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PDFダウンロード - ベネッセ教育総合研究所

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PDFダウンロード - ベネッセ教育総合研究所
Interview
デ ータからみ る理 科 教 育 の 課 題
― 科 学を学ぶ意 義が伝わる授 業とカリキュラムを ―
●
小倉 康[国立教育政策研究所総括研究官]
それが何の役に立つのかはよく分からない。
おぐら やすし
だから、あまり大切な勉強とは思えない。
●
子どもたちのそんな意識が浮かび上がってくる。
データを基に理科教育の課題を探ってみたい。
キーワード = 小中学校教育課程実施状況調査、PISA 調査、科学リテラシー
国立教育政策研究所教育課程研究センター
基礎研究部総括研究官。
独立行政法人科学技術振興機構
理科教育支援センターシニアアナリスト。
広島大学教育学部助手、
国立教育研究所研究員を経て現職。
『生きるための知識と技能 3 − OECD 生徒の学習
到達度調査
(PISA)2006 年調査国際結果報告書』
『TIMSS2003 理科教育の国際比較』
(ともにぎょうせい)
をはじめ、
著書・論文多数。
多くの子どもにとって理科は
程実施状況調査で、
「(各教科の)勉強は受験に関係なくても
「面白いけれど役に立たない」
大切だ」という質問をしました(図表 1、P.6)。教科間、学年
私が子どもだった高度経済成長期とは比べものにならな
間で結果を比べると、理科は「大切だ」と意識する子どもの
いほど現代は価値観が多様化し、子どもにとって興味のある
割合が、いずれの調査とも、国語、算数・数学、英語よりすべ
こと、大切なこともまた多様化しています。そうした中で、
ての学年で低く、また、中学校の 3 年間で徐々に低下してい
学校で学ぶことに対しても、何か積極的な意義を感じなけれ
ることが分かります。一方で、
「(各教科の)勉強が好きだ」
ば学習意欲がわかない子どもが増えてきました。子どもは教
という質問に対しては、理科が「好きだ」と意識する子ども
室の椅子に座れば勉強するもの、と大人が疑いをもたなかっ
の割合が最も高かったのです(図表 2、P.6)。つまり、多くの
たかつての時代と異なり、今はうまく動機づけできないと学
子どもにとって理科は「面白いけれど勉強する意義が分から
ぼうとしません。教師の置かれている状況が、昔と今ではか
ない」教科ということになります。
なり違うのです。
01 年度に比べて 03 年度の方が改善の傾向にあるのは、
「生
学習内容に興味・関心の高いことが、第一の動機づけにな
きる力」の育成を目指して内容的にゆとりを持たせた教育課
ります。それにはさまざまな方法があって、理科なら観察・
程で、より主体的な学習が尊重されたこと、関心・意欲・態
実験・飼育・栽培など、実体験をともなって楽しく作業をす
度が評価の観点として重視されだしたことなどがその理由
ることで興味・関心を引きつけられる題材が豊富です。
として考えられますが、推測の域を出ません。とはいえ依然
しかし、学年が上がり中学生くらいになると、ただ「楽しい」
として他の教科に比べて低いわけですから、重い課題として
だけでは動機づけにならなくなります。その勉強が何の役に
残されていることは確かです。
立つのか、自分の将来にとってどんな意義があるのか。そん
これは国際的にみても顕著な状況といえます。03 年の国
なことを子どもは意識し始めます。つまり動機づけでは「学
際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の生徒質問紙調査の結
ぶ内容についての興味・関心」と「それを学ぶことの意義」
果では、理科学習に高い価値を意識している中学 2 年生の割
の両面が必要なのです。しかし、この後者について理科では
合は、比較可能な参加国中で最低の 17% でした(図表 3 、
成功しているといえません。
P.6 )。成績は上位 5 位に入っているにもかかわらず、です。
・2003 (平成 15)年度の小中学校教育課
2001 (平成 13)
日本とほぼ同じ成績レベルのイギリス(イングランド)は
2009
―さまざまな調査結果から、理科に対する
NO.15
理
科の実験・観察は楽しいから好きだけれど、
5
データからみる理科教育の課題
Interview
図表[1] (各教科の)勉強は、受験に関係なくても大切だ(2003年)
図表[2] (各教科の)勉強が好きだ(2003年)
■国語 ■社会 ■算・数 ■理科 ■英語 ■理科(2001年)
■国語 ■社会 ■算・数 ■理科 ■英語 ■理科(2001年)
(%)
100
(%)
100
90
90
肯
定
的
回
答
の
生
徒
の
割
合
肯
定
的
回
答
の
生
徒
の
割
合
80
70
60
50
40
0
80
70
60
50
40
小5
小6
中1
中2
0
中3(学年)
小5
小6
中1
中2
中3(学年)
* 図表1、
2ともに平成13・15年度「小中学校教育課程実施状況調査」より
図表[3] 理科学習に高い価値を意識している中学 2 年生の割合と各国理科平均点
600
(点)
各
国
の
理
科
平
均
得
点
日本
550
シンガポール
台湾
韓国
英国(イングランド)
香港
オーストラリア
アメリカ合衆国
マレーシア
ニュージーランド
500
イタリア
イスラエル
タイ
ヨルダン
イラン
450
トルコ
400
チュニジア
チリ
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100(%)
理科学習に高い価値を意識している生徒の割合
* 国立教育政策研究所「理科好きの裾野を拡げ、
トップを伸ばす科学カリキュラムとは」
(2007 年 3 月)より。
6
40% 近くの子どもが理科学習に高い価値を意識しています。
新学習指導要領で強調される
だから日本がそうなれないはずはない。
主体的な思考、実生活との関連
15 歳を対象(日本では高校 1 年生)に科学的リテラシーを
どうして日本の子どもたちは 「理科を学ぶ意義」を感じ
中 心 に 測 定 し た 0 6 年 の P I S A 調 査 で も 、日 本 の 成 績 は
にくいのでしょうか。授業の国際比較調査から考えてみます。
OECD 加盟国の平均を 30 点以上上回った反面、
「科学的態度」
TIMSS の 99 年度調査の一環で、アメリカ、オーストラリア、
に関わる意識面の測定結果では、次の観点において低い水準
オランダ、チェコ、日本の 5 か国の第 8 学年(中学 2 年)の
にあることが分かりました。すなわち、
「科学的な課題に適
理科の授業を撮影した、計 439 件のビデオを分析し国際比較
切に対応できる自信(自己効力感)」
「理科を何に役立てるた
した結果が、06 年に国際報告書として公開されました。
めに勉強しているかの意識」
「科学に関連する活動の程度」
「30
この調査から読みとれる日本の中学 2 年生段階の理科授
歳時に科学に関連した職業に就くことの期待」
「対話を重視
業の特徴は、従来から学習指導要領で強調されてきた通り、
した理科授業を受けている意識」
「生徒の科学研究を取り入
実験・観察活動を重視し、具体的な証拠に基づいて基礎的概
れた理科授業を受けている意識」
「モデルの使用や応用を重
念を導き、理解させることに主眼を置いていることです。
視した理科授業を受けている意識」などです。
一方で指導が少ない点は以下の 4 点に集約されるでしょう。
特集 誰の、何のための科学教育なのか
図表[4] 生命科学、地球科学、物理、化学、その他の分野に
割り当てられる第 8 学年(中学2年)の理科の授業の国別割合
■地球科学 ■生命科学 ■物理 ■化学 ■その他の分野※
オーストラリア 5
49
24
チェコ
36
日本
7
29
19
オランダ
28
0
20
8
25
9
36
32
アメリカ
15
37
47
18
40
16
60
9
17
80
10
20
100(%)
授業の割合
※ 科学の本質、科学の相互作用、
テクノロジーと社会、環境および資源問題、
科学的知識の性質、科学と数学の関係など
*『国立教育政策研究所紀要 第136集』P.223図版を基に作成
(1)生徒が収集したデータを独自に考えて整理したり、処
理したりすること。
(2)科学を身のまわりや実世界の事象に
関連付けること。
( 3 )科学の本質、科学の相互作用、テクノ
ロジーと社会、環境・資源問題、科学的知識の性質、科学と
数学の関係といった領域横断的な内容の扱い(図表 4)。
(4)
生徒を科学の学習に動機づける活動。
これらは他の調査国でも決して十分に行われている内容
ではありませんが、日本での指導の少なさは先に紹介した小
年では週 4 時間に増えました。これによって、例えば 2 時間
中学校教育課程実施状況調査で希薄だった「理科を学ぶ意義」
続きの授業ができれば、生徒が実験方法を自ら考え、データ
や、PISA2006 年調査で低水準だった「科学的態度」などに
の分析・考察に時間をとることが可能になるはずです。
大きく関係している事柄と考えられます。
また、科学を身のまわりや実世界と関連付けることも新学
そもそも PISA 調査が目指しているのは、知識基盤社会に
習指導要領では強調しています。例えば、てこの原理の学習
移行する中で、将来を担う子どもたちが、
「あらかじめ決め
とハサミの使用を結びつける、エネルギー変換の学習で信号
られた手順に従って課題を素早く正確に処理する資質・能力」
機やイルミネーションに発光ダイオードが使われている理
ではなく、
「自ら方法を工夫して課題を解決したり、その場
由を考えさせる、といった指導上の工夫が求められます。
カリキュラムの枠を越える
上記の中学理科授業の国際比較などから日本の理科授業は、
領域横断的な課題 実験・観察活動を重視したスキル面のトレーニングの点では、
領域横断的な内容については、中学 3 年の最終単元で科学
他の国に比べて優れていると考えられます。しかし、ややも
技術とのつきあい方を扱うことになっているので、これまで
すれば、決まった手順通りの迅速正確な作業が中心になり、
よりは社会科学や人文科学と結びついた学習が可能だと考
自分でどのように実験を進めたらよいのか考えたり、出た結
えられますが、まだ大きな課題が残されています。
果をどう分析して、どんな結論を導けばよいのか議論したり
一例を挙げると、子どもたちにも普及している「携帯電話」
することが、おろそかになりがちです。
です。その原理は義務教育では学習しません。電磁波の性質
そこで新しい学習指導要領では、この部分を重視していま
は高校でも選択履修で学ぶ内容です。しかし、これを知らな
す。そのためには授業時間が足りないので、中学校 2 年、 3
いと、電車の優先席のそばでは電源を切らなければならない
NO.15
高い資質・能力」を身に付けているかどうかを調べることです。
2009
の状況に合わせて適切な判断を導いたりする知的創造性の
7
データからみる理科教育の課題
Interview
理由が分からない。また、本年 9 月にヨーロッパで「携帯電
図表[5] 「科学を学ぶ楽しさ」に関する意識の程度
話の使用頻度が高い 15 歳以下の子どもが脳腫瘍になる確率
1_科学の話題について学んでいる時は、たいてい楽しい
2_科学についての本を読むのが好きだ
3_科学についての問題を解いている時は楽しい
4_科学についての知識を得ることは楽しい
5_科学について学ぶことに興味がある
が高い」という研究が発表され、携帯電話の電磁波が健康に
与える悪影響についての議論が再燃しています。EU では規
次のことについて「そうだと思う」または
「まったくそうだと思う」と回答した生徒の割合(%)
国名
インドネシア
キルギス
タイ
チュニジア
コロンビア
ヨルダン
メキシコ
アゼルバイジャン
ルーマニア
マカオ
ブルガリア
トルコ
ポルトガル
香港
ブラジル
カタール
モンテネグロ
リトアニア
チリ
ハンガリー
イタリア
カナダ
フィンランド
フランス
台湾
ロシア
クロアチア
ウルグアイ
セルビア
ギリシャ
ラトビア
アルゼンチン
ニュージーランド
ベルギー
ノルウェー
日本(中学3 年)
エストニア
OECD平均
アメリカ
スロバキア
イギリス
アイスランド
オーストラリア
イスラエル
チェコ
ルクセンブルク
スイス
デンマーク
アイルランド
スペイン
スロベニア
スウェーデン
ドイツ
韓国
オーストリア
ポーランド
リヒテンシュタイン
日本(高校1 年)
オランダ
8
1
2
3
4
5
90
91
91
87
89
89
94
86
86
81
80
79
73
81
72
76
60
72
77
75
61
73
68
73
65
68
63
61
64
62
72
52
62
61
64
69
63
63
62
70
55
60
58
58
59
67
67
63
48
59
57
62
63
56
58
44
58
51
46
90
88
85
85
85
81
82
83
80
72
75
75
66
65
67
69
68
60
56
61
59
54
60
48
62
52
68
61
55
59
56
58
43
45
48
43
50
50
47
51
38
53
43
51
47
48
45
48
45
45
52
49
42
45
42
47
37
36
41
77
76
75
76
71
79
60
68
53
56
47
53
52
54
47
57
53
39
46
46
57
49
51
43
43
51
39
37
41
40
26
35
55
53
47
44
40
43
41
34
53
45
49
42
36
42
42
37
39
27
44
34
38
27
39
37
38
29
33
96
92
94
95
90
88
92
86
86
86
86
78
87
85
86
77
80
86
75
71
73
73
74
75
79
83
78
74
70
71
81
72
71
64
69
71
78
67
67
71
69
66
67
67
70
59
60
55
68
63
58
61
52
70
51
60
48
58
56
89
91
93
91
94
84
85
89
79
79
88
78
84
77
86
75
79
73
74
72
73
72
68
77
64
60
63
76
76
69
65
79
65
68
62
62
57
63
65
57
67
56
61
57
62
55
55
63
64
69
52
57
60
47
44
44
47
50
46
平均
88
88
87
87
86
84
83
82
77
75
75
73
73
72
72
71
68
66
66
65
65
64
64
63
63
63
62
62
61
60
60
59
59
58
58
58
58
57
57
56
56
56
56
55
55
54
54
53
53
53
53
53
51
49
47
46
46
45
44
* 国立教育政策研究所「PISA 調査のアンケート項目による中3調査集計結果」
(2008年6月)
* PISA 2006年調査の結果に、中学3年調査の結果を追加
制の動きさえ出ていますが、こうした、真偽を即座には判定
できない科学情報に接したとき、内容を理解し判断できる資
質をそなえておくことは、社会生活上極めて重要です。
例えば四方に広がる電磁波の場合、距離の 2 乗に反比例し
て弱くなる性質を知っていれば、子どもが携帯電話を使う場
合、成長が活発な脳細胞から一定の距離を置いて操作できる
メールの方がより安心かなとか、できるだけ短時間に済ませ
るべきかな、などと考えられるわけです。生活上の諸問題に
活用できる基礎的な科学知識や技能を身に付ける、という科
学リテラシーの観点から理科のカリキュラムを見直すこと
も今後は必要でしょう。
科学学習の動機づけの問題では、職業との関連が重要です。
しかしこれまであまり理科の授業では扱われていません。
全国の公立中学校 337 校を対象に実施された平成 20 年度
中学校理科教師実態調査では、
「理科の学習内容と職業との
関連についてよく説明しているか」の質問に対して肯定的な
回答を寄せた先生は約 35% にすぎませんでした。
「職業との関連」とは、特定の職業に就くために理科を学
ぶことが必要という意味に限りません。科学的なものの見か
た、考えかたは、世の中のあらゆる職業の基礎になります。
予測を立て、条件を設定してデータをとり、結果から何が
いえるかを論理的に説明する方法は、どんな仕事にも使える。
だから理科の実験・観察は、科学者や技術者になりたい人だ
けではなく、誰にとっても将来のためになる、ということが
子どもたちに伝われば、将来どんな職業に就くかは分からな
いけれど、理科を勉強しておくのは大切だと感じてくれるに
ちがいありません。ぜひそうなってほしいと期待しています。
小中高等学校・地域で支える理科教育と
理科好きの子どもを伸ばす特別支援
08 年の初めに、全国 89 校、約 3,000 人の中学 3 年生を対
象に、PISA 調査で使われた生徒質問紙を用いて、科学的態
度に関する意識調査を実施しました。すると、
「科学を学ぶ
楽しさ」に関する意識の程度は、高校 1 年生を対象とした
PISA 調査よりも高く、OECD 加盟国平均と同程度でした(図
特集 誰の、何のための科学教育なのか
図表[6] 科学技術の基礎的概念理解度 15か国地域共通 10問平均正答率比較
デンマーク[1992]
英国[1992]
米国[1999]
フランス[1992]
米国[1995]
オランダ[1992]
ドイツ[1992]
EU[1992]
ルクセンブルク[1992]
ベルギー[1992]
イタリア[1992]
アイルランド[1992]
スペイン[1992]
日本[2001]
ギリシャ
[1992]
グループ 1
10
20
30
40
50
共通10問平均正答率
60
大陸は何万年もかけて移動し続けている……………
(正)
現在の人類は原始的動物種から進化したものだ……
(正)
●
地球の中心部は非常に高温である…………………
(正)
グループ 2
●
我々が呼吸に使う酸素は植物が作ったものである…
(正)
すべての放射能は人工的に作られたものである……
(誤)
グループ 3
70(%)
●
正答率
70%以上
正答率
50%以上
70%未満
44
43
ポルトガル[1992]
0
グラフは下の10項目について「正しい」
「誤っている」
「わからない」から
選択させた正解率を示したもの
64
63
61
61
59
59
58
57
56
55
55
52
51
51
●
●
●
ごく初期の人類は恐竜と同時代に生きていた………
(誤)
●
男か女になるかを決めるのは父親の遺伝子である …
(正)
抗生物質はバクテリア同様ウイルスも殺す…………
(誤)
誤答率
35%以上
●
グループ 4
●
「わからない」
回答率
45%以上
●
電子の大きさは原子の大きさよりも小さい …………
(正)
レーザーは音波を集中することで得られる …………
(誤)
* 科学技術基礎的概念理解度のクラスター分析による分類
困難な条件下で、その対策の一つは地域で理科教育をサポー
PISA 調査では 10% にすぎないのに対し、中学 3 年生を対象
トする拠点を設け、人材を配置することです。例えば退職教
とした調査では 32% と、OECD 加盟国の平均値 22% を上
員や専門的な知識・経験のあるサポーターがコーディネータ
回っていました。
ーとなって、地域の企業のエンジニアなど外部の専門家を学
この結果から、高校で実験・観察が減り、理科の学習がつ
校に特別講師として派遣するコーディネートをしたり、研修
まらなくなっていることが示唆されます。平成 14 年度高等
のアレンジをしたりするといった仕組みが求められます。
学校教育課程実施状況調査をみても、理科 4 科目をそれぞれ
一方で、理科に興味・関心が高い子どもたちを支援する機
選択した生徒でさえ、その科目が「好きだ」と回答したのは
能を、学校を含めた社会全体がもつ必要があります。先の理
約 4 割、
「受験に関係なくても大切だ」と回答した生徒は 2
科教師実態調査によると、科学部のある中学校は全体の 3 分
∼ 3 割にとどまっています。理科離れは高校で急速に進行し
の 1 で、なおかつそのうち理科の先生が顧問を務めているの
ている可能性が高い。
はわずか 6% 。教員の配置が難しいのであれば、やはり地域
01 年に 15 か国・地域の成人を対象に科学技術政策研究所
でのサポートが必要です。理科好きな子どもの力をもっと伸
が実施した「科学技術に関する意識調査」の結果では、
「基礎
ばしてあげたい。どの子どもにも、その能力や適性に応じた
的概念の理解度」で日本は平均正答率 51%、最下位から 3 番
学習機会が与えられるべきです。私は、理科が好きで優れた
目でした(図表 6)。どうしてこうなるのか。科学ジャーナル
才能を示す子どもの能力を伸ばすことも一種の「特別支援教
の乏しさや科学館・博物館の利用度の低さなどに表われてい
育」だと考えています。支援がなければ、その才能を発揮で
る大人の科学への無関心は、高校での理科離れが尾をひいて
きなくなるからです。これもまた、小中高を通して理科教育
いる結果かもしれません。大学受験対策を第一義に考えるの
の大切な課題の一つだと思います。
ではなく、中学まではそれなりにあった理科に対する興味・
関心をいかに持続させるかが、高校教育の大きな課題です。
また、小中学校での最大の課題は、理科教育の環境整備、
とりわけ教師の多忙さの解消です。教材研究にも実験・観察
指導にも時間的なゆとりが欲しい。教員の人員増が財政的に
References
● 小倉康「科学的リテラシーを育むこれからの理科教育」
『広領域教育』No.69 / 2008 年
● 小倉康「2006 年 PISA 調査における科学的リテラシーの評価」
『大学の物理教育』VOL.14 NO.1 / 2008 年
● 小倉康、松原静郎「TIMSS1999 理科授業ビデオ研究の結果について」
『国立教育政策研究所紀要』第 136 集/ 2007 年
NO.15
表5)
。また「ほとんどの授業で実験を行う」と回答した割合は、
2009
* 科学技術政策研究所「科学技術に関する意識調査―2001年2月∼3月調査」
(2001年)
を基に作成
9
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