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インドの環境法規制及びCSRの動向

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インドの環境法規制及びCSRの動向
インドの環境法規制及びCSRの動向 キショール・パラズリ
(Kishor Parajuli)
シニア・コンサルタント
インド   人口(2001年国勢調査) ‐ 10億3000万人(世界第2位)、
‐ 都市人口(27.8%)、農村人口(72.2%)。500万人
を超える都市は6か所(デリー、ムンバイ、 コルカタ、
チェンナイ、バンガロール、ハイダラバード)
  GDP
‐1人当たりのGDPは1,031.7ドル(2009年度:IMF資
料)
‐ GDP成長率(2010年現在)は9%程度
経済状況の変化   1947年に英国から独立。対外において閉鎖的な経済
政策   1950年代において、国外との貿易および海外資本を
規制し、企業の国有化を進める   60年代∼70年代にかけて経済が停滞。70年代後半
に海外貿易に関する規制緩和が始まる   1981年にIMFから大幅な借入を行う。これを機に対外
開放に向けて規制緩和を行い、貿易自由化、為替政策、
外資受け入れ の抜本的見直しを行う   1991年以降、経済の自由化、関税の引き下げ、金利の引
き上げ、国営独占事業の開放(鉄鋼、石油、重機械、通
信、電力など)や外資比率制限の撤廃等の様々な改革を
行い、経済成長路線に乗る   2004年にマンモハン・シン政権が誕生。更なる規制緩和
を推進。外国資本の規制を積極的に緩和。国営企業の民
営化を推進、国内経済の自由化政策の推進 日系企業の進出状況 2008年1月時点で438社 ⇒ 2010年10月1日時点で725社 (インド登記社名を基準) (在インド日本大使館作成資料から抜粋) インドの環境管理の法体系 法律 国会で承認された法 Act 規
則 法に基づいて定められた政府機関(省)
Regulations が、法の実施のため定めるルール 通
達 同上 Notification ガイドライン ルールの執行代行官である各地方の行政
Guideline 機関によるルールの執行をサポートする
ため中央監督機関さが作成したガイド インドの主な環境関連の組織 中央政府 他の省庁 環境森林省
(Ministry of Environment
and Forest) 中央汚染管理局
CPCB(Central Pollution
Control Board) 地域事務所
州政府 地方事務所
州汚染管理局
SPCB(State Pollution
Control Board) 地域事務所
(Regional Office)
主な環境法制定の経緯 法規制 The Water (Prevention and
Control of Pollution) Act 制定年 1974 (水管理法)
The Water (Prevention and
Control of Pollution) Rules 1975 (水管理規則)
The Air (Prevention and
Control of Pollution) Act
1981 (大気汚染管理法)
The Air (Prevention and
Control of Pollution) Rules
1982 概要  水質汚染の防止、管理及び水質の向上を
目的としている
 水汚染の管理のためCPCBおよび
SPCBを設立し、それぞれに権限を与え
る
 当該局の許可なしで排水の公共水域
等への放流を禁止。罰則規定の設立
 大気汚染の防止、管理及び影響緩和の促
進を目的。CPCBおよびSPCBに大気法が目
標とする事項の達成のための権限を付与
 大気汚染物質を放出する施設にSPCBか
らの許可取得の義務
(大気汚染管理規則)
The Environment (protection)
Act(環境保護法)
1986 The Environment Protection
Rules(環境保護規則)
1986  環境に関する基本となる法律
 中央政府に環境保護のための規則をつく
る権限を付与
 規則、通知等で環境全般をカバー。詳細
は次へ
環境保護規則(ENVIRONMENT PROTECTION RULES)  
工場等から排出される汚染物質の排出基準が設定。規則の
別表2において90以上の業種別(プロセス別)にそれぞ
れ排水、排ガス、騒音、煙突高等の基準が設定。対象業種
によって対象物質が異なるとともに、特定の業種に特別な
条件が設けられているのが特徴である
 
別表6において、別表2の対象外の工場等に該当する排水
基準、排水発生量基準、排ガス基準、自動車等の騒音基準
が定められている
 
SPCBへ環境報告書(Environment statement)の提出を
義務化
 
大気環境基準(National Ambient Air Quality Standards
- NAAQS)が設定
 
騒音基準が設定 環境保護規則で定められた基準の例 業種 パラメーター 基準値 O i l r e f i n e r y Oil and grease 10 mg/L industry Phenol 1 mg/L Sulphide 0.5 mg/L BOD(3 days
15 mg/L at 27C) Suspended
20 mg/L Solids pH 6 to 8.5 廃棄物の分類および関連する法律 分類
該当する規則
都市廃棄物, オフィス廃棄
物(Municipal Solid
Waste) 事業系廃棄物(都市廃棄
物)Commercial Waste 都市廃棄物管理規則 農業廃棄物、都市廃棄物 The MSW (Management and Handling)
(Horticulture / farm Rules, 2000) waste / Municipal Solid
Waste) 剪定枝・園芸廃棄物 (Horticulture Waste) 有害(産業)廃棄物 有害廃棄物管理規則 (Hazardous Waste) The Hazardous Wastes (Management
and Handling) Rules, 1989) 医療廃棄物 医療廃棄物管理規則 (Bio-medical Waste) The Bio-medical Waste (Management
and Handling) Rules, 1998) 環境影響評価  
環境へ著しい影響を及ぼす可能性のあるプロジェクトを
実施する際、必要となる環境認可(EC: Environmental
Clearance)の取得の過程で必要とされるプロセス
 
環境保護法5条3項に基づき発行した通達
(Environmental Impact Assessment Notification –
2006、以下「EIA通達」)によって規定
 
 
39種のプロジェクト(新設・拡張)の実施の際に、EC
の取得が必要
大規模のプロジェクト(分類A)は環境森林省へ、中・
小規模のプロジェクトは州汚染管理局(SPCB)へ申請し、
環境認可(EC)を受けることとなる。 環境法の観点から企業の義務   事業所の設立前に環境認可(EC)の取得(EIA通達)
  大気法・水管理法に基づき、「設立許可」(CfE:
Consent
for Establishment)をSPCBから取得する
  Factories法に基づき、機械の使用、化学物質の保管等に関
する許可を取得する
  CfEの取得後、事業開始前にオペレーション条件(CfO:
Consent for Operation)をSPCBから取得する。CfOとし
て排水量、廃棄物の排出方法、再利用・リサイクル条件、
排水や排ガスの上乗せ基準等が設定される
  大気法・水管理法に基づき排ガス・排水のモニターリング
およびSPCBへ報告
  有害廃棄物を取り扱う許可(有害廃棄物管理規則)および
取扱量のSPCBへ報告。有害物を輸送する場合SPCBへ報告
企業の「社会的な責任」を義務化する動き   法によって、企業利益の2%をCSR活動に割り当てる
ことを義務付けることが提案されており、産業界と政
府が議論している段階である。産業界は「反対」の立
場である。
  州によっては、産業政策の中で企業が利益の一部を
CSR活動に割り当てることが提案されている州もある
(例、カルナタカ州)
  Ministry of Corporate Affairsが2009年10月にCSR
に関するVoluntary Guidelineを発行。 CSRガイドラインの概要(6つの柱)   ステークホルダーへ配慮すること Stakeholderとは株主、社
員、客、サプライヤー、プロジェクトによって影響を受ける人々、社会
全体。 Stakeholderに内在するリスクを通知し、これを緩和
(mitigate)すべきである
  倫理的に機能すること 企業のガバーナンスには倫理、透明性お
よびaccountabilityがあること。不公正的な、反競争的およびCorrupt習
慣に従事してはいけない
  従業員の権利および福祉を尊重すること 従業員に安全、清
潔な作業環境を提供すること。労働に関する団体交渉を行う権利を認証
すること、子供に労働させないこと、平等に雇用の機会を与えること
  人権を尊重すること 企業が全員に対し、人権を尊重し、自らま
たは第3者による人権侵害行為を回避する。
  環境を尊重すること 汚染の防止、廃棄物の削減、天然資源の持
続的な管理、資源・エネルギーの有効利用、気候変動へ積極的な対応、
環境にやさしい技術を採用
  社会の包括的な開発のための活動を行うこと 企業が活動
を行う地域周辺の)社会および地域の経済的および社会的な開発のため
の活動を行う。活動例としては特に社会的に恵まれない人々を対象とし
た教育、生活維持のためのスキル開発、健康、文化や社会福祉に関する
活動が挙げられる。
CSRガイドラインの実施要項   CSR政策を設け、目標を設定し、責任を明確化する。
NGO等の機関と効果的に連携する。サプライチェー
ンにも要求。CSR活動の需要評価と影響評価を行う。
  CSR活動のために一定の予算を割り当てる
  他の団体と経験やネットワークを共有するため連絡を
取り合う
  企業はCSR政策、活動や進行情報に関する情報を、利
害関係者や住民に対して構造化された活動で発信する 環境法上発生し得る社会的配慮の義務 ①環境認可(Environmental Clearance)の条件としてCSR活動
‐EIAのプロセス(環境認可)の付与の際、企業の立地場所の
周辺住民に対して利益を還元することが条件として設定。企
業はこの活動を「CSR」としてPR
②企業の設立許可(CfE)の条件としてCSR活動
‐大気法、水法の規定に基づきSPCBからCfEを取得することが
必要。CfEの付与条件として、工場等の立地場所の周辺住民に
利益を還元することが条件として追加されることがある。企
業はこの活動を「CSR」としてPR
③政府からの特別要請
‐自然災害時、貧困が困難な地域において、大手企業に対して
献金や社会福祉活動の特別要請
④ Cfe・CfOでCREPの義務 CREPとは  
環境保全のための企業責任制度CREP(Corporate
Responsibility for Environmental Protection)
 
17の業種に属する「中」又は「大」規模の企業を対象
 
 
2003年:環境保全のための企業責任に関する憲章
(Charter on Responsibility for Environmental
Protection)において、産業セクター別に汚染対策のた
め行うべき具体的な措置の提案(例:技術プロセスの代
替、排ガス・排水に関する上乗せ基準の設定、等)
あくまでも「自主的」であるが、州汚染管理局が
「CfO:運転許可」の付与の際、「社会的責任」として
義務づける場合も見られるのが実態。 インド企業で見られるCSR活動の形態 分類1‐ CSRの概念を理解していない企業 中小規模のインド現地
会社。環境法の遵守までは至っていない場合もある。
  分類2‐ <独立型>
企業の「環境安全部」が活動「環境法対応+α」,「公害対策」,「水対
策」を実施。中小企業が多い。 ある製薬会社:他の企業は法令を
守っていないが我々は汚染防止設備に大きく投資している。汚染を防
ぎ社会貢献しているためこれこそ一番のCSR活動だ。
  分類3‐ <NGOとの連携型>
企業の環境・安全部がCSR活動の責任を持ち、ある程度対外活動を
行っている企業。自社専門の分野にて広域にわたる活動を展開。活動
内容は自社専門の分野。外資系の多くはこの分類に該当(環境認可、
CfE、CfO等でこのような活動が義務付けられていることもある)
  分類4‐NGOを設立型
 
CSR活動を行うためのNGOを自ら設け、他の企業等とも幅広く連携
して活動を行っている企業。企業が資金提供しNGOを設立している
が、NGO自体は「半独立」して活動。他のNGOとの連携もあり。例。
BIOCON社のBIOCON Foundation, TVS社のSrinivasan Services
Trust等
CSR活動の事例:BIOCON LIMITED(1/4)
WWW.BIOCON.COM   企業分類 :インド企業(準大手)   事業内容 :生物薬剤、生物医薬品の開発、製造、
販売   従業員数 : 3000人以上   設立年 :1978年   立地場所 :本社はバンガロール(インド5か所に
事務所、マレーシアに工場設置予定)
  BIOCON社の環境衛生安全部(EHS)がCSR活動
を担当。これとは別にBIOCON社がBIOCON
FoundationというNGOを設立。 CSR活動の事例:BIOCON Limited(2/4) <教育分野>
 
公立学校に教科書やノートの提供、運動場建設、机
等の家具の提供、奨学金制度の設立
  “Fun with Maths – Chinnara Ganitha”というプログラ
ムの実施。英語がわからない貧困層が住む地域に、現
地語で数学教科書を作成し提供。 800の学校の7万人
の生徒がこの教科書を利用。 CSR活動の事例:BIOCON LIMITED(3/4)   ICIC Lombard General Insuranceと連携し
て“AROGYA RAKSHA”といわれる低価格健康保険制
度を運営。当保険制度は年間一人あたり約180ルピー
で購入可(約270円)。加入の条件は所得が一定額以
下になっていること。カルナタカ州の約40か所の病院
で保険が使える
CSR活動の事例:BIOCON LIMITED(4/4)   スマート・フォンを用いた遠隔医療クリニック 貧困地域の女性に医療・電話の使い方に関する
訓練の実施 貧困地域を訪問。病気のある人々のデータ及び写
真をスマート・フォンを用いて入力。医者へ送信 医師が内容を確認。スマート・フォンを用いて
遠隔指示。 ボランティアが簡単な治療を実施 TVS MOTOR COMPANYの経済発展活動支援の
事例 (インド大手企業、従業員数は4万人、本社はChennai、工場はインド各地)  
日雇いの労働者に対し、イ
ンド・パン(Chapati)の
作り方を教え、作ったもの
をTVS社の食堂が購入する
ことにより自立をサポート
 
貧困層を対象に自立支援グ
ループ(Self Help
Group)の設立。SHGは女
性に対し、教育、健康、衛
生プログラム、銀行を連携
し女性を対象としたミクロ
ファイナンスの実施。SHG
のサポートを受けた女性は
乳業、ガーメント、食品加
工、蜂蜜づくり等の事業を
設立し、自立
 
 
農業活動の改善方法に関する教育プ
ログラムの実施
農民に対して、銀行からローンを借
りることの手助け
CIPLA LTDの事例:安価なエイズ薬の開発 (製薬及び農薬製品製造、大手インド企業、従業員数2万人)   CIPLA社はエイズの薬を米国へ輸出しているインド会社。
米国の前大統領のBill Clinton氏の要請を受け、2001年に
1日分を1ドル(a dollar a day)で購入できるエイズの薬
の開発し、国境なき医師団へ1年間分を350ドルで販売。
国境なき医師団はこの薬を無料でアフリカ等へ配布 BUHLER INDIAの事例:人材育成支援 スイス系企業のインド法人、精米機器製造、従業員(インド)300人   BUHLER
ACADEMYを設立。自社工場の周辺の貧困層
の学生(10年生を卒業した学生)を選定し、無料で機
会工学の分野の研修を実施(現在生徒数は40人)。生
徒の選定には経済的な事情、学業成績、住居地域を考慮。
研修終了後は就職活動の支援。優秀な学生に都市部の裕
福層と平等な雇用機会を与えることが目的 インドにおけるCSRの動向   CSR
Policyを有する企業は少ない
  Philanthrophyからの進化
  環境法への対応
→環境認可、設立許可、運転許可の条件として
  社会配慮活動の分野の傾向
→農村地域における活動が中心
→分野は教育(学校建設、教材提供、学外活動の提
供)、健康(病院建設、医療キャンプの実施、用事死
亡率対策、HIV/エイズ知識普及啓発)、女性(教育、
差別対策、職業研修)、貧困対策及び水対策が多い
  「外」から「内」を見る動き
→労働組合と経営陣の衝突の歴史
最後に   外国企業(外資系企業)への期待感
→ 現地企業以上の対応が求められる
→ 土地取得された住民から「永久的な」配慮の期待
  よいパートナーとなるNGOの選定の難しさ
  行政機関からの要求事項
→ケース・バイ・ケースの要求への対応の難しさ
  ニーズの優先付け
ニーズ(教育、医療、貧困、健康、公害)を理解した
上での対応が効果的
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