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ハイブリッド産業連関法を用いた太陽光発電システム導入の経済・環境分析
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 ハイブリッド産業連関法を用いた太陽光発電システム 導入の経済・環境分析 Economic and Environmental Analysis of PV Systems by Means of Hybrid Input-Output Approach 水 本 佑 樹 * ・ 内 山 洋 司 Yuki Mizumoto Yohji Uchiyama ** ** ・ 岡 島 敬 一 Keiichi Okajima (原稿受付日 2013 年 2 月 13 日,受理日 2013 年 8 月 12 日) Renewable energy is expected to promote energy security, environment, and economic efficiency for the electricity configuration in Japan. The impacts from both economic and environmental aspects have not quantitatively investigated in the case that renewable energy sources are largely installed in the society. In this study, we adopt the input-output analysis as an analytical tool for introduction impact of PV systems. New sectors related to the PV systems, such as “PV module sector”, “BOS sector”, and “PV power generation sector” are created and added to 2005 input-output table for Japan. The extended input-output table allows for estimating the introduction impact in consideration of technical characteristics of PV systems. Based on the hybrid input-output approach, the economic impact and CO2 emissions of PV systems are analyzed. As a result, it is clarified that (1) the installation of PV systems induce widely production of related industries by the effect of PV manufacturing and construction, and direct and indirect CO2 emission derived from the PV systems is much lower than that of the other power plants; (2) however, the net amount of added value in industries is offset because there is not only positive impact of production growth due to the manufacturing and construction, but also negative impact of an economic spillover effect caused by the installation of PV systems. Keywords: Input-output analysis, Process analysis, PV systems, Economic impact, CO2 emissions 1.はじめに エネルギー技術に該当する部門を新設し,再生可能エネル 地球温暖化防止やエネルギー安全保障の強化,新規産業 ギーの雇用効果を分析した.しかし,ドイツの産業連関表 の創出による経済成長の実現といった観点から,再生可能 は元来,部門数が約 60 と少ないため,波及効果の誤差が大 エネルギーの導入拡大に期待が集まっている。再生可能エ きくなる可能性が否めない. 他の既往研究 4)-8)においても, ネルギーの経済的に見た導入効果は、まだ明確にされてお 再生可能エネルギー部門の投入構成は粗いものにとどまっ らず、その経済的な影響を定量化することが求められてい ている. る.経済的影響を定量化する方法の1つに産業連関分析 1) 一方,松本・本藤 9) は,太陽光発電および風力発電に関 がある。この方法は、ある技術を導入した場合,あるいは 連する産業部門に関して詳細な調査を実施し,我が国の産 従来の技術を新技術に置き換えた場合の直接間接の経済影 業連関表(約 400 部門)を拡張することで,太陽光発電と 響を見積もることが可能である.しかし,産業連関分析で 風力発電のライフサイクルにおいて誘発される雇用量を推 利用する産業連関表では,社会に存在する多種多様な財が 計した.しかし,松本・本藤の推計は,純粋に太陽光発電 数十~数百部門に統合されており,扱われる財は「仮想的 および風力発電の導入に誘発される雇用必要量であり,代 平均財」となっている.例えば,日本の 2005 年産業連関表 替される既存電力部門の需要減少は考慮されていない.加 2) (基本分類:約 400 部門) において太陽電池は「その他の えて,現状の再生可能エネルギーの発電コストは既存電力 電気機械器具」部門に含まれるが,この部門には他にも多 部門と比較して高いため,追加的コストとして各産業や家 様な品目が含まれているため,太陽電池製造の技術体系を 計に影響を及ぼすと予想される.実際,Frondel et al. 反映しているとは言い難い.そのため,再生可能エネルギ ドイツにおける再生可能エネルギー導入効果を分析し,長 ーの導入影響を的確に分析するためには,既存の産業連関 期的には正味雇用効果に逆効果であることを指摘している. 表の拡張・修正が必要となる. 10) は, また,産業連関分析は環境分析にも応用可能であり,産業 これまでにも,再生可能エネルギー分析を目的とした産 連関表を利用して再生可能エネルギーの環境負荷を分析し 業連関表の拡張は広く検討されている 3)-9).Lehr et al. 3)は, た研究も散見される 11)-14).しかし,これまでの既往研究で ヒアリング調査に基づいてドイツの産業連関表に再生可能 は,経済面と環境面で全く別個に評価が行われており,経 済面と環境面を統合して総合的な評価を行った事例は少な い. * 筑波大学大学院システム情報工学研究科リスク工学専攻 〒305-0005 茨城県つくば市天王台 1-1-1 ** 筑波大学システム情報系 第 29 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスの 内容をもとに作成されたもの 1 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 PVシステムの 技術データ プロセス分析 ①投入系列の作成 IO表における 類似部門の特定 サービス・ 付加価値 原材料・ エネルギー … 太陽電池 PV部門の産出構成 + + BOS ③電力部門の 代替効果 事業用電力部門 の産出減少 事業用電力 … 追加的 コスト … 太陽光発電 PV発電による代替 各産業部門の 付加価値額減少 粗付加価値部門 + + + + + + + + + + + + + + + + - - - - - - - - - 国内生産額 図1 国内生産額 … 最終需要 事業用電力 生産額の振り分け 太陽光発電 ②産出系列の作成 BOS 太陽電池 PV部門の投入構成 ④バランス調整 ハイブリッド産業連関表の作表フロー そこで本研究は,既存電力部門の需要減少や太陽光発電 ら構成される.PV システムの技術体系は,主に山田・小宮 の追加的コストを考慮した太陽光発電システム(PV システ 山の報告等 15), ム)の導入影響を,産業連関分析を用いて明らかにするこ 表 1 に示す. 16) より引用する.PV システム製造の工程を と目的とする.具体的には,プロセス分析に基づいて PV また,山田・小宮山は,量産効果と製造技術開発の進展 システムに関連する部門の投入系列および産出系列を作成 を考慮するために,1 年間に製造される太陽光発電所の生 し,我が国の 2005 年産業連関表(401 部門表)を拡張する. 産規模として①10MW ケース,②1GW ケース,③100GW PV システムの導入規模としては,10MW ケース,1GW ケ ケースの 3 ケースを設定している.ここでは,生産規模の ース,100GW ケースの 3 ケースを設定し,製造技術水準の 拡大に伴いセル性能と製造技術水準が向上していくことが 向上を想定する.そして,作表した産業連関表を用いるこ 想定されている. そこで本研究においても,10MW ケース, とにより,PV システム導入に伴う生産誘発額,付加価値誘 1GW ケース,100GW ケースについてそれぞれ投入系列・ 発額,CO2 排出量等の推計を行う. 産出系列を整備し,PV システムの導入規模拡大に伴う生産 技術進歩の影響を分析する. 2.ハイブリッド産業連関表の作成 それぞれのケースにおける相違を表 2 に示す.多結晶シ 産業連関表は,産業間の相互依存関係を行列形式で表示 リコン太陽電池の製造技術水準の向上に関する前提の基本 したものである.本研究では,PV システムの導入影響を的 的な考え方は,セル効率の向上,ウエハの薄型化や切り出 確に分析するために,プロセス分析に基づいて「太陽電池 し損失の減少,歩留まりの向上などによる Si 消費量の低減, 部門」,「周辺機器および施工(BOS)部門」,「太陽光発電 インゴット・ウエハ・セルの大面積化,および処理速度の 部門」の 3 部門の投入系列および産出系列を新たに作成し, 向上である.また,架台および土建はパネルの面積に比例 我が国の産業連関表(401 部門表)の拡張と修正を行った. し,インバータと制御装置については生産規模の拡大に伴 本研究におけるハイブリッド産業連関表の作表フローを図 ってスケールアップファクターが定められている. 1 に示す. 2.2 PV システム部門の投入系列 2.1 対象とする PV システム 投入系列の作成とは,列部門たる投入構造に関する数値 本研究で対象とする PV システムは,陸上に設置された 化である.産業連関表において,ある産業部門 j の生産関 集中型の太陽光発電所(設備利用率 12%,耐用年数 20 年) 数は次式で与えられる. であり,多結晶シリコン太陽電池と,架台やインバータ, X j aij X j V j 制御装置およびシステムの施工といった,いわゆる BOS か i 2 (1) Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 ただし,Xj は生産額,aij は投入係数,Vj は付加価値である. 一方,商業,金融といったサービス財の投入額や,資本・ 我が国の産業連関表は,工業統計表などの公表統計を参照 労働を表す粗付加価値の投入額については,プロセス分析 して,各部門への原材料・エネルギー,サービス,および からは得ることが困難である.そこで本研究では,次のよ 付加価値などの投入額が推計されている 17) .したがって, うな方法でサービス財と付加価値の投入額を近似的に推計 外部情報を用いて技術体系を投入係数として表現できれば, した.まず,既存の産業連関表における類似部門を特定す 新設部門の投入系列を決定することができる. る.類似部門の投入系列は,新設部門で定義する財を含め (1) 太陽電池部門,BOS 部門 た平均的なインベントリ(技術係数)に他ならない(図 2) . 太陽電池および BOS の生産に必要な原材料・エネルギー 前述の通り,新設部門に投入される原料・素材財,中間財, については,前述した報告書等 15), 16) より引用し,生産プロ およびエネルギー財については,プロセス分析により求め セスのインベントリを整理した(表 1) .原材料・エネルギ られる.それ以外のサービス財や付加価値については,平 ーの投入量からその生産額を導く方法は以下の通りである. 均財のそれで代表されると仮定し,類似部門における素材 産業連関表の公表データには,付帯表として「部門別品目 財・中間財・エネルギー財とサービス財・付加価値の投入 別国内生産額表」が含まれている.そこで,報告書から得 額の比から,新設部門のサービス財・付加価値投入額を近 られたデータを上述の表と照合して該当する財への格付け 似的に推計した 18), 19).なお,太陽電池部門の類似部門は「そ を行い,その単価を乗じることで金額に換算した. の他の電気機械器具」部門とし, BOS 部門は「電力施設 建設」部門とした. 表1 PV システムの技術体系 16) 10MW ケースの太陽電池部門および BOS 部門の投入系 列の推計結果を表 3 に示す.紙面の都合上,ここでは内生 部門 工程 太陽電池 太陽電池シリコン 水ガラス化 部門を 13 部門に,粗付加価値部門を 1 部門に統合して表示 (SOG-Si)製造 析出・精製 している.コスト総額を見ると,10MW 規模の多結晶シリ SiO2 還元 コン太陽電池では 421.4 千円/kW となり,BOS まで含めた 脱炭素 システムコストは 646.2 千円/kW という結果になった. 多くの既往研究 一方向凝固 セル製造 既知として,その内訳を調査することで投入系列を作成し 基板表面化処理 ているのに対し,本研究では物量データを母体として,産 拡散接合形成 業連関表のデータを利用しながら積み上げていくことで新 設部門のコストを決定している.なお,IEA-PVPS 20) の統 計によると,2005 年時点の我が国の太陽電池価格は 428 千 裏面エッチング 円/kW である. 裏面電極形成 各ケース別の PV システムのコストを図 3 に示す.製造 受光面電極形成 技術水準の向上に伴い,1 単位あたりの PV システム製造に セル特性検査 要する原材料・エネルギー等は減少するため,PV システム モジュール化 のコストは次第に低下していく.1GW ケースの場合,PV 架台 BOS では,新設部門のコスト(単価)を 基盤化 保護膜形成 モジュール製造 5), 6) システムのコストは 392.2 千円/kW となり,100GW ケース インバータ では 279.0 千円/kW となった. 制御装置 土建 素材財部門(R) 表2 多結晶シリコン太陽電池製造のケースによる相違 18) エネルギー財部門(E) 太陽電池生産規模の拡大に伴い 生産設備 大きくなる(工程ごとにスケール 平均財p 類似部門p 中間財部門(M) アップファクターを定める) セルの効率 向上する セル面積(m2/枚) 広くなる モジュール保護ガラス 薄くなる モジュールのアルミ枠 軽量化 サービス・その他財部門(S) 粗付加価値部門(V) 図2 3 産業連関表における平均財のインベントリ Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 表3 太陽電池部門と BOS 部門の投入系列(10MW 規模) 太陽電池 (百万円) 太陽電池 700 BOS システムコスト [千円/kW] 部門 BOS 600 農林水産業 0.0 0.0 鉱業 2.8 0.0 1514.1 652.2 0.0 2.1 電力・ガス・水道 231.2 30.5 商業 268.3 91.5 金融・保険 54.6 45.8 不動産 20.7 6.8 運輸 83.6 119.8 情報通信 80.6 42.0 0.0 0.0 合で国内需要に配分した.10MW ケースにおける太陽光発 サービス 390.4 200.2 電部門の産出系列を,内生部門を 13 部門に統合のうえ表 4 分類不明 9.5 11.9 内生部門計 2655.8 1202.9 本研究では,従来の電力部門で発電された電力と太陽光 粗付加価値部門計 1557.9 1045.7 発電部門で発電された電力は、共通の生産物として扱う. 国内生産額 4213.7 2248.6 したがって,太陽光発電部門の新設によって事業用電力部 製造業 建設 中 間 投 入 公務 500 400 300 200 100 0 10MW 図3 1GW 100GW 各ケースにおける PV システムのコスト に示す. 門が代替されるため,同じ発電量相当(合計 10.512GWh) だけ事業用電力部門の国内需要を減少させた(表 4) . (2) 太陽光発電部門 PV システムは,運用時(発電時)に原材料・エネルギー 表 4 を見ると,同じ発電量の代替にもかかわらず,事業 等をほとんど必要としない.そのため,本研究では太陽光 用電力部門の産出額減少に比べて太陽光発電部門の産出額 発電部門への中間投入はないものと仮定した. が大きくなっていることが分かる.これは,発電単価の違 太陽光発電部門の粗付加価値額は,「資本減耗引当」の いに起因する.太陽光発電の発電コストの推計値が 41.3 円 み考慮するものとし,耐用年数 20 年,割引率 3%より求め /kWh であったのに対し,2005 年産業連関表における事業 た年経費率を PV システムのコストに乗じて計上した.結 用電力部門の単価(原子力,火力,水力その他の平均値) 果,10MW ケースの太陽光発電部門の生産額は 434.4 百万 は 16.2 円/kWh である.本研究では,この追加的コスト分 円と推計された.設備利用率 12%より年間発電量は 10.512 だけ各産業部門の粗付加価値が減少するとして,粗付加価 GWh と求められるため,本研究における太陽光発電の発 値部門を調整した.すなわち,太陽光発電の追加的コスト 電コストは 41.3 円/kWh となった.同様にして,1GW ケー による各産業部門の付加価値減少額は, スの発電コストは 25.1 円/kWh,100GW ケースでは 17.8 円 V j xelc , j xPV , j /kWh となった. 2.3 PV システム部門の産出系列 (2) と表される.ただし,Δxelc,j は事業用電力部門の j 部門への 産出系列の作成とは,行部門たる産出構造を特定化する 中間需要額,ΔxPV,j は太陽光発電部門の j 部門への中間需要 作業である.また,新設部門の財が既存部門の財を代替す 額である. るような場合は,代替される既存部門の産出についても修 2.3 産業連関表のバランス調整 正を行う必要がある. 産業連関表は,縦列の国内生産額(行) (中間投入+粗付 (1) 太陽電池部門,BOS 部門 加価値の合計)と横行の国内生産額(列) (中間需要+最終 太陽電池部門および BOS 部門の産出は,すべて固定資本 需要の合計)の値が等しく,バランスがとられていること 形成部門に計上し,内生部門への産出はないものとした. が知られている.しかし,既存の産業連関表に新たな部門 (2) 太陽光発電部門 を増設すると,国内生産額(行)と国内生産額(列)の間 一般的に,太陽光発電によって発電された電力の需要先 に不均衡が生じることになる.具体的には,太陽電池部門 を特定することは困難である.そこで本研究では,太陽光 および BOS 部門を追加すると,これらの部門に中間投入を 発電部門の産出は「事業用電力部門」の産出比率と同じ割 行う部門の生産額が増加する.なお,太陽光発電部門につ 4 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 いては,今回は中間投入を考慮しないため,他産業部門の 需要ベクトルである. 生産額に影響を与えることはない.また,代替される事業 用電力部門の需要が減少すると,事業用電力部門に中間投 3.導入評価指標 入を行う部門の生産額も減少することになる. 作表したハイブリッド産業連関表を用いて, PV システ そこで,本研究では次のような方法で産業連関表のバラ 本研究では,既存の産業連関表に太陽電池部門,BOS 部 ンス調整を行った.まず,行と列の国内生産額の比 門,太陽光発電部門の 3 部門を追加し,既存の産業連関表 を拡張している.したがって,投入係数行列 A は既存の産 c j xij Fi xij V j j i (3) 業部門 n 部門(n=401)と PV 部門 3 部門からなり,次式で 表すことができる. を算出し,これを列方向の中間投入額および付加価値額に A PV A 3PV,3 A n,3 一律に乗じた.ただし,xij は中間投入額(中間需要額), Fi は最終需要額,Vj 付加価値額である.このような波及効 果に対して,さらに中間投入額分の生産量増加が各部門に A 3PV,n A n,n (5) 付加価値誘発額は,各産業部門の粗付加価値率 vj を用い 生じる.波及効果は次第に小さくなりつつも際限なく続く て次式で求めることができる. ため,本研究では縦列の国内生産額の合計と横行の国内生 V vˆ X 産額の合計の差が 1×10-5 百万円未満になるまで式(3)を繰 (6) り返し乗じ,バランス調整がなされたものと見なした.ム ただし,V は付加価値ベクトル, v̂ は付加価値率を主成分 導入による生産誘発額,付加価値誘発額,および CO2 排出 に持つ対角行列である. 量を推計した. 同様にして,CO2 排出量は,CO2 排出係数 Ej を用いて次 産業連関分析の均衡産出高モデルは,次式で表される. ˆ A X I IM 1 F 式で求めることができる. ˆ I A1 F eE (4) (7) ただし,X は生産額ベクトル,I は単位行列, M̂ は輸入係 ただし,e は CO2 排出ベクトル, Ê は CO2 排出係数を主成 数を主成分に持つ対角行列,A は投入係数行列,F は最終 分に持つ対角行列である.環境負荷排出係数については, 表4 太陽光発電部門の産出系列と既存電力部門の代替(10MW 規模) (百万円) 既存電力部門の 太陽光発電の追加的コスト 産出系列 需要減少 (付加価値額減少) 農林水産業 2.9 -1.2 -1.8 鉱業 0.9 -0.3 -0.5 100.9 -39.5 -61.5 6.2 -2.4 -3.8 電力・ガス・水道 28.4 -11.1 -17.3 商業 41.1 -16.1 -25.0 金融・保険 3.2 -1.3 -1.9 不動産 5.3 -2.1 -3.2 19.2 -7.5 -11.7 8.6 -3.4 -5.3 公務 11.9 -4.7 -7.2 サービス 70.1 -27.4 -42.7 分類不明 0.6 -0.2 -0.4 内生部門計 299.4 -117.0 -182.4 最終需要部門計 135.0 -52.8 - 国内生産額 434.4 -169.8 - 製造業 建設 中 間 需 要 太陽光発電部門の 運輸 情報通信 5 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 太陽電池 BOS 4500 生産額 [百万円] 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 太陽電池 BOS 太陽光発電 農林水産業 鉱業 飲食料品 繊維製品 パルプ・紙・木製品 化学製品 石油・石炭製品 窯業・土石製品 鉄鋼 非鉄金属 金属製品 一般機械 電気機械 情報・通信機器 電子部品 輸送機械 精密機械 その他の製造工業製品 建設 電力・ガス・熱供給業 水道・廃棄物処理 商業 金融・保険 不動産 運輸 情報通信 公務 教育・研究 医療・保健・社会保障・介護 その他の公共サービス 対事業所サービス 対個人サービス 事務用品 分類不明 0 PV システム導入による部門別生産誘発額(10MW ケース) 生産額 国立環境研究所 21)のデータを利用した.また,ここではエ 生産額,付加価値額 [千円/kW] ネルギー消費場所や CO2 排出場所が国内か国外かを問わず, その総量をとらえるために,輸入係数を考慮しないレオン チェフ逆行列(閉鎖経済型)を用いている. 産業連関分析の結果を用いて経済面への影響と環境面へ の影響をマクロ的に評価するために,本研究では CO2 回避 量あたりの付加価値誘発額を算出した. VCO2 VPV VPower e Power ePV (8) 生産誘発係数 1600 2.08 1400 1200 2.07 1000 800 2.06 600 400 2.05 200 0 2.04 10MW 式(8)の分母は PV システム導入による CO2 排出回避量,分 付加価値額 生産誘発係数 図4 図5 1GW 100GW ケース別の生産誘発額と生産誘発係数 子は正味付加価値誘発額を表す. なお,社会全体の総付加価値額が変化すると,最終需要 ガラス,架台に使用される鋼材などに関連する部門である. 額についても変化すると考えられる.しかし,本研究では 結果,太陽電池部門の生産誘発額が 87.9 億円(生産誘発係 PV のみの導入影響を明らかにする目的から,他の部門の最 数 2.09) 、BOS 部門の生産誘発額が 45.5 億円(生産誘発係 終需要の変化を前提とせず一定として分析を行う. 数 2.02)となり,合計して PV システム全体の生産誘発額 は 133.4 億円(生産誘発係数 2.06)となった. 4.分析結果 Ciorba et al. 4)は,モロッコの産業連関表を母体に PV シス 4.1 生産誘発額 テム部門を新設し,生産誘発係数を 3.5 と見積もっている 10MW 規模の PV システム導入に伴う部門別生産誘発額 が,これは過大な推計であると考えられる.我が国の産業 を図 4 に示す.ただし,ここでは従来の内生部門を 34 部門 連関表では、波及効果の大きいと言われている乗用車部門 に統合して表示している(合計 37 部門) .太陽電池部門は の生産誘発係数が 3.16 であり,また,その他の電気機械器 化学製品部門や窯業・土石製品部門,非鉄金属部門を中心 具部門は 1.91 となっている. に,BOS 部門は鉄鋼部門を中心に広く波及効果が生じてい ケース別の生産誘発額を図 5 に示す.各ケースにおける ることが分かる.これらは,太陽電池の原材料や製造プロ 生産誘発額はそれぞれ,1,339 千円/kW,822 千円/kW,590 セスで必要な薬品,モジュールの保護板として使用される 千円/kW となった 1 単位あたりで見ると,製造技術水準の 6 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 向上に伴って PV システム製造に要する原材料・エネルギ や電力部門など,電力の中間投入額が大きな部門で大きな ー等は減少するため,単位あたりの生産誘発額は減少する 値となっていることが分かる.また,図 6 より,PV システ 結果となった.一方, 1GW ケースおよび 100GW ケース ム導入に伴う正の付加価値誘発額に大きく影響を与えてい の生産誘発係数は,それぞれ 2.07 および 2.08 となり,技術 るのは,PV 部門および BOS 部門による直接的な付加価値 進歩に伴って次第に大きくなった(図 5) .したがって,経 である.本研究では,新設部門の付加価値額を既存の類似 済波及の効率性は技術進歩に伴って向上していると言える. 部門から近似的に推計しているため,結果に影響を与える これは,PV システムの製造に要する原材料・エネルギー等 可能性がある. の中間投入構成比率が変化したためであると考えられる. ケース別の正味付加価値額を図 7 に示す.10MW ケース 22) なお,PV2030+ では,2050 年代における太陽電池の年間 では,PV システム導入により創出される付加価値誘発額 生産量(国内向けおよび海外市場向けの合計)を 335GW 36.1 円/kWh に対して,追加的コストにより-17.3 円/kWh, とすることを目標としている.これを 100GW ケースの太 既存電力部門の需要減少により-12.6 円/kWh だけ減少する 陽電池部門で生産した場合,生産誘発額は 130.4 兆円にの ため,正味の付加価値額は 6.2 円/kWh となった.製造技術 ぼる. 水準の向上に伴って PV システムのコストは低減するため, 単位あたりの追加的コストは次第に低減していることが分 4.2 正味付加価値誘発額 かる(1GW ケース:6.2 円/kWh, 100GW ケース:1.2 円/kWh). PV システムの実質的な経済効果を議論するうえでは,マ しかし,製造・施工時の単位当たり付加価値誘発額も減少 イナスの影響についても考慮することが必要である. するため,1GW ケースおよび 100GW ケースの正味付加価 10MW ケースにおける PV システムの部門別正味付加価値 値額は,それぞれ 3.1 円/kWh,1.8 円/kWh という結果にな 誘発額を図 6 に示す.既存電力部門の需要減少とは,PV シ った.ただし,正味生産誘発額の総額としては,導入規模 ステムの需要に代替される既存電力部門の需要減少によっ の拡大に伴い増加することに注意されたい. て関連産業に直接間接に生じる負の波及効果である.また, 本研究では,PV システムを国内で生産し国内で施工・運 追加的コストとは,太陽光発電の高い発電コストによって 用することを想定している.PV システムが正の経済効果を 各産業に追加的に生じるコストである.これは,鉄鋼部門 誘発するのは主にシステムの製造時であり,海外から輸入 PVシステム導入 追加的コスト 既存電力需要減 12 10 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 -10 -12 太陽電池 BOS 太陽光発電 農林水産業 鉱業 飲食料品 繊維製品 パルプ・紙・木製品 化学製品 石油・石炭製品 窯業・土石製品 鉄鋼 非鉄金属 金属製品 一般機械 電気機械 情報・通信機器 電子部品 輸送機械 精密機械 その他の製造工業製品 建設 電力・ガス・熱供給業 水道・廃棄物処理 商業 金融・保険 不動産 運輸 情報通信 公務 教育・研究 医療・保健・社会保障・介護 その他の公共サービス 対事業所サービス 対個人サービス 事務用品 分類不明 付加価値額 [円/kWh] 8 図6 PV システムの部門別正味付加価値誘発額(10MW ケース) 7 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 10MW 1GW 100GW 太陽電池 ライフサイクルCO2排出量 [g-CO2/kWh] 40 付加価値額 [円/kWh] 30 20 10 0 -10 -20 -30 PVシステム 追加的コスト 導入 図7 既存電力 需要減 正味付加 価値額 BOS 160 140 120 100 80 60 40 20 0 PV システム導入による正味付加価値誘発額 10MW 40 図9 1GW 100GW PV システムのライフサイクル CO2 排出量 付加価値額 [円/kWh] 30 テムの CO2 排出量低減に大きく貢献することができる.ま 20 た,製造技術水準の向上によって PV システム製造に要す 10 る原材料・エネルギー等は減少するため,ライフサイクル 0 CO2 排出量は次第に小さくなっていることが分かる.1GW ケースにおける CO2 排出量は 90.9 g-CO2/kWh となり, -10 100GW ケースでは 67.8 g-CO2/kWh となった. 山田・小宮山は,住宅用 PV システムについて積み上げ -20 PVシステム 追加的コスト 導入 既存電力 需要減 正味付加 価値額 法により CO2 排出量を推計している(図 9) .本研究で推計 した太陽電池の CO2 排出量は,積み上げ法と比較して 図8 太陽電池 30%輸入時の正味付加価値誘発額 1.1-1.4 倍,BOS は 4.0-4.5 倍,システム全体では 1.7-2.1 倍 程度大きく見積もられている.本研究の対象システムは集 する場合は国内への経済効果が生まれない.ここで,本研 中型の太陽光発電所であるため,BOS の排出量が特に大き 究では国産品と輸入品を同一の財として扱い,輸入品の影 くなっていることが分かる.また,産業連関分析により原 響について簡易的に感度分析を行った.10MW ケースにお 理的には全ての直接間接影響を考慮していることも,本研 いて,太陽電池の 30%を輸入することを想定すると(すな 究の推計値が大きくなった原因の一つであると考えられる. わち,太陽電池部門の輸入係数を 0.3 とする) ,正味付加価 一方で,産業連関表における事業用電力部門の直接間接 値額は-0.8 円/kWh となり,社会全体の付加価値額がマイナ CO2 排出量(原子力発電,火力発電,水力・その他発電の スになることが示された(図 8) .PV システムの負の影響 平均)は 442 g-CO2/kWh である.この値と比較すると, を考えるならば,太陽光発電産業によって利益を獲得する 10MW ケースにおける PV システムの CO2 排出量は 1/3 程 ためには,国産の PV システムによって自国の導入量を増 度であり,100GW ケースの場合は 1/7 程度になる,したが やすだけでなく,輸出利益を稼ぐことが有効であると考え って,PV システムの CO2 排出量は既存電力部門に比べて られる. 十分に小さい値である. 4.3 CO2 排出 4.4 CO2 回避量あたりの付加価値誘発額 PV システムのライフサイクル CO2 排出量の推計結果を 前述の通り,PV システムは一定の経済効果を創出するだ 図 9 に示す.10MW ケースでは,PV システムの CO2 排出 けでなく,CO2 排出量を削減することが可能である.PV シ 量は 139.1 g-CO2/kWh となった.その内訳は,太陽電池に ステム導入による CO2 回避量あたりの正味付加価値誘発額 よる排出量が 56.4%,BOS による排出量が 43.6%である. を図 10 に示す.10MW ケースの場合では, PV システム 部門別では,39%が電力部門に,27%が鉄鋼部門に起因し 導入は CO2 排出量を 1t 削減することにより,20.5 千円だけ ている.したがって,各製造工程における電力量消費量や, 付加価値額が増加すると推計された.また,1GW ケースの 架台に使用する鋼材投入量を低減することにより,PV シス 場合は 8.9 千円/t-CO2 となり,100GW ケースでは 4.8 千円 8 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 額推計についてである.本研究では,データの制約から新 CO2排出削減あたりの付加価値 誘発額 [千円/t-CO2] 25 設部門の付加価値額を従来の産業連関表に基づいて作成し 20 ている.今後は PV システムの経済効果をより精緻に分析 15 するために,新設部門の付加価値額についても実データに 10 基づいて推計することが求められる. 第 2 に,追加的コストの評価についてである.本研究で 5 は,電気料金値上げの効果を各産業部門に生じる追加的コ 0 ストの形で評価しているが,現実には様々な対策で吸収さ れる可能性がある.本研究の分析結果は第 1 次近似にとど -5 10MW 図 10 1GW 100GW 10MW, 太陽電池 50%輸入 30%輸入 まっているため,今後は価格モデルや需要関数を用いた分 析が必要である. 第 3 に,より精緻な輸出入の分析である.輸入品につい 電力部門の代替による CO2 排出削減あたりの ては,コストや性能,信頼性等の評価が困難となっている. 誘発付加価値額 そのため,今後は輸入品の影響を精緻に分析する必要があ る. /t-CO2 となった.したがって,この場合は環境負荷低減と 最後に,今回の分析では再生可能エネルギーを太陽光発 経済効果創出を同時に達成できることが示された. 電に限定しているが,今後は風力発電やバイオマス発電な 一方,図 10 では 10MW ケースで太陽電池の 30%を輸入 ども産業連関表に組み込むことで,再生可能エネルギーを する場合における CO2 排出削減あたりの付加価値誘発額の 全般的に評価することが期待される. 結果も示している.太陽電池の 30%を輸入する場合は,CO2 排出削減あたりの付加価値誘発額は-2.6 千円/t-CO2 となっ 参考文献 た.すなわち,この場合は CO2 排出を削減する一方で経済 1) 効果はマイナスであり,経済と環境がトレードオフの関係 Ronald E. Miller, Peter D. Blair; Input-Output Analysis: Foundation and Extensions, Cambridge University Press, となることが明らかになった. (2009). 5.おわりに 本研究では,PV システムの導入影響を的確に分析するた 2) 総務省; 平成 17 年(2005 年)産業連関表, (2009). 3) Ulrike Lehr, Joachim Nitsch, Marlene Kratzat, Christian めに,プロセス分析に基づいて PV システムに関連する部 Lutz, Dietmar Edler; Renewable energy and employment in 門の投入系列および産出系列を新たに作成し,産業連関表 Germany, Energy Policy, 36, (2008), 108-117. 4) の拡張と修正を行った.そして,作表した産業連関表を用 Umberto Ciorba, Francesco Pauli, Pietro Menna; Technical いて,PV システム導入による経済面と環境面への影響を分 and economical analysis of an induced demand in the 析した. photovoltaic sector, Energy Policy, 32, (2004), 949-960. 5) PV システム導入は,システムの製造・施工を通じて関連 N. Calde´ s, M.Varela,M.Santamarı´a, R.Sa´ez; Economic 産業に広く波及効果を誘発し,また,既存電力部門と比べ impact of solar thermal electricity development in Spain, て CO2 排出量も小さいことが定量的に示された.一方,太 Energy Policy, 37, (2009), 1628-1636. 6) 陽光発電の追加的コストや既存電力部門の需要減少といっ C. Tourkolias, S. Mirasgedis; Quantification and た要因を考慮すると,正味の経済効果はその大部分が相殺 monetization of employment benefits associated with される結果となった.特に,PV システムを輸入して導入す renewable energy technologies in Greece, Renewable and る場合は,社会全体の付加価値額はマイナスになることが Sustainable Energy Reviews, 15, (2011), 2876-2886. 7) 示された.この場合は,CO2 排出削減によって社会に経済 Europe Energy Association; WIND ENERGY –THE FACTS, 3, (2004). 的負担が生じるため,経済と環境がトレードオフの関係に 8) なる.経済・環境の両面から PV システム導入の便益を高 PV employment; Solar Photovoltaic Employment in Europe, (2009). めるためには,太陽光発電の発電コスト低減を図るととも 9) に,自国での導入のみならず輸出を拡大していくことも重 松本直也, 本藤祐樹; 拡張産業連関表を利用した再生 可能エネルギー導入の雇用効果分析, Journal of the 要であると考えられる. Japan Institute of Energy, 90, (2011), 258-267. 以下に今後の課題を示す.第 1 に,新設部門の付加価値 10) Manuel Frondel, Nolan Ritter, Christoph M. Schmidt, Colin 9 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 34, No. 5 16) 小宮山宏, 山田興一; 太陽光発電技術の評価Ⅱ, 化学 Vance, Economic impacts from the promotion of renewable 工学第 1 種研究会, (1998). energy technologies: The German experience, Energy 17) 総務省; 平成 17 年(2005 年)産業連関表 –総合解説編 Policy, 38 (2010) 4048-4056. –, (2009). 11) Thomas O. Wiedmann, Sangwon Suh, Kuishuang Feng, Manfred Lenzen, Adolf Acquaye, Kate Scott, John R. 18) 西村一彦, 本藤祐樹, 内山洋司; 産業連関表を用いた Barrettr, Application of hybrid life cycle approaches to 製品のエネルギー消費量の推定, 電力中央研究所報告, emerging energy technologies – The case study of wind Y95007, (1996). 19) 内山洋司, 西村一彦, 本藤祐樹; ハイブリッド LCA 手 power in the UK, Environmental Science & Technology, 45 法による洗濯機の環境負荷, 電力経済研究, 41, (1999), (2011) 5900-5907. 12) 中野諭, 早見均, 中村政男, 鈴木将之; 環境分析用産業 1-14. 連関表とその応用, 第 4 章 補助金制度による温暖化対 20) International Energy Agency Photovoltaic Power System 策の評価 -住宅用太陽光発電装置のケーススタディ, Programme, 慶應義塾大学出版会, (2008). 2001-2011. Trends in Photovoltaic Applications, 13) 吉岡完治, 大平純彦, 早見均, 鷲津明由, 松橋隆治; 環 21) 南斉規介, 森口祐一; 産業連関表による環境負荷原単 境の産業連関分析, 第 9 章 産業連関分析の拡張による 位データブック(3EID)2005 年表(β+)版, 独立行政 LCA とその動学的問題, 日本評論社, (2003). 法人国立環境研究所 地球環境センター, (2010). 14) 野村昇, 赤井誠, 稲葉敦, 山田興一, 小宮山宏; 産業連 22) 独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構; 太 関表を用いたエネルギーペイバックタイムの見積もり, 陽光発電ロードマップ(PV2030+), 2030 年に向けた エネルギー・資源, 16, 5, (1995), 517-524. 太陽光発電導入ロードマップ(PV2030)に関する見直 15) 山田興一, 小宮山宏; 太陽光発電工学, 日経 BP 社, し検討委員会, (2009). (2002). 10