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長谷部言人先生と働態学 Part-3 シンポジウム

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長谷部言人先生と働態学 Part-3 シンポジウム
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
人類働態学会 公開シンポジウム
「くらしの中の共生」シンポジウムシリーズ 第 12 回
シンポジウム 1: 長谷部言人先生と働態学 Part-3
シンポジウム 2: 認知症の方の運転免許証について
期日:2015 年 12 月 19 日(土)13:00~16:40
コメンテーター1、2
会場:横浜 YMCA 学院専門学校 6 階(住所・連絡先な
まとめ(14:35~14:55)
どは下記の第 44 回東日本地方会案内に記載)
真家和生/大妻女子大学
松村秋芳/防衛医科大学校
参加費:無料(懇親会は 4,500 円(学生は 2,500 円))
司会:
真家和生/大妻女子大学
松村秋芳/防衛医科大学校
プログラム
12:30
■会場受付開始
14:55~15:10■休憩
13:00
■大会長挨拶、主旨説明
15:10~16:40■シンポジウム2
名古屋和茂/横浜 YMCA 学院専門学校
認知症の方の運転免許証について
真家和生/大妻女子大学
講演(15:10~16:20)
13:15~14:45■シンポジウム1
・「主旨説明」
長谷部言人先生と働態学 Part-3
・「障害者に対する運転シミュレータの導入」
西則彦/横浜市総合リハビリテーションセンター
講演(13:15~14:05)
・「主旨説明」
・「認知予防について」
真家和生/大妻女子大学
金山桂/横浜 YMCA 学院専門学校
松村秋芳/防衛医科大学校
・「人と学問」
名古屋和茂/横浜 YMCA 学院専門学校
討論(16:20~16:40)
楢崎修一郎/生物考古学研究所
司会:名古屋和茂/横浜 YMCA 学院専門学校
・「小学校時代の日記から」
真家和生/大妻女子大学
17:30~19:30■懇親会
・「人類働態学の源流を訪ねて」
場所:華龍飯店(神奈川県横浜市中区山下町 151)
松村秋芳/防衛医科大学校
討論(14:05~14:35)
人類働態学会東日本地方会のご案内
第 44 回人類働態学会東日本地方会を下記のとおり開催いたします。積極的なご参加をお願い致します。
大会参加費:1,500 円
期日:2015 年 12 月 20 日(日)9:30~16:30
会場:横浜 YMCA 学院専門学校 6 階
〒231-8458 横浜市中区常盤町 1-7
TEL.045-641-5785(専門学校直通)
大会の時間構成
9:00 会場受付開始
大会長:名古屋和茂/横浜 YMCA 学院専門学校
作業療法科
9:30 開会・大会長挨拶
9:40~12:05 一般発表(午前 2 セッション)
連絡先:電気通信大学大学院情報理工学研究科
第 44 回人類働態学会東日本地方会事務局
水戸和幸
TEL: 042-443-5554
E-mail: [email protected]
12:05~13:30 昼休み
13:30~16:20 一般発表(午後 2 セッション)
16:20~16:30 学会事務局連絡・表彰式・
閉会の挨拶
会費(当日支払いのみ、会員・非会員共通)
-1-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
発表に関して
・発表時間は 10 分、質疑応答 4 分、入替 1 分で
す。
・発表機器はプロジェクターになります。接続ケー
ブルは Mini D-sub15 ピンです。
・プロジェクターの解像度は、XGA(1024×768)対
応となっています。
・発表用 PC は発表者各位でご用意頂くか、事務
局で準備した PC(OS は Windows 7 、プレゼン
ソフトは Microsoft Power Point 2013)をご利用
下さい。発表者は発表前のセッション開始まで
に PC 等の動作確認を行って下さい。
休憩・昼食
休憩・食事には、会場をご利用下さい。なお、今
回はお弁当の予約受付を行っておりません。会場周
辺のコンビニエンスストア、飲食店をご利用下さい。
・JR 根岸線・京浜東北線「関内駅」下車 徒歩3分
・横浜市営地下鉄「関内駅」下車 徒歩約3分
・みなとみらい線「日本大通り駅」下車 徒歩6分
アクセス・交通(図を参照して下さい)
横浜YMCA学院専門学校へのアクセス
第44回人類働態学会東日本地方会大会プログラム
2015 年 12 月 20 日(日)(会場:横浜 YMCA 学院専門学校 6 階)
9:00
■会場受付開始
10:50~12:05■第 2 セッション
9:30~9:40■開会・大会長挨拶
座長:真家和生 (大妻女子大学)
2-1 野球活動における身体障害者と健常者の精神的
9:40~10:40■第 1 セッション
健康の違いについて
座長:水戸和幸 (電気通信大学)
-POMS を用いた心理測定から-
1-1 高齢者の交通ルール違反による自転車事故
○谷田貝一男
○牧野舜・新井野洋一・中島史朗・大久保貴裕 1)、
/日本自転車普及協会自転車文化センター
山﨑昌廣 2)
1-2 交通視環境に埋没した加速・減速行動を促す手
がかりの存在に関する研究
〇髙橋雄三
2-2 大学生の児童養護施設におけるアダプテッド・ス
/広島市立大学大学院情報科学研究科
ポーツ指導実習について
1-3 ウェアラブルカメラが記録した日常交通における
○中島史朗 1)、加納裕久 2)、湯川治敏 3)、牧野舜
自転車行動と道路環境
3)、水流卓哉 3)、仲田好邦 4)、奥本英樹 5)、新井野
○高橋綱喜 1)、松田洋 2)、後藤航太 3)、酒井聖紘
洋一 3)
2)、金沢優太 4)、浮穴浩二 5)、松浦春樹・堀野定雄
6)
/1) 愛知大学地域政策学部, 2) 広島大学大学
院
/1) 愛知大学地域政策学センター, 2) 愛知県立大
学大学院, 3) 愛知大学地域政策学部, 4) 名桜大学健康科学部,
/神奈川大学工学研所テクノサークル 1)法学部, 2)工学部,
5) 福島大学経済経営学類
3)経済学部, 4)神大生協, 5) UK コンサルタント, 6)工学研究所
2-3 特別支援学校の教員における人的資源開発の
1-4 車いすから見た鎌倉の道の現状と課題
ニーズに関する研究
―”リンレコ”(自転車専用映像記録型ドライブレコー
○山田泰行 1)2)、渡邉貴裕 1)2)、水野基樹 1)2)
ダ)を取付けて判ったこと―
/1) 順天堂大学スポーツ健康科学部, 2) 順天堂大学大学院ス
○堀野定雄、小木和孝、佐伯英敏、千一、 有山誠、
西和大
/鎌倉バリアフリー研究会
10:40~10:50■休憩
-2-
ポーツ健康科学研究科
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
14:45~14:55■休憩
2-4 看護組織におけるダイバーシティマネジメントの
現状と課題
○山田泰行 1)2)、清水輝子 3)、淺野優治 3)、榎原
毅 4)、水野基樹 1)2)
14:55~16:10■第 4 セッション
/1) 順天堂大学スポーツ健康科学
座長:名古屋和茂 (横浜 YMCA 学院専門学校)
部, 2) 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科, 3) 大雄会
4-1 言語的に記憶することが困難な図形の記憶-再
第一病院, 4) 名古屋市立大学大学院医学研究科
認モデルの構築に関する研究
2-5 大学病院の看護師におけるアサーションのタイプ
○大屋梨香 1)、 髙橋雄三 2)
とコミュニケーション経路に関する研究
―行動センサによるコミュニケーション評価の技術
4-2 下腿浴における水温の違いが心拍変動等に与え
を用いて―
る影響
○高橋季子 1), 水野基樹 1)2), 山田泰行 1)2), 芳
○矢部貴大・瀬戸山祐一・野崎 悠 1)、下田政博・、
地泰幸 3), 庄司直人 1), 水野有希 4), 岡田綾 5),
曾田秀子 6)
/1) 広島市立大学情報
科学部, 2) 広島市立大学大学院情報科学研究科
植竹照雄 2)
/1) 順天堂大学大学院, 2) 順天堂大学, 3) 聖
/1) 東京農工大学農学府自然環境保全学専
攻, 2) 東京農工大学大学院農学研究院
カタリナ大学, 4) 東洋学園大学, 5) 順天堂大学医学部附属練馬
4-3 高校生女子にみられる外反母趾について
病院, 6) 順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院
○星川咲瑛・吉田蒼泉・井上妃幸・星まどか・本橋
12:05~13:30■昼休み
澪・山中美結・源田かおる 1)、棚橋信雄 2)、樋口桂
3)、松村秋芳 4)
/1) 文京学院大学女子高等学校・保健室,
2) 文京学院大学教職課程センター, 3) 文京学院大学保健医療
13:30~14:45■第 3 セッション
技術学部, 4) 防衛医科大学校生物学科
座長: 山田泰行 (順天堂大学大学院)
4-4 足趾把持力 -座位と立位-
3-1 中学・高校生の部活動に対する満足感と不満足
感に影響を及ぼす要因に関する予備的研究
○竹内京子・田代千惠美
○中島豊 1)、庄司直人 1)、岩浅巧 1)、森口博充 2)、
研究科
佐川勇太 1)、水野基樹 1)2)
/帝京平成大学・院・健康科学
4-5 質的調査法によるデザイン・コンセプト設計手法
/1) 順天堂大学大学院ス
の提案
ポーツ健康科学研究科, 2) 順天堂大学スポーツ健康科学部
○粂川美紀・堀田明裕
3-2 フォルトラインの発生状況に関する実証的研究
/概念工学研究所
○岩浅 巧 1)、庄司 直人 1)、水野 基樹 1) 2)
/1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
16:10~16:20■休憩
3-3 チームビルディングを目的としたグループワーク
がスポーツに及ぼす効果
16:20~16:30■学会事務局連絡・表彰式・閉会挨拶
-マシュマロ・チャレンジに着目して-
○高野修 1)、庄司直人 2)、水野基樹 2)3)
/1) サレジ
オ工業高等専門学校, 2) 順天堂大学大学院, 3) 順天堂大学
3-4 レジリエンス向上を支援するガイドラインを用いた
取り組みの効果
-フィットネスクラブ2店舗を対象とした事前事後試
験デザイン-
○庄司直人 1)、中島豊 1)、佐川勇太、岩浅巧 1)、
高橋季子 1)、森口博充 2)、水野基樹 2)
/1) 順天堂
大学大学院, 2) 順天堂大学
3-5 国内大型遊園地が実践する顧客満足度向上のた
めの取り組み
○大城卓也 1)、大木祐輝 1)、小菅裕麻 1)、山田泰
行 1)2)
/1) 順天堂大学スポーツ健康科学部, 2) 順天堂大学
大学院スポーツ健康科学研究科
-3-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
発表抄録
第44回人類働態学会東日本地方会
一般演題 19題
-4-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
1-1
高齢者の交通ルール違反による自転車事故
谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
1.はじめに
2-4.事故発生場所
演者は平成22年度から東京都内の高齢者(60歳以
事故発生場所を、違反者として会員・相手に分けた
上)がシルバー人材センター会員として、同センターか
ときのそれぞれの件数・割合を表3に示す。警察庁平
ら仕事を請負、勤務中並びに通勤途上で発生した自
成26年と比較して、会員に特有性は見られない。
転車事故データ755件(年齢が判明しているのは24
2-5.事故発生原因別発生件数・割合
年度から26年度までの148件)を集めて分析している。
事故発生原因を原因別に、違反者を会員・相手に分
その結果、事故発生原因を交通ルール違反による事
けたときのそれぞれの件数・割合を表4に示す。会員
故と運転操作ミス等による事故に分けたときの割合は
の違反では一時停止違反の件数・割合が、相手の違
1:2であった。
運転操作ミス等による事故状況並びに防止のための
対策についてはすでに報告した
1)2)
表1 事故相手別違反者別発生件数と割合
。今回は交通ルー
ル違反による事故266件に関して、違反内容、事故の
自動車
相手等を分析し、高齢者の自転車利用の特徴と併せ
バイク
て、事故防止のための有効な対策について検討を行
自転車
歩行者
った。
計
事故の相手
2.ルール違反による事故内容
2-1.違反者の性別・年代
バイク
自転車
性103名・女性45名)を年代別にすると人数では男性
歩行者
計
は70歳~74歳、女性は65歳~69歳が最
割合
警察庁 26年
全国の事故発
生件数割合
133件
21件
110件
2件
266件
50.0%
7.9%
41.3%
0.7%
100.0%
88.9%
5.9%
2.8%
2.4%
100.0%
会員のルール違反による事故
自動車
事故経験者のうち、年齢が判明している148名(男
件数
会員の事故
事故の相手
相手のルール違反による事故
件数
割合
件数
割合
39件
10件
52件
1件
102件
38.2%
9.8%
51.0%
1.0%
100.0%
97件
10件
46件
1件
154件
63.0%
6.5%
29.9%
0.6%
100.0%
表2 事故類型別違反者別発生件数と割合
も多い。しかし性別同年代の全会員に対す
事故原因
出会頭
左折時
右折時
追突
追越追抜
件数
60件
58.8%
2件
2.0%
13件
12.7%
5件
4.9%
5件
4.9%
57件
37.1%
10件
6.5%
27件
17.5%
28件
18.2%
18件
11.7%
割合
117件
45.7%
12件
4.7%
40件
15.6%
33件
12.9%
23件
9.0%
割合
47.0%
13.4%
11.3%
1.3%
3.7%
とする)・相手に分けたときのそれぞれの件
事故原因
すれ違い時
正面衝突
人対自転車
その他
計
数・割合を表1に示す。対自転車事故率41.
件数
8件
7.8%
7件
6.9%
1件
1.0%
1件
1.0%
102件
100.0%
8件
5.2%
0件
0.0%
1件
0.6%
5件
3.2%
154件
100.0%
割合
16件
6.3%
7件
2.7%
2件
0.8%
6件
2.3%
256件
100.0%
割合
2.0%
1.7%
6.3%
13.3%
100.0%
る割合では男性、女性いずれも65歳~69
歳が最も高い。
2-2.事故の相手別・違反者別発生件数・
会員が違反
割合
件数
相手が違反
割合
割合
事故の相手を自動車・バイク・自転車・歩
行者に、違反者を会員の高齢者(以下会員
件数
計
警視庁 26年
会員が違反
割合
3%は警察庁平成26年 3) による2.8%と比
較して極めて高い。また、会員の違反では
対自転車、相手の違反では対自動車の件
数・割合が高い。
件数
相手が違反
割合
件数
計
警視庁 26年
2-3.事故類型別発生件数・割合
表3 事故発生場所の違反者別発生件数と割合
事故発生原因を類型別に、違反者を会
員・相手に分けたときのそれぞれの件数・割
合を表2に示す。会員の違反では自転車と
の交錯時の割合が、相手の違反では自動
車・自転車による追突・追越追抜の割合が
警察庁平成26年と比較して高い。
ルール違
反者
交差点
単路
歩道
駐車場
計
件数
割合
件数
割合
件数
割合
件数
割合
件数
会員
74件
72.5%
21件
20.6%
7件
6.9%
0件
0.0%
102件 100.0%
相手
104件
67.5%
42件
27.3%
7件
4.6%
1件
0.6%
154件 100.0%
計
178件
69.5%
63件
24.6%
14件
5.5%
1件
0.4%
256件 100.0%
警視庁 26年
事故件数割合
73.4%
-5-
25.3%
割合
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
反では交差点安全進行違反・前方不注意違反の
表4 事故発生原因別違反者別発生件数と割合
件数・割合が高い。これを警察庁平成26年と比
較したときも会員の一時停止違反、相手の交差点
安全進行違反の割合は高い。
事故原
因
信号無
視
交差点
安全進
行
一時不
停止
安全不
確認
前方不
注意
通行方
法
計
件数
3件
11件
49件
13件
12件
14件
102件
割合
3.0%
10.8%
48.0%
12.7%
11.8%
13.7%
100.0%
件数
8件
55件
32件
13件
44件
2件
154件
割合
5.2%
35.7%
20.8%
8.4%
28.6%
1.3%
100.0%
件数
11件
66件
81件
26件
56件
16件
256件
割合
4.3%
25.8%
31.6%
10.1%
21.9%
6.3%
100.0%
3.4%
20.1%
11.0%
39.4%
21.7%
4.4%
100.0%
会員
3.高齢者のルール違反による事故の特有性
会員に対するアンケート調査(男性308名・女性
相手
67名)2)でも、車両・自転車・歩行者との接触・衝
突事故体験率が男女とも65歳~69歳が最も高く、
計
さらに65歳~69歳の男性で自転車運転技術が
「50歳代の頃より低下している」ことを認識してい
警察庁 26年 65歳以上
ない人ほど事故体験率が高くなる可能性をクラメ
側の横断歩道における右側通行によるもので、高齢者
ール連関係数等から推察した2)が、今回の事故データ
の特有性とは言い難い。しかし、高齢者の視野範囲の
はこの推察と一致する。
減少による周囲確認や、とっさのときの行動能力の低
事故の相手で自転車の割合が警察庁平成26年と比
下も無視できないだろう。
較して極めて高いのはシルバー人材センターという特
殊性で、すべての事故報告を義務付けていることによ
4.高齢者のルール違反による事故の防止対策
4)
る。日本自転車普及協会の調査 によると、自転車利
高齢者の自転車利用時のルール違反による事故原
用者が歩道上で歩行者との事故を起こした際に警察
因と、アンケート並びに実技の調査結果1)2)を照らし合
に届けた人の割合は6.4%に過ぎない。このことを参
わせて、事故防止対策を考える。
1.自己の運転技能、特にバランス状況に関して実
考にすると、今回の対自転車の事故割合の高さは高
技を通じて周知させる。このために曲線コースや幅30
齢者の特有性とは言えないだろう。
cm の直線コースを時速7km で走行させ、コースをはみ
事故類型別で交錯時の事故割合が高いのは、運転
出るか途中で地面に足が着くかというチェックを行う。
操作によるバランス調整の低下とハンドル操作の機敏
性の低下によると推察される。これは前出アンケート調
2.発進時のフラつきはペダル位置に関係する。実
査で運転技術の低下を実感する項目として「前から来
技調査の結果、高齢者の75%が正しいペダル位置に
る歩行者や自転車を避けようとしたときにフラつくことが
設定しないので、これを指導することで発進時のフラ
ある」が回答者の28.3%で最も高く、時速7km の直線
つきが低下し、交差点並びに自転車等との交錯時に
走行実技調査では103人の90.3%にフラつきが見ら
おける一時停止の促進につながる。
1)
れた ことで裏付けられる。また、自動車・自転車の違
3.加齢と共に視野範囲が低下することを実技を通じ
反による追突・追越追抜割合が警察庁平成26年と比
て理解させ、目線のアップを促すことが、交差点の安
較して高いのは、会員の速度が相対的に遅いことによ
全進行につながる。
ると推察される。
参考文献
事故発生原因別で、会員の違反では一時停止違反
1)谷田貝一男 「高齢者の自転車運転技能」 人類働
の48.0%は警察庁平成26年の65歳以上の11.0%と
態学会第49回全国大会 2014年
比較して極めて高い。これは事故原因の認定の差にも
2)谷田貝一男 「高齢者の加齢による自転車事故」
影響されるが、対自転車の事故率の高さにも関係して
人類働態学会第50回全国大会 2015年
いる。したがって、高齢者の停止したくないという意識
3)「平成26年中の交通事故の発生状況」 警察庁 2
の背景には、低速時のフラつき、発進時のフラつきが
015年
関係していると推察される。前出アンケート調査で運転
4)「自転車乗用環境の整備改善に関する調査事業報
技術の低下を実感する項目として「走り出すときにフラ
告書」 日本自転車普及協会 2006年
つくことがある」「止まるときにフラつくことがある」を合わ
------------ << 連絡先 >> -----------谷田貝一男
日本自転車普及協会 自転車文化センター
〒141-0021 品川区上大崎 3-3-1
電話 03-4334-7953
FAX 03-4334-7958
E-mail: [email protected]
せると回答者の36.0%に達することで裏付けられる。
また相手の違反では交差点安全進行違反が最も高
いが、その中でも特に自動車の右折時による巻き込み
と右方向からの直進時の衝突が多い。これは自転車
-6-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
1-2
交通視環境に埋没した加速・減速行動を促す手がかりの存在に関する研究
髙橋 雄三
生活道路は幹線道路と比べて交通視環境内の外乱
因子が複雑で,一意に事故に直結する原因を突き止
めることは難しい.具体的には,視対象物と交通参加
速度[㎞/h]
1.はじめに
者との間の距離が移動中に劇的に変化し,加えて,視
対象物の動きの予測が困難であることが,危険性の同
25
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
速度[㎞/h]
広島市立大学大学院情報科学研究科
空間的手がかり
反射鏡が手がかり
25
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
事故多発
事故少発
事故頻度の分類
定を難しくしている.本研究では,生活道路交差点へ
空間的手がかり
反射鏡が手がかり
事故多発
事故少発
事故頻度の分類
(a) ①-②の速度
(b) ②-③の速度
図 1:交差点接近時の速度比較
の進入行動の内,加速や減速といった交通行動に着
目し,交通視環境に埋没した安全行動を促す視覚的
た.一方,手がかりが道路反射鏡の交差点では,交差
手がかりの存在について検討することを目的とする.
点への接近から確信地点までの区間では,比較的速
く通過していたのに対し,事故少発の交差点では,予
2.方法
測地点通過後に通過速度は低下した.一方,図 1(b)よ
2-1.交通行動データの収集
1)
り,事故の多少に関わらず交差点への進入速度は,交
広島市内で「あんしん歩行エリア」 に指定されてい
2)
る 3 地域を調査対象とした.先行研究 により,交差点
差点の存在を予測させる手がかりが道路反射鏡の時
の存在を予測させる手がかりが「空間的てがかり」であ
は低速であったのに対し,空間的手がかりの時は,前
る交差点(302 箇所)と「道路反射鏡」が手がかりである
区間と比較して顕著な速度低下は観察されなかった.
交差点(76 箇所)への進入時の速度行動を分析した.
3.まとめ
調査は,自動車と自転車を用いて,交通視環境をビ
本研究で対象とした交差点は,フィールドワークによ
デオ撮影した.カメラ(HDR-CX590V,SONY)には,視
って,極端に視認性の良い交差点や問題となる死角
野角水平約 200 度,垂直約 125 度を画像内に記録で
のある交差点は除外して検討した.したがって,交差
きるレンズ(HDR-CX590V/PJ590V,SONY)を装着し
点の存在を予測してから存在を確信するまでの間の視
た.自動車では,車両中央部に設置したビデオカメラ
環境に,交通行動を変化させる何らかの情報が交通
からの映像を,自転車では自転車の前輪上部,地上
視環境に埋没している可能性が示唆された.
高 120 cm に設置したビデオカメラの映像を解析した.
5.参考文献
2-2.解析方法
自動車・自転車の加速行動と減速行動はビデオカメ
1) 広島県警察本部: あんし ん歩行エリア ( あんほ こ),
ラで撮影した映像から算出した.具体的には,交差点
http://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/torikumi.html#2-2
の存在が予測できる手がかりが映像内に現れた地点
2) 山本あゆ美:生活道路の危険性評価指標の妥当性に関
を予測地点,交差点の概要が正確に把握できる地点
する研究,第 38 回人類動態学会西日本地方会(2013).
を確信地点と定義し,①予測地点 10m 手前から予測
謝辞
地点間,②予測地点から確信地点間,③確信地点か
本研究の一部は「広島市立大学情報科学研究科共同研
ら交差点に進入する間の通過速度を算出した.
究プロジェクト:生体機能と環境のインタラクションの解明と
3.結果
その応用に関する研究」(2010-2015)の研究助成を受け
て行った.
図 1(a)には,自動車で計測した予測地点から確信
地点までの間の平均移動速度を,図 1(b)には確信地
------------
点から交差点までの平均移動速度を示す.図 1(a),(b)
ものである交差点では,事故発生の多少に関わらず,
髙橋雄三
広島市立大学大学院情報科学研究科
〒731-3194 広島県広島市安佐南区大塚東三丁目 4 番 1 号
電話 082-830-1817
全ての区間で通過速度は 25 km/h 前後で通過してい
E-mail: [email protected]
より,交差点の存在を予測させる手がかりが空間的な
-7-
<< 連絡先 >>
------------
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
1-3
ウェアラブルカメラが記録した日常交通における自転車行動と道路環境
○高橋綱喜 1)、松田洋 2)、後藤航太 3)、酒井聖紘 2)、金沢優太 4)、浮穴浩二 6)、松浦春樹 5)、堀野定雄 5)
神奈川大学工学研所テクノサークル:1)法学部, 2)工学部, 3)経済学部,
コンサルタント
4)神大生協,
5)工学研究所, 6)UK
1.はじめに
表4にまとめた。また、それぞれのリスク等級分けの参
自転車事故が増加中で社会の関心は高い。私たちは
考画像を図1に示した。そして、各調査区間で何秒に
自動車と自転車など交通弱者との共生をテーマに研
1つ、何mに1つのリスクが出現するか(リスク出現頻
究を進めている。ウェアラブルカメラを活用して自転車
度)を調べた。
目線で日常交通における危険を多数録画した。それら
交差点の環境によるリスクに関しては、交差点での動
は、車道に飛び出す雑草(植栽)、交差点環境、路上
画に絞り、その中から、(1)Y 字型交
駐車、排水溝蓋、マンホール、道路の荒れなど多種多
差点、(2)左折専用レーンがある交差点、(3)交差点
様である。
内歩道での待機時、の動画解析を行い、その中で危
今回最重要項目、植栽と交差点環境に起因する危
険な個所について考察する。
険に焦点を絞りロードバイク目線でママチャリとロード
3.結果
バイクのリスク差を比較検討した。
3-1.植栽のリスクについて
植栽のリスクについての調査(リスクの出現頻度)に
2.方法
調査方法などについては表1にまとめ、調査区間情
ついては、表5、6にまとめた。このことから、現在の道
報については表2にまとめた。ウェアラブルカメラの長
路環境には、自動車からは確認しづらい、自転車にと
所・短所は表3にまとめた。
ってのリスクが多数存在することが明らかになった。
植栽によるリスク関しては、自転車の通行を阻害する
3-2.交差点の環境によるリスクについて
(1)Y 字路交差点について
リスクで A~C に等級分けした。その基準については
Y 字路交差点での危険は、右方向直進の際につい
表1 調査方法など
表4 リスク等級判断基準
調査期間
2015/9/21~約二か月
調査人員
3 名(髙橋、松田、後藤)
使用機器
ウェアラブルカメラ
等級
(Panasonic 製)
機器使用台数
調査区間
3台(各員1台)
判断基準(白線を基準に)リスク:A>C
A
白線を超えて飛び出し
B
白線直上まで飛び出し
C
白線より歩道側に飛び出し
①環状2号線、②国道 1 号線、
①~③は表2、
③鎌倉街道
5、6とリンク
(主に神奈川県東部)
取得データ量
171.5GB(三名分)
→1GB 当たり15分の動画
リスク等級A
リスク等級B
リスク等級C
図1 植栽リスク等級分け参考画像
表2 調査区間情報
調査区間距離[㎞]
所要時間[分]
高橋①環2
12.5
29
松田②国1
4.8
19
後藤③鎌倉
25.6
75
表5 リスク出現頻度(平均出現時間)
表3 ウェアラブルカメラの長所・短所
長所
・人の目線の動きが分かる。
全体
A
B
C
28
450
54
70
②国1
41
864
144
62
③鎌倉
66
576
154
89
表6 リスク出現頻度(平均出現距離)
・高品位画質
m/個
全体
A
B
C
・速度、時刻などが一切記録されない。
①環2
158
2500
298
391
・高品位画質ゆえ、メモリ消費が激しい。
②国1
229
4800
800
343
・高性能ゆえ、電池消費量が多い。
③鎌倉
366
3200
853
492
・リチウムイオン電池内蔵式で、充電が楽
短所
秒/個
①環2
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人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
て取り上げる。Y 字路での右方向直進とは Y 字路にて
道路は全交通者が平等に使用する権利があるため、
右側の車線を通り、右方向に直進する行動である。Y
自動車目線だけでなく、自転車などの交通弱者目線
字路分岐では車道中央部に出なければ、右方向直進
で道路環境・構造を再検討することが必要である。
は不可能である(図2)。
6.参考文献
(2)左折専用レーンがある交差点について
1.道路交通法第34条第3項
自転車が、左折専用レーン付き道路で交差点の車
2.ロンドンにおける自転車道整備の取り組み(自転車
道左端を直進する場合、後ろから追越す左折自動車
レーンから構造分離自転車道への転換)
が無理な左折をしたり、横断歩道通行中歩行者を待
(http://blog.livedoor.jp/ashitanoplatform/archives/11
つ左折自動車により進路妨害される危険に遭遇、記録
096908.html) 2015.12.1 閲覧
した(図3)。
------------
(3)交差点内歩道での待機時について
<< 連絡先 >>
------------
堀野 定雄
神奈川大学工学研究所
〒221-8686 横浜市神奈川区六角橋 3-27-1
TEL:045-481-5661(内線 3641、事務室 3631)
携帯電話:090-2404-4370
E-mail : horino@kanagawa-u.ac.jp
自転車は現行の法律1では 2 段階右折が義務付けら
れているため、歩道での待機が発生する。交差点内歩
道は歩行者、自転車にとっての交差点でもあり、様々
な方向からの通行があるため、その中での待機は非常
に危険である(図4)。
4.考察と改善策の提案
4-1.植栽のリスクについて
ママチャリの場合、子供を乗せた状態で植栽に衝突
すると、子供の顔面に植栽が当たり、負傷のリスクが、
ロードバイクの場合、速度が速く植栽への衝突によっ
図2 Y 字路分岐
て負傷のリスクがある。植栽リスクの軽減には剪定が一
図3 左折専用レーン
番であり、市民と道路管理者と連携で改善策を検討す
るのが得策と考える。
4-2. 交差点の環境によるリスクについて
(1)Y 字路交差点について
Y 字路交差点右方向直進はロードバイクの場合、車
図4 交差点内歩道待機 図5イギリスの交差点モデル
の流れに乗るように速度を上げれば、リスクを承知の上
可能であるが、ママチャリでは荷物の積載や構造上の
問題から速度が上がらないため、不可能である。そこ
で、図5のイギリスの交差点モデル2を参考に図6のよ
うなデザインを提案する。
(2)左折専用レーンがある交差点について
左折専用レーンではドライバーのエゴ(速度の遅い
ママチャリを甘く見る)や判断ミス(速度が速いロードバ
イクへの認知遅れ)によって、自転車のリスクが生じる
場合が多い。そこで、このようなリスクを解消するために
図7のようなデザインを考えた。
図6 Y 字路の新提案
図7 左折専用レーンの
デザイン
新提案デザイン
(図6,7の説明)①の自転車用信号が青の時、②の自
動車信号を赤にする。⇒自転車の道路横断の時間が
でき、右方向直進、直進が可能となる。交通量に応じ、
①は押しボタン式にする。
(3)交差点内歩道での待機時について
図8 交差点一段階右折の
新提案デザイン
自動車右折専用信号点灯
と同時に自転車が右折を
行う。自転車通行スペース
を確保するため、交差点中
央には信号と連動したボラ
ード(ポール)を設置する。
※図6、7、8内の斜線部は自転車道
交差点内歩道での待機は、2 段階右折を無くすこと
が一番の解決策と考えた。そこで図8のようなデザイン
を提案する。
5.結論
今回の調査結果から現在の日本の道路環境では、
自転車が安全に通行できることが難しいことが言える。
-9-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
1-4
車いすから見た鎌倉の道の現状と課題
―”リンレコ”(自転車専用映像記録型ドライブレコーダ)を取付けて判ったこと―
○堀野定雄、小木和孝、佐伯英敏、千 一、有山 誠、西 和大
鎌倉バリアフリー研究会
1.目的
自然のバリアーに恵まれ幕
府がおかれた中 世 首 都 鎌 倉
は年間 2000 万人来訪者であ
ふれる人 気 の国 際 観 光 都 市
となった。リピーター増を期待
するなら東京ディズニーランド
並 みユニバーサルデザイン
化は必須でこの 10 数年着実
に成果は上がっている。中で
も鎌倉の道はその中核である。
今回、会員の常用車いすに”
リンレコ”(自転車専用映像記
録型ドライブレコーダー)を装
図1 左:千市議リンレコ調査ルート 1.3km(自宅ー市議会)。電動車椅子で
20 分 。 2015-6-10 ( 水 ) 、 09:00-09:30 。 右 : 有 山 さ ん リ ン レ コ 調 査 ル ー ト
1.7km、足動車椅子で 90 分。2015-7-4(土)、11:00-12:30。
表1 電柱のバリアフリー度別分布(本数)
電柱
リ
リ 度別分布(本数)
着、通勤路と代表的観光路を通行、記録映像を分
BF度
道ルート
析して評価した。
2.方法
B F ラ ン ク
合計
A
B
C
今小路1.3km(千宅ー市議会)
8(26%)
14(45%)
9(29%)
31(100%)
鎌倉駅周回(市役所前ー六地蔵
ー下馬-駅前)1.7km
11(19%)
41(71%)
6(10%)
58(100%)
A:車椅子にやさしい。宅地内設置で車椅子走行を妨害しない。
B:車椅子にやさしい。側溝蓋より内側、隅切り内に設置。
C:車椅子の通行を妨害する。歩道と車道の境界に設置。はみ出し設置。
”リンレコ”は自転車専用映像記録型ドライ
ブレコーダーとして米国で開発(2012)、台湾で
生産、ネット通販で調達した。単 4 電池 2 個で
駆動する小型装置で映像、音声、GPS 位置情報、
速度が同時記録できる優れものである。これを
装着した車いすで通勤路今小路 1.3km(自宅-鎌
倉市議会、千会員電動車いす)と鎌倉駅周回路
1.7km(駅西口-市役所前-六地蔵-下馬-駅入口
-JR 線地下通路-駅西口、有山会員足動車いす)
を通行、道の使い易さを検証した(図1)。リン
図2 電柱のバリアフリー(BF)度 A の実例
レコ記録では日常性維持を配慮、千会員記録時
は会員 1 人が後ろ、有山会員記録時は会員 2 人
が前後に随伴、通行状況をデジカメビデオ記録
した。更に、研究会主催第 11 回鎌倉バリアフリ
ーシンポジウム 2015 参加者が映像を見てグル
ープ討議し鎌倉の道を深堀りした。
3.結果と考察
車いすリンレコ映像分析で興味ある事実を発
見した。即ち、従来の自動車用ドライブレコー
図3 電柱のバリアフリー(BF)度 A の実例
ダー分析と比べ視点高(車いす:地上 0.5m、自
映像分析で気付いた主な判明点は、①道幅、
動車 1.2m)と速度(車いす:3-5km/h、自動車
路面傾斜角度、カーブ変化度、②意味不鮮明な
30-70km/h)が異なると、見え方が変わる、見え
多様な路面マーク白線数(0、1、2)と設置側(左、
るモノが変わる、気になる事も変わる事である。
右)やカラー、③多数のマンホール蓋(今小路
-10-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
で 102 枚)、特に黄色枠で囲った消火栓用(7 枚)
道路属性や性能特徴の「見える化」ツール”リ
が目立つが全て路面と整合し滑らかで車いす走
ンレコ”低速記録画像の有効性確認は顕著な成
行にやさしく完璧、④雨水用側溝蓋の構造とデ
果である。リンレコ活用の展望が確認出来た。
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ザインはほぼ 100%車いす走行にやさしい、⑤
堀野 定雄
神奈川大学工学研究所
〒221-8686 横浜市神奈川区六角橋 3-27-1
電話:045-481-5661(3641)
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路肩の段差有無(ある方が少ない)、⑥狭い道で
の交通量分布の粗密:追越車/対向車/自転車/
歩行者。特に市役所前交叉点では千会員が反対
側歩道を目指して横断し始めたところへ後方か
ら青信号目指し接近中乗用車とニアミス、鎌倉
駅東口小町通り入口付近は観光客で混雑が激し
く有山会員は数分間立ち往生、人の流れが絶え
るのを待つ経験をした。
⑦路肩の歩道/車道境界に設置した多くの電
柱は車いす走行にはバリアーである。バリアフ
リー(BF)度を A、B、C で分類した。BF 度分
図4 電柱のバリアフリー(BF)度 B の実例
布(表1)で判るように両調査ルートで電柱
31-58 本の 19-26%は BF 度 A の好事例、45-71%
は B(図4)で車いす通行にやさしいことが判
った。好事例 BF 度 A は宅地内(図2)や隅切
り内設置(図3)である。改善を要する BF 度 C
は 15 本(17%)
(図5)で意外に少ない。ただ、
1 本でも車いす走行には大変な妨害でその負担
感は大きく印象に残る。電柱の地下化促進も視
図5 電柱のバリアフリー(BF)度 C の実例
野に入れた関係者奮起で好事例の水平展開で近
未来更に良くなる展望が持てた。表2 鎌倉の道バリアフリー化:グループワーク成果 N:25
グループ討議では歩道幅、障
属性
項目
害物としての電柱に関心が集中
道幅
したが、狭い道で多様な交通者
路面状態
が互譲精神で安全担保している
側溝蓋
指 摘 内 容
現状の肯定面を共有できた収穫
は大きい(表2)。交叉点で暴走
車よけに設置された安全ポール
良
い
点
が車いすにとって障害物化して
電柱
人の心:
譲り合い
リアフリーを達成する困難性を
狭い中
での工夫
努力
実感した。0~2 本に分布する路
当事者参加
いる 2 面性も指摘され、真のバ
面白線数やカラーの意味が判る
歩道幅
と交通共生が促進すると思われ
た。
4.結論
鎌倉の道は狭くて難問も多い
が工夫と努力により車いす通行
にやさしい要因が多数確認でき
た。電柱設置好事例が多数確認
でき改善方向が定量的に見えた。
要
改
善
点
障害物=
安全策の
両面性
電柱改善
植栽管理
人の心
交通方式
問題解決
の進め方
・若宮王路、市役所周辺、御成小学校周囲の歩道幅は広い。・ポケットパー
ク空間も良い。
狭くても歩車道の区分白線や色分け、段差なく平らで車椅子にやさしい。
・良くできている。・BF配慮がある。・溝幅が狭い。・道路と隙間なくしっかり
固定している。・ガタがなく車椅子が通り易い。・排水用格子も車両や車椅
子の円滑な走行に役立っている。
・1本の電柱が多くの関係機関とつながっている事がよく判った。・歩道より
内側設置の車椅子にやさしい良い例が多い。もっと増やす。・狭くて電柱が
ある分、車は譲り合わないと通れないので速度抑制できる。
・北鎌倉駅から建長寺へ参拝した時、鎌倉学園生が歩道をよけて歩いてく
れた。・狭いので歩行者が譲り合う事が多い。・停まってくれる車が多い。
・狭い道、限られた空間で車、歩行者が譲り合い何とか通行している。
・狭いながらも、歩道色分けや段差も少ないなど工夫が見られる。・歩道が
なくてもガードレールがなければ広く通れる。・古い町をUDの町、BFの町に
しようとしている。・古いものを活かし、出来る所からUD、BFを取り入れよう
としている。・10年前に比べたら良くなった。
・有山さんのチャレンジ精神。
・狭さは鎌倉の特徴であり良い点でもあるがUD観点から改善が必要。・歩
道幅を均一化する。・歩道を広くする。・歩道幅は最低でも車椅子幅は欲し
い。・車椅子が円滑に移動できる歩道幅確保。・歩車分離を。・もっとBFを
増やしてほしい。・歩道確保。特に思い切った歩道部分のカラーコントロー
ル。・狭い歩道、不連続な歩行者空間改善(道路拡幅は非現実的だ)。
・至る所にある車よけポールは逆に危険で邪魔、電柱も。・安全対策が車
椅子に障害となる事も、市役所前交叉点のポールは典型例。・歩車道境目
段差は歩行者保護用だが車椅子には危ない。・歩道自体とても狭いところ
(犬一匹通るくらい)がある。・歩道の広さと段差、勾配が気になる。
・電柱が邪魔。・設置位置を総点検し内側移動を検討する。・電柱の配置再
検討。・電柱地中化は?・地下化怠け。・見えないところにバリアーあり。・
市役所ー六地蔵方面は歩行者も車も通行し難い。電柱改善は急務。
・電柱、標識の整理。配置ルール化。・電柱をもう少し車道側へ寄せる。
・植え込み:一般の家庭人にも気付いて貰うことは出来る。
・心のバリアー格差あり。・車椅子の方を助ける声かけ人がいない。
・今小路:対面通行から一方通行へ転換する。時間で分ける。
・1つの問題について同じ方向を向いて話し合うことが大事。・体験して初
めて大変さや苦労改善点が判る。・この様な取組み広報が必要である。
-11-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
2-1
野球活動における身体障害者と健常者の精神的健康の違いについて
-POMS を用いた心理測定から○牧野舜 1)、新井野洋一 1)、中島史朗 1)、大久保貴裕 1)、山﨑昌廣 2)
1)愛知大学地域政策学部, 2)広島大学大学院
1.緒言
った。統計的有意水準は 5%未満とした。
スポーツ活動の目的は、記録や技術の習得やストレ
健常者試合前
障害者試合前
10.0
ス解消の手段、仲間との交流など多様である。障害者
9.0
8.0
POMS得点
7.0
の場合も、健常者と同様であるが、それ以外には医学
6.0
5.0
4.0
3.0
的リハビリテーションの一環としての目的もある。
2.0
1.0
0.0
内田他(2003)は身体障害者にとっての運動・スポー
健常者試合後
ツ参加は身体的側面だけでなく、心理的・社会的側面
障害者試合後
9.0
8.0
へも大きな役割を果たしているとされてきた。しかし、全
POMS得点
7.0
体的には身体的側面に焦点が当てられてきたことも事
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
実であるが、Henschen 他(1992)の研究等、身体障害
0.0
者における運動・スポーツ活動の隆盛に伴い、軽視さ
図.試合前後の両者 POMS 得点(上、前、下、後)
れてきた心理学的側面の認識が高まってきている。
本研究は、野球の試合前後における心理状態を把
3.結果及び考察
握し、精神的健康という観点から身体障害者と健常者
POMS での結果を試合前後でグラフ化した。試合前
との比較を行い、身体障害者のスポーツ活動の振興
では両者ともに精神的に健康であると言われる「氷山
につながる基礎的資料を得ることを目的としている。
型」を示し、試合後では障害者のみ「氷山型」を示した。
2.方法
両者の試合前後での POMS の値を t 検定で行い、統
2-1.調査対象者・調査期間
計的有意差を出した結果は、T-A(p<0.05)、D(p<0.01)、
調査対象者は、健常者(A:大学軟式野球部員、B:大
学ゼミ野球チーム員、C:大学職員野球チーム員)44 名
A-H(p<0.01)であった。すべての値において障害者が
低い値を示した。
(平均年齢 25.2±7.1 歳)と障害者(D:県障害者野球チ
障害者では 5 つの否定的感情のうち 4 つの否定的
ーム員、E:県障害者野球チーム員)20 名(平均年齢
感情が試合後で低下しているが、健常者では 1 つの
37.3 歳±16.5 歳)である。
否定感情のみが低下しており、この差が有意差
調査期間は、2015 年 7 月~9 月である。
(p<0.05)を出した要因であろう。両者の POMS スコアは
2-2.調査方法
試合結果等も影響していると考えられるが、健常者の
集合調査により、フェイスシートの記入してもらった
試合結果は 2 勝 1 敗で Peter 他(1995)と一致し、試合
後、POMS 短縮版を用いて試合前と試合後に調査を
結果に値が左右されている。しかし、障害者の結果は
実施した。さらに 障害者の調査対象者に対しては、
1 勝 1 敗であったが、勝敗に左右されずに値が変化し
上記に加え、ADL(Activities of Daily Living)の調査を
ていた。図のように、試合前後において障害者は氷山
実施した。ADL は、高齢者や障害者の身体能力や障
型を示しており、試合前のみの健常者と違い、精神的
害の程度を測る重要な指標となっている。ADL 能力
健康であることが明らかになった。
については、Barthel Index(以下 BI と略す)を使用した。
以上のことから、野球をすることは精神的に良い影
今回の調査対象者の平均得点は、95.5±5.7 であった。
響を与えており、障害者の方々に野球をする楽しさや
この結果は、障害者の中でも日常生活動作能力が高
きっかけを伝えていくことで障害者のスポーツ活動の
い人が、野球をしていることが分かった。
振興につながると考えられる。
------------
2-3.統計処理
<< 連絡先 >>
------------
用いて試合前後の間で対応のある t 検定を行った。健
牧野舜
愛知大学地域政策学部地域政策学科健康・スポーツコース
豊橋体育研究室〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町 1-1
電話 0532-47-4180
FAX 0532-47-4151
常者と障害者の比較は独立したサンプルの t 検定を行
E-mail: [email protected]
データは、平均値±標準偏差で示した。運動による
感情の変化への影響を見るために、統計ソフト SPSS を
-12-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
2-2
大学生の児童養護施設におけるアダプテッド・スポーツ指導実習について
○中島史朗 1)、加納裕久 2)、湯川治敏 3)、牧野舜 3)、水流卓哉 3)、仲田好邦 4)、奥本英樹 5)、新井野洋一 3)
1)愛知大学地域政策学センター, 2)愛知県立大学大学院, 3)愛知大学地域政策学部,
4)名桜大学健康科学部, 5)福島大学経済経営学類
1.はじめに
由は一人ひとり違うが、見た目ではその子がなぜ養護
アダプテッド・スポーツとは、身体障害・知的障害・身
施設に入っているのかということは分からない。その中
体能力及び年齢などにとらわれず、ルールや用具を
で自分たちが実習を通して子どもたちに楽しんでもら
工夫してその人に適合させて行うスポーツである。社
えたということはとても良かったのではないかと思う。園
会においてアダプテッド・スポーツを行う場面では専門
長先生が、子どもたちの笑顔がたくさん見ることができ
的知識を有していることが求められる。2020 年東京パ
てよかったとおっしゃっていたが、子どもたちにはそう
ラリンピックの開催に向け日本障害者スポーツ協会で
いった機会が少なく、だれかと触れ合うということが改
も「日本の障害者スポーツの将来像」を策定するなど
めて重要であると感じた。今後もゼミなどを通じてこうい
障害者スポーツ指導員がこれからのビジョンにおいて
った児童養護施設で子どもたちと触れ合っていけたら
重要な役割を担っていくと考えられ、人材の育成及び
子どもたちだけでなく自分たちにもプラスになることが
指導者の資質向上が求められている。
多いと思った実習であった。また、園長先生が、子ども
高等教育機関における、障害者スポーツ指導員認
たちの笑顔がたくさん見ることができてよかったとおっ
定校は平成 26 年度現在、四年制大学(中級 24 校、初
しゃっていたが、子どもたちにはそういった機会が少な
級 57 校)、短期大学 18 校、専門学校 71 校の 170 校
く、だれかと触れ合うということが改めて重要であると感
であった。その中におけるアダプテッド・スポーツ指導
じた。今後もゼミなどを通じて、子どもたちと触れ合って
実習内容は、障害者スポーツ大会ボランティアが多数
いけたらお互いにラスになることが多いと思った。
を占めていた。そこで本研究は、「指導技術の習得」に
このような感想から、児童養護施設でスポーツ指導
着目して児童養護施設で実施した指導実習の経緯及
することは、1.アダプテッド・スポーツ指導技術の習得
び評価について報告する。
が自然と図られている。2.子ども達が率直に指導内容
について反応するため改善点が見いだせる。3.実習を
2.方法
通して大学と地域の福祉施設と良好な関係を築ける。
T 市にある児童養護施設Y施設に在籍している年少
から小学校 6 年生の児童を対象とし、2015 年 5 月 23
日土曜日及び 6 月 6 日の計 2 日間実施した。その内
容は、大学生が4グループに別れて,レクリエーション
ということが示された。
4.結論
障害者スポーツ指導員の実習としてスポーツ大会ボ
ランティア参加が多くの高等教育機関でなされている
及びアダプテッド・スポーツを計画して指導した。
が,このように子ども達に指導するという方法も有効な
3.結果と考察
各班対象年齢別に応じたプログラムを実施し、身体
障害者を対象とした手を使わない風船リレーからシッ
ティングバレー、じゃうけん列車から視覚障害者のサウ
ンドテーブルテニス等子ども達が関心を持つように工
手段として活用できることが明らかとなった。また、本プ
ログラムを次年度以降継続していく上での改善点や要
望等についても多様な意見が出された。その主な内容
は、年齢に応じたスポーツプログラム内容、子どもとの
コミュニケーション等である。これらをふまえ、今後の活
夫がされていた。
大学生からスポーツ指導に関して、障害者スポーツ
のサポート等をする際に必要な注意点や準備が必要
であると感じた。障害者を安全にサポートするための
理解や協力者の人数等その状況にあった対応が必要
であると分かった。また指導するだけでなく子どもの考
えを尊重することがレクリエーションやスポーツ指導に
おいて参加意欲や効率の良い実習につながった。
児童養護施設における実習について、入所した理
-13-
動に活かしていく予定である。
------------
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------------
中島史朗
愛知大学 地域政策学センター
〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町 1-1
愛知大学豊橋体育研究室
電話 0532-47-4180
FAX 0532-47-4151
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人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
2-3
特別支援学校の教員における人的資源開発のニーズに関する研究
○山田泰行、渡邉貴裕、水野基樹
順天堂大学スポーツ健康科学部・順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
1.はじめに
発達障害をはじめとする病理の変遷、情報化や契約
う研修と、それと理論的背景や考えをリンクさせるような
化などの社会の変遷に伴い、特別支援学校の教員に
体の使い方がわからないとケガにつながるし、何から
求められる資質、知識、技術は多様化している。その
練習すればいいのかわからない」、「小学部、中学部、
ため、現職教員研修の受講や特別支援学校教諭免許
高等部が連携をとるためのホウレンソウ(報・連・相)研
状の取得、小・中学校等の教員養成カリキュラムにお
修をやった方がいい」といった声が聞かれた。Hall の
ける特別支援教育の促進が急務となっている。これら
理論に基づけば、知識、スキル、能力の改善を目的と
の試みは、経営学領域において「人的資源開発」と呼
する“タスク学習”の短期間研修へのニーズが高いと考
ばれ、企業の従業員に対する効果的な教育訓練や能
えられる。人間的な成長を目的とする“人的学習”のニ
力開発の手法を理論化してきた。教育機関の特性は
ーズは低かったが、特別支援ではタスク学習の研修で
企業とは異なるとはいえ、これらの研究成果を援用す
も人的学習の要素をかなり含むという意見が多かった
ることで高いパフォーマンスを実現できる可能性がある。
(障害者支援のタスク学習をうけたあとは人間的成長も
そこで本研究は、特別支援学校における効果的な人
感じることが多い)
的資源開発に貢献するため、Hall の理論に準じて次
3-2.特別支援学校教員における教員研修参加行
の 2 点を明らかにする。
動の促進要因
研修があるといい」、「体育系の研修をやってほしい。
目的1:特別支援学校教員がどのような啓発活動(本
3 名の教員から 4 種類のエピソードを収集した:「学
研究では教員研修)を求めているのかを明らか
校の代表として参加した公開研修の事例」、「保護者
にする。
の要請により参加した重複障害研修の事例」、「教員
目的2:特別支援学校教員の啓発活動(本研究では教
のモチベーションを高めるために参画したモラールア
員研修)への参加行動を促す要因を明らかに
ップ研修の事例」、「校長にすすめられて参加した長
する。
期研修の事例」。これらの事例をもとに作成した特性要
2.方法
2015 年 1 月から 3 月にかけて特別支援学校の現職
因図は、教員研修参加行動の促進要因として 3 要因
教員 3 名を対象とした半構造化インタビュー調査を行
水準以上のキャリア)、②職場要因(職場の慣例、職場
った。インタビューの時間は 1 名あたり 60 分から 90 分
からのサポート、研修制度の整備、職場からの期待、
程度である。特別支援学校教員がどのような教員研修
保護者からの期待、管理職者からの指名)、③研修要
を求めているのかを明らかにするための主なインタビュ
因(参加型・体験型研修、研修の身近さ、研修の評判、
ー項目は次のようなものである:「今後、どのような教員
専門性の高さ、研修の内容)。以上の結果より、教員研
研修に参加したいですか」、「どのような教員研修であ
修の参加行動を促す上で個人要因、職場要因、研修
れば参加したいと思いますか」。特別支援学校教員の
要因にアプローチすることは有効と考えられる。まずは
教員研修への参加行動を促す要因を明らかにするた
経験させてみるという意味では、「職場の慣例」や「管
めの主なインタビュー項目は次の通りである:「これま
理職者からの指名」も有効なアプローチといえる。
で参加した中で最も良かったと思う研修について教え
【謝辞】
てください」、「それはどのような経緯で参加しましたか」。
インタビューによって得られたナラティブデータは特性
要因図にまとめることによって、教員研修への参加行
を抽出した:①個人要因(課題への直面、性格、一定
本研究は順天堂大学スポーツ健康科学部の学内共
同研究資金の助成を受けたものです。
------------
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山田泰行(Yasuyuki YAMADA,Ph.D.)
順天堂大学 スポーツ健康科学部 (同大学院)助教
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(内線 354)
FAX 0476-98-1011(代)
E-mail:[email protected]
動を促す要因を検討した。
3.結果と考察
3-1.特別支援学校教員が求める教員研修
インタビューを通して、「実技や実践や実証するとい
-14-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
2-4
看護組織におけるダイバーシティマネジメントの現状と課題
○山田泰行 1,2)、清水輝子 3)、淺野優治 3)、榎原 毅 4)、水野基樹 1,2)
1)順天堂大学スポーツ健康科学部, 2)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科,
3)大雄会第一病院, 4)名古屋市立大学大学院医学研究科
1.はじめに
近年、看護組織にも「ダイバーシティマネジメント
人種・民族の 5 点である。その中で看護領域が最も課
(DM)」が適用されるようになった。すなわち、「働く人
師の人材開発による看護組織のパフォーマンス向上
の多様性」や「働き方」の多様性(ダイバーシティ)を積
が課題となっている。調査を行った医療機関では、職
極的に受容することによって、組織全体のパフォーマ
場内の誰もが「男性も女性も関係ない」と語る成熟した
ンスを高めようとする試みが展開されつつある。一方で、
組織風土が形成されていた。管理職者が「やる気に応
先行研究を概観すると看護領域のダイバーシティの関
じて誰にでも昇進のチャンスがある」と語ったように、男
心はパートタイム労働や男性看護師に向けられている。
性看護師の管理職者割合も比較的高かった。このよう
そこで本研究は、看護組織に見受けられるダイバーシ
な良好事例を積極的に発信する必要がある。
ティを明らかにし、今後の課題を考察する。
題視してきた のは「④ジェンダー」であり、男性看護
本研究が確認したダイバーシティのカテゴリは⑥看
護役割、⑦雇用形態、⑧ライセンス、⑨性格特性、⑩
2.方法
2-1.対象者
障害、⑪福利厚生の 6 点である。その中で、最も大き
インタビュー調査の対象者は女性看護師の管理職
な課題として語られたのが「⑥看護役割」である。明確
者2名、男性看護師の管理職者1名、男性看護師1名
な区分があるわけではないが、看護師は臨床現場で
の合計4名であった。40 分程度のインタビューを行っ
看護業務を実践し続ける臨床看護師と、臨床現場から
た。
離れて看護教育を実践する教育看護師に分かれてい
2-2.インタビュー項目
く傾向があるという。これまでの体制では臨床現場を熟
インタビューを通して看護組織にどのようなダイバー
知した教育看護師と看護理論を熟知した臨床看護師
シティが見受けられるか、さらに、それらを受け入れる
を育成することは難しいと語った。従って、臨床看護師
職場風土がどの程度醸成されているかを質問した。
と教育看護師が互いに尊重し、連携しながら看護を進
3.結果
インタビュー調査が明らかにした看護師組織に想定
されるダイバーシティ分類は主に次の 11 種類である。
めていくことが今後の課題といえる。
「⑨性格特性」も看護組織が対応してきたダイバー
シティであった。調査した医療機関では、看護師の会
話の不器用さ、攻撃性の高さ、物覚えの悪さ、引きこも
①在職期間:若手、中堅、ベテラン、等
り傾向、などの性格特性に対し、人材配置による対応
②経歴:役職、臨床経験、他院の勤務経験、学歴、等
を行っていた。会話が不器用な看護師は研究活動の
③年齢:年齢、世代の違い
割合を高くし、学習が遅い看護師には特定の患者と長
④ジェンダー:女性看護師、男性看護師
期的に関わらせるといった対応がみられたが、このよう
⑤人種・民族:人種そのものよりも言語の壁
な良好事例の発信・共有も重要な課題といえる。
⑥看護役割:教育看護師、臨床看護師
【謝辞】
⑦雇用形態:夜勤専従、日勤専従、パートタイム、等
⑧ライセンス:看護師、保健師、准看護師、助産師、認
定看護師、等
本研究は JSPS 科研費 15K16177 の助成を受けたも
のです。
⑨性格特性:会話の不器用さ、攻撃性の高さ、物覚え
の悪さ、引きこもり、等
------------
⑩障害:障がいの有無、障がい者雇用、等
⑪福利厚生:託児利用、育児休暇、等
4.考察
先行研究が示した一般的なダイバーシティのカテゴ
リは①在職期間、②経歴、③年齢、④ジェンダー、⑤
-15-
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山田泰行(Yasuyuki YAMADA,Ph.D.)
順天堂大学 スポーツ健康科学部 (同大学院)助教
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
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FAX 0476-98-1011(代)
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2-5
大学病院の看護師におけるアサーションのタイプとコミュニケーション経路に
関する研究 ―行動センサによるコミュニケーション評価の技術を用いて―
○高橋季子 1), 水野基樹 1)2), 山田泰行 1)2), 芳地泰幸 3), 庄司直人 1), 水野有希 4), 岡田綾 5), 曾田秀子 6)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学, 3)聖カタリナ大学, 4)東洋学園大学,
5)順天堂大学医学部附属練馬病院, 6)順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院
併行して、質問紙調査を実施した。アサーション
1.はじめに
近年、看護組織において、コミュニケーションの
タイプの特定には Rathus Assertiveness Schedule
活性化を促進する目的で、適正な自己表現を可能に
日本語版(4つの下位尺度:AS/NA/AG/PA)を用い
するアサーティブ・コミュニケーションが注目され
た(渋谷、2007)。
ている。アサーティブとは「自分の権利も尊重しな
2-3.分析方法:
がら、自信を持って無理なく自分の思いを表現する
1)質問紙回答の各アサーションタイプ得点を3
コミュニケーション能力」であり、アサーションの
つのレベル(high:, middle, low)に分類。2)行動
4つのタイプの1つである。看護組織内のコミュニ
センサで得た指標と各アサーションタイプ別に何
ケーションは、そのアウトカムが患者の健康に直結
らの特徴または傾向があるか検討。3)A、B病棟
する重要事項であるが故にアサーションとコミュ
を比較し共通点および相違点を検討した。
ニケーションの先行研究は数多く存在する。しかし
ながら、その多くは質問紙・インタビュー・ビデオ
等が主流であり、実践的なコミュニケーションとの
関連は科学的に明らかになっているとはいえない。
したがって本研究の目的は、看護組織のコミュニケ
ーションを行動センサ(wearable sensing device)
によって客観的・包括的に把握し、得られたコミュ
3.結果
3-1:各看護師の1日平均コミュニケーション量と各ア
サーションタイプ得点別比較
AS・PA タイプのみに特徴的な結果を得た。A、
B病棟とも AS 得点の高い看護師のコミュニケーシ
ョン量はその組織の中で中程度に集中した(図2)。
ニケーションの量や回路がアサーションの4タイ
プ(アサーティブ:AS・ノンアサーティブ:NA・アグ
レッシブ:AG・パッシブアグレッシブ:PA)と何らか
の関連や特徴があるか調べることである。
2.方法
2-1.対象者
首都圏の大学病院2施設、それぞれ1病棟ずつ調
査。A病院 (精神科病棟)30 名の看護師、B病院
図2.各看護師平均コミュニケーション時間/day:AS 得点
(High, Middle, Low.)
しかし、PA 得点で見てみると、得点が高いA病
棟看護師のコミュニケーション量は多いのに対し、
(産科病棟)助産師・看護師 26 名(それぞれ管理者
B病棟では明白にグラフの少ない位置に集中し、逆
3名を含む)
の結果となった(図3)。
2-2.調査方法
1)行動センサによるコミュニケーション測定:
MIT の研究グループ開発の行動センサ技術を製品
化した(株)日立テクノロジーズ社製の電子バッジ
・赤外線装置(ビーコン)を使用。この方法でA、
B病棟それぞれ2週間測定を行った(図1)。
図3.各看護師平均コミュニケーション時間/day:PA得点
(High, Middle, Low.)
さらに、対象組織の中で、A、B病棟とも管理者
のコミュニケーション量は多く、また、アサーショ
ンタイプとコミュニケーション量とに明らかな関
図1.行動センサの測定方法
連はないことも共通していた。
-16-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-2:コミュニケーション経路とアサーションタイプと
さらに、A,B病棟ともに管理者のコミュニケー
の関連
ション量の多いことについては、水野ら(2015)も
コミュニケーション経路の 120 分区分(図4)と
「管理業務を担う看護師は、病棟内外でのコミュニ
各アサーションタイプとの関連では、B病棟の AS
ケーション活動に大きな影響を与えていることが
にのみ特徴的な結果を得た。それ以外は2病棟全て
確認された」と報告しているように、看護管理者の
のアサーションのタイプとコミュニケーション経
課業の多くはコミュニケーション活動によって実
路との関連は認めなかった。特徴的な結果を示した
践されるため、看護管理者のコミュニケーション時
B病棟における AS のコミュニケーション経路には、 間はアサーションのタイプ以上に業務そのものの
AS 得点の高い看護師、低い看護師同士に強い繋が
影響を強く受けていると推察される。
りがあった(図5)。
コミュニケーション経路の結果については、B病
棟の AS 得点の高い看護師同士、低い看護師同士の
繋がりが強かった。この1点において、コミュニケ
ーション経路に明確な特徴があるように見えるが、
この領域の実証研究は萌芽的段階にあり比較対象
図4.コミュニケーション時間によるコミュニケーション経路
がないため、現在の段階での考察は難しい。今回の
実証研究においてアサーションタイプ、特に AS 得
点と対人コミュニケーションとに特徴的な結果を
見ることができた。しかし、現在のところ量的な研
究にとどまっており、まだこれら結果の要因に迫る
に至っていない。このビッグデータの意味を探るに
は同様の研究方法で数多くの看護組織を対象に調
査する必要がある。
5.結論
図5.B 病棟 (産科病棟)コミュニケーション経路 120 分/day
と AS 得点
1)アサーションタイプと看護組織のコミュニケー
ション時間、及び、コミュニケーション経路に
4.考察
アサーションは自己表現の方法であり、そのタイ
プによってコミュニケーションのスタイルも変化
するといわれている。本研究は行動センサにより看
は何らかの関連があることが確認された。
2)看護組織のコミュニケーションとアサーション
を検討する際、AS が鍵になる可能性がある。
護組織のコミュニケーションを測定し、その指標と
主要参考文献
各看護師のアサーションタイプを合わせて検討し
平木典子(2002).ナースのためのアサーション.
金子書房
Mizuno, Motoki(2015). Behavioral Sensor-Based
Organizational Design and Management in
Japan: From the Perspectives of Communication
Channel in Nursing OrganizationProceedings
19th Triennial Congress of the IEA, Melbourne
Pentland, Alex(2013).正直シグナル.みすず書房
渋谷菜穂子(2007).看護師を対象とした Rathus
Assertiveness Schedule 日本語版の作成.
日本看護研究学会雑誌,Vol.30, No.1, 79-88 頁
た。その結果、AS 得点の高い看護師はコミュニケ
ーションに多くの時間を費やしていない(少なくも
なく)という比較的明確な結果を得た。「相手も自
分も大切にしながらさわやかに自己表現できる」AS
得点の高い看護師は組織内で効率的に対人コミュ
ニケーションを取っている可能性がある。AS 得点
の上昇に伴い、看護師個人や看護組織が「時間の捻
出」という恩恵を受ける可能性がある。また、2病
棟間で反対の結果になった PA 得点の高い看護師の
コミュニケーション量については、A・B病棟それ
------------
ぞれに比較的はっきりとした傾向がみられている
ことから、対象病棟の構造、看護体制・方式、対象
病棟の特性などが結果に影響しているかを調べる
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高橋季子
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士前期課程
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(代)
FAX 0476-98-1011
E-mail: [email protected]
必要があるだろう。
-17-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-1
中学・高校生の部活動に対する満足感と不満足感に影響を及ぼす要因に関する
予備的研究
○中島豊 1)、庄司直人 1)、岩浅巧 1)、森口博充 2)、佐川勇太 1)、水野基樹 1)2)
1)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科, 2)順天堂大学スポーツ健康科学部
1.はじめに
め、「ものすごく嫌だった」ときのことの回答を求めた。
部活動と学校生活の満足感との間には、角谷
両問ともに自由記述形式であった。また複数思いつく
(2001)などが指摘するように密接な関係がある。部活
場合はすべて回答することを求めた。
動に対する満足感が学校生活の満足感に影響するこ
2-3.分析方法
とが示唆されており、部活動に対する満足感が重要な
満足・不満足要因を分析するため、ハーズバーグら
意味を持つ。中学・高校生の部活動における部員の
の提唱する 16 の要因の定義をもとに、組織学を専攻
満足感・不満足感に関する理論的な枠組みはない。
する大学院生 3 名で、その意味を可能な限り損なわな
しかし産業・組織心理学の分野においては、ハーズ
いよう十分に注意しながら、16 要因の「部活動版定義」
バーグによって、従業員の職務満足と職務不満足に
を作成した。ただし、「対人関係」については「監督との
対して影響する要因は根本的に異なることを明らかに
関係」「部員との関係」の二種類としたため、全部で 15
した「動機づけ-衛生理論」が提唱されている。
要因(Motivation-Hygiene 15 Factors for Students in
そこで本研究では、中学・高校生の部活動において
も、部員の満足要因・不満足要因は異なるという仮説
を設定し、「動機づけ-衛生理論」の視点から、両要
Extracurricular Activities、以下「M-H15Fs」とする)と
なった。
分析の手順としては、第一に、「部活動版定義」に従
い、組織学を専攻する大学院生で、満足・不満足要因
因解明のための予備的調査を行うことを目的とした。
ごとに、エピソードを 1 つずつ検討していき、カテゴリー
2.方法
分けした。そのうち、日本語がおかしい、エピソードとし
2-1.調査対象者
千葉県 Y 市において、2015 年 10 月 17、18 日に行
われた産業イベントに来場した中学・高校生 96 名(表)
を対象に質問紙を用いて調査した。質問紙は直接配
布・回収した。回答者が質問紙に記入できる状態でな
かった場合は、適宜受け答えを補助し調査を行った。
中学生
男
文化部
女
男
女
足要因、あるいは不満足要因として挙げているかを調
べるため、全対象者数に対する M-H15Fs に含まれる
ついては部活動独自の要因と考え、再度検討して分
合計
類し、新しくラベルをつけた。
0
2
20
2年 6
11
0
1
18
3 年 15
12
0
5
32
1年 5
4
3
1
13
2年 2
4
0
5
11
3年 2
0
0
0
2
39
3
14
96
高校生
8
40
象とした。第二に、M-H15Fs を、全対象者の何割が満
どの要因にも該当しないものが存在したため、それに
1 年 10
合計
エピソード(満足要因 157/不満足要因 126)を分析対
エピソード数の割合を、各要因ごとに算出した。また、
表 対象者の属性
運動部
て短すぎるなど、判断がつかないものを除いた 283 の
3.結果
全体の 97%が M-H15Fs のうちのいずれかに含まれ
た(図)。満足要因は、「達成(74%)」がもっとも多く、
「承認(30%)」「成長(22%)」「部活そのもの(10%)」が
続いた。一方、不満足要因は、「監督技術(36%)」がも
っとも多く、「部員との関係(19%)」「部活の方針と管理
(16%)」が続いた。また、「部活そのもの(満足要因
(10%)/不満足要因(10%)」「部員との関係(満足要
2-2.調査内容
質問紙は校種・学年・性別・現在及び過去の部活動
因(16%)/不満足要因(19%)」は両要因に影響した。
所属の有無・所属部活動を回答するフェイスシート、及
それ以外では、満足要因に「責任(2%)」「給与(報
び部活動に対する満足・不満足感の要因解明に関す
酬)(1%)」「個人生活(1%)」が、不満足要因に「監督
る質問で構成された。後者は 2 問構成で、1問目は満
との関係(3%)」「作業条件(3%)」がそれぞれ含まれ
足要因を探るため、部活動中「とてもうれしかった」とき
た。また、「昇進」「身分」「保障」の 3 つに関しては、該
のことの回答を求めた。2 問目は不満足要因を探るた
当するものがなかった。
-18-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
的な活動内容が不満足を招きやすいと考えられる。
「部員との関係」が両要因に影響したことは、孤独を
避け、友人関係を重視する思春期中学・高校生の傾
向が表れた結果といえるだろう。彼らにとって重要で、
繊細な問題である人間関係は、今後の研究において
も大きな意味を持つに違いない。
不満足要因
新しくラベルを付けた要因は少ないものの、「怪我」
満足要因
のようなスポーツ独自と考えられるものや、「他者の達
成」「他者の未達成」のような同一視的要素を含む要
因のほか、「動機づけ-衛生理論」で説明できない要
因があった。このことから、同理論が本来対象とする企
(%)
業に所属する人間とは諸々の面で大きく異なる中学・
図 満足要因と不満足要因の内訳
高校生は、満足・不満足感において彼ら独自の要因を
また、M-H15Fs に該当しなかったデータについて、
分析した結果、満足要因では「周囲からの応援」「他者
持つことが推察される。
5.結論
の達成」「他校の生徒との交流」が、不満足要因では
本研究における結論は、以下の 4 点である。
「怪我」「先輩の未達成」「参加義務を果たさない部員」
1)部活動自体が好きであることや、部活動において
「周りの気遣いによる自責の念の増長」が成立した。該
自らが成長し、何かを成し遂げること、及びそれに対
当するデータ数はいずれも 3 以下であった。
する承認・賞賛行為が、部員の満足感を高める。
2)顧問教師の指導方法や、それと深く関係する部活
4.考察
「給与(報酬)」「個人生活」が満足要因に含まれると
動の方針が自分の考えと異なる場合、及び変化の
いう仮説と異なる結果が多少は出たものの、全体的に
ない活動内容が、特に強く部員の不満足感を招く。
は、おおむね「動機づけ-衛生理論」を支持する結果
3)友人関係を重視する思春期の子供にとって、対人
となった。これは産業・組織心理学の分野のみならず、
部活動というまったく異なる場でも同理論が適用できる
可能性を示した点で、現場に立つ顧問教師の指導方
法に対して、重要な示唆を与えたといえる。
関係は満足感や不満足感に影響を与えやすい。
4)部員の満足・不満足感に対して影響を与える要因
には、部活動特有の要因が存在する。
6.今後の展望
満足要因の中でも、「達成」「承認」「成長」が多いこと
283 のデータのうち、M-H15FC に含まれなかったも
から、部員が自らの実力を発揮する機会を持ち、そこ
のについては、今後の調査と合わせて、十分に検討の
で一定の成果を上げること、そしてそれに対して周囲
余地がある。また、本研究は調査対象者が少数であり、
が積極的に褒めることが、満足感を高めると思われる
かつ Y 市のみで行った調査であるため、今後は対象
(水野、2012)。
者を増やした他地域での調査を実施する必要がある。
不満足要因の中では、「監督技術」が多く、中でも
「顧問が部員を平等に見ない」「顧問の理不尽な怒り」
また、中学・高校生、競技レベル、運動・文化部などに
よる差異の検討も、課題として残った。
などが多いことから、顧問教師の部員に対する指導の
不公平さや、意味のない叱責・厳しい罰は、部員の不
満足感を高めやすい。また、「部活の方針と管理」に該
当したものが、顧問教師に関係するものが多かったこ
とから、部活動においては「顧問教師の考え=部活動
の方針」となる傾向が強いと考えられる。
両方の要因に影響したものに関して、「部活そのも
の」については、部活動で行うスポーツ競技や文化活
動自体に満足感を覚えている者がいる一方で、「練習
がつまらない」と回答している者もいた。このことから、
実践的な練習や試合を組むなどの変化に欠けた常軌
-19-
7.主要参考文献
1.角谷詩織「部活動継続者にとっての中学部活動の意義 : 充実
感・学校生活への満足度とのかかわりにおいて」『心理學研究』
第 72 巻、第 2 号、2001 年、79-86 頁。
2.フレデリック・ハーズバーグ著、北野利信訳「仕事と人間性 動機
づけ-衛生理論の新展開」 東洋経済新報社、1968 年。
3.水野基樹「スポーツから学ぶ部下の育成方法―褒めて伸ばす?
叱って伸ばす?―」 労政事報Web版、2012 年、 総 4 頁。
------------
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中島豊
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
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人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-2
フォルトラインの発生状況に関する実証的研究
○岩浅 巧 1)、庄司 直人 1)、水野 基樹 1) 2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
1.はじめに
2-2.調査および分析方法
価値創造に向けた人材の多様性 (ダイバーシティ)
以下の項目から構成される質問紙を使用した。
を活かしたマネジメントのニーズが表出している。経済
①フェイスシート (性別、年齢、業種、職種など)
産業省 (2015) は「多様化した市場で価値創造を目
②フォルトラインの発生に属性が及ぼす影響の程度
指すには、多様な人材の能力を最大限活用することが
③フォルトラインの発生状況
不可欠であり、異なった分野の知識、経験、価値観が
①では性別、年齢、居住地、業種、職種、企業・組
衝突・融合することで新たな価値創造につながる」とし
織規模、勤続年数、雇用形態、家族構成の回答を求
て、人材と働き方の多様化の推進が必要としている。
めた。②の分析ではフォルトラインの発生に属性が及
ダイバーシティの流れは企業組織以外においても注
ぼす影響の程度について、先行研究で言及されてい
目されている。たとえば、医療現場では、医療に従事
る、ダイバーシティを構成する個人の持つ属性のなか
する多様な医療スタッフが各々の高い専門性を前提
から、20 の属性を選別し (表 1)、「あなたの所属する職
に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに
場・部署・チームで同じグループのなかに別のグルー
連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療
プができてしまうなど、目に見えないグループ化や壁
を提供するチーム医療が注目されている。
が起きてしまう原因について、以下の項目がどの程度
しかしながら、競争優位の源泉として多様性を活か
影響していると思いますか?今グループ化がある場合、
すダイバーシティマネジメントが米国で誕生してから約
または今後起こりそうな場合を含めて、お考えに近いも
30 年が経ち、その効果に疑問符が付く。水野 (2013)
のを選択してください」との質問に対して、「1-影響しな
はテレワークなど働き方の多様性に対する運用体制が
い」から「4-とても影響する」までの 4 件法で、③では②
不十分な場合、職場のコミュニケーション不足などの
の属性に基づき実際に現職場でフォルトラインが発生
機能不全を引き起こす可能性を指摘する。ダイバーシ
しているかどうか、「フォルトラインあり」か「フォルトライ
ティの効果が必ずしも一貫しないのはなぜか。理由の
ンなし」をチェックする方法で、いずれも自記式または
ひとつとして、 Lau & Murnighan (1998) により提唱さ
他記式で回答を求めた。
れたフォルトライン (faultlines) という概念がある。フォ
表1. 本調査で使用した属性
関係性/⼈⼝統計関連
ルトラインとは「ひとつのグループ (チーム、組織) を、
ひとつ以上の属性に基づいて、サブグループに分割
表層的
する仮想の分断線」とされる。
フォルトラインはダイバーシティの成果を最大化する
ために留意しなければならないキーファクターである。
しかしながら、フォルトライン研究のほとんどは欧米で
深層的
行われており、欧米とは文化的背景を大きく異にする
わが国での研究蓄積は乏しい。そこで、わが国におけ
仕事関連
年齢
勤続年数
性別
役職
⼈種・⺠族
雇⽤形態
家族構成や家庭状況
働く場所
出⾝地域
専⾨領域
パーソナリティ
⾎縁関係
キャリアアンカー
仕事へのコミットメント
健康状態
コミュニケーションスタイル
競技経験
学習スタイル
仕事に関するの知識・スキル
ワークエンゲイジメント
るフォルトラインの発生に影響する属性を明らかにする
ことを目的に、本研究に着手した。
3.結果
2.方法
(1)回答者の基本属性
回答者は女性より男性が多く、合計 132 名のうち男
2-1.調査および分析対象
就労者を対象に、2015 年 9 月 18 日に、東京都心部
性が 122 名 (92.4%) を占めた。居住地は東京都 78 名
にある駅周辺の街頭にて質問紙調査を行った。135 名
(59.1%) が一番多く、次いで神奈川県 21 名、千葉県
から質問紙を回収し、回答に欠損が多かったものを除
15 名、埼玉県 14 名が続いた。平均年齢は 38.9 (±
いた 132 名 (男性:122 名、女性:10 名) の質問紙を最
9.8) 歳、最年少 21 歳、最年長 58 歳であった。平均勤
終的な分析対象とした (有効回答率 97.8%)。
続年数は 11.0 (±9.5) 年、最短 10 ヶ月、最長 40 年
であった。役職者は 78 名 (59.1%) であった。内訳は
-20-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
主任/リーダクラス 20 名、係長クラス 11 名、課長クラス
項目の質を高める目的で、回答者からの感想やコメン
19 名、部長クラス 22 名、事業部長クラス以上 6 名であ
トを直接ヒアリングできるよう、調査員が回答者に付き
った。業種は金融業が一番多く 24 名 (18.1%)、次いで
添う、街頭での質問紙調査法を採用した。回答者の少
サービス業 22 名、情報通信業 13 名、製造業 11 名、
なさや回答者属性の偏りなどの課題が残った。また、
運輸業 11 名が続いた。職種は営業職が多く、99 名
「フォルトライン」の用語の解釈を回答者間で統一させ
(75.0%)、次いで技術職 13 名、クリエイティブ職 9 名が
ることに困難を伴った。説明文章には回答者のイメー
続いた。雇用形態は正社員が 120 名 (90.9%)、派遣社
ジが湧きやすい例示を用いるべきなど、今後の研究に
員やパートタイムは 12 名であった。家族構成は夫婦と
向けての重要な知見を得られた。
子供がもっとも多く 53 名 (40.2%)、次いでひとり暮らし
表 2.
フォルトライン (FL) の発生状況と影響の程度
FLあり
37 名、夫婦二人 19 名が続いた。
FL影響度
n
%
1-4
SD
年齢
42
32.3%
2.07
1.07
性別
47
35.9%
2.04
1.09
⼈種・⺠族
8
6.1%
1.66
1.01
家族構成や家庭状況
13
9.9%
1.42
0.78
示した。属性がフォルトラインの発生に及ぼす影響の
出⾝地域
32
24.6%
1.73
1.05
職場での⾎縁関係
26
19.8%
2.02
1.22
全体平均は 2.07 (±1.16)であった。平均より大きかっ
勤続年数
57
43.5%
2.25
1.14
役職
61
46.9%
2.30
1.19
雇⽤形態
51
38.9%
2.29
1.17
仕事へのコミットメント
68
51.9%
2.63
1.20
コミュニケーションスタイル
49
37.4%
2.11
1.12
(2)フォルトラインの発生に属性が及ぼす影響の程度
表 2 にフォルトラインの発生に及ぼす影響の程度を
たものは、仕事へのコミットメント 2.63 (±1.20)、次いで
仕事の専門領域 2.54 (±1.19)、仕事に関する知識・ス
キル 2.50 (±1.15)、パーソナリティ 2.41 (±1.17)、雇用
形態 2.29 (±1.17)、勤続年数 2.25 (±1.14)、役職 2.30
(±1.19)、ワークエンゲイジメント 2.32 (±1.16)、コミュ
ニケーションスタイル 2.11 (±1.12) が続いた。
(3)フォルトラインの発生状況
表 2 にフォルトラインの発生状況を示した。「フォルト
ラインあり」とする回答が多かったものが、仕事の専門
領域 (57.3%)、次いで性格 (54.2%)、仕事へのコミットメ
ント (51.9%)、仕事に関する知識・スキル (48.9%)、役
職(46.9%)が続いた。回答が少ない (フォルトラインの
発生が少ない)ものは人種・民族 (6.1%)、次いで健康
状態 (7.6%)、家族構成や家庭状況 (9.9%)、スポーツ
などの競技経験、テレワークなどの働く場所 (いずれも
16.8%) が続いた。
4.考察
調査結果から、わが国において、なんらかのフォルト
ラインを就労者の約半数 (57.3%) が知覚していること
が明らかになった。また、フォルトラインへの影響度上
位 9 属性は「フォルトラインあり」とする上位 9 属性と合
致した。つまり、知覚しているフォルトラインの発生要因
となる属性ほど、その影響の程度も大きい傾向がある
ことがわかった。さらに注目すべき点としては、仕事関
連の属性がフォルトライの発生要因の上位を占めてい
たことである。これは、関係性/デモグラフィック関連の
属性のように見た目で判別しやすい属性ほどフォルト
ラインを強めるとする先行研究の結果とは異なった。
5.今後の課題
本研究は、フォルトラインの発生要因に関する実証
調査としては国内初の試みであった。そのため、質問
-21-
テレワークなどの働く場所
22
16.8%
1.85
1.12
パーソナリティ
71
54.2%
2.41
1.17
仕事に関する知識・スキル
64
48.9%
2.50
1.15
キャリアアンカー
39
30.2%
2.06
1.12
学習スタイル
39
30.0%
2.14
1.14
仕事の専⾨領域
75
57.3%
2.54
1.19
スポーツなどの競技経験
22
16.8%
1.52
0.85
健康状態
10
7.6%
1.42
0.75
ワークエンゲイジメント
55
42.0%
2.32
1.16
⼩ ⼤
6.参考文献
Horwitz, S.K., & Horwitz,I.B. (2007). The effects
of team diversity on team outcomes: A
meta-analytic review of team demography.Journal
of Management,33, 987-1015.
Joshi, A., & Jackson S. E. (2003). Managing Workforce
Diversity to Enhance Cooperation in Organizations.
In M. A. West, D. Tjosvold & K. G. Smith (Eds),
International Handbook of Organizational
Teamwork and Cooperative Working: Wiley.
経済産業省 (2015). 平成 26 年度 ダイバーシティ経
営企業 100 選 ベストプラクティス集, 経済産業政
策局 経済社会政策室.
Lau, D. C., & Murnighan, J. K. (1998). Demographic
diversity and faultlines: The compositional
dynamics of organizational groups. Academy of
Management Review, 23, 325-340.
水野基樹 (2013). モバイル端末と職場コミュニケーシ
ョン. 労働の科学. 68, 653-657.
谷口真美 (2005). ダイバシティ・マネジメント 多様性
をいかす組織.白桃書房.
Williams, K. Y., & O' Reilly, C. A. (1998). Demography
and diversity in organizations: A review of 40 years
of research. Research in Organizational Behavior,
20, 77-140.
------------ << 連絡先 >> -----------岩浅 巧
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
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人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-3
チームビルディングを目的としたグループワークがスポーツに及ぼす効果
- マシュマロ・チャレンジに着目して -
○高野修 1)、庄司直人 2)、水野基樹 2)3)
1)サレジオ工業高等専門学校,
2)順天堂大学大学院, 3)順天堂大学
1.はじめに
対象者は、東京都内の高等専門学校に在籍する 3
最近、学校教育現場において生徒・学生相互のコミ
学年の男子学生 24 名である。全対象者が情報工学科
ュニケーションを深め、目的意識を統一し連帯感を持
に在籍し、平成 27 年 4 月より同一の学級で授業に取り
たせることをねらいとして、グループワークを実践する
組んでいる。人間関係の構築状況としては、学級内の
取り組みが多く見られる。この取り組みは、学校運動部
学生の顔と名前がまだ一致しきらない者が多く存在し、
活動組織においてもチームビルディングとして部員相
まとまりのある様子が見られない程度である。
互のコミュニケーション能力を高めるために取り入れら
対象者は 6 人ずつ 4 チームの編成でバスケットボー
れているようになってきている。土屋(2004)によると、チ
ルの授業に取り組んでいるが、半数の 2 チーム 12 名を
ームビルディングの手法において、グループワークは
MC 実施群とし、残りの半数を未実施群とした。
組織風土に働きかける間接的なアプローチの1つとし
2-2.調査方法
て、リーダーシップ機能・コミュニケーションスキルの向
MC 実施群・未実施群ともに体育授業内において、
上を目指すとしている。そのプログラムにおいて、近年
バスケットボールにおけるパスに特化したルールを定
では企業・学校をはじめあらゆる組織や集団において
めた簡易ゲームと、正規のルールに基づいたゲームを
「マシュマロ・チャレンジ(以下 MC とする)」が取り入れら
それぞれ 1 試合ずつ 6 分間のみ行わせた。1 週間後に
れている。鈴木(2014)によると、この MC はアメリカのデ
MC 実施群のみ授業開始前にチーム単位でパスタ・マ
ザイナーである Peter Skillman によって考案され、短時
スキングテープ・紐・マシュマロを用いて 18 分間で塔を
間でタワーを作る作業を通じて参加者同士が打ち解け
建てる MC に取り組んでもらい、その後の授業では再
あうアイスブレイキング的な目的を持つとしている。現
度両群とも同様のゲームを実施した。ゲームはすべて
在では世界中で広く実践され、チームビルディングに
MC 実施群と未実施群間での対戦とし、SONY 社製
おける代表的なツールになったといっても過言ではな
HDR-CX560 を用いてビデオ撮影を行った。MC の実
い。実際、運動部活動をはじめとしたスポーツ組織に
施によって、両群間でコミュニケーションやゲームパフ
対しても、手軽に行えることから研修の一環で用いられ
ォーマンスに変化が生じるか、パスの総本数・成功本
ているケースを多く見かける。しかし、その効果につい
数・失敗本数ならびに発話数について比較し、MC の
ては太幡(2014)が大学生に対し実施した報告があるも
内省報告も分析対象としながら観察を行った。
のの、スポーツ組織に対する効果を検証した例は散見
調査は、平成 27 年 10 月から 11 月の間に東京都内
の高等専門学校にて実施された。
される程度である。
本研究では、MC がスポーツチームにポジティブな影
響を与えるかどうかを検証するため、チームスポーツで
重要な要素となる「コミュニケーション」と「パス」の関係
に着目し、MC がスポーツに有益なグループワークとな
3.結果
MC 実施時の状況においては、対象となった 2 チー
ムとも定められたルール内でタワーを完成させることが
できなかった。各個人により記入された「ふりかえり」の
るか確認を行うことを目的とする。
内容をまとめると、半数の学生が自分の思うように制作
に加われず、またチーム全体の雰囲気も良くはなかっ
2.方法
2-1.調査対象
自分の行動に対する評価
チームの 雰囲気に対する評価
日頃から継続して競技活動に取り組んでいる運動部
活動のチームでは、すでにある程度の人間関係が構
築され技能レベルも高まっており、MC の実施による即
時的な変化の確認は期待しにくい。そこで、チームが
48%
52%
「和やかだった」
「一体感が持てた」
というポジティブな
意見
「話し合えてなかっ
た」「欲をかきすぎ
た」といったネガ
ティブな意見
「楽しめた」「貢献
できた」といったポ
ジティブな意見
50%
50%
「意見が言えな
かった」「不器用
だった」というネガ
ティブな意見
結成されたばかりのタイミングで相互の人間関係も希
薄な状態にあるチームを対象とすべく、体育授業で限
図 1 MC 実施時の参加者自身のふりかえり(n=12)
たというネガティブな意見を述べており(図 1)、MC がチ
定的に結成されたチームを対象とした。
-22-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
ーム成員全員に対してポジティブな効果を与えたとは
100%
判断しにくい結果となった。ゲームにおけるパフォーマ
90%
80%
ンス(表 1・2)の変化については、パス総本数・パス成功
70%
数は MC 実施群の方が若干高かった。しかし、パス失
50%
60%
40%
敗数は MC 未実施群の方が減少した。いずれの項目
30%
20%
においても有意差は認められなかったが、ゲーム中の
10%
発話数は有意差が見られた(t(6)=2.62,p<0.05)(図 2)。
0%
実施前
表 1 MC 実施群のパス・発話データ
チーム
種別
マシュマロチャレンジ実施群
パス
総本数
成功
失敗
実施前
23
18
5
実施後
43
36
7
増加率
87%
100%
40%
実施前
40
37
3
実施後
26
22
4
増加率
-35%
-41%
33%
実施前
36
24
12
実施後
23
16
7
増加率
-36%
-33%
-42%
実施前
22
13
9
実施後
36
24
12
増加率
64%
85%
33%
項目
簡易
ゲーム
A
正規
ゲーム
簡易
ゲーム
C
正規
ゲーム
チーム
種別
簡易
ゲーム
B
正規
ゲーム
簡易
ゲーム
D
正規
ゲーム
実施前
実施後
MC未実施群
図 3 両群間のパス成功率の変化(n=4)
成功率
78%
84%
6
93%
85%
-8
67%
70%
3
59%
67%
8
発話数
パスの成功率については両群とも上昇傾向を示し、
3
6
100%
6
5
-17%
4
7
75%
2
4
100%
特に MC 未実施群の方がパス成功率が上昇する結果
となった。このことからも、パフォーマンスの変化は MC
と関連することは考えにくく、ゲームを重ねたことによる
競技技能の向上によるところが大きいと思われる。
5.結論
表 2 MC 未実施群のパス・発話データ
マシュマロチャレンジ未実施群
パス
項目
総本数
成功
失敗
実施前
41
30
11
実施後
37
26
11
増加率
-10%
-13%
0%
実施前
31
21
10
実施後
42
35
7
増加率
35%
67%
-30%
実施前
39
27
12
実施後
41
37
4
増加率
5%
37%
-67%
実施前
52
40
12
実施後
56
46
10
増加率
8%
15%
-17%
実施後
MC実施群
成功率
73%
70%
3
68%
83%
15
69%
90%
21
77%
82%
5
本研究では、グループワークに基づくチームビルディ
ングの実施により、チーム内のコミュニケーションを促
発話数
進させようとする働きかけがスポーツ場面におけるパフ
7
1
-86%
10
5
-50%
10
3
-70%
7
10
43%
ォーマンスに結び付くかどうかを検証した。その結果、
以下の結論が得られた。
①結成して間もないスポーツチームに対するチームビ
ルディングを目的としたグループワークの実施は、ゲー
ム中のコミュニケーションを促し、ボールを多く回すこと
に繋がる可能性がある。
70%
②コミュニケーションの増加がスポーツのゲームにおけ
50%
る即時的なパフォーマンスの向上に結び付くことは期
30%
待しにくい。
10%
‐10%
パス総本数
パス成功数
パス失敗数
6.今後の課題
発話数
今回の調査のみではサンプル数が少ないため、上
‐30%
記の結論を得るための根拠としては乏しい。継続して
‐50%
*
MC実施群
MC未実施群
調査することによって、より頑健な科学的根拠を示す
*p<.05
必要がある。特に、チーム分けの部分でバイアスにな
図 2 両群間のパス・発話の増加率の比較(n=4)
パスの成功率については両群間で有意差は認めら
れなかったが、今回の調査においては MC 未実施群
の方が成功率が向上する結果となった(図 3)。
る要因が存在すると思われるため、各学生の運動歴や
スポーツへの意欲、社交性を踏まえたチーム分けによ
る調査が求められる。
すでに女子学生に対し同様の調査を開始しているが、
上述の課題を踏まえて質の高い科学的根拠を得たい
4.考察
MC の実施により、一部の学生についてはゲーム中
と考えている。
------------
にチーム内でコミュニケーションを取ろうとする動きが
増え、結果的にパスの本数が MC 未実施群に比べて
増加傾向を示す可能性が示された。しかし、パスの精
度を向上させるほどの効果が得られることは考えにくく、
またシュートをはじめとした他の技能におけるパフォー
マンスの変化を期待することは難しいと推察される。
-23-
<< 連絡先 >>
------------
高野修
サレジオ工業高等専門学校 一般教育科
〒194-0215 東京都町田市小山ヶ丘 4-6-8
電話 042-775-3020(内線 367)
FAX 042-775-3112
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人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-4
レジリエンス向上を支援するガイドラインを用いた取り組みの効果
-フィットネスクラブ2店舗を対象とした事前事後試験デザイン-
○庄司直人 1)、中島豊 1)、佐川勇太、岩浅巧 1)、高橋季子 1)、森口博充 2)、水野基樹 2)
1)順天堂大学大学院, 2)順天堂大学
1.はじめに
近年、キャリアを主体的にデザインするうえで、職務
に関連するストレスや困難な出来事に打ち勝つ力の必
要性が唱えられ、その鍵概念のひとつとしてレジリエン
スが挙げられている。加えて、そのレジリエンスを高め
るために職場全体で取り組む仕掛けが必要だとされて
いる(水野, 2014)。それは、フィットネスクラブの従業員
にとっても例外ではない。そして、フィットネスクラブを
対象とした従業員のレジリエンスの向上を支援するガ
イドラインが開発された(庄司, 2015)。しかしながら、そ
表1 サンプルの属性
A店
B店
合計
人数(人)
10
8
18
男性
5
3
8
女性
5
5
10
平均年齢 (SD)
32.1 (8.5) 31.1 (10.4) 31.7 (9.4)
平均勤続年数 (SD)
5.4 (4.1) 5.0 (5.2) 5.4 (4.6)
職種
インストラクター
4
4
8
受付業務
4
3
7
総合職・事務職
2
1
3
雇用形態
正規雇用
2
4
6
契約社員
1
2
3
アルバイト
7
2
9
の効果については未だ検証されていない。そのため、
本研究では、フィットネスクラブ2店舗を対象に、そのガ
対象店舗
A店
B店
イドラインを用いた取り組みの効果を事前事後試験デ
打ち合わせ
ザインで検証することを目的とした。
事前評価
2.方法
2-1.対象者
本研究では、レジリエンスの向上を支援するガイドラ
ガイドライン
運用
店舗責任者と打ち合わせ
16名(有効回答)
19名(有効回答)
ガイドラインを用いた取り組み
(A店:1か月間、B店:3か月間)
インを用いた取り組みを行うフィットネスクラブ2社の各
1店舗の 18 名を対象者とした(表1)。
事後評価
2-2.調査内容
レジリエンスの向上を支援するガイドラインをフィット
10名抽出
8名抽出
9名除外
5名除外
(事前評価不参加)
(事前評価不参加)
図 本研究の流れ
ネスクラブの2店舗で運用し、その前後でレジリエンス
およびハーディネスの評価を質問紙法にて行った
く、第二種の過誤が起こりやすいデータと考えられる。
(図)。対象店舗では、ガイドラインからレジリエンスの
そのため、現場の取り組みの効果を評価する指標とし
向上のために取り組む項目を2つまたは3つを店舗の
てその効果の大きさ示す効果量(r)を算出した。
状況に応じて選択し、A 店は 1 か月間、B 店は3か月間
選択した取り組みを店舗マネージャーを中心に推進し
た。外部のファシリテーターは置かずマネージャーを
3.結果
対象店舗で得た事前事後テストのデータを用い、対
応のある t 検定を行いその効果量を算出した。その結
中心に従業員間での取り組みであった。
レジリエンスおよびハーディネスの評価には、二次元
レジリエンス要因尺度(BRS)(平野, 2010)、ハーディネ
ス尺度(多田, 2003)を用いた。
果、レジリエンスを構成する7因子のうち、自己理解
(r=.13)と他者心理の理解(r=.23)で小程度の正の効果
を示す効果量が示され、一方で楽観主義(r=.13)は小
程度、統御力(r=.25)、問題解決力(r=.46)は中程度の
2-3.分析方法
負の効果があったことも示された(表2)。そして、ハー
本研究では、ガイドラインを用いたレジリエンス向上
の取り組みを2店舗の従業員から得たデータを解析の
対象とし、対応のある t 検定を行った(SPSSver.21)。本
研究ではサンプルサイズが小さく、統計学的根拠を示
す際に通常考えられる5%の有意水準にこだわらなか
った。サンプルサイズが小さく有意差が検出されにく
-24-
ディネスについても同様に分析を行った結果、コミット
メント(r=.11)、コントロール(r=.19)については小程度の
正の効果がみられ、チャレンジ(r=.50)については大き
な負の効果があったことが示された(表3)。
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
Resilience
Innate
Factor
Acquired
Factor
Hardiness
表2 Resiliene Paired t-test
Mean
t
Pre (SD) Post (SD)
楽観主義
12.6 1.8 12.3 1.9 .544
統御力
12.4 1.9 12.1 1.6 1.065
行動力
11.7 2.4 11.8 2.0 -0.12
社交性
11.4 2.4 11.4 2.5 -0.12
問題解決力
12.5 1.5 11.4 2.1 2.162
自己理解
11.2 2.3 11.4 2.2 -.544
他者心理の理解 11.8 2.0 12.3 1.7 -.987
表3 Hardiness Paired t-test
Mean
t
Pre (SD) Post (SD)
Commitment
19.6 3.8 19.89 2.7 -0.476
Control
18.4 3.8
19
4.0 -0.782
Challenge
22.1 2.7 20.39 2.6 2.370
df p-value
17
17
17
17
17
17
17
.954
.302
.907
.909
.045
.594
.337
df p-value
17
17
17
.64
.45
.03
95%CI
下限 上限
-0.64 1.08
-0.33 0.99
-1.04 0.93
-1.07 0.96
0.03 2.09
-1.08 0.64
-1.57 0.57
r
0.1
0.3
0
0
0.5
0.1
0.2
95%CI
r
下限 上限
-1.81 1.14 0.11
-2.05 0.94 0.19
0.19 3.26 0.50
がある可能性が示された。
4.考察
まず、問題解決力、自己理解、他者心理の理解は
5.結論
BRS において獲得的レジリエンス要因とされている(平
本研究の結果から、レジリエンスの向上を支援する
野, 2010)。これは、変化が起こり得る要因であることを
ことを目的に開発されたガイドラインを用いた取り組み
示しており、これらの 3 因子に正負かかわらず、何らか
の効果の有無を判断するのは拙速であろう。サンプル
の変化が出たことは妥当な結果と言えるのではないだ
サイズの問題もさることながら、頑健な科学的根拠を得
ろうか。BRS の資質的レジリエンス要因の楽観主義、統
られるリサーチデザインによる検証の蓄積が必要であ
率力にネガティブな小程度の効果が示された。本来は
る。そうした状況にあるものの以下の示唆を得ることが
生得的な要因であり、それほど変化が起きやすい要因
できた。1)ガイドラインを用いた取り組みは、部分的に
ではない。この結果については、本調査の事前テスト
正負両面の効果を従業員のレジリエンスおよびハーデ
における2店舗間のデータが報告されているが、 A 店
ィネスにもたらす可能性がある。2)レジリエンスの向上
と B 店の間で生得的レジリエンスに Cohens’d=0.8 と極
を支援することを目的に開発されたガイドラインである
めて大きな差があった(庄司, 2015)。このデータも加
が、ハーディネスの向上にも貢献する可能性がある。
味して考察すると、一方の店舗に平均への回帰が起き、
その影響が本研究の結果のバイアスになっているとも
考えられる。
本研究では、レジリエンスの評価尺度に BRS を用い
た。BRS が用いられた理由は、BRS がライフイベントに
左右されにくい安定性のある尺度であることを示す研
究成果が蓄積されていることであった(平野, 2010)。ガ
イドラインを用いた取り組みの効果を検証する際に、そ
の取り組みの効果なのか、それとは関係のないライフ
イベントによる効果なのか判断する必要を極力小さく
するためであった。その安定性が担保された BRS によ
ってレジリエンスを評価した結果、効果の大きさは小程
度から中程度であったものの、そもそも安定性が高くそ
れほど大きな数値的変化が見込めないなかで、何らか
の効果が示唆されたことには一定の評価ができる。とり
わけ、資質的レジリエンス要因の行動力と社交性には
ほとんど何らの効果もない可能性を読み取ることがで
き、獲得的レジリエンス要因の「問題解決力」、「自己
理解」、「他者心理の理解」のいずれにも何らかの効果
-25-
引用文献
平野真理(2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的
要因の分類の試み-二次元レジリエンス要因尺度作
成の試み. パーソナリティー研究, 19(2), 94-106.
平野真理(2012). 二次元レジリエンス要因の安定性
およびライフイベントとの関係. パーソナリティー研究,
21(1), 94-97.
水野基樹(2014). キャリアデザインとレジリエンス:職
場全体でレジリエンスを高める工夫・仕掛け. 労働の
科学, 69(4), 210-214.
庄司直人(2015). フィットネスクラブにおけるレジリエ
ンス向上支援のためのガイドライン作成の取り組み.
産業保健人間工学研究, 16(1), 19-25.
庄司直人(2015). フィットネスクラブを対象とした従業
員のレジリエンス向上を支援するガイドラインの効果
検証に関する予備的研究, 産業保健人間工学研究,
17(増補), 45-48.
------------ << 連絡先 >> -----------庄司直人
順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台1-1
電話 0476-98-1001 FAX 0476-98-1011
E-mail: [email protected]
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
3-4
国内大型遊園地が実践する顧客満足度向上のための取り組み
○大城卓也 1)、大木祐輝 1)、小菅裕麻 1)、山田泰行 1,2)
1)順天堂大学スポーツ健康科学部), 2)順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科
1.はじめに
近年、景気回復基調からレジャーの需要が高まって
た。高所を遊覧するアトラクションにおいては、搭乗者
いる。特に遊園地やテーマパークの入場者数は 2011
要があるため、落下物をキャッチするネットが歩行者の
年の東日本大震災後に落ち込んだものの、翌年 2012
頭上に張り巡らされていた。第 2 因子は「顧客への配
年には震災前を上回り、以後年々増加している。この
慮」であり、休憩しながらアトラクションの待ち時間を過
人気の高まりは、どのような企業努力によってもたらさ
ごすことができるベンチなどが含まれた。アトラクション
れたのだろうか。
の中には 2~3 時間程度の待ち時間を要するものがあ
の持ち物(小物や靴など)の落下から歩行者を守る必
本研究の目的は国内大型遊園地が実践している顧
ることから、列の仕切りや花壇のふちには、座って休む
客満足度向上のための取り組み(グッドプラクティス:
ことができるデザインが施されていた。 第 3 因子の「衛
GP)を収集・分析することで、企業が顧客満足度向上
生管理の徹底」には、園内を清掃する従業員や、遠く
のために取り組むべきポイントを明らかにすることであ
からでも一目で分別できる色別されたごみ箱が含まれ
る。その成果を企業に報告し、フィードバックを得ること
た。第 4 因子の「わかりやすい案内標識」において秀
でより現場に根差した知見を得ようとするポジティブア
逸だったのは、路面に引かれたアトラクションまでの案
プローチを展開する。
内線である。この標識により、目的地まで迷わずに辿り
2.方法
2015 年 9 月 13 日に国内大型遊園地のフィールドス
着くことができる。第 5 因子の「家族連れへの配慮」に
タディを実施した。調査にあたってはポジティブアプロ
も楽しめる遊具などが含まれた。第 6 因子の「顧客を楽
ーチで知られる参加型改善アプローチの手法を可能
しませる工夫」は、待ち時間も楽しめるようにデザインさ
な限り踏襲した。調査者 9 名が 3 班に分かれて園内を
れたユーモアあふれる看板や、歩行者の目を引くクイ
徘徊し、顧客満足度向上に関与していると思われる
ズ形式の標識、園内を徘徊するオリジナルキャラクタ
GP をデジタルカメラで撮影した。KJ 法を通して撮影し
ーなどの画像によって構成された。
た画像を構造化し、GP 因子の抽出を行った。企業へ
の報告会では調査結果をまとめた報告書を提出し、そ
5.今後の課題
本研究は GP のみを扱ったという点でポジティブアプ
の内容についてディスカッションを行った。
ローチを実施したといえるが、調査者だけで KJ 法を行
3.結果
3 班が 1 日のフィールドスタディで撮影した GP 画像
うなど参加型のアプローチを踏襲できなかった。レジャ
の総数は 340 枚であった。KJ 法はこれらの画像を 6 因
リストなどのアウトプットの提供も今後の課題である。
は、身長制限などでアトラクションに乗れない幼児たち
ー施設の顧客満足度向上にむけたアクションチェック
子に構造化した:「安全への配慮(因子 1)」、「顧客へ
の配慮(因子 2)」、「衛生管理の徹底(因子 3)」、「わか
【謝辞】
りやすい案内標識(因子 4)」、「家族連れへの配慮(因
本研究の進行を手伝ってくれた順天堂大学スポーツ
子 5)」、「顧客を楽しませる工夫(因子 6)」。企業とのデ
健康科学部の金子洋平君、塩沢秋乃さん、重田兼吾
ィスカッションにおいては、「お客様が親しみを感じてく
君、鈴木杏奈さん、佐藤翼君、喜多悠河君にも感謝の
れるように全スタッフがニックネームを書いた名札をつ
意を表します。
けているのですが、そこには気づいてほしかった。」な
ど、調査者が見逃した GP についてコメントをいただい
------------
た。
4.考察
本研究は顧客満足度向上のために取り組むべきポイ
ントを 6 つの因子に集約した。第 1 因子は「安全への配
慮」であり、落下物キャッチネットの画像などが含まれ
-26-
<< 連絡先 >>
------------
大城 卓也(Takuya OHSHIRO)
順天堂大学 スポーツ健康科学部
〒270-1695 千葉県印西市平賀学園台 1-1
電話 0476-98-1001(内線 354)
FAX 0476-98-1011(代)
E-mail: [email protected]
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
4-1
言語的に記憶することが困難な図形の記憶-再認モデルの構築に関する研究
大屋梨香 1)、髙橋雄三 2)
1)広島市立大学 情報科学部,
2)広島市立大学大学院情報科学研究科
1.はじめに
3.0%強調した図形と高周波成分を+3.0%強調した
我々は日常生活の中で,風景や人など様々な対象
図形を作成した.
に対して様々な印象を形成する.印象の基盤となる情
2-4.実験内容
報は対象物の概略の記憶-再認の繰り返しによって
実験では被験者に注視点を連続で 2,000 ms 注視さ
せた後,記憶図形を 250ms 提示した.続いてマスク刺
形成されるものと考えられる.
そこで我々は,印象形成の基礎となる情報の記憶
激を 250 ms 提示した.その後,図形の記憶時間を統
-再認の過程を明らかにするため,言語的に記憶する
制する白画面を 250 ms,750 ms,3,750 ms 提示した
ことが困難な図形を用いて検討してきた.最初に,印
(刺激間間隔:ISI).次に再認図形を提示し,図形提示
象形成の基礎となる情報の記憶に待ち行列を仮定し,
中に記憶図形との間の異同判断を行わせた.
Working Memory(以下,WM)に転送される情報の数と
2-5.評価指標
性質について検討した結果,WM に転送される情報は
実験では,注視点を提示してから再認図形が消える
図形の全体性を表す 1 個の情報と図形の局所的な特
までの間の被験者の眼球運動を測定した.記憶刺激
徴を示す複数の情報である可能性が示唆された1).特
提示中に視線の動いた軌跡長,軌跡範囲を楕円に近
に,WM に転送される情報数が 3 個以下で,かつ,再
似して 0.8°広げた範囲を注視範囲,注視範囲内に含
認時の比較照合のための視線の停留点数が 2 個以下
まれる凹凸である特徴点を算出した(図1).また,再認
2)
の時に最適な再認成績を示す可能性を示唆した .
刺激提示中に視線の動いた軌跡長,ある特定の範囲
そこで本研究では,先行研究で採取した言語的に
内に視線が 100ms 以上停留していた停留点,停留点
記憶することが困難な図形の記憶-再認時の眼球運
1個当たりの視線の停留時間を算出した(図2).また,
動指標を用いて印象形成に寄与する図形の記憶-再
再認成績の指標として正答率と反応時間を算出した.
認モデルを構築し,各指標の確率分布を用いて簡易
シミュレーションを実施し,構築したモデルの妥当性に
ついて検討することを目的とする.
3.記憶-再認モデルの構築
先行研究1)より,WM には 4 個のスロットが存在し,4
2.方法
2-1.被験者
被験者は男子大学生 10 名(平均 21.6 ± 0.7 歳,
眼鏡 3 名,コンタクトレンズ 3 名,裸眼 4 名)とした.
2-2.実験環境及び実験装置
視 覚 刺 激 は 液 晶 プ ロ ジ ェ ク タ ー ( TH-LB19V ,
Panasonic) を介してスクリーンに投影した.また,異同
判断時の被験者の眼球運動を Eye Mark Recorder
(EMR-NL8,nac) を用いて Sampling Rate 60 Hz で
図 1:記憶時の眼球運動指標
測定した.スクリーンと被験者の眼との距離は 160 cm,
作業面の高さは 75 cm とし,座面とあご台の高さは被
験者ごとに任意に調整した.
2-4.実験刺激
記憶-再認に用いる図形の凹凸数は 5,7,9 個とし
た.各凹凸数に対して異なる 2 つの基本図形(基本図
形 1,2)を準備した.各凹凸数の基本図形 1 を基盤に
基本図形1の面積を 3.7%,6.3%,9.0%ずらした図形
と,基本図形 2 を基盤に基本図形の低周波成分を+
-27-
図 2:再認時の眼球運動指標
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
スロット全てに情報が格納されると情報が Visio-Spatial
謝辞
Scratch Pad(以下,VSP)へ転送さるという記憶モデル
本研究の一部は「公益財団法人 サタケ技術振興財
を構築した.次に,記憶情報の確からしさについては,
団」の研究助成を受けて行った.
VSP 内の情報は一定時間後に自動的に短期記憶に
転送され,記憶の確からしさは短期記憶での保持時間
に応じて低下すると仮定した.加えて,異同判断時に
は短期記憶に保持された図形の情報(全体性と局所
性)と画面に提示される図形の情報との間で逐次的に
比較照合が行われるという再認モデルを構築した.
------------
<< 連絡先 >>
------------
大屋梨香
広島市立大学情報科学部システム工学科
〒731-3194 広島県広島市安佐南区大塚東三丁目 4 番 1 号
電話 082-830-1817
E-mail: [email protected]
4.構築モデルの妥当性の検証
図 3 には情報の保持時間と正答率との間の関係を,
90
実験データから算出(以下,実測)した正答率と実験
85
ら 30 万回のモンテカルロ法シミュレーションを実施して
80
推定(以下,模擬)した正答率を示す.凹凸数5個と9
個の条件では 4 %程度,模擬値の正答率は低くなる
正答率[%]
時に採取した視線の軌跡長,注視範囲,特徴点数か
75
ものの,保持時間の延長に伴う記憶の確からしさの低
70
下は同じであった.次に,図 4 には図形記憶時に注視
65
範囲内に存在した特徴点数と正答率との間の関係を
0
数と正答率との間には二次関数の関係が確認され,
傾向が確認された.一方,図形の 9 個の条件では,設
3000
2000
ISI [ms]
実測
100
定したモデルとは異なる傾向が観察された.最後に,
90
80
数と正答率との間の関係を図 5 に示す.図 5 より,図形
70
正答率 [%]
図形の保持時間が 500 ms 時の図形再認時の停留点
2 個の時に正答率が最も高くなる傾向が観察された.
1000
4000
図3:図形の凹凸数と情報の保持時間の関係
特徴点数が 4 個以上となると正答率は急激に低下する
の関係が確認され,実測値,模擬値ともに停留点数が
模擬 凹凸数5
模擬 凹凸数7
模擬 凹凸数9
60
示す.図 4 より,凹凸数5個と7個の条件では,特徴点
再認時の視線の停留点数と正答率の間には三次関数
実測 凹凸数5
実測 凹凸数7
実測 凹凸数9
凹凸数5
凹凸数7
凹凸数9
模擬
凹凸数5
凹凸数7
凹凸数9
60
50
40
30
20
ISI が 1,000ms と 4,000ms の場合でも,同様の傾向が
10
観察され,図形の凹凸数に関わらず再認時の停留点
0
1
数は 2 個で再認成績が高くなる可能性が示唆された.
2
3
4
5
6
7
特徴点数 [個]
8
9
10
図 4:記憶時の図形の特徴点数と正答率の関係
5.まとめ
100
研究 2)で示唆した「WM に転送される情報数は 3 個以
90
下,再認時の視線の停留点数は 2 個以下で最適な再
80
認成績を示す」を模擬的に確認することができた.
70
6.参考文献
1) 山本あゆ美,髙橋雄三:待ち行列を仮定した視覚的
手がかりの瞬間認知特性,日本人間工学会東海支
正答率 [%]
モンテカルロ法によるシミュレーションの結果,先行
60
50
40
30
実測
20
部 2013 年研究大会論文集,pp.30-31 (2013).
2) 大屋梨香,髙橋雄三:眼球運動から見た親和性の低
い輪郭図形の瞬間認知特性,日本経営工学会 2015
年秋季大会予稿集,pp.274-275 (2015).
10
凹凸数5
凹凸数7
凹凸数9
模擬
凹凸数5
凹凸数7
凹凸数9
0
1
2
3
4
5
6
7
停留点数 [個]
8
9
10
図 5:再認時の図形の停留点数と正答率の関係(ISI=
500ms)
-28-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
4-2
下腿浴における水温の違いが心拍変動等に与える影響
○矢部貴大 1)、瀬戸山祐一 1)、野崎 悠 1)、下田政博 2)、植竹照雄 2)
1)東京農工大学農学府自然環境保全学専攻,
1.はじめに
2)東京農工大学大学院農学研究院
2-3.解析方法
ひとは日常の暮らしの中で、さまざまな水温環境と
得られた心拍変動データから、ウェーブレット法によ
遭遇する。たとえば、農作業の中には、早春の水田管
り、低周波成分(0.04-0.15Hz, Low Frequency, 以下
理など冷たい水温環境への局所的暴露を余儀なくさ
LF)及び高周波成分(0.15-0.45Hz, High Frequency,
れることがある一方で、疲労回復や気分転換をもとめ
以下 HF)のパワー積分値を求め、その値から LF/HF を
て温泉、足湯やスパなど温かい水温環境を利用する。
求められた。解析区間は、知的作業時を前期、中期、
温熱環境の変化と身体ストレスとの関連を明らかに
後期各 5 分、下腿浴時を前期、後期各 5 分に分け、安
した従来の研究を目的別に大別すると、①寒い浴室
静時 5 分を加えた計 6 区間であり、各区間の開始後 30
やトイレでのヒートショック死の防止、②快適な居住環
秒および終了前 30 秒を除いた 4 分間のデータが解析
境の条件整備、③極寒および酷暑環境でのリスク管理
に供され、統計的な有意水準は 5%に設定された。
と作業効率向上、④効果的なリハビリ手法の確立など
に類別される。
3.結果
安静時を基準として変化率を検討してみると、
本研究では、農作業時におけるヒートショック死等の
重大事故に対するリスク管理手法の確立を最終目的と
して、水温環境への局所的暴露をした際の心拍変動
および手掌表面温度の変化に着目し、被験者を二群、
すなわち室内(約 26℃)での知的作業後における下腿
温水(約 40℃)暴露群および同作業後における下腿
冷水(約 20℃)暴露群に分け、得られた両群の結果を
ストレス反応の観点から比較検討した。
HF:安静時に比して温水群は下腿浴時に亢進、冷
水群では前期は亢進、後期は低下する傾向がみられ、
知的作業時に比すと下腿浴時は両群とも亢進する
傾向がみられた。特に冷水群は顕著であった。
LF/HF:安静時に比して温水群は下腿浴時に亢進、
冷水群では前期に低下、後期に亢進する傾向がみら
れ、知的作業時に比すと両群とも下腿浴時は低下す
る傾向がみられた。特に冷水群の前期は知的作業時
2.方法
の中期および後期より有意に低下した。
2-1.被験者
HR:安静時に比して温水群は下腿浴時より上昇し、
被験者は、18 歳から 21 歳の健康な学生 23 名(男 7
冷水群は低下する傾向がみられ、知的作業時に比す
名、女 16 名)を対象とした。実験は 2015 年 7 月に室内
と下腿浴時は両群とも有意に低下した。
にて実施した。なお、実験中の室温は 25.0~26.1℃、
手掌表面温度:知的作業終了時と下腿浴終了時を比
湿度は 53.8~71.7%であった。BMI 指標および男女
すと、両群とも上昇する傾向がみられた。実測値を
比が可能なかぎり均等になるように考慮し、温水群(12
みると、冷水群では 0.26℃であったのに対し、温
名)と冷水群(11 名)の 2 群に分けた。
水群では 0.49℃であった。
2-2.実験手順および測定項目
本研究の実験手順は、安静(5 分)、クレペリン検査
(15 分、以下「知的作業」)、下腿浴(10 分)の順であっ
た。なお、下腿浴に使用した水温は温水群に対しては
40℃、冷水群に対しては 20℃であった。実験に先立ち、
別室にて被験者に実験手順についての説明を行い、
実験同意書を提出させた。
心電図は多チャンネルテレメータシステム
(WEB-7000, 日本光電)を用いて記録された。また、
実験中の手掌表面温度はサーモグラフィ(Flir C2)に
より実験開始直後から 30 秒毎に記録された。
-29-
4.考察
HF および LF/HF の結果から判断すると、両群の下
腿浴時におけるストレス反応の様子が相違したことから
水温の違いが影響したものと考えられる。また、下腿浴
時において温水群が手掌表面温度の実測値で約
0.5℃上昇したことは、深部体温の上昇を抑制するた
めの放熱メカニズムが働いたことを示唆する。
------------
<< 連絡先 >>
------------
植竹照雄
東京農工大学大学院農学研究院
〒183-8509 府中市幸町 3-5-8 東京農工大学農学部
電話 042-367-5644
FAX 042-367-5648
E-mail: [email protected]
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
4-3
高校生女子にみられる外反母趾について
○星川咲瑛 1)、吉田蒼泉 1)、井上妃幸 1)、星まどか 1)、本橋澪 1)、山中美結 1)、源田かおる1)、
棚橋信雄 2)、樋口桂 3)、松村秋芳 4)
1)文京学院大学女子高等学校・保健室, 2)文京学院大学教職課程センター,
3)文京学院大学保健医療技術学部, 4)防衛医科大学校生物学科
1.はじめに
1.はじめに
は foot look 社製、foot look ソフトを用いた。
第1趾の外反角度は、接
外反母趾は、足の親指が外側に向かって曲がって
地している母趾球の内側縁
しまう症状の総称である。外反母趾角度は 5~8 度が
〜踵部の内側縁を結ぶ直線
正常で、15 度以上の場合に外反母趾と判定される。
と、第1趾の内側縁を通る直
外反母趾は痛みを伴ったり、歩行を妨げたりすること
線との交点がなす角度とし
がある。発症する率は高齢者や成人女性で高いことが
た。この角度が 15°以上の
知られている(高井ら,2013)。
ときに外反母趾と判定した。
近年では、外反母趾は高齢者や成人女性だけでな
外 反 母趾 角度 の 計 測デ
く子供にも高頻度で見られることが指摘されている。
ータは、3°ごとに区分して
7-12 歳の子供では、年齢が上がるにつれて外反母趾
人数の分布をしらべた。本
の発症率が高くなる(尾田ら,2007)。倉・石井(1994)に
研究では、外反母趾の一般
よると外反母趾の比率は 10 歳代から、大人の年代を
的な基準に基づき、15°より大きい角度のときに外反
経て老年期に至るまで増加を続ける。
母趾と判定した。
しかし、外反母趾発現率の経年変化については、
図 2. 足の測定方法
3.結果と考察
第1趾の外反角度計測値は 12~15°の人数が最
10 歳代後半の女性についての調査は少なく、未だデ
ータが充分ではない。また、どのようなメカニズムで外
も多かった。15~18°以上の角度では、角度が増加
反母趾角度に連続的な経年増加が生じるかは不明で
するにつれて人数は減少した。最大角度は 30.8°で
ある。
あった。9~12° 以下の角度では角度が減少するにつ
そこで私たちは、16~18 歳の高校生女子を対象に
れて人数は減少した(図 3)。
して外反母趾の発症率を調査し、この時期における経
倉・石井(1994)が示したように、外反母趾の比率が
年変化の分析を試みた。さらに、外反母趾角度と足底
10 歳代から大人の年代を経て老年期に至るまで増加
の接地面積、足幅、足長との相関についてそれぞれ
を続けるとすれば、今回の計測で 15°未満のグループ
分析した。
の第1趾の外反角度は、加齢に伴って順次外反母趾
2.方法
文京学院大学女子中学高等
と判定される角度に増加していくものと考えられる。そ
学校に在学する女子生徒 325
予備軍” と呼ぶことにした。
こで私たちは、12~15°未満のグループを“外反母趾
名(16~18 歳)を被験者とし、
つぎに、16~18 歳の期間では、7~12 歳の子供で
以下の調査を行った。なお、
認められたように(尾田ら、1999)、年齢が上がるにつ
被験者(及び保護者)には、文
れて外反母趾の発症率が増加するかどうか確認する
書にて事前に実験内容につい
ため、年齢ごとに区分して分析を試みた。15~16 歳に
ての説明をし、実験参加への
おける外反母趾の割合は片足で 19%、両足とも外反母
同意を得た。
趾と判定された割合は 12%で、合計 31%(図 4)となった。
2−1. 足型の測定と分類
17 歳における外反母趾の割合は片足で 14%、両足で
立位静止時の足形(両足)を
足型スキャナ(foot look 社製)
にて取得した。次に、スキャン
図 1.足型スキャナに
20%、合計 34%となった。18 歳における、外反母趾の比
よる足形の取得
率は片足で 18%、両足で 21%、合計 39%となった。以上
のことは、12~15 歳と同様に、16~18 歳の年代でも外
した足形画像から PC 上で足長、足幅、接地面積およ
反母趾発症率が年齢と共に増加することを示している。
び、母趾(第1趾)の外反角度を計測した。解析ソフト
外反母趾予備軍の比率が、どの年代でも 25%以上と多
-30-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
かったことも、この増加を裏付けているように見える。
今回の私たちの研究では、16 歳までの外反母趾発
症率が片側と両側併せて 31%であり、尾田ら(2007)によ
って得られた 12 才の外反母趾発症率は 29.4%だった。
これらの値から推定される 13-15 歳の外反母趾増加率
は 16-18 歳の約半分であるが、これが被験者集団の
違いによるものなのか、体重や身体活動の量が関与
する足への圧力の増加によるものなのかはわからな
い。
今回の研究では、外反母趾予備軍と見なした割合
が全体の 31.1%と大きかった。これを外反母趾の比率と
図 4.
併せると 64.6%となる。倉・石井ら(1994)の報告によれ
ば、10 代の若者の外反母趾発症率はおよそ 20%であ
16~18 歳の外反母趾発症率
下から 赤:両側、ピンク:片側、黄:予備軍、青:その他
るが、70-80 歳の外反母趾発症率はおよそ 60%で、加
齢と共に徐々に増加していた。したがって、本研究で
もうひとつの課題は、今後研究の対象を 13-15 歳の
観測された外反母趾予備軍が将来、外反母趾になる
年齢層まで拡げ、今回のような横断的な分析に加えて、
危険があると予想される。
縦断的に調査を試みることである。高校生年代に中学
一方、今回得られた外反母趾角度と足長、足幅、接
生年代を加えて連続的な調査を行うことにより、加齢
地面積率の各計測項目との間には、明瞭な一定の相
による外反母趾の発症率増加の過程で、外反母趾予
関関係は認められなかった。したがって、これらの足の
備軍がどのように関与するかどうか確かめたい。
形態的要素は、外反母趾の発症と密接には関連しな
4.結論
高校生女子では、外反母趾発症率が年齢と共に増
いものと考えられる。今後の課題のひとつは、外反母
趾を引き起こす主な要因を明らかにすることである。
加する傾向があることが示された。この結果は、外反母
趾が幼年期から徐々に進行するとする先行研究の所
見を裏付けている。加齢に伴う外反母趾増加の背景
には、高校生の年代において既に外反母趾発症者数
に相当する外反母趾予備軍が存在し、加齢と共に第1
趾の外反角度が 15°を越える真性の外反母趾へと
徐々に移行していると考えられた。
5.参考文献
1) 高井ら:外反母趾を有する若年者と高齢者の足部形状
の違い.第 48 回日本理学療法学術大会 2013.
2) 尾田ら:学童期の外反母趾発生に関与する足部形態因
子の検討.日本理学療法学術大会抄録集, 2010.
3) 倉・石井:ハイヒール靴と足の障害.靴の医学.MB
Orthop. 7(12): 13~18,1994.
------------
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源田かおる
〒113-8667 東京都文京区本駒込 6-18-3
文京学院大学女子高等学校・養護・保健室
電話 03-3946-5301(代表)
FAX 03-3946-7294(事務)
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3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33
外反角度(°)
図 3. 第1趾外反角度の大きさと人数の分布
-31-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
4-4
足趾把持力 -座位と立位○竹内京子、田代千惠美
帝京平成大学・院・健康科学研究科
1.はじめに
ヒトの足趾は 直立位で移動の際、趾を地面方向へ
“踏ん張る”ことで、足底と地面との摩擦を高め、身体
の支持性を向上させるなど、歩行や運動時の姿勢制
御に重要な役割を果たしている。このため、姿勢制御
力の簡便な評価に足趾の筋力(足趾把持力、足趾把
握力など)が着目されているが、足趾把持力検査のほ
回旋角度計付下肢荷重動揺計
とんどは端座位の採用が多い。その理由として、座位
は立位検査が困難な対象者にも利用できるという利点
があること、立位では代償動作の排除が困難であるた
めとされている。足趾の把持は、直接的には長母趾屈
筋,短母趾屈筋,虫様筋,長趾屈筋,短趾屈筋の作
足趾筋力測定器
図 1 使用機器
左:回旋円盤付下肢荷重動揺計 2台一組で使用する
荷重変動をサンプリング数 10~100Hz/秒で採取可能
円盤φ31cm、最少円盤中心間距離 32cm
右:足趾筋力測定器 0.1kg単位でデータ表示。
用により起こる複合運動とされているが、実際に筋力を
発揮する際は、これに大腿部や腰部体幹の諸筋も姿
勢維持や筋力発揮に支持体として働いている。従って、
日常生活や運動時の姿勢制御力(バランス能力)、歩
行や走行時の推進力を総合的に反映する計測値を得
るためには、座位のみならず、立位での計測も重要で
2-3 測定と荷重条件
座位姿勢(図 2)は、背もたれ無の椅子に両腕を胸
の前で組み、体幹直立位で座る。目線は前方 2mにつ
けた眼の高さのマークを中心に合わせる。測定側は股
関節・膝関節 90 度屈曲、非測定側は股関節 90 度屈
曲・膝関節伸展姿勢とし、座椅子の高さの椅子の上に
ある。
本研究の目的は、座位腕組み肢位と立位腕組み肢
位3荷重(免荷、半荷、全荷)、計 4 条件での足趾把持
力を比較検討することにある。
2.方法
2-1. 対象者
研究内容を説明し、同意を得られた健康成人男女
各 20 名(21~22)である。
2-2. 使用機器(図 1)
載せる。この姿勢は、極力対側の筋力が伝わりにくい
姿勢である。座位の荷重はおよそ 5-10%の間である。
図 2 腕組み座位姿勢
背もたれ無の椅子に、体幹垂直
位。両腕を胸の前で組んで座る。
測定側は股関節膝関節 90 度屈曲
位で足趾筋力計の上に載せ、非測
定側は股関節 90 度屈曲・膝関節
伸展位で椅子と同じ高さに置く。目
線は 2m前方で目の高さのマーカ
ーに合わせる。
立位姿勢(図 3)は、膝伸展立位、開眼、両腕を胸の
足趾筋力測定器(竹井機器工業)と2台の円盤間距
離が可変である回旋角度計付き荷重動揺計(ジャイロ
テクノロジー)を使用した。
前で組み、荷重計の上に立ち、3 種の荷重条件で足
趾把持力を測定する。免荷は体荷重の 10%程度の荷
重とし、半荷は 50%均等荷重、全荷は体荷重の 90%
測定側の荷重動揺計の回旋円盤部を外し、足趾筋
力測定器を載せる。高さ調節と滑り止めを兼ねて間に
タオルを挟み動かないように設置する。足趾筋力測定
器の中心と被験者の足の中心が一致するよう、各人に
合わせて設置する。
程度の荷重負荷を足に掛けて測定する。
荷重計の中心間距離は被験者の肩幅とする。荷重
動揺計のモニターを見ながら、荷重のかかり具合の確
認と練習を行ったあと、足趾筋力を測定する
把持力測定時は、荷重動揺計で筋力発揮前後の荷
重心の動きの観察を同時に行う。測定は、素足にて行
い、3 回の測定の平均値を採用し検討を行った。
-32-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
**
**
**
25
****
**
20
15
10
5
0
左
右
左
座位
免荷
半荷
全荷
右
左
免荷
右
左
半荷
右
全荷
図 5 男性における平均値の比較
**;p<0.01 有意差があるもののみ記載
図 3 荷重が異なる立位腕組み 3 姿勢
パソコン画面に映し出される左右荷重計の数値で確
認しながら、3 種の荷重負荷をかけ、把持力検査を行
う。免荷は体荷重の約 10%、半荷は 50%体荷重、
全荷は体荷重の約 90%がかかっている。
**
25
統計は、座位,免荷,半分,全荷重の4群について
15
多重比較検定 Tukey 法を行い,統計学的有意水準は
10
5%とした。
**
*
20
**
5
0
左
3.結果と考察
腕組み姿勢における、座位、立位(免荷、半荷、
全荷)における男女の足趾把持力平均値の結果は、
男女とも、免荷が最小で、次いで座位が低く、半荷、
右
座位
左
右
免荷
左
右
半荷
左
右
全荷
図 6 女性における平均値の比較
*;p<0.05、**;p<0.01 有意差があるものの
み記載
全荷が高い値を示した(図 4)。
左右の平均値に関しては、有意差は一部にしか認め
4 条件の検討において、左右平均値で検討したとこ
られていないが、女性では、全荷、男性では、すべて
ろ男女とも座位と免荷が、それぞれ半荷と全荷とのあ
の条件で、右>左の関係が示されている。このことは,
いだに有意差が示された。半荷と全荷とは男性にのみ
被験者の大半が自分で思う利き足やボールを蹴る足
示された。座位と免荷の比較では、男女とも有意差は
は右が多く、足趾操作性に優れていることが,右下肢
示されなかったが、免荷が最小値を示した。
全荷重時に足趾屈曲という動作が十分に発揮された
これらのことは、免荷では、対側にほぼ全荷重がか
ためと考えられる。4群間について多重比較検定でも、
かり、姿勢保持に関わる筋の動員は対側に集中するた
座位,免荷よりも半荷,全荷重に有意な差がみられ,
め、免荷側の把持力が十分に発揮できなかったものと
利き足の全荷重時に最も大きな足趾把持力が得られ
推察される。 また、座位が免荷より把持力を発揮でき
ることより,人の足趾把持力は立位把持時に利き足側
たのは、殿部が座面にあり、安定して大腿腔面の筋の
により多く発揮されるのではないかと考えられる.
緊張を高めて足趾把持力が発揮されやすくなってい
たものと思われる。
参考文献
相馬正之 他:足関節の角度変化における足趾把持
力の比較.ヘルスプロモーション理学療法研究
25
2013、3(1):21-23
20
中江秀幸 他:端座位と立位における足趾把持力と足
15
10
男
関節周囲筋の筋活動の比較。ヘルスプロモーシ
女
ョン理学療法研究 2013.3(1):11-1
5
0
左
右
座位
左
右
免荷
左
右
半荷
左
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右
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竹内京子
帝京平成大学 ヒューマンケア学部 柔道整復学科
〒170-8445 豊島区東池袋 2-51-4
電話&FAX 03-4853-4866(学科教員室)
E-mail: [email protected]
全荷
図 4 座位および立位 3 条件における足趾把持力(男女)
-33-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
4-5
質的調査法によるデザイン・コンセプト設計手法の提案
○粂川美紀、堀田明裕
概念工学研究所
(3)面接調査による生活者の潜在要求抽出手法の検
1.研究背景
1−1. 社会的背景とデザインの現状
討[3]
近年、我が国の産業はそれまでの技術追求型から、
(4)観察調査によるデザイン・コンセプト設計手法の検
生活者の多様な価値観へ対応するものへと変化して
討(第 44 回人類働態学会全国大会、日本女子)
来た。これに伴いデザインにおいても、それまでの形
(3)の手法はデータ量が膨大であり分析に時間がか
態や図柄等のスタイリングを重視する傾向から、生活
かるため、より効率的な手法を検討することが望まれる。
者にどのような価値を提供するかを計画するデザイン・
また、(4)は原理の仮説的提案であり、手法としての整
コンセプトの設計が重視される傾向に変化しつつある
理や他の手法と比較して有効性を検証する段階には
[1]。以上のことはデザインの役割が、形態や図柄に関
至っていない。
する感性的な技能であった時代から、生活者の要求を
1-3.研究目的
満たすための思考作業を中心とした学問的知識体系
以上の背景から本研究では、デザインを技術、或い
は学問的知識体系とするため、観察調査により生活者
へとパラダイムシフトをする節目に来ていると言える。
しかしデザインの現状を見ると、そうした時代の変化
や要求には未だ対応しているとは言えない。デザイン
は現在でも暗黙知的な《技能》、或いは自然発生的な
人間行動の《現象》の一種の枠を越えておらず、その
原理の解明や、実生活への効率的な応用するための
《技術》や学問的知識体系としては、発展途上にあると
の潜在的な要求を発見し、デザイン・コンセプト設計手
法を検討することを目的とした。
2.方法
2-1.手法の仮説提案
観察によりデザイン・コンセプトを設計した事例につ
いて、文献調査・分析を行い、それを基に観察調査に
言わざるを得ない。
デザインを技術や学問として確立するために、今後
は用語の定義付けや生活者の要求に基づいたデザイ
よるデザイン・コンセプト設計手法(ICE 法)を提案した。
ここでは 生活者の行動の観察調査により、製品のデ
ザイン・コンセプトを開発した事例として、サントリー・
ン手法の確立など、形式知化することが課題である。
DAKARA について分析を行った[4]。その結果、次の
1-2.これまでの研究
以上のデザインの現状に対し、これまでに下記の研
究を行った。
手法を仮説的に提案した。
① 本来の用途とは異なる使われ方をされている製品・
サービス等を観察調査から発見する。
(1)デザイン及びデザイン・コンセプトの定義の検討[2]
(2)(1)の定義に基づいた、デザイン・コンセプトの構
成要素及び条件の仮説モデル提案[2]
② 本来と異なる使われ方がされていることは生活者
の要求に対応する現状品が無いためと考えられる
ことから、更に調査を行い、要求を明確化する。
③ 上記の②に対応するデザイン・コンセプトを設計す
る。ここでは、抽出された潜在要求を形式論理学の
手法に基づいて抽象化し、デザイン・コンセプト構
造モデルの構成要素・価値に設定し、対応する行
動等も設定してデザイン・コンセプトを設計する。
2-2.手法の有効性の検証実験
デザインを専攻する女子大学生を対象に、以下の3
つの手法によるデザイン・コンセプト設計の実験を行っ
た(表1)。
手法1は、体系的なデザイン手法を全く学習していな
い状態での作業である。手法2のペルソナ法は実際の
図 1 デザイン・コンセプト構造仮説モデル
生活者の生活パターンや要求を反映した仮想ユーザ
-34-
人類働態学会 第44回東日本地方会 プログラム・抄録 2015年12月
(ペルソナ)を作成し、デザインに活かす既存の手法で
から、現状では保存に適した密閉容器が無いとして、
ある[5]。ペルソナを作成するために実在の生活者のフ
瓶に目盛りを付け、また収納の便を考え、形状を円柱
ィールド調査を行うが、ペルソナ作成後はデザイナー
から筐体にした保存容器などが提案された。観察調査
の想像により提案を行うため、厳密には生活者の要求
による潜在要求の発見から提案を行ったため、新規性
を中心としたデザイン手法とは言えない。手法3は前項
があり、かつ日常の問題に則した汎用性の高い提案が
2−1.で提案した手法(ICE 法)である。
多数見られた。
各手法の有効性を比較するため、デザイン課題はい
ずれの手法においても「家事行為のためのツール・サ
ービスのデザイン・コンセプト提案」とした。
前項の分析から、提案した手法(ICE 法)の有効性に
ついて考察した。ICE 法は生活者の潜在要求の発見
表 1 実験に用いた手法とデザイン課題
手法
4.考察
及びそれに基づいたデザイン・コンセプト設計を重視
実験におけるデザイン作業の
課題
手法2
従来の手法(ペルソナ法)で
のデザイン作業
由
体系的な手法を学習していな 家事行為において、あると良
い 態におけるデザイン作業 いと思うものを自 に提案
状
手法1
家事行為のための新しいツー
ル・サービスの提案
性のある提案が多数行われた。また他の手法とは異な
り、フィールド調査のデータを抽象化する方法も示して
いるため論理的飛躍が無く、効率的にデザイン・コンセ
プトの設計が行われた。
異
家事行為を観察し、本来とは
なる使われ方をされている
ものを発見し、それを基にデ
ザイン・コンセプトを提案
した手法であるため、社会性、汎用性はもとより、新規
手法3 ICE法によるデザイン作業
5. 結語
本研究では観察調査により生活者の潜在的な要求
を発見し、それに基づいたデザイン・コンセプト設計を
3. 結果と分析
提案した。本来とは異なる使われ方をされているものを
3−1. 手法1の結果と分析
手法1によるデザイン・コンセプト設計では、「プリーツ
スカートのシワ伸ばし用おもり」「掃除用十得ブラシ」
「焦げないトースター」「絨毯の髪の毛掃除専用ブラ
シ」等が提案された。これらは生活における要求に対
応しているが、問題が個人的であり、汎用性が高い提
発見し、それを基に生活者の潜在要求を発見してデ
ザイン・コンセプトを設計する手法を仮説的に提案し、
大学生を対象にデザイン作業を行う実験をして有効性
を検討した結果、汎用性があり、かつ既存の手法よりも
新規性のある提案が多数見られた。
案では無かった。
参考文献
3−2. 手法2の結果と分析
1 粂川美紀、堀田明裕、2010、生活デザイン・コンセ
手法2によるデザイン・コンセプト設計では、仕事と子
育てを両立する女性が健康的な弁当作りを効率的に
プト方法論の試み-高齢者の装い行為を事例に、働
態研究の方法、87-90
行うためのツールである「バランス弁当箱」、同じく仕事
2 粂川美紀、堀田明裕、2007、デザイン・コンセプトの
と家事を両立する多忙な女性のための「スイッチの押
構 造 化に 関す る 試 み、 デザ イ ン 学研究 、54 、 2 、
し忘れをお知らせする炊飯器」、生活スタイルや自宅
49-56
の調理場の状況に合わせたレシピを提案してくれる
3 粂川美紀、堀田明裕、2007、高齢者の生活活性化
「レシピアプリ」などが提案された。手法1による提案と
のための装い行為に関する研究フィールド調査によ
比較すると、働く女性の時間の効率化や健康問題の
る要求抽出手法の提案、デザイン学研究、54、2、
要求を扱ったものなど、より社会的な問題に対応したも
57-64
4 野中郁次郎、勝美明、2004、イノベーションの本質、
の、また汎用性の高いものが多数提案された。しかし
中には調査結果に忠実にデザインした結果、既にある
日経 BP 社、25-48、2004
5 渡辺理、宇山政志ほか、変更可能なペルソナ:ゴムの
製品と同じものが提案された例なども見られた。
ユーザと長期活用のはざまで、2010、研究報告ヒュー
3−3. 手法3の結果と分析
マンコンピュータインタラクション(HCI)、140(19), 1-8
手法3によるデザイン・コンセプト設計では、炊飯器
が炊飯以外のケーキ作りなどにも利用されていること
から、「、炊飯器をお米専用の家電から新たな調理機
器へ」として、現状品の機構を改良した提案、ジャムな
どの空き瓶が他の食材の保存に再利用されていること
-35-
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