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育児支援策が出生率、女性の結婚・就業に与える効果について(文献調査)

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育児支援策が出生率、女性の結婚・就業に与える効果について(文献調査)
参考資料
育児支援策が出生率、女性の結婚・就業に与える効果について(文献調査)
1.我が国に関する研究成果
(1)育児休業制度に関する研究成果
●
女性の結婚・出産と就業との間にはトレードオフの関係がある。
●
多くの文献で、育児休業制度が出生率および女性の結婚にプラスの影響を
与えているとの結果が得られている(樋口(1994)、駿河・張(2003)、滋野・
松浦(2003)、川口・坂爪(2004))一方で、育児休業制度が結婚には影響し
ないと結論づけている研究結果(滋野・大日(1998))もある。
(論文の概要)
○川口章、坂爪聡子(2004)「育児休業制度は出生率を上げるか?」雇用・能力
開発機構『雇用と失業に関する調査研究報告書(Ⅱ)』、pp.209−220
・家計経済研究所「消費生活に関するパネルデータ」の 1997 年、1998 年調査を
用いて、専業主婦を含むすべての有配偶女性の出産確率をプロビットモデル
で計測している。
・育児休業取得資格のある女性の出産確率は、資格のない女性よりも5%から
14%ポイント高くなる。
・正規雇用の女性のみを考慮した場合、実労働時間が8時間未満の労働者にと
っては、育児休業資格が出産確率を高める効果を持つが、労働時間が8時間
以上の労働者にとっては育児休業資格は有意な効果がない。
・育児休業制度の取得率と出生率を高めるためには、通常の労働時間を短縮す
ることが必要である。
○駿河輝和、張建華(2003)「育児休業制度が女性の出産と継続就業に与える影
響について−パネルデータによる実証分析」『季刊家計経済研究』、No.59、
pp.56−63
・家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」の 1993 年∼1997 年個票デー
1
タのうち、就業している既婚女性のみを対象としてデータセットを作成し、
多変量プロビットモデルに基づく計量分析を行っている。
・推計結果より、出産と妻の継続就業との間にはトレードオフの関係が観察さ
れた。
・育児休業制度がある場合、親と同居している場合、妻が高学歴である場合に
出産確率は高まり、既存の子供数が多い場合、また夫の年齢が高いほど、出
産確率は低くなる。
・妻の継続就業に関しては、勤め先で育児休業制度が明示されている場合、親
と同居している場合に就業確率が高まり、夫の年収が高い場合に就業確率は
減少する。
○滋野由紀子、松浦克己(2003)「出産・育児と就業の両立を目指して−結婚・
就業選択と既婚・就業女性に対する育児休業制度の効果を中心に−」『季刊・
社会保障研究』、第 39 巻、No.1、pp.43−54
・家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」の 1993 年∼1997 年個票デー
タを用いて①結婚と就業との選択、②育児休業制度が第一子出産確率に与える
影響を多変量プロビットモデルに基づいた計量分析を行っている。
・推計結果より、結婚選択と就業選択との間にはトレードオフの関係が観察され
た。
・就業選択に与える効果をみると、女性の人的資本の向上(高学歴化)は女性の
就業を促進し、結婚確率を低下させる。
・育児休業制度がある雇用労働者女性の第一子出産確率は、育児休業制度がない
場合と比較して 17.5%∼21.3%ポイント増加する。
○滋野由紀子、大日康史(1998)「育児休業制度の女性の結婚と就業継続への影
響」『日本労働研究雑誌』、第 459 号、pp.33−49
・家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査」の 1993 年∼1994 年個票デー
タを用いて当該女性の勤務先に育児休業制度があるか否かを考慮の上、育児
休業制度の有無が第 1 年度に無配偶であった女性が第2年度に有配偶に変わ
ったか否かにどう影響するかを分析している。
・分析の結果、勤務先の育児休業制度の有無は結婚には影響を与えないとの結
果が得られている。
2
○樋口美雄(1994)「育児休業制度の実証分析」社会保障研究所編『現代家族と
社会保障』、東京大学出版会、pp.181−204
・1987 年の「就業構造基本調査」の個票データと産業別育児休業実施事業所割
合を使用することで、育児休業制度の結婚、出産、継続雇用に与える影響を
分析している。
・企業の育児休業実施割合は結婚選択に効果があり、育児休業制度が 50%の企
業で導入された場合には、大卒 28 歳女性の有配偶者割合は 4.9%ポイント上
昇するとの結果を得た。
(2)保育政策に関する研究成果
●
保育料が母親の就業決定に与える影響をみると、高い保育料は母親の就
業確率を引き下げる(大石(2003))。また、就業所得や保育所の利用可能
性が高まると母親の就業確率は高まる(大石(2003))。
●
保育所の定員枠の拡大は出産選択には影響するが、出産後の就業継続に
は影響しない(滋野・大日(2001a))。
●
早期保育の実施は、出産に正の影響を与えるが、早朝保育の実施、夜間
保育の実施、0歳児定員枠の拡大は、出産確率を高めないとの結果になっ
た。(滋野・大日(2001b))。
(論文の概要)
○大石亜希子(2003)「母親の就業に及ぼす保育費用の影響」『季刊・社会保障
研究』第 39 巻、No.1、pp.55−69
・厚生労働省「平成 10 年度国民生活基礎調査」の個票データを用いて、保育料
が就学前児童の母親の労働供給に及ぼす影響を実証分析している。
・母親の就業決定につきプロビットモデルを適用して実証分析した結果をみる
と、高い保育料は母親の就業確率を有意に引き下げることがわかる。一方で、
就業した際に得られる所得や保育所の利用可能性が高まると、母親の就業確
率は高まる。
○滋野由紀子、大日康史(2001b)「保育政策が女性の就業に与える影響」岩本
3
康志編『社会福祉と家族の経済学』、東洋経済新報社、pp.51−70
・「国民生活基礎調査(1986、1989、1992、1995 年)」の個票データを用いて、
保育所サービスが女性の出産・育児に与える影響を分析している。
・早期保育(0∼2歳児の保育)の実施は、出産に正の影響を与えるが、早朝
保育の実施、夜間保育の実施、0歳児定員枠の拡大は、出産確率を高めない
との結果になった。
・保育所の定員枠の拡大は女性の就業を高める効果があるが、早朝保育、夜間
保育、早期保育、0歳児定員枠の拡大といった政策は女性の就業確率を高め
ないとの結果になった。
(3)企業の福利厚生制度に関する研究成果
●
勤務先の福利厚生制度のうち、育児と就業の両立を支援する福利厚生制度
(育児休業制度、企業内託児所の設置、フレックスタイム制度、勤務時間短
縮制度、在宅勤務制度)は結婚決定には影響せず、むしろ再雇用制度の有無
や当事者の職種が結婚決定に影響する(滋野・大日(2001a))
● 育児休業制度は結婚前後の就業継続を促進し、勤務時間短縮制度は結婚前
後の就業継続や出産選択および出産後の就業継続に効果がある(滋野・大
日(2001a))。
● 企業が提供する育児支援を目的とした福利厚生は出産に影響を与えず、保
育サービスの充実(保育所の定員枠の拡大)は子供を産むか否かの選択に
は影響するものの、第2子を生むか否かには影響しない(滋野・大日
(2001a))。
(論文の概要)
○滋野由紀子、大日康史(2001a)「育児支援策の結婚・出産・就業に与える影
響」岩本 康志編『社会福祉と家族の経済学』、東洋経済新報社、pp.17−50
1.企業の福利厚生制度が女性の結婚と就業継続に与える影響
・a)勤務先の福利厚生が結婚するか否かという選択に与える影響と、b)結婚前後
の就業継続に与える影響に分けて分析を行っている。
・実証分析にあたっては、経済と社会保障に関する研究会「女性の結婚・出産
4
と就業に関する実態調査」の個票データを用い、a)については比例ハザード
モデル、b)についてはプロビットモデルを適用している。
・a)勤務先の福利厚生が結婚にどのような影響を与えているかをみると、育児と
就業の両立を支援する福利厚生(育児休業制度、企業内託児所、フレックス
タイム制、勤務時間短縮、在宅勤務)は結婚には影響せず、再雇用制度があ
る場合や、当事者が専門技術職や管理職である場合には結婚確率が高まると
の結果を得た。一方で結婚確率を低める効果がある要因としては、高学歴な
どが挙げられている。
・b)勤務先の福利厚生が結婚前後の就業継続に与える影響についてみると、結婚
は就業継続にマイナスの影響を及ぼす。企業の福利厚生の中では、育児休業
制度、勤務時間短縮制度がある場合、結婚後の就業継続が高められるとの結
果になっている。
2.出産に与える企業の福利厚生と保育所の効果
・a)企業の福利厚生・保育所が第1子出産選択に与える影響、b)企業の福利厚
生・保育所が第2子出産選択に与える影響、c)企業の福利厚生・保育所が
出産後の就業継続に与える影響について分析している。
・実証分析にあたっては、経済と社会保障に関する研究会「女性の結婚・出産
と就業に関する実態調査」および社会保障の経済分析研究会「乳幼児の保育
事業に関する実態調査」の個票データをマッチングさせた上で、各々プロビ
ットモデルを適用している。
・出産に与える影響をみると、企業が提供する育児支援を目的とした福利厚生
は出産に影響を与えず、保育サービスの充実(保育所の定員枠の拡大)は子
供を産むか否かの選択には影響するものの、第2子を生むか否かには影響し
ないことがわかった。
・出産後の就業継続に与える影響をみると、保育所サービス(保育所の定員枠
の拡大)の充実は就業継続に影響せず、企業の福利厚生制度に関しては、勤
務時間短縮制度が就業継続を促進するとの結果になった。
5
2.欧米諸国の政策対応とその効果に関する研究成果
● スウェーデンの出生率は 1980 年代において大きく回復した。その要因とし
て、「親保険」、児童手当、保育サービスの拡充が挙げられる。特に、「親保
険」における出産に伴う親への手当の拡充や次子出産資格期間の 2 年以上の
延長が大きな効果をもたらした。
● 米国は家族政策を行わずして出生率が回復した国である。出生率回復の要因
として、イースタリン仮説、キャッチアップ仮説が挙げられるが、前者は育
った時期と家族形成期の経済的環境の差、後者は年齢別の第一子出生確率の
差で出生率回復を説明している。
● 英国の出生率は 1.6∼1.8 程度と安定して推移している。この要因として、家
族などに関わる価値意識の保守性に根ざしているとの指摘がある。
● フランスの出生率は 1960 年代後半から 1970 年代前半にかけて減少したが、
以降は上下動しつつ安定的に変化し、2000 年は 1.89 となっている。家族政
策の効果に関しては、効果はあるものの限定的なものに留まっているという
のが研究成果の概要である。
(論文の概要)
○津谷典子(1996)「スウェーデンにおける出生率変化と家族政策」阿藤 誠編
『先進諸国の人口問題−少子化と家族政策』東京大学出版会、pp.49-82
・スウェーデンの合計特殊出生率は 1983 年の 1.61 を底として急速な上昇に転
1990 年には 2 を上回るまで回復した。その後は 1.5 程度まで減少したが、2000
年にはわずかに回復している。
・80 年代の出生率反騰の最大の要因は、出産・育児と女性の家庭外就労の両立
を目指した包括的家族政策であるというのが多くの研究者や政府当局の一致
した見解である。
・1980 年代半ば以降の出生率回復と高水準の女性就労の実現に影響を与えたの
が「親保険」(子供が生まれた場合、出産・育児のために必要な休暇を取る権
利を両親に与え、それにより失われる所得を補償する制度)、児童手当、保育
サービスである。
・出生率上昇に対しては、「親保険」の出産に伴う親への手当の拡充(収入の 9
割を 12 ヶ月間保証し、さらに 3 ヶ月間最低保証額を適用)や、次子出産資格
期間(第一子を出産後、資格期間内に出産すれば、前の子供と同じ資格で「親
6
保険」の適用をうけることが可能となる)の 2 年以上の延長が大きな効果を
もたらしたと考えられる。
○大谷憲司(1996)「アメリカ合衆国における最近の出生率動向とその要因」阿
藤 誠編『先進諸国の人口問題−少子化と家族政策』東京大学出版会 、
pp.83-119
・米国はスウェーデンにおいてみたような家族政策を行わずして出生率が回復
した国である。
・90 年代に出生率が回復した要因に関する主要な仮説として、イースタリン仮
説(Easterin(1968,1987))とキャッチアップ仮説がある。
・イースタリン仮説(相対的経済地位仮説)は、人々の結婚・出産行動は、生
活水準に対する夫婦の期待と現実の経済状態の比較によって形成される相対
的経済地位によって説明されるとする仮説である。この仮説によれば、90 年
代の出生率回復は、彼らが育った 70 年代の低い経済的要求水準に比べて、現
実の経済状態が相対的に高いことから説明される。
・キャッチアップ仮説は、ある時期に(結婚後の)出生を遅らせた人々が高年
齢で出産過程に入り、出生の遅れを取り戻そうとする傾向により出生率の下
降・上昇を説明しようとするものである。米国においては、1960 年代後半以
降に 25 歳未満で第 1 子出生確率が低下したものの、1980 年代に入り 30 歳代
で同じ確率が上昇しており、キャッチアップ仮説が裏付けられた形となって
いる。
○平岡公一(1996)「イギリスの人口・出生動向と家族政策」阿藤 誠編『先進
諸国の人口問題−少子化と家族政策』東京大学出版会、pp.121-156
・英国の合計特殊出生率は 1960 年代に大きく低下し、その後 1.6∼1.8 程度の
水準にある。
・出生率に影響を与える要因については、社会経済的要因として社会階級、学
歴、住宅、女性の就労についての研究があるが、持家の場合の方が公営住宅
の場合より出生率が低い、女性の就労と出生率の関係は弱いとの研究成果が
示されている。また安定した英国の出生率は、家族などに関わる価値意識の
保守性に根ざしているとの指摘もある。
7
○小島宏(1996)「フランスの出生・家族政策とその効果」阿藤 誠編『先進諸
国の人口問題−少子化と家族政策』東京大学出版会、pp.157-219
・フランスの出生率は 1960 年代後半から 1970 年代前半にかけて減少傾向にあ
ったものの、以降は上下動しつつほぼ横ばいで推移しており、2000 年には 1.89
と若干回復している。
・フランスの家族政策は、出生促進を強調する点に特徴があり、13 種類の給付
からなる家族給付制度が中心的な手段である。
・家族政策の効果に関しては多くの研究がある。全般的には、家族政策は出生
率を上昇させる効果があるものの、効果は限定的なものと結論される。
・家族政策が労働供給に及ぼす効果も一様ではない。例えば家族給付制度と税
制は労働供給を抑制する傾向があるが、保育政策は就業および出生を促進す
る効果がある。
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