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8. 事業化可能性の検討

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8. 事業化可能性の検討
8. 事業化可能性の検討
8.1 中国地域をモデルケースとした事業化可能性の検討
中国地域 5 県を対象として、使用済自動車から発生するワイヤーハーネスの回収・処理
システムの事業化の可能性について検討を行う。
検討に当たっては、中国地域における使用済自動車及びワイヤーハーネスの発生量、熱
分解処理が可能な施設及び銅製錬所の立地状況についてモデルケースを設定し、経済性の
検討を行った。
(1) モデルケースの設定
本モデルケースは、広島県内の ASR 再資源化施設(無酸素乾留熱分解方式)及び銅製錬
所を利用する場合の回収・処理システムを想定し、中国地域の使用済自動車及びワイヤー
ハーネスの発生量を統計資料等から算出して設定した。本モデルケースの設定の考え方は
以下のとおりである。本モデルケースの概念図を図-8.1 に示す。
①使用済自動車及びワイヤーハーネスの発生量の設定
本モデルケースでは、JARC(公益財団法人自動車リサイクル促進センター)のデータか
ら各県の使用済自動車の月間発生量を算定し、それに自動車 1 台当りのワイヤーハーネス
発生量(7.8kg/台)を乗じて各県のワイヤーハーネスの月間発生量を算定した。
②ASR 再資源化施設及び銅製錬所の立地状況の設定
本モデルケースでは、広島県内で実際に稼働している施設の利用を想定し、ASR 再資源
化施設は広島ガステクノ㈱、銅製錬所は三井金属鉱業㈱竹原製煉所を利用すると仮定した。
広島ガステクノ㈱及び三井金属鉱業㈱竹原製煉所の施設概要を表-8.1 に示す。
中国地域におけるワイヤーハーネスの発生量は 197.3 t/月と推定されるが、広島ガステク
ノ㈱の処理能力は 24 t/日であることから、回収したワイヤーハーネスを 9 日間程度で処理
することが可能であると考えられる。なお、専業でワイヤーハーネスを処理する熱分解処
理施設を新設する場合は、1 ヶ月に 600t/月(24t/日×25 日)のワイヤーハーネスを回収す
る必要があるが、中国地域の回収可能量 197.3 t/月との開きが大きいため、新設は不可能で
ある。
60
表-8.1 施設の概要
事業所名
広島ガステクノ㈱
三井金属鉱業㈱
竹原製煉所
施設の概要等
敷地面積:2,000(㎡)
設備能力:1.0(t/h)
操業:24 時間連続
業務内容:電池材料製造・開発、非鉄金属製煉
主要製品:マンガン酸リチウム、水素吸蔵合金、電気鉛、金、銀、
リサージ、鉛丹、酸化インジウム、電解銅粉
※使用済自動車及びワイヤーハーネスの発生量は推定値。
図-8.1 中国地域におけるワイヤーハーネスの回収・処理システムのモデルケース
61
(2) 本システムにおける事業収支の算定方法
ワイヤーハーネスの回収・処理システムについて経済性の検討を行うため、本モデルに
おける事業収支の算定方法を以下のとおり設定した。
事業収支項目の一覧を表-8.2 に、回収・処理システムの各工程におけるワイヤーハーネス
原料の物質構成を図-8.2 に、各費目の算定式を表-8.3 に示す。
事業支出の項目は、ワイヤーハーネスの買取価格、自動車解体事業者から ASR 再資源化
施設までのワイヤーハーネスの回収・輸送費、ASR 再資源化施設における付着物の処分費、
ワイヤーハーネスの熱分解処理費、炭化した被覆材の処分費、ASR 再資源化施設から銅製
錬所までの銅リサイクル原料(熱分解処理後の製品)の輸送費とした。ここで、ワイヤー
ハーネスの買取価格はアンケート・ヒアリング調査の結果から中心価格帯の 230 円/kg と設
定した。運送業者へのヒアリングにより中国圏内の輸送費は 5,000 円/t と設定し、産業廃棄
物処理業者へのヒアリングにより付着物の処分費は 5,000 円/t、炭化物の処分費は 5,000 円
/t と設定した。中間処理費は 30,000 円/t と仮定した。
事業収入の項目は、ワイヤーハーネスを熱分解処理して得られる銅リサイクル原料の販
売価格とした。ただし、銅リサイクル原料の販売価格は図-8.3 に示すように、銅リサイクル
原料の銅品位及び LME 銅建値によって変動するため、その変動を考慮した。例えば、LME
銅建値が 600 円/kg のときに銅品位が 90%の銅リサイクル原料は販売価格が 380 円/kg と
なる。
表-8.2 ワイヤーハーネスの回収・処理システムにおける事業収支項目
62
図-8.2 回収・処理システムの各工程におけるワイヤーハーネス原料の物質構成
表-8.3 各費目の算定式
収支
記号
費目
算定式
支出
a
原料買取費用
付着物付きワイヤーハーネスの買取重量
b
輸送費用
付着物付きワイヤーハーネスの買取重量
×買取単価
×輸送単価
c
事前に除去された付着物の
除去された着物重量×産廃処理単価
産廃処理費用
d
熱分解処理費用
付着物除去後のワイヤーハーネス原料重量
×熱処理単価
e
乾式風力選別により除去さ
除去された炭化物重量×産廃処理単価
れた炭化物の産廃処理費用
収入
f
輸送費用
銅リサイクル原料重量×輸送単価
g
銅リサイクル原料の販売益
銅リサイクル原料重量×販売単価
備考)記号の a~g は図-8.2 に対応する。
63
銅含有製品の買取価格(円/kg)
850
750
650
LME銅建値600(円/kg)
550
LME銅建値700(円/kg)
LME銅建値800(円/kg)
450
LME銅建値900(円/kg)
350
LME銅建値1000(円/kg)
250
75%
80%
85%
90%
95%
銅含有製品中銅品位(%)
(資料:製錬会社へのヒアリング)
図-8.3 銅リサイクル原料の銅品位と販売価格の関係
(3) 検討結果
本モデルにおける事業収益性の検討では、ワイヤーハーネスの買取価格、回収・輸送費、
熱分解処理費、熱分解後の銅リサイクル原料の輸送費及び販売価格について事業収支の試
算を行い、事業収益がプラスになる条件を検討した。
銅リサイクル原料の銅品位は熱分解処理の方式によって異なるため、部分燃焼方式と無
酸素乾留方式について事業収益を比較した。
事業収益計算の結果は、図-8.4 に示すとおりであり、部分燃焼方式と無酸素乾留方式のい
ずれも LME 銅建値の条件によっては事業収益がプラスとなるため、事業化の可能性はある
と考えられる。
事業の成立条件は、ワイヤーハーネスの買取価格 230 円/kg を前提とすると、部分燃焼方
式の場合では LME 銅建値が 825 円/kg 以上のときには事業が成り立つが、825 円/kg 未満
のときには事業が成り立たないと予測される。一方、無酸素乾留方式の場合では LME 銅建
値が 780 円/kg 以上のときには事業が成り立つが、780 円/kg 未満のときには事業が成り立
たないと予測される。
さらに、アンケート調査の結果から事業者によってはワイヤーハーネスの買取価格が 300
円/kg となる可能性もあることから、仮にそうなった場合の事業収益の計算結果を図-8.5 に
示す。これによると、事業収益がプラスとなる LME 銅建値の条件は、部分燃焼方式では
995 円/kg 以上、無酸素乾留方式では 945 円/kg 以上である。図-8.6 の国内銅建値・LME 価
格推移をみると、最近の 2 年間は 800 円/kg 以上になっていないため、ワイヤーハーネスの
買取価格を 300 円/kg として事業を成立させるためには、LME 銅建値の価格の上昇を待つ
必要がある。
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15,000
部分燃焼方式のケース(銅品位84.2%)
無酸素乾留方式のケース(銅品位92.9%)
収益(円/100kg)
10,000
5,000
0
-5,000
-10,000
-15,000
600
650
700
780
825
750
800
850
LME銅建値(円/kg)
900
950
1000
図-8.4 LME銅建値に対する事業収益性(ワイヤーハーネス販売価格 230 円/kg 固定)
5,000
部分燃焼方式のケース(銅品位84.2%)
無酸素乾留方式のケース(銅品位92.9%)
収益(円/100kg)
0
-5,000
-10,000
-15,000
-20,000
-25,000
995
945
600
650
700
750
800
850
LME銅建値(円/kg)
900
950
1000
図-8.5 LME銅建値に対する事業収益性(ワイヤーハーネス販売価格 300 円/kg 固定)
65
(引用資料:社団法人日本電線工業会)
図-8.6 国内銅建値・LME 価格推移
8.2 まとめ
中国地域 5 県を対象として、使用済自動車から発生するワイヤーハーネスの回収・処理
システムの事業化の可能性について検討を行った。
検討に当たっては、広島県内の既存の ASR 再資源化施設及び銅製錬所を利用する場合の
回収・処理システムをモデルケースとして設定し、事業規模及び経済性の検討を行った。
検討の結果、部分燃焼方式と無酸素乾留方式のいずれも LME 銅建値の条件によっては事
業収益がプラスとなるため、事業化の可能性はあると考えられる。
事業の成立条件は、ワイヤーハーネスの買取価格 230 円/kg を前提とすると、部分燃焼方
式の場合では LME 銅建値が 825 円/kg 以上のときには事業が成り立つが、825 円/kg 未満
のときには事業が成り立たないと予測される。一方、無酸素乾留方式の場合では LME 銅建
値が 780 円/kg 以上のときには事業が成り立つが、780 円/kg 未満のときには事業が成り立
たないと予測される。
前述の仮定に加えて、LME 銅建値を 800 円/kg と仮定すると、熱分解にかかる処分費は
4 万円/t 以下であれば、無酸素乾留熱分解の場合は採算が取れる。
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