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3.適用性拡大に関する要素研究(耐熱衝撃性平板形セル・スタックの研究)
3.適用性拡大に関する要素研究(耐熱衝撃性平板形セル・スタックの研究) 3.1事業全体の成果 (1)事業全体の成果 SOFC の適用性拡大に資する柔軟な運転形態が可能な小容量発電システムの実現に向けた要素 技術を確立するため、頻繁な起動停止をも可能にする優れた耐熱サイクル/熱衝撃(急速昇降温) 特性を有する強靱なセルスタックに関する研究開発を行った。具体的には、燃料極支持膜式セル と合金材料を組み合わせた熱応力緩和型スタックの開発と、800℃以下での低温作動化を目指し、 ①熱応力を緩和した強靭なセルスタックの実現、②低温作動の実証、および③概念実証の各目標 を設定して研究を実施した結果、全ての目標を達成することができた。 ①熱応力を緩和した強靭なセルスタックの実現 高熱伝導性と可撓性を有する金属材料を、集電機能を持たせた構造体兼応力緩衝材としてスタ ックに組み込み、熱応力緩和を図り、スタックを力学的に強靱なものにする。最大 13 cm 角まで 大型化した燃料極支持膜式セルを、合金製のセルサポートフォイルを介して合金マニホールド内 に組み込み、合金インターコネクタにより接続する構成の熱応力緩和形セルスタックを開発した。 さらに、当初は板状のインターコネクタを用いたスタックを検討し、その後、合金使用量の低 減と集電特性の向上を図った波状インターコネクタを用いた新型スタック構造への改良を行った。 作製した 13 cm 角セル 20 層スタックを用いて熱サイクル試験を行い、作動温度 750℃で 200℃/h の繰り返し熱サイクル、また最大 750℃/h の熱サイクルに対してもセル破損の起こらないことを 示した。 ②低温作動の実証 機械的に強靭なセルスタックを用いて発電性能の向上を図り、800℃以下で十分な発電性能を実 現する。低温作動に有効な燃料極支持膜式セルを安価な共焼結法により作製し、空気極には耐ク ロム被毒特性に優れたLSCF/SDCを採用した。5 cm角セル単層スタックによる発電において、 0.754V@0.2A/cm2(燃料利用率 84.7%)という高い性能を得ることに成功した。インターコネク タに用いられるクロム含有合金は、SOFCの発電中にクロム蒸気を発生し、空気極のクロム被毒 に基づく性能劣化の原因となる。また合金表面に形成されるCr2O3皮膜と空気極LSCFとの反応に よりSrCrO4が形成し、これも劣化の原因と考えられた。これらを防止するため、合金表面への酸 化物コーティングや表面処理を検討し、その結果、5 cm角セル単層スタックにおいて 1,500 h以 上にわたって性能劣化を起こさず安定した発電性能を得ることに成功した。 ③概念実証 上記で得られる要素技術を用いて、1 kW 級スタックを開発し、強靱で信頼性の高いセルスタッ クについての概念実証を行う。13 cm 角セル 20 層スタックを最大 4 基組み合わせて kW 級とし、 750℃、水素燃料で発電試験を実施した結果、最大 625 W の出力を得ることに成功した。またこ のスタックで、温度変化速度 200℃/h の熱サイクルに対し、全ての層で破損のないことを確認し た。これらから、耐熱衝撃性に優れた熱応力緩和型スタックの概念を実証することができた。 (2)研究発表・特許等の状況 ①研究発表・講演、文献等 No. 年月 発表先 1 2002/07 5th European SOFC Forum 題目 Development of anode- supported SOFC with metallic interconnectors for reduced- temperature operation 49 発表者 松崎良雄 他 2 2002/07 5th European SOFC Forum 3 2002/09 Austceram 2002 4 2002/11 2002 Fuel Seminar 5 2002/11 第11回SOFC研究 発表会 6 2003/01 材料 7 2003/09 8th Grove Fuel Cell Symposium 8 2003/09 8th Grove Fuel Cell Symposium 9 2003/09 8th Grove Fuel Cell Symposium 10 2003/10 11 2003/11 12 2003/12 13 2004/03 Cell 204th Meeting of The Electrochemical Society 2003 Fuel Cell Seminar 第12回SOFC研究 発表会 Fuel Cell Seminar in Thailand "Solid Oxide Fuel Cells: Technology for the Future" 14 2004/05 Journal of Power Sources 15 2004/05 Journal of Power Sources 16 2004/05 17 2004/05 18 2004/06 19 2004/06 Journal of Power Sources 第11回燃料電池シ ンポジウム Asian Conference on Solid State Ionics 2nd International Conference on Fuel Cell Science, Engineering and Technology (ASME) 3D model analysis on the planar SOFC considering current path Development of anode- supported SOFC for reduced- temperature operation Development of anode- supported SOFC with high energy conversion efficiency at reduced temperature 平板支持膜式SOFCセルスタックの研究 開発 シンクロトロン光を用いた固体酸化物形 燃料電池セルの残留応力測定 Evaluation of residual stresses in a SOFC stack Relationship between electrochemical properties of SOFC cathode and composition of oxidation layer formed on metallic interconnects Prevention of SOFC cathode degradation in contact with Crcontaining alloy 矢加部久孝 他 荻原崇 他 馬場好孝 他 松崎良雄 他 矢加部久孝 他 矢加部久孝 他 藤田顕二郎 他 藤田顕二郎 他 Development of anode- supported SOFC with metallic interconnector 馬場好孝 他 Analysis on the performance of anodesupported SOFC stacks 東京ガスにおける平板支持膜式SOFCの 開発 矢加部久孝 他 松崎良雄 他 Anode-supported SOFC with metallic interconnectors for reducedtemperature operation 松崎良雄 他 Relationship between electrochemical properties of SOFC cathode and composition of oxide layer formed on metallic interconnects Prevention of SOFC cathode degradation in contact with Crcontaining alloy Evaluation of residual stresses in a SOFC stack 燃料極支持膜式平板形SOFCの開発 藤田顕二郎 他 藤田顕二郎 他 矢加部久孝 他 馬場好孝 他 Anode-supported SOFCs for reduced temperature operation 松崎良雄 他 Improvement of the performance for the anode- supported SOFCs 天羽伸二 他 50 2004/06 第9回動力・エネル ギー技術シンポジ ウム(日本機械学 会) アノード支持型SOFCセルスタックの発 電特性向上 天羽伸二 他 21 2004/06 6th European Solid Oxide Fuel Cell Forum Development of anode- supported planar SOFC with metallic interconnectors operated at reduced temperature 小笠原慶 他 22 2004/06 Analyses of metallic interconnectors for SOFC after durability test operation 亀田治邦 他 23 2004/10 平板支持膜式SOFCの研究開発 小笠原慶 他 20 6th European Solid Oxide Fuel Cell Forum 第59回SOFC研究 会 24 2004/11 2004 Fuel Seminar Cell 25 2004/11 Solid State Ionics 26 2004/12 第13回SOFC研究 発表会 Development of anode- supported SOFC with metallic interconnectors at reduced temperature High electric conversion efficiency and electrochemical properties of anodesupported SOFCs 急速昇温可能な平板支持膜式SOFCの開 発 藤田顕二郎 他 松崎良雄 他 馬場好孝 他 ②特許等 No. 出願日 1 2004/04/27 2 2004/04/27 3 2004/04/27 4 2004/04/27 5 2004/07/05 出願番号 特願 2004-131065 特願 2004-131843 特願 2004-132121 特願 2004-132147 特願 2004-198706 発明の名称 支持膜式固体酸化物形燃料電池スタック 及びその作製方法 支持膜式固体酸化物形燃料電池スタック 及びその作製方法 支持膜式固体酸化物形燃料電池スタック 及びその作製方法 支持膜式固体酸化物形燃料電池スタック 平板型固体酸化物形燃料電池およびその 作製方法 51 委託会社名 東京瓦斯株式 会社 東京瓦斯株式 会社 東京瓦斯株式 会社 東京瓦斯株式 会社 東京瓦斯株式 会社 3.2研究開発項目毎の成果 (1)目的 SOFC は従来大容量向けを中心に開発が進められてきたが、頻繁な起動停止など、より柔軟な 運転形態が求められる小容量向けへの適用性拡大が SOFC の普及促進に与えるインパクトは大き い。小容量 SOFC では平板形支持膜式セルと金属インターコネクタを組み合わせたスタックが世 界的に主流であるが、セラミックスの脆弱性および金属との熱膨張率不整合に起因する熱応力破 壊の恐れがある。これら課題を解決する基礎技術の確立が、SOFC の用途拡大のためには重要で ある。そのため本事業では、SOFC の小容量向けへの適用性拡大のために、耐熱衝撃(急速昇降 温)特性を有し、かつ 800℃以下の低温で動作する強靱なセルスタックの開発を行うことを目的 とし、その要素技術として、①熱応力を緩和した強靭なセルスタックの実現、②低温作動の実証、 ③概念実証、に関する研究を実施した。 (2)研究の概要 各研究項目の意義と実施内容は以下の通りである。 ①熱応力を緩和した強靱なセルスタックの実現 平板形 SOFC を熱機械的に信頼性高く運転するためには、インターコネクタ、マニホールド、 単セルなどの各構成部材間の熱膨張率を精度高く合わせることが必要であり、また内部発熱量や 起動停止時の昇降温速度などを慎重に制御する必要があった。このような制約なしに、より柔軟 な運転が可能な平板形 SOFC によって適用性拡大を実現するためには、高熱伝導性と可撓性を有 する合金材料をスタック構成部材に用いることが有効である。しかし金属と単セルとの熱膨張差 に起因した応力によるセルの破損が心配される。また合金材料を使用するためには、電池の作動 温度を低温化する必要がある。 本研究では、高熱伝導性と可撓性を有する金属材料を、集電機能を持たせた構造体兼応力緩衝 材としてスタックに組み込み、熱応力緩和を図り、スタックを力学的に強靱なものにすることを 目的とした。開発、実証する技術を以下に記載する。 ・合金を用いた熱応力緩和型のスタックを開発する。また、単セル自体の熱機械的信頼性を高め るため、熱伝導率の高い燃料極を支持基板とした支持膜式電池を単電池として採用する。 ・上記スタックの応力シミュレーションを行い、構造設計へフィードバックする。 ・200℃/h 以上の熱サイクルによっても破損のないスタックを開発する。 ②低温作動の実証 SOFC の最も一般的な電解質材料である YSZ を用いた自立膜式電池では、標準的な作動温度は 約 1000℃であり、作動温度の低下とともに電解質の抵抗による電圧ロスが無視できない大きさに なってしまう。このような電池では 800℃以下の運転において実用的な発電性能を得ることがで きない。作動温度の低温化のためには、以下のような課題がある。 ・電解質による電圧ロスの低減。そのためには、YSZ の薄膜化を行う方法や YSZ よりも高い酸素 イオン導電率を有する酸化物を電解質材料に用いる方法が検討されている。 ・低温化に伴い電極の分極が増大する。低温でも分極の小さな高性能電極が必要。 ・積層化に伴う電圧ロス低減による電池性能向上が必要。 ・熱サイクルによりスタック内部抵抗が増大する。 ・燃料極支持膜電池の場合、燃料極基板内での気相拡散抵抗に起因する濃度分極が燃料利用率向 52 上を阻害する。 ・クロムを含有する合金材料を用いる際に、発電時に生成するクロム蒸気により空気極が被毒し、 スタック発電性能の経時劣化を引き起こす。 本研究では、上記の課題の検討と同時に、機械的に強靭なセルスタックを用いて発電性能の向 上を図り、800℃以下で十分な発電性能を実現する。具体的な項目を以下に記載する。 ・現時点で 800℃以下での作動の実現可能性が最も高いと判断される支持膜式(燃料極支持膜式) セルを用いる。低コストで実現するために、安価なスラリーコート・共焼結法で作製したセルを 大面積化する。 ・合金材料による空気極へのクロム被毒防止のため、電解質/空気極界面の電気化学特性を制御 して開発した高いクロム被毒耐性を有する空気極を採用する。 ・5 cm角および 10 cm角セルスタックにおいて 750℃で平均セル電圧 0.7 V以上@0.2 A/cm2(燃 料利用率 75%以上)を達成する。 ・800℃以下におけるメタン内部改質の可能性についての評価を行う。 ・ショートスタックにおいて、800℃以下の作動温度での高耐久性(後に、1,000 h あたりの電圧 劣化率として 0.25%以下と規定した)を実証する。 ③概念実証 これまで 1 kW 級の平板形スタックでは急速昇温などの柔軟な運転は非常に困難であったが、 これが実現すれば間違いなく SOFC のブレークスルー技術となる。本研究では、①②で得られる 要素技術を用いて、出力 500 W 以上のスタック(1 kW 級スタック)を開発し、強靱で信頼性の 高いセルスタックについての概念実証を行う。この時、目標は 200℃/h 以上の繰り返し熱サイク ルを与えてもセルに破損のないこととする。 (3)研究の成果 ①熱応力を緩和した強靱なセルスタックの実現 a.セルおよびスタックの構成 燃料極支持膜式セルの製造方法として、安価で量産可能な技術であるプレス成形とスクリーン 印刷、および共焼結を基本とした方法を採用している。燃料極は、一酸化ニッケル(NiO)とイ ットリア安定化ジルコニア(TZ-8Y(8 mol%Y2O3-92 mol%ZrO2))の混合粉末、造孔材および 蒸留水を、ボールミルを用いて混合し、バインダー、分散剤、消泡剤を加え、スプレードライ法 により造粒して得られた粉末を一軸プレスにより加圧成形して、燃料極のグリーン基板を作製し た。電解質成膜の前に、この基板上に一酸化ニッケルと安定化ジルコニアよりなる機能層をディ ップコート法により形成した。電解質は、イットリア安定化ジルコニアに、有機溶媒、バインダ ー、分散剤等を添加し、ボールミルを用いて混合・分散した。得られたスラリーを上述の燃料極 基板上にディップコート法により塗布し、厚さ約 30μmの電解質グリーン薄膜を形成した。その 後、電解質グリーン薄膜と燃料極を一緒に 1500℃で焼成(共焼結)した。空気極としてLSCF (La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3)とSDC(Ce0.8Sm0.2O1.9)のコンポジットをスクリーン印刷して、1100℃ で焼成した。なお、空気極と電解質の反応防止およびクロム被毒防止のため、空気極と電解質の 界面にSDCの薄層をディップコート法により形成し焼成した。得られたセルの断面構造を図 3.2-1 に示す。約 30μm厚の緻密で均一な電解質層の両側に、適度な多孔構造を持った空気極と燃料極 が形成されている。 53 空気極 電解質 機能層 燃料極 図 3.2-1 燃料極支持膜式セルの断面 SEM 写真 図 3.2-2 に燃料極支持膜式セルを合金部材と組み合わせて構成したスタック構造の概念図を示 す。単セルはシール材を介して合金の薄板(セルサポートフォイル)に接合され、この接合体と マニホールドおよび合金集電体のインターコネクタとを順次積層することにより内部マニホール ド方式のスタックを構成するようにしている。セルを支えるサポートフォイルの可撓性により、 熱応力を緩和することができると考えられる。数値解析によるセルスタックの応力評価を行い、 実測した応力値を数値解析に反映させながら、より精度の高い応力解析を行った。電解質部、空 気極部、合金部の残留応力はいずれも圧縮で、絶対値は 700~800 MPa と決して小さい値ではな いが、圧縮応力であることを考慮すると、スタックレベルにおいても電解質に発生している応力 値は許容値内であり、熱サイクルをかけても電解質が破壊される危険は少ないと考えられる。 実際の発電試験に用いたスタック構造の模式図を図 3.2-3 に示す。図 3.2-3(a) (従来型スタッ ク構造と呼ぶ)では溝加工した合金板をインターコネクタとして用いた。一方、図 3.2-3(b) (新 型スタック構造)では、集電特性の向上と合金量の低減を図るため、波状加工した合金箔をイン ターコネクタとして用いた。 インターコネクタ セパレータ マニホールド 緩衝材 空気極 接合材 単セル マニホールド 燃料極 図 3.2-2 応力緩和型スタック構造の概念図 54 (a)従来型 インターコネクタ セルサポートフォイル シール材 単セル マニホールド (b)新型 インターコネクタ サポートフォイル シール材 セル サブアセンブリ マニホールド カバー 図 3.2-3 スタック構造の模式図。(a)従来型、(b)新型 b.合金インターコネクタの安定性 燃料極支持膜式SOFCでは、セルと熱膨張係数が比較的近いフェライト系合金材料がインター コネクタとして適している。この合金はクロムを含有しており、SOFCの作動条件において表面 の酸化皮膜からクロムの蒸気種が拡散し、空気極と電解質の界面に蓄積して発電特性を劣化させ ることが知られており、これを抑制して発電の長期安定性を達成することが実用上重要である。 本研究ではインターコネクタ候補材料であるZMG232(日立金属製)を用いて、安定性の評価と 向上の可能性を検討した。YSZの小型ペレット表面に、クロム被毒耐性の低い(La,Sr)MnO(LSM) 3 空気極を焼き付けたハーフセルを作製し、合金材料と接触させて 750℃、空気中、0.3 A/cm2にて 通電試験を行い、空気極過電圧の経時変化モニター、および試験後の試料表面と断面の元素分析 を行った。その結果、無処理のZMG232 を用いた試料では、試験開始後すぐに過電圧の増大を起 こした。23 h通電後の試料断面のSEM/EPMAによる観察結果を図 3.2-4 に示す。空気極/電解質 界面にクロムが凝縮していることがわかる。一方合金と空気極の接触界面の元素分析を行った結 果、SrCrO4の生成が示唆された。ZMG232 単体では、酸化アニールにより表面にCr2O3とMnCr2O4 55 が生成することがわかっている。従ってこれら酸化物と空気極のストロンチウムが反応して SrCrO4を生成したものと考えられる。この化合物は蒸気圧が高く、空気極のクロム被毒の一因と 思われる。これらの結果から、ZMG232 表面からのクロム蒸発を抑えるために、何らかの表面処 理の必要性が示唆される。このため、幾つかの候補材をZMG表面にコーティングし、同様なハー フセル試験を行い過電圧の経時特性を調べた。その結果、(La,Sr)CoO3(LSCO)を電子ビーム蒸 着によりコーティングした試料において、50 h以上にわたり過電圧の増大が見られず、合金イン ターコネクタの安定性向上に有効であることがわかった。 After After 23h 23h ZMG232 ZMG232 LSM LSM Cr Cr YSZ YSZ 図 3.2-4 ハーフセル試験後の空気極/電解質界面の SEM/EPMA 観察像 一方燃料極側ではクロム被毒の恐れはないものの、水蒸気酸化や浸炭による合金表面の変質や 機械強度変化などの可能性について検証する必要がある。そこで同じく ZMG232 インターコネク タと 5 cm 角単セルを組み合わせた単セルスタックを製作し、750℃、メタン/水蒸気燃料(S/C =2)にて長時間(最大 534 h)発電試験を行い、試験後のインターコネクタ表面観察および機械 強度評価を実施した。その結果、インターコネクタ表面はメタン/水蒸気ないし水素/水蒸気の 雰囲気でアニールしたものと同様の表面形態であり、また引張り強度特性も試験前からの変化は 認められず、浸炭などの影響は起こっていないと考えられた。 5.5cm 11cm 13cm 図 3.2-5 単セルの大面積化(有効電極面積は左から 9 cm2、49 cm2、100 cm2) 56 c.大面積セルの製作 効率的にkW級の発電を行うためにはセルの大面積化が重要である。前述の共焼結プロセスにより試 作した大面積セルの外観写真を図 3.2-5 に示す。セルの最大サイズは 13 cm角、有効電極面積は 左から 9, 49, 100 cm2である。当初の製造プロセスでは 13 cm角のセルにおいて反りが発生し、そ の反り量は試料間である程度のばらつきで生成した。従来型スタック構造では板状インターコネ クタを使用するため、反ったセルを積層する際にセルの一部に荷重が集中することとなる。セル 自身は荷重に対してある程度まで変形することにより追従するが、反り量の大きいセルでは荷重 破壊が起こる。これを防ぐため、従来型スタックで 13 cm角セルを積層する際には、予め荷重- 変位試験を実施して決定した反り量の閾値よりも小さい反り量を持つセルを選抜して使用するこ ととした。これと並行して、反りを発生しないセル製造プロセスの改良も検討した。その結果、 電解質スラリーコートの前に仮焼のプロセスを入れることにより、図 3.2-6 に示す通り、大幅に 反り量を低減したセルを製造することに成功した。さらに共焼結時に発生する電解質上のピンホ ールを低減させるプロセス最適化を行った結果、最終的に 13 cm角平滑セルの製造歩留まりは 90%程度まで向上した。 (b) (a) 図 3.2-6 大型平滑セルの作製。(a)プロセス改善前、(b)プロセス改善後 d.スタックの熱サイクル特性 合金材料と組み合わせた燃料極支持膜式平板形 SOFC セルスタックが、熱機械的特性に優れ た強靭なものであることを実証するため、実際の発電試験条件に対する熱サイクル試験を実施 した。始めに、11 cm 角セル 10 層スタック(従来型スタック構造)について、室温~750℃の 昇降温を 200℃/h の温度変化速度にて熱サイクル試験を実施し、OCV および通電時電圧の安定 性、およびセルの破損なきことを確認し、合金材料(セルサポートフォイル)を用いた本スタ ック構造が優れた熱応力緩和効果を示すことを明らかにした。さらに大面積の 13 cm 角セルを 用いた試験を新型スタック構造を用いて実施した。図 3.2-7 は 13 cm 角セル 20 層スタックの、 室温~750℃の熱サイクル(温度変化速度 200℃/h)に対する OCV の変化を示したものである。 電圧は上下各 10 層ずつの単位でモニターした。グラフに示す通り、5 回の熱サイクルに対し、 OCV の有意な低下は認められなかった。試験後、スタックを解体し、セル割れの有無を確認し たところ、全てのサブアセンブリにおいてセル破損がないことが確認された。このことから、 新型スタック構造および大面積セルの組み合わせにおいても、応力緩和型スタック構造の有効 性が実証された。さらに厳しい条件での熱サイクル特性を調べるため、13 cm 角セル 20 層スタ ック 2 基並列の 40 層スタックにおいて、1 時間急速昇温(750℃/h)の熱サイクルをかけ、OCV の変化を調べた。その結果を図 3.2-8 に示す。上記と同様、OCV の低下は見られず、さらに解 体後のセル破損も確認されなかった。この結果は、本スタックが DSS のような運転条件にも適 用できる可能性を有することを示すものとして注目される。このような優れた熱サイクル特性 57 に加え、新型スタック構造においては、サブアセンブリとインターコネクタの交互積層により スタックを構成しており、サブアセンブリ間の燃料ガス流路は高温ガスケット(マイカなど) によるシールを行っているため、上記の解体作業も特段の破損を伴うことなく行うことができ る。解体したサブアセンブリは、再度積層して同等の発電特性を得ることが可能である。この ようなスタック構成は、SOFC 実用化の際のメンテナンス性において、大きな利点を有してい ると考えられる。 25 OCV (V) 20 15 10 5 下 10 層 上 10 層 20 層 750℃@200℃/h H2-Air 0 0 1 2 3 4 5 Thermal Cycle 図 3.2-7 13 cm 角セル 20 層スタックの OCV 熱サイクル特性 50 40 OCV (V) 30 20 40 層 1-上 10 層 1-下 10 層 2-上 10 層 2-下 10 層 10 750℃@750℃/h H2-Air 0 0 1 Thermal Cycle 図 3.2-8 13 cm 角 40 層(20 層×2)スタックの OCV 熱サイクル特性 58 ②低温作動の実証 a.セルスタックの発電特性 高発電効率を得るためには、燃料利用率の向上が必要不可欠である。燃料利用率を向上させる ための方法として、燃料漏れ防止のためにスタックシール性の向上、燃料および生成物の拡散が 起こり易いように燃料極基板の多孔度を増加させることなどが挙げられる。従来型スタック構造 を用い、5 cmおよび 11 cm角のセルと組み合わせた単層スタックを用いて発電試験を行った。図 3.2-9 に、750℃、電流密度 0.2 A/cm2にて発電を行った際の、スタック電圧の燃料利用率依存性 を示す。5 cm角セルスタックでは、20%加湿水素燃料に対し、燃料利用率 86%で電圧 0.76 Vを 達成した。これは発電効率 44.7%HHVに相当する。またメタン燃料(S/C=2)による内部改質 発電では燃料利用率 85%で 0.75 Vが得られ、発電効率 55.4%HHVを達成した。さらに 11 cm角 セルスタックでは、水素燃料、燃料利用率 88%において 0.71 V(効率 42.5%HHV)を達成し、 いずれも目標性能(燃料利用率 75%で電圧 0.7 V以上)を上回った。 1.0 40%HHV 50%HHV (CH4) (CH4) 60%HHV (CH4) Voltage (V) 0.9 0.8 0.7 0.6 5cm x 5cm Dry H2 H2/H2O CH4 (S/C=2) 11cm x 11cm Dry H2 H2/H2O CH4 (S/C=2) 0.5 20 40 60 80 Fuel utilization (%) 図 3.2-9 単層スタック電圧の燃料利用率依存性(電流密度:0.2 A/cm2) b.セルスタックの耐久性 前述の通り、セルスタック特性劣化の要因の一つに、合金部材から飛散するクロム成分が空気 極の分極特性を低下させる、いわゆるクロム被毒による機構が考えられる。本研究ではセルスタ ックの耐久性向上のため、このクロム被毒を抑えることに主眼を置いてきた。この取り組みとし て、耐クロム披毒特性の優れたLSCF/SDC空気極を用いて劣化の抑制を図るとともに、合金部材 からのクロム飛散そのものを減少させることにより耐久性を向上させる方法について検討した。 合金インターコネクタとしてクロム含有フェライト系材料を用い、インターコネクタが板状の従 来型スタック構造を採用し、5 cm角、カソード面積 9 cm2のセルと組み合わせて単層スタックを 製作した。無処理の合金材料(A)を用いるものの他、クロム飛散抑制の方法として、(B)イン 59 ターコネクタ通電部以外の合金材料(マニホールド含む)のクロム飛散防止処理を施したもの、 (C)インターコネクタに導電性酸化物コーティング(前述①b.項参照)を施したもの、および (D)インターコネクタ通電部に表面処理を行ったもの、の 4 種類の試料を用いて、スタックの長 期発電特性を評価した。図 3.2-10 に、単層スタックの 700℃および 750℃、水素燃料における連 続運転特性の結果をまとめて示す。本試験では燃料利用率および空気利用率はいずれも 10%以下 である。無処理合金を用いた(A)は 750℃、0.3 A/cm2の電流密度で発電試験を行ったが、この 場合 21.9%/1,000 hという著しい電圧の劣化率を示した。これに対しクロム飛散防止処理を施し た(B)では、0.2 A/cm2の電流密度で、試験終了まで 1,600 h以上の安定した発電特性を維持し、 電圧のピークから試験終了までの劣化率は 4.5%/1,000 hとなり、耐久性の改善が認められた。同 様に、インターコネクタに導電性酸化物コーティングを施した(C)では、750℃、0.2 A/cm2の 通電を行い、4.4%/1,000hの劣化率を達成した。さらに(D)については、700℃、0.2 A/cm2の通 電に対し、セル電圧は 1,500 h以上に渡って劣化なく安定した発電特性を示した。これらの結果に より、合金材料に適当な表面処理を施すことにより、1,000 hレベルの初期劣化を抑制することが 可能であることが示された。 1.0 H -Air Stack Voltage / V 2 0.8 0.6 0.4 -2 A. Untreated Cr-containing alloy (0.3Acm @ 1023K) -2 B. Prevention of Cr evaporation (0.2Acm @ 1023K) -2 C. Conductive oxide coating (0.2Acm @ 1023K) -2 D. Surface modificaton (0.2Acm @ 973K) 0.2 0.0 0 500 図 3.2-10 Time (h) 1000 1500 5 cm 角単層スタックの発電時電圧の経時変化 ③概念実証 上記①および②で確立される要素技術を用いて、1 kW 級のスタックを試作し、800℃以下の動 作温度と 200℃/h 以上の繰り返し熱サイクルに対して破損のないことを確認し、強靭で柔軟な運 転が可能なスタックの概念実証を行うことを目標とした。 1 kW 級発電試験装置の外観を図 3.2-11 に示す。炉内は 4 系統並列となっており、個別にガス流量制御が可能な構成となっている。本装 置に、13 cm 角 20 層スタックを 4 基導入し、計最大 80 層での運転試験を実施した。 a.大面積高積層セルスタックの発電特性 従来型スタック構造を用いた 13 cm角セルスタックでは、前述の通り反りの閾値を基準にセル を選別してスタックに組み込み、また面圧分布試験から適正な荷重値を求め、さらにその値に相 当するトルク値を制御してボルト締めを行い、試験装置に設置した。この構成により 80 層(20 層×4 基)スタック発電試験を試みたが、昇温後の還元中に試験装置異常が発生して燃料および 60 空気の供給停止が起こるスタックがあり、4 基中 3 基のスタックにおいて、セルの非可逆的破壊 によると考えられる起電力低下を起こしたため、これらは発電には至らなかった。残り 1 基のス タックにおいてはほぼ正常な起電力が得られたが、層間の短絡を起こした部分が 1 ヶ所あったた め、その部分を除いた下部 10 層分について発電試験を行った。その発電特性を図 3.2-12 に示す。 750℃、燃料利用率は 14%と低いが、10 層で 140 Wを超える出力が得られた。電流密度 0.2 A/cm2 での各層電圧の平均値は 0.713 Vとなった。このように、大型セルの積層スタックにおいても比 較的高いポテンシャルを有することが示された。 図 3.2-11 kW 級スタック発電試験装置の外観 12 140 120 8 100 80 6 60 Power / W Voltage / V 10 4 40 2 20 0 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0 0.25 Current Density / Acm -2 図 3.2-12 従来型スタック(13 cm 角セル 10 層分)の発電特性(750℃) 61 上記の従来型スタック構造試験においては、ある程度の反り量を有するセルを使用したことに よる機械特性の低さの問題の他、合金の使用量が多く積層工程が複雑なこと、またガスシールに ガラスシール材を使用する箇所が多いことによる熱サイクル時のシール特性低下などの問題を含 んでいた。これに対して新型スタック構造は、セルが燃料マニホールドに格納されたサブアセン ブリという単位と、波状成形した合金インターコネクタの交互積層によりスタックを構成するた め、取り扱いが容易で、サブアセンブリの再利用も可能という利点を有する他、反ったセルに対 する許容度も高い。従って、上述の従来型スタック 80 層試験を実施した後は、スタック試験は専 ら新型構造を用いて行うこととした。 1.2 750℃ H2-Air Voltage, IR (V) 1.0 0.8 0.6 1 (下) 2 3 4 5 6 7 (上) IR (average) 0.4 0.2 0.0 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 Current Density (A/cm2) (比較用)従来型構造10層スタック 1.2 750℃ H2-Air Voltage (V) 1.0 0.8 0.6 1(下) 2 3 4 5 6 7 8 9 10(上) 0.4 0.2 0.0 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 Current Density (A/cm2) 図 3.2-13 13 cm 角(反りあり)セル 7 層スタックの発電特性 (従来構造 13 cm 角セル 10 層スタックとの比較) 62 新型スタック構造を用いた 13 cm 角セル 7 層スタックの発電特性を図 3.2-13 に示す。比較の ため、従来型の 10 層スタックの結果も併せて示した。これらの比較から、新型スタック構造にお いて従来型と同等の発電特性が得られることが明らかとなった。ここで特筆すべきは、従来型ス タック構造においてはセルの破損を防ぐため反りの大きいセルを除外して積層されているのに対 し、新型スタック構造では反りの大きいセルを除外することなく積層し、セル破損を起こすこと なく同等の発電性能が得られたという点である。さらなる高積層スタックを製作する際にはセル の反りの問題は無視できないものの、従来型に対する新型スタック構造の優位性は確認できた。 その後、セル製造プロセスの改良により高歩留まりで作製できるようになった平滑セルを組み込 んだ、新型構造スタックによる試験を実施した。 高積層スタック試験は 20 層の単位で実施した。試験炉内に 20 層スタック 4 基が組み込まれた 様子を図 3.2-14 に示す。このあと上部に押さえを設置してボルト締めすることによりガスシール を達成し、空気はスタック手前部に供給器を設置することにより供給する。 図 3.2-14 13 cm 角セル 20 層スタック×4 基設置時の外観 図 3.2-15 に 20 層、40 層(20 層×2 基)および 80 層(20 層×4 基)の、750℃、水素燃料を 用いた各発電試験における発電特性をまとめて示す。20 層スタック試験では最大出力 198 W が 得られた。試験後の解体検査の結果、セルの破損は起こっていなかった。この試験では各層の電 圧も測定したが、一部 IR 抵抗が大きい層が存在していることがわかった。セルの平滑化によりス タックの機械的信頼性は向上したが、各層の接続には改善の余地があることがわかった。40 層ス タックでは最大出力 377 W が得られた。大まかな挙動は 20 層と同様である。さらに 80 層スタッ クでは最大 625 W の出力が得られ、出力の目標を達成した。この 80 層スタックで 10 層ごとの電 圧をモニターして比較したところ、各 10 層で若干のばらつきが見られた。これは上記の 20 層ス タックでも見られた一部層における高い接触抵抗が原因と考えられる。40 層、80 層スタックと も、試験後のセル破損は見られず、信頼性の高いスタック構成であることが実証された。 63 1.2 750℃ H2-Air 700 600 0.8 500 400 0.6 20 x 4 300 0.4 20 x 2 0.2 0.0 200 20 x 1 0 0.05 0.1 出力 (W) 電圧 (V/layer) 1.0 800 100 0.15 0 0.2 電流密度 (A/cm2) 図 3.2-15 13 cm 角 20 層、40 層(20 層×2)、80 層(20 層×4)スタックの発電特性 b.大面積高積層スタックの熱サイクル特性 平滑セルで作製した新型スタック構造のサブアセンブリは、試験後でもセルの破損は見られず、 機械的信頼性の高いものであることが示された。今回試験での高積層スタックは、20 層スタック を最大 4 基並列に設置して構成されるものである。従って構成単位である 20 層スタック以上の熱 サイクル特性をもって、高積層スタックの熱サイクル特性を評価することができる。①d.で述 べた通り、13 cm 角セル 20 層スタックにおいて、昇降温速度 200℃/h の熱サイクル 5 回後のス タック OCV には低下が見られず、また同様の 40 層(20 層×2)スタックに対して 750℃/h の熱 サイクルをかけても OCV の低下は見られなかった(図 3.2-7、図 3.2-8 参照)。さらに、13 cm 角セル 80 層(20 層×4 基)の 1 kW 級スタックにおいて 200℃/h の昇降温熱サイクルを行った ところ、図 3.2-16 に示す通り、熱サイクルによる OCV の低下は見られなかった。いずれのセル も破損は起こしていないことも確認された。これらの結果から、耐熱衝撃性に優れた kW 級平板 形スタックの概念を実証することができた。 64 750℃@200℃/h H2-Air 初期 熱サイクル後 12 Voltage (V) 10 8 6 4 2 0 上10層 下10層 上10層 下10層 上10層 下10層 上10層 下10層 スタック1 スタック2 スタック3 スタック4 図 3.2-16 13 cm 角 80 層(20 層×4)スタックの OCV 熱サイクル特性 (4)成果のまとめ 本委託業務は、SOFC の適用性拡大に資する柔軟な運転形態が可能な小容量発電システムを実 現するため、頻繁な起動停止をも可能にする優れた耐熱サイクル、耐熱衝撃性(急速昇降温)特 性を有する強靱なセルスタックを開発することを目的とし、以下の 3 項目に関する研究を実施し た。①熱応力を緩和した強靱なセルスタックの実現、②低温作動の実証、③概念実証 各研究項目について達成状況を以下に記す。 ①熱応力を緩和した強靱なセルスタックの実現 本研究では、高熱伝導性と可撓性を有する金属材料を、集電機能を持たせた構造体兼応力緩衝 材としてスタックに組み込み、熱応力緩和を図り、スタックを力学的に強靱なものにすることを 目的とした。合金を用いた熱応力緩和形スタック構造を考案した。使用する合金は、燃料極側お よび空気極側における化学的機械的安定性評価を行い、安定であることの見通しを得た。また熱 伝導性に優れた燃料極支持膜式セルの大型化を行い、かつ平滑なセルを歩留まり良く製造するプ ロセスを確立した。これによりスタック積層時のセル破損を大幅に減らすことに成功した。上記 を組み合わせて製作した大型セル高積層スタックの熱サイクル試験を行い、200℃/hおよび750℃ /hの熱サイクルに対し、OCVの劣化およびセル破損の起こらないことを確認した。このように、所 期の目的である、熱応力を緩和した強靭なセルスタックの開発に成功した。 ②低温作動の実証 本研究では、機械的に強靭なセルスタックを用いて発電性能の向上を図り、800℃以下で十分な 発電性能を実現することを目的とした。安価なスラリーコート・共焼結法により、大面積(13 cm 角)セルを高歩留まりで製造するプロセスを確立した。得られた支持膜式セルと合金材料を組み 合わせたスタックにより、750℃において、セル電圧 0.7 V以上@0.2A/cm2(燃料利用率 75%以 上)を達成した。これにより、低温での高性能なセルスタックを実現することができた。セルス タックの長期安定性に影響を及ぼす合金材料からのクロム成分の飛散を、合金材料の表面処理を 通じて低減させることに成功し、これにより 1,500 時間以上の運転において電圧低下のないスタ ックの運転を行うことができた。以上の成果により、750℃という低温作動のセルスタックにおい 65 て、十分高い発電性能と耐久性を確立することができ、低温作動の実証は目標達成された。 ③概念実証 本研究では、上記①②で得られる要素技術を用いて、500 W 以上のスタック(1 kW 級スタッ ク)を開発し、強靱で信頼性の高いセルスタックについての概念実証を行い、この時、目標は 200℃ /h 以上の繰り返し熱サイクルを与えてもセルに破損のないこととした。平滑な大面積セルと、新 規に考案したスタック構造(波状インターコネクタ使用)を組み合わせた高積層スタックを試 作した。一部に接触が不十分な層が見られたものの、750℃、水素燃料において最大 625 W の 出力を達成した。また 200℃/h の熱サイクルに対し、セル破損が起こらないことを確認した。 以上により、強靭で信頼性の高いセルスタックの概念実証に成功した。 (5)残された課題 本委託事業における諸目標は全て達成されたが、実用化のためにはさらに改良が必要と思わ れる課題が存在する。 合金インターコネクタを用いて 1,000 時間以上性能を低下させることなくスタックを発電でき ること(初期劣化の抑制)を実証できたが、さらに長時間の耐久性を目指す上での改良は重要な 課題と考えられる。実際、耐久性能の高かったインターコネクタについて詳細な分析を行った結 果、一部に鉄が濃集した酸化物層が認められたり、またガラスシール材の成分由来と考えられる 生成物の痕跡が認められたりしている。このように、空気極のクロム被毒の原因となりうるクロ ム化合物蒸気が生成したように見えるにもかかわらず、1,000 h の発電期間中スタック電圧がほと んど低下しなかったのは、合金表面処理の効果により蒸発するクロム化合物の量が低減し、電極 への影響が LSCF/SDC 空気極により回避できる範囲内に収まったためと考えている。しかしなが ら、10,000 h 以上の長期間を目指すことを考えると、このような状況は、クロム被毒と酸化速度 と両方の観点から克服しなくてはならない課題である。 上記の金属材料の長期安定性に関する課題については、事業実施の中途でその重要性を認識し、 平成 14 年度から実施体制の一部を変更し、産業技術総合研究所(産総研)および日立金属株式会 社冶金研究所とのコンソーシアムの枠組で共同実施という形で研究を進めてきた。さらに事業終 了後も、実用化推進のためのキーポイントであるこの課題に関し、産総研および日立金属の協力 のもと、さらなる高耐久化に向けた要素開発を継続中である。 66 4.適用性拡大に関する要素研究(アドバンス円筒形セルの研究) 4.1事業全体の成果 (1)事業全体の成果 ①空気極材料の抵抗低減 (La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3)が高導電性を有し、電解質との反応性が無い材料である事を確認した。 La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3/YSZ(=50vol%/50vol%)の配合比で平均粒径が、3μm/2μmの時に最もその界面 抵抗が低減する事を確認した。 ②セラミックス/金属接合技術の開発 目標値を満足する、金属材料(ステンレス鋼・耐熱合金)と接着材(C)との組み合わせ、接合 条件を確認した。 ③セル高出力密度化の検証 改質模擬ガス(S/C=4)、評価条件(温度 900℃,圧力 0.4MPa)で 0.21(W/cm2)を達成した。 (2)研究発表・特許等の状況 ―研究発表・講演、文献、その他― No 1 年月 2003 年 10 月 発表先 超高温材料国際シンポジ ュウム 2003in たじみ 題目 円筒型固体酸化物形燃料 電池の将来展望と材料面 での寄与 セル性能に及ぼす加圧の 影響 2 2003 年 12 月 第 12 回 SOFC 研究発表会 3 2004 年 5 月 円筒形 SOFC の開発 4 2004 年 6 月 第 11 回燃料電池シンポ ジウム 国際水素エネルギー会 議 Development of Solid Oxide Fuel Cell by MHI 久留長生、山下晃 弘、小阪健一郎、眞 竹徳久 冨田和男、佃洋、大 隈滋、川口豊 安藤喜昌、久留長 生、武信弘一 5 2004 年 12 月 第 13 回 SOFC 研究発表会 円筒形 SOFC 高効率コン バインドサイクルシス テムの開発 久留長生、加幡達 雄、小阪健一郎、小 林由則、安藤喜昌 6 2004 年 12 月 火力・原子力協会関東支 部第 31 回新技術発表会 固体酸化物形燃料電池 (SOFC) 発 電 シ ス テ ム の 開発 7 2006 年 1 月 FC EXPO 2005 8 2004 年 10 月 燃料電池開発情報センタ ー・日本における燃料電 池の開発 (2004 年度版) Development of Solid Oxide Fuel Cell(SOFC)Power Systems 固体酸化物形燃料電池の 開発状況 小林由則、安藤喜 昌、久留長生、加幡 達雄、兼平真吾、武 信弘一 小林由則 ―特許等― なし 67 発表者 佃 洋、井上好章、 久留長生 三菱重工業株式会 社 4.2研究開発項目毎の成果 (1)目的 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、従来の発電システムと比べ、高効率で環境にやさしい発電シス テムとして期待されている。この中で円筒形 SOFC は熱サイクルに優れ大容量化に適していると考えられ る。本研究においては商用モジュールに適用可能な信頼性、コンパクト性を実現するアドバンス円筒形セ ルの技術開発を行う事を目的とする。 (2)研究の概要 円筒形 SOFC 発電システムは、円筒形セルを多数集合させてモジュールに組込み発電を行う。 その際、経済性を高める為にセルの高出力化すなわち構成材料の抵抗低減が必要になる。また、 モジュールを構成する金属材料との取り合いを容易にするためには、セラミックスと金属材料の 接合技術が重要である。燃料は資源性、対環境性に優れる天然ガス(改質ガス)を用いて SOFC の適用先に応じた運転圧力で作動させる。 本研究においてはコージェネレーション・分散電源用として常圧からマイクロガスタービンと の連携運転を想定した圧力(0.4MPa)における発電試験を実施する。 平成 13 年度から平成 16 年度にかけて開発を実施する。 (3)研究計画および目標 ①セラミックス/金属接合技術の開発 項 目 シール性 接合強度 セラミックス/金属接合技術の開発 2300mm4・g-1・s-1以下 (組立時)2MPa以上 (運転時)0.2MPa以上 ②セル高出力密度化の検証 項 目 セル高出力密度化の検証 出 力 密 度 0.21W・cm-2以上(素子発電面積基準) 燃 料 天然ガス(改質ガス) 運 転 圧 力 常圧(大気)~加圧(0.4MPa 以上) 項目 研究計画 平成 13 年度 平成 14 年度 平成 15 年度 平成 16 年度 空気極材料の抵抗低減 セラミックス/金属の接合技術の開発 セル高出力密度化の検証 (4)研究の実施項目概要 円筒形 SOFC では、出力密度向上により円筒形セル 1 本あたりの出力が増大し、発電システムで のセル本数低減に繋がると共に、都市ガス燃料のガスタービンコンバインドサイクルシステムに 高出力化したセルを適用できる。 また、円筒形 SOFC では下図に示すように、カートリッジ(セルチューブを集合させて燃料/空気 68 の供給、集電を行う最小ユニット)単位で行う。このカートリッジでのセラミックス製セルとモ ジュール内の金属材料との間のシール性と接合強度を満足する接合として適用する。 ガスシール技術 (燃料側) 金属管板 (空気側) 金属リング 接着剤 セルチューブ 出力密度向上 • 空気極の高導電率化 • 空気極/電解質界面の抵抗低減 • 加圧化 インターコネクタ 燃料極 電解質 空気極 空気極 O2 空気 中間層 H2 燃料 H2O 基体管 電流の 通路 電解質 カートリッジ (空気極材料の抵抗低減) 本研究の適用例 69 ①空気極材料の抵抗低減 空気極材料には高い導電性、電解質との反応性制御が要求される。また、一体焼結法による円 筒形セルの空気極成膜では、焼結時の収縮率が制限される。この観点から、円筒形セルに適用可 能な複数のLaMnO3系材料から要求項目を満足する材料を選定する。更に、空気極/電解質の界面抵 抗低減のために、高イオン導電性材料と電子導電性材料の組み合わせによるハイブリッド化及び 粒径等を変えた微構造の制御を行うことにより、空気極材料の抵抗低減を実施した。 ②セラミックス/金属の接合技術開発 高効率SOFCコンバインドシステム(図 4.2-1)では、燃料のシール性が要求される。これは、 燃料リークによる発電効率比の低下を 2%以内(システム全体でのリーク率 5%)に抑える為には、 セラミックス/金属接合部分の インバータ リーク率を 3%以下に抑える必要 があり、この時のガスシール性 天然ガス (NG) 蒸気タービン は、ガス透過係数で 2300 mm4 ・ 残燃料 g-1・s-1以下が必要となる。また、 本接合部分には、運転時のセル 脱硫装置 チューブの自重に対する荷重か 復水器 SOFC ら安全率を加えると 0.2MPaの接 合強度が必要であり、更に組立 燃焼器 ガスタービン 時にはハンドリングで想定され る荷重に安全率を加えると 2MPa 以上の強度が必要となる。 排熱回収 また、円筒形 SOFC では図 4.2-2 空気 ボイラ に示すように、カートリッジ(セ ルチューブを集合させて燃料/ 図 4.2-1 SOFC 発電システム 空気の供給、集電を行う最小ユ ニット)単位で行う。このカートリッジでのセラミックス製セ ルとモジュール内の金属材料との間のシール性と接合強度を満 足する接合として適用する。 このため、円筒形セルと線膨張係数が比較的近い 6 種の接着 材と使用温度及び線膨張係数の観点からオーステナイト系ステ ンレス鋼と高 Ni 耐熱合金の 2 種類の金属材料を選定し、これら を接合させた供試体を用いてシール性及び接合強度を評価し、 モジュール構造に適用できる材料を選定する。 図 4.2-2 カートリッジ 70 排ガス ③セル高出力密度化の検証 上述①、②で選定した材料を用いて、一体焼結型セルへの適用可能性を検証し、出力密度の検 証を行う。 (5)研究の成果 ①空気極材料の抵抗低減 a.空気極材料の選定 一般に空気極材料は、高温大気中での安定性、電極活性の高さからLaMnO3ペロブスカイト系酸化 物が用いられている。通常LaMnO3のAサイトにSr、Caなどを添加し導電率を得ているが、電解質で あるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)との反応生成物の抑制から、広く使用されている空気極 組成のSr添加量は、導電率が最大値を示すx=0.5(La1-xSrxMnO3 )以下に抑えられている。 La0.5Sr0.5MnO3は、YSZと容易に反応するものの、高い導電率を示す。これは、理想的な立方晶構造 や、Sr添加が起因して形成されるMn4+に由来するホッピング伝導機構によるためと考えられる。そ こで、この高い導電性を維持しつつ、YSZとの固相反応を抑制できる組成を検討した。La1-xAxMnO3 (A=Ca、Sr)とYSZとの固相反応性は、電極側のSrやCaの活量にも依存する。また、表 4.2-1 に示 すSrZrO3とCaZrO3に関する熱力学データから、SrZrO3の方が生成しやすいと考えられる。 SrZrO3とCaZrO3に関する熱力学データ SrZrO3 標準生成エントロピー:ΔSof/kJK-1mol-1 5 o -1 標準生成エンタルピー:ΔH f/kJ mol -44 標準生成自由エネルギー:ΔGof(1000℃)/kJ mol-1 -50 :ΔGof(1300℃)/kJ mol-1 -51.7 表 4.2-1 CaZrO3 5 -20 -26.4 -27.8 そこで、La0.5Sr0.5MnO3組成のSrの一部をCaで補い、Srの添加量を減らした緻密なペレット(バルク 体)を試作して、導電率の検討を行った。図 4.2-3 に示すようにSrに対するCa置換量を増加させ ると導電率は減少するが、Caの置換量y=0.2~0.5 までは、約 340S/cmと高い導電率を維持してい る。 500 また、上記組成の範囲における空気 極材料をYSZペレット上に塗布し焼 の反応性に付いて検討した。供試体 の電極を除去した後YSZペレット表 面をX線回折によって分析した。 La0.5Sr0.5MnO3 ではSrZrO3 の生成が確 認された。これに対して、SrとCaが、 等 量 と な る La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3 に お 400 導電率(S/cm) 結させた供試体を用いて、電解質と 300 200 100 いては、SrZrO3、CaZrO3いずれの反応 相も認められなかった。 0 0 以上の結果より、空気極材料として 導電性が高く、電解質であるYSZとの 反応性を抑制した組成として 0.2 0.4 0.6 0.8 Ca添加量(y) 図 4.2-3 La(Sr1-yCay) 0.5 MnO3の導電率変化 (1000℃ 大気中) La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3を選定した。 71 1 また、円筒形セルの空気極成膜では、焼結時の収縮率最適化が必要である。 収縮率条件が最適化 されない場合は、その表面が損傷する。このため、収縮率を制御しながら導電率を確保する手段 のひとつとして成膜時の充填率の向上がある。今回選定した空気極材料(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3)の 粒径を調整した原料を用いて空気極を成膜した結果、粒径を調整することで、収縮率を制御し、 膜状導電率約 100(S・cm-1)を確認した。 b.空気材料の界面抵抗低減 空気材料の界面抵抗低減材としてYSZ/ La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3系を用い、それぞれ平均粒径 0.5μm、 3μmの材料を用い、YSZの添加量に付いて検討し、その結果を図 4.2-4 に示す。この結果、YSZの 添加量 50vol%の時に、その界面抵抗が最も低いことが認められた。また、La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3の粒 径を 3μmと固定し、YSZの粒径の効果を検討し、その結果を図 4.2-5 に示す。この結果、YSZの粒 径が 2μmの時にその界面抵抗が最も低いことが認められた。 9 2.5 8 2 6 界面抵抗 (Ω) 界面抵抗 (Ω) 7 5 4 3 2 1.5 1 0.5 1 0 0 0 20 40 60 80 YSZ添加量(vol%) 0 100 5 15 20 添加YSZ平均粒径(μm) 図 4.2-5 図 4.2-4 YSZ 添加量の効果 以上の結果から空気極材料として表 4.2-2 を選定した。 表 4.2-2 空気極材料の選定結果 空気極構成部材 界面抵抗低減材 空気極 10 材 料 50vol%LSCM(3μm)+50vol%YSZ(2μm) LSCM LSCM:La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3 72 YSZ 粒径の効果 25 ②セラミックス/金属の接合技術開発 ガスシール性の評価は、図 4.2-6 に示す供試体を試作し、接着材 A,B,C,D,E,及び F を品質工学 手法によりばらつきの小さい施工条件を選定し、さらにリーク率低減を図るため、接着部構造の 最適化を実施した。高温リーク率は図 4.2-7 に示す装置を用いて、水素リーク率を評価した。 リング:肉厚 0.5, 1.0, 1.5mm セルチューブ: 長さ L=10, 20, 30mm 外径 23mm 及び 28mm 材料:オーステナイト系ステンレス鋼 高 Ni 耐熱合金 接着隙間: 0.5,1.0,1.5mm 図 4.2-6 セラミックス/金属接合供試体 接着材:A, B, C, D, E, F L H2 ガス IN H2 ガス OUT N2 ガス IN H2 ガス導入管 供試体 H2 ガス OUT 図 4.2-7 シール性能評価装置 a.品質工学によるパラメータ設計 供試体に適用した接着材(A,B,C,D,E,F)の性状(購入品記載値)を表 4.2-3 に示す。 接 着 材 溶 媒 耐熱温度(℃) 線膨張係数 (10-6/℃) 硬化条件 A アルコール系 1,400以上 7.5 表4.2-3 接着材の性状 B C D 水系 水系 水系 980 1500 1200 E 水系 2400 F 水系 1600 13.5 9.5 11 4.7 11 常温2h 100℃×30 +50℃×4h 常温硬化 常温硬化 分 +100℃×30分 100℃×30 100℃×30分後 +300℃×30分 分 この接着材を用いて、図 4.2-6 に示す供試体を製作し、常温及び高温(600℃,800℃)での評価を 行った。また、接着材は各種条件によって、バラツキが発生する為、品質工学(タグチメソッド) を用いたパラメータ設計を行った。この常温での評価のパラメータを、表 4.2-4 に示す。 73 また、品質工学の考え方を図 4.2-8 に示 す。第 1 ステップとして複数のパラメー 表 4.2-4 接着材のパラメータ 因子 タをもとにバラツキ(SN 比)を低減す 水準 記号 名前 1 2 る条件を見出し、さらに第 2 ステップと A リング ステンレス鋼 耐熱合金 してパラメータの最適化を行い、性能向 B C 接着材 リング長さ A(D) 10mm B(E) 20mm C(F) 30mm D リング肉厚 0.5mm 1mm 1.5mm E 接着隙間 0.5mm 1mm 1.5mm F リング内面溝加工 なし 少 多 G 中間層 なし 有り (なし) H empty 1 2 3 上を図る手法である。 3 ステンレス鋼:オーステナイト系ステンレス鋼、耐熱合金:高 Ni 基耐熱合金 2.0 STEP1 SN 比の向上 確率密度関数/- 1.6 (バラツキの抑制) STEP2 性能向上 1.2 0.8 0.4 改善前 改善後 0.0 高 性能 低 図 4.2-8 品質工学の考え方 各接着材のパラメータ評価結果を表 4.2-5 および表 4.2-6 に示す。S/N 比が大きいほどガス透 過性に対するバラツキが小さく、また感度が小さいほどガス透過性が小さい事を示す。この結果、 接着材Bが S/N 比、感度共に良好であり有望と考えられる。しかしながら、評価後の断面調査の 結果溶融跡が確認された。これは、表 4.2-3 に示す様に耐熱温度が低い事に起因すると考える。 表 4.2-5 接着材 A,B,C のパラメータ評価結果 因子 600℃処理 バラツキを小 透過係数を小さく さくする する (SN 比大) (感度小) リング ステンレス鋼 ステンレス鋼=耐熱合金 接着材 リング長さ リング肉厚 接着隙間 リング内面溝加工 中間層 B 10mm 1mm 1.5mm 少 なし B 10mm 1mm 0.5mm 少=多 あり 74 800℃処理 バラツキを小 透過係数を小さ さくする くする (SN 比大) (感度小) 耐熱合金 ステンレス鋼=耐熱合 金 B C 10mm 20mm 0.5mm 1mm 1.5mm 0.5mm 少 少=多 なし あり 表 4.2-6 接着材 D,E,F のパラメータ評価結果 因子 600℃処理 バラツキを小 透過係数を小さ さくする くする (SN 比大) (感度小) リング 耐熱合金 ステンレス鋼 接着材 F E リング長さ 10mm 10mm リング肉厚 1.5mm 0.5 or 1mm 接着隙間 0.5mm 1mm リング内面溝加工 なし なし=少=多 中間層 あり なし 800℃処理 バラツキを小 透過係数を小さく さくする する (SN 比大) (感度小) ステンレス鋼 耐熱合金 E F 10mm 20mm 1mm 1 or 1.5mm 1.5mm 0=1=1.5mm 多 なし なし あり=なし この為、S/N 比が低い接着材 D と共に接着材 B を除外し、第一次選定として表 4.2-7 に示す様に 接着材 A,C,E,F を選定した。 これらの評価結果を基に、接着材 A,C,E,F を用いて高温でのガスシール性能 の評価を行った。オーステナイト系ステン レス鋼の結果を図 4.2-9 に、高 Ni 耐熱合金 の結果を図 4.2-10 に示す。 この結果、接着材 A,C はリーク性能の温 表 4.2-7 バラツキを小さくする施工条件 リング ステンレス鋼、耐熱合金 接着剤 A,C,E,F リング長さ 10mm リング肉厚 0.5mm 接着隙間 1mm リング内面溝加工 なし 中間層 あり 度依存性が大きく、また降温後のリーク性 能は、昇温開始前と同等であることが確認 された。一方、接着材 E,F は、リーク性能の温度依存性は小さい事が認められ、接着材 E は降温 後の昇温前のリーク率に比べ増大するが、接着材 F は接着材 A,C と同様に昇温開始前と同等であ ることが確認された。 9000 9000 C 8000 8000 7000 6000 6000 5000 H2透過係数 / mm4・g-1・s-1 H2透過係数 / mm4・g-1・s-1 E 7000 A 4000 F 3000 E 2000 1000 0 0 200 400 600 800 5000 4000 3000 温度/℃ C 1000 0 室温(降温) A F 2000 0 200 400 600 800 室温(降温) 温度/℃ 図 4.2-9 水素ガス透過係数の温度依存性(ステンレス鋼) 図 4.2-10 水素ガス透過係数の温度依存性(耐熱合金) 75 また、この結果を用いて縦軸に温度、横軸に室温基準でのリーク量の比率に換算した結果と拡散 係数の温度依存性の式(藤田式:DAB=DABTo×(T/To)1.833)との比較を図 4.2-11、図 4.2-12 に示す。 DABT = DABT0× 1.833 T T0 この結果接着材 A と C は、拡散係数の温度依存性に近い事から、透過と拡散によるリークであり、接着材 E と F は、温度依存性が無いことから、透過によるリークが支配的であることが考えられる。 25 25 C 室温基準のリーク量の比 / - 20 拡散係数の温度依存性 20 室温基準のリーク量の比 / - ※ 15 ※ 拡散係数の温度依存性 15 ※ ※ 10 A A 5 E 0 0 200 400 600 温度/ ℃ E F F 800 ※※ 10 C C 5 AA E E F 0 1000 0 図 4.2-11 リーク量比の温度依存性(ステンレス鋼) 200 400 温度/ 600 800 1000 ℃ 図 4.2-12 リーク量比の温度依存性(耐熱合金) この結果を踏まえ、接着材の微構造に付いて,600℃焼成後での気孔径について調査を行った。そ の結果を図 4.2-13、図 4.2-14 に示す。接着材 A,C は比較的小さい気孔径が分布しており、また 接着材 E,F は比較的大きい気孔径が分布している事が確認された。この結果からも上述の接着材 A,C は透過及び拡散によるリーク、接着材 E,F は透過によるリークが支配的であると考えられる。 0.12 A C 0.1 E A E F 0.08 5μm 0.06 0.04 C 5μm F ~0.1 0.5~1 1~2 2~3 3~4 4~5 5~6 6~7 0 0.1~0.5 0.02 7~ 頻度(cc/g) 0.14 5μm 気孔径範囲(μm) 図 4.2-13 600℃空気中処理後の気孔径分布 76 図 4.2-14 600℃空気中処理後の形状 5μm 8000 8000 600℃ 800℃ 7000 水素ガス透過係数 H 2 透 過 係 数 /mm4・g-1・s-1 / m m 4 ・ g - 1 ・ s -1 水素ガス透過係数 /mm4・g-1・s-1 H 2透 過 係 数 / m m 4・ g -1・ s -1 9000 ステンレス鋼 C 6000 5000 4000 A F 3000 2000 E 1000 0 0 5 10 15 金属リングと接着剤の熱膨張率差/℃ 金属リングと接着材の熱膨張率差 /℃-1 図 4.2-15 6000 E 5000 4000 3000 2000 A F C 1000 0 0 -1 耐熱合金 600℃ 800℃ 7000 5 10 15 金属リングと接着材の熱膨張率差 /℃-1-1 金属リングと接着剤の熱膨張率差/℃ 線膨張係数の差とH2透過係数の影響 金属材料と接着材の線膨張係数の差と、この水素透過係数の関係を図 4.2-15 に示す。ステンレ ス鋼及び耐熱合金のいずれの場合も、概ね線膨張係数の差が 10×10-6 K-1 以内で有れば、比較的 線膨張係数の差の影響を受け難いことが確認された。しかしながら、耐熱合金と接着材Eの組み合 わせの場合には、この傾向から大きく外れたが、接着材Eは図 4.2-9,4.2-10 に示す様に、降温後 の昇温前のリーク率に比べ増大する事、更には透過型支配のリークである事から、接着材/金属界 面の影響より接着剤自体の充填性に影響したことが考えられた。 品質工学を用いたパラメータ設計によるバラツキ低減を実施した結果、接着材 E は、熱履歴 後の室温ガス透過係数が増大したことから、接着材としての適用性が低いと判断した。一方、 接着材 A、C および F は、SOFC 作動条件において適用可能な材料と考えられる。 b.接合部パラメータ最適化による接着材 A,C および F のリーク率低減 品質工学により一次選定した接着材 A,C、および F について、更にガス透過係数を小さくする ことを目的にパラメータの最適化を実施した。パラメータ最適化によるリーク率低減の仕様条件 を表 4.2-8 に示す。 表 4.2-8 接着材パラメータの最適化 A:パラメータ設計による バラツキ低減 リング ステンレス鋼もしくは耐熱合金 接着材 A,C,E,F リング長さ 10mm リング肉厚 0.5mm 接着隙間 1mm リング内面溝加工 なし 中間層 あり 77 B:パラメータ最適化による リーク率低減 ステンレス鋼もしくは耐熱合金 A,C,F 20mm 0.5mm 1mm あり あり 図 4.2-16 に供試体の水素ガス透過係数温度依存性の一例を示す。破線はバラツキ低減後の水素 ガス透過係数を、実線は接合部の最適化後の水素ガス透過係数を示す。いずれの接着材も水素ガ ス透過係数は 2300 mm4・g-1・s-1以下を示した。下記にその傾向を記す。 ア.接着材 A および C 9000 リーク率低減を図った 600℃及び 800℃ 8000 における透過係数はそれぞれ約 1000 mm4・ いずれの温度においても目標値 2300 mm4・ -1 -1 g ・s 以下を示した。後述する高温強度 評価結果を考え合わせると、600℃程度で の適用が望ましいと考えられる。 イ.接着材 F リーク率低減を図った 600℃及び 800℃ 7000 H2透過係数 / mm4・g-1・s-1 g-1・s-1および約 2000 mm4・g-1・s-1を示し、 における透過係数は 1000 mm4・g-1・s-1以下 6000 5000 4000 C 3000 A 2000 F 1000 であったが、施工パラメータを変化させ 0 ると透過係数の温度依存性が変化したこ 0 200 400 600 800 室温(降温後) 温度/℃ とから、施工条件の影響を受けやすいこ 図 4.2-16 水素ガス透過係数の温度依存性 :バラツキ低減、 :リーク率低減 とが判った。 c.高温接合強度評価 表 4.2-9 接合強度試験用接着材 リング材質 ステンレス鋼,耐熱合金 接着材 A,C,および F リング長さ 20mm リング厚さ 0.5mm 接着隙間 1mm リング内面加工 あり 中間層 あり 表 4.2-9 仕様の供試体(供試体のセル部外径を φ23mm)を製作し、600℃焼成後の高温(500℃~ 700℃まで、50℃間隔)での接合強度を、供試体に荷 重を負荷した時の最大荷重にて評価した。高温接合 強度評価結果を、図 4.2-17 および図 4.2-18 に示す。 その結果、接着材 A、C および F の接合強度は温度 の上昇とともに、低下する傾向が見られたが、試験 温度範囲において 1MPa~5MPa の範囲を示した。 水素ガス透過試験および改質ガス透過試験の結 果を考えると使用温度域は約 600℃程度であるが、いずれの接着材および金属リング材質におい ても 600℃において十分な接合強度(0.2MPa)を有することが確認された。 10 A/ステンレス鋼 C/ステンレス鋼 F/ステンレス鋼 8 せん断強度 τmax/MPa せん断強度 τmax/MPa 10 6 4 2 A/耐熱合金 C/耐熱合金 F/耐熱合金 8 6 4 2 高温必要強度=0.2MPa 高温必要強度=0.2MPa 0 0 0 200 400 600 試験温度 T/℃ 800 1000 0 200 400 600 試験温度 T/℃ 800 1000 図 4.2-17 接着材の接合強度試験結果(ステンレス鋼) 78 図 4.2-18 接着材の接合強度試験結果(耐熱合金) d.接着剤の選定 接合部パラメータ最適化による接着材 A,C および F のリーク率低減および高温接合強度評価の結 果から、接着材 A、C および F は SOFC での使用条件下で使用可能であることが判った。 表 4.2-3 に示すように、これらのうち接着材 C のみが常温硬化型であり、施工が簡単になること から、接着材 C を金属/セラミックス接合材料として選定した。 e.最適施工条件の検討(最適な接着隙間) ガス透過係数はガス透過断面積を小さくするほど、すなわち接着部の隙間を狭くするほど小さ くなるが、接着隙間が極端に狭くなると、接着材の充填施工性に影響を及ぼす。図 4.2-19 に示す ように機械加工により真円度を有する金属リングに対して円筒形セルチューブは少なからず直径 の分布を有するため、接着隙間も最小と最大の接着隙間が発生し、分布を有することになる。 そこで、接着材の施工性を十分実現できる接着隙間 0.4mm 以上を確保するため、セル供試体約 100 個に対して、接着隙間の頻度解析を行った。 セルチューブ最大径 金属リング 最大接着隙間 セルチューブ セルチューブ最小径 最小接着隙間 接着隙間の頻度分布解析 80 70 70 60 60 50 50 頻度(%) 80 40 30 40 30 10 10 0 0 < 0. 8 x x < x 0. 8≦ 6≦ 0. 4≦ 0. 2≦ 0. x < x < 0. 6 0. 4 0. < 1. 0 20 2 20 x 頻度(%) 図 4.2-19 接着隙間(mm) 1 0. < 2 3 4 5 0. 0. 0. 0. < < < < x x x x 1≦ 2≦ 3≦ 4≦ 0. 0. 0. 0. 接着隙間(mm) 図 4.2-20 最小接着隙間の頻度解析結果 (セル最小径+1mm 隙間の場合) 図 4.2-21 最小接着隙間の頻度解析結果 (セル最小径+0.5mm 隙間の場合) 79 接着隙間の頻度解析結果を図 4.2-20 及び図 4.2-21 に示すが、セルチューブ最小径と金属リン グの接着隙間、すなわち最大接着隙間が 1mm の場合に、最小接着隙間として接着材の施工性を十 分実現できる接着隙間 0.4mm 以上を確保できることが判った。この結果から、接着隙間として 1mm を選定した。 f.実ガスを用いたシール性能の耐久性評価 セル高出力密度化の検証に適用する金属/セラミックス接合部の改質ガスリーク挙動の耐久性 を評価するため、セルチューブ外径 28mm 供試体を用いて改質ガス透過係数の耐久性(1000hr)を 評価した。表 4.2-10 に接着材および接合条件を示す。接着材は C、金属リングは汎用的なステン レス鋼を用いた。 ガス条件は改質模擬ガスとしてCH4およびH2O (S/C=4)の 600℃平衡ガス組成を選定し、評価温 度は 600℃を選定した。表 4.2-11 に改質模擬ガス組成を示す。 表 4.2-10 実ガスシール試験用接着材 表 4.2-11 改質模擬ガス組成(vol%) 46.8 H2 CH4 2.2 CO 4.0 CO2 8.7 H2O 38.3 ステンレス鋼 リング 接着材 C リング長さ 20mm リング肉厚 0.5mm 接着隙間 1mm リング内面溝加工 中間層 あり あり 1000hrの耐久性評価結果を図 4.2-22 に示す。改質ガスの透過係数測定結果は、水素ガスのリー クが確認されたが、CH4やCOなどの発電に使用されるガスのリークは確認できなかった。水素ガス の透過係数は約 300hrまで増加傾向がみられたが、その後は約 2000 mm4・g-1・s-1で安定に推移し、 経時的な増加はみられなかった。 水素以外のガス成分リークが確認できなかった要因として、各ガスの多成分系拡散係数が水素 の約 70%程度であること(図 4.2-23)、及びCH4,CO,CO2のガス濃度が、水素濃度より小さいことか 3,000 -1 D1i = 1−y1 y2 y2 y + + ・・・ 2 D12 D13 D1n CH4 CO 4 2 / cm ・ s 目標 2300 2,500 -1 ガ ス 透 過 係 数 /mm ・ g ・ s -1 5 4 2,000 拡 散 係 数 D× 10 -4 H2 1,500 1,000 CH4,CO,CO2 500 0 0 200 400 600 800 1000 1200 2 1 0 H2 600℃保持時間/hrs. 図 4.2-22 3 金属/セラミックス接合部の改質模擬ガス中のガ ス透過係数 80 図 4.2-23 CO2 多成分系におけるガス拡散係 数(600℃ Wilke の式) ら、拡散によるリーク量が水素リーク量に対して小さくなったためと考えられる。これらの結果 から選定した表 4.2-10 仕様における 600℃の改質模擬ガスの透過係数は目標値(2300 mm4・g-1・s-1) 以下で経時的に安定であることがわかった。 g.セラミックス/金属の接合技術開発のまとめ ガスシール性評価および高温接合強度評価結果をもとに選定したセラミックス/金属接合部分の 選定結果を表 4.2-12 に示す。 ガスシール性 ア.接着材として常温硬化型のCを選 定し、表4.2-12に示す接合部仕様 を決定した。 イ.接合部温度600℃のガス透過係数 は目標値の2300 mm4・g-1・s-1以下を達 成した。改質模擬ガスによる約 1000hrの運転評価の結果、ガス透過 表 4.2-12 セラミックス/金属接合部の選定結果 リング材質 ステンレス鋼もしくは耐熱合金 接着材 C リング長さ 20mm リング厚さ 0.5mm 接着隙間 1mm リング内面加工 あり 中間層 あり 接合部温度 600℃ 係数は目標値を達成し(2000mm4 ・ g-1・s-1)、経時的に安定であること確 認した。 接合強度 選定した接着材 C および接合部仕様の 600℃接合強度は、目標値の 0.2MPa 以上であることを確 認した。 81 ③セル高出力密度化の検証 a.15 素子セルチューブによる検証 表 4.2-13 に示す空気極材 料を用いて 15 素子の円筒形 表 4.2-13 供試体の構成 セルを試作し、図 4.2-24 の 空気極構成部材 界面抵抗低減材 空気極 ような評価装置にてセル性 能を検証した。燃料は、CH4お よびH2Oの 900℃平衡ガス組 材 料 50vol%LSCM(3μm)+50vol%YSZ(2μm) LSCM LSCM:La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3 図 4.2-24 S4-24 加圧試験装置概略図 加圧試験装置概略系統図 MF CO MF H2 MF CO2 H2O MF N2 MF 純水気化器 背圧制御系 CH4 ドレンポット シールポット ⊿P ⊿P 排気差圧制御系 背圧制御系 電気炉 Air MF 圧力容器 減圧排気系 圧力容器 成をS/C=4 での改質模擬ガスとしてセルに供給した。 運転圧力は、0.1MPa、0.2MPaおよび 0.25 0.4MPaの 3 条件を選定し、セル特性の 0.1MPa 圧力依存性を評価した。0.4MPaは、マ 0.2 イクロガスタービンとの連携運転を想 0.4MPa 4.2-25 に示す様に 0.21W・cm-2を達成し た。 このセルチューブ評価後のセルの外 観調査を行ったが、評価後も何ら異常 出力密度/W・cm-2 定した圧力である。運転温度は 900℃ で 行 い 、 運 転 圧 力 が 0.4MPa で 、 図 0.2MPa 0.15 0.1 0.05 は無くセルチューブの健全性を確認し た。 0 0.0 0.1 0.3 0.2 -2 電流密度/A・cm 82 図 4.2-25 セル性能 0.4 b.セラミックス/金属接合技術を適用した大径長尺セルチューブによる検証 ア.試作セル 表 4.2-13 に示す空気極材料を用いてセル形状変更(大径化及び長尺化等)によるセルを試作 した。試作セルは、15 素子円筒形セルに比較して直径をφ22mm からφ28mm へ大径化し、素子 数は 15 素子から 34 素子へ増加した。試作セルの外観を図 4.2-26 に示す。試作セルにセラミ ックス/金属接合技術の成果である接着材(表 4.2-12)を適用し、図 4.2-27 に示すように金 属とセルとの接合を行い、内部改質発電評価を実施した。 図 4.2-26 試作セルの外観 金属材料 接着材 セルチューブ 図 4.2-27 セラミックス/金属の接合部 イ.評価条件 燃料は、CH4およびH2Oの 900℃平衡ガス組成をS/C=4 での改質模擬ガスとしてセルに供給した。 運転圧力は、0.1MPa、0.2MPaおよび 0.4MPaの 3 条件を選定し、セル特性の圧力依存性を評価した。 セルの運転温度は 900℃とした。0.4MPaは、マイクロガスタービンとの連携運転を想定した圧力 である。 ウ.評価装置 評価装置の系統を図 4.2-24 に示す。供給燃料ガスはH2、N2、CH4、CO及びCO2をマスフローコン トローラで調整し供給した。水蒸気は精製水を定量ポンプで気化器へ投入してセルへ供給した。 セル全体の運転圧力は燃料と空気の差圧を一定に保持しながら制御した。 83 セル作動特性に及ぼす圧力の効果を評価するために、燃料入口側素子及び出口側素子の電解質 表面に、それぞれ参照極(Pt 電極)を設置した。図 4.2-28 に参照極の設置位置を示す。 電圧計測線 参照極 空気極 電解質 インターコネクタ 燃料極 図 4.2-28 円筒形セルの参照極設置個所 エ.試験結果および考察 電流密度と出力密度の関係を図 4.2-29 に示す。出力密度の運転圧力密度依存性を図 4.2-30 に 示すが、出力密度は運転圧力とともに増加し、運転圧力が 0.4MPaで 0.21W・cm-2を達成した。 0.25 0.3 0.1MPa 0.4MPa 0.2 0.15 出力密度/W・cm-2 出力密度/W・cm-2 0.25 0.2MPa 0.2 0.1 0.05 素子部発電面積基準 0.15 0.1 0.05 0 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.1 電流密度/A・cm 図 4.2-29 円筒形セルの内部改質発電特性 図 4.2-30 出力密度の圧力依存性 0.1MPa の運転電圧に対する加圧時(0.2MPa 0.10 は 0.2MPa 及び 0.4MPa 時にそれぞれ約 10mV 及び 30mV の増加がみられた。このような OCV の加圧による増加は、計算値とほぼ一致した。 一方、運転電圧は 0.2MPa 及び 0.4MPa 時にそ れぞれ約 40mV 及び 70mV の増加があり、OCV の増加以上に運転電圧は増加した。 このような加圧時の運転電圧上昇は、電池 0.1MPa 基準の運転電圧変化ΔV/V および 0.4MP)の OCV 及び運転電圧の変化(い ずれも素子平均)を図 4.2-31 に示す。OCV 1 圧力/MPa -2 内部抵抗が加圧により低下したためと考え 0.08 0.06 0.04 運転電圧増加 0.02 OCV 増加 0.00 0.4 0.2 圧力/MPa られる。 図 4.2-31 加圧によるセル電圧変化 84 加圧による運転電圧増加の要因を検討するために、参照極を用いて電気抵抗成分と物質移動分 極抵抗成分を分離計測した。燃料入口側素子及び出口側素子のそれぞれに対し、参照極と電圧計 測線を用いてカレントインタラプター法による電気抵抗と物質移動分極抵抗成分の分離計測を実 施した。カレントインタラプタ―法による計測は、電流密度 0.30A・cm-2の発電状態から高速電流 遮断器を用いて負荷を遮断し、電流遮断前後の参照極と電圧計測線の測定電圧の時間応答特性よ り電気抵抗成分と物質移動分極抵抗成分に分離した。 セルの運転電圧 E は式(1)に示すように、ガス組成および温度で決まる平衡起電力 Erev から 電気抵抗分極(IR)およびガス拡散や反応分極など物質移動を伴う分極(η)を除く電圧である。 E = Erev − IR −η・・・(1) 燃料入口素子及び燃料出口側素子の抵抗変化割合を、それぞれ図 4.2-32、4.2-33 及び図 4.2-34、 4.2-35 に示す(0.1MPa の抵抗値を基準)。電気抵抗成分は運転圧力を増加してもほぼ一定である が、物質移動分極抵抗成分は運転圧力の増加とともに低下することが判った。 これらの評価結果より、加圧によるセル運転電圧の上昇は、ガス拡散や反応分極など物質移動を 伴う分極の低下に起因することが示された。 評価試験後のセルチューブ外観調査を行った結果、評価後も何ら異常は無くセルチューブの健全 2 1.5 1.5 抵抗変化/- 2 1 0.5 1 0.5 0 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0 0.5 0.1 図 4.2-32 0.2 0.3 0.4 0.5 圧力/MPa 圧力/MPa 図 4.2-33 燃料入口素子の物質移動分極抵 抗成分の圧力依存性 燃料入口素子の電気抵抗成分 の圧力依存性 2 2 1.5 1.5 抵抗変化/- 抵抗変化/- 抵抗変化/- 性を確認した。 1 1 0.5 0.5 0 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0 0.5 0.1 圧力/MPa 図 4.2-34 燃料出口素子の電気抵抗成分の 圧力依存性 0.2 0.3 0.4 0.5 圧力/MPa 図 4.2-35 85 燃料出口素子の物質移動分極 抵抗成分の圧力依存性 ④本研究で得られた成果 項目 空気極材料の抵抗 低減 研究開発目標 空気極材料の抵抗低減 研究成果 電解質との反応性が無く、高導電性の空気 極材料(La0.5Sr0.25Ca0.25MnO3)を確認した。 また、空気極/電解質界面の抵抗を低減出 来る材料組成及び粒径「50vol%LSCM(3μ m)+50vol%YSZ(2μm)」を確認した。 セラミックス/金 属接合技術の開発 4 -1 -1 シール性:2300mm ・g ・s 以下 接合強度: 運転時 0.2MPa 以上 組立時 2MPa 以上 ①シール性 ⅰ)接着材としてCを選定し、接合部仕 様を決定した。 ⅱ)接合部温度 600℃においてガス透過 係数は目標値を達成した。改質模擬ガス による約 1000hrの運転評価の結果、ガス 透過係数は目標値を達成し(2000mm4 ・ g-1・s-1)、約経時的に安定であること確認 した。 ②接合強度 選定した接着材 C および接合部仕様の接 合強度は、目標値以上であることを確認 した。 セル高出力密度化 の検証 空気極材料の抵抗低減及びセラミックス/金属 出力密度(発電面積基準) 0.21W・cm-2以上 接合技術の成果を適用したセルを試作し、 SOFC-ガスタービンコンバインドサイクルシステムの運転条 件である加圧,内部改質模擬ガスで 0.21 W・ cm-2を達成した。 評価後のセルは異常なきことを確認した。 これらの成果も用いて SOFC コンバインドサイクルシステムの開発を現在実施中である。 86 (6)残された課題 本研究では、円筒形 SOFC の経済性を高めるための要素技術開発として、セル構成材料の抵抗低 減による高出力密度化と、円筒形 SOFC モジュールを構成するセルと金属材料との接合技術の開発 を実施した。要素技術の開発においては計画通りの技術成果が得られたが、SOFC の実用化に向け て以下の課題が残されている。 ① SOFC システムの信頼性向上 SOFC システムの信頼性向上のために、 本研究で試作・発電試験を実施したセルについて、 解体検査を実施しセル品質安定化を阻害する要因を抽出するとともに、システムに適用 するセルの品質安定化のためのセル検査事技術の確立することを目的として、平成 17 年 度に「円筒形セルの検査手法確立のための追加研究」を実施中である。 ② SOFC システム化技術開発 高温作動の SOFC は、ガスタービン複合発電と組み合わせることにより、発電効率 70%以 上にも及ぶ高効率発電システムが構成できる。SOFC 複合発電システムの可能性と課題を 見極めるために、SOFC とマイクロガスタービンと組合せた数百 kW 級コンバインドサイ クルシステムの開発と運転検証を実施することは、SOFC 実用化のために不可欠なステッ プであり、平成 16 年度より「円筒形 SOFC 高効率コンバインドサイクルシステムの開発」 を実施中である。 ③ SOFC システムのコンパクト化・低コスト化 SOFC 発電システムの実用化を進めていくために、コンパクト化・低コスト化が必要で、 そのために更なるセル出力密度向上を進めていく必要がある。その一環として、平成 17 年度より次ステップの SOFC のための要素技術開発として、「高出力密度化に関する研究 開発」を実施中である。 本研究終了後に実施中の上記の研究開発の成果を相互にフィードバックし、SOFC 実用化を推進 していく。 87 Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて 本プロジェクトを通して、熱自立モジュールの技術開発の成果により実用システムに十分適用 できる技術が確立されたと考えられる。また、適用性拡大に関する要素研究の成果により実用段 階におけるSOFCの適用性拡大に大きく資するものと考える。 SOFCについては、システム化の検討が必要であるとともに、要素技術のさらなる開発が必 要であることから、2004年度から2007年度までの4年計画で「固体酸化物形燃料電池シ ステム技術開発」を開始したところである。 システム技術開発において、湿式円筒形については、本研究開発によって確立したバンドル技 術をベースとするコージェネレーションシステムの共同開発を開始しており、2007年度にプ ロトタイプの実証を行う予定である。また、一体積層形については、中規模電源機のユニットと なる 200kW 級コージェネレーションシステムの開発を開始しており、将来の MW 級システムに展開 していく予定である。 1.熱自立モジュールの技術開発(湿式円筒形) 1.1実用化時のイメージ 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料電池の中でも最も高い発電効率及び長期耐久性が期 待できる高効率発電システムであり、エネルギーの高効率利用、石油代替エネルギーの導入促進、 環境負荷低減の観点から分散型発電、コージェネレーション等の分散電源分野への実用化が期待 されている。 TOTO 製の湿式円筒形 SOFC はシンプルなシステム構成でも高効率発電が可能であるため、熱自 立モジュールの技術開発(湿式円筒形)プロジェクトからコージェネレーションシステムの開発 プロジェクト(NEDO)に引き継がれ、その中でコージェネレーションシステムの発電部分を構成 することになった。このプロジェクト分も含め、2005 年度には国内の数社に SOFC の供給を開始 した。これらにおいては数kW から数 10kW の発電システムの開発が行われている。また、海外 においてはカナダの FCT 社に 2~3kW 発電システムの開発用に SOFC を供給する予定である。 1.2成果の実用化可能性 (1)技術的見通し 本プロジェクトにおいて、SOFC モジュールと燃料発生部を組み合わせ、実際に都市ガスを供給 して、熱自立状態と高発電効率を実証することができた。したがって、発電システムの中心とな る部分についてはある程度の目途は立ったものと思われる。今後はさらなる性能向上と共にコス トダウンと発電システムの研究開発が必要となる。 今回の実証は、燃料ガスや酸化剤ガスのリサイクルを用いない非常にシンプルな構成の試験機 においてなされたものである。これは、将来的には非常に容易に SOFC 発電システムを構成可能で あることを意味している。また、構成機器の点数が少ないことはトラブルの可能性も少なくなる ことにつながる等、システムの信頼性を高くするメリットもある。 SOFC 発電システムには、最終的には 4 万時間以上の寿命が要求されるため、今後はさらなる長 期間の試験が必要となってくる。そのためには、モジュールを運転するために必要な機器類の信 頼性も重要となる。さらに、発電システムとした場合の制御方法などについても、ユーザーの使 用条件を想定した検討が必要となる。 (2)経済性 SOFC 発電システムの導入にはイニシャルコストとランニングコストをいかに下げるかが課題 88 となる。イニシャルコストの数 10%は発電部分が占める。TOTO においては湿式法による製法を 生かし、当面はバンドルで kW あたり 10 万円以下にすることを目標としている。将来的には 5 万円以下にしたいと考えている。ランニングコストについては燃料費の占める割合が大きいが、 要するに既存の発電システムより高効率で利用することが重要となる。また、ランニングコスト にはメインテナンスコストも含まれるが、これは発電部分や周辺機器の信頼性を高めることが重 要となる。寿命を長くするか、価格を安くして交換可能にする方法が挙げられるが、両方の選択 が可能であるような構成が望ましいと思われる。TOTO としては周辺機器の開発を行う予定はな いが、セルについては寿命とコストのバランスを考え開発を進めていく予定である。 (3)社会性 SOFC 発電システムを分散電源として導入する場合、最も望ましいのはその発電効率の高さを 最大限生かすことである。燃料のコストと買電コストの差がメリットとなるが、それぞれの料金 体系の影響が大きいため単純に SOFC を導入すれば有利であるとはならない。そのため、望まし くは電力と熱のコジェネレーションシステムとして SOFC を利用し、エネルギー消費の総合効率 を高めることが考えられる。 このように SOFC の特長を生かし、数 kW の分散電源から数百kW を組み合わせた発電所用の システムまで幅広い発電容量において導入が進めば、より環境負荷を低減させることができる。 1.3波及効果 SOFC の特徴として使用可能な燃料の種類が多いことが挙げられる。本プロジェクトでは燃料 として都市ガスを使用したが、LPG や灯油への対応を進めることにより国内のほとんどのエリア で SOFC が利用可能となる。また、発電効率をさらに向上させるために小型のガスタービンと組 み合わせたハイブリッド発電も研究されている。これは発電所用など規模の大きい発電システム に適している。 また、研究開発が進められている、廃棄物利用の燃料や、バイオマス燃料と組み合わせて発電 を行うことによりさらに環境負荷を低減させることができるものと思われる。 89 2.熱自立モジュールの技術開発(一体積層形) 2.1実用化時のイメージ 化石エネルギーの高効率利用、天然ガスや石炭等の石油代替エネルギーの導入促進、CO2排出 量削減やNOx等環境汚染物質低減などの環境問題への貢献が強く求められており、また、オンサ イト分散型電源のエネルギー有効利用の観点から、SOFCによる高性能コージェネレーションシ ステムおよび分散型コンバインド発電システムがこれらのニーズに対応する技術テーマとして注 目されている。 SOFC は、発電部門における省エネルギーおよび石油代替を促進するため、天然ガス、石炭ガ ス等を燃料とすることが可能で、小規模分散型から大規模火力代替システムまで広い適応性を持 っているため、発電効率の高い SOFC を用いた発電システムの導入が省エネルギーおよび環境問 題を解決する技術として実用化が期待できる。 2.2成果の実用化可能性 (1)技術的見通し 本プロジェクトにおいて、大容量化が見通せる基本モジュールとして 10kW 級モジュールを開 発した。今後、分散電源用 SOFC が市場に受け入れられるためには、より高効率でコンパクトな コージェネレーションモジュールの開発が不可欠である。本プロジェクトで得られた熱自立モジ ュール技術を中規模電源機の単位ユニットとして 200kW 級コージェネレーションシステムの開 発に適用し実用化を図り、さらに将来の MW 級システムに展開する予定である。 (2)経済性 SOFC 発電システムが実用化するためには電池製造コストの低減が必要であるが、本プロジェ クトにて導入した大型ガス焼成炉および連続焼成炉が SOFC の量産化製造設備として有効である ことを確認できた。この電池製造技術を 200kW 級コージェネレーションシステムに適用し、さ らに MW 級システムに向けて量産化設備を増強することにより、コストダウンを図る予定である。 (3)社会性 SOFC発電システムは高い発電効率が狙えるため、化石燃料の使用量を低減しCO2排出量の削減 に貢献する環境に優しい発電システムであり、社会的に妨げとなるものは見当たらない。 2.3波及効果 本プロジェクトで得られた成果は SOFC 発電システムの大容量化に向けた 200kW 級コージェ ネレーションシステムの開発に活用することが可能である。 また、SOFC 発電システムの実用化により、電池製造分野およびシステム製造分野の産業の活 性化が図ることが可能である。 90 3.適用性拡大に関する要素研究(耐熱衝撃性平板形セル・スタックの研究) 3.1実用化時のイメージ 本委託事業の最大の課題である耐熱衝撃性の実証により、従来は大容量向けの連続運転仕様が 中心であった SOFC システムを、柔軟な運転が要求される中小容量向けへの展開を図ることが可 能となる。具体的には、数 kW~数 10 kW 級の家庭用、集合住宅用、業務用向けなどへのコージ ェネないしモノジェネ機器としての導入が考えられる。機器の形態としては数 kW スタックを基 本モジュールとし、その組み合せにより所定の容量のシステムを構築することができる。中小容 量に特徴的な電力負荷需要の変動に対し、本システムの起動停止特性の柔軟性が有効であり、需 要変動により起動停止を繰り返す DSS などの運転形態を可能とする。 3.2成果の実用化可能性 (1)技術的見通し 本委託事業において、熱サイクル特性、低温作動特性、概念実証に関する全ての目標を達成し た。特に大面積セルスタックにおいて最大 750℃/h の昇降温速度でも破損の起こらないことを確 認し、頻繁な熱サイクルに耐え得るスタック実現に向けた技術を確立した。この成果により、小 容量 SOFC への適用性拡大に向けた、柔軟な運転が可能な SOFC 実現のための最大のボトルネッ クをクリアし、実用化への大きな可能性を示すことができた。 またこの実証により、メーカーの開発機運と参入意欲を促進し、実用機開発の加速が期待され る。現在、国内メーカーが本方式(応力緩和型スタック)を採用し開発を実施しており、スタッ ク製造事業化を目指した開発について本方式も含めて検討中である。一方海外に向けても、国際 会議や論文発表などを通じて PR を継続している。 実用化促進のための課題は金属インターコネクタを用いたスタックのより長期の安定性であり、 これに関しては現在、産総研、日立金属の協力を得て、さらなる高耐久化開発のための要素研究 を継続中である。 (2)経済性 機器のコストについて検討する。本技術に用いるセルスタックは、SOFC に用いられる一般的 で安価な材料であるジルコニア、ニッケルがセルの主な構成材料であり、これと、やはり安価な ステンレス系合金材料との組み合せにより構成されており、高価な特殊材料は使用しておらず、 材料コストは低く抑えることが可能である。また製造プロセスについても、安価なスラリーコー トと共焼結によるセル製造、一般的な金属加工といったもので製造できるため、量産時の製造プ ロセスも十分低くできると考えられる。さらに、再利用可能なサブアセンブリ(新型スタック構 造)というコンセプトを採用することにより、積層やメンテナンスなどの作業性向上によるメリ ットも期待できる。従って、実用化時における本スタック利用システムのコストは、十分に低く 抑えることが可能である。参考までに、米国 GE Energy 社も燃料極支持膜式の平板形セルスタッ ク開発を実施しているが、$400/kW というシステムコストを目指す米国 SECA プログラムに参画 して開発を進めている。 またランニングコストについては、機器の発電効率の他、燃料費、競合する電力料金の影響も 受けるため、一概に評価を行うことは困難であるが、発電効率で火力発電所を超える性能を達成 することや、コージェネ仕様により高い総合効率を得ることは、間接的でもメリットは大きいと 思われる。 91 (3)社会性 上述の通り、SOFCの性能向上により高い発電効率を達成できる場合、また有効な排熱利用に より高い総合効率が達成できる場合、地球環境への負荷低減という大きな社会的メリットが実現 される。またこのような機器の普及により、一次エネルギーのリスク分散、および電力の負荷平 準化といった効果を通じ、安定な社会基盤構築への寄与も期待できる。小容量向けの発電機器は これまで未開拓の市場であり、小型高効率SOFCシステムの普及が与えるインパクトは大きい。 従って、本技術を用いて、家庭から業務用までの小容量分散電源市場へのSOFCの適用性拡大が 実現すれば、CO2削減などの環境性はもちろん、新たな産業創出も期待されるため、社会性の高 い技術であると言える。 3.3波及効果 大規模な高効率発電システムのみならず、中小規模への SOFC 適用も可能であると実証し、大 きな市場の拡がりを示すことにより、各メーカーの開発/参入意欲が促進され、ひいては SOFC の早期実用化、低コスト化、普及促進が達成されると期待できる。支持膜式 SOFC を中心とした SOFC の低温作動化は現在世界の潮流となっており、近年では多孔質金属基板を用いたセルによ り移動機器用補助電源の開発を目指す動きもある。そのような中で、高い熱衝撃耐性を持つ大面 積セルスタックの可能性を実証した本成果をアピールすることは、世界の SOFC 開発の加速を後 押しするものとして、大きな効果をもたらすと期待される。 92 4.適用性拡大に関する要素研究(アドバンス円筒形セルの研究) 4.1実用化時のイメージ 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は高温良質の排熱により、ガスタービンと蒸気タービンと組み 合わせることにより、発電効率 70%以上の高効率発電が可能であるとともに、小規模でも高効率 のコージェネレーションシステムが構成できることから、事業用火力発電システムや分散電源な ど広範囲に渡る発電技術として期待されている。 また、天然ガス、石炭ガスの適用も可能で、発電部門における省エネルギーと石油代替の促進 に寄与することが期待される。特に、石炭燃料では、石炭ガス化SOFC複合発電システムとするこ とにより、発電効率 60%の高効率発電が可能となり、CO2排出量削減に対応する技術として期待で きる。 4.2成果の実用化可能性 (1)技術的見通し 円筒形 SOFC の経済性を高めるための要素技術開発として、セル構成材料の抵抗低減による高出 力密度化と、円筒形 SOFC モジュールを構成するセルと金属材料との接合技術の開発を実施した。 SOFC の実用化を推進していくために、SOFC システムの信頼性・経済性向上のための継続的な取組 みとガスタービンとの複合発電を構成していくためのシステム化技術開発が必要である。 信頼性向上については、本研究で試作・発電試験を実施したセルについて、解体検査を実施し セル品質安定化を阻害する要因を抽出するとともに、システムに適用するセルの品質安定化のた めのセル検査事技術の確立することを目的として、平成 17 年度に「円筒形セルの検査手法確立の ための追加研究」を実施中である。 経済性向上のためのコンパクト化・低コスト化への取組みとして、平成 17 年度より次ステップ の SOFC のための要素技術開発として、「高出力密度化に関する研究開発」を実施中である。 システム化技術開発については、SOFC 複合発電システムの可能性と課題を見極めるために、 SOFC とマイクロガスタービンと組合せた数百 kW 級コンバインドサイクルシステムの開発と運 転検証が不可欠なステップであり、平成 16 年度より「円筒形 SOFC 高効率コンバインドサイク ルシステムの開発」を実施中である。 (2)経済性 経済性向上のために本研究の成果を発展させて、更なるコンパクト化・低コスト化への取組み を進めていくとともに、生産規模に応じて製造設備を拡充していくことにより SOFC システムの 低コスト化を推進していく。 (3)社会性 SOFCは高効率発電による燃料消費量低減とともに、CO2排出量削減、NOx等の環境汚染物質低減 など環境対策に貢献することが期待される。 4.3波及効果 SOFC発電システムの事業化を進めていくことにより、国内の原材料メーカを含めた雇用の拡大 が促進され、事業用発電設備や分散電源用発電設備の分野に新しい高効率発電装置の市場が創出 される。 また、高い発電効率によりCO2排出の少ないが発電装置が国内で適用され、温室効果ガス排出量 の削減に寄与する。 93