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ミオシン1分子は1個のATP分解の間に複数ステップで動く
Ⅰ ミオシン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動く 徳永万喜洋 ・喜多村和郎 生体分子1個 を観ながら"生 きたまま”捕まえてきて,分子間相互作用を直接計る.そ Database Center for Life Science Online Service んな不可能といわれた研究が,5年 余の歳月をかけた技術開発と粘り強い研究によって実 現された.その結果,ミオシン頭部1分 子がATPを1個 分解する間にアクチン上: を複数回 ステップして動くことが発見されたD.生体分子モーターで長年にわたり議論されてきた, 化学反応と力学反応が1:1に 対応 しているのか否かという論争に,直接の証拠を提供す るものである.このように1分 子技術は,分子メ力ニズム解明に強力な手法を提供する. 【1分子 技 術 】 【 分 子 モ ー タ ー 】 【ル ー ス カ ッ プ リ ン グ】 【 分 子間 相互 作用 】 は じめ に 近 年 , 生 体 分 子1個 を“ 観 る”“操 る”“計 る ”1分 子 技 術 が 誕 生 し, いわ ば 日本 の お家 芸 として 新 しい 分 野 が 築 か れ よ う と して い る. 生 体 分 子 を“ 生 き た ま ま” す な わ ち機 能 を保 っ た ま ま観 察 す るた め に,1 生 体 分 子1個 を探 針 に捕 ま え,1分 子 に働 く分 子 間 相 分 子 技 術 は 蛍 光 顕 微 鏡 を用 い て実 現 さ れ て い る . 水 溶 互 作 用 を直 接 計 る, とい う研 究 課 題 に取 り組 ん だ と き, 液 中 に お い て 生 体 分 子 が 実 際 に機 能 して い る と こ ろ を そ ん な の は無 理 だ と誰 し もが 思 っ た . 通 常 , わ れ わ れ 直 接 イ メ ー ジ ン グ す る研 究 は , 生 体 分 子 モ ー タ ー を 主 が 取 り組 め る対 象 は細 か くて もマ イ ク ロ メ ー トル の オ と し て 発 展 し て き て お り, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト1本 ー ダ ー が や っ と で あ り, 蛋 白 質 分 子 の大 き さ は ナ ノ メ の観 察2)以 来 , 日本 オ リジ ナル の 研 究 が 多 大 な貢 献 を し ー トル で あ っ て ,102∼103の て い る . 蛍 光 色 素1分 に , 蛋 白質 の 構 造 は原 子 の よ うに硬 くな く,1個1個 子 を ビデ オ レー ト(30画 素 /秒 の 速 さ)で 直 接 観 る こ と3,4) ,ATP分 解 反 応 の1分 子 イメ ー ジ ング3,5) , キ ネ シ ン1分 子 の 動 きの 観 察6),F1-ATP サ イ ズ の 違 いが あ る. さ ら を 表 面 に ま ば ら に結 合 さ せ る と 酵 素 分 子 の よ う な もの は た い て い 失 活 し て し ま う. 解 反 応 と力 発 生 「不 可 能 と証 明 され た こ とは や ら な い が , むず か しい の 同 時 計 測8)な どが , こ こ5年 の 間 に実 現 して い る. こ と は や れ ば で き る」 と い う信 念 が , こ の研 究 に 取 り 分 解 酵 素 の 回転 運 動 の証 明7),ATP分 組 む も とに な っ た . 筋 収 縮 研 究 は, 日本 の オ リ ジナ リ テ ィの 高 い研 究 分 Makio National Kazuo Processes A Single 1584 Tokunaga, Institute 国 立 遺 伝 学 研 究 所 構 造 遺 伝 学 研 究 セ ン ター of Genetics,Mishima,Shizuoka Kitamura, (〒411-8540静 岡 県 三 島 市 谷 田1111) 411-8540,Japan]E-mail:[email protected] 科 学 技 術 振 興 事 業 団1分 子 過 程 プ ロ ジ ェ ク ト (〒562-0035大 [Structural 阪 府 箕 面 市 船 場 東2-4-14) Project,ICORP,JST,Senba-higashi,Mino,Osaka,562-0035,Japan] Myosin Head Moves Along an Actin Filament with Regular Steps during Biology Center, http://www.nig.ac.jp/ Single ATP Hydrolysis [Single Molecule Ⅱ Ⅲ ミオシン1分 子 は1個 のATP分 解の間 に複数 ステップで動 く 野 で あ る. 江 橋 は , 世 界 で ノ ー と否 定 さ れ た な か で カ に相 当 す る) と, 動 き を止 め よ う と す る溶 液 の 粘 性 抵 ル シ ウム イ オ ンの 役 割 を確 立 した9) . 大 沢 は , 早 くか ら 抗 との 比 で 決 ま る . 粘 性 抵 抗 は プ ロ ー ブ の 大 き さ に 依 1分 子 研 究 の 重 要 性 を唱 え, 化 学 反 応 (ATP加 存 し, 針 で い え ば そ の長 さ ( 約100μm) と力 学 反 応 ( 力 発 生 や 滑 り運 動 ) と は1:1に 水分 解 ) は対応 し そ の直径 ( 約1μm) , ビー ズな ら で 決 ま る の で , ビー ズ の ほ う が 圧 な い とい うル ー ス カ ッ プ リ ング機 構 を提 唱 した10) .柳 田 倒 的 に小 さ い. し た が っ て , 微 小 針 を 使 っ た 時 間 分 解 は ,"首 振 り説 ”(ATPを1個 分 解 す る間 に ミオ シ ンが 能 は 数 ミ リ秒 で あ る が , レ ー ザ ー トラ ッ プ 法 は サ ブ ミ 首 を ふ る よ う に 大 き く1回 構 造 変 化 し て 筋 収 縮 が 起 こ リ秒 で あ る と い う計 算 に な る . 時 間 分 解 能 が 速 くな れ る と い う説 ) の 世 界 的 論 争 の な か か ら1分 ば ノ イ ズ も速 くな り, フ ィ ル タ ー を 通 し て速 い ノ イ ズ 子技術 を発 展 させ て き た . た と え ば, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト1本 を カ ッ トす る こ とが で き るの で , 計 測 の シ グ ナ ル /ノ イ を微 小 ガ ラ ス 針 で 捕 ま え て , ミオ シ ン との 相 互 作 用 を ズ比 も良 くな る . 直 接 計 る とい う 研 究 は, 当 時 誰 も考 え な か っ た し, ま た 成 功 す る と は 思 い も し な か っ た11) . Database Center for Life Science Online Service 43 この 理 由 か ら, レー ザ ー トラ ッ プ法 が 主 流 とな り, 生 体 分 子 間 相 互 作 用 の計 測 に 微 小 ガ ラ ス 針 を使 う 方 法 は 本 当 に 独 創 的 な 研 究 は大 多 数 意 見 ・常 識 ・権 威 とい 世 界 で も筆 者 ら の グ ル ー プ の み と な っ た . 実 際 , レ ー っ た も の に と ら わ れ る こ と な く, 重 要 で 新 し い研 究 に ザ ー トラ ッ プ 法 を使 っ て モ ー タ ー 蛋 白 質 分 子 に働 く力 チ ャ レ ン ジ して い くな か か ら こ そ 産 まれ る の だ とい う が 多 く計 測 さ れ , 興 味 深 い 知 見 が 報 告 さ れ て い き, レ こ と を, 筆 者 ら は 先 人 の 実 例 か ら身 を もっ て 学 ぶ こ と ー ザ ー トラ ップ 法 は正 し い 選 択 で あ っ た . が で きた . そ し て , こ の 良 き伝 統 の 中 か ら1分 子 技 術 で は な ぜ , 時 間 分 解 能 が 悪 い とい わ れ た 微 小 針 を使 と い う独 創 的 な 分 野 が 日本 で 生 まれ て き た こ と を 特 筆 う 方 法 に こ だ わ っ た の か . 人 の や る こ と はや ら な い と い うの も一 つ の 理 由 で あ る が , 理 論 的 な裏 付 け もあ っ してお きた い. た. 上記 の時 間分解 能 の議論 は, プ ロー ブが溶 液 中 に あ る と き の もの で あ る. 分 子 間 相 互 作 用 に よ る 力 が 働 い て い る と き は , よ り大 き い 力 が プ ロ ー ブ に働 くの で 1分 子 操 作 の 方 法 は , 大 き く分 け て2通 りあ る12) .1 速 く動 い て 時 間 分 解 能 が 良 くな り, 相 互 作 用 で 揺 ら ぎ ( 微 小 ガ ラ ス針 や , 原 子 間 力 顕 微 鏡 用 の カ も制 限 さ れ て ノ イ ズ が 小 さ く な る. さ ら に , レ ー ザ ー ン チ レバ ー ) に 分 子 を捕 ま え るや り方 で あ る. 他 は, レ トラ ッ プ法 に は , ビー ズ が 自 由 に 回 転 し て し ま う とい ー ザ ー トラ ッ プ 法 う難 点 が あ る. こ の 回 転 運 動 が , 分 子 間 相 互 作 用 に よ つ は,探 針 ( 光 ピ ンセ ッ ト法 , レー ザ ー 光 の 焦 点 位 置 に ビー ズ が ひ き寄 せ られ る性 質 を利 用 した 方 法 )13) る力 を 吸 収 す る 柔 らか い バ ネ と し て ふ る ま う の で , 計 を使 っ て , 分 子 を結 合 させ た 直 径1μm程 測 し た 力 か ら実 際 の力 を求 め る の に補 正 が 必 要 とな り, 度 の ビーズ を また 時 間 分 解 能 も悪 くな っ て し ま う. 操 作 す る 方 法 で あ る. 微 小 ガ ラ ス 針 を使 った 方 法 で , ア ク チ ン ーミオ シ ン 間 こ の よ うに , 主 流 と な っ て い た 見 解 と は異 な る , 逆 の 力 が 計 られ11,14),生 体 分 子 間 相 互 作 用 が 分 子 レベル で 転 の 選 択 が , 新 しい 発 見 を もた ら した . とは い え , 人 最 初 に 直 接 計 測 さ れ た . や が て , レ ー ザ ー トラ ッ プ 法 とは 違 う方 法 を, デ ー タ が な か な か 出 な い な か で 数 年 に よ っ て も, 分 子 レベ ル で の 力 計 測 が 行 な わ れ る よ う 間 も貫 き通 す の は , 粘 り強 い 勇 気 を 必 要 とす る. さ ら に な っ た . 針 を使 う方 法 は , 微 小 針 の 自作 と操 作 に 習 に , この よ う な研 究 を 許 した 柳 田 プ ロ ジ ェ ク ト と い う 熟 を 要 し 実 験 自体 も む ず か し い が , レー ザ ー トラ ッ プ 環 境 が あ っ て こ そ 実 現 し た もの で あ る. 法 は そ れ に 比 べ れ ば 困 難 さ が 少 な く, よ り多 くの デ ー タ を よ り短 い期 間 で 出 す こ とが で き る . さ ら に, 時 間 分 解 能 とい う観 点 か ら, 原 理 的 に レ ー ザ ー トラ ッ プ法 の ほ うが 良 い と い う こ とが い わ れ た . 計 測 の時 間分 解能 は, プロー ブ 動 か そ う とす るバ ネ の 力 ( 針 も し くは ビ ー ズ ) を ( 針 の た わ み が バ ネ と して 働 き, ビー ズの場 合 は レーザ ー光 に よる引力 がバ ネの力 1分 子 捕 捉 と計 測 を開 始 す る前 に , 解 決 す べ き技 術 開 発 が複数 あった. (1) 走 査 プ ロ ー ブ 顕 微 鏡 で , 蛍 光 色 素1分 子 を直 視 可 能 とす る . 1585 Ⅳ 44 蛋 白質 核 酸 酵素 Database Center for Life Science Online Service 図1 蛋 白 質1分 Vol..44No.11(1999) 子 の 捕 捉 ・操 作 ・計 測 (a)蛍 光 ラベ ル した ミオ シ ン頭 部1分 子 を, 蛍 光1分 子 イ メ ー ジ ン グ で 直接 観 察 し なが ら, ア ビジ ン を結 合 さ せ た 微 小 ガ ラス 針 に捕 ま え る . 針 を操 作 して ガ ラ ス 表 面 上 の ア クチ ン バ ン ドル と相 互 作 用 さ せ ,ATP存 シ ン頭 部1分 在 下 で の 動 き (ガ ラ ス 針 の 変 位 ) を 計 測 す る , (b)ミオ 子 を実 際 に 捕 ま え た こ と を示 す 蛍 光像 . 各 点 が ミオ シ ン 頭 部 /分 子 . 矢 尻 で示 した 中 央 の 分 子 を探 針 に捕 ま え たの ち, ス テ ー ジ を動 か し た. 動 か す 前 ( 赤 の像 ) と後 (黄 色 ) と で, ス テ ー ジ と とも に 点 像 が 動 くが , 中 心 の 像 だ け は 動 か ず , 確 か に探 針 上 に 捕 ま え られ た こ と を 示 して い る. バ ー は5μm. 子 イ メ ー ジ ン グ で は , 高 感 度 と と もに 背 景 い , ア ビ ジ ン-ビ オ チ ン 系 で ミオ シ ン頭 部 を表 面 に 固 定 光 を極 小 化 す る こ と が ポ イ ン トで あ り, エ バ ネ ッセ ン す る と, ア ク チ ン の 滑 り活 性 が 非 常 に よ く保 た れ る こ 蛍 光1分 ト照 明 法 は た い へ ん 有 用 な 方 法 で あ る. ガ ラ ス と水 の 境 界 面 で レー ザ ー 光 を 全 反 射 さ せ る と, 水 溶 液 側 ガ ラ ス 表 面 近 傍 に光 が 半 波 長 程 度 に し み 出 す . この もれ た 光 (エ バ ネ ッ セ ン ト光 ) を 蛍 光 照 明 に使 う と, ガ ラ ス 表 面近 傍 のみ ( 深 さ約200nm) が照 明 され るの で,溶 と を 見 い だ した15) . (3) 分 子 サ イ ズ 程 度 に 尖 鋭 な 先 端 を も っ た 探 針 を 作製 す る. 蛋 白質 分 子1個 を捕 ま え る た め に は , プ ロ ー ブ先 端 が 分 子 サ イ ズ程 度 に尖 鋭 で あ る こ と が 要 求 さ れ る. 酸 液 中 の 蛍 光 色 素 か ら の 背 景 光 を 劇 的 に 減 らす こ とが で 化 亜 鉛 の テ トラ ポ ッ ド型 針 状 結 晶 で あ るZnOウ き る. ー ( 長 さ5∼10μm) 走査 プロー ブ ( 探 針 ) 顕 微 鏡 で1分 子 観 察 を可 能 に 15μmで ィス カ は, その先 端 の 曲率半 径が 平均約 あ っ て 分 子 捕 捉 に適 し て い る. またZnOの 酸 す る た め に , 対 物 レ ン ズ 型 エ バ ネ ッセ ン ト照 明 に よ る 素 を ア ミノ シ ラ ン化 す る こ と に よ り, ビ オ チ ン 化 な ど 蛍 光1分 の 化 学 修 飾 を す る こ と も可 能 と な っ た16). 子 イ メ ー ジ ン グ を 実 現 し た. こ れ は , 対 物 レ ン ズ の ふ ち に レ ー ザ ー 光 を入 射 す る こ と に よ っ て, 試 こ れ ら以 外 に も, 工 作 機 械 を 使 っ た 装 置 の 自作 , 振 料 表 面 で 入 射 光 を全 反 射 さ せ る 方 法 で あ る5,12) .実 用的 動 と ド リ フ トを 最 小 限 に す る た め に ス テ ー ジ な どの 試 に便 利 な 方 法 で あ り, 今 後 普 及 してい く と考 え られ る. 行 錯 誤 , ア ク チ ン の バ ン ドル 化 方 法 な ど, 多 くの 創 意 (2) 蛋 白 質 分 子 を“ 生 きた ま ま” 表 面 に固 定 す る. 工 夫 を 経 て 初 め て実 験 が 可 能 と な っ た . 蛋 白 質 の 多 くは 構 造 が 柔 軟 で , ち ょ っ と し た 操 作 で 壊 れ て し ま う. と く に表 面 に ま ば らに 結 合 さ せ る と活 性 を失 う こ とが 多 い . ま た , ミオ シ ン頭 部 の シ ス テ イ ン や リシ ンを 化 学 修 飾 す る と, 活 性 が 変 化 して し ま う. そ こで , 遺 伝 子 工 学 的 にtagを 結 合 さ せ て 発 現 させ た 実 験 の 概 略 を 図1aに 示 す . 分 子 捕 捉 ・操 作 用 の 探 針 と して , ガ ラ ス棒 を熱 しな が ら 引 張 っ て つ くっ た 直 蛋 白 質 を い くつ か 試 み た . そ の 結 果 , 大 腸 菌 内 で あ ら 径 約0.3μm, か じ め ビオ チ ン化 さ れ て 発 現 さ れ る ビオ チ ン化 ペ プ チ 数 約0.02pN/nm;0.02pNの ド (BDTC) 用 い る . ガ ラ ス 針 の 先 端 側 に , ビ オ チ ン化 した ウ ィ ス 1586 と ミオ シ ン 調 節 軽 鎖 との 融 合 蛋 白 質 を 使 長 さ約100μmの 微 小 ガ ラ ス針 力 で1nm変 ( バ ネ定 位 する) を Ⅴ 45 ミオ シン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動 く ガ ラ ス針 が柔 らかい の で , ブ ラ ウ ン運 動 で も10nmを こ え る変 位 が 生 じ う る .ATP非 ADP存 在下 存 在 下 お よ び1mM ( 加 水 分 解 反 応 は起 こ らず ミオ シ ン頭 部 と ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン トが 結 合 す る 条 件 ) で 同様 の 実 験 を行 な った . 個 々 の 変 位 を見 れ ば,ATP存 在 下 と同 じ よ う な大 き さの 変 位 が 観 察 さ れ た が , 平 均 す る と消 え 図2 ミ オ シ ン頭 部1分 上 段が,ミ 子 が発 生 す る変 位 オ シン頭 部1分 子の 変 位 (1μMATP,20℃ ).ATP存 在 て し ま い , ラ ン ダ ム な もの で あ る こ とが わ か っ た . こ 下 で の ア クチ ン との相 互 作 用 に よ っ て, 台 形 状 の 変 位 が 発 生 して の こ とか ら,ATP存 い る. 下 段 は, 針 の 熱 揺 ら ぎの 大 き さの 逆 数 (ス テ ィ フネ ス). ミ ン頭 部 がATP加 オ シ ンが ア クチ ン と相 互 作 用 をす る と, この値 が 大 き くな る の で, 相 互 作 用 して い る か 否 か が 判 断 され る. 在 下 で 観 察 され た 変 位 は, ミオ シ 水 分 解 の エ ネ ル ギー を使 っ て ひ き起 こ し た も の で あ る こ とが 確 認 さ れ た . ミオ シ ン頭 部 とア ク チ ン と も に , 相 互 作 用 を 起 こす Database Center for Life Science Online Service の に 必 要 な空 間 的 自 由 度 を 保 ち な が ら も, 表 面 に 固 く カ ー を接 着 剤 で く っ つ け プ ロー ブ と す る. ビ オ チ ン化 結 合 させ て い る. 柔 らか い 要 素 を極 力 排 した 実 験 系 に ウ ィ ス カ ー に ア ビ ジ ン を結 合 さ せ た の ち , ウ ィ ス カ ー し て い る こ とが , 当 研 究 が 成 功 し た 重 要 な ポ イ ン トで 先 端 に ミオ シ ン頭 部 を 捕 捉 す る. ミオ シ ン 頭 部 に結 合 あ る . 柔 らか い バ ネ の 存 在 は , 相 互 作 用 に よ る 変 位 を し て い る ビ オ チ ン 化 ペ プ チ ドBDTCば 吸 収 し て し ま うの で , 計 測 した 変 位 に補 正 を必 要 と し, (ATP結 ,活性部 位 合 部 位 , ア クチ ン結 合 部 位 ) の ち ょ う ど反 対 側 に な る よ う に 設 計 し て あ る. した が っ て, ア ビ ジンビ オ チ ン を“糊 ” と し て 用 い て プ ロ ー ブ に捕 捉 す る と, 活 性 部 位 が 先 端 側 に くる よ う に な っ て い る . ラベ ル して あ り (ラ ベ ル 率 > 0.95), エ バ ネ ッセ ン ト照 明 に よ る蛍 光1分 よ っ て , 捕 捉 さ れ た ミオ シ ン頭 部 が1分 を 確 認 した て し ま う か らで あ る. 針 を 使 っ た1分 子 計 測 は簡 単 な もの で は な く, 相 互 作 用 に よ る変 位 が 計 測 で き る よ う に な る ま で に 数 年 の 蛍 光 顕 微 鏡 下 で 可 視 化 す る た め に ミオ シ ン頭 部 の 調 節 軽 鎖 を蛍 光 色 素Cy3で 時 間 分 解 能 を悪 く して シ グ ナ ル を ノ イ ズ に埋 もれ さ せ 歳 月 を要 して お り, 粘 り強 い 実 験 を 通 して 初 め て 成 功 した もの で あ る . 子観 察 法 に 子 で あ る こと (図1b) . 相 互 作 用 す る相 手 の ア ク チ ンが フ ィ ラ メ ン ト1本 だ と細 い の で , ミオ シ ン頭 部1分 子 が 相 手 を探 し 出 して 相 互 作 用 を起 こす こ とが 現 実 的 に困 難 とな る . そ こで , ミオ シ ン頭 部 が ア ク チ ン上 を動 くの は , 観 察 さ れ た 変 位 の 立 ち 上 が り部 分 で あ る の で , こ の 立 ち 上 が り部 分 を詳 細 に 解 析 した と こ ろ, ス テ ップ 状 の 変 位 が 発 見 ア ク チ ン結 合 蛋 白質 α ア ク チ ニ ン を 使 っ て ア ク チ ン を され た ( 図3) .ATP濃 バ ン ドル に して ガ ラ ス 表 面 に結 合 さ せ て お く. 度 (20℃ま た は27℃ ) を 変 え て も, ス テ ッ プ 状 の 変 位 この よ う に して 捕 捉 され た1分 ATP存 子 の ミオ シ ン頭 部 を , 在 下 で , ガ ラ ス表 面 上 の ア クチ ン と相 互 作 用 さ 度 (0.1μMま た は1μM) や温 が 観 察 され た . こ の ス テ ッ プ に大 き さ の 周 期 性 が あ る か ど う か を統 せ , 発 生 す る 動 き (変 位 ) を計 測 した . そ の 結 果 , 台 計 的 に解 析 した と ころ, 約5.3nmの 形状 の変 位 が観測 された ( 図2) . 相 互 作 用 に よ る ミオ とが わ か っ た ( 図4a) . ま た , わ ず か で は あ るが , 逆 シ ン の 動 き で 変 位 が 起 こ り, 動 きが 止 ま っ た あ と もア 向 きス テ ッ プ も観 察 さ れ た .1回 の 変 位 で 何 回 の ス テ ッ ク チ ン と ミオ シ ン は結 合 した ま ま の状 態 で 変 位 を 維 持 プ が 起 こ る の か を数 え る と,1変 位 あ た り1∼5回 して お り, 次 のATPの テ ッ プ を踏 ん で い て , 平 均 で2.5ス 結 合 と と もに ア ク チ ン と ミオ シ 単位 周期 がある こ のス テ ップ して い る こ ンの解離 が起 こって変 位 が元 に戻 る. これ が台形 状 の とが わ か っ た (図4b) . す な わ ち,1分 子 の ミオ シ ン頭 変 位 の 原 因 で あ る . 相 互 作 用 を 特 定 しや す くす る た め 部 は ,1回 の 変 位 で5∼30nmの に , 薄 いATP濃 約5.3nmの い る.ATPが 度 (1μMま た は0.1,μM) を用 い て 結 合 す る頻 度 が 下 が るの で , 台 形 状 変 位 の 継 続 時 間 が 長 くな る か らで あ る. 変 位 を発 生 し, そ れ は 単 位 ス テ ッ プ を1∼5回 行 な うことによっ て 実 現 して い る の で あ る . こ の ス テ ッ プ が , ノ イ ズ や ア ー テ ィ フ ァ ク トに よ る 1587 Ⅵ 46 蛋 白質 核酸 酵素 Vol.44No.11(1999) もの で な い こ とは,ATP非 存 在 下 , あ る い は2mMピ ン酸 存 在 下 ロ リ (ミオ シ ン 頭 部 と ア ク チ ン が 弱 く結 合 す る よ う な条 件 ) で の対 照 実 験 か ら確 か め られ た . この ス テ ップ とATP加 水分 解サ・ イ ク ル との 対 応 が 重 要 な 問題 で あ る. この問 いに対 す る答 え は, 台 形 状 変 位 ・ス テ ッ プ の 時 間 とATP濃 度 との 関 係 か ら得 ら れ た . 台 形 状 変 Database Center for Life Science Online Service 位 の 継 続 時 間 は指 数 関 数 的 に 分 布 し, そ の 平 均 はATP濃 度 が1μMの 0.1μMの 図3 と き220ミ な り,ATP濃 ステ ップ状 の 動 き 台 形 状 の 変 位 の 立 ち 上 が り部 分 を拡 大 して み る と, ス テ ッ プ状 に ミオ シ ン頭 部 が 動 い て い る こ とが み つ か っ た. 変位 の 立 ち 下 が り部 分 リ秒 , と き2,400ミ リ秒 と 度 に反 比 例 し て い る . これ らの 値 は, レ ー (ア ク チ ンか ら ミオ シ ン が 解 離 す る と き) で は, ス テ ザ ー トラ ッ プ法 に よ る1分 子 ップ は み られ なか っ た . 力 計 測 と1分 子 酵 素 反 応 と の 同 時 計 測 で 得 られ た 値 と よ く一 致 して い る8) . また , 台 形 状 変 位 とATP分 解 が1:1に 対 応 した として 求 め た , ア ク チ ン-ミ オ シ ンへ のATP結 4∼5×106M-1s-1と 合 の2次 の反応 定数 は, な り, 溶 液 中 で測 定 された 値 と一 致 す る. さ らに , ス テ ッ プ の 時 間 間 隔 を求 め る と, こ れ も指 数 関 数 的 な 分 布 を示 し, 平 均 で1μMの 0.1μMの と き3ミ とき5ミ リ秒 , リ秒 と な っ て 誤 差 の 範 囲 で 一 致 し, ATP濃 度 に 対 して依 存 性 が な か っ た . 力 学 ス テ ップ と ATP加 水 分 解 反 応 が1:1に 対 応 し て い るモ ー ター 蛋 白質 で あ る キ ネ シ ンやF1-ATPaseで 間 間 隔 はATP濃 は, ス テ ップの 時 度 に 明 確 に 依 存 して い る こ とが示 さ れ て い る . 以 上 の結 果 は ,5.3nmス 分 解 反 応 と1:1に テ ップ はATP加 対 応 せ ず , 台 形 状 変 位 が1:1に 水 対 応 し て い る こ と を示 し て い る . この よ うに して , ミオ シ ン頭 部1分 子 が,1回 のATP 加 水 分 解 中 に 複 数 回 の 力 学 的 ス テ ッ プ を 行 な う こ とが 図4 ス テ ッ プ 状 の 動 きの 統 計 解 析 (a)ス テ ップ状 の 変 位 を統 計解 析 した と ころ ,5.3nmの 位置 にピ ー クが み られ, 確 か に平 均5.3nmの ス テ ップ で動 い てい る こ とが 確 か め られ た.-5.3nmの 結 論 づ け ら れ た. 近 傍 にも 小 さ な ピー ク が あ り, 逆 向 き に も低 い 頻 度 で 動 くこ と を示 す . 挿 入 図 は, 原 点 を ピー ク とす る 正 規分 布 の 値 を差 し引 い た ヒ ス トグ ラム . (b)1変 位 あ た りの ス テ ップ 数 . 1588 単 位 ス テ ッ プ の 大 き さ は, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト中 47 ミオ シン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動 く の 隣 り合 う ア ク チ ン単 量 体 の 間 隔 (5.5nm) とほぼ等 5)Tokunaga,M.,Kitamura,K.,Saito,K.,Iwane,A. H.,Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res.Com- しい こ と か ら, 観 察 さ れ た ス テ ップ は ミオ シ ン頭 部 が ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト上 の 隣 の 結 合 部 位 に移 る とい う mun.,235,47-53(1997) 6)Vale,R.D.,Funatsu,T.,Pierce,D.W.,Romberg, 現 象 を 反 映 し て い るの で は な い か と考 え られ る. L.,Harada,Y.,Yanagida,T.:Nature,380,451- これ まで ア クチ ンーミオ シン系 の分 子 機 構 として,ATP を1個 分 解 す る と ミオ シ ン頭 部 に大 きな構 造 変 化 が1回 起 こ っ て 動 く とい う構 造 変 化 説 と, 化 学 反 応 と力 学 反 応 と は1:1に 453(1996) 7)Noji,H.,Yasuda,R.,Yoshida,M.,Kinosita,K. Jr.:Nature,386,299-302(1997) 8)Ishijima,A.,Kojima,H.,Funatsu,T.,Tokunaga, 対 応 せ ず 確 率 的 に動 く とい うル ー ス カ ッ M.,Higuchi,H.,Tanaka,H.,Yanagida,T.:Cell, プ リ ン グ 説 の 間 で , 長 い 間 論 争 が 行 な わ れ て きた . 当 研 究 は,1個 のATPで 複 数 回 の力 学 的 過 程 が 起 こる こ とを 初 め て直 接 的 に 示 した もの で あ る . 化 学 力 学 反 応 の1分 9) リ秒 間 蓄 え られ る こ とが み っ な 分 子 機 構 で あ る こ とが 示 唆 さ れ る. ∼48巻4号 (1992- 183(1986) 11)Kishino,A.,Yanagida,T.:Nature,334,74-76 (1988) 12) テ ップ が 少 な い な が ら もみ つ か った こ とか ら, 確 率 的 :最 新 医 学 ,47巻9号 10)Oosawa,F.,Hayashi,S.:Adv.Biophys.,22,151- か っ て お り8) , 蛋 白 質 分 子 内 に 蓄 え られ た エ ネ ル ギ ー が 小 分 け して 使 わ れ る と考 え ら れ る. また , 逆 向 き の ス 江 橋 節 郎 1993) 子 同 時 計 測 か ら, ア クチ ンーミオ シ ン系 で はATP の エ ネ ル ギ ー を 数100ミ Database Center for Life Science Online Service 92,161-171(1998) 石 島 秋 彦 ・小 嶋 寛 明 ・徳 永 万 喜 洋 :蛋 白 質 核 酸 酵 素 ,43,1365-1371(1998) 13)Ashkin,A.,Dziedzic,J.M.,Bjorkholm,J.E.,Chu, S.:Opt.Lett.,11,288-290(1986) 14)Ishijima,A.,Doi,T.,Sakurada,K.,Yanagida, T.:Nature,352,301-306(1991) 15)Iwane,A.H.,Kitamura,K.,Tokunaga,M., おわ りに 本 研 究 は, 長 年 論 争 され て きた 生 体 分 子 モ ー タ ー の メ カ ニ ズ ム に 対 しル ー ス カ ップ リ ン グ機 構 の 直 接 証 拠 を初 め て提 供 し た と い う点 に お い て , また 生 Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res.Commun., 230,76-80(1997) 16)Tokunaga,M.,Aoki,T.,Hiroshima,M.,Kitamura,K.,Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res. 体 分 子1個 い1分 を“ 生 き た ま ま” 直 接 捕 捉 し計 測 す る新 し Commun.,231,566-569(1997) 子 技 術 を開 拓 した とい う点 に お い て も, ひ とつ の エ ポ ック を 画 す る もの で あ る . この例 の よ うに,1分 子 技 術 は分 子 機 構 解 明 に直 接 的 徳 永 万喜 洋 略 歴 :1987年 東 京 大 学 大 学 院 理 学 博 士 取 得, 日本 学 術 な 証 拠 を与 え る強 力 な 手 段 で あ る. モ ー タ ー 分 子 で 開 振 興 会 特 別 研 究 員 を 経 て ,1988年 東京大学教養 学部助 拓 さ れ て きた1分 手 ,1990年 新技術事業団柳田生 子 技 術 で あ る が , 今 後 は 多 くの 分 子 同理 学 部助 手 ,1992年 へ と用 い られ ,in vitroに お い て は メ カ ニ ズ ム解 明 に , 体 運 動 子 プ ロジェ ク ト ・グル ー プ リー ダー ,1997年 よ り国 立 遺伝 学 研 究 所 助 教 授,1999年 総 合 研 究 大 学 院 大 学 助 in vivoに お い て は生 理 的 役 割 の 解 明 に威 力 を発 揮 す る 教 授 ・東 京大 学 工 学部 客 員助 教 授 を併 任 . 研 究 テ ー マ : もの と期 待 さ れ る. 生 体 分 子 モ ー ターの分 子機 構 ,1分 子 技術 によ る生 体 分 子 機 能 解 明 . 関 心 事 ・抱 負 :確 率 的 な モ ー ター機 構 解 明 , 新 しい研 究手 法 開 発. 文 献 喜 多村 和郎 1)Kitamura,K.,Tokunaga,M.,Iwane,A.H.,Yanagida,T.:Nature,397,129-134(1999) 2)Yanagida,T.,Nakase,M.,Nishiyama,K.,Oosawa,F.:Nature,307,58-60(1984) 3)Funatsu,T.,Harada,Y.,Tokunaga,M.,Saito,K., Yanagida,T.:Nature,374,555-559(1995) 略 歴 :1998年 大 阪 大 学 大 学 院 基 礎 工 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 修 了, 日本 学術 振 興 会特 別 研 究 員 (PD)を経 て,1999 年 科 学技 術 振 興事 業 団 ・1分子 課 程 プ ロジ ェ ク ト研 究 員 。 研 究 テ ー マ :分 子 モ ー ター の動 作 メカ ニ ズ ム解 明. 関 心 事 ・抱 負 :ナ ノスケ ールの 世界 で起 こって いる現 象 を直 接 観 て ,物 理 の 言 葉 で理 解 した い. 4)Sase,L,Miyata,H.,Corrie,J.E.T.,Craik,J.S., Kinosita,K.Jr. :Biophys.J.,69,323-328(1995) 1589