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第4章 熱力学の基礎とその応用

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第4章 熱力学の基礎とその応用
第4章
熱力学の基礎とその応用
- 89 -
第4章 熱力学の基礎とその応用
この章では、
「熱流体力学」の教科目において、車の両輪の一方の重要な分野
である熱力学の法則やサイクルについて基礎的なことがらを学ぶ。
4.1 熱と仕事の関係
図 4.1 に示したジュール
(J.P.Joule)の実験から、熱
と仕事の関係が実験的に解
温度計
滑
車
お
明され、つぎのように表現さ
も
り
れるようになった。
水
羽
「仕事は一定の割合で熱エ
車
ネルギに変換できること」、
「 機械的仕事と熱は相等し
く、機械的仕事は熱に変換
でき、逆に熱はその一部を
図 4.1 ジュールの実験
機械的仕事に変換すること
が可能であること」、「変換される部分の両者の比は一定であること」。
そこで、熱量を Q ( kcal )、仕事を W ( J )とすれば、
(4.1)
Q  AW ;W  JQ
と表され、熱は仕事に、また逆に仕事は熱に相互に変換が可能であることが明
らかとなった。ここで、
A
1
1
( kcal / J )
; J   4186 ( J / kcal )
4186
A
(4.2)
であり、それぞれ、 A を仕事の熱当量(thermal equivalent of work)、 J を熱の
仕事当量(mechanical equivalent of heat)という。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆参考:工学単位系での熱の仕事当量は J  427kgf  m / kcal である。また、熱と
仕事の関係式(4.2)から 1kcal  4186 J である。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.1 熱と仕事の研究課題
1 . 1kW ≒ 102kgf  m / s ; 1kWh ≒ 860kcal ; 1PS = 75kgf  m / s ≒ 735.5W ≒
632.5kcal / h である。では、 10kW のモータは何 PS であるか。
2.氷塊を 120 m の高さから地面に落下させたとき、もし位置エネルギの変化
がすべて熱エネルギに変換されるとすれば、何%の氷がとけるか。ただし、
氷の融解熱は 80kcal / kg とする。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
- 90 -
4.2 エネルギと内部エネルギ
仕事と熱が相等しいものであるという実験事実から、力学エネルギ(ポテン
シャルエネルギ、運動エネルギ)と共通した概念として「エネルギ」の考え方
が導入された。(マイヤー&ランキン等が提唱)
1)エネルギとは
外界に対して何らかの効果(effect)もしくは仕事(work)を与えることができる
能力(ability)であり、熱量を総称した概念と考えることができる。
・エネルギの例
:暖かい物体は熱量を保有し氷を融かすという潜在的な能力を保持している。
:圧縮された空気は熱量を保有し物体を動かすという潜在的な能力を保持し
ている。
:電気抵抗に流れる電流はジュール熱を発生し外部に何らかの仕事ができる。
2)内部エネルギとは
外界に何らかの効果を与えられる熱エネルギ(熱量)が物体内部に潜在的に
蓄えられているとき、このエネルギを内部エネルギという。内部エネルギの
大きさは物体を構成する分子運動の激しさ(分子の力学的運動エネルギ)に
よって定められる。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.2 エネルギと内部エネルギの研究課題
1.0  C の氷1 kg と0  C の水 1 kg では潜在エネルギの差はいくらか。
解答:融解熱という。融解熱= 80kcal / kg水
2.100  C の水 1 kg と 100  C の蒸気1 kg では潜在エネルギの差はいくらか。
ただし、圧力は標準大気圧とする。
解答:蒸発の潜熱という。蒸発の潜熱= 539.06kcal / kg水
3.100  C の水 1 kg と0  C の水 1 kg が持つ内部エネルギの差はいくらか。ただ
し、水の比熱を1 kcal /( kg  K ) とする。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------4.3 熱力学的系と熱力学の第1法則
熱力学では、図 4.2 に示すように、対象とするシステム(熱力学的な系)に
対して、
入る熱 Q >0 ;出る熱 Q <0
入る仕事 W <0
;出る仕事 W >0
と取り決めて扱う。
- 91 -
図4.2
熱力学的な系と符号の定義
4.3.1 熱力学の第1法則
熱力学の第1法則(the first low of thermodynamics)は対象とするシステム
において、エネルギの総量(系に加えられる熱量、内部エネルギ、系が外部にな
す仕事等)が保存されると考える。すなわち、熱力学の第 1 法則はエネルギの量
的な保存関係を規定した法則である。
状態②
入る熱q
状態①
u1
v1
p1
T1
u2
v2
p2
T2
図 4.3
出る仕事w
熱力学の第 1 法則
さて、図 4.3 に示すように状態①から状態②へ変化する熱力学的システム(系)
を考える。ここで、図中のそれぞれの記号は気体1 kg について、以下のように
定義する。
u :比内部エネルギ( J / kg )
( J / kg )
q :入る熱
w :出る仕事
( J / kg )
さらに、気体の比容積、圧力、温度などの状態量は、
- 92 -
v :比容積
p :圧力
T :絶対温度
( m 3 / kg )
( Pa )
(K)
と書くことにする。すると、状態①から状態②へと系の状態が変化するとき、
エネルギのバランスから、次式が得られる。
u1  q  u 2  w
(4.3)
この式を整理すれば、系に加えられた熱量 q は
q  u 2  u1  w
となる。あるいは、系におけるエネルギの微小変化を考えると
dq  du  dw ( J / kg )
(4.4)
となる。
式(4.4)を言葉で表すと、「系に加えられたエネルギ dq はその一部が内部エネ
ルギ du に、一部が外部仕事 dw の変化に変換される」と書ける。なお、内部エ
ネルギの変化 du に注目すれば、
(4.5)
du  dq  dw ( J / kg )
と書き表され、熱力学の第1法則における内部エネルギ du の変化を与える関係
式となる。
☆さて、熱力学的な問題を考える時、エネルギの総量を問題にすることがある。
この場合には、熱流体の質量(総量)を G(kg) とし、
(4.6)
Gu  U ; Gq  Q ; Gw  W ( J )
とおき式(4.4)の両辺に G(kg) をかけ、式(4.6)を考慮すれば、つぎようになる。
(4.7)
dQ  dU  dW または dU  dQ  dW ( J )
なお、以後大文字の Q、U、W はそれぞれ、系に加えられたエネルギ、内部
エネルギおよび外部仕事の総量を表すものとする。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.3 熱力学第 1 法則の研究課題
1.朝食で 2000 kcal のエネルギを注入し、マラソンで 42.195 km を走った。内
部エネルギの変化はいくらか。ただし、走者の体重を 60 kgf とする。
2.熱力学の第1法則はいろいろな表現の仕方がある。代表的なものを調べよ。
解答例:「熱はエネルギの一形態であり、エネルギの総量は不変である」
3.外部からなんら熱量等のエネルギの補充を受けることなしに、永久に運動
を続ける機関は成り立たない。第1種永久機関の否定。このことを証明す
るため、図 4.4 に示すような永久機関を考えてみよう。
- 93 -
強力磁石
落下孔
浮力
木製円盤
鉄球
重力
水
湾曲レール
図 4.4
第 1 種永久機関
---------------------------------------------------------------------------------------------------------4.3.2 気体が外部にする仕事
すでに学んだように、熱力学の
点B
点A
第 1 法則は次式で表された。
(4.4)
dq  du  dw
ここで、外部仕事 dw について、
図 4.5 に示したように、シリンダ
内の気体1 kg が膨張する時に外
部になす仕事を例として考えて
みよう。
気体が外部になす仕事は
=力×変位
=圧力×断面積×変位
圧力p
p
A
pA
dx
pdv
p
B
pB
v
である。したがって微小仕事 dw
は、シリンダの断面積を A とすれ
ばつぎのようになる。
(4.8)
dw  p  A  dx
vA
図 4.5
dv
vB
気体が外部になす仕事
ここで、 A dx は微小な体積変化に
相当するから、微小体積変化を dv とおけば、最終的に外部になす仕事 dw は
(4.9)
dw  pdv ( J / kg )
となり、熱力学の第1法則はつぎのように表される。
dq  du  dw  du  pdv ( J / kg )
☆気体(流体または物体)の質量が G kg である場合
- 94 -
(4.10)
式(4.10)の両辺に質量 G をかけて
Gdq  Gdu  Gpdv
と表されるから、
Gdq  dQ ; Gdu  dU ; Gdw  dW ; Gdv  dV
または、
Gq  Q ;Gu  U ;Gw  W ; Gv  V
(4.11)
と書けば、質量 G kg について、熱力学の第 1 法則はつぎのように表せる。
(J )
(4.12)
dQ  dU  pdV
なお、図 4.5 に示したように、縦軸に圧力 p 、横軸に比容積 v または体積 V をと
ったグラフをP-V 線図( p  v diagram)という。
4.4 エンタルピ
図 4.6 に示されるように、熱
流体 1 kg が管路を流動する場合、
境界①を横切る流体に乗って内
部エネルギ u1 が入ると共に、こ
②
入る熱q
①
の流体を境界に押し込むために
比容積v2、 圧力p2
力学的仕事を必要とする。その
内部エネルギu2
仕事は圧力 p と比容積 v の積で
比容積v1、 圧力p1
あるから p1v1 となる。同様に境
界②から出る内部エネルギは u 2 、 内部エネルギu1
外部へ押し出す力学的仕事は p 2 v 2
図 4.6 エンタルピの考え方
であるので、①②間で加えられた
熱量を q とすれば熱力学の第1法則から、
q  u 2  p2 v2   u1  p1v1 
となる。ただし、途中経路での仕事の出入りは無く、運動エネルギ、位置エネ
ルギは一定で変化しない状態を想定する。
すると、新たに状態のみで決まる量として、 h  u  pv を導入すれば、上式は
q  h2  h1
となる。すなわち、1 kg の流体について、 h なる新しい関数を考えると、 h は
流動系の熱流体問題に適用するとても便利な関数であることがわかる。熱力学
では、 h を比エンタルピ(specific enthalpy)とよび、つぎのように定義する。
☆比エンタルピの定義
h  u  pv
( J / kg )
(4.13)
- 95 -
さて、 Gkg の流体が保有する全エンタルピ H は V を流体の体積( m 3 )として
(4.14)
H  Gh  Gu  Gpv  U  pV ( J )
で表される。ここで、 U 、 p 、 V は状態だけで決まる量であるから、全エンタ
ルピ H も状態量(quantity of state)となる。
4.4.1 エンタルピによる熱力学第1法則の表示
1 kg の流体について考えると、比エンタルピの定義式(4.12)、すなわち、
h  u  pv において、 h,u , p ,v はいずれも状態量であるから、これらの微小量を
考えれば次式が得られる。
dh  du  d  pv   du  pdv  vdp  du  pdv   vdp
ここで、熱力学の第 1 法則から内部エネルギは du  pdv  dq とおけるから、
(4.15)
dq  dh  vdp
となる。この式は熱力学の第2基礎式ともいい、重要な関係式である。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.4.1 エンタルピの研究課題
1.図 4.6 において、状態①②間に単位質量あたり熱量 q を加えたとき、
1)状態①②間で体積変化が起こらなければ (dv  0) 、 q  u 2  u1 で与えられ
ることを証明せよ。
2)状態①②間で圧力変化が起こらなければ (dp  0) 、 q  h2  h1 で与えられ
ることを証明せよ。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆第4章 ここまでの演習問題
熱力学第 1 法則関係
1.1 kWh および1 PSh の仕事量はどれだけの熱量( kcal )に相当するか。
2.60 W の電灯を毎日7時間使用すると、1ヶ月ではどれだけのエネルギを消費すること
になるか。ただし、1ヶ月を 30 日とせよ。
3.重量 30 kgf の物体を 15 m 引き上げるために必要な仕事量を熱量( kcal )に換算せよ。
4.1時間に 2.1×108 kcal に相当する重油を消費し、5 万 kW の電力を発生する火力発電
所がある。この場合の熱効率は何%か。
5.鉛球を 20 m の高さから床に落下させる。このとき発生する全エネルギの 30%が熱エネ
ルギとして鉛球に与えられるものとすれば、鉛球の温度上昇はいくらになるか。ただ
し、鉛球の比熱は 0.031 kcal /( kg  K ) とする。
6.乗用車のガソリン1リットルあたりの走行距離は(a)高速道路では 12 km 、
(b)市
街地では 8 km であった。また(a)、(b)での停車時以外の平均速度はそれぞれ 72 km/ h 、
36 km/ h であった。いま、ガソリンの比重を 0.9、発熱量を 10500 kcal / kg 、エンジン
の熱効率を 0.2 としたとき(a)および(b)の走行時の平均出力は何馬力( PS )か。
- 96 -
内部エネルギ関係
1.The first law of thermodynamics is occasionally stated in the following way:
“It is
Impossible to invent any process which will operate in a cycle (i.e.、the system
return to its initial state)without any other effect left in the surroundings than the
production of work.” Prove that this statement by applying the equation
dU  dQ  dW
2.あるガスが 5 kcal の熱を受けて、750 kgf  m 仕事をした。このとき、内部エネルギに
は変化があったか調べよ。
3.標準大気圧において 1 kg の水を全部蒸気に替えると容積は 0.001 m から 1673 倍に膨
3
張する。またこのために蒸発の潜熱として 538.8 kcal の熱を加えなければならない。
このとき内部エネルギにはどれだけの変化が生じるか。
4.シリンダ内でガスを圧縮するとき、3000 kgf  m の仕事を必要とし、冷却水によって
8 kcal の熱量を失った。内部エネルギの変化量はいくらか。
エンタルピ関係
1.あるガス 1 kg の状態が、圧力 0.3 kgf / cm 、体積 3.5 m であった。これを圧縮して、
2
3
圧力 10 kgf / cm 、体積 0.4 m の状態にするとエンタルピの増加はいくらになるか。
2
3
ただし、内部エネルギの変化がないものとする。
2.重さ 10 kgf の蒸気が 50℃、圧力 0.38 atm 、容積 7.5 m のとき、内部エネルギは
3
1600 kcal であったとする。このような状態の蒸気が有するエンタルピと比エンタルピ
の大きさを求めよ。
3.重さ 5.4 kgf 、圧力 2 at 、容積 1.5 m のガスを加熱して、容積を 2 倍にすると圧力が
3
1.6 倍になった。もし、このとき内部エネルギの増加量が 10 kcal であるとすれば、こ
の場合のガスのエンタルピおよび比エンタルピはどれだけ増加したことになるか。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------4.5 熱力学の第2法則
熱力学の第1法則が状態量の変化に注目して、エネルギの総量が保存される
ことを述べているのに対して、熱力学の第 2 法則では状態量が変化する方向に
ついて述べ、現象の進行方向には法則性があることを明らかにしている。熱力
学の第 2 法則を表す具体的な表現として、つぎのようなものがある。
1)クラウジウスの表現:
「他に何の変化をも残すことなく、熱を低温の物体か
ら高温の物体へ移すことはできない」
2)トムソンの表現:「1個だけの熱源を利用して、その熱源から熱を吸収し、
それを全部仕事に変えることができる熱機関は存在しない」
3)1個だけの熱源で運転できる機関、第 2 種永久機関は成立しない。
- 97 -
このように
熱エネルギを
移動させて動
力を取り出す
熱機関では、必
ず熱量供給を
担う高熱源と、
それを排出す
る低熱源のと
いう 2 個の熱
源が必要であ
る。例え話とし
て、排出物を出
さない生活は成
図 4.7 第 2 種永久機関
立しない。した
がって、逆に低温側から高温側への熱の移動には外部から何らかのエネルギ供
給が必要となる。例えば、低温側から高温側への熱移動が行われるクーラや冷
蔵庫では、そのため 4.8.2 節で示されるような冷凍機が用意されている。図 4.7
はこのような第2種永久機関が成立しないことを説明している。
このような経験法則をまとめて表現したものが熱力学の第2法則であり、
① 自然界の現象の進行には方向性がある。方向法則。
② 自然界の現象の進行は非可逆である。
☆非可逆現象の例
③ 高温の物体から低温の物体への熱移動
④ 機械的な摩擦による熱の発生
⑤ 電気回路における抵抗体のジュール熱の発生
⑥ 物質の濃度は濃いほうから薄い方へと拡散
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.5 熱力学の第2法則の研究課題
1.熱力学における第2種永久機関が成立しないことを理解せよ。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------4.6 可逆変化と非可逆変化
図 4.8 に示すように、状態 A から出発して、状態 B へ変化し、この過程を逆
に進んで始めと同じ状態 A へ戻ったとき、熱や仕事などの影響が全く外界に残
らないならば、このような過程 A→B は可逆的に行われたといい、状態変化 A
→B を可逆変化(reversible change)という。これに対して、B から A へ戻った
- 98 -
とき、たとえ僅かでも外界に何らかの影響が残っていれば、A→B の変化は非可
逆変化(ir-reversible change)であるという。
経路への状態変化が等温変化や断熱変化で構成された可逆変化では、点 A→C
→B→D→A の全コースを正に回った後、A→D→B→C→A と逆コ-スを回ると
物体と周囲は元の状態に戻るので、これを可逆サイクルという。
p
C
p
B
Q1
C
p=f1(V)
B
正味仕事
W Q2
A
A
D
V
図 4.8
p=f2(V)
D
V
可逆・非可逆サイクル
4.7 サイクルにおける状態変化とその計算方法
4.6 節では、作動流体がある状態から出発して、途中でいろいろな状態変化を
たどり再び元の状態に戻るとき、この過程をサイクル(cycle)ということを学
んだ。一般に、サイクルは複数の経路から構成されているから、各経路ごとに
状態量の変化を計算できるようにすることが大切である。これを状態変化と呼
ぶ。そこで、この節ではサイクルにおける状態変化の基本を学ぶことにする。
4.7.1 状態変化を考えるための基礎
サイクルは様々な状態変化から構成されている。その状態変化を考えるには
つぎの1)から4)に示す完全ガスの状態方程式、熱力学の第1法則および補
助関係式が基礎となる。復習を含めて基礎式を列記する。
1)完全ガスの状態方程式
(1.6)
pv  RT
ただし、 p :圧力、 v :比容積、 R :ガス定数、 T :絶対温度。
または上式の全微分をとって
pdv  vdp  RdT
(4.16)
2)熱力学の第1法則
(4.4)
dq  du  dw( q :系に加えられる単位質量当たりのエネルギ)
または dw  pdv を考慮して
(4.10)
dq  du  pdv( u :比内部エネルギ)
- 99 -
dq  dh  vdp( h :比エンタルピ; h  u  pv )
(4.15)
3)補助関係式
dw  pdv( w :系が外部になした仕事)
h  u  pv( h:比エンタルピ)
(4.9)
(4.13)
または上式の全微分をとって
dh  du  pdv  vdp  du  RdT
(4.17)
dh  C p dT ; du  Cv dT
(4.18)
ただし、 C p は等圧比熱、 C v は等積比熱を表す。
  C p Cv(ただし、 は比熱比を表す。)
(4.19)
4)作動ガスの質量(総量)がGkg であるとき
Q  Gq ; H  Gh ;U  Gu;W  Gw;V  Gv
(4.11)
では、最初に状態変化の基礎である等圧比熱、等積比熱、比熱比を学び、続い
て、状態変化の計算方法を学ぶ。
4.7.2 等圧比熱と等積比熱
比熱の定義は、ガスなどの物質1 kg を温度差1 K 上昇させるのに必要なエネ
ルギ(熱量)であり、物質へのエネルギの供給方式によって、等圧比熱と等積
比熱に分類される。
まず、等圧比熱 C p とは、圧力一定のもとでガスなどにエネルギ供給を行った
場合に、ガス 1kg を温度差1 K 上昇させるために必要なエネルギであり、次式
で表される。
dh
 dq 
 dh  vdp 
Cp   



 dT  p const  dT  p const dT
∴
dh  C p dT
(4.20)
以上から、比エンタルピの変化 dh は温度差 dT に等圧比熱 C p をかければよいこ
とが分かる。
一方、等積比熱 C v は容積一定のもとでガスなどにエネルギ供給を行った場合
に、ガス 1kg を温度差1 K 上昇させるために必要なエネルギであり、次式で表
される。
- 100 -
du
 dq 
 du  pdv 
Cv   



 dT  v const  dT  vconst dT
∴ du  Cv dT
(4.21)
以上から、比内部エネルギの変化 du は温度差 dT に等圧比熱 C v をかければよい
ことがわかる。さて、次節で説明される状態変化では等圧比熱と等積比熱の比、
すなわち比熱比   C p Cv が導入されている。そこで、等圧比熱 C p と等積比熱
C v の関係および比熱比  について以下に記述する。この関係を求めるためにエ
ンタルピの変化に関する補助関係式(4.17)を用いる。すなわち、
dh  du  RdT
(4.17)
に、 dh  C p dT ; du  Cv dT を代入すると次式がえられる。
C p dT  Cv dT  RdT
∴ C p  Cv  R
(4.22)
となる。このように、等圧比熱 C p は等積比熱 C v とガス定数 R の和であり、した
がって、 C p > C v であることが明らかとなった。さて、比熱比  を
  C p Cv
(4.23)
と定義すれば、C p および C v とガス定数 R の関係は比熱比  によって、つぎのよ
うに表される。
Cv 
R
R
;Cp 
 1
 1
(4.24)
なお、この関係式は後述 4.7.3 節の各種状態変化の計算でしばしば引用する。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.7.2 等圧比熱と等積比熱の研究課題
1.なぜ C p  Cv となるか、等圧比熱、等積比熱の実験装置概念図を描いて
考察し、あわせて理論的に証明せよ。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
- 101 -
4.7.3 各種状態変化の計算方法
ここでは、各種の状態変化につ
いて学ぶ。サイクルなどにおける
状態変化としては、図 4.9 に示す
ように、
1)等圧変化
2)等温変化
3)等積変化
p
圧力P
a
, va , Ta , u a , ha  
点aの状態
Pa
等圧変化(圧力p=一定)
等温変化(温度T=一定)
等
積
変
化
ポリトロープ変化(PVn=一定)
断熱変化(PVκ =一定)
4)断熱変化
5)ポリトロープ変化
が考えられる。以下、順次これを
説明していく。
Va
比容積V
図 4.9
1)等圧変化
圧力が p =一定( dp  0 )な状態変化
p
である。図 4.10 に示されるように、点
p
各種の状態変化
, va , Ta , u a , ha 
qab
点a
点b
a
Pa  Pb  P
a から点bへの等圧変化では系がなす
 p , v ,T , u
仕事 wab は圧力は一定で、 p  pa  pb
b
b
b
b
, hb 
仕事wab
であるから、仕事 wab は、
b
b
b
a
a
a
v
va
wab   dw   pdv  p  dv  p(vb  va )
  1 C
 R(Tb  Ta ) 

p
(Tb  Ta ) ( J / kg )
(4.25)
vb
図 4.10
等圧変化
一方、この変化を実現するために系に加えるべき熱量 q ab は dp  0 を考慮して、
b
b
b
b
a
a
a
a
qab   dq   (dh  vdp)   dh   C p dT
 hb  ha  C p (Tb  Ta ) 
R
(Tb  Ta )
 1
( J / kg )
(4.26)
このように、等圧変化では系に加えられたエネルギ q ab は比エンタルピの差
hb  ha で与えられる。
- 102 -
2)等温変化
図 4.11 に示されるように、点 a から点bへの状態変化が温度 Ta  Tb  T に一
定に保たれる( dT  0 )変化である。こ
p
の等温変化では、完全ガスの状態方程式
から圧力が p  RT v で与えられるから、
pa
p
a
, va , Ta , u a , ha 
点a
Ta  Tb  T
qab
 pb , vb , Tb , ub , hb 
外部になす仕事 wab は
b1
RT
dv  RT a dv
v
v
v
 RT ln vb  ln va   RT ln b (4.27)
va
b
b
b
wab  a dw  a pdv  a
点b
仕事
wab
pb
v
va
vb
図 4.11
となる。一方、この変化を実現するため
等温変化
に系に加えるべき熱量 q ab は dT  0 を考慮して、
b
b
b
b
qab  a dq  a (du  pdv)  a (Cv dT  pdv)  a pdv  wab  RT ln
vb
va
(4.28)
このように、等温変化では qab  wab となり、系に加えたエネルギがすべて外部
仕事 wab に変換できることがわかる。(だからカルノーサイクルは優秀なのだ。)
3)等積変化
比容積が v =一定( dv  0 )な状態変化で
ある。図 4.12 に示されるように点 a から
p
pb
点b
b
b
a
a
wab   dw   pdv  0
(4.29)
pa
一方、この変化を実現するために、系に加
えた熱量 q ab は等積変化である dv  0 を考
慮して、
b
b
b
b
a
a
a
a
qab   dq   (du  pdv)   du   Cv dT
- 103 -
b
, vb , Tb , u b , hb 
qab 仕事wab=0
点bへの等積変化では、系がなす仕事 wab
は
p
点a
p
a
, va , Ta , u a , ha 
v a  vb  v
図 4.12
等積変化
v
 ub  u a  Cv (Tb  Ta ) 
R
(Tb  Ta )
 1
(4.30)
このように等積変化では外部にはなんら仕事が取り出されず、加えたエネルギ
はすべて内部エネルギとして蓄えられる。
4)断熱変化
p
図 4.13 に示されるように、点 a から点
bへの状態変化を断熱状態で行うもので pa
あり、断熱変化とは q =一定または dq  0
p
a
, va , Ta , u a , ha 
点a
pvk=C
qab=0
 pb , vb , Tb , ub , hb 
とするような状態変化である。結論として、
つぎの変化を断熱変化という。
pb
(4.31)
pv   C
(断熱変化、第 1 の重要な結論)
ここで、右辺の C は定数である。具体的に
点 a と点bに断熱変化の関係を適用して


p a v a  p b vb  C
v 
p
∴ a   b 
pb  v a 
点b
仕事Wab
va
v
vb
図 4.13
断熱変化

または、完全ガスの状態方程式から p  RT v であるから、これを pv   C へ代
入すれば、
RT 
v  C より、断熱変化の別な表現として次式がえられる。
v
Tv k 1  C  (断熱変化、第2の重要な結論)
具体的に点 a と点bに式(4.32)を適用すると、断熱変化とは
Ta va
k 1
 Tb vb
 1
Tb  v a 
 
Ta  vb 
または
(4.32)
 1
で与えられる状態変化をさす。
つぎに、点 a から点bへの断熱変化で系がなす仕事 wab は圧力 p が p  C v  で
与えられることを考慮すれば
b
b
b
wab  a dw  a pdv  a

 
b
C
C 1-
dv  C a v - dv 
v
k
1
v

1
1
1
Cvb  Cv a
1

b
a


ここで定数 C は、 paVa  pb vb  C で与えられることを考慮して、
- 104 -


1
1

1

1
 pa va  pb vb   R Ta  Tb 
p b vb vb  p a v a v a

1
k 1
 1
(4.33)
 Cv (Ta  Tb )

さて、断熱変化を実現するためには系に加えるべき熱量 q ab は当然のことながら
q ab =0である。
5)ポリトロープ変化
最後に、ポリトロープ変化とは圧力 p と比容積 v がつぎの指数関係で結ばれる
変化をいう。すなわち、
pv n  C
(4.34)
ここで、式(4.34)の指数 n をポリトロープ指数という。このポリトロープ指数を
用いれば、上で述べてきた1)から4)の各種の状態変化は、つぎのように指
数の値によって一般化できる。すなわち、ポリトロープ指数 n に対して、
n =0:(等圧変化)、 n =1:(等温変化)、 n =  :(断熱変化)
n =∞:(等積変化)
となる。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.7.3 各種状態変化の研究課題
1.断熱変化の状態式が pv   一定 で与えられることを、熱力学の第1法則、
比熱比  ならびに比エンタルピ h などを用いて証明せよ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------4.8 サイクルの熱効率
この節では、図 4.14 に示すような任
p
p=f1(V)
意の ACBD の閉曲線で囲まれたサイク
Q1
B
C
ルにおける計算方法と熱効率について
学ぶ。
Q2
4.8.1 サイクルの熱効率の定義
この系に供給される全熱量、系から排
出される全熱量をそれぞれ Q1 および Q2 、
正味仕事W
A
p=f2(V)
D
系に残るエネルギ、すなわち、正味仕事
に変換される総エネルギを W とする。考
えているサイクルにおいて、入熱および
V
図 4.14
出熱は
- 105 -
サイクルの熱効率
入熱 Q1 :A→C→B
出熱 Q2 :B→D→A
で行われ、この間の圧力変化がそれぞれ P  f (V ) で与えられているものと考え
る。さらに、サイクルから取り出される正味仕事は、 W =  PdV (A→C→B
→D→A の積分)で、サイクルを構成する閉曲線の積分によって求められる。
では、入熱、出熱および正味仕事の関係を求めてみよう。まず入熱 Q1 は、熱
力学の第1法則から dQ  dU  PdV であるから ACB の行程にそって積分すれば、
Q1   dQ   dU   PdV   dU   f1 V dV
B
B
B
B
B
A
A
A
A
A
 U B  U A   f1 V dV
B
A
となる。同様にして、BDA の行程における出熱- Q2 は、
 Q2   dQ   dU   PdV   dU   f 2 V dV
A
B
A
A
B
B
A
B
A
B
 U A  U B   f 2 V dV
A
B
そこで差し引きサイクルに残る総熱量 Q1  Q2  は、(注意:熱量の数値はプラス
にとり、熱が系から出る方向にマイナスをつける。)
Q1  Q2   f1 V dV   f V dV   f1 V dV   f 2 V dV  閉曲線内部の面積
B
A
A
B
2
B
B
A
A
一方、このサイクルによって外部にした正味仕事 W は、微小仕事 dW  PdV を
全周にわたって積分したものであり、
W   PdV
  f1 V dV   f 2 V dV  閉曲線内部の面積
B
B
A
A
以上から、系に残留するエネルギは
Q1 - Q 2  W  閉曲線内部の面積  正味仕事
となり、入熱と出熱の差が正味仕事となることが明らかになった。
☆熱効率(thermal efficiency)  の定義
熱機関では高温側から熱量 Q1 を受け取り低温側に Q2 を捨てる。この場合の熱
効率  はつぎのように定義される。

入熱-出熱 作動流体がした正味仕事

入熱
入熱
- 106 -

Q
W Q1-Q2

1- 2
Q1
Q1
Q1
(4.35)
ただし、熱効率の計算では熱量を Q1 >0、 Q2 >0 にとるので注意すること。
4.8.2 サイクルの紹介と熱効率の計算
ここではサイクルの紹介とその熱効率について学ぶ。
1)カルノーサイクル(Carnot cycle)
図 4.15 に示すように、このサイクルは2つの等温変化と断熱変化で構成され
る。すなわち、状態変化はつぎのようである。
A→B:等温膨張変化(温度 T1 一定)
B→C:断熱膨張変化
C→D:等温圧縮変化(温度 T2 一定)
D→A:断熱圧縮変化
ここで、温度は T1 > T2 である。また
p
A
各点の状態量はつぎのようになる。
等温変化T=T1
QAB
点A:( p A , v A , u A , hA , TA  TB  T1 )
B
点B:( pB , vB , u B , hB , TB  TA  T1 )
断熱圧縮
正味仕事W
D
点C:
( pC , vC , uC , hC ,TC  TD  T2 )
等温変化T=T2
点D:
( pD , vD , u D , hD , TD  TC  T2 )
断熱膨張
C
QCD
とする。ただし、ここで用いている
v
記号 ( p, v, u, h, T ) はそれぞれ、圧力、
比容積、比内部エネルギ、比エンタ
図 4.15 カルノーサイクル
ルピおよび絶対温度を表す。
このカルノーサイクルの熱効率  はつぎの研究課題で明らかとなるように、
極めて簡単となり、次式で与えられる。
T
  1 2
T1
(4.37)
2)オットーサイクル(Otto cycle)
図 4.16 に示すオットーサイクルはガソリン機関のサイクルに相当しており、
各行程はつぎのような名称でよばれる。
- 107 -
A→B:吸入行程
B→C:圧縮行程
C→D:爆発行程
D→E:膨張行程
E→B:排気行程
B→A:排気行程
このとき、点 A から出発し A へと戻るこのサイクルの状態変化は、
A→B:等圧膨張変化
D
B→C:断熱圧縮変化
p
C→D:等積加圧変化
Q1 爆
発
D→E:断熱膨張変化
正味仕事W
E→B:等積減圧変化
B→A:等圧圧縮変化
と呼ばれる。さらに、各点の状態
量、すなわち、圧力、比容積、比
内部エネルギ、比エンタルピおよ
び絶対温度は一般につぎのよう
に表記される。
点A:( p A , v A , u A , hA , TA );
C
膨張
E
圧縮
排
気
A
吸入
Q2
B
v
図 4.16
オットーサイクル
点B:( p B , vB , u B , hB , TB );
点C:( pC , vC , uC , hC , TC );
点D:( pD , vD , u D , hD ,TD );
点 E:( pE , vE , u E , hE , TE )。
さて、ガソリン機関は、ガソリンと空気の混合気を圧縮し、その後火花点火
することによって動力を取り出している。その際にピストンは点 A から点 B の
間を移動する。点 B のピストン下死点(bottom dead center)BDC と点 A の 上
死点(top dead center)TDC の位置におけるシリンダ内部の容積比を圧縮比 
(compression ratio)という。この圧縮比はつぎのように定義される。
ピストン下死点時の体積 VB VE
圧縮比 


(4.38)
ピストン上死点時の体積 VC VD
なお、ガソリンエンジンで圧縮比は 10<  <12 程度であり、ディーゼルエンジ
ンでの圧縮比 18<  <20 よりも小さく設計されている。
最後に、オットーサイクルの熱効率ηはつぎのようになる。
  1
1

(4.39)
 1
ここで  は比熱比を表す。ちなみに、圧縮比   10 の空気機関における理論熱効
率 は   0.59 と な る 。 実 際 の ガ ソ リ ン 機 関 の 熱 効 率 は 現 在 の と こ ろ
30    45% 程度であり、エンジンの熱効率の改善が望まれている。
- 108 -
3)冷凍機の成績係数(coefficient of performance)COP
冷凍機では図 4.17 に示すように、低温側の熱量 Q2 を汲み上げ、高温側に熱量
Q1 を捨てる。そこで、冷凍機では前述の熱効率に相当する成績係数 COP をつ
ぎのように定義する。
Q
Q2
低温側から汲み上げた熱量
COP 
 2 
サイクルに使用された仕事量
W Q1  Q2
このように、冷凍機の場合は熱効率
とは呼ばないので注意すること。
p
Q1
なお、図において、高温側 AB から
次段の装置に送る熱量 Q1 を生成する
Q1
Q1  Q2
p=f1(V)
B
正味仕事
W
ことを主目的とする熱ポンプ(heat
pump) の 場 合 に は 、 そ の 成 績 係 数
COP は式(4.40)の分子の Q2 の代わ
りに Q1 を用いて、
成績係数 
C
(4.40)
A
p=f2(V)
D
Q2
(4.41)
V
図 4.17
と定義する。
冷凍サイクル
--------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.8.2 カルノーサイクルの熱効率の研究課題
1.図 4.15 に示されたカルノーサイクルの熱効率が   1  T2 T1  で与えられる
ことを以下の手順にしたがって証明せよ。課題の解決手順として、入熱 Q AB 、
出熱 QCD および正味仕事 W ABCD を求め、つぎの熱効率の定義

W ABCD Q AB  QCD
Q

1- CD
Q AB
Q AB
Q AB
p
A
を利用する。ただし、作動流体ガス
の質量を Gkg とし、仕事および熱量
はそれぞれ W  Gw 、 Q  Gq である
ことに注意する。
手順1:A→B の等温変化における仕事
W AB および入熱 Q AB は
?
W AB  GwAB 
?
Q AB  Gq AB 
等温変化T=T1
QAB
B
断熱圧縮
等温変化T=T2
C
v
図 4.15
- 109 -
断熱膨張
QCD
手順2:B→C の断熱膨張で取り出され
る仕事 WBC は
正味仕事W
D
カルノーサイクル
WBC  GwBC 
?
手順3:C→D の等温圧縮行程で、外部仕事 WCD および排出される熱量 QCD は
WCD  GwCD 
?;
QCD  GqCD 
?;
手順4:D→A の断熱圧縮行程で外部から供給すべき仕事 WDA は
?
WDA  GwDA 
手順 5:以下の熱効率の定義にしたがって
入熱-出熱 作動流体がした正味仕事

入熱
入熱
W
Q  QCD
Q
 ABCD  AB
1- CD
Q AB
Q AB
Q AB

(ただし、 QCD はこの場合正にとること。)
先に求めた入熱 Q AB および出熱 QCD および正味仕事 W ABCD を代入すると、
まず正味仕事 W ABCD は
WABCD  WAB  WBC  WCD  WDA 
?
であり、入熱 Q AB 出熱 QCD はそれぞれ
Q AB 
?
QCD 
?
であるから、カルノーサイクルの熱効率は
W
  ABCD 
Q AB

Q AB  QCD
Q
1- CD 
Q AB
Q AB
?
?
となる。
手順6:したがって、上の2式から比容積比が
- 110 -
vC v B

となることを証明すれば
vD v A
カルノーサイクルの熱効率  が   1 
T2
となることを証明できる。
T1
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.8.3 各種サイクルの研究課題
1.高温側熱源が 1000  C 、低温側熱源が 20  C で作動するカルノーサイクルの
理論熱効率はいくらとなるか。
2.圧縮比が   12 で設計されたガソリンエンジンを運転させたとき、熱効率は
いくらと推定されるか。ただし、比熱比は   1.4 と仮定する。
3.カルノーサイクルを理論的に実現する方法を述べよ。またそのサイクルが
実現不可能なことを工学的観点から考察せよ。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------4.9 エントロピ
いま、新しい状態量として
dq
( J /( kg  K ) )
(4.42)
T
という物理量を定義する。この物理量 s を比エントロピと呼ぶ。Gkg の気体に対
ds 
する全エントロピを大文字の記号 S で表せば、
dQ
(J /K)
dS  Gds 
T
(4.43)
となる。したがって、熱力学のいろいろな状態変化における熱量 dq または dQ は
dq  Tds
p
( J / kg )
;
dQ  TdS
(J )
T
点a ( p a , va , Ta , s a )
pa
(4.44)
等温変化 Ta  Tb
Q
Ta  Tb
点b( p b , vb , Tb , s b )
pb
点b
点a
入熱
Q=W
正味仕事W
v
va
vb
図 4.18
s
sa
エントロピ(T-S 線図)
- 111 -
sb
で求められる。一例として、P-V 線図における等温変化を T-S 線図上にプロッ
トすれば図に示されるように長方形の面積となる。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------☆4.9 エントロピの研究課題
1.等温変化は P-V 線図上では双曲線で表されることを説明せよ。
2.熱力学の第1法則から
dQ  dU  PdV ; dW  PdV
で、等温変化では内部エネルギの変化がなく dU  0 であるから dQ  dW 、つ
まり Q  W となることを説明せよ。
3.一方、エントロピの定義 dQ  TdS より、等温条件でこれを積分すれば、
W  Q  A dQ  A TdS  T A dS  T S B  S A 
B
B
B
となり、T-S 線図では、図のように熱量 Q が長方形で与えられること。
などを総合的に理解し、エントロピの効用について理解を深めること。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------第4章 総合演習問題
ガス定数
1.圧力 200kPa、温度 40℃の状態にある酸素 O2 の比容積はいくらか。ただし、酸素は理
想気体とみなし、酸素のガス定数は R  0.2598  10 ( J /( kg  K )) とする。
3
3
(解答: 0.407(m / kg) )
2.ある気体 1kg は、圧力 101.325kpa(1標準大気圧)、温度 30℃の状態で、 0.8m の体
3
積を占める。この気体のガス定数はいくらか。
(解答: 0.267(kJ /( kg  k ))
等圧比熱・等積比熱
3.ある理想気体1kg を容積一定のもとに、20℃から 100℃まで加熱するのに 837.2KJ を
要した。この気体の分子量を 2 として、等積比熱、等圧比熱を求めよ。
(解答:Cv  10.5(kJ /( kg  K )) 、C p  14.7(kJ /( kg  K ))
4.空気 10kg を 20℃から 800℃まで圧力一定のもとで加熱する場合、
(解答:1872kcal)
(1)必要な熱量
(2)内部エネルギの変化
(解答:1334kcal)
(解答:1872kcal)
(3)エンタルピの変化
を求めよ。ただし、空気を理想気体とみなし、等圧比熱は C p  0.24(kcal /( kg  K )) 、等
積比熱は Cv  0.171(kcal /( kg  K )) として計算すること。
5.ある理想気体が 2m のタンクに、圧力 200kPa 、温度 20℃の状態で入れられている。
3
- 112 -
この気体の圧力を 340kPa まで上げるにはどれほど熱量を加えなければならないか。
ただし、この気体のガス定数を R  0.46(kJ /( kg  K )) 、等積比熱を
Cv  1.40(kJ /( kg  K )) とする。
(解答:852kJ)
理想気体の各種状態変化

6.一定容積 2000 リットルのタンクに圧力 2kgf / cm 、温度 0 C の空気が入っている。こ
2

の空気の重量を求めなさい。また、この空気を 60 C に加熱する場合の圧力の増加およ
び加熱に要する熱量は何 kcal か。ただし、空気は理想気体とみなし、ガス定数および
等積比熱はそれぞれ、R  29.27(kgf  m /( kgf  K )) 、Cv  0.171(kcal /( kgf  K )) とす
る。(解答:空気の重量=5kgf、圧力の増加= 0.44(kgf / cm ) 、加熱量= 51.3(kcal) )
2

7.一定容積 500 リットルのタンクに圧力 300kpa、温度 120 C の酸素が入っている。こ
の酸素から、40kJの熱量を取り去ったら圧力はいくらになるか。ただし、酸素のガス
定数は R  0.2598(kJ /( kg  K )) とする。
(解答:268kPa)

8.空気 2kg を、圧力 400kPa、温度 400 C の状態から、等圧のもとで容積が 1/2 になる
までの加熱に要する熱量はいくらか。ただし、空気の等圧比熱は、
C p  1.005(kJ /( kg  K )) とする。
(解答:-675.4kJ)

3
3
9.初め容積 1m 、温度 25 C の状態のある気体を、等圧のもとで 4m に膨張させるにはい
くらの熱量を加えればよいか。またこの変化によって、この気体がする仕事量はいく
ら か 。 た だ し 、 気 体 の 等 圧 比 熱 は C p  0.837(kJ /( kg  K )) 、 ガ ス 定 数 は
R  0.2943(kJ /( kg  K )) とする。
(解答:263.1kJ)

10.空気 5kg を、圧力 200kPa 、温度 27 C の状態から、温度一定のもとに、圧力 1MPa
まで圧縮するのに必要な仕事量を求めよ。ただし、空気のガス定数は
R  0.2871(kJ /( kg  K )) とする。
(解答:-693kJ)
11.ある理想気体が、圧力 1MPa、容積 0.1m の状態から、等温膨張して容積が 4 倍にな
3
った。膨張後の圧力、この気体が外部になした仕事、外部から供給された熱量はそれ
ぞれいくらか。
( 解答:膨張後の圧力=250kPa、仕事量=138.6kJ、熱量=138.6kJ)
12.重さ 1kgf の空気を、圧力 1kgf / cm 、容積 2m の状態から、断熱的に圧力 10kgf / cm
3
2
2
まで圧縮するのに必要な仕事量を求めよ。ただし、空気の比熱比は   1.4 とする。
(解答:-46500kgf・m)

13.圧力 2kgf / cm 、容積 0.86m 、温度 20 C の空気を、圧力 20kgf / cm になるまで
2
3
2
断熱圧縮させた場合について以下を求めよ。ただし、空気の比熱比は   1.4 、ガス
定数は R  29.27(kgf  m /( kgf  K )) とする。
(解答:2.01kgf)
(1)使用している空気の重量
(2)断熱変化後の容積
(解答:0.166m3)
(3)断熱変化後の温度
(解答:567K、292℃)
- 113 -
(解答:-40000kgf・m)
(4)断熱変化による仕事量
(5)内部エネルギの変化量
(解答:93.7kcal)
14.図 4.16 に示されたオットーサイクルの熱
効率が圧縮比を  とするとき、  1 
1
  1
で与えられることを以下の手順にしたがっ
D
p
Q1
爆
発
て証明せよ。この演習課題の解決手順として、
正味仕事W
C
入熱 Q1  QCD 、出熱 Q2  QEB および正味仕
排
気
WBCDE QCD  QEB

Q CD
QCD
1
E
圧縮
事 WBCDE を求め、つぎの熱効率の定義

膨張
A
吸入
Q2
B
v
QEB
を利用する。ただし、作動流体
QCD
図 4.16 オットーサイクルの熱効率
の質量を Gkg とし、仕事および熱量はそれぞれ W  Gw ; Q  Gq であることに注意す
る。なお、図において吸入または排気行程 A→B、B→A の仕事は相殺されるのでここでは
考慮しないものとする。
手順1:B→C の断熱圧縮変化における仕事 WBC および入熱 QBC は
WBC  GwBC 
?
QBC  GqBC 
?
手順2:C→D の等積変化における仕事 WCD および入熱 Q1  QCD は
WCD  GwCD 
Q1  QCD  GqCD 
?;
?
手順3:D→E の断熱膨張変化で取り出される仕事 WDE は
WDE  GwDE 
?
手順4:E→B の等積変化における、外部仕事 WEB および排出される熱量 Q2  QEB は
WEB  GwEB 
Q2  QEB  GqEB 
?;
?
手順5:チェックのため B→A または A→B の等圧行程における仕事 W AB および WBA は
W AB  GwAB 
?; WBA  GwBA 
これより、 WAB  WBA  0 となることが確認される。
手順6:以下の熱効率の定義にしたがって
- 114 -
?
入熱-出熱 作動流体がした正味仕事

入熱
入熱
W
Q  QEB
Q
 BCDE  CD
1- EB
QCD
QCD
QCD

(ただし、 QCD はこの場合正にとる)
先に求めた入熱 Q1  QCD および出熱 Q2  QEB および正味仕事 WBCDE を代入すると、ま
ず正味仕事 WBCDE は
WBCDE  WBC  WCD  WDE  WEB 
であり、入熱 Q1  QCD 出熱 Q2  QEB はそれぞれ
?; Q2  QEB 
Q1  QCD 
?
?
であるから、オットーサイクルの熱効率は

WBCDE

QCD

?
QCD  QEB
Gc T  TB 
T  TB 
Q
1- EB  1- v E
 1 E
TD  TC 
QCD
QCD
Gcv TD  TC 
 1
TB TE TB  1
TC TD TC  1
(4.45)
となる。
手順7:続いて、圧縮比が  
vE vB

で与えられること。さらに、状態変化 B→C および
v D vc
D→E が断熱変化であることに注目して、式(4.45)に現れる温度 TD 、 TE 、 TC 、TB と比
容積 v D  vc 、v E  v B の関係を整理する。すなわち、断熱変化の状態方程式(4.32)から、
v 
TE  TD  D 
 vE 
 1
v
 TD  C
 vB



k 1
 TD  1
同様にして、B→C の断熱変化においては
TB 
?
手順8:手順7で得られた結果を式(4.45)へ代入すれば最終的にオットーサイクルの熱効
率は最終的に
  1
1

(4.46)
 1
となり、オットーサイクルの熱効率が式(4.46)で表されることを証明できた。
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