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はじめに 北極海が一般の関心を呼び始めたのは

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はじめに 北極海が一般の関心を呼び始めたのは
Kitagawa Hiromitsu
はじめに
北極海が一般の関心を呼び始めたのは、地球温暖化により、夏季の北極海海氷が著しく
減少し、北極海の様態を示す人工衛星画像がテレビ放映され新聞紙上を賑わしてからであ
る。とりわけ、2007 年には、観測史上最小の海氷面積となり、船舶の航行に障害となる海
氷が衰退したことにより、スエズ運河経由に比して航行距離を大幅に短縮しうる北極海航
行がにわかに関心を集め、テレビでは特集番組等が組まれるなど、夏季の北極海情報は一
段と大衆化した。2012 年夏の北極海の海氷面積の衰退は、2007 年を上回り観測史上記録を
塗り替えるものであったが、一般報道はさしたるものとはならず、北極海の夏季海氷衰退
は、すでに物珍しい事件ではなくなっている。
北極海の諸問題を論ずる場合、まず北極海とはどのような海洋なのか、また北極海にか
かわる膨大な科学論文がなぜ発表され続けているのかを十分理解しておくことが肝要であ
る。北極海の自然は、数次にわたる国際極年(IPY: International Polar Year)、国際地球観測年
(IGY: International Geophysical Year)、国際北極科学委員会(IASC: International Arctic Science
、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: International Panel for Climate Change)、北極
Committee)
評議会(AC: Arctic Council)などの活動による調査研究や関係国の観測・研究努力によって次
第に解明されつつあるが、IPCC 第 4 次作業部会報告(AR4)、続いて 2013 年の第 5 次作業部
会ドラフト報告(AR5)においても、北極海の海氷変化のメカニズムを解明したとは言えな
い。まして、航行船舶周辺での気象、海象、氷況に関するリアルタイム情報と予報情報を
必要とする船舶の安全航行という視座では、IPCC(AR4 & AR5)の報告は有効という評価に
は程遠い。
1 北極海の自然環境
地球は太陽の周りを約 365 日の周期で公転し、約 24 時間の周期で自転している。地球の極
点とは自転軸と地表面の交点を指し、磁場を有する地球の磁極とは位置を異にし、磁極は
磁場の変動に伴って移動している。公転軌道の黄道面に対して約 23.44 度傾斜し、この傾斜
が地球に季節変化をもたらしている。とりわけ両極域では、夜の訪れのない夏季の白夜、
太陽が昇ることのない冬季の極夜があり、海洋が広がる北極域では船舶航行に支障をもた
らす。ただし、北極圏での白夜と極夜とでは光の屈折の影響でその日数は同数とはならな
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北極海と船舶航行
い。寒く長い冬季は海氷面を生成し、地球温暖化が始まる前の 19 世紀後半までは、多くの
経済・社会活動を阻害してきた。
北極海の存在が人類社会に知られるようになったのは、確からしさは別として紀元前の
ことであり、ギリシャのヒミルコ(500B.C.)、ピシアス(325B.C.)のツーレ(Thule)島探検
などが、1 世紀前後に書かれた書籍によって知られている。後年の航海者に伝えられる情報
としての北極海航海資料は 11 世紀のバイキングの航海を経て、14 世紀にその胎動をみせた
大航海時代以降のものである。また、冷戦期には、米国、ソ連が戦略上の視座からの北極
海探査を実施していたが、冷戦構造の消滅と人工衛星時代を迎え、近年では北極海情報は
質量とも、飛躍的に増加している。
北極海は教科書でなじみのメルカトル図法ではなく立体的な地球儀を見れば明らかなよ
うに、ユーラシア大陸、北米大陸、グリーンランドに囲まれた面積およそ 1400 平方キロメ
ートルの世界最小の大洋(Ocean)である(口絵参照)。北極海の面積は奇しくも南極大陸と
ほぼ等しい。ただし、北極海海水の循環が、温度差と海水塩分濃度差によって駆動され、
大西洋海水循環の一部をなすことから、北極海は大西洋の内海と解釈するものもある。
北極海東端にはノルウェー海、西端にはグリーンランド海があって、北大西洋に繋がり、
北極海の海水循環に主要な役割を担っている。グリーンランド、カナダ間には、エルズミ
ア島、クイーンエリザベス諸島、バンクス島等があり、氷河を戴く複雑な地形、水路を形
成し、バフィン湾、デービス海峡を経て大西洋に繋がる。一方、アジア側の北米大陸およ
びユーラシア大陸間のベーリング海峡は、幅約 80 キロメートル、最大水深 60 メートルの狭
隘な海峡であり、以前は冬季、両大陸間の氷上移動が可能であった。ベーリング海峡南端
は、有数の地震帯でもあるアリューシャン列島が北太平洋との境界をなすベーリング海に
繋がる。ベーリング海西側にはカムチャッカ半島が南方に突き出して、オホーツク海と海
域を分ける。
北極海の平均水深は約 1330 メートルであり、北極海中央部は、水深約 4000 メートルの深
海平原を形成し、最深部は 5440 メートルに達する。ロモノソフ海嶺は、ロシアのノボシビ
ルスク諸島(新シベリア諸島)からカナダのエルズミア島にかけて横たわり、北極海を北欧
側とアラスカ側に 2 分する。その頂上部水深は 841 メートルである。ロモノソフ海嶺の両側
には、北欧側にナンセン・ガッケル海嶺、カナダ側にアルファ海嶺がある。大陸棚は海域
の約 3 割を占め、残り 7 割は水深 2000 メートルを超える深海域である。北米大陸側の大陸棚
は沿岸近傍に限られているが、ユーラシア大陸の大陸棚は沖合遠くまで延び、沿海には西
からバレンツ海、カラ海、ラプテフ海、東シベリア海、チュクチ海が並ぶ。ノバヤ・ゼム
リヤはバレンツ海とカラ海を、セベルナヤゼムリヤはカラ海とラプテフ海を、ノボシビル
スク諸島はラプテフ海と東シベリア海を、ウランゲル島は東シベリア海とチュクチ海とを
それぞれに区分する諸島である。このほか、ゼムリヤ・フランツ・ヨシフ諸島、スバルバ
ル諸島が北極海を取り囲む。北極海を囲む沿岸国はノルウェー、ロシア、米国、カナダ、
デンマーク(グリーンランド)およびアイスランドである。なお、アイスランドは北緯 60 度
33 分 39 秒の地理学上の北極圏にその一部が辛うじて顔を出しているにすぎない。北極海お
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北極海と船舶航行
よび亜北極海の諸島の多くには氷河があり、これらの氷河はゆっくりと流れ下り海岸に到
達して棚氷となり、やがて切り離されて海洋へ流出し、漂流しつつ風化し消滅する。漂流
の間、風浪の影響を受けて多数の氷塊に変貌するものもある。オビ川、エニセイ川、レナ
川などのシベリア大陸の大河川は、北に向かって流れ、北極海に注ぐ。また、北アメリカ
大陸からはマッケンジー川が北極海に流れ込む。唯一の例外がアムール川であり、中国域
の河川と合流してオホーツク海に流れる。これらの大河川からの真水と栄養分の北極海へ
の供給は、北極海の海氷生成、海洋生態系に影響を与えている。
北極海には北大西洋海流の続流であるノルウェー海流、ボーフォート循環流、トランス
ポーラードリフト、ベーリング海峡通過流があり、北極海の海氷発達に深く関係している。
ノルウェー海流は、ノルウェー北部で、スカンジナビア半島沿いにバレンツ海へ向かう流
れとスバルバル諸島へ北上する流れとに分かれるが、その流量はベーリング海峡通過流の
およそ 10 倍であり、北極海水塊への影響が大きく、メキシコ湾に源を発するこの海流水温
の上昇は、北極海水温・海氷衰退に関与する。
北極海の自然状況にかかわる因子は多く、人為的因子も含め相互に複雑に絡み合って、
その折々の自然状況が形成される。地球は太陽からのエネルギーを日射(短波放射)として
受け、熱せられ、地球は温度に応じた赤外線(長波放射)を発して冷却する。このバランス
が地球の大まかな気候を支配している。冠雪海氷のある北極海や雪面に覆われる南極では、
短波エネルギーについては低緯度域とは異なる現象がみられる。雲層と冠雪海氷面間で放
射・反射が繰り返される多重反射が起こり、これは波長の短い可視光線で顕著となる。反
射率(アルベド算定)は地表面(反射面)および入射光の性質に依存するため簡単ではない。
冠雪の氷粒子径や含有ダストによってもその波長依存性が異なる。北極海の汚染はシベリ
ア大河から流入するものに加え、北半球に発達した産業圏からの汚染物質が、流入海水の
ほか、北極域気団がやや閉鎖的性状を有することと降水現象があまり活発ではない季節が
あることからエアロゾルとなって飛来する。その挙動と気候への影響はエアロゾル粒径に
大きく依存する。エアロゾルは日射を散乱させ地表面を冷却する効果がある。季節変化も
著しく、春先に現われる濃密なエアロゾルは北極海上空を飛行するパイロットによって
1950 年代から知られ、
「北極ヘイズ」と名付けられたが現在は減少気味である。夏期には降
水量が増加し、雨水による除去作用のため北極ヘイズは姿を消す。エアロゾルは雲核、凝
結核としても作用することも手伝って、北極域、とりわけ各地域的なエアロゾルや雲の効
果を定量的に見積もることは至難である。
北極域の可降水量は5.5 ― 7.5 ミリであり、南極に比較すればかなりの量と言える。この水
蒸気がどの方向からどこへ流れているのかを示すものが水蒸気フラックスである。北緯 70
度圏を境界とする年平均水蒸気フラックスは西経約70 度から 130 度のカナダ多島海北縁を除
き、極向きであり、可降水量の多くなる夏期に極向きの水蒸気フラックスも大きくなって
いる。
極低気圧(Polar Low ;地上風速が 17 メートル毎秒以上)は、きわめて強力な低気圧であり、
極気団と温帯気団の境界である極前線の極側に冬期に急速に発達して現われる。北極海沿
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北極海と船舶航行
岸地方の町村に時として多くの被害をもたらしたり、英国北部に豪雪を降らせたりするこ
とで知られているが、航行船舶への影響があり、その様態を把握しておく必要がある。極
域成層圏では、強い西風が吹き、極渦や急激な成層圏の昇温など極特有の現象がみられる。
また、夏至の頃の 1 日当たりの日射量は、赤道近辺の日射量を上回るが、夏期の北極域に
特有な雲や霧の存在と雪氷の大きな反射量のため、気温の上昇はさして起こらない。北極
海の海面気温の最高最低値はそれぞれ夏至および冬至から 1 ヵ月程遅れて現われる。その高
低差は熱容量の大きな海水の存在により 30 度程度である。陸域、とりわけシベリア側では
最低気温が零下 40 度を下回る低温域がある。多年氷が広く存在する海域では、海氷の融解
潜熱のため海水面温度は 0 度付近に保たれる。熱伝導率が低く反射率の高い海氷(冠雪の影
響を含む)は、海洋にあって大気・海洋間の熱移動・交換に大きな影響を与える。海氷域の
なかに発生する海水面、すなわち運河のような「リード」や湖のような「ポリニア」の様
態も重要である。また海氷生成過程では、
「ブライン」と呼ばれる高濃度塩水を排出し、海
の対流混合を発生させる。活発な海氷生成により生ずる高濃度海水は周囲の海水と混合し
つつ高濃度低層水を形成し、海洋深層大循環を駆動する。南極・北極域における海氷生成
による大循環は、長い周期をもって地球全般の気候に影響を及ぼす。
2 地球温暖化と北極海の変貌
IPCC(AR5)では AR4 に続いて、地球温暖化の人為影響についてさらに踏み込んだ指摘を
しているが、その正否はともかく、地球温暖化の影響が最も顕著に現われるのは両極域で
ある。厚い氷床で覆われた南極では数メートル程度の氷厚が減少しても目に見える変化は
ないが、平均海氷の厚さが数メートルの北極海では、厚さ数メートルの海氷減少であって
も、南極で言えば露岩同様の状態となり海水面が露出し、太陽エネルギーの反射率を著し
く変化させ地球温暖化を加速させるため、当面は、北極海の自然変化に注目する必要があ
る。
北極海における夏季の海氷衰退は、冬季に一夏、あるいはいくつもの夏を越した厚く硬
い海氷(2 年氷、多年氷)の形成を減じ、それが次の夏季における海氷衰退を強める可能性
を生む。このような連鎖が続けば、やがて夏季の北極海には海氷がみられなくなるが、冬
季の状況や夏季の気温、気象状況により必ずしも加速的な連鎖反応が続くわけではない。
ただし、夏季海氷衰退により北極海の多年氷は次第に減少しつつあり、船舶の航行を阻む
ものが北極海から消えつつあると言える。もちろん冬季に初めて生成した一年氷であって
もかなりの厚さに達するものがあり、一般の船舶が航行しうる状況ではなく、船級協会規
則に定められた所要のアイスクラス(砕氷・耐氷)装備を保有する船舶が、砕氷船の支援を
受けて航行しうるという状況である。
海氷の存在は風浪の発達を抑えてきたが、海氷のない現在では、風浪を減衰させるもの
がなく波浪は発達しやすくなっている。かなり以前から海氷が消えたノルウェー海北域の
バレンツ海で問題となっている船舶の耐波性や、海水飛沫による船体着氷雪が問題となる
海域が東進しつつある。海象は激変しつつあるが、日照時間には変わりはなく、探照灯を
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北極海と船舶航行
第 1 図 9月の月間平均海氷面積(1979―2013年)
(100万km2)
8.5
8.0
7.5
7.0
6.5
海 6.0
氷
面
積 5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
1978
83
88
93
98
2003
08
13(年)
(出所)
米国National Snow and Ice Data Center より。
用いても海氷塊の発見が難しい極夜はある。濃霧もある。
地球温暖化の問題は、どのような現象をどの地域で調査、評価するのか、また地質年代
のスケールでみるか、科学的観測に着手して以来の変動でみるかでなどで、かなり異なる
印象を与える可能性がある。ちなみに、ここ数年の海氷面積変化では、2013 年 9 月の最小海
氷面積は、2012 年に比べ大きく、気温の上昇と同様に海氷面積の衰退も大気中への地球温
暖化ガス排出量と厳密には比例せず、惑星系のなかの地球としての自然現象や、過去の記
録にみられる小氷河期や、50 年から 60 年を周期とする気温の準周期変動のネガティブ期の
影響を受け、変動している可能性はある。
3 北極海における船舶の運航
北極海を航行してアジアへの最短海路を啓開しようとするもくろみは、大航海時代に始
まる。新航路への関心が突如として沸き起こったわけではなく、それ以前の捕鯨活動や資
源を求めての北極海への探検的航海の積み重ねと、航法の進歩があってのことである。北
極海通航航路は、歴史的には、欧州からシベリア沿岸沿いにベーリング海峡に至る北東航
路(NEP: Northeast Passage)と北大西洋からカナダ多島海、ボーフォート海を経てベーリング
海峡に至る北西航路(NWP: Northwest Passage)がよく知られている。いずれの海路も航路と
しての定義は曖昧なものである。この 2 つの航路は現在なお商業航路として確立されたもの
ではないが、地球温暖化に伴う北極海の夏季海氷衰退と北方極域資源への期待の高まりに
より、海運界の関心を集めている。
欧州あるいは北米とアジアを結ぶ海路は、ヴァスコ・ダ・ガマが拓いたアフリカ喜望峰
を廻航する航路、スエズ運河経由航路、パナマ運河を経由し太平洋を横断する航路とがあ
る。長大な海路である喜望峰廻航海路が今なお健在なのは、運河通航にはある船舶の寸法
制約がないこと、運河通航料、停泊経費等を含め総合的な輸送経費の面で採算がとれる場
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北極海と船舶航行
第 2 図 北極海における各種活動域
■ 鉱石生産
■ クルーズ海域
■ 漁業海域
■ 石油・ガス
■ 夏季海上輸送海域
■ 研究海域
(出所)
Arctic Council, AMSA(Arctic Marine Shipping Assessment )2009 Report より筆者作成。
合が少なくないからである。スエズ運河はエジプト、パナマ運河はパナマ政府の管轄下に
あり、北極海通航航路も NEP はロシアが、NWP はカナダが強大な発言力、管轄権を保有あ
るいは主張している点で両運河経由航路と共通点がある。なお、北東航路については、ロ
シアが北極海航路(NSR: Northern Sea Route)と命名し、カラ・ゲートあるいはノバヤ・ゼム
リア北端沖からベーリング海峡までと明確な定義がある。日本においても北極海航路とは、
ロシアが定めた航路と解釈することが一般的である。北西航路については、伝統的な名称
である NWP が広く使われている。
いずれの航路についても、地球温暖化がさらに進み北極海が無氷海域となる期間が一段
と長くなったとしても、磁極・白夜・極夜の航行環境や結氷初冬・融氷初夏の残存、ある
いは結氷・海氷への対応が氷山・氷塊対策を含め北極海運航では必要である。運航者にと
って運航海域の自然に対する十分な理解は最も重要な要件となる。また航行の安全を保証
する航行支援インフラも不可欠である。数世紀後は別として、当面、シベリア、カナダ、
米国、グリーンランドなどの北極海沿岸地域に相当数の定住者を擁する国際救難港(救難者
収容施設、病院、空港・鉄道、応急修理施設など)が運航者に不安を抱かせない数、規模で早
急に整備されるのか、市場原理の視座からは懸念が深い。航行支援インフラに不安があれ
ば、リスクをカバーする保険料は当然高くなり、総合的な採算性が見合わなければ運航は
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北極海と船舶航行
回避される。運航実績が少なければ航行リスク推定精度は低下し、結果として保険料に跳
ね返ることになる。運航支援インフラ整備実現のいかんは今後の環境保全価値の認識いか
んに掛かっている。
(1) 北極海航路(NSR)
1987 年のゴルバチョフ = ソ連共産党書記長(当時)による NSR 開放演説を受けて、1991
― 92 年のノルウェー・ロシア両国による予備調査を経て、1993 年からノルウェー・ロシ
ア・日本が中核国となる国際協力研究「International Northern Sea Route Programme(INSROP)」
が 6 年間にわたって行なわれた。INSROP は、それまで闇のなかにあったロシア・データが
初めて国際社会に開示されるとともに、自然、環境、技術、経済、法制を網羅した 167 編の
論文により、ロシアの NSR が技術的には可能な航路であり、これが国際商業航路となるべ
き要件を明らかにした。ゴルバチョフ書記長演説を受けて、すでに 1989 年には西側投資に
よる商業運航が SA-15 型ロシア標準砕氷貨物船ティクシ用船にて、ハンブルク・千葉間の
NSR 運航が行なわれた。INSROP では、1995 年、SA-15 型砕氷貨物船カンダラクシャを使用
し、横浜・キルケネス(ノルウェー)間の NSR 試験航行を行ない、商業航路として NSR を使
用する際の諸問題を調査し、実務的な対応手段を検討した。
INSROP 以降は、NSR はロシア国内情勢の乱れもあってしばしの休眠期間に入ったが、海
底資源開発技術の発展と夏季海氷衰退によりロシア北極域に眠る豊富な天然資源の開発が
現実味を帯びるに至って、2009 年のベルーガ社の重量物運搬船の NSR 運航を皮切りに、
2010 年には、外国船によるキルケネス・中国間の NSR 航行が行なわれ、国際海運業界の注
目を集めるようになった。NSR 運航は 2011 年には 34 隻、2012 年には 46 隻に増加している。
2013 年は、氷況悪化と需要不足のため、10 月30 日時点でのトランジット総計は 60隻であり、
2012 年の実績を大幅に上回ることはない。いずれにせよ、100 隻程度の航行数では、1 万隻
第 3 図 北極海航路貨物輸送の年変化
(隻数)
(1000t)
1500
50
隻数
輸送量
40
1200
ト
ラ 30
ン
ジ
ッ
ト
隻 20
数
900
600
10
0
1985
輸
送
貨
物
量
300
90
95
2000
05
(出所)
筆者作成。
国際問題 No. 627(2013 年 12 月)● 28
10
0
15(年)
北極海と船舶航行
を超えるスエズ運河航路に比べれば、NSR は、いまだニッチ航路である。
ロシアは、2013 年 1 月、ようやく新 NSR 通航規則を公布し、遅れて同年 3 月、NSR 運航管
理庁(NSRA: Northern Sea Route Administration)を立ち上げた。新規則は、旧規則の改定に終わ
ったが、内容的な改善点としては、科料制度、運用規則と航行実態を明示し、透明性を高
めた点にある。しかし、砕氷船運用経費と通航料から成る科料制度は、国際海運市場の動
向により柔軟に定めることとしたため、透明性を著しく欠いている。NSRA のホームページ
をみれば、NSR 通航申請船舶、通航許可船舶、通航許可条件、通航不許可となった理由、
運航船舶の定時位置情報、氷況と氷況予報、天気図および予報図等をみることができるが、
これらの情報提供の定時性は、10 月第 2 週の時点でなお不安定である。通航許可を得た船舶
は 2013 年 10 月 30 日時点で、611 隻であるが、そのほとんどはロシアが規定する NSR 海域内
でのロシア船籍の運航船舶であって、アジアまでのトランジット船舶を表わすものではな
い。
(2) 北西航路(NWP)
NWP の主役はカナダである。カナダには海洋汚染防止を主意としたゾーン・デート・シ
ステム(Zone/Date System)があるが、そもそも外国船の通航を支援する体制はない。ゾー
ン・デート・システムは、海域を区分し、海域ごとに運航しうる船舶と運航期間を定めた
ものである。また、カナダ管轄海域内での運航船舶は、あらかじめ通報し許可を受けなけ
ればならない規則(NORDREC)がある。北極の気象、海象、多島海という地形的条件故に
海氷の衰退もロシア側よりは遅く、また何より氷況予測が難しい。このため、当面は数隻
のトランジット運航はあっても、本格的商業航路とはならないとの見方が一般である。2013
年 9 月には、デンマークのノルディック・オリオン号が石炭 7 万 3500 トンをバンクーバーか
らフィンランドまで NWP 経由にて輸送した。これは、米国の改造タンカー、マンハッタン
号による 1969 年のトランジット以来のことである。目下のところ、NWP の利用者は、観光
船、カナダ沿岸警備隊の砕氷船、各種小型船舶であり、トランジットを目的としたもので
はない。
4 北極海船舶運航の諸問題
北極海航行の発展と将来性に関係する問題は、下記のようなある程度見通しの立てうる
問題のほか、今後の北極海気候、シェールオイル/ガス市場、低緯度域における資源開発、
輸送需要、燃費、環境保護問題、スエズ運河航路の安定性など、さまざまある。
(1) 北極海における沿岸諸国の大陸棚延伸申請
北極海においては、ロシア、ノルウェー、デンマーク(グリーンランド)、カナダ、米国が
大陸棚を保有し、なかでもユーラシア大陸は北極海側に沖合遠く大陸棚を形成することか
ら、ロシアは 200 カイリをはるかに超えた広大な大陸棚を有する可能性がある。
「領土の自
然延長を辿りその大陸縁辺部外縁まで」という大陸棚の定義は地質学的には曖昧であり、
これが、北極海を横断するかたちで横たわるロモノソフ海嶺を大陸棚とするロシア主張の
根拠となっている。ロシアは 2001 年 12 月 20 日、大陸棚限界委員会(CLCS)へ大陸棚延伸申
国際問題 No. 627(2013 年 12 月)● 29
北極海と船舶航行
請を出したが 2002 年 6 月の CLCS 勧告を不服として大々的な海底地質調査を行ない、再申請
を行なうこととなっている。ノルウェーは 2006 年 11 月申請、2008 年 3 月 CLCS 勧告を受けて
いる。なお、CLCS では領海紛争海域の裁定は当事国間で行なうこととしている。また、ノ
ルウェー・ロシア間の大陸棚画定問題は解決済みである。通常 1 ヵ国の審査には数年を要し
ていることから、北極海における沿岸国の大陸棚延伸申請がすべて確定するまでには、か
なりの年数を見込む必要があろう。大陸棚延伸申請の行方は、将来の資源開発および資源
輸送のシナリオに大きな影響を及ぼす。
(2) 領海紛争海域
北極海域においては、国際連合海洋法条約の解釈をめぐるカナダ・米国間、大陸棚延伸
問題にかかわるカナダ・デンマーク間に紛争海域がある。しかし、紛争問題にかかわる関
係者の多くは、紛争そのものの解決の道は遠くとも、そのことが直接、船舶の運航に重大
な障害となることはないと考えている。
(3) 北極海における排他的経済水域(EEZ)への国内法の適用
北極海における 200 カイリ EEZ は沿岸関係国の宣言はともかく、いわば既定のことと考え
ねばならず、少なくとも一国の管轄権が及ぶ海域を航行しなければ北極海の中央部に残さ
れた公海域へ到達することはできない。北極評議会(AC)作業部会における統一規則制定
への動きはあるものの、環境保護を建前に置く沿岸国の航行規則の足並みはいまだそろっ
てはいない。北極海航行を計画する場合には、当面、各国の航行規則を十分把握しておく
ことが肝要である。
とりわけ環境保全が重要視される北極海では、EEZ 内での無害通航権については、保護海
域の設定を含め環境保護の視座からその権利発効に一定の制約を課す必要があるとの解釈、
主張がある一方で、地政学的な近接度と軍事力を含めた総合的国力がすべてを決定すると
の冷めた議論もあり、妥協の産物である国連海洋法条約のほころびが国際法関係者のさま
ざまな議論を生んでいる。
(4) カナダおよびロシアの内水域宣言問題
1969 年に行なわれた改造タンカー、マンハッタン号による NWP 通航は、カナダ砕氷船の
航行支援を受けてラブラドル海からボーフォート海への通航に成功したが、その評価は別
として、いわゆる「カナダ北極域」における海峡、水路の通航権をめぐってカナダの国際
法学者間の議論が沸き起こり、結果としてカナダ多島海はカナダの内水域であり、国際海
峡は存在しないとの見解が出された。一方、米国は現在に至るまで国際海峡主張を撤回し
ていない。このような見解の相違はあるものの、2009 年には米国新鋭砕氷型海洋観測船ヒ
ーリー号がカナダ沿岸警備隊砕氷船ルイ・S ・サンローラン号の航行支援を受けて、この海
域の海底調査を実施するなど米国・カナダ協調事業例も少なくなく、将来の一般船舶の通
航に際して、この問題が重要な支障となることはまずないものと考えられる。
ロシアは、カナダ議会の内水域宣言に対抗して NSR は内水域であるという論議が下院で
ある。国際法上の論議は別として、すでに NSR 規則を遵守して各国船舶の運航が行なわれ
ているため、実務的な問題に発展する可能性は低い。しかし、将来、地球温暖化が進み、
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北極海と船舶航行
ロシア EEZ 以遠の海域での海氷消滅が進めば、NSR 規則は実際上半ばその使命を失うこと
となる。
(5) 北極評議会(AC)とイルリサット宣言
AC は、北極海沿岸国(ロシア、ノルウェー、デンマーク〔グリーンランド〕、カナダ、米国)
とアイスランド、スウェーデンおよびフィンランドから成る 8 ヵ国、および先住民機関が参
加して北極圏のさまざまな問題を検討し、共同もしくは協力して解決しようとする組織で
ある。AC は実務上、政治的な問題を扱う「政府間会議」と、科学者・技術者の国際協力を
促進する「科学技術会議(作業部会)」から成り、会議実務は Senior Arctic Officials(SAO)が
執り行なう。各分野の専門家からなる 6 つの作業部会は、それぞれの部会が連携を保ちつつ
SAO が指示する当面課題の解決策を検討し、また SAO に対する具体的な提案を策定する。
海事分野と最も関係の深いものは、Protection of the Arctic Marine Environment(PAME)作業部
会であるが、2009 年発表の AMSA(Arctic Marine Shipping Assessment)2009 Report は、PAME のほ
か、3 つの作業部会と連携してとりまとめたものである。
2008 年 5 月の AC のうち北極海沿岸 5 ヵ国によるイルリサット宣言では、北極海の問題は
国連海洋法条約に基づき AC 国にて審議、検討するとし、南極条約同様の「北極条約」作成
に向けた国際社会の合意形成を忌避した内容となっている。AC も発足以来徐々に組織体制
を整え、2013 年には、輪番制議長国に付随して持ち回りであった事務局を初めて常在事務
局としてノルウェー北方域のトロムセに開設した。2013 ― 15 年の議長国はカナダであるが、
初めて先住民出身議長を選出した。ヌーク閣僚会議(2011)で設立された持続的北極観測ネ
ットワーク(SAON)は、2013年夏、ニューズレターの創刊号を発信するなど、AC の活動・
機動力も増強している。各作業部会の研究事業活動もますます活発である。研究成果等の
活用については、AC 加盟国およびオブザーバーの枠外にも広げざるをえないため、AC 諸
会議に積極的に参加することを通じて、オブザーバー国あるいはその他の諸国も研究成果
を基に AC 施策への実質的関与が可能である。
日本は 2009 年にオブザーバー資格を申請し、本年第 8 回閣僚会議にて承認された。2010
年の外務省の北極タスクフォース設立に続き、2013 年には西林万寿夫北極担当大使(当時)
が任命され AC の各会議に参加するなど、具体的な北極対応に踏み出した。オブザーバーは、
議長裁量により会合での発言、文書の提出が認められているが、オブザーバー資格を得た
ことの最も重要な恩恵は、継続的なロビー活動の機会を得たことにある。ロビー活動を十
分に活用するためには、北極圏の全般的な問題に造詣が深い人材が長期にわたって諸会合
に出席することが肝要である。
(6) 北極海域における資源開発と環境保全
2008 年、米国地質学会は、北極圏には未発見資源の 25% が賦存しているとの資源図を公
表し関係産業界の話題となった。これは、地質学的評価と確認埋蔵データとの相関を考慮
した地質学的見地からの推定埋蔵分布図であり、開発の経済的な評価を経たものではない。
メキシコ湾流の恩恵を享受し無氷域が拡大するノルウェー海、バレンツ海における資源
開発がユーラシア大陸東域に先行して進展する理由のひとつには、欧州という巨大市場が
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北極海と船舶航行
隣接していることが挙げられよう。欧州ではエネルギー資源輸送手段としてパイプライ
ン・システムが優位を占めてきたが、ロシア・ウクライナ紛争を契機として、単一パイプ
ライン依存の危険が露呈し、リスクとコストのトレードオフが多様な視座から検討される
ようになっている。
海洋上あるいは海中において人間の活動が行なわれれば、程度の差こそあれ、汚染に至
らぬまでも何らかの環境負荷が発生する。海氷衰退の時代、北極海運航がそれなりの数量
に達すれば、海難、不法投棄以外に、船舶の主機関等からの排出ガスおよび軸回りの潤滑
油漏出、外来種問題でのバラスト水管理やシーチェスト(エンジン冷却のための海水取水・排
出口)問題まで、船舶の運航に伴って生ずる環境負荷に厳しく対処することが求められよう。
ちなみに氷海域における油汚染に対しては有効な除去手段は未開発である。
安全性および性能の向上にたゆまぬ努力を傾けてきた造船業界は、新たに船舶起因汚染
物質排出防止への厳しい対応に迫られている。より強固、強靭な船殻への要求は、砕氷・
耐氷船舶と通常海域航行船舶の船殻仕様のギャップを縮め、また二酸化炭素(CO2)排出量
規制は航路短縮の要望を強める。
(7) 国際海事機関(IMO)とポーラーコード(Polar Code)
船舶の構造、設備の基準を定める船級協会規則は、船級協会ごとにかなりの差異がある。
このため、航行安全上および汚染防止上、従来まちまちであった氷海域を航行しうる船舶
のアイスクラスを統一すべきであるとの海運界の意向を受けて、IMO は商業活動が進む北
極海域を対象に航行船舶の構造・設備ガイドラインの検討作業を行ない、
「2002 年北極航行
ガイドライン(Guidelines for Ships Operating in Arctic Ice-covered Waters〔MSC/Circ.1056/Circ.399〕)」
を策定した。また同時に国際船級協会連合(IACS)では、IMO と連携して、
「IACS 統一規則
(Unified Requirements)
」を定める作業を行なった。しかし、南極域での観光船エクスプローラ
号の沈没など、極域を航行する観光船の事故が相次いだことから、IMO は暫定的な措置と
して 2006 年「救難捜索救助基地から遠く離れた海域を航行する客船の危機管理対策計画強
化ガイド(Enhanced Contingency Planning Guidance for Passenger Ships Operating in Areas Remote from
」条項を設け、さらに北極航行ガイドライン策定当時から意見のあ
Search and Rescue Facilities)
った南北両極をカバーするポーラーガイドライン策定作業に着手した。この作業委員会で
はガイドラインではなく規則としてのコード化を望んだ委員も少なくなかったが、利害関
係者の反対に押し切られたかたちで、「北極・南極航行ガイドライン(Guidelines for Ships
」として 2009 年 3 月とりまとめ作業を終えた。
Operating in Polar Waters〔DE52/WP.2 ANNEX 1〕
)
しかし、同年 4 月の AC トロムセ閣僚会議において、ガイドラインではなくコード化すべし
との勧告を受け、再びポーラーガイドラインのポーラーコードへの格上げ作業が始められ
た。コード化作業はすでに専門家の手を離れている。
(8) 船舶への航行支援(海図整備を含む)および救難体制の確立
近年に至るまで短い夏期を除いて氷に覆われてきた NEP、NWP については、海図作成作
業は困難であり、海図欠如の海域について管轄権を有する各国は海図整備に追われている。
水深の浅い海域では、沿岸崩壊による堆積物、波浪等による堆積物の移動、氷山による海
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北極海と船舶航行
底掘削などにより海底地形の変化も大きく、定期的な水路調査が必要となる。海図作成は
単に氷海という技術的な障害だけではなく、その作業に多額の経費を要することから、外
国船の安全保証だけのために税金を支出することに対して管轄国納税者の賛意が得難いと
いう問題もある。
北極海航路(NSR)についても同様な事情があり、水路調査および海図作成が国益に適う、
つまり十分な収益を生むものであれば政府事業の一環として実施されるであろうが、採算
性に大きな疑念がある現在、ロシア政府が大規模な水路調査を実施する可能性はなく、2012
年には NSR 沿いの帯状調査を実施したにとどまっている。
北極海沿岸域には、NSR 運航管理庁の公表資料では救難港が設立されているが、国際救
難港の基準を満たすものではない。船舶自動認識装置(AIS)基地も数少ないのが現状であ
る。地球を南北に周回する極軌道衛星の個数も十分でなく、人工衛星搭載合成開口レーダ
ーの解析処理はリアルタイム・レベルには到達していない。衛星情報の国際共有化が急務
である。ヘリコプターは海難時の唯一の救命手段と言えるが、予備燃料を搭載したとして
も航続距離には制約があり、機材数に乏しく、また機材配置には大きな問題がある。これ
らの探査・救難(SAR)インフラ整備・維持には相当額の経費が必要である。SAR について
は、沿岸国間の海域分担が合意された段階にとどまっている。ロシア原子力砕氷船は、可
動救難所として活用されている。
カナダ北極海域には北極海航行汚染防止規則(ASPPR)があり、前述のゾーン・デート・
システムによって管理されている。現行システムは、より合理的なシステム導入に向けて
改訂作業が終了し公聴会段階にある。ここでは、船員には「氷海航行資格(Ice Navigator)」
なる資格取得が求められる。これはロシアの NSR 運航規則で規定される「氷海航行経験豊
かな船長の乗船義務(pilotage)」および「北極海航路航行証書(ice certificate)」と対辺にある
運航システムと言える。
(9) 北極海における漁業活動
生態系の調査は手間と時間を要することから十分解明されてはいない。北極海はシベリ
ア大河川によって運ばれる養分と海氷衰退による有光層存在期間増加により環境収容力は
増大するとの予測がある。また、海水温の上昇によりかなりの魚種に北上傾向がみられる。
ベーリング海では、ベーリング海峡を越えて北極海へと北上した魚種も観測されている。
欧州側のフラム海峡も同様である。海生哺乳動物を除けば、先住民だけのための魚種がさ
まざまな国の漁業活動による乱獲に晒される危惧は大きく、早期の国際管理体制の確立が
望まれる。
むすびにかえて
最後に残された深刻かつ喫緊の問題は、地球における北極海の重要性の認識である。こ
の認識・見解の差異は、さらなる開発を前提とした秩序ある持続的発展の道を選ぶべきか、
南極同様、すべての開発を中断させて徹底した環境保全策を講じ、後世の評価に委ねる道
を選択すべきかに分かれる。その根底には、多様な視座で無駄に満ち
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れた現在の人類社
北極海と船舶航行
会を変え、生物界の基本法則のひとつである生存競争本能を理性が抑え込むことができる
か否かという問題が潜在している。
■参考文献
Holland, C.(1994)Arctic Exploration and Development; c.500 B.C. to 1915; An Encyclopedia, Garland Publishing,
Inc.
Ragner, C.L., ed.(2000)The 21st Century—Turning Point for the Northern Sea Route? Kluwer Academic Pub.
シップ・アンド・オーシャン財団(2000)
『北極海航路』3 月。
Ocean Policy Research Foundation(2006)New Era in Far East Russia and Asia: Perspective of Northern Sea Route
Development of Far East Russia & JANSROP-GIS Protection of Environment for the Sea of Okhotsk.
Arctic Council(2009)Arctic Marine Shipping Assessment 2009 Report: Navigational conditions and accidents.
Marchenko, N.(2012)Russian Arctic Seas, Springer.
海洋政策研究財団(2012)
『日本北極海会議報告書』
。
Molenaar, E. J., A. G. Oude Elferink, and D. R. Rothwell, eds.(2013)The Law of the Sea and the Polar Regions:
Interactions between Global and Regional Regimes, Martinus Nijhoff Pub.
きたがわ・ひろみつ 海洋政策研究財団特別研究員
http://www.sof.or.jp
[email protected]
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