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学習者言語のデータから 何を学ぶか?
学習者言語のデータから 何を学ぶか? -コーパスの事例研究- Kumiko Sakoda (Hiroshima University・ National Institute for Japanese Language) ねらい コンピュータによる検索 可能な大量の言語資料 1. 第二言語学習者のコーパス・データの 研究の重要性を述べる。学習者のデータ には、教師が教えたのとは違った彼ら独 自の文法が反映されている。 2. 日本語の指示詞コ・ソ・アと助詞ニ・デ の分析から学習者独自の文法を紹介し、 誤用の要因を考察する。 1.学習者の文法・教師の文法 1.1 学習者の誤用 (1)わたしの姉はニコいます。 (2)日本の訴訟法は、研究成果がアジアで一番 ( )です。 (3)「はい、38度( ) あります」 (4)「もう、おなかが( )です」 (5)わたし( )昨日見たの映画( )とてもおも しろいだと思った。 (6)素敵な人が現れたら( )人と結婚したい。 1.1 学習者の誤用 (1)わたしの姉はニコいます。二人の子 二子 (2)日本の訴訟法は、研究成果がアジアで一番 (進んでいます先進 )です。 (3)「はい、38度があります」 (4)「もう、おなかが(いっぱいおっぱい)です」 (5)わたし(がは)見たの映画(はが)とても おもしろいだと思った。 (6)素敵な人が現れたら(そのあの)人と結婚 したい。 × × × 1.1 学習者の誤用 表1 作文に現れた初級レベル学習者の誤用 助詞 動詞 名詞 接続詞 誤用数/総数 75 /558 54 /219 33 /636 7 /24 13.4% 24.6% 5.2% 29.1% 割合 (長友・迫田1988) ① 頻度の高い誤用 …… 助詞 ② 誤用率の高い誤用… 接続詞 例 昨日はぜんぜん寝なかっただから今日は日本 語試験あります。 数量的な調査の限界・・・ ●わかること 学習が難しい項目 ●わからないこと なぜ難しいのか 誤用の原因 A)頻度の高い誤用が必ずしも難しいとは限らない。 B)誤用だけでなく正用も観察することが大事。 1.学習者の文法・教師の文法 1.2 教師の文法 ●日本語の指示詞コ・ソ・ア 現場指示用法 現場で見えるものを指す用法 これは それは あれは わたしの 本です。 あなたの かばんです。 時計です。 1.学習者の文法・教師の文法 1.2 教師の文法 文脈指示用法 話に登場するものを指す ソ系・・・ 聞き手の領域を指す A系・・・ 聞き手と話し手の共有領域を指す A: きのう、森先生と飲んだよ。 B: え、ぼく、その先生、知らないよ。 B’:あの先生は、酒が好きだからね。 2.指示詞コ・ソ・アの習得 例 A:大学院生の木村さんをご存知ですよね B:ええ、・・・。(あの )人とは高校生時代からの友人 例 学校から帰る途中、外国人に道を聞かれました。 (その)人は日本は初めてなのに日本語が上手・・・ 例 私は山田という先生に日本語を習ったんですが、 今晩{この・その・あの}先生に会うことになっている・・ 2.指示詞コ・ソ・アの習得 ●各言語の指示詞 韓国語 I, Ku, Cho 3項対立の指示詞 中国語 这, 那 2項対立の指示詞 英 語 This, That 2項対立の指示詞 ●先行研究では・・・ 韓国語話者・・・・・・ソとアの混同が問題 中国語話者・・・・・・ソとアの混同が問題 英語話者 ・・・・・・ ソとアの混同が問題 言語転移の影響 ? 2.指示詞コ・ソ・アの習得 調査: 1990-1993の縦断調査 対象: 韓国語話者3名・中国語話者3名 1年目は同じ日本語学校で学習開始 初級レベル・20~30代の男女 データ: 60分の対話 4ヶ月に1回(3年間で7~8回) 話題: 学習者間では同じ話題に統一 8回の調査では、異なった話題を設定 表 2. 韓国語話者Aと中国語話者Aの1期~3期の出現 韓国語話者 A 1期 2期 3期 コ系 コノ コノ・コンナ コレ コレ ソ系 ソノ ソノ・ソンナ ソウ ソレ・ソコ ア系 アノ アノ 中国語話者 A 1期 2期 コノ・コンナ コノ・コンナ コレ コレ ソンナ ソノ・ソンナ ソウ ソウ アノ アノ 3期 コノ・コンナ コレ ソンナ ソウ ソレ アノ・アンナ 1)コレは頻繁に出現しているのに、アレは出現しない。 2)ア系では、アノが中心に使われている。 3)学習者はコ・ソ・アを使い分けていると言えるか? 学習者のタイプ別誤用パターン 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% ソ→ア ア→ソ コ→ソ ア→コ ソ→コ 韓国A 韓国B 韓国C 中国A 中国B 中国C 図1 学習者別誤用の種類の割合 表 3. 接続する名詞別の正用と誤用(韓国語話者 A) 1 2 3 4 5 6 7 8 人 アノ アノ アノ アノ・ソノ アノ アノ・ソ アノ ソノ アンナ ソンナ ノ・ソンナ アンナ 先生 アノ アノ アノ 学校 こと 気持ち 話・考え アノ ソノ ソノ ソンナ ソンナ ソンナ ソノ ソンナ ソンナ ソンナ アノ ソンナ ソノ ソンナ ソンナ ソノ アンナ ソンナ ソンナ ソンナ ソンナ ソンナ アノ ソンナ 学習者の指示詞コ・ソ・ア使用の仮 説 ア系指示詞は、具体名詞に接続され易い ア系指示詞+具体名詞 例. あの人、あの先生 ソ系指示詞は、抽象名詞に接続され易い ソ系指示詞+抽象名詞 例. そんなこと、その考え 学習者の指示詞コ・ソ・ア使用の仮説 先行研究での調査内容(使い分けが前提) 穴埋めテスト {その/この/あの} ①山田先生って知ってる? ううん、(その)先生 先生、何の先生? 先生 ②昨日、駅で田中先生に会ったんだ。 先生、いつも優しいよね。 (あの )先生 先生 ③野口英世、(この )先生 先生が日本で初めて 先生 ノーベル賞を取った人です。 学習者の指示詞コ・ソ・ア使用の仮説 迫田(1998)の調査(使い分けの前提なし) 穴埋めテスト {その・そんな/あの・あんな} その/* その あの ①山田先生って知ってる? ううん、( )先生 先生、何の先生? 先生 *そんな そんな/ あんな ②A:きのうの地震、こわかったね。 B:もう、( )こと こと、体験したくないよ。 こと ③A:けさの社長の話、どう思う? B:( )考え 考え、なかなかいいと思うよ。 考え *その その/ あの 対象: 中級レベル 韓国語話者 20名 ・ 中国語話者 20名 日本語母語話者 20名 5 4.5 4 3.5 3 中国語話者 2.5 2 韓国語話者 1.5 1 0.5 0 日本人 ソ+具体 ソ+抽象 ア+具体 ア+抽象 図 2 名詞別のソとアの正答数 ●学習者は、ソ+抽象名詞、ア+具体名詞の パターンで使用する傾向があることがわかった 3.場所を表すニとデの習得 ●学習者の誤用 例 1. 両親は韓国(で)住んでいます。 2. ハワイ(で で)遊びに行きたいです。 3. 駅の前(に に)待っています。 4. 火の上(に に)魚をやきます。 表4 先行文献別の誤用例パターン(●誤用の出現) ~に 寺 福 市 迫 ~で 寺 中に ● ● ● ● 中で ● 後に 前に 地名に ● ● ● ● ● 後で 前で 地名で ● 福 市 迫 ● ● ● 田舎に 田舎で ● ● 食堂に 食堂で ● 誤用例の出典: 寺・・・寺村秀夫(1990) 市・・・市川保子(1997) 福・・・福間康子(1997) 迫・・・迫田久美子(1998) 学習者の助詞ニ・デの使用の仮説 地名・建物名詞 +デ 金沢で住んでいます 位置名詞+ 位置名詞+ニ 駅の前に待っています 学習者独自のルール形成 ユニットを形成(固まり) 検証のための実験調査 対象者: 対象者 中級レベル学習者母語別に20名ずつ 中国語話者, 韓国語話者、その他(混合) 日本語母語話者 *に に/ で 穴埋め調査: 穴埋め調査 ニ・デ・ト・ヲ (1)れいぞうこの中( )、きのう買ったパンがかたく なっている。 (2)100万円あったら、友達といっしょに外国 ( ) あそびに行きたいね。 に/* に/ で 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 中国 韓国 その他 日本人 地名+に 地名+で 位置+に 位置+で 図3 ユニット別の正答率の割合 ●学習者は、地名・建物には「デ」を、位置には 「ニ」を選択する傾向があることがわかった。 4.言語習得の「わかる」と「できる」 学習者は、知識はあるのに、なぜ運用 ができないのか? 処理が違う なぜユニットを作るのか? 統制的処理(control processing) vs. 統制的処理( 自動的処理(automatic processing) 自動的処理( 情報処理のメカニズム a)初級レベル 内容の処理 形式の処理 処理1 不足部分 処理2 同時に処理 処理1 処理2 b) 上級レベル 処理1 処理2 余裕部分 内容と形式を同時に処 理することは難しい. だから、知識があっても、す ぐには運用に結びつかない 初頭効果と親近性効果 再生率 1.2 1 新近性効果 0.8 初頭効果 0.6 0.4 0.2 0 1 3 5 7 9 11 13 15 最初と最後の文字は、記憶 に残り易い まとめ 1. 第二言語学習者のコーパス・データの 研究の重要性を述べる。学習者のデー タには、教師が教えたのとは違った彼ら 独自の文法が反映されている。 ●コーパス分析 → 仮説設定 → 検証実験 → 理論 まとめ 2. 日本語の指示詞コ・ソ・アと助詞ニ・デ の分析から学習者独自の文法を紹介し、 誤用の要因を考察する。 ●学習者は独自のユニット(固まり)を形成 ●「わかる」を「できる」にするためには、統 制的処理から自動的処理に移行させるこ とが重要 習得研究と言語教育 教育への応用 1)誤用は不可欠である。 2)誤用は学習者の仮説検証である。 3)教材やドリルに工夫を・・・ 東京で {住んでいます・働いています} 東京に {住んでいます・働いています} 駅の前で {人が歌っています・人がたくさんいます} 駅の前に {人が歌っています・人がたくさんいます} 習得研究は教育にとってなぜ重要か? 学習者の現在のレベルを知る 学習者の独自のルールを知る 学習者の誤用の原因を知る 学習者を知る ご清聴有難うございました。 Today is the first day of the rest of your life. 学習者は日々成長しています。私達も研究の種 を見つけ、日々鍛錬を積んでいきましょう。 Kumiko Sakoda