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オーストラリアPFI - Nomura Research Institute
02-NRI/p4-13 01.1.31 2:52 PM ページ 4 NRI NEWS オーストラリア版 PFI 米山 晋 オーストラリアは、早くからPFI(プロジェクト・ファイナンス・イニシアチブ) に取り組み、民間の資本を活用して多くの社会インフラを実現させてきた。記憶に新 しいシドニーオリンピック、パラリンピックの舞台であるオリンピックスタジアムも、 PFI手法を用いて開発された施設である。ニューサウスウェールズ州政府は、世界中 から革新的なプロポーザル(提案)を募集し、民間企業にプロジェクトファイナンス の大部分を行わせることで、スタジアム建設そしてオリンピックを成功に導いた。 ■PFI 先進国オーストラリア つまりPFIに早くから取り組み、 験を踏まえ、PFIプロジェクトの わが国では、1997年7月にいわ 数多くのプロジェクトを実現する プロセスを明確にし、公表してい ゆるPFI法が成立し、日本版PFI とともに、PFIにかかわる経験を る。その大まかな流れは次の通り がスタートした。しかしながら、 蓄積してきた。本稿では、オース である。 緒についたばかりであり、現時点 トラリアのPFIの最新動向を紹介 ①プロジェクトの定義 で実現したプロジェクトは皆無に したい。 ●戦略的プランニング 等しい。 オーストラリアのなかでも積極 ●初期のプロジェクト開発 ②プロポーザル、ショートリス 一方、オーストラリアでは、民 的な取り組みをみせているのは、 間資本による社会インフラ整備、 シドニーを中心としたニューサウ ト(最終的候補業者の名簿) スウェールズ州である。同州では の作成 表1 ニューサウスウェールズ州の PFIプロジェクト (単位:百万豪ドル) セクター 投資額 政府の負担 これまでに、有料道路、鉄道、水 ●プロポーザルの公募 道、病院、オリンピック施設など ●評価とショートリスト作成 をPFI手法を用いて整備してきた ③詳細プロポーザル、評価 ●詳細プロポーザルの要求 2,524 486 (表1)。投資額は合計で約53億豪 鉄道 800 566 水道 550 0 ドルに達するが、そのうち政府の ●評価 病院 122 0 負担分は3分の1以下である。 ④交渉、契約 有料道路 エネルギー 52 0 オリンピック施設 1,253 428 合計 5,301 1,480 注)1豪ドル=約65円 出所)ニューサウスウェールズ州 ●コンソーシアムとの交渉 ■PFIプロジェクトのプロセス ニューサウスウェールズ州で は、実践したプロジェクトでの経 ●契約締結 ⑤情報の公開、プロジェクトの 実施 オーストラリア版PFI 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2001 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 7 02-NRI/p4-13 01.1.31 2:52 PM ページ 5 ●契約サマリーの作成と公開 8月には、10万7000人の観客を集 ●プロジェクトの実施 めてオーストラリア対ニュージー 1995年、政府はオリンピック調 ●プロジェクトの評価 ランドのラグビーの試合が行われ 整委員会を設立した。同委員会を 州政府のPFI 担当者へのインタ たが、これはラグビーとしては観 通じて、政府はショートリストに 客動員の世界記録である。 残った3つのコンソーシアムに詳 ビューによると、良い結果を出す が政府に寄せられた。 ためには、政府がプロジェクトに しかし、ここで紹介したい注目 細なプロポーザルを求めた。それ コミットすることと、民間企業に すべき特徴は、スタジアムを訪れ らの評価が行われた結果、日本の プロセスを明確に知らせることが た人にもすぐにはわからない。す 大林組を含む4社から構成される 不可欠との考えだった。 なわち、スタジアムの開発にかか 「SA2000コンソーシアム」が勝利 わるプロジェクトファイナンスこ した。 ■オリンピックスタジアム そが、公共施設のファイナンス分 このプロポーザルが優れていた 2000年のシドニーオリンピック 野における全く新しいマイルスト のために建設された最大の施設 ーンなのである。このプロジェク は、スタジアム・オーストラリア トには、政府や納税者ではなく、 は11万席とする。オリンピッ として知られるホームブッシュベ 大部分を民間企業がファイナンス ク終了後、両翼の高い位置に イのスタジアムである。このスタ を行った。 ある2つの巨大スタンドを取 ジアムは、オーストラリア版PFI プロジェクトの代表格である。 1990年代初頭、シドニーがオリ 点は、次の通りとされている。 ●オリンピック期間中の座席数 り外し、8万席に減らす(外 ■世界中から革新的な プロポーザルを募集 したスタンドは海外に売却予 定)。 ンピック誘致の準備を進めている 1994年、ニューサウスウェール ●オリンピック終了後は、フィ 時期に、誘致の責任者たちは、シ ズ州政府は、オリンピックと長期 ールドをフットボール用の長 ドニーの既存のスタジアムではオ 間にわたるラグビーとサッカーに 方形に変更する。 リンピックの開会式、閉会式、陸 適した施設のファイナンス、設計、 上競技、そしてサッカーの決勝戦 建設、運営に関心のある企業を世 およびパラリンピックのため には不十分と考えた。そこで、シ 界中で募集した。 にシドニーオリンピック組織 ●スタジアムは、オリンピック ドニーの都心の西方、ホームブッ 政府がこのような方法を採用し シュベイの地に新しい巨大スタジ た主な狙いは、納税者の負担をで ●発行株式を引き受ける。 アムの建設を心に描いた。 きるだけ少なくできる革新的なプ ●プロジェクト費用は約6億豪 ロポーザルを期待したことにあっ ドル(400億円弱)とし、政 た。またリスク、特に市場リスク 府の負担は小さくする。 このスタジアムには注目に値す る特徴がいくつもある。 まず、オリンピック前と期間中 を公共セクターから民間セクター の観客席数は11万席と、世界最大 へ移転させることも狙っていた。 の施設の1つである。また1999年 この結果、かなりの数の関心表明 8 委員会に無償で貸し出す。 建設は予定通り進み、1999年3 月にスタジアムは完成した。 知的資産創造/2001年 2月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2001 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 02-NRI/p4-13 01.1.31 2:52 PM ページ 6 図1 スタジアムプロジェクトの契約の構造 「SA2000コンソー シアム」構成企業 銀行団 ローン メンバーシップ権 出資 プロジェクト 契約 オリンピック 調整委員会 メンバーシップ 投資家 一般投資家 スタジアム・オ ーストラリア・ トラスト (施設所有者) 土地リース ローン サブリース 設計・建設契約 建設契約 スタジアム・オ ーストラリア・ マネジメント (オペレーター) マネジメント 契約 オペレーター契約 大林組 スタジアム・オ ーストラリア・ クラブ サプライ契約 オグデン トゥーイーズ 設計・建設契約 ケータリング契約 コカ・コーラ ・アマティル マルチプレックス ガードナー・ マーチャント チケテック 出所)クレイトン・ユーツおよびオリンピック調整委員会のレポートから作成 ■PFIプロジェクトを成功に 導いた契約 会とオリンピック組織委員会が自 参考文献 らの権利を法的に確保することを 1 New South Wales Australia, このプロジェクトは90件を超え 望んだことである。例えば、オリ る契約から成り立っている。図1 ンピック組織委員会が、オリンピ は、プロジェクトの契約の構造を ックおよびパラリンピックの開催 簡略化して示したものである。複 のために、無償でスタジアムの独 雑さを別にすれば、この契約には 占的な利用を求めたことがあげら 2つの特徴がある。 れる。 第1は、プロジェクトに対する “Guideline for Private Sector Participation in the Provision of Public Infrastructure” 2 John M. Shirbin, “The Olympic Stadium,” Clayton Utz 3 Olympic Co-ordination Authority, “Stadium Australia Summary of Contracts” PFI手法を用いることによって、 ファイナンスを支援するために、 ニューサウスウェールズ州政府は 『NRI Research NEWS』 個々の契約がジグソーパズルのピ 最小の負担でオリンピックの中核 2001年2月号より転載 ースのように組み合わされている 施設を開発し、シドニーオリンピ ことである。 ック、パラリンピックを成功に導 第2は、オリンピック調整委員 くことができた。 米山 晋(よねやますすむ) 事業戦略コンサルティング二部長 オーストラリア版PFI 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2001 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 9