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資料1 阿蘇の草原とその再生に向けた背景
資料1 阿蘇の草原とその再生に向けた背景 ページ 1.阿蘇の草原とは ( 2) 国立公園に指定された、野草地を主体とする広大な草原 人の生業と共に維持されてきた千年の草原 入会地として牧野組合による管理を通じて維持 4タイプの草原には独自の生態系が成立 2.阿蘇の草原の価値 ( 7) 風景(観光資源)としての草原 農業・畜産業の場としての草原 文化を生み出す場としての草原 国土保全や水源涵養の機能を有する草原 生物多様性保全の場としての草原 3.阿蘇の草原維持をめぐる環境変化 (17) 農業形態・生活様式の変化 畜産業の低迷 牧野組合の状況変化 土地利用の変化 4.阿蘇の草原の変容と問題点 (27) 草原面積の減少・変容 草原生態系における多様性の低下 国立公園としての景観の損傷 国土保全や水源涵養機能の低下 5.地域別の草原を巡る現状と課題 (29) 地域の産業特性を踏まえた草原の保全・修復 野生動植物生息・生育環境の保全・修復 水源保全・国土保全に向けた草原・森林の再生 土地利用再編による草原維持管理負担の低減 草資源の循環利用の促進 6.草原保全を巡るこれまでの取り組み (32) 公的な保護管理や担い手への直接助成 広範囲の人々が維持管理を支えるしくみづくり 社会的関心・理解の獲得、地域内の合意形成 維持管理作業負担軽減のための基盤整備等 畜産振興を通じた牛による草原維持の継続 1 1.阿蘇の草原とは ■ 国立公園に指定された、野草地を主体とする広大な草原 阿蘇は中央部に阿蘇5岳がそびえ、その周囲に外輪山をめぐらし、東西 18 ㎞、南北 25 ㎞、周囲 90 ㎞に及ぶ世界最大級のカルデラ地形をなしており、その内外に広がる草 原が特徴ある景観となっている。この雄大な景観が評価され、1934 年に日本で最初の国 立公園に指定された。 阿蘇の草原は、自然の地形にススキやネザサなど元々この地方に生育する植物により 形成されている野草地が主体である。この野草地は、土地を造成し、栄養価の高い牧草 を播種して育てる改良草地とは性格が異なる。 阿蘇には概ね 14,000ha の野草地が存在する(H10 年)。全国の草原面積の3/4は人工 草地(改良草地)であり、野草を主体とした草原は約 40 万 ha である(出典:第4回自 然環境保全基礎調査)。その中で、阿蘇の野草地面積は群を抜いて大きい(第2位の山 口県秋吉台で約 4,000ha)。 ■ 人の生業とともに維持されてきた千年の草原 阿蘇の草原は人の手を加えず放置しておくと、遷移が進み森林になっていく。つまり、 平安時代から続くといわれる農・畜産のための放牧、採草、野焼きなど人間の関与によ り維持されてきた「半自然草原」である。また、農業だけでなく茅葺きのための萱や薪 の採取等の住民生活とも密着した、自然と人間との共生関係の中で築き上げられた人文 景観でもあり、千年の草原と呼ぶにふさわしい。 ■ 入会地として牧野組合による管理を通じて維持 阿蘇の草原のほとんどは集落ごとに定められた入会地であり、入会権者はそれぞれ 牧野組合を組織し、採草、放牧などに入会地を利用するとともに、野焼きや輪地切りな どの維持管理作業を行っている。H10 年現在、阿蘇郡には 175 の組合があり、入会権者は 約 10,000 戸となっている。 ■ 4タイプの草原には独自の生態系が成立 阿蘇の草原は農畜産業による維持管理形態の違いから、いくつかの質の異なる草原で 構成されている。草原のタイプによって景観や生育・生息する希少種なども異なる。 2 【データ・図表】 国道212号線 国立公園区域図 小国町 阿蘇くじゅう 国立公園 阿蘇地域 南小国町 やまなみハイウェイ ミルクロード 菊池阿蘇スカイライン 産山村 阿蘇スカイライン 阿蘇町 一の宮町 波野村 国道57号線 JR豊肥線 阿蘇有料道路 長陽村 南阿蘇鉄道 国道265号線 白水村 高森町 西原村 久木野村 蘇陽町 0 5 ∗ 10 熊本県阿蘇郡 国道218号線 Km 阿蘇のカルデラ地形 3 全国の草地面積の構成比 阿蘇くじゅう国立公園の草原 面積の構成比 ススキ 草原 24.2% 人工 草地 74.0% シバ 草原 1.8% 草原植生構成比 (全国との比較) 人工 草地 74.0% 資料:H5年度「第4回自 然環境保全基礎調査」 シバ 草原 1.8% ススキ 草原 75.9% 資料:「自然景勝地における農耕地・草 地の景観保全手法に関する調査報告書」 (財)国立公園協会 牧野面積の土地種別構成比 林地 1,945ha (8.5%) 改良草地 6,249ha (27.2%) 牧野総面積 22,955ha (100%) 野草地 14,761ha (64.3%) 牧野面積の植生別構成比 資料:1999「阿蘇郡牧野および牧野組合現況調査」 阿蘇の草原の歴史 (弥生時代) 720 年 (奈良時代) 905 年 (平安時代) 1633 年 (江戸時代) (明治後期ま で) 1906 年 (明治 39 年) (明治後期∼) この頃から阿蘇地方でも稲作が行われていたと推測されている。 日本書紀に阿蘇の草原に関する記述。 法律「延喜式」第二十八巻に阿蘇の牧野に関する記述。 原野入会制度である催合(もやい)が確立 草原の草は牛馬の飼料としての秣(まぐさ)と、水田の肥料としての刈敷(青 刈の草を緑肥として使う)として利用されていた。 阿蘇農学校で特産牛が導入(それ以前は役牛や馬が主流)。 開田が始まってから、田畑の耕起には牛が利用されトラクターの役割を果た した。農家では昔から、草は牛馬の飼料や肥料の生産材料として利用されて いた。 (大正時代∼) 油かすや大豆粕などの購入肥料が普及、戦後は化学肥料を使う近代農業が主 流となったため、水田と草原の密接な繋がりは弱くなった。 1934 年 阿蘇国立公園が指定。 (昭和9年) 1955 年 阿蘇山麓が集約酪農地域に指定。 (昭和 30 年) 1960 年 このころから拡大造林が盛んになる。 (昭和 35 年) 1991 年 牛肉・オレンジの自由化。 (平成3年) 現在 牛肉、乳用牛生産のための採草地、放牧地としての草原利用が主流となって いるが、畜産の低迷などに伴い、放牧頭数・草原面積は減少傾向。 5 <大区分> <管理方法による区分> <代表的な野生生物> 短草型草原 放牧地: 4月頃∼9月頃まで牛馬が放牧される。牛馬の摂食と踏圧のため草 丈は伸びず、シバなどの丈の低い植物ばかりになる。放牧牛の減少 に伴い現在は放牧地でもシバ地にならずに草丈が伸びているところ が多い。 シバ ネザサ オキナグサ ワラビ オオルリシジ ミ 長草型草原 採草地: 3月に野焼き、夏から秋にかけて草丈が伸び、9月中旬∼10月下旬に刈 り取り。農家によっては牛に与えるため6月∼8月に朝刈りを行って いた。秋に刈り取った草は「草小積」に積み上げられ冬の飼料とな る。刈り取られた場所は燃える草がないので、翌春は野焼きの対象 にはならない。刈り取られた草は根に栄養が貯まっていないので、 夏になっても草丈が伸びない「古野」となる。古野は刈り取り対象に ならないので、草は根に養分を蓄えることができる。次の年の春は 野焼きだけが行われる。現在は採草の必要性が低下して放棄地が増 え、毎年野焼きだけされるため、茅野になりつつある所もある。 ススキ ネザサ ヤマハギ チガヤ オミナエシ タマボウキ ハナシノブ ヒゴダイ ヤツシロソウ ツクシマツモ ト 茅野: ススキ収穫のために管理する草原。養分が地下部に移動して、完全 に木質化した地上部を正月過ぎに刈り取るので、翌年も大きく生長 ススキ して他の植物を圧倒し、ススキの密生地となる。現在は茅葺きの家 がほとんど無く、茅野として利用する所はほとんどない。ただ、毎年 野焼きだけをする結果、茅野と同じ状態になる所が増えている。 湿地性植物群落: 多雨地帯の阿蘇地域では北外輪山の草原のくぼ地に小さな湿地が点 在し、他のタイプの草原ではほとんど見ることのできない植物が多 く生育している。かつて大規模な湿地草原が阿蘇谷に存在したが、 圃場整備等で失われ、現在は分布域が限られている。 改良草地 チゴザサ ヒメシダ モウセンゴケ サギソウ ツクシフロウ ヒゴシオン 原野を改造して栄養価の高い牧草を育てる場所。単一の作物を育て るため「畑」の概念に近く生物の多様性も低い。北米原産で低温でも クローバー 育つ種が多く、春は早くから緑色になり、秋も遅くまで緑色をしてい オーチャード る。ここでは放牧だけでなく採草も行われている。輪地切り省力化 グラス のための、グリーンベルトとして造成する所も出てきている。 阿蘇の草原タイプと維持管理方法 6 2.阿蘇の草原の価値 阿蘇の草原は、次のような様々な価値を有している。 風景(観光資源)としての 草原 農業・畜産業の場としての 草原 文化を生み出す場としての 草原 阿蘇の草原の価値 生物多様性保全の場として の草原 国土保全や水源涵養の機能 を有する草原 ■ 風景(観光資源)としての草原 国立公園としての阿蘇の魅力は、世界最大級のカルデラ地形とその内外に広がる草 原景観にある。阿蘇は熊本県を代表する観光地として、年々観光客数が増加しており、 平成 13 年には年間約 1800 万人の観光客が訪れている。 草原景観は阿蘇のイメージとして定着しており、観光客の多くが阿蘇の草原景観に 魅力を感じており、草原は熊本の観光を支える大きな要因となっている。 ■ 農業・畜産業の場としての草原 阿蘇では、火山灰土壌、高冷地という条件下で農業が営まれ、採草・放牧などの草 地利用は水田耕作や畑作と密接に結びついていた。 現在、阿蘇は日本でも有数の肉用牛生産基地であり、草原は採草・放牧地として畜 産を支える基盤となってきた。平成 13 年における阿蘇郡の農業粗生産額では、肉牛は 全体の約2割を占め、米、野菜に次ぐ農畜産物となっている。 なお、町村別に農業粗生産額の品目別割合をみると、大きな水田地帯を抱える一の宮 町、阿蘇町、白水村、久木野村、長陽村では米の割合が高く、それ以外の町村は野菜、 畜産の割合が高い。肉用牛に限ってみると、南小国町を筆頭に西原村、産山村などで割 合が高い。 ■ 文化を生み出す場としての草原 1000 年に及ぶ牧野利用歴史は、野焼き、盆花取り、干し草刈り、草小積みなど生業や 生活にとって不可欠な営みを草原と結びつけ、地域固有の文化を生み出した。草原は自 然と人との共生の文化の象徴であり、身近なふるさとの原風景ともいえる。 また、阿蘇の自然は小説、随筆、短歌など文学作品にも数多く取り上げられ、その 規模の大きさ、果てしない広がり、柔らかさなど、奥深く多様な風景が描かれている。 7 ■ 国土保全や水源涵養の機能を有する草原 阿蘇の草原は九州中・北部における6本の一級河川の源流にあたり、流域住民の飲 み水に直結している。6河川の流域面積は約 9,000km2、流域人口は約 225 万人で、九州の 人口の1/6にあたる。 草原は火山性土壌に適した植被とされ、草原が荒れると「霜崩れ」という土砂流出 や崩壊が起こる危険性が高くなる。 ■ 生物多様性保全の場としての草原 阿蘇の野草地には、阿蘇だけにしか生育していないハナシノブなど日本の北方から 南下してきた植物、ヒゴダイ、ツクシマツモトという九州が大陸と陸続きであったこと を物語る植物などが存在するほか、草原特有の野鳥や昆虫等の動物も生息する生態系を 形づくっている。氷河期が終わり、全国で森林化が進むなか、火山周辺など限られた場 所だけに草原が残り、有史以降は火入れなど人の営みによってそれが維持されてきたの である。 阿蘇における植物の分布種は約 1,600 種といわれ、これは県内分布種の約 70%にあた る。また、阿蘇は森林と草原の両方の自然環境に恵まれていることから、豊富な種類の 鳥類(150 種)やチョウ類(105 種)が見られる。阿蘇は草原性チョウ類の宝庫と言われ ている。 8 【データ・図表】 ■ 風景(観光資源)としての草原 阿蘇地域への観光客数は年々増加しており、平成 14 年には 1,800 万人を超えた。観光の形態 としては日帰り客が多く、居住地別では県外客の方がやや多いものの、県内客も多く、県内 外の人々に親しまれている観光地だといえる。 (単位:千人) 地域別観光客数の推移(阿蘇地域には小国郷地域を含む) 20,000 15,000 阿蘇地域 熊本市圏 天草地域 10,000 玉名・荒尾地域 菊池地域 宇城地域 人吉・球磨地域 5,000 0 平成 6年 平成 7年 平成 8年 平成 9年 平成 10年 平成 11年 平成 12年 平成 13年 資料:熊本県観光統計調査 (千人) (千人) 阿蘇郡内観光客数の推移(日帰り・宿泊別) 阿蘇郡内観光客数の推移(県内客・県外客別) 20,000 20,000 18,000 18,000 16,000 16,000 14,000 14,000 宿泊 県外客 12,000 12,000 10,000 10,000 日帰り 平 成 13年 平 成 12年 平 成 11年 平 成 10年 平 成 9年 平 成 8年 9 平 成 7年 0 県内客 平 成 6年 0 平 成 13年 2,000 平 成 12年 2,000 平 成 11年 4,000 平 成 10年 4,000 平 成 9年 6,000 平 成 8年 6,000 平 成 7年 8,000 平 成 6年 8,000 阿蘇の草原風景は、観光客にとって大きな魅力となっている。 阿蘇でいいと感じた風景 0 20 40 (%) 60 80 草原が広がる風景 77.2 山の連なりやカルデラの風景 50.5 37.7 牛馬のいる放牧風景 水源や渓谷などの風景 23.1 森林の風景 20.2 火口や噴煙などの風景 20.0 田園や農山村の風景 11.3 花やチョウなどの野生生物のある風景 11.1 寺社や古墳などのある風景 1.6 その他 2.4 不明 100 1.1 資料:H13 草原景観に関するアンケート調査結果より 観光客が評価する阿蘇でいいと感じた風景 ■ 農業・畜産業の場としての草原 阿蘇地域の産業分類別就業者人口は、農業とサービス業で就業者人口の約5割を占めている。 林業 第1次産業 9,286人 第2次産業 8,819人 漁業 農業 製造業 鉱業 建設業 金融・保険業 運輸・通信業 第3次産業 20,711人 0 5000 不動産・電気・ガス 熱供給・水道業 卸売・小売業、 公務 飲食店 サービス業 10000 15000 20000 就業者総合=38,816人(「分類不能の産業」含む) 阿蘇郡の産業分類別就業者人口(平成 13 年) 10 (国勢調査) 阿蘇地域の農業粗生産額は平成 13 年で 297 億円であり、品目別では①米、②野菜、③肉牛の 順となっている。肉牛は農業粗生産額の 19%を占めているが、その割合は県(7%)、全国 (5%)に比べ大きな値となっている。 その他 1% 農 業 粗 生 産額 の 品 目 別構 成 鶏 4% 豚 10% 4% 4% 8% 乳用牛 7% 2% 25% 6% 8% 米 27% 17% 5% 3% 9% 阿蘇郡 297億円(外) 熊本県 3,358億円(中) 全国 92,574億円(内) 7% 5% 5% 麦・豆・いも類 4% 4% 6% 5% 肉用牛 19% 4% 23% 8% 32% 10% 野菜 22% 花き 3% 工芸農作物 2% 果樹 1% (平成 13 年農林水産統計年報 ) 町村別の農業粗生産額は阿蘇町、一の宮町、西原町などの順になっている。畜産の割合が高 いのは西原町、南小国町、一の宮町など。 (千万円) 600 阿蘇における町村別農業粗生産額(平成13年) 500 400 300 畜産 200 農産品 100 西原村 長陽村 久木野村 白水村 高森町 蘇陽町 波野村 産山村 小国町 南小国町 阿蘇町 一の宮町 0 資料:農林水産省統計情報部 「生産農業所得統計」 11 町村別農業粗生産額の品目別割合をみると、大きな水田地帯を抱える一の宮町、阿蘇町、白水 村、久木野村、長陽村では米の割合が高く、それ以外の町村は野菜、畜産の割合が高い。肉用 牛に限ってみると、南小国町を筆頭に西原村、産山村などで割合が高い。 阿蘇における農業粗生産額の農畜産品別割合(平成13年) 0 10 20 30 17.3 県 阿蘇郡 50 60 32.8 26.6 一の宮町 40 10.7 15.9 3.9 90 7.0 100 (%) 18.0 18.6 21.6 10.4 48.4 阿蘇町 80 24.8 22.4 32.9 70 37.0 19.6 8.5 11.1 12.4 米 南小国町 12.6 20.7 小国町 17.3 産山村 16.1 波野村 1.2 4.4 39.5 21.7 32.5 蘇陽町 58.9 1.5 9.0 4.2 32.7 25.2 13.9 18.7 3.3 32.9 16.3 24.2 野菜 その他 農産物 36.1 23.6 8.2 25.3 肉用牛 高森町 28.9 14.1 白水村 41.6 久木野村 50.5 長陽村 51.2 西原村 18.8 7.4 7.4 20.6 18.8 28.2 19.5 13.9 23.9 20.9 27.0 15.8 19.3 5.8 18.6 0.5 6.4 0 3.5 37.6 資料:農林水産省統計情報部 「生産農業所得統計」 12 その他 畜産物 ■ 文化を生み出す場としての草原 8月、月遅れのお盆の時期に行われる盆花採りについて、牧野組合員の方々を対象に行ったア ンケート調査(H13)では、 「盆花採りの習慣があった」のは8割、 「現在でも風習が残ってい る」のは3割以上となっている。 盆花採りの習慣の有無 もともと習慣 がない 15% 不明 3% 採りに行って いる 32% 昔は行ったが 今は行かない 50% 資料:H13 草原景観に関するアンケート調査結果より 【草の道】 −人と牛馬が一体となって草を運んだ 石畳の坂道はふるさとの文化遺産。 阿蘇谷の集落と外輪山上の草原を結ぶ 坂道。外輪山上の草を放牧や採草で利用 するには、牛馬も人もこの急な坂道を越 えなければならなかった。北外輪山の崖 を伝う坂道は一の宮町だけでも25を 越える。 資料:一の宮町史 「草原の人々の営み」より 13 n=1324 ● 阿蘇が描かれている文学作品の例(明治以降) 1. 小説、随筆、紀行文等 作者名 阿蘇 惟友 阿部 荒木 井出 伊藤 今西 内田 梅崎 公房 精之 孫六 信吉 祐行 百聞 春生 書名・作品名 阿蘇に生きる 阿蘇に祷る 阿蘇の詩 砂漠の思想 波野高原 峠を歩く 詩のふるさと 肥後の石工 第二阿房列車 てんしるちしる 幻化 北原 甲斐 白秋 弦 吉良 敏雄 国木田 独 歩 小杉 放庵 沢野 久雄 高浜 虚子 高群 逸枝 竹崎 有斐 檀 一雄 徳富 蘇峰 徳富 蘆花 五足の靴 高志さんは帰って来 ない 鴨猟 忘れ得ぬ人々 徳永 直 永松 定 阿蘇山 黒い輪 黎明期 満願時物語 夏樹 静子 喪失 夏目 漱石 二百十日 鶉籠 葦平 久弥 竜一 清張 花扇 日本百名山 砦に拠る 山峡の章 青春の彷徨 丸木 水上 村上 安永 山内 横光 吉川 吉田 正臣 勉 元三 蕗子 謙吾 利一 英治 優子 詩 作者名 伊藤 直臣 大重 春二 緒方 昇 落合 直文 北川 冬彦 草野 心平 蔵原 伸二 郎 谷川 雁 野田 宇太 郎 松永 伍一 三浦 清一 書名・作品名 阿蘇 阿蘇変幻 阿蘇 孝女白菊の歌 阿蘇 阿蘇山 詩集 乾いた路 詩集 岩魚 阿蘇 阿蘇にて 1 阿蘇にて 2 わが阿蘇 阿蘇は今日も荒れ ている 大阿蘇 艸千里浜 母しゃんの子守唄 絵ごよみ 鎮西八郎為朝 風やまず 線路工夫 支那海雑信 随筆宮本武蔵 夕すげ 4.俳句 俳人の名前を以下に挙げる。 3. 短歌 歌人の名前を以下に挙げる。 青木 月斗 赤星 水竹居 安部 小壺 池内 たけし 伊藤 信吉 河東 碧梧桐 熊谷 正蜂 後藤 是山 笹原 耕春 佐藤 蓼々子 高野 素十 高浜 年尾 種田 山頭火 中村 汀女 夏目 漱石 野見山 朱鳥 藤崎 久を 宮部 寸七翁 山口 誓子 吉岡 禅寺洞 吉武 月二郎 太田 水穂 尾上 柴舟 鹿児島 寿蔵 北原 白秋 黒木 伝松 斎藤 史 佐々木 信綱 釈 迢空 清井田 由井子 宗 不旱 土屋 文明 中島 哀浪 中村 憲吉 野口 雨情 宮 柊二 安永 蕗子 結城 哀草果 与謝野 晶子 与謝野 鉄幹 吉井 勇 若山 牧水 資料: 「熊本近代文学館・総合案内」 「阿蘇の文学」 阿蘇の司ビラパークホテル 発行 「阿蘇」 荒木精之著 第 4 回熊本県民 文化祭阿蘇実行委員会発行 「文学のふるさと 熊本にお ける近代文学散歩」 熊本日日新聞社発行 「くまもと文学百景」 平山謙二郎著 熊本日日新 聞社発行 「平成 4 年度熊本大学放送公開 講座 熊本の文学Ⅱ」 「くまもと文学紀行」 熊本県高等学校教育研究会 国語部会発行 三好 達治 注 アイウエオ順 作者名 である。 阿蘇紀行 九州横断道路 小国 娘巡礼記 花吹雪のごとく 火宅の人 阿蘇の煙 数鹿流の瀧 青山白雲 火野 深田 松下 松本 2. 14 ■ 国土保全や水源涵養の機能を有する草原 阿蘇の草原は九州中・北部における6本の一級河川の源流にあたり、流域人口は約 225 万人で、 九州の人口の1/6にあたり、水源涵養の場として重要な位置を占める。 阿蘇の位置と河川図 阿蘇を源流とする6河川の概要 河川名 大野川 五ヶ瀬川 緑川 白川 菊池川 筑後川 合計 流域面積(km2) 延長(km) 流域内人口(人) 1,465 107 201,000 1,820 106 140,000 1,100 76 500,000 480 74 130,000 996 71 220,000 2,860 143 1,064,000 8,721 577 2,255,000 資料:国土交通省河川局HP「日本の川」 (H15.10月現在) 15 源流 産山村、波野村、久住町 蘇陽町 西原村 阿蘇町、一ノ宮町 旭志村 小国町、南小国町 ■ 生物多様性保全の場としての草原 県では、阿蘇において特に希少な野生動植物を「特定希少動植物」として指定し、また、特に すぐれた自然環境を保全するため、「自然環境保全地域」等として指定している。 ●特定希少野生動植物種及び保護区(平成15年4月1日現在) 特定希少野生動植物種 特定希少野生動植物保護区 動植物名 指定年月日 所在地 指定年月日 面積(㎡) 波野村 3,350 ハナシノブ 高森町 ツクシマツモト 9,553 平成3年11月22日 平成3年11月22日 ヤツシロソウ 波野村 18,250 ヒゴタイ 植 物 サクラソウ ヒゴシオン ツクシフウロ オグラセンソウ ヒロハトラノオ ツクシクガイソウ ヤツシロソウ オオルリシジミ 昆 虫 モートンイトトンボ オオタイガハラサン 両生類 ショウウオ 植物10種、昆虫2種、両生類1種 平成5年3月29日 一の宮町 平成5年3月29日 南小国町 平成8年3月27日 平成3年11月22日 高森町 白水村 蘇陽町 平成9年3月19日 約100,000 68,700 平成8年3月27日 平成4年8月10日 38,000 13,357 1,625 平成9年3月19日 高森町 2,093,104 県自然保護課 ●自然環境保全地域等(平成15年4月1日現在) 区域 地域名称 面 積 概 況 指定年月日 1.57ヘク タール(う 熊本県自然 波野村スズ ち特別地 九州で野生のスズランが見られるのは珍しく、 昭和51年4月24日 環境保全地 ランの群生 区・野生動 約5万株が群生していることが確認されてい 域 地 植物保護地 る。 区0.1ヘク タール) 1.50ヘク 久木野村林 タール(区 吉野桜、シダレ柳、梅、イチョウ、ヒマラヤ 道地蔵線周 間距離 シーダ、桃等の樹木600本を植栽し、「ふるさ 昭和48年4月21日 辺 2,300メー との路」を形成している。 郷土修景美 トル) 37.50ヘク 化地域 タール(区 約6,000本の桜は「高森峠の千本桜」と言わ 高森町高森 れ、峠からの南郷谷・阿蘇五岳の展望はすばら 昭和48年4月21日 間距離 峠 6,000メー しい。「九十九曲り」の別名を持つ。 トル) 県自然保護課 16 3.阿蘇の草原維持を巡る環境変化 以上のような特徴と価値を有する阿蘇の草原ではあるが、次のような環境変化により、 近年、草原の維持が困難な状況を迎えている。 ■ 農業形態・生活様式の変化 かつて、採草した草は水田の肥料の生産材料として利用されていたが、大正時代に は油かすや大豆粕などの購入肥料が普及、戦後は化学肥料を使う近代農業が主流となっ たため、水田と草原の密接な繋がりは弱くなった。もちろん、農業以外に採草した草は 飼育牛の冬場の飼料となるが、飼育頭数は減少傾向にある。そのため、採草の需要も減 っており、採草が放棄された草原で、毎年、野焼きだけを行う場合は、茅野(ススキの 密生地)になりつつある所もある。 また、茅野自体、かつては茅葺きの家があったため、ススキを刈り取る需要があっ たが、現在はほとんど利用されていない。 このように、農業や暮らしを通じた自然資源の循環プロセスが断たれることにより、 草原は減少や変容を余儀なくされている。 ■ 畜産業の低迷 平成3年の牛肉の輸入自由化に伴い牛肉の輸入量が増加し、その影響から牛肉・子 牛価格が低迷、飼育戸数・頭数、生産所得が減少している。このため生産意欲の減退や 畜産業からの撤退が続き、生産基盤としての草原の管理が手薄になっている。また、飼 料としての採草需要の減少に加え、牛の放牧圧が減少することにより、放牧地であって も短草型のシバ地にならず草丈の伸びているところが増えてきている。 ■ 牧野組合の状況変化 阿蘇の牧野組合では、かつて入会権者全員が牛馬を飼っていた時代もあったが、前 述のような農業形態・生活様式の変化や畜産業の低迷等を背景に、現在は入会地を利用 しない無畜農家や非農家が多くなっている。加えて、農家の高齢化や後継者不足が進み、 野焼きや輪地切りなど採草・放牧以外にも人手をかけて行なわれてきた草原維持管理作 業が困難となってきた牧野組合が増加している。 ■ 土地利用の変化 阿蘇の牧野組合では、昭和 30∼40 年代に草地改良事業が進み、この時期に現在の改 良草地面積にほぼ近い面積が整備された。同じく、昭和 30∼40 年代に牧野組合ごとに 盛んに植林が行なわれ、人工林地が拡大しただけでなく、多くの牧野で草原との間に複 雑な境界線が出現した。このため結果的に輪地切り必要延長が増え、草原維持管理のた めの負担が増大することになった。 17 【データ・図表】 ■ 阿蘇の草原維持を巡る環境変化を捉える前提としての人口等の推移 阿蘇郡の総人口は約 76,000 人(平成 12 年国勢調査)であり、その推移をみると昭和 30 年をピ ークとして減少傾向にある。 160000 160 阿蘇郡 140000 140 阿蘇郡 熊本県 120 全国 100000 100 80000 80 60000 60 40000 40 20000 20 0 人口増減(指数) 人口数(人) 120000 0 昭5年 昭10年 昭15年 昭25年 昭30年 昭35年 昭40年 昭45年 昭50年 昭55年 昭60年 平2年 注)人口増減(指数)は昭和30年を100としたもの 平7年 平12年 資料:国勢調査 阿蘇郡の人口推移 高齢化が進む傾向にあり、高齢化率は 27%(平成 12 年国勢調査)。 阿蘇郡の年齢3階級別人口構成比の推移(%) 0% 平成2年 20% 18.9 平成7年 16.6 平成12年 14.4 40% 60% 62.6 80% 100% 18.5 22.9 60.5 年少人口 生産年齢人口 老年人口 27.2 58.4 資料:国勢調査 18 熊本県全体と比較して約6ポイント、全国と比較して約 10 ポイント高齢化が進んでいる。また、 町村によってその状況が異なる。 年齢3階級別人口構成比の比較(平成12年)(%) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 全国 14.6 熊本県 15.5 阿蘇郡 14.4 一の宮町 15.5 阿蘇町 13.9 59.0 27.1 南小国町 15.3 55.4 29.4 小国町 15.5 55.9 28.6 産山村 14.5 57.1 28.3 波野村 14.4 54.7 30.9 蘇陽町 12.4 56.7 30.9 高森町 白水村 21.3 58.4 27.2 59.2 12.6 14.9 25.3 56.3 28.8 59.1 28.3 58.0 11.8 西原村 17.4 63.2 14.9 久木野村 長陽村 68.1 27.1 65.1 16.0 年少人口 生産年齢人口 老年人口 23.1 60.2 23.8 資料:国勢調査 産業分類別就業者人口割合の推移を見ると、第1次産業から第2・3次産業へ大きくシフトす る傾向にある。 阿蘇郡の産業3類別就業者構成比の推移(%) 0% 20% 平成2年 平成7年 平成12年 60% 17.6 42.8 昭和55年 昭和60年 40% 19.3 38.6 22.1 32.5 26.8 23.9 80% 39.7 42.1 45.4 23.9 100% 第1次産業 第2次産業 第3次産業 49.3 22.7 53.4 資料:国勢調査 19 ■ 畜産業の低迷 平成3年に牛肉の輸入自由化がなされて以来、我が国の牛肉輸入量は年々増加している。 わが国における牛肉輸入量の推移(全国) (単位:千トン) 800 700 600 500 400 300 200 100 0 平成 2年 平成 5年 平成 6年 平成 7年 平成 8年 平成 9年 平成 10年 平成 11年 平成 12年 資料:大蔵省「日本貿易統計」 20 年度 平成3年の牛肉輸入自由化以降、国産牛肉価格、子牛価格は低迷している。 (単位:円/kg) 牛枝肉価格の推移(大阪市場) 3,000 2,500 2,000 和牛去勢A5 和牛去勢A4 1,500 和牛去勢A3 和牛去勢A2 1,000 500 0 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 年 資 料 :農 林 水 産 省 「食 肉 流 通 統 計 月 報 」「畜 産 物 市 況 速 報 」 (単位:千円) 熊本県における子牛価格の推移 500 400 300 褐毛和種子牛 黒毛和種子牛 200 100 0 平成 3年 平成 4年 平成 5年 平成 6年 平成 7年 平成 8年 平成 9年 21 年 平成 平成 平成 10年 11年 12年 資料:県畜産課調べ 阿蘇の草原で放牧をしているのは肉牛繁殖用の雌牛が中心だが、昭和 50 年からの推移をみると 飼育農家戸数・頭数は大きな減少傾向にあり、平成 13 年は飼育農家 1,354 戸(昭和 50 年との比較 では 83%減、以下同)、飼育頭数 8,968 頭(52%減)となっている。なお、一戸当たりの飼育頭数 は徐々に増加する傾向にあり、昭和 50 年の 2.3 頭に対し、平成 13 年は 6.6 頭である。 阿蘇郡の肉専用繁殖成雌牛の飼育農家戸数・頭数の推移 10000 20000 戸数 頭数 16000 6000 12000 4000 8000 2000 4000 0 頭数(頭) 戸数(戸) 8000 0 昭50年 昭55年 平2年 平5年 平6年 平7年 平8年 平9年 平10年 平11年 平12年 平13年 資料:熊本県畜産統計 阿蘇郡の肉専用繁殖成雌牛の飼育農家一戸当り頭数の推移 8 6.6 一戸当り頭数 6 4.4 4.6 4.7 平6年 平7年 5.0 5.2 5.5 5.8 6.1 3.9 4 2.8 2.3 2 0 昭50年 昭55年 平2年 平5年 平8年 平9年 平10年 平11年 平12年 平13年 資料:熊本県畜産統計 22 一方、肥育牛については平成 13 年で飼育農家戸数 88 戸であり、肉牛繁殖用雌牛の飼育農家に 比べ数が少ない。しかし、飼育頭数約 21、000 頭、一戸当たり飼育頭数 241.5 頭と大規模経営化が うかがえる(昭和 50 年の一戸当たり飼育頭数は 19.1 頭)。 25000 200 20000 戸数 頭数 150 15000 100 10000 50 5000 0 頭数(頭) 戸数(戸) 阿蘇郡の肥育牛飼育農家戸数・頭数の推移 250 0 昭50年 昭55年 平2年 平5年 平6年 平7年 平8年 平9年 平10年 平11年 平12年 平13年 資料:熊本県畜産統計 阿蘇郡の肥育牛の飼育農家一戸当り頭数の推移 300 241.5 250 220.5 198.5 一戸当り頭数 200 188.0 205.1 194.7 185.3 172.8 151.0 137.3 150 100 39.7 50 19.1 0 昭50年 昭55年 平2年 平5年 平6年 平7年 平8年 平9年 平10年 平11年 平12年 平13年 資料:熊本県畜産統計 23 阿蘇郡における肉用牛の生産農業所得の推移をみると、平成3年の牛肉輸入自由化以来、低迷 している。 (単位:1000万円) 阿蘇郡における肉用牛の生産農業所得の推移 1200 1000 800 600 400 200 0 昭.62 昭.63 平.元 平.2 平.3 平.4 平.5 平.6 平.7 平.8 平.9 平.10 平.11 平.12 年 (1987) (1988) (1989) (1990) (1991) (1992) (1993) (1994) (1995) (1996) (1997) (1998) (1999) (2000) 資料:農林水産省「生産農業所得統計」 ■ 牧野組合の状況変化 牧野組合の入会権者戸数に占める農家戸数の割合は 67%だが、有畜農家に限ると全体の 18%に 過ぎず、畜産を通じて阿蘇の草原にかかわる入会権者が限られてきている。 入会権者に占める農家、有畜農家の割合 有畜農家数 1,825戸 (18%) 非農家数 3,381戸 33% 入会権者数 10,198戸 (100%) 農家戸数 6,817戸 67% 非畜農家数 4,989戸 (82%) 資料:1999「阿蘇郡牧野および牧野組合現況調査」 24 牧野組合による草原維持管理現状況をみると、「維持管理が比較的問題がない」牧野は 175 牧野 中 21 牧野(12.0%)に過ぎず、 「現在維持管理を中止している牧野」が 22 牧野(12.6%)あるほか、 維持管理が「困難になるおそれがある」「困難になりつつある」「困難になる兆しのある」牧野 が多くを占め、将来における草原の維持管理が危惧される。 牧野組合による草原維持管理現況 1.7% 7.4% Ⅰ:維持管理の中止が 危惧される牧野(3) 12.6% Ⅱ:維持管理が困難になる おそれのある牧野(54) 30.9% Ⅲ:維持管理が困難に なりつつある牧野(32) 牧野数 175 12.0% Ⅳ:維持管理が困難になる 兆しのある牧野(30) Ⅴ:維持管理が比較的 問題ない牧野(21) Ⅵ:現在維持管理を 中止している牧野(22) 17.1% Ⅶ:現況が把握できて いない牧野(13) 18.3% ※()内の数字は牧野数 資料:環境省「平成13年度国立公園草原景観 維持モデル事業報告書」 注) 牧 野 組 合 の 草 原 維 持 管 理 状 況 の 評価は、「阿蘇郡牧野および牧野組合現況調査・カルテ編 1999:(財)阿蘇グリーンストック」をもとに、「輪地切り出役者平均年齢」と「一人当たり輪 地切り面積」の相対評価を5段階で行い、その組み合わせによった。 牧野組合による草原維持管理現況の評価 輪地切り出役者平均年齢相対評価(才) 1 2 3 4 5 57∼70 55∼56 51∼54 50 40∼49.6 1 一人当たり 2 輪地切り面 3 積相対評価 (㎡/人・日) 4 5 1,963∼13,461 1,031∼1,819 558∼1,021 314∼540 50∼307 Ⅰ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ 25 Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅳ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅴ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅴ 4.阿蘇の草原の変容と問題点 前述のような阿蘇の草原維持を巡る環境変化に伴い、阿蘇の草原も変容し、明治・ 大正期、昭和 20 年代、現代で比較すると、荒れ地(草原)は大きく減少してきている。 ◇土地利用から見た阿蘇の原野の変遷 原野 ○明治・大正期 ○昭和 20 年代 ○現代 阿蘇山は火口部と根子岳山 頂以外は一面の荒れ地。外輪 山の外側にも荒れ地が広が っている。 阿蘇山周辺の荒れ地が白水 村、長陽村の南斜面や火口 部、根子岳、杵島岳、高嶽山 頂部を中心に樹林化。外輪山 でも北側・西側は変化しない が、南側では荒れ地が大きく 減少。 阿蘇山の荒れ地。外輪山の外 側にも荒れ地はさらに減少 し、火口の中心部から1㎞∼ 4㎞の圏域に島状に樹林地 を含みながら荒れ地が残っ ている。 このような草現面積の減少や荒廃は、次のような問題を生じることになる。 ● 草原生態系における多様性の低下等 ・ 世界でも数少ない広大なネザサ・ススキ群落の縮小 ・ 植林地が増え植生が単純化 ・ 野焼きや採草で生育環境が維持されていた希少植物に象徴される多様 性が低下 ● 国立公園としての景観の損傷 ・ 放置され藪化することにより広大な草原景観が変質 ・ 草原によって形成されてきた阿蘇のイメージが変化 ● 国土保全や水源涵養機能の低下 ・ 草原が放置されることにより、火災や土壌崩壊の危険性が増大 ・ 手入れの行き届かない植林地が増え、保水機能の低下や崩落の危険性 が増大 27 原 因 生活形態の変化 畜産業の低迷 農業従事者の減少・高齢化 野草地・茅場等の必要性減少 牛肉輸入自由化・価格の低 後継者不足・兼業化 改良草地の拡大 植林地の拡大 火入れ・採草等の 現 管理の低下 状 草原管理阻害要因の増加 ・ 植林地の点在 ・ 不要工作物の放置 ・ 現 象 国立公園としての景観の劣化 草原面積の減少・草原の変容 草原生態系における生物多様性低下 阿蘇の草原の現状 (例)草原の維持管理の放棄による植生の変化等 「H12∼13 国立公園内草原景観維持管理モデル事業」において草原の変化を把握する ケーススタディ(現地調査、空中写真による調査)を実施したが、維持管理が放棄さ れた草原では、次のような状況がみられた。 ●草原の中に道がない ・以前は草原内でも地図上に道があれば目的地へたどり着くことができたが、舗装 されている道路でも周辺が藪に覆われて、車でさえ通れないものが出現。 ●草原の中を歩けない ・草原が藪化して、ノイバラなどトゲのある植物が繁茂し、まったく歩けない状態。 ●草原に花がない ・藪化が進み、草原性植物が消失。 ・人為的管理がされている地域であっても、野焼きのみを行っている草原ではスス キの勢力が強くなり、他の植物が生育できず、草原に依存した動物の成育にも影 響を与えている。 (例)箱石峠周辺:野焼きのみの管理により、コジュリンの生息環境が悪化。ま た、オオルリシジミの食草であるクララがススキに覆われて減少。 28 5.地域別の草原を巡る現状と課題 ■地域別の現状 ○北外輪山地域 <景観・生物多様性> ・北外輪山上の広大な草原景観は阿蘇を代表する景観である。 ・筑後川・菊池川源流域であり、水源地域として重要な地域であるとともに、端辺原野 に多くみられる湿地とその周辺の草原は、阿蘇固有の湿地性動植物の生育生息の場と なっている。 ・外輪壁の急傾斜地はスギ・ヒノキの植林地化が進み、管理が不十分な箇所での災害発 生が懸念される。 ・かつての酪農団地の廃屋などは景観阻害要因となっている。 <草原維持・管理> ・ほとんどは牧野組合が管理する入会地であるため、まとまりのある草原が分布してい るが、樹林地の増加や農家の高齢化等により維持・管理のための作業は困難になって おり、野焼き放棄地や大根畑への転用地も増加している。 ○中央火口丘周辺地域 <景観・生物多様性> ・阿蘇五岳、草千里を中心とする阿蘇を代表する草原景観であり、観光面からも重要な 資源である。 ・中央火口丘周辺にミヤマキリシマ群生地がある他、希少動植物も多く確認されている。 <草原維持・管理> ・森林化や高齢化等により、維持・管理の作業は困難になっており、野焼き放棄地も増 加している。 ・特に、山腹急傾斜地における管理放棄地が目立ち、土壌崩壊など災害面からも維持・ 管理の必要性が高まる。 ○南外輪山地域 <景観・生物多様性> ・カルデラ壁の山麓緩斜面と不規則な山腹斜面の迫力ある景観は阿蘇の草原景観として 重要性が高い。 ・希少植物の確認種数が多い。 ・湧水が多く白川水源地域として重要である。 <草原維持・管理> ・小規模な牧野組合が点在し、維持・管理が困難になりつつある牧野も多い。 ・あか牛肉生産、流通拡大に向け地域ぐるみで取り組む。 29 ○波野・高森地域 <景観・生物多様性> ・森林化が進み、モザイク状に点在する小規模な草原が多い。 ・希少動植物の確認種数が多く、評価の高い地域であり、採草地としての管理がなされ ているところは草原性の動植物の好適な生息・生育環境となっている。 ・現在、ハナシノブ保護・増殖事業が進められている。 <草原維持・管理> ・個人所有の草原が多いため、植林や草原としての管理放棄による土地利用の変化が著 しく、今ある動植物の生息・生育環境の消失も危惧される。 ・一部で草資源を堆肥として利用した寒冷地野菜栽培などの農業生産が進められている。 ○小国・産山地域 <景観・生物多様性> ・草原内にクヌギやカシワなどの灌木類が点在する特徴ある草原景観を有する。 ・草原と森林とが混在する生態系は、特色ある昆虫類を始め多様な野生生物の生息・生 育環境を形成している。 ・大野川源流域にあり、水源地域として重要である。 <草原維持・管理> ・ヒゴタイ公園など公共的に維持されている草原もある。 ・草原に適したあか牛の特徴を生かす畜産生産性の向上と、山村の暮らしや農業畜産業 を活かしたツーリズムの取り組みが早くから行われている。 ■課題 ○地域の産業特性を踏まえた草原の保全・修復 −畜産業の活性化と結びついた、まとまりのある草原の保全・修復 −畜産業と観光、ツーリズムと結びついた草原の保全・修復 ○野生動植物生息環境の保全・修復 −湿地性希少動植物生息環境の保全 −採草地の再生による希少動植物の生息・生息環境の保全・修復 −多様性に富む野生生物生息環境の保全 ○水源保全・国土保全に向けた草原・森林の再生 ○土地利用再編による草原維持管理負担の低減 −管理水準の低下した急傾斜地の草原における森林の再生 −草原内に点在する小規模な森林の除去 ○草資源の循環利用の推進 30 6.草原保全を巡るこれまでの取り組み 現状の草原の問題点とその背景 生物 多 様 性 の 低 下 公的な保護管理や 担い手への直接助成 草原 生 態 系 に お け る 草原保全への課題とこれまでの取り組み例 ◆ 維持管理作業の担い手への直接助成 ◆ 農業の多面的機能確保のための助成 ◆ 希少動植物生育地の保護管理 ◆ 多様性保全のための草原維持管理手法の開発・普及 国立公園としての景観の劣化 水源涵養機能の低下や 土壌崩壊の危険性の増大 草原の変容 草原維持管理 機能の低下 畜産不振と飼育方法の変化 による採草・放牧等の草原 利用の減少 農業従事者の減少・高齢化・ 後継者不足などによる 草原維持意欲の低下 畜産振興を通じた 牛による草原維持の継続 土地利用の複雑化など草原 管理阻害要因の増加 維持管理作業負担軽減の ための基盤整備等 草地改良・植林地の増大 社会的関心・理解の獲得 地域内の合意形成 草原面積の 減少 広範囲の人々が維持管理 を支えるしくみづくり 阿蘇のイメージの損傷 32 ◆ 草原募金など資金提供を伴う草原保全の運動展開 ◆ ボランティア派遣などによる草原維持管理活動の支援 ◆ あか牛肉の消費拡大 ◆ 草の需要創出と循環のしくみづくり ◆ 農業と一体となったツーリズム産業の展開 ◆ シンポジウム等の開催 ◆ 体験学習や交流会等の開催 ◆ 草原及び維持管理に関する情報の収集・蓄積・発信 ◆ 顕彰事業 ◆ 輪地切り省力化等新技術の開発・普及、機械化等 の支援 ◆ 牧野管理道や恒久輪地の整備 ◆ 入り組んだ土地利用の合理化推進 ◆ 周年放牧、預託放牧、一貫経営など新技術の 開発・普及 ◆ あか牛肉の流通拡大 ◆ 専門家集団の形成と入会権調整による牧野利用の 活性化 公的な保護管理や担い手への直接助成 (野焼き助成) ・ 野焼き助成制度 (南小国町・西原村/1994 年∼ 白水村/1996 年∼ 高森町・長陽村・産山村/1997 年∼) ・ 火入れ推進対策補助金制度(一の宮町/1995 年∼) (農業の多面的機能確保のための助成) ・ 平地に比べ生産条件が悪い中山間地の集落や農家に資金を交付する直接支払制度の導入(農水省/2000 年∼) (希少動植物生育地の保護管理) ・ ハナシノブ保護増殖事業(環境省/1997 年∼) (条例制定) ・ 野生動植物の保護に関する条例の制定(一の宮町/2001 年) 広範囲の人々が維持管理を支えるしくみづくり (あか牛トラスト運動) ・ 会員から募った資金で繁殖用の親牛を購入し、畜産農家に預けて子牛が生まれたら市場で売り、農家に支払う管 理費・飼料代を差し引いた収益を会員に戻すあか牛トラストの設置((財)阿蘇グリーンストック/2002 年∼) (草原維持管理への募金・寄付) ・ 阿蘇グリーンストックカード_このカードで買い物をすれば、利用料金の 0.5%が国内信販に蓄えられ、年に二 回まとめてグリーンストックに寄付されるというもの(国内信販/2000 年∼) ・ 草原トラスト・森林トラスト基金の呼びかけ((財)阿蘇グリーンストック/1998 年∼) (野焼き輪地切り作業へのボランティア派遣) ・ 熊本日日新聞の呼びかけた草原募金を活用し、野焼き支援ボランティアの養成のための研修会を開催((財)阿 蘇グリーンストック/1999 年∼) (企業などの団体を中心とした環境保全活動) ・ 阿蘇外輪山の国有林約 100ha をサントリー「天然水の森」と名付けて、水源かん養機能の高い森林として整備 する(サントリー/2003 年∼) ・ 年に一度のオムロンデーに、事業所周辺地域として仙酔峡のごみ収集を開催(オムロン/1991 年∼) (草の需要創出と循環のしくみづくり) ・ 地元畜産農家の協力のもと、除草作業で出た雑草を一括して堆肥にリサイクルする(熊本県阿蘇地域振興局土木 部/2001 年∼) (農業と一体になったツーリズム産業の展開) ・ 野焼き支援ボランティアとの交流としてワラビ採りなどを実施(木落牧野組合/2002 年∼) ・ 組合の入会地のほぼ半分を使う観光乗馬事業の実施。組合が乗馬クラブ(利用組合)と利用契約を結び、利用組 合は畜産、農産物販売所、乗馬などの経営を行う。独立採算性を導入し、乗馬事業は牧場や牛の利用料を支払う 一方、畜産事業者からは同額の家畜管理委託料を受け取る(新宮牧場利用組合/2002 年∼) ・ 防火帯づくりと観光振興を目的に、野焼きに参加したボランティアに、南小国の瀬の本高原で乗馬を楽しんでも らう(阿蘇道産子クラブ/2001 年∼) ・ 大量の修学旅行生を受け入れ、農家に宿泊し、牛の飼育、田植えなどを体験するファームステイを実施。1泊は ホテルに宿泊、農家民宿はグリーンストックが仲介(阿蘇町/2001 年∼) ・ 赤牛の世話、花卉、タバコ栽培の実践、また阿蘇の食材を使った農産物加工などのワークステイ「谷人ツーリズ ム」を開催(阿蘇たにびと博物館/2003 年) 33 社会的関心・理解の獲得・地域内の合意形成 (情報発信) ・ 自治体の枠にとらわれず、地産地消とツーリズムをテーマに阿蘇の魅力をPRするサイト「阿蘇ファン」開設(阿 蘇広域観光と地域づくり連絡協議会/2003 年∼) ・ あか牛やあか牛文化に関する情報を、動画をまじえながら紹介するサイト「あか牛TV」開設(熊本県畜産農業 協同組合連合会/2003 年∼) ・ 熊本県阿蘇4町村(一の宮町・阿蘇町・産山村・波野村)を対象に、地域内の宿泊施設の予約、特産品の購入ができ るサイト「サイバーモール阿蘇」開設(阿蘇テレワークセンター/2003 年∼) (体験学習) ・ 「子どもパークレンジャー」を組織し、阿蘇周辺のゴミ拾いや自然体験を実施。平成 14 年には阿蘇町碧水小の 授業にも取り入れられた(九州地区自然保護事務所/1998 年∼) ・ 阿蘇の良さに気づき阿蘇の地域づくりを担う人達の人材育成、あるいは阿蘇における地域情報を共有する「阿蘇 人塾」開催(阿蘇地域振興デザインセンター/2002 年) ・ 阿蘇では冬の行事としてうさぎ追いを実施(九州ツーリズム大学/?∼) (シンポジウム、講演会等) ・ 「阿蘇の草原とツーリズム」シンポ_1999 年 12 月に設立された熊本大地域連携フォーラムが、阿蘇の草原保 全をテーマに開催(熊本大地域連携フォーラム/2000 年) ・ くまもとあか牛応援団レディース 101 人の集い_県知事を含む消費者と生産者計 101 人が「あか牛」の応援団 になり、消費の拡大を女性の立場や視点から応援(県・熊本畜産農業協同組合/2001 年) ・ 第5回全国草原シンポジウム・サミット in 阿蘇_全国各地の自治体関係者及び研究者や、市民グループ、地元畜 産農家などが集まり、草原利活用の活性化を目的に開催(サミット実行委員会/2002 年) ・ 阿蘇フォーラム_阿蘇を自然・文化・経済・社会など様々な方面から検証し、持続可能な発展のひとつの地域環 境モデルとして、論議し作業をするための場として結成(阿蘇フォーラム/2002 年∼) ・ 波野村、産山村地区の小学校における環境に関する講演会の開催(NPO 阿蘇環境計画/2003 年) (情報の収集、蓄積、共有) ・ 牧野組合情報のデーターベース化、牧野に関する意識調査を行う(牧野活性化センター/2001 年∼) ・ 野草地での植生分布や野焼きの推移、林地の分布などを正確に把握することで、畜産の効率的な経営に役立てる。 また草原景観の維持にもつながると期待されている(県阿蘇地域振興局、九州東海大学/2003 年∼) 維持管理作業負担軽減のための基盤整備等 (グリーンベルト助成) ・ グリーンベルト防火帯造成試験事業(阿蘇広域行政事務組合・産山村・阿蘇町/1995 年) ・ グリーンベルト造成助成制度(阿蘇町・一の宮町・産山村・白水村・久木野村/1996年∼、小国町・西原村/ 1998∼) (輪地切り省力化) ・ モーモー輪地切り_牛を使った輪地切り。実証実験から、グリーンワーカー事業として拡大(環境省/2001 年∼) ・ 道産子輪地切り_馬を使った輪地切りの実証実験((財)阿蘇グリーンストック/2000 年∼) ・ グリーンワーカー事業の一環として、小規模点在植林地を除去(環境省/2001 年∼) 畜産振興を通じた牛による草原維持の継続 (周年放牧・預託放牧などの普及活動と技術的支援) ・ 周年放牧(県農業研究センター/1999 年∼) ・ 平坦地にある飼育農家の牛を阿蘇草原に放牧する預託放牧(県畜産協/1996 年∼) (入会慣行の見直し) ・ 牧野の賃貸借などを進める入会慣行の見直しなどの利用調整(牧野活性化センター/2001 年∼) (流通システムの見直し) ・ あか牛産直販売((財)阿蘇グリーンストックの仲介/2001 年∼) ・ 牛の個体履歴を商品に記載した識別番号をHP上で入力することで確認できるトレ−サビリティシステム導入 (南阿蘇畜産農協/2002 年∼) 出典:新聞記事 34 インターネット HP ほか