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乳牛におけるルーメンマット構造の定量とその形成に関する研究

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乳牛におけるルーメンマット構造の定量とその形成に関する研究
Title
Author(s)
乳牛におけるルーメンマット構造の定量とその形成に関
する研究
泉, 賢一
Citation
Issue Date
2014-03-25
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/56104
Right
Type
theses (doctoral)
Additional
Information
File
Information
Kenichi_Izumi.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
乳牛におけるルーメンマット構造の定量
とその形成に関する研究
北海道大学
泉
大学院農学院
賢一
目次
1.
緒 言 ............................................................................ 4
1.1 . 研 究 の 背 景 と 目 的 ....................................................... 4
1.2 . 従 来 の 研 究 .............................................................. 12
1.2 .1 . ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 ................................. 12
1.2 .2 . ル ー メ ン マ ッ ト の 機 能 ....................................... 15
1.2 .3 . ル ー メ ン マ ッ ト 物 性 の 定 量 化 .............................. 18
1.2 .4 . peND F 理 論 と 乳 牛 の 生 理 反 応 お よ び ル ー メ ン マ ッ ト
形 成 の 関 連 ................................................................. 21
1.2 .5 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 関 連 ....... 24
2.
ル ー メ ン マ ッ ト の 定 量 方 法 の 検 討 ................................ 27
2.1 . 目 的 ........................................................................ 27
2.2 . 土 壌 の 貫 入 抵 抗 測 定 法 .............................................. 28
2.3 . ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 装 置 の 開 発 ........................... 29
2 . 4. ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 手 順 お よ び 解 析 方 法 ............. 33
2 . 5. ル ー メ ン マ ッ ト 定 量 法 の 検 証 .................................... 37
2. 5. 1 . 目 的 .................................................................. 37
2. 5. 2 . 材 料 と 方 法 ........................................................ 37
2. 5. 3 . 結 果 お よ び 考 察 ................................................. 42
3.
飼 料 中 peND F 含 量 の 違 い が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 及 ぼ す
影 響 ................................................................................. 47
3.1 . 飼 料 の 粒 度 が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 及 ぼ す 影 響 ( 試 験 1 )
............................................................................... 47
1
3.1 .1 . 目 的 ................................................................. 47
3.1 .2 . 材 料 と 方 法 ....................................................... 49
3.1 .3 . 結 果 ................................................................. 54
3.1 .4 . 考 察 ................................................................. 61
3.2 . 給 与 飼 料 中 粗 濃 比 の 違 い と ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 の 関 係( 試
験 2 ) ............................................................................ 66
3.2 .1 . 目 的 ................................................................. 66
3.2 .2 . 材 料 と 方 法 ....................................................... 67
3.2 .3 . 結 果 ................................................................. 73
3.2 .4 . 考 察 ................................................................. 78
4.
非粗飼料繊維源の給与とルーメンマット形成およびその機
能 と の 関 係 ........................................................................ 82
4.1 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て の ア ン 粕 給 与 が ル ー メ ン マ ッ ト 性
状 と 乳 生 産 に 及 ぼ す 影 響 ( 試 験 3 ) .................................. 83
4.1 .1 . 目 的 ................................................................. 83
4.1 .2 . 材 料 と 方 法 ....................................................... 84
4.1 .3 . 結 果 ................................................................. 90
4.1 .4 . 考 察 ................................................................. 98
4.2 . ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 と 高 タ ン パ ク 醸 造 副 産 物 給 与 の 関 係
( 試 験 4 ) ................................................................... 105
4.2 .1 . 目 的 ............................................................... 105
4.2 .2 . 材 料 と 方 法 ..................................................... 106
4.2 .3 . 結 果 ............................................................... 11 2
4.2 .4 . 考 察 ............................................................... 11 9
4.3 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 お よ び 併 給 牧 草 種 が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成
2
に 及 ぼ す 影 響 ( 試 験 5 ) ................................................ 125
4.3 .1 . 目 的 ............................................................... 125
4.3 .2 . 材 料 と 方 法 ..................................................... 126
4.3 .3 . 結 果 ............................................................... 130
4.3 .4 . 考 察 ............................................................... 136
5.
総 合 考 察 .................................................................. 143
5.1 . ル ー メ ン マ ッ ト 定 量 法 の 確 立 ................................... 143
5.2 . ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 的 性 状 と そ の 機 能 .................. 146
5.3 . peN DF と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 ................................. 150
5.4 . ル ー メ ン マ ッ ト 機 能 を 応 用 し た 泌 乳 牛 繊 維 要 求 量 算 出 モ
デ ル の 提 案 ................................................................... 153
6.
結 論 ........................................................................ 159
要 約 ............................................................................... 161
参 考 文 献 ......................................................................... 165
謝 辞 ............................................................................... 180
3
1. 緒 言
1.1 . 研 究 の 背 景 と 目 的
近 年 、乳 牛 の 遺 伝 的 改 良 に と も な う 高 能 力 化 は 著 し い 。我 が 国
の 経 産 牛 1 頭 あ た り 乳 量 の 全 国 平 均 は 2008 年 に 8 ,0 1 2 kg と 初
め て 8 , 000 kg を 越 え 、 20 12 年 に は 8 ,15 4 kg と 過 去 最 高 値 を 記
録している(農林水産省
畜 産 統 計 お よ び 牛 乳 乳 製 品 統 計 )。 さ
ら に 乳 用 牛 群 能 力 検 定 ( 乳 用 牛 群 検 定 全 国 協 議 会 , 2 01 3 ) に よ る
と ホ ル ス タ イ ン 種 の 305 日 検 定 成 績 は 9, 29 4 kg と 1 0, 000 kg に
迫 ろ う と し て い る 。 一 方 で 、 過 去 10 年 間 の 乳 量 の 増 加 量 で み る
と 20 03 年 ~ 2 012 年 で は わ ず か 1 93 kg し か 増 加 し て お ら ず 、 そ
れ 以 前 の 1 0 年 間 の 増 加 量 8 69 kg と 比 べ て 著 し く 低 い ( 乳 用 牛
群 検 定 全 国 協 議 会 , 201 3 )。 こ の よ う な 増 加 量 の 違 い は 過 去 お よ
び現在の酪農情勢を反映している。
昭 和 か ら 平 成 に か け て の 時 代 は 、人 工 授 精 や 牛 群 検 定 の 普 及 に
伴 い 急 速 に 遺 伝 的 改 良 が 進 む 一 方 で 、海 外 か ら の 安 い 穀 物 を 大 量
に 利 用 す る 飼 養 体 系 が 定 着 し た 。乳 牛 の 高 泌 乳 化 は 生 産 者 の 所 得
向 上 を も た ら し た が 、そ れ と 引 き 替 え に 飼 料 自 給 率 は 低 下 を 続 け
た 。 2 0 11 年 度 の 飼 料 自 給 率 は 26 % で あ り ( 農 林 水 産 省 , 20 13 )、
畜産飼料の 7 割以上を海外に依存する事態となっている。
一 方 、 約 10 年 ほ ど 前 か ら の 化 石 燃 料 逼 迫 に 伴 う 国 際 的 な バ イ
オ エ タ ノ ー ル 生 産 の 増 加 、中 国 を は じ め と し た 新 興 国 で の 畜 産 物
生 産 の 急 伸 、米 国 や オ ー ス ト ラ リ ア と い っ た 主 要 穀 物 生 産 国 を 襲
う 大 規 模 な 干 ば つ な ど に よ っ て 、国 際 穀 物 相 場 は 変 動 を 続 け て い
る 。こ の よ う な 情 勢 の 変 化 が 、輸 入 穀 物 飼 料 に 依 存 し た 我 が 国 の
4
酪農経営を圧迫し、乳生産量の伸び率鈍化の主因となった。
安価な穀物飼料の入手が困難になった現代以降は酪農生産シ
ス テ ム の 転 換 期 で あ り 、粗 飼 料 、食 品 製 造 副 産 物 あ る い は こ れ ま
で廃棄されてきた未利用資源といった国産自給飼料を最大限に
活 用 し た 持 続 的 酪 農 生 産 シ ス テ ム へ の 回 帰 が 求 め ら れ て い る( 阿
部 , 200 0; 名 久 井 , 200 8 )。 土 地 を 耕 し 、 牧 草 や ト ウ モ ロ コ シ と い
っ た 自 給 粗 飼 料 を 作 り 、あ る い は 人 々 の 口 に 入 ら な い 食 品 製 造 副
産 物 を 利 用 し て 牛 を 飼 い 、乳 を 搾 り 、糞 尿 は 土 地 に 還 元 す る 、こ
のような持続可能な循環型酪農を再評価しなくてはいけない。
循環型酪農を目指し高泌乳牛を穀物多給から自給飼料多給の
飼 養 体 系 に 転 換 す る 上 で 問 題 と な る の は 、い か に し て 乳 生 産 に 要
す る エ ネ ル ギ ー 要 求 量 を 充 足 さ せ る か と い う こ と で あ る 。高 泌 乳
牛がその要求量を満たすためには多量の乾物を摂取しなければ
な ら な い が 、ル ー メ ン の 容 積 に は 限 界 が あ り 、内 容 物 が ル ー メ ン
容 積 の 最 大 値 に 到 達 す る と 採 食 は 停 止 し て し ま う 。こ の た め 高 泌
乳 牛 の 乾 物 採 食 量( D MI )は ル ー メ ン の 物 理 的 な 充 満 で 規 定 さ れ
る と い う 考 え が 一 般 的 で あ る (O kam oto et al. , 19 90 ; D a do a nd
Al le n, 19 95; Al le n, 199 6 )。 ル ー メ ン 内 の 充 満 で 中 断 し た 採 食 を
再 開 さ せ る た め に は 、そ の 充 満 を 解 消 し 、飼 料 の 入 り 込 む 空 隙 を
生み出さなくてはいけない。
反 芻 家 畜 の ル ー メ ン 内 部 は 気 体 層 ( ガ ス 層 )、 固 体 お よ び 液 体
か ら な り 、固 体 と 液 体 を あ わ せ た も の を 内 容 物 と い う 。ガ ス 層 は
背 嚢 上 部 に 存 在 し 、そ の 下 に 内 容 物 が 存 在 す る 。内 容 物 は 階 層 構
造 を 有 し て お り 、固 体 の う ち 繊 維 な ど の 比 重 が 軽 く 粒 度 の 大 き な
飼料片はルーメン背嚢部から中心部にかけて堅いマット状に詰
5
ま っ た 固 層 を 形 成 し て お り 、腹 嚢 部 に は 比 重 の 重 い 小 飼 料 片 や 液
体 か ら な る 液 層 が 存 在 す る ( 岡 本 , 1 991 )。 こ の 堅 く 詰 ま っ た 固
層 部 分 は 一 般 に ra ft あ る い は ル ー メ ン マ ッ ト と 称 さ れ て お り 、
ル ー メ ン の 充 満 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ て い る (Va n Soest ,
199 4 )。
牛 は 本 来 草 食 動 物 で あ り 繊 維 質 を 与 え な く て は い け な い 。繊 維
源としては粗飼料と食品製造副産物や農産副産物に含まれる非
粗 飼 料 繊 維 源 が 一 般 的 で あ る が 、粗 飼 料 由 来 の 繊 維 は 容 積 が 大 き
い 上 に 発 酵 速 度 が 遅 い の で 、多 給 し す ぎ る と ル ー メ ン 内 部 に 長 時
間 滞 留 し 、 結 果 と し て D MI や エ ネ ル ギ ー 摂 取 量 を 抑 制 し て し ま
う 。 一 方 で 、 非 粗 飼 料 繊 維 源 は 中 性 デ タ ー ジ ェ ン ト 繊 維 ( NDF)
で 表 さ れ る 一 般 的 な 繊 維 の 他 に グ ル カ ン 、フ ル ク タ ン お よ び ペ ク
チ ン と い っ た 可 溶 性 繊 維 を 豊 富 に 含 み 、そ の 粒 度 も 細 か い も の が
多 い 。し た が っ て 、ル ー メ ン 内 の 発 酵 速 度 も 速 く 、繊 維 源 と し て
の み な ら ず 濃 厚 飼 料 の 代 替 エ ネ ル ギ ー 源 と し て も 利 用 さ れ る 。し
か し 、繊 維 源 の 大 半 を 、粗 剛 な 粗 飼 料 か ら 発 酵 速 度 の 速 い 非 粗 飼
料 繊 維 源 に 置 き 換 え る と 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 が 維 持 で き
ず、ルーメンマットが形成されない可能性が指摘されている
(Me rt ens, 20 00 )。
そ の う え 、食 品 製 造 副 産 物 に は ビ ー ト パ ル プ や 豆 類 の 皮 に 代 表
さ れ る 高 繊 維 含 量 副 産 物 か ら 、ビ ー ル 粕 や 酒 粕 の よ う に 高 タ ン パ
ク質含量であるが繊維含量はそれほど高くない醸造副産物に至
る ま で 、そ の 種 類 は 多 岐 に わ た る 。そ の よ う な 非 粗 飼 料 繊 維 源 の
タイプの違いによってもルーメン内容物の階層構造は影響を受
けると予測される。
6
ル ー メ ン マ ッ ト の 機 能 と し て は 、ル ー メ ン 内 の 充 満 に 伴 う 採 食
の 調 節 に 加 え 、反 芻 の 誘 発 と 小 飼 料 片 を マ ッ ト 内 へ 取 り 込 む こ と
に よ る 発 酵 促 進 が あ る と 考 え ら れ て い る (Va n Soest, 19 94 ;
Zeb eli et al. , 2 012 )。 ル ー メ ン マ ッ ト が ル ー メ ン 背 嚢 粘 膜 上 皮 や
筋柱に存在する受容器に対して接触刺激ももたらすことで反芻
が 発 現 す る (I gg o a nd Leek, 1 970 ; Baum ont et al. , 19 90; Da do
and Al le n, 199 5 )。 ル ー メ ン マ ッ ト の 接 触 に よ る 機 械 受 容 器 へ の
刺 激 に よ っ て 、第 二 胃 か ら 始 ま り ル ー メ ン 後 方 へ と 続 い て い く 収
縮 運 動( A 運 動 )を 誘 起 し 、反 芻 の 第 一 段 階 で あ る 吐 き 戻 し へ と
続 く 一 連 の 反 射 を 引 き 起 こ す ( 山 崎 , 19 98 )。
反芻の主要な役割は飼料の微細化とルーメン内への唾液の流
入 で あ る 。ル ー メ ン 内 飼 料 片 が ル ー メ ン か ら 下 部 消 化 管 へ 流 出 す
る た め に は 1. 18 m m 以 下 ま で 粒 度 縮 小 す る 必 要 が あ り ( Poppi et
al. , 1 980 ) 、 大 飼 料 片 の 微 細 化 に 対 す る 反 芻 時 咀 嚼 の 寄 与 率 は
50 % に 達 す る と 報 告 さ れ て い る (M cL eod and Mi nson, 1 988 )。 繊
維 質 の よ う に 遅 発 酵 性 の 飼 料 片 は 、反 芻 時 咀 嚼 に よ っ て 通 過 可 能
な サ イ ズ ま で 微 細 化 さ れ る 過 程 に よ り 、微 生 物 の 付 着 面 積 が 増 大
し 、そ の 結 果 発 酵 が 促 進 す る 。ま た 、濃 厚 飼 料 や 微 細 化 さ れ た 繊
維のような小飼料片はルーメンマットに取り込まれることでル
ー メ ン か ら の 通 過 が 遅 延 し 、消 化 率 が 向 上 す る と 考 え ら れ て い る
(Ta fa j et al. , 200 4 )。こ の よ う な 現 象 は fil t er b ed 効 果 と 呼 ば れ 、
ル ー メ ン マ ッ ト 機 能 の 一 部 で あ る と 認 識 さ れ て い る (Z eb eli et
al. , 201 2 )。
ル ー メ ン 内 で の 飼 料 の 発 酵 に よ っ て 揮 発 性 脂 肪 酸( VFA)な ど
の 有 機 酸 が 大 量 に 生 成 す る が 、こ れ ら の 酸 が 除 去 さ れ ず に 蓄 積 し
7
て し ま う と ル ー メ ン pH が 低 下 し 、亜 急 性 ル ー メ ン ア シ ド ー シ ス
( SARA)の 発 生 リ ス ク が 高 ま る (K ra use a nd O et zel , 2 0 06 )。VFA
はルーメン壁から吸収されるか唾液中に含まれる重炭酸塩によ
る 中 和 、重 炭 酸 、リ ン 酸 お よ び 酢 酸 等 の 緩 衝 物 質 に よ る 緩 衝 作 用 、
あるいはルーメン壁からの吸収や流出によって過度の濃度およ
び 酸 度 上 昇 が 抑 え ら れ る( 岡 本 , 19 79 )。し か し 、ル ー メ ン 絨 毛 が
未 発 達 で あ っ た り 唾 液 の 流 量 が 少 な け れ ば ル ー メ ン pH は 低 下 し
て し ま う 。唾 液 の 流 量 は 休 息 時 や 採 食 時 よ り も 反 芻 時 が 多 い の で
(Ba l ch,
1 958 ;
Bail ey
a nd
Bal ch,
19 61 ;
Bea uchemi n
a nd
Eri kse n, 2 008 )、 反 芻 時 間 が 延 び る ほ ど ル ー メ ン へ の 唾 液 流 入 量
も 増 加 し 、ル ー メ ン pH を 適 正 範 囲 に 維 持 す る の に 役 立 っ て い る
(O ka m ot o , 197 6 )。 し た が っ て 、 SA RA を 予 防 し ル ー メ ン 環 境 を
適 正 に 保 つ た め に は 、ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 と そ れ に 伴 う 十 分 な
反芻時間の確保が必要となる。
こ の よ う に 繊 維 質 は ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 し 、反 芻 活 動 を 活 発
化 す る 反 面 、過 剰 に 給 与 す る と ル ー メ ン 内 部 で の 長 時 間 滞 留 に よ
っ て D MI を 減 少 さ せ て し ま う の で 、 乳 牛 へ の 適 切 な 繊 維 給 与 量
の 検 討 が な さ れ て き た (Sudw eeks et al. , 19 81 ; Mert ens, 19 97 )。
反芻誘発刺激には飼料粒度と飼料中繊維含量が関連している
こ と か ら 、 Me rt e ns (1 997 ) は 物 理 的 有 効 繊 維 ( phy si ca lly
e ffectiv e N DF : pe NDF ) と い う 概 念 を 提 唱 し た 。 peN D F と は 飼
料 中 N D F 含 量 と 物 理 的 有 効 度 (phy si cal effectiv eness fa ct o r:
pe f)の 積 で 表 さ れ る こ と か ら 、飼 料 の 化 学 的 要 素( N D F )と 物 理
的 構 造 ( 粒 度 ) を 組 み 合 わ せ た 指 標 と な っ て い る (All en, 1 997 ;
Mert ens, 1 99 7 )。 pe f は 0 か ら 1 ま で の 範 囲 で あ り 、 0 と は 粉 砕
8
濃 厚 飼 料 由 来 の N DF の よ う に 物 理 的 有 効 度 が 一 切 な い こ と を 意
味 し 、 pe f が 1 と は 荒 く 切 断 し た 乾 草 由 来 ND F の よ う に 物 理 的
有 効 度 が 最 大 限 で あ る こ と を 意 味 す る 。 pef が 大 き い ほ ど ル ー メ
ン 内 容 物 の 階 層 化 、咀 嚼 活 動 お よ び ル ー メ ン 内 の 緩 衝 能 が 促 進 さ
れ る と 想 定 さ れ て い る (Al len, 19 97; Mert ens, 19 97 )。
peN D F 含 量 は 簡 便 に 測 定 で き 、 飼 料 の 物 理 的 有 効 度 を 客 観 的
に 把 握 で き る の で 、乳 牛 の 飼 料 設 計 に 組 み 込 む こ と に よ っ て 、繊
維給与量の適正値を決定する有効な手段になる可能性を秘めて
い る (Ze b eli et al. , 201 2 )。 繊 維 あ る い は peND F の 適 正 給 与 量 を
定めることは、高泌乳牛のように大量の穀類を摂取した場合の
S ARA 発 症 リ ス ク を 低 減 す る う え で 重 要 で あ る 。
peN D F は 繊 維 含 量 や 飼 料 片 粒 度 を 考 慮 し た 指 標 で あ る の で 、
ルーメンマットの形成に関与していると考えられている
(Me rt ens, 199 7 )。 peN DF を 適 正 量 含 む 飼 料 を 摂 取 し た 乳 牛 の ル
ー メ ン 内 容 物 は 階 層 化 し 、ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 の 二 層 に
分 か れ る と 認 識 さ れ て い る 。 peND F は ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 関
連があると認識されているものの、これを証明した研究はない。
ルーメンマットの性状については一部の研究者が測定を試みて
い る に 過 ぎ ず (Hi d a ri, 197 9, 198 1; Wel ch, 19 82 )、 マ ッ ト の 階 層
構 造 を 把 握 し た 研 究 は こ れ ま で に 存 在 し な い 。こ の た め 、peND F
がルーメンマット形成に関連するという一般的認識は実は仮説
に 過 ぎ な い 。ル ー メ ン 内 容 物 は 階 層 構 造 を 有 し て お り 、ル ー メ ン
背 嚢 部 に ’ra ft (
’ = ル ー メ ン マ ッ ト )が 浮 か ん で い る と い う 古 く か
ら 定 着 し た 概 念 (K e nnedy a nd Murphy, 1 988 )を 検 証 す る た め に
は 、ル ー メ ン マ ッ ト と そ の 下 側 に 位 置 す る 液 層 部 を 分 離 し 、そ れ
9
ら の 二 層 性 を 把 握 し な け れ ば な ら な い が 、マ ッ ト の 厚 さ や 非 マ ッ
ト層の深さを検討した研究はこれまで行われてこなかった。
peND F 摂 取 量 の 増 加 に よ っ て ル ー メ ン 内 環 境 が 健 康 に 保 た れ
る と い う こ と は 、 peN D F が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 と 関 連 の あ る 証
拠 で あ る か も し れ な い 。一 方 で 、最 近 の 総 説 (Zeb el i et al. , 2 01 2 )
で は 飼 料 中 pe N D F 含 量 や peNDF 摂 取 量 と 乳 牛 の 咀 嚼 活 動 、 ル
ー メ ン pH あ る い は 乳 生 産 と い っ た 反 応 の 間 に ば ら つ き が あ る こ
と が 指 摘 さ れ て い る 。こ れ は 飼 料 に よ っ て ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成
状 況 が 異 な る こ と を 反 映 し て い る の か も し れ な い 。繊 維 源 と し て
粗飼料を用いる場合と綿実殻や大豆皮のような食品製造副産物
を 用 い る 場 合 で は ル ー メ ン 生 理 に 及 ぼ す peND F の 効 果 が 異 な る
可 能 性 が あ る (Zeb eli et al. , 20 12 )。
以上のように、乳牛への繊維源の適正給与量を求めるために
peN DF は 優 れ た 指 標 で あ る と 考 え ら れ る が 、「 peND F 摂 取 → ル
ー メ ン マ ッ ト の 形 成 → 反 芻 誘 起 → ル ー メ ン 環 境 の 適 正 化 」と い っ
た 一 連 の 流 れ に お け る 、ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 と そ の 機 能 に 関 し
て 詳 細 な 検 討 が な さ れ な い ま ま 用 い ら れ て き た 。ル ー メ ン マ ッ ト
形 成 に と っ て 飼 料 中 peND F 含 量 が ど の 程 度 関 与 し て い る の か 、
ま た ル ー メ ン マ ッ ト は 反 芻 活 動 を 活 発 化 す る こ と で ル ー メ ン pH
を 適 正 に 保 つ 機 能 を 有 す る の か 、こ れ ら の 未 解 決 な 課 題 を 検 証 す
る こ と は 高 泌 乳 牛 の 繊 維 要 求 量 を 定 め る 上 で 不 可 欠 で あ る 。そ の
た め に は 、こ れ ま で 注 目 さ れ て き た も の の 定 量 化 さ れ て こ な か っ
たルーメンマットの構造を把握しなくてはならない。
そ こ で 本 研 究 で は ル ー メ ン マ ッ ト 構 造 の 実 態 を 把 握 し 、飼 料 の
10
違いがルーメンマット形成に及ぼす影響を明確にすることを目
的とし、以下の 3 点を検討課題とした。
1. ルーメンマットの立体構造の定量法確立
2 . 飼 料 中 peND F 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 関 係
3. 粗飼料由来繊維源および非粗飼料繊維源の給与とルーメン
マット形成の関係
11
1.2 . 従 来 の 研 究
1.2 .1 . ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造
反 芻 動 物 の 最 大 の 特 徴 は 、連 続 発 酵 槽 で あ る ル ー メ ン が 発 達 し
て い る こ と で あ る 。ル ー メ ン は 成 牛 で は 1 50L に も 達 す る 巨 大 な
器 官 で あ る (F o rbe s, 1 98 8 )。 内 容 物 に は 多 種 多 様 な 微 生 物 が 生 息
し て お り (O g im oto and Im ai , 19 81 )、 反 芻 動 物 は そ れ ら 微 生 物 に
よ る 発 酵 産 物 を 主 要 な エ ネ ル ギ ー 源 と し て 利 用 し て い る 。ル ー メ
ン微生物には繊維分解酵素を産生する種が多く存在するので
(Bow ma n a nd Fi rki ns, 1 99 3 )、 反 芻 動 物 は 人 間 が 消 化 で き な い
草資源をエネルギー源として生産活動を行うことが可能である。
ル ー メ ン 内 部 は ガ ス 層 と 内 容 物 に 分 け ら れ る 。背 嚢 部 の 上 部 空
間 に は 主 に 二 酸 化 炭 素 と メ タ ン か ら な る ガ ス 層 が 位 置 す る( 岡 本 ,
199 1 )。 ガ ス 層 下 部 に 位 置 す る 内 容 物 は ル ー メ ン 内 部 で 均 一 に 存
在 し て い る わ け で は な く 、ル ー メ ン 背 嚢 か ら 腹 嚢 に 向 か っ て 階 層
構 造 を 有 す る と い わ れ て い る ( 岡 本 , 19 91 )。
飼料摂取によって新規にルーメンに流入した飼料片は第二胃
内に浮かび、第二胃収縮によってルーメン背嚢に押し出される
(Wyb urn, 1 98 0 )。牛 で は 摂 取 さ れ た ば か り の 飼 料 片 は ル ー メ ン 背
嚢 に 送 り こ ま れ 、ル ー メ ン 腹 嚢 に 沈 ん だ 既 に 存 在 し て い た 飼 料 片
は 第 二 胃 に 送 ら れ る (Eva ns et al. , 1 9 73 )。こ の 新 規 に 取 り 込 ま れ
た 粒 子 径 が 大 き く 、比 重 の 軽 い 飼 料 片 は ル ー メ ン 背 嚢 部 で 堅 く 絡
ま り 合 っ て ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 す る (Va n Soest, 19 9 4)。ル ー メ
ン マ ッ ト の 構 造 は 飼 料 の 影 響 を 強 く 受 け る と 考 え ら れ て お り 、低
品 質 な 粗 飼 料 主 体 の 給 与 下 で は 厚 く 、堅 い マ ッ ト と な り 、高 品 質
な 飼 料 が 多 く な る に つ れ マ ッ ト の 厚 み が 減 じ 、ペ レ ッ ト や 濃 厚 飼
12
料 の み の 給 与 で は マ ッ ト は 消 失 す る と 考 え ら れ て い る (Wel ch,
198 2 )。
これまでにルーメン内の階層構造を把握するためにくつかの
取 り 組 み が な さ れ て き た 。 D esw y sen a nd Ehrlein (19 8 1)は 、 め
ん羊に硫酸バリウムでコーティングしたイネ科サイレージを摂
取させて嚥下食塊と内容物の階層化についてモニタリングした
( 図 1 -1 )。そ の 結 果 、比 重 の 軽 い サ イ レ ー ジ 食 塊 は 噴 門 部 に 貯 留
す る こ と な く 、第 二 胃 お よ び 前 筋 柱 の 収 縮 に よ っ て 速 や か に 背 嚢
あるいは後腹盲嚢に送られることが確認された。
13
Ma rt i n et al. (19 99 )は ル ー メ ン 内 の 3 つ の 異 な る 部 位 か ら 内
容 物 を 採 取 し 、固 層 付 着 微 生 物 の 繊 維 分 解 活 性 を 調 べ て い る 。そ
の 結 果 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 は 給 与 す る 飼 料 に よ っ て 変 化
し 、そ の 変 化 に 応 じ て 微 生 物 の 分 布 も 変 動 す る こ と を 認 め た 。微
生 物 相 が 変 動 す る と 繊 維 分 解 活 性 も 変 化 す る こ と か ら 、内 容 物 の
階層構造は飼料の消化や通過にも影響を及ぼすと推測される。
Ta faj et al. (2 001 , 2 00 4 )は ル ー メ ン 内 容 物 採 取 器 具 を 考 案 し
( 図 1 -2 )、 異 な る 深 度 の 内 容 物 を 採 取 し 、 そ の 性 状 を 調 べ て い
る 。ル ー メ ン 内 容 物 を 上 端 の 表 層 か ら 5-10 cm お よ び 2 5 -35 cm の
深 さ 、 お よ び 腹 嚢 の 底 か ら 5 -10 cm 上 側 の 3 層 に 分 け て 採 取 し 、
布 袋 に 入 れ て 手 で 搾 っ た 結 果 、上 層 部 内 容 物 は 袋 内 に 残 る 固 体 割
合 が 高 く 、下 側 に な る ほ ど 液 体 割 合 が 多 く な っ た 。さ ら に 、p H、
VFA お よ び 重 炭 酸 塩 濃 度 な ど の 発 酵 性 状 も 上 層 、 中 層 お よ び 下
層内容物でそれぞれ異なることが明らかとなった。
これらの研究は、ルーメン内容物の階層を明確に示しており、
ル ー メ ン マ ッ ト が 存 在 す る こ と を 示 唆 し て い る が 、ル ー メ ン マ ッ
ト と そ の 下 層 に 位 置 す る 液 層( 非 マ ッ ト 層 )と の 境 界 に つ い て は
論 じ て は い な い 。い く つ か の 研 究 で は (Ma rti n et al. , 1 999 ; Ta faj
et al. , 2 001 ; Ta fa j et al. , 200 4 )、 ル ー メ ン の 背 嚢 側 か ら 中 心 部
にかけて異なる深度でルーメン内容物の性状を検討しているが、
そ れ ら の 結 果 が ル ー メ ン マ ッ ト の 情 報 な の か 、そ の 下 側 の 非 マ ッ
ト 層 ま で を 含 ん だ 情 報 な の か 区 別 す る こ と は で き な い 。 Ta faj et
al. (20 04 )は 、自 ら の 装 置( 図 1 -2 )の サ ン プ リ ン グ 精 度 に 問 題 が
あ る こ と を 認 め 、ル ー メ ン 内 の 階 層 構 造 を 把 握 す る た め の 新 た な
14
測 定 法 の 開 発 を 求 め て い る 。そ の た め に は 、ル ー メ ン マ ッ ト と 非
マット層の境界を定める必要がある。
1.2 .2 . ル ー メ ン マ ッ ト の 機 能
ル ー メ ン マ ッ ト は 、ル ー メ ン 内 飼 料 片 の 滞 留 時 間 の 延 長 と そ れ
15
に 伴 う 消 化 の 促 進 ( Po ppi et al. , 198 0; Poppi et al. , 200 1 )や 反 芻
の 誘 起 (Ba umont et al. , 19 90 )と い っ た よ う に 、 生 産 性 に 直 接 的
に 作 用 す る 機 能 を 持 つ と 考 え ら れ て い る 。さ ら に 、ル ー メ ン マ ッ
ト 自 体 が 飼 料 片 の 絡 ま り 合 っ た 巨 大 な 塊 で あ り 、そ の 容 積 が ル ー
メ ン 内 部 空 間 を 占 有 す る こ と か ら 、採 食 量 の 物 理 的 調 節 に も 重 要
な 役 割 を 果 た し て い る と の 認 識 が 一 般 的 で あ る (J a rri g e et al. ,
198 6; D a do a nd Al len, 1 99 5; F orb es, 19 95 )。
Poppi et al. (2 001 )は バ ミ ュ ー ダ グ ラ ス の 茎 葉 を マ ー カ ー と し
て 育 成 雌 牛 の ル ー メ ン 背 嚢 に 挿 入 す る こ と で 、飼 料 片 が ル ー メ ン
背 嚢 か ら 離 脱 す る ま で の 速 度 、ル ー メ ン 腹 嚢 か ら 背 嚢 へ 飼 料 片 が
再 度 取 り 込 ま れ る 速 度 、お よ び ル ー メ ン 腹 嚢 か ら 第 三 胃 以 降 へ 流
出 す る 速 度 を 数 学 的 モ デ ル を 用 い て 算 出 し た 。モ デ ル の 解 析 結 果
か ら 、ル ー メ ン 背 嚢 に 取 り 込 ま れ た 飼 料 片 は そ こ か ら 離 脱 す る ま
で に 長 時 間 を 要 す る が 、ひ と た び 腹 嚢 に 移 行 す る と 速 や か に 第 三
胃 へ 流 出 し て し ま い 、再 び 背 嚢 へ 戻 る こ と は 困 難 で あ る と い う 結
論 が 得 ら れ た 。さ ら に 、Ta faj et al. ( 200 4 )は 、ル ー メ ン 内 容 物 中
の乾物と液体の比率は上層部の方が中層部や下層部よりも高く、
内容物乾物はルーメン上層部に偏って存在することを報告して
いる。
こ れ ら の 結 果 は fil te r b ed 効 果 (K ennedy a nd Murphy, 198 8 )
と称されるルーメンマット内部への飼料片取り込み機能の存在
を 示 唆 す る も の で あ る 。穀 物 は 一 般 に 比 重 が 重 い の で ( Si ci lia no Jo nes a nd Murphy, 19 91 )、 未 発 達 の マ ッ ト 層 で は fil t er bed 効
果 が 機 能 せ ず 、速 や か に 腹 嚢 部 へ と 沈 み 、未 消 化 の ま ま 下 部 消 化
管 へ と 流 出 し て し ま う と 考 え ら れ て い る ( F a i c h n e y, 1 98 0 ) 。 こ の
16
よ う に ル ー メ ン マ ッ ト の fi lt er bed 効 果 に つ い て は 広 く 認 識 さ れ
て い る も の の (Ca ll ison et al. , 20 01 )、こ れ ま で ル ー メ ン マ ッ ト を
含むルーメン内の階層構造の実態把握が実現していなかったた
めに、定量的に検討されたることはなかった。
ルーメンマットはルーメン背嚢壁に存在する機械受容器を刺
激 す る こ と に よ っ て 反 芻 を 誘 引 す る と 推 測 さ れ て い る ( Igg o a nd
Leek, 1 970 ; Col vi n et al. , 19 78 )。Col v in et al. (197 8 )に よ る と 、
葉部割合の高い柔軟な開花前アルファルファ生草先端部を給与
し た と き よ り も 、堅 い エ ン 麦 乾 草 を 給 与 し た と き の 方 が ル ー メ ン
の 収 縮 が 強 い こ と が 確 認 さ れ て い る 。Ba um ont et al. (199 0 )は め
ん羊のルーメン背嚢に浮かぶように直方体のポリスチレンキュ
ーブを多数投入したところ反芻時の胃運動が活発化したことか
ら 、液 層 に 浮 遊 す る ル ー メ ン マ ッ ト に よ っ て 背 嚢 面 に 加 え ら れ る
物 理 的 な 刺 激 が 中 枢 に 集 積 し 、反 芻 の 開 始 が 促 さ れ る と 考 察 し た 。
このようにルーメンマットの機能は乳牛の生産性に対して大
き な 役 割 を 担 っ て お り 、ま た 飼 料 の 特 性 に よ っ て そ の 働 き も 変 動
す る と 考 え ら れ て い る 。し か し 、こ の よ う に 重 要 な 機 能 を 有 す る
ル ー メ ン マ ッ ト で あ る が 、そ の 構 造 や 形 成 状 況 の 定 量 化 を 試 み た
研究は一部に限られる。
17
1.2 .3 . ル ー メ ン マ ッ ト 物 性 の 定 量 化
ルーメンマット物性の定量化についての試みはいくつかの研
究 で 試 み ら れ て い る に す ぎ な い 。Hi d a ri (1 97 9, 198 1 )は 、め ん 羊
のルーメン内容物を攪拌する際に生じる抵抗から堅さを測定し、
採 食 行 動 の 日 内 周 期 と の 関 係 を 考 察 す る こ と に よ り 、ル ー メ ン マ
ッ ト の 物 理 性 を 評 価 す る こ と が 可 能 で あ る と 報 告 し た( 図 1 -3 )。
こうして測定した抵抗値はルーメン内容物乾物量と高い相関が
あ り 、採 食 終 了 時 に は 高 く な り 、飲 水 や 反 芻 に よ っ て 堅 さ は 低 下
し た 。こ の 事 実 は 採 食 終 了 に 対 し て 、堅 さ で 表 さ れ る 内 容 物 の 物
理的性状が強い影響を及ぼしていることを示唆している(左,
197 9 )。 こ の 方 法 は 内 容 物 を 取 り 出 す こ と な く 内 容 物 の 堅 さ を 測
定 で き る 点 で 優 れ て い た が 、ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ に 装 着 す る ト ル
ク メ ー タ ー は シ ャ フ ト の 長 さ が 70 m m で あ る の で 、 堅 さ の 測 定
18
は ル ー メ ン 内 容 物 の 左 方 上 部 表 層 に 限 定 さ れ て お り 、飼 料 片 の 取
り込みや滞留などに影響するルーメンマットの厚さを計測する
ことは不可能であった。
ルーメンの底部に沈めた小さな重りをルーメンカニューレを
介して牛体外部につり下げた大きな重りに結びつけ、大きな重
りで小さな重りを引き上げる際の表層まで浮上するまでの時間
や 速 度 ( a sce nsi o n rat e, cm/ mi n) で ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ を 評
価 し た 研 究 も あ る ( Wel ch, 19 82; Vaa g e and Mi lli ga n, 1 9 93 )( 図
1-4 ) 。 W el c h ( 19 8 2 ) は タ イ プ の 異 な る 飼 料 で 浮 上 時 間 を 計 測 し
た と こ ろ 、 イ ネ 科 乾 草 : 3 00 - 90 0 秒 、 コ ー ン サ イ レ ー ジ : 90 - 20 0
秒 、 ア ル フ ァ ル フ ァ ペ レ ッ ト : 4 -2 1 秒 、 配 合 飼 料 : 60 - 1 3 0 秒 と な
り、イネ科乾草のように粗い飼料ではルーメン内容物が堅く詰
まっていることが示された。この装置を用いたルーメンマット
の 評 価 は そ の 後 い く つ か の 研 究 で 応 用 さ れ て い る ( Wei dner a nd
G ra nt, 1 994 ; All en a nd G ra nt , 20 00 ; Zeb el i et al. , 2 00 7)。 非 粗
飼 料 繊 維 源 で あ る 大 豆 皮 (Wei dner a nd G ra nt , 1 994 )あ る い は 生
コ ー ン グ ル テ ン フ ィ ー ド (Al len a nd G ra nt, 20 00 ) を 多 給 し た 飼
料 に 乾 草 を 加 え た り 、 乾 草 の 切 断 長 を 長 く す る こ と で ( Ze b e l i e t
a l . , 2 00 7 ) 、 重 り の 浮 上 速 度 減 少 、 す な わ ち ル ー メ ン 内 容 物 の 堅
さが増すことが認められた。この手法に関しても前述したトル
クメーターと同様にルーメン内容物の堅さを評価できるが、マ
ット層と非マット層からなる階層構造を分割できないので、得
られたデータは内容物全体の堅さになり、ルーメンマット自体
の 堅 さ と は い え な い 。ま た 、階 層 構 造 の 分 割 が で き な い 以 上 、マ
ットの厚さを把握することもできない。したがって、仮に重り
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の浮上速度が速かったとして、それが堅いマットであるが薄い
ために速やかに浮上したのか、マットの厚みはあるが全体とし
て軟らかいためにそうなったのか判断することができない。
こ の 他 に 、ル ー メ ン 内 容 物 を 直 接 採 取 す る こ と で ル ー メ ン マ ッ
ト を 評 価 し た 試 み も み ら れ る 。 Rob i nson et al. (1 987 ) や Zeb el i
et al. (200 7 )は 、 ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ 装 着 牛 か ら ル ー メ ン 内 容 物
を 全 量 採 取 す る 際 に 、手 で つ か ん で 取 り 出 せ る 部 位 ま で を ル ー メ
20
ン マ ッ ト 、手 で は つ か み 取 れ ず 容 器 で す く わ ね ば な ら な い 部 分 に
つ い て は 非 マ ッ ト 層 と 定 義 し た 。ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 を
分 離 す る 意 味 で は 意 義 深 い が 、客 観 的 に 分 離 で き て い る と は い え
ず、再現性に乏しいという欠点がある。
こ こ ま で 述 べ て き た よ う に 、従 来 の 方 法 は ル ー メ ン 内 容 物 の 堅
さ を 推 測 す る こ と は で き て も 、ル ー メ ン 内 容 物 を 階 層 構 造 と い う
観点からマット層と非マット層に分離することができなかった。
し た が っ て 、得 ら れ た 結 果 が ル ー メ ン マ ッ ト の み の 堅 さ で あ る か
否 か を 判 断 で き な い 。さ ら に ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ 自 体 を デ ー タ
と し て と ら え る こ と も 不 可 能 で あ る と い う 問 題 も 付 す る 。堅 さ だ
けではなくマットの厚さに関する情報が揃うことで初めてルー
メ ン マ ッ ト 機 能 の 総 合 的 な 評 価 が 可 能 に な る と 考 え ら れ る 。す な
わ ち 、ル ー メ ン マ ッ ト の 立 体 構 造 を 階 層 と し て 把 握 す る た め の 手
法の開発が必要である。
1.2 .4 . pe NDF 理 論 と 乳 牛 の 生 理 反 応 お よ び ル ー メ ン マ ッ ト 形 成
の関連
乳牛の給与飼料の粒度を大きくすると一般的には咀嚼活動が
促 進 さ れ 、そ の 結 果 、 緩 衝 能 の あ る 唾 液 分 泌 量 が 増 え る の で ル ー
メ ン pH が 安 定 化 す る (O kam oto, 19 76 )。つ ま り 飼 料 粒 度 の 上 昇
は 咀 嚼 活 動 を 介 し て SARA 予 防 に 効 果 的 で あ る 。一 方 で 、ビ ー ト
パルプのような食品製造副産物に含まれる非粗飼料繊維源は粒
度 が 細 か い も の が 多 く 、 同 じ ND F 含 量 で 比 べ た 場 合 に 粗 飼 料 由
来 の 繊 維 と 同 等 の 咀 嚼 刺 激 効 果 は 望 め な い (All en, 19 9 7)。こ の よ
う な 背 景 の も と 、高 泌 乳 牛 の 適 切 な 繊 維 要 求 量 を 定 め る た め に ル
21
ーメン内の分解性と咀嚼を刺激する物理的有効度を考慮した指
標 と し て pe N D F 理 論 が 提 唱 さ れ る よ う に な っ て き た ( Mert ens,
199 7 )。
peN D F は ル ー メ ン 発 酵 や そ れ に と も な う 酸 の 産 生 や 中 和 、 緩
衝 の バ ラ ン ス を 安 定 化 さ せ る た め に 、化 学 的 特 性( N D F )と 物 理
的 構 造( 粒 度 )の 二 つ の 要 因 を 組 み 合 わ せ た も の で あ り 、ル ー メ
ンマット形成を促進することを期待される繊維成分のパラメー
タ ー で も あ る (Mer tens, 1 99 7 )。peND F 理 論 が Mert ens ( 199 7 )に
よ っ て 提 唱 さ れ て 以 来 、北 米 を 中 心 と し て 測 定 手 法 の 開 発 や 乳 牛
の生理反応に及ぼす影響について精力的に研究がなされるよう
に な っ て き て い る (La mm ers et al. , 199 6; Buckma st er et al. ,
199 7; K ononoff et al. , 200 3a ; G ra nt et al. , 200 5 )。
peND F 理 論 が 普 及 し 研 究 が 進 む と 、 乳 牛 の 生 産 性 や 生 理 反 応
が 報 告 間 で 異 な る こ と が 明 ら か と な っ て き た (G rant et al. ,
200 5; Zeb el i et al. , 201 2 )。 た と え ば 、 peN DF 摂 取 量 の 増 加 に よ
っ て 咀 嚼 活 動 は 促 進 さ れ る が 、ル ー メ ン pH に 対 し て は 効 果 が な
い こ と が コ ー ン サ イ レ ー ジ 主 体 飼 料 (Kononoff a nd Heinri chs,
200 3b; Bea uchemi n and Yang, 20 05 )や ア ル フ ァ ル フ ァ ヘ イ レ ー
ジ 主 体 飼 料 (K ononoff a nd Hei nri chs, 20 03a )で 報 告 さ れ て い る 。
一 方 で 、 pe N D F は 咀 嚼 活 動 と SARA の 指 標 と し て 信 頼 で き る と
い う 報 告 も 少 な く な い (K ra use et al. , 20 02 b; Bea uchem in et al. ,
200 3; Tei m o uri Ya nsa ri et al. , 2 00 4 )。 さ ら に 、 採 食 量 、 消 化 率
お よ び 乳 生 産 に 対 す る peND F の 影 響 に つ い て も 多 く の 研 究 者 が
報 告 し て い る が (K r ause et al. , 200 2a ; K ononoff et al. , 200 3b;
Plai zier et al. , 20 04; Yang a nd Bea uchem in, 2 00 5 )、 統 一 的 な
22
結 論 を 得 る こ と が で き て い な い 。こ の よ う な 結 果 の 不 一 致 が 生 じ
る の は 、peND F と ル ー メ ン 機 能 と の 間 に は 、採 食 量 、咀 嚼 活 動 、
ル ー メ ン 内 飼 料 片 の 通 過 速 度 、ル ー メ ン 発 酵 な ど 、そ れ ぞ れ 複 雑
で 非 直 線 的 な 関 係 が 介 在 す る か ら で あ ろ う (Ta faj et al. , 200 5;
Zeb eli et al. , 200 6 ; Ta fa j et al. , 20 07 )。
ま た 、混 合 す る 粗 飼 料 の 切 断 長 が 長 す ぎ る と 乳 牛 は 飼 料 中 の 微
細な構成成分を選択的に採食することが報告されている
(DeVri es et al. , 20 07; Pa rk and O ka mot o, 20 08 )。 微 細 飼 料 片 に
は 穀 物 が 多 く 含 ま れ る た め 、 peND F 含 量 が 高 す ぎ る と 選 択 採 食
が 助 長 さ れ 、結 果 的 に ル ー メ ン pH 低 下 と い っ た 悪 影 響 が 懸 念 さ
れ る (Mi ll er-Cushon a nd D eVries, 20 09 )。
飼 料 中 pe N DF 含 量 や peND F 摂 取 量 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 と
の 関 連 を 検 討 し た 研 究 は 見 当 た ら な い 。 厳 密 な peND F と は 異 な
る が Ze b eli et al. (200 7 )は 飼 料 を 湿 式 篩 別 し 、 1 .18 m m 以 上 篩 に
残 留 し た 乾 物 ( D M>1.18mm) を 物 理 的 有 効 度 を 有 し た 分 画 で あ る
と想定し、咀嚼活動やルーメンマット性状との関連を考察した。
彼らのルーメンマットの定義方法は前述したルーメン内容物を
全量採取する際に手で取り出せる固体をルーメンマットとした
も の で あ る 。試 験 の 結 果 、総 内 容 物 重 量 に 対 す る ル ー メ ン マ ッ ト
重 量 の 割 合 は 高 粗 濃 比 飼 料 で 増 加 し た が 、飼 料 粒 度 の 違 い と は 無
関 係 で あ っ た 。ま た 、飼 料 中 D M > 1 . 1 8 m m 含 量 と 総 内 容 物 に 占 め る
ルーメンマット割合との間には直線的な関係は認められなかっ
た 。彼 ら の 研 究 で は 、ル ー メ ン マ ッ ト の 定 量 法 に 検 討 の 余 地 が あ
る こ と に 加 え 、 pe ND F と ル ー メ ン マ ッ ト を 含 む ル ー メ ン 内 容 物
の階層構造との関係は未検討である。
23
1.2 .5 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 関 連
食 品 製 造 副 産 物 や 農 産 副 産 物( 以 下 、副 産 物 )に 含 ま れ る 非 粗
飼 料 繊 維 源 は 乳 牛 の 炭 水 化 物 源 と し て 重 要 で あ る 。非 粗 飼 料 繊 維
源 は 繊 維 と し て の 特 性 に 加 え 、発 酵 速 度 が 速 い た め に エ ネ ル ギ ー
源 と し て 穀 物 飼 料 と の 代 替 が 可 能 で あ る 。し か し 、非 粗 飼 料 繊 維
源 は 粒 子 が 細 か く 、易 発 酵 性 の 繊 維 で あ る こ と か ら 、粗 飼 料 と 比
べ て 咀 嚼 時 間 (Mooney a nd All en, 1 997 ) や 乳 脂 率 (Sw ai n a nd
Arm ent ano , 1 99 4 ) を 維 持 す る た め の 物 理 的 有 効 度 は 低 い と 考 え
られている。
複数の研究者が粗飼料の一部を副産物で置き換えると不十分
な ル ー メ ン マ ッ ト し か 形 成 さ れ な い と 考 え て お り ( Wei dner a nd
G ra nt, 1 99 4; G ra nt, 199 7; Zeb eli et al. , 201 2 )、 そ れ が 事 実 で あ
れ ば 適 切 な ル ー メ ン 発 酵 を 維 持 す る こ と は 困 難 で あ る ( Zeb eli et
al. , 201 2 )。
副産物を非粗飼料繊維源として用いることによる乳牛の生産
性 に 関 す る 反 応 に つ い て は 研 究 に よ っ て 結 果 が 異 な る 。粗 飼 料 を
非粗飼料繊維源で置き換えることによって咀嚼活動の減少
(Cl a rk and Arm e nta no, 19 97 ; Mooney a nd All en, 19 9 7)、 あ る
い は 乳 脂 率 (Swa i n and Armenta no, 1 994 ; Cla rk a nd Ar menta no,
199 7 )や ル ー メ ン p H (Zhu et al. , 199 7 ; K ononoff a nd Hei nri chs,
200 3b )の 低 下 と い っ た 反 応 が み ら れ た 一 方 で 、乳 生 産 や 乳 成 分 率
に 対 し て 何 ら 影 響 し な か っ た と す る 報 告 も あ る ( Al len a nd
G ra nt, 2 000 )。
このように副産物の給与と乳牛の生産性の関係については依
24
然 不 明 な 点 が 多 い が 、こ れ に は ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 程 度 の 違 い が
関 係 し て い る か も し れ な い 。実 際 、Wei dner and G ra nt (199 4 )は 、
Wel ch (1 982 ) の 重 り の 浮 上 速 度 を 用 い た 方 法 に よ っ て ル ー メ ン
内 容 物 の 堅 さ を 計 測 し 、ア ル フ ァ ル フ ァ サ イ レ ー ジ お よ び コ ー ン
サ イ レ ー ジ の 4 0 % を 大 豆 皮 2 5 %で 置 き 換 え た と こ ろ 、 給 与 6 時
間 後 に ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ が 57% 減 少 し た と 報 告 し て い る 。
こ の 他 、非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て 綿 毛 の つ い た 全 粒 綿 実 と ア ル フ ァ
ル フ ァ 乾 草 や ワ ラ を 比 較 し た 研 究 (E ast ri dg e et al. , 2 0 09 )や 生 コ
ーングルテンフィードとアルファルファサイレージおよびアル
フ ァ ル フ ァ 乾 草 を 比 較 し た 研 究 (Al len and G ra nt, 20 0 0) に お い
て も 、We l ch (1 982 )の 方 法 を 用 い て ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ が 計 測
さ れ 、同 様 に 非 粗 飼 料 繊 維 源 を 多 給 す る と ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ
が 減 少 す る と 述 べ ら れ て い る 。し か し 、こ れ ら 欧 米 の 研 究 は ル ー
メ ン マ ッ ト 形 成 を 厳 密 に 把 握 し て い な い 上 に 、粗 飼 料 と し て ア ル
フ ァ ル フ ァ を 用 い て お り 、我 が 国 で 一 般 的 に 用 い ら れ る イ ネ 科 牧
草を粗飼料源とした検討はなされていない。
G ra nt a nd Cota nch (201 2 )は 、 All en and G ra nt (20 00 )を 引 用
し 、非 粗 飼 料 繊 維 源 を 多 給 す る と ル ー メ ン マ ッ ト が 薄 く な り 、ル
ー メ ン か ら の 飼 料 片 通 過 速 度 が 早 ま り 、結 果 的 に は 乳 生 産 に ま で
影 響 が 及 ぶ と 論 じ た( 図 1 -5 )。彼 ら は 、ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ や
堅さといった物理性が飼料片の通過や消化に影響を及ぼすであ
ろ う こ と を 重 要 視 し 、今 後 開 発 さ れ る 飼 料 設 計 プ ロ グ ラ ム に お け
る ル ー メ ン 内 繊 維 消 失 動 態 モ デ ル に は 、ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 状
況をパラメーターとして組み込むべきであると提案している。
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上記の研究はいずれも非粗飼料繊維源を多給することでルー
メ ン マ ッ ト の 階 層 構 造 が 不 安 定 に な り 、生 産 性 に ま で 悪 影 響 が 及
ぶ こ と を 推 察 す る も の で あ る 。こ の 論 理 は 一 見 す る と 的 を 射 て い
る よ う に 感 じ ら れ る が 、前 提 と な る ル ー メ ン マ ッ ト の 定 量 法 に 問
題 が あ り 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 把 握 が 適 切 で あ る と は 言 い
切 れ な い 。ル ー メ ン の 底 に 沈 め た 重 り が 内 容 物 表 層 ま で 浮 上 す る
時間や速度ではルーメン内の階層構造を正確に把握できないか
ら で あ る 。高 泌 乳 牛 用 飼 料 と し て 非 粗 飼 料 繊 維 源 の 重 要 性 は 増 し
て い る こ と か ら 、そ の 給 与 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 関 係 に つ い て
は精査する必要がある。
26
2. ル ー メ ン マ ッ ト の 定 量 方 法 の 検 討
2.1 . 目 的
ルーメンマットは乳牛の消化生理上極めて重要な存在である
と 考 え ら れ て い る が 、そ の 物 理 的 構 造 把 握 は 不 十 分 な ま ま 取 り 残
さ れ て き た 。ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 を 壊 す こ と な く 、何 ら か
の物理的指標を用いて内容物を背嚢部から腹嚢部に向けて垂直
方向に表現することが困難であったからである。
従来の手法ではルーメン内容物全体の堅さについてはある程
度 の 評 価 は 可 能 で あ っ た も の の 、ル ー メ ン マ ッ ト と そ の 下 側 の 非
マ ッ ト 層 を 分 離 し 、そ れ ぞ れ の 厚 さ や 堅 さ に つ い て 論 じ る こ と は
不 可 能 で あ っ た 。 Hi d a ri ( 1 97 9 , 1 9 81 ) の 手 法 は ル ー メ ン マ ッ ト の
堅 さ を 数 値 で 表 せ る こ と は 優 れ て い る が 、そ の 情 報 は ル ー メ ン フ
ィ ス テ ル に 隣 接 し た 内 容 物 表 層 に 限 ら れ て い た 。内 容 物 表 層 の 堅
さ に と ど ま ら ず 、そ の 堅 さ の 分 布 を ル ー メ ン 背 嚢 か ら 腹 嚢 に か け
て 縦 断 的 に 評 価 で き れ ば 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 を 把 握 す る
こ と が 可 能 と な り 、マ ッ ト 層 の 厚 み や ル ー メ ン 内 容 物 の 消 失 動 態
を検討する上で有意義な情報が得られると予想される。
本章ではルーメン内容物の堅さや深さを経時的かつ簡便に測
定する目的で、土壌硬度の評価指標である貫入抵抗の測定原理
( 吉 田 , 198 9 ) に 着 目 し 、 ル ー メ ン 内 容 物 貫 入 抵 抗 測 定 装 置 の 開
発 と 検 証 に 取 り 組 み 、得 ら れ た デ ー タ の 解 析 方 法 に つ い て 検 討 し
た。
27
2.2 . 土 壌 の 貫 入 抵 抗 測 定 法
土 壌 の 硬 軟 の 程 度 を 土 壌 硬 度 と い い 、土 壌 硬 度 を 測 定 す る 際 に
多く用いられる手法として山中式土壌硬度計を用いた硬度測定
法 ( 山 中 式 , 図 2 -1 ) や コ ー ン ペ ネ ト ロ メ ー タ を 用 い た コ ー ン 貫
入 抵 抗 測 定 法 ( コ ー ン ペ ネ 法 , 図 2 -2 ) が 代 表 的 で あ る ( 吉 田 ,
198 9; 古 賀 , 2 00 4 )。
山 中 式 は 、 高 さ 4 0 mm 、 底 径 1 8 mm 、 頂 角 1 2°40 ′ の 円 錐 部
を土壌断面に完全に押し込んだ際の表面硬度を測定するのに対
し て( 群 馬 県 農 政 部 , 200 4 )、コ ー ン ペ ネ 法 は 通 常 は 1 m の ロ ッ ド
( コ ー ン )を 土 層 に 直 接 深 く 貫 入 し た と き の 抵 抗 を 測 定 す る も の
で あ る( 古 賀 , 20 04 )。前 者 は 土 壌 の 構 造・緻 密 さ を 直 接 反 映 し た
堅 さ を 測 定 し て い る こ と に な る が 、後 者 は 土 層 に 直 接 貫 入 し た と
きの抵抗を測定するので、コーンは側方からの土圧(摩擦抵抗)
を 受 け る こ と に な っ て し ま い 、力 学 的 内 容 は や や 複 雑 に な る( 吉
田 , 198 9 )。 コ ー ン ペ ネ 法 に お け る ロ ッ ド と 土 の 間 の 摩 擦 抵 抗 が
28
増 え る と 、コ ー ン 貫 入 抵 抗 値( q c 値 )が 過 大 に な る 可 能 性 が あ る
の で 、こ れ を 避 け る た め に 二 重 管 式 コ ー ン ペ ネ ト ロ メ ー タ が 用 い
ら れ る 場 合 も あ る ( 古 賀 , 20 04 )。
2.3 . ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 装 置 の 開 発
本 研 究 で は 、ま ず 最 初 に 土 壌 の 貫 入 抵 抗 測 定 法 を 応 用 し て 、ル
ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ 測 定 の 可 能 性 を 検 討 し た 。当 初 、上 述 し た 既
製の土壌硬度測定計をルーメン内容物の堅さ測定に転用できな
い か と 検 討 し た が 、山 中 式 で は コ ー ン 全 長 が 短 い た め に 測 定 深 度
が 浅 す ぎ る こ と 、逆 に コ ー ン ペ ネ 法 で は ロ ッ ド サ イ ズ が 大 き く か
つ鋭すぎるため牛への適用は危険であると判断された。そこで、
土壌硬度測定法の原理を活用した独自のルーメン内貫入抵抗測
29
定装置の開発を行った。
ルーメンマットの性状を計測するために必要な情報は堅さと
ロ ッ ド が 侵 入 し た 深 度 で あ る の で 、装 置 を 構 成 す る セ ン サ ー と し
て ひ ず み ゲ ー ジ 式 の 圧 力 計 と 変 位 計 を 選 択 し た 。装 置 開 発 に お い
て 重 要 視 し た 点 は 、ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ 装 着 牛 の フ ィ ス テ ル を 介
して貫入抵抗と貫入深度の測定を並行して実施可能であること
で あ っ た 。ル ー メ ン の 最 大 深 度 は 50 cm か ら 1 m 程 度 と 想 定 さ れ
る こ と か ら 、ル ー メ ン 内 容 物 表 層 か ら 腹 嚢 底 部 に か け て 堅 さ と 深
度 を 連 続 測 定 す る た め に 、10 0 mm ス ト ロ ー ク の 変 位 計 を 用 い て 、
内 容 物 表 層 か ら 底 部 に 到 達 す る ま で 100 mm ご と に 断 続 的 に 貫 入
を 繰 り 返 し 測 定 す る 装 置 を 開 発 し た 。す な わ ち 、圧 力 計 で ロ ッ ド
貫 入 時 の 内 容 物 の 堅 さ を 、変 位 計 で ロ ッ ド の 深 度 を 連 続 し て 測 定
しようとするものである。
装 置 の 構 造 を 図 2 -3 に 、外 観 を 図 2 - 4 に 示 し た 。本 体 部 分 は ひ
ず み ゲ ー ジ 式 荷 重 変 換 器 ( LM A - A - 5 0 N 型 ; 共 和 電 業 、 東 京 ) と
ひ ず み ゲ ー ジ 式 変 位 変 換 器 ( ス ト ロ ー ク : 1 00 m m 、 D T H- A - 10 0
型 ; 共 和 電 業 、東 京 )か ら な り 、本 体 か ら 伸 び る プ ッ シ ュ ・ プ ル
ケ ー ブ ル ( 4 . 5m 、 H I- LE X ; 日 本 ケ ー ブ ル ・ シ ス テ ム 株 式 会 社 、
兵 庫 )を 介 し て ル ー メ ン 内 挿 入 用 の ロ ッ ド( 1 m )へ と つ な が る 。
ロッドを貫入する際のルーメン内容物との摩擦抵抗を除去する
た め に 、外 筒 を 装 着 し た 二 重 管 式 構 造 と し た 。本 体 部 の ハ ン ド ル
を回すことによりプッシュ・プルケーブルの先端とそれにつな
が る ロ ッ ド が 最 大 10 0m m 伸 張 し 、ロ ッ ド 先 端 の 貫 入 抵 抗 荷 重 と
変 位( 貫 入 深 度 )を 感 知 す る 。得 ら れ た ア ナ ロ グ 信 号 を ひ ず み 電
30
31
圧 計 測 ユ ニ ッ ト( NR-500 , N R-ST0 4; キ ー エ ン ス 、東 京 )で デ ジ
タ ル 信 号 に 変 換 し 、コ ン ピ ュ ー タ ー に 入 力 さ せ た 。貫 入 抵 抗 荷 重
と貫入深度はリアルタイムでコンピューターディスプレイに表
示 さ れ 、同 時 に デ ー タ と し て 記 録 さ れ た 。単 位 は 荷 重 が N( ニ ュ
ー ト ン )、深 度 が m m( ミ リ メ ー ト ル )で あ る 。P C へ の デ ー タ サ
ン プ リ ン グ 間 隔 は 0. 5 秒 と し た 。な お 、貫 入 抵 抗 荷 重 に は プ ッ シ
ュ・プ ル ケ ー ブ ル 自 体 が 持 つ 抵 抗 荷 重 も 含 ま れ る の で 、測 定 に 先
立 っ て 空 中 で 複 数 回 ブ ラ ン ク 測 定 を 行 い 、実 際 の 測 定 デ ー タ か ら
ブランク荷重の平均値を差し引くことで補正を行った。
装置の開発と平行して、ルーメン内貫入抵抗測定試験をルー
メンフィステル装着ホルスタイン種乳牛を用いて、繰り返し試
行した。試行を繰り返す中で不具合が見つかり、測定方法が確
立するまでにいくつかの改良を加えることとなった。
当 初 、本 測 定 装 置 は ロ ッ ド 単 独 で 貫 入 を 行 う 構 造 で あ っ た が 、
コーン先端のみの抵抗を検知可能とするために外筒を取り付け
た二重管式とした。また、貫入過程においてロッドがぶれるこ
とを防ぐために、ルーメンカニューレにロッドを固定するガイ
ドを取り付けた。さらに大きな検討課題として、当初はロッド
の挿入が直接手押しするレバー式であったことから、挿入速度
を 一 定 に す る こ と が 出 来 ず 、圧 力 に 高 低 の ば ら つ き が み ら れ た 。
そこで、新たにレバーを押し込むためのハンドルを装着し、ハ
ンドルを回しながらレバーを押し込む方式に変更することで速
度の不均一さを解決した。しかし、ハンドル方式にすることで
ハンドルを巻き戻すための時間がかかるため、釣具用リールを
応用した器具を製作して、押し切ったハンドルを素早く戻すこ
32
とを可能にした。
2 . 4. ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 手 順 お よ び 解 析 方 法
ルーメン内貫入抵抗測定は二人でおこない、一人が牛の側面
に立ちロッド先端をルーメンカニューレを介して内容物表層に
固定し、もう一人が測定装置本体のハンドルを回してロッドを
貫 入 さ せ た ( 図 2-5) 。
1 回 当 た り 10 0m m の 貫 入 と な り 、 1 貫 入 終 了 後 は そ の 場 で ロ
ッド先端が動かないように固定したままハンドルを戻し、再び
33
測 定 可 能 な 状 態 に 戻 し た 。ハ ン ド ル を 回 す 速 度( 貫 入 速 度 )に よ
っ て ロ ッ ド 先 端 の 荷 重 が 変 化 す る の で 、貫 入 速 度 は 毎 秒 3 m m 程
度とした。ロッド先端がルーメン腹嚢の底に到達するまで貫入
動作を繰り返した。貫入開始から終了までに要する時間はおよ
そ 1 0 分 弱 で あ っ た 。ロ ッ ド は ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ か ら ル ー メ ン
腹嚢の底に向けて挿入したので、挿入角度は垂直にはならず、
地 面 に 対 し て お よ そ 7 0 ~ 75 度 で あ っ た 。ル ー メ ン 内 容 物 の 深 さ
は測定の直前に定規をルーメンカニューレより挿入することに
より計測した。定規の挿入角度についてもロッドと同様であっ
た。なお、内容物の堅さを正確に測定するためにロッドの挿入
は定規挿入部位からずらして挿入し、挿入中に第一・二胃収縮
が生じた際には測定を一旦中断し、収縮過程が終了した後に再
開した。
貫 入 抵 抗 測 定 時 の 典 型 的 な 波 形 デ ー タ を 図 2-6 に 示 し た 。 画
面上段の黄色の波形がコーン貫入抵抗荷重、下段の青色の波形
が コ ー ン 先 端 部 の 変 位 を 表 す 。 1 回 の 貫 入 は 1 0 0m m で 終 了 し 、
準備のためのインターバルを経た後、その深度から次の貫入を
行った。測定直前に定規で計測した深度と荷重の増加からルー
メン腹嚢に達したことを判断し、操作を終了した。ルーメン底
部にロッド先端が到達すると荷重が急増するので、荷重が増す
直 前 ま で を 測 定 デ ー タ と し て 採 用 し た 。 図 2-6 で は 、 画 面 左 か
ら右に向かってルーメン深度が増していき、それに伴い画面上
段の波形の高さが低下、すなわち抵抗荷重が弱まっていくこと
が示されている。
34
得 ら れ た 貫 入 抵 抗 荷 重 か ら コ ー ン 貫 入 抵 抗 値 qc を 計 算 し た 。
計 算 式 は 次 式 の 通 り で 、 単 位 は N / cm 2 で 表 し た ( 古 賀 2 00 4 ) 。
𝐹𝐹
𝑞𝑞𝑐𝑐 = 𝐴𝐴
こ こ で 、F は 貫 入 抵 抗 荷 重( 応 力 、N )、A は コ ー ン 断 面 積( c m 2 )
を 表 す 。F に つ い て は 、前 述 し た 通 り 測 定 結 果 か ら ブ ラ ン ク 荷 重
を差し引いて補正した。また、ロッド先端のコーンに相当する
部材として本測定装置では、ルーメン壁を傷つけないために先
35
端 が 球 状 に な っ て い る 六 角 袋 ナ ッ ト M5( ナ ッ ト の 1 辺 の 長 さ :
4 . 6m m )を 用 い た の で 、コ ー ン 断 面 積( A )は 0 . 55 c m 2 と な っ た 。
q c 値 は 1 00 m m ご と に 集 計 し 、そ の 区 間 の 平 均 を 算 出 し た( 以
下 、 cm で 表 す ) 。 た と え ば 、 ル ー メ ン の 深 度 が 65 ㎝ で あ れ ば 、
q c 値 は 0 ~1 0 cm 、1 0 ~2 0 cm 、2 0 ~3 0 cm・・・ 、6 0 ~ 70 c m の 7 個 得 ら
れる。ルーメン上部に位置するマット層とその下部に存在する
スラリー状の非マット層の二層性を確認するために、測定ごと
に q c 値 と 深 度 の 関 係 を 図 示 し 、 大 塚 と 吉 原 ( 1 9 75 ) の 折 れ 線 モ
デルをあてはめて折曲点の算出を試みた。折れ線モデルは区間
(x 1 , x j - 1 ) で ひ か れ た 第 1 直 線 と 、 区 間 (x j , x k ) で ひ か れ た 第 2 直 線
がともに傾斜している場合のタイプ 3 を採用し、二つの直線の
交 点 ( 折 曲 点 ) の x 座 標 I が 区 間 ( x j - 1, x j ) の 中 に あ る と し て
解 析 を 行 っ た( 大 塚 と 吉 原 , 19 7 5 )。折 曲 点 が 存 在 し た 場 合 に は 、
折 曲 点 よ り 上 部 ( qc 値 の 大 き い 部 分 ) を マ ッ ト 層 、 下 部 ( qc 値
の小さい部分)を非マット層と定義した。折曲点が区間内に収
まらない場合にはマット層と非マット層を区分する明瞭な境目
が存在しないと判断した。
ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 を 分 割 す る た め の qc 値 と 深 さ の
関 係 を 図 2 -7 に 示 す 。 た と え ば 図 2 - 7 で は 、 直 線 1 を 0 cm か ら
5 0 c m 、直 線 2 を 5 0 c m か ら 7 0 cm と し た と き 、両 直 線 の 残 差 平 方
和が最低となり最もあてはまりが良かった。この場合に実際の
2 本 の 直 線 の 交 点 ( 折 曲 点 ) I を 求 め る と 深 さ が 5 0. 8 c m と な り 、
そ の と き の q c 値 は 2 3. 9 N/ c m 2 と な っ た 。
36
2 . 5. ル ー メ ン マ ッ ト 定 量 法 の 検 証
2. 5. 1 . 目 的
前 節 ま で に 開 発 し た ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 装 置 を 用 い て 、ル
ーメンマット定量法の検証を行った。
非 泌 乳 牛 に 対 し て 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 に 影 響 を 与 え る
と 想 定 さ れ る 特 徴 の 異 な る 4 種 の 飼 料 を 摂 取 さ せ 、ル ー メ ン 内 貫
入 抵 抗 測 定 試 験 を 実 施 し 、ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 的 性 状 の 違 い や
ルーメンマット形成状況の把握が可能であるか評価した。
2 . 5. 2 . 材 料 と 方 法
本研究は酪農学園大学附属農場において実施した。
37
2. 5. 2 .1 .
供試動物
ルーメンカニューレを装着したホルスタイン種非泌乳牛 2 頭
を 供 試 し た ( 平 均 体 重 9 57 .9 kg )。
2. 5. 2 .2 .
供試飼料
飼 料 は ① 放 牧 地 草( G G )、② 放 牧 地 草 + イ ネ 科 主 体 ロ ー ル ベ ー
ル サ イ レ ー ジ( G G +G S)、③ イ ネ 科 主 体 ロ ー ル ベ ー ル サ イ レ ー ジ
( G S) お よ び ④ 高 泌 乳 牛 用 混 合 飼 料 ( T MR) の 4 通 り と し た 。
T MR は 乳 量 3 7 kg / 日 、 乳 脂 肪 率 4 .0 % で 設 計 し ( T DN 74 .4 %, CP
15. 4 %、 N DF 3 6. 3 %)、 バ ン カ ー サ イ ロ で 調 製 し た イ ネ 科 細 切 サ
イ レ ー ジ 、コ ー ン サ イ レ ー ジ 、配 合 飼 料 、 ビ ー ト パ ル プ 、圧 ぺ ん
ト ウ モ ロ コ シ 、大 豆 粕 、醤 油 粕 、ア ン 粕 を 混 合 し た も の で あ っ た 。
全 て の 飼 料 は 自 由 採 食 と し 、水 と 固 形 塩 は 自 由 摂 取 で あ っ た 。放
牧 地 草 を 除 く 各 飼 料 は 午 前 10 時 を 目 安 に 毎 日 1 回 給 与 し た 。
2. 5. 2 .3 .
試験設計と飼養管理
GG 給 与 期 お よ び GG +G S 給 与 期 は 放 牧 地 で の 昼 夜 放 牧 と し 、
GS 給 与 期 は 乾 乳 牛 用 フ リ ー バ ー ン 、T MR 給 与 期 は 自 動 搾 乳 牛 舎
の フ リ ー ス ト ー ル で そ れ ぞ れ 舎 飼 い 飼 養 し た 。各 期 い ず れ も 酪 農
学 園 大 学 附 属 農 場 の 通 常 管 理 下 で 行 っ た た め に 、供 試 牛 以 外 の 一
般 管 理 牛 も 混 在 す る 牛 群 で あ っ た 。貫 入 抵 抗 測 定 試 験 は 各 飼 料 給
与 開 始 か ら 10 日 間 以 上 の 馴 致 期 間 を 経 た 後 に 実 施 し た 。
2 .5 . 2. 4.
測定項目
ルーメン内貫入抵抗測定試験は飼料給与直前と給与後 3 時間
38
の 2 度 実 施 し た 。G G 飼 料 に つ い て は 朝 の 採 食 が 活 発 に な る 5 時
を 給 与 直 前 と 設 定 し た 。 G G + GS 飼 料 は GS の 給 与 時 刻 を 起 点 と
し た 。 測 定 項 目 は ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ ( qc 値 ) と 深 さ ( cm)
とした。測定方法および貫入抵抗値の算出法は先に述べた通り
であった。
各測定日に合わせて給与飼料のサンプリングも行った。
2 .5 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼 料 は す べ て 60 ℃ で 4 8 時 間 送 風 乾 燥 し た 後 に 粉 砕 し 、分 析 に
供 し た 。乾 物( D M)お よ び 粗 タ ン パ ク 質( CP )、の 分 析 は AO AC
(1 99 9 )に 準 拠 し た 。中 性 デ タ ー ジ ェ ン ト 繊 維( N DF )は Van Soest
et al . (19 91 )の 方 法 に 従 っ た 。 表 2 -1 に 飼 料 の 化 学 成 分 含 量 を 掲
載した。
貫入抵抗測定試験の集計結果を用いてルーメンマットと非マ
ッ ト 層 に 分 割 し 、そ れ ぞ れ の 深 度 を 算 出 し た 。算 出 方 法 に つ い て
は 前 述 し た 通 り で あ っ た ( 図 2 -7 参 照 )。 各 飼 料 給 与 時 の 貫 入 抵
抗 測 定 時 の P C 表 示 波 形 デ ー タ の 一 部 を 図 2 -8 に 、堅 さ と 深 さ の
関係に対して折れ線グラフをあてはめたルーメンマットの検出
結 果 の 一 部 を 図 2 -9 に 示 す 。
39
Table 2-1 Chemical composition of diets
GG
GS
TMR
DM, %
CP, % DM
NDF, % DM
24.0
22.2
45.3
75.5
15.1
58.9
42.4
15.4
36.3
TDN1 , % DM
72.4
57.6
74.4
GG: grazing grass; GG+GS: grazing grass and grass
silage; GS: grass silage; TMR: total mixed ration for high
yielding lactating cow
DM: dry matter; CP: crude protein; NDF: neutral detergent fiber; TDN:
total digestible nutrients.
1
TDN was analyzed by the Agricultural Product Chemical Research
Laboratory in the Tokachi Federation of Agricultural Cooperatives using
estimated equations of NRC (2001).
40
41
2. 5. 3 . 結 果 お よ び 考 察
各 測 定 日 に お け る ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 試 験 の 結 果 を 表 22 に ま と め た 。 ル ー メ ン 総 内 容 物 の 堅 さ は G S 、 GG + G S 、 G G の
順 で 低 下 し 、 TMR は 極 端 に 低 い 値 と な っ た 。 内 容 物 の 深 さ に つ
い て は GG の み が 他 の 3 処 理 よ り も 若 干 浅 く な る 傾 向 を 示 し た 。
ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は GS が 最 も 堅 く 、 G G と G G + GS が そ れ
に 続 く 値 と な り 、 TM R は G S の お よ そ 1 / 3 ほ ど の 堅 さ で あ っ た 。
Table 2-2 Summary of penetration resistance test in cows.
GG
GG+GS
GS
TMR
SE
Total rumen digesta
qc value 1, N/cm2
Depth, cm
9.1
52.8
10.2
59.9
13.0
61.0
4.5
59.5
2.6
1.3
10.4
36.8
10.9
48.9
15.8
32.5
5.5
35.1
3.1
4.0
7.39
16.0
5.88
11.2
8.18
28.5
4.30
22.2
1.19
4.1
Ruminal mat 2
qc value, N/cm2
Thickness, cm
Non-mat material 3
qc value, N/cm2
Depth, cm
1
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the
cone, Ac: The projected area of the cone.
2
Values are the means in the area above the point at which the 2 regression
lines for the relationship between the qc value and depth of the rumen
digesta intersected.
3
Values are the means in the area below the point at which the 2 regression
lines for the relationship between the qc value and depth of the rumen
digesta intersected.
GG: grazing grass; GG+GS: grazing grass and grass silage; GS: grass
silage; TMR: total mixed ration for high yielding lactating cow
SE: Standard error
42
ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ は G G + GS が 最 も 厚 く な り 、G G と TM R が
ほ ぼ 等 し い 値 で 、GS が そ の 他 の 処 理 と 比 べ や や 薄 か っ た 。非 マ
ッ ト 層 の 堅 さ は G S 、 G G 、 G G + GS そ し て T M R の 順 で 軟 化 し た
が、総内容物やルーメンマットほど処理間の差は大きくはなか
っ た 。 深 さ に つ い て は 、 G S が 最 も 深 く 、 T M R 、 G G 、 G G +G S の
順 で 浅 く な っ た 。最 大 値 で あ っ た G S と 最 小 値 の G G + GS の 差 は
2 倍以上となり、総内容物やルーメンマットでみられた処理間
の差よりも大きくなる傾向を示した。
43
牧 草 の み を 給 与 し た G G 、G G + GS お よ び G S で は G S の 摂 取 比
率が増すと総内容物およびルーメンマットの堅さが増す傾向に
あ っ た 。G S は 完 全 に 出 穂 が 完 了 し た 一 番 草 で あ り 、低 水 分 の ほ
ぼ 乾 草 に 近 い 品 質 で あ っ た 。 GS が 粗 剛 で あ っ た こ と は NDF 含
量 に も 反 映 さ れ て お り 、 そ の こ と が GS 給 与 に よ っ て 総 内 容 物
およびルーメンマットの堅さが増した原因であると考えられる
( 図 2 - 10 ) 。
一 方 、 TMR 摂 取 牛 は ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 の 2 層 性 は
確認されたものの、ルーメン内容物全体あるいはルーメンマッ
ト の q c 値 が 極 め て 低 く 、形 状 と し て は 液 体 あ る い は 粥 状 で あ り 、
強固なルーメンマットができているとはいえない状態であった
( 図 2 - 11 ) 。 こ れ は 、 本 試 験 で 用 い た 供 試 牛 は 養 分 要 求 量 の 少
な い 非 泌 乳 牛 で あ っ た の で 、栄 養 価 の 高 い 高 泌 乳 牛 用 TM R を 摂
取 し た こ と に よ り 、採 食 量 が ル ー メ ン 内 の 物 理 的 制 約 で は な く 、
代 謝 的 な 調 節 要 因 で 制 御 さ れ た た め で あ る と 推 測 さ れ る ( G i l l et
a l . , 1 9 88 ; M b a n ya e t al . , 2 0 07 ) 。
ルーメンマットと比べて非マット層の堅さは処理による差が
小さかったが、ルーメン腹嚢部は液状を呈しており、固形内容
物が少ないという点では 4 飼料で共通していた。
ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ と 厚 さ の 関 係 で は 、 G G と G G + GS の よ
うに堅さが同じでも厚さが異なるケース、堅いがそれほど厚く
な い G S の よ う な ケ ー ス 、 あ る い は TM R の よ う に 軟 ら か い も の
の適度な厚みを有しているケースなど、飼料ごとにそれぞれ特
徴が異なった。さらに、ルーメン内容物全体の深さは 4 飼料と
も 数 c m の 差 し か な か っ た に も か か わ ら ず 、ル ー メ ン マ ッ ト と 非
44
マ ッ ト 層 に 分 割 す る と 、 そ の 差 は 最 大 で 15cm 以 上 に 広 が っ た 。
このことはルーメン内容物を全体として一つのデータで表現す
ると飼料間の違いを明確にはできず、階層構造的に解析する重
要性を示している。
本試験により、土壌硬度の測定方法を応用したルーメン内貫
入抵抗測定装置を用いると、簡易な操作でルーメン内容物の堅
さと深さを調査でき、同時にルーメンマットやその他の物理的
性状を測定できることが明らかになった。ルーメン内容物の量
や粒度といった従来の指標に加え、ルーメン内容物の物理的性
状 を 評 価 す る 新 た な 概 念 と し て qc 値 は 利 用 で き る と 考 え ら れ
45
た。牛に悪影響をもたらすことなく、従来の研究ではなし得な
かったルーメンマットの堅さと厚さを階層構造として定量的に
測定可能とした点に本法の価値が存在するだろう。
46
3. 飼 料 中 pe NDF 含 量 の 違 い が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 及 ぼ す 影
響
飼 料 中 pe N DF 含 量 に 影 響 を 及 ぼ す 主 な 要 因 と し て は 飼 料 の 切
断 長 と 粗 濃 比 が 上 げ ら れ る 。切 断 長 が 短 く な る か 、粗 濃 比 が 低 下
す る と 、 一 般 に は peN DF 含 量 も 低 下 す る 。 そ の よ う な peND F
含 量 が 低 い 飼 料 に お い て は 、ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 が 不 十 分 に な り 、
反 芻 の 微 弱 化 や ル ー メ ン pH の 低 下 、マ ッ ト へ の 飼 料 片 取 り 込 み
機能の低下から第三胃以降への通過速度の上昇や消化率の低下
が 懸 念 さ れ て き た ( G ra nt and Cota nch, 2 012 )。 し か し 、 こ れ ま
で に 、そ れ ら の 関 連 性 に つ い て 実 測 値 を 持 っ て 検 証 さ れ る こ と は
なかった。
そ こ で 本 章 で は 、 飼 料 中 peND F 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の
関 連 を 検 討 す る 目 的 で 、飼 料 の 切 断 長 と 粗 濃 比 に 着 目 し て 二 つ の
試験を実施した。
3.1 . 飼 料 の 粒 度 が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 及 ぼ す 影 響 ( 試 験 1)
3.1 .1 . 目 的
飼 料 の 粒 度 が 反 芻 活 動 と ル ー メ ン pH に 影 響 を 及 ぼ す こ と は 古
く か ら 指 摘 さ れ て い る (O ka m ot o, 1 9 76 )。 O kam ot o (1 9 76 )は 、 梱
包乾草に比べてヘイキューブでは反芻活動が減少し、ルーメン
pH 低 下 の 程 度 は 大 き い こ と を 認 め て い る 。飼 料 の 粒 度 や peN DF
含 量 が 減 少 す る と 咀 嚼 活 動 の 減 少 と SARA 発 症 の リ ス ク が 高 ま
る と い う 想 定 の も と に 、乳 牛 を 用 い た 多 く の 研 究 が な さ れ て い る 。
し か し な が ら 、 飼 料 の 粒 度 や peN D F 含 量 の 違 い が ル ー メ ン pH
47
や乳生産に及ぼす影響については一貫した結果が得られてはい
ない。
飼 料 粒 度 の 縮 小 に よ っ て ル ー メ ン pH が 低 下 し た 場 合 と
(K ra use et al. , 2 002 b; Bea uchemi n et al. , 2 003 ; Tei mouri
Ya nsa ri et al. , 2 00 4)、 何 ら 影 響 が み ら れ な か っ た 場 合 ( Konono ff
and He inri chs, 2 003 b; K ononoff et al. , 20 03 b; Ya ng a nd
Bea uchem i n, 200 6 )が 報 告 さ れ て い る 。 乳 脂 率 は 飼 料 切 断 長 を 短
縮することで低下するという結果がいくつかの研究で得られて
い る が (K ononoff and Heinri chs, 2 003 b; K ra use a nd Com b s,
200 3; Tei m ouri Ya nsa ri et al. , 2 00 4 )、 切 断 長 短 縮 の 影 響 は 認 め
ら れ な い と す る 報 告 も 少 な く は な い ( Bea uchem i n et al. , 2 003 ;
Kononoff a nd Hei nri chs, 20 03 a; Bhanda ri et al. , 20 0 7)。 こ の
よ う な 結 果 の 不 一 致 に つ い て は 、ル ー メ ン 内 微 生 物 に よ る 飼 料 分
解 能 の 変 動 が 考 え ら れ る 他 、粗 飼 料 源 お よ び 濃 厚 飼 料 源 の 違 い や
給 与 飼 料 中 の pe N DF 含 量 の 違 い が 影 響 し て い る の で は な い か と
い う 指 摘 が あ る (B ha nda ri et al. , 2 0 07 )。 逆 に 飼 料 切 断 長 が 長 す
ぎ る こ と に よ っ て 、牛 に よ る 微 細 構 成 成 分 の 選 択 的 な 採 食 が 生 じ 、
乳 脂 率 が 低 下 す る こ と も 報 告 さ れ て い る (P a rk a nd O ka m oto ,
200 8 )。
上 述 し た 研 究 に お い て 、ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 性 を 評 価 し て い
る の は わ ず か に K ononoff a nd Hei nri chs (20 03a , b )に 限 ら れ る 。
し か し 、 彼 ら は ル ー メ ン 内 容 物 を 全 量 採 取 し 、 D M お よ び N DF
プ ー ル サ イ ズ を 計 測 し て い る も の の 、そ れ ら が ル ー メ ン pH や 乳
生産に及ぼす影響については言及していない。
そ こ で 本 節 で は 、 飼 料 中 の peN DF 含 量 の 違 い が ル ー メ ン マ ッ
48
トの性状に及ぼす影響について評価するために粒度の異なる
T MR を 用 い て 試 験 を 実 施 し た 。 化 学 成 分 を 変 え ず に peN DF 含
量 の 異 な る T MR を 用 意 す る た め に 、 調 製 済 み の T MR を 粗 飼 料
切 断 機 で 切 断 し 、 元 の T MR と 切 断 後 の T MR を 泌 乳 牛 に 給 与 し
た 際 の ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 、ル ー メ ン 内 発 酵 状 況 、咀 嚼 活 動 お よ
び乳生産について検討した。
3.1 .2 . 材 料 と 方 法
3 .1 . 2. 1.
供試動物
酪農学園大学附属農場で飼養されているルーメンカニューレ
を装着したホルスタイン種泌乳牛 4 頭を用いた(平均体重
623 .1 kg 、 平 均 分 娩 後 日 数 6 5 .8 日 、 平 均 産 次 1 . 8 産 )。 搾 乳 は 毎
日 5 時 30 分 と 1 6 時 の 2 回 と し 、ミ ル キ ン グ パ ー ラ ー で 行 っ た 。
供 試 牛 は 飼 槽 重 量 計 を 装 備 し た タ イ ス ト ー ル で 飼 養 し 、ゴ ム チ ッ
プマットレスにおが屑と麦桿を敷料として用いた。
3 .1 . 2. 2.
供試飼料
供試飼料は細切調製したグラスサイレージ(乾物給与割合:
28. 0 %、以 下 同 様 )、破 砕 処 理 し た コ ー ン サ イ レ ー ジ( 1 8.6 %)、ア
ル フ ァ ル フ ァ ロ ー ル ベ ー ル サ イ レ ー ジ ( 6 .6 %)、 搾 乳 牛 用 配 合 飼
料 ( T M7 : 32 .6 %、 ル ミ バ ラ ン ス 18 : 7. 7 %; 雪 印 種 苗 株 式 会 社 、
札 幌 )、 大 豆 粕 ( 1 . 9%)、 ビ ー ト パ ル プ ( 3 .9 %)、 ミ ネ ラ ル 添 加 剤
( ス ー パ ー マ グ 5 5 : 0. 6 %; 東 洋 電 化 工 業 株 式 会 社 、 高 知 県 高 知
市 )、ビ タ ミ ン 添 加 剤( ビ タ フ ァ ー ム 102 E: 0. 1 %; 日 本 全 薬 工 業
株 式 会 社 、福 島 県 郡 山 市 )を 混 合 し た 混 合 飼 料( T MR )を 対 照 区
49
(Cont rol )と し た 。対 照 区 の T MR を 切 断 し て 給 与 し た 区 を 細 断 区
(Chop)と し た 。飼 料 の 切 断 に は ト ラ ク タ か ら 動 力 を 得 る 粗 飼 料 切
断 機( 飼 料 カ ッ タ FC22 C; ス タ ー 農 機 、千 歳 )を 使 用 し 、設 定 切
断 長 1 0m m で 対 照 区 T MR を 2 度 切 断 し た 。
T MR の 飼 料 設 計 に つ い て は 、日 本 飼 養 標 準 ・ 乳 牛( 1 99 9 年 版 )
に付属している養分要求量計算シートと飼料計算シートを使用
し た 。 計 算 に 用 い た 前 提 条 件 は 分 娩 後 日 数 15 0 日 、 産 次 1. 9 産 、
体 重 6 40 kg 、 乳 量 33 kg 、 乳 脂 率 4.3 %と し た 。 こ れ ら の 飼 料 を
1 日 1 回 給 与 し 、自 由 採 食 と な る よ う 前 日 の 原 物 採 食 量 の 1 .2 倍
量を与えた。水および固形塩は自由に摂取させた。
3 .1 . 2. 3.
試験設計および飼養管理
試 験 は 予 備 期 1 0 日 間 、 本 試 験 期 12 日 間 を 1 期 と す る 2 期 反
転 法 と し た 。供 試 牛 は 2 頭 一 組 と し 、い ず れ か の 処 理 に 割 り 当 て 、
1 期終了後に反転した。
本 試 験 期 間 中 の 1~ 3 日 目 に 採 食 量 、 乳 生 産 お よ び 採 食 行 動 お
よ び 反 芻 活 動 調 査 、4 ~ 8 日 目 に ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 、9 日 目
と 12 日 目 に ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採 取 を お こ な っ た 。
3 .1 . 2. 4.
測定項目およびサンプル採取
試 験 期 間 を 通 じ て 給 与 量 と 残 飼 量 を 毎 日 計 測 し 、採 食 量 を 測 定
し た 。給 与 量 は 、飼 槽 重 量 計 の 液 晶 画 面 に 表 示 さ れ た 飼 料 の 重 さ
を 記 録 し た 。 残 飼 は 給 与 30 分 前 に 扉 を 閉 め て 、 給 与 量 と 同 じ 方
法 で 計 量 し た 後 に 、除 去 し た 。給 与 飼 料 の サ ン プ リ ン グ は 採 食 行
動 調 査 期 間 中 の 毎 日 、残 飼 の サ ン プ リ ン グ は 内 容 物 採 取 の 回 復 期
50
を 除 い た 毎 日 お こ な い 、そ れ ぞ れ の サ ン プ ル ご と に ビ ニ ー ル 袋 に
入れて試験終了まで冷蔵庫内で保管した。
採食行動は試験ストールに設置されている飼槽重量計を用い
た 。 飼 槽 重 量 計 は 24 時 間 モ ニ タ リ ン グ さ れ て お り 、 デ ー タ は 牛
舎 2 階 の パ ソ コ ン に 取 り 込 ま れ た 。 そ れ を 基 に CSV フ ァ イ ル を
作成し採食行動のデータを得た。採食行動の集計にあたっては、
Metz (197 5 ) お よ び 粕 谷 と 藤 田 ( 199 1 ) の 方 法 に 従 い 、
Kolm ogorov -Smi r no v の 一 試 料 検 定 を 用 い て 個 体 ご と の 採 食 の
中 断 持 続 時 間 よ り 採 食 期 を 定 義 し た 。解 析 の 結 果 、採 食 中 断 時 間
が 4 分を超える場合に一つの採食期が終了したとみなした。
反 芻 活 動 は 、朴 ら( 2 00 5 )の 方 法 に 従 い 、高 感 度 ワ イ ヤ レ ス マ
イ ク の 送 受 信 機 ( CX-01; フ ァ ー ス ト 電 子 開 発 、 東 京 ) を 用 い て
計 測 し た 。送 信 機 を 頭 絡 に 取 り 付 け 、牛 の 顎 部 分 に 接 触 す る よ う
に 加 工 し た 。送 信 機 か ら 送 ら れ る 咀 嚼 音 を 受 信 し 、ひ ず み 電 圧 計
測 ユ ニ ッ ト( N R-5 00, N R-ST0 4; キ ー エ ン ス 、大 阪 )を 介 し て コ
ン ピ ュ ー タ ー に 取 り 込 み 、解 析 し た 。搾 乳 の た め ミ ル キ ン グ パ ー
ラーに移動している時間についてはデータ受信が困難になるた
め、人による行動観察を 2 分間隔で行なった。
ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ を 測 定 す る た め 、貫 入 抵 抗 測 定 試 験 を 行
っ た 。方 法 の 概 略 は 2 章 で 述 べ た 通 り で あ る 。貫 入 抵 抗 測 定 は 給
与 直 前 (0 時 間 ) か ら 給 与 後 2 2 時 間 ま で 2 時 間 ご と に 1 2 回 実 施 し
た。測定頻度は供試牛への負担を考慮して1日に付き 4 回以下、
測 定 間 隔 も 6 時 間 以 上 開 く よ う に 配 慮 し 、1 2 回 の 測 定 を 4 ~ 8 日
目 の 5 日 間 に 分 け て 実 施 し た 。ま た 、貫 入 抵 抗 測 定 と 同 時 に ル ー
メ ン 液 を ル ー メ ン 腹 嚢 上 部 よ り 採 取 し た 。ル ー メ ン 液 は ル ー メ ン
51
カ ニ ュ ー レ よ り 自 作 の ス ポ イ ト で 吸 引 し 、ガ ー ゼ で 濾 し て サ ン プ
ル ボ ト ル に 約 50 m l 採 取 し た 。 採 取 後 直 ち に pH を 測 定 し た 後 、
ア ン モ ニ ア 態 窒 素 お よ び VFA 濃 度 の 分 析 ま で -3 0 ℃ で 凍 結 保 存
し た 。な お 貫 入 抵 抗 測 定 期 間 中 の 飼 料 給 与 時 刻 は 、測 定 の 重 複 を
さけるため 4 頭の供試牛のうち 2 頭の給与時刻を 1 時間繰り下
げた。
ルーメン内容物のプールサイズおよび飼料片粒度分布を計測
す る た め に 全 量 採 取 を 行 っ た 。内 容 物 採 取 は 飼 料 給 与 直 前 (0 h)と
給 与 2 時 間 後( 2 h )に 実 施 し た 。牛 へ の 負 担 を 考 慮 し て 、内 容 物
採 取 終 了 後 は 2 日 間 の 回 復 期 を 設 け た 。ル ー メ ン 内 容 物 は カ ニ ュ
ー レ か ら 固 層 部 分 に つ い て は 素 手 で 採 取 し 、液 相 部 分 に つ い て は
カ ッ プ で す く い 取 っ た 。採 取 し た ル ー メ ン 内 容 物 は 計 量 後 、分 析
用 と し て 適 量 を 試 料 と し て 保 存 し 、残 り の 内 容 物 は 直 ち に ル ー メ
ン内に戻した。
ル ー メ ン 内 容 物 サ ン プ ル は 約 30 ~5 0g ず つ 5 ~ 6 回 湿 式 篩 別 し
た 。湿 式 篩 別 に は 、目 開 き の 大 き さ が 2.3 6m m 、1. 18 mm 、0.6 0m m 、
0.3 0m m 、 0 .15 mm の 6 段 階 に 分 か れ て い る 篩 を 用 い た 。 サ ン プ
ル を 上 段 に 入 れ た 後 に 振 動 幅 2mm で 水 を シ ャ ワ ー 状 に ふ り か け
な が ら 2 0 分 か け て 篩 別 し た( SI EVE SHAK ER, MRK ‐ R ET SCH)。
目 開 き が 2 .3 6m m 以 上 の 篩 に 残 留 し た も の を 大 飼 料 片 、 2. 36 m m
篩 を 通 過 し 0 .15 m m 以 上 篩 に 残 留 し た も の を 小 飼 料 片 、 0. 15 m m
未 満 で ふ る い を 通 過 し て し ま っ た も の を 微 細 飼 料 片 と し た 。大 飼
料 片 と 小 飼 料 片 に つ い て は 、 5~ 6 回 分 の サ ン プ ル を ひ と ま と め
に し て 封 筒 に 入 れ 、 60 ℃ で 4 8 時 間 送 風 乾 燥 し た 。 そ の 後 、 粉 砕
し た 後 に 乾 物 重 量 を 測 定 し た 。各 分 画 の 飼 料 片 乾 物 重 量 を 湿 式 篩
52
別に用いた総サンプルの乾物重量で除して粒度分布を算出した。
乳量は試験期間を通して毎日ミルキングパーラで自動計測さ
れ た デ ー タ を 用 い た 。乳 成 分 に つ い て は 、本 試 験 期 の 1 日 目 夕 方
から 4 日目の朝にかけて 6 搾乳連続で乳サンプリングをおこな
っ た 。乳 成 分 の 分 析 は 北 海 道 酪 農 検 定 検 査 協 会 に 依 頼 し て 、近 赤
外線分光分析法により行った。
3 .1 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼 料 お よ び ル ー メ ン 内 容 物 は す べ て 60 ℃ で 4 8 時 間 送 風 乾 燥
し た 後 に 粉 砕 し 、分 析 に 供 し た 。乾 物( D M)、粗 タ ン パ ク 質( CP )、
粗 脂 肪( EE)お よ び 粗 灰 分( Ash)含 量 の 分 析 は AO AC (1 99 9 )に
準 拠 し た 。中 性 デ タ ー ジ ェ ン ト 繊 維( ND F )お よ び 酸 性 デ タ ー ジ
ェ ン ト 繊 維 ( AD F ) は Va n Soest et al . (199 1 )の 方 法 に 従 っ た 。
非 繊 維 性 炭 水 化 物 ( NF C) は N RC (200 1 )の 式 に し た が っ て 算 出
した。
NF C= 100 - (Ash+ CP + ND F + EE)
給 与 T M R の D M 含 量 は 4 4 .7 % で あ っ た 。そ の 他 の 化 学 成 分 含
量 ( D M 中 ) は C P : 1 4 . 8 % 、 N D F : 3 9. 3 % 、 A D F : 2 0. 7 % 、 E E: 3 . 2 % 、
As h: 6. 7 % 、 N FC : 3 6. 1 % で あ っ た 。
給 与 T MR 飼 料 片 の 粒 度 分 布 を P enn St at e Pa rti cle Sepa rat o r
(PSP S)を 用 い て 計 測 し た (L am m ers et al. , 19 96 )。 本 研 究 で 用 い
た P SP S は 2 段 の 篩 ( 目 開 き 19 m m お よ び 8 mm ) と 受 け 皿 か ら
成 る も の で あ っ た 。 給 与 T MR を P SPS で 篩 別 し た 際 に 、 上 側 2
53
段 の 篩 上 に 残 留 し た 乾 物 飼 料 片 割 合 の 合 計 値 を phy si cal
e ffectiv eness fa ct or (pef)と し 、pef に 給 与 T MR 中 の 乾 物 中 N DF
含 量 を 乗 じ て phy si call y effectiv e fiber (peN DF )含 量 を 算 出 し
た (Bea uchemi n a nd Yang, 2 00 5 )。
ル ー メ ン 液 を 解 凍 後 、ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 の 分 析 は 水 蒸 気 蒸
留 法 ( AO AC, 1 999 ) で お こ な い 、 VFA 濃 度 の 分 析 は ガ ス ク ロ マ
ト グ ラ フ ( G SG38 10; 柳 本 製 作 所 、 京 都 ) で 実 施 し た ( Erwi n et
al. , 196 1 )。
3 .1 . 2. 6.
統計処理
統 計 処 理 に は J MP 7 ( SAS 20 07 ) の フ ィ ッ ト モ デ ル プ ロ シ ー
ジ ャ ー を 用 い た 。試 験 期 と 牛 を 変 量 効 果 、処 理 の 影 響 を 固 定 効 果
と し た 。 P < 0 .0 5 で 有 意 差 あ り 、 P < 0. 10 で 傾 向 あ り と し た 。
3.1 .3 . 結 果
3 .1 . 3. 1.
供試飼料
対 照 区 T MR 、細 断 区 T MR で そ れ ぞ れ pef は 0 .5 3 お よ び 0 .3 8 、
peN DF 含 量 は 21 . 0%お よ び 1 4. 9 %で あ っ た ( 表 3 -1 -1 )。
3 .1 . 3. 2.
採食量、咀嚼活動および乳生産
表 3 -1 -1 か ら 、 1 日 当 た り の D M 摂 取 量 ( D MI ) お よ び N DF
摂 取 量 ( N DF I ) は 両 処 理 と も 同 様 で あ っ た が 、 peN DF 摂 取 量
( pe ND FI ) は 細 断 区 で 有 意 に 減 少 し た ( P < 0 .01 )。
採 食 時 間 、採 食 期 の 回 数 や 持 続 時 間 に 処 理 に よ る 差 は な か っ た 。
一 方 、採 食 期 の 採 食 速 度 は 対 照 区 に 比 べ 細 断 区 が 速 い 傾 向 に あ っ
54
Table 3-1-1 Particle size distribution, physical effectiveness factor (pef) and physically
effective fiber (peNDF) contents of total mixed ration (TMR 1) and voluntary intake,
eating behavior, rumination activity and milk production in cows
Control 1
Chop 2
SE
P -value
3
Particle size distribution , % DM retained on sieves
19.0 mm
13.9
8.0 mm
39.4
Pan
46.7
4
0.53
pef
5.1
32.8
62.1
0.38
-
-
-
-
peNDF 5, % DM
21.0
14.9
-
-
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
peNDFI, kg/day
19.7
7.45
3.85
19.7
7.67
2.91
2.3
1.01
0.43
NS
NS
0.002
329.6
11.2
34.6
55.5
310.2
11.9
30.5
62.2
32.9
1.8
4.3
2.7
NS
NS
NS
0.09
Rumination time, min/day
No. of rumination periods, /day
Duration of rumination periods, min
500.5
13.5
36.4
525.7
13.5
40.3
14.4
1.4
4.5
NS
NS
NS
Total chewing time, min/day
Total chewing time/DMI, min/kg
Total chewing time/NDFI, min/kg
830.1
43.6
117.9
836.0
43.9
111.6
33.5
4.3
12.4
NS
NS
NS
27.9
28.1
4.08
3.42
9.02
7.73
27.1
28.5
4.34
3.46
9.08
8.24
3.6
3.6
0.12
0.14
0.21
1.45
NS
NS
NS
NS
NS
NS
Chewing activity
Eating time, min/day
No. of meals, /day
Duration of meals, min
Eating rate, gDM/meal
Milk production
Milk yield, kg/day
Actual
4% FCM
Milk fat, %
Milk protein, %
Milk SNF, %
MUN, mg/dL
1
TMR had DM contents of 44.7%, and chemical compositions (DM basis) of 93.3% for
OM; 14.8% for CP; 39.3% for NDF; 20.7% for ADF; and 3.2% for EE; 36.1% for
NFC; and 58.8% for TDN, respectively. DM: dry matter; OM: organic matter; CP: crude
protein; NDF: neutral detergent fiber; ADF: acid detergent fiber; EE: ether extract; NFC:
nonfiber carbohydrates; and TDN: total digestible nutrients.
2
Chop: the ration prepared by twice-chopping the control TMR using a forage chopper.
3
Particle size distribution of TMR was measured using a Penn State Particle Separator
(Lammers et al. 1996).
4
Physical effectiveness factor determined as the proportion of particles with DM > 8
5
Physically effective NDF measured as the NDF content of TMR multiplied by pef.
SE: Standard error
55
た ( P < 0 .1 0 )。 一 日 の 総 反 芻 時 間 、 反 芻 期 の 回 数 お よ び 持 続 時 間
は処理による差はみられなかった。
産 乳 量 は 対 照 区 2 7 .9 kg / 日 、 細 断 区 で は 27 .1 kg / 日 と な っ た 。
4 % F CM 、 乳 脂 肪 率 、 乳 タ ン パ ク 質 率 、 無 脂 乳 固 形 分 率 ( SNF )
お よ び 乳 中 尿 素 態 窒 素 濃 度( MU N )に は い ず れ も 差 は な か っ た 。
3 .1 . 3. 3.
ルーメン内容物およびルーメンマット性状
ル ー メ ン 内 容 物 量 、内 容 物 の 粒 度 分 布 お よ び 貫 入 抵 抗 測 定 試 験
の 結 果 に つ い て 表 3-1 -2 に 示 し た 。 ル ー メ ン 内 D M お よ び N DF
量 は サ ン プ リ ン グ 時 刻 に か か わ ら ず 飼 料 間 で 差 は な か っ た 。内 容
物 の 各 粒 度 プ ー ル サ イ ズ は 両 区 と も に 0h で は 小 飼 料 片 が 大 飼 料
片 お よ び 微 細 飼 料 片 を や や 上 回 る 傾 向 を 示 し た が 、 2h で は 大 飼
料 片 と 小 飼 料 片 が ほ ぼ 等 し く な っ た 。0 h お よ び 2 h の い ず れ に お
い て も 粒 度 分 布 に 処 理 間 差 は 認 め ら れ な か っ た 。貫 入 抵 抗 試 験 の
結 果 、総 内 容 物 お よ び 非 マ ッ ト 層 は 堅 さ お よ び 深 さ に 飼 料 間 で 差
は な か っ た 。ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 有 意 で は な か っ た も の の 対
照 区 が 細 断 区 よ り も 堅 く な る 傾 向 を 示 し ( P < 0. 10 )、 厚 さ は 対
照 区 よ り も 細 断 区 が 上 回 っ た ( P < 0 .05 )。
ル ー メ ン 内 容 物 、ル ー メ ン マ ッ ト お よ び 非 マ ッ ト 層 の 堅 さ お よ
び 深 さ の 日 内 推 移 を 図 3 -1 -1 ~ 3 -1 -3 に 示 し た 。 ル ー メ ン 内 容 物
は 堅 さ 、深 さ と も に 大 き な 日 内 変 動 は み ら れ な か っ た( 図 3 -1 -1 )。
ルーメンマットの堅さは対照区に比べて細断区で変動が大きく
な る 傾 向 を 示 し た( 図 3 -1 -2 )。ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ は 細 断 区 の
給 与 6 時 間 後 を 除 き 、お お む ね 20 c m か ら 40 cm の 範 囲 で 推 移 し
た( 図 3 -1 -2 )。非 マ ッ ト 層 の 堅 さ は 両 飼 料 と も に 大 き な 変 動 は み
56
Table 3-1-2 Rumen digesta characteristics and mean retention time
(MRT) of feed particles in lactating cows
Control
Chop 1
SE
P -value
Total rumen digesta
DM weight, kg
0 h2
2h
10.9
14.5
11.5
14.1
1.0
1.0
NS
NS
NDF weight, kg
0h
2h
7.20
8.69
7.67
8.75
0.64
0.48
NS
NS
Ruminal particle pool size, kg DM
0h2
Large particles (> 2.36 mm)
Small particles (> 0.15 mm)
Fine particles (< 0.15 mm)
3.38
4.00
3.50
3.73
4.31
3.51
0.60
0.51
0.37
NS
NS
NS
5.10
5.27
4.16
4.94
5.13
4.08
0.32
0.36
0.44
NS
NS
NS
25.2
53.1
24.8
53.2
0.6
1.7
NS
NS
32.4
31.4
29.6
37.0
1.5
2.4
0.09
0.04
23.4
20.5
21.6
17.1
1.5
3.3
NS
NS
2h2
Large particles (> 2.36 mm)
Small particles (> 0.15 mm)
Fine particles (< 0.15 mm)
Penetration resistance test
Total rumen digesta
qc value 3, N/cm2
Depth, cm
Ruminal mat 4
qc value, N/cm2
Thickness, cm
Non-mat material 5
qc value, N/cm2
Depth, cm
1
Chop: the ration prepared by twice-chopping the control TMR using a
forage chopper.
2
Hours after feeding.
3
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the
cone, Ac: The projected area of the cone.
4
Values are the means in the area above the point at which the 2
regression lines for the relationship between the qc value and depth of
the rumen digesta intersected.
5
Values are the means in the area below the point at which the 2
regression lines for the relationship between the qc value and depth of
the rumen digesta intersected.
SE: Standard error
57
ら れ な か っ た( 図 3-1 -3 )。一 方 、非 マ ッ ト 層 の 深 さ は 給 与 2 お よ
び 14 時 間 後 で は 細 断 区 が 対 照 区 よ り も 深 く な る 傾 向 を 示 し ( P
< 0. 10 )、給 与 2 0 時 間 後 で は 対 照 区 の 方 が 深 く な る 傾 向 を 示 し た
( P < 0. 10 )。
58
59
60
3 .1 . 3. 4.
ルーメン発酵
表 3 -1 -3 に ル ー メ ン 液 の 発 酵 性 状 に つ い て ま と め た 。ル ー メ ン
液 pH は 処 理 に よ る 差 は な か っ た 。総 VFA、酢 酸 、プ ロ ピ オ ン 酸
の 各 濃 度 は 細 断 区 で 高 い 値 と な る 傾 向 を 示 し た ( P < 0.1 0 )。 そ
の 他 の VFA お よ び ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 に は 処 理 に よ る 差 は な
かった。
Table 3-1-3 Ruminal pH, VFA, and NH3-N for each diet in
lactating cows
pH
VFA
Total, mM
Acetate (A), mM
Propionate (P), mM
Butyrate, mM
A:P
NH3-N, mg/dL
Control Chop 1
6.16
6.21
125.3
75.3
23.6
18.6
2.77
6.73
147.6
87.6
29.9
21.3
2.87
7.06
SE P -value
0.06 NS
7.7
5.6
2.7
1.4
0.21
0.71
0.09
0.09
0.06
NS
NS
NS
1
Chop: the ration prepared by twice-chopping the control TMR
using a forage chopper.
SE: Standard error
3.1 .4 . 考 察
3 .1 . 4. 1.
飼料切断長とルーメンマット性状の関係
細 断 区 は 対 照 区 と 比 べ て 飼 料 中 pe ND F 含 量 が 6 % 以 上 低 下 し 、
peN DF I も 少 な か っ た こ と か ら 、対 照 区 よ り も 飼 料 の 物 理 的 有 効
度 が 低 い と 判 断 で き た 。そ れ に も か か わ ら ず 、ル ー メ ン マ ッ ト の
61
堅 さ は 対 照 区 と の 間 に 有 意 な 差 は な く 、む し ろ 細 断 区 で は マ ッ ト
の 厚 み は 有 意 に 増 す こ と が 示 さ れ た 。そ の 他 、採 食 期 の 採 食 速 度
も 細 断 区 で 増 加 傾 向 に あ っ た ( P < 0.1 0 )。 反 芻 動 物 に お け る 採
食時の咀嚼は飼料片の微細化よりもむしろ嚥下可能な食塊を形
成 す る た め に 費 や さ れ て お り 、飼 料 粒 度 や 繊 維 含 量 が 増 加 す る と
採 食 時 間 も 延 長 す る と 考 え ら れ て い る (Wi l son a nd K ennedy,
199 6 )。 し た が っ て 、 採 食 速 度 が 示 し て い る と お り 、 細 断 区 で は
短 時 間 で 対 照 区 と ほ ぼ 同 量 の 飼 料 を 摂 取 し た こ と に な り 、そ の た
め食塊を形成するための咀嚼回数が少なかったと考えられる。
採 食 速 度 が 速 く 、嚥 下 ま で の 咀 嚼 回 数 が 減 少 す る と 、ル ー メ ン
に 流 入 す る 大 飼 料 片 割 合 が 高 ま る と 考 え ら れ る (L ee a nd P ea rce ,
198 4 )。 流 入 直 後 の 大 飼 料 片 は 細 胞 壁 内 の 空 隙 が 多 く 残 っ て お り
比 重 が 軽 い の で 、ル ー メ ン 上 部 に 浮 遊 し て ル ー メ ン マ ッ ト の 主 要
構 成 要 素 と な る (Va n S oest , 1 994 )。比 重 の 軽 い 大 飼 料 片 が 短 時 間
に大量に流入したことが細断区におけるルーメンマットの厚み
の増加に結びついたと推測される。
反 芻 活 動 に 関 し て は 細 断 に よ る 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 。ル ー
メンマットはルーメン壁と接触することで反芻を引き起こすと
考 え ら れ て お り (I g go a nd L eek, 1 970 )、そ の 接 触 刺 激 の 強 弱 に は
マ ッ ト の 堅 さ が 関 係 し て い る と さ れ て い る (Zebeli et al. , 20 12 )。
こ の 点 か ら 判 断 す る と 、本 試 験 で は ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 対 照
区 が 細 断 区 を や や 上 回 っ た が ( P < 0.1 0 )、 反 芻 活 動 を 促 進 す る
だけの機械刺激増加に結びつくほどではなかったと推測された。
一 方 で 、マ ッ ト の 厚 さ は 細 断 区 の 方 が 厚 か っ た も の の( P < 0. 05 )、
厚さの違いも反芻時間に影響することはなかった。
62
Ya ng a nd Bea uchem i n (2 00 7a ) は ア ル フ ァ ル フ ァ サ イ レ ー ジ
の 粒 度 を 変 え る こ と で 給 与 飼 料 中 の peND F 含 量 を 13 .9 % と
19. 8 %の 2 種 類 に 設 定 し た( 粗 濃 比 60: 40 )。こ の peN DF 含 量 と
粗 飼 料 割 合 は 本 試 験 と 類 似 す る 構 成 で あ っ た が 、彼 ら の 試 験 で は
peN DF 含 量 と 1 日 の 採 食 、 反 芻 お よ び 総 咀 嚼 時 間 と の 間 に は 有
意 な 正 の 関 係 は 認 め ら れ な か っ た ( い ず れ も P < 0 .10 )。
Bea uchem i n a nd Ya ng (20 05 )は 粗 飼 料 源 と し て 粒 度 の 異 な る コ
ー ン サ イ レ ー ジ を 用 い て 試 験 を 実 施 し た が 、 同 様 に peNDF 含 量
と 咀 嚼 時 間 に は 正 の 直 線 関 係 を 認 め な か っ た( 採 食 、反 芻 お よ び
総 咀 嚼 時 間 い ず れ も P > 0 .10 )。本 試 験 に お い て も 、飼 料 中 peND F
含 量 を 変 え る こ と で ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 性 も 変 化 し た が 、反 芻
活 動 を 促 進 す る だ け の 強 度 で は な か っ た 。上 述 し た 報 告 は い ず れ
もルーメンマットの性状や形成程度については測定していない
が 、 pe N D F 含 量 の 変 化 量 ほ ど に ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 は 変 化
し て い な か っ た の か も し れ な い 。こ れ ら の 結 果 は 、反 芻 活 動 と の
関 連 を 検 討 す る 際 に は 、 peND F 含 量 を と ら え る だ け で は 不 十 分
であることを示唆している。
細 断 区 の ル ー メ ン 発 酵 性 状 は 、 pH の 低 下 を 伴 わ ず に 、 VFA 濃
度 は 高 い 値 と な る 傾 向 を 示 し た 。ル ー メ ン に 流 入 し た 飼 料 片 は 反
芻 に よ る 再 咀 嚼 に よ っ て 植 物 組 織 構 造 が 破 砕 さ れ 、質 量 当 た り の
表 面 積 が 増 大 し 、微 生 物 の 付 着 を 容 易 に す る こ と で 発 酵・分 解 の
効 率 が 上 が る( 一 戸 と 関 根 , 2 004 )。細 断 区 で は 、反 芻 時 咀 嚼 を 受
け ず と も 繊 維 粒 度 が 縮 小 し て い た の で 、微 生 物 の 植 物 組 織 内 部 へ
の 付 着 お よ び 侵 入 が 容 易 に な り 、結 果 的 に 発 酵 が 促 進 さ れ た 可 能
性 が あ る 。細 断 区 の ル ー メ ン マ ッ ト は 対 照 区 よ り も 軟 ら か い 傾 向
63
に あ っ た が 、反 芻 活 動 を 減 じ る ほ ど で は な く 、発 酵 促 進 の 効 果 と
合わせ考えるとむしろ理想的な堅さであったと言えるかもしれ
な い 。ル ー メ ン マ ッ ト が 堅 す ぎ る こ と で 、反 芻 活 動 が 抑 制 さ れ る
こ と は な い と 考 え ら れ る が 、ル ー メ ン 発 酵 の 遅 延 か ら 飼 料 片 の 滞
留 時 間 が 延 長 し 、結 果 的 に D MI が 減 少 し て し ま う か も し れ な い 。
ルーメンマットの堅さの至適水準についてはさらなる検討が必
要である。
3 .1 . 4. 2.
T MR 粒 度 と ル ー メ ン マ ッ ト 物 理 性 の 関 係
一 般 的 に 、 TMR 調 製 時 に 粗 飼 料 投 入 後 の ミ キ サ ー 撹 拌 時 間 が
長 く な る に つ れ 、飼 料 同 士 の 磨 砕 に よ っ て 繊 維 が 摩 耗 し た り 、カ
ッ テ ィ ン グ 機 能 付 き の オ ー ガ で は 繊 維 の 切 断 が 進 み 、飼 料 の 物 理
的有効度が低下すると考えられている。このような想定から、
T MR ミ キ サ ー の 撹 拌 時 間 は 各 飼 料 が 混 合 さ れ る 限 り に お い て は
短 い 方 が 良 い と さ れ て い る (Hei nri chs, 1 999 )。し か し 、本 試 験 で
は 、 細 断 区 で み ら れ た よ う に T MR 切 断 長 が 短 縮 し て も ル ー メ ン
マットの反芻誘起に対する物理的有効性が低下することはなく、
む し ろ マ ッ ト の 厚 み は 増 す こ と が 示 さ れ た 。ル ー メ ン マ ッ ト の 厚
み が 増 す と い う こ と は 、ル ー メ ン マ ッ ト へ の 小 飼 料 片 絡 め 取 り 効
果 に よ る 飼 料 の 利 用 効 率 向 上 が 期 待 で き る (G ra nt and Cot a nch,
201 2 )。 細 断 区 で マ ッ ト の 堅 さ が 有 意 に 低 下 し な か っ た 原 因 と し
て 、今 回 供 試 し た T MR の よ う に 比 較 的 粗 飼 料 割 合 の 高 い 飼 料( 粗
飼 料 割 合 5 3. 2 %)で は 切 断 す る こ と で 牧 草 の 茎 部 や ト ウ モ ロ コ シ
子 実 の 芯 な ど が 破 砕 さ れ 、マ ッ ト 内 部 へ の 充 填 密 度 が 高 ま っ た た
め で は な い か と 推 測 さ れ る 。 粗 濃 比 の 高 い T MR で は サ イ レ ー ジ
64
の 切 断 長 を 短 く す る と D MI と 乳 脂 補 正 乳 量( F CM )(Bea uchem in
et al. , 19 94 )あ る い は 乳 脂 率 (P a rk a nd O kam ot o, 2 008 )が 増 加 す
る と い う 報 告 が あ る が 、そ の よ う な 結 果 に 対 し て ル ー メ ン マ ッ ト
の物理性がどのように関与していたのか興味深い。
以 上 、細 断 区 で ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 低 下 が 認 め ら れ な か っ
た こ と か ら 、 peN D F 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 の 間 に は 従
来認識されてきたような直線的な関係だけでは説明できないメ
カニズムが存在することが示唆された。
3 .1 . 4. 3.
まとめ
従 来 、飼 料 粒 度 の 縮 小 が ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 不 全 を も た ら し 、
ル ー メ ン 環 境 に 悪 影 響 を 及 ぼ す と 認 識 さ れ て き た 。し か し 本 試 験
で は 、 給 与 飼 料 の peN D F 含 量 が 低 下 し 、 peN DF I が 有 意 に 減 少
したにも関わらずルーメンマットの堅さは緩やかな軟化にとど
まり、逆に厚みが増すことでマットの物理性低下は抑制された。
そ の 結 果 、咀 嚼 活 動 お よ び 乳 生 産 に 悪 影 響 は 及 ば ず 、ル ー メ ン 発
酵 は む し ろ 改 善 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 こ れ は 、 peN D F 含 量 と
ルーメンマットの物理性との間には必ずしも正の直線関係がな
いことを示唆するものである。
65
3.2 . 給 与 飼 料 中 粗 濃 比 の 違 い と ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 の 関 係( 試 験
2)
3.2 .1 . 目 的
高泌乳牛は高乳生産を充足させるためのエネルギー要求量が
高 く 、要 求 量 を 充 足 さ せ る た め に は 大 量 の 可 消 化 有 機 物 を 与 え る
必 要 が あ る 。そ の た め に は 、飼 料 の 粗 濃 比 を 下 げ 、デ ン プ ン 源 を
多 給 し な く て は な ら な い 。し か し 、そ の よ う な 飼 料 設 計 で は 飼 料
中 peND F 含 量 も 低 下 し て し ま い 、 ル ー メ ン マ ッ ト を 含 む ル ー メ
ン 内 の 階 層 構 造 を 形 成 で き ず 、結 果 的 に ル ー メ ン pH を 適 切 に 保
つ こ と が 困 難 に な る と 想 定 さ れ て い る (O ka m ot o, 2 00 0 ; Ya ng
and Be a uche mi n, 200 9 )。O ka m oto (2 000 )に よ る と 、粗 濃 比 70: 30
の 牛 群 で は 反 芻 時 間 4 5 0 分 / 日 、 乳 脂 率 3. 78 %で あ っ た の に 対 し
て 、 粗 濃 比 3 2 :68 の 牛 群 で は 同 3 10 分 / 日 、 3 .0 8 %と い ず れ も 極
め て 低 い 値 で あ っ た こ と が 報 告 さ れ て い る 。一 方 で 、こ の こ と を
防 ぐ た め に 飼 料 中 peN D F 含 量 を 増 や し す ぎ る と 粗 濃 比 が 過 度 に
上昇し、飼料中の可消化有機物量を確保できなくなることから、
最 低 限 か つ 最 適 な 繊 維 供 給 量 の 検 討 が 求 め ら れ て い る ( Ya ng a nd
Bea uchem i n, 20 09 ; G ra nt a nd Cota nch, 2 01 2 )。
こ の よ う な 観 点 か ら 、 peN D F 含 量 と 粗 濃 比 を 変 え た 2 要 因 試
験 が 何 度 か 実 施 さ れ た (Ya ng a nd Beauchemi n, 2 007 a, b; Ya ng
and Be a uche mi n, 200 9 )。 こ れ ら の 試 験 で は 粗 濃 比 の 高 低 に よ っ
て pe N DF 含 量 と ル ー メ ン pH の 関 係 が 異 な る こ と が 示 唆 さ れ て
い る (Ya ng a nd Bea uchem i n, 200 7a ; Ya ng a nd Bea uchem i n,
200 9 )。 粗 濃 比 の 高 い 飼 料 で は peN D F 含 量 の 変 化 に 対 す る ル ー
メ ン pH の 反 応 は 鈍 か っ た が 、 粗 濃 比 の 低 い 飼 料 で は peN D F 含
66
量 を 高 め る こ と に よ っ て ル ー メ ン p H も 上 昇 し た (Ya ng a nd
Bea uchem i n, 200 7 a)。 後 者 の 飼 料 で は 、 peND F 含 量 を 高 め る こ
とでルーメンマットの形成が促進されたためであると推察され
たが、その実態についての検証はなされていない。
こ の よ う に 、 飼 料 中 の 粗 濃 比 と peN DF 含 量 の 関 連 は 乳 牛 の 生
産 性 や ル ー メ ン 環 境 に 影 響 を 及 ぼ す と 考 え ら れ る が 、粗 濃 比 の 違
いがルーメン内の物理的階層構造にどのように影響しているの
かは未解明である。
そ こ で 本 試 験 で は コ ー ン サ イ レ ー ジ( CS )と グ ラ ス サ イ レ ー ジ
( G S)の 給 与 比 率 を 変 え る こ と で 、粗 濃 比 と peN DF 含 量 の 異 な
る 2 種 類 の T MR を 調 製 し た 。こ れ ら の 飼 料 を 給 与 し た 泌 乳 牛 に
お い て 、粗 濃 比 の 違 い が ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 的 性 状 、ル ー メ ン
内 発 酵 、採 食 反 芻 活 動 お よ び 乳 生 産 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 す
ることを目的とした。
3.2 .2 . 材 料 と 方 法
3 .2 . 2. 1.
供試動物
酪農学園大学附属農場で飼養されているルーメンカニューレ
を 装 着 し た ホ ル ス タ イ ン 種 泌 乳 牛 4 頭 を 用 い た( 平 均 体 重 6 57 .0
kg 、 平 均 分 娩 後 日 数 12 9. 8 日 、 平 均 産 次 2 .0 産 )。 搾 乳 は 毎 日 5
時 30 分 と 16 時 の 2 回 と し 、 ミ ル キ ン グ パ ー ラ ー で 行 っ た 。 そ
の 他 の 飼 養 環 境 は 試 験 1( 3 章 1 節 ) と 同 様 で あ っ た 。
3 .2 . 2. 2.
供試飼料
供 試 飼 料 は 破 砕 処 理 し た コ ー ン サ イ レ ー ジ ( CS )、 細 切 調 製 し
67
た グ ラ ス サ イ レ ー ジ( G S)、粗 く 切 断 し た ア ル フ ァ ル フ ァ ロ ー ル
ベ ー ル サ イ レ ー ジ ( AS)、 搾 乳 牛 用 配 合 飼 料 ( T M7 、 ル ミ バ ラ ン
ス 18 ; 雪 印 種 苗 株 式 会 社 、 札 幌 )、 大 豆 粕 、 ビ ー ト パ ル プ を 混 合
し た T MR を 用 い た 。 T MR の 飼 料 設 計 に つ い て は 、 日 本 飼 養 標
準 ・乳 牛( 1 999 年 版 )に 付 属 し て い る 養 分 要 求 量 計 算 シ ー ト と 飼
料計算シートを使用した。計算に用いた前提条件は分娩後日数
15 0 日 、 産 次 2 . 0 産 、 体 重 65 0 kg 、 乳 量 3 4 kg 、 乳 脂 率 4 .0 %と
した。
CS、牧 草 サ イ レ ー ジ( G S + AS )お よ び 濃 厚 飼 料 の 乾 物 給 与 割
合 を 1 7. 0: 2 4. 9: 5 8.1 と 47 .5 : 11. 1: 41. 4 の 2 通 り と し 、 前 者 を
粗 濃 比 4 0 :6 0 ( 実 際 の 粗 濃 比 は 4 1. 9 :58 .1 )、 後 者 を 粗 濃 比 6 0: 40
( 同 5 8. 6: 41 .4 )と し た 。こ れ ら の 飼 料 を 粗 濃 比 40 :6 0 で は 1 0 時
Table 3-2-1 Chemical composition of forage
Corn
silage
DM, %
OM, % DM
CP, % DM
NDF, % DM
ADF, % DM
30.9
95.7
6.7
41.1
23.8
Grass silage
21.5
89.5
11.7
63.6
32.9
Alfalfa round
bale silage
70.6
90.1
13.8
57.3
42.3
TDN 1, % DM
72.2
59.2
58.8
DM: dry matter; OM: organic matter; CP: crude protein; NDF:
neutral detergent fiber; ADF: acid detergent fiber; TDN: total
digestible nutrients.
1
TDN was analyzed by the Agricultural Product Chemical
Research Laboratory in the Tokachi Federation of Agricultural
Cooperatives using estimated equations of NRC (2001).
68
Table 3-2-2 Ingredients and chemical and physical composition of the total mixed ration
(TMR) diets (DM basis)
Forage:concentrate (F:C)
40:60
60:40
Ingredients, %
Corn silage
16.8
46.8
Grass silage
21.8
2.86
25.0
8.20
2.76
9.28
Mineral supplement 3
21.2
7.69
3.85
0.64
13.0
7.43
11.14
1.24
Vitamin supplement 4
Actual F:C ratio
0.13
41.9:58.1
0.12
58.6:41.4
43.0
37.3
64.5
40.1
37.5
73.6
pef 6
7.27
43.0
49.8
0.50
14.3
44.4
41.3
0.59
peNDF 7, % DM
ADF, % DM
CP, % DM
TDN, % DM
18.8
20.3
16.0
73.7
22.0
21.3
15.9
72.7
Alfalfa round bail silage
Concentrate mixture A 1
Concentrate mixture B 2
Beet pulp
Soybean meal
Chemical and physical composition of TMR
DM, %
NDF, % DM
NDF from forages, % NDF
Particle size distribution 5, % DM retained on sieves
19.0 mm
8.0 mm
Pan
1
Contains 68% grains, 19% oil meals, 12% brans, and 1% others.
2
Contains 51% grains, 30% oil meals, 14% brans, and 5% others.
3
Contains 240, 100, and 60 g/kg of Ca, P, and Mg, respectively.
Contains 10,000 IU, 2,000 IU, and 10 mg/g of vitamins A, D3, and dl- α -tocopherol
acetate, respectively.
4
5
6
7
Particle size distribution of TMR was measured using a Penn State Particle Separator.
Physical effectiveness factor determined as the proportion of particles with DM > 8 mm.
Physically effective NDF measured as the NDF content of TMR multiplied by pef.
69
30 分 に 、粗 濃 比 6 0 :40 で は 1 0 時 に 1 日 1 回 給 与 し た 。残 飼 に つ
い て は 、 給 与 30 分 前 に 除 去 し た 。 給 与 量 は 自 由 採 食 と な る よ う
に 前 日 の 原 物 採 食 量 の 1 .2 倍 と し た 。固 形 塩 お よ び 水 は 自 由 摂 取
と し た 。 表 3 -2 -1 に 粗 飼 料 の 化 学 成 分 、 表 3 -2 -2 に 飼 料 の 乾 物 給
与割合および化学・物理成分含量を掲載した。
飼 料 の 調 製 に は 、 粗 濃 比 4 0: 60 は リ ー ル 式 の 牽 引 型 ミ キ サ ー
( リ ー ル ア ー ギ ー ミ キ サ ー 、 K U HN KNI G HT 、 ア メ リ カ ) を 使
用 し 、 粗 濃 比 60 :4 0 は オ ー ガ 式 の 定 置 型 ミ キ サ ー ( SU PREME、
土 谷 特 殊 農 機 製 作 所 、帯 広 )を 使 用 し た 。粗 濃 比 4 0 :6 0 は 毎 日 調
製 し 、粗 濃 比 6 0 :4 0 は 数 日 分 を ま と め て 調 製 し た 。調 製 し た 粗 濃
比 6 0: 40 T MR は 一 日 の 使 用 分 ず つ ビ ニ ー ル 袋( 厚 さ 0 . 0 5 m m
横
120 cm ×縦 190 cm ) を 2 重 に か ぶ せ た 2 00L の ポ リ バ ケ ツ に 入
れ て 踏 圧 し 、さ ら に 掃 除 機 を 用 い て 内 部 の 空 気 を 抜 い た 。そ の 後
トワインで袋を縛り、大型の冷蔵庫内で最長 6 日間保存した。
3 .2 . 2. 3.
試験設計および飼養管理
試 験 は 1 期 21 日 間 ( 予 備 期 9 日 間 、 本 試 験 期 12 日 間 ) の 2
期 反 転 法 に よ り 実 施 し た 。供 試 牛 は 2 頭 一 組 と し 、1 試 験 期 終 了
後 に そ れ ぞ れ 飼 料 を 反 転 し た 。処 理 に よ っ て 飼 料 の 構 成 割 合 が 大
きく変化するので、Ⅰ期とⅡ期の間に 3 日間の移行飼料給与期
( 移 行 期 )を 設 け た 。移 行 期 の 飼 料 は 粗 濃 比 4 0: 60 と 粗 濃 比 60 :4 0
の T MR を 50 % ず つ 混 合 し た も の で あ っ た 。な お 、供 試 牛 1 頭 に
サンプリング時のアクシデントがあったためⅠ期の本試験期間
を 3 日間延長した。それに伴い他の供試牛 3 頭のⅡ期の予備期
間を 3 日間延長した。
70
採 食 量 調 査 は 本 試 験 中 に 毎 日 、採 食 ・ 反 芻 行 動 お よ び 乳 量 ・ 乳
成 分 調 査 を 1~ 4 日 目 に 、 ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 お よ び ル ー メ ン 内
滞 留 時 間 ( MRT ) の 測 定 を 4 ~ 8 日 目 に 、 ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採
取 を 9 日 目 と 12 日 目 に お こ な っ た 。
3 .2 . 2. 4.
測定項目およびサンプル採取
給 与 T MR 飼 料 片 の 粒 度 分 布 を P SP S を 用 い て 計 測 し た 。 pef
お よ び peND F 含 量 の 算 出 は 試 験 1 と 同 様 と し た 。 採 食 量 、 採 食
行動および反芻活動の測定方法は試験 1 と同様であった。
ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ を 測 定 し 、ル ー メ ン マ ッ ト を 定 義 す る た
めに貫入抵抗測定を実施した。試験 1 と同様の手法であったが、
測 定 時 刻 は 飼 料 給 与 直 前 を 起 点 ( 0 時 間 ) と し 2 時 間 ご と に 22
時 間 ま で の 12 回 と し た 。 1 日 の 測 定 は 4 回 以 内 と し た 。 な お 貫
入 抵 抗 測 定 期 間 中 の 飼 料 給 与 時 刻 は 、測 定 の 重 複 を さ け る た め 粗
濃 比 4 0: 60 区 の 2 頭 は 11 時 に 給 与 し た 。 ま た 給 与 直 前 の 測 定 を
する場合は、両飼料ともに通常より 1 時間給与時刻を繰り下げ
た 。 貫 入 抵 抗 測 定 と 同 時 に 、 ル ー メ ン 液 を 12 回 採 取 し た 。 ル ー
メン液の採取およびその後の処理は試験 1 と同様の手法で行っ
た。
プ ー ル サ イ ズ お よ び 飼 料 片 粒 度 分 布 を 計 測 す る た め に 、ル ー メ
ン 内 容 物 の 全 量 採 取 を 行 な っ た 。 採 取 時 刻 は 給 与 直 前 ( 0 h) と 、
給 与 し て か ら 2 時 間 後( 2 h)の 2 回 と し た 。牛 へ の 負 担 を 考 慮 し
て 内 容 物 採 取 終 了 後 は 2 日 間 の 回 復 期 を 設 け た 。内 容 物 採 取 に 関
す る そ の 他 の 手 法 は 試 験 1 と 同 様 で あ っ た 。粒 度 分 画 測 定 法( 湿
式 篩 別 法 )に 関 し て は 、1. 18 mm 以 上 の 篩 に 残 留 し た も の を 大 飼
71
料 片 と し た 以 外 は 、試 験 1( 3 章 1 節 )と 同 様 の 手 法 で 実 施 し た 。
ル ー メ ン 内 MR T を 測 定 す る た め に 、本 試 験 期 4 日 目 の 飼 料 給
与 前 に 希 土 類 元 素 で 標 識 し た CS お よ び G S マ ー カ ー を ル ー メ ン
カ ニ ュ ー レ よ り 単 投 与 し た 。希 土 類 元 素 標 識 マ ー カ ー は 、Ma de r
et al. (1 98 4 )の 方 法 に 従 い 、 0 .5 % 溶 液 に 2 4 時 間 浸 漬 す る こ と で
調 製 し た( CS: Yb ; GS : La )。浸 漬 終 了 後 、各 マ ー カ ー は 流 水 で 1
時 間 洗 浄 し 、送 風 乾 燥 し た 。マ ー カ ー 投 与 7 時 間 後 か ら 直 腸 糞 採
取 を 行 い 、 以 後 4 ~ 6 時 間 お き に 計 15 回 糞 を 採 取 し た 。 採 取 し
た 糞 は 60 ℃ で 4 8 時 間 以 上 送 風 乾 燥 さ せ 、計 量 後 粉 砕 し た 。こ れ
ら の 糞 サ ン プ ル の う ち 一 部 を 、リ グ ニ ン を 不 消 化 マ ー カ ー と し て
消化率を算出するために混合してプール糞とした。
乳量は試験期間を通じてミルキングパーラーで自動計測され
た デ ー タ を 使 用 し た 。乳 成 分 に つ い て は 、本 試 験 期 の 1 日 目 夕 方
から 4 日目の朝にかけて 6 搾乳連続で乳サンプリングをおこな
っ た 。サ ン プ ル は 夕 方 と 翌 朝 を 一 日 分 と し 混 合 し た 。計 3 日 分 の
サ ン プ ル を 、乳 成 分 の 分 析 は 北 海 道 酪 農 検 定 検 査 協 会 に 依 頼 し て 、
近赤外線分光分析法により行った。
3 .2 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼 料 、ル ー メ ン 内 容 物 お よ び プ ー ル 糞 の 分 析 は 試 験 1 と 同 様 で
あ る 。消 化 率 算 出 の た め 、飼 料 お よ び プ ー ル 糞 に つ い て は 酸 性 デ
タ ー ジ ェ ン ト リ グ ニ ン( AD L )含 量 を 分 析 し た (AO AC, 199 9 )。消
化 率 の 算 出 は 一 戸 ( 200 4 )の 方 法 に 従 っ た 。
・ 各 成 分 排 泄 量 = 各 成 分 採 食 量 ×(飼 料 中 リ グ ニ ン 含 量 ÷糞 中
72
リグニン含量)
・ 各 成 分 消 化 率 = (1 - 各 成 分 排 泄 量 ÷各 成 分 採 食 量 ) ×1 00
MRT 算 出 用 の 個 別 糞 サ ン プ ル は 硝 酸 と 過 塩 素 酸 で 湿 式 灰 化 し
た 後 に 、 希 土 類 元 素 濃 度 を I CP 発 光 分 析 装 置 で 定 量 し た 。 各 マ
ー カ ー の MRT は Pond et al. (19 88 )の t wo -com pa rtm ent m odel
を用いて算出した。
ル ー メ ン 液 を 解 凍 後 、 ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 お よ び V FA 濃 度
の分析を試験 1 と同様に実施した。
3 .2 . 2. 6.
統計処理
統 計 処 理 に は J MP 7 ( SAS 20 07 ) の フ ィ ッ ト モ デ ル プ ロ シ ー
ジ ャ ー を 用 い た 。試 験 期 と 牛 を 変 量 効 果 、処 理 の 影 響 を 固 定 効 果
と し た 。 P < 0 .0 5 で 有 意 差 あ り 、 P < 0. 10 で 傾 向 あ り と し た 。
3.2 .3 . 結 果
3 .2 . 3. 1.
供試飼料
飼 料 の 化 学 成 分 は ND F 、 ADF 、 C P お よ び T DN 含 量 が い ず れ
も 飼 料 間 で 近 似 し た 値 と な り 両 飼 料 の 栄 養 価 は 類 似 し て い た( 表
3-2 -1 )。 た だ し 、 粗 濃 比 4 0: 6 0 で は 粗 飼 料 由 来 N D F 含 量 が 低 下
した。
一 方 、飼 料 の 物 理 性 に つ い て み る と 、粗 濃 比 4 0 :60 と 比 べ て 粗
濃 比 6 0: 40 は 目 開 き 19 m m 以 上 の 篩 残 留 割 合 が 高 く 、 逆 に 受 け
皿 に 落 下 す る 飼 料 片 の 割 合 が 低 か っ た 。 そ の 結 果 、 pe f お よ び
73
peN DF 含 量 は 粗 濃 比 40 :60 よ り も 粗 濃 比 6 0: 40 が 高 い 値 と な っ
た。
3 .2 . 3. 2.
採食量および咀嚼活動
表 3 -2 -3 に 採 食 量 、 咀 嚼 活 動 お よ び 乳 生 産 に つ い て ま と め た 。
1 日 の D M お よ び NDF I に 飼 料 間 で 差 は み ら れ な か っ た 。1 日 の
総 採 食 時 間 、採 食 期 回 数 お よ び 採 食 期 1 回 当 た り の 持 続 時 間 に も
Table 3-2-3 Intake, chewing activity, and milk production of lactating cows fed 2 different
diets
Forage:concentrate
40:60
60:40
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
SE
P -value
19.3
7.17
18.7
6.94
0.6
0.21
NS
NS
259.6
10.0
29.2
260.3
8.7
37.1
24.4
0.9
6.2
NS
NS
NS
Rumination time, min/day
No. of rumination periods, /day
Duration of rumination periods, min
519.3
14.1
37.0
526.0
14.5
36.5
46.5
0.5
2.4
NS
NS
NS
Total chewing time, min/day
Total chewing time/DMI, min/kg
Total chewing time/NDFI, min/kg
778.9
40.6
108.8
786.3
42.1
113.0
58.3
3.6
7.8
NS
NS
NS
20.9
22.8
4.19
3.73
9.23
8.43
21.7
24.7
4.46
3.69
9.06
7.32
3.3
3.4
0.14
0.06
0.17
1.39
NS
0.099
NS
NS
0.052
NS
Chewing activity
Eating time, min/day
No. of meals, /day
Duration of meals, min
Milk production
Milk yield, kg/day
Actual
4% FCM
Milk fat, %
Milk protein, %
Milk SNF, %
MUN, mg/dL
SE: Standard error
74
飼 料 に よ る 差 は 認 め ら れ な か っ た 。1 日 の 総 反 芻 時 間 、反 芻 期 出
現回数および反芻期 1 回当たりの持続時間は飼料間で類似した
値 と な っ た 。1 日 の 総 咀 嚼 時 間 、D MI 当 た り の 総 咀 嚼 時 間 お よ び
NDF I 当 た り の 総 咀 嚼 時 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
乳 生 産 に 関 し て は 、実 乳 量 に 差 は な か っ た が 、4 % F C M で は 粗
濃 比 4 0 :6 0 よ り も 粗 濃 比 6 0: 40 が 高 く な る 傾 向 を 示 し た ( P <
0.1 0 )。乳 成 分 に 関 し て は 、乳 脂 肪 率 、乳 タ ン パ ク 質 率 お よ び MU N
に 処 理 間 差 は な か っ た が 、無 脂 乳 固 形 分 率 は 粗 濃 比 40 :60 が 粗 濃
比 60 :40 よ り も 高 い 傾 向 を 示 し た ( P < 0 .1 0 )。
3 .2 . 3. 3.
ルーメン内容物およびルーメンマット性状
ル ー メ ン 内 容 物 量 、ル ー メ ン 内 飼 料 片 の 粒 度 別 プ ー ル サ イ ズ お
お び 貫 入 抵 抗 試 験 結 果 を 表 3 -2 -4 に ま と め た 。ル ー メ ン 内 D M 量
お よ び ND F 量 は 飼 料 給 与 直 前 お よ び 2 時 間 後 い ず れ も 処 理 間 差
は な か っ た 。ま た 、給 与 か ら の 2 時 間 で D M 量 は 粗 濃 比 40: 60 で
3.3 kg 、 粗 濃 比 6 0: 40 で 4 .7 kg 増 加 し 、 ND F 量 で は 粗 濃 比 40 :6 0
で は 1 .6 kg 、 粗 濃 比 60 :40 で は 2 . 7 kg 増 加 し た 。 ル ー メ ン 内 飼 料
片の粒度別プールサイズは給与直前および 2 時間後いずれも処
理 間 で 差 は な か っ た 。給 与 前 後 の 増 加 量 で は 、両 処 理 と も 大 飼 料
片 と 微 細 飼 料 片 の 増 加 の 程 度 が 大 き く 、小 飼 料 片 プ ー ル の 変 化 は
小 さ か っ た 。貫 入 抵 抗 測 定 の 結 果 か ら 、総 内 容 物 、ル ー メ ン マ ッ
ト お よ び 非 マ ッ ト 層 い ず れ も qc 値 お よ び 深 度 に 処 理 に よ る 差 は
なかった。
75
Table 3-2-4 Rumen digesta characteristics in lactating cows
Forage:concentrate
60:40
40:60
SE
P -value
Total rumen digesta
DM weight, kg
0 h1
2h
9.51
12.8
9.89
14.6
0.90
1.2
NS
NS
NDF weight, kg
0h
2h
5.94
7.56
6.61
9.32
0.70
0.82
NS
NS
Ruminal particle pool size, kg DM
0 h1
Large particles (> 1.18 mm)
Small particles (> 0.15 mm)
Fine particles (< 0.15 mm)
4.08
2.26
3.17
4.46
2.60
2.84
0.40
0.24
0.32
NS
NS
NS
5.77
2.90
4.12
6.70
3.21
4.72
0.65
0.31
0.87
NS
NS
NS
20.5
61.0
21.6
62.7
2.3
2.0
NS
NS
23.8
34.4
24.0
36.4
3.3
3.0
NS
NS
18.4
26.3
19.2
26.6
2.5
3.5
NS
NS
2 h1
Large particles (> 1.18 mm)
Small particles (> 0.15 mm)
Fine particles (< 0.15 mm)
Penetration resistance test
Total rumen digesta
qc value 2, N/cm2
Depth, cm
Ruminal mat 3
qc value, N/cm2
Thickness, cm
Non-mat material 4
qc value, N/cm2
Depth, cm
1
Hours after feeding.
2
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the cone, Ac: The
projected area of the cone
3
Values are the means in the area above the point at which the 2 regression lines for the
relationship between the qc value and depth of the rumen digesta intersected.
4
Values are the means in the area below the point at which the 2 regression lines for the
relationship between the qc value and depth of the rumen digesta intersected.
SE: Standard error
76
3 .2 . 3. 4.
ルーメン発酵
ル ー メ ン 液 の 発 酵 性 状 に つ い て 表 3-2 -5 に 示 し た 。 p H は 両 処
理 で 差 は な く 、値 も 正 常 範 囲 で あ っ た 。総 VFA 濃 度 、各 VFA 濃
度 お よ び AP 比 に つ い て も 処 理 間 差 は な か っ た 。ア ン モ ニ ア 態 窒
素 濃 度 は 粗 濃 比 4 0 :6 0 が 粗 濃 比 6 0: 4 0 よ り も 有 意 に 高 い 値 と な
っ た ( P < 0 .05 )。
Table 3-2-5 Ruminal pH, VFA, and NH3-N for each diet in
lactating cows
Forage:concentrate
pH
VFA
Total, mM
Acetate (A), mM
Propionate (P), mM
Butyrate, mM
A:P
NH3-N, mg/dL
SE: Standard error
3 .2 . 3. 5.
40:60
6.12
60:40
6.27
123.9
73.3
27.5
18.0
2.77
9.42
111.0
66.3
23.3
16.5
2.87
7.78
SE
P -value
0.12
NS
7.1
4.5
2.5
1.0
0.21
0.71
NS
NS
NS
NS
NS
0.02
ルーメン内飼料片の滞留時間および飼料の消化率
ル ー メ ン 内 飼 料 片 の MRT と 成 分 別 の 全 消 化 管 消 化 率 を 表 3 -2 6 に ま と め た 。 ル ー メ ン 内 MRT は CS お よ び G S と も に 処 理 間
で 差 は み ら れ な か っ た 。 ま た 、 数 値 上 は CS の 方 が G S よ り も
MRT が 短 縮 す る 傾 向 を 示 し た 。 全 消 化 管 消 化 率 は D M に は 処 理
に よ る 影 響 は 無 か っ た が 、 N D F 消 化 率 が 粗 濃 比 4 0 :6 0 よ り も 粗
77
濃 比 6 0: 40 が 有 意 に 高 く な り( P < 0 . 05 )、同 じ く CP 消 化 率 に つ
い て は 高 く な る 傾 向 を 示 し た ( P < 0 .10 )。 一 方 、 N F C 消 化 率 は
粗 濃 比 40 :60 が 粗 濃 比 6 0: 40 よ り も 高 く な る 傾 向 を 示 し た ( P <
0.1 0 )。
Table 3-2-6 Mean retention time (MRT) of ruminal feed particles and
feed digestibility in lactating cows
Forage:concentrate
40:60
MRT, h
Corn silage
Grass silage
Whole-tract digestibility, %
DM
NDF
CP
NFC
DM: dry matter; NDF: neutral
NFC: non forage carbohydrate.
35.8
47.9
SE
60:40
35.4
43.1
63.9
66.2
44.5
50.1
59.9
64.6
91.4
87.2
detergent fibe; CP:
P -value
2.7
2.7
0.6
2.1
1.7
2.0
crude
NS
NS
NS
0.01
0.07
0.06
protein;
SE: Standard error
3.2 .4 . 考 察
3 .2 . 4. 1.
粗濃比の違いとルーメンマット性状
飼料中の粗濃比が低下すると、濃厚飼料の給与割合が増し、
peN D F 含 量 が 低 下 す る の で 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ の 軟 化 や 、
厚 み の 減 少 が 予 測 さ れ た 。そ の 結 果 、咀 嚼 活 動 が 減 少 し 、ル ー メ
ン 発 酵 が 悪 化 す る 可 能 性 も 想 定 さ れ た 。し か し 、本 試 験 の 結 果 か
78
ら は 、そ れ ら の 想 定 は い ず れ も 認 め ら れ ず 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階
層 構 造 は 粗 濃 比 の 違 い に よ る 影 響 を 受 け な か っ た 。つ ま り 、粗 濃
比 40 :6 0 飼 料 で は 濃 厚 飼 料 の 給 与 割 合 が 増 え た に も か か わ ら ず 、
粗 濃 比 6 0: 40 飼 料 と 同 程 度 の 物 理 性 を 有 し た ル ー メ ン マ ッ ト が
形 成 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。こ の 点 に つ い て は 、ル ー メ ン 内 容 物
量やルーメン内飼料片の粒度別プールサイズも粗濃比による影
響 を 受 け な か っ た こ と が 原 因 で あ っ た と 考 え ら れ た 。ル ー メ ン 内
容物の階層構造やルーメンマットの物理的性状に変化がなかっ
た こ と を 反 映 し て 、咀 嚼 活 動 や ル ー メ ン pH も 処 理 間 で 異 な る こ
とはなかった。
Ya ng a nd Beauchemi n (2 00 7a; 20 09 )は 、 粗 濃 比 を 6 0: 4 0 か ら
35: 65 に 下 げ る と 、 本 試 験 同 様 peN DF 含 量 も 低 く な る こ と を 認
め て い る 。 し か し 、 粗 濃 比 低 下 の 結 果 、 咀 嚼 活 動 や ル ー メ ン pH
も 有 意 に 減 少 す る こ と を 確 認 し て お り 、こ れ は 本 試 験 結 果 と は 異
な る 傾 向 で あ っ た 。粗 濃 比 は 本 試 験 と 同 様 で あ っ た に も 関 わ ら ず
結 果 が 異 な っ た 原 因 の 一 つ と し て 、粗 飼 料 源 の 違 い が 考 え ら れ る 。
彼らの研究ではアルファルファサイレージのみを粗飼料源とし
て お り 、本 試 験 で は グ ラ ス サ イ レ ー ジ 、コ ー ン サ イ レ ー ジ お よ び
ア ル フ ァ ル フ ァ サ イ レ ー ジ を 粗 飼 料 源 と し て い た 。イ ネ 科 牧 草 は
ル ー メ ン の 充 満 に よ っ て 採 食 が 終 了 す る が 、マ メ 科 牧 草 は ル ー メ
ン発酵など充満以外の要因によって採食が終了するとの認識や
(Gill a nd Ro m ney, 1 994 )、 イ ネ 科 乾 草 よ り も ア ル フ ァ ル フ ァ ル
乾 草 の 方 が ル ー メ ン か ら の 消 失 が 速 い と す る 報 告 が あ る (G rene t ,
198 9; Ueda et al. , 200 1 )。 こ れ ら の こ と か ら 、 ア ル フ ァ ル フ ァ サ
イ レ ー ジ (Ya ng a nd Bea uchem in, 20 07a ; 20 09 )と 本 試 験 で 用 い
79
たグラスサイレージを含む粗飼料源ではルーメン内の階層構造
を 形 成 す る 際 の 物 理 的 効 果 が 異 な っ て い た も の と 推 察 さ れ る 。つ
ま り 、本 試 験 で は 階 層 化 さ れ た 強 固 な ル ー メ ン マ ッ ト が 形 成 さ れ
た が 、 Ya ng a nd Bea uchem i n (2 007 a ; 2 009 )の 研 究 で は そ の 形 成
が 不 十 分 で あ り 、そ の こ と が 咀 嚼 活 動 や ル ー メ ン pH の 結 果 の 変
動に結びついたのかもしれない。
3 .2 . 4. 2.
粗濃比の違いと繊維消化率
ル ー メ ン 内 飼 料 片 の MRT は 処 理 に よ る 影 響 を 受 け な か っ た が 、
ND F お よ び CP 消 化 率 は 粗 濃 比 60 :4 0 で 高 い 結 果 と な っ た 。 特
に 繊 維 消 化 率 が 粗 濃 比 60 :4 0 で 有 意 に 高 か っ た た め に 、 粗 濃 比
60: 40 の 脂 肪 補 正 乳 量 が 粗 濃 比 4 0: 6 0 を 上 回 る 傾 向 を 示 し た と 推
察 さ れ た 。 粗 濃 比 の 上 昇 に と も な う 繊 維 消 化 率 の 向 上 は Moorby
et al. (200 6 )に よ っ て も 報 告 さ れ て い る 。 繊 維 消 化 率 向 上 の 理 由
と し て 、 彼 ら は 高 粗 濃 比 飼 料 で は ル ー メ ン pH が 日 内 で 常 に 6 .2
以上で安定していたために繊維分解性ルーメン微生物の活性が
高く維持されたためであると考察している。本試験の粗濃比
60: 4 0 飼 料 に お い て も ル ー メ ン pH が 6 .2 7 と 高 か っ た こ と か ら 、
ルーメン微生物による繊維消化が維持されたのかもしれない。
3 .2 . 4. 3.
まとめ
ルーメンマットの性状は飼料の発酵性や粒度といった質の違
い に よ っ て 変 化 す る と 考 え ら れ る (Zebel i et al. , 2 012 ) 。 し か し 、
本 試 験 で は T MR の 粗 濃 比 を 変 化 さ せ て も マ ッ ト 性 状 は 変 化 し な
か っ た 。 粗 濃 比 と peN DF 含 量 が 低 下 し て も 、 粗 濃 比 4 0 :60 区 の
80
よ う に イ ネ 科 牧 草 を 増 給 す る こ と で 、ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 を
低下させずにルーメン環境や咀嚼活動を適正に保つことができ
ることが示唆された。
81
4. 非 粗 飼 料 繊 維 源 の 給 与 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 お よ び そ の 機 能
との関係
乳牛の繊維源としては粗飼料以外に副産物に含まれる非粗飼
料 繊 維 源 も 多 く 利 用 さ れ る 。非 粗 飼 料 繊 維 源 は 安 価 な 上 に 、消 化
性 も 高 い こ と か ら 乳 牛 飼 料 と し て 適 し て お り (Va rga a nd Hoov e r,
198 3; Zhu et al. , 199 7; Mi ron et al. , 2 01 0 )、 粗 飼 料 基 盤 の 脆 弱
な 我 が 国 に お け る 都 府 県 型 酪 農 生 産 ( 阿 部 , 200 0 ) や イ ス ラ エ ル
(Adin et al. , 2 009 )の み な ら ず 北 米 に お い て も そ の 重 要 性 が 増 し
て い る (P oore et al. , 20 02 )。
副 産 物 飼 料 は 、 一 般 に peND F 含 量 が 低 く (Ma rchesi ni et al. ,
20 11 ) 、 ま た ル ー メ ン 内 で の 繊 維 の 発 酵 も 速 い と み な さ れ て い る
(Bha t ti a nd Fi rki ns, 19 95 ; Voel ker and All en, 20 03b )。 堅 く 締
まり厚みを有するルーメンマットは粗剛な繊維質が集積するこ
と で 形 成 さ れ る と 考 え ら れ て い る の で (Robi nson et al. , 1 987 )、
副産物の種類によってはルーメンマットを含む内容物の階層構
造 が 脆 弱 化 す る 恐 れ が あ る 。ま た 、実 際 の 給 与 場 面 に お い て は 繊
維 源 と し て 副 産 物 単 体 で 利 用 す る こ と は 一 般 的 で は な く 、粗 飼 料
と 組 み 合 わ せ て 利 用 す る 。そ の 組 み 合 わ せ る 粗 飼 料 に よ っ て も ル
ー メ ン 内 の 階 層 構 造 や 咀 嚼 活 動 が 変 化 す る と 考 え ら れ る (All e n
and G ra nt, 20 00 ; Ea st ri dg e et al. , 2 009 )。
そこで本章では高繊維質副産物としてアン粕とビートパルプ
を 、高 タ ン パ ク で あ る が 繊 維 含 量 は 中 程 度 な 副 産 物 と し て 酒 粕 に
着 目 し た 。ま た 、ビ ー ト パ ル プ に つ い て は 組 み 合 わ せ る 粗 飼 料 に
つ い て も 検 討 し 、そ れ ぞ れ の 副 産 物 を 多 給 し た 場 合 の ル ー メ ン マ
82
ット形成状況やその機能について評価することを目的とした。
4.1 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て の ア ン 粕 給 与 が ル ー メ ン マ ッ ト 性 状
と 乳 生 産 に 及 ぼ す 影 響 ( 試 験 3)
4.1 .1 . 目 的
我 が 国 で は 様 々 な 副 産 物 が 飼 料 と し て 用 い ら れ て い る が 、そ の
一 つ で あ る ア ン 粕 ( 小 豆 皮 ; RBH) は こ し 餡 製 造 過 程 で 排 出 さ れ
る 食 品 製 造 残 渣 で あ る 。RBH は 繊 維 含 量 が 高 い 上 に T DN 含 量 も
高 く ( 独 立 行 政 法 人 農 業 ・ 食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 , 201 0 )、
乳 牛 飼 料 に 適 し た 副 産 物 で あ る と 考 え ら れ る 。 一 方 で 、 RBH の
繊 維 は 他 の 非 粗 飼 料 繊 維 源 と 同 様 に 粒 度 が 細 か い の で 、堅 く 締 ま
っ た ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 不 全 、咀 嚼 活 動 の 減 少 、あ る い は ル ー
メ ン pH の 過 度 の 低 下 、 と い っ た 点 が 懸 念 さ れ る 。
RBH と 性 質 が 類 似 し て い る 大 豆 皮 を 泌 乳 牛 に 多 給 し た 試 験 で
は 、ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ が 軟 化 し 、ル ー メ ン pH が 低 下 し た と
す る 報 告 ( Wei dner a nd G ra nt, 19 94 )が あ る 一 方 で 、 乳 量 や 乳 脂
量 が 増 加 し た と す る 報 告 も あ り (Mi ro n et al. , 200 3; Mi ron et al. ,
201 0) 、 乳 牛 の 生 産 性 へ の 効 果 が 一 貫 し て い な い 。 We idner a nd
G ra nt (1 99 4 ) は 大 豆 皮 の 微 細 で 発 酵 速 度 の 速 い 繊 維 が ル ー メ ン
内 の 階 層 構 造 形 成 に 悪 影 響 を 及 ぼ す と 考 察 し 、 M iron et al.
(2 00 3) は 大 豆 皮 繊 維 の 消 化 さ れ や す い 特 性 が 乳 生 産 に 正 の 効 果
を も た ら し た と 考 察 し て い る 。測 定 さ れ て い な い の で 不 明 で あ る
が、前者と後者ではルーメンマットの形成状況が異なっており、
それが生産性に関する乳牛の反応に変化をもたらしたのかもし
れ な い 。こ の こ と は 、大 豆 皮 や ア ン 粕 を 給 与 し た 乳 牛 に お け る ル
83
ーメン内階層構造定量の重要性を示唆するものである。
そ こ で 本 節 で は 、 粗 飼 料 の 一 部 を RBH で 置 き 換 え る こ と が ル
ーメン内容物の階層化や咀嚼活動に及ぼす影響を評価するため
に 非 泌 乳 牛 を 用 い た 試 験 を お こ な い( 試 験 3 -1 )、同 様 の 飼 料 給 与
時における実際の経営規模牛群の乳生産を調査するために泌乳
牛 群 を 用 い た も う 一 つ の 試 験 を 実 施 し た ( 試 験 3 -2 )。
4.1 .2 . 材 料 と 方 法
4 .1 . 2. 1.
供試動物
試 験 3 -1
酪農学園大学附属農場で飼養されているルーメンカニューレ
を 装 着 し た ホ ル ス タ イ ン 種 非 泌 乳 牛 4 頭 を 用 い た( 平 均 体 重 7 81
kg )。飼 養 環 境 は 試 験 1 と 同 様 の 精 密 試 験 タ イ ス ト ー ル で あ っ た 。
試 験 3 -2
酪農学園大学附属農場フリーストール牛舎で飼養されている
1 群 40 頭 の 泌 乳 牛 を 20 頭 ず つ の 2 群 に 分 割 し た 。群 の 分 割 に 当
た り 牛 床 、飼 槽 連 動 ス タ ン チ ョ ン 、水 槽 お よ び 塩 場 の 数 が 等 し く
な る よ う に フ リ ー ス ト ー ル ペ ン 内 を ゲ ー ト で 仕 切 っ た 。群 を 分 割
す る 際 に 産 次 、分 娩 後 日 数 、乳 量 お よ び 乳 脂 肪 率 が 等 し く な る よ
う に 調 整 し た 。試 験 開 始 時 の 牛 群 平 均 は 体 重 6 57 kg 、産 次 1 .9 産
お よ び 分 娩 後 1 50 日 で あ っ た 。 搾 乳 は 毎 日 5 時 30 分 と 16 時 の
2 回 と し 、ミ ル キ ン グ パ ー ラ ー で 実 施 し た 。 ス ト ー ル は ゴ ム チ ッ
プマットレスで覆われており、敷料として麦桿を用いた。
84
4 .1 . 2. 2.
供試飼料
試 験 3 -1
供 試 飼 料 は 、 粗 飼 料 給 与 割 合 6 0 .1 %( CS: G S: ア ル フ ァ ル フ
ァ ロ ー ル ベ ー ル サ イ レ ー ジ = 41 :1 4: 6 、乾 物 比 )で RBH を 含 ま な
い 対 照 区 と 、粗 飼 料 給 与 割 合 51 .6 %( CS: G S= 3 7:1 5 )で ア ル フ
ァルファサイレージ、配合飼料およびビートパルプの一部を
9.4 %の RBH で 置 き 換 え た RBH 区 の 2 通 り と し た 。R BH は 札 幌
市 の 製 餡 業 者 よ り 入 手 し た が 、1 日 の 供 給 量 に 限 度 が あ っ た こ と
から給与量をこのように設定した。
飼 料 は T MR と し て 調 製 し 、CP と T DN 含 量 が 近 似 す る よ う に
設 計 し た 。T MR の 飼 料 設 計 に つ い て は 、日 本 飼 養 標 準 ・ 乳 牛( 19 99
年 版 )に 付 属 し て い る 養 分 要 求 量 計 算 シ ー ト と 飼 料 計 算 シ ー ト を
使 用 し た 。 計 算 に 用 い た 前 提 条 件 は 分 娩 後 日 数 13 0 日 、産 次 2 .0
産 、 体 重 6 50 kg 、 乳 量 3 3 kg 、 乳 脂 率 3. 8 %と し た 。 T MR は 8 時
に 体 重 の 1 .2 5 %量 を 制 限 給 与 し 、 残 飼 は 翌 日 の 7 時 に 取 り 除 い
た。固形塩および水は自由摂取とした。
試 験 3 -2
供 試 飼 料 は 、粗 飼 料 給 与 割 合 5 3. 4 %( D M 給 与 割 合 、CS: G S:
ア ル フ ァ ル フ ァ ロ ー ル ベ ー ル サ イ レ ー ジ = 32 :1 8: 4 )で RBH を 含
ま な い 対 照 区 と 、粗 飼 料 給 与 割 合 50 .3 %( CS: G S = 3 2: 18 )で ア
ル フ ァ ル フ ァ サ イ レ ー ジ お よ び 配 合 飼 料 の 一 部 を 8 .1 % の RBH
で 置 き 換 え た RB H 区 の 2 通 り と し た 。
T MR 設 計 方 法 や 前 提 条 件 は 試 験 3 -1 と 同 様 で あ っ た 。T MR は
毎 朝 1 0 時 に 給 与 し 、自 由 摂 取 と す る た め 残 飼 が 5 ~1 0 % 出 る よ う
85
に 給 与 量 を 調 整 し た 。残 飼 除 去 は 翌 朝 9 時 に お こ な っ た 。固 形 塩
および水は自由に摂取可能であった。
本 試 験 で 用 い た 粗 飼 料 お よ び RB H の 化 学 成 分 を 表 4-1 -1 に 示
す。
Table 4-1-1 Chemical composition of forage and red bean hull
Corn silage
DM, %
OM, % DM
CP, % DM
NDF, % DM
ADF, % DM
Grass silage
Alfalfa round
bale silage
44.5
85.2
15.0
49.6
41.3
74.1
87.5
17.7
51.7
34.5
39.9
94.5
8.0
41.6
25.9
Red bean
hull
12.4
92.8
17.6
81.0
63.0
TDN 1, % DM
70.5
54.7
53.7
59.3
DM: dry matter; OM: organic matter; CP: crude protein; NDF: neutral
detergent fiber; ADF: acid detergent fiber; TDN: total digestible nutrients.
1
TDN was analyzed by the Agricultural Product Chemical Research
Laboratory in the Tokachi Federation of Agricultural Cooperatives using
estimated equations of NRC (2001).
4 .1 . 2. 3.
試験設計および飼養管理
試 験 3 -1
試 験 は 1 期 16 日 間 ( 予 備 期 10 日 間 、 本 試 験 期 6 日 間 ) の 2
期反転法により実施した。1 期目に対照区飼料を給与し、2 期目
に RBH 飼 料 を 給 与 し た 。 本 試 験 期 間 中 に 採 食 量 を 毎 日 、 ル ー メ
ン 内 貫 入 抵 抗 調 査 お よ び ル ー メ ン 液 採 取 を 1~ 2 日 目 に 、 採 食 行
動 お よ び 反 芻 活 動 調 査 を 3~ 4 日 目 に 、 ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採 取
を 9 日 目 と 1 0 日 目 に 実 施 し た 。 さ ら に 飼 料 の ル ー メ ン 内 MRT
86
を 測 定 す る た め に 、予 備 期 最 終 日( 1 0 日 目 )の 飼 料 給 与 前 に 希 土
類 元 素 で 標 識 し た GS お よ び 圧 ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ ( SF C) マ ー カ
ーをルーメンカニューレより単投与した。
試 験 3 -2
試 験 は 1 3 日 間 お こ な い 、最 初 の 1 0 日 間 を 予 備 期 、残 り の 3 日
間 を 本 試 験 期 と し た 。本 試 験 期 間 中 に 牛 群 全 体 の 採 食 量 、全 頭 の
乳 量 お よ び 乳 成 分 を 毎 日 計 測 し 、1 ~ 2 日 目 に 各 群 よ り 抽 出 し た 各
6 頭ずつの採食行動および反芻活動を調査した。全頭の体重は 1
日目と 2 日目の 2 回、午後搾乳終了時に計測した。
4 .1 . 2. 4.
測定項目およびサンプル採取
試 験 3 -1
給 与 飼 料 の 粒 度 分 布 を P SP S を 用 い て 計 測 し た 。pef と peND F
の算出方法は試験 1 と同様であった。
採食量、採食行動の測定方法については試験 1 と同様であっ
た 。 反 芻 活 動 は IC レ コ ー ダ ー を 装 着 し た 頭 絡 を 牛 に 取 り 付 け 、
録 音 さ れ た 咀 嚼 音 を P C に 取 り 込 み 、そ の 波 形 を 解 析 す る こ と で
計測した。
ル ー メ ン マ ッ ト 定 義 の た め の 貫 入 抵 抗 測 定 は 給 与 直 前 、給 与 2
時 間 後 お よ び 12 時 間 後 に 実 施 し 、 そ の 他 の 手 法 に つ い て は 前 章
ま で と 同 様 で あ っ た 。貫 入 抵 抗 測 定 と 同 時 に 、ル ー メ ン 液 を 採 取
し た 。ル ー メ ン 液 の 採 取 お よ び そ の 後 の 処 理 は 試 験 1 と 同 様 の 手
法で行った。
プ ー ル サ イ ズ お よ び 飼 料 片 粒 度 分 布 を 計 測 す る た め に 、ル ー メ
87
ン 内 容 物 の 全 量 採 取 を 行 な っ た 。 採 取 時 刻 は 給 与 直 前 ( 0 h) と 、
給 与 し て か ら 2 時 間 後( 2 h)の 2 回 と し た 。ル ー メ ン 内 容 物 全 量
採 取 に 先 立 っ て 、ル ー メ ン 内 の 位 置 別 の 粒 度 分 布 を 測 定 す る た め
に 背 嚢 上 部( マ ッ ト 層 )の 内 容 物 を 手 で 、腹 嚢 底 部( 非 マ ッ ト 層 )
の 内 容 物 を カ ッ プ で ス ポ ッ ト 採 取 し た 。内 容 物 採 取 に 関 す る そ の
他 の 手 法 は 試 験 1 と 同 様 で あ っ た 。ル ー メ ン 内 飼 料 片 の 粒 度 分 画
測 定 法 ( 湿 式 篩 別 法 ) に 関 し て は 、 目 開 き の 大 き さ が 5.6 0m m 、
2.3 6m m 、1. 18 m m 、0. 60 mm 、0 .3 0m m 、0 .1 5m m の 6 段 階 に 分 か
れ て い る 篩 を 用 い 、排 水 部 に ナ イ ロ ン 濾 布( 目 開 き 4 7 μ m )を セ
ッ ト し た 。 目 開 き が 1. 18 mm 以 上 の 篩 に 残 留 し た も の を 大 飼 料
片 、1 .1 8 mm 篩 を 通 過 し 0 .1 5m m 以 上 篩 と ナ イ ロ ン 濾 布 に 残 留 し
た も の を 小 飼 料 片 、 47 μ m 未 満 で ナ イ ロ ン 濾 布 を 通 過 し て し ま
っ た も の を 可 溶 性 分 画 と し た 。そ の 他 の 粒 度 分 布 算 出 法 に つ い て
の手法は試験 1 と同様とした。
ル ー メ ン 内 MRT を 測 定 す る た め に 、 飼 料 給 与 前 に 希 土 類 元 素
で 標 識 し た G S お よ び SF C マ ー カ ー を ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ よ り
単 投 与 し た ( G S は La 、 SF C は Yb で 標 識 )。 投 与 後 は 6, 10 , 1 4,
18, 2 2, 26 , 32 , 3 8 , 4 6, 5 4, 62 , 76 , 9 6 お よ び 1 20 時 間 後 に 直 腸
糞 採 取 を お こ な っ た 。 そ れ 以 外 の 手 法 に つ い て は 試 験 2( 3 章 2
節)と同様であった。
試 験 3 -2
給 与 飼 料 の 粒 度 分 布 を P SP S を 用 い て 計 測 し た 。pef と peND F
の 算 出 方 法 は 試 験 3-1 と 同 様 で あ っ た 。両 群 の 給 与 量 お よ び 残 飼
量 を 計 量 し 群 採 食 量 を 毎 日 計 測 し た 。群 採 食 量 を そ れ ぞ れ の 群 の
88
在 籍 頭 数 ( 20 頭 ) で 除 す る こ と で 一 頭 当 た り の 採 食 量 を 算 出 し
た 。採 食 行 動 お よ び 反 芻 活 動 の 測 定 の た め に 両 群 か ら 6 頭 の 牛 を
抽 出 し た 。牛 の 選 別 に あ た っ て は 乳 量 、乳 脂 肪 率 、産 次 お よ び 分
娩 後 日 数 が 両 群 で ほ ぼ 等 し く な る よ う に 留 意 し た 。 採 食 行 動 ・反
芻 活 動 の 測 定 法 は 試 験 3 -1 と 同 様 に IC レ コ ー ダ ー 装 着 頭 絡 を 用
いた。
乳 量 は 毎 搾 乳 ご と に 自 動 計 測 さ れ た 値 を 用 い た 。乳 成 分 に つ い
て は 本 試 験 期 中 毎 搾 乳 ご と に 全 頭 サ ン プ リ ン グ し 、北 海 道 酪 農 検
定検査協会に依頼して近赤外線分光分析法により分析した。
4 .1 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼料およびルーメン内容物の化学成分は試験 1 と同様に分析
し た 。希 土 類 元 素 マ ー カ ー の 調 製 お よ び 元 素 濃 度 の 分 析 、MRT の
算 出 方 法 に つ い て は 試 験 2 と 同 様 と し た 。ル ー メ ン 液 を 解 凍 後 、
ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 お よ び V F A 濃 度 の 分 析 を お こ な っ た 。分
析方法は試験 2 と同様であった。
試 験 3 -2 に お い て 、N DF を 指 標 と し た 選 択 採 食 の 程 度 を N DF I
の 期 待 値 に 対 す る 実 測 値 の 割 合 と し て 計 算 し た (L eona rdi a nd
Arm ent ano , 2 003 ; De Vri es a nd G ill , 20 12 )。 N DFI の 期 待 値 は
D MI に 給 与 飼 料 中 の ND F 含 量 を 乗 じ た 値 と し た 。 結 果 が 1 00 %
を 下 回 っ た と き は 選 択 的 に 避 け ら れ て い た こ と を 示 し( 選 択 採 食
あ り 、so rt i ng a gai nst )、逆 に 10 0 %を 越 え た と き は 好 ん で 摂 取 さ
れ て い た こ と を 示 し ( 選 択 採 食 あ り 、 sort i ng for)、 1 0 0%と な れ
ば選択採食がなかったことを意味する。
89
4 .1 . 2. 6.
統計処理
統 計 処 理 に は J MP 7 ( SAS 20 07 ) の フ ィ ッ ト モ デ ル プ ロ シ ー
ジ ャ ー を 用 い た 。試 験 3 -1 で は 、試 験 期 と 牛 を 変 量 効 果 、処 理 の
影 響 を 固 定 効 果 と し た 。試 験 3 -2 で は 、牛 を 変 量 効 果 、処 理 の 影
響 を 固 定 効 果 と し た 。 P < 0 .0 5 で 有 意 差 あ り 、 P < 0 .1 0 で 傾 向 あ
りとした。
4.1 .3 . 結 果
4 .1 . 3. 1.
供試飼料
表 4 -1 -2 に 両 試 験 の 飼 料 の 乾 物 構 成 割 合 と 化 学 お よ び 物 理 組 成
を 掲 載 し た 。 T MR の 粗 飼 料 割 合 は 試 験 3 -1 で は 対 照 区 60. 1 % 、
RBH 区 51 .6 % で あ り 、 試 験 3 -2 で は 対 照 区 53 .4 % 、 RBH 区
50. 3 % で あ っ た 。 両 試 験 と も に 粗 飼 料 を RBH で 置 き 換 え る こ と
に よ っ て T MR 中 の ND F と ADF 含 量 が 増 加 し 、D M お よ び 粗 飼
料 由 来 ND F 含 量 、 pe f お よ び peN D F 含 量 は 減 少 し た 。
90
Table 4-1-2 Ingredients and chemical composition of the total mixed ration (TMR) diets (DM
basis)
Experiment 3-2
Experiment 3-1
Control
Ingredients, %
Corn silage
Grass silage
Alfalfa round bale silage
Red bean hull
Concentrate mixture A 2
Concentrate mixture B 3
Beet pulp
Soy sauce cake
Soybean meal
1
RBH
Control
RBH1
40.5
36.6
31.5
32.1
13.5
6.1
15.9
15.0
9.4
31.1
-
17.9
4.0
19.2
18.2
8.1
13.7
4.8
2.0
0.9
7.4
7.0
4.4
7.6
0.9
7.6
7.2
4.5
7.7
0.9
Mineral supplement 4
8.7
6.6
4.2
3.6
0.8
Vitamin supplement 5
0.1
0.1
0.1
0.1
53.4
37.3
70.6
37.5
41.7
58.0
48.7
39.4
67.4
42.2
42.9
57.6
pef 7
17.1
47.5
35.4
0.65
4.9
40.0
55.1
0.45
5.5
46.8
47.7
0.52
2.0
43.7
54.3
0.46
peNDF 8, % DM
ADF, % DM
CP, % DM
TDN, % DM
24.1
21.7
15.1
73.2
18.7
25.4
15.9
74.5
20.6
17.1
16.5
75.2
19.6
20.7
16.4
74.1
Chemical and physical composition
DM, %
NDF, % DM
NDF from forages, % NDF
Particle size 6, % DM retained on sieves
19.0 mm
8.0 mm
Pan
1
TMR containing red bean hulls.
2
Contains 68% grains, 19% oil meals, 12% brans, and 1% others.
3
Contains 51% grains, 30% oil meals, 14% brans, and 5% others.
4
Contains 240, 100, and 60 g/kg of Ca, P, and Mg, respectively.
Contains 10,000 IU, 2,000 IU, and 10 mg/g of vitamins A, D3, and dl-α-tocopherol acetate,
respectively.
5
6
Particle size distribution of TMR was measured using a Penn State Particle Separator.
7
Physical effectiveness factor determined as the proportion of particles with DM > 8 mm.
8
Physically effective NDF measured as the NDF content of TMR multiplied by pef.
91
4 .1 . 3. 2.
採 食 量 お よ び 咀 嚼 活 動 ( 試 験 3 -1 )
表 4 -1 -3 に 採 食 量 、 咀 嚼 活 動 お よ び 乳 生 産 に つ い て ま と め た 。
D MI に 差 が な か っ た が 、N DF I は RBH 区 が 対 照 区 よ り も 有 意 に
多 く( P < 0 .0 1 )、p eN DFI は 逆 に 有 意 に 少 な か っ た( P < 0.0 1 )。
採 食 行 動 に は 処 理 に よ る 差 は な か っ た 。反 芻 時 間 や 反 芻 期 出 現 回
数 は 処 理 に よ る 差 は な か っ た が 、 反 芻 期 持 続 時 間 が R BH 飼 料 で
長 く な る 傾 向 を 示 し た ( P < 0 .10 )。 1 日 の 総 咀 嚼 時 間 、 D MI 当
た り の 総 咀 嚼 時 間 お よ び N D FI 当 た り の 総 咀 嚼 時 間 に 有 意 差 は
認められなかった。
Table 4-1-3 Intake and chewing activity in dry cows (experiment 3-1)
Control
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
peNDFI, kg/day
RBH1
SE
P -value
8.81
3.27
2.12
8.89
3.71
1.66
0.63
0.26
0.14
NS
0.002
0.001
106.1
5.25
26.0
100.7
3.50
46.2
9.5
1.44
9.6
NS
NS
NS
Rumination time, min/day
No. of rumination periods, /day
Duration of rumination periods, min
207.7
10.4
20.1
243.7
10.5
23.3
27.5
1.1
2.0
NS
NS
0.06
Total chewing time, min/day
Total chewing time/DMI, min/kg
Total chewing time/NDFI, min/kg
313.7
36.8
99.8
344.4
39.8
95.5
36.3
6.3
16.4
NS
NS
NS
Chewing activity
Eating time, min/day
No. of meals, /day
Duration of meals, min
1
TMR containing red bean hulls.
SE: Standard error
92
4 .1 . 3. 3.
ル ー メ ン 内 容 物 お よ び ル ー メ ン マ ッ ト 性 状( 試 験 3 -
1)
ルーメン内容物量、ルーメン内飼料片の粒度別プールサイズ、
貫 入 抵 抗 試 験 結 果 お よ び 飼 料 の ル ー メ ン 内 MRT に つ い て 表 4 -1 4 に ま と め た 。 ル ー メ ン 内 D M 量 お よ び N DF 量 は 飼 料 給 与 直 前
は 処 理 に よ る 差 は な か っ た が 、 2 時 間 後 は い ず れ も R BH 区 が 対
照 区 よ り も 多 く な る 傾 向 に あ っ た ( D M 量 : P < 0 .10 ; NDF 量 : P
< 0 .05 )。 ル ー メ ン 内 容 物 の 粒 度 別 プ ー ル サ イ ズ は 給 与 2 時 間 後
の 可 溶 性 分 画 は R BH 区 が 多 く な る 傾 向 に あ っ た が 、 そ の 他 の プ
ー ル サ イ ズ は 処 理 間 で 差 は な か っ た 。 堅 さ を 表 す qc 値 は ル ー メ
ン 内 容 物 ( P < 0. 0 1 )、 ル ー メ ン マ ッ ト ( P < 0 .05 ) お よ び 非 マ ッ
ト 層 ( P < 0. 05 ) の い ず れ も RBH 区 が 対 照 区 よ り も 大 き な 値 と
な っ た 。一 方 、深 度 に つ い て は ル ー メ ン 内 容 物 、ル ー メ ン マ ッ ト
および非マット層のいずれにおいても処理による差はなかった。
ル ー メ ン 内 飼 料 片 の MRT は G S お よ び SF C と も に 処 理 に よ る
差は認められなかった。
ル ー メ ン マ ッ ト お よ び 非 マ ッ ト 層 の 飼 料 片 粒 度 分 布 を 図 4 -1 -1
に ま と め た 。 対 照 区 、 RBH 区 と も に マ ッ ト 層 の 大 飼 料 片 割 合 は
非 マ ッ ト 層 と 比 べ て 2 倍 程 度 高 い 値 と な っ た 。ま た 、マ ッ ト 層 の
大 飼 料 片 割 合 が 対 照 区 の 給 与 2 時 間 後 に 増 加 し た こ と を 除 き 、両
飼 料 と も 類 似 し た 結 果 と な っ た 。非 マ ッ ト 層 で は 、対 照 区 は サ ン
プ リ ン グ 時 刻 間 の 差 は み ら れ な か っ た 。 RBH 区 の 非 マ ッ ト 層 で
は 給 与 前 の 小 飼 料 片 割 合 が 高 い 値 を 示 し た が 、給 与 2 時 間 後 に は
減少し、可溶性分画割合が増加した。
93
Table 4-1-4 Rumen digesta characteristics and mean retention time (MRT) of feed particles
in dry cows (experiment 3-1)
Control
RBH1
SE
P -value
Total rumen digesta
DM weight, kg
0 h2
4.43
4.54
0.60
NS
2
9.28
11.09
1.10
0.09
NDF weight, kg
0h
2h
2.81
4.99
2.85
6.40
0.40
0.60
NS
0.03
Ruminal particle pool size, kg DM
0h
Large particles (> 1.18 mm)
Small particles (> 0.047 mm)
Soluble fraction (< 0.047 mm)
1.44
1.52
1.47
1.57
1.52
1.46
0.22
0.19
0.24
NS
NS
NS
2h
Large particles (> 1.18 mm)
Small particles (> 0.047 mm)
Soluble fraction (< 0.047 mm)
3.99
2.82
2.47
4.14
3.13
3.81
0.51
0.48
0.34
NS
NS
0.09
5.31
8.55
0.53
0.007
58.6
59.9
4.58
NS
2h
Penetration resistance test
Total rumen digesta
qc value 3, N/cm2
Depth, cm
Ruminal mat 4
qc value, N/cm2
Thickness, cm
6.76
10.21
0.76
0.03
34.0
33.3
5.49
NS
Non-mat material 5
qc value, N/cm
Depth, cm
3.88
24.6
7.13
26.6
0.61
5.15
0.03
NS
MRT, h
Grass silage
Steamed flaked corn
33.8
33.3
35.0
35.2
2.0
1.3
NS
NS
1
TMR containing red bean hulls.
2
Hours after feeding.
3
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the cone, Ac: The
projected area of the cone.
4
Values are the means in the area above the point at which the 2 regression lines for the
relationship between the PRV and depth of the rumen digesta intersected.
5
Values are the means in the area below the point at which the 2 regression lines for the
relationship between the PRV and depth of the rumen digesta intersected.
SE: Standard error
94
95
4 .1 . 3. 4.
ル ー メ ン 発 酵 ( 試 験 3 -1 )
ル ー メ ン 液 の 発 酵 性 状 に つ い て 表 4-1 -5 に 示 し た 。p H、VFA お
よびアンモニア態窒素濃度のいずれにおいても処理による差は
なかった。
Table 4-1-5 Ruminal pH, VFA, and NH3-N for each diet in dry
cows (experiment 3-1)
pH
VFA
Total, mM
Acetate (A), mM
Propionate (P), mM
Butyrate, mM
A:P
NH3-N, mg/dL
Control
6.93
RBH1
6.62
83.7
46.9
15.7
8.43
3.11
13.9
95.3
52.7
18.5
9.24
3.02
14.9
SE P -value
0.13
NS
4.3
3.2
1.3
0.51
0.09
1.0
NS
NS
NS
NS
NS
NS
1
TMR containing red bean hulls.
SE: Standard error
4 .1 . 3. 5.
採 食 量 、選 択 採 食 、咀 嚼 活 動 お よ び 乳 生 産( 試 験 3 -
2)
泌 乳 試 験 に お け る 採 食 量 、選 択 採 食 、咀 嚼 活 動 お よ び 乳 生 産 に
つ い て 表 4 -1 -6 に ま と め た 。 D MI は 両 処 理 と も 等 し い 値 と な っ
た が 、N DFI の 絶 対 値 は RBH 区 の 方 が 対 照 区 よ り も 大 き か っ た 。
一 方 、 N DF の 選 択 採 食 に つ い て は 、 対 照 区 で は 選 択 的 に 残 さ れ
て い た の に 対 し 、 RBH 区 で は 逆 に 好 ん で 摂 取 さ れ て い た 。
採 食 行 動 、反 芻 活 動 お よ び 総 咀 嚼 時 間 に つ い て は 飼 料 間 で 有 意
差はなかった。
96
乳量および乳成分についても処理による違いは認められなか
った。
Table 4-1-6 Intake, sorting, chewing activity, and milk production of lactating cows housed in a free
stall barn and fed 2 different feeds (experiment 3-2)
Control
RBH1
SE
P -value
2
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
22.0
7.3
22.7
11.3
-
-
Sorting of NDF, % 3
84.4
115.6
-
-
Chewing activity 4
Eating time, min/day
No. of meals, /day
Duration of meals, min
307.7
6.67
54.7
342.1
6.00
62.8
19.3
0.62
4.3
NS
NS
NS
Rumination time, min/day
No. of rumination periods, /day
Duration of rumination periods, min
403.2
13.3
34.4
419.6
12.0
36.0
39.2
1.4
3.6
NS
NS
NS
Total chewing time, min/day
710.9
761.7
52.8
NS
31.4
30.6
3.88
3.24
4.52
8.81
32.3
31.4
3.81
3.21
4.48
8.72
1.4
1.3
0.10
0.03
0.04
0.07
NS
NS
NS
NS
NS
NS
Milk production 5
Milk yield, kg/day
Actual
4% FCM
Milk fat, %
Milk protein, %
Milk lactose, %
Milk SNF, %
1
TMR containing red bean hulls.
2
Intake was calculated as the herd's intake divided by the number of cows in each treatment (n = 20).
3
Sorting % = 100 × (NDFI/predicted NDFI), where predicted NDFI equals the product of DMI and
NDF content of TMR. Values equal to 100% indicate no sorting, < 100% indicate selective refusals
(sorting against), and > 100% indicate preferential consumption (sorting for).
4
Data are averaged for 6 cows for each treatment.
5
Data are averaged for 20 cows for each treatment.
SE: Standard error
97
4.1 .4 . 考 察
4 .1 . 4. 1.
副産物飼料とルーメンマットの堅さの関係
貫 入 抵 抗 測 定 の 結 果 か ら 、 RBH 区 の ル ー メ ン マ ッ ト は 対 照 区
よ り も 堅 い こ と が 示 さ れ た 。一 方 で 、給 与 2 時 間 後 に お け る ル ー
メ ン マ ッ ト の 飼 料 片 粒 度 分 布 か ら 、 RBH は 対 照 区 と 比 べ 大 飼 料
片 割 合 が 3 .5 ポ イ ン ト 低 く (3 9 .8 % v s. 43 .3 %)、逆 に 小 飼 料 片 割 合
は 3. 5 ポ イ ン ト 高 い 値 と な っ た (2 7 .5 % v s. 24 .0 %)。ル ー メ ン マ ッ
ト は 未 消 化 の 小 飼 料 片 を 絡 め 取 り 、そ の 滞 留 時 間 を 延 長 す る 働 き
が あ る と 考 え ら れ て い る (Wel ch, 1 98 2; Poppi et al. , 20 0 1)。 本 試
98
験 で 用 い た RBH は 粒 子 が 細 か い 繊 維 質 飼 料 で あ る の で ( 図 4 -1 2 )、胃 運 動 に よ っ て マ ッ ト の 空 隙 に 入 り 込 み 、隙 間 な く 詰 め 込 ま
れ 、そ の 結 果 ル ー メ ン マ ッ ト の 密 度 が 高 ま っ た た め に 堅 さ が 増 し
た可能性がある。
非粗飼料繊維源の給与によるルーメン内容物の物理性増加は
綿 実 殻 を 加 え る 処 理 を 行 っ た K ononoff and Hei nri chs (20 03b )
で も 報 告 さ れ て お り 、そ の 試 験 で は 細 か い 繊 維 か ら な る 綿 実 殻 を
与 え た に も 関 わ ら ず ル ー メ ン 内 容 物 量 は 対 照 区 よ り も 増 加 し 、反
芻 時 間 も 変 化 し な か っ た 。本 試 験 で も 同 様 の 傾 向 を 示 し 、RBH 区
の給与 2 時間後のルーメン内容物量および反芻期持続時間はと
も に 対 照 区 を 上 回 っ た 。 RBH 区 の 反 芻 期 持 続 時 間 が 延 長 し た の
は 、堅 い ル ー メ ン マ ッ ト の 影 響 に よ る も の と 推 察 さ れ る 。こ の よ
うな堅いルーメンマットが反芻活動を促進するという結果は既
報 (Wei dne r a nd G rant , 199 4 )と 一 致 す る 。
Fuma et al. (20 12 )は 、RBH と 性 質 が 類 似 し て い る と 考 え ら れ
る 2 種 類 の マ メ 外 皮 を 飼 料 へ 添 加 す る こ と で 、繊 維 分 解 ル ー メ ン
細 菌 の 増 殖 が 促 進 し 、稲 わ ら の 消 化 を 促 す こ と を 認 め て い る 。ル
ーメンマットには繊維分解菌の生息密度が高いと考えられてお
り (Ma rti n et al. , 199 9 )、 ル ー メ ン マ ッ ト へ RBH が 取 り 込 ま れ
ることでマット内に生息する繊維分解菌の分解活性が高まるか
も し れ な い 。こ の こ と は 飼 料 の 利 用 効 率 向 上 や 、堅 く 厚 い マ ッ ト
が縮小しルーメン充満度が解消されることによる新たな採食活
動の活発化など、生産性にとって有益に作用すると考えられる。
本 試 験 で は ル ー メ ン 発 酵 に 関 し て 飼 料 間 で 差 は な か っ た が 、今 後
はルーメン微生物への養分供給やコロニー形成様相の観点から、
99
ルーメンマットの物理性のみならず化学的性状についての研究
も必要となるだろう。
ま た 、 RBH 区 で は N D F を 好 ん で 摂 取 す る 傾 向 が 確 認 さ れ た
( 表 4 -1 -6 )。 RB H 飼 料 は peN DF 含 量 に 加 え 乾 物 含 量 も 低 か っ
た が 、飼 料 粒 子 の 縮 小 や 飼 料 中 水 分 含 量 の 増 加 は 繊 維 の 選 択 採 食
を 抑 制 す る こ と が 認 め ら れ て い る (L eona rdi et al. , 2 00 5; Pa rk
and O ka m ot o, 20 0 8)。 し た が っ て 、 RBH の 細 か く 、 高 水 分 な 特
徴 に よ っ て 選 択 採 食 が 抑 制 さ れ 、ル ー メ ン マ ッ ト の 主 要 な 構 成 要
素である繊維質摂取量が増加したこともルーメンマットの物理
性向上に関与したと推測される。
以 上 の こ と か ら 、粒 子 の 細 か い 副 産 物 給 与 は ル ー メ ン マ ッ ト の
階 層 化 を 妨 げ る と す る 通 説 と は 異 な り 、逆 に マ ッ ト の 堅 さ 向 上 に
寄与する可能性が示唆された。
4 .1 . 4. 2.
ル ー メ ン マ ッ ト と peN DF 要 求 量
S ARA の 発 症 や 乳 脂 肪 率 の 低 下 を 防 ぐ た め に 適 切 な pe ND F 給
与 水 準 に 関 す る 研 究 が 積 み 重 ね ら れ て き た ( Mert ens, 1 99 7;
Zeb eli et al. , 2 01 0 a)。 Mert ens (199 7 )は 、 ル ー メ ン pH を 6. 0 以
上 に 維 持 す る た め に は peND F 含 量 を 飼 料 D M 中 2 2 %以 上 と す る
必 要 が あ り 、 乳 脂 肪 率 3 .5 %以 上 を 保 つ た め に は peN DF 含 量 は
20 %以 上 必 要 で あ る と 述 べ て い る 。
一 方 、試 験 3 -1 で は 、RBH 区 は 対 照 区 の 24 .1 %と 比 べ て peN DF
含 量 が 1 8 .7 %と 5. 4 ポ イ ン ト 減 少 し 、peN DFI も 有 意 に 減 少 し た 。
し か し 、ル ー メ ン 発 酵 に は 何 ら 影 響 が 及 ぶ こ と は な か っ た 。Ya ng
and Be a uche mi n (200 9 )は 平 均 ル ー メ ン pH や ル ー メ ン p H が 5 .8
100
を 下 回 る 時 間 は 飼 料 中 peN DF 含 量 や peND FI と 強 い 相 関 が あ る
こ と を 示 し た 。一 方 で 、Wei dner a nd G ra nt (199 4 )は 粒 子 の 細 か
い 大 豆 皮 を 泌 乳 牛 の 飼 料 中 2 5 %ま で 増 量 し て も 、適 度 な ア ル フ ァ
ル フ ァ 乾 草 を 併 給 す る こ と に よ っ て 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や ル
ー メ ン 発 酵 は 適 正 に 保 た れ る こ と を 報 告 し て い る 。後 者 の 結 果 は 、
た と え 飼 料 中 pe N DF 含 量 が 低 下 し て も 、 明 確 な 構 造 性 を 有 し た
ルーメンマットが存在すれば粒子の細かい繊維がルーメンマッ
ト に 取 り 込 ま れ る の で 、結 果 的 に 堅 く 締 ま っ た ル ー メ ン マ ッ ト が
形 成 さ れ 、 SARA を 予 防 で き る こ と を 示 唆 し て い る 。
RBH 区 の T MR は peN DF 含 量 が 低 く て も 、ル ー メ ン マ ッ ト の
堅 さ を 維 持 す る 効 果 が 強 か っ た 。本 結 果 は 、副 産 物 の 物 理 的 有 効
度 を 評 価 す る 際 に 単 純 に peN DF 含 量 の み で 判 断 す る の で は な く 、
その飼料がルーメンマットの堅さ向上に寄与するかどうかとい
った観点からも判断する必要があることを示唆している。
4 .1 . 4. 3.
乳生産
乳 量 と 4 % F CM は 飼 料 間 で 差 が な か っ た が 、こ れ は RBH 添 加
に よ っ て D MI が 減 少 し な か っ た こ と も 原 因 の 一 つ で あ ろ う 。
D MI が 減 少 せ ず 、乳 生 産 も 変 化 し な か っ た と い う 結 果 は 、粗 飼 料
を生コーングルテンフィードで置き換えた過去の報告と一致す
る (All en a nd G ra nt, 2 000 )。
乳 脂 肪 率 も RB H 添 加 に よ っ て 影 響 を 受 け な か っ た 。 こ の 結 果
は綿実殻を給与しても乳脂肪率が低下しなかったとする過去の
報 告 を 支 持 す る も の で あ る (K ononoff and Hei nri chs, 2 0 03a )。本
試 験 で は 乳 脂 肪 率 に 加 え て 、ル ー メ ン 内 の MRT 、pH お よ び 発 酵
101
パ タ ー ン に 関 し て も 飼 料 に よ る 違 い は な か っ た 。 VFA で 観 察 さ
れ た 値 は 両 区 と も 高 ND F 飼 料 で み ら れ る 典 型 的 な そ れ で あ り 、
酢 酸 /プ ロ ピ オ ン 酸 比 か ら 判 断 し て も ル ー メ ン 内 の 微 生 物 活 性 は
好 ま し い も の で あ っ た と 推 察 さ れ る (Cl a rk a nd Arm ent ano,
199 7 )。ま た 、粗 飼 料 繊 維 を RBH 繊 維 で 置 き 換 え て も ル ー メ ン 内
MRT が 変 化 し な か っ た こ と か ら 、 ル ー メ ン 内 の 繊 維 消 化 率 も 影
響を受けなかったと推測される。
RBH 区 に お い て ル ー メ ン 発 酵 が 適 切 に 保 た れ 、 乳 脂 肪 率 が 低
下 し な か っ た と い う 事 実 は 、堅 く 締 ま っ た ル ー メ ン マ ッ ト が 形 成
さ れ 、そ の こ と に よ っ て 反 芻 活 動 も 活 発 に 行 わ れ た こ と と 関 係 し
て い る と 考 え ら れ る 。 RBH 区 は 対 照 区 よ り も 1 9 m m 以 上 篩 の 残
留 割 合 が 低 か っ た が( 図 4 -1 -3 )、切 断 長 の 長 い 繊 維 を 減 ら す こ と
で 選 択 採 食 が 減 り 、乳 脂 率 が 向 上 す こ と が 過 去 に 報 告 さ れ て い る
(Pa rk a nd O ka m ot o, 200 8 )。 K ononoff a nd Hei nri chs (2 003 b )は
泌 乳 牛 の ル ー メ ン pH や 発 酵 に 悪 影 響 を 及 ぼ さ な い た め に 必 要 と
さ れ て き た 従 来 の 繊 維 の 物 理 性 推 奨 値 ( 粒 度 や peN D F 含 量 ) は
過 大 評 価 の 可 能 性 が あ り 、よ り 少 な い 量 で も 適 正 値 を 維 持 で き る
と 示 唆 し て い る が 、ル ー メ ン マ ッ ト の 構 造 性 か ら 解 析 し た 本 研 究
の結果はこれを理論的に支持するものであろう。
乳 タ ン パ ク 質 率 も 処 理 に よ る 違 い は 認 め ら れ な か っ た 。副 産 物
給 与 に よ る 同 様 の 結 果 が 綿 実 殻 ( Kononoff a nd Heinri chs,
200 3a )、コ ー ン グ ル テ ン フ ィ ー ド 、ブ レ ン ド 蒸 留 粕( DD G )お よ
び フ ス マ (Zhu et al. , 1 99 7 ) あ る い は ビ ー ト パ ル プ (Voel ker a nd
Al le n, 2 00 3a ) を 給 与 し た 際 に 報 告 さ れ て い る 。 乳 タ ン パ ク 質 率
は飼料中のタンパク質とエネルギーのバランスに左右される
102
(G ri ev e et al. , 19 86 )。 本 試 験 で は D MI や VFA 濃 度 に 処 理 間 で
差 が な か っ た こ と か ら 、 粗 飼 料 を R BH で 部 分 的 に 置 き 換 え て も
乳 牛 の エ ネ ル ギ ー バ ラ ン ス は 変 化 せ ず 、そ の 結 果 ル ー メ ン 微 生 物
活性や増殖効率も影響を受けなかったと考えられる。
103
4 .1 . 4. 4.
まとめ
peND F 含 量 の 低 い 副 産 物 で あ る RBH を 粗 飼 料 と 置 き 換 え て
も ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 は 維 持 さ れ 、反 芻 活 動 や ル ー メ ン 発
酵 も 適 正 水 準 に 維 持 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。粗 飼 料 由 来 繊 維 が ル
ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 の 骨 格 を 形 成 し 、そ の 構 造 体 の 隙 間 に 細
か い RBH 粒 子 が 組 み 込 ま れ る こ と で 堅 く 締 ま っ た ル ー メ ン マ ッ
ト が 形 成 さ れ る と 推 測 さ れ た 。 そ の こ と が 粗 飼 料 NDF の 一 部 を
RBH の ND F に 置 換 し て も 牛 群 全 体 の 乳 生 産 や 乳 成 分 率 に 影 響
し な か っ た 原 因 で あ る と 考 え ら れ た 。こ れ ら の 結 果 は 、反 芻 活 動
やルーメン発酵を調節するメカニズムについて理解する際にル
ー メ ン マ ッ ト 機 能 が 欠 か せ な い 情 報 で あ る こ と と 、粗 飼 料 繊 維 を
粒子の細かい副産物繊維で部分的に置き換えた際に従来指摘さ
れていたよりも容易にルーメンマットが形成され得ることを示
すものであった。
RBH は 多 数 存 在 す る 副 産 物 の 中 で も 繊 維 含 量 の 高 い 飼 料 で あ
る ( 独 立 行 政 法 人 農 業 ・ 食 品 産 業 技 術 総 合 研 究 機 構 , 2 01 0 )。 他
の 副 産 物 は RBH よ り も 繊 維 含 量 が 低 い も の が 多 く 、 醸 造 粕 や ジ
ュース粕のように溶解性の繊維を含む柔軟なものも珍しくない
( 阿 部 , 200 0 )。そ こ で 、次 な る 課 題 と し て は 、そ れ ら 繊 維 含 量 の
高くない副産物を多給した際にも本試験と同様のルーメン内階
層構造が形成されるのかどうかを検討する必要がある。
104
4.2 . ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 と 高 タ ン パ ク 醸 造 副 産 物 給 与 の 関 係( 試
験 4)
4.2 .1 . 目 的
醤油粕やウイスキー粕のような醸造粕類は一般的にタンパク
質 源 と し て 利 用 さ れ て い る 。本 節 で は 日 本 で 古 来 よ り 製 造 さ れ て
い る 清 酒 や 米 焼 酎 の 醸 造 副 産 物 で あ る 酒 粕 に つ い て 注 目 し た 。酒
粕 は 高 タ ン パ ク 質 で あ る 上 に 繊 維 質 を 適 度 に 含 み (Tsut sui et al. ,
199 8 )、さ ら に 酵 母 の 活 性 が 消 化 管 内 の 環 境 改 善( 芦 田 ら , 199 7 )
や 粗 飼 料 の in vitro 分 解 率 の 向 上 ( 山 田 ら , 20 12 ) に 効 果 を も た
ら す と さ れ て い る 。酒 粕 を 用 い た 泌 乳 試 験 は 散 見 さ れ る が( 有 安
ら , 201 2 )、 酒 粕 給 与 下 の ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 状 況 と の 関 連 に つ
いての情報は存在しない。
G ra nt (1 997 )は 、副 産 物 由 来 の 非 粗 飼 料 繊 維 は 物 理 的 有 効 度 が
低 い た め に 、十 分 な 堅 さ を 有 し た ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 す る こ と
が で き な い と 述 べ て い る 。そ う で あ る な ら ば 、酒 粕 の よ う に 柔 ら
かく針のような刺激を有さない副産物を多給するとルーメンマ
ッ ト が う ま く 形 成 さ れ な い か 、あ る い は 形 成 さ れ た と し て も 反 芻
刺 激 が 十 分 に 確 保 で き ず 、反 芻 活 動 が 減 少 し て し ま う 可 能 性 が 懸
念される。
ル ー メ ン マ ッ ト に は 反 芻 を 促 す 役 割 と 同 時 に 、ル ー メ ン 内 に 入
っ て き た 穀 類 飼 料 を 絡 め 取 り 、保 持 す る 機 能 が あ る と 考 え ら れ て
お り 、 こ の こ と は fi lt e r b ed 効 果 と よ ば れ て い る (P op pi et al. ,
200 1; Zeb el i et al. , 2 012 )。 分 離 給 与 シ ス テ ム を 採 用 し て い る 酪
農 生 産 現 場 で は 、濃 厚 飼 料 を 給 与 す る 前 に 粗 飼 料 を 摂 取 さ せ る こ
と が 推 奨 さ れ て い る 。こ れ は 、粗 飼 料 を 先 に 給 与 す る こ と で 繊 維
105
質 に 富 ん だ 緻 密 で 厚 み の あ る ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 し 、 fil t er
be d 効 果 を 期 待 す る も の で あ る (Rob i nson, 1 98 9; N ocek, 19 92 )。
こ の 理 論 が 正 し け れ ば 、粗 飼 料 よ り も 先 に 濃 厚 飼 料 を 給 与 す る と 、
fi lt er bed 効 果 が 弱 ま り 、 濃 厚 飼 料 の ル ー メ ン 内 平 均 滞 留 時 間
( MRT ) は 短 縮 す る こ と に な る 。
以 上 の 想 定 を 検 証 す る 目 的 で 、本 試 験 で は 酒 粕( SC)と イ ネ 科
乾 草 ( GH) を 基 礎 飼 料 と し て 、 ① そ の 給 与 比 率 を 変 え た と き の
ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 お よ び 咀 嚼 活 動 へ の 影 響 、② 基 礎 飼 料( SC +
G H ) と 蒸 煮 圧 ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ ( SF C ) の 給 与 順 序 が ル ー メ ン
マ ッ ト 内 へ の SF C 飼 料 片 取 り 込 み 効 果 に 及 ぼ す 影 響 、 の 2 点 に
ついてホルスタイン種非泌乳牛を用いて検討した。
4.2 .2 . 材 料 と 方 法
4 .2 . 2. 1.
供試動物
酪農学園大学附属農場で飼養されているルーメンカニューレ
を装着したホルスタイン種非泌乳牛 3 頭を用いた(平均体重
634 .8 kg )。 飼 養 環 境 は 試 験 1 と 同 様 で あ っ た 。
4 .2 . 2. 2.
供試飼料
供 試 飼 料 は イ ネ 科 乾 草 ( G H)、 米 焼 酎 粕 ( 酒 粕 、 SC)、 蒸 煮 圧
ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ ( SF C) を 使 用 し た ( 表 4 -2 -1 )。 S C は 旭 川 市
の酒造メーカーから入手した。
GH は 農 用 裁 断 機 ( ス タ ー 農 機 株 式 会 社 ) を 用 い て 設 定 切 断 長
10m m の 長 さ で 切 断 し て 給 与 し た 。処 理 は SC の 給 与 比 率 を 検 討
す る 狙 い か ら 、 S C と G H の 乾 物 給 与 割 合 を 3 5 : 65 ( SC3 5 ) に
106
し た も の と 65 : 3 5 ( SC65 ) に し た も の に わ け た 。
S C と G H を 基 礎 飼 料 と し て 体 重 の 1.2 5 %量 を 8 時 と 17 時 の
2 回 に 分 け て 等 量 給 与 し た 。 さ ら に SF C を SC35 に は 基 礎 飼 料
の 給 与 直 前( SC35 Bef)と 給 与 1 時 間 後( SC35 Aft )に 、SC65 に
は 同 じ く 給 与 1 時 間 後 ( SC65 Aft ) に 与 え た 。 こ れ は 、 ル ー メ ン
マ ッ ト へ の SF C 取 り 込 み 効 果 を S C 給 与 比 率 の 違 い か ら 検 討 す
る た め と ( SC35 Aft v s. SC65 Aft )、 SF C と 基 礎 飼 料 の 給 与 順 序
の 違 い を 検 討 す る た め で あ っ た( SC 35 Aft v s. SC35 Bef)。し た が
っ て 、 本 試 験 で は SC3 5 Aft が 対 照 区 、 そ の 他 2 処 理 が 試 験 区 と
いう設定であった。
Table 4-2-1 Chemical composition of forage, sake cake
and steamed flaked corn
Grass Hay
Chemical, % DM
CP
NDF
ADF
NFC
Sake cake
11.1
68.5
38.3
10.1
56.5
38.9
21.6
22.7
Steamed
flaked corn
9.5
15.5
4.5
72.3
67.6
78.3
79.9
TDN 1
DM: dry matter; CP: crude protein; NDF: neutral
detergent fiber; NFC: non-fiber carbohydrates; TDN:
total digestible nutrients.
1
TDN was analyzed by the Agricultural Product
Chemical Research Laboratory in the Tokachi Federation
of Agricultural Cooperatives using estimated equations of
NRC (2001).
107
SF C は 1 日 1 回 原 物 で 1 kg を SC3 5Bef に は 7 時 4 5 分 に 、
S C6 5 Aft と SC35 Aft に は 9 時 に 給 与 し た 。 残 飼 に つ い て は 7 時
に 除 去 し た 。塩 は 1 日 5 0g を 基 礎 飼 料 給 与 時 に 振 り か け 給 与 し 、
水 は 自 由 摂 取 と し た 。表 4 -2 -2 に 各 処 理 の 給 与 飼 料 中 の 化 学 成 分
含量、給与量および構成割合を掲載した。
Table 4-2-2 Ingredients and chemical composition of the diets
SC35Aft 1
SC35Bef 2
SC65Aft 3
Ingredients, %
Grass hay
Sake cake (SC)
Steamed flaked corn
59.8
31.6
8.6
59.8
31.6
8.6
31.8
59.9
8.3
Chemical composition, % DM
CP
NDF
ADF
NFC
TDN
25.4
54.3
29.9
19.8
73.3
25.4
54.3
29.9
19.8
73.3
37.7
46.3
25.4
23.2
76.2
1
Control diet: Feeding ratio of SC to GH was 35: 65, and SFC was
fed at 1 h after both GH and SC.
2
Feeding ratio of sake cake (SC) to grass hay (GH) was 35: 65, and
steamed flaked corn (SFC) was fed immediately before both GH
and SC.
3
Feeding ratio of SC to GH was 65: 35, and SFC was fed at 1 h
after both GH and SC.
4 .2 . 2. 3.
試験設計および飼養管理
試 験 は 1 期 17 日 間( 予 備 期 1 0 日 間 、本 試 験 期 7 日 間 )の 3 ×
108
3 ラ テ ン 方 格 法 に よ り 実 施 し た 。採 食 量 は 本 試 験 中 に 毎 日 測 定 し 、
ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 は 本 試 験 期 の 1~ 2 日 目 、 採 食 ・ 反 芻 行 動 は
3~ 4 日 目 、 ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採 取 を 5~ 7 日 目 に お こ な っ た 。
4 .2 . 2. 4.
測定項目およびサンプル採取
採 食 量 、採 食 行 動 お よ び 反 芻 活 動 の 測 定 方 法 に つ い て は 試 験 1
と同様であった。
ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ を 測 定 し 、ル ー メ ン マ ッ ト を 定 義 す る た
めに貫入抵抗測定を実施した。試験 1 と同様の手法であったが、
測 定 時 刻 は 午 前 給 与 直 前( 8 時 )、午 前 給 与 2 時 間 後( 1 0 時 )、午
後 給 与 直 前 ( 1 7 時 )、 午 後 給 与 2 時 間 後 ( 1 9 時 )、 午 後 給 与 8 時
間 後( 翌 日 1 時 )の 5 回 行 い 、1 日 の 測 定 は 3 回 以 内 と し た 。貫
入 抵 抗 測 定 と 同 時 に ル ー メ ン 液 を 5 回 採 取 し た 。ル ー メ ン 液 の 採
取法およびその後の処理は試験 1 と同様の手法で行った。
ル ー メ ン 内 容 物 の プ ー ル サ イ ズ 、 飼 料 片 粒 度 分 布 お よ び SF C
の ル ー メ ン 内 存 在 部 位 を 計 測 す る た め に 、本 試 験 の 5 日 目 、6 日
目 に ル ー メ ン 内 容 物 の 全 量 採 取 を 行 な っ た 。採 取 時 刻 は 午 前 の 基
礎 飼 料 給 与 直 前 ( SC3 5 Bef で は SF C 給 与 直 前 ) の 8 時 ( 0 h) と
基 礎 飼 料 の 午 前 給 与 2 時 間 後 の 10 時( 2 h)と し た 。ま た 、SC3 5 Aft
と SC35 Bef の SF C 給 与 時 刻 が 9 時 で あ っ た の で 、 2 h の ル ー メ
ン 内 容 物 全 量 採 取 は SF C 給 与 1 時 間 後 に 該 当 し た 。 SC 35 Bef で
は SF C 給 与 時 刻 が 7 時 4 5 分 で あ っ た の で 、 SF C 給 与 1 時 間 後
の ル ー メ ン 内 容 物 を 得 る た め に SC3 5Bef に つ い て の み 7 日 目 の
8 時 45 分 か ら 内 容 物 を 全 量 採 取 し た 。
ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採 取 に 先 立 っ て 、 SF C 飼 料 片 の ル ー メ ン
109
内 存 在 位 置 を 測 定 す る た め に 内 容 物 の 背 嚢 上 部( マ ッ ト 層 )を 手
で 、腹 嚢 底 部( 非 マ ッ ト 層 )を カ ッ プ で ス ポ ッ ト 採 取 し た 。そ の
後 に 全 内 容 物 を 採 取 し 、均 一 に な る よ う に 撹 拌 し た 後 に 代 表 サ ン
プ ル を 採 取 し た 。SF C の ル ー メ ン 内 存 在 部 位 を 調 査 す る た め に 、
各 サ ン プ ル を 湿 式 篩 別 し 目 開 き が 1 . 18m m 以 上 の 篩 に 残 留 し た
大 飼 料 片 の 中 か ら ピ ン セ ッ ト を 使 い 肉 眼 で SF C を 選 別 し た 。
0.6 0m m 以 下 の 篩 に 残 留 し た 小 飼 料 片 中 の SF C は 選 別 不 能 で あ
っ た こ と か ら 解 析 か ら は 除 外 し た 。ル ー メ ン 内 容 物 の 採 取 お よ び
粒 度 分 画 測 定 法( 湿 式 篩 別 法 )に 関 す る そ の 他 の 手 法 に つ い て は
前 節 ( 試 験 3) と 同 様 と し た 。
予 備 期 最 終 日( 1 0 日 目 )、基 礎 飼 料 の 午 前 給 与 前 に 飼 料 の ル ー
メ ン 内 MRT を 測 定 す る た め に 、 希 土 類 元 素 で 標 識 し た G H、 S C
お よ び 2 種 類 の SF C マ ー カ ー を 単 投 与 し た 。 SF C に つ い て は ル
ーメンマットへの取り込みを評価するために口から摂取させる
マ ー カ ー( 摂 取 SF C)と ル ー メ ン カ ニ ュ ー レ を 介 し て ル ー メ ン マ
ッ ト 内 へ 直 接 挿 入 す る マ ー カ ー ( ル ー メ ン 挿 入 SF C) の 2 種 類
を 用 意 し た 。 標 識 に 用 い た 希 土 類 元 素 は G H が L a 、 SC が Yb 、
摂 取 SF C が Sm 、 ル ー メ ン 挿 入 SF C が D y で あ っ た 。 G H と S C
マ ー カ ー は 7 時 4 5 分 に 、 摂 取 SF C マ ー カ ー は SC3 5 Bef で は 7
時 45 分 に 、SC35 Aft と SC6 5 Aft で は 9 時 に 摂 取 さ せ た 。ル ー メ
ン 挿 入 SF C マ ー カ ー は 、摂 取 SF C マ ー カ ー と 同 時 刻 に ル ー メ ン
マ ッ ト 表 層 の 直 下 に 埋 め 込 む よ う に 投 与 し た 。具 体 的 に は 、カ ニ
ュ ー レ か ら ひ と つ か み の 内 容 物 を 取 り 出 し 、で き た 空 洞 部 分 に マ
ー カ ー を 投 入 し 、そ の 後 取 り 出 し た 内 容 物 で 封 を し た 。ま た 、ル
ー メ ン 挿 入 SF C マ ー カ ー に つ い て は 、 咀 嚼 を 受 け た 状 態 に 類 似
110
させるために、投与直前に金槌で粗く砕き、温湯に浸した。
4 .2 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼 料 お よ び ル ー メ ン 内 容 物 の 分 析 は 試 験 1 と 同 様 で あ る 。希 土
類 元 素 マ ー カ ー の 調 製 お よ び 元 素 濃 度 の 分 析 、 MRT の 算 出 方 法
については試験 2 と同様とした。糞採取は投与日の 8 時を起点
と し て 6, 1 0, 1 4, 1 8, 22 , 26 , 30, 3 6, 4 2, 48 , 60 , 72, 8 4 お よ び 9 6
時 間 後 に 行 っ た 。ル ー メ ン 液 を 解 凍 後 、ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 お
よ び VFA 濃 度 の 分 析 を お こ な っ た 。 分 析 方 法 は 試 験 2 と 同 様 で
あった。
4 .2 . 2. 6.
統計処理
統 計 処 理 に は J MP7 .0 .2( SAS, 20 07 )を 用 い た 。本 試 験 で は 3
種 の 処 理 を 設 け た が 、S C35 Aft を 対 照 区 と し て 扱 い 、基 礎 飼 料 と
SF C の 給 与 順 序 と ル ー メ ン マ ッ ト へ の SF C 取 り 込 み と の 関 係 を
査 定 す る た め に SC35 Bef を 設 け 、SC と G H の 給 与 比 率 と ル ー メ
ンマットの性状や機能の違いとの関係を評価するために
SC6 5 Aft を 設 け た 。 し た が っ て 、 SF C と 基 礎 飼 料 の 給 与 順 序 効
果 を SC3 5 Aft と S C3 5 Bef と の 間 で 、 SC と G H の 給 与 比 率 効 果
を SC35 Aft と SC6 5 Aft と の 間 で 、 そ れ ぞ れ 比 較 す る た め に
SC3 5 Aft を 対 照 区 と し て D unnet t の 多 重 比 較 検 定 (Dunnett ,
195 5 )を 実 施 し た 。同 一 処 理 内 の 摂 取 SF C マ ー カ ー と ル ー メ ン 挿
入 SF C マ ー カ ー の MRT を 比 較 す る た め に 、対 応 の あ る t 検 定 を
実 施 し た 。 P < 0. 0 5 で 有 意 差 あ り 、 P < 0. 10 で 傾 向 あ り と し た 。
111
4.2 .3 . 結 果
4 .2 . 3. 1.
採食量および咀嚼活動
採 食 量 と 咀 嚼 活 動 の 結 果 を 表 4 -2 -3 に ま と め た 。 D MI に 処 理
間 で 差 は な か っ た が 、 N DF I は SC65 Aft が SC35 Aft よ り も 有 意
に 少 な か っ た ( P < 0 .0 5 )。 総 採 食 時 間 お よ び 採 食 期 回 数 に 処 理
間 差 は な か っ た 。 採 食 期 持 続 時 間 は SC3 5 Aft よ り も SC6 5 Aft で
短 い 傾 向 に あ っ た ( P < 0. 10 )。 総 反 芻 時 間 と 反 芻 期 持 続 時 間 に
は 処 理 間 で 差 は み ら れ な か っ た 。 SC 65 Aft の 反 芻 期 出 現 回 数 は
SC3 5 Aft と 比 べ 少 な い 傾 向 に あ っ た ( P < 0. 10 )。 総 咀 嚼 時 間 、
D MI お よ び N D FI あ た り の 総 咀 嚼 時 間 は 飼 料 間 で 差 は な か っ た 。
Table 4-2-3 Intake and chewing activity in cows
P -value
SC35Aft SC35Bef SC65Aft
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
Chewing activity
Eating time, min/day
No. of meal, /day
Duration of meal, min
Rumination time, min/day
No. of rumination period, /day
Duration of rumination period, min
SE
SC35Aft vs. SC35Aft vs.
SC65Aft
SC35Bef
9.54
5.29
9.54
5.31
9.56
4.66
0.31
0.15
NS
NS
NS
0.04
120.9
4.33
34.0
113.5
5.17
27.3
103.6
5.67
22.1
30.8
1.39
2.5
NS
NS
NS
NS
NS
0.0502
305.2
12.5
25.5
321.7
12.0
25.7
277.3
10.3
26.9
30.1
0.5
2.4
NS
NS
NS
NS
0.0502
NS
381.0
39.9
81.9
40.9
4.0
7.4
NS
NS
NS
NS
NS
NS
426.1
435.2
Total chewing time, min/day
44.4
45.7
Total chewing time/DMI, min/kg
80.1
82.0
Total chewing time/NDFI, min/kg
SC35Aft, SC35Bef, and SC65Aft are defined in Table 4-2-2.
SE: Standard error
112
4 .2 . 3. 2.
ルーメン内容物およびルーメンマット性状
ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 的 性 状 に つ い て 表 4 -2 -4 に 示 し た 。 D M
お よ び ND F 総 量 は 飼 料 間 で 差 は な か っ た 。 給 与 直 前 の SC65 Aft
の 大 飼 料 片 割 合 は SC3 5 Aft と 比 べ て 有 意 に 高 か っ た( P < 0. 05 )。
SC3 5 Aft と SC35 Bef で は 給 与 2 時 間 後 で 大 飼 料 片 割 合 が 増 加 し 、
小 飼 料 片 と 可 溶 性 分 画 割 合 が 減 少 し た が 、SC6 5 Aft で は 給 与 後 の
変 動 は 小 さ か っ た 。ル ー メ ン 内 容 物 、ル ー メ ン マ ッ ト お よ び 非 マ
ッ ト 層 の qc 値 お よ び 深 度 は 処 理 間 で 差 は な か っ た 。
図 4 -2 -1 に 総 ル ー メ ン 内 容 物 お よ び ル ー メ ン マ ッ ト の q c 値 、
深 さ お よ び 厚 さ に つ い て 示 し た 。 SC 35 Aft と SC35 Bef の ル ー メ
ン マ ッ ト は 給 与 後 堅 く な っ て い く 傾 向 に あ っ た が 、SC6 5Aft で は
午 前 給 与 後 に 軟 化 し た ( 図 4 -2 -1a )。 総 ル ー メ ン 内 容 物 の 深 さ は
処 理 間 で 同 様 で あ り 、給 与 後 深 く な り 、時 間 経 過 と と も に 徐 々 に
浅 く な っ て い っ た ( 図 4 -2 -1b )。 ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ は 、
SC3 5 Aft と SC35 Bef で は 総 ル ー メ ン 内 容 物 と 同 様 の 傾 向 を 示 し
た が 、SC65 Aft で は 給 与 2 時 間 後 に 一 旦 減 少 し 、そ の 後 増 加 す る
傾 向 を 示 し た ( 図 4-2 -1 b )。 ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ と 総 ル ー メ ン
内 容 物 の 深 さ の 比 は 、SC3 5 Aft と SC35 Bef で は 比 較 的 一 定 で 50
~ 70 %の 間 で 推 移 し た の に 対 し 、SC 65 Aft で は 4 0 ~80 %と 変 動 の
幅 が 大 き か っ た ( 図 4 -2 -1 c)。
113
Table 4-2-4 Rumen digesta characteristics in cows
Effects, P
SC35Aft SC35Bef SC65Aft
SE
SC35Aft vs. SC35Aft vs.
SC65Aft
SC35Bef
DM weight, kg
0 h1
5.65
5.50
7.01
0.87
NS
NS
1
9.80
9.64
10.72
0.96
NS
NS
3.59
5.82
3.38
6.00
5.04
6.65
0.68
0.65
NS
NS
NS
NS
3.1
NS
0.04
2h
NDF weight, kg
0h
2h
Particle size distribution, % of total digesta DM
0h
45.1
32.1
31.5
Large particles
(> 1.18 mm)
Small particles
(> 0.047 mm)
30.4
30.0
28.1
2.5
NS
NS
Soluble fraction
(< 0.047 mm)
38.1
37.9
26.8
4.5
NS
NS
49.0
22.1
28.9
45.7
23.4
30.9
48.1
22.8
29.1
2.9
2.1
2.3
NS
NS
NS
NS
NS
NS
8.41
8.58
8.55
0.94
NS
NS
58.3
60.9
57.1
1.8
NS
NS
10.3
10.9
11.0
1.31
NS
NS
35.2
32.5
33.1
2.2
NS
NS
6.49
6.30
7.01
0.95
NS
NS
23.2
28.4
24.0
3.4
NS
NS
2h
Large particles
Small particles
Soluble fraction
Penetration resistance test
Total rumen digesta
qc value 2, N/cm2
Depth, cm
Ruminal mat 3
qc value, N/cm2
Thickness, cm
Non-mat material 4
qc value, N/cm2
Depth, cm
1
Hours after feeding.
2
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the cone, Ac: The
projected area of the cone.
3
Values are the means in the upper part of the intersecting point between two regression
lines for the relationship between the PRV and depth of the rumen digesta.
4
Values are the means in the bottom part of the intersecting point between two regression
lines for the relationship between PRV and depth of the rumen digesta.
SC35Aft, SC35Bef, and SC65Aft are defined in Table 4-2-2.
SE: Standard error
114
115
4 .2 . 3. 3.
ルーメン内飼料片の挙動
SF C 飼 料 片( > 1 .18 m m )の ル ー メ ン 内 存 在 位 置 お よ び ル ー メ
ン 内 MRT に つ い て 表 4 -2 -5 に 示 し た 。 給 与 直 前 で は 、 全 て の 処
理 に お い て 総 内 容 物 、ル ー メ ン マ ッ ト お よ び 非 マ ッ ト 層 の い ず れ
に お い て も SF C 飼 料 片 は ご く わ ず か し か 存 在 し な か っ た 。 給 与
1 時間後のルーメン背嚢部のマット層には 3 飼料ともに引き続き
ご く 少 量 の SF C 飼 料 片 が み ら れ た に 過 ぎ な い が 、 ル ー メ ン 腹 嚢
部 の 液 層 中 に は 1 9 ~28 % と い う 大 量 の SF C 飼 料 片 が 存 在 し た 。
Table 4-2-5 Location just before (0 h) or 1 h after feeding in the rumen of steamed flaked corn (SFC)
particles (>1.18 mm) and ruminal mean retention time (MRT) of feed particles in cows
SC35Aft SC35Bef SC65Aft
SE
P -value
SC35Aft vs. SC35Aft vs.
SC35Bef
SC65Aft
DM percentage of SFC particles at 0 h1, %
in total digesta
0.31
in ruminal mat
0.44
in non-mat material
1.61
0.46
0.39
0.39
0.89
0.66
0.50
0.15
0.22
0.57
NS
NS
NS
0.06
NS
NS
DM percentage of SFC particles at 1 h1, %
in total digesta
4.98
in ruminal mat
2.88
in non-mat material
28.4
4.14
3.40
20.7
6.94
1.66
18.8
1.11
0.60
7.7
NS
NS
NS
NS
NS
NS
65.5 13.4
740.9 132.0
NS
NS
0.09
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
The amount of SFC particles
(>1.18 mm) in the rumen, g
DM
0 h
1 h
MRT of particles, hour
Grass hay
Sake cake
SFC ingested
SFC inserted into rumen
20.4
483.1
24.5
495.6
32.5
26.3
28.9
29.4
35.8
29.4
32.7
35.0
35.1
28.0
31.3
35.9
1
Hours after feeding SFC.
SC35Aft, SC35Bef, and SC65Aft are defined in Table 4-2-2.
SE: Standard error; DM: Dry matter.
116
3.0
2.8
3.5
4.7
給 与 直 前 の 総 内 容 物 中 SF C 飼 料 片 プ ー ル サ イ ズ は 、 SC 35 Aft と
比 べ て SC65 Aft で 多 い 傾 向 を 示 し た が ( P < 0 .1 0 )、 各 処 理 と も
絶 対 量 は 少 な か っ た 。一 方 、給 与 1 時 間 後 で は 比 較 的 多 く の SF C
飼 料 片 が ル ー メ ン 内 に プ ー ル さ れ て お り 、 特 に SC6 5 Aft で 顕 著
であった。
ル ー メ ン 内 MR T は 各 マ ー カ ー と も に 処 理 に よ る 違 い が み ら れ
な か っ た 。 ま た 、 同 一 処 理 内 で 摂 取 SF C マ ー カ ー と ル ー メ ン 内
挿 入 SF C マ ー カ ー の MRT を 比 較 し て も 、 各 飼 料 と も に 有 意 差
は認められなかった。
4 .2 . 3. 4.
ルーメン発酵
ル ー メ ン 液 の 発 酵 性 状 に つ い て 表 4-2 -6 に 示 し 、 ル ー メ ン pH
の 日 内 推 移 を 図 4 -2-2 に 示 し た 。pH お よ び VFA の 日 平 均 に は 処
理 に よ る 差 は な か っ た 。 ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 は SF C の 給 与 順
序 ( P < 0. 05 )、 SC の 給 与 比 率 ( P < 0. 001 )に そ れ ぞ れ 有 意 差 が 認
め ら れ 、い ず れ も SC3 5 Aft が 低 い 値 と な っ た 。ル ー メ ン pH は 飼
料 給 与 に と も な い 急 速 に 低 下 し 、午 後 給 与 2 時 間 後 に 最 低 を 記 録
し た ( 図 4 -2 -2 )。 SC6 5 Aft の 夕 方 ( 17 時 ) の pH は S C3 5 Aft よ
り も 有 意 に 低 か っ た が ( P < 0 .0 5 )、 そ れ 以 外 は 処 理 間 で 差 は み
られなかった。
117
Table 4-2-6 Ruminal pH, VFA, and NH3-N for each diet in dry cows
pH
7.12
6.72
6.80
Effects, P
SC35Aft vs. SC35Aft vs.
SC35Bef
SC65Aft
0.14
NS
NS
VFA
Total, mM
Acetate (A), mM
Propionate (P), mM
Butyrate, mM
A:P
92.6
56.9
17.2
10.4
3.43
105.8
68.3
18.2
10.5
3.94
92.1
51.3
17.1
11.7
3.13
5.4
5.7
1.5
1.1
0.42
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
1.3
0.03
0.001
SC35Aft SC35Bef SC65Aft
NH3-N, mg/dL
11.6
17.7
25.0
SC35Aft, SC35Bef, and SC65Aft are defined in Table 4-2-2.
SE: Standard error
118
SE
4.2 .4 . 考 察
4 .2 . 4. 1.
SC と G H の 給 与 比 率 と ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 の 関 係
本 試 験 で は 、SC を 非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て 用 い た が 、当 初 は S C
給 与 比 率 を 高 め る と ル ー メ ン マ ッ ト は 形 成 さ れ な い か 、形 成 さ れ
た と し て も 軟 弱 な 状 態 で あ ろ う と 推 測 し た 。 し か し 、 SC レ ベ ル
を 65 % ま で 高 め て も S C35 飼 料 と 遜 色 な い ル ー メ ン マ ッ ト が 形
成 さ れ た 。繊 維 質 に 富 ん だ 大 飼 料 片 は ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 を
高 め る と 考 え ら れ て い る (Va n Soest , 199 4 )。 SC65 Aft で は 乾 草
給 与 量 が 少 な か っ た が 、 ル ー メ ン 内 の ND F プ ー ル サ イ ズ や 大 飼
料 片 割 合 は SC3 5 Aft と 比 べ て 低 下 し な か っ た 。 こ の 原 因 は 不 明
で あ る が 、一 つ に は 酒 粕 の 高 い ア ル コ ー ル 濃 度 や 溶 解 す る と 粘 度
を 有 す る 特 質 、 あ る い は SC6 5 Aft に お い て ル ー メ ン 内 ア ン モ ニ
ア 濃 度 が 高 か っ た こ と な ど が 、繊 維 分 解 細 菌 の 活 性 に 対 し て 抑 制
的な影響を及ぼした可能性があるかもしれない。いずれにせよ、
S C6 5 Aft に お い て 繊 維 質 や 大 飼 料 片 の プ ー ル サ イ ズ が 減 少 し な
か っ た こ と が 、ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 を 保 っ た 原 因 で あ る と 推
測する。
一 方 で 、 ル ー メ ン マ ッ ト 性 状 の 日 内 変 動 の 傾 向 は S C3 5 Aft と
SC6 5 Aft で は 異 な っ た 。マ ッ ト の 堅 さ と 厚 さ は 、SC35 Aft で は 飼
料 給 与 に と も な っ て 上 昇 し た 。対 照 的 に 、SC6 5 Aft で は 総 ル ー メ
ン内容物の深さが給与後に増すと、ルーメンマットは薄くなり、
堅 さ も 減 少 し た 。そ れ ゆ え 、SC65 Aft の 総 内 容 物 に 対 す る ル ー メ
ン マ ッ ト 厚 さ の 比 率 は 給 与 前 の 80 % か ら 給 与 後 2 時 間 で 4 0 % に
急 低 下 し た 。可 能 性 と し て 酒 粕 が 有 す る 液 体 に 溶 け や す い 性 質 が
関 係 し て い た の か も し れ な い( 図 4 -2 -3 )。酒 粕 が ル ー メ ン 液 中 で
119
溶 解 し 、ル ー メ ン 内 容 物 全 体 が 粘 度 を 有 し た 粥 状 に な り 、マ ッ ト
が一時的に軟化した可能性がある。
ル ー メ ン 内 NDF プ ー ル サ イ ズ や 大 飼 料 片 割 合 は 飼 料 間 で 差 が
な か っ た に も か か わ ら ず 、 反 芻 期 回 数 は SC65 Aft で 少 な く な る
傾 向 を 示 し た 。 加 え て 、 ル ー メ ン p H も SC65 Aft は S C3 5 Aft と
比 べ て 低 い 時 間 帯 が 存 在 し た 。ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ を 日
平均でみると処理間差はなかったが、日内の変動でみると
SC6 5 Aft は SC3 5 Aft よ り も 大 き く 変 動 し 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅
い 状 態 が 長 時 間 持 続 し な か っ た と 判 断 で き る 。一 般 的 に 反 芻 活 動
はルーメンマットの堅さや安定性を減じると考えられている
120
(Zeb eli et al. , 20 07 )。 SC65 Aft の ル ー メ ン マ ッ ト が 堅 か っ た の
は 日 内 の 一 時 期 の み に 限 定 さ れ 、堅 さ が 長 時 間 持 続 し な か っ た こ
と か ら 、SC65 Aft の ル ー メ ン マ ッ ト は 短 時 間 の 反 芻 活 動 で 容 易 に
軟化する性質を有していたことが示唆される。言い換えると、
S C6 5 Aft の ル ー メ ン マ ッ ト は SC3 5 Aft と 比 べ て 反 芻 を 誘 発 す る
物理性に乏しかったとも見て取れる。このことが、結果的に
SC6 5 Aft に お け る ル ー メ ン 内 の 低 p H 傾 向 を 生 ん だ 一 因 で あ る
かもしれない。
4 .2 . 4. 2.
ル ー メ ン マ ッ ト へ の SF C 飼 料 片 取 り 込 み
総 内 容 物 に 占 め る 1 .18 m m 以 上 の SF C 飼 料 片 の 割 合 は 給 与 直
前 で は 全 て の 処 理 に お い て 数 % し か 存 在 し な か っ た 。S FC 給 与 1
時 間 後 で は 、 そ の 割 合 は 増 加 し た が 、 大 半 の SF C 飼 料 片 は ル ー
メ ン 底 部 に 沈 ん で い た 。実 際 、湿 式 篩 別 法 で ル ー メ ン 背 嚢 部 内 容
物 を 篩 い 分 け し て い る 際 に 、 肉 眼 で は SF C 飼 料 片 を ほ と ん ど 観
察 で き な か っ た 。 1 .18 m m 以 下 の SF C 小 飼 料 片 が ル ー メ ン マ ッ
ト 内 部 に 取 り 込 ま れ て い た 可 能 性 は あ る が 、給 与 1 時 間 後 に 大 半
の SF C 飼 料 片 が ル ー メ ン 腹 嚢 部 に 沈 ん で し ま っ て い た こ と は 事
実 で あ る 。 す な わ ち 、 摂 取 さ れ た S FC は ル ー メ ン マ ッ ト に ほ と
ん ど 取 り 込 ま れ な か っ た か 、一 旦 は 取 り 込 ま れ た と し て も そ の 後
速 や か に ル ー メ ン 腹 嚢 部 に 沈 ん で し ま う こ と が 示 さ れ た 。こ の 傾
向 は 、基 礎 飼 料 と S FC の 給 与 順 序 の 違 い( SC3 5 Bef v s. SC3 5 Aft )
や 、SC と G H の 給 与 比 率 の 違 い( SC 35 Aft v s. SC65 Aft )に よ っ
て左右されることはなかった。
こ れ ま で 、堅 い ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 し て 濃 厚 飼 料 を マ ッ ト 内
121
に 取 り 込 ま せ る た め に 、粗 飼 料 を 濃 厚 飼 料 よ り も 先 に 給 与 す る こ
と が 推 奨 さ れ て き た 。し か し 、ル ー メ ン 底 部 に 速 や か に 沈 ん で し
ま っ た SF C 飼 料 片 か ら 判 断 す る と 、 SC3 5 Bef の よ う に 濃 厚 飼 料
よりも先に粗飼料を給与することが必ずしも有効ではないこと
が示唆された。
SF C 飼 料 片 の 大 半 が 給 与 後 最 初 の 採 食 期 中 に ル ー メ ン 腹 嚢 部
に 沈 ん で し ま っ た と い う 事 実 は 、 従 来 広 く 浸 透 し て い た ” fil te r
be d effect ” 理 論 (F ai chney, 19 80 ; K ennedy a nd Murph y, 19 88;
Be rna rd et al. , 20 00; Zebeli et al. , 2 012 )に 疑 問 を 呈 す る 結 果 と
な っ た 。本 結 果 か ら ル ー メ ン 内 部 を 具 体 的 に イ メ ー ジ し て み る と 、
摂 取 さ れ 嚥 下 さ れ た SF C 食 塊 が 堅 く 締 ま り 厚 み の あ る ル ー メ ン
マットへ進入できずにはじき飛ばされてしまいルーメン腹嚢部
に沈んでしまった、という図式が推測される。
Ewi ng et al. (19 86 )は 咀 嚼 さ れ て い な い 全 粒 ト ウ モ ロ コ シ を ル
ー メ ン カ ニ ュ ー レ か ら 投 与 し た と こ ろ 、ル ー メ ン 腹 嚢 底 部 に 速 や
か に 沈 ん で し ま い 、そ れ 以 降 ル ー メ ン 背 嚢 部 に 戻 さ れ た り 、反 芻
に よ っ て 吐 き 戻 さ れ る こ と は な か っ た と 報 告 し て い る 。 We l ch
(1 98 2) は 微 細 な プ ラ ス チ ッ ク 片 を ル ー メ ン 底 部 に 投 与 し た と こ
ろ 、 プ ラ ス チ ッ ク 片 は わ ず か 1 8~ 3 8 分 後 に は 第 二 胃 ・ 第 三 胃 口
へ 移 動 し て し ま う こ と を 確 認 し た 。こ の こ と か ら 、ル ー メ ン 底 部
に沈んでしまった小飼料片は極端に重い比重でなければ速やか
に ル ー メ ン か ら 流 出 し て し ま う と 推 測 さ れ る 。 事 実 、 R ém ond et
al. (20 04 )に よ る と 、 ト ウ モ ロ コ シ 穀 実 の 粒 度 が 増 す と ル ー メ ン
から未消化のまま下部消化管に流出する割合も増加することが
確認されている。
122
経 口 投 与 し た S FC マ ー カ ー が ル ー メ ン マ ッ ト に 取 り 込 ま れ ず 、
速やかにルーメン底部に沈んでしまうならば、そのルーメン内
MRT は ル ー メ ン マ ッ ト へ 挿 入 し た SF C マ ー カ ー の MR T よ り も
短 く な る と 予 測 し た 。し か し 、本 結 果 か ら は そ の よ う な 傾 向 は み
ら れ ず 、 ル ー メ ン マ ッ ト へ の 飼 料 片 取 り 込 み 効 果 と M RT の 関 係
は不明瞭なままであった。
ル ー メ ン 挿 入 SF C マ ー カ ー は 投 与 前 に 粗 く 砕 き 、 温 湯 に 浸 す
こ と で 、 咀 嚼 を 受 け た 摂 取 SF C マ ー カ ー の 状 態 に 近 づ け る 工 夫
を し た が 、ル ー メ ン 内 の 挙 動 は 実 際 に 咀 嚼 を 受 け た 経 口 投 与 マ ー
カ ー と は 異 な っ て い た の か も し れ な い 。粒 度 分 布 や 可 溶 性 分 画 の
含 量 が ル ー メ ン 挿 入 SF C マ ー カ ー と 摂 取 SF C マ ー カ ー で は 異 な
っ て い た か も し れ な い か ら で あ る 。こ れ ら の 理 由 か ら 、SF C マ ー
カ ー MRT の 結 果 の 解 釈 に つ い て は 即 断 を 避 け る 必 要 が あ る 。 ま
た 、本 試 験 は 3 頭 の 乳 牛 で 設 計 し た こ と も あ る の で 、ル ー メ ン マ
ットへの穀物飼料片の取り込みとルーメンからの通過動態の関
係については頭数を増やした上でさらなる検討が必要であろう。
G H と SC か ら な る 基 礎 飼 料 と S F C の 給 与 順 序 は 、 SF C 飼 料
片のルーメンマットへの取り込みに対して効果を発揮しなかっ
た 。し か し 、粗 飼 料 は 濃 厚 飼 料 よ り も 時 間 を 掛 け て 摂 取 さ れ る た
め に 食 塊 へ の 唾 液 添 加 量 は 多 く な る ( Ba l ch, 19 58 )。こ れ は 、粗 飼
料 を 濃 厚 飼 料 よ り も 先 に 給 与 す る こ と で 、採 食 時 咀 嚼 に よ っ て ル
ー メ ン 内 に 流 入 す る 唾 液 量 が 多 く な る こ と を 意 味 し て い る 。採 食
中 に ル ー メ ン 内 に 大 量 の 唾 液 が 流 入 す る と 、緩 衝 作 用 が 強 化 さ れ 、
そ の 後 に 摂 取 さ れ る 濃 厚 飼 料 発 酵 に 伴 う pH の 急 低 下 を 予 防 す る
効 果 が あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る (Ya ng a nd Bea uchem in,
123
200 7a )。
本 試 験 の SF C 給 与 量 は わ ず か 1 kg で あ っ た の で SC3 5Bef と
SC3 5 Aft で ル ー メ ン pH に 差 は み ら れ な か っ た が 、大 量 の 濃 厚 飼
料 を 要 求 す る 高 泌 乳 牛 で あ れ ば 、粗 飼 料 よ り も 先 に 濃 厚 飼 料 を 給
与することでルーメンの健康や機能が損なわれる可能性が強い。
たとえルーメンマットへの濃厚飼料取り込み効果がほとんど期
待 さ れ な い と し て も 、ル ー メ ン 環 境 の 安 定 化 と い う 観 点 か ら す る
と 、分 離 給 与 体 系 の 酪 農 生 産 現 場 に お い て は 濃 厚 飼 料 よ り も 先 に
粗飼料を給与する意義は無視できないと考える。
4 .2 . 4. 3.
まとめ
高 タ ン パ ク 醸 造 副 産 物 で あ る SC を 多 給 し て も ル ー メ ン マ ッ ト
が 形 成 さ れ る こ と が 本 試 験 結 果 か ら 明 ら か と な っ た 。一 方 で 、全
て の 処 理 に お い て 摂 取 直 後 の SF C 飼 料 片 が ル ー メ ン 腹 嚢 部 に 沈
ん で い た こ と か ら 、粗 飼 料 と 濃 厚 飼 料 の 給 与 順 序 あ る い は 粗 飼 料
と 副 産 物 の 給 与 比 率 の 違 い と 、濃 厚 飼 料 の ル ー メ ン マ ッ ト へ の 取
り 込 み の 関 係 性 は 認 め ら れ な か っ た 。こ の こ と か ら 、従 来 提 唱 さ
れ て き た “ fil t er b ed’’ 効 果 は 過 大 に 評 価 さ れ て き た 可 能 性 が 示 唆
された。
124
4.3 . 非 粗 飼 料 繊 維 源 お よ び 併 給 牧 草 種 が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に
及 ぼ す 影 響 ( 試 験 5)
4.3 .1 . 目 的
ビートパルプや果実由来の副産物は易消化性の繊維含量が高
く 、 消 化 性 が 良 い た め 乳 牛 飼 料 と し て 優 れ た 繊 維 源 と な る (Hsu
et al. , 198 7 )。 一 方 で 、 こ の よ う な 非 粗 飼 料 繊 維 源 は 粗 飼 料 に 比
べ る と 粒 子 が 細 か く 柔 ら か い こ と が 多 い の で 、採 食 や 反 芻 時 の 咀
嚼 回 数 と そ れ に 付 随 す る 唾 液 の 分 泌 量 が 減 少 し 、ル ー メ ン pH を
調 節 す る 緩 衝 能 も 弱 ま る と 予 測 さ れ る (Voel ker a nd All en,
200 3a, c)。さ ら に 、こ の よ う な 繊 維 で は ル ー メ ン 内 に お け る マ ッ
ト 層 形 成 も さ ほ ど 期 待 で き な い と 考 え ら れ て き た (Ea st ri dg e et
al. , 200 9 )。
副産物由来の高消化性繊維はこのように物理的有効度が低い
た め 粗 飼 料 と 組 み 合 わ せ て 給 与 し な く て は な ら な い 。し か し 、組
み合わせる粗飼料によっては乳牛のルーメン環境を適正に保つ
こ と が 困 難 に な る 可 能 性 が あ る 。 We idner and G rant (199 4 )は 、
非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て 大 豆 皮 を 多 給 し た 際 に 、組 み 合 わ せ る 粗 飼
料をコーンサイレージ+アルファルファサイレージからアルフ
ァ ル フ ァ 乾 草 に 変 更 し た と こ ろ ル ー メ ン pH お よ び 酢 酸・プ ロ ピ
オ ン 酸 比 が と も に 上 昇 し た こ と を 報 告 し て い る 。ル ー メ ン 発 酵 を
適 正 に 保 ち 、SARA を 予 防 す る と い う 観 点 か ら 、非 粗 飼 料 繊 維 源
と併給する粗飼料の組み合わせとルーメンマットの形成状況の
関 係 は 重 要 で あ る 。し か し 、そ れ ら の 組 み 合 わ せ と マ ッ ト 形 成 の
関連についてはこれまでほとんど検討されてこなかった。
そ こ で 本 試 験 で は 、非 粗 飼 料 繊 維 源 と し て ビ ー ト パ ル プ を 用 い 、
125
組み合わせる粗飼料としてマメ科のアルファルファ乾草とイネ
科 乾 草 を 用 い た 。ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 と イ ネ 科 乾 草 で は 繊 維 の 物
理 性 や 分 解 特 性 が 異 な る た め (G il l et al. , 19 88 ; G renet , 19 89 ;
Ue da et al. , 2 001 )、 反 芻 刺 激 効 果 や ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 能 に 差
が あ る と 想 定 さ れ る か ら で あ る 。以 上 の 想 定 に 基 づ き 、こ れ ら の
飼 料 の 組 み 合 わ せ と 給 与 比 率 を 変 え て 乳 牛 に 与 え た と き の 、ル ー
メンマット性状や反芻活動に及ぼす影響について検討すること
を目的とした。
4.3 .2 . 材 料 と 方 法
4 .3 . 2. 1.
供試動物
酪農学園大学附属農場で飼養されているルーメンカニューレ
を装着したホルスタイン種非泌乳牛 4 頭を用いた(平均体重
638 .5 kg )。 飼 養 環 境 は 試 験 1 と 同 様 の 精 密 試 験 タ イ ス ト ー ル で
あった。
4 .3 . 2. 2.
供試飼料
供 試 飼 料 は ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 (AH) 、イ ネ 科 乾 草( G H)、ビ ー
ト パ ル プ( BP ) を 用 い た( 表 4 -3 -1 )。AH と BP の 乾 物 給 与 比 を
8:2 ( A8 B2 ) と 2: 8 ( A2 B8 )、 G H も 同 様 に 8 : 2 ( G8 B2 ) と 2 :8
( G2 B8 ) と し た 4 処 理 を 設 け た 。 こ れ ら の 飼 料 を 1 日 1 回 、 8
時 に 給 与 し た 。両 乾 草 は 手 押 し の 裁 断 機 で 15 ~ 2 0 cm 程 度 に 粗 く
切 断 し て 給 与 し た 。 残 飼 に つ い て は 翌 朝 7 時 30 分 に 除 去 し た 。
給 与 量 は 日 本 飼 養 標 準( 1 99 9 年 版 )に 基 づ き T DN 充 足 率 が 1 00 %
に な る よ う に 1 日 1 回 制 限 給 与 し た 。 塩 は 1 日 50 g を 飼 料 に 振
126
りかけ給与し、水は自由摂取とした。
Table 4-3-1 Chemical composition of forage and
beet pulp
Alfalfa hay
Chemical, % DM
OM
86.8
CP
19.1
NDF
42.3
ADF
35.5
NFC
23.7
Grass hay
94.7
6.2
73.7
46.1
12.9
Beet pulp
93.3
10.4
45.6
21.9
36.6
TDN 1
56.9
54.2
64.4
DM: dry matter; OM: organic matter; CP: crude
protein; NDF: neutral detergent fiber; ADF: acid
detergent fiber; NFC: nonfiber carbohydrates; TDN:
total digestible nutrients.
1
TDN was analyzed by the Agricultural Product
Chemical Research Laboratory in the Tokachi
Federation of Agricultural Cooperatives using
estimated equations of NRC (2001).
4 .3 . 2. 3.
試験設計および飼養管理
試 験 は 1 期 20 日 間 ( 予 備 期 10 日 間 、 本 試 験 期 10 日 間 ) の 2
要 因 2 水 準 に 基 づ く 4×4 ラ テ ン 方 格 法 に よ り 実 施 し た 。 な お 、
飼 料 成 分 が 処 理 に よ っ て 大 き く 異 な る た め 、Ⅱ 期 以 降 は 予 備 期 開
始 前 に 2 日 間 の 移 行 飼 料 給 与 期( 移 行 期 )を 設 け た 。移 行 期 の 飼
料 は 乾 草 と BP の 乾 物 給 与 比 を 5 :5 と し た 。 な お 、 供 試 牛 の 1 頭
にサンプリング時のアクシデントが発生したためⅣ期目の本試
127
験 期 間 を 10 日 間 延 長 し た 。 採 食 量 測 定 は 本 試 験 期 中 に 毎 日 、 ル
ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 試 験 は 本 試 験 期 の 1~ 3 日 目 、 採 食 ・ 反 芻 行 動
調 査 は 4~ 6 日 目 、 ル ー メ ン 内 容 物 全 量 採 取 を 6 日 目 、 8 日 目 お
よ び 10 日 目 に お こ な っ た 。
4 .3 . 2. 4.
測定項目およびサンプル採取
採 食 量 、採 食 行 動 お よ び 反 芻 活 動 の 測 定 方 法 は 試 験 1 と 同 様 で
あった。
ル ー メ ン 内 容 物 の 堅 さ を 測 定 し 、ル ー メ ン マ ッ ト を 定 義 す る た
めに貫入抵抗測定を実施した。試験 1 と同様の手法であったが、
測 定 時 刻 は 飼 料 給 与 直 前 を 起 点 と し 2 , 4 , 6 , 9 , 12 , 18 お よ び
24 時 間 後 の 計 7 回 行 な っ た 。 な お 貫 入 抵 抗 測 定 期 間 中 の 飼 料 給
与時刻は、測定の重複をさけるため 4 頭の供試牛のうち 2 頭の
給 与 時 刻 を 1 時 間 繰 り 下 げ た 。貫 入 抵 抗 測 定 と 同 時 に 、ル ー メ ン
液 採 取 を 7 回 行 っ た 。ル ー メ ン 液 の 採 取 法 お よ び そ の 後 の 処 理 は
試験 1 と同様の手法で行った。
ルーメン内容物のプールサイズおよび飼料片粒度分布を計測
す る た め に 全 量 採 取 を 行 っ た 。 内 容 物 採 取 は 給 与 直 前 ( 0 h) と 、
給 与 し て か ら 2 時 間 後 ( 2 h) お よ び 12 時 間 後 ( 12 h) の 3 回 と
し た 。 牛 へ の 負 担 を 考 慮 し て 、 内 容 物 採 取 終 了 後 は 24 時 間 以 上
の 回 復 期 を 設 け た 。ル ー メ ン 内 容 物 の 採 取 お よ び 粒 度 分 画 測 定 法
( 湿 式 篩 別 法 )に 関 す る そ の 他 の 手 法 に つ い て は 前 々 節( 試 験 3 )
と同様とした。
128
4 .3 . 2. 5.
化学分析および解析方法
飼 料 お よ び ル ー メ ン 内 容 物 の 分 析 は 試 験 1 と 同 様 で あ る 。表 4 3-2 に 各 処 理 の 化 学 成 分 含 量 、給 与 量 お よ び 構 成 割 合 を 掲 載 し た 。
ル ー メ ン 液 を 解 凍 後 、 ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 お よ び V FA 濃 度
の分析をおこなった。分析方法は試験 2 と同様であった。
1
Table 4-3-2 Ingredients and chemical composition of four diets
A8B2
A2B8
G8B2
G2B8
Ingredients, %
Alfalfa hay (A)
80.7
21.1
Grass hay (G)
80.2
20.3
Beet pulp (B)
19.3
78.9
19.8
79.7
Chemical composition, % DM
OM
88.0
CP
17.4
NDF
42.9
ADF
32.9
NFC
26.2
TDN
73.2
91.9
12.2
44.9
24.7
33.9
74.5
94.4
7.0
68.1
41.3
17.6
75.2
93.6
9.5
51.3
26.8
31.8
74.1
1
Feeding ratio of alfalfa hay (A) to beet pulp (B) is 8 to 2: A8B2 and 2 to
8: A2B8, and that of grass hay (G) to B is 8 to 2: G8B2 and 2 to 8:
G2B8.
4 .3 . 2. 6.
統計処理
統 計 処 理 に は J MP 7 ( SAS,
2 00 7 ) の フ ィ ッ ト モ デ ル プ ロ シ
ー ジ ャ ー を 用 い た 。 試 験 期 と 牛 を 変 量 効 果 、 BP と 乾 草 の 給 与 比
率 の 違 い 、乾 草 種 の 違 い お よ び 給 与 比 率 と 乾 草 種 の 交 互 作 用 を 固
定 効 果 と し た 。 P < 0.0 5 で 有 意 差 あ り 、 P < 0. 10 で 傾 向 あ り と し
た。
129
4.3 .3 . 結 果
4 .3 . 3. 1.
採食量および咀嚼活動
A8 B2 , A2 B8, G8 B2 お よ び G 2 B8 の D MI は 8 .7 , 7 .5 , 8. 1 お よ
び 7. 6 kg / d で あ り 、 ND FI は 4 .0 , 3. 5, 5 .9 お よ び 4 .1 kg/ d で あ
っ た( 表 4 -3 -3 )。総 採 食 時 間 は AH よ り も G H で 長 く な る 傾 向 を
示 し ( P < 0. 10 )、 B2 区 よ り も B8 区 で 短 か っ た ( P < 0 .01 )。 採
食 期 数 は 飼 料 間 で 差 は な か っ た 。採 食 期 持 続 時 間 は B2 区 よ り も
B8 区 で 短 く な る 傾 向 を 示 し た ( P < 0 .10 )。 1 日 の 総 反 芻 時 間 は
AH 給 与 区 が G H 給 与 区 よ り も 短 く( P < 0. 01 )、B2 区 よ り も B8
区 の 方 が 短 か っ た ( P < 0 .01 )。 反 芻 期 数 は B2 区 の 方 が B8 区 よ
り も 多 か っ た ( P < 0 .05 )。 反 芻 期 持 続 時 間 は G H 給 与 区 の 方 が
AH 給 与 区 よ り も 長 か っ た ( P < 0. 05 )。 総 咀 嚼 時 間 お よ び D MI
あ た り の 総 咀 嚼 時 間 は AH 給 与 区 の 方 が G H 給 与 区 よ り も 短 く
な り ( P < 0. 01 )、 B2 区 よ り も B8 区 の 方 が 短 か っ た ( そ れ ぞ れ P <
0.0 1 お よ び P < 0. 05 )。 ま た N D FI あ た り の 総 咀 嚼 時 間 は B2 区
よ り も B8 区 が 短 く な る 傾 向 を 示 し た ( P < 0 .1 0 )。
130
131
197.0
11.5
17.7
285.7
38.5
81.5
309.7
13.5
23.1
518.0
60.3
132.7
Rumination time, min/day
No. of rumination period, /day
Duration of rumination period, min
Total chewing time, min/day
Total chewing time/DMI, min/kg
Total chewing time/NDFI, min/kg
757.1
93.4
128.2
470.5
14.8
32.1
286.6
5.30
76.9
8.13
5.92
G8B2
458.2
61.5
110.9
338.2
12.5
27.4
120.0
3.60
45.0
7.59
4.12
G2B8
Hay
55.3
8.3
15.0
35.1
0.6
2.9
28.8
1.39
11.4
0.004
0.010
NS
0.002
NS
0.011
0.06
NS
NS
0.26
NS
0.19 0.001
SE
0.001
0.012
0.06
0.01
0.02
NS
0.001
NS
0.09
0.02
0.001
Hay:BP 2
Effects, P
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
0.01
Hay ×
Hay:BP
Feeding ratio of hay to beet pulp (BP).
SE: Standard error
2
Feeding ratio of alfalfa hay (A) to beet pulp (B) is 8 to 2: A8B2 and 2 to 8: A2B8, and that of grass hay (G) to B is
8 to 2: G8B2 and 2 to 8: G2B8.
1
88.7
3.40
37.2
7.46
3.54
208.3
5.60
55.6
8.68
3.98
A2B8
Diets 1
Eating time, min/day
No. of meal, /day
Duration of meal, min
Chewing activity
Intake
DMI, kg/day
NDFI, kg/day
A8B2
Table 4-3-3 Intake and chewing activity in cows.
4 .3 . 3. 2.
ルーメン内容物およびルーメンマット性状
ル ー メ ン 内 容 物 お よ び 飼 料 片 プ ー ル サ イ ズ 、お よ び 貫 入 抵 抗 試
験 結 果 に つ い て 表 4-3 -4 に 示 し た 。 ル ー メ ン 内 D M 量 は 0h、 2 h
お よ び 1 2 h に お い て G H 給 与 区 の 方 が AH 給 与 区 よ り も 多 く な
り ( 0 h, 12 h: P < 0 . 01, 2 h: P < 0 .1 0 )、 B2 区 と 比 べ て B8 区 の 0 h
と 12 h で 低 い 値 と な っ た ( 0 h: P < 0 . 01; 12 h: P < 0. 05 )。 ル ー メ
ン 内 N DF 量 は 全 て の サ ン プ リ ン グ 時 刻 に お い て AH よ り も G H
で 多 く ( P < 0 .01 )、 B2 区 よ り も B8 区 が 少 な か っ た ( 0 h, 12 h:
P < 0. 01 , 2h: P < 0.0 5 )。 ま た 、 ND F 量 の 0h に お い て 交 互 作 用
の 傾 向 が み ら れ た ( P < 0. 10 )。
1.1 8m m 篩 上 に 残 留 し た 大 飼 料 片 プ ー ル サ イ ズ は A H 給 与 区 よ
り も G H 給 与 区 が 多 く ( 0 h: P < 0 .1 0; 2 h: P < 0. 05 ; 12 h: P <
0.0 1 )、 B2 区 と 比 べ て B8 区 の 1 2 h が 少 な い 傾 向 を 示 し た ( P <
0.1 0 )。 小 飼 料 片 プ ー ル サ イ ズ は AH よ り も G H が 多 く ( 0 h: P <
0.1 0; 2 h, 12 h: P < 0.0 1 )、 B2 区 よ り も B8 区 が 少 な か っ た ( 0 h:
P < 0 .05 ; 2 h, 1 2h: P < 0 .01 )。 可 溶 性 分 画 プ ー ル に つ い て は 飼 料
間で差はみられなかった。
ル ー メ ン 内 容 物 の q c 値 は AH よ り も G H で 高 値 傾 向 を 示 し( P
< 0 .10 )、 B2 区 よ り も B8 区 が 低 い 値 と な っ た ( P < 0 .05 )。 ル ー
メ ン 内 容 物 の 深 さ は G H 給 与 区 お よ び B2 区 で 深 か っ た ( P <
0.0 1 )。ル ー メ ン マ ッ ト の q c 値 は G 8 B2 で 最 も 大 き く な り 、B8 区
と AH 給 与 区 で 小 さ な 値 と な っ た ( 各 P < 0 .05 )。 ル ー メ ン マ ッ
ト の 厚 さ は 乾 草 種 に よ る 違 い は な か っ た が 、 B2 区 が B8 区 よ り
も 厚 か っ た ( P < 0.0 5 )。 非 マ ッ ト 層 に つ い て は 堅 さ や 深 さ に 飼
料間差はみられなかった。
132
Table 4-3-4 Rumen digesta characteristics in cows.
Diets 1
Effects, P
Hay:BP 2
Hay ×
Hay:BP
0.001
0.002
NS
0.09
NS
NS
0.81
0.005
0.012
NS
2.78
5.10
4.41
0.41
0.45
0.57
0.001
0.007
0.002
0.001
0.012
0.005
0.09
NS
NS
1.95
1.68
0.27 0.0996
NS
NS
A8B2
A2B8
G8B2
G2B8
SE
0 h3
4.19
3.00
6.45
4.43
0.56
3
8.65
7.57
10.2
9.21
0.87
6.82
4.69
9.59
7.31
2.70
4.93
3.89
1.74
3.89
2.59
4.76
7.17
7.00
1.10
Hay
DM weight, kg
2h
12 h 3
NDF weight, kg
0h
2h
12 h
Ruminal particle pool size, kg DM
0h
1.59
Large particles
(> 1.18 mm)
Small particles
(> 0.047 mm)
1.64
0.76
2.43
1.26
0.38
0.09
0.02
NS
Soluble fraction
(< 0.047 mm)
0.96
1.14
2.08
1.49
0.48
NS
NS
NS
2h
Large particles
Small particles
Soluble fraction
3.88
2.11
2.67
3.53
1.18
2.87
4.93
3.28
2.00
5.06
1.65
2.51
0.41
0.37
0.40
0.03
0.006
NS
NS
0.001
NS
NS
NS
NS
12 h
Large particles
Small particles
Soluble fraction
2.83
1.98
2.00
2.03
1.17
1.49
4.21
3.45
1.94
3.64
1.83
1.84
0.38
0.38
0.34
0.002
0.009
NS
0.06
0.005
NS
NS
NS
NS
11.2
10.6
15.4
10.7
1.3
0.095
0.048
NS
54.5
50.0
57.6
54.6
1.2
0.007
0.008
NS
13.2
11.5
19.1
13.5
1.4
0.03
0.04
NS
32.3
25.6
33.2
26.5
2.4
NS
0.012
NS
8.89
9.26
11.8
9.06
1.27
NS
NS
NS
22.2
23.3
28.3
27.8
2.7
NS
NS
NS
Penetration resistance test
Total rumen digesta
qc value 4, N/cm2
Depth, cm
Ruminal mat 5
qc value, N/cm2
Thickness, cm
Non-mat material
qc value, N/cm2
Depth, cm
6
1
Feeding ratio of alfalfa hay (A) to beet pulp (B) is 8 to 2: A8B2 and 2 to 8: A2B8, and that of grass
hay (G) to B is 8 to 2: G8B2 and 2 to 8: G2B8.
2
Feeding ratio of hay to beet pulp (BP).
3
Hours after
4
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the cone, Ac: The projected area
of the cone.
5
Values are the means in the area above the point at which the 2 regression lines for the relationship
between the PRV and depth of the rumen digesta intersected.
6
Values are the means in the area below the point at which the 2 regression lines for the relationship
between the PRV and depth of the rumen digesta intersected.
SE: Standard error
133
ル ー メ ン 総 内 容 物 お よ び ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 お よ び 深 度 を
図 4 -3 -1 に 示 し た 。ル ー メ ン 総 内 容 物 で は q c 値 の 最 大 値 は G 8 B2
を 除 き 給 与 2 時 間 後 に み ら れ た ( 図 4-3 -1 a )。 G 8 B2 の q c 値 は 9
時 間 後 ま で 上 昇 を 続 け た 。ル ー メ ン 総 内 容 物 の 深 さ は 各 処 理 と も
同 様 の 推 移 を 示 し た が 、 A2 B8 で や や 浅 い 傾 向 が 認 め ら れ た ( 図
4-3 -1 b )。ル ー メ ン マ ッ ト の q c 値 は G 8B2 が 他 の 3 処 理 よ り も 給
与 2 時間後から 9 時間後にかけて高い値を示す傾向があったが、
そ の 差 は 1 2 時 間 後 で は 小 さ く な っ た( 図 4 -3 -1 c)。ル ー メ ン マ ッ
ト の 厚 さ は 2 0 ㎝ か ら 5 0 cm の 間 で 変 動 が み ら れ た ( 図 4 -3 -1 d)。
134
4 .3 . 3. 3.
ルーメン発酵
表 4 -3 -5 に ル ー メ ン 液 の 化 学 性 状 に つ い て ま と め た 。ル ー メ ン
pH に つ い て は 日 内 推 移 を 図 4 -3 -2 に も 示 し た 。 ル ー メ ン pH は
AH よ り も G H 給 与 で 高 い 傾 向 を 示 し ( P < 0 .1 0 )、 B 2 区 よ り も
B8 区 で 低 い 値 と な っ た ( P < 0 .05 )。 総 VFA 濃 度 ( P < 0.1 0 )、 プ
ロ ピ オ ン 酸 濃 度 ( P < 0 .0 5 ) お よ び 酪 酸 濃 度 ( P < 0. 1 0 ) は AH
が G H よ り も 高 い 傾 向 を 示 し 、 酢 酸 濃 度 ( P < 0. 10 ) と 酢 酸 ・ プ
ロ ピ オ ン 酸 比 ( P < 0 .01 ) は B2 区 と 比 べ て B8 区 が 低 か っ た 。
ア ン モ ニ ア 態 窒 素 濃 度 は 乾 草 種 ( P < 0 .0 1 )、 BP 給 与 割 合 ( P <
0.0 5 ) お よ び 交 互 作 用 ( P < 0 .01 ) が 全 て 有 意 な 差 と な っ た 。
Table 4-3-5 Ruminal pH, VFA, and NH3-N for each diet in cows.
Diets 1
Effects, P
A8B2 A2B8 G8B2 G2B8
pH
6.83
SE
Hay ×
Hay Hay:BP 2
Hay:BP
6.46
6.85
6.78
0.11
0.09
0.04
NS
105.1 102.5
94.0
92.0
7.54
0.06
NS
NS
VFA
Total, mM
Acetate (A), mM
68.3
62.6
63.2
53.7
5.11
NS
0.08
NS
Propionate (P), mM
19.1
23.3
16.8
17.8
1.89
0.048
NS
NS
Butyrate, mM
10.9
9.39
9.19
4.12
1.84
0.09
NS
NS
A:P
3.73
2.87
3.84
3.11
0.29
NS
0.009
NS
14.0
5.59
2.20
3.90
1.36
0.001
0.02
0.004
NH3-N, mg/dL
1
Feeding ratio of alfalfa hay (A) to beet pulp (B) is 8 to 2: A8B2 and 2 to 8: A2B8, and that of
grass hay (G) to B is 8 to 2: G8B2 and 2 to 8: G2B8.
2
Feeding ratio of hay to beet pulp (BP).
SE: Standard error
135
ル ー メ ン pH は 飼 料 給 与 後 、各 飼 料 と も に 低 下 し 、給 与 2 時 間
後 か ら 4 時 間 後 で 最 低 と な っ た( 図 4 -3 -2 )。特 に A2 B8 で は 給 与
2 時 間 後 か ら 6 時 間 後 に か け て 6 .0 を 下 回 っ た 。
4.3 .4 . 考 察
4 .3 . 4. 1.
ルーメンマット性状と反芻活動
全 て の 処 理 に お い て ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 給 与 後 増 加 し 、12
時 間 後 に か け て 徐 々 に 減 少 し 、そ の 後 は ほ ぼ 一 定 で 推 移 し た 。ま
た 、飼 料 間 で そ の 堅 さ に 差 が 認 め ら れ た 。こ れ ら の 事 実 は 以 下 で
述 べ る よ う に ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ と 採 食 ・反 芻 活 動 と の 関 連 を
示唆している。
飼 料 摂 取 に と も な い ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 増 し て い く 。給 与
136
直後の大きな採食期によってルーメンマットは反芻を引き起こ
すのに十分なまでに堅さを増す。給与後の活発な採食が終了し、
その後に続く反芻によってルーメンマットは徐々に軟化してい
く。
このようなマットの堅さと反芻活動の密接な関係を裏付ける
ようにルーメンマットの堅さと反芻活動の間に正の相関関係が
確 認 さ れ た 。 ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 が 1 ポ イ ン ト 増 す ご と に 総
反 芻 時 間 は 4 1 分 / 日 増 加 す る こ と が 示 さ れ た ( 図 4 -3 -3,
R 2 = 0. 553 ; P < 0 .0 01; n=1 6 )。 反 芻 は ル ー メ ン 背 嚢 部 に 対 す る 粗
い粒子による接触刺激や圧力で引き起こされるとされている
(Ba um o nt et al. , 1 990 )。 堅 く 詰 ま っ た ル ー メ ン マ ッ ト は q c 値 が
大きいので、ルーメン壁に対する機械刺激も高いと推測される。
ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 は 反 芻 期 の 出 現 頻 度 に は 影 響 し な か っ た
137
が 、 反 芻 期 持 続 時 間 と の 間 に も 正 の 相 関 が み ら れ た ( R 2 = 0. 530 ;
P < 0.0 1; n=1 6 )。こ の 結 果 か ら 、堅 い ル ー メ ン マ ッ ト は 反 芻 の 頻
度 を 増 す の で は な く 、反 芻 期 の 持 続 時 間 を 増 す こ と で 総 反 芻 時 間
の延長をもたらすと考えられた。
ルーメンマットの性状を論じる際に考慮すべき点として飼料
の 特 質 が あ る 。本 試 験 で は ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ に 牧 草 間 で 有 意
な 差 が 生 じ 、イ ネ 科 乾 草 よ り も ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 の 方 が 軟 ら か
い 結 果 と な っ た 。ア ル フ ァ ル フ ァ は 発 泡 性 で 鼓 腸 症 の 原 因 と な り
う る 特 質 を 有 し て い る (Ma ja k et al. , 199 5 )。 Maja k et al. (1 995 )
に よ る と 植 物 体 の タ ン パ ク 質 は 基 本 的 に 泡 沫 性 を 有 し て お り 、ア
ルファルファのタンパク質分画と鼓腸症発症率との間には正の
関 係 が 認 め ら れ て い る 。AH の タ ン パ ク 質 含 量 は G H よ り も 高 か
っ た の で 、タ ン パ ク 質 が ル ー メ ン 微 生 物 に よ っ て 分 解 さ れ る 際 に
産 生 さ れ る ガ ス や 泡 沫 の 量 も AH の 方 が 多 か っ た と 考 え ら れ る 。
ガ ス や 泡 沫 が マ ッ ト 内 部 で 産 生 さ れ る と 、マ ッ ト 内 部 に 空 隙 が 生
じ た り 、飼 料 片 の 絡 ま り が 緩 み か ね な い の で 、ル ー メ ン マ ッ ト を
軟化させる方向に作用するのかもしれない。
G re ne t (19 89 )や McL eod et al. (19 90 )は 牧 草 の ル ー メ ン 内 で
の 微 細 化 に つ い て 組 織 構 造 学 的 に 検 討 し て お り 、イ ネ 科 牧 草 に 比
べてマメ科牧草の方が脆く断片化しやすいことを報告している。
ま た 、ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 は オ ー チ ャ ー ド 乾 草 と 比 べ て ル ー メ ン
か ら の 消 失 速 度 が 速 い こ と も 確 認 さ れ て い る (U eda et al. , 20 01 )。
G ra nt a nd Cota nch (2 01 2 )は 、マ メ 科 牧 草 の 飼 料 片 は ル ー メ ン 内
で分解する際に立方形状に断片化するように微細化するのに対
し て 、イ ネ 科 牧 草 の 飼 料 片 は 細 長 く 裂 け る よ う に 微 細 化 す る こ と
138
か ら 、イ ネ 科 粒 子 は マ メ 科 に 比 べ て よ り 柔 軟 で 、絡 ま り 合 っ た り 、
重 な り 合 っ た り し や す く 、階 層 構 造 を 形 成 し や す い と 述 べ て い る 。
こ の よ う に 、牧 草 間 の 発 酵 性 状 の 違 い に 加 え て 、飼 料 片 微 細 化 過
程における組織構造学的な違いもルーメンマットの形成やその
性 状 に 関 与 し て い る だ ろ う 。マ メ 科 牧 草 の 立 方 形 状 に 断 片 化 し や
す い 構 造 は 、イ ネ 科 牧 草 と 比 べ る と マ ッ ト 形 成 に 関 し て マ イ ナ ス
要因であると考えられる。
4 .3 . 4. 2.
大飼料片プールサイズとルーメンマットへの小飼
料片取り込み効果
ルーメン内で浮遊するマット層は新規に摂取された長くて軽
い粗飼料繊維が背嚢部に層状に積み重なることで形成される
(Wel ch, 198 2 )。言 い 換 え る と 、厚 く 、堅 い ル ー メ ン マ ッ ト が 形 成
されるためには、ルーメン内の大飼料片割合が高い必要がある。
本 試 験 に お い て も 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 か っ た G H 飼 料 で は 大
飼 料 片 プ ー ル サ イ ズ も 高 い 値 を 示 し て お り 、大 飼 料 片 プ ー ル が ル
ーメンマットの堅さに関係しているという仮説を指示する結果
と な っ た 。こ の よ う な 結 果 は 、ル ー メ ン 背 嚢 部 に お け る 粗 い 飼 料
片( ≧ 2 . 36 m m )の 比 率 が 高 ま る と ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ が 増 す
と す る Wei dner a nd G ra nt (1 99 4 )の 報 告 と も に 一 致 す る 。
そ の 一 方 で 、 ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 が 高 い 飼 料 や 大 飼 料 片 プ
ー ル サ イ ズ の 大 き な 飼 料 に お い て 、 給 与 後 2 時 間 と 12 時 間 の 小
飼料片プールサイズも高い値を示す傾向にあった。このことは、
小飼料片がルーメンマット内部に取り込まれたことを暗示して
い る の か も し れ な い 。 同 様 の 傾 向 は ア ン 粕 多 給 試 験 ( 試 験 3) で
139
も 示 唆 さ れ た 。こ れ ら の こ と か ら 、ル ー メ ン 内 の 大 飼 料 片 の 役 割
は ル ー メ ン マ ッ ト の 枠 組 み と な る 主 構 造 体 を 形 成 す る こ と で 、そ
の 構 造 体 の 空 隙 に 微 細 な 繊 維 飼 料 片 が 充 填 さ れ る こ と で 、内 容 物
の マ ッ ト 構 造 が 一 層 強 固 な も の に な る と 推 測 さ れ る 。G8 B2 の よ
う に ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 が 高 く 、 な お か つ 小 飼 料 片 プ ー ル サ
イ ズ の 大 き か っ た 飼 料 で は 、 fil t er b ed 効 果 、 す な わ ち ル ー メ ン
マットへの繊維小飼料片取り込み効果がみられたのかもしれな
い。
一 方 、こ の 結 果 は 、圧 ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ 飼 料 片 が ル ー メ ン 腹 嚢
部 に 沈 ん で い た と す る 前 節( 試 験 4)の 結 果 と 矛 盾 す る 傾 向 に あ
る 。ビ ー ト パ ル プ は 、非 粗 飼 料 繊 維 源 の 中 で も 水 和 速 度 が 速 い が 、
発 酵 に 伴 う ガ ス 産 生 速 度 も 速 い た め 、 in vitro 培 養 時 間 の 経 過 に
伴 い 比 重 が 軽 く な る と い う 独 特 な 特 性 を 有 し て い る (B ha t ti and
Fi rki ns, 1 995 )。 し た が っ て 、 マ ッ ト 内 へ の 小 飼 料 片 取 り 込 み 動
態 は あ ら ゆ る 飼 料 で 一 様 で は な く 、比 重 の 重 い 穀 物 飼 料 片 で は マ
ッ ト に 取 り 込 ま れ ず 沈 ん で し ま う が 、ビ ー ト パ ル プ の よ う な 比 重
の軽い高繊維飼料片では逆にマットへの取り込みが促進される
と推測される。
4 .3 . 4. 3.
BP の 物 理 的 有 効 度 と 併 給 粗 飼 料 の 関 係
本 試 験 に お い て 、BP 給 与 水 準 を 8 0 % ま で 増 加 さ せ て も ル ー メ
ン マ ッ ト が 形 成 さ れ た 。 BP の よ う な 非 粗 飼 料 繊 維 源 は 粗 飼 料 の
利 用 が 制 限 さ れ る 場 合 の 補 助 繊 維 源 と し て 有 効 で あ る が 、多 給 す
る 際 に は 蹄 葉 炎 や SARA の 発 症 因 子 に な り か ね な い の で 要 注 意
で あ る と の 指 摘 が あ る (Sw ai n a nd Arm ent ano, 1 99 4) 。 Swai n
140
and Arm e nta no (199 4 )は 乳 脂 率 を 指 標 と し て 様 々 な 非 粗 飼 料 繊
維 源 由 来 N DF の 物 理 的 有 効 度 を ア ル フ ァ ル フ ァ サ イ レ ー ジ と 比
較 し た 。 そ の 結 果 に よ る と 、 BP の 有 効 度 は ア ル フ ァ ル フ ァ サ イ
レ ー ジ ND F の お よ そ 2 分 の 1 と 判 断 さ れ た 。
このように、非粗飼料繊維源の物理的有効度は高くないので、
仮 に 給 与 飼 料 中 の NDF 含 量 が 乳 牛 の 要 求 量 を 満 た し て い た と し
て も 、 そ の ND F が 粗 飼 料 由 来 で あ る の か 、 非 粗 飼 料 繊 維 源 由 来
で あ る の か で 繊 維 充 足 の 程 度 は 異 な る 。 本 試 験 に お い て 、 A2 B8
の ND F 含 量 ( 4 4 .9 %) は A8 B2( 42 .9 %) と 比 べ て 高 い 傾 向 に あ
っ た が 、 A2 B8 の 咀 嚼 活 動 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ 、 お よ
び ル ー メ ン 発 酵 は い ず れ も 処 理 間 で 最 も 低 か っ た 。加 え て 、ル ー
メ ン p H が 6. 0 を 下 回 る 時 間 も 4 処 理 中 A2 B8 で 唯 一 観 察 さ れ
た 。ル ー メ ン pH が 6. 0 を 下 回 る と 繊 維 分 解 菌 の 活 性 と 繊 維 消 化
率 の 低 下 を も た ら す と い う 報 告 が あ り (Hoover, 1 98 6 )、 A2 B8 で
は SARA の 発 症 が 疑 わ れ た 。 マ メ 科 牧 草 は ル ー メ ン 内 の 分 解 速
度 が 速 い の で (U ed a et al. , 20 01 )、 非 粗 飼 料 繊 維 源 と 組 み 合 わ せ
てマメ科牧草を給与するためには牧草の給与比率を高める必要
があると考えられる。
一 方 で 、G 2 B8 で は 粗 飼 料 の 比 率 が 20 %し か な か っ た に も か か
わ ら ず 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 粗 飼 料 比 率 8 0 % の A8B2 と 同
程 度 で あ っ た 。 さ ら に 、 反 芻 活 動 や D MI あ た り の 総 咀 嚼 時 間 に
つ い て も 両 飼 料 は 極 め て 類 似 し た 値 を 示 し た 。 Sudw eeks et al.
(1 98 1 )は roug ha ge val ue i ndex と い う 飼 料 の 物 理 性 評 価 基 準 を
提 唱 し 、イ ネ 科 牧 草 の 物 理 性 は ア ル フ ァ ル フ ァ よ り も 高 い こ と を
示 し て い る 。こ れ ら の こ と か ら 、確 固 た る ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成
141
す る と い う 点 に お い て 、 BP の よ う に ル ー メ ン 内 消 化 速 度 の 速 い
副産物と組み合わせる粗飼料源としてはイネ科牧草が望ましい
ことが示された。
4 .3 . 4. 4.
まとめ
ルーメンマットはイネ科牧草とマメ科牧草のいずれにおいて
も 形 成 さ れ た が 、そ の 物 理 的 性 状 は 大 き く 異 な る こ と が 示 さ れ た 。
マ メ 科 牧 草( AH )よ り も イ ネ 科 牧 草 ( G H)の 方 が 堅 い ル ー メ ン
マ ッ ト が 形 成 さ れ た 。 一 方 、 BP 給 与 割 合 を 増 や す と ル ー メ ン マ
ッ ト は 牧 草 種 に 関 わ ら ず 軟 化 す る こ と も 明 ら か と な っ た 。以 上 の
こ と か ら 、副 産 物 を 多 給 す る 場 合 に は 、本 実 験 で 用 い た G H の よ
うに反芻を誘発する刺激の強い粗剛な牧草を併給することが望
ましいと考えられた。
ル ー メ ン マ ッ ト の qc 値 が 上 昇 す る と 反 芻 活 動 も 直 線 的 に 増 加
す る こ と が 示 さ れ た 。つ ま り 、ル ー メ ン マ ッ ト の 強 度 が 反 芻 を 誘
発 す る こ と が 本 研 究 に よ り 明 ら か と な っ た 。ま た 、小 飼 料 片 が マ
ッ ト 内 に 取 り 込 ま れ る こ と で 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ が 増 強 す る
可 能 性 が 示 さ れ た 。 た だ し 、 BP 由 来 の 小 飼 料 片 と 試 験 4 で 示 し
た穀物由来の小飼料片とでは挙動が異なるものと推測された。
本 章 で は 3 つ の 試 験 を 通 し て 、副 産 物 由 来 の 非 粗 飼 料 繊 維 源 が
ルーメン内容物の階層構造に基づくマットの物理性を必ずしも
脆 弱 化 す る わ け で は な い こ と を 示 し た 。し か し 、そ の た め に は イ
ネ科牧草のようにルーメンマットの骨格となる主構造を形成し
うる繊維源を組み合わせる必要があることが示唆された。
142
5. 総 合 考 察
ル ー メ ン 発 酵 シ ス テ ム を 適 切 に 保 持 し SARA 発 生 を 抑 止 す る
ための繊維の適正給与量を模索することは高泌乳牛飼養の鍵と
い え る (Sudw eeks et al. , 198 1; Zeb el i et al. , 2 01 0a )。 p eN DF 理
論 は 飼 料 の 物 理 性 を 表 す 指 標 で あ り 、乳 牛 の 適 切 な 繊 維 要 求 量 を
策 定 す る た め の 有 効 な ツ ー ル で あ る と 考 え ら れ て い る ( Zeb eli et
al. , 2 01 0a )。 こ の 理 論 の 根 底 に は 、 peN DF を 一 定 割 合 以 上 給 与
すればルーメンマットが形成されるであろうという想定が存在
す る 。そ れ に 加 え て 、ル ー メ ン マ ッ ト は 反 芻 活 動 を 促 進 す る で あ
ろ う と い う 推 測 も そ の 理 論 に は 含 ま れ て い る 。し か し 、ル ー メ ン
マットをルーメン内容物の中から分離してその堅さや厚さとい
っ た 物 理 的 特 性 を 把 握 す る 手 法 が な か っ た の で 、peND FI と ル ー
メンマットの形成状況やその物理性と反芻活動の関連について
は検証されてこなかった。
こ の よ う な 観 点 か ら 、本 研 究 は 従 来 取 り 組 ま れ て こ な か っ た 乳
牛 の ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 的 特 性 の 定 量 法 を 確 立 し 、こ れ を 利 用
す る こ と で ル ー メ ン マ ッ ト の 基 礎 的 な 機 能 を 明 ら か に し 、そ の 上
で 飼 料 の 物 理 性 と ル ー メ ン マ ッ ト 機 能 と の 関 係 、さ ら に そ れ ら と
乳牛の生産性との関連について追求した。
5.1 . ル ー メ ン マ ッ ト 定 量 法 の 確 立
ル ー メ ン マ ッ ト に 関 し て 、こ れ ま で 構 造 的 な 定 義 を 試 み た 研 究
は な く 、実 態 が 把 握 さ れ な い ま ま そ の 存 在 と 機 能 に つ い て 語 ら れ
て き た が 、本 研 究 で は 階 層 的 な 測 定 法 を 確 立 す る こ と に よ り ル ー
143
メンマットの構造を把握可能とした。
ルーメン内容物は背嚢上部から腹嚢底部に向かうに連れて堅
さ が 軟 化 し て い く が 、軟 化 の 進 行 度 合 い が 、あ る 深 度 を 境 に 変 化
す る こ と が 明 ら か と な っ た 。本 研 究 で は 、そ の 深 度 が ル ー メ ン マ
ッ ト と 非 マ ッ ト 層 を 区 分 す る 境 界 で あ る と 定 義 す る こ と で 、ル ー
メ ン 内 容 物 の 二 層 構 造 を 解 明 し た 。そ の 結 果 、ル ー メ ン マ ッ ト の
厚さは総内容物の深さのおよそ 6 割を占め、非マット層よりも
1.5 倍 程 度 堅 い こ と が 明 ら か と な っ た ( 表 5 -1 )。
ル ー メ ン マ ッ ト と 反 芻 活 動 や SARA と の 関 連 に つ い て は 長 年
にわたり推測の域を出ないまま酪農生産現場において定説化し
て い た 。し か し 、本 研 究 で 確 立 し た ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 法 を
用 い る と 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ と い っ た 物 理 的 指 標 と 乳
牛の生理反応との関連を実測値を用いて検討することが可能と
な っ た 。本 手 法 は 、ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 性 や 構 造 を 把 握 す る 手
段として、現在のところ最も優れた手法であると考えられる。
144
Table 5-1 Summary of the characteristics of ruminal mat and non-mat material.
Ruminal mat
Non-mat material
1
qc value , Thickness,
cm
N/cm2
Lactating cow
Experiment 1
Control
qc value,
N/cm2
Depth,
cm
Dietary
Raito of qc
Ruminaiton peNDF
RMSI 2,
time,
value of mat
2
contents,
to non-mat N/cm ・cm min/day
% DM
32.4
31.4
23.4
20.5
1.38
1014.7
500.5
21.0
29.6
37.0
21.6
17.1
1.37
1093.7
525.7
14.9
F:C 40:60 4
23.8
34.4
18.4
26.3
1.29
819.8
519.3
18.8
4
24.0
36.4
19.2
26.6
1.25
874.1
526.0
22.0
6.76
34.0
3.88
24.6
1.74
229.8
207.7
24.1
10.2
33.3
7.13
26.6
1.43
340.0
243.7
18.7
3
Chop
Experiment 2
F:C 60:40
Non-lactating cow
Experiment 3
Control
RBH
5
Experiment 4
SC35Aft 6
10.3
35.2
6.49
23.2
1.58
361.1
305.2
-
6
10.9
32.5
6.30
28.4
1.73
354.9
321.7
-
SC65Aft 6
11.0
33.1
7.01
24.0
1.56
363.4
277.3
-
A8B2 7
13.2
32.3
8.89
22.2
1.49
427.3
309.7
-
A2B8
7
11.5
25.6
9.26
23.3
1.24
293.2
197.0
-
G8B2
7
19.1
33.2
11.8
28.3
1.62
635.2
470.5
-
G2B8 7
13.5
26.5
9.06
27.8
1.48
356.9
338.2
-
Average of each experiments
Lactating cow
27.4
Non-lactating cow
11.8
Total average
16.6
34.8
31.7
32.7
20.7
7.76
11.7
22.6
25.4
24.5
1.32
1.54
1.48
950.5
373.5
551.1
517.9
296.8
364.8
SC35Bef
Experiment 5
1
qc = Fc/Ac, qc: Cone penetration resistance, Fc: The force acting on the cone, Ac: The projected area of the cone.
RMSI: Ruminal mat stratification index; the product of the consistency (qc value, N/cm2) and the thickness (cm) of the
ruminal mat.
2
3
Chop: the ration prepared by twice-chopping the control TMR using a forage chopper.
4
F:C: The ratio between forage:concentrate
5
RBH: TMR containing red bean hulls.
6
SC35Aft: control diet: Feeding ratio of SC to GH was 35: 65, and SFC was fed at 1 h after both GH and SC. SC35Bef:
Feeding ratio of sake cake (SC) to grass hay (GH) was 35: 65, and steamed flaked corn (SFC) was fed immediately
before both GH and SC. SC65Aft: Feeding ratio of SC to GH was 65: 35, and SFC was fed at 1 h after both GH and
7
Feeding ratio of alfalfa hay (A) to beet pulp (B) is 8 to 2: A8B2 and 2 to 8: A2B8, and that of grass hay (G) to B is 8 to
2: G8B2 and 2 to 8: G2B8.
145
5.2 . ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 的 性 状 と そ の 機 能
ルーメンマットが反芻を誘発する刺激効果を有しているとす
る 推 測 は 古 く か ら な さ れ て き た (Bell , 1 958 ; Ba l ch a nd
Ca m pli ng , 1 96 2; Wel ch a nd Smi t h, 196 9 )。 長 年 に わ た り そ の 推
測 が 検 証 さ れ る こ と は な か っ た が 、本 研 究 か ら ル ー メ ン マ ッ ト は
反 芻 刺 激 機 能 を 有 す る こ と が 示 さ れ た 。す な わ ち 、ル ー メ ン マ ッ
ト の 堅 さ が 増 す と 、反 芻 時 間 も 直 線 的 に 延 長 す る こ と が 明 ら か と
な っ た ( 試 験 5 、 図 4 -3 -3 )。 一 方 で 、 反 芻 時 間 は 6 00 分 / 日 前 後
で プ ラ ト ー に 達 す る こ と が 解 明 さ れ て い る( 岡 本 , 19 79 )。し た が
っ て 、試 験 5 で 示 し た 直 線 関 係 も プ ラ ト ー に 達 す る こ と が 予 測 さ
れた。
ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ は マ ッ ト の 容 積 を 反 映 し て お り 、厚 み が
増 す ほ ど マ ッ ト の 構 造 体 が 増 大 す る こ と を 意 味 す る 。大 き な マ ッ
トはルーメン背嚢粘膜に接触する面積や圧力も高い値になると
考 え ら れ る の で 、ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ も 反 芻 誘 発 に 対 し て 正 の
効 果 を 有 す る と 思 わ れ る 。堅 く て 厚 い マ ッ ト の 物 理 的 有 効 度 は 高
い と 予 測 さ れ る こ と か ら 、堅 さ と 厚 さ は そ れ ぞ れ 単 独 で は な く 相
乗的に作用すると考え、両者の積をルーメンマット階層化指数
( Rumi nal ma t st rati fi ca ti on i ndex : RMSI ) と 定 義 し た 。
そ の 上 で 、 本 研 究 の 全 試 験 デ ー タ ( 表 5 -1 ) を 基 に あ ら た め て
ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ 、厚 さ お よ び R MSI と 反 芻 時 間 の 関 係 を 解
析 し た 。そ の 結 果 、厚 さ 単 独 で は 反 芻 時 間 と の 間 に 関 係 性 は 認 め
ら れ な か っ た が 、堅 さ お よ び RMSI と 反 芻 時 間 の 間 に 関 連 が 認 め
ら れ 、残 差 平 方 和 が 低 く 当 て は ま り が 最 も 良 か っ た の は RMSI で
あ っ た( 図 5 -1 )。R MSI と 反 芻 時 間 の 間 に は 2 本 の 直 線 で 分 割 さ
146
れ る 折 曲 点 が 得 ら れ た 。す な わ ち 、当 初 は RMSI の 上 昇 に 比 例 し
て 反 芻 時 間 も 延 長 す る が 、R MSI が 7 07. 8 N / cm 2 ・cm に 達 す る と 、
そ れ 以 降 RMSI が 高 ま っ て も 反 芻 時 間 は 増 加 し な い こ と が 示 さ
れ た 。 そ の 折 曲 点 に お け る 反 芻 時 間 は 52 2. 0 分 / 日 で あ り 、 岡 本
( 19 79 ) が 提 唱 し た 反 芻 時 間 の 推 奨 範 囲 内 ( 50 0 ~ 600 分 ) で あ
っ た 。こ れ は 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ と 厚 さ が 相 乗 的 に 作 用 す る
こ と で 反 芻 が 誘 起 し 、反 芻 時 間 は RM SI が 70 8 N / cm 2 ・cm に 達 す
る と ほ ぼ 上 限 に 達 す る こ と を 示 す も の で あ る 。今 後 、反 芻 時 間 を
適 正 に 保 つ た め の 繊 維 給 与 水 準 を 検 討 す る 際 に は 、 RM SI が 70 8
N/ cm 2 ・cm 以 上 と な る よ う な 飼 料 設 計 が 一 つ の 目 安 に な る こ と を
本結果は示唆している。
147
さ ら に 、RMSI を 用 い る こ と で 、堅 く て 薄 い ル ー メ ン マ ッ ト と
軟 ら か い が 厚 い マ ッ ト の 物 理 性 を 比 較 す る こ と も 可 能 に な る 。例
え ば 、 試 験 1 の 対 照 区 は 堅 さ が 3 2. 4 N/ cm 2 、 厚 さ が 3 1. 4 cm 、 細
断 区 は 同 2 9. 6 N / cm 2 、 3 7. 0 cm で あ っ た ( 表 5 -1 )。 対 照 区 は 堅
い が 薄 い マ ッ ト 、細 断 区 は 軟 ら か い が 厚 み の あ る マ ッ ト で あ る こ
と が わ か る 。こ れ だ け で は ど ち ら が よ り 物 理 性 に 富 ん だ マ ッ ト で
あ る の か 判 断 で き な い が 、両 者 の R MSI を 算 出 す る と 、そ れ ぞ れ
101 4.7 お よ び 1 09 3.7 N/ cm 2 ・cm と な り 、 細 断 区 T MR の 方 が よ
り 強 固 な 構 造 体 を 有 し た ル ー メ ン マ ッ ト で あ る と 判 断 で き る 。こ
の よ う に RMSI は 、ル ー メ ン マ ッ ト と 反 芻 活 動 と の 関 係 や ル ー メ
ンマットの物理性を客観的に評価できる点で有効な指標である
といえよう。
RMSI の 評 価 に 際 し て 注 意 す べ き 点 と し て 、ル ー メ ン 充 満 度 に
よ る D MI 調 節 メ カ ニ ズ ム が あ げ ら れ る 。 本 研 究 で は R MSI が 高
す ぎ る こ と に よ る 採 食 量 の 減 少 は 認 め ら れ な か っ た 。し か し 、採
食行動はルーメンの充満によって中断すると考えられており
(Hi da ri , 197 9; 泉 ら , 20 07 )、 ル ー メ ン 内 容 物 の 消 失 速 度 と D MI
の 間 に は 正 の 直 線 関 係 が あ る こ と が 示 さ れ て い る ( 上 田 , 199 6 )。
し た が っ て 、RMS I の 値 が 高 す ぎ る と ル ー メ ン 充 満 度 の 高 い 状 態
が 長 時 間 続 く こ と に な り 、 そ の こ と が 採 食 行 動 の 抑 制 と D MI 減
少 を も た ら す か も し れ な い 。本 研 究 で 得 ら れ た 範 囲 で は そ の 恐 れ
は 低 か っ た と 判 断 で き る が 、繊 維 供 給 過 多 の 飼 料 で は 注 意 が 必 要
と な る だ ろ う 。 理 想 的 な ル ー メ ン マ ッ ト と は 、 RMSI が 7 08
N/ cm 2 ・cm を 大 き く 越 え る こ と が な く 、反 芻 活 動 を 維 持 し つ つ マ
ット自体が適宜消化・縮小することで次なる採食行動を誘起し、
148
D MI を 高 い 状 態 で 保 つ こ と が 可 能 な も の で あ る と 言 え よ う 。
ル ー メ ン マ ッ ト の 主 要 な 機 能 の も う 一 つ と し て 、小 飼 料 片 の 絡
め取りによる滞留時間延長と消化促進があると考えられている
(Robi nso n et al. , 1 987 ; Van Soest , 1 994 )。 し か し 、 試 験 3 に お
い て 、圧 ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ の よ う に 比 重 の 重 い 穀 物 飼 料 片 は 速 や
か に ル ー メ ン 腹 嚢 に 沈 降 し て し ま う ケ ー ス が 確 認 さ れ た 。一 方 で 、
ア ン 粕 ( 試 験 3) や ビ ー ト パ ル プ ( 試 験 5) と い っ た 繊 維 質 に 富
ん だ 副 産 物 飼 料 は 、穀 物 以 上 に 粒 子 が 細 か い に も 関 わ ら ず マ ッ ト
へ の 取 り 込 み が 促 進 し て い る と 推 測 さ れ た 。こ れ に は 、粗 飼 料 と
濃 厚 飼 料 の 比 重 の 違 い が 関 係 し て い た の か も し れ な い 。飼 料 片 の
比重がルーメン内の動態に影響を及ぼすことは従来より指摘さ
れ て い る 。例 え ば ル ー メ ン に 流 入 し た 飼 料 片 の う ち 軽 い も の は 第
二 胃 収 縮 に よ っ て 背 嚢 部 に 送 り 込 ま れ る が 、重 い 飼 料 片 は 第 二 胃
収 縮 中 も そ の ま ま 第 二 胃 底 部 に と ど ま り 、結 果 的 に ル ー メ ン 内 の
滞 留 時 間 が 短 縮 す る (K a ske et al. , 1 992 )。
こ れ を 裏 付 け る か の よ う に 牧 草 (P op pi et al. , 200 1 )と ト ウ モ ロ
コ シ 穀 実 (Ewi ng et al. , 1 98 6 )で は 全 く 異 な る ル ー メ ン 内 の 動 態
が 報 告 さ れ て い る 。両 研 究 と も に カ ニ ュ ー レ を 介 し て マ ー カ ー を
ルーメン背嚢部に埋め込むように投与して通過動態を観察した。
バミューダグラスマーカーはルーメン背嚢部から腹嚢部への移
行 速 度 が 遅 か っ た の に 対 し て (P oppi et al. , 20 01 )、 全 粒 ト ウ モ ロ
コ シ は 投 与 直 後 に 腹 嚢 部 に 沈 降 し て し ま い 、再 び 背 嚢 部 に 戻 る こ
と も 、反 芻 で 吐 き 戻 さ れ る こ と も な か っ た (Ewi ng et al. , 198 6 )。
こ の よ う に 、小 飼 料 片 が ル ー メ ン マ ッ ト に 取 り 込 ま れ ル ー メ ン か
ら の 通 過 が 遅 延 す る と し て も 、そ れ は 飼 料 片 の 比 重 が 小 さ い と き
149
に の み 成 立 す る 事 象 で あ り 、穀 物 の よ う に 比 重 が 大 き い 場 合 に は
当 て は ま ら な い の か も し れ な い 。 Ro bi nson et al. (198 7)は 厚 く
充 実 し た ル ー メ ン マ ッ ト は 小 飼 料 片 の 取 り 込 み を 促 進 し 、通 過 速
度 の 上 昇 を 遅 延 さ せ る と 述 べ た が 、そ の 理 論 に 飼 料 片 比 重 の 概 念
は 含 ま れ て い な か っ た 。ル ー メ ン マ ッ ト の fil t er b ed 理 論 は 粗 飼
料 と 濃 厚 飼 料 で 一 律 の 反 応 で は な い 可 能 性 が 示 唆 さ れ た た め 、さ
らなる精査が必要である。
本 研 究 で は 検 討 で き な か っ た が 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 に 応 じ
て 微 生 物 の 分 布 も 偏 在 し て い る と 考 え ら れ て い る (Ma r ti n et al. ,
199 9; Ta faj et al. , 2 004 )。 Ma rt in et al. (1 999 )は 、 ル ー メ ン 背
嚢部には腹嚢部と比べて繊維分解菌やプロトゾアの分布割合が
高 い こ と を 報 告 し て い る 。 さ ら に Ta fa j et al. (200 4 )は 、 ル ー メ
ン 背 嚢 部 は VFA 濃 度 、 特 に 酢 酸 濃 度 が 高 い こ と を 確 認 し た 。 主
要 繊 維 分 解 菌 の 主 要 発 酵 産 物 の 一 つ が 酢 酸 で あ る こ と か ら 、ル ー
メンマット付近の背嚢部では繊維消化が活発であったことがう
か が わ れ た 。こ れ ら の こ と か ら 、ル ー メ ン マ ッ ト は 繊 維 分 解 性 ル
ーメン微生物への発酵基質および生息環境を提供する重要な部
位 で あ る と 位 置 づ け ら れ る 。本 手 法 を 用 い て ル ー メ ン 内 容 物 を ル
ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 に 分 割 す る こ と で 、ル ー メ ン 内 の 階 層
構造と微生物相を関連づけた検討が可能となるだろう。
5.3 . pe NDF と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成
本 研 究 で は 粗 飼 料 主 体 あ る い は 副 産 物 多 給 と い っ た peN D F 含
量 の 異 な る 飼 料 を 用 い た が 、い ず れ に お い て も 生 産 性 に 悪 影 響 を
及ぼすことのない確固たる物理性を有したルーメンマットが形
150
成 さ れ る こ と が 確 認 さ れ た 。こ れ ま で の 認 識 で は 、堅 く 締 ま っ た
ル ー メ ン マ ッ ト は 主 と し て 長 大 で 、摂 取 さ れ て 間 も な く 、浮 力 の
あ る 飼 料 繊 維 で 構 成 さ れ る と 考 え ら れ て い た (P oppi et al. , 2 001 ;
Ta faj et al. , 20 04 )。 し か し 、 細 断 T MR( 試 験 1 ) や R BH 飼 料
( 試 験 3 ) の よ う に peN DF 含 量 の 低 い 飼 料 で も 堅 い ル ー メ ン マ
ッ ト が 形 成 さ れ た 。こ れ ら の 飼 料 で は 対 照 飼 料 と 比 べ て マ ッ ト の
物 理 性 が 低 下 す る こ と は な く 、 逆 に 細 断 T MR で は マ ッ ト の 厚 み
が 増 し 、 RBH 飼 料 で は マ ッ ト の 堅 さ が 増 し た 。 そ の 結 果 を 受 け
て 、両 飼 料 と も に 反 芻 活 動 は 減 少 す る こ と な く 、ル ー メ ン 発 酵 へ
の悪影響もみられなかった。
peN D F 含 量 や pe NDF I が 低 下 し た に も か か わ ら ず ル ー メ ン マ
ッ ト の 物 理 性 が 増 す と い う 結 果 は 予 想 外 の も の で あ っ た 。過 去 の
研 究 を 総 説 し た Ze bel i et al. (20 12 )に よ れ ば 、 peND F 含 量 と 乳
牛の生理反応との間に一貫性がみられなかったとされているが、
そこに含まれる研究報告においてルーメンマットの形成状況を
評 価 で き て い れ ば 、本 研 究 と 同 様 の 現 象 が 発 生 し て い た ケ ー ス も
あ っ た か も し れ な い 。 K ononoff a nd Hei nri chs (20 03b ) の よ う に
peN D F 含 量 が 低 下 し て も 咀 嚼 活 動 や ル ー メ ン 発 酵 あ る い は 乳 脂
肪 率 に 悪 影 響 が み ら れ な か っ た ケ ー ス な ど は 、充 実 し た ル ー メ ン
マ ッ ト が 形 成 さ れ て い た も の と 推 察 さ れ る 。一 方 で 、従 来 の 想 定
通 り pe N D F 含 量 の 低 下 が 乳 生 産 低 下 に 結 び つ い た ケ ー ス
(Arm e nt ano a nd P e rei ra , 199 7 ) で は 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性
低 下 も 同 時 に 生 じ て い た 可 能 性 が 高 い 。こ れ ら の 結 果 の 不 一 致 は 、
飼 料 中 pe N DF 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 の 間 に 強 い 関 連 が
存在しないことを示唆している。
151
そ こ で 、 本 研 究 で 用 い た 飼 料 の peN DF 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト
の 堅 さ と 厚 さ の 積 ( RMSI ) の 関 係 を 図 5 -2 に ま と め た 。 グ ラ フ
か ら は 飼 料 中 の pe NDF 含 量 と RMSI の 間 に 明 確 な 関 係 は 認 め ら
れ な か っ た 。 デ ー タ に は 非 泌 乳 牛 も 含 ま れ て お り D MI が 大 き く
異 な る の で 、こ の 結 果 を 直 接 泌 乳 牛 の ル ー メ ン マ ッ ト の 階 層 構 造
や 生 産 性 に 結 び つ け る こ と は 難 し い か も し れ な い 。し か し 、少 な
く と も 飼 料 中 の pe ND F 含 量 が ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 を 決 め る
唯一の要因ではないことを、この結果は明確に示している。
本 研 究 の デ ー タ は 、 反 芻 活 動 と 強 い 関 係 の あ る RMSI と
peN D F 給 与 水 準 の 関 連 が 必 ず し も 明 確 で は な い こ と を 示 唆 す る
も の で あ っ た 。 換 言 す る と 、 peND F 単 独 で ル ー メ ン マ ッ ト の 形
成 状 況 や ル ー メ ン 発 酵 を 予 測 す る に は 限 界 が あ り 、 pe ND F が 十
152
分に含まれない飼料であっても堅く厚みのあるマットが形成さ
れ 、安 定 し た ル ー メ ン 環 境 が 得 ら れ る ケ ー ス が 少 な く な い 頻 度 で
出現することを示唆している。
過 去 に 酢 酸・プ ロ ピ オ ン 酸 比 や 乳 脂 率 と い っ た 乳 牛 の 生 産 性 が
低 下 し た 研 究 で 用 い ら れ た peN D F 含 量 は 11. 2 ~ 2 .0 %と 極 め て
低 い 値 で あ っ た (Te im ouri Yansa ri et al. , 2 004 )。一 方 、カ ナ ダ の
30 戸 の 農 場 に お け る T MR の 調 査 事 例 (Pl ai zi er et al. , 200 4 )で
は 、peND F 含 量 の 中 央 値 は 1 6. 1 %で あ り 、peN DF 含 量 と 乳 生 産
の 間 に 関 連 性 は 認 め ら れ て い な い 。 こ れ は 、 peN D F 含 量 が 平 均
19. 9 % (14 .9 ~ 2 4. 1%)で あ っ た 本 試 験 結 果 と 同 様 の 傾 向 で あ る 。
つ ま り 、 実 験 的 に 設 定 し た 極 め て 低 値 の peN DF 含 量 で あ れ ば ル
ー メ ン マ ッ ト の 形 成 不 全 が 生 じ 、そ う な る と 生 産 性 に 対 す る 負 の
影 響 が 具 現 化 す る が 、実 際 の 生 産 現 場 に お い て そ の よ う な 飼 料 設
計 が 用 い ら れ る こ と は 想 像 し が た い 。こ の こ と か ら 、粗 飼 料 が 豊
富 な 環 境 に お け る 標 準 的 な peN DF 含 量 の 範 囲 で あ れ ば 、 ル ー メ
ン内の階層構造や生産性に悪影響が及ぶことはないと推察され
た。
5.4 . ル ー メ ン マ ッ ト 機 能 を 応 用 し た 泌 乳 牛 繊 維 要 求 量 算 出 モ デ
ルの提案
NRC 飼 養 標 準( 20 01 )や 日 本 飼 養 標 準 20 06 年 版 な ど 、近 年 の
乳牛飼養標準では各成分の分解速度や微生物の増殖効率を考慮
す る な ど 飼 料 設 計 の 精 密 化 が 進 ん で い る 。し か し 、繊 維 要 求 量 に
つ い て は 研 究 成 果 の 傾 向 が 一 定 し な い た め に 、他 の 成 分 と 比 べ る
と 細 か な 基 準 策 定 に 至 っ て い な い 。繊 維 質 は 消 化 性 と い っ た 飼 料
153
側 の 要 因 に 加 え 、ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 や そ の 結 果 と し て の 反 芻
活動あるいはルーメン発酵といった乳牛側の要因が複雑に関係
し て く る 上 に 、そ の 反 応 の 程 度 が 飼 養 環 境 に 応 じ て 大 き く 変 動 す
る の で 詳 細 な 基 準 を 設 け る こ と が 困 難 で あ っ た 。そ こ で 本 研 究 で
は 、 飼 料 側 の 要 因 と し て peND F を 用 い 、 乳 牛 側 の 要 因 と し て は
ルーメンマット構造を組み込んだ泌乳牛繊維要求量を算出する
ための一つのモデルを提案したい。
こ の モ デ ル に お い て 判 断 基 準 と な る 要 因 が 2 点 存 在 す る 。一 つ
目 は peND F 含 量 が ど の 程 度 の 水 準 で あ れ ば ル ー メ ン マ ッ ト が ほ
ぼ 確 実 に 形 成 さ れ 、ど こ ま で 低 下 し た ら ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 が ケ
ー ス バ イ ケ ー ス に な る か と い う 分 岐 点 の 策 定 で あ る 。一 つ の 示 唆
と し て (Zebeli et al. , 2 010 b )の 報 告 が あ る 。 彼 ら は peN DF と ル
ー メ ン pH の 関 係 に 関 す る 広 範 囲 な 研 究 ( 研 究 数 : 6 4 、 処 理 数 :
257 ) を 対 象 に 非 線 形 統 計 モ デ ル を 用 い た メ タ 解 析 を 行 っ た 。 解
析 の 結 果 、 ル ー メ ン pH の 日 平 均 、 ル ー メ ン pH が 5 . 8 を 下 回 る
時 間 、 繊 維 消 化 率 あ る い は D MI を 総 合 的 に 考 慮 す る と 、 SARA
を 防 ぎ つ つ D MI 低 下 も 抑 制 す る 値 と し て 、 peN DF 含 量 ( 8 mm
以 上 ) は 1 7. 0 ~ 18 .5 %が 最 適 値 で あ る と 算 定 さ れ た 。 peN DF 含
量 が こ れ よ り 低 い 場 合 は SARA 発 症 の リ ス ク が 高 ま る 。 逆 に
peN DF 含 量 が こ れ よ り も 高 く な る と 、高 泌 乳 牛 の D MI は ル ー メ
ン の 最 大 容 積 に よ っ て 規 定 さ れ る の で 、 peN D F 給 与 過 剰 に よ る
D MI 減 少 が 懸 念 さ れ る (Zeb eli et al. , 201 0b )。あ る い は 、peN DF
含 量 が 高 す ぎ る こ と で 選 択 採 食 の 度 合 い が 大 き く な り 、ル ー メ ン
発 酵 を 適 正 に 維 持 で き な く な る 懸 念 が 高 ま る (D eVri es et al. ,
200 7 )。そ こ で 、本 研 究 で は こ の 値 を 基 準 と し て 、peND F 含 量 が
154
この範囲内にあればルーメンマット形成の有無を判断しなくて
もルーメン環境は適正に維持されると判断した。
次 に 、 peND F 含 量 が 基 準 値 を 下 回 る ケ ー ス に つ い て は 、 ル ー
メンマットの物理的構造が十分形成されているかどうかを判定
し な く て は な ら な い 。こ こ に 2 つ め の 判 断 基 準 が 該 当 す る 。堅 く
締 ま っ た ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 有 無 を 判 断 す る た め に は 、 図 5 -1
で確認されたルーメンマットの堅さと厚さの積で表される
RMSI と 反 芻 時 間 の 折 曲 点 で あ る 7 0 8 N/ cm 2 ・cm を 使 用 す る の が
妥 当 で あ る と 考 え た 。こ の 値 に 達 し て い れ ば 反 芻 時 間 は 推 奨 範 囲
( 岡 本 , 197 9 ) に 収 ま る こ と か ら 、 充 実 し た マ ッ ト 形 成 の 有 無 を
判 断 す る 指 標 と し て 適 し て い る 。RM SI が こ の 値 に 達 し て い な け
れ ば peND F を 増 給 し 、 達 し て い れ ば peN DF 含 量 が 先 の 基 準 値
を 下 回 っ て い て も 問 題 な し と 判 断 す る こ と と し た( 図 5 -3 )。た と
え ば 、 3 章 の 細 断 T MR は peN DF 含 量 が 14 .9 % で あ っ た が 、
RMSI は 1 09 3. 7 N / cm 2 ・cm で あ っ た こ と か ら 、 こ の 手 順 に 従 う
と繊維給与水準は適正であったことになる。
155
156
本 研 究 で は peND F 含 量 が 14 .9 % と 最 も 低 か っ た 試 験 1 の 細
断 区 で RMSI は 逆 に 最 大 値 の 10 94 N / cm 2 ・cm と な っ た 。 一 見 す
る と 、ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 不 全 は 生 産 現 場 に お い て は 生 じ な い
か の よ う に 思 え て し ま う 。本 研 究 の 3 試 験 で 用 い た T M R は 合 計
7 通 り の 設 計 で あ っ た が 、粗 飼 料 乾 物 給 与 割 合 の 平 均 は 52 .6 %で
あ っ た 。 こ の 水 準 は 平 成 23 年 度 の 北 海 道 酪 農 経 営 の 粗 飼 料 給 与
割 合 平 均 値( 5 4.3 %)と ほ ぼ 等 し い ( 農 林 水 産 省 , 20 1 3 )。一 方 で
同 年 度 の 都 府 県 の 酪 農 経 営 で は 粗 飼 料 給 与 割 合 が 37 .0 % と な っ
て お り ( 農 林 水 産 省 , 201 3 )、 よ り 一 層 濃 厚 飼 料 に 依 存 し た 給 与
体 系 に な っ て い る 。濃 厚 飼 料 に 依 存 し た 都 府 県 型 酪 農 で は 、し ば
し ば 粗 飼 料 摂 取 不 足 が 原 因 と 思 わ れ る 消 化 器 ・代 謝 障 害 が 問 題 と
な る( 種 村 ら , 20 08 )。さ ら に 、都 府 県 で 主 に 利 用 さ れ る 輸 入 乾 草
は 栄 養 価 の 変 動 が 大 き く 、嗜 好 性 に 影 響 す る こ と が 指 摘 さ れ て い
る( 西 野 ら , 200 8 )。こ れ ら の こ と か ら 、都 府 県 型 酪 農 の 標 準 的 ス
タ イ ル で あ る 輸 入 乾 草 + 濃 厚 飼 料 多 給 体 系 で は 、繊 維 の 摂 取 不 足
に起因して形成が不十分なルーメンマットしかできない乳牛が
低くない確率で存在すると予測される。
こ の よ う に 、粗 飼 料 基 盤 が 脆 弱 な 酪 農 地 域 な ど 多 様 な 飼 養 体 系
が 存 在 す る こ と か ら 、本 研 究 で 提 案 し た ル ー メ ン マ ッ ト 機 能 を 組
み込んだ泌乳牛繊維要求量算出モデルは飼料設計に際して有益
な情報を提供すると考えられる。
本 研 究 で 確 立 し た ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 法 に よ っ て 、ル ー メ
ン 内 の 階 層 構 造 を 明 確 に 把 握 し 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ お よ び 厚
さ を 定 量 的 に 測 定 す る こ と が 可 能 と な っ た 。従 来 、こ れ ら ル ー メ
157
ン マ ッ ト の 物 理 性 を 推 測 す る 飼 料 側 の 指 標 と し て peN DF 含 量 が
適 し て い る と 考 え ら れ て き た が 、本 研 究 結 果 は そ れ を 肯 定 す る も
のではなかった。
今 後 は 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 物 理 性 を 推 測 す る た め の pe NDF に
変わる新たな指標を模索する必要がある。一つの可能性として、
飼 料 の 比 重 や 水 和 特 性 が あ げ ら れ る 。鈴 木( 2 00 1 )は 、ル ー メ ン
内 大 飼 料 片 の 微 細 化 に 対 す る 強 度 に つ い て 研 究 し 、強 度 の 低 下 に
は 飼 料 片 の 水 和 が 大 き く 影 響 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。本 研
究においても比重の軽い小飼料片はルーメンマットの堅さを増
強 す る 効 果 が 示 唆 さ れ た こ と か ら 、飼 料 片 の 比 重 や 水 和 特 性 を 評
価することでルーメン内の階層化の程度やマット構造の強度を
推測できるかもしれない。
さ ら に 、 非 カ ニ ュ ー レ 装 着 牛 に お い て も qc 値 を 測 定 で き る と
ル ー メ ン マ ッ ト の 形 成 状 況 を 把 握 可 能 と な る 。牛 体 の 外 貌 か ら ル
ー メ ン 充 満 度 を 評 価 す る 方 法 と し て 、左 膁 部 の く ぼ み の 程 度 を ス
コアリングすることで充満の程度を推測する手法が開発されて
い る (Za aij e a nd N oordhui ze, 200 3 )。こ の よ う な 間 接 的 な 手 法 と
ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 法 に よ る 実 測 値 を 関 連 づ け ら れ れ ば 、応
用の範囲が広がるだろう。
比重や水和といった飼料の組織学的な特徴や牛体外部からの
スコアリングといった間接的な指標とルーメンマット形成の関
係については、残された検討課題であるといえよう。
158
6. 結 論
本研究で確立したルーメン内貫入抵抗測定法を用いることに
よ っ て 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 が 把 握 可 能 と な っ た 。ル ー メ
ン内容物は背嚢上部から腹嚢底部に向かうに連れて堅さが軟化
し た が 、軟 化 の 進 行 度 合 い が 、あ る 深 度 を 境 に 変 化 す る こ と が 示
さ れ た 。本 研 究 で は 、そ の 深 度 が ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 を
区 分 す る 境 界 で あ る と 定 義 し 、ル ー メ ン 内 容 物 の 二 層 構 造 を 明 示
し た 。こ れ に よ っ て 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ お よ び 厚 さ を 定 量 的
に把握可能となった。
ル ー メ ン マ ッ ト は 、 peND F 含 量 や 粗 濃 比 の 違 い に 関 わ ら ず 、
また食品製造副産物由来の非粗飼料繊維源多給下であっても形
成 さ れ 、多 く の 場 合 反 芻 や ル ー メ ン pH に 悪 影 響 は 及 ば な い こ と
が 示 さ れ た 。逆 に 、粒 子 の 細 か い 飼 料 片 を 給 与 す る と ル ー メ ン マ
ットの堅さや厚さが増す場合があることが確認された。一方で、
ビ ー ト パ ル プ 多 給 下 に ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 を 併 給 す る と 、軟 弱 な
ル ー メ ン マ ッ ト と な り ル ー メ ン pH も 低 下 し た こ と か ら 、非 粗 飼
料繊維源多給下でルーメン内容物の階層構造を明確に保つため
にはイネ科牧草の併給が必要であることが示された。
本 研 究 で 実 施 し た 全 て の 試 験 を ま と め る と 、ル ー メ ン マ ッ ト の
堅 さ は 1 6. 6 N / cm 2 で 、 非 マ ッ ト 層 よ り も 1 . 5 倍 堅 い こ と が 明 ら
か と な っ た 。 ま た 、 マ ッ ト の 厚 さ は 32. 7 cm で 、 総 内 容 物 の 深 さ
のおよそ 6 割を占めることが示された。
ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ と 厚 さ の 積 ( RMSI ) と 反 芻 時 間 の 間 に
は 正 の 直 線 関 係 が あ り 、 RMSI が 70 7.8 N/ cm 2 ・cm に 達 す る と 反
159
芻 時 間 は 5 22 .0 分 / 日 で プ ラ ト ー に 達 す る こ と が 示 さ れ た 。 こ の
こ と か ら 、反 芻 時 間 を 適 正 に 保 つ た め に は 、RMSI が 7 08 N / cm 2 ・
cm 以 上 と な る よ う に 繊 維 給 与 水 準 を 設 定 す る 必 要 が あ る こ と を
本研究は示唆した。
一 方 で 、R MSI と peN DF 含 量 と の 間 に は 明 確 な 関 連 性 は な く 、
peN D F が ル ー メ ン マ ッ ト を 形 成 す る 効 果 を 有 し て い る と い う 従
来 の 認 識 は 正 し く な い こ と が 示 唆 さ れ た 。さ ら に 、穀 物 は マ ッ ト
内 部 に 取 り 込 ま れ る と 考 え ら れ て き た が 、穀 物 飼 料 片 は 速 や か に
ル ー メ ン 腹 嚢 に 沈 降 す る こ と が 確 認 さ れ た 。こ の こ と か ら 、ル ー
メ ン マ ッ ト へ の 小 飼 料 片 取 り 込 み 効 果 は 、繊 維 の よ う に 比 重 の 軽
い 飼 料 片 で は 認 め ら れ る も の の 、穀 物 の よ う に 比 重 の 重 い 飼 料 片
では過大に評価されてきた可能性が示唆された。
以 上 、本 研 究 で 確 立 し た ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 法 を 用 い る と 、
ルーメンマットの堅さや厚さあるいはその積で表されるルーメ
ン マ ッ ト 階 層 化 指 数 ( RMSI ) と い っ た 物 理 的 指 標 と 、 乳 牛 の 生
理 反 応 と の 関 連 を 、実 測 値 を 用 い て 検 討 で き る こ と が 明 ら か と な
っ た 。本 手 法 は 、ル ー メ ン 内 容 物 の 階 層 構 造 を 把 握 す る 手 段 と し
て、現在のところ最も優れた手法であると結論された。
160
要約
本 研 究 で は ル ー メ ン マ ッ ト 構 造 の 実 態 を 把 握 し 、飼 料 の 違 い が
ルーメンマット形成に及ぼす影響を明確にすることを目的とし、
以下の 3 点を検討課題とした。
1. ルーメンマットの立体構造の定量法確立
2 . 飼 料 中 peND F 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 の 関 係
3. 粗飼料由来繊維源および非粗飼料繊維源の給与とルーメン
マット形成の関係
本研究で得られた結果は以下に要約される。
1)ルーメンマット構造の定量法確立
土 壌 硬 度 測 定 法 を 応 用 し 、ひ ず み ゲ ー ジ 式 の 圧 力 計 と 変 位 計 を
用 い た ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 装 置 を 開 発 し た 。ル ー メ ン カ ニ ュ
ー レ を 介 し て 、内 容 物 表 層 か ら 腹 嚢 底 部 に か け て コ ー ン を 貫 入 す
る際の堅さと深度を連続的に測定し、コーン貫入抵抗値
q c (N / cm 2 ) と 深 度 を 計 算 し た 。 q c 値 と 深 度 の 関 係 を 図 示 し 、 大 塚
と 吉 原( 1 975 )の 折 れ 線 モ デ ル を あ て は め る こ と で 、ル ー メ ン マ
ットとその下側の非マット層を分割することを可能とした。
2 )ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 試 験 に よ っ て 、ル ー メ ン 内 容 物 は 背
嚢 上 部 か ら 腹 嚢 底 部 に 向 か う に 連 れ て 堅 さ が 軟 化 し て い く が 、あ
る深度を境に軟化の進行度合いが変化することが明らかとなっ
た 。本 研 究 で は 、そ の 深 度 が ル ー メ ン マ ッ ト と 非 マ ッ ト 層 を 区 分
す る 境 界 で あ る と 定 義 し 、ル ー メ ン 内 容 物 の 二 層 性 を 明 確 に し た 。
161
そ の 結 果 、ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 さ は 総 内 容 物 の 深 さ の お よ そ 6 割
を 占 め 、非 マ ッ ト 層 よ り も 1 .5 倍 程 度 堅 い こ と が 明 ら か と な っ た
3 ) 飼 料 中 peND F 含 量 の 違 い が ル ー メ ン マ ッ ト 形 成 に 及 ぼ す 影
響を評価するために二つの試験を実施した。
試 験 1 で は 通 常 の T MR( 対 照 区 ) と 切 断 し た T MR( 細 断 区 )
を 泌 乳 牛 に 給 与 し 、 試 験 2 で は 飼 料 中 粗 濃 比 (F : C)の 違 い が ル ー
メンマット機能に及ぼす影響について評価した。
両試験の結果、飼料の切断長や粗濃比が低下することで
peN D F 含 量 が 低 く な っ て も 、 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ と い
っ た 物 理 的 構 造 は 脆 弱 化 し な い こ と が 示 さ れ た 。そ の 結 果 、ル ー
メン内発酵状況、咀嚼活動および乳生産も変化しなかった。
細 断 区 で ル ー メ ン マ ッ ト の 厚 み が 増 し た こ と か ら 、細 か い 飼 料
片はルーメン内容物の階層化を促進する可能性が示唆された。
二 つ の 試 験 か ら 、 peN D F 含 量 と ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ
といった物理性との間には必ずしも直線的な関係がないことが
示唆された。
4 )食 品 製 造 副 産 物 由 来 の 非 粗 飼 料 繊 維 源 の 給 与 と ル ー メ ン マ ッ
ト形成の関係を検討するために、3 つの試験を実施した。
試 験 3 で は ア ン 粕 ( 小 豆 皮 、 RBH) を 用 い た 。 RBH 給 与 に よ
っ て pe N DF I は 減 少 し た が 、ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は 上 昇 し 、反
芻 期 持 続 時 間 は 長 く な る 傾 向 を 示 し た 。ル ー メ ン 発 酵 、咀 嚼 活 動
お よ び 乳 生 産 は 影 響 を 受 け な か っ た 。こ の こ と か ら 、粒 子 の 細 か
い RBH 繊 維 は ル ー メ ン マ ッ ト の 空 隙 に 詰 め 込 ま れ 、 そ の こ と が
162
マットの堅さを増す方向に作用したと推測された。
試 験 4 で は 、 酒 粕 ( SC)を 多 給 し 、 濃 厚 飼 料 と 粗 飼 料 の 給 与 順
序 お よ び SC と イ ネ 科 乾 草( G H)の 給 与 比 率 が 、ル ー メ ン マ ッ ト
の 性 状 お よ び マ ッ ト 内 へ の 圧 ぺ ん ト ウ モ ロ コ シ( SF C )の 取 り 込
み効果に及ぼす影響について検討した。
ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ や 厚 さ と い っ た 物 理 的 構 造 は SC 給 与 量
が 増 え て も 維 持 さ れ た 。 全 て の 処 理 に お い て SF C 飼 料 片 は 給 与
1 時間後にはルーメン腹嚢に多量に沈んでいることが確認され
た 。こ の こ と か ら 、従 来 認 識 さ れ て き た ル ー メ ン マ ッ ト へ の 穀 物
飼料片取り込み効果は過大に評価されてきた可能性があること
が示唆された。
試 験 5 で は 、 ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 ( AH)と ビ ー ト パ ル プ (BP )の
給 与 比 を 8 : 2 あ る い は 2 : 8 と し た A8 B2 、 A2 B8 、 イ ネ 科 乾 草
(G H)と BP を 同 様 の 比 率 で 給 与 し た G8 B2 、 G 2 B8 の 4 処 理 を 設
け た 。 ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ は G 8 B2 が 最 も 堅 く 、 A2 B8 が 最 も
軟 ら か か っ た 。 反 芻 時 間 は AH よ り も G H が 長 く ( P < 0.0 1 )、 B2
よ り も B8 が 短 か っ た ( P < 0 .05 )。 ル ー メ ン pH は A2 B8 の み が
6.0 を 下 回 っ た 。
こ の こ と か ら 、非 粗 飼 料 繊 維 源 と ア ル フ ァ ル フ ァ を 組 み 合 わ せ
ると堅く、厚みのあるルーメンマットを形成することができず、
ル ー メ ン 発 酵 に も 悪 影 響 が 及 ぶ こ と が 示 さ れ た 。非 粗 飼 料 繊 維 源
との組合せで堅固なマットを形成するためにはイネ科牧草が適
していると考えられた。
3 試 験 を ま と め る と 、非 粗 飼 料 繊 維 源 由 来 の 細 か い 繊 維 は ル ー
メ ン マ ッ ト の 構 造 体 に 取 り 込 ま れ て 、マ ッ ト の 物 理 性 を 増 強 す る
163
作 用 が あ る と 考 え ら れ た 。一 方 、穀 物 飼 料 片 は マ ッ ト 内 に 取 り 込
ま れ ず に 底 に 沈 ん で し ま っ た こ と か ら 、小 飼 料 片 が マ ッ ト へ 取 り
込まれるか否かは比重が関係していると推察された。
5 ) ル ー メ ン マ ッ ト の 堅 さ と 厚 さ の 積 ( RMSI ) と 反 芻 時 間 の 間
に は 正 の 直 線 関 係 が あ り 、 RMSI が 707 .8 N/ cm 2 ・cm に 達 す る と
反 芻 時 間 は 5 22. 0 分 / 日 で プ ラ ト ー に 達 す る こ と が 示 さ れ た 。 こ
の こ と か ら 、RMS I を 応 用 と す る こ と で 乳 牛 の 適 正 な 繊 維 要 求 量
を算定できる可能性が示唆された。
一 方 、 RMSI と peN DF 含 量 と の 間 に は 明 確 な 関 連 性 は 認 め ら
れなかった。
6 )以 上 の 結 果 か ら 、ル ー メ ン 内 貫 入 抵 抗 測 定 法 に よ っ て ル ー メ
ン マ ッ ト の 堅 さ と 深 さ を 測 定 で き 、ル ー メ ン 内 容 物 の 物 理 的 性 状
を 評 価 す る 新 た な 概 念 と し て qc 値 は 利 用 で き る と 考 え ら れ た 。
ルーメンマットの堅さと厚さの積で定義したルーメンマット階
層 化 指 数 ( RMSI ) は 反 芻 活 動 と 正 の 直 線 関 係 が 認 め ら れ た が 、
peN DF 含 量 と の 関 連 は 明 確 で は な か っ た 。つ ま り 、pe NDF 単 独
でルーメンマットの形成状況を予測するには限界があり、
peN D F が 十 分 に 含 ま れ な い 飼 料 で あ っ て も ル ー メ ン 内 の 階 層 構
造 が 構 築 さ れ 、堅 く 厚 み の あ る ル ー メ ン マ ッ ト が 形 成 さ れ 得 る と
結論された。
164
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謝辞
本 研 究 を と り ま と め る に あ た り 、北 海 道 大 学 教 授 近 藤 誠 司 博 士
に は 終 始 懇 切 な る 御 指 導 を 賜 り 、か つ 御 校 閲 の 労 を お と り 頂 い た 。
同准教授上田宏一郎博士には研究構想段階からとりまとめに至
る ま で 詳 細 な 御 議 論 を 共 に し て 頂 く と と も に 、実 験 の 手 法 や 分 析
に関するご指導を頂き、終始懇切なる御助言、御鞭撻を賜った。
酪 農 学 園 大 学 名 誉 教 授 岡 本 全 弘 博 士( 元 同 大 学 附 属 農 場 長 )に は 、
研 究 遂 行 上 の 御 便 宜 を 頂 く と と も に 、反 芻 計 測 装 置 の 提 供 、文 献
収 集 に 多 大 な 援 助 を い た だ き 、さ ら に 本 稿 の 御 校 閲 お よ び 御 助 言
を 頂 い た 。北 海 道 大 学 教 授 小 林 泰 男 博 士 な ら び に 同 特 任 助 教 三 谷
朋 弘 博 士 に は 、御 校 閲 の 労 を お と り 下 さ り 、有 益 な ご 助 言 を 賜 っ
た。ここに深甚なる感謝の意を表する。
本 研 究 は 20 05 年 か ら 酪 農 学 園 大 学 附 属 農 場 に お い て 実 施 し た
も の で あ り 、こ の 間 、農 場 長 と し て 在 任 さ れ た 菊 池 直 哉 博 士 、松
中照夫博士、堂地 修博士ならびに農場次長として在任された森
田 茂 博 士 、中 田 健 博 士 、小 岩 政 照 博 士 に は 研 究 遂 行 に あ た っ て
の 御 理 解 と 御 協 力 を 頂 い た 。酪 農 学 園 大 学 教 授 野 英 二 博 士 に は 、
研 究 遂 行 上 の ご 便 宜 を 頂 く と と も に 分 析 の ご 指 導 を 頂 い た 。元 酪
農学園大学短期大学部教授名久井 忠博士ならびに元酪農学園大
学 教 授 新 名 正 勝 氏 に は 有 益 な 御 助 言 、激 励 を 賜 っ た 。試 験 牛 の 管
理 、飼 料 の 調 製 に あ た っ て は 元 酪 農 学 園 大 学 附 属 農 場 技 師 松 原 久
夫 氏 、長 瀬 隆 氏 、尾 形 仁 氏 、尾 崎 邦 嗣 氏 、現 同 附 属 農 場 技 師 奥
平 武 市 氏 、上 野 秀 樹 氏 、川 岸 孝 博 氏 、歴 代 臨 時 技 師 諸 氏 、予 算 管
理などの事務手続きにあたっては附属農場事務職員諸氏から絶
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大 な る 御 支 援 を 頂 い た 。さ ら に 酪 農 学 園 大 学 酪 農 学 部・同 短 期 大
学部酪農学科ルミノロジー研究室に在籍した大学院生海野ちぐ
さ 氏 、石 塚 研 太 氏 な ら び に 歴 代 学 生 諸 氏 に は 本 研 究 の 共 同 研 究 者
として昼夜を問わず試験遂行にあたっての多大なるご協力を頂
いた。
貫 入 抵 抗 測 定 装 置 の 開 発 に は エ ス・シ ー・ビ ー 辻
秀雄氏に御
協力を頂いた。
ここに、以上の各位に心からの感謝の意を表する。
最 後 に 、私 の 仕 事 を 理 解 し 、困 難 に 直 面 し た と き も 終 始 支 え て
くれた妻に感謝の気持ちを捧げる。
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