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不況期にこそ学ぶべき老舗の経営術
特集︱大不況サバイバル! ゴーイングコンサーンの秘訣を探る 前川 洋一郎 このことは、日本の産業が戦後、第1次 から第2次、第3次そしてITの第4次ま かる苦難なのだから、何もいいわけになら ないのではないかということだ。 世界同時不況が進行し、企業経営におい て企業寿命の短縮化、廃業率の上昇が問題 で発展してきたけれども そろそろ行き詰 まってきたことを示している。 になっている。100年に1度の大不況と 筆者が在職した電機業界は、 年ごとに 国の内外で大不況に落ち込み、そしてまた 4 いわれる中で、創業100年、200年を 4 苦境 4 立ち上がっている。そのとき、トップ経営 4 超 えて 長 寿 を 続 け る 老 舗 企 業 は どの よ う に 4 し か し 老 舗 は、 第 1 次 か ら 第 3 次 に 至 るどの業界でも、どこの地域にも存在する。 4 者はがむしゃらにコストを削減し、したた 4 して外部からやってくる荒波を乗り越えて 4 しかも100年いや200年、300年を 4 かに開き直って我慢をし、こっそりと次の 4 きたのか、組織内部の刷新をしてきたのか 4 超えてイキイキ永続繁盛しているのである。 その継続性、サステナビリティの秘訣 4 手を打っていくことで乗り切っている。 ― は何か、いまこそ老舗の長寿経営術に学ぶ 4 景気循環も構造変化も乗り越えて、サバ イバルする老舗のダイナミズムとは何か? 4 パナソニックを創業した故・松下幸之助 氏 は、 か つ て「 不 景 気 ま た よ し、 チ ャ ン ス べきではないか! 4 で あ る 」と 教 え て い る。 1 0 0 年 前 後 の 電 4 メガバンクもトヨタ4も4パ4ナ4ソ4ニ4ッ4ク4も4脱4 帽せざるを得ない、老舗の経営術に不況克 先 日 あ る メ デ ィア に「 老 舗 の 味 ― 老舗とは 「しっかりした 年輪のある企業」 4 4 4 4 4 4 4 4 機業界で、この循環の中、退場していった 服の秘訣があるのではないか。身の周りを いま、 なぜ老舗に学ぶべきか もう一つが、日本の産業構造の問題であ る。行政の偏重による関東集中、少子高齢 4 企業は多い。しかし老舗を見ると、景気の 見回してみよう! 昨今、ビジネスマン、商売人に出会えば 次の2つが話題となる。 のうえ、開業率を上回る廃業率による企業 化と家制度崩壊による家業の承継困難、そ まず、世界同時不況と騒いでいるが、こ れは景気循環の問題であって、少し厳しい 数の減少だ。 10 表現が許されるならば、全員平等に降りか き残っているのである。 波をしなやかに乗り越えて、したたかに生 流通科学大学非常勤講師・老舗学研究会代表 不況期にこそ学ぶべき老舗の経営術 Part ― 1 特集 6 りそなーれ 2009.7 ん老舗も創業が古いだけで「老舗づら」をし たら真の老舗企業は不快であろう。もちろ しかもトップは1~2代である。これを見 た。 よ く 見 る と そ の 企 業 は 戦 後 生 ま れ で、 業に老舗の特長、条件が多く表れるので、 家 の 経 営 力 で サ バイ バル し てい る 中 小 企 項の概念に関連するが、やはり同族企業 力でサバイバルしてきたものである。次 治経済の体制に順応して、組織力、資本 が多い。しかし、これらのほとんどは政 ② 従業員、資本金の規模でいえば、建設、 銀 行、 百 貨 店、 財 閥 系 の 大 企 業 に 老 舗 かりした芯がある。それが家訓、家系、強み、 る。木材の年輪を見てほしい。中心にしっ あ る。 老 舗 の 経 営 は、 「 年 輪 経 営 」と い え こ れ ら を 一 言 で ま と め る と、 老 舗 は 図 表 1のとおり、年 輪の多い木材と同じで の決め手となる。 める「のれん」があるかないか 徴 的 に 表 現 す る もの が「 の れ ん 」な の だ。 ていてはいけないのであるが。 従業員は1000人未満、資本金は1億 秘伝である。そして中心に近いところは心 に勝つ」 「 老 舗 の シ テ ィホ テ ル ……」と あっ 筆 者 が主 宰 する老 舗 学 研 究 会 がまとめた 老舗の定義は、次のとおりである。 円未満の企業を目安とする。売り上げは、 材として、新陳代謝の結果出来た古い、耐 *2 ― が老 舗 – かたちの有無は別にして、自他ともに認 ① 何よりも創業後の年数が気になるとこ ろである。学界や歴史研究家の先行研究 業界によってカウント方法が異なるので、 久性に優れた部分である。周辺になるほど *1 や、出版物を検索すると、概ね100年 基準とはしない。 辺材として、若い成長部分となり、それだ ©Y.MAEKAWA 中でも明 治 維 新 より 明 治 後 半の近 代 初 期 している ロ.創業者一族が経営陣に参加している 株は大きくなりすぎても小さすぎてもいけない ③ 特長、条件としては、 イ.屋号(社名) 、商号(ブランド)が継続 変革を経て、元禄のころ以前に生まれた ハ.創業者一族が発言できる程度の株式 根(地域、市場) に 生 ま れ た 1 0 0 年 前 後 の 企 業 を「 若 い 300年超の企業を「真の老舗」としてい い企業より年輪を重ねた老舗ほど芯がしっかりしていることをいう 老舗」 、幕末からさかのぼり、江戸の経済 る。100年前後を「若い老舗」 、3 0 0 を所有している ニ.創 業以 来、教え、戒め、経 営 方 針 を 年 超 を「 真 の 老 舗 」と して 区 分 す るの は、 第1に政治経済の体制の違いなど、その セールスポイントがある 一貫して遵守している ホ.伝統技術、商品、サービスなどの強み、 世 以 前 で は 全 く 異 な る か ら で あ る。 第 (辺材:新陳代謝をして いる若い部分、栄養分 多く虫がつきやすい) 家訓 秘伝 家系 (心材:新陳代謝の終わった 古い部分、 耐朽性に優れている) 芯 くぐり抜けてきた環境変化が近代と近 2に 先 祖 3 代 まで な ら 話 も 聞 くこと がで 以 上の5 項 目 の 少 な く と も3 項 目 以 上 に該当する企業である ④ 何よりも大事な定義というか、必須と いえる概念は「のれん」である。大小、栄 き、記録もたどれる。しかし、それ以前 に本研究会の調査結果から、100年と 枯に関係なく、永続繁盛するために不可 はさかのぼりようがないのである。第3 300年では経営戦略が違ってくる、と 欠のものが信用、世評である。それを象 りそなーれ 2009.7 7 いう理由からである。 大不況サバイバル! *2 塚越寛 『リストラなしの 「年輪経営」 ( 』光文社) で説明されている年輪経営は、 急成長よりも少しずつ前年より確実に成長する考え方であるが、 本稿の考えは若 *12005年(平成17)7月設立、代表前川洋一郎。 「老舗学」 は筆者の登録商標である 以 上が一つの目 安・区切りである。その ︱ 特 集 図表 ‐1 老舗の年輪経営 – け虫がつきやすいし、リスクに陥りやすい。 4 4 図表 3の経営戦略は、アンケート調査 結果を因子分析でまとめたものである。政 4 流行とは変わるものである。老舗によっ て、時 代によって、地 域によって、トップ 4 心 材 が しっか り し て い る こ と が 真 の 老 舗 で 4 策、方針、トップの声を共通・類似の要素 4 によって選択と方向が違うのである。事業 4 あり、辺材が目立つ細い木は若い老舗であ 4 でかたまりとしてくくり、7つの戦略パター 4 のドメインをどうするか、多角化か集中か、 4 ンとして分類し、特長づけたものだ。 「本業専心墨守型」 4 る。それでいて、年輪の幅が広く肥満的で 資 本 の 所 有 と 経 営 は 分 離 す べ き か ど う か、 第7因子 4 7.2% 4 「家憲・遺訓遵守型」 4 第6因子 4 7.6% 4 「顧客大事イメージ尊重型」 4 第5因子 4 7.6% 4 「伝統・和親一致型」 4 第4因子 4 7.7% 4 「コアコンピタンス練磨型」 4 第3因子 4 8.4% 4 「新時代感覚取込型」 4 第2因子 4 9.3% 4 「サプライチェーン重視型」 4 は木がもたない。しっかり締まっていかね 一族の経営参画はどうか、株を公開すべき 21 6.6% 第1因子 4 4 4 4 4 老舗には7つの戦略パターンがある その中であえていえることは、第4、第6、 第7の保守型と呼べる戦略の合計は ・ 図表 ‐3 300年超老舗の経営戦略 ばならないのである。 決め手、正解はないのである。 図表はかたまりの大きいものから挙げ たが、特筆するほどの目立った戦略はない。 ― どれも、差異が少ないのである。老舗とい かどうか 結果よしで、永続すればすべてよしなので 4%。逆に、第2の革新型といえる戦略は うものは本質的に似たりよったりといえる。 ある。 ” 表現は厳しいが、 勝てば官軍、生き残れ ば 老 舗 で あ る。 「 した た かに 」図 太 く 生 き “ 抜いているのである。 「したたか経営」が第 唯一で8・4%。残りの第1、第3、第5の ©老舗学研究会 「のれんに腕押し」 と 「保守革新の両刀使い」 2の共通点といえる。これら2つを一言で 「多角化への対応か本業重視か、 所有と経営は分離か一体か、 創業家から経営トップか専門経営者か、 株式公開か非公開か」 老 舗 学 研 究 会 が 全 国 369 社 の300 年 超「 真の老 舗 」を対 象に、2006年( 平 成 老舗の選択肢 <したたか経営> 戦略は保守でも革新でもない。老舗として 「迅速な苦情対応、 組織の風通し、 のれん・ブランドイメージ の重視、 拡大・成長より継続」 いうと「のれんに腕押し」であろう。 老舗の必須条件 <しなやか経営> *3 「不易」 と 「流行」 の概念がある )1 ~ 3 月 に 調 査 を 実 施 し た 結 果 は、図 老舗には – 表 2、同3のとおりである。 老舗学研究会 (数値はそれぞれの因子の寄与率)© – 図表 2の概念は、アンケート調査結果 を標準偏差分析でまとめたものである。老 舗 の 経 営 の 共 通 点 は 不 易 と 流 行( 伝 統 と 革 新 )で あ る。 不 易 と は 変 わ ら な い も の、 ど の老舗にも共通のものである。ということ は老舗の必須条件といえる。お客さまとの 双方向のコミュニケーション、社内の声の 風通し、お客さまの風評の重視、そして何 よりも大より小の心構えである。少しオー バーな表現をすると、われ関せずといった 感じで「しなやかに」スイスイと生き抜いて いるのである。 「しなやか経営」が第1の共 通点である。 図表 ‐2 300年超老舗の概念 18 *3調査内容、分析結果は 「老舗学レポート」 (老舗学研究会、08年10月発行<同年6月組織学会発表内容>) を参照した 8 りそなーれ 2009.7 こ の こ と か ら 老 舗 の 経 営 戦 略 の 特 長 は、 意 外 と 保 守 革 新 の 両 刀 使 いの 戦 略 とい え る く捉えている。 コンピタンス、川下のカスタマーを万遍な ンである川上のサプライヤー、川中のコア から第7をとおして、企業のバリューチェー 最小限に抑えるかが大切となる。 発 生 し た と き に い か に 最 小 コス ト で 被 害 を 企 業 自 身 で は リ ス ク は 避 け ることので き ない場合もある。日ごろから対応を考えて、 市場、海外への新規投資展開の4つである。 織内部、経営管理上の問題、そして④技術、 筆 者 が 分 類 す る リ ス ク は、 ① 自 然 災 害、 環 境 問 題、 ② 政 治 経 済 社 会 の 変 化、 ③ 組 れ まで 訪 問 取 材 し た 中 か ら 印 象 的 な 老 舗 経 るのか、どんな手を打っているのか 本当に生き残ってきた老舗はどうやってい は、どうして分かっていながら起こるのか、 てるよ」といってしまえばそれまでだが、で 産、廃業の事例は、 「いわれなくても分かっ などがある。これらの失敗、不祥 事、倒 が失敗した地方の温泉旅館 ころで商い」 ― こ 「大黒柱に車をつけよ、お客さまのいると ● イオン (小売業/千葉) いて成り立つ」 「代々続く老舗には代々続くお客さまが ● 山本海苔店 (乾海苔等の加工販売/同) と」 「老舗づらをするな、お客さまの決めるこ ● 榮太樓總本鋪 (同/東京) らお客は戻ってくる」 「かたちは同じでも他 店のものを食べた ● 熊谷屋 (同/仙台) 大きくならずよかった」 「都会に出ていたら競争で残らなかった、 ば」 ● 近藤染工場 (染色業/北海道・旭川) 営者の言葉をまとめてみよう。 らず団体客を狙った大型ホテルで、投資 のである。換言すれば「守成」の戦略となる。 ここ 2 ~ 3 年 の 老 舗 の 行 き 詰 ま り の 代 表 例を挙げると、 当然のマネジメントである。しかも、第1 マスコミでよく取り上げられ、財界で耳 にする「ビジョン」 「リストラ 」 「 M&A 」 「ア 「 し ん ぼ う が 大 事、 家 業 は 継 続 し な け れ う な カ ッコ よ い カ タ カ ナ の キ ー ワ ー ド は 出 ス」 「 ガバナンス 」 「コン プライアンス」のよ *4 ラ イ ア ンス 」 「イノベーション」 「 ファ イ ナ ン ① バブル期の本業外不動産投資で資金繰 りショート ● 五勝手屋本舗 (菓子製造販売/同・江差) 場を廃止 ③ 番 頭 に 任 せ す ぎ て 金 融 バ ブ ル に 乗 り、 本業以外のやりくりにのめり込んで、上 手との過当競争で赤字受注に落ちた ② 本業の強みである木造建築からコンク リート建築のマンション市場へ進出、大 てこないのだ。 老舗のリスクマネジメント 「バトンパス」 ジの低下、事業再生ファンドの支援を受 ④ 消費の2極化に乗って、低価格品によ る 輸 入 品 との 過 当 競 争 で ブ ランド イ メ ー 100年、200年、300年と生き永 らえた老舗企業は、古くは戦国時代までさ け入れざるを得なくなった ⑦ 顧客の嗜好が変わっているのに相変わ ⑥ うかつにも見逃してしまった賞味期限、 産地偽装 欺の乱脈経営 ⑤ 新製品不発から販売不振となり、撤収 が遅れ業績が低迷し、手形乱発、融資詐 かのぼり、貨幣経済の発達、江戸の3大改 革、幕末動乱・維新、近代資本主義への切 り替え、昭和金融恐慌、関東大震災、太平 洋戦争統制経済、戦後民主化、資産バブル、 阪神淡路大震災、ITバブル等々を経てき た。何らかの方策でリスクを乗り越え、 チャ 大不況サバイバル! りそなーれ 2009.7 9 ンスをものにしてきたのである。 ︱ 特 集 *4守屋洋『「貞観政要」 のリーダー学』 (プレジデント社) ● 俵屋 (旅館業/京都) 「歴史あるもの、なりふりかまわずはでき ● 花外楼 (日本料理料亭/同) 「自分の店 リスクマネジメントの第1は、 の分を知って立つ」 「 後に引 き 継 がな くては ● 御所坊 (旅館業/兵庫・有馬) 感に尽きるのである。 な ら な い 」とい う トッ プ の 分 限 責 任 の 使 命 ●一和 (和菓子製造販売/同) 「先祖からの預かりものでなく、子孫への 「そら毎日、頭から先祖のことが抜けませ ● 明珍本舗 (火箸等の製造販売/同・姫路) いかんによる。さらにいえば、 「引き際」の トップが交代する、次の者へ引き継ぐ、承 しても永続するための「バトンパス」である。 預かりもの」 大阪) 「のれんにあぐらをかくな、日々革新」 ● 司牡丹酒造 (酒造業/高知) 潔さが大事。責任を取るということは、実 「サービスは眼に見えないだけに違いを見 ● 新明館 (旅館業/熊本・黒川) の文言はもう聞き飽きてしまっているのだ。 ある。 育てるから、リスクをチャンスとする引き 際と引き継ぎのマネジメントが大切。それ ― こ れ ら か ら 見 え て く る こ と は「 お 客 さ ま 本位」 顧 客 のい う こ と に 身 を 任 せ て い は、繰り返すが「バトンパス(承継) 」なので 小さいことはよいこと、大 老舗経営の概念と秘訣について、これま でに「年輪経営」 「守成戦略」 「バトンパス」の ゴーイングコンサーンの条件 「駅伝経営」 と 「老舗のかたち」 当 者 が、子 会 社 が 」 「 役 所 に 届 けて あ る 」の 3つを挙 げてきた。さらに、これらを一言 部統制だ、ISOだ」の仕組み論、そして「担 責任転嫁論はここには出てこない。 ンスだコンプライアンスだ」の体制論、 「内 で の「 理 念 だ、 倫 理 だ 」の 精 神 論、 「 ガバナ よくある失敗、不祥事、退場のおわび会見 の上であること。この平凡な2点に尽きる。 きくはならない、眼の届く範囲、手のひら 「分限経営」 ― る、顧客の動きを感じていること。そして、 えるものにしないといけない」 いい換えれば、リスクのおかげで老舗は 老舗となり得るのである。リスクが老舗を 継をいかに準備しておくか、バトンパスの 「伝統的ということは、実は変わり続ける 行を伴わなければならず、口先だけでは世 京都に現存する最古の旅館として知られる俵屋。敷地の中にある複数の中庭・外庭が 全客室から見えるように配置され、 洗練された数寄屋風建築に優雅さと風格が感じら れる。1999年 (平成11) に文化庁から登録有形文化財に指定された ん」 ● 和田哲 (寝具の販売・卸・仕入/同) 「扇子はすべて閉じたらあかん、広げると ことですが、品質へのこだわりは貫きま 間は納得しない。政治家のよく使う「遺憾」 きも目一杯広げてはいかん」 す」 ● あみだ池大黒 (粟おこし・米菓製造販売/ 「元祖だす、細々やってます」 ません」 「客室を 室より増やさないのが、お客さ 写真提供/共同通信社 第2は、リスクに遭遇したとき、リスク を予知したときにどうするか。それは何と まにとっても従業員にとってもよい」 18 *5 福沢諭吉『文明論之概略』 (松沢弘陽校注、岩波書店) *6 ドイツの政治家宰相オットー・フォン・ビスマルク (1815-98) の言葉 10 りそなーれ 2009.7 と、和の精神でもって我を殺し、フォアザ 区間をとおしてリーダー(監督、主将)のも スキ(バトン)を渡していく。そのうえ、全 た担当区間を精一杯走り切り、次走者へタ 老舗はゴールのない駅伝競走である。区 間の長短、走路の勾配はあっても、任され でまとめると「駅伝経営」となる。 は、創 業以 来から今日まで図表 4のとお あり方が大変大事である。 「 老 舗のかたち 」 国家であれ、企業であれ、その「かたち」の 明論之概略』で「国のかた 福沢諭吉は『文 ち」 の大切さを説いている。組織というもの、 かたち」が出来上がってくるのである。 してゴーイングコンサーンの結果、 「老舗の 声なき声、すなわち世間さまである。そう 見 て い る の は 見 え な い と こ ろ か ら の 視 線、 生き残っていく。老舗もまたしかりである。 森 林 の 木 は、 季 節 の 変 化、 害 虫 の 脅 威、 隣の木との接触などを乗り越えて、自分で くなる。 継 ぎの 次 走 者 も 自 分 で 選 ば な け れ ば な ら な 間も自分で決めなければならないし、引き がいないことになる。さらに、引き継ぎ区 律違反をしなければ、注意してくれる審判 老舗の駅伝経営では、先代が亡くなれば うるさく議論をする監督がいなくなる。法 ルも引き継ぎ区間も決められている。 そ の と き 注 意 し な け れ ば な ら な い の は、 駅伝競走には監督がいて、 審判もいる。ルー 重ねることが、真の老舗への道である。 への条件である。駅伝経営に徹して年輪を 長 寿 の 会 社 ほ ど 歴 史 を 公 正 中 立に 伝 えて おり、短命の会社は勢いがよくても、体験 だ、信用できる」といってくれるのだ。 出 来 る の で あ る。 そ う す れ ば 世 間 は「 立 派 責任感が向上し、 「老舗のかたち」が上手く も教材にしてほしい。そこから次代の経営 失敗も公明正大に語り、リスクもチャンス 田引水ではだれも聞いてくれない。成功も まとめ、語らねばならない。先祖自慢、我 社 会 の 公 器 」で あ る と の 視 点 か ら、 歴 史 を 蛇足ではあるが、老舗となるためには規 模の大小、歴史の長短に関係なく、 「企業は となる。 の歴史(社史、店史)の教育が何よりも大切 ることである。そのために子弟・従業員へ うことは、歴史を大事にする、歴史を続け サーンの結果、 「老舗のかたち」をなすとい この「老舗のかたち」は、企業の歴史であ り信用だといえる。だからゴーイングコン である。 ている。これが、いわゆる「老舗のかたち」 間が口にする評判、価値、信用は、図表 家系、家訓、秘伝、強みである。そして世 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 者の勘は磨かれ、予知能力は発達し、分限 *6 – チームに徹する。 り、経営の歴史が企業の背骨を成育し、外 の延長線上にあることが多い。 「賢者は歴史 – (ス しかもチームの関係者、駅伝の関係者 テークホルダー) すべてと共存共栄を図って 的 環 境 要 因と内 的 環 境 要 因でかたちを支 え に 学 び、 愚 者 は 体 験 に 学 ぶ 」と い う 言 葉 を 1で説明した年輪や、同4の魚全体を指し いくのである。業界や地域社会、そして同 ており、全体が成り立っている。 いま一度噛みしめてみたい。 *5 族と協調する老舗そのものである。 真ん中の背骨は老舗のかたちを貫く理念、 大不況サバイバル! このことがゴーイングコンサーン(継続) ︱ 特 集 りそなーれ 2009.7 11 図表 ‐4 老舗のかたち 歴史がかたちをつくり、 かたちがイメージ、信用となる ©Y.MAEKAWA 前川 洋一郎(まえかわ・よういちろう) 流通科学大学非常勤講師・老舗学研究会代表 1944年(昭和19)大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒業後、松下電 現在終身客員。高知工科大学大学院や関西外国語大学国際言語学 器産業㈱(現・パナソニック㈱)へ入社し、経営企画室長、IT教育研究 (編著) 『予兆発見 百の小話』 (共著)など。 所長、eネット事業本部長などを歴任。取締役、渉外担当役員を経て、 『カラオケ進化論』 部、大阪商業大学大学院でも教鞭を取る。博士(学術)。主な著書に