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ハンガー絶縁被覆部のポリエチレン化(PDF 211KB)

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ハンガー絶縁被覆部のポリエチレン化(PDF 211KB)
ハンガー絶縁被覆部のポリエチレン化
Development of polyethylene insulation coating of Hanger
杉山 太郎(T.Sugiyama)
(技術部)
1.はじめに
当社は 2003 年に ISO 14001 取得後、環境負荷を低減する製品の開発を全社的に取り組んでいる。
そのテーマの 1 つに今回報告する配電用低圧引留クランプ用ハンガー(以下、ハンガー)の絶縁被覆
部があり、これまでポリ塩化ビニル(以下、塩ビ)を採用してきたが、環境負荷の小さい耐候性黒色
ポリエチレンによる絶縁被覆成形品に変更することに成功したため、ここに報告する。
2.構造
ハンガーの基本形状はクランプ性能や施工性を維持するため現行の形状を踏襲している。変更点
は、絶縁被覆部の成形材料に絶縁カバー等で実績のある耐候性黒色ポリエチレンを使用したことで
ある。
ハンガー
低圧引留クランプ本体
写真 1
ハンガー絶縁被覆部
低圧引留クランプのハンガー絶縁被覆部(耐候性黒色ポリエチレン製)
2.1 特徴
今回選定した耐候性黒色ポリエチレンの特徴としては以下があげられる。
(1)優れた絶縁性能を持ち、耐トラッキング性能も良好。
(2)耐候性に優れ、風雨や紫外線等の影響下でも劣化しにくい特性を持つ。
(3)軽量で扱いやすく、物理的性質も優れている。
(4)低温特性に優れ、氷点下でも脆化しにくい特性を
持つ。
(5)環境ホルモンを含んでいないので環境にやさしい。
といった特徴があり、当社の絶縁カバー材料として幅広
く採用されている。また、射出成形で成形しているため、
基本的には均一な絶縁被覆層を形成することができる。
また、低圧引留クランプは碍子に取り付ける際、これま
でのハンガーの塩ビ被覆と碍子は摩擦が大きく作業性に
影響があったが、耐候性黒色ポリエチレンに変更するこ
とによって碍子との摩擦を低減させることができ、作業
性の向上に寄与すると思われる。
AEW 第 38 号
-12-
写真 2
碍子への取付作業状況
3.開発内容
3.1 材質選定
脱塩ビ化にあたり、塩ビに変わる絶縁被覆材として、熱収縮チューブ、アクリルゾル、耐候性黒
色ポリエチレンを候補とし、これらについて、製造コストや要求品質(絶縁性、耐候性、耐熱・耐寒
性、耐磨耗性)を検討し、コストや性能に優れる耐候性黒色ポリエチレンを最終的に選定した。
3.2 最低肉厚の考え方
ハンガー絶縁部厚さについては低圧絶縁電線と同等の肉厚を確保することが重要である。「電気
設備技術基準の解釈 第 3 条第 3 項二」に「低圧絶縁電線の絶縁体の平均厚さは別表第 6 に規定する
値の 90%以上、かつ最小厚さは 80%以上であること」と規定されている。ハンガー芯材の直径は
5.0 ㎜のため、別表第 6 内の単線で直径が 4.0∼5.0 ㎜の欄を参照すると、ポリエチレンの絶縁体厚
さは 1.2 ㎜と規定されている。したがって、最低肉厚は 1.2×0.8=0.96 ㎜となるため、最低肉厚は
1.0 ㎜を確保できる設計とした。
3.3 開発時の課題
射出成形によって絶縁被覆層を成形するにあたり、耐候性黒色ポリエチレンの特性によるのか、
偏心による被覆肉厚のばらつきが最も困難な課題であった。射出成形時、ハンガー材を成形金型内
部にセットして射出成形を行うことでハンガー材を覆うインサート成形を採用しているが、均一な
肉厚を得るために射出条件等種々の条件を同時に解決しなければならず、金型を何度も修正しなが
ら、この問題の解決に多くの時間を費やした。
4.試作検証
当初の試作品について、図 1 の D1∼D5 の位置で被覆肉厚を測定した。なお、被覆肉厚 D 寸法は
各箇所の測定結果をまとめたものである。結果を表 1 に示す。
図1
表1
測定箇所
被覆長さ
L
被覆肉厚
D
試作品寸法測定結果
MIN
(㎜)
標準偏差
平均-3σ
平均+3σ
(㎜)
MAX
(㎜)
σ (㎜)
(㎜)
(㎜)
294
294.8
296.2
292.1
0.4435
293.5
296.1
1.2
1.25
1.82
0.7
0.2588
0.47
2.03
寸法値
平均
(㎜)
129
600
測定数
寸法測定箇所
L 寸法は成形金型寸法と樹脂の収縮を考慮するとほぼ妥当な結果を確認することができた一方、
D 寸法のばらつきが大きく、当初の試作品では最低肉厚 1.0 ㎜を確保することが難しいことが解析
結果より判明した。そのため、D 寸法について、図 2 の位置・方向で詳細に寸法を測定(図 3)し偏
心原因を検討した。
図2
AEW 第 38 号
肉厚寸法測定箇所
-13-
2
1.5
1
0.5
0
改
善9
前
0
3
2
1.5
1
0.5
0
9
0 平均値
3最小値
9
最大値
6
最小⇔平均⇔最大値
0
3
2
1.5
1
0.5
0
9
0
3
9
2
1.5
1
0.5
0
ハンガーPE 厚さ平均値−測定位置
0
3
2
1.5
1
0.5
0
9
0
3
平均厚さmm
ハンガーPE 厚さ−各断面
1.521
0.50
6
6
6
6
図3
1.8
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0時
3時
6時
9時
6
20
83.5
147
210.5
274
肉厚寸法測定結果詳細(改善前)
図 3 の通り、同一箇所の肉厚を測定しても、測定方向によって偏りが発生していることが分析か
ら判明した。原因追求の結果、成形金型の構造とある射出条件の問題であることが推測されたため、
金型構造を変更しつつ射出条件を組み合わせながら、さらに試作を行った結果、図 4 のようなよい
結果を導き出すことができた。
改
善
後
9
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
2.0
0
0
1.5
1.0
3
6
0 平均値
1.521
9 0.50 3最小値
最大値
6
9
0.5
0.0
3
6
最小⇔平均⇔最大値
9
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2.0
3
9
図4
0
1.5
1.0
0.5
0.0
3
6
6
ハンガーPE 厚さ平均値−測定位置
9
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
平均厚さmm
ハンガーPE 厚さ−各断面
3
6
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0時
3時
6時
9時
20
83.50
147.00
210.50
274.00
肉厚寸法測定結果詳細(改善後)
図 4 の結果のように、偏肉傾向は大きく改善されたが、若干の偏りは発生している。しかしなが
ら、この程度の偏肉は肉厚基準寸法値の見直し等によりにより、3σのばらつきを考慮しても最低
肉厚 1.0 ㎜を十分確保できることが判明した。
5.性能試験
5.1 絶縁試験
「電気設備技術基準の解釈 第 3 条第 3 項三」に絶縁電線の耐圧試験について規定されている。規
定内容は、「低圧絶縁電線で導体面積 300 ㎜2以下のものについては清水中に 1 時間浸した後、導体
と大地との間に 3,000V-1 分間加えたとき、これに耐えること」となっている。これに基づき、耐候
性黒色ポリエチレンで被覆を形成したハンガーについて、絶縁試験を実施し、その結果を表 2、試
験状況を写真 3 に示す。また、参考として破壊試験を現状の塩ビ製ハンガーとともに実施した結果
を表 3 に示す。
表2
試料 No.
1
2
3
絶縁性能確認試験結果
規格
試験結果
異常なし
3,000V-1 分間
異常なし
異常なし
写真 3
AEW 第 38 号
-14-
絶縁性能確認試験状況
表3
試料 No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
ハンガー
絶縁被覆材質
絶縁破壊試験結果
破壊電圧(V)
破壊試験結果
15,570
14,310
15,240
15,350
14,900
19,060
18,950
18,150
19,030
18,900
ハンガー金具部と水面間で沿面破壊
同上
同上
同上
同上
同上
同上
同上
同上
同上
塩ビ
耐候性
黒色
ポリエチレン
表 2 のように絶縁試験は問題なく、また、表 3 のように絶縁破壊試験については現行の塩ビ製よ
り平均 25%ほど高い値を示している。絶縁破壊状況は沿面破壊であるが、その破壊電圧値は絶縁試
験規格値の約 6 倍もあり、絶縁性能については全く問題ない性能を有していることを確認した。
5.2 冷熱繰り返し試験
ハンガー材を製品形状に加工する際、射出成形後の製直状態のハンガーを U 曲げして製造する。
そのため、U 曲げ箇所の絶縁被覆部に曲げ応力が発生することが懸念されるため、周囲温度が上下
動した場合、絶縁被覆部が収縮等起こさないか、以下の条件で試験を行った。
<試験条件>
図 5 の A,B について寸法測定を行った後、10℃の恒温槽中で 30 分間放置し、90℃の恒温槽中で
30 分間放置する。これを 1 サイクルとし、10 サイクル行った後、再び A,B について寸法測定を
行う。その後、5.1 項の絶縁試験を実施した。その結果を表 4 に示す。
試料
No.
1
2
3
試験前 A
65.0
64.9
65.1
表 4 冷熱繰り返し試験結果
冷熱繰り返し試験 (㎜)
試験後 A
試験前 B
試験後 B
65.4
64.6
65.6
65.6
64.5
64.9
65.3
64.5
65.0
図5
写真 4
絶縁試験
規格
試験結果
異常なし
3,000V異常なし
1 分間
異常なし
冷熱繰り返し試験 寸法測定箇所
冷熱繰り返し試験 試験状況
表 4 のように、周囲温度変化があっても絶縁被覆が収縮等変化しないことを確認した。また、そ
の後の絶縁試験においても問題ないことを確認した。
AEW 第 38 号
-15-
5.3 振動試験(耐磨耗試験)
クランプに振動を与えた場合、碍子とハンガー絶縁被覆部に磨耗等の影響がないか、確認した。
<試験条件(低圧引留クランプの振動試験に準拠)>
使用電線:SN-SB-ACSR-OW 25 ㎜2
使用電線:SN-SB-ACSR-OE 95 ㎜2
電線張力:2.3kN(25 ㎜2)、6.2kN(95 ㎜2)
周波数:16.7Hz(1,000 回/分)
振幅幅:6 ㎜
振動時間:17 時間(振動回数:1,020,000 回)
図6
写真 6
振動試験装置図
写真 5
写真 7
SN-SB-ACSR-OW 25 ㎜2
振動試験後ハンガー外観
振動試験状況
SN-SB-ACSR-OE 95 ㎜2
振動試験後ハンガー外観
写真 6,7 に示すように、102 万回の振動試験後も外観に異常は見られず、良好な状態であること
を確認した。
6.特許
今回開発した製品の製造方法やその形状について、特許及び意匠登録を申請している。特許は申
請中であり、意匠は登録済みである。
7.今後の課題
絶縁被覆材を変更したことが作業性に影響がないか、施工性検証を実施して確認する必要がある。
8.まとめ
現行の塩化ビニル絶縁被覆ハンガーと同等以上の性能を有しながら環境負荷を大幅に低減するハ
ンガーの開発を達成することができた。
今後も、会社方針である環境に配慮した製品開発に、より努めていく所存である。
AEW 第 38 号
-16-
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