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国土文化研究所年次報告 - 株式会社建設技術研究所

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国土文化研究所年次報告 - 株式会社建設技術研究所
VOL.7 Nov. ’09
国土文化研究所年次報告
ANNUAL REPORT OF RESCO
Research Center for Sustainable Communities
はじめに
国土文化研究所
所長
原田邦彦
国土文化研究所の活動も、関係する皆様のお蔭をもちまして、設立8年目を半ば過ぎよう
としています。
ご案内の通り、国土文化研究所は、
「従来の建設コンサルタントの枠にとらわれることなく、
『文化を育む豊かな空間』つくりを目指し、工学はもとより歴史、文化、景観、環境等の幅
広い領域にも目を向け、広範な技術を磨くと共に、社会・経済や行政等の社会システムのあ
り方についても情報発信する」ことを目的として、設立されました。
設立当初においては、建設コンサルタントの担うべき新しい業務分野の研究を行い、総合
防災、地域エネルギー、アセットマネジメントなどの新業務を行う組織の立ち上げに貢献し
てまいりました。また、社会資本の整備に関する基礎的な技術といえる柔構造、マイクロバ
ブル、ヒートアイランドなどの開発研究も行い、当社の技術力向上に貢献してまいりました。
ここ数年は、地域活動、出版事業、講演会開催などの、社内外を繋ぐ活動にも積極的に取
り組むようになってまいりました。今後とも、社会との係わりを高め、設立の目的である「社
会・経済を含む幅広い分野での情報発信」のできる研究所になるよう努めてまいりたいと存
じます。
今回報告する「年次報告 VOL、7」には、平成 20 年度の当研究所の基礎である自主研究
と共通研究から、主な研究成果の概要を取りまとめ、掲載しております。是非、ご高覧頂き、
何らかの参考にして頂けましたなら、幸いです。
最後に、調査・研究にご協力頂いた皆様方に感謝申し上げますと共に、今後とも忌憚のな
いご意見と暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
国土文化研究所年次報告 VOL.7
目
Nov.’09
次
はじめに
国土文化研究所所長
原田 邦彦
1
《研究報告要旨》
《研究概要》
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
東京本社 道路・交通部
〃
〃
〃
〃
〃
〃
東京本社 都市部
〃
東京本社 社会システム部
地域マネジメント室
〃
中部支社 総合技術部
国土文化研究所 企画室
〃
技術顧問
前田 信幸
今井 敬一
野見山尚志
土屋 三智久
山田 敏之
鈴村 雅彦
海老原寛人
小原 裕博
田中 文夫
牛来
司
水政策研究
Research report of a world water policy
国土文化研究所 企画室
伊藤 一正
11
行政マネジメント研究
The study of Public Management
東京本社 社会システム部
地域マネジメント室
〃
〃
マネジメント事業部
東京本社 都市部
国土文化研究所 企画室
牛来
17
長南
辻
大堀
福田
金子
政宏
桂子
勝正
裕恵
学
国土文化研究所 企画室
金子
学
26
国土文化研究所 企画室
木戸 エバ
34
国土文化研究所 企画室
〃
今西 由美
伊藤 一正
41
医療連携ビジネスに関する研究
カウンセリング理論に基づく心理社会調査法開発の試み
A preliminary study on developing a Psycho-Societal Research
Methods based on the SAT Theory
NEW URBAN AND LANDSCAPE
NIHONBASHI DISTRICT IN TOKYO
文化事業創出研究
Study on the Sightseeing
DESIGN
OF
THE
4
長南 政宏
江守 昌弘
金子
学
今西 由美
国久荘太郎
司
人材開発手法研究
The study of method for the human resources management
ユビキタス社会における情報技術の研究
Research of information technology in ubiquitous society
東北支社 総合技術部
東京本社 環境部
中部支社 河川部
九州支社 都市室
東京本社 社会システム部
地域マネジメント室
〃
東京本社
松本
千田
廣澤
和泉
健一
庸哉
遵
大作
長南
中島
中村
政宏
満香
哲己
東京本社 情報部
〃
〃
東京本社 道路・交通部
東京本社 水システム部
東京本社 都市部
東京本社 ダム部
東京本社 河川部 砂防室
東京本社 社会システム部
環境システム室
磯部
福島
秋本
加藤
設楽
小原
石田
笹山
猛也
博文
達哉
宣幸
昌宏
裕博
裕哉
隆
48
55
松崎 浩憲
総合地下水研究
東京本社 都市部下水道室
Study of the Ground Water Management and Mathematical Model
〃
東京本社 河川部
東京本社 地圏環境部
東京本社 道路・交通部
東京本社 水工部
東京本社 構造部
国土文化研究所 企画室
〃
〃
蛯原 雅之
渡邉 暁人
久保田 明博
小林
滋
野村
貢
古野 貴史
原
隆史
伊藤 一正
金子
学
今西 由美
63
国際人材ネットワーク基盤研究
国土文化研究所 企画室
Study on Development of International Human Resources Network
〃
和田
71
東海天然ガス輸送パイプライン及びガス発電事業の
事業化研究
Feasibility Study on the Tokai Natural-Gas-Pipeline
Distributed Gas-power-plant
彰
松崎 浩憲
東京本社 社会システム部
環境システム室
国土文化研究所 企画室
志田 忠一
他省庁系の地域振興政策に関連する事業展開の開発研究
国土文化研究所特命研究員
森山 弘一
87
日本橋再生研究
国土文化研究所 企画室
〃
伊藤 一正
今西 由美
95
Research for Nihombashi Area Restoration
and
注)所属は、平成21年12月現在のものです。
79
研究報告要旨
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
急速な少子高齢化の進行、中国の経済的台頭などによる世界的な経済枠組みの変化等を背景とし、国内の各分野の
政策が転換点を迎えつつある中で、地方財政改革などの推進により、行政組織、手法自体も変貌する可能性が高い。こ
れらを踏まえると当社が、将来に渡り安定した技術力と生産性を保持し、より信頼させるコンサルタントとして地位を確保し
てゆくためには、公共政策の動向を的確に把握し適宜必要な技術を習得してゆくことが不可欠である。本研究では、これ
らを踏まえ、記の背景の元、「交通経済」、「物流」、「観光」、「地域経営」というキーワードに着目し、それぞれの研究会を
通して知識と技術の移植を図るとともに、当社の商品技術として育成することとした。
水政策研究
Research report of a world water policy
本論文は、世界の主要な国別・機関別の水に関する政策を調査し、21世紀の水問題を概観するとともに、日本が世界
の水問題にどのように貢献できるか、特に建設コンサルタントは世界の水問題の解決に何ができるか提案したものである。
21世紀は水の世紀と言われ、多くの識者は、各国が安定的に成立するためには如何にして水を確保できるかが最大の課
題であるとも言われている。衛生を確保するための水、食料を確保するための水などを含めて、水に関する正しい知識の
共有のあり方を示したものである。
行政マネジメント研究
The study of Public Management
本研究は、行政マネジメントを、①社会資本整備マネジメントに関わるビジョン策定手法、②政策評価を用いた土木行
政改革支援方策、③規制影響分析(RIA)の 3 つの切り口から分析したものである。それぞれのテーマにおいて現況を整
理・分析を行い、その結果、地方自治体への営業展開の糸口を見つけることができた。
医療連携ビジネスに関する研究
カウンセリング理論に基づく心理社会調査法開発の試み
A preliminary study on developing a Psycho-Societal Research Methods based on the SAT Theory
これまでの既成感を排して新たな視点で社会を考えることや今後の持続可能な社会システム構築の必要性が高まって
いる今日の社会において、個々人の中に眠っている独自の考えや意見を抽出し、真の気持ちや心理を汲み上げて統合
化することが社会全体の意識や意向とできるような調査者の恣意性を出来るだけ排除した社会や市場の調査手法が求め
られている。本研究は、過年度においてカウンセリング理論であるSAT法(宗像 1997)を活用し、個々人の日常的エピソー
ドと背後にある気持ち等の情報入力用システムを教材として長期間の入力調査を実施し、そこから得られたストレス影響因
子に関する情報を使って個人の心理をモニタリングする手法を開発した。本稿はそれらを活用した発展的検討として、ある
集団と時間断面でのモデル調査を実施して目標とする調査法および解析法が成立するのかについて検討した。
NEW URBAN AND LANDSCAPE DESIGN OF THE NIHONBASHI DISTRICT IN TOKYO
Waterfront is an area of a city (such as a harbor or dockyard) located alongside a body of water (river, canal or seaside).
Urban renewal projects often focus on unused harbors and docklands to transform these neglected areas into attractive urban
waterfronts. While the redevelopment of post-industrial dockland, riverside and canal-side sites often poses specific
challenges in terms of reclamation, environmental enhancement, and land assembly, there is a widespread recognition that
the location of the development near water holds a timeless charm which can attract increased values. Links can also be
made with the recognition of heritage as an asset. Once viewed solely as a location for shipping and industry, urban
waterfronts today are recognized as areas with tremendous potential for economic development, innovative housing,
recreational facilities and connections to natural areas and the environment. Waterfront projects recreate bustle and activity
of the area and lead to regeneration of historic places. They are landmarks for tourists and they also offer entertainment
alternatives to the local community. Newly developed waterfronts improve the image of the city and attract people.
Nihonbashi is an old Tokyo center, which once had many canals and was the “city on the water”. It was important part of
Tokyo, a heart of commerce and culture. Today the Nihonbashi waterfront is largely non-existent. The Nihonbashi River is
-1-
not accessible and in current state can not attract people. Nihonbashi Bridge - the central point of Tokyo and Japan – has
been covered by the Metropolitan Expressway. Nihonbashi has many assets but they are all scattered and it is hard to
discover the beauty of Nihonbashi The rehabilitation of Nihonbashi can be perceived as the rehabilitation of the old
waterfront.
The European examples show that such developments are successful and can revitalize not only the district but also the
city. If the following elements would be considered and improved at Nihonbashi, it might become the central tourist spots –
one which has not been established in Tokyo so far: revalorization of the river and provision of an access to the water,
preservation of historical bridges and construction of new ones with particular aesthetic design, re-planning of streets and
roads, provision of easy access to the central station and making attractive pedestrian spaces, combination of old and new
architecture and creation of landmarks, delivering of long-live, interesting functions to new developments. Partly
reconstructed downtown at Nihonbashi could be another point of interest for foreign tourists. Nihonbashi project, comprising
of new urban and landscape design, has the potential of changing the image of Tokyo.
文化事業創出研究
Study on the Sightseeing
我が国では、人口減少・少子高齢化問題に対応すべく、観光政策が具現化している。2007 年 1 月に観光立国推進基本
法が施行されたのを契機に、2007 年 6 月には観光立国に向けて総合的かつ計画的な推進を図るための観光立国推進基
本計画が閣議決定された。そして 2008 年 10 月には、国土交通省の外局として観光庁が設置された。政府は、2010 年ま
でに訪日外国人旅行者を現在の 835 万人から 1,000 万人にする等の目標の下、観光立国の実現に向けた様々な施策を
展開している。本研究では、日本の観光産業の現状を調査し、日本橋地域をケーススタディとして江戸日本橋観光めぐり
事務局による観光めぐりを実施し、今後の有効な観光事業を考察するものである。
人材開発手法研究
The study of method for the human resources management
文献のレビューと他社の人材開発事例を整理することで、今後のCTIの人材開発に有用な視点得られた。また、中堅社
員・管理職へのヒアリングや座談会を実施したことにより、人材を育成する側とされる側の「期待と不安」に関する生の声を
聞くことができ、当社の人材開発に関する現状と課題を評価することができた。そして、それらの課題を踏まえた上で、CTI
における今後の人材開発の方向性を示した。
ユビキタス社会における情報技術の研究
Research of information technology in ubiquitous society
ユビキタス社会における情報技術の研究としては、無線技術とセンサー技術および組み合技術が重要である。本研究
では、特に無線技術を中心とした技術の収集整理を行い、この技術を利用して砂防、水理実験、環境、ダム分野のニーズ
に合わせてセンサー開発及び実験を行った。「ICタグを用いた河床礫の移動実態調査手法開発」、「河川構造物変状検
知センサー」の開発研究を行った。これにより、幅広い分野での適用研究を実施でき、要素技術及びその応用手法につい
ての技術習得ができた。
総合地下水研究
Study of the Ground Water Management and Mathematical Model
近年の都市問題、地球環境問題等の解決につながる水循環適正化の一側面として、地下水保全・利用等に関する検
討を行った。地下水利用による地盤沈下の収束傾向に関する統計データを用いた再評価の考え方、大気・土壌環境の数
値予測手法、帯水層利用による都市浸水対策・非常時用水確保等、地下水マネージメント手法に関連する検討を行い、
地下水保全・活用等の観点から新たな水循環管理について提案したものである。
国際人材ネットワーク基盤研究
Study on Development of International Human Resources Network
本研究は、河川環境分野の人・情報循環を核とした国際ネットワークであるARRN・JRRN運営をケーススタディと位置付
け、建設コンサルタントの新業態の展開、新たな国際ビジネス創出、また官民協働による社会貢献活動などを視野に、本
ネットワークの安定基盤構築と持続的発展のあり方を検討し、今後の事業展開像を示した。
東海天然ガス輸送パイプライン及びガス発電事業の事業化に関する研究
Feasibility Study on the Tokai Natural-Gas-Pipeline and Distributed Gas-power-plant
本研究は、東海地区における天然ガス幹線パイプライン及び分散型ガス発電事業構築に係わる研究の第一ステップで
ある。本論文では、天然ガスパイプライン事業立上のためのコンソーシアム組織化に関する検討・東北地区におけるガス
パイプライン事業化可能性調査と、分散型ガス発電事業については長岡地区をケーススタディとして取り上げ事業化可能
性の検討調査についてその結果を載せた。
-2-
他省庁系の地域振興政策に関連する事業展開の開発研究
本研究では、CTIにおける新規顧客開拓の一環として、これまで当社が手つかずであった産業振興分野(当社が従来
から得意とする分野以外)について、業務獲得のための知見・ノウハウ等の蓄積、及び、業務獲得の試行等を3年間にわ
たって実施することにより、他省庁系業務開拓の可能性や展開戦略等を明らかにするものである。本報告は、研究開始か
ら9ヶ月を終えての中間報告であり、これまでの取組内容、今後の見通し等を整理したものである。
日本橋再生研究
Research for Nihombashi Area Restoration
日本橋地域は江戸時代から続く東京の賑わいの街で、日本の行政・商業・文化の中心である。この日本橋地域の賑わ
いの再生は地域全体の要望であり、東京都や国に地域で検討した再生案の提案を目指している。本研究は、地域の一員
として日本橋地域再生案の議論に参加し、河川再生や舟運計画の案を研究した結果と、日本橋地域をはじめ、港区、千
代田区を含む広域の観光資源開発に取組んだ結果を示したものである。
-3-
道路将来政策研究
Study on a road future Policy
前田信幸*1 今井敬一*1 野見山尚志*1 土屋三智久*1 山田敏之*1 鈴村雅彦*1 海老原寛人*1 小原裕博*2
田中文夫*2 牛来司*3 長南政宏*3 江守昌弘*4 金子学*5 今西由美*5 国久荘太郎*6
Nobuyuki MAEDA, Keiichi IMAI,Hisashi NOMIYAMA, Michihisa TUCHIYA, Toshiyuki YAMADA, Masahiko SUZUMUR
A,Hiroto EBIHARA,Yasuhiro OBARA,Fumio TANAKA, Tukasa GORAI, Masahiro CHOONAN, Masahiro EMORI,Manabu
KANEKO, Yumi IMANISHI, Soutarou KUNIHISA
急速な少子高齢化の進行、中国の経済的台頭などによる世界的な経済枠組みの変化等を背景とし、国内
の各分野の政策が転換点を迎えつつある中で、地方財政改革などの推進により、行政組織、手法自体も変
貌する可能性が高い。これらを踏まえると当社が、将来に渡り安定した技術力と生産性を保持し、より信
頼させるコンサルタントとして地位を確保してゆくためには、公共政策の動向を的確に把握し適宜必要な
技術を習得してゆくことが不可欠である。本研究では、これらを踏まえ、前記の背景の元、「交通経済」、
「物流」、「観光」、「地域経営」というキーワードに着目し、それぞれの研究会を通して知識と技術の移植
を図るとともに、当社の商品技術として育成することとした。
キーワード: 交通経済、物流、観光、地域経営、産業構造
1.背景と目的、ねらい
本研究は、急速に変化する今日の社会環境下において、
当社顧客への高い付加価値・満足の提供、当社の社会的
地位向上などを最終目標に据え、これらの実現に必要な
知識や技術の習得を行うものである。中でも特に「交通
経済」
、
「物流」
、
「観光」
、
「地域経営」というキーワード
に着目し、社内外の4つの研究会で、それぞれ研究を行
った。各研究会の狙いと主な研究テーマは以下の通りで
ある。
表-1 実施研究会とその狙い
項目
交通経済
物流
観光
地域経営
*1
*2
*3
*4
*5
*6
主な研究会
応用経済分析研究会
日本交通政策研究会
道路計画研究会
国土マネジメント研
究会
2.研究体制
各研究会の実施体制は以下の通りである。
<応用経済分析研究会>
<講師>
国久荘太郎 技術顧問
<事務局>
東京本社道路・交通部
<参加者>
担当次長
若手技術者(計 5 名)
狙い
東京本社道路・交通部(3名)
実業務で通用する
交通経済技術の習
得
物流に関する知識
を蓄積するととも
に早急に核となる
技術を習得
新たな道路計画手
法への構築
「国土形成計画法
が求める計画立案
手法」に関する研究
都市部地域マネジメント室(2名)
オブザーバー(適宜)
<日本交通政策研究会>
所
主査
属
氏
名
東京海洋大学 教授
苦瀬
博仁
早稲田大学
教授
杉山
雅洋
宇都宮大学
准教授
森本
章倫
富樫
道廣
物流評論家
日通総合研究所
渡部
三菱総合研究所
古明地
専修大学
岩尾
講師
物流コンサルタント
財団法人
野澤
日本海事センター
(株)建設技術研究所
李
技術顧問
幹
哲夫
詠一郎
良彬
志明
国久荘太郎
建設技術研究所
東京本社
道路・交通部
今井
建設技術研究所
東京本社
道路・交通部
野見山
敬一
尚志
東京本社・道路・交通部 Road & Transportation Engineering Division ,Tokyo office
東京本社・都市部 Urban Planning Division ,Tokyo office
東京本社・社会システム部 地域マネジメント室 Community Affairs – Research Analysis Division , Public Outreach & Awareness
Section ,Tokyo office
中部支社・総合技術部 Engineering Division , Chubu office
本社機構・国土文化研究所・企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section ,Head office
本社機構・技術顧問 Technical advisor, Head office
-4-
<道路計画研究会>
流通科学大学
教授
西井和夫
山梨大学
准教授 佐々木
4.研究結果の概要
各研究会での結果概要を以降に示す。
4-1.応用経済分析研究会
応用経済分析研究会では、以下の内容について講義
を行った。
①経済学の体系整理
<ミクロ経済学(価格理論)>
個々の経済主体(家計、企業)が価格機構のもとで、
どのような動機によって、どのような原理に基づいて、
行動するかを分析する。
近年、コンピュータの発達により複雑な計算が可能と
なったことでミクロベースの分析が発達。
<マクロ経済学>
集計量
(国、
地域の経済活動の規模を表す指標;GDP、
物価、経済成長率、利子率、マネーサプライ、国債発行
状況など)を用い、社会全体の経済活動がどのように決
まるかを分析。
<ミクロ経済学とマクロ経済学>
ミクロ経済学 = 価格理論;資源配分の問題を論じ
る(目的関数の最大化;利潤最大、費用最小)
マクロ経済学 = 資源配分は直接取り扱わず、経済
全体の指標(GDP、
・・・)の決定要因を分析
②ミクロ経済理論
以下の内容について講義を行った。
・ 家計の行動目的と最適消費計画
・ 消費者余剰に対するアプローチ
・ Marshall の消費者余剰
・ 企業行動目的と価格形成のメカニズム
・ 最適資源配分(ロードプライシングを例に)
③マクロ経済学概説
以下の内容について研究を行った。
・ マクロ経済学・・・国全体(社会全体)の経済活動
の大きさや変化を分析する学問(巨視的経済学)
・ マクロ経済学の目的・・・経済の状態(物価が安定
しているか、失業がないか)を判断し、経済政策の
必要性を見極めること
・ マクロ経済の目標・・・経済の安定成長、完全雇用、
国際収支の均衡などを達成させること
・ 最大のテーマ・・・
「国民所得がどのように決定さ
れるか」ということ
その他、国民経済計算、産業連関表、物価変動につい
て研究を行った。
④マクロ経済理論
以下の内容について講義を行った。
・ 古典派経済学とケインズ経済学
・ 乗数効果について
・ IS-LM分析とは (IS曲線とは)
邦明
CTIメンバー
・ 中部支社総合技術部 江守
・ 東京本社道路交通部 野見山
・
同上
土屋
昌宏
尚志
三智久
・ 中部支社総合技術部 香月
寛之
・ 東京本社道路交通部 山田
敏之
・
同上
海老原
寛人
<国土マネジメント研究会>
所 属
座 長
氏 名
政策研究大学院大学 教授
森地 茂
建設省道路局長/現・東京電力(株)顧問
山根 孟
国土交通省近畿地方整備局企画部長
塚田 幸広
財団法人計量計画研究所
杉田 浩
財団法人計量計画研究所
森尾 淳
(株)建設技術研究所 技術顧問
国久荘太郎
建設技術研究所 東京本社 道路・交通部
前田 信幸
建設技術研究所 東京本社 北海道道路室
今井 敬一
建設技術研究所 東京本社 道路・交通部
野見山 尚志
建設技術研究所 東京本社 道路・交通部
山田 敏之
■社内ワーキングチーム
東京本社道路・交通部
東京本社都市部
東京本社地域マネジメント室
中部支社総合技術部
国土文化研究所
技術顧問
:前田信幸、今井敬一、野見山尚志、土屋三智久、
山田敏之、鈴村雅彦、海老原寛人
:小原裕博、田中文夫
:牛来司、長南政宏
:江守昌弘、香月寛之
:金子学、今西由美
:国久荘太郎(アドバイザ)
■財団法人 計量計画研究所(IBS ワーキングチーム)
3.研究実施状況
各研究会は、以下の日程で開催した。
表-2 研究会実施状況とその内容
研究会名
応用経済分析
研究会
(講義形式)
実施回
数
計 24 回
・経済学の体系
・ミクロ経済理論
・マクロ経済学概説
・マクロ経済理論
計5回
・国内貨物輸送の現状と
将来動向
・物流施策の変遷と物流
システム
・道路ネットワークと物
流システム
計5回
・道路交通計画課題
・観光交通行動に着目し
た企画提案
・観光調査手法の検討
・富士北麓地域の課題、
モデル構築検討
計5回
・地域間の経済波及分析
・企業立地に関する研究
・所得格差に関連した分
析
日本交通政策
研究会
道路計画研究会
国土マネジメン
ト研究会
主な内容
-5-
4-2.日本交通政策研究会
日本交通政策研究会において、当社では交通施設(道
路ネットワーク)の整備が物流システムに与えた影響の
考え方というテーマについて研究を行った。結果概要は
以下の通りである。
①環状道路の整備に伴う社会経済状況の変化について
■首都圏
首都圏の工業団地などの企業立地については、環状道
路開通の数年前から増加傾向にあることから、放射状道
路と環状道路が接続することを踏まえ、埼玉県への進出、
移転が増加したものを想定される。特に圏央道ではその
傾向が顕著であり、環状道路の整備と共に、企業立地な
どによる土地利用の変化が生じているものと考えられ
る。
50
1.1
0.9
0.8
0.7
2007 圏央道開通
(関越道~中央道)
首都高湾岸線開通
40
30
20
10
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
茨 城
埼 玉
千 葉
東 京
神奈川
図-1 企業の移転先数
■中部圏
首都圏と同様、放射状道路と環状道路が接続すること
を踏まえ、開通の数年前から工業団地の立地等が進んだ
と想定される。特に東海環状道(東区間)開通(2005
年)を見ると、岐阜県においてその傾向が顕著であり、
岐阜県の製造品出荷額等も増加傾向となっている。
また、岐阜県では、工業団地の立地等によって貨物車
保有台数の増加していると想定される。
(件)
70
東名阪道開通
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
岐阜
静岡
愛知
項目
東海環状道開通
(東側区間)
三重
全国
図-4 貨物車保有台数の変化量
(1990年を1.0とする)
②考察
首都圏および中部圏は、ともに三つの環状道路を有
しており、その中で最も大きな環状道路(圏央道、東海
環状道)では、開通前から工業団地の立地が増加するな
ど、直接的な影響を与える指標に対しては、顕著な動き
が見られた。これは、圏央道、東海環状道ともに、郊外
部を通過するため、工業団地の立地等が比較的しやすい
状況にあったと想定される。
一方、その内側の二つの環状道路は、沿線周辺にすで
に開発された宅地や工場等が張り付いていることから、
工業団地の立地に対する影響は、大きな環状道路と比較
するとそれほど大きくなかったと想定される。
しかし、環状道路による影響は、必ずしも工業団地の
立地だけでなく、様々な波及効果があることから、それ
らを検証するために他の指標を加えて分析を行うこと、
そして市町村単位での分析を行うことで、新たな影響と
いったものが見えてくると思われる。
4-3.道路計画研究会
道路計画研究会では、現在の道路交通分野の技術的な
問題点などの整理を行った上で、特に最近注目されてい
る観光に着目した交通行動モデル構築に向けた基礎的
研究を行った。
①道路交通分野における技術的問題点の整理
伊勢湾岸道開通
60
東海環状道開通
(東側区間)
1
(件)
外環道開通(大泉~三郷)
伊勢湾岸道開通
東名阪道開通
交通量推計手法
50
主な問題点
・現状の交通量推計手法には精度や活用に
限界がある
40
30
20
ネットワークの信
・日交通量等の静的な指標だけでなく多様
頼性
な視点からネットワークを評価することが
必要
10
都市
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
岐阜
(千億円)
60.0
静岡
愛知
・都市における交通モード間の適切な連携
方策を検討することが必要
三重
図-2 工業団地の移転先数
中山間地
東海環状道開通
(東側区間)
・中山間地における交通行動やニーズを明
らかにすることが必要
観光
55.0
・観光地における観光客の交通行動や交通
に対するニーズを明らかにすることが必要
50.0
災害
・災害時の交通行動(変更・取り止め等)
を明らかにすることが必要
45.0
環境
40.0
・環境質の負荷や対策効果の計測手法の精
度向上が必要
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
図-3 製造品出荷額(岐阜県)
-6-
光活動特性」に分類し、整理を行った(◆:必要な追加
調査)。
②観光交通行動に着目した企画提案
今後取り組んでいく、観光交通行動に着目した観光
戦略の作業フローについて整理を行った。
<観光交通特性の把握>
1.富士北麓地域の地域特性・課題整理
富士北麓地域における地域特性・課題を、観光面を中心に整理を行う(富
調査項目
士吉田市、富士河口湖町、忍野村、山中湖村 等)。
⇒各市町村マスタープランを活用、各種アンケート調査
交通量
2.モデル構築のためのシナリオ検討(アウトプットを描く)
渋滞長
1.の整理より、課題を発生させる要因と想定される要素について分析。
調査目的
・時期別(平常時と観光時)
の交通量の変化
・時間帯別交通量の変化
・観光時の渋滞状況
・渋滞要因分析
その結果を踏まえ、富士北麓地域における観光行動モデル構築のための
シナリオ検討。
⇒対象:周遊交通
旅行速度
要因:交通手段、交通状況、観光資源の魅力、情報提供、サービス
施策:ソフト施策、ハード施策(→地域住民の意向も踏まえつつ)
OD
3.調査実施方針の検討
調査概要について検討。
利用交通
機関
⇒調査時期、調査箇所、調査方法、調査内容、サンプリング数 等
・平常時と観光時の平均旅行
速度の変化
・時間帯別平均旅行速度の変
化
・観光カバー圏(日帰り/宿泊
圏域)
・観光地までの利用交通機関
・観光地での利用交通機関
調査項目
⇒アンケート調査、プローブパーソン調査 等
調査目的
・属性別行動パターン
属性
5.観光行動モデルの構築
実施した調査結果をもとに、非集計モデルを構築。
そのモデルをもとに各種対策による効果を定量的に分析。
旅行形態
6.富士北麓地域の観光戦略提案
これらを元に PR 等の広報や地元産業や周辺観光地との連携等、観光地とし
・日帰り、宿泊(宿泊数)の
状況
・個人旅行、団体旅行の状況
・周遊観光地
て持続可能な地域戦略について提言
周遊観光地
図-5 検討フロー
③観光調査手法の検討
観光交通戦略を行う上で必要となる調査は以下の通
りである。
<観光特性>
観光地交通特性
周遊行動特性
利用経路
<調査項目>
・交通量
・渋滞長
・旅行速度
観光時間
・OD
・利用交通機関
観光情報
満足度
・属性
・旅行形態
・周遊観光地
・利用経路
・観光時間
・観光情報源
・満足度
観光活動特性(消費・購買行動等)
◆統計データ(旅客施
設(鉄道、バス)利用
者数)
<観光周遊特性の把握>
4.調査実施(夏休み)
富士北麓地域における周遊観光の交通特性把握
観光交通戦略
調査内容
◆交通実態調査(交差
点、断面交通量)
※既往調査で対応可
◆交通実態調査(渋滞
長、通過時間)
※既往調査で対応可
◆交通実態調査(プロ
ーブ調査)
※既往調査で対応可
・観光地間の利用経路
・渋滞時と非渋滞時の利用経
路の変化
・観光地駐車場の迷走交通の
状況
・出発地から観光地までの所
要時間
・観光地での滞在時間
・観光情報の収集源
・観光地の満足度
・観光地内の移動経路の満足
度
調査内容
性別、年齢、職業、運
転免許の有無、自家用
車の有無、休日日数、
年収、家族構成
日帰り/宿泊(宿泊日数
)、個人旅行/団体旅行、
同行者人数、同行者と
の関係
◆プローブパーソン調
査(施設別滞在時間、
施設間所要時間等)
◆プローブパーソン調
査(利用経路、抜け道
交通、迷走交通等)
出発地の出発時間、
富士五湖への到着時
間、富士五湖の出発時
間
情報収集の参考文献
重要な目的地、重要目
的地での目的
◆プローブパーソン調
査(利用経路、抜け道
交通、迷走交通等
<観光活動特性の把握>
調査項目
・観光入込み客数
・観光販売額
・観光消費額
調査目的
調査内容
観光入込み ・観光地の観光入りこみ客数
◆統計データ
客数
◆事業者等ヒアリング
観光販売額 ・観光地の観光客向け販売額
調査
観光消費額 ・観光客の消費額
図-6 観光調査体系
既往の調査結果等を踏まえ、今後更に必要となる調
査を「観光交通特性の把握」、「観光周遊特性」、「観
④富士北麓地域における観光課題の整理・モデル構築検
討
富士北麓地域における観光課題を以下に整理する。
-7-
マイカー利用の観光客
視点
観光入れ込み客数
特性
富士北麓地域全体で増加傾向。H19 は約 7
万人増の約 152 万人
河口湖周辺や本栖湖・精進湖・西湖周辺
で増加傾向
山中湖周辺で減少傾向
宿泊客数
富士北麓地域全体で増加傾向。H19 は約
1.5 万人増の約 31.5 万人
河口湖周辺や山中湖周辺で増加傾向
本栖湖・精進湖・西湖周辺で減少傾向
観光客の居住地 県外の観光客が約 7 割
(県全体)
県外からの観光客のうち東京・神奈川が
約5割
関東地域で 75%を占める
観光客の交通手段 富士東部の観光客の交通手段は約 8 割弱
がマイカー
(想定されるルート;中央道、国道 138
号、国道 139 号)
バスを利用する観光客も県全体に比べて
多い
観光客の同行人数 同行人数は県全体と比べて多い傾向
と形態
グループ形態は知人・友人の割合が多い
観光客の満足度
満足;自然景観、温泉、宿のサービス、
観光施設の充実度
不満;公共交通の便
移動
②利用交通
機関
③日帰り/宿
泊の別
A 施設
B 施設
C 施設
D 施設
○施設
移動
⑤滞在時間
②観光地選択
③移動時間
④移動経路
第 2 観光地
・
・
・
最終目的地
A 施設
B 施設
A 施設
B 施設
C 施設
・
・
・
C 施設
D 施設
○施設
D 施設
○施設
⑤滞在時間
図-7 観光客の行動パターン
項 目
主な内容
①出発時刻
・自宅や他地域から富士北麓地域に入った時刻
②観光地選択
・周遊した観光地とその順番
・観光地の選択理由
日帰り客・宿泊客ともに複数の訪問先に
立ち寄っている傾向
③移動時間
・各観光地へ移動するのに要した時間
④移動経路
・各目的地へ移動するのに利用した経路
⑤滞在時間
・各観光地に滞在した時間
⑥帰宅時刻
・帰宅や他地域への移動で富士北麓地域を出た
時刻
⑦満足度
・富士北麓地域を周遊観光した満足度
4-4.国土マネジメント研究会
国土マネジメント研究会では、
「地域間の経済波及分
析」
、
「企業立地に関する研究」
、
「所得格差に関連した分
析」の三つのテーマについて研究を行った。
①地域間の経済波及分析
(1)民間消費や公的投資、民間投資の影響分析
・地域内総支出に占める民間消費の割合は北海道や四国
が高い。
・地域内総支出に占める民間投資の割合は中部が高い。
・地域内総支出に占める公的投資の割合は北海道や沖縄
が高い。
・民間消費、民間投資、公的投資が及ぼすインパクトは、
自地域と関東への波及が高い。
・自他地域への投資や消費による他地域からのインパク
トは、関東が約2倍、中部と近畿が約1倍を占める。
・民間消費による産業へのインパクトは、サービス業や
商業に大きい。
・民間投資による産業へのインパクトは、製造業、建設
業、サービス業に大きい。
・公的投資による産業へのインパクトは、建設業、製造
業、サービス業に大きい。
(2)地域別交易収支の分析
・移輸出額、移輸入額とも、3大都市圏が多い。
・交易収支(移輸出-移輸入)は、関東が突出し、九州
これらを踏まえ、富士北麓地域における観光交通行
動モデルの前提条件、観光客の行動において把握が必
要な内容について検討した。
①行動範囲
④移動経路
第 1 観光地
⑥帰宅時刻
(富士北麓地域を出た時刻)
観光資源の立地状 観光施設は河口湖・山中湖周辺に集中し
況
て立地
国道 138 号や富士スバルラインの沿道に
も観光施設が点在
休日の道路交通特 休日(観光シーズン)は新屋地区におい
性
て、ほぼ全区間において渋滞が発生して
おり、時間帯別にみても終日渋滞が発生
項目
②観光地選択
③移動時間
富士北麓地域内の周遊観光
観光客の訪問地数
①出発時刻
(富士北麓地域へ入った時刻)
前提条件
・富士北麓地域内を周遊する観光客の行動を
対象とする。
⇒自宅から富士北麓地域への移動、富士北麓
地域と他地域との周遊行動は対象外とす
る。
・自動車(マイカー)で移動する観光客を対
象とする。
⇒富士北麓地域では、マイカーの利用が観光
客の約 8 割と大部分を占める。
・調査対象は、日帰り、宿泊の別に関係なく
行うものとする。
⇒日帰り、宿泊は滞在時間のみに影響するも
のであり、周遊観光の行動特性に変化はな
いものと考えられる。
-8-
がもっとも少ない。
・国内交易収支(移出-移入)は、関東が突出し、九州
がもっとも少ない。
・国際交易収支(輸出-輸入)は、中部が突出し、北海
道が約 1.5 兆円の赤字である。
(3)地域別産業構造の分析
・金額ベースについて、全産業では関東の一人勝ち。農林
水産業は九州、製造業(基礎素材型)は中国、製造業
(加工組立型)は中部、製造業(生活関連型)は東北
で大きくプラス。第3次産業は関東の一人勝ちである。
・人口1人あたりについて、全産業では関東の一人勝ち。
農林水産業は四国、製造業(基礎素材型)は中国、製
造業(加工組立型)は中部、製造業(生活関連型)は
東北で大きくプラス。第3次産業は関東の一人勝ちで
ある。
【全産業】
【農林水産業】
(億円)
国内交易収支(金額ベース)
国内交易収支(金額ベース)
(億円)
150,000
・バブル崩壊後、移転企業数は徐々に減少、平成 14 年
を底に巻き返しの傾向。
・平成初期の移転先は関東内陸、南東北、東海が上位 3
地域だったが、近年は関東臨海が南東北を抜いている。
・平成初期の移転元は関東内陸、南関東、関東臨海が上
位 3 地域だったが、近年は東海、関東内陸、関東臨海
の順となっている。
(3)廃業事業所、新規事業所の動向
・平成 11 年~平成 16 年までは、廃業事業所数、新規事
業所数の大きな変化はないが、平成 18 年にそれぞれ
約 1.5 倍に増加。
・地域別では、廃業事業所数、新規事業所数ともに3大
都市圏が多い。
・産業別廃業事業所では、卸売・小売業や飲食店・宿泊
業が多い。
8,000
127,920
6,166
6,000
100,000
4,000
3,742 3,642
3,260
2,000
50,000
-133
0
5,049 6,627
-2,000
0
-6,647
-13,749
-1,119
-1,476
-4,000
-8,421
-23,485-23,809
-6,000
-50,000
沖縄
九州
四国
中国
中部
近畿
東北
(億円)
-8,040
関東
【製造業(基礎素材型)
】
-10,000
北海道
沖縄
九州
中国
四国
中部
近畿
東北
関東
北海道
-100,000
-6,044
-8,000
-63,485
図-9 全国の工場立地動向
【製造業(加工組立)
】
国内交易収支(金額ベース)
(億円)
30,000
国内交易収支(金額ベース)
40,000
23,871
25,000
29,985
20,000
30,000
16,915
22,154
15,000
12,324
20,000
10,000
6,694
10,000
5,000
0
-1,836
-5,000
6,788
0
-1,148
-1,632
-4,013
-10,000
-15,000
-10,000
-7,838
-14,160-14,917
-20,000
-20,000
-15,772
-21,052
九州
沖縄
-26,523
四国
近畿
中国
関東
中部
北海道
-30,000
東北
九州
沖縄
四国
近畿
中国
関東
中部
北海道
東北
-25,000
-9,839
図-8 地域別産業構造分析
②企業立地に関する研究
(1)全国、地域別の工場立地動向
・平成 14 年を底としてV字型回復。特に南東北、関東
内陸の増加が顕著。
・
「
「有効求人倍率 1.0 以下」で「農林水産業、鉱業、建
設業の従業者が 15%以上」の都道府県に投資が集中
(東北、九州)
。
・工場の統廃合の理由;生産性の効率化の他、需要の低
下、周辺環境の変化、老朽化等。
(2)全国、地域別、業種別の移転企業動向
図-10 都道府県別有効求人倍率と最近の投資動向
③所得格差に関連した分析
-9-
(1)所得格差に関連した分析
・ 1 人あたりの県民所得は、大都市圏とその周辺で高
く、地方部で低い。産業構造では製造業の割合が高
い地域の所得が高く、農林水産業の割合が高い地域
の所得が低い。
・ 産業の多様性が高いほど1 人あたりの県民所得が高
い。
・ 規模が大きいほど 1 人あたりの県民所得が高い。
(2)人的資本の分布に関する分析および都道府県別
生産誘発係数の分析
・ 製造業就業者数は 1990 年をピークに減少。卸売・
小売業、飲食店は 1995 年をピークに減少。運輸・
通信業、サービス業は継続的に増加。
・ 最終需要項目のうち、移輸出の生産誘発係数がもっ
とも高い。
(3)県民経済計算年報による交易収支に関する分析
・ 交易収支は、北海道、北東北、山陰、南九州で赤字。
・ 県外からの所得やその他の経常移転により補填可
能である。
2500
5000
20
2000
4000
15
1500
3000
10
1000
2000
5
500
1000
0
0
-1000
-5
-2000
-10
V/V1
25
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島
沖縄県
1人当たり県民所得
V/VM, V/(V1+VM)
V/VC, V/Vcom, V/VS
V/Vi が高いと
総生産に対する比率が低
-1000
-2000
-3000
-15
-3000
-4000
-20
-4000
-5000
-25
道路計画研究会では、現在の道路交通計画の中で問題
となっている、観光地での道路計画に着目し、これまで
に実施した観光地の道路交通計画に関する取り組みに
ついて、情報収集・整理を行った。また、当社では、今
後山梨県富士北麓地域を題材として研究を進めること
とし、そこで必要となるモデルの検討を行った。今後は、
必要に応じてアンケート調査などの実地調査を行いな
がら、モデルの構築と共に、富士北麓地域における道路
交通施策の提言を行っていくことが重要である。
国土マネジメント研究会では、国土形成計画の立案手
法を目的とし、その最も基礎となる地域や都市について
分析を行うとともに、一方で、今後のわが国における都
市と産業の健全な発展をもたらすような政策提言に向
けた基礎研究について実施した。
今後は、本研究により得られた知見などをもとに、よ
り計画論もしくは手法論に展開していくことが必要で
ある。
本研究分野は極めて裾野が広く、適用される分析手法
も多岐に及ぶ。また、行政施策や産業動向などに関する
知識や見識、洞察力なども必要であり研究は容易ではな
いが、今後も着実に進めていくべきだと考えている。
最後に、本研究は、日本交通政策研究会、流通科学大
西井教授、山梨大佐々木准教授、国土マネジメント研究
会、財団法人計量計画研究所のご支援の賜物であり謝意
を表す。
-5000
V/VM
V/V1
V/(V1+VM)
V/VC
V/Vcom
V/VS
1人当たり県民所得
※V/V1は右目盛
他の指標の100倍
V : 県内総生産、VM : 製造業、V1 : 農林水産業、VC : 建設業、Vcom : 卸売・小売業、VS: サービス業
図-11 1人当たり県民所得と産業構造
5.今後の課題
本研究では、様々な研究テーマを持って、取り組みを
行ってきた。
応用経済分析研究会では、社会資本整備に関する経済
分析技術を身につけることを目的として、経済学に関す
る基礎的な勉強を24回の勉強会を通じて行った。今後
は、これらの知識を活かし、業務での活用の他、学会
等への投稿も視野に入れた実践での取り組みに傾注し
ていくことが必要である。
日本交通政策研究会では、
「産業構造の変化による物
流システムの変遷と交通施設のあり方」というテーマの
基、当社は、環状道路と工場立地などの社会経済動向の
変遷について研究を行った。また、日通総研や三菱総研、
物流コンサルタントなど、これまで当社との繋がりが弱
かった業界の方々の研究発表を通じて、物流に関する
様々な現況や課題について把握することが出来た。今後
は、様々な情報入手と共に、新たな切り口で研究発表
を行っていくことが求められる。
- 10 -
水政策研究
Research report of a world water policy
伊藤 一正 *1
Kazumasa
ITO
本論文は、世界の主要な国別・機関別の水に関する政策を調査し、21 世紀の水問題を概観するとと
もに、日本が世界の水問題にどのように貢献できるか、特に建設コンサルタントは世界の水問題の解
決に何ができるか提案したものである。21 世紀は水の世紀と言われ、多くの識者は、各国が安定的に
成立するためには如何にして水を確保できるかが最大の課題であるとも言われている。衛生を確保す
るための水、食料を確保するための水などを含めて、水に関する正しい知識の共有のあり方を示した
ものである。
キーワード:水政策、地球温暖化、仮想水、水配分、統合的水資源管理、衛生と水、食料と水
1.研究の背景と目的
現在、世界では6人に1人、すなわち10億人以
上が十分に安全な淡水を手に入れられずに生活し
ている。国連の発表データによれば 2025 年までに
全世界の半分以上の国で必要量が使用可能量を超
過する完全な水不足になり、2050 年までには世界
人口の3/4が淡水不足に直面する可能性がある
という(世界水発展報告書、第 1 版「Water for
People, Water for Life(人類のための水、生命の
た め の 水 )」、 第 2 版 「 Water, a shared
responsibility」)。*1)
水不足の原因は、世界人口の増加、さらには人々
がより経済的に豊かになり、需要量が増大すること
と、地球の気候変動に伴い乾燥化が進み、多くの地
域で水供給量が低下することである。
地球表面への降水量は年間 12 万 km3 である(表
-1、平成 18 年版水資源白書。世界平均降水量
880mm に面積 133,935 千 km2 を乗じて求めた値)。
この値は世界の水需要量 3,570km3(1995 年、世
界水ビジョンより)に対して十分であり、必要とさ
れる場所と時間に行き渡れば、十分に満たされる量
に見えるが、大半の水は捕捉できないし、捕捉でき
た水の配分には偏りがある。*2)
トとして、何をなすべきか、その取り組み策の考え
を示したものである。将来の日本の水政策を考える
上での基礎情報をレビューし、今後の研究の内容・
方法を提案する。
表-1世界の水資源
水の需要は人口やその増加率だけでなく、所得水
準の改善によっても上昇する傾向があると言われ
ている。裕福な地域、特に都市部や工業地帯では多
量の水が消費され、豊かな生活には汚水処理や集約
的な農業灌漑が必要となる。特にアジアやアフリカ
の人口密度の高い国では水の需要量が急激に増大
している。地域の構造、都市の構造が水需要量に大
きく影響を与える。
このような背景のもと、水危機、水の統合的管理、
水戦争、水利用など水をめぐる話題が、学術、行政、
水ビジネスなど様々な分野で将来政策が議論され
ている。
ここでは、資源としての水の実態を共有し、安全
で安心な世界を構築するために、建設コンサルタン
*1
国土文化研究所
企画室
国 名
カナダ
ニュージーランド
ノルウェー
ブラジル
ロシア
オーストラリア
アルゼンチン
スウェーデン
アイルランド
インドネシア
アメリカ
ハンガリー
オーストリア
ルーマニア
世界
スイス
カザフスタン
タイ
フィリピン
オランダ
メキシコ
トルコ
フランス
日本
国 名
カナダ
ニュージーランド
ノルウェー
ブラジル
ロシア
オーストラリア
アルゼンチン
スウェーデン
アイルランド
インドネシア
アメリカ
ハンガリー
オーストリア
ルーマニア
世界
スイス
カザフスタン
タイ
フィリピン
オランダ
メキシコ
トルコ
フランス
日本
①面積
(千km2)
②人口
(千人)
③平均降水量
(mm/年)
9,985
31,792
271
3,932
324
4,570
8,515 182,798
17,098 141,553
7,741
20,092
2,780
39,311
450
8,895
70
4,040
1,905 225,313
9,629 300,038
93
9,784
84
8,120
238
22,228
133,972 6,455,554
41
7,157
2,725
15,364
513
64,081
300
82,809
42
16,300
1,958 106,385
784
73,302
552
60,711
378 126,926
⑤1人当たり
⑥水資源
年降水総量
量
(=④÷②)
(km3/年)
(m3/人・年)
167,702
2,902
119,165
327
100,174
382
83,007
8,233
55,564
4,507
205,744
492
41,800
814
31,589
174
19,446
52
22,840
2,838
22,946
3,051
5,600
104
11,465
78
6,832
212
16,758
55,255
8,865
54
44,339
110
12,988
410
8,506
479
1,982
91
13,842
457
6,339
214
7,876
204
5,114
424
Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 11 -
537
1,732
1,414
1,782
460
534
591
624
1,118
2,702
715
589
1,110
637
807
1,537
250
1,622
2,348
778
752
593
867
1,718
④年降水総量
(=①×②)
(km3/年)
5,362
469
458
15,174
7,865
4,134
1,643
281
79
5,146
6,885
55
93
152
108,179
63
681
832
704
32
1,473
465
478
649
⑦1人当たり
水資源量
(=⑥÷②)
(m3/人・年)
90,767
83,164
83,589
45,039
31,841
24,487
20,707
19,562
12,871
12,596
10,169
10,630
9,569
9,534
8,559
7,475
7,134
6,397
5,784
5,583
4,298
2,913
3,355
3,337
世界水発展報告書は、世界の水資源の全体像を把
握するために国連環境計画や国連人間居住委員会
など 23 の国連機関と、国連条約事務局が作成した
報告書であり、第 3 回世界水フォーラムに合わせ
て 2003 年 3 月に発表された。
世界水発展報告書では「生命と福祉」「管理上の課
題」を 2 大テーマとし、11 の課題について現状と
解決策などを紹介している。
3
億m /年
オーストラリア・
オセアニア
60,000
50,000
40,000
オーストラリア・オセアニア
アフリカ
ヨーロッパ
南アメリカ
北アメリカ
アジア
36,790
アフリカ
50,310
南アメリカ
ヨーロッパ
北アメリカ
30,000
20,000
13,590
アジア
10,000
0
1950
1995
2025
図-1世界の水需要
国土交通省「平成 19 年版日本の水資源」ほかより作成
2.世界各国機関の水政策
21世紀の水に関する予測は世界の様々な水関
連機関により公表されている。ここでは、
その中でもっとも基本となる国連の世界水発展報
告書 1)、欧州連合での水政策報告について見てみる。
(1)世界の認識
1970 年代後半から、経済の成長が地球の環境に
様々な影響を与える事が認識され始め、経済の成長
と社会の発展の調和をいかにもたらすかが議論さ
れ始めた。そのような中で、1987 年に、国連が後
援したブルントラント委員会(環境と開発に関する
世界委員会)の報告書「地球の未来を守るために」
において、「将来世代の欲求を満たしつつ、現代世
代の欲求をも満たすような発展」として、初めて「持
続可能な開発」が定義された。
この、地球の持続可能な開発のための最優先目標
は貧困の撲滅であり、もっとも本質的な要件であり、
適切に管理された水を貧困層が容易に得られれば、
貧困の撲滅に大きく寄与することができる事が認
識されるようになった。具体的には、地球の持続的
発展に水管理が不可欠であること、それには飲料水
を確保することと、良質な水を得られるように衛生
を確保することに集約される。
このような認識のもと、1992 年の国連環境開発
会議(UNCED)においてアジェンダ 21 が採択さ
れ、淡水に関する七つの行動プログラムが提案され、
水管理の実践開始が始まった。そして、2000 年国
連サミットで 2015 年に向けた貧困・教育・健康に
注目したミレニアム開発目標が設定され、もっとも
基本的な資源とは水およびエネルギーであること
を国連は認識した。
(2) 世界水発展報告書
①生命と福祉に関する課題について
課題 1 基本的ニーズと健康に対する権利
課題 2 人類および地球のための生態系の保護
課題 3 都市 ̶ 都市環境において競合するニーズ
課題 4 増大する世界人口に対する食糧確保
課題 5 すべての人の便益のため、よりクリーンな
工業の奨励
課題 6 開発需要に見合うエネルギーの開発
②管理上の課題 ̶ 管理と統治について
課題 7 リスクの軽減および不確実性への対処
課題 8 水の分配 ̶ 共通の利益の明確化
課題 9 水の多面性の認識および価値評価
課題 10 知識ベースの確立 ̶ 共同責任
課題 11 持続可能な開発のための賢明な水管理
報告書では、水危機が人類の生存および地球環境
の存続の核心である事を示している。
そして、2002 年の持続可能な開発に関する世界
首脳会議(WSSD)でコフィ・アナン国連事務総長
は持続可能な開発のための首尾一貫した国際的取
組みとして WEHAB(上下水道設備、エネルギー、
健康、農業、生物多様性)を提起した。各分野を成
功に導くには、水が不可欠で、この世界首脳会議
(WSSD)で、下水道設備を利用できない人の割合
を 2015 年までに半減させるという目標が追加され
た。
(3)欧州連合水政策枠組指令(Water Framework
Directive、欧州内法律)
欧州連合は「共同体の水政策の行動に関する枠組
を定める指令」(Directive 2000/60/EC)として、欧
州連合圏内の水資源(表流水、河口水、沿岸水、地
下水)を保全するために統一的な水管理を行うこと
を目的に 2000 年 10 月に採択施行され、加盟国に
以下を課している。
■ 2003 年に河川を中心とした集水域管理区を設定
し,管理区ごとに管理所管組織を指定する。
■ 2004 年に集水域管理区内の水質状況や汚染原因
の把握と経済分析に着手する。
- 12 -
■ 2006
年にモニタリングネットワークを設置し,
遅くとも 2006 年中に関係情報と見解を開示して住
民を含む関係者の意見を求める。
■ 2008 年に集水域管理区ごとに管理プラン案を策
定し,2009 年に管理プランを確定する。
■ 経済分析と汚染者負担原則を踏まえて,水質浄
化・維持に要するコストを回収できる水利用価格を
2010 年までに導入する。
■遅くとも 2012 年までに 2021 年までの第 1 期対
策プログラムを実施する。この中で表流水について
は 2015 年までに目標を達成する。
■ 目標が達成できない場合には,2027 年を最終達
成期限とする第 2 期対策プログラムを実施する。
欧州連合は 1973 年以降、水質保全のために様々
な規制やルールが設けられたが、政策が細分化され
すぎて実効が伴わないという反省から、本指令にて
全体的、統一的アプローチで管理するという方式に
改められた。このため、地表水と地下水を対象とし
て、河川を行政的、政治的境界で区切らず流域を管
理対象にしているなどの特徴があり、すべての水系
を 2015 年までに良好な水質状態にするとの目標を
掲げている。
図-2事業者別水道料金
(家庭用料金、20m3/月使用時)
出典:(社)日本水道協会
図-3
3.21 世紀水問題とは
2025 年までに全世界の半分以上の国々で淡水資
源が逼迫し、2050 年には世界人口の3/4が淡水
不足に直面する可能性があるという。
今後水不足はますます拡大すると予測されてお
り、その要因は人口増加による食糧増加と経済成長
に伴う水需要の拡大、さらには地球の気候変動によ
る水資源量の低減とにあるとも。しかしながら、地
球全体での水供給能力は予想される水需要量に対
して、まだ十分に能力を有していると見られるが、
地理的な条件、季節的な変動などを含む水配分の問
題において多くの課題のあることも実際である。
日本をはじめ、先進各国の水価格を比べると図-
2のとおりとなる。日本の水道料金は全国平均でお
よそ 2,000~3,000 円/m3・月である。世界と比較す
ると、20m3 を使用した場合、東京都では、約 2,500
円、ニューヨーク 1,500 円、ロンドン 4,700 円、パ
リ 4,300 円、ベルリン 6,900 円に比べて安価なほう
である。ハーバード大学の Peter Rogers 教授の調
査では 2000 年から 2050 年の世界全体での水需要
は、所得に占める水費用の割合が変化しない場合は
1.5 倍であるが、低所得者層の収入が現在の中所得
層まで上昇すると 3 倍近くまで増大する結果を示
している 5)。つまり、水価格が所得に比して低下す
ると需要が増大すると読み取れる。
世界各都市の水道料金比較
(家庭用で 20m3/月使用時。各市の水道事業
者の価格表から推計)
水問題における経済と所得の面を考えると、家庭
や企業に水の節約を促すような合理的な価格決定
方法が必要であることが推察される。
また、世界の水使用量の70%は農業用水、工業
用水が20%、生活用水が10%である(水資源白
書)。つまり、食料生産に世界の水の70%が用い
られており、この面が、まさに今後の人口増加と水
資源逼迫の関係を明示している。日本を見ると、食
料自給率はカロリーベースで39%しかないこと
を農水省統計は示している(2006 年)。つまり、6
0%は世界各国からの輸入によることとなり、その
ための外国での水不足が日本の食糧不足に影響す
る構造となっている。この点は、すでに仮想水の輸
入と言うことで議論され、日本での年間の農業用水
使用量でみると、農業用水 570 億 m3 の需要量に対
して、仮想水で 640 億 m3 が輸入されているという
試算がある(水資源白書)。もちろん、仮想水の概
念から世界の水不足が日本の食糧確保に直結する
と結論付けられる訳ではない。しかし、日本の食料
構造に海外の水事情が大きく影響していることは
事実である。つまり、21世紀の水問題は、すでに
地域の特徴(降水量の多寡等)を超越し、経済原理
- 13 -
に則った水バランスの問題となりつつあるといえ
る。
日本では様々な給水施設や水資源インフラが整
備され、水不足を実感することはほとんどない。そ
のため、一般には今後、如何にして持続的に水を確
保してゆくかという認識が少ない。しかし、世界は
1.や2.で見たように、3/4が淡水不足に直面
し、それは間接的に日本の食糧供給にも影響を与え
るという事実がある。
日本での課題を見ると、このような安定した水需
給システムの整備の影に既存施設の老朽化が将来
の課題となっており、現在の水コストの継続を考え
た場合は、米国と同じように給水施設が「壊れたら
直す」と言う対応しかできない状況に陥りかねない。
現在の水コストが本来の供給システムを成立させ
る構造になっていないからである。
4.日本の貢献
(1)世界をリードする日本の水要素技術
日本では過去、水資源確保に向けて多くの技術開
発が進められた。効率よい水供給システムを確立す
るための高度な漏水防止技術、節水技術、浄化技術
など、世界の最先端を誇る技術である。世界の水需
要の70%を占める農業用水に給水施設の漏水防
止をはじめ、点滴栽培に見られるような高度にシス
テム化された農業技術の適用などにより、仮に1
0%の節水が達成できるだけで、世界の水需要量増
分の大部分を確保可能となる。一方生活用水の利用
面では、水使用量の少ない衛生設備の投入が、水使
用量を少なくし、また、結果として、衛生問題の改
善となり、水質改善につながることとなる。日本で
は既にバイオトイレなどの開発に成功しており、そ
の普及が水の衛生問題を解決するとともに、水資源
確保にもつながる。また、エネルギー効率の高い洗
濯機や再生水利用、中水道技術、節水型シャワーの
利用など、生活そのものを節水型とする仕組みなど
があげられる。そして、高度な水処理技術は海水の
淡水化や循環再利用を組み入れた水システムなど、
次世代の水問題を解決しうるものであり、その多く
は、日本の技術を背景に、既に実用化済である。
(2)日本政府の取り組み
日本政府は「日本と国際社会の持続可能な未来に
向けて」として、分野横断型の政策提言機関である
「水の安全保障戦略機構(仮称)」を内閣総理大臣
の下に超党派で設ける流れが出来ている(2009 年 1
月 30 日設立)。ここでは、テーマ、分野を各省庁横
断型として、水分野の日本の技術を国内および国際
社会に展開する方針で、JICAには「水の防衛隊」
が組織され、日本国内の民間企業、NPO・NGO・
市民団体、経済団体、学会、政府機関などの取り組
みをシステムとして国際展開する仕組みを設ける
こととなる。既に各省庁の予算案を集約する形で
21 年度の「水の安全保障関連予算(案)」がまとめ
られており、関連予算総額で 2 時補正を含み 2,671
億円が計上された。そのうち水資源確保・水運営・
エネルギーに 1,050 億円、食糧自給のための水に
550 億円、水の安全保障の国際貢献に 81 億円が計
上され、586 億円の新規予算が割り振られており、
水ビジネスに政府として取り組む姿勢が明らかと
なっている。
5.建設コンサルタントとして
21世紀の水問題に関する課題と解決技術とし
て、
(1)経済概念の導入。水コストの再構築。
(2)
農業用水の効率的利用。(3)節水型水利用。(4)
高度な水処理技術などが上げられ、これらはいずれ
も日本の高度水技術として世界に発信可能なもの
である。
シンガポール政府は国を挙げて水ビジネスに取
り組み、自国の水資源開発を行う(高度水処理技術
を用いた海水淡水化、NEW WATER 開発など)とと
もに、これらの水処理技術を組み合わせたシステム
を新規の水資源開発システムとして国外への展開
を計画している。日本も、わが国の水技術を集約し、
システムとしてのビジネスを確立すべき時代に入
ってきている。
日本は海水淡水化技術において、逆浸透膜の技術
で世界の60%のシェアを誇っているが、海水淡水
化のシステムとしてのシェアは少ないという。4.
であげた各要素技術そのものも同じ状況といえる。
各部品については世界最先端で、高い信頼性を持っ
ているにもかかわらず、システムとしてのインフラ
の提供に結びついていない。これは、まさに建設コ
ンサルタントの役割であろう。21世紀の世界の水
危機にシステムとしての対応を提案できる立場に
あるといってよいであろう。ただし、エンジニアリ
ングに頼って、水資源(水供給量)を増やすことで、
すべての物事が解決できるとは思わない。雨水の有
効な利用や少ない資源の中で如何に効率よく水を
リサイクルさせるか、まさに人間活動も含めた自然
界の水循環の見直しである。社会の仕組みに対応し
て、技術を背景としたエンジニアリングを組み込ん
だ水システムが21世紀の水問題解決の仕組みで
ある。
2025 年、水ビジネスの規模は 100 兆円を超える
と言う(図-4、経済産業省、平成 20 年 7 月、我
が国水ビジネス・水関連技術の国際展開に向けて)。
その大部分は、事業運営管理で 100 兆円であり、ほ
- 14 -
かに素材供給が1兆円、エンジニアリング・調達・
建設で 10 兆円である。まさに、今、日本の基本技
術(素材供給技術)を運営管理へのシステム技術と
して提供できる体制が不可欠である。
市場規模
市場規模
営業・情報
対象国・地域とのネットワーク
契約
長期契約(含むリスクヘッジ)ノウハウ
資金調達
大量資金調達(含む金融技術)ノウハウ
事業経営
1 兆円
10 兆円
100 兆円
キーデバイス
膜濾過、オゾン処理等
プラント建設
パイプ、ポンプ調達等
運転管理
日常管理
メンテナンス
緊急時対応、リスクヘッジ
顧客管理
料金徴収、クレーム対応等
コストダウン
漏水対策、運転方法等
補修・更新
軽補修~大規模更新
契約
日系
優勢
資金調達
(特に膜)
・・・
日系も弱くはない。
事業者次第?
欧州系優勢
事業者:ヴァオリア、スエズ
O&M:デグレモン’(スエズ)
ジャパンウォーター(三菱商事)
営業・情報
図-4
図-5
世界の水ビジネス規模
水の安全保障戦略機構(仮称)
2008 年 12 月に、新たな枠組みとして、水の安全
保障戦略機構が設置されることとなった。
そのなかでは、これまでの国土交通省、環境省、
厚生省、農水省などの縦割り行政に応じた水技術や
ビジネスなどの壁が取り除かれる可能性があり、要
素としての色彩の濃かった技術をシステムとして提
- 15 -
9)世界のよりよい明日のために,独立行政法人国際
協力機構,2005 年 7 月
10)平成 20 年版 日本の水資源,国土交通省水資源
局,2008 年 8 月
11) 経済産業省、平成 2 年 7 月、我が国水ビジネス・
水関連技術の国際展開に向けて
12)迫りくる水危機、日経サイセンス、2008 年 11
月
13)蔵治光一郎、水をめぐるガバナンス、未来を拓
く人文・社会学5、東信堂 2008 年1月
14) クリストファー・フレイヴィン編著:地球白書
2007-2008,ワールドウオッチジャパン,2007,11
15) 地球温暖化時代における水文・水資源と」水管理
~我々は如何に立ち向かうのか~:第 6 回水
文・水資源学会セミナー,2008,7
16) クリストファー・フレイヴィン編著:地球環境
データブック 2007-08, ワールドウオッチジャ
パン,2007,11
17)レスターブラウン:フードセキュリティ誰が世
界を養うのか, ワールドウオッチジャパ
ン,2005,4
18) レスターブラウン:プランB2.0 エコ・エコノ
ミーを目指して, ワールドウオッチジャパ
ン,2006,11
19) Regional Document Asia-Pacific:
Mexico2006 4thWorldWater Forum, Japan Water
Forum
20) Thematic Documents Local Actions for a
Global Challenge: Mexico2006 4thWorldWater
Forum
供できる場の得られる可能性があり、要素としての
色彩の濃かった技術をシステムとして提供できる場
の得られる可能性が高まることとなる。
われわれにとって、真にコンサルタントとしてア
イディアを提案できる場が出来てくる。
6.まとめ
21世紀は水の世紀といわれ、水戦争、水争い、
水ガバナンスなど水に関る技術論争とともに政策に
関る論争も数多く提案されている。本論文では、建
設コンサルタントが将来の水問題、水政策にどのよ
うな役割を果たせるか、現在の世界的な情勢、日本
の技術、各界での議論等を基に整理した。
世界では、水は需要量を満たしうるだけの量が十
分に確保可能であるが、必要な所に必要な時期に必
要な分を供給するシステムが十分でない。特に、こ
れまで見落としがちであった経済との関係、水コス
トの評価が不十分であること、水コストの概念を導
入することにより安全な水システムが確立可能であ
ること。それが、新たな水ビジネスの成立を促すで
あろう事も想像できる。2025年には世界の水市
場は110兆円といわれている。それは、あくまで
もこれらの水コストの概念の確立が前提となろう。
建設コンサルタントの役割は、社会システムのなか
に、水システムを如何に組み込むか、日本の水技術
を組み合わせて次世代の安全・安心で健康な社会の
基本をつくる事である。そのために、水に関する技
術や知識を社会共通の認識にすることが必要で、そ
のことが節水型社会の基礎になり、効率的な農業用
水社会の基盤になる。
今後、水ビジネスに関る国内外の基礎技術、国内
外の水に関る社会システム、水に関る政策や各分野
の取り組みを集約し 21 世紀型水社会のあり方、水社
会システムの提案がこれからのコンサルタントの使
命になるであろう。
参考資料
1)世界水発展報告書、第 1 版「Water for People,
Water for Life(人類のための水、生命のための
水)
」、第2版「Water, a shared responsibility」
2)Fred Pearce,水の未来,2008 年7月,日経 BP 社
3)蔵治光一郎,水をめぐるガバナンス,2008 年1月,
東信堂
4)柴田明夫,水戦争,2007 年 12 月 30 日,角川 SS 新
書
5)世界水ビジョン川と水委員会,世界水ビジョ
ン,2001 年 6 月,山海堂
6)ミレニアム開発目標,2015 年に向けた日本のイ
ニシアティブ,平成 17 年 3 月,外務省
7)長坂寿久,世界の水問題と NGO,季刊国際貿易と
投資,No.52,2003 年 Summer
8)急拡大する世界水ビジネス市場へのアプローチ,
産業競争力懇談会水資源プロジェクト,2007 年
11 月
- 16 -
行政マネジメント研究
The study of Public Management
牛来
司*1 長南 政宏*1 辻
桂子*1 大堀
勝正*2 福田
裕恵*3 金子
学*4
Tukasa GORAI, Masahiro CHOONAN, Keiko TSUJI,Katsumasa OOHORI,Hiroe FUKUDA,Manabu KANEKO
本研究は、行政マネジメントを、①社会資本整備マネジメントに関わるビジョン策定手法、②政策評価を
用いた土木行政改革支援方策、③規制影響分析(RIA)の 3 つの切り口から分析したものである。それぞれの
テーマにおいて現況を整理・分析を行い、その結果、地方自治体への営業展開の糸口を見つけることができ
た。
キーワード:社会資本整備マネジメント、政策評価、人員マネジメント、規制影響分析(RIA)
第1章 研究の概要
1.1 研究の背景
(1) 問題となっている点
『行政マネジメント』という分野は幅広く、予
算、組織、個別業務内容等の多岐にわたっている。
また当該分野は成長過程にあり、様々な切り口で
問題点や課題が表面化している。本研究では、当
社の今までの蓄積を活かし、また他社との差別化
を図るため、当社が得意とする土木系を基軸とし
た「面的なインフラ整備とその周辺に関する行政
マネジメント」に的を絞ることとし、その中で特
に以下のような問題点に着目した。
①道路・河川等の個別の社会資本に対する選択と
集中が今後一層進むことから、全体の事業配分や
実施方針に関するマスタープランが重要となる。
②地方公共団体において技術職員の人員削減、組
織の統廃合、業務の効率化が差し迫った課題とな
っている一方で、当社の主要分野である土木部門
では技術者が急激に減少している。
③2007 年 10 月から各行政機関に対して規制の新
設等に係る政策の事前評価の実施が新たに義務付
けられ、客観的な分析手法が望まれている。
(2) 当社の現状
当社では、社会資本整備に関する計画の策定・
運用、地域経営に関する基礎的な分析手法等に関
する研究を、NPM/PPP の視点から進めてきてい
る。また、PFI 事業・技術顧問・業務改善支援等
を通して業務展開しているところである。
(3) 他社および市場の動向
『行政マネジメント』に関わる自治体支援つい
ては、銀行系シンクタンク、監査法人等が中心に
進めている一方、同業他社は一部の大手建設コン
サルタントが営業メニューとしているものの、実
績は少ない。
*1
*2
*3
*4
また、ここ数年、市町村合併による総合計画の
策定に伴う政策評価体系等の構築や、総合計画の
更新に併せた行政評価システムの見直しなど、行
政評価・行政マネジメントに関わる業務が増える
傾向が見られる。
1.2 研究の目的と方針
事業展開にあたっては、まず実現性の高い実践
的なテーマを研究しビジネスにつなげるとともに、
次に広がるテーマを学識者等とのネットワークを
構築しつつ研究し、足場を固めていくことが重要
といえる。
このような背景に着目し、本研究では以下の 3
つのテーマでより実践的な行政マネジメント技術
の研究を進めるとともに、この研究を通し、行政
からのニーズ把握、新たな関連技術開発の方向性
を明確にすることで、ビジネスへの展開を目指す
こととする。
①社会資本整備マネジメントに関わるビジョン策
定手法の研究(行政がハード事業等の面的整備を
行う際のマネジメント)
②政策評価を用いた土木行政改革支援方策の研究
(行政組織において資源(職員、予算等)配分を
行う際のマネジメント)
③規制影響分析(RIA)の研究(行政がソフト施策
(本研究では「規制」を対象)を行う際のマネジ
メント)
1.3 研究開発フロー
研究開発フローは図 1-1 の通りである。
東京本社都市部地域マネジメント室 Public Outreach and Awareness Section, Urban Planning Division, Tokyo Office
マネジメント事業部 Management Business Division
東京本社都市部 Urban Planning Division, Tokyo Office
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 17 -
社会資本整備マネジメントの背景と現状の整理
研究準備
①社会資本整
備マネジメ
ントに関わ
るビジョン
策定手法の
研究
②政策評価を
用いた土木
行政改革支
援方策の研
究
社会資本整備マネジメントに関するビジョン策
定の事例収集・整理
③規制影響分
析(RIA)の
研究
業務実施を通じたビジョン策定のプロセス及び
留意点の整理
成果の概要と今後の課題のとりまとめ
成果と課題の整理
今後の方向性の検討
図 1-1 研究開発フロー
第2章 社会資本整備マネジメントに関わるビジ
ョン策定手法の研究
安全・安心、環境問題への対応、ユニバーサル
デザインへの転換など、国民の生活やそれを構成
する社会資本に対するニーズが多様化する一方、
国や地方自治体の財政状況は今まで以上に悪化し
ており、より低コストで、質の高い事業を実現す
るという時代の要請に応じ、一層重点的、効果的
かつ効率的に推進していくことが求められている。
図 2-1 研究フロー
2.2 社会資本整備マネジメントの背景と現状の整理
(1) 地方自治体における社会資本整備マネジメント
地方自治体の財政状況の悪化が深刻化する中、
社会資本整備においても「選択と集中」としての
予算の適正な配分および執行、コスト縮減など財
務的なマネジメントの充実が求められている。ま
た、住民に対するアカウンタビリティの観点から
も、社会資本整備に対する投資とそこから得られ
る便益、住民の満足度など効果検証の重要性が高
まっている。
財務的マネジメントと技術的マネジメントを連
携させるとともに、これまで事業分野別であった
ものを「社会資本」として一本化かつ重点化する
ことが効果的、効率的な社会資本整備を推進する
上で重要であるとの認識が高まっている。
社会資本整備マネジメントをよりより効果的な
ものとしていくためには、これら財務的マネジメン
トと技術的マネジメントを連携させることが重要
であり、これらを結びつける技術が社会資本整備マ
ネジメントの上では求められる。また、市民の満足
度、市民が社会資本に求めるサービスレベルを重ね
合わせ、これらの評価軸として市民ニーズを生活者、
利用者の視点から抽出し、明確化することが重要で
ある。これらの結びつける技術、重ね合わせる技術
が建設コンサルタントに求められる技術であり、各
種計画策定支援業務等において CTI が活躍できる
領域であると考えられる。
こうした中、我が国では平成 14 年から政策評価
の制度化(「行政機関の行う政策の評価に関する法
律」
)
、
平成 15 年からの社会資本整備事業の重点化、
効率化(
「社会資本整備重点計画法」
)等を法制化し、
推進してきた。また、これら成果を重視した行政運
営の手法として、経営学的手法を取り入れた New
Public Management の取り組みも地方自治体レベ
ルで進められている。
今後は個別(又は地域や地区単位)の社会資本
に対する選択と集中が一層進むことから、行政団
体全体の事業配分や実施方針に関するマスタープ
ランの策定と運用が各自治体において重要となる。
2.1 本研究の位置づけ
社会資本整備マネジメント
本年度の研究では、これ
ら社会資本整備マネジメ
ントをとりまく現状を整
理するとともに、自治体
(主に都道府県)を中心に、
社会資本整備マネジメン
トに係るビジョンの策定
について事例を収集し、実
践的なビジョン策定手法
技術の研究を進める。研究
のフローを図 2-1 に示す。
図 2-2 財務的マネジメントと技術的マネジメントの連携イメージ
(出典)国土政策研究所プロジェクト研究報告「住宅・社会資本の管理運営技術の開発」p493 に加筆
- 18 -
(2)個別事業分野のマネジメントから社会資本全体
のマネジメントへ
個別事業の事業管理、維持管理等から始まった
社会資本整備マネジメントは、個別事業分野のマ
ネジメントから、総合計画における実施計画、都
市計画マスタープラン、都市計画区域マスタープ
ランなどのまちづくりに横断的に係るマスタープ
ラン等を経て、行政評価を制度化した「行政機関
の行う政策の評価に関する法律(平成 14 年 4 月施
行)
、社会資本整備を重点的、効果的かつ効率的に
推進するため、政策目標の実現に関係する事業間
の連携を一層強めることを目的とし、これまでの
社会資本整備に関する事業分野別の長期計画を統
合し、社会資本整備重点計画として策定すること
を定め、PLAN-DO-SEE 型のフォローアップシス
テムを備えた「社会資本整備重点計画法(平成 15
年 4 月施行)
」等の施行により、政策評価を導入し
た、社会資本整備全体にかかるビジョン策定が都
道府県を中心に進んでいる。
2.3 社会資本整備マネジメントに関するビジョン
策定の事例収集・整理
これまでに策定された計画のうち、多くが「技
術的マネジメント」中心であり、将来像や社会資
本整備の基本方針の策定に力点が置かれている。
また、施策・事業の重点化において、具体的にそ
の抽出根拠(評価指標等)を示している計画は少
なく、
「財務的マネジメント」の必要性が謳われて
いながらも、実際のプランに示されているものは
少ない。これについては、各総合計画の実施計画
策定プロセスや、個別の公共事業評価システム、
事務事業評価等で担保されていると考えられる。
但し、明確に重点プログラム等を示す上では、ア
カウンタビリティの観点から、その妥当性につい
ても当該計画に示し、住民の理解深化を図ること
が重要である。
そのためには、住民のニーズがどこにあるかを
策定プロセスで綿密に把握するとともに、その実
現化方策についても、行政や NPO、地域住民や地
元企業など様々な主体による整備のあり方につい
て方向性を検討することで、地域との協働による
実施など、新たな整備のあり方について位置づけ
られる可能性がある。
2.4 業務実施を通じたビジョン策定のプロセス及
び留意点の整理
○施策・事業策定
地域のニーズ収集にあたっては、対象領域を社
会資本整備に限らず、広く生活一般としたため、
地域のニーズを社会資本整備で解決する場合の施
策・事業に限られた。また、既往事業の棚卸しと
事業量の把握を行なうことで、現在の事業の全体
像が把握できるとともに、次の評価プロセスへ向
けた基礎資料とすることができ有効であるため、
策定初動期に現況整理として実施することが必要
である。
○事業評価
県民のニーズと発注者側のニーズにかい離を打
開し、当初の目的である、「本当に地域が求める事
業を位置づける」ことを実現するためには、「県民
や地域が求める」という部分を定量化、明確化する
手法を確立するとともに、事業費や効果の正確な把
握が必要である。
○県民参画運営支援
重点化に当っては、やはり県民の社会資本整備
に対する満足度、重要度をある程度の規模で、定
量的に把握し、評価軸として用いることが必要で
ある。
ニーズ把握の手法として社会資本整備に対する住
民意識調査等のアンケート調査等を実施するとと
もに、そのデータを用いた QoL 評価により、事業
評価、施策・事業の重点化等にも活用できること
から、県民参画にあたっては、これらの手法も有
効なツールとして検討する必要がある。
図 2-3 ビジョン策定フロー案
2.5 成果の概要と今後の課題のとりまとめ
(1)成果の概要
以下に整理した項目と得られた主な知見を示す。
・これまでの社会資本整備マネジメントの経過に
ついてとりまとめ、社会資本整備に係るビジョン
- 19 -
策定の必要性について把握した。
・都道府県における社会資本整備に係るビジョン
策定の事例を収集・整理し、計画の策定内容を把
握するとともに、それぞれの特徴と業務実施上の
留意点について整理した。
・業務実施を通じて実際の策定プロセス、業務ボ
リューム等を整理し、今後展開すべきビジョン策
定の方向性とそのプロセスを示した。
(2)今後の課題
ビジョン策定業務においては、施策・事業評価
等の財務的マネジメントの技術は確立されていな
いものの、住民のニーズ把握や定量化等において
は、ワークショップ、オープンハウスなど合意形
成、PI の多様な手法や QoL の概念を取り入れた評
価手法など CTI オリジナルの分析等においてアピ
ールできる点があると考えられる。総合コンサル
タントとして、個別の事業分野についても精通す
るとともに、アセット・マネジメントや土木行政
改革支援などの技術的マネジメント技術と組み合
わせることが必要である。
今後更に CTI のプレゼンスを高めるためには、これら
の連携と財務的マネジメント技術の確立を進める必要が
ある。
・財務的マネジメントの技術強化
・実績を活かした市町村への営業展開
・住民のニーズ把握・評価に関する技術強化
限られた職員を複数事務所に配分する上で客観的
な合理性をもたせる方法論について論じることを
目的としている。具体化においては、関連領域の
研究の重要性を認識しつつ、実務的な視点からア
プローチを行う。
3.2 モデルの設定
複数の出先機関に人員を配分する検討フローは
図 3-1 のように体系化することができる。すなわち、
図 3-1 の「直営業務と総人数の設定」を制約条件と
して業務に関連する道路延長や交通量などの客観
データを用いて科学的な根拠に基づく人員配分計
画を提案するものである。
3.3 ミクロ的な集計
マクロ算定方式による定員は、通常時の場合に
限り、各事務所で共通的な業務を対象とした業務
量に基づいて推計される。しかしながら、各事務
所の道路維持業務は、管内の地形、気候、経済活
動等の地域特性に依存する。そこで、マクロ的な
推計で考慮されていない地域特性に着目し、事務
所間で違いがある場合には業務に照らして人員配
分に反映させる必要がある。道路維持に大きく関
係する地域特性として、都市部と地方部の違い、
災害対応、特殊事情(イベント等)を挙げること
ができる。
本研究では、都市部と地方部の業務負担の違い、
災害対応についてミクロ的な推計について述べる。
組織責任者(首長等)の方針
第3章 政策評価を用いた土木行政改革支援方策
の研究
近年、多くの土木官庁で大規模な人員削減が行
われている。特に、比較的人数が多い維持管理業
務に携わる現業職員を削減対象とすることが多い。
今後、行政改革に伴い業務執行体制の見直しが課
題となる。そのため、1) 官民分担の明確化(民間
委託の拡大)
、2) 複数事務所間の適正な人員配分、
3) 限られた職員による業務の効率化、4) 技術伝承、
及び 5) わかりやすい対外説明などの理論的根拠
が必要となっている。
本年度の研究では、こうした課題のうち、道路
の維持業務における人員配分手法について公共経
営論、数理統計、リスクマネジメント等をふまえ
て土木行政改革に政策評価を導入した客観的な手
法を開発した。さらに、考察した手法を山口県で
適用した。
3.1 本研究の位置づけ
公共機関が担うべき定員の適正化に関する理論
は、行政改革を受けた定員管理の中で扱われてい
るものの道路維持そのものの定員数に関する明確
な理論的根拠は、筆者らが知る限り見あたらない。
本研究では、道路維持の行政組織を対象として、
- 20 -
行政改革や財政状況等に基づく
事業評価や予算編成過程等による
定員管理目標値の設定
事務事業の見直し
土 木 部 門
短期の道路政策
(例)管理延長、予算
(例)巡回頻度、
除草頻度
官民分担、サービス水準等の設定
道路維持業務量の想定
直
営
業
務
と
総
人
数
の
設
定
マ
ク
ロ
的
な
推
計
総人数の設 定
複数事務所の業務量の把握
各事務所への人員配分計画
(概略レベル)
地域特性の考慮
(1) 都市部と地方部の違い
(2) 災害対応(通行規制等)
(3) その他(イベント開催等)
ミ
ク
ロ
的
な
推
計
各事務所の人員構成
各事務所への人員配分計画
( 詳 細 レ ベ ル)
各事務所との
No
Yes
各事務所への人員配分の決定
図 3-1 道路維持人員配分の検討フロー案
(出典)大堀の提案
3.4 モデルの適用事例
山口県土木建築部では、県政集中改革による組
織改変と外部委託推進等の知事方針をふまえて道
路の維持管理体制を縮小することを余儀なくされ
ている。平成 18 年 4 月には、14 の土木(建築)
事務所が 10 に統合され
(4 事務所が分室化、
図 3-2)
、
今後とも人数を含めて統合する方針である。他方
で、道路に対する苦情・要望の増加、施設の老朽
化等も含めて維持業務は増加傾向にある。
こうした背景を受けて、道路維持の 1) 公的役割の
見直し、2) 必要総数の見直し、3) 事務所への適切
な人員配分、4) これらの対外説明が必要な理論構
築を行った。
務負担が大きいこと、出先機関 A、E 負担が大きい
こと、出先機関 A、E は災害対応の業務負担が大き
いこと、出先機関 C、F、I、K、M では行政職が 1
人しかおらず交渉や指示など管理責任に関わる業
務負担が大きいことを考慮し、A、C、E、F、G、
I、K、M の 8 機関に各 1 人の行政職を増員する必
要があることを検討ワーキングで決定した。その
条件を想定人数とし、地域性や災害特性をふまえ
た変数を用いて重回帰分析を行った結果を表 3-1
に示す。
表 3-1 をマクロ推定と比べると、修正済決定係数
と修正済重相関係数が 1 に近づくとともに、情報
量規準 AIC が 25.63 から 18.93 へと値が小さくな
った。このことから、説明変数と目的変数の適合
度が増したこと、すなわち推定精度が良くなった
ことがわかる。説明変数は、道路維持業務の量お
よび質の特性を表すことから、職員数と業務のバ
ランスが向上するものと考えられる。
ちなみに、説明変数の寄与率を主成分分析で調
べたところ図 3-3 の結果を得た。この結果から、2
つの主成分でほぼ職員数は説明されていること、6
つの変数がほぼ偏りなく寄与していることが判明
した。
3.5 結論と今後の課題
本研究では、道路維持の執行体制を業務特性に
応じて客観性な合理性を向上させることを目的と
して、客観データによる事務所への人員配分手法
について適用事例を基にした政策評価を用いた土
図 3-2 山口県の土木(建築)事務所の所管区分
(H19)
マクロ推計の後にミクロ推計をふまえて、都市
部の出先機関 E、G、I、K では行政職に関わる業
表 3-1 地域特性をふまえた職員数と推定値の比較
Y=-0.0000004X1+0.0103134X2
+0.0000032X3+0.0002834X4
+0.0088364X5-0.0065241X6+4.0596957
説明変数
目的変数
Y
X1
X2
X3
X4
X5
X6
維持班 維持班の 管内の 管理水準で比
交通量の
塩化
道路緑化済
苦情・要望
地域区分
想定
人数
人口 率配分した道路 断面平均
カルシウム
延長合計
(人)
(km)
(km)
(人)
(千人)
(10台/24h) (件/年度) (トン/年度)
132
164
369
277
66
4.1 都市部
7
6.3
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
平均
5
5
5
7
5
6
5
5
6
5
5
5
6
5.5
4.7
5.0
4.9
7.1
5.1
5.7
5.2
5.3
6.1
5.0
5.2
5.1
6.3
25
70
21
259
116
182
15
243
29
265
27
40
61
106
5.5
48
91
73
230
47
140
81
114
156
87
107
92
157
113
517
458
276
711
1,259
754
115
743
403
981
340
331
250
536
75
168
117
536
289
287
46
363
185
512
99
181
144
234
12
5
3
98
58
59
40
38
58
7
6
8
67
38
0.99
道路延長*
-0.2
0.25
交通量の
断面平均
0.2
0.4
0.6
因子負荷量
0.2
B
D
G
C
0
都市部
地方部
-0.2
都市部
-0.4
J
H
I
L
精度
決定係数
修正済決定係数
重相関係数
修正済重相関係数
ダービンワトソン比
赤池のAIC
0.87
0.75
0.93
0.87
1.01
18.93
E
地方部
都市部
地方部
地方部
地方部
K
F
M
N
0.60
0.8
1.0
-0.2
固有値表
主成分No.1
主成分No.2
0.44
道路緑化済延長
-0.01
0.0
都市部
0.58
塩化カルシウム
0.44
塩化カルシウム
都市部
A
0.4
地方部
0.83
管内の人口
0.78
道路緑化済延長
0.6
地方部
道路延長*
苦情・要望
0.79
苦情・要望
残差グラフ
0.8
地方部
主成分No.2
主成分No.1
交通量の
断面平均
管内の人口
3.5
9.6
0.0
32.3
2.6
56.5
5.9
36.9
25.9
19.3
3.4
7.3
1.3
14.9
残差
出先
機関
0.42
-0.15
0.0
0.2
0.4
0.6
因子負荷量
0.8
1.0
図 3-3 道路維持職員推計の要因分析結果
- 21 -
寄与率
86.61%
11.56%
累積寄与率
86.61%
98.17%
木行政改革支援手法等の検討を行った。以下に、
得られた主な知見を示す。
a) 道路維持人員配分の検討フレームを提案した。
ここで、人事や財務等を含む政策方針に道路維持
管理の実施方針(管理水準等)を組み込んだマク
ロ的な推計と、地域性等を考慮したミクロ的な推
計により客観性および合理性を向上させるための
評価手順を示した。
b) 事務所への適切な人員配分を行うための説明変
数を提案するとともに、数理統計の根拠から評価
判定基準として赤池の情報量規準 AIC を用いるこ
とが望ましいことを提案した。
c) 道路維持の大半を占める通常業務のみならず、
災害対応の業務負担も定量的に評価する手法を示
した。さらに実測データに基づくリスクカーブを
作成し、人員配分の検討に反映する例を示した。
d) 以上を山口県において実証的に検討し、説明変
数のデータ設定や道路延長の重み付けなど道路維
持行政の実態に適合するように随所で改良を行っ
た。
規制影響分析のしくみ・考え方の整理
日本における規制影響分析の現状の整理
RIA の限界と地方自治体への導入可能性の検討
成果の概要と今後の課題のとりまとめ
図 4-1 分析フロー
4.2 規制影響分析のしくみ・考え方
(1) 規制の事前評価とは
規制の事前評価の目的は、以下の 2 点にある。
①発生する効果や負担を予測することにより規制
の新設又は改廃の可否や規制の具体的な内容・程
度の検討に資すること
②及び国民や利害関係者に対して規制の必要性や
あり得る影響について情報を提供し、説明責任を
果たすこと
また、規制の事前評価の効果としては、以下の 2
つが挙げられる。
①規制の事前評価を実施すること自体が持つ効用
→評価のプロセスに客観性及び論理性が要求され
るため、これらに配慮して規制の検討が行われる
ことが期待できる。
第4章 規制影響分析(RIA)の研究
4.1 研究の概要
規制は、社会秩序の維持、安全、防災、環境保
全、消費者保護等の政策目的の実現のために設け
られるものであるが、そういったプラスの面もあ
る一方で、国民の権利・活動を制限し義務を課す
ことにより、国民に負担を発生させるものもある。
このような規制の性質を踏まえると、規制を新た
に設けたり、改正や廃止を行ったりする際に、規
制について効果と負担を比較するなどの事前評価
を実施し、その結果を政策決定における判断の材
料とすることは極めて重要である。
日本においては、平成 19 年 10 月1日から各行政
機関に対して規制の新設又は改廃に係る政策の事
前評価の実施が新たに義務付けられ、今後は地方
自治体でも RIA の導入が進む可能性がある。
そこで、本研究では RIA の概要およびしくみを整
理するとともに、RIA の実施事例を調査する。ま
た、地方自治体への導入可能性や導入時の課題、
CTI の業務対象となりうる分野等を明らかにする
こととする。
分析のフローは図 4-1 の通りである。
②国民や利害関係者に評価結果を提示することで
得られる効用
→規制策定過程あるいは規制施行後の見直しの際
に、議論の共通の土台を提供する。
(2) 規制影響分析とは
規制影響分析(RIA)とは、
『新規規制案や既存
規制がもたらすネガティブ・ポジティブ双方の影
響について、体系的に分析することを目的とした
一連の分析手法』と定義されており*1、規制の事前
評価を行う際に、政治・行政における意思決定の
質を高めるための手段であると同時に、公開性、
国民関与、説明責任等の重要な政治的価値を達成
するための手段として用いられている。
RIA は、規制の質の向上に向けた手段として、
以下の 2 つのツールとしての役割を期待されてい
る。
①客観性・透明性ある意思決定のための「事前分
析ツール」
②国民・事業者(Business Sector)への説明責任
を果たすための「合意形成ツール」
(3) 導入の背景
日本において規制の事前評価および RIA が導入
される契機となったのは、主に OECD 諸国での先
1
OECD (1997) , Regulatory Impact Analysis: Best
Practices in OECD Countries, P.7
- 22 -
(4)規制の事前評価・RIA の事例
前述の試行のうち、国土交通省所管のまちづく
りに関する規制の事例を抽出し、整理した。これ
らの規制は地方自治体の条例と類似するものも想
定され、自治体での適用のヒントになると考えら
れる。
具体的には、以下のような法律の制定・改正時
に試行が実施された。
建築物の耐震改修の促進に関する法律の改正
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関す
る法律の制定
(5) 有識者へのヒアリング
日本における RIA の最近の動向および地方自治
体における RIA 導入の可能性を把握すべく、総務
省行政評価局磯崎氏と政策研究大学院大学堀江教
授に対し、ヒアリングを実施した。
その結果、以下のような点について指摘を受け
た。
1) 実務における RIA の留意点
RIA を徹底的に実施しようと思えば 1 年以上か
かるが、工期内の限られた時間でできる範囲の事
を分析し、最善を尽くすことが肝要。
また、RIA を真面目にやろうとするとコストがか
かるので、厳しく評価するべき規制と簡易な評価
でも構わない規制との区別が必要。
RIA を実際に実施する際は、誰が費用と便益の受
け手となるのかをしっかり考慮するべき。
2) 自治体レベルでの RIA 導入可能性
規制の影響の範囲や大きさに応じて、自治体が
RIA を実施する価値があると判断した規制の新
設・改正にあたっては、実施するべきである。
地方分権が進めば、自治体が国に代わって RIA を
実施せざるを得なくなる可能性は高い。ただ、時
期についてはなんとも言えない。
自治体に RIA を実施する能力が欠如していると
しても、それは外部から学識経験者やコンサルタ
ント等を招聘し、自治体の能力に合わせて、適切
なやり方で、できることから始めればよい。
特に文系の自治体職員は定量化というだけで構
えてしまいがちだが、定量的なデータはあくまで
も評価のロジックを説明するための道具の一つな
ので、可能なところから手をつければよい。
4.4 RIA の限界と地方自治体への導入可能性
(1) RIA の限界と問題点
1 つめは、どうしても時間的に制約がある中で実
施するケースが多くなるため、多くは定性的な効
果および負担の整理にとどまることが想定される
ことである。国の試行結果を見ても、定量的に効
果や負担を記載している事例は 247 のうちわずか
10%に過ぎない。
進的な取り組みと、日本国内における法律の要請
等によるところが大きい。
4.3 日本における規制影響分析の現状
(1) 試行的実施の状況
『規制改革・民間開放推進 3 か年計画』
(平成 16
年 3 月 19 日閣議決定)に基づき、日本では平成
16 年 10 月1日から平成 19 年 9 月末まで、各省庁
において RIA の試行的実施が行われた。実施状況
は、13 省庁において 247 件となっている。
(2) 事前評価の義務化
また、平成 19 年 8 月、評価法施行令*2の一部改
正により、平成 19 年 10 月 1 日から、総務省令で
定める一部のものを除き、各行政機関が法律又は
政令によって規制の新設又は改廃を行おうとする
際、事前評価の実施を義務付けることとされた。
また、政策評価に関する基本方針*3の一部変更によ
り、各行政機関は、事前評価の実施が義務付けら
れていない規制についても、積極的かつ自主的な
取組を行うよう努めることとされている。
(3) ガイドラインの策定
同じく平成 19 年 8 月、政策評価に関する基本方
針(平成 17 年 12 月 16 日閣議決定)に基づき、規
制の新設又は改廃に係る政策の事前評価を円滑か
つ効率的に実施するため、規制の事前評価の内容、
手順等の標準的な指針を示す「規制の事前評価の
実施に関するガイドライン」が策定された。規制
の事前評価の分析手順をまとめると図 4-2 の通り
となる。
規制の新設又は改廃の必要性・内容を検討
ベースラインの設定・代替案の検討
影響の包括的リストを作成
重要な影響の発生時期及び受ける主体を予測、
時系列の表にまとめる
影響のうち、可能なものを定量化・金銭価値化
※副次的影響・間接的影響も考慮
影響の一覧表の作成、
費用便益分析、費用効果分析などを実施
感度分析を実施
規制の新設又は改廃の可否・内容や程度の決定
評価書、要旨を作成
図 4-2 規制の事前評価の分析手順
2
行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令(平成 13 年政
令第 323 号)
3
政策評価に関する基本方針(平成 17 年 12 月 16 日閣議決定)
- 23 -
2 つめは、実施事例の蓄積の少なさである。ガイ
ドラインが公布され、RIA の実施項目がある程度
示されてはいるが、実際にどの程度まで分析を行
えばいいのかについては、担当者の判断に任され
ている状況にある。国や自治体の実務担当者が実
務を行うためには、さらなる事例、特に定量的な
効果および負担の計測方法については事例を積み
上げる必要がある。
(2) 地方自治体における RIA
1) 地方自治体への導入可能性
現在、地方自治体においては RIA の試行も義務
化もされておらず、職員は概念すら知らないと思
われる。
また、義務化にあたっては、地方分権の動向や
RIA の対象となる規制とならない規制の線引きを
どうするのか等、解決すべき問題が山積しており、
RIA が義務づけられることは近い将来にはないと
推察される。ただし、有識者によれば、社会環境
への影響が大きい場合には、行政の説明責任とし
て地方自治体が自ら規制の影響を分析・評価する
必要があるとされており、CTI としては影響の大
きさを見極め、必要と考えられる場合には提案を
していく必要があると考える。
2) 業務が想定される分野
土木およびまちづくり関連の業務の中では、RIA
に準ずるような形での規制影響評価が必要とされ
る場合が少なくないと考えられる。また、現行業
務から派生する形で実施できるものもあると思わ
れる。
そこで以下では、①規制の新設・改正によって
社会環境に与える影響が大きいと考えられるもの、
②かつ CTI の得意分野である土木系に関連するも
の、の 2 つの基準を基に、CTI において規制影響
評価・RIA の対象となりうる業務がある分野およ
び規制を、a)まちづくり・住宅、b)景観、c)交通の
3 つの分野について検討した。なお、具体的な事例
については報告書本編を参照されたい。
表 4-1 規制影響評価の対象となりうる規制
規制の新設・改正
内容
a) まちづくり
自治基本条例(ま
ちづくり基本条
例)
まちづくりの基本原理や
行政の基本ルールなどを
定めた自治体の最高法規
である自治基本条例の新
設や改正に伴う影響を評
価・分析する。
都市計画区域
線引きの見直し等による
影響を評価・分析する。
用途地域
用途地域の変更や特例の
- 24 -
規制の新設・改正
建築協定・景観協
定・地区計画
火災予防条例等
居住空間に関連
するもの
内容
適用による影響を評価・分
析する。
協定や地区計画の設定に
よる影響を評価・分析す
る。
火災予防条例の改正によ
る影響を評価・分析する。
b) 景観
景観整備条例(高
さ制限、屋外広告
物等規制、色彩規
定等)
高さ制限の変更や屋外広
告物への規制の適用によ
る影響を評価・分析する。
景観計画
景観計画の策定・改正等に
よる影響を評価・分析す
る。
c) 交通
有料道路の料金
改定(無料化含
む)
有料道路の料金改定によ
る影響を評価・分析する。
自動車等乗り入
れ規制
自動車等の乗り入れや一
方通行化等の規制による
影響を評価・分析する。
4.5 成果の概要と今後の課題
(1) 成果の概要
以下に、整理した項目と得られた主な知見を示
す。
a) 規制の事前評価および規制影響分析のしくみと
考え方をとりまとめ、導入の背景を把握した。
b) 日本における規制影響分析の現状を明らかにし、
また規制の事前評価・RIA の事例を整理し、実際
の分析項目、適用分野等をとりまとめた。
c) 有識者へのヒアリングを実施し、RIA 実務実施
上の留意点と自治体での導入可能性を整理した。
d) CTI の業務対象となりうる分野と規制を示した。
(2) 今後の課題
まず、地方自治体が取り組む価値があり、かつ
CTI が支援できる具体的な対象分野と規制を明確
にするために、今回検討した案を基に再度有識者
にヒアリングを行い、精度を高めることが有用で
あると考える。
また、業務の一部として検討を進めることが可
能な規制については、業務内やプロポーザルで技
術提案し、実績を積み重ねることが望ましい。そ
のことで、営業のネタや実績づくりにもつながる
と考えられる。
なお、景観や交通分野については、景観企画室
や道路・交通部との連携により、プロポーザルで
の提案や技術営業時に RIA を含めた形で提案して
いくことなどの方策が考えられる。
第5章 まとめ
5.1 成果の概要と今後の課題
規制は、社会秩序の維持、安全、防災、環境保
全、消費者保護等の政策目的の実現のために設け
られるものであるが、そういったプラスの面もあ
る一方で、国民の権利ある。
5.2 今後の方向性
今年度の研究成果を受け、行政マネジメント分
野の事業化・本格参入に向けて、以下のようなア
クションプランを検討し実行に移していくことと
する。
(1) 研究成果のブラッシュアップ
事業化に向けた精度を高めるため、有識者や自
治体関係者にヒアリングを実施し、研究成果をさ
らにブラッシュアップする。
(2) 技術営業ツールの作成
今年度における 3 つの個別研究から得られた成
果・知見・今後の課題を基に、地方自治体のニー
ズに対応した営業メニュー・手法を検討し、商品
化に向けた営業活動のための技術営業ツール(パ
ンフレット)をそれぞれ作成する。
また、営業部と連携し、それらを活用した営業
展開を図る。
(3) 営業対象自治体の開拓
関連分野キーパーソンのネットワークを活用し、
地方自治体関連セクションへのヒアリング等を通
し、ピンポイント的な営業展開の糸口を見出す。
また、ヒアリングした有識者等から有識者とつな
がりのある自治体を紹介してもらい、営業活動を
行う。業務としての受注が難しいようであれば、
まずは勉強会や共同研究といった形からスタート
し、実践での実績を積むことも検討する。
(4) 関連部署・セクションとの連携強化
研究成果を活用し、関連する部署およびセクシ
ョンとの勉強会を開催し、成果の共有と事業化へ
の展開を図る。とくに、構造系(アセットマネジ
メント室)や道路・交通部、景観企画室との連携
は即効性が見込めるため、これらの部室との連携
を重視する。
- 25 -
医療福祉支援システム開発研究
カウンセリング理論に基づく心理社会調査法開発の試み
A preliminary study on developing a Psycho-Societal Research Methods based on the SAT Theory
金子 学*1
Manabu KANEKO
これまでの既成感を排して新たな視点で社会を考えることや今後の持続可能な社会システム構築の必要
性が高まっている今日の社会において、個々人の中に眠っている独自の考えや意見を抽出し、真の気持ち
や心理を汲み上げて統合化することが社会全体の意識や意向とできるような調査者の恣意性を出来るだけ
排除した社会や市場の調査手法が求められている。本研究は、過年度においてカウンセリング理論である
SAT法(宗像 1997)を活用し、個々人の日常的エピソードと背後にある気持ち等の情報入力用システム
を教材として長期間の入力調査を実施し、そこから得られたストレス影響因子に関する情報を使って個人
の心理をモニタリングする手法を開発した。本稿はそれらを活用した発展的検討として、ある集団と時間
断面でのモデル調査を実施して目標とする調査法および解析法が成立するのかについて検討した。
キーワード;社会調査手法, 原因帰属, イメージスクリプト, SAT 法, LSA 法
(1) 持続的地域経営と市民の心のあり方
産業、経済、雇用、環境などの変化に伴って、今日の
社会全体が抜本的な変化が求められている。これはいわ
ゆる“変革”と言われるように、既成の慣習や慣行を見
直したり、改善したりすることによって、それらの仕組
みや行為の今日的な意味や役割を再度確認しようとす
る動きである。これらの動きを人間レベルの問題では
“行動変容”と呼ぶが、
“変容”には一般的に心理社会
的ストレスが伴うことが知られている。例えば、身近な
ところでは喫煙行動を禁煙へと導く場合、喫煙が生活ス
トレスに対して本人の癒しや快感等を得ることによっ
て潜在的にネガティブな思いを解消しようとする脳内
認知の仕組みがあるので、行動変容させるには、潜在下
のネガティブな思いを癒し、脚本の再学習を促す必要が
ある。つまり既成の行動の中にはそれに対峙する人間そ
れぞれのそうせずにはいられない物語りがあって、それ
を自分にとって意味のある脚本に変える必要があるた
め、行動変容には非常な困難が伴うと考えられている。
このように考えると、人間個々人の集合として顕在化し
ている「社会における慣習や慣行」も、何らかの潜在的
情動に裏付けられた意味を持っているものと考えられ
る。従って、多くの人にとって意味のある(満足する)
変革(変化)とするには、従来の慣行等の中にある市民
一人ひとりの情動や心理に関わる情報に耳を傾けて収
集し、それらの情緒面をも統合化した情報を用いて変革
の方向を模索することが重要となる。
特に今日の地域計画では、各事業の合意形成はもとよ
り、持続的地域経営の観点から PPP 等の地域社会運営全
体にわたる官民協働体制が求められつつある。またその
際には、生活に関する信条や価値観等ロイヤリティの形
成、およびそれらを形作る官民相互の組織形成や人材づ
*1
くりなどの人的マネジメントに対する対応が欠かせな
い状況がある。
従って、このような状況下にあって社会システム運営
を円滑化し、生活満足度の高い地域経営にするためには、
いわゆるメンタル、あるいはマインドといった地域住民
や行政担当者総体としての心理等、情報の質的な部分に
ついての問題の観測や判断を行うことが不可欠であり、
心的なマネジメントや情動的支援を図ることが今後の
重要な課題の1つになると考えている。また、政策遂行
においても、持続的経営を行う観点から PDCA サイクル
等の仕組みづくりを併せて考える必要があることから、
総合的なアウトカム指標の1つとして心理情報を据え、
人間個々人のレベルにおける社会的満足度の評価測定
として用いることも考えられる。
(2) 社会調査手法の技術的改善の必要性
広範な市民の意向等の社会情報を把握する調査手法
としては、一般的にアンケート調査法が昔から良く知ら
れており、情報技術の進展した現代社会においてもマー
ケティングの基本手法となっている。しかし、近年人間
の脳や認知の仕組みなどが明らかになるにつれ、こうい
った指示的調査法の問題点が指摘されている。
(Zaltman,
2003)2)
指示的調査法には、質問が予め調査者によって決めら
れている、という特徴がある。これは調査者あるいは調
査票設計者が調査前に問題に対する概念(予見)を持ち、
調査は問題検証するために実施する形態となっている。
このような調査の回答形式の多くは選択式(以下選択
法)となっており、回答が容易で、回答者を選ばないこ
とからA or Bといった判断を伴うような調査には有効性
が高い。しかし、回答者の自由発想による答えではない
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 26 -
ため、調査者の概念の外側にある情報を収集することは
期待できない。しかし、Zaltman によれば、その指示的
な質問以前にテーマに対する回答者の潜在的なイメー
ジ情報は、既に過去経験として形成されている。例えば
「赤い車」に関するは質問の前に、既に回答者の脳内に
「赤い車」に対する情動情報を含んだエピソードやイメ
ージ情報が形成されているのであって、それらの質的な
情報は調査者が想定する質問では取り出すことが出来
ないものである。特にブランド等の価値観やイメージに
ついての情報収集において、これらの情報を問題探査的
に引き出すことによって、これまでに無かった製品づく
りや事業づくり等、新しいアイデアや発想を生かすため
の調査として活用することの重要性が指摘されている。
また、上記の問題を解消するような非指示的調査法とし
て、これまでには自由回答式調査(以下 FA 法)が知ら
れているが、この方法では解答欄に書くための回答者の
言語力や心理的労力の程度に回答の質が左右され、また
白紙回答になって情報収集ができないリスクも大きい。
更には、自由記述の言語上法となっているため、心理や
情動の情報として取り出すことも難しい。
(3) 新たな心理社会情報調査法の開発と研究目的
一方、筆者らは、社会全体に広がりを見せている抑う
つなどの精神疾患に代表されるストレス問題を解決支
援することを目的として、ウェブを通じて人間個々人が
日常で感じるエピソードを単純な日記形式に沿って入
力し、入力されたデータの蓄積から行動科学や心理学の
諸理論に基づいた情動・心理傾向をモニタリングするよ
うな情報システムの開発と、システムを通じて観測され
る情報からストレス要因の探査とメンタルケアを行う
ようなパーソナルストレスマネジメントシステムの機
序等について検討を行ってきた。そこで、それらで開発
した“日常・自然的に想起されるエピソード情報からメ
ンタル情報を抽出する”ための手法・システムを応用し
て収集されるデータを統合化し、上記の課題への適用方
法を検討することで、上述の課題を解決するような情報
調査法の開発と活用方法について検討した。しかし、い
きなり全くの個々人の自由想起によるエピソードを収
集して、集合的かつ統合的な解析を行うことは難しい。
そこで、本稿では、ある調査主題とある時間断面で想起
される情報について過年度の手法に準じた集団調査を
行い、それらの情報についての検討を行った。
具体的には、(1)上記のようなカウンセリング理論や
心理療法の手法を応用することによって指示的調査法
と非指示的調査法の折衷を図ることによってテーマ背
後の感情や本当の要求などのストレス関連の心理情報
を調査する手法を考案し,(2)(1)を教材とした場合の収
集情報が期待している質的特性の有無や、それらの情報
の統合化および物語りの抽出手順等について検討と考
察を行った。
- 27 -
表 1 調査実施概要
調査名
大学生の日常意識に関する調査
実施場所
摂南大学
大阪府寝屋川市池田中町 178
調査対象
摂南大学学生
実施方法
対面式。1 講義時間ごとに受講生全員が同時
に同じ質問に回答
第一回
実施日
2008 年 6 月 19 日(木)
被験者
二年生
講義1
50 名(男 41 女 9)
講義2
22 名(男 15 女 6 不明 1)
合 計
72 名(男 56 女 15 不明 1)
第二回
実施日
2008 年 12 月 16 日(金)
被験者
一年生
講義1
61 名(男 52 女 9)
講義2
60 名(男 41 女 15 不明 2 無効 2)
合 計
121 名(男 93 女 24 不明 2 無効 2)
【教材と方法】
(1) 質問票の作成
一般的に人間は FA 法のように「思ったこと」を書く
ように指示されても、
「会社の一員としてこんなことを
いうのは言っていいものか」等、本当に書きたいことに
無力感や脅威などの感情(恐れ)が含まれている場合、
脳の機序から心的防衛機制が掛り、本当の要求を直感的
に書くことが難しい。そこで、開発した教材では、カウ
ンセリング理論の 1 つである SAT 法(構造化連想法 宗
像, 1997)で用いられるトラウマ(過去記憶上の障害)
回避のためのイメージ法と自己イメージ法の手順を使
って、テーマ背後の感情情報を引き出すことにより、心
的防衛機制のハードルを下げて本当のエピソードや要
求を出やすくする質問法を手順化した。具体的には[①
イメージ想起トレーニング(レモンイメージ法)の実施
②主題(
“今の大学生活”
)の提示 ③主題の背後に想起
される感情 ④感情から想起される出来事・エピソード
⑤エピソード背後の要求 ⑥要求背後の自己イメージ
⑦想起される今後の行動 ⑧記述エピソードの要約化]
の一連の問い掛けに基づいた自由発想による情報収集
を行うための調査票を作成した。
(2) 調査方法
本調査は開発教材のテストケースであり、主題と被験
者集団の選定は実施の容易さを考慮すると同時に、既往
研究との比較の容易性も考慮したものである。考案した
上記の質問群を用いて筆記試験型のアンケート調査(表
1)を実施し、被験者の回答から主題「今の大学生活」
に関する情動情報についてとりまとめた。具体的には出
題者のガイダンスにしたがって、被験者が質問文を聞き、
回答票に回答する筆記方式で、被験者個人に関する上述
の質問に加えて、性別や受検時志望順位などの属性情報
についても合わせて回答してもらった。なお、調査は個
人的なエピソードの記入が想定されることから無記名
とし、特定の人物が記述に出てくる場合は自分の関係上
の名称(親、友達等)とするように指定し、個人名と記
述情報が特定されないように配慮している。
(3) 集計・解析方法
調査分析の前提となる心理モニタリング法は、メンタ
ルヘルスに内的に影響すると考えられるエピソードに
対する原因帰属の傾向“要求の傾向(自己/他者)
(Abramson et al., 1978)”と “自己イメージスクリプト(宗
像, 2006)”の2つの因子を軸として4つの“情動”に関
する象限―1)自立(自己肯定)感増大、2)自己嫌悪・
自己否定感増大、3)自己肯定感減少(見捨てられ感増
大)
、4)依存心増大-で構成される座標平面上に、それ
ぞれのサンプル情報が適合する位置にプロット(Y軸:
自己要求(+1),他者要求(-1),両方(+-0),X軸:良
い自己イメージ(+1),悪い自己イメージ(-1)
)し、各
軸に適合する情報を累積化し、調べようとする属性など
で区分された集団における分布形を表現する方法で、そ
の集団の総合的なメンタルヘルス特性をモニターし、集
団間などによる比較を行えるようにしたものである(図
1)
。この方法によって回答群を集計・解析して、別途継
続的に実施している個人の経時的な調査の結果と比較
して本研究が提案する調査手法の妥当性を検証する。そ
して、集計・解析プロセスや出力内容に関する改善点と
効果的な利用法を検討した。さらに対象とした集団の心
理的な物語り特性について考察することを通じて本シ
ステムの社会調査手法としての可能性を検討した。
内省化・内在化
自己否定/嫌悪感
の増大
自己要求傾向
内省化・内在化
自立感・自己肯定感
の増大
度数 2
度数 3
0
度数 1
度数 2
他者要求傾向
表 2 本研究で用いた調査法による情報入力例
質問項目
Q1.“今の大学生活”を色に例
えると
Q2.Q1 での色は感情に置き換
えると
Q3.その感情は心の声では
Q4.Q3 の心の声で、Q2 の感情
の今の大学生活に関係す
るエピソード
Q5.本当はどうだったらよか
ったか
Q7.そういう自分はどういう
自分か
Q8.いい自分・悪い自分
Q9.そのことを踏まえると何
するか
Q10.エピソードの要約
ストレス(前を 100 として)
思い通りでない自分
人に期待する自分
愛されていない自分
問題の外在化
自己肯定感の減少
(依存心増大)
自己イメージ(+)
自己イメージ(-)
度数 3
度数 2
(1)自由想起の促進
今回の調査では、全くの白票(無効票)が全体 193 票
中 2 票であった。白票の 2 票とも Q3 までの記述はあっ
たものの Q4 のエピソードの想起以降には記述が無かっ
たことから、この調査法であっても依然として被験者本
人の調査への根源的な取り組み意識には影響されるこ
とが考えられた。しかし、通常のアンケート調査、特に
FA 法によるアンケート調査と比較すれば記入率は高く、
今回考案したカウンセリング理論および心理療法に基
づく手法による質問が被験者の心的防衛機制を下げ、
個々人の自由なイメージ情報を想起させながら引き出
すことによって、通常の FA 法における問題点を改善す
る効果は十分に有していたと考えられる。
Q6.要求を整理するとどうな
るか
愛されている自分
思い通りの自分
自分らしくいる自分
自分らしくない自分
【集計・解析結果および考察】
1)本調査法の情報収集法としての定性的検証
まず、本研究で考案したカウンセリング理論を活用し
た質問による調査法が、当初想定した情報収集機能を有
しているかどうかを、(1)FA 法本来の目的を保ちながら
記述率を高めるような“自由想起”の促進がなされてい
るか、 (2)それらの述懐情報は記述量のいかんに関わら
ず、読み取り可能な論理性が確保されているか、(3)調査
者の恣意性を排除した情報収集がなされているか、の 3
項目の妥当性についての検証を行った。
入力例
うすい灰色
悲しみ・寂しさ
自信がない
自分自身の学力のなさとふがいな
い自分にあきれる自分
(自己要求)あきらめそうになる
が、自分の問題なので自力で解決
することに全力でいく。
(他者要求)なし
ゼミの課題を提出したことで何か
反応がもらえるかと思ったが、先
生がこれではダメだと言ったこと
に自信をなくし悲しくなった。
早く終わらせようと急いでいて、
しっかりとした実力が出せないで
いる。
悪いイメージの自分
指摘された部分を直し、じっくり
とこれでよいのか考える
学力の無さに対する苦労
82
(2) 収集情報の可読性の確保
また、収集情報の可読性についても、表 2 の記述例に
示すように被験者の心的防衛機制を下げて気持ち-理
由の論理構造を説明する仕組みとなっていることから、
述懐情報量が少なくてもエピソードの事柄と気持ちの
問題の外在化
(依存心の増大)
図 1 座標平面上の位置に付与される意味と
分布形の例
- 28 -
関係性が要約されており、被験者個々人の思いを読み取
ることを可能となっている。
自己要求傾向
20
10
自
己
イ
メ
‐10
0
10
20
ジ
(
ジ
ー
自
己
イ
メ
(
+
)
-
)
‐10
友達
性格
境遇
他者要求傾向
図 2 各ラベル別の心理情動分布
自己要求傾向
60
50
40
10
‐50 ‐40 ‐30 ‐20 ‐10 0 10 20 30 40 50 60
ジ
‐10
‐20
+
)
)
-
20
(
(
ジ
自
己
イ
メ
30
ー
自
己
イ
メ
ー
2)本調査法の情報解析法としての検討
本調査法は過年度実施した自由想起・経時調査法とは
異なり、主題想起・時間断面調査であるため分析される
心理情動傾向がその被験者個人の総合的なメンタル状
況を表しているわけではないが、前項1)のように調査
主題に対するメンタリティは確保されていると考える
ことができるため、これらの情報を使って被験者本人が
本人なりに想起したことが集団において同じような思
考をする人がどの程度いるのかといった採取した個々
人の物語り情報と、それらを蓄積することによる集団全
体が示すメンタリティや関連する事象を統計量として
測定するような本調査法が前提としている心理モニタ
リング法による解析機能を使ってどのような解析がで
きるか検討した。
ここでは、まず(1)ラベル化して分類したエピソード群
の違いが心理情動分布に違いをもたらすのか、そして(2)
(1)述懐エピソードによる心理情動分布の差異
まず、前項(3)でのラベル化を行った時の同一グルー
プごとの心理情動分布を作成する。ここでは図 2 に今回
サンプルの多かった代表的なラベルの傾向について示
した。
“性格”および“境遇”のエピソードを記述する
学生は自己否定感が強いが、それと比べた場合には“友
ー
(3)調査者の恣意性を排除した情報収集
また、エピソードの記述内容についても「周りを気に
してばかりのくせに自分ばかり大事。周りを傷つけてい
る。楽しいけど不安が強い。しんどい。
」や「今の自分
はとても幸せだけど、本当にこのままでいいのか。
」
、
「自
分が一番後ろを歩いている。みんな楽しそうにしゃべり
ながらキャンパス内を歩いているのに、自分はみんなの
後姿を見ている。
」等の現代学生の抱いている非常に個
人的でデリケートな内容が自由にそのままのイメージ
で語られていた。更にエピソードをラベル化して分類す
ると、その種類も“友達”
“講義・ゼミ”
“部活”
“就職”
“性格”
“能力”等といった多岐に亘っていることが確
認できた。従って、これらの述懐情報の質的側面におい
ては、今回の質問法が回答時の心的防衛機制を下げて記
入ストレスを低減することによって当初期待した情報
化がなされたものと考えられる。
これらのことを考えると、本研究が企図した“カウン
セリングや心理療法の手法を応用することによる指示
的調査法と非指示的調査法の折衷を図る”ことによって、
調査者が抱いている潜在的な概念に影響されず、調査テ
ーマに対する日常意識や潜在的な悩み・期待等の個々人
の発想的情報抽出が十分に行われたと考えられる。
以上の 3 項目から、この方法は集団的な調査方法であ
りながら、FA 法が従来困難としていた想起の問題(空
欄,無回答の多さ)の解決や被験者の物語情報(何につ
いて語ったか、どのような気持ちなのか等)を情報化が
行われ、それらの情報は調査者が最初に持っている調査
対象への概念や潜在意識といったものを介さずに収集
されていることから、定性的には当初想定した従来の調
査法の改善性能を有した調査法になっていると考えら
れる。
対象の集団全体が同時に調査を行った属性調査結果に
よる属性の違いが心理情動分布に違いをもたらすのか、
最後に (3)(1)と(2)の分析結果からの関連性を考えた質
量統合化検討の手法、の 3 項目について検討し、本調査
法の有効性や活用可能性について検討した。
‐30
‐40
‐50
二年生
一年生
他者要求傾向
図 3 原因帰属と自己イメージの学年別分布
達”エピソードを記入する学生は、やや自立・自己肯定
感の強いメンタリティであることが読み取れる。
(2)属性による心理情動分布の差異
一方で、今回の調査で属性とした学年、性別、サーク
ル所属有無、アルバイト有無、携帯電話使用率によって
心理情動分布が異なるかを検討した。図 3 は学年による
ベクトルの差異を示したものである。サンプル量が異な
るが、両集団とも自己要求の原因帰属傾向・自己イメー
- 29 -
ジ(-)の自己否定/嫌悪型のベクトルを持つ、内省的
な回答が強くなる特徴が見られた。また、この内省的な
傾向は1年では47.4%の学生が自己否定感傾向の情動心
理を示すように圧倒的に自己否定感傾向が強く、2 年で
は 33.3%)
、自己イメージ(-)も 34.8%と同等量であ
った。
その他の属性別の分析では、対象となった大学が受験
時の志望別の心理情動分布形を比較した。分布形にわず
かな違いが見られ、特に 2 年生で第 1 志望だった学生群
ついて検討する。ここでは 1 つの例示として(2)の分析
結果である所属サークル有無の 2 つの群を取り出し、
(1)
のベースとなっているエピソードラベルの出現量につ
いての比較を行った(図 5)
。すると、所属している群で
は、部活動、友達や人間関係、性格、生き方等の対人お
よび自分関連のラベルが多くなるのに対して、所属して
いないグループでは勉強やゼミ、就職、学歴、将来等の
自分の未来や能力に関係するラベルが多くなっている
特徴が見られた。分析方法としては、例えば所属してい
自己要求傾向
20
クラブ/サークル所属とエピソードラベル
0
自
己
イ
メ
自
己
イ
メ
10
10
20
20
授業
ゼミ
単位
課題
ジ
テスト
ゼミ配属
)
+
)
-
15
講義
(
(
ジ
0
10
学習
ー
ー
‐10
5
勉強
能力
学歴
‐10
資格
就職
将来
目標
夢
他者要求傾向
希望
生活
自己要求傾向
生活態度
50
アルバイト
部活動
40
趣味
友達
30
自
己
イ
メ
自
己
イ
メ
20
人間関係
恋愛
性
ー
ー
10
‐40 ‐30 ‐20 ‐10 0 10 20 30 40 50
心
性格
ジ
精神
(
(
ジ
社交性
生き方
‐10
+
人生
)
)
-
‐20
境遇
容姿
思い出
‐30
‐40
大学入学
所属している
所属していない
その他
所属している
所属していない
他者要求傾向
図 5 サークル所属有無別の述懐エピソードの比較
図 4 クラブ/サークル別の心理情動分布
が自己否定感のベクトルが大きかった。この調査からは、
上述の自己否定要因は必ずしも直近の受験体験ではな
いことが推察された。
また、同様にクラブ/サークルの所属の有無について
の違いでも違いが見られた(図 4)が、所属なしのグル
ープで自己否定感ベクトルが強かった。これは、要素還
元的なつながりを持つかは別にしても、サークル加入者
のほうが対人関係に対する意識があることを示してい
る。
(3)質量統合化分析手法についての検討
次に、(1)および(2)の特性から質量統合化分析手法に
- 30 -
ない群の特徴があった“将来”関連ラベルのみを再度選
定して、出現するマイナスの自己イメージとプラスの自
己イメージの物語上の比較によって、認知変容のための
要因を探すことが可能である。
3)総合考察
(1)本研究から見た現代大学生の認知特性
この調査では、今回の対象である大学生が極めて自己
要求的な傾向が強いことを示してきたが、原因帰属理論
(Attribution Theory)によれば、人間がエピソードの原因
を内省化するか外在化するかはストレス対処能力に大
きく関係することが知られている。内省化とは、原因を
(2)本調査手法の意義と限界および今後の課題
以上のことから、本研究で用いたカウンセリング理論
を用いた心理社会情報調査法の意義と限界について、次
のようにまとめられる。
a) 本研究は、過年度検討した個々人を対象とした自由想
起・経時観測法をある集団で蓄積させ、社会情報とし
て集合化する場合にどのような方法で集合化できる
二年生
自己要求傾向
10
自
己
イ
メ
自
己
イ
メ
5
ー
‐5
0
5
10
ジ
(
ジ
(
+
)
-
)
‐5
他者要求傾向
一年生
自己要求傾向
25
20
15
5
‐20 ‐15 ‐10 ‐5 0 5 10 15 20 25
ジ
(
(
ジ
自
己
イ
メ
10
ー
自
己
イ
メ
ー
‐5
+
)
-
)
- 31 -
調査は先行研究の結果と本調査での結果は一致してお
り、現代の大学生の認知特性上の問題を浮き彫りにする
ことができたと考えている。
これらの結果から、心理的に課題のある大学生が真に
活力的かつ能動的な行動変容へ誘うには、今日の大学が
単に勉強等の多様な諸活動の場や機会を提供するだけ
でなく、それらの背後に情動特性を満たすような教育的
な配慮に基づいた支援システムが必要であることを示
している。
ー
自分の能力に帰属させる傾向が強いことを示しており、
ストレスを受けやすいが、自分自身の中にある真の問題
解決に向かいやすい傾向が強く自己成長する可能性も
高い傾向である。一方で外在化は、偶然や他者への期待
の高さを示しているため表面的なストレス対処能は高
いが、問題の原因を他者や状況に依存しやすく、真の問
題に対して回避的な傾向も示唆されている。それらの意
味を考えると、今回調査を実施した学生は極めて諸事の
原因を自分の能力に帰属させる傾向があってストレス
耐性が低いことが推察されるが、その傾向は 2 年生と比
較して 1 年生の方が強いことを示している。2 年生の場
合、同じ自己イメージ(-)であっても他者要求の記述
もあり、外在化させることによるストレス耐性があるこ
とが読み取れる。
自己否定感の強さは、図 6 に示す感情別の分布でも明
らかである。マイナス感情のエピソードがマイナス自己
イメージを想起させるのは容易に理解できるが、プラス
感情のエピソードであってもマイナス自己イメージを
想起させやすい特徴が両学年ともに見られた。例えば表
2 のエピソードに限らず、受身的な境遇感の述懐である
場合や、
「いつも家に帰れば誰かが待っていてくれる」
という喜びのエピソードであっても、その背後は自己イ
メージ(-)で自信の無い自分を感じている等のエピソ
ードが多い。つまりこれらの物語りの根底には、自分に
とって悪いことは自分の能力に帰属させやすい傾向だ
けでなく、良いことは偶然的に起こると考える傾向があ
る。これらの思考は生育期における失敗等の繰り返し起
こる無力体験がもたらす認知特性であり、学習性無力感
理論(Seligman, Abramson)等として知られている。
SAT 法での臨床例によれば、これらは“償い”の物語
りと呼ばれるものである。本当には“自分が望むように
愛されたい”
、
“思い通りにしたい”という潜在的な依存
心があるから率直に要求を言えば他者要求傾向となる
が、特にマイナス感情のエピソードにおいてそういう要
求を表現することは、既成の価値観としての人間像や家
族、社会規範から逸脱することなのであり、逸脱しない
ためにうまく行かない理由を全て自分の能力に帰属さ
せようとする物語りであって、真の自己否定感とは違う
認知群が少なからず存在していると考えられる。
同様の物語りは、臨床上では抑うつ症状の人々にも見
られ、既に若年者の段階から、以上のような認知・思考
パターンがあることが推察される。この結果は、奥富,
橋本らが大学生を対象に行った先行研究 5)でも同様の傾
向があることが知れられており、それらは被験者自身の
両親へのイメージと相関していたことが示唆されてい
る。つまり成育の過程で、本人の要求と比較してどの程
度愛情が満たされたかが、基底にある自己信頼感を高め
たり、他者との関係性を積極的と取ろうとしたりする意
識と関係しているということである。その意味で、この
‐10
‐15
‐20
喜び
不安
怒り
悲しみ・寂しさ
他者要求傾向
図 6 回答《感情》別の分布
か、あるいは分析が可能かについて条件を狭めた中で
モデル的に調査・解析したものである。その意味で今
回の結果は、過年度実施の方法と接続が可能であるこ
とを示したと考えている。しかし、当初筆者が考えて
いたように社会情報は全てが自動かつボトムアップ
表 4 は、特異値分解の結果から累積寄与率 70%となる
ような共起行列の近似解を求め、それらにより算出され
た文書間の類似度を用いて直接文書を分類した結果の
概要である。対象文書数が異なるにもかかわらず両学年
で分類クラスタ数があまり変わらなかったこと、1 文書
内最大類似度の平均値が比較的高いことは、エピソード
分類手法としての妥当性を示すものと考えられるが、い
っぽうで観察者の分類との差異が見られるクラスタも
あり、計算精度に課題が残った。
的に表現することができるのではなく、少なくとも最
低限の被験者の属性等の付帯情報も合わせて収集す
る必要性があることも同時に示す結果であった。
b) ただ本調査法は、主題想起・時間断面観測法でも、少
なくとも調査主題に対する背後情動は把握できるた
め、異なる対象間や同一対象での時間変化における比
較など検討する場合の一調査法としての有効性は表
せたものと考えられる。
c) 一方では、過年度に実施した個人を対象とした経時的
入力調査(解析方法は今回と同様のモニタリング法を
使用)が、エピソードのテーマに応じて自己要求と他
者要求の傾向が分かれて総合的にはそれぞれの要求
数が同等量見られる結果となったが、それと大きく異
なる結果であったのは、調査を行った大学生の性向で
はなく、回答票の回答ボックスの順序から自己要求欄
に先行的に記入したという回答票の形式上のバイア
スという見方もできる。そこで、これらのバイアス影
響を確認する方法として、ある集団において自己要
求・他者要求の解答欄を入れ換えた回答票を作成する
等といった方法、あるいは自己要求・他者要求回答欄
を並列させる方法等でそれらの回答欄の配置に関す
るバイアスを今後検証し、それらのバイアスを排除し
た調査手法として確立することが必要である。
表 5 は、特異値分解の結果から累積寄与率 50%となる
ような共起行列の近似解を求め、それらにより算出され
た単語間の類似度を用いて単語を分類した結果の概要
であり、分類精度は文書を直接分類した結果より満足で
きるものとなった。単語分類に基づくエピソード分類は、
単語の含まれ方を計算するプロセスが必要となるが、直
接文書を分類する方法で現れるキーワード重複がなく
始め
4)エピソード分類の自動化に関する検討
本研究が提案するシステムでは、ありのままに記述さ
れた個人の主観に関する情報が、観察者による解釈を経
ずに分類できることが前提となっている。
本システムでは、エピソード分類の自動化機序として
LSA(Latent Semantic Analysis 潜在的意味解析)法を
採用している(図 7)
。LSA 法は、文書とそれらに出現
する単語との関係性だけに着目し、ベクトル空間を用い
て単語や文書の分類を試みようとする手法であり、単語
や文節の意味や用法といったメタ情報が不要なことが
特徴である。手法自体は、ベクトル・行列などの線形代
数計算やクラスタ分析などの統計計算の組合せであり、
図 7 エピソード群分類手法のうち LSA のフロー
単語集合
特異値分解
文書別単語出現頻度
共起行列の近似解
普遍語・孤立語の除去
類似度計測
共起行列の組立
クラスタ分析
tf-idf 変換
ラベル付与
終わり
ラベル付けが容易であることもあり、特に今回のように、
文書の内容や表現が多様な同時多数型調査で有効と考
えられる。
表 3 エピソード分類の試算条件
LSA などという数式が存在するわけではない。したがっ
て、既存のライブラリを活用でき、用途に合わせた設定
が容易であるいっぽうで、組み合わされている多様なプ
ロセス別にそれぞれの計算条件を最適に設定する必要
がある。なお、LSA 法の最も特徴的なプロセスは特異値
分解であり、画像処理のノイズ除去に相当する。
今回収集した回答情報を用いて、表 3 に示す条件によ
り、
上に述べた LSA 法によるエピソード群分類手法を用
いて試算を行った。これらを観察者が客観的に分類した
ものや、条件(主に、図 7 の太枠で示されたプロセスに
関するもの)を変えて解析した結果同士を比較して、最
適な閾値や手順を探すとともに、課題を抽出した。
項目
分類法
ケース別文書数
単語の品詞
普遍語
孤立語
Tf
Idf
近似行列の Rank
類似度
クラスタの距離
分類の基準
- 32 -
条件
ケース別
二年生 69、一年生 112
名詞(数詞、接頭詞、接尾詞を除く)
全文書の 50%以上に出現
単一の文書のみに出現
Harman の式
Sparck Jones の式
累積寄与率が70%および50%を超える
最小値
文書間または単語間
群平均法
標本内最長平方距離に対して 75%
表 4 エピソード群分類例(文書・累積寄与率 70%)
項目 \ ケース
文書(エピソード)数
分類クラスタ数
最大/最小クラスタ文書数
文書数のクラスタ平均値
最大類似度
1 文書内最大類似度の最小値
1 文書内最大類似度の平均値
二年生
69
11
9/3
6.27
0.92
0.27
0.62
れらの条件を考慮したインターフェイスを配備した情
報システムを構築する必要がある。②今回モデル調査を
実施した主題想起・時間断面法による調査法も、多対象
比較や時間変化比較などの方法によって、従来の都市地
域計画などの各種計画づくりに利用できる可能性があ
り、次年度では実業務での検討を行う予定である。
また、本研究の事業開発面では、エピソード分類自動
化等に幾分かの時間を要することから諸財団からの各
種研究助成金の獲得や各種事業者との共同事業化を目
指している。具体的な体制化には至っていないが、来年
度については(財)電気通信普及財団からの研究助成を
獲得した。今後、公的な競争的資金の獲得を行うことで、
希望事業者の獲得も活性化していきたい。
一年生
112
10
40/3
11.2
0.83
0.36
0.61
表 5 単語群分類例(一年生・単語・累積寄与率 50%)
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
単語数
41
9
16
13
10
7
11
16
7
主な単語
将来 気持ち 仲間 バイト 授業 みんな 期待
毎日 生活 自由 挑戦 人達 一人暮らし 場所
友人 アホ 目 一緒 友達 感情 会話 人間
部活 好き 活動 充実 先輩 練習 上手 成績
自分 他人 関係 周り 不安 性格 欠点 嫌い
社会 事 目標 自身 心 就職 成長
私 単位 まじめ アルバイト 現状 気 卒業
資格 合格 安心 頭 要求 大学 高校 達成
普通 摂南大学 お金 最初 先生 経営 なん
【主要文献】
【結語】
本研究は、過年度実施した個人の自由想起・経時法に
よるエピソード情報記録システムを、社会情報システム
として活用する場合に、主題想起・時間断面法をモデル
調査法として実施することで、データの蓄積から解析す
る段階のイメージの具体化についての検討を行ったも
のである。その結果、次の可能性と課題を示した。①過
年度研究の個人心理情報システムと接続させることで、
一井の人間情報の蓄積から社会情報化を構成するよう
な情報システムが可能である。しかし、そのためには属
性情報に関する調査も同時並行的に行う必要があり、そ
- 33 -
1) 宗像恒次:SAT 療法,金子書房,2006
2) Gerald Zaltman,How Custamer Think,Harvard
Business School Press,2003
3) 深谷昌弘編:ソシオセマンティクスを創る IT・ウ
ェブ社会から読み解く人々の意味世界,慶応義塾大
学出版会,2008
4) A.Sheikh 成瀬悟策訳:イメージ療法ハンドブック,
誠信書房,2003
5) 中井久夫:最終講義-分裂病私見-,みすず書房,1998
6) 奥富庸一,橋本佐由理,窪田辰政:大学生とその両親
の保健行動に関する相互支援と心の健康状態との
関連,ヘルスカウンセリング学会年報,2005,Vol11
7) 川口真司,松下誠,井上克郎:潜在的意味解析法 LSA
を利用したソフトウェア分類システムの試作,情報
処理学会研究報告,Vol.2003,No.22,2003
NEW URBAN AND LANDSCAPE DESIGN OF
THE NIHONBASHI DISTRICT IN TOKYO
木戸エバ*1
Ewa Maria Kido
Waterfront is an area of a city (such as a harbor or dockyard) located alongside a body of water (river, canal or seaside). Urban renewal projects
often focus on unused harbors and docklands to transform these neglected areas into attractive urban waterfronts. While the redevelopment of
post-industrial dockland, riverside and canal-side sites often poses specific challenges in terms of reclamation, environmental enhancement, and land
assembly, there is a widespread recognition that the location of the development near water holds a timeless charm which can attract increased values.
Links can also be made with the recognition of heritage as an asset. Once viewed solely as a location for shipping and industry, urban waterfronts today
are recognized as areas with tremendous potential for economic development, innovative housing, recreational facilities and connections to natural
areas and the environment. Waterfront projects recreate bustle and activity of the area and lead to regeneration of historic places. They are landmarks
for tourists and they also offer entertainment alternatives to the local community. Newly developed waterfronts improve the image of the city and
attract people.
Nihonbashi is an old Tokyo center, which once had many canals and was the “city on the water”. It was important part of Tokyo, a heart of
commerce and culture. Today the Nihonbashi waterfront is largely non-existent. The Nihonbashi River is not accessible and in current state can not
attract people. Nihonbashi Bridge - the central point of Tokyo and Japan – has been covered by the Metropolitan Expressway. Nihonbashi has many
assets but they are all scattered and it is hard to discover the beauty of Nihonbashi The rehabilitation of Nihonbashi can be perceived as the
rehabilitation of the old waterfront.
The European examples show that such developments are successful and can revitalize not only the district but also the city. If the following
elements would be considered and improved at Nihonbashi, it might become the central tourist spots – one which has not been established in Tokyo so
far: revalorization of the river and provision of an access to the water, preservation of historical bridges and construction of new ones with particular
aesthetic design, re-planning of streets and roads, provision of easy access to the central station and making attractive pedestrian spaces, combination of
old and new architecture and creation of landmarks, delivering of long-live, interesting functions to new developments. Partly reconstructed downtown
at Nihonbashi could be another point of interest for foreign tourists. Nihonbashi project, comprising of new urban and landscape design, has the
potential of changing the image of Tokyo.
1. IMPORTANCE OF THE NIHONBASHI DISTRICT IN TOKYO
Nihonbashi district covers a large area to the north and east of the bridge, reaching Akihabara to the north and the Sumida River to the east and it
has a huge heritage. Ōtemachi is to the west and Yaesu and Ginza to the south. It is a business district of Chūō-ku in Tokyo, which grew up around the
bridge of the same name which has linked two sides of the Nihonbashi River at this site since the 17th century. The first wooden bridge was completed
in 1603, and the current bridge made of stone dates from 1911.
The Nihonbashi district was a major mercantile center during the Edo period: its early development is largely credited to the Mitsui family, who
based their wholesaling business in Nihonbashi and developed Japan's first department store, Mitsukoshi, there. The Edo-era fish market formerly in
Nihonbashi was the predecessor of today's Tsukiji fish market. In later years, Nihonbashi emerged as Tokyo's (and Japan's) predominant financial
district. In Edo period, Nihonbashi was built on a network of canals and along the Sumida River, which served for the merchants to bring their goods
directly to the heart of the city. Each area was specialized in some kinds of products: fish, vegetables, and clothes. Nowadays, Nihonbashi remains a
major business district, but merchants have left place to securities companies and financial institutions. The Bank of Japan and Tokyo Stock Exchange
are both located in Nihonbashi.
The Nihonbashi Bridge first became famous during the 1600s, when it was the eastern terminus of the Nakasendō and the Tōkaidō, roads which
ran between Edo and Kyoto. During this time, it was known as Edobashi, or "Edo Bridge." In the Meiji era, the wooden bridge was replaced by a
larger stone bridge, which still stands today (a replica of the old bridge has been exhibited at the Edo-Tokyo Museum). It is the point from which
Japanese people measure distances: highway signs that report the distance to Tokyo actually state the number of kilometers to Nihonbashi. The
“Kilometer Zero” of Japan (Nipponkoku Dōro Genpyō) is on the middle of Nihonbashi Bridge in Tokyo. Tokyo Station is considered the originating
point of the national railway network and has several posts and monuments indicating zero kilometers of lines originating from the station.
Nihonbashi is located not far from Tokyo Station and the historical district could be a wonderful gateway to Tokyo. It is easily accessible by foot
from the central station. Therefore it may become the main Tokyo landmark and the most important place of interest for foreign tourists. On the other
side of the Tokyo Station is located Marunouchi district, which has been experiencing renaissance due to the development of fashionable shops and
new sophisticated office buildings with public and commercial space. Nihonbashi Bridge area nowadays is not as popular as the tourist destination,
particularly not among foreign tourists. The character of the Nihonbashi is mostly office area with little features of traditional downtown. Two main
department stores are located at the long distance within each other and there are not many other shops along the Chūō Dōri between them.
Marunouchi and Ginza are more attractive with their upscale shops and department stores, with many buildings featuring outstanding architecture. On
the other site, the renovation of Tokyo Station and completion of new Daimaru Department Store and new Yaesu site entrance building can boost the
direction towards the Yaesu and Nihonbashi. This is the opportunity for Nihonbashi district to redevelop and increase attractiveness for urban travelers
and Tokyo citizens.
2. ARCHITECTURAL AND CULTURAL LANDMARKS IN NIHONBASHI
2.1 THE NORTH SIDE

Nihonbashi Bridge (Nihonbashi 1-1)
Nihonbashi grew up around the bridge of the same name which has linked two sides of the Nihonbashi River at this site since the 17th century. A
symbol of the Edo Period, the Nihonbashi Bridge was built by Tokugawa Ieyasu in 1603. It has been admired by the Japanese ever since as a symbol
of Edo. The first wooden bridge was completed in 1603. After the completion of the five highways that started in Nihonbashi, in 1604, travelers from
across Japan crowded the bridge, and the area teemed with activity. The current Renaissance-style double-arched granite bridge designed by an
architect Yorinaka Tsumaki (1859-1916) was constructed in 1911, and designated as an important cultural asset by the government in 1999 - the first
*1
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 34 -
time for a bridge still in use (Fig.2.1/1).
During the Meiji Era, the midpoint of the bridge was selected as the base point for all the major highways of the country. Even now, it is the
origin of seven national highways. As such, and with this history in mind, a copperplate sign inscribed with the Japanese words for "Initial Point for
National Highways" is buried in the center of the bridge. As the starting point for the five routes of the Edo period, Nihonbashi provided easy access to
many parts throughout ancient Japan: Tōkaidō, Nakasendō, Kōshūkaidō, Ōshūkaidō, and Nikkōkaidō.
Shortly before the 1964 Summer Olympics, an expressway was built over the Nihonbashi Bridge, obscuring the classic view of Mount Fuji from
the bridge. Throughout the years, the old details of the bridge have been carefully preserved. In recent years, local citizens have petitioned the
government to move this expressway underground. This plan was supported by Prime Minister Junichiro Koizumi but opposed by Tokyo Governor
Shintaro Ishihara. Nowadays because of the economic slowdown, the project has been halted.
Fig.2.1/1 Nihonbashi Bridge
Fig.2.1/2 Bank of Japan

Fig.2.1/3 Mitsui Main Building, and Mitsui Tower
Bank of Japan Head Office (Nihonbashi-Hongokucho 2-1-1)
It is Japan’s central bank, which began operations in 1882. The main building of Bank of Japan was built in 1896. The magnificent historic
building is well known as a masterpiece of authentic Western-style architecture built during the Meiji Era, and has been designated as an important
cultural asset by the government (Fig.2.1/2).

Currency Museum (Nihonbashi-Hongokucho 2-1)
It is located within the Bank of Japan Annex. The Bank of Japan Currency Museum exhibits Japanese money and explains its place in the
nation's history as well as interesting episodes in which it played a role. Four-thousand kinds of ancient, dated and modern currency on display at any
one time is an impressive sight on any scale and the foreign currency displayed provides a visually fascinating contrast of totally different colors and
designs. A very informative museum where visitors can learn everything related to money. In addition to introducing the history of money in Japan
from ancient times to the birth of the yen, the museum also showcases coins and notes of countries throughout the world as well as unique monies.

Mitsui Main Building (Muromachi 2-1-1)
Mitsui Group is one of the largest corporate conglomerates (keiretsu) in Japan and one of the largest publicly traded companies in the world.
Mitsui Main Building is important western-style structure created in the early Showa that has been designated an Important Cultural Property by the
Japanese government. The Greek-Romanesque-style Mitsui Main Building, designed by Trowbridge and Livingston, Architects, has been skillfully
preserved in its original 1929 condition (Fig.2.1/3).

Nihonbashi Mitsui Tower (Muromachi 2-1-1)
Next to Mitsukoshi, a new super high-rise New Muromachi Mitsui Building (Nihonbashi-Muromachi 2-1-1) has been built in 2007 (Fig.2.1/3).
It houses the "Mandarin Oriental Tokyo," the first of the group's hotels aimed at starting business in Japan. There is also Mitsui Memorial Museum,
which is a new style of museum combining its own architectural merits with the outstanding artworks on display.
Nihonbashi Mitsui Tower (39 stories high, 4 basement floors) was designed by Cesar Pelli & Associates. It has 39 floors + 4 basement floors
with net floor area of 118,543 square meters. The Nihonbashi Mitsui Tower project pioneered a new approach to urban redevelopment that
encompasses both preservation and development and will be at the heart of the revitalization and urbanization of this prestigious business district. The
building connects to the adjacent landmark Mitsui Main Building. The Nihonbashi Mitsui Tower Building offers panoramic views of Tokyo Bay and
the Imperial Palace and is in close proximity to the financial districts and the shopping district in Ginza. It was built jointly by Sembikiya the
redevelopment project of Mitsui Main Building Area (approx. 1.4 hectare) at 2-chome, Nihonbashi-Muromachi, Chuo Ward, Tokyo. This
redevelopment project qualified as the first approved project under “System for Classified Area of Important Cultural Asset” of Tokyo Municipal
Government, a new system established by the municipal government that aims to balance preservation and development of a historic building.
Architectural Institute of Japan (AIJ) awarded AIJ 2005 Contribution Prize to Mitsui Fudosan and Nihon Sekkei for the approach and achievement
related to the preservation and development of the Mitsui Main Building.

Mitsui Memorial Museum (Muromachi 2-1-1)
Museum opened in October 2005 in Nihonbashi, a site closely related to the Mitsui Group. The collections from the Mitsui Bunko Museum in
Nakano ward, with many treasures of Japanese and Asian art has moved to new museum. The Mitsui Memorial Museum is located in the Mitsui Main
Building. The entrance to the new museum is located in the neighboring super skyscraper the Nihonbashi Mitsui Tower Atrium. The exhibition
galleries will include a detailed reconstruction of the interior of the Joan tea ceremony room, a National Treasure tea ceremony room long related to the
Mitsui family. Display of the "beauty of functionality" in the selection of tea ceremony utensils will be contrasted with the display of Japanese and
Asian art works in a western architectural setting. These galleries will allow visitors to rediscover the "beauty of form."

Mitsukoshi Department Store (Nihonbashi Muromachi 1-4-1)
Not far from the Nihonbashi Bridge is Mitsukoshi Department Store's Head Office (Honten). Nihonbashi Mitsukoshi is the oldest department
store in Japan and was founded in 1673 with the yagō (shop name) as "Echigoya", a store specializing in kimono sales. Ten years later in 1683,
Echigoya took a new approach to marketing. Instead of selling by going door-to-door, they set up a store where buyers could purchase goods on the
spot with cash. Mitsukoshi is the root of Mitsui group. The imposing building now occupying the site was built in 1935 where two lion statues
guarding the main entrance. The building was designed in Renaissance style and survived until today (Fig.2.1/4). Lyon sculptures are from 1914.
Today they are constantly surrounded by people who use it as a meeting point and the sound of pipe organ music wafts into the air around the entrance
thrice daily. The new wing of Mitsukoshi Department Store has been completed in 2004. Mitsukoshimae Station on the Tokyo Metro is named after
the adjacent Mitsukoshi department store.

Historic shops
- 35 -
Historic shops abound in this area include Yamamoto Seaweed Store (Yamamoto Noriten) (Muromachi 1-6-3), established in 1849 (Fig.2.1/5),
Kammo Fish Cake Store, and Nihombashi Funasa (Muromachi 1-12-13) selling tsukudani (various foodstuffs boiled in soy sauce) and burdock roots.
Nihonbashi Funasa was opened for 140 years. Founded in 1862, Funasa helped pioneer the creation of tsukudani, a popular preserving and flavoring
technique. Funasa tsukudani consists of various sea foods and vegetables, which are boiled down at a strictly controlled temperature in special sauce
using soy sauce. Tsukudani is a favorite among sake lovers as an accompaniment to fine sake (comparable perhaps to caviar), and enjoys a permanent
spot on the dinner table in many Japanese homes. Ibasen (Kobunachō 4-1) has been established in 1590. It deals in washi (Japanese handmade paper)
and bamboo products. It was famous as a leading ukiyo-e print publisher in the late Edo period. Nihonbashi Kaishin (Muromachi 1-13-5) is another
tsukudani shop but enjoys a history of over 4 centuries as opposed to its younger relation Funasa. At just 300 years old but still as historic is Ninben, a
bonito store. All of these shops has been consistently exhibited only the most excellent of products, true to both their specialization and also their
long-standing reputation, making a visit more than worthwhile.
Fig.2.1/4 Mitsukoshi Department Store
Fig.2.1/5 Yamamoto Seaweed Store
Fig.2.2/6 Takashimaya Department Store
2.2 THE SOUTH SIDE

Takashimaya Department Store (Nihonbashi 2-4-1)
The Takashimaya Department Store was founded in 1829 in Kyoto by Iida Shinshichi as a retailer of used clothing and cotton cloth. Now, the
store now has outlets throughout Japan and also in New York, Taipei, Paris and Singapore. The Nihonbashi branch of the store was established in 1933
and is celebrated for its classical façade (Fig.2.2/1).

Maruzen (Nihonbashi 2-3-10)
It was founded in 1869, to contribute to Japan's enlightenment and prosperity through the introduction of Western knowledge and technical
expertise. For 138 years Maruzen has brought the world's finest books and journals to discriminating readers, either through its stores or directly to
researchers and libraries of educational and academic institutions. Maruzen has moved its main store to Marunouchi (near Tokyo Station) in
September 2004 and the present building has been completely remodeled in 2007 (Fig.2.2/2).

Haibara Washi Store (Nihonbashi 2-7-6)
Haibara was established in 1806 in the Nihonbashi district of Edo (modern day Tokyo) as a retailer in washi or Japanese handmade paper.
Haibara, an old washi store, offers washi in various colors and an extensive line of washi related products as well. Haibara's washi ranges from those
featuring traditional Japanese patterns to others decorated with more modern designs making the selection process very enjoyable. Paper making is a
highly respected traditional craft in Japan, and the paper itself is used, not only for drawing and artwork, but as decorative wrapping at such important
occasions as coming of age, weddings, funerals and when paying respect to one’s ancestors.

Kite Museum (Nihonbashi 1-12-10)
The Kite Museum (Tako-no-hakubutsukan) is another Nihonbashi attraction. It is located on the fifth floor of the restaurant Taimeiken, famous
for its delicious omrice (fried rice enveloped in an omelet). It exhibits mainly typical Japanese traditional kites, like Edo nishiki-e dako, and other
Japanese kites from all over Japan, together with kites from China and other Asian countries. On display are even three-dimensional kites, inducing a
never-ending degree of interest in the visitors. This unique museum displays about 3,000 kites collected from various places around Japan as well as
from all over the world.

Bridgestone Museum of Art (1-10-1 Kyobashi)
It is an outstanding art museum displaying artworks of a wide range of genres including ancient Western art objects and modern paintings. The
Bridgestone Museum of Art devotes itself to the collection and exhibition of works of Impressionism and other modern European art, as well as
Japanese Western-style paintings from the Meiji and following eras. It was first begun in 1952, when Ishibashi Shojiro, founder of the Bridgestone
Corporation, opened an art museum in the newly built Bridgestone Building and there exhibited his private collection of artworks. In 1956, the
Ishibashi Foundation was established, and in 1961, almost all the works in the Ishibashi Collection ware donated to the Foundation, forming the
nucleus of the present permanent collection. The Bridgestone Museum of Art has continued thereafter to enrich its collection, while always striving to
provide an outstanding environment for the appreciation of art.

Eitaro (Nihonbashi 1-2-5)
The shop first cracker shop in Edo was established in 1880 offers traditional Japanese meals and sweets. In 1857 the shop was set at the present
location. Eitaro So-honpo has been selling sweets since the Edo period and its tea room offers both Japanese tea and traditional sweets (Fig.2.2/2).

Yamamotoyama (Nihonbashi 2-5-2)
Another traditional shop at Nihonbashi is the Yamamotoyama tea shop (Fig.2.2/3). It has been selling green tea since 1690 and plays a major role
in Japanese tea history as the popular gyokuro brand of tea, a very high quality green tea, originated at this store.
Coredo Nihonbashi (Nihonbashi 1-4-1)

“Coredo Nihonbashi”, a new and space-age looking shopping complex cased in glass, was opened in March 2004 with the name “Coredo”
being coined from the words “core” and “Edo”. It houses a number of unique shops and boutiques (Fig.2.2/4). With the goal of making Nihonbashi the
core of "Edo" once again, this commercial center is providing a spark for a redevelopment effort that makes use of long-established shops and historic
sites that have characterized this district since the Edo period (1603-1868). Its imposing architecture is almost entirely glass-covered and rounded in a
sail-like fashion.
- 36 -
Fig.2.2/1 Maruzen
Fig.2.2/2 Eitaro cracker shop
Fig.2.2/4 Coredo Nihonbashi
Fig.4/1 Expressway located above the river
Fig.2.2/3 Yamamotoyama tea shop
Fig.4/2 Bridges below the expressway
3. PROBLEMS OF WATERFRONTS IN JAPAN
If we take a look at waterfronts of foreign cities, for example in Köln in Germany, expressway along the Rheine River was demolished and
highway tunnel was built, and the park was developed on the vacant lot. In Düsseldorf, the main line was also laid underground; the old streets have
been restored along the Rheine River. In Boston, the expressway was also laid underground; and in Seoul, the demolition of Cheongye Expressway for
renovation of waterfront has been realized. These urban renovation projects of rivers and lakesides based on the reconsideration of relationship
between rivers and roads are very impressive with the charm of waterfront landscape regenerated in a city.
At these examples of urban renovation, three scales of spaces can be identified: architecture, landscape, and river/basin. Such scale-conscious
approach to urban renovation should be also realized in Japan. Although in Japan often each scale has been separately debated, the project has not
developed through the collaboration to implement the combination of these scales. Consideration for architectural scale can be seen in public open
space along the Shibuya River, where trees were planted. Even though the trees appeared, the design for the site did not utilize river through creation of
open space including a river.
There are two types of waterfronts in Japan: riverfronts in the city centers and waterfront along the seacoast, usually not in the center but at at the
new reclaimed land. While sea waterfronts have been quite successful — for example in Tokyo or Osaka — riverfronts have been facing many
problems. Firstly rivers have been polluted, and secondary cities have developed back to the rivers. Rivers have been neglected and their attractiveness
of being a part of the nature, not valued in urban planning. To renew the urban areas, the urban planning method must be surveyed from the standpoints
of a wide range of fields such as architecture; agronomics including greenery; landscape design and its cultural background; and others. When
considering future urban renovation utilizing waterfront, it is visible that urban planning has not essentially worked and that rivers have been excluded
from urban planning in Japan. The historical relation between river, waterfront and urban space has been lost in many cases. Therefore the relatively
poor treatment of rivers and coastlines is something the Japanese state has been desperately tried to alter.
The transition of rivers (emerged/developed or lost) in areas around Tokyo since the fourteenth year of Meiji Period, shows that quite many rivers
and canals have been lost because of coverage, reclamation and diversion to sewage line, and that waterfront have been severely damaged. The
renovation of the Sumida River and the Murasaki River are noteworthy examples of practical achievement in Japan. Nowadays, the discussions
concerning rivers and waterfront renovation have been centered on the Kanda River, Nihonbashi River, Shibuya River, Dōtonbori River and Horikawa
in Kyoto. The projects for revitalization of urban areas are conducted within the government-led “Urban Renaissance” policy.
New concepts for the next step of urban renovation should utilize waterfront with water, river, waterway and greenery at the cores, aiming to
realize a city coexisting with nature. For that purpose, concrete scenarios should be designed and proposed e.g., scenario for spatial land use from the
viewpoints of three spatial scales, the one focusing on water and material circulation and the one focusing on eco-system.
4. BASIC IDEAS FOR NIHONBASHI PROJECT
4. 1 MAJOR FEATURES OF WATERFRONT DEVELOPMENT
The factors that have led to waterfront opportunities are well known. These have combined to create sites of abandonment. These sites, being
adjacent to water, now offer us unique opportunities. However, as Malone point out (1996), neither the factors that have created opportunities for
redevelopment not the processes of renewal fall outside the common framework for urban development. The urban waterfront is, simply stated, a new
frontier for conventional development process (Malone 1996). Both types of development and the forms of capital on the contemporary waterfront are
common to other parts of the city. What makes the contemporary waterfront interesting is the high visibility of this form of development. The high
profile of their locations means that waterfront projects are magnified intersections of a number of urban forces because the economic and political
stakes are higher on the urban waterfront. Indeed, through changes in technology and economics and the shifting of industrial occupancies, the
waterfront has become tremendous opportunity to create environments that reflect contemporary ideas of the city, society and culture.
And this can be a statement for future development of Nihonbashi area. Currently the Nihonbashi district has been developing but still it needs a
large revitalization plan. Also Nihonbashi River does not provide an attractive public space and there is a little feeling of the waterfront feature of the
- 37 -
Nihonbashi area. It seems that the opportunity to redevelop Nihonbashi district lies in its waterfront. Waterfront development in Nihonbashi can be
related to the aspect of “new waterfront development in historic city”. In such context, some inspiration can be taken form the developments of historic
European cities. Nihonbashi area revitalization can be part of the process of the remaking the image of the city – providing Tokyo remarkable
opportunities to undertake many environmental and urban regeneration efforts.
Redeveloping the waterfronts becomes a challenge in the quest to enhance urban quality in the construction of the image of the modern city. In
fact, this quest is often directed to limit the negative effects of vehicle traffic and to introduce innovative means of transportation and to revitalize
run-down residential zones, etc. The popular elements used to obtain these results are: opening up the waterfront to the public, through the successive
measures of appropriation of the border zones between city and water (sea, river, lake), development of accessibility to the waterfront – pedestrian
access is essential as well as various modes of land and water transport, limitations on vehicle traffic – have often become one of the city’s main
pedestrian zones, upgrading waterborne transport through the familiarizing public with the system and improving modal interchanges, developing
intermodal stations as attractive and complex urban structures, emphasis on the visual design of embankments, the piers, selection of viewpoints,
maintaining the quality of water.
Nihonbashi is the type of waterfront that does not occupy old industrial area but historical rivers and canals that were used for the transport and
leisure in Edo Period and which have been neglected in modern townscape and which historical features have not been completely displayed. The
term adequate for the Nihonbashi is the “historical center”. The solutions from the European historical waterfronts can be applied and transformed at
Nihonbashi. In case of Nihonbashi, the remaking of the image of the city can be propelled by a series of important projects. These include the
revitalization of transportation infrastructure – changing the elevated expressway into an underground, introduction of LRT system, the cleaning of the
river and hydrological improvements, as well as urban development along the water and in the vicinity of the Nihonbashi Bridge.
4.2 HOW NIHONBASHI COULD BE TRANSFORMED INTO A HISTORIC DOWNTOWN WATERFRONT AND TOURIST SPOT?
There are several elements of the waterfront landscape that should be considered in development project:

revalorization of the river and provision of an access to the water

preservation of historical bridges and construction of new ones with particular aesthetic design

re-planning of streets (including promenades along the river) and roads (consideration of LRT, removal of car traffic on some streets and
traffic restrictions on others), provision of easy access to the central station and making an attractive pedestrian space

combination of old and new architecture and creation of landmarks

delivering of long-live, interesting functions to new developments
4.2.1 The river and access to the water
The examples from all over the world show that the renewal projects restore environmental health of the city, and add new life into the city. The
first aspect of the Nihonbashi project is the river. A project that is the most comparable to Nihonbashi is the Cheonggyecheon project in Seoul. At
Nihonbashi, there is no access to the water and the river does not play a role in creation of public spaces. Therefore, Nihonbashi should have restored
its old image of a city with the water, with a direct approach to the water.
Because the vertical distance to the water is quite big, about 2.5 m, it will take dozens of meters to construct a slope on the river side with the
direct approach to the water. It means that some existing buildings along the river would be necessary to demolish, to make a space for a waterfront.
The space along the Nihonbashi River should accommodate a river walk and with some facilities along the river, including park. The distance between
the water and river walk should consider operation of boats for the river cruises. Depending on place, at some locations distance to the water can be
closer and in some less close. In Europe the rivers in the middle of the city are used for transportation or for cruising or just for small boats and the
distance to the water also vary but promenades along the rivers are very common (Fig.4.2.1/1).
Fig.4.2.1/1 Promenade in Gdansk
Fig.4.2.1/2 Buildings projecting Nihonbashi River
Fig.4.2.1/3 Riverscape in Gdansk
Buildings along the Nihonbashi River have the back sides projected towards the river. Usually these are rather unpleasant elevations because the
scenery to watch is at the street not at the river. It can be called a “negative riverscape”. When the buildings which face the river will have nice
elevations with windows ad flowers, the riverscape will totally change and will be more attractive.
To make a riverspace attractive and pleasant, building along the Nihonbashi River should be improved and designed considering riverside elevation.
Nice windows and shop entrances should be located at this side. The riverside should be a frontal side of the buildings.
4.2.2 Bridges
All bridges along the river should be revalorized according to the character of the district. Bridge forms and architecture are very important in
shaping the townscape and they should respect their surrounding. Interesting bridges in revalorized areas can completely change the neutral place into
a popular landmark. Some places are only remembered because of the beautiful bridges. Very often bridges become landmarks or symbols of
waterfronts. Particularly important are pedestrian bridges because they are usually remembered by people. For example the Millennium Bridge in
London has become a face of the London waterfront. Osaka has also its new pedestrian bridge Ukiniwabashi at the Minatomachi River Place
(Fig.4.2.2/1). Pedestrian bridges at the waterfronts are characterized by innovative structures, lightness, modern sophisticated details, interesting
lighting, furniture, and illumination Fig.4.2.2/2, Fig.4.2.2/3). Bridges currently located over the Nihonbashi River are mostly covered by the
expressway. They are girder and arch bridges with one exception of the Toyomi Bridge (1927), which is a Vierendeel truss bridge.
- 38 -
Fig.4.2.2/1 Ukiniwabashi over the Dotonbori
Fig.4.2.2/2 Pont des Arts over the Seine River
Fig.4.2.2/3 Jintang Bridge, Tianjin
4.2.3 Streets, roads and promenades
When we look at the main streets in European cities, for example in Paris - the main boulevard - Champs d’Elysees – is very wide, has rows of
trees and also open air restaurants and cafes. Open air restaurants present in many European cities, gives them vibrant and relaxing atmosphere.
London has nice promenade along the Thames (Fig.4.2.3/1). Promenades are for pedestrian traffic. These are spaces for people to gather, to walk, to
enjoy the views, and to really enjoy the waterfront. Promenade along the water should be wide, with good lighting, and with places to seat.
Promenades can be also flanked by buildings on both sides. Promenades are popular in places where there is a lot of activity – commercial, cultural, etc.
There should be many types of shops and restaurants, from expensive brand shops and department stores to popular stores and from expensive
restaurants to fast food shops.
At the Nihonbashi, except modern shops and restaurants, traditional ones could become important points of attractions. Particularly, if a
small traditional district would be created at the waterfront area, near the Nihonbashi Bridge. Many tourist will come to Nihonbashi, if there will be
place created as “old town”, to buy souvenirs, to buy rare hand-made goods, traditional arts and crafts, and to taste traditional Japanese cuisine. In many
European cities such “old towns” have survived and have been preserved or have been reconstructed. They consist of the market in center, where
people can gather, and small streets with town houses. Traffic has been removed from some old and narrow streets and they have been turned into
pedestrian promenades. Streets should be improved to create a popular district for citizens and tourists to walk and have a leisure time at the waterfront.
Expressway above the Nihonbashi River should be replaced with an underground road. Currently, streets are busy with a lot of traffic. The main street
– Chūō Dōri could become a limited traffic street only for the Light Rail Transit (LRT). The space for pedestrian could be increased and also some
open air restaurants and cafes could be installed. Creation of places for people to stop, seat and spend time - is very important to achieve the image of
lively city center at the water edge. There are not benches along the Chūō Dōri, and not many pocket parks in the district. Streets with benches,
greenery, open air shops will be very inviting for both elderly and young people to hang out, spend time, go for shopping, dinner, etc. Also streets
leading to Tokyo Station – particularly Sakura Dōri and Yaesu Dōri – should be attractive for pedestrians to encourage people to walk from the station
to Nihonbashi district and Nihonbashi waterfront area and vice versa. Trees and plant along the road has been a subject for the 2004 law concerning
“constructing beautiful lands”. The Ministry of Land, Infrastructure and Transport (MLIT) has also prepared guidelines for forming beautiful scenery
(Oguri, 2005). It reflects growing public consciousness about the beautiful landscape and necessity to create a good example in the center of the capital.
Fig.4.2.3/1 City Hall at Queen’s Walk at night, London
Fig.4.2.4/1 Old and new
Fig.4.2.4/2 30 St Mary Axe (2003), N. Foster
4.2.4 Architecture – old and new
Architecture facing river is playing important role in creation of the cityscape. In Europe, it is new architecture, which at the prominent locations
is usually designed by famous architects, like London’s City Hall (2002) located at the Queen’s Walk along the Thames River, designed Foster &
Partners (Fig.4.2.3.1). There is another interesting building there – the Tate Modern (2000) designed by Herzog and De Meuron. There is also historical
architecture, such as buildings located at the Thames waterfront, more notably the Tower of London and the Tower Bridg, etc. (Fig4.2.4/1). It is very
important to connect new architecture with older surrounding. 30 St Mary Axe Building, also known as the Gherkin (2003), designed by Foster &
Partners and Arup, is located in London’s financial district and is facing many historical buildings (Fig.4.2.4/2). A high-rise building has been
constructed that contrasts sharply against more traditional buildings in London. Medium size buildings are easier to coordinate with historical
background. New high-rise buildings are built often as an extension of the old buildings. For example in Marunouchi in Tokyo, all buildings
surrounding Tokyo Station has been renovated and built higher forming completely land streetscape.
Also in Nihonbashi old buildings are replaced by new and higher ones, such as the Nihonbashi Mitsui Tower. Nihonbashi is now occupied
mainly by office buildings. There are also some residential buildings and shops. The dominating architecture is medium-size offices. At the main street
- Chūō Dōri, there are many higher offices including new high-rise buildings. Architecture old and new should be of good quality, harmonized with
surrounding in the sense of style and size. Green space should be also within the urban structure, in form of small and bigger parks. Combination of
older and modern architecture is very attractive for residents and for tourists.
- 39 -
4.2.5 New functions
A typological category, that can be placed alongside others which have been the subjects of considerable debate in the European countries in the
past is the “central business district”, another one conceptual type referred to the waterfront phenomenon is “historical center”. This typological
category is including a sympathetic growth among the different sectors on order to create a profound unity of the redevelopment for the whole of the
urban organism. The formation of models of waterfront development, which took place on the basis of several successful cases which are now the
focus of the international literature, led to the spread of examples world-wide, and it is now appropriate to refer to a globalization of the waterfront
themes. The risks of this are reminiscent of what happened in the filed of shopping center construction, which experienced a revolution in the final
period of the twentieth century; it ultimately led to uniformization on the international scale, not only of some construction standards but also of
organizational methods, spatial typologies, and architectural forms. In case of waterfronts, new methods for defining constrain and the potential of each
project should be exercised.
Currently, downtown urban centers are trying to win customers over the suburban shopping malls, which sell cheaper products. Customers
would always want cheaper products but the environment in which they buy plays also important role. Shopping malls are large, have restaurant and
people can spend time with their families there. Nihonbashi, to attract people to come to downtown, should also offer not only products but also
atmosphere, interesting surrounding, the stage for the “entertainment”. In that sense, functions should be broad and should include the large array of
choices. At first, Nihonbashi should connect with to its past and offer various traditional products - foods, appliances, interior products, souvenirs, arts
and crafts, fashion, as well as the best Japanese contemporary products. Historical building could be preserved through the change of its use
(Hasegawa, 2006). If the building receives a new function, of a shop, or restaurant, or hotel, its rehabilitation of an important cultural asset will be
accompanied by its dynamic function. A small riverfront development could have the shape of traditional Edo district, with traditional wooden
buildings housing shops and restaurants. There should be also exhibitions and museums. Restaurants should include the ones on the boats – like
yakatabune or amisei. Yakatabune are one of the most popular entertainments in Japan. Dating back to the Heian Period (794-1185), yakatabune were
luxuries afforded only to the privileged daimyo and shogun. It was not until the Edo period that yakatabune became accessible to commoners. Then, a
riverfront in the center of Nihonbashi should be well accessible and possible to organize picnics, hanami in the spring, observation of seasonal flowers
and a place for celebration of seasonal festivals. The water should be accessible in this manner, that people can enjoy it during hot summer. If the
district would become livelier, more people will come, and the Nihonbashi downtown will become a true center of Tokyo.
New functions should be appealing for all generations, as well for young people as for middle aged and elderly. Families should have the
opportunity to spend a good time together at the Nihonbashi. Except reconstruction of traditional buildings and new construction in traditional styles,
there should be also modern architecture connecting these “memories from the past”. New techniques such as DVD, plasma displays, etc. should be
used to enhance the beauty and attractiveness of Nihonbashi. “New life at Nihonbashi” should be achieved by profound connection of the past and the
future.
5. CONCLUSION – NIHONBASHI – THE FUTURE
Nihonbashi is continuing to witness change. The new wing of Mitsukoshi Department Store – Mitsukoshi Shinkan has been constructed in 2004,
marking the 100th anniversary of its founding. The nearby Takashimaya department store underwent a grand reopening aimed at making it more
upscale by adding a tea salon run by a famous chef specializing in French cuisine, as well as a wine boutique offering high-end labels. The super
high-rise New Muromachi Mitsui Building has also been and it houses the Mandarin Oriental Tokyo, the first of the group's hotels aimed at developing
business in Japan. Its completion brought more international businesspeople and tourists alike to Nihonbashi. But Nihonbashi still need to grow into a
new center of attraction, adding an increased international feel to its already historic streets filled with traditional shops.
Moves are also underway to make the area a stop for tourists. Metrolink Nihonbashi, a free bus service connecting the Yaesu, Kyobashi, and
Nihonbashi areas, has been in service since 2004. The buses themselves run on electricity and are very environmentally friendly, and the exterior of the
vehicles is decorated with scenes of Edo. The route, which has 12 stops, takes passengers to historic structures that have been designated as important
cultural assets, such as the Nihonbashi Bridge, Mitsukoshi, and the Bank of Japan, as well as many old shops that have been in business since the Edo
period. There is also a project to remove the Metropolitan Expressway that runs above the Nihonbashi Bridge and to revitalize the whole area.
Nihonbashi has a big potential to become Tokyo center, where everybody who visits Tokyo would come. What it needs, is to be more assessable
and affordable for the tourists, including foreign tourists, and to have places easy to drop in from the streets, bilingual information signs, places to sit
and attractive waterfront development with access to the water.
REFERENCES
Ito, K. (2008) A Study on River Space Restoration and Improvement of Water Quality in Nihonbashi River
Hasegawa, N. (2005) Preservation and Restoration of Historic Buildings to Form an Urban Landscape, 2005 Annual Report of
NILIM (National Institute for Land and Infrastructure Management Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism)
Malone, P. (1996) City, Capital and Water, London and NewYork
Oguri (2005) Creation of Beautiful Streets with Rich Greenery, 2005 Annual Report of NILIM (National Institute for Land and Infrastructure
Management, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism)
Tai Sik Lee (2004) Buried Treasure, Civil Engineering Vol. 74, no. 1
- 40 -
文化事業創出研究
Study on the Sightseeing
今西 由美*1
Yumi
伊藤 一正*1
IMANISHI,
Kazumasa ITO
我が国では、人口減少・少子高齢化問題に対応すべく、観光政策が具現化している。2007 年 1 月に観光立
国推進基本法が施行されたのを契機に、2007 年 6 月には観光立国に向けて総合的かつ計画的な推進を図るた
めの観光立国推進基本計画が閣議決定された。そして 2008 年 10 月には、国土交通省の外局として観光庁が
設置された。
政府は、2010 年までに訪日外国人旅行者を現在の 835 万人から 1,000 万人にする等の目標の下、
観光立国の実現に向けた様々な施策を展開している。本研究では、日本の観光産業の現状を調査し、日本橋
地域をケーススタディとして江戸日本橋観光めぐり事務局による観光めぐりを実施し、今後の有効な観光事
業を考察するものである。
キーワード:地域活性化、観光、江戸日本橋観光めぐり事務局、観光めぐり、事務局運営
1.はじめに
政府は、観光立国の実現は 21 世紀の我が国経済
社会の発展のために不可欠な国家的課題とし、国全
体として官民を挙げて観光立国の実現に取り組む体
制が必要だと提言している。
観光は、旅行業、宿泊業、輸送業、飲食業、土産
品業等極めて裾野の広い産業であるため、その経済
効果は極めて大きく、2005 年において、二次的な経
済波及効果を含む生産効果は、国内生産額 949 兆円
の 5.8%の 55.3 兆円、雇用効果は総雇用 6,370 万人
の 7.4%の 469 万人と推計している。
しかしながら、2006 年に我が国を訪れた外国人旅
行者は 733 万人であり、海外を訪れた日本人旅行者
1754 万人と比較して 2 分の 1 以下と少なく、外国
人旅行者受入数では、世界で第 30 位と低い水準に
ある。
今後の政府の主な政策として、観光地づくり、国
際観光の振興、観光産業への支援、人材の育成・活
用、関連施策の整備を挙げている。
当社は、2007 年から NPO 法人東京中央ネット・
江戸日本橋観光めぐり事務局を担い、日本橋地域の
企業や団体と協働して、日本橋地域の観光開発に取
り組んでいる。
本研究は、日本の観光産業の現状を調査するとと
もに、日本橋地域をケーススタディに観光事業に取
り組み、有効な観光政策を模索し、当社が取り組む
今後の観光事業を考察するものである。
2.我が国の観光産業の現状
1)国際ランキング
出国旅行者数は、日本は世界で第 15 位であり、外
国人旅行者受入数国際ランキングでは、日本は世界
で第 30 位と低い水準にある。
2)観光資源
我が国は豊かな自然に恵まれ、多くの観光資源を
有しているが、都内に世界遺産や重要伝統建造物群
保存地区は存在しない。
①我が国の世界遺産リストの登録
ドイツ
英国
米国
ポーランド
チェコ
マレーシア
イタリア
ロシア
中国
カナダ
フランス
オランダ
ウクライナ
ハンガリー
日本
スウェーデン
スイス
メキシコ
ベルギー
韓国
ルーマニア
トルコ
台湾
フィンランド
デンマーク
インド
オーストラリア
アイルランド
香港
シンガポール
サウジアラビア
スペイン
シリア
南アフリカ
エジプト
←
0
10000
20000
日本は世界で第15位
30000
40000
50000
60000
70000
フランス
スペイン
アメリカ
中国
イタリア
イギリス
香港
メキシコ
ドイツ
オーストラリア
カナダ
トルコ
マレーシア
ウクライナ
ポーランド
ギリシャ
ハンガリー
タイ
ポルトガル
オランダ
ロシア
サウジアラビア
シンガポール
マカオ
クロアチア
南アフリカ
ベルギー
アイルランド
スイス
日本
チェコ
チュニジア
アラブ首長国連邦
韓国
エジプト
0
←
日本は世界で第30位
10000
20000
30000
40000
50000
60000
70000
図 2 外国人旅行者受入数国際ランキング
*1
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 41 -
80000(千人)
図 1 出国旅行者数国際ランキング
80000(千人)
②一日あたりの訪都旅行者数
表 6 一日あたりの訪都旅行者数
表 1 世界遺産リストの登録
登録年
1993 年(平成 5 年)
1994 年(平成 6 年)
1995 年(平成 7 年)
登録年
1996 年(平成 8 年)
1998 年(平成 10 年)
1999 年(平成 11 年)
2000 年(平成 12 年)
2004 年(平成 16 年)
2005 年(平成 17 年)
登録遺産
法隆寺地域の仏教建造物、姫路
城、屋久島、白神山地
古都京都の文化財(京都市、宇
治市、大津市)
白川郷・五箇山の合掌造り集落
登録遺産
原爆ドーム、厳島神社
古都奈良の文化財
日光の社寺
琉球王国のグスク及び関連遺
産群
紀伊山地の霊場と参詣道
知床
宿泊利用人
員(千人)
3,114
135,867
うち東京都 21
205
表 5 重要無形文化財
保持者・保持団体数
114 人
25 団体
3)東京都観光客数等実態調査
①観光入込客実人数(千人回)
道府県在
住者,
188,694
都内在住者
都道府県在住者
外国在住者
4,442,797
1,748,877
2,334,748
359,173
(104.0%)
(97.5%)
(109.1%)
(105.7%)
場所
全体
銀座
丸の内
日本橋
赤坂
六本木/麻布
新宿
原宿
青山
渋谷
上野
浅草
お台場
汐留
品川
秋葉原
両国
池袋
その他
無回答
1,071
12,495
千人回
合計
④外国人旅行者調査 最も満足した街
新宿が最も多く、次いで銀座、渋谷となっている。
表 8 外国人旅行者調査 最も満足した街
合計
指定件数
83 件
25 件
31(千人)
③観光消費額の推計(百万円)
表 7 観光消費額の推計(百万円)
④国指定文化財数
表 4 国宝及び重要文化財
各個認定
保持団体等認定
38(千人)
宿泊客日延べ人数÷365 日=198(千
うち外国在住者
入湯税収入済額
(万円)
2,419,494
33,466
区分
1,333(千人)
人)
面積(ha)
2,399.7
国宝
重要文化財
旅行者数
うち宿泊客
③温泉地および利用者数(2004 年度)
表 3 温泉地および利用者数(2004 年度)
温泉地数
観 光 入 込 客 日 延 べ 人 数 ÷ 365 日 =
うち外国在住者
②重要伝統建造物群保存地区
表 2 重要伝統建造物群保存地区
地域
35 都道府県 56 市町村 62
地区(東京都なし)
一日あたりの訪都
サンプル数
%
1,405
146
10.4
70
5.0
1
0.1
6
0.4
36
2.6
268
19.1
63
4.5
6
0.4
97
6.9
44
3.1
55
3.9
71
5.1
1
0.1
3
0.2
58
4.1
3
0.2
10
0.7
6
0.4
461
32.8
⑤外国人旅行者調査 情報の入手先
ガイドブックが多く、次いでインターネットでの
入手が多い。
表 9 外国人旅行者調査 情報の入手先
外国在住
者, 5,330
都内在住
者,
247,433
図 3 観光入込客実人数(千人回)
2007 年に都内観光に来ている回数は合計で4億
人回である。対前年比は 102.8%と増加傾向にある。
- 42 -
項目
全体
インターネット
ガイドブック
パンフレット
知人
マスメディア
旅行会社
観光案内所
その他
サンプル数
%
1,405
656
46.7
791
56.3
222
15.8
513
36.5
59
4.2
220
15.7
188
13.4
23
1.6
②外国人旅行者調査の最も満足した街では、買い物
ができる都市が上位にあがり、日本橋は最下位にあ
るが、様々な団体が実施している街歩きなどの地域
型観光が活かせていない。
⇒街歩き情報を集約し、情報発信を行い、人々が利
用できる環境づくりを作る。
③外国人旅行者調査の移動手段に公共交通機関が多
くあがっているが、水上バスやボートなど水辺の移
動手段がない。都内に水資源は多く現存し、水上バ
スなども通っているが、情報が伝わっていない。
⇒舟めぐり情報を集約し、情報発信を行い、人々が
利用できる環境づくりを作る。
⑥外国人旅行者調査 移動手段
地下鉄に次いで電車が多く公共交通機関を利用し
ている旅行者が多い。
回数
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
電車
地下鉄
タクシー
バス
徒歩
4.都内の観光資源調査
上記の課題を踏まえ、伝統工芸施設、街歩き団体、
舟めぐり団体の観光資源調査を行った。
伝統工芸施設は、都内に多く存在するが、お店に
職人が複数いるわけではないため、一般客の見学対
応などは難しいことが分かった。
街歩き団体は、複数の外国語対応もできる団体も
あった。
舟めぐりをしている団体はいくつかあるが、イベ
ントとして不定期に舟めぐりを開催している団体が
多く、水上タクシーのように誰もがいつでも利用で
きる仕組みではなかった。
当社は、日本橋地域で観光めぐりを実施している
が、今後は、都心での広域的な観光めぐりを目指し
ているため、ここでは中央区、港区、千代田区の街
歩き団体一覧表を掲載する。様々なコースを設定し、
実費程度の料金設定で観光事業に取り組む団体が多
く見られる。
その他
図 4 外国人旅行者調査 移動手段
4)観光関連セミナー参加からの知見
○地域戦略とツーリズム
・ 街歩きと山歩きが人気である。
・ 観光客は五感を味わえる地域に魅力を感じる。
・ 宿泊形態は個人化、団体が急減。
・ 行ってみたい旅行タイプは温泉、自然、食、歴
史に分類。
・ 旅行スタイルは急激に変化し、旅行先では最高
級の食事がしたい人が増加。
・ 旅行先では現地で見たり体験したりすることを
最優先する。
・ これからの観光は、歴史、伝統、文化、食など
の地域資源を大事にして誇りにしながらそれら
を活用するまちづくと地域住民の取組がポイン
トとなる。
・ これからの観光振興は地域主導型、着地型。
5.日本橋地域の観光事業
当社は日本橋地域ルネッサンス 100 年計画委員会
の分科会である日本橋 OL クラブ活動として、日本
橋地域活動に関わると同時に、日本橋美人推進協議
会活動において観光開発を推進すべく江戸日本橋観
光めぐり事務局活動に携わっている。
江戸日本橋観光めぐり事務局では 2007 年 11 月か
ら月に 2 回、日本橋地域の老舗と連携し日本橋地域
を訪問する観光客に日本橋を回遊する観光めぐりガ
イドサービスの試験提供を開始し、一年間が経過し
たため、事務局運営内容を整理し、次年度以降の計
画を再検討する。
1)江戸日本橋観光めぐりの目的
「江戸日本橋観光めぐり」事業は、日本橋の企業
や老舗、名店が協力して日本橋観光サービスの一層
の充実を図ることを目指している。
2)コース設定方法
日本橋には、100 年以上の歴史がある老舗や、江
戸時代、明治時代につくられた旧所・名跡が現存す
るため、徒歩 2 時間圏域で周回できる場所を設定し、
その範囲内で日本橋美人商品を取り扱っている老舗
と、名所旧跡を組み合わせたコースを設定した。
○村民も観光客も喜ぶ観光地づくり
・ 次の3つの基本理念をもって地域おこしを実践
した。①伝統工芸文化の保存伝承、②歴史文化
の保存と伝承、③食文化の開発伝承
・ たくみの里という、体験によるグリーンツーリ
ズムを生み出すことを 20 年計画で進めた。
・ 他の観光地と異なるのは、地域分散型にしたこ
と。
・ 職人の発掘と身分保障をした。
・ 成果として、体験場所 24 か所設置、年間入込客
数 45 万人、農産物直売所利用農家数 335 数と
販売額 8,500 万円、雇用の創出がある。
3.日本橋の観光産業の課題と対策
①世界遺産や重要伝統建造物群保存地区などの目玉
となる観光資源がない。
⇒「Michelin Voyager Pratique Japon」刊行により
美食都市「東京」が世界に再認識されたが、老舗や
伝統工芸技術などの観光資源を今一度発掘し、観光
めぐりやインターネットなどを通じて人々に PR す
ることが重要となる。
- 43 -
表 10 街歩き団体一覧表
地域
1
実施団体名
ツアー名
ツアー内容
コース
江戸東京400年のルーツを歩く~日
本橋編~
東京都(中央区)
中央区文化財サポーター協会
中央区歴史観光〈まち歩き〉
約2時間
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
人形町 歴史散歩
江戸東京400年のルーツを歩く~銀
座編~
築地・明石町 歴史散歩
歴史と文学でめぐる大川端散策(新
大橋~永代橋)
江戸から伝わる庶民の息づかいと
生活の匂い ~佃・月島~
日本橋川・橋めぐり
江戸湊と隅田川テラス 歴史散歩
2
東京都(中央区)
日本橋活性化フォーラム
6時間
親子日本橋巡り
3
東京都(中央区)
日本橋めぐりの会
日本橋老舗リレーツアー
約2時間30分
月曜コース
約2時間
古書店街入門コース:
書店巡りをしながら、街の歴史など
を紹介する
4時間
能楽入門講座と、粋なまち神楽坂
探訪
4
東京都(千代田区)
千代田区立千代田図書館
図書館コンシェルジュと巡る古本の
街・神保町ツアー
5
東京都(千代田区)
NPO法人日本文化体験交流塾
地域探訪シリーズ
- 44 6
〃
〃
〃
約4時間
〃
〃
〃
〃
〃
〃
3時間30分
4時間
〃
〃
〃
3時間
〃
〃
〃
〃
〃
〃
東京都(千代田区)
NPO法人 大丸有エリアマネジメン
ト協会
〃
〃
〃
〃
中小学生
URL
連絡先
〃
〃
〒104-8404 東京都中央区築地1-1-1 中央区役所
内
Tel. 03-3546-6525
Fax. 03-3546-6526
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
http://homepage2.nifty.com/makibuchi/aruku/course.
htm
300円
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〒103-0022 中央区日本橋室町1-8-2 末広ビル
電話 03-6202-1221 FAX. 03-6202-1224
3900円(参加費+保険料&
ランチ代・スイーツ代・お茶代・
入館料・お土産代等)
http://www.ninben.co.jp/meguri/index.html
http://www.ynp21.jp/forum/forum15.html
日本橋めぐりの会 企画・運営担当 川崎晴喜
TEL:03-3662-1184
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/guidance/jinbouch 千代田区立千代田図書館 読書振興センター担当
otour.html
TEL:03-5211-4289・4290
無料
http://www.ijcee.com/chiiki/chiiki_080920_index.h
tml
3600円
3,200円(千代田区民割引
篤姫の舞台、江戸城皇居探訪
制度あり)
画家 桐谷逸夫氏と歩く、谷中探訪
3,200円
江戸の総鎮守 神田明神探訪
〃
築地市場場長による講演と施設見 3,000円(昼食会に参加さ
学
れない方は1,000円)
〒101-0054東京都千代田区神田錦町3‐21 ちよだプ
ラットフォームスクウェア1058
日本文化体験交流塾 事務局
Tel&Fax:03-3917-8353 携帯:090-1607-5099
E-mail:[email protected]
http://www.ijcee.com/chiiki/chiiki_081105_index.html
〃
http://www.ijcee.com/chiiki/chiiki_081108_index.html
http://www.ijcee.com/chiiki/chiiki_081024_index.html
〃
〃
http://www.ijcee.com/chiiki/chiiki_081027_index.html
〃
2時間
浅草コース
2,500~6,000円
http://www.ijcee.com/taiken/taiken_walking_tour.html
〃
〃
〃
秋葉原コース
築地コース
〃
〃
〃
〃
〃
〃
丸の内ウォークガイド
約2時間
火曜日(浪漫薫る街の散策コース)
1000円
http://www.ligare.jp/mwg/index.html
〒100-8133東京都千代田区大手町 1-6-1 大手町ビ
ル 635区
Tel: 03-3287-5386 Fax: 03-3287-5840
E-mail:[email protected]
〃
約2時間30分
木曜日(歴史色づく街の探訪コー
ス)
1,500円
〃
〃
約1時間30分
金曜日(アートあふれる街のお散歩
コース)
1000円
〃
〃
千代田区鍛冶町2-5-11ミハラビル1階(三浦市東
京支店なごみま鮮果石川宛て)
TEL 03-6303-0330
E-mail: [email protected]
〃
2時間
神田駅東口エリアの散策
無料
http://chiyoda-days.jp/amenity/event/200809/08090602.htm
4時間30分
ウォーキングルート:二重橋前→馬
場先門派出所→行幸道路→和田
倉門橋→大手門・東御苑→平川門
橋→竹橋→清水橋→船着場
船でめぐるルート:日本橋川→隅田
川→神田川→船着場
3,000円(乗船料:ヘッド
フォン借用料,保険料,
資料代等を含む)
http://chiyoda-days.jp/amenity/event/200812/08120701.htm
C-bridge 企画担当:島崎 泰
FAX:047-469-2581
E-mail:c_bridge2008@yahoo.co.jp
2時間30分
皇居・東御苑を散策するツアーと大
江戸御膳
5,000円
http://www.athotel.jp/news/2007/04/post_556.html
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-1-1
TEL:03-3211-5211
FAX:03-3211-6987
東京展望台株式会社
3時間45分
新橋 金田中+老舗めぐり
http://www.tokyo-observatory.jp/tour/tour1.html
〒107-0062 東京都港区南青山5-11-14 H&M南青
山 3F-4
E-mail:[email protected]
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
4時間30分
4時間30分
6時間
4時間15分
5時間
約6時間
4時間30分
人形町 濱田家+芳町芸者
紀尾井町 福田家+芸術鑑賞
銀座 米村+築地 魚河岸巡り
神楽坂 うを徳+お稽古体験
向島 櫻茶や+お座敷遊び
浅草 草津亭+祭り囃子
築地 治作+下町散策
プライベートツアーのため
未設定
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
東京都(港区)
特定非営利活動法人 港区観光
まちづくり支援協会
ふれ愛まち歩き
約1時間半~2時間
会場スタート(芝公園)⇒増上寺(徳
川廟)⇒東京タワー下⇒青松寺⇒
愛宕神社⇒田村町 (浅野内匠頭
自刃の地)⇒切腹最中と出世の石
段⇒ 塩釜神社⇒芝公園(会場
無料
http://www.kanko-machizukuri.com/
〒108-0072 東京都港区浜松町2-4-12 モノレール
浜松町駅ビル2F港情報プラザ内
電話 03-5777-2908
FAX 03-5777-2865
E-mail:[email protected]
〃
〃
〃
〃
〃
〃
「篤姫」コース
「赤坂」コース
「麻布」コース
約3時間
http://www.kanko-machizukuri.com/
〃
〃
〃
〃
〃
7
東京都(千代田区)
8
東京都(千代田区)
9
東京都(千代田区)
パレスホテル
10
東京都(港区)
11
外国人も参加できる日本文化の体
験事業 地域に精通したプロのガイ
ドによるまち歩き
〃
〃
参加費
大人
神田フェーダーニュートラル
神田ロジヨコ探検隊
C-bridge (橋に焦点をあてること
釣船とブリッジウォークによる千代田
で千代田の観光まちづくりを考え
の橋めぐり
るグループ)
「大江戸絵巻を歩く」ツアー
小学生以下
3,000円
また 2008 年度は日本橋地域で日本橋美人博覧会
が開催され、その博覧会に合わせた観光めぐりを実
施した。
江戸日本橋観光めぐりは、日程を固定して観光め
ぐりを実施している。ガイド付コースは、立ち寄る
お店の方に店歴や商品説明などの紹介をしていただ
き、連携しているが、様々なコース設計をする際は、
ガイドの確保と、立ち寄るお店との調整が必要とな
り、事務局の負荷がかかる。また観光めぐりは日本
橋地域活性化のため、顧客からの費用負担はなく、
各店もボランティアで観光めぐりの協力をしている。
現時点では収益事業にはなっていない。今後は収益
事業につなげていくことを念頭に、昼食付のコース
設計等を進めていく必要がある。
また当事務局の活動の幅を広げるために、今後は
地図を見て、街を周回できる観光マップ作成に取り
組む。
これまでに 8 つのコース設定を行った。
念碑と平和の鐘→八重洲地下街
図 5 コース案内マップ
①江戸日本橋観光めぐり
三井タワー(名所)→千疋屋総本店(日本橋美人商
品)→山本海苔店(日本橋美人商品)→日本橋→榮
太樓總本鋪(日本橋美人商品)→日本銀行(名所)
→常盤橋門跡(名所)→貨幣博物館(名所)
②人形町観光めぐり
ロイヤルパークホテル(日本橋美人商品)→水天宮
(名所)→茶の木神社(名所)→谷崎潤一郎生誕地
(名所)→大観音寺(名所)→岩井つづら店(伝統
工芸)→ばち英楽器店(伝統工芸)→人形町亀井堂
(日本橋美人商品)
写真 1 山本海苔店での説明風景
写真 2
ヤン・ヨーステン
記念碑の説明風景
③浮世絵観光めぐり(人形町観光めぐり)
ロイヤルパークホテル(日本橋美人商品)→東京エ
アシティターミナル→水天宮→谷崎潤一郎生誕地→
人形町亀井堂(日本橋美人商品)
④浮世絵観光めぐり(室町観光めぐり)
三井タワー→千疋屋総本店(日本橋美人商品)→山
本海苔店(日本橋美人商品)→福徳塾→伊場仙
⑤浮世絵観光めぐり(日本橋観光めぐり)
三井タワー→千疋屋総本店→日本橋→榮太樓總本鋪
→COREDO 日本橋
⑥浮世絵観光めぐり(八重洲観光めぐり)
日本橋高島屋→日本橋プラザ→DIC 株式会社→ヤ
ン・ヨーステン記念碑と平和の鐘→八重洲地下街
⑦浮世絵観光めぐり(台湾政府の観光めぐり)
三井タワー→千疋屋総本店→山本海苔店→日本橋→
DIC 株式会社
⑧浮世絵観光めぐり(日本橋 OL クラブめぐり)
日本橋プラザ→DIC 株式会社→ヤン・ヨーステン記
3)ガイドの人材育成方法
昨年度の計画では、今年度 5 回程度のガイド講座
の実施計画を立てていたが、講座を受けるガイド側
の体制ができていなかったため、1 回の講座を実施
した。江戸から東京の街が形成される変遷について、
また町衆の気質などについて日本橋でガイドを続け
ている川崎様を講師に迎え、歴史を学んだ。
日時:平成 20 年 12 月 11 日(木)15:00~17:00
テーマ:江戸のオリジン― 江戸下町の成立と町衆の
生き方について ―
- 45 -
会場:(株)建設技術研究所 3 階会議室
講師:日本橋めぐりの会 代表 川崎 晴喜
参加者:江戸日本橋観光めぐり事務局
観光めぐりの立ち寄り店舗の方々
4)広報・普及活動
江戸日本橋観光めぐりの広報は、主に江戸日本橋
観光めぐり事務局のホームページと、日本橋都市観
光マップで行ったが、毎回定員以上の申し込みがあ
った。
日本橋の様々な企業や団体が協働して観光事業を
実施しているため、メディアに取り上げられた。そ
の他学会などでの講演も行い、活動を宣伝した。
5)成果
地域の神社、仏閣、企業や団体 19 か所の協力を得
て観光めぐりを実施することができた。
参加者約 400 人に日本橋地域と当事務局の取組を
知っていただくことができた。
日本橋地域の観光開発に取り組んだことから実績
が認められ、
「平成 20 年度広域・総合観光集客サー
ビス支援事業」の助成事業に採択された。今後は、
江戸東京再発見コンソーシアムとして、広域的な観
光事業を展開することとなった。
試験的運用期間を経て、実質的に事務局運営を行
い事業開発を実施。新規コースの開拓を行う。テレ
ビ番組等マスメディアを利用した外部に対しての積
極的な情報発信を行っていくとともに、ビジターの
誘致に努める。特に日本橋地域の企業や団体と協働
し、イベント時にイベントに合わせた観光めぐりを
実施し、新規集客を目指す。
6.事務局開設後 3 年間の計画
表 11 広報・普及内容
昨年度計画をした 2008 年以後 4 ヶ年にわたる活動
計画を再検討する。
試験運用期 2007 年 11 月から 2008 年 3 月
第 1 期 2008 年 4 月から 2009 年 3 月
第 2 期 2009 年 4 月から 2010 年 3 月
第 3 期 2010 年 4 月から 2011 年 3 月
③第 2 期(2009 年 4 月~2010 年 3 月)
江戸日本橋観光案内所(以下「案内所」という)
の開設等、日本橋エリアに案内所を設けることを検
討し、事務局運営も1年を経過し、発展期に入る。
舟めぐりの導入検討を行い、より広範囲のコース
設定を計画する。
日本橋放送局(仮称)で試験放送を行い、新規情
報発信ツールとしての役割を担う。
テレビ番組等マスメディアを利用した外部に対し
ての積極的な情報発信も引き続き行っていきビジタ
ーの誘致を拡大していく。
⇒案内所設置は行政も含めた協議が必要となるため、
主に観光めぐりの発展に主眼を置く。
1)各期の計画
①試験運用期間(2007 年 11 月~2008 年 3 月)
現存する類似企画との調整を考え、将来事務局が
目指していく方向を模索しながら、試験的に運用。
②第1期(2008 年 4 月~2009 年 3 月)
試験的運用期間を経て、実質的に事務局運営を行
い事業開発を実施。組織強化や新規コースの開拓を
行う。テレビ番組等マスメディアを利用した外部に
対しての積極的な情報発信を行っていくとともに、
ビジターの誘致に努める。特に日本橋地域の貴重な
観光資源である日本橋川の舟めぐり事業に取組み集
客を目指す。
⇒組織強化を達成できなかった。ボランティアスタ
ッフを募り、日本橋在住の 2 名の方からの申込があ
ったが、仕事をもっており、平日の観光めぐりのお
手伝いをしていただくことができなかった。
舟めぐり団体と連携はできたが、協議が進まず
日本橋川の舟めぐり事業を実施できなかった。
新規コース開発とマスメディアを利用した情報
発信は実行できた。
◎再考
第1期(2008 年 4 月~2009 年 3 月)
媒体
2007.9~ ホームページ
江戸日本橋観光めぐり事務
局ホームページ
2008.2 テレビ
NHK ふるさと一番
2008.6 NO.18 地図
日本橋都市観光マップ
2008.9 学会
土木学会
2008.11 学会
土木学会 コンサルタント
委員会
2008.12 テレビ
日本テレビ おもいッきり
イイ!!テレビ
内容
コース案内
申込フォーム
人形町の観光めぐり
コース案内
「江戸日本橋観光めぐり
事務局の取組」講演
人形町の観光めぐり
◎再考
第 2 期(2009 年 4 月~2010 年 3 月)
事務局運営が1年を経過し、発展期に入る。
街めぐりを有償にするためのコース設定を行う。
有償にするには、ガイドの質の向上と魅力的なコー
ス設定が重要となる。
また舟めぐりの導入検討を行い、試験的にコース
を開設する。舟めぐりの導入には、舟めぐりの実績
がある団体との協働が必須のため、当事務局の位置
付を明確にし、料金設定等を行う。
前年に引き続き、テレビ番組等マスメディアを利
用した外部に対しての積極的な情報発信も行ってい
きビジターの誘致を拡大していく。
事務局の独立を検討する。
④第 3 期(2010 年 4 月~2011 年 3 月)
日本橋に案内所を設置する。事務局運営も安定期
に入り、案内所と連携してより充実した事務局運営
- 46 -
を進めていく。
観光めぐりツアーの実施、案内所業務や舟めぐり
業務の充実を図る。
日本橋放送局(仮称)が本放送を開始し、安定し
た情報発信基地としての役割を担う。
7.まとめ
江戸日本橋観光めぐり事務局として、日本橋地域
の観光開発に携わり一年が経過したが、当初の計画
を整理することで、計画を見直し目標を軌道修正す
ることができた。
当社の地域活動は、日本橋の観光開発事業に発展
をしてきたが、今後も活動を継続するためには事業
の採算性を確保しなければならない。それには、本
文で検討したような事業計画を立案し、目標に向け
て活動を着実に実施することが重要である。
今後は、江戸日本橋観光めぐり事務局の活動とと
もに、採択を受けた広域的な観光開発助成事業に取
り組み、より積極的な都心の観光事業を展開してい
く。
◎再考
第 3 期(2010 年 4 月~2011 年 3 月)
有償の観光めぐりコースを複数開設し、収益は少
ないものの運営費が見込めるようになるため独立し
た組織にする。
地域の店舗に、当事務局が実施する有償での観光
めぐりが認知され、団体のお客様のガイド依頼を受
けるようになる。
日本橋放送局(仮称)で試験放送を行い、新規情
報発信ツールとしての役割を担う。
2)事務局運営計画
江戸日本橋観光めぐり事務局の各期ごとの計画を
示す。
①試験期
国土文化研究所(以下「国文研」とする)内に「江
戸日本橋観光めぐり事務局」
(以下「事務局」という)
を立ち上げ、国文研の内部スタッフが電話を含む問
合わせ等の対応を行い、事務局業務を担当する。
②第1期(2008 年 4 月~2009 年 3 月)
試験期に続き事務局は国文研内部に置く。
組織強化のため、ボランティアスタッフや日本橋
美人推進協議会会員企業からスタッフの派遣を行い
運営する。国文研は事務局全体の運営業務を担当し、
全体を総括する。
8.参考文献
独立行政法人国際観光振興機構「日本の国際観光統
計 2007」
東京都「平成 19 年度東京都観光客数等実態調査」
財団法人日本交通公社「旅行者動向 2008」
観光庁「観光立国の実現に向けて」
国土交通省 総合政策局「観光立国推進基本計画」
⇒組織強化を達成できなかった。
今後、有償での観光事業を展開するためには、ガイ
ド確保や質の向上などを十分に検討しなければなら
ない。
◎再考
第1期(2008 年 4 月~2009 年 3 月)
試験期に続き事務局は国文研内部に置く。
組織強化のため、ボランティアスタッフを募り、人
材育成講座でガイドの質の向上を図る。
③第2期(2009 年 4 月~2010 年 3 月)
3 人程度のスタッフにより事務局を運営する。国
文研は事務局の運営を管理・監督し全体の意思決定
を行う。
④第3期(2010 年 4 月~2011 年 3 月)
電話を含む問合わせの対応等は独立先の組織が引
き継ぐ。国文研は事務局の運営を管理・監督し全体
の意思決定を行う。
- 47 -
人材開発手法研究
The study of method for the human resources management
松本
健一*1 千田
庸哉*2 廣澤
遵*3 和泉 大作*4 長南 政宏*5
中島 満香*5 中村 哲己*6
Kenichi MATSUMOTO,Tsuneya CHIDA,Jun HIROSAWA,Daisaku IZUMI, Masahiro CHOONAN
Mika NAKASHIMA,Tetsumi NAKAMURA
文献のレビューと他社の人材開発事例を整理することで、今後のCTIの人材開発に有用な視点得られた。ま
た、中堅社員・管理職へのヒアリングや座談会を実施したことにより、人材を育成する側とされる側の「期
待と不安」に関する生の声を聞くことができ、当社の人材開発に関する現状と課題を評価することができた。
そして、それらの課題を踏まえた上で、CTIにおける今後の人材開発の方向性を示した。
キーワード:人材開発、OJT、リーダーシップ、ミドルリーダー、コーチング
第1章 研究の背景と目的
1.1 背景
(1) 問題となっている点
人材開発は、経営資源の根幹を担っているにもかかわ
らず、当社の人材開発は、伝統的に現場での課題対応を
中心にして進められてきたため、基礎的な理論や他社で
の取り組みに学ぶことが少なく、実施されてきた。
社員数が 1,000 名を超えて久しくなった現在、これま
での伝統的な手法が通用しなくなる面が露呈している。
今後、留意すべき課題としては次のようなものが考えら
れる。
・個人の能力と可能性の客観的な判断に基づく人材開
発
・個人の志向性を反映した人材育成
・個人の育成過程の組織的な管理・指導
・育成管理者(指導者)に対するスキルアップ
以上のように、当社の人材開発は、当社の分野を問わ
ない共通の根幹的な必須課題でありながら、
前述の通り、
主として現場での課題対応に注力され、基礎理論的知見
に裏付けられることに欠けていたと見られる。
(2) 研究の目的
以上のような背景と必要性を受けて、次のような目的
で本研究を実施することとした。
・人材開発に関わる基礎的な理論の把握に基づき、こ
れまでの伝統的な人材開発のありかたと課題を踏ま
えて、今後の方策を考えるために、全社横断的な取
り組みが必要である。
・今後の我が社の人材育成を進めるために、人材育成
に関する基礎的手法をレビューするとともに、同業
や他業種における人材開発の現状を把握し、当社の
人材開発に関する現状と課題を評価し、今後の方策
について検討する。
1.3 研究の進め方
本研究は以下のようなフローで実施した。
(2) 当社の現状
前述の問題に対しては、東日本ブロックで技術力コー
チングとして、組織的な指導・育成の枠組みが始められ
たものの、実質的には、未だ試行段階の域を超えておら
ず、定着するには、時間を要するものと見られる。その
ほかは、前述のように、現場での伝統的な課題対応に委
ねられている。
他業種・他社の人材育成事例の整理
・
当社の人材開発制度の整理と評価
(3) 他社の動向
同業他社における人材育成制度については、現在のと
ころ明らかではない。今後の検討によって、異業種を含
めて明らかにすることとする。
(1) 研究の必要性
*3
*5
*6
・
取り組み状況の整理
・
課題の抽出・評価
・
個別・座談会による聞き取り調査
今後の人材開発の方向性
1.2 目的
*1
文献資料のレビュー等
・
ミドルリーダー育成のあり方
・
人材開発手法に対する提案
・
来期における試行・検討プログラムの提案
図 3 研究フロー
東北支社総合技術部 Engineering Division, Tohoku Office *2 東京本社環境部 Environment Division, Tohoku Office
中部支社河川部 River Division, Chubu Office *4 九州支社都市室 Urban Section, Kyushu Office
東京本社都市部地域マネジメント室 Public Outreach and Awareness Section, Urban Planning Division, Tokyo Office
東京本社 Tohoku Office
- 48 -
第2章
なお、上記ヒアリングで得られた課題は 5.1(1)で
詳しく述べる。
他業種・他社の人材育成事例の整理
2.1 リーダーシップ概論
一般的に言われているリーダーシップの定義や
モデルを文献より整理した。
第4章
4.1 座談会の開催
新しいリーダー層が抱える『期待と不安』に関す
る中堅職員(技術系、総務・営業系)のナマの声を
聴きながら、今後のリーダー育成に関わる課題を明
確にすることを目的に、ディスカッションを行った。
ディスカッションは、中堅職員(S4・S5 クラス)
と大先輩リーダーの対話形式ですすめ、リーダーシ
ップや組織マネジメントに関する普遍的・今日的課
題の明確化、および今日的課題の解決に向けて必要
な対策について自由に語り語り合った。
なお、ヒアリング、座談会で得られた課題は
5.1(1)で整理する。
2.2 他社での人材育成プログラム
当社における人材育成プログラムの参考とする
ため、人材育成において成果を上げていると言われ
ている企業のプログラムについて情報を収集し、そ
の特徴を整理した。
第 2 章において整理した項目のうち、CTI におけ
るリーダー育成制度の構築・運用にあたって参考に
なる点について、5.1(2)において言及する。
第3章
ミドルリーダーの育成に向けて
当社の人材開発制度の整理と評価
3.1 人材開発の基本方針
平成 19 年度に公表された「CTI ヒューマンリソ
ースマネジメント体系(案)」の中で、人材開発方
針については整理がなされている。
4.2
技術コーチング制度・コーチ育成セミナーの
企画
技術コーチング制度は、試行期間終了後、本年度
より、各部署で本格運用に移行している。全般に良
好な成果を得ているものの、技術コーチングの方法
にいくつかの課題が挙げられている。
そこで、技術コーチのレベルアップを図るため、
セミナーの企画案を作成した。
3.2 現行の人材開発制度の整理
当社の人材開発制度を、社員研修規定(規定集)、
全社研修費、その他の 3 つの分類で整理し、現時点
におけるこれらの制度に対する課題と改善方策を
とりまとめた。
第5章
3.3 現行制度・プログラムの効果測定・検証
以下を目的に、中堅社員および管理職にヒアリン
グを行った。
(1) 中堅社員ヒアリング
①班長、管理技術者として必要な技術をバランス
よく習得するという観点から、既存の社内研修
プログラムを評価する。また、会社の競争力を
向上するためには管理・営業系職員の意見も重
要であり、管理部門の既存研修プログラム評価
も合わせて行う。
② 中堅社員が次世代の担い手として成長するた
めに、今後必要と考えられる研修プログラムを
明らかにする。
今後の人材開発の方向性
5.1
当社の人材開発に関する課題の整理
(1)
ヒアリング、座談会で得られた課題
1)
属人的課題
a) 管理技術の早期習得
・現在の研修制度は専門技術に偏りすぎている。
若手のうちから原価や工程管理、組織運営、経
営などを学ぶ機会が欲しい。
・ OJT も重要だが、指導者によってレベルが異
なるため、ベースとなるべきスキルは Off-JT
の機会を設けるべき。
b) 経験値の向上
・ 若いうちから場数を踏んで経験値を高めたい
(OJT)。
・ 指導者は、若手が仕事を通じて人間的に成長で
きるよう、相手の素質や許容量に応じたストレ
ッチ目標を与えて努力する習慣や主体性を育
てるべき。
(2) 管理職ヒアリング
① 管理者(次長、班長)が感じる後輩指導、育成
上の課題を明らかにする。
② 中堅社員を次世代の班長や管理技術者として
育成するために、今後必要な研修プログラムを
明らかにする。
- 49 -
c) 育成される側のモチベーション向上
・ 強制的に受講しなければならない研修(階層別
研修等)は、受け身で臨むと身につかない。一
方、自ら手を挙げて受講した研修は、理解も早
く身につきやすい。
・ 社内制度が充実している反面、若手は与えられ
ることになれて思考力が低下していると感じ
る。会社が全てお膳立てするのではなく、自分
のキャリアプランから逆算して必要な研修を
選べるような制度が必要。
・ 目標像や成長意欲のない人は、どんな指導方法
でも育たない。
d) 育成する側の資質向上
・ CTI は「管理者」と「管理技術者」の違いがな
い。管理技術者の責任領域が広すぎて過度の負
担がかかっている。
・ 育てる側にも、指導者としての資質が問われて
いる。本来目指すべき姿は「リーダーが管理者
になる」ものだが、現行制度は「管理者になっ
たらリーダーになれ」という風潮がある。育て
る資質のない管理者が存在しうるシステムに
なっている。
・ CTI はマニュアル化が深刻化している。目の前
の部下 10 人程度なら、個対個で個別具体に指
導するのが理想ではないか。人材が資産である
当社にとって、管理者は一人ひとりとキャリア
パスを丁寧に話し合うことに時間をかけるべ
き(マニュアルからカスタマイズへ)。
・ 育成指導の方法を自己流で学んできたため、間
違った指導をしているのではないかという不
安がある。指導者としてのレベルを整えるため、
コーチング研修や自己啓発の仕組みが必要。
・ 変化する時代に求められるのは「多様な人材」
であり、それを束ねる能力のある指導者が必要。
その能力をいかに育てるかが管理理者育成の
カギ。
2) 制度上の課題
・ 現行制度は、頑張った人とそうでない人に対す
る評価の差が小さいため、頑張ることに価値が
見出しにくい。頑張った人を評価する制度を望
む。
・ 階層別研修では、
「CTI-ism」
(すなわち自立し
た技術者集団として自己研鑽を旨とする姿勢)
を感じられる内容を盛り込むべき。
以上より、当社の人材開発に関する課題は次の通
りまとめられる。
- 50 -
・ S4、S5 は、社内的には上位者の指導を受けな
がら下位者を指導するミドルリーダーの立場
である。一方で、早い人では管理技術者として
対外的にリーダーとして振舞うことを求めら
れる。このギャップを埋めるため、S4 以前の
階層別研修等で、経営的・管理的能力を身につ
ける場が必要とされている。
・ 現在、これら能力を身に付ける場として OJT
が活用されているが、OJT 指導者のなかには、
育てる資質が低い人も混じっており、指導のク
オリティに問題がある。育てられる人の中にも
モチベーションが低い人がおり、育てる側も対
応に苦慮している。
・ 現行の人材開発制度はマニュアル化が進んで
おり、育てる側、育てられる側双方が思考停止
に陥っている可能性もある。
表 1 当社のミドルリーダーが陥っている
ギャップ
役職
立場
社内的
対外的
主任~主幹
管理技術者
(S4~S5)
(S4~)
班員
責任者
(ミドルリーダー)
(トップリーダー)
専門的技術力
専門的技術力+
組 織 ( 業
務)内の
位置づけ
相手から
期待される
経営・管理能力
能力
(2)
リーダーシップ論および他社事例によるリー
ダー育成の方向性
1) リーダーシップ論
前述したように、リーダーシップには、下図の 2
つのパターンがあるといわれている。
エプソン社の定義に当てはめると、変革型リーダ
ーシップ=リーダー、管理型リーダーシップ=マネ
ジャーとなる。ただ、リーダーとマネジャーの仕事
に違いはあるが、組織には両者が必要であり、また
マネジャーにもリーダー的な資質が求められる場
面もある。
よって、CTI のリーダー育成にあたっても、
「変
革型リーダーシップ」「管理型リーダーシップ」の
それぞれの能力を伸ばすことが求められる。
動機づけ
変革型リーダーシップ
変革ビジョン設計
管理型リーダーシップ
変革共有
コミュニケーション
変革型リーダー育成
コーチング
管理型リーダー育成
基礎力育成
変革実行管理
(階層別研修・部室研修等)
図 4 リーダーシップの 5 つの技術
2)
図 5 リーダーの考え方
他社事例
ここで、下図に当社の人材育成の概念図を示す。
階層別研修で各段階に必要とされる基礎知識を提
供する一方、日常的には OJT により上位者が下位
者を指導・育成してきた。これに「リーダー」育成
の概念を加えるためには、次の 2 点が重要となる。
• 管理者と違い、リーダーシップは全ての段階で
発揮することができる(例:入社1年目でもア
ルバイトを指導し、成果を出すなど)。そのた
め、指導者は、全ての階層にリーダーシップが
存在することを意識する(管理者≠リーダー)
• 上位者は、下位者に求めるリーダーのあり方を
明確に示し、下位者が徐々にリーダーシップを
発揮できるような環境づくりを行なう
一方、他社の事例を見ると、CTI におけるリーダ
ー育成制度の構築・運用にあたっては、以下の点に
ついて留意する必要があることがわかる。
●設計へのトップの参画とシステムのモニタリ
ングの実施
・ 次世代リーダー育成プログラムの設計にあ
たっては、企業のトップや役員の参画が必要
であること。
・実際のシステムの運用状況の確認やモニタリ
ングを実施すること。
● 求めるリーダー像の明確化
・CTI におけるリーダーに求める役割=リーダ
ー像をはっきり定義する必要があること。
・ いろいろな階層でリーダーシップを発揮し
て、さまざまな役割を担っていける人材層を
厚くすること。
●選抜方法の透明性確保と成果の活用を見据え
た運用
・研修受講者の選抜方法を透明化すること。
・選抜されなかった人の能力も見極めるように
すること。また、自主性を尊重し、研修の機
会を確保すること。
・研修受講後の受講者の配置の設計と運用をき
ちんとすること。
・事業戦略や人事制度と連動した教育を推し進
め、教育の効果がうまく発揮されるようにす
ること。
5.2
ステップアップ
ステップアップ
トップリーダー
ミドル
リーダー
(班長)
チーム
リーダー
(部室長)
OJT
OJT
階層別研修
自己研鑽
(専門技術)
階層別研修
自己研鑽
(専門技術・
管理技術)
階層別研修、自己
研鑽(専門技術・管
理技術・経営知識)
図 6 当社の人材育成の概念
(2) ミドルリーダー育成に向けた人材開発手法
これまでに見たように、当社のミドルリーダー育
成上の課題は次の3点に集約される。
①ミドルリーダーの職務と研修内容の明確化
②OJT 指導スキルの向上
③人材育成の脱マニュアル化
これらを踏まえ、当社のミドルリーダー育成につ
いて、以下の 3 つの方針を提案する。
ミドルリーダー育成のあり方
(1) ミドルリーダー育成の考え方
当社の資源は人材であり、人材育成を通じて競争
力を向上する必要がある。その際カギとなるのは、
「リーダー」の考え方である。
「リーダー」は「管理者」を内包する広範な概念
である。そして、これまでの当社の人材開発制度で
は「管理者」育成に重点が置かれてきた。今後、社
会環境の変化や技術開発の進展、ニーズの多様化が
進む中、「リーダー」育成により力を注ぐ必要があ
る。
1)
ミドルリーダーの役割の明確化とこれに対
応した研修内容の検討
・ 将来の当社を担う S4,S5 クラスでは、階層(職
能)と役割(職務)にギャップを感じている人
- 51 -
が多い。
・階層別研修は、職能をベースとした研修のため、
業務上必要とされる職務については各個人が
それぞれ自己研鑽や OJT で対応せざるを得な
い。
・ 職務遂行能力を向上させるには、階層別研修と
は別に職務に応じた研修メニューが必要であ
る。(例:管理技術者研修、班長研修など)
2) OJT 指導者のレベル向上
・ 職務遂行能力の育成について、現行では OJT
に依存しているが、指導者の資質にばらつきが
あり適切な指導ができていない可能性がある。
・ 育てられる側の資質やレベルが多様化し、指導
者側も苦慮している現状にある。
・ OJT 指導者のレベルを高める機会が必要とさ
れている(OJT 指導者研修など)。
b) 班長研修(職務研修)
班長技術者研修のプログラムのイメージは次の
通りである。
3) 人材育成の脱マニュアル化
・ 当社には様々な人材開発に関する制度がある
が、機会の平等が図られていなかったり、受講
内容が技術的内容に偏っていたりと、多様な社
員ニーズに対応できるものになっていない。
・ また、部室や階層ごとに一律の研修メニューが
決められており、指導方法が定型化されがちで
あるうえ、指導者が業務多忙のために個々の社
員をフォローアップできない状況にあり、育て
る側、育てられる側双方が人材育成について創
意工夫を行なう余地が少なくなっている。
・ 個々のニーズに合わせた柔軟な人材開発制度
が求められている。
5.3
人材開発手法に対する提案
(1)
現行の研修制度に対する提言
表 2 管理技術者研修のイメージ
若年層が管理技術者になる機会
が増加。職能研修である階層別研
修では対応できず、OJT は指導者
が多忙のため対応困難。管理技術
者に求められる知識等は、ある程
度定型化が可能。
目的
管理技術者として知っておくべ
き情報を体系的に学ぶ
対象者
技術士新規取得者(義務化)、希
望者
実施時期
4~5月
実施内容
管理技術者の心構え(技術面、発
注者対応面)
必 要 な 手 (社内・社外)
続
その他
「管理技術者手帳」の配布
背景
表 3 班長研修のイメージ
S4 クラスが班長になる機会が増
加。職能研修である階層別研修で
は、対応が不十分。OJT は指導者
が多忙のため対応困難。
目的
班長昇格者に、班運営の基礎知識
を提供するとともに、実例に基づ
いて、問題点などへの対処方法を
学ぶ。
対象者
新規班長昇格者、希望者
実施時期
6~7月
実施内容
班長の心構え(業務管理、経営管
理、人材育成)
必 要 な 手 (社内)
続
背景
2)
1)
業務管理意識を高めるためのカリキュラム
の見直し
リーダーになる前から、業務や組織の管理につい
ての意識を高めることは、早期からの個人のスキル
アップを期待できるほか、組織のエンパワーメント
につながる。このため、若年層の研修メニューとし
て課せられる業務管理(工程、コスト等)の内容に
ついて、拡充の方向で見直す。
ミドルリーダー育成のための研修プログラ
ム新設
聴き取り調査結果や組織運営にとっての重要性
から、ミドルリーダーを対象とした研修プログラム
の新設を提案する。
3) 多様な研修方法の組み合わせ
既存の研修メニューのうち、e ラーニング等で代
用できるものは集合型研修から除外する。また、集
合型研修では参加者同士のディスカッションを中
心に組み立て、より身につきやすい内容に変更する。
a) 管理技術者研修(職務研修)
管理技術者研修のプログラムのイメージは次の
通りである。
- 52 -
(2)
コーチングの推進と自主研修の活性化
1) OJT スキルの向上
当社の実情に見合った OJT の指導スキル・指導
方法を検討するとともに、OJT 指導者トレーニン
グをS5 以上に義務付ける。また、育てられる側か
らの評価(360 度評価)を取り入れ、指導者のレベ
ル向上を図る。
2) コーチングの導入
現在、東日本ブロックで試行されている「技術力
コーチング」制度の評価を行い、課題や改善点を整
理する。この実施結果をもとに、技術力にこだわら
ず、社員全般を対象に、一般的な意味での「コーチ
ング」の導入を検討する。
3) 自主研修奨励制度
変革型リーダーの育成と多様な人材開発に向け
て、本人の随意による自主研修を奨励する。もっと
も、個人の意志による研修については、会社側で関
与すべきものではないものの、個人の育成やグルー
プのビジョン・目標に合致したものは、会社として、
奨励・支援する。前述の奨励・支援対象として認め
るものについては、会社から次のような支援を行う。
表 4 自主研修奨励制度による支援のイメージ
支援項目
内容
人 事 考 課 に 個人育成プログラムに位置づ
お け る 加 点 けて、人事考課における評価要
要素
素とする。
選 択 型 研 修 技術のみならず経営や人材育
メ ニ ュ ー の 成など幅広いメニューを盛り
提示
込み、自由度を高めることを原
則として、モデル的な研修メニ
ューを準備して、自主的な研修
の推進を図る。
受 講 費 用 等 技術コーチングなどの個人育
の一部負担
成プログラムで位置づけられ
ていることを要件として、本人
からの申請に基づいて、受講費
用の一部を会社が負担する。
(負担の上限は3割程度)
表 5 受講側の目線での制度の検証と立案
項目
内容
リ ー ダ 本年度実施したリーダーシップ懇
ー を 考 談会を来年以降も継続する。
え る 懇
談 会 の
継続
聴 き 取 人材開発制度のモニタリングを充
り の 継 実(若手、管理者への聞き取り)さ
続 的 実 せ、継続的なフォローアップ体制を
施
整える。
提 案 型 社員自らが望ましいと考える研修
研 修 メ 方法を提案する機会を設け、提案結
ニ ュ ー 果を制度に反映させる仕組みを構
の実践
築する。
提案された内容は、研修制度として
取り上げて実施するほか、現行の
「短期特定課題研修」を活用して実
施する。
同 年 代 技術発表を中心とした現行の技術
交 流 の 交流に対して、同年代の人が業務の
機 会 創 垣根を越えて分野横断的に交流、啓
出
発し合える場をつくる。以前に実施
されていた「年代別研修」は、これ
らの取り組みとして効果があった
ため、再開する。
5.4 来期における試行・検討プログラムの提案
以上の検討結果を実践に移す上で、「選択の手続
の明確化」
「研修機会の平等」
「自主性の向上」の 3
点を重視して、早期に着手した方が良いと考えられ
るものをピックアップし、次年度以降の試行・検討
プログラムをスケジュールに整理した。
表 6 試行・検討スケジュール
項目
実施スケジュール(月)
4 5 6 7 8 9 10 11
12
自主研修奨励制度
→ 随時自主的に実施
リーダーを考える
●
●
懇談会の継続
聴き取りの継続的
●
実施
自主提案型研修
→ 随時自主的に実施
メニューの実践
同年代の交流機会
●
の創出
(全社技術研修会)
5.5 最後に
~人が最大の資産、人を育てることで会社が成長
する~
社員ヒアリングや座談会を通じて、ミドルリーダ
ーの悩みが明らかにされた。また、多くの社員がリ
ーダーシップを求め、自己研鑽に励んでいる様子も
伺えた。
その一方で、現行の人材開発制度に対する多くの
課題も抽出できた。特に重要なのは、会社の資産で
あり、成長の要である「人」を育成するための各種
人材開発制度がマニュアル化されてしまい、十分に
(3) 受講側の目線に立った制度の検証・立案
現行の人材開発に関わる諸制度に関しては、さま
ざまな手法でモニタリングや制度の点検・検証が実
施されている。通例ではアンケート調査による受講
者の反応の把握が主体である。
本年度の研究において、さらに、受ける側と同じ
目線で制度を検証したところ、受講者のナマの声・
ホンネの声を聞くことができた。
今後もこの手法を活かしていくことが有効であ
る。このため、以下の方策を提案する。
- 53 -
機能していないとの批判の声である。また、下位者
を育成する責任を負う指導者の資質にもばらつき
があり、育成側と指導側の狭間にあるミドルリーダ
ーが、成長の方向性について悩みを抱えるという課
題が明らかになった。
この課題を解決するためには、人材開発制度をよ
り「人」の育成に焦点を当てるものに改善すること
が重要である。つまり、個々の社員の自主性を高め
つつ、会社が望む人材に育つような人材開発制度に
変わっていく制度が望まれる。そのためには、制度
に過度に依存せず、育成者と指導者が「人対人」の
関係性を築けるような側面支援することが大切で
ある。
- 54 -
ユビキタス社会における情報技術の研究
Research of information technology in ubiquitous society
礒部猛也*1
福島博文*1 秋本達哉*1 加藤宣幸*2
小原裕博*4 石田裕哉*5 笹山隆*6
設楽昌宏*3
松崎浩憲*7
Takeya ISOBE, Hirofumi FUKUSHIMA, Tatsuya AKIMOTO, Nobuyuki KATHO, Masahiro SHITARA,
Yasuhiro OBARA, Yuya ISHIDA, Takashi SASAYAMA, Hironori MATUZAKI
ユビキタス社会における情報技術の研究としては、無線技術とセンサー技術および組み合技術が重要であ
る。本研究では、特に無線技術を中心とした技術の収集整理を行い、この技術を利用して砂防、水理実験、
環境、ダム分野のニーズに合わせてセンサー開発及び実験を行った。「IC タグを用いた河床礫の移動実態調
査手法開発」
、
「河川構造物変状検知センサー」の開発研究を行った。これにより、幅広い分野での適用研究
を実施でき、要素技術及びその応用手法についての技術習得ができた。
キーワード:ユビキタス、RFID、IC タグ、MEMS、ユニバーサルデザイン、センサー・ネットワーク
1.ユビキタス技術
“ユビキタス”というキーワードは、最近ではTVのC
Mにも採用されるなど一般的になりつつあるが、その概
念は明確化されていない。一般的には、携帯電話でメー
ル、インターネット、ネットバンキング等様々な情報通
信サービスを受けることや、Suicaカードのように定期や
プリペイドカードのように利用できたりするアプリケー
ションを指している。
本研究では、ICタグやセンサー技術を活用したセンサ
ー・ネットワーク技術習得・開発中心としてユビキタス
技術を整理した。ICタグは、物につけたIDを読み取る仕
組みであるが、
そのつけ方や、
タグ内に書き込
む情報、利用の
仕方により様々
なソリューショ
ンが創り上げら
れる。
メール
テレビ電話
インターネット
△△ホームページ
○○ホームページ
テレビ・ラジオ閲覧
センサー・ネットワークは、現象の状態を計測するセ
ンサーとそのデータ分析するマイコンとデータを通信
する無線部に分かれる。これらを組み合わせることによ
りセンサー・ネットワークが構築される。
マイコン
通信部
センサー
図 3 センサーモジュール構成
親局
センサー・ネットワークは、複数個でネットワークを
構成し、面的にセンシングした情報を親局へ情報伝達す
る。その代表例であるアドホック通信は、ネットワーク
中のセンサーが壊れネットワーク網の一部が寸断してい
ても、自動的にネットワークルートを再構築していく仕
組みを持っている。
飛行機の予約
アドホック通信
残高照会
振込み
9AM
12AM
3PM
ネットバンキング
株の売買
図 1 携帯電話サービス
図 4 センサー・ネットワーク例
2. 市場動向及びニーズ調査
最近の政策提言や政府の動向を調査し、研究の方向性の確認
及び建設分野におけるニーズを整理した。
IC タグ
リーダー
図 2 IC タグの基本動作
*1
*2
*3
*4
*5
*6
*7
2.1 e-Japan から u-Japan へ
2001 年 1 月に e-Japan 戦略が開始してから、2005 年
までに着実な発展を見せてきた。2006 年以降も IT 先進
東京本社・情報部 Information Technology Division, Tokyo office
東京本社・道路・交通部 Road & Transportation Division, Tokyo office
東京本社・水システム部 Waterworks Management & Research Division, Tokyo office
東京本社・都市部 Urban Planning Division, Tokyo office
東京本社・ダム部 Dam Division, Tokyo office
東京本社・河川部 砂防室 River and Water Resources Division, Sabo Engineering Section, Tokyo office
東京本社・社会システム部 環境システム室 Community Affairs-Research & Analysis Division, Enviroment Engineering Section, Tokyo office
- 55 -
国に追いつくというキャッチアップ的な発想ではなく、
世界最先端の IT 国家であり続けるフロントランナーと
して国際貢献を行うなどの役割を果たしていくことが
求められた。 そのような中、ユビキタスネット社会の
実現を目指した e – Japan 戦略から u – Japan 政策へと
発展し、ユビキタスネットワーク社会の実現へ向けて具
体的な政策が実施されてきている。
図 7 実証実験の代表的な実施箇所(国交省 HP)
図5
u-Japan 政策から e-Japan 戦略へ(総務省 HP)
2.2 国土交通省
国土交通省においても「イノベーションの創造に資す
る国土交通分野における技術革新」の中で、ICT を活用
した社会基盤の構築を強く打ち出している。
国土技術政策総合研究所では「社会資本整備・管理が
効率化、高度化された社会をめざす」をテーマとして技
術開発が進められている。
2.4 河川局での動向
河川分野においては、社会資本整備審議会内の河川分
科会に、
「ユビキタス情報社会にむけた次世代の河川管
理のあり方検討小委員会」を設けて、既に 3 回の委員会
が開催されている。
・ 平成 19 年 8 月 28 日:第 1 回委員会
・ 平成 19 年 11 月 1 日:第 2 回委員会
・ 平成 19 年 12 月 11 日:第 3 回委員会
図 8 河川管理のイメージ例(国交省 HP)
図 6 社会資本整備と管理の効率化を目指した研究
(国交省 HP)
2.3 自律移動支援
自律移動支援プロジェクトは、すべての人が持てる力
を発揮し、支え合って構築する「ユニバーサル社会」の
実現に向けた取り組みの一環として、社会参画や就労な
どにあたって必要となる 「移動経路」
、
「交通手段」
、
「目
的地」などの情報について、
「いつでも、どこでも、だ
れでも」がアクセスできる環境をつくっていくための検
討を行うことを目的としている。
平成 16 年度に神戸で実証実験を開始して以来様々な
箇所で実証実験を実施されてきている。
3.河床礫の移動実態調査手法の研究
本研究では、これまで開発してきた計測機器を現地で
の作業性を考慮した機器の改良を実施した。
(1) 改良点
【小型軽量】
バッテリーを小型化し、読み取り器本体と共に耐水
BOX 内に設置することで、機器の小型軽量化を行った
(写真 1)。バッテリーの内蔵化に合わせ、耐水 BOX 内
にバッテリーをセットしたままでも充電できるよう充
電機能を追加し、さらに充電状況を把握するための電圧
計を追加した。
バッテリー
写真 1 小型軽量化
- 56 -
35mm
【アンテナ】
アンテナの保持に必要な人数を減らし、水中での探査も
行いやすいよう、専用の柄を製作して取り付けた柄の長
さは、リーダの出力の減衰を考慮し、2m とした。また
郵送可能なように 50cm 毎に分割可能としている
水平堀
φ10mm
石礫
φ4mm
φ5mm
30mm
垂直堀
40mm
H19 年度
石礫
チップサイズ
図 9 石礫への埋め込み方法
(3) 現地適用実験
現地適用実験の実施場所は、淀川水系木津川の支川
青蓮寺川の最上流部で、奈良県宇陀郡御杖村土屋原で
実施した。現地に設置した IC タグ埋め込み石礫径と個
数について一覧表に示す。
H20 年度
写真 2 リーダーの改良(2 人掛りから 1 人で作業)
(2) IC タグの埋め込み
TexasInstruments 製RI-TRP-RR2B ※平成18年
度調査と同じものを使用した。
図 10 現地適用実験場所
表 1 IC タグの仕様
機能
動作温度範囲
保存温度範囲
耐機械的衝撃性能
耐振動性能
最大読み取り距離
標準読み取り時間
寸法(mm)
重量(g)
EMC(電磁干渉)
電源
メモリ容量
周波数
透過性
リードオンリー
-25~+85 度
-40~+100 度(+125 度累計 1000 時間)
200g,2axes,IEC68-2-27TestEa
10g,10-2000Hz,2axes,IEC68-2-6
1m
70ms
31.2±0.6x 直径 3.85±0.1
0.8
書き込まれたコードは、
通常の電磁干渉や放
射線には影響されない
読取器より供給される電源(電池なし)
CRC 付き 64 ビット(10 進数で 20 桁)
134.2kHz
全ての非金属を透過して通信ができます
大滝第3 砂防えん堤
IC タグ
観測枡
水位計
大滝第 4 砂防えん堤
図 11 調査箇所
両調査で使用した石礫の個数や選択手法は若干の差
があるが、おおむね以下の方法で石礫に IC タグを設置
した。
現地で石礫を選定し、これにドリルで穴を開ける。ド
リルは発動発電機で稼働する小型のものを現地に持ち
込んだ。石礫に開ける穴は、IC タグを埋め込んだ後にシ
ーリングすることを考慮して若干大きめとする。
IC タグ
を埋め込み、シリコンでシーリングする。
表 2 IC タグを埋め込んだ石礫径と個数
1
2
3
4
5
6
7
- 57 -
粒径(cm)
3~5
5~10
10~15
15~20
20~30
30~50
50 以上
計
第 4 えん堤上流
5
10
9
8
8
7
3
50
第 3 えん堤上流
5
10
8
9
8
7
3
50
(4) 実験結果
平成 20 年 9 月 3 日から同年 12 月 8 日までに 6 回計
測を実施した。期間中に台風 13 号による出水が発生し
て石礫の移動が発生した。期間中に最大 7.5m 移動した
石礫が存在したケースも存在した。石礫の移動と既往移
動限界式との関係について検討を行った。
いずれの礫も、これまで一般に使用している無次元掃
流力(τ*=0.05)以上で礫が移動しており、おおむね理論
通りの結果となった。
移動した礫径と無次元掃流力の関係
0.4
0.35
第3堰堤上流
第4堰堤上流
無次元掃流力τ*
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0.0
5.0
10.0
15.0
20.0
25.0
粒径(cm)
図 12 移動した礫と無地幻想流力との関係
(5) 考察
大滝第4 号堰堤上流と大滝第3 号堰堤上流のいずれに
おいても、現地で調査した礫は岩垣式よりも移動しにく
く、修正 Egiazaroff 式よりも移動しやすい結果となる。
岩垣式よりも移動しにくい理由としては、岩垣式は礫単
体の移動限界の式であるためと考えられる。修正
Egiazaroff 式よりも、移動しやすい結果となった理由と
しては、式に用いた平均粒径が大きいため(小規模出水で
は移動しないような大粒径の礫を含むため)と考えられ
る。
修正 Egiazaroff 式は、混合粒径の 1 次元河床変動計算
を行う場合には、現状では必ず使用される式である。し
かしながら、今回の調査結果のように、粒度分布(平均粒
径)の設定状況で土砂の移動限界が大きく変化すること
は明確である。
以上を踏まえ、粒度分布(平均粒径)の設定に際しては、
細心の注意を払う必要があると言える。
これまでの着色などによる追跡方法では、どの石礫が
移動したかの判定が困難であったが、
IC タグの利用によ
って石礫に ID を付与することが可能となったため、移
動した石礫の特定が容易かつ確実に行えた。
本調査では、この特性を活用し、一般的に使われている
計算式の妥当性について検証を行い、適用時に留意すべ
き点があることを明示することが出来た。
4.砂礫移動のトレーサ技術手法の研究
(1)研究の目的
ダム建設に伴う環境変化の回復手段として、下流河川
の攪乱機会を創出する「フラッシュ放流」や減少した砂
礫移動を回復させる「河川土砂還元」などが試行されて
いる。このような試行実験の効果を現地で計測する方法
として、砂礫の移動状況を直接的に把握する方法と、流
量増や流砂量増に伴う水質変化(濁度、SS など)や礫
上の付着藻類の剥離更新を把握する方法などが一般に
行われている。
このうち、砂礫の移動状況を把握する方法として、ペ
イントした礫を河床に並べて放流前後で追跡する方法
があるが、移動の有無は確認できても、その移動先や移
動を開始したタイミングは不明であり、実施効果の評価
が困難となっている。一方、河床に土砂を捕捉するトラ
ップ箱を設置して放流後に回収してその土砂量と粒度
分布から流砂量の多寡および移動した最大粒径を推定
する方法があるが、これも砂礫の移動距離やタイミング
は同様に明らかにはならない。
一方、単独の個体を広範囲に追跡する手法として、鳥
や魚の移動行動をリアルタイムで追跡するラジオテレ
メトリー手法が各種開発されてきており、また、固有の
識別コードや各種情報を自身に記録し観測機と無線で
情報を交信するICタグ技術を用いて、多数の個体群を
廉価に管理する手法も実用化されている。
本研究は、このICタグ技術を砂礫移動の追跡調査に
応用する手法を考案し、これまでの移動観測に時間と位
置の情報を加えることが可能となる調査手法の開発を
目的とする。
(2)ヒル谷(岐阜県高山市)における現地実験
川幅が狭く水深 20cm 程度と浅い条件での礫移動が期
待される渓流での調査をヒル谷(岐阜県高山市)を対象に
実施した。
ヒル谷
図 13 現地観測位置図
C(暗渠下流)
図 14 アンテナ
定置設置状況
アンテナ(中流)
- 58 -
1回目フラッシュ
160
アンテナ(上流)
140
通過時間(s)
120
アンテナ(中流)
100
80
アンテナ(下流)
暗渠下流
60
40
20
0
0
10
20
30
距離(m)
40
50
60
図 17 アンテナ通過ダイアグラム(1回目)
図 15 試験排砂状況
2回目フラッシュ
(3)追跡試験結果
追跡型装置による観測を、フラッシュ当日直後
(2007.6.16) 、 翌 日 (2007.6.17) お よ び 約 1 ヶ 月 後
(2007.7.14)の計3回にわたり実施した。
6410
通過時間(s)
6370
20mを超えて移動した試料の移動距離
8
頻度(個)
アンテナ(上流)
6390
アンテナ(中流)
6350
6330
暗渠下流
6310
7
6290
6
6270
5
6250
4
0
10
3
20
30
40
50
60
距離(m)
2
図 18
1
アンテナ通過ダイアグラム(2回目)
180~200
160~180
140~160
120~140
100~120
80 ~100
60 ~ 80
40 ~ 60
0
20mを超え
40m以下
表 3 観測された移動速度
移動距離(m)
範
囲
(アンテナ)
図 16 移動距離頻度(フラッシュ翌日~1ヶ月後)
(4)定置型装置試験結果
ヒル谷では、試験堰堤から土砂を排出する際に2回に
分けて土砂混じりのフラッシュ放流が行われ、それに伴
い流下する試料を3箇所に設置した定置型装置にて観
測し、
通過試料の特定と通過時刻の記録を行った。
図 17、
図 18 に、試料が定置型装置の上を通過したダイアグラ
ムを示す。通過試料のラップタイムから実際のトレーサ
の移動速度が計測できる。なお、2回目のフラッシュで
は下流アンテナを通過した試料は認識されなかった。
表3に推定された試料の移動速度を示す。アンテナ(上
流)→(下流)は、ある試料がアンテナ(上流)で捉えられた
が(中流)で観測されずに、(下流)にて観測された場合の移
動速度を示す。ここで、下流に行くほど移動速度が大き
くなっているのは、河床勾配の変化と、流況が下流に行
くほど広がり、短絡的な移動となっていることが考えら
れる。
(5)考察
ICタグ技術を用いて真名川およびヒル谷において
砂礫の移動観測を行った結果、下記事項が明らかとなり、
移動速度(m/s) (平均)
フラッシュ 1 回目 フラッシュ 2 回目
(上流)→(中流)
0.564
0.424
(中流)→(下流)
0.957
(なし)
(上流)→(下流)
1.202
(なし)
トレーサ調査手法として実用に耐えると判断した。
・ 砂礫の移動は、一定以上の洪水規模と継続時間が重
要なファクターとなる。
・ 目視では認識できない礫の移動を洪水イベントごと
に個別に追跡することが可能である(砂礫にある程
度埋もれていても認識可能)
。
・ 実際に移動する試料をアンテナで待受け、その通過
時刻を計測することにより、砂礫の移動速度を測定
することが可能である。
・ 適切なアンテナ設置箇所(確実な通過,流れの安定
など)を選定すれば、高い捕捉率(認識率)で試料
の通過が確認できる。
・ ヒル谷規模の河川では、パッシブタグの弱点である
アンテナ捕捉距離の短さが大きな不利とはならない。
・ 試料を河川に流下させ、その位置と移動速度の観測
が可能となった事から、実際の石材や素材・形状を
変化させた人工試料の流下特性を比較検討する素地
が出来上がった。
- 59 -
① 装置概要
本研究では、固有の番号を持つICタグを無線通信に
より追跡するシステム(テキサス・インスツルメンツ社の
シリーズ 2000 リーダシステム)を構築し使用する。同シ
ステムの特徴として、タグの読み取りに使用する周波数
帯が水の影響を受けにくい(134.2kHz)点と、ICタグは
電池を持たず読取器側から受ける電磁波により電力が
供給されるパッシブ型であり、電池寿命に依存しないた
めに長期間の継続観測が可能である点が挙げられる。な
お、アンテナ-試料間の読取距離は現時点で水中・気中
を問わず 35cm~40cm 程度であり、砂礫に埋まった状
態でもほぼ相違なく認識できることがこれまでの基礎
実験で確認している。実際の試験においては装置の使用
目的により、以下に示す2種類の装置構成(追跡型装置、
定置型装置)を提案した。
図 20 定置型装置
② ICタグ試料
ICタグ試料(以下試料)は、砂礫を模し球形に加工し
た素焼レンガもしくはコンクリートブロックに、直径
4mmの貫通穴を開けICタグ(長さ32mm,
直径3.8mm,
重さ 0.8 グラム)を挿入し樹脂で封入したものである。I
Cタグ自体の寿命は 30 年程度であるため、長期間の追
跡が可能である。
32mm
封入
40mm
図 19 ICタグおよび試料
③ 追跡型装置
追跡型装置は、河道内に停留もしくは埋没している試
料を探索する装置である。アンテナ以外の装置一式を観
測者が背負い、砂利を満たした塩ビパイプ製ウエイトに
平面形状のゲートアンテナ(715mm×270mm×16mm)
を固定し、水中あるいは気中の河床上にかざすことでI
Cタグの有無を判定する。試料が発見された場合、IC
タグの固有認識番号に加えて、GPSを使用して発見し
た位置と日時が記録される。また,装置の追跡状況は無
線カードを介して基地局のパソコンへデータが送信さ
れる。
④ 定置型装置
定置型装置は、河床に予めアンテナを設置しその上方
を通過した試料の番号と通過した日時を記録する装置
である。仮に2箇所に定置型装置を設置しその間を同一
の試料が通過した場合。2点間の距離および通過時刻の
差より試料の移動速度が概算される。
5.河川構造物変状検知センサー
(1)研究の目的
護岸、根固め工や護床工といった河川構造物の変状に
ついては、通常、目視による点検によって行われている。
洪水中においては流水の中であるため、それらの変状
がリアルタイムに把握することが出来ない。洪水期間中
に河川構造物の変状状態が把握できれば、これらの変状
が破堤に至る前兆現象として捕らえることが出来るこ
ととなる。破堤の前兆現象が把握できれば、緊急堤防強
化といった水防活動や破堤地点近傍の住民避難などの
人的被害軽減策としての情報提供することが出来る。
本研究では、こうした河川構造物変状を検知するセン
サーシステムについて研究を行い、河川管理に適用でき
る変状検知センサーを開発することとした。
(2)対象とする河川構造物
堤防破堤に至るメカニズムは様々あるが、本研究では
護岸ブロックや根固工の流出現象を把握するセンサー
を対象とした。
高水位
天端侵食
側方侵食
護岸流出
河床洗掘
根固工
図 21 センシング対象とする護岸変状のメカニズム
(3)変状検知の原理
河川構造物(根固めブロック等)の洪水流による「流
出」判定センサーは、構造物に取り付けた通信装置から
の応答が無くなった段階で流出したものと判断する仕
組みとする。
- 60 -
⑦ クライアント:ユーザーPC
図 22 変状検知の原理イメージ図
(4)変状箇所の把握原理
直線状に並べた通信機では、その途中の通信機が流
出するとそれよりも遠方(背後)からの情報は全て途
絶することになる。一般に河川護岸ブロックは、下図
に示すように面的に配置されている。その中の一つが
流出しても迂回経路を構築して流出ブロック(通信機)
の下側の情報を得るような仕組みが必要である。この
ように流出通信機が発生しても自動的に迂回路を形成
して通信しあう仕組みをアドホック通信という。この
通信技術を利用して流出ブロック下段の状態を確認す
る仕組みとする。
(6)実験結果
図25に平成20年10月24日出水の水位ハイドログラフ
と流出した時の時間を示す。
・ 水位ピークは 10/4 17:00 で 8.91m,流速は 1.24m/s
・ 11:00 に 5 段目の 2 つが流出。水位:7.27m
・ 11:30 に5段目の残りが流出。水位:7.34m
・ 12:30 に4段目の1つが流出。水位:7.60m
・ 13:30 に4段目の残り1つが流出。水位:7.96m
(7)考察
実証実験結果、空中・水中においても通信センサーが
機能することができた。
洪水中の護岸流出を検知することができた。
護岸流出状況について Web サーバを通じてリアルタ
イムに把握することができた。実験中、ノイズにより通
信が途絶し、流出していないブロックが流出したような
振る舞いをすることがあった。
4 段目全流出
4 段目 1 個流
5 段目全流出
5 段目 2 個流
図 23 変状検知箇所の把握方法
⑤衛星通信
図 25 護岸流出の実験結果
⑤衛星通信
③コントロール
②親機
システム
⑥Web サーバ
①子機
④水位計
⑦クライアント
図 24 システム全体構成
(5)システム全体
システムは下図のとおりとなっている。
① 子機:開発した通信機センサー。
② 親機:子機と他のシステムをコントロールするシス
テムをつなぐ。
③ コントロールシステム:子機、水位計のデータを収
集し衛星回線を利用してデータ送信を行う。
④ 水位計:護岸流出と水位の関係を把握する。
⑤ 衛星通信:Web サーバまでの通信
⑥ Web サーバ:収集したデータ表示システム
図 26 護岸流出状況
6.あとがき
「ユビキタス社会における情報技術研究」は、本年度
で終了する。研究開始当初は、
「ユビキタス」という言
葉自身が曖昧に使われて何でもできるような錯覚に陥
った。研究を進めるに当たって、建設分野及びその周辺
分野への応用に当たっては基礎実験及び製品に持たせ
る製造者責任について十分に認識する必要があること
を痛感させられた。
- 61 -
試行錯誤の中で IC タグを利用した礫移動に関わる技
術の開発、河川構造物変状検知センサーの開発、魚遡上
テレメトリー技術など実務での活用が図れることとな
り、毎年関連業務の受託が可能になっている。
今後、さらにユビキタス技術の高度化が図られること
で現在実現できないことも可能になる可能性が高いこ
とから、最新技術を取得しながら自己研究を継続してい
きたい。
- 62 -
総合地下水研究
Study of the Ground Water Management and Mathematical Model
蛯原雅之*1 久保田明博*2 小林滋*3 渡邉暁人*1 野村貢*4 古野貴史*5,
原隆史*6 伊藤一正*7 金子学*7 今西由美*7
Masayuki EBIHARA, Akihiro KUBOTA, Shigeru KOBAYASHI, Akito WATANABE, Mitugu NOMURA,
Takashi FURUNO, Takashi HARA, Kazumasa ITO, Manabu KANEKO, Yumi IMANISHI
近年の都市問題、地球環境問題等の解決につながる水循環適正化の一側面として、地下水保全・利用等に関
する検討を行った。地下水利用による地盤沈下の収束傾向に関する統計データを用いた再評価の考え方、大
気・土壌環境の数値予測手法、帯水層利用による都市浸水対策・非常時用水確保等、地下水マネージメント
手法に関連する検討を行い、地下水保全・活用等の観点から新たな水循環管理について提案したものである。
Key word: Ground water, Management, Simulation model, Water resources Management
1.背景と目的
半世紀にわたり地盤沈下対策一辺倒であった地下水
政策が、水資源の有効利用ニーズや管理技術の向上に伴
い、
「健全な地下水の保全・利用に向けて、国土交通省、
H19.3」に象徴されるように、新たな局面を迎えている。
一方、大地の下を広く深く、絶えず緩やかに流れる地
下水は大きなポテンシャルを持つ水資源であり、これを
活用・管理すれば、より合理的で質の高い水循環管理が
可能になるものと考える。また、地下の帯水層は、それ
自体が、特に都市域において豪雨時、渇水時、地震災害
時等の水の危機管理上のクッションゾーンとなり得る。
本稿は、以下の 3 つのテーマを通して、地下水保全・
活用や帯水層利用の観点から新たな水循環管理のあり
方や手法を提案したものである。
①地下水利用に伴う地盤沈下現象の考察と今日の課題
②湿地保全・再生における大気・土壌環境の数値予測
について
③都市の流域対策を主目的とした新しい一時貯留型浸
透システムの検討
2.地下水利用に伴う地盤沈下現象の考察と今日の課題
2.1 はじめに
広域地盤沈下対策を目的とした法律・条令・要綱を遵
守することにより、例えば要綱指定3地域においては、
濃尾および筑後・佐賀では定められた地下水の目標採取
量よりも少なく、また関東平野北部においては目標採取
量まで至らないまでも地下水揚水量が減少してきてい
る。地盤沈下対策の施策の結果、地下水位は回復し、大
規模な地盤沈下は沈静化している。
しかし、近年以下に見られるような、地盤変動現象が
みられる。
1) 地下水位が回復しているにもかかわらず、日本各地
において年間2cm以下程度の沈下が継続している
*1
*3
*4
*5
*7
地域があり、また、同程度の地盤上昇が見られる地
域もある1)。
2) このような地盤沈下(または上昇)現象が発生して
いる範囲が必ずしも一定の地域を示さず、経年的に
継続性がみられないこともある。
3) 大規模な渇水(例えば平成6年)の発生により、地
域的に一定傾向のみられない、広範囲の地盤沈下が
発生する。
広域地盤沈下の原因が地下水の利用に起因する限り、
近年の地盤変動(上述の3点)の状況を把握せずには、
施策としての地盤沈下対策や、地下水を水資源として利
用する位置づけが明確化できない。
このように新たにみられる地盤変動現象について、従
来とは異なる視点も加えた整理・表現が必要と考え、昨
年は次の2つの視点について検討を行った。
第一点は、水準測量に基づく地盤変動量の把握方法に
ついて、1)測量法に規定される許容誤差、2)水準基
準点に含まれる誤差(不動点扱いとなっている)
、につ
いて改めて整理し、水準測量結果に誤差が内在すること
を再確認した。第二点は、地盤変動現象の全体像を俯瞰
できる新たな表現方法として、全水準測量結果の頻度分
布および基礎統計量による表示方法を示した。この表示
法は、同一地域(埼玉県全域)における水準測量結果(1
年間の変動量)について、全水準測量結果の統計値(頻
度分布・ヒストグラム)で表現する方法で、具体的に渇
水年(平成6年)と平常年(平成18年)の比較を行い、
それらの地盤変動の特徴を示した。
本検討では、昨年の第二点目の地盤変動を統計値で表
現する方法について、平常年における変動の特徴把握へ
展開し、具体的に過去5年間(平成14年~平成18年)
について統計計算を行い、その特性について解釈を行っ
た。
東京本社・都市部 Urban Planning Division, Tokyo Office *2 東京本社・河川部 River and Water Resources Division, Tokyo Office
東京本社・地圏環境部 Geo-Environment Division, Tokyo Office
東京本社・道路・交通部 Road & Transportation Engineering Division, Tokyo Office
東京本社・水工部 Waterworks Engineering Division, Tokyo Office *6 東京本社・構造部 Structural Engineering Division, Tokyo Office
本社機構・国土文化研究所・企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section ,Head office
- 63 -
条例による規制範囲
調査対象市町村数
9
12
17
12
8
8
65
①東部地域
②中央部地域
③西部地域
④北東部地域
⑤比企地域
⑥北部地域
計
-0.2
+3.6
神川町
群馬県
-1.4
熊谷市
-2.2
長野 県
N/D
-2.3
-0.5
千葉県
-5.1
-5.2
-6.8
さいたま市
-1.9
-6.8
-4.4
-9.0
-4.8 -0.1
-8.0 -5.0
-3.0 -3.0
-3.6
-6.7
-4.0 -2.9
鳩ヶ谷市
所沢市
-3.7
-4.3
-3.4
-3.4
東京都
20km
-2.7
N/D
-2.0
山梨県
-12.8
-9.7 栗橋町
-5.3 -7.2
-8.1
-8.0 -5.9
-4.7
-7.0
-5.3 -7.0
-5.4
-5.8
-6.8
-0.7
N/D
茨城県
-10.7
-5.7
-2.9
-0.6
飯能市
-14.9
-5.6
-4.7
-7.1
-0.1
◎
N/D
不動点:
「埼基-1」 -3.3
標高 99.3138m
-1.6
秩父市
0
栃木県
-0.2
+2.3
-2.7
条例による規制範囲
図 1 平成 14 年(1月1日~15 年同月同日)の地盤変動量
(図中の数値は市町村に位置する全ての水準点の単純平均地盤
変動量(単位 mm)を示す。熊谷市には江南町を含む。また図
中の波線は、県条例により井戸の揚水量を報告する事となって
いる範囲で、表-1 の揚水量の集計範囲を示す。
)
調査対象市町村数
①東部地域
②中央部地域
③西部地域
④北東部地域
⑤比企地域
⑥北部地域
計
9
12
17
12
8
8
65
-8.4
群馬県
-5.2 -5.9
神川町
-3.7
-3.0
熊谷市
-0.2
-0.5
◎
-2.3
不動点:
「埼基-1」
+1.3
標高 99.3138m
-2.0
-2.3
-3.5
-1.0
-1.0
秩父市
-4.5
-0.7
茨城県
-2.4
-3.1栗橋町
+1.5
+0.8
+3.3 +1.3
-0.3
0.0 +0.4
+2.0
+0.8
+2.2
+3.5
+3.0
-2.7
-1.0
+5.8
-4.8
千葉県
-0.4
-2.0
+1.5
-0.6
さいたま市
-1.3
-2.5
+1.0
+4.2
+3.2 -2.6
+1.6 +3.0
+2.8 +5.7
+2.2
+0.2
+5.0 +2.5
-2.2
鳩ヶ谷市
+4.7
所沢市
山梨県
20km
+0.4
+1.3
+0.4
+2.2
+1.0
0
栃木県
+0.7
-1.0
-0.8
飯能市
東京都
図 2 平成 15 年(1月1日~16 年同月同日)の地盤変動量
(図中の数値は市町村に位置する全ての水準点の単純平均地盤
変動量(単位 mm)を示す。熊谷市には江南町を含む。
)
調査対象市町村数
①東部地域
②中央部地域
③西部地域
④北東部地域
⑤比企地域
⑥北部地域
計
9
12
17
12
8
8
65
+5.6
群馬県
+6.0 +5.0
神川町
+1.0 +0.6
熊谷市
+0.4
-0.8
+0.1
◎
+3.0
不動点:「埼基-1」
+1.0
+3.0
標高 99.3138m
+3.0
+3.3
-1.5
-9.1
-6.3
-1.6
0.0
千葉県
+3.0
+0.3
+0.4
飯能市
山梨県
20km
茨城県
-5.6
-10.1
-1.5
-6.8-10.0
-3.0-1.0
-2.8
-6.9
-4.4
-1.7
+2.8
-14.3
-19.1
栗橋町
-13.4
-14.2
-8.6
-3.1
-6.1
-8.3
さいたま市
-5.3
+0.8
-0.6
0.0
-4.5
-5.9
-5.7 -2.4
-3.7 -3.0
-7.0
-4.8
-0.6
-4.7
-2.8
-6.0 -4.2
鳩ヶ谷市
-3.7
所沢市
秩父市
0
栃木県
-11.4
-3.9
+3.3
長野県
東京都
図 3 平成 16 年(1月1日~17 年同月同日)の地盤変動量
(図中の数値は市町村に位置する全ての水準点の単純平均地盤
変動量(単位 mm)を示す。熊谷市には江南町を含む。
)
調査対象市町村数
①東部地域
②中央部地域
③西部地域
④北東部地域
⑤比企地域
⑥北部地域
計
9
12
17
12
8
8
65
-4.4
+0.2 -5.1
神川町
-3.0
群馬県
-4.0
熊谷市
-4.0
-6.6
-3.7
+1.0
秩父市
飯能市
-3.7
-5.2
+1.1
-1.0
-1.2
山梨県
-3.4
20km
東京都
-1.9
-6.5
茨城県
-6.1
-4.3 栗橋町
-0.8 -2.1
+0.5
-1.2
0.0
-2.2
-1.0
+3.3
-2.6
-1.0
-1.3
-1.7
+0.2
-1.7
0
-4.0
-0.5
◎
+1.0
不動点:
「埼基-1」
-3.5 -3.0
標高 99.3138m
-0.7
栃木県
-6.2
-5.5
-3.3
長野県
- 64 -
ここで示した統計的手法は、水準測量の効率化という
側面に対しても、有効な視点を提供するものと考える。
長野県
2.2 平成14年から18年の地盤変動量
本検討で用いた地盤変動量データは、昨年同様、埼玉
県の6百余点の水準測量成果2)
(1月1日と前年の同
日との精密水準測量による標高差)であり、観測年は平
成14年から18年である。いずれの年も渇水はなく、
いわゆる平常時に相当する。
図1~図4に平成18年(昨年報告)を除く、4年間
の行政区域ごとの平均地盤変動量図(行政区域内にある
全ての水準点の1年間の変動量を単純平均し地図上に
プロット)を示す。また図5に、平成14年~平成18
年の埼玉県の年間地盤変動量の頻度分布を、表1にその
統計値を示す。さらに算出した統計値である分散と、変
動量の最頻値・中央値・平均値の関係を図6に示す。
図1~図4の地盤変動の平面分布から読み取れるよ
うに、平成14年は全体的に微量の沈下傾向を示すもの
の、平成15年から17年は上昇地域がまばらに確認さ
れる。この状況を地域個別の沈下/上昇量の把握ではなく、
県全体の地盤変動傾向の把握として、昨年検討した出現
頻度および統計による方法を用いて確認した。図5の出
現頻度分布図に示すように、5年間において多く観測さ
れた変動量は、沈下/上昇(プラスマイナス)20mm の
範囲にあることがわかる。
また、表1に示すように、平成15年を除き、中央値・
最頻値・平均値ともに沈下量5mm 以下を示す。平成1
5年は、中央値が0mm であり、最頻値・平均値ともに
地盤上昇を示す正の値となっている。
これらの特性値から、埼玉県の地盤変動の全体的な傾
向として、平成15年はやや上昇傾向が見られるものの、
依然として微量な沈下傾向が続いていることを読み取
ることができる。
さらに図6に示すように最頻値・中央値・平均値の変
動量が小さいほど、分散が少ない関係を読み取ることが
できる。
2.3 まとめ
現在用いられている地盤沈下の特徴を示す方法(最大
沈下量地点や、面積の経年変化など)は、変動域が地域
的に同一傾向を示す場合で、かつ年間変動量が数cmを
超えるような大きい場合に有効である。
しかし近年のように、地盤変動量が年間数mmで、変
動地域が同じ地域傾向を示さない(分散している)場合
には、従来の表示・解析だけでは地盤変動の特徴をとら
えにくい。
近年の地盤変動の特徴を捉える方法として、水準点の
変動量の統計的な解析による解釈が有効であることを
示した。さらに詳細な検討を加え、地盤変動の特徴をわ
かりやすく示す手法を考えていきたい。
また財政難の折から水準測量点の削減について、各地
で検討され始めている。地盤沈下は回復の難しい公害問
題であり、かつ直ちに顕在化しにくい事象であることか
ら、不断のモニタリングが大変重要である。
千葉県
+5.0
-2.2
-3.4
-1.3
さいたま市
-5.2
-4.5
-2.5
-6.9
-4.8
所沢市
+3.2
+7.4
+0.2
+3.5 +5.9
-2.0 +1.7
+3.2
-3.0 -2.3
鳩ヶ谷市
-1.3
図 4 平成 17 年(1月1日~18 年同月同日)の地盤変動量
(図中の数値は市町村に位置する全ての水準点の単純平均地盤
変動量(単位 mm)を示す。熊谷市には江南町を含む。
)
3.湿地保全・再生における大気・土壌環境の数値予測
について
3.1 はじめに
近年、農業地の再編・整備や高度成長期に失われた湿
地や湿原を、自然再生の観点から回復、復元する試みが
なされている。これまで、今後の自然再生における湿地
の保全・再生に資する観点から、湿地の微気候と土壌環
境の数値予測についてその方法と応用手法を示してき
た。特に、本報では、具体的な湿原再生事業への適用方
針・手法とアウトプットイメージを示した。
3.2 国内の湿地の現状と取り組み
日本では、
北海道に湿原面積の約8 割が集中しており、
1928 年頃の泥炭地面積を現在のそれと比較した場合、
約 70 年間で 70.2%が消失したと報告されている 1)。
我が国では、
平成15年に自然再生推進法が施行され、
図7に示す自然再生のフローに基づき、日本各地で自然
再生の取り組みがなされている。
90
80
平成14年
平成15年
平成16年
60
平成17年
平成18年
出現頻度(地点数)
70
50
40
30
20
10
0
- 20
- 10
0
+ 10
地盤変動量(mm)
+ 20
図 5 水準点の地盤変動量出現頻度分布図(変動量プラ
スマイナス 20mm 間を表示)
表 1 水準点の地盤変動量の出現頻度の統計値
観測期間
自)
至)
地下水揚水量(千m3/日)
平均 mm
標準誤差
中央値 mm(メジアン)
最頻値 mm(モード)
標準偏差
分散
尖度
歪度
範囲 mm
最小 mm
最大 mm
合計
標本数
H14.1.1
H15.1.1
747.9
-5.13
0.178
-5
-5
4.07
16.59
3.35
-1.19
29
-24
5
-2700
526
H15.1.1
H16.1.1
726.4
0.026
0.142
0
2
3.33
11.06
6.85
-1.41
33
-25
8
14
547
H16.1.1
H17.1.1
727.8
-4.85
0.239
-5
-5
5.72
32.73
5.84
-1.26
54
-47
7
-2767
571
H17.1.1
H18.1.1
725.3
-1.53
0.165
-2
-1
4.09
16.70
0.51
0.11
27
-18
9
-943
615
H18.1.1
H19.1.1
690.7
-0.27
0.154
-1
-1
3.88
15.04
0.24
0.04
29
-19
10
-169
633
実施者が発意
政
府
は
自
然
再
生
基
本
方
針
変動量(
-1.0
)
mm
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
-6.0
10.0
15.0
20.0
25.0
分散
30.0
実施者は
送付
自然再生事業実施計画
を策定
意見
主務大臣および
関係都道府県知事は
実施計画に助言
助言
モニタリング、評価し、
結果を事業に反映
図 7 自然再生事業の実施フロー2)より引用
このような自然再生事業といえども現状の改変を行
う以上、将来的に変化する対象流域の環境条件を予測す
る手法も必要であると考えられる。従来より、等温下の
地下水を含む水環境の予測は、既存の数値解析モデルで
ある ModFlow、MIKE-SHE 等といった、地下水解析モ
デル、水循環解析モデルで実施することができた。
しかし、湿地や湿原を対象とする場合は、大気接地層
の気象と地下土壌内の水・熱移動を連成し、より現実に
近 い 状 態 を 解 析 し 得 る SALSA モ デ ル
(Soil-Atomosphere Linking Simulation Algorithm:土
壌―大気連成シミュレーションアルゴリズム)が有効と
考えられる。
3.3 SALSAモデルの概要
SALSA の数学モデルは、H.F.M.ten Berge により開
発され、土壌と大気における熱・水輸送過程をリンクさ
せて同時に解くものである。詳細は H.F.M.ten Berge を
参照されたい 3)。
SALSA の計算は、地表面上の大気エネルギー収支を
解くことから始まり、大気ルーチンの計算、土壌ルーチ
ン(土壌水分⇒土壌温度)の計算の順に進め、両者のモ
最頻値 (モード)
中央値 (メジアン)
平均
0.0
主務大臣は
意見を聴く
自然再生事業を実施
3.0
1.0
自然再生
専門家会議
自然再生全体構想
自然再生全体構想
を協議会が策定
を協議会が策定
を
策
定
(地下水揚水量は、埼玉県生活環境保全条例に定め
られた規制地域内(図-2)において、揚水量の届
け出に基づき集計されたもの。実際の揚水量は、こ
の値よりも多いと思われる。
)
2.0
実施者は
自然再生協議会を組織
国または地方公共団体は支援
・許認可などで適切な配慮
・財政上の措置など
・活動に必要な情報の提供
35.0
図 6 分散と、最頻値・中央値・平均値の関係
(2章 参考文献)
1)例えば濃尾平野では次の資料がある:国土交通省中部地方整
備局(2008)
:平成 19 年における濃尾平野の地盤沈下の状況
(Website より引用)
、
http://www.cbr.mlit.go.jp/kawatomizu/ground_sinkage/i
ndex.htm
2)
埼玉県:埼玉県地盤沈下調査報告書
(平成 14 年度観測成果)
、
同(平成 15 年度観測成果)
、同(平成 16 年度観測成果)
、同
(平成 17 年度観測成果)
、同(平成 18 年度観測成果)
- 65 -
デルを地表面で連成して計算している。
3.4 SALSA モデルによる水・熱・大気環境の解析
水域周辺の水辺地帯が裸地に近い状態の場合におい
て、地下水位の変化による植物群落の形成の違いを考察
するため、地下水位の設定を GL-0.2~+2.0m で 5 ケー
ス設定して、土壌水分及び温度状態の変化を予測した。
土壌含水率と植生との関係図を図8に、また計算結果
を図9及び図10に示す。
z
気温
T
z
気温
T
森林
湿生植物が形成されると
考えられる水辺地帯
草地
地下水面
水域
土壌含水率
が低い区域
土壌含水率
の高い区間
土壌含水率
の高い区間
含水率θ
含水率θ
図 8 水域周辺の温度・含水率の鉛直分布イメージ
Case-1(0.2m)
Case-2(0.5m)
Case-3(0.8m)
飽和度(%)
100
80
60
40
20
0
8月6日
8月7日
8月8日
Case-4(1.0m)
8月9日
8月10日
8月11日
8月10日
8月11日
れる。
地下水位が 0.2~0.5mの条件下では、土壌水分がほぼ
100%となるため、ヒメガマ群落等が形成され、また、
地下水位が 0.8mでは、計算上の土壌水分が十分安定し
ていないが、約 80%程度であれば、マコモ群落やチゴザ
サ群落の形成に適した土壌水分となろう。地下水位が 1
mになり、土壌水分が概ね 50%であれば、アゼスゲ群落
などが優占すると考えられる。
SALSA モデルは、土壌-地表面-大気の連成相互作
用を解析できるモデルであるため、植物群落が形成され
る陸上と表面土壌の温度、水分、日射量といった低層・
土壌環境状態が予測可能であり、今後、湿地状態等、自
然再生分野への活用が期待される。
3.5 今後の検討に向けて
ここでは、入手可能なデータにより、実際に湿地再生
事業を実施している流域に本モデルを適用することで、
モデルの有用性の検証と解釈の事例を示した。
現在、釧路湿原では、湿原の保全と自然再生に向けて、
釧路湿原自然再生協議会が継続的に開催されており、そ
の中で、湿原の再生を目的とした湿原再生小委員会 4)が
設置されている。図11に示すように、釧路湿原再生事
業の対象となるゾーンは 5 つあり、そのうち、本モデル
を適用するのにふさわしい再生事業を実施しているの
は幌呂地区である。そのため、SALSA モデルを用いた
モデルケースとして、釧路湿原「幌呂地区」の自然再生
事業を対象とし、本予測モデルを適用する予定である。
Case-5(2.0m)
飽和度(%)
100
80
60
40
20
0
8月6日
8月7日
8月8日
8月9日
土壌温度(℃)
図 9 土壌水分予測結果(表層)
Case-1(0.2m)
40
Case-3(0.8m)
30
20
10
0
8月6日
8月7日
Case-4(1.0m)
土壌温度(℃)
Case-2(0.5m)
8月8日
8月9日
8月10日
8月11日
Case-5(2.0m)
40
30
図 11 釧路湿原再生事業ゾーン 3)より引用
開拓時に整備された農業排水路が湿原乾燥化の一要
因になっていることから、水循環モデル(MIKE-SHE)
により、地下水位回復対策(排水路埋め戻し)を実施し
た場合の地下水位の変化を予測し、これを SALSA モデ
ルの土壌モデルの境界条件とすることで、表層土壌の地
温、土壌水分の変化を予測することができる。
対策実施による低層大気や土壌環境の物理環境条件
20
10
0
8月6日
8月7日
8月8日
8月9日
8月10日
8月11日
図 10 土壌温度予測結果(表層)
計算結果を対象地区の「植生タイプと土壌水分の関
係」と照合することにより、例えば、以下の解釈がなさ
- 66 -
ことに着眼し、その対策の一つとして、ビル事業者等を
対象に、防災・利水面のインセンティブを考慮した一時
貯留型浸透システムを提案するものである。
の変化を予測することで幌呂地区の植生群落の変化を
予測することが可能となる。
(3章 参考文献)
1)土原健雄,石田聡,今泉眞之:湿原水文学研究の現状と北海
道東部湿原の水文特性,農業土木学会誌,pp.587-590,2006.
2)亀山章,倉本宣,日置佳之:自然再生(生態工学的アプロー
チ)
,264pp.,ソフトサイエンス社,2005.
3)H.F.M.ten Berge・九州地下水研究会:裸地表面と低大気層に
おける熱と水分の輸送,246pp.
,森北出版株式会社,1996.
4)釧路湿原自然再生協議会運営事務局:
「釧路湿原自然再生協
議会」第 4 回湿原再生小委員会 資料 26pp.,2008.
流
域
外
都市化
流域の降雨
処
理
・
排
水
都市における人工系の水循環
海
洋
・
河
川
(雨水排水)
(都市用水利用)
(産業用水利用)
(農業用水利用)
(環境用水利用)
地下水
海
洋
・
河
川
都市における自然系の水循環
図 13 「人工系水循環」と「自然系水循環」の概要 2)
下水道整備
水質浄化(衛生面の向上)
速やかな雨水の排除(浸水被害の軽減)
集中豪雨増加
雨水浸透率の低下
局所的
浸水被害の増加
産業用水利用
農業用水利用
環境用水利用
(地下水)
4.都市の流域対策を主目的とした新しい一時貯留型浸
透システムの検討
4.1 はじめに
近年、ゲリラ豪雨とも呼ばれる集中豪雨による都市型
水害が頻発し、特定都市河川浸水被害対策法(平成 15
年 6 月策定)や、下水道総合浸水対策計画策定マニュア
ル(案)
(平成 18 年 4 月)等で雨水貯留・浸透施設等の
流出抑制型施設による流域対策の必要性が再認識され
ている。
都市化前
導
水
都市用水利用
飲料用水
炊事用水
入浴用水
洗濯用水
トイレ用水
対策スペースの減少
必要対策規模の増大
対策コスト増大
従来の浸水対策のみでは限界
下水道以外の都市水収支との連携
貯留・浸透施設の適切な配置
流域全体及びスポット的浸水対策
将来
図 12 下水道による都市浸水対策等の経緯 1)
一方、
「第三次環境基本計画」
(2006 年 4 月)で重点
分野政策プログラム(10 分野)の一つに位置付けられた
「環境保全上健全な水循環の確保に向けた取組」として、
水循環に関する議論が活発化する中、都市における「自
然系水循環」の大きな供給源である雨水が人工的に下水
道(雨水排水)により遮断・排水されて十分に都市用水
として活用されず、流域外からの大量の水の調達と消
費・廃棄が都市用水の大部分を占めている状況が課題と
なっており、雨水を貯留して利活用したり、あるいは積
極的に浸透させ、浸水対策のみならず適正な地下水利用
等の枠組みに位置づける必要性が生じている。2)
ここでは、特に従来の雨水排水計画で既に市街化が進
んだ地域で、用地的な制約から浸水対策レベル向上の余
地が小さく、流域対策を積み上げる必要が高まっている
- 67 -
4.2 雨水貯留・浸透施設に関する既往研究の経緯
雨水浸透の促進により流出抑制効果を得る試みは
1970 年代から本格的に進められ 3)、1980 年代初頭には既
に「浸透型施設が整備されていない理由としては、①浸
透型施設の機能は、その特性上地盤条件に大きく左右さ
れやすく的確に把握することが困難である。②貯留型施
設に比べて機能の安定性に問題がある」4)と、現在も懸
案となっている課題が示されるとともに、
「浸透型施設
は、地下水涵養及び河川流況の安定化等流出抑制以外の
効果についても期待」4)と、水循環上の多面的な効果も
示唆されていた。
その後、約 30 年にわたり、浸透のメカニズムや浸透
量評価に関する研究例えば 5)~10)、浸透による流出抑制効果
や水循環上の効果に関する研究例えば 11)~16)、地下水汚染へ
の懸念に関する水質面の研究例えば 17)~19)、市街地ノンポイ
ント対策としての浸透ます等の汚濁負荷削減効果に関
する研究例えば 20)~23)、目詰まりや維持管理に関する研究例え
ば 24)~31)
等の多面的な研究が進められ、さらに近年は都市
水資源としての雨水・地下水利用の研究例えば 32)~33)といっ
た新たな視点からの研究も進められている。
また、海外においても、地下水汚染やノンポイント対
策等の水質面の研究例えば 34)~44)、目詰まりや維持管理に関
する研究例えば 45)~50)、水循環や都市水管理に関する研究例え
ば 51)~55)
等が進められている。
4.3 雨水貯留・浸透施設の導入における課題
長年の研究の成果として、雨水貯留・浸透施設の計
画・維持管理等に関する指針類例えば56)~64)が多く整備され、
全国で助成事業制度が展開 58)されている一方、地盤条件
や目詰まりによる浸透機能の不安定性が依然として課
題となっている点や、維持・点検管理の項目や必要十分
な頻度が一義に定義されないことから、その普及状況は
必ずしも良好とはいえない面がある。
特に、貯留容量が明確で、ある程度の確実性が担保さ
れている貯留施設に比べて、浸透施設は浸水対策計画等
への位置づけに際して浸透能や安全率、耐用年数、維持
管理仕様等の設定が難しい面があり、また、管理瑕疵の
問題もある。
このため、浸水対策では貯留効果と浸透効果とが個別
に議論されて、浸透機能は付加的要素として余裕分とさ
れる場合が多く、排水設備として宅内浸透ますが全国で
約70万基も設置されているのに対して、公共浸透ます
は約3.5万基程度となっている。
一方で、浸透施設と貯留施設を併用することによる効
果について、
「浸透施設だけで所定の洪水流出抑制効果
を得られない場合は、‥中略‥浸透施設により洪水流出
量を抑制したのちに貯留施設で洪水調節を行うと、調整
池の容量が軽減される」57)として図12のような試算例
が示されているが、既に市街化が進んだ地域では用地確
保の面からオフサイト貯留施設による整備レベル向上
の余地が極めて小さいという物理的課題がある。
図 15 浸透施設の流出抑制効果の概念 34)
図 16 ゲリラ豪雨の場合の貯留容量増加
図 14 浸透トレンチの併用による貯留施設容量の軽減 34)
4.4 気候変動下における浸透による流出抑制の限界
従来より浸水対策の事業においては、対策効果の確実
性の観点から、各戸貯留や浸透施設の有用性は認識しつ
つも、計画上は大規模なオフサイト貯留施設への依存が
大きかったが、都市化に伴う地表面の不浸透化により雨
水流出量が増大する傾向を踏まえ、近年は雨水浸透によ
り流出のピークカットを図る考え方が広まり、また、雨
水浸透阻害行為の許可に当たっては貯留・浸透施設によ
る機能代替措置を義務として求める場合もある。
一般的な雨水貯留・浸透による浸水対策の概念図は図
15のとおりであるが、ここで、流出ピーク時に雨水浸
透による流出抑制で処理しきれない容量を貯留施設で
対応している点に留意する必要がある。
近年のゲリラ豪雨と呼ばれる集中豪雨では、ピーク時
の降雨強度が極端に大きく、単位時間当たりの雨水浸透
能力を大幅に超えるために下水道あるいは河道の雨水
排水能力を超えた分が浸水被害をもたらす場合が多い。
「雨の降り方の変化」が、地球温暖化等による亜熱帯
化に伴う現象として日常化するならば、図16に示すよ
うに、雨水浸透施設により対応することは浸透能力の点
から困難となり、
「オフサイト貯留施設容量の拡大」あ
るいは「オンサイト貯留容量の拡大」を図る必要が高ま
ると考える。
- 68 -
現実的には、市街化が進んだ都市域でオフサイト貯留
施設の容量拡大や新設は用地取得の面から容易ではな
く、各戸貯留や学校・公園貯留等のオンサイト貯留をこ
れまで以上に重視し、さらに可能な限りオンサイト貯留
空間を見出すべき状況になると予想される。
4.5 貯留機能と浸透機能の役割分担による新しい一時
貯留型浸透
以上の背景を踏まえ、都市浸水に対する流域対策とし
ての新たなオンサイト貯留・浸透として、商用ビルの地
下空間を利用した一時貯留型浸透システムを提案する。
提案システムの概念を以下に示す。カッコ内の番号は
図-6 中の番号と対応する。
<システムの概要>
商用ビル等の地下階の一部空間を、浸水対策の治水容
量のための貯水槽(①)として利用することにより、建物
敷地からの雨水流出(②)を所要のレベルまで低減する、
あるいは流出のピークを遅らせる。
また、貯水槽下部の利水容量(③)の雨水は中水利用し
て都市水資源として有効活用する。このような雨水利用
施設としては両国国技館や東京ドーム等が著名である。
治水容量(①)に貯留した雨水はオリフィス等を通して
時間をかけて浸透(⑤)させ地下水を涵養することとし、
比較的汚濁されている初期雨水の排除設備(⑥)や受水槽
下部の泥溜め(⑦)、フィルター(⑧)等により地下水への汚
濁物の流出を防ぐ。
ここで、期待される流出抑制効果を定量的に評価し、
その程度に応じて容積率を緩和することにより、敷地空
間を高度利用(④)したり、浸透量(地下水涵養量)に応
じて利水容量(③)の補給水に地下水利用を認める等のイ
ンセンティブを見出し、併せて地下水揚水施設の導入に
より地震災害時等の非常時用水の面的な充実を図るも
のである。
図 17 一時貯留型浸透施設の概念
4.6 提案システム実現のための今後の検討課題等
このような貯留・浸透システムを実際に計画に位置づ
け、実施するためには多くの課題が予想されることから、
ここでは既往の知見を元に、今後検討すべき課題および
期待される波及効果等について抽出・整理する。
(1)立地箇所の地盤浸透能や治水計画(想定降雨)を考慮
した治水容量と流出抑制効果の検討
想定する降雨規模や求められる流出抑制効果、および
敷地面積や立地地区により必要とされる治水容量は異
なる。また、立地地盤の透水性により浸透効果が異なれ
ば、これを考慮した場合の必要容量は変化する。ここで
は、期待される流出抑制効果に応じて容積率緩和等のイ
ンセンティブを検討することから、地盤浸透能や治水計
画等の多面的な分析により、治水容量と流出抑制効果の
対応を評価する必要がある。
(2)容積率緩和や下水道料金減免措置の有効性と位置づ
けの検討
容積率の緩和が、都市計画上あるいは建築計画上、ど
の程度の影響をもたらすのかを整理し、制度的な誘導が
効果的に行われる緩和率等を検討する必要がある。
例えば、
100m2 の敷地面積に対して 100mm の降雨を貯
留するには 10m3 の治水容量があれば可能であり、利水
容量として更に 10m3 を費やしたとしても地下フロアの
数割である。これに対し階数を増やせる規模まで容積率
が緩和されれば、長期的には有効なインセンティブにな
り得ることから、関連制度との関わりや制約等も含めて
検討する必要がある。
なお、雨水の利活用に関しては下水道料金の減免除等
が望まれることから、下水道整備上の治水効果や合流改
善効果等の面からも本システムの費用対効果等を検討
する必要がある。
(3)屋上および敷地内から流出する汚濁負荷とその挙動
- 69 -
等の検討
屋上からの雨水流出にも汚濁物質が多く含まれる場
合があるとの報告があり、汚濁物質の流出挙動や成分、
要因についても検討する必要がある。近年の研究では、
初期流出雨水を1~2mm程度排除すれば汚濁物質削減に
有効 65)、との報告もある。仮に 2mm を排除する場合、
その容量は敷地面積 100m2 で 0.2m3 程度である。
排除した雨水の処理方法としては、下水道への直接排
水や簡易処理後の地下浸透等、幾つかの方法が考えられ
るが、数 mm 規模の降雨であっても年間で累積すると数
百 mm となることから、水資源としての活用と水質上の
位置づけを整理する必要がある。
(4)維持管理の項目および頻度等の検討
インセンティブとのトレードオフとして、ビル事業者
等による泥溜めやフィルターの定期的なメンテナンス
を前提とするが、これらの汚濁削減効果と維持管理頻度
との対応、浸透トレンチのメンテナンスフリーの可否等
についても確認する必要がある。
また、貯留水を利活用する場合に、用途に応じて求め
られる水質・臭気の確認や貯留水の定期排水交換等の衛
生管理方法を整理する必要がある。
(5)導入地区の優先度検討
浸水対策上の重要地区(例えば浸水常襲地区)
、地盤
浸透能や地下水流動場・地下水位分布等からみた地形地
質上の適地区、長期的な視点による浸水対策計画やまち
づくり計画等との補完・相乗効果、等を考慮して、導入
優先地区やインセンティブの設定内容、あるいは導入可
能性のポテンシャル分布を検討する必要がある。
(6)都市水資源への波及効果と将来的な雨水の位置づけ
の検討
貯留水や地下水は渇水時や地震災害時等の非常時水
資源となる。特に多くの帰宅困難者が予想される地域で
は、各事業者に対して、地震発生後のトイレ用水等確保
に関する自助努力が求められており、危機管理面の価値
を定量化することは費用対便益を検討する上で重要な
視点である。
また、日常時の水資源有効活用を進める観点からは、
将来的に、質と量の各々の消費(又は排水)を対象とす
る課金制度により、敷地内への雨水を中水資源の受水と
みなして雨水排水にも一定の課金するといった体系転
換の可能性、具体的課題や制約も検討すべきと考える。
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に関する手引き(案)
7)
5.今後へ向けて
地下水分野と関連各分野の技術の連携について、地下
水利用と地盤沈下、湿地保全再生と大気・土壌環境予測、
都市の流域対策における浸透および帯水層の利用の3
つのテーマを通して提案を行った。
今後は、具体的な現場や事業を想定したケーススタデ
ィを行い、より実践的な検討と分かりやすいアウトプッ
トについて検討する予定である。
- 70 -
国際人材ネットワーク基盤研究
Study on Development of International Human Resources Network
和田
彰 *1
Akira WADA
本研究は、河川環境分野の人・情報循環を核とした国際ネットワークである ARRN・JRRN 運営をケ
ーススタディと位置付け、建設コンサルタントの新業態の展開、新たな国際ビジネス創出、また官民協
働による社会貢献活動などを視野に、本ネットワークの安定基盤構築と持続的発展のあり方を検討し、
今後の事業展開像を示した。
キーワード:
1.
ARRN、JRRN、国際ネットワーク、社会貢献、非営利事業
本研究の背景と目的
近年、日本を含むアジアの国々では、都市部での
水辺再生や生態系に配慮した自然再生など、一度は
人間活動により痛められた水辺環境を産学官民の
様々な主体の協働により地元が望む姿に蘇らせ、水
辺の再生を通じ地域再生をも図る先進的な事例が
数多く報告されている。
こうした取組みをアジア全体でより推進するこ
とへの貢献を目的に、2006 年 11 月に「アジア河川・
流域再生ネットワーク(ARRN)」およびその日本窓
口組織として「日本河川・流域再生ネットワーク
(JRRN)」が設立され、財団法人リバーフロント整備
センターが両ネットワークの事務局を担っている。
当社では、国土文化研究所の研究活動の一環とし
て、昨年の「国際連携に関する研究」に引き続き、
この両事務局運営の人的支援という形態で、ARRN
及び JRRN 設立以前からこれら組織運営全般に関与
する機会を得ている。
ARRN 及び JRRN の概要(設立背景・活動目的・運
営体制・活動詳細等)については、本研究の前年成
果報告書(国土文化研究所年次報告 vol.6 Nov.’08
P17 「国際連携に関する研究」)、及び JRRN ホーム
ページを参照されたい。
(http://www.a-rr.net/jp/)
本研究では、河川環境分野の国際ネットワークで
ある ARRN・JRRN 運営をケーススタディと捉え、建
設コンサルタントの新業態の展開、新たな国際ビジ
ネス創出、また官民協働による社会貢献活動などを
視野に、次の二つを研究の目的と位置付けた。(図
1)
① アジアの人・情報循環を核とした活動を通じ、
国際人材ネットワーク基盤を構築する。
*1
国土文化研究所 企画室
② ネットワークの持続的発展のあり方を検討し、
今後の事業展開像を示す。
ARRN/JRRN 運営を通じた国際ネットワーク基盤構築
【1】ARRN/JRRN 事務局運営
【2】情報循環活動支援
1)アジア関連組織と連携
1)A/J ホームページ運営
2)国内関連組織と連携
2)Newsmail/letter 配信
3)事業運営計画策定
3)web コンテンツ制作
4)年次報告書等製作
4)ARRN 常設委員会運営
5)会員勧誘・PR 活動
【3】技術・専門情報整備
【4】イベント企画・開催
1)河川再生ガイドライン作成
1)国際フォーラム
2)河川再生事例整備
3)河川再生動向分析
2)ワークショップ
3)その他イベント
ネットワークの持続的発展に向けた事業化検討
1) 持続的発展に向けたネットワーク事業形態の検討
2) 今後のネットワーク運営方針の整理
図1
2.
本研究の概要
ネットワークの 2008 年活動実績
ARRN 及び JRRN が設立されてほぼ 2 年が経過し、
着実に河川環境分野の情報集積と人的ネットワー
クの拡大が図られつつある。はじめに、両ネットワ
ークの 2008 年の主な活動実績を次頁に総括する。
(表1)
Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 71 -
表1
ARRN/JRRN の 2008 年活動実績(1 月~12 月)
種類
行事開催
活動内容
・
・
・
・
・
JRRN 河川再生ミニワークショップ「中国の河川再生と河川環境保全」(東京・2008.1)
第 1 回 JRRN 河川環境ミニ講座「環境流況」(東京・2008.7)
ARRN 河川環境講演会「海外における環境水工学の最新の研究紹介」
(東京・2008.9)
第 5 回 ARRN 水辺・流域再生にかかわる国際フォーラム(北京・2008.11)
第 2 回 JRRN 河川環境ミニ講座「韓国安養川等の都市河川再生」
(東京・2008.12)
JRRN ミニ WS
情報整備
・
発信
・
・
・
・
・
・
・
・
第 1 回河川環境講座
ARRN 講演会
事務局
運営
JRRN/ARRN ニュースレター
ARRN ホームページ
http://www.a-rr.net/
・
第 5 回世界水フォーラムに向けた「アジアに適応した河川環境再生の手引き」作成
・
・
・
・
第 1 回 ARRN 情報委員会(北京・2008.9)
第 1 回 ARRN 技術委員会(北京・2008.9)
第 3 回 ARRN 運営会議(北京・2008.11)
ARRN/JRRN 事務局定例会議(30 回以上)
情報委員会
技術交流
・
PR 活動
第 2 回河川環境講座
日本の水辺再生事例収集及び JRRN ホームページ(日本語・英語)への掲載
JRRN ホームページ運営(日本語・英語)
JRRN ホームページ(英語版)の再設計・リニューアル(2008.4)
ARRN ホームページ(英語版)の部分改良(2008.11)
JRRN メールマガジン発行(週 2 回)
JRRN ニュースレター発刊(月 1 回)
ARRN ニュースレター発刊(2008.7・2008.12 年 2 回)
ARRN 年次報告書 2008(年 1 回、日本語・英語)
JRRN ホームページ
http://www.a-rr.net/jp/
技術指針
整備
第 5 回国際フォーラム
第 3 回運営会議
技術委員会
・国際会議・学会等での講演(2 回)
- 第 3 回 NARBO 総会(インドネシア)講演(2008.2)
- 第 4 回 APHW 国際会議(中国)講演(2008.11)
・国内外関係機関への PR 活動・意見交換
NARBO 総会
APHW 国際会議
(韓国)
韓国水生態復元事業団(2008.5)
・韓国河川協会視察団来日支援(2008.6)
・健やかな道林川
をつくる市民の会(2008.7)・韓国建設技術研究院(2008.9・2008.11)
(中国)
中国水利水電科学研究院(2008.9・2008.11)
(台湾)
台湾逢甲大学(2008.10)
・台湾環境保護署(2008.11)
・台湾水利規則試験所(2008.12)
(その他)
アジア河川流域管理機関ネットワーク NARBO 事務局(2008.1)
・国連東アジア海域環境管理
局 PEMSEA 事務局(2008.1)
・英国リーズ大学環境学部研究員ウルリカ氏(2008.6)
水生態事業団
韓国河川協会
- 72 -
道林川 NPO
台湾環境保護署支援
3.
①ネットワーク拡大に向けて
ネットワークの基盤構築に向けた検討
~2007 年運営課題に対する本年の取組み~
【取組 1:使命と戦略を明確に定め共有する】
2008 年は、ネットワークの安定した基盤構築に
向け、設立から 1 年間のネットワーク活動を通じて
浮き彫りとなった諸課題の克服を主眼に活動した。
本章では、昨年研究成果として整理したネットワー
ク運営上の諸課題を再掲し、それらを解決するため
の今年度の取組みとその結果について示す。
本取組みでは、ARRN/JRRN の設立背景や経緯をレ
ビューすることでネットワークの使命や戦略を再
確認し、運営関係者で共有を図った。
まず、ARRN 設立の契機となった第 4 回世界水フ
ォーラム(2006 年 3 月)分科会での提言(著者の
意訳)を以下に示す。
(1)2007 年活動で抽出された課題の概要
1)
2)
3)
4)
5)
河川環境の再生は、治水や利水と同じく、人類の存続に不可欠。
河川環境管理に際しては流域を基本単位で考える。
アジアに相応しい河川環境再生の方法論を確立することが必要。
アジアの歴史・文化的土壌として人間活動と自然との調和がある。
河川再生に関る優れた事例や専門情報を、実務者・研究者・生態
学者・管理者・市民で共有する仕組みが不可欠。
6) 類似した自然・社会環境を持つアジアとして、河川再生の技術指
針を共有することが緊急の課題。
過年度の研究では、設立初年度のネットワーク運
営上の課題として以下の 3 つに分類し、具体項目と
その改善策について分析を行った。詳細は過年度成
果を参照されたい。(図2)
2007年の運営面の課題
この提言から、上記 5),6)をネットワークの活動
目的とする中で、活動 5)を通じ 1), 2)の啓発を行
うと共に、活動 6)を通じ 3),4)に寄与することが読
み取れる。この内容に基づき定めたネットワークの
使命・戦略を以下に示す。
ネットワーク拡大上の課題
ビジョンや戦略が不明確
PR戦略(顧客、テーマ、手段等)の欠如
事務局運営面(特に資金面)での脆弱性
情報整備上の課題
情報交換する素材の未整備
英語による情報発信不足
国際連携上の課題
中国・韓国(各RRN)の協働ができていない
政治問題(中台問題等)による障害
他国や欧米組織との連携不足
<使命>
自国の川は自らの力で再生していくことを前提に、
情報及び人材をアジアで交換・共有する仕組みづくり
を通じ、アジア全体の河川環境の再生に貢献する。
<戦略>
1.情報共有できるウェブサイトと人材交流基盤構築
2.アジア版河川再生のガイドライン作成
2008年に優先すべき取組み(案)
●ネットワーク拡大に向けて
⇒活動の枠組み(理念・ビジョン・戦略)を明確に
⇒顧客(会員・支援者)のニーズを明確に
⇒運営形態(事業体・資金源等)を明確に
●充実した情報整備・共有に向けて
※ARRNの支援
組織として
⇒情報整備スキームと情報循環する仕組みの構築
⇒英語によるweb運営、Newsletter等の積極的発信
●更なる国際連携の推進に向けて
⇒直接顔を合わせて協議する場を増やす
⇒国際会議等の場でのPRと積極的交流を図る
⇒海外の先進ネットワークとの交流を進める
図2
<使命>
「水辺の再生から日本とアジアの元気を取り戻
す!」をスローガンに、人と水の関わりの再生活動を
通じ、次世代に豊かな水環境を引き継ぎ、健やかな
川・人・地域・社会づくりに貢献する。
<戦略>
1.国内及び諸外国の河川再生に関る優れた事例・
技術・経験と人を集約し国内で必要としている人・組
織に循環
2.日本の優れた事 例・技術・経験をアジアに向け
英語で発信
以上の使命を置き忘れることなく、ARRN と JRRN
を連動させた活動の継続が重要となる。
2007 年運営面の課題とその対策案
【取組 2:会員・支援者のニーズを明確にする】
ネットワーク参加者及び活動全体への支援者も
含む顧客のニーズを明らかにするため、各セクター
を取巻く社会背景、参加動機、ニーズについての棚
卸しを行った。(表2)
(2)課題克服のための 2008 年の取組み
諸課題の解決に向けた本年の優先的な取組みと
その結果を以下に整理する。ここでの検討成果を
2008 年の ARRN・JRRN 運営に反映しながら、ネット
ワークの更なる基盤構築を図った。
- 73 -
表2
セクター
ネットワーク参加者のセクター別のニーズ整理
社会背景
参加動機
ニーズ
1.市民団体・
NPO
人口減少時代を迎え、公共部門の再構築が ・身近な水辺の豊かな環境創 ・身近で良好な水辺環境の具体イメージや関連基礎知識
進む中、行政の担い手が市民セクターへ移り、造 (豊かな生活の環境実現) ・市民が主体的に関与した水辺整備の成功事例。また、そのスキーム。
市民が一部事業主体になる時代を迎えている。
・主体的に意見し、行動できる (写真、場所情報、その他関連情報)
また、これら活動を行政のみならず、民間企業動ける地域・社会の創造(活躍 ・分かりやすい水辺再生の技術、知識、法制度の解説
が支援することで企業価値を高める仕組みも の場、自己実現の場の創造
・自らの活動の参考となる情報・参加したい活動等の情報
社会に定着しつつある。
場)
・活動資金(助成金に関する情報)
2.民間企業
アジア諸国の台頭により市場のボータレス化 ・水辺再生事業を通じた営利活・国内外の市場の情報(新規市場、ニーズ等)
が進み、アジア市場への民間企業の進出機 動(組織の持つ専門技術によ ・専門技術に関する情報
会が増している。また地域活動や公益活動を る豊かな社会創りへの貢献金 ・関連組織(他社)の得意分野、保有技術等
介した企業の社会貢献の関心が高まっている。銭利益)
・再生事例情報(具体事業名、技術、コスト、工期)
・水辺再生活動を通じた企業イ
メージの向上(CSR企業活動 ・企業の地域活動としての関与事例、その効果等
・地域の水辺への社会貢献活動の手法
による社会貢献)
3.研究機関
・研究成果のPRの場
従来の各専門分野の枠を超え、自然科学と人 ・研究者としての地位向上
文科学の融合といった異分野交流の機会・場 (研究成果を通じた社会貢献) ・最新研究事情(テーマ、論文、研究者、研究機関)に関する情報
が国内外で求められている。
・研究資金(研究補助金、助成金等)
4.行政機関
社会インフラの老朽化による都市や社会シス ・公務事業(政策)の円滑な遂 ・事業(政策)に対する世論の実態把握
(国・自治体)・ テムの再構築が必要となっている。また地方 行(公益事業による豊かな生 ・国内の水辺再生事例情報(地方自治体)
分権が加速し、地域性を考慮した事業遂行力 活の実現)
公益法人
・国外の先進的事例の情報(中央政府)
が地方行政には求められている。
・事業のPR(社会啓発活動) ・事業のPRの場 及び 効果的PR手法に関する情報
5.アジア行政 アジア諸国の台頭により市場のボータレス化 ・事業(政策)の円滑な遂行
・先進国の動向、河川再生政策の変遷
機関・研究所・ が進み、技術、人、情報の交流がこれまで以 ・事業のPR(社会啓発活動) ・国内外の河川再生事例情報
上に高まり日本への期待は大きい。
・自国の事業のPRの場 及び 効果的なPR手法に関する他国の事例
ドナー等
【取組 5:英語による情報発信を強化する】
上記ニーズを背景にネットワークとして整備す
る情報の種類と優先度を定め、また行事を企画しな
がら、引き続きネットワークが提供できるサービス
を深めていく。
英語による情報発信を強化することを目的に、本
年は新たに以下の3つに取組んだ。
○ JRRN 英語版ホームページの新規構築
○ ARRN 英語版ホームページの部分改良
○ ARRN ニュースレター(英語)発刊
【取組 3:ネットワークの事業展開を示す】
ネットワークの事業展開については持続的運営
に関わることから、次章に詳細を記述する。
JRRN の英語版ホームページについては、理想的
には日本語ページとの完全一致が望ましいが、コス
トとニーズを勘案し、以下の様な構成で記事の充実
化を進めている。(図4)
②充実した情報整備・共有に向けて
【取組 4:情報整備の優先順位を定める】
ネットワーク内で循環させる情報の量・質を段階
的に高めるため、情報の利用者とそのニーズを勘案
し、以下の様な優先度を定めて情報整備に取組むこ
ととした。(図3)
JRRN の設立背景、目的、活動内容などの紹介
ARRN の目的、活動、組織、規約などの紹介
水辺の再生に関る最新ニュース・イベント紹介
【JRRNが提供する情報の種類】
ある川の
再生前後の写真
【情報の利用者像】
市民団体・NPO
その川の詳細情報
(場所、歴史、文化、事業等)
市民団体・NPO
【利用者への貢献】
国内外の水辺再生の事例などの紹介
よい川のイメージを明確
に持ち、身近な川も改善
出来るのではという強い
希望を抱く手助けをする。
水辺に関する知識を深めるための書籍を紹介
よい川が出来るまでの変
遷を理解と川に対する関
心を高める。
国内外の川や水辺再生に関る組織リンク集
河川再生に寄与した法制度、技術、
人や組織に関する具体的な情報
適用した技術や仕組みの詳細情報、
他地域への応用の可能性、国内外ニーズ
関連する組織情報等
図3
市民団体・NPO
企業・行政機関・研究者
企業・行政機関・研究者
河川再生が実現した仕組
みや他事例の理解を深め、
身近な河川再生の実現に
可能性を見出し具体アプ
ローチを築くことに寄与。
図4
JRRN 英語ページのサイトマップ
また 2008 年は、国内外の既存の機関誌やニュー
スレターの構成や掲載情報を参考に、「ARRN
Newsletter」(英語版)を二回発刊し、海外関係者
への活動の PR を実施した。
③更なる国際連携の推進に向けて
・技術の更なる向上。
・新規事業開拓の支援。
・業務遂行が効率化。
ネットワーク内の情報整備方針
- 74 -
【取組 6:常設委員会の設置と行事の海外開催】
過年度までは、中国や韓国の ARRN 運営メンバー
が一同に会する機会は、年一回東京で開催される運
営会議の場のみであった。しかし、互いの理解を深
め、よりネットワーク活動を推進する目的から、以
下の取組みを新たに実施した。
○ 日中韓の各ネットワーク運営組織に所属す
るメンバーで構成される「ARRN 情報委員会」
を組織し、第1回委員会を 2008 年 9 月に中
国・北京市で開催。
○ 同じく、日中韓のメンバーで構成される
「ARRN 技術委員会」を組織し、情報委員会と
合わせて第1回委員会を開催。
○ 「第 5 回 ARRN 水辺・流域再生に関る国際フ
ォーラム」及び第 3 回 ARRN 運営会議を、2008
年 11 月に中国・北京市で開催。
日中韓連携推進に関しての本年の最大の成果は、
上記取組みに際し、行事運営や年次報告書等の出版
物作成を、日中韓それぞれの事務局関係者との協働
作業で進めたことによる相互信頼関係の強化にあ
ったと考える。次年度の主な行事開催地を韓国とす
ることの合意も取り付け、真の国際活動への発展が
期待される。
【取組 7:国際会議等での PR や交流の実施】
アジアに向けネットワーク活動を普及させるこ
とを目的に本年は以下の活動を実施した。
○ 第 3 回 NARBO(アジア河川流域管理機関ネッ
トワーク)総会で ARRN に関する講演。
(2008
年 2 月・インドネシア)
○ 第 4 回 APHW(アジア・太平洋水文水資源協
会)国際会議で ARRN に関する講演。(2008
年 11 月・中国)
○ 日本を訪問する海外関係団体の視察支援に
よる意見交換と関係構築強化
その一方で、河川再生分野で先行する欧米の既存
ネットワークとの交流を図ることが実現せず、運営
ノウハウの情報交換に向けたこうした団体との交
流は次年度以降の課題となった。
④本年の取組みの総括
ネットワークの安定基盤構築に向けた本年の活
動を総評すると、ネットワーク活動初期に浮き彫り
となった諸課題の一部は着実に克服されつつある
ものの、本ネットワークの核となる国内及び海外の
会員数(=活動賛同者)獲得という点でまだまだそ
の達成度は不十分と言わざるを得ない。
全ての取組みは今後も優先的に継続しながら、ネ
ットワーク関係者が満足する充実した情報整備及
び持続的なネットワークの拡大(=人材基盤構築)
を推進していきたい。(5 章参照)
4.
ネットワークの持続的発展に向けた検討
~ARRN 及び JRRN の事業展開策~
現在の両ネットワークは、活動資金は事務局運営
組織である(財)リバーフロント整備センターの自
己資金(公益活動として)により、また人材(=事
務局スタッフ)についても、当社からの出向支援を
含む本財団の職員により運営されている。
しかしながら、ネットワークの持続発展的な運営
に向けては、資金面では外部資金を、またマンパワ
ーについてもボランティアを含む協働者を獲得す
ることが不可欠であり、ネットワーク活動を経済的
に自立できる事業として成り立たせることが条件
となる。
そこで本章では、社会のニーズや ARRN/JRRN の果
たすべき使命・役割を勘案した中で、両ネットワー
クが今後目指す戦略としての事業展開像を示すと
ともに、それが実現することで得られる効果につい
て整理する。
(1)本ネットワークが目指す組織タイプ
本年は、海外での PR 活動、及び河川環境分野の
海外関連組織関係者の日本視察時支援を積極的に
行うことで、韓国河川協会や韓国水生態再生事業団、
また韓国の市民団体や台湾行政機関との関係構築
も図られた。
加えて、統合水資源管理の推進を目的としてアジ
アを拠点に活動する NARBO へ JRRN として加盟(2008
年 2 月)を果たすことで、今後は NARBO 事務局との
交流を通じ国際ネットワーク運営に関するノウハ
ウ習得が期待される。
- 75 -
国内外には、あるテーマに横断的に取組み、情報
共有するための様々なネットワーク機関が存在す
るが、これらは主に「政府主導型」と「団体主導型」
に分類される。
「政府主導型」とは、例えばユネスコセンター
(ICHARM)の様に、政府機関が主体となり設立した
組織で、政府から運営資金の補助が見込めるが、国
営機関など参加機関が限定される場合が多い。また、
「団体主導型」には European Centre for River
Restoration(ECRR)、Network of Asian River Basin
Organizations(NARBO)など、設立時は政府直属機
関等の主導があったものの、設立後は政府機関の手
を放れ独自の運営体制、運営資金調達等を行う機関
として活動を行っているネットワークが多い。
本ネットワークは、水辺再生に関る NPO や学識者、
個人等の幅広い関係者の参加を促すことを主眼と
すると、後者「団体主導型」の非営利組織が望まし
く、特定政府機関や企業等の制約に縛られない組織
横断的な自由な活動が期待される。一方で団体主導
型ネットワーク運営には継続的な運営資金捻出が
欠かせないことから、官(公益法人)と民(民間企
業)の持つ強みを融合し、信頼性と経営力を高めた
官民協働型の民間非営利組織を目指すべきであろ
う。
(2)本ネットワークの事業展開策
そこで、本ネットワークの活動基盤である JRRN
を対象に、財務面で自立するために目指すべき当面
の組織形態・活動資金・要員体制について図5に、
また JRRN による国内向け活動及び ARRN による国際
活動を含めた、ネットワーク全体の事業展開像を図
6として総括する。
組織形態
河川再生に関る行政・民間企業・市民団体・研究者を繋ぐ「中間支援組織」
として、NPO又は一般公益財団等の「法人格」を取得し事業展開を行う。
⇒社会に対する透明性が高まり、外部資金やマンパワーの積極的支援を受けられる。
⇒運営主体側の透明性が高まり、費用対効果を踏まえた事業実施が可能になる。
活動資金
会費(会員)・寄付金(賛同者)・助成金(賛同者)・補助金(賛同者)・
受託事業・自主事業収益金(受益者)等の資金源を国内外より獲得する。
⇒バランスよい事業で偏り無い活動を展開する。事業費2000万円規模が当面目標。
事務局要員体制
2~3名程度の常勤要員確保を目標に、人材支援者(協働団体)を募る。
⇒義務と責任を明確にし、各支援元組織にメリットをもたらすこと。
スケジュール
2009年
ステップ
設立準備
2.基盤整備
2010年
継続して実施
自主事業準備・知名度向上(助成・受託等)
3.事業展開
図5
情報提供
JRRNによる事業
情報提供
・技術支援、政策提言
(対価) ・イベント企画、開催
・ガイドライン構築
サービス受益者
・出版事業etc.
情報・人の循環
事業
情報支援
人材支援
情報・人の循環
KRRN
アジア地域
の河川環境
の再生。
(ARRN使命
達成)
韓国
…
…
…
…
…
CRRN
中国
…
…
…
…
…
XRRN
河川環境改善・水辺再生に関る
・技術支援、調査研究
・政策提言
・セミナー、イベント企画・開催・支援
・人材、組織仲介、講師派遣、視察支援
・出版事業(書籍、技術指針・教材)
・広報(企業提携事業)
・事務局運営受託、資格事業etc.
情報支援
人材支援
情報・人の循環
XXX
…
…
…
…
…
様々な事業を試行
自主事業本格実施
JRRN の事業展開案(運営体制・資金面)
ARRN賛同者 人材提供
・国際機関 (寄付)
ARRN事業
・政府、大学(助成)
・財団
・各RRN、会員間調整
・個人
2011年
情報提供
人材提供
(会費)
(サービス料)
情報提供
人材提供
JRRN賛同者
(寄付)
(助成) ・民間企業
(補助) ・行政(国・自治体)
・各種財団
・個人(遺贈等)
自主事業
サービス受益者
(対価)
成果
発注者
・民間企業
(業務委託)・行政(国・自治体)
・公益法人
・市民団体
JRRN会員による各種活動
【会員(個人・団体)】
行政、市民団体、企業、研究者
【会員メリット】
・活動の効率的、効果的な遂行
・活動の幅の拡がり
・活動の外部へのPR
JRRN活動
ARRN活動
アジア地域
図6
ネットワークの事業展開像
- 76 -
人と水の関わりが
再生され、健やか
な川・人・地域・社
会を創造。
(JRRN使命達成)
日本国内
独立採算
1.設立準備
法人格取得
本ネットワーク発展の条件は、ネットワークの社
会的役割を発揮できる活動を企画し継続すること、
かつそのための運営資金と人材を継続して調達す
ることの二点に尽きる。
特に運営資金面については、現在日本に存在する
約 3 万 5 千近い NPO 団体共通の課題でもあり、会
費・寄付金・助成金・補助金・受託事業・自主事業
などのバランスよい資金源による「経済的に自立し
た組織」とすることが本ネットワークの目標となる。
(3)ネットワーク事業により期待される効果
上記で示したネットワークの事業化が実現すれ
ば、ネットワーク各参加者にメリットが生まれる共
益的活動となり、かつこの活動の成果が、日本国内
及びアジアの豊かな水辺環境創造という公益に資
することとなる。本ネットワーク事業により期待さ
れる社会及び事業者への効果を、以下に整理する。
■ネットワーク会員には・・・
各会員が取組む河川再生活動に必要な情報・技術が入手でき、効率的に活動可能。
国内及びアジアの横断的な人材活用と情報交換により、各々の活動の幅が広がる。
■日本国内(社会)には・・・
似組織やネットワークの組織運営面での成功事例
を収集し、組織体制・要員・財源・官との連携状況
等についての分析が必要である。また、公益法人制
度改革を柱とする 2008 年 12 月施行の民法改正に代
表される、日本の公共部門の再構築が急速に進む中
で、将来的な社会システムの変化を予測した上での
ネットワークの戦略づくりが求められる。
ネットワークの持続的発展に向け、2009 年は、
前章で示したネットワーク事業展開像を、上記成功
事例や日本国内の社会環境変化を反映したより具
体的な「事業計画書」へと発展させることに優先的
に取組んでいく。
各地域に根ざした主体的な活動により河川再生・水辺環境改善が図られる。
行政・市民団体・企業・研究者等の各セクターが連携した河川環境改善が図られる。
日本の技術普及による国際貢献活動を通じ、アジアにおける日本の地位が向上する。
表3
活動種類
■アジア地域には・・・
アジアの先進事例、経験、技術が共有でき、効率的な河川環境改善事業が遂行可能。
各国の行政・研究者・企業・市民団体等が繋がることで、活動の場がアジアに拡がる。
結果的に、アジアの豊かな水辺環境の創造が加速される。
2009 年のネットワークの活動概要
向
海
外
行事開催
国
内
■事業運営者・協働者・支援者には・・・
 国内及びアジアへの社会貢献活動が評価され、組織ブランド力、イメージが向上。
 活動を通じて得た人・組織関係(日本・アジア)より、新たな市場が開拓される。
 組織発展の規模に応じて、新たな雇用を創出できる。
図7
5.
情報整備
ネットワーク活動の効果
技術指針
整備
本章では、これまでのネットワーク活動と本年の
研究成果を踏まえ、ARRN/JRRN の更なる基盤構築及
び持続的発展のために取組むべき活動や課題を今
後の展開として示す。
事務局
運営
(1)ネットワークの基盤構築に向けた展開
次年度は、ネットワーク運営を通じてネットワー
ク参加者がメリットを感じるサービスを提供しな
がら、河川環境に関わる国内外連携活動を更に活性
化し、国内及び海外の会員数を増やすことがネット
ワーク基盤構築に向けた優先課題となる。
具体的には、表3に示す活動を 2009 年は展開し
ながら、事業運営者の自己満足とならず、活動成果
を常に会員(=社会)に還元することを意識して活
動に取組む。更には、単なる情報整備機関ではなく、
政策や制度の問題を指摘し公的機関に提言できる
レベルの団体となることを目指し、ネットワークの
安定した基盤構築を図っていかなければならない。
(2)ネットワークの持続的発展に向けた展開
前章で述べたとおり、ネットワークの持続的発展
に向けては、活動資金を外部から捻出できる事業運
営計画を立案することが早急な課題となる。
この為には、まずは国内外、特に海外における類
- 77 -
技術交流
PR 活動
海
外
国
内
・JRRN 事業計画書作成
・ネットワーク運営有識者会議
海
外
国
内
海
外
国
内
6.
・河川環境ミニ講座の開催
・中国、韓国の国際 web 整備
・ ARRN-website 再 構 築 、 ARRN
Newsletter, News-mail 配信
・水辺再生事例整備・web 公開
・Newsletter, News-mail 配信
・第 5 回世界水フォーラムで ARRN 河川
再生ガイドライン初版配布
・日中韓協働での技術指針作り
・ARRN ガイドライン説明会開催
・既存技術指針の web 上整備
・第 2 回情報・技術委員会(韓国)
・第 4 回 ARRN 運営会議(韓国)
海
外
国
内
本研究の今後の展開
活動予定
・第 6 回国際フォーラム(韓国)
・ワークショップ等の開催(各国)
・第 5 回世界水フォーラム参加(トルコ)
・世界都市水フォーラム講演(韓国)
・ECRR, RCC 等欧米組織との交流
・アジア他国へネットワーク拡大
・各活動団体への会員勧誘・PR
・アジア機関と国内の連携支援
おわりに
国外に目を向けると、アジア諸国の台頭により我
が国の世界的な位置付けが急速に変わりつつあり、
国際連携に際しては、従来の「援助」という視点か
ら周辺諸国と「協働」という考えにシフトすべき段
階にあると言える。
また国内についても、人口減少時代に突入し公共
部門の再構築が進む中で、これまでの行政セクター
と民間セクターの二大勢力に加え、市民セクターと
いう新たな主体の役割が増加し、社会システムの大
きな変革期を迎えている。
こうした国内外環境の変化を受けた社会システ
ム再編の際に求められるのが、様々な国々そして各
国の事業主体(行政・企業・研究機関・市民団体等)
を結ぶ中間支援組織(コーディネーター組織)であ
り、水辺環境再生の分野で言えば、本研究が対象と
している ARRN・JRRN にその役割が期待できる。
両ネットワークの持続的な発展に向けては、ネッ
トワーク参加者一人一人が、その活動を通じて自分
が社会を支えていると言う思いを実感でき、公に変
わってアジア各地の都市や地域の環境を守って豊
かな地球を創ることに貢献できていると思える優
れた仕組みの開発が必要であろう。加えて、そうし
た熱意を持った個々の集合体であるネットワーク
の活動に賛同し、資金面や法制度面でサポートをし
てくれる個人・団体の存在も不可欠と言える。こう
したネットワーク内の会員及びネットワークを外
から支援するサポーターから継続的に賛同を得て
ネットワークを拡大していくことが、本ネットワー
クの使命達成に繋がり、ネットワークが存在する限
り永続する課題と言える。
最後に、本研究を進める上で前提としている著者
の信念を紹介させて頂く。それは、
○ 市民主体で地域の水辺環境を再生する社会
が実現すれば、日本の未来は明るい。
本ネットワーク活動を通じて建設コンサルタン
トの新業態を含む活躍の場を創造し、新たな公の担
い手としての存在感を社会に示すことができれば、
当社の企業価値の向上にも寄与し、また異分野展開
のモデルケースにもなり得る。更には、ネットワー
ク活動成果として日本を含むアジア地域の豊かな
水辺の再生が実現し、「心の豊かさ」を醸成できる
空間を創出することに貢献できれば、国土文化研究
所の設立趣意にもより近づくであろう。
7.
参考文献
1)山本有二・吉川勝秀・高橋達也:国際的な情報ネット
ワーク構築に向けた検討について, リバーフロント研究
所報告第 16 号, 2005.9
2)和田彰 他:Trend in Asian River Restoration and
Development of International Network for Technical
Information Exchange, 4th APHW Conference, 2008.11
3)伊藤将文・和田彰・佐合純造・伊藤一正・丹内道哉:
アジアにおける河川環境再生の動向と国際ネットワーク
構築の取組み, リバーフロント研究所報告第 19 号,
2008.9
○ 豊かな水辺環境は人の健全な心を育む。
○ 地域の社会資本は市民が主体的に整備する
時代が到来する。
○ 水辺環境再生に向けては Think Asian, Act
Locally. (アジアと地域の視点)
4)末村祐子:NPO の新段階, 法律文化社, 2007.1
5)宮木康夫:いちから見直す公共的事業, ぎょうせい,
2007.2
6)田中弥生:NPO が自立する日,日本評論社,2006.10
7)田中弥生:NPO 新時代,明石書店,2008.12
- 78 -
東海天然ガス輸送パイプライン及びガス発電事業の
事業化に関する研究
Feasibility Study on the Tokai Natural-Gas-Pipeline and Distributed Gas-power-plant
松崎浩憲*1 志田忠一*2
Hironori MATSUZAKI, Tadakazu SHIDA
本研究は、東海地区における天然ガス幹線パイプライン及び分散型ガス発電事業構築に係わる研究の第
一ステップである。本論文では、天然ガスパイプライン事業立上のためのコンソーシアム組織化に関する
検討・東北地区におけるガスパイプライン事業化可能性調査と、分散型ガス発電事業については長岡地区
をケーススタディとして取り上げ事業化可能性の検討調査についてその結果を載せた。
キーワード:温室効果ガス、電熱併給、パイプライン敷設新工法
上げ、内陸部への天然ガス供給による分散型発電
事業等の天然ガス活用関連事業の具体的な立ち上
げを目指し、これらの事業を行なう会社発足のた
めの活動(事業の具体的検討・事業計画書等の作
成から事業会社立ち上げ準備活動等)を目的とす
る。
1.調査研究の背景と目的
地球温暖化対策及びエネルギーセキュリティ確
保への対応として、天然ガスの導入拡大が緊急の
課題となっている。
「エネルギー基本計画」
(平成
19 年 3 月 9 日閣議決定)においても、天然ガス
シフトの導入及び利用拡大を推進することが提
言されている。また、政府が CO2排出削減目標を
達成するために必要な各種政策を取り纏めた「京
都議定書目標達成計画」では、天然ガスシフトの
具体的施策として、民間主体による天然ガス供給
インフラ構築のための環境整備を推進するとし、
分散型電源の普及・産業用燃料転換の推進のため
の基盤整備に早急に着手することが必要と指摘
している。なぜなら、同一熱量であれば、天然ガ
スは石油類よりも温室効果ガス排出量は約 25%も
少ないからである。
この天然ガスシフトを支えるインフラとして、
我国の天然ガスパイプラインは諸外国に遅れを
取っており(天然ガスネットワークは欧米の基幹
インフラとなっており、アジアにおいても中国・
韓国が天然ガス供給パイプライン構築を進めて
いる)
、天然ガスの広域供給パイプライン敷設は
重要な課題である。このインフラを活用した分散
電源の導入は、我国の環境・エネルギー分野を中
心に、その整備・取組が強く求められている事業
といえる。
H
21
年
4
月
以
対応 ●広域天然ガス供給パイプライン構築事業
課題 ●分散発電設備導入(燃料:天然ガス)事業
降
図 1 調査研究の背景と目的
調査準備・
予備検討
天然ガス導入拡大
エネルギー基本計画
京都議定書目標達成
コンソーシア
ム企画取纏め
H
21
年
1~
3
月
エネ庁補助事業に応募
ニーズ把握
エネルギーセキュリティ
H
2
0
年
4
~
12
月
企
業
・
関
連
機
関
へ
訪
問
ヒ
ア
リ
ン
グ
コンソーシアムへの
参加呼掛け
地球温暖化対策(CO2削減)
B ガス発電事業
パイプライン活用事業の検討
コンソーシアム組織化対応
コンソーシア
ムの役割明確
化
<社会的背景>
A 天然ガス輸送パイプライン
事業
コンソー
シアム立
ち上げ
建設技術研
究所の新規
事業分野検
討・派生・関
連事業
県庁・地元
企業等へ
協 力 要
請・連携体
制確立
補助事業手続
○事業採択
○補助金交付申請
○補助金交付決定
(約1千万円補助)
●異常な石油
価格高騰に対
応し、既存イ
ンフラを前提
としないフレ
ームで検討
●パイプライ
ン活用の内陸
型発電の技術
的条件、価格
等環境条件の
検討を実施
天然ガス広域パイプラ
イン整備需要顕在化可
能性調査事業
2012 年以降
のガス需給
○対象地域:
(岩手・宮城) 逼 迫 緩 和 時
○調査内容:天然ガス需 期 の 事 業 化
要推定、地区でのパイプ に向けた、状
ライン事業の FS
況分析・諸検
○本研究との関連:●コ 討実施
ンソーシアム必要性明確
化●敷設工法の多角的検
討●資金調達方法検討●
パイプライン関連事業へ
の国の補助の存在
●調査・検討の実施
コンソーシアムを核とした制度問題対応策
○パイプライン事業運営方式(海外先進事例調
査等)
○LNG 基地等との接続
○パイプライン敷設工法の適用(ルート対応)
○事業採算性○資金調達方式
コンソーシアムの企画取り纏め
事業化
準備活動
以上から本調査研究は図 1 に示すように、広域
天然ガスパイプラインによるガス輸送事業の立ち
図 2 調査研究の全体フレーム
*1
東京本社環境システム室 Environmental System Section ,Tokyo office
*2
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 79 -
・ガス供給者:東京ガス、大阪ガス、静岡ガス
・資源関連:新日石、出光、三菱商事等
・設備関連:JFE,古河、NEXCO等
2.平成 20 年の調査研究フレームと今後の方針
平成 20 年の調査研究のフレームと今後の方針を
鳥瞰したものを図 2 に示す。
(4)コンソーシアム活動の企画内容素材抽出
前項の事業化条件調査を通じて、コンソーシア
ムへの参加・組織化の呼びかけを行うにあたって
必要となる、コンソーシアム活動内容等を企画書
として取りまとめるに当たり、盛り込むべき調
査・検討項目等の素材を抽出した。
3.天然ガス輸送パイプライン事業実現に向けて
の研究
3.1 実施手順・内容
天然ガス輸送パイプライン事業実現に向けての
本年の調査研究実施手順・内容を次に記述する(図
3参照)
(1)調査研究手順検討
本調査研究項目の対象の東海地区の広域天然ガ
スパイプラインは、概算で距離約 200kmの建設
に 700 億円強の費用を必要とする大規模な事業で
あり(事業としては、運用開始後 12 年で、売り上
げ 110 億円強、利益 40 億をあげ、投資回収可能と
試算)
、民間主導で実現するには単独企業での取り
組みの枠を超えた事業と考えられる。このため、
複数企業共同での構築・利用を想定した取り組み
での対応の実現に向けたコンソーシアム組織化が
一方策である。そこで、コンソーシアムの組織化
へ向けての手順検討を行い、以下を本年活動内容
とした。
ⅰ)国の補助事業への応募と実施
資源エネルギー庁の補助を活用した。
「天然ガス
広域パイプライン整備需要顕在化可能性調査事
業」に応募し、採択され、実施中である。これは、
本研究で活用可能な工法の検討などを実施できる
と共に、国の補助を受けることにより本研究の位
置づけのPR効果などの波及効果が大きい。
ⅱ)関連機関・企業訪問による事業化条件調査
関連省庁・民間企業を訪問、パイプライン事業
実現の条件を明確化した。
(5)今後の展開・活動方針検討
来年度以降の事業化に向けた活動・展開方針の
検討を行った。
①調査研究手順検討
天然ガスパイプライン事業化のためのコンソーシ
アム組織化手順・本年活動項目検討
ⅰ)国の補助事業への応募と実施
本研究の内容の一部を補助金でまかなえると共に、
国の補助を受けることにより本研究の位置づけP
R効果を含め活用
ⅱ)関連機関・企業訪問による事業化条件調査
②天然ガス広域パイプライン整備需要顕在化可能性調
査事業の実施
・実施期間:H20/8 月~H21/3 月
・岩手・宮城でのパイプライン事業
・本年実施事項は、工法検討、地域周辺需要の推定
等
③関連機関・企業に対する事業化条件調査
調査対象機関:
ⅰ)官庁
国土交通省、エネ庁、環境省等
ⅱ)民間企業
ガス需要家、ガス供給企業、資源関連企業、パイ
プライン設備関連企業等
(2)天然ガス広域パイプライン整備需要顕在化
④コンソーシアム活動の企画内容素材抽出
コンソーシアム参加呼びかけに際して、その活
動・調査検討事項を示す企画書の素材を抽出
可能性調査事業の実施(期間H20/8 月~H21/3
月)
・東北(岩手・宮城)のパイプライン事業のF/S
・補助金額約 1 千万円で、岩手県庁・宮城県庁及
び地元企業(東北天然ガス(株)等)の協力を得て
推進
・パイプライン敷設工法検討、設定パイプライン
の沿線の産業用ガス需要の推定を実施
⑤今後の展開・活動方針検討
来年度以降の事業化に向けた活動・展開方針の検討
図 3 調査検討実施フロー
3.2 調査研究結果
3.2.1 天然ガス広域パイプライン整備需要顕在
化可能性調査事業
資源エネルギー庁の本補助事業の実施は、本研
究と関連する分野で公的支援を受けることとなる
ことから、本研究遂行上、以下のようなプラス効
(3)関連機関・企業に対する事業化条件調査
ⅰ)官庁関連訪問調査先
資源エネルギー庁、国土交通省、環境省、石油
天然ガス・金属鉱物資源機構 等
ⅱ)民間企業訪問調査先
・ガス需要家:トヨタ、スズキ、東レ、ヤマハ等
- 80 -
表 2 パイプライン沿線産業用ガス需要推定
果があると判断した。
本研究で活用可能なパイプライン敷設工法・資金
調達等の多角的検討等を実施できること。補助事
業の対象は東北地方であるが全国規模展開の企業
が誘致されており、それらの企業との意見交換の
場を創るきっかけを得ること。国の補助を受ける
ことにより本研究の位置づけと事業化に向けての
コンソーシアムの意義強調・参加PR効果が期待
できること等。
本年調査実施の主要結果を以下に記述した。
(1)パイプライン敷設工法
パイプライン敷設工法と(高速)道路で各工法を
適用する場所・特徴を表 1 に示す。
(需要値単位:百万m3/年)
*1 宮城県は、仙台市の既存都市ガスパイプラインでの供給エ
リアも含む数値
*2 PL利用需要は、潜在需要の 60%まで天然ガス転換し
状況でのガス需要量推定値。
3.2.2 関連機関・企業に対する事業化条件調査
パイプライン事業実現のためのコンソーシアム
組織化への活動として企業・関連機関のヒアリン
グ・意見交換を実施した。これはパイプライン事
業に関連する省庁との意見交換で課題明確化と共
に、規制緩和に向けた今後の取り組み方針検討の
区
分
年
度
調
査
対
象
表 1 パイプラインン工法と適用場所・特徴
番
号
パイプライン
敷設工法
1
開削高速配管工
法
2
コンクリートボ
ックス配管工法
3
4
開削・推進迂回配
管工法
二重管架設配管
工法
5
パイプビーム架
設配管工法
6
管周混合推進工
法
敷設場所
特徴
高速道路土工部(盛
土部及び切土部)
連続工事を可能
とし、工期大幅
短縮
高速道路土工部に
高速道路車両通
接するのり面
行阻害を最小化
可能
埋設による外気
高速道路土工部特
温度変化に対応
殊箇所 (カルバー
ト・橋梁・トンネル 二重管で外気温
等)
度変化に対応
高架部に設置し
高速道路都市高架
二重管で外気温
橋梁部
度変化に対応
小規模共同溝的
高速道路都市高架
構造で工期短縮
橋梁部/大規模特
殊部(トンネンル、 が可能
河川)
参
考
東
海
パ
イ
プ
ラ
イ
ン
ガス需要全
体推定
PL利用需
要*2
岩手県部
602
361
121 事業所
(対
象地区)
宮城県部 *1
607
364
176 事業所
(対
象地区)
対象地区
1,209
725
297 事業所
(対
象地区)
愛知県部
1,353
812
759 事業所
(愛
知県全県)
1,093
656
504 事業所
(静
岡県全県)
2,446
1,468
地域
静岡県部
東海PL部
備考
PL:パイプラ
インの意
ため、また需要家ニーズ・コンソーシアムの機能
等の要望把握のために行った。
事業化の条件把握、対応方針・方法を策定する
ため、本年調査した各機関・企業のパイプライン
事業に対する調査結果を表 3 に示す。
(1)パイプライン事業関連省庁等
パイプライン事業化実現に関し、許認可等を含
み関連する各省庁の現在のスタンスは、エネルギ
ー・環境関連省庁は積極的に推進あるいは支持の
スタンスである。
一方、パイプライン敷設の場である道路を管理
する国土交通省では、高速道路の利用についてそ
の開放にはきわめて慎重(使用事例はあるが)で
ある。但し、高速利用実現の暁にはこれを新規事
業に結び付けたいとの意向もNEXCO(特に東
西日本)にはある。
(2)パイプライン沿線産業用ガス需要推定
岩手県(北上市~宮城県境)
・宮城県(岩手県境
~仙台市)の東北自動車道沿線の産業用ガス需要
を推定した。現在稼働中の事業所を対象とした潜
在ガス需要推定値を表 2 に示す。表 2 には、比較
参照のため、本研究の対東海プライン地区需要推
定値も示した。
なお、60%はガス普及地域での天然ガスの利用
割合で、普及後の到達率として設定した。
上記のように、東北の調査対象地区は、本研究が
対象としている東海パイプライン沿線需要に比較
して規模は 50%と推定される。
しかし、パイプラインの延長比較で東海パイプ
ラインが約 200kmに対して 66%(135km)であ
ることから、工事費用や、新規事業者の誘致状況
を考慮すれば、この地区でパイプライン事業の事
業性はないとは現時点では断定できない。
すなわち、今後事業性の検討の過程で、工事費の
推定、事業性向上のための工夫も含め、検討する
予定である。
(2)エネルギー・資源供給企業
①都市ガス会社は、各社の経営姿勢によってスタ
ンスは大きく異なる。すなわち、東京ガスは、
自らの供給エリア及び周辺で独自のガス網展開
を行っていることもあり、広域パイプラインに
関してはきわめて慎重であるが、大阪ガスは中
部電力とのパイプライン展開事業を進めている
こともあり、積極的なスタンスを示している。
静岡ガスなど中小規模の都市ガス会社は、具体
- 81 -
表 3 関連機関・企業のパイプライン事業に対するスタンス
事業へ
のスタ
ンス
積極
派
↑
・
●スズキ
●東レ
●東芝
●JFE
●住友金属
●新日鐵
●住友電装
・
・
・
● ヤマハ
発動機
●東北
天然ガス
●本田技研
パイプライン事
業関連省等
●経産省
(エネ庁)
●環境省
●中部ガス
●古河機械金属
●三菱商事
●静岡ガス
●NEXCO
・
・
●大坂ガス
●新日石
・
・
エネルギー・資源供給系企業
資源卸分野企業 都市ガス会社
天然ガス需要家の企業一般需要
企業 パイプライン建設関連
●出光興産
●東京ガス
・
↓
慎重
派
● 国交省
(路政課)
●トヨタ
タのようにパイプライン事業はガス供給会社の
事業(特に既存工場の地区で)との考えを持っ
ている企業があることも否定できない。
的プロジェクトでメリットがあれば本パイプラ
イン事業に参加・協力すると言うスタンスであ
る。いずれにしても、都市ガス会社では、輸送
型の共用パイプラインが我国でこれまでない形
態の事業であることから、本研究による事業化
に戸惑いを持っていることは否定できない。
②資源卸会社は、本研究による事業化をビジネス
チャンスとして捉えている企業が大半である。
しかし、天然ガスの調達・卸をこれまで手がけ
ていない企業(出光など)はかかわり方に多少
戸惑っている。
都市ガス会社を顧客としている企業(三菱商事
など)は、本パイプライン事業に参加・協力の意
向を持つものの対顧客に対して目立つことは回避
したいとの意向を持っている。
3.2.3 コンソーシアム活動の企画内容・課題
前項記述の訪問企業等との意見交換・聴取・提
起された課題などに基づき、コンソーシアムの設
立・参加募集に必要となる資料「コンソーシアム
の活動計画」を企画書としてこれから取り纏める
が、現時点でその内容として取り上げるべき項目
を以下に示す。
① コンソーシアムの位置付・果たす役割・参加の
メリットを明確化
需要家を組織し、経済的・効率的パイプライン
建設のための高速利用など規制緩和を求めるこ
と、これまで我国に無かった輸送型の共用パイ
プライン事業の方向を示すなど。
②コンソーシアムで調査検討する事項
・規制緩和に向けた活動に必要な調査検討
・パイプライン事業運営方式確立のため、先進事
例(National Grid など)調査企画
・LNG 基地との接続・パイプラインルート・工
法の適用等技術課題の解決
・事業計画策定・資金調達方式の検討
・事業化に向けての諸々の段取り活動
(3)天然ガス需要家企業等
①ガスの需要家であり、かつパイプライン建設事
業自体に関係する企業は、パイプライン事業実
現に積極的である。住友金属・新日鐵などパイ
プメーカはその最右翼である。建機メーカも事
業に関心を示してはいるが、保有技術・製品の
適用可能性が本研究による事業化に参加するか
否か判断のポイントとなる模様である。
②一般需要家は、エネルギーの安価・安定供給の
観点から、強い関心を持っており、積極参加の
方向を示しているスズキなどもある一方、トヨ
- 82 -
本調査研究は、天然ガスパイプライン事業化に
関するものであるが、その目標実現及び、アプ
ローチの過程で新規の派生・関連テーマとして
展開の可能性ある分野・領域に関する検討(目
標事業との関連性・効果等)を行うことを考え
ている。
(建設技術研究所としての対応に関する
検討は含まず)Ex.「エネルギー+土木」分野で
のコンサル・事業運営コンサル(現時点での想
定例)
3.3 考察と今後の課題・方針
(1)天然ガス広域パイプライン整備需要顕在化可
能性調査事業
前述 3.2.1 に示したように、東北地区でのパイプ
ライン事業は産業用需要が東海地区に比べて約半
分である。今後、民生用需要の推定(都市ガスの
天然ガス転換やLPの天然ガス転換)に関する調
査研究を行うが、大幅な需要増大は期待できない
見通しである。但し、現時点で進行している不況
の影響拡大懸念から、東芝・トヨタ等の新規工場
計画が多少の遅れはあるとしても我国の核となる
産業崩壊がない限り、景気回復と共に実現される
ものであることを踏まえ、将来余予測を含む検討
結果を平成 21 年 3 月に取り纏める。
ここでは、単に楽観的な見通しを展開するので
なく、工法面での工夫・資金調達等多角的な観点
からの施策を検討する予定であり、これは本研究
にも反映できると考えている。
(2)パイプライン事業化に向けての調査研究
①前述3.2.2に示したように、企業のパイプライン事
業に対するスタンスはまちまちであるが、需要家
の声を結集することが重要なポイントと考える。
このため需要家の考え方の転換を図る必要もあり、
具体的な事業イメージを示して、活動への参加を
呼びかけ、かつ活動参加者の立場を考慮した(現
状の顧客との関係に悪影響を与えないなど)
、組織
化の方式を検討し実践する予定である。
②上記のためには、これまで訪問していない(表3
に載っていない)自動車・化学以外の分野の企業
へのアプローチを行いつつ、コンソーシアムへの
参加募集に必要となる資料「活動計画」を企画書
として取り纏める。
③また、事業化に当たっては資金調達の面殻の検
討も必要であることから、天然ガスユーザ企業
だけでなく、商社・金融分野の企業に、本事業
化に関しての意見交換を行うことを考えている。
④事業化に向けたコンソーシアム組織化は、上記
の活動企画書を活用した募集活動を行うことで
あるが、コンソーシアム活動はその企画書に沿
って実施することになり、コンソーシアム内に
対応体制を作ることを考えている。
⑤コンソーシアム活動を通し、下記のような事業
に関する具体的活動へと展開させる予定である。
・事業会社発足に関連した活動
・事業計画書・目論見書等の作成を始め、発足
に係わる諸活動
・事業関連手続・システム構築関連の活動
⑥建設技術研究所における新規事業分野の検討
- 83 -
4.天然ガス発電事業の導入研究
4.1 実施手順・内容
天然ガス発電事業の導入に関する本年調査研
究の実施手順・内容を次に記述する(図4)。
(1)調査研究の位置づけ整理
本調査研究項目の具体的な対象は、天然ガス発電
事業の導入に関してだが、天然ガスパイプライン
事業との連携を意識したケーススタディを設定。
すなわち、内陸部での発電施設導入で、天然ガス
の入手が可能であり、地域振興・活性化に結びつ
く企業等の誘致(エネルギー需要が創造される)
の可能性を重視する。
(2)ケーススタディ地域:長岡市
長岡市はガス田が存在し内陸ながら天然ガス入手
が容易という我国で他に類を見ない地域である。
しかし広域天然ガスパイプラインを実現すること
は、周辺地区をガス入手が容易な長岡市と類似の
環境を実現することが可能となり、現時点での内
陸部天然ガス発電のケーススタディとして最適と
判断できる。また、西部丘陵地区での工業団地事
業の存在しエネルギー需要創出が期待できる。
(3)検討体制
民間と自治体との協調的事業展開の観点から下記
体制で検討を実施した。
(4)発電規模の検討
長岡市の規模(世帯数約 8 万世帯)
、周辺需要、発
電機器の効率を考慮し 5~10 万kW級で検討した。
(5)機器仕様の設定に基づく検討
導入機器仕様を設定し必要燃料の量等を調査した。
共同検討チーム:
役割とバックグランド
●建設技術研究所:
事業検討取り纏め
●古河機械金属株式会社:発電設備を保有・運営
●帝国石油株式会社:
天然ガス供給者
●川崎重工業株式会社: 発電機器関連検討
●株式会社エネット:
PPS、生産する電力の買取、販売
●長岡市 企画部、商工部:事業展開予定地間連の検討、自治
体との連携
(上記チームでの検討は、マルチユーティリティ研究会の活動
を並行的に活用して実施)
(6)事業フレームの検討
地産のガスを活用し燃料費を極力抑え、生産電力
の地消を第一義とする(地産燃料で、地域外への
電力供給は従来の構造)
。近隣需要創出に時間がか
かることからPPSとの連携を図る。
発電事業の一環として、近隣地区への熱供給の可
能性も検討した。
(7)事業性検討・評価
事業性検討を踏まえ今後の展開方針を検討した。
長岡西部丘陵地区への発電施設には、新たに 2km
ほどのパイプライン敷設は必要で、建設費は 2~4
億円その他施設に 1 億円かかると予想される。但
し、2005 年以降の石油価格上昇以来、ガス価格だ
けでなく資材高騰・建設資材の調達が問題となっ
てきており、現時点での予測は非常に難しい。
表 4 発電設備関連主要情報
①調査研究の位置づけ整理
ⅰ)天然ガスパイプラインの活用事業として
分散型発電事業を位置づけ
ⅱ)内陸部の分散発電施設を検討
ⅲ)民間と自治体との協調的事業展開の方法
を探る
注)10万kW規模の設備の場合は上記の2倍
出力
カワサキPUCS
500 コンバインド発
電システム
49,700kW
送電端
42,900kW
燃料消費
9,164Nm3/h
工業用水消費
81m3/h
機器名称
必要敷地
5万kW級:
ガスタービン
2台
冬季
②ケーススタディ対象選定の視点
ⅰ)地産の天然ガス/近傍に天然ガスパイプ
ラインが存在(敷設計画の存在)
ⅱ)自治体等の企業・工場誘致計画との連動
可能性
夏季
水冷式
3
17m /h
空冷式
60m×50m
水冷式
80m×50m
空冷式
③ケーススタディ地域として長岡市
ⅰ)帝国石油のガス田の存在
ⅱ)帝国石油の既存天然ガスパイプライン存
在
ⅲ)長岡市の西部丘陵地区での工業団地事業
の存在
長岡市西部丘陵地区は、多量の工業用水確保が
困難のため、空冷式を検討した。
水冷式に比べ、空冷式は必要な水の消費量は
21%(17m3/h)となるが、空冷ファン駆動に 490
kWほど消費し、用地面積が 33%増加する。
本検討対象地区において、用地面積の増大は余
り大きな問題ではない(市がこれから造成する土
地であり、市側との調整可能な範囲のため)が、
他の地域では必要土地面積が 33%増大するのは大
きな問題になろう。
他地域において、工業用水の使用に問題が無い場
合は水冷式の適用が妥当と考えられる。
4.2 調査研究結果
4.2.1 発電機器関連
ケーススタディ地区に導入可能な、発電関連機
器構成に基づき各種性能・主要諸条件を整理し表 4
に示す。
④発電事業規模の検討
ⅰ)地域周辺需要の想定
ⅱ)発電量の想定(高効率な機器規模)
⑤事業検討のための仕様仮設定
発電規模:5 万kW
→ガス量、発電関連設備内容、必要敷地面
積、使用水量、操作人員 等
⑥事業フレームの検討
ⅰ)地産のガスを活用(燃料費を極力抑える)
ⅱ)生産電力の地消を第一義(地産燃料で、地
域外への電力供給は従来の構造)
ⅲ)PPSとの連携を図る
ⅳ)近隣地区へ熱供給の可能性も検討
⑦事業性の検討・評価
⑧今後の展開方針検討
4.2.2 ガス供給関連
ガス生産・供給側の立場では、発電用燃料として
年間ほぼ一定の需要を確保が出来ることはガスの
生産効率を上げることにつながり、特に夏場の熱需
要減少期にこれを埋める(発電需要の増大により)
方向に働くことはメリットがある。すなわち、この
ことは、
燃料供給価格を抑えることにつなげること
も可能となる。
現在の供給能力に関する計画からは、2012 年以
降に発電用ガス供給は発電規模 5 万kW級までが
限界である。
- 84 -
図 4 調査検討実施フロー
(*PPS:特定規模電気事業者 Power Producer & Supplier)
4.2.3 事業フレームと事業性
(1)一括売電の事業形態
天然ガス発電事業のケーススタディにおいて、
生
産した電力を一括して売電した場ケースについて、
概算で試算した事業収支を表5に示す。
事業性評価はガス価格と共に、売電価格の変動
によっても左右される。
表 5 収支概算(PPSへ一括売電)
項目
金額
(億円)
収入
24.5
燃料費
14.95
17.44
設備償却
費
他
収支
4.86
3.96
+0.7
▲1.8
備考(前提条件等)
送電パターン:
平日昼(8 時~22 時)フル運転
夜間・休日 1/2 運転
→27,186 万kWh/年
平均売電価格:9 円/kWh
(PPSへの売電)
ケース ①30 円/Nm3
ケース②35 円/Nm3
(東京ガスの大口料金参考)
発電設備:約 75 億円、
ガスパイプライン 3 億、
他
メンテ、人件費等
①のケース
②のケース
(2)地域内への自営線供給とPPS売電を組み合
わせた事業形態
地域内工場(誘致)の電力需要に対して、自営線
での供給と、
余剰分のPPSへの売電する事業形態
では、工場への電力供給(電力会社)はkWh当り
約 12 円(契約の仕方により異なる)程度である。
このことから、近隣工場に対して、代金の差(12
円と 9 円)を工場と発電事業で折半したとし、総
出力の 1/2 を自営線供給で行うと概算 2 億円の収
入増となる。
すなわち、
地元事業者にとってもメリットがあり、
発電事業としても採算に合う事業に仕立て上げる
可能性がある。ただし、近隣工場誘致の状況に左右
される点を考慮する必要がある。
(3)電熱併給の検討
近隣工場等への電熱併給を行う場合、
熱供給のた
めの設備投資が必要であるが、
熱併給を行うことに
より事業性の向上を図ることが期待出来る
(投資回
収年数で、電力のみ供給で 15 年ほどの回収年が 14
年と 1 割ほど短縮)
。
但し、実際には、近隣に誘致される工場等の進
出状況・誘致工場等の熱の需要に大きく左右され
ることを踏まえ、評価することが必要である。
4.3 ケーススタディ地区での発電事業導入に関す
る考察と今後の対応
長岡市西部丘陵地区を対象とした発電事業立上
の検討は、以上事業性評価及び、現在の社会状況
を考慮すると、以下の方向での対応が現時点では
妥当と考える。
①地域のエネルギー供給(発電による電力供給、
又は電熱併給)は、インフラ整備事業であり、投
資回収期間が長期に及ぶことから、地元自治体(ケ
ーススタディでは長岡市)との連携により、周辺
整備・工場誘致等と歩調を合せた展開が必要であ
- 85 -
る。また、公的長期低利融資を活用するためにも、
公的機関と連携をとることが重要である。
②本事業は、試算ケースで燃料費が売り上げの 60
~70%を占めると言う特徴を持つことから、燃料
価格(ガス価格)と電気の販売価格に大きく左右
される。ガス価格(長期契約のLNG価格の多く)
は石油価格との間にS字カーブと言う上昇率緩和
パターンが設定されており石油ほどの値上がりは
当面は無いが、2008 年の 7 月 11 日原油価格は 1
バレル 147.27 ドル(2004 年初めで 30 ドル台)と
なった。現在は一転して、1 バレル 40.5 ドル(2008
年 12 月 5 日)となり、
「先が読めない」状況にあ
る。
(天然ガスの価格上昇だけでなく各種資材(発電
設備関連資材等)の値上がりも、設備建設費の上
昇をもたらしている。
)
③一方、電力料金も燃料価格の上昇により引き上
げられることは確実であり(電力会社が赤字決算
を強いられ、燃料代上昇に連動した料金引き上げ
は確実)本検討の試算での価格より販売価格が上
昇する可能性は高く、発電事業にはプラスの影響
を受けるが、料金設定方式の見直しも議論されて
おりその行方は現時点で不透明である。
④このことから、公的な長期低利資金を活用する
としても、現在民間資金を中心に事業化に即時踏
み出すことは難しい状況にある。特に 2008 年の秋
以来の金融危機の状況は、新規工場の進出を押し
とどめる方向に作用しており、当面は需要縮小基
調が続くものと考えられ、現時点では周囲の社会
経済環境の動向を見守り、関連技術や事業展開方
法の検討により、確実なエネルギー需要を伴った
場での展開を図るべきと考えられる。
⑤天然ガスによる発電事業を検討する本取り組み
は、天然ガス幹線パイプライン事業の関事項とし
て「内陸部での低 CO2 排出発電の実現」
、
「パイプラ
イン利用事業開拓」(パイプラインで送られた天然
ガスを利用する事業)などに結びつくものと位置
づけられる。すなわち、本ケーススタディでは、
新規の工業団地への天然ガス発電事業導入を検討
したが、天然ガスパイプラインの建設と天然ガス
発電事業の相互連携により以下のような場所での
事業展開が考えられ、本年の研究成果は、これを
基にした次の一歩に結びつけることを予定してい
る。
今後の内陸型天然ガス発電事業の展開方向例は、
以下の3点である
(ア)天然ガスパイプラインを敷設する(高速)
道路のPA/SA、IC周辺、道の駅等での展開。
(イ)高速道路沿いの敷地での発電電力の高速道
(ウ)今後の電気自動車の充電拠点として、天然
ガスパイプライン敷設道路におけるGSでの発電、
周辺への電力供給など。
路維持管理(照明・トンネル換気・情報提供)等
への活用(本検討において取り上げた、PPSと
の連携による余剰電力の販売等も含め)
。
- 86 -
他省庁系の地域振興政策に関連する事業展開
の開発研究
森山
弘一*1
Koichi MORIYAMA
本研究では、CTIにおける新規顧客開拓の一環として、これまで当社が手つかずであった産業振興分野
(当社が従来から得意とする分野以外)について、業務獲得のための知見・ノウハウ等の蓄積、及び、業務
獲得の試行等を3年間にわたって実施することにより、他省庁系業務開拓の可能性や展開戦略等を明らかに
するものである。本報告は、研究開始から9ヶ月を終えての中間報告であり、これまでの取組内容、今後の
見通し等を整理したものである。
キーワード: 産業振興、企業立地、地域資源活用、農商工連携、観光振興
1.研究目的
本研究では、これまで当社が手つかずであった産業振
興分野(具体的には経産省・農水省・観光庁等が所管す
る地域振興関連分野)において業務獲得のための知見・
ノウハウ等の蓄積、及び、業務獲得の試行等を図り、他
省庁系業務開拓の可能性や展開戦略等を明らかにする。
また、将来的には、それらの展開をきっかけに「産業
インフラ整備にかかる業務獲得」や「真の意味での総合
コンサルとしての地位確立」等を目指す。
2.研究内容
1)実施項目
①産業振興の現状把握
経産省等における産業振興政策体系の把握や産業
振興関連の先進事例調査等により、基礎データの蓄積
や、同分野に精通する専門家等とのネットワーク形成
等を図る。
・ 先進事例の把握、各地の活動家との情報交流
・ 産業振興政策体系の把握
・ 競合に関する情報収集
・ 産業振興関連の勉強会等への参加
② 産業振興支援モデルの開発
上記①で把握した産業振興の現状をもとに、最適な
産業振興支援モデルを開発する。このモデルを活用し、
産業振興の担い手(1事業者)としての実践や、調査
・計画業務に関する提案営業等に繋げる。
・ 事例調査等による先進モデルの把握
・ 行政、民間等との共同事業
・ 行政、民間等との共同研究
タント会社、中小企業診断士等)と共同して、本研究
成果(事例調査結果、モデル等)を活用しつつ、国や
自治体の公募型プロポーザルへの参加や提案営業等を
実施する。これにより、業務の獲得のみならず、発注
者ニーズや応募要件、競合の情報等を把握する。さら
に、研究成果について論文やHP等により国や自治体
等へPRする。
・ 公募型プロポへの参加
・ 提案営業
・ 研究成果のPR(学会、勉強会、HP 等)
④ 他省庁系業務の営業戦略案
以上までの取組及び成果をもとに、CTIとして他
省庁系業務分野へ本格参入する際の営業戦略案を作成
する。
・ 営業テーマの考え方
・ 差別化の考え方
・ 取組体制
等々
2)研究の流れ
本研究は図1の手順で進める。
①産業振興の
現状把握、人的
ネットワークの形成
モデル
のPR
営業情報、
人脈の活用
②産業振興支援モ
デルの開発・試行
③営業活動・
成果PR
戦略案
の試行
結果の
反映
営業成果、営業
手法の分析
④他省庁系業務の営業戦略案
③ 営業活動・成果PR
産業関連に精通する外部の専門家(産業系コンサル
*1
先進手法
の反映
図1
国土文化研究所 企画室 Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 87 -
研究の流れ
戦略案へ
の反映
1)産業振興の現状把握
「やりたいこと」
・
「できること」
・
「やっているこ
(1)先進事例調査
と」を優先させる
国内の先進的な産業振興事例(15事例)における
 「行動」は独立採算を前提におく(困難な場合は、
成果や成功要因等について各種調査(具体的には、
指定管理者制度等の行政資金を最低収入として
関係者ヒアリング、現地踏査、他分野の塾・研究会
確保する)
・セミナーへの参加等)を実施するとともに、事例
 身近で小さな成功体験づくりに注力し、それをき
分析等を行った。
っかけ、あるいは、それを取組の持続担保にする
 目標設定、効果測定等を容易にするため、対象エ
①収集事例
リアを限定(ただし、活動時は他地域も含めたヒ
収集事例は表1(各事例の概要は【参考1】
)に示
ト、モノ、カネ等の資源活用・流動化を図る)
すとおりである。この事例収集を通じ、実態把握は
 地元の産業と観光業・コミュニティビジネス(サ
もちろんのこと、観光カリスマ等を始めとする各地
ービス)の総合化による
の活動家との人脈づくりや、当社の知名度向上、今
 地域振興の担い手として(住民等が)活躍できる
後のコンサルタントのあるべき姿(産業振興支援の
場・機会(出番)がある
あり方)の再認識等に繋がった。
 地域内の取組を横断的に繋げて総合化を図り、持
表1
収集事例
続性を強化
(2)主な産業振興政策
事例名
H19 年度より官邸主導の産業振興が活発化しており、
1
長浜黒壁スクェア
2
高松丸亀町商店街の再開発
各省庁の予算も年々拡大傾向にある。以下、地域活性
3
出石町における観光振興
化統合本部の重点施策とともに、経産省や農水省等に
4
内子における農商工連携の直売所
おける産業振興戦略5 の趣旨を踏まえつつ、国におけ
5
商店街におけるICTの有効活用
る主な産業振興政策を整理する。なお、各項目の概要、
6
昭和の町としての再生
経産省等の H21 年度予算はそれぞれ【参考4】
、
【参考
7
葉っぱビジネス
5】に示すとおりである。
8
漁業と観光を活かしたまちおこし
9
小樽の歴史的建造物を活かした商業集積
 頑張る地方応援プログラムに関する交付税措置
10 お年寄りの原宿
 地域雇用の再生支援
11 小江戸川越における景観づくりと観光促進
 広域的地域(ブロック)の自立・活性化のための
12 全国ふる里ふれあいショップとれたて村
支援
13 特区を活かした都市と農村の交流活動

地域イノベーションの強化
14 多摩ニュータウンにおけるエリアマネジメント
 地域の強みを活かした企業立地促進への支援
15 「野菜王国・川上」ブランドプロジェクト
 中小企業による地域資源を活用した取組への支
援
②事例分析
 地域中小企業の振興
産業振興の成功秘訣等を探るべく、収集事例の共通
 農商工連携の促進
点等を分析したところ、産業振興に当たって欠かせな
 農山漁村の振興
いポイントが明らかとなった。なお、これらの結果は
 農山漁村への定住等及び地域間交流の促進(二地
提案書づくりや産業振興支援モデル開発等に活かした。
域居住を含む)
 地域内に、地域経済に対して「危機感」
、
「問題意
 観光立国の推進
識」
、
「地域=自分(一心同体)の意識」
、
「奉仕欲
(3)その他参考情報
(労働力・カネ等)
」を持った民間団体が存在
勉強会への参加等を通じて得た、その他の参考情報
 民間事業者(口だけでなく、カネも出せる者)が
は以下のとおりである。
主導し、行政はそれを支援する立場である(行政
 経産省、農水省、内閣府等では、トップダウンの
の中に支援者が存在)
政策(○○構想等)でなく、地方における産業振興
 行政側の助成メニューを戦略的に活用する
の成功モデルを探し出し、同モデルを基に政策を
 地域内から幅広く(一般市民からも)資金を調達
検討(地方発・地方重視の政策立案が定着しつつ
(調達時は使途を明確化し、寄付金や小口出資の
ある)
形で調達)
 お金の調達よりも、とにかく「行動」を先(まず
はお金をかけずにできるソフト等を実行し、周辺
5
経産省、農水省等が策定した産業振興戦略(経産省:
「新経
の理解を促す)
済成長戦略(H18 策定、H20 改訂)
」
、農水省:
「新農政(H20 策
 「やった方がよいこと」よりも、地元の民間等が
定)
」
)
、観光庁「観光圏整備法」関連資料
- 88 -

各省庁は産業振興の「担い手」の発掘・育成・派
遣にも注力しており、全省庁共通の課題となって
いる
〔→ 農水省:都市と農村の交流促進コーディネーター、経
産省:企業立地促進マネジャー・商業活性化アドバイ
ザー、観光庁:観光カリスマ・観光地域プロデューサー 等
々〕
 間接補助から直接補助への移行が一気に進み、国
が地方を直接的に支援
 地方の現況に合わせた、省庁間における予算連
携・統合の動きが盛ん(地域資源活用、農商工連
携、観光圏整備・農村振興等)
 観光業の支援に当たっては、観光関連業界での変
化(従来盛んであった「団体型観光(発地型)
」
から「個人型観光(着地型)
」へのシフト)を前
提とする
 企業立誘致の支援に当たっては、昨今のデフレや
金融不安等による企業立誘致政策の変化(工場や
集客施設等の誘致を目指す「企業誘致型」から、
地場産業の強化や地場産業を活用した新事業創
出等を目指す「企業立地型」へ)を前提とする
2)営業活動の成果
(1)営業活動の進め方
本研究でターゲットとする産業振興関連の業務(経産
省所管業務)は、PDCAサイクルの観点から整理する
と表2のとおりとなる。
表2
発注機
関
国
ステップ1
実態把握
・経済センサ
ス(商業統計、
工業統計等)
・中小企業実
態基本調査
・地域産業資
源実態調査
・商店街実態
調査
独法・ ・ 中 小 企 業 景
況調査
公益
法人
自治体 ・ 地 域 産 業 実
態調査、商工業
実態調査
・企業動向調
査(景況感調査
等)
・企業経営動
向
経産省所管の産業振興関連業務
P(A)
ステップ2
調査研究
・ 新連携事例調
査・優良事例の
選定
・ 地域資源活用
調査
・ 企業立地満足
度調査(全国)
・ 企業間ネット
ワークの分析
・ 商店街事例調
査
・ 各種政策の活
用状況調査
・ 各種政策の普
及・啓発(セミ
ナー等)
・ 企業立地意
向・動向調査
・ 産業政策調査
・ 産業用地活用
調査
・ 企業立誘致の
可能性調査
・ 適地調査
このうち、
「P」に属する業務群には、シンクタンク
を初めとした多数の競合が存在するが、近年は公募型プ
ロポーザルで発注される案件が増加していることから、
本研究ではそれらをターゲットに展開することとした。
ただし、応募に当たっては実績が重視されるため、当該
分野に精通する研究パートナーとの共同により(連名の
提案書とし)
、同者の実績を提案書に掲げることで対応
した。
応募案件としては、下記の要件を満たし、産業振興の
基礎知識の蓄積や全体像の把握等が可能な「産業振興ビ
ジョン」の策定業務を手始めとした。また、国交省所感
分野の中でも当社がこれまで手つかずであった産業振
興関連(旧国土庁系、観光庁系等)の案件についても応
募を試行した。
要件1: 研究パートナー(下記)が有する実績・ノウ
ハウを活かせる分野
 産業立地研究所(専門: 産業)
 ともえ産業情報(専門: 商業、企業経営)
 その他中小企業診断士

要件2: CTIが有する実績・ノウハウを活かせる分
野
 地域の実態や住民意識に関する調査・分析ノウハウ
 ビジョン及び整備計画の作成ノウハウ
 地域密着型まちづくりのノウハウ(PI等)
D
ステップ4
事業
C
ステップ5
評価
・ ○○地域産業振興ビ
ジョン
・ 地域ブランド戦略
・ ○○地域産業クラス
タービジョン
・ 新連携(農商工連携等)・広
域連携への助成
・ 地域産業資源活用事業へ
の助成
・ 産業クラスター計画の推
進助成
・ 企業立地促進法基本計画
の推進助成
・ 企業間ネットワークの構
築・マッチング(産業振興セ
ミナー・フェア運営等)
・ 助成金の活用
状況の調査
・ 助成金活用促
進策の検討
-
・ 各種事業化の助成
・ 企業支援DB構築
・ 企業間ネットワークの構
築・マッチング
・ 助成金の活用
状況の調査
・ 産業振興ビジョン
・ 企業立誘致戦略
・ 地域産業資源活用構
想、事業計画
・ 産業クラスター計画
・ 企業立地促進法基本
計画
・ 新産業・新技術・新
事業の創出
・ 企業間ネットワークの構
築・マッチング
・ 各種事業への助成(ファン
ド創設を含む)
・ 助成効果の評
価(民間への補
助金の成果検
証)
ステップ3
計画策定
- 89 -
務の実績・ノウハウを十分に流用可能な領域
である。具体的には、公共事業関連(国交省
技調関連の公共工事コスト縮減に係る効果測
定、都市地域整備局関連のまちづくり交付金
評価業務等)の事業評価や、自治体(青梅市
等)での行政評価、関西学院大学との政策評
価関連の共同研究(全社研修)等にかかる知
見等が活用可能である。このため、本研究で
は、これらの経験・ノウハウを前面に出しつ
つ、産業振興関連の助成事業(特に国から自
治体又は民間への助成、自治体から民間への
助成等)の評価業務をターゲットに展開を図
っていくこととする。
(2)
「P」へのアプローチ
本研究で応募した公募型のプロポーザル案
件、及び、提案営業を行った案件は表3、表
4のとおりである。
また、
「D」に属する業務群については、産
業振興分野では最も重視され、特に経産省で
は「P」とは桁違いに大きな予算が投じられ
ている。このため、
「P」と同時に、産業振興
支援モデルを開発し(共同事業等の試行を含
む)、「P」にかかる営業において説得力や付
加価値を持たせるためにも、1事業者として
の展開は不可欠と考える。
産業振興支援モデルとは、当社におけるこ
れまでの経験や本研究における事例調査・「
P」にかかる営業活動等の結果をもとに、当
社が1事業者として産業振興に参画する場合
の業務モデル(共同事業の形態も含むプロト
タイプ)であり、将来の本格展開の際の主要
ツールとして活用する。
さらに、
「C」に属する業務群は、当社がこれ
までに国交省や自治体等から受託してきた業
表3
(ア)
(イ)
(ウ)
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
(エ)
(オ)
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
応募したプロポ案件の概要
半島らしい暮らし・産業創生調査業務
国交省 都市地域整備局半島振興室
地域づくり活動支援モデルの実施・連携体制の整備・情報発信等による、半島なら
ではの暮らし・産業づくり
2,400 万円程度
非特定(受託者:(財)日本システム開発研究所)
伊勢崎市産業振興ビジョン策定業務委託
伊勢崎市 経済部商工労働課
港区産業振興プラン策定のための調査・検討の支援(検討会運営等を含む)
500 万円程度
非特定(受託者:システム科学コンサルタンツ(株))
港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査、港区産業振興プラン策定支援業務
港区 産業・産業振興支援部産業振興課
港区産業振興プラン策定のための調査・検討の支援(審議会運営、企業及び住民へ
のアンケート調査等を含む)
600 万円程度(基礎調査のみ) ※策定支援の額は不明
非特定(2位/3社中、受託者:富士通総研が特定)
地域の観光振興のための地域遺産の保全及び活用におけるボランティアのあり方
検討事業
観光庁 観光産業振興部観光資源課
ボランティアの関わり方の実態把握、参加促進事業の試行等による、地域遺産活用
のボランティアのあり方検討
800 万円程度
非特定(2位/8社中、(財)日本ナショナルトラストが特定)
青山地区商店街変身計画作成業務委託
港区 産業・産業振興支援部産業振興課
青山地区での助成事業計画(商店街変身計画)の作成支援
300 万円程度
現在作成中
90
表4
(ア)
(イ)
(ウ)
(エ)
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
件 名
提案先
概 要
規 模
結 果
提案営業を行った案件の概要
港区商店街変身戦略プログラムの検証業務
港区 産業・産業振興支援部産業振興課
芝浦商店街・高輪商店街に対して3年間実施した助成事業の効果検証
150 万円程度
随意契約により当社が受託
港区内中小企業の活性化に資する実態調査
港区 産業・産業振興支援部産業振興課
港区内の中小企業の実態把握、その実態に合わせた港区の産業振興戦略の検討
1,000 万円程度
非特定(2位/9社中、帝国データバンクが約 850 万円で特定)
企業立地による新たな雇用の創出の戦略検討業務
猪苗代町 商工観光課
地元の雇用促進を目的とする、企業の立誘致方針の策定、及び、企業立地のための
具体策の検討
600 万円程度
現在調整中
観光ビジョン策定支援業務
埼玉県 商工労働部観光振興室
地元の雇用促進を図るための観光ビジョン(長期)の策定支援
未定
現在調整中
①営業活動から得られた知見
上記のプロポ参加や提案営業等の取組を通じ、以
下の知見を得た。
○収穫
・ 半島における産業振興関連の業務は昔から特定
のコンサルタント(所属:
(財)日本システム開
発研究所)が担当しており、上記の「半島らし
い・・・」の案件に加え、この後に公募された
「H20 年度半島地域における体験観光に関する
取組状況調査」
(当社は見送った案件)も受託し
ており、ほぼ独占状態と言える
・ 提案書作成やプロポ説明会への参加をきっかけ
に発注者と知り合い、別件の企画に関する相談
等が可能となった
・ 港区では、公募型プロポの参加を機に新たな業
務企画の相談が3件舞い込み(うち、2件は現
在調整中)
、そのうちの1件を受託することがで
きた(初回の提案の際に港区の気を引く提案が
あり、次へと繋がっていった)
・ 研究パートナーとの共同提案を行う中で、
「産業
振興ビジョン策定業務」や「中小企業活性化業
務」等で必要となるノウハウを明らかにするこ
とができ、当社がこれまでに培ってきた調査分
析ノウハウや合意形成技術等が流用できること
を確信した
・ 特に「産業振興ビジョン策定」業務は、国内の
多くの地域で策定や更新が検討されており今後
も一定の市場が見込めることから、今回得られ
た知見等をもとに他地域での営業展開が可能
〔→ 人口10万人以上の自治体に対し、産業振
興ビジョン・観光振興ビジョンの策定状況等
を電話調査済み → 今後の営業で活用〕
・ 埼玉県や猪苗代の案件で見られるような「地元
の雇用創出」を目的とした産業興し、企業立地
等に関する調査や戦略づくりのニーズは、今後、
国内全体で増加する見込みであり、他地域展開
が可能な案件と言える
・ プロポあるいは説明会への参加により他社が過
去に作成した業務報告書等を入手でき、次回以
降あるいは別件での提案に役立った
・ プロポへの参加により、当該分野の競合を明ら
かにすることができた
・ プロポへの参加や提案営業により、これまで付
き合いのなかった発注者に社名のPRができた
〔→ 次回以降に繋げる営業展開を心がける〕
○課題
・ プロポの公募前から、別の業者が同案件の企画
を先行的に行っていたと思われるケースが多々
見られた(案の定、企画段階から参入していた
業者が落札)
・ 純粋な産業関連の実績は過去に1件しかなかっ
- 91 -
たため、提案内容以前の段階で得点が低くなっ
てしまった
・ 当社の実績不足を補うため、研究パートナーと
共同応募を行ったが(パートナーの実績を前面
に出したが)
、発注者又は案件の分野によっては
それらの実績が評価されない場合もあるため、
当面は港区等のように理解が得られた自治体や
実績が不要な観光庁等を対象に、着実に実績を
積み上げていきたい
・ 中小企業活性化関連の調査では、調査の専門会
社が情報力(DB保有)及びコストの面で圧倒
的に有利であり、同分野への参入は適当でない
・ 本研究では以前から付き合いのある企業を研究
パートナーとして共同提案を行うスタンスをと
っていたが、以下のような問題がしばしば生じ
ており、このあたりの改善が今後必要である
 そもそも研究パートナーが単独で応募し
たい、あるいは、応募できる案件も少なく
ない(この場合は単独で応募してもらい、
当社は応募できなかった。当社が加わるこ
との付加価値(提案事項の試行等)を付け
る必要がある)
 プロポへの参加可否の判断が、研究パート
ナー側の繁忙度に左右されることがあっ
た
 単独では応募しない研究パートナーは常
に当社と共同してプロポに参加したが、そ
れなりの(規模が小さく、下請け的な)パ
ートナーになってしまい、提案力や実績の
魅力度の点で疑問が残る
〔→ 新たなパートナー探しも今後必要〕
・ 競合である富士通総研は、昨年末から経産本省
業務について3年間の営業停止となっており、
これまで同社が専属で受託してきた分野の案件
は次年度から宙に浮くこととなるため、この機
会を逃さず、新規開拓を進めていきたい
②競合の状況
産業振興関連の業務獲得を狙う競合の状況を表5
(詳細は【参考2】
)に整理する。また、本研究では
応募していない観光庁等の産業関連案件に関する競
合情報は【参考2】に示すとおりである。
(3)
「D」へのアプローチ
①産業振興支援モデルの制作
各種調査・分析を通じて制作した産業振興支援モ
デルのプロトタイプは【参考3】
、
【参考7】
、
【参
考8】のとおりである。今後は共同事業や提案営
業等により試行・改良を図っていきたい
表5
競合の状況
具体企業の例
民間シン 富士通総研、みずほ総研、野村総研、大
クタンク 和総研、三菱 UFJ リサーチ&コンサルテ
ィング、NTTデータ経営研究所等
、
行政系シ 総合研究開発機構(NIRA)
ンクタン 都道府県等の中小企業振興公社、中小企
業支援センター等
ク
・マーケットリサーチ系: 矢野経済研
究所、富士経済研究所等
・信用調査系: 帝国データバンク、東
京商工リサーチ
コンサル 日本能率協会総研、価値総合研究所、シ
ティング ステム科学コンサルタンツ(株)、日本ア
プライドリサーチ研究所、
(財)日本システ
会社
ム開発研究所、ランドブレイン、地域経
営研究所、ジャイロ総合コンサルティング、と
もえ産業情報、中小企業診断士事務所等
産業コン (財)立地センター、産業立地研究所等
サル
・建設関連: 建設コンサル、都市計画
その他
コンサル、環境系コンサル等
・福祉関連団体: 男女共同参画関連団
体、子育て支援関連団体等
②共同事業の実施
表6に示す事業の獲得を図るべく、作業を進めた
が、10倍以上の競争率で今年は獲得できなかった。
このため、次年度以降に再チャレンジすることとし、
なお、その代替手段として、共同研究(概要は後述
のとおり)を実施することとした。
共同事業における取組結果や得られた知見等は以
下のとおりである。
調査会社
(ア)
(イ)
- 92 -
表6
共同事業の概要
助成事 内閣府 地方の元気再生事業
業名
テーマ 月山朝日かもしか学園設置調査
事業
共同者 西川町、商工会、東北大学、山形
短期大学、富士通総研、㈱JTM 等
規 模 2,600 万円程度(うち、当社担当
分は 1,000 万円程度)
結 果 落選(倍率約10倍)
助成事 未定
業名
テーマ エリアマネジメント等の地域活
動促進に資するコンソーシアム展開
共同者 大和ハウス工業
規 模 未定
結 果 現在調整中
これらの共同事業の準備等を通じ、以下の知見を
得た。
○収穫
・ 元気再生事業については落選したものの、これ
によって産業振興支援モデルの1形態を構築す
ることができた
・ この共同事業スキーム(行政との共同)は、今
後、別の地域にも売り込んでいきたい
・ 大和ハウス関連については、問題意識の高い本
社所属の若手(3名)と打合せやメールを頻繁
に行い、一定の信頼関係を構築できた
〔→ 民間へのコンサルティング業務に関する営
業手法の確立に繋げていきたい〕
○課題
・ 元気再生事業へ応募する際、社名の「建設技術
」が提案内容の趣旨(
「ライフスタイル」
、
「地域
価値」等)とかけ離れていることから、提案書
には国文研(社名抜き)で記載したい旨の要望
【西川町役場談】を何度も受けた
〔→ 当社としてはNGのため、社名を括弧書き
で加えることで何とか了承を得た〕
・ 大和ハウス関連については、問題意識の高い若
手とともに議論を進めているところであるが、
上層部には利益に直結しないものには投資はし
ない
【住宅を整備したらそこはそれで終わりで、
間接的に顧客満足度を高める必要はない】気風
が根強いことから、共同事業は難航している
〔→ まずはこうした取組を上層部と共有するた
めの資料づくりから始めているところである〕
(4)
「C」へのアプローチ
「C」については、前述のとおり、提案営業によ
って港区産業振興課「港区商店街変身戦略プログラ
ムの検証業務」を受託しており、これは港区におけ
る産業振興施策の評価の一環として、商店街への助
成事業を評価するものである。こうした産業振興関
連の評価業務(お金以外の効果の評価)の発注は稀
のようであり、今後の展開次第では有望な市場と言
える。
したがって、前述した国交省での経験を踏まえ(
まちづくり交付金評価業務等に関する営業展開と同
様のスタイルで)
、自治体への横展開のみならず、経
産本省の助成事業評価も狙っていきたい。
3.営業方針
営業対象として望ましいと考えられる分野は前述
したとおりであり、テーマのみをまとめると以下の
とおりとなる。
(ア) 産業振興ビジョン・観光振興ビジョン、企業立
地計画、観光圏整備計画【自治体、広域市町村
圏等】
(イ) 商店街活性化計画【自治体】
(ウ) 都市と農村の交流、農村振興に関するあり方調
査、実態調査【農水本省、国交本省、自治体、
広域市町村等】
(エ) 農商工連携事業、地域資源活用事業、観光事業
等の実践【経産本省、農水本省、中企庁、観光
庁等】
(オ) 産業関連雇用の創出・促進を前提とする「P」
及び「D」
【全省庁、自治体】
(カ) 産業振興関連の助成事業等の評価・検証【全省
庁、自治体】
(2)差別化の考え方
他省庁系業務については、上記のとおり、
「P」関
連の業務を中心に競合が多数に存在し、そもそも当
社は実績面で不利な状況に置かれているが、今回の
港区での受託経験から、実績は乏しくとも、提案内
容で差別化できれば(魅力を付与できれば)次回以
降に繋がる可能性が高いと確信した。差別化の1方
策としては、たとえば「産業振興ビジョン」関連で
あれば、シンクタンクや調査会社が苦手とする「地
域に根ざした取組経験(インフラ等の公共空間活用
の見識)
」
、
「地域との協働経験」等)といった当社の
強み(ビジョン実現の試行等)を提案に盛り込むこ
となどは有効と考える。
また視点を変えて、業界にとってこれまでになじ
みのない業務分野(たとえば「C」の評価関連業務
)
、つまり、違う土俵で戦うことも一つの差別化策と
考える。
また、企画段階からの早期参入を図るべく、
「自主
研究」として(当社の費用負担で)企画作業を支援
する手法も重要と考える。
(3)体制の考え方
研究の中で構築した研究パートナーとの共同提案
や共同受注の体制については、将来の本格営業にお
いても有効な展開手法と考えられる。ただし、現時
点では分野の偏りがあることから(産業政策や商業
政策関連は得意)
、営業案件にも偏りが生じている。
このため、観光や農業面に強いパートナーも早急に
探し出し、産業振興全般に対応可能なコンサルティ
ング及び事業サポートの体制を構築していきたい。
〔→ 【参考3】を参照〕
(1)営業テーマ
- 93 -
4.今後の進め方
今後も基本的には前述したPDCAごとのアプロ
ーチをそれぞれ継続させ、業務受託等の実績づくり
に結びつけていきたいと考える。
このほか、当初は予定していなかったが、共同事
業の代替として共同研究を開始している。
以下、共同研究の概要も含め、研究全体としての
当面の進め方を示す。
テーマ
内 容
共同者
結 果
(2)当面のスケジュール
以上のことを踏まえ、当面は図3のスケジュール
に基づき進めていく予定である。
(1)共同研究の実施
共同事業の結果のところに記載したとおり、共同
事業の代替として、当社の費用負担によって自治体
等と共同で実施する「共同研究」を行うこととした。
相手先やテーマについては、前述の共同事業とは別
に(前述の案件は次年度に再応募のため)
、立ち上げ
ることとした。共同研究のスキームは図2のとおり
で、産業振興支援モデル等を活用しながら、自治体
等と共同で産業振興を実践し、そこでの成功モデル
を国や自治体等へ売り込むことで研究投資を回収す
る予定である。
地 域
自治体
商業
商工課
製造業
農政課
農業
観光課
・
・
・
・
・
・
図2
2011
2012 ~
3年間の取組をベースにした
本格的な営業展開
・調査、計画策定業務
・事業の実施(1事業者として)
・評価業務
営業戦略案の検討、ツール開発
取り組み・成果に関する情報発信
試行結果の評価・検証
経産省
団
体
農水省
・
市
民
~
・公募型プロポへの参加
・国、自治体への提案営業
・産業振興支援モデルの活用
(共同事業、共同研究の実施)
・国内外の先進事例調査、専門家との
ネットワーク形成
住
民
国(内閣府、経産、農水等)のモデル事業としての
認定、助成金の獲得
社会への提言(勉強会・講演・セミナー等の開催)
国のモデルとして認定
(助成金獲得等)
地域プロデュース
(成功事例づくり)
CTI
2009
国
民間
表7
共同研究の状況
マイナー観光地における広域観光振
興・地域産業振興
【参考8】を参照
埼玉県、県内市町村(本庄市、小川町
、越生町、羽生市等)
現在調整中
観光庁
CTIとしての本格営業展開戦略案の策定
図3
内閣府
・
・
・
共同研究のスキーム
なお、共同研究については埼玉県産業労働部観光
振興室との調整を進めており(表7のとおり)
、同室
の副室長からは好感触を得ているが、これまで同部
署との付き合いが皆無であったことから、そのあた
りの根拠づくりが今後研究を進める上での課題であ
る(同室からは、根拠づくりの一環として、前述表
4の(エ)の埼玉県観光ビジョン策定業務の企画提
案依頼を受けた)
。
- 94 -
当面の研究スケジュー
地域振興
に伴う
インフラ整備
の支援
日本橋再生研究
Research for Nihombashi Area Restoration
伊藤 一正 *1今西 由美 *1
Kazumasa ITO, Yumi IMANISHI
日本橋地域は江戸時代から続く東京の賑わいの街で、日本の行政・商業・文化の中心である。この日
本橋地域の賑わいの再生は地域全体の要望であり、東京都や国に地域で検討した再生案の提案を目指し
ている。本研究は、地域の一員として日本橋地域再生案の議論に参加し、河川再生や舟運計画の案を研
究した結果と、日本橋地域をはじめ、港区、千代田区を含む広域の観光資源開発に取組んだ結果を示し
たものである。
キーワード:地域貢献、河川管理、河川再生、都市計画、水質改善、舟運、船着場、日本橋、協議会観
光開発、集客事業、コンソーシアム
1.はじめに
日本橋地域は、江戸時代より「水の都」として発
展を遂げてきた。徳川家康が江戸に入城して以来、
侍と町人街の接点にあり、日本全国の様々な文化が
流れ込み、今日の原点が創られた街であった。江戸
時代でありながらも全国の物産が入手でき、その後
も世界各国の商品がいち早く伝わり、船で物資が行
き交う賑わいの中心をなす地域となった。しかしな
がら、1960 年代になり、わが国の高度成長期とと
もに、水路は埋め立てられ、川は高速道路に覆われ、
かつての日本橋地域の姿は瞬く間に失われていっ
た。
本研究は、日本橋地域の再生を目標とした地域の賑
わい再生のための観光事業開発への取り組みと、日
本橋地域再生の将来構想研究を地域団体の取り組
みに参画した結果を示す。
2.日本橋の歴史的変遷
(1)日本橋地域の成立
日本橋地域は、江戸時代に現在の街の原形が作ら
れたと言える。しかし、徳川家康が江戸に入城した
頃(1590 年)は、図-1 に示すような地形であり、
日本橋、丸の内あたりは江戸前島と呼ばれる半島で、
皇居外苑、日比谷公園、新橋あたりは日比谷入江と
呼ばれる海となっていた。
家康入城後、江戸城への物資の輸送のために江戸
前島を横断する道三堀が掘られた(図-2 参照)。ま
た、この頃から既に「日比谷入江」の埋め立てが意
識されており、日比谷入江に流れ込んでいた平川が
道三堀に流入する形で付け替えが行われた。そして、
この付け替え後の平川が現在の日本橋川の原形と
なった。
その後も物資輸送のために堀・水路の整備が行わ
れ、江戸城築城工事の前提となる外濠川が江戸前島
を縦断する形で整備された(1605~1608 年)。
*1
国土文化研究所 企画室
そして、日比谷入江が埋め立てられ、内堀の整備と
周辺の水路網が発達し、舟運のために八丁堀周辺に
はたくさんの舟入が整備された(図-3 参照)。また、
堀・水路の整備と併行して、日本橋を起点とする五
街道の整備も進められた。
これら整備された水路の至る所に物資の搬入のた
めの河岸が設けられた。江戸代にできた河岸は約
60 ヶ所、明治期に造られたものを含めると約 70
ヶ所にも及び、全国からの物資が船で江戸に運ばれ
てきたことがわかる。
図-1 江天正期戸初期(1590 年)頃の江戸原地形1)
図-2 平川のつけかえ(1590~92 年)1)
Research Center for Sustainable Communities, Research Planning Section
- 95 -
図-3 第二次天下普請でつくられた水路
(1611~14 年)1)
(2)転換期
日本の戦後経済成長と共に東京の川には転換期
が訪れた。海運から陸路への交通手段の変化、高度
経済成長への突入、東京オリンピックの開催などが
背景となり、堀が埋められ、あるいは河川空間を利
用した高速道路の建設が進められた。日本橋川も水
面は残ったものの上空を覆う高速道路が建設され
た。図-4 は日本橋の前面に高速道路の橋脚を建設
している様子である。
そして図-5 は、現在の日本橋の様子である。高
速道路が上空を覆い護岸はほぼ垂直のコンクリー
ト壁で、川沿いの建物も川に背を向けている。川を
活用したり、川に親しむ環境は完全に失われている。
図-4 首都高建設(1962 年頃)4)
図-5 現在の日本橋のようす
3.日本橋川の賑わい再生への試み
(1)江戸東京再発見コンソーシアム構築
江戸の街の人口は、1600 年頃の 15 万人に始ま
り最盛期には 100 万人なり、世界有数の都市と言
われた。これだけの人口の生活が成り立ついために
は日本全国からの物資の搬入と流通の仕組みが不
可欠で、そのために、江戸の街は2.でも見たよう
に、堀や運河などの水路が発達し、舟運を中心とし
た物流ネットワークが形作られた。
日本橋地域はこれら物流の基点となり、日本橋か
ら始まる五街道、各水路に発達した河岸、日本全国
から集積した物資を取引する商業地となり、江戸の
賑わいの中心地でもあった。
日本橋地域再生の第一のポイントは、これら江戸
期に見られた地域の賑わいの再生である。そのため
には、日本橋地域を始め、かつての江戸の中心地で
あった千代田区、港区、中央区などを拠点とする、
地域の各団体や企業、個人が連携して、東京都心の
賑わい再生活動を開始することである。
このような地域の背景、さらに、経済産業省の進
める「新経済成長戦略」に則った地域独自の魅力作
りを行う事業を「観光・集客サービス産業」と位置
づけて支援する助成事業の適用を目指し、地域団体
を中心に江戸東京再発見コンソーシアムを設け、舟
運や街めぐりを中心とした活動を計画した。
経済産業省の助成事業は、国際競争力ある観光・
集客サービスを、広域的に幅広い関係者の参画で展
開し、独自の戦略を構築し、地域・業種横断的な取
組である事が求められ、江戸東京再発見コンソーシ
アムの計画目標とも合致するものであり、3 ヵ年の
助成事業として採択となった。
構築した江戸東京再発見コンソーシアムは、
NPO 法人東京中央ネット、株式会社ロイヤルパー
クホテル、NPO 法人遊んで学ぶ環境と科学倶楽部、
株式会社ヤマダクリエイティブ、株式会社建設技術
研究所が中心となり約 10 団体で構成し以下の6事
業を企画し、参加各社の資金・人材を背景に事業開
発を行うものである。
①広域連携を実現する舟めぐり事業:隅田川を基点
に神田川、日本橋川、芝浦運河などをエコボート(電
気ボート)で巡る広域観光舟運事業。
②街めぐり事業:千代田区、港区、中央区の史跡、
老舗、伝統工芸店をガイドや観光パンフレットを用
いて回遊する街めぐり事業。
③江戸野菜の周知拡大の地盤作り事業:東京都内の
地産地消を目指し、江戸野菜の生産とレシピ開発。
④伝統工芸継承事業:地域の伝統工芸技術の事業所
(三味線、つづら、漆器など)と連携し、街めぐり
事業と共同し伝統を現代に伝達。
- 96 -
⑤観光情報発信事業:ホームページや広報媒体を用
いて各事業の集客推進。
⑥シンポジウムでの観光集客広報事業:関連シンポ
ジウムの開催で集客。
各事業の概要は表-1のとおりである。
表-1
項
からはインランドウォーターウェイ社それぞれの
経営者を招聘し 150 名の参加を得た。
江戸東京再発見コンソーシアム事業(1)
目
平成 20 年度目標値
5年後(平成 25 年)目
標値
①舟めぐり
舟運計画及び運航事
乗客実績 800~1000 人
事業
業計画の策定。
/年の達成
舟めぐりコースの開
発と舟運シンポジウ
ムの企画
②江戸東京再
江戸日本橋観光めぐ
参加者 480~720 人/年
発見街めぐり
りによる観光案内事
を達成
事業
業。
広域連携を実現する
観光めぐりコースの
開発
③江戸
江戸野菜農家と提携
食の安全学習と環境教
野菜の
し、関連地域の飲食店
育のための江戸野菜栽
周知拡
による江戸野菜メニ
培体験学習プログラム
大事業
ューの企画
の構築と実践。
表-2
項
図-6
国際観光舟運シンポジウム模様
江戸東京再発見コンソーシアム事業(2)
目
平成 20 年度目標値
5年後(平成 25 年)目
標値
④伝統
伝統工芸の施設と提携
伝統工芸観光コースの
工芸継
し、伝統工芸施設の見
常設。②のコースと連
承事業
学プログラム開発と試
携
行
⑤観光情報発
観光めぐり、舟めぐり
来訪観光客に観光情報
信事業
の情報発信を、コンソ
を多言語で伝達する仕
ーシアムのホームペー
組みの整備。
ジを構築して実施
⑥シンポジ
関連シンポジウムの企
関連シンポジウム通じ
ウムをとお
画と開催
て観光広報。
した広報事
業
これらの活動を通じて、地域各企業の連携の仕組み
が整備され、地域一体型で民間主導の事業開発が可
能となった。
(2)舟運事業
舟運事業は都心を事業地域として、観光客が史跡
や名所を回遊し、日本の建築物や伝統的な工芸技術、
下町生活を見学体験しうる、都心の新しい観光集客
の仕組みの構築を目的として開発するものである。
事業を通じて、江戸時代から続く文化、歴史、生活
を観光資源として賑わい創出を図るものである。
事業はシンガポール政府が採用しているのと同
じ電気ボート(米国 Duffy Electric Boat 社製)
を用い、油エンジンを用いない事より、河川水に油
の流出を防ぎ、電気エネルギーの利用から CO2 排出
を防ぐ環境対応の船である。
9 月から事業計画を策定し試験運行を含め毎
月数回の運行を実施した。
(2)国際観光舟運シンポジウム
コンソーシアムが主体となって、地域活動の情報
を内外に発信するため、2008 年 11 月 8 日に東京
国際フォーラムにて国際観光シンポジウムを開催
した。シンポジウムには国内からは地域を代表し東
京都観光部、中央区・港区の土木部、地域団体とし
て日本橋ルネッサンス 100 年計画委員会、各地域
として徳島新町川を守る会、大阪水上安全協会等の
協力、海外からは観光舟運の事業者としてタイバン
コクのチャオプラヤ川エクスプレスボート社、欧州
図-7
- 97 -
電気ボート
図-9
図-8 運行の様子
(3)街めぐり事業
日本橋地域、千代田区の芝浦地域などを対象に、
地域の老舗や建築物、史跡名勝などをめぐり、観光
資源としての街めぐりを実現するために、観光案内
事業として、街めぐりを実施。
日本橋地域では日本橋室町地区や人形町地区等
で定期的な案内を実施し、10~15 名/回の参加者を
得た。今後、コース拡大、地域拡大に向けた検討を
進めている。
水天宮前
図-10 岩井つづら店
図-12 高速道路移設案
- 98 -
図-11 谷崎潤一郎生誕地
4.将来のまちづくり構想
2006 年に日本橋川に空を取り戻し、美しく文化
的で賑わいのある都市空間を再生させることを目
指し、学識者4名※で「日本橋川に空を取り戻す会」
が組織された。そして日本橋の将来像についての議
論が繰り返し行われ、2006 年 9 月 15 日に「日本
橋地域から始まる新たな街づくりに向けて」
(提言)
が小泉首相(当時)に提出された。この提言では、
将来、日本橋川の上空から高速道路が撤去され、地
下に移設される構想が示されている(図-12 参照)。
この提言に沿って地元では 2006 年 9 月に「日本
橋再生推進協議会」が立ち上げられ、水質浄化対策
も含めて街の将来像の検討が進められた。以下に協
議会の水辺再生研究会に委員として参画し、技術的
な提案を検討した結果を示す。
(1)基本コンセプト
水辺再生研究会では日本橋地域を、
「歴史・伝統・
文化・環境」を活かして“川・人・まちの新しい関
係”を構築するエリアとし、残すもの、創るもの、
蘇らせるものを考え、次世代に継承・発展できる街
を水辺空間再生のイメージコンセプトとして採用
した。
日本橋川の水質改善を背景に、江戸から続いた舟
運を復興し、人々が集える街並みを、日本橋川を中
心として再構築する試みである。新しい時代の街を、
日本橋独自の伝統や文化を大切に、水辺を中心に再
構築する計画である。
(2)将来イメージ
図-13 は川を空間の中心に置き、川と街の関わり
を示した全域鳥瞰図である。川沿いの建物は2階建
て程度に低く抑え、賑わい施設を配置したものであ
る。川際は人が回遊できる空間とし、散策路の設け
られた護岸など、魅力ある空間として再生するもの
である。図-14 は、日本橋の橋詰に親水性と賑わい
を生み出すための広場を設けたイメージ図である。
できるだけ水辺に近づける仕掛けや遊歩道を設け
た案となっている。図-15 は野村証券(日本橋右岸
下流側)の近辺に、船着場を設置したイメージ図で
ある。舟運を復活させ、観光や集いの拠点とするこ
とで、かつての賑わいを取り戻す仕掛けとしたもの
である。日本橋を拠点として道路と川を船で結び、
新たな街を作り出すものである。
また、建物の景観に着目し、明治から残る建造物
や日本橋の伝統や文化の魅力を引き出した街並み
を創造することを提案している。他にも、江戸時代
の日本橋を歩行者用の木橋で再現、八重洲方面へと
伸びる「外堀の復元」、東京駅へと伸びる「水路の
整備」等を行うことで、来訪者の回遊性と、日本橋
周辺エリアとの連携も提案もしている。
しかし、このようなまちづくりの実現には、長い期
間を要することは避けられない。目標とするまちを
実現するためには、できることから着実に一歩ずつ
施策を講じていくことが大切である。
図-13 日本橋将来構想イメージ(全域鳥瞰)
図-14 日本橋将来構想イメージ
(日本橋橋詰の親水広場)
図-15 日本橋将来構想イメージ
(日本橋橋詰の船着場)
しかし、このようなまちづくりの実現には、長い
期間を要することは避けられない。目標とするまち
を実現するためには、できることから着実に一歩ず
つ施策を講じていくことが大切である。
本構想でもポイントになるいくつかの取り組みを
先行的に進めることを検討しており、その1つが
「日本橋船着場構想」である。船着場は日本橋の繁
栄を支えた舟運の象徴でもあり、川と周辺のまちを
つなぐ重要な施設である。東京の水辺・湾岸沿いに
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はじめに
国土文化研究所
所長
原田邦彦
国土文化研究所の活動も、関係する皆様のお蔭をもちまして、設立8年目を半ば過ぎよう
としています。
ご案内の通り、国土文化研究所は、
「従来の建設コンサルタントの枠にとらわれることなく、
『文化を育む豊かな空間』つくりを目指し、工学はもとより歴史、文化、景観、環境等の幅
広い領域にも目を向け、広範な技術を磨くと共に、社会・経済や行政等の社会システムのあ
り方についても情報発信する」ことを目的として、設立されました。
設立当初においては、建設コンサルタントの担うべき新しい業務分野の研究を行い、総合
防災、地域エネルギー、アセットマネジメントなどの新業務を行う組織の立ち上げに貢献し
てまいりました。また、社会資本の整備に関する基礎的な技術といえる柔構造、マイクロバ
ブル、ヒートアイランドなどの開発研究も行い、当社の技術力向上に貢献してまいりました。
ここ数年は、地域活動、出版事業、講演会開催などの、社内外を繋ぐ活動にも積極的に取
り組むようになってまいりました。今後とも、社会との係わりを高め、設立の目的である「社
会・経済を含む幅広い分野での情報発信」のできる研究所になるよう努めてまいりたいと存
じます。
今回報告する「年次報告 VOL、7」には、平成 20 年度の当研究所の基礎である自主研究
と共通研究から、主な研究成果の概要を取りまとめ、掲載しております。是非、ご高覧頂き、
何らかの参考にして頂けましたなら、幸いです。
最後に、調査・研究にご協力頂いた皆様方に感謝申し上げますと共に、今後とも忌憚のな
いご意見と暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
は多くの観光資源があり、浅草や築地、晴海、お台
場、豊洲、東京ディズニーリゾート、3年後には新
東京タワー(東京スカイツリー)も完成する。さら
に、羽田空港の拡張国際化も2年後に迫り、日本橋
に船着場ができることは、これら周辺地域との連携
となり、観光のポテンシャルがさらに高まることが
期待できる(図-16 参照)。
これらの結果は、2008 年 12 月 3 日の日本橋再生
推進協議会を経て中央区・東京都に、日本橋地域再
生の地元案として提案された。
図-16 船着場と舟運コース
5.おわりに
現在の千代田区、港区、中央区などは、かつて江
戸と言われた東京の都心部であり、それぞれに、千
代田区の秋葉原、港区の六本木、中央区の銀座など
世界に情報発信できるまちができあがっている。日
本橋には江戸から続く伝統と文化を保有していな
がら、必ずしも、それを十分に生かしきれていない。
「日本橋川に空を取り戻す会」の提言を契機に、新
たな日本橋の将来構想を地域が主体となって検討
する機運も生じてきた。今後も歴史・文化・水辺を
キーワードに、「残すもの」、「創るもの」、「蘇らせ
るもの」を大切にしながら、世界に誇れる“品格”
と“賑わい”、そして“豊か”で“潤い”のあるま
ちづくりを目指した提案を続けて行きたい。
[出典]
1)江戸・東京の川と水辺の事典:鈴木理生
(2003.5.15)
2)江戸図屏風:国立歴史民族博物館HP
3)熈代勝覧:ベルリン東洋美術館蔵
4)ビジュアルブック江戸東京5:陣内秀信
(1993.3)
5)日本橋地域から始まる新たな街づくりに向
けて(提言):日本橋川に空を取り戻す会
(2006.9.15)
[注釈]
※「日本橋川に空を取り戻す会」のメンバー(敬称
略、役職は当時のもの)
伊藤 滋 (早稲田大学特命教授)、奥田 碩 ((社)
日本経済団体連合会名誉会長)、中村 英夫(武蔵工
業大学学長)、 三浦 朱門(日本芸術院院長)
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国土文化研究所年次報告 VOL.7
平成 23 年 4 月 28 日
発
Nov.’09
行
編集 国土文化研究所 企画室 /発行 株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
住所 東京都中央区日本橋人形町2-15-1 6F
〒103-0013 TEL 03-3668-0451(大代表)
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