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第4章 タイ国のインフラ・マネジメントの現状
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 第4章 4.1 JICA 国際航業 タイ国のインフラ・マネジメントの現状 インフラ老朽化の現状と今後の予測 タ イ 国 で は 35年 前 に 高 速 道 路 が 建 設 さ れ る 等 、 1980年 代 頃 か ら イ ン フ ラ 建 設 が 盛 ん に 行 わ れ る よ う に な っ た 。そ の 結 果 、タ イ 国 は 周 辺 諸 国 に 比 べ 、道 路 、港 湾 、電 力 と い っ た 基 本 的 な 産 業 イ ン フ ラ の 整 備 が 比 較 的 進 ん で お り 、こ れ が 海 外 か ら の 投 資 を 引 き つ け 、 タ イ 国 の 経 済 を 支 え る 基 盤 と な っ て き た 。 56 道 路 、橋 梁 、ダ ム 、空 港 、事 務 所 ビ ル 、発 電 所 等 政 府 機 関 の 所 有 す る 純 社 会 資 本 は 図 41の よ う に 伸 び 続 け て お り 、 2012年 に は 11兆 4,230億 バ ー ツ で あ る 。 57 図 41 公共セクターの純社会資本額の推移(時価) 出 典 : Capital Stock of Thailand, 2012 edition, NESDB 交 通 ・ 通 信 分 野 で は 、近 年 、通 信 分 野 の 新 設 が 著 し い も の の 、交 通 分 野 で は 一 部 で は 老 朽 化 が 進 ん で い る 。鉄 道 分 野 で も 、SRTの 線 路 の う ち 建 設 後 30年 以 上 経 過 し て い る も の は 67%を 占 め て い る 状 況 で あ る 。58 DOHが 管 轄 す る 道 路 橋 で は 、 建 設 後 50年 以 上 経 過 し て い る も の が 338橋 ( 2%) で あ る が 、 10年 後 に は 1,818橋 ( 12%) と 老 朽 化 が 急 激 に 進 行 す る 。 56 タ イ ・ イ ン フ ラ マ ッ プ , 2012年 3月 , ジ ェ ト ロ ・ バ ン コ ク 事 務 所 Capital Stock of Thailand 2012, NESDB, 2013 58 Kingdom of Thailand: Accounting and financial Management System Reform of Thailand's Railway Sector, March 2014, ADB 57 101 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 42 JICA 国際航業 経年別橋梁数 出 典 : DOH 一 方 、タ イ 国 で は 2015年 の ア セ ア ン 経 済 共 同 体( AEC)の 形 成 に 向 け て 、ASEAN 地 域 で の 主 導 的 な 地 位 を 確 立 す る た め に 新 設 開 発 も 計 画 さ れ て い る 。2013年 に は 輸 送 イ ン フ ラ を 強 化 し ASEAN地 域 で の 連 結 性 の 向 上 す る た め に 、 2020年 ま で の 総 額 2兆 バ ー ツ 超 ( 2013年 2月 の 計 画 額 ) の 大 型 イ ン フ ラ 開 発 計 画 を 発 表 し た 。 こ れ は 、タ イ 国 の 国 家 予 算 は 2兆 5,250億 バ ー ツ( 2014年 ) 59に 相 当 す る 大 規 模 な 計画である。 表 29 イ ン フ ラ 整 備 計 画 ( 2013-2020) 出 典 : タ イ ・ イ ン フ ラ マ ッ プ , 2013年 3月 , ジ ェ ト ロ ・ バ ン コ ク 事 務 所 一 方 、財 源 の 方 を 見 る と 、日 本 と 同 様 に 高 齢 化 に 伴 い 、イ ン フ ラ 整 備 費 へ の 配 分 が 厳 し く な る こ と が 考 え ら れ る 。 タ イ 国 も 2007年 に 65歳 以 上 の 高 齢 者 の 割 合 59 財 源 の う ち 、収 入 が 22億 7,500万 バ ー ツ で 、残 り 2億 5千 万 バ ー ツ は 国 債 に よ り 賄 う 計 画 で あ る 。( 出 典:Thailand’s Budget in Brief Fiscal Year 2014, Bureau of the Budget) 102 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 が 7%を 超 え 「 高 齢 化 社 会 」 に 入 り 、 2027年 に は 14%に 達 し 「 超 高 齢 化 社 会 」 に 移 行 す る と 推 計 さ れ て い る 60 。タイ政府も高齢者対策委員会を設けるなど、高 齢 化 対 策 の 必 要 性 を 認 識 し て い る 61。 従 っ て 、 将 来 的 に は 料 金 収 入 や 税 収 の 伸 び 悩 み と 福 利 厚 生 費 の 増 大 に よ り 、必 然 的 に イ ン フ ラ 整 備 費 と し て 確 保 で き る 財 源 が厳しくなることが考えられる。 図 43 タ イ 国 の 人 口 統 計 ( 1950-2050) 出典:国連人口統計 現 在 、先 進 国 は 、イ ン フ ラ 建 設 時 代 が 終 わ り 、同 時 に 初 期 に 建 設 さ れ た イ ン フ ラ の 老 朽 化 が 始 ま っ て 問 題 が 起 こ る よ う に な り 、快 適・安 全 性 を 確 保 す る こ と が 大 切 と い う 認 識 が 高 ま っ て い る 。し か し 、維 持 管 理 の た め の 財 源 が 限 ら れ る た め 、 予 算 は 増 や せ な い 状 況 の 中 で 、既 存 の イ ン フ ラ を 維 持 管 理・更 新 し て 大 事 に 長 く 使 う 段 階 に 移 行 し て い る 。こ れ を 少 な い 費 用 で 実 現 す る 仕 組 み と し て イ ン フ ラ ・ マネジメントという概念が重視されるようになった。 タ イ 国 に お い て も 、い ず れ 同 様 の 変 遷 を た ど る 兆 し が 見 え て い る が 、タ イ 国 の 場 合 は 、イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理・更 新 段 階 に 移 行 し つ つ も 、新 設 需 要 も 盛 ん な 状 態 が 続 き 、 ASEAN諸 国 と の 競 争 力 確 保 の た め に は ど ち ら も 後 回 し に で き な い 状態となり、さらなるインフラ整備の効率化の工夫が必要となると予想される。 60 61 国連人口統計 タイの高齢者対策について 103 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.2 中央政府の現状 4.2.1 中央政府の関わり方 JICA 国際航業 本 調 査 の 対 象 機 関 の う ち 、 首 相 府 国 家 経 済 社 会 開 発 委 員 会 ( NESDB) 、 首 相 府 予 算 局( BOB)、財 務 省 公 的 債 務 管 理 局( PDMO)財 務 省 国 営 企 業 政 策 事 務 局 ( SEPO) は 、 国 家 レ ベ ル で の 方 針 策 定 、 予 算 、 負 債 の 計 画 策 定 か ら 管 理 、 国 営 企 業 の 運 営 方 針 策 定 か ら 業 績 評 価 ま で を 行 っ て い る 機 関 で あ る 。各 機 関 の 維 持 管 理に影響を与える役割は下表の通りである。 表 30 対象機関 中央政府機関の役割 維持管理に影響を与える役割 国家経済社会 国家計画を策定し、事業の方針、重点分野を提示 開 発 委 員 会 実 施 機 関 が 新 規 事 業 提 案 の 際 に 実 施 す る F/Sの 事 業 評 価ガイドブックの作成 (NESDB) 予 算 局 (BOB) 年間予算計画の策定、予算配分及び予算管理 公的債務管理 国家の債務計画の策定 局 (PDMO) 公的債務の管理 実施が決定した事業に対する負債調達の斡旋 国営企業政策 国営企業の方針策定及び業績評価 事 務 局 (SEPO) 56国 営 企 業 の 株 主 と し て 、 自 己 資 金 の 評 価 と 助 言 国営企業の投資形態の検討 (1) 対象機関の形態 本 調 査 の 対 象 機 関 の う ち 、施 設 の 維 持 管 理 を 担 当 す る 実 施 機 関 は 次 の 12機 関 で あ り 、 そ の 内 訳 は 官 庁 が 3機 関 、 国 営 企 業 が 8機 関 、 地 方 自 治 体 が 1機 関 で 、 そ の 所 轄 の 省 庁 は 表 31の 通 り あ る 。 104 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 31 所轄の省 運輸省 所轄の省別対象機関と担当施設 対象機関の形態 対象機関 省内の局 DOH 国道 DRR 地方道 EXAT 有料高速道路 SRT 国有鉄道 MRTA 地下鉄 省内の局 DPT 村道 国営企業 MWA 首都圏の上水道 PWA 首都圏外の上水道 MEA 首都圏の送電網 PEA 首都圏外の送電網 国営企業 内務省 JICA 国際航業 維持管理の対象施設 エネルギー省 国営企業 EGAT 発電施設、配電網 自然環境省 国営企業 WMA バンコク都以外の下水道 − 地方自治体 BMA バンコク都の都道と下水道 上 記 の 中 央 政 府 機 関 は 直 接 計 画 策 定 、予 算 審 査 に 係 る の は 官 庁 と 国 営 企 業 で あ る た め 、次 節 か ら の 新 規 事 業 申 請 及 び 予 算 計 画 の 申 請 は 官 庁 と 国 営 企 業 に 係 る も の で あ る 。地 方 自 治 体 は 国 家 計 画 の 影 響 を 大 き く 受 け な が ら 、予 算 は 自 治 体 内 部 で審査、決定している。 (2) 新規事業の申請 省 庁 や 国 営 企 業 が 、大 規 模 事 業 を 実 施 す る 際 は 、事 前 に 内 閣 の 承 認 が 必 要 で あ る 。 大 規 模 事 業 の 定 義 は 実 施 機 関 の 規 定 に よ っ て 異 な り 、 例 え ば 、 5千 万 バ ー ツ 以 上 の 事 業 、 自 己 資 本 や 負 債 に 500万 バ ー ツ 以 上 の 変 化 が あ る 場 合 等 と な っ て い る 。 新 規 事 業 に は 大 規 模 修 理 や 更 新 事 業 も 該 当 し 62、 そ の 申 請 ス キ ー ム は 図 44 の 通 り で あ る 。年 間 予 算 申 請 と 異 な り 、申 請 時 期 は 決 ま っ て お ら ず い つ で も 申 請 で き 、審 査 を 受 け る こ と が で き る 。実 際 に 事 業 実 施 の 段 階 で は 、毎 年 の 予 算 申 請 時 に そ の 年 の 事 業 内 容 に 対 す る 予 算 を 、実 施 機 関 の 予 算 計 画 に 盛 り 込 ん で 申 請 す る。 62 計画及び予算審議の際は、新規事業とは新たに実施する事業を指し、必ずしも新 設とは限らず、日常の点検、維持管理以外のものはたいてい新規事業に含まれる。 105 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 44 JICA 国際航業 事業の申請及び審査スキーム 出 典 : NESDB ① 実 施 機 関 は 、 F/Sを 実 施 し 、 資 金 調 達 を 含 め た 事 業 計 画 を 策 定 し 、 所 轄 官 庁に提出する。 ② 所 轄 官 庁 で 審 査 し 、 事 業 計 画 を NESDBに 提 出 す る と 同 時 に 、 内 閣 を 通 じ て BOBや PDMO等 の 関 係 機 関 に も 提 出 す る 。関 係 機 関 で は 、予 算 計 画 、負 債計画等のそれぞれ担当の観点で事業計画を審査し、閣議で助言を求めら れる際の回答を準備する。 ③ NESDBで は 、 事 業 が 国 家 計 画 の 方 針 と 合 致 し て い る か を 審 査 す る 。 同 時 に BOBや PDMO等 関 係 機 関 と の 調 整 も 行 う 。 ④ (3) 閣議で審議し、事業実施を決定する。 年間予算の申請 タ イ 国 の 官 庁 及 び 国 営 企 業 は 、毎 年 予 算 計 画 を 作 成 し 、国 会 の 承 認 を 得 る 必 要 が あ る 。国 営 企 業 は 独 立 採 算 が 基 本 の た め 、予 算 を 利 用 せ ず に 自 己 採 算 で 事 業 を 行 っ て い る 国 営 企 業 で も 、参 考 の た め 予 算 計 画 を 提 出 し 、他 機 関 と 同 様 に 国 会 で も説明する。 タ イ 国 の 多 く の 機 関 で は 会 計 年 度 は 10月 か ら 始 ま り 、 2014年 度 は 2013年 10月 ~2014年 9月 と な る た め 、年 末 に は 翌 年 度 の 予 算 計 画 の 作 成 を 開 始 し 、翌 年 9月 末 に 国 会 で 承 認 さ れ る 。 そ の ス キ ー ム は 図 45の 通 り で あ る 。 106 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 45 JICA 国際航業 年間予算の申請及び審査スキーム 出 典 : NESDB ① 実施機関は、年間予算配分戦略及び省庁の戦略計画と適合する年間予算計 画を作成し、予算案を所轄の官庁に提出する。 ② 所轄官庁は予算案を方針との整合性の点から審査し、予算局に提出する。 ③ 予 算 局 は 、 全 体 の 予 算 案 を 策 定 し 、 内 閣 に 提 出 す る 。 NESDB及 び 財 務 省 はそれぞれの担当の観点から予算案に関する意見を内閣に提出する。 ④ 閣議、国会の審議を通して予算案を承認する。 次章から各機関の役割について詳述する。 4.2.2 国 家 経 済 社 会 開 発 委 員 会 (NESDB) タ イ 国 に お け る 全 国 レ ベ ル の 5か 年 計 画 で あ る 「 国 家 経 済 社 会 開 発 計 画 」 を 作 成 し て い る 。国 家 の 柱 と な る 方 針 で あ り 、す べ て の 政 府 機 関 の 事 業 は こ の 方 針 に 沿 う も の で あ り 、 予 算 も こ の 方 針 に 基 づ い て 配 分 さ れ る 。 現 行 は 第 11 次 計 画 ( 2012-2016 年 ) で あ り 、 第 8次 計 画 か ら 成 長 を 基 本 と し た 計 画 か ら 人 間 中 心 の 発 展 へ シ フ ト し て お り 、持 続 可 能 な 発 展 と「 幸 福 な 社 会 」の 実 現 の た め に 、タ イ 国 の 経 済 、社 会 資 本 の 強 化 と リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 改 善 を 目 標 に 掲 げ て 、持 続 可 能 な 環 境 整 備 の た め の 戦 略 の 1 つ と し て イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 強 化 を 掲 げ て い る 。現 在 、策 定 中 の 第 12次 計 画 で も 、イ ン フ ラ 関 連 の 方 針 は 第 11次 計 画 の 方 針 107 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 を 継 続 し て 鉄 道 網 の 改 善 に 重 点 を お き 、周 辺 諸 国 に 対 す る 競 争 力 を 強 化 す る 方 針 である。 NESDBの イ ン フ ラ に 関 わ る 役 割 と し て は 、 各 省 庁 や 国 営 企 業 が 策 定 し た マ ス タープランの承認及び国家レベルの新規開発プロジェクトのフィージビリティ ス タ デ ィ( F/S)の た め の 環 境 社 会 配 慮 、経 済 ・財 務 分 析 、投 資 計 画 等 の ガ イ ド ラ イ ン を 策 定 し て い る 。 イ ン フ ラ の 維 持 管 理 に 関 し て は 、 NESDBは 直 接 実 施 す る こ と は な い も の の 、維 持 管 理 に 関 す る 事 業 計 画 の 評 価 を 通 じ て 出 す 意 見 は 維 持 管 理に多大な影響を与えている。 分野別には以下のような認識を持っている。 道路分野は鉄道への重点シフトに伴い、維持管理に移行していく。 鉄道分野は鉄道網強化のため新規投資を重点的に行う。 上 水 道 分 野 は 、 MWAや PWAの 条 件 の よ い と こ ろ は 問 題 な い が 、 PWAの 給 水区域が広く格差があり、離れた人口密度が低い地域にサービスが行き届 かないことが問題である。 下水道分野は、サービスに課金できていないことが問題である。 電力分野は財務状態もよく、維持管理にも困っていない。 そ の 他 に も 国 家 の 将 来 を 見 据 え た 方 針 と し て 、迫 り く る 高 齢 化 社 会 に お け る イ ン フ ラ 施 設 の 在 り 方 や 優 先 度 を 検 討 し て い る が 、イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 は 、技 術 の 向 上 に よ り 効 率 化 、低 コ ス ト 化 で き る と 考 え て お り 、現 存 の イ ン フ ラ 施 設 の 解体、除去は最後の手段と位置付けている。 ま た 、 NESDB は 新 た な 資 金 調 達 法 と し て PPP の 導 入 に も 関 与 し て お り 、 NESDBの 事 務 局 長 が 、 財 務 省 や 実 施 機 関 と 共 に 検 討 委 員 会 の メ ン バ ー と な っ て い る 。し か し 、維 持 管 理 は 新 た な 料 金 収 入 を 見 込 め な い た め 、維 持 管 理 を 目 的 と した財源を確保する方法を模索中である。 4.2.3 首 相 府 予 算 局 ( Bureau of the Budget) 予 算 局 は 、第 11次 経 済 社 会 開 発 計 画 、国 家 管 理 計 画 や 国 の 優 先 事 項 に 照 ら し 合 わ せ 、予 算 配 分 に つ い て 政 府 に 助 言 し て い る 。2014年 度 の 予 算 で は 、イ ン フ ラ 開 発 に は 予 算 全 体( 2兆 5,250億 バ ー ツ )の う ち 1,027億 8,990万 バ ー ツ を 配 分 し て い る 。こ れ に は 国 家 の 競 争 力 の 拡 大 の た め に 、港 湾 や 空 港 開 発 、鉄 道 網 の 拡 充 、地 方の道路、橋梁の新設・維持管理・改善等が含まれている。 図 44の 新 規 事 業 の 審 査 は 担 当 部 署 が 分 野 別 に 11に 分 か れ て お り 、 ま ず は 各 分 野 担 当 の 委 員 会 で 、実 施 機 関 の 能 力 、投 資 に 見 合 う 価 値 、過 去 の 実 績 の 観 点 か ら 審査する。 道 路 整 備 に 関 す る 予 算 は こ れ ま で は 新 設 重 視 で あ っ た が 、近 年 で は 国 家 レ ベ ル で 維 持 管 理 重 視 の 傾 向 が 強 ま っ て い る 。 道 路 分 野 で は 、 最 近 、 ① Connectivity、 108 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ② Border line、 ③ Missing link、 ④ Bottleneckの 4点 を 重 視 し た 戦 略 的 交 通 イ ン フ ラ 8年 計 画 を 策 定 し た と の こ と で あ る 。 4.2.4 財 務 省 公 的 債 務 管 理 局 (PDMO) PDMOで は 、公 的 債 務 の 管 理 を 一 元 的 に 行 っ て お り 、毎 年 国 家 の 債 務 管 理 計 画 を策定し、新規事業審査の過程で債務の妥当性を検討している。検討の際には、 単 に 返 済 能 力 や 財 務 的 内 部 収 益 率 (FIRR)の み で な く 、公 益 性 も 加 味 し た 経 済 的 内 部 収 益 率 (EIRR)も 考 慮 し て い る 。 事 業 計 画 が 承 認 さ れ る と 、 実 施 機 関 に 対 し て 、 資 金 調 達 先 を 探 し 、債 務 の 条 件 も 交 渉 し て 決 定 す る 。年 度 毎 の 債 務 管 理 計 画 に つ い て は 、各 省 庁 、国 営 企 業 が 予 算 案 と と も に 作 成 し 、提 出 す る も の を PDMOで ま とめて必要性、返済能力と経済への影響の観点から審査して年間計画にまとめ る。 十 年 程 前 か ら 政 府 の 方 針 の 転 換 に よ り 、資 金 調 達 先 と し て 、流 動 性 が 高 く 為 替 リ ス ク が な く 、調 達 コ ス ト が 安 い 国 内 調 達 を 優 先 す る よ う に な っ て い る 。こ れ に よ り 、国 内 の 金 融 市 場 の 成 長 を 促 す ね ら い が あ る 。海 外 調 達 の 方 が 安 い 場 合 や 将 来得られる収入が外貨の場合は海外調達も行う。 4.2.5 財 務 省 国 営 企 業 政 策 事 務 局 (SEPO) SEPOは 国 営 企 業 の 運 営 方 針 決 定 機 関 と し て 、 さ ま ざ ま な 業 界 の 56国 営 企 業 の 株 主 と な っ て い る 。 毎 年 、 SEPOは 、 NESDB、 首 相 府 と 共 に 、 国 営 企 業 が 事 業 計 画 の 際 に 従 う べ き 方 針 で あ る Statement of Directions( SOD)を 作 成 、発 行 し て い る 。こ の 中 で 、分 野 別 、国 営 企 業 別 に 5年 の 長 期 と 1年 の 短 期 の 方 針 を 掲 げ て お り 、 国 営 企 業 は こ の 方 針 に 従 い 、 1年 毎 の 投 資 計 画 を 伴 う 5年 計 画 を 策 定 す る 。 各 国 営 企 業 の 2012年 の SODを 掲 載 す る が 、 上 水 道 分 野 で は 、 効 果 の 最 大 化 の ためとしてアセットマネジメントが方針に含まれている。 109 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 全体的な方針 “良い統治”を効率的に実施するための国家の経済・社会戦略のメカニズム 交通分野 大量輸送システムや標準的なサービスレベルの輸送網の開発により国家の競争 力を高め、民間企業の参入を促進する。 EXAT 高 速 道 路 の 開 発 を 通 じ て 輸 送 シ ス テ ム と 都 市 の 開 発 を 支 え る 。そ し て 、資 産 か ら 付加価値を創造し、利益を上げるとともに、具体的な債務計画を策定する。 SRT 運営管理システム及びサービスの質を確保し、鉄道システムを効率的な主要 交通インフラとして発展させると同時に政府機関の負担を減らす。 MRTA 大量鉄道プロジェクトバンコク及びその周辺地域の鉄道網を拡充し、収入を 増加し政府機関の負担を減らす。 上下水道分野 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に よ り 利 益 を 最 大 化 し 、基 本 的 な ニ ー ズ を 満 た し 、人 々 の 生活の質の向上に寄与する。 MWA 都 市 の 拡 大 に 合 わ せ て 給 水 網 を 拡 張 、整 備 し 、機 関 に 付 加 価 値 を も た ら す 関 連 事 業を構築する。 PWA 十分な原水源の開発及び効率的な資本管理を通じて地方へ給水網を効果的に拡 充する。 WMA 下水処理システムを社会に受け入れられるよう効果的に管理する。 電力分野 電 力 分 野 の 安 定 と 効 果 的 な 資 本 管 理 と エ ネ ル ギ ー 活 用 を め ざ し て 、社 会 や 環 境 に 配慮しながらクリーンな代替エネルギーを開発、支援する。 EGAT 十 分 、安 定 か つ 良 質 な 電 力 シ ス テ ム の 信 頼 性 を 高 め 、機 関 の 資 本 及 び 資 源 を 有 効 活 用 し 、社 会 や 環 境 へ の 影 響 に 配 慮 し な が ら 代 替 エ ネ ル ギ ー に よ る 電 力 開 発 を 進 める。 MEA 需要に見合う良質な配電システムを整備し、事業提携を通じて、社会や環境 に配慮しながら資産から付加価値を生み出す関連事業の育成する。 PEA 需要に見合う良質な配電システムを整備し、事業提携を通じて、社会や環境 に配慮しながら資産から付加価値を生み出す関連事業の育成する。 110 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 さ ら に 、 SEPOで は 各 分 野 担 当 に 分 か れ て お り 、 そ れ ぞ れ 国 営 企 業 に 対 し て 、 戦 略 立 案 か ら 業 績 評 価 を 通 し て 管 理 し 、運 営 方 針 や 内 部 留 保 の 使 途 に 対 す る 助 言 を 行 っ て い る 。業 績 評 価 の 際 は 、イ ン フ ラ 投 資 に 必 要 な 資 金 が 十 分 に 蓄 え ら れ て いるかも確認している。 具 体 的 な 分 野 別 の 方 針 と し て 、 道 路 分 野 の EXATに つ い て は 、 財 務 状 態 が 改 善 し て い る た め 、債 務 の 返 済 の 前 倒 し を 提 案 す る と と も に 、高 速 道 路 か ら の 安 定 し た 収 入 が 見 込 め る た め 、 現 在 F/S中 の 新 設 及 び 延 長 区 間 は 新 た な 投 資 ス キ ー ム を 検討しているとのことである。 上 下 水 道 分 野 で は 、 MWAに つ い て は 、 内 部 留 保 も 十 分 で あ る た め 、 古 い 配 管 の 更 新 に 投 資 し 、 漏 水 率 を こ の 先 5年 以 内 に 20%以 下 、 10年 以 内 に 10%に 削 減 す べ き と 助 言 し て い る が 、更 新 投 資 に は 負 債 が 必 要 で あ る が 、負 債 は 調 達 コ ス ト が か か る た め 、 投 資 に は 乗 り 気 で は な い と の こ と で あ る 。 ま た 、 PWAに 対 し て は 、 10年 以 内 に 水 道 普 及 率 を 100%に す る よ う 、 採 算 性 の 悪 い 遠 隔 地 の 管 路 の 新 設 に は政府負債を提供する予定であるとのことである。 SEPOが 国 営 企 業 に 対 す る 投 資 ま た は 支 援 は 、 新 設 の た め の 投 資 と PSOと よ ば れ る 補 助 金 の 提 供 の 2タ イ プ で あ る 。 PSOは 、 国 営 企 業 が 公 共 サ ー ビ ス に 対 し て 採 算 性 に 見 合 っ た 料 金 設 定 を で き な い 場 合 に 、損 失 補 て ん 分 と し て 補 助 金 を 支 給 す る 公 共 サ ー ビ ス 補 償 制 度 ( Public Service Obligation : PSO) で 、 2010年 に 開 始 さ れ た 。適 用 を 受 け る た め に は 政 府 に 料 金 設 定 の 権 利 が あ る こ と 等 い く つ か 条 件 が あ り 、全 て を 満 た し て い る 場 合 に 支 給 さ れ る 。申 請 手 続 き は 、国 営 企 業 は 予 算 開 始 の 10か 月 以 上 前 に 、対 象 と す る 公 共 サ ー ビ ス の 内 容 、対 象 者 層 、補 助 金 の 額 と 給 付 計 画 、PSO適 用 の 有 効 性 等 の 検 証 を 盛 り 込 ん だ 申 請 書 と 財 務 諸 表 を 、所 轄 省 庁 を 通 じ て 財 務 省 内 の 審 査 委 員 会 に 提 出 す る 必 要 が あ り 、予 算 配 分 前 に 承 認 さ れ 、 通 常 予 算 と 同 様 に 配 賦 さ れ る 。 63 現 在 PSOの 適 用 を 受 け て い る の は 、 業 績 の 悪 化 が 続 く タ イ 国 有 鉄 道 ( SRT) と バ ン コ ク 大 量 輸 送 公 社 ( BMTA: バ ス を 運 営 ) の 2国 営 企 業 で あ る 。 64 一 方 、各 国 営 企 業 は 、民 間 企 業 で あ れ ば 支 払 う べ き 配 当 の 代 わ り に 、株 主 で あ る SEPOに 純 利 益 の 一 部 を 支 払 う こ と に な っ て い る 。 そ の 純 利 益 に 対 す る 割 合 は 35~45%の 間 で 毎 年 実 施 機 関 と の 交 渉 に よ っ て 調 節 す る も の の 、 財 務 状 況 の 急 変 等 特 殊 事 情 の な い 限 り 変 更 は な く 、本 調 査 の 対 象 機 関 に 関 し て は 45%で あ る 。た だ し 、 SRTは 利 益 が あ が っ て い な い た め 、 支 払 っ て い な い 状 態 が 続 い て い る 。 SEPOで は 受 領 後 に 、 政 府 の 収 入 と し て 国 庫 に 納 め て い る 。 SEPOで は 、 PPP等 様 々 な 投 資 ス キ ー ム を 検 討 し て お り 、 EXAT等 安 定 し た 収 入 の 見 込 め る 投 資 家 に と っ て 魅 力 的 な 機 関 か ら 、新 た な 投 資 ス キ ー ム を 試 し て い く 方 針 で あ る 。実 際 、EXATが 1990年 以 降 に 新 設 し た 路 線 は BTO方 式 で 民 間 委 託 63 64 SEPOホ ー ム ペ ー ジ よ り SEPOよ り ヒ ア リ ン グ 111 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 されており、今後の新設路線も新たなスキームを検討して適用する予定である。 さ ら に 、ゆ く ゆ く は 国 営 企 業 の 業 績 を 向 上 さ せ 、イ ン フ ラ フ ァ ン ド 等 外 部 か ら の 投 資 を 増 や す 意 向 で あ る 。た だ し 、政 府 の 株 式 保 有 割 合 は 各 公 社 法 で 決 め ら れ て いるため、政府の関与を減らすことはない。 4.2.6 内 務 省 公 共 事 業 ・ 都 市 地 方 計 画 局 ( DPT) 2002年 に 地 方 自 治 体( 市 、村 落 )の 公 共 事 業 を 管 轄 す る 公 共 事 業 局 と 都 市 計 画 を 管 轄 す る 都 市 地 方 計 画 局 が 合 併 し 、 現 在 の 公 共 事 業 ・ 都 市 地 方 計 画 局 ( DPT) の形になったものの、それぞれの部門編成や業務の分担に変更はない。 旧 公 共 事 業 局 で は 、地 方 自 治 体( お も に 村 落 )の イ ン フ ラ 施 設 の 建 設 及 び 維 持 管 理 の 支 援 を 行 っ て お り 、対 象 と な る イ ン フ ラ 施 設 は 、洪 水 か ら 村 落 を 守 る た め の 堤 防 を 主 に 、村 落 の 道 路 、上 水 道 及 び そ れ ら の イ ン フ ラ の 運 営 の た め に 必 要 な 電 力 施 設 で あ る 。資 金 力 お よ び 管 理 能 力 の あ る 地 方 自 治 体 は 、計 画 、建 設 か ら 自 ら の 手 で 行 っ て お り 、 DPTが 直 接 関 与 す る こ と は な い 。 2012年 か ら 政 府 の 地 方 分 権 化 の 方 針 に 伴 い 、そ れ ま で 中 央 政 府 が 行 っ て い た 地 方 自 治 体( 市 、村 落 )の イ ン フ ラ 整 備 を 自 治 体 が 行 う こ と に な り 、資 金 力 や 技 術 力 が 十 分 で な い 地 方 自 治 体 に は DPTが 支 援 を 提 供 す る こ と に な っ た 。DPTは こ れ ら の 自 治 体 の イ ン フ ラ 施 設 の 計 画 及 び 建 設 を 行 い 、 2年 後 に 地 方 自 治 体 に 運 営 、 維 持 管 理 を 移 管 す る ま で の 期 間 の 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。 そ の 2年 間 は 日 常 の 点 検 は 各 村 落 が 行 い 、修 繕 や 補 修 が 必 要 な 箇 所 を 発 見 し た 場 合 に は DPTに 対 処 を 要 請 す る 。 植 栽 の 伐 採 や ペ ン キ 塗 り 等 通 常 の 維 持 管 理 、 及 び 1,000万 バ ー ツ 以 下 の 修 繕 、 補 修 は DPTの 地 方 事 務 所 が 行 い 、 1,000万 バ ー ツ 以 上 の 修 繕 、 補 修 は 、 DPT本 部 が 対 処 す る 。そ し て 移 管 後 も 、地 方 自 治 体 が 維 持 管 理 費 用 を 賄 え な い 場 合 に は DPTか ら 予 算 を 提 供 し て い る 。 こ の 業 務 の 追 加 を 受 け 、DPTの 予 算 は 2012年 か ら 急 増 し 、そ れ に 伴 い 維 持 管 理 費 も 増 加 し て い る 。 2014年 か ら は DPT本 部 が 行 う 大 規 模 補 修 も 加 わ り 急 増 し た も の の 、 維 持 管 理 の 対 象 は 、 原 則 的 に 支 援 を 求 め る 自 治 体 の 建 設 後 2年 間 で あ る ため、施設を保有する機関に比して維持管理費の割合は小さい。 表 32 DPTの 予 算 と 維 持 管 理 予 算 の 推 移 単位:百万バーツ Cost item Project size DPT Maintenance & repair cost (1) Inspection and general maintenance Repair and renovation cost < 10 mil baht Repair and renovation cost >= 10 mil baht DPT Total Budget (2) % of maintenance cost (1) / (2) Organization Provincial Office Headquarters 2011 9.5 9.5 6,559.7 0.14% 2012 60.0 9.5 50.5 11,295.6 0.53% 2013 60.0 9.0 51.0 15,792.0 0.38% 2014 324.6 7.0 35.8 281.9 19,329.7 1.68% 2015 324.5 16.9 85.1 222.5 23,210.6 1.40% 出 典 : DPT 112 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 DPTの 維 持 管 理 部 門 は 約 30名 の 職 員 と 約 20名 の 作 業 員 で 構 成 さ れ て お り 、 15 台 の 機 材 を 有 し て い る 。日 常 の 点 検 業 務 は 各 自 治 体 が 行 っ て お り 、問 題 が 発 見 さ れ た 場 合 は 、DPTの 職 員 と 作 業 員 が 赴 き 、必 要 な 処 置 を 取 る 。地 方 自 治 体 か ら の 予 算 申 請 に 対 し て は 、DPTの 職 員 が 視 察 し 、申 請 内 容 を 査 定 し 、予 算 申 請 時 に 計 上 す る 。さ ら に 、維 持 管 理 の 経 験 の 乏 し い 村 落 に 対 し て 、維 持 管 理・補 修 等 の 技 術 指 導 も 行 っ て い る が 、DPTの 役 割 は 、イ ン フ ラ 施 設 の 整 備 と 維 持 管 理 の 支 援 に とどまっており、自ら資産を保有、管理することはない。 一 方 、都 市 地 方 計 画 局 は 、国 全 体 の 中 長 期 的 な 都 市 計 画 を 担 当 し て い る 。高 齢 化 社 会 の 到 来 、災 害 に 強 く 環 境 に 優 し い ま ち づ く り を 考 慮 し 、将 来 の 社 会 に 合 っ た イ ン フ ラ 施 設 、維 持 管 理 が 容 易 な ま ち づ く り 計 画 を 考 案 し て い る 。し か し 、こ の 計 画 は 地 域 住 民 の つ な が り へ の 配 慮 を 重 視 す べ き と し て お り 、 NESDBが バ ン コ ク 都 内 へ の ア ク セ ス を 重 視 し 空 港 建 設 地 を 決 め た こ と 等 、国 際 競 争 力 等 も 考 慮 す る NESDBと 方 針 が そ ぐ わ な い と こ ろ も あ り 、 具 体 的 に 国 家 計 画 に 盛 り 込 ま れ るまでには至っていない。 113 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.3 バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) の 現 状 4.3.1 BMAの イ ン フ ラ 施 設 の 管 理 体 系 JICA 国際航業 バ ン コ ク 首 都 圏 庁 で は 、バ ン コ ク 圏 内 の 道 路 と 下 水 道 の 維 持 管 理 を 担 当 し て お り 、道 路 舗 装 と 橋 梁 は 公 共 事 業 局 、信 号 機 等 附 属 施 設 は 運 輸 交 通 事 業 局 、下 水 は 下 水 道 事 業 局 が 担 当 し て い る 。詳 細 に つ い て は 、そ れ ぞ れ 道 路 分 野 及 び 上 下 水 道 分野の節に記述する。 (1) BMAの 財 務 状 況 と 維 持 管 理 関 連 予 算 BMAは 予 算 配 分 に お け る 重 点 項 目 と し て 下 記 の 6項 目 を 掲 げ て お り 、2015年 度 の予算では右欄のような案件を示していることから、インフラ施設の整備は安 全、幸福な生活、生活の質の向上の基盤として重視していることがうかがえる。 表 33 BMAの 2015年 度 予 算 の 重 点 項 目 重点項目 具体例 安全のための投資 安 全 管 理 の た め の 装 置 、 CCTV等 の 購 入 幸せのための投資 効率的な公共交通による利便性の向上 医療施設の建設によるアクセス向上 緑と清潔さのための投資 廃棄物管理と排水施設の拡充 学びのための投資 若者の文化活動の奨励 皆に機会を提供するための投資 高齢者や身体障碍者の利便性の向上 ASEANの た め の 投 資 観光を通じた経済的価値の向上 出 典 : BMA 表 34に BMAの 収 入 と サ ー ビ ス 区 分 に よ る 支 出 を 示 す 。BMAの 場 合 、原 則 的 に 借 入 に よ ら ず 、収 入 の 範 囲 で 予 算 編 成 を 行 う こ と が 規 定 さ れ て い る 。道 路 と 下 水 道 は 6業 務 の う ち 2業 務 で 25~ 30%を 占 め る 重 要 な サ ー ビ ス で あ り 、 予 算 の 金 額 、 割合ともに漸増している。 114 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 34 JICA 国際航業 BMAの 予 算 の 推 移 65 単位:百万バーツ Item Regular Revenue Local Taxes collected by BMA Taxes from the central government Income from fee, fines miscellaneous activities Special Revenue Accumulate Total revenue Budget Appropriation by Bangkok Development Plan General Administration Public Cleaning and Orderliness Civil Works and Traffic System Water Drainage and Sewage Management Social Development and Servies Public Health Education Total Expenditure 2012 59,472 10,502 45,669 3,300 100% 18% 77% 6% 2013 63,111 11,306 48,661 3,143 100% 18% 77% 5% 2014 Budget 65,000 100% 10,743 17% 51,200 81% 3,057 5% 15,000 77,772 19% 100% 9,900 76,153 13% 100% 68,057 0% 100% 15,975 9,408 8,942 4,632 5,838 4,954 5,250 55,000 29% 17% 16% 8% 11% 9% 10% 100% 14,624 11,765 9,908 5,309 7,122 5,170 6,102 60,000 24% 20% 17% 9% 12% 9% 10% 100% 17,119 12,634 11,520 5,724 6,864 5,522 5,616 65,000 29% 21% 19% 10% 11% 9% 9% 100% 出 典 : BMA Annual Report 表 35 部門別予算配分 単位:百万バーツ Item Traffic and Transportation Department Public Works Department Drainage & Sewage Department Total appropriation for departments 2013 3,103 3,214 4,422 42,461 5% 5% 7% 71% 2014 3,103 3,309 4,958 46,366 5% 6% 8% 77% 出 典 : BMA Annual Report 表 36 維持管理予算の内訳 単位:バーツ Item Traffic and Transportation Department Traffic light equipment CCTV system Public Works Department Reoair of road, bridge and other facilities Construction materials Drainage & Sewage Department Maintenance cost for information center Maintenance cost for flood prevention control center Repair cost for water pumping building, machine and regulator Repair cost for car tunnel equipment Repair equipment for water regulator and pumping machine Agent service fee for cleaning drain and sewer Agetn service fee for drainage system Equipment for repair and precention of floods Equipment for repair of dams and barrage Total Budget for maintenance and repair 2013 106,954,000 39,975,000 66,979,000 263,000,000 100,000,000 163,000,000 125,753,000 2,800,000 17,770,000 17,772,000 1,000,000 20,000,000 50,000,000 808,000 8,403,000 7,200,000 865,661,000 3.4% 8.2% 2.8% 1.4% 2014 115,735,000 42,735,000 73,000,000 300,000,000 100,000,000 200,000,000 118,584,300 2,800,000 17,770,000 17,772,000 1,000,000 20,000,000 50,000,000 808,000 2,557,500 5,876,800 950,054,300 3.7% 9.1% 2.4% 1.5% 注:%は当該部門への配分予算に占める割合 出 典 : BMA 65 Special Revenueは 過 去 の 予 算 の 未 消 化 分 の 累 積 で あ る 。 115 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 道 路 関 係 の 維 持 管 理 費 は 金 額 、割 合 と も に 微 増 し て お り 、公 共 事 業 部 で は 、予 算 の 10%近 く を 維 持 管 理 に 費 や し て い る 。 (2) BMAの 予 算 申 請 ・ 承 認 体 系 BMAの 予 算 は BMA内 の 予 算 局 で 管 理 し て い る 。 毎 年 11~12月 頃 に 、 予 算 申 請 スケジュールを作成し、予算の上限額とともに各部門に通達する。各部門では1 月 末 頃 に BMAの 予 算 局 に 予 算 案 を 提 出 す る が 、 そ の 際 、 各 案 件 の 公 益 性 の 評 価 に つ い て の 調 査 報 告 書 も 提 出 す る 必 要 が あ る 。 予 算 局 で 156名 が 在 籍 し 、 そ の う ち 120名 程 度 が 予 算 審 議 に 携 わ り 、 部 門 ご と に 各 部 門 か ら の 報 告 書 を も と に 公 益 性 と 社 会 へ の 影 響 の 観 点 か ら 審 査 す る 。2015年 度 の 場 合 、予 算 総 額 650億 バ ー ツ に 対 し て 、申 請 総 額 は 1,150億 バ ー ツ と 倍 近 く に 上 っ た 。 66 予 算 局 で は 10月 1日 の 次 年 度 の 開 始 の 90日 前 以 降 に 予 算 案 を 都 議 会 に 提 出 す る 。都 議 会 で は 45日 以 内 に審査を終え、承認することになっている。 複 数 年 度 に ま た が る 案 件 に 関 し て は 初 年 度 は 10%程 度 を 配 賦 し 、進 捗 状 況 に 応 じ て 翌 年 度 か ら の 配 賦 額 を 決 め る 。ま た 、各 案 件 に 執 行 さ れ た 予 算 が 消 化 で き な か っ た 場 合 は 1年 の み 持 ち 越 す こ と が 認 め ら れ て い る 。 66 BMAよ り 受 領 資 料 に よ る 。 116 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.4 道路分野の現状 4.4.1 タイ国の道路分野の概要 (1) JICA 国際航業 道路種別と道路管理者 タ イ 国 の 道 路 総 延 長 は 約 40 万 km で 、 運 輸 省 道 路 局 ( Department of Highways:DOH)が 管 理 す る 国 道 が 約 5万 km、運 輸 省 地 方 道 路 局( Department of Rural Roads:DRR)が 管 理 す る 地 方 道 が 約 5万 km、地 方 自 治 体 が 管 理 す る 地 方 道 が 約 30 万 km 、 高 速 道 路 公 社 ( 運 輸 省 所 管 ) (Expressway Authority of Thailand:EXAT)が 管 理 す る 高 速 道 路 約 200kmで 構 成 さ れ て い る 。 タ イ 国 の 道 路 は 行 政 上 の 管 理 区 分 に よ り 、 表 37に 示 さ れ る 6種 類 に 分 類 さ れ て い る 。 表 37 道路種別 国道 道路の管理区分 道路管理者 DOH 道路の概要 全 国 の 都 市 間 を 連 絡 す る 主 要 道 路 。こ れ は 下 記 の 3 種類に区分される。 1級 国 道 : 地 域 間 を 連 絡 す る 道 路 。 道 路 番 号 は l桁 ま た は 2桁 。 2級 国 道 : 各 地 域 内 の 幹 線 道 路 。 道 路 番 号 は 3桁 。 3級 国 道 : 郡 庁 を 結 ぶ 連 絡 道 路 。 道 路 番 号 は 4桁 。 地方道路 DRR 、 国 家 保 自 治 体 行 政 区 の 外 側 に あ る 、 国 道 以 外 の 道 路 。 目 安司令部、 的 に よ り 種 々 の 政 府 機 関 に よ り 建 設 さ れ る 。 DRR 農 業 共 同 組 合 は地方道路の建設の他、バンコク都の産業環状道 省 王 立 灌 漑 局 路、チャオプラヤ川の橋梁建設、パンコク外環道 等 自治体道路 自治体 路の建設も実施している。 自治体内にある道路網で、他の分類に属さない道 路 。バ ン コ ク 都 等 の 主 要 都 市 で は 、自 治 体 が 建 設・ 管 理 を 行 う が 、 そ の 他 の 自 治 体 の 道 路 は 、 DRRが 建設を行い、管理のみが自治体へ移管される。 都 市 間 高 速 DOH 有 料 の 高 規 格 道 路 。 Motorwayと 呼 ば れ る 。 道路 都 市 内 高 速 EXAT バ ン コ ク 都 内 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 で 、 EXAT 道路 国 営 会 社 が 運 営 管 理 を 行 っ て い る 。 Expresswayと 呼ばれる。 出 典 : タ イ 国 経 済 現 況 ( 2008/2009年 版 ) を 修 正 117 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 46 JICA 国際航業 タイ国の道路の概要 出 典 : JICA道 路 ・ 橋 梁 維 持 管 理 に 関 す る 情 報 収 集 ・ 確 認 調 査 2013 (2) 運 輸 省 ( MOT) の 道 路 関 係 機 関 の 予 算 配 分 表 38 MOT及 び 関 係 機 関 の 予 算 配 分 単位:百万バーツ 機関名 2012年 度 2013年 度 2014年 度 MOT 119,975.7 131,504.1 132,682.0 DOH 50,422.1 52,966.3 53,179.2 DRR 29,597.1 33,951.4 36,202.1 EXAT 4,488.8 4,152.8 2,802.5 464.1 639.6 706.9 35,003.6 39,794.1 39,791.3 OTP その他 注 ) MOT予 算 額 は 、 MOT傘 下 の 機 関 の 予 算 額 の 合 計 で あ る 。 出 典 : タ イ MOTホ ー ム ペ ー ジ よ り 作 成 (3) 基準及びマニュアル 1) 橋梁 タ イ 国 に は 、道 路 ・ 橋 梁 に 関 す る 建 設 ・ 施 工 ・ 維 持 管 理 の 基 準 や マ ニ ュ ア ル は 多 く 存 在 し 、 こ れ ら の 基 準 等 は 主 に AASHTO (American Association of State Highway and Transportation Officials) 基 準 や ACI (American Concrete Institute) Building Code に 基 づ い て 作 成 さ れ た も の で あ る 。 日 本 の 場 合 、例 え ば 橋 梁 点 検 に 関 し て は 、国 土 交 通 省 が 作 成 し た 橋 梁 点 検 マ ニ 118 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ュ ア ル が 存 在 す る が 、地 方 自 治 体 に お い て 国 土 交 通 省 と 同 じ 点 検 を 実 施 し 、同 じ 管 理 を す る こ と は 予 算 や 人 員 の 面 か ら 現 実 的 で は な い と い う 理 由 か ら 、各 自 治 体 が そ れ ぞ れ の 実 情 に 合 っ た 点 検 マ ニ ュ ア ル を 作 成 し て 運 用 し て い る 。タ イ 国 の 場 合 に は 、各 管 理 組 織 が 独 自 の 基 準 や マ ニ ュ ア ル を 所 有 し 、同 組 織 内 で 本 局 か ら 地 方局への共有はされているが、異なる組織間での共有や統一はされていない。 表 39 道路・橋梁に関する基準及びマニュアル Name Date of issue Inspection Manual for Expressways 1990.3 Manual for Inspection of the Rama IX Bridge 1990.3 Specifications for Highway Construction 2003 Bridge Strengthening Manual 2006.5 Bridge Inspection, Analysis and Evaluation Manual 2006.5 Bridge Repair and Maintenance Manual 2006.5 Work Instruction for Bridge and Box Culvert Construction 2006 Procedure for Construction Management of RC Bridges and 2000.8 Condition Evaluation including Maintenance Method Manual for Construction and Maintenance of Road 2003 Project for Development of Management System for DRR's 2007.2 Road Network (Phase 1)-Manual for Bridge Inspection and EvaluationBridge Inspection and Improvement Manual 2007.9 The Industrial Ring Road Project – Inspection and 2008.1 Maintenance Manual Study Project for Repair Method for Damages due to 2009.9 Material Deterioration and Service Life of Bridges in DRR's Road Network (Phase 2) - Final Report Project for Maintenance and Management System 2009.12 Development for DRR's Bridges - Manual for repair of RC bridge components due to deterioration of bridge structures and components Inspection and evaluation manual 2011.3 Formulation manual for long term maintenance plan for 2011.3 bridges Routine Maintenance Manual 2011.6 Inspection and evaluation manual 2013.7 Formulation manual for long term maintenance plan for 2013.7 bridges Manual for flooding and restoration 2013.7 119 Own by EXAT EXAT DOH DOH DOH DOH DOH DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR DRR タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 運 輸 省 道 路 局 (DOH) 4.4.2 (1) 概要 1) 施設概要 DOHは タ イ 国 の 都 市 間 を 結 ぶ 幹 線 道 路 に つ い て の 企 画 立 案・整 備・運 営 維 持 管 理等の道路行政全般を担当し、幹線道路整備の中心的な役割を果たしている。 DOHの 2002年 以 降 の 道 路 延 長 デ ー タ に よ る と 、 供 用 さ れ て い る 道 路 延 長 は ほ ぼ 横 ば い で あ り 、 2レ ー ン に 換 算 し た 道 路 延 長 は 毎 年 延 び て い る 。 つ ま り 、 新 設 工事のほとんどは、既存ルートの拡幅工事であることが分かる。 表 40 DOHの 道 路 延 長 の 推 移 単 位 : km Year Under construction 2,090 Total distance Disatance per 2 lanes 61,608 Actual distance 2002 53,761 2003 53,175 1,815 51,671 51,360 61,913 2004 51,777 1,456 50,321 61,585 2005 51,466 1,315 50,151 61,747 2006 51,320 1,407 49,913 62,042 2007 51,537 1,239 50,298 63,206 2008 51,633 880 50,753 65,208 2009 51,626 720 50,906 65,630 2010 51,892 805 51,087 66,318 2011 51,618 905 50,713 66,341 2012 51,589 752 50,837 66,871 DOH が 管 轄 し て い る 道 路 の 総 延 長 は 、 2013 年 時 点 で 51,413km、 2レ ー ン に 換 算 す る と 68,254kmで あ り 、 そ の う ち 約 66,811kmが 供 用 さ れ て い る 。 そ し て 、 14,939の 橋 梁 を 管 轄 し て い る 。 表 41 DOHが 管 轄 す る 道 路 延 長 単 位 : km Distance per 2 lanes Actual Region distance Concrete Asphalt Unpaved Total North 15,703 795 17,476 265 18,536 North Eastern 15,092 942 18,033 13 18,988 Central 10,754 3,141 14,164 8 17,313 South 9,864 425 12,922 68 13,415 Total 51,413 5,303 62,595 354 68,252 出 典 : DOH Annual Report 2013 120 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 実施体制 DOHの 組 織 に は 本 局( Head Quarter)の ほ か に 18の 地 方 局( Highway Bureau) が あ り 、 さ ら に 104の 地 域 事 務 所 (District Office)の 階 層 で 管 理 が 行 わ れ て お り 、 地 域 事 務 所 は 1県 ( Province) あ た り 1~ 2事 務 所 が 配 置 さ れ て い る 。 本 局 の 職 員 数 は 3,574名 で 、 そ の 内 訳 は 技 術 職 が 634名 で 、 一 般 職 が 2,940名 で あ る 。 DOH全 体 で は 、 Officialが 6,405名 、 Permanentが 5,506名 、 Government が 3,070名 在 籍 し て い る 。 図 47 運 輸 省 道 路 局 ( DOH) の 組 織 図 出 典 : DOH Annual Report 2013 3) 財務状況 DOHの 2015年 度 の 予 算 は 61,378百 万 バ ー ツ で そ の う ち 維 持 管 理 費 が 38,775百 万 バ ー ツ と 64%を 占 め て い る 。DOHの 予 算 の 推 移 を 、新 設 、維 持 管 理 別 に 見 る と 、 新 設 予 算 1990年 代 を ピ ー ク に 減 少 傾 向 で 、 代 わ っ て 維 持 管 理 費 が 徐 々 に 増 え 、 2011年 は 洪 水 の 影 響 が あ る も の の 逆 転 し て い る 。 121 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 48 JICA 国際航業 DOHの 新 設 、 維 持 管 理 の 予 算 の 推 移 出 典 : DOH DOHの 維 持 管 理 部 門 は 、作 業 内 容 に よ り CODEで 予 算 管 理 し て お り 、通 常 の 維 持 管 理 は Rountine、Periodic 、Special maintenanceに 分 類 さ れ て い る 。Routine maintenance は 3,960 百 万 バ ー ツ 程 度 で ほ ぼ 一 定 で あ る 。 最 近 は Periodic 、 Special maintenanceの 予 算 が 増 え て い る 。 表 42 維持管理予算の内訳 単位:百万バーツ Code 1 1.1 1.1.1 1.1.2 1.1.3 1.2 1.3 1.4 1.5 2 Maintenance work Road maintenance Highway maintenance Rountine maintenance Periodic maintenance Special maintenance and rehabilitation Restoration of highways affected by disasters Disaster remedy and restoration Landscape and highway architecture improvement Administratice and supporting activities Rehabilitation of Major Highways Total 2012 19,527 9,660 3,960 2,200 3,500 9,492 200 45 130 4,000 23,527 2013 % in 2013 17,302 81% 12,464 59% 3,964 19% 3,000 14% 5,500 26% 4,108 19% 200 1% 100 0% 430 2% 4,000 19% 21,302 100% 出 典 : DOH Annual Report 122 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) 舗装 1) 計 画 ( Plan) JICA 国際航業 DOHは 5つ か ら な る 戦 略 を 策 定 し て い る が 、 そ の 戦 略 3で は 「 全 国 に 高 速 道 路 網 を 建 設 し て 維 持 す る 」 と あ り 、 そ の 目 標 の 一 つ と し て 「 IRI (International Roughness Index)を 3.5以 下 に 維 持 す る 」 と 設 定 し て い る 。 地 域 事 務 所 で は 事 務 所 内 の 情 報 共 有 を 目 的 と し て 、 3ヵ 年 の ロ ー リ ン グ プ ロ グ ラムを作成しており、予算要求は毎年行っている。 舗装の維持管理予算は、次のように分類されている。 表 43 維 持 管 理 予 算 費 目 と 作 業 内 容 Code 作業内容 費目 No 日常維持管理作業 1000 Routine Maintenance Work 安全に走行できるように日常的に行う作 業 1100 Surface Maintenance Work 舗装表層部の維持管理作業 Wayside maintenance work and 側道、歩道、自転車道の維持管理作業 1200 footpath and bicycle lane Drainage System Work, Bridge and 排水施設、橋梁、構造物の維持管理作業 1300 Structure 1400 Traffic work and safety facilities 交通安全施設の維持管理作業 道路付帯施設、休憩施設、トイレ施設の 1500 Wayside Work and highway rest-house 維持管理作業 1600 Maintenance Machine Service Work 機械、設備の維持管理作業 定期維持管理作業 2000 Periodic Maintenance Work 長寿命化のために計画的に行われる作業 2100 Asphalt pavement work アスファルト舗装の維持管理作業 2200 Asphalt surface pavement work アスファルト舗装表層部の維持管理作業 アスファルト舗装以外の舗装の維持管理 2300 Non-asphalt pavement work 作業 コンクリート舗装表層連結部分の取替え Changing material on connecting 2400 surface concrete work 作業 3000 Special Maintenance Work 不定期の特別な維持管理作業 3100 Surface road leveling work 表層のレベリング作業 3200 Asphalt pavement repairing work アスファルト舗装の修繕作業 3300 Asphalt pavement improvement work アスファルト舗装の改良作業 3400 Reuse existing concrete コンクリートの再利用 3500 Concrete Surface Repairing Work コンクリート舗装表面の修繕作業 3600 Wayside repairing work 道路付帯設備の修繕作業 3700 Bridge Repairing Work and Structure 橋梁と構造物の修繕作業 4000 Rehabilitation Work 機能回復のための作業 4100 Asphalt pavement rehabilitation work アスファルト舗装の修復作業 4200 Concrete pavement rehabilitation work コンクリート舗装の修復作業 5000 Improvement Work 改善作業 6000 Solving and Prevention Work 予防保全作業 7000 Safety Work 安全対策作業 8000 Emergency Work 緊急作業 123 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 維 持 管 理 費 目 は 、 図 49に 示 す 考 え 方 で 分 類 さ れ て い る 。 Routine maintenanceは 道 路 を 良 好 に 維 持 す る た め に 毎 日 行 わ れ る 作 業 で あ る 。 道 路 の 状 態 が 良 好 な 間 に 予 防 保 全 と し て 行 わ れ る 作 業 を Periodic maintenanceと し て い る 。 道 路 の 状 況 が 悪 く な っ て か ら 行 う 修 繕 作 業 を Special maintenanceと Rehabilitationに 分 類 し て い る 。 そ れ 以 上 悪 化 し て か ら 行 う 作 業 は 、Reconstructionと 言 っ て 新 設 に 分 類 し て い る 。 Rehabilitationと Reconstructionの 違 い に つ い て は 、 既 存 の 路 床 も 工 事 に 含 ま れ る も の を Reconstructionに 分 類 し て 、 新 設 と し て 扱 っ て い る 。 図 49 維持管理費の分類のガイドライン 出 典 : DOH Routine maintenance費 用 は 性 状 評 価 区 分 ( 全 部 で 8区 分 ) ご と の 道 路 延 長 、 車 線 数 、舗 装 年 齢 、交 通 量 、照 明 塔 の 数 等 そ の 他 の 道 路 資 産 の 現 在 量 等 の 関 数 と し て 算 定 さ れ て 、地 域 事 務 所 に 配 布 さ れ る 。Periodic maintenance費 用 、Special maintenance費 用 は 定 期 修 繕 と 復 旧 の た め の 予 算 で 、地 域 事 務 所 は 一 件 ご と に 概 略 設 計・費 用 見 積 り を 作 成 し 本 局 に 予 算 申 請 す る 。修 繕 予 算 請 求 の た め の 概 略 設 計 に は IRIの 値 等 、 本 局 か ら 提 供 さ れ る 路 面 性 状 計 測 値 も 用 い ら れ る 。 DOH組 織 内 で の 維 持 管 理 費 目 別 の 予 算 の 申 請 フ ロ ー を 図 50に 示 す 。な お 、こ の 図 の Corrective maintenanceに は 、 Special maintenanceと Rehabilitation予 算が含まれている。 124 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 50 JICA 国際航業 舗装の維持管理予算の要求・承認フロー 出 典 : DOH Routine maintenance予 算 に は 人 件 費 ・ 光 熱 費 ・ 資 材 費 ・ 外 注 費 を 含 み 、 作 業 は 直 営 ま た は 外 注 に よ り 行 わ れ て い る 。 Periodic及 び Special maintenanceは す べ て 外 注 に よ り 行 わ れ る 。 な お 、 1 千 万 バ ー ツ 以 下 の 工 事 は 地 域 事 務 所 が 、 1.5 千万バーツ以下の工事は地方道路整備局の承認で発注できるしくみである。 DOHの 全 体 予 算 の 取 り ま と め は 、 Bureau of Planningが 行 っ て い る 。 DOHは 、中 長 期 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 す る た め の 戦 略 分 析 、及 び 与 え ら れ た 維 持 管 理 予 算 の 下 で の 最 適 な 維 持 管 理 計 画 を 作 成 す る た め に TPMS(Thai Pavement Management System)と 呼 ば れ る PMSを 使 用 し て い る 。 DOHは TPMSを 1984年 か ら 使 用 し て お り 、こ れ は 舗 装 の 劣 化 状 況 等 に 応 じ た 維 持管理工事の選定及び維持管理計画策定のための維持管理工事の優先順位付け に 用 い ら れ た 。 そ の 後 1989年 に 、 世 界 銀 行 の HDM-3と 組 み 合 わ せ て 維 持 管 理 計 画 策 定 の ツ ー ル と し て 用 い ら れ る た め の 改 定 が 行 わ れ 、 2008 年 ま で 使 用 さ れ て い た 。 2009年 に DOHは 維 持 管 理 計 画 策 定 能 力 の 向 上 を 目 的 と し て チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 に 中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス (Central Road Database:CRD)と 、 TPMSの 新 バ ー ジ ョ ン TPMS2009の 開 発 を 委 託 し た 。 TPMS2009は 、 HDM-4 67の 予 測 モ デ ル ( 舗 装 劣 化 、 維 持 管 理 工 事 効 果 、 利 用 者 費 用 、環 境 影 響 )を ベ ー ス に 構 築 さ れ て い る 。こ れ ら の モ デ ル は 、タ イ 国 の 状 況に合うように改善されている。独自に開発した最適化モデルも装備しており、 維持管理5か年計画の策定や予算要求のための戦略分析を行う機能を持ってい る 。TPMS で は 、CRDに 格 納 さ れ て い る デ ー タ か ら イ ン プ ッ ト デ ー タ を 作 成 し 、 解 析 を 行 う 。 現 時 点 で は 、 予 算 案 作 成 に TPMSを 用 い 始 め て い る も の の 、 参 考 資 料の位置付けで扱われている。 67 HDM-3の 改 訂 版 125 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 実 行 (Do) 道路維持管理は、技術管理本部の都市間高速道路専門部が維持管理計画の策 定 、予 算 管 理 及 び 技 術 指 導 の 統 括 業 務 を 担 っ て い る 。維 持 管 理 作 業 の 実 施 は 維 持 管 理 本 部 が 管 轄 し て お り 、こ の 下 に 計 18の 地 方 局 が 全 国 に あ り 、さ ら に そ の 下 に あ る 計 104箇 所 の 地 方 事 務 所 が 維 持 管 理 を 実 施 し て い る 。 図 51 点検・評価結果 126 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 【本局】 ア)路面性状調査 DOHの 行 う 道 路 性 状 点 検 は 、計 測 車 両 を 用 い て 本 部 が 行 う 全 国 国 道 網 性 状 調 査 と 、全 国 に 配 置 さ れ て い る 地 域 道 路 事 務 所 が 行 う 目 視 に よ る 日 常 点 検 が あ る 。な お 、交 通 量 調 査 は 、本 部 が 全 国 の 定 点 観 測 地 点 で の 自 動 計 測 を 、地 域 事 務 所 が あ らかじめ定められた観測地点でマニュアル計測を行っている。 全 国 国 道 網 性 状 調 査 は 、DOH本 部 が 3つ の 大 学( チ ュ ラ ロ ン コ ン 、タ マ サ ー ト 、 カ セ サ ー ト )に 委 託 し て 実 施 し た 。こ の う ち カ セ サ ー ト 大 学 へ の 委 託 分 は STS社 ( コ ン サ ル タ ン ト 会 社 )が 下 請 け で 実 施 し て い る 。DOHは 2年 に 一 度 全 道 路 網 の 調 査 を 行 い た い 意 向 で あ る 。路 面 性 状 計 測 車 両 は ARRB社 製 Hawk Eyesを 用 い て い る 。 タ イ 国 に は 合 計 4台 の Hawk Eyesが あ り 、 チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 、 タ マ サ ー ト 大 学 、 STS社 の ほ か 、 DOHの Bureau of Materials Analysis and Inspectionが 一 台 ず つ 保 有 し て い る 。Hawk Eyesの 初 期 費 用 は 、約 20,000,000バ ー ツ( 約 5,000 万 円 ) ( カ メ ラ や セ ン サ ー の 数 に よ っ て 異 な る ) 、 調 査 費 用 は 約 800バ ー ツ /km ( STS社 契 約 分 ) で あ る 。 計 測 項 目 は IRI( 平 坦 性 ) 、 Rutting( わ だ ち 掘 れ ) 、 Cracking( ひ び 割 れ )、Ravelling( ア ス フ ァ ル ト 劣 化 )で あ り 、IRI以 外 の 項 目 は 自 動・手 動 の 画 像 解 析 に 基 づ い て い る 。計 測 車 は 、100km/hで 走 行 し な が ら 計 測 デ ー タ を 取 る こ と が 可 能 で あ る が 、 通 常 の 調 査 時 は 60-70km/hで 走 行 し 、 1日 の 生 産 性 は 平 均 150km 程 度 で あ る 。な お 、DOHの Hawk Eyesは 、新 設 区 間 及 び リ ハ ビ リ 区 間 の 検 収 検 査 に 用 い ら れ て い る 。ま た 、地 域 事 務 所 が 作 成 す る Special Maintenanceの 予 算 要 求 資 料 を 作 成 す る た め の プ ロ ジ ェ ク ト ベ ー ス の 性 状 計 測 も行っている。 図 52 ARRB社 製 Hawk Eyes 路 面 性 状 計 測 車 出 典 : DOH 技 術 管 理 本 部 は 、 2007年 に 路 面 性 状 調 査 車 両 を 使 用 し て 第 1回 目 の 路 面 性 状 調 査 を 実 施 し 、そ の デ ー タ を 開 発 し た 舗 装 管 理 シ ス テ ム( PMS)に 入 力 し 、計 画 的 に路面性状データを取得・更新しており、データの蓄積に努めている。 127 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 44 JICA 国際航業 路面性状調査実施状況 2007年 第 1回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 60,000km計 測 。 2008年 中央道路データベース使用開始 2009年 舗装管理システムのオンライン運用を開始 2010年 第 2回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 45,000km計 測 2011年 第 2回 そ の 2 路 面 性 状 調 査 実 施 。 第 1回 コ ン ク リ ー ト 舗 装 調 査 実 施。路面性状調査を調達。 2012-2013年 第 3回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス 運 用 開 始 。 オ ン ライン計画策定システム運用開始。ルート選択システム運用開 始 。 災 害 ・ 緊 急 対 応 シ ス テ ム 運 用 開 始 。 23,000km実 施 。 イ)車両台貫検査 道 路 損 傷 の 大 き な 原 因 の 一 つ に は 過 積 載 車 両 の 通 行 が あ る た め 、 DOHは 2013 年 現 在 、全 国 に 計 69箇 所 の 車 両 重 量 を 測 定 す る 台 貫 所 を 設 け て 、過 積 載 車 両 の 取 締 り を 行 っ て い る 。さ ら に 、車 両 重 量 計 測 と 車 両 の 写 真 撮 影 を 自 動 で 行 い 、取 得 デ ー タ を サ ー バ へ 送 れ る バ ー チ ャ ル 台 貫 所 を 2013年 に 2箇 所 設 置 し て い る 。 2013年 に は 車 両 の 重 要 測 定 を 計 30,744,665回 実 施 し 、 1,393台 の 過 積 載 車 両 を 発 見 し た 。 過 積 載 車 両 率 は 低 下 し て き て お り 、 2009年 に は 8.2%だ っ た も の が 、 2013年 に は 4.5%に ま で 改 善 さ れ て い る 。 表 45 過 積 載 車 両 デ ー タ Fiscal year 2009 2010 2011 2012 2013 Number of weight station Number of weighted vehicles Number of overweight vehicles Number of overweight vehicle Nos. 59 64 67 69 69 Nos. 18,989,177 21,670,726 26,758,599 25,045,686 30,744,665 Nos. 1,566 1,150 1,647 1,351 1,393 % 0.008 0.005 0.006 0.005 0.004 Overweight vehicle per 100,000 vehicles Nos. 8.2 5.3 6.2 5.4 4.5 ウ)長寿命化技術 DOHは 舗 装 の 長 寿 命 化 技 術 を 採 り 入 れ て い る の で 、 そ の 状 況 を 説 明 す る 。 アスファルトにゴムやエポキシ樹脂等の改質材を加え、耐久性を向上させた改 質 ア スファルトの使用はタイ国でもかなり広まっており、現地業者でも問題な く施工ができる状況である. コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は 、 コンクリート版の上にアスファルト舗装を載せた舗装で、 コンクリート舗装が持つ耐久性と、アスファルト舗装が持つ走行性、維持管理の容 易さの、両者のメリットを併せ持つ舗装である。コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は バ ン コ ク 首 都圏で試験施工を実施済みだが、耐久性を期待して弱い地盤の地域で用い 128 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 たため、短期間でクラックが生じた結果、不適切な技術という評価がタイ 国では定着している。さらに、コンポジット舗装に適した骨材の確保が困 難 と い う 問 題 も あ る 。ま た 、通 常 の 舗 装 よ り 価 格 が か な り 高 く な る こ と も 、 導入の課題である。 粗骨材率を高めることにより耐久性を向上させたSMA舗 装 は 、 す で に DOHが 一 部の道路の交差点付近等、耐久性が要求される箇所で試験的に採用してい る。結果はよく評価されている。 エ)維持管理研修 維 持 管 理 シ ス テ ム 開 発 課( Maintenance System Development Section)で は 、 職 員 に 維 持 管 理 研 修 を 毎 年 行 っ て お り 、そ こ で は 予 防 保 全 の 重 要 性 、PMSシ ス テ ム 利 用 方 法 、舗 装 の 劣 化 曲 線 、LCCの 考 え 方 等 を 体 系 的 に 教 え て 、職 員 の 意 識 啓 発と技術レベルの向上を図っている。 【地域事務所】 地 域 事 務 所 の 仕 事 は 道 路 網 現 況 把 握( 点 検 )、予 算 請 求 、配 布 さ れ た 予 算 の 執 行であり、目視巡回により現況を把握し、評価のためのデータを整備している。 計 測 車 両 に よ る 路 面 性 状 調 査 は 全 国 に わ た り 本 局 が 実 施 し て お り 、地 域 事 務 所 で は 要 所 で 写 真 撮 影 と 目 視 に よ る 評 価 を 行 い 、本 局 が 行 う 路 面 性 状 調 査 を 補 完 し て い る 。修 繕 予 算 請 求 の た め の 概 略 設 計 に は IRIの 値 等 、本 局 か ら 提 供 さ れ る 路 面 性 状 計 測 値 も 用 い ら れ る 。目 視 巡 回 で 行 う 路 面 性 状 評 価 に つ い て は 点 検 マ ニ ュ ア ル も 整 備 さ れ て い る が 、管 内 の 道 路 は 交 通 量 が 多 く 、点 検 マ ニ ュ ア ル 通 り の 評 価 は行えないため、独自にアレンジしたマニュアルを用いている。 維 持 工 事 の 実 施 マ ニ ュ ア ル も 整 備 さ れ て い る 。地 域 事 務 所 は 修 繕 工 事 一 件 ご と に優先順位付けをして本局に予算要求する。本局はこの優先順位も参考にして、 他 の 優 先 プ ロ グ ラ ム( 洪 水 対 策 、観 光 振 興 等 )も 勘 案 し な が ら 全 国 の 地 域 事 務 所 の 年 度 ご と の 実 施 プ ロ グ ラ ム を 作 成 す る 。地 域 事 務 所 は こ の プ ロ グ ラ ム に 基 づ き 修 繕 工 事 を 実 施 す る 。地 域 事 務 所 で は 、配 布 さ れ た 修 繕 予 算 を 再 配 分 す る 権 限 は ない。 交 通 量 調 査 は 、本 局 が 全 国 の 定 点 観 測 地 点 で の 自 動 計 測 を 、地 域 事 務 所 が あ ら かじめ定められた観測地点でマニュアル計測を行っている。 地 域 事 務 所 の 職 員 は 毎 日 目 視・写 真 撮 影 に よ る 点 検 を 行 っ て い る 。以 下 に 、地 域 事 務 所 の 1つ で あ る Samutsakhon Highway Districtの 例 に つ い て 記 述 す る 。 当 該 事 務 所 の 管 理 道 路 は 8路 線 か ら な り 、 2 車 線 換 算 道 で 490km( 管 理 道 路 の 半 分 以 上 は 6車 線 以 上 )の 道 路 延 長 で あ る 。事 務 所 で は 4つ の 点 検・維 持 管 理 チ ー ム を 形 成 し て 日 常 点 検 を 行 っ て い る 。1チ ー ム は 1名 の 長 と 2名 の 技 術 者 、20~ 30 名 の 作 業 員 か ら 成 り 、作 業 員 が 毎 日 点 検 を 行 っ て い る 。点 検 結 果 は 、台 帳 と 写 真 129 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 記 録 と し て コ ン ピ ュ ー タ 上 に 格 納 さ れ 、日 常 維 持 作 業 に 活 用 さ れ る ほ か 、維 持 管 理費用の算定の基準となる歩掛りの妥当性の検証に利用される。 図 53 メンテナンスマニュアルと点検シート 出 典 : DOH 3) 評 価 ( Check) DOHが 2012年 に 行 っ た 全 国 路 面 性 状 調 査 結 果 を 次 表 に 示 す 。 全 国 平 均 の IRI は 2.85m/kmと な っ て お り 、 い ず れ の 地 域 で も 規 定 値 の 3.5を 下 回 っ て い る 。 表 46 全 国 路 面 性 状 調 査 結 果 ( 2011年 12月 か ら 2012年 4月 測 定 ) 出 典 : DOH 130 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 全 国 道 路 網 性 状 調 査 結 果 、交 通 量 調 査 結 果 、地 域 事 務 所 か ら 提 出 さ れ る Periodic と Special Maintenanceの 予 算 案 等 は 、 中 央 の CRDに 集 約 さ れ 、 適 宜 、 必 要 と さ れ る 評 価 項 目 に 応 じ て 適 切 な 情 報( ヒ ス ト グ ラ ム 、地 図 情 報 等 )と し て 出 力 さ れる。 図 54 データベースの構造 出 典 : DOH 131 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 55 JICA 国際航業 舗装維持管理システム 出 典 : DOH DOHで は 下 記 の デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム を 整 備 し て い る 。 4) 中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス ( CRD) ロ ー ド ネ ッ ト ( ROADNET) 高 速 道 路 ア セ ッ ト ITプ ロ グ ラ ム タ イ ラ ン ド 舗 装 管 理 シ ス テ ム ( TPMS) 予算積算プログラム 災害対応、緊急対応プログラム 見 直 し ( Action) TPMSの 運 用 実 績 は ま だ 十 分 で は な く 、 ガ イ ド ラ イ ン 的 な 扱 い で 、 計 画 策 定 に は ま だ 本 格 的 に 活 用 さ れ て い な い 。デ ー タ ベ ー ス に よ る 評 価 結 果 に 基 づ い て 、計 画の見直しを行うことは、今後の課題となっている。 132 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) 橋梁 1) 橋梁の概要 JICA 国際航業 タ イ 国 で は 橋 梁 建 設 は 1980年 代 か ら 盛 ん に 行 わ れ 、現 在 に 至 っ て い る 。バ ン コ ク 都 内 で は 、大 型 車 の 通 行 が 規 制 さ れ て い る た め 、橋 梁 の 劣 化・損 傷 の 主 な 原 因 と な る 過 積 載 車 両 は 少 な く 、既 存 橋 梁 の 状 態 も 比 較 的 良 好 で あ る 。図 56に 示 す よ う に 、 DOHの 管 理 橋 梁 は 、 建 設 後 30年 以 上 の 橋 梁 の 数 が 全 体 の 約 1/3を 占 め て い る が 、現 在 で も 道 路・橋 梁 の 新 規 建 設 に 重 点 が 置 か れ て お り 、ま た 落 橋 等 人 命 に 関 わ る 重 大 な 事 故 も 発 生 し て い な い た め 、橋 梁 維 持 管 理 に 対 す る 社 会 の 関 心 が 低 いのが現状である。 図 56 DOHが 管 理 す る 橋 梁 の 建 設 後 経 過 年 数 別 橋 梁 数 ( 2014年 2月 現 在 ) 出 典 : DOH 図 57 DOHが 使 用 し て い る 橋 梁 の 形 式 分 類 出 典 : DOH 133 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 58 JICA 国際航業 種類別橋梁数 出 典 : DOH 2) 計 画 ( Plan) 橋 梁 の 点 検 ・ 分 析 ・ 評 価 は 、2006年 に 作 成 さ れ た Bridge Inspection, Analysis and Evaluation Manual、橋 梁 の 維 持 管 理 は 、2006年 に 作 成 さ れ た 橋 梁 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル Bridge Repair and Maintenance Manualに 従 っ て 実 施 さ れ て い る 。 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、橋 長 が 10m以 上 の 橋 梁 は 、本 局 の Bureau of Bridge Constructionが 現 在 10名 の 職 員 で 特 別 点 検・維 持 管 理 、橋 面 舗 装 打 ち 替 え 等 の 修 繕 を 担 当 し て い る 。一 方 で 、橋 長 が 10m以 下 の 橋 梁 は 、地 方 事 務 所 が 点 検 と 維 持 管理を担当している。 3) 実 施 ( Do) DOHの 橋 梁 点 検 方 法 と し て 、 以 下 の 3 種 類 の 方 法 が 実 施 さ れ て い る 。 定 期 点 検 ( 橋 長 10m以 下 、 Routine Inspection) 地 域 事 務 所 の 職 員 が 2年 に 一 度 の 頻 度 で 全 て の 橋 梁 を 対 象 に 実 施 す る 。 点 検 の 方 法 は 、 橋 梁 の 全 景 写 真 を 3方 向 か ら 撮 影 し て BMMS (Bridge Maintenance and Management System)に 保 存 し 、 も し 損 傷 が あ れ ば そ の 程 度 を 確 認 し て BMMS に入力する。 定 期 点 検 ( 橋 長 10m以 上 、 Principle Inspection) Bureau of Bridge Construction の 傘 下 で 、 全 国 に 4 箇 所 あ る Bridge Construction and Rehabilitation Centerが 4~ 6年 に 一 度 の 頻 度 で 全 て の 橋 梁 を 134 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 対 象 に 実 施 す る 。点 検 の 方 法 は 、橋 脚 、上 部 工 、壁 高 欄 等 全 て の 部 材 の 写 真 を 撮 影 し て BMMSに 保 存 し 、も し 損 傷 が あ れ ば そ の 細 部 の 写 真 を BMMSに 保 存 す る と ともに損傷の程度についてのコメントも入力する。 特 別 点 検 ( Special Inspection) 洪 水 等 の 災 害 が 発 生 し た 後 に 、 被 害 を 受 け た 橋 梁 を 対 象 に Bureau of Bridge Constructionの 職 員 が 直 接 点 検 を 実 施 す る 。 ひ び 割 れ に つ い て は 、重 大 な も の だ け を ク ラ ッ ク ス ケ ー ル と 呼 ば れ る 専 用 定 規 を 使 用 し て 計 測 し て い る 。点 検 マ ニ ュ ア ル は 存 在 す る も の の 、実 際 に は 点 検 作 業 は 技 術 者 の 経 験 に 基 づ い て お り 、点 検 者 の 力 量 に よ り 個 人 差 が 生 じ や す い 。ま た 、 点 検 結 果 が 電 子 デ ー タ で 管 理 さ れ て お ら ず 、劣 化・損 傷 の 継 続 的 な 観 察 や 他 橋 と の 比 較 等 を 行 う こ と は 難 し く 、損 傷 傾 向 の 分 析 や 劣 化 予 測 も な さ れ て い な い の が 現状である。 4) 評 価 ( Check) DOHの Bureau of Research and Developmentで は 、 2008年 ご ろ よ り 橋 梁 の デ ー タ ベ ー ス 開 発 を 始 め た 。 そ の 後 2011 年 に 、 DOH の Bureau of Bridge Constructionが BMMS (Bridge Maintenance and Management System)の 開 発 を カ セ サ ー ト 大 学 に 委 託 し て 、 2012年 8月 に 完 成 し た 。 こ の シ ス テ ム は ウ ェ ブ 上 で 管 理 が 行 わ れ 、 GISに 対 応 し て お り 、 各 橋 梁 の 橋 梁 タ イ プ 、材 料 、建 設 年 、交 通 量 、道 路 の 重 要 性 等 の 情 報 を 整 理 す る こ と に よ り 健 全 度 を 判 定 し 、適 切 な 時 期 に 適 切 な コ ス ト で 補 修 す る こ と を 目 的 と し て い る 。ま た 最 近 で は 、 タ ブ レ ッ ト 端 末 か ら BMMS に ア ク セ ス し て デ ー タ の ダ ウ ン ロ ー ド や 更 新 等 が で き る 「 iBRIDGE」 が 外 部 コ ン サ ル タ ン ト 会 社 に よ っ て 開 発 さ れ 、 現 在 、 Bureau of Bridge Construction は 25 台 の タ ブ レ ッ ト 端 末 を 所 有 し て い る 。 BMMS へ の 入 力 項 目 と し て は 、 橋 梁 コ ー ド、橋梁名、架橋タイプ(河川橋、跨線橋 等)、架橋位置、路線名、幅員、上部工形 式等があり、これらの基本情報とともに写 真データや図面データを保存することがで きる。 BMMS は 、 ① Inventory 、 ② Inspection 、 ③ Evaluation/Analysis 、 ④ Prioritization/Budgeting、⑤ Output/Report、⑥ Data Administration、⑦ Help Menuの 7 つ の モ ジ ュ ー ル で 構 成 さ れ て い る 。 ① Inventoryに つ い て は 、 DOHの 研 究 開 発 局 ( Bureau of R&D) が 2008年 に 135 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 作成を開始した橋梁のデータベースを基にしている。 ② Inspection に つ い て は 、自 ら マ ニ ュ ア ル を 作 成 し 、DOH職 員 へ の 教 育 も 行 っ て い る 。 点 検 は DOHの 要 求 ・ 技 術 に 応 じ て カ ス タ マ イ ズ し て あ る 。 ③ Evaluation/Analysis に つ い て は 、 3つ の 評 価 を 実 施 し て い る 。 1つ 目 は 部 材 や 損 傷 の 形 態 に 即 し た 修 繕 方 法 と 費 用 、 2つ 目 は 残 存 寿 命 の 予 測 、 3つ 目 は 耐 荷 力 の 予 測 で あ る 。 DOHは 簡 便 な 方 法 に よ り 、 一 般 橋 梁 ( ス ラ ブ 橋 、 ボックスガーダー橋等)の寿命を評価している。斜張橋や高架橋は含まれ ていないが、現在研究中である。 ④ Prioritization/Budgetingに つ い て は 、 5つ の 要 素 か ら 算 定 し た ス コ ア を も と に 判 断 し て い る 。 5つ の 要 素 と は 、 1. 損 傷 度 、 2. 日 平 均 交 通 量 、 3. 道 路 ク ラ ス ( 1桁 か ら 4桁 ま で ) 、 4. 対 策 遅 延 に よ る 影 響 、 5. 橋 梁 の 価 値 で ある。橋梁の価値の基準は、歴史的橋梁、経済価値の高い橋梁、国際関係 の 面 か ら 通 行 止 め を 起 こ し て は な ら な い 橋 で あ り 、約 20 橋 梁 に 対 し て 、予 算 が 最 優 先 で 割 り 当 て ら れ る 。例 え ば 100ド ル の 予 算 を 4地 域 に 配 分 す る 際 、 80% は 多 少 の 凸 凹 は 許 容 し つ つ 各 地 域 に 配 分 さ れ 、 残 り 20% は 地 域 に 関 係 なく配分されるが、損傷があるところに優先的に配分される。 BMMS の デ ー タ は 本 来 、維 持 管 理 コ ス ト の 算 出 や 補 修 す る 橋 の 優 先 順 位 付 け 、 ま た 中 長 期 の 維 持 管 理 予 算 計 画 を 策 定 す る 際 に 活 用 で き る も の で あ る が 、点 検 や 健 全 度 評 価 を 行 う 職 員 の 数 や 知 識 が 不 足 し て い る た め 、 DOH が 管 理 す る 約 14,939橋 分 の 膨 大 な デ ー タ の 整 理 は 進 ん で い な い 。現 在 の デ ー タ 整 理 状 況 は 、約 5,000橋 の 橋 梁 基 本 情 報 入 力 と 現 場 写 真 の ア ッ プ デ ー ト が 完 了 し て い る も の の 、 残 り の 約 10,000橋 に つ い て は 橋 梁 名 等 一 部 の 基 本 情 報 が 入 力 で き た 段 階 で あ る 。 な お 、 2014年 7月 の 現 地 調 査 時 点 で は シ ス テ ム が 長 期 間 故 障 し て お り 、 シ ス テ ム の 維 持 管 理 能 力 に も 問 題 が あ る よ う で あ る 。BMMSを 今 後 十 分 に 活 用 し て い く た め に は 、職 員 の 点 検 技 術 の 向 上 、健 全 度 判 定 に 関 す る 分 析 技 術 の 向 上 、劣 化 予 測 能力の向上、組織能力強化等の改善をしていく必要がある。 5) 見 直 し ( Action) 予 算 申 請 は 単 年 ご と に 行 わ れ て い る が 、そ の プ ロ セ ス は 、地 域 事 務 所 の 職 員 に よ る 日 常 点 検 で 損 傷 箇 所 を リ ス ト ア ッ プ し て 本 局 へ 報 告 し 、本 局 が 優 先 順 位 付 け を 行 い 、次 年 度 の 予 算 申 請 を 行 っ て い る 。優 先 順 位 付 け は 現 場 写 真 を も と に 行 わ れ て お り 、補 修 に か か る 数 量 や 費 用 算 出 の 根 拠 と し て は 改 善 の 余 地 が あ る 。本 来 は 、BMMSの デ ー タ ベ ー ス を 活 用 し て 定 量 的 な 根 拠 を 基 に 予 算 申 請 を 行 う の が 基 本 で あ る が 、そ の 流 れ を 確 立 す る た め に は 、本 局 及 び 地 方 事 務 所 職 員 の 点 検 技 術 や分析技術の向上、組織能力強化を行う必要があり、時間がかかる。 136 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 橋梁の維持管理予算 6) 橋 梁 の 維 持 管 理 予 算 獲 得 の た め の 手 続 き フ ロ ー を 下 図 に 示 す 。通 常 点 検・維 持 管 理 の 場 合 と 災 害 時 等 異 常 時 点 検・維 持 管 理 の 場 合 と で は 、予 算 獲 得 ま で の 手 続 きは異なっている。 図 59 DOH の 橋 梁 維 持 管 理 予 算 獲 得 フ ロ ー 出 典:日 本 の 先 端 測 量 機 器 及 び 計 測 技 術 を 活 用 し た 構 造 物 の 3D維 持 管 理 手 法 普 及 に 係 る 案 件化調査 (4) アセットマネジメントの現状と課題 新 設 道 路 を 建 設 す る 際 に 、そ の 年 の 新 設 予 算 が 建 設 予 定 道 路 延 長 分 に 不 足 す る 場合に、アスファルトコンクリートの施工を2段階に分けた施工が行われてい る 。 例 え ば 厚 さ が 計 15cmの 舗 装 を 、 第 一 段 階 に 10cm、 第 二 段 階 に 5cmと し て 、 第 二 段 階 を 将 来 施 工 す る 計 画 と す る 。し か し 実 際 に は 、第 一 段 階 の み が 施 工 さ れ て 、第 二 段 階 は 行 わ れ な い ま ま と な る 問 題 が 発 生 し て い る 。こ の 道 路 建 設 単 価 が 実 績 値 と し て 認 識 さ れ た 結 果 、十 分 な 新 規 建 設 予 算 が 獲 得 で き な い 状 況 に な っ て いる可能性が推測される。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 要 と な る 工 学 的・経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 分 野 に お い て 、現 在 、点 検 の 強 化 、デ ー タ ベ ー ス の 強 化 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、長 寿 命 化 技術の研究や試行も行っている。それらの知識と技術の研修を定期的に実施し て 、職 員 の 維 持 管 理 技 術 能 力 の 向 上 と 意 識 改 善 に 努 力 し て い る 。予 防 保 全 予 算 の 比率が増加しているのは、その効果によるところがある。 実 務 レ ベ ル で は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 重 要 性 を よ く 理 解 し 、か な り の 努 力 を 行 っ て い る た め 、こ れ を 支 援 す る た め の 仕 組 み 、例 え ば 長 寿 命 化 を 推 進 す る 上 位 計画を設けること等が重要である。 137 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.4.3 JICA 国際航業 運 輸 省 地 方 道 路 局 (DRR) (1) 概要 1) 施設概要 DRR( Department of Rural Roads) は 主 に タ イ 国 全 土 の 地 方 道 路 ネ ッ ト ワ ー ク の 建 設 及 び 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。DRRが 維 持 管 理 を し て い る 道 路 の 総 延 長 は 約 40,000km、 構 造 物 の 数 は 約 8,000( う ち 橋 梁 は 約 4,100橋 、 残 り は ボ ッ ク ス カ ル バ ー ト 等 )あ り 、橋 梁 に つ い て は 地 方 部 の み な ら ず 、バ ン コ ク 都 内 の チ ャ オプラヤ川に架かる橋も管理している。 2) 実施体制 DRRは 本 局 、 18の 地 方 局 ( Regional Bureau) 、 76の 地 方 事 務 所 ( Provincial Office) で 構 成 さ れ て お り 、 地 方 事 務 所 の 下 に 376の 出 張 所 を 設 け る 組 織 拡 充 を 開 始 し て い る 。日 常 管 理( Daily Inspection, Routine Maintenance)の た め の 現 場 到 達 時 間 を 2時 間 以 内 と す る こ と を 目 的 と し た も の で あ り 、 既 に 81の 出 張 所 が 設立されている。 DRRの 組 織 は 、 局 長 (Director General)の 下 に 3名 の 副 局 長 (Deputy Director General)と 1名 の 技 師 長 (Chief Engineer)が い る 。加 え て 、本 局 に は 12の 部 と 1つ の セ ン タ ー 、 3つ の 室 が 設 置 さ れ て い る 。 地 方 局 と 地 方 事 務 所 に は 、計 1,600名 の 正 職 員 、計 1,800名 の 契 約 職 員 が 所 属 し ており、出張所の拡充とともに職員数の増大が計画されている。 DRRの 役 割 は 、地 方 道 の 建 設 、管 理 、ネ ッ ト ワ ー ク 確 保 に 加 え 、標 準 図 面 、仕 様 書 、点 検・評 価 マ ニ ュ ア ル 等 、計 画 か ら 維 持 管 理 ま で の 地 方 自 治 体 の 教 育 で あ り 、具 体 的 に は 地 方 事 務 所 に 地 方 自 治 体 の 職 員 を 招 い て 研 修 を 実 施 し た り 、DRR 職員が地方自治体に出向いて指導したりしている。 バ ン コ ク 都 内 の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、本 局 に あ る 橋 梁 建 設 部( Bureau of Bridge Construction) 及 び 維 持 管 理 部 ( Bureau of Road Maintenance) が 担 当 し て お り 、 地 方 部 の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 18の 地 方 局 ( Bureau of Rural Road 1-18) が 担 当 し て い る 。 3) 財務状況 2012年 の 予 算 の 配 分 額 は 、29,597百 万 バ ー ツ で そ の う ち 維 持 管 理 費 は 道 路・橋 梁 あ わ せ て 13,500百 万 バ ー ツ ( 約 337.5億 円 ) で あ っ た 。 こ れ は 、 予 算 要 求 額 の 約 20%と の こ と で 、 内 訳 は 以 下 の 通 り で あ る 。 ・ Routine ( 47,436km) 2,555百 万 バ ー ツ (63.9億 円 ) ・ Periodica (830 km) 2,135百 万 バ ー ツ (53.4億 円 ) ・ Special (410 km) 1,722百 万 バ ー ツ (43.1億 円 ) 138 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ・ Emergency 80百 万 バ ー ツ (2.8億 円 ) ・ Survey & Inspection 126百 万 バ ー ツ (31.5億 円 ) DRRの 予 算 は 2013年 が 33,951百 万 バ ー ツ 、 2014年 が 38,045百 万 バ ー ツ 、 2015 年 の 予 算 は 40,597百 万 バ ー ツ と 純 増 し て い る 。 2015年 の 維 持 管 理 費 用 は 21,256 百 万 バ ー ツ と 予 算 全 体 の 53%を 占 め て お り 、 維 持 管 理 費 用 は 増 加 傾 向 に あ る 。 Regional Central 図 60 DRRの 組 織 図 139 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) 舗装 1) 計 画 ( Plan) JICA 国際航業 本 局 で は 期 間 3年 の 中 期 計 画 と 年 次 計 画 を 作 成 し て い る 。地 方 局 で は 3年 間 の 中 期 計 画 を 作 成 し て い る 他 、出 張 所 毎 に 年 間 計 画 、四 半 期 計 画 、月 間 計 画 、週 間 計 画を作成している。 DRRで は 、予 算 計 画・予 算 配 分 の ツ ー ル と し て PMMS( Pavement Maintenance Management System)と 呼 ば れ る PMSを 2005年 に 導 入 し た 。DRRは 多 く の 種 類 の 道 路 を 管 理 し て い る た め 、PMMSは パ ラ メ ー タ 、入 力 デ ー タ 、最 適 化 の 方 法 も DOHが 使 用 し て い る TPMSと は 異 な っ て い る 。便 益 の 算 定 に も 人 口 や 地 域 の 状 況 も加味する必要がある。 PMMSは 、 WEBベ ー ス の ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 7 つ の モ ジ ュ ー ル か ら 構 成 さ れ ている。 Road Inventory Module( 道 路 イ ン ベ ン ト リ ー モ ジ ュ ー ル ) Road Condition Database( 道 路 コ ン デ ィ シ ョ ン デ ー タ ベ ー ス ) Treatment Strategy Analysis Module.( 補 修 戦 略 分 析 モ ジ ュ ー ル ) Budget and Cost Database( 予 算 ・ 費 用 デ ー タ ベ ー ス ) Prioritization Analysis Module( 優 先 順 位 分 析 モ ジ ュ ー ル ) Maintenance History Database( 補 修 履 歴 デ ー タ ベ ー ス ) Presentation and Reporting Module( プ レ ゼ ン ・ レ ポ ー ト モ ジ ュ ー ル ) し か し な が ら 、ま だ 予 算 案 作 成 に こ の シ ス テ ム は 活 用 さ れ て お ら ず 、現 在 は デ ータの蓄積とその活用方法を研究している段階である。 現 在 行 わ れ て い る 予 算 案 の 作 成 方 法 は 、実 際 に 道 路 建 設 と 維 持 管 理 業 務 を 実 施 し て い る 各 出 張 所 が 次 年 度 予 算 案 を 作 成 し 、そ れ を 地 方 局 へ 提 出 す る 。地 方 局 で は 各 出 張 所 か ら 提 出 さ れ た 予 算 案 を 審 査・調 整 し て 地 方 局 の 予 算 案 を 作 成 し 、本 部 へ 提 出 す る 。本 部 は 各 地 方 局 か ら 提 出 さ れ た 予 算 案 と 、本 部 部 署 か ら 提 出 さ れ た 予 算 案 等 、全 て の 予 算 案 を 審 査 し 調 整 し た う え で DRR全 体 予 算 案 を 作 成 し 、運 輸 省( MOT) へ 提 出 す る 。 MOTが DRRの 予 算 を 決 め た 後 に 、 DRRは 各 本 部 部 署 と各地方局の最終予算を決め、地方局は各出張所の予算を決める。 道 路 建 設 予 算 は 毎 年 少 し ず つ 増 加 し て い る が 、維 持 管 理 予 算 は ほ と ん ど 増 加 し て お ら ず 、現 状 の 2倍 く ら い 必 要 で あ る と バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 長 は 言 っ て い る 。 維 持 管 理 予 算 は 、 Routine、 Periodic、 Special、 Emergency Maintenanceの 4 つ に 分 か れ て い る 。Routine Maintenance予 算 は 日 常 業 務 の 点 検・維 持 管 理 に 充 て ら れ 、Periodic Maintenanceは 舗 装 の オ ー バ ー レ イ 工 事 等 主 に 外 注 で 行 う 予 算 で あ る 。 Special Maintenance は 更 新 等 の 大 規 模 な 工 事 で あ る 。 Routine Maintennace予 算 は 管 理 道 路 延 長 当 た り の 単 価 が 決 ま っ て お り 、 現 在 は 2車 線 道 路 1km当 た り が 30,000バ ー ツ で あ る 。Periodic Maintenance予 算 は 、各 出 張 所 が 140 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 個 別 に 積 算 を し て 予 算 案 を 作 成 し 、本 部 へ 申 請 す る 。本 部 は 、通 常 は 申 請 受 理 後 に 、根 拠 と し て 舗 装 の ベ ン ケ ル マ ン ビ ー ム 調 査 の 実 施 を 求 め 、地 方 局 ま た は 出 張 所 が 調 査 し た 結 果 報 告 を も と に 予 算 を 承 認 す る 。な お 、プ ロ ジ ェ ク ト ご と の 積 算 に は 、 PMSデ ー タ ベ ー ス を 用 い て い る 。 図 61 ベンケルマンビーム調査例 出 典 : DRR 2) 実 施 ( Do) 点検と維持管理は本部と地方局が下記の通り役割分担をして行っている。 作業項目 担当部署 路面性状調査 本局 路面性状調査データベース管理 本局 舗装の点検と維持管理 地方局 バンコク都内の大規模橋梁点検・維持管理 本局 一般的橋梁の点検・維持管理 地方局 DRRで は 、チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 と の 共 同 に よ り 、独 自 の 路 面 性 状 調 査 車( Rosy Car : Road Survey Car) を 開 発 し 運 用 し て い る 。 Rosy Carに は 、 舗 装 路 面 を 撮 影 す る カ メ ラ 、GPS等 の 機 材 を 搭 載 し 、平 坦 性( IRI値 )の 計 測 を 実 施 し て い る 。 現 在 、 DRRで は 5台 の Rosy Carを 保 有 し て お り 、 さ ら に 次 年 度 、 3台 を 開 発 す る 予 定 と し て い る 。し か し 、ま だ 十 分 な デ ー タ が 取 得 で き て い な い た め 、実 用 段 階 に達していない 141 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 62 JICA 国際航業 開 発 し た 路 面 性 状 調 査 車 ( Rosy Car) 出 典 : DRR 評 価 ( Check) 3) 道 路 維 持 管 理 に 関 し て 3 つ の シ ス テ ム ( PMMS : Pavement Maintenance Management System、 RMMS: Routine Maintenance Management System、 CRD: Central Road Database) が 稼 働 し て い る 。 橋 梁 に つ い て は 、 JICAの 支 援 に よ り BMSが 2013年 に 構 築 さ れ て お り 、 そ の 際 に 、整 合 性 の あ る 点 検 デ ー タ を 取 れ る よ う に 、点 検 マ ニ ュ ア ル の 整 備 や 職 員 の 訓 練 等 が 行 わ れ て い る 。 そ の 後 、 DRRは コ ン サ ル タ ン ト へ 委 託 し て 、 2,000橋 梁 の 点 検 を 行 っ て 、点 検 デ ー タ を BMSへ 保 存 し て い る 。点 検 は 目 視 に よ る 簡 単 な も の で 、 委 託 費 は 7,000バ ー ツ / 橋 梁 で 、 計 14百 万 バ ー ツ で あ っ た 。 残 り の 約 6,000 の 橋 梁 の 点 検 は 、DRRの 地 方 局 が 3年 以 内 に 完 了 さ せ 、点 検 デ ー タ を BMSに 入 力 する計画である。 な お 、DRR は 全 体 会 議 を 毎 週 行 っ て お り 、地 方 局 長 も TV 会 議 で 参 加 し て い る 。 (3) 地方局のマネジメント バンコク都内の地方局を調査した結果を記載する。 1) 施設概要と実施体制 管 轄 区 域 内 の 道 路 延 長 は 、2車 線 道 路 と し て 約 16,000kmで 、そ の う ち の 90%以 上 が ア ス フ ァ ル ト 舗 装 で 、約 10%が コ ン ク リ ー ト 舗 装 、40~50kmが ラ テ ラ イ ト 道 路 で あ る 。 コ ン ク リ ー ト 舗 装 の 施 工 単 価 は ア ス フ ァ ル ト 舗 装 の 2倍 く ら い で あ る が 、コ ミ ュ ニ テ ィ 道 路 等 は 維 持 管 理 が 難 し い た め 、高 価 だ が 維 持 管 理 が 不 要 で 耐 用年数の長いコンクリート舗装を採用する場合が多い。 142 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 各 出 張 所 の 職 員 数 は 、 正 職 員 ( permanent staff ) が 10 ~ 20 名 、 契 約 社 員 ( temporary staff)が 10~ 20名 、日 雇 い 労 働 者( casual worker)が 10~ 20名 と 、 計 40~ 50名 で あ る 。 地 方 局 事 務 所 の 職 員 数 は 約 50名 で あ る た め 、 地 方 局 No.1全 体 の 職 員 数 は 約 300名 で あ る 。出 張 所 の 職 員 の 役 割 分 担 は 特 に な く 、一 人 が 建 設 、 点 検 、維 持 管 理 等 あ ら ゆ る 作 業 を 行 っ て い る 。各 出 張 所 は 建 設 機 材 や 車 両 も 所 有 している。 2) 計 画 ( Plan) 計 画 は 、 3年 間 の 中 期 計 画 を 作 成 し て い る 他 、 出 張 所 毎 に 年 間 計 画 、 四 半 期 計 画、月間計画、週間計画を作成している。 3) 実 施 ( Do) 【点検・維持管理】 各 出 張 所 は 、作 業 員 が 所 有 す る 機 材 を 使 っ て 、道 路 の 建 設 及 び 点 検・維 持 管 理 を 行 っ て い る 。地 方 局 内 で 共 通 の 道 路 点 検 シ ー ト と 橋 梁 点 検 シ ー ト を 使 用 し て い る が 、 DRRで は 2014年 8月 1日 か ら 道 路 点 検 用 に タ ブ レ ッ ト の 試 行 を 開 始 し た た め 、 バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 で 現 在 は 道 路 点 検 シ ー ト を 使 用 し て な い 。 PMMS の デ ー タ ベ ー ス (CRD: Central Road Database)に 点 検 デ ー タ を 入 力 す る の は 各 地 方局と出張所の役割である。 PMSの ホ ー ム ペ ー ジ 現地写真が保存され閲覧できる。 橋 梁 点 検 に つ い て は 、地 方 局 が 点 検 シ ー ト を 使 っ て 点 検 し 、デ ー タ 管 理 を し て お り 、 異 常 が 認 め ら れ た 場 合 の み 本 部 へ 連 絡 し て い る 。 JICAが 作 成 し た BMSは 本 部 の 部 署 が 直 接 管 理 し て い る た め 、バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 で は 使 用 で き る よ う に な っ て お ら ず 、そ の 存 在 も 知 ら れ て い な か っ た 。つ ま り 、橋 梁 点 検 に つ い て は 、 従来の方法から新しい方法への過渡期にあると思われる。 143 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 【調査・設計・データベース】 バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 に あ る 調 査 設 計 室 に は 、 正 社 員 2名 と 契 約 社 員 4名 が 勤 務 し て お り 、6名 全 員 が PMMSと AUTO CADを 使 用 で き る 。こ こ で は 、PMMSに 保 存 さ れ て い る 道 路 区 間 長 、履 歴 デ ー タ 、交 通 量 デ ー タ 、状 況 写 真 、現 地 調 査 状 況 説 明 等 の デ ー タ を 参 照 し て 、現 地 測 量 、交 通 量 調 査 、設 計 、積 算 、発 注 図 書 作 成 、道 路 に 損 傷 が 発 生 し た 際 の 瑕 疵 の 確 認 等 の 業 務 を 行 っ て い る 。こ の 調 査 設 計 室 が 地 方 道 路 局 内 の 工 事 の 発 注 図 書 を 作 成 し な が ら 、履 歴 デ ー タ 管 理 及 び 図 面 の 更 新 も 確 実 に 行 っ て い る 。な お 、図 面 は 、CADで 図 面 作 成 す る よ う に な っ て か ら は電子データで、それ以前の多くの図面は紙で保管している。 PMMSは GISで は な く 、 シ ン プ ル な デ ー タ ベ ー ス で あ り 、 出 張 所 で も 日 常 的 に 日 常 業 務 に 十 分 に 活 用 さ れ て い る 。PMMSは CRDに 組 み 込 ま れ て お り 、利 用 す る 際 に は CRDに ロ グ イ ン し て か ら PMMSに 入 る よ う に な っ て い る 。出 張 所 で ア ク セ スできるデータは管轄管内のデータのみと制限されている。 評 価 ( Check) 4) 地 方 局 で は 毎 月 、 技 術 会 議 と 総 務 会 議 の 2種 類 の 会 議 を 行 っ て い る 。 技 術 会 議 は 、各 出 張 所 の 責 任 者 が 地 方 局 に 集 ま っ て 、進 捗 報 告 を 行 い 、問 題 や 対 策 等 に つ い て 議 論 し 、計 画 通 り に 進 捗 す る よ う 調 整 し て い る 。年 間 計 画 表 に は 、毎 月 の 計 画 目 標 値 と し て 工 事 延 長 ( km) と 金 額 が 記 載 さ れ 、 そ こ に 毎 月 の 進 捗 を 記 載 し て、累計進捗を折れ線グラフで描いて、乖離をモニタリングしている。 一 方 、総 務 会 議 は 、会 場 を 各 出 張 所 持 ち 回 り で 行 っ て お り 、各 出 張 所 の 担 当 者 が他の出張所の運営方法を実際に見られるようにしている。 (4) 橋梁 2002年 に DRRが 設 立 さ れ て 以 来 、 バ ン コ ク 都 内 の 橋 梁 の 建 設 は バ ン コ ク 都 が 行 い 、中 央 政 府( 運 輸 省 )は 建 設 費 の 負 担( 40%)の み を 行 う こ と に な っ て い る 。 従 っ て 、DRRの 業 務 と し て は 、バ ン コ ク 首 都 圏 で は 既 設 橋 梁 の 維 持 管 理 と バ ン コ ク 都 外 の DRR管 轄 橋 梁 の 建 設 と 維 持 管 理 を 担 当 す る こ と に な っ て い る 。 DRRに は 橋 梁 維 持 管 理 に 関 す る マ ニ ュ ア ル が 複 数 存 在 し 、 混 乱 し て い た が 、 JICAの 技 術 協 力 に よ っ て 整 理 さ れ て 、 現 在 は そ れ が 使 用 さ れ て い る 。 維 持 管 理 部 に は 、管 理 、計 画 、維 持 管 理 シ ス テ ム 、道 路 維 持 管 理 と 橋 梁 維 持 管 理 の グ ル ー プ が あ る 。 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 架 橋 の う ち 鋼 ト ラ ス 橋 3橋 、 PC箱 桁 橋 7橋 に つ い て は 、維 持 管 理 部 に 属 す る 課 が 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。一 方 、斜 張 橋 に つ い て は 、 橋 梁 建 設 部 ( Bureau of Bridge Construction) の 担 当 課 が 維 持 管 理 を 行 な っ て い る 。 さ ら に 橋 梁 建 設 部 に は 地 方 橋 の 点 検 を 担 当 す る 課 ( Bridge Inspection Division) が 置 か れ て い る 。 144 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (5) 日本の技術協力 1) タ イ 国 橋 梁 維 持 管 理 計 画 調 査 ( チ ャ オ プ ラ ヤ 川 架 橋 ) ( 2011年 ) JICA 国際航業 JICAの 技 術 協 力 と し て 、 下 記 の プ ロ ジ ェ ク ト が 実 施 さ れ た 。 ① DRRが 所 管 す る チ ャ オ プ ラ ヤ 川 12橋 の 点 検 と そ の 健 全 性 の 把 握 ② チ ャ オ プ ラ ヤ 川 12橋 の 維 持 管 理 計 画 の 策 定 ③ DRRの 橋 梁 維 持 管 理 体 制 の 提 案 ④ 維持管理能力の技術移転 タイ国地方における橋梁基本計画作成・橋梁維持管理能力プロジェクト 2) ( 2013年 ) JICAの 技 術 協 力 と し て 、 下 記 の プ ロ ジ ェ ク ト が 実 施 さ れ た 。 ① DRR が 管 理 す る 8,000 橋 の 橋 梁 点 検 計 画 の 作 成 及 び 橋 梁 点 検 パ イ ロ ッ ト プロジェクトの実施 ② 橋 梁 維 持 管 理 シ ス テ ム ( Bridge Maintenance Management System、 以 下 BMMS) の 整 備 支 援 ③ セミナー、ワークショップ及びトレーニングの実施 ④ (6) DRR が 作 成 し た 橋 梁 整 備 基 本 計 画 の レ ビ ュ ー 及 び 助 言 の と り ま と め アセットマネジメントの現状と課題 DRR と DOH は ほ ぼ 同 じ 状 況 に あ る 。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 要 と な る 工 学 的・経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 分 野 に お い て 、現 在 、点 検 の 強 化 、デ ー タ ベ ー ス の 強 化 に 取 り 組 ん で い る 。そ れ が あ る 程 度 、整 備・強 化 さ れ て 、デ ー タ の 精 度 が 確 保 さ れ た 後 に 、 LCC分 析 等 の 経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 強 化 に 取 組 め る 状 況 に 至 る 。 DRRで は 経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト へ 進 む 段 階 に 来 て い る こ と を 認 識 し て お り 、 そのための技術支援を要望している。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト で 重 要 な 長 期 的 視 点 で の マ ネ ジ メ ン ト に つ い て は 、そ れ ら の 強 化 の 成 果 が あ る 程 度 現 れ る こ と と 、組 織 全 体 の 企 画 機 能 の 強 化 等 が 必 要 で ある。 145 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.4.4 JICA 国際航業 タ イ 高 速 道 路 公 社 (EXAT) (1) 概要 1) 施設概要 タ イ 高 速 道 路 公 社 (EXAT: Expressway Authority of Thailand) は バ ン コ ク 首 都 圏 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 の 建 設 及 び 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。2012年 時 点 で 全 8路 線 、 総 延 長 207.9kmの 高 速 道 路 を 運 営 し て い る 。 8 路 線 の う ち 2 路 線 は 民 間 会 社 の バ ン コ ク 高 速 道 路 株 式 会 社 (BECL社 )と バ ン コ ク 北 部 高 速 道 路 株 式 会 社 (NECL社 )が BTO( Build-Transfer-Operate) 方 式 契 約 に 基 づ い て 、 運 営 ・ 管 理 を 行 っ て い る 。 従 っ て 、 EXATが 直 接 維 持 管 理 し て い る の は 137.9kmで 、 BECL 社 と NECL社 が そ れ ぞ れ 38.4km、 32kmを 維 持 管 理 し て い る 。 Legend: Name of Expressw ay Chaloem Maha Nakhon Expressway Si Rat Expressway Chalong Rat Expressway Burapha Withi Expressway Udon Ratthaya Expressway Third stage expressway System, S1 section Bang Phli – Suk Sawat Expressway Ramindra – Outer Ring Road Expressway 図 63 EXATの 管 轄 す る 高 速 道 路 出 典 : OpenStreetMap image 146 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 47 3b 4 5 6 7 8 9 EXATの 管 轄 す る 高 速 道 路 一 覧 道路名 No 1 1a 1b 1c 2 2a 2b 2c 2d 3 3a JICA 国際航業 供用開始 年 道路延長 (km) 1981 1983 1987 8.9 7.9 10.3 EXAT EXAT EXAT 1993 1996 1993 2000 12.4 9.4 8.0 8.6 BECL 社 BECL 社 BECL 社 BECL 社 1996 18.7 EXAT 2009 9.5 EXAT 2000 1999 2005 2007 55.0 32.0 4.7 22.5 EXAT NECL 社 EXAT The Chaloem Maha Nakhon Expressway Din Daeng Port section Bang Na port section Dao Kanong port section The Si Rat Expressway Ratchadapisek road passing Phayathai interchange and RamaIX road Payathai interchange to Chaloem Maha Nakhon expressway Rathcadapisek road to Chaeong Watthana road Rama IX road to Sri Nagarindra road The Chalong Rat Expressway Ram Inthra at KM 5.5 to Narong Ram Inthra road linking to Outer ring road connecting to Chalong Rat expressway The Burapha Withi expressway The Udon Ratthaya Expressway The Bang Na-At Narong Expressway The Bang Phli-Suk Sawat Expressay The Access Road links Bang Phlisuk Sawat Expressway to Burapha Withi Expressway and Outer Bangkok Ring Road The Elevated Access Road in the South of Suvanabhuri Airport link with the Burapha Withi Expressway Total road length owned by EXAT Total road length maintained by EXAT 維持管理 組織 207.9 137.5 出 典 : EXAT資 料 よ り 調 査 団 作 成 高 速 道 路 を 供 用 年 数 別 に 見 る と 、 供 用 開 始 か ら 30 年 以 上 の も の が 16.8km ( 8%)、20年 か ら 30年 が 27.1km( 13%)、10年 か ら 20年 が 124km( 61%)、10 年 以 下 が 36.7km( 18%) と な っ て お り 、 全 体 的 に 新 し い 施 設 で あ る 。 単 位 : km 図 64 EXATの 道 路 の 供 用 年 数 別 分 類 出典:調査団作成 高 速 道 路 の 構 造 は 、 ほ と ん ど が PCコ ン ク リ ー ト 構 造 の 高 架 橋 で あ り 、 一 部 が 盛 り 土 構 造 で 、 そ の 他 に 下 記 に 記 す 2つ の 長 大 橋 が あ る 。 147 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 48 JICA 国際航業 EXATの 管 轄 す る 長 大 橋 一 覧 橋名 Rama 9 Bridge Kanjanapisek Bridge 構造形式 斜張橋 斜張橋 川名 Chao Phraya川 Chao Phraya川 車線数 3車 線 ×2 4車 線 ×2 橋長 781.20 m 941m 幅 33m 36.7m 高さ 87m 187.6m 最長スパン 450m 500m クリアランス 41m 供用開始年 1987 2) 2007 実施体制 維 持 管 理 局 ( Maintenance Department) の 中 に 、 下 記 の 4 つ の 部 が あ る 。 Expressway maintenance division Building and general property maintenance division Equipment maintenance division Equipment and mechanical equipment and vehicle division 上 記 の 道 路 維 持 管 理 部 ( Expressway maintenance division) が 、 主 要 な 道 路 施設の点検・維持管理を行っているが、その主な作業分担を次表に示す。 表 49 道路維持管理部内の組織の役割分担 名称 維持管理計画課 点検・維持管理課1 英語名称 担当作業 Maintenance Planning 高架橋の下部構造の点検・維 Section 持管理 Inspection and 上部構造の点検・維持管理 Maintenance Section 1 点検・維持管理課2 上部構造の点検・維持管理 Inspection and Maintenance Section 2 橋梁維持管理課 Bridge Maintenance Section 148 橋梁の点検・維持管理 149 図 65 EXAT組 織 図 出 典 : EXAT Annual Report 2013 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 3) JICA 国際航業 財務状況 高 速 道 路 の 利 用 者 数 は 、 営 業 距 離 が 一 定 で あ る に も 関 わ ら ず 、 5%以 上 の 伸 び 率で年々増えており、売上げの伸びにつながっている。 表 50 高速道路延長と利用者数の推移 2009 2010 Total service covering length (km) 207.9 207.9 207.9 207.9 207.9 Traffic Volume (milion trips /day) 1.24 1.31 1.42 1.52 1.61 11.7% 5.9% 8.1% 7.4% 6.1% Trips Increase from last year 2011 2012 2013 出 典 : EXAT Annual Report 2013 そ の 結 果 、 EXATの 収 入 は 年 々 増 加 し て お り 、 そ れ に 伴 い 純 利 益 も 増 加 し 、 利 益 率 も 向 上 し て お り 、 2013年 の 利 益 率 は 45%に 達 し て い る 。 表 51 Item EXATの 損 益 計 算 書 ( 2008~2013年 ) 単位:百万バーツ 2,008 2,009 2,010 2,011 2,012 2,013 Total Revenue 6,036 7,600 8,918 12,096 12,902 14,516 Total Expense 4,794 5,038 5,832 6,575 7,059 7,927 Net Profit 1,242 2,561 3,086 5,521 5,842 6,589 21% 34% 35% 46% 45% 45% Net Profit/Revenue 出 典 : EXAT Annual Report 2013 EXATの 資 産 の ほ と ん ど が 有 形 固 定 資 産 で 、 そ の 内 訳 は 2013年 9月 現 在 、 土 地 と 構 造 物 で ほ ぼ 半 分 ず つ で あ る 。負 債 の 返 済 が 順 調 に 進 み 負 債 が 減 少 し て い く 一 方、毎年利益が蓄えられ自己資本は順調に増加している。 表 52 Item Current Assets EXATの 貸 借 対 照 表 ( 2008~2013年 ) 単位:百万バーツ 2008 2009 2010 2011 2012 2013 6,684.97 6,744.44 8,200.18 9,316.92 7,968.78 6,776.81 Fixed Assets Other Assets 162,825.99 17,092.10 166,632.26 16,091.91 167,209.37 14,484.90 170,692.78 5,599.77 170,315.97 4,944.47 170,612.68 4,353.97 Total Assets 186,603.06 189,468.61 189,894.45 185,609.47 183,229.22 181,743.46 Total Liabilities Total Equity 103,849.75 82,753.31 97,037.31 92,431.30 91,615.76 98,278.69 94,413.00 91,196.47 87,696.93 95,532.29 79,800.42 101,943.04 Total Liabilities & Equity 186,603.06 189,468.61 189,894.45 185,609.47 183,229.22 181,743.46 出 典 : EXAT Annual Report 2013 150 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 53 JICA 国際航業 有 形 固 定 資 産 の 内 訳 ( 2013年 9月 末 現 在 ) 単位:百万バーツ Item Cost Land Accumulated Net book Depreciation depreciation value period 79,889.97 - 79,889.97 - 108,630.11 20,995.03 87,635.08 75 years Building 1,802.17 681.65 1,120.52 5-40 years Office tools 1,261.72 906.83 354.89 5 years Engineering equipment 129.98 92.45 37.53 5 years Vehicles 739.32 477.27 262.05 5-15 years 192,453.27 23,153.23 169,300.04 Expressway Total 出 典 : EXAT Annual Report 2013 上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分 析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 45%と 収 益 力 は 高 い 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 68は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 38%で 、過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 4割 程 度 の 水 準 で 資 金 を 確 保 で き て い る 状 況 で あ る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の う ち 償 却 し て い る の は 12%で あ る 。69こ れ は 、取 得 費 用 の 約 4割 が 土 地 で 、 高 速 道 路 は 償 却 期 間 が 75年 と 長 い こ と も あ る が 、多 く の 施 設 は ま だ 比 較 的 若 い 状 態であると考えられる。 表 54 評価項目 主な財務指標 評価指標 2013 収益力 売上高利益率 45% 更新費用確保 更新投資充当可能資金対減価償却 累計額比率 38% 老朽化度合い 有形固定資産減価償却率 12% 以 上 の 考 察 よ り 、 EXATの 収 益 力 は 高 く 、 老 朽 化 も ま だ 先 で あ り 、 更 新 費 用 の 確保状況も大きな問題がある状況ではないと考えられる。 維 持 管 理 関 連 の 費 用 を 見 る と 、維 持 管 理 関 連 予 算 は 毎 年 増 加 し て お り 、全 支 出 の 8-9%を 占 め て い る 。 申 請 通 り の 金 額 を 配 分 さ れ て い る と の こ と で あ る 。 68 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累 計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、 2013年 に 38%で あ る 。 69 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却 対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 12%で あ る 。 151 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 55 JICA 国際航業 維 持 管 理 費 予 算 の 推 移 ( 2011年 ~2015年 ) 単位:百万バーツ Item Maintenance, Labor cost Civil work Maintenance, Labor cost Maintenance, Expense Civil work Maintenance, Expense Total Maintenance Budget Total Expenditure Maintenance cost / Total expenditure (%) 2011 209 41 290 21 499 6,575 8% 2012 2013 237 41 374 33 611 ni 7,059 7,927 9% 2014 294 53 467 26 761 9,237 8% 2015 304 53 532 37 836 9,413 9% 出 典 : EXAT EXATの 収 入 と 支 出 の 計 画 は 以 下 の 通 り で 、収 入 は 、実 績 通 り 利 用 者 が 毎 年 4% ず つ 増 加 す る と 想 定 し 、 支 出 は 3%ず つ 増 加 す る と 想 定 し て い る 。 表 56 EXATの 収 入 と 支 出 計 画 単位:百万バーツ Item Total Revenue Total Expenditure Net Profit Net Profit/Revenue 2015 15,826 9,413 6,414 41% 2016 16,390 9,658 6,732 41% 2017 16,851 9,945 6,905 41% 2018 17,288 10,236 7,053 41% 出 典 : EXAT 152 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) 実 施 ( Do) 1) 点検 JICA 国際航業 EXAT は 点 検 作 業 を 3 種 類 ( Daily Inspection, Routine Inspection, Special Inspection) に 分 類 し て 、 実 施 し て い る 。 Daily Inspection 路 面 の 継 目 の 変 形 、擁 壁 の ク ラ ッ ク 、鋼 製 レ ー ル の 歪 み 、信 号 機 、電 光 掲 示 板 、 料 金 徴 収 機 の 機 能 不 全 、 緊 急 電 話 、 CCTVカ メ ラ 等 を 毎 日 点 検 す る 。 点 検・維 持 管 理 課 は 2 チ ー ム に 分 か れ て 、専 用 車 両 で 1日 10kmの ペ ー ス で 上 部 構 造( 舗 装 、パ ラ ペ ッ ト 等 )の Daily Inspection を 行 っ て い る 。Inspection forms、 Measurement tape、Spray paint、Digital Camera、Skid resistance、Vehicles 等の道具も使用している。 図 66 日常点検に使用する機材 出 典 : EXAT Routine Inspection コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 破 損 や ク ラ ッ ク 、鋼 製 ナ ッ ト の 締 付 け 状 態 、鋼 製 構 造 材 料 等 の 主 要 構 造 物 の 点 検 、ラ マ 9 世 橋 の ワ イ ヤ ー メ ッ シ ュ の 点 検 、交 通 標 識 の 劣 化 、 反 射 板 、 変 圧 器 、 電 気 設 備 、 料 金 徴 収 機 器 、 CCTVカ メ ラ シ ス テ ム 等 を 、 年 間計画に従って実施する。 維 持 管 理 計 画 課 が 、 徒 歩 で 双 眼 鏡 を 用 い な が ら 、 1日 1kmの ペ ー ス で 下 部 構 造 153 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 の Routine Inspectionを 行 っ て い る 。 Inspection forms、 Measurement tape、 Digital Camera、 Binoculars、 Vehicles、 Snooper、 Lighting、 Hammer等 の 道 具も使用している。 図 67 定期点検の年間計画シート 出 典 : EXAT Special Inspection Daily若 し く は Routine Inspectionで 損 傷 が 発 見 さ れ た 場 合 は 、超 音 波 測 定 、す べ り 抵 抗 値 計 測 、地 中 レ ー ダ ー 探 査 等 を 用 い た Special Inspectionを 行 い 、損 傷 要 因 、強 度 、安 定 性 等 を 調 査 す る こ と と な っ て い る 。こ れ で は 、Daily Inspection や Routine Inspectionで は 用 い な い 精 度 の 高 い 方 法 で 、 道 路 構 造 物 を 下 記 に つ い て点検する。 炭化試験法を用いてコンクリート構造物のアルカリ度の試験 腐食度試験 ウルトラソニック法を用いて破断状況点検 滑り抵抗試験 地中レーダーを用いた空隙状況の点検 ラマ9世橋の強度試験 154 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 地中レーダー 図 68 特別点検に使用する機材 出 典 : EXAT 図 69 高架橋基礎の点検状況 出 典 : EXAT 155 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 維持管理と補修 維 持 管 理 と 補 修 は 次 の 3分 類 で 行 っ て い る 。 定期メンテナンスとして、実施工程に従って、交通標識の清掃、道路 標 識 、表 面 排 水 シ ス テ ム 、照 明 、道 路 標 識 の 変 更 、鋼 製 レ ー ル の 塗 装 、 簡易な補修を行う。 実際に損傷が生じた際には、事後メンテナンスとして、 路面の修理、 路面の継目の修理、擁壁の継目の修理、コンクリート構造物のクラッ クの補修、電球の交換、電線の修理、料金徴収機器の修理、緊急電話 シ ス テ ム の 修 理 、 道 路 情 報 掲 示 板 VMS(Variable message sign) 交通事故、火災、化学薬品事故等による損傷事故については、緊急メ ン テ ナ ン ス を 行 う 。こ れ の 目 的 は 、高 速 道 路 を 速 や か に 通 行 可 能 に し 、 高速道路の完全復旧への恒久修理までのつなぎの役割である。 実際には、次のような維持管理作業が行われている。 コンクリート高架橋のコンクリート製パラペットウォールについて は 、 初 期 に 建 設 さ れ た も の か ら 、 防 水 材 を 塗 布 す る 作 業 を 1990年 代 に 開始して、毎年実施している。 コンクリート高架橋等のジョイントは損傷し易いため、随時、補修を 行っている。 鋼 材 は 5年 ご と に 塗 装 を 行 っ て い る 。 コンクリートのひび割れは、原因と症状に応じて適切な補修方法を選 定して、実施している。 コンクリートの剥離は、小規模だが発生している。 舗装のわだちについては、切削オーバーレー工法で補修しており、表 層には改質性アスファルトを標準的に使用している。 舗 装 の 粗 度 係 数 が 不 足 し た 場 合 に は 、 厚 さ 8mmで ス ラ リ ー シ ー ル を 行 っている。 3) 2008年 か ら 2013年 の 間 に 実 施 し た 工 事 電気系統のメンテナンス 高 い 照 明 ポ ー ル の 移 設 と 増 設 ( Chalong Rat Expressway) 電 灯 の メ ン テ ナ ン ス ( ChalermMahanakorn expressway and Burapawitee expressway) ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム の 改 善 ( Burapawitee expressway) 長寿命化と安全のための路面改善 地 盤 沈 下 に よ る 縦 断 勾 配 悪 化 の 改 善 ( ChalermMahanakorn expressway and Burapawitee expressway) 156 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 路 面 表 層 と 継 目 の 修 理 ( ChalermMahanakorn expressway at WatSaphan Soong area) パ ラ ス ラ リ ー シ ー ル を 使 用 し た 路 面 表 層 補 修 ( ChalermMahanakorn expressway from WatSaphan Soong high-level bridge pier and the Chalong Rat Expressway at Rama 9 - ArtNarong) 安全性の向上と事故の削減 雨天時の視界改善のために、反射ガラスピンの設置 ( ChalermMahanakorn expressway, Chalong Rat Expressway and Buraphwitee Expressway) 出 口 用 導 流 島 へ の 点 滅 ラ イ ト の 設 置 ( ChalermMahanakorn expressway, Chalong Rat Expressway and Buraphwitee Expressway) 社会環境配慮 Poonsin学 校 へ の 騒 音 軽 減 の た め の 騒 音 防 止 壁 の 設 置 ( ChalermMahanakorn expressway) 4) コ ミ ュ ニ テ ィ の 火 災 防 止 策 ( ChalermMahanakorn expressway) 2014年 で 実 施 中 の 工 事 電気関係メンテナンス 地 下 埋 設 線 の コ ン ク リ ー ト 保 護 工 事 ( Burapawitee expressway) 安 全 ス イ ッ チ 盤 の 設 置 と コ ン ク リ ー ト 保 護 工 事 ( Burapawitee expressway) 照 明 柱 の 修 理 と メ ン テ ナ ン ス 工 事 ( Chalong Rat Expressway and lights under the expressway of Burapawitee Expressway) 自 動 料 金 徴 収 機 の 設 置 工 事 ( ChalermMahanakornExpressay, Chalong Rat Expressway, Ram Intra Expressway - Rings - Outer Bangkok Expressway and Burapawitee Expressway) 制 限 速 度 標 識 の 改 善 工 事 ( Chalong Rat Expressway) 交通状況モニタリングシステム改善工事 長寿命化と安全性確保のための路面改善 路 面 表 層 と 継 目 の 修 理 ( ChalermMahanakorn expressway) 安全性の向上と事故の削減 交 通 標 識 の 照 度 を 改 善 し 、 15mか ら 30mへ 視 界 が 広 が る よ う に 改 善 ( ChalermMahanakorn expressway, Chalong Rat Expressway and Burapawitee Expressway) 交 通 標 識 を 見 易 く す る 工 事 ( ChalermMahanakorn expressway) 衝 突 緩 衝 装 置 を 3か 所 に 設 置 157 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 その他の工事 Rama9 世 橋 の URIB補 鋼 材 の 工 事 Rama9 世 橋 の 10年 目 の 定 期 塗 装 工 事 Rama9 世 橋 の 長 寿 命 化 の た め の フ レ キ シ ブ ル 及 び エ キ ス パ ン シ ョ ン ジョイントの修理 Burapawitee expresswayの 基 礎 強 化 調 査 の ア ジ ア 工 科 大 学 院 ( AIT) への委託 社会環境配慮 住 宅 へ の 騒 音 軽 減 の た め に 騒 音 防 止 壁 の 設 置 ( ChalermMahanakorn expressway) (2) 評 価 ( Check) 各 点 検 の マ ニ ュ ア ル は 、 原 型 は 1994年 に JICAの 技 術 協 力 で 作 成 さ れ た も の で あ り 、 そ の 後 2006年 に ア ジ ア 工 科 大 学 院 ( AIT) に よ り 更 新 さ れ て い る 。 AITは EXAT職 員 に 維 持 管 理 の 研 修 も 行 っ て い る 。 点 検 結 果 は 4段 階 ( Very good (D)、 Good (C)、 Fair (B)、 Poor (A)) で 判 定 さ れ る が 、 各 段 階 の 評 価 基 準 は 点 検 マ ニ ュアルに写真つきで記載されている。点検後、低位評価の箇所に予算をつけて、 修繕が行われているが、予算は足りているとのことである。 2010 年 以 降 は 新 規 区 間 の 供 用 が 行 わ れ て い な い た め 、 現 在 は 点 検 ・ 修 繕 が EXATの 業 務 の 中 心 に 位 置 づ け ら れ て い る 。 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム に つ い て は 、 1994年 の JICAプ ロ ジ ェ ク ト で 導 入 さ れ た 管 理 シ ス テ ム( ETAMS)が 使 用 さ れ て お り 、イ ン ベ ン ト リ ー デ ー タ は 整 理 さ れ て い る が 、維 持 更 新 計 画 の 検 討 を 支 援 す るマネジメントシステムは使用していない。 現 在 、 高 架 橋 を 対 象 と し た BMS を 、 EXAT独 自 の シ ス テ ム と し て 研 究 ・ 開 発 中 で あ る 。 ま た 、 VFM (Value for Money)を 高 め る マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 構 築 が SIIT ( タ イ 王 国 タ マ サ ー ト 大 学 : Sirindhorn International Institute of Technology の Dr. ソ ム ニ ッ ク ) と の 協 働 で 実 施 中 で あ る 。 (3) ラ マ 9世 橋 の 点 検 と 維 持 管 理 1987年 に 供 用 が 開 始 さ れ た ラ マ 9世 橋 は 、タ イ 国 で 初 め て の 斜 張 橋 で あ る た め 、 その維持管理は非常に慎重に行われている。 1994年 に JICAが 技 術 協 力 で 詳 細 な メ ン テ ナ ン ス マ ニ ュ ア ル を 作 成 し 、 2001年 に そ れ が 更 新 さ れ て い る 。10年 毎 の 定 期 点 検 を 2001年 と 2011年 に 実 施 し て お り 、 その結果に基づいて維持管理計画を作成して実施している。 主な維持管理の活動を記す。 158 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 年 JICA 国際航業 実施事項 1987 橋の供用を開始 1994 JICAが メ ン テ ナ ン ス マ ニ ュ ア ル を 作 成 1995 橋梁のモニタリング装置を設置 2001 メンテナンスマニュアルを更新 10年 目 の 定 期 点 検 を 実 施 2003 定期点検結果に基づいて、維持管理と修理を開始 2007 ケーブルと塔の再塗装 2009 デッキの再塗装 2011 20年 目 の 定 期 点 検 を 実 施 図 70 ラ マ 9世 橋 側 面 図 出 典 : EXAT 橋 梁 維 持 管 理 課 が 、 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 を 渡 る ラ マ 9世 橋 と Kanchanapisek橋 ( 両 方とも斜張橋)を管理している。 (4) 日本との協力 1) JICAの 技 術 協 力 JICAは 1994年 に EXATを 対 象 と し て 、タ イ 王 国 高 速 道 路 点 検・維 持 管 理 計 画 調 査 を 行 い 、 高 速 道 路 及 び ラ マ 9世 橋 の 点 検 ・ 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル の 整 備 を 支 援 し た。その後、マニュアルの更新が行われている。 2) 日本の高速道路会社による技術協力 EXATは 日 本 の 3つ の 高 速 道 路 会 社 と 2つ の 技 術 協 力 の 覚 書 を 結 ん で お り 、こ れ らの会社から技術支援を受けている。 159 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 1.西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社との技術協力協定 2010年 4月 締 結 協力内容 ETCシ ス テ ム の 導 入 支 援 交 通 管 理 シ ス テ ム:道 路 交 通 情 報 提 供 シ ス テ ム 、交 通 制 御 シ ス テ ム 、ITS 関連等 橋梁を含む高速道路のメンテナンス 専門技術員の交流 2.首都高速道路株式会社及び阪神高速道路株式会社との技術協力協定 2010年 4月 締 結 協力内容 交 通 管 制 シ ス テ ム を は じ め と し た ITSに 関 す る 技 術 協 力 橋梁をはじめとした道路構造物の維持管理に関する技術協力 技術情報の共有・交換、専門技術者や研修生の相互交流、等 首 都 高 速 道 路 株 式 会 社 の 専 門 家 に よ る と 、2013年 に は EXATか ら 約 70名 の 職 員 ( BECL社 と NECL社 の 職 員 を 含 む ) が 日 本 を 訪 れ 、 首 都 高 速 道 路 株 式 会 社 等 が 覚書に基づいて、維持管理に関する現場研修や講義等を行ったとのことである。 な お 、 こ の 研 修 に 係 る 経 費 に つ い て は 、 EXAT側 が 渡 航 及 び 滞 在 費 を 負 担 し 、 研 修費は首都高速道路株式会社等が負担している。 (5) 施設の状況 1) コンクリート高架橋 供 用 開 始 か ら 30年 以 上 の も の が 16.8km( 8%)、20年 か ら 30年 の も の が 27.1km ( 13%)と 、施 設 全 体 が ま だ 若 い こ と も あ る が 、技 術 支 援 を し て い る 首 都 高 速 道 路 の 日 本 人 技 術 者 に よ る と 、日 本 の コ ン ク リ ー ト 構 造 物 と 比 較 し て 劣 化 速 度 が 遅 く 、全 体 的 に 健 全 な 状 態 を 維 持 し て い る と の 事 で あ る 。そ の 原 因 と し て は 下 記 の 原因の可能性が挙げられる。 ① 日本では雪が降るため、首都高速道路でも年に数回は融雪剤(塩化カルシ ウム)を撒き、これが路床のコンクリート中の鉄筋の腐食を促進する塩害 につながり、路面にも悪影響を及ぼしている。一方、バンコクは雪が降ら ないため、融雪剤による悪影響はない。 ② バンコクは海岸からかなり離れているため、海風による塩害がほとんどな い。 ③ 一年を通して温度差が小さいため、コンクリートの収縮量が小さい。その ため、コンクリートのクラックの発生が少なく、また高架橋で最も損傷し 160 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 易いエクスパンションジョイントの損傷も少ない。 加えて、エクスパンションジョイントの損傷が少ないことから、日本よ りも簡易な構造で維持管理の容易なジョイントを採用することができるの もメリットである。 橋梁 2) ラ マ 9世 橋 は タ イ 国 で 初 め て の 斜 張 橋 で あ り 、 国 王 の 名 前 が つ い て い る こ と か ら も タ イ 国 に と っ て 非 常 に 重 要 な 橋 で あ る 。従 っ て 、維 持 管 理 は し っ か り と 行 わ れ て い る 。 2007年 に 完 成 し た Kanjanapisek橋 は ま だ 新 し い た め 維 持 管 理 は ま だ 重 要 で は な い が 、 ラ マ 9世 橋 で の 維 持 管 理 の 経 験 を 活 か し て い る 。 (6) アセットマネジメントの現状と課題 EXATの 高 速 道 路 の 大 部 分 は コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 で あ る た め 、 草 刈 や 清 掃 等 の 維 持 管 理 業 務 は ほ と ん ど な い 。コ ン ク リ ー ト 構 造 物 も 全 体 的 に 新 し い た め 健 全 で あ り 、維 持 管 理 業 務 と し て は 舗 装 の 維 持 管 理 と 、ジ ョ イ ン ト 等 の 損 傷 が 激 し い 箇 所 の 補 修 等 に 主 に 限 定 さ れ て い る 。従 っ て 、現 在 の 維 持 管 理 の 必 要 作 業 量 は 比 較 的 少 な く 、 EXAT内 で の 重 要 度 も 高 く は な い 。 維 持 管 理 予 算 額 は 2015年 度 で 約 8.4億 バ ー ツ で あ り 、 こ れ は 事 業 規 模 か ら 見 る と 小 額 で あ る 。し か し 、必 要 な 維 持 管 理 予 算 は 要 求 額 の ほ ぼ 全 額 が 認 め ら れ て い る 状 況 で あ り 、施 設 が 比 較 的 新 し い た め 、現 在 は 維 持 管 理 費 が 小 額 で 済 ん で い る 状況である。 維 持 管 理 予 算 は 徐 々 に 増 加 し て き て お り 、そ の 原 因 は 老 朽 化 に よ る 補 修 必 要 箇 所 の 増 加 と 物 価 の 上 昇 で あ る 。今 後 は 、コ ン ク リ ー ト の 老 朽 化 が 確 実 に 進 ん で く る た め 、コ ン ク リ ー ト の 維 持 管 理 作 業 が 徐 々 に 増 加 す る 。コ ン ク リ ー ト の 維 持 管 理については経験が乏しいため、これは重要な課題である。 維 持 管 理 体 制 に つ い て は 、 EXATは 207.9kmの 全 延 長 中 、 137.9kmの み を 維 持 管 理 し て お り 、そ れ 以 外 は コ ン セ ッ シ ョ ネ ア が 行 っ て い る 。新 規 建 設 部 分 も PPP で 行 う 方 向 に あ る た め 、 EXAT独 自 が 行 う 維 持 管 理 作 業 は あ ま り 増 加 し な い と 思 わ れ る 。 し か し な が ら 、 コ ン セ ッ シ ョ ネ ア の 維 持 管 理 に つ い て も 、 EXATが 監 督 をしっかりと行う体制の構築が課題である。 161 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.4.5 (1) JICA 国際航業 バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) 公 共 事 業 部 概要 バ ン コ ク 首 都 圏 の 面 積 は 約 1,600km 2 あ り 、 BMAが そ の 地 域 を 管 轄 し て い る 。 BMAが 管 轄 し て い る 道 路 は 、 道 路 面 積 が 28.97百 万 m 2 、 水 路 橋 が 1,080箇 所 、 フ ラ イ オ ー バ ー が 48箇 所 、 高 架 橋 が 3箇 所 、 河 川 橋 が 1 箇 所 、 歩 道 橋 が 607箇 所 、 ア ン ダ ー パ ス が 12箇 所 で あ る 。 こ れ ら の 維 持 管 理 を 行 っ て い る の が BMA 公 共 事 業 部 の Construction and Maintenance Officeで あ り 、 1,386名 の 職 員 が 働 い て い る 。 図 71 公共事業局の組織図 出 典 : BMA (2) 舗装 舗 装 の 点 検 は 目 視 で 行 っ て い る が 、基 本 的 に は 公 共 事 業 部 内 に あ る 苦 情 受 付 電 話 番 号 1555へ 連 絡 が あ っ た 苦 情 に 応 じ て 、舗 装 を 補 修 す る 事 後 保 全 が 多 い 。こ れ は、自治体の道路としては一般的な方法であり、日本でも同様に行われている。 一 方 で 予 防 保 全 へ の 転 換 の 試 み と し て 、 2011 年 に 路 面 性 状 調 査 を 委 託 し て 2,500kmの 調 査 を 行 っ た が 、そ の 直 後 に 洪 水 が 起 こ っ た た め 、そ の デ ー タ を 活 用 してはいない。 PMSに つ い て は 、現 在 は 持 っ て い な い が 、開 発 に 向 け て 発 注 仕 様 書 が 既 に で き あ が っ て お り 、予 算 も 獲 得 済 み で あ る た め 、近 日 中 に GISを 使 っ た PMSシ ス テ ム の開発を発注予定である。 162 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) JICA 国際航業 橋梁 バ ン コ ク 首 都 圏 に は 水 路 が 多 い た め 、そ れ を 渡 る た め の 橋 が 1,080箇 所 も あ り 、 こ れ ら は 生 活 及 び 経 済 活 動 に 不 可 欠 な イ ン フ ラ と な っ て い る 。交 通 量 が 多 い 橋 梁 が 多 い た め 、架 け 替 え は 非 常 に 困 難 な も の が 多 い 。従 っ て 、橋 梁 の 点 検・維 持 管 理 は 非 常 に 重 要 な た め 、た い へ ん 努 力 し て 、し っ か り と 行 っ て い る 。点 検・維 持 管理は下記の項目に分けて実施しており、結果はデータベース化されている。 1) 目視点検 材料点検 基礎点検 評価 補修 補強 目視点検 橋 梁 の 点 検 シ ー ト が あ り 、そ れ に 従 っ て 目 視 点 検 を 行 い 、結 果 は 橋 梁 デ ー タ ベ ー ス に 入 力 し て 管 理 し て い る 。デ ー タ ベ ー ス に は 橋 の 位 置 、図 面 、状 況 写 真 も 保 存されており、技術者が事務所で診断し、計画できるようになっている。 図 72 データベース化されている橋梁の位置図 出 典 : BMA 163 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 73 JICA 国際航業 橋梁のデータ 出 典 : BMA 損傷状況の写真 出 典 : BMA 164 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 74 JICA 国際航業 橋梁の調査報告書例 出 典 : BMA 橋 梁 の 点 検 に は 、NBI(National Bridge Index)と い う 評 価 基 準 に 従 っ て 行 わ れ ている。 出 典 : BMA 165 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 57 JICA 国際航業 橋梁の点検シート 出 典 : BMA NBI値 が 5以 上 は 合 格 と し 、5以 下 の 箇 所 を 維 持 管 理 の 必 要 が あ る と 診 断 し て い る。診断結果は下記のように橋梁ごとに図面化して、データベース化している。 図 75 橋梁診断記録 出 典 : BMA 166 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 材料点検 コ ン ク リ ー ト 材 料 の 劣 化 度 を 把 握 す る た め に 、コ ン ク リ ー ト の コ ア を 採 取 し て 圧 縮 試 験 を 行 い 、 210ksc以 上 の も の を 合 格 と 判 定 し て い る 。 図 76 コア採取状況 出 典 : BMA ま た 、コ ア を 採 取 せ ず に 、現 場 で 計 測 器 を 使 用 し て の コ ン ク リ ー ト 強 度 測 定 も 実 施している。 Windsor Probe Test 167 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート Rebound Hammer Test 鉄筋の引張強度試験 コンクリートコアの炭化度試験 168 JICA 国際航業 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 コンクリートの現場炭化度試験 コンクリートの塩分試験 0.05%以 下 が 合 格 Half-cell Potential試 験 出 典 : BMA 169 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 3) JICA 国際航業 基礎点検 基 礎 の 点 検 で は 、ボ ー リ ン グ に よ る 地 質 調 査 、様 々 な 計 測 機 械 を 使 っ て の コ ン クリートの劣化度の調査等を行っている。 ボーリング試験 出 典 : BMA Parallel Seismic試 験 出 典 : BMA 170 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Side Echo Test : コ ン ク リ ー ト 杭 の 例 出 典 : BMA Side Echo Test結 果 出 典 : BMA 171 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 アプローチスラブの調査 出 典 : BMA 4) 橋 梁 の 評 価 ( Check) 橋 梁 の 評 価 は 、“ Manual for Bridge Evaluation 2008”, 1st Edition, with 2010 Interim Revisions by AASHTO modified from LRFR 2003 (Load and Resistance Factor Rating)を 用 い て 行 っ て い る 。 Rating Factorは 橋 の 許 容 載 荷 重 を 評 価 す る の に 用 い ら れ 、次 の 式 で 算 定 す る 。 載荷試験の実施写真を以下に示す。 172 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 載荷状況 載荷状況 スラブの変位の測定 コンピュータによるデータ収集 出 典 : BMA 173 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 評価結果は下記のようにまとめられている。 図 77 上部構造物の点検結果データ 出 典 : BMA 174 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5) JICA 国際航業 補修 損 傷 部 分 の コ ン ク リ ー ト を 除 去 し 、モ ル タ ル ま た は コ ン ク リ ー ト で 修 理 す る 方 法と、損傷した構造材を撤去して、再度建設する方法が行われている。 モルタルで補修 損傷したコンクリートを除去 損傷したスラブを撤去 スラブを新設 出 典 : BMA 175 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 6) JICA 国際航業 補強 橋 梁 の 補 強 工 事 と し て は 、 CFRP 70技 術 が 使 用 さ れ て い る 。 出 典 : BMA CFRP工 事 完 了 後 に 試 験 を 行 っ て 、改 善 度 を 確 認 し て い る 。下 記 の シ ー ト で は 、 施 工 前 に 不 合 格 だ っ た 部 分( 黄 色 )が 、施 工 後 に は 合 格 値( 青 色 )に 改 善 さ れ て いることが確認できる。 70 CFRP( Carbon Fiber Reinforced Plastics) は 、 炭 素 繊 維 と 樹 脂 と の 複 合 材 料 で 炭 素 繊維強化プラスチックの意味。金属材料よりも低密度でありながら、力学特性に優 れた比強度が高い、軽くて強い材料。 176 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 78 JICA 国際航業 上部構造物の補修前と補修後の点検データ 出 典 : BMA (4) データベース 舗 装 に つ い て の デ ー タ ベ ー ス は 使 用 し て い な い が 、橋 梁 の デ ー タ ベ ー ス は 十 分 に 活 用 し て い る 。 一 方 で 、 現 在 、 舗 装 情 報 と 橋 梁 情 報 を 一 体 化 し て 管 理 す る GIS システムが発注されたところである。 (5) 評価 舗装については苦情対応が主体の事後保全である。 一 方 で 、橋 梁 の 点 検・維 持 管 理 は 非 常 に 詳 細 に か つ 科 学 的 に 行 わ れ て お り 、そ の デ ー タ は デ ー タ ベ ー ス 上 で 管 理 さ れ て お り 、技 術 者 が 事 務 所 に い な が ら 診 断 す る こ と が で き る 。そ の 結 果 に 基 づ い て 補 修 及 び 補 強 も 、新 し い 技 術 も 取 り 入 れ て 、 現 場 状 況 に あ っ た 技 術 を 採 用 し て 実 施 さ れ て お り 、予 防 保 全 が 行 わ れ て い る 。ま た 、 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 現 場 レ ベ ル で は PDCAは 回 っ て い る 。 (6) アセットマネジメントの現状と課題 177 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 工 学 的 な マ ネ ジ メ ン ト に つ い て は 、人 口 密 度 が 高 く 管 理 が 難 し い 地 域 で あ る に も か か わ ら ず 、か な り よ く 実 施 さ れ て い る と 思 わ れ る 。し か し な が ら 、施 設 の 維 持 管 理 に 追 わ れ て お り 、経 済 的 視 点 、長 期 的 視 点 等 か ら の マ ネ ジ メ ン ト は ほ と ん ど さ れ て い な い 。 ま た 、 BMAで は 組 織 横 断 的 な イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト も 必 要 だが、現状では組織ごとに取組んでいる状態である。 178 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.5 上水道分野の現状 4.5.1 タイ国の上水道分野の概要 JICA 国際航業 タ イ 国 の 給 水 サ ー ビ ス の 分 担 は 、 首 都 圏 水 道 公 社 ( MWA) が バ ン コ ク 都 及 び 周 辺 2県 、 そ の 他 の 73県 は 地 方 水 道 公 社 ( PWA) が 担 っ て い る 。 首 都 圏 水 道 公 社 (MWA) 4.5.2 (1) 概要 1) 給水区域 MWAの 給 水 区 域 は バ ン コ ク 首 都 圏 及 び ノ ン タ ブ リ 県 、サ ム プ ラ カ ン 県 の 2県 で ある。 図 79 MWAの 給 水 区 域 水 源 は チ ャ オ プ ラ ヤ 川 及 び ダ ム 湖 水 を 原 水 と し 、 浄 水 場 で 浄 水 さ れ た 後 、 18 の配水区から給水区域内へ配水している。 2) 施設概要 MWAの 上 水 道 施 設 は 、2か 所 の 水 源 、水 源 か ら 浄 水 場( 4箇 所 )ま で の 導 水 管 、 浄 水 場 で 処 理 さ れ た 水 を 配 水 場 ま で 送 る 送 水 管 、配 水 場 か ら 需 要 者 に 水 を 供 給 す るための配水本管、配水支管(配水本管から分岐し、給水管を接続する管路)、 給 水 管( 配 水 支 管 か ら 需 要 者 の 各 水 道 メ ー タ ま で の 管 路 )か ら 成 る 。ま た 、取 水 施 設 か ら 配 水 施 設 ま で の 過 程 に お い て 、必 要 な 水 圧 と 流 量 を 確 保 す る た め に ポ ン プ 施 設 ( 43箇 所 ) が 随 所 に 設 置 さ れ て い る 。 179 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 配 水 本 管 ( 口 径 500mm~ 1800mm) の 延 長 は 約 1650kmで 、 主 に 鋼 管 、 普 通 鋳 鉄 管 が 使 用 さ れ て い る 。配 水 支 管( 口 径 100mm~ 400mm)は 、総 延 長 が 28,800km で 、全 て の 管 路 延 長 の 約 94%を 占 め て い る 。管 種 の 内 訳 は 石 綿 管( 法 定 耐 用 年 数: 25年 )が 約 14%( 約 3,920km: 2013年 )、硬 質 塩 化 ビ ニ ル 管( PVC : Poly Vinyl Chloride、 法 定 耐 用 年 数 : 35年 ) が 約 84%( 約 24,100km: 2013年 ) で あ り 、 こ の 2種 で 配 水 支 管 の 約 98%を 占 め る 。 過 去 5年 の 配 水 支 管 の 管 路 延 長 の 推 移 を 見 る と 、 PVC管 の 伸 び が 著 し い 。 管 路 の 更 新 の 際 は PVC管 に 更 新 さ れ る の に 加 え 、給 水 区 域 の 拡 張 に よ り 管 路 は 毎 年 平 均 1,000kmず つ 増 加 し て い る が 、 そ の 新 設 に 使 用 さ れ る の は 主 に PVC管 で あ る 。 表 58 普通 過 去 5年 の 配 水 支 管 延 長 の 推 移 PVC 管 高密度 キ鋼管 ポリエチレン管 鋼管 2009 301.550 22.412 4,829.269 18,932.323 268.521 45.958 24,400.033 2010 322.566 17.473 4,511.464 20,497.336 273.985 45.459 25,668.283 2011 351.610 16.817 4,251.797 21,980.165 280.624 45.728 26,926.210 2012 380.933 15.367 4,033.147 23,184.669 281.294 56.599 27,952.009 2013 399.881 15.330 3,920.051 24,136.508 280.166 59.555 28,811.491 鋳鉄管 石綿管 亜鉛メッ 年度 配水支管計 出 典 : MWA 日 本 で は 耐 久 性 、耐 食 性 、ま た 地 震 に よ る 地 盤 変 動 に 追 随 が で き る と い う 理 由 か ら ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 が 広 く 普 及 し て お り 、小 口 径 管 路 に つ い て は PVC管 、最 近 では高密度ポリエチレン管が普及している。 一 方 、バ ン コ ク 都 内 で は ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 が 配 水 本 管 で 約 3kmが 使 用 さ れ て い る の み で 、普 及 が 進 ん で い な い 。し か し 現 在 、試 験 的 に 道 路 横 断 部 分 、歩 道 部 分 に ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管( 口 径 300~ 400mm)を 布 設 し 、タ イ 国 で の 適 用 性( コ ス ト 、 施工性、布設後の状況、耐久性等)を検証する試みが計画されている。 バ ン コ ク 都 内 は 土 地 が 平 坦 で 勾 配 が 少 な い た め 、水 頭 2~ 6mの 低 水 圧 で 給 水 に 不 便 を 生 じ て い る 地 域 が あ る 。そ の た め 、水 圧 を 確 保 す る た め の ポ ン プ 施 設 が 点 在 し て い る 。 MWAは 故 障 す る と 個 々 の ポ ン プ を 修 繕 、 あ る い は 一 部 の 部 品 を 交 換 し て 、更 新 時 期 が 来 た ポ ン プ か ら 順 次 更 新 し て い る が 、使 用 年 数 が 40年 を 超 え ているものもある。 3) 実施体制 MWAは 、 給 水 区 域 を 4つ に 分 割 し た Region( Region1~ Region4) か ら な り 、 各 Regionは 下 表 の よ う に 4~ 6の 配 水 区 か ら 構 成 さ れ て い る 。 施 設 の 運 営 維 持 管 理 は 、 各 配 水 区 に 設 置 さ れ た Branch Officeに よ り 実 施 さ れ て い る 。 180 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 59 Region1 JICA 国際航業 各 Regionの 配 水 区 Region2 Region3 Region4 Sukhumvit Phayathai Nonthaburi Bangkok noi Pra Khanong Tungmahamek Prachachuen Taksin Samutprakarn Mansi Bangkhen Suksawad Suvarnabhumi Ladprao Min Buri Phasi Charoen Bang Bua Thong Mahasawad 出 典 : BMA 4) 財務状況 MWAの 事 業 状 況 を 見 る と 、 2013年 度 の 収 入 は 186億 バ ー ツ ( 前 年 比 10億 バ ー ツ 増 加 )、営 業 支 出 は 122億 バ ー ツ( 前 年 比 3億 バ ー ツ 増 加 )で そ の う ち 維 持 管 理 費 用 が 6.6億 バ ー ツ 、 減 価 償 却 費 が 44億 バ ー ツ で あ っ た 。 そ の 結 果 、 営 業 利 益 は 64億 バ ー ツ ( 前 年 比 6.7億 バ ー ツ 増 加 ) 、 純 利 益 は 70億 バ ー ツ (前 年 比 12億 バ ー ツ 増 加 )と 純 利 益 率 は 38%に 上 っ て お り 、純 利 益 の 50%を 財 務 省 へ 支 払 い 、残 り の 35 億 バ ー ツ を 内 部 留 保 と し て 自 己 資 本 に 組 み 入 れ て い る 。 71 表 60 MWAの 損 益 計 算 表 単位:百万バーツ 2013 Operating revenues Water sales Other operating income Total operating revenues Operating expenses Raw materials and consumables used Maintenance expenses Depreciation and amortization expenses Other operating expenses Total operating expenses Profit from operating Total Other revenues and expenses Profit before finance cost Finance costs Profit for the year Payment to Ministry of Finance Increse in retained earnings 2012 Increase in 2013 17,547 1,056 18,603 94% 6% 100% 16,777 828 17,605 95% 5% 100% 770 228 998 2,555 663 4,411 4,614 12,243 6,359 732 7,092 -83 7,009 14% 4% 24% 0% 66% 34% 4% 38% 0% 38% 2,364 557 4,665 1,117 11,919 5,686 272 5,957 -166 5,792 13% 3% 26% 0% 68% 32% 2% 34% -1% 33% 191 106 -254 3,497 324 673 460 1,135 83 1,217 3,492 3,517 50% 50% 2,919 2,873 50% 50% 573 644 出 典 : MWA 71 財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も 多少変更する。 181 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 このうち維持管理費用の内訳は下表のとおりで、主に外注費と材料費である。 表 61 維持管理に関わる費用(損益計算表より抜粋) 単位:百万バーツ 2013 26.83 2012 18.75 Contract out leakage pipes survey and repair 298.39 216.57 Repair and maintenance expenses Pipe and equipment for repair and maintenance 176.13 161.63 177.96 143.72 Total 662.98 557.00 Contract out inspection and improvement of distribution valve 出 典 : MWA MWAの 資 産 状 況 を 見 る と 、 2013年 9月 末 現 在 、 606億 バ ー ツ の 資 産 の う ち 、 有 形 固 定 資 産 が 建 設 中 の も の も 含 め 518億 バ ー ツ ( 85%) を 占 め て お り 、 有 形 固 定 資 産 の 比 率 が 高 い 。債 務 は 112億 バ ー ツ で あ る 一 方 、自 己 資 本 は 495億 バ ー ツ で 前 年 38億 バ ー ツ 増 加 し て お り 、総 資 産 の 82%を 占 め て い る 。そ の う ち 内 部 留 保 金 が 361億 バ ー ツ と 総 資 産 の 60%を 占 め て お り 、 内 部 留 保 は 十 分 で あ る 。 182 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 62 JICA 国際航業 MWAの 貸 借 対 照 表 単位:百万バーツ 2013 ASSETS Cash and cash equivalents Current investments Other current assets Total current assets Non-current assets 2012 5,120 1,187 1,466 7,773 0 Property, plant and equipment 8% 2% 3% 13% 0 1,443 1,950 1,625 5,018 0 3% 3% 3% 9% 0 79% 44,556 73% 44,921 Works under construction 7,257 12% 5,380 9% Other non current assets Total non-current assets 1,050 52,862 2% 87% 1,455 51,756 3% 91% Total assets 60,634 100% 56,774 100% 160 6,181 6,341 0% 10% 10% 708 3,829 4,537 1% 7% 8% LIABILITIES AND EQUITY Liabilities Current liabilities Current portion of long term loans Other current liabilities Total current liabilities Non-current liabilities Long term loans Other non current liabilities Total non-current liabilities Total liabilities Equity Capital Unappropriated retained earnings Total equity 1,330 3,490 4,820 11,161 2% 6% 8% 18% 3,016 3,594 6,610 11,147 5% 7% 12% 20% 13,339 36,124 49,473 22% 60% 82% 13,017 32,605 45,627 23% 57% 80% Total liabilities and equity 60,634 100% 56,774 100% 出 典 : MWA Annual Report , 2013 総 資 産 の 73% を 占 め る 有 形 固 定 資 産 の 内 訳 を み る と 、 簿 価 で 304 億 バ ー ツ と 70%近 く が 配 管 で あ る 。 表 63 有形固定資産の内訳 単位:百万バーツ Accumulated depreciation /impairment Costs Land Building and improvements Machineries and equipments Pipes Meters Office equipments Vehicles and transport 4,284 16,962 9,579 72,073 3,412 1,102 321 107,734 0 10,192 7,370 41,659 2,832 883 241 63,179 Net book value 4,284 30 6,770 30 2,209 5 , 10 , 20, 25 30,414 10 , 25 , 35 580 5 , 8 220 5 80 5 , 8 44,556 出 典 : MWA 183 Depreciation period (years) Annual Report , 2013 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分 析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 38%と 収 益 力 は 高 い 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 72は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 15%と 低 め で あ る が 、こ れ は 有 形 固 定 資 産 の 割 合 が 高 い た め で 問 題 の あ る 状 況 で は な い 。有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の 59%を 償 却 し て い る 73が 、 老 朽 化 の 進 行 よ り も 、 会 計 上 の 耐 用 年 数 が 実 際 の耐用年数より低めに設定されているためと考えられる。 表 64 評価項目 主な財務指標 評価指標 2013 収益力 売上高利益率 38% 更新費用確保 更新投資充当可能資金対減価償却 累計額比率 15% 老朽化度合い 有形固定資産減価償却率 59% 以 上 の 考 察 よ り 、 MWAの 収 益 力 は 高 く 、 更 新 費 用 の 確 保 状 況 、 老 朽 化 度 合 も も大きな問題がある状況ではない。 (2) 管路の維持管理状況 1) 計 画 ( Plan) 更新計画 MWAは 管 路 の 漏 水 対 策 に 注 力 し て お り 、 管 路 の 大 部 分 を 占 め る 配 水 支 管 が 主 に 石 綿 管 と PVC管 で あ る こ と か ら 、 こ れ ら 2種 管 の 漏 水 対 策 が 主 と な る 。 2008年 以 前 は 、 管 路 の 平 均 耐 用 年 数 が 25年 で あ る た め 、 既 存 管 路 延 長 の 4%を 毎 年 更 新 し 、25年 で 一 巡 す る 計 画 と な っ て い た 。し か し 、こ の 方 法 は 漏 水 が な く ま だ 使 え る 管 路 も 更 新 し て し ま う こ と 、ま た 漏 水 の 頻 度 が 高 い 路 線 の 把 握 が 困 難 な こ と か ら 、MWAは 2008年 に 配 水 支 管 の 維 持 管 理 に DMA( District Meter Area) を 導 入 し た 。 DMAは 給 水 区 域 を 配 水 ブ ロ ッ ク に 分 け た も の で 、 こ れ に よ り ブ ロ ックごとに漏水の状況を細かく把握でき、管路更新の優先度の設定が容易にな り 、漏 水 の 多 い 管 路 を 優 先 的 に 更 新 で き 、結 果 と し て 更 新 す る 管 路 延 長 を 削 減 す ることが可能となった。 管 路 の 更 新 の 優 先 順 位 付 け に 考 慮 す る ク ラ イ テ リ ア は 下 記 の 5項 目 で あ る 。 1. 管路の布設年数 72 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累 計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、 2013年 に 15%と 低 い 。 73 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却 対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 59%。 184 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2. 漏水発生頻度 3. 漏水率 4. 管路の布設深度 5. 管種 JICA 国際航業 MWAは GISを 活 用 し て 、 布 設 後 20年 以 上 が 経 過 し た 石 綿 管 が 約 1,000km、 今 後 20年 を 超 え る 石 綿 管 が 毎 年 150~ 300km増 加 す る こ と を 把 握 し 、 2008~ 2014 年 に か け て 、管 路 更 新 の ク ラ イ テ リ ア に 基 づ き 、更 新 の 優 先 度 を 決 め 、石 綿 管 の 300km/年 の 更 新 計 画 を 立 て 、 実 施 し て き た 。 2015年 以 降 も 優 先 度 を 決 め て 管 路 の更新計画を立て、実施していく予定である。 予算計画 MWAで は 、18の Branch Officeが 管 轄 区 の 予 算 計 画 を 作 成 し 、そ れ ら を 本 部 が ま と め て 全 体 の 予 算 計 画 を 作 成 し て い る 。 各 Branch Officeは 管 理 す る 管 路 ご と に 、ク ラ イ テ リ ア に 従 っ て 、管 路 更 新 計 画 を 立 て 、翌 年 度 の 予 算 計 画 を 作 成 す る 。 バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) の 管 轄 区 域 で あ る た め 、 道 路 の 掘 削 を 要 す る 配 管 工 事 に は BMAの 認 可 が 必 要 と な る 。 こ の 認 可 の 有 効 期 限 は 1年 で あ る た め 、 MWA で は 予 算 計 画 は 1年 単 位 で 作 成 せ ざ る を え な い と と も に 、BMAの 認 可 を 得 ら れ ず 予定の工事を実施できない場合もある。 2) 実 行 ( Do) MWAは こ れ ま で の 補 修 実 績 か ら 以 下 の 4管 種 を 重 点 的 に 補 修 、 更 新 し て い る 。 表 65 管種 石綿管 用途 各管種の漏水の発生要因と補修状況 漏水発生の主な要因 配水本管 ・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る 配水支管 管路の離脱 ・老 朽 化 に よ る 管 の 劣 化 185 管の破損、補修状況 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート PVC管 配水支管 JICA 国際航業 ・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る 管路の離脱 亜 鉛 メ ッ 配水支管 キ鋼管 ポ リ ブ チ ・水 道 水 中 の 塩 素 に よ る 管の腐食 給水管 レン管 ・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る 管路の離脱 ・老 朽 化 に よ る 管 の 劣 化 3) 評 価 ( Check) GISの 活 用 MWAで は 約 10年 前 か ら 管 路 施 設 の 情 報 管 理 に GISを 活 用 し て い る 。 GISを 導 入 す る ま で は 、 縮 尺 1/4000の 地 形 図 上 に 管 路 位 置 及 び 管 材 質 ・ 口 径 等 の最低限の情報を展開した管理図を使用していた。 図 80 GIS導 入 前 の 管 理 図 出 典 : MWA 186 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 GIS導 入 後 は 、MWA局 内 に GISの サ ー バ ー を 設 置 し た 専 用 ル ー ム を 設 け 、縮 尺 レ ベ ル 1/1000の 地 形 デ ー タ 上 に 管 路 位 置 を 展 開 し 、属 性 情 報 と し て 水 道 使 用 者 を 含 む 各 種 の 詳 細 情 報 も 管 理 し て い る 。更 新 時 は 、ベ ク ト ル デ ー タ と 連 携 し た 竣 工 図 を GIS上 に 取 り 込 み 、GIS向 け に ベ ク ト ル デ ー タ 化 し た 更 新 デ ー タ を 付 与 す る 。 図 81 管路施設と竣工図の連携イメージ 出 典 : MWA こ の 竣 工 図 は ど こ で も GIS上 で 呼 び 出 す こ と が で き 、 MWA局 内 、 市 内 18箇 所 に 設 置 さ れ て い る Branch Office及 び コ ー ル セ ン タ ー で 情 報 を 参 照 す る こ と が で き る 。ま た 、モ バ イ ル 端 末 で の 情 報 表 示 や 登 録 も 行 え る よ う に な っ て お り 、漏 水 発 生 位 置 や 新 規 メ ー タ 接 続 等 に 係 る 情 報 を 現 場 で GISに 反 映 す る こ と が で き る 。 ま た 、 量 水 器 の 顧 客 の 水 使 用 量 デ ー タ を GISに 取 込 む こ と に よ り 、 各 地 域 で の 使 用 水 量 を 算 出 し て 管 網 解 析 を 行 う こ と が で き る 。こ の 結 果 は 管 路 の 新 設 ま た は 管 路更新時に管口径を決定する際、基礎データとして活用されている。 187 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 82 JICA 国際航業 MWA局 内 に お け る GISの 活 用 状 況 SAPの 活 用 GISと 同 様 、統 合 業 務 パ ッ ケ ー ジ シ ス テ ム と し て SAPが 各 Branch Office、浄 水 場 や ポ ン プ 場 等 施 設 ご と に 導 入 さ れ て お り 、 Branch Officeに お け る 管 路 の 情 報 は常に更新され、台帳として確認をすることができる。 4) 見 直 し ( Action) 管 路 の 更 新 計 画 に つ い て は 、 石 綿 管 の 漏 水 箇 所 数 は 2010年 か ら 2013年 の 間 に 減 少 し て い る 一 方 、PVC管 の 漏 水 箇 所 数 が 増 加 し て い る こ と か ら 、更 新 の 重 点 が 石 綿 管 か ら PVC管 に 移 行 し て い る 。2014年 度 よ り 、既 存 の PVC管 に つ い て 400km/ 年の更新計画が立てられ、現在実施中である。 表 66 管種 石 綿 管 、 PVC管 の 漏 水 箇 所 数 の 推 移 漏 水 個 所 数 ( 箇 所 /100km/月 ) 2010年 度 2013年 度 石綿管 10 4.7 PVC管 2 2.3 備考 法 定 耐 用 年 数 : 25年 更新の実施により漏水個所数が減少 法 定 耐 用 年 数 : 35年 漏水個所数が増加傾向 188 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 管路の更新計画は下記のように見直され、改訂されている。 表 67 2008年 度 以 前 管路更新計画の推移 2009~ 2014年 度 ・ 更 新 す る 管 路 延 長 ( 80%) ・ 20 年 以 上 経 過 し た 石 綿 管 ・ 漏 水 率 ( 20%) 2015年 度 以 降 ・ 20年 以 上 経 過 し た 石 綿 管 ( 80%) ・ 30年 以 上 経 過 し た PVC管 ・ 漏 水 率 ( 20%) ・漏水率 ・更新費用 (3) 浄水場及びポンプ場の維持管理状況 1) 計 画 ( Plan) ポ ン プ 施 設 及 び 浄 水 場 に つ い て は 、更 新 の 長 期 計 画 は な い が 、施 設 の 状 態 と 使 用年数により、年度ごとにそれぞれ更新及び修理計画を立てている。 2) 実 行 ( Do) ポ ン プ に つ い て は 更 新 時 期 が 来 た も の か ら 順 次 更 新 し て い る 。浄 水 場 に つ い て も、濾過池内の防水塗装を施す、鉄製のプレートをステンレス製に交換する等、 長期使用に耐えるよう修理を施している。 図 83 急 速 濾 過 池 の 修 理 前 (上 )と 修 理 後 ( 下 ) 189 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 評 価 ( Check) 3) 浄 水 場 や ポ ン プ 場 で は 、施 設 の 運 転 維 持 管 理 担 当 の 技 術 者 が 紙 ベ ー ス の 資 機 材 の 台 帳 は 整 理 し て い る が 、本 部 の ス タ ッ フ が 常 時 施 設 状 況 を 確 認 出 来 る 体 制 に は な っ て い な い 。ま た 、SAPが 導 入 さ れ て い る も の の SAPの 技 術 、知 識 不 足 の た め 、 使 用 し て い な い 。こ の た め 、本 部 で 必 要 な 情 報 を 入 手 す る 際 に は 、そ の 都 度 各 施 設に問い合わせており、情報収集に時間を要する。 見 直 し ( Action) 4) ポ ン プ 施 設 で は 、無 収 水 量 の 増 加 を 防 止 す る た め 、更 新 の 際 に 水 圧 に 影 響 の な い範囲で揚程の小さなポンプが計画されている。 浄 水 場 で は 、こ れ ま で の 施 設 の 修 理 を 経 て 、現 在 は 浄 水 場 内 の 導 水 路 か ら 漏 水 対 策 を 重 視 し て い る 。た だ し 、補 修 に は 導 水 を 一 時 的 に 止 め る 必 要 が あ り 、都 内 へ の 配 水 が 滞 る こ と か ら 実 施 出 来 て い な い 。配 水 へ の 影 響 を 極 力 少 な く し た 対 策 を検討しているが、良い解決策を思いつかず、支援先を探している。 図 84 (4) 日本との協力 1) JICAの 技 術 協 力 浄水場内の漏水状況 こ れ ま で に 技 術 協 力 や 有 償 資 金 協 力 「 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 ( 第 1次 フ ェ ー ズ 2( 1979年 承 諾 )か ら 第 8次( 2009年 承 諾 )ま で の 円 借 款 供 与 を 行 っ て い る 。 さ ら に 、 JICAは 「 第 8次 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 の 附 帯 技 術 支 援 と し て MWA の 上 水 道 施 設 の 運 営・維 持 管 理 能 力 の 向 上 を 目 的 と し て 、2010年 11月 ~ 2013年 3 月 に 日 本 の 水 道 事 業 体( 大 阪 府 、名 古 屋 市 、東 京 都 )の 技 術 ・ 経 験 を 共 有 す る た めの本邦研修及び専門家派遣を組み合わせた協力を実施してきた。 2) 東京都水道局との技術協力 東 京 都 水 道 局 は 、 2012年 ま で に 上 記 「 第 8次 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 附 帯 技 190 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 術 支 援 を 始 め 、 JICA事 業 に よ る 本 邦 研 修 及 び 専 門 家 派 遣 を 組 み 合 わ せ た 協 力 を 実施してきた。 MWAか ら の 要 望 に よ り 、 独 自 で 人 材 育 成 に 関 す る 覚 書 を 締 結 し 、 2013年 か ら も 引 き 続 き 職 員 を 相 互 派 遣 し 、内 容 を 充 実 さ せ た 技 術 協 力 を 実 施 し て い る 。そ の 際 の 費 用 負 担 は 、移 動 費 及 び 滞 在 費 は 派 遣 側 、視 察 及 び 研 修 に 係 る 費 用 は 受 入 れ 側となっている。 日系企業による技術協力 3) 東 京 水 道 サ ー ビ ス 株 式 会 社 ( 以 下 、 TSS) が 東 京 都 水 道 局 と 共 に MWAに 対 し て技術支援を実施している。 1. バ ン コ ク 市 内 の 漏 水 対 策 と し て 実 地 試 験 を 実 施 ( 2011年 5月 ) 無 収 水 率 が 28% か ら 3% に 改 善 2. 合 弁 会 社 TSS-TESCOバ ン コ ク 社 の 設 立 ( 資 本 金 約 1,300万 円 ) TSSが 49% を 出 資 し 、 現 地 企 業 と 合 弁 で タ イ 国 に お け る 水 道 事 業 を 担 う 現地法人を設立。 (5) アセットマネジメントの現状と課題 MWAは 、施 設 の 維 持 管 理 に 係 る 体 制 を 構 築 し 、GISに よ り 管 路 や 施 設 状 況 を 管 理 し 、 MWA自 身 に よ る 分 析 を 踏 ま え て 、 給 水 区 域 拡 張 に 伴 う 配 水 管 の 新 設 、 既 設 石 綿 管・PVC管 等 の 更 新 、漏 水 補 修 工 事 等 必 要 な 施 設 整 備 を 行 っ て い る 。た だ し 、現 時 点 の 施 設 の 維 持 管 理 は 、事 後 保 全 を ベ ー ス と す る 中 期 的 な 計 画 に 基 づ い た も の で あ り 、予 防 保 全 や 施 設 の 長 寿 命 化 を 目 指 し 、数 十 年 先 の 施 設 の 状 態 を 見 据えた長期的かつ総合的な計画に基づいてはいない。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に お け る MWAの 課 題 は 、 維 持 管 理 に 関 わ る 長 期 計 画 の 策定に必要なデータの蓄積・分析が行える環境がまだ十分に整っていないため、 長期的な維持管理費の予測が出来ていないことである。 長 期 間 の 水 需 要 の 予 測 、問 題 点 の 特 定 、そ れ を 基 に し た 長 期 的 か つ 総 合 的 な ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 を 作 成 し て 、実 施 し て い く こ と が 、事 業 継 続 性 の 強 化 の ために必要であり、これから取組むべき課題である。 191 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.5.3 JICA 国際航業 地 方 水 道 公 社 (PWA) (1) 概要 1) 事業概要 PWAは 、 MWAが 管 理 す る バ ン コ ク 首 都 圏 の 水 道 施 設 を 除 く 、 タ イ 国 内 の 水 道 施 設 を 管 理 し て い る 。対 象 需 要 者 は 約 370万 世 帯( 約 1,480万 人 )で あ り 、世 帯 数 で タ イ 国 全 体 の 約 16% を カ バ ー し て い る 。 こ れ は 、 MWAの 顧 客 数 ( 約 210万 世 帯 、 約 840万 人 : タ イ 国 全 体 の 9% ) よ り も 多 い 。 2) 施設概要 バ ン コ ク 周 辺 の 水 道 施 設 に つ い て は 、タ イ 政 府 が 1990年 代 に 首 都 バ ン コ ク 近 郊 で 深 刻 化 し た 地 下 水 の 過 剰 利 用 に よ る 地 盤 沈 下 、地 下 水 汚 染 問 題 を 解 決 す る た め に 、民 間 資 金・技 術 の 導 入 に よ る 浄 水 場 建 設 を 計 画 し た の が 始 ま り で あ る 。そ の 計 画 に 従 い 、 民 間 の TTW社 ( Thai Tap Water Supply Company Limited) が 設 立 さ れ 、 TTW社 が バ ン コ ク 西 部 及 び 北 部 2か 所 に 浄 水 場 を 建 設 し た 。 現 在 で も バ ンコク西部のナコンパトム・サムットサコン両県、北部のパトンタニ県向けに、 約 40万 m3/日 の 浄 水 を 生 産 し て い る 。 こ れ は 、 PWAの 配 水 総 量 の 約 1/3を 占 め 、 こ れ ら 浄 水 施 設 は 現 時 点 で は TTW社 が 所 有 、 運 営 維 持 管 理 を 行 い 、 PWAが TTW 社より浄水を購入して給水している。 2023年 に は 北 部 の 浄 水 場 、 2034年 に は 西 部 の 浄 水 場 が PWAに 移 管 さ れ る 予 定 である。 3) 実施体制 PWAの 組 織 は バ ン コ ク 都 内 の 本 部 と 、国 内 10箇 所 の 拠 点( Regional Office)、 233箇 所 の 水 道 施 設( Branch)か ら 成 る 。こ れ ら の 水 道 施 設 は 需 要 者 数 に よ り 以 下 の よ う に 4グ ル ー プ に 分 類 さ れ て い る 。 表 68 顧客数による施設規模の内訳 グループ名 顧客数 Branch数 1. Small Scale Water Utilities 15,000以 下 169 2. Medium Scale Water Utilities 15,001- 40,000 41 3. Large Scale Water Utilities 40,001- 80,000 14 4. Special Water Utilities 80,001以 上 9 計 233 PWAは 、233の 水 道 施 設 の う ち 、主 に 顧 客 数 が 50,000戸 を 超 え る 規 模 の 比 較 的 大 き い 20施 設 の 運 営 を 外 部 委 託 し て い る 。 主 に 残 り の 規 模 の 小 さ い 水 道 施 設 は 192 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 PWAが 直 接 運 営 し て い る 2014年 5月 現 在 、PWAの 7,730名 の 職 員 の う ち 、987名 が バ ン コ ク の 本 部 、6,743 名 が 10か 所 の Regional Officeと 233か 所 の 水 道 施 設 に 在 籍 し て い る 。 各 Regional Officeは 、そ れ ぞ れ 20~ 25の 水 道 施 設 を 管 理 し て お り 、各 水 道 施 設 か ら の 施 設 の 運 営 ・ 維 持 管 理 情 報 が 管 轄 す る Regional Office に 報 告 さ れ 、 Regional Officeか ら バ ン コ ク 都 内 の PWAの 本 部 へ 報 告 さ れ る シ ス テ ム と な っ て いる。 PWAが 管 理 す る 水 道 施 設 は 、 2014年 10月 に は 235に 増 加 す る 予 定 で あ る 。 4) 財政状況 MWAの 事 業 状 況 を 見 る と 、 2013年 度 の 収 入 は 212億 バ ー ツ ( 前 年 比 30億 バ ー ツ 増 加 ) 、 営 業 支 出 は 164億 バ ー ツ ( 前 年 比 15億 バ ー ツ 増 加 ) で あ っ た 。 そ の う ち 維 持 管 理 費 用 は 9億 バ ー ツ で 、 主 に 配 管 補 修 や 布 設 の 外 注 費 と 材 料 費 で あ る 。 そ の 結 果 、 純 利 益 は 40億 バ ー ツ (前 年 比 16億 バ ー ツ 増 加 )で 純 利 益 率 は 19%で 、 純 利 益 の 51%を 財 務 省 へ 支 払 い 、残 り の 20億 バ ー ツ を 内 部 留 保 と し て 自 己 資 本 に 組 み 入 れ て い る 。 74 表 69 PWAの 損 益 計 算 書 単位:百万バーツ 2012 REVENUES Income from water sales and services Income from pipeline installation TOTAL REVENUES EXPENSES Operating and administrative expenses Costs of pipeline installation TOTAL EXPENSES Finance costs Profit for the year Other comprehensive income (loss) - net Total comprehensive income for the years Remittance to the Ministry of Finance Increase in unappropriated retained earnings 2011 19,488 1,686 21,175 92% 8% 100% 16,579 1,559 18,138 91% 9% 100% 15,040 71% 13,664 75% 1,311 16,351 2,243 4,029 -1 4,028 6% 77% 11% 19% 7% 82% 10% 14% 19% 1,209 14,873 1,903 2,478 -1 2,477 2,044 1,984 51% 49% 1,197 1,280 48% 52% 14% 出 典 : PWA Annual Report 2012 74 財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も 多少変更する。 193 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 PWAの 資 産 状 況 を 見 る と 、2012年 9月 末 現 在 、836億 バ ー ツ の 資 産 の う ち 、有 形 固 定 資 産 が 建 設 中 の も の も 含 め 712億 バ ー ツ ( 85%) を 占 め て お り 、 有 形 固 定 資 産 の 比 率 が 高 い 。債 務 は 550億 バ ー ツ で あ る 一 方 、自 己 資 本 は 前 年 9億 バ ー ツ 増 加 し 285億 バ ー ツ で 、 総 資 産 の 34%を 占 め て い る 。 そ の う ち 内 部 留 保 金 が マ イ ナ ス で前年度より改善しているものの、内部留保が十分に蓄えられていない。 表 70 PWAの 貸 借 対 照 表 単位:百万バーツ 2012 ASSETS TOTAL CURRENT ASSETS NON-CURRENT ASSETS Property, buildings and equipment Other non-current assets TOTAL NON-CURRENT ASSETS TOTAL ASSETS LIABILITIES TOTAL CURRENT LIABILITIES NON-CURRENT LIABILITIES Long-term loans from financial institutions - net PWA's bonds - net Other non-current assets TOTAL NON-CURRENT LIABILITIES TOTAL LIABILITIES EQUITIES Total capital Unappropriated retained earnings (loss) TOTAL EQUITIES TOTAL LIABILITIES AND EQUITIES 2011 8,739 10% 8,578 11% 71,224 3,594 74,817 83,556 85% 84% 90% 100% 67,979 4,546 72,526 81,104 89% 100% 8,393 10% 7,642 9% 10,200 36,443 46,643 55,036 12% 1% 13% 56% 66% 810 10,150 34,906 45,866 53,508 33,124 -5,054 28,520 83,556 40% -6% 34% 100% 33,124 -5,980 27,596 81,104 41% -7% 34% 100% - 57% 66% 出 典 : PWA Annual Report 2012 総 資 産 の 76%を 占 め る 建 設 中 の も の を 除 い た 有 形 固 定 資 産 の 内 訳 を み る と 、 497億 バ ー ツ と 78%が 建 設 物 と な っ て い る 。 償 却 年 数 は 3年 ~50年 で あ る 。 表 71 有形固定資産の内訳 単位:百万バーツ Accumulated depreciation Cost price Land Building and construction Equipment Assets under Financial Lease Total 2,282 77,485 11,374 16,511 107,652 0 26,924 7,445 4,343 38,711 Accumulated impairment 8 817 38 4,465 5,328 Net book value 2,274 49,744 3,892 7,703 63,614 注 : 建 設 中 の 有 形 固 定 資 産 7.4億 バ ー ツ は 除 く 出 典 : PWA 194 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 上 記 の 2012年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分 析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 19%と 収 益 力 は MWAほ ど 高 く な い 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 75は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 36%と 過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 1/3程 度 の 水 準 で 資 金 を 確 保 で き て い る 状 況 で あ る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 に 対 し て 既 に 償 却 し て い る 分 は 37% 76と 全 体 的 に は 老 朽 化 は 深刻ではないと思われる。 表 72 評価項目 主な財務指標 評価指標 2012 収益力 売上高利益率 19% 更新費用確保 更新投資充当可能資金対減価償却 累計額比率 36% 老朽化度合い 有形固定資産減価償却率 37% PWAは サ ー ビ ス 区 域 が 広 く 密 度 が 低 い た め 事 業 効 率 が 悪 く 、 過 去 に 営 業 成 績 が 悪 か っ た 時 期 が あ り 、内 部 留 保 は マ イ ナ ス で あ る が 、最 近 は 利 益 が 出 る よ う に な り 、財 務 状 況 は 改 善 し つ つ あ る 。今 後 、遠 隔 地 の 効 率 へ 事 業 拡 大 す る 際 に は 政 府の補助が出る予定で、業績悪化には直結しないと考えられる。 (2) 維持管理の状況 1) 計 画 ( Plan) 現 在 、 PWAが 管 理 す る 水 道 施 設 の 漏 水 率 の 平 均 値 は 約 28% で あ る が 、 格 差 が 大 き く 36~ 40%を 超 え る 水 道 施 設 も あ る 。 そ の た め 、 PWAは 漏 水 対 策 を 重 要 課 題 と 位 置 づ け 、管 路 の 補 修・更 新 の 優 先 度 を 設 定 し て い る 。優 先 度 の 高 い 施 設 か ら 更 新 を 行 っ て 漏 水 率 の 低 下 を 図 る と 同 時 に 、漏 水 事 故 を 未 然 に 防 ぎ 、水 道 使 用 者への給水サービスの向上を目指している。 75 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累 計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、 2013年 に 36%で あ る 。 76 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却 対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 37%。 195 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 現 在 、 PWAは 施 設 の 運 営 維 持 管 理 に 関 し 、 次 の よ う な 事 業 戦 略 を 掲 げ て い る 。 表 73 PWAが 掲 げ る 事 業 戦 略 事業戦略 1. 適 切 な 水 源 の 管 理 達成に向けた方策 1-1. 適 切 な 原 水 の 確 保 1-2. 原 水 水 質 監 視 シ ス テ ム の 導 入 1-3. 適 切 な 原 水 利 用 の た め の 配 水 区 域 の 統 合 2. 環 境 に 優 し い 浄 水 シ ス テ 2-1. 水 需 要 を 満 た す た め の 施 設 の 改 良 ムと水需要量への対応 2-2. 運 転 管 理 の た め の SCADAの 導 入 2-3. 施 設 の 維 持 管 理 向 上 の た め の 予 防 保 全 の 導 入 2-4. 浄 水 処 理 の 改 良 に よ る 水 質 改 善 2-5. ISO14000に 準 拠 し た 環 境 問 題 へ の 対 応 2-6. 効 果 的 な 施 設 運 転 の た め の 新 技 術 の 導 入 2-7. 事 業 継 続 マ ネ ジ メ ン ト の 導 入 3. 顧 客 の 要 求 に 応 え る 施 設 3-1. 給 水 区 域 の 拡 張 運転システムの構築 3-2. Localの 水 道 施 設 に 対 す る 技 術 提 供 3-3. 漏 水 管 理 3-4. 流 量 計 の 新 設 、 更 新 と そ れ に 伴 う 検 証 4. 国 際 規 格 に 準 じ た 水 質 管 4-1. 水 理 状 況 の モ ニ タ リ ン グ に 伴 う 情 報 の 提 供 理 4-2. ISO/IEC17025規 格 に 沿 っ た 研 究 室 の 改 善 4-3. 浄 水 場 に お け る 浄 水 工 程 の 設 定 と 水 質 コ ン ト ロ ール PWAの 新 し い 取 組 み と し て 、管 路 の 補 修・更 新 に 関 し て こ れ ま で の 事 後 保 全 か ら 予 防 保 全 へ の 移 行 を 目 指 し て お り 、そ の た め の 予 算 が 計 上 さ れ 、実 行 計 画 を 策 定中である。 2) 実 行 ( Do) PWAは 管 理 す る 水 道 施 設 数 が 多 く 、 各 施 設 の 運 営 は Branch Officeに 任 さ れ て い る も の の 、水 道 施 設 の 状 況 が 地 形 や 自 然 状 況 に よ り そ れ ぞ れ 異 な る こ と 、ま た Branch Officeの 技 術 レ ベ ル に バ ラ つ き が あ り 、 一 定 レ ベ ル で の 水 道 施 設 の 管 理 が 難 し い 。ま た 、外 部 委 託 に よ る 施 設 管 理 の 拡 大 も 検 討 し て い る も の の 、予 算 や 人材の確保が困難なことから、現状では実現出来ていない状況である。 約 10%の 規 模 の 大 き な 水 道 施 設 で は 、 MWAと 同 様 に 給 水 区 域 を 複 数 の 配 水 ブ ロ ッ ク ( District Management Area: DMA) に 分 割 し て い る 。 各 DMAの 境 界 に 設 置 さ れ た 流 量 計 で DMA間 の 流 量 を 常 時 計 測 し て お り 、 流 量 に 異 常 が あ る 場 合 に は 漏 水 の 可 能 性 が 大 き い と 判 断 し 、現 地 に て 詳 細 な 漏 水 探 査 を 実 施 し 、管 路 を 補修している。 例 え ば 、 首 都 圏 に 近 い Rangsit Branchで は 、 こ の 仕 組 み が 2年 前 に 導 入 さ れ 、 給 水 区 域 内 の 総 数 60の DMAの 流 量 デ ー タ が WEB上 に 常 時 送 信 さ れ て お り 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 環 境 が 整 っ て い る 所 で あ れ ば 何 処 か ら で も 計 測 値 を 確 認 出 来 る 。こ の 196 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 た め 、担 当 者 は 外 出 中 で も 漏 水 等 で 流 量 計 が 異 常 な 数 値 を 示 し た 場 合 に は 、即 座 に画面上で異常を確認できる。 図 85 3) 配水管に設置された流量の計測状況 評 価 ( Check) GISの 活 用 状 況 PWAで は 、 管 路 施 設 の 情 報 管 理 に BMAや MEA、 MWAと は 異 な る シ ス テ ム の GISを 活 用 し て お り 、本 部 及 び 全 233か 所 の 各 水 道 施 設 が GISで デ ジ タ ル 地 形 デ ー タ上に管路位置を展開し、属性として管路の詳細情報を管理している。 197 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 管 路 の補 修 位 置 図 86 GISに よ る 管 路 の 補 修 状 況 水 道 施 設 で は 、 GISで 漏 水 、 補 修 履 歴 や 水 道 使 用 者 に 係 る 属 性 情 報 が 管 理 さ れ て お り 、配 水 管 更 新 の 優 先 度 の 設 定 及 び 需 要 家 の 水 使 用 状 況 か ら 水 理 計 算 に よ り 将来の拡張計画に利用されている。 図 87 水 理 計 算 の 実 施 状 況 ( Rangsit Branch) しかし、なかには管路情報が常時更新されていない地方の水道施設もある。 198 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 見 直 し ( Action) 4) 施 設 規 模 の 大 き い Branch Officeで も 管 路 の 補 修 ・ 更 新 情 報 等 の 基 礎 デ ー タ は 記 録 し て い る が 、管 路 の 埋 設 状 況 、地 盤 状 況 等 の デ ー タ を 収 集 し 、基 礎 デ ー タ と 組 み 合 わ せ て 管 路 の 補 修 頻 度 が 多 い 条 件 を 分 析 し 、管 路 更 新 の 優 先 順 位 付 け に 生 かすところまではできていない。 (3) 日本との協力 2011年 4月 ~ 2014年 3月 に か け て 、埼 玉 県 企 業 局 は「 JICA草 の 根 技 術 協 力 事 業 」 の 適 用 を 受 け て 、 PWAが 管 轄 す る タ イ ・ チ ョ ン ブ リ 県 に お い て 水 処 理 に 係 る 技 術 支 援 を 実 施 し て い る 。 支 援 内 容 は 、 本 邦 か ら の 技 術 者 派 遣 と PWAか ら の 研 修 生 受 入 れ に よ り 、 沈 殿 池 ・ろ 過 池 の 管 理 方 法 の 改 善 や 、 マ ン ガ ン の 低 減 化 等 、 水 質管理技術の向上のための技術移転であり、以下の成果を目的としている。 1. PWAの 技 術 力 向 上 ・ろ過池洗浄技術 ・塩素管理技術 ・排泥管理技術 ・日本の水道知識の習得 2. 埼 玉 県 企 業 局 職 員 の 国 際 感 覚 の 醸 成 PWA( タ イ 側 ) 、 日 本 側 双 方 に 成 果 が 見 ら れ た 。 さ ら に 、 PWAか ら 今 後 の 協 力 と し て 、他 の 地 域 へ の 展 開 、更 な る 技 術 者 の 育 成 の 要 望 が あ り 、埼 玉 県 企 業 局 は 、 PWAに 対 す る 支 援 を 2016年 3月 ま で 延 長 し 、 Chiang Mai及 び Nong Khaiの 浄水場の運営維持管理能力向上を目的とした技術支援を継続する。 (4) アセットマネジメントにおける現状と課題 PWAは 、 MWAと 同 様 、 施 設 の 維 持 管 理 を 行 う 上 で 必 要 な ハ ー ド ウ ェ ア 、 ソ フ ト ウ ェ ア が 整 備 さ れ て お り 、自 前 で 分 析 を し 、将 来 の 施 設 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 す る 環 境 は 整 っ て い る 。ま た 、こ れ ま で 維 持 管 理 は 事 後 保 全 で あ っ た が 、予 防 保 全 に 伴 う 維 持 管 理 手 法 を 取 り 入 れ る 意 向 も 持 っ て お り 、既 存 施 設 を 将 来 に 亘 っ て 有効に活用する意識の高さが確認出来る。 た だ し 、現 実 に は 管 轄 す る エ リ ア が 広 く 、管 理 す る 施 設 が 非 常 に 多 く 国 内 に 点 在 し て い る こ と 、施 設 の 仕 様 が 地 域 の 条 件 に 応 じ て 異 な る こ と か ら 、各 々 の 施 設 に 対 す る 均 質 な 維 持 管 理 は 難 し い 状 況 で あ る 。限 り あ る 予 算 の 中 で 施 設 の 維 持 管 理 に 係 る 各 水 道 施 設 へ の 適 正 な 予 算 配 分 は 難 し く 、人 口 の 多 い 首 都 圏 周 辺 を 重 視 せざるを得ず、地方のサービスの質の改善が課題である。 199 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.6 下水道分野の現状 4.6.1 タイ国の下水道分野の概要 JICA 国際航業 タ イ 国 の 下 水 道 事 業 は 、バ ン コ ク 都 内 は バ ン コ ク 首 都 庁( BMA)の 下 水 道 事 業 局 、 そ の 他 は 下 水 道 管 理 公 社 ( WMA) が 管 轄 し て い る 。 4.6.2 (1) バ ン コ ク 首 都 圏 庁 (BMA) 下水道事業局 バンコク都の下水道システム BMAの 下 水 道 部 門 は 下 水 道 事 業 局 (DSD)が 管 理 し 、 バ ン コ ク 都 内 の 以 下 の 施 設に関する建設及び維持管理業務を主に行っている。 下水道管渠(合流式) 雨水吐室 下水処理場 河川堤防 排水ポンプ場 約 6,400km 1,000箇 所 以 上 7箇 所 バ ン コ ク 都 の 下 水 道 は 、元 来 、雨 水 排 水 を 目 的 に 整 備 さ れ て き た た め 、汚 水 と 雨 水 を 同 一 の 管 渠 で 処 理 す る 合 流 式 下 水 道 が 一 般 的 で あ る 。下 水 道 管 渠 に は 雨 水 吐 室 が 整 備 さ れ 、乾 期 は 合 流 式 管 渠 に 汚 水 の み が 流 入 し 、全 量 が 下 水 処 理 場 で 処 理 さ れ る 。雨 期 は 、合 流 式 管 渠 を 雨 水 と 汚 水 が 流 下 す る が 、一 定 量( 通 常 、乾 期 汚 水 量 の 5 倍 )ま で は 下 水 処 理 場 に 送 水 さ れ 、余 剰 水 量 は 雨 水 吐 室 を 経 て ス ク リ ー ン で ゴ ミ を 取 り 除 い た 後 、 河 川 ・ 水 路 に 放 流 さ れ る 。 バ ン コ ク 都 に は 1,000ヶ 所以上の雨水吐室が設置されているが、雨水吐室が整備されていない地域では、 汚 水 、雨 水 と も 、合 流 式 下 水 道 管 渠 に よ り 収 集 さ れ 、そ の ま ま 河 川・水 路 に 放 流 されている。 バ ン コ ク 都 で は 腐 敗 槽 の 設 置 が 義 務 付 け ら れ て お り 、排 水 さ れ る 汚 水 の 汚 濁 濃 度 は 低 く 、ま た 、下 水 道 管 渠 に は 運 河 か ら の 水 の 逆 流 や 地 下 水 の 浸 入 等 の 不 明 水 も 多 く 混 入 し て い る た め 、下 水 道 管 渠 を 通 し て 収 集 さ れ る 汚 水 の 下 水 処 理 場 流 入 水 質 は 、BODで 約 42mg/l( 平 均 値:2013年 )と 、日 本 の 1/2~ 1/3( 146mg/l:2012 年 、東 京 都 下 水 道 局 )と 低 い 値 を 示 し て い る 。こ の た め 、公 共 用 水 域 、下 水 処 理 場 へ の 汚 濁 負 荷 削 減 効 果 を 期 待 で き 、低 コ ス ト の 下 水 道 処 理 シ ス テ ム が 構 築 さ れ ている。 バ ン コ ク 全 体 で 発 生 す る 汚 水 量 は 約 300万 m3/年 で あ る が 、 こ の 内 処 理 さ れ る の は 約 100万 m3/年 で あ る 。下 水 道 管 渠 は 口 径 0.3~ 5.0m 、管 種 は ヒ ュ ー ム 管 を 主 と し て PVC管 等 、様 々 な 管 種 が 使 用 さ れ 、布 設 後 30年 以 上 経 過 し て い る 管 渠 も 存 在する。 200 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 組織 (2) 2013年 度 に お け る DSDの 職 員 総 数 は 500名 で あ り 、 そ の 内 訳 は 正 規 職 員 156名 に 加 え て 、非 正 規 技 能 職 282名 、臨 時 職 62名 で あ る 。以 下 に DSDの 組 織 と 職 務 別 人数を示す。 部 長 (1名 ) 庶務 水質分析 計 画 ・汚 泥 管 理 データベース・料 金 徴 収 (31名 ) (35名 ) (23名 ) (16名 ) 下水処理 技術開発 (15名 ) 維持管理 運転管理1 運転管理2 運転管理3 (28名 ) (152名 ) (143名 ) (56名 ) 図 88 DSDの 組 織 図 出 典 : BMA (3) 予算、維持管理費と下水道料金 現 在 、DSDに よ る 下 水 道 の 運 営 維 持 管 理 は 、国 か ら の 補 助 金 と 税 金 に よ っ て 賄 わ れ て お り ( 年 間 予 算 : 約 30億 バ ー ツ 、 補 助 金 と 税 金 の 割 合 は 約 50: 50) 、 下 水 道 料 金 条 例 は 2004 年 に 制 定 さ れ て い る も の の 、 下 水 道 に 係 る 料 金 徴 収 は 実 施 さ れ て い な い 。 こ れ は 年 間 の 汚 水 量 の 1/3し か 処 理 出 来 て お ら ず 、 バ ン コ ク 都 民 の 下 水 道 施 設 の 整 備 状 況 に 対 す る 不 満 か ら 、料 金 徴 収 の 実 施 が 実 現 出 来 て い な い と の こ と で あ る 。DSDと し て は 、下 水 道 の 料 金 徴 収 の 必 要 性 は 把 握 し て い る も の の 、少 な く と も 下 水 道 普 及 率 が 60% を 超 え な け れ ば 料 金 徴 収 の 実 現 は 難 し い と 判 断している。 (4) 1) 下水道施設の維持管理状況 計 画 ( Plan) 下 水 道 整 備 の 上 位 計 画 と し て 、 2008年 に 作 成 さ れ た BMA実 行 計 画 ( 2009年 ‐ 2012年 ) が あ り 、 2012年 目 標 と し て 下 水 処 理 率 42%、 2020年 の 長 期 目 標 と し て 下 水 処 理 率 60%を 掲 げ て お り 、こ の 目 標 達 成 に 向 け て 下 水 道 整 備 が 進 め ら れ て い る 。下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 に つ い て は 、バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 で 処 理 区 毎 に 年 間 、 月間、週間の維持管理計画を作成し、実施されている。 201 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 実 行 ( Do) バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 の 内 、6処 理 区 に つ い て は 下 水 道 処 理 場 か ら 下 水 道 管 渠 の 運 営 維 持 管 理 業 務 を 一 括 で 民 間 会 社 に 5年 契 約 で 委 託 し て い る 。 BMAは 1処 理 区 について直接運営維持管理を行っている。 大 口 径 の 管 渠 に つ い て は 人 が 管 渠 内 に 入 っ て 損 傷 状 況 を 確 認 し て い る が 、小 口 径 管 路 に つ い て は 人 が 直 接 管 渠 内 を 確 認 す る こ と が 出 来 な い た め 、管 路 調 査 用 機 材の導入を検討しているところである。 3) 評 価 ( Check) 下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 結 果 は 、処 理 区 毎 に 作 成 さ れ た デ ー タ ベ ー ス に よ っ て 管 理されている。 4) 見 直 し ( Action) バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 の 内 、 6処 理 区 を 外 部 委 託 し て い る が 、 BMAに よ れ ば 、 民間業者に管理を委託することで新しい技術の適用が可能になるとのことであ っ た 。し か し 、料 金 徴 収 を 実 施 せ ず 、国 か ら の 補 助 金 と 税 金 の み で 施 設 の 維 持 管 理 を 行 っ て い る 現 状 で は 、施 設 の 拡 張 も 含 め た 下 水 道 施 設 の 整 備 が 十 分 に 実 施 出 来ていない状況である。 (5) アセットマネジメントにおける現状と課題 2011年 の 洪 水 以 降 、タ イ 国 で は 洪 水 に 対 す る イ ン フ ラ の 整 備 が 大 き な 問 題 と な っ て い る 。 BMAの 下 水 道 部 門 で は 、 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 の 河 川 堤 防 の 管 理 も 行 っ て い る が 、2011年 の 洪 水 以 降 、堤 防 の 維 持 管 理 に 重 点 が 置 か れ 、堤 防 の 状 態 、特 に 堤 体 か ら の 漏 水 に つ い て 重 点 的 に 点 検 が 行 わ れ 、随 時 修 繕・補 修 が 実 施 さ れ て い る 。 し か し 、 BMAと し て は 下 水 道 の 整 備 ( 特 に 管 路 ネ ッ ト ワ ー ク や ポ ン プ 施 設 ) も同様に最重要課題と考えている。 BMAは 既 存 施 設 の 維 持 管 理 の 必 要 性 は 認 識 し て お り 、下 水 道 管 路 内 の 視 認 の た め の シ ス テ ム の 導 入 を 検 討 す る 等 、 対 策 を 講 じ て い る 。 BMAが 抱 え る 最 大 の 課 題 は 、施 設 を 運 営 し て い く た め に 料 金 徴 収 が 必 須 で あ る に も 関 わ ら ず 、下 水 道 の 整 備 率 が 低 い た め に 料 金 徴 収 が 実 施 出 来 て い な い こ と で あ る 。そ の た め 、既 存 施 設 の 維 持 管 理 の 重 要 性 は 十 分 認 識 し て い る が 、そ れ 以 上 に 下 水 道 事 業 運 営 に お い て 優 先 度 が 高 い の は 、下 水 道 の 整 備 率 を 上 昇 さ せ る た め に 新 規 の 施 設 整 備 を 実 施 することである。 202 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.6.3 (1) JICA 国際航業 下 水 道 管 理 公 社 (WMA) 組織と業務内容 WMAは MNRE(Ministry of Natural Resources and Environment)の 下 部 組 織 で あ り 、バ ン コ ク 都 内 を 除 く タ イ 国 内 の 下 水 道 施 設 を 管 理 し て い る 。職 員 数 は 120 名 ( バ ン コ ク 都 内 60名 、 バ ン コ ク 外 60名 ) で あ る 。 タ イ 国 内 に あ る 下 水 処 理 場 101箇 所 ( バ ン コ ク 8箇 所 、 バ ン コ ク 外 93箇 所 ) は 基 本 的 に 各 地 方 自 治 体 が 建 設 、管 理 を 行 っ て い る 。下 水 道 施 設 の 内 、バ ン コ ク 都 内 に つ い て は BMAが 管 理 し て い る た め 、WMAの 管 轄 す る 地 域 は バ ン コ ク 外 の タ イ 国 内 全 域 と な る が 、全 て の 下 水 道 施 設 を 管 理 し て い る 訳 で は な く 、各 地 方 自 治 体 が 下 水 道 施 設 を 新 た に 建 設 す る 場 合 、ま た 施 設 の 老 朽 化 に よ り 更 新 の 必 要 が あ る 場 合 等 に お い て 、独 自 で 施 設 の 更 新 を 進 め る こ と が 困 難 な 状 況 で あ る 場 合 に 限 ら れ る 。 こ の よ う な 場 合 に 地 方 自 治 体 が WMAに 対 し て 下 水 道 施 設 運 営 の 要 請 を 出 し 、 要 請 が 受 理 さ れ た 後 、 最 大 15年 間 を 限 度 と し て WMAが 下 水 道 施 設 運 営 を 支援する。 サ ポ ー ト の 内 容 と し て は 、下 水 道 処 理 施 設 新 設 の 資 金 援 助 、施 設 の 運 営 、地 方 自 治 体 に 対 す る 運 営 方 法 の 指 導 で あ り 、 15年 の 契 約 期 間 中 は WMAが 下 水 道 処 理 施 設 を 直 接 管 理 し 、建 設 資 金 や 施 設 更 新 に か か る 資 金 が 足 り な い 場 合 は 、国 か ら の援助を受けて各下水道処理施設の運営維持管理を行っている。 現 状 で は 、月 当 り 下 水 道 使 用 料 30バ ー ツ を 各 世 帯 か ら 徴 収 し 、タ イ 国 内 18か 所 の下水道処理施設の運営資金に充てている。 WMAの 業 務 の 目 的 は 、 15年 の 契 約 期 間 中 の 指 導 に よ り 、 各 地 方 自 治 体 が 施 設 の 運 営 能 力 を 持 ち 、自 立 し た 施 設 運 営 を 可 能 に す る こ と を 目 指 す も の で あ る 。こ の た め 、 下 水 道 処 理 施 設 は 地 方 自 治 体 が 所 有 す る た め 、 WMAが 独 自 で 施 設 を 所 有 す る こ と は な い 。15年 の 契 約 期 間 内 に 地 方 自 治 体 が 下 水 道 処 理 施 設 の 運 営 が で き る よ う に な っ た 場 合 、 WMAの サ ポ ー ト は 終 了 と な る が 、 こ れ ま で 契 約 期 間 を 待 た ず に 終 了 し た ケ ー ス は 1箇 所 し か な く 、 ほ と ん ど の 自 治 体 は 15年 の 契 約 終 了 後 も 契 約 期 間 を 延 長 し 、 WMAに よ る 施 設 の 運 営 維 持 管 理 の 継 続 を 望 ん で い る の が現状である。 WMAが 対 象 と す る 施 設 は 下 水 道 処 理 施 設 の み で あ り 、 下 水 道 管 渠 の 建 設 、 維 持管理は各地方自治体が行っている。 (2) 施設の維持管理状況 下 水 処 理 施 設 の 耐 用 年 数 は 資 機 材 に よ り 異 な る が 7~ 15年 で あ り 、 施 設 の 予 防 保 全 と し て 資 機 材 へ の オ イ ル や グ リ ー ス の 定 期 的 な 注 入 、ス ペ ア パ ー ツ の 交 換 を 行っている。 203 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) JICA 国際航業 WMAの 抱 え る 課 題 現 状 で 一 番 大 き な 問 題 は 予 算 が 少 な い こ と で あ る 。 ま た 、 職 員 数 が 120名 と 少 な く 、今 後 増 加 す る で あ ろ う 地 方 自 治 体 か ら の 下 水 道 処 理 施 設 の 運 営 維 持 管 理 の 依頼に応える体制が整っていないことである。 (4) 日本による技術支援 2014年 度 現 在 、 WMAは 埼 玉 県 下 水 道 局 か ら 「 草 の 根 技 術 協 力 事 業 」 の 適 用 を 受 け て 下 水 技 術 移 転 を 受 け て お り 、今 年 度 が 3年 プ ロ ジ ェ ク ト の 最 終 年 に あ た る 。 埼玉県下水道局としては、本プロジェクトを通して、タイ国の地方都市及び WMAと の 友 好 関 係 を 構 築 し 、 将 来 の 水 ビ ジ ネ ス 案 件 の 形 成 に つ な げ る こ と を 期 待している。 支援の概要としては、現地での予備調査を経て、 1.技術者の派遣 2.研修員の受入れ を 実 施 す る こ と で 、効 率 的 な 下 水 処 理 技 術 と 維 持 管 理 技 術 の 支 援 及 び 技 術 的 問 題 解決のための指導している。 (5) アセットマネジメントの現状と課題 WMAの 組 織 の 役 割 が 技 術 支 援 に 限 定 さ れ て お り 、 施 設 の 保 有 と 長 期 間 の 維 持 管 理 の 責 任 を 負 っ て い な い た め 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 関 心 は 低 い 。施 設 を 保 有 す る 地 方 自 治 体 も 、 維 持 管 理 を で き る だ け WMAに や っ て も ら う と い う 気 持 ちでいるため、アセットマネジメントへの関心は低い。 このような現状に対し今後考え得る対応策は以下の通りである。 WMAに 対 し て は 現 在 埼 玉 県 が 実 施 し て い る よ う な 技 術 支 援 を 継 続 し 、 職 員 の 下 水 処 理 技 術 と 維 持 管 理 技 術 の 更 な る 向 上 を 目 指 す 。ま た 、地 方 自 治 体 に 対 し て は 、既 存 の 下 水 道 施 設 の 再 整 備 と 共 に 、最 終 的 に は 下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 は 地 方 自 治 体 が 実 施 し て い く 必 要 が あ る こ と を 認 識 さ せ 、 WMAか ら の 専 門 家 の 派 遣 に よ っ て 下 水 処 理 技 術 及 び 維 持 管 理 技 術 を 指 導 し て 、地 方 自 治 体 の 下 水 道 施 設 管 理 レベルを上げることが必要である。 204 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.7 鉄道分野 4.7.1 タイ国の鉄道分野の概要 JICA 国際航業 タ イ 国 の 鉄 道 に 関 連 す る 事 業 者 は 、 以 下 3事 業 者 に 分 類 さ れ る 。 1896年 か ら 操 業 し タ イ 国 全 土 に 在 来 線 鉄 道 網 を 持 つ タ イ 国 鉄 (SRT)( 運 用 も SRT) 2010年 に 開 業 し バ ン コ ク 中 心 街 と ス ワ ン ナ プ ー ム 国 際 空 港 を 高 架 鉄 道 で 結 ぶ エ ア ポ ー ト リ ン ク ( 延 長 28.6km ) を 運 用 す る SRT の 子 会 社 で あ る SRTET(SRT Electrified Train)(運 用 は SRTET). 2005年 に 開 業 し バ ン コ ク 首 都 圏 の 地 下 鉄 20.8kmを 所 有 す る 国 営 企 業 タ イ 高 速 度 交 通 公 社 (MRTA)( 運 営 は 民 間 会 社 BMCL(Bangkok Metro Public Company Limited)) 1999年 に 開 業 し バ ン コ ク 中 心 部 の 高 架 軽 量 鉄 道 (ス カ イ ト レ イ ン )36.92km を 所 有 す る バ ン コ ク 都 ( 運 用 は 民 間 会 社 BTSC (Bangkok Mass Transit Railway System Public Company Limited)) バ ン コ ク 首 都 圏 で は 通 勤 通 学 輸 送 の 公 共 交 通 機 関 は バ ス の み だ っ た が 、経 済 成 長 に 伴 う 渋 滞 の 解 消 の た め 1990年 代 初 頭 よ り 地 下 鉄 、 高 架 軽 量 鉄 道 が 計 画 さ れ 、 1990年 代 後 半 か ら 建 設 が 始 ま っ た 。 4.7.2 タ イ 国 有 鉄 道 (SRT) (1) 概要 1) 施設概要 タ イ 国 鉄 の 本 線 は タ イ 国 全 国 に 渡 り 全 長 4,071kmで 、全 て の 軌 道 幅 は 1,000mm で あ る 。 本 線 は 以 下 4路 線 と そ れ 以 外 の 12支 線 で あ り 、 こ れ ら の 路 線 及 び 支 線 の 運営・管理をしている。 表 74 路線名 北本線 SRT本 線 の 路 線 長 始点都市-終点都市 路線長 バンコク-チェンマイ KM.751+620 バンコク-ノーンカーイ KM.623+900 バンコク-ウボンラーチャタニー KM.575+600 東本線 バンコク-アランヤプラテート KM.260+449 南本線 バンコク-スンガイコーロック KM.1,143+380 東北本線 注 : 路 線 長 は 単 線 で 換 算 し た 場 合 で 複 線 は 2回 加 算 205 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 89 JICA 国際航業 SRTの 本 線 出 典 : SRT イ ン フ ラ の 管 理 施 設 は レ ー ル 及 び 路 床・路 盤 、操 作 場 の 他 、安 全 施 設 と し て 信 号機、分岐器、踏切等も含まれる。 分 岐 器 に つ い て は 全 国 440駅 の 内 、 電 気 転 て つ 機 と 色 灯 式 信 号 が 首 都 圏 を 中 心 に 約 50% 、手 動 転 て つ 機 と 腕 木 式 信 号 が 約 40% 、そ の 他 約 10%は 信 号 機 が 設 置 さ れている。 ま た 、 踏 切 保 安 施 設 は 、 全 国 約 2,500箇 所 の 内 、 90%が 平 面 交 差 で あ る 。 2) 実施体制 SRTの 運 営 を 効 率 化 し 赤 字 体 質 か ら の 脱 却 を 促 進 す る た め 、2010年 10月 に 組 織 再 編 さ れ 運 行 管 理 、 資 産 管 理 、 維 持 管 理 部 門 の 3ビ ジ ネ ス ユ ニ ッ ト が 設 置 さ れ て い る 。 組 織 再 編 後 の 最 新 の 組 織 図 は 図 90の と お り で あ る 。 ま た 、 イ ン フ ラ 維 持 管 理 の 組 織 で は 、 イ ン フ ラ 局 に 土 木 系 関 連 部 署 (Deputy Governor Infrastructure 1) と 信 号 ・ 電 気 関 連 部 署 (Deputy Governor Infrastructure 2)が 別 れ て お り 、そ れ ぞ れ の 指 揮 命 令 系 統 が 独 立 し て い る た め 両 者 の 調 整 に 時 間 を 要 す る こ と が あ る 。例 え ば 列 車 を 停 め て 保 線 作 業 を 行 う 時 は 地 方 保 線 セ ン タ ー 内 で の 土 木 、信 号 、電 気 各 部 署 の 連 携 が 調 整 さ れ ず 、本 部 イ ン フ ラ局で調整せざるを得ず、保線作業を進めるために時間を要することがある。 206 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Board of Commissioner Governor Internal Auditing Governor Bureau Legal Bureau Policy, Planning Service Research & Deveopment Bureau Propoerty Mangement Public Relation & Tourism Services Center Chief Operation Bureau of Commissions, Coordination & Statistics Center Verify Control & Evaluation Deputy Governor (Infrastructure 1) Deputy Governor (Infrastructure 2) Governor (Administra tion) Civil Engineering Deparment Signaling & Telecommunic ation Department Special Project & Construction Deparment Electrical Rail Maintenance Bureau 図 90 Business Unit (Traffic management) Business Unit (Property management) Business Unit (Maintenance) SRTET Co.,Ltd. Airport Rail Link SRT全 体 組 織 図 ( 2011年 12月 13日 現 在 ) 出 典 : SRT 3) 財務状況 SRT は 長 期 に 渡 り 赤 字 経 営 が 続 い て お り 、料 金 収 入 が 伸 び 悩 む 中 維 持 管 理 費 は 拡 大 し て お り 、 そ の 赤 字 幅 は 拡 大 し て い る 。 2013 年 は 約 93 億 バ ー ツ の 収 入 に 対 し 、 運 営 費 か つ 収 入 の 75%、 維 持 管 理 費 が 合 計 71 億 バ ー ツ と 収 入 の 76%に の ぼ っ て い る 。 さ ら に 利 子 支 払 が 30 億 バ ー ツ と 収 入 の 30%を 占 め 負 担 が 大 き い 。 多 く の 問 題 を 抱 え て い る SRT の 改 善 の た め 、 財 務 省 が 対 策 委 員 会 を 設 置 し 、 具 体 策を検討する予定である。 207 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 75 JICA 国際航業 SRTの 財 務 状 況 単位:百万バーツ 2009 Income Fare (Passenger) Subsidy foro fare Income from freight and others Total Income Expense Infrastructure Maintenance (Rail, Signal, Architecture) Rolling stock maintenance Operation Management Total Expense Operating income Repayment Depreciation Loan Interest Grand Total 2010 2011 2012 2013 4,308 45 4,262 8,615 3,997 2,153 4,966 11,116 3,933 676 5,332 9,941 3,696 2,373 4,996 11,065 3,700 20 5,579 9,299 / income (%) 40% 0% 60% 100% 1,591 2,059 2,619 2,514 3,885 42% 2,519 6,245 606 10,961 -2,346 942 1,979 2,152 -9,412 2,630 6,591 698 11,978 -862 925 2,017 2,201 -8,175 2,850 6,750 780 12,999 -3,058 934 3,920 2,368 -12,499 2,982 6,837 1,005 13,338 -2,273 945 1,987 2,714 -10,406 3,298 7,014 931 15,128 -5,829 933 1,890 3,000 -14,284 35% 75% 10% 163% -63% 32% -154% 出 典 : SRT Annual Report (2) 維持管理の状況 SRTで は 毎 年 100件 程 度 の 脱 線 事 故 が 発 生 し て い る 。 こ れ ら の 原 因 は 軌 道 系 の 老 朽 化 の 他 、列 車 、設 備 、不 完 全 な 踏 み 切 り 等 が 原 因 で あ り 、維 持 管 理 が 十 分 に 行われていないと考えられる。 表 76 年(暦年) 脱線件数 2009 94 2010 SRTの 脱 線 件 数 2011 102 113 2012 89 2013 125 2014 57 *但 し 2014年 は 7月 27日 現 在 の 件 数 出 典 : SRT 1) 計 画 (Plan) SRTは 本 線 の 軌 道 保 全 に つ い て の 5年 計 画 を 策 定 し て お り 、 そ の 中 で レ ー ル ・ 枕 木 ・ 分 岐 器 等 の 維 持 ・ 更 新 時 期 を 計 画 し て い る 。 具 体 的 に は 2012年 か ら 3年 間 で 約 200億 バ ー ツ を 投 じ 、 21区 間 の 路 線 の 本 格 的 な 改 修 工 事 を 行 う 予 定 で あ っ た が遅延しており、近々開始される予定である。 208 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 現 在 の 路 線 の レ ー ル 種 別 は 表 77の と お り で あ る 。 表 77 SRTの レ ー ル 種 別 レール種類 レール敷設後の 使用率 ( ポ ン ド /ヤ ー ド ) 使用年数(年) ( %) 50 40-60 1.29 60 35-50 7.68 70 20-45 34.58 80 1-30 19.91 100 1-2 36.54 合計 100.00 出 典 : SRT 今 後 本 計 画 が 進 捗 す れ ば 、 レ ー ル 付 設 後 の 使 用 年 数 が 長 い 区 間 か ら 順 次 100ポ ン ド レ ー ル に 交 換 し 、 100ポ ン ド レ ー ル の 使 用 率 が 36.54%か ら 80~90%台 に 大 幅 に改善される計画である。 レールのヤード当たりの重量が増すことにより車輪から軸荷重を受ける面積 が 増 え 、単 位 面 積 当 た り の 軸 荷 重 応 力 を 低 減 さ せ る こ と が で き 、レ ー ル の 耐 久 年 数 が 延 び る 。併 せ て 、レ ー ル の 重 量 が 増 え る と 、列 車 の 安 定 走 行 、高 速 走 行 に よ り、脱輪・脱線等の事故の軽減につながる。 ま た 、本 計 画 で は レ ー ル・枕 木 も レ ー ル と 併 せ て 交 換 す る 予 定 で あ る 。木 及 び コ ン ク リ ー ト ( ツ ー ボ ッ ク ス ) は 耐 久 年 数 が PCと 比 較 し て 短 い た め 、 こ れ ら の 枕 木 を 順 次 PCに 置 き 換 え 、 PC枕 木 の 使 用 率 を 90%台 に 向 上 す る 。 表 78 タイ国鉄路線のレール・枕木の種別 枕木の種別 使用率(%) 木 29.11 コンクリート(ツーボックス) PC 5.05 65.84 合計 100.00 出 典 : SRT 支 線 の 更 新 に つ い て は 未 だ 計 画 さ れ て な い が 今 後 3~4年 か け 更 新 計 画 を 策 定 す る予定である。 2) 実 行 (Do) 現 在 、利 用 年 数 の 長 い 区 間 か ら レ ー ル 、枕 木 の 交 換 を 行 っ て い る 。維 持 管 理 に 関 す る 情 報 は エ ク セ ル 、ア ク セ ス で 、施 工 図 は 紙 媒 体 で 管 理 し て い る た め 、情 報 が散逸し、必要な情報を集めるために多大な時間がかかっている。 209 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ま た 、27年 前 か ら 軌 道 検 測 車 両 を 導 入 し 軌 道 幅 、枕 木 の 損 傷 状 態 等 を 測 定 し な が ら デ ー タ を 収 集 し て い る 。 更 に 、 1年 以 内 に 新 規 軌 道 用 検 測 車 を 導 入 す る 予 定 である。 維 持 管 理 の 担 当 区 間 は 平 均 300kmの 保 線 区 に 分 か れ て お り 、週 に 一 度 は 保 線 区 長 が 担 当 す る 全 区 間 を 、 週 に 3回 は 上 級 検 査 員 が 全 区 間 を 、 担 当 検 査 員 が 1日 1回 徒歩で目視点検を行っている。 ま た レ ー ル 磨 耗 に つ い て は 磨 耗 度 に 応 じ た 更 新 ガ イ ド ラ イ ン が あ り 、同 ガ イ ド ラインに沿ってレールを交換している。 分 岐 器 に つ い て は 保 線 区 長 、上 級 検 査 員 、担 当 検 査 員 が 目 視 で 確 認 を 行 っ て い る 。踏 切 保 安 施 設 に つ い て も 保 線 区 長 、上 級 検 査 員 、担 当 検 査 員 が 目 視 で 確 認 し ているが、脱線事故件数の改善の兆しは見えない。 3) 評 価 (Check) 軌道用検測車で収集したデータは独自のソフトにデータベースとして蓄積し、 そのデータを分析し補修が必要な区間を選定している。 組織再編後の各部署に振り分けられる予算と実際の予算承認との整合性が図 られておらず、経営者層が正しい事業計画を策定するのに支障を来たしている。 組 織 再 編 後 の 各 部 署 に 対 応 す る よ う 財 務 会 計 シ ス テ ム を 再 構 築 す る た め 2013年 3月 よ り 1年 間 ADB(Asian Development Bank)が SRTの 財 務 会 計 管 理 シ ス テ ム 再 編 支 援 に 関 す る 技 術 協 力 を 実 施 し た 。そ の 提 案 内 容 は 約 40百 万 バ ー ツ の 運 用 管 理 デ ー タ セ ン タ ー 及 び ハ ー ド ウ ェ ア と 約 80 百 万 バ ー ツ の ソ フ ト ウ ェ ア 等 総 計 約 120百 万 バ ー ツ の 計 画 で 、 こ れ に よ り 基 礎 的 な デ ー タ に 基 づ く 予 算 計 画 策 定 、 タ イ ム リ ー な 計 画 策 定 及 び 決 定 が 可 能 に な る 。 77 4) 見 直 し (Action) 社内に監査室があり、点検報告を評価し各担当部にフィードバックしている。 77 http://www.adb.org/sites/default/files/projdocs/2012/45042-003-tha-tar.pdf 210 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (4) JICA 国際航業 日本の協力 1) 円 借 款 1981年 鉄 道 車 両 購 入 事 業 か ら 始 ま り 、1980年 代 後 半 は 東 部 臨 海 工 業 地 帯 の 鉄 道 建 設 事 業 、 1990年 代 以 降 は 国 鉄 軌 道 改 良 事 業 を 支 援 。 現 在 は 、 初 の 電化鉄道となるバンコク大量輸送網整備事業(レッドライン)への円借款 を行っている。 2) 技 術 協 力 これまで実施された技術協力は次の通り。 1983.8~ 1984.7 バンコク首都圏国鉄高架化計画調査 鉄道ヤード改良計画調査 都市開発と一体化した首都圏鉄道輸送増強計画調査 1985.12~1987.6 1993.8 ~ 1995.11 (3) タイ鉄道研修センター 1992.6~ 1997.6 アセットマネジメントの現状と課題 SRTは 恒 常 的 に 赤 字 で あ り 、 事 故 は 年 間 100件 以 上 発 生 し て い る が 、 事 業 運 営 は 低 所 得 者 へ の 利 用 料 金 無 料 化 等 政 府 の 方 針 に 大 き く 左 右 さ れ て い る 。従 っ て 現 在 は 、 政 府 の 承 認 を 得 ら れ た Track Strenghteningプ ロ ジ ェ ク ト 予 算 200億 バ ー ツ で 、 2015年 か ら 2、 3年 間 で 老 朽 化 施 設 の 改 善 プ ロ ジ ェ ク ト を 進 め る こ と が 最 重 要 と な っ て い る 。政 府 に 設 置 さ れ た 経 営 状 態 改 善 の た め の 対 策 委 員 会 主 導 の 早 急 な 運 営 改 善 の 見 込 め る 対 策 が 優 先 と な り 、長 期 的 な 視 点 で 効 果 の 見 込 め る ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 包 括 的 な 計 画 を 策 定 、実 施 で き る 段 階 に 至 っ て い な い と 推 測 される。 211 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.7.3 JICA 国際航業 タ イ 高 速 度 交 通 公 社 (MRTA) (1) 概要 1) 事業概要 現 在 MRTAが 運 用 し て い る の は 全 線 地 下 鉄 で あ る ブ ル ー ラ イ ン の み で 、軌 道 延 長 は 20.8km、 軌 道 幅 1,435mmで あ る 。 ブ ル ー ラ イ ン 利 用 者 数 は 開 業 当 時 か ら 毎 年 約 5%増 加 し て い る 。 現 在 ブ ル ー ラ イ ン を 西 側 方 向 に 延 伸 す る 工 事 が 行 わ れ て い る 。さ ら に 、パ ー プ ル ラ イ ン 建 設 が 進 行 中 で 、今 後 、ピ ン ク ラ イ ン 、オ レ ン ジ ラ イ ン 、イ エ ロ ー ラ イ ン の建設及びグリーンラインの延伸工事が予定されている。 現在建設が予定されているこれら鉄道公共交通ネットワークが完成すれば鉄 道網が拡充し利用者数のさらなる増加が見込まれる。 240,000 220,000 200,000 利 180,000 用 者 160,000 数 140,000 120,000 100,000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 年 図 91 ブルーラインの利用者数 出 典 : MRTA Annual Report 2013 2) 施設概要 MRTAの 管 理 施 設 は ト ン ネ ル 構 造 物 及 び レ ー ル 、操 作 場 等 で あ り 、安 全 施 設 と して分岐器、信号機等も含まれる。 ま た 、 開 業 前 年 の 2004 年 か ら BMCL 社 へ 25 年 間 の コ ン セ シ ョ ン 契 約 に よ り MRTAは 地 下 鉄 の 運 営 ・維 持 管 理 を 委 託 し て お り 、BMCL社 が ト ン ネ ル 施 設 、レ ー ル、安全施設等の日常点検の実務を行っている。 212 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 3) JICA 国際航業 実施体制 MRTAの 職 員 数 は 806名 で あ り 、維 持 管 理 に つ い て は 図 92の と お り 管 理 部 維 持 管 理 課 が 担 当 し て お り 、維 持 管 理 コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 し て い る BMCL社 か ら 毎 月 提出される維持管理報告書を検査している。 Governor Office of Governor Deputy Governor (Strategy & Planning) Audit Office Deputy Governor (Operations) Chief Financial Office Deputy Governor (Engineerign & Construction) Deputy Governor (Administratio n) Assistant Governor (Operations) Security & Rescue Department Operations Deparment Maintenance Division System Operations Division 図 92 MRTA組 織 図 出 典 : MRTA Annual Report 2013 ま た 、BMCL社 の 職 員 数 は 1,089名 で 図 93に 示 す と お り ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に 力 を 入 れ て お り 、 土 木 ・建 築 構 造 物 、 水 関 係 、 通 信 の そ れ ぞ れ の 部 署 に 維 持 管 理 ユ ニ ッ ト を 設 置 し て い る 。そ れ ぞ れ の 部 署 が ト ン ネ ル 、ト ン ネ ル の 漏 水 、通 信 分 野 の 維 持 管 理 を 担 当 し て お り 、検 査・補 修 等 を 行 い MRTAに 月 例 報 告 書 を 提 出 している。 213 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Assistant Managing Director Engineerging & Maintenance Group Engineering & Maintenance Director Asset Management Strategy & Plannign Director Civil Auxiliary System Engineering Manager Maintenance & Engineering Manager Rolling Stock Track work Automatic Fare Collection Signaling SCADA Power Supply Graphics Communication Engineering & Maintenane Planning Manager Civil & Architecture Asset Management Strategy & Planning Asset Managemetn Strategy & Planning Section Maintenance Units Water Systems Maintenance Units Maintenance Units 図 93 BMCL社 の 技 術 ・ 維 持 管 理 部 組 織 図 出 典 : MRTA 4) 財務状況 MRTAの 赤 字 経 営 が 続 い て い た が 、2013年 は 円 安 に よ り 円 借 款 の ス ワ ッ プ に よ る 差 益 及 び 未 実 現 為 替 利 益 が 生 じ た た め 黒 字 転 換 し て い る 。為 替 差 益 な ど 特 別 な 項 目 を 除 い た 営 業 収 入 は 徐 々 に 増 え て 2013年 に は 6億 バ ー ツ で あ る が 、支 出 は 30 億 バ ー ツ 以 上 、減 価 償 却 費 の 影 響 を 除 い て も 約 14億 バ ー ツ と 収 入 を は る か に 上 回 っ て い る 。 な か で も 負 債 の 調 達 コ ス ト が 8.5億 バ ー ツ と 負 担 が 大 き い 。 MRTAは 負 債 の 大 部 分 が 外 貨 の た め 、 為 替 の 変 動 に 多 大 な 影 響 を 受 け て い る 。 こ の 状 況 を 改 善 す る た め に 、ス ワ ッ プ 等 を 利 用 し て 、為 替 の 影 響 を 軽 減 し て い く 意向であるが、まずは本業の経営改善が大きな課題である。 214 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 79 JICA 国際航業 MRTA の 収 支 バ ラ ン ス 単位:百万バーツ 2010 REVENUES From subsides From concession contract From shop net From approval to use real estates From Park & Ride service fees Total revenue from operation Other revenues Profit from sale of exchange rate Total revenue EXPENSES Personnel expense Depreciation and amortization Other expenses Loss from exchange rate Financial cost Total Expenses Net income 2011 2012 396 27 12 17 37 489 25 1,816 2,333 441 31 12 28 43 556 27 440 1,898 280 1,905 179 9,187 864 12,417 -11,832 857 3,195 -862 585 2013 398 46 16 32 49 542 44 1,995 2,581 430 80 18 40 54 624 35 17,829 18,490 322 1,917 177 430 1,916 191 814 3,231 -649 854 3,392 15,097 出 典 : MRTA Annual Report (2) 維持管理の状況 1) 計 画 (Plan) MRTAは BMCL社 と の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 に て 維 持 管 理 ガ イ ド ラ イ ン を 規 定 と し て 盛 り 込 ん で い る 。ま た 、BMCL社 は 基 本 戦 略 に 基 づ き ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 を 策 定 し 、ラ イ フ サ イ ク ル を 通 じ た ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 、全 資 産 を 対象とした包括的な年間維持管理計画と個別資産ごとのアセットマネジメント 計 画 を 策 定 し て い る 78。 78 BMCLで は 個 別 資 産 の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 、 プ ロ ジ ェ ク ト と み な し て い る 。 215 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 94 JICA 国際航業 BMCL社 の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 出 典 : BMCL 2) 実 施 (Do) BMCL社 は 予 防 保 全 の 考 え 方 に 基 づ く ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 導 入 し 、同 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 先 進 的 な ISO55000の 認 証 を 受 け て お り 、 同 社 が 維 持 管 理 業 務 を 外 注 す る 場 合 も 、ISO55000に 基 づ き 維 持 管 理 を 実 施 す る よ う 徹 底 し て い る 。 BMCL社 は 製 造・施 工 会 社 か ら の 維 持 管 理 情 報 を 基 に 、MRTAと の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で 規 定 さ れ た 維 持 管 理 ガ イ ド ラ イ ン に 従 っ て 維 持 管 理 し て い る 他 、監 視 制 御 シ ス テ ム SCADA、 SAP等 の シ ス テ ム で 運 用 管 理 を 行 っ て い る 。 ま た 、日 常 の 維 持 管 理 は 、保 線 要 員 が 終 電 か ら 始 発 間 に 地 下 全 線 の 点 検 補 修 を 実施し、主としてトンネル・駅舎部の湧水状況をチェックしている。 3) 評 価 (Check) 図 95は BMCL社 の レ ビ ュ ー 体 制 を 表 し て い る 。 安 全 性 、 信 頼 性 等 重 要 な 項 目 は BMCL社 が レ ビ ュ ー し 改 善 す る 。ま た 、BMCL社 が 維 持 管 理 を 外 注 し て い る も のについて事後保全で異常が発見された場合は情報履歴をレビューし契約管理 会 議 に て 改 善 策 を 検 討 し 対 策 を 実 施 す る 。ま た 、予 防 保 全 で 異 常 が 発 見 さ れ た 場 合 は 予 防 保 全 計 画 、ス ケ ジ ュ ー ル 、予 防 保 全 記 録 等 を レ ビ ュ ー し 機 能 改 善 会 議 に て改善策を検討、対応する。 216 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート Review & Update Asset List/ Configuration Review & Update Safety / Reliability Critical Items JICA 国際航業 Review Failure Notification Review Preventive Maintenance Plan Review Preventive Maintenance Schedule Review Corrective Maintenance Backlog Review Preventive Maintenance Record form or check sheet Contract Committees Meeting Functional Performance Meeting Improve & Follow-up Improvement by Contractors Improvement by BMCL 図 95 BMCL社 の 維 持 管 理 業 者 へ の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 出 典 : BMCL 4) 見 直 し (Action) BMCL社 内 審 査・評 価 委 員 会 を 設 置 し て お り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に フ ィードバックされるようになっている。 (2) 日 本 の 協 力 円借款 1996年 度 バ ン コ ク 地 下 鉄 建 設 事 業 (ブ ル ー ラ イ ン )か ら 始 ま り 、現 在 は パ ー プ ル ラ イ ン へ の 供 与 を 行 っ て お り 、 2012年 度 ま で に 3,015億 円 供 与 し て き た 。 (3) ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 と 課 題 MRTAが 現 在 管 理 し て い る の は 2004年 に 開 通 し た ブ ル ー ラ イ ン の み で あ り 、施 設 は ま だ 若 く 健 全 な 状 態 が 保 た れ て い る 。そ し て 、MRTAは す べ て の 運 営 維 持 管 理 業 務 を 25年 間 の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で BMCL社 に 委 託 し て い る た め 、MRTAの 維 持 管 理 部 署 の 業 務 は BMCL社 の 履 行 状 況 の 確 認 と 承 認 に 限 定 さ れ て い る 。 BMCL社 は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に 基 づ く 体 制 で 、モ ニ タ リ ン グ・評 価 等 の 維 持 管 理 を 行 っ て お り 、 監 視 制 御 シ ス テ ム SCADAで 運 用 管 理 も 行 っ て い る 。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム で は 先 進 的 な ISO55000の 認 証 を 受 け て い る 。 現 在 の と こ ろ 、大 き な 損 傷 や 老 朽 化 は 報 告 さ れ て い な い が 、ト ン ネ ル も い ず れ は 老 朽 化 が 進 ん で く る 。そ の 分 野 の 点 検・維 持 管 理 の 経 験 や 技 術 は 乏 し い と 推 測 され、これへの対応が将来の課題である。 217 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.8 電力分野 4.8.1 タイ国の電力分野の概要 JICA 国際航業 タ イ の 電 力 供 給 主 要 事 業 者 は 3社 で あ る 。 発 電 及 び 国 内 の 全 送 電 を タ イ 発 電 公 社 (EGAT)が 行 い 、 配 電 事 業 は バ ン コ ク 都 及 び 周 辺 2県 は 首 都 圏 配 電 公 社 (MEA) が 、 そ の 他 の 73県 は 地 方 配 電 公 社 (PEA)が 行 っ て い る 。 そ の 他 に も 、タ イ 国 の 電 気 供 給 は 電 気 事 業 自 由 化 に よ っ て 1992年 に 民 間 資 本 が 参 入 可 能 と な り 、独 立 系 発 電 事 業 者 (Independent Power Producer:IPP)、小 規 模 発 電 事 業 者 (Small Power Producer:SPP) 、 極 小 規 模 発 電 事 業 者 (Very Small Power Producer:VSPP)、代 替 エ ネ ル ギ ー 開 発 効 率 局 (Department of Alternative Energy Development and Efficiency: DEDE)も 発 電 事 業 に 参 入 し て い る 。 IPPは EGATか ら 分 離 ・ 独 立 し た 事 業 者 と そ れ 以 外 の 事 業 者 に 大 別 さ れ 、 2011 年 時 点 で 6,600MWを 発 電 し て い る 。 ま た 、 SPPは 10MW超 90MW以 下 の 電 力 を EGATに 売 却 す る 発 電 事 業 者 で 、 中 部 電 力 、 関 西 電 力 、 電 源 開 発 等 が 参 画 し て い る 。天 然 ガ ス 、石 炭 等 の 従 来 型 発 電 を 用 い た コ ジ ェ ネ や 、ゴ ミ 、バ イ オ マ ス 、太 陽 光 ・太 陽 熱 等 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー を 利 用 し て エ ネ ル ギ ー 効 率 を 上 げ る と と も に 、 石 油 輸 入 の 削 減 を 図 る こ と 等 を 目 的 と し て 導 入 さ れ て お り 、 2012年 時 点 で SPPか ら EGATへ 2,554MWを 売 電 し た 。 VSPPは 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 開 発 を 促 進 す る た め に 設 立 さ れ 、 10MW以 下 の 電 力 を MEA又 は PEAに 直 接 売 電 し て お り 、 2012年 時 点 で 682MWを 売 電 し た 。 な お 、 最 終 需 要 家 へ の 電 力 料 金 は 2007年 に 設 立 さ れ た エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会 (Energy Regulatory Commission :ERC)が 規 制 し て い る (詳 細 は 図 96参 照 )。 Power Supply VSPP SPP IPP Transmission EGAT EGAT End User 図 96 PEA MEA End User End User Import Fare regulation Fare regulation ERC Distribution DEDE Large demand user タイ国の電気事業体制 出 典 : 東 南 ア ジ ア に お け る 電 力 市 場 の 発 展 と 日 本 企 業 研 究 会 報 告 書 ( 2013年 度 ) 218 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.8.2 JICA 国際航業 タ イ 発 電 公 社 (EGAT) (1) 概要 1) 事業概要 2011年 の 発 電 量 は 155,207MWhで 、タ イ 国 の 経 済 成 長 と と も に 売 電 量 も 毎 年 増 加 し て い る 。 な お 、 3年 を 1期 間 と し て 見 直 し が 行 わ れ て い る 2012年 の タ イ 電 源 開 発 計 画 (Power Development Plan:PDP)で は 、 NESDBが 2011年 に 推 計 し た 経 済 指 標 (2012~2030年 ま で の 年 平 均 実 質 GDP成 長 率 4.4%)に 加 え 、省 エ ネ ル ギ ー 効 果 、代 替 エ ネ ル ギ ー 導 入 効 果 等 を 考 慮 し て も 電 力 需 要 は 2030年 ま で は 継 続 的 に 増 加 し 、 電 力 需 要 拡 大 に 伴 い EGATの 売 電 量 も 増 加 す る 見 込 み で あ る 。 な お 、 売 電 先 は MEAが 約 30%、 PEAが 約 70%で あ る 。 表 80 EGATの 売 電 先 及 び 売 電 量 単 位 : MWh 年 MEA 他 PEA 合計 2007 43,597 93,159 2,689 139,445 2008 43,598 94,860 1,100 141,558 2009 43,221 95,390 3,081 141,692 2010 46,635 106,403 3,087 156,125 2011 45,766 106,391 3,050 155,207 出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ 表 81に 示 す と お り 、 電 力 需 要 拡 大 に よ る 売 電 量 増 加 に 対 応 す る た め 、 送 電 容 量 が 大 き い 230kv、 500kv等 の 送 電 網 を 増 設 し 、 小 送 電 容 量 系 統 か ら 大 送 電 容 量 系統へシフトしている。 表 81 EGATの 送 電 網 距 離 単 位 : km 年 115kv 230kv 500kv その他 合計 2007 13,765 13,304 3,432 55 30,556 2008 13,458 13,277 3,432 51 30,218 2009 13,279 13,393 3,721 52 30,445 2010 13,352 13,541 3,721 25 30,639 2011 13,047 13,950 3,469 51 30,517 2012 13,561 14,060 3,884 51 31,556 出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ さ ら に 、マ レ ー シ ア 、ミ ャ ン マ ー 、中 国 と の 電 力 取 引 に 関 す る 覚 書 を 交 わ し て いることから、隣国との送電網は増強されることが予測される。 219 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 施設概要 主 要 な イ ン フ ラ 施 設 は 表 82の 通 り で あ る 。 EGATが 管 理 す る イ ン フ ラ 施 設 は 主に発電所と送電網である。 表 82 EGATの 主 な イ ン フ ラ 施 設 Facility Capacity, Unit number Thermal power plant 3 unit Combined power plant 6 unit Hydropower plant 22 unit Renewable energy plant 8 unit Transmission Line 32,384cct-km Substation 213 unit 出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ 3) 実施体制 職 員 数 は 1990年 前 半 に 約 35,000名 で あ っ た が 、タ イ 国 の 経 済 危 機 に と も な う 人 員 削 減 に よ り 2012年 時 点 で 約 22,000名 に 減 少 し て い る 。 発 電 所 と 送 電 網 の 維 持 運 営 管 理 は 完 全 に 分 か れ て い る 。発 電 所 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 Generation 部 門 が 運 営 と 日 常 の 点 検 と 簡 単 な 補 修 、 Business Development 部 門 の 傘 下 の Maintenance Centerが オ ー バ ー ホ ー ル や 大 規 模 な 補 修 、更 新 を 行 っ て い る 。基 本 的 に 維 持 管 理 は 自 前 で 行 っ て お り 、作 業 員 も 合 わ せ て Generation部 門 の 人 員 は 約 7,000名 、Business Development部 門 の 人 員 は 約 2,000名 で あ る 。 ま た 、 Operation & Maintenance Business部 門 で は 、 EGATへ 電 力 を 供 給 す る 民 間 企 業 の 支 援 を 行 っ て お り 、例 え ば 投 資 の み 行 う IPPに 対 し て 、 EGATの 職 員 が 運 営 、 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。 同 様 に 、送 電 施 設 に つ い て は Transmission System Maintenance部 門 で 日 常 点 検、補修等を分担している。 220 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Governor Deputy Governor (Policy & Planning) Deputy Governor (Account & Finance) Deputy Governor (Administration) Deputy Governor (Corporate Social Affairs) Deputy Governor (Power Plant Development) Deputy Governor (Generation) Assistant Governors Deputy Governor (Fuel) Generation System Maintenance Deputy Governor (Transmission System Development) Deputy Governor (Business Development) Deputy Governor (Transmission System) Assistant Governors Assistant Governors Transmission System Maintenance Operation & Maintenance Business 図 97 EGAT組 織 図 出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ 4) 財務状況 EGATは 2013年 に 5,369億 バ ー ツ の 収 入( 前 年 比 239億 バ ー ツ 増 加 )を 上 げ 、売 上 総 利 益 は 583億 バ ー ツ( 前 年 比 8億 バ ー ツ 増 加 )、純 利 益 は 437億 バ ー ツ (前 年 比 4億 バ ー ツ 増 加 )で 、純 利 益 率 は 8%で あ っ た 。財 務 省 へ の 支 払 い を 引 い た 213億 バ ー ツ を 内 部 留 保 に 追 加 し て い る 。 79 79 財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も 多少変更する。 221 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 83 JICA 国際航業 EGATの 連 結 損 益 計 算 書 単位:百万バーツ 2013 Revenue from sales and services Cost of sales and services Gross profit Other revenues Other expenses Financial costs Net profit 2012 536,913 100% 512,992 100% (478,659) 58,255 4,774 (16,391) 89% 11% (455,503) 57,489 6,115 (17,797) 89% 11% (4,417) 43,732 less non-controling interests 8.1% (3,390) Net profit for EGAT Remmitance to the Ministry of Finance Incrase in unappropriated retained earnings (5,343) 43,338 8.4% (4,480) 40,342 100% 38,859 100% 19,060 21,282 44% 53% 17,331 21,527 40% 55% 出 典 : EGAT Annual Report 2013 EGATは 2013年 12月 末 現 在 、 5,784億 バ ー ツ の 資 産 を 有 し 、 そ の う ち 、 固 定 資 産 が 3,233億 バ ー ツ と 総 資 産 の 56%を 占 め て い る 。債 務 は 2,313億 バ ー ツ 、自 己 資 本 は 3,471億 バ ー ツ で 総 資 産 の 60%を 占 め て い る 。そ の う ち 、内 部 留 保 金 が 2,247 億 バ ー ツ と 総 資 産 の 39%と 十 分 に 確 保 で き て い る 。 表 84 EGATの 連 結 貸 借 対 照 表 80 単位:百万バーツ 2013 Assets Current Assets Non-current Assets Property, plant and equipment Total Assets Liability and Equity Current Liabilities Non-current Liabilities Long-term loans Total liabilities Owner's equity Contribution from the government Capital expenditure appropriation Unappropriated retained earnings Total liabilties and owner's equity 2012 185,374 393,006 323,311 578,380 32% 68% 56% 100% 130,621 402,649 322,300 533,270 24% 76% 60% 100% 123,103 108,196 71,735 231,299 347,081 9,002 80,186 224,710 578,380 21% 19% 12% 40% 60% 2% 14% 39% 100% 91,923 116,373 82,072 208,296 324,974 9,064 80,186 203,428 533,270 17% 22% 15% 39% 61% 2% 15% 38% 100% 出 典 : EGAT Annual Report 2013 80 EGATの 会 計 年 度 は 12月 末 締 め で あ る 。 222 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 EGATの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の 半 分 近 く は 発 電 所 で あ り 、 次 に 多 い 送 電 シ ス テ ム と 合 わ せ て 2,000億 バ ー ツ と 有 形 固 定 資 産 の 77%を 占 め て い る 。 表 85 EGATの 有 形 固 定 資 産 と 減 価 償 却 年 数 ( 2013年 12月 末 現 在 ) 81 単位:百万バーツ Property, Plant and Equipment Land Structures Reservoirs and dams Power plants Equipment for power plants Control system Transmission system Communication system Coal handling system Machinery Large-sized spare parts for mine equipment Vehicles Other materials and supplies Deferred charge of major inspection fee Total Costs 8,574 28,781 28,864 334,775 32,289 888 156,417 6,915 6,060 6,387 43 3,035 10,139 4,238 622,568 Accumulated Depreciation depreciation Net book value period (years) /impairment 0 8,574 18,122 10,659 3-40 10,110 18,754 7-75 212,423 122,353 5-30 18,040 14,250 6-25 718 170 3-25 76,719 79,698 3-40 5,735 1,180 5-25 4,545 1,515 10-25 5,101 1,286 5-10 43 0 8 2,466 569 5-12 7,441 2,698 3-12 2,439 1,799 361,555 261,013 出 典 : EGAT Annual Report 2013 上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分 析 し て み る と 、売 上 高 利 益 率 は 8%。更 新 費 用 の 確 保 状 況 82は 、投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 30%と 、 過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 3割 程 度 の 水 準 で 投 資 資 金 を 確 保 で き て い る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の う ち 58% 83と 半 分 以 上 は 既 に 償 却 し て お り 、老 朽 化 が 進 ん で い る 、或 い は 会 計 上 の 耐 用 年 数 が 実 際の耐用年数より短めに設定されていると考えられる。 表 86 評価項目 主な財務指標 評価指標 2013 収益力 売上高利益率 更新費用確保 更新投資充当可能資金対減価 償却累計額比率 30% 老朽化度合い 有形固定資産減価償却率 58% 81 8% ダムは発電用のダムであり、灌漑用のダムは対象外である。 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累 計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、 2013年 に 30%で あ る 。 83 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却 対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 58%。 82 223 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 以 上 の 考 察 よ り 、 EGATの 収 益 力 は 堅 調 で 、 更 新 費 用 の 確 保 状 況 、 老 朽 化 度 合 もも大きな問題がある状況ではない。 (2) 維持管理の状況 1) 計 画 (Plan) 長期計画として、7 年計画を策定し、毎年更新している。7 年計画の行動計画 と し て 、日 週 月 年 別 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 し 、随 時 最 新 情 報 と し て 更 新 し な が ら 効率的に維持管理を実施している。 予 算 申 請 に 関 し て は 、1970年 代 に 最 初 に 発 電 所 を 建 設 し た 際 に 、維 持 管 理 の ノ ウ ハ ウ が な く 、メ ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 忠 実 に 従 っ て 維 持 管 理 を 行 っ て き た 経 緯 か ら 、こ の 方 式 を 継 続 し て お り 、マ ニ ュ ア ル 通 り の 維 持 管 理 を 行 う の に 必 要 な 予 算を申請している。 2) 実 施 (Do) ダ ム に つ い て は 、 1 ~ 2年 に 一 度 点 検 作 業 を し て お り 、 約 40年 前 に 建 設 し た イ ン フ ラ 施 設 で も 全 く 漏 水 等 の 問 題 が な く 管 理 さ れ て い る 。ま た 、発 電 プ ラ ン ト に つ い て は メ ー カ ー の 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル に 従 い 忠 実 に 毎 年 点 検 を 行 い 、十 分 に メ ン テ ナ ン ス が 行 わ れ て い る 。こ れ ま で 、ほ と ん ど 維 持 管 理 が 不 十 分 な こ と に よ る 事故は発生しておらず、老朽化対策も十分採られている。 送電網部門他傘下の維持管理部にはそれぞれ技術者が配置され問題なく日常 点検維持管理がなされている。 オ ー バ ー ホ ー ル や 補 修 の 時 期 が 重 な り 、 EGATの 人 員 で 賄 え な い 場 合 は 、 ス ケ ジュールを調整するよりは、作業員を外部調達して対応している。 3) 評 価 (Check) 送 電 網 監 視 は SCADAシ ス テ ム 、 発 電 施 設 は Conditionモ ニ タ リ ン グ シ ス テ ム 、 維 持 管 理 後 の 状 態 は Data Acquisition Systemを 使 い 効 率 的 に モ ニ タ リ ン グ を 行 っ て い る 。 施 設 の 故 障 原 因 を 究 明 す る た め Root Cause Analysisに よ る 診 断 を 社 内研修等によって社内で徹底し、日常点検・維持管理に反映している。 4) 見 直 し (Action) 維 持 管 理 報 告 書 を 作 成 し 、 EGAT内 の 監 査 委 員 会 で 審 査 ・評 価 を 行 い 、 そ の 評 価 結 果 を 各 部 門 に フ ィ ー ド バ ッ ク し て い る 。ま た 、こ れ ま で プ ラ ン ト メ ー カ ー 等 が 作 成 し た マ ニ ュ ア ル を 蓄 積 し 、EGATの 状 況 に 合 わ せ て マ ニ ュ ア ル を 改 訂 し て きた。 224 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) JICA 国際航業 日本の協力 円借款 電 力 需 要 増 大 に 対 応 す る た め 、1970年 か ら ダ ム 建 設 事 業 、発 電 所 建 設 事 業 を 中 心 に 1994年 ま で 総 額 1,065億 円 を 供 与 し た 。 (4) アセットマネジメントの現状と課題 発 電 所 と 送 電 シ ス テ ム は 、メ ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 従 っ て 点 検・維 持 管 理 を 行 っ て お り 、約 40年 前 に 建 設 さ れ た ダ ム 施 設 で さ え 全 く 漏 水 問 題 が な く 、予 防 保 全 が 実 施 さ れ て い る 。財 務 状 況 も 健 全 で 、維 持 管 理 費 用 を 賄 え る 状 態 に あ り 、内 部 留 保 も 十 分 で 必 要 に 応 じ て 大 規 模 修 繕 や 更 新 投 資 も で き る 状 態 に あ る た め 、今 後 も大きな問題なく維持管理を継続できると推測される。 225 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.8.3 JICA 国際航業 首 都 圏 配 電 公 社 (MEA) (1) 概要 1) 事業概要 MEAは EGATの 所 有 す る 一 次 変 電 所 か ら 電 力 を 購 入 し 、降 圧 後 、バ ン コ ク 及 び 隣 接 2県 ( サ ム ッ ト プ ラ カ ン 県 、 ノ ン タ ブ リ 県 ) の 最 終 需 要 家 に 配 電 し て い る 。 配 電 対 象 面 積 は 3,194km 2 で 対 象 配 電 地 域 へ の 電 力 供 給 率 は 100%で あ る 。 下 図 の と お り 電 力 消 費 量 及 び 需 要 家 件 数 と も 増 加 傾 向 に あ り 、 2013年 の MEA の エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は 47,617GWh、 需 要 家 件 数 は 329.5万 件 で あ る 。 50,000 48,000 46,000 44,000 42,000 40,000 GWh 38,000 36,000 34,000 32,000 図 98 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 30,000 MEA管 轄 の 電 力 消 費 量 出 典 : MEAホ ー ム ペ ー ジ 3,500 3,300 3,100 2,700 2,500 2,300 2,100 1,900 1,700 図 99 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 1,500 2002 最終需要家〈千件) 2,900 MEA管 轄 の 最 終 需 要 家 件 数 出 典 : MEAホ ー ム ペ ー ジ 226 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 施設概要 主要なインフラ施設は変電所と配電網である。 表 87 MEAの 主 な イ ン フ ラ 施 設 ( 2006年 ) Facility Unit Terminal stations Capacity 17 15,200MVA 143 16,445VA Sub transmission lines - 1,622cct-km Feeder lines - 16,559cct-km Substations 出 典 : MEA 3) 実施体制 2012年 の MEAの 職 員 数 は 8,121名 で あ り 、 施 設 の 維 持 管 理 に 関 し て は 、 Power System Maintenance Department( 350名 )が 変 電 所 の 維 持 管 理 計 画 策 定 、点 検 か ら 維 持 管 理 ま で 全 て を 担 当 し て い る 。配 電 網 に つ い て は 、計 画 か ら 点 検 、維 持 管 理 は Distribution System Service Department 傘 下 の 18の District Area Officeに 一 任 さ れている。 227 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Governor Deputy Governor (Social & Maintenance) Deputy Governor (Finance) Deputy Governor (Business) Deputy Governor (Strategy & Organization Development) Deputy Governor (Corporate) Deputy Governor (ITC) Deputy Governor (Technology & Material Management) Deputy Governor (Operation) Deputy Governor (Distribution System Service) Assistant Governor Power System Control Department 18 District Area Office Power System Maintenance Department 図 100 MEA組 織 図 出 典 : MEA ホ ー ム ペ ー ジ 4) 財務状況 MEAは 、 1,784億 バ ー ツ の 収 入 ( 前 年 比 289億 バ ー ツ 増 加 ) を 上 げ 、 そ の う ち 97%は 売 電 収 入 で あ る 。支 出 は 1,690億 バ ー ツ( 前 年 比 250億 バ ー ツ 増 加 )で 、そ の 結 果 、 純 利 益 は 94億 バ ー ツ (前 年 比 39億 バ ー ツ 増 加 )で 、 純 利 益 率 は 5%で あ っ た 。 そ の う ち 45%を 財 務 省 へ 支 払 い 、 残 り の 519億 バ ー ツ を 内 部 留 保 に 追 加 し て い る 。 84 84 財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も 多少変更する。 228 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 88 JICA 国際航業 MEAの 損 益 計 算 書 単位:百万バーツ 2012 Reveues Sales of electricity energy Other income Total revenues Expenses Purchase of electricity Operating expenses Financial cost Other expenses Total Expenses Net income Remmitance to the Ministry of Finance Incrase in unappropriated retained earnings 2011 173,880 4,532 178,412 97% 3% 100% 145,632 3,838 149,471 97% 3% 100% 160,746 5,917 1,372 968 169,004 9,407 4,217 5,190 90% 3% 1% 1% 95% 5.3% 45% 55% 136,208 5,380 1,350 995 143,934 5,537 2,521 3,017 91% 4% 1% 1% 96% 3.7% 46% 54% 出 典 : MEA Annual Report, 2012 MEAは 2012年 12月 末 現 在 、1,481億 バ ー ツ の 資 産 を 有 し 、そ の う ち 固 定 資 産 が 902億 バ ー ツ が 総 資 産 の 61%を 占 め て い る 。債 務 は 801億 バ ー ツ 、自 己 資 本 は 679 億 バ ー ツ で 総 資 産 の 46%を 占 め て い る 。 そ の う ち 内 部 留 保 金 が 677億 バ ー ツ と 総 資 産 の 46%を 占 め て お り 、 十 分 に 蓄 積 さ れ て い る 。 表 89 MEAの 貸 借 対 照 表 単位:百万バーツ 2012 Assets Current Assets Fixed Assets Other Assets Total Assets Liability and Equity Current Liabilities Lomg-term Liabilities Other liabilities Total liabilities Owner's equity Government contributions Unappropriated retained earnings Total liabilties and owner's equity 2011 47,259 90,208 10,593 148,060 32% 61% 7% 100% 41,891 88,467 8,283 138,641 30% 64% 6% 100% 24,238 27,680 28,208 80,126 67,935 358 67,576 148,060 16% 19% 19% 54% 46% 0% 46% 100% 18,912 29,370 27,616 75,898 62,744 358 62,385 138,641 14% 21% 20% 55% 45% 0% 45% 100% 出 典 : MEA Annual Report, 2012 229 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 MEAの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の 半 分 が 配 電 シ ス テ ム で あ り 、送 電 シ ス テ ム と 合 わ せ て 簿 価 で 800億 バ ー ツ と 89%を 占 め て い る 。 減 価 償 却 年 数 は 、 資 産 に よ っ て 異 な る が 、 3年 か ら 30年 で あ る 。 表 90 MEAの 有 形 固 定 資 産 ( 2012年 12月 末 現 在 ) 単位:百万バーツ Property, Plant and Equipment Accumulated depreciation Costs Land and land rights Transmission system Distribution system Terminal stations and sub stations Machine, equipment and vehicles General assets Total 2,810 56,822 84,742 1,980 539 13,835 160,727 0 22,153 39,503 0 0 8,861 70,519 Net book value 2,810 34,669 45,239 1,980 539 4,974 90,208 出 典 : MEA Annual Report, 2012 上 記 の 2012年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分 析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 5%で あ る が 、 需 要 量 を 買 電 し て 需 要 家 に 売 る 事 業 形 態 か ら 利 益 は 安 定 し て い る 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 85は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 37%と 、 過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 1/3程 度 の 水 準 で 投 資 資 金 を 確 保 で き て い る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の う ち 44% 86と 老 朽 化の進み具合も問題となる状況ではないと考えられる。 表 91 主な財務指標 評価項目 評価指標 2012 5% 収益力 売上高利益率 更新費用確保 更新投資充当可能資金対減価償却 累計額比率 37% 老朽化度合い 有形固定資産減価償却率 44% 以 上 の 考 察 よ り 、MEAの 事 業 は 安 定 し て お り 、更 新 費 用 の 確 保 状 況 、老 朽 化 の 具合も大きな問題となるものはないと思われる。 85 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累 計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、 2013年 に 37%で あ る 。 86 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却 対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 44%。 230 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 維持管理の現状 (2) 計 画 (Plan) 1) メ ー カ ー が 作 成 し た マ ニ ュ ア ル に 従 い 、1,2,4,5年 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 し 、同 計画に基づき配電施設のオーバーホールを含む維持管理を行っている。 送 電 施 設 の 維 持 管 理 計 画 は 、 18の District Area Officeが 策 定 し 、 Distribution System Service Departmentの Deputy Governorが 承 認 し て い る 。 ま た 、MEAで は 以 下 の 世 界 標 準 認 証 シ ス テ ム に 従 っ て 維 持 管 理 点 検 を 行 っ て い る。 ISO 9110:2008 Quality Management System Accreditation for electrical power supply, installation and maintenance ISO/IEC 17025:2005 Laboratory Accreditation for the MEA laboratory room which provides electrical equipment testing and calibration services, ま た 上 記 以 外 に ISO9001を 導 入 し て い る 。 2) 実 施 (Do) MEAは Enterprise Resource Planning (ERP)シ ス テ ム に よ り 人 材 、施 設 、資 材 、 資 金 等 を 統 合 的 に 管 理 し 、維 持 管 理 業 務 の 効 率 化 や 経 営 の 全 体 最 適 を 目 指 し て お り、社内全体の状態を把握できるシステムを構築している。 変 電 所 と 配 電 施 設 の 点 検 は 、自 前 の 技 術 者 1名 、Technician 1名 、作 業 者 3名 の 5名 で 構 成 さ れ る グ ル ー プ で メ ー カ ー の 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル に 従 い 点 検 し て い る 。 修 繕 や 更 新 が 必 要 な 際 は 、 MEA職 員 の 指 揮 の も と 、 該 当 分 野 の 専 門 知 識 を 持った技術者を外部から調達する。 3) 評 価 (Check) MEAは 10年 前 か ら GISを 構 築 し 運 用 し て い る 他 、 SAP、 SCADA等 の 導 入 に よ り 効 率 的 に 管 理 し て い る 。ま た 、社 内 で の 維 持 管 理 に 関 係 す る 文 書 共 有 化 の た め の MEA E-Documentシ ス テ ム 、 Logistic Management System他 を 積 極 的 に 構 築 し、アセットデータ更新、コスト評価の効率的な運営を行っている。 4) 見 直 し (Action) 3ヶ 月 ご と に 維 持 管 理 報 告 書 は 2007年 に 設 立 さ れ た 第 三 者 機 関 で あ る エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会 (Energy Regulatory Commission:ERC)に 提 出 す る 。 同 規 制 委 員 会 の 評 価 は MEAの 今 後 の 維 持 管 理 計 画 に フ ィ ー ド バ ッ ク さ れ て い る 。 231 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) JICA 国際航業 日本の協力 円 借 款 に て 、 1977 年 に 首 都 圏 配 電 網 拡 充 ・ 改 善 事 業 と し て 供 与 額 104 億 円 、 2002年 に バ ン コ ク 230kv地 下 送 電 建 設 事 業 と し て 供 与 額 143億 円 を 実 施 し た 。 (4) アセットマネジメントの現状と課題 MEAが 所 有 す る 人 材 、施 設 、資 材 、資 金 等 社 内 全 体 の 現 状 把 握 を で き る シ ス テ ム を 構 築 し 、統 合 的 に 管 理・配 分 し 、維 持 管 理 業 務 の 効 率 化 や 経 営 全 体 の 最 適 な 運 営 を 目 指 す 等 、維 持 管 理 に つ い て 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、10年 前 か ら GISを 構 築 し 、SAP、SCADA等 を 導 入 し 効 率 的 な 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。さ ら に 、 維 持 管 理 報 告 書 は 2007年 か ら 設 置 さ れ た 第 三 者 機 関 で あ る ERCに 四 半 期 ご と に 審 査 さ れ る 等 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 確 実 に 行 わ せ る た め の 制 度 が 整 備 さ れ て おり、今後も大きな問題なく維持管理を継続できると推測される。 232 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.8.4 JICA 国際航業 地 方 配 電 公 社 (PEA) (1) 概要 1) 事業概要 PEAは EGATが 所 有 す る 1次 変 電 所 か ら 電 力 を 購 入 し 、 降 圧 後 に バ ン コ ク 都 及 び 隣 接 2県 ( サ ム ッ ト プ ラ カ ン 県 、 ノ ン タ ブ リ 県 ) 以 外 の 最 終 需 要 家 に 配 電 し て い る 。 PEAの 配 電 面 積 は 国 土 の 99%を カ バ ー し 全 国 を 12の 管 理 ブ ロ ッ ク に 分 け 、 915の 支 店 が あ る 。 2) 施設概要 主要なインフラ施設は電線系統、変電施設、トランスフォーマーである。 表 92 PEAの 主 な イ ン フ ラ 施 設 Facility Capacity, Unit High voltage distribution line 33/22kV 298,984cct-km Low voltage distribution line 0.4/0.23 kV 457,118cct-km Submarine cable 250cct-km Substation 520 unit Distribution transformer 270,000 unit 出 典 : PEA 3) 実施体制 維 持 管 理 担 当 の 職 員 数 は 全 職 員 数 約 28,000名 中 、本 社 に 90名 、各 地 方 維 持 管 理 セ ン タ ー に 252名 、 ま た 全 国 915の 支 店 に 各 5名 ず つ 計 約 5,000名 が 配 置 さ れ て い る 。本 社 所 属 の 維 持 管 理 担 当 の 職 員 は 変 電 、配 電 シ ス テ ム 、送 電 担 当 課 に そ れ ぞ れ 30名 ず つ 配 置 さ れ て い る 。 233 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Central Office -Substation maintenance division (30) -Power system maintenance division (30) -Power transformer division (30) North Region Northeast Region South Region Central Region Area North 1 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 1 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 1 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 1 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 2 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 2 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 2 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 2 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 3 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 3 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 3 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) Area North 3 -Transmission line maintenance section (7) -Distribution line maintenance section (7) Sub Office -Operation & maintenance section (7) ( 図 101 )内は維持管理担当の職員数 PEA組 織 図 出 典 : PEA 4) 財務状況 PEAは 3,752億 バ ー ツ の 収 入( 前 年 比 615億 バ ー ツ 増 加 )を 上 げ 、そ の う ち 97% は 売 電 収 入 で あ る 。支 出 は 3,475億 バ ー ツ( 前 年 比 599億 バ ー ツ 増 加 )で 、そ の 結 果 、 純 利 益 は 150億 バ ー ツ (前 年 比 25億 バ ー ツ 増 加 )で 、 純 利 益 率 は 4%で あ っ た 。 MEAと 同 じ く 、EGATか ら 高 圧 電 力 を 購 入 し 、需 要 家 に 売 電 す る 事 業 形 態 で 、増 加 す る 電 力 需 要 に 対 応 す る た め 新 規 投 資 も 相 次 い で い る が 、堅 調 な 電 力 需 要 か ら 利益の確保も見込めるため、経営は安定している。 表 93 PEAの 財 務 状 況 単位:百万バーツ 2012 Revenue Sales of electricity energy Other operating revenues Other income Total revenue from sales and services Expense Cost of sales and services Administrative expenses Selling expenses Other expenses Total Expenses Net income 2011 375,188 10,648 2,326 388,163 97% 3% 1% 100% 313,701 9,824 1,223 324,750 97% 3% 0% 100% 347,525 17,350 4,958 3,352 373,187 14,975 90% 4% 1% 1% 96% 4% 287,673 16,074 4,665 3,875 312,288 12,461 89% 5% 1% 1% 96% 4% 出 典 : PEA Annual Report 2012 234 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) 1) JICA 国際航業 維持管理の状況 計 画 (Plan) PEAは 現 在 、PAS55:2008を 導 入 済 み で あ り 、将 来 は ISO55001シ リ ー ズ に 移 行 するアセットマネジメントロードマップを策定している。 PEAは 資 産 の ラ イ フ サ イ ク ル を 通 じ て コ ス ト・実 績・リ ス ク の バ ラ ン ス を 取 り 、 最適な維持管理を行うことを基本方針に据えたアセットマネジメントを実施し ている。 図 102 PEAの ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 基 本 的 考 え 方 出 典 : PEA 長 期 計 画 は 計 画 ・技 術・ 調 達 分 野 を 中 心 に 、中 期 計 画 は 分 析 ・維 持 管 理 分 野 を 中心に、短期計画は建設施工・運用分野を中心に据え策定するようにしている。 図 103 PEAの 長 中 短 期 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 イ メ ー ジ 出 典 : PEA ま た 、予 算 計 画 策 定 の プ ロ セ ス は 、全 国 の 12管 理 ブ ロ ッ ク か ら 本 社 へ 維 持 管 理 予 算 案 を 提 出 し 、本 社 の 予 算 計 画 策 定 部 署 で 過 去 の 維 持 管 理 履 歴 、施 設 の 更 新 時 期等を参考にしながら維持管理費用を予算計画に盛り込んでいる。 235 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 実 行 (Do) 2) 計画に従い点検、補修、更新を行っている。 評 価 (Check) 3) 補 修・補 修 後 の 履 歴 は SAPの 施 設 維 持 管 理 モ ジ ュ ー ル 及 び 資 材 管 理 モ ジ ュ ー ル を 使 い 各 施 設 ご と に 管 理 さ れ て い る 他 、 遠 隔 監 視 の SCADA、 各 施 設 の 位 置 情 報 を リ ン ク さ せ た GIS、 施 設 の 異 常 を 管 理 す る OMS(Operation and Maintenance System)等 を 導 入 し て い る 。 こ れ ら の シ ス テ ム 導 入 に よ っ て 、 こ れ ま で 目 視 点 検 作 業 か ら 自 動 遠 隔 監 視 へ シ フ ト し 、併 せ て 点 検 作 業 の 同 時 性 、客 観 性 を 高 め る 等 効率的な運用管理を行っている。 見 直 し (Action) 4) PEAは 維 持 管 理 報 告 書 を 作 成 し 、 3ヶ 月 毎 に 2007年 に 設 立 さ れ た 第 三 者 機 関 で あ る ERCに 提 出 す る こ と が 義 務 付 け ら れ て い る 。PEAは 同 規 制 委 員 会 の 評 価 を 今 後の維持管理計画にフィードバックしている。 (3) 日本の協力 技術協力 1) 案 件 名: 地 方 配 電 自 動 化 技 術 者 養 成 計 画 プ ロ ジ ェ ク ト 協 力 期 間 : 1992年 6月 か ら 1997年 6月 協 力 内 容:配 電 自 動 化 シ ス テ ム の 構 築・運 用 を 行 う 人 材 を 育 成 す る た め 、配 電 自動化の基礎、システムの建設、運転、保守、応用に関する技術・ 知識の技術移転を行った。 円借款 2) 地 方 配 電 網 増 強 計 画 事 業 を 中 心 に 1970年 か ら 2002年 ま で 総 額 1,599.72億 円 が 供与され、地方での電化率に大きく貢献した。 1970年 以 降 継 続 的 に 円 借 款 に よ り PEAの 送 配 電 網 の 整 備 が 進 み 、 1970年 代 に 20%以 下 で あ っ た 地 方 電 化 率 が 1999年 に は 99%ま で 整 備 さ れ た 。 (4) アセットマネジメントの現状と課題 PEAは 導 入 済 み の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の PAS55:2008 に 基 づ い て ア セ ッ ト マ ネジメントを実施している。現在は、アセットマネジメントの新規格である ISO55000シ リ ー ズ に 移 行 す る ロ ー ド マ ッ プ を 策 定 し て 、発 注 の 準 備 を 進 め て い る こ と か ら 、PEAは ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 実 践 し て 、維 持 管 理 費 の 削 減 に 成 果 を あげており、アセットマネジメントの取組みが定着していると判断する。 236 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4.9 総合評価 4.9.1 道路分野 1) JICA 国際航業 DOH 全 国 の 国 道 を 管 轄 す る DOHの 予 算 は 、2010年 度 か ら 2014年 の 5年 間 で 49%増 加 し て い る 。2012年 以 降 は 維 持 管 理 予 算 額 が 新 規 建 設 予 算 額 を 上 回 っ て お り 、ま た 2002年 以 降 の 道 路 延 長 は 増 加 し て お ら ず 、新 規 建 設 の ほ と ん ど は 既 存 道 路 の 拡 幅 工 事 で あ る 。現 在 は 、事 業 の 優 先 度 が 新 規 建 設 か ら 維 持 管 理 へ と 移 行 す る 段 階 に ある。 そ の た め 、 DOHは 維 持 管 理 面 の 強 化 の た め に 、 2000年 代 か ら 様 々 な 活 動 を 実 行 し て い る 。舗 装 の 維 持 管 理 に つ い て は 、2007年 よ り 路 面 性 状 調 査 を 開 始 し て い る 。現 在 は 、取 得 し た デ ー タ を PMSで 活 用 す る た め に 、デ ー タ の 蓄 積 と 、そ れ を 用 い た 劣 化 予 測 技 術 の 精 度 向 上 の 段 階 に あ る 。そ し て 、PMSが PDCAの マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル に 十 分 に 活 か さ れ る た め に は 、デ ー タ を 基 に し た 工 学 的 維 持 管 理 マ ネジメントについて、関係者の理解を高める必要がある。 約 15,000あ る 橋 梁 に つ い て は 、デ ー タ ベ ー ス は す で に 完 成 し 、そ の 点 検 デ ー タ を 取 得 し て 蓄 積 す る 段 階 に あ る 。 よ っ て 、 PDCAの マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル に 活 か す た め に は 、点 検 技 術 者 の 育 成 、デ ー タ 取 得 と 蓄 積 、デ ー タ 分 析 に よ る 劣 化 予 測 精度の向上、計画作成のための利活用能力の強化等の課題克服が必要である。 長 寿 命 化 技 術 に つ い て は 、改 質 性 舗 装 の 採 用 や 、SMA舗 装 の 試 験 施 工 等 を 行 っ て お り 、 LCC削 減 技 術 の 導 入 に 取 り 組 ん で い る 。 さ ら に 、職 員 へ の 維 持 管 理 研 修 を 定 期 的 に 行 っ て お り 、意 識 啓 発 を 進 め て い る 。 現場レベルでのマネジメント体制は整備されており、実行努力がされている が 、予 算 不 足 や 人 材 不 足 が 計 画 通 り の 実 施 の 障 害 と な り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 整 備 は 遅 い 。こ れ を 加 速 す る に は 、組 織 の 最 上 流 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 能 力 の 強 化 、そ れ に よ る 長 期 的 政 策 に 基 づ く 運 営 の 実 行 が 重 要 で あ る 。ま た 、さ ら に 上 位 の 国 家 計 画 や 設 計 基 準 等 の 見 直 し に よ っ て 、維 持 管 理 の 優 先 度 を 上 げ る こ とが、大きな効果をもたらすと思われる。 2) DRR 地 方 の 幹 線 道 路 を 管 轄 す る DRRに つ い て は 、予 算 は 2010年 か ら 2014年 の 5年 間 で 71%増 加 し 、2014年 は 38,045百 万 バ ー ツ と な っ て お り 、地 方 で の 道 路 開 発 が 活 発化している。 ま た 、 新 規 建 設 の 重 要 度 は DOHよ り は 高 い が 、 維 持 管 理 の 重 要 性 が 非 常 に 高 ま っ て き て お り 、 DOHの 状 況 と 類 似 し て い る 。 そ の た め 、 DRRは 維 持 管 理 面 の 強 化 の た め に 、 2000年 代 か ら 様 々 な 活 動 を 実 行している。 237 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 舗 装 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 DRRは PMSを 2005年 に 導 入 し て 、 計 画 、 設 計 、 維 持 管 理 作 業 等 で 活 用 し て い る 。 さ ら に 最 近 は 、 路 面 性 状 調 査 車 両 5台 を 調 達 し て 、DRR自 身 で 計 測 し て デ ー タ を 蓄 積 し て い る 。PMSを PDCAの マ ネ ジ メ ン ト に 活 か す た め に は 、デ ー タ 取 得 と 蓄 積 、デ ー タ 分 析 に よ る 劣 化 予 測 精 度 の 向 上 、計 画作成のための利活用能力の強化等の課題を克服する必要がある。 約 8,000の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、JICAが 2度 に わ た る 技 術 支 援 を 通 じ て 、 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル を 整 備 し 、橋 梁 管 理 デ ー タ ベ ー ス を 完 成 さ せ て お り 、現 在 は 2,000橋 の 点 検 と デ ー タ 入 力 を 終 え た と こ ろ で あ る 。 残 り 6,000橋 に つ い て は 、 DRR自 身 で 点 検 と デ ー タ 入 力 を 3年 間 で 実 施 す る 計 画 で あ る 。 新規道路の建設の優先度が高いため、維持管理予算は不足しており、また点 検・維 持 管 理 の 技 術 者 も 不 足 し て い る 。DRRの 管 轄 す る 道 路 は 交 通 量 が 国 道 ほ ど は 多 く な い と こ ろ が 多 い が 、一 部 の 交 通 量 の 多 い 道 路 で は 劣 化 が 激 し い 箇 所 が 発 生している。 一 方 で DRRは 、 乏 し い 予 算 の 中 で も 、 普 通 の ア ス フ ァ ル ト 舗 装 の 約 2倍 の 価 格 の コ ン ク リ ー ト 舗 装 を 、耐 久 性 が 高 い と い う 理 由 で 維 持 管 理 が 困 難 な 区 間 に は 採 用 し て お り 、 LCCを 考 慮 し て い る 。 また、職員への維持管理研修を定期的に行っており、意識啓発を進めている。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 に つ い て は 、DRRは DOHと よ く 似 た 状 況 に あ る 。 現場レベルでのマネジメント体制は整備されており、実行努力がされているが、 予 算 不 足 や 人 材 不 足 が 計 画 通 り の 実 施 の 障 害 と な り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 整 備 は 遅 い 。こ れ を 加 速 す る に は 、組 織 の 最 上 流 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 能 力 の 強 化 、そ れ に よ る 長 期 的 政 策 に 基 づ く 運 営 の 実 行 が 重 要 で あ る 。ま た 、さ ら に 上 位の国家計画や設計規準等の見直しによって、維持管理の優先度を上げること が、大きな効果をもたらすと思われる。 3) EXAT バ ン コ ク 首 都 圏 と そ の 近 郊 の 高 速 道 路 を 管 轄 す る 独 立 採 算 の 公 社 の EXATは 、 料 金 収 入 が 毎 年 増 加 し て お り 、そ れ に 伴 い 純 利 益 も 増 加 し 、2013年 に は 利 益 率 が 45%に 達 し て い る 。政 府 の 交 付 金 は 急 激 に 減 少 し て お り 、負 債 の 返 済 も 順 調 に 進 ん で お り 、財 務 状 況 は 健 全 と 言 え る 。2014年 に 維 持 管 理 に は 761百 万 バ ー ツ を 充 て て い る が 、 こ れ は 返 済 金 を 含 む 全 支 出 額 の 8%に 相 当 す る 。 EXATが 維 持 管 理 を 実 施 し て い る 道 路 延 長 は 、 全 延 長 207kmの 66%に 相 当 す る 137kmで あ り 、残 り は 2社 が コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で 運 営・維 持 管 理 を 行 っ て い る 。 EXATは マ ニ ュ ア ル に 沿 っ て 点 検 ・ 維 持 管 理 を 実 施 し て お り 、 一 部 の デ ー タ は デ ー タ ベ ー ス で 管 理 さ れ て い る 。現 在 、道 路 延 長 の 大 部 分 を 占 め る コ ン ク リ ー ト 高架橋用のデータベースを開発中である。 道 路 延 長 が 短 い こ と 、 施 設 全 体 の 約 80%が ま だ 建 設 後 20年 以 下 と 若 い こ と 、 2 238 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 つ の 斜 張 橋 に は 特 別 な 配 慮 を し て し っ か り と 維 持 管 理 し て い る こ と 等 の た め 、通 常、損傷し易い箇所以外は、維持管理の問題はほとんど発生していない。 し か し な が ら 、コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 は 供 用 後 30年 以 上 経 過 し て い る も の も あ る た め 、 今 後 は RC床 版 等 に 劣 化 が 発 生 す る 可 能 性 が 十 分 に あ る 。 コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 は 、補 修 が 困 難 で 多 額 の 費 用 が か か る た め 、高 架 橋 の 点 検・維 持 管 理 を 充 実 させ、事後保全から予防保全へと変更していく必要性が徐々に高まっている。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 面 で は 、個 別 施 設 の マ ネ ジ メ ン ト は 実 施 体 制 が 整 っ て い る が 、総 合 的 か つ 長 期 的 観 点 か ら の マ ネ ジ メ ン ト 能 力 を 強 化 し て い く こ と が 課 題 である。 BMA公 共 事 業 局 4) バ ン コ ク 首 都 圏 内 の 自 治 体 道 路 の 建 設・維 持 管 理 を 管 轄 す る BMA公 共 事 業 局 で は 、舗 装 の 維 持 管 理 作 業 は 、基 本 的 に 苦 情 対 応 の 事 後 保 全 で 行 っ て い る が 、こ れ の改善に取り組もうとしている。 橋 梁 は 1,000以 上 を 管 轄 し て お り 、 そ の 中 に は 劣 化 が 進 ん で い る も の も か な り あ る が 、橋 梁 の 架 け 替 え は 交 通 へ の 支 障 を 考 慮 に す る と 非 常 に 困 難 で あ り 、BMA に と っ て は 長 寿 命 化 の 実 施 が 最 重 要 な 課 題 で あ る 。よ っ て 現 在 は 、橋 梁 に つ い て は 点 検 ・ 維 持 管 理 ・ 補 修 ・ 補 強 を 、様 々 な 新 技 術 も 使 っ て 実 施 し て い る が 、か な り劣化が進んでからの対応のものもあり、総じて事後保全である。 橋 梁 デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム に は デ ー タ が 十 分 に 蓄 積 、活 用 さ れ て い る 。舗 装 と 橋 梁 の 管 理 を 統 合 し た GISベ ー ス の 管 理 シ ス テ ム を 2014年 9月 に 発 注 し 、 完 成 ま で に 2年 間 か か る 予 定 で あ る 。 予 防 保 全 の PDCAが 回 る よ う に す る た め に は 、 デ ー タ ベ ー ス の 充 実 、デ ー タ の 利 活 用 能 力 強 化 、長 期 計 画 の 策 定 と 実 施 能 力 が 今 後 の課題である。 4.9.2 1) 上水道分野 MWA バ ン コ ク 首 都 圏 の 給 水 事 業 を 管 轄 し て い る 独 立 採 算 の 公 社 で あ る MWA は 、 2013年 度 に は 70億 バ ー ツ の 利 益 を 上 げ て お り 、 財 務 状 況 は 良 好 で あ る 。 維 持 管 理 へ は 、 全 支 出 の 4%前 後 を 充 て て い る 。 給 水 区 域 の 整 備 率 は す で に 非 常 に 高 く 、 2020年 ご ろ に は 100%に 達 す る と 予 想 さ れ て い る 。現 在 の 事 業 運 営 上 の 優 先 課 題 は 、給 水 区 域 の 拡 大 で は な く 、水 質 の 改善、十分な水圧の確保、漏水率の低下等の維持管理面に移っている。従って、 維持管理の改善には積極的に取り組んでいる。 事 業 運 営 の 業 務 管 理 で は 、統 合 業 務 パ ッ ケ ー ジ シ ス テ ム で あ る SAPを 使 用 し て い る 。 有 形 固 定 資 産 の 67%を 占 め る 配 管 の 管 理 で は 、 GISを 用 い た 水 道 管 管 理 シ 239 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ス テ ム を 使 用 し て い る 。こ れ ら は 計 画・管 理 部 門 だ け で な く 現 業 部 門 で も 十 分 に 使 用 さ れ て お り 、補 修 記 録 も 速 や か に 履 歴 デ ー タ と し て デ ー タ ベ ー ス に 取 り 込 ま れ て い る 。配 管 の 点 検・維 持 管 理 の マ ネ ジ メ ン ト 状 況 は か な り 高 い 質 と 評 価 で き る 。一 方 で 、有 形 固 定 資 産 の 約 20%を 占 め る 浄 水 場 等 の 施 設 で は 、管 轄 事 務 所 が SAPを 十 分 に 使 用 で き て お ら ず 、現 場 の 技 術 情 報 も 本 部 は 十 分 に 把 握 で き て い な いという、マネジメント上の課題がある。 配 管 の 維 持 管 理 は か な り 高 い 質 で 行 わ れ て い る た め 、漏 水 率 は 徐 々 に 改 善 さ れ て き て お り 、2014年 に は 約 24%ま で に 改 善 さ れ て は い る も の の 、依 然 と し て 良 好 な 水 準 に 達 し て い る と は い え な い 。こ の 原 因 は 、現 在 は 配 管 の 更 新 に 伴 っ て 配 管 データが更新されつつあり、データベースの精度が向上している段階であるこ と 、ま た 漏 水 率 の 高 い 箇 所 が 分 か っ て い て も 、過 密 な 交 通 状 況 等 の た め に 更 新 工 事 の た め の 道 路 使 用 許 可 が 取 得 で き な い た め 等 で あ る 。現 在 の よ う な 実 施 を 続 け て い け ば 、デ ー タ ベ ー ス の 精 度 も 高 ま り 、漏 水 率 も ゆ っ く り と で は あ る が 改 善 さ れていき、事後保全から予防保全へと徐々に移行して行くと推測される。 し か し な が ら 課 題 と し て は 、バ ン コ ク 首 都 圏 の 水 需 要 が 、人 口 減 少 等 で 長 期 的 に は 頭 打 ち に な っ て く る こ と 、そ し て 耐 用 年 数 を 迎 え る 石 綿 管 が 2010年 代 後 半 に 増 大 し 、 PVC管 は 2030年 代 後 半 に ピ ー ク を 迎 え る こ と で あ る 。 そ れ ら に 備 え る た め に 、長 期 計 画 を 策 定 し て マ ネ ジ メ ン ト を 始 め る 必 要 性 が 高 ま っ て 来 て い る 。長 期 間 の LCCを 最 小 化 し 、か つ 更 新 の ピ ー ク の 平 準 化 を 図 る 計 画 を 立 て て 、実 行 し て い く こ と が 求 め ら れ る 。財 務 状 況 は 良 好 で 、人 材 も 不 足 し て は お ら ず 、蓄 積 さ れ た デ ー タ も 充 実 し つ つ あ る の で 、長 期 的 視 野 で の ア セ ッ ト マネジメントへ進む条件は整いつつある。 2) PWA PWAは バ ン コ ク 首 都 圏 を 除 く タ イ 国 内 の 水 道 施 設 を 管 轄 す る 公 社 で あ る 。財 務 状 況 は 、利 益 率 は 改 善 傾 向 に あ り 2012年 に は 19%を 達 成 し て い る が 、適 宜 、政 府 の支援を受けながら、自立へ向けて努力している。 PWAは 首 都 圏 以 外 の 全 国 を 管 轄 し て い る た め 、優 先 課 題 が 給 水 区 域 の 拡 大 の 地 域や、すでに維持管理に移っている地域等が混在している。 PWAも MWAと 同 様 に 、 GISを 使 っ た 水 道 管 管 理 シ ス テ ム を 全 国 で 整 備 し て い る 。 バ ン コ ク 近 郊 の 事 業 所 で は MWAに 近 い 高 い レ ベ ル で 維 持 管 理 を 行 っ て い る と こ ろ も あ る が 、 管 轄 す る 事 業 所 が 全 国 に 230以 上 と 多 い た め 、 維 持 管 理 レ ベ ル の 遅 れ た 事 業 所 の レ ベ ル を 引 き 上 げ る こ と が 、 PWAに と っ て は 優 先 課 題 と な っ て い る 。そ の 手 段 の 一 つ と し て 民 間 委 託 を 採 用 し て お り 、現 在 、20箇 所 が 民 間 委 託 化 さ れ て い る 。 PWAは 管 轄 す る 事 業 所 数 が 多 く 、 担 当 範 囲 が 広 い た め 、 民 間 委託は重要な手法である。 ま た 、長 期 的 か つ 包 括 的 な ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 を 策 定 し て 実 施 す る こ と 240 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 も 、広 域 を 管 理 す る 面 で 効 果 的 で あ る 可 能 性 が あ る の で 、今 後 取 組 む べ き 課 題 で ある。 4.9.3 下水道分野 BMA下 水 道 事 業 局 1) バ ン コ ク 首 都 圏 の 下 水 道 事 業 を 担 当 す る BMA下 水 道 事 業 局 は 、政 府 か ら の 補 助 金 と BMAの 税 収 を 財 源 と し て い る 。 2014年 度 の 年 間 予 算 は 約 30億 バ ー ツ で 、 補 助 金 と 税 金 の 比 率 は 約 50:50で あ る 。 下 水 道 料 金 の 徴 収 を 開 始 す る に は 、 下 水 道 普 及 率 が 60%を 超 え る 必 要 が あ る と BMAは 考 え て い る が 、 現 状 は 約 30%で あ る 。 下水道整備率はまだ低いため、サービス区域の拡大が優先課題となっている。 さらに、既存施設が比較的新しいことも重なり、維持管理の重要度はまだ低い。 下 水 処 理 場 7施 設 の う ち 、6施 設 に つ い て は 管 渠 と と も に 、運 営 維 持 管 理 が 民 間 委 託 さ れ て い る 。民 間 企 業 が 機 械 設 備 の 定 期 的 な 点 検 、消 耗 部 品 の 交 換 、運 転 ・ 維持管理、管路の点検・維持管理を行っている。 下 水 道 管 路 の 維 持 管 理 に は GISが 導 入 さ れ て い る 。GISで は 管 路 の 基 礎 デ ー タ 、 修 繕 履 歴 等 を 管 理 し て い る 。ま た 、管 路 の 現 状 把 握 の た め に 、下 水 道 管 内 へ の カ メラロボットの導入も検討している。 下 水 道 管 路 及 び 施 設 と も に 、長 寿 命 化 や 、事 後 保 全 か ら 予 防 保 全 へ の 移 行 に 取 組 む 必 要 性 は 低 く 、そ の 意 識 も ま だ 低 い 状 況 で あ る 。下 水 道 管 路 は 深 く 埋 設 さ れ 、 補 修 は 困 難 で あ る た め 、長 期 的 な 視 野 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 取 組 み の 強 化が望まれる。 4.9.4 1) 鉄道分野 SRT 全 国 の 鉄 道 を 管 轄 す る SRTは 、 2008年 は 約 95億 バ ー ツ で あ っ た 赤 字 が 、 2013 年 に は 140億 バ ー ツ に 拡 大 し 、 長 年 慢 性 的 な 赤 字 を 抱 え て い る 。 一 方 、 旅 客 、 貨 物 輸 送 収 入 は 伸 び 悩 ん で い る に も 関 わ ら ず 、イ ン フ ラ の 維 持 管 理 、車 両 の 維 持 管 理費の支出は拡大している。 こ れ ま で に 数 次 に 亘 る 有 償 資 金 協 力 援 助 に よ る 軌 道 改 良 、ま た 技 術 協 力 事 業 に よ る 軌 道 保 全 技 術 、車 両 運 転 技 術 等 の 日 本 の 支 援 を 受 け 、改 善 を 行 っ て き た 。一 方 、低 所 得 者 層 へ の 一 部 運 賃 の 無 料 化 、SRT職 員 の 大 幅 削 減 等 、タ イ 国 政 府 の 方 針 に SRTは 大 き く 影 響 を 受 け て お り 、 改 善 は 進 ん で い な い 。 そ の た め 、 脱 線 事 故 件 数 は 毎 年 100件 前 後 も 発 生 し て お り 、 点 検 ・ 維 持 管 理 の 問 題 は 深 刻 で あ る 。そ の よ う な 深 刻 な 維 持 管 理 の 状 況 を 改 善 す る た め に 、タ イ 国 政 府 は SRTに 200億 バ ー ツ の 維 持 管 理 プ ロ ジ ェ ク ト 予 算 を 2012年 に 承 認 し た 。21 区 間 に つ い て 路 線 の 本 格 的 な 改 修 工 事 を 行 う 予 定 で あ る 。こ の プ ロ ジ ェ ク ト の 主 241 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 な 内 容 は レ ー ル と 枕 木 の 交 換 だ が 、 枕 木 は 長 寿 命 の PC枕 木 へ 交 換 す る 計 画 と な っており、大きな改善が期待されている。 こ の よ う に 維 持 管 理 面 で の 進 展 は 見 ら れ る も の の 、財 務 状 況 が 悪 い こ と 、ま た 維 持 管 理 を 含 め た 事 業 運 営 は 政 府 の 方 針 に 大 き く 左 右 さ れ る こ と 、さ ら に 組 織 の 課 題 等 も 重 な っ て 、SRT自 身 だ け で は 長 期 的 な 展 望 の 必 要 な ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 進 め ら れ る 体 制 に は な い 。そ の た め 、国 の 長 期 的 な 方 針 と し て 、追 加 的 予 算 措置や組織強化に取り組む必要がある。 2) MRTA タ イ 国 で 地 下 鉄 事 業 を 行 っ て い る 唯 一 の 公 社 で あ る MRTAは 、2013年 度 こ そ 特 殊 な 理 由 で 黒 字 と な っ た が 、毎 年 赤 字 を 続 け て お り 、政 府 の 補 助 金 も 増 加 し て お り、経営状況は厳しい。 最 初 の 地 下 鉄 は 2005年 に 開 業 し て い る た め 、施 設 は ま だ 若 く 健 全 な 状 態 が 保 た れ て い る 。MRTAは す べ て の 運 営 維 持 管 理 業 務 を 25年 間 の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で BMCL社 に 委 託 し て い る た め 、MRTAの 業 務 は BMCL社 の 履 行 状 況 の 確 認 と 承 認 に限定されている。 一 方 、BMCL社 は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に 基 づ い て モ ニ タ リ ン グ 、評 価 を 実 施 す る 等 の 維 持 管 理 を 行 っ て お り 、 ま た 、 監 視 制 御 シ ス テ ム SCADAで 運 用 管 理 も 行 っ て お り 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム で は 先 進 的 な ISO55000の 認 証 を 受 け て い る 。さ ら に 、点 検 デ ー タ で 大 き な 損 傷 や 老 朽 化 は 報 告 さ れ て い な い 等 の現状から、良好な状態であると推測される。 ト ン ネ ル の 点 検・維 持 管 理 の 経 験 と ノ ウ ハ ウ は 乏 し い と 推 測 さ れ る の で 、長 期 的にはその対応が課題となってくる。 4.9.5 1) 電力分野 EGAT タ イ 国 で 発 電 事 業 を 管 轄 す る 公 社 で あ る EGATは 、 財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で あり、維持管理へも十分に予算を配分できる状況である。 維 持 管 理 の 対 象 と な る イ ン フ ラ 施 設 は 主 に 発 電 所 と 配 電 シ ス テ ム で あ る が 、メ ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 従 っ て 必 要 な 点 検 を 行 っ て お り 、約 40年 前 に 建 設 さ れ た ダ ム施設でさえ全く漏水問題がなく、予防保全ができている。財務状況も健全で、 維 持 管 理 費 用 を 賄 え る 状 態 に あ り 、内 部 留 保 も 十 分 で 必 要 に 応 じ て 大 規 模 修 繕 や 更 新 投 資 も で き る 状 態 に あ る た め 、今 後 も 大 き な 問 題 な く 維 持 管 理 を 継 続 で き る と 推 測 さ れ る 。ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト は す で に 体 系 的 に 行 わ れ て い る 状 況 と 判 断 される。 242 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 MEA MEAは EGATよ り 電 力 を 購 入 し 、バ ン コ ク 首 都 圏 の 消 費 者 へ 売 電 す る 事 業 を 行 う 公 社 で あ る 。財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で あ り 、維 持 管 理 へ も 十 分 に 予 算 を 配 分 できる状況である。 MEAは 、管 理 部 門 及 び 現 業 部 門 に そ れ ぞ れ 維 持 管 理 を 担 当 す る 部 署 を 設 置 す る 等 、維 持 管 理 に つ い て 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、10年 前 か ら GISを 構 築 し 、 SAP、 SCADA等 を 導 入 し 効 率 的 な 管 理 を 行 っ て い る 。 さ ら に 、 維 持 管 理 報 告 書 は 外 部 エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会 に 四 半 期 ご と に 提 出 し て 審 査 さ れ る 等 、ア セ ッ ト マ ネジメントを確実に行わせるための制度が整備されている。 3) PEA PEAは EGATよ り 電 力 を 購 入 し 、バ ン コ ク 首 都 圏 以 外 の 全 国 の 消 費 者 へ 売 電 す る 事 業 を 行 う 公 社 で あ る 。財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で あ り 、維 持 管 理 へ も 十 分 に 予算を配分できる状況である。 PEAは 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の BSI規 格 の PAS55:2008を 導 入 済 み で あ り 、 それに基づいてアセットマネジメントをシステマチックに実施している。現在 は 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 新 規 格 で あ る ISO55000シ リ ー ズ に 移 行 す る ロ ー ド マ ッ プ 策 定 し て 、発 注 の 準 備 を 進 め て い る 。そ し て 、PEAは ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン トを活用して、維持管理費の削減に取組んで成果をあげている。 243 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 第5章 対応策の検討 5.1 対応策の対象の選定 5.1.1 JICA 国際航業 インフラ・マネジメントの必要性が高まる条件 イ ン フ ラ の 建 設 が 一 段 落 し た 先 進 国 で は 、保 有 す る イ ン フ ラ 施 設 の 数 量 が 増 加 し た た め に 必 要 な 維 持 管 理 費 が 増 加 し 、ま た 初 期 に 建 設 さ れ た も の は 老 朽 化 が 進 ん で き て 必 要 な 補 修 費 用 が 増 大 す る 。そ し て 、維 持 管 理 の 適 正 な 実 施 が 困 難 に な り、事故が発生するようになる。 また、人々はインフラが提供する基本的なサービスだけでは満足しなくなり、 よ り 高 い 質 の サ ー ビ ス を 求 め る よ う に な っ て く る 。例 え ば 道 路 で は 、交 通 渋 滞 が な い 、雨 天 で も 安 全 に 走 行 で き る 等 を 求 め る よ う に な る 。水 道 で は 、断 水 の な い 給 水 サ ー ビ ス 、水 圧 の 高 さ 、水 質 の 向 上 等 を 求 め て く る 。そ の た め 、新 規 建 設 費 用は減少するが、一方で、新たなニーズへ対応する費用が必要となってくる。 そ し て そ の 時 期 が 、人 口 減 少 や 経 済 成 長 率 の 鈍 化 の 時 期 と 重 な る と 、財 源 の 制 約 が よ り 一 層 厳 し く な っ て 、適 正 な 維 持 管 理 は 非 常 に 困 難 に な っ て く る 。一 方 で 、 社 会 状 況 の 変 化 に よ っ て 、必 要 性 の 低 い イ ン フ ラ 施 設 も で て く る 。新 し い イ ン フ ラ を 造 る こ と か ら 、既 存 の イ ン フ ラ を 賢 く 使 う こ と に 重 点 が シ フ ト し て く る 。こ れ ら の 問 題 を 解 決 す る た め に 、イ ン フ ラ を ア セ ッ ト と し て と ら え 、効 率 的 か つ 効 果 的 に 維 持 管 理 を 行 い 、さ ら に 様 々 な 施 設 を 包 括 的 に 管 理 す る 手 段 で あ る イ ン フ ラ・マネジメントの必要性が高まってくる。 よ っ て 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 必 要 性 が 高 ま る 主 な 条 件 を 整 理 す る と 、下 記のようになる。 ① イ ン フ ラ 施 設 が 増 加 し 、昔 作 っ た イ ン フ ラ 施 設 が 老 朽 化 し て く る 時 期 に 近づいている。 ② イ ン フ ラ 建 設 が ピ ー ク を 過 ぎ て 、イ ン フ ラ 事 業 者 に と っ て の 優 先 度 は 維 持管理に移りつつある。 ③ 人 々 が イ ン フ ラ 施 設 の 提 供 す る サ ー ビ ス に 求 め る こ と が 、基 礎 的 サ ー ビ ス の 提 供 か ら 、快 適 性 、安 全 性 、利 便 性 等 の 、よ り 高 い 質 の サ ー ビ ス に 移りつつある。 5.1.2 対応策の検討対象の選定 本 調 査 の 対 象 機 関 は BMA以 外 は 分 野 別 の 実 施 機 関 で あ り 、そ の 分 野 を 横 断 し た 包 括 的 な イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト は 、国 家 レ ベ ル で 、活 動 の 実 施 ま で の 道 筋 を 具 体 的 に 示 し た 計 画 を 策 定 す る 必 要 が あ る が 、タ イ の 計 画 機 関 の 役 割 は 方 針 を 立 て る と こ ろ ま で で 、そ の 方 針 に 基 い た 計 画 策 定 は 実 施 機 関 に 一 任 さ れ て い る 。そ の た め 、中 央 政 府 の 計 画 機 関 は イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト を 主 導 す べ き と い う 意 識 が 244 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 高 ま っ て お ら ず 、そ の 下 地 も な い た め 、本 調 査 の 範 囲 内 で 効 果 の 出 る 対 応 策 を 協 議 す る の は 難 し い 状 況 で あ る 。 ま た 、 BMAに お い て も 、 維 持 管 理 は 分 野 毎 の 担 当 に 分 か れ て お り 、計 画 機 関 や 予 算 局 は 国 レ ベ ル 同 様 、包 括 的 な 計 画 を 主 導 す る 準備ができていない。 従 っ て 、本 調 査 で は 、優 先 分 野 を 選 定 し 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 下 地 が で き て お り 、協 力 の 得 ら れ る 対 象 機 関 に つ い て 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 対 応 策 を 検 討 す る こ と と し た 。こ れ は 、そ の 効 果 と と も に 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に お け る ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 役 割 を セ ミ ナ ー で 紹 介 す る こ と に よ り 、イ ン フ ラ・マ ネジメントの概念の理解を深めることを意図している。 5.1.3 優先分野の選定 鉄道と下水道はまだ整備水準が低く、現在は新規建設が優先課題となってい る 。特 に 、運 輸 分 野 で は 道 路 偏 重 の 現 状 を 修 正 す る 必 要 性 が 高 い た め 、鉄 道 の 新 規 建 設 の 優 先 度 は 高 い 。SRTの 多 く の 施 設 は 老 朽 化 が 進 ん で お り 、維 持 管 理 も 不 十 分 な た め 、 毎 年 100件 前 後 の 脱 線 事 故 が 発 生 し て い る 。 し か し 、 こ の 問 題 の 原 因 は 維 持 管 理 手 法 に と ど ま ら ず 非 常 に 深 刻 で あ る た め 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 強 化 よ り も 、ま ず そ の 基 本 と な る 組 織 体 制 を 抜 本 的 に 改 善 す る 必 要 が あ る 。ま た 、 既 存 の 施 設 に つ い て は 、SRTを 除 い て は 鉄 道 も 下 水 道 も ま だ 比 較 的 新 し く 、耐 用 年 数 も 長 い た め 、 老 朽 化 問 題 が 顕 在 化 す る の は ま だ 20年 以 上 後 に な る と 思 わ れ る。 電 力 分 野 で は 、電 力 の 安 定 供 給 は 経 済 活 動 及 び 生 活 の 両 面 で 必 須 の も の で あ る た め 、イ ン フ ラ 事 業 者 の 事 業 課 題 の 中 で 維 持 管 理 の 重 要 度 は 早 期 か ら 高 く 位 置 づ け ら れ て い る 。そ の た め 各 事 業 者 と も に 、し っ か り と し た 体 制 で イ ン フ ラ・マ ネ ジメントに積極的に取り組んでいる。 上 水 道 分 野 は 、 バ ン コ ク 首 都 圏 の 給 水 率 は す で に 100%近 く に 達 し て お り 、 全 国 で も 80%を 超 え て い る 。イ ン フ ラ 事 業 者 に と っ て の 優 先 課 題 は 、す で に 新 規 建 設 か ら 維 持 管 理 の 時 代 に 入 っ て き て い る 。政 府 が 水 道 分 野 の 国 営 企 業 へ 示 し た 運 営 方 針 の 中 で も 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 重 視 し た 運 営 を 指 示 し て い る 。現 状 は 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 取 組 み は す で に 開 始 さ れ て い る が 、ま だ 十 分 に は 浸 透 していない過渡期にある。 道 路 分 野 を 代 表 す る 事 業 者 の DOHで は 、 ネ ッ ト ワ ー ク 整 備 は 10年 以 上 前 に ほ ぼ 終 わ り 、こ の 10年 間 の 新 規 建 設 予 算 は 主 に 既 存 ネ ッ ト ワ ー ク の 拡 幅 に 充 て ら れ て い る 。そ し て 、2011年 以 降 は 、維 持 管 理 予 算 は 新 規 建 設 予 算 を 上 回 っ た 状 態 が 続 い て い る 。道 路 分 野 の 優 先 度 は 、新 規 建 設 か ら 維 持 管 理 へ 変 わ っ て き て い る と こ ろ で あ り 、ま た 求 め ら れ る サ ー ビ ス は ア ク セ ス の 確 保 と い う 基 本 的 サ ー ビ ス か ら渋滞の緩和等に変化している。 各 イ ン フ ラ 分 野 の 維 持 管 理 へ の 現 在 の 移 行 レ ベ ル 状 況 を 図 104に 示 す 。 245 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 104 JICA 国際航業 各分野の維持管理への移行レベル い ず れ の 分 野 も ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト は 重 要 で は あ る が 、上 記 の 各 イ ン フ ラ 分 野 の 評 価 結 果 を 基 に 、現 在 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 必 要 性 が 最 も 高 ま り つ つ あ ると評価された上水道分野と道路分野を、優先分野として選定する。 246 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5.2 優先分野における対応策の選定 5.2.1 基本方針 (1) JICA 国際航業 対象機関の選定 優先分野の対象機関から、具体的な対応策を検討する機関を選定するにあた り 、新 設 か ら 維 持 管 理 に 重 点 が シ フ ト し て お り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に 取 り 組 む 体 制 が ほ ぼ 整 っ て い る と い う 観 点 か ら 、 上 水 道 分 野 で は MWA、 道 路 分 野 で は EXATを 選 定 す る 。 さ ら に 、 日 本 で 行 わ れ た よ う な 道 路 舗 装 の 設 計 基 準 の 変 更 が 実施された場合の効果も検証する。 (2) 重点項目の選定 各 機 関 が イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理 す る に 当 た り 、本 調 査 の 範 囲 で 最 も 効 果 的 で わ か り や す い 対 応 策 を 示 す た め に 、各 機 関 の 置 か れ た 背 景 を 考 慮 し て 、長 期 的な視野から重点項目に焦点をあて、対応策を検討する。 (3) 対応策提案の目的 対応策提案の目的を、以下のように設定する。 ① タイ国の実際のインフラ施設のケースに対して、効率的な維持管理に関す る長期的な計画を、工学的観点と経済学的観点の両方から検討する事例を 示し、アセットマネジメントの方法と重要性の理解を促す。 ② 長 期 的 な 計 画 策 定 に お い て 重 要 な 鍵 と な る LCCの 考 え 方 を 、 上 記 の 具 体 例 の検討を通じて理解を促す。 ③ LCCの 削 減 手 段 と し て 、 実 現 性 の あ る 長 寿 命 化 技 術 及 び 点 検 ・ 管 理 技 術 等 を紹介する。 ④ アセットマネジメント及びインフラ・マネジメントは、実施機関、予算管 理機関、受益者の全員に有益であることを、事例を通じて理解を促す。 247 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5.2.2 JICA 国際航業 アセットマネジメントのための対応策 パ タ ー ン の 異 な る 次 の 3つ の 事 例 に つ い て 対 応 策 を 検 討 す る 。 水道事業の事業効率改善のための対応策 1) バ ン コ ク 首 都 圏 で は 、人 口 が 2007年 か ら 減 少 に 転 じ て お り 、現 時 点 で は 給 水 区 域 の 拡 張 に 伴 い 顧 客 数 が 増 加 し て い る が 、近 い 将 来 は 顧 客 数 及 び 水 需 要 と も に 増 加 が 鈍 化 す る と 予 想 さ れ る 。そ れ に と も な い 、事 業 収 入 の 増 加 も 鈍 化 す る と 予 想 さ れ る た め 、コ ス ト 削 減 を 追 求 す る 事 業 運 営 実 施 に つ い て 、現 時 点 か ら 備 え る 必 要 が あ る 。そ の た め 、MWAで は 資 産 の 7割 を 占 め る 配 管 に 使 用 す る 管 種 の 選 定 に LCCを 活 用 し 、LCCが 最 小 に な る ケ ー ス と 現 状 維 持 の ケ ー ス の コ ス ト 差 を 算 出 す る。 2) コンクリート構造物の将来の老朽化への対応策 バンコク首都圏の高速道路のほとんどはコンクリート高架橋で構成されてい る 。全 体 的 に ま だ 新 し い た め 、現 時 点 で は 補 修 作 業 を ほ と ん ど せ ず に 、構 造 物 の 健 全 性 は 良 好 に 維 持 さ れ て い る が 、将 来 は コ ン ク リ ー ト の 老 朽 化 が 顕 在 化 し て く る た め 、補 修 費 用 が 急 増 す る 可 能 性 が あ る 。そ れ に 必 要 と な る 補 修 費 用 に 関 し て 、 予 防 保 全 と 事 後 保 全 の ケ ー ス で LCCを 算 定 し 比 較 す る 。 3) 道 路 舗 装 の 設 計 年 を 2倍 に す る ケ ー ス の LCCへ の 影 響 日 本 で は 2001年 に 道 路 の 設 計 規 準 を 変 更 し た こ と が 一 つ の き っ か け と な り 、舗 装 の 長 寿 命 化 及 び LCCの 削 減 へ の 動 き が 加 速 し た 。こ れ を タ イ 国 に 当 て は め た 場 合 に 、LCCへ ど の よ う な 影 響 が あ る か に つ い て 検 討 す る 。具 体 的 に は 、現 在 用 い ら れ て い る 設 計 年 15年 の ケ ー ス と 、2倍 の 30年 の ケ ー ス に つ い て LCCを 算 定 し て 比較する。 248 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 5.3 水道事業の事業効率改善のための対応策 5.3.1 ケーススタディの背景、目的 (1) ケーススタディの背景 バ ン コ ク 首 都 圏 と そ の 周 辺 で の 給 水 区 域 の 拡 大 に 伴 い 、 MWAの 給 水 人 口 及 び 給 水 量 も 増 加 し て い る 。 水 道 普 及 率 は ほ ぼ 100%に 達 し 、 現 在 は 老 朽 管 の 更 新 や 漏 水 個 所 の 補 修 等 の 維 持 管 理 強 化 に よ っ て 無 収 水 量 の 減 少 に 努 め て お り 、無 収 水 率 は 25%ま で 減 少 し て い る 。無 収 水 率 の 減 少 は 、無 駄 に 漏 れ て い た 水 の 造 水 費 用 の削減につながり、事業費の抑制に大きく貢献する。 今 後 は 、人 口 の 伸 び 悩 み か ら 、水 道 料 金 収 入 の 増 加 も 鈍 化 す る こ と が 予 想 さ れ 、 事業費を抑制したより効率的な運営の必要性が高まることが想定される。 (2) 目的 管 路 の 更 新 時 に お け る 管 種 の 選 択 に LCC分 析 を 活 用 し て 、無 収 水 率 と 造 水 費 用 の低減効果を考慮した長期的な運営維持管理費の縮減効果の高い管種の組み合 わせを検討する。 5.3.2 (1) MWAの 現 状 の 把 握 対象地域 MWAの 給 水 区 域 は バ ン コ ク 首 都 圏 と ノ ン タ ブ リ 県 、サ ム プ ラ カ ン 県 の 2県 で あ る 。 ( 4.3.2の (1)1) 図 参 照 ) (2) MWAの 主 な 保 有 資 産 MWAの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の う ち 、 管 路 が 全 体 の 約 7 割 を 占 め て お り 、 管 路 施 設 の 維 持 管 理 が 、施 設 全 体 の 機 能 を 維 持 し て い く 上 で 重 要 と な る 。ま た 、増 圧や造水のためのポンプや浄水場も保有している。 表 94 MWAの 資 産 と そ の 内 訳 資産の種類 百 万 Baht % 土地 4,284.29 9.54 建物 6,769.90 14.95 機械設備 2,208.59 4.98 管路設備 30,413.88 68.81 579.93 1.25 水道メータ 249 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 MWAが 管 理 す る 管 路 は 、導 水・送 水 管( 口 径 1500mm~ 3400mm)、配 水 本 管 ( 口 径 500mm~ 1800mm)、配 水 支 管( 口 径 100mm~ 400mm)、そ し て 給 水 管 ( 口 径 75mm以 下 ) に 分 類 さ れ 、 管 路 の 大 部 分 は 配 水 支 管 の 約 28,000kmと 、 給 水 管 の 約 5,600㎞ で あ る 。 表 95 管路の種類と管延長 単 位 : km ST SCP RCP CI PC-ST PC AC DI PVC GI HDPE 計 導 水 管 ,送 水 管 143.1 33.9 13.9 190.9 (1500-3400) 配水管 1,436.5 35.1 18.7 98.3 45.4 7.6 3.4 7.3 1,652.1 (500-1800) 配水支管 399.9 15.3 3,920.1 24,136.5 280.2 59.6 28,811.5 24,136.5 280.2 66.8 30,654.5 (100-400) 計 1,979.5 35.1 18.7 113.6 79.3 13.9 3,927.7 3.4 こ れ 以 外 に 給 水 管 : 5,600kmが 存 在 す る 。 配 水 支 管( 口 径 : 100mm~ 400mm)の 約 92%を 石 綿 管( AC管 )と 硬 質 塩 化 ビ ニ ル 管 ( PVC管 ) で 占 め て お り 、 タ イ 国 で の 耐 用 年 数 は そ れ ぞ れ 25年 、 35年 で ある。 AC管 、 PVC管 に つ い て 、 今 後 更 新 が 必 要 と な る 年 度 ご と の 管 路 延 長 の 推 移 を 見 る と 、 今 か ら 2030年 頃 ま で は 、 AC管 の 大 半 が 耐 用 年 数 を 迎 え 、 更 新 が 必 要 と な る 。 2030年 代 以 降 は PVC管 の 更 新 時 期 と な り 、 2030年 代 後 半 か ら 2040年 代 前 半にかけてピークとなる。 図 105 耐 用 年 数 経 過 年 別 AC管 と PVC管 の 管 路 延 長 250 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (3) JICA 国際航業 無収水率 過 去 10年 の 年 間 に お け る 有 収 水 量 、無 収 水 量 、無 収 水 率 の 推 移 を み る と 、収 入 に つ な が ら な い 無 収 水 率 は 2006年 頃 よ り 低 下 し て お り 、 2013年 度 に は 約 25% で あった。 図 106 過 去 10年 の 有 収 水 量 、 無 収 水 量 、 無 収 水 率 の 推 移 無 収 水 率 の 発 生 す る 管 種 の 内 訳 を み る と 、 配 水 支 管 か ら が 約 6割 、 給 水 管 か ら が 約 4割 で あ る 。 表 96 配水支管、給水管延長と無収水率 配水支管 2013 給水管 無収水量に 管延長 管延長 無収水率 管延長 無収水率 (AC:km) (PVC:k m) (%) (k m) (%) 3,920.05 24,136.51 5.3.3 課題の抽出 (1) 将来人口の伸び悩み 14.68% 5,600 9.90% 無収水率 対する給水 (% : 合 計 ) 管の割合 (%) 24.58% 40.3% バ ン コ ク 首 都 圏 で は 2025年 ま で は 人 口 が 増 加 す る も の の 、そ の 後 は 人 口 が 減 少 し 、他 2 県 で も 人 口 は 増 加 す る が 、そ の 増 加 率 は 徐 々 に 減 少 す る と 予 想 さ れ て い る。従って、将来的に水道料金収入も伸び悩むと考えられる。 251 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 107 (2) JICA 国際航業 対象地域の人口の推移 高無収水率 無 収 水 率 に 関 し て は 、MWAが AC管 の 更 新 や 漏 水 補 修 を 行 っ て き た た め 、最 近 10年 は 減 少 傾 向 に あ る が 、 2013年 時 点 で の 無 収 水 率 は 依 然 と し て 約 25%で あ り 、 造 水 し て も 収 入 に つ な が ら な か っ た 無 収 水 量 分 の 造 水 費 用( 漏 水 損 失 額 )は 約 36 億 バ ー ツ に の ぼ る 。 こ れ は 、 MWAの 年 間 純 利 益 約 70億 バ ー ツ ( 2013年 ) の 半 分 に相当し、この損失の影響は大きい。 (3) 非効率なポンプ バ ン コ ク 首 都 圏 は 平 坦 な 地 形 で あ る た め 、水 を 隅 々 ま で 送 る た め に 多 く の ポ ン プ 設 備 が 設 置 さ れ て い る 。 MWAは 更 新 が 必 要 と な っ た ポ ン プ か ら 順 次 更 新 し て い る が 、現 在 運 転 さ れ て い る ポ ン プ は 耐 用 年 数 を 超 え て 使 用 さ れ て い る も の も あ り 、 こ の よ う な 古 い ポ ン プ は 非 効 率 で あ る 。 ポ ン プ 運 転 に 要 し た 動 力 費 は 約 13 億 バ ー ツ ( 2013年 度 ) で あ り 、 こ れ は MWAが 消 費 し た 電 力 の 約 73%を 占 め る こ と か ら 、ポ ン プ の 性 能 が 運 営 維 持 管 理 費 の 増 加 に つ な が っ て い る 。ま た 、ポ ン プ の 効 率 が 悪 い た め に 、消 費 者 か ら は 給 水 の 際 の 水 圧 が 低 く 水 の 出 が 悪 い と い っ た 苦情も聞かれている。 5.3.4 ケーススタディの基本方針 現 状 の 施 設 の 課 題 を も と に 、ケ ー ス ス タ デ ィ の 基 本 方 針 を 設 定 す る 。 無収水 が 発 生 し て い る 既 存 管 路( 配 水 支 管 、給 水 管 )の 更 新 ・補 修 、そ し て ポ ン プ 設 備 の 更 新 に よ り 、無 収 水 に 相 当 す る 造 水 費 用 、電 力 消 費 量 が 減 少 す る た め 、施 設 の 長 期 的 な 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 が 可 能 と な る 。 こ こ に MWAが 予 定 し て い る 新 設 252 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 管 路 の 布 設 を 加 え 、本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、管 路 と ポ ン プ の 更 新 及 び 新 設 管 路 の 布 設 の た め の 投 資 に よ る 、造 水 費 用 、電 力 消 費 量 の 減 少 と い っ た 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 と 収 入 の 増 加 の 効 果 を 検 証 し 、投 資 効 果 を 最 大 に す る こ と を 目 指 す 。こ れ を図化すると以下のようになる。 管路の更新、補修 無収水量の減少 運営維持管理費の削減 新設管路の布設 水道未普及地域の減少 水販売収入の増加 ポンプ設備の更新 低水圧地域の減少 サービスの質の向上 効果 投資 図 108 ケーススタディの方針 このうち、本ケーススタディでは効果の方は、運営維持管理費に焦点をあて、 管 路 の 更 新・補 修 、新 設 管 路 の 布 設 、ポ ン プ 設 備 の 更 新 に よ る 運 営 維 持 管 理 費 の 削減効果を試算する。 5.3.5 対応策の検討 (1) ケーススタディの条件 対 象 施 設 : 配 水 支 管 ( 口 径 100~ 400mm) 、 給 水 管 ( 75mm以 下 ) 、 ポ ン プ 対 象 地 域 : MWAの 給 水 区 域 全 域 対 象 期 間 : 2015年 か ら 50年 間 (2) ケーススタディの内容 1) シナリオの設定 ① 管種の選定 MWAは 独 自 で 管 路 の 新 設 、 更 新 計 画 を 立 て て い る 。 こ の 更 新 計 画 を ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ と し て 、既 存 管 路 の 更 新 、新 設 管 路 の 布 設 に 関 し 、こ れ ま で MWA が 主 要 管 路 と し て 採 用 し て き た PVC管 に 更 新 す る 場 合( シ ナ リ オ 1 )と 、部 分 的 に 水 道 配 水 用 ポ リ エ チ レ ン 管( HDPE: PE100)、ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管( DIP: NS 形 ) を 採 用 す る 場 合 ( シ ナ リ オ 2 ) の 2パ タ ー ン を 検 討 し 、 ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ と 比 較 す る 。 HDPE管 、 DIP管 は と も に 漏 水 が 少 な く 長 寿 命 が 期 待 で き る 材 料でそれぞれの特徴は以下の通りである。 253 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 97 管種 JICA 国際航業 管種別の特徴とシナリオでの採用条件 シナリオ2での 特徴 採用条件 HDPE管 熱による電気融着で管を接合させるた め、漏水が極めて少ない。 た だ し 、融 着 作 業 は 水 中 で で き な い た め、河川沿い等では使用できない。 日本での適用 PN16( 適 用 水 圧:16kg/cm2)が 標 準 で 寿 命 100年 以 上 。 口 径 200mm以 下 に 適 用 。 PVC管 よ り 採 用 事 例 は 多 い 。 タイ国での適用 僅 か だ が 、PN16に 比 べ て 管 厚 が 薄 い PN10が 使 わ れ て い る 。 タイ国で使用されて いる規格 口 径 200mm以 下 の 管 に採用 DIP管 ( NS形 ) 管 体 強 度 が 大 き く 、耐 久 性 が あ り 、衝 撃 に 強 い 。 ま た 、 NS形 は 接 合 す る と ロ ッ ク機能により管が抜けないため耐震性 が強い。 日本での適用 耐 震 型 で あ る NS形 の 使 用 が 多 い 。 タイ国での適用 タ イ で は DIP管 が ほ と ん ど 使 用 さ れ て お ら ず 、NS形 に 関 し て は 全 く 使 用 さ れ て い な い 。NS形 は 地 盤 変 動 に 連 動 で き る た め 、地 盤 の 緩 い バ ン コ ク にも適すると考える。 日本と同じ規格 口 径 200mm超 の 管 に 採用 HDPE管 、 DIP管 、 そ れ ぞ れ に つ い て 各 管 径 で 、 PVC管 と 比 較 し て LCCに 対 し て 硬 化 の 大 き い 管 を 採 用 す る 。 代 表 的 な 口 径 で あ る 200mmと 400mmに つ い て 、 費 用 対 効 果 を 比 較 す る と 以 下 の 通 り 、 200mmで は HDPE管 が 、 400mmで は PVC 管 の 方 が 費 用 対 効 果 が 大 き い こ と が わ か る 。こ こ で は 、費 用 に は 、配 管 布 設 費 用 を 耐 用 年 数 で 除 し た 一 年 当 た り の 費 用 、効 果 に は 、管 路 の 更 新 に よ り 改 善 す る 無 収水量の減少分に相当する年間造水費用を利用している。 254 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 98 管 種 ご と の LCCと 効 果 の 比 較 ( 口 径 200mm) 耐用 年数 管種 JICA 国際航業 費用 (Baht/m) 効 果 87 (Baht/m/年 ) 費用 (Baht/m/年 ) 費用対効果 PVC 35 1,251 35.7 39.0 1.09 HDPE 40 1,830 45.8 69.4 1.52 表 99 管種 管 種 ご と の LCCと 効 果 の 比 較 ( 口 径 400mm) 耐用 年数 費用 (Baht/m) 費用 (Baht/m/年 ) 効果 (Baht/m/年 ) 費用対効果 PVC 35 2,968 84.8 39.0 0.46 DIP 40 12,933 323.3 74.0 0.23 た だ し 、 HDPE管 は 電 気 融 着 で 接 続 す る た め 、 水 中 作 業 が 出 来 ず 、バ ン コ ク 都 内でよく見られる河川沿いの配管等、一部の地域では使用が制限される。 400mmの 管 で は 、DIP管 の 方 が 費 用 が 高 く 、費 用 対 効 果 も 低 い た め 既 存 管 路 を 全 て DIP管 に 更 新 す る の は 経 済 的 で は な い 。た だ し 、管 が 抜 け な い 構 造 上 の 特 性 を 生 か し 、主 要 道 路 や 交 差 点 部 等 管 の 更 新 が 容 易 で な い 箇 所 に DIPを 部 分 的 に 使 用することは漏水ひいては管路補修の頻度を抑え、有効である。 ② ポンプの更新時期 MWAは 更 新 時 期 が 来 た ポ ン プ を 順 次 更 新 し て き た が 、 こ の 方 針 を 継 続 し 、 耐 用年数に達した時点でポンプを更新することを前提とする。 一 部 残 っ て い る 古 い ポ ン プ は 1970年 代 か ら 1980年 代 に 製 造 さ れ た も の で 、 ポ ン プ 効 率 は 概 ね 60%台 か ら 70%台 と 高 く な い 。 新 し い ポ ン プ へ の 更 新 に よ り 、 ポ ン プ 効 率 を 概 ね 80%台 か ら 最 大 で 90%ま で 改 善 で き る た め 、 運 転 に 係 る 動 力 費 は 、 既 存 の ポ ン プ の ポ ン プ 効 率 を 70%、 更 新 後 の ポ ン プ 効 率 を 80%と し た 場 合 、 約 12%削 減 で き る 。 87 効果は単位管延長及び年当たりで、以下の考え方で算出している。 管 路 更 新 に よ る 効 果 = 既 存 管 路 の 無 収 水 分 の 造 水 費 用( MWA提 供 )- 更 新 し た 管 路 の無収水分の造水費用(下記計算式により算出)。 更 新 し た 管 路 の 年 間 無 収 水 分 の 造 水 費 用 = 単 位 管 延 長 当 た り の 年 間 流 量 ( MWA 提 供 ) ×耐 用 年 数 ま で の 年 平 均 無 収 水 率 ×2013年 度 の m3当 た り 給 水 原 価 ( MWA提 供 ) 。 管種 PVC HDPE DIP 単位管延 長当りの 年間流量 (m3/m/年 ) ① 53.62 耐用年数ま での平均無 収水率 (%) ② 8.69 1.73 0.69 単位管延長当 りの無収水量 (m3/m/年 ) ③ = ① ×② 4.66 0.93 0.37 2013年 度 の 給水原価 (バ ー ツ /m3) ④ 8.16 255 無収水相当額 (バ ー ツ /m/年 ) ⑤ = ③ ×④ 38.0 7.6 3.0 既存管路の無 収水相当額 (バ ー ツ /m/年 ) ⑥ 77.01 管路更新によ る効果額 (バ ー ツ /m/年 ) ⑥ -⑤ 39.0 69.4 74.0 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート ③ JICA 国際航業 シナリオの概要 管 路 と ポ ン プ の 布 設 、更 新 に 関 す る シ ナ リ オ を ベ ー ス ラ イ ン 、シ ナ リ オ 1 、シ ナリオ2と設定する。 表 100 シナリオ ベース ライン 概要 MWA の 更 新 計 画に従う シナリオ1 更新時期が来た 管 路 か ら 順 に PVC管 に 更 新 ベストミックス となるよう、一 部 管 路 に HDPE 管 、DIP管 を 採 用 シナリオ2 検討するシナリオの概要 配水支管 全 て の AC管 、 PVC管 を 、MWAの 計 画 に 従 い 、 PVC管 に 更 新 全 て の AC管 、 PVC管 を、更新時期ごとに PVC管 に 更 新 全 て の AC管 、 PVC管 を、更新時期ごとに PVC 管 、 HDPE 管 (80%) 、 DIP 管 (10%) に更新 給水管 更新しない ポンプ MWA の 計 画 に従い更新 全路線を更 新 MWA の 計 画 に従い更新 全路線を更 新 MWA の 計 画 に従い更新 ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ は 現 状 の MWAの 計 画 に 従 い 、 配 水 支 管 は PVC管 に 更 新 す る が 、 給 水 管 の 更 新 は 考 慮 し な い 。 ポ ン プ は MWAの 計 画 通 り 、 耐 用 年 数 に 達したポンプを順次更新する。 シ ナ リ オ 1 は 配 水 支 管 を 更 新 時 期 が き た 管 路 か ら 順 次 PVC管 に 更 新 し 、給 水 管 も更新する。ポンプについてはベースライン・シナリオと同様である。 シナリオ2では配水支管については、更新時期がきた管路から更新するが、 PVC管 に 加 え て 、HDPE管 、DIP管 も 採 用 す る 。こ の 時 、口 径 200mm以 下 の 管 路 に つ い て は HDPE管 を 優 先 的 に 採 用 し 、口 径 200mmを 超 え る 管 路 に つ い て は 、費 用 対 効 果 の 高 い PVC管 の 採 用 を 基 本 と し つ つ 、主 要 道 路 の 下 等 容 易 に 更 新 が 出 来 な い 区 間 に 部 分 的 に DIP 管 を 採 用 す る 方 針 に 従 い 、 口 径 200mm 以 下 の 管 路 の 80% を HDPE管 、 200mmを 超 え る 管 路 の 10%を DIP管 に 更 新 す る と 想 定 し て い る 。給 水 管 に つ い て は シ ナ リ オ 1 と 、ポ ン プ に つ い て は ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ と同様である。 2) シナリオの計算条件 ① 管路施設 管 路 の 更 新 時 期 は MWAの 計 画( ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ )ま た は タ イ 国 の 法 定 耐 用 年 数 ( シ ナ リ オ 1 、 2 ) に 従 う 。 た だ し 、 HDPE管 、 DIP管 は 、 タ イ国で耐用年数の規定がないため、日本の規定に従う。 運営維持管理費として、管路の漏水部の補修費、更新費用、及び無収水の 造水費用を考慮する。 管路の漏水部の補修費と無収水の造水費用の計算は以下の通りである。 256 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 年度毎に管種、経過年数に応じた漏水率を計算し、管路毎の管路延長 による加重平均をその年度の各管種の漏水率とする。 年度毎に、漏水率に基づいて計算した管種別の漏水箇所数、漏水量を 用いて漏水箇所の補修費、漏水損失額を算出する。 ② ポンプ施設 更新時期は、タイ国の法定耐用年数に従う。 運営維持管理費として、ポンプの維持管理費、更新費用、電気料金を考慮 する。 電力消費量は水の生産水量に基づく。 シナリオで使用する基本データ (3) 1) 有収水量 MWAよ り 提 供 さ れ た 2030年 ま で の 給 水 区 域 内 人 口 と 2015~2022年 度 の 年 間 有 収 水 量 の 予 測 値 を 利 用 す る 。2023年 以 降 に つ い て は 、給 水 区 域 内 人 口 の 予 測 値 に 、 2022年 時 の 一 人 当 り 1 日 給 水 量 を 乗 じ て 有 収 水 量 を 算 出 す る 。ま た 、人 口 の 予 測 値 が 2030年 ま で の た め 、 2031年 以 降 の 有 収 水 量 は 2030年 と 同 値 と 仮 定 す る 。 表 101 年度 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031 以降 2) 給水区域 内人口 (千 人 ) 12,146.5 12,270.6 12,388.8 12,499.8 12,604.1 12,700.5 12,789.8 12,872.3 12,947.7 13,015.6 13,076.9 13,131.0 13,179.5 13,221.9 13,257.8 13,287.6 年間有収水量の推移 MWA予 測 値 年間有収 1人 1日 当 り 水量 使用水量 (百 万 m3/ (m3/日 /人 ) 年) 1,416.5 0.320 1,444.5 0.323 1,471.5 0.325 1,497.5 0.328 1,521.5 0.331 1,544.5 0.333 1,566.5 0.336 1,588.5 0.338 13,287.6 試算予測値 年間有収 1人 1日 当 り 水量 使用水量 (百 万 m3/ (m3/日 /人 ) 年) 年間有収水量 (試 算 採 用 値 ) (百 万 m3/年 ) 1,597.8 1,606.2 1,613.7 1,620.4 1,626.4 1,631.6 1,636.1 1,639.7 0.338 0.338 0.338 0.338 0.338 0.338 0.338 0.338 1,416.5 1,444.5 1,471.5 1,497.5 1,521.5 1,544.5 1,566.5 1,588.5 1,597.8 1,606.2 1,613.7 1,620.4 1,626.4 1,631.6 1,636.1 1,639.7 1,639.7 0.338 1,639.7 耐用年数及び漏水個所数 漏 水 個 所 数 に つ い て は タ イ 国 で の 実 績 値 ( HDPE管 、 DIP管 に つ い て は MWA 257 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 の参考文献中の実績に基づく推定値)を採用する。 表 102 AC PVC HDPE 漏水個所数 ( /100km/month) 5.36 2.43 1.24 MWA の実績値 MWA の実績値 MWA の推定値 DIP 40 0.68 MWA の推定値 管種 3) 管種別法定耐用年数及び漏水個所数 耐用 年数 25 35 40 算出根拠 配水支管、給水管の無収水率 配 水 支 管 、給 水 管 の 無 収 水 率 は 2013年 の 値 を 基 準 と す る 。将 来 の 無 収 水 率 は 各 管路の布設経過年数に応じた無収水率を積み上げて全体の無収水率を試算する。 表 103 2013年 の 配 水 支 管 、 給 水 管 の 無 収 水 率 無収水率(%) 配水支管 2013 無収水率 (% : 合 計 ) 給水管 14.68 9.90 24.58 管 種 ご と の 布 設 経 過 年 数 に よ る 無 収 水 率 の 経 年 変 化 は 以 下 の 通 り 、各 々 の 管 路 の 布 設 後 経 過 年 数 に 応 じ て 変 化 す る と 仮 定 し て い る 。各 管 種 の 耐 用 年 数 時 点 で の 無収水率を設定した上で、二次関数的に変化する前提である。 表 104 4) 布設経過年数による将来の無収水率の変化 経過 年数 AC 0 5 10 15 20 25 30 35 40 0.00% 1.20% 4.80% 10.80% 19.20% 30.00% 40.00% 40.00% 40.00% PVC 0.00% 0.51% 2.04% 4.59% 8.16% 12.76% 18.37% 25.00% 32.65% HDPE 0.00% 0.08% 0.31% 0.70% 1.25% 1.95% 2.81% 3.83% 5.00% DIP 0.00% 0.03% 0.13% 0.28% 0.50% 0.78% 1.13% 1.53% 2.00% 造水費用 上 記 1)の 有 収 水 量 と 2)の 無 収 水 率 か ら 無 収 水 量 を 計 算 し 、 総 配 水 量 ( 造 水 量 ) を 求 め る 。そ し て 、こ の 総 配 水 量 に 浄 水 に 要 す る 単 位 水 量 当 り の 単 価( ポ ン プ 運 転以外の動力費含む)、人件費等を乗じて造水費用を算出する。 5) 管路の布設工事費(補修費) MWAの 管 路 の 単 位 延 長 当 り の 布 設 工 事 費 は 以 下 の 通 り で あ る 。 管 路 の 更 新 費 258 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 用 、補 修 に 伴 う 布 設 費 用 は 下 表 の 単 価 を 基 に 算 出 す る 。ま た 、管 路 補 修 に 際 し て は 、 1 か 所 当 り の 補 修 延 長 を 6mと 仮 定 し 算 出 す る 。 表 105 50mm 75mm 管種ごとの布設工事費 PVC HDPE - - 687 1,177 100mm 575 933 DIP - - - 150mm 879 1,650 200mm 1,251 1,830 250mm 2,059 - - - 6,820 Unit (Baht/m) 300mm 400mm 2,471 2,968 - - 9,037 12,933 注 :HDPE管 に つ い て は 、 タ イ 国 で は 100mm未 満 は 規 格 が な い た め 、 日 本 の 単 価 を 採 用 6) 管路新設 MWAは 過 去 5年 間 、年 間 約 1,000kmの ペ ー ス で 管 路 を 増 設 し 、給 水 区 域 を 拡 張 し て き た 。 給 水 区 域 の 大 規 模 な 拡 張 は 2014 年 で ほ ぼ 終 了 し て い る が 、 MWA は 2015年 以 降 も 以 下 の 管 路 延 長 を 新 規 布 設 計 画 と し て 見 込 ん で お り 、こ れ も 試 算 に 盛り込む。 表 106 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031 2032 2033 2034 Total 100mm - - 新 設 管 路 布 設 計 画 ( PVC管 ) 口径ごとの計画布設延長 (km) 150mm 200mm 250mm 300mm 100.6 48.2 49.8 100.6 48.2 49.8 100.6 48.2 49.8 95.5 45.8 47.3 90.9 43.7 45.1 86.5 41.5 42.8 81.9 39.3 40.6 77.9 37.4 38.6 73.8 35.5 36.6 70.3 33.8 34.9 66.8 32.1 33.1 63.3 30.4 31.4 60.3 28.9 29.9 57.3 27.5 28.4 54.2 26.1 26.9 51.8 24.8 25.7 49.3 23.6 24.4 46.7 22.4 23.2 44.3 21.2 21.9 42.2 20.3 20.9 1,415.0 679.0 701.0 259 400mm 1.4 1.4 1.4 1.4 1.3 1.2 1.2 1.1 1.1 1.0 1.0 0.9 0.9 0.8 0.8 0.7 0.7 0.7 0.6 0.6 20.0 Total 200.0 200.0 200.0 190.0 181.0 172.0 163.0 155.0 147.0 140.0 133.0 126.0 120.0 114.0 108.0 103.0 98.0 93.0 88.0 84.0 2,815.0 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 7) JICA 国際航業 ポンプの更新 以 下 の 既 存 ポ ン プ の 稼 働 状 況 か ら 、耐 用 年 数 に 達 し た ポ ン プ か ら 順 に 更 新 す る ことを前提とする。 表 107 Pump Station ポンプの稼働状況 Number of Pumps Elapsed Years Pump Efficiency Operation Hour (h/day) Electric Consumption (kwh/year) Sam Lae Pump Station No.1 - - - - Sam Lae Pump Station No.2 5 2-35 0.87 14.2 Sam Lae Pump Station No.2A 3 19-26 0.88 23.1 Sam Lae Raw Water Pump Station No.3 1 8 0.89 22 Sam Sen Pump House No.1 - - - - Sam Sen Pump House No.2 5 12-22 0.74-0.81 11.3-14.9 Sam Sen Pump House No.2A 5 12-21 0.74-0.81 11.00 Sam Sen Pump House No.3 10 3-28 0.73-0.82 6.70 Sam Sen Pump House No.4 3 45 0.70 6.70 Sam Sen Pump House No.5 - - - - Sam Sen Pump House No.6 3 28-30 0.72-0.73 11.00 Sam Sen Pump House No.7 5 3-20 0.76-0.90 3.8-13.0 Sam Sen Pump House No.8 16 2-20 0.68-0.82 3-23.5 Sam Sen Pump House No.9 3 43 0.68-0.72 12-17 Sam Sen Pump House No.10 2 3-43 0.78-0.90 5-19 S a m S en Pu mp Hous e No .11 3 21 0.79-0.80 7-20 Sam Sen Pu mp Hous e No .12 5 21 0.78 1-22 Thon Buri Pump House 6 26-28 0.68-0.72 Bang Sue Pump House 4 22-42 0.80 9 Bangkhen Raw wa ter pu mp station 1 6 5 -37 0 .81 20 .00 29 ,376 ,000 10.480,560 22,179,000 2,841,356 3,719,000 Bangkhen Raw wa ter pu mp station 2 4 9 -37 0 .82 18 .00 15,948 ,000 Bangkhen Transmi s sion pu mp station 1 5 20 -37 0 .84 14 .00 31,908 ,000 Bangkhen Transmi s sion pu mp station 2 5 14 -26 0 .81 15 .00 41,732 ,400 Bangkhen Transmi s sion pu mp station 3 4 6 -7 0 .84 18 .00 28,362 ,648 Bangkhen Dist ribution pu mp st ation 1 5 20 -32 0 .83 15 .00 12,168 ,000 Bangkhen Dist ribution pu mp st ation 2 4 12 -18 0 .82 18 .00 13,512 ,000 Bangkhen Wash wat er pu mp station 1 3 37 0 .69 - Bangkhen Wash wat er pu mp station 2 3 22 0 .68 - Mahasawat Raw water pump station 1 5 16-20 0.83 19.20 14,213,000 Mahasawat Raw water pump station 2 3 9 0.89 24.00 8,614,000 Mahasawat Distribution pump station 4 20 0.89 22.50 1,413,000 Mahasawat Transmission pump station 3 10-16 0.91 22.00 35,218,000 Lumpini Pump Station 4 35 0.75 13.75 8,400,000 Tha Phra Pump Station 5 35 0.76 5.60 2,461,284 Klong Toey Pump Station 5 30 0.77 7.20 5,952,012 Phahon Yothin Pump Station - - - - Sam Rong Pump Station 5 26 0.76 17.4 13,392,012 Lad Phrao Pu mp Station 4 - 0.77 18 .00 9,840 ,000 Lad Kra Bang Pump Station 4 - 0.77 14 .75 7,944 ,000 Ratbu rana Pu mp Station 5 - 0.77 13 .60 6,709 ,920 P h etk as e m P u mp S t at i o n 5 - 0.77 11 .80 13,764 ,696 Bangplee Pu mp St ation 5 - 0.77 14 .40 10,968 ,000 mi n bu ri 5 - 0.77 9 .80 7,800 ,000 180 - - - 326,267,328 Total Pu mp Station 260 - - タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (4) 1) JICA 国際航業 試算結果 ベースライン・シナリオ 以 下 に 管 路 に お け る 運 営 維 持 管 理 費 用 の 推 移 を 示 す 。管 路 の 運 営 維 持 管 理 費 用 には、管路の更新費用(配水支管、給水管)、管路補修費用、管路の新設費用、 お よ び 無 収 水 に 相 当 す る 造 水 費 用 を 考 慮 す る 。ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ で は 無 収 水 率 は 20% 程 度 で と ど ま っ て お り 、配 水 支 管 の 更 新 の み の た め 低 下 幅 は 大 き く な い 。 無 収 水 量 の 約 4割 を 占 め る 給 水 管 の 更 新 を 見 込 ま な い と 、 無 収 水 量 の 減 少 効 果は限定的である。 図 109 運営維持管理費の推移:ベースライン・シナリオ 図 110 無収水率の推移:ベースライン・シナリオ 261 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 シナリオ1 シ ナ リ オ 1 で は 、ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ の 配 水 支 管 の 更 新 に よ る 効 果 に 加 え 、 給 水 管 の 更 新 に よ り 、無 収 水 率 は 約 10%ま で 低 下 す る 。従 っ て 、給 水 管 の 漏 水 が 大 き い 区 域 で は 、配 水 支 管 と 同 時 に 給 水 管 も 更 新 す る と 効 果 が 大 き い 。ま た 、無 収 水 量 減 少 効 果 と は 別 に 、複 数 の 給 水 管 が 複 雑 に 布 設 さ れ て い る 場 合 は 、更 新 時 に 口 径 の 大 き な 給 水 管 に ま と め る と 、管 路 の 維 持 管 理 が 容 易 に な る 。こ れ も 運 営 維持管理費削減のための今後の対策として有効である。 図 111 運営維持管理費の推移:シナリオ1 図 112 無収水率の推移:シナリオ1 262 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 3) JICA 国際航業 シナリオ2 シ ナ リ オ 2 に 関 し て は 、 更 新 す る 管 路 に HDPE管 、 DIP管 を 部 分 的 に 使 用 す る こ と で 無 収 水 率 は 5% 程 度 ま で 減 少 す る 。 試 算 上 、 各 口 径 で 更 新 す る 管 の う ち HDPE管 は 80%、 DIP管 は 10%と 想 定 し て い る が 、 実 際 の 更 新 時 で も 地 盤 や 交 通 条 件 に 合 わ せ て 適 し た 管 種 を 選 ん で 組 み 合 わ せ る こ と が 、今 後 の 無 収 水 率 の 低 減 に有効な手段と言える。 図 113 運営維持管理費の推移:シナリオ2 図 114 無収水率の推移:シナリオ2 263 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 4) JICA 国際航業 各シナリオの比較 以 上 3シ ナ リ オ に つ い て 、 そ の 年 ま で の 運 営 維 持 管 理 費 の 累 計 額 の 推 移 を グ ラ フ 化 し て み る と 図 115の よ う に 表 さ れ る 。ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ に 比 べ 、シ ナ リ オ 1 、2 が 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 効 果 が あ る こ と が 明 ら か で あ り 、給 水 管 の 更 新が運営維持管理費の削減に大きく貢献することがわかる。 さ ら に 、シ ナ リ オ 1 と シ ナ リ オ 2 を 比 較 す る と 、2061年 を 境 に シ ナ リ オ 2 の 方 が 累 計 運 営 維 持 管 理 費 が 低 く 抑 え ら れ て お り 、布 設 費 用 が 高 く て も 、漏 水 対 策 効 果 が 高 く 長 寿 命 の 管 種 を 選 択 す る こ と に よ り 、長 期 的 に は 運 営 維 持 管 理 費 を 削 減 できることをを示している。 図 115 累積運営維持管理費の推移 無 収 水 率 、無 収 水 量 と も に 、シ ナ リ オ 2 、1 、ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ の 順 に 低 く 、給 水 管 も 計 画 的 に 更 新 す る こ と 、配 水 支 管 に つ い て は 漏 水 率 の 低 い 長 寿 命 の 管 種 を 採 用 す る こ と に よ り 、無 収 水 量 を 減 少 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と を 示 し て い る 。特 に 、シ ナ リ オ 1 と 2 の 差 が 大 き く 、場 所 に よ り 管 種 を 効 果 的 に 選 定 することが漏水の削減に有効であることを示している。 図 116 無収水率、無収水量の推移 264 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 各シナリオの累計運営維持管理費を見ると、ベースライン・シナリオに対し、 50年 で 400億 バ ー ツ 以 上 の 削 減 効 果 が あ る こ と が 分 か る 。 さ ら に 、 シ ナ リ オ 1 と 比 較 す る と 、シ ナ リ オ 2 の 方 が 多 少 だ が 運 営 維 持 管 理 費 が 低 く 抑 え ら れ 、無 収 水 率 は 6%近 く ま で 低 下 す る こ と か ら 、 管 種 の 選 定 は と り わ け 無 収 水 対 策 に 有 効 で あり、運営維持管理費も削減できることがわかる。 表 108 シナリオ 単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年 無収水率 BS との無収水 (%) 率の差(%) 累積運営 維持管理費 BS との運営維 持管理費の差 188,105 - 20.35 - 142,763 140,994 - 45,342 - 47,111 10.13 5.83 10.22 14.52 ベースライン・ シ ナ リ オ (BS) シナリオ1 シナリオ2 5) 累積運営維持管理費と無収水率 ポンプの運営維持管理費 ポ ン プ の 運 営 維 持 管 理 費 を 各 シ ナ リ オ 毎 に 以 下 に 示 す 。運 営 維 持 管 理 費 の 内 訳 はポンプの補修費、ポンプの更新費、そしてポンプ運転に要する動力費である。 各 シ ナ リ オ の 動 力 費 は 、シ ナ リ オ 毎 の 総 配 水 量( 造 水 量 )に 単 位 水 量 当 り の 電 力 使 用 量( ポ ン プ 更 新 に よ る ポ ン プ 効 率 の 改 善 を 考 慮 )、電 気 料 金 を 乗 じ て 算 出 し ている。 Baht 図 117 ベースライン・シナリオの運営維持管理費 ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ で は 、無 収 水 量 の 減 少 よ り 給 水 区 域 の 拡 大 に よ る 有 収 水 量 の 増 加 が 影 響 し 、 電 力 消 費 量 は 2030年 頃 ま で 増 加 し 、 そ の 後 、 動 力 費 は 約 13.6億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 。 265 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 Baht 図 118 シナリオ1の運営維持管理費 シナリオ1では、ベースライン・シナリオ同様に有収水量が増加するものの、 無 収 水 量 の 減 少 の 方 が 大 き く 動 力 費 は 2030年 頃 ま で は 約 13.0億 バ ー ツ / 年 、そ の 後 さ ら に 減 少 し 、 約 12.2億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 、 Baht 図 119 シナリオ2の運営維持管理費 266 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 シ ナ リ オ 2 も 、シ ナ リ オ 1 と 同 様 、動 力 費 は 当 初 は 約 13.0億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る が 、 2027年 頃 か ら 減 少 し 、 そ の 後 は 約 11.7億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 。 以下に、各シナリオのポンプの累積運営維持管理費の推移を示す。 Baht 図 120 ポンプの累積運営維持管理費 今 回 の 試 算 で は 全 シ ナ リ オ で ポ ン プ の 更 新 条 件 が 同 じ た め 、違 い が 出 る の は ポ ン プ 運 転 の 動 力 費 で あ る 。ポ ン プ 運 転 に よ る 電 力 消 費 量 は 、ポ ン プ か ら 送 り 出 さ れ る 水 が 減 れ ば 、配 水 量 が 少 な く な れ ば 電 力 消 費 量 も 減 少 す る 。ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ に 比 べ て 、シ ナ リ オ 1 、シ ナ リ オ 2 は ポ ン プ か ら 送 り だ さ れ る 水 量 が 減 少 し て い る こ と か ら 、そ れ に 伴 い 電 力 消 費 量 も 減 少 し 、動 力 費 を 50年 間 で シ ナ リ オ 1 で は 8.4%( 約 62億 バ ー ツ )、シ ナ リ オ 2 で は 10.2%( 約 75億 バ ー ツ )削 減 で き る 。無 収 水 量 の 削 減 は 水 道 施 設 全 体 の 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 に 大 き く 貢 献 す る ことが分かる。 表 109 ポンプの累積運営維持管理費とコスト削減効果 シナリオ ベースライン・ シ ナ リ オ ( BS) シナリオ1 シナリオ2 累積運営維持管理費 単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年 BS に対する BS との差額 削減率 (%) 73,803 - - 67,612 66,266 - 6,191 - 7,537 8.4% 10.2% 次 に 、 4)管 路 の 更 新 に よ る 累 積 運 営 維 持 管 理 費 に 5)ポ ン プ の 累 積 運 営 維 持 管 理 費 を 足 し 合 わ せ て み る と 、下 図 の よ う に な る 。管 路 の 更 新 に よ る 影 響 の 方 が 大 き い た め 、図 115と 傾 向 は 同 じ で 、ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ と 比 較 し た シ ナ リ オ 1 、 267 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 シナリオ2の運営維持管理費の削減効果は大きい。 Baht 図 121 管路、ポンプの運営維持管理を合わせた累積運営維持管理費 こ の 結 果 か ら 、本 ケ ー ス ス タ デ ィ の 費 用 対 効 果( ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ に 対 す る 累 積 維 持 管 理 費 の 削 減 効 率 ) を 計 算 す る と 、 シ ナ リ オ 1 が 20.0%、 シ ナ リ オ 2 が 20.9%と な る 。 ま た 、 50年 間 の 累 積 料 金 収 入 ( 1,097,144百 万 バ ー ツ ) に 対 す る 利 益 率 は 、 維 持 管 理 費 の 削 減 に よ り 、 利 益 率 は シ ナ リ オ 1 で は 1.6% ( 20.8%-19.2%) 、 シ ナ リ オ 2 で は 、 1.9%( 20.8%-18.9%) 改 善 し て い る 。 シ ナ リ オ 1 と シ ナ リ オ 2 の 累 積 運 営 維 持 管 理 費 の 差 額 は 31億 バ ー ツ で あ る が 、 そ の う ち 18億 バ ー ツ が 管 路 の 更 新 、13億 バ ー ツ が ポ ン プ の 運 営 維 持 管 理 に よ る も の で あ る 。 DIP管 は 高 額 な た め 、 管 路 の 更 新 で は 削 減 額 の 規 模 は 大 き く な い が 、 漏水率の削減はポンプの動力費等他にも大きな効果がある。 表 110 シナリオ1、2の費用対効果収入に対する運営維持管理費の比較 累積運営維持管理費 シナリオ ベースライ ン・シ ナ リ オ (BS) シナリオ1 シナリオ2 単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年 BS に 累積の運営 BS との差 対する 維持管理費/ 額 削減率 収入 (%) (%) 管路 ポンプ 合計 188,105 73,803 261,908 - - 20.8% 142,763 140,994 67,612 66,266 210,375 207,260 - 51,533 - 54,648 20.0% 20.9% 19.2% 18.9% 注 : 50年 間 の 累 積 料 金 収 入 は 1,097,144百 万 バ ー ツ 268 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 今 回 は 、 3シ ナ リ オ と も ポ ン プ の 更 新 時 期 は 同 条 件 と し て い る が 、 ポ ン プ の 更 新 時 期 の 計 画 策 定 の 際 に ポ ン プ の LCCを 考 慮 す る こ と に よ り 、さ ら な る 運 転 維 持 管理費の効率改善を見込むことができる。 5.3.6 長期戦略の提言 新 た な 資 機 材 を 採 用 す る 際 に 、各 資 機 材 の LCCを 比 較 し 、自 然 条 件 や 地 盤 、交 通 条 件 等 各 条 件 を 加 味 し な が ら 資 機 材 を 選 定 し 、配 置 す る こ と は 運 営 維 持 管 理 費 の削減の有効な手段である。また、長期的な視野にたって維持管理方針をたて、 確実に実行することが大切である。 269 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 5.4 コンクリート構造物の将来の老朽化への対応策 5.4.1 ケーススタディの背景、目的 (1) 背景 バンコク首都圏及び近郊の高速道路のほとんどはコンクリート高架橋構造だ が 、建 設 後 20年 以 内 の 施 設 割 合 が 81%と 全 体 的 に 新 し い 施 設 で あ る た め 、比 較 的 健全な状態を維持している。 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 耐 用 年 数 が 一 般 的 に 50年 以 上 と 非 常 に 長 く 、高 所 で の 点 検作業は容易ではないため、点検・維持管理が軽んじられがちである。しかし、 コ ン ク リ ー ト 製 橋 梁 が 老 朽 化 し 、橋 梁 の 架 け 替 え が 必 要 に な る と 、新 規 橋 梁 の 建 設 、 既 存 橋 梁 の 解 体 撤 去 、 廃 棄 物 の 処 理 等 が 必 要 と な り 、 新 設 時 の 2倍 以 上 の 費 用 が か か る と 言 わ れ て い る 。ま た 、架 け 替 え 及 び 作 業 用 地 の 確 保 、施 工 時 の 交 通 制限の問題も伴うため、実施は非常に困難である。 し か し な が ら 、構 造 物 の 劣 化 が 徐 々 に 進 行 し 、何 れ 大 規 模 な 補 修 工 事 が 必 要 と なり、維持管理費の急増を招く恐れがある。 (2) 目的 長期的に予想されるコンクリートの劣化と維持管理費の急増を防ぐために、 LCC分 析 を 用 い て コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 維 持 管 理 の 最 適 案 を 検 討 す る 。 5.4.2 現状把握 (1) 保有施設 EXATは バ ン コ ク 首 都 圏 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 ( 総 延 長 207.9km) の 運 営 を 行 っ て い る 。そ の 内 137.5kmを EXATが 直 接 維 持 管 理 し て お り 、70.4kmを 民 間 会 社 2社 が BTO方 式 契 約 に 基 づ い て 運 営 ・ 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。 表 111 道路管理者別道路延長 管理者 延 長 ( km) EXAT 137.5 BECL 38.4 NECL 32.0 合計 207.9 道 路 構 造 は ほ と ん ど が 高 架 橋 構 造 で 、建 設 後 10~ 20年 の も の が 全 体 の 半 数 以 上 を占めており施設全体が新しい。 270 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 30~40年, 20~30年, 16.8km, 12% 10.3km, 7% JICA 国際航業 0~10年, 36.7km, 27% 10~20年, 73.7km, 54% 図 122 表 112 EXATの 建 設 後 の 経 過 年 別 道 路 延 長 EXATの 建 設 年 別 道 路 延 長 及 び 高 架 橋 延 長 Length of No Open Road year length(km) viaduct part Name of roads (km) 1 Din Daeng Port section 1981 8.9 4.9 2 Bang Na port section 1983 7.9 3.9 3 Dao Kanong port section 1987 10.3 10.1 4 Ram Inthra at KM 5.5 to Narong 1996 18.7 18 5 The Burapha Withi expressway 2000 55.0 55.0 6 The Bang Na-At Narong Expressway 2005 4.7 4.7 7 The Bang Phli-Suk Sawat Expressay 2007 22.5 22.5 2009 9.5 9.5 Ram Inthra road linking to Outer ring road 8 connecting to Chalong Rat expressway Total road length maintained by EXAT 137.5 128.6 EXATが 保 有 す る 高 架 橋 道 路 は 、 施 設 が 新 し い こ と 、 気 温 差 が 少 な い 、 塩 害 が な い 等 の 理 由 か ら 日 本 の コ ン ク リ ー ト 構 造 物 と 比 較 し て 劣 化 速 度 が 遅 く 、比 較 的 健全な状態を維持しているため、基本的な維持管理のみ実施されている。 5.4.3 問題点の抽出 EXATが 保 有 す る 高 架 橋 道 路 に 対 し て 、 今 後 想 定 さ れ る 問 題 点 を 挙 げ る 。 コンクリート構造物は何れ劣化が始まる。 現 在 は 構 造 物 が 比 較 的 健 全 な 状 態 に あ っ て も 、コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 何 れ 劣 化 271 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 が始まる。 都 心 部 の 高 架 橋 道 路 は 、劣 化 し て 使 え な く な っ て も 再 建 設 を 行 う こ と が 困 難 で あ る 。こ れ は 取 り 壊 し か ら 再 建 設 ま で の 長 期 間 、そ の 間 、高 速 道 路 が 使 用 で き な く な り 、そ の 結 果 、街 中 で 大 渋 滞 が 発 生 し 、交 通 網 の 麻 痺 に よ る 首 都 機 能 低 下 と いった社会に与える影響が大きいためである。 補修費用が急増する。 現 在 は 構 造 物 が 比 較 的 健 全 な 状 態 に あ る た め 、維 持 管 理 費 は そ れ ほ ど か か っ て いないが、コンクリート構造物の劣化に伴い、補修費用が急増することとなる。 5.4.4 基本方針の設定 今後予想される問題に対する取組みの基本方針を次の通りにする。 コンクリート構造物の劣化対策を行う。 急増する予算を最小限に抑える。 5.4.5 対応策の検討 (1) ケーススタディの対象物 コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 に は 劣 化 し や す い 箇 所 が い く つ か あ る が 、そ の 中 で も 舗 装 の 下 に あ る RC床 版 は 舗 装 を 通 し て 自 動 車 荷 重 を 直 接 支 え る 重 要 な 要 素 で あ り 、損 傷 を 受 け や す い 部 分 で あ る こ と か ら 、 ケ ー ス ス タ デ ィ で は RC床 版 を 対 象 と し 検 討を行う。 RC床 版 の 劣 化 事 例 を 以 下 に 示 す 。 ①橋面舗装にひび割れ ②その場所のアスファ ③劣化部を撤去すると 等の異変が起こる ル ト を 剥 が す と RC 床 版 腐食した鉄筋が現れる が土砂化している 図 123 RC床 版 の 劣 化 イ メ ー ジ 272 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ケーススタディの条件 (2) 対 象 区 間:EXATが 現 時 点 で 直 接 維 持 管 理 を 行 っ て い る 区 間 の 内 、高 架 橋 区 間 と す る 。 ( 128.6km) (3) 対 象 施 設 : コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 の RC床 版 検 討 期 間 : 100年 ケーススタディの内容 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 補 修 す る タ イ ミ ン グ が 重 要 で あ る 。以 下 に 補 修 す る タ イ ミング別の劣化曲線イメージを示す。 構 造 物 が 壊 れ て か ら( 寿 命 を 迎 え て か ら )補 修 す る 場 合 、建 設 当 初 の 性 能 ま で 回 復 す る こ と は な く 、補 修 後 の 寿 命 も 短 い 。一 方 、構 造 物 が 壊 れ る 前( 寿 命 を 迎 え る 前 )に 補 修 す る 場 合 、建 設 当 初 の 性 能 レ ベ ル ま で 回 復 で き 、補 修 後 の 寿 命 も 長くなる。 図 124 コンクリート構造物の劣化曲線イメージ ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、 RC床 版 の 延 命 化 、 RCス ラ ブ の LCC縮 減 を 目 指 し 、 事 後 保 全 シ ナ リ オ と 予 防 保 全 シ ナ リ オ を 設 定 し 、両 者 に つ い て LCCを 算 出 し て 比 較 す る。 【言葉の定義】 事後保全とは、構造物が壊れてから(寿命を迎えてから)、その都度損傷 箇所を補修すること。 予防保全とは、構造物が壊れる前に(寿命を迎える前に)、対策を施し延 命化を図ること。 273 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 シナリオの設定 (4) 表 113 シナリオの設定 事後保全シナリオ 予防保全シナリオ シナリオの そ の 都 度 RC 床 版 の 損 傷 箇 RC床 版 が 損 傷 す る 前 に 床 版 内容 所を補修する。 にコンクリートを打ち増す ことで、床版の耐久性の回 復を図り、床版を延命化さ せる。 RC床 版 の 寿 命 補修パターン 50年 ( 日 本 で の 一 般 的 な 年 数 ) 1回 目 : 建 設 後 50年 目 1回 目 : 建 設 後 40年 目 2回 目 以 降 : 20年 サ イ ク ル 2回 目 以 降 : 40年 サ イ ク ル 補修方法 部分補修 図 125 (5) 1) 全面増厚工法 シナリオ別の劣化曲線イメージ 事後保全シナリオの試算条件 補修方法 ① RC床 版 が 損 傷 し て い る と 予 想 さ れ る 箇 所 に つ い て 、ア ス フ ァ ル ト 舗 装 を 切 削 す る 。 ( 5cm~ 8cm) ② 損 傷 し た RC床 版 を コ ン ク リ ー ト 等 で 補 修 す る 。 ③ アスファルト舗装を敷設する。 ④ 上 記 1)~ 3)を 20年 サ イ ク ル で 繰 り 返 す 。 274 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 2) JICA 国際航業 対象数量 表 114 事後保全シナリオの対象数量 項目 3) 数量 道路延長 128.6km( 高 架 橋 延 長 ) 道路幅員 27m( 片 側 3車 線 、 合 計 6車 線 道 路 ) アスファルト舗装厚 5 or 8cm 施工単価 RC床 版 の 部 分 的 な 補 修 費 ; 5,200バ ー ツ /m2 (6) 1) 事 後 保 全 シ ナ リ オ の LCC予 測 Din Daeng Expressway に 対 す る 予 測 床版の維持管理費(百万バーツ) 7,000 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 6,000 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 5,000 4,000 建設年 1981 3,000 2,000 1,000 2) 20年 20年 2110 2100 2090 2080 2070 2060 2050 20 年 50 年 図 126 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 0 20年 Din Daeng Expresswayの 累 計 維 持 管 理 費 ( 事 後 保 全 シ ナ リ オ ) 全線に対する予測 各 路 線 は そ れ ぞ れ 建 設 年 が 異 な る こ と か ら 、(1)の 試 算 を 全 路 線 に 対 し そ れぞれ行い、合算した結果を以下に示す。 275 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 床版の維持管理費(百万バーツ) 80,000 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 70,000 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 60,000 50,000 100 年後である 2115 年までに、床 40,000 版の維持管理費に約 75,000 百万 バーツが必要となる 30,000 20,000 10,000 図 127 2110 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 0 全線の累計維持管理費(事後保全シナリオ) 今 か ら 100年 後 で あ る 2115年 ま で に 、 床 版 の 維 持 管 理 費 に 約 75,000百 万 バ ーツが必要となる。 (7) 検討する予防保全技術の概要 1) 技術名 高 耐 久 型 エ ポ キ シ 系 接 着 材 を 用 い た RC床 版 上 面 増 厚 技 術 2) 技術概要 高耐久型エポキシ系接着材はフレッシュコンクリートの打継ぎ専用の接 着材である。従来日本では、橋梁のコンクリート床版等の補修時に耐荷力 の回復を図るため、コンクリートの打ち増しを行っていたが、新旧のコン クリート接合面が密着しておらず弱点となり、十分な耐久性、耐水性を確 保することができなかった。そこに本接着材を用いることで耐久性、耐水 性を向上させるものである。 3) 施工方法 ① ア ス フ ァ ル ト 舗 装 + RC床 版 ( 1cm) を 切 削 ② 表 面 を 切 削 し た RC床 版 に 対 し エ ポ キ シ 系 接 着 材 を 塗 布 ③ コンクリート版を施工 ④ コンクリート版上面に防水層、アスファルト舗装を施工 276 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 128 図 129 4) JICA 国際航業 RC床 版 上 面 増 厚 技 術 の イ メ ー ジ 図 高架橋床版上面での塗布実施例 技術の効果 コ ン ク リ ー ト の 打 ち 増 し を 行 う 際 、新 旧 コ ン ク リ ー ト の 接 合 面 を 密 着 し 、 耐 久 性 、耐 水 性 を 増 す こ と に よ り 、RC床 版 及 び 床 版 の 上 に 設 置 す る ア ス フ ァルト舗装の長期健全化を図ることができる。 (8) 1) 予防保全シナリオの試算条件 維持管理方法 予防保全シナリオの場合、ある一定区間の面積に対し計画的に対策を行 うことができるため、アスファルト舗装の定期的な維持管理(切削オーバ ーレイ)に合わせて行えば、アスファルト舗装を追加で行う必要がない。 そこで、予防保全を定期的な舗装維持管理時に合わせて実施する場合と、 別 に 実 施 す る 場 合 の 2ケ ー ス を 検 討 す る 。 事 後 保 全 シ ナ リ オ の 場 合 、 損 傷 した箇所をその都度補修するため、このように計画的に時期を合わせて実 施することができない。 277 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 115 JICA 国際航業 予防保全シナリオのケース設定 ケース1 対策実施の 舗装の定期的な維持管理 舗装の定期的な維持管理 タイミング とは別に実施 に合わせてに実施 施工単価 2) ケース2 5,600バ ー ツ /m2 4,100バ ー ツ /m2 対象数量 表 116 予防保全シナリオの対象数量 項目 (9) 1) 数量 道路延長 128.6km( 高 架 橋 延 長 ) 道路幅員 27m( 片 側 3車 線 、 合 計 6車 線 道 路 ) アスファルト舗装厚 5 or 8cm 予 防 保 全 シ ナ リ オ の LCC予 測 ケース1 ① 各路線に対する予測 1981年 に 完 成 し た Din Daeng Expresswayを 例 に 、 試 算 結 果 を 示 す 。 7,000 床版の維持管理費(百万バーツ) 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 6,000 年別維持管理費(予防保全シナリオ) 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 5,000 累計維持管理費(予防保全シナリオ) 4,000 3,000 建設年 1981 2,000 1,000 40年 図 130 40年 2110 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 0 40年 Din Daeng Expresswayの シ ナ リ オ 別 累 計 維 持 管 理 費 ( ケ ー ス 1 ) 278 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 約 75,000 百万バーツ ② 全線に対する予測 床版の維持管理費(百万バーツ) 80,000 40%のコストダウン 70,000 60,000 約 45,000 百万バーツ 50,000 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 年別維持管理費(予防保全シナリオ) 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 累計維持管理費(予防保全シナリオ) 40,000 30,000 20,000 約 50 年後に逆転 10,000 図 131 2110 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 0 全線のシナリオ別累計維持管理費(ケース1) 予防保全シナリオは寿命を迎える前に対策を行う必要があるため初期の段階 で は 事 後 保 全 シ ナ リ オ に 比 べ 累 計 維 持 管 理 費 は 高 く な る が 、約 50年 後 に 両 者 は 逆 転し、長期的には累計維持管理費を抑えることが可能である。 100年 後 の 累 計 維 持 管 理 費 を 比 較 す る と 事 後 保 全 シ ナ リ オ 750億 バ ー ツ に 対 し て 予 防 保 全 シ ナ リ オ 450億 バ ー ツ と な り 、 約 40%の コ ス ト 縮 減 効 果 が あ る 。 2) ケース2 ① 各路線に対する予測 1981年 に 完 成 し た Din Daeng Expresswayを 例 に 、 試 算 結 果 を 示 す 。 279 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 床版の維持管理費(百万バーツ) 7,000 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 6,000 年別維持管理費(予防保全シナリオ) 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 5,000 累計維持管理費(予防保全シナリオ) 4,000 3,000 建設年 1981 2,000 1,000 40年 図 132 2110 2100 2090 2080 2070 40年 40年 Din Daeng Expresswayの シ ナ リ オ 別 累 計 維 持 管 理 費 ( ケ ー ス 2 ) 約 75,000 百万バーツ ② 全線に対する予測 80,000 55%のコストダウン 70,000 60,000 約 34,000 百万バーツ 50,000 年別維持管理費(事後保全シナリオ) 40,000 年別維持管理費(予防保全シナリオ) 累計維持管理費(事後保全シナリオ) 30,000 累計維持管理費(予防保全シナリオ) 20,000 約 35 年後に逆転 10,000 図 133 全線のシナリオ別累計維持管理費(ケース2) 280 2110 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 0 1980 床版の維持管理費(百万バーツ) 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 0 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 ケース2の予防保全シナリオはアスファルト舗装の切削オーバーレイ工事は 本 シ ナ リ オ に 含 ま な い た め 、ケ ー ス 1 に 比 べ 維 持 管 理 費 が 安 く な る 。そ の た め コ ス ト が 逆 転 す る 時 期 が ケ ー ス 1 の 約 50年 後 に 対 し 、 ケ ー ス 2 で は 約 35年 後 と な る。 100年 後 の 累 計 維 持 管 理 費 を 比 較 す る と 事 後 保 全 シ ナ リ オ 750億 バ ー ツ に 対 し て 予 防 保 全 シ ナ リ オ 340億 バ ー ツ と な り 、 約 55%の コ ス ト 縮 減 効 果 が あ る 。 (10) 検討結果 ケーススタディの結果を以下に示す。 表 117 ケ ー ス ス タ デ ィ の 結 果 100年 間 累 計 維 持 管 理 費 コスト コスト 縮減率 逆転時期 45,000 40% 50年 後 34,000 55% 35年 後 (百万バーツ) 事後保全シナリオ ケース1 ケース2 (11) 75,000 予防保全シナリオ 維持管理費への影響 予 防 保 全 シ ナ リ オ ( ケ ー ス 1 ) で は 、 今 後 100年 間 で 45、000百 万 バ ー ツ が 必要となる。 年 間 当 た り で は 、 450百 万 バ ー ツ が 追 加 で 必 要 と な る 。 2013年 度 に こ れ を 当 て は め る と 、 2013年 度 の 維 持 管 理 費 実 績 は 400百 万 バ ー ツ の た め 、 合 計 850百 万 バ ー ツ と な る 。 5.4.6 ケ ー ス 2 で は 年 間 当 り 340百 万 バ ー ツ が 追 加 で 必 要 と な る 。 長期戦略 コンクリート高架橋の維持管理の長期戦略として以下を提案する。 RC床 版 に つ い て は 、予 防 保 全 を 行 う こ と に よ り 、延 命 化 及 び LCC低 減 を 図 る。 高 架 橋 の RC 床 版 以 外 に つ い て も 同 様 に 予 防 保 全 を 検 討 し 、 高 架 橋 全 体 の LCC 予 測 に 基 づ い て 、 長 期 維 持 管 理 戦 略 を 検 討 す る 。 281 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5.5 道 路 舗 装 の 設 計 年 を 2倍 に す る ケ ー ス の LCCへ の 影 響 5.5.1 ケーススタディの背景、目的 (1) 背景 JICA 国際航業 DOHの 管 理 す る 道 路 延 長 は 、 2002年 以 降 は 増 加 し て お ら ず 、 新 設 道 路 の ほ と ん ど は 既 存 道 路 の 拡 幅 で あ る 。今 後 は 維 持 管 理 業 務 の 比 率 が 確 実 に 増 え て く る こ とになり、維持管理の重要性が高まってくる。 そ れ に 伴 い 、道 路 整 備 に お け る ニ ー ズ は 、交 通 網 の 整 備 か ら 渋 滞 の 解 消 、安 全 性 や 快 適 性 の 向 上 、長 寿 命 化 、LCC縮 減 と い っ た 道 路 の「 量 」か ら「 質 」へ シ フ トしていくことが予想される。 適切な維持管理と道路の長寿命化の重要性が増している。 (2) 目的 道 路 分 野 の 維 持 管 理 の 中 で 大 き な 割 合 を 占 め て い る の が 舗 装 で あ る 。ケ ー ス ス タ デ ィ で は こ の 舗 装 の 維 持 管 理 費 を 縮 減 す る た め に 、従 来 の 舗 装 設 計 で 決 定 さ れ た 舗 装 構 成 と 、 そ の 設 計 年 を 長 く し た 場 合 の LCCを 比 較 し て 、 ど ち ら が ど れ だ け 安いかを明らかにする。 こ の ケ ー ス ス タ デ ィ は 、DOHの 舗 装 設 計 基 準 を ベ ー ス に し て い る が 、舗 装 設 計 を必要とするタイ国の道路分野全体にも適用可能である 5.5.2 現状把握 図 134 DOHの 道 路 整 備 延 長 は DOHの 道 路 の 整 備 状 況 を 示 し た も の で あ る 。 水 色 の 線 は 整 備 し た 延 長 を 示 し 、赤 線 は 整 備 し た 道 路 を 2 車 線 に 換 算 し た 時 の 延 長 を 示 し て い る 。 こ こ か ら 分 か る よ う に 、 DOHの 道 路 整 備 の 中 心 は 新 規 路 線 か ら、拡幅や維持管理にシフトしてきている。 282 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 134 5.5.3 JICA 国際航業 DOHの 道 路 整 備 延 長 問題点の抽出 タ イ 国 の 道 路 分 野 で は 、道 路 の 新 設 時 代 か ら 維 持 管 理 時 代 へ 移 行 し 、維 持 管 理 に必要な費用が確実に増え、財源で賄えなくなる。 5.5.4 基本方針の設定 本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は 舗 装 に 係 る LCCを 抑 え る こ と を 基 本 方 針 と す る 。舗 装 の LCCを 抑 え る 方 法 と し て 以 下 の 3点 が 挙 げ ら れ る 。 長 寿 命 化 に よ る LCC低 減 設 計 基 準 の 見 直 し に よ る LCC低 減 PMS等 を 活 用 し た 適 切 な 維 持 管 理 に よ る LCC低 減 上 記 3 点 は 日 本 で も 取 り 組 ま れ て お り 、設 計 基 準 見 直 し に つ い て は 2001年 に 舗 装 に 関 す る 設 計 手 法 が 変 更 と な り 、従 来 の 舗 装 設 計 対 象 期 間 が 10年 と 規 定 さ れ て い た が 、20年 等 の 長 期 で 設 計 を 行 う こ と と 変 更 さ れ て い る 。こ れ に よ り 舗 装 の 長 寿 命 化 と LCC低 減 を 実 現 で き る た め 、 多 く の 国 や 地 方 自 治 体 で 採 用 さ れ て い る 。 本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は こ の 「 設 計 基 準 見 直 し に よ る 舗 装 の LCC低 減 」 に つ い て 検討する。 283 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5.5.5 対応策の検討 (1) 対応策の基本方針 JICA 国際航業 DOHの 舗 装 設 計 基 準 を 例 と し 、以 下 の 2つ の 舗 装 構 成 に つ い て LCC比 較 を 行 う 。 表 118 対 応 策 の 基 本 方 針 舗装設計基準 舗装設計対象期間 備考 従来基準 15年 現在の設計基準 長寿命基準 30年 現在の設計対象期間を倍にしたもの (2) 対応策の設定条件 2つ の 舗 装 構 成 の 設 定 条 件 を 示 す 。 表 119 舗装設計対象期間 対応策の設定条件 従来基準 長寿命基準 15年 30年 ※1 Ta法 ※ 2 設計手法 設 計 CBR ※ 3 舗装の寿命 平 均 4% ※4 舗装の打ち換え 15年 + 5年 = 20年 30年 + 5年 = 35年 20年 35年 サイクル 試算対象道路 交 通 量 5万 台 /日 級 の 道 路 道 路 延 長 ; 1km 道 路 幅 員 ; 15m( 片 側 2車 線 、 合 計 4車 線 ) 舗装構成※5 +2cm +5cm 合 計 58cm 施工単価 ※6 +7cm(10%) 合 計 65cm 舗 装 新 設 ; 2,800バ ー ツ /m2 舗 装 新 設 ; 3,100バ ー ツ /m2 舗 装 打 ち 換 え;2,450バ ー ツ 舗 装 打 ち 換 え;2,750バ ー ツ /m2 /m2 284 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート ※1 JICA 国際航業 舗装設計対象期間とは、自動車の輪荷重を繰り返し受けることによる舗装 にひび割れが生じるまでに要する期間。 ※2 日本でも使われている経験に基づく設計方法。 ※3 舗装厚の決定に使用する路床の支持力を表す指標。 ※4 タ イ 国 で は 15年 で 設 計 し た 舗 装 が 実 際 は 15~ 25年( 平 均 20年 )の 寿 命 が あ る こ と か ら 設 計 対 象 期 間 に 5年 を 加 算 し た も の を 寿 命 と 設 定 し た 。 ※5 交 通 量 5万 台 /日 級 の 道 路 の 平 均 舗 装 構 成 に 対 し 、 Ta法 に よ り 30年 設 計 と し た場合の舗装厚を決定。 ※6 舗 装 新 設 費 は ア ス フ ァ ル ト 舗 装 ~ 路 床 材 ( 60cm) ま で を 対 象 と し 、 舗 装 打 ち換え費はアスファルト舗装~下層路盤までの打ち換え及び処分費を対象 としている。 試算結果 (3) 以 上 の 条 件 で 2つ の 舗 装 構 成 に つ い て 100年 間 の LCCを 算 出 し た 。 舗装の新設及び維持管理費(千バーツ) 200,000 従来基準 180,000 長寿命基準 160,000 20 年後に逆転 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 舗装打ち換え 40,000 20,000 舗装新設 0 1 11 21 31 41 51 61 71 年 図 135 舗 装 構 成 別 の LCC予 測 285 81 91 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 舗 装 新 設 時 は 長 寿 命 基 準 の 方 が 高 く な る が 、寿 命 が 異 な る 分 、建 設 後 約 20年 で 逆転し、長寿命基準の方が安くなる。コスト縮減率を以下に示す。 100年 間 の LCCを 対 象 と し た 年 平 均 LCC 従来基準 1,890千 バ ー ツ /年 長寿命基準 1,290千 バ ー ツ /年 コ ス ト 縮 減 率 ; 約 32% 舗 装 の 寿 命 年 を 対 象 と し た 年 平 均 LCC 従来基準 42,000千 バ ー ツ / 20年 = 2,100千 バ ー ツ /年 長寿命基準 46,500千 バ ー ツ / 35年 = 1,328千 バ ー ツ /年 コ ス ト 縮 減 率 ; 約 37% (4) ケーススタディのまとめ ケ ー ス ス タ デ ィ の 結 果 を 以 下 に 示 す 。舗 装 設 計 対 象 期 間 15年 を 倍 の 30年 に す る こ と に よ り 、 約 32%の コ ス ト 縮 減 効 果 が 得 ら れ る 。 表 120 ケーススタディの結果 従来基準 長寿命基準 舗装設計期間 15年 30年 +100% 舗装厚 58cm 65cm +10% 施工単価 舗装新設; 舗装新設; 2,800バ ー ツ /m2 舗装打ち換え; 年 平 均維 ケース1 持管理費 ケース2 増減 +10% 3,100バ ー ツ /m2 舗装打ち換え; 2,450バ ー ツ /m2 2,750バ ー ツ /m2 1,890千 バ ー ツ /年 1,290千 バ ー ツ /年 -32% 2,100千 バ ー ツ /年 1,328千 バ ー ツ /年 -37% 286 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 5.5.6 JICA 国際航業 長期戦略 道路分野における長期戦略として以下を提案する。 舗 装 設 計 基 準 の 見 直 し に よ る 舗 装 の 長 寿 命 化 及 び LCC低 減 設計基準の見直しは、国等の上位機関で取り組むべき内容であるが、設計 基 準 の 見 直 し に よ る 舗 装 の 長 寿 命 化 を 行 う こ と に よ り 、舗 装 の LCC低 減 が 可 能である。 舗装の長寿命化技術を適材適所で採用 各長寿命化技術は、それぞれ適した地盤や交通量が異なるため、環境条件 を 考 慮 し 適 材 適 所 で 採 用 す る こ と が 効 果 的 で あ る 。不 適 切 な 舗 装 を 採 用 す る と 、舗装 が痛 みやす くな るため 注意 を要す る。長寿命 化技 術は舗 装の 新設時 及び既存道路の舗装の打ち換え時に採用する。 以下にタイ国で適用可能な舗装長寿命化技術を環境条件別に示す。 表 121 舗装技術 タイ国へ適用可能な舗装技術 交差点 交通量の 多い道路 硬質地盤 改質性舗装 〇 〇 〇 コンポジット舗装 - - 〇 SMA舗 装 〇 〇 〇 PMSの 効 果 的 な 活 用 に よ る 長 期 維 持 管 理 計 画 の 策 定 タ イ 国 の 道 路 分 野 に 既 に 導 入 さ れ て い る PMSを 活 用 し 、取 得 し た 路 面 性 状 データから劣化予測を行い、補修の必要な場所、時期、規模を把握し、限ら れた予算の中で効率的、効果的に維持管理を行う。 287 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 第6章 6.1 JICA 国際航業 技術移転 ワークショップ 対 象 機 関 に 対 し て 調 査 の 目 的 を 説 明 し 、日 本 の イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 取 組 に つ い て 紹 介 す る た め に 、 2014年 7月 16日( 水 )に 対 象 機 関 か ら イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 関 係 者 を 招 待 し て 、 ワ ー ク シ ョ ッ プ を 開 催 し た 。 表 122の 通 り 、 16対 象 機 関 と 1 大 学 か ら 計 59 名 の 参 加 が あ っ た 。 88 登 録 は 一 機 関 最 大 3名 と し た が 、 4 名以上参加したいとの問い合わせが複数 機関からあり、インフラ・マネジメント手 法の改善に対するニーズの大きさを伺え た。また、講演についてのアンケートを実 施したが、電力関係者は全員が回答してい る等、特に関心の高さが感じられる。 表 122 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 所属機関別参加者数とアンケート回答数 所属機関 参加者数 予算局 財務省財政政策局(FPO) 財務省公的債務管理局(SEPO) 国家経済社会開発委員会(NESDB) バンコク首都圏庁(BMA) 内務省公共事業・都市地方計画局(DPT) 運輸省道路局(DOH) 運輸省地方道路局(DRR) タイ高速道路公社(EXAT) タイ国有鉄道(SRT) タイ高速度交通公社(MRTA) 首都圏配電公社(MEA) 地方配電公社(PEA) タイ発電公社(EGAT) 首都圏水道公社(MWA) 地方水道公社(PWA) チュラロンコン大学 タイ側機関 計 88 3 3 3 3 6 3 2 3 4 3 3 3 5 4 3 4 4 59 チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 は PEAと 共 同 事 業 を 企 画 中 で あ る た め 、 PEAを 通 じ て 参 加 の 申し込みがあった。 288 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 講 演 後 の ア ン ケ ー ト の 回 答 か ら も 、予 防 保 全 に シ フ ト し た イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ントの重要性への意識を高め、インフラ・マネジメント全般にわたる日本の技 術・ノウハウへのニーズも確認することができた。本調査の目的であるインフ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 概 念 の 紹 介 及 び イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 日 本 の 技 術 やノウハウの紹介について、手ごたえを感じられた。 6.1.1 ワークショップの概要 ワークショップの講演内容及び参加者による討論の内容は以下の通りである。 また、講演資料は本報告書の最後に添付している。 ワークショップスケジュール タイトル: Workshop on Infrastructure Management in Thailand 日時: 2014年 7月 16日 ( 水 ) 10:00-12:20 場所: HOTEL NOVOTEL BANGKOK ON SIAM SQUARE Siam Square Soi 6, Pathumwan, 時間 講演 9:30-10:00 受付 10:00-10:10 開会の挨拶 10:10-10:20 調査の説明 10:20-10:30 キーノートスピーチ JICAタ イ 事 務 所 長 アドバイザー、 Dr. Worsak Kanok-Nukulchai、 ア ジ ア 工 科 大 学 総 長 代 行 10:30-10:45 1. 日本潮流:インフラ長寿命化基本計画 10:45-10:55 2. インフラ・マネジメントの概観 10:55-11:15 3. 日 本のイ ンフ ラ・マネジ メント の事 例-道 路・橋 梁・その 他 施設 11:15-11:25 4. 日本のインフラ・マネジメントの事例-上水道施設 11:25-11:32 5. 日本のインフラ・マネジメント事例-下水道施設 11:32-11:42 6. インフラ・マネジメントの技術 11:42-11:45 7. まとめ 11:45-12:15 討論 12:15-12:20 閉会のあいさつ 調査団総括 289 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 討論の内容 運 輸 省 道 路 局 ( DOH) イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 係 る 課 題 と し て は 、将 来 に 向 け た 人 材 確 保 と 人 材 育 成 が 急 務 で あ る 。エ ン ジ ニ ア は い る が IT専 門 技 術 者 が 不 足 し て お り 、サ ーバーの故障時の対応やシステムの見直しが後手に回り脆弱である。 今 後 は 施 設 の 長 期 的 な 保 全 を 目 的 と し た ITの 導 入 と プ ロ ジ ェ ク ト が あ れ ば 良 い と 思 う 。タ イ 国 で は イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト を 総 合 的 か つ 長 期 的 に 実 施している機関は少ない。 予算局 国家予算は不足しており、予算の 70%は 通 常 予 算 で あ り 、 ま た 、 投 資 資 金 と し て 年 間 2兆 バ ー ツ を 借 入 れ で賄っている。 既存インフラの改善の必要性は認 識しているが、現状では負担が大き く、投資案件の予算も確保しておく 必要があるため、今すぐインフラ・ マネジメントに対応するのは難し い 。事 後 保 全 は ロ ス が 大 き く 無 駄 で あ る こ と は 理 解 し た が 、国 の 財 政 上 の 問 題 も あ り 、各 機 関 が 独 自 に 問 題 に 取 り 組 ん で い る 状 況 で あ る 。JICAの 強 い 支 援を期待している。 タ イ 発 電 公 社 ( EGAT) タ イ 国 は 未 だ イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 関 し て 開 発 途 上 で あ り 、現 在 、日 本 や 米 国 の 法 令 を 参 考 に 法 律 を 適 用 し て い る 。時 代 の 変 化 に 合 わ せ て 、特 に 国民の安全や衛生面を考慮した包括的な法制度の見直しを行っていく必要 があり、抜本的な取組みが必要である。 地 方 配 電 公 社 ( PEA) 現 在 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 協 議 し て い る 。ま た 予 防 保 全 に つ い て も 理 解 し て お り 、重 要 視 し て い る と こ ろ で あ る 。送 電 線 グ リ ッ ド は 40年 ~ 50年 経 過 し 老 朽 化 し て い る 。PEAの 総 資 産 は 3,000億 バ ー ツ で あ り 、建 屋 を 除 く と 2,000 億 バ ー ツ で 、 こ れ ま で は 事 後 保 全 に よ る 対 応 が 主 で あ っ た 。 PAS55:2008か ら ISO55001シ リ ー ズ へ の 移 行 を 進 め る 予 定 で あ る 。し か し 、現 状 で は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン が 確 立 さ れ て お ら ず 、評 価の結果、修繕や更新が必要と判断する明確な基準が明確になっていない。 今 後 は 、人 材 育 成 、技 術 向 上 、法 律 改 定 、ガ イ ド ラ イ ン 策 定 、デ ー タ ベ ー ス の 充 実 を 図 る と 共 に ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 強 化 し 、ロ ー ド マ ッ プ を 策 定 し ていく必要がある。 290 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 6.1.2 JICA 国際航業 アンケート結果の分析 参 加 者 か ら 講 演 に 関 す る ア ン ケ ー ト に 対 し て 、 39名 か ら 回 答 を 得 た 。 質問概要は次の通りである。 1) 興味をもった講演 2) インフラ施設に関する課題 3) 課題に対する解決策案 4) 講演や討論内容に関する自由コメント 質問の順に分析結果を記載する。 興味を持った講演 図 136に 示 す 通 り 、全 体 的 に は 、「 1.イ ン フ ラ 長 寿 命 化 計 画 」、「 2.イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 概 観 」 、「 6.イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 技 術 」 の 、 全 業 界 に 通 じ る 内 容 へ の 興 味 が 深 く 、業 界 に 偏 り な く 好 評 で あ っ た 。包 括 的 か つ 計 画 的 な 長 期 計 画 、事 後 保 全 よ り 予 防 保 全 と い う 視 点 は 新 鮮 で 興 味 を 引 い た よ う で あ る 。と り わ け 、 「 6.イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 技 術」の講演は、ビジュアルな写真を多用 し、わかりやすかったこともあってか、 業界関係者以外からも幅広く関心が高 く、タイ国においてインフラ・マネジメ ントに関するシステムは構築されつつあ るからこそ、さらに進んだデータの効率 的な収集を可能にする最先端技術に興味 があるものと考える。 道 路 、上 下 水 道 に 関 し て は 、そ の 管 轄 機 関 以 外 に も 財 政 関 係 者 か ら も 関 心 が 高 く 、国 家 全 体 の 政 策 、長 期 計 画 や 予 算 管 理 に 携 わ る 機 関 の イ ン フ ラ 分 野 と そ の 効 率的な維持管理活動への興味の高さもうかがえる。 291 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 図 136 JICA 国際航業 業界別興味を持った講演(複数回答可) 出典:ワークショップアンケート結果 インフラ施設に関する課題 最 も 多 く 挙 げ ら れ た 課 題 は 予 算 不 足 で あ る 。特 に 予 算 局 が 予 算 不 足 を 強 く 意 識 指 定 し て お り 、そ の 他 電 力 、鉄 道 、道 路 、水 道 分 野 か ら も 予 算 不 足 と 予 算 管 理 能 力 不 足 が 指 摘 さ れ て い る 。 そ し て 、 NESDBか ら は 予 防 保 全 を 始 め る に あ た っ て の 人 材 、資 金 、技 術 等 の 不 足 が 挙 げ ら れ 、予 防 保 全 へ の 新 た に 取 組 む こ と を 意 識 した上での課題が挙げられた。 BMAか ら は 前 提 と な る デ ー タ ベ ー ス が 構 築 さ れ て い な い こ と を 課 題 と 認 識 し た コ メ ン ト が あ り 、電 力 、水 道 業 界 で も デ ー タ ベ ー ス が あ っ て も 更 新 さ れ て い な い 等 管 理 が 行 き 届 い て い な い こ と 、 DOHか ら は ITの 技 術 者 不 足 等 、 IT関 連 の 課 題 が 挙 げ ら れ た 。さ ら に 、全 業 界 か ら 技 術 力 自 体 や 技 術 者 の 不 足 、管 理 体 制 が 構 築されていないことも指摘された。 聴 講 後 、各 機 関 が 予 防 保 全 を 目 指 し た い と 意 識 し 、そ の た め の 課 題 を 認 識 し た こ と は 講 演 の 目 的 が 達 成 さ れ た と い え る 。同 時 に 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 実 現 の た め に は 予 算 、人 材 、技 術 、体 制 の 整 備 な ど 根 本 的 な 問 題 が 存 在 す る こ と も うかがえる。 292 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 課題に対する解決策案 予 算 局 か ら は 、タ イ 国 は ま だ 新 規 開 発 に 注 力 し て お り 、維 持 管 理 ま で 予 算 が 行 き 届 か な い 状 況 で あ る こ と を 認 識 し て お り 、予 算 を 効 率 的 に 配 分 す る 旨 の コ メ ン ト が あ っ た が 、具 体 的 な 方 法 に つ い て は 触 れ て い な い 。ま た 、電 力 業 界 か ら は 組 織 横 断 で 協 業 し て 管 理 方 針 を 策 定 す る こ と が 提 案 さ れ た 。 そ の 他 、 JICAや 他 の ド ナ ー に 対 し て 、資 金 援 助 、点 検 等 講 演 で 紹 介 し た 技 術 供 与 、本 邦 研 修 を 通 じ た 人 材 育 成 等 の 要 望 の 声 が あ っ た 。全 業 界 か ら 、予 防 保 全 と い う 新 し い 分 野 に 対 処 できる人材育成のニーズが高いようである。 講演や討論に対する自由コメント PPPの 管 轄 機 関 で あ る SEPOは 、 タ イ 国 は PPPを 活 用 す る 方 針 で あ る た め 、 イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト へ の PPPの 活 用 、と り わ け 日 本 の 法 制 度 に 関 す る 実 用 的 な 知識の供与を求めている。 電 力 業 界 か ら は 東 京 電 力 の 維 持 管 理 方 法 を 知 り た い 等 、電 力 、鉄 道 分 野 で の 事 例の紹介や予防保全へのシフトの経緯や予防保全の手法の供与に対する要望が あった。 PPPも 含 め て 、イ ン フ ラ 維 持 管 理 全 般 に わ た る 手 法 や 技 術・ノ ウ ハ ウ の 提 供 に 対する期待が感じられる。 293 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 6.2 JICA 国際航業 セミナー 本調査の結果報告及びアセットマネジメントに関する提案を説明するために、 2014年 10月 21日 ( 火 ) に 、 対 象 機 関 の イ ン フ ラ 施 設 管 理 関 係 者 に 向 け て 、 セ ミ ナ ー を 開 催 し た 。表 122の 通 り 、17対 象 機 関 と 1大 学 か ら 計 60名 の 参 加 が あ っ た 。 表 123 所 属 機 関 別 参 加 者 数 所属機関 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 6.2.1 予算局 財務省財政政策局(FPO) 財務省公的債務管理局(SEPO) 公的債務管理局(PDMO) 国家経済社会開発委員会(NESDB) 内務省公共事業・都市地方計画局(DPT) 運輸省道路局(DOH) 運輸省地方道路局(DRR) タイ高速道路公社(EXAT) タイ国有鉄道(SRT) タイ高速度交通公社(MRTA) 首都圏配電公社(MEA) 地方配電公社(PEA) タイ発電公社(EGAT) 首都圏水道公社(MWA) 地方水道公社(PWA) 下水道公社(WMA) チュラロンコン大学 タイ側機関 計 セミナーの概要 セミナーの講演内容及び参加者による討 論 の 内 容 は 以 下 の 通 り で あ る 。本 調 査 で 把 握 したタイ国のインフラ・マネジメントの状 況 、及 び 上 水 道 と 道 路 分 野 に つ い て 、ラ イ フ サイクルコストを利用したインフラ長寿命 化 対 策 の ケ ー ス ス タ デ ィ 3件 の 結 果 を 発 表 し 、チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 の 教 授 か ら ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 国 際 規 格 で あ る ISO55000シ リ ー ズ に 関 し て の 講 演 を い た だ い た 後 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 際 に 考 慮 す べ き こ と を まとめて発表した。 294 参加者数 5 3 2 3 3 2 3 3 3 5 4 5 2 3 6 4 1 3 60 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 セミナースケジュール タイトル: Seminar on Infrastructure Management in Thailand 日時: 2014年 10月 21日 ( 火 ) 10:00-12:30 場所: HOTEL NOVOTEL BANGKOK ON SIAM SQUARE Siam Square Soi 6, Pathumwan, Time 9:30-10:00 10:00-10:10 10:10-10:20 10:20-10:35 10:35-10:50 10:50-11:10 11:10-11:25 11:25-11:40 11:40-11:55 11:55-12:00 12:00-12:30 12:30-12:35 Programme Registration Opening Remarks Mr. Shuichi Ikeda, Chief Representative of JICA Thailand Office 1. Progress of the Study and the Objective of Seminar Mr. Akira Doi, Team Leader 2. Issues Related to Infrastructure Management in Thailand Ms. Junko Tomita, Financial Planning Expert 3. Key Points in Infrastructure Management Mr. Akira Doi, Team Leader 4. Case Study for Water Supply Facility Mr. Kenji Shinoda, Water Supply Expert 5. Case Study for Concrete Structure Mr. Hideo Sato, Infrastructure Management Expert 6. Case Study for Road Pavement Mr. Hideo Sato, Infrastructure Management Expert 7. ISO 55000 Asset Management System Assoc. Prof. Suthas Ratanakuakangwan, Chulalongkorn University 8. Wrap up the Seminar Mr. Akira Doi, Team Leader Discussion Mr. Makoto Ashino, Traffic and Transport Expert Closing Remarks Mr. Akira Doi, Team Leader 討論の内容 時 間 が あ ま り 取 れ な く な っ た 中 、 2名 か ら の 意 見 を 得 た 。 地 方 配 電 公 社 ( PEA) ISO55000は 、 コ ス ト ・ 見 え な い リ ス ク ・ 収益をバランスさせ効率的な事業運営を顧 客に示すことによって、事業体としての価 値を高めることを目的とする国際規格であ る 。 PEAは こ の 国 際 規 格 を 取 得 す る こ と に よって顧客の信頼度を高めることが有益と 考えている。 295 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 運 輸 省 道 路 局 ( DOH) 長寿命化技術を積極的に導入するために基 準 の 改 定 の 重 要 性 は 認 識 し て い る が 、道 路 舗 装 維持管理の予算は財務当局がキロ当たり単価 を 暗 黙 知 で 決 定 し て い る こ と も あ り 、改 善 は 進 ま な い 。規 則 を 改 定 す る に は 、試 験 施 工 に 基 づ く デ ー タ の 蓄 積 が 必 要 で あ り 、日 本 か ら は そ の ための支援を期待している。 6.2.2 アンケート結果の分析 参 加 者 か ら 講 演 に 関 す る ア ン ケ ー ト に 対 し て 、 30名 か ら 回 答 を 得 た 。 質問概要は次の通りである。 1) 興味をもった講演 2) キーメッセージの重要性 3) インフラ・マネジメントを実施するにあたる傷害 4) 講演や討論内容に関する自由コメント 質問の順に分析結果を記載する。 興味深かった講演 6本 の 講 演 に 関 し て 、 興 味 深 か っ た と 回 答 の あ っ た 人 数 は 下 記 の 通 り で 、 専 門 性 の 高 か っ た ケ ー ス ス タ デ ィ は 全 体 の 1/3程 度 、 イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 全 般 に 関 す る タ イ ト ル は 2/3程 度 の 人 か ら 好 評 で あ っ た 。 ケ ー ス ス タ デ ィ は 道 路 分 野 、 上水道分野の者以外からも、関心をよせられた。 表 124 講演タイトル別の興味深かったとの回答者数 講演タイトル 回答者数 タイ国のインフラ・マネジメントの課題 21名 インフラ・マネジメントのキーポイント 19名 上水道に関するケーススタディ 12名 コンクリート構造に関するケーススタディ 13名 舗装に関するケーススタディ 11名 ISO55000ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム 19名 キーメッセージに対する重要性 講 演 の ま と め と し て 、本 調 査 を 通 じ て わ か っ た イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 実 践 に 重 要 な メ ッ セ ー ジ を 挙 げ 、そ れ ぞ れ の メ ッ セ ー ジ に つ い て 、ど の く ら い 重 要 と 認識するかを回答してもらった。メッセージ毎に重要度を集計したものである。 296 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 表 125 メッセージ 1 2 3 4 5 6 7 JICA 国際航業 インフラ・マネジメントに重要なキーメッセージ 内容 イ ン フ ラ の 方 針 が「 つ く る 」か ら「 つ か う 」へ 変 化 す る と、その実施にインフラ・マネジメントが必要となる。 長 寿 命 の イ ン フ ラ 施 設 の 最 適 な 維 持 管 理 方 法 は LCCを 分 析 し て 、 LCCの 相 対 評 価 で 選 ぶ 。 LCCを 抑 え る に は 、 悪 く な る 前 に 治 療 す る 長 い 目 で 安 く て 良 い も の を 買 う に は 、 LCC調 達 方 式 設 計 時 か ら LCCを 考 慮 す る よ う 、 設 計 基 準 を 見 直 す 。 高 価 な 長 寿 命 化 技 術 は 、適 材 適 所 で 採 用 す る よ う 、よ り きめ細かく設計する。 計 画 を 実 現 し て い く に は 、点 検 結 果 の 実 情 を 計 画 に 反 映 さ せ る 修 正 が 必 要 。 だ か ら PDCA 図 137 キーメッセージ毎の重要性の認識 ど の メ ッ セ ー ジ も 重 要 度 が 認 識 さ れ た が 、な か で も イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 必要性や調達方式の重要性への理解が多かった。 インフラ・マネジメントを実施する上での障害 現 場 関 係 者 か ら は 、法 規 制 、方 針 や 予 算 が 障 害 と し て 挙 げ ら れ た 。ま た 、予 算 担 当 者 や 上 位 の 管 理 者 の 理 解 が 得 ら れ な い こ と 、そ し て 説 得 す る た め の 実 績 が な い こ と や 、計 画 と 維 持 管 理 部 門 が わ か れ て お り 情 報 の 共 有 が な い と い っ た 組 織 体 制による課題も指摘された。 講演や討論内容に関する自由コメント イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 組 織 的 な 取 組 み の 必 要 性 に つ い て の 共 感 や 、鉄 道 や 電力分野等他の分野でのケーススタディを希望する声があった。 現在の維持管理に対する問題意識の把握と長期的な視点での包括的なインフ ラ・マネジメントを実施する必要性に対する理解が得られた。 297 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 第7章 JICA 国際航業 本調査からの知見 イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 と 、先 方 機 関 に お け る 需 要 を 踏 ま え て 、優 先 分 野 に つ い て 下 記 の 5項 目 の 視 点 か ら 対 応 策 を 検 討 す る 。 1) インフラ・マネジメントに活用できる資金源 2) 将来的なマネジメント方針、ニーズ等 3) インフラ・マネジメント計画、手法 4) 制度、能力上の問題点の改善方法 5) ODA支 援 の 可 能 性 お よ び 日 本 の 技 術 や ノ ウ ハ ウ の 活 用 の 可 能 性 7.1 インフラ・マネジメントの資金源 7.1.1 PPP/PFIの 活 用 SEPOは 、 安 定 し た 収 入 の 期 待 で き る 事 業 に 対 し て は PPPや イ ン フ ラ フ ァ ン ド の よ う な 民 間 資 金 の 採 用 に 積 極 的 で 、常 に よ り よ い 新 た な ス キ ー ム を 開 発 し て い る 。 特 に 、 EXATの よ う に 実 績 か ら 安 定 し た 収 入 が 期 待 で き る 機 関 に つ い て は 、 運 営 維 持 管 理 を 一 体 で 委 託 す る 方 針 で あ る 。 ま た 、 MWAも 業 績 が 安 定 し て い る た め 、 SEPOは PPPな ど の 活 用 を 検 討 し て い る 。 7.1.2 特定財源の確保 既 存 イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 を 確 実・継 続 的 に 実 施 す る た め に は ま と ま っ た 財 源 確 保 が 重 要 で あ る 。日 本 で は 受 益 者 負 担 の 原 則 に 基 づ き 使 途 制 限 を 設 け た 特 定 財 源 が 導 入 さ れ 、そ の 一 部 財 源 は 道 路 維 持 管 理 に 充 て ら れ た 。タ イ 国 で も 国 家 の 方針として維持管理に優先的に使用される財源や補助金の制度を確立すること は有効である。 7.2 マネジメント方針、ニーズ等 7.2.1 インフラ・マネジメントを推進する枠組みの構築 インフラの新規建設を進める必要がまだあり、また既存のインフラが増加し、 老 朽 化 も 進 ん で く る と 、新 規 投 資 予 算 と 維 持 管 理 予 算 の 両 立 と い う 課 題 が 重 く の し か か っ て く る 。こ の 課 題 の 両 立 を 実 現 す る た め の 方 針 と し て 、下 記 を 提 案 す る 。 ① 新設のインフラ施設については、設計、施工、運用を経て、修繕、耐用年 数 の 経 過 に よ る 解 体 処 分 ま で の LCCを 最 小 化 す る よ う に 実 施 す る 。 ② 既 存 の イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 LCCを 考 慮 し た 老 朽 化 及 び 延 命化対策を実施する。 省庁系のインフラ施設の実施機関にこの方針を積極的に実施させるためには、 298 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 国 や 管 理 者 レ ベ ル で の 、新 規 と 既 存 の 全 イ ン フ ラ を 考 慮 し た 包 括 的 な 方 針 を 国 家 レベルで位置づけることが有効である。 現 在 の 維 持 管 理 実 施 状 況 は 、図 138の 下 段 に 相 当 す る 実 施 機 関 の 維 持 管 理 関 係 部局での対応は十分できており、維持管理水準の向上につとめている。しかし、 さ ら な る 向 上 の 障 害 と な っ て い る の は 組 織 の 縦 割 り の 体 制 、法 規 制 、基 準 、実 施 機関の方針等である。 図 138 タイ国のインフラ・マネジメントでの課題 日 本 で も 同 様 の 課 題 を 抱 え て い る と こ ろ 、そ の 課 題 の 解 決 の た め に 、イ ン フ ラ 長 寿 命 化 基 本 計 画 、イ ン フ ラ 長 寿 命 化 計 画( 行 動 計 画 )、公 共 施 設 等 総 合 管 理 計 画 と 、 3つ の 上 位 計 画 を 作 成 し て 、 新 規 と 既 存 の 全 イ ン フ ラ を 考 慮 し た 包 括 的 な 方 針 を 国 家 レ ベ ル で 位 置 づ け た 。タ イ 国 が 新 規 建 設 圧 力 と 既 存 イ ン フ ラ 施 設 維 持 管 理 業 務 増 加 の 課 題 を 両 立 さ せ る た め に は 、こ の よ う な 上 位 計 画 か ら の ア プ ロ ー チが非常に有効である。 図 139 国主導のインフラ長寿命化計画の体系 299 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 7.2.2 JICA 国際航業 国営企業への対応 国 営 企 業 は 独 立 採 算 制 で あ る た め 、保 有 す る イ ン フ ラ は 利 益 を 創 出 す る 重 要 な 資 産 と し て 認 識 さ れ て お り 、最 適 な 維 持 管 理 を 行 お う と い う メ カ ニ ズ ム が 基 本 的 に 備 わ っ て い る 。ま た 、新 規 投 資 や 維 持 管 理 予 算 へ の 配 分 に つ い て も 、多 く の 部 分 に つ い て 自 己 の 裁 量 で 決 め ら れ る 権 限 を 有 し て い る 。従 っ て 、十 分 な 利 益 が 出 て い る 国 営 企 業 で ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト が 不 十 分 で あ る 場 合 に は 、原 因 は 国 営 企 業内の人員の知識や能力に起因するもので、改善の可能性は十分にある。 国 営 企 業 の 運 営 方 針 に 影 響 力 を 及 ぼ す 手 段 と し て 最 も 効 果 的 な の は 、NESDB、 首 相 府 、 SEPO が 共 同 で 、 各 国 営 企 業 に 対 し て 作 成 し て い る Statement of Directions (SOD)で あ る 。 こ れ に は 5ヵ 年 の 長 期 と 単 年 の 方 針 を 明 記 し て あ り 、 各 国 営 企 業 は そ れ に 従 っ て 5年 計 画 を 策 定 し 、 さ ら に 単 年 毎 の 投 資 計 画 を 作 成 し て い る 。上 下 水 道 分 野 の SODに は 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 十 分 に 考 慮 し た 運 営 方 針 を す る よ う に す で に 明 記 さ れ て い る 。従 っ て 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト 及 び ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 推 進 を 国 営 企 業 に 促 す た め に 、タ イ 国 の 全 国 営 企 業 の 運 営 を 監 督 、 指 導 す る SEPOが 、 SODに そ れ を 強 く 明 記 す る こ と が 有 効 で あ る 。 7.3 インフラ・マネジメント計画、手法 7.3.1 道路分野 ① ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 成 功 さ せ る た め に は 、イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理 す る こ と が 重 要 な の で 、組 織 横 断 的 に 検 討 や 決 断 が で き る 体 制 を 整 え る こ と が有効である。組織横断的とは、新規建設、維持管理、付帯施設の部署の他 に、財務部署も巻き込むことが必要である。 ② 舗装 長 寿 命 化 を 図 る こ と に よ り LCCを 下 げ る こ と が 重 要 な 手 段 と な る た め 、 様々な長寿命化技術の研究、試験施工によるデータの蓄積等を積極的に 進めることが有効である。 長 寿 命 化 技 術 の 長 所 を 活 か せ る よ う に 、適 材 適 所 で 用 い る た め の 研 究 と 、 きめの細かい設計をすることが有効である。 ③ RC構 造 物 RC構 造 物 の 現 状 を 把 握 す る た め に 、点 検 作 業 の ス ピ ー ド を 上 げ て 、全 施 設の点検データベースを早急に完成させる必要がある。 RC構 造 物 の 老 朽 化 に 備 え る た め に 、 様 々 な 長 寿 命 化 技 術 の 検 討 を 進 め 、 また試験施工を実施してデータを蓄積する必要がある。 7.3.2 ① 上水道分野 ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、 複 数 の 技 術 や 材 料 の 選 定 の 際 に LCCを 考 慮 す る こ と 、 300 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 機 械 や 材 料 の 耐 用 年 数 以 上 の 長 期 間 に 亘 る LCCの 算 定 に よ っ て 、長 期 戦 略 を 立 て る こ と の 重 要 性 を 解 説 し た 。ケ ー ス ス タ デ ィ は 多 く の 想 定 に 基 づ い て 試 算をしたが、紹介した方法を参考に、できるだけ実際のデータを入れて、よ り信頼性の高い検討を行うべきである。 ケ ー ス ス タ デ ィ の 中 で 、 PVC管 、 ポ リ エ チ レ ン 管 、 ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 等 の 検 ② 討をしたが、これらについては適材適所で採用することにより、維持管理の 改善に繋がることが結果として示唆された。これらについて、自らさらに検 討を行って、新材料の採用に積極的に取り組むべきである。 7.4 制度、能力上の問題点の改善方法 7.4.1 道路分野 DOH及 び DRRが 定 期 的 に 実 施 し て い る 維 持 管 理 の 職 員 研 修 は 、 実 務 以 外 に ① LCCの 考 え 方 等 も 含 め て い て 、非 常 に 有 益 で あ る の で 、今 後 も 継 続 し て い く べきである。 日 本 で は 2001年 に 舗 装 の 設 計 規 準 を 見 直 し た こ と に よ り 、新 設 舗 装 設 計 の 長 ② 寿命化が進み、また維持管理においても長寿命化技術の採用が広まり、維持 管 理 費 用 の 削 減 に 効 果 が 現 れ た 。タ イ 国 で も 、DOH、 DRR、 EXAT、或 い は その所轄官庁である運輸省が設計規準の見直し等を検討するべきである。 7.4.2 ① 上水道分野 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 成 功 さ せ る た め に は 、イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理 することが重要である。特に水道事業の場合には、配管の改善によって造水 費用を大きく削減でき、浄水場の必要能力を縮小する効果がある。つまり、 維持管理費用の増加により、浄水場の運営費が削減できるが、これを行うに は、組織横断的観点から判断して実施する必要がある。従って、組織横断的 に検討や決断ができる体制を整えることが有効である。 PWAは 233の 事 業 所 が あ る が 、 各 事 業 所 で 材 料 を 購 入 し て い る た め 、 調 達 作 ② 業が非効率であり、また全体の在庫数は把握されておらず、在庫数量を多く 抱 え て い る と 思 わ れ る 。PWA本 部 で 共 同 調 達 を 行 い 、全 国 の 数 箇 所 に 共 同 の 資 材 置 き 場 を 設 け て 、そ こ か ら 各 事 業 所 へ 必 要 数 量 を 配 送 す る 仕 組 み を 構 築 することで、資材調達は大きくコスト削減が可能と思われる。 7.5 ODA支 援 お よ び 日 本 の 技 術 や ノ ウ ハ ウ の 活 用 の 可 能 性 7.5.1 ODA支 援 の 可 能 性 (1) 道路分野 急増する維持管理業務に対応するために、人材育成は最重要課題の一つであ 301 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 り、下記のような内容の研修の実施が効果がある。 1.研修名称:インフラ・マネジメント研修「道路分野」 2.研修目的 ① 点検・データ分析・補修という一連の維持管理マネジメント技術の学習 ② イ ン フ ラ 施 設 を ア セ ッ ト と し て 理 解 す る た め に 必 要 な 、 LCCと 劣 化 予 測 の学習 ③ インフラ施設の包括的及び長期的なマネジメントの学習 ④ 民 間 委 託 や PPPな ど の 手 法 の 学 習 ⑤ 長寿命化技術の学習 ⑥ イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 実 施 の た め の 技 術 と し て PDCA サ イ ク ル 及 び ISO55000シ リ ー ズ の 学 習 3.研修内容 大項目 1. 道路構造物の維持管理 小項目 に関する問題 日本、欧米のインフラ施設に関連する社会状 況の変化とインフラ事業の変遷 高齢化する道路構造物 インフラ施設の事故事例 の維持管理・更新 最近のインフラ・マネジメントの潮流 3. 構造物の維持管理技術 点検、補修、補強 4. 道 路 附 属 物( 標 識 ・照 明 点検、損傷事例、補修、補強 点検、損傷事例、補修、補強 BMSの 活 用 方 法 2. 等) 5. 橋梁 6. 土工構造物 点検、損傷事例、補修、補強 7. 舗装の管理と維持修繕 路面性状調査、路面性状調査データ分析 PMSの 活 用 方 法 舗装の劣化予測 長寿命化技術 長寿命設計 8. 維 持 管 理 の IT技 術 点検、データベース、データ通信 9. インフラ施設のマネジ 維持管理マネジメント メント アセット・マネジメント インフラ・マネジメント LCC分 析 劣化予測 長寿命化技術 長寿命化計画 PDCAサ イ ク ル ISO55000 民 間 委 託 、 包 括 委 託 契 約 、 PPP 10. イ ン フ ラ 施 設 の 長 寿 命 化 11. マ ネ ジ メ ン ト 手 法 302 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) JICA 国際航業 水道分野 急 増 す る 維 持 管 理 業 務 に 対 応 す る た め に 、人 材 育 成 は 最 重 要 課 題 の 一 つ で あ り、下記のような内容の研修の実施が効果がある。 1.研修名称:インフラ・マネジメント研修「上水道分野」 2.研修目的 ① 上水道事業全般の運営について ② 点検・データ分析・補修という一連の維持管理マネジメント技術の学習 ③ イ ン フ ラ 施 設 を ア セ ッ ト と し て 理 解 す る た め に 必 要 な 、LCC と 劣 化 予 測 の学習 ④ インフラ施設の包括的及び長期的なマネジメントの学習 ⑤ 民 間 委 託 や PPP な ど の 手 法 の 学 習 ⑥ 長寿命化技術の学習 ⑦ イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 実 施 の た め の 技 術 と し て PDCA サ イ ク ル 及 び ISO55000 シ リ ー ズ の 学 習 3.研修内容 大項目 1. 上水道事業の維持管理 小項目 に関する状況 日本、欧米の上水道施設に関連する社会状況 の変化 上水道施設の事故事例 最近の上水道施設事業運営の潮流 2. 配水・給水施設の維持管理 管 種 ご と の 利 点 、 欠 点 、 LCC 3. 浄水場の運転管理と維持管 点検、損傷事例、補修、補強 理 機 材 の LCC 漏水管理 流量計での水収支解析による無収水発生範囲 4. の特定技術 漏水探知機、カメラによる管内状況の確認技 術 5. 6. 7. 8. 点検、データベース、データ通信 GIS 水 道 マ ッ プ の 活 用 方 法 インフラ施設のマネジ 維持管理マネジメント メント アセット・マネジメント インフラ・マネジメント インフラ施設の長寿命 LCC 分 析 化 劣化予測 長寿命化技術 長寿命化計画 PDCA サ イ ク ル ISO55000 民 間 委 託 、 包 括 委 託 契 約 、 PPP 維 持 管 理 の IT 技 術 マネジメント手法 303 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート 7.5.2 JICA 国際航業 日本の技術やノウハウの活用の可能性 (1) 道路舗装 1) 点検及びデータベース DOHと DRRは い ず れ も 2005年 前 後 か ら 路 面 性 状 調 査 車 両 を 用 い て 調 査 を 定 期 的 に 実 施 し て お り 、測 定 デ ー タ を デ ー タ ベ ー ス で 管 理 し 、シ ス テ ム を 使 っ て 解 析 し て い る 。 DOHは 世 銀 の 推 奨 す る HDM-4を ベ ー ス と し た 舗 装 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム を 用 い 、 DRRは ADBの 推 奨 す る Rosyを ベ ー ス と し た も の を 用 い て い る 。 チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 等 が 一 連 の 作 業 を 主 導 し て お り 、計 測 デ ー タ も 握 っ て い て 、強 い 立 場 を 保 持 し て い る 。 遅 れ て は い る が 、 BMAも 現 在 、 舗 装 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム を 整 備 中 で あ る 。こ の よ う な 状 況 で あ る た め 、こ の 分 野 へ の 新 規 参 入 は 非 常 に困難が予想される。 2) 長寿命化技術 改 質 ア ス フ ァ ル ト の 使 用 は タ イ 国 で も か な り 広 ま っ て お り 、現 地 業 者 で も 問 題 なく施工ができる段階にある。 コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は 、DOHが バ ン コ ク 首 都 圏 で 試 験 施 工 を 実 施 済 み だ が 、長 寿 命 化 で は な く 、耐 久 性 を 期 待 し て 弱 い 地 盤 の 地 域 で 用 い た た め 、短 期 間 で ク ラ ッ クが生じた結果、不適切な技術という評価がタイ国では定着している。さらに、 コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 に 適 し た 骨 材 の 確 保 が 困 難 か つ 、通 常 の 舗 装 よ り 価 格 が か な り 高 く な る こ と が 、導 入 の 課 題 で あ る 。従 っ て 、コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 の 導 入 は 困 難 が 予想され、導入されたとしても、必要最低限に絞って用いられると思われる。 排 水 性 舗 装 は タ イ 国 で の 使 用 実 績 は ま だ な い 。雨 天 時 の ス リ ッ プ 事 故 防 止 に 効 果 が あ る た め 、雨 の 多 い タ イ 国 で 使 用 す る メ リ ッ ト は あ る 。し か し 、適 し た 骨 材 の 入 手 に 困 難 が 予 想 さ れ る こ と 、ま た 乾 季 に 埃 に よ る 目 詰 ま り 等 の 課 題 が あ る こ とを考えると、タイ国への導入は難しいと思われる。 SMA舗 装 は 、 す で に DOHが 一 部 の 道 路 の 交 差 点 付 近 等 、 耐 久 性 が 要 求 さ れ る 箇 所 で 試 験 的 に 採 用 し て い る 。結 果 は よ く 評 価 さ れ て い る た め 、長 寿 命 化 の メ リ ットについて広く認識が高まれば、今後は広まる可能性はある。 3) GISを 用 い た 付 帯 施 設 の 管 理 技 術 GISを 用 い た 標 識 、 ガ ー ド レ ー ル 、 照 明 、 植 栽 等 の 道 路 付 帯 施 設 の 管 理 は 、 測 定 作 業 が 安 価 に で き る MMSの 開 発 に よ っ て 、 近 年 、 日 本 で は か な り 広 が っ て き て い る 。し か し 、タ イ 国 で は ま だ 行 わ れ て お ら ず 、そ の 主 な 原 因 と し て は 、ベ ー ス と な る 詳 細 な 地 図 が な い こ と 、そ し て GISを 使 っ て そ れ ら を 管 理 す る 必 要 性 が 低 い と 認 識 さ れ て い る こ と が 挙 げ ら れ る 。そ の よ う な 状 況 下 で 、日 本 の 計 測 系 中 小 企 業 が す で に 現 地 事 務 所 を 開 設 し 、参 入 を 試 み て い る 。し か し 、こ の 種 の 業 務 ニーズの創出にはかなりの困難が予想される。 304 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート (2) 橋 梁 等 の RC構 造 物 1) 点検及びデータベース JICA 国際航業 DOHと DRRで 計 約 23,000の RC構 造 物 を 有 し て い る 。両 機 関 と も に 、橋 梁 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム は 整 備 済 み だ が 、予 算 と 技 術 者 の 不 足 の た め 、点 検 作 業 が 停 滞 し て お り 、デ ー タ は ま だ そ ろ っ て い な い 。点 検 作 業 は 目 視 が 主 体 で あ る が 、デ ー タ 入 力 は タ ブ レ ッ ト を 用 い て 現 場 で で き る よ う に な っ て お り 、シ ス テ ム 面 で は 十 分に整備されている。 関 西 測 量 が ひ び 割 れ 測 定 技 術 の 導 入 可 能 性 に つ い て 、 JICA資 金 を 使 っ て 2013 年にタイ国で調査を実施している。インフラ事業者から意見聴取したところで は 、先 ず は 基 礎 的 な デ ー タ の 収 集 に 対 す る ニ ー ズ が 高 く 、今 後 段 階 的 に 正 確 で 詳 細なデータの収集が必要となってくる、ということである。 コ ン ク リ ー ト 劣 化 状 況 の 診 断 技 術 は 小 さ な 市 場 で あ る も の の 、す で に BMAが 類 似の機械を導入していることからニーズはあると推測される。 構 造 物 点 検 カ メ ラ 技 術 に つ い て も 、小 さ な 市 場 で あ る も の の 、DOHは 関 心 を 示 しており、導入の可能性がある。 点 検 が 非 常 に 困 難 だ が 非 常 に 重 要 な 数 少 な い 長 大 橋 に つ い て は 、日 本 で 現 在 開 発 中 の 橋 梁 の 変 動 自 動 測 定 シ ス テ ム 等 の 先 端 技 術 が 完 成 す れ ば 、導 入 の 可 能 性 は 生じると思われる。 コンクリートの補修技術 2) BMAは 老 朽 化 の 進 ん だ 橋 梁 を 多 く 保 有 し て い る た め に 、コ ン ク リ ー ト の 補 修 に コ ン ク リ ー ト 撥 水 保 護 剤 や 炭 素 繊 維 シ ー ト 等 を 既 に 用 い て い る 。 一 方 、 BMA以 外 で は 老 朽 化 し た 橋 梁 が ま だ 少 な い た め 、ま だ あ ま り 用 い ら れ て い な い 。し か し 、 将来はニーズが高まることは確実なため、新技術の導入可能性は高いと思われ る。 特 に 、ケ ー ス ス タ デ ィ で 検 討 対 象 と し た RC床 版 の 増 厚 技 術 は 、EXATの 高 速 道 路 で の ニ ー ズ が 十 分 に あ る と 思 わ れ る が 、必 要 に な っ て く る 時 期 は 2020年 以 降 と 思われる。 (3) 上水道分野 1) 点検及びデータベース MWAは 水 道 管 の GISシ ス テ ム を 維 持 管 理 に 十 分 に 活 用 し て い る 。補 修 デ ー タ 入 力 に も タ ブ レ ッ ト を 用 い て お り 、点 検・デ ー タ ベ ー ス に つ い て は 、か な り 日 本 に 近 い 水 準 で 実 施 し て い る 。PWAで も 233の 事 業 所 の う ち の 多 く の 事 業 所 で 、同 様 の体制で行っている。 地 中 埋 設 物 探 査 装 置 も 使 用 し て い る が 、直 接 管 路 内 を カ メ ラ で 確 認 出 来 る 機 材 の 導 入 等 は 、機 材 が 高 価 で あ る こ と 、タ イ 国 で は 販 売 が さ れ て い な い こ と 等 か ら 305 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート JICA 国際航業 調達が困難な状況にあるが、より優れた性能の機械ならばニーズはある。 点 検・デ ー タ ベ ー ス で の 新 技 術 は ほ と ん ど す べ て 導 入 済 み で あ り 、上 記 の よ う な新たな機材の導入と使用方法の指導であればニーズがあるという状況である。 管材 2) ケ ー ス ス タ デ ィ の 中 で 使 用 す る 管 種 の 検 討 を 行 う 際 に 、現 地 で は 普 及 し て お ら ず、日本に優位性のあるダクタイル鋳鉄管とポリエチレン管を候補案に含めた。 ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 は 離 脱 防 止 目 的 に 日 本 独 自 で 開 発 さ れ た NS型 ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 を 採 用 す る こ と で 、ポ リ エ チ レ ン 管 に つ い て は 進 ん だ 融 着 技 術( 管 と 管 を 接 続 する技術)に日本の優位性がある。これらを実際に日本から調達するためには、 タ イ 国 の 工 業 基 準 と 日 本 の JIS基 準 が 異 な る こ と が 、 障 害 と な る 可 能 性 が あ る 。 ポンプ 3) ポンプについては、すでに多くの日本製ポンプが使用されている。 (4) ① 供給者としての日本に対する考察 維 持 管 理 作 業 に 用 い ら れ る 点 検 技 術 、補 修 技 術 は 市 場 規 模 が 小 さ く 、 さ ら に 日 本 の 供 給 者 の ほ と ん ど は 中 小 企 業 で あ る た め 、独 自 に 海 外 で 営 業 展 開 す る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る 。そ の 問 題 を 軽 減 す る に は 、NETISの 英 語 版 サ イ ト を 作 り 海 外 か ら の 照 会 に 応 え ら れ る 体 制 を 整 え た り 、タ イ 国 で 日 本 の 維 持 管 理技術の展示会をしたり等、中小企業への営業支援策が有効である。 ② 水 道 分 野 の 維 持 管 理 は 、 日 本 と 非 常 に 近 い 技 術 水 準 で 行 わ れ て い る た め 、日 本 の 優 位 性 は 特 に 認 め ら れ な い 。 MWAは 、 財 務 状 況 が 良 好 で あ り 、 ま だ 多 く の 技 術 的 問 題 は あ も の の 、自 分 た ち で 改 善 し つ つ あ る 。ま た PWAで は 担 当 範 囲 が 広 い た め に 、サ ー ビ ス 人 口 の 比 較 的 大 き な 20施 設 に つ い て は 運 営 を す で に 包 括 委 託 し て い る 。 そ れ 以 外 の 施 設 は サ ー ビ ス 人 口 が 小 さ い た め 、採 算 を取るのが難しい。したがって、水道分野のに、日本企業が進出を検討する に値する包括型契約の対象分野を見つけるのはかなり難しいと思われる。 ③ 有 料 道 路 に つ い て は 、 EXAT は 1993 年 か ら 民 間 委 託 を 導 入 し 、 現 在 で は EXATの 道 路 の 34%の 運 営 維 持 管 理 は 民 間 企 業 に 任 さ れ て お り 、 そ の 運 営 状 態 は 良 好 で あ る 。 こ れ を 受 け 、 SEPOは 、 今 後 建 設 さ れ る す べ て の 有 料 高 速 道 路 区 間 に つ い て は 、 建 設 か ら 運 営 維 持 管 理 ま で 包 括 的 な PPPで 行 う 方 針 を 示 唆 し て い る 。し た が っ て 、新 規 高 速 道 路 へ の パ ッ ケ ー ジ 型 イ ン フ ラ 輸 出 は 可 能 性 が あ る が 、こ の 分 野 で は 競 争 相 手 と な る タ イ 企 業 も 十 分 な 経 験 を 有 し ている。 ④ 無 料 の 道 路 に つ い て 、工 学 的 マ ネ ジ メ ン ト を 包 括 的 に 行 う 維 持 管 理 の パ ッ ケ ー ジ 輸 出 に つ い て は 、組 織 の 財 源 が 非 常 に 厳 し く 採 算 が 取 れ る レ ベ ル の 報 酬 は期待できないと思われる。 306 タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査 ファイナルレポート ⑤ JICA 国際航業 タ イ 国 へ の 進 出 を 図 っ て い る 計 測 系 の あ る 日 系 企 業 は 、多 く の 作 業 員 が 必 要 な 点 検 作 業 に つ い て 、タ イ 人 技 術 者 を 養 成 し て 、労 働 力 の 不 足 し て い る 日 本 等へ派遣するビジネスモデルの可能性も検討している。 307