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特定プロジェクト「災害に強い社会システムに関する実証的研究」の背景と
防災科学技術研究所 ニューズレター 第2号 ・ 巻頭言 プロジェクトディレクター 福囿 輝旗 ・ ・ ・ 1 ・ プロジェクト活動報告 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 ・ 研究発表 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・7 ・ スタッフ紹介 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 3 2002 特定プロジェクト「災害に強い社会システムに関する実証的研究」 の背景と目標 る池田三郎氏が本プロジェクトで行うべき内容に ついてリスク論的な観点から論じられました。本 稿では、本プロジェクトのバックグラウンド、す 本プロジェクトは、災害事象を対象として、防 災科学技術研究所(防災科研)が社会科学的テー マに本格的に取り組んだ初めての研究です。本年 度から平成17年度までのテーマですが、実質的に は研究遂行の中核となる特別研究員4名が赴任し た8月中頃から本格的に取り組み始め、約5ヶ月 が経過しました。ほぼ、ゼロポテンシャルからの 取り組みのため、試行錯誤的な面もありますが、 ようやく、形が整ってきました。 さて、本プロジェクトの推進に当たっては、当 然のことながら、大きくは社会的な要請と、それ に伴う政策的背景があります。また、防災科研自 体が「国研」から「法人」へ移行し、目的志向型 の組織としての短期間で目に見えた研究成果をせ かされている現状もあります。ニューズレター創 なわち、社会的・政策的背景、防災科研の中での 位置づけとプロジェクトが目指すものについて述 べます。 ①社会的背景: 本プロジェクトは洪水災害 (水災害)を対象としています。日本では、 「川を 治むるもの、よく国を治む」として、古来から、 有能な為政者にとって治水対策事業は国を治める 上で真っ先に取り組むべき重要な課題の一つでし た。第二次大戦後も復興期から高度成長期にかけ て、主として、河川堤防の増強、ダム・放水路等 の整備と、内水排除施設の充実等の河川改修が精 力的に行われ、今も続いています。これらは、い わゆるハード的な防災対策であり、この根底にあ る考え方は、 「防災」、すなわち、災害の危険性を 未然に「ゼロ」にするということです。し 刊号では、プロジェクトの概要について簡単に紹 介しました。また、流動研究チームリーダーであ かし、これには、必ず閾値が存在します。こ の閾値を越えた外力に対しては、当然のこ とながら、それまでとられてきた対策は無 力です。しかも、その際には、以前にもま した被害がでることが予想されます。最近 発生した2000年9月の東海豪雨災害では、 治水施設を設計した時に想定した以上の豪 雨が襲来したことが主たる原因の一つと考 えられます。これを防ぐには、より高い限 界値を設定し、例えば、もっと大きくて頑 強な堤防を作ることが考えられます。しか 1 特定プロジェクト「災害に強い社会システムに関する実証的研究」 の背景と目標 しながら、地球温暖化による異常気象の発生が懸 念されているように、新しく設定した限界を越え る豪雨は襲来しないという保証はありません。こ の場合、さらに限界値をあげることにより対処出 来ますが、結果、イタチゴッコとなり、経済的な 面での限界があり、非効率的です。低成長(むし ろマイナス成長)期に移行した現状、ハード的な 対策のみをメインとしないで別な対策を探るべき 時が来ています。長野県知事の「脱ダム宣言」、あ るいは、河川審議会では、「従来のダムや築堤な どの河川改修に加え、洪水は起こることを前提と しての対策:例えば、土地利用対策、あるいはハ ザードマップ作成・公表などのソフト対策なども うに当たって、大きな問題点がありました。それ は、防災科研には人文・社会科学を専門とする研 究者が皆無であったことです。このために、本プ ロジェクトでは、組織として、大きく2つの方法 をとりました。ひとつは、外部から主として人文・ 社会科学を専門とする研究者を招聘し、流動研究 チームを結成することです。具体的には、客員研 究員としてお招きしたチームリーダーの筑波大学 池田三郎氏、サブリーダーの青山学院大学瀬尾佳 美氏のもと、現在、リスク論、社会・教育心理学、 都市計画論などを専門とする4名の特別研究員が 中核となって研究を推進しています。もうひとつ は、人文・社会科学的研究の専門家集団として、京 推進していくべきことを諮問」しているように、 いわゆる「防災」ではなく「減災」の方向に社会 が動きつつあります。それでも、社会システムと して、最適な「減災」の選択は困難と思われます。 このためには、ハード、ソフトを有機的に結びつ けた複合的な防災対策が必要であり、これらの的 確な評価手法と最適な選択手法の確立が必要不可 欠です。本プロジェクトの目標の一つは、これら の合理的で客観的な手法(考え方)を提示するこ とです。 ②政策的背景: 高度成長期における科学万能 の考え方の所産である、例えば「宇宙ロケット」 や「核融合」の開発といった研究は、純粋に自然 科学的な発想から自然の力学関係の解明がメイン ですが、災害事象のように、人間行動に直接関わ 都大学防災研究所の岡田憲夫教授を中心とする外 部研究チームです。お互いに連携を取りながら、 全体の研究運営は客員研究員(現在8名)と研究 従事者を中心とする研究推進会議で行っています。 ③防災科研での位置づけ: 前述のように、防 災科研は「国研」から「法人」へ移行しました。私 個人としては、 「防災」研究は、いわゆる金(かね) になりにくく、法人組織して行っていくにはなじ まないと考えています。といっても、法人になっ てしまった以上、社会への貢献が重要な課題とな ります。 「防災」を冠しながら、防災科研は、災害 現象の内、原因となる自然現象(例えば、地震の 発生機構、全球的な水文機構など)の解明をメイ ンとして研究してきました。そのため、人間が関 わる直接的な災害現象についての研究はほとんど る事象に対しては、人の多種多様な考え方に発す る心理的・社会的な「力学」が主要な役割を演ず る時があります。この種の力学関係を考慮して、 最適な社会システムを構築していくためには、自 然科学のみならず、人文・社会科学などの知見も 統合した研究が必要です。このような観点からの 研究を、遅ればせながら、科学技術庁(現文部科 学省)は、本年度から「社会技術研究開発プロジェ クト」として推進し、21世紀の新たな社会システ ムの構築を目指しています。具体的には、新技術 開発事業団が「社会技術推進事業」として運営し ていくことになっています。本プロジェクトは、 防災科研独自のプロジェクトであり、事業との直 接的な関係はありませんが、目指すものは、この 考え方・方向の延長上に位置づけられます。 なされていません。 大きな災害が発生した時には、 本来の自然科学的な観点からの研究の延長線上で 調査・分析を行い、主要災害調査報告書を刊行し てきてはおりますが、前述のように、人文・社会 科学的な研究のポテンシャルはほとんどゼロに近 い状態です。災害は原因となる自然現象の発露と 人間社会の関わりの中で発生するものであり、純 粋に自然現象の解明のみでは、社会に役立つ有効 な防災対策の提示・適用は困難です。本プロジェ クトの推進は、防災科研における研究の偏りをた だし、防災に関する総合的な研究所として発展し ていく一助となり、少なくとも、防災という観点 から、社会へ直接的に貢献出来る研究成果を生み 出せるテーマであると考えています。 プロジェクトディレクター 福囿 輝旗 ただし、防災科研でこのような方向の研究を行 2 プロジェクト活動報告 第2回研究推進会議 平成 1 3 年7月 2 4 日、蔵前工業会館(東京)において第2回研究推進会議が開催されました。福囿輝旗 プロジェクトディレクターの会議次第の説明後、新たに加わった特別研究員の自己紹介が行われました。 そして、福囿プロジェクトディレクターが本プロジェクトの年次計画の説明をおこなった後、目黒公郎先 生(東京大学・災害軽減工学)のご講演「災害に強い社会システムを実現するための具体的な施策に関す る2、3の考察」が行われました。ご講演では、目黒先生ご自身の研究成果に基づいた防災対策のあり方 についてご紹介いただきました。講演後の議論では、防災政策における建造物の耐震性といったハード ウェアの側面と、人々の災害に対する危機意識などのソフトウェアの重要性が話し合われました。 講演概要 「 災害に強い社会システムを実現するための具体的な施策に関する 2,3の考察」 目黒 公郎 (東京大学・ 災害軽減工学) 災害とは、論理的には外力としてのハザード ていたからである。地震による犠牲者を減らすた (hazard)が抑止力(mitigation)を越えた場合に めには、家屋の強度を高めるのに必要な経費の負 ディザスター(disaster)をもたらすことである。 担制度の設置や、そのモチベーションの向上、そ 抑止力とは、主にハードウェア(構造物・施設)の してコミュニティ主体の危機対応力を高めると 性能であり、これを高めることで災害の影響を軽 いった課題をいかに解決するかが重要な問題なの 減すること(減災:preparedness)ができる。その である。しかし、光通信網の充実振りや、コミュ ためには、災害に備えて対応策やシステムをあら ニティメンバーの連帯性を自慢する行政職員がい かじめ準備しておき、被害を受けた場合は最適な るのが現状である。 復旧・復興活動を行い、迅速に対処することが求 また、災害が発生してから時間を経ると被災者 められる。 のニーズが変化してくるので、これに伴って公的 阪神・淡路大震災以来、公的機関の防災対策と 機関が行うべき仕事の内容や数も変化し、仕事の して光通信網の設置、コミュニティ内の自主防災 主体も変わってくる。特に、ライフラインの整備 活動の推進などが行なわれている。しかし、光通 は優先順位を決めて順に取り掛かることを提案し 信網が充実しても、またコミュニティメンバーの たい。ガス、水道、電気などの各業者が一挙に取 連帯性を高めても、多くの人命を救うことはでき り掛かると、かえって復興の妨げになる。ライフ ない。コミュニティのメンバーのつながりが綿密 ラインは「生命線」ではなく「生活線」なのであっ だった神戸市長田区の住民で多くの犠牲者を出し て、生活に最も必要なものから復興に取り掛かる たのは、倒壊しやすい家屋に多くの人々が居住し べきである。そのためには、復興プランと最適な 人材配置法を練っておくことが必要である。 災害に強い社会システムを構築するには、公的 機関が効率的に補修費用を負担する制度や、危機 管理意識が重要になる。危機管理意識とは、 「災 害が起こった場合に、自分自身や周囲はどうなる のか」といったイマジネーションのことである。 殊に、我が国における技術者、行政関係者、住民 はこれが欠如しているように思える。かつて、 「災 害が起こった際に、あなたはどうしていると思い ますか」という調査を行なったとき、 「自分は死 3 プロジェクト活動報告 んでいる」と回答したものは数える程度であっ こと、生き残った場合はその状況や対応が長期化 た。いかに、自分は災害とは無関係であると思い すること、住居の耐震性を高める必要性などに気 込 ん で い る か が 分 か る 。平常時には健常者で づくはずである。その結果として、ハード面の改 あっても、災害を自らの問題として捉え、 「潜在 良がより必要であるという認識が高まることが考 的災害弱者」であることを認識することで、初め えられる。その意味において、ソフトウェアの整 て人は何らかの防災対策をとるのではなかろう 備はハードウェアの整備に直結するといえよう。 か。 以上のような理由から、防災対策はハード面 とソフト面という両者のバランスが重要といえ よう。建 造 物 の 耐 震 性 と い っ た 物 理 現 象 を シ ミュレーションの開発に加えて、人々に災害状 況のイマジネーションを高めるような施策を練 る必要があるのではなかろうか。人々の間で災 害時のイマジネーションが高まると、災害時に 自分自身も犠牲者のひとりになる可能性がある 議論メモ 瀬尾佳美流動研究チームサブリーダーより、 また、岡田憲夫研究推進連絡会議メンバーか 阪神・淡路大震災における倒壊家屋の割合と、耐 ら、目黒先生のご講演が地震災害を中心とした話 震性の診断を建設会社に依頼することができる 題であったことに対して、洪水災害においても同 かといった点について質問がありました。これ 様のことがいえるのかどうかについての質問があ に対して、目黒先生から「倒壊家屋は木造家屋が りました。これに対して、目黒先生から「地震災 多かった。一方、鉄筋コンクリートの建造物は 害は個人の対処によって被害を最小化することが 1981 年以前のものであっても耐震性は強い。ど できる。洪水の場合も同様に、建造物を設計する の建造物に対しても建設会社は耐震診断をおこ 際に1メートルほど土盛りをすることで床下浸水 なっているが、仮に補修が必要になった場合は を免れるケースは実際にある。その結果として、 その業者が担当することが多い。また、補修の結 家財道具などの損失を防ぐことができる。従っ 果として部屋の窓の数が減り、部屋が若干狭く て、今回の講演は地震災害の話題が中心であった なることも少なくないようだ」との回答があり が、この意味においてあらゆる災害に共通してい ました。 ると考えられる。そして、公的機関は個人個人、 同じく、瀬尾佳美流動研究チームサブリー あるいはコミュニティ全体として危機管理意識を ダーより、hazard と disaster の定義についての 高めておくことが必要である」というご回答をい 質問がありました。この定義の問題に対して、目 ただきました。 黒先生、岡田憲夫研究推進連絡会議メンバー、池 最後に、池田三郎流動研究チームリーダーか 田三郎流動研究チームリーダーを含んだ議論に ら、hazard、peril、trigger、disaster を定義す 発展しました。この議論において、 ”hazard ”は ることで、チーム内のコミュニケーションを円滑 「外力」として考えることができるが、 「外力」を にすることが必要であるという意見をいただきま 災害の引き金としてとらえるならば、 ”peril”及 した。この件については、第 3 回研究推進会議以 び”trigger”も同一の概念としてみなすことが 後、継続的に議論を進めてゆくことになりまし できることが指摘されました。 た。 記:高尾堅司(特別研究員) 4 プロジェクト活動報告 第3回研究推進会議 講演概要 「いままでの治水,これからの治水 ―ダムに頼らない治水を求めて―」 大熊 孝(新潟大学工学部建設学科環境計画講座 教授) 「日本の川は急勾配で、洪水になりやすく、渇水になり やすい」という負のイメージで語られることが多かった。 しかし、それがゆえに、鮭やアユなど海と行き来する生 物の存在を認識し、山と海とが川によって一体となって いる。このような地球の水循環や生物を介した大物質循 環があるということを再認識すべきである。災害にあい やすい所ほど人が住みやすく、被害にあう。川は矛盾す るものであり、そこに文化が生まれてきた。これまで、 「河 川とは、地表面に落下した雨や雪などの天水が集まり、海 や湖などに注ぐ流れの筋(水路)などと、その流水とを含 めた総称である」と物資的な側面のみに限定して定義さ れてきた。しかし、 「川とは、地球における物質循環の重 要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、 恵みと災害という矛盾の中に、ゆっくりと時間をかけて、 地域文化を育んできた存在である」というように、生物 と一体にあるものとして川を定義すべきである。 ダムは、川の物質循環を遮断するものであり、川にとっ ては基本的に敵対物でしかない。ダム計画では、堆砂容 量を水平に取っているがこのような方法が現実にあって いないこと、土砂吐けゲートや、土砂パイパス(十津川水 系旭川旭ダム)による排砂設備のあるダムが極端に少ない ことなどからも、単純な所でダムが抱える問題は大きい。 今後のダム計画では、少なくとも土砂吐けゲートと土砂 パイパスとを備えることは必要である。また、発電形態 について見ると、阿賀野川・只見川は、発電のためだけ の川になってしまっているし、信濃川中流部も発電用ダ ムが90%を取水するため川に水がない状態になっている。 ダムは流量を一定化してしまうが、本来、流量は変動す るものであり、ダムの放水の仕方も変動させるべきであ る。ダムは副作用の多い劇薬のようなもので、できれば 使わない方がよい。ダムに頼らない治水を考えた時に、 これまでの河道主義治水から、氾濫受容型治水を提案す る。このような動きは、行政でも行われており、溢れて も安全な治水対策が取られつつある(Table 1)。このう ち、河川法第3条に規定された、樹林帯は伝統工法の水 害防備林であり、京都の桂離宮や愛媛の肱川などにも見 られ、洪水が堤防を越しても流れを緩やかにし破堤を防 ぐ水制作用と土砂を止める濾過作用とがあり有効な対策 である。 Table 1 行政における氾濫受容型治水の動き 1977 年 6 月 総合治水対策 −雨水の貯留・遊水− 1987 年 3 月 超過洪水対策 −スーパー堤防− 1997 年 6 月 河川法の改正 −「樹林帯」の導入− 2000 年 12 月 河川審議会答申 −「流域での対応を含む効果的な治水のあり方」− 治水計画の主体は堤防による河道計画であり、ダムは その補助的役割を担う。堤防を矢板、連続地中壁、薬液 注入、水害防備林による強化すること、あるいは、破堤 しないようにゆっくり静かに越流させる加藤清正の「轡 塘(くつわとも)」や、佐賀県城原川(筑後川右支川)の「野 越し」など伝統的な方法を用いて、堤防によって氾濫を 防ぐことが重要である。 近年、治水に関しては、費用が増大する一方で、その 効果は小さくなっている。費用対効果のバランスを取る のは誰かを考えた場合、専門家だけの判断でなく、地域 住民を交えて総合的に判断する必要がある。住民参加の 会議を進める際の留意点として、 (1)完全公開型で進める こと、( 2 )時間をかけること(1 年で 10 回程度の会議) 、 (3)共通認識を高めること、(4)相手の立場を尊重するこ と、(5)互いに成長しながら、新たな折り合い点へ到達す ること、などがあげられる。 また、河川の整備においては、巨大化、素材の人工化、 専門化、画一化、自然破壊などの問題を抱えた近代技術 を見直し、地域固有の自然素材、人との関わりの深い伝 統的技術を再評価すべきであり、今後は、ローテクとハ イテクの組み合わせによる、時間の蓄積を感じさせる、 人と自然にやさしい、調和した空間を創出するべきであ る。 5 プロジェクト活動報告 議論メモ Q. 樹林帯の敷地取得は可能か? A. ダム建設のコストを考えると、金銭的には可能である。また確保しなくとも、減反を利用して 樹林帯を作るといった工夫も可能である。 Q. 越流による床下浸水の頻度はどのくらいか? 水利権の見直しの動きはあるか? アメリカでは ダムを壊すという動きもあるが、日本ではどうか? A. 頻度については 70 年から 80 年に一度という提案をしているが、住民からは逆に 30 年に一度く らいあってもよいし、 そのくらいの頻度の方が世代間の伝承のためにも適しているという声もあ る。発電に関する水利権は 30 年ごと、農業用水は 10 年ごとに見直しがあり、取水率は減らす方 向で見直しが行われているが、発電所の方は難色を示す。また、日本でダムを壊すような動きは まだなく、現状を改善するという動きが中心である。 Q. 私的レベル、共同体のレベルは伝統的、公共的レベルは 現代的(Figure 1 参照)で、そこの折り合いをどうつけて いくのか。また植栽が被害を生むという指摘もあるが、木 の種類については? A. 水防団など伝統的な共同体は半ば強制的な側面があった が、現在行っている市民活動などは、稼ぐことだけでは物 足りない市民の社会貢献の要素が強くなってきた。 現代的 なハイテク技術の整備によって余裕と時間ができコストの 削減も可能になり、このような活動はしやすくなってい る。 植栽によって被害があったという例は探してみると実 際には少なく、高木を一本だけ植えるというのは問題だ が、ケヤキや檜など高木でもよいし低木でもよい。 あるべき水害対策 私的段階 (小技術) 公共的段階 (大技術) 共同的段階 (中技術) Figure 1 あるべき水害対策の構図 Q. 河川を蛇行させるという動きについてどう考えるか? ラバーゲートの漏水については? A. 多自然型の河川整備が行われているのは事実。ただし、洪水流下能力との兼ね合いですべてを 蛇行型にするのは不可能。ラバーゲートでは漏水はなくなり、自然環境は全く変化してしまい、 事前に予測できないような自然破壊が起こることもあり得る。 Q. 市民会議の形態についてのいくつかの質問。市民との会議において専門的情報は誰が提供して いるのか? 上下流の利害の問題については? 意識の低い市民はどうすべきか? 住民の意識を 高め、それが自主防災へとステップアップするために必要なことは? 会議での先生の役割は? コンサルタントがいるのか? 決め言葉のようなものはあるのか? A. 情報は行政が提供している。実は、新潟県には教え子が 100 人以上いるのでやりやすい。また 行政と市民の間に調整役として、 大学の専門家である私が入っていることも会議にとって重要で ある。コンサルタントはいるが、意見は住民には受容されにくい。上下流の利害の問題は重要で あるし、自主防災へのステップアップのためにも、会議を完全公開にしてかくすことない議論を することが必要。市民の意識は高まりつつあり、今後市民の関心は高まっていくだろう。多数決 型でない対話型民主主義を確立すべき。会議では、 「効率から美へ」ということを強調している。 美というのがキーワードである。 記:元吉 忠寛(特別研究員) 6 研究発表 ①タイトル ②発表学会等、発表年月日 ③発表概要 池田 三郎 ① 都市社会と技術・環境リスク問題 ② 建築雑誌 Vol.116, No.1479, 18-21, 2000 ③ 都市に居住することのリスクを、都市構造と市民が選択するライフスタイルの両面から分類し、「都市リスク 学」を構成すると思われる概念やその分析手法について述べた。 ザイ 国方 ① リスクファクターの分析および評価について ② 日本リスク研究学会 2001 年 11 月 23 ∼ 25 日 ③ 自然災害のリスクから社会経済活動に伴うリスクまでのさまざまな特異性を持つリスクのリスクファクターが 多種多様である。化学物質のリスク研究のようにリスク(発ガン)の個々のファクターからの研究が大いにさ れているが、多種多様なリスクファクターが影響しあって起こした望ましくない事象(例えば、ガン、自然災 害)からのリスクファクターの分析および数理的評価の研究はまだ少ないようである。本報告は健康リスクの 実例を持って多様化しているリスクファクターの分析・評価手法を開発し、その有効性を述べる。 照本 清峰 台湾における車籠埔断層沿線区域の建築制限の実態と課題 ① 日本都市計画学会 2001 年 11 月 17 日 ② 台湾 921 集集地震では、震源断層に沿った区域で甚大な被害が生じた。地震後、台湾政府は断層沿線区域に建 ③ 築制限をかける方向で議論を行った。本研究では、台湾における断層線沿線区域の建築制限の実態を把握する ことにより、日本における土地利用規制方策に対する知見を得ることを目的としている。研究方法として、資 料収集・分析とともに法制度策定に携わった各関係者にインタビューを行うことにより、制度策定のプロセス と内容、課題を明らかにした。 元吉 忠寛 ① 遺伝子組み替え食品に関するリスク・コミュニケーション −リスク・メッセージはどう伝えられるべきか?− ② 日本社会心理学会第 42 回大会 2001 年 10 月 14 日 ③ 行政機関から発信されるリスク・メッセージは、それが安全であることの説得を目的としていることが多い。 しかし、このような方法は効果的でない。説得ではなく、人々の関心・意識を高め、自己責任を伴った行動を 促進することを目的にすべきである。そのためには中立的な専門機関を設けて、そこからメッセージを発信す ることが効果的であることを明らかにした。また、人々が社会そのものに関心を持つことが必要であることも 示した。 高尾 堅司 ・元吉 忠寛 ① 災害経験と災害予測が防災行動に及ぼす影響 ―東海豪雨災害を事例として― ② 日本リスク研究学会 2001 年 11 月 24 日 ③ 被災経験及び災害の発生予測の有無と、水害への備えの実行度との関連性を検討した。東海豪雨災害の被災者 を対象に、アンケート調査を実施した。その結果、災害経験と災害予測との関連性は認められたが、災害経験 及び災害予測の有無と水害に対する備えとの関連性はほとんど認められなかった。つまり、水害の恐ろしさを 実感したり、災害の発生を予測していたとしても、実際に水害に備えるという行動に結びつくとは限らないこ とが明らかになった。 SATO Teruko, SEO Kami, FUKUZONO Teruki and IKEDA Saburo ① Residents’disaster perception and their preparedness: 2000 -Tokai flood disaster case. ② The Second Asian Symposium on Risk Assesment and Management 2001 年 11 月 23 日 ③ 2000 年東海水害被災地域を対象地域とし、 アンケート調査により、 災害危険度に対する認識や災害対策についての 旧住民と高度成長期以後転入した新住民との考え方の差異について調査した。 その結果、 災害危険度の認識は居 住年数の旧住民が高いことが認めらた。 しかし、 その差異は、新住民の居住年数の長期化に伴う、 被災経験等によ り、 小さくなっていることが分かった。 瀬尾 佳美 ・佐藤 照子 ① 都市水害のリスクとソフト対策の可能性 − 東海豪雨水害を例に ② 日本リスク研究学会 2001 年 11 月 24 日 ③ 大都市における、ハード的対策の費用対効果は逓減しており、今後の対策にはますます費用がかかると思われ る。ここでは、ハード的対策を補完する、ソフト的対策の受け入れ可能性及び効果について、東海豪雨水害の アンケート調査をもとに検討した。その結果、自己の備えや情報への関心の有無と、被害額との間に関係がみ とめられることが分かった。 7 スタッフ紹介 ①専門分野 ②プロジェクトでの研究内容 ・抱負等 ③つくばに来た感想、 印象 ④趣味、 その他 福囿 輝旗 ( プロジェクトディレクター) 池田 三郎 ( 流動研究チームリーダー) ① 地盤災害 ① 社会システム工学、 環境リスク分析 ② 防災科研にとって新 ② 21 世紀のリスク社会を迎 えて良き市民が 「 資源 しい分野 ・考え方の プロジェクトであり、 循環、 共生、 安全」と 今後の発展の基礎を いうキーワードで代表さ 築けたらと思ってい れるライフスタイルを形成 ます。 していくためには、 どの ③ 建設当時から20 数 ような 「リスクへのかかわ 年間過ごしてきまし り」を社会の仕組みとして作っていけば機能す た。 作られた町並 るのか地域の防災リスク問題を対象にして新し み ・街路樹等が、 最近、 「 つくば」らしく何 い、 私たちの方法を探求したいと思っていま となく馴染んできたような気がしています。 す。 学生時代は山岳登山、 数年前まで野球、 ③ 関西から移ってきて 2 0 年近くになり、 計画さ れ、 管理された自然のほころびが気になってき ④ 最近はもっぱら粒状体の運動確率論。 ました。 ④ 手当たり次第の下手の横好きですが、 最近は、 テニスと田舎暮らしなどですが、 時間をやり繰り 佐藤 照子 (プロジェクトサブディレクター) するのがこれもまた趣味のひとつでしょうか? ① 洪水災害 ② 本プロジェクト立ち 瀬尾 佳美 ( 流動研究チームサブリーダー) 上げ最中の 2000 年9月、 大都市名 ① 環境経済学 ② 「 都市型水害」対策の費用対効果 古屋で、 過去 40 年間で最大の 一 「 都市型水害」対策の環境影響 ③ つくばは一部の人 ( たとえば、 私とプロジェク 般資産被害をもた らした東海水害が トサブディレクターの佐藤さん)にとっては宝の 発生しました。 長 山です。 防災 い間営々と行われ 研の敷地のなか てきた河道中心の だけでも、 春に 洪水対策だけでは、 一般資産被害の軽減は はウド、 秋には 難しいことが示されました。 限られた治水予算 栗と、 季節ごと の中で、 災害に対して安全な社会をどう実現 に自然の恵みに するのか、 新しい災害との賢いつきあい方を、 出会えます。 も 災害調査の経験を活かし、 自然、 人文、 社 うすぐ、 土筆や 会科学者が一体となったチームの中で研究を 野蒜の季節にな 進めていきます。 るかと思うと楽し ③ つくばの空気、 空、 光、 草木が大好きです。 みで、わくわくし ④ 旅先で、 路地や田畑や雑木林の小道などを探 検することや、 手で染め上げられた布をみた ますね。 ( 仕事 をしろ!←他の人言) り、 触ったりすること。 ④ 趣味 :摘み草、 筍掘りなど 8 ザイ 国方 (特別研究員) 照本 清峰 (特別研究員) ① 土地利用 ・環境リスク 災害リスクの発生 ・伝搬 ・被害の構造分析と ① 都市防災計画、 ② リスク評価のフレームワークの研究 ③ つくばは緑が多いし、 道路も広いし、 物価も ② 近年進展の著しい地理 都市 ・地域計画 情報システム等の技術を 安いし、 人も暖か 有効に活用し、 地域の いし・・・住みや 諸条件を考慮し、 住民 すいつくばに戻って の方々の意向を適切に よかったと思いま 踏まえた計画策定の方 す。 法論について考えていき たいと思っています ④ 読書、 囲碁 ③ 距離感が東京に住んでいたときとは違うのが印象 的でした ④ まだ来て間もないので、 近所の店を開拓していく ことがしばらくの間の課題です。 元吉 (特別研究員) 忠寛 ① 教育心理学 ② 水害、 地震、 狂牛病。 世の中危険がいっ ぱいです。 なんでもそうだと思いますが、 「 絶対に安全!」ということはありえません。 高尾 堅司 (特別研究員) ① 社会心理学 住民が納得する防災対 ② 「 策のあり方」について、 いざという時のために、一人一人がもっと知 社会心理学の知見を生 ること、 考えること、 想像することを刺激し かして本プロジェクトに貢 て、 災害に強い 「 ひと」 を増やす研究をし 献したいと考えています。 たいと思っています。 具体的には、 住民が自 ③ 交通ルールがほとんど機能していないなぁ。 恐ろしい街だなぁ。 発的に防災対策に取り組 もうとする際の心理的要 ④ 「リスクがあるからこ そ信じることに意味 因といったミクロ的な要因 と、 その心理的要因を規定する社会的要因といった がある」と宇多田ヒ マクロ的要因を検討して、 この両観点から防災行動 カルも歌っていま す。 信じるために は相手をよく理解 することが必要で すよね。 を研究して行く予定です。 ③ なんとも言い難い特殊な雰囲気をもった地域という印 象を持ちました。 色んな意味でカルチャーショックを 受ける日々です。 ④ 趣味 :野球及びテニス 芝上 玲子 ( プロジェクト秘書) ② 今まで知らなかったことを知る、 気づかなかったことに気づくと 見えなかったものが見えてくる。 何かを始めることは簡単なこと ではありませんが、 気づくことでできることが増えていく。 何かを 見て経験して感じていくこと、 私自身もたくさん感じて受け止めて いくことを無駄にしない様みなさんをサポートしたいです。 ③ 個性的な街ですね。 ④ 趣味 :スキー ・ローラーブレード他 9 行事予定 1) 研究会等 1 月 15 日 第5回研究推進会議 京大防災研グループ :災害に対する社会的構えの構造評価法に 関する研究 2 月 12 日 水害保険勉強会 講師 :坪川博彰氏、 川口正明氏、 平政之氏 ( 損害保険料率算定会) 3月 1日 小貝川下流部現地調査 ( 龍ヶ崎市) 3 月 12 日 第6回研究推進会議 ( 名古屋) プロジェクト進捗状況ほか(京大防災研グループ、 ザイ、 照本) 3 月 13 日 東海水害被災地調査 3 月 15 日 ワークショップ 「 NY/WTC ビル崩壊による間接被害を検証する」 ( 東京) 2) 研究発表予定等 3 月 ザイ国方 ・福囿輝旗 ・池田三郎 「 日本水害被害額標準化及び治水投資の経済効果分析」 日本地理学会 日本大学 3 月 高尾堅司 ・元吉忠寛 ・佐藤照子 ・瀬尾佳美 ・池田三郎 ・福囿輝旗 「 住民の防災行動に及ぼす水害経験及び水害予測の効果―東海豪雨災害の被災地域住民を 対象にして―」 防災科学技術研究所研究報告 第 6 3 号 4 月 佐藤照子 「 2000 年東海水害における被害の時空間分布の特徴について」 主要災害調査 38 号 4 月 瀬尾佳美 「 都市型水害としての東海豪雨災害:意識調査報告」主要災害調査 3 8 号 4 月 高尾堅司 「 手続き的公正評価が都市開発評価に及ぼす影響」 「社会心理学研究」 第 1 7 巻 第 3 号 9 月 GUOFANG ZHAI, TERUKO SATO, KAMI SEO, TERUKI FUKUZONO AND SABURO IKEDA RISK FACTOR ANALYSIS AND EVALUATION ON NATURAL HAZARDS: RIFAE FRAMEWORK -IN THE CASE OF TOKAI-FLOOD DISASTER IN JAPAN- FLINS2002 9 月 高尾堅司 ・野波寛 「 手続き一般の公正さと特定の決定手続きの公正さ - 社会問題及び地域問題を事例として- 」 日本心理学会 広島大学 9 月 元吉忠寛 「 水害経験が住民の対策意識に与える影響」 日本心理学会 広島大学 1 1 月 高尾堅司 (テーマ未定) 日本社会心理学会 一橋大学 ニューズレター配布のご案内 ニューズレター 特定プロジェクト 「災害に強い社会システムに関する実証的研究」 は、 研究所内及び外部の関連研究者等に配布しています。 配布をご希望の方は、 プロジェクト秘書 芝上玲子までご連絡下さい。 また、 防災科学技術研究所のホームページでもご覧いただけます。 編集後記 ニューズレター編集局には、強力なDTP編集者が います。 それは、自然災害情報室 吉成明美さんで す。 このニューズレターのデザイン、 レイアウト、 割付 等、 彼女が愛用のパソコンを駆使して、 作り上げてい ます。 写真もすべて吉成 さん撮影です。彼女の写 真(右)は、誰が撮影した のでしょうか? これからもよろしく!! (S) 発行者 防災科学技術研究所 「災害に強い社会システムに関する実証的研究」 プロジェクトチーム 〒 305-0006 茨城県つくば市天王台 3-1 TEL : 0298-51-1611 (内線 492) FAX : 0298-56-0740 e-mail: [email protected] (秘書:芝上玲子) 監修:福囿 輝旗 / 編集:佐藤照子 / 制作:吉成明美 ホームページ http://www.bosai.go.jp/ 10