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レジュメ
経済入門
はじめに
近年の円ドル・レート(インターバンク相場・東京市場・17 時時点スポット・
月中平均)の推移をみてみますと,2012 年 9 月時点で 1 ドル=78 円 17 銭でした
が,そこから急速に円安が進行し,2015 年 6 月時点では 1 ドル=123 円 70 銭と
なりました。今年に入ってからは円高が進行するようになり,2016 年 4 月時点
では 1 ドル=109 円 72 銭となっています。このような為替レートの変化が日本
経済に対して与える影響については,新聞や雑誌やテレビなどの記事や番組でも,
最近よく取り上げられるようになっています。
一方,証券アナリスト・第 1 次レベル試験における「経済」でも,為替レート
や国際収支など「国際金融」に関する問題は,毎回,出題数こそ 10 問と限られ
ているものの,配点においては 20%を占める重要な分野となっています。
「国際
金融」の分野をじゅうぶんに理解し,確実に得点できる力を身につけることは,
証券アナリスト試験合格の扉を開けるために欠かせない鍵の一つを手に入れる
ことになります。
そこで,今回の入門講座では,「国際金融」を理解するための基礎となる「為
替レートの基本的な見方・とらえ方」をご紹介したいと思います。
円/ドル
東京市場/ドル・円/スポット/中心相場
2012 年 8 月 1 日~2016 年 4 月 6 日
(資料)日本銀行ホームページ
63
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
第1章 裁定取引と名目為替レート
1. 名目為替レートと表示方法

名目為替レート:
「名目為替レート」とは,二国通貨間の交換比率のことで
す。なお,
「為替レート」を「為替相場」ということもあります。
 自国通貨建て為替レート:たとえば,1 ドル=100 円のように,外国通
貨の価値を自国通貨の単位で表示した為替レートのことです。
 外国通貨建て為替レート:たとえば,1 円=0.01 ドルのように,自国通
貨の価値を外国通貨の単位で表示した為替レートのことです。

円高と円安:自国通貨(円)建て為替レートの数字が小さくなる場合が「円
高」
,大きくなる場合が「円安」です。たとえば,1 ドル=100 円から 1 ドル
=90 円になったとすると,これは 10%の円高を意味し,1 ドル=100 円から
1 ドル=110 円になったとすると,これは 10%の円安を意味します。なお,
「円高」のことを「円の増価」
,
「円安」のことを「円の減価」ともいいます。
円/ドル
↑円安(円の減価)
↓円高(円の増価)
東京市場/ドル・円/スポット/17 時時点/月中平均
1973 年 1 月~2016 年 4 月
(資料)日本銀行ホームページ
64
経済入門
2. 名目為替レートと購買力平価説

裁定取引と一物一価の法則:ある商品や証券などを安く買い高く売ることで
利益を得る取引を「裁定取引」といいます。この「裁定取引」が自由に行わ
れる場合,その商品の価格は一つに決まり「一物一価の法則」が成立します。
 例:日本と米国での裁定取引:Big Mac の価格が,日本では 300 円,
米国では 3 ドルであり,現在の円ドル・レートが 1 ドル=80 円であっ
たとします。なお,説明を簡単にするため,日米での Big Mac の価格
は,固定されているとします。このとき投資家が,①米国で 3 ドルの
Big Mac を借りる。②日本で Big Mac を 300 円で売る(このように,
借りた商品や証券を売ることを「空売り」といいます)。③Big Mac
の代金 300 円を取得する。④取得した 300 円から,1 ドル=80 円のも
とで,米国で 3 ドル(円換算では 240 円)の Big Mac を買って貸し手
に返す。といった取引をすれば,投資家は,元手なしに 60 円の利益
を確実に得ることができます。このような取引を「裁定取引」といい
ます。この裁定取引がじゅうぶんに行われれば,返すための Big Mac
を米国で買う必要から,外国為替市場では,円をドルに交換する(円
を売りドルを買う)人が増加するので,円安・ドル高が生じます。
裁定取引は,日米で(円換算の)価格差がある限り行われるため,
日本と米国での Big Mac の(円換算の)価格が等しくなるまで円ドル・
レートが調整されます(この例の場合,1 ドル=100 円になります)。
このように裁定取引により,
「一物一価の法則」が成立するのです。
米国
日本
Big Mac=3 ドル
Big Mac=300 円
②300 円で
Big Mac を
空売りする
①3 ドルの ④3 ドル(240 円)で
③300 円
Big Mac を
Big Mac を買って
お金
借りる
借りた Big Mac を返す
投資家
1 ドル=80 円のとき,60 円の利益
65
2017 年目標 証券アナリスト

1次公開講義
購買力平価説:2 つの通貨の間の交換比率である名目為替レートは,通貨の
購買力が等しくなるように決まるはずだという考え方を「購買力平価説」と
いいます。2 つの通貨の購買力が等しくなることは,それらの通貨がもちい
られている 2 つの国・地域において,同一の財の価格が等しくなることを意
味しています。このため,「購買力平価説」では,国際的な一物一価の法則
の成立を考えています。
 Big Mac 指数と購買力平価:各国の Big Mac の価格をもちいた購買力平
価は,英国の経済誌「Economist」により「Big Mac 指数」として公表さ
れています。2016 年 1 月時点の「Economist」の調査によれば,Big Mac
の価格は米国(アトランタ,シカゴ,ニューヨーク,サンフランシスコ
の平均)
で 4.93 ドル,
日本で 370 円となっていますので,
円ドルの Big Mac
指数を E 円/ドル(1 ドル=E 円)とすると,
370 円=E×4.93 ドル
という関係の成立を考えます。これより,円ドルの Big Mac 指数(購買
力平価)E は,
E=
370
≒75.05(円/ドル)
4.93
と求められます。なお,名目為替レート(購買力平価)を,このような
個別の財の価格から求める場合には,Big Mac が他の国にくらべて割高な
国の通貨は過小評価されてしまう一方,
Big Mac が他の国にくらべて割安
な国の通貨は過大評価されてしまうことに注意が必要です。
66
経済入門

絶対的購買力平価説:国際的な一物一価の法則の成立のもとで,同じ財のバ
スケットの価格の絶対的な水準が同じになるはずだという考え方を「絶対的
購買力平価説」といいます。この考え方のもとでは,日本の物価水準を P J ,
米国の物価水準を PUS とすると,円ドルの絶対的購買力平価 E は,つぎのよ
うに示されます。
P J = E  PUS
⇔ E=
PJ
PUS
 絶対的購買力平価の問題点:原油,石炭などの一次産品価格は,関税や
輸送費を調整すれば,各国でほぼ同じ価格になる傾向があり,これらの
財に限れば絶対的購買力平価はほぼ成立しています。しかし,自動車な
どの耐久消費財や農産物などは,関税,輸送コストのほか,さまざまな
貿易の障害があり,同じ財の価格でも各国でかなり異なります。このた
め,広い範囲の財のバスケットから求められる一般物価水準については,
絶対的購買力平価は成立しません。そこで実際には,この絶対的購買力
平価説を弱めた,相対的購買力平価説が利用されます。

相対的購買力平価説:為替レートが 2 カ国の国際競争力にほぼ見合っていた
と考えられる基準時点を選び,その基準時点の円・ドルの名目為替レートを
E0 ,基準時点の日本の物価水準を P0J ,基準時点の米国の物価水準を P0US と
します。一方,現在の円ドルの購買力平価を E1 ,現在の日本の物価水準を P1J ,
現在の米国の物価水準を P1US とします。このとき,「相対的購買力平価説」
のもとでは,つぎのような関係が示されます。
P1J
PUS
E1
= 1J
E0
P0
P0US
この関係より,現在の円ドルの購買力平価 E1 は,つぎのように求められます。
P1J
E1 = E0 ×
P1US
P0J
P0US
67
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
例題:円ドルの購買力平価を求めてみると… :円ドル・レート(東京市場・17
時時点スポット・月中平均)の推移をみると,1973 年 1 月に 1 ドル=301 円 93
銭でしたが,2011 年 10 月に 1 ドル=76 円 72 銭まで円高となりました。そこで,
これらの年月を基準時として,2016 年 3 月時点の円ドルの購買力平価を求めて
みましょう。そのため,この間の日本と米国の消費者物価指数を調べてみると,
つぎのようになっています。なお,2016 年 3 月の円ドル・レート(東京市場・
17 時時点スポット・月中平均)は 1 ドル=113 円 05 銭でした。
1973 年 01 月
2011 年 10 月
2016 年 03 月
日本の消費者物価指数
米国の消費者物価指数
(食料及びエネルギーを除く総合)
(2010 年=100)
(食品・エネルギーを除く)
(1982-84 年=100)
37.6
99.0
101.3
044.600
226.743
246.358
(資料)総務省統計局ホームページ,U.S. Bureau of Labor Statistics ホームページ
2016 年 3 月の円ドルの購買力平価を求めると?

円安局面を基準時点とすると…:1973 年 1 月を基準時点とすると,2016 年
3 月の円ドルの購買力平価は,つぎのように求められます。
101.3
246.358
E1E1=301.93 円/ドル×
=147.2638…≒147.26 円/ドル
37.6
44.6

円高局面を基準時点とすると…:2011 年 10 月を基準時点とすると,2016
年 3 月の円ドルの購買力平価は,つぎのように求められます。
101.3
E1E1=76.72 円/ドル× 246.358 =72.2520…≒72.25 円/ドル
99.0
226.743

異なる物価指数をもちいて購買力平価を求めた場合:消費者物価指数には非
貿易財(サービス)の価格が含まれています。非貿易財の生産性の上昇率は,
貿易財にくらべて,一般的に低いため,非貿易財の物価上昇率は,貿易財の
物価上昇率よりも高くなります。このため,消費者物価指数でみた購買力平
価は,円安(減価)方向に偏る傾向があります。一方,輸出物価でみた購買
力平価は円高方向に偏る傾向があります。
68
経済入門
円/ドル
↑円安(円の減価)
↓円高(円の増価)
12 月中平均
円ドル・レートと購買力平価(物価指数別)
:1973 年~2015 年
(資料)公益財団法人
国際通貨研究所
円/ドル
↑円安(円の減価)
↓円高(円の増価)
月中平均
円ドル・レートと購買力平価(物価指数別)
:2007 年 1 月~2016 年 3 月
(資料)公益財団法人
69
国際通貨研究所
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
演習問題1 :基準時点の円ドル・レートを 105.00 円/ドルとします。さらに,
その基準時から 3 年が経って,日本の物価指数が 100 から 99 に下落し,米国の
物価指数が 100 から 108 に上昇したとします。基準時点から 3 年を経過して,円
ドルの購買力平価はいくらになるでしょうか?
A
93.56 円/ドル
B
96.25 円/ドル
C 106.24 円/ドル
D 114.55 円/ドル
E 120.14 円/ドル
解法のプロセス
購買力平価を求める計算問題では,相対的購買力平価説をもちいて解答します。
名目為替レートを E(1 ドル=E 円)
,日本の物価指数を PJ,米国の物価指数を
PUS,とそれぞれおいたとき,相対的な購買力平価は,基準時を添字 0 で,3 年
後の時点を添字 1 でそれぞれあらわすと,つぎのように示されます。
E1=E0×
P1J
P1US
P0J
P0US
この関係式に,問題文の数値を代入すると,つぎのようになります。
99
108
E1=105.00×
=96.25
100
100
これより,基準時から 3 年後の円ドルの購買力平価は 96.25 円/ドルとなり,
選択肢Bが正解となります。
70
経済入門
演習問題2:購買力平価説に関する次の記述のうち,正しいものはどれですか。
A 購買力平価説は,短期的な為替レートの変動を説明する理論の一つです。
B 購買力平価の値は,基準時点にかかわらず,同一となります。
C 関税が課されていたり,輸送コストや非貿易財が存在すると,絶対的購買力
平価は成立しません。
D インフレ率の高い国の通貨は,インフレ率の低い国の通貨に対して増価しま
す。
解法のポイント
A 正しくありません。購買力平価説は,名目為替レートの中長期的変動を説明
する理論です。
B 正しくありません。相対的購買力平価説により求められる購買力平価の値は,
基準時点の名目為替レートによって変化します。
C 正しいです。購買力平価説は,国際的な一物一価の法則の成立を前提として
います。このため,関税が課されていたり,輸送コストや非貿易財が存在する
と,絶対的購買力平価は成立しません。
D 正しくありません。インフレ率(物価上昇率)の高い国の通貨は,インフレ
率の低い国の通貨に対して減価します。
以上より,選択肢Cが正解です。
71
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
第2章 国際競争力と為替レート
1. 為替レートと貿易収支
 貿易収支とは?:財の輸出額と輸入額との差額のことです。ここで,財の輸
出は居住者が非居住者からカネを受け取ることを,輸入は居住者が非居住者
にカネを支払うことを意味します。

為替レートの変化と貿易収支の関係:ここでは,説明を簡単にするために,
日本と米国の 2 カ国しかない世界を想定します。日本が,1 個 100 円の日本
製品(円ベースの価格は固定されているとします。
)を 100 個輸出し,1 個 1
ドルの米国製品(ドルベースの価格は固定されているとします。
)を 110 個
輸入している場合,円ベースの貿易収支は,円ドル・レートの変化によって,
どのような影響をうけるでしょうか?
 1 ドル=100 円のときの円ベースの貿易収支:円ベースの輸出価格は 100
円に固定されている一方,円ベースの輸入価格も 100 円となるので,円
ベースの貿易収支(=円ベースの輸出額-円ベースの輸入額)は,つぎ
のように求められます。
貿易収支=100 円×100 個-100 円×110 個=-1000 円(赤字)
 円安と貿易収支(数量の変化がないとき):1 ドル=100 円から 1 ドル=
110 円に円安となったとき,円ベースの輸出価格は 100 円に固定されてい
る一方,円ベースの輸入価格は 110 円となります。このとき,輸出入の
数量が変化しなければ,円ベースの貿易収支は,つぎのように赤字が拡
大します。
貿易収支=100 円×100 個-110 円×110 個=-2100 円(赤字拡大)
 円安と貿易収支(数量が十分に変化するとき):円安となったとき,ド
ルベースの輸出価格は 1 ドルから 0.9 ドルに安くなるため,安くなった
日本製品が米国でいままでよりも多く買われるようになり,輸出数量が
120 個に増加したとします。さらに,円ベースの輸入価格は 100 円から
110 円に高くなるため,高くなった米国製品が日本で買われなくなり輸入
数量が 105 個に減少したとします。このとき,円ベースの貿易収支は,
つぎのように黒字化します。
貿易収支=100 円×120 個-110 円×105 個=+450 円(黒字化)
72
経済入門

J カーブ効果:円安(円高)となったとき,短期的には,貿易収支が赤字化
(黒字化)するが,中長期的には黒字化(赤字化)するため,貿易収支が J
字型のカーブを描く現象を「J カーブ効果」といいます。
「J カーブ」効果は,
短期的には,為替レートの変化による輸出入価格の変化が輸出入数量の変化
よりも大きくなるが,中長期的には,為替レートの変化による輸出入価格の
変化よりも輸出入数量の変化が大きくなることにより発生すると考えられ
ています。
黒字
円安時点
貿
易
収
支
0
時間
赤字
兆円
円/ドル
↑円安(円の減価)
↓円高(円の増価)
円ドル・レートと貿易収支(IMF 国際収支マニュアル第 6 版ベース)
2010 年 1 月~2016 年 3 月
(資料)日本銀行ホームページ
73
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
2. 実効為替レート

輸出入の動向と為替レート:為替レートの変動が輸出入の動向に与える影響
をみる場合には,日本が貿易している米国,中国,EU など貿易上の競争国
との関係を考慮する必要があります。たとえば,円がドルに対して増価し,
米国に対して日本の産業の競争力が低下しても,同時にユーロが円に対して
増価する場合には,日本の EU に対する競争力は強まり,日本の貿易収支が
悪化するとはかぎらないこととなります。

円の実効為替レート:日本と直接・間接に貿易上競合する国々の通貨と円の
間の為替レートを,その競合度合を示すウェイトにより加重平均したものが
「円の実効為替レート」です。日本の貿易相手が米国,中国,ユーロ圏だけ
だとした場合,日本の全貿易額は,つぎのようにあらわされます。
全貿易額=対米貿易額+対中貿易額+対ユーロ圏貿易額
円ドルの名目為替レートと,円元の名目為替レートと,円ユーロの名目為替
レートをもとにして,円の名目実効為替レートは,つぎのように示されます。
円の実効為替レート=
対米貿易額
×対ドル・レート
全貿易額
+
対中貿易額
×対元・レート
全貿易額
+
対ユーロ圏貿易額
×対ユーロ・レート
全貿易額
74
経済入門
演習問題3:円,ドル,ユーロ,元の 4 通貨のみが存在する世界を想定します。
日本の対米国,対ユーロ圏,対中国の貿易ウェイトは,それぞれ,40%,20%,
40%とします。これをもとに,基準時点(=100)からの円の名目実効為替レー
トの変化率を計算したところ,4%の減価となりました。基準時点と比べ,円は
対ユーロでは 6%減価した一方,対元では 1%増価しました。このとき,円は対
ドルでは,基準時点と比べおよそ何%の減価もしくは増価となりましたか。
A 10%の減価
B 8%の減価
C 4%の減価
D 8%の増価
E 10%の増価
解法のプロセス
 名目実効為替レートの変化率は,各国通貨の増価率を各国との貿易ウェイト
で加重平均することで求められます。問題文の数値を適用すると,以下のよ
うに示されます(ただしここでは,増価の場合,変化率はマイナスに,減価
の場合,変化率はプラスとなるようにしています)
。
名目実効為替レートの変化率=0.4×(?%)+0.2×(+6%)+0.4×(-1%)
=+4%
 この関係式より,円の対ドルの変化率を求めると,つぎのようになります。
円の対ドルの変化率={+4%-0.2×(+6%)-0.4×(-1%)}÷0.4
=+8%
 これより,円は対ドルで,基準時点と比べ 8%の減価となるので,選択肢B
が正解となります。
75
2017 年目標 証券アナリスト
1次公開講義
円/ドル
2010 年=100
↑円高(円の増価)
↓円安(円の減価)
円ドル・レートと円の名目実効為替レートの推移
1973 年 1 月~2016 年 3 月
(資料)日本銀行ホームページ
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