...

501ネギアザミウマが媒介するウイルス病トルコギキョウえそ輪

by user

on
Category: Documents
23

views

Report

Comments

Transcript

501ネギアザミウマが媒介するウイルス病トルコギキョウえそ輪
あたらしい
農業技術
No.501
ネギアザミウマが媒介するウイルス病
トルコギキョウえそ輪紋病の防除
平成 20 年度
-静 岡 県 産 業 部-
要
1
旨
技術、情報の内容及び特徴
( 1 )県 内 の 主 要 ト ル コ ギ キ ョ ウ 産 地 に お い て 、ア イ リ ス イ エ ロ ー ス ポ ッ ト ウ イ ル ス( IYSV)
によるトルコギキョウえそ輪紋病が発生していることを明らかにしました。
( 2 )IYSV を 媒 介 す る ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 発 生 消 長 や え そ 輪 紋 病 の 発 生 時 期 を 明 ら か に し ま し
た。
( 3 ) 伝 染 源 の 危 険 性 が あ る 多 数 の IYSV 感 染 植 物 を 明 ら か に し ま し た 。
( 4 ) 現 在 の ト ル コ ギ キ ョ ウ 市 販 品 種 は 、 IYSV に 弱 い こ と を 明 ら か に し ま し た 。
(5)ネギアザミウマに対するトルコギキョウの登録農薬について、県内のネギアザミウマ
の薬剤感受性を明らかにしました。
( 6 ) ト ル コ ギ キ ョ ウ ハ ウ ス 開 口 部 を 0.4mm 目 合 い 防 虫 網 で 被 覆 し 、 さ ら に ハ ウ ス 周 辺 に 光
反 射 シ ー ト を 設 置 す る こ と で 、 ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 侵 入 抑 制 効 果 、 え そ 輪 紋 病 の 防 除効
果が認められました。
2
技術、情報の適用効果
トルコギキョウえそ輪紋病を効率的に防除することができます。
3
適用範囲
県内のトルコギキョウ栽培農家
4
普及上の留意点
(1)地域全体で以下の防除対策に取り組む必要があります。
ア
ハ ウ ス 内 へ の ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 侵 入 抑 制 ( 0.4mm 目 合 い 防 虫 網 + 光 反 射 シ ー ト 設 置 )
イ
ネギアザミウマに殺虫効果の高い薬剤で適期に防除
ウ
IYSV 伝 染 源 植 物 の 除 去
エ
えそ輪紋病の発病株の早期処分
(2)ネギアザミウマに対する薬剤感受性検定は室内試験であり、ほ場では異なる感受性を
示 す 可 能 性 も あ り ま す 。 ま た 、 県 内 の ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 個 体 群 間 で 薬 剤 感 受 性 が 異 なる
可能性もあります。
(3)ネギアザミウマに対する薬剤防除では、青色粘着トラップで本種の発生状況を随時観
察しながら、薬剤散布の時期や間隔を決定することが効果的です。
目
はじめに
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
トルコギキョウえそ輪紋病とは
2
えそ輪紋病の発生実態
3
ネギアザミウマとえそ輪紋病の関係
4
えそ輪紋病の伝染環
5
ト ル コ ギ キ ョ ウ 品 種 に 対 す る IYSV の 病 原 性
6
ネギアザミウマの薬剤感受性
7
えそ輪紋病の防除対策
おわりに
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
はじめに
静 岡 県 で の ト ル コ ギ キ ョ ウ の 栽 培 は 昭 和 50 年 代 か ら 本 格 的 に 始 ま り ま し た 。そ の 後 、順 調
に 生 産 を 伸 ば し 、平 成 18 年 現 在 、本 県 の ト ル コ ギ キ ョ ウ 産 出 額 は 7 億 円 、全 国 シ ェ ア は 7.5%
を占めており、全国第 4 位の主要産地となっています。
そ ん な 中 、平 成 10 年 に 静 岡 市 で 、葉 に え そ 斑 点 や え そ 輪 紋 等 を 特 徴 と し た ウ イ ル ス 性 病 害
と 考 え ら れ る 症 状 ( 図 2~ 4) が 発 生 し ま し た 。 さ ら に 、 平 成 11 年 に は 西 伊 豆 町 で 同 様 の 症
状を示す株が確認されました。静岡県農業試験場(現静岡県農林技術研究所)は、この症状
が ア イ リ ス イ エ ロ ー ス ポ ッ ト ウ イ ル ス ( Iris Yellow Spot Virus; IYSV) を 病 原 と す る ウ イ
ル ス 病 で あ る こ と を 明 ら か に し 、こ の 病 害 を「 ト ル コ ギ キ ョ ウ え そ 輪 紋 病 」と 命 名 し ま し た 。
え そ 輪 紋 病 の 発 生 が 確 認 さ れ た 平 成 10 年 以 降 、県 内 各 地 に こ の 病 害 が 拡 大 し て 大 き な 問 題
と な り ま し た 。そ こ で 、静 岡 県 農 林 技 術 研 究 所 で は 、平 成 17~ 19 年 度 の 3 年 間 、県 内 に お け
る え そ 輪 紋 病 の 発 生 実 態 の 調 査 や 、防 除 対 策 に 取 組 ん だ の で 、そ の 成 果 の 概 要 を 紹 介 し ま す 。
1
トルコギキョウえそ輪紋病とは
(1)病原ウイルス
え そ 輪 紋 病 の 病 原 は 、 ア イ リ ス イ エ ロ ー ス ポ ッ ト ウ イ ル ス ( IYSV) と 呼 ば れ る ウ イ ル ス で
す 。IYSV に よ る 病 害 は 、我 が 国 で は 平 成 8 年 に 千 葉 県 の ア ル ス ト ロ メ リ ア( ユ リ 科 の 花 )で
初 め て 確 認 さ れ ま し た 。ト ル コ ギ キ ョ ウ に お い て は 平 成 10 年 に 、本 県 、佐 賀 県 、千 葉 県 で ほ
ぼ同時期に発生が確認され、現在では全国の産地に被害が拡大しています。
IYSV は ネ ギ ア ザ ミ ウ マ( 図 1)の み が 媒 介 し ま す 。ネ ギ ア ザ ミ ウ マ は 体
長 1.1~ 1.6mm の 非 常 に 小 さ な 害 虫 で 、 そ の 名 の と お り ネ ギ や タ マ ネ ギ に
好 ん で 寄 生 し ま す が 、ト ル コ ギ キ ョ ウ に も 寄 生 し ま す 。ア ザ ミ ウ マ 類 に は
ミ カ ン キ イ ロ ア ザ ミ ウ マ 、ミ ナ ミ キ イ ロ ア ザ ミ ウ マ な ど 様 々 な 種 類 が あ り
ま す が 、 こ れ ま で の 研 究 で は ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 以 外 は IYSV を 媒 介 で き な い
こ と が 明 ら か に な っ て い ま す 。 ネ ギ ア ザ ミ ウ マ は 幼 虫 の 初 期 に IYSV 感 染
植 物 を 吸 汁 加 害 す る こ と で ウ イ ル ス を 獲 得 し 、死 ぬ ま で ウ イ ル ス を 伝 染 さ
せ ま す 。 た だ し 、 ウ イ ル ス を 伝 染 で き る の は 幼 虫 の 初 期 に IYSV を 獲 得 し
た 場 合 の み で 、 成 虫 に な っ て か ら IYSV 感 染 植 物 を 吸 汁 し て も ウ イ ル ス を
伝染させることはできません。
図 1 ネギアザミウマ
ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 以 外 の 伝 染 方 法 と し て は 、IYSV 感 染 植 物 の 汁 液 を 擦 り 付 け 接 種 す る こ と で
感染は可能ですが、これは実験的に行った場合のみで、実際はほ場での管理作業による接触
伝 染 の 可 能 性 は 低 い と 考 え ら れ ま す 。ま た 、種 子 伝 染 、土 壌 伝 染 も し ま せ ん 。こ の こ と か ら 、
最 近 の IYSV の 発 生 拡 大 は 、 ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 発 生 に 伴 っ て い る と 考 え ら れ ま す 。
(2)病徴
え そ 輪 紋 病 の 症 状 は 主 に 葉 と 茎 に 現 れ ま す 。IYSV を 保 毒 し た ネ ギ ア ザ ミ ウ マ に よ り ト ル コ
ギキョウがウイルスに感染すると、葉に「えそ輪紋」、「えそ斑点」、「不定形のえそ」等
を 生 じ ま す( 図 2~ 3)。葉 で こ れ ら の 症 状 が 拡 大 し 、葉 脈 に ウ イ ル ス が 侵 入 す る と 茎 を 伝 っ
て 上 位 葉 に ま で 感 染 が 拡 大 し ま す 。こ の よ う に 、ウ イ ル ス が 植 物 体 の 全 身 に 感 染 す る と 、「 茎
- 1 -
え そ 」 症 状 が 現 れ た り ( 図 4) 、 上 位 の 新 葉 に え そ 輪 紋 等 の え そ 症 状 が 現 れ ま す 。 ト ル コ ギ
キョウの生育ステージが若いほど、ウイルス感染による症状は激しくなりやすく、ひどい場
合には株全体が枯死することもあります。
図2
2
えそ輪紋
図3
えそ斑点
図4
茎えそ
えそ輪紋病の発生実態
平 成 17 年 6 月 に 、 県 内 の ト ル コ ギ キ ョ ウ 産 地 ( 浜 松 地 域 、 大 井 川 ・ 島 田 地 域 、 静 岡 地 域)
か ら ウ イ ル ス 様 症 状( 葉 の え そ 、茎 え そ 、奇 形 、黄 化 等 )を 示 す 株 を 採 集 し 、IYSV の 発 生 状
況 を 調 査 し ま し た 。そ の 結 果 、調 査 を 行 っ た 産 地 す べ て で IYSV に よ る え そ 輪 紋 病 が 発 病 し て
い る こ と が わ か り ま し た ( 表 1) 。 ま た 、 IYSV が 発 病 し て い る ハ ウ ス の 割 合 は 産 地 間 で 大 き
な 差 は 認 め ら れ ず 、 県 内 平 均 で 30% ほ ど で し た ( 表 1) 。
表1
県 内 の ト ル コ ギ キ ョ ウ 産 地 に お け る IYSV の 発 病 ハ ウ ス 率
調査
IYSV 発 病
IYSV 発 病
ハ ウ ス 数 (棟 )
ハ ウ ス 数 (棟 )
ハ ウ ス 率 (% )
6
2
33
大井川・島田地域
12
3
25
静岡地域
11
4
36
29
9
31
浜松地域
計
3
ネギアザミウマとえそ輪紋病の関係
(1)ネギアザミウマの発生消長とえそ輪紋病の発生時期
平 成 16 年 頃 ま で に は 、県 内 の ト ル コ ギ キ ョ ウ 産 地 で え そ 輪 紋 病 の 発 生 が 確 認 さ れ 、一 方 で
は本病がネギアザミウマにより伝染することが知られていました。しかし、ネギアザミウマ
の 発 生 消 長 と 本 病 の 発 生 時 期 に つ い て は 明 ら か で は あ り ま せ ん で し た 。 そ こ で 、 平 成 17 年
12 月 ( 生 育 期 ) ~ 平 成 18 年 6 月 ( 収 穫 期 ) に か け て 、 浜 松 市 の ト ル コ ギ キ ョ ウ ハ ウ ス に お
いて、青色粘着トラップによるネギアザミウマの発生消長および、肉眼観察によるえそ輪紋
病の発病株率の調査を行いました。その結果、ハウス内において 3 月中旬からネギアザミウ
- 2 -
マがトラップに誘殺され始め、以後収穫期の 6 月中旬にかけて増加する傾向がみられました
( 図 5) 。 え そ 輪 紋 病 は 、 ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 誘 殺 が 認 め ら れ た 3 月 中 旬 か ら 発 病 し 始 め 、 収
穫 期 の 6 月 中 旬 に か け て 発 病 株 率 は 増 加 し ま し た( 図 5)。こ れ ま で に ネ ギ 類 作 物 に お い て 、
ネギアザミウマは 6 月上旬~中旬と、9 月上旬に発生のピークがあり、冬は極めて密度が低
く な る こ と が 報 告 さ れ て い ま す 。ま た 、ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 生 育 適 温 は 25℃ で あ り 、夏 の 高 温
に弱いことも指摘されています。これらの報告と今回の調査結果は一致しました。
トルコギキョウにおいてネギアザミウマは気温の上昇する春以降に増加し、それに伴って
えそ輪紋病の発生が増加すると考えられます。ネギアザミウマの生育に好適となる春期や秋
期にかかるトルコギキョウ栽培では、本種の発生に特に注意する必要があります。
ネギアザミウマ誘殺数(頭)/トラップ/半月
90
80
70
ネギアザミウマ誘殺数
2.0
えそ輪紋発生株率
1.5
60
50
1.0
40
30
0.5
20
10
0
図5
0.0
12/27 1/16 1/30 2/17 3/2 3/15 3/30 4/17 5/2 5/15 6/1 6/15
トルコギキョウえそ輪紋病発生株率(%)
2.5
100
ハウス内におけるネギアザミウマ誘殺数とえそ輪紋病の発生株率
( 2 ) ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の IYSV 保 毒 率
IYSV は ネ ギ ア ザ ミ ウ マ に よ っ て 媒 介 さ れ ま す が 、 県 内 に お け る 同 種 の IYSV 保 毒 実 態 に つ
い て は わ か っ て い ま せ ん で し た 。 そ こ で 、 平 成 18 年 2~ 7 月 に か け て 浜 松 市 の ト ル コ ギ キ ョ
ウ ハ ウ ス 内 と そ の 周 辺 に 青 色 粘 着 ト ラ ッ プ を 設 置 し 、ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 誘 殺 数 お よ び IYSV を保
毒 し た ネ ギ ア ザ ミ ウ マ( 以 下 、「 保 毒 虫 」)の 頭 数 を ELISA 法 に よ り 調 査 し 、IYSV 保 毒 率 を
算出しました。
ハウス内では、3 月中旬から青色粘着トラップへのネギアザミウマの誘殺が認められまし
た( 図 6)。保 毒 虫 は 、4 月 上 旬 に 確 認 さ れ 、そ の 後 保 毒 率 は 増 加 傾 向 で 推 移 し ま し た( 図 6)。
ピ ー ク を 迎 え た 6 月 中 旬 に は 23.3% と ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 約 4 頭 に 1 頭 が IYSV を 保 毒 し て い
る こ と が わ か り ま し た ( 図 6) 。
ハ ウ ス 周 辺 の 野 外 で は 、 5 月 上 旬 か ら 同 種 の 誘 殺 が 認 め ら れ ま し た ( 図 7) 。 保 毒 虫 は 5
月 下 旬 に 確 認 さ れ 、そ の 後 保 毒 率 は 高 ま り ま し た( 図 7)。ピ ー ク を 迎 え た 7 月 上 旬 に は 16.7%
と ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の 約 6 頭 に 1 頭 が IYSV を 保 毒 し て い る こ と が わ か り ま し た ( 図 7) 。
ハウス内では、その周辺と比較して保毒率が高い傾向がありました。このハウスでは、3
月 16 日 時 点 で え そ 輪 紋 病 の 発 生 が 認 め ら れ ま し た が 、こ の 発 病 株 が 伝 染 源 と な っ て 、そ の 後
の IYSV 保 毒 虫 を 増 加 さ せ た 結 果 、 ハ ウ ス 内 の 保 毒 率 が 高 く な っ た と 考 え ら れ ま す 。
- 3 -
80
200
60
150
ハウス内
100
42
50
0
図6
4
10 10.07
19
40
91
40
13.3
10.0
23.3
20
13.3
2
5.3
0
0
0
2/28 3/16 4/2 4/16 5/1 5/11 5/29 6/15 7/2
0
0
IYSV保毒率(%)
250
ネギアザミウマ誘殺数
IYSV保毒率
250
80
200
176
60
150
40
ハウス周辺
100
80
60
50
0
図 7
ハウス内におけるアザミウマ類の
発 生 消 長 と ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の IYSV
保毒率
100
300
13.3
IYSV保毒率(%)
100
256
ネギアザミウマ誘殺数
IYSV保毒率
ネギアザミウマ誘殺数(頭)/トラップ/半月
ネギアザミウマ誘殺数(頭)/トラップ/半月
300
20
16.7
6.7
3
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2/28 3/16 4/2 4/16 5/1 5/11 5/29 6/15 7/2
0
0
ハウス周辺におけるアザミウマ類の
発 生 消 長 と ネ ギ ア ザ ミ ウ マ の IYSV
保毒率
えそ輪紋病の伝染環
( 1 ) 野 外 に お け る IYSV の 伝 染 源
ネ ギ ア ザ ミ ウ マ は 、寄 生 範 囲 が 広 く ネ ギ 類 を 中 心 と し て 40 種 以 上 の 野 菜 類・花 き 類 等 の 害
虫種となっています。また、作物だけでなく雑草においてもネギアザミウマの寄生が確認さ
れています。このため、トルコギキョウハウス周辺の野外雑草や作物にネギアザミウマが寄
生 し 、 IYSV の 伝 染 源 植 物 と な っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ ま す 。 そ こ で 、 平 成 18 年 2~ 12 月
に 、 県 内 西 部 の IYSV 常 発 ト ル コ ギ キ ョ ウ ハ ウ ス 6 箇 所 周 辺 か ら 37 種 188 サ ン プ ル の 作 物 ・
雑 草 を 採 集 し 、 IYSV 感 染 の 有 無 を 調 査 し ま し た 。
その結果、ネギアザミウマが好んで寄生するユリ科ネギ属作物であるタマネギ、ネギ、ニ
ン ニ ク 、ラ ッ キ ョ ウ( エ シ ャ レ ッ ト )で 高 頻 度 に IYSV の 感 染 を 確 認 し ま し た( 表 2)。な お 、
ネ ギ 属 以 外 の 作 物 で は 、ダ イ コ ン 、ハ ク サ イ 、ブ ロ ッ コ リ ー 、ミ ズ ナ 、ニ ン ジ ン で IYSV の 感
染 を 確 認 し ま し た( 表 2)。ま た 、雑 草・花 き で は 、19 種 で IYSV の 感 染 を 確 認 し 、特 に 、ノ
ボ ロ ギ ク 、ホ ト ケ ノ ザ 、コ ハ コ ベ 、オ ラ ン ダ ミ ミ ナ グ サ 、ジ ャ ノ ヒ ゲ 等 は 比 較 的 高 頻 度 で IYSV
に 感 染 し て い ま し た ( 表 2) 。
以 上 か ら 、ハ ウ ス 周 辺 に お け る 多 種 の 作 物 や 雑 草 が IYSV の 伝 染 源 植 物 と な り 、え そ 輪 紋 病
の発生を助長していることが考えられました。
(2)えそ輪紋病の伝染環
トルコギキョウ
調査結果をもとに、えそ輪紋病の伝染環モデルを
トルコギキョウ
図 8 に示しました。ハウス周辺の野外において、ネ
えそ輪紋病の
ギ 属 を 中 心 と し た 作 物 や 雑 草 等 の IYSV 伝 染 源 植 物
発病株残さ
で ネ ギ ア ザ ミ ウ マ が 増 殖 し 、IYSV 保 毒 虫 が 発 生 し ま
す 。保 毒 虫 が こ れ ら 植 物 間 を 移 動 し 、IYSV 感 染 植 物
ネギ属 等の
が増加します。ネギアザミウマの生育に好適な春期
作物
雑草
や秋期には移動が活発になり、野外で増殖した保毒
虫がハウス内に侵入すると、えそ輪紋病が発生しま
図8
す。ハウス内では発病株が伝染源となり、ネギアザ
注 )矢 印 は ネ ギ ア ザ ミ ウ マ と IYSV の 動 き
- 4 -
えそ輪紋病の伝染環モデル
ミウマによって本病が次々に伝染します。また、えそ輪紋病の発病株残さをハウス内やその
周辺の野外に放置すると、伝染源となるため適切に処分する必要があります。このような
IYSV の 伝 染 環 を 絶 つ こ と が 、 え そ 輪 紋 病 の 防 除 対 策 と し て 非 常 に 重 要 で す 。
表 2 ト ル コ ギ キ ョ ウ ハ ウ ス 周 辺 に お け る IYSV 検 出 植 物 と 検 出 頻 度
科
植物名
タマネギ
ユリ
アブラナ
セリ
アブラナ
カタバミ
キク
ゴマノハグサ
7 / 9
ネギ
7 / 9
ニンニク
3 / 7
ラッキョウ
2 / 4
ダイコン
1 / 7
ハクサイ
1 / 7
ブロッコリー
1 / 3
ミズナ
1 / 2
ニンジン
1 / 5
イヌガラシ
1 / 1
スカシタゴボウ
2 / 6
タネツケバナ
2 /11
ナズナ
3 / 7
カタバミ
1 / 1
チチコグサモドキ
2 /11
ノボロギク
4 /10
オオイヌノフグリ
1 / 2
トキワハゼ
2 / 4
シソ
ホトケノザ
4 /10
スベリヒユ
スベリヒユ
1 / 2
スミレ
パンジー
1 / 1
コハコベ
5 /10
オランダミミナグサ
6 /12
ノミノフスマ
1 / 2
スイセン
1 / 4
ナデシコ
ヒガンバナ
マメ
ユリ
5
IYSV 検 出 頻 度
ヤハズエンドウ
1 / 7
ジャノヒゲ
3 / 7
オオバジャノヒゲ
1 / 2
トルコギキョウ品種に対する IYSV の病原性
県 内 で は 、IYSV に 2 つ の 種 類(「 系 統 」と 呼 ぶ )が 発 生 し て い る こ と が 明 ら か に な っ て い
ます。ひとつは「オランダ系」、もうひとつは「ブラジル系」と呼ばれる系統です。ウイル
ス 病 対 策 の ひ と つ と し て 耐 病 性 品 種 の 利 用 が あ り ま す 。そ こ で 、ト ル コ ギ キ ョ ウ 300 品 種( 194
の 市 販 品 種 と 106 の 育 種 母 本 ) を 用 い て 、 こ の 2 つ の 系 統 が ど の よ う な 病 原 性 を 示 す か 接 種
試 験 を 行 い ま し た 。IYSV 各 系 統 を 1 品 種 あ た り 5 個 体 以 上 に 接 種 し 、各 品 種 の 発 病 度( 発 病
度 が 0 に 近 い ほ ど IYSV に 強 く 、 100 に 近 い ほ ど IYSV に 弱 い ) を 算 出 し ま し た 。
IYSV オ ラ ン ダ 系 と ブ ラ ジ ル 系 の 病 原 性 を 比 較 す る と 、オ ラ ン ダ 系 が 大 多 数 の ト ル コ ギ キ ョ
ウ品種に対して高い発病度を示しており、オランダ系がブラジル系よりも病原性が高いこと
が 明 ら か と な り ま し た ( 図 9~ 10) 。 ま た 、 デ ー タ に は 示 し て い ま せ ん が 、 市 販 品 種 194 の
- 5 -
う ち 193 品 種 が IYSV オ ラ ン ダ 系 に 全 身 感 染 し て し ま う こ と も わ か り ま し た 。耐 病 性 品 種 の 育
種素材となりうる発病度の低い数品種がみつかりましたが、残念ながら「現在市販されてい
る 品 種 は IYSV に 弱 い 」 と い う こ と が 言 え ま す 。
ま た 、当 研 究 所 で は 、県 内 に お け る ト ル コ ギ キ ョ ウ の IYSV 発 生 系 統 の 調 査 を 随 時 行 っ て き
ま し た 。平 成 17 年 ま で の 調 査 で は 、両 系 統 が 混 在 し て お り 、病 原 性 の 低 い ブ ラ ジ ル 系 の 発 生
が 比 較 的 多 い こ と が わ か っ て い ま し た 。し か し 、平 成 18~ 19 年 に 同 様 の 調 査 を 行 っ た と こ ろ、
病 原 性 の 高 い オ ラ ン ダ 系 が 94.0% も の 高 率 で 優 占 し て 発 生 し て い る こ と が 明 ら か と な り ま
し た ( 表 3) 。 最 近 、 え そ 輪 紋 病 の 被 害 が 増 加 し て い ま す が 、 こ の 要 因 の ひ と つ と し て 、 病
原性の高いオランダ系が県内に蔓延していることが考えられます。
100.0
80.0
発病度
60.0
40.0
20.0
87
23
3
25
3
29
7
76
20
3
21
2
22
1
23
7
24
6
25
1
25
8
26
4
26
9
28
6
77
23
4
27
8
27
6
20
4
21
8
24
5
28
0
79
85
27
5
28
9
91
90
0.0
供試品種No.
図9
IYSV オ ラ ン ダ 系 に 対 す る ト ル コ ギ キ ョ ウ 品 種 の 発 病 度
100.0
発病度
80.0
60.0
40.0
20.0
87
23
3
25
3
29
7
76
20
3
21
2
22
1
23
7
24
6
25
1
25
8
26
4
26
9
28
6
77
23
4
27
8
27
6
20
4
21
8
24
5
28
0
79
85
27
5
28
9
91
90
0.0
供試品種No.
図 10
表3
6
IYSV ブ ラ ジ ル 系 に 対 す る ト ル コ ギ キ ョ ウ 品 種 の 発 病 度
ト ル コ ギ キ ョ ウ に お け る IYSV 検 出 サ ン プ ル 数 と そ の 発 生 系 統 ( 平 成 18~ 19 年 )
IYSV 検 出
オランダ系
ブラジル系
サンプル数
単独感染
単独感染
サンプル数
84
79
2
3
検出率
100%
94.0%
2.4%
3.6%
混合感染
ネギアザミウマの薬剤感受性
ネギアザミウマに対する農薬散布で注意すべき点は、近年、本種の一部の個体群で薬剤抵
抗性の発達が明らかとなってきていることです。このため、当研究所では県内のトルコギキ
ョ ウ 産 地 3 箇 所 か ら そ れ ぞ れ ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 個 体 群 を 採 集 し 、薬 剤 感 受 性 検 定 を 行 い ま し た。
その結果、トルコギキョウのネギアザミウマに対する登録農薬 4 剤のうち 3 剤で感受性の低
- 6 -
下 が 認 め ら れ ま し た ( 表 4) 。 こ の 結 果 は 室 内 試 験 の た め 、 ほ 場 に お い て も 同 様 の 結 果 が 得
られるとは限りませんが、薬剤感受性検定結果を参考に効果の高い薬剤を選択することも重
要です。
表4
系統名
トルコギキョウ産地のネギアザミウマ成虫に対する薬剤感受性検定結果
農薬名
マブリック
合成
ピレスロイド
水和剤
スカウト
フロアブル
オルトラン
水和剤
成分名
フルバリネート
トラロメトリン
アセフェート
成分量
希釈
ネギアザミウマ
(%)
倍数
個体群
20
4000
1.4
50
2000
1000
有 機 リン
マラソン
乳剤
マラソン
50
2000
補 正 死 虫 率 (%) *
24 時 間 後
48 時 間 後
静岡
1.4
1.4
島田
55.9
55.9
浜松
13.0
14.2
静岡
46.3
49.2
島田
39.2
49.3
浜松
15.8
15.8
静岡
100
-
島田
100
-
浜松
100
-
静岡
12.4
17.9
島田
19.5
24.3
浜松
7.2
76.1
* 補 正 死 虫 率 (% )=(無 処 理 区 の 生 存 虫 率 - 処 理 区 の 生 存 虫 率 )÷無 処 理 区 の 生 存 虫 率
7
えそ輪紋病の防除対策
こ れ ま で の 調 査 結 果 を ふ ま え た ト ル コ ギ キ ョ ウ え そ 輪 紋 病 の 防 除 対 策 に つ い て 説 明 し ま す。
本 病 の 病 原 ウ イ ル ス で あ る IYSV は ネ ギ ア ザ ミ ウ マ に よ っ て 媒 介 さ れ 、種 子 伝 染 や 土 壌 伝 染 は
しません。また、管理作業による接触伝染の可能性も低いと考えられます。ウイルス病に直
接 効 果 の あ る 農 薬 は あ り ま せ ん の で 、( 1 )ハ ウ ス 内 へ の ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 侵 入 抑 制 、( 2 ) ネ
ギ ア ザ ミ ウ マ に 殺 虫 効 果 の 高 い 薬 剤 で 適 期 に 防 除 、( 3 )IYSV 伝 染 源 植 物 の 除 去 、( 4 )発
病株の早期処分の 4 点が非常に重要なポイントとなります。以下に具体的な防除対策を示し
ます。
( 1 ) ハ ウ ス 内 へ の ネ ギ ア ザ ミ ウ マ 侵 入 抑 制 ( 0.4mm 目 合 い 防 虫 網 + 光 反 射 シ ー ト 設 置 )
ハウス内へのネギアザミウマの侵入を物理的に抑制することは極めて重要です。このため
に は 、 ハ ウ ス 開 口 部 へ の 0.4mm 目 合 い 防 虫 網 の 設 置 、 ハ ウ ス 周 辺 部 へ の 光 反 射 シ ー ト の 設 置
が 効 果 的 で す 。平 成 19 年 12 月 ~ 平 成 20 年 7 月 に 、浜 松 市 の 隣 接 し た ハ ウ ス 2 棟 で 、① 試 験
区 (0.4mm 目 合 い 防 虫 網 + 光 反 射 シ ー ト )、② 慣 行 区( 1.0mm 目 合 い 防 虫 網 設 置 の み 、光 反 射 シ
ートは設置せず)による防除試験を行った結果、試験区では慣行区と比較して、アザミウマ
類 の 侵 入 抑 制 に 効 果 が 認 め ら れ 、 え そ 輪 紋 病 の 発 生 が 抑 制 さ れ ま し た ( 図 11~ 12) 。
(2)ネギアザミウマに殺虫効果の高い薬剤で適期に防除
ネギアザミウマの生育に好適な春期や秋期では、本種の発生に特に注意し、効果の高い薬
剤 を 選 択 し た 農 薬 散 布 に よ る 防 除 を 重 点 的 に 行 う 必 要 が あ り ま す( 図 5、表 4)。具 体 的 に は 、
アザミウマ類の発生状況を、ホリバー等の青色粘着トラップで随時観察し、その発生量を確
- 7 -
認しながら、農薬散布間隔を決定すると効果的でしょう。
( 3 ) IYSV 伝 染 源 植 物 の 除 去
ハ ウ ス 周 辺 に お い て は 、ネ ギ 属 作 物 を 中 心 に IYSV 伝 染 源 植 物 の 作 付 を 避 け 、雑 草 を 生 や さ
な い よ う に し て 伝 染 源 を 放 置 せ ず 、え そ 輪 紋 病 の 伝 染 環 を 絶 つ こ と が 重 要 で す( 図 8、表 2)。
(4)発病株の早期処分
発病株をハウス内やその周辺に放置すると、それが伝染源となりネギアザミウマによって
IYSV の 感 染 が 拡 大 し ま す ( 図 8) 。 発 病 株 は 速 や か に 抜 き 取 り 、 埋 没 す る か ビ ニ ー ル で 被 覆
して蒸し込む等、適切に処分してください。
(5)将来的には耐病性品種を利用
調 査 の 結 果「 現 在 市 販 さ れ て い る 品 種 は IYSV に 弱 い 」こ と が わ か っ た の で 、現 状 で は 耐 病
性 品 種 を 利 用 し た IYSV の 防 除 は 不 可 能 で す 。 し か し 、 IYSV の 発 病 度 が 低 い 数 品 種 を 育 種 素
材として、将来的には耐病性品種を利用できるかもしれません。
以上(1)~(4)の防除対策を総合的に組み合わせることで、トルコギキョウえそ輪紋
病の防除効果がより高まると考えられます。
2.5
慣行区:総アザミウマ誘殺数(ネギアザミウマを含む)
試験区:総アザミウマ誘殺数(ネギアザミウマを含む)
300
慣行区:ネギアザミウマ誘殺数
慣行区:えそ輪紋病発生株率
試験区:えそ輪紋病発生株率
えそ輪紋病発生株数(%)
350
試験区:ネギアザミウマ誘殺数
250
200
150
100
2.0
1.5
1.0
0.5
50
0
図 11
慣行区および試験区における
図 12
アザミウマ類誘殺数
7/
1
6/
16
6/
2
4/
30
5/
15
4/
1
4/
15
7/
1
6/
2
6/
16
5/
15
4/
30
4/
1
4/
15
3/
3
3/
14
2/
15
1/
30
1/
15
0.0
1/
15
1/
30
2/
15
3/
3
3/
14
アザミウマ誘殺数(頭)/トラップ/半月
400
慣行区および試験区における
えそ輪紋病発生株率
おわりに
トルコギキョウえそ輪紋病は難防除のネギアザミウマによって感染が拡大するため、防除
は容易ではありません。本病の被害を減少させるためには、この冊子で紹介したような防除
対 策 を ト ル コ ギ キ ョ ウ 生 産 者 が 確 実 に 実 施 し 、さ ら に 、IYSV 伝 染 源 と な る ネ ギ 属 を 中 心 と し
た作物の作付自粛や雑草の除去等、地域ぐるみでの対策も必要です。各産地の生産者を中心
に、産地が一体となって総合的に防除対策に取り組むことで、本病の被害を大きく減少させ
ることが可能と考えられます。
農林技術研究所
- 8 -
生産環境部植物保護 技師
内山徹
平成20年10月発行
静岡県産業部振興局研究調整室
〒420-8601
静岡市葵区追手町 9-6
TEL 054-221-2676
Fly UP