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ミオシン1分子は1個のATP分解の間に複数ステップで動く

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ミオシン1分子は1個のATP分解の間に複数ステップで動く
Ⅰ
ミオシン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動く
徳永万喜洋 ・喜多村和郎
生体分子1個 を観ながら"生 きたまま”捕まえてきて,分子間相互作用を直接計る.そ
Database Center for Life Science Online Service
んな不可能といわれた研究が,5年 余の歳月をかけた技術開発と粘り強い研究によって実
現された.その結果,ミオシン頭部1分 子がATPを1個 分解する間にアクチン上:
を複数回
ステップして動くことが発見されたD.生体分子モーターで長年にわたり議論されてきた,
化学反応と力学反応が1:1に 対応 しているのか否かという論争に,直接の証拠を提供す
るものである.このように1分 子技術は,分子メ力ニズム解明に強力な手法を提供する.
【1分子 技 術 】 【
分 子 モ ー タ ー 】 【ル ー ス カ ッ プ リ ン グ】
【
分 子間 相互 作用 】
は じめ に 近 年 , 生 体 分 子1個
を“ 観 る”“操 る”“計
る ”1分 子 技 術 が 誕 生 し, いわ ば 日本 の お家 芸 として 新
しい 分 野 が 築 か れ よ う と して い る. 生 体 分 子 を“ 生 き
た ま ま” す な わ ち機 能 を保 っ た ま ま観 察 す るた め に,1
生 体 分 子1個
を探 針 に捕 ま え,1分 子 に働 く分 子 間 相
分 子 技 術 は 蛍 光 顕 微 鏡 を用 い て実 現 さ れ て い る . 水 溶
互 作 用 を直 接 計 る, とい う研 究 課 題 に取 り組 ん だ と き,
液 中 に お い て 生 体 分 子 が 実 際 に機 能 して い る と こ ろ を
そ ん な の は無 理 だ と誰 し もが 思 っ た . 通 常 , わ れ わ れ
直 接 イ メ ー ジ ン グ す る研 究 は , 生 体 分 子 モ ー タ ー を 主
が 取 り組 め る対 象 は細 か くて もマ イ ク ロ メ ー トル の オ
と し て 発 展 し て き て お り, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト1本
ー ダ ー が や っ と で あ り, 蛋 白 質 分 子 の大 き さ は ナ ノ メ
の観 察2)以 来 , 日本 オ リジ ナル の 研 究 が 多 大 な貢 献 を し
ー トル で あ っ て ,102∼103の
て い る . 蛍 光 色 素1分
に , 蛋 白質 の 構 造 は原 子 の よ うに硬 くな く,1個1個
子 を ビデ オ レー ト(30画 素 /秒 の
速 さ)で 直 接 観 る こ と3,4)
,ATP分
解 反 応 の1分
子 イメ
ー ジ ング3,5)
, キ ネ シ ン1分 子 の 動 きの 観 察6),F1-ATP
サ イ ズ の 違 いが あ る. さ ら
を
表 面 に ま ば ら に結 合 さ せ る と 酵 素 分 子 の よ う な もの は
た い て い 失 活 し て し ま う.
解 反 応 と力 発 生
「不 可 能 と証 明 され た こ とは や ら な い が , むず か しい
の 同 時 計 測8)な どが , こ こ5年 の 間 に実 現 して い る.
こ と は や れ ば で き る」 と い う信 念 が , こ の研 究 に 取 り
分 解 酵 素 の 回転 運 動 の証 明7),ATP分
組 む も とに な っ た .
筋 収 縮 研 究 は, 日本 の オ リ ジナ リ テ ィの 高 い研 究 分
Makio
National
Kazuo
Processes
A
Single
1584
Tokunaga,
Institute
国 立 遺 伝 学 研 究 所 構 造 遺 伝 学 研 究 セ ン ター
of Genetics,Mishima,Shizuoka
Kitamura,
(〒411-8540静
岡 県 三 島 市 谷 田1111)
411-8540,Japan]E-mail:[email protected]
科 学 技 術 振 興 事 業 団1分
子 過 程 プ ロ ジ ェ ク ト (〒562-0035大
[Structural
阪 府 箕 面 市 船 場 東2-4-14)
Project,ICORP,JST,Senba-higashi,Mino,Osaka,562-0035,Japan]
Myosin
Head
Moves
Along
an
Actin
Filament
with
Regular
Steps
during
Biology
Center,
http://www.nig.ac.jp/
Single
ATP
Hydrolysis
[Single
Molecule
Ⅱ
Ⅲ
ミオシン1分 子 は1個 のATP分 解の間 に複数 ステップで動 く
野 で あ る. 江 橋 は , 世 界 で ノ ー と否 定 さ れ た な か で カ
に相 当 す る) と, 動 き を止 め よ う と す る溶 液 の 粘 性 抵
ル シ ウム イ オ ンの 役 割 を確 立 した9)
. 大 沢 は , 早 くか ら
抗 との 比 で 決 ま る . 粘 性 抵 抗 は プ ロ ー ブ の 大 き さ に 依
1分 子 研 究 の 重 要 性 を唱 え, 化 学 反 応 (ATP加
存 し, 針 で い え ば そ の長 さ (
約100μm)
と力 学 反 応 (
力 発 生 や 滑 り運 動 ) と は1:1に
水分 解 )
は対応 し
そ の直径 (
約1μm)
, ビー ズな ら
で 決 ま る の で , ビー ズ の ほ う が 圧
な い とい うル ー ス カ ッ プ リ ング機 構 を提 唱 した10)
.柳 田
倒 的 に小 さ い. し た が っ て , 微 小 針 を 使 っ た 時 間 分 解
は ,"首 振 り説 ”(ATPを1個
分 解 す る間 に ミオ シ ンが
能 は 数 ミ リ秒 で あ る が , レ ー ザ ー トラ ッ プ 法 は サ ブ ミ
首 を ふ る よ う に 大 き く1回 構 造 変 化 し て 筋 収 縮 が 起 こ
リ秒 で あ る と い う計 算 に な る . 時 間 分 解 能 が 速 くな れ
る と い う説 ) の 世 界 的 論 争 の な か か ら1分
ば ノ イ ズ も速 くな り, フ ィ ル タ ー を 通 し て速 い ノ イ ズ
子技術 を発
展 させ て き た . た と え ば, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト1本
を カ ッ トす る こ とが で き るの で , 計 測 の シ グ ナ ル /ノ イ
を微 小 ガ ラ ス 針 で 捕 ま え て , ミオ シ ン との 相 互 作 用 を
ズ比 も良 くな る .
直 接 計 る とい う 研 究 は, 当 時 誰 も考 え な か っ た し, ま
た 成 功 す る と は 思 い も し な か っ た11)
.
Database Center for Life Science Online Service
43
この 理 由 か ら, レー ザ ー トラ ッ プ法 が 主 流 とな り, 生
体 分 子 間 相 互 作 用 の計 測 に 微 小 ガ ラ ス 針 を使 う 方 法 は
本 当 に 独 創 的 な 研 究 は大 多 数 意 見 ・常 識 ・権 威 とい
世 界 で も筆 者 ら の グ ル ー プ の み と な っ た . 実 際 , レ ー
っ た も の に と ら わ れ る こ と な く, 重 要 で 新 し い研 究 に
ザ ー トラ ッ プ 法 を使 っ て モ ー タ ー 蛋 白 質 分 子 に働 く力
チ ャ レ ン ジ して い くな か か ら こ そ 産 まれ る の だ とい う
が 多 く計 測 さ れ , 興 味 深 い 知 見 が 報 告 さ れ て い き, レ
こ と を, 筆 者 ら は 先 人 の 実 例 か ら身 を もっ て 学 ぶ こ と
ー ザ ー トラ ップ 法 は正 し い 選 択 で あ っ た .
が で きた . そ し て , こ の 良 き伝 統 の 中 か ら1分 子 技 術
で は な ぜ , 時 間 分 解 能 が 悪 い とい わ れ た 微 小 針 を使
と い う独 創 的 な 分 野 が 日本 で 生 まれ て き た こ と を 特 筆
う 方 法 に こ だ わ っ た の か . 人 の や る こ と はや ら な い と
い うの も一 つ の 理 由 で あ る が , 理 論 的 な裏 付 け もあ っ
してお きた い.
た. 上記 の時 間分解 能 の議論 は, プ ロー ブが溶 液 中 に
あ る と き の もの で あ る. 分 子 間 相 互 作 用 に よ る 力 が 働
い て い る と き は , よ り大 き い 力 が プ ロ ー ブ に働 くの で
1分 子 操 作 の 方 法 は , 大 き く分 け て2通
りあ る12)
.1
速 く動 い て 時 間 分 解 能 が 良 くな り, 相 互 作 用 で 揺 ら ぎ
(
微 小 ガ ラ ス針 や , 原 子 間 力 顕 微 鏡 用 の カ
も制 限 さ れ て ノ イ ズ が 小 さ く な る. さ ら に , レ ー ザ ー
ン チ レバ ー ) に 分 子 を捕 ま え るや り方 で あ る. 他 は, レ
トラ ッ プ法 に は , ビー ズ が 自 由 に 回 転 し て し ま う とい
ー ザ ー トラ ッ プ 法
う難 点 が あ る. こ の 回 転 運 動 が , 分 子 間 相 互 作 用 に よ
つ は,探 針
(
光 ピ ンセ ッ ト法
, レー ザ ー 光 の 焦
点 位 置 に ビー ズ が ひ き寄 せ られ る性 質 を利 用 した 方 法 )13)
る力 を 吸 収 す る 柔 らか い バ ネ と し て ふ る ま う の で , 計
を使 っ て , 分 子 を結 合 させ た 直 径1μm程
測 し た 力 か ら実 際 の力 を求 め る の に補 正 が 必 要 とな り,
度 の ビーズ を
また 時 間 分 解 能 も悪 くな っ て し ま う.
操 作 す る 方 法 で あ る.
微 小 ガ ラ ス 針 を使 った 方 法 で , ア ク チ ン ーミオ シ ン 間
こ の よ うに , 主 流 と な っ て い た 見 解 と は異 な る , 逆
の 力 が 計 られ11,14),生 体 分 子 間 相 互 作 用 が 分 子 レベル で
転 の 選 択 が , 新 しい 発 見 を もた ら した . とは い え , 人
最 初 に 直 接 計 測 さ れ た . や が て , レ ー ザ ー トラ ッ プ 法
とは 違 う方 法 を, デ ー タ が な か な か 出 な い な か で 数 年
に よ っ て も, 分 子 レベ ル で の 力 計 測 が 行 な わ れ る よ う
間 も貫 き通 す の は , 粘 り強 い 勇 気 を 必 要 とす る. さ ら
に な っ た . 針 を使 う方 法 は , 微 小 針 の 自作 と操 作 に 習
に , この よ う な研 究 を 許 した 柳 田 プ ロ ジ ェ ク ト と い う
熟 を 要 し 実 験 自体 も む ず か し い が , レー ザ ー トラ ッ プ
環 境 が あ っ て こ そ 実 現 し た もの で あ る.
法 は そ れ に 比 べ れ ば 困 難 さ が 少 な く, よ り多 くの デ ー
タ を よ り短 い期 間 で 出 す こ とが で き る .
さ ら に, 時 間 分 解 能 とい う観 点 か ら, 原 理 的 に レ ー
ザ ー トラ ッ プ法 の ほ うが 良 い と い う こ とが い わ れ た . 計
測 の時 間分 解能 は, プロー ブ
動 か そ う とす るバ ネ の 力
(
針 も し くは ビ ー ズ ) を
(
針 の た わ み が バ ネ と して 働
き, ビー ズの場 合 は レーザ ー光 に よる引力 がバ ネの力
1分 子 捕 捉 と計 測 を開 始 す る前 に , 解 決 す べ き技 術 開
発 が複数 あった.
(1) 走 査 プ ロ ー ブ 顕 微 鏡 で , 蛍 光 色 素1分
子 を直
視 可 能 とす る .
1585
Ⅳ
44
蛋 白質 核 酸 酵素 Database Center for Life Science Online Service
図1 蛋 白 質1分
Vol..44No.11(1999)
子 の 捕 捉 ・操 作 ・計 測
(a)蛍 光 ラベ ル した ミオ シ ン頭 部1分
子 を, 蛍 光1分
子 イ メ ー ジ ン グ で 直接 観 察 し なが ら, ア ビジ ン を結 合 さ せ た 微 小 ガ ラス 針 に捕 ま
え る . 針 を操 作 して ガ ラ ス 表 面 上 の ア クチ ン バ ン ドル と相 互 作 用 さ せ ,ATP存
シ ン頭 部1分
在 下 で の 動 き (ガ ラ ス 針 の 変 位 ) を 計 測 す る , (b)ミオ
子 を実 際 に 捕 ま え た こ と を示 す 蛍 光像 . 各 点 が ミオ シ ン 頭 部 /分 子 . 矢 尻 で示 した 中 央 の 分 子 を探 針 に捕 ま え たの ち, ス
テ ー ジ を動 か し た. 動 か す 前
(
赤 の像 ) と後 (黄 色 ) と で, ス テ ー ジ と とも に 点 像 が 動 くが , 中 心 の 像 だ け は 動 か ず , 確 か に探 針 上 に
捕 ま え られ た こ と を 示 して い る. バ ー は5μm.
子 イ メ ー ジ ン グ で は , 高 感 度 と と もに 背 景
い , ア ビ ジ ン-ビ オ チ ン 系 で ミオ シ ン頭 部 を表 面 に 固 定
光 を極 小 化 す る こ と が ポ イ ン トで あ り, エ バ ネ ッセ ン
す る と, ア ク チ ン の 滑 り活 性 が 非 常 に よ く保 た れ る こ
蛍 光1分
ト照 明 法 は た い へ ん 有 用 な 方 法 で あ る. ガ ラ ス と水 の
境 界 面 で レー ザ ー 光 を 全 反 射 さ せ る と, 水 溶 液 側 ガ ラ
ス 表 面 近 傍 に光 が 半 波 長 程 度 に し み 出 す . この もれ た
光
(エ バ ネ ッ セ ン ト光 ) を 蛍 光 照 明 に使 う と, ガ ラ ス
表 面近 傍 のみ (
深 さ約200nm)
が照 明 され るの で,溶
と を 見 い だ した15)
.
(3) 分 子 サ イ ズ 程 度 に 尖 鋭 な 先 端 を も っ た 探 針 を
作製 す る.
蛋 白質 分 子1個
を捕 ま え る た め に は , プ ロ ー ブ先 端
が 分 子 サ イ ズ程 度 に尖 鋭 で あ る こ と が 要 求 さ れ る. 酸
液 中 の 蛍 光 色 素 か ら の 背 景 光 を 劇 的 に 減 らす こ とが で
化 亜 鉛 の テ トラ ポ ッ ド型 針 状 結 晶 で あ るZnOウ
き る.
ー (
長 さ5∼10μm)
走査 プロー ブ (
探 針 ) 顕 微 鏡 で1分
子 観 察 を可 能 に
15μmで
ィス カ
は, その先 端 の 曲率半 径が 平均約
あ っ て 分 子 捕 捉 に適 し て い る. またZnOの
酸
す る た め に , 対 物 レ ン ズ 型 エ バ ネ ッセ ン ト照 明 に よ る
素 を ア ミノ シ ラ ン化 す る こ と に よ り, ビ オ チ ン 化 な ど
蛍 光1分
の 化 学 修 飾 を す る こ と も可 能 と な っ た16).
子 イ メ ー ジ ン グ を 実 現 し た. こ れ は , 対 物 レ
ン ズ の ふ ち に レ ー ザ ー 光 を入 射 す る こ と に よ っ て, 試
こ れ ら以 外 に も, 工 作 機 械 を 使 っ た 装 置 の 自作 , 振
料 表 面 で 入 射 光 を全 反 射 さ せ る 方 法 で あ る5,12)
.実 用的
動 と ド リ フ トを 最 小 限 に す る た め に ス テ ー ジ な どの 試
に便 利 な 方 法 で あ り, 今 後 普 及 してい く と考 え られ る.
行 錯 誤 , ア ク チ ン の バ ン ドル 化 方 法 な ど, 多 くの 創 意
(2) 蛋 白 質 分 子 を“ 生 きた ま ま” 表 面 に固 定 す る.
工 夫 を 経 て 初 め て実 験 が 可 能 と な っ た .
蛋 白 質 の 多 くは 構 造 が 柔 軟 で , ち ょ っ と し た 操 作 で
壊 れ て し ま う. と く に表 面 に ま ば らに 結 合 さ せ る と活
性 を失 う こ とが 多 い . ま た , ミオ シ ン頭 部 の シ ス テ イ
ン や リシ ンを 化 学 修 飾 す る と, 活 性 が 変 化 して し ま う.
そ こで , 遺 伝 子 工 学 的 にtagを
結 合 さ せ て 発 現 させ た
実 験 の 概 略 を 図1aに
示 す . 分 子 捕 捉 ・操 作 用 の 探
針 と して , ガ ラ ス棒 を熱 しな が ら 引 張 っ て つ くっ た 直
蛋 白 質 を い くつ か 試 み た . そ の 結 果 , 大 腸 菌 内 で あ ら
径 約0.3μm,
か じ め ビオ チ ン化 さ れ て 発 現 さ れ る ビオ チ ン化 ペ プ チ
数 約0.02pN/nm;0.02pNの
ド (BDTC)
用 い る . ガ ラ ス 針 の 先 端 側 に , ビ オ チ ン化 した ウ ィ ス
1586
と ミオ シ ン 調 節 軽 鎖 との 融 合 蛋 白 質 を 使
長 さ約100μmの
微 小 ガ ラ ス針
力 で1nm変
(
バ ネ定
位 する) を
Ⅴ
45
ミオ シン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動 く
ガ ラ ス針 が柔 らかい の で , ブ ラ ウ ン運 動 で も10nmを
こ え る変 位 が 生 じ う る .ATP非
ADP存
在下
存 在 下 お よ び1mM
(
加 水 分 解 反 応 は起 こ らず ミオ シ ン頭 部 と
ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン トが 結 合 す る 条 件 ) で 同様 の 実 験
を行 な った . 個 々 の 変 位 を見 れ ば,ATP存
在 下 と同 じ
よ う な大 き さの 変 位 が 観 察 さ れ た が , 平 均 す る と消 え
図2 ミ オ シ ン頭 部1分
上 段が,ミ
子 が発 生 す る変 位
オ シン頭 部1分
子の 変 位 (1μMATP,20℃
).ATP存
在
て し ま い , ラ ン ダ ム な もの で あ る こ とが わ か っ た . こ
下 で の ア クチ ン との相 互 作 用 に よ っ て, 台 形 状 の 変 位 が 発 生 して
の こ とか ら,ATP存
い る. 下 段 は, 針 の 熱 揺 ら ぎの 大 き さの 逆 数 (ス テ ィ フネ ス). ミ
ン頭 部 がATP加
オ シ ンが ア クチ ン と相 互 作 用 をす る と, この値 が 大 き くな る の で,
相 互 作 用 して い る か 否 か が 判 断 され る.
在 下 で 観 察 され た 変 位 は, ミオ シ
水 分 解 の エ ネ ル ギー を使 っ て ひ き起 こ
し た も の で あ る こ とが 確 認 さ れ た .
ミオ シ ン頭 部 とア ク チ ン と も に , 相 互 作 用 を 起 こす
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の に 必 要 な空 間 的 自 由 度 を 保 ち な が ら も, 表 面 に 固 く
カ ー を接 着 剤 で く っ つ け プ ロー ブ と す る. ビ オ チ ン化
結 合 させ て い る. 柔 らか い 要 素 を極 力 排 した 実 験 系 に
ウ ィ ス カ ー に ア ビ ジ ン を結 合 さ せ た の ち , ウ ィ ス カ ー
し て い る こ とが , 当 研 究 が 成 功 し た 重 要 な ポ イ ン トで
先 端 に ミオ シ ン頭 部 を 捕 捉 す る. ミオ シ ン 頭 部 に結 合
あ る . 柔 らか い バ ネ の 存 在 は , 相 互 作 用 に よ る 変 位 を
し て い る ビ オ チ ン 化 ペ プ チ ドBDTCば
吸 収 し て し ま うの で , 計 測 した 変 位 に補 正 を必 要 と し,
(ATP結
,活性部 位
合 部 位 , ア クチ ン結 合 部 位 ) の ち ょ う ど反 対
側 に な る よ う に 設 計 し て あ る. した が っ て, ア ビ ジンビ オ チ ン を“糊 ” と し て 用 い て プ ロ ー ブ に捕 捉 す る と,
活 性 部 位 が 先 端 側 に くる よ う に な っ て い る .
ラベ ル して あ り (ラ ベ ル 率 >
0.95), エ バ ネ ッセ ン ト照 明 に よ る蛍 光1分
よ っ て , 捕 捉 さ れ た ミオ シ ン頭 部 が1分
を 確 認 した
て し ま う か らで あ る.
針 を 使 っ た1分
子 計 測 は簡 単 な もの で は な く, 相 互
作 用 に よ る変 位 が 計 測 で き る よ う に な る ま で に 数 年 の
蛍 光 顕 微 鏡 下 で 可 視 化 す る た め に ミオ シ ン頭 部 の 調
節 軽 鎖 を蛍 光 色 素Cy3で
時 間 分 解 能 を悪 く して シ グ ナ ル を ノ イ ズ に埋 もれ さ せ
歳 月 を要 して お り, 粘 り強 い 実 験 を 通 して 初 め て 成 功
した もの で あ る .
子観 察 法 に
子 で あ る こと
(図1b) .
相 互 作 用 す る相 手 の ア ク チ ンが フ ィ ラ メ ン ト1本 だ
と細 い の で , ミオ シ ン頭 部1分
子 が 相 手 を探 し 出 して
相 互 作 用 を起 こす こ とが 現 実 的 に困 難 とな る . そ こで ,
ミオ シ ン頭 部 が ア ク チ ン上 を動 くの は , 観 察 さ れ た
変 位 の 立 ち 上 が り部 分 で あ る の で , こ の 立 ち 上 が り部
分 を詳 細 に 解 析 した と こ ろ, ス テ ップ 状 の 変 位 が 発 見
ア ク チ ン結 合 蛋 白質 α ア ク チ ニ ン を 使 っ て ア ク チ ン を
され た (
図3) .ATP濃
バ ン ドル に して ガ ラ ス 表 面 に結 合 さ せ て お く.
度 (20℃ま た は27℃ ) を 変 え て も, ス テ ッ プ 状 の 変 位
この よ う に して 捕 捉 され た1分
ATP存
子 の ミオ シ ン頭 部 を ,
在 下 で , ガ ラ ス表 面 上 の ア クチ ン と相 互 作 用 さ
度 (0.1μMま
た は1μM)
や温
が 観 察 され た .
こ の ス テ ッ プ に大 き さ の 周 期 性 が あ る か ど う か を統
せ , 発 生 す る 動 き (変 位 ) を計 測 した . そ の 結 果 , 台
計 的 に解 析 した と ころ, 約5.3nmの
形状 の変 位 が観測 された (
図2) . 相 互 作 用 に よ る ミオ
とが わ か っ た (
図4a) . ま た , わ ず か で は あ るが , 逆
シ ン の 動 き で 変 位 が 起 こ り, 動 きが 止 ま っ た あ と もア
向 きス テ ッ プ も観 察 さ れ た .1回 の 変 位 で 何 回 の ス テ ッ
ク チ ン と ミオ シ ン は結 合 した ま ま の状 態 で 変 位 を 維 持
プ が 起 こ る の か を数 え る と,1変 位 あ た り1∼5回
して お り, 次 のATPの
テ ッ プ を踏 ん で い て , 平 均 で2.5ス
結 合 と と もに ア ク チ ン と ミオ シ
単位 周期 がある こ
のス
テ ップ して い る こ
ンの解離 が起 こって変 位 が元 に戻 る. これ が台形 状 の
とが わ か っ た (図4b) . す な わ ち,1分 子 の ミオ シ ン頭
変 位 の 原 因 で あ る . 相 互 作 用 を 特 定 しや す くす る た め
部 は ,1回 の 変 位 で5∼30nmの
に , 薄 いATP濃
約5.3nmの
い る.ATPが
度
(1μMま
た は0.1,μM)
を用 い て
結 合 す る頻 度 が 下 が るの で , 台 形 状 変 位
の 継 続 時 間 が 長 くな る か らで あ る.
変 位 を発 生 し, そ れ は
単 位 ス テ ッ プ を1∼5回
行 な うことによっ
て 実 現 して い る の で あ る .
こ の ス テ ッ プ が , ノ イ ズ や ア ー テ ィ フ ァ ク トに よ る
1587
Ⅵ
46
蛋 白質
核酸
酵素
Vol.44No.11(1999)
もの で な い こ とは,ATP非
存
在 下 , あ る い は2mMピ
ン酸 存 在 下
ロ リ
(ミオ シ ン 頭 部 と
ア ク チ ン が 弱 く結 合 す る よ う
な条 件 ) で の対 照 実 験 か ら確
か め られ た .
この ス テ ップ とATP加
水分
解サ・
イ ク ル との 対 応 が 重 要 な
問題 で あ る. この問 いに対 す
る答 え は, 台 形 状 変 位 ・ス テ
ッ プ の 時 間 とATP濃
度 との
関 係 か ら得 ら れ た . 台 形 状 変
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位 の 継 続 時 間 は指 数 関 数 的 に
分 布 し, そ の 平 均 はATP濃
度 が1μMの
0.1μMの
図3
と き220ミ
な り,ATP濃
ステ ップ状 の 動 き
台 形 状 の 変 位 の 立 ち 上 が り部 分 を拡 大 して み る と, ス テ ッ プ状 に ミオ シ ン頭 部 が 動 い て い る こ
とが み つ か っ た. 変位 の 立 ち 下 が り部 分
リ秒 ,
と き2,400ミ リ秒 と
度 に反 比 例 し
て い る . これ らの 値 は, レ ー
(ア ク チ ンか ら ミオ シ ン が 解 離 す る と き) で は, ス テ
ザ ー トラ ッ プ法 に よ る1分 子
ップ は み られ なか っ た .
力 計 測 と1分 子 酵 素 反 応 と の
同 時 計 測 で 得 られ た 値 と よ く一 致 して い る8)
. また , 台
形 状 変 位 とATP分
解 が1:1に
対 応 した として 求 め た ,
ア ク チ ン-ミ オ シ ンへ のATP結
4∼5×106M-1s-1と
合 の2次
の反応 定数 は,
な り, 溶 液 中 で測 定 された 値 と一 致
す る.
さ らに , ス テ ッ プ の 時 間 間 隔 を求 め る と, こ れ も指
数 関 数 的 な 分 布 を示 し, 平 均 で1μMの
0.1μMの
と き3ミ
とき5ミ
リ秒 ,
リ秒 と な っ て 誤 差 の 範 囲 で 一 致 し,
ATP濃
度 に 対 して依 存 性 が な か っ た . 力 学 ス テ ップ と
ATP加
水 分 解 反 応 が1:1に
対 応 し て い るモ ー ター 蛋
白質 で あ る キ ネ シ ンやF1-ATPaseで
間 間 隔 はATP濃
は, ス テ ップの 時
度 に 明 確 に 依 存 して い る こ とが示 さ れ
て い る . 以 上 の結 果 は ,5.3nmス
分 解 反 応 と1:1に
テ ップ はATP加
対 応 せ ず , 台 形 状 変 位 が1:1に
水
対
応 し て い る こ と を示 し て い る .
この よ うに して , ミオ シ ン頭 部1分
子 が,1回 のATP
加 水 分 解 中 に 複 数 回 の 力 学 的 ス テ ッ プ を 行 な う こ とが
図4
ス テ ッ プ 状 の 動 きの 統 計 解 析
(a)ス テ ップ状 の 変 位 を統 計解 析 した と ころ ,5.3nmの
位置 にピ
ー クが み られ, 確 か に平 均5.3nmの
ス テ ップ で動 い てい る こ とが
確 か め られ た.-5.3nmの
結 論 づ け ら れ た.
近 傍 にも 小 さ な ピー ク が あ り, 逆 向 き
に も低 い 頻 度 で 動 くこ と を示 す . 挿 入 図 は, 原 点 を ピー ク とす る
正 規分 布 の 値 を差 し引 い た ヒ ス トグ ラム . (b)1変 位 あ た りの ス
テ ップ 数 .
1588
単 位 ス テ ッ プ の 大 き さ は, ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト中
47
ミオ シン1分 子は1個 のATP分 解の間に複数ステップで動 く
の 隣 り合 う ア ク チ ン単 量 体 の 間 隔 (5.5nm)
とほぼ等
5)Tokunaga,M.,Kitamura,K.,Saito,K.,Iwane,A.
H.,Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res.Com-
しい こ と か ら, 観 察 さ れ た ス テ ップ は ミオ シ ン頭 部 が
ア ク チ ン フ ィ ラ メ ン ト上 の 隣 の 結 合 部 位 に移 る とい う
mun.,235,47-53(1997)
6)Vale,R.D.,Funatsu,T.,Pierce,D.W.,Romberg,
現 象 を 反 映 し て い るの で は な い か と考 え られ る.
L.,Harada,Y.,Yanagida,T.:Nature,380,451-
これ まで ア クチ ンーミオ シン系 の分 子 機 構 として,ATP
を1個 分 解 す る と ミオ シ ン頭 部 に大 きな構 造 変 化 が1回
起 こ っ て 動 く とい う構 造 変 化 説 と, 化 学 反 応 と力 学 反
応 と は1:1に
453(1996)
7)Noji,H.,Yasuda,R.,Yoshida,M.,Kinosita,K.
Jr.:Nature,386,299-302(1997)
8)Ishijima,A.,Kojima,H.,Funatsu,T.,Tokunaga,
対 応 せ ず 確 率 的 に動 く とい うル ー ス カ ッ
M.,Higuchi,H.,Tanaka,H.,Yanagida,T.:Cell,
プ リ ン グ 説 の 間 で , 長 い 間 論 争 が 行 な わ れ て きた . 当
研 究 は,1個 のATPで
複 数 回 の力 学 的 過 程 が 起 こる こ
とを 初 め て直 接 的 に 示 した もの で あ る . 化 学 力 学 反 応
の1分
9)
リ秒 間 蓄 え られ る こ とが み っ
な 分 子 機 構 で あ る こ とが 示 唆 さ れ る.
∼48巻4号
(1992-
183(1986)
11)Kishino,A.,Yanagida,T.:Nature,334,74-76
(1988)
12)
テ ップ が 少 な い な が ら もみ つ か った こ とか ら, 確 率 的
:最 新 医 学 ,47巻9号
10)Oosawa,F.,Hayashi,S.:Adv.Biophys.,22,151-
か っ て お り8)
, 蛋 白 質 分 子 内 に 蓄 え られ た エ ネ ル ギ ー が
小 分 け して 使 わ れ る と考 え ら れ る. また , 逆 向 き の ス
江 橋 節 郎
1993)
子 同 時 計 測 か ら, ア クチ ンーミオ シ ン系 で はATP
の エ ネ ル ギ ー を 数100ミ
Database Center for Life Science Online Service
92,161-171(1998)
石 島 秋 彦
・小 嶋 寛 明
・徳 永 万 喜 洋
:蛋 白 質
核 酸
酵
素 ,43,1365-1371(1998)
13)Ashkin,A.,Dziedzic,J.M.,Bjorkholm,J.E.,Chu,
S.:Opt.Lett.,11,288-290(1986)
14)Ishijima,A.,Doi,T.,Sakurada,K.,Yanagida,
T.:Nature,352,301-306(1991)
15)Iwane,A.H.,Kitamura,K.,Tokunaga,M.,
おわ りに
本 研 究 は, 長 年 論 争 され て きた 生 体 分 子 モ
ー タ ー の メ カ ニ ズ ム に 対 しル ー ス カ ップ リ ン グ機 構 の
直 接 証 拠 を初 め て提 供 し た と い う点 に お い て , また 生
Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res.Commun.,
230,76-80(1997)
16)Tokunaga,M.,Aoki,T.,Hiroshima,M.,Kitamura,K.,Yanagida,T.:Biochem.Biophys.Res.
体 分 子1個
い1分
を“ 生 き た ま ま” 直 接 捕 捉 し計 測 す る新 し
Commun.,231,566-569(1997)
子 技 術 を開 拓 した とい う点 に お い て も, ひ とつ
の エ ポ ック を 画 す る もの で あ る .
この例 の よ うに,1分 子 技 術 は分 子 機 構 解 明 に直 接 的
徳 永 万喜 洋
略 歴 :1987年 東 京 大 学 大 学 院 理 学 博 士 取 得, 日本 学 術
な 証 拠 を与 え る強 力 な 手 段 で あ る. モ ー タ ー 分 子 で 開
振 興 会 特 別 研 究 員 を 経 て ,1988年
東京大学教養 学部助
拓 さ れ て きた1分
手 ,1990年
新技術事業団柳田生
子 技 術 で あ る が , 今 後 は 多 くの 分 子
同理 学 部助 手 ,1992年
へ と用 い られ ,in vitroに お い て は メ カ ニ ズ ム解 明 に ,
体 運 動 子 プ ロジェ ク ト ・グル ー プ リー ダー ,1997年 よ り国
立 遺伝 学 研 究 所 助 教 授,1999年 総 合 研 究 大 学 院 大 学 助
in vivoに お い て は生 理 的 役 割 の 解 明 に威 力 を発 揮 す る
教 授 ・東 京大 学 工 学部 客 員助 教 授 を併 任 . 研 究 テ ー マ :
もの と期 待 さ れ る.
生 体 分 子 モ ー ターの分 子機 構 ,1分 子 技術 によ る生 体 分 子
機 能 解 明 . 関 心 事 ・抱 負 :確 率 的 な モ ー ター機 構 解 明 ,
新 しい研 究手 法 開 発.
文
献
喜 多村 和郎
1)Kitamura,K.,Tokunaga,M.,Iwane,A.H.,Yanagida,T.:Nature,397,129-134(1999)
2)Yanagida,T.,Nakase,M.,Nishiyama,K.,Oosawa,F.:Nature,307,58-60(1984)
3)Funatsu,T.,Harada,Y.,Tokunaga,M.,Saito,K.,
Yanagida,T.:Nature,374,555-559(1995)
略 歴 :1998年 大 阪 大 学 大 学 院 基 礎 工 学 研 究 科 博 士 後 期
課 程 修 了, 日本 学術 振 興 会特 別 研 究 員 (PD)を経 て,1999
年 科 学技 術 振 興事 業 団 ・1分子 課 程 プ ロジ ェ ク ト研 究 員 。
研 究 テ ー マ :分 子 モ ー ター の動 作 メカ ニ ズ ム解 明. 関 心
事 ・抱 負 :ナ ノスケ ールの 世界 で起 こって いる現 象 を直 接
観 て ,物 理 の 言 葉 で理 解 した い.
4)Sase,L,Miyata,H.,Corrie,J.E.T.,Craik,J.S.,
Kinosita,K.Jr.
:Biophys.J.,69,323-328(1995)
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