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Pyrosequencing 法を用いた臨床分離抗酸菌株に対する同定法の精度

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Pyrosequencing 法を用いた臨床分離抗酸菌株に対する同定法の精度
Ⓒ日本臨床微生物学会 2015
[原
著]
Pyrosequencing 法を用いた臨床分離抗酸菌株に対する同定法の精度評価
吉田志緒美 1)・富田元久 2)
1)
独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター
2)
独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床検査科
(平成 26 年 5 月 13 日受付,平成 26 年 9 月 8 日受理)
臨床分離された抗酸菌に対し,pyrosequencing 法を用いた同定法の精度評価を行った。対
象は NHO 近畿中央胸部疾患センターにおいて新規に分離された抗酸菌 100 株とした。日常検
査にて市販キットとコロニー性状から得られた判定結果と,pyrosequencing 法,従来のサン
ガーシークエンス法による結果を比較検討した。その結果,93 株の pyrosequencing 法並びに
サンガーシークエンス法の結果は日常検査の結果と一致した。不一致となった 7 株のうち 3 株
はサンガーシークエンス法と日常検査の同定結果は一致したが(M. avium complex 1 株,M.
parascrofulaceum 2 株),pyrosequencing 法とは異なった。また,1 株は日常検査では M. peregrinum と同定されたが,pyrosequencing 法とサンガーシークエンス法では M. mageritense
と同定された。残り 3 株は日常検査で Runyon 分類でのみ判定されたが,pyrosequencing 法,
サンガーシークエンス法の結果では異なる分類に属する菌種が同定された(IV 群菌は Tsukamurella sp ,III 群菌は M. szulgai もしくは M. angelicum ,II 群菌は M. colombiense もしく
は M. bouchedurhonense )
。Pyrosequencing 法は日常検査で同定できない株に対しても菌種
同定が可能であったが,いくつかの株で複数の菌種を同定することがあり,結果の解釈には注
意が必要であった。臨床現場では日常検査と並行して pyrosequencing 法を実施することによ
り正確な抗酸菌同定が可能となると考えられた。
Key words: Pyrosequencing 法,抗酸菌,同定,16S rRNA 遺伝子
序
文
臨床の現場で結核の迅速診断に核酸増幅法が用いら
れるようになって久しい。核酸増幅法は結核菌のよう
な増殖の遅い菌の検出には特に有用であり,高い感度
と特異度を有した核酸増幅キットが数多く市販されて
いる。一方,本来環境中に分布している抗酸菌には多
くの菌種が存在するため,対象菌種が限定されている
従来の市販キットでは同定されない菌種に遭遇する頻
度が高い。当センターでは,市販キットを用いたにも
著者連絡先:(〒591-8555)大阪府堺市北区長曽根町 1180
独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患
センター臨床研究センター
吉田志緒美
TEL: 072-252-3021
FAX: 072-251-1372
E­mail: [email protected]
26
日本臨床微生物学雑誌 Vol. 25
No. 1
2015.
かかわらず判定不能とされた菌の割合は 2001 年の
0.94% から 2011 年の 3.35% と増加している。また,
この 20 年間ほどで 100 を超える抗酸菌種が新種とし
て登録されている現状から,抗酸菌の同定にはより一
層の正確性が求められる。
昨 今 の 技 術 革 新 に よ り,シ ー ク エ ン サ ー に よ る
DNA 塩基配列に基づく菌種同定が数時間でできるよ
うになった。従来の 16S rRNA gene をターゲットと
したサンガーシークエンス法は微生物の同定に信頼性
が高い方法であるが,実験工程の煩雑さから臨床の現
場で日常的に汎用していくには適していない。一方,
pyrosequencing 法は PCR 増幅産物を精製せずに測定
ができるため,簡便性に優れた微生物同定法の一つと
して有用である1)∼3)。同法はサンガーシークエンス法
とは原理を異とする次世代シークエンサーを用い,
DNA 合成時に産生される ATP と蛍光色素(ルシフェ
ラーゼ)との発光反応によって合成されたルシフェリ
Pyrosequencing の抗酸菌同定
ンの発光パターンをリアルタイムに配列解読する。ま
た,多数の PCR 増幅後のサンプルを約 1 時間で解析
可能であり,DNA 抽出過程を加えた所要時間は約 4
時間である。同法の抗酸菌に対する同定精度の検討は
すでにいくつかの論文で報告されているが1)∼4),わが
国では,標準菌株を用いた報告があるのみで,臨床分
離株に対して論じた報告は未だ無い5)。本研究では臨
床にて分離された抗酸菌の同定法としての pyrosequencing 法の精度を評価した。
材料と方法
対象
2011 年 1 月∼12 月の期間中に,独立行政法人国立
病院機構近畿中央胸部疾患センターに新規入院した患
者のうち 100 名から分離された抗酸菌 100 株を対象と
した。対象株はすべて,BACTEC MGIT960 システ
ム(日本ベクトン・ディッキンソン)
,小川 KY 培地
(セロテック)を用いた培養検査で両方もしくはいず
れかの培地で陽性となることを確認した。また,複数
菌種の混在否定は,0.5 mg!
ml PNBA(p -nitrobenzoic
acid 加 7H11 寒天培地)上の発育と継代した小川培地
上のコロニー性状から確認した。今回抗酸菌に対する
同定結果の比較に重点をおいたため,菌種ごとに分離
頻度が異なる状況を考慮して結核菌群の菌株数を絞
り,各種市販キットを用いても菌種同定できなかった
24 株を含めた。今回,これら同定不能株は,Runyon
分類による菌群と,pyrosequencing 法とサンガーシー
クエンス法で同定された菌種が属する菌群が一致する
場合に,同定一致とし菌種判定を行った。
今回の対象菌株が日常検査によって同定された菌種
もしくは Runyon 分類と菌株数は以下の通りである。
M. tuberculosis complex(10),M. avium (10),
M. intracellulare (10),M. kansasii (10),M. abscessus (10),M. chelonae (5),M. fortuitum (4),M.
gordonae (3),M. szulgai (3),M. xenopi (2),M.
terrae(2),M. scrofulaceum(2),M. marinum(1),
M. avium complex(1),M. peregrinum (2),同定
不能 24 株〔Runyon 分類 II 群菌(18)
,III 群菌(3)
,
IV 群菌(3)
〕
。
市販キット
当センターにおいて日常検査に使用している市販
キットは以下の通りである。結核菌群の同定にはコバ
ス アンプリコア マイコバクテリウム ツベルク
ローシス(ロシュ・ダイアグノスティックス)と結核
菌群同定試薬キャピリア TB(日本ベクトン・ディッ
キンソン)を用いた。M. avium と M. intracellulare
27
の同定にはコバス アンプリコア マイコバクテリウ
ム アビウムとコバス アンプリコア マイコバクテ
リウム イントラセルラー(共にロシュ・ダイアグノ
スティクス)
,M. avium complex の同定にはアキュ
プローブ マイコバクテリウム アビウム コンプ
レックス(極東製薬工業)を用いた。M. kansasii お
よび M. gordonae の同定には,研究用試薬であるア
キュプローブ マイコバクテリウム カンサシとア
キュプローブ マイコバクテリウム ゴルドネ(共に
極東製薬工業)を用いた。上記以外の菌種の同定には
DDH マイコバクテリア‘極東’
(DDH 法:極東製薬
工業)を用いた。すべての方法は添付の取扱説明書に
準拠して行った。
DNA の抽出
小川培地培 養 菌 か ら 白 金 耳 で 径 2∼3 mm の コ ロ
ニー菌量を採取し,1.5 mL マイクロチューブに分注
した Tris-EDTA buffer(10 mM Tris, 0.1 mM EDTA,
pH 8.0:TE 溶液)500 μL に懸濁した。95℃ で 10 分
間処理の後,急冷し 10 秒間 vortex を行った。12,000
rpm で 5 分間遠心後の上清を新しい 1.5 mL マイクロ
チューブに移し替え,pyrosequencing 法ならびにサ
ンガーシークエンス法に用いた。MGIT 培養菌の場
合,1.5 mL マイクロチューブに培養液を 1 mL 採取し
12,000 rpm で 15 分間遠心後,上清を除去した。残っ
た 沈 に TE 溶 液 100 μL を 添 加 し,95℃ で 30 分 間
処理を施した。急冷後 vortex を行い,12,000 rpm で
1 分間遠心後,上清を別のチューブに移し替えて同様
に用いた。
サンガーシークエンス法領域の設定とプライマー
サンガーシークエンス法の PCR 反応は岩本らの方
法6)に準じ,Takara Ex Taq(タカラバイオ)を用い
て,94℃ 30 秒,55℃ 30 秒,72℃ 1 分 の サ イ ク
ルを 35 回行った。16S rRNA 遺伝子の超可変部 A と
B を含む領域をプライマー 285F[5 -GAG AGT TTG
ATC CTG GCT CAG-3 ]と 259R[5 -TTT CAC GAA
CAA CGC GAC AA-3 ]を用いて PCR 増幅産物を得
た。PCR 増幅産物を精製した後 BigDye Terminator
Ready Reaction Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems Japan)を用いて 16S rRNA 遺伝子の部分配
列を得た後 BLAST(Basic Local Alignment Search
Tool)検索を行った。99% 以上の塩基配列一致を持っ
て同一菌種と判定した。
Pyrosequencing 法
DNA 抽出物を pyrosequencing 法のテンプレート
として使用するために,PyroMark PCR(キアゲン)
のビオチン修飾プライマー(MOTT 16S Primers for
日本臨床微生物学雑誌 Vol. 25
No. 1
2015. 27
吉田志緒美・富田元久
28
Table 1. Clinical isolates identified by pyrosequencing correlating to conventional 16S rRNA gene sequencing and phenotypic identification (N=100)
Conventional 16S rRNA gene
sequencing (BLAST results)
Identified results of
routine laboratory tests*
N
Pyrosequencing (16S rRNA gene)
M.
M.
M.
M.
10
10
10
10
10 M. tuberculosis complex
10 M. avium
10 M. intracellulare
10 M. conspicuum /M. kansasii /M. gastri
(Primer 1), M. kansasii /M. gastri (Primer 2)
10 M. abscessus /M. massiliense /M. bolletii /
M. chelonae
5 M. abscessus /M. massiliense /M. bolletii /
M. chelonae
4 M. fortuitum
3 M. gordonae
3 M. szulgai /M. angelicum
3 M. xenopi /M. heckeshornense
2 M. terrae /M. kumanmotoense
2 M. scrofulaceum /M. conspicuum /
M. parascrofulaceum /M. kansasii /M. gastri
1 M. marinum
1 M. colombiense /M. avium /M. intracellulare
1 M. peregrinum
1 M. peregrinum /M. mageritense /M. poriferae
24 identified (included 3 discrepancies)
10 M.
10 M.
10 M.
10 M.
tuberculosis complex
avium
intracellulare
kansasii /M. gastri
10 M.
M.
5 M.
M.
4 M.
3 M.
3 M.
3 M.
2 M.
2 M.
abscessus /M. massiliense /
bolletii /M. chelonae
abscessus /M. massiliense /
bolletii /M. chelonae
fortuitum
gordonae
szulgai /M. angelicum
xenopi /M. heckeshornense
terrae /M. kumanmotoense
parascrofulaceum
93/100 (7 discrepancies)
93/100 (7 discrepancies)
tuberculosis complex
avium
intracellulare
kansasii
M. abscessus
10
M. chelonae
5
M.
M.
M.
M.
M.
M.
4
3
3
3
2
2
fortuitum
gordonae
szulgai
xenopi
terrae
scrofulaceum **
M. marinum
M. avium complex**
M. peregrinum
M. peregrinum **
Unidentified isolates***
1
1
1
1
24
Total
100
1 M. marinum
1 M. avium complex
1 M. peregrinum
1 M. mageritense
24 identified
(included 3 discrepancies)
*
: Identified species by routine laboratory tests with commercial kits, pigmentation and growth rate.
: Discrepancies of isolate between phenotypic identification by routine laboratory tests and both sequencing results.
***
: See table 2 for the detailed explanation.
**
PCR)を用いて DNA を増幅し,ビオチン化した PCR
増幅産物(192 bp)を得た。
PCR 増幅産物 は PyroMarkQ24 シ ス テ ム(キ ア ゲ
ン)付属のバキュームワークステーションのバキュー
ムプレップツール(ツール)を用いて捕集させた。ま
ず,ツールにストレプトアビジンをコーティングした
Sepharose ビーズと PCR 増幅産物を吸着固定させ,
70% エタノールとアルカリ性 Denaturation 溶液に通
して変性させた。続いてツールを Wash buffer 中にて
洗浄し 1 本鎖にし,シークエンスプライマーを含んだ
Annealing buffer を あ ら か じ め 添 加 し た PyroMarkQ24 プレート内に上記ツールを入れ,ツールの
先端に吸着しているビーズを振り落しアニーリングさ
せた。全菌株の同定には MOTT 16S Primer 1 For Sequencing(キアゲン)を用い,日常検査で M. kansasii
と同定された株に対しては,MOTT 16S Primer 2 For
Sequencing(キアゲン)のプライマーセットを追加
して M. kansasii と近縁菌種の鑑別を試みた。この反
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日本臨床微生物学雑誌 Vol. 25
No. 1
2015.
応プレートを pyrosequencing 反応用の酵素,ヌクレ
オチド,基質を含む分注用カートリッジとともに PyroMarkQ24 にセットし,pyrosequencing 反応を開始
した。得られた塩基配列(40 bp)は FASTA 形式で
保存され,Ribosomal Database Project under Favorites(http:!
!
rdp.cme.msu.edu!
)にて相同性検索を行
い Score 0.990∼1.000 の塩基配列一致を持って同一菌
種と判定した。
結
果
日常検査の結果と,pyrosequencing 法,サンガー
シークエンス法の結果を比較したところ,日常検査で
菌種同定された 76 株のうち 73 株は pyrosequencing
法とサンガーシークエンス法でも一致する菌種を同定
できた。一方,pyrosequencing 法では,日常検査の
同定菌種とともに,その近縁菌種に対しても高い相同
性を示す菌株が認められた。日常検査で光発色試験陽
性が確認された M. kansasii 10 株は pyrosequencing
Pyrosequencing の抗酸菌同定
29
Table 2. Sequence comparisons of 24 unidentified strains by commercial identification kits
No.
Identified results
of routine
laboratory tests
*
IV
66*
III
98*
II
87
II
62
63
IV
IV
64
Pyrosequencing
(16S rRNA gene)
Conventional 16S rRNA gene sequencing
(BLAST results)
Identification
Score
Identification
Homology (%)
Tsukamurella pulmonis /
Tsukamurella spongiae
M. szulgai /M. angelicum
1.000
Tsukamurella pulmonis /
Tsukamurella sp . INBio 3020F
M. szulgai /M. angelicum /
M. alsiensis /M. riyadhense
M. colombiense CECT 3035/
M. bouchedurhonense
100
91
67, 82
II
III (2 isolates)
M. colombiense /M. sp LC6/
M. intracellulare /
M. bouchedurhonense
M. scrofulaceum /M. conspicuum /
M. paraffinicum /M. simiae
M. mucogenicum /M. phocaicum
M. abscessus /M. massiliense /
M. bolletii /M. chelonae
M. interjectum
M. shimoidei /M. triviale
80, 99
86-100
II (2 isolates)
II (13 isolates)
M. intermedium /M. sp . Y2
M. lentiflavum /M. sp
1.000
1.000
1.000
1.000
100/100/
99.43/99.24
99.81/99.81
1.000
M. scrofulaceum
100
1.000
1.000
M. mucogenicum
M. abscessus /M. massiliense /
M. bolletii /M. chelonae
M. interjectum
M. shimoidei /
Mycobacterium sp . 1777
M. intermedium
M. lentiflavum
99.8
100
1.000
1.000
99.8
99.81/99.81
100
100
*
: Discrepancies between identification by routine laboratory and genetic identification by pyrosequencing and conventional sequencing.
法の MOTT 16S Primer 1 for Sequencing を用いた場
合,M. conspicuum,M. kansasii,M. gastri の 3 菌種
に同定され,MOTT 16S Primer 2 for Sequencing の
場合,M. kansasii と M. gastri と同定された。M.
xenopi 3 株は M. xenopi と M. heckeshornense に,
M. terrae 2 株は M. terrae と M. kumamotoense に,
それぞれ同定された。迅速発育菌の M. abscessus 10
株と M. chelonae 5 株は pyrosequencing 法,サンガー
シークエンス法ともに M. abscessus complex の亜種
(M. abscessus !M. massiliense !M. bolletii !M. chelonae )で高い相同性が示された。同様に,日常検査で
Runyon 分類により判定された 24 株もすべて pyrosequencing 法,サンガーシークエンス法で菌種同定さ
れ,100 株中 93 株の同定結果が一致した(Table 1)
。
Table 2 に,Runyon 分類により判定された 24 株の同
定結果を記した。
日常検査,pyrosequencing 法,サンガーシークエ
ンス法のいずれかの同定結果が異なる株は 7 株認めら
れた(Table 3)
。3 つの方法のうち pyrosequencing
法の結果のみ異なっていた株は 1 株(菌株 No.83)で
あった。同株は,日常検査のコバス アンプリコア
マイコバクテリウム アビウムおよびイントラセル
ラーで陰性,アキュプローブ マイコバクテリウム
アビウム コンプレックスで陽性となったことから
M. avium complex と同定され,サンガーシークエン
ス法でも同様に M. avium complex と同定されたが,
pyrosequencing 法で M. colombiense,M. avium もし
くは M. intracellulare と同定された。
2 株(菌株 No.74,No.75)は,3 つの方法すべての
同定結果 が 異 な っ た。そ れ ら は,日 常 検 査 で は M.
scrofulaceum ,サンガーシークエンス法では M. parascrofulaceum と 同 定 さ れ た が,pyrosequencing 法 で
は Runyon 分類の I 群菌に属する M. kansasii,M. gastri と II 群菌である 3 つの菌種(M. scrofulaceum,M.
conspicuum,M. parascrofulaceum )の 5 種類の菌種
に対して Score1,000 を示したため,完全一致とする
菌種を判定できなかった。
菌株 No.85 は日常検査で M. peregrinum と同定さ
れたが,pyrosequencing 法とサンガーシークエンス
法では共に M. mageritense と同定された。
残り 3 株(菌株 No.64,No.66,No.98)は日常検査
で Runyon 分 類 に よ り 判 定 さ れ た 結 果 と,pyrosequencing 法とサンガーシークエンス法で同定された
菌種が属する Runyon 分類とが異なった。菌株 No.64
は迅速発育性の非発色コロニーをもつ IV 群菌と判定
されていたが,Tsukamurella sp と,菌株 No.66 は遅
発育性の非発色性コロニーを持つ III 群菌と判定され
ていたが,II 群菌である M. szulgai もしくは M. angelicum と,菌株 No.98 は遅発育性の暗発色性のコロ
ニーから II 群菌と判定されていたが,III 群菌である
日本臨床微生物学雑誌 Vol. 25
No. 1
2015. 29
30
81*
74*
日本臨床微生物学雑誌 Vol. 25
No. 1
2015.
**
75*
Tsukamurella
pulmonis
Tsukamurella
spongiae
IV
+
+
Smooth
Non-chromogen
+
64**
M. szulgai
M. angelicum
III
+
+
Smooth
Non-chromogen
−
66**
M. avium complex Tsukamurella
M. szulgai
pulmonis
M. angelicum
Tsukamurella sp . M. alsiensis
INBio 3020F
M. riyadhense
M. colombiense
M. intracellulare
M. avium
M.
M.
M.
M.
M.
M.
scrofulaceum
conspicuum
parascrofulaceum
kansasii
gastri
parascrofulaceum
M. avium complex
+
+
Smooth
Non-chromogen
+
83*
Clinical isolates
M. scrofulaceum
+
+
Smooth
Non-chromogen
+
: See table 1 for unidentified isolate by routine laboratory tests.
: See table 2 for unidentified isolate by routine laboratory tests.
*
Growth at
25℃
+
+
37℃
+
+
Colony morphology
Smooth
Smooth
Pigmentation
Non-chromogen
Non-chromogen
P-nitrobenzonic
+
+
acid (PNBA)
Runyon classifica- M. peregrinum M. scrofulaceum
tion or identified
species results
M. peregrinum M. scrofulaceum
Pyrosequencing
M. mageritense M. conspicuum
M. poriferae
M. parascrofulaceum
M. kansasii
M. gastri
16S rRNA gene
M. mageritense M. parascrofulaceum
sequencing
Characteristic
Table 3. Discrepant results for biochemical and genetic identification of unidentified mycobacterium isolates
colombiense
sp LC6
intracellulare
bouchedurhonense
M. colombiense CECT
3035
M. bouchedurhonense
M.
M.
M.
M.
II
+
+
Smooth
Scoto-chromogen
+
98**
30
吉田志緒美・富田元久
Pyrosequencing の抗酸菌同定
M. colombiense,M. intracellulare, も し く は M.
bouchedurhonense と,それぞれ同定された。
菌株 No.66 に加えて,3 つの方法の同定結果が一致
し,M. szulgai とされた 3 株のコロニー性状を比較し
たところ,すべてスムース型で光発色性であった。ま
た,PNBA における菌株 No.66 の発育は陰性であり,
M. szulgai 3 株は陽性 2 株,陰性 1 株という結果であっ
た。
考
察
臨床分離抗酸菌株を対象とした pyrosequencing 法
と日常検査の結果との間には,93% という高い一致
率が示された。日常検査で同定されなかった 24 株は
いずれも pyrosequencing 法で同定可能となり,サン
ガーシークエンス法の結果と大きく異なることはな
かった。しかし,pyrosequencing 法の増幅領域が狭
く,ターゲットとする塩基配列数も 40 bp と短く設計
されていることに加え,抗酸菌種には 16S rRNA gene
で相同性が高い近縁菌が存在するため,pyrosequencing 法では,複数の菌種に対し高い相同性を示したた
めに識別できない場合が見られた。また,pyrosequencing 法は,取り込まれた塩基数に比例したルシフェ
ラーゼの発光量が検出されるため,連続した塩基配列
が存在する場合,実測された波形のピークは高くな
る。しかし,AAAA や TTTT といった 同 じ 塩 基 が
比較的長く連続した場合,その数を読み違えやすい傾
向が見られた(データ未掲載)
。そのため,1 塩基分
のピークの波形を 1 とする基準を目視にて設定してか
ら,連続した塩基数を換算し配列を修正する必要があ
る。このように,これら pyrosequencing 法の特性を
考慮して,結果の解釈には他の生化学的性状検査結果
も参考にすることが求められる。
今回,日常検査にて Runyon 分類でのみ判定できた
24 株のうち 3 株(菌株 No.98,No.66,No.64)は,pyrosequencing 法とサンガーシークエンス法の結果で
は異なる分類の菌種に同定され,結果に乖離が見られ
た。菌株 No.98(日常検査にて II 群菌)に対して,両
シークエンス法で同定された菌種 M. colombiense と
M. bouchedurhonense は,ともに非発色性のコロニー
性状を持つが,M. colombiense は 2 週培養で暗発色
性のコロニーが観察される特徴があることから同株
は,M. colombiense である可能性が考えられた7)8)。
また,菌株 No.66(III 群菌)と M. szulgai 3 株は,日
常検査では非典型的な性状を示し,正確な同定は難し
いと判断した。M. angelicum は M. szulgai に非常に
近い塩基配列を持つ II 群菌であり,現時点ではジネ
31
ズミの 1 種である Crocidura olivieri に対する感染症
例や9),非常に稀であるがヒトへの感染症も報告され
ている10)。したがって今回の結果から,M. angelicum
の可能性は否定できず,M. szulgai もしくはその近縁
菌と同定するのが妥当であると考えられた。また,M.
szulgai の近縁菌(M. angelicum ,M. alsiensis ,M. riyadhense )は 16S rRNA gene の配列で 100%,99.5
%,99.1% の高い相同性を持つため10)∼12),同菌種の詳
細な同定には,進化の速いハウスキーピング遺伝子を
解析するなどの方法が求められる。最後に,今回の検
討で注目すべきは,抗酸菌ではない Tsukamurella 属
菌 を IV 群 菌 と 同 定 し て い た こ と で あ る(菌 株
No.64)
。Tsukamurella 属は,偏性好気性のグラム陽
性桿菌で,無芽胞かつ弱抗酸性のミコール酸を有する
放線菌である13)。同菌種が M. fortuitum と誤同定さ
れた報告もあり14),コロニー性状だけで判別するのは
困難である。抗酸菌感染症の治療薬剤の多くに耐性で
あるとも言われており,このような誤同定により不適
切な治療を引き起こす危険性が大いにあると考えられ
る15)。したがって,抗酸菌のコロニー性状の判定には
注意が必要であり,遺伝子解析結果を併用するといっ
た慎重な対応が欠かせない。
今回,臨床分離抗酸菌株において pyrosequencing
法は,サンガーシークエンス法と同程度の高い精度が
確認された。一方,pyrosequencing 法の同定結果と
日常検査の Runyon 分類が異なる株も認められた。多
彩な臨床検体を材料とする臨床現場では様々な性状の
菌が分離されることは決して珍しくなく,今後も遭遇
すると想定されるため,検査する医療従事者の熟練度
が要求される。
謝辞:本研究にあたり,当センター臨床研究セン
ター 露口一成部長,並びにキアゲン(株)嶋多涼子
氏に深謝いたします。
利益相反:本論文の研究内容,結論,意義,あるい
は意見について他者との利益相反(conflict of interest)
はありません。
文
献
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Pyrosequencing の抗酸菌同定
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Novel identification of clinical mycobacterium isolates by pyrosequencing of 16S
ribosomal RNA gene
Shiomi Yoshida 1) , Motohisa Tomita 2)
1)
2)
Clinical Research Center, National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center, Osaka, Japan
Clinical Laboratory, National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center, Osaka, Japan
Conventional methods for identification of mycobacterium isolates are often inexact and time consuming. Pyrosequencing of a short hypervariable 16S rRNA gene fragment is accurate, rapid and effective. We have retrospectively evaluated the discriminative power of pyrosequencing for mycobacterium identification, and compared
with the results of the routine laboratory tests and conventional 16S rRNA gene sequencing (Sanger sequencing).
A series of 100 clinical isolates were investigated, furthermore, growth rate and pigment production were annotated when species could not be resolved by pyrosequencing alone. 93 of the identified isolates by commercial kits
and phenotypic characterization were unambiguously identified by both Sanger sequencing and pyrosequencing.
An additional 3 isolates were directly identified to same species by Sanger sequencing and routine test, but the
discrepancies with pyrosequencing (1 M. avium complex, 2 M. parascrofulaceum ). By both sequencing methods,
one isolate was identified as M. mageritense , however, identified as M. peregrinum by routine test. The remaining 3 isolates needed both sequencings because the discrepancies between Runyon classification (IV, III and II)
and both sequencings were resulted (Tsukamurella sp , M. szulgai or M. angelicum, and M. colombiense or M.
bouchedurhonense ). We consider the pyrosequencing procedure to be a useful alternative for the identification of
several mycobacterium species, and a versatile tool for the characterization of clinical mycobacterium isolates. At
times it requires additional tests for definite species diagnosis and correct identification.
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