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第4章 タイ国のインフラ・マネジメントの現状

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第4章 タイ国のインフラ・マネジメントの現状
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
第4章
4.1
JICA
国際航業
タイ国のインフラ・マネジメントの現状
インフラ老朽化の現状と今後の予測
タ イ 国 で は 35年 前 に 高 速 道 路 が 建 設 さ れ る 等 、 1980年 代 頃 か ら イ ン フ ラ 建 設
が 盛 ん に 行 わ れ る よ う に な っ た 。そ の 結 果 、タ イ 国 は 周 辺 諸 国 に 比 べ 、道 路 、港
湾 、電 力 と い っ た 基 本 的 な 産 業 イ ン フ ラ の 整 備 が 比 較 的 進 ん で お り 、こ れ が 海 外
か ら の 投 資 を 引 き つ け 、 タ イ 国 の 経 済 を 支 え る 基 盤 と な っ て き た 。 56
道 路 、橋 梁 、ダ ム 、空 港 、事 務 所 ビ ル 、発 電 所 等 政 府 機 関 の 所 有 す る 純 社 会 資
本 は 図 41の よ う に 伸 び 続 け て お り 、 2012年 に は 11兆 4,230億 バ ー ツ で あ る 。 57
図 41
公共セクターの純社会資本額の推移(時価)
出 典 : Capital Stock of Thailand, 2012 edition, NESDB
交 通 ・ 通 信 分 野 で は 、近 年 、通 信 分 野 の 新 設 が 著 し い も の の 、交 通 分 野 で は 一
部 で は 老 朽 化 が 進 ん で い る 。鉄 道 分 野 で も 、SRTの 線 路 の う ち 建 設 後 30年 以 上 経
過 し て い る も の は 67%を 占 め て い る 状 況 で あ る 。58 DOHが 管 轄 す る 道 路 橋 で は 、
建 設 後 50年 以 上 経 過 し て い る も の が 338橋 ( 2%) で あ る が 、 10年 後 に は 1,818橋
( 12%) と 老 朽 化 が 急 激 に 進 行 す る 。
56
タ イ ・ イ ン フ ラ マ ッ プ , 2012年 3月 , ジ ェ ト ロ ・ バ ン コ ク 事 務 所
Capital Stock of Thailand 2012, NESDB, 2013
58
Kingdom of Thailand: Accounting and financial Management System Reform of
Thailand's Railway Sector, March 2014, ADB
57
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図 42
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国際航業
経年別橋梁数
出 典 : DOH
一 方 、タ イ 国 で は 2015年 の ア セ ア ン 経 済 共 同 体( AEC)の 形 成 に 向 け て 、ASEAN
地 域 で の 主 導 的 な 地 位 を 確 立 す る た め に 新 設 開 発 も 計 画 さ れ て い る 。2013年 に は
輸 送 イ ン フ ラ を 強 化 し ASEAN地 域 で の 連 結 性 の 向 上 す る た め に 、 2020年 ま で の
総 額 2兆 バ ー ツ 超 ( 2013年 2月 の 計 画 額 ) の 大 型 イ ン フ ラ 開 発 計 画 を 発 表 し た 。
こ れ は 、タ イ 国 の 国 家 予 算 は 2兆 5,250億 バ ー ツ( 2014年 ) 59に 相 当 す る 大 規 模 な
計画である。
表 29
イ ン フ ラ 整 備 計 画 ( 2013-2020)
出 典 : タ イ ・ イ ン フ ラ マ ッ プ , 2013年 3月 , ジ ェ ト ロ ・ バ ン コ ク 事 務 所
一 方 、財 源 の 方 を 見 る と 、日 本 と 同 様 に 高 齢 化 に 伴 い 、イ ン フ ラ 整 備 費 へ の 配
分 が 厳 し く な る こ と が 考 え ら れ る 。 タ イ 国 も 2007年 に 65歳 以 上 の 高 齢 者 の 割 合
59
財 源 の う ち 、収 入 が 22億 7,500万 バ ー ツ で 、残 り 2億 5千 万 バ ー ツ は 国 債 に よ り 賄 う
計 画 で あ る 。( 出 典:Thailand’s Budget in Brief Fiscal Year 2014, Bureau of the Budget)
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国際航業
が 7%を 超 え 「 高 齢 化 社 会 」 に 入 り 、 2027年 に は 14%に 達 し 「 超 高 齢 化 社 会 」 に
移 行 す る と 推 計 さ れ て い る 60
。タイ政府も高齢者対策委員会を設けるなど、高
齢 化 対 策 の 必 要 性 を 認 識 し て い る 61。 従 っ て 、 将 来 的 に は 料 金 収 入 や 税 収 の 伸 び
悩 み と 福 利 厚 生 費 の 増 大 に よ り 、必 然 的 に イ ン フ ラ 整 備 費 と し て 確 保 で き る 財 源
が厳しくなることが考えられる。
図 43
タ イ 国 の 人 口 統 計 ( 1950-2050)
出典:国連人口統計
現 在 、先 進 国 は 、イ ン フ ラ 建 設 時 代 が 終 わ り 、同 時 に 初 期 に 建 設 さ れ た イ ン フ
ラ の 老 朽 化 が 始 ま っ て 問 題 が 起 こ る よ う に な り 、快 適・安 全 性 を 確 保 す る こ と が
大 切 と い う 認 識 が 高 ま っ て い る 。し か し 、維 持 管 理 の た め の 財 源 が 限 ら れ る た め 、
予 算 は 増 や せ な い 状 況 の 中 で 、既 存 の イ ン フ ラ を 維 持 管 理・更 新 し て 大 事 に 長 く
使 う 段 階 に 移 行 し て い る 。こ れ を 少 な い 費 用 で 実 現 す る 仕 組 み と し て イ ン フ ラ ・
マネジメントという概念が重視されるようになった。
タ イ 国 に お い て も 、い ず れ 同 様 の 変 遷 を た ど る 兆 し が 見 え て い る が 、タ イ 国 の
場 合 は 、イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理・更 新 段 階 に 移 行 し つ つ も 、新 設 需 要 も 盛 ん な
状 態 が 続 き 、 ASEAN諸 国 と の 競 争 力 確 保 の た め に は ど ち ら も 後 回 し に で き な い
状態となり、さらなるインフラ整備の効率化の工夫が必要となると予想される。
60
61
国連人口統計
タイの高齢者対策について
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4.2
中央政府の現状
4.2.1
中央政府の関わり方
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本 調 査 の 対 象 機 関 の う ち 、 首 相 府 国 家 経 済 社 会 開 発 委 員 会 ( NESDB) 、 首 相
府 予 算 局( BOB)、財 務 省 公 的 債 務 管 理 局( PDMO)財 務 省 国 営 企 業 政 策 事 務 局
( SEPO) は 、 国 家 レ ベ ル で の 方 針 策 定 、 予 算 、 負 債 の 計 画 策 定 か ら 管 理 、 国 営
企 業 の 運 営 方 針 策 定 か ら 業 績 評 価 ま で を 行 っ て い る 機 関 で あ る 。各 機 関 の 維 持 管
理に影響を与える役割は下表の通りである。
表 30
対象機関
中央政府機関の役割
維持管理に影響を与える役割
国家経済社会

国家計画を策定し、事業の方針、重点分野を提示
開 発 委 員 会

実 施 機 関 が 新 規 事 業 提 案 の 際 に 実 施 す る F/Sの 事 業 評
価ガイドブックの作成
(NESDB)
予 算 局 (BOB)

年間予算計画の策定、予算配分及び予算管理
公的債務管理

国家の債務計画の策定
局 (PDMO)

公的債務の管理

実施が決定した事業に対する負債調達の斡旋
国営企業政策

国営企業の方針策定及び業績評価
事 務 局 (SEPO)

56国 営 企 業 の 株 主 と し て 、 自 己 資 金 の 評 価 と 助 言

国営企業の投資形態の検討
(1)
対象機関の形態
本 調 査 の 対 象 機 関 の う ち 、施 設 の 維 持 管 理 を 担 当 す る 実 施 機 関 は 次 の 12機 関 で
あ り 、 そ の 内 訳 は 官 庁 が 3機 関 、 国 営 企 業 が 8機 関 、 地 方 自 治 体 が 1機 関 で 、 そ の
所 轄 の 省 庁 は 表 31の 通 り あ る 。
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表 31
所轄の省
運輸省
所轄の省別対象機関と担当施設
対象機関の形態
対象機関
省内の局
DOH
国道
DRR
地方道
EXAT
有料高速道路
SRT
国有鉄道
MRTA
地下鉄
省内の局
DPT
村道
国営企業
MWA
首都圏の上水道
PWA
首都圏外の上水道
MEA
首都圏の送電網
PEA
首都圏外の送電網
国営企業
内務省
JICA
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維持管理の対象施設
エネルギー省
国営企業
EGAT
発電施設、配電網
自然環境省
国営企業
WMA
バンコク都以外の下水道
−
地方自治体
BMA
バンコク都の都道と下水道
上 記 の 中 央 政 府 機 関 は 直 接 計 画 策 定 、予 算 審 査 に 係 る の は 官 庁 と 国 営 企 業 で あ
る た め 、次 節 か ら の 新 規 事 業 申 請 及 び 予 算 計 画 の 申 請 は 官 庁 と 国 営 企 業 に 係 る も
の で あ る 。地 方 自 治 体 は 国 家 計 画 の 影 響 を 大 き く 受 け な が ら 、予 算 は 自 治 体 内 部
で審査、決定している。
(2)
新規事業の申請
省 庁 や 国 営 企 業 が 、大 規 模 事 業 を 実 施 す る 際 は 、事 前 に 内 閣 の 承 認 が 必 要 で あ
る 。 大 規 模 事 業 の 定 義 は 実 施 機 関 の 規 定 に よ っ て 異 な り 、 例 え ば 、 5千 万 バ ー ツ
以 上 の 事 業 、 自 己 資 本 や 負 債 に 500万 バ ー ツ 以 上 の 変 化 が あ る 場 合 等 と な っ て い
る 。 新 規 事 業 に は 大 規 模 修 理 や 更 新 事 業 も 該 当 し 62、 そ の 申 請 ス キ ー ム は 図 44
の 通 り で あ る 。年 間 予 算 申 請 と 異 な り 、申 請 時 期 は 決 ま っ て お ら ず い つ で も 申 請
で き 、審 査 を 受 け る こ と が で き る 。実 際 に 事 業 実 施 の 段 階 で は 、毎 年 の 予 算 申 請
時 に そ の 年 の 事 業 内 容 に 対 す る 予 算 を 、実 施 機 関 の 予 算 計 画 に 盛 り 込 ん で 申 請 す
る。
62
計画及び予算審議の際は、新規事業とは新たに実施する事業を指し、必ずしも新
設とは限らず、日常の点検、維持管理以外のものはたいてい新規事業に含まれる。
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図 44
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事業の申請及び審査スキーム
出 典 : NESDB
①
実 施 機 関 は 、 F/Sを 実 施 し 、 資 金 調 達 を 含 め た 事 業 計 画 を 策 定 し 、 所 轄 官
庁に提出する。
②
所 轄 官 庁 で 審 査 し 、 事 業 計 画 を NESDBに 提 出 す る と 同 時 に 、 内 閣 を 通 じ
て BOBや PDMO等 の 関 係 機 関 に も 提 出 す る 。関 係 機 関 で は 、予 算 計 画 、負
債計画等のそれぞれ担当の観点で事業計画を審査し、閣議で助言を求めら
れる際の回答を準備する。
③
NESDBで は 、 事 業 が 国 家 計 画 の 方 針 と 合 致 し て い る か を 審 査 す る 。 同 時
に BOBや PDMO等 関 係 機 関 と の 調 整 も 行 う 。
④
(3)
閣議で審議し、事業実施を決定する。
年間予算の申請
タ イ 国 の 官 庁 及 び 国 営 企 業 は 、毎 年 予 算 計 画 を 作 成 し 、国 会 の 承 認 を 得 る 必 要
が あ る 。国 営 企 業 は 独 立 採 算 が 基 本 の た め 、予 算 を 利 用 せ ず に 自 己 採 算 で 事 業 を
行 っ て い る 国 営 企 業 で も 、参 考 の た め 予 算 計 画 を 提 出 し 、他 機 関 と 同 様 に 国 会 で
も説明する。
タ イ 国 の 多 く の 機 関 で は 会 計 年 度 は 10月 か ら 始 ま り 、 2014年 度 は 2013年 10月
~2014年 9月 と な る た め 、年 末 に は 翌 年 度 の 予 算 計 画 の 作 成 を 開 始 し 、翌 年 9月 末
に 国 会 で 承 認 さ れ る 。 そ の ス キ ー ム は 図 45の 通 り で あ る 。
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図 45
JICA
国際航業
年間予算の申請及び審査スキーム
出 典 : NESDB
①
実施機関は、年間予算配分戦略及び省庁の戦略計画と適合する年間予算計
画を作成し、予算案を所轄の官庁に提出する。
②
所轄官庁は予算案を方針との整合性の点から審査し、予算局に提出する。
③
予 算 局 は 、 全 体 の 予 算 案 を 策 定 し 、 内 閣 に 提 出 す る 。 NESDB及 び 財 務 省
はそれぞれの担当の観点から予算案に関する意見を内閣に提出する。
④
閣議、国会の審議を通して予算案を承認する。
次章から各機関の役割について詳述する。
4.2.2
国 家 経 済 社 会 開 発 委 員 会 (NESDB)
タ イ 国 に お け る 全 国 レ ベ ル の 5か 年 計 画 で あ る 「 国 家 経 済 社 会 開 発 計 画 」 を 作
成 し て い る 。国 家 の 柱 と な る 方 針 で あ り 、す べ て の 政 府 機 関 の 事 業 は こ の 方 針 に
沿 う も の で あ り 、 予 算 も こ の 方 針 に 基 づ い て 配 分 さ れ る 。 現 行 は 第 11 次 計 画
( 2012-2016 年 ) で あ り 、 第 8次 計 画 か ら 成 長 を 基 本 と し た 計 画 か ら 人 間 中 心 の
発 展 へ シ フ ト し て お り 、持 続 可 能 な 発 展 と「 幸 福 な 社 会 」の 実 現 の た め に 、タ イ
国 の 経 済 、社 会 資 本 の 強 化 と リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 改 善 を 目 標 に 掲 げ て 、持 続 可
能 な 環 境 整 備 の た め の 戦 略 の 1 つ と し て イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 強 化 を 掲 げ て
い る 。現 在 、策 定 中 の 第 12次 計 画 で も 、イ ン フ ラ 関 連 の 方 針 は 第 11次 計 画 の 方 針
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国際航業
を 継 続 し て 鉄 道 網 の 改 善 に 重 点 を お き 、周 辺 諸 国 に 対 す る 競 争 力 を 強 化 す る 方 針
である。
NESDBの イ ン フ ラ に 関 わ る 役 割 と し て は 、 各 省 庁 や 国 営 企 業 が 策 定 し た マ ス
タープランの承認及び国家レベルの新規開発プロジェクトのフィージビリティ
ス タ デ ィ( F/S)の た め の 環 境 社 会 配 慮 、経 済 ・財 務 分 析 、投 資 計 画 等 の ガ イ ド ラ
イ ン を 策 定 し て い る 。 イ ン フ ラ の 維 持 管 理 に 関 し て は 、 NESDBは 直 接 実 施 す る
こ と は な い も の の 、維 持 管 理 に 関 す る 事 業 計 画 の 評 価 を 通 じ て 出 す 意 見 は 維 持 管
理に多大な影響を与えている。
分野別には以下のような認識を持っている。

道路分野は鉄道への重点シフトに伴い、維持管理に移行していく。

鉄道分野は鉄道網強化のため新規投資を重点的に行う。

上 水 道 分 野 は 、 MWAや PWAの 条 件 の よ い と こ ろ は 問 題 な い が 、 PWAの 給
水区域が広く格差があり、離れた人口密度が低い地域にサービスが行き届
かないことが問題である。

下水道分野は、サービスに課金できていないことが問題である。

電力分野は財務状態もよく、維持管理にも困っていない。
そ の 他 に も 国 家 の 将 来 を 見 据 え た 方 針 と し て 、迫 り く る 高 齢 化 社 会 に お け る イ
ン フ ラ 施 設 の 在 り 方 や 優 先 度 を 検 討 し て い る が 、イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 は 、技
術 の 向 上 に よ り 効 率 化 、低 コ ス ト 化 で き る と 考 え て お り 、現 存 の イ ン フ ラ 施 設 の
解体、除去は最後の手段と位置付けている。
ま た 、 NESDB は 新 た な 資 金 調 達 法 と し て PPP の 導 入 に も 関 与 し て お り 、
NESDBの 事 務 局 長 が 、 財 務 省 や 実 施 機 関 と 共 に 検 討 委 員 会 の メ ン バ ー と な っ て
い る 。し か し 、維 持 管 理 は 新 た な 料 金 収 入 を 見 込 め な い た め 、維 持 管 理 を 目 的 と
した財源を確保する方法を模索中である。
4.2.3
首 相 府 予 算 局 ( Bureau of the Budget)
予 算 局 は 、第 11次 経 済 社 会 開 発 計 画 、国 家 管 理 計 画 や 国 の 優 先 事 項 に 照 ら し 合
わ せ 、予 算 配 分 に つ い て 政 府 に 助 言 し て い る 。2014年 度 の 予 算 で は 、イ ン フ ラ 開
発 に は 予 算 全 体( 2兆 5,250億 バ ー ツ )の う ち 1,027億 8,990万 バ ー ツ を 配 分 し て い
る 。こ れ に は 国 家 の 競 争 力 の 拡 大 の た め に 、港 湾 や 空 港 開 発 、鉄 道 網 の 拡 充 、地
方の道路、橋梁の新設・維持管理・改善等が含まれている。
図 44の 新 規 事 業 の 審 査 は 担 当 部 署 が 分 野 別 に 11に 分 か れ て お り 、 ま ず は 各 分
野 担 当 の 委 員 会 で 、実 施 機 関 の 能 力 、投 資 に 見 合 う 価 値 、過 去 の 実 績 の 観 点 か ら
審査する。
道 路 整 備 に 関 す る 予 算 は こ れ ま で は 新 設 重 視 で あ っ た が 、近 年 で は 国 家 レ ベ ル
で 維 持 管 理 重 視 の 傾 向 が 強 ま っ て い る 。 道 路 分 野 で は 、 最 近 、 ① Connectivity、
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② Border line、 ③ Missing link、 ④ Bottleneckの 4点 を 重 視 し た 戦 略 的 交 通 イ ン
フ ラ 8年 計 画 を 策 定 し た と の こ と で あ る 。
4.2.4
財 務 省 公 的 債 務 管 理 局 (PDMO)
PDMOで は 、公 的 債 務 の 管 理 を 一 元 的 に 行 っ て お り 、毎 年 国 家 の 債 務 管 理 計 画
を策定し、新規事業審査の過程で債務の妥当性を検討している。検討の際には、
単 に 返 済 能 力 や 財 務 的 内 部 収 益 率 (FIRR)の み で な く 、公 益 性 も 加 味 し た 経 済 的 内
部 収 益 率 (EIRR)も 考 慮 し て い る 。 事 業 計 画 が 承 認 さ れ る と 、 実 施 機 関 に 対 し て 、
資 金 調 達 先 を 探 し 、債 務 の 条 件 も 交 渉 し て 決 定 す る 。年 度 毎 の 債 務 管 理 計 画 に つ
い て は 、各 省 庁 、国 営 企 業 が 予 算 案 と と も に 作 成 し 、提 出 す る も の を PDMOで ま
とめて必要性、返済能力と経済への影響の観点から審査して年間計画にまとめ
る。
十 年 程 前 か ら 政 府 の 方 針 の 転 換 に よ り 、資 金 調 達 先 と し て 、流 動 性 が 高 く 為 替
リ ス ク が な く 、調 達 コ ス ト が 安 い 国 内 調 達 を 優 先 す る よ う に な っ て い る 。こ れ に
よ り 、国 内 の 金 融 市 場 の 成 長 を 促 す ね ら い が あ る 。海 外 調 達 の 方 が 安 い 場 合 や 将
来得られる収入が外貨の場合は海外調達も行う。
4.2.5
財 務 省 国 営 企 業 政 策 事 務 局 (SEPO)
SEPOは 国 営 企 業 の 運 営 方 針 決 定 機 関 と し て 、 さ ま ざ ま な 業 界 の 56国 営 企 業 の
株 主 と な っ て い る 。 毎 年 、 SEPOは 、 NESDB、 首 相 府 と 共 に 、 国 営 企 業 が 事 業
計 画 の 際 に 従 う べ き 方 針 で あ る Statement of Directions( SOD)を 作 成 、発 行 し
て い る 。こ の 中 で 、分 野 別 、国 営 企 業 別 に 5年 の 長 期 と 1年 の 短 期 の 方 針 を 掲 げ て
お り 、 国 営 企 業 は こ の 方 針 に 従 い 、 1年 毎 の 投 資 計 画 を 伴 う 5年 計 画 を 策 定 す る 。
各 国 営 企 業 の 2012年 の SODを 掲 載 す る が 、 上 水 道 分 野 で は 、 効 果 の 最 大 化 の
ためとしてアセットマネジメントが方針に含まれている。
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全体的な方針
“良い統治”を効率的に実施するための国家の経済・社会戦略のメカニズム
交通分野
大量輸送システムや標準的なサービスレベルの輸送網の開発により国家の競争
力を高め、民間企業の参入を促進する。
EXAT
高 速 道 路 の 開 発 を 通 じ て 輸 送 シ ス テ ム と 都 市 の 開 発 を 支 え る 。そ し て 、資 産 か ら
付加価値を創造し、利益を上げるとともに、具体的な債務計画を策定する。
SRT
運営管理システム及びサービスの質を確保し、鉄道システムを効率的な主要
交通インフラとして発展させると同時に政府機関の負担を減らす。
MRTA
大量鉄道プロジェクトバンコク及びその周辺地域の鉄道網を拡充し、収入を
増加し政府機関の負担を減らす。
上下水道分野
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に よ り 利 益 を 最 大 化 し 、基 本 的 な ニ ー ズ を 満 た し 、人 々 の
生活の質の向上に寄与する。
MWA
都 市 の 拡 大 に 合 わ せ て 給 水 網 を 拡 張 、整 備 し 、機 関 に 付 加 価 値 を も た ら す 関 連 事
業を構築する。
PWA
十分な原水源の開発及び効率的な資本管理を通じて地方へ給水網を効果的に拡
充する。
WMA
下水処理システムを社会に受け入れられるよう効果的に管理する。
電力分野
電 力 分 野 の 安 定 と 効 果 的 な 資 本 管 理 と エ ネ ル ギ ー 活 用 を め ざ し て 、社 会 や 環 境 に
配慮しながらクリーンな代替エネルギーを開発、支援する。
EGAT
十 分 、安 定 か つ 良 質 な 電 力 シ ス テ ム の 信 頼 性 を 高 め 、機 関 の 資 本 及 び 資 源 を 有 効
活 用 し 、社 会 や 環 境 へ の 影 響 に 配 慮 し な が ら 代 替 エ ネ ル ギ ー に よ る 電 力 開 発 を 進
める。
MEA
需要に見合う良質な配電システムを整備し、事業提携を通じて、社会や環境
に配慮しながら資産から付加価値を生み出す関連事業の育成する。
PEA
需要に見合う良質な配電システムを整備し、事業提携を通じて、社会や環境
に配慮しながら資産から付加価値を生み出す関連事業の育成する。
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さ ら に 、 SEPOで は 各 分 野 担 当 に 分 か れ て お り 、 そ れ ぞ れ 国 営 企 業 に 対 し て 、
戦 略 立 案 か ら 業 績 評 価 を 通 し て 管 理 し 、運 営 方 針 や 内 部 留 保 の 使 途 に 対 す る 助 言
を 行 っ て い る 。業 績 評 価 の 際 は 、イ ン フ ラ 投 資 に 必 要 な 資 金 が 十 分 に 蓄 え ら れ て
いるかも確認している。
具 体 的 な 分 野 別 の 方 針 と し て 、 道 路 分 野 の EXATに つ い て は 、 財 務 状 態 が 改 善
し て い る た め 、債 務 の 返 済 の 前 倒 し を 提 案 す る と と も に 、高 速 道 路 か ら の 安 定 し
た 収 入 が 見 込 め る た め 、 現 在 F/S中 の 新 設 及 び 延 長 区 間 は 新 た な 投 資 ス キ ー ム を
検討しているとのことである。
上 下 水 道 分 野 で は 、 MWAに つ い て は 、 内 部 留 保 も 十 分 で あ る た め 、 古 い 配 管
の 更 新 に 投 資 し 、 漏 水 率 を こ の 先 5年 以 内 に 20%以 下 、 10年 以 内 に 10%に 削 減 す
べ き と 助 言 し て い る が 、更 新 投 資 に は 負 債 が 必 要 で あ る が 、負 債 は 調 達 コ ス ト が
か か る た め 、 投 資 に は 乗 り 気 で は な い と の こ と で あ る 。 ま た 、 PWAに 対 し て は 、
10年 以 内 に 水 道 普 及 率 を 100%に す る よ う 、 採 算 性 の 悪 い 遠 隔 地 の 管 路 の 新 設 に
は政府負債を提供する予定であるとのことである。
SEPOが 国 営 企 業 に 対 す る 投 資 ま た は 支 援 は 、 新 設 の た め の 投 資 と PSOと よ ば
れ る 補 助 金 の 提 供 の 2タ イ プ で あ る 。 PSOは 、 国 営 企 業 が 公 共 サ ー ビ ス に 対 し て
採 算 性 に 見 合 っ た 料 金 設 定 を で き な い 場 合 に 、損 失 補 て ん 分 と し て 補 助 金 を 支 給
す る 公 共 サ ー ビ ス 補 償 制 度 ( Public Service Obligation : PSO) で 、 2010年 に 開
始 さ れ た 。適 用 を 受 け る た め に は 政 府 に 料 金 設 定 の 権 利 が あ る こ と 等 い く つ か 条
件 が あ り 、全 て を 満 た し て い る 場 合 に 支 給 さ れ る 。申 請 手 続 き は 、国 営 企 業 は 予
算 開 始 の 10か 月 以 上 前 に 、対 象 と す る 公 共 サ ー ビ ス の 内 容 、対 象 者 層 、補 助 金 の
額 と 給 付 計 画 、PSO適 用 の 有 効 性 等 の 検 証 を 盛 り 込 ん だ 申 請 書 と 財 務 諸 表 を 、所
轄 省 庁 を 通 じ て 財 務 省 内 の 審 査 委 員 会 に 提 出 す る 必 要 が あ り 、予 算 配 分 前 に 承 認
さ れ 、 通 常 予 算 と 同 様 に 配 賦 さ れ る 。 63
現 在 PSOの 適 用 を 受 け て い る の は 、 業
績 の 悪 化 が 続 く タ イ 国 有 鉄 道 ( SRT) と バ ン コ ク 大 量 輸 送 公 社 ( BMTA: バ ス を
運 営 ) の 2国 営 企 業 で あ る 。 64
一 方 、各 国 営 企 業 は 、民 間 企 業 で あ れ ば 支 払 う べ き 配 当 の 代 わ り に 、株 主 で あ
る SEPOに 純 利 益 の 一 部 を 支 払 う こ と に な っ て い る 。 そ の 純 利 益 に 対 す る 割 合 は
35~45%の 間 で 毎 年 実 施 機 関 と の 交 渉 に よ っ て 調 節 す る も の の 、 財 務 状 況 の 急 変
等 特 殊 事 情 の な い 限 り 変 更 は な く 、本 調 査 の 対 象 機 関 に 関 し て は 45%で あ る 。た
だ し 、 SRTは 利 益 が あ が っ て い な い た め 、 支 払 っ て い な い 状 態 が 続 い て い る 。
SEPOで は 受 領 後 に 、 政 府 の 収 入 と し て 国 庫 に 納 め て い る 。
SEPOで は 、 PPP等 様 々 な 投 資 ス キ ー ム を 検 討 し て お り 、 EXAT等 安 定 し た 収
入 の 見 込 め る 投 資 家 に と っ て 魅 力 的 な 機 関 か ら 、新 た な 投 資 ス キ ー ム を 試 し て い
く 方 針 で あ る 。実 際 、EXATが 1990年 以 降 に 新 設 し た 路 線 は BTO方 式 で 民 間 委 託
63
64
SEPOホ ー ム ペ ー ジ よ り
SEPOよ り ヒ ア リ ン グ
111
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JICA
国際航業
されており、今後の新設路線も新たなスキームを検討して適用する予定である。
さ ら に 、ゆ く ゆ く は 国 営 企 業 の 業 績 を 向 上 さ せ 、イ ン フ ラ フ ァ ン ド 等 外 部 か ら の
投 資 を 増 や す 意 向 で あ る 。た だ し 、政 府 の 株 式 保 有 割 合 は 各 公 社 法 で 決 め ら れ て
いるため、政府の関与を減らすことはない。
4.2.6
内 務 省 公 共 事 業 ・ 都 市 地 方 計 画 局 ( DPT)
2002年 に 地 方 自 治 体( 市 、村 落 )の 公 共 事 業 を 管 轄 す る 公 共 事 業 局 と 都 市 計 画
を 管 轄 す る 都 市 地 方 計 画 局 が 合 併 し 、 現 在 の 公 共 事 業 ・ 都 市 地 方 計 画 局 ( DPT)
の形になったものの、それぞれの部門編成や業務の分担に変更はない。
旧 公 共 事 業 局 で は 、地 方 自 治 体( お も に 村 落 )の イ ン フ ラ 施 設 の 建 設 及 び 維 持
管 理 の 支 援 を 行 っ て お り 、対 象 と な る イ ン フ ラ 施 設 は 、洪 水 か ら 村 落 を 守 る た め
の 堤 防 を 主 に 、村 落 の 道 路 、上 水 道 及 び そ れ ら の イ ン フ ラ の 運 営 の た め に 必 要 な
電 力 施 設 で あ る 。資 金 力 お よ び 管 理 能 力 の あ る 地 方 自 治 体 は 、計 画 、建 設 か ら 自
ら の 手 で 行 っ て お り 、 DPTが 直 接 関 与 す る こ と は な い 。
2012年 か ら 政 府 の 地 方 分 権 化 の 方 針 に 伴 い 、そ れ ま で 中 央 政 府 が 行 っ て い た 地
方 自 治 体( 市 、村 落 )の イ ン フ ラ 整 備 を 自 治 体 が 行 う こ と に な り 、資 金 力 や 技 術
力 が 十 分 で な い 地 方 自 治 体 に は DPTが 支 援 を 提 供 す る こ と に な っ た 。DPTは こ れ
ら の 自 治 体 の イ ン フ ラ 施 設 の 計 画 及 び 建 設 を 行 い 、 2年 後 に 地 方 自 治 体 に 運 営 、
維 持 管 理 を 移 管 す る ま で の 期 間 の 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。 そ の 2年 間 は 日 常 の
点 検 は 各 村 落 が 行 い 、修 繕 や 補 修 が 必 要 な 箇 所 を 発 見 し た 場 合 に は DPTに 対 処 を
要 請 す る 。 植 栽 の 伐 採 や ペ ン キ 塗 り 等 通 常 の 維 持 管 理 、 及 び 1,000万 バ ー ツ 以 下
の 修 繕 、 補 修 は DPTの 地 方 事 務 所 が 行 い 、 1,000万 バ ー ツ 以 上 の 修 繕 、 補 修 は 、
DPT本 部 が 対 処 す る 。そ し て 移 管 後 も 、地 方 自 治 体 が 維 持 管 理 費 用 を 賄 え な い 場
合 に は DPTか ら 予 算 を 提 供 し て い る 。
こ の 業 務 の 追 加 を 受 け 、DPTの 予 算 は 2012年 か ら 急 増 し 、そ れ に 伴 い 維 持 管 理
費 も 増 加 し て い る 。 2014年 か ら は DPT本 部 が 行 う 大 規 模 補 修 も 加 わ り 急 増 し た
も の の 、 維 持 管 理 の 対 象 は 、 原 則 的 に 支 援 を 求 め る 自 治 体 の 建 設 後 2年 間 で あ る
ため、施設を保有する機関に比して維持管理費の割合は小さい。
表 32
DPTの 予 算 と 維 持 管 理 予 算 の 推 移
単位:百万バーツ
Cost item
Project size
DPT Maintenance & repair cost (1)
Inspection and general maintenance
Repair and renovation cost
< 10 mil baht
Repair and renovation cost
>= 10 mil baht
DPT Total Budget (2)
% of maintenance cost (1) / (2)
Organization
Provincial
Office
Headquarters
2011
9.5
9.5
6,559.7
0.14%
2012
60.0
9.5
50.5
11,295.6
0.53%
2013
60.0
9.0
51.0
15,792.0
0.38%
2014
324.6
7.0
35.8
281.9
19,329.7
1.68%
2015
324.5
16.9
85.1
222.5
23,210.6
1.40%
出 典 : DPT
112
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JICA
国際航業
DPTの 維 持 管 理 部 門 は 約 30名 の 職 員 と 約 20名 の 作 業 員 で 構 成 さ れ て お り 、 15
台 の 機 材 を 有 し て い る 。日 常 の 点 検 業 務 は 各 自 治 体 が 行 っ て お り 、問 題 が 発 見 さ
れ た 場 合 は 、DPTの 職 員 と 作 業 員 が 赴 き 、必 要 な 処 置 を 取 る 。地 方 自 治 体 か ら の
予 算 申 請 に 対 し て は 、DPTの 職 員 が 視 察 し 、申 請 内 容 を 査 定 し 、予 算 申 請 時 に 計
上 す る 。さ ら に 、維 持 管 理 の 経 験 の 乏 し い 村 落 に 対 し て 、維 持 管 理・補 修 等 の 技
術 指 導 も 行 っ て い る が 、DPTの 役 割 は 、イ ン フ ラ 施 設 の 整 備 と 維 持 管 理 の 支 援 に
とどまっており、自ら資産を保有、管理することはない。
一 方 、都 市 地 方 計 画 局 は 、国 全 体 の 中 長 期 的 な 都 市 計 画 を 担 当 し て い る 。高 齢
化 社 会 の 到 来 、災 害 に 強 く 環 境 に 優 し い ま ち づ く り を 考 慮 し 、将 来 の 社 会 に 合 っ
た イ ン フ ラ 施 設 、維 持 管 理 が 容 易 な ま ち づ く り 計 画 を 考 案 し て い る 。し か し 、こ
の 計 画 は 地 域 住 民 の つ な が り へ の 配 慮 を 重 視 す べ き と し て お り 、 NESDBが バ ン
コ ク 都 内 へ の ア ク セ ス を 重 視 し 空 港 建 設 地 を 決 め た こ と 等 、国 際 競 争 力 等 も 考 慮
す る NESDBと 方 針 が そ ぐ わ な い と こ ろ も あ り 、 具 体 的 に 国 家 計 画 に 盛 り 込 ま れ
るまでには至っていない。
113
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4.3
バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) の 現 状
4.3.1
BMAの イ ン フ ラ 施 設 の 管 理 体 系
JICA
国際航業
バ ン コ ク 首 都 圏 庁 で は 、バ ン コ ク 圏 内 の 道 路 と 下 水 道 の 維 持 管 理 を 担 当 し て お
り 、道 路 舗 装 と 橋 梁 は 公 共 事 業 局 、信 号 機 等 附 属 施 設 は 運 輸 交 通 事 業 局 、下 水 は
下 水 道 事 業 局 が 担 当 し て い る 。詳 細 に つ い て は 、そ れ ぞ れ 道 路 分 野 及 び 上 下 水 道
分野の節に記述する。
(1)
BMAの 財 務 状 況 と 維 持 管 理 関 連 予 算
BMAは 予 算 配 分 に お け る 重 点 項 目 と し て 下 記 の 6項 目 を 掲 げ て お り 、2015年 度
の予算では右欄のような案件を示していることから、インフラ施設の整備は安
全、幸福な生活、生活の質の向上の基盤として重視していることがうかがえる。
表 33
BMAの 2015年 度 予 算 の 重 点 項 目
重点項目
具体例
安全のための投資
安 全 管 理 の た め の 装 置 、 CCTV等 の 購 入
幸せのための投資
効率的な公共交通による利便性の向上
医療施設の建設によるアクセス向上
緑と清潔さのための投資
廃棄物管理と排水施設の拡充
学びのための投資
若者の文化活動の奨励
皆に機会を提供するための投資
高齢者や身体障碍者の利便性の向上
ASEANの た め の 投 資
観光を通じた経済的価値の向上
出 典 : BMA
表 34に BMAの 収 入 と サ ー ビ ス 区 分 に よ る 支 出 を 示 す 。BMAの 場 合 、原 則 的 に
借 入 に よ ら ず 、収 入 の 範 囲 で 予 算 編 成 を 行 う こ と が 規 定 さ れ て い る 。道 路 と 下 水
道 は 6業 務 の う ち 2業 務 で 25~ 30%を 占 め る 重 要 な サ ー ビ ス で あ り 、 予 算 の 金 額 、
割合ともに漸増している。
114
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表 34
JICA
国際航業
BMAの 予 算 の 推 移 65
単位:百万バーツ
Item
Regular Revenue
Local Taxes collected by BMA
Taxes from the central government
Income from fee, fines miscellaneous activities
Special Revenue
Accumulate
Total revenue
Budget Appropriation by Bangkok Development Plan
General Administration
Public Cleaning and Orderliness
Civil Works and Traffic System
Water Drainage and Sewage Management
Social Development and Servies
Public Health
Education
Total Expenditure
2012
59,472
10,502
45,669
3,300
100%
18%
77%
6%
2013
63,111
11,306
48,661
3,143
100%
18%
77%
5%
2014 Budget
65,000
100%
10,743
17%
51,200
81%
3,057
5%
15,000
77,772
19%
100%
9,900
76,153
13%
100%
68,057
0%
100%
15,975
9,408
8,942
4,632
5,838
4,954
5,250
55,000
29%
17%
16%
8%
11%
9%
10%
100%
14,624
11,765
9,908
5,309
7,122
5,170
6,102
60,000
24%
20%
17%
9%
12%
9%
10%
100%
17,119
12,634
11,520
5,724
6,864
5,522
5,616
65,000
29%
21%
19%
10%
11%
9%
9%
100%
出 典 : BMA Annual Report
表 35
部門別予算配分
単位:百万バーツ
Item
Traffic and Transportation Department
Public Works Department
Drainage & Sewage Department
Total appropriation for departments
2013
3,103
3,214
4,422
42,461
5%
5%
7%
71%
2014
3,103
3,309
4,958
46,366
5%
6%
8%
77%
出 典 : BMA Annual Report
表 36
維持管理予算の内訳
単位:バーツ
Item
Traffic and Transportation Department
Traffic light equipment
CCTV system
Public Works Department
Reoair of road, bridge and other facilities
Construction materials
Drainage & Sewage Department
Maintenance cost for information center
Maintenance cost for flood prevention control center
Repair cost for water pumping building, machine and regulator
Repair cost for car tunnel equipment
Repair equipment for water regulator and pumping machine
Agent service fee for cleaning drain and sewer
Agetn service fee for drainage system
Equipment for repair and precention of floods
Equipment for repair of dams and barrage
Total Budget for maintenance and repair
2013
106,954,000
39,975,000
66,979,000
263,000,000
100,000,000
163,000,000
125,753,000
2,800,000
17,770,000
17,772,000
1,000,000
20,000,000
50,000,000
808,000
8,403,000
7,200,000
865,661,000
3.4%
8.2%
2.8%
1.4%
2014
115,735,000
42,735,000
73,000,000
300,000,000
100,000,000
200,000,000
118,584,300
2,800,000
17,770,000
17,772,000
1,000,000
20,000,000
50,000,000
808,000
2,557,500
5,876,800
950,054,300
3.7%
9.1%
2.4%
1.5%
注:%は当該部門への配分予算に占める割合
出 典 : BMA
65
Special Revenueは 過 去 の 予 算 の 未 消 化 分 の 累 積 で あ る 。
115
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JICA
国際航業
道 路 関 係 の 維 持 管 理 費 は 金 額 、割 合 と も に 微 増 し て お り 、公 共 事 業 部 で は 、予
算 の 10%近 く を 維 持 管 理 に 費 や し て い る 。
(2)
BMAの 予 算 申 請 ・ 承 認 体 系
BMAの 予 算 は BMA内 の 予 算 局 で 管 理 し て い る 。 毎 年 11~12月 頃 に 、 予 算 申 請
スケジュールを作成し、予算の上限額とともに各部門に通達する。各部門では1
月 末 頃 に BMAの 予 算 局 に 予 算 案 を 提 出 す る が 、 そ の 際 、 各 案 件 の 公 益 性 の 評 価
に つ い て の 調 査 報 告 書 も 提 出 す る 必 要 が あ る 。 予 算 局 で 156名 が 在 籍 し 、 そ の う
ち 120名 程 度 が 予 算 審 議 に 携 わ り 、 部 門 ご と に 各 部 門 か ら の 報 告 書 を も と に 公 益
性 と 社 会 へ の 影 響 の 観 点 か ら 審 査 す る 。2015年 度 の 場 合 、予 算 総 額 650億 バ ー ツ
に 対 し て 、申 請 総 額 は 1,150億 バ ー ツ と 倍 近 く に 上 っ た 。 66
予 算 局 で は 10月 1日
の 次 年 度 の 開 始 の 90日 前 以 降 に 予 算 案 を 都 議 会 に 提 出 す る 。都 議 会 で は 45日 以 内
に審査を終え、承認することになっている。
複 数 年 度 に ま た が る 案 件 に 関 し て は 初 年 度 は 10%程 度 を 配 賦 し 、進 捗 状 況 に 応
じ て 翌 年 度 か ら の 配 賦 額 を 決 め る 。ま た 、各 案 件 に 執 行 さ れ た 予 算 が 消 化 で き な
か っ た 場 合 は 1年 の み 持 ち 越 す こ と が 認 め ら れ て い る 。
66
BMAよ り 受 領 資 料 に よ る 。
116
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4.4
道路分野の現状
4.4.1
タイ国の道路分野の概要
(1)
JICA
国際航業
道路種別と道路管理者
タ イ 国 の 道 路 総 延 長 は 約 40 万 km で 、 運 輸 省 道 路 局 ( Department of
Highways:DOH)が 管 理 す る 国 道 が 約 5万 km、運 輸 省 地 方 道 路 局( Department of
Rural Roads:DRR)が 管 理 す る 地 方 道 が 約 5万 km、地 方 自 治 体 が 管 理 す る 地 方 道
が 約 30 万 km 、 高 速 道 路 公 社 ( 運 輸 省 所 管 ) (Expressway Authority of
Thailand:EXAT)が 管 理 す る 高 速 道 路 約 200kmで 構 成 さ れ て い る 。 タ イ 国 の 道 路
は 行 政 上 の 管 理 区 分 に よ り 、 表 37に 示 さ れ る 6種 類 に 分 類 さ れ て い る 。
表 37
道路種別
国道
道路の管理区分
道路管理者
DOH
道路の概要
全 国 の 都 市 間 を 連 絡 す る 主 要 道 路 。こ れ は 下 記 の 3
種類に区分される。
1級 国 道 : 地 域 間 を 連 絡 す る 道 路 。 道 路 番 号 は l桁
ま た は 2桁 。
2級 国 道 : 各 地 域 内 の 幹 線 道 路 。 道 路 番 号 は 3桁 。
3級 国 道 : 郡 庁 を 結 ぶ 連 絡 道 路 。 道 路 番 号 は 4桁 。
地方道路
DRR 、 国 家 保 自 治 体 行 政 区 の 外 側 に あ る 、 国 道 以 外 の 道 路 。 目
安司令部、
的 に よ り 種 々 の 政 府 機 関 に よ り 建 設 さ れ る 。 DRR
農 業 共 同 組 合 は地方道路の建設の他、バンコク都の産業環状道
省 王 立 灌 漑 局 路、チャオプラヤ川の橋梁建設、パンコク外環道
等
自治体道路 自治体
路の建設も実施している。
自治体内にある道路網で、他の分類に属さない道
路 。バ ン コ ク 都 等 の 主 要 都 市 で は 、自 治 体 が 建 設・
管 理 を 行 う が 、 そ の 他 の 自 治 体 の 道 路 は 、 DRRが
建設を行い、管理のみが自治体へ移管される。
都 市 間 高 速 DOH
有 料 の 高 規 格 道 路 。 Motorwayと 呼 ば れ る 。
道路
都 市 内 高 速 EXAT
バ ン コ ク 都 内 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 で 、 EXAT
道路
国 営 会 社 が 運 営 管 理 を 行 っ て い る 。 Expresswayと
呼ばれる。
出 典 : タ イ 国 経 済 現 況 ( 2008/2009年 版 ) を 修 正
117
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図 46
JICA
国際航業
タイ国の道路の概要
出 典 : JICA道 路 ・ 橋 梁 維 持 管 理 に 関 す る 情 報 収 集 ・ 確 認 調 査 2013
(2)
運 輸 省 ( MOT) の 道 路 関 係 機 関 の 予 算 配 分
表 38
MOT及 び 関 係 機 関 の 予 算 配 分
単位:百万バーツ
機関名
2012年 度
2013年 度
2014年 度
MOT
119,975.7
131,504.1
132,682.0
DOH
50,422.1
52,966.3
53,179.2
DRR
29,597.1
33,951.4
36,202.1
EXAT
4,488.8
4,152.8
2,802.5
464.1
639.6
706.9
35,003.6
39,794.1
39,791.3
OTP
その他
注 ) MOT予 算 額 は 、 MOT傘 下 の 機 関 の 予 算 額 の 合 計 で あ る 。
出 典 : タ イ MOTホ ー ム ペ ー ジ よ り 作 成
(3)
基準及びマニュアル
1)
橋梁
タ イ 国 に は 、道 路 ・ 橋 梁 に 関 す る 建 設 ・ 施 工 ・ 維 持 管 理 の 基 準 や マ ニ ュ ア ル は
多 く 存 在 し 、 こ れ ら の 基 準 等 は 主 に AASHTO (American Association of State
Highway and Transportation Officials) 基 準 や ACI (American Concrete
Institute) Building Code に 基 づ い て 作 成 さ れ た も の で あ る 。
日 本 の 場 合 、例 え ば 橋 梁 点 検 に 関 し て は 、国 土 交 通 省 が 作 成 し た 橋 梁 点 検 マ ニ
118
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JICA
国際航業
ュ ア ル が 存 在 す る が 、地 方 自 治 体 に お い て 国 土 交 通 省 と 同 じ 点 検 を 実 施 し 、同 じ
管 理 を す る こ と は 予 算 や 人 員 の 面 か ら 現 実 的 で は な い と い う 理 由 か ら 、各 自 治 体
が そ れ ぞ れ の 実 情 に 合 っ た 点 検 マ ニ ュ ア ル を 作 成 し て 運 用 し て い る 。タ イ 国 の 場
合 に は 、各 管 理 組 織 が 独 自 の 基 準 や マ ニ ュ ア ル を 所 有 し 、同 組 織 内 で 本 局 か ら 地
方局への共有はされているが、異なる組織間での共有や統一はされていない。
表 39
道路・橋梁に関する基準及びマニュアル
Name
Date of issue
Inspection Manual for Expressways
1990.3
Manual for Inspection of the Rama IX Bridge
1990.3
Specifications for Highway Construction
2003
Bridge Strengthening Manual
2006.5
Bridge Inspection, Analysis and Evaluation Manual
2006.5
Bridge Repair and Maintenance Manual
2006.5
Work Instruction for Bridge and Box Culvert Construction
2006
Procedure for Construction Management of RC Bridges and
2000.8
Condition Evaluation including Maintenance Method
Manual for Construction and Maintenance of Road
2003
Project for Development of Management System for DRR's
2007.2
Road Network (Phase 1)-Manual for Bridge Inspection and
EvaluationBridge Inspection and Improvement Manual
2007.9
The Industrial Ring Road Project – Inspection and
2008.1
Maintenance Manual Study Project for Repair Method for Damages due to
2009.9
Material Deterioration and Service Life of Bridges in
DRR's Road Network (Phase 2) - Final Report Project for Maintenance and Management System
2009.12
Development for DRR's Bridges
- Manual for repair of RC bridge components due to
deterioration of bridge structures and components
Inspection and evaluation manual
2011.3
Formulation manual for long term maintenance plan for
2011.3
bridges
Routine Maintenance Manual
2011.6
Inspection and evaluation manual
2013.7
Formulation manual for long term maintenance plan for
2013.7
bridges
Manual for flooding and restoration
2013.7
119
Own by
EXAT
EXAT
DOH
DOH
DOH
DOH
DOH
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
DRR
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JICA
国際航業
運 輸 省 道 路 局 (DOH)
4.4.2
(1)
概要
1)
施設概要
DOHは タ イ 国 の 都 市 間 を 結 ぶ 幹 線 道 路 に つ い て の 企 画 立 案・整 備・運 営 維 持 管
理等の道路行政全般を担当し、幹線道路整備の中心的な役割を果たしている。
DOHの 2002年 以 降 の 道 路 延 長 デ ー タ に よ る と 、 供 用 さ れ て い る 道 路 延 長 は ほ
ぼ 横 ば い で あ り 、 2レ ー ン に 換 算 し た 道 路 延 長 は 毎 年 延 び て い る 。 つ ま り 、 新 設
工事のほとんどは、既存ルートの拡幅工事であることが分かる。
表 40
DOHの 道 路 延 長 の 推 移
単 位 : km
Year
Under
construction
2,090
Total distance
Disatance per 2
lanes
61,608
Actual distance
2002
53,761
2003
53,175
1,815
51,671
51,360
61,913
2004
51,777
1,456
50,321
61,585
2005
51,466
1,315
50,151
61,747
2006
51,320
1,407
49,913
62,042
2007
51,537
1,239
50,298
63,206
2008
51,633
880
50,753
65,208
2009
51,626
720
50,906
65,630
2010
51,892
805
51,087
66,318
2011
51,618
905
50,713
66,341
2012
51,589
752
50,837
66,871
DOH が 管 轄 し て い る 道 路 の 総 延 長 は 、 2013 年 時 点 で 51,413km、 2レ ー ン に
換 算 す る と 68,254kmで あ り 、 そ の う ち 約 66,811kmが 供 用 さ れ て い る 。 そ し て 、
14,939の 橋 梁 を 管 轄 し て い る 。
表 41
DOHが 管 轄 す る 道 路 延 長
単 位 : km
Distance per 2 lanes
Actual
Region
distance
Concrete
Asphalt
Unpaved
Total
North
15,703
795
17,476
265
18,536
North Eastern
15,092
942
18,033
13
18,988
Central
10,754
3,141
14,164
8
17,313
South
9,864
425
12,922
68
13,415
Total
51,413
5,303
62,595
354
68,252
出 典 : DOH Annual Report 2013
120
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ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
実施体制
DOHの 組 織 に は 本 局( Head Quarter)の ほ か に 18の 地 方 局( Highway Bureau)
が あ り 、 さ ら に 104の 地 域 事 務 所 (District Office)の 階 層 で 管 理 が 行 わ れ て お り 、
地 域 事 務 所 は 1県 ( Province) あ た り 1~ 2事 務 所 が 配 置 さ れ て い る 。
本 局 の 職 員 数 は 3,574名 で 、 そ の 内 訳 は 技 術 職 が 634名 で 、 一 般 職 が 2,940名 で
あ る 。 DOH全 体 で は 、 Officialが 6,405名 、 Permanentが 5,506名 、 Government
が 3,070名 在 籍 し て い る 。
図 47
運 輸 省 道 路 局 ( DOH) の 組 織 図
出 典 : DOH Annual Report 2013
3)
財務状況
DOHの 2015年 度 の 予 算 は 61,378百 万 バ ー ツ で そ の う ち 維 持 管 理 費 が 38,775百
万 バ ー ツ と 64%を 占 め て い る 。DOHの 予 算 の 推 移 を 、新 設 、維 持 管 理 別 に 見 る と 、
新 設 予 算 1990年 代 を ピ ー ク に 減 少 傾 向 で 、 代 わ っ て 維 持 管 理 費 が 徐 々 に 増 え 、
2011年 は 洪 水 の 影 響 が あ る も の の 逆 転 し て い る 。
121
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 48
JICA
国際航業
DOHの 新 設 、 維 持 管 理 の 予 算 の 推 移
出 典 : DOH
DOHの 維 持 管 理 部 門 は 、作 業 内 容 に よ り CODEで 予 算 管 理 し て お り 、通 常 の 維
持 管 理 は Rountine、Periodic 、Special maintenanceに 分 類 さ れ て い る 。Routine
maintenance は 3,960 百 万 バ ー ツ 程 度 で ほ ぼ 一 定 で あ る 。 最 近 は Periodic 、
Special
maintenanceの 予 算 が 増 え て い る 。
表 42
維持管理予算の内訳
単位:百万バーツ
Code
1
1.1
1.1.1
1.1.2
1.1.3
1.2
1.3
1.4
1.5
2
Maintenance work
Road maintenance
Highway maintenance
Rountine maintenance
Periodic maintenance
Special maintenance and rehabilitation
Restoration of highways affected by disasters
Disaster remedy and restoration
Landscape and highway architecture improvement
Administratice and supporting activities
Rehabilitation of Major Highways
Total
2012
19,527
9,660
3,960
2,200
3,500
9,492
200
45
130
4,000
23,527
2013
% in 2013
17,302
81%
12,464
59%
3,964
19%
3,000
14%
5,500
26%
4,108
19%
200
1%
100
0%
430
2%
4,000
19%
21,302
100%
出 典 : DOH Annual Report
122
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(2)
舗装
1)
計 画 ( Plan)
JICA
国際航業
DOHは 5つ か ら な る 戦 略 を 策 定 し て い る が 、 そ の 戦 略 3で は 「 全 国 に 高 速 道 路
網 を 建 設 し て 維 持 す る 」 と あ り 、 そ の 目 標 の 一 つ と し て 「 IRI (International
Roughness Index)を 3.5以 下 に 維 持 す る 」 と 設 定 し て い る 。
地 域 事 務 所 で は 事 務 所 内 の 情 報 共 有 を 目 的 と し て 、 3ヵ 年 の ロ ー リ ン グ プ ロ グ
ラムを作成しており、予算要求は毎年行っている。
舗装の維持管理予算は、次のように分類されている。
表 43 維 持 管 理 予 算 費 目 と 作 業 内 容
Code
作業内容
費目
No
日常維持管理作業
1000
Routine Maintenance Work
安全に走行できるように日常的に行う作
業
1100 Surface Maintenance Work
舗装表層部の維持管理作業
Wayside maintenance work and
側道、歩道、自転車道の維持管理作業
1200
footpath and bicycle lane
Drainage System Work, Bridge and
排水施設、橋梁、構造物の維持管理作業
1300
Structure
1400 Traffic work and safety facilities
交通安全施設の維持管理作業
道路付帯施設、休憩施設、トイレ施設の
1500 Wayside Work and highway rest-house
維持管理作業
1600 Maintenance Machine Service Work
機械、設備の維持管理作業
定期維持管理作業
2000
Periodic Maintenance Work
長寿命化のために計画的に行われる作業
2100 Asphalt pavement work
アスファルト舗装の維持管理作業
2200 Asphalt surface pavement work
アスファルト舗装表層部の維持管理作業
アスファルト舗装以外の舗装の維持管理
2300 Non-asphalt pavement work
作業
コンクリート舗装表層連結部分の取替え
Changing material on connecting
2400
surface concrete work
作業
3000
Special Maintenance Work
不定期の特別な維持管理作業
3100 Surface road leveling work
表層のレベリング作業
3200 Asphalt pavement repairing work
アスファルト舗装の修繕作業
3300 Asphalt pavement improvement work
アスファルト舗装の改良作業
3400 Reuse existing concrete
コンクリートの再利用
3500 Concrete Surface Repairing Work
コンクリート舗装表面の修繕作業
3600 Wayside repairing work
道路付帯設備の修繕作業
3700 Bridge Repairing Work and Structure
橋梁と構造物の修繕作業
4000
Rehabilitation Work
機能回復のための作業
4100 Asphalt pavement rehabilitation work
アスファルト舗装の修復作業
4200 Concrete pavement rehabilitation work コンクリート舗装の修復作業
5000
Improvement Work
改善作業
6000
Solving and Prevention Work
予防保全作業
7000
Safety Work
安全対策作業
8000
Emergency Work
緊急作業
123
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JICA
国際航業
維 持 管 理 費 目 は 、 図 49に 示 す 考 え 方 で 分 類 さ れ て い る 。
Routine maintenanceは 道 路 を 良 好 に 維 持 す る た め に 毎 日 行 わ れ る 作 業 で あ
る 。 道 路 の 状 態 が 良 好 な 間 に 予 防 保 全 と し て 行 わ れ る 作 業 を Periodic
maintenanceと し て い る 。 道 路 の 状 況 が 悪 く な っ て か ら 行 う 修 繕 作 業 を Special
maintenanceと Rehabilitationに 分 類 し て い る 。
そ れ 以 上 悪 化 し て か ら 行 う 作 業 は 、Reconstructionと 言 っ て 新 設 に 分 類 し て い
る 。 Rehabilitationと Reconstructionの 違 い に つ い て は 、 既 存 の 路 床 も 工 事 に 含
ま れ る も の を Reconstructionに 分 類 し て 、 新 設 と し て 扱 っ て い る 。
図 49
維持管理費の分類のガイドライン
出 典 : DOH
Routine maintenance費 用 は 性 状 評 価 区 分 ( 全 部 で 8区 分 ) ご と の 道 路 延 長 、
車 線 数 、舗 装 年 齢 、交 通 量 、照 明 塔 の 数 等 そ の 他 の 道 路 資 産 の 現 在 量 等 の 関 数 と
し て 算 定 さ れ て 、地 域 事 務 所 に 配 布 さ れ る 。Periodic maintenance費 用 、Special
maintenance費 用 は 定 期 修 繕 と 復 旧 の た め の 予 算 で 、地 域 事 務 所 は 一 件 ご と に 概
略 設 計・費 用 見 積 り を 作 成 し 本 局 に 予 算 申 請 す る 。修 繕 予 算 請 求 の た め の 概 略 設
計 に は IRIの 値 等 、 本 局 か ら 提 供 さ れ る 路 面 性 状 計 測 値 も 用 い ら れ る 。
DOH組 織 内 で の 維 持 管 理 費 目 別 の 予 算 の 申 請 フ ロ ー を 図 50に 示 す 。な お 、こ
の 図 の Corrective maintenanceに は 、 Special maintenanceと Rehabilitation予
算が含まれている。
124
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 50
JICA
国際航業
舗装の維持管理予算の要求・承認フロー
出 典 : DOH
Routine maintenance予 算 に は 人 件 費 ・ 光 熱 費 ・ 資 材 費 ・ 外 注 費 を 含 み 、 作 業
は 直 営 ま た は 外 注 に よ り 行 わ れ て い る 。 Periodic及 び Special maintenanceは す
べ て 外 注 に よ り 行 わ れ る 。 な お 、 1 千 万 バ ー ツ 以 下 の 工 事 は 地 域 事 務 所 が 、 1.5
千万バーツ以下の工事は地方道路整備局の承認で発注できるしくみである。
DOHの 全 体 予 算 の 取 り ま と め は 、 Bureau of Planningが 行 っ て い る 。
DOHは 、中 長 期 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 す る た め の 戦 略 分 析 、及 び 与 え ら れ た 維
持 管 理 予 算 の 下 で の 最 適 な 維 持 管 理 計 画 を 作 成 す る た め に TPMS(Thai
Pavement Management System)と 呼 ば れ る PMSを 使 用 し て い る 。
DOHは TPMSを 1984年 か ら 使 用 し て お り 、こ れ は 舗 装 の 劣 化 状 況 等 に 応 じ た 維
持管理工事の選定及び維持管理計画策定のための維持管理工事の優先順位付け
に 用 い ら れ た 。 そ の 後 1989年 に 、 世 界 銀 行 の HDM-3と 組 み 合 わ せ て 維 持 管 理 計
画 策 定 の ツ ー ル と し て 用 い ら れ る た め の 改 定 が 行 わ れ 、 2008 年 ま で 使 用 さ れ て
い た 。 2009年 に DOHは 維 持 管 理 計 画 策 定 能 力 の 向 上 を 目 的 と し て チ ュ ラ ロ ン コ
ン 大 学 に 中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス (Central Road Database:CRD)と 、 TPMSの 新
バ ー ジ ョ ン TPMS2009の 開 発 を 委 託 し た 。
TPMS2009は 、 HDM-4
67の 予 測 モ デ ル ( 舗 装 劣 化 、 維 持 管 理 工 事 効 果 、 利 用
者 費 用 、環 境 影 響 )を ベ ー ス に 構 築 さ れ て い る 。こ れ ら の モ デ ル は 、タ イ 国 の 状
況に合うように改善されている。独自に開発した最適化モデルも装備しており、
維持管理5か年計画の策定や予算要求のための戦略分析を行う機能を持ってい
る 。TPMS で は 、CRDに 格 納 さ れ て い る デ ー タ か ら イ ン プ ッ ト デ ー タ を 作 成 し 、
解 析 を 行 う 。 現 時 点 で は 、 予 算 案 作 成 に TPMSを 用 い 始 め て い る も の の 、 参 考 資
料の位置付けで扱われている。
67
HDM-3の 改 訂 版
125
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2)
JICA
国際航業
実 行 (Do)
道路維持管理は、技術管理本部の都市間高速道路専門部が維持管理計画の策
定 、予 算 管 理 及 び 技 術 指 導 の 統 括 業 務 を 担 っ て い る 。維 持 管 理 作 業 の 実 施 は 維 持
管 理 本 部 が 管 轄 し て お り 、こ の 下 に 計 18の 地 方 局 が 全 国 に あ り 、さ ら に そ の 下 に
あ る 計 104箇 所 の 地 方 事 務 所 が 維 持 管 理 を 実 施 し て い る 。
図 51
点検・評価結果
126
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JICA
国際航業
【本局】
ア)路面性状調査
DOHの 行 う 道 路 性 状 点 検 は 、計 測 車 両 を 用 い て 本 部 が 行 う 全 国 国 道 網 性 状 調 査
と 、全 国 に 配 置 さ れ て い る 地 域 道 路 事 務 所 が 行 う 目 視 に よ る 日 常 点 検 が あ る 。な
お 、交 通 量 調 査 は 、本 部 が 全 国 の 定 点 観 測 地 点 で の 自 動 計 測 を 、地 域 事 務 所 が あ
らかじめ定められた観測地点でマニュアル計測を行っている。
全 国 国 道 網 性 状 調 査 は 、DOH本 部 が 3つ の 大 学( チ ュ ラ ロ ン コ ン 、タ マ サ ー ト 、
カ セ サ ー ト )に 委 託 し て 実 施 し た 。こ の う ち カ セ サ ー ト 大 学 へ の 委 託 分 は STS社
( コ ン サ ル タ ン ト 会 社 )が 下 請 け で 実 施 し て い る 。DOHは 2年 に 一 度 全 道 路 網 の
調 査 を 行 い た い 意 向 で あ る 。路 面 性 状 計 測 車 両 は ARRB社 製 Hawk Eyesを 用 い て
い る 。 タ イ 国 に は 合 計 4台 の Hawk Eyesが あ り 、 チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 、 タ マ サ ー
ト 大 学 、 STS社 の ほ か 、 DOHの Bureau of Materials Analysis and Inspectionが
一 台 ず つ 保 有 し て い る 。Hawk Eyesの 初 期 費 用 は 、約 20,000,000バ ー ツ( 約 5,000
万 円 ) ( カ メ ラ や セ ン サ ー の 数 に よ っ て 異 な る ) 、 調 査 費 用 は 約 800バ ー ツ /km
( STS社 契 約 分 ) で あ る 。 計 測 項 目 は IRI( 平 坦 性 ) 、 Rutting( わ だ ち 掘 れ ) 、
Cracking( ひ び 割 れ )、Ravelling( ア ス フ ァ ル ト 劣 化 )で あ り 、IRI以 外 の 項 目
は 自 動・手 動 の 画 像 解 析 に 基 づ い て い る 。計 測 車 は 、100km/hで 走 行 し な が ら 計
測 デ ー タ を 取 る こ と が 可 能 で あ る が 、 通 常 の 調 査 時 は 60-70km/hで 走 行 し 、 1日
の 生 産 性 は 平 均 150km 程 度 で あ る 。な お 、DOHの Hawk Eyesは 、新 設 区 間 及 び
リ ハ ビ リ 区 間 の 検 収 検 査 に 用 い ら れ て い る 。ま た 、地 域 事 務 所 が 作 成 す る Special
Maintenanceの 予 算 要 求 資 料 を 作 成 す る た め の プ ロ ジ ェ ク ト ベ ー ス の 性 状 計 測
も行っている。
図 52
ARRB社 製 Hawk Eyes 路 面 性 状 計 測 車
出 典 : DOH
技 術 管 理 本 部 は 、 2007年 に 路 面 性 状 調 査 車 両 を 使 用 し て 第 1回 目 の 路 面 性 状 調
査 を 実 施 し 、そ の デ ー タ を 開 発 し た 舗 装 管 理 シ ス テ ム( PMS)に 入 力 し 、計 画 的
に路面性状データを取得・更新しており、データの蓄積に努めている。
127
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 44
JICA
国際航業
路面性状調査実施状況
2007年
第 1回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 60,000km計 測 。
2008年
中央道路データベース使用開始
2009年
舗装管理システムのオンライン運用を開始
2010年
第 2回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 45,000km計 測
2011年
第 2回 そ の 2 路 面 性 状 調 査 実 施 。 第 1回 コ ン ク リ ー ト 舗 装 調 査 実
施。路面性状調査を調達。
2012-2013年
第 3回 路 面 性 状 調 査 実 施 。 中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス 運 用 開 始 。 オ ン
ライン計画策定システム運用開始。ルート選択システム運用開
始 。 災 害 ・ 緊 急 対 応 シ ス テ ム 運 用 開 始 。 23,000km実 施 。
イ)車両台貫検査
道 路 損 傷 の 大 き な 原 因 の 一 つ に は 過 積 載 車 両 の 通 行 が あ る た め 、 DOHは 2013
年 現 在 、全 国 に 計 69箇 所 の 車 両 重 量 を 測 定 す る 台 貫 所 を 設 け て 、過 積 載 車 両 の 取
締 り を 行 っ て い る 。さ ら に 、車 両 重 量 計 測 と 車 両 の 写 真 撮 影 を 自 動 で 行 い 、取 得
デ ー タ を サ ー バ へ 送 れ る バ ー チ ャ ル 台 貫 所 を 2013年 に 2箇 所 設 置 し て い る 。
2013年 に は 車 両 の 重 要 測 定 を 計 30,744,665回 実 施 し 、 1,393台 の 過 積 載 車 両 を
発 見 し た 。 過 積 載 車 両 率 は 低 下 し て き て お り 、 2009年 に は 8.2%だ っ た も の が 、
2013年 に は 4.5%に ま で 改 善 さ れ て い る 。
表 45 過 積 載 車 両 デ ー タ
Fiscal year
2009
2010
2011
2012
2013
Number of
weight station
Number of
weighted
vehicles
Number of
overweight
vehicles
Number of
overweight
vehicle
Nos.
59
64
67
69
69
Nos.
18,989,177
21,670,726
26,758,599
25,045,686
30,744,665
Nos.
1,566
1,150
1,647
1,351
1,393
%
0.008
0.005
0.006
0.005
0.004
Overweight
vehicle per
100,000
vehicles
Nos.
8.2
5.3
6.2
5.4
4.5
ウ)長寿命化技術
DOHは 舗 装 の 長 寿 命 化 技 術 を 採 り 入 れ て い る の で 、 そ の 状 況 を 説 明 す る 。

アスファルトにゴムやエポキシ樹脂等の改質材を加え、耐久性を向上させた改 質 ア
スファルトの使用はタイ国でもかなり広まっており、現地業者でも問題な
く施工ができる状況である.

コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は 、 コンクリート版の上にアスファルト舗装を載せた舗装で、
コンクリート舗装が持つ耐久性と、アスファルト舗装が持つ走行性、維持管理の容
易さの、両者のメリットを併せ持つ舗装である。コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は バ ン コ ク 首
都圏で試験施工を実施済みだが、耐久性を期待して弱い地盤の地域で用い
128
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
たため、短期間でクラックが生じた結果、不適切な技術という評価がタイ
国では定着している。さらに、コンポジット舗装に適した骨材の確保が困
難 と い う 問 題 も あ る 。ま た 、通 常 の 舗 装 よ り 価 格 が か な り 高 く な る こ と も 、
導入の課題である。

粗骨材率を高めることにより耐久性を向上させたSMA舗 装 は 、 す で に DOHが 一
部の道路の交差点付近等、耐久性が要求される箇所で試験的に採用してい
る。結果はよく評価されている。
エ)維持管理研修
維 持 管 理 シ ス テ ム 開 発 課( Maintenance System Development Section)で は 、
職 員 に 維 持 管 理 研 修 を 毎 年 行 っ て お り 、そ こ で は 予 防 保 全 の 重 要 性 、PMSシ ス テ
ム 利 用 方 法 、舗 装 の 劣 化 曲 線 、LCCの 考 え 方 等 を 体 系 的 に 教 え て 、職 員 の 意 識 啓
発と技術レベルの向上を図っている。
【地域事務所】
地 域 事 務 所 の 仕 事 は 道 路 網 現 況 把 握( 点 検 )、予 算 請 求 、配 布 さ れ た 予 算 の 執
行であり、目視巡回により現況を把握し、評価のためのデータを整備している。
計 測 車 両 に よ る 路 面 性 状 調 査 は 全 国 に わ た り 本 局 が 実 施 し て お り 、地 域 事 務 所 で
は 要 所 で 写 真 撮 影 と 目 視 に よ る 評 価 を 行 い 、本 局 が 行 う 路 面 性 状 調 査 を 補 完 し て
い る 。修 繕 予 算 請 求 の た め の 概 略 設 計 に は IRIの 値 等 、本 局 か ら 提 供 さ れ る 路 面
性 状 計 測 値 も 用 い ら れ る 。目 視 巡 回 で 行 う 路 面 性 状 評 価 に つ い て は 点 検 マ ニ ュ ア
ル も 整 備 さ れ て い る が 、管 内 の 道 路 は 交 通 量 が 多 く 、点 検 マ ニ ュ ア ル 通 り の 評 価
は行えないため、独自にアレンジしたマニュアルを用いている。
維 持 工 事 の 実 施 マ ニ ュ ア ル も 整 備 さ れ て い る 。地 域 事 務 所 は 修 繕 工 事 一 件 ご と
に優先順位付けをして本局に予算要求する。本局はこの優先順位も参考にして、
他 の 優 先 プ ロ グ ラ ム( 洪 水 対 策 、観 光 振 興 等 )も 勘 案 し な が ら 全 国 の 地 域 事 務 所
の 年 度 ご と の 実 施 プ ロ グ ラ ム を 作 成 す る 。地 域 事 務 所 は こ の プ ロ グ ラ ム に 基 づ き
修 繕 工 事 を 実 施 す る 。地 域 事 務 所 で は 、配 布 さ れ た 修 繕 予 算 を 再 配 分 す る 権 限 は
ない。
交 通 量 調 査 は 、本 局 が 全 国 の 定 点 観 測 地 点 で の 自 動 計 測 を 、地 域 事 務 所 が あ ら
かじめ定められた観測地点でマニュアル計測を行っている。
地 域 事 務 所 の 職 員 は 毎 日 目 視・写 真 撮 影 に よ る 点 検 を 行 っ て い る 。以 下 に 、地
域 事 務 所 の 1つ で あ る Samutsakhon Highway Districtの 例 に つ い て 記 述 す る 。
当 該 事 務 所 の 管 理 道 路 は 8路 線 か ら な り 、 2 車 線 換 算 道 で 490km( 管 理 道 路 の
半 分 以 上 は 6車 線 以 上 )の 道 路 延 長 で あ る 。事 務 所 で は 4つ の 点 検・維 持 管 理 チ ー
ム を 形 成 し て 日 常 点 検 を 行 っ て い る 。1チ ー ム は 1名 の 長 と 2名 の 技 術 者 、20~ 30
名 の 作 業 員 か ら 成 り 、作 業 員 が 毎 日 点 検 を 行 っ て い る 。点 検 結 果 は 、台 帳 と 写 真
129
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
記 録 と し て コ ン ピ ュ ー タ 上 に 格 納 さ れ 、日 常 維 持 作 業 に 活 用 さ れ る ほ か 、維 持 管
理費用の算定の基準となる歩掛りの妥当性の検証に利用される。
図 53
メンテナンスマニュアルと点検シート
出 典 : DOH
3)
評 価 ( Check)
DOHが 2012年 に 行 っ た 全 国 路 面 性 状 調 査 結 果 を 次 表 に 示 す 。 全 国 平 均 の IRI
は 2.85m/kmと な っ て お り 、 い ず れ の 地 域 で も 規 定 値 の 3.5を 下 回 っ て い る 。
表 46
全 国 路 面 性 状 調 査 結 果 ( 2011年 12月 か ら 2012年 4月 測 定 )
出 典 : DOH
130
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
全 国 道 路 網 性 状 調 査 結 果 、交 通 量 調 査 結 果 、地 域 事 務 所 か ら 提 出 さ れ る Periodic
と Special Maintenanceの 予 算 案 等 は 、 中 央 の CRDに 集 約 さ れ 、 適 宜 、 必 要 と
さ れ る 評 価 項 目 に 応 じ て 適 切 な 情 報( ヒ ス ト グ ラ ム 、地 図 情 報 等 )と し て 出 力 さ
れる。
図 54
データベースの構造
出 典 : DOH
131
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 55
JICA
国際航業
舗装維持管理システム
出 典 : DOH
DOHで は 下 記 の デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム を 整 備 し て い る 。
4)

中 央 道 路 デ ー タ ベ ー ス ( CRD)

ロ ー ド ネ ッ ト ( ROADNET)

高 速 道 路 ア セ ッ ト ITプ ロ グ ラ ム

タ イ ラ ン ド 舗 装 管 理 シ ス テ ム ( TPMS)

予算積算プログラム

災害対応、緊急対応プログラム
見 直 し ( Action)
TPMSの 運 用 実 績 は ま だ 十 分 で は な く 、 ガ イ ド ラ イ ン 的 な 扱 い で 、 計 画 策 定 に
は ま だ 本 格 的 に 活 用 さ れ て い な い 。デ ー タ ベ ー ス に よ る 評 価 結 果 に 基 づ い て 、計
画の見直しを行うことは、今後の課題となっている。
132
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
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(3)
橋梁
1)
橋梁の概要
JICA
国際航業
タ イ 国 で は 橋 梁 建 設 は 1980年 代 か ら 盛 ん に 行 わ れ 、現 在 に 至 っ て い る 。バ ン コ
ク 都 内 で は 、大 型 車 の 通 行 が 規 制 さ れ て い る た め 、橋 梁 の 劣 化・損 傷 の 主 な 原 因
と な る 過 積 載 車 両 は 少 な く 、既 存 橋 梁 の 状 態 も 比 較 的 良 好 で あ る 。図 56に 示 す よ
う に 、 DOHの 管 理 橋 梁 は 、 建 設 後 30年 以 上 の 橋 梁 の 数 が 全 体 の 約 1/3を 占 め て い
る が 、現 在 で も 道 路・橋 梁 の 新 規 建 設 に 重 点 が 置 か れ て お り 、ま た 落 橋 等 人 命 に
関 わ る 重 大 な 事 故 も 発 生 し て い な い た め 、橋 梁 維 持 管 理 に 対 す る 社 会 の 関 心 が 低
いのが現状である。
図 56
DOHが 管 理 す る 橋 梁 の 建 設 後 経 過 年 数 別 橋 梁 数 ( 2014年 2月 現 在 )
出 典 : DOH
図 57
DOHが 使 用 し て い る 橋 梁 の 形 式 分 類
出 典 : DOH
133
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図 58
JICA
国際航業
種類別橋梁数
出 典 : DOH
2)
計 画 ( Plan)
橋 梁 の 点 検 ・ 分 析 ・ 評 価 は 、2006年 に 作 成 さ れ た Bridge Inspection, Analysis
and Evaluation Manual、橋 梁 の 維 持 管 理 は 、2006年 に 作 成 さ れ た 橋 梁 維 持 管 理
マ ニ ュ ア ル Bridge Repair and Maintenance Manualに 従 っ て 実 施 さ れ て い る 。
橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、橋 長 が 10m以 上 の 橋 梁 は 、本 局 の Bureau of Bridge
Constructionが 現 在 10名 の 職 員 で 特 別 点 検・維 持 管 理 、橋 面 舗 装 打 ち 替 え 等 の 修
繕 を 担 当 し て い る 。一 方 で 、橋 長 が 10m以 下 の 橋 梁 は 、地 方 事 務 所 が 点 検 と 維 持
管理を担当している。
3)
実 施 ( Do)
DOHの 橋 梁 点 検 方 法 と し て 、 以 下 の 3 種 類 の 方 法 が 実 施 さ れ て い る 。
定 期 点 検 ( 橋 長 10m以 下 、 Routine Inspection)
地 域 事 務 所 の 職 員 が 2年 に 一 度 の 頻 度 で 全 て の 橋 梁 を 対 象 に 実 施 す る 。 点 検 の
方 法 は 、 橋 梁 の 全 景 写 真 を 3方 向 か ら 撮 影 し て BMMS (Bridge Maintenance and
Management System)に 保 存 し 、 も し 損 傷 が あ れ ば そ の 程 度 を 確 認 し て BMMS
に入力する。
定 期 点 検 ( 橋 長 10m以 上 、 Principle Inspection)
Bureau of Bridge Construction の 傘 下 で 、 全 国 に 4 箇 所 あ る Bridge
Construction and Rehabilitation Centerが 4~ 6年 に 一 度 の 頻 度 で 全 て の 橋 梁 を
134
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JICA
国際航業
対 象 に 実 施 す る 。点 検 の 方 法 は 、橋 脚 、上 部 工 、壁 高 欄 等 全 て の 部 材 の 写 真 を 撮
影 し て BMMSに 保 存 し 、も し 損 傷 が あ れ ば そ の 細 部 の 写 真 を BMMSに 保 存 す る と
ともに損傷の程度についてのコメントも入力する。
特 別 点 検 ( Special Inspection)
洪 水 等 の 災 害 が 発 生 し た 後 に 、 被 害 を 受 け た 橋 梁 を 対 象 に Bureau of Bridge
Constructionの 職 員 が 直 接 点 検 を 実 施 す る 。
ひ び 割 れ に つ い て は 、重 大 な も の だ け を ク ラ ッ ク ス ケ ー ル と 呼 ば れ る 専 用 定 規
を 使 用 し て 計 測 し て い る 。点 検 マ ニ ュ ア ル は 存 在 す る も の の 、実 際 に は 点 検 作 業
は 技 術 者 の 経 験 に 基 づ い て お り 、点 検 者 の 力 量 に よ り 個 人 差 が 生 じ や す い 。ま た 、
点 検 結 果 が 電 子 デ ー タ で 管 理 さ れ て お ら ず 、劣 化・損 傷 の 継 続 的 な 観 察 や 他 橋 と
の 比 較 等 を 行 う こ と は 難 し く 、損 傷 傾 向 の 分 析 や 劣 化 予 測 も な さ れ て い な い の が
現状である。
4)
評 価 ( Check)
DOHの Bureau of Research and Developmentで は 、 2008年 ご ろ よ り 橋 梁 の デ
ー タ ベ ー ス 開 発 を 始 め た 。 そ の 後 2011 年 に 、 DOH の Bureau of Bridge
Constructionが BMMS (Bridge Maintenance and Management System)の 開 発
を カ セ サ ー ト 大 学 に 委 託 し て 、 2012年 8月 に 完 成 し た 。
こ の シ ス テ ム は ウ ェ ブ 上 で 管 理 が 行 わ れ 、 GISに 対 応 し て お り 、 各 橋 梁 の 橋 梁
タ イ プ 、材 料 、建 設 年 、交 通 量 、道 路 の 重 要 性 等 の 情 報 を 整 理 す る こ と に よ り 健
全 度 を 判 定 し 、適 切 な 時 期 に 適 切 な コ ス ト で 補 修 す る こ と を 目 的 と し て い る 。ま
た 最 近 で は 、 タ ブ レ ッ ト 端 末 か ら BMMS に ア ク セ ス し て デ ー タ の ダ ウ ン ロ ー ド
や 更 新 等 が で き る 「 iBRIDGE」 が 外 部 コ ン サ ル タ ン ト 会 社 に よ っ て 開 発 さ れ 、
現 在 、 Bureau of Bridge Construction は
25 台 の タ ブ レ ッ ト 端 末 を 所 有 し て い る 。
BMMS へ の 入 力 項 目 と し て は 、 橋 梁 コ ー
ド、橋梁名、架橋タイプ(河川橋、跨線橋
等)、架橋位置、路線名、幅員、上部工形
式等があり、これらの基本情報とともに写
真データや図面データを保存することがで
きる。
BMMS は 、 ①
Inventory 、 ②
Inspection 、 ③ Evaluation/Analysis 、 ④
Prioritization/Budgeting、⑤ Output/Report、⑥ Data Administration、⑦ Help
Menuの 7 つ の モ ジ ュ ー ル で 構 成 さ れ て い る 。
① Inventoryに つ い て は 、 DOHの 研 究 開 発 局 ( Bureau of R&D) が 2008年 に
135
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JICA
国際航業
作成を開始した橋梁のデータベースを基にしている。
② Inspection に つ い て は 、自 ら マ ニ ュ ア ル を 作 成 し 、DOH職 員 へ の 教 育 も 行
っ て い る 。 点 検 は DOHの 要 求 ・ 技 術 に 応 じ て カ ス タ マ イ ズ し て あ る 。
③ Evaluation/Analysis に つ い て は 、 3つ の 評 価 を 実 施 し て い る 。 1つ 目 は 部
材 や 損 傷 の 形 態 に 即 し た 修 繕 方 法 と 費 用 、 2つ 目 は 残 存 寿 命 の 予 測 、 3つ 目
は 耐 荷 力 の 予 測 で あ る 。 DOHは 簡 便 な 方 法 に よ り 、 一 般 橋 梁 ( ス ラ ブ 橋 、
ボックスガーダー橋等)の寿命を評価している。斜張橋や高架橋は含まれ
ていないが、現在研究中である。
④ Prioritization/Budgetingに つ い て は 、 5つ の 要 素 か ら 算 定 し た ス コ ア を も
と に 判 断 し て い る 。 5つ の 要 素 と は 、 1. 損 傷 度 、 2. 日 平 均 交 通 量 、 3. 道
路 ク ラ ス ( 1桁 か ら 4桁 ま で ) 、 4. 対 策 遅 延 に よ る 影 響 、 5. 橋 梁 の 価 値 で
ある。橋梁の価値の基準は、歴史的橋梁、経済価値の高い橋梁、国際関係
の 面 か ら 通 行 止 め を 起 こ し て は な ら な い 橋 で あ り 、約 20 橋 梁 に 対 し て 、予
算 が 最 優 先 で 割 り 当 て ら れ る 。例 え ば 100ド ル の 予 算 を 4地 域 に 配 分 す る 際 、
80% は 多 少 の 凸 凹 は 許 容 し つ つ 各 地 域 に 配 分 さ れ 、 残 り 20% は 地 域 に 関 係
なく配分されるが、損傷があるところに優先的に配分される。
BMMS の デ ー タ は 本 来 、維 持 管 理 コ ス ト の 算 出 や 補 修 す る 橋 の 優 先 順 位 付 け 、
ま た 中 長 期 の 維 持 管 理 予 算 計 画 を 策 定 す る 際 に 活 用 で き る も の で あ る が 、点 検 や
健 全 度 評 価 を 行 う 職 員 の 数 や 知 識 が 不 足 し て い る た め 、 DOH が 管 理 す る 約
14,939橋 分 の 膨 大 な デ ー タ の 整 理 は 進 ん で い な い 。現 在 の デ ー タ 整 理 状 況 は 、約
5,000橋 の 橋 梁 基 本 情 報 入 力 と 現 場 写 真 の ア ッ プ デ ー ト が 完 了 し て い る も の の 、
残 り の 約 10,000橋 に つ い て は 橋 梁 名 等 一 部 の 基 本 情 報 が 入 力 で き た 段 階 で あ る 。
な お 、 2014年 7月 の 現 地 調 査 時 点 で は シ ス テ ム が 長 期 間 故 障 し て お り 、 シ ス テ ム
の 維 持 管 理 能 力 に も 問 題 が あ る よ う で あ る 。BMMSを 今 後 十 分 に 活 用 し て い く た
め に は 、職 員 の 点 検 技 術 の 向 上 、健 全 度 判 定 に 関 す る 分 析 技 術 の 向 上 、劣 化 予 測
能力の向上、組織能力強化等の改善をしていく必要がある。
5)
見 直 し ( Action)
予 算 申 請 は 単 年 ご と に 行 わ れ て い る が 、そ の プ ロ セ ス は 、地 域 事 務 所 の 職 員 に
よ る 日 常 点 検 で 損 傷 箇 所 を リ ス ト ア ッ プ し て 本 局 へ 報 告 し 、本 局 が 優 先 順 位 付 け
を 行 い 、次 年 度 の 予 算 申 請 を 行 っ て い る 。優 先 順 位 付 け は 現 場 写 真 を も と に 行 わ
れ て お り 、補 修 に か か る 数 量 や 費 用 算 出 の 根 拠 と し て は 改 善 の 余 地 が あ る 。本 来
は 、BMMSの デ ー タ ベ ー ス を 活 用 し て 定 量 的 な 根 拠 を 基 に 予 算 申 請 を 行 う の が 基
本 で あ る が 、そ の 流 れ を 確 立 す る た め に は 、本 局 及 び 地 方 事 務 所 職 員 の 点 検 技 術
や分析技術の向上、組織能力強化を行う必要があり、時間がかかる。
136
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JICA
国際航業
橋梁の維持管理予算
6)
橋 梁 の 維 持 管 理 予 算 獲 得 の た め の 手 続 き フ ロ ー を 下 図 に 示 す 。通 常 点 検・維 持
管 理 の 場 合 と 災 害 時 等 異 常 時 点 検・維 持 管 理 の 場 合 と で は 、予 算 獲 得 ま で の 手 続
きは異なっている。
図 59
DOH の 橋 梁 維 持 管 理 予 算 獲 得 フ ロ ー
出 典:日 本 の 先 端 測 量 機 器 及 び 計 測 技 術 を 活 用 し た 構 造 物 の 3D維 持 管 理 手 法 普 及 に 係 る 案
件化調査
(4)
アセットマネジメントの現状と課題
新 設 道 路 を 建 設 す る 際 に 、そ の 年 の 新 設 予 算 が 建 設 予 定 道 路 延 長 分 に 不 足 す る
場合に、アスファルトコンクリートの施工を2段階に分けた施工が行われてい
る 。 例 え ば 厚 さ が 計 15cmの 舗 装 を 、 第 一 段 階 に 10cm、 第 二 段 階 に 5cmと し て 、
第 二 段 階 を 将 来 施 工 す る 計 画 と す る 。し か し 実 際 に は 、第 一 段 階 の み が 施 工 さ れ
て 、第 二 段 階 は 行 わ れ な い ま ま と な る 問 題 が 発 生 し て い る 。こ の 道 路 建 設 単 価 が
実 績 値 と し て 認 識 さ れ た 結 果 、十 分 な 新 規 建 設 予 算 が 獲 得 で き な い 状 況 に な っ て
いる可能性が推測される。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 要 と な る 工 学 的・経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 分 野 に お い
て 、現 在 、点 検 の 強 化 、デ ー タ ベ ー ス の 強 化 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、長 寿 命 化
技術の研究や試行も行っている。それらの知識と技術の研修を定期的に実施し
て 、職 員 の 維 持 管 理 技 術 能 力 の 向 上 と 意 識 改 善 に 努 力 し て い る 。予 防 保 全 予 算 の
比率が増加しているのは、その効果によるところがある。
実 務 レ ベ ル で は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 重 要 性 を よ く 理 解 し 、か な り の 努 力 を
行 っ て い る た め 、こ れ を 支 援 す る た め の 仕 組 み 、例 え ば 長 寿 命 化 を 推 進 す る 上 位
計画を設けること等が重要である。
137
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4.4.3
JICA
国際航業
運 輸 省 地 方 道 路 局 (DRR)
(1)
概要
1)
施設概要
DRR( Department of Rural Roads) は 主 に タ イ 国 全 土 の 地 方 道 路 ネ ッ ト ワ
ー ク の 建 設 及 び 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。DRRが 維 持 管 理 を し て い る 道 路 の 総 延
長 は 約 40,000km、 構 造 物 の 数 は 約 8,000( う ち 橋 梁 は 約 4,100橋 、 残 り は ボ ッ ク
ス カ ル バ ー ト 等 )あ り 、橋 梁 に つ い て は 地 方 部 の み な ら ず 、バ ン コ ク 都 内 の チ ャ
オプラヤ川に架かる橋も管理している。
2)
実施体制
DRRは 本 局 、 18の 地 方 局 ( Regional Bureau) 、 76の 地 方 事 務 所 ( Provincial
Office) で 構 成 さ れ て お り 、 地 方 事 務 所 の 下 に 376の 出 張 所 を 設 け る 組 織 拡 充 を
開 始 し て い る 。日 常 管 理( Daily Inspection, Routine Maintenance)の た め の 現
場 到 達 時 間 を 2時 間 以 内 と す る こ と を 目 的 と し た も の で あ り 、 既 に 81の 出 張 所 が
設立されている。
DRRの 組 織 は 、 局 長 (Director General)の 下 に 3名 の 副 局 長 (Deputy Director
General)と 1名 の 技 師 長 (Chief Engineer)が い る 。加 え て 、本 局 に は 12の 部 と 1つ
の セ ン タ ー 、 3つ の 室 が 設 置 さ れ て い る 。
地 方 局 と 地 方 事 務 所 に は 、計 1,600名 の 正 職 員 、計 1,800名 の 契 約 職 員 が 所 属 し
ており、出張所の拡充とともに職員数の増大が計画されている。
DRRの 役 割 は 、地 方 道 の 建 設 、管 理 、ネ ッ ト ワ ー ク 確 保 に 加 え 、標 準 図 面 、仕
様 書 、点 検・評 価 マ ニ ュ ア ル 等 、計 画 か ら 維 持 管 理 ま で の 地 方 自 治 体 の 教 育 で あ
り 、具 体 的 に は 地 方 事 務 所 に 地 方 自 治 体 の 職 員 を 招 い て 研 修 を 実 施 し た り 、DRR
職員が地方自治体に出向いて指導したりしている。
バ ン コ ク 都 内 の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、本 局 に あ る 橋 梁 建 設 部( Bureau of
Bridge Construction) 及 び 維 持 管 理 部 ( Bureau of Road Maintenance) が 担 当
し て お り 、 地 方 部 の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 18の 地 方 局 ( Bureau of Rural
Road 1-18) が 担 当 し て い る 。
3)
財務状況
2012年 の 予 算 の 配 分 額 は 、29,597百 万 バ ー ツ で そ の う ち 維 持 管 理 費 は 道 路・橋
梁 あ わ せ て 13,500百 万 バ ー ツ ( 約 337.5億 円 ) で あ っ た 。 こ れ は 、 予 算 要 求 額 の
約 20%と の こ と で 、 内 訳 は 以 下 の 通 り で あ る 。
・ Routine ( 47,436km) 2,555百 万 バ ー ツ (63.9億 円 )
・ Periodica (830 km) 2,135百 万 バ ー ツ (53.4億 円 )
・ Special (410 km) 1,722百 万 バ ー ツ (43.1億 円 )
138
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JICA
国際航業
・ Emergency 80百 万 バ ー ツ (2.8億 円 )
・ Survey & Inspection 126百 万 バ ー ツ (31.5億 円 )
DRRの 予 算 は 2013年 が 33,951百 万 バ ー ツ 、 2014年 が 38,045百 万 バ ー ツ 、 2015
年 の 予 算 は 40,597百 万 バ ー ツ と 純 増 し て い る 。 2015年 の 維 持 管 理 費 用 は 21,256
百 万 バ ー ツ と 予 算 全 体 の 53%を 占 め て お り 、 維 持 管 理 費 用 は 増 加 傾 向 に あ る 。
Regional
Central
図 60
DRRの 組 織 図
139
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(2)
舗装
1)
計 画 ( Plan)
JICA
国際航業
本 局 で は 期 間 3年 の 中 期 計 画 と 年 次 計 画 を 作 成 し て い る 。地 方 局 で は 3年 間 の 中
期 計 画 を 作 成 し て い る 他 、出 張 所 毎 に 年 間 計 画 、四 半 期 計 画 、月 間 計 画 、週 間 計
画を作成している。
DRRで は 、予 算 計 画・予 算 配 分 の ツ ー ル と し て PMMS( Pavement Maintenance
Management System)と 呼 ば れ る PMSを 2005年 に 導 入 し た 。DRRは 多 く の 種 類
の 道 路 を 管 理 し て い る た め 、PMMSは パ ラ メ ー タ 、入 力 デ ー タ 、最 適 化 の 方 法 も
DOHが 使 用 し て い る TPMSと は 異 な っ て い る 。便 益 の 算 定 に も 人 口 や 地 域 の 状 況
も加味する必要がある。
PMMSは 、 WEBベ ー ス の ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 7 つ の モ ジ ュ ー ル か ら 構 成 さ れ
ている。
 Road Inventory Module( 道 路 イ ン ベ ン ト リ ー モ ジ ュ ー ル )

Road Condition Database( 道 路 コ ン デ ィ シ ョ ン デ ー タ ベ ー ス )

Treatment Strategy Analysis Module.( 補 修 戦 略 分 析 モ ジ ュ ー ル )

Budget and Cost Database( 予 算 ・ 費 用 デ ー タ ベ ー ス )

Prioritization Analysis Module( 優 先 順 位 分 析 モ ジ ュ ー ル )

Maintenance History Database( 補 修 履 歴 デ ー タ ベ ー ス )

Presentation and Reporting Module( プ レ ゼ ン ・ レ ポ ー ト モ ジ ュ ー ル )
し か し な が ら 、ま だ 予 算 案 作 成 に こ の シ ス テ ム は 活 用 さ れ て お ら ず 、現 在 は デ
ータの蓄積とその活用方法を研究している段階である。
現 在 行 わ れ て い る 予 算 案 の 作 成 方 法 は 、実 際 に 道 路 建 設 と 維 持 管 理 業 務 を 実 施
し て い る 各 出 張 所 が 次 年 度 予 算 案 を 作 成 し 、そ れ を 地 方 局 へ 提 出 す る 。地 方 局 で
は 各 出 張 所 か ら 提 出 さ れ た 予 算 案 を 審 査・調 整 し て 地 方 局 の 予 算 案 を 作 成 し 、本
部 へ 提 出 す る 。本 部 は 各 地 方 局 か ら 提 出 さ れ た 予 算 案 と 、本 部 部 署 か ら 提 出 さ れ
た 予 算 案 等 、全 て の 予 算 案 を 審 査 し 調 整 し た う え で DRR全 体 予 算 案 を 作 成 し 、運
輸 省( MOT) へ 提 出 す る 。 MOTが DRRの 予 算 を 決 め た 後 に 、 DRRは 各 本 部 部 署
と各地方局の最終予算を決め、地方局は各出張所の予算を決める。
道 路 建 設 予 算 は 毎 年 少 し ず つ 増 加 し て い る が 、維 持 管 理 予 算 は ほ と ん ど 増 加 し
て お ら ず 、現 状 の 2倍 く ら い 必 要 で あ る と バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 長 は 言 っ て い る 。
維 持 管 理 予 算 は 、 Routine、 Periodic、 Special、 Emergency Maintenanceの 4
つ に 分 か れ て い る 。Routine Maintenance予 算 は 日 常 業 務 の 点 検・維 持 管 理 に 充
て ら れ 、Periodic Maintenanceは 舗 装 の オ ー バ ー レ イ 工 事 等 主 に 外 注 で 行 う 予 算
で あ る 。 Special Maintenance は 更 新 等 の 大 規 模 な 工 事 で あ る 。 Routine
Maintennace予 算 は 管 理 道 路 延 長 当 た り の 単 価 が 決 ま っ て お り 、 現 在 は 2車 線 道
路 1km当 た り が 30,000バ ー ツ で あ る 。Periodic Maintenance予 算 は 、各 出 張 所 が
140
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JICA
国際航業
個 別 に 積 算 を し て 予 算 案 を 作 成 し 、本 部 へ 申 請 す る 。本 部 は 、通 常 は 申 請 受 理 後
に 、根 拠 と し て 舗 装 の ベ ン ケ ル マ ン ビ ー ム 調 査 の 実 施 を 求 め 、地 方 局 ま た は 出 張
所 が 調 査 し た 結 果 報 告 を も と に 予 算 を 承 認 す る 。な お 、プ ロ ジ ェ ク ト ご と の 積 算
に は 、 PMSデ ー タ ベ ー ス を 用 い て い る 。
図 61
ベンケルマンビーム調査例
出 典 : DRR
2)
実 施 ( Do)
点検と維持管理は本部と地方局が下記の通り役割分担をして行っている。
作業項目
担当部署
路面性状調査
本局
路面性状調査データベース管理
本局
舗装の点検と維持管理
地方局
バンコク都内の大規模橋梁点検・維持管理
本局
一般的橋梁の点検・維持管理
地方局
DRRで は 、チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 と の 共 同 に よ り 、独 自 の 路 面 性 状 調 査 車( Rosy
Car : Road Survey Car) を 開 発 し 運 用 し て い る 。 Rosy Carに は 、 舗 装 路 面 を 撮
影 す る カ メ ラ 、GPS等 の 機 材 を 搭 載 し 、平 坦 性( IRI値 )の 計 測 を 実 施 し て い る 。
現 在 、 DRRで は 5台 の Rosy Carを 保 有 し て お り 、 さ ら に 次 年 度 、 3台 を 開 発 す る
予 定 と し て い る 。し か し 、ま だ 十 分 な デ ー タ が 取 得 で き て い な い た め 、実 用 段 階
に達していない
141
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図 62
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開 発 し た 路 面 性 状 調 査 車 ( Rosy Car)
出 典 : DRR
評 価 ( Check)
3)
道 路 維 持 管 理 に 関 し て 3 つ の シ ス テ ム ( PMMS : Pavement Maintenance
Management System、 RMMS: Routine Maintenance Management System、
CRD: Central Road Database) が 稼 働 し て い る 。
橋 梁 に つ い て は 、 JICAの 支 援 に よ り BMSが 2013年 に 構 築 さ れ て お り 、 そ の 際
に 、整 合 性 の あ る 点 検 デ ー タ を 取 れ る よ う に 、点 検 マ ニ ュ ア ル の 整 備 や 職 員 の 訓
練 等 が 行 わ れ て い る 。 そ の 後 、 DRRは コ ン サ ル タ ン ト へ 委 託 し て 、 2,000橋 梁 の
点 検 を 行 っ て 、点 検 デ ー タ を BMSへ 保 存 し て い る 。点 検 は 目 視 に よ る 簡 単 な も の
で 、 委 託 費 は 7,000バ ー ツ / 橋 梁 で 、 計 14百 万 バ ー ツ で あ っ た 。 残 り の 約 6,000
の 橋 梁 の 点 検 は 、DRRの 地 方 局 が 3年 以 内 に 完 了 さ せ 、点 検 デ ー タ を BMSに 入 力
する計画である。
な お 、DRR は 全 体 会 議 を 毎 週 行 っ て お り 、地 方 局 長 も TV 会 議 で 参 加 し て い る 。
(3)
地方局のマネジメント
バンコク都内の地方局を調査した結果を記載する。
1)
施設概要と実施体制
管 轄 区 域 内 の 道 路 延 長 は 、2車 線 道 路 と し て 約 16,000kmで 、そ の う ち の 90%以
上 が ア ス フ ァ ル ト 舗 装 で 、約 10%が コ ン ク リ ー ト 舗 装 、40~50kmが ラ テ ラ イ ト 道
路 で あ る 。 コ ン ク リ ー ト 舗 装 の 施 工 単 価 は ア ス フ ァ ル ト 舗 装 の 2倍 く ら い で あ る
が 、コ ミ ュ ニ テ ィ 道 路 等 は 維 持 管 理 が 難 し い た め 、高 価 だ が 維 持 管 理 が 不 要 で 耐
用年数の長いコンクリート舗装を採用する場合が多い。
142
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国際航業
各 出 張 所 の 職 員 数 は 、 正 職 員 ( permanent staff ) が 10 ~ 20 名 、 契 約 社 員
( temporary staff)が 10~ 20名 、日 雇 い 労 働 者( casual worker)が 10~ 20名 と 、
計 40~ 50名 で あ る 。 地 方 局 事 務 所 の 職 員 数 は 約 50名 で あ る た め 、 地 方 局 No.1全
体 の 職 員 数 は 約 300名 で あ る 。出 張 所 の 職 員 の 役 割 分 担 は 特 に な く 、一 人 が 建 設 、
点 検 、維 持 管 理 等 あ ら ゆ る 作 業 を 行 っ て い る 。各 出 張 所 は 建 設 機 材 や 車 両 も 所 有
している。
2)
計 画 ( Plan)
計 画 は 、 3年 間 の 中 期 計 画 を 作 成 し て い る 他 、 出 張 所 毎 に 年 間 計 画 、 四 半 期 計
画、月間計画、週間計画を作成している。
3)
実 施 ( Do)
【点検・維持管理】
各 出 張 所 は 、作 業 員 が 所 有 す る 機 材 を 使 っ て 、道 路 の 建 設 及 び 点 検・維 持 管 理
を 行 っ て い る 。地 方 局 内 で 共 通 の 道 路 点 検 シ ー ト と 橋 梁 点 検 シ ー ト を 使 用 し て い
る が 、 DRRで は 2014年 8月 1日 か ら 道 路 点 検 用 に タ ブ レ ッ ト の 試 行 を 開 始 し た た
め 、 バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 で 現 在 は 道 路 点 検 シ ー ト を 使 用 し て な い 。 PMMS の
デ ー タ ベ ー ス (CRD: Central Road Database)に 点 検 デ ー タ を 入 力 す る の は 各 地
方局と出張所の役割である。
PMSの ホ ー ム ペ ー ジ
現地写真が保存され閲覧できる。
橋 梁 点 検 に つ い て は 、地 方 局 が 点 検 シ ー ト を 使 っ て 点 検 し 、デ ー タ 管 理 を し て
お り 、 異 常 が 認 め ら れ た 場 合 の み 本 部 へ 連 絡 し て い る 。 JICAが 作 成 し た BMSは
本 部 の 部 署 が 直 接 管 理 し て い る た め 、バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 で は 使 用 で き る よ う
に な っ て お ら ず 、そ の 存 在 も 知 ら れ て い な か っ た 。つ ま り 、橋 梁 点 検 に つ い て は 、
従来の方法から新しい方法への過渡期にあると思われる。
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【調査・設計・データベース】
バ ン コ ク 都 内 の 地 方 局 に あ る 調 査 設 計 室 に は 、 正 社 員 2名 と 契 約 社 員 4名 が 勤
務 し て お り 、6名 全 員 が PMMSと AUTO CADを 使 用 で き る 。こ こ で は 、PMMSに
保 存 さ れ て い る 道 路 区 間 長 、履 歴 デ ー タ 、交 通 量 デ ー タ 、状 況 写 真 、現 地 調 査 状
況 説 明 等 の デ ー タ を 参 照 し て 、現 地 測 量 、交 通 量 調 査 、設 計 、積 算 、発 注 図 書 作
成 、道 路 に 損 傷 が 発 生 し た 際 の 瑕 疵 の 確 認 等 の 業 務 を 行 っ て い る 。こ の 調 査 設 計
室 が 地 方 道 路 局 内 の 工 事 の 発 注 図 書 を 作 成 し な が ら 、履 歴 デ ー タ 管 理 及 び 図 面 の
更 新 も 確 実 に 行 っ て い る 。な お 、図 面 は 、CADで 図 面 作 成 す る よ う に な っ て か ら
は電子データで、それ以前の多くの図面は紙で保管している。
PMMSは GISで は な く 、 シ ン プ ル な デ ー タ ベ ー ス で あ り 、 出 張 所 で も 日 常 的 に
日 常 業 務 に 十 分 に 活 用 さ れ て い る 。PMMSは CRDに 組 み 込 ま れ て お り 、利 用 す る
際 に は CRDに ロ グ イ ン し て か ら PMMSに 入 る よ う に な っ て い る 。出 張 所 で ア ク セ
スできるデータは管轄管内のデータのみと制限されている。
評 価 ( Check)
4)
地 方 局 で は 毎 月 、 技 術 会 議 と 総 務 会 議 の 2種 類 の 会 議 を 行 っ て い る 。 技 術 会 議
は 、各 出 張 所 の 責 任 者 が 地 方 局 に 集 ま っ て 、進 捗 報 告 を 行 い 、問 題 や 対 策 等 に つ
い て 議 論 し 、計 画 通 り に 進 捗 す る よ う 調 整 し て い る 。年 間 計 画 表 に は 、毎 月 の 計
画 目 標 値 と し て 工 事 延 長 ( km) と 金 額 が 記 載 さ れ 、 そ こ に 毎 月 の 進 捗 を 記 載 し
て、累計進捗を折れ線グラフで描いて、乖離をモニタリングしている。
一 方 、総 務 会 議 は 、会 場 を 各 出 張 所 持 ち 回 り で 行 っ て お り 、各 出 張 所 の 担 当 者
が他の出張所の運営方法を実際に見られるようにしている。
(4)
橋梁
2002年 に DRRが 設 立 さ れ て 以 来 、 バ ン コ ク 都 内 の 橋 梁 の 建 設 は バ ン コ ク 都 が
行 い 、中 央 政 府( 運 輸 省 )は 建 設 費 の 負 担( 40%)の み を 行 う こ と に な っ て い る 。
従 っ て 、DRRの 業 務 と し て は 、バ ン コ ク 首 都 圏 で は 既 設 橋 梁 の 維 持 管 理 と バ ン コ
ク 都 外 の DRR管 轄 橋 梁 の 建 設 と 維 持 管 理 を 担 当 す る こ と に な っ て い る 。
DRRに は 橋 梁 維 持 管 理 に 関 す る マ ニ ュ ア ル が 複 数 存 在 し 、 混 乱 し て い た が 、
JICAの 技 術 協 力 に よ っ て 整 理 さ れ て 、 現 在 は そ れ が 使 用 さ れ て い る 。
維 持 管 理 部 に は 、管 理 、計 画 、維 持 管 理 シ ス テ ム 、道 路 維 持 管 理 と 橋 梁 維 持 管
理 の グ ル ー プ が あ る 。 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 架 橋 の う ち 鋼 ト ラ ス 橋 3橋 、 PC箱 桁 橋 7橋
に つ い て は 、維 持 管 理 部 に 属 す る 課 が 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。一 方 、斜 張 橋 に
つ い て は 、 橋 梁 建 設 部 ( Bureau
of
Bridge Construction) の 担 当 課 が 維 持 管
理 を 行 な っ て い る 。 さ ら に 橋 梁 建 設 部 に は 地 方 橋 の 点 検 を 担 当 す る 課 ( Bridge
Inspection Division) が 置 か れ て い る 。
144
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(5)
日本の技術協力
1)
タ イ 国 橋 梁 維 持 管 理 計 画 調 査 ( チ ャ オ プ ラ ヤ 川 架 橋 ) ( 2011年 )
JICA
国際航業
JICAの 技 術 協 力 と し て 、 下 記 の プ ロ ジ ェ ク ト が 実 施 さ れ た 。
①
DRRが 所 管 す る チ ャ オ プ ラ ヤ 川 12橋 の 点 検 と そ の 健 全 性 の 把 握
②
チ ャ オ プ ラ ヤ 川 12橋 の 維 持 管 理 計 画 の 策 定
③
DRRの 橋 梁 維 持 管 理 体 制 の 提 案
④
維持管理能力の技術移転
タイ国地方における橋梁基本計画作成・橋梁維持管理能力プロジェクト
2)
( 2013年 )
JICAの 技 術 協 力 と し て 、 下 記 の プ ロ ジ ェ ク ト が 実 施 さ れ た 。
①
DRR が 管 理 す る 8,000 橋 の 橋 梁 点 検 計 画 の 作 成 及 び 橋 梁 点 検 パ イ ロ ッ ト
プロジェクトの実施
② 橋 梁 維 持 管 理 シ ス テ ム ( Bridge Maintenance Management System、
以 下 BMMS) の 整 備 支 援
③ セミナー、ワークショップ及びトレーニングの実施
④
(6)
DRR が 作 成 し た 橋 梁 整 備 基 本 計 画 の レ ビ ュ ー 及 び 助 言 の と り ま と め
アセットマネジメントの現状と課題
DRR と DOH は ほ ぼ 同 じ 状 況 に あ る 。 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 要 と な る 工 学
的・経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 分 野 に お い て 、現 在 、点 検 の 強 化 、デ ー タ ベ ー ス の
強 化 に 取 り 組 ん で い る 。そ れ が あ る 程 度 、整 備・強 化 さ れ て 、デ ー タ の 精 度 が 確
保 さ れ た 後 に 、 LCC分 析 等 の 経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト の 強 化 に 取 組 め る 状 況 に 至
る 。 DRRで は 経 済 的 な マ ネ ジ メ ン ト へ 進 む 段 階 に 来 て い る こ と を 認 識 し て お り 、
そのための技術支援を要望している。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト で 重 要 な 長 期 的 視 点 で の マ ネ ジ メ ン ト に つ い て は 、そ れ
ら の 強 化 の 成 果 が あ る 程 度 現 れ る こ と と 、組 織 全 体 の 企 画 機 能 の 強 化 等 が 必 要 で
ある。
145
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.4.4
JICA
国際航業
タ イ 高 速 道 路 公 社 (EXAT)
(1)
概要
1)
施設概要
タ イ 高 速 道 路 公 社 (EXAT: Expressway Authority of Thailand) は バ ン コ ク 首
都 圏 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 の 建 設 及 び 維 持 管 理 を 担 当 し て い る 。2012年 時 点 で
全 8路 線 、 総 延 長 207.9kmの 高 速 道 路 を 運 営 し て い る 。 8 路 線 の う ち 2 路 線 は 民
間 会 社 の バ ン コ ク 高 速 道 路 株 式 会 社 (BECL社 )と バ ン コ ク 北 部 高 速 道 路 株 式 会 社
(NECL社 )が BTO( Build-Transfer-Operate) 方 式 契 約 に 基 づ い て 、 運 営 ・ 管 理
を 行 っ て い る 。 従 っ て 、 EXATが 直 接 維 持 管 理 し て い る の は 137.9kmで 、 BECL
社 と NECL社 が そ れ ぞ れ 38.4km、 32kmを 維 持 管 理 し て い る 。
Legend: Name of Expressw ay
Chaloem Maha Nakhon Expressway
Si Rat Expressway
Chalong Rat Expressway
Burapha Withi Expressway
Udon Ratthaya Expressway
Third stage expressway System, S1 section
Bang Phli – Suk Sawat Expressway
Ramindra – Outer Ring Road Expressway
図 63
EXATの 管 轄 す る 高 速 道 路
出 典 : OpenStreetMap image
146
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 47
3b
4
5
6
7
8
9
EXATの 管 轄 す る 高 速 道 路 一 覧
道路名
No
1
1a
1b
1c
2
2a
2b
2c
2d
3
3a
JICA
国際航業
供用開始
年
道路延長
(km)
1981
1983
1987
8.9
7.9
10.3
EXAT
EXAT
EXAT
1993
1996
1993
2000
12.4
9.4
8.0
8.6
BECL 社
BECL 社
BECL 社
BECL 社
1996
18.7
EXAT
2009
9.5
EXAT
2000
1999
2005
2007
55.0
32.0
4.7
22.5
EXAT
NECL 社
EXAT
The Chaloem Maha Nakhon Expressway
Din Daeng Port section
Bang Na port section
Dao Kanong port section
The Si Rat Expressway
Ratchadapisek road passing Phayathai interchange and RamaIX road
Payathai interchange to Chaloem Maha Nakhon expressway
Rathcadapisek road to Chaeong Watthana road
Rama IX road to Sri Nagarindra road
The Chalong Rat Expressway
Ram Inthra at KM 5.5 to Narong
Ram Inthra road linking to Outer ring road connecting to Chalong Rat
expressway
The Burapha Withi expressway
The Udon Ratthaya Expressway
The Bang Na-At Narong Expressway
The Bang Phli-Suk Sawat Expressay
The Access Road links Bang Phlisuk Sawat Expressway to Burapha
Withi Expressway and Outer Bangkok Ring Road
The Elevated Access Road in the South of Suvanabhuri Airport link
with the Burapha Withi Expressway
Total road length owned by EXAT
Total road length maintained by EXAT
維持管理
組織
207.9
137.5
出 典 : EXAT資 料 よ り 調 査 団 作 成
高 速 道 路 を 供 用 年 数 別 に 見 る と 、 供 用 開 始 か ら 30 年 以 上 の も の が 16.8km
( 8%)、20年 か ら 30年 が 27.1km( 13%)、10年 か ら 20年 が 124km( 61%)、10
年 以 下 が 36.7km( 18%) と な っ て お り 、 全 体 的 に 新 し い 施 設 で あ る 。
単 位 : km
図 64
EXATの 道 路 の 供 用 年 数 別 分 類
出典:調査団作成
高 速 道 路 の 構 造 は 、 ほ と ん ど が PCコ ン ク リ ー ト 構 造 の 高 架 橋 で あ り 、 一 部 が
盛 り 土 構 造 で 、 そ の 他 に 下 記 に 記 す 2つ の 長 大 橋 が あ る 。
147
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 48
JICA
国際航業
EXATの 管 轄 す る 長 大 橋 一 覧
橋名
Rama 9 Bridge
Kanjanapisek Bridge
構造形式
斜張橋
斜張橋
川名
Chao Phraya川
Chao Phraya川
車線数
3車 線 ×2
4車 線 ×2
橋長
781.20 m
941m
幅
33m
36.7m
高さ
87m
187.6m
最長スパン
450m
500m
クリアランス
41m
供用開始年
1987
2)
2007
実施体制
維 持 管 理 局 ( Maintenance Department) の 中 に 、 下 記 の 4 つ の 部 が あ る 。

Expressway maintenance division

Building and general property maintenance division

Equipment maintenance division

Equipment and mechanical equipment and vehicle division
上 記 の 道 路 維 持 管 理 部 ( Expressway maintenance division) が 、 主 要 な 道 路
施設の点検・維持管理を行っているが、その主な作業分担を次表に示す。
表 49
道路維持管理部内の組織の役割分担
名称
維持管理計画課
点検・維持管理課1
英語名称
担当作業
Maintenance Planning
高架橋の下部構造の点検・維
Section
持管理
Inspection and
上部構造の点検・維持管理
Maintenance Section 1
点検・維持管理課2
上部構造の点検・維持管理
Inspection and
Maintenance Section 2
橋梁維持管理課
Bridge Maintenance
Section
148
橋梁の点検・維持管理
149
図 65
EXAT組 織 図
出 典 : EXAT Annual Report 2013
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
3)
JICA
国際航業
財務状況
高 速 道 路 の 利 用 者 数 は 、 営 業 距 離 が 一 定 で あ る に も 関 わ ら ず 、 5%以 上 の 伸 び
率で年々増えており、売上げの伸びにつながっている。
表 50
高速道路延長と利用者数の推移
2009
2010
Total service covering length (km)
207.9
207.9
207.9
207.9
207.9
Traffic Volume (milion trips /day)
1.24
1.31
1.42
1.52
1.61
11.7%
5.9%
8.1%
7.4%
6.1%
Trips Increase from last year
2011
2012
2013
出 典 : EXAT Annual Report 2013
そ の 結 果 、 EXATの 収 入 は 年 々 増 加 し て お り 、 そ れ に 伴 い 純 利 益 も 増 加 し 、 利
益 率 も 向 上 し て お り 、 2013年 の 利 益 率 は 45%に 達 し て い る 。
表 51
Item
EXATの 損 益 計 算 書 ( 2008~2013年 )
単位:百万バーツ
2,008
2,009
2,010
2,011
2,012
2,013
Total Revenue
6,036
7,600
8,918
12,096
12,902
14,516
Total Expense
4,794
5,038
5,832
6,575
7,059
7,927
Net Profit
1,242
2,561
3,086
5,521
5,842
6,589
21%
34%
35%
46%
45%
45%
Net Profit/Revenue
出 典 : EXAT Annual Report 2013
EXATの 資 産 の ほ と ん ど が 有 形 固 定 資 産 で 、 そ の 内 訳 は 2013年 9月 現 在 、 土 地
と 構 造 物 で ほ ぼ 半 分 ず つ で あ る 。負 債 の 返 済 が 順 調 に 進 み 負 債 が 減 少 し て い く 一
方、毎年利益が蓄えられ自己資本は順調に増加している。
表 52
Item
Current Assets
EXATの 貸 借 対 照 表 ( 2008~2013年 )
単位:百万バーツ
2008
2009
2010
2011
2012
2013
6,684.97
6,744.44
8,200.18
9,316.92
7,968.78
6,776.81
Fixed Assets
Other Assets
162,825.99
17,092.10
166,632.26
16,091.91
167,209.37
14,484.90
170,692.78
5,599.77
170,315.97
4,944.47
170,612.68
4,353.97
Total Assets
186,603.06
189,468.61
189,894.45
185,609.47
183,229.22
181,743.46
Total Liabilities
Total Equity
103,849.75
82,753.31
97,037.31
92,431.30
91,615.76
98,278.69
94,413.00
91,196.47
87,696.93
95,532.29
79,800.42
101,943.04
Total Liabilities & Equity
186,603.06
189,468.61
189,894.45
185,609.47
183,229.22
181,743.46
出 典 : EXAT Annual Report 2013
150
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 53
JICA
国際航業
有 形 固 定 資 産 の 内 訳 ( 2013年 9月 末 現 在 )
単位:百万バーツ
Item
Cost
Land
Accumulated
Net book
Depreciation
depreciation
value
period
79,889.97
-
79,889.97
-
108,630.11
20,995.03
87,635.08
75 years
Building
1,802.17
681.65
1,120.52
5-40 years
Office tools
1,261.72
906.83
354.89
5 years
Engineering equipment
129.98
92.45
37.53
5 years
Vehicles
739.32
477.27
262.05
5-15 years
192,453.27
23,153.23
169,300.04
Expressway
Total
出 典 : EXAT Annual Report 2013
上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分
析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 45%と 収 益 力 は 高 い 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 68は 、
投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 38%で 、過 去 の 投 資 に 係 る 減
価 償 却 の 4割 程 度 の 水 準 で 資 金 を 確 保 で き て い る 状 況 で あ る 。 有 形 固 定 資 産 の 取
得 費 用 の う ち 償 却 し て い る の は 12%で あ る 。69こ れ は 、取 得 費 用 の 約 4割 が 土 地 で 、
高 速 道 路 は 償 却 期 間 が 75年 と 長 い こ と も あ る が 、多 く の 施 設 は ま だ 比 較 的 若 い 状
態であると考えられる。
表 54
評価項目
主な財務指標
評価指標
2013
収益力
売上高利益率
45%
更新費用確保
更新投資充当可能資金対減価償却
累計額比率
38%
老朽化度合い
有形固定資産減価償却率
12%
以 上 の 考 察 よ り 、 EXATの 収 益 力 は 高 く 、 老 朽 化 も ま だ 先 で あ り 、 更 新 費 用 の
確保状況も大きな問題がある状況ではないと考えられる。
維 持 管 理 関 連 の 費 用 を 見 る と 、維 持 管 理 関 連 予 算 は 毎 年 増 加 し て お り 、全 支 出
の 8-9%を 占 め て い る 。 申 請 通 り の 金 額 を 配 分 さ れ て い る と の こ と で あ る 。
68
更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累
計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、
2013年 に 38%で あ る 。
69
有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却
対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 12%で あ る 。
151
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 55
JICA
国際航業
維 持 管 理 費 予 算 の 推 移 ( 2011年 ~2015年 )
単位:百万バーツ
Item
Maintenance, Labor cost
Civil work Maintenance, Labor cost
Maintenance, Expense
Civil work Maintenance, Expense
Total Maintenance Budget
Total Expenditure
Maintenance cost / Total expenditure (%)
2011
209
41
290
21
499
6,575
8%
2012
2013
237
41
374
33
611 ni
7,059
7,927
9%
2014
294
53
467
26
761
9,237
8%
2015
304
53
532
37
836
9,413
9%
出 典 : EXAT
EXATの 収 入 と 支 出 の 計 画 は 以 下 の 通 り で 、収 入 は 、実 績 通 り 利 用 者 が 毎 年 4%
ず つ 増 加 す る と 想 定 し 、 支 出 は 3%ず つ 増 加 す る と 想 定 し て い る 。
表 56
EXATの 収 入 と 支 出 計 画
単位:百万バーツ
Item
Total Revenue
Total Expenditure
Net Profit
Net Profit/Revenue
2015
15,826
9,413
6,414
41%
2016
16,390
9,658
6,732
41%
2017
16,851
9,945
6,905
41%
2018
17,288
10,236
7,053
41%
出 典 : EXAT
152
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(2)
実 施 ( Do)
1)
点検
JICA
国際航業
EXAT は 点 検 作 業 を 3 種 類 ( Daily Inspection, Routine Inspection, Special
Inspection) に 分 類 し て 、 実 施 し て い る 。
Daily Inspection
路 面 の 継 目 の 変 形 、擁 壁 の ク ラ ッ ク 、鋼 製 レ ー ル の 歪 み 、信 号 機 、電 光 掲 示 板 、
料 金 徴 収 機 の 機 能 不 全 、 緊 急 電 話 、 CCTVカ メ ラ 等 を 毎 日 点 検 す る 。
点 検・維 持 管 理 課 は 2 チ ー ム に 分 か れ て 、専 用 車 両 で 1日 10kmの ペ ー ス で 上 部
構 造( 舗 装 、パ ラ ペ ッ ト 等 )の Daily Inspection を 行 っ て い る 。Inspection forms、
Measurement tape、Spray paint、Digital Camera、Skid resistance、Vehicles
等の道具も使用している。
図 66
日常点検に使用する機材
出 典 : EXAT
Routine Inspection
コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 破 損 や ク ラ ッ ク 、鋼 製 ナ ッ ト の 締 付 け 状 態 、鋼 製 構 造 材
料 等 の 主 要 構 造 物 の 点 検 、ラ マ 9 世 橋 の ワ イ ヤ ー メ ッ シ ュ の 点 検 、交 通 標 識 の 劣
化 、 反 射 板 、 変 圧 器 、 電 気 設 備 、 料 金 徴 収 機 器 、 CCTVカ メ ラ シ ス テ ム 等 を 、 年
間計画に従って実施する。
維 持 管 理 計 画 課 が 、 徒 歩 で 双 眼 鏡 を 用 い な が ら 、 1日 1kmの ペ ー ス で 下 部 構 造
153
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
の Routine Inspectionを 行 っ て い る 。 Inspection forms、 Measurement tape、
Digital Camera、 Binoculars、 Vehicles、 Snooper、 Lighting、 Hammer等 の 道
具も使用している。
図 67
定期点検の年間計画シート
出 典 : EXAT
Special Inspection
Daily若 し く は Routine Inspectionで 損 傷 が 発 見 さ れ た 場 合 は 、超 音 波 測 定 、す
べ り 抵 抗 値 計 測 、地 中 レ ー ダ ー 探 査 等 を 用 い た Special Inspectionを 行 い 、損 傷
要 因 、強 度 、安 定 性 等 を 調 査 す る こ と と な っ て い る 。こ れ で は 、Daily Inspection
や Routine Inspectionで は 用 い な い 精 度 の 高 い 方 法 で 、 道 路 構 造 物 を 下 記 に つ い
て点検する。

炭化試験法を用いてコンクリート構造物のアルカリ度の試験

腐食度試験

ウルトラソニック法を用いて破断状況点検

滑り抵抗試験

地中レーダーを用いた空隙状況の点検

ラマ9世橋の強度試験
154
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
地中レーダー
図 68
特別点検に使用する機材
出 典 : EXAT
図 69
高架橋基礎の点検状況
出 典 : EXAT
155
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
維持管理と補修
維 持 管 理 と 補 修 は 次 の 3分 類 で 行 っ て い る 。

定期メンテナンスとして、実施工程に従って、交通標識の清掃、道路
標 識 、表 面 排 水 シ ス テ ム 、照 明 、道 路 標 識 の 変 更 、鋼 製 レ ー ル の 塗 装 、
簡易な補修を行う。

実際に損傷が生じた際には、事後メンテナンスとして、 路面の修理、
路面の継目の修理、擁壁の継目の修理、コンクリート構造物のクラッ
クの補修、電球の交換、電線の修理、料金徴収機器の修理、緊急電話
シ ス テ ム の 修 理 、 道 路 情 報 掲 示 板 VMS(Variable message sign)

交通事故、火災、化学薬品事故等による損傷事故については、緊急メ
ン テ ナ ン ス を 行 う 。こ れ の 目 的 は 、高 速 道 路 を 速 や か に 通 行 可 能 に し 、
高速道路の完全復旧への恒久修理までのつなぎの役割である。
実際には、次のような維持管理作業が行われている。

コンクリート高架橋のコンクリート製パラペットウォールについて
は 、 初 期 に 建 設 さ れ た も の か ら 、 防 水 材 を 塗 布 す る 作 業 を 1990年 代 に
開始して、毎年実施している。

コンクリート高架橋等のジョイントは損傷し易いため、随時、補修を
行っている。

鋼 材 は 5年 ご と に 塗 装 を 行 っ て い る 。

コンクリートのひび割れは、原因と症状に応じて適切な補修方法を選
定して、実施している。

コンクリートの剥離は、小規模だが発生している。

舗装のわだちについては、切削オーバーレー工法で補修しており、表
層には改質性アスファルトを標準的に使用している。

舗 装 の 粗 度 係 数 が 不 足 し た 場 合 に は 、 厚 さ 8mmで ス ラ リ ー シ ー ル を 行
っている。
3)
2008年 か ら 2013年 の 間 に 実 施 し た 工 事
電気系統のメンテナンス

高 い 照 明 ポ ー ル の 移 設 と 増 設 ( Chalong Rat Expressway)

電 灯 の メ ン テ ナ ン ス ( ChalermMahanakorn expressway and
Burapawitee expressway)

ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム の 改 善 ( Burapawitee expressway)
長寿命化と安全のための路面改善

地 盤 沈 下 に よ る 縦 断 勾 配 悪 化 の 改 善 ( ChalermMahanakorn
expressway and Burapawitee expressway)
156
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート

JICA
国際航業
路 面 表 層 と 継 目 の 修 理 ( ChalermMahanakorn expressway at
WatSaphan Soong area)

パ ラ ス ラ リ ー シ ー ル を 使 用 し た 路 面 表 層 補 修 ( ChalermMahanakorn
expressway from WatSaphan Soong
high-level bridge pier and the
Chalong Rat Expressway at Rama 9 - ArtNarong)
安全性の向上と事故の削減

雨天時の視界改善のために、反射ガラスピンの設置
( ChalermMahanakorn expressway, Chalong Rat Expressway and
Buraphwitee Expressway)

出 口 用 導 流 島 へ の 点 滅 ラ イ ト の 設 置 ( ChalermMahanakorn
expressway, Chalong Rat Expressway and Buraphwitee
Expressway)
社会環境配慮

Poonsin学 校 へ の 騒 音 軽 減 の た め の 騒 音 防 止 壁 の 設 置
( ChalermMahanakorn expressway)

4)
コ ミ ュ ニ テ ィ の 火 災 防 止 策 ( ChalermMahanakorn expressway)
2014年 で 実 施 中 の 工 事
電気関係メンテナンス

地 下 埋 設 線 の コ ン ク リ ー ト 保 護 工 事 ( Burapawitee expressway)

安 全 ス イ ッ チ 盤 の 設 置 と コ ン ク リ ー ト 保 護 工 事 ( Burapawitee
expressway)

照 明 柱 の 修 理 と メ ン テ ナ ン ス 工 事 ( Chalong Rat Expressway and
lights under the expressway of Burapawitee Expressway)

自 動 料 金 徴 収 機 の 設 置 工 事 ( ChalermMahanakornExpressay,
Chalong Rat Expressway, Ram Intra Expressway - Rings - Outer
Bangkok Expressway and Burapawitee Expressway)

制 限 速 度 標 識 の 改 善 工 事 ( Chalong Rat Expressway)

交通状況モニタリングシステム改善工事
長寿命化と安全性確保のための路面改善

路 面 表 層 と 継 目 の 修 理 ( ChalermMahanakorn expressway)
安全性の向上と事故の削減

交 通 標 識 の 照 度 を 改 善 し 、 15mか ら 30mへ 視 界 が 広 が る よ う に 改 善
( ChalermMahanakorn expressway, Chalong Rat Expressway and
Burapawitee Expressway)

交 通 標 識 を 見 易 く す る 工 事 ( ChalermMahanakorn expressway)

衝 突 緩 衝 装 置 を 3か 所 に 設 置
157
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
その他の工事

Rama9 世 橋 の URIB補 鋼 材 の 工 事

Rama9 世 橋 の 10年 目 の 定 期 塗 装 工 事

Rama9 世 橋 の 長 寿 命 化 の た め の フ レ キ シ ブ ル 及 び エ キ ス パ ン シ ョ ン
ジョイントの修理

Burapawitee expresswayの 基 礎 強 化 調 査 の ア ジ ア 工 科 大 学 院 ( AIT)
への委託
社会環境配慮

住 宅 へ の 騒 音 軽 減 の た め に 騒 音 防 止 壁 の 設 置 ( ChalermMahanakorn
expressway)
(2)
評 価 ( Check)
各 点 検 の マ ニ ュ ア ル は 、 原 型 は 1994年 に JICAの 技 術 協 力 で 作 成 さ れ た も の で
あ り 、 そ の 後 2006年 に ア ジ ア 工 科 大 学 院 ( AIT) に よ り 更 新 さ れ て い る 。 AITは
EXAT職 員 に 維 持 管 理 の 研 修 も 行 っ て い る 。 点 検 結 果 は 4段 階 ( Very good (D)、
Good (C)、 Fair (B)、 Poor (A)) で 判 定 さ れ る が 、 各 段 階 の 評 価 基 準 は 点 検 マ ニ
ュアルに写真つきで記載されている。点検後、低位評価の箇所に予算をつけて、
修繕が行われているが、予算は足りているとのことである。
2010 年 以 降 は 新 規 区 間 の 供 用 が 行 わ れ て い な い た め 、 現 在 は 点 検 ・ 修 繕 が
EXATの 業 務 の 中 心 に 位 置 づ け ら れ て い る 。 マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム に つ い て は 、
1994年 の JICAプ ロ ジ ェ ク ト で 導 入 さ れ た 管 理 シ ス テ ム( ETAMS)が 使 用 さ れ て
お り 、イ ン ベ ン ト リ ー デ ー タ は 整 理 さ れ て い る が 、維 持 更 新 計 画 の 検 討 を 支 援 す
るマネジメントシステムは使用していない。
現 在 、 高 架 橋 を 対 象 と し た BMS を 、 EXAT独 自 の シ ス テ ム と し て 研 究 ・ 開 発
中 で あ る 。 ま た 、 VFM (Value for Money)を 高 め る マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム の 構 築
が SIIT ( タ イ 王 国 タ マ サ ー ト 大 学 : Sirindhorn International Institute of
Technology の Dr. ソ ム ニ ッ ク ) と の 協 働 で 実 施 中 で あ る 。
(3)
ラ マ 9世 橋 の 点 検 と 維 持 管 理
1987年 に 供 用 が 開 始 さ れ た ラ マ 9世 橋 は 、タ イ 国 で 初 め て の 斜 張 橋 で あ る た め 、
その維持管理は非常に慎重に行われている。
1994年 に JICAが 技 術 協 力 で 詳 細 な メ ン テ ナ ン ス マ ニ ュ ア ル を 作 成 し 、 2001年
に そ れ が 更 新 さ れ て い る 。10年 毎 の 定 期 点 検 を 2001年 と 2011年 に 実 施 し て お り 、
その結果に基づいて維持管理計画を作成して実施している。
主な維持管理の活動を記す。
158
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ファイナルレポート
年
JICA
国際航業
実施事項
1987
橋の供用を開始
1994
JICAが メ ン テ ナ ン ス マ ニ ュ ア ル を 作 成
1995
橋梁のモニタリング装置を設置
2001
メンテナンスマニュアルを更新
10年 目 の 定 期 点 検 を 実 施
2003
定期点検結果に基づいて、維持管理と修理を開始
2007
ケーブルと塔の再塗装
2009
デッキの再塗装
2011
20年 目 の 定 期 点 検 を 実 施
図 70
ラ マ 9世 橋 側 面 図
出 典 : EXAT
橋 梁 維 持 管 理 課 が 、 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 を 渡 る ラ マ 9世 橋 と Kanchanapisek橋 ( 両
方とも斜張橋)を管理している。
(4)
日本との協力
1)
JICAの 技 術 協 力
JICAは 1994年 に EXATを 対 象 と し て 、タ イ 王 国 高 速 道 路 点 検・維 持 管 理 計 画 調
査 を 行 い 、 高 速 道 路 及 び ラ マ 9世 橋 の 点 検 ・ 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル の 整 備 を 支 援 し
た。その後、マニュアルの更新が行われている。
2)
日本の高速道路会社による技術協力
EXATは 日 本 の 3つ の 高 速 道 路 会 社 と 2つ の 技 術 協 力 の 覚 書 を 結 ん で お り 、こ れ
らの会社から技術支援を受けている。
159
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
1.西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社との技術協力協定
2010年 4月 締 結
協力内容

ETCシ ス テ ム の 導 入 支 援

交 通 管 理 シ ス テ ム:道 路 交 通 情 報 提 供 シ ス テ ム 、交 通 制 御 シ ス テ ム 、ITS
関連等

橋梁を含む高速道路のメンテナンス

専門技術員の交流
2.首都高速道路株式会社及び阪神高速道路株式会社との技術協力協定
2010年 4月 締 結
協力内容

交 通 管 制 シ ス テ ム を は じ め と し た ITSに 関 す る 技 術 協 力

橋梁をはじめとした道路構造物の維持管理に関する技術協力

技術情報の共有・交換、専門技術者や研修生の相互交流、等
首 都 高 速 道 路 株 式 会 社 の 専 門 家 に よ る と 、2013年 に は EXATか ら 約 70名 の 職 員
( BECL社 と NECL社 の 職 員 を 含 む ) が 日 本 を 訪 れ 、 首 都 高 速 道 路 株 式 会 社 等 が
覚書に基づいて、維持管理に関する現場研修や講義等を行ったとのことである。
な お 、 こ の 研 修 に 係 る 経 費 に つ い て は 、 EXAT側 が 渡 航 及 び 滞 在 費 を 負 担 し 、 研
修費は首都高速道路株式会社等が負担している。
(5)
施設の状況
1)
コンクリート高架橋
供 用 開 始 か ら 30年 以 上 の も の が 16.8km( 8%)、20年 か ら 30年 の も の が 27.1km
( 13%)と 、施 設 全 体 が ま だ 若 い こ と も あ る が 、技 術 支 援 を し て い る 首 都 高 速 道
路 の 日 本 人 技 術 者 に よ る と 、日 本 の コ ン ク リ ー ト 構 造 物 と 比 較 し て 劣 化 速 度 が 遅
く 、全 体 的 に 健 全 な 状 態 を 維 持 し て い る と の 事 で あ る 。そ の 原 因 と し て は 下 記 の
原因の可能性が挙げられる。
①
日本では雪が降るため、首都高速道路でも年に数回は融雪剤(塩化カルシ
ウム)を撒き、これが路床のコンクリート中の鉄筋の腐食を促進する塩害
につながり、路面にも悪影響を及ぼしている。一方、バンコクは雪が降ら
ないため、融雪剤による悪影響はない。
②
バンコクは海岸からかなり離れているため、海風による塩害がほとんどな
い。
③
一年を通して温度差が小さいため、コンクリートの収縮量が小さい。その
ため、コンクリートのクラックの発生が少なく、また高架橋で最も損傷し
160
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
易いエクスパンションジョイントの損傷も少ない。
加えて、エクスパンションジョイントの損傷が少ないことから、日本よ
りも簡易な構造で維持管理の容易なジョイントを採用することができるの
もメリットである。
橋梁
2)
ラ マ 9世 橋 は タ イ 国 で 初 め て の 斜 張 橋 で あ り 、 国 王 の 名 前 が つ い て い る こ と か
ら も タ イ 国 に と っ て 非 常 に 重 要 な 橋 で あ る 。従 っ て 、維 持 管 理 は し っ か り と 行 わ
れ て い る 。 2007年 に 完 成 し た Kanjanapisek橋 は ま だ 新 し い た め 維 持 管 理 は ま だ
重 要 で は な い が 、 ラ マ 9世 橋 で の 維 持 管 理 の 経 験 を 活 か し て い る 。
(6)
アセットマネジメントの現状と課題
EXATの 高 速 道 路 の 大 部 分 は コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 で あ る た め 、 草 刈 や 清 掃 等 の
維 持 管 理 業 務 は ほ と ん ど な い 。コ ン ク リ ー ト 構 造 物 も 全 体 的 に 新 し い た め 健 全 で
あ り 、維 持 管 理 業 務 と し て は 舗 装 の 維 持 管 理 と 、ジ ョ イ ン ト 等 の 損 傷 が 激 し い 箇
所 の 補 修 等 に 主 に 限 定 さ れ て い る 。従 っ て 、現 在 の 維 持 管 理 の 必 要 作 業 量 は 比 較
的 少 な く 、 EXAT内 で の 重 要 度 も 高 く は な い 。
維 持 管 理 予 算 額 は 2015年 度 で 約 8.4億 バ ー ツ で あ り 、 こ れ は 事 業 規 模 か ら 見 る
と 小 額 で あ る 。し か し 、必 要 な 維 持 管 理 予 算 は 要 求 額 の ほ ぼ 全 額 が 認 め ら れ て い
る 状 況 で あ り 、施 設 が 比 較 的 新 し い た め 、現 在 は 維 持 管 理 費 が 小 額 で 済 ん で い る
状況である。
維 持 管 理 予 算 は 徐 々 に 増 加 し て き て お り 、そ の 原 因 は 老 朽 化 に よ る 補 修 必 要 箇
所 の 増 加 と 物 価 の 上 昇 で あ る 。今 後 は 、コ ン ク リ ー ト の 老 朽 化 が 確 実 に 進 ん で く
る た め 、コ ン ク リ ー ト の 維 持 管 理 作 業 が 徐 々 に 増 加 す る 。コ ン ク リ ー ト の 維 持 管
理については経験が乏しいため、これは重要な課題である。
維 持 管 理 体 制 に つ い て は 、 EXATは 207.9kmの 全 延 長 中 、 137.9kmの み を 維 持
管 理 し て お り 、そ れ 以 外 は コ ン セ ッ シ ョ ネ ア が 行 っ て い る 。新 規 建 設 部 分 も PPP
で 行 う 方 向 に あ る た め 、 EXAT独 自 が 行 う 維 持 管 理 作 業 は あ ま り 増 加 し な い と 思
わ れ る 。 し か し な が ら 、 コ ン セ ッ シ ョ ネ ア の 維 持 管 理 に つ い て も 、 EXATが 監 督
をしっかりと行う体制の構築が課題である。
161
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.4.5
(1)
JICA
国際航業
バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) 公 共 事 業 部
概要
バ ン コ ク 首 都 圏 の 面 積 は 約 1,600km 2 あ り 、 BMAが そ の 地 域 を 管 轄 し て い る 。
BMAが 管 轄 し て い る 道 路 は 、 道 路 面 積 が 28.97百 万 m 2 、 水 路 橋 が 1,080箇 所 、 フ
ラ イ オ ー バ ー が 48箇 所 、 高 架 橋 が 3箇 所 、 河 川 橋 が 1 箇 所 、 歩 道 橋 が 607箇 所 、
ア ン ダ ー パ ス が 12箇 所 で あ る 。
こ れ ら の 維 持 管 理 を 行 っ て い る の が BMA 公 共 事 業 部 の Construction and
Maintenance Officeで あ り 、 1,386名 の 職 員 が 働 い て い る 。
図 71
公共事業局の組織図
出 典 : BMA
(2)
舗装
舗 装 の 点 検 は 目 視 で 行 っ て い る が 、基 本 的 に は 公 共 事 業 部 内 に あ る 苦 情 受 付 電
話 番 号 1555へ 連 絡 が あ っ た 苦 情 に 応 じ て 、舗 装 を 補 修 す る 事 後 保 全 が 多 い 。こ れ
は、自治体の道路としては一般的な方法であり、日本でも同様に行われている。
一 方 で 予 防 保 全 へ の 転 換 の 試 み と し て 、 2011 年 に 路 面 性 状 調 査 を 委 託 し て
2,500kmの 調 査 を 行 っ た が 、そ の 直 後 に 洪 水 が 起 こ っ た た め 、そ の デ ー タ を 活 用
してはいない。
PMSに つ い て は 、現 在 は 持 っ て い な い が 、開 発 に 向 け て 発 注 仕 様 書 が 既 に で き
あ が っ て お り 、予 算 も 獲 得 済 み で あ る た め 、近 日 中 に GISを 使 っ た PMSシ ス テ ム
の開発を発注予定である。
162
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(3)
JICA
国際航業
橋梁
バ ン コ ク 首 都 圏 に は 水 路 が 多 い た め 、そ れ を 渡 る た め の 橋 が 1,080箇 所 も あ り 、
こ れ ら は 生 活 及 び 経 済 活 動 に 不 可 欠 な イ ン フ ラ と な っ て い る 。交 通 量 が 多 い 橋 梁
が 多 い た め 、架 け 替 え は 非 常 に 困 難 な も の が 多 い 。従 っ て 、橋 梁 の 点 検・維 持 管
理 は 非 常 に 重 要 な た め 、た い へ ん 努 力 し て 、し っ か り と 行 っ て い る 。点 検・維 持
管理は下記の項目に分けて実施しており、結果はデータベース化されている。
1)

目視点検

材料点検

基礎点検

評価

補修

補強
目視点検
橋 梁 の 点 検 シ ー ト が あ り 、そ れ に 従 っ て 目 視 点 検 を 行 い 、結 果 は 橋 梁 デ ー タ ベ
ー ス に 入 力 し て 管 理 し て い る 。デ ー タ ベ ー ス に は 橋 の 位 置 、図 面 、状 況 写 真 も 保
存されており、技術者が事務所で診断し、計画できるようになっている。
図 72
データベース化されている橋梁の位置図
出 典 : BMA
163
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 73
JICA
国際航業
橋梁のデータ
出 典 : BMA
損傷状況の写真
出 典 : BMA
164
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 74
JICA
国際航業
橋梁の調査報告書例
出 典 : BMA
橋 梁 の 点 検 に は 、NBI(National Bridge Index)と い う 評 価 基 準 に 従 っ て 行 わ れ
ている。
出 典 : BMA
165
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 57
JICA
国際航業
橋梁の点検シート
出 典 : BMA
NBI値 が 5以 上 は 合 格 と し 、5以 下 の 箇 所 を 維 持 管 理 の 必 要 が あ る と 診 断 し て い
る。診断結果は下記のように橋梁ごとに図面化して、データベース化している。
図 75
橋梁診断記録
出 典 : BMA
166
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
材料点検
コ ン ク リ ー ト 材 料 の 劣 化 度 を 把 握 す る た め に 、コ ン ク リ ー ト の コ ア を 採 取 し て
圧 縮 試 験 を 行 い 、 210ksc以 上 の も の を 合 格 と 判 定 し て い る 。
図 76
コア採取状況
出 典 : BMA
ま た 、コ ア を 採 取 せ ず に 、現 場 で 計 測 器 を 使 用 し て の コ ン ク リ ー ト 強 度 測 定 も 実
施している。
Windsor Probe Test
167
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
Rebound Hammer Test
鉄筋の引張強度試験
コンクリートコアの炭化度試験
168
JICA
国際航業
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
コンクリートの現場炭化度試験
コンクリートの塩分試験
0.05%以 下 が 合 格
Half-cell Potential試 験
出 典 : BMA
169
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
3)
JICA
国際航業
基礎点検
基 礎 の 点 検 で は 、ボ ー リ ン グ に よ る 地 質 調 査 、様 々 な 計 測 機 械 を 使 っ て の コ ン
クリートの劣化度の調査等を行っている。
ボーリング試験
出 典 : BMA
Parallel Seismic試 験
出 典 : BMA
170
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Side Echo Test : コ ン ク リ ー ト 杭 の 例
出 典 : BMA
Side Echo Test結 果
出 典 : BMA
171
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
アプローチスラブの調査
出 典 : BMA
4)
橋 梁 の 評 価 ( Check)
橋 梁 の 評 価 は 、“ Manual for Bridge Evaluation 2008”, 1st Edition, with 2010
Interim Revisions by AASHTO modified from LRFR 2003 (Load and
Resistance Factor Rating)を 用 い て 行 っ て い る 。
Rating Factorは 橋 の 許 容 載 荷 重 を 評 価 す る の に 用 い ら れ 、次 の 式 で 算 定 す る 。
載荷試験の実施写真を以下に示す。
172
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
載荷状況
載荷状況
スラブの変位の測定
コンピュータによるデータ収集
出 典 : BMA
173
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
評価結果は下記のようにまとめられている。
図 77
上部構造物の点検結果データ
出 典 : BMA
174
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
5)
JICA
国際航業
補修
損 傷 部 分 の コ ン ク リ ー ト を 除 去 し 、モ ル タ ル ま た は コ ン ク リ ー ト で 修 理 す る 方
法と、損傷した構造材を撤去して、再度建設する方法が行われている。
モルタルで補修
損傷したコンクリートを除去
損傷したスラブを撤去
スラブを新設
出 典 : BMA
175
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
6)
JICA
国際航業
補強
橋 梁 の 補 強 工 事 と し て は 、 CFRP 70技 術 が 使 用 さ れ て い る 。
出 典 : BMA
CFRP工 事 完 了 後 に 試 験 を 行 っ て 、改 善 度 を 確 認 し て い る 。下 記 の シ ー ト で は 、
施 工 前 に 不 合 格 だ っ た 部 分( 黄 色 )が 、施 工 後 に は 合 格 値( 青 色 )に 改 善 さ れ て
いることが確認できる。
70
CFRP( Carbon Fiber Reinforced Plastics) は 、 炭 素 繊 維 と 樹 脂 と の 複 合 材 料 で 炭 素
繊維強化プラスチックの意味。金属材料よりも低密度でありながら、力学特性に優
れた比強度が高い、軽くて強い材料。
176
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 78
JICA
国際航業
上部構造物の補修前と補修後の点検データ
出 典 : BMA
(4)
データベース
舗 装 に つ い て の デ ー タ ベ ー ス は 使 用 し て い な い が 、橋 梁 の デ ー タ ベ ー ス は 十 分
に 活 用 し て い る 。 一 方 で 、 現 在 、 舗 装 情 報 と 橋 梁 情 報 を 一 体 化 し て 管 理 す る GIS
システムが発注されたところである。
(5)
評価
舗装については苦情対応が主体の事後保全である。
一 方 で 、橋 梁 の 点 検・維 持 管 理 は 非 常 に 詳 細 に か つ 科 学 的 に 行 わ れ て お り 、そ
の デ ー タ は デ ー タ ベ ー ス 上 で 管 理 さ れ て お り 、技 術 者 が 事 務 所 に い な が ら 診 断 す
る こ と が で き る 。そ の 結 果 に 基 づ い て 補 修 及 び 補 強 も 、新 し い 技 術 も 取 り 入 れ て 、
現 場 状 況 に あ っ た 技 術 を 採 用 し て 実 施 さ れ て お り 、予 防 保 全 が 行 わ れ て い る 。ま
た 、 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 現 場 レ ベ ル で は PDCAは 回 っ て い る 。
(6)
アセットマネジメントの現状と課題
177
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
工 学 的 な マ ネ ジ メ ン ト に つ い て は 、人 口 密 度 が 高 く 管 理 が 難 し い 地 域 で あ る に
も か か わ ら ず 、か な り よ く 実 施 さ れ て い る と 思 わ れ る 。し か し な が ら 、施 設 の 維
持 管 理 に 追 わ れ て お り 、経 済 的 視 点 、長 期 的 視 点 等 か ら の マ ネ ジ メ ン ト は ほ と ん
ど さ れ て い な い 。 ま た 、 BMAで は 組 織 横 断 的 な イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト も 必 要
だが、現状では組織ごとに取組んでいる状態である。
178
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.5
上水道分野の現状
4.5.1
タイ国の上水道分野の概要
JICA
国際航業
タ イ 国 の 給 水 サ ー ビ ス の 分 担 は 、 首 都 圏 水 道 公 社 ( MWA) が バ ン コ ク 都 及 び
周 辺 2県 、 そ の 他 の 73県 は 地 方 水 道 公 社 ( PWA) が 担 っ て い る 。
首 都 圏 水 道 公 社 (MWA)
4.5.2
(1)
概要
1)
給水区域
MWAの 給 水 区 域 は バ ン コ ク 首 都 圏 及 び ノ ン タ ブ リ 県 、サ ム プ ラ カ ン 県 の 2県 で
ある。
図 79
MWAの 給 水 区 域
水 源 は チ ャ オ プ ラ ヤ 川 及 び ダ ム 湖 水 を 原 水 と し 、 浄 水 場 で 浄 水 さ れ た 後 、 18
の配水区から給水区域内へ配水している。
2)
施設概要
MWAの 上 水 道 施 設 は 、2か 所 の 水 源 、水 源 か ら 浄 水 場( 4箇 所 )ま で の 導 水 管 、
浄 水 場 で 処 理 さ れ た 水 を 配 水 場 ま で 送 る 送 水 管 、配 水 場 か ら 需 要 者 に 水 を 供 給 す
るための配水本管、配水支管(配水本管から分岐し、給水管を接続する管路)、
給 水 管( 配 水 支 管 か ら 需 要 者 の 各 水 道 メ ー タ ま で の 管 路 )か ら 成 る 。ま た 、取 水
施 設 か ら 配 水 施 設 ま で の 過 程 に お い て 、必 要 な 水 圧 と 流 量 を 確 保 す る た め に ポ ン
プ 施 設 ( 43箇 所 ) が 随 所 に 設 置 さ れ て い る 。
179
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
配 水 本 管 ( 口 径 500mm~ 1800mm) の 延 長 は 約 1650kmで 、 主 に 鋼 管 、 普 通 鋳
鉄 管 が 使 用 さ れ て い る 。配 水 支 管( 口 径 100mm~ 400mm)は 、総 延 長 が 28,800km
で 、全 て の 管 路 延 長 の 約 94%を 占 め て い る 。管 種 の 内 訳 は 石 綿 管( 法 定 耐 用 年 数:
25年 )が 約 14%( 約 3,920km: 2013年 )、硬 質 塩 化 ビ ニ ル 管( PVC : Poly Vinyl
Chloride、 法 定 耐 用 年 数 : 35年 ) が 約 84%( 約 24,100km: 2013年 ) で あ り 、 こ
の 2種 で 配 水 支 管 の 約 98%を 占 め る 。
過 去 5年 の 配 水 支 管 の 管 路 延 長 の 推 移 を 見 る と 、 PVC管 の 伸 び が 著 し い 。 管 路
の 更 新 の 際 は PVC管 に 更 新 さ れ る の に 加 え 、給 水 区 域 の 拡 張 に よ り 管 路 は 毎 年 平
均 1,000kmず つ 増 加 し て い る が 、 そ の 新 設 に 使 用 さ れ る の は 主 に PVC管 で あ る 。
表 58
普通
過 去 5年 の 配 水 支 管 延 長 の 推 移
PVC 管
高密度
キ鋼管
ポリエチレン管
鋼管
2009
301.550
22.412
4,829.269
18,932.323
268.521
45.958
24,400.033
2010
322.566
17.473
4,511.464
20,497.336
273.985
45.459
25,668.283
2011
351.610
16.817
4,251.797
21,980.165
280.624
45.728
26,926.210
2012
380.933
15.367
4,033.147
23,184.669
281.294
56.599
27,952.009
2013
399.881
15.330
3,920.051
24,136.508
280.166
59.555
28,811.491
鋳鉄管
石綿管
亜鉛メッ
年度
配水支管計
出 典 : MWA
日 本 で は 耐 久 性 、耐 食 性 、ま た 地 震 に よ る 地 盤 変 動 に 追 随 が で き る と い う 理 由
か ら ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 が 広 く 普 及 し て お り 、小 口 径 管 路 に つ い て は PVC管 、最 近
では高密度ポリエチレン管が普及している。
一 方 、バ ン コ ク 都 内 で は ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 が 配 水 本 管 で 約 3kmが 使 用 さ れ て い
る の み で 、普 及 が 進 ん で い な い 。し か し 現 在 、試 験 的 に 道 路 横 断 部 分 、歩 道 部 分
に ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管( 口 径 300~ 400mm)を 布 設 し 、タ イ 国 で の 適 用 性( コ ス ト 、
施工性、布設後の状況、耐久性等)を検証する試みが計画されている。
バ ン コ ク 都 内 は 土 地 が 平 坦 で 勾 配 が 少 な い た め 、水 頭 2~ 6mの 低 水 圧 で 給 水 に
不 便 を 生 じ て い る 地 域 が あ る 。そ の た め 、水 圧 を 確 保 す る た め の ポ ン プ 施 設 が 点
在 し て い る 。 MWAは 故 障 す る と 個 々 の ポ ン プ を 修 繕 、 あ る い は 一 部 の 部 品 を 交
換 し て 、更 新 時 期 が 来 た ポ ン プ か ら 順 次 更 新 し て い る が 、使 用 年 数 が 40年 を 超 え
ているものもある。
3)
実施体制
MWAは 、 給 水 区 域 を 4つ に 分 割 し た Region( Region1~ Region4) か ら な り 、
各 Regionは 下 表 の よ う に 4~ 6の 配 水 区 か ら 構 成 さ れ て い る 。 施 設 の 運 営 維 持 管
理 は 、 各 配 水 区 に 設 置 さ れ た Branch Officeに よ り 実 施 さ れ て い る 。
180
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 59
Region1
JICA
国際航業
各 Regionの 配 水 区
Region2
Region3
Region4
Sukhumvit
Phayathai
Nonthaburi
Bangkok noi
Pra Khanong
Tungmahamek
Prachachuen
Taksin
Samutprakarn
Mansi
Bangkhen
Suksawad
Suvarnabhumi
Ladprao
Min Buri
Phasi Charoen
Bang Bua Thong
Mahasawad
出 典 : BMA
4)
財務状況
MWAの 事 業 状 況 を 見 る と 、 2013年 度 の 収 入 は 186億 バ ー ツ ( 前 年 比 10億 バ ー
ツ 増 加 )、営 業 支 出 は 122億 バ ー ツ( 前 年 比 3億 バ ー ツ 増 加 )で そ の う ち 維 持 管 理
費 用 が 6.6億 バ ー ツ 、 減 価 償 却 費 が 44億 バ ー ツ で あ っ た 。 そ の 結 果 、 営 業 利 益 は
64億 バ ー ツ ( 前 年 比 6.7億 バ ー ツ 増 加 ) 、 純 利 益 は 70億 バ ー ツ (前 年 比 12億 バ ー ツ
増 加 )と 純 利 益 率 は 38%に 上 っ て お り 、純 利 益 の 50%を 財 務 省 へ 支 払 い 、残 り の 35
億 バ ー ツ を 内 部 留 保 と し て 自 己 資 本 に 組 み 入 れ て い る 。 71
表 60
MWAの 損 益 計 算 表
単位:百万バーツ
2013
Operating revenues
Water sales
Other operating income
Total operating revenues
Operating expenses
Raw materials and consumables used
Maintenance expenses
Depreciation and amortization expenses
Other operating expenses
Total operating expenses
Profit from operating
Total Other revenues and expenses
Profit before finance cost
Finance costs
Profit for the year
Payment to Ministry of Finance
Increse in retained earnings
2012
Increase in 2013
17,547
1,056
18,603
94%
6%
100%
16,777
828
17,605
95%
5%
100%
770
228
998
2,555
663
4,411
4,614
12,243
6,359
732
7,092
-83
7,009
14%
4%
24%
0%
66%
34%
4%
38%
0%
38%
2,364
557
4,665
1,117
11,919
5,686
272
5,957
-166
5,792
13%
3%
26%
0%
68%
32%
2%
34%
-1%
33%
191
106
-254
3,497
324
673
460
1,135
83
1,217
3,492
3,517
50%
50%
2,919
2,873
50%
50%
573
644
出 典 : MWA
71
財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も
多少変更する。
181
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JICA
国際航業
このうち維持管理費用の内訳は下表のとおりで、主に外注費と材料費である。
表 61
維持管理に関わる費用(損益計算表より抜粋)
単位:百万バーツ
2013
26.83
2012
18.75
Contract out leakage pipes survey and repair
298.39
216.57
Repair and maintenance expenses
Pipe and equipment for repair and maintenance
176.13
161.63
177.96
143.72
Total
662.98
557.00
Contract out inspection and improvement of distribution valve
出 典 : MWA
MWAの 資 産 状 況 を 見 る と 、 2013年 9月 末 現 在 、 606億 バ ー ツ の 資 産 の う ち 、 有
形 固 定 資 産 が 建 設 中 の も の も 含 め 518億 バ ー ツ ( 85%) を 占 め て お り 、 有 形 固 定
資 産 の 比 率 が 高 い 。債 務 は 112億 バ ー ツ で あ る 一 方 、自 己 資 本 は 495億 バ ー ツ で 前
年 38億 バ ー ツ 増 加 し て お り 、総 資 産 の 82%を 占 め て い る 。そ の う ち 内 部 留 保 金 が
361億 バ ー ツ と 総 資 産 の 60%を 占 め て お り 、 内 部 留 保 は 十 分 で あ る 。
182
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表 62
JICA
国際航業
MWAの 貸 借 対 照 表
単位:百万バーツ
2013
ASSETS
Cash and cash equivalents
Current investments
Other current assets
Total current assets
Non-current assets
2012
5,120
1,187
1,466
7,773
0
Property, plant and equipment
8%
2%
3%
13%
0
1,443
1,950
1,625
5,018
0
3%
3%
3%
9%
0
79%
44,556
73%
44,921
Works under construction
7,257
12%
5,380
9%
Other non current assets
Total non-current assets
1,050
52,862
2%
87%
1,455
51,756
3%
91%
Total assets
60,634
100%
56,774
100%
160
6,181
6,341
0%
10%
10%
708
3,829
4,537
1%
7%
8%
LIABILITIES AND EQUITY
Liabilities
Current liabilities
Current portion of long term loans
Other current liabilities
Total current liabilities
Non-current liabilities
Long term loans
Other non current liabilities
Total non-current liabilities
Total liabilities
Equity
Capital
Unappropriated retained earnings
Total equity
1,330
3,490
4,820
11,161
2%
6%
8%
18%
3,016
3,594
6,610
11,147
5%
7%
12%
20%
13,339
36,124
49,473
22%
60%
82%
13,017
32,605
45,627
23%
57%
80%
Total liabilities and equity
60,634
100%
56,774
100%
出 典 : MWA Annual Report , 2013
総 資 産 の 73% を 占 め る 有 形 固 定 資 産 の 内 訳 を み る と 、 簿 価 で 304 億 バ ー ツ と
70%近 く が 配 管 で あ る 。
表 63
有形固定資産の内訳
単位:百万バーツ
Accumulated
depreciation
/impairment
Costs
Land
Building and improvements
Machineries and equipments
Pipes
Meters
Office equipments
Vehicles and transport
4,284
16,962
9,579
72,073
3,412
1,102
321
107,734
0
10,192
7,370
41,659
2,832
883
241
63,179
Net book value
4,284 30
6,770 30
2,209 5 , 10 , 20, 25
30,414 10 , 25 , 35
580 5 , 8
220 5
80 5 , 8
44,556
出 典 : MWA
183
Depreciation period
(years)
Annual Report , 2013
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JICA
国際航業
上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分
析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 38%と 収 益 力 は 高 い 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 72は 、
投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 15%と 低 め で あ る が 、こ れ は
有 形 固 定 資 産 の 割 合 が 高 い た め で 問 題 の あ る 状 況 で は な い 。有 形 固 定 資 産 の 取 得
費 用 の 59%を 償 却 し て い る 73が 、 老 朽 化 の 進 行 よ り も 、 会 計 上 の 耐 用 年 数 が 実 際
の耐用年数より低めに設定されているためと考えられる。
表 64
評価項目
主な財務指標
評価指標
2013
収益力
売上高利益率
38%
更新費用確保
更新投資充当可能資金対減価償却
累計額比率
15%
老朽化度合い
有形固定資産減価償却率
59%
以 上 の 考 察 よ り 、 MWAの 収 益 力 は 高 く 、 更 新 費 用 の 確 保 状 況 、 老 朽 化 度 合 も
も大きな問題がある状況ではない。
(2)
管路の維持管理状況
1)
計 画 ( Plan)
更新計画
MWAは 管 路 の 漏 水 対 策 に 注 力 し て お り 、 管 路 の 大 部 分 を 占 め る 配 水 支 管 が 主
に 石 綿 管 と PVC管 で あ る こ と か ら 、 こ れ ら 2種 管 の 漏 水 対 策 が 主 と な る 。
2008年 以 前 は 、 管 路 の 平 均 耐 用 年 数 が 25年 で あ る た め 、 既 存 管 路 延 長 の 4%を
毎 年 更 新 し 、25年 で 一 巡 す る 計 画 と な っ て い た 。し か し 、こ の 方 法 は 漏 水 が な く
ま だ 使 え る 管 路 も 更 新 し て し ま う こ と 、ま た 漏 水 の 頻 度 が 高 い 路 線 の 把 握 が 困 難
な こ と か ら 、MWAは 2008年 に 配 水 支 管 の 維 持 管 理 に DMA( District Meter Area)
を 導 入 し た 。 DMAは 給 水 区 域 を 配 水 ブ ロ ッ ク に 分 け た も の で 、 こ れ に よ り ブ ロ
ックごとに漏水の状況を細かく把握でき、管路更新の優先度の設定が容易にな
り 、漏 水 の 多 い 管 路 を 優 先 的 に 更 新 で き 、結 果 と し て 更 新 す る 管 路 延 長 を 削 減 す
ることが可能となった。
管 路 の 更 新 の 優 先 順 位 付 け に 考 慮 す る ク ラ イ テ リ ア は 下 記 の 5項 目 で あ る 。
1.
管路の布設年数
72
更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累
計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、
2013年 に 15%と 低 い 。
73
有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却
対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 59%。
184
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ファイナルレポート
2.
漏水発生頻度
3.
漏水率
4.
管路の布設深度
5.
管種
JICA
国際航業
MWAは GISを 活 用 し て 、 布 設 後 20年 以 上 が 経 過 し た 石 綿 管 が 約 1,000km、 今
後 20年 を 超 え る 石 綿 管 が 毎 年 150~ 300km増 加 す る こ と を 把 握 し 、 2008~ 2014
年 に か け て 、管 路 更 新 の ク ラ イ テ リ ア に 基 づ き 、更 新 の 優 先 度 を 決 め 、石 綿 管 の
300km/年 の 更 新 計 画 を 立 て 、 実 施 し て き た 。 2015年 以 降 も 優 先 度 を 決 め て 管 路
の更新計画を立て、実施していく予定である。
予算計画
MWAで は 、18の Branch Officeが 管 轄 区 の 予 算 計 画 を 作 成 し 、そ れ ら を 本 部 が
ま と め て 全 体 の 予 算 計 画 を 作 成 し て い る 。 各 Branch Officeは 管 理 す る 管 路 ご と
に 、ク ラ イ テ リ ア に 従 っ て 、管 路 更 新 計 画 を 立 て 、翌 年 度 の 予 算 計 画 を 作 成 す る 。
バ ン コ ク 首 都 圏 庁 ( BMA) の 管 轄 区 域 で あ る た め 、 道 路 の 掘 削 を 要 す る 配 管 工
事 に は BMAの 認 可 が 必 要 と な る 。 こ の 認 可 の 有 効 期 限 は 1年 で あ る た め 、 MWA
で は 予 算 計 画 は 1年 単 位 で 作 成 せ ざ る を え な い と と も に 、BMAの 認 可 を 得 ら れ ず
予定の工事を実施できない場合もある。
2)
実 行 ( Do)
MWAは こ れ ま で の 補 修 実 績 か ら 以 下 の 4管 種 を 重 点 的 に 補 修 、 更 新 し て い る 。
表 65
管種
石綿管
用途
各管種の漏水の発生要因と補修状況
漏水発生の主な要因
配水本管
・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る
配水支管
管路の離脱
・老 朽 化 に よ る 管 の 劣 化
185
管の破損、補修状況
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PVC管
配水支管
JICA
国際航業
・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る
管路の離脱
亜 鉛 メ ッ
配水支管
キ鋼管
ポ リ ブ チ
・水 道 水 中 の 塩 素 に よ る
管の腐食
給水管
レン管
・地 盤 の 不 等 沈 下 に よ る
管路の離脱
・老 朽 化 に よ る 管 の 劣 化
3)
評 価 ( Check)
GISの 活 用
MWAで は 約 10年 前 か ら 管 路 施 設 の 情 報 管 理 に GISを 活 用 し て い る 。
GISを 導 入 す る ま で は 、 縮 尺 1/4000の 地 形 図 上 に 管 路 位 置 及 び 管 材 質 ・ 口 径 等
の最低限の情報を展開した管理図を使用していた。
図 80
GIS導 入 前 の 管 理 図
出 典 : MWA
186
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
GIS導 入 後 は 、MWA局 内 に GISの サ ー バ ー を 設 置 し た 専 用 ル ー ム を 設 け 、縮 尺
レ ベ ル 1/1000の 地 形 デ ー タ 上 に 管 路 位 置 を 展 開 し 、属 性 情 報 と し て 水 道 使 用 者 を
含 む 各 種 の 詳 細 情 報 も 管 理 し て い る 。更 新 時 は 、ベ ク ト ル デ ー タ と 連 携 し た 竣 工
図 を GIS上 に 取 り 込 み 、GIS向 け に ベ ク ト ル デ ー タ 化 し た 更 新 デ ー タ を 付 与 す る 。
図 81
管路施設と竣工図の連携イメージ
出 典 : MWA
こ の 竣 工 図 は ど こ で も GIS上 で 呼 び 出 す こ と が で き 、 MWA局 内 、 市 内 18箇 所
に 設 置 さ れ て い る Branch Office及 び コ ー ル セ ン タ ー で 情 報 を 参 照 す る こ と が で
き る 。ま た 、モ バ イ ル 端 末 で の 情 報 表 示 や 登 録 も 行 え る よ う に な っ て お り 、漏 水
発 生 位 置 や 新 規 メ ー タ 接 続 等 に 係 る 情 報 を 現 場 で GISに 反 映 す る こ と が で き る 。
ま た 、 量 水 器 の 顧 客 の 水 使 用 量 デ ー タ を GISに 取 込 む こ と に よ り 、 各 地 域 で の 使
用 水 量 を 算 出 し て 管 網 解 析 を 行 う こ と が で き る 。こ の 結 果 は 管 路 の 新 設 ま た は 管
路更新時に管口径を決定する際、基礎データとして活用されている。
187
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 82
JICA
国際航業
MWA局 内 に お け る GISの 活 用 状 況
SAPの 活 用
GISと 同 様 、統 合 業 務 パ ッ ケ ー ジ シ ス テ ム と し て SAPが 各 Branch Office、浄 水
場 や ポ ン プ 場 等 施 設 ご と に 導 入 さ れ て お り 、 Branch Officeに お け る 管 路 の 情 報
は常に更新され、台帳として確認をすることができる。
4)
見 直 し ( Action)
管 路 の 更 新 計 画 に つ い て は 、 石 綿 管 の 漏 水 箇 所 数 は 2010年 か ら 2013年 の 間 に
減 少 し て い る 一 方 、PVC管 の 漏 水 箇 所 数 が 増 加 し て い る こ と か ら 、更 新 の 重 点 が
石 綿 管 か ら PVC管 に 移 行 し て い る 。2014年 度 よ り 、既 存 の PVC管 に つ い て 400km/
年の更新計画が立てられ、現在実施中である。
表 66
管種
石 綿 管 、 PVC管 の 漏 水 箇 所 数 の 推 移
漏 水 個 所 数 ( 箇 所 /100km/月 )
2010年 度
2013年 度
石綿管
10
4.7
PVC管
2
2.3
備考
法 定 耐 用 年 数 : 25年
更新の実施により漏水個所数が減少
法 定 耐 用 年 数 : 35年
漏水個所数が増加傾向
188
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
管路の更新計画は下記のように見直され、改訂されている。
表 67
2008年 度 以 前
管路更新計画の推移
2009~ 2014年 度
・ 更 新 す る 管 路 延 長 ( 80%) ・ 20 年 以 上 経 過 し た 石 綿 管
・ 漏 水 率 ( 20%)
2015年 度 以 降
・ 20年 以 上 経 過 し た 石 綿 管
( 80%)
・ 30年 以 上 経 過 し た PVC管
・ 漏 水 率 ( 20%)
・漏水率
・更新費用
(3)
浄水場及びポンプ場の維持管理状況
1)
計 画 ( Plan)
ポ ン プ 施 設 及 び 浄 水 場 に つ い て は 、更 新 の 長 期 計 画 は な い が 、施 設 の 状 態 と 使
用年数により、年度ごとにそれぞれ更新及び修理計画を立てている。
2)
実 行 ( Do)
ポ ン プ に つ い て は 更 新 時 期 が 来 た も の か ら 順 次 更 新 し て い る 。浄 水 場 に つ い て
も、濾過池内の防水塗装を施す、鉄製のプレートをステンレス製に交換する等、
長期使用に耐えるよう修理を施している。
図 83
急 速 濾 過 池 の 修 理 前 (上 )と 修 理 後 ( 下 )
189
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
評 価 ( Check)
3)
浄 水 場 や ポ ン プ 場 で は 、施 設 の 運 転 維 持 管 理 担 当 の 技 術 者 が 紙 ベ ー ス の 資 機 材
の 台 帳 は 整 理 し て い る が 、本 部 の ス タ ッ フ が 常 時 施 設 状 況 を 確 認 出 来 る 体 制 に は
な っ て い な い 。ま た 、SAPが 導 入 さ れ て い る も の の SAPの 技 術 、知 識 不 足 の た め 、
使 用 し て い な い 。こ の た め 、本 部 で 必 要 な 情 報 を 入 手 す る 際 に は 、そ の 都 度 各 施
設に問い合わせており、情報収集に時間を要する。
見 直 し ( Action)
4)
ポ ン プ 施 設 で は 、無 収 水 量 の 増 加 を 防 止 す る た め 、更 新 の 際 に 水 圧 に 影 響 の な
い範囲で揚程の小さなポンプが計画されている。
浄 水 場 で は 、こ れ ま で の 施 設 の 修 理 を 経 て 、現 在 は 浄 水 場 内 の 導 水 路 か ら 漏 水
対 策 を 重 視 し て い る 。た だ し 、補 修 に は 導 水 を 一 時 的 に 止 め る 必 要 が あ り 、都 内
へ の 配 水 が 滞 る こ と か ら 実 施 出 来 て い な い 。配 水 へ の 影 響 を 極 力 少 な く し た 対 策
を検討しているが、良い解決策を思いつかず、支援先を探している。
図 84
(4)
日本との協力
1)
JICAの 技 術 協 力
浄水場内の漏水状況
こ れ ま で に 技 術 協 力 や 有 償 資 金 協 力 「 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 ( 第 1次 フ ェ
ー ズ 2( 1979年 承 諾 )か ら 第 8次( 2009年 承 諾 )ま で の 円 借 款 供 与 を 行 っ て い る 。
さ ら に 、 JICAは 「 第 8次 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 の 附 帯 技 術 支 援 と し て MWA
の 上 水 道 施 設 の 運 営・維 持 管 理 能 力 の 向 上 を 目 的 と し て 、2010年 11月 ~ 2013年 3
月 に 日 本 の 水 道 事 業 体( 大 阪 府 、名 古 屋 市 、東 京 都 )の 技 術 ・ 経 験 を 共 有 す る た
めの本邦研修及び専門家派遣を組み合わせた協力を実施してきた。
2)
東京都水道局との技術協力
東 京 都 水 道 局 は 、 2012年 ま で に 上 記 「 第 8次 バ ン コ ク 上 水 道 整 備 事 業 」 附 帯 技
190
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
術 支 援 を 始 め 、 JICA事 業 に よ る 本 邦 研 修 及 び 専 門 家 派 遣 を 組 み 合 わ せ た 協 力 を
実施してきた。
MWAか ら の 要 望 に よ り 、 独 自 で 人 材 育 成 に 関 す る 覚 書 を 締 結 し 、 2013年 か ら
も 引 き 続 き 職 員 を 相 互 派 遣 し 、内 容 を 充 実 さ せ た 技 術 協 力 を 実 施 し て い る 。そ の
際 の 費 用 負 担 は 、移 動 費 及 び 滞 在 費 は 派 遣 側 、視 察 及 び 研 修 に 係 る 費 用 は 受 入 れ
側となっている。
日系企業による技術協力
3)
東 京 水 道 サ ー ビ ス 株 式 会 社 ( 以 下 、 TSS) が 東 京 都 水 道 局 と 共 に MWAに 対 し
て技術支援を実施している。
1. バ ン コ ク 市 内 の 漏 水 対 策 と し て 実 地 試 験 を 実 施 ( 2011年 5月 )
無 収 水 率 が 28% か ら 3% に 改 善
2. 合 弁 会 社 TSS-TESCOバ ン コ ク 社 の 設 立 ( 資 本 金 約 1,300万 円 )
TSSが 49% を 出 資 し 、 現 地 企 業 と 合 弁 で タ イ 国 に お け る 水 道 事 業 を 担 う
現地法人を設立。
(5)
アセットマネジメントの現状と課題
MWAは 、施 設 の 維 持 管 理 に 係 る 体 制 を 構 築 し 、GISに よ り 管 路 や 施 設 状 況 を 管
理 し 、 MWA自 身 に よ る 分 析 を 踏 ま え て 、 給 水 区 域 拡 張 に 伴 う 配 水 管 の 新 設 、 既
設 石 綿 管・PVC管 等 の 更 新 、漏 水 補 修 工 事 等 必 要 な 施 設 整 備 を 行 っ て い る 。た だ
し 、現 時 点 の 施 設 の 維 持 管 理 は 、事 後 保 全 を ベ ー ス と す る 中 期 的 な 計 画 に 基 づ い
た も の で あ り 、予 防 保 全 や 施 設 の 長 寿 命 化 を 目 指 し 、数 十 年 先 の 施 設 の 状 態 を 見
据えた長期的かつ総合的な計画に基づいてはいない。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に お け る MWAの 課 題 は 、 維 持 管 理 に 関 わ る 長 期 計 画 の
策定に必要なデータの蓄積・分析が行える環境がまだ十分に整っていないため、
長期的な維持管理費の予測が出来ていないことである。
長 期 間 の 水 需 要 の 予 測 、問 題 点 の 特 定 、そ れ を 基 に し た 長 期 的 か つ 総 合 的 な ア
セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 を 作 成 し て 、実 施 し て い く こ と が 、事 業 継 続 性 の 強 化 の
ために必要であり、これから取組むべき課題である。
191
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4.5.3
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国際航業
地 方 水 道 公 社 (PWA)
(1)
概要
1)
事業概要
PWAは 、 MWAが 管 理 す る バ ン コ ク 首 都 圏 の 水 道 施 設 を 除 く 、 タ イ 国 内 の 水 道
施 設 を 管 理 し て い る 。対 象 需 要 者 は 約 370万 世 帯( 約 1,480万 人 )で あ り 、世 帯 数
で タ イ 国 全 体 の 約 16% を カ バ ー し て い る 。 こ れ は 、 MWAの 顧 客 数 ( 約 210万 世
帯 、 約 840万 人 : タ イ 国 全 体 の 9% ) よ り も 多 い 。
2)
施設概要
バ ン コ ク 周 辺 の 水 道 施 設 に つ い て は 、タ イ 政 府 が 1990年 代 に 首 都 バ ン コ ク 近 郊
で 深 刻 化 し た 地 下 水 の 過 剰 利 用 に よ る 地 盤 沈 下 、地 下 水 汚 染 問 題 を 解 決 す る た め
に 、民 間 資 金・技 術 の 導 入 に よ る 浄 水 場 建 設 を 計 画 し た の が 始 ま り で あ る 。そ の
計 画 に 従 い 、 民 間 の TTW社 ( Thai Tap Water Supply Company Limited) が 設
立 さ れ 、 TTW社 が バ ン コ ク 西 部 及 び 北 部 2か 所 に 浄 水 場 を 建 設 し た 。 現 在 で も バ
ンコク西部のナコンパトム・サムットサコン両県、北部のパトンタニ県向けに、
約 40万 m3/日 の 浄 水 を 生 産 し て い る 。 こ れ は 、 PWAの 配 水 総 量 の 約 1/3を 占 め 、
こ れ ら 浄 水 施 設 は 現 時 点 で は TTW社 が 所 有 、 運 営 維 持 管 理 を 行 い 、 PWAが TTW
社より浄水を購入して給水している。
2023年 に は 北 部 の 浄 水 場 、 2034年 に は 西 部 の 浄 水 場 が PWAに 移 管 さ れ る 予 定
である。
3)
実施体制
PWAの 組 織 は バ ン コ ク 都 内 の 本 部 と 、国 内 10箇 所 の 拠 点( Regional Office)、
233箇 所 の 水 道 施 設( Branch)か ら 成 る 。こ れ ら の 水 道 施 設 は 需 要 者 数 に よ り 以
下 の よ う に 4グ ル ー プ に 分 類 さ れ て い る 。
表 68
顧客数による施設規模の内訳
グループ名
顧客数
Branch数
1. Small Scale Water Utilities
15,000以 下
169
2. Medium Scale Water Utilities
15,001- 40,000
41
3. Large Scale Water Utilities
40,001- 80,000
14
4. Special Water Utilities
80,001以 上
9
計
233
PWAは 、233の 水 道 施 設 の う ち 、主 に 顧 客 数 が 50,000戸 を 超 え る 規 模 の 比 較 的
大 き い 20施 設 の 運 営 を 外 部 委 託 し て い る 。 主 に 残 り の 規 模 の 小 さ い 水 道 施 設 は
192
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国際航業
PWAが 直 接 運 営 し て い る
2014年 5月 現 在 、PWAの 7,730名 の 職 員 の う ち 、987名 が バ ン コ ク の 本 部 、6,743
名 が 10か 所 の Regional Officeと 233か 所 の 水 道 施 設 に 在 籍 し て い る 。
各 Regional Officeは 、そ れ ぞ れ 20~ 25の 水 道 施 設 を 管 理 し て お り 、各 水 道 施 設
か ら の 施 設 の 運 営 ・ 維 持 管 理 情 報 が 管 轄 す る Regional Office に 報 告 さ れ 、
Regional Officeか ら バ ン コ ク 都 内 の PWAの 本 部 へ 報 告 さ れ る シ ス テ ム と な っ て
いる。
PWAが 管 理 す る 水 道 施 設 は 、 2014年 10月 に は 235に 増 加 す る 予 定 で あ る 。
4)
財政状況
MWAの 事 業 状 況 を 見 る と 、 2013年 度 の 収 入 は 212億 バ ー ツ ( 前 年 比 30億 バ ー
ツ 増 加 ) 、 営 業 支 出 は 164億 バ ー ツ ( 前 年 比 15億 バ ー ツ 増 加 ) で あ っ た 。 そ の う
ち 維 持 管 理 費 用 は 9億 バ ー ツ で 、 主 に 配 管 補 修 や 布 設 の 外 注 費 と 材 料 費 で あ る 。
そ の 結 果 、 純 利 益 は 40億 バ ー ツ (前 年 比 16億 バ ー ツ 増 加 )で 純 利 益 率 は 19%で 、
純 利 益 の 51%を 財 務 省 へ 支 払 い 、残 り の 20億 バ ー ツ を 内 部 留 保 と し て 自 己 資 本 に
組 み 入 れ て い る 。 74
表 69
PWAの 損 益 計 算 書
単位:百万バーツ
2012
REVENUES
Income from water sales and services
Income from pipeline installation
TOTAL REVENUES
EXPENSES
Operating and administrative expenses
Costs of pipeline installation
TOTAL EXPENSES
Finance costs
Profit for the year
Other comprehensive income (loss) - net
Total comprehensive income for the years
Remittance to the Ministry of Finance
Increase in unappropriated retained earnings
2011
19,488
1,686
21,175
92%
8%
100%
16,579
1,559
18,138
91%
9%
100%
15,040
71%
13,664
75%
1,311
16,351
2,243
4,029
-1
4,028
6%
77%
11%
19%
7%
82%
10%
14%
19%
1,209
14,873
1,903
2,478
-1
2,477
2,044
1,984
51%
49%
1,197
1,280
48%
52%
14%
出 典 : PWA Annual Report 2012
74
財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も
多少変更する。
193
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PWAの 資 産 状 況 を 見 る と 、2012年 9月 末 現 在 、836億 バ ー ツ の 資 産 の う ち 、有 形
固 定 資 産 が 建 設 中 の も の も 含 め 712億 バ ー ツ ( 85%) を 占 め て お り 、 有 形 固 定 資
産 の 比 率 が 高 い 。債 務 は 550億 バ ー ツ で あ る 一 方 、自 己 資 本 は 前 年 9億 バ ー ツ 増 加
し 285億 バ ー ツ で 、 総 資 産 の 34%を 占 め て い る 。 そ の う ち 内 部 留 保 金 が マ イ ナ ス
で前年度より改善しているものの、内部留保が十分に蓄えられていない。
表 70
PWAの 貸 借 対 照 表
単位:百万バーツ
2012
ASSETS
TOTAL CURRENT ASSETS
NON-CURRENT ASSETS
Property, buildings and equipment
Other non-current assets
TOTAL NON-CURRENT ASSETS
TOTAL ASSETS
LIABILITIES
TOTAL CURRENT LIABILITIES
NON-CURRENT LIABILITIES
Long-term loans from financial institutions - net
PWA's bonds - net
Other non-current assets
TOTAL NON-CURRENT LIABILITIES
TOTAL LIABILITIES
EQUITIES
Total capital
Unappropriated retained earnings (loss)
TOTAL EQUITIES
TOTAL LIABILITIES AND EQUITIES
2011
8,739
10%
8,578
11%
71,224
3,594
74,817
83,556
85%
84%
90%
100%
67,979
4,546
72,526
81,104
89%
100%
8,393
10%
7,642
9%
10,200
36,443
46,643
55,036
12%
1%
13%
56%
66%
810
10,150
34,906
45,866
53,508
33,124
-5,054
28,520
83,556
40%
-6%
34%
100%
33,124
-5,980
27,596
81,104
41%
-7%
34%
100%
-
57%
66%
出 典 : PWA Annual Report 2012
総 資 産 の 76%を 占 め る 建 設 中 の も の を 除 い た 有 形 固 定 資 産 の 内 訳 を み る と 、
497億 バ ー ツ と 78%が 建 設 物 と な っ て い る 。 償 却 年 数 は 3年 ~50年 で あ る 。
表 71
有形固定資産の内訳
単位:百万バーツ
Accumulated
depreciation
Cost price
Land
Building and construction
Equipment
Assets under Financial Lease
Total
2,282
77,485
11,374
16,511
107,652
0
26,924
7,445
4,343
38,711
Accumulated
impairment
8
817
38
4,465
5,328
Net book value
2,274
49,744
3,892
7,703
63,614
注 : 建 設 中 の 有 形 固 定 資 産 7.4億 バ ー ツ は 除 く
出 典 : PWA
194
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上 記 の 2012年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分
析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 19%と 収 益 力 は MWAほ ど 高 く な い 。 更 新 費 用 の
確 保 状 況 75は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 36%と 過 去 の
投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 1/3程 度 の 水 準 で 資 金 を 確 保 で き て い る 状 況 で あ る 。 有 形
固 定 資 産 の 取 得 費 用 に 対 し て 既 に 償 却 し て い る 分 は 37% 76と 全 体 的 に は 老 朽 化 は
深刻ではないと思われる。
表 72
評価項目
主な財務指標
評価指標
2012
収益力
売上高利益率
19%
更新費用確保
更新投資充当可能資金対減価償却
累計額比率
36%
老朽化度合い
有形固定資産減価償却率
37%
PWAは サ ー ビ ス 区 域 が 広 く 密 度 が 低 い た め 事 業 効 率 が 悪 く 、 過 去 に 営 業 成 績
が 悪 か っ た 時 期 が あ り 、内 部 留 保 は マ イ ナ ス で あ る が 、最 近 は 利 益 が 出 る よ う に
な り 、財 務 状 況 は 改 善 し つ つ あ る 。今 後 、遠 隔 地 の 効 率 へ 事 業 拡 大 す る 際 に は 政
府の補助が出る予定で、業績悪化には直結しないと考えられる。
(2)
維持管理の状況
1)
計 画 ( Plan)
現 在 、 PWAが 管 理 す る 水 道 施 設 の 漏 水 率 の 平 均 値 は 約 28% で あ る が 、 格 差 が
大 き く 36~ 40%を 超 え る 水 道 施 設 も あ る 。 そ の た め 、 PWAは 漏 水 対 策 を 重 要 課
題 と 位 置 づ け 、管 路 の 補 修・更 新 の 優 先 度 を 設 定 し て い る 。優 先 度 の 高 い 施 設 か
ら 更 新 を 行 っ て 漏 水 率 の 低 下 を 図 る と 同 時 に 、漏 水 事 故 を 未 然 に 防 ぎ 、水 道 使 用
者への給水サービスの向上を目指している。
75
更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累
計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、
2013年 に 36%で あ る 。
76
有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却
対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 37%。
195
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現 在 、 PWAは 施 設 の 運 営 維 持 管 理 に 関 し 、 次 の よ う な 事 業 戦 略 を 掲 げ て い る 。
表 73
PWAが 掲 げ る 事 業 戦 略
事業戦略
1. 適 切 な 水 源 の 管 理
達成に向けた方策
1-1. 適 切 な 原 水 の 確 保
1-2. 原 水 水 質 監 視 シ ス テ ム の 導 入
1-3. 適 切 な 原 水 利 用 の た め の 配 水 区 域 の 統 合
2. 環 境 に 優 し い 浄 水 シ ス テ
2-1. 水 需 要 を 満 た す た め の 施 設 の 改 良
ムと水需要量への対応
2-2. 運 転 管 理 の た め の SCADAの 導 入
2-3. 施 設 の 維 持 管 理 向 上 の た め の 予 防 保 全 の 導 入
2-4. 浄 水 処 理 の 改 良 に よ る 水 質 改 善
2-5. ISO14000に 準 拠 し た 環 境 問 題 へ の 対 応
2-6. 効 果 的 な 施 設 運 転 の た め の 新 技 術 の 導 入
2-7. 事 業 継 続 マ ネ ジ メ ン ト の 導 入
3. 顧 客 の 要 求 に 応 え る 施 設
3-1. 給 水 区 域 の 拡 張
運転システムの構築
3-2. Localの 水 道 施 設 に 対 す る 技 術 提 供
3-3. 漏 水 管 理
3-4. 流 量 計 の 新 設 、 更 新 と そ れ に 伴 う 検 証
4. 国 際 規 格 に 準 じ た 水 質 管
4-1. 水 理 状 況 の モ ニ タ リ ン グ に 伴 う 情 報 の 提 供
理
4-2. ISO/IEC17025規 格 に 沿 っ た 研 究 室 の 改 善
4-3. 浄 水 場 に お け る 浄 水 工 程 の 設 定 と 水 質 コ ン ト ロ
ール
PWAの 新 し い 取 組 み と し て 、管 路 の 補 修・更 新 に 関 し て こ れ ま で の 事 後 保 全 か
ら 予 防 保 全 へ の 移 行 を 目 指 し て お り 、そ の た め の 予 算 が 計 上 さ れ 、実 行 計 画 を 策
定中である。
2)
実 行 ( Do)
PWAは 管 理 す る 水 道 施 設 数 が 多 く 、 各 施 設 の 運 営 は Branch Officeに 任 さ れ て
い る も の の 、水 道 施 設 の 状 況 が 地 形 や 自 然 状 況 に よ り そ れ ぞ れ 異 な る こ と 、ま た
Branch Officeの 技 術 レ ベ ル に バ ラ つ き が あ り 、 一 定 レ ベ ル で の 水 道 施 設 の 管 理
が 難 し い 。ま た 、外 部 委 託 に よ る 施 設 管 理 の 拡 大 も 検 討 し て い る も の の 、予 算 や
人材の確保が困難なことから、現状では実現出来ていない状況である。
約 10%の 規 模 の 大 き な 水 道 施 設 で は 、 MWAと 同 様 に 給 水 区 域 を 複 数 の 配 水 ブ
ロ ッ ク ( District Management Area: DMA) に 分 割 し て い る 。 各 DMAの 境 界 に
設 置 さ れ た 流 量 計 で DMA間 の 流 量 を 常 時 計 測 し て お り 、 流 量 に 異 常 が あ る 場 合
に は 漏 水 の 可 能 性 が 大 き い と 判 断 し 、現 地 に て 詳 細 な 漏 水 探 査 を 実 施 し 、管 路 を
補修している。
例 え ば 、 首 都 圏 に 近 い Rangsit Branchで は 、 こ の 仕 組 み が 2年 前 に 導 入 さ れ 、
給 水 区 域 内 の 総 数 60の DMAの 流 量 デ ー タ が WEB上 に 常 時 送 信 さ れ て お り 、 イ ン
タ ー ネ ッ ト 環 境 が 整 っ て い る 所 で あ れ ば 何 処 か ら で も 計 測 値 を 確 認 出 来 る 。こ の
196
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国際航業
た め 、担 当 者 は 外 出 中 で も 漏 水 等 で 流 量 計 が 異 常 な 数 値 を 示 し た 場 合 に は 、即 座
に画面上で異常を確認できる。
図 85
3)
配水管に設置された流量の計測状況
評 価 ( Check)
GISの 活 用 状 況
PWAで は 、 管 路 施 設 の 情 報 管 理 に BMAや MEA、 MWAと は 異 な る シ ス テ ム の
GISを 活 用 し て お り 、本 部 及 び 全 233か 所 の 各 水 道 施 設 が GISで デ ジ タ ル 地 形 デ ー
タ上に管路位置を展開し、属性として管路の詳細情報を管理している。
197
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管 路 の補 修 位 置
図 86
GISに よ る 管 路 の 補 修 状 況
水 道 施 設 で は 、 GISで 漏 水 、 補 修 履 歴 や 水 道 使 用 者 に 係 る 属 性 情 報 が 管 理 さ れ
て お り 、配 水 管 更 新 の 優 先 度 の 設 定 及 び 需 要 家 の 水 使 用 状 況 か ら 水 理 計 算 に よ り
将来の拡張計画に利用されている。
図 87
水 理 計 算 の 実 施 状 況 ( Rangsit Branch)
しかし、なかには管路情報が常時更新されていない地方の水道施設もある。
198
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見 直 し ( Action)
4)
施 設 規 模 の 大 き い Branch Officeで も 管 路 の 補 修 ・ 更 新 情 報 等 の 基 礎 デ ー タ は
記 録 し て い る が 、管 路 の 埋 設 状 況 、地 盤 状 況 等 の デ ー タ を 収 集 し 、基 礎 デ ー タ と
組 み 合 わ せ て 管 路 の 補 修 頻 度 が 多 い 条 件 を 分 析 し 、管 路 更 新 の 優 先 順 位 付 け に 生
かすところまではできていない。
(3)
日本との協力
2011年 4月 ~ 2014年 3月 に か け て 、埼 玉 県 企 業 局 は「 JICA草 の 根 技 術 協 力 事 業 」
の 適 用 を 受 け て 、 PWAが 管 轄 す る タ イ ・ チ ョ ン ブ リ 県 に お い て 水 処 理 に 係 る 技
術 支 援 を 実 施 し て い る 。 支 援 内 容 は 、 本 邦 か ら の 技 術 者 派 遣 と PWAか ら の 研 修
生 受 入 れ に よ り 、 沈 殿 池 ・ろ 過 池 の 管 理 方 法 の 改 善 や 、 マ ン ガ ン の 低 減 化 等 、 水
質管理技術の向上のための技術移転であり、以下の成果を目的としている。
1. PWAの 技 術 力 向 上
・ろ過池洗浄技術
・塩素管理技術
・排泥管理技術
・日本の水道知識の習得
2. 埼 玉 県 企 業 局 職 員 の 国 際 感 覚 の 醸 成
PWA( タ イ 側 ) 、 日 本 側 双 方 に 成 果 が 見 ら れ た 。 さ ら に 、 PWAか ら 今 後 の 協
力 と し て 、他 の 地 域 へ の 展 開 、更 な る 技 術 者 の 育 成 の 要 望 が あ り 、埼 玉 県 企 業 局
は 、 PWAに 対 す る 支 援 を 2016年 3月 ま で 延 長 し 、 Chiang Mai及 び Nong Khaiの
浄水場の運営維持管理能力向上を目的とした技術支援を継続する。
(4)
アセットマネジメントにおける現状と課題
PWAは 、 MWAと 同 様 、 施 設 の 維 持 管 理 を 行 う 上 で 必 要 な ハ ー ド ウ ェ ア 、 ソ フ
ト ウ ェ ア が 整 備 さ れ て お り 、自 前 で 分 析 を し 、将 来 の 施 設 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定
す る 環 境 は 整 っ て い る 。ま た 、こ れ ま で 維 持 管 理 は 事 後 保 全 で あ っ た が 、予 防 保
全 に 伴 う 維 持 管 理 手 法 を 取 り 入 れ る 意 向 も 持 っ て お り 、既 存 施 設 を 将 来 に 亘 っ て
有効に活用する意識の高さが確認出来る。
た だ し 、現 実 に は 管 轄 す る エ リ ア が 広 く 、管 理 す る 施 設 が 非 常 に 多 く 国 内 に 点
在 し て い る こ と 、施 設 の 仕 様 が 地 域 の 条 件 に 応 じ て 異 な る こ と か ら 、各 々 の 施 設
に 対 す る 均 質 な 維 持 管 理 は 難 し い 状 況 で あ る 。限 り あ る 予 算 の 中 で 施 設 の 維 持 管
理 に 係 る 各 水 道 施 設 へ の 適 正 な 予 算 配 分 は 難 し く 、人 口 の 多 い 首 都 圏 周 辺 を 重 視
せざるを得ず、地方のサービスの質の改善が課題である。
199
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4.6
下水道分野の現状
4.6.1
タイ国の下水道分野の概要
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タ イ 国 の 下 水 道 事 業 は 、バ ン コ ク 都 内 は バ ン コ ク 首 都 庁( BMA)の 下 水 道 事 業
局 、 そ の 他 は 下 水 道 管 理 公 社 ( WMA) が 管 轄 し て い る 。
4.6.2
(1)
バ ン コ ク 首 都 圏 庁 (BMA)
下水道事業局
バンコク都の下水道システム
BMAの 下 水 道 部 門 は 下 水 道 事 業 局 (DSD)が 管 理 し 、 バ ン コ ク 都 内 の 以 下 の 施
設に関する建設及び維持管理業務を主に行っている。

下水道管渠(合流式)

雨水吐室

下水処理場

河川堤防

排水ポンプ場
約 6,400km
1,000箇 所 以 上
7箇 所
バ ン コ ク 都 の 下 水 道 は 、元 来 、雨 水 排 水 を 目 的 に 整 備 さ れ て き た た め 、汚 水 と
雨 水 を 同 一 の 管 渠 で 処 理 す る 合 流 式 下 水 道 が 一 般 的 で あ る 。下 水 道 管 渠 に は 雨 水
吐 室 が 整 備 さ れ 、乾 期 は 合 流 式 管 渠 に 汚 水 の み が 流 入 し 、全 量 が 下 水 処 理 場 で 処
理 さ れ る 。雨 期 は 、合 流 式 管 渠 を 雨 水 と 汚 水 が 流 下 す る が 、一 定 量( 通 常 、乾 期
汚 水 量 の 5 倍 )ま で は 下 水 処 理 場 に 送 水 さ れ 、余 剰 水 量 は 雨 水 吐 室 を 経 て ス ク リ
ー ン で ゴ ミ を 取 り 除 い た 後 、 河 川 ・ 水 路 に 放 流 さ れ る 。 バ ン コ ク 都 に は 1,000ヶ
所以上の雨水吐室が設置されているが、雨水吐室が整備されていない地域では、
汚 水 、雨 水 と も 、合 流 式 下 水 道 管 渠 に よ り 収 集 さ れ 、そ の ま ま 河 川・水 路 に 放 流
されている。
バ ン コ ク 都 で は 腐 敗 槽 の 設 置 が 義 務 付 け ら れ て お り 、排 水 さ れ る 汚 水 の 汚 濁 濃
度 は 低 く 、ま た 、下 水 道 管 渠 に は 運 河 か ら の 水 の 逆 流 や 地 下 水 の 浸 入 等 の 不 明 水
も 多 く 混 入 し て い る た め 、下 水 道 管 渠 を 通 し て 収 集 さ れ る 汚 水 の 下 水 処 理 場 流 入
水 質 は 、BODで 約 42mg/l( 平 均 値:2013年 )と 、日 本 の 1/2~ 1/3( 146mg/l:2012
年 、東 京 都 下 水 道 局 )と 低 い 値 を 示 し て い る 。こ の た め 、公 共 用 水 域 、下 水 処 理
場 へ の 汚 濁 負 荷 削 減 効 果 を 期 待 で き 、低 コ ス ト の 下 水 道 処 理 シ ス テ ム が 構 築 さ れ
ている。
バ ン コ ク 全 体 で 発 生 す る 汚 水 量 は 約 300万 m3/年 で あ る が 、 こ の 内 処 理 さ れ る
の は 約 100万 m3/年 で あ る 。下 水 道 管 渠 は 口 径 0.3~ 5.0m 、管 種 は ヒ ュ ー ム 管 を 主
と し て PVC管 等 、様 々 な 管 種 が 使 用 さ れ 、布 設 後 30年 以 上 経 過 し て い る 管 渠 も 存
在する。
200
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
組織
(2)
2013年 度 に お け る DSDの 職 員 総 数 は 500名 で あ り 、 そ の 内 訳 は 正 規 職 員 156名
に 加 え て 、非 正 規 技 能 職 282名 、臨 時 職 62名 で あ る 。以 下 に DSDの 組 織 と 職 務 別
人数を示す。
部 長 (1名 )
庶務
水質分析
計 画 ・汚 泥 管 理
データベース・料 金 徴 収
(31名 )
(35名 )
(23名 )
(16名 )
下水処理
技術開発
(15名 )
維持管理
運転管理1
運転管理2
運転管理3
(28名 )
(152名 )
(143名 )
(56名 )
図 88
DSDの 組 織 図
出 典 : BMA
(3)
予算、維持管理費と下水道料金
現 在 、DSDに よ る 下 水 道 の 運 営 維 持 管 理 は 、国 か ら の 補 助 金 と 税 金 に よ っ て 賄
わ れ て お り ( 年 間 予 算 : 約 30億 バ ー ツ 、 補 助 金 と 税 金 の 割 合 は 約 50: 50) 、 下
水 道 料 金 条 例 は 2004 年 に 制 定 さ れ て い る も の の 、 下 水 道 に 係 る 料 金 徴 収 は 実 施
さ れ て い な い 。 こ れ は 年 間 の 汚 水 量 の 1/3し か 処 理 出 来 て お ら ず 、 バ ン コ ク 都 民
の 下 水 道 施 設 の 整 備 状 況 に 対 す る 不 満 か ら 、料 金 徴 収 の 実 施 が 実 現 出 来 て い な い
と の こ と で あ る 。DSDと し て は 、下 水 道 の 料 金 徴 収 の 必 要 性 は 把 握 し て い る も の
の 、少 な く と も 下 水 道 普 及 率 が 60% を 超 え な け れ ば 料 金 徴 収 の 実 現 は 難 し い と 判
断している。
(4)
1)
下水道施設の維持管理状況
計 画 ( Plan)
下 水 道 整 備 の 上 位 計 画 と し て 、 2008年 に 作 成 さ れ た BMA実 行 計 画 ( 2009年 ‐
2012年 ) が あ り 、 2012年 目 標 と し て 下 水 処 理 率 42%、 2020年 の 長 期 目 標 と し て
下 水 処 理 率 60%を 掲 げ て お り 、こ の 目 標 達 成 に 向 け て 下 水 道 整 備 が 進 め ら れ て い
る 。下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 に つ い て は 、バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 で 処 理 区 毎 に 年 間 、
月間、週間の維持管理計画を作成し、実施されている。
201
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
実 行 ( Do)
バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 の 内 、6処 理 区 に つ い て は 下 水 道 処 理 場 か ら 下 水 道 管 渠 の
運 営 維 持 管 理 業 務 を 一 括 で 民 間 会 社 に 5年 契 約 で 委 託 し て い る 。 BMAは 1処 理 区
について直接運営維持管理を行っている。
大 口 径 の 管 渠 に つ い て は 人 が 管 渠 内 に 入 っ て 損 傷 状 況 を 確 認 し て い る が 、小 口
径 管 路 に つ い て は 人 が 直 接 管 渠 内 を 確 認 す る こ と が 出 来 な い た め 、管 路 調 査 用 機
材の導入を検討しているところである。
3)
評 価 ( Check)
下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 結 果 は 、処 理 区 毎 に 作 成 さ れ た デ ー タ ベ ー ス に よ っ て 管
理されている。
4)
見 直 し ( Action)
バ ン コ ク 都 内 7処 理 区 の 内 、 6処 理 区 を 外 部 委 託 し て い る が 、 BMAに よ れ ば 、
民間業者に管理を委託することで新しい技術の適用が可能になるとのことであ
っ た 。し か し 、料 金 徴 収 を 実 施 せ ず 、国 か ら の 補 助 金 と 税 金 の み で 施 設 の 維 持 管
理 を 行 っ て い る 現 状 で は 、施 設 の 拡 張 も 含 め た 下 水 道 施 設 の 整 備 が 十 分 に 実 施 出
来ていない状況である。
(5)
アセットマネジメントにおける現状と課題
2011年 の 洪 水 以 降 、タ イ 国 で は 洪 水 に 対 す る イ ン フ ラ の 整 備 が 大 き な 問 題 と な
っ て い る 。 BMAの 下 水 道 部 門 で は 、 チ ャ オ プ ラ ヤ 川 の 河 川 堤 防 の 管 理 も 行 っ て
い る が 、2011年 の 洪 水 以 降 、堤 防 の 維 持 管 理 に 重 点 が 置 か れ 、堤 防 の 状 態 、特 に
堤 体 か ら の 漏 水 に つ い て 重 点 的 に 点 検 が 行 わ れ 、随 時 修 繕・補 修 が 実 施 さ れ て い
る 。 し か し 、 BMAと し て は 下 水 道 の 整 備 ( 特 に 管 路 ネ ッ ト ワ ー ク や ポ ン プ 施 設 )
も同様に最重要課題と考えている。
BMAは 既 存 施 設 の 維 持 管 理 の 必 要 性 は 認 識 し て お り 、下 水 道 管 路 内 の 視 認 の た
め の シ ス テ ム の 導 入 を 検 討 す る 等 、 対 策 を 講 じ て い る 。 BMAが 抱 え る 最 大 の 課
題 は 、施 設 を 運 営 し て い く た め に 料 金 徴 収 が 必 須 で あ る に も 関 わ ら ず 、下 水 道 の
整 備 率 が 低 い た め に 料 金 徴 収 が 実 施 出 来 て い な い こ と で あ る 。そ の た め 、既 存 施
設 の 維 持 管 理 の 重 要 性 は 十 分 認 識 し て い る が 、そ れ 以 上 に 下 水 道 事 業 運 営 に お い
て 優 先 度 が 高 い の は 、下 水 道 の 整 備 率 を 上 昇 さ せ る た め に 新 規 の 施 設 整 備 を 実 施
することである。
202
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.6.3
(1)
JICA
国際航業
下 水 道 管 理 公 社 (WMA)
組織と業務内容
WMAは MNRE(Ministry of Natural Resources and Environment)の 下 部 組 織
で あ り 、バ ン コ ク 都 内 を 除 く タ イ 国 内 の 下 水 道 施 設 を 管 理 し て い る 。職 員 数 は 120
名 ( バ ン コ ク 都 内 60名 、 バ ン コ ク 外 60名 ) で あ る 。
タ イ 国 内 に あ る 下 水 処 理 場 101箇 所 ( バ ン コ ク 8箇 所 、 バ ン コ ク 外 93箇 所 ) は
基 本 的 に 各 地 方 自 治 体 が 建 設 、管 理 を 行 っ て い る 。下 水 道 施 設 の 内 、バ ン コ ク 都
内 に つ い て は BMAが 管 理 し て い る た め 、WMAの 管 轄 す る 地 域 は バ ン コ ク 外 の タ
イ 国 内 全 域 と な る が 、全 て の 下 水 道 施 設 を 管 理 し て い る 訳 で は な く 、各 地 方 自 治
体 が 下 水 道 施 設 を 新 た に 建 設 す る 場 合 、ま た 施 設 の 老 朽 化 に よ り 更 新 の 必 要 が あ
る 場 合 等 に お い て 、独 自 で 施 設 の 更 新 を 進 め る こ と が 困 難 な 状 況 で あ る 場 合 に 限
ら れ る 。 こ の よ う な 場 合 に 地 方 自 治 体 が WMAに 対 し て 下 水 道 施 設 運 営 の 要 請 を
出 し 、 要 請 が 受 理 さ れ た 後 、 最 大 15年 間 を 限 度 と し て WMAが 下 水 道 施 設 運 営 を
支援する。
サ ポ ー ト の 内 容 と し て は 、下 水 道 処 理 施 設 新 設 の 資 金 援 助 、施 設 の 運 営 、地 方
自 治 体 に 対 す る 運 営 方 法 の 指 導 で あ り 、 15年 の 契 約 期 間 中 は WMAが 下 水 道 処 理
施 設 を 直 接 管 理 し 、建 設 資 金 や 施 設 更 新 に か か る 資 金 が 足 り な い 場 合 は 、国 か ら
の援助を受けて各下水道処理施設の運営維持管理を行っている。
現 状 で は 、月 当 り 下 水 道 使 用 料 30バ ー ツ を 各 世 帯 か ら 徴 収 し 、タ イ 国 内 18か 所
の下水道処理施設の運営資金に充てている。
WMAの 業 務 の 目 的 は 、 15年 の 契 約 期 間 中 の 指 導 に よ り 、 各 地 方 自 治 体 が 施 設
の 運 営 能 力 を 持 ち 、自 立 し た 施 設 運 営 を 可 能 に す る こ と を 目 指 す も の で あ る 。こ
の た め 、 下 水 道 処 理 施 設 は 地 方 自 治 体 が 所 有 す る た め 、 WMAが 独 自 で 施 設 を 所
有 す る こ と は な い 。15年 の 契 約 期 間 内 に 地 方 自 治 体 が 下 水 道 処 理 施 設 の 運 営 が で
き る よ う に な っ た 場 合 、 WMAの サ ポ ー ト は 終 了 と な る が 、 こ れ ま で 契 約 期 間 を
待 た ず に 終 了 し た ケ ー ス は 1箇 所 し か な く 、 ほ と ん ど の 自 治 体 は 15年 の 契 約 終 了
後 も 契 約 期 間 を 延 長 し 、 WMAに よ る 施 設 の 運 営 維 持 管 理 の 継 続 を 望 ん で い る の
が現状である。
WMAが 対 象 と す る 施 設 は 下 水 道 処 理 施 設 の み で あ り 、 下 水 道 管 渠 の 建 設 、 維
持管理は各地方自治体が行っている。
(2)
施設の維持管理状況
下 水 処 理 施 設 の 耐 用 年 数 は 資 機 材 に よ り 異 な る が 7~ 15年 で あ り 、 施 設 の 予 防
保 全 と し て 資 機 材 へ の オ イ ル や グ リ ー ス の 定 期 的 な 注 入 、ス ペ ア パ ー ツ の 交 換 を
行っている。
203
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(3)
JICA
国際航業
WMAの 抱 え る 課 題
現 状 で 一 番 大 き な 問 題 は 予 算 が 少 な い こ と で あ る 。 ま た 、 職 員 数 が 120名 と 少
な く 、今 後 増 加 す る で あ ろ う 地 方 自 治 体 か ら の 下 水 道 処 理 施 設 の 運 営 維 持 管 理 の
依頼に応える体制が整っていないことである。
(4)
日本による技術支援
2014年 度 現 在 、 WMAは 埼 玉 県 下 水 道 局 か ら 「 草 の 根 技 術 協 力 事 業 」 の 適 用 を
受 け て 下 水 技 術 移 転 を 受 け て お り 、今 年 度 が 3年 プ ロ ジ ェ ク ト の 最 終 年 に あ た る 。
埼玉県下水道局としては、本プロジェクトを通して、タイ国の地方都市及び
WMAと の 友 好 関 係 を 構 築 し 、 将 来 の 水 ビ ジ ネ ス 案 件 の 形 成 に つ な げ る こ と を 期
待している。
支援の概要としては、現地での予備調査を経て、
1.技術者の派遣
2.研修員の受入れ
を 実 施 す る こ と で 、効 率 的 な 下 水 処 理 技 術 と 維 持 管 理 技 術 の 支 援 及 び 技 術 的 問 題
解決のための指導している。
(5)
アセットマネジメントの現状と課題
WMAの 組 織 の 役 割 が 技 術 支 援 に 限 定 さ れ て お り 、 施 設 の 保 有 と 長 期 間 の 維 持
管 理 の 責 任 を 負 っ て い な い た め 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 関 心 は 低 い 。施 設 を
保 有 す る 地 方 自 治 体 も 、 維 持 管 理 を で き る だ け WMAに や っ て も ら う と い う 気 持
ちでいるため、アセットマネジメントへの関心は低い。
このような現状に対し今後考え得る対応策は以下の通りである。
WMAに 対 し て は 現 在 埼 玉 県 が 実 施 し て い る よ う な 技 術 支 援 を 継 続 し 、 職 員 の
下 水 処 理 技 術 と 維 持 管 理 技 術 の 更 な る 向 上 を 目 指 す 。ま た 、地 方 自 治 体 に 対 し て
は 、既 存 の 下 水 道 施 設 の 再 整 備 と 共 に 、最 終 的 に は 下 水 道 施 設 の 維 持 管 理 は 地 方
自 治 体 が 実 施 し て い く 必 要 が あ る こ と を 認 識 さ せ 、 WMAか ら の 専 門 家 の 派 遣 に
よ っ て 下 水 処 理 技 術 及 び 維 持 管 理 技 術 を 指 導 し て 、地 方 自 治 体 の 下 水 道 施 設 管 理
レベルを上げることが必要である。
204
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.7
鉄道分野
4.7.1
タイ国の鉄道分野の概要
JICA
国際航業
タ イ 国 の 鉄 道 に 関 連 す る 事 業 者 は 、 以 下 3事 業 者 に 分 類 さ れ る 。

1896年 か ら 操 業 し タ イ 国 全 土 に 在 来 線 鉄 道 網 を 持 つ タ イ 国 鉄 (SRT)( 運 用
も SRT)

2010年 に 開 業 し バ ン コ ク 中 心 街 と ス ワ ン ナ プ ー ム 国 際 空 港 を 高 架 鉄 道 で
結 ぶ エ ア ポ ー ト リ ン ク ( 延 長 28.6km ) を 運 用 す る SRT の 子 会 社 で あ る
SRTET(SRT Electrified Train)(運 用 は SRTET).

2005年 に 開 業 し バ ン コ ク 首 都 圏 の 地 下 鉄 20.8kmを 所 有 す る 国 営 企 業 タ イ
高 速 度 交 通 公 社 (MRTA)( 運 営 は 民 間 会 社 BMCL(Bangkok Metro Public
Company Limited))

1999年 に 開 業 し バ ン コ ク 中 心 部 の 高 架 軽 量 鉄 道 (ス カ イ ト レ イ ン )36.92km
を 所 有 す る バ ン コ ク 都 ( 運 用 は 民 間 会 社 BTSC (Bangkok Mass Transit
Railway System Public Company Limited))
バ ン コ ク 首 都 圏 で は 通 勤 通 学 輸 送 の 公 共 交 通 機 関 は バ ス の み だ っ た が 、経 済 成
長 に 伴 う 渋 滞 の 解 消 の た め 1990年 代 初 頭 よ り 地 下 鉄 、 高 架 軽 量 鉄 道 が 計 画 さ れ 、
1990年 代 後 半 か ら 建 設 が 始 ま っ た 。
4.7.2
タ イ 国 有 鉄 道 (SRT)
(1)
概要
1)
施設概要
タ イ 国 鉄 の 本 線 は タ イ 国 全 国 に 渡 り 全 長 4,071kmで 、全 て の 軌 道 幅 は 1,000mm
で あ る 。 本 線 は 以 下 4路 線 と そ れ 以 外 の 12支 線 で あ り 、 こ れ ら の 路 線 及 び 支 線 の
運営・管理をしている。
表 74
路線名
北本線
SRT本 線 の 路 線 長
始点都市-終点都市
路線長
バンコク-チェンマイ
KM.751+620
バンコク-ノーンカーイ
KM.623+900
バンコク-ウボンラーチャタニー
KM.575+600
東本線
バンコク-アランヤプラテート
KM.260+449
南本線
バンコク-スンガイコーロック
KM.1,143+380
東北本線
注 : 路 線 長 は 単 線 で 換 算 し た 場 合 で 複 線 は 2回 加 算
205
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 89
JICA
国際航業
SRTの 本 線
出 典 : SRT
イ ン フ ラ の 管 理 施 設 は レ ー ル 及 び 路 床・路 盤 、操 作 場 の 他 、安 全 施 設 と し て 信
号機、分岐器、踏切等も含まれる。
分 岐 器 に つ い て は 全 国 440駅 の 内 、 電 気 転 て つ 機 と 色 灯 式 信 号 が 首 都 圏 を 中 心
に 約 50% 、手 動 転 て つ 機 と 腕 木 式 信 号 が 約 40% 、そ の 他 約 10%は 信 号 機 が 設 置 さ
れている。
ま た 、 踏 切 保 安 施 設 は 、 全 国 約 2,500箇 所 の 内 、 90%が 平 面 交 差 で あ る 。
2)
実施体制
SRTの 運 営 を 効 率 化 し 赤 字 体 質 か ら の 脱 却 を 促 進 す る た め 、2010年 10月 に 組 織
再 編 さ れ 運 行 管 理 、 資 産 管 理 、 維 持 管 理 部 門 の 3ビ ジ ネ ス ユ ニ ッ ト が 設 置 さ れ て
い る 。 組 織 再 編 後 の 最 新 の 組 織 図 は 図 90の と お り で あ る 。
ま た 、 イ ン フ ラ 維 持 管 理 の 組 織 で は 、 イ ン フ ラ 局 に 土 木 系 関 連 部 署 (Deputy
Governor Infrastructure 1) と 信 号 ・ 電 気 関 連 部 署 (Deputy Governor
Infrastructure 2)が 別 れ て お り 、そ れ ぞ れ の 指 揮 命 令 系 統 が 独 立 し て い る た め 両
者 の 調 整 に 時 間 を 要 す る こ と が あ る 。例 え ば 列 車 を 停 め て 保 線 作 業 を 行 う 時 は 地
方 保 線 セ ン タ ー 内 で の 土 木 、信 号 、電 気 各 部 署 の 連 携 が 調 整 さ れ ず 、本 部 イ ン フ
ラ局で調整せざるを得ず、保線作業を進めるために時間を要することがある。
206
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Board of
Commissioner
Governor
Internal
Auditing
Governor Bureau
Legal Bureau
Policy, Planning Service Research
& Deveopment Bureau
Propoerty
Mangement
Public Relation & Tourism
Services Center
Chief
Operation
Bureau of Commissions, Coordination & Statistics Center
Verify Control
& Evaluation
Deputy
Governor
(Infrastructure
1)
Deputy
Governor
(Infrastructure
2)
Governor
(Administra
tion)
Civil
Engineering
Deparment
Signaling &
Telecommunic
ation
Department
Special Project
& Construction
Deparment
Electrical Rail
Maintenance
Bureau
図 90
Business Unit
(Traffic
management)
Business Unit
(Property
management)
Business Unit
(Maintenance)
SRTET Co.,Ltd.
Airport Rail
Link
SRT全 体 組 織 図 ( 2011年 12月 13日 現 在 )
出 典 : SRT
3)
財務状況
SRT は 長 期 に 渡 り 赤 字 経 営 が 続 い て お り 、料 金 収 入 が 伸 び 悩 む 中 維 持 管 理 費 は
拡 大 し て お り 、 そ の 赤 字 幅 は 拡 大 し て い る 。 2013 年 は 約 93 億 バ ー ツ の 収 入 に 対
し 、 運 営 費 か つ 収 入 の 75%、 維 持 管 理 費 が 合 計 71 億 バ ー ツ と 収 入 の 76%に の ぼ
っ て い る 。 さ ら に 利 子 支 払 が 30 億 バ ー ツ と 収 入 の 30%を 占 め 負 担 が 大 き い 。 多
く の 問 題 を 抱 え て い る SRT の 改 善 の た め 、 財 務 省 が 対 策 委 員 会 を 設 置 し 、 具 体
策を検討する予定である。
207
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 75
JICA
国際航業
SRTの 財 務 状 況
単位:百万バーツ
2009
Income
Fare (Passenger)
Subsidy foro fare
Income from freight and others
Total Income
Expense
Infrastructure Maintenance
(Rail, Signal, Architecture)
Rolling stock maintenance
Operation
Management
Total Expense
Operating income
Repayment
Depreciation
Loan Interest
Grand Total
2010
2011
2012
2013
4,308
45
4,262
8,615
3,997
2,153
4,966
11,116
3,933
676
5,332
9,941
3,696
2,373
4,996
11,065
3,700
20
5,579
9,299
/ income (%)
40%
0%
60%
100%
1,591
2,059
2,619
2,514
3,885
42%
2,519
6,245
606
10,961
-2,346
942
1,979
2,152
-9,412
2,630
6,591
698
11,978
-862
925
2,017
2,201
-8,175
2,850
6,750
780
12,999
-3,058
934
3,920
2,368
-12,499
2,982
6,837
1,005
13,338
-2,273
945
1,987
2,714
-10,406
3,298
7,014
931
15,128
-5,829
933
1,890
3,000
-14,284
35%
75%
10%
163%
-63%
32%
-154%
出 典 : SRT Annual Report
(2)
維持管理の状況
SRTで は 毎 年 100件 程 度 の 脱 線 事 故 が 発 生 し て い る 。 こ れ ら の 原 因 は 軌 道 系 の
老 朽 化 の 他 、列 車 、設 備 、不 完 全 な 踏 み 切 り 等 が 原 因 で あ り 、維 持 管 理 が 十 分 に
行われていないと考えられる。
表 76
年(暦年)
脱線件数
2009
94
2010
SRTの 脱 線 件 数
2011
102
113
2012
89
2013
125
2014
57
*但 し 2014年 は 7月 27日 現 在 の 件 数
出 典 : SRT
1) 計 画 (Plan)
SRTは 本 線 の 軌 道 保 全 に つ い て の 5年 計 画 を 策 定 し て お り 、 そ の 中 で レ ー ル ・
枕 木 ・ 分 岐 器 等 の 維 持 ・ 更 新 時 期 を 計 画 し て い る 。 具 体 的 に は 2012年 か ら 3年 間
で 約 200億 バ ー ツ を 投 じ 、 21区 間 の 路 線 の 本 格 的 な 改 修 工 事 を 行 う 予 定 で あ っ た
が遅延しており、近々開始される予定である。
208
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JICA
国際航業
現 在 の 路 線 の レ ー ル 種 別 は 表 77の と お り で あ る 。
表 77
SRTの レ ー ル 種 別
レール種類
レール敷設後の
使用率
( ポ ン ド /ヤ ー ド )
使用年数(年)
( %)
50
40-60
1.29
60
35-50
7.68
70
20-45
34.58
80
1-30
19.91
100
1-2
36.54
合計
100.00
出 典 : SRT
今 後 本 計 画 が 進 捗 す れ ば 、 レ ー ル 付 設 後 の 使 用 年 数 が 長 い 区 間 か ら 順 次 100ポ
ン ド レ ー ル に 交 換 し 、 100ポ ン ド レ ー ル の 使 用 率 が 36.54%か ら 80~90%台 に 大 幅
に改善される計画である。
レールのヤード当たりの重量が増すことにより車輪から軸荷重を受ける面積
が 増 え 、単 位 面 積 当 た り の 軸 荷 重 応 力 を 低 減 さ せ る こ と が で き 、レ ー ル の 耐 久 年
数 が 延 び る 。併 せ て 、レ ー ル の 重 量 が 増 え る と 、列 車 の 安 定 走 行 、高 速 走 行 に よ
り、脱輪・脱線等の事故の軽減につながる。
ま た 、本 計 画 で は レ ー ル・枕 木 も レ ー ル と 併 せ て 交 換 す る 予 定 で あ る 。木 及 び
コ ン ク リ ー ト ( ツ ー ボ ッ ク ス ) は 耐 久 年 数 が PCと 比 較 し て 短 い た め 、 こ れ ら の
枕 木 を 順 次 PCに 置 き 換 え 、 PC枕 木 の 使 用 率 を 90%台 に 向 上 す る 。
表 78
タイ国鉄路線のレール・枕木の種別
枕木の種別
使用率(%)
木
29.11
コンクリート(ツーボックス)
PC
5.05
65.84
合計
100.00
出 典 : SRT
支 線 の 更 新 に つ い て は 未 だ 計 画 さ れ て な い が 今 後 3~4年 か け 更 新 計 画 を 策 定 す
る予定である。
2) 実 行 (Do)
現 在 、利 用 年 数 の 長 い 区 間 か ら レ ー ル 、枕 木 の 交 換 を 行 っ て い る 。維 持 管 理 に
関 す る 情 報 は エ ク セ ル 、ア ク セ ス で 、施 工 図 は 紙 媒 体 で 管 理 し て い る た め 、情 報
が散逸し、必要な情報を集めるために多大な時間がかかっている。
209
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JICA
国際航業
ま た 、27年 前 か ら 軌 道 検 測 車 両 を 導 入 し 軌 道 幅 、枕 木 の 損 傷 状 態 等 を 測 定 し な
が ら デ ー タ を 収 集 し て い る 。 更 に 、 1年 以 内 に 新 規 軌 道 用 検 測 車 を 導 入 す る 予 定
である。
維 持 管 理 の 担 当 区 間 は 平 均 300kmの 保 線 区 に 分 か れ て お り 、週 に 一 度 は 保 線 区
長 が 担 当 す る 全 区 間 を 、 週 に 3回 は 上 級 検 査 員 が 全 区 間 を 、 担 当 検 査 員 が 1日 1回
徒歩で目視点検を行っている。
ま た レ ー ル 磨 耗 に つ い て は 磨 耗 度 に 応 じ た 更 新 ガ イ ド ラ イ ン が あ り 、同 ガ イ ド
ラインに沿ってレールを交換している。
分 岐 器 に つ い て は 保 線 区 長 、上 級 検 査 員 、担 当 検 査 員 が 目 視 で 確 認 を 行 っ て い
る 。踏 切 保 安 施 設 に つ い て も 保 線 区 長 、上 級 検 査 員 、担 当 検 査 員 が 目 視 で 確 認 し
ているが、脱線事故件数の改善の兆しは見えない。
3) 評 価 (Check)
軌道用検測車で収集したデータは独自のソフトにデータベースとして蓄積し、
そのデータを分析し補修が必要な区間を選定している。
組織再編後の各部署に振り分けられる予算と実際の予算承認との整合性が図
られておらず、経営者層が正しい事業計画を策定するのに支障を来たしている。
組 織 再 編 後 の 各 部 署 に 対 応 す る よ う 財 務 会 計 シ ス テ ム を 再 構 築 す る た め 2013年
3月 よ り 1年 間 ADB(Asian Development Bank)が SRTの 財 務 会 計 管 理 シ ス テ ム 再
編 支 援 に 関 す る 技 術 協 力 を 実 施 し た 。そ の 提 案 内 容 は 約 40百 万 バ ー ツ の 運 用 管 理
デ ー タ セ ン タ ー 及 び ハ ー ド ウ ェ ア と 約 80 百 万 バ ー ツ の ソ フ ト ウ ェ ア 等 総 計 約
120百 万 バ ー ツ の 計 画 で 、 こ れ に よ り 基 礎 的 な デ ー タ に 基 づ く 予 算 計 画 策 定 、 タ
イ ム リ ー な 計 画 策 定 及 び 決 定 が 可 能 に な る 。 77
4) 見 直 し (Action)
社内に監査室があり、点検報告を評価し各担当部にフィードバックしている。
77
http://www.adb.org/sites/default/files/projdocs/2012/45042-003-tha-tar.pdf
210
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(4)
JICA
国際航業
日本の協力
1) 円 借 款
1981年 鉄 道 車 両 購 入 事 業 か ら 始 ま り 、1980年 代 後 半 は 東 部 臨 海 工 業 地 帯
の 鉄 道 建 設 事 業 、 1990年 代 以 降 は 国 鉄 軌 道 改 良 事 業 を 支 援 。 現 在 は 、 初 の
電化鉄道となるバンコク大量輸送網整備事業(レッドライン)への円借款
を行っている。
2) 技 術 協 力
これまで実施された技術協力は次の通り。
1983.8~ 1984.7

バンコク首都圏国鉄高架化計画調査

鉄道ヤード改良計画調査

都市開発と一体化した首都圏鉄道輸送増強計画調査
1985.12~1987.6
1993.8 ~
1995.11

(3)
タイ鉄道研修センター
1992.6~ 1997.6
アセットマネジメントの現状と課題
SRTは 恒 常 的 に 赤 字 で あ り 、 事 故 は 年 間 100件 以 上 発 生 し て い る が 、 事 業 運 営
は 低 所 得 者 へ の 利 用 料 金 無 料 化 等 政 府 の 方 針 に 大 き く 左 右 さ れ て い る 。従 っ て 現
在 は 、 政 府 の 承 認 を 得 ら れ た Track Strenghteningプ ロ ジ ェ ク ト 予 算 200億 バ ー
ツ で 、 2015年 か ら 2、 3年 間 で 老 朽 化 施 設 の 改 善 プ ロ ジ ェ ク ト を 進 め る こ と が 最
重 要 と な っ て い る 。政 府 に 設 置 さ れ た 経 営 状 態 改 善 の た め の 対 策 委 員 会 主 導 の 早
急 な 運 営 改 善 の 見 込 め る 対 策 が 優 先 と な り 、長 期 的 な 視 点 で 効 果 の 見 込 め る ア セ
ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 包 括 的 な 計 画 を 策 定 、実 施 で き る 段 階 に 至 っ て い な い と 推 測
される。
211
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.7.3
JICA
国際航業
タ イ 高 速 度 交 通 公 社 (MRTA)
(1)
概要
1)
事業概要
現 在 MRTAが 運 用 し て い る の は 全 線 地 下 鉄 で あ る ブ ル ー ラ イ ン の み で 、軌 道 延
長 は 20.8km、 軌 道 幅 1,435mmで あ る 。 ブ ル ー ラ イ ン 利 用 者 数 は 開 業 当 時 か ら 毎
年 約 5%増 加 し て い る 。
現 在 ブ ル ー ラ イ ン を 西 側 方 向 に 延 伸 す る 工 事 が 行 わ れ て い る 。さ ら に 、パ ー プ ル
ラ イ ン 建 設 が 進 行 中 で 、今 後 、ピ ン ク ラ イ ン 、オ レ ン ジ ラ イ ン 、イ エ ロ ー ラ イ ン
の建設及びグリーンラインの延伸工事が予定されている。
現在建設が予定されているこれら鉄道公共交通ネットワークが完成すれば鉄
道網が拡充し利用者数のさらなる増加が見込まれる。
240,000
220,000
200,000
利 180,000
用
者 160,000
数
140,000
120,000
100,000
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
年
図 91
ブルーラインの利用者数
出 典 : MRTA Annual Report 2013
2)
施設概要
MRTAの 管 理 施 設 は ト ン ネ ル 構 造 物 及 び レ ー ル 、操 作 場 等 で あ り 、安 全 施 設 と
して分岐器、信号機等も含まれる。
ま た 、 開 業 前 年 の 2004 年 か ら BMCL 社 へ 25 年 間 の コ ン セ シ ョ ン 契 約 に よ り
MRTAは 地 下 鉄 の 運 営 ・維 持 管 理 を 委 託 し て お り 、BMCL社 が ト ン ネ ル 施 設 、レ ー
ル、安全施設等の日常点検の実務を行っている。
212
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
3)
JICA
国際航業
実施体制
MRTAの 職 員 数 は 806名 で あ り 、維 持 管 理 に つ い て は 図 92の と お り 管 理 部 維 持
管 理 課 が 担 当 し て お り 、維 持 管 理 コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 し て い る BMCL社 か ら 毎 月
提出される維持管理報告書を検査している。
Governor
Office of
Governor
Deputy
Governor
(Strategy &
Planning)
Audit Office
Deputy
Governor
(Operations)
Chief Financial
Office
Deputy
Governor
(Engineerign &
Construction)
Deputy
Governor
(Administratio
n)
Assistant
Governor
(Operations)
Security &
Rescue
Department
Operations
Deparment
Maintenance
Division
System
Operations
Division
図 92
MRTA組 織 図
出 典 : MRTA Annual Report 2013
ま た 、BMCL社 の 職 員 数 は 1,089名 で 図 93に 示 す と お り ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト
に 力 を 入 れ て お り 、 土 木 ・建 築 構 造 物 、 水 関 係 、 通 信 の そ れ ぞ れ の 部 署 に 維 持 管
理 ユ ニ ッ ト を 設 置 し て い る 。そ れ ぞ れ の 部 署 が ト ン ネ ル 、ト ン ネ ル の 漏 水 、通 信
分 野 の 維 持 管 理 を 担 当 し て お り 、検 査・補 修 等 を 行 い MRTAに 月 例 報 告 書 を 提 出
している。
213
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Assistant Managing
Director Engineerging &
Maintenance Group
Engineering &
Maintenance Director
Asset Management Strategy
& Plannign Director
Civil Auxiliary
System
Engineering
Manager
Maintenance &
Engineering
Manager
Rolling Stock
Track work
Automatic Fare
Collection
Signaling SCADA
Power Supply
Graphics
Communication
Engineering &
Maintenane
Planning
Manager
Civil &
Architecture
Asset
Management
Strategy &
Planning
Asset
Managemetn
Strategy &
Planning
Section
Maintenance Units
Water Systems
Maintenance Units
Maintenance Units
図 93
BMCL社 の 技 術 ・ 維 持 管 理 部 組 織 図
出 典 : MRTA
4)
財務状況
MRTAの 赤 字 経 営 が 続 い て い た が 、2013年 は 円 安 に よ り 円 借 款 の ス ワ ッ プ に よ
る 差 益 及 び 未 実 現 為 替 利 益 が 生 じ た た め 黒 字 転 換 し て い る 。為 替 差 益 な ど 特 別 な
項 目 を 除 い た 営 業 収 入 は 徐 々 に 増 え て 2013年 に は 6億 バ ー ツ で あ る が 、支 出 は 30
億 バ ー ツ 以 上 、減 価 償 却 費 の 影 響 を 除 い て も 約 14億 バ ー ツ と 収 入 を は る か に 上 回
っ て い る 。 な か で も 負 債 の 調 達 コ ス ト が 8.5億 バ ー ツ と 負 担 が 大 き い 。
MRTAは 負 債 の 大 部 分 が 外 貨 の た め 、 為 替 の 変 動 に 多 大 な 影 響 を 受 け て い る 。
こ の 状 況 を 改 善 す る た め に 、ス ワ ッ プ 等 を 利 用 し て 、為 替 の 影 響 を 軽 減 し て い く
意向であるが、まずは本業の経営改善が大きな課題である。
214
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 79
JICA
国際航業
MRTA の 収 支 バ ラ ン ス
単位:百万バーツ
2010
REVENUES
From subsides
From concession contract
From shop net
From approval to use real estates
From Park & Ride service fees
Total revenue from operation
Other revenues
Profit from sale of exchange rate
Total revenue
EXPENSES
Personnel expense
Depreciation and amortization
Other expenses
Loss from exchange rate
Financial cost
Total Expenses
Net income
2011
2012
396
27
12
17
37
489
25
1,816
2,333
441
31
12
28
43
556
27
440
1,898
280
1,905
179
9,187
864
12,417
-11,832
857
3,195
-862
585
2013
398
46
16
32
49
542
44
1,995
2,581
430
80
18
40
54
624
35
17,829
18,490
322
1,917
177
430
1,916
191
814
3,231
-649
854
3,392
15,097
出 典 : MRTA Annual Report
(2)
維持管理の状況
1)
計 画 (Plan)
MRTAは BMCL社 と の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 に て 維 持 管 理 ガ イ ド ラ イ ン を 規 定
と し て 盛 り 込 ん で い る 。ま た 、BMCL社 は 基 本 戦 略 に 基 づ き ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン
ト 戦 略 を 策 定 し 、ラ イ フ サ イ ク ル を 通 じ た ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 、全 資 産 を
対象とした包括的な年間維持管理計画と個別資産ごとのアセットマネジメント
計 画 を 策 定 し て い る 78。
78
BMCLで は 個 別 資 産 の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 、 プ ロ ジ ェ ク ト と み な し て い る 。
215
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 94
JICA
国際航業
BMCL社 の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略
出 典 : BMCL
2)
実 施 (Do)
BMCL社 は 予 防 保 全 の 考 え 方 に 基 づ く ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 導 入 し 、同 マ ネ
ジ メ ン ト シ ス テ ム の 先 進 的 な ISO55000の 認 証 を 受 け て お り 、 同 社 が 維 持 管 理 業
務 を 外 注 す る 場 合 も 、ISO55000に 基 づ き 維 持 管 理 を 実 施 す る よ う 徹 底 し て い る 。
BMCL社 は 製 造・施 工 会 社 か ら の 維 持 管 理 情 報 を 基 に 、MRTAと の コ ン セ ッ シ
ョ ン 契 約 で 規 定 さ れ た 維 持 管 理 ガ イ ド ラ イ ン に 従 っ て 維 持 管 理 し て い る 他 、監 視
制 御 シ ス テ ム SCADA、 SAP等 の シ ス テ ム で 運 用 管 理 を 行 っ て い る 。
ま た 、日 常 の 維 持 管 理 は 、保 線 要 員 が 終 電 か ら 始 発 間 に 地 下 全 線 の 点 検 補 修 を
実施し、主としてトンネル・駅舎部の湧水状況をチェックしている。
3)
評 価 (Check)
図 95は BMCL社 の レ ビ ュ ー 体 制 を 表 し て い る 。 安 全 性 、 信 頼 性 等 重 要 な 項 目
は BMCL社 が レ ビ ュ ー し 改 善 す る 。ま た 、BMCL社 が 維 持 管 理 を 外 注 し て い る も
のについて事後保全で異常が発見された場合は情報履歴をレビューし契約管理
会 議 に て 改 善 策 を 検 討 し 対 策 を 実 施 す る 。ま た 、予 防 保 全 で 異 常 が 発 見 さ れ た 場
合 は 予 防 保 全 計 画 、ス ケ ジ ュ ー ル 、予 防 保 全 記 録 等 を レ ビ ュ ー し 機 能 改 善 会 議 に
て改善策を検討、対応する。
216
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
Review & Update
Asset List/
Configuration
Review & Update
Safety / Reliability
Critical Items
JICA
国際航業
Review Failure
Notification
Review Preventive
Maintenance Plan
Review Preventive
Maintenance
Schedule
Review Corrective
Maintenance
Backlog
Review Preventive
Maintenance
Record form or
check sheet
Contract
Committees
Meeting
Functional
Performance
Meeting
Improve & Follow-up
Improvement by
Contractors
Improvement by
BMCL
図 95
BMCL社 の 維 持 管 理 業 者 へ の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト
出 典 : BMCL
4)
見 直 し (Action)
BMCL社 内 審 査・評 価 委 員 会 を 設 置 し て お り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に フ
ィードバックされるようになっている。
(2) 日 本 の 協 力
円借款
1996年 度 バ ン コ ク 地 下 鉄 建 設 事 業 (ブ ル ー ラ イ ン )か ら 始 ま り 、現 在 は パ ー プ ル
ラ イ ン へ の 供 与 を 行 っ て お り 、 2012年 度 ま で に 3,015億 円 供 与 し て き た 。
(3) ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 と 課 題
MRTAが 現 在 管 理 し て い る の は 2004年 に 開 通 し た ブ ル ー ラ イ ン の み で あ り 、施
設 は ま だ 若 く 健 全 な 状 態 が 保 た れ て い る 。そ し て 、MRTAは す べ て の 運 営 維 持 管
理 業 務 を 25年 間 の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で BMCL社 に 委 託 し て い る た め 、MRTAの
維 持 管 理 部 署 の 業 務 は BMCL社 の 履 行 状 況 の 確 認 と 承 認 に 限 定 さ れ て い る 。
BMCL社 は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に 基 づ く 体 制 で 、モ ニ タ リ ン グ・評 価 等
の 維 持 管 理 を 行 っ て お り 、 監 視 制 御 シ ス テ ム SCADAで 運 用 管 理 も 行 っ て い る 。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム で は 先 進 的 な ISO55000の 認 証 を 受 け て い る 。
現 在 の と こ ろ 、大 き な 損 傷 や 老 朽 化 は 報 告 さ れ て い な い が 、ト ン ネ ル も い ず れ
は 老 朽 化 が 進 ん で く る 。そ の 分 野 の 点 検・維 持 管 理 の 経 験 や 技 術 は 乏 し い と 推 測
され、これへの対応が将来の課題である。
217
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.8
電力分野
4.8.1
タイ国の電力分野の概要
JICA
国際航業
タ イ の 電 力 供 給 主 要 事 業 者 は 3社 で あ る 。 発 電 及 び 国 内 の 全 送 電 を タ イ 発 電 公
社 (EGAT)が 行 い 、 配 電 事 業 は バ ン コ ク 都 及 び 周 辺 2県 は 首 都 圏 配 電 公 社 (MEA)
が 、 そ の 他 の 73県 は 地 方 配 電 公 社 (PEA)が 行 っ て い る 。
そ の 他 に も 、タ イ 国 の 電 気 供 給 は 電 気 事 業 自 由 化 に よ っ て 1992年 に 民 間 資 本 が
参 入 可 能 と な り 、独 立 系 発 電 事 業 者 (Independent Power Producer:IPP)、小 規 模
発 電 事 業 者 (Small Power Producer:SPP) 、 極 小 規 模 発 電 事 業 者 (Very Small
Power Producer:VSPP)、代 替 エ ネ ル ギ ー 開 発 効 率 局 (Department of Alternative
Energy Development and Efficiency: DEDE)も 発 電 事 業 に 参 入 し て い る 。
IPPは EGATか ら 分 離 ・ 独 立 し た 事 業 者 と そ れ 以 外 の 事 業 者 に 大 別 さ れ 、 2011
年 時 点 で 6,600MWを 発 電 し て い る 。 ま た 、 SPPは 10MW超 90MW以 下 の 電 力 を
EGATに 売 却 す る 発 電 事 業 者 で 、 中 部 電 力 、 関 西 電 力 、 電 源 開 発 等 が 参 画 し て い
る 。天 然 ガ ス 、石 炭 等 の 従 来 型 発 電 を 用 い た コ ジ ェ ネ や 、ゴ ミ 、バ イ オ マ ス 、太
陽 光 ・太 陽 熱 等 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー を 利 用 し て エ ネ ル ギ ー 効 率 を 上 げ る と と も
に 、 石 油 輸 入 の 削 減 を 図 る こ と 等 を 目 的 と し て 導 入 さ れ て お り 、 2012年 時 点 で
SPPか ら EGATへ 2,554MWを 売 電 し た 。 VSPPは 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 開 発 を 促 進
す る た め に 設 立 さ れ 、 10MW以 下 の 電 力 を MEA又 は PEAに 直 接 売 電 し て お り 、
2012年 時 点 で 682MWを 売 電 し た 。
な お 、 最 終 需 要 家 へ の 電 力 料 金 は 2007年 に 設 立 さ れ た エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会
(Energy Regulatory Commission :ERC)が 規 制 し て い る (詳 細 は 図 96参 照 )。
Power Supply
VSPP
SPP
IPP
Transmission
EGAT
EGAT
End
User
図 96
PEA
MEA
End
User
End
User
Import
Fare
regulation
Fare
regulation
ERC
Distribution
DEDE
Large
demand user
タイ国の電気事業体制
出 典 : 東 南 ア ジ ア に お け る 電 力 市 場 の 発 展 と 日 本 企 業 研 究 会 報 告 書 ( 2013年 度 )
218
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.8.2
JICA
国際航業
タ イ 発 電 公 社 (EGAT)
(1)
概要
1)
事業概要
2011年 の 発 電 量 は 155,207MWhで 、タ イ 国 の 経 済 成 長 と と も に 売 電 量 も 毎 年 増
加 し て い る 。 な お 、 3年 を 1期 間 と し て 見 直 し が 行 わ れ て い る 2012年 の タ イ 電 源
開 発 計 画 (Power Development Plan:PDP)で は 、 NESDBが 2011年 に 推 計 し た 経
済 指 標 (2012~2030年 ま で の 年 平 均 実 質 GDP成 長 率 4.4%)に 加 え 、省 エ ネ ル ギ ー 効
果 、代 替 エ ネ ル ギ ー 導 入 効 果 等 を 考 慮 し て も 電 力 需 要 は 2030年 ま で は 継 続 的 に 増
加 し 、 電 力 需 要 拡 大 に 伴 い EGATの 売 電 量 も 増 加 す る 見 込 み で あ る 。
な お 、 売 電 先 は MEAが 約 30%、 PEAが 約 70%で あ る 。
表 80
EGATの 売 電 先 及 び 売 電 量
単 位 : MWh
年
MEA
他
PEA
合計
2007
43,597
93,159
2,689
139,445
2008
43,598
94,860
1,100
141,558
2009
43,221
95,390
3,081
141,692
2010
46,635
106,403
3,087
156,125
2011
45,766
106,391
3,050
155,207
出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ
表 81に 示 す と お り 、 電 力 需 要 拡 大 に よ る 売 電 量 増 加 に 対 応 す る た め 、 送 電 容
量 が 大 き い 230kv、 500kv等 の 送 電 網 を 増 設 し 、 小 送 電 容 量 系 統 か ら 大 送 電 容 量
系統へシフトしている。
表 81
EGATの 送 電 網 距 離
単 位 : km
年
115kv
230kv
500kv
その他
合計
2007
13,765
13,304
3,432
55
30,556
2008
13,458
13,277
3,432
51
30,218
2009
13,279
13,393
3,721
52
30,445
2010
13,352
13,541
3,721
25
30,639
2011
13,047
13,950
3,469
51
30,517
2012
13,561
14,060
3,884
51
31,556
出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ
さ ら に 、マ レ ー シ ア 、ミ ャ ン マ ー 、中 国 と の 電 力 取 引 に 関 す る 覚 書 を 交 わ し て
いることから、隣国との送電網は増強されることが予測される。
219
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
施設概要
主 要 な イ ン フ ラ 施 設 は 表 82の 通 り で あ る 。 EGATが 管 理 す る イ ン フ ラ 施 設 は
主に発電所と送電網である。
表 82
EGATの 主 な イ ン フ ラ 施 設
Facility
Capacity, Unit number
Thermal power plant
3 unit
Combined power plant
6 unit
Hydropower plant
22 unit
Renewable energy plant
8 unit
Transmission Line
32,384cct-km
Substation
213 unit
出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ
3)
実施体制
職 員 数 は 1990年 前 半 に 約 35,000名 で あ っ た が 、タ イ 国 の 経 済 危 機 に と も な う 人
員 削 減 に よ り 2012年 時 点 で 約 22,000名 に 減 少 し て い る 。
発 電 所 と 送 電 網 の 維 持 運 営 管 理 は 完 全 に 分 か れ て い る 。発 電 所 の 維 持 管 理 に つ
い て は 、 Generation 部 門 が 運 営 と 日 常 の 点 検 と 簡 単 な 補 修 、 Business
Development 部 門 の 傘 下 の Maintenance Centerが オ ー バ ー ホ ー ル や 大 規 模 な
補 修 、更 新 を 行 っ て い る 。基 本 的 に 維 持 管 理 は 自 前 で 行 っ て お り 、作 業 員 も 合 わ
せ て Generation部 門 の 人 員 は 約 7,000名 、Business Development部 門 の 人 員 は 約
2,000名 で あ る 。 ま た 、 Operation & Maintenance Business部 門 で は 、 EGATへ
電 力 を 供 給 す る 民 間 企 業 の 支 援 を 行 っ て お り 、例 え ば 投 資 の み 行 う IPPに 対 し て 、
EGATの 職 員 が 運 営 、 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。
同 様 に 、送 電 施 設 に つ い て は Transmission System Maintenance部 門 で 日 常 点
検、補修等を分担している。
220
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Governor
Deputy Governor
(Policy & Planning)
Deputy Governor
(Account & Finance)
Deputy Governor
(Administration)
Deputy Governor
(Corporate Social Affairs)
Deputy Governor
(Power Plant
Development)
Deputy Governor
(Generation)
Assistant Governors
Deputy Governor
(Fuel)
Generation System
Maintenance
Deputy Governor
(Transmission System
Development)
Deputy Governor
(Business Development)
Deputy Governor
(Transmission System)
Assistant Governors
Assistant Governors
Transmission System
Maintenance
Operation &
Maintenance Business
図 97
EGAT組 織 図
出 典 : EGATホ ー ム ペ ー ジ
4)
財務状況
EGATは 2013年 に 5,369億 バ ー ツ の 収 入( 前 年 比 239億 バ ー ツ 増 加 )を 上 げ 、売
上 総 利 益 は 583億 バ ー ツ( 前 年 比 8億 バ ー ツ 増 加 )、純 利 益 は 437億 バ ー ツ (前 年 比
4億 バ ー ツ 増 加 )で 、純 利 益 率 は 8%で あ っ た 。財 務 省 へ の 支 払 い を 引 い た 213億 バ
ー ツ を 内 部 留 保 に 追 加 し て い る 。 79
79
財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も
多少変更する。
221
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 83
JICA
国際航業
EGATの 連 結 損 益 計 算 書
単位:百万バーツ
2013
Revenue from sales and services
Cost of sales and services
Gross profit
Other revenues
Other expenses
Financial costs
Net profit
2012
536,913
100%
512,992
100%
(478,659)
58,255
4,774
(16,391)
89%
11%
(455,503)
57,489
6,115
(17,797)
89%
11%
(4,417)
43,732
less non-controling interests
8.1%
(3,390)
Net profit for EGAT
Remmitance to the Ministry of Finance
Incrase in unappropriated retained earnings
(5,343)
43,338
8.4%
(4,480)
40,342
100%
38,859
100%
19,060
21,282
44%
53%
17,331
21,527
40%
55%
出 典 : EGAT Annual Report 2013
EGATは 2013年 12月 末 現 在 、 5,784億 バ ー ツ の 資 産 を 有 し 、 そ の う ち 、 固 定 資
産 が 3,233億 バ ー ツ と 総 資 産 の 56%を 占 め て い る 。債 務 は 2,313億 バ ー ツ 、自 己 資
本 は 3,471億 バ ー ツ で 総 資 産 の 60%を 占 め て い る 。そ の う ち 、内 部 留 保 金 が 2,247
億 バ ー ツ と 総 資 産 の 39%と 十 分 に 確 保 で き て い る 。
表 84
EGATの 連 結 貸 借 対 照 表 80
単位:百万バーツ
2013
Assets
Current Assets
Non-current Assets
Property, plant and equipment
Total Assets
Liability and Equity
Current Liabilities
Non-current Liabilities
Long-term loans
Total liabilities
Owner's equity
Contribution from the government
Capital expenditure appropriation
Unappropriated retained earnings
Total liabilties and owner's equity
2012
185,374
393,006
323,311
578,380
32%
68%
56%
100%
130,621
402,649
322,300
533,270
24%
76%
60%
100%
123,103
108,196
71,735
231,299
347,081
9,002
80,186
224,710
578,380
21%
19%
12%
40%
60%
2%
14%
39%
100%
91,923
116,373
82,072
208,296
324,974
9,064
80,186
203,428
533,270
17%
22%
15%
39%
61%
2%
15%
38%
100%
出 典 : EGAT Annual Report 2013
80
EGATの 会 計 年 度 は 12月 末 締 め で あ る 。
222
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
EGATの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の 半 分 近 く は 発 電 所 で あ り 、 次 に 多 い 送 電 シ ス
テ ム と 合 わ せ て 2,000億 バ ー ツ と 有 形 固 定 資 産 の 77%を 占 め て い る 。
表 85
EGATの 有 形 固 定 資 産 と 減 価 償 却 年 数 ( 2013年 12月 末 現 在 ) 81
単位:百万バーツ
Property, Plant and Equipment
Land
Structures
Reservoirs and dams
Power plants
Equipment for power plants
Control system
Transmission system
Communication system
Coal handling system
Machinery
Large-sized spare parts for mine equipment
Vehicles
Other materials and supplies
Deferred charge of major inspection fee
Total
Costs
8,574
28,781
28,864
334,775
32,289
888
156,417
6,915
6,060
6,387
43
3,035
10,139
4,238
622,568
Accumulated
Depreciation
depreciation Net book value
period (years)
/impairment
0
8,574
18,122
10,659
3-40
10,110
18,754
7-75
212,423
122,353
5-30
18,040
14,250
6-25
718
170
3-25
76,719
79,698
3-40
5,735
1,180
5-25
4,545
1,515
10-25
5,101
1,286
5-10
43
0
8
2,466
569
5-12
7,441
2,698
3-12
2,439
1,799
361,555
261,013
出 典 : EGAT Annual Report 2013
上 記 の 2013年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分
析 し て み る と 、売 上 高 利 益 率 は 8%。更 新 費 用 の 確 保 状 況 82は 、投 資 キ ャ ッ シ ュ フ
ロ ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 30%と 、 過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 3割 程 度
の 水 準 で 投 資 資 金 を 確 保 で き て い る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の う ち 58% 83と 半
分 以 上 は 既 に 償 却 し て お り 、老 朽 化 が 進 ん で い る 、或 い は 会 計 上 の 耐 用 年 数 が 実
際の耐用年数より短めに設定されていると考えられる。
表 86
評価項目
主な財務指標
評価指標
2013
収益力
売上高利益率
更新費用確保
更新投資充当可能資金対減価
償却累計額比率
30%
老朽化度合い
有形固定資産減価償却率
58%
81
8%
ダムは発電用のダムであり、灌漑用のダムは対象外である。
更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累
計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、
2013年 に 30%で あ る 。
83
有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却
対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 58%。
82
223
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
以 上 の 考 察 よ り 、 EGATの 収 益 力 は 堅 調 で 、 更 新 費 用 の 確 保 状 況 、 老 朽 化 度 合
もも大きな問題がある状況ではない。
(2)
維持管理の状況
1)
計 画 (Plan)
長期計画として、7 年計画を策定し、毎年更新している。7 年計画の行動計画
と し て 、日 週 月 年 別 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 し 、随 時 最 新 情 報 と し て 更 新 し な が ら
効率的に維持管理を実施している。
予 算 申 請 に 関 し て は 、1970年 代 に 最 初 に 発 電 所 を 建 設 し た 際 に 、維 持 管 理 の ノ
ウ ハ ウ が な く 、メ ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 忠 実 に 従 っ て 維 持 管 理 を 行 っ て き た 経 緯
か ら 、こ の 方 式 を 継 続 し て お り 、マ ニ ュ ア ル 通 り の 維 持 管 理 を 行 う の に 必 要 な 予
算を申請している。
2)
実 施 (Do)
ダ ム に つ い て は 、 1 ~ 2年 に 一 度 点 検 作 業 を し て お り 、 約 40年 前 に 建 設 し た イ
ン フ ラ 施 設 で も 全 く 漏 水 等 の 問 題 が な く 管 理 さ れ て い る 。ま た 、発 電 プ ラ ン ト に
つ い て は メ ー カ ー の 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル に 従 い 忠 実 に 毎 年 点 検 を 行 い 、十 分 に メ
ン テ ナ ン ス が 行 わ れ て い る 。こ れ ま で 、ほ と ん ど 維 持 管 理 が 不 十 分 な こ と に よ る
事故は発生しておらず、老朽化対策も十分採られている。
送電網部門他傘下の維持管理部にはそれぞれ技術者が配置され問題なく日常
点検維持管理がなされている。
オ ー バ ー ホ ー ル や 補 修 の 時 期 が 重 な り 、 EGATの 人 員 で 賄 え な い 場 合 は 、 ス ケ
ジュールを調整するよりは、作業員を外部調達して対応している。
3)
評 価 (Check)
送 電 網 監 視 は SCADAシ ス テ ム 、 発 電 施 設 は Conditionモ ニ タ リ ン グ シ ス テ ム 、
維 持 管 理 後 の 状 態 は Data Acquisition Systemを 使 い 効 率 的 に モ ニ タ リ ン グ を 行
っ て い る 。 施 設 の 故 障 原 因 を 究 明 す る た め Root Cause Analysisに よ る 診 断 を 社
内研修等によって社内で徹底し、日常点検・維持管理に反映している。
4)
見 直 し (Action)
維 持 管 理 報 告 書 を 作 成 し 、 EGAT内 の 監 査 委 員 会 で 審 査 ・評 価 を 行 い 、 そ の 評
価 結 果 を 各 部 門 に フ ィ ー ド バ ッ ク し て い る 。ま た 、こ れ ま で プ ラ ン ト メ ー カ ー 等
が 作 成 し た マ ニ ュ ア ル を 蓄 積 し 、EGATの 状 況 に 合 わ せ て マ ニ ュ ア ル を 改 訂 し て
きた。
224
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(3)
JICA
国際航業
日本の協力
円借款
電 力 需 要 増 大 に 対 応 す る た め 、1970年 か ら ダ ム 建 設 事 業 、発 電 所 建 設 事 業 を 中
心 に 1994年 ま で 総 額 1,065億 円 を 供 与 し た 。
(4)
アセットマネジメントの現状と課題
発 電 所 と 送 電 シ ス テ ム は 、メ ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 従 っ て 点 検・維 持 管 理 を 行
っ て お り 、約 40年 前 に 建 設 さ れ た ダ ム 施 設 で さ え 全 く 漏 水 問 題 が な く 、予 防 保 全
が 実 施 さ れ て い る 。財 務 状 況 も 健 全 で 、維 持 管 理 費 用 を 賄 え る 状 態 に あ り 、内 部
留 保 も 十 分 で 必 要 に 応 じ て 大 規 模 修 繕 や 更 新 投 資 も で き る 状 態 に あ る た め 、今 後
も大きな問題なく維持管理を継続できると推測される。
225
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.8.3
JICA
国際航業
首 都 圏 配 電 公 社 (MEA)
(1)
概要
1)
事業概要
MEAは EGATの 所 有 す る 一 次 変 電 所 か ら 電 力 を 購 入 し 、降 圧 後 、バ ン コ ク 及 び
隣 接 2県 ( サ ム ッ ト プ ラ カ ン 県 、 ノ ン タ ブ リ 県 ) の 最 終 需 要 家 に 配 電 し て い る 。
配 電 対 象 面 積 は 3,194km 2 で 対 象 配 電 地 域 へ の 電 力 供 給 率 は 100%で あ る 。
下 図 の と お り 電 力 消 費 量 及 び 需 要 家 件 数 と も 増 加 傾 向 に あ り 、 2013年 の MEA
の エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は 47,617GWh、 需 要 家 件 数 は 329.5万 件 で あ る 。
50,000
48,000
46,000
44,000
42,000
40,000
GWh 38,000
36,000
34,000
32,000
図 98
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
30,000
MEA管 轄 の 電 力 消 費 量
出 典 : MEAホ ー ム ペ ー ジ
3,500
3,300
3,100
2,700
2,500
2,300
2,100
1,900
1,700
図 99
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
1,500
2002
最終需要家〈千件)
2,900
MEA管 轄 の 最 終 需 要 家 件 数
出 典 : MEAホ ー ム ペ ー ジ
226
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
施設概要
主要なインフラ施設は変電所と配電網である。
表 87
MEAの 主 な イ ン フ ラ 施 設 ( 2006年 )
Facility
Unit
Terminal stations
Capacity
17
15,200MVA
143
16,445VA
Sub transmission lines
-
1,622cct-km
Feeder lines
-
16,559cct-km
Substations
出 典 : MEA
3)
実施体制
2012年 の MEAの 職 員 数 は 8,121名 で あ り 、 施 設 の 維 持 管 理 に 関 し て は 、 Power
System Maintenance Department( 350名 )が 変 電 所 の 維 持 管 理 計 画 策 定 、点 検 か ら
維 持 管 理 ま で 全 て を 担 当 し て い る 。配 電 網 に つ い て は 、計 画 か ら 点 検 、維 持 管 理
は Distribution System Service Department 傘 下 の 18の District Area Officeに 一 任 さ
れている。
227
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Governor
Deputy Governor
(Social & Maintenance)
Deputy Governor
(Finance)
Deputy Governor
(Business)
Deputy Governor
(Strategy & Organization
Development)
Deputy Governor
(Corporate)
Deputy Governor
(ITC)
Deputy Governor
(Technology & Material
Management)
Deputy Governor
(Operation)
Deputy Governor
(Distribution System
Service)
Assistant Governor
Power System Control
Department
18 District Area Office
Power System
Maintenance
Department
図 100
MEA組 織 図
出 典 : MEA ホ ー ム ペ ー ジ
4)
財務状況
MEAは 、 1,784億 バ ー ツ の 収 入 ( 前 年 比 289億 バ ー ツ 増 加 ) を 上 げ 、 そ の う ち
97%は 売 電 収 入 で あ る 。支 出 は 1,690億 バ ー ツ( 前 年 比 250億 バ ー ツ 増 加 )で 、そ
の 結 果 、 純 利 益 は 94億 バ ー ツ (前 年 比 39億 バ ー ツ 増 加 )で 、 純 利 益 率 は 5%で あ っ
た 。 そ の う ち 45%を 財 務 省 へ 支 払 い 、 残 り の 519億 バ ー ツ を 内 部 留 保 に 追 加 し て
い る 。 84
84
財 務 省 へ の 支 払 い は 純 利 益 の 45%と 決 め ら れ て い る が 、 毎 年 調 整 の 上 、 期 内 に も
多少変更する。
228
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 88
JICA
国際航業
MEAの 損 益 計 算 書
単位:百万バーツ
2012
Reveues
Sales of electricity energy
Other income
Total revenues
Expenses
Purchase of electricity
Operating expenses
Financial cost
Other expenses
Total Expenses
Net income
Remmitance to the Ministry of Finance
Incrase in unappropriated retained earnings
2011
173,880
4,532
178,412
97%
3%
100%
145,632
3,838
149,471
97%
3%
100%
160,746
5,917
1,372
968
169,004
9,407
4,217
5,190
90%
3%
1%
1%
95%
5.3%
45%
55%
136,208
5,380
1,350
995
143,934
5,537
2,521
3,017
91%
4%
1%
1%
96%
3.7%
46%
54%
出 典 : MEA Annual Report, 2012
MEAは 2012年 12月 末 現 在 、1,481億 バ ー ツ の 資 産 を 有 し 、そ の う ち 固 定 資 産 が
902億 バ ー ツ が 総 資 産 の 61%を 占 め て い る 。債 務 は 801億 バ ー ツ 、自 己 資 本 は 679
億 バ ー ツ で 総 資 産 の 46%を 占 め て い る 。 そ の う ち 内 部 留 保 金 が 677億 バ ー ツ と 総
資 産 の 46%を 占 め て お り 、 十 分 に 蓄 積 さ れ て い る 。
表 89
MEAの 貸 借 対 照 表
単位:百万バーツ
2012
Assets
Current Assets
Fixed Assets
Other Assets
Total Assets
Liability and Equity
Current Liabilities
Lomg-term Liabilities
Other liabilities
Total liabilities
Owner's equity
Government contributions
Unappropriated retained earnings
Total liabilties and owner's equity
2011
47,259
90,208
10,593
148,060
32%
61%
7%
100%
41,891
88,467
8,283
138,641
30%
64%
6%
100%
24,238
27,680
28,208
80,126
67,935
358
67,576
148,060
16%
19%
19%
54%
46%
0%
46%
100%
18,912
29,370
27,616
75,898
62,744
358
62,385
138,641
14%
21%
20%
55%
45%
0%
45%
100%
出 典 : MEA Annual Report, 2012
229
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
MEAの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の 半 分 が 配 電 シ ス テ ム で あ り 、送 電 シ ス テ ム と 合
わ せ て 簿 価 で 800億 バ ー ツ と 89%を 占 め て い る 。 減 価 償 却 年 数 は 、 資 産 に よ っ て
異 な る が 、 3年 か ら 30年 で あ る 。
表 90
MEAの 有 形 固 定 資 産 ( 2012年 12月 末 現 在 )
単位:百万バーツ
Property, Plant and Equipment
Accumulated
depreciation
Costs
Land and land rights
Transmission system
Distribution system
Terminal stations and sub stations
Machine, equipment and vehicles
General assets
Total
2,810
56,822
84,742
1,980
539
13,835
160,727
0
22,153
39,503
0
0
8,861
70,519
Net book
value
2,810
34,669
45,239
1,980
539
4,974
90,208
出 典 : MEA Annual Report, 2012
上 記 の 2012年 の 財 務 状 況 か ら 収 益 力 、更 新 費 用 確 保 状 況 、老 朽 化 の 度 合 い を 分
析 し て み る と 、 売 上 高 利 益 率 は 5%で あ る が 、 需 要 量 を 買 電 し て 需 要 家 に 売 る 事
業 形 態 か ら 利 益 は 安 定 し て い る 。 更 新 費 用 の 確 保 状 況 85は 、 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ
ー と 現 預 金 が 減 価 償 却 累 計 額 の 37%と 、 過 去 の 投 資 に 係 る 減 価 償 却 の 1/3程 度 の
水 準 で 投 資 資 金 を 確 保 で き て い る 。 有 形 固 定 資 産 の 取 得 費 用 の う ち 44% 86と 老 朽
化の進み具合も問題となる状況ではないと考えられる。
表 91
主な財務指標
評価項目
評価指標
2012
5%
収益力
売上高利益率
更新費用確保
更新投資充当可能資金対減価償却
累計額比率
37%
老朽化度合い
有形固定資産減価償却率
44%
以 上 の 考 察 よ り 、MEAの 事 業 は 安 定 し て お り 、更 新 費 用 の 確 保 状 況 、老 朽 化 の
具合も大きな問題となるものはないと思われる。
85
更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 対 減 価 償 却 累 計 額 比 率( 更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 ÷減 価 償 却 累
計 額 。更 新 投 資 充 当 可 能 資 金 = 投 資 キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー + 現 預 金 + 短 期 有 価 証 券 )は 、
2013年 に 37%で あ る 。
86
有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 率( 有 形 固 定 資 産 減 価 償 却 累 計 額 ÷有 形 固 定 資 産 の う ち 償 却
対 象 資 産 の 取 得 原 価 ) が 44%。
230
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JICA
国際航業
維持管理の現状
(2)
計 画 (Plan)
1)
メ ー カ ー が 作 成 し た マ ニ ュ ア ル に 従 い 、1,2,4,5年 の 維 持 管 理 計 画 を 策 定 し 、同
計画に基づき配電施設のオーバーホールを含む維持管理を行っている。
送 電 施 設 の 維 持 管 理 計 画 は 、 18の District Area Officeが 策 定 し 、 Distribution
System Service Departmentの Deputy Governorが 承 認 し て い る 。
ま た 、MEAで は 以 下 の 世 界 標 準 認 証 シ ス テ ム に 従 っ て 維 持 管 理 点 検 を 行 っ て い
る。

ISO 9110:2008 Quality Management System Accreditation for electrical
power supply, installation and maintenance

ISO/IEC 17025:2005 Laboratory Accreditation for the MEA laboratory
room which provides electrical equipment testing and calibration
services,
ま た 上 記 以 外 に ISO9001を 導 入 し て い る 。
2)
実 施 (Do)
MEAは Enterprise Resource Planning (ERP)シ ス テ ム に よ り 人 材 、施 設 、資 材 、
資 金 等 を 統 合 的 に 管 理 し 、維 持 管 理 業 務 の 効 率 化 や 経 営 の 全 体 最 適 を 目 指 し て お
り、社内全体の状態を把握できるシステムを構築している。
変 電 所 と 配 電 施 設 の 点 検 は 、自 前 の 技 術 者 1名 、Technician 1名 、作 業 者 3名 の
5名 で 構 成 さ れ る グ ル ー プ で メ ー カ ー の 維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル に 従 い 点 検 し て い
る 。 修 繕 や 更 新 が 必 要 な 際 は 、 MEA職 員 の 指 揮 の も と 、 該 当 分 野 の 専 門 知 識 を
持った技術者を外部から調達する。
3)
評 価 (Check)
MEAは 10年 前 か ら GISを 構 築 し 運 用 し て い る 他 、 SAP、 SCADA等 の 導 入 に よ
り 効 率 的 に 管 理 し て い る 。ま た 、社 内 で の 維 持 管 理 に 関 係 す る 文 書 共 有 化 の た め
の MEA E-Documentシ ス テ ム 、 Logistic Management System他 を 積 極 的 に 構 築
し、アセットデータ更新、コスト評価の効率的な運営を行っている。
4)
見 直 し (Action)
3ヶ 月 ご と に 維 持 管 理 報 告 書 は 2007年 に 設 立 さ れ た 第 三 者 機 関 で あ る エ ネ ル ギ
ー 規 制 委 員 会 (Energy Regulatory Commission:ERC)に 提 出 す る 。 同 規 制 委 員 会
の 評 価 は MEAの 今 後 の 維 持 管 理 計 画 に フ ィ ー ド バ ッ ク さ れ て い る 。
231
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(3)
JICA
国際航業
日本の協力
円 借 款 に て 、 1977 年 に 首 都 圏 配 電 網 拡 充 ・ 改 善 事 業 と し て 供 与 額 104 億 円 、
2002年 に バ ン コ ク 230kv地 下 送 電 建 設 事 業 と し て 供 与 額 143億 円 を 実 施 し た 。
(4)
アセットマネジメントの現状と課題
MEAが 所 有 す る 人 材 、施 設 、資 材 、資 金 等 社 内 全 体 の 現 状 把 握 を で き る シ ス テ
ム を 構 築 し 、統 合 的 に 管 理・配 分 し 、維 持 管 理 業 務 の 効 率 化 や 経 営 全 体 の 最 適 な
運 営 を 目 指 す 等 、維 持 管 理 に つ い て 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、10年 前 か ら
GISを 構 築 し 、SAP、SCADA等 を 導 入 し 効 率 的 な 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。さ ら に 、
維 持 管 理 報 告 書 は 2007年 か ら 設 置 さ れ た 第 三 者 機 関 で あ る ERCに 四 半 期 ご と に
審 査 さ れ る 等 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 確 実 に 行 わ せ る た め の 制 度 が 整 備 さ れ て
おり、今後も大きな問題なく維持管理を継続できると推測される。
232
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.8.4
JICA
国際航業
地 方 配 電 公 社 (PEA)
(1)
概要
1)
事業概要
PEAは EGATが 所 有 す る 1次 変 電 所 か ら 電 力 を 購 入 し 、 降 圧 後 に バ ン コ ク 都 及
び 隣 接 2県 ( サ ム ッ ト プ ラ カ ン 県 、 ノ ン タ ブ リ 県 ) 以 外 の 最 終 需 要 家 に 配 電 し て
い る 。 PEAの 配 電 面 積 は 国 土 の 99%を カ バ ー し 全 国 を 12の 管 理 ブ ロ ッ ク に 分 け 、
915の 支 店 が あ る 。
2)
施設概要
主要なインフラ施設は電線系統、変電施設、トランスフォーマーである。
表 92
PEAの 主 な イ ン フ ラ 施 設
Facility
Capacity, Unit
High voltage distribution line 33/22kV
298,984cct-km
Low voltage distribution line 0.4/0.23 kV
457,118cct-km
Submarine cable
250cct-km
Substation
520 unit
Distribution transformer
270,000 unit
出 典 : PEA
3)
実施体制
維 持 管 理 担 当 の 職 員 数 は 全 職 員 数 約 28,000名 中 、本 社 に 90名 、各 地 方 維 持 管 理
セ ン タ ー に 252名 、 ま た 全 国 915の 支 店 に 各 5名 ず つ 計 約 5,000名 が 配 置 さ れ て い
る 。本 社 所 属 の 維 持 管 理 担 当 の 職 員 は 変 電 、配 電 シ ス テ ム 、送 電 担 当 課 に そ れ ぞ
れ 30名 ず つ 配 置 さ れ て い る 。
233
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Central Office
-Substation maintenance division (30)
-Power system maintenance division (30)
-Power transformer division (30)
North Region
Northeast Region
South Region
Central Region
Area North 1
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 1
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 1
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 1
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 2
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 2
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 2
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 2
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 3
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 3
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 3
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
Area North 3
-Transmission line
maintenance
section (7)
-Distribution line
maintenance
section (7)
Sub Office
-Operation &
maintenance
section (7)
(
図 101
)内は維持管理担当の職員数
PEA組 織 図
出 典 : PEA
4)
財務状況
PEAは 3,752億 バ ー ツ の 収 入( 前 年 比 615億 バ ー ツ 増 加 )を 上 げ 、そ の う ち 97%
は 売 電 収 入 で あ る 。支 出 は 3,475億 バ ー ツ( 前 年 比 599億 バ ー ツ 増 加 )で 、そ の 結
果 、 純 利 益 は 150億 バ ー ツ (前 年 比 25億 バ ー ツ 増 加 )で 、 純 利 益 率 は 4%で あ っ た 。
MEAと 同 じ く 、EGATか ら 高 圧 電 力 を 購 入 し 、需 要 家 に 売 電 す る 事 業 形 態 で 、増
加 す る 電 力 需 要 に 対 応 す る た め 新 規 投 資 も 相 次 い で い る が 、堅 調 な 電 力 需 要 か ら
利益の確保も見込めるため、経営は安定している。
表 93
PEAの 財 務 状 況
単位:百万バーツ
2012
Revenue
Sales of electricity energy
Other operating revenues
Other income
Total revenue from sales and services
Expense
Cost of sales and services
Administrative expenses
Selling expenses
Other expenses
Total Expenses
Net income
2011
375,188
10,648
2,326
388,163
97%
3%
1%
100%
313,701
9,824
1,223
324,750
97%
3%
0%
100%
347,525
17,350
4,958
3,352
373,187
14,975
90%
4%
1%
1%
96%
4%
287,673
16,074
4,665
3,875
312,288
12,461
89%
5%
1%
1%
96%
4%
出 典 : PEA Annual Report 2012
234
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ファイナルレポート
(2)
1)
JICA
国際航業
維持管理の状況
計 画 (Plan)
PEAは 現 在 、PAS55:2008を 導 入 済 み で あ り 、将 来 は ISO55001シ リ ー ズ に 移 行
するアセットマネジメントロードマップを策定している。
PEAは 資 産 の ラ イ フ サ イ ク ル を 通 じ て コ ス ト・実 績・リ ス ク の バ ラ ン ス を 取 り 、
最適な維持管理を行うことを基本方針に据えたアセットマネジメントを実施し
ている。
図 102
PEAの ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 基 本 的 考 え 方
出 典 : PEA
長 期 計 画 は 計 画 ・技 術・ 調 達 分 野 を 中 心 に 、中 期 計 画 は 分 析 ・維 持 管 理 分 野 を
中心に、短期計画は建設施工・運用分野を中心に据え策定するようにしている。
図 103
PEAの 長 中 短 期 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 イ メ ー ジ
出 典 : PEA
ま た 、予 算 計 画 策 定 の プ ロ セ ス は 、全 国 の 12管 理 ブ ロ ッ ク か ら 本 社 へ 維 持 管 理
予 算 案 を 提 出 し 、本 社 の 予 算 計 画 策 定 部 署 で 過 去 の 維 持 管 理 履 歴 、施 設 の 更 新 時
期等を参考にしながら維持管理費用を予算計画に盛り込んでいる。
235
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
実 行 (Do)
2)
計画に従い点検、補修、更新を行っている。
評 価 (Check)
3)
補 修・補 修 後 の 履 歴 は SAPの 施 設 維 持 管 理 モ ジ ュ ー ル 及 び 資 材 管 理 モ ジ ュ ー ル
を 使 い 各 施 設 ご と に 管 理 さ れ て い る 他 、 遠 隔 監 視 の SCADA、 各 施 設 の 位 置 情 報
を リ ン ク さ せ た GIS、 施 設 の 異 常 を 管 理 す る OMS(Operation and Maintenance
System)等 を 導 入 し て い る 。 こ れ ら の シ ス テ ム 導 入 に よ っ て 、 こ れ ま で 目 視 点 検
作 業 か ら 自 動 遠 隔 監 視 へ シ フ ト し 、併 せ て 点 検 作 業 の 同 時 性 、客 観 性 を 高 め る 等
効率的な運用管理を行っている。
見 直 し (Action)
4)
PEAは 維 持 管 理 報 告 書 を 作 成 し 、 3ヶ 月 毎 に 2007年 に 設 立 さ れ た 第 三 者 機 関 で
あ る ERCに 提 出 す る こ と が 義 務 付 け ら れ て い る 。PEAは 同 規 制 委 員 会 の 評 価 を 今
後の維持管理計画にフィードバックしている。
(3)
日本の協力
技術協力
1)
案 件 名: 地 方 配 電 自 動 化 技 術 者 養 成 計 画 プ ロ ジ ェ ク ト
協 力 期 間 : 1992年 6月 か ら 1997年 6月
協 力 内 容:配 電 自 動 化 シ ス テ ム の 構 築・運 用 を 行 う 人 材 を 育 成 す る た め 、配 電
自動化の基礎、システムの建設、運転、保守、応用に関する技術・
知識の技術移転を行った。
円借款
2)
地 方 配 電 網 増 強 計 画 事 業 を 中 心 に 1970年 か ら 2002年 ま で 総 額 1,599.72億 円 が
供与され、地方での電化率に大きく貢献した。
1970年 以 降 継 続 的 に 円 借 款 に よ り PEAの 送 配 電 網 の 整 備 が 進 み 、 1970年 代 に
20%以 下 で あ っ た 地 方 電 化 率 が 1999年 に は 99%ま で 整 備 さ れ た 。
(4)
アセットマネジメントの現状と課題
PEAは 導 入 済 み の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の PAS55:2008 に 基 づ い て ア セ ッ ト マ
ネジメントを実施している。現在は、アセットマネジメントの新規格である
ISO55000シ リ ー ズ に 移 行 す る ロ ー ド マ ッ プ を 策 定 し て 、発 注 の 準 備 を 進 め て い る
こ と か ら 、PEAは ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 実 践 し て 、維 持 管 理 費 の 削 減 に 成 果 を
あげており、アセットマネジメントの取組みが定着していると判断する。
236
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4.9
総合評価
4.9.1
道路分野
1)
JICA
国際航業
DOH
全 国 の 国 道 を 管 轄 す る DOHの 予 算 は 、2010年 度 か ら 2014年 の 5年 間 で 49%増 加
し て い る 。2012年 以 降 は 維 持 管 理 予 算 額 が 新 規 建 設 予 算 額 を 上 回 っ て お り 、ま た
2002年 以 降 の 道 路 延 長 は 増 加 し て お ら ず 、新 規 建 設 の ほ と ん ど は 既 存 道 路 の 拡 幅
工 事 で あ る 。現 在 は 、事 業 の 優 先 度 が 新 規 建 設 か ら 維 持 管 理 へ と 移 行 す る 段 階 に
ある。
そ の た め 、 DOHは 維 持 管 理 面 の 強 化 の た め に 、 2000年 代 か ら 様 々 な 活 動 を 実
行 し て い る 。舗 装 の 維 持 管 理 に つ い て は 、2007年 よ り 路 面 性 状 調 査 を 開 始 し て い
る 。現 在 は 、取 得 し た デ ー タ を PMSで 活 用 す る た め に 、デ ー タ の 蓄 積 と 、そ れ を
用 い た 劣 化 予 測 技 術 の 精 度 向 上 の 段 階 に あ る 。そ し て 、PMSが PDCAの マ ネ ジ メ
ン ト サ イ ク ル に 十 分 に 活 か さ れ る た め に は 、デ ー タ を 基 に し た 工 学 的 維 持 管 理 マ
ネジメントについて、関係者の理解を高める必要がある。
約 15,000あ る 橋 梁 に つ い て は 、デ ー タ ベ ー ス は す で に 完 成 し 、そ の 点 検 デ ー タ
を 取 得 し て 蓄 積 す る 段 階 に あ る 。 よ っ て 、 PDCAの マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル に 活 か
す た め に は 、点 検 技 術 者 の 育 成 、デ ー タ 取 得 と 蓄 積 、デ ー タ 分 析 に よ る 劣 化 予 測
精度の向上、計画作成のための利活用能力の強化等の課題克服が必要である。
長 寿 命 化 技 術 に つ い て は 、改 質 性 舗 装 の 採 用 や 、SMA舗 装 の 試 験 施 工 等 を 行 っ
て お り 、 LCC削 減 技 術 の 導 入 に 取 り 組 ん で い る 。
さ ら に 、職 員 へ の 維 持 管 理 研 修 を 定 期 的 に 行 っ て お り 、意 識 啓 発 を 進 め て い る 。
現場レベルでのマネジメント体制は整備されており、実行努力がされている
が 、予 算 不 足 や 人 材 不 足 が 計 画 通 り の 実 施 の 障 害 と な り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト
の 整 備 は 遅 い 。こ れ を 加 速 す る に は 、組 織 の 最 上 流 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 能
力 の 強 化 、そ れ に よ る 長 期 的 政 策 に 基 づ く 運 営 の 実 行 が 重 要 で あ る 。ま た 、さ ら
に 上 位 の 国 家 計 画 や 設 計 基 準 等 の 見 直 し に よ っ て 、維 持 管 理 の 優 先 度 を 上 げ る こ
とが、大きな効果をもたらすと思われる。
2)
DRR
地 方 の 幹 線 道 路 を 管 轄 す る DRRに つ い て は 、予 算 は 2010年 か ら 2014年 の 5年 間
で 71%増 加 し 、2014年 は 38,045百 万 バ ー ツ と な っ て お り 、地 方 で の 道 路 開 発 が 活
発化している。
ま た 、 新 規 建 設 の 重 要 度 は DOHよ り は 高 い が 、 維 持 管 理 の 重 要 性 が 非 常 に 高
ま っ て き て お り 、 DOHの 状 況 と 類 似 し て い る 。
そ の た め 、 DRRは 維 持 管 理 面 の 強 化 の た め に 、 2000年 代 か ら 様 々 な 活 動 を 実
行している。
237
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
舗 装 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 DRRは PMSを 2005年 に 導 入 し て 、 計 画 、 設 計 、
維 持 管 理 作 業 等 で 活 用 し て い る 。 さ ら に 最 近 は 、 路 面 性 状 調 査 車 両 5台 を 調 達 し
て 、DRR自 身 で 計 測 し て デ ー タ を 蓄 積 し て い る 。PMSを PDCAの マ ネ ジ メ ン ト に
活 か す た め に は 、デ ー タ 取 得 と 蓄 積 、デ ー タ 分 析 に よ る 劣 化 予 測 精 度 の 向 上 、計
画作成のための利活用能力の強化等の課題を克服する必要がある。
約 8,000の 橋 梁 の 維 持 管 理 に つ い て は 、JICAが 2度 に わ た る 技 術 支 援 を 通 じ て 、
維 持 管 理 マ ニ ュ ア ル を 整 備 し 、橋 梁 管 理 デ ー タ ベ ー ス を 完 成 さ せ て お り 、現 在 は
2,000橋 の 点 検 と デ ー タ 入 力 を 終 え た と こ ろ で あ る 。 残 り 6,000橋 に つ い て は 、
DRR自 身 で 点 検 と デ ー タ 入 力 を 3年 間 で 実 施 す る 計 画 で あ る 。
新規道路の建設の優先度が高いため、維持管理予算は不足しており、また点
検・維 持 管 理 の 技 術 者 も 不 足 し て い る 。DRRの 管 轄 す る 道 路 は 交 通 量 が 国 道 ほ ど
は 多 く な い と こ ろ が 多 い が 、一 部 の 交 通 量 の 多 い 道 路 で は 劣 化 が 激 し い 箇 所 が 発
生している。
一 方 で DRRは 、 乏 し い 予 算 の 中 で も 、 普 通 の ア ス フ ァ ル ト 舗 装 の 約 2倍 の 価 格
の コ ン ク リ ー ト 舗 装 を 、耐 久 性 が 高 い と い う 理 由 で 維 持 管 理 が 困 難 な 区 間 に は 採
用 し て お り 、 LCCを 考 慮 し て い る 。
また、職員への維持管理研修を定期的に行っており、意識啓発を進めている。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 に つ い て は 、DRRは DOHと よ く 似 た 状 況 に あ る 。
現場レベルでのマネジメント体制は整備されており、実行努力がされているが、
予 算 不 足 や 人 材 不 足 が 計 画 通 り の 実 施 の 障 害 と な り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 整
備 は 遅 い 。こ れ を 加 速 す る に は 、組 織 の 最 上 流 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 能 力 の
強 化 、そ れ に よ る 長 期 的 政 策 に 基 づ く 運 営 の 実 行 が 重 要 で あ る 。ま た 、さ ら に 上
位の国家計画や設計規準等の見直しによって、維持管理の優先度を上げること
が、大きな効果をもたらすと思われる。
3)
EXAT
バ ン コ ク 首 都 圏 と そ の 近 郊 の 高 速 道 路 を 管 轄 す る 独 立 採 算 の 公 社 の EXATは 、
料 金 収 入 が 毎 年 増 加 し て お り 、そ れ に 伴 い 純 利 益 も 増 加 し 、2013年 に は 利 益 率 が
45%に 達 し て い る 。政 府 の 交 付 金 は 急 激 に 減 少 し て お り 、負 債 の 返 済 も 順 調 に 進
ん で お り 、財 務 状 況 は 健 全 と 言 え る 。2014年 に 維 持 管 理 に は 761百 万 バ ー ツ を 充
て て い る が 、 こ れ は 返 済 金 を 含 む 全 支 出 額 の 8%に 相 当 す る 。
EXATが 維 持 管 理 を 実 施 し て い る 道 路 延 長 は 、 全 延 長 207kmの 66%に 相 当 す る
137kmで あ り 、残 り は 2社 が コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で 運 営・維 持 管 理 を 行 っ て い る 。
EXATは マ ニ ュ ア ル に 沿 っ て 点 検 ・ 維 持 管 理 を 実 施 し て お り 、 一 部 の デ ー タ は
デ ー タ ベ ー ス で 管 理 さ れ て い る 。現 在 、道 路 延 長 の 大 部 分 を 占 め る コ ン ク リ ー ト
高架橋用のデータベースを開発中である。
道 路 延 長 が 短 い こ と 、 施 設 全 体 の 約 80%が ま だ 建 設 後 20年 以 下 と 若 い こ と 、 2
238
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
つ の 斜 張 橋 に は 特 別 な 配 慮 を し て し っ か り と 維 持 管 理 し て い る こ と 等 の た め 、通
常、損傷し易い箇所以外は、維持管理の問題はほとんど発生していない。
し か し な が ら 、コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 は 供 用 後 30年 以 上 経 過 し て い る も の も あ る
た め 、 今 後 は RC床 版 等 に 劣 化 が 発 生 す る 可 能 性 が 十 分 に あ る 。 コ ン ク リ ー ト 高
架 橋 は 、補 修 が 困 難 で 多 額 の 費 用 が か か る た め 、高 架 橋 の 点 検・維 持 管 理 を 充 実
させ、事後保全から予防保全へと変更していく必要性が徐々に高まっている。
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 面 で は 、個 別 施 設 の マ ネ ジ メ ン ト は 実 施 体 制 が 整 っ て い
る が 、総 合 的 か つ 長 期 的 観 点 か ら の マ ネ ジ メ ン ト 能 力 を 強 化 し て い く こ と が 課 題
である。
BMA公 共 事 業 局
4)
バ ン コ ク 首 都 圏 内 の 自 治 体 道 路 の 建 設・維 持 管 理 を 管 轄 す る BMA公 共 事 業 局 で
は 、舗 装 の 維 持 管 理 作 業 は 、基 本 的 に 苦 情 対 応 の 事 後 保 全 で 行 っ て い る が 、こ れ
の改善に取り組もうとしている。
橋 梁 は 1,000以 上 を 管 轄 し て お り 、 そ の 中 に は 劣 化 が 進 ん で い る も の も か な り
あ る が 、橋 梁 の 架 け 替 え は 交 通 へ の 支 障 を 考 慮 に す る と 非 常 に 困 難 で あ り 、BMA
に と っ て は 長 寿 命 化 の 実 施 が 最 重 要 な 課 題 で あ る 。よ っ て 現 在 は 、橋 梁 に つ い て
は 点 検 ・ 維 持 管 理 ・ 補 修 ・ 補 強 を 、様 々 な 新 技 術 も 使 っ て 実 施 し て い る が 、か な
り劣化が進んでからの対応のものもあり、総じて事後保全である。
橋 梁 デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム に は デ ー タ が 十 分 に 蓄 積 、活 用 さ れ て い る 。舗 装 と
橋 梁 の 管 理 を 統 合 し た GISベ ー ス の 管 理 シ ス テ ム を 2014年 9月 に 発 注 し 、 完 成 ま
で に 2年 間 か か る 予 定 で あ る 。 予 防 保 全 の PDCAが 回 る よ う に す る た め に は 、 デ
ー タ ベ ー ス の 充 実 、デ ー タ の 利 活 用 能 力 強 化 、長 期 計 画 の 策 定 と 実 施 能 力 が 今 後
の課題である。
4.9.2
1)
上水道分野
MWA
バ ン コ ク 首 都 圏 の 給 水 事 業 を 管 轄 し て い る 独 立 採 算 の 公 社 で あ る MWA は 、
2013年 度 に は 70億 バ ー ツ の 利 益 を 上 げ て お り 、 財 務 状 況 は 良 好 で あ る 。 維 持 管
理 へ は 、 全 支 出 の 4%前 後 を 充 て て い る 。
給 水 区 域 の 整 備 率 は す で に 非 常 に 高 く 、 2020年 ご ろ に は 100%に 達 す る と 予 想
さ れ て い る 。現 在 の 事 業 運 営 上 の 優 先 課 題 は 、給 水 区 域 の 拡 大 で は な く 、水 質 の
改善、十分な水圧の確保、漏水率の低下等の維持管理面に移っている。従って、
維持管理の改善には積極的に取り組んでいる。
事 業 運 営 の 業 務 管 理 で は 、統 合 業 務 パ ッ ケ ー ジ シ ス テ ム で あ る SAPを 使 用 し て
い る 。 有 形 固 定 資 産 の 67%を 占 め る 配 管 の 管 理 で は 、 GISを 用 い た 水 道 管 管 理 シ
239
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
ス テ ム を 使 用 し て い る 。こ れ ら は 計 画・管 理 部 門 だ け で な く 現 業 部 門 で も 十 分 に
使 用 さ れ て お り 、補 修 記 録 も 速 や か に 履 歴 デ ー タ と し て デ ー タ ベ ー ス に 取 り 込 ま
れ て い る 。配 管 の 点 検・維 持 管 理 の マ ネ ジ メ ン ト 状 況 は か な り 高 い 質 と 評 価 で き
る 。一 方 で 、有 形 固 定 資 産 の 約 20%を 占 め る 浄 水 場 等 の 施 設 で は 、管 轄 事 務 所 が
SAPを 十 分 に 使 用 で き て お ら ず 、現 場 の 技 術 情 報 も 本 部 は 十 分 に 把 握 で き て い な
いという、マネジメント上の課題がある。
配 管 の 維 持 管 理 は か な り 高 い 質 で 行 わ れ て い る た め 、漏 水 率 は 徐 々 に 改 善 さ れ
て き て お り 、2014年 に は 約 24%ま で に 改 善 さ れ て は い る も の の 、依 然 と し て 良 好
な 水 準 に 達 し て い る と は い え な い 。こ の 原 因 は 、現 在 は 配 管 の 更 新 に 伴 っ て 配 管
データが更新されつつあり、データベースの精度が向上している段階であるこ
と 、ま た 漏 水 率 の 高 い 箇 所 が 分 か っ て い て も 、過 密 な 交 通 状 況 等 の た め に 更 新 工
事 の た め の 道 路 使 用 許 可 が 取 得 で き な い た め 等 で あ る 。現 在 の よ う な 実 施 を 続 け
て い け ば 、デ ー タ ベ ー ス の 精 度 も 高 ま り 、漏 水 率 も ゆ っ く り と で は あ る が 改 善 さ
れていき、事後保全から予防保全へと徐々に移行して行くと推測される。
し か し な が ら 課 題 と し て は 、バ ン コ ク 首 都 圏 の 水 需 要 が 、人 口 減 少 等 で 長 期 的
に は 頭 打 ち に な っ て く る こ と 、そ し て 耐 用 年 数 を 迎 え る 石 綿 管 が 2010年 代 後 半 に
増 大 し 、 PVC管 は 2030年 代 後 半 に ピ ー ク を 迎 え る こ と で あ る 。
そ れ ら に 備 え る た め に 、長 期 計 画 を 策 定 し て マ ネ ジ メ ン ト を 始 め る 必 要 性 が 高
ま っ て 来 て い る 。長 期 間 の LCCを 最 小 化 し 、か つ 更 新 の ピ ー ク の 平 準 化 を 図 る 計
画 を 立 て て 、実 行 し て い く こ と が 求 め ら れ る 。財 務 状 況 は 良 好 で 、人 材 も 不 足 し
て は お ら ず 、蓄 積 さ れ た デ ー タ も 充 実 し つ つ あ る の で 、長 期 的 視 野 で の ア セ ッ ト
マネジメントへ進む条件は整いつつある。
2)
PWA
PWAは バ ン コ ク 首 都 圏 を 除 く タ イ 国 内 の 水 道 施 設 を 管 轄 す る 公 社 で あ る 。財 務
状 況 は 、利 益 率 は 改 善 傾 向 に あ り 2012年 に は 19%を 達 成 し て い る が 、適 宜 、政 府
の支援を受けながら、自立へ向けて努力している。
PWAは 首 都 圏 以 外 の 全 国 を 管 轄 し て い る た め 、優 先 課 題 が 給 水 区 域 の 拡 大 の 地
域や、すでに維持管理に移っている地域等が混在している。
PWAも MWAと 同 様 に 、 GISを 使 っ た 水 道 管 管 理 シ ス テ ム を 全 国 で 整 備 し て い
る 。 バ ン コ ク 近 郊 の 事 業 所 で は MWAに 近 い 高 い レ ベ ル で 維 持 管 理 を 行 っ て い る
と こ ろ も あ る が 、 管 轄 す る 事 業 所 が 全 国 に 230以 上 と 多 い た め 、 維 持 管 理 レ ベ ル
の 遅 れ た 事 業 所 の レ ベ ル を 引 き 上 げ る こ と が 、 PWAに と っ て は 優 先 課 題 と な っ
て い る 。そ の 手 段 の 一 つ と し て 民 間 委 託 を 採 用 し て お り 、現 在 、20箇 所 が 民 間 委
託 化 さ れ て い る 。 PWAは 管 轄 す る 事 業 所 数 が 多 く 、 担 当 範 囲 が 広 い た め 、 民 間
委託は重要な手法である。
ま た 、長 期 的 か つ 包 括 的 な ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 計 画 を 策 定 し て 実 施 す る こ と
240
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JICA
国際航業
も 、広 域 を 管 理 す る 面 で 効 果 的 で あ る 可 能 性 が あ る の で 、今 後 取 組 む べ き 課 題 で
ある。
4.9.3
下水道分野
BMA下 水 道 事 業 局
1)
バ ン コ ク 首 都 圏 の 下 水 道 事 業 を 担 当 す る BMA下 水 道 事 業 局 は 、政 府 か ら の 補 助
金 と BMAの 税 収 を 財 源 と し て い る 。 2014年 度 の 年 間 予 算 は 約 30億 バ ー ツ で 、 補
助 金 と 税 金 の 比 率 は 約 50:50で あ る 。 下 水 道 料 金 の 徴 収 を 開 始 す る に は 、 下 水 道
普 及 率 が 60%を 超 え る 必 要 が あ る と BMAは 考 え て い る が 、 現 状 は 約 30%で あ る 。
下水道整備率はまだ低いため、サービス区域の拡大が優先課題となっている。
さらに、既存施設が比較的新しいことも重なり、維持管理の重要度はまだ低い。
下 水 処 理 場 7施 設 の う ち 、6施 設 に つ い て は 管 渠 と と も に 、運 営 維 持 管 理 が 民 間
委 託 さ れ て い る 。民 間 企 業 が 機 械 設 備 の 定 期 的 な 点 検 、消 耗 部 品 の 交 換 、運 転 ・
維持管理、管路の点検・維持管理を行っている。
下 水 道 管 路 の 維 持 管 理 に は GISが 導 入 さ れ て い る 。GISで は 管 路 の 基 礎 デ ー タ 、
修 繕 履 歴 等 を 管 理 し て い る 。ま た 、管 路 の 現 状 把 握 の た め に 、下 水 道 管 内 へ の カ
メラロボットの導入も検討している。
下 水 道 管 路 及 び 施 設 と も に 、長 寿 命 化 や 、事 後 保 全 か ら 予 防 保 全 へ の 移 行 に 取
組 む 必 要 性 は 低 く 、そ の 意 識 も ま だ 低 い 状 況 で あ る 。下 水 道 管 路 は 深 く 埋 設 さ れ 、
補 修 は 困 難 で あ る た め 、長 期 的 な 視 野 で の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 取 組 み の 強
化が望まれる。
4.9.4
1)
鉄道分野
SRT
全 国 の 鉄 道 を 管 轄 す る SRTは 、 2008年 は 約 95億 バ ー ツ で あ っ た 赤 字 が 、 2013
年 に は 140億 バ ー ツ に 拡 大 し 、 長 年 慢 性 的 な 赤 字 を 抱 え て い る 。 一 方 、 旅 客 、 貨
物 輸 送 収 入 は 伸 び 悩 ん で い る に も 関 わ ら ず 、イ ン フ ラ の 維 持 管 理 、車 両 の 維 持 管
理費の支出は拡大している。
こ れ ま で に 数 次 に 亘 る 有 償 資 金 協 力 援 助 に よ る 軌 道 改 良 、ま た 技 術 協 力 事 業 に
よ る 軌 道 保 全 技 術 、車 両 運 転 技 術 等 の 日 本 の 支 援 を 受 け 、改 善 を 行 っ て き た 。一
方 、低 所 得 者 層 へ の 一 部 運 賃 の 無 料 化 、SRT職 員 の 大 幅 削 減 等 、タ イ 国 政 府 の 方
針 に SRTは 大 き く 影 響 を 受 け て お り 、 改 善 は 進 ん で い な い 。
そ の た め 、 脱 線 事 故 件 数 は 毎 年 100件 前 後 も 発 生 し て お り 、 点 検 ・ 維 持 管 理 の
問 題 は 深 刻 で あ る 。そ の よ う な 深 刻 な 維 持 管 理 の 状 況 を 改 善 す る た め に 、タ イ 国
政 府 は SRTに 200億 バ ー ツ の 維 持 管 理 プ ロ ジ ェ ク ト 予 算 を 2012年 に 承 認 し た 。21
区 間 に つ い て 路 線 の 本 格 的 な 改 修 工 事 を 行 う 予 定 で あ る 。こ の プ ロ ジ ェ ク ト の 主
241
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JICA
国際航業
な 内 容 は レ ー ル と 枕 木 の 交 換 だ が 、 枕 木 は 長 寿 命 の PC枕 木 へ 交 換 す る 計 画 と な
っており、大きな改善が期待されている。
こ の よ う に 維 持 管 理 面 で の 進 展 は 見 ら れ る も の の 、財 務 状 況 が 悪 い こ と 、ま た
維 持 管 理 を 含 め た 事 業 運 営 は 政 府 の 方 針 に 大 き く 左 右 さ れ る こ と 、さ ら に 組 織 の
課 題 等 も 重 な っ て 、SRT自 身 だ け で は 長 期 的 な 展 望 の 必 要 な ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン
ト を 進 め ら れ る 体 制 に は な い 。そ の た め 、国 の 長 期 的 な 方 針 と し て 、追 加 的 予 算
措置や組織強化に取り組む必要がある。
2)
MRTA
タ イ 国 で 地 下 鉄 事 業 を 行 っ て い る 唯 一 の 公 社 で あ る MRTAは 、2013年 度 こ そ 特
殊 な 理 由 で 黒 字 と な っ た が 、毎 年 赤 字 を 続 け て お り 、政 府 の 補 助 金 も 増 加 し て お
り、経営状況は厳しい。
最 初 の 地 下 鉄 は 2005年 に 開 業 し て い る た め 、施 設 は ま だ 若 く 健 全 な 状 態 が 保 た
れ て い る 。MRTAは す べ て の 運 営 維 持 管 理 業 務 を 25年 間 の コ ン セ ッ シ ョ ン 契 約 で
BMCL社 に 委 託 し て い る た め 、MRTAの 業 務 は BMCL社 の 履 行 状 況 の 確 認 と 承 認
に限定されている。
一 方 、BMCL社 は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 戦 略 に 基 づ い て モ ニ タ リ ン グ 、評 価 を
実 施 す る 等 の 維 持 管 理 を 行 っ て お り 、 ま た 、 監 視 制 御 シ ス テ ム SCADAで 運 用 管
理 も 行 っ て お り 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム で は 先 進 的 な ISO55000の 認 証
を 受 け て い る 。さ ら に 、点 検 デ ー タ で 大 き な 損 傷 や 老 朽 化 は 報 告 さ れ て い な い 等
の現状から、良好な状態であると推測される。
ト ン ネ ル の 点 検・維 持 管 理 の 経 験 と ノ ウ ハ ウ は 乏 し い と 推 測 さ れ る の で 、長 期
的にはその対応が課題となってくる。
4.9.5
1)
電力分野
EGAT
タ イ 国 で 発 電 事 業 を 管 轄 す る 公 社 で あ る EGATは 、 財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で
あり、維持管理へも十分に予算を配分できる状況である。
維 持 管 理 の 対 象 と な る イ ン フ ラ 施 設 は 主 に 発 電 所 と 配 電 シ ス テ ム で あ る が 、メ
ー カ ー の マ ニ ュ ア ル に 従 っ て 必 要 な 点 検 を 行 っ て お り 、約 40年 前 に 建 設 さ れ た ダ
ム施設でさえ全く漏水問題がなく、予防保全ができている。財務状況も健全で、
維 持 管 理 費 用 を 賄 え る 状 態 に あ り 、内 部 留 保 も 十 分 で 必 要 に 応 じ て 大 規 模 修 繕 や
更 新 投 資 も で き る 状 態 に あ る た め 、今 後 も 大 き な 問 題 な く 維 持 管 理 を 継 続 で き る
と 推 測 さ れ る 。ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト は す で に 体 系 的 に 行 わ れ て い る 状 況 と 判 断
される。
242
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2)
JICA
国際航業
MEA
MEAは EGATよ り 電 力 を 購 入 し 、バ ン コ ク 首 都 圏 の 消 費 者 へ 売 電 す る 事 業 を 行
う 公 社 で あ る 。財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で あ り 、維 持 管 理 へ も 十 分 に 予 算 を 配 分
できる状況である。
MEAは 、管 理 部 門 及 び 現 業 部 門 に そ れ ぞ れ 維 持 管 理 を 担 当 す る 部 署 を 設 置 す る
等 、維 持 管 理 に つ い て 積 極 的 に 取 り 組 ん で い る 。ま た 、10年 前 か ら GISを 構 築 し 、
SAP、 SCADA等 を 導 入 し 効 率 的 な 管 理 を 行 っ て い る 。 さ ら に 、 維 持 管 理 報 告 書
は 外 部 エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会 に 四 半 期 ご と に 提 出 し て 審 査 さ れ る 等 、ア セ ッ ト マ
ネジメントを確実に行わせるための制度が整備されている。
3)
PEA
PEAは EGATよ り 電 力 を 購 入 し 、バ ン コ ク 首 都 圏 以 外 の 全 国 の 消 費 者 へ 売 電 す
る 事 業 を 行 う 公 社 で あ る 。財 務 状 況 は た い へ ん 良 好 で あ り 、維 持 管 理 へ も 十 分 に
予算を配分できる状況である。
PEAは 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の BSI規 格 の PAS55:2008を 導 入 済 み で あ り 、
それに基づいてアセットマネジメントをシステマチックに実施している。現在
は 、 ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 新 規 格 で あ る ISO55000シ リ ー ズ に 移 行 す る ロ ー ド
マ ッ プ 策 定 し て 、発 注 の 準 備 を 進 め て い る 。そ し て 、PEAは ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン
トを活用して、維持管理費の削減に取組んで成果をあげている。
243
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第5章
対応策の検討
5.1
対応策の対象の選定
5.1.1
JICA
国際航業
インフラ・マネジメントの必要性が高まる条件
イ ン フ ラ の 建 設 が 一 段 落 し た 先 進 国 で は 、保 有 す る イ ン フ ラ 施 設 の 数 量 が 増 加
し た た め に 必 要 な 維 持 管 理 費 が 増 加 し 、ま た 初 期 に 建 設 さ れ た も の は 老 朽 化 が 進
ん で き て 必 要 な 補 修 費 用 が 増 大 す る 。そ し て 、維 持 管 理 の 適 正 な 実 施 が 困 難 に な
り、事故が発生するようになる。
また、人々はインフラが提供する基本的なサービスだけでは満足しなくなり、
よ り 高 い 質 の サ ー ビ ス を 求 め る よ う に な っ て く る 。例 え ば 道 路 で は 、交 通 渋 滞 が
な い 、雨 天 で も 安 全 に 走 行 で き る 等 を 求 め る よ う に な る 。水 道 で は 、断 水 の な い
給 水 サ ー ビ ス 、水 圧 の 高 さ 、水 質 の 向 上 等 を 求 め て く る 。そ の た め 、新 規 建 設 費
用は減少するが、一方で、新たなニーズへ対応する費用が必要となってくる。
そ し て そ の 時 期 が 、人 口 減 少 や 経 済 成 長 率 の 鈍 化 の 時 期 と 重 な る と 、財 源 の 制
約 が よ り 一 層 厳 し く な っ て 、適 正 な 維 持 管 理 は 非 常 に 困 難 に な っ て く る 。一 方 で 、
社 会 状 況 の 変 化 に よ っ て 、必 要 性 の 低 い イ ン フ ラ 施 設 も で て く る 。新 し い イ ン フ
ラ を 造 る こ と か ら 、既 存 の イ ン フ ラ を 賢 く 使 う こ と に 重 点 が シ フ ト し て く る 。こ
れ ら の 問 題 を 解 決 す る た め に 、イ ン フ ラ を ア セ ッ ト と し て と ら え 、効 率 的 か つ 効
果 的 に 維 持 管 理 を 行 い 、さ ら に 様 々 な 施 設 を 包 括 的 に 管 理 す る 手 段 で あ る イ ン フ
ラ・マネジメントの必要性が高まってくる。
よ っ て 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 必 要 性 が 高 ま る 主 な 条 件 を 整 理 す る と 、下
記のようになる。
① イ ン フ ラ 施 設 が 増 加 し 、昔 作 っ た イ ン フ ラ 施 設 が 老 朽 化 し て く る 時 期 に
近づいている。
② イ ン フ ラ 建 設 が ピ ー ク を 過 ぎ て 、イ ン フ ラ 事 業 者 に と っ て の 優 先 度 は 維
持管理に移りつつある。
③ 人 々 が イ ン フ ラ 施 設 の 提 供 す る サ ー ビ ス に 求 め る こ と が 、基 礎 的 サ ー ビ
ス の 提 供 か ら 、快 適 性 、安 全 性 、利 便 性 等 の 、よ り 高 い 質 の サ ー ビ ス に
移りつつある。
5.1.2
対応策の検討対象の選定
本 調 査 の 対 象 機 関 は BMA以 外 は 分 野 別 の 実 施 機 関 で あ り 、そ の 分 野 を 横 断 し た
包 括 的 な イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト は 、国 家 レ ベ ル で 、活 動 の 実 施 ま で の 道 筋 を 具
体 的 に 示 し た 計 画 を 策 定 す る 必 要 が あ る が 、タ イ の 計 画 機 関 の 役 割 は 方 針 を 立 て
る と こ ろ ま で で 、そ の 方 針 に 基 い た 計 画 策 定 は 実 施 機 関 に 一 任 さ れ て い る 。そ の
た め 、中 央 政 府 の 計 画 機 関 は イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト を 主 導 す べ き と い う 意 識 が
244
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JICA
国際航業
高 ま っ て お ら ず 、そ の 下 地 も な い た め 、本 調 査 の 範 囲 内 で 効 果 の 出 る 対 応 策 を 協
議 す る の は 難 し い 状 況 で あ る 。 ま た 、 BMAに お い て も 、 維 持 管 理 は 分 野 毎 の 担
当 に 分 か れ て お り 、計 画 機 関 や 予 算 局 は 国 レ ベ ル 同 様 、包 括 的 な 計 画 を 主 導 す る
準備ができていない。
従 っ て 、本 調 査 で は 、優 先 分 野 を 選 定 し 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 下 地 が で き
て お り 、協 力 の 得 ら れ る 対 象 機 関 に つ い て 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 対 応 策 を 検
討 す る こ と と し た 。こ れ は 、そ の 効 果 と と も に 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に お け
る ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 役 割 を セ ミ ナ ー で 紹 介 す る こ と に よ り 、イ ン フ ラ・マ
ネジメントの概念の理解を深めることを意図している。
5.1.3
優先分野の選定
鉄道と下水道はまだ整備水準が低く、現在は新規建設が優先課題となってい
る 。特 に 、運 輸 分 野 で は 道 路 偏 重 の 現 状 を 修 正 す る 必 要 性 が 高 い た め 、鉄 道 の 新
規 建 設 の 優 先 度 は 高 い 。SRTの 多 く の 施 設 は 老 朽 化 が 進 ん で お り 、維 持 管 理 も 不
十 分 な た め 、 毎 年 100件 前 後 の 脱 線 事 故 が 発 生 し て い る 。 し か し 、 こ の 問 題 の 原
因 は 維 持 管 理 手 法 に と ど ま ら ず 非 常 に 深 刻 で あ る た め 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の
強 化 よ り も 、ま ず そ の 基 本 と な る 組 織 体 制 を 抜 本 的 に 改 善 す る 必 要 が あ る 。ま た 、
既 存 の 施 設 に つ い て は 、SRTを 除 い て は 鉄 道 も 下 水 道 も ま だ 比 較 的 新 し く 、耐 用
年 数 も 長 い た め 、 老 朽 化 問 題 が 顕 在 化 す る の は ま だ 20年 以 上 後 に な る と 思 わ れ
る。
電 力 分 野 で は 、電 力 の 安 定 供 給 は 経 済 活 動 及 び 生 活 の 両 面 で 必 須 の も の で あ る
た め 、イ ン フ ラ 事 業 者 の 事 業 課 題 の 中 で 維 持 管 理 の 重 要 度 は 早 期 か ら 高 く 位 置 づ
け ら れ て い る 。そ の た め 各 事 業 者 と も に 、し っ か り と し た 体 制 で イ ン フ ラ・マ ネ
ジメントに積極的に取り組んでいる。
上 水 道 分 野 は 、 バ ン コ ク 首 都 圏 の 給 水 率 は す で に 100%近 く に 達 し て お り 、 全
国 で も 80%を 超 え て い る 。イ ン フ ラ 事 業 者 に と っ て の 優 先 課 題 は 、す で に 新 規 建
設 か ら 維 持 管 理 の 時 代 に 入 っ て き て い る 。政 府 が 水 道 分 野 の 国 営 企 業 へ 示 し た 運
営 方 針 の 中 で も 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 重 視 し た 運 営 を 指 示 し て い る 。現 状 は 、
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト へ の 取 組 み は す で に 開 始 さ れ て い る が 、ま だ 十 分 に は 浸 透
していない過渡期にある。
道 路 分 野 を 代 表 す る 事 業 者 の DOHで は 、 ネ ッ ト ワ ー ク 整 備 は 10年 以 上 前 に ほ
ぼ 終 わ り 、こ の 10年 間 の 新 規 建 設 予 算 は 主 に 既 存 ネ ッ ト ワ ー ク の 拡 幅 に 充 て ら れ
て い る 。そ し て 、2011年 以 降 は 、維 持 管 理 予 算 は 新 規 建 設 予 算 を 上 回 っ た 状 態 が
続 い て い る 。道 路 分 野 の 優 先 度 は 、新 規 建 設 か ら 維 持 管 理 へ 変 わ っ て き て い る と
こ ろ で あ り 、ま た 求 め ら れ る サ ー ビ ス は ア ク セ ス の 確 保 と い う 基 本 的 サ ー ビ ス か
ら渋滞の緩和等に変化している。
各 イ ン フ ラ 分 野 の 維 持 管 理 へ の 現 在 の 移 行 レ ベ ル 状 況 を 図 104に 示 す 。
245
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図 104
JICA
国際航業
各分野の維持管理への移行レベル
い ず れ の 分 野 も ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト は 重 要 で は あ る が 、上 記 の 各 イ ン フ ラ 分
野 の 評 価 結 果 を 基 に 、現 在 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 必 要 性 が 最 も 高 ま り つ つ あ
ると評価された上水道分野と道路分野を、優先分野として選定する。
246
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5.2
優先分野における対応策の選定
5.2.1
基本方針
(1)
JICA
国際航業
対象機関の選定
優先分野の対象機関から、具体的な対応策を検討する機関を選定するにあた
り 、新 設 か ら 維 持 管 理 に 重 点 が シ フ ト し て お り 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に 取 り 組
む 体 制 が ほ ぼ 整 っ て い る と い う 観 点 か ら 、 上 水 道 分 野 で は MWA、 道 路 分 野 で は
EXATを 選 定 す る 。 さ ら に 、 日 本 で 行 わ れ た よ う な 道 路 舗 装 の 設 計 基 準 の 変 更 が
実施された場合の効果も検証する。
(2)
重点項目の選定
各 機 関 が イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理 す る に 当 た り 、本 調 査 の 範 囲 で 最 も 効 果
的 で わ か り や す い 対 応 策 を 示 す た め に 、各 機 関 の 置 か れ た 背 景 を 考 慮 し て 、長 期
的な視野から重点項目に焦点をあて、対応策を検討する。
(3)
対応策提案の目的
対応策提案の目的を、以下のように設定する。
①
タイ国の実際のインフラ施設のケースに対して、効率的な維持管理に関す
る長期的な計画を、工学的観点と経済学的観点の両方から検討する事例を
示し、アセットマネジメントの方法と重要性の理解を促す。
②
長 期 的 な 計 画 策 定 に お い て 重 要 な 鍵 と な る LCCの 考 え 方 を 、 上 記 の 具 体 例
の検討を通じて理解を促す。
③
LCCの 削 減 手 段 と し て 、 実 現 性 の あ る 長 寿 命 化 技 術 及 び 点 検 ・ 管 理 技 術 等
を紹介する。
④ アセットマネジメント及びインフラ・マネジメントは、実施機関、予算管
理機関、受益者の全員に有益であることを、事例を通じて理解を促す。
247
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5.2.2
JICA
国際航業
アセットマネジメントのための対応策
パ タ ー ン の 異 な る 次 の 3つ の 事 例 に つ い て 対 応 策 を 検 討 す る 。
水道事業の事業効率改善のための対応策
1)
バ ン コ ク 首 都 圏 で は 、人 口 が 2007年 か ら 減 少 に 転 じ て お り 、現 時 点 で は 給 水 区
域 の 拡 張 に 伴 い 顧 客 数 が 増 加 し て い る が 、近 い 将 来 は 顧 客 数 及 び 水 需 要 と も に 増
加 が 鈍 化 す る と 予 想 さ れ る 。そ れ に と も な い 、事 業 収 入 の 増 加 も 鈍 化 す る と 予 想
さ れ る た め 、コ ス ト 削 減 を 追 求 す る 事 業 運 営 実 施 に つ い て 、現 時 点 か ら 備 え る 必
要 が あ る 。そ の た め 、MWAで は 資 産 の 7割 を 占 め る 配 管 に 使 用 す る 管 種 の 選 定 に
LCCを 活 用 し 、LCCが 最 小 に な る ケ ー ス と 現 状 維 持 の ケ ー ス の コ ス ト 差 を 算 出 す
る。
2)
コンクリート構造物の将来の老朽化への対応策
バンコク首都圏の高速道路のほとんどはコンクリート高架橋で構成されてい
る 。全 体 的 に ま だ 新 し い た め 、現 時 点 で は 補 修 作 業 を ほ と ん ど せ ず に 、構 造 物 の
健 全 性 は 良 好 に 維 持 さ れ て い る が 、将 来 は コ ン ク リ ー ト の 老 朽 化 が 顕 在 化 し て く
る た め 、補 修 費 用 が 急 増 す る 可 能 性 が あ る 。そ れ に 必 要 と な る 補 修 費 用 に 関 し て 、
予 防 保 全 と 事 後 保 全 の ケ ー ス で LCCを 算 定 し 比 較 す る 。
3)
道 路 舗 装 の 設 計 年 を 2倍 に す る ケ ー ス の LCCへ の 影 響
日 本 で は 2001年 に 道 路 の 設 計 規 準 を 変 更 し た こ と が 一 つ の き っ か け と な り 、舗
装 の 長 寿 命 化 及 び LCCの 削 減 へ の 動 き が 加 速 し た 。こ れ を タ イ 国 に 当 て は め た 場
合 に 、LCCへ ど の よ う な 影 響 が あ る か に つ い て 検 討 す る 。具 体 的 に は 、現 在 用 い
ら れ て い る 設 計 年 15年 の ケ ー ス と 、2倍 の 30年 の ケ ー ス に つ い て LCCを 算 定 し て
比較する。
248
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JICA
国際航業
5.3
水道事業の事業効率改善のための対応策
5.3.1
ケーススタディの背景、目的
(1)
ケーススタディの背景
バ ン コ ク 首 都 圏 と そ の 周 辺 で の 給 水 区 域 の 拡 大 に 伴 い 、 MWAの 給 水 人 口 及 び
給 水 量 も 増 加 し て い る 。 水 道 普 及 率 は ほ ぼ 100%に 達 し 、 現 在 は 老 朽 管 の 更 新 や
漏 水 個 所 の 補 修 等 の 維 持 管 理 強 化 に よ っ て 無 収 水 量 の 減 少 に 努 め て お り 、無 収 水
率 は 25%ま で 減 少 し て い る 。無 収 水 率 の 減 少 は 、無 駄 に 漏 れ て い た 水 の 造 水 費 用
の削減につながり、事業費の抑制に大きく貢献する。
今 後 は 、人 口 の 伸 び 悩 み か ら 、水 道 料 金 収 入 の 増 加 も 鈍 化 す る こ と が 予 想 さ れ 、
事業費を抑制したより効率的な運営の必要性が高まることが想定される。
(2)
目的
管 路 の 更 新 時 に お け る 管 種 の 選 択 に LCC分 析 を 活 用 し て 、無 収 水 率 と 造 水 費 用
の低減効果を考慮した長期的な運営維持管理費の縮減効果の高い管種の組み合
わせを検討する。
5.3.2
(1)
MWAの 現 状 の 把 握
対象地域
MWAの 給 水 区 域 は バ ン コ ク 首 都 圏 と ノ ン タ ブ リ 県 、サ ム プ ラ カ ン 県 の 2県 で あ
る 。 ( 4.3.2の (1)1) 図 参 照 )
(2)
MWAの 主 な 保 有 資 産
MWAの 保 有 す る 有 形 固 定 資 産 の う ち 、 管 路 が 全 体 の 約 7 割 を 占 め て お り 、 管
路 施 設 の 維 持 管 理 が 、施 設 全 体 の 機 能 を 維 持 し て い く 上 で 重 要 と な る 。ま た 、増
圧や造水のためのポンプや浄水場も保有している。
表 94
MWAの 資 産 と そ の 内 訳
資産の種類
百 万 Baht
%
土地
4,284.29
9.54
建物
6,769.90
14.95
機械設備
2,208.59
4.98
管路設備
30,413.88
68.81
579.93
1.25
水道メータ
249
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JICA
国際航業
MWAが 管 理 す る 管 路 は 、導 水・送 水 管( 口 径 1500mm~ 3400mm)、配 水 本 管
( 口 径 500mm~ 1800mm)、配 水 支 管( 口 径 100mm~ 400mm)、そ し て 給 水 管
( 口 径 75mm以 下 ) に 分 類 さ れ 、 管 路 の 大 部 分 は 配 水 支 管 の 約 28,000kmと 、 給
水 管 の 約 5,600㎞ で あ る 。
表 95
管路の種類と管延長
単 位 : km
ST
SCP
RCP
CI
PC-ST
PC
AC
DI
PVC
GI
HDPE
計
導 水 管 ,送 水 管
143.1
33.9
13.9
190.9
(1500-3400)
配水管
1,436.5
35.1
18.7
98.3
45.4
7.6
3.4
7.3
1,652.1
(500-1800)
配水支管
399.9
15.3
3,920.1
24,136.5
280.2
59.6
28,811.5
24,136.5
280.2
66.8
30,654.5
(100-400)
計
1,979.5
35.1
18.7
113.6
79.3
13.9
3,927.7
3.4
こ れ 以 外 に 給 水 管 : 5,600kmが 存 在 す る 。
配 水 支 管( 口 径 : 100mm~ 400mm)の 約 92%を 石 綿 管( AC管 )と 硬 質 塩 化 ビ
ニ ル 管 ( PVC管 ) で 占 め て お り 、 タ イ 国 で の 耐 用 年 数 は そ れ ぞ れ 25年 、 35年 で
ある。
AC管 、 PVC管 に つ い て 、 今 後 更 新 が 必 要 と な る 年 度 ご と の 管 路 延 長 の 推 移 を
見 る と 、 今 か ら 2030年 頃 ま で は 、 AC管 の 大 半 が 耐 用 年 数 を 迎 え 、 更 新 が 必 要 と
な る 。 2030年 代 以 降 は PVC管 の 更 新 時 期 と な り 、 2030年 代 後 半 か ら 2040年 代 前
半にかけてピークとなる。
図 105
耐 用 年 数 経 過 年 別 AC管 と PVC管 の 管 路 延 長
250
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(3)
JICA
国際航業
無収水率
過 去 10年 の 年 間 に お け る 有 収 水 量 、無 収 水 量 、無 収 水 率 の 推 移 を み る と 、収 入
に つ な が ら な い 無 収 水 率 は 2006年 頃 よ り 低 下 し て お り 、 2013年 度 に は 約 25% で
あった。
図 106
過 去 10年 の 有 収 水 量 、 無 収 水 量 、 無 収 水 率 の 推 移
無 収 水 率 の 発 生 す る 管 種 の 内 訳 を み る と 、 配 水 支 管 か ら が 約 6割 、 給 水 管 か ら
が 約 4割 で あ る 。
表 96
配水支管、給水管延長と無収水率
配水支管
2013
給水管
無収水量に
管延長
管延長
無収水率
管延長
無収水率
(AC:km)
(PVC:k m)
(%)
(k m)
(%)
3,920.05
24,136.51
5.3.3
課題の抽出
(1)
将来人口の伸び悩み
14.68%
5,600
9.90%
無収水率
対する給水
(% : 合 計 )
管の割合
(%)
24.58%
40.3%
バ ン コ ク 首 都 圏 で は 2025年 ま で は 人 口 が 増 加 す る も の の 、そ の 後 は 人 口 が 減 少
し 、他 2 県 で も 人 口 は 増 加 す る が 、そ の 増 加 率 は 徐 々 に 減 少 す る と 予 想 さ れ て い
る。従って、将来的に水道料金収入も伸び悩むと考えられる。
251
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 107
(2)
JICA
国際航業
対象地域の人口の推移
高無収水率
無 収 水 率 に 関 し て は 、MWAが AC管 の 更 新 や 漏 水 補 修 を 行 っ て き た た め 、最 近
10年 は 減 少 傾 向 に あ る が 、 2013年 時 点 で の 無 収 水 率 は 依 然 と し て 約 25%で あ り 、
造 水 し て も 収 入 に つ な が ら な か っ た 無 収 水 量 分 の 造 水 費 用( 漏 水 損 失 額 )は 約 36
億 バ ー ツ に の ぼ る 。 こ れ は 、 MWAの 年 間 純 利 益 約 70億 バ ー ツ ( 2013年 ) の 半 分
に相当し、この損失の影響は大きい。
(3)
非効率なポンプ
バ ン コ ク 首 都 圏 は 平 坦 な 地 形 で あ る た め 、水 を 隅 々 ま で 送 る た め に 多 く の ポ ン
プ 設 備 が 設 置 さ れ て い る 。 MWAは 更 新 が 必 要 と な っ た ポ ン プ か ら 順 次 更 新 し て
い る が 、現 在 運 転 さ れ て い る ポ ン プ は 耐 用 年 数 を 超 え て 使 用 さ れ て い る も の も あ
り 、 こ の よ う な 古 い ポ ン プ は 非 効 率 で あ る 。 ポ ン プ 運 転 に 要 し た 動 力 費 は 約 13
億 バ ー ツ ( 2013年 度 ) で あ り 、 こ れ は MWAが 消 費 し た 電 力 の 約 73%を 占 め る こ
と か ら 、ポ ン プ の 性 能 が 運 営 維 持 管 理 費 の 増 加 に つ な が っ て い る 。ま た 、ポ ン プ
の 効 率 が 悪 い た め に 、消 費 者 か ら は 給 水 の 際 の 水 圧 が 低 く 水 の 出 が 悪 い と い っ た
苦情も聞かれている。
5.3.4
ケーススタディの基本方針
現 状 の 施 設 の 課 題 を も と に 、ケ ー ス ス タ デ ィ の 基 本 方 針 を 設 定 す る 。
無収水
が 発 生 し て い る 既 存 管 路( 配 水 支 管 、給 水 管 )の 更 新 ・補 修 、そ し て ポ ン プ 設 備
の 更 新 に よ り 、無 収 水 に 相 当 す る 造 水 費 用 、電 力 消 費 量 が 減 少 す る た め 、施 設 の
長 期 的 な 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 が 可 能 と な る 。 こ こ に MWAが 予 定 し て い る 新 設
252
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
管 路 の 布 設 を 加 え 、本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、管 路 と ポ ン プ の 更 新 及 び 新 設 管 路 の
布 設 の た め の 投 資 に よ る 、造 水 費 用 、電 力 消 費 量 の 減 少 と い っ た 運 営 維 持 管 理 費
の 削 減 と 収 入 の 増 加 の 効 果 を 検 証 し 、投 資 効 果 を 最 大 に す る こ と を 目 指 す 。こ れ
を図化すると以下のようになる。
管路の更新、補修
無収水量の減少
運営維持管理費の削減
新設管路の布設
水道未普及地域の減少
水販売収入の増加
ポンプ設備の更新
低水圧地域の減少
サービスの質の向上
効果
投資
図 108
ケーススタディの方針
このうち、本ケーススタディでは効果の方は、運営維持管理費に焦点をあて、
管 路 の 更 新・補 修 、新 設 管 路 の 布 設 、ポ ン プ 設 備 の 更 新 に よ る 運 営 維 持 管 理 費 の
削減効果を試算する。
5.3.5
対応策の検討
(1)
ケーススタディの条件
対 象 施 設 : 配 水 支 管 ( 口 径 100~ 400mm) 、 給 水 管 ( 75mm以 下 ) 、 ポ ン プ
対 象 地 域 : MWAの 給 水 区 域 全 域
対 象 期 間 : 2015年 か ら 50年 間
(2)
ケーススタディの内容
1)
シナリオの設定
①
管種の選定
MWAは 独 自 で 管 路 の 新 設 、 更 新 計 画 を 立 て て い る 。 こ の 更 新 計 画 を ベ ー ス ラ
イ ン・シ ナ リ オ と し て 、既 存 管 路 の 更 新 、新 設 管 路 の 布 設 に 関 し 、こ れ ま で MWA
が 主 要 管 路 と し て 採 用 し て き た PVC管 に 更 新 す る 場 合( シ ナ リ オ 1 )と 、部 分 的
に 水 道 配 水 用 ポ リ エ チ レ ン 管( HDPE: PE100)、ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管( DIP: NS
形 ) を 採 用 す る 場 合 ( シ ナ リ オ 2 ) の 2パ タ ー ン を 検 討 し 、 ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ
リ オ と 比 較 す る 。 HDPE管 、 DIP管 は と も に 漏 水 が 少 な く 長 寿 命 が 期 待 で き る 材
料でそれぞれの特徴は以下の通りである。
253
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 97
管種
JICA
国際航業
管種別の特徴とシナリオでの採用条件
シナリオ2での
特徴
採用条件
HDPE管
熱による電気融着で管を接合させるた
め、漏水が極めて少ない。
た だ し 、融 着 作 業 は 水 中 で で き な い た
め、河川沿い等では使用できない。
 日本での適用
PN16( 適 用 水 圧:16kg/cm2)が 標 準
で 寿 命 100年 以 上 。
口 径 200mm以 下 に 適 用 。
PVC管 よ り 採 用 事 例 は 多 い 。
 タイ国での適用
僅 か だ が 、PN16に 比 べ て 管 厚 が 薄 い
PN10が 使 わ れ て い る 。
タイ国で使用されて
いる規格
口 径 200mm以 下 の 管
に採用
DIP管
( NS形 )
管 体 強 度 が 大 き く 、耐 久 性 が あ り 、衝 撃
に 強 い 。 ま た 、 NS形 は 接 合 す る と ロ ッ
ク機能により管が抜けないため耐震性
が強い。
 日本での適用
耐 震 型 で あ る NS形 の 使 用 が 多 い 。
 タイ国での適用
タ イ で は DIP管 が ほ と ん ど 使 用 さ れ
て お ら ず 、NS形 に 関 し て は 全 く 使 用
さ れ て い な い 。NS形 は 地 盤 変 動 に 連
動 で き る た め 、地 盤 の 緩 い バ ン コ ク
にも適すると考える。
日本と同じ規格
口 径 200mm超 の 管 に
採用
HDPE管 、 DIP管 、 そ れ ぞ れ に つ い て 各 管 径 で 、 PVC管 と 比 較 し て LCCに 対 し
て 硬 化 の 大 き い 管 を 採 用 す る 。 代 表 的 な 口 径 で あ る 200mmと 400mmに つ い て 、
費 用 対 効 果 を 比 較 す る と 以 下 の 通 り 、 200mmで は HDPE管 が 、 400mmで は PVC
管 の 方 が 費 用 対 効 果 が 大 き い こ と が わ か る 。こ こ で は 、費 用 に は 、配 管 布 設 費 用
を 耐 用 年 数 で 除 し た 一 年 当 た り の 費 用 、効 果 に は 、管 路 の 更 新 に よ り 改 善 す る 無
収水量の減少分に相当する年間造水費用を利用している。
254
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 98
管 種 ご と の LCCと 効 果 の 比 較 ( 口 径 200mm)
耐用
年数
管種
JICA
国際航業
費用
(Baht/m)
効 果 87
(Baht/m/年 )
費用
(Baht/m/年 )
費用対効果
PVC
35
1,251
35.7
39.0
1.09
HDPE
40
1,830
45.8
69.4
1.52
表 99
管種
管 種 ご と の LCCと 効 果 の 比 較 ( 口 径 400mm)
耐用
年数
費用
(Baht/m)
費用
(Baht/m/年 )
効果
(Baht/m/年 )
費用対効果
PVC
35
2,968
84.8
39.0
0.46
DIP
40
12,933
323.3
74.0
0.23
た だ し 、 HDPE管 は 電 気 融 着 で 接 続 す る た め 、 水 中 作 業 が 出 来 ず 、バ ン コ ク 都
内でよく見られる河川沿いの配管等、一部の地域では使用が制限される。
400mmの 管 で は 、DIP管 の 方 が 費 用 が 高 く 、費 用 対 効 果 も 低 い た め 既 存 管 路 を
全 て DIP管 に 更 新 す る の は 経 済 的 で は な い 。た だ し 、管 が 抜 け な い 構 造 上 の 特 性
を 生 か し 、主 要 道 路 や 交 差 点 部 等 管 の 更 新 が 容 易 で な い 箇 所 に DIPを 部 分 的 に 使
用することは漏水ひいては管路補修の頻度を抑え、有効である。
②
ポンプの更新時期
MWAは 更 新 時 期 が 来 た ポ ン プ を 順 次 更 新 し て き た が 、 こ の 方 針 を 継 続 し 、 耐
用年数に達した時点でポンプを更新することを前提とする。
一 部 残 っ て い る 古 い ポ ン プ は 1970年 代 か ら 1980年 代 に 製 造 さ れ た も の で 、 ポ
ン プ 効 率 は 概 ね 60%台 か ら 70%台 と 高 く な い 。 新 し い ポ ン プ へ の 更 新 に よ り 、 ポ
ン プ 効 率 を 概 ね 80%台 か ら 最 大 で 90%ま で 改 善 で き る た め 、 運 転 に 係 る 動 力 費
は 、 既 存 の ポ ン プ の ポ ン プ 効 率 を 70%、 更 新 後 の ポ ン プ 効 率 を 80%と し た 場 合 、
約 12%削 減 で き る 。
87
効果は単位管延長及び年当たりで、以下の考え方で算出している。
管 路 更 新 に よ る 効 果 = 既 存 管 路 の 無 収 水 分 の 造 水 費 用( MWA提 供 )- 更 新 し た 管 路
の無収水分の造水費用(下記計算式により算出)。
更 新 し た 管 路 の 年 間 無 収 水 分 の 造 水 費 用 = 単 位 管 延 長 当 た り の 年 間 流 量 ( MWA 提
供 ) ×耐 用 年 数 ま で の 年 平 均 無 収 水 率 ×2013年 度 の m3当 た り 給 水 原 価 ( MWA提 供 ) 。
管種
PVC
HDPE
DIP
単位管延
長当りの
年間流量
(m3/m/年 )
①
53.62
耐用年数ま
での平均無
収水率
(%)
②
8.69
1.73
0.69
単位管延長当
りの無収水量
(m3/m/年 )
③ = ① ×②
4.66
0.93
0.37
2013年 度 の
給水原価
(バ ー ツ /m3)
④
8.16
255
無収水相当額
(バ ー ツ /m/年 )
⑤ = ③ ×④
38.0
7.6
3.0
既存管路の無
収水相当額
(バ ー ツ /m/年 )
⑥
77.01
管路更新によ
る効果額
(バ ー ツ /m/年 )
⑥ -⑤
39.0
69.4
74.0
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
③
JICA
国際航業
シナリオの概要
管 路 と ポ ン プ の 布 設 、更 新 に 関 す る シ ナ リ オ を ベ ー ス ラ イ ン 、シ ナ リ オ 1 、シ
ナリオ2と設定する。
表 100
シナリオ
ベース
ライン
概要
MWA の 更 新 計
画に従う
シナリオ1
更新時期が来た
管 路 か ら 順 に
PVC管 に 更 新
ベストミックス
となるよう、一
部 管 路 に HDPE
管 、DIP管 を 採 用
シナリオ2
検討するシナリオの概要
配水支管
全 て の AC管 、 PVC管
を 、MWAの 計 画 に 従
い 、 PVC管 に 更 新
全 て の AC管 、 PVC管
を、更新時期ごとに
PVC管 に 更 新
全 て の AC管 、 PVC管
を、更新時期ごとに
PVC 管 、 HDPE 管
(80%) 、 DIP 管 (10%)
に更新
給水管
更新しない
ポンプ
MWA の 計 画
に従い更新
全路線を更
新
MWA の 計 画
に従い更新
全路線を更
新
MWA の 計 画
に従い更新
ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ は 現 状 の MWAの 計 画 に 従 い 、 配 水 支 管 は PVC管 に 更
新 す る が 、 給 水 管 の 更 新 は 考 慮 し な い 。 ポ ン プ は MWAの 計 画 通 り 、 耐 用 年 数 に
達したポンプを順次更新する。
シ ナ リ オ 1 は 配 水 支 管 を 更 新 時 期 が き た 管 路 か ら 順 次 PVC管 に 更 新 し 、給 水 管
も更新する。ポンプについてはベースライン・シナリオと同様である。
シナリオ2では配水支管については、更新時期がきた管路から更新するが、
PVC管 に 加 え て 、HDPE管 、DIP管 も 採 用 す る 。こ の 時 、口 径 200mm以 下 の 管 路
に つ い て は HDPE管 を 優 先 的 に 採 用 し 、口 径 200mmを 超 え る 管 路 に つ い て は 、費
用 対 効 果 の 高 い PVC管 の 採 用 を 基 本 と し つ つ 、主 要 道 路 の 下 等 容 易 に 更 新 が 出 来
な い 区 間 に 部 分 的 に DIP 管 を 採 用 す る 方 針 に 従 い 、 口 径 200mm 以 下 の 管 路 の
80% を HDPE管 、 200mmを 超 え る 管 路 の 10%を DIP管 に 更 新 す る と 想 定 し て い
る 。給 水 管 に つ い て は シ ナ リ オ 1 と 、ポ ン プ に つ い て は ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ
と同様である。
2)
シナリオの計算条件
①
管路施設

管 路 の 更 新 時 期 は MWAの 計 画( ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ )ま た は タ イ 国 の 法
定 耐 用 年 数 ( シ ナ リ オ 1 、 2 ) に 従 う 。 た だ し 、 HDPE管 、 DIP管 は 、 タ
イ国で耐用年数の規定がないため、日本の規定に従う。

運営維持管理費として、管路の漏水部の補修費、更新費用、及び無収水の
造水費用を考慮する。

管路の漏水部の補修費と無収水の造水費用の計算は以下の通りである。
256
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート

JICA
国際航業
年度毎に管種、経過年数に応じた漏水率を計算し、管路毎の管路延長
による加重平均をその年度の各管種の漏水率とする。

年度毎に、漏水率に基づいて計算した管種別の漏水箇所数、漏水量を
用いて漏水箇所の補修費、漏水損失額を算出する。
②
ポンプ施設

更新時期は、タイ国の法定耐用年数に従う。

運営維持管理費として、ポンプの維持管理費、更新費用、電気料金を考慮
する。

電力消費量は水の生産水量に基づく。
シナリオで使用する基本データ
(3)
1)
有収水量
MWAよ り 提 供 さ れ た 2030年 ま で の 給 水 区 域 内 人 口 と 2015~2022年 度 の 年 間 有
収 水 量 の 予 測 値 を 利 用 す る 。2023年 以 降 に つ い て は 、給 水 区 域 内 人 口 の 予 測 値 に 、
2022年 時 の 一 人 当 り 1 日 給 水 量 を 乗 じ て 有 収 水 量 を 算 出 す る 。ま た 、人 口 の 予 測
値 が 2030年 ま で の た め 、 2031年 以 降 の 有 収 水 量 は 2030年 と 同 値 と 仮 定 す る 。
表 101
年度
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2026
2027
2028
2029
2030
2031
以降
2)
給水区域
内人口
(千 人 )
12,146.5
12,270.6
12,388.8
12,499.8
12,604.1
12,700.5
12,789.8
12,872.3
12,947.7
13,015.6
13,076.9
13,131.0
13,179.5
13,221.9
13,257.8
13,287.6
年間有収水量の推移
MWA予 測 値
年間有収
1人 1日 当 り
水量
使用水量
(百 万 m3/
(m3/日 /人 )
年)
1,416.5
0.320
1,444.5
0.323
1,471.5
0.325
1,497.5
0.328
1,521.5
0.331
1,544.5
0.333
1,566.5
0.336
1,588.5
0.338
13,287.6
試算予測値
年間有収
1人 1日 当 り
水量
使用水量
(百 万 m3/
(m3/日 /人 )
年)
年間有収水量
(試 算 採 用 値 )
(百 万 m3/年 )
1,597.8
1,606.2
1,613.7
1,620.4
1,626.4
1,631.6
1,636.1
1,639.7
0.338
0.338
0.338
0.338
0.338
0.338
0.338
0.338
1,416.5
1,444.5
1,471.5
1,497.5
1,521.5
1,544.5
1,566.5
1,588.5
1,597.8
1,606.2
1,613.7
1,620.4
1,626.4
1,631.6
1,636.1
1,639.7
1,639.7
0.338
1,639.7
耐用年数及び漏水個所数
漏 水 個 所 数 に つ い て は タ イ 国 で の 実 績 値 ( HDPE管 、 DIP管 に つ い て は MWA
257
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
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JICA
国際航業
の参考文献中の実績に基づく推定値)を採用する。
表 102
AC
PVC
HDPE
漏水個所数
( /100km/month)
5.36
2.43
1.24
MWA の実績値
MWA の実績値
MWA の推定値
DIP
40
0.68
MWA の推定値
管種
3)
管種別法定耐用年数及び漏水個所数
耐用
年数
25
35
40
算出根拠
配水支管、給水管の無収水率
配 水 支 管 、給 水 管 の 無 収 水 率 は 2013年 の 値 を 基 準 と す る 。将 来 の 無 収 水 率 は 各
管路の布設経過年数に応じた無収水率を積み上げて全体の無収水率を試算する。
表 103
2013年 の 配 水 支 管 、 給 水 管 の 無 収 水 率
無収水率(%)
配水支管
2013
無収水率
(% : 合 計 )
給水管
14.68
9.90
24.58
管 種 ご と の 布 設 経 過 年 数 に よ る 無 収 水 率 の 経 年 変 化 は 以 下 の 通 り 、各 々 の 管 路
の 布 設 後 経 過 年 数 に 応 じ て 変 化 す る と 仮 定 し て い る 。各 管 種 の 耐 用 年 数 時 点 で の
無収水率を設定した上で、二次関数的に変化する前提である。
表 104
4)
布設経過年数による将来の無収水率の変化
経過
年数
AC
0
5
10
15
20
25
30
35
40
0.00%
1.20%
4.80%
10.80%
19.20%
30.00%
40.00%
40.00%
40.00%
PVC
0.00%
0.51%
2.04%
4.59%
8.16%
12.76%
18.37%
25.00%
32.65%
HDPE
0.00%
0.08%
0.31%
0.70%
1.25%
1.95%
2.81%
3.83%
5.00%
DIP
0.00%
0.03%
0.13%
0.28%
0.50%
0.78%
1.13%
1.53%
2.00%
造水費用
上 記 1)の 有 収 水 量 と 2)の 無 収 水 率 か ら 無 収 水 量 を 計 算 し 、 総 配 水 量 ( 造 水 量 )
を 求 め る 。そ し て 、こ の 総 配 水 量 に 浄 水 に 要 す る 単 位 水 量 当 り の 単 価( ポ ン プ 運
転以外の動力費含む)、人件費等を乗じて造水費用を算出する。
5)
管路の布設工事費(補修費)
MWAの 管 路 の 単 位 延 長 当 り の 布 設 工 事 費 は 以 下 の 通 り で あ る 。 管 路 の 更 新 費
258
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JICA
国際航業
用 、補 修 に 伴 う 布 設 費 用 は 下 表 の 単 価 を 基 に 算 出 す る 。ま た 、管 路 補 修 に 際 し て
は 、 1 か 所 当 り の 補 修 延 長 を 6mと 仮 定 し 算 出 す る 。
表 105
50mm
75mm
管種ごとの布設工事費
PVC
HDPE
-
-
687
1,177
100mm
575
933
DIP
-
-
-
150mm
879
1,650
200mm
1,251
1,830
250mm
2,059
-
-
-
6,820
Unit (Baht/m)
300mm
400mm
2,471
2,968
-
-
9,037
12,933
注 :HDPE管 に つ い て は 、 タ イ 国 で は 100mm未 満 は 規 格 が な い た め 、 日 本 の 単 価 を 採 用
6)
管路新設
MWAは 過 去 5年 間 、年 間 約 1,000kmの ペ ー ス で 管 路 を 増 設 し 、給 水 区 域 を 拡 張
し て き た 。 給 水 区 域 の 大 規 模 な 拡 張 は 2014 年 で ほ ぼ 終 了 し て い る が 、 MWA は
2015年 以 降 も 以 下 の 管 路 延 長 を 新 規 布 設 計 画 と し て 見 込 ん で お り 、こ れ も 試 算 に
盛り込む。
表 106
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2026
2027
2028
2029
2030
2031
2032
2033
2034
Total
100mm
-
-
新 設 管 路 布 設 計 画 ( PVC管 )
口径ごとの計画布設延長 (km)
150mm
200mm
250mm
300mm
100.6
48.2
49.8
100.6
48.2
49.8
100.6
48.2
49.8
95.5
45.8
47.3
90.9
43.7
45.1
86.5
41.5
42.8
81.9
39.3
40.6
77.9
37.4
38.6
73.8
35.5
36.6
70.3
33.8
34.9
66.8
32.1
33.1
63.3
30.4
31.4
60.3
28.9
29.9
57.3
27.5
28.4
54.2
26.1
26.9
51.8
24.8
25.7
49.3
23.6
24.4
46.7
22.4
23.2
44.3
21.2
21.9
42.2
20.3
20.9
1,415.0
679.0
701.0
259
400mm
1.4
1.4
1.4
1.4
1.3
1.2
1.2
1.1
1.1
1.0
1.0
0.9
0.9
0.8
0.8
0.7
0.7
0.7
0.6
0.6
20.0
Total
200.0
200.0
200.0
190.0
181.0
172.0
163.0
155.0
147.0
140.0
133.0
126.0
120.0
114.0
108.0
103.0
98.0
93.0
88.0
84.0
2,815.0
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
7)
JICA
国際航業
ポンプの更新
以 下 の 既 存 ポ ン プ の 稼 働 状 況 か ら 、耐 用 年 数 に 達 し た ポ ン プ か ら 順 に 更 新 す る
ことを前提とする。
表 107
Pump Station
ポンプの稼働状況
Number
of
Pumps
Elapsed
Years
Pump
Efficiency
Operation
Hour
(h/day)
Electric
Consumption
(kwh/year)
Sam Lae Pump Station No.1
-
-
-
-
Sam Lae Pump Station No.2
5
2-35
0.87
14.2
Sam Lae Pump Station No.2A
3
19-26
0.88
23.1
Sam Lae Raw Water Pump Station No.3
1
8
0.89
22
Sam Sen Pump House No.1
-
-
-
-
Sam Sen Pump House No.2
5
12-22
0.74-0.81
11.3-14.9
Sam Sen Pump House No.2A
5
12-21
0.74-0.81
11.00
Sam Sen Pump House No.3
10
3-28
0.73-0.82
6.70
Sam Sen Pump House No.4
3
45
0.70
6.70
Sam Sen Pump House No.5
-
-
-
-
Sam Sen Pump House No.6
3
28-30
0.72-0.73
11.00
Sam Sen Pump House No.7
5
3-20
0.76-0.90
3.8-13.0
Sam Sen Pump House No.8
16
2-20
0.68-0.82
3-23.5
Sam Sen Pump House No.9
3
43
0.68-0.72
12-17
Sam Sen Pump House No.10
2
3-43
0.78-0.90
5-19
S a m S en Pu mp Hous e No .11
3
21
0.79-0.80
7-20
Sam Sen Pu mp Hous e No .12
5
21
0.78
1-22
Thon Buri Pump House
6
26-28
0.68-0.72
Bang Sue Pump House
4
22-42
0.80
9
Bangkhen Raw wa ter pu mp station 1
6
5 -37
0 .81
20 .00
29 ,376 ,000
10.480,560
22,179,000
2,841,356
3,719,000
Bangkhen Raw wa ter pu mp station 2
4
9 -37
0 .82
18 .00
15,948 ,000
Bangkhen Transmi s sion pu mp station 1
5
20 -37
0 .84
14 .00
31,908 ,000
Bangkhen Transmi s sion pu mp station 2
5
14 -26
0 .81
15 .00
41,732 ,400
Bangkhen Transmi s sion pu mp station 3
4
6 -7
0 .84
18 .00
28,362 ,648
Bangkhen Dist ribution pu mp st ation 1
5
20 -32
0 .83
15 .00
12,168 ,000
Bangkhen Dist ribution pu mp st ation 2
4
12 -18
0 .82
18 .00
13,512 ,000
Bangkhen Wash wat er pu mp station 1
3
37
0 .69
-
Bangkhen Wash wat er pu mp station 2
3
22
0 .68
-
Mahasawat Raw water pump station 1
5
16-20
0.83
19.20
14,213,000
Mahasawat Raw water pump station 2
3
9
0.89
24.00
8,614,000
Mahasawat Distribution pump station
4
20
0.89
22.50
1,413,000
Mahasawat Transmission pump station
3
10-16
0.91
22.00
35,218,000
Lumpini Pump Station
4
35
0.75
13.75
8,400,000
Tha Phra Pump Station
5
35
0.76
5.60
2,461,284
Klong Toey Pump Station
5
30
0.77
7.20
5,952,012
Phahon Yothin Pump Station
-
-
-
-
Sam Rong Pump Station
5
26
0.76
17.4
13,392,012
Lad Phrao Pu mp Station
4
-
0.77
18 .00
9,840 ,000
Lad Kra Bang Pump Station
4
-
0.77
14 .75
7,944 ,000
Ratbu rana Pu mp Station
5
-
0.77
13 .60
6,709 ,920
P h etk as e m P u mp S t at i o n
5
-
0.77
11 .80
13,764 ,696
Bangplee Pu mp St ation
5
-
0.77
14 .40
10,968 ,000
mi n bu ri
5
-
0.77
9 .80
7,800 ,000
180
-
-
-
326,267,328
Total
Pu mp Station
260
-
-
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(4)
1)
JICA
国際航業
試算結果
ベースライン・シナリオ
以 下 に 管 路 に お け る 運 営 維 持 管 理 費 用 の 推 移 を 示 す 。管 路 の 運 営 維 持 管 理 費 用
には、管路の更新費用(配水支管、給水管)、管路補修費用、管路の新設費用、
お よ び 無 収 水 に 相 当 す る 造 水 費 用 を 考 慮 す る 。ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ で は 無 収
水 率 は 20% 程 度 で と ど ま っ て お り 、配 水 支 管 の 更 新 の み の た め 低 下 幅 は 大 き く な
い 。 無 収 水 量 の 約 4割 を 占 め る 給 水 管 の 更 新 を 見 込 ま な い と 、 無 収 水 量 の 減 少 効
果は限定的である。
図 109
運営維持管理費の推移:ベースライン・シナリオ
図 110
無収水率の推移:ベースライン・シナリオ
261
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
シナリオ1
シ ナ リ オ 1 で は 、ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ の 配 水 支 管 の 更 新 に よ る 効 果 に 加 え 、
給 水 管 の 更 新 に よ り 、無 収 水 率 は 約 10%ま で 低 下 す る 。従 っ て 、給 水 管 の 漏 水 が
大 き い 区 域 で は 、配 水 支 管 と 同 時 に 給 水 管 も 更 新 す る と 効 果 が 大 き い 。ま た 、無
収 水 量 減 少 効 果 と は 別 に 、複 数 の 給 水 管 が 複 雑 に 布 設 さ れ て い る 場 合 は 、更 新 時
に 口 径 の 大 き な 給 水 管 に ま と め る と 、管 路 の 維 持 管 理 が 容 易 に な る 。こ れ も 運 営
維持管理費削減のための今後の対策として有効である。
図 111
運営維持管理費の推移:シナリオ1
図 112
無収水率の推移:シナリオ1
262
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
3)
JICA
国際航業
シナリオ2
シ ナ リ オ 2 に 関 し て は 、 更 新 す る 管 路 に HDPE管 、 DIP管 を 部 分 的 に 使 用 す る
こ と で 無 収 水 率 は 5% 程 度 ま で 減 少 す る 。 試 算 上 、 各 口 径 で 更 新 す る 管 の う ち
HDPE管 は 80%、 DIP管 は 10%と 想 定 し て い る が 、 実 際 の 更 新 時 で も 地 盤 や 交 通
条 件 に 合 わ せ て 適 し た 管 種 を 選 ん で 組 み 合 わ せ る こ と が 、今 後 の 無 収 水 率 の 低 減
に有効な手段と言える。
図 113
運営維持管理費の推移:シナリオ2
図 114
無収水率の推移:シナリオ2
263
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
4)
JICA
国際航業
各シナリオの比較
以 上 3シ ナ リ オ に つ い て 、 そ の 年 ま で の 運 営 維 持 管 理 費 の 累 計 額 の 推 移 を グ ラ
フ 化 し て み る と 図 115の よ う に 表 さ れ る 。ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ に 比 べ 、シ ナ
リ オ 1 、2 が 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 効 果 が あ る こ と が 明 ら か で あ り 、給 水 管 の 更
新が運営維持管理費の削減に大きく貢献することがわかる。
さ ら に 、シ ナ リ オ 1 と シ ナ リ オ 2 を 比 較 す る と 、2061年 を 境 に シ ナ リ オ 2 の 方
が 累 計 運 営 維 持 管 理 費 が 低 く 抑 え ら れ て お り 、布 設 費 用 が 高 く て も 、漏 水 対 策 効
果 が 高 く 長 寿 命 の 管 種 を 選 択 す る こ と に よ り 、長 期 的 に は 運 営 維 持 管 理 費 を 削 減
できることをを示している。
図 115
累積運営維持管理費の推移
無 収 水 率 、無 収 水 量 と も に 、シ ナ リ オ 2 、1 、ベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オ の 順 に
低 く 、給 水 管 も 計 画 的 に 更 新 す る こ と 、配 水 支 管 に つ い て は 漏 水 率 の 低 い 長 寿 命
の 管 種 を 採 用 す る こ と に よ り 、無 収 水 量 を 減 少 さ せ る こ と が 可 能 で あ る こ と を 示
し て い る 。特 に 、シ ナ リ オ 1 と 2 の 差 が 大 き く 、場 所 に よ り 管 種 を 効 果 的 に 選 定
することが漏水の削減に有効であることを示している。
図 116
無収水率、無収水量の推移
264
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
各シナリオの累計運営維持管理費を見ると、ベースライン・シナリオに対し、
50年 で 400億 バ ー ツ 以 上 の 削 減 効 果 が あ る こ と が 分 か る 。 さ ら に 、 シ ナ リ オ 1 と
比 較 す る と 、シ ナ リ オ 2 の 方 が 多 少 だ が 運 営 維 持 管 理 費 が 低 く 抑 え ら れ 、無 収 水
率 は 6%近 く ま で 低 下 す る こ と か ら 、 管 種 の 選 定 は と り わ け 無 収 水 対 策 に 有 効 で
あり、運営維持管理費も削減できることがわかる。
表 108
シナリオ
単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年
無収水率
BS との無収水
(%)
率の差(%)
累積運営
維持管理費
BS との運営維
持管理費の差
188,105
-
20.35
-
142,763
140,994
- 45,342
- 47,111
10.13
5.83
10.22
14.52
ベースライン・
シ ナ リ オ (BS)
シナリオ1
シナリオ2
5)
累積運営維持管理費と無収水率
ポンプの運営維持管理費
ポ ン プ の 運 営 維 持 管 理 費 を 各 シ ナ リ オ 毎 に 以 下 に 示 す 。運 営 維 持 管 理 費 の 内 訳
はポンプの補修費、ポンプの更新費、そしてポンプ運転に要する動力費である。
各 シ ナ リ オ の 動 力 費 は 、シ ナ リ オ 毎 の 総 配 水 量( 造 水 量 )に 単 位 水 量 当 り の 電 力
使 用 量( ポ ン プ 更 新 に よ る ポ ン プ 効 率 の 改 善 を 考 慮 )、電 気 料 金 を 乗 じ て 算 出 し
ている。
Baht
図 117
ベースライン・シナリオの運営維持管理費
ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ で は 、無 収 水 量 の 減 少 よ り 給 水 区 域 の 拡 大 に よ る 有 収
水 量 の 増 加 が 影 響 し 、 電 力 消 費 量 は 2030年 頃 ま で 増 加 し 、 そ の 後 、 動 力 費 は 約
13.6億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 。
265
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
Baht
図 118
シナリオ1の運営維持管理費
シナリオ1では、ベースライン・シナリオ同様に有収水量が増加するものの、
無 収 水 量 の 減 少 の 方 が 大 き く 動 力 費 は 2030年 頃 ま で は 約 13.0億 バ ー ツ / 年 、そ の
後 さ ら に 減 少 し 、 約 12.2億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 、
Baht
図 119
シナリオ2の運営維持管理費
266
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
シ ナ リ オ 2 も 、シ ナ リ オ 1 と 同 様 、動 力 費 は 当 初 は 約 13.0億 バ ー ツ / 年 で 推 移
す る が 、 2027年 頃 か ら 減 少 し 、 そ の 後 は 約 11.7億 バ ー ツ / 年 で 推 移 す る 。
以下に、各シナリオのポンプの累積運営維持管理費の推移を示す。
Baht
図 120
ポンプの累積運営維持管理費
今 回 の 試 算 で は 全 シ ナ リ オ で ポ ン プ の 更 新 条 件 が 同 じ た め 、違 い が 出 る の は ポ
ン プ 運 転 の 動 力 費 で あ る 。ポ ン プ 運 転 に よ る 電 力 消 費 量 は 、ポ ン プ か ら 送 り 出 さ
れ る 水 が 減 れ ば 、配 水 量 が 少 な く な れ ば 電 力 消 費 量 も 減 少 す る 。ベ ー ス ラ イ ン ・
シ ナ リ オ に 比 べ て 、シ ナ リ オ 1 、シ ナ リ オ 2 は ポ ン プ か ら 送 り だ さ れ る 水 量 が 減
少 し て い る こ と か ら 、そ れ に 伴 い 電 力 消 費 量 も 減 少 し 、動 力 費 を 50年 間 で シ ナ リ
オ 1 で は 8.4%( 約 62億 バ ー ツ )、シ ナ リ オ 2 で は 10.2%( 約 75億 バ ー ツ )削 減 で
き る 。無 収 水 量 の 削 減 は 水 道 施 設 全 体 の 運 営 維 持 管 理 費 の 削 減 に 大 き く 貢 献 す る
ことが分かる。
表 109
ポンプの累積運営維持管理費とコスト削減効果
シナリオ
ベースライン・
シ ナ リ オ ( BS)
シナリオ1
シナリオ2
累積運営維持管理費
単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年
BS に対する
BS との差額
削減率 (%)
73,803
-
-
67,612
66,266
- 6,191
- 7,537
8.4%
10.2%
次 に 、 4)管 路 の 更 新 に よ る 累 積 運 営 維 持 管 理 費 に 5)ポ ン プ の 累 積 運 営 維 持 管 理
費 を 足 し 合 わ せ て み る と 、下 図 の よ う に な る 。管 路 の 更 新 に よ る 影 響 の 方 が 大 き
い た め 、図 115と 傾 向 は 同 じ で 、ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ と 比 較 し た シ ナ リ オ 1 、
267
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
シナリオ2の運営維持管理費の削減効果は大きい。
Baht
図 121
管路、ポンプの運営維持管理を合わせた累積運営維持管理費
こ の 結 果 か ら 、本 ケ ー ス ス タ デ ィ の 費 用 対 効 果( ベ ー ス ラ イ ン・シ ナ リ オ に 対
す る 累 積 維 持 管 理 費 の 削 減 効 率 ) を 計 算 す る と 、 シ ナ リ オ 1 が 20.0%、 シ ナ リ オ
2 が 20.9%と な る 。 ま た 、 50年 間 の 累 積 料 金 収 入 ( 1,097,144百 万 バ ー ツ ) に 対
す る 利 益 率 は 、 維 持 管 理 費 の 削 減 に よ り 、 利 益 率 は シ ナ リ オ 1 で は 1.6%
( 20.8%-19.2%) 、 シ ナ リ オ 2 で は 、 1.9%( 20.8%-18.9%) 改 善 し て い る 。
シ ナ リ オ 1 と シ ナ リ オ 2 の 累 積 運 営 維 持 管 理 費 の 差 額 は 31億 バ ー ツ で あ る が 、
そ の う ち 18億 バ ー ツ が 管 路 の 更 新 、13億 バ ー ツ が ポ ン プ の 運 営 維 持 管 理 に よ る も
の で あ る 。 DIP管 は 高 額 な た め 、 管 路 の 更 新 で は 削 減 額 の 規 模 は 大 き く な い が 、
漏水率の削減はポンプの動力費等他にも大きな効果がある。
表 110
シナリオ1、2の費用対効果収入に対する運営維持管理費の比較
累積運営維持管理費
シナリオ
ベースライ
ン・シ ナ リ オ
(BS)
シナリオ1
シナリオ2
単 位 : 百 万 バ ー ツ /50年
BS に
累積の運営
BS との差
対する
維持管理費/
額
削減率
収入 (%)
(%)
管路
ポンプ
合計
188,105
73,803
261,908
-
-
20.8%
142,763
140,994
67,612
66,266
210,375
207,260
- 51,533
- 54,648
20.0%
20.9%
19.2%
18.9%
注 : 50年 間 の 累 積 料 金 収 入 は 1,097,144百 万 バ ー ツ
268
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
今 回 は 、 3シ ナ リ オ と も ポ ン プ の 更 新 時 期 は 同 条 件 と し て い る が 、 ポ ン プ の 更
新 時 期 の 計 画 策 定 の 際 に ポ ン プ の LCCを 考 慮 す る こ と に よ り 、さ ら な る 運 転 維 持
管理費の効率改善を見込むことができる。
5.3.6
長期戦略の提言
新 た な 資 機 材 を 採 用 す る 際 に 、各 資 機 材 の LCCを 比 較 し 、自 然 条 件 や 地 盤 、交
通 条 件 等 各 条 件 を 加 味 し な が ら 資 機 材 を 選 定 し 、配 置 す る こ と は 運 営 維 持 管 理 費
の削減の有効な手段である。また、長期的な視野にたって維持管理方針をたて、
確実に実行することが大切である。
269
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ファイナルレポート
JICA
国際航業
5.4
コンクリート構造物の将来の老朽化への対応策
5.4.1
ケーススタディの背景、目的
(1)
背景
バンコク首都圏及び近郊の高速道路のほとんどはコンクリート高架橋構造だ
が 、建 設 後 20年 以 内 の 施 設 割 合 が 81%と 全 体 的 に 新 し い 施 設 で あ る た め 、比 較 的
健全な状態を維持している。
コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 耐 用 年 数 が 一 般 的 に 50年 以 上 と 非 常 に 長 く 、高 所 で の 点
検作業は容易ではないため、点検・維持管理が軽んじられがちである。しかし、
コ ン ク リ ー ト 製 橋 梁 が 老 朽 化 し 、橋 梁 の 架 け 替 え が 必 要 に な る と 、新 規 橋 梁 の 建
設 、 既 存 橋 梁 の 解 体 撤 去 、 廃 棄 物 の 処 理 等 が 必 要 と な り 、 新 設 時 の 2倍 以 上 の 費
用 が か か る と 言 わ れ て い る 。ま た 、架 け 替 え 及 び 作 業 用 地 の 確 保 、施 工 時 の 交 通
制限の問題も伴うため、実施は非常に困難である。
し か し な が ら 、構 造 物 の 劣 化 が 徐 々 に 進 行 し 、何 れ 大 規 模 な 補 修 工 事 が 必 要 と
なり、維持管理費の急増を招く恐れがある。
(2)
目的
長期的に予想されるコンクリートの劣化と維持管理費の急増を防ぐために、
LCC分 析 を 用 い て コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 維 持 管 理 の 最 適 案 を 検 討 す る 。
5.4.2
現状把握
(1)
保有施設
EXATは バ ン コ ク 首 都 圏 及 び 近 郊 の 有 料 高 速 道 路 ( 総 延 長 207.9km) の 運 営 を
行 っ て い る 。そ の 内 137.5kmを EXATが 直 接 維 持 管 理 し て お り 、70.4kmを 民 間 会
社 2社 が BTO方 式 契 約 に 基 づ い て 運 営 ・ 維 持 管 理 を 行 っ て い る 。
表 111
道路管理者別道路延長
管理者
延 長 ( km)
EXAT
137.5
BECL
38.4
NECL
32.0
合計
207.9
道 路 構 造 は ほ と ん ど が 高 架 橋 構 造 で 、建 設 後 10~ 20年 の も の が 全 体 の 半 数 以 上
を占めており施設全体が新しい。
270
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
30~40年,
20~30年, 16.8km,
12%
10.3km, 7%
JICA
国際航業
0~10年,
36.7km,
27%
10~20年,
73.7km,
54%
図 122
表 112
EXATの 建 設 後 の 経 過 年 別 道 路 延 長
EXATの 建 設 年 別 道 路 延 長 及 び 高 架 橋 延 長
Length of
No
Open
Road
year
length(km)
viaduct part
Name of roads
(km)
1
Din Daeng Port section
1981
8.9
4.9
2
Bang Na port section
1983
7.9
3.9
3
Dao Kanong port section
1987
10.3
10.1
4
Ram Inthra at KM 5.5 to Narong
1996
18.7
18
5
The Burapha Withi expressway
2000
55.0
55.0
6
The Bang Na-At Narong Expressway
2005
4.7
4.7
7
The Bang Phli-Suk Sawat Expressay
2007
22.5
22.5
2009
9.5
9.5
Ram Inthra road linking to Outer ring road
8
connecting to Chalong Rat expressway
Total road length maintained by EXAT
137.5
128.6
EXATが 保 有 す る 高 架 橋 道 路 は 、 施 設 が 新 し い こ と 、 気 温 差 が 少 な い 、 塩 害 が
な い 等 の 理 由 か ら 日 本 の コ ン ク リ ー ト 構 造 物 と 比 較 し て 劣 化 速 度 が 遅 く 、比 較 的
健全な状態を維持しているため、基本的な維持管理のみ実施されている。
5.4.3
問題点の抽出
EXATが 保 有 す る 高 架 橋 道 路 に 対 し て 、 今 後 想 定 さ れ る 問 題 点 を 挙 げ る 。

コンクリート構造物は何れ劣化が始まる。
現 在 は 構 造 物 が 比 較 的 健 全 な 状 態 に あ っ て も 、コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 何 れ 劣 化
271
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
が始まる。
都 心 部 の 高 架 橋 道 路 は 、劣 化 し て 使 え な く な っ て も 再 建 設 を 行 う こ と が 困 難 で
あ る 。こ れ は 取 り 壊 し か ら 再 建 設 ま で の 長 期 間 、そ の 間 、高 速 道 路 が 使 用 で き な
く な り 、そ の 結 果 、街 中 で 大 渋 滞 が 発 生 し 、交 通 網 の 麻 痺 に よ る 首 都 機 能 低 下 と
いった社会に与える影響が大きいためである。

補修費用が急増する。
現 在 は 構 造 物 が 比 較 的 健 全 な 状 態 に あ る た め 、維 持 管 理 費 は そ れ ほ ど か か っ て
いないが、コンクリート構造物の劣化に伴い、補修費用が急増することとなる。
5.4.4
基本方針の設定
今後予想される問題に対する取組みの基本方針を次の通りにする。

コンクリート構造物の劣化対策を行う。

急増する予算を最小限に抑える。
5.4.5
対応策の検討
(1)
ケーススタディの対象物
コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 に は 劣 化 し や す い 箇 所 が い く つ か あ る が 、そ の 中 で も 舗 装
の 下 に あ る RC床 版 は 舗 装 を 通 し て 自 動 車 荷 重 を 直 接 支 え る 重 要 な 要 素 で あ り 、損
傷 を 受 け や す い 部 分 で あ る こ と か ら 、 ケ ー ス ス タ デ ィ で は RC床 版 を 対 象 と し 検
討を行う。
RC床 版 の 劣 化 事 例 を 以 下 に 示 す 。
①橋面舗装にひび割れ
②その場所のアスファ
③劣化部を撤去すると
等の異変が起こる
ル ト を 剥 が す と RC 床 版
腐食した鉄筋が現れる
が土砂化している
図 123
RC床 版 の 劣 化 イ メ ー ジ
272
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
ケーススタディの条件
(2)

対 象 区 間:EXATが 現 時 点 で 直 接 維 持 管 理 を 行 っ て い る 区 間 の 内 、高 架
橋 区 間 と す る 。 ( 128.6km)
(3)

対 象 施 設 : コ ン ク リ ー ト 高 架 橋 の RC床 版

検 討 期 間 : 100年
ケーススタディの内容
コ ン ク リ ー ト 構 造 物 は 補 修 す る タ イ ミ ン グ が 重 要 で あ る 。以 下 に 補 修 す る タ イ
ミング別の劣化曲線イメージを示す。
構 造 物 が 壊 れ て か ら( 寿 命 を 迎 え て か ら )補 修 す る 場 合 、建 設 当 初 の 性 能 ま で
回 復 す る こ と は な く 、補 修 後 の 寿 命 も 短 い 。一 方 、構 造 物 が 壊 れ る 前( 寿 命 を 迎
え る 前 )に 補 修 す る 場 合 、建 設 当 初 の 性 能 レ ベ ル ま で 回 復 で き 、補 修 後 の 寿 命 も
長くなる。
図 124
コンクリート構造物の劣化曲線イメージ
ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、 RC床 版 の 延 命 化 、 RCス ラ ブ の LCC縮 減 を 目 指 し 、 事 後
保 全 シ ナ リ オ と 予 防 保 全 シ ナ リ オ を 設 定 し 、両 者 に つ い て LCCを 算 出 し て 比 較 す
る。
【言葉の定義】

事後保全とは、構造物が壊れてから(寿命を迎えてから)、その都度損傷
箇所を補修すること。

予防保全とは、構造物が壊れる前に(寿命を迎える前に)、対策を施し延
命化を図ること。
273
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
シナリオの設定
(4)
表 113
シナリオの設定
事後保全シナリオ
予防保全シナリオ
シナリオの
そ の 都 度 RC 床 版 の 損 傷 箇
RC床 版 が 損 傷 す る 前 に 床 版
内容
所を補修する。
にコンクリートを打ち増す
ことで、床版の耐久性の回
復を図り、床版を延命化さ
せる。
RC床 版 の 寿 命
補修パターン
50年 ( 日 本 で の 一 般 的 な 年 数 )
1回 目 : 建 設 後 50年 目
1回 目 : 建 設 後 40年 目
2回 目 以 降 : 20年 サ イ ク ル
2回 目 以 降 : 40年 サ イ ク ル
補修方法
部分補修
図 125
(5)
1)
全面増厚工法
シナリオ別の劣化曲線イメージ
事後保全シナリオの試算条件
補修方法
①
RC床 版 が 損 傷 し て い る と 予 想 さ れ る 箇 所 に つ い て 、ア ス フ ァ ル ト 舗 装
を 切 削 す る 。 ( 5cm~ 8cm)
②
損 傷 し た RC床 版 を コ ン ク リ ー ト 等 で 補 修 す る 。
③
アスファルト舗装を敷設する。
④
上 記 1)~ 3)を 20年 サ イ ク ル で 繰 り 返 す 。
274
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
2)
JICA
国際航業
対象数量
表 114
事後保全シナリオの対象数量
項目
3)
数量
道路延長
128.6km( 高 架 橋 延 長 )
道路幅員
27m( 片 側 3車 線 、 合 計 6車 線 道 路 )
アスファルト舗装厚
5 or 8cm
施工単価
RC床 版 の 部 分 的 な 補 修 費 ; 5,200バ ー ツ /m2
(6)
1)
事 後 保 全 シ ナ リ オ の LCC予 測
Din Daeng Expressway に 対 す る 予 測
床版の維持管理費(百万バーツ)
7,000
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
6,000
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
5,000
4,000
建設年 1981
3,000
2,000
1,000
2)
20年
20年
2110
2100
2090
2080
2070
2060
2050
20 年
50 年
図 126
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
0
20年
Din Daeng Expresswayの 累 計 維 持 管 理 費 ( 事 後 保 全 シ ナ リ オ )
全線に対する予測
各 路 線 は そ れ ぞ れ 建 設 年 が 異 な る こ と か ら 、(1)の 試 算 を 全 路 線 に 対 し そ
れぞれ行い、合算した結果を以下に示す。
275
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
床版の維持管理費(百万バーツ)
80,000
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
70,000
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
60,000
50,000
100 年後である 2115 年までに、床
40,000
版の維持管理費に約 75,000 百万
バーツが必要となる
30,000
20,000
10,000
図 127
2110
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
0
全線の累計維持管理費(事後保全シナリオ)
今 か ら 100年 後 で あ る 2115年 ま で に 、 床 版 の 維 持 管 理 費 に 約 75,000百 万 バ
ーツが必要となる。
(7)
検討する予防保全技術の概要
1)
技術名
高 耐 久 型 エ ポ キ シ 系 接 着 材 を 用 い た RC床 版 上 面 増 厚 技 術
2)
技術概要
高耐久型エポキシ系接着材はフレッシュコンクリートの打継ぎ専用の接
着材である。従来日本では、橋梁のコンクリート床版等の補修時に耐荷力
の回復を図るため、コンクリートの打ち増しを行っていたが、新旧のコン
クリート接合面が密着しておらず弱点となり、十分な耐久性、耐水性を確
保することができなかった。そこに本接着材を用いることで耐久性、耐水
性を向上させるものである。
3)
施工方法
① ア ス フ ァ ル ト 舗 装 + RC床 版 ( 1cm) を 切 削
② 表 面 を 切 削 し た RC床 版 に 対 し エ ポ キ シ 系 接 着 材 を 塗 布
③ コンクリート版を施工
④ コンクリート版上面に防水層、アスファルト舗装を施工
276
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 128
図 129
4)
JICA
国際航業
RC床 版 上 面 増 厚 技 術 の イ メ ー ジ 図
高架橋床版上面での塗布実施例
技術の効果
コ ン ク リ ー ト の 打 ち 増 し を 行 う 際 、新 旧 コ ン ク リ ー ト の 接 合 面 を 密 着 し 、
耐 久 性 、耐 水 性 を 増 す こ と に よ り 、RC床 版 及 び 床 版 の 上 に 設 置 す る ア ス フ
ァルト舗装の長期健全化を図ることができる。
(8)
1)
予防保全シナリオの試算条件
維持管理方法
予防保全シナリオの場合、ある一定区間の面積に対し計画的に対策を行
うことができるため、アスファルト舗装の定期的な維持管理(切削オーバ
ーレイ)に合わせて行えば、アスファルト舗装を追加で行う必要がない。
そこで、予防保全を定期的な舗装維持管理時に合わせて実施する場合と、
別 に 実 施 す る 場 合 の 2ケ ー ス を 検 討 す る 。 事 後 保 全 シ ナ リ オ の 場 合 、 損 傷
した箇所をその都度補修するため、このように計画的に時期を合わせて実
施することができない。
277
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 115
JICA
国際航業
予防保全シナリオのケース設定
ケース1
対策実施の
舗装の定期的な維持管理
舗装の定期的な維持管理
タイミング
とは別に実施
に合わせてに実施
施工単価
2)
ケース2
5,600バ ー ツ /m2
4,100バ ー ツ /m2
対象数量
表 116
予防保全シナリオの対象数量
項目
(9)
1)
数量
道路延長
128.6km( 高 架 橋 延 長 )
道路幅員
27m( 片 側 3車 線 、 合 計 6車 線 道 路 )
アスファルト舗装厚
5 or 8cm
予 防 保 全 シ ナ リ オ の LCC予 測
ケース1
① 各路線に対する予測
1981年 に 完 成 し た Din Daeng Expresswayを 例 に 、 試 算 結 果 を 示 す 。
7,000
床版の維持管理費(百万バーツ)
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
6,000
年別維持管理費(予防保全シナリオ)
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
5,000
累計維持管理費(予防保全シナリオ)
4,000
3,000
建設年 1981
2,000
1,000
40年
図 130
40年
2110
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
0
40年
Din Daeng Expresswayの シ ナ リ オ 別 累 計 維 持 管 理 費 ( ケ ー ス 1 )
278
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
約 75,000 百万バーツ
② 全線に対する予測
床版の維持管理費(百万バーツ)
80,000
40%のコストダウン
70,000
60,000
約 45,000 百万バーツ
50,000
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
年別維持管理費(予防保全シナリオ)
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
累計維持管理費(予防保全シナリオ)
40,000
30,000
20,000
約 50 年後に逆転
10,000
図 131
2110
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
0
全線のシナリオ別累計維持管理費(ケース1)
予防保全シナリオは寿命を迎える前に対策を行う必要があるため初期の段階
で は 事 後 保 全 シ ナ リ オ に 比 べ 累 計 維 持 管 理 費 は 高 く な る が 、約 50年 後 に 両 者 は 逆
転し、長期的には累計維持管理費を抑えることが可能である。
100年 後 の 累 計 維 持 管 理 費 を 比 較 す る と 事 後 保 全 シ ナ リ オ 750億 バ ー ツ に 対 し
て 予 防 保 全 シ ナ リ オ 450億 バ ー ツ と な り 、 約 40%の コ ス ト 縮 減 効 果 が あ る 。
2)
ケース2
① 各路線に対する予測
1981年 に 完 成 し た Din Daeng Expresswayを 例 に 、 試 算 結 果 を 示 す 。
279
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
床版の維持管理費(百万バーツ)
7,000
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
6,000
年別維持管理費(予防保全シナリオ)
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
5,000
累計維持管理費(予防保全シナリオ)
4,000
3,000
建設年 1981
2,000
1,000
40年
図 132
2110
2100
2090
2080
2070
40年
40年
Din Daeng Expresswayの シ ナ リ オ 別 累 計 維 持 管 理 費 ( ケ ー ス 2 )
約 75,000 百万バーツ
② 全線に対する予測
80,000
55%のコストダウン
70,000
60,000
約 34,000 百万バーツ
50,000
年別維持管理費(事後保全シナリオ)
40,000
年別維持管理費(予防保全シナリオ)
累計維持管理費(事後保全シナリオ)
30,000
累計維持管理費(予防保全シナリオ)
20,000
約 35 年後に逆転
10,000
図 133
全線のシナリオ別累計維持管理費(ケース2)
280
2110
2100
2090
2080
2070
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
0
1980
床版の維持管理費(百万バーツ)
2060
2050
2040
2030
2020
2010
2000
1990
1980
0
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
ケース2の予防保全シナリオはアスファルト舗装の切削オーバーレイ工事は
本 シ ナ リ オ に 含 ま な い た め 、ケ ー ス 1 に 比 べ 維 持 管 理 費 が 安 く な る 。そ の た め コ
ス ト が 逆 転 す る 時 期 が ケ ー ス 1 の 約 50年 後 に 対 し 、 ケ ー ス 2 で は 約 35年 後 と な
る。
100年 後 の 累 計 維 持 管 理 費 を 比 較 す る と 事 後 保 全 シ ナ リ オ 750億 バ ー ツ に 対 し
て 予 防 保 全 シ ナ リ オ 340億 バ ー ツ と な り 、 約 55%の コ ス ト 縮 減 効 果 が あ る 。
(10)
検討結果
ケーススタディの結果を以下に示す。
表 117 ケ ー ス ス タ デ ィ の 結 果
100年 間 累 計 維 持 管 理 費
コスト
コスト
縮減率
逆転時期
45,000
40%
50年 後
34,000
55%
35年 後
(百万バーツ)
事後保全シナリオ
ケース1
ケース2
(11)

75,000
予防保全シナリオ
維持管理費への影響
予 防 保 全 シ ナ リ オ ( ケ ー ス 1 ) で は 、 今 後 100年 間 で 45、000百 万 バ ー ツ が
必要となる。

年 間 当 た り で は 、 450百 万 バ ー ツ が 追 加 で 必 要 と な る 。

2013年 度 に こ れ を 当 て は め る と 、 2013年 度 の 維 持 管 理 費 実 績 は 400百 万 バ
ー ツ の た め 、 合 計 850百 万 バ ー ツ と な る 。

5.4.6
ケ ー ス 2 で は 年 間 当 り 340百 万 バ ー ツ が 追 加 で 必 要 と な る 。
長期戦略
コンクリート高架橋の維持管理の長期戦略として以下を提案する。

RC床 版 に つ い て は 、予 防 保 全 を 行 う こ と に よ り 、延 命 化 及 び LCC低 減 を 図
る。

高 架 橋 の RC 床 版 以 外 に つ い て も 同 様 に 予 防 保 全 を 検 討 し 、 高 架 橋 全 体 の
LCC 予 測 に 基 づ い て 、 長 期 維 持 管 理 戦 略 を 検 討 す る 。
281
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
5.5
道 路 舗 装 の 設 計 年 を 2倍 に す る ケ ー ス の LCCへ の 影 響
5.5.1
ケーススタディの背景、目的
(1)
背景
JICA
国際航業
DOHの 管 理 す る 道 路 延 長 は 、 2002年 以 降 は 増 加 し て お ら ず 、 新 設 道 路 の ほ と
ん ど は 既 存 道 路 の 拡 幅 で あ る 。今 後 は 維 持 管 理 業 務 の 比 率 が 確 実 に 増 え て く る こ
とになり、維持管理の重要性が高まってくる。
そ れ に 伴 い 、道 路 整 備 に お け る ニ ー ズ は 、交 通 網 の 整 備 か ら 渋 滞 の 解 消 、安 全
性 や 快 適 性 の 向 上 、長 寿 命 化 、LCC縮 減 と い っ た 道 路 の「 量 」か ら「 質 」へ シ フ
トしていくことが予想される。
適切な維持管理と道路の長寿命化の重要性が増している。
(2)
目的
道 路 分 野 の 維 持 管 理 の 中 で 大 き な 割 合 を 占 め て い る の が 舗 装 で あ る 。ケ ー ス ス
タ デ ィ で は こ の 舗 装 の 維 持 管 理 費 を 縮 減 す る た め に 、従 来 の 舗 装 設 計 で 決 定 さ れ
た 舗 装 構 成 と 、 そ の 設 計 年 を 長 く し た 場 合 の LCCを 比 較 し て 、 ど ち ら が ど れ だ け
安いかを明らかにする。
こ の ケ ー ス ス タ デ ィ は 、DOHの 舗 装 設 計 基 準 を ベ ー ス に し て い る が 、舗 装 設 計
を必要とするタイ国の道路分野全体にも適用可能である
5.5.2
現状把握
図 134
DOHの 道 路 整 備 延 長 は DOHの 道 路 の 整 備 状 況 を 示 し た も の で あ る 。
水 色 の 線 は 整 備 し た 延 長 を 示 し 、赤 線 は 整 備 し た 道 路 を 2 車 線 に 換 算 し た 時 の 延
長 を 示 し て い る 。 こ こ か ら 分 か る よ う に 、 DOHの 道 路 整 備 の 中 心 は 新 規 路 線 か
ら、拡幅や維持管理にシフトしてきている。
282
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 134
5.5.3
JICA
国際航業
DOHの 道 路 整 備 延 長
問題点の抽出
タ イ 国 の 道 路 分 野 で は 、道 路 の 新 設 時 代 か ら 維 持 管 理 時 代 へ 移 行 し 、維 持 管 理
に必要な費用が確実に増え、財源で賄えなくなる。
5.5.4
基本方針の設定
本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は 舗 装 に 係 る LCCを 抑 え る こ と を 基 本 方 針 と す る 。舗 装 の
LCCを 抑 え る 方 法 と し て 以 下 の 3点 が 挙 げ ら れ る 。

長 寿 命 化 に よ る LCC低 減

設 計 基 準 の 見 直 し に よ る LCC低 減

PMS等 を 活 用 し た 適 切 な 維 持 管 理 に よ る LCC低 減
上 記 3 点 は 日 本 で も 取 り 組 ま れ て お り 、設 計 基 準 見 直 し に つ い て は 2001年 に 舗
装 に 関 す る 設 計 手 法 が 変 更 と な り 、従 来 の 舗 装 設 計 対 象 期 間 が 10年 と 規 定 さ れ て
い た が 、20年 等 の 長 期 で 設 計 を 行 う こ と と 変 更 さ れ て い る 。こ れ に よ り 舗 装 の 長
寿 命 化 と LCC低 減 を 実 現 で き る た め 、 多 く の 国 や 地 方 自 治 体 で 採 用 さ れ て い る 。
本 ケ ー ス ス タ デ ィ で は こ の 「 設 計 基 準 見 直 し に よ る 舗 装 の LCC低 減 」 に つ い て
検討する。
283
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
5.5.5
対応策の検討
(1)
対応策の基本方針
JICA
国際航業
DOHの 舗 装 設 計 基 準 を 例 と し 、以 下 の 2つ の 舗 装 構 成 に つ い て LCC比 較 を 行 う 。
表 118 対 応 策 の 基 本 方 針
舗装設計基準
舗装設計対象期間
備考
従来基準
15年
現在の設計基準
長寿命基準
30年
現在の設計対象期間を倍にしたもの
(2)
対応策の設定条件
2つ の 舗 装 構 成 の 設 定 条 件 を 示 す 。
表 119
舗装設計対象期間
対応策の設定条件
従来基準
長寿命基準
15年
30年
※1
Ta法 ※ 2
設計手法
設 計 CBR ※ 3
舗装の寿命
平 均 4%
※4
舗装の打ち換え
15年 + 5年 = 20年
30年 + 5年 = 35年
20年
35年
サイクル
試算対象道路
交 通 量 5万 台 /日 級 の 道 路
道 路 延 長 ; 1km
道 路 幅 員 ; 15m( 片 側 2車 線 、 合 計 4車 線 )
舗装構成※5
+2cm
+5cm
合 計 58cm
施工単価
※6
+7cm(10%)
合 計 65cm
舗 装 新 設 ; 2,800バ ー ツ /m2
舗 装 新 設 ; 3,100バ ー ツ /m2
舗 装 打 ち 換 え;2,450バ ー ツ
舗 装 打 ち 換 え;2,750バ ー ツ
/m2
/m2
284
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
※1
JICA
国際航業
舗装設計対象期間とは、自動車の輪荷重を繰り返し受けることによる舗装
にひび割れが生じるまでに要する期間。
※2
日本でも使われている経験に基づく設計方法。
※3
舗装厚の決定に使用する路床の支持力を表す指標。
※4
タ イ 国 で は 15年 で 設 計 し た 舗 装 が 実 際 は 15~ 25年( 平 均 20年 )の 寿 命 が あ
る こ と か ら 設 計 対 象 期 間 に 5年 を 加 算 し た も の を 寿 命 と 設 定 し た 。
※5
交 通 量 5万 台 /日 級 の 道 路 の 平 均 舗 装 構 成 に 対 し 、 Ta法 に よ り 30年 設 計 と し
た場合の舗装厚を決定。
※6
舗 装 新 設 費 は ア ス フ ァ ル ト 舗 装 ~ 路 床 材 ( 60cm) ま で を 対 象 と し 、 舗 装 打
ち換え費はアスファルト舗装~下層路盤までの打ち換え及び処分費を対象
としている。
試算結果
(3)
以 上 の 条 件 で 2つ の 舗 装 構 成 に つ い て 100年 間 の LCCを 算 出 し た 。
舗装の新設及び維持管理費(千バーツ)
200,000
従来基準
180,000
長寿命基準
160,000
20 年後に逆転
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
舗装打ち換え
40,000
20,000
舗装新設
0
1
11
21
31
41
51
61
71
年
図 135
舗 装 構 成 別 の LCC予 測
285
81
91
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
舗 装 新 設 時 は 長 寿 命 基 準 の 方 が 高 く な る が 、寿 命 が 異 な る 分 、建 設 後 約 20年 で
逆転し、長寿命基準の方が安くなる。コスト縮減率を以下に示す。

100年 間 の LCCを 対 象 と し た 年 平 均 LCC
従来基準
1,890千 バ ー ツ /年
長寿命基準
1,290千 バ ー ツ /年
コ ス ト 縮 減 率 ; 約 32%

舗 装 の 寿 命 年 を 対 象 と し た 年 平 均 LCC
従来基準
42,000千 バ ー ツ / 20年 = 2,100千 バ ー ツ /年
長寿命基準
46,500千 バ ー ツ / 35年 = 1,328千 バ ー ツ /年
コ ス ト 縮 減 率 ; 約 37%
(4)
ケーススタディのまとめ
ケ ー ス ス タ デ ィ の 結 果 を 以 下 に 示 す 。舗 装 設 計 対 象 期 間 15年 を 倍 の 30年 に す る
こ と に よ り 、 約 32%の コ ス ト 縮 減 効 果 が 得 ら れ る 。
表 120
ケーススタディの結果
従来基準
長寿命基準
舗装設計期間
15年
30年
+100%
舗装厚
58cm
65cm
+10%
施工単価
舗装新設;
舗装新設;
2,800バ ー ツ /m2
舗装打ち換え;
年 平 均維 ケース1
持管理費
ケース2
増減
+10%
3,100バ ー ツ /m2
舗装打ち換え;
2,450バ ー ツ /m2
2,750バ ー ツ /m2
1,890千 バ ー ツ /年
1,290千 バ ー ツ /年
-32%
2,100千 バ ー ツ /年
1,328千 バ ー ツ /年
-37%
286
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
5.5.6
JICA
国際航業
長期戦略
道路分野における長期戦略として以下を提案する。

舗 装 設 計 基 準 の 見 直 し に よ る 舗 装 の 長 寿 命 化 及 び LCC低 減
設計基準の見直しは、国等の上位機関で取り組むべき内容であるが、設計
基 準 の 見 直 し に よ る 舗 装 の 長 寿 命 化 を 行 う こ と に よ り 、舗 装 の LCC低 減 が 可
能である。

舗装の長寿命化技術を適材適所で採用
各長寿命化技術は、それぞれ適した地盤や交通量が異なるため、環境条件
を 考 慮 し 適 材 適 所 で 採 用 す る こ と が 効 果 的 で あ る 。不 適 切 な 舗 装 を 採 用 す る
と 、舗装 が痛 みやす くな るため 注意 を要す る。長寿命 化技 術は舗 装の 新設時
及び既存道路の舗装の打ち換え時に採用する。
以下にタイ国で適用可能な舗装長寿命化技術を環境条件別に示す。
表 121
舗装技術

タイ国へ適用可能な舗装技術
交差点
交通量の
多い道路
硬質地盤
改質性舗装
〇
〇
〇
コンポジット舗装
-
-
〇
SMA舗 装
〇
〇
〇
PMSの 効 果 的 な 活 用 に よ る 長 期 維 持 管 理 計 画 の 策 定
タ イ 国 の 道 路 分 野 に 既 に 導 入 さ れ て い る PMSを 活 用 し 、取 得 し た 路 面 性 状
データから劣化予測を行い、補修の必要な場所、時期、規模を把握し、限ら
れた予算の中で効率的、効果的に維持管理を行う。
287
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
第6章
6.1
JICA
国際航業
技術移転
ワークショップ
対 象 機 関 に 対 し て 調 査 の 目 的 を 説 明 し 、日 本 の イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 取 組
に つ い て 紹 介 す る た め に 、 2014年 7月 16日( 水 )に 対 象 機 関 か ら イ ン フ ラ ・ マ ネ
ジ メ ン ト 関 係 者 を 招 待 し て 、 ワ ー ク シ ョ ッ プ を 開 催 し た 。 表 122の 通 り 、 16対
象 機 関 と 1 大 学 か ら 計 59 名 の 参 加 が あ っ
た 。 88
登 録 は 一 機 関 最 大 3名 と し た が 、 4
名以上参加したいとの問い合わせが複数
機関からあり、インフラ・マネジメント手
法の改善に対するニーズの大きさを伺え
た。また、講演についてのアンケートを実
施したが、電力関係者は全員が回答してい
る等、特に関心の高さが感じられる。
表 122
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
所属機関別参加者数とアンケート回答数
所属機関
参加者数
予算局
財務省財政政策局(FPO)
財務省公的債務管理局(SEPO)
国家経済社会開発委員会(NESDB)
バンコク首都圏庁(BMA)
内務省公共事業・都市地方計画局(DPT)
運輸省道路局(DOH)
運輸省地方道路局(DRR)
タイ高速道路公社(EXAT)
タイ国有鉄道(SRT)
タイ高速度交通公社(MRTA)
首都圏配電公社(MEA)
地方配電公社(PEA)
タイ発電公社(EGAT)
首都圏水道公社(MWA)
地方水道公社(PWA)
チュラロンコン大学
タイ側機関 計
88
3
3
3
3
6
3
2
3
4
3
3
3
5
4
3
4
4
59
チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 は PEAと 共 同 事 業 を 企 画 中 で あ る た め 、 PEAを 通 じ て 参 加 の
申し込みがあった。
288
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
講 演 後 の ア ン ケ ー ト の 回 答 か ら も 、予 防 保 全 に シ フ ト し た イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ
ントの重要性への意識を高め、インフラ・マネジメント全般にわたる日本の技
術・ノウハウへのニーズも確認することができた。本調査の目的であるインフ
ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 概 念 の 紹 介 及 び イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る 日 本 の 技 術
やノウハウの紹介について、手ごたえを感じられた。
6.1.1
ワークショップの概要
ワークショップの講演内容及び参加者による討論の内容は以下の通りである。
また、講演資料は本報告書の最後に添付している。
ワークショップスケジュール
タイトル:
Workshop on Infrastructure Management in Thailand
日時:
2014年 7月 16日 ( 水 ) 10:00-12:20
場所:
HOTEL NOVOTEL BANGKOK ON SIAM SQUARE
Siam Square Soi 6, Pathumwan,
時間
講演
9:30-10:00
受付
10:00-10:10
開会の挨拶
10:10-10:20
調査の説明
10:20-10:30
キーノートスピーチ
JICAタ イ 事 務 所 長
アドバイザー、
Dr. Worsak Kanok-Nukulchai、 ア ジ ア 工 科 大 学 総 長 代 行
10:30-10:45
1.
日本潮流:インフラ長寿命化基本計画
10:45-10:55
2.
インフラ・マネジメントの概観
10:55-11:15
3.
日 本のイ ンフ ラ・マネジ メント の事 例-道 路・橋 梁・その 他
施設
11:15-11:25
4.
日本のインフラ・マネジメントの事例-上水道施設
11:25-11:32
5.
日本のインフラ・マネジメント事例-下水道施設
11:32-11:42
6.
インフラ・マネジメントの技術
11:42-11:45
7.
まとめ
11:45-12:15
討論
12:15-12:20
閉会のあいさつ
調査団総括
289
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JICA
国際航業
討論の内容
運 輸 省 道 路 局 ( DOH)
イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 係 る 課 題 と し て は 、将 来 に 向 け た 人 材 確 保 と 人
材 育 成 が 急 務 で あ る 。エ ン ジ ニ ア は い る が IT専 門 技 術 者 が 不 足 し て お り 、サ
ーバーの故障時の対応やシステムの見直しが後手に回り脆弱である。
今 後 は 施 設 の 長 期 的 な 保 全 を 目 的 と し た ITの 導 入 と プ ロ ジ ェ ク ト が あ れ
ば 良 い と 思 う 。タ イ 国 で は イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト を 総 合 的 か つ 長 期 的 に 実
施している機関は少ない。
予算局
国家予算は不足しており、予算の
70%は 通 常 予 算 で あ り 、 ま た 、 投 資
資 金 と し て 年 間 2兆 バ ー ツ を 借 入 れ
で賄っている。
既存インフラの改善の必要性は認
識しているが、現状では負担が大き
く、投資案件の予算も確保しておく
必要があるため、今すぐインフラ・
マネジメントに対応するのは難し
い 。事 後 保 全 は ロ ス が 大 き く 無 駄 で あ る こ と は 理 解 し た が 、国 の 財 政 上 の 問
題 も あ り 、各 機 関 が 独 自 に 問 題 に 取 り 組 ん で い る 状 況 で あ る 。JICAの 強 い 支
援を期待している。
タ イ 発 電 公 社 ( EGAT)
タ イ 国 は 未 だ イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト に 関 し て 開 発 途 上 で あ り 、現 在 、日
本 や 米 国 の 法 令 を 参 考 に 法 律 を 適 用 し て い る 。時 代 の 変 化 に 合 わ せ て 、特 に
国民の安全や衛生面を考慮した包括的な法制度の見直しを行っていく必要
があり、抜本的な取組みが必要である。
地 方 配 電 公 社 ( PEA)
現 在 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 協 議 し て い る 。ま た 予 防 保 全 に つ い
て も 理 解 し て お り 、重 要 視 し て い る と こ ろ で あ る 。送 電 線 グ リ ッ ド は 40年 ~
50年 経 過 し 老 朽 化 し て い る 。PEAの 総 資 産 は 3,000億 バ ー ツ で あ り 、建 屋 を 除
く と 2,000 億 バ ー ツ で 、 こ れ ま で は 事 後 保 全 に よ る 対 応 が 主 で あ っ た 。
PAS55:2008か ら ISO55001シ リ ー ズ へ の 移 行 を 進 め る 予 定 で あ る 。し か し 、現
状 で は ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン が 確 立 さ れ て お ら ず 、評
価の結果、修繕や更新が必要と判断する明確な基準が明確になっていない。
今 後 は 、人 材 育 成 、技 術 向 上 、法 律 改 定 、ガ イ ド ラ イ ン 策 定 、デ ー タ ベ ー ス
の 充 実 を 図 る と 共 に ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 強 化 し 、ロ ー ド マ ッ プ を 策 定 し
ていく必要がある。
290
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
6.1.2
JICA
国際航業
アンケート結果の分析
参 加 者 か ら 講 演 に 関 す る ア ン ケ ー ト に 対 し て 、 39名 か ら 回 答 を 得 た 。
質問概要は次の通りである。
1)
興味をもった講演
2)
インフラ施設に関する課題
3)
課題に対する解決策案
4)
講演や討論内容に関する自由コメント
質問の順に分析結果を記載する。
興味を持った講演
図 136に 示 す 通 り 、全 体 的 に は 、「 1.イ ン フ ラ 長 寿 命 化 計 画 」、「 2.イ ン フ ラ ・
マ ネ ジ メ ン ト の 概 観 」 、「 6.イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 技 術 」 の 、 全 業 界 に 通 じ
る 内 容 へ の 興 味 が 深 く 、業 界 に 偏 り な く 好 評 で あ っ た 。包 括 的 か つ 計 画 的 な 長 期
計 画 、事 後 保 全 よ り 予 防 保 全 と い う 視 点 は 新 鮮 で 興 味 を 引 い た よ う で あ る 。と り
わ け 、 「 6.イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 技
術」の講演は、ビジュアルな写真を多用
し、わかりやすかったこともあってか、
業界関係者以外からも幅広く関心が高
く、タイ国においてインフラ・マネジメ
ントに関するシステムは構築されつつあ
るからこそ、さらに進んだデータの効率
的な収集を可能にする最先端技術に興味
があるものと考える。
道 路 、上 下 水 道 に 関 し て は 、そ の 管 轄 機 関 以 外 に も 財 政 関 係 者 か ら も 関 心 が 高
く 、国 家 全 体 の 政 策 、長 期 計 画 や 予 算 管 理 に 携 わ る 機 関 の イ ン フ ラ 分 野 と そ の 効
率的な維持管理活動への興味の高さもうかがえる。
291
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
図 136
JICA
国際航業
業界別興味を持った講演(複数回答可)
出典:ワークショップアンケート結果
インフラ施設に関する課題
最 も 多 く 挙 げ ら れ た 課 題 は 予 算 不 足 で あ る 。特 に 予 算 局 が 予 算 不 足 を 強 く 意 識
指 定 し て お り 、そ の 他 電 力 、鉄 道 、道 路 、水 道 分 野 か ら も 予 算 不 足 と 予 算 管 理 能
力 不 足 が 指 摘 さ れ て い る 。 そ し て 、 NESDBか ら は 予 防 保 全 を 始 め る に あ た っ て
の 人 材 、資 金 、技 術 等 の 不 足 が 挙 げ ら れ 、予 防 保 全 へ の 新 た に 取 組 む こ と を 意 識
した上での課題が挙げられた。
BMAか ら は 前 提 と な る デ ー タ ベ ー ス が 構 築 さ れ て い な い こ と を 課 題 と 認 識 し
た コ メ ン ト が あ り 、電 力 、水 道 業 界 で も デ ー タ ベ ー ス が あ っ て も 更 新 さ れ て い な
い 等 管 理 が 行 き 届 い て い な い こ と 、 DOHか ら は ITの 技 術 者 不 足 等 、 IT関 連 の 課
題 が 挙 げ ら れ た 。さ ら に 、全 業 界 か ら 技 術 力 自 体 や 技 術 者 の 不 足 、管 理 体 制 が 構
築されていないことも指摘された。
聴 講 後 、各 機 関 が 予 防 保 全 を 目 指 し た い と 意 識 し 、そ の た め の 課 題 を 認 識 し た
こ と は 講 演 の 目 的 が 達 成 さ れ た と い え る 。同 時 に 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 実
現 の た め に は 予 算 、人 材 、技 術 、体 制 の 整 備 な ど 根 本 的 な 問 題 が 存 在 す る こ と も
うかがえる。
292
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
課題に対する解決策案
予 算 局 か ら は 、タ イ 国 は ま だ 新 規 開 発 に 注 力 し て お り 、維 持 管 理 ま で 予 算 が 行
き 届 か な い 状 況 で あ る こ と を 認 識 し て お り 、予 算 を 効 率 的 に 配 分 す る 旨 の コ メ ン
ト が あ っ た が 、具 体 的 な 方 法 に つ い て は 触 れ て い な い 。ま た 、電 力 業 界 か ら は 組
織 横 断 で 協 業 し て 管 理 方 針 を 策 定 す る こ と が 提 案 さ れ た 。 そ の 他 、 JICAや 他 の
ド ナ ー に 対 し て 、資 金 援 助 、点 検 等 講 演 で 紹 介 し た 技 術 供 与 、本 邦 研 修 を 通 じ た
人 材 育 成 等 の 要 望 の 声 が あ っ た 。全 業 界 か ら 、予 防 保 全 と い う 新 し い 分 野 に 対 処
できる人材育成のニーズが高いようである。
講演や討論に対する自由コメント
PPPの 管 轄 機 関 で あ る SEPOは 、 タ イ 国 は PPPを 活 用 す る 方 針 で あ る た め 、 イ
ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト へ の PPPの 活 用 、と り わ け 日 本 の 法 制 度 に 関 す る 実 用 的 な
知識の供与を求めている。
電 力 業 界 か ら は 東 京 電 力 の 維 持 管 理 方 法 を 知 り た い 等 、電 力 、鉄 道 分 野 で の 事
例の紹介や予防保全へのシフトの経緯や予防保全の手法の供与に対する要望が
あった。
PPPも 含 め て 、イ ン フ ラ 維 持 管 理 全 般 に わ た る 手 法 や 技 術・ノ ウ ハ ウ の 提 供 に
対する期待が感じられる。
293
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
6.2
JICA
国際航業
セミナー
本調査の結果報告及びアセットマネジメントに関する提案を説明するために、
2014年 10月 21日 ( 火 ) に 、 対 象 機 関 の イ ン フ ラ 施 設 管 理 関 係 者 に 向 け て 、 セ ミ
ナ ー を 開 催 し た 。表 122の 通 り 、17対 象 機 関 と 1大 学 か ら 計 60名 の 参 加 が あ っ た 。
表 123 所 属 機 関 別 参 加 者 数
所属機関
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
6.2.1
予算局
財務省財政政策局(FPO)
財務省公的債務管理局(SEPO)
公的債務管理局(PDMO)
国家経済社会開発委員会(NESDB)
内務省公共事業・都市地方計画局(DPT)
運輸省道路局(DOH)
運輸省地方道路局(DRR)
タイ高速道路公社(EXAT)
タイ国有鉄道(SRT)
タイ高速度交通公社(MRTA)
首都圏配電公社(MEA)
地方配電公社(PEA)
タイ発電公社(EGAT)
首都圏水道公社(MWA)
地方水道公社(PWA)
下水道公社(WMA)
チュラロンコン大学
タイ側機関 計
セミナーの概要
セミナーの講演内容及び参加者による討
論 の 内 容 は 以 下 の 通 り で あ る 。本 調 査 で 把 握
したタイ国のインフラ・マネジメントの状
況 、及 び 上 水 道 と 道 路 分 野 に つ い て 、ラ イ フ
サイクルコストを利用したインフラ長寿命
化 対 策 の ケ ー ス ス タ デ ィ 3件 の 結 果 を 発 表
し 、チ ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 の 教 授 か ら ア セ ッ ト
マ ネ ジ メ ン ト の 国 際 規 格 で あ る ISO55000シ
リ ー ズ に 関 し て の 講 演 を い た だ い た 後 、イ ン
フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 際 に 考 慮 す べ き こ と を
まとめて発表した。
294
参加者数
5
3
2
3
3
2
3
3
3
5
4
5
2
3
6
4
1
3
60
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
セミナースケジュール
タイトル:
Seminar on Infrastructure Management in Thailand
日時:
2014年 10月 21日 ( 火 ) 10:00-12:30
場所:
HOTEL NOVOTEL BANGKOK ON SIAM SQUARE
Siam Square Soi 6, Pathumwan,
Time
9:30-10:00
10:00-10:10
10:10-10:20
10:20-10:35
10:35-10:50
10:50-11:10
11:10-11:25
11:25-11:40
11:40-11:55
11:55-12:00
12:00-12:30
12:30-12:35
Programme
Registration
Opening Remarks
Mr. Shuichi Ikeda, Chief Representative of JICA Thailand Office
1. Progress of the Study and the Objective of Seminar
Mr. Akira Doi, Team Leader
2. Issues Related to Infrastructure Management in Thailand
Ms. Junko Tomita, Financial Planning Expert
3. Key Points in Infrastructure Management
Mr. Akira Doi, Team Leader
4. Case Study for Water Supply Facility
Mr. Kenji Shinoda, Water Supply Expert
5. Case Study for Concrete Structure
Mr. Hideo Sato, Infrastructure Management Expert
6. Case Study for Road Pavement
Mr. Hideo Sato, Infrastructure Management Expert
7. ISO 55000 Asset Management System
Assoc. Prof. Suthas Ratanakuakangwan, Chulalongkorn University
8. Wrap up the Seminar
Mr. Akira Doi, Team Leader
Discussion
Mr. Makoto Ashino, Traffic and Transport Expert
Closing Remarks
Mr. Akira Doi, Team Leader
討論の内容
時 間 が あ ま り 取 れ な く な っ た 中 、 2名 か ら の 意 見 を 得 た 。
地 方 配 電 公 社 ( PEA)
ISO55000は 、 コ ス ト ・ 見 え な い リ ス ク ・
収益をバランスさせ効率的な事業運営を顧
客に示すことによって、事業体としての価
値を高めることを目的とする国際規格であ
る 。 PEAは こ の 国 際 規 格 を 取 得 す る こ と に
よって顧客の信頼度を高めることが有益と
考えている。
295
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
運 輸 省 道 路 局 ( DOH)
長寿命化技術を積極的に導入するために基
準 の 改 定 の 重 要 性 は 認 識 し て い る が 、道 路 舗 装
維持管理の予算は財務当局がキロ当たり単価
を 暗 黙 知 で 決 定 し て い る こ と も あ り 、改 善 は 進
ま な い 。規 則 を 改 定 す る に は 、試 験 施 工 に 基 づ
く デ ー タ の 蓄 積 が 必 要 で あ り 、日 本 か ら は そ の
ための支援を期待している。
6.2.2
アンケート結果の分析
参 加 者 か ら 講 演 に 関 す る ア ン ケ ー ト に 対 し て 、 30名 か ら 回 答 を 得 た 。
質問概要は次の通りである。
1)
興味をもった講演
2)
キーメッセージの重要性
3)
インフラ・マネジメントを実施するにあたる傷害
4)
講演や討論内容に関する自由コメント
質問の順に分析結果を記載する。
興味深かった講演
6本 の 講 演 に 関 し て 、 興 味 深 か っ た と 回 答 の あ っ た 人 数 は 下 記 の 通 り で 、 専 門
性 の 高 か っ た ケ ー ス ス タ デ ィ は 全 体 の 1/3程 度 、 イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 全 般 に
関 す る タ イ ト ル は 2/3程 度 の 人 か ら 好 評 で あ っ た 。 ケ ー ス ス タ デ ィ は 道 路 分 野 、
上水道分野の者以外からも、関心をよせられた。
表 124
講演タイトル別の興味深かったとの回答者数
講演タイトル
回答者数
タイ国のインフラ・マネジメントの課題
21名
インフラ・マネジメントのキーポイント
19名
上水道に関するケーススタディ
12名
コンクリート構造に関するケーススタディ
13名
舗装に関するケーススタディ
11名
ISO55000ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト シ ス テ ム
19名
キーメッセージに対する重要性
講 演 の ま と め と し て 、本 調 査 を 通 じ て わ か っ た イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 実 践
に 重 要 な メ ッ セ ー ジ を 挙 げ 、そ れ ぞ れ の メ ッ セ ー ジ に つ い て 、ど の く ら い 重 要 と
認識するかを回答してもらった。メッセージ毎に重要度を集計したものである。
296
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
表 125
メッセージ
1
2
3
4
5
6
7
JICA
国際航業
インフラ・マネジメントに重要なキーメッセージ
内容
イ ン フ ラ の 方 針 が「 つ く る 」か ら「 つ か う 」へ 変 化 す る
と、その実施にインフラ・マネジメントが必要となる。
長 寿 命 の イ ン フ ラ 施 設 の 最 適 な 維 持 管 理 方 法 は LCCを
分 析 し て 、 LCCの 相 対 評 価 で 選 ぶ 。
LCCを 抑 え る に は 、 悪 く な る 前 に 治 療 す る
長 い 目 で 安 く て 良 い も の を 買 う に は 、 LCC調 達 方 式
設 計 時 か ら LCCを 考 慮 す る よ う 、 設 計 基 準 を 見 直 す 。
高 価 な 長 寿 命 化 技 術 は 、適 材 適 所 で 採 用 す る よ う 、よ り
きめ細かく設計する。
計 画 を 実 現 し て い く に は 、点 検 結 果 の 実 情 を 計 画 に 反 映
さ せ る 修 正 が 必 要 。 だ か ら PDCA
図 137
キーメッセージ毎の重要性の認識
ど の メ ッ セ ー ジ も 重 要 度 が 認 識 さ れ た が 、な か で も イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の
必要性や調達方式の重要性への理解が多かった。
インフラ・マネジメントを実施する上での障害
現 場 関 係 者 か ら は 、法 規 制 、方 針 や 予 算 が 障 害 と し て 挙 げ ら れ た 。ま た 、予 算
担 当 者 や 上 位 の 管 理 者 の 理 解 が 得 ら れ な い こ と 、そ し て 説 得 す る た め の 実 績 が な
い こ と や 、計 画 と 維 持 管 理 部 門 が わ か れ て お り 情 報 の 共 有 が な い と い っ た 組 織 体
制による課題も指摘された。
講演や討論内容に関する自由コメント
イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 組 織 的 な 取 組 み の 必 要 性 に つ い て の 共 感 や 、鉄 道 や
電力分野等他の分野でのケーススタディを希望する声があった。
現在の維持管理に対する問題意識の把握と長期的な視点での包括的なインフ
ラ・マネジメントを実施する必要性に対する理解が得られた。
297
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
第7章
JICA
国際航業
本調査からの知見
イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト の 現 状 と 、先 方 機 関 に お け る 需 要 を 踏 ま え て 、優 先 分
野 に つ い て 下 記 の 5項 目 の 視 点 か ら 対 応 策 を 検 討 す る 。
1)
インフラ・マネジメントに活用できる資金源
2)
将来的なマネジメント方針、ニーズ等
3)
インフラ・マネジメント計画、手法
4)
制度、能力上の問題点の改善方法
5)
ODA支 援 の 可 能 性 お よ び 日 本 の 技 術 や ノ ウ ハ ウ の 活 用 の 可 能 性
7.1
インフラ・マネジメントの資金源
7.1.1
PPP/PFIの 活 用
SEPOは 、 安 定 し た 収 入 の 期 待 で き る 事 業 に 対 し て は PPPや イ ン フ ラ フ ァ ン ド
の よ う な 民 間 資 金 の 採 用 に 積 極 的 で 、常 に よ り よ い 新 た な ス キ ー ム を 開 発 し て い
る 。 特 に 、 EXATの よ う に 実 績 か ら 安 定 し た 収 入 が 期 待 で き る 機 関 に つ い て は 、
運 営 維 持 管 理 を 一 体 で 委 託 す る 方 針 で あ る 。 ま た 、 MWAも 業 績 が 安 定 し て い る
た め 、 SEPOは PPPな ど の 活 用 を 検 討 し て い る 。
7.1.2
特定財源の確保
既 存 イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 を 確 実・継 続 的 に 実 施 す る た め に は ま と ま っ た 財
源 確 保 が 重 要 で あ る 。日 本 で は 受 益 者 負 担 の 原 則 に 基 づ き 使 途 制 限 を 設 け た 特 定
財 源 が 導 入 さ れ 、そ の 一 部 財 源 は 道 路 維 持 管 理 に 充 て ら れ た 。タ イ 国 で も 国 家 の
方針として維持管理に優先的に使用される財源や補助金の制度を確立すること
は有効である。
7.2
マネジメント方針、ニーズ等
7.2.1
インフラ・マネジメントを推進する枠組みの構築
インフラの新規建設を進める必要がまだあり、また既存のインフラが増加し、
老 朽 化 も 進 ん で く る と 、新 規 投 資 予 算 と 維 持 管 理 予 算 の 両 立 と い う 課 題 が 重 く の
し か か っ て く る 。こ の 課 題 の 両 立 を 実 現 す る た め の 方 針 と し て 、下 記 を 提 案 す る 。
①
新設のインフラ施設については、設計、施工、運用を経て、修繕、耐用年
数 の 経 過 に よ る 解 体 処 分 ま で の LCCを 最 小 化 す る よ う に 実 施 す る 。
②
既 存 の イ ン フ ラ 施 設 の 維 持 管 理 に つ い て は 、 LCCを 考 慮 し た 老 朽 化 及 び 延
命化対策を実施する。
省庁系のインフラ施設の実施機関にこの方針を積極的に実施させるためには、
298
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
国 や 管 理 者 レ ベ ル で の 、新 規 と 既 存 の 全 イ ン フ ラ を 考 慮 し た 包 括 的 な 方 針 を 国 家
レベルで位置づけることが有効である。
現 在 の 維 持 管 理 実 施 状 況 は 、図 138の 下 段 に 相 当 す る 実 施 機 関 の 維 持 管 理 関 係
部局での対応は十分できており、維持管理水準の向上につとめている。しかし、
さ ら な る 向 上 の 障 害 と な っ て い る の は 組 織 の 縦 割 り の 体 制 、法 規 制 、基 準 、実 施
機関の方針等である。
図 138
タイ国のインフラ・マネジメントでの課題
日 本 で も 同 様 の 課 題 を 抱 え て い る と こ ろ 、そ の 課 題 の 解 決 の た め に 、イ ン フ ラ
長 寿 命 化 基 本 計 画 、イ ン フ ラ 長 寿 命 化 計 画( 行 動 計 画 )、公 共 施 設 等 総 合 管 理 計
画 と 、 3つ の 上 位 計 画 を 作 成 し て 、 新 規 と 既 存 の 全 イ ン フ ラ を 考 慮 し た 包 括 的 な
方 針 を 国 家 レ ベ ル で 位 置 づ け た 。タ イ 国 が 新 規 建 設 圧 力 と 既 存 イ ン フ ラ 施 設 維 持
管 理 業 務 増 加 の 課 題 を 両 立 さ せ る た め に は 、こ の よ う な 上 位 計 画 か ら の ア プ ロ ー
チが非常に有効である。
図 139
国主導のインフラ長寿命化計画の体系
299
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
7.2.2
JICA
国際航業
国営企業への対応
国 営 企 業 は 独 立 採 算 制 で あ る た め 、保 有 す る イ ン フ ラ は 利 益 を 創 出 す る 重 要 な
資 産 と し て 認 識 さ れ て お り 、最 適 な 維 持 管 理 を 行 お う と い う メ カ ニ ズ ム が 基 本 的
に 備 わ っ て い る 。ま た 、新 規 投 資 や 維 持 管 理 予 算 へ の 配 分 に つ い て も 、多 く の 部
分 に つ い て 自 己 の 裁 量 で 決 め ら れ る 権 限 を 有 し て い る 。従 っ て 、十 分 な 利 益 が 出
て い る 国 営 企 業 で ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト が 不 十 分 で あ る 場 合 に は 、原 因 は 国 営 企
業内の人員の知識や能力に起因するもので、改善の可能性は十分にある。
国 営 企 業 の 運 営 方 針 に 影 響 力 を 及 ぼ す 手 段 と し て 最 も 効 果 的 な の は 、NESDB、
首 相 府 、 SEPO が 共 同 で 、 各 国 営 企 業 に 対 し て 作 成 し て い る Statement of
Directions (SOD)で あ る 。 こ れ に は 5ヵ 年 の 長 期 と 単 年 の 方 針 を 明 記 し て あ り 、
各 国 営 企 業 は そ れ に 従 っ て 5年 計 画 を 策 定 し 、 さ ら に 単 年 毎 の 投 資 計 画 を 作 成 し
て い る 。上 下 水 道 分 野 の SODに は 、ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 十 分 に 考 慮 し た 運 営
方 針 を す る よ う に す で に 明 記 さ れ て い る 。従 っ て 、イ ン フ ラ・マ ネ ジ メ ン ト 及 び
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト の 推 進 を 国 営 企 業 に 促 す た め に 、タ イ 国 の 全 国 営 企 業 の 運
営 を 監 督 、 指 導 す る SEPOが 、 SODに そ れ を 強 く 明 記 す る こ と が 有 効 で あ る 。
7.3
インフラ・マネジメント計画、手法
7.3.1
道路分野
①
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 成 功 さ せ る た め に は 、イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理
す る こ と が 重 要 な の で 、組 織 横 断 的 に 検 討 や 決 断 が で き る 体 制 を 整 え る こ と
が有効である。組織横断的とは、新規建設、維持管理、付帯施設の部署の他
に、財務部署も巻き込むことが必要である。
②
舗装

長 寿 命 化 を 図 る こ と に よ り LCCを 下 げ る こ と が 重 要 な 手 段 と な る た め 、
様々な長寿命化技術の研究、試験施工によるデータの蓄積等を積極的に
進めることが有効である。

長 寿 命 化 技 術 の 長 所 を 活 か せ る よ う に 、適 材 適 所 で 用 い る た め の 研 究 と 、
きめの細かい設計をすることが有効である。
③
RC構 造 物

RC構 造 物 の 現 状 を 把 握 す る た め に 、点 検 作 業 の ス ピ ー ド を 上 げ て 、全 施
設の点検データベースを早急に完成させる必要がある。

RC構 造 物 の 老 朽 化 に 備 え る た め に 、 様 々 な 長 寿 命 化 技 術 の 検 討 を 進 め 、
また試験施工を実施してデータを蓄積する必要がある。
7.3.2
①
上水道分野
ケ ー ス ス タ デ ィ で は 、 複 数 の 技 術 や 材 料 の 選 定 の 際 に LCCを 考 慮 す る こ と 、
300
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
機 械 や 材 料 の 耐 用 年 数 以 上 の 長 期 間 に 亘 る LCCの 算 定 に よ っ て 、長 期 戦 略 を
立 て る こ と の 重 要 性 を 解 説 し た 。ケ ー ス ス タ デ ィ は 多 く の 想 定 に 基 づ い て 試
算をしたが、紹介した方法を参考に、できるだけ実際のデータを入れて、よ
り信頼性の高い検討を行うべきである。
ケ ー ス ス タ デ ィ の 中 で 、 PVC管 、 ポ リ エ チ レ ン 管 、 ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 等 の 検
②
討をしたが、これらについては適材適所で採用することにより、維持管理の
改善に繋がることが結果として示唆された。これらについて、自らさらに検
討を行って、新材料の採用に積極的に取り組むべきである。
7.4
制度、能力上の問題点の改善方法
7.4.1
道路分野
DOH及 び DRRが 定 期 的 に 実 施 し て い る 維 持 管 理 の 職 員 研 修 は 、 実 務 以 外 に
①
LCCの 考 え 方 等 も 含 め て い て 、非 常 に 有 益 で あ る の で 、今 後 も 継 続 し て い く
べきである。
日 本 で は 2001年 に 舗 装 の 設 計 規 準 を 見 直 し た こ と に よ り 、新 設 舗 装 設 計 の 長
②
寿命化が進み、また維持管理においても長寿命化技術の採用が広まり、維持
管 理 費 用 の 削 減 に 効 果 が 現 れ た 。タ イ 国 で も 、DOH、 DRR、 EXAT、或 い は
その所轄官庁である運輸省が設計規準の見直し等を検討するべきである。
7.4.2
①
上水道分野
ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト を 成 功 さ せ る た め に は 、イ ン フ ラ 施 設 を 包 括 的 に 管 理
することが重要である。特に水道事業の場合には、配管の改善によって造水
費用を大きく削減でき、浄水場の必要能力を縮小する効果がある。つまり、
維持管理費用の増加により、浄水場の運営費が削減できるが、これを行うに
は、組織横断的観点から判断して実施する必要がある。従って、組織横断的
に検討や決断ができる体制を整えることが有効である。
PWAは 233の 事 業 所 が あ る が 、 各 事 業 所 で 材 料 を 購 入 し て い る た め 、 調 達 作
②
業が非効率であり、また全体の在庫数は把握されておらず、在庫数量を多く
抱 え て い る と 思 わ れ る 。PWA本 部 で 共 同 調 達 を 行 い 、全 国 の 数 箇 所 に 共 同 の
資 材 置 き 場 を 設 け て 、そ こ か ら 各 事 業 所 へ 必 要 数 量 を 配 送 す る 仕 組 み を 構 築
することで、資材調達は大きくコスト削減が可能と思われる。
7.5
ODA支 援 お よ び 日 本 の 技 術 や ノ ウ ハ ウ の 活 用 の 可 能 性
7.5.1
ODA支 援 の 可 能 性
(1)
道路分野
急増する維持管理業務に対応するために、人材育成は最重要課題の一つであ
301
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
り、下記のような内容の研修の実施が効果がある。
1.研修名称:インフラ・マネジメント研修「道路分野」
2.研修目的
①
点検・データ分析・補修という一連の維持管理マネジメント技術の学習
②
イ ン フ ラ 施 設 を ア セ ッ ト と し て 理 解 す る た め に 必 要 な 、 LCCと 劣 化 予 測
の学習
③
インフラ施設の包括的及び長期的なマネジメントの学習
④
民 間 委 託 や PPPな ど の 手 法 の 学 習
⑤
長寿命化技術の学習
⑥
イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 実 施 の た め の 技 術 と し て PDCA サ イ ク ル 及 び
ISO55000シ リ ー ズ の 学 習
3.研修内容
大項目
1.
道路構造物の維持管理
小項目

に関する問題
日本、欧米のインフラ施設に関連する社会状
況の変化とインフラ事業の変遷
高齢化する道路構造物

インフラ施設の事故事例
の維持管理・更新

最近のインフラ・マネジメントの潮流
3.
構造物の維持管理技術

点検、補修、補強
4.
道 路 附 属 物( 標 識 ・照 明

点検、損傷事例、補修、補強

点検、損傷事例、補修、補強

BMSの 活 用 方 法
2.
等)
5.
橋梁
6.
土工構造物

点検、損傷事例、補修、補強
7.
舗装の管理と維持修繕

路面性状調査、路面性状調査データ分析

PMSの 活 用 方 法

舗装の劣化予測

長寿命化技術

長寿命設計
8.
維 持 管 理 の IT技 術

点検、データベース、データ通信
9.
インフラ施設のマネジ

維持管理マネジメント
メント

アセット・マネジメント

インフラ・マネジメント

LCC分 析

劣化予測

長寿命化技術

長寿命化計画

PDCAサ イ ク ル

ISO55000

民 間 委 託 、 包 括 委 託 契 約 、 PPP
10. イ ン フ ラ 施 設 の 長 寿 命
化
11. マ ネ ジ メ ン ト 手 法
302
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(2)
JICA
国際航業
水道分野
急 増 す る 維 持 管 理 業 務 に 対 応 す る た め に 、人 材 育 成 は 最 重 要 課 題 の 一 つ で あ
り、下記のような内容の研修の実施が効果がある。
1.研修名称:インフラ・マネジメント研修「上水道分野」
2.研修目的
①
上水道事業全般の運営について
②
点検・データ分析・補修という一連の維持管理マネジメント技術の学習
③
イ ン フ ラ 施 設 を ア セ ッ ト と し て 理 解 す る た め に 必 要 な 、LCC と 劣 化 予 測
の学習
④
インフラ施設の包括的及び長期的なマネジメントの学習
⑤
民 間 委 託 や PPP な ど の 手 法 の 学 習
⑥
長寿命化技術の学習
⑦
イ ン フ ラ ・ マ ネ ジ メ ン ト 実 施 の た め の 技 術 と し て PDCA サ イ ク ル 及 び
ISO55000 シ リ ー ズ の 学 習
3.研修内容
大項目
1.
上水道事業の維持管理
小項目

に関する状況
日本、欧米の上水道施設に関連する社会状況
の変化

上水道施設の事故事例

最近の上水道施設事業運営の潮流
2.
配水・給水施設の維持管理

管 種 ご と の 利 点 、 欠 点 、 LCC
3.
浄水場の運転管理と維持管

点検、損傷事例、補修、補強
理

機 材 の LCC
漏水管理

流量計での水収支解析による無収水発生範囲
4.
の特定技術

漏水探知機、カメラによる管内状況の確認技
術
5.
6.
7.
8.

点検、データベース、データ通信

GIS 水 道 マ ッ プ の 活 用 方 法
インフラ施設のマネジ

維持管理マネジメント
メント

アセット・マネジメント

インフラ・マネジメント
インフラ施設の長寿命

LCC 分 析
化

劣化予測

長寿命化技術

長寿命化計画

PDCA サ イ ク ル

ISO55000

民 間 委 託 、 包 括 委 託 契 約 、 PPP
維 持 管 理 の IT 技 術
マネジメント手法
303
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
7.5.2
JICA
国際航業
日本の技術やノウハウの活用の可能性
(1)
道路舗装
1)
点検及びデータベース
DOHと DRRは い ず れ も 2005年 前 後 か ら 路 面 性 状 調 査 車 両 を 用 い て 調 査 を 定 期
的 に 実 施 し て お り 、測 定 デ ー タ を デ ー タ ベ ー ス で 管 理 し 、シ ス テ ム を 使 っ て 解 析
し て い る 。 DOHは 世 銀 の 推 奨 す る HDM-4を ベ ー ス と し た 舗 装 マ ネ ジ メ ン ト シ ス
テ ム を 用 い 、 DRRは ADBの 推 奨 す る Rosyを ベ ー ス と し た も の を 用 い て い る 。 チ
ュ ラ ロ ン コ ン 大 学 等 が 一 連 の 作 業 を 主 導 し て お り 、計 測 デ ー タ も 握 っ て い て 、強
い 立 場 を 保 持 し て い る 。 遅 れ て は い る が 、 BMAも 現 在 、 舗 装 マ ネ ジ メ ン ト シ ス
テ ム を 整 備 中 で あ る 。こ の よ う な 状 況 で あ る た め 、こ の 分 野 へ の 新 規 参 入 は 非 常
に困難が予想される。
2)
長寿命化技術
改 質 ア ス フ ァ ル ト の 使 用 は タ イ 国 で も か な り 広 ま っ て お り 、現 地 業 者 で も 問 題
なく施工ができる段階にある。
コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 は 、DOHが バ ン コ ク 首 都 圏 で 試 験 施 工 を 実 施 済 み だ が 、長 寿
命 化 で は な く 、耐 久 性 を 期 待 し て 弱 い 地 盤 の 地 域 で 用 い た た め 、短 期 間 で ク ラ ッ
クが生じた結果、不適切な技術という評価がタイ国では定着している。さらに、
コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 に 適 し た 骨 材 の 確 保 が 困 難 か つ 、通 常 の 舗 装 よ り 価 格 が か な り
高 く な る こ と が 、導 入 の 課 題 で あ る 。従 っ て 、コ ン ポ ジ ッ ト 舗 装 の 導 入 は 困 難 が
予想され、導入されたとしても、必要最低限に絞って用いられると思われる。
排 水 性 舗 装 は タ イ 国 で の 使 用 実 績 は ま だ な い 。雨 天 時 の ス リ ッ プ 事 故 防 止 に 効
果 が あ る た め 、雨 の 多 い タ イ 国 で 使 用 す る メ リ ッ ト は あ る 。し か し 、適 し た 骨 材
の 入 手 に 困 難 が 予 想 さ れ る こ と 、ま た 乾 季 に 埃 に よ る 目 詰 ま り 等 の 課 題 が あ る こ
とを考えると、タイ国への導入は難しいと思われる。
SMA舗 装 は 、 す で に DOHが 一 部 の 道 路 の 交 差 点 付 近 等 、 耐 久 性 が 要 求 さ れ る
箇 所 で 試 験 的 に 採 用 し て い る 。結 果 は よ く 評 価 さ れ て い る た め 、長 寿 命 化 の メ リ
ットについて広く認識が高まれば、今後は広まる可能性はある。
3)
GISを 用 い た 付 帯 施 設 の 管 理 技 術
GISを 用 い た 標 識 、 ガ ー ド レ ー ル 、 照 明 、 植 栽 等 の 道 路 付 帯 施 設 の 管 理 は 、 測
定 作 業 が 安 価 に で き る MMSの 開 発 に よ っ て 、 近 年 、 日 本 で は か な り 広 が っ て き
て い る 。し か し 、タ イ 国 で は ま だ 行 わ れ て お ら ず 、そ の 主 な 原 因 と し て は 、ベ ー
ス と な る 詳 細 な 地 図 が な い こ と 、そ し て GISを 使 っ て そ れ ら を 管 理 す る 必 要 性 が
低 い と 認 識 さ れ て い る こ と が 挙 げ ら れ る 。そ の よ う な 状 況 下 で 、日 本 の 計 測 系 中
小 企 業 が す で に 現 地 事 務 所 を 開 設 し 、参 入 を 試 み て い る 。し か し 、こ の 種 の 業 務
ニーズの創出にはかなりの困難が予想される。
304
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
(2)
橋 梁 等 の RC構 造 物
1)
点検及びデータベース
JICA
国際航業
DOHと DRRで 計 約 23,000の RC構 造 物 を 有 し て い る 。両 機 関 と も に 、橋 梁 マ ネ
ジ メ ン ト シ ス テ ム は 整 備 済 み だ が 、予 算 と 技 術 者 の 不 足 の た め 、点 検 作 業 が 停 滞
し て お り 、デ ー タ は ま だ そ ろ っ て い な い 。点 検 作 業 は 目 視 が 主 体 で あ る が 、デ ー
タ 入 力 は タ ブ レ ッ ト を 用 い て 現 場 で で き る よ う に な っ て お り 、シ ス テ ム 面 で は 十
分に整備されている。
関 西 測 量 が ひ び 割 れ 測 定 技 術 の 導 入 可 能 性 に つ い て 、 JICA資 金 を 使 っ て 2013
年にタイ国で調査を実施している。インフラ事業者から意見聴取したところで
は 、先 ず は 基 礎 的 な デ ー タ の 収 集 に 対 す る ニ ー ズ が 高 く 、今 後 段 階 的 に 正 確 で 詳
細なデータの収集が必要となってくる、ということである。
コ ン ク リ ー ト 劣 化 状 況 の 診 断 技 術 は 小 さ な 市 場 で あ る も の の 、す で に BMAが 類
似の機械を導入していることからニーズはあると推測される。
構 造 物 点 検 カ メ ラ 技 術 に つ い て も 、小 さ な 市 場 で あ る も の の 、DOHは 関 心 を 示
しており、導入の可能性がある。
点 検 が 非 常 に 困 難 だ が 非 常 に 重 要 な 数 少 な い 長 大 橋 に つ い て は 、日 本 で 現 在 開
発 中 の 橋 梁 の 変 動 自 動 測 定 シ ス テ ム 等 の 先 端 技 術 が 完 成 す れ ば 、導 入 の 可 能 性 は
生じると思われる。
コンクリートの補修技術
2)
BMAは 老 朽 化 の 進 ん だ 橋 梁 を 多 く 保 有 し て い る た め に 、コ ン ク リ ー ト の 補 修 に
コ ン ク リ ー ト 撥 水 保 護 剤 や 炭 素 繊 維 シ ー ト 等 を 既 に 用 い て い る 。 一 方 、 BMA以
外 で は 老 朽 化 し た 橋 梁 が ま だ 少 な い た め 、ま だ あ ま り 用 い ら れ て い な い 。し か し 、
将来はニーズが高まることは確実なため、新技術の導入可能性は高いと思われ
る。
特 に 、ケ ー ス ス タ デ ィ で 検 討 対 象 と し た RC床 版 の 増 厚 技 術 は 、EXATの 高 速 道
路 で の ニ ー ズ が 十 分 に あ る と 思 わ れ る が 、必 要 に な っ て く る 時 期 は 2020年 以 降 と
思われる。
(3)
上水道分野
1)
点検及びデータベース
MWAは 水 道 管 の GISシ ス テ ム を 維 持 管 理 に 十 分 に 活 用 し て い る 。補 修 デ ー タ 入
力 に も タ ブ レ ッ ト を 用 い て お り 、点 検・デ ー タ ベ ー ス に つ い て は 、か な り 日 本 に
近 い 水 準 で 実 施 し て い る 。PWAで も 233の 事 業 所 の う ち の 多 く の 事 業 所 で 、同 様
の体制で行っている。
地 中 埋 設 物 探 査 装 置 も 使 用 し て い る が 、直 接 管 路 内 を カ メ ラ で 確 認 出 来 る 機 材
の 導 入 等 は 、機 材 が 高 価 で あ る こ と 、タ イ 国 で は 販 売 が さ れ て い な い こ と 等 か ら
305
タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
JICA
国際航業
調達が困難な状況にあるが、より優れた性能の機械ならばニーズはある。
点 検・デ ー タ ベ ー ス で の 新 技 術 は ほ と ん ど す べ て 導 入 済 み で あ り 、上 記 の よ う
な新たな機材の導入と使用方法の指導であればニーズがあるという状況である。
管材
2)
ケ ー ス ス タ デ ィ の 中 で 使 用 す る 管 種 の 検 討 を 行 う 際 に 、現 地 で は 普 及 し て お ら
ず、日本に優位性のあるダクタイル鋳鉄管とポリエチレン管を候補案に含めた。
ダ ク タ イ ル 鋳 鉄 管 は 離 脱 防 止 目 的 に 日 本 独 自 で 開 発 さ れ た NS型 ダ ク タ イ ル 鋳 鉄
管 を 採 用 す る こ と で 、ポ リ エ チ レ ン 管 に つ い て は 進 ん だ 融 着 技 術( 管 と 管 を 接 続
する技術)に日本の優位性がある。これらを実際に日本から調達するためには、
タ イ 国 の 工 業 基 準 と 日 本 の JIS基 準 が 異 な る こ と が 、 障 害 と な る 可 能 性 が あ る 。
ポンプ
3)
ポンプについては、すでに多くの日本製ポンプが使用されている。
(4)
①
供給者としての日本に対する考察
維 持 管 理 作 業 に 用 い ら れ る 点 検 技 術 、補 修 技 術 は 市 場 規 模 が 小 さ く 、 さ ら に
日 本 の 供 給 者 の ほ と ん ど は 中 小 企 業 で あ る た め 、独 自 に 海 外 で 営 業 展 開 す る
こ と は 非 常 に 困 難 で あ る 。そ の 問 題 を 軽 減 す る に は 、NETISの 英 語 版 サ イ ト
を 作 り 海 外 か ら の 照 会 に 応 え ら れ る 体 制 を 整 え た り 、タ イ 国 で 日 本 の 維 持 管
理技術の展示会をしたり等、中小企業への営業支援策が有効である。
②
水 道 分 野 の 維 持 管 理 は 、 日 本 と 非 常 に 近 い 技 術 水 準 で 行 わ れ て い る た め 、日
本 の 優 位 性 は 特 に 認 め ら れ な い 。 MWAは 、 財 務 状 況 が 良 好 で あ り 、 ま だ 多
く の 技 術 的 問 題 は あ も の の 、自 分 た ち で 改 善 し つ つ あ る 。ま た PWAで は 担 当
範 囲 が 広 い た め に 、サ ー ビ ス 人 口 の 比 較 的 大 き な 20施 設 に つ い て は 運 営 を す
で に 包 括 委 託 し て い る 。 そ れ 以 外 の 施 設 は サ ー ビ ス 人 口 が 小 さ い た め 、採 算
を取るのが難しい。したがって、水道分野のに、日本企業が進出を検討する
に値する包括型契約の対象分野を見つけるのはかなり難しいと思われる。
③
有 料 道 路 に つ い て は 、 EXAT は 1993 年 か ら 民 間 委 託 を 導 入 し 、 現 在 で は
EXATの 道 路 の 34%の 運 営 維 持 管 理 は 民 間 企 業 に 任 さ れ て お り 、 そ の 運 営 状
態 は 良 好 で あ る 。 こ れ を 受 け 、 SEPOは 、 今 後 建 設 さ れ る す べ て の 有 料 高 速
道 路 区 間 に つ い て は 、 建 設 か ら 運 営 維 持 管 理 ま で 包 括 的 な PPPで 行 う 方 針 を
示 唆 し て い る 。し た が っ て 、新 規 高 速 道 路 へ の パ ッ ケ ー ジ 型 イ ン フ ラ 輸 出 は
可 能 性 が あ る が 、こ の 分 野 で は 競 争 相 手 と な る タ イ 企 業 も 十 分 な 経 験 を 有 し
ている。
④
無 料 の 道 路 に つ い て 、工 学 的 マ ネ ジ メ ン ト を 包 括 的 に 行 う 維 持 管 理 の パ ッ ケ
ー ジ 輸 出 に つ い て は 、組 織 の 財 源 が 非 常 に 厳 し く 採 算 が 取 れ る レ ベ ル の 報 酬
は期待できないと思われる。
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タイ国インフラ・マネジメント情報収集・確認調査
ファイナルレポート
⑤
JICA
国際航業
タ イ 国 へ の 進 出 を 図 っ て い る 計 測 系 の あ る 日 系 企 業 は 、多 く の 作 業 員 が 必 要
な 点 検 作 業 に つ い て 、タ イ 人 技 術 者 を 養 成 し て 、労 働 力 の 不 足 し て い る 日 本
等へ派遣するビジネスモデルの可能性も検討している。
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Fly UP