障番号(納税に活用)
の導入
社会保障原則としての公平性
(リスク選択の回避など)
皆保険+リスク構造調整プレ
ミアム+Open Enrollment
応能原則としての公平性
社会保険料による所得再分配
リスク・プールの効率性
中央基金(社会保障ファイナ
ンスの一元化)
価格競争を通じた資源配分のミクロ
的効率性
管理競争(一括保険料+加入
先の選択自由化)
マクロ的効率性(社会保障の持続可
能性)
社会保障予算のハード化
49
参考)増税幅のイメージ(機械試算)
50
参考資料1
51
ラインハート・ロゴフ(2011)
『国家は破綻する』日経BP社
52
過剰債務事例の帰結(1)
(出所)岩本(2012)-政府累積債務の帰結 危機か?再建か?
53
過剰債務事例の帰結(2)
•
200%以上の「超高債務」の11 事例
再建事例(4例)・・・オランダ(200%を超えた年1821-60%を下回った年1914 年,
以下同じ表記,1946-1963 年),ニュージーランド(1932-1962 年),英国(19401970 年)
破綻事例(7例)・・・ブルガリア(1932-1946 年,1993-2001年),チリ(1932-1936
年),ギリシャ(1848-1913 年),ホンジュラス(1914-1925 年,1990-2004年),英
国(1814-1872 年)
・ 上記以外に、100%以上の「超高債務」の21事例
再建事例(6例)・・・オーストラリア(100%を超えた年1945-60%を下回る前年1959
年,以下同じ表記),ベルギー(1946-1963 年),カナダ(1945-1960 年),フィン
ランド(1945-1946 年),アイルランド(1984-1996 年),米国(1945-1956 年)
破綻事例(15例)・・・アルゼンチン(1891-1895 年,1989 年),ブルガリア(19191921 年),エクアドル(1918 年,1987-1996 年,1999-2001 年),ギリシャ(19281939年,1994-2010 年),アイスランド(2010 年),イタリア(1883-1945 年),メ
キシコ(1986-1989年),オランダ(1814-1817 年),パナマ(1988-2006 年),スペ
イン(1868-1916 年),英国(1918-1940 年)
(出所)岩本(2012)-政府累積債務の帰結 危機か?再建か?
54
OCED 諸国における政府純債務と純利払いの関係
55
日本の政府債務と長期金利の推移
%
250.0
General government gross financial liabilities
(percent of GDP)
5
Long-term interest rate
4.5
200.0
4
3.5
150.0
3
2.5
100.0
2
1.5
50.0
1
Year
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
0
1993
0.0
0.5
56
Reinhart and Rogoff (2012)
Contrary to popular perception,
we find that in 11 of the 26
debt overhang cases, real
interest rates were either
lower or about the same as
during the lower debt/GDP
years. Those waiting for
financial markets to send the
warning signal through higher
interest rates that government
policy will be detrimental to
economic performance may be
waiting a long time.
57
過剰債務の罠(1)
58
過剰債務の罠(2)
•
•
Panizza and Presbitero (2012):過剰債務→低成長の因果関係を否定
IMF(2012): 左図:過剰債務→低成長が多い
右図:債務↓の過程でも、過剰債務ほど成長率は低い
59
(参考)長期金利が低い理由
•
長期金利は主に、①潜在成長率と 物価上昇率の期待や、②国債の
リスクプレミアム、③海外金利との裁定で決まる。
・銀行等は貸出金を減少させ、国債購入
・日本国債は国内で9割以上が保有され、海外投資家の影響を受けにくい。
・欧州(15-25%)と比較して低い消費税率
•
リスクプレミアムの中身は何か
・財政破綻が顕在化したときには、①歳出削減・増税、②デフォルト、③
日銀引受けの3つの選択肢
・100の国債のとき、以下を市場が期待するとプレミアムは低下(再建の信
認が崩壊すると、一気にプレミアムは上昇する可能性)
1)債務残高(対GDP)=低、破綻確率20%
歳出削減+増税=50ならば、リスクプレミアム分=50×0.2=10
2)債務残高(対GDP)=高、破綻確率70%
歳出削減+増税=90ならば、リスクプレミアム分=10×0.7=7
60
参考)閉鎖経済では財政危機に陥る「閾値」が
存在する可能性
(出所)Oguro and Sato (2011) “Public Debt Accumulation and Fiscal Consolidation, ” Center for Intergenerational Studies, Institute of
Economic Research, Hitotsubashi University, Discussion Paper Series No.517
61
参考資料2
62
3つの課題
1)世代間格差(勤労世代 vs 引退世代)
→ 孫は祖父母よりも一億円損をする
→ 事前積立
2)世代内格差
→
→
※
これから急増する貧困高齢者
基礎年金の国庫負担↑+クローバック(claw back)
+資力調査(means test)
マイナンバー制の導入が不可欠
3)財源問題(負担増 vs 給付カット)
→ 現状は賦課方式ですらない
※
→
※
公費部分(社会保障給付と保険料収入の差)を将来世代へのツケ先送
りである財政赤字で賄っている
社会保障予算のハード化
麻生政権時に検討された「社会保障予算の区分経理」に相当
63
事前積立の導入
 社会保障の世代間格差を改善するため、高齢化の進展に備えた事前
積立を導入する。
(解説)高齢者一人当たりの社会保障給付を固定すると、高齢化の進
展に伴い、現役世代の負担(保険料)は増加していく。だが、あら
かじめ高齢化の進展に備え、いまから追加的負担を課し、その分を
貯蓄(事前積立)しておけば、将来の負担上昇を抑制し、異時点間
の負担を平準化できる
64
(参考)賦課方式
(例:年間300万円の年金)
2011年
100万円
100万円
2050年
100万円
300万円
65
(参考) 「事前積立」方式
(例:年間300万円の年金)
2011年
事前積立
2050年
+50万円
+50万円
+50万円
100万円
+50万円
100万円
+50万円
100万円
+50万円
300万円
-150万円
66
(参考)医療保険に事前積立を導入する場合の効果
(注)縦軸は、2006年の現役世代の所得を1に基準化したときの各世代の生涯純便益(=医療サービス
からの受益-保険料・税の負担)を推計したもの。
67
積立方式への移行
•
賦課方式を廃止し、積立方式に移行する場合、現役世代は、自らが老後に受
け取る年金のために(世代ごとに)貯蓄する。
•
その場合、引退世代は年金を受け取れなくなってしまうが、それは政府が公
債を発行して賄う。この措置で発生する債務は「暗黙の債務」と呼ばれ、一
部専門家は750兆円と試算(=暗黙の債務の顕在化)。
•
その際、「この巨額債務の償却は困難であることから、積立方式の移行は不
可能」との誤解が広がっている。
•
しかし、暗黙の債務750兆円は100年といった長期で償却する場合、年間7.5兆
円(=消費税率3%)の負担に過ぎない。
※
750兆円(対GDP150%)の債務を維持するためには、金利と成長率の差が1%のときで
1.5%の負担(PB黒字)が必要。これは消費税3%=7.5兆円(対GDP1.5%)に相当
•
問題は、暗黙の債務が顕在化する場合、政府債務(対GDP)は大幅に増加す
ることから、財政の持続可能性に疑義が発生し、国債市場で国債利回りが急
上昇するリスク。
•
この債務を顕在化させずに、処理する方式が「事前積立」。
68
積立方式への移行
暗黙の債務
(750兆円)
②つなぎ国債
(=年金給付分)
積立方式
※ つなぎ国債以外は
通常の国債や国内債券など
で運用
③マネー
④年金給付
①保険料・税
引退世代
現役世代
償却財源7.5兆円
(消費税3%)
69
事前積立での移行
:
賦課方式+積立金=修正賦課方式
統合
事前積立
暗黙の債務
(750兆円)
※「積立方式の積立
-つなぎ国債」に相当
現行賦課方式
②年金給付
①保険料・税
※ ①に上乗せして徴収(消
費税では引退世代も負担)
引退世代
現役世代
償却財源7.5兆円
(消費税3%)
70
暗黙の債務:厚生年金
690兆円
71
暗黙の債務:国民年金
110兆円
72
厚生年金・国民年金の平成22年度収支決算の概要
73
まとめ
•
不毛な議論はやめよう!
事前積立 = 現行制度(=修正賦課方式)の枠組みそのもの
→ 賦課方式+積立金
→ 許容できない世代間格差が発生する理由は、給付水準を維持する
場合、積立金の経路と負担水準が不適切なため
→ 積立金の経路と負担水準を適正化すれば、世代間格差は改善可能
→ しかも、現行制度のマイナー・チューニングで改善可能
•
問題は「暗黙の債務」(750兆円、対GDPで150%)
暗黙の債務を維持する場合 → 賦課方式
暗黙の債務を償却する場合 → 「完全」積立方式
→ いずれにせよ、「暗黙の債務を引退世代・現役世代・将来世代で
どう負担するか」という議論が最も重要
74
年金改革のポイント
•
世代間格差
→ 事前積立=現行の修正賦課方式のマイナー・チューニング
→ 社会保障予算のハード化(中長期で財政収支が均衡する枠組み)
※
給付水準>負担でなく、給付水準=負担が原則であり、給付水準は政治の判断
•
年金の財政検証(例:楽観的な運用利回り)
→ アメリカやカナダのように外部の第3者によるチェックが必要
•
積立金の運用
事前積立でのピーク時の積立金は200兆円程度(学習院大学・鈴木
亘教授の試算)
→ 現行の積立金と比較しても運用不可能な規模でない
→ リスクを嫌うならば全額を国債運用(アメリカの公的年金)
75
社会保障予算のハード化
•
•
社会保障給付にリンクしている一般会計の国庫負担が毎年増加して
いくので、その他予算のうち、将来の成長に必要な「投資」的予算
(研究・開発・教育や都市部投資)も削減対象とされる。
国庫負担リンクを廃止し、一般会計と遮断する「社会保障予算のハ
ード化(独立採算)」が必要
76
管理競争の導入(例:オランダ)
・「管理競争」とは、自由競争でなく、保険者機能の強化や加入先の
選択自由化を図りつつ、政府が管理するゆるやかな競争
・診療報酬などの価格統制権限は各保険者に分権化
・政府の役割は、社会保険料による所得再分配、リスク調整、健全な
保険市場の確立などに特化
77
(参考)リスク構造調整プレミアム
 保険者は、高リスクの高齢者や患者を保険対象外とする「リ
スク選択」を進める誘因をもつ。
 この防止のため、政府は、中央基金に集まった資金(強制徴
収の社会保険料)を原資に、保険者に「リスク構造調整プレ
ミアム」を配分する。
 具体的には、「年齢」や「性別」などをベースに、高リスク
の加入者(例:高齢者や患者)が多く医療費がたくさんかか
る保険者には多く、低リスクの加入者(例:若者)が多く医
療費があまりかからない保険者には少なく配分する。
 なお、政府が社会保障に介入する根拠は逆選択やリスク選択
の回避などのため、適切な所得再分配・リスク調整と皆保険
が維持されるならば、各保険者は民間組織でも構わない。
 また、管理競争のオランダ等では、保険者には加入希望者を
拒否できない義務(open Enrollment)を課している。
78
(参考)社会保障と政府の役割
 保険の目的: 年金は寿命の不確実性、医療は疾病リス
ク、介護は要介護リスクをヘッジ。
 逆選択: 高リスク者ほど自ら保険に加入する一方、保
険者が被保険者の情報を正確に把握できないと、低リス
ク者の保険料も上昇する。その結果、コストに見合わな
い低リスク者は脱退し、最終的に保険が不成立となるこ
と。
 モラルハザード:保険に加入せず、老後の全てを生活保
護に頼る戦略。
⇒ 「強制加入(国民皆保険)」の根拠
 リスク選択:保険者が高リスクの高齢者や患者を保険の
対象外とすること。
⇒ 保険者間の「リスク調整」が必要
79
クローバック(claw back)
(出所)第7回社会保障審議会年金部会(平成23年12月1日)資料から抜粋
80
参考資料3
81
日銀「経済・物価情勢の展望」(2013年4月)
日経新聞(2013年4月27日)から抜粋
「市場、冷めた見方も
電子版)からの抜粋
日銀「展望リポート」」(2013/4/27 日本経済新聞・
日銀が公表した展望リポートは2年で2%の物価上昇率を目指すという目標を意識し
た内容だ。政策目標と経済見通しが一致する分かりやすさを重視した半面、市場の見方
との隔たりは大きく、日銀の幹部ですら「辻つま合わせ」との声がくすぶる。(略)市
場では「展望リポートはインフレ期待を定着させるためのプロパガンダ手段になった」
(みずほ証券の上野泰也氏)と冷めた見方も目立つ。
82
CPI(コア)対前年比の推移
89年 消費増税
97年 消費増税
08年 原油高騰
90・91年 湾岸戦争
(出所)総務省
83
物価下落は耐久消費財
84
主要中央銀行の総資産の対GDP比
の推移(四半期)
85
日米におけるマネタリーベースと名目GDP
の相関(1970-2010)
貨幣数量方程式 M V = PY
M=mH
→ PY=mV×H
M:マネーストック、H:マネタリーベース、P:物価、Y:実質GDP
V:貨幣の流通速度、m:信用乗数
(兆円)
600
名
目
G
D
P
(
実
額
)
日本
1980年
1990年
(10億ドル)
16,000
1980年 1990年 2000年 2008年
2000年
名
目
G
D
P
(
実
額
)
500
400
300
14,000
12,000
10,000
マネタリーベース
200
米国
8,000
6,000
マネタリーベース
4,000
100
2,000
0
0
0
20
40
60
80
100
120
(兆円)
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
(10億ドル)
(出所)内閣府「国民経済計算」、日本銀行、OECD “National Accounts”、FRB
86
貨幣数量説は中長期では成立
87
異次元緩和の概要とそのリスク
・2014年10月の金融政策決定会合で、日銀は毎月の長期国
債の買い入れ額をそれまでの7兆円程度から8~12兆円に引
き上げ、2014年末にマネタリーベース(2012年末実績138
兆円)を275兆円に拡大することを決定
・財務省の2014年度・国債発行計画では、市中発行額(買
い入れ対象)は約130兆円であるから、日銀は政府が発行
する国債の約70%超(年換算=96兆円~144兆円)を購入
→ 国債市場の流動性低下し、市場メカニズムに歪み
・もしインフレになり、日銀が国債の購入ペースを低下さ
せる場合、国債価格の下落を加速し、長期金利の上昇圧力
を高めるリスク
88
2015年以降も、日銀は国債買い入れを急にはやめられない
(出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版
89
長期金利への影響(1)
90
長期金利への影響(2)
91
主要中央銀行の総資産の対GDP比
の推移(四半期)
(出所)拙著『財政危機の深層』NHK出版
92
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