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1.5MB - 北九州市立いのちのたび博物館
Bull. Kitakyushu Mus. Nat. Hist. Hum. Hist., Ser. A, 6: 33-48, March 31, 2008 コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 籔本美孝1・坂本陽子1・刘 焕章2 1 北九州市立自然史・歴史博物館 2 中国科学院水生生物研究所 Osteology of the cyprinid fish, Hemiculter leucisculus Yoshitaka Yabumoto1, Yoko Sakamoto1 & Liu Huanzhang2 1 Kitakyushu Museum of Natural History and Human History, Higashida, Yahata higashiku, Kitakyushu 805-0071, Japan 2 Institute of Hydrobiology, Chinese Academy of Sciences, Hubei Wuhan, 430072, People's Republic of China (Received October 26, 2007; accepted January 20, 2008) ABSTRACT ― The osteological illustrations and description of the cyprinid fish Hemiculter leucisculus from Taoyuan, Hunan Province, China are provided for studies on Middle Miocene fossil cyprinid fishes found in Iki Island, Nagasaki Prefecture, Japan. は じ め に 現生コイ科魚類は多様性に富む淡水魚のグループで、北ア メリカ、ユーラシア、アフリカに広く分布しており、およ そ220属2420種が知られている(Nelson, 2006) 。このように 膨大な種を抱えるコイ科魚類は多くの種で形態学的情報が不 足しているために、その類縁関係を明らかにすることは難し く、系統について研究者の間で十分な合意は未だ得られてい ない(Chen et al., 2005) 。近年の分子系統学的研究の急増と ともにコイ科魚類の形態学的研究が見直され、化石種も含め た詳細な骨学的研究が重要になりつつある。 コイ科魚類の骨格については、系統学的研究に重要な形質 についていくつかの分類群にわたって記載されたものはある (Chen et al., 1984や Shan, 1998など)が、一種の全骨格を図 示し、記載されたものは少なく、Hosoya(1986) やHosoya & Jeon(1989)等がある程度であり、さらに化石と比較しうる ほど詳細に記載されたものは少ない。 東アジアの新第三系からは多くのカワヒラ亜科(Cultrinae) とクセノキプリス亜科(Xenocyprinae)の魚類化石が産出し ている(Chen et al., 1984) 。日本では、山形県、岐阜県、長 崎県平戸、三重県大山田村、静岡県引佐町、京都府宮津市な どからクセノキプリス亜科魚類の化石が報告されている(中 島・山崎, 1992; 上野, 1965) 。また、長崎県壱岐の中新世の魚 類化石については、友田ほか(1973)はカワヒラ亜科の小型 Culter亜科魚類、Hemiclter型魚類、Culter型魚類、クセノキプ リス亜科魚類、Iquius nipponicus を認め、林(1976) もカワヒ ラ属類似の一種、カワイワシ属類似の一種、クセノキプリス 属類似の一種などカワヒラ亜科とクセノキプリス亜科魚類 を認めている。なお、上記の分類名は友田ほか(1973)と林 (1976) の原文をそのまま引用している。 このように東アジアのコイ科魚類化石を研究する上で、カ ワヒラ亜科とクセノキプリス亜科の骨格の詳細な図と記載は 重要である。 そこで、本研究では東アジア産コイ科魚類化石の研究の第 一段階としてカワヒラ亜科のHemiculter leucisculusの骨格を 詳細に記載する。 材 料 と 方 法 KMNH VR 100,121, 中国湖南省桃源、沅江、2004年10月29日 採集。SL 102.5 mm. KMNH VR 100,122, 中国湖南省桃源、沅江、2004年10月29日 採集。SL 106.0 mm. 河村・細谷(1991) の軟骨硬骨二重染色法を用い、Tester & Hiatt(1952) なども参考にして二重染色透明骨格標本を作製 した。Ridewood(1905)に従って解剖し、各部をデジタルカ メラで撮影、印刷したものをトレースし、実体顕微鏡で観 察しながら硬骨のみを描画した。骨格の名称は上野(1975) に、骨の各部の名称は須田(1991) 、尾部骨格については藤 田(1990) に従った。 34 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 A 上篩骨 supraethmoid 前頭骨 frontal 鼻骨 nasal 前鋤骨 prevomer 上後頭骨 supraoccipital 頭頂骨 parietal 外後頭骨 exoccipital 基後頭骨 basioccipital 前篩骨 preethmoid 上耳骨 epiotic 側篩骨 lateral ethmoid 眼上骨 supraobital 翼耳骨 autopterotic 蝶耳骨 autosphenotic 5mm B 篩骨 ethmoid 側篩骨 lateral ethmoid 翼耳骨 autopterotic 上耳骨 epiotic 基後頭骨 basioccipital 前篩骨 preethmoid 眼窩蝶形骨 orbitosphenoid 蝶耳骨 autosphenotic 副蝶形骨 parasphenoid 前耳骨 prootic 5mm Fig. 1. The cranium of Hemiculter leucisculus, A, dorsal view; B, lateral view. コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 35 A 前篩骨 preethmoid 眼窩蝶形骨 orbitosphenoid 翼蝶形骨 pterosphenoid 基後頭骨 basioccipital 前鋤骨 prevomer 外後頭骨 exoccipital 副蝶形骨 parashenoid 眼上骨 supraobital 蝶耳骨 autosphenoid 前耳骨 prootic 蝶耳骨 autopterotic 間在骨 intercalar 5mm 上後頭骨 supraoccipital 頭頂骨 parietal B 頭頂骨 parietal 上側頭骨 supratemporal 上耳骨 epiotic 翼耳骨 pterotic 外後頭骨 exoccipital 外後頭骨 exoccipital fm 基後頭骨 basioccipital Fig. 2. The cranium of Hemiculter leucisculus, A, ventral view; B, posterior view. 5mm 36 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 B A 5 涙骨 lacrymal 4 眼下骨 infraobital 1 3 2 5mm 5mm Fig. 3. The infraorbital bones of Hemiculter leucisculus. A, outside view; B, inside view. 神経頭蓋 Neurocranium Figs.1, 2 こ こ で は 神 経 頭 蓋 を 篩 骨 域(ethmoid region) 、眼窩域 (orbital region) 、耳骨域(otic region) 、後頭骨域(occipital region) の4域に分けて記述する。 篩骨域は神経頭蓋の最前部を占め、前鋤骨(prevomer) 、前 篩骨(preethmoid) 、上篩骨(supraethmoid) 、篩骨(ethmoid) 、 側篩骨(lateral ethmoid) の5種類の骨から構成される。 前鋤骨は篩骨域腹面の大部分を占める薄い板状の1枚の骨 で後方は副蝶形骨へとつながる。先端のみ肥厚し、背面から はY字型に見える。前鋤骨は前篩骨とともに篩骨域の先端を 占める。 前篩骨は全体的に丸みを帯びた形を呈した1対の骨で、前 鋤骨前部の側面に位置する。 篩骨は側面からみると中央がくびれている。また、前方は 前篩骨、腹側は前鋤骨、背側は上篩骨、後方は側篩骨へとつ ながる。長さは前鋤骨とほぼ同じである。 側篩骨は篩骨域の外側を占める左右1対からなる骨であ る。横に張り出した翼状体外縁で涙骨(第1眼下骨) とつなが る。腹側から見ると前部は三角形を呈し、そこで前鋤骨、副 蝶形骨と接する。背側は前頭骨、側面後方は眼窩蝶形骨へと つながる。 上篩骨は1枚の板状の骨で篩骨域の天井部分を占める。後 方は前頭骨と縫合によってつながる。 眼窩域は、前頭骨(frontal) 、眼窩蝶形骨(orbitosphenoid) 、 翼蝶形骨(pterosphenoid) 、副蝶形骨(parasphenoid) の4つの 骨からなる。 前頭骨は上篩骨と縫合によって接続し、眼窩域の天井部分 を占める。左右の前頭骨の接合部は縫合によって結合する。 後方は頭頂骨、翼耳骨、蝶耳骨へとつながる。側縁前部はアー チ状となり、そこに三日月形を呈した眼上骨が接触する。前 頭骨には頭部側線管系の眼上管が通るための孔がある。 眼窩蝶形骨は、翼状に左右に広がった上部と、下部の隔膜 部分とに分けられる。下部が両眼窩隔膜となる。上部後方は 翼蝶形骨へとつながる。 翼蝶形骨は左右対をなす骨で、眼窩蝶形骨上部と同様に翼 状に左右に広がる。腹側正中線上で前部1/3が左右固着する。 背縁で前頭骨、側面で蝶耳骨、前耳骨につながる。 副蝶形骨は口腔の背面正中部を占める細長い骨である。後 端は神経頭蓋腹面後部の基後頭骨にまで達する。眼窩域の終 わり付近で副蝶形骨翼(paraspehoid wing) が上方にのびる。 耳骨域は、蝶耳骨(sphenotic) 、頭頂骨(parietal) 、前耳 コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 plw B A 37 cp nc pmw 主上顎骨 maxilla 角骨 angular 前上顎骨 premaxilla B saf 歯骨 dentary 主上顎骨 maxilla CC 後関節骨 retroarticular 2mm nc plw pmw ap 前上顎骨 premaxilla 角骨 angular D saf 歯骨 dentary 2mm 後関節骨 retroarticular Mr Fig. 4. The upper and lower jaws of Hemiculter leucisculus, A and B, outside view; C and D, inside view. Mr = Meckelian ridge, nc = neurocranial condyle, plw = palatinal wing, pmw = premaxillary wing. 骨(prootic) 、翼耳骨(pterotic) 、間在骨(intercalar) 、上耳骨 (epiotic) の6種類の骨からなる。 蝶耳骨は耳骨域の上前側部に位置し、側部には後下方を向 く突起がある。 翼耳骨は耳骨域の上部を占める。外側は頭部側線管が通る 管状の構造となっており複数個の孔がある。管状部の後方に は短かい翼耳骨突起(pterotic spine) がある。 耳骨域には舌顎骨との関節面が2つある。両方とも楕円形 を呈する。前の関節面は蝶耳骨と翼蝶形骨からなり、後ろの ものは翼耳骨と蝶耳骨からなる。 前耳骨は蝶耳骨の後下方に位置する。前部に三叉神経室 (trigemino-facialis chamber)のくぼみがある。三叉神経室の 外側部は短い柱状の構造(lateral commisure)となっている。 三叉神経室には三叉神経孔(trigeminal foramen, Patterson, 1964) と顔面神経孔(facial foramen, Patterson, 1964) の2つの 開孔がある。後方には外後頭骨、基後頭骨がつながる。 頭頂骨は耳骨域の最上前部に位置する左右1対の骨で、長 さは前頭骨の1/3程度。後ろ約1/3は幅広くなり、そこに左右 38 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 にのびる1本の側線管が通る。端部の孔から上側頭骨の側線 管へ抜ける。途中数個の開口部がある。背側後方には上耳骨、 上後頭骨がつながる。 上耳骨は耳骨域の最上後部に位置する。上耳骨上面の三角 形の平坦部で後側頭骨の背側腕と関節する。前下方で上側頭 骨、翼耳骨と、後下方で外後頭骨と関節する。 間在骨は耳殻膨出部上方に位置する小型の膜状の骨で、外 後頭骨と翼耳骨の腹側にある。 後 頭 骨 域 は 神 経 頭 蓋 の 後 面 を 占 め、 上 後 頭 骨 (supraoccipital) 、 外 後 頭 骨(exoccipital) 、 基 後 頭 骨 (basioccipital) の3種類の骨からなる。 上後頭骨は後頭骨域の後上部を占め、後方向に稜をなす。 外後頭骨は後頭骨域の後中央部を占める。後ろからみる と、中央に脊髄が通る大孔(foramen magnaum: fm)がある。 側面から見ると上方に左右貫通する大きな孔がある。 基後頭骨は後頭骨域の下部を占め、後方の第1椎体関節 面(articulation facet for the 1st centrum; bacioccipital condyle: Tominaga, 1968) で第1椎体と関節する。第1椎体関節面の下は 後方に長く伸びる。長く伸びた部分前部を腹面から見ると左 右に広がる。後部は次第に細くなり端部は薄い。側面から見 ると後半分は直線的である。 側線感覚管骨 Sensory Canal Bones Figs. 1, 2, 3 頭 部 表 面 の 側 線 感 覚 管 骨 は、 鼻 骨(nasal) 、眼下骨 (infraorbitals) 、眼上骨(supraorbital)、上側頭骨(supratemporal) からなる。 鼻骨は前頭骨と上顎の間にある左右1対の細長い管状の骨 である。 眼下骨は5個からなり(その内最前のものは涙骨lachrymal ともいう) 、眼上骨とともに眼の周りを囲む。第1眼下骨(涙 骨)が最も幅広く、感覚管は中央よりやや下を通る。感覚管 の開口部は前端と後端にあるほか、前部に1つ、中央よりや や後ろに1つある。第3眼下骨が最も大きく、感覚管は前縁を 通り、それにそって後方に幅広い翼がある。第2番目と第4番 目の眼下骨の幅はほぼ同じであるが、第4眼下骨の方が長く、 長さは第3眼下骨とほぼ同じである。第3眼下骨では感覚管は 前縁下隅から始まり背縁では前端から少し離れたところに開 く。第4眼下骨の感覚管は骨のほぼ中央を走る。第5眼下骨が 最も小さく、長さは第4眼下骨の1/2弱で、幅は第4眼下骨と ほぼ同じである。第5眼下骨は蝶耳骨の突起に付着し、感覚 管は頭蓋骨の翼耳骨、前頭骨へ繋がる。 眼上骨は前頭骨と接する三日月形をした骨で左右1対から なる。眼窩上縁のほぼ全域を被うが、眼下骨とは接触しない。 上側頭骨は左右1対の管状をなす小型の骨である。ここで 翼耳骨・頭頂骨からきた側線感覚管が合流し、後側頭骨へ運 ばれる。 顎骨 Jaws Fig. 4 顎骨は、前上顎骨(premaxilla) 、主上顎骨(maxilla) 、歯骨 (dentary) 、角骨(angular) 、後関節骨(retroarticular) の5種類 の骨からなる。 前上顎骨は上顎の前部に位置し、口裂上縁を縁取る。前端 部は高く、前端上部は突起状を呈し、その部分で反対側と関 節する。後部は後方に行くに従って細くなり、後端は尖る。 口縁前半は下方に膨出するが、後半部はほぼ直線的である。 主上顎骨は上顎の後部を占め、口裂を縁取らない。先端 部には3つの突出部がある。3つのうち上部は神経頭蓋顆 (neurocranial condyle: nc)で前篩骨と接続する。内側は前上 顎骨翼(premaxillary wing: pmw) 、外側は口蓋骨翼(palatinal wing: plw)である。背縁中央部に上方に向かう翼があり、翼 の上端は翼の中央よりやや幅広く前方に向かう。下縁は中央 よりやや後方で膨出する。主上顎骨の後端部には小さな翼状 部があり、ここで歯骨と連結される。 歯骨後部は二叉し、叉の内側は凹む。凹部に角骨の前部2/3 が挿入している。上腕は上方に高くなっており、この部分で 上顎骨と連結される。角骨との間には上下二箇所の空所がで きており、上方のものは不規則な波状を呈するが、下方のも のは、ほぼ直線である。 口縁は膨出するが、前部はほぼ直線的に上昇し、中央より やや後方で最も幅広くなる。口縁の最大高は歯骨の長さの1/2 である。側線管は下半部のほぼ中央を通り、開口部は前端と 後端の他、途中に4箇所ある。 角骨は三角形の骨で、前部が歯骨内側の凹み部分に挿入 されている。角骨の後端部にある鞍状の部分(懸垂骨関節面, suspensorial articulation facet: saf)で、方骨と関節する。角骨 の後端部腹縁で後関節骨と関節する。角骨内側にはメッケル 氏軟骨(Meckelian cartilage) が横たわり、その後端にはメッ ケル氏軟骨隆線(Meckelian ridge: Mr) が続く。側線管は角骨 腹縁をとおり、開口部は前端と後端の他、途中に1つある。 後関節骨は、角骨の下縁に位置する三角形を呈する骨であ る。 鰓蓋骨 Opercular Bones Fig. 5 鰓蓋骨は主鰓蓋骨(opercle) 、下鰓蓋骨(subopercle) 、前鰓 蓋骨(preopercle) 、間鰓蓋骨(interopercle) の4種類の骨から なる。 主鰓蓋骨は台形を呈する骨で、主鰓蓋骨前縁は肥厚す る。下 縁 前 方 に は 小 さ な 切 り 込 み が1か 所 あ る。前 上 部 内 側 の く ぼ み( 舌 顎 骨 窩hyomandibular socket)で 舌 顎 骨 (hyomandibular)と関節する。前縁上隅部は三角形状に突出 する。この部分には主鰓蓋骨管(opercular canal) が通り、前 鰓蓋骨へとつながる。 前鰓蓋骨は三角形を呈する骨である。感覚管は上部では前 縁近くを、上肢下部と下肢後部では中央を、下肢前部では背 縁に沿って通る。上肢下部と下肢後部では開口部は短い管状 を呈するが、それ以外の下肢の開口部は単なる孔である。 前鰓蓋骨の下には間鰓蓋骨がある。前端は尖り、後方に行 くに従い高くなる。前半分は外側に少し剖出する。 コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 39 舌顎骨 hyomandibular A 主鰓蓋骨 opercle 後翼状骨 metapterygoid 内翼状骨 endopterygoid 口蓋骨 autopalatine 外翼状骨 ectopterygoid B 主鰓蓋骨 opercle 下鰓蓋骨 subopercle 間鰓蓋骨 interopercle fmd 方骨 quadrate pcn 接続骨 symplectic 前鰓蓋骨 preopercle 5 mm 舌顎骨 hyomandibular acn 後翼状骨 metapterygoid 内翼状骨 endopterygoid 口蓋骨 autopalatine 下鰓蓋骨 subopercle 外翼状骨 ectopterygoid 間鰓蓋骨 interopercle 前鰓蓋骨 preopercle 接続骨 symplectic 方骨 quadrate 5 mm Fig. 5. The opercular bones and suspensorium of Hemiculter leucisculus, A, outside view; B, inside view. acn = anterior condyle of the hyomandibular for the neurocaranium, pcn = posterior condyle of the hyomandibular for the neurocranium. 主鰓蓋骨の下には下鰓蓋骨がある。前上縁は上向きに突出 する。後方に行くに従い細くなる。この骨は鰓蓋骨を構成す る中で最も内側に位置する。 懸垂骨 Suspensorium Fig. 5 懸垂骨は口蓋骨(autopalatine) 、外翼状骨(ectopterygoid) 、 内翼状骨(endopterygoid) 、後翼状骨(metapterygoid) 、方骨 (quadrate) 、接続骨(symplectic) 、舌顎骨(hyomandibular)か らなる。 口蓋骨は懸垂骨の前端に位置する先端は3つに分かれてお り、外側の部分で主上顎骨と関節する。残りの2つは内側で 上下から前篩骨(preethmoid) を挟む。2分の1より後方の背側 凹みに、内翼状骨先端の細く尖った部分が位置する。 内翼状骨は膜状の骨で、口蓋骨との関節部分は肥厚する。 外翼状骨は口蓋骨の後ろに続く骨で前縁は薄い膜状になっ ている。上部には内翼状骨、後部には方骨がつながる。 方骨は扇状を呈し要の部分(下顎関節, articulation facet for the mandibular: fmd) で下顎角骨の鞍状の部分と関節する。方 骨の後角部は、後上方に向かって長く伸びる。後縁は、前鰓 蓋骨前縁と重なる。方骨内側の溝には接続骨が挿入する。 接続骨先端の挿入部分は棒状であるが、後方は不規則にや や幅広くなっており舌顎骨下端付近までのびる。 後翼状骨は接続骨の上方に位置する膜状の骨であるが中央 部分は三角形状に膨出する。 40 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 B A 咽頭骨 pharyngeal 2mm C 基舌骨 basihyal 下鰓骨 hypobranchial 基鰓骨 basibranchial 角鰓骨 ceratobranchial 内咽鰓骨 infrapharyngobranchial 上鰓骨 epibranchial 5mm 2mm Fig. 6. The gill arches and pharyngeal bone of Hemiculter leucisculus. A, dorsal view of the gill arches; B and C, pharyngeal bone. 舌顎骨上端は懸垂骨を神経頭蓋に結びつける役目を果 たしている。上部には3つの関節面があり、そのうち2つは 頭蓋骨と関節する。最前の関節面(神経頭蓋前顆, anterior condyle of the hyomandibular for the neurocaranium: acn)は蝶 耳骨、翼蝶形骨の一部で形成される関節面と接し、次のもの (神経頭蓋後顆, posterior condyle of the hyomandibular for the neurocranium: pcn)は蝶耳骨、翼耳骨の一部で形成される関 節面と接する。最後部のものは主鰓蓋骨と関節する。 鰓弓 Branchial Arch Fig. 6 鰓弓は、基舌骨(basihyal) 、基鰓骨(basibranchial) 、下 鰓 骨(hypobranchial) 、 角 鰓 骨(ceratobranchial) 、上鰓骨 (epibranchial) 、内咽鰓骨(infrapharyngobranchial) 、咽頭骨 (pharyngeal) から構成させる。 基舌骨は鰓弓の最前部に位置する骨で、側面から見ると中 央部分が最も高く、次第に低くなり端部が最も低い。 基鰓骨は基舌骨の後方に連なる3個の細長い骨で、側面に はきわめて短い下鰓骨がつながる。第1基鰓骨は3個の内で最 も短く、やや先端が細くなっている。第2、3基鰓骨は、ほぼ 同じ長さで、第1基鰓骨の約3倍の長さである。第3基鰓骨の 後方は少し細くなる。 下鰓骨は左右対をなす骨で第1~3下鰓骨からなる。第3下鰓 骨が最も長く、左右の端部が腹側で癒合している。第1下鰓 骨の長さは第3下鰓骨の約1/3、第2下鰓骨は約1/2で、極めて 短い。 角鰓骨は鰓弓の中で最も大きい一連の骨である。角鰓骨は コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 41 B A 角舌骨 ceratohyal 上舌骨 epihyal 間舌骨 interhyal fch 上位下舌骨 upper hypohyal 鰓条骨 branchiostegal 下位下舌骨 lower hypohyal 5mm 5mm C 5mm D 5mm E 5mm 5mm Fig. 7. The hyoid arches of Hemiculter leucisculus. A, inside view of hyoid arches; B, outside view of hyoid arches; C, lateral view of urohyal; D, dorsal view of urohyal; E, ventral view of urohyal. fch = fenestra on the certohyal. 細長い長方形状をした骨で第1角鰓骨が一番長く、2∼4と次 第に短くなる。腹面は前後の端部以外が空洞となり、その左 右の縁には鰓耙が密集する。角鰓骨の上端はそれぞれ上鰓骨 につながる。第1∼3角鰓骨はそれぞれ第1-3下鰓骨の後端に 連なる。第4角鰓骨の前端は下鰓骨とは特に連結しない。第4 角鰓骨後方には咽頭骨がつながる。 上鰓骨は角鰓骨の上部に位置する細長い形状をした骨で、 長さは角鰓骨の約半分である。第3、4上鰓骨のほぼ中央には 上方を向く突起がある。第1、2上鰓骨の上端は第1内咽鰓骨 につながり、第1上鰓骨の上端は第1内咽鰓骨の腹側のへこみ と関節する。一方、第3、4上鰓骨の上端は第2内咽鰓骨につ ながる。 内咽鰓骨は半円状を呈する骨で左右対をなす合計4個の骨 からなる。第2内咽鰓骨前方のへこみに第1内咽鰓骨の後方が 42 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 結骨 claustrum 第2神経弓門 2nd neural arch 第1神経棘 1st neural spine 3 5 4 6 舟状骨 scaphium 挿入骨 intercalarium 三脚骨 tripus 5mm Fig. 8. The posterior region of head and the Weberian ossicles of Hemiculter leucisculus. 関節する。第2内咽鰓骨の長さは第1内咽鰓骨の約1.5倍。 基後頭骨の咽頭突起と相対した特殊な咽頭骨と咽頭歯があ る。咽頭歯は3列で歯列は2・4・4 - 4・4・2である。咽頭歯の 先端は鈎状に曲がる。 舌弓 Hyoid Arch Fig. 7 舌弓は下舌骨(hypohyal) 、角舌骨(ceratohyal) 、上舌骨 (epihyal) 、間舌骨(interhyal) 、鰓条骨(branchiosteagl)と尾 舌骨(urohyal) の6種類の骨からなる。 下舌骨は舌弓の最前部に位置する。下舌骨は上位下舌骨 (upper hypohyal)と少し大きい下位下舌骨(lower hypohyal) からなり互いに接し、後端は角舌骨と関節する。下位下舌骨 の前端には下方を向く突起がある。 角舌骨は舌弓の中で最も大きい骨である。下舌骨との関 節部分が最も幅が狭く、次第に広くなり、3/4付近で最も幅 広くなる。下舌骨との関節面近くには角舌窓(松原、1971a) (fenestra on the ceratohyal: fch)と呼ばれる開口部がある。角 舌窓は内側面に開き、背面に抜けるが、背面開口部の前後は 溝状となり(舌動脈溝、groove for the hyoidean artery) 、舌動 脈が前後に通る。 上舌骨は三角形を呈し、角舌骨とは縫合で結びついてい る。後方は前鰓蓋骨内側に付着する。後端には小さくくぼむ 間舌骨関節面(articulation facet for the interhyal)があり、そ れと対応するように間舌骨が関節する。 間舌骨は短い棒状の骨で上端は接続骨の上端と舌顎骨の下 端につながる。 3本の鰓条骨のうち2本は角舌骨と結ばれ、最後の1本は上 舌骨とつながる。第1鰓条骨上端の突起で角舌骨内側の小さ なくぼみに関節する。第2鰓条骨は角舌骨の外側に、第3鰓条 骨は上舌骨の外側にそれぞれ上端の突起でつながる。 尾舌骨は左右の舌弓の間で鰓弓の下方に位置する1個の骨 である。下縁にそってフランジが左右に発達する。前端はわ ずかに二叉する。 脊椎骨 Vertebrae Fig. 8 脊椎骨は22個の腹椎(abdominal vertebrae)と19個の尾椎 (caudal vertevrae)の計41個からなる。第1椎体は基後頭骨と 関節する。 腹椎には横突起(parapophysis) がある。第1~4までは特徴的 な形をしている。第1、2横突起は側方へ延び、長さは第2横突 起が第1横突起の約4倍。第4横突起は最も太く長い。更に途 中から内前方、内後方、外後方の3方向に分かれる。内側の2 本で左右はつながる。第5~18横突起は短く塊状で、肋骨(rib) が関節する。19~22横突起は前方のものより長く棘状で、21、 22では左右の横突起が中央でつながり互いに癒合している。 尾椎には横突起はなく、血管弓門(haemal arch)があり、 その先端は血管棘(haemal spine)となる。背側にはいずれ も神経弓門(neural arch) があり、その先端は神経棘(neural spine) となる。 脊椎骨には、前後の脊椎骨と関節するための関節突起 がある。神経弓門前端には前神経関節突起(落合編, 1987) (anterior neural zygapophysis) ( 前 神 経 顆 突 起:松 原, 1971b) が、後端には後神経関節突起(落合編, 1987) (posterior neural zygapophysis) (後神経顆突起:松原, 1979) がある。特に腹椎前 方の前神経関節突起は著しく発達している。 血管弓門前端には前血管関節突起(落合編, 1987) (anterior hemal zygapophysis) ( 前 血 管 顆 突 起:松 原, 1971b)が、後 端 には短い後血管関節突起( 落合編, 1987) (posterior hemal zygapophysis) がある。後血管関節突起は第20腹椎から現れる が、前血管関節突起は腹椎には出現しない。 肋骨は第5~21椎体の17対からなり、最後の腹椎に肋骨は ない。肋骨の外側縁は肥厚し、その内側は翼状で、基部(横 コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 43 側尾棒骨 pleurostyle npu2 上尾骨 epural 第2尾神経骨 uroneural 2 npu1 下尾骨 hypural pu1+u1 hpu3 準下尾骨 parhypural pp hpu2 5mm Fig. 9. The caudal skeleton of Hemiculter leucisculus. hpu = haemal spine of preural centrum, npu = neural spine of preural centrum, pp = hypurapophysis, pu1+u1 = first preural centrum + first ural vertebra. 突起との関節部) に向かうに従って広くなる。また後方の4本 は細く、肉間骨と類似する。 第1から第4までの脊椎骨とその神経弓門、神経棘、横突起 などが変形してできたウェーベル器官(Weberian apparatus) があり、鰾と脳の耳域と連絡する働きを果たしている。 ウェーベル器官は結骨(claustrum) 、船状骨(scaphium) 、 挿 入骨(intercalarium) 、三脚骨(tripus) からなる(Fig. 8) 。 船状骨と結骨は第1脊椎骨の上方にある。結骨の後縁は第 2神経棘前縁に付着する。後縁が最も幅広く、中心部分が最 も狭くまた前縁にかけて次第に幅広くなっていく。前部内側 は空洞となる。後縁上部は少し尖る。船状骨前部は空洞で結 骨の一部が挿入されている。後部は細くなり斜上後方へと伸 び、その先端は第2神経棘と第3神経弓門の境界に位置する。 挿入骨はY字型をした骨である。左右端部は第2脊椎骨と、 第3神経弓門とに付着する。三脚骨は上縁で第2、3脊椎骨側 面にしっかりと付着する。後部は後方に向かって次第に細く 長く延び、後端は内側に向かって緩やかにカーブする。 肉間骨は上神経骨(epineural)と上肋骨(epipleural)から なる(Fig. 13) 。上神経骨は頭蓋骨の直後から始まり、第3尾 鰭椎前椎体前端部から発するもので終わる。中央よりやや前 方で2つに分かれ、内側の枝は椎体の方向に伸び、外側の枝 は前方に向かう。外側の枝の前端は前方のものでは2つまた は3つに分かれる。後枝は内側に湾曲し、前方のものでは後 端が2から5つに分かれるが、後方のものは後端が分かれな い。 上肋骨は後方の肋骨から始まり、上神経骨より1つ前で終 わる。前方の数本は短く、それより後方のものでは中央より やや後方で2つに分かれるが、臀鰭基底のほぼ中央あたりか ら再び一本となる。上神経骨では最後から2番目と3番目のも ので後端が2つに分かれ、上肋骨では最後から2番目のもので 3つに分かれている。 尾鰭骨格 Caudal Fin Skeleton Fig. 9 尾鰭骨格は、尾鰭椎前椎体(preuralcentrum) 、側尾棒骨 (pleurostyle) 、上尾骨(epural) 、尾神経骨(uroneural) 、下尾 骨(hypural) 、準下尾骨(parhypural)の6種類の骨からなる。 第1尾鰭椎(first ural vertebra : u1)は尾鰭椎前第1椎体(first preural centrum: pu1)に癒合する。幅広くて短く先端の尖っ た尾鰭椎前椎体第1神経棘(neural spine of preural centrum 1: npu1)がある。第1尾神経骨(uroneural 1)は最後の椎体 (pu1+u1) に癒合し側尾棒骨となる。 第2尾神経骨は独立した1対の細長い骨で、後端はやや上向 きに反る。 上尾骨(epursal) は1本で、前2/5は少し幅広い。 準下尾骨は第1下尾骨とその基部で癒合し、最後の椎体 (pu1+u1)と関節する。準下尾骨の基部には下尾骨側突起 (hypurapophysis: pp) がある。 下尾骨は6つある。第1~3下尾骨はほぼ同じ長さだが、次第 に短くなり第6下尾骨ではおよそ1/3になる。第2下尾骨は最 後の椎体(pu1+u1) と癒合する。第3下尾骨の前端は細くなり、 最後の椎体(pu1+u1) と関節する。第4~6下尾骨の前端は側尾 棒骨にはさまれる。 尾鰭椎前椎体第2神経棘(npu2) はそれ以前のものと同様に 長く、その基部は神経弓門を介して第2尾鰭椎前椎体に癒合 44 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 A 5mm 上神経骨 epineural 5mm C B 遠担鰭骨 distal pterygiophore 間担鰭骨 median pterygiophore 近担鰭骨 proximal pterygiophore 5mm 近担鰭骨 proximal pterygiophore 5mm 間担鰭骨 median pterygiophore 遠担鰭骨 distal pterygiophore Fig. 10. The dorsal and anal fins of Hemiculter leucisculus. A, epineurals; B, doral fin; C, anal fin. する。尾鰭椎前椎体第2血管棘(hpu2) の基部(血管弓門) は第 2尾鰭椎前椎体と関節する。尾鰭椎前椎体第3血管棘の基部は 第3尾鰭椎前椎体と関節する。第4尾鰭椎前椎体より前方の血 管棘は全て基部で椎体と癒合する。 主鰭条(principal caudal fin ray) は上葉が10本(そのうち最 上の1本は不分岐主鰭条unbranched principal caudal fin ray) で、 下葉が9本(その内最下の1本は不分岐主鰭条)である。尾鰭 前部鰭条(沖山編, 1988) (procurrent caudal fin rays) は上葉に7 本、下葉に7本である。 背鰭骨格 Dorsal Fin Skeleton Fig. 10 背鰭の前方には9本の上神経骨(epineural) があり、最前の ものは背縁が最も幅広く、2番目の上神経骨の約2倍である。 背鰭に近づくにつれ、幅が狭くなり、最後の上神経骨は棒状 を呈し、前後端は尖る。 背鰭は3本の分岐しない軟条と7本の分岐する軟条からな る。第1不分岐鰭条は粒状。第2不分岐鰭条の長さは第3不分 岐鰭条の約1/2。最後の不分岐鰭条は太く棘状。第1、2不分岐 鰭条は第1近担鰭骨背縁の凹み部分に関節する。それ以降は1 本の鰭条と1本の近担鰭骨とが対応する。ただし、最後の鰭 条は、遠担鰭骨のみと対応する。 担 鰭 骨 は 近 担 鰭 骨(proximal pterygiophore) 、間担鰭骨 (median pterygiophore)と遠担鰭骨(distal pterygiophore)の3 つの骨からなる。 近担鰭骨は前後に翼をなす。中でも、第1近担鰭骨の前翼 が最も大きく、その背縁も僅かではあるが左右に翼をなす。 第1近担鰭骨の前翼の叉は浅い。近担鰭骨は後方に行くにつ れて次第に短くなる。近担鰭骨の後方には遠担鰭骨が連な る。 遠担鰭骨は1対の小骨で軟条の基部に挟まれるように関節 している。 第4以降の近担鰭骨と遠担鰭骨の間には間担鰭骨があり、 各々の担鰭骨と関節するために前後は凹み鼓型となる。最後 の間担鰭骨の後端には2つの関節面があり、背側には遠担鰭 骨、腹側には四角形を呈した背鰭終端骨(stay) がつながる。 ちなみに背鰭鰭条の数え方は最初の長い鰭条を第一鰭条と 数え、最後の2本の分岐鰭条は1本と数える(Hubbs & Lagler, 1949) 。 臀鰭骨格 Anal Fin Skeleton Fig. 10 臀鰭は3本の不分岐鰭条と13本の分岐鰭条からなる。前方 の2本の不分岐鰭条は短く分節がない。最後の不分岐鰭条は コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 A 45 B 後側頭骨 posttemporal 肩甲骨 scapula 上擬鎖骨 supracleithrum 肩甲骨 scapula 擬鎖骨 cleithrum 後擬鎖骨 postcleithrum 後擬鎖骨 postcleithrum 中烏口骨 mesocoracoid 射出骨 actinost 烏口骨 coracoid sf 10 mm Fig. 11. The shoulder girdle of Hemiculter leucisculus. A, inside view; B, outside view. sf = scapula foramen. 46 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 A 5mm 5mm B 5mm 5mm C 5mm 5mm D 基鰭骨 basipterygium 5mm 5mm Fig. 12. The right pelvic girdle of Hemiculter leucisculus. A, dorsal view; B, lateral view; C, ventral view; D, ventral view. 最長。3本の不分岐鰭条は遠担鰭骨とつながる。 担鰭骨は3種類(近担鰭骨、間担鰭骨と遠担鰭骨) からなる。 近担鰭骨は前後に翼をなす。後方には遠担鰭骨が関節す る。第1近担鰭骨の先端は第2尾椎血管棘の後ろに挿入され る。 遠担鰭骨は対になった塊状の小骨で軟条基底部によって挟 まれる。 第5以降の近担鰭骨と遠担鰭骨の間には鼓型を呈する間担 鰭骨がある。最後の間担鰭骨後端には2つの関節面があり、 背側には三角形を呈した臀鰭終端骨、腹側には遠担鰭骨が関 節する。 ちなみに鰭条数の数え方では最後の2本は1本として数え る(Hubbs & Laglor, 1949) 。 肩帯 Shoulder Girdle Fig. 11 肩帯は後側頭骨(posttemporal) 、上擬鎖骨(supracleithrum) 、 擬鎖骨(cleithrum) 、肩甲骨(scapula) 、中烏口骨(mesocoracoid) 、 烏口骨(coracoid) 、射出骨(actinost) 、後擬鎖骨(postcleithrum) の8種類の骨と16本の胸鰭軟条からなる。 後側頭骨は肩帯の最上部に位置し、背側に短い突起を持 つ。この突起の先端は神経頭蓋の上耳骨、翼耳骨とつながる。 骨の中央付近は管状の構造となっており、上側頭骨からきた 側線はこの管の前側の孔から入り、内側後部に位置する孔か ら上擬鎖骨へと抜ける。 上擬鎖骨は、後側頭骨下方に続く細長い形を呈した骨で、 上端が幅広く次第に細くなっている。背側には比較的短い突 出部を持つ。骨の上半分は管状となっており、後側頭骨から きた側線は前側の孔から入り、後方に面した孔から側線鱗へ と抜ける。 擬鎖骨は肩帯を構成する骨の中で最も大きい骨である。肩 帯前縁の大部分を縁取り、上部と下部はほぼ直角をなす。中 コイ科魚類 Hemiculter leucisculus の骨学的研究 47 Fig. 13. The cleared and stained specimen (bones red) of Hemiculter leucisculus, KMNH VR 100,122. 央から下方にかけては内側・外側それぞれがフランジ状の構 造となっている。 肩甲骨は、肩帯のほぼ中央に位置する。上縁で擬鎖骨内側 と中烏口骨、前縁で擬鎖骨の内側フランジとつながる。下縁 で烏口骨、中烏口骨下端の一部とつながる。上後部にある鞍 状の突出部で第1胸鰭と関節し、後縁下部で第1射出骨と関節 している。肩甲骨の中央部には顕著な孔(肩甲骨孔, scapula foramen: sf) があいている。 烏口骨は肩帯の下方を占める。背縁は擬鎖骨内側のフラン ジと接する。後端上隅部の突起で第2射出骨と関節し、内側 の突起で中烏口骨とは縫合によって結ばれる。烏口骨と擬鎖 骨の間には1つの楕円形の窓があいている。中烏口骨の上部 前縁は擬鎖骨と接する。中ほどには外側に向く突起があり肩 甲骨と関節する。下端は少し幅広くなり肩甲骨と烏口骨の上 縁と縫合する。 後擬鎖骨は針状を呈した骨で肋骨と似ているが、緩いS字 形に湾曲し、上下端共に尖る。擬鎖骨の後下方内側に付着す る。 射出骨は肩甲骨、烏口骨の後方に位置する4つの骨片から なる。第1射出骨が最も短い。また第1射出骨のみ後端は分か れ、2つの関節面があり、背側の関節面は第1胸鰭鰭条と関節 する。第2射出骨の前端は内外に分かれ、烏口骨を挟むよう に関節する。 胸鰭は1本の分岐しない軟条と15本の分岐する軟条からな る。 胸鰭と射出骨の間には4つの粒状を呈する担鰭骨がある。 腰帯 Pelvic Girdle Fig. 12 腰帯は体のほぼ中央に位置する。 基鰭骨(basipterygium)の前端は分岐し、叉の深さは基鰭 骨長の2分の1を超えない。内側の分岐が外側より短い。 腰帯の細長い主部の後端は腹鰭との関節になっている。後 端内隅部から後方に伸びる突起があり、そこで左右の基鰭骨 は接する。 3つの担鰭骨によって腹鰭条は支えられている。外側の2つ とは異なり最後の担鰭骨は比較的大きく後方に長く伸びる。 腹鰭は分岐しない2本の軟条と分岐する8本の軟条からな る。第1不分岐軟条は短く第2不分岐軟条の1/5程度で、節が なく対をなさない。また、先端は上方を向く。それ以外の鰭 は分節があり、対をなしており、鰭の基部では基鰭骨および 担鰭骨をはさむ形状となっている。 ま と め 長崎県壱岐産中期中新世のコイ科魚類化石研究のためコイ 科カワヒラ亜科のHemiculter leucisculusの全骨格について図 示し、記載を行なった。 Hemiculterについては形態学的研究からChen et al.(1984) や陳他(1998)はカワヒラ亜科(Cultrinae)に含め、Howes (1991)は ア ル ブ ル ヌ ス 亜 科 の 一 員 と し た。し か しLiu & Chen(2003)はmtDNAの 研 究 か ら ク セ ノ キ プ リ ス 亜 科 (Xenocyprinae) に位置づけ、さらにカワヒラ亜科とクセノキ プリス亜科がきわめて近縁であり、1つの亜科を形成する可 能性を示唆している。 Chen et al.(2005) は中国の甘粛省から古第三紀のEcocarpia ningmingensisを記載し、これがカワヒラ亜科とクセノキプリ ス亜科の姉妹種であるとしている。 クセノキプリスの骨格については、友田(1976)やShan (1998) が顎骨や咽頭骨などについて図示し記載しているが、 顎骨を構成するそれぞれの骨は今回のH. leucisculusと極めて 異なっている。 今後、東アジア産化石コイ科魚類の研究を行なうためはク セノキプリス亜科魚類の全身骨格の図示と詳細な記載を行な う必要があろう。 謝 辞 本研究を行なうにあたり、原稿のご高閲を賜り、貴重なご 意見をいただいた国立科学博物館の上野輝彌博士と近畿大学 の細谷和海博士に深謝する。また、中国での標本採集と本研 究の道を開いていただいた中国科学院古脊椎動物古人類研究 所の張弥曼博士に心よりお礼申し上げる。中国での標本採集 にご協力いただいた水生生物研究所のWang Xuzheng、Yang Jinquan、Tang Qiongyingに感謝の意を表する。なお、本研究 は藤原ナチュラルヒストリー振興財団より研究助成を受け た。ここに記してお礼申し上げる。 48 籔本美孝・坂本陽子・刘 焕章 参考文献 Chen, G. 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