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環境と太陽電池

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環境と太陽電池
環境と太陽電池
環境と太陽電池
Solar Cells and Environment
鈴 木 皓 夫 *
Akio Suzuki
要 旨
地球温暖化原因の一つと言われる二酸化炭素を発電
に際して排出しない太陽光発電は,クリーンな新エネ
ルギー源として注目されている。太陽光発電システム
に用いるシリコン太陽電池は珪石(二酸化ケイ素)を
炭素で還元した金属シリコンを高純度化した半導体基
板を用いて作られる。火力発電からの電力を用いて太
陽光発電システムを生産すると二酸化炭素の排出があ
り,その量は,太陽光発電システムを 20 年間使用する
として,1kWh当たり20.1gに相当する。火力発電の排
出量は 194.4g / kWh なので,差の174.3g / kWh が削減
出来ることになる。例えば住宅用の3 kW システムで
は,1年間に約550kgの二酸化炭素の排出削減に相当す
る。家庭からの排出量は,日本人一人当たりの排出量
2.43 トンの 12.5%であるから,4人家族の年間排出量
1.22トンの 45.1%の削減に相当し大きな効果と言える。
Photovoltaic (PV) system discharges no carbon dioxide,
which is the cause for the greenhouse effect, because PV
system converts clean energy from sun into electricity.
There is discharge of carbon dioxide during the production
of PV system, because electricity from thermal power
generation is used. The discharge quantity is equivalent to
20.1g-C/kWh of carbon as carbon dioxide, when PV
system is used for 20 years. The discharge from thermal
power generation is 194.4g-C/kWh. As a result, replacing
thermal system with PV system can reduce 174.3g-C/kWh.
For example, 3kW PV roof top system can reduce about
550kg carbon dioxide every year. This amount is
equivalent to reduction of 45.1 % of discharge (1.22t) from
a Japanese typical family of four.
まえがき
1997 年 12 月に京都で開かれた「気候変動枠組条約
* 電子部品事業本部
第三回締約国会議(COP3)
」では,6種類の温室効果
ガス(CO2,CH4,N2O,HFC,PFC,SF6)を 1990 年
比で少なくとも先進国平均で 5.2%,全体で5%を
2008 ∼ 2012 年を目標期間として削減することとな
り,EUが8%,米国が7%,日本は6%と具体的数
値目標として決まったことは記憶に新しい所である。
日本におけるこれらのガスの排出量割合は二酸化炭素
が 92%を占め,次いでメタン・亜酸化窒素が5%,代
替フロン等の3ガスが3%となっている。
従って,二酸化炭素の削減対応の強化が必要であ
り,政府は「エネルギーの使用の合理化に関する法律
(省エネ法)」の改正を準備中である。改正(案)では,
自動車,家電・OA 機器等に対して,現在商品化され
ている製品の中でエネルギー消費効率の最も優れてい
る機器の性能以上にするというトップランナー方式の
導入や,工場・事業場でのエネルギー使用の合理化を
徹底するため削減を数値化して計画的に推進すること
や,罰金や過料の金額の検討などが含まれている。
一方,
太陽光発電や風力発電などから得られる電力
を使用した場合,
その分については使用の合理化の対
象エネルギーから除外される。すなわち,クリーンエ
ネルギーを使用する限り制約はない訳で,
太陽光発電
が工場・事業場で導入が進むことが期待出来,普及拡
大の条件が一つ加わることになる。
1. シリコン精製と太陽電池生産プロセスの排出物
IC や LSI などに用いられている半導体用のシリコ
ンは、原料のケイ石を炭素で還元して得られた純度98
%前後の金属シリコンに水素と塩素を反応させて得
られるトリクロロシラン(SiHCl、常温で液体)を多段
蒸留したのち還元して得られる高純度シリコン(∼
9N)に,p型やn型の導電性を与えるための微量の
元素を加えて単結晶化し薄板(ウエハ)に切り出して
用いる。
これらの過程で生じる主な排出物は,
原料のケイ石
を炭素で還元する際の一酸化炭素や表面処理に使用す
るフッ化水素などの排水処理残渣などである。前者は
燃料などに使用し,後者はコンクリート原料化への検
―9―
シャープ技報
第70号・1998年4月
討が進められている。
太陽電池の半導体基板となるシリコンは,ICやLSI
用などの規格外品を用いたり,
結晶のトップやテイル
などの端材を再度単結晶や多結晶(キャスト)基板化
して使用している。シリコン太陽電池の素子製造工程
では,光の反射を抑え吸収率を高めるためのテクス
チャ処理と呼ばれるピラミッド形状の微細な処理がシ
リコン基板表面に施されたのち,pn接合、反射防止膜,
正負電極などが順次形成されて太陽電池素子となる。
太陽電池素子単体の出力電圧は 0.5 V程度と低いの
で,使用負荷に合わせて必要な枚数を直列に結線し,
透明樹脂に挟んで裏面保護フィルムとともに真空中で
加熱加圧しながら透明の強化ガラス板に張付け,出力
端子や取付け枠を組付けて太陽電池モジュールとする。
この間に使用される化学薬品は,
テクスチャ処理に
使用される苛性ソーダやアルコールと中和用の塩酸や
フッ化水素水などで何れも処理方法が確立しており,
現在排水処理残渣のコンクリート原料化が検討されて
いることは半導体産業全般と共通である。
このようにシリコン太陽電池は原料精製過程から太
陽電池モジュールの完成にいたる全工程での排出物が
少なく,
また処理方法も確立している事がクリーンと
いわれる所以である。
図1 二酸化炭素排出の世界合計 62 億トンの内訳
(炭素換算,1994)
Fig. 1 World emissions of carbon dioxide in 1994.
相殺され,
現在は横ばい状況にあるが今後も増加して
行く傾向に変わりは無い。1)
図2に一人当たりの排出量を国別で示した。
日本は
2.43 トン/人で世界平均の 1.10 トン/人の2倍以上
を排出している。
このうち家庭から排出される分は約
0.3 トン/人(12.5%)で1) 国民一人一人が省エネに
努めることが第一に必要であるが,
住宅用太陽光発電
システムを設置し使用した場合にはどのような効果が
あるのかを次の項で述べたい。
2. 二酸化炭素排出量の現状
図1に1994年の二酸化炭素排出量を示す。各国別に
見ると,米国 22.4%,中国 13.4%,ロシア 7.1%,日
本 4.9%となっており,この4カ国だけで世界の約
半分を排出している。排出量の推移は産業革命以降,
オイルショック時期の一時的な減少はあったものの
1990 年代は旧ソ連・東欧諸国の排出量の減少により
図2 1994 年の一人当たり二酸化炭素排出量
Fig. 2
Emissions of carbon dioxide per person in 1994.
表1 住宅用太陽光発電システムによる二酸化炭素排出削減効果
Table 1 Carbon dioxide reduction by using photovoltaic power system.
電 源
(単位:g-C/kWh)
石炭火力
石油火力
LNG
電源別二酸化炭素排出量
256
196
162
電力需要実績構成(1992年,
%)
18
45.5
36.5
194.4
二酸化炭素排出加重平均値
住宅用太陽光発電システム設置方式
多結晶
シリコン
二酸化炭素
排出量
太陽電池
二酸化炭素
削減量
アモルファス
二酸化炭素
排出量
シリコン
太陽電池
二酸化炭素
削減量
10MW/年生産
屋根置き型
建材一体型
20.1
17.0
100MW/年生産
13.5
10.7
10MW/年生産
174.3
177.4
100MW/年生産
180.9
183.7
10MW/年生産
15.6
8.0
100MW/年生産
11.4
5.2
10MW/年生産
178.8
186.4
100MW/年生産
183
189.2
― 10 ―
環境と太陽電池
3. 住宅用太陽光発電システムの二酸化炭素削減効果
太陽電池は太陽光線を直接電力に変換するので発電
に際して二酸化炭素等の排出はない。システムは,太
陽電池モジュール,取付け架台,パワーコンディショ
ナー(系統連系インバータ)や配線用部材で構成され
るが,
これらの構成部材を生産する際に消費したエネ
ルギーに対応した分の二酸化炭素が排出される。排出
量は太陽電池の種類や生産規模,
屋根への設置方式な
どにより異なるが,
大規模生産であるほどエネルギー
効率が良くなるため発生量が少なくなる。また,住宅
用太陽光発電システムの設置後メンテナンス部品の生
産と交換に消費されるエネルギーによる排出量も考慮
した排出量の分析結果が表1である。
計算の前提として住宅用太陽光発電システムを 20
年間使用するものとした時,
排出される二酸化炭素の
炭素換算値は,現在の多結晶型の生産規模(10MW/
年)では屋根置き型で 20.1g-C / kWh となり建材一体
型では 17.0g-C / kWh となる。また,アモルファスシ
リコン型では,それぞれ15.6,8.0g-C/kWhとなる2)。
なお,現行の発電方式には,表1に示す他に原子力や
水力,
地熱など化石燃料を使用しない電源もあるが二
酸化炭素の排出は少ないので表から省いた。
仮にこれ
らの電源による電力で住宅用太陽電池システムを生産
した場合は,排出量は更に少なくなる。
商用電力における排出量と太陽光発電の排出量を比
較するため,
化石燃料をエネルギー源とする電源から
の二酸化炭素排出量4) を,電力需要実績値(1992 年
値)に基づく構成比3)で加重平均し,石炭,石油およ
び LNG 発電を火力発電一本にまとめて炭素の排出量
を求め 194.4g-C / kWh を得た。
表1から,太陽光発電が現状レベル(10MW /年)
の生産量である場合,
多結晶型の住宅用太陽光発電シ
ステムでは174.3g-C/ kWh(=194.4-20.1)の削減効果
が得られることが分かる。
日本における太陽光発電システムの年間の発電量
は,システム利用率が12%となるので,太陽電池1W
当たり 1,051Wh /年(1 W × 8,760h /年× 0.12)と見
積もられるので,183.2g-C/年・W(=174.3g-C/kWh
× 1.051kWh /年・W)の削減ができる。従って,例え
ば3 kW の住宅用太陽光発システムを設置した場合,
1年間で 550kg-C /年・戸(≒ 183.2g-C /年・W × 3kW
/戸)の削減が期待できる。日本の平均的な4人家族
では1.22トン/年(≒2.43トン/人・年×4人×0.125)
排出するので 550kg は 45.1%の削減を意味する。
昨年度までの戸建て住宅の建設戸数は年間 60 万戸
程度であり,既築住宅の屋根リフォーム戸数は 20 万
戸程度ある。例えばこの中の 11.5 万戸(11.4%)に現
在の代表的規模である4kWシステムを毎年設置した
場合,460kW /年の市場となり 10 年では 460 万kW
の導入が可能となる。従って,国の「新エネルギー導
入大綱」の目標値,累積で 2000 年までに 40 万kW,
2010 年までに 460 万kW(炭素換算 84.3 万トン相当)
は,実現可能であろう。
総合エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通し
に基づく 2010 年時点での一次エネルギー総供給量
6.35 億 kl(石油換算)に占める割合は僅かに 0.071%
と少なく,太陽光発電の存在感が得られない。また,
2010 年の予測発電電力量 11,330 億 kWh(電気事業審
議会需給部会中間報告 1996,6)に対しても,太陽光発
電 460 万kWによる年間発電電力量は 48.3 億 kWh で
0.43%にしかならない。ビジョンとターゲットを明確
にした国の導入施策の展開を期待したい。
むすび
今後,
住宅用太陽光発電システムの導入が進み置き
換え需要が生じる時代になると,
当然のことながらリ
サイクルや廃棄が必要になる。従って、設計時点から
リサイクルや廃棄を織り込んだ商品として行かねばな
らない。また、廃棄に際しては環境安全性の確保はも
とより,出来るだけ短期間で腐食や微生物等によって
土に帰る材料構成が必要である。
その意味からも安全
性の高い有機半導体を用いた太陽電池の出現が待たれ
る所である。
太陽光発電システムはエネルギー供給サイドの商品
であり,当社の製品の中ではただ一つの存在である。
現在国により準備が進められている省エネ法は,
エネ
ルギー消費サイドからの規制であり,
太陽光発電のよ
うなエネルギー供給サイド商品に対する具体的施策に
ついては,
今後新エネ法の充実とともに整備されて来
るものと考える。
参考文献
1) 平成9年度「環境白書
(総説)」環境庁編
2) 「太陽光発電評価の調査研究」NEDO委託業務成果報告書,
太
陽光発電技術研究組合,
(1997,3).
3) 「総合エネルギー統計」平成8年度版,
資源エネルギー庁長官官
房企画調査課編
4) 内山,
山本「発電プラントの温暖化影響分析」
(財)
電力中央研究
― 11 ―
所報告,Y91005,(1992,5)
.
(1998年3月9日受理)
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