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講演資料(渡邉) 448KB

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講演資料(渡邉) 448KB
合同数=正方形の数学
神戸大学理学部 渡邉 清
合同数とは何か?
„
三辺の長さが有理数である直角三角形の面積となる自然数を合同数
という。すなわち、次の式の面積
のこと。
n
ピタゴラスの定理より
a
c
a² + b² = c²
さらに、 a, b, c は有理数で 面積は
b
n = a∙b/2
自然数
一番簡単な例
3
5
4
3² + 4² = 5²
6 = 3•4 / 2
故に、6 は合同数。(5千年前より知られた例)
例を探そう
a
c
b
(1)
(2)
a = m² - n² (m>n)
b = 2mn
c = m² + n²
とすると、 a² + b² = c²
m=2 , n=1 ➩ a=3 , b=4 , c=5
m=3 , n=2 ➩ a=5 , b=12, c=13
故に、 5×12/2 = 30 は合同数。
231は合同数である
a’
c’
b’
前の式で m=7, n=4 とすると
a = 49 – 16 = 33, b = 56
c = 49 + 16 = 65
a’ = 33 ÷ 2, b’ = 56 ÷ 2 = 28
c’ = 65 ÷ 2
とすると、
n = a’ b’ / 2 =
231 = 3·7·11
いつごろから?
„
„
„
10世紀のアラビアの文献に、ある自然数が
合同数かどうかを問う問題が登場する。
ギリシャ時代から考えられていたと思われる。
こんな簡単に思える問題が、何故問題になる
のだろうか?
5は合同数である
a
c
b
同じく m = 5, n = 4 とし6で割ると
a = 3/2
b = 20/3
c = 41/6
とすると、 a² + b² = c² であり
20/3 ×3/2 ÷ 2 = 5 。(フィボナッチ,1170-1240)
問題 7 は合同数である。そうなる直角三角形を
求めよ。(オイラー、1707ー1783)
1は合同数か?
„
„
„
実は、フェルマー(1601-1665)により17世紀
の中ごろ 1 は合同数でないことが示された。
それは、どのようにして示すのだろうか?
これは最近証明されたフェルマー予想 i.e.
xⁿ + yⁿ = zⁿ
(n>2)
は自明でない整数解を持たない、 とも関係
あることがわかる。
157は合同数である
„
157は、合同数であることが理論的に分かる。
では その直角三角形の辺の長さを表す
最小の a , b はいくつだろうか?
ヒント: 20年程前にコンピュータを使って初
めて計算された。
答えは
157
n = 157
a = 25桁÷24桁
6803298487826435051217540÷
411340519227716149383203
b = 24桁÷23桁
411340519227716149383203÷
21666555693714761309610
概算: 680/41 × 41/2 ÷ 2 = 170
277は合同数である
277
n = 277 (最近計算)
„ a= 33桁 ÷ 32桁
133019165336738929060120082660340÷
14945906772955209419887378179997
„ b= 32桁 ÷ 30桁
14945906772955209419887378179997÷
240106796636712868339566936210
概算 : 13301/1494×1494/24 ÷ 2 ≑ 277
„
合同数の言い換え
命題 n は合同数である ⇔ 楕円曲線
E(n) : y² = x³ - n²x は無限個の有理点を持つ。
x = X₁ + i X₂ , y = Y₁ + i Y₂ , i² = -1.
命題の証明について
y² = x³ - n²x = (x - n) x (x + n), n=6
とすると、有理点 P = (-3,9) が分かる。
x(2P) = (x⁴+2·6²x²+6⁴)/4y² = 25/4 = (5/2)²
x-6 =1/4= (1/2)², x+6 =49/4= (7/2)² より
2P = (25/4,-35/8) が分かる。これより、
a=7/2-1/2=3, b=7/2+1/2=4, c=2·(5/2)=5.
1は合同数でない
命題 楕円曲線 E(1) : y² = x³ - x は3個の
有理点 (-1,0), (0,0), (1,0) しか持たない。
系 (フェルマー) 1は合同数ではない。
命題の証明は、上以外の有理点 P があった
とするとそれより小さい有理点 Q があることが
分かり、無限に小さくはなれないので矛盾 とう
う方法でなされる。フェルマーの無限降下法。
x ⁴ + y ⁴ = z⁴
命題(フェルマー) 上の式を満たす自明でない
整数解はない。
証明 そのような解 a,b,c があったとする。
a⁴ = c⁴ - b⁴ の両辺に c² / b⁶ を掛けると
a⁴ c² / b⁶ = c⁶ / b⁶ - c² / b²
x = c² / b² , y = a² c / b³ と置くと x , y は
有理数で y² = x³ - x を満たす。
これは前の命題に反する。
合同数の判定法は?
20年程前、現代数学の最先端の結果を使って、
次の定理が示された。
定理 (タネル、1983年) n を奇数とする。
(A) n は合同数である。
(B) ♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 8z² = n }
= 2 ✕ ♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 32z² = n }
とするとき、 (A) ➩ (B)。
ある仮定の下で、 (B) ➩ (A)。
„
例はどうか?
例1 n = 1 は、 定理より合同数でない。
(∵) ♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 8z² = 1 }
= ♯{ ( 0, 1, 0) , ( 0, -1, 0) } = 2 ≠
2✕♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 32z² = 1 } = 2✕2 = 4
例2 n = 5 は、 定理より合同数である。
(∵) ♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 8z² = 5 } = 0 =
2✕♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 32z² = 5 } = 2✕0 = 0.
41は合同数である
前の定理を使うと、
♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 8z² = 41 }
=♯{ (0, ±3, ±2), (±4, ±3, 0), (±2, ±5, ±1),
(±4, ±1, ±1), (±2, ±1, ±2) } = 32 =
2✕♯{ (x, y, z) | 2x² + y² + 32z² = 41 }
♯{ (0, ±3, ±1), (±4, ±3, 0). (±2,±1,±1) } = 16 .
また、直角三角形の作り方で、m = 25, n = 16
と すると、 (40/3)² + (123/20)² = (881/60)² であり、
(40/3) (123/20)/2 = 41 となる。
定理の証明は?
(1) 類体論に関係するある保型形式を作る。
(2) 谷山∙志村予想に関係する、楕円曲線の
L-関数に対応する保型形式を作る。
(3) 2つの保型形式を志村対応により結ぶ。
(4) ウオルドスプルガーの定理を使う。
なお、定理の中の仮定とは、BSD予想のこと。
類体論とは?(1)
整数を拡張して、ガウス整数 ( Q(i) で )
Z[i]={a+ib|a,b : 整数, i² = -1 }
の世界で、素数 p の分解を考える。
p ≡ 1 (mod 4) のとき、 5 = (1+2i) (1-2i) ,
13 = (3+2i) (3-2i)
等と2つに分解する。
p ≡ 3 (mod 4) なる 3 や 7 は分解しない。これを
χ(p) = 1 (p ≡ 1) , χ(p) = - 1 (p ≡ 3)
と置くと、この χ(p) が素数 p の分解を表わす。
類体論とは?(2)
今度は少し複雑な分解を考えよう。( Q(i, ε) で)
a₁+ a₂ i + a₃δ+ a₄ζ+a₅ε+ a₆εi + a₇δε+ a₈ζε
a₁, a₂, a₃, a₄, a₅, a₆, a₇, a₈ : 整数
i² = -1, δ² = 2, ε² = 1+δ, ζ²= i
すると、次の様に分解する。 έ = 1/ε とおくと、
3 = (1+δi) (1-δi),
5 = (ε+ έi-1) (ε+ έi+1) (ε- έi-1) (ε- έi+1),
7 = (2 -ε) (2 +ε) (2 – έi ) (2 + έi ),
17 = (1+δ-δi ) (1-δ+δi ) (1+δ+δi ) (1-δ-δi ),
類体論とは?(3)
41 = (ε+1+i ) (ε-1-i ) (ε+1-i ) (ε-1+i )
✕ (έ +1+i ) (έ -1- i ) (έ +1- i ) (έ -1+i )
この分解を知っている関数(保型形式)が存在する:
f(x)=
q ( 1 - q⁸ ) ( 1 - q¹⁶ )² ( 1 - q²⁴ ) ( 1 - q³² )² …
= q - q⁹ - 2q¹⁷ + q²⁵ + 2q⁴¹ + …
= Σa(n) qⁿ
素数 n の分解は qⁿ の係数 a(n) を見ると分かる。
例えば, 41 は 係数が 2 なので8個に分解する。
ガウスと高木貞治
ガウス(1777-1855)は
平方剰余の相互法則
χ(p)や関数g(x)を計算
した最大の数学者である。
類体論は1920年高木
貞治(1875-1960)により
証明された。これにより
クロネッカ-の青春の夢も
示された。
楕円曲線のL-関数とは?
楕円曲線 E(n) : y² = x³ - n²x の解を有限体
F(p) の中で数える。ここで F(p) は、素数 p によ
る余りの集合 {0,1,2, … ,p-1}。 その解の個数を
♯(E(n)) で表す。例えば、 n=1,p=5 のとき、(0,0),
(1,0), (2,1), (2,4), (3,2), (3,3), (4,0) が E(1) の解なので
♯(E(1))=7 となる。 c(p) = p - ♯(E(n)) とおき、
L(a)=1+c(2)2⁻ª+c(3)3⁻ª+ … = Σc(n) n⁻ª
を楕円曲線 E(n) の L-関数 と呼ぶ。
谷山·志村予想とは?
楕円曲線 E: y²=ax³+bx+c の L-関数
L(a) = Σc(n) n⁻ª
に対し、あるよい関数(保型形式)
Σa(n) qⁿ
が存在して c(p) = a(p) となる、 という予想。
1994年9月19日 ワイルス により解決され、
その結果 遂に フェルマー予想も解決された。
志村対応とは?
楕円曲線 E(n) のL-関数に対応する関数は、
g(x)=q ( 1 - q⁴ )² ( 1 - q⁸ )⁴ ( 1 - q¹² )² ( 1 - q¹⁶ )⁴ …
= q - 2q⁵ - 3q⁹ + 6q¹⁸ + 2q¹⁷ + … = Σc(n) qⁿ.
前の分解の関数 f(x) に、次の関数を掛ける:
Θ(x) = 1 + 2q² + 2q⁸ + 2q¹⁸ + 2q³² + ….
f (x)⋅Θ(x) = q + 2q³ + q⁹ - 2q¹¹ - 4q¹⁷ - 2q¹⁹ q²⁵ + 4q³³ - 4q³⁵ + 6q⁴³ + … = Σb(n) qⁿ .
このとき志村対応とは、次式を意味する:
Shimura (f (x)⋅Θ(x)) = g(x), χ(p) + b(p²) = c(p) .
谷山豊と志村五郎
谷山豊(1927-1958)と
志村五郎(1930-) は
第二次大戦後、若くして
世界的に活躍した
数論学者であるが、
残念ながら
谷山 は早く亡くなった。
しかし、志村 は今でも
活躍している。
„
BSD予想とは?
楕円曲線 E のL-関数
L(a) = Σc(n) n⁻ª
に対し、
L(1)= 0 ⇔ E は無限個の有理点を持つ。
BSDは、Birch-Swinnerton·Dyer の略。これを
解くと
1億円
!!!
E(n) については、⇐ は OK (コーツ·ワイルス,1977)。
タネルの定理
ウオルドスプルガーの定理(1981)を使って
タネルは次の定理を示した:
定理 楕円曲線 E(n) : y² = x³ - n² x のL-関数
L(a) に対応する関数を g(x) とし、
Shimura (Σb(n) qⁿ ) = g(x) = Σc(n) qⁿ
とすると、n : 奇数に対し、次式が成り立つ:
L(1) = k· b(n)²
k : ある定数.
この結果より前の定理も出る。 b(n) = 0 ⇔ n : 合同数
が分かる。例 b(113)≠0 なので、113は合同数でない。
素数についてのまとめ
素数 p ≠ 2 に対し、次が成り立つ:
(1) p ≡ 3 (mod 8) ⇒ p は合同数でない。
(2) p ≡ 5 , 7 (mod 8) ⇒ p は合同数。
(3) p ≡ 1 (mod 8) ⇒
(i) p≠x²+32y² ⇔ a(p)=-2 ⇒ p は合同数でない。
(ii) p = x²+32y² ⇔ a(p)= 2 ⇒ p が合同数か
どうかは、個別に調べる。
例 41 は合同数だが、 113 は合同数でない。
(共に a(41) = a(113) = 2. )
正方形の数学について
楕円曲線 E(1) : y² = x³ - x は正方形を周期
とする楕円関数 ℘(x) より作られる。i.e.
℘’(z)² = ℘(z)³ - ℘(z) .
„ 素数の分解を調べる体Q( i ,ε) の Q 上の
ガロア群は、正方形の対称の群である。
„
楕円曲線について
現在、楕円曲線は
暗号理論等にも応用され
脚光を浴びています。
„
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