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トレーサビリティシステム導入の手引
トレーサビリティシステム導入の手引 (清酒・野菜ジュース製造業) 平成18年3月 北 海 道 経 済 部 は じ め に 近年、食品の偽装問題や家畜伝染病などにより、消費者の不安と不信感が増大しまし た。こうした中、食に対する信頼確保の手段として、注目されたのがトレーサビリティ システムです。 生産、製造、加工から流通販売に至る各段階のモノと情報を消費段階から遡って把握 できるトレーサビリティシステムは、国産牛肉については、平成15年に義務化されま した。また、現在、その他の食品については、野菜や米、鶏卵などで業界の前向きな取 組が始まっています。 個々の食品について、情報を公開することは、消費者の信頼を確保するために必要で あるばかりではなく、事故が発生した場合の商品回収の迅速化と原因追及にも資すると ころが大きいものとなっています。一方で、このシステムを、安全・安心な食品の提供 者として自社企業をPRする積極的な手段としてとらえることもできます。 道では、平成15年度から毎年、加工食品の品目を抽出し、トレーサビリティシステ ムのモデルを、業界と有識者の方々にご検討いただき、報告書を作成しております。平 成15年度は、冷凍食品製造業・豆腐製造業、平成16年度は、製粉業・製麺業、そし て、最終年度である本年度は、清酒製造業・野菜ジュース製造業について、取組をいた だきました。本報告書で提案しているトレーサビリティシステムモデルは、清酒・野菜 ジュース製造業のものですが、基本コンセプトについては、他の加工食品にも応用して いただけるものと考えています。今後、幅広い加工食品業界の皆様にご活用いただき、 トレーサビリティについての理解を深めていただければ幸いです。 道では、「北海道食の安全・安心条例」の制定やクリーン農業の推進など、道民の食の 安全性の確保にこれまでも努力してまいりました。今後もこうした努力をつづけてまい りますので、ご支援とご協力をいただきますよう、お願いいたします。 おわりにあたり、本システムモデルの構築にあたり、意欲的にご検討をいただいた「道 産加工食品に関するトレーサビリティシステム検討委員会」委員の皆様に、厚く感謝申 し上げます。 平成18年3月 北海道経済部長 近藤 光雄 目 Ⅰ トレーサビリティシステムについて 1 トレーサビリティシステムとは 次 (1)トレーサビリティシステムを巡る背景-------------------------------------1 (2)トレーサビリティシステムの定義-----------------------------------------2 (3)トレーサビリティシステムの意義-----------------------------------------2 (4)食の安全・安心を巡る国内外の動向---------------------------------------3 (5)トレーサビリティシステム導入の効果-------------------------------------3 2 トレーサビリティシステム導入にあたって (1)原材料・半製品・製品のロット識別管理-----------------------------------4 (2)各種情報の記録・保存---------------------------------------------------6 Ⅱ トレーサビリティシステムのモデル(清酒・野菜ジュース製造業) 1 トレーサビリティシステムモデルの概要 (1)システムの全体構成-----------------------------------------------------9 (2)トレーサビリティ検索システム-----------------------------------------10 (3)情報開示システム-----------------------------------------------------11 (4)事業規模に応じた導入モデル-------------------------------------------13 2 清酒製造業のトレーサビリティシステムモデル (1)システムの全体構成---------------------------------------------------14 (2)トレーサビリティ検索システム-----------------------------------------15 3 野菜ジュース製造業のトレーサビリティシステムモデル (1)システムの全体構成---------------------------------------------------22 (2)トレーサビリティ検索システム-----------------------------------------23 4 トレーサビリティシステムの導入コスト (1) 情報開示システムの導入コスト----------------------------------------28 (2) トレーサビリティ検索システムの導入コスト----------------------------29 (3) システムの運営コスト------------------------------------------------29 Ⅲ 資料編 1 用語解説---------------------------------------------------------------30 2 食品産業を巡る動き-----------------------------------------------------33 3 トレーサビリティシステム関連助成事業(「ユビキタス食の安全・ 安心システム開発事業) 【農林水産省消費・安全局消費・安全政策課】-----35 4 トレーサビリティシステム道内導入地区/システム開発関係事業北海道地区---36 5 北海道食の安全・安心条例-----------------------------------------------38 6 北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例-----------42 7 道産加工食品に関するトレーサビリティシステム検討委員会-----------------47 Ⅰ 1 トレーサビリティシステムについて トレーサビリティシステムとは ○ トレーサビリティシステムとは 食品の生産、製造、加工から流通販売に至る各段階のモノと情報を消費段階から 遡って把握できる仕組みのこと (図1) 一般的なトレーサビリティシステムの概念図 確認 記録(追跡・遡及) 仕入 入荷 生産 管理 製品 原料 流通 生産者 販売 出荷 (遡及) 流通小 売 モノの流れ 消費者 トレース(追跡) 食品工場の中 工程1 工程2 工程3 製品 原料 資材 入荷 計量 ロット ロット 工程4 ロット 投入 工程5 出荷 製品 工程a 工程b 工程c ロット 原料の入荷段階から、製造工程完了の都度ロット番号を付加→全製品の製造履歴の検索 (1) トレーサビリティシステムを巡る背景 ここ数年来、食品を巡って、大腸菌O157による食中毒、無認可農薬の使用、BS E問題、偽装表示事件など、数多くの不祥事が発生し、食品に対する消費者の不信はか つてなく高まっています。これは、農畜産物、水産物といった一次産品のみならず、加 工食品においても同様であり、信頼確保のための手立ての構築が緊急の課題となってい ます。 加工食品業界においては、生産工程での安全性や品質を管理するために、HACCP やISO又はそれらに準ずる衛生管理体制の構築が必要ですが、それに加え、一層のリ スク管理の強化、流通経路の透明化、表示の信頼性の確保も求められており、そのため の有力な手段として、新たに注目されているシステムがトレーサビリティシステムです。 - 1 - (2) トレーサビリティシステムの定義 トレーサビリティシステムとは、「トレース(なぞる、跡をたどる)」と「アビリテ ィ(可能)」を組み合わせた言葉ですが、食品の生産、製造、加工から流通に至る各段 階のモノと情報を、消費段階から遡って把握できる仕組みをいいます。 加工食品にとって、トレーサビリティシステムとは、いつ、どこから、どのような原 材料を受け入れ、どのように加工を行い、いつ、どこへ出荷したのかという、工場の入 口から出口までのモノの流れを識別管理し(原材料、半製品、製品相互の対応付け)、 その記録を残すことによって、予期せぬ食品事故等の際に、モノの追跡(下記)ができ るようにすると同時に、消費者が当該食品に関する履歴等の諸情報を簡単に入手できる ようにするシステムです。 * モノの追跡 ①川上方向への追跡:この製品には、いつ、どこから仕入れた、どのような原材料 を使用していたか分かる ②川下方向への追跡:この原材料を使った製品は、いつ、どこへ出荷したか分かる ○ トレーサビリティシステムの目的とは ① 食品事故の際の原因追及の迅速化、回収の限定化 ② 取引先、消費者への情報提供を踏まえた信頼の獲得 ○ トレーサビリティシステムの導入は、製品の安全・安心に関する企業の積極 性 能動性を表すものとして、企業イメージを向上させ、取引先や消費者の 大きな (3) 信頼を獲得できる。 トレーサビリティシステムの意義 トレーサビリティシステムは、二つの意味合いを持っています。 ①モノの追跡 一つは、食品が、何を使って、どこで作られ、どこに渡され、どこで売られているの かというようなモノの流れを明確に把握するものです。 これは、出荷後の食品に予期せぬ不都合が生じたとき、次のようなリスク管理を可能 とするものです。 ・ 事故が生じた原因をプロセスを経て迅速かつ容易に追及できるようにする。 ・ 事故が生じた製品に的をしぼり、製品の行き先を追跡することにより、正確で迅速 な回収・撤去を行うことができる。(回収コストも最小化できる。) * なお、このようなモノの追跡システムは、生産管理や在庫管理等に応用可能であ り、生産性向上にも役立てることができます。 - 2 - ② 情報の提供 もう一つは、製品の原材料の内容や素性、流通経路、工程管理情報等を明らかにする ことにより、製品の信頼性を高め、消費者に安心感を与えるものです。製品に貼る表示 によっても、かなりの情報を伝えることができますが、それに加え、インターネットな ど、IT技術を用いることにより、より詳しい情報を消費者に伝えることが可能となり ます。 (4) 食の安全・安心を巡る国内外の動向 消費者の安全・安心を確保するため、この数年で様々な動きが国内外に見られます。 国内では、平成14年に「健康増進法」が、平成15年に「食品安全基本法」が制定 され、また、同年内閣府に「食品安全委員会」が設置されました。国際的にも、CO DEXにおいて、トレーサビリティシステムを認証の必要条件にすることが平成17 年秋に決定され、導入されています。 これらのことからも、国内外で、いのちの基本である「食」の安全・安心を確保す るための動きが広まっていることがわかります。 食料生産基地、北海道においても、例外ではありません。 道では、平成16年に、「道産食品の独自認証システム」を発足させ、安全・安心 の観点を含め、特定の品目について、優れた道産食品を認証しています。また、平成 17年には、「食の安全・安心条例」を公布し、事業者、行政、道民が連携して、北 海道の食の安全・安心を守る取組を開始しています。 トレーサビリティシステムは、こうした食の安全・安心を取り巻く大きな動きの中 で、注目されている手法です。 (5) トレーサビリティシステム導入の効果 トレーサビリティシステムの導入にあたっての視点は各々の立場によっても異なり ますが、企業にとっては、リスクマネジメントの手段として有効です。また、安全・安 心に関する企業の積極性・能動性を表す手段として、小売業や外食産業等の取引先や消 費者の信頼を獲得できるほか、自社と自社製品のPRを通じて企業ブランドイメージの 向上につなげることができます。 また、海外への輸出を将来の事業視野に入れると、国際的にも必然的な条件となって くることが考えられます。 - 3 - 2 トレーサビリティシステム導入に当たって トレーサビリティシステムを導入するに当たり、留意しておくべきこととして、次の 二つの事項があります。 一つは、原材料、半製品、製品について、ロット識別管理を厳密に行うことであり、 もう一つは、製造加工する食品に関する様々な情報を記録、作成、保存することです。 このようなことを日常的に行いうる体制を整備しておくことは、トレーサビリティシ ステムを導入するための前提となります。以下、それぞれについて述べていきます。 (1)原材料・半製品・製品のロット識別管理 ○ ロット管理の意義・方法 ・ ロットとは、生産や出荷の単位としての同一条件のものの集まりをいう。 ・ ロットの識別管理はトレーサビリティシステムを確立する基本となる。 ・ 同一条件のものをロットとするということについて、一番簡単な区分けは 製造日単位をロットとすることである。 ロット識別管理の意義 ロットとは、仕入、生産、出荷等の単位として、ほぼ同じ条件でひとくくりにしたも のの集まりのことです。 食品事故などの際、製品の回収や撤去、原因究明は識別されたロットをベースに行わ れるので、ロットが適切に形成されているかどうかが、回収、撤去、原因究明を効果的 に行うことができるかどうかを左右します。 この観点からは、同じ状態の原材料(同一の生産者・原産地など)や同じ製造日など、 同じ条件のもとで生産加工された範囲でロットを組むことが必要となります。 このように、ロットの識別管理はトレーサビリティを確立する基本となるものであり、 次のような作業が必要となります。 ロット識別管理の作業 ① 追跡する製品及び原料の単位(識別単位)を定め、識別記号を付して管理すること。 ② 識別された単位毎に製品及び原材料を分別管理すること。 ③ 製品及び原材料の識別単位とその仕入先、販売先とを対応付け記録すること。 ④ 原材料の識別単位と半製品及び製品の識別単位との関連を付け記録すること。 ⑤ 原材料や製品が統合されたり分割されたりするときには、作業前の識別単位と 作業後の識別単位との関連を付け記録すること。 なお、ロット単位を小さくすれば事故が生じたときに回収する範囲を絞ることができ、 また、原因究明も行いやすくなりますが、分別管理のための所要労力や経費は高まるこ ととなります。 - 4 - ロット識別管理における留意点 一般的なロット識別管理作業は以上のとおりですが、ここで、適当と考えられる具体 的な留意点を幾つか述べます。 ・ ロットを識別できるように表示して保管をし、記録をとること。 ・ 原材料は、先入れ、先出しを徹底すること(関連して、原材料仕入先に、特有ロッ ト番号の記入を求めること。)。 ・ 工程においては、使用原材料(半製品)は、1日に処理できる量を受け入れること。 ・ 同一のものをロットとするが、一番簡単なのは、製造日単位をロットとすること。 ・ 原材料は、異なる区分のものが混在することを避けるために、保管スペースの確保、 在庫の整理を行うこと。場合によっては、原材料調達先などを統一化すること。 ・ 原材料の異なる区分のものの混在が避けられないのであれば、混合されたものをロ ット化すること。 (図2) 原材料−半製品−製品に渡るロット識別管理の概念図 製品オーダー バッチ order001 350 batch001 98 生産ロット オーダ採番型 prod001 350 出荷ロット 350 deli001 500 複合ロット deli003 50 分割ロット deli004 50 deli005 80 deli006 395 複合ロット deli007 500 単一ロット batch002 102 105 batch003 106 45 batch005 44 バッチ採番型 order002 350 batch011 105 50 prod011 105 batch013 108 50 prod013 108 batch015 98 prod015 98 batch016 45 prod016 45 order003 200 batch031 190 prod031 190 order005 200 batch051 205 prod051 205 order006 500 batch061 500 prod061 500 80 <原材料の異なる区分のものの混在が避けられない場合のロット管理例> 生産者 A 時間 生産者 B 生産者 B 生産者 A 生産者 A+B ロット(○月○日) - 5 - ロット単位:製造日 (2)各種情報の記録・保存 ○ 各種情報を収集、記録し、保存しておくこと(以下は主なもの) ①仕入先・出荷先に関する情報 ∼ 名称・所在地、仕入・出荷日等 ②工程管理情報 ∼ 温度・水質・冷却保管時間等 ③原材料に関する情報 ∼ 原産地(原産国)・収穫時期・遺伝子組み替え の有無 (可能なら)農薬に関する情報等 (添加剤・加工製品) ∼ 製造会社名、製造時期、使用した原料名、成 分、アレルギー物質の有無等 ○ 原材料仕入先に対し、原材料情報の提供等の提出を要請すること ① 取引先等に関する情報の記録 原材料の仕入先や製品の出荷先に関する情報を記録保管することは、食品衛生法で 義務付けられている必須の事項です。 これは既に流通した食品に係る遡及調査が必要になったとき、その調査を迅速かつ 的確に行うことができるようにするためです。 なお、これらは、仕入販売台帳、注文書、契約書、送り状、領収書、輸入時におけ る食品等輸入届出書控え等を利用することでも差しつかえありませんが、記録を調べ るときの迅速性の確保のためには、必要情報が一元的に見られるような工夫が必要で す。 具体的には、次のような情報です。 (取引先等情報) ・原材料の仕入先の名称及び所在地 ・原材料の仕入年月日 ・原材料の仕入に係る保管及び運搬業者名 ・製品又は加工品の出荷又は販売先の名称及び所在地 ・出荷又は販売年月日 ・出荷又は販売に係る保管及び運搬業者名 - 6 - ② 工程管理等情報の記録 これは、食中毒などがあったとき、早期の原因追及のために必要となります。 具体的には、次のような情報です。 (工程管理等情報) ・ 検査情報(水質検査・原材料検査・半製品検査・製品検査など) ・ 温度管理情報(殺菌温度・保管温度・冷却時間など) ・ 製造記録(人員記録・機械整備記録・製造日報など) ・ 出荷情報(配送状況・包装・保管温度など) ・ その他工場環境に関する調査表 など ③ 原材料に関する情報の記録 食品加工メーカーにとって、使用する原材料に関する諸情報を把握しておくことは、 製品の安全性や品質に責任を持つためにそもそも必要不可欠な事柄ですが、トレーサ ビリティシステムを構築する観点からいっても必要なものです。 このため、原材料の仕入にあたっては、原材料に関する諸情報の提供を求めること はもちろん、安全確保に関する取組を確認することが必要です。 これら情報は、必要に応じ、後で述べる消費者への情報提供システムに載せるなど、 公開することが望ましい訳ですが、特に、仕入先を公開することは、当該仕入先にお いて、原材料の安全管理を厳密にすることを促すこととなり、責任意識を一層持たせ ることにつながります。 - 7 - 必要な情報としては、次のようなものが考えられます。 (原材料情報) ○原料農産物 ・生産地域名 ・生産JA名(可能な場合は生産者名) ・遺伝子組み替えの有無 ・農薬等使用履歴 ・収穫時期 ・原材料の検品を実施した場合の当該記録(外観、表示、温度等) ・原材料の規格基準の検査結果その他原材料の安全性の確認を実施した場合の 当該記録 ○その他の原料(加工製品)・調味料・添加物等 ・生産メーカー名 ・生産時期 ・使用した原料名 ・成分 ・アレルギー物質の有無・種類 ・製品の製造・加工の状況を確認した場合の当該記録(殺菌温度、保管温度等) - 8 - 2 トレーサビリティシステムのモデル * モデルは「道産加工食品に関するトレーサビリティシステム検討委員会」が作成 したものです。 2.1 トレーサビリティシステムのモデルの概要 (1)システムの全体構成 ここで、清酒・野菜ジュース製造業を対象として、これら業種に適合するトレーサビ リティシステムモデルを提示します。 これは、原材料生産から、工場の入口から出口までのモノの流れを追跡すると同時に 各種情報の記録管理を行うシステム(「トレーサビリティ検索システム」)及び、当該食 品や企業・業界に関する情報をインターネットにより消費者に提供するシステム(「情報 開示システム」)から構成され、それぞれのシステムの機能を連関させることで、前記の トレーサビリティシステムの目的を実現させるものです。 ○ 2つのシステムから成るトレーサビリティシステム(モデル) ● トレーサビリティ検索システム(モノの追跡及び各種情報記録システム) ・原材料ー半製品ー製品間の対応付け、個別のモノの流れの把握を可能とする。 ・各種情報を記録管理する。 ● 情報開示システム ・ Web(インターネット)を用いて、個別商品・企業・業界に関わる情報 を消費者に開示する。 -9- (2)トレーサビリティ検索システム システムの内容 原材料・半製品・製品それぞれに付与したロット番号をデータベースに入力すること で、原材料−半製品−製品間の対応付け、照合を行うことができ、仕入−工程−出荷に おける個別のモノの流れが把握できるようにするシステムです。 また、原材料に関する情報や工程上の作業記録等の諸情報を、データベースに記録保 管することで、個々のモノの情報の検索や照合を容易にする(モノへ情報をひも付け) ことができるようになります。 トレーサビリティ検索システムは、以下の3つのシステムにより構成します。 1)生産履歴管理システム ・ 原材料である農産物生産の履歴(作業、施肥、防除などの記録)を管理して データベースに記録保管 ・ 使用農薬に関して、農薬取締法、ポジティブリストへの適合の確認 ・ 原材料ロット番号の発行(製品ロットとのひも付けを可能とする) 2)製造工程履歴管理システム ・ 管理工程毎の投入/出来高情報の取得、管理 ・ 製品ロットから投入原材料ロットまでのトレース ・ 中間品/完成品のロットトレースおよび在庫情報との連携 3) 流通履歴管理システム ・ 出荷品製造ロット、出荷情報のトラッキング(製品ロット№、賞味期限など) ・ 輸送品質(温度管理情報など)の記録保管 トレーサビリティシステムの導入にあたっては、発生する新たな作業を効率的に行う ことが重要であり、投資コストはブランドの付加価値を高めるなどの効果ある取り組み とする必要性があります。効率的な方法としては、製造ラインからのDCSログの自動 取得などにより実行記録の自動的な蓄積ですが、業種、企業規模等により条件がことな ります。汎用的な方法としては、受注伝票や工程管理帳票を直接スキャニングして、電 子データとして蓄積(ファイリング)することです。これらの取り組みによってファイ ル情報と製品をひも付けすることができます。 * 帳票等をスキャニングする手法の利点は、次のものです。 ・ 入力工程を極力無くして運用負荷を軽減できる。 ・ 手書き帳票の信頼性(改ざんしにくい)を生かすことができる。 ・ 入力項目を過剰に設定しないことにより、製造工程や運用帳票の異なる幅広 い業種、企業での運用が可能となる。 - 10 - システムの効用 製品に関して、予期せぬ食品事故があった場合、または消費者や取引先から問い合わ せがあった場合、このシステムを用いることにより、使用原料の特定や事故原因の究明 のために、次のような追跡ができます。 ・ 主材料、副材料、製造工程に問題発生 製造日、時間帯を特定し、出荷先を追跡できる。 ・ 製造工程で問題発生 製造日、時間帯から使用した主材料、副材料を追跡できる。 ・ 消費者からの問い合わせ発生 製品記号(製造日、消費期限)から使用した主材料、副材料や製造履歴を追 跡できる。 * 上記の効用以外に、当システムは、生産管理や在庫管理などの合理化にも生 かすことができます。 (3)情報開示システム Web(インターネット)により、業界としての安全確保に関連する諸情報及び個別 商品に関する諸情報(原材料に関する情報や必要な工程情報等)などを、消費者に開示 するものです。 消費者に、食品の安全性がどのような方法で確保されているか、その商品がどのよう な原材料や工程で製造されているか等を説明することにより、消費者の不安を解消し、 信頼を獲得させることができます。 情報開示内容については、情報レベル、開示目的に応じて、以下の4フェーズで分類 します。 開示情報とフェーズの考え方 - 11 - このための情報開示システムとして、ここでは、業界が共同して公開サイト及びデー タベースを構築するセンター利用型システムを提示します。 これは、参加企業が公開用データベースに情報を送り、消費者は自宅のパソコンや携 帯電話によってサイトにアクセスするものです。 センター利用型の情報開示システムのメリット 業界が共同して構築することのメリット等を説明します。 ○ センター利用型の情報開示システムのメリット ● 共同することによる初期導入費用の節減、開発コストの抑制 ● 業界として設置するサイトでの「食の安全安心に関する情報」提供による 業界全体のイメージアップ ● すぐにトレーサビリテイシステムを導入できない企業であっても、企業の品質 管理情報等を提供するサイトに掲載するなど、各企業の実情に応じた参加が可能 * 個別企業ごとに構築する場合のデメリット ・ 比較的安価なデータベースシステムを導入した場合でも、トレーサビリティ情 報をWeb公開するためには、別途Webサーバーを導入するかサーバーアプリ ケーションを導入しなければならないため、各企業にとっての初期導入コスト、 Webサーバーの維持メンテコストが増加してしまう。 ・ 企業ごとにアクセス後の操作手順や公開項目が異なると、消費者にとっての利 便性が損なわれてしまう。 * センター利用型システムを組むことのメリット ・ 各企業が個別にWebサーバーを立てる必要がなくなるため、初期導入費用を 節減できる。 ・ データベース設計や携帯電話へのWeb対応、画面インターフェース設計等の インフラ部分を共有できるために業界全体としては開発コストを抑制できる。 ・ トレーサビリティデータベースの利用のほかに、サイトに道内清酒業界、野菜 ジュース製造業界の「食の安全・安心に関する情報」を掲載することで、道内清 酒業界・野菜ジュースなど食品加工業界の安全安心に取り組む姿勢や、業界の公 平かつ正確な情報を消費者に提供できる。 ・ すぐにトレーサビリティシステムを導入できない企業(個別製品のトレーサビ リティ情報を提供しえない企業)であっても、当該製品アイテムの情報を提供す - 12 - る、あるいは、企業の品質管理体制の情報などを提供することにより、消費者か ら一定の理解と信頼を得ることができる。 このような公開システムは、北海道の清酒業・野菜ジュース製造業全体のイメージア ップに貢献できることとなります。 検討事項 このシステムを構築するに当たっては、次の事項を検討する必要があります。 ・ 業界としてのトレーサビリティ開示情報の項目を標準化しなければならない。 ・ ロット番号の体系の統一が必要。 (例:メーカー記号・工場記号・商品記号・原料ロット番号) ・ 業界横断型のデータベースシステムの初期導入費用・運用費用の負担区分(加盟 企業の按分方法)を決める必要がある。 (4)事業規模に応じた導入モデル 当システムを導入するに当たり、次の二つのモデルがあります。 ①個別導入モデル 企業の規模により、パソコン一台での運用から、各原料受入れ・製造・出荷の 事務所への配置まで対応可能なモデルです。まずは、一台のパソコンでの運用か ら始めて、段階的な整備が可能です。ネットワークを構築することにより、各事 務所での情報共有が可能になります。 ②センター利用型モデル 外部センターの利用により、事務所のパソコンからインターネットを通してシ ステムの利用ができます。システム導入にあたっての初期投資額を抑えた利用が 可能です。コスト的には、毎月(毎年)の利用料負担となります。 情報開示に関して代表的なセンター利用型モデルとしては、(独)食品総合研 究所が提供しているコード体系を利用したカタログ登録サービス「SEICAネ ットカタログ」があります。 ※ 「SEICAネットカタログ」の特徴 ・ 無料で登録閲覧が可能な公的データベース ・ Web上で品目毎に生産物情報、生産者情報、出荷情報の登録、閲覧が可能 ・ カタログ番号とWebアドレスで個別商品管理と情報公開 ・ 消費者が購入商品の情報をWebで確認できる ・ 二次元バーコード(QRコード)を活用した携帯電話検索も可能 ・ インターネットと世界規格(XML/SOAP)に対応 - 13 - 2 清酒製造業のトレーサビリティシステムモデル (1)システムの全体構成 ここで、清酒製造業のトレーサビリティシステムモデルについて、説明します。 ○ 清酒製造業のトレーサビリティシステム(モデル)の特徴 ● トレーサビリティの根拠となるのは工程帳票を元にした「ロット番号」 *工程帳票により、原料銘柄と仕込配合、製造工程、製造条件がトレースされる。 ● 帳票をロット番号で関連づけ → 瓶詰め時に印字したロット番号により追跡 原料受払の際に、生産者(もしくはJAなど)から、原料ロットおよび生産履歴情報 を入手します。 仕込配合工程の際にロット番号(原料ロット番号)を付与し、このロット番号を元に 工程管理がなされます。 製品にも、ロット番号(製品ロット番号)を印字します。 製成(清酒の検定)以後、瓶詰までの移動に使用する容器(タンク番号)の連動によ り検定時の容器番号までの遡及が可能であり、工程帳票である「清酒製成検定せん」よ り仕込み符号使用米とのひもつけが可能となることより、トレーサビリティが可能とな ります。 清酒製造業においては、杜氏の長年の実績に培われた経験と勘(五感)がおいしい酒 づくりの秘訣であり、作業記録は、工程記録(工程帳票)をベースとした取得が、必要 となります。トレーサビリティシステム導入に伴い、作業負荷が高くならないよう携帯 端末入力による工程帳票の自動出力による作業効率化、工程帳票のスキャニングによる 工程記録の保管などの方法があります。 また、情報開示においては、お酒に関する知識、教養、貯蔵方法(商品情報)、企業、 酒蔵の紹介(企業情報)、原材料の品質基準、製造管理の取組み(安全情報)、お米の 生産履歴、清酒の製造工程履歴(製造情報)などを消費者ニーズに対応して提供が可能 とします。 - 14 - (2)トレーサビリティ検索システム ① 生産履歴管理システム 原料の生産履歴の登録、管理作業 原料の生産履歴の登録、管理については以下の4通りの登録方法が可能です。 ・ 手書き生産履歴シートのスキャニングとOCR(光学文字読取)によるデータ ベース登録 ・ 手書き生産履歴シートのFAX−OCRによるデータベース登録 ・ インターネットブラウザによるweb登録、EXCELでの自動登録 ・ JAなど集出荷団体からのデータ受渡し 注)北海道においては、生産者へのFAX普及率が非常に高いため、FAXの 利用が効果的である。 原料の生産段階の安全性確認 登録された生産履歴より、農薬の適正使用基準(成分、希釈倍率など)の適合 判定を行い、原料の安全性を確認します。 品質トラブルの未然防止と品質の向上に繋がります。 原料ロット番号の発行 JAなどの出荷団体での出荷時もしくは、酒造工場の受払時に原料ロット№を 発行します 、 - 15 - ②製造工程管理システム 製成、ろ過、殺菌、貯蔵工程 製造工程におけるトレーサビリティ情報として、もろみの清酒と粕に分離、投入 原料および使用水の量により検定精査した、出来高製成数量などについての記録を 工程帳票の「清酒製成検定せん」より記録(スキャニング)、保管します。 各工程のロット情報、プロセス(作業内容)、品質情報を蓄積して管理します。、 ・工程帳票をスキャニング(データベース登録) ・原料関連帳票にロット番号を入力 ・開示情報(原料産地・銘柄等)を入力 調合、加水、瓶詰作業工程 瓶詰(製品)生産の必要量に合せ原酒の庫出、加水調合を行い、原酒の移動、加 水調合、ろ過作業を記録、保管します。 ・工程帳票をスキャニング(データベース登録) ・製品ロット番号を入力 ・開示情報(製造年月日、消費期限等)を入力 - 16 - ③追跡の手順 ここで、ある製品について、予期せぬ食品事故があった場合や消費者や取引先等 からの問い合わせがあった際、当システムを用いて、当該製品の使用原料や工程管 理帳票を追跡する手順は次のとおりです。 - 17 - ⑤トレーサビリティの活用イメージ 万が一の品質トラブルの発生時の迅速な対応および消費者、取引業者からの問合せ に対しても迅速な対応が可能になります。 - 18 - ⑥ 流通履歴管理システム ここでは、出荷品製造ロット、出荷情報のトラッキング(製品ロット№、消費期限な ど)の追跡を可能とします。また、清酒の輸送、貯蔵に重要な品質情報(温度管理、 保管状態など)を記録保管します。 ⑦情報開示システム 情報開示においては、お酒に関する知識、教養、貯蔵方法(商品情報)、企業、酒蔵 の紹介(企業情報)、原材料の品質基準、製造管理の取組み(安全情報)、お米の生産 履歴、清酒の製造工程履歴(製造情報)などを消費者ニーズに対応して提供が可能とな ります。また、嗜好品の特性を活かした情報開示内容と開示方法として二次元バーコー ドの付与による居酒屋、料亭などで、携帯電話による簡単な検索を可能とします。お酒 づくりの話、杜氏コメントなどを、お酒を飲みながら楽しく語り合える話題提供も可能 とします。 - 19 - 【PHASE1 商品情報例】 【PHASE2 企業情報例】 - 20 - 【PHASE3 安全情報例】 【PHASE4 製造情報例】 - 21 -