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ロールシャッハ・テストからみた現代の対人恐怖症

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ロールシャッハ・テストからみた現代の対人恐怖症
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ロールシャッハ・テストからみた現代の対人恐怖症
村澤, 和多里
北海道大学大学院教育学研究科紀要, 91: 163-170
2003-12
10.14943/b.edu.91.163
http://hdl.handle.net/2115/28917
Right
Type
bulletin
Additional
Information
File
Information
91_P163-170.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
北海道大学大学続教育学研究科
紀望書第 9
1号 2
0
0
3年 1
2月
1
6
3
ロールシャ、ソハ・テストからみた現代の対人恐怖症
村樺和多息*
P
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a
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hT
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s
t
WatariMURASAWA
{要約]
本研究の自的は,現代の対人恐怖疲者の心理的特性についてロールシャツハ・テ
ストを用いて検討することである。対人恐怖症群(男性 7名,女性 8名人大学生群(男性
1
0名,女性 1
0名)にロールシャツハ・テストを施行し, Mann-Whitneyの検定を行なった。
loth%については対
その結巣,各反応、の出現率をあらわす変数 M %,FK%,pureH%,C
人恐怖症群では大学生群よりも有意に低<, F%とWsumC%については対人恐怖症群の
ほうが高い傾向が見られた。これらの結果から,対人恐怖症群全体の特性として,外界と
接触を持たないようにするような防衛的態度が示唆された。また従来の研究との比較から,
対人恐怖症者の心理的特性の変化について考察した。
[キーワード]対人恐怖疲
ロールシャツハ・テスト
M p
u
r
eH
I.序論
対人恐怖症は,青年期に特徴的な対人関係における苦植のー形態である o 山下 (
1
9
7
0
) は対
人恐怖症者の意識について
r
人に好かれ,親しまれ,気兼ねなくとけ合うことを希いながら,
それゆえにに人から嫌われ,うとまれ,屑のこるっき合いづらい人間であることをはなはだし
くおそれ,そのために自分を空しく」していると述べている。
しかしながら,上記のような基本的な心性は一貫しているものの,対人恐怖症の症状は時代
と共に変遷していると考えられている。対人恐怖症の変遷が指摘され始めたのは, 1
9
6
0年代後
半で,西田 (
1
9
6
8
) などによると,戦後になってそれまでは中核をなしていた「赤面恐怖症 J
が激減し,代わって「視線恐怖 J r自己臭恐怖 J r
醜形恐怖」など従来対人恐怖の中でも重症と
されてきていたものが増加しているといわれている。このよっな対人恐怖的心性的変化は心理
ら(問中俄 1
9
9
4,堀井・小 J
I
J1
9
9
5
) は中高生を対象
学的研究においても確認されており,小川 i
に1
9
8
1年と 1
9
9
3年に, 1
0年以上の偶蹄をあげて同ーの質問紙を用いた調査の結果から,対人
恐怖的心性が大学生で低下し,中学生では増大していることを見出しており,これは対人恐怖
的心性が低年齢化していることを意味していると考えられる O また,従来は対人恐怖症者に男
性の占める割合が圧倒的に優勢で、あったが,近年は女性例の増加が指捕されている(丸山他,
キ北海道大学大学院教育学研究科後期博士課程(教育協床講座)
1
6
4
1
9
8
2
)
0 このように症状が変遷していることや,女性例が増加していることを鑑みると,対人恐
怖症の研究は E
寺代によって更新されてゆく必要があるといえるであろう。
対人恐怖症の心理的特性はさまざ、まな方法で研究されてきたが,中でもロールシャツハ・テ
スト(以下,ロ・テスト)を用いた研究は非常に有効で、あると思われる。潟場(19
9
5
) はロ・
テストの過程を,見なれない奇妙な園形によって引き起こされる不快感を処理し,妥当な判断
を形成していく過程であると述べているが,これは対人恐怖症者が苦手とする唆昧状況を擬似
的に体験させるものであると考えられるからである。
対人恐怖症者を対象にしたロ・テストを用いた研究は,岩井 (
1
9
6
9
),武鴎 (
1
9
7
0
),梶塚他
(
1
9
7
7
),永井 (
1
9
8
7
) によって行なわれてきた。しかしながら,いずれの研究からも時間が経
2
0
0
0
) の研究な
過おり,現代の対人恐怖症の特徴を検討しているとはいえない。また,神谷 (
ど,対人恐怖心性の高度,中程度,低度の大学生を比較した研究もあるが,強い対人恐怖感を
感じつつも適応している者と,臨床場面を訪れる者との質的な異悶の問題も残る。
本研究では,上記のような開題意識からロ・テストを用いて現在の対人恐怖症者の心理的特
徴について,特に対人意識に焦点を置いて検討することを目的とする。
I
I
.方法
1.被験者
対人恐怖症群は,計 1
5名(男性 7名,女性 8名,王子均年齢 2
2
.
2歳)で構成されている。こ
9
9
6年から 2
0
0
1年にかけて S市内の精神科クリニックを受診した外来
れらの被験者はすべて 1
9
3
) の「対人恐怖症診断基準」を満たすことが確認さ
患者で,主治底によってき主原・中村(19
れた。 Table1に笠原・中村の診断基準をしめす。
0名(男性 1
0名,女性 1
0名,平均年齢 21
.1歳)
比較群は S市内の大学生に通う大学生,計 2
で構成されている。また大学生群の被験者に対しては,ロ・テスト施行前に鰐便な面接を行い,
対人恐怖症の既往盤がないことを確認した。
対人恐怖症群と大学生群の聞で学墜の差については,対人恐怖症群の多くの成員が(後の進
学や中退も含めて)大学に進学していることから,本研究では問題にしなかった。
2.手続き
各被験者に,個別にロ・テストを施行した。対人恐怖疲群のロ・テストは治療のための資料
作成を目的とし,筆者と 2名の協力者が施行した。大学生群については筆者がすべて施行した。
施行法は片口 (
1
9
8
7
) に従った。
スコアリングの蒸準は片口 (
1
9
8
7
) に従ったが,形態水準については経験的にスコアを特定
,O
b
j,
しにくいと感じられたため,あらかじめスコアリングから総外した。また,反応内容の Na
Arch
,Art
,Lds
,Musicについては,本研究で着目する対人意識とは直接関係しないと思われ
るので排除した。逆に,対人意識に関係が深いと考えられる C
l
o
t
h(衣服)および Mask(仮面)
を高橋 (
1
9
8
2
) にしたがって採用した。その他,主ぎから上の顔のみの反応について Face (顔)
を採用した。なお, Faceは
, Hdおよび (
Hd)の下位分類としてスコアし,さらに Maskは Face
の下位分類としてスコアすることにした。つまり,例えば「鬼の仮面」という反応、の場合,
Hd) とし,下位分類として Faceと Maskをスコアすることにした。(また H につい
反応を C
ロールシャツハ・テストからみた現代の対人恐怖症
1
6
5
γ
a
b
l
e
1 対人恐怖症診断基準(中村・笠原, 1
9
9
3
)
以下の 4項目を満たすこと
①
己の態度,行為,あるいは身体的特徴が,社会的対人的状況において不適切に感じら
れる。
②①のため社会的状況で,恥,間惑,不安,恐怖,おびえ,緊張など,持続的な感情反
応を受し,強い苦痛を感じる。
C
L②のためにイ患者との有効な関係を維持できない(受け入れられない,軽蔑される,
③
避けられる)と感じ,悩む。
④ 苦痛を覚える社会的対人的状況を回避しようとする反面,回避することに対して抵抗
がある。
付帯事項:妄想型(いわゆる重症対人恐怖,思春期妄想疲)
上記の基準を満たし,さらに以下の 3項自に該当するものを妄想型対人恐怖と特定せよ。
①
特定の身体的部位あるいは身体感覚に結びついた,自己の身体に欠陥があるという確
信(自己の視線,臭い,醜貌など)を持つ。
②①のため他者に対して警を与えるか,不快感を与えると妄想的に確信している。
③①のために他者がいつも自分を避けていることを妄想的に確信している。
T
a
b
l
e2 対人恐怖症群の被験者のプロフィール
性別
男性
被験者
年齢
職業など
特徴的な訴え
A
B
C
D
E
2
0
2
5
2
4
2
0
1
5
1
8
3
3
無職
無職
大学卒
大学生
高校生
高校生
会社員
対入場面での極度の緊張
対入場面での極度の緊強
視線・表情が不快感を与える
集団に入ることへの恐怖
集団に入ることへの恐怖
視線が不快感を与える
集団に入ることへの恐怖
1
8
1
6
1
8
1
8
1
7
2
7
2
9
2
5
無職
高校生
高校生
高校生
高校生
会社員
会社員
会社員
集団に入ることへの恐怖
不快な突いを発している
視線が不快感を与える
集団に入ることへの恐怖
息遣いが不快感、を与える
対入場面での極度の緊張
不快な臭いを発している
振る舞いを笑われる
F
G
H
I
女性
ては,
K
L
乱f
N
O
lHと明確に 1
R
5
J
りするために,、p
u
r
eH
" と表記する。)
スコアリングの手続きは以下の通りである。まず,
と 2名のロ・テスト経験者(ロ・テ
スト随行者とは別)の 3名が単独で,河ーの 5例のプロトコルについてスコアリングを行なっ
た。その結果
5例についての 3名の一致率は,反応領域について 95.0%,反応決定限につい
て 97.3%,反応内容について 95.6%であった。この結果から十分に高い一致率が得られたと判
1
6
6
断し,残りの 3
0例については筆者一人でスコアリングをおこなった。なお,先述の 5例の不一
致な点については 3名の協議のうえで決定した。
3.結果の分析
本研究では,群簡の比較を行なうにあたって
2群のロ・テストの反応数の王子均に差異が生
じていたため,これを統制するために該当する反応の個数を
R (反応、数)で割った百分率を変
数として用いた。ただし, Rについては実数を用いた。また,反応、内容については,主要な変
数の他に,人間像や対入場面での意識に関係があると恩われる変数を取り上げた。対人恐怖症
ann.Whitneyの検定をもち
群と大学生群におけるこれらの変数の出現数や出現率について, M
いて比較した。
I
I
I
.結 果
Table3に,各群の変数の中央値および平均値と Mann
ベ
九T
h
i
t
n
e
yの検定の結果を示す。
M % (人間運動反応), FK% (通景・立体反応), pureH% (人間反応、), Cloth% (衣服反応)
形
については,対人恐怖症群が大学生群よりも有意に低いことが認められた (p<0.05L F%(
態反応)と WsumC%(色彩反応の加重和)については,対人恐怖症群が大学生群よりも高い領
向が認められた (
p
<
0
.
1
0
)。
N. 考 察
1
9
8
7
),高橋(19
8
2
),Exner(
19
8
6
) をき主本枠組みとし
以下の考察では結果について,片口 (
考察する o 統計的には,有意傾向について解釈を行なうことの危険性は高いが,本研究では被
験者の数も躍られており有意差が検出されにくいことを考慮し,あえて有意額向についても考
察の対象とした。
1.対人恐怖症群と大学生群との比較
loth%について検討する。
はじめに直接的に人間に関係する変数である M %,pureH%,C
片口によるとロ・テストの解釈では一般的に,
Mは制止したインク・ブロットに内的な人間
運動のイメージを投影したものであると考えられている。ここから対人恐怖疲群において M が
少ないということは,人間イメージの投影が活発におこなわれていないことを意味すると考え
られる o
また pureHについて E
xnerは,現実の体験に摂ざした社会環境への関心に関係すると述べ
ており,この反応の欠如は現実の人間に対する見方や態度の偏りを意味すると考えられている。
ここから,対人恐怖症群の pureH%が大学生群に比べて有意に低かったことは,現実的な対人
関係への関心の低さ,あるいは回避的な傾向が表れていると考えられる。
C
l
o
t
hについては,高橋(19
8
2
)によると①性的差異や性別役割への関心,②社会的習慣や社
会的名声についての関心をあらわすと考えられ,自分が他人からどう見られているかという対
人意識に関係していると考えられている。ここから,対人恐怖症群の C
loth%が大学生群に比べ
て低かったことは,このような対人意識の低さを示していると考えられる。
1
6
7
ロールシャツハ・テストからみた現代の対人,恐怖症
γable3 主要なロ・テスト変数の中央値と平均値および検定の結果
対人恐怖症 (N=15)
変数
大学生 (N=20)
中央依
平均値
中央値
平均値
R
W%
D%
Dd%
S%
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M%
FM%
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Fc%
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FK%
KF+K%
FC'%
FC%
CF十C%
WsumC%
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6
9
~H%
~A%
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Aobj%
PI%
BI%
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Food%
C1oth%
出 ask%
巴%
Fac
P%
Lー
一
十p
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*
Mann-Whitney
T
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s
t
p=0.083 + 対 > 大
p=0.026 * 対 < 大
p=0.0
l4 * 対 < 大
pニ 0
.
0
7
5 十対>大
p=0.049
*対<大
p=0.026
*対<大
これら 3変 数 (M%,pureH%,Cloth%) はそれぞれ現実的な人間関係についてのイメージ
に関係するものであり
3変数の解釈をまとめると,対人恐怖症群は大学生群に比べ,対人関
係おいて人聞をトータルに生き生きとしたものとしてイメージすることが難ししまた具体的
な人間の細部についてのイメージが乏しいことが考えられる O
次に対人恐怖症群の FK%の低さと F %が高い傾向にあったことについて検討する。片口に
よると,一般に FKには反映される分イじした人格のi
慶応のよさや,内省的な自己評価に関する
資質が関係すると考えられている。この FKは人格の発達にしたがって i
替えてくると考えられ
ており, Exnerは FD(片口法の F五に相当する)が青年や成人において欠如している場合, "
[E
I
1
6
8
己への気づき,あるいは自己探索の詔避を意味する」と指識している。 F%の高さ l
i,外界の情
ちして捉えようとすることに関係しており, E
xnerによると「回避ないし単純化とい
報を単純f
う操作がおそらくかなり生じていることを示している j とされている。ここから対人恐怖症群
は大学生群に比べ,客観的に自己を見つめることが少なし外界の情報については単純化して
関わりを少なくする傾向があると考えられる o
色彩反応、について片口は,その実証性については疑問点が多いことを指摘しながらも,諸研
究者によって「これが情緒に関する指標となりうる点で一致している」と述べている。 S
c
h
a
c
h
t
e
l
(
1
9
4
3
)は,色彩の知覚が受動的なものであり,最小限の活動しか含まないことを指摘し,より
意識的な過程が介在しないものとして色彩反応を位誼づけている。ここから対人恐怖症群にお
いて WsumC%が高い領向が見られたことについて解釈することは難しいが,より意識的では
なく情緒的に反応しやすいことを意味していると考えられるであろう。
結果をまとめて解釈すると,対人恐怖症群の特徴としては,外界との接触を少なくするよう
な坊構的・抑制的態度が存在し,対人的意識は希薄で、,自己についても他者についても具体的
な人間イメージが乏しいことが考えられる。また,外界からの刺激に対してはより意識的で、は
なく構緒的に反応しがちであることが予想される o
一般に対人恐怖症者は,対人的意識が過剰であると考えられがちであるが,本研究の結果か
らは,むしろ逆の特徴が浮かび、上がってきたといえるであろう
o
2.従来の研究どの比較
R と F%について
武間 (
1
9
7
0
) と梶塚他 (
1
9
7
7
) は,健常群との比較において対人恐怖症群において Rの多さ
を指摘していたが,本研究においては大学生群との閤に有意差は認められなかった。
また,梶塚他の指摘している F%の高さについては,本研究においては有意差は認められない
までも,有意な傾向は認められた。
梶塚他は,対人恐怖症群において Rが多く F%が高いことを「強迫的に課題を多く達成しよ
うという機脅しと解釈していたが,本研究における対人恐怖疲群全体の特徴には,明確な「強
迫的な機常I
J
J は認められず,外界との係わり合いを避けることが特徴的であると考えられ,む
しろ由避的であるといえるであろう。
運動皮応について
従来の研究では,対人恐怖心性と運動反応、との関係が指摘されてきた。
6
9
) は,対人恐怖症者と発作性神経症者のロ・テストの結果を比較し,対人恐怖症
岩井(19
8
7
) は,対人恐怖心'性
者の体験型は内向型・関向型が多いことを指捕している。また永井(19
について低自覚群,高自覚群, (対人恐怖症)発症群の三群を比較し,
Mについては低自覚群に
比べ高自覚群が有意に高いことを, F Mについては発症群は低自覚群よりも有意に高し
群よりも高い領向があることを, m については低自覚群に比べ発症群が有意に高いことを認め
ている。各群の M の実数について RPRSの加重点を比較した結果においては,発症群と高
a
群は,低自覚群より有意に高いことを認めている。
本研究では,従来の研究とは逆に対人恐怖症群においては
M%が有意に低いことが認められ
た。岩井や永井は,対人恐怖症ゅ者に M 傾向を見出したことから内的な資質の豊かさを指摘して
ロールシャツハ・テストからみた現代の対人恐怖主主
1
6
9
いるが,このような傾向は本研究における対人恐怖症群には認められないことになる。これは
必ずしも内的資質の乏しさを意味するものではないと思われるが,本研究での対人恐怖症群の
人々が,共感性や想像力を発揮することが難しいことを意味しているといえるであろう。
なお,神谷 (
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) は大学生を対象に,対人恐怖心性の「高度群J r
中程度群 J r
低度群J を
比較し,中程度群に比べ高度群と低度群は M の実数が多いことを見出しているが,これも本研
究の結果とは異なっている。しかし,神谷の研究は実際の対人恐怖症の患者を対象にしたもの
ではないので,ここで具用について論じることは避ける。
上記のように,対人恐怖症者の
Rや運動反応についての従来指摘されてきた特徴と,本研究
での見出された対人恐怖症群の特徴とは質的に異なっていた。従来の研究では,強迫的傾向や,
対人恐怖症者の内的資質の高さなどが見出されてきたが,本研究で見出されたのは,外界の刺
激を回避し,身を守ることに専心している対人恐怖症者の姿であり,対人関係において具体的
なイメージを持てないでいる対人恐怖疲者の姿であった。
人間に関する変数の億が低かったことからは,人間ついてのイメージや, E
I分についてのイ
メージが希薄で、あることが考えられた。つまり,外部からの刺激に対して引きこもっているば
1
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)
かりではなく,内部では人間的体験のイメージが希薄佑していると考えられる。永井 (
は M についての解釈から,森田 (
1
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5
3
) のいう「対人恐怖症者の持っている生の欲望の強さ」
を見出しているが,本研究の対人恐怖症群にそれを見出すことは剖難で、った。このような心性
は,鍋回 (
1
9
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7
) が近年の対人恐怖症の治療において「人とつながれない,あるいは,情緒的
な終を人と持ったことがない深い絶望感とも空虚感、とも恐怖感、ともいえるような不安が現れる
ケースが目立つ J と述べていることにも重なると思われる。
従来の研究との違いが生じた要菌としては,被験者数が少ないことや,そもそも協力いただ
いたクリニックの受診者が上記のような傾向を有していた可能性なども査定できない。
しかしながら,前述の鍋田の指摘や商濁 (
1
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) や中村 (
1
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) の以下のような指摘を考慮
すると,本研究で見出された結果は,対人恐怖症の現代的特徴を描き出しているとも考えられ
る。西題 (
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) は,今日の対人恐怖症者のほとんどが「恐怖」を引き起こす状況からの逃避,
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) も「引きこもり」な
臨避,引きこもりの態度をとっていることを指摘しており,中村 (
ど対人的な不安が生じる場爾を徹底的に回避するタイプの対人恐怖も増えてきていると指摘し
ている。本研究での結果が対人恐怖症の現代的特徴を描き出しているとするならば,事態は非
常に深刻になっていると考えられるであろう o
以上のように考察してきたが
rひきこもり J についてのマスコミの報道を見るまでもなく,
現代多くの青年たちが外界と接点を持てずにいることは確かで、ある。本研究がこれらの青年と
共通する心性を描き出したとするのならば,それは問題理解への一歩の前進で、はないであろう
か
。
最後に,今後の課題としては,さらに例数を増やし異なった角度からも分析を加えていくこ
と,また,事例についても検討し,ロ・テストとの関係性についても検討していく予定である。
〈付記〉本研究にご協力いただいた患者のみなさまと,精神科医の村間忠良先生にお札を申しょ
げます。
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