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1−2 都市における「歩く」まちづくりの現況と課題 1−2−1

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1−2 都市における「歩く」まちづくりの現況と課題 1−2−1
1−2 都市における「歩く」まちづくりの現況と課題
1−2−1 「歩く」まちづくりの背景
(1)我が国の都市づくりの課題
1)急激な車社会の進展による郊外化の拡大
1960 年代後半の国産大衆車の出現に伴う急激なモータリゼーションの進展は、都市部への急激な
人口集中による都市郊外部における市街化をもたらし、
人口集中地区
(DID)
の面積が拡大する一方、
人口密度が減少し、市街地の低密化を進めている。
住宅地や広域的商業施設の郊外開発等は、自然環境への負荷、インフラ投資、維持管理コストの
増大等の諸問題を引き起こしている。また郊外化に伴う都市機能の拡散は、特に地方都市において
車に依存した生活スタイルを定着させた。人口や都市機能の集積を前提に整備されてきた公共交通
は、利用者の減少にともなう事業運営の圧迫等から、サービス水準を低下させており、生活を支え
る市民の足として十分機能しなくなっている。
モータリゼーションの進行は、車を所有する人々の移動の自由と機会の拡大という豊かさをもた
らしたが、一方で、運転免許証を持たない、車を持たない(持てない)
、車中心の社会において移動
を制約される、交通弱者と呼ばれる子供、高齢者、障害者、低所得者などの都市機能へのアクセシ
ビリティを低下させている。実際、免許を持たない後期高齢者層(75 歳以上)の外出率が低下して
おり、高齢化の進行する社会において、この問題はますます深刻化することが予想される。
面積(k㎡)
人口密度(人/k㎡)
人口(万人)
14,000
9,000
DID人口(万人)
8,000
DID外人口(万人)
DID面積(平方km)
12,000
DID人口密度(人/平方km)
7,000
10,000
6,000
5,000
8,000
4,000
6,000
3,000
4,000
2,000
2,000
1,000
0
図表1−2−1(2)
営業用バス(乗合)と DID 人口密度・面積の推移
(三大都市圏を除く)
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000
図表1−2−1(1)
DID 人口面積と人口密度(国勢調査)
出典:社会資本整備審議会道路分科会資料(自動車輸送統計・国勢調査)
免許を
持たない者
38%
免許保有者
62%
平成18年度
総人口
運転免許保有者
運転免許を持たない者
人口(千人)
127,770
79,333
48,437
割合(%)
100%
62%
38%
図表1−2−1(3)免許保有者割合
2)中心市街地の衰退と空洞化
図表1−2−1(4)
年齢階層別免許保有別外出率
・総人口:総務省統計局平成 18 年 10 月 1 日現在推計人口
・運転免許保有者数:平成 18 年度運転免許統計
出典:山口・防府都市圏 総合都市交通体系調査報告書
35
車社会の進行に伴う大規模な商業施設等の郊外立地は、特に地方都市で顕著な中心市街地の衰退
をもたらした。中心市街地の衰退と空洞化は、郊外化による都市機能の拡散と関連深く、郊外居住
の進展に伴う居住人口の流出、公共公益施設(市役所、文化施設、病院、大学等)の郊外移転、大
型商業施設の郊外立地等、都市の顔として当然備えるべき「文化・交流機能」の流出に大きく起因
している。
さらに、小売店舗の閉鎖等は、中心市街地の個性を喪失させるばかりか、低・未利用地を増加さ
せ、商業地としての連続性を失わせている。特に平成 2 年以降、空家・空き店舗および平面駐車場
の虫食い的な分布が著しく、商業地としての魅力の低下に伴う歩行者の減少が、更に既存店舗の経
営悪化を招いている。
0%
20%
16
36
25
46
18
中心市街地
100%
14
24
29
1981-1990
80%
31
40
1971-1980
図表1−2−1(5)
公共公益施設の地域別立地状況
60%
55
1970以前
1991-2000
40%
66
周辺地域
郊外地域
図表1−2−1(6)
ショッピングセンターの立地推移
出典:社会資本整備審議会(第一次答申)補足説明資料
人口移動等社会経済動向と土地利用に関する調査 (平成 15 年度)
・調査対象:666 市(政令市を除く)のうち、解答のあった 551 市
・調査方法:郵送による配布・回収方式
・調査期間平成 16 年 1 月 19 日∼2 月 20 日
出典:
(社)日本ショッピングセンター協会(わが国の SC の現況報告 2002)
図表1−2−1(7)
空家・空き店舗等の件数の推移
図表1−2−1(8)
空家・空き店舗等の面積の推移
出典:社会資本整備審議会(第一次答申)補足説明資料
低未利用地の利用状況の変遷に関する経年的実態調査(平成 15 年度国土交通省土地・水資源局)
・全国から応募のあった 20 都市から調査目的に適合する 7 地区(日立市、本庄市、木更津市、甲府市、高山市、犬山市、直方市)を選定し、調査地区自治体ヒアリング
等をもとに昭和 60 年から平成 12 年までの 15 年間の低・未利用地の変遷状況を把握
・
「中心市街地」 :各地区における区域を土地・水資源局にて 20ha 前後に絞り込んだ区域
・
「低・未利用地」
:更地、遊休化した工場、駐車場等、有効に利用されていない土地(仮設の展示場や商店街の空店舗、密集市街地内の空家等を含む)
36
3)住民の交流機会の減少とコミュニティの崩壊
モータリゼーションの進行につれ、自宅から職場やスーパーなどの目的地への移動は、ドア・ツ
ウ・ドアと表現されるような、効率的な自家用車に依存することが多くなり、公共交通や歩行とい
った移動手段を利用することが益々少なくなっている。その結果、特に地方都市では車依存の生活
スタイルが完全に定着し、これまで通勤や買い物の行き来の際に隣近所の住民と顔を合わすといっ
た住民同士の接触機会が減少している。
またかつて子供が遊び、地域住民が立ち話をするコミュニティの共有空間であった近隣商店街や
住宅地の街路では、通過交通の流入にともない、交通事故、騒音、大気汚染等によって歩行者の安
全性や快適性が損なわれている。
人と車の事故は、生活道路で多発しており、その多くは自宅から 500m 以内で発生している。歩行
中の死者数の割合は欧米に比べて約 1.5∼3 倍と高く、子供や高齢者が犠牲となっている。
また、自転車の走行空間については、計画や整備の明確な方針がないまま、車あるいは歩行者との
混在による危険な状態が続いており、自転車と歩行者の事故が急増している。
図表1−2−1(9)
人対車両事故の道路種別別事故件数(平成 7→17 年)
図表1−2−1(10)
自宅からの距離別死亡事故発生状況(平成 17 年)
出典:社会資本整備審議会道路分科会資料(
(財)交通事故総合分析センター)
出典:社会資本整備審議会道路分科会資料(交通事故統計年報)
図表1−2−1(11)
状態別死者数の国際比較(2004)
図表1−2−1(12)
年齢別状態別死者数(2005)
出典:社会資本整備審議会道路分科会資料(IRTAD・OECD 資料)
出典:社会資本整備審議会道路分科会資料(交通事故統計年報)
37
高齢者の外出手段は、徒歩又は公共交通が中心となるが、1 日の平均歩数は少なく、外出機会の
減少のみならず、日常的な運動不足による健康への影響も懸念される。また、小中学生においては、
スポーツや屋外での遊び等、体を動かす時間が減ってきており、下校後は自分の家か友人の家で遊
ぶとする者が多くなっている。体力、スポーツに関する世論調査(平成 18 年)によると、今の子ど
ものスポーツや遊びの環境について、自分の子どもの頃と比べて悪くなったと回答するものが多く
(6 割)
、その大半が、自由に遊べる空き地や生活道路の減少を指摘している。地域住民が安心して
活動できるコミュニティの場の喪失に伴う、住民相互の交流機会の減少は、人間関係の希薄化や帰
属意識の低下など、コミュニティの崩壊を進行させている。さらに、コミュニティが担ってきた公
共的機能(防犯、防災、福祉等)も低下し、生活環境の質が低下している。
0
2,000
4,000
6,000
(歩)
8,000
総数
10,000
8,202
15-19
9,127
20-29
8,785
30-39
8,866
男
40-49
8,443
50-59
8,851
60-69
7,683
70歳以上
5,436
総数
7,282
15-19
8,755
20-29
7,270
30-39
女
7,629
40-49
8,198
50-59
8,121
60-69
6,876
70歳以上
4,604
図表1−2−1(13)
一人暮らしの高齢者の外出手段
図表1−2−1(14)
年齢階層別にみた平均歩数(1 日)
出典:一人暮らし高齢者に関する意識調査(内閣府 2002)
出典:平成 9 年国民栄養調査
0
16
13.52
14
13.19
13.24
12.16
神社
11
11.1
道路
10.23
児童館など
10
10.2
図書館・博物館など
9
公民館
8.41
60
59.4
(%)
70
35.4
9.1
7.1
戸外
4.2
自然の中
12.03
50
59.2
空き地
12.42
12.04
12
40
友だちの家
校庭など
13
30
自分の家
公園
13.29
13.49
20
16.7
遊ばない
15.28
15
10
0.5
5.3
3.3
2.6
文教施設
2.4
9.7
デパートなど
8.11
8
(時間)
H13
H15
小学校3・4年生
中学生
全体
H17
(年)
本屋・レコード店
ゲームセンター
小学校5・6年生
高校生
その他
6.5
商業施設
8.3
9.5
※小5,小6,中1,中2生
図表1−2−1(15)
一週間の運動時間(男子)
図表1−2−1(16)
学校から帰ってどこで遊ぶか
出典:児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書(
(財)日本学校保健会)
出典:平成 16 年子どもたちの体験活動等に関する調査研究のまとめ(川村学園女子大学)
38
子どもが自由に遊べる空き地
や生活道路が少なくなった
よくなった
13.0%
悪くなった
28.5%
71.6
スポーツや外遊びができる時
間が少なくなった
49.5
スポーツや外遊びをする仲間
(友達)が少ない
どちらかと
いえばよく
なった
13.7%
44.3
親子でスポーツに親しむ機会
が少ない
20.8
子どもが自由に利用できるス
ポーツ施設が少ない
変わらない
7.0%
どちらかと
いえば悪く
なった
34.6%
15.2
地域におけるスポーツ指導者
が少ない
8.1
その他
わからない
3.2%
5.7
わからない
1.5
総数(N=1,167人 , M.T.=216.6%)
総数(1.848人)
0
20
40
60
80
(%)
図表1−2−1(17)
今の子供のスポーツ環境の変化
図表1−2−1(18)
今の子供のスポーツ環境で変化したところ
出典:平成 18 年度 体力・スポーツに関する世論調査
出典:平成 18 年度 体力・スポーツに関する世論調査
4)都市の個性と魅力の喪失
モータリゼーションの進行に伴う経済性、効率性、機能性を重視した画一的な都市づくりや需要
追随型の道路整備により、都市の個性が著しく失われてきている。
地域個性の喪失は、まちなみに顕著に現れており、地方都市の魅力の一つであった郊外の緑豊か
な田園風景は、固有の気象条件、植生、眺望などの地域風土を考慮しない、ロードサイド型商業施
設群やそれに付属する大規模な駐車場、車に乗って瞬時に通過する人びとの視覚に訴える大規模な
屋外広告物から成る、全国どこにでも見られる粗悪な郊外型ロードサイドの風景にとって代わられ
ている。
中心市街地においては、子供が自由に遊び、地域住民が立ち話をする安全な住環境や、祭や日常
的な地域住民の交流活動など、人々の様々な活動に彩られた豊かな公共空間(近隣商店街、公園、
ポケットパークなど)が減少し、都市の魅力が失われている。さらに、地元住民の経営する小売店
舗に変わって平面駐車場とチェーン店や金融業者が増加しており、コミュニティの崩壊に伴う歴史
や文化の喪失により、どこにでもある都市空間が形成されている。
また、IT 技術の劇的な発展普及による情報インフラの社会的拡大と成熟化により、人々は居住地
にとらわれず同じ情報、製品、食材を入手し、地域性に縁のない毎日を過ごすようになってきてい
る。こうした価値観および暮らしの平準化は、地域に根付く歴史・文化、地場産業、地元小売業等
を衰退させるとともに、まちの個性を喪失させ、人々のコミュニティへの誇りや帰属意識を低下さ
せる一因となっている。
図表1−2−1(19)郊外景観
図表1−2−1(20)衰退都心景観
39
5)都市生態系の変化や地球温暖化等による環境問題の深刻化
需要追随型のインフラ整備、無秩序な郊外化の拡大による都市機能の拡散・散在等、自然生態系
への考慮を欠く高度経済成長以降の都市づくりは、都市生態系に過度な負担を強いた結果、大気汚
染、土壌汚染、水質汚染、ヒートアイランド現象など、様々な都市問題を引き起こしてきた。また
公共交通の衰退と自動車利用の増加、自動車による移動距離の増加などは、二酸化炭素の主要な排
出源として、主要な地球温暖化の要因となっている。国内の二酸化炭素排出量のうち、運輸部門が
2 割以上を占め、そのうち約半分が自家用車に起因している。1997 年 12 月に採択された京都議定書
には、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を、2008 年から 2012 年のあいだに 1990 年
比より 6%削減することが定められており、二酸化炭素排出量の抑制は、都市交通分野の抱える重
要課題の一つとされている。
航空3.3%
鉄道3.3%
航空4.2%
鉄道3.0%
船舶5.0%
タクシー1.7%
船舶6.3%
タクシー2.3%
バス1.8%
バス2.2%
営業用貨物車
15.7%
自家用乗用車
39.0%
営業用貨物車
17.3%
自家用貨物車
27.8%
1990 年度
自家用乗用車
48.9%
自家用貨物車
18.0%
図表1−2−1(21)
1990 年度と 2005 年度の各輸送機関の排出量割合
2005 年度
出典:国土交通省ホームページ 運輸部門の地球温暖化対策について
(2)世界の都市づくりの潮流
1)20 世紀の都市づくりに対する評価・反省
都市に対する過度の人口集中、行き過ぎた経済合理性と効率の追求による人間性の喪失、地域性
の喪失と都市文化の衰退、都市環境の劣化、過度な車社会の進行による移動手段の限定などは、20
世紀の都市づくりがもたらした世界共通の課題として認識されている。
こうした様々な課題に対応するため、ヨーロッパやアメリカでは「コンパクトシティ」
「ニューア
ーバニズム」
「アーバンビレッジ」など、新しい都市づくりのパラダイムが提唱され、反省に立った
都市づくりが展開されている。
2)新しい都市づくりのパラダイムの模索
「コンパクトシティ」
「ニューアーバニズム」
「アーバンビレッジ」等の目標は、生活の質の向上
と持続可能な地域コミュニティの実現であり、過度な自動車依存を反省し、単なる移動手段として
の歩行を再評価するとともに、都市における人間性の回復、コミュニティの復権、地域文化の醸成、
環境の回復に向けたライフスタイルの変革を目指している。その中心となる都市づくりのテーマは
「歩くまちづくり」である。
①コンパクトシティ
コンパクトシティとは、サスティナブルな都市の空間形態として提起され、EU 諸国で推進されて
いる都市政策モデルであり、無秩序な都市の郊外化やスプロールを抑制し、市街地のスケールを小
40
さく保ち、歩いていける範囲を生活圏と捉え、コミュニティの再生や暮らしやすいまちづくりを目
指す都市コンセプトである。
1970 年代にも同様のコンセプトが提案されているが、都市への集中を招くとして批判されていた。
しかしながら 1990 年代、都市の持続可能な発展が社会の主要課題となり、欧米を中心に再び持続可
能な都市像として議論されている。
提案者によってその内容は異なるが、共通する概念は以下の通りである。
コンパクトシティの共通概念
①過度な車依存による環境問題や都心空洞化の解決策
②高い居住密度
③用途や居住者の多様性
④車より歩行者を優先するヒューマンスケールな都市空間
⑤地域の自然や歴史・文化を生かした都市固有の魅力
⑥環境との共生
⑦地域に密着した経済
⑧自動車より公共交通、歩行者、自転車に焦点を当てた交通体系
②ニューアーバニズム
米国において、都市の郊外化によってもたらされた新たな課題を解決し、よりヒューマンで快適
な都市コミュニティを実現しようとする、1990 年代の都市づくりのコンセプトである。
この新しい都市づくりの考え方は、1991 年秋、ヨセミテ国立公園内のホテル「アワニー」におい
て、専門家や地方自治体の幹部を集めて開催されたニューアーバニズム会議の中で、6 人の専門家
により規定・提唱された『アワニー原則』に表現されている。
『アワニー原則』では、米国の抱える社会問題は、コミュニティの崩壊によってもたらされたも
のであり、このコミュニティ崩壊の原因は、自動車に過度に依存したエネルギー大量消費型の都市
づくりに起因するとしている。彼らはその解決策として、自動車への過度な依存を減らし、生態系
に配慮し、そして何よりも人々が生活するコミュニティに対する強い帰属意識と誇りが持てるよう
な都市の創造を提案している。
『アワニー原則』は、このような持続可能な都市を実現する上で遵守すべき原則を記したもので
ある。
「ニューアーバニズム」のコンセプトの特徴は以下の通りである。
ニューアーバニズムの特徴
①過度な成長の抑制とバランスの取れた発展
②地区内におけるバランスのとれた就住の融合
③多様なニーズに応えた住宅タイプの供給
④多様な交流機会と豊かなパブリックライフ
⑤歩行圏内での適度な用途の複合
⑥車より歩行者を優先するヒューマンスケールのまち
⑦まちのアクティビティ空間としての街路
⑧環境にやさしい公共交通システム
⑨自然環境の保護と生態系の保全
41
③アーバンビレッジ
都市の再生に対する持続可能な都市像を示したコンセプトである。
米国においてはミネソタ州セントポール市の中心市街地の再生の都市像、ワシントン州のシアトル
市マスタープランにおける都市を構成する地区のコンセプトとして用いられている。
近年は英国における都市の再生イメージを示すコンセプトとして広く用いられている。そのコン
セプトの特徴は以下の通りである。
アーバンビレッジの特徴
①複合用途による開発
②地区内における就住のバランス
③地区の広さ約 4,0ha(600m×600m)
④地区内のどこにいくにも歩いて 10 分程度
⑤地区内の多様な活動や施設を支えるのに十分な人工規模(3,000∼5,000 人)
⑥歩行者に優しい環境
図表1−2−1(22) アーバン・ビレッジの LINC プログラム
出典:新しい交通まちづくりの思想
42
(3)新しい都市政策
1)ヨーロッパにおける人の交通権と公共交通政策の推進
ヨーロッパでは、早い時期から車社会の弊害に気付き、人や自転車、公共交通を優先するまちづ
くりが進められてきた。
1970 年代、ドイツを中心に、都心部における自動車交通の弊害を深刻に受け止め、歩行専用 空
間の拡大が図られた(ゾーンシステム・セルシステム等)
。
またオランダでは、住宅地への通過交通の進入による弊害(交通事故、騒音、排気ガス等)を背
景に、住環境の保全を目指した「ボンエルフ(歩車共存道路)
」が急速に広まった。
1982 年には、フランスにおいて LOTI(フランスの国内交通基本法:国内交通の方向付けの法律)
が制定され、世界で初めて交通権を明記し「人の交通権」を保証した。また自動車優先から歩行者・
自転車・公共交通を優先する交通政策への転換が示され、一定の生活圏を有する都市圏を対象に、
土地利用と連動する都市交通計画の策定(PDU)が義務づけられた。
1988 年には「歩行者の権利に関する欧州憲章(公共交通の利用者も含む)
」が欧州議会において
採択され、
「人の交通権」が国際レベルで合意されている。
1990 年代に入ると、
「人の交通権」や公共交通政策の推進が共通認識となり、欧州各地で都心部
での「ゾーン 30(交通安全と交通環境改善のために地区内の自動車走行速度を 30km/h に制限)
」の
適応やトラムの復活がみられるようになる。またオランダ、ドイツ、デンマークなどでは、歩くま
ちづくりに加え、自転車によるまちづくりが展開されている。
さらに 2003 年ロンドン市では、誰もが歩いて楽しめるまちの実現を目指し、ウォーキングプラン
が策定された。人や都市の健康といった観点から歩くこと(公共交通を含む)を再評価し、2015 年
を目標年次とする取り組みが始まっている。
コペンハーゲン市は、1962 年に市中心部にあるメインストリートを、車を排除した歩行者専用プ
ロムナードと広場へ変換したのを始めとして、以後 40 年超に渡り、車中心から市民生活中心のまち
への移行とそのための環境改善を持続的に行い、大きな成果を上げている。
歩行者に優しいまちへ移行する過程で、車交通に代わる移動手段として自転車を再評価し、市中
心部の駐車場は歩行空間や自転車レーンへと変換されていった。市民が歩いて暮らせる場所は、市
の中心部だけでなく周辺へも次第に拡大され、1962 年から 2005 年の間に、その面積は6倍強に増
加している。
王立デンマーク芸術アカデミーによる、生活環境改善の継続的な記録を以下に示す。
1962 年の市最初のペデストリアン・プロ
ムナード:15、800 ㎡
1973 年までに歩行ネットワーク市中心
部主要施設へ接続:49、200 ㎡
2005 年現在の車排除の街路と広場のネ
ットワーク:99,770 ㎡
図表1−2−1(23)コペンハーゲン市の中心部歩行空間拡大推移図
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
43
図表1−2−1(24)
賑わいの再生した歩行空間
図表1−2−1(25)
コペンハーゲンの歩行空間の拡大 1996-2005
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
図表1−2−1(26)
レンタサイクル駐輪場
図表1−2−1(27)
市中心部を往来する自転車台数(1970 年来 65%増加)出典:
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
図表1−2−1(28)
コペンハーゲン市自転車ネットワーク拡大状況
1930∼1995
図表1−2−1(29)
自転車レーン・システム
(フレデリクバーグ市∼コペンハーゲン市)
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
出典:NEW CITY LIFE 著 J・ゲール他
44
資料:歩行者の権利に関する欧州憲章 ※1988 年 10 月「欧州議会」にて採択
第1条
歩行者は、健康的な環境で生活を営み、かつ身体的・精神的な安寧が適切に保障された公共空間がもたらす快適さ
を、満喫する権利を有する。
第2条
歩行者は、自動車のためでなく人間の必要のために整備された、都市または集落に居住し、歩行や自転車による移
動距離内で、生活の利便性を享受する権利を有する。
第3条
子ども、高齢者、および障害者は、都市において容易に社会参加の機会が得られ、彼らの有する不利(弱点)を増
大する場でないように求める権利を有する。
第4条
障害者は、その自由意志に基づく移動、すなわち公共空間、歩行あるいは移動する交通路、および公共交通におけ
る整備面での配慮(誘導ライン、警告標識、音響信号、利用可能なバス、路面電車、列車)を最大化するような施
策を求める権利を有する。
第5条
歩行者は、都市の計画と利用と調和し、かつ不合理な迂回を要さずに、安全に結ばれた経路から構成される歩行者
の専用空間を、特定の限定空間にとどまらず、できるだけ広範囲にわたって、積極的に設けるように求める権利を
有する。
第6条
歩行者は、特に以下の事項を求める権利を有する。すなわちー
1.自動車から発生する汚染物質と騒音が、科学者が許容限度と認めた限度を守っていること。
2.汚染物質や騒音を発生しない車両を用いた公共交通を利用できること。
3.植樹など、緑の空間を創出すること。
4.速度制限を適切に定め、道路と交差点の構造を、歩行者と自転車交通の安全を効果的に守れるように改善する
こと。
5.不適切、かつ危険な自動車の使用法を促す広告を禁止すること。
6.視覚および聴覚障害者の必要も考慮した、効果的な道路標識・道路標示の方法を提供すること。
7.運転者と歩行者が、自由に動き回り、かつ必要な場合にそこに留まることもできるように、車道と歩道に容易
に出入りできるような設備を設けること。
(滑りにくい歩道処理、段差の解消等)
8.自動車の最も外側(寸法的)にあたる部分の形状を滑らかにするように、車体や装備品を改善すること、また
自動車の標識類をより効果的にすること。
9.危険を発生させる者が、その経済的影響を負担するような、負担責任の原則を(例えば、1985 年以降フランス
で実施されているように)導入すること。
10.道路上において、歩行者や軽車両等に配慮した運転が適切に促されるように、運転者の教育課程を構成するこ
と。
第7条
歩行者は、複数の交通手段を合わせて使用することによって、困難なく移動の容易さが享受できるように、特に以
下の事項を求める権利を有する。すなわちー
1.環境を破壊せず、広範囲かつ設備的にすぐれ、すべての市民のニーズに適合し、障害者に合うように物理的に
配慮された、公共交通のサービスが提供されること。
2.都市の各所に、自転車のための設備を設けること。
3.歩行者の通行を妨げず、ビル街や商店街での散策の楽しみに影響を与えないように、駐車場の位置が考慮され
ること。
第8条
構成国(欧州議会の)は、歩行者の権利および、環境を破壊しない交通体系への代替に関する充分な情報が、適切
な手段を通じて社会的に周知されるように、また子どもの初等教育への最初の就学の時点から、それが利用される
(教えられる)ように、保障しなければならない。
※第8条を除き主語は「歩行者」はとなっているが、公共交通の利用者を同義に扱っている。
参考:交通権憲章-21 世紀の豊かな交通への提言-
45
2)アメリカにおける交通政策の転換
アメリカでは、
多様な交通手段による移動の実現を目指した交通政策への転換が 1990 年代初頭よ
り本格的に始動している。
取り組みの背景には、1991 年に制定された ISTE 法(総合陸上交通効率化法)と、その枠組みを
継承した 1998 年の TEA-21 法(21 世紀交通公正法)の制定がある。
ISTE 法の制定後、連邦議会の命令により、全米自転車・歩行者調査が実施された。これらの調査
の目的は以下の通りであった。
全米自転車・歩行者調査の目的
○自転車と歩行の実態とこれらの交通手段が利用されていない理由を明らかにする
○交通手段としての自転車と歩行の増加と自転車と歩行の安全性を強化するための計画策定と、
その計画を実施し、成果を修めるために必要な資金を明らかにする
○都市部、郊外部において自転車の利用と歩行を促進するための費用と便益を明らかにする
○連邦交通省が実効性のあるプログラムを実施するために世界中の取り組みの成功事例を検
証・評価する
○自転車と歩行を推進するための連邦政府の交通政策を実施するために、スケジュールと予算を
含む実行計画を策定する
1994 年に全米自転車・歩行者調査の最終報告がされている。この調査報告書では、この政策を進
めるにあたって、以下の 2 つの全体目標が述べられている。
全米自転車・歩行者調査を踏まえた目標
○全米における歩行と自転車の移動手段の分担率を全交通の 7.9%から 15.8%へ 2 倍にする
○同時に、自転車と歩行者の交通事故を 10%減少させる。
単位:百万ドル
図表1−2−1(30)自転車・歩行者環境改善のための米国連邦支出の推移
出典:全米自転車・歩行者調査
これらの法律は、自動車への過度の依存から脱却し「経済的に効率的で、環境的に健全な全国的
総合交通システム」の構築を目指すものであり、地域の主体性を重んじ、地域で立案された交通政
策を資金的、制度的にバックアップする姿勢を示している。
また、これらの法律では、問題発生の現場に近い地域での交通政策が重視され、地域の政策次第
46
では、これまで自動車のための道路整備にしか使われてこなかった財源を、歩行者や公共交通など
多様なプロジェクトに使えるようになった。
さらに、州政府や都市圏計画組織による長期交通計画策定において、歩行者交通ニーズの提起を
義務づけた。さらに自動車以外の交通手段の利用を促進するため、州の交通局に、自転車と歩行者
に関するコーディネーターのポジション設置を義務化した。以上のような政策を受け、多くの州政
府、市町村、広域圏において、歩行者と自転車のマスタープランが策定されている。代表的なマス
タープランは以下の通りである。
図表1−2−1(31)代表的な歩行者・自転車マスタープラン
歩行者マスタープラン
歩行者・自転車マスタープラン
ウォスコンシン州
オレゴン州
フロリダ州
バーモント州
オレゴン州ポートランド市
ニュージャージー州
カリフォルニア州オークランド市
シアトル都市圏
マサチューセッツ州ケンブリッジ市
カナダ・オンタリオ州ヨーク市
ウォスコンシン州マディソン市
カリフォルニア州サクラメント市
カナダ・ブリティッシュコロンビア州カムプール市
コロラド州ボルダー市
カリフォルニア州サンフランシスコ市
ユタ州ソルトレイク市
コロラド州デンバー市・群
メイン州ブランズウィック町
フェニックス都市圏
アリゾナ州メサ市
連邦政府は、1999 年と 2004 年に全米自転車・歩行者調査の実施状況と成果を明らかにした現況
報告書を提出している。
全米には、歩行と自転車の利用を促進することを目的とする、NPO 等の民間組織が数多く存在し、
活動を展開している。1977 年に創設された全米自転車・歩行センター(National Center for
Bicycling and Walking)はその代表的なもので、毎年歩行と自転車をテーマとする会議を開催して
いる。
3)アジアにおける交通政策の展開
韓国では、1980 年代半ば以降のモータリゼーションの進行とその弊害を背景に、都市・交通・環
境問題の専門家達と交通問題に関心をもった市民が、グリーンな交通の実現のために連帯して『緑
色交通運動』を展開した。
『緑色交通運動』が掲げるスローガンは『人のための交通、環境に配慮した交通』であり、
「歩行
権伸張のための市民大行進(1993 年)
」や、
「交通弱者・障害者の移動確保のための市民大行進(1994
年/障害者の劣悪な移動環境を体験する運動)
」などにより、歩行権および交通弱者の権利実現を主
張した。こうした運動を背景に、1997 年、ソウル特別市において『歩行権条例』が制定されている。
また「生活道路安全確保運動(1995 年)
」や「交通安全関連法改正運動(1997 年)
」などは、道路
交通法に歩行者専用道路の概念を新設させるなどの成果を上げている。
2000 年以降のソウル特別市では、強い市長のイニシアチブのもと、都市の美しい景観の回復、車
から公共交通・歩行者交通への転換、沿道住環境・産業環境改善に向けて、世界的に競争力のある
47
都市を目指した取り組みを推進している。
2003 年、李明博(イ・ミュンパク)氏の市長就任にあわせてスタートした『清渓川復元事業』で
は、老朽化した高架高速道路の撤去にともない、暗渠となっていた河川を復元して、歩行者空間を
創出したほか、バス路線と運営体系の全面的な改編を実現した。
バス路線については、これまで民間事業者が統制なく行っていた市内バスサービスを、市長直下
の事業に再編し、階層的路線網システムへの移行、バス専用走行路の確保、ITS を活用した運行管
理等を取り入れ、公共交通利用を促進している。
また同時に、駐車場設置の上限制の拡充、都市部の駐車料金の値上げと市外のパークアンドライ
ド駐車場の値下げ、都心部の不法駐車の計画的取締り、都心駐車場の計画的削減等駐車場政策を推
進し、車の通行量減少を図っている。
2007 年には呉世勲(オ・セフン)市長のもと「ソウル道路ルネサンス 10 年計画」が策定され、2017
年を目標に、歩道の 90%以上を安全で快適なものへ改善するとしたほか、実現に向けたガイドライ
ンを提示している。加えて 2010 年を目標に、自転車専用道路ネットワークを構築するほか、公共レ
ンタル自転車制度(パリ市が導入している制度で、最寄りの無人自転車レンタルセンターで自転車
を借り、目的地近くのレンタルセンターに返却できるシステム)の導入、道路交通法などの関係法
令における自転車の地位を強化するとしている。
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資料:ソウル特別市の歩行権確保と歩行環境改善に関する基本条例
※1997 年 1 月ソウル市長が公表
第1条(目的)
この条例はソウル特別市(以下 市 とする)と地方自治体である区(以下、 自治区 とする)
、ソウル特別市民
(以下 市民 とする)の責務と歩行環境改善の基本事項を制定し、市が歩行環境施策を総合的かつ計画的に推進
することにより、安全で快適な歩行環境を造成し、市民の歩行権を確保することを目的とする。
第2条(定義)
この条例で使用する用語は次の通りである。
1. 歩行権 というのは、歩行者が安全かつ快適に歩ける権利をいう。
2. 歩行環境 というのは、歩行者の歩行と活動に影響を及ぼす物理的、感覚的、精神的な側面と、これと関連する
制度等を含めた総体的な環境をいう。
3. 歩行弱者 というのは、自らの力で目的地まで歩行するのにハンディがある子供・高齢者・障害者・妊婦等のこ
とをいう。
第3条(市の責務)
①市は、歩行弱者を含めたすべての歩行者たちが歩きたがる都市、歩きやすい都市にしていくために、次のような責
務を負う。
1.歩行権確保に関する事項
2.歩行環境施設の維持管理に関する事項
3.歩行環境改善に関する事項
4.歩行環境改善のための市民参加と協力強化に関する事項
5.その他の歩行権確保、歩行環境施設の維持管理、歩行環境改善に必要な事項
②市は自治区の歩行環境改善事業を積極的に支援するよう努力しなければならない。
第4条(自治区の責務)
自治区は、市の歩行環境改善施策によって管轄区域の事情に合う自治区歩行環境改善施策を樹立し、これを誠実に
施行する責務を負う。
第5条(市民の責務)
①すべての市民は、安全かつ快適な歩行環境で生活する権利を持つ。
②すべての市民は、歩行権の確保と歩行環境改善に関する市と自治区の施策樹立と推進に関する情報に対し、知る権
利を持つ。
③すべての市民は、歩行環境改善に積極的に参加し、協力する責務がある。
第6条(歩行環境基本計画の樹立)
①ソウル特別市長(以下、 市長 とする)は、5年ごとに歩行環境基本計画を樹立し、各年度別に施行計画を樹立し
なければならない。
②歩行環境基本計画には次の各号の内容を含めなければならない。
1.歩行環境改善目標および施策方向
2.歩行環境状況の変化と展望
3.歩行環境改善目標を達成するための分野別、段階別な事業計画
4.事業施行に所要する費用の算定および財源調達方法
5.その他歩行環境改善に必要な事項
③市長は、歩行環境基本計画を樹立する時や主要事項を変更しようとする場合には、市民の意見を充分に集約し、市
長が定める規則によって市民が参加できるようにする。
④市長は、都市計画等歩行環境と関連する主要計画が樹立される時や変更される時には、歩行環境基本計画を最大限
反映するようにしなければならない。
第7条(歩行環境助成基準の設定)
①市は、管轄区域の歩行環境を助成するにあたり、遵守しなければならない歩行環境助成基準を設定しなければなら
ない。
②市長は、必要に応じて歩行環境助成基準を規則として定めることができる。
第8条(歩行環境改善に関連する財政支援等)
①市は、歩行環境改善のための施策の推進に必要な財政上の処置を講じなければならない。
②市は、自治区の歩行環境改善事業に必要な費用の一部を予算の範囲内で支援することができる。
付則
①(施行日)この条例は公表した日から施行する。
②(経過措置)この条例施行当時に在任中であるソウル特別市長は、条例施行日から1年以内に歩行環境基本計画を
樹立しなければならない。
参考:交通権憲章-21 世紀の豊かな交通への提言-
49
1−2−2 まちづくりにおける「歩く」ことの意義
(1)移動手段の選択性
1)過度の車依存の生活スタイルからの脱却
モータリゼーションの進行は、
効率的な移動の自由、
生活圏の拡大という変化をもたらす一方で、
どこに出掛けるのも車という車依存の生活スタイルを定着させた。その結果目的地までの時間は短
縮されたが、
移動のための車中での時間が増加し、
他者との交流に費やされていた時間は減少した。
歩行が全ての車交通にとって代わることは出来ないが、
「歩く」まちづくりが推進されて、日常の
短距離の移動は徒歩で、長距離の移動は公共交通でという、移動の選択肢が増えることで、過度の
車依存の生活スタイルから脱却することが可能となる。
但し、一度獲得した車交通の利便性は、簡単に手放すことの出来ないものであり、スローライフ
と呼ばれるような、車に依存しない生活スタイルの豊かさを実感する機会をどのように得るかとい
うことが課題となろう。
2)市民利用施設や場所へのアクセス性の向上
学校、図書館、公園や近隣の商店街、駅などは、従来は歩行圏内に立地し、人が歩いて行くこと
が当たり前の施設や場所であったが、小中学校や近隣の公園を除くと、これらの施設の幾つかは大
きな敷地を求めて郊外に移転し、また歩行圏内にある施設も、車優先の道路構造や交通量の多い道
路によるアクセスルートの分断などで、安全で快適に歩いてアクセスすることが困難になってしま
った。しかし、
「歩く」まちづくりを推進する中で、アクセスルートの改善や公共交通の接続性の向
上を図ることにより、市民利用施設へのアクセス性は改善される。特に、これらの施設を利用する
交通弱者と呼ばれる子供、高齢者、障害者にとってアクセス性は飛躍的に改善される。
3)交通弱者(子供、高齢者、障害者など)の移動の自由
交通弱者には、車社会において移動を制約された人という意味と、交通事故の被害に遭いやすい
人という二つの意味があり、何れも高齢者、子供、障害者などが含まれる。車を持たない(持てな
い)移動制約者という意味では低所得者もこれに含まれ、世界的にはその比率が高い。
一方で、歩行は万人に認められた移動の権利であり、交通権という人権の一つとして国際的にも
認知されてきている。しかし、車社会の進行は、交通弱者の移動空間である歩行環境を著しく阻害
し、又、歩行という移動行動を補完する公共交通という手段も奪ってきた。とりわけ、地方都市に
おいては、
経営的な理由から在来の鉄道路線やバス路線の廃止が後を絶たず、
高齢化が進行する中、
交通弱者である高齢者は益々車社会のもたらした社会的な不公正を被ることになる。
「歩く」まちづくりとは、こうした交通弱者が失った移動の権利を回復しようとするものである。
4)社会的な公正
歩くという生活行為は、年齢、性別、宗教、文化、経済状態、社会階層に関係なく、料金、燃料、
免許もいらない、誰にでも可能な、社会的にきわめて公正な移動手段であり、交通弱者と呼ばれる
人々に対しても、等しく保障された移動手段である。又、車交通が、大気汚染物質や二酸化炭素の
排出により、他者や社会に様々な環境負荷を与えるのに対し、歩くことは全ての交通手段の中で最
も環境負荷が少ない移動手段である。
そのため、「歩く」まちづくりを実現するということは、移動という生活行為において、社会的
な公正を実現することである。
50
歩行が社会的に公正な移動手段であるというその特性に鑑みて、快適に歩ける環境のネットワー
ク化を図ることは、地域の全ての人が等しく利用、参加できる公共空間を創造すること、即ち、地
域コミュニティの再生の基盤を創ることを意味する。
(2)地域コミュニティの再生
1)住民の交流機会と豊かなパブリックライフの創出
徒歩という移動手段は、経済状態に関係なく全ての施設へのアクセスが可能な、料金を必要とし
ない交通手段であることから、移動手段による社会的疎外を抑制するという特徴がある。歩ける環
境が整っていて、歩く意志があれば、何処へでも行くことができ、何にでも参加できるわけである。
一方、ドア・ツウ・ドアという言葉で表現される車に依存した生活スタイルでは、歩行に比べて
人々との接触機会が著しく少なく、その結果、近隣同士の日常的な交流も失われる。
かつての街は、多様な人々との接触の機会に満ちていた。人々と出会うこと、食事をして人と語
らうこと、表通りから裏通りや脇の路地へと心の赴くままに街を散策したり、市場や商店の店先を
覗いたり、人々が行き交うのを眺めたりといった日常の行動の全てが、日々の生活を豊かにしたも
のである。古今東西、街を楽しむことの基本は、街を歩くことから始まる。歩くことで人と出会い、
発見があり、賑わいやコミュニケーションも生まれる。歩いて暮らせる環境が整い、住民が歩くよ
うになれば、街路での日常的な接触の機会が増え、知り合うことで信頼が育まれ、豊かなパブリッ
クライフが創出される。豊かなパブリックライフのあるコミュニティは、何よりも、活き活きして
いて魅力的である。
上/車交通の少ない街路
中/やや車交通の多い街路
下/車交通の激しい街路
(屋外活動がほとんど見られず、
住民のあいだに親交や面識がわず
かしかない)
図表1−2−2(1)
サンフランシスコの3つの街路における屋外活動
出典:都市街路の環境の質 著アプルヤード、リンテル
51
2)中心市街地の活性化
モータリゼーションの進行に伴う業務、商業、文化、住宅の郊外への移転、事業者の高齢化や後
継者不足など、複合的な理由により、徒歩や公共交通が主たる交通手段であった時代に形成された
都市の中心市街地の多くは、衰退し活力を失った。
居住人口の減少、車でのアクセスの悪さ、商店街活動自体の低迷等々、中心市街地の衰退の要因
は複合的であるが、そこに一様にみられるのは、そこで生活し、歩き、交流し、ともに活動するこ
とで成立していたコミュニティ意識の喪失や、コミュニティそのものの崩壊という現象である。
交通手段と中心市街地の有り様には密接な関係がある。従来の中心市街地の多くは、公共交通の
結節点である駅前に立地し、歩くことを基本に成り立っていた。歩いて楽しいことが、中心市街地
の基本であり、車利用者への利便を提供することで成り立っている郊外型の商業施設と大きく異な
る点である。モータリゼーションが中心市街地の衰退の大きな要因であるならば、少なくとも車と
いう移動手段を持たない高齢者をはじめとする交通弱者にとって、歩行や公共交通によるアクセス
が保障された歩行者に優しい街は、欠くことの出来ない生活の場の一部でありえるはずである。加
えて、今後増加する高齢者は、消費傾向が強く、環境意識、健康意識が高く、NPO など新しい形の
社会参画の経験者でもあり、そうした高齢者が期待する中心市街地の姿が、中心市街地を再構築す
る際の、大きな牽引力になる可能性がある。誰にとっても快適な歩行環境の提供は勿論、高齢者を
はじめとする交通弱者を念頭に置いた環境づくり、その環境と調和した魅力的な用途の立地や土地
利用を促すことで、持続可能な中心市街地の活性化が可能となるだろう。交通弱者に対して優しい
街は、全ての人に優しい街となるはずである。
車社会の先進国であるアメリカの多くの都市は、1960 年代から深刻な中心市街地の衰退を経験し
た。その中で、今日までに中心市街地の再活性化を成し遂げた都市の殆どが、中心市街地を歩行者
優先の街として再生している。また、それらの都市に共通するのは、バスや LRT などの公共交通を
併せて導入している点である。ヨーロッパの都市も同様である。活き活きとした魅力を発揮してい
る街の中心部には、歩行者が溢れている。
図表1−2−2(2)
ポートランドの中心市街地のコンセプトプラン
出典:CENTRAL CITY PLAN
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3)ローカルビジネスの支援
郊外に立地する大型店、ロードサイドショップ、全国的にチェーン展開する商業施設は、商品の
価格や品揃えに加えて、十分な駐車場を備えるなど、車の利便性を提供することで、伝統的な地元
商店街に対する優位を確保してきた。
昔からの地元商店街は、大型店と同じ土俵上で勝負できないことを認識していながら、駐車場な
ど車の便宜を十分図れず地元住民のニーズに合わないことを、衰退の原因としがちである。しかし
ながら、日常生活を支える馴染みの店、地場産の商品を扱う店、地元の食材を扱う飲食店などが居
住地の歩行圏内にあれば、車を運転しない交通弱者の生活の利便性はあがるはずである。そして今
後そうした地元商店を必要とする高齢者が急速に増加していくという予見がある。
地元商店での買い物には、物の交換に人が介在する。言い換えると、商品の売買を通して売り手
と買い手の間にコミュニケーションが発生している。これに対し、コンビニや郊外の大規模量販店
は、効率的な商品の売買によって成り立っており、商品の価格、量、標準化された質が最優先され
ている。効率性が追求されると、買い手とのコミュニケーションは無用となり、売買という手続き
だけが意味を持つようになる。豊かなコミュニケーションのあるヒューマンビジネスという地元商
店街がもつ価値は、量販店に対抗する力となる。そしてその価値が地元住民にとってかけがえの無
いものになった時はじめてローカルビジネスは再生される。
「歩く」まちづくりで、こうしたコミュニケーションの場を創造していくことがローカルビジネ
スを支援することに繋がる。
(3)都市の安全と安心の向上
1)治安の回復
街路に賑わいがなく暗く汚い環境や、大きな駐車場しかない場所、建物の壁沿いの道路などを、
人は安全でないと感じて、歩きたがらない。貧弱な歩行環境であることが、犯罪を誘発し、そのこ
とで人がますます歩かなくなるという悪循環に陥ることもある。防犯まちづくりにおいて「監視性
の確保(人の目の確保)」と呼ばれるものがあるが、それは、「人の目の確保」が犯罪抑止の大き
な力になるというものである。
車中心の生活が浸透した地域は、近隣の住民がお互い誰だかわからないということもまれではな
い。そこでは、生活する地域に対する帰属意識やコミュニティ意識が希薄となっている。歩くこと
で近隣の人々との接触機会が増えることは、コミュニティ意識の形成に寄与する。防犯まちづくり
の基本に「領域性の強化(地域の共同意識の向上)」と呼ばれるものがあるが、それは、住民が地
域に対して持つコミュニティ意識が、監視性を強化し、犯罪の抑止にも繋がるというものである。
快適な歩行環境と活き活きしたコミュニティを創造することにより歩行者が回帰すれば、
街路に、
広場に、人の目が行き届いた安心な環境が生まれ、治安も回復する。
街路灯を整備する、
人の目の及ばない場所を改善するなど、
不安感を解消する対策をとることで、
昼夜ともに、歩行者が増えて治安が良くなれば、そのことがさらに歩行者を増やすことに繋がる。
昼夜を問わず、人の目がいつもあるということは、交通弱者を介添えできる歩行者がいつも同じ
歩行空間上にいるということであり、それこそが、交通弱者にとって、物理的のみならず、精神的
にも安心、安全、快適な環境、真の意味での移動の自由が確保された街路環境が整うということを
意味する。
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2)都市の安全性(事故の抑制)
交通弱者には、子供や高齢者など歩いていて交通事故に遭いやすい人という概念が含まれる。こ
の場合、車が「強者」であり、加害者であるが、自転車が安心して通行できる走行レーンが不備な
日本の都市では、状況次第で、自転車も加害者になりうる。
車や自転車の通行量が多いのに歩道がない、車椅子使用者や視覚障害者にとって歩道の幅員が充
分でない、凸凹や段差がある、舗装の質が悪く水溜まりができる、あるいは、滑りやすい、街路樹
やベンチなどがなく殺伐とした歩行空間である、ゴミや障害物が多い、夜暗い、交差点に信号がな
いなど、快適でない歩行空間、管理が充分でない街路は、安全でないとの理由で人は歩きたがらな
い。先ず、歩く環境を快適で安全なものにすることにより、他の全ての移動手段にとっても安全な
環境を創造することができる。都市の安全性は、歩行者に優しい環境づくりが基本となる。
(4)都市の魅力と個性の創出
1)都市の景観と街の賑わい
現在の都市景観の荒廃は、沿道の建物の高さやデザインの質に起因するところもあるが、最も大
きな要因は広告・看板である。特に、郊外のロードサイドの広告・看板は、走行する車に対する視
認性に主眼をおいており、色、大きさ、位置、数、デザインが他の広告・看板より目立つことを目
的として競うように設置されており、街並みと呼べるような景観は存在していない。また、高速道
路は勿論、一般道路の車交通に関連する土木的な構造物は、そのスケール故に、地域の自然景観や
街並み景観を阻害することが多い。
一方、歩行者の移動速度はゆっくりしており、小さなサインや看板でも十分に認識することが出
来る。過剰な広告は歩行者にとって、むしろ、不快な存在でもある。そのため、看板や広告物も歩
行者を意識すると控えめになり、さらに視覚的なイメージに配慮したものになる。沿道の建物も同
様である。ゆっくり移動する歩行者を意識した商業施設は、ウィンドーショッピングできたり、店
内の様子が分かるような工夫をしたり、建物の仕上げにも配慮し、歩行者が不快にならないだけで
なく、歩くことが楽しくなるような工夫をするようになる。交通量の多い通りに面する建物は、概
して大味なものとなり、建物前面を駐車場が占め、敷地の主役となっていることもある。
2)地域コミュニティへの帰属意識と地域に対する誇りの醸成
歩くこととは、人や社会と交流することである。歩くことで隣人と出会い、交流する機会が生ま
れる。地域コミュニティへの帰属意識あるいは共同体意識は、同じ地域の隣人と交流し、地域に対
する思いを共有することで生まれる。
歩いていると車で移動していたのでは気がつかないまちの発見がある。
3)精神的な豊かさと人間性の回復
人は歩くことにより、森羅万象に直接触れる機会が増え、そのことは、心身ともに健康な体づく
りと病気の予防に繋がる。例えば、幼年期から青年期にかけて、歩くことを習慣づけることで人、
地域との交流による社会性が育まれ、自立心や自我が形成されるなど、生涯にわたる好ましい人格
の形成が促され、精神的な豊かさが醸成される。
学校、駅、公共施設、図書館、公園、近隣住区など、特に子供や青年がよく利用する施設を歩行
空間のネットワークに組み込み、アクセスしやすくすることは、そうした観点からも重要である。
歩行空間のネットワークの整備を検討する時、最優先網の一つと考えるべきであろう。
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(5)健康の維持管理
専門家の指摘を待つまでもなく、体と心の健康のためには、歩くことが重要である。週 3 日、1
日 30 分程度歩くことで、心臓病、肥満、高血圧、骨粗鬆症、糖尿病、鬱病などの予防に効果がある
との報告があるが、それは、大抵の人が、通勤、通学、レジャーなどで歩くか、公共交通を利用す
ることで得られる運動量である。
図表1−2−2(3)年齢ごとの歩行の効用
出典:ロンドン市ウォーキング・プラン
年齢層
効用
○ 肥満とそれに伴う疾病のリスクが減る。
子供∼若者
○ 社会性が育まれる。
○ 将来に備えて骨密度を最高値にしておくことができる。
○ 積極性が育まれる。
○ 死亡率が低下する。
○ 体を動かすという健康によい習慣が身につく。
若年∼中年
○ 週に 2 時間 30 分以上歩くとコレステロール値が下がる。
○ 高血圧の血圧をさげることが出来る。
○ 骨粗鬆症を予防できる。
○ 早歩きの実践で入院や死亡率を下げることが出来る。
高齢者
○ 健康で長生きできる。
○ 体力、筋力が改善する。
○ 毎日が活動的になり、孤独な生活、施設での生活をしなくても済む。
国民レベルで、日常的に体を動かすことを推進するのに要する費用は、介護に要する費用より少
なくて済む。
(6)都市環境の再生・修復
1)省エネルギーと環境負荷の軽減
歩行は全ての交通手段の中で、最も省エネルギーで環境に対する負荷の少ない、また、道路など
のインフラへの負荷も少ない移動手段である。2km 以下の移動に車を使用する場合、エンジンや触
媒コンバーターが有効に働かないため、最も大気汚染物質の排出が大きい。公共交通へのアクセス
がよく、複合的な都市施設の充実した、駅周辺の市街地などでは、特に、歩きやすい環境を創出す
ることで、環境負荷を軽減することが可能である。
車の代替移動手段として、徒歩、自転車、公共交通の利用を促進する「歩く」まちづくりの推進
は、地球温暖化の要因である車の温室効果ガスの排出量を抑えることが期待される。
2)大気汚染の抑制(一酸化炭素、オゾン、有機化合物など)
車の交通量が多い都心部、中心市街地では、不快なだけではなく、健康、環境へ悪影響のある大
気汚染の抑制が急務となっている。主要汚染物質である NOX や微粒塵埃の大半は、車から排出され
ており、持続可能なコミュニティの観点からも、車燃料の改善(代替燃料車の導入)だけでなく、
歩行や自転車環境の改善、公共交通の利用促進により、車の交通量を減らし、交通渋滞を緩和する
ことで、大気汚染を大きく抑制することが出来る。
歩行環境の改善策としての街路樹の植栽は、大気の浄化にも効果がある。
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図表1−2−2(4)樹木の SO2,NO2 吸収速度
出典:林業技術 1999・12 NO.693
樹種
イチョウ
ケヤキ
クスノキ
吸収速度(μg/g/day)
SO2(4.6ppb)*
42.3
14.7
4.6
NO2(23.0ppb)*
169.2
58.9
18.4
*SO2 、NO2 の環境濃度の条件
3)都市の生態系の修復(緑のネットワーク、雨水の地下水への還元)
都市の公共空間の大半を占める道路は、車道、歩道を問わず、長年に渡り、安全な車交通と管理
の容易さという観点から整備されてきた。そのため、車道は言うに及ばず、歩道もアスファルト舗
装が大半を占める。アスファルトは太陽熱を蓄熱するため、夏季、アスファルトからの輻射熱が、
都心部の暑熱環境を生じる主因となっている。
アスファルトは、一般的に、非透水性舗装材であるため、雨水は側溝などの都市施設により排水
処理されている。その結果、地下水の枯渇、排水施設への過度の負担、街路樹の劣悪な根環境など
の問題に加えて、想定された雨水処理能力を超える豪雨による洪水など、新しい都市災害の要因に
もなっている。
歩行者にとって快適な歩行環境を提供するということは、結果として、ヒートアイランドや地下
水の枯渇などの原因となっている舗装材など、人工的過ぎる都市環境の改善に繋がることになる。
さらに、快適な歩行者空間の創出には、街路樹等の緑が不可欠であり、歩行者空間に沿ってネット
ワーク化された緑は、ヒートアイランドの抑制や生態系の再生にも寄与する。
快適な歩行環境を創造するということは、単に安全に歩ける移動空間を創造するのに留まるもの
ではない。快適な歩行環境とは、周囲の環境との視覚的、心理的な相互作用、生態系も含めた、よ
り広域的、複合的な環境のことであり、包括的な都市環境の質のことである。
56
1−2−3 歩行の科学
(1)歩行帯・歩行速度・歩幅
1)歩行帯
歩行路の幅員、歩行者密度の設計などは、歩行動作に必要な空間
の範囲によって、ある程度規定される。
幅員については、歩行者の肩幅と手や腕の動作を考慮し、一人当
たり最低限 70cm の幅員が必要である。また、歩行者の前後の感覚に
関しては、歩幅(60∼70cm)と、前方の歩行者、路上の障害物を知
覚し判断し反応するために必要な空間(知覚帯)を、少なくとも歩
幅より 50∼70%多い値で確保する必要がある。したがって、歩幅+
知覚帯の前後の空間が必要となる。
これらの値は、歩行動作をスムーズに行うための最低基準であっ
て、歩行者の心理的な快適性に重点を置く場合、ひとまわり大きな
歩行ゾーンを確保する必要がある。
図表1−2−3(1)
歩行帯と知覚帯
出典:コンパクト建築設計資料集成
2)歩行速度・歩幅
歩行速度は、歩行目的、歩行者属性、地域、環境条件など、様々な要因によって影響されるが、
一般に壮年期で 1.2∼1.5m/sec 程度と考えられている。
性別でみると 5∼14 歳の一時期を除けば、一般に女性より男性の方が早く、60 歳以上では、男女
とも、青年壮年期の2/3程度の速度に落ちる。また、単独歩行に比べてグループ歩行では、歩行
速度が若干落ちる傾向にある。
図表1−2−3(2) 年齢と自由歩行速度
出典:建築設計資料集成[人間]
図表1−2−3(3) 歩行者属性別歩行速度分布実測例
出典:建築設計資料集成[人間]
57
(2)高齢者や身体障害者の歩行特性
年齢的にみた歩幅は、青年期まで急激に大きくなるが、
高齢期を迎えると次第に小さくなり、歩行速度も落ちる。
特に、75 歳以上の女性では、歩行速度の低下が著しく(1m
/sec 以下)
、道路横断時などで、安全に対する時間的余裕
が少なくなっている。
また、高齢者の歩行は、加齢とともに筋力やバランスを
保つ機能が低下するため、以下①∼⑦のような特性がみら
れ、転倒の危険性が増大する。
図表1−2−3(4)
年齢と歩行速度・歩数・歩幅の関係
出典:建築設計資料集成[人間]
高齢者の歩行特性
①歩幅が狭くなり、歩行速度が低下する
②股を開き気味に歩く
③両足で身体を支えている時間が増加する
④股関節の足を開く度合い、膝関節の曲がる度合いが減少する
⑤上下動が減少し、左右の動きが増加する
⑥骨盤の回転が減少する
⑦肩の前方への揺れと肘の後方への伸びが小さくなる
また、身体障害者については、障害別、補助器具、床の仕上げ材、心理的不安感、慣れなどの諸
条件によって、歩行速度と歩幅に大きな差異が生じる。
図表1−2−3(5) 身体障害者の定常歩行速度と歩幅(歩行距離 10m について)
出典:建築設計資料集成[人間]
高齢者や障害者は歩行中に疲労しやすく、都市内における通常の状況のもとで、抵抗なく歩ける
距離は 200∼400m程度といわれている。歩行者が快適に移動するためには、疲れた時にいつでも休
める休憩施設を適当な間隔で備えておくことが望まれる。
58
(3)歩行補助具利用者の歩行特性
歩行者の中には、杖や車椅子などの歩行補助具を利用している人も多く、歩行幅や動作スペース
も多様である。単純な歩行であっても、杖歩行には 80 cm、松葉杖歩行では 120cm、車いすでは 90cm
の歩行幅が最低限必要となる。
公共空間や公的建物等においては、すれ違いや並列歩行などによる、歩行者の心理的な快適性を
配慮し、一人あたりの歩行幅や動作スペースをひとまわり大きく設定していくことが望まれる。
車いす
白杖歩行
杖歩行
シルバーカー
松葉杖歩行
図表1−2−3(6) 歩行状態別の歩行幅
参考:建築設計資料集成[人間]
また歩行補助具利用者の歩行特性として、車いす利用者は横移動ができず、杖や松葉杖利用者等
は直角に曲がることや回転することができないほか、多くの場合、急に止まることができない。
さらに、車いすや杖を利用する歩行者は、斜路の縦断勾配や距離によって昇降動作に影響を及ぼ
す。特に車いす利用者にとっては、8%以上の縦断勾配に危険がともない、下り坂では常にブレーキ
をかけなければならず、上り坂では加速がつかないばかりか逆戻することさえある。
図表1−2−3(7) 車いす・松葉杖と勾配の関係
出典:建築設計資料集成[人間]
このような歩行補助具利用者の歩行特性を踏まえ、高齢者や障害者も含む全ての人が安全かつ安
心して目的地へたどり着くことのできる歩行環境を創出していく必要がある。
(4)歩行者の経路選択
歩行者は出発地から目的地に至る間の周囲の状況に応じて、常に様々な経路選択を行っており、
そこに幾つかの傾向が指摘されている。
59
図表1−2−3(8) 経路選択の主な傾向
参考:建築設計資料集成[人間]
①最短距離指向性
・歩行者はエネルギーと時間の消費を
できるだけ少なくしようとする習性が
ある(近道行動)
(点線より実線の傾向が強い)
②目的地指向性
・物理的距離は同じでも、目的地指向
性と追従行動がみられる
③誘導的な記号への服従行動
・誘導サインのある平行2階段では、
手前の階段利用が 80%以上を示し、誘
導的な記号に従う服従行動がみられる
④高層建物における
・高層アパートでの調査によると、で
目的地近くでの水平移動
きるだけ自宅(目的地)のある階で水
平移動しようとする傾向がある
(5)人間の距離評価
人間の距離評価は、多分に心理的条件に左右され、人によっても距離の感じ方は異なるが、一般
的な歩行距離の限界や徒歩圏の大きさは、施設の誘致距離などを検討する上で参考となる。
人が歩いてもいいと感じる距離は 300m 程度、600m を超えるとバス等の代替手段が必要と感じる
とされている。
図表1−2−3(9) 人間の意識の中にある歩行距離
出典:建築設計資料集成[人間]
60
1−3 「歩く」ことを習慣化・楽しく歩くための取り組み事例
1−3−1 「歩く」ことの習慣化
これまでみてきたように、
「歩く」ことは、身体的な面での効果・効用に留まらず、精神面での効
果といったもの、また、地域づくりの手法としての役割や地域の活性化への寄与、さらには教育や
地域、地球環境に対する貢献、といったように、それぞれに寄与するだけではなく、
「歩く」という
行為を通じてそれら全てに繋がっていくという可能性を有している。そのため、
「歩く」ことを核と
したライフスタイルの形成を目指し、取り組んでいくことは非常に重要かつ有益である一方で、
「歩
く」ことをすぐに生活や個人の意識の中に取り入れ、定着させていくことは非常に困難である。
「歩く」ことを中心とした身体活動の習慣化に関する手法開発といった観点では、歩数計の使用
といったセルフモニタリング手法やウオーキングプログラムの導入など、どのようなアプローチが
有効であるかについて、いくつかの調査研究46474849は行われている。例えば、メモリー付の歩数計を
携帯することが、中・高齢者においてどの程度の運動継続における動機付けに繋がるか、といった
ことや、数ヶ月のウオーキングプログラムの導入がその後の運動継続についてどの程度影響を与え
るかといったこと、もしくは、ウオーキング環境に対する認知度や運動ソーシャルサポート(家族
や友人などのアドバイスや運動に対する理解度、応援などといった情緒的なサポートなど)がどの
ように身体活動や運動行動の促進に影響を与えるかといった調査が行われている。このような手法
開発に関連したものについては、
研究者や保健師、
運動指導士などによって研究が進められている。
しかし、ライフスタイルにおける「歩く」ことを促すための仕組みづくりや、取り組みといった
観点での調査研究はこれまで行われておらず、今後、どのようにして、個人の生活の中に「歩く」
ということを組み込み、それを位置づけていくかということは大きな課題である。
Alfonzo50が行った調査では、人間の歩行を促す要因にはいくつかの階層があり、下に位置する階
層が満たされないと、次の階層には進まないとし、歩行ニーズの階層を下から順に、①実現可能性、
②アクセスの容易さ、③安全性、④快適さ、⑤楽しさ、としている。しかし、各階層における欲求
(ニーズ)や興味、レベルといったものは個人、グループ、地域の特性などに応じて変わるもので
あり、これらの要素が組み合わされた結果として、歩く、歩かないといった行動に繋がっていく、
としている。歩行活動や身体活動を習慣化、継続していくためには、個人における意識付けや価値
観の形成が基本となるが、
環境整備や歩行を促す仕掛けづくりといったものも並行して必要である。
また、歩行ニーズの最も上位に位置する「楽しさ」が満たされる状態になると、習慣化、継続性と
いったものに繋がりやすいと推測され、楽しく歩ける環境、コンテンツをいかに提供できるかとい
うことも課題になると考えられる。
46
奥野純子他:中高齢者の歩数計使用の主観的有効感・運動継続との関係、体力科学、53、2004、
301-310
47
武田典子他:ウォーキング習慣定着のための行動変容メカニズム解明の試み−地域介入研究にお
ける検討、The Japanese Society of Physical Fitness and Sport Medicine、54、6、2005、611
48
坂手誠治ら:4 ケ月間のウォーキングプログラムが日常生活や運動習慣に及ぼす影響、第 21 回日
本体力医学会近畿地方会
板倉正弥ら:運動ソーシャルサポートおよびウォーキング環境認知と身体活動・運動の促進との
関係、体力科学、54、2005、219-228
50
Mariela A.Alfonzo : To Walk or Not to Walk? The Hierarchy of Walking Needs, Environment and Behavior,
37, 2005, 808-836
49
61
身の回りの意味ある情報
−認識された環境要因
結果
素性ー環境要因
歩かない
プロセス間
(仲介役)
楽しさ
都市の形態
快適さ
安全性
アクセスの容易さ
少し歩く(10分以内)
生活過程の状況
個人レベル
長く歩く(10分以上)
目的地歩き
意志決
定者
地域レベル
気候、地形
的、地理的
実現可能性
長さ
社会学的
文化など
生物学的
心理的
人口統計的
限界
グループレベル
歩行ニーズの階層
そぞろ歩き
タイプ
混合歩き
図1−3(1) 歩行−生態系枠組み内での歩行ニーズの階層
出所:Mariela A.Alfonzo「To Walk or Not to Walk? The Hierarchy of Walking Needs」を元に作成
1−3−2 事例調査
ここでは、
「歩く」ことを習慣化する、もしくは、楽しく歩くための仕掛けづくりを行っている自
治体事例を取り上げ、調査した。本調査の実施にあたっては、文献等による事例の収集とともに、
その中のいくつかについては、ヒアリング調査を実施し、歩くことを習慣化する取り組みや楽しく
歩くための仕掛けづくりについて情報収集を行った。
表1−3(1)
「歩く」ことを習慣化・楽しく歩くための取り組みに関するヒアリング先一覧
地域名/ヒアリング対象
袋井市
職員
袋井市
ウオーキングコースの設定経緯と大学との協働
元公民館長
尾張旭市
住民視点からの地域づくり
行政との協働のあり方
企画部(健康都市推進室) ウオーキング施策と都市整備の連携
住民(組織)との協働関係
建設部都市計画課
加賀市
建設部整備課
歩いて暮らせるまちづくり
金沢市
都市政策局交通政策部
歩けるまちづくり推進条例施行都市
歩ける環境推進課
注)袋井市および尾張旭の事例については、別の項で記載
袋井市事例:1−1−2、3−1−2 尾張旭事例:3−2−1
62
(1)金沢市:歩けるまちづくり推進条例
1)取り組みの背景と目的
高齢者の増加、
地球温暖化の防止、
まちなかの賑わい創出の必要性といった社会的な背景に加え、
古くからのまちなみと細街路、北陸新幹線の開業といった特性を踏まえ、マイカーの利用を控え、
歩行者と公共交通を優先するまちづくりを推進するために、2003 年 4 月に「歩けるまちづくり条例」
を施行し、安心・安全に歩きやすいまちづくりの構築に向けた取り組みを行っている。
2)基本的な取り組み方針と具体的な取り組み
地区の特性や交通環境の違いに応じたまちづくりを推進し、基本的な方針として、①歩く人にや
さしい交通環境、②まちを歩く意識の醸成、③まちの回遊性の向上、を掲げ、自動車交通(交通量・
歩行速度)の抑制、自動車から自転車やバスへの利用転換の推進とそれを支援するための環境づく
り(バス路線網の充実や、路肩部での自転車通行帯の設置や歩道整備確保など)
、連続したバリアフ
リー環境の充実などに取り組んでいる。取り組みに際しては、市民、事業者、市の連携を図り、例
えば、町会や商店街などが組織する「歩けるまちづくり団体」と歩けるまちづくり協定を締結し、
コミュニティ道路整備などを始めとした構想具現化のための取り組みを実施するなどしている。ま
た、地域住民によるマップづくり活動の支援、まち歩きのシンポジウムやイベントを定期的に開催
するとともに、歩けるまちづくりにむけた社会実験などを通じて、歩く意識の醸成を図っている。
3)特徴的な取り組み
a.パークアンドライド
金沢市では現在、6∼7 カ所のパークアンドライドがあり、2007 年 6 月時点で 229 台の駐車場に対
して 176 人の利用実績がある。利用者には、バス代の割引やバスに乗ると通常の 10 倍のポイントが
貯まるエコポイントを出すなどの優遇策を取っている。将来的には 2,000 台まで収容台数を増やす
ことを考えており、土地を提供してくれる企業については表彰するなどの制度を作るなど、協働に
よる施策の推進に向け取り組んでいる。
b.バストリガー
バス事業者の積極的な施策への導入を促すために、事前に設定した採算ラインを満たさなければ
元に戻すことを約する協定(バストリガー)をバス事業者と地域住民などの間で締結することを条
件に、バス料金の値下げ等の利便性向上策を導入している。現在行っている、北陸鉄道と金沢大学
との連携のケースでは、バス利用率の向上に繋がり、成果が出ている。
4)まとめ
金沢市の取り組みでポイントとなるのは、公共交通のあり方を見直すことで、歩けるまちづくり
の実現を目指していることである。マイカーからの脱却を謳うだけではなく、それを可能とするよ
う移動手段の確保として、公共交通の利用環境向上や、歩行者優先の環境づくりを進める上で、通
過交通の抑制を始めとする自動車交通の抑制といった環境整備を推進していることである。
63
(2)加賀市:歩いて暮らせるまちづくり
1)取り組みの背景と目的
「歩いて暮らせるまちづくり事業」の対象地区となった片山津地区では消費者ニーズの変化、旅
行形態の変化などにより温泉観光収入が低下し、地域が衰退したことを受け、地域の活性化に向け
「歩いて暮らせるまちづくり事業」を展開することでまちの再生を目指し、構想を策定した。
2)現在までの取り組みの流れ
「歩いて暮らせるまちづくり事業」においては、まちづくり事業を行っている NPO を中心に住
民主体のまちづくりビジョンを策定。事業では、基本的にはコンセプト作りを行い、事業終了後、
構想具現化と実現に向けた取り組みを実施する方向で、その際に受け皿となる地域住民主体の推進
体制の形成も事業の一貫のなかでは目的としていた。現在は、事業時のコンセプトも受け継ぎなが
ら、まちづくり交付金などを活用しながらまちづくり整備を進めている。
加賀市は山代温泉、山中温泉、片山津温泉と分散して温泉地区がある多核分散型都市となってお
り、それぞれの地区ごとに温泉といった資源があるため、その資源を活かしたまちづくりを行い、
各地域を連続性のあるものとしてネットワーク形成できるよう整備を進めている。
「歩いて暮らせるまちづくり事業」実施時には、フルモール化やコミュニティバスの導入といっ
た社会実験が行われ、当時はイベント的な面もあり、住民は楽しんで参加したが、その後の継続性
という点では厳しいのが実情とのことである。まちづくり事業そのものについても、具体的に着手
し始めたのがここ数年のことであり、
現時点では具体的な成果や効果はまだ見られておらず、
今後、
どのように展開していくかが課題となっている。
3)各地区における具体的な取り組み
(片山津地区)
昔の総湯(共同浴場)の再生、そこを拠点とした回遊広場の整備、車の進入抑制といった交通面
との連携を図りながら、安全で快適な広場(地域生活基盤施設)を整備し、歩行、賑わいの再生を
目指している。また、柴山潟と白山の眺望という立地環境を活かした温泉街の再生、魅力増強を図
るために、湖畔の温泉旅館などの事業者を巻き込み、温泉旅館の立地場所、公園整備、歩道整備な
どを関連づけた事業の推進を計画中である。
(大聖寺地区)
城下町として発展し、今も古くからの建物が点在していることから、歴史的資源を活かしたまち
づくりを展開。また、地域間を繋ぐネットワーク道路網の整備・改良を促進するとともに、山ノ下
寺院群といった地域資源を周遊できる歩行系ネットワークを形成している。
4)今後の展開、歩きたくなるまちづくりに向けて
コミュニティバスや JR は観光客を中心に組み立てられていることもあり、
住民の利用は少ない。
例えば JR については、通勤時間帯の運行が少なく、また、コミュニティバスも観光地を中心に結
ばれているものが多いため、住民が公共交通を含めた移動手段の選択といったものが出来ないのが
現状である。そのため、住民を歩く方向に促すためには、公共交通機関を始めとした、移動手段を
64
補う取り組みといったものを検討することが必要である。
「歩きたくなるまち」については、
「歩きたく所はまちに魅力がある」という話しがあり、それは
決して古いものだけを維持したまちだけが魅力を有するわけではなく、まちの資源や文化を活用し
ながら、新しいものも取り入れたまちづくりをしていくことが必要ではないかとのことである。
「歩きたくなるまち」を考えた時に大切な視点としては他にも、
「歩く時に何か楽しさがある」と
いうことで、例えば、歩く道についても、人は地面をみて歩くわけではないので、単に舗装をすれ
ば良いわけではない、とのことである。一例として、加賀市では以前、道の雰囲気を統一すれば綺
麗であろう、ということで、石張りや塀をした道があるが、そこは寺の外塀が見られる道であった
ため、結果的には道の主役である外塀を隠してしまうことになってしまった、とのことである。ま
ちとのバランスを考えた道作り、まちを楽しむことが出来る、といった視点が必要である。
(3)袋井市:住民側の歩くことの継続に向けた取り組み・視点(ヒアリング事例から)
1)ウオーキングコース設置にあたっての背景
ヒアリングを実施した地区では、住民が川沿いを朝などに散歩するといったことはこれまでも行
われていた。そのため、日常生活における散歩などに利用するウオーキングコースといった観点で
はなく、地域の住民に対して、普段、歩かない地域(山の部分)を見せてあげたい、地域を知って
もらいたい、という思いからウオーキングコースの設置が検討された。
2)ウオーキングコースの利用
同地区のウオーキングコースは、山を利用したコースづくりとなっている、地形の変化や自然の
変化に富んでいるのは良い反面、治安の面では不安もある。そのため、日常において使うというよ
りも、イベントなどで利用する使い方をしている。また、地域の力で子供たちを教育していかなけ
ればいけない、という観点から、里山体験や、ウオーキングコースの中に地域が昔から持っている
名所や史跡を盛り込むなどして、親も知らないような所を子供たちに体験させてあげるような工夫
をし、ウオーキングコースを歩くことで、子供への教育や子供と地域の触れ合いの場を提供すると
いった活用がされている。
ウオーキングコースの整備については、イベントなどたまにしか使わないところであるため、例
えば、トイレであれば必要に応じて仮設トイレを使うなど、柔軟な対応を取っている。普段、良く
利用されるところであれば、トイレや休憩場所などを設置しても維持管理に問題はないが、そうで
はない場合、かえって負担となってしまうため、利用目的や頻度などを考えて、それぞれに応じた
対応が必要である。
3)継続して参加させるための工夫
同じ所を毎回ただ歩く、といったことでは継続性を維持することは困難であり、何か新しいこと
を取り入れるといった工夫が必要である。例えば、同地区では、ウオーキングキャラバン51におい
51
袋井市内の 14 の公民館(14 自治区)にあるウオーキングコースを利用して、年内 1 年間にその
全てのウオーキングコースを歩くというウオーキングイベント。ウオーキングキャラバンの運営は
各自治区が行う。
65
て、ある年からは、コースの途中で大声を競い合うといった大会を組み合わせてみるなど、様々な
企画・工夫を凝らすことで、変化をつけ、住民の参加継続に向けた取り組みを実践している。変化、
といった点では、同地区のウオーキングコースには、社寺仏閣だけではなく、自然もそのまま残っ
ており、見所が多く良いといった意見がウオーキングキャラバンの参加者などからは寄せられ、評
判の良いコースにもなっている。
4)その他
ウオーキングコースに限らず、より良いまちづくりに繋げていくためには、自治会同士がお互い
に刺激を与え、競争していくような仕掛けが必要である。また、地域の広さや規模などが同じでも、
風土や気質はそれぞれ異なるため、住民の協力が必要な事業を行う時には、まず、行政は住民やそ
の地域の風土をきちんと知ることが必要とのことである。
歩くことを取り入れた活動としては、近年、泥棒や変質者情報が増えたことから、防犯(見回り52)
活動を行うようにしたところ、地域内ネットワークが充実し、見かけない人がいるとすぐ分かるコ
ミュニティが形成されている。
52
ここでは、車などによる見回りも含んでいる。
66
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