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小児・若年期における携帯電話端末使用と健康に関する疫学調査 研究

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小児・若年期における携帯電話端末使用と健康に関する疫学調査 研究
平成24年度研究成果報告書
小児・若年期における携帯電話端末使用と
健康に関する疫学調査
平成 25 年 3 月
総 務 省
1
(以下、東京女子医科大学 受託分)
第1章
総
括
Ⅰ.研究目的
小児・若年期に携帯電話端末を使用することが、健康に影響を与える可能性がないかを
疫学的手法で検討し、携帯電話端末使用の安全性を確認するのが本研究の目的である。可
能性のある健康影響としては、携帯電話端末を使用する際に電磁波ばく露が最大となる脳
腫瘍の発症リスクに焦点を当てる。
世界保健機関(WHO)は、小児の脳腫瘍の発症に及ぼす潜在的影響の調査を勧告してお
り、本研究はそれにも答えるものである。
Ⅱ.研究方法
Ⅱ-1.研究実施体制
<研究責任者>
○
山口 直人(東京女子医科大学・教授)
多氣 昌生(首都大学東京・教授)
<研究推進ワーキンググループ>
秋葉 澄伯(鹿児島大学)
朝倉 敬子(慶應義塾大学)
笽島 茂 (三重大学)
武林 亨 (慶應義塾大学)
辻
真弓(産業医科大学)
西脇 祐司(東邦大学)
小島原 典子(東京女子医科大学)
佐藤 康仁(東京女子医科大学)
清原 康介(東京女子医科大学)
古島 大資(東京女子医科大学)
藍原 康雄(東京女子医科大学)
2
研究責任者
山口直人(東京女子医科大学)
研究計画の策定・進捗管理・諸問題への対応
研究リーダー:○山口直人(東京女子医科大学)
研 究 者 :秋葉澄伯(鹿児島大学)
武林亨(慶應義塾大学)
西脇祐司(東邦大学)
朝倉敬子(慶應義塾大学)
辻真弓(産業医科大学)
笽島茂(三重大学)
多氣昌生(首都大学東京)
症例対照研究の実施
研究リーダー:○山口直人(東京女子医科大学)
研 究 者 :小島原典子(東京女子医科大学)
清原康介(東京女子医科大学)
古島大資(東京女子医科大学)
藍原康雄(東京女子医科大学)
小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
研究リーダー:○山口直人(東京女子医科大学)
研
究
者 :清原康介(東京女子医科大学)
多氣昌生(首都大学東京)
コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状況の把
研究リーダー:○山口直人(東京女子医科大学)
研
究 者 :佐藤康仁(東京女子医科大学)
多氣昌生(首都大学東京)
3
Ⅱ-2.研究方法
ア
小児・若年者の携帯電話端末使用と脳腫瘍リスクに関する症例対照研究の実施
Mobi-Kids プロジェクトに基づき、研究プロトコール、インタビュー調査票を平成 22 年
度に完成し、インタビュー調査票のプリテストと改訂を平成 22 年度に終了した。
平成 23~24 年度は、以上の成果に基づき、本調査を実施する。目標は、脳腫瘍症例 100
例、対照群である虫垂炎症例 200 例である。
以下の 4 課題について研究を実施する:
① Mobi-Kids 本部と連携した調査の継続実施
② 国内の複数の医療機関との連携による多施設共同研究の実施体制の確立と維持
③ 脳腫瘍群、虫垂炎群に対するインタビューの実施。平 24 年度末までに脳腫瘍症例 100
例、対照群である虫垂炎症例 200 例を目標とする
④ 症例群、対照群の一部を対象として携帯電話通信事業者が所有する携帯電話端末使用記
録を入手し分析する。
(当初予定にはなく、新規追加)
イ
小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
イ-1
疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価
疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価として、短期記憶の妥当性評価
については、平成 22 年度に Software Modified Phone(SMP)を実際に使用してフィージ
ビリティー研究を実施して実行可能性を検証した。
平成 23~24 年度は SMP を用いた本調査を実施する。平成 23 年度は 18~24 歳を対象と
した調査を完了する。さらに、10~17 歳を対象とした調査を平成 23 年度内に開始し、平
成 24 年度に終了する。また、Mobi-Kids プロジェクトの本部と連携して、スマートフォン
使用者を対象とした妥当性評価研究も実施を検討する。
以下の 5 課題について研究を実施する:
① 18~24 歳の対象者 100 名、10~17 歳の対象者 100 名の計 200 名を募集し、SMP を貸
与し、1 ヶ月間使用してもらう。その 10~12 ヶ月後にインタビュー調査を実施して妥
当性を評価する。
② SMP による妥当性評価のデータから携帯電話端末使用時のばく露レベルを工学的に検
討する。
4
③ Mobi-Kids プロジェクトの本部と連携して、スマートフォン使用者を対象とした妥当性
評価研究の実施計画を検討する。
イ-2
携帯電話端末使用時の頭蓋内比吸収率(SAR)分布に基づく頭蓋内のばく露評価
以下の 2 課題について研究を実施する(首都大学東京)
① 小児・若年者が携帯電話端末を使用した際の頭蓋内のSAR分布を推定して、携帯電話
端末の使用に関する情報から定量的なばく露レベルを推計する方法を確立する。
② 携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価
ウ
コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状況の把握
コホート追跡調査の対象年齢を、小学校 4~6 学年に加えて症例対照研究の対象年齢であ
る 30 歳までに拡大し、携帯電話端末の使用状況の解析を実施する。
全国青少年における脳腫瘍罹患症例の疫学的分析としては、平成 22 年度までに把握した
98 症例について、平成 23 年度中にデータ収集を完了し、データを固定して、解析を実施す
る。解析としては、携帯電話の使用歴のある症例と使用歴のない症例で、脳腫瘍の臨床病
理学的特徴に違いがないかどうか、内部比較を実施する。また、上述した携帯電話端末の
使用状況の分析結果を基に、全 98 症例が全国の携帯電話使用状況と同じ使用状況であった
と仮定した場合の期待携帯電話使用者数を算出して、観察された使用割合と比較検討する。
ウ-1
小児・若年者における携帯電話の使用状況の分析
携帯電話端末の使用状況の解析:
出生コホート別に携帯電話の使用状況を縦断的に分
析する。
ウ-2
全国青少年における脳腫瘍罹患症例の疫学的分析
平成 22 年度までに把握した 98 症例について、平成 23 年度中にデータ収集を完了し、デ
ータを固定して、解析を実施する。
ウ-3
データ管理システムの運営
平成 22 年 11 月から疫学調査システムを再開した。平成 23~24 年度は、高校生以上の年
齢層も対象に追加して継続的な調査とデータ管理を行う。
① コホート追跡調査の対象者の拡大: 対象年齢を小学校 4~6 学年に加えて症例対照研
5
究の対象年齢である 30 歳まで、中学・高校生、さらに成人にまで拡大する。
② 「イ
小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価」の対象者募集に際して、コホー
ト研究対象者から該当者を選出して募集に寄与する。
Ⅲ.研究結果の概要
ア
小児・若年者の携帯電話端末使用と脳腫瘍リスクに関する症例対照研究の実施
Mobi-Kids 本部と連携し症例対照研究を継続実施した。
国内の複数の医療機関との連携による多施設共同研究体制の拡大を目指し、調査地域内
の医療機関に協力を依頼した。2013 年 1 月現在、脳腫瘍群 18 施設、虫垂炎群 13 施設にお
いて症例登録を実施している。また、脳腫瘍群 7 施設、虫垂炎群 4 施設において倫理申請
の手続きなど症例登録に向けて準備を行っている。
2013 年 1 月現在の参加施設の症例登録状況は、脳腫瘍群 85 例(うち、インタビューを実
施したのは 53 例)
、虫垂炎 241 例(うち、インタビューを実施したのは 117 例)である。イ
ンタビュー参加率は、脳腫瘍群 62%、虫垂炎 48%で、研究計画時のインタビュー目標症例
数に対して、把握できた症例・対照数は、それぞれ、53/100(53%)、117/200(58%)であった。
通信事業者記録に基づく妥当性評価
Mobi-Kids 症例対照研究において実施している過去の携帯電話の使用状況に関するイン
タビュー調査による結果と通信事業者の記録を照合することにより、聞き取り調査結果の
妥当性を評価する。
Mobi-Kids 症例対照研究の研究対象者のうち、インタビュー調査において過去に携帯電
話の定期的利用があった者でインフォームドコンセントを取得した者を対象とする。研究
対象施設は、東京都下の 4 医療機関である。平成 25 年 2 月末時点での研究対象者は脳腫瘍
群 14 例、うち事業者記録取得 1 例、虫垂炎群 39 例、うち事業者記録取得 8 例である。
イ
小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
イ-1
疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価
10 歳~24 歳の学生 200 人を対象に、Software Modified Phone(SMP)を用いた調査を実
施した。今後、SMP 使用から 10~12 ヶ月後に実施したインタビュー調査との一致度を分析
する予定である。
6
ウ
コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状況の把握
ウ-1
小児・若年者における携帯電話の使用状況の分析
本調査は、コホートを設定し追跡調査を行うことで、小児・若年者の携帯電話端末の使
用状況の変化を把握するものである。本報告では、2008 年より開始したコホート調査から
得られたデータにについて、性・年齢別参加者数、地域別参加者数、2012 年登録者の携帯
電話利用状況、追跡調査の状況について集計した。また、出生年別、性別、地域別の携帯
電話所有率を計算し、携帯電話所有曲線を示した。これにより、携帯電話利用の疫学調査
を実施する際には、出生年、性別、地域による携帯電話所有率の違いを考慮する必要性を
示した。
本調査への登録者数は 7,550 人(男性 3,578 人、女性 3,972 人)であった。自分専用の
携帯電話所有率は年齢が上がるほど高くなる傾向が見られ、22 歳以上でほぼ 100%を示し
た。通話での使用は年齢が上がるほど高くなる傾向が見られた。6 歳で 3 分の 2 が通話で使
用しており、18 歳以上でほぼ 100%を示した。電子メールの利用は小学生では通話利用よ
り少なくなっていたが、中学生では通話利用より多くなっていた。インターネットの使用
は中学生から増加していた。1 日通話時間は上下があるものの、全体的に年齢が上がるほど
多くなる傾向がみられた。左耳使用割合およびハンズフリー装置の使用は、特に傾向は見
られなかった。地域別携帯電話所有率(高校生・中学生)を見ると、高校生、中学生とも
に都市化した地域に住む者の方が携帯電話の所有率が高くなっていた。
ウ-2
全国青少年における脳腫瘍罹患症例の疫学的分析
対象となった脳腫瘍患者 89 名中で、携帯電話所有者は 17 名であった。携帯電話所有の
有無によって背景情報を比較すると、診断時年齢が上がるほど、携帯電話所有者の割合は
高くなる傾向が見られた。携帯電話利用有無別の臨床情報を分析すると、診断名別では、
携帯電話利用者において髄芽腫が少なく、上衣腫が多い傾向が見られた。腫瘍の場所では
携帯電話利用者にテント下が少なくなっていた。腫瘍径は携帯電話利用者の方が小さい傾
向があった。診断前 1 年前に携帯電話を利用していた者の携帯電話の利用状況を表 5-3 に
示した。診断 5 年前から携帯電話を利用していた者は 1 名であった。
対象となった脳腫瘍患者 89 名の携帯電話端末所有率が、健常者の携帯電話端末所有率と
等しいと仮定した算出した期待携帯電話所有者数は 22.1 人であり、観察された所有者数 17
人が期待所有者数を上回ることはなかった。
7
Ⅳ.おわりに
平成 22 年度から「小児・若年期における携帯電話端末使用と健康に関する疫学調査」と
して、①国際共同症例対照研究である Mobi-Kids プロジェクトへの参加、②小児・若年期
における携帯電話端末使用による電磁界ばく露の評価、③継続的コホート研究による青少
年の携帯電話端末使用の実態把握を実施してきた。また、妥当性評価研究では携帯電話端
末使用による電磁界ばく露レベルを明らかにするとともに、Software Modified Phone
(SMP)を使用した妥当性評価研究を実施して、症例対照研究の信頼性の評価も完了する。
さらに、継続的コホート研究では、性・出生世代によって携帯電話端末の使用開始年齢が
異なること、地域によっても異なることを明らかにして、リスク評価のための基礎的な情
報を収集できた。
一方、近年、スマートフォン等の新しい携帯電話端末の普及が急速に進みつつあること
は注目すべき事態である。実施中のコホート研究のデータ解析によると、スマートフォン
使用者は、平成 24 年 6 月末現在で 32%であり、従来型の携帯電話に比べて、10 歳代~30
歳代の比較的若い年齢層に使用者が多いことなどが明らかにされており、従来型携帯電話
について得られた結果をスマートフォンに援用することが可能かどうかも含めて、新しい
通信機器に対応した調査の実施が求められているが、平成 24 年度までの研究では、新しい
通信機器への対応はできていないのが現状である。
今後の研究課題として、スマートフォンの影響を疫学的手法で検討すべきと考える。ま
た、WiFi など、新しい通信技術の普及もめざましいものがあり、それらによるばく露の影
響についても研究の推進が必要である。
8
第2章 小児・若年者の携帯電話端末使用と脳腫瘍リスクに関する症例
対照研究
2-1. 青少年の日常生活と脳腫瘍(Mobi-Kids Japan)に関する研究
研究要旨
Mobi-Kids 本 部 ( Center for Research in Environmental Epidemiology (CREAL),
Barcelona, Spain)と連携し症例対照研究を継続している。国内の複数の医療機関との連
携による多施設共同研究の体制を拡大し、脳腫瘍群 18 施設、虫垂炎群 13 施設において症
例登録を実施している。脳腫瘍群 53 例、虫垂炎群 117 例に対してインタビューを実施した。
A.研究目的
本研究の目的は、10~30 歳の若年者において、携帯電話端末からの電磁波曝露が脳腫瘍
発症と関連があるかどうか明らかにすることである。
B.研究方法
本研究は観察研究(症例対照研究)である。新規に発症した原発性脳腫瘍(良性・悪性)患者
を症例群とし、個々の症例と性・年齢でマッチングした急性虫垂炎患者を症例 1 人に対し
て 2~4 人を前向きにリクルートし、対照群とする。研究実施期間は平成 23 年 6 月 1 日か
ら平成 25 年 3 月 31 日までである。
調査方法は、面接調査、自記式質問票(事前シート)調査、臨床調査票調査の 3 種である。
面接調査では、コンピュータ化された質問票を用い、熟練したインタビュアーによる約 60
分の面接を行う。質問項目は、携帯電話の使用に関する情報の他、コードレス電話や Wi-Fi、
電化製品の使用状況についてなどである。自記式質問票調査では、被験者の年齢別に 3 種
の質問票を用意し、面接調査前に回答・提出してもらう。質問項目は、居住状況や病歴、
放射線・電離放射線治療歴などである。臨床調査票は、症例群のみ、臨床情報を医療機関
から収集する。脳腫瘍の組織型、部位などをカルテから転記する。
携帯電話端末の使用と脳腫瘍罹患リスクとの関連の統計的な分析は、携帯電話端末の使
用の有無、使用開始からの年数、累積使用年数、平均 1 日通話回数、平均 1 回通話時間、
9
累積通話時間について解析を実施する。
C.研究結果
国内の複数の医療機関との連携による多施設共同研究の体制を拡大し、関東の教育研修
病院を中心に協力を依頼し、2013 年 1 月現在、脳腫瘍群 18 施設、虫垂炎群 13 施設におい
て症例登録を実施している。また、現在脳腫瘍群 7 施設、虫垂炎群 4 施設において倫理申
請の手続きなど症例登録に向けて準備を行っている。
2013 年 1 月現在の参加施設の症例登録状況は、脳腫瘍群 85 例(うち、インタビュー53
例)
、虫垂炎 241 例(うち、インタビュー117 例)である。インタビュー参加率は、脳腫瘍
群 62%、虫垂炎 48%で、研究計画時のインタビュー目標症例数達成率は、それぞれ
53/100(53%)、117/200(58%)であった。郵送による事前シートの回答による全対象者の特性
を途中経過として表 2-1 に示す。2013 年 1 月までに脳腫瘍群 17 名,虫垂炎群 69 名(計 86 名、
うち男性 46 名(53%)
)から回答が得られた。脳腫瘍群 53 例の組織型は図 2-1 に示す通り
である。
D.考察
10-30 歳の新規脳腫瘍の発生が当初の推計より少なく、神奈川、埼玉の協力病院を含め、
全国の症例を登録することとしたが、2013 年 3 月の登録終了までに脳腫瘍目標症例数 100
名は収集は難しい状況である。虫垂炎群は 200 名を目標としているが、年齢構成がやや高
く、23 区外居住者が少ない状況が続いている。協力病院分布図を図 2-2、症例群と対照群の
地理的条件の分布を図 2-3 に示す。協力病院、患者分布とも十分にばらついていて地域代表
性があると考えられる。
E.結論
わが国だけでなく、国際研究全体でも症例登録が遅れており、EU では症例登録を 2014
年 12 月まで延長することが決定した。我が国でも継続して症例登録を促進するよう協力施
設の確保を進め、Wi-Fi、スマートフォンなどの新たな通信技術についても検討していくこ
とが重要である。
10
表 2-1 全対象者の特性(2013 年 1 月現在)
虫垂炎 (n=
69 )
脳腫瘍 (n=
17 )
( 歳 )
20
±0.78
n (%)
37
(
54
)
9
( 53
携帯使用者 注1
定期的使用者 n (%)
38
(
55
)
7
( 41 )
職業歴注2
放射線関
連の職業
従事者
n (%)
0
(
0
)
0
( 0
既往歴
アレルギーあり
n (%)
17
(
25
)
3
( 18 )
齲歯あり
n (%)
18
(
26
)
7
( 41 )
n (%)
0
(
0
)
0
( 0
年齢(平均±標準誤差)
男性
性別
現病歴
家族歴注:3
脳腫瘍あ
り
注1:3か月以上、週1回以上の頻度で電話をかける、または受けるもの
注2:3か月以上放射線にさらされる仕事に従事したもの
注3:第2親等までに脳腫瘍と診断されたものがいるか
図 2-1
脳腫瘍群の集積状況(2013 年 1 月現在)
組織型 (n=53)
glioma
15 (25 %)
不明
14 (23%)
meningioma
2 (3%)
その他
30 (49%)
11
15 ±2.25
)
)
)
図 2-2
協力病院分布図(2013 年 1 月現在)
① 脳腫瘍・虫垂炎協力施設 ① 脳腫瘍協力施設 ① 虫垂炎協力施設
脳腫瘍群 18 施設、虫垂炎群 13 施設
図 2-3
日本対象患者分布図(2013 年 1 月現在) (0 脳腫瘍インタビュー数
0 虫垂炎イン
タビュー数)
地域
東京 23 区内
東京 23 区外
神奈川県
埼玉県
千葉県
その他
脳腫瘍群
24
7
9
5
3
5
虫垂炎群
97
11
3
3
2
1
12
2-2. 事業者記録に基づくMobi-Kids妥当性評価研究
研究要旨
若年期における携帯電話使用と脳腫瘍の関連性の症例対照研究(研究課題:
「青少年の日
常生活と脳腫瘍(Mobi-Kids Japan)」、以下、Mobi-Kids 症例対照研究)では、過去の携帯
電話の使用状況についてインタビュー調査(対面式聞き取り調査)を実施している。
インタビュー調査は、本人の過去の記憶に頼ることとなり、リコールバイアスが含まれ
る可能性があり、回答の信頼性を評価する必要性がある。
A.研究目的
Mobi-Kids 症例対照研究において実施している過去の携帯電話の使用状況に関するイン
タビュー調査による結果が、実際の携帯電話の使用とどの程度一致しているかを検証し、
聞き取り調査結果の妥当性を評価する。
B.研究方法
Mobi-Kids 症例対照研究の研究対象者のうち、インタビュー調査において過去に携帯電
話の定期的利用があった者でインフォームドコンセントを取得した者を対象とする。
対象者は、契約する携帯電話事業者から通話・通信に関する明細書(以下、事業者記録)
を取得し、研究事務局に送付する(図 2-4)。得られた事業者記録と発信通話時間・回数、
推計した着信通話時間・回数をインタビュー回答結果と比較し、妥当性を評価する。
研究期間は平成 24 年 4 月から平成 26 年 3 月とし、目標対象者数は、脳腫瘍群、虫垂炎
群それぞれ 25 例とする。研究対象施設は、東京都下の 4 医療機関とする。
図 2-4 明細書取得の手順
携帯電話事業者
対象者
13
Mobi Kids Japan
事務局
C.研究結果
平成 25 年 2 月末時点の進捗状況は下表のとおりである。
2 月末時点で、脳腫瘍群研究対象 14 例、うち事業者記録取得 1 例(取得率 7%)
、虫垂炎
群研究対象 39 例、うち事業者記録取得 8 例(取得率 21%)、全体では研究対象 53 例、うち
事業者記録取得 9 例(取得率 17%)となっている。研究拒否は 57%(研究対象 53 例中 30
例)となっていた。また研究対象外 17 例のうち 15 例は過去に携帯電話の定期的利用がな
い者であった。また 2 例については、入院期間が長期に及んだため研究参加対象外となっ
た(表 2-2)
。
表 2-2 調査の進捗状況
総数
研究
対象
同意
対象外
脳腫瘍群
19
14
1
0
完了
(明細書
取得)
1
6
0
7
5
虫垂炎群
51
39
8
0
8
7
1
23
12
70
53
9
0
9
13
1
30
17
合計
手続き中
同意撤回 回答保留
拒否
D.考察
本研究における研究参加拒否が 57%となっている背景には、個人情報提供への抵抗感、
手続きの複雑性があった。個人情報に関しては、マスキングの上、提出することとなって
いるが、より一層の配慮の必要性があると示唆される。また、同意取得後、同意を撤回す
る例もみられるため、事業者記録取得手続きの負担軽減のためのサポート体制を検討して
いく必要性もある。
14
第3章 疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価
研究要旨
過去の携帯電話の通話状況を尋ねるインタビュー調査の妥当性を評価するため、10 歳~
24 歳の学生を対象に、Software Modified Phone(SMP)を用いた調査を実施した。前年度
は、対象者 200 名に SMP を 1 ヶ月間使用してもらい、データを回収した。今年度はその 10
~12 ヶ月後にインタビュー調査を実施した。
A.研究目的
携帯電話の通話と脳腫瘍発症との関連を明らかにするための研究の多くは症例対照研究
であり、過去の携帯電話の使用状況について、自己申告によるばく露評価を行っている。
そのため、自己申告で得られる情報が実際の通話状況をどの程度反映しているのかを明ら
かにし、質問の妥当性を確認する必要がある。そこで我々は、通話回数、通話時間、通話
時にどちらの耳を使用したかを記録できる Software Modified Phone(SMP)を作成した。
平成 22 年度には大学生 51 人を対象に予備調査(フィージビリティスタディ)を行い、妥
当性評価研究の実施可能性を確認した。
本研究の目的は、過去の携帯電話の通話状況を尋ねるインタビュー調査が実状とどの程
度一致するか明らかにすることである。
B.研究方法
① インタビュー調査の対象者
平成 23 年度には本調査として 10~24 歳の学生に 1 ヶ月間 SMP を使用してもらい、通
話データを収集した。今年度は、プロトコールに従い、通話データの収集から 10~12 ヶ
月後のインタビュー調査を実施した。当初、調査協力への同意を得たのは 202 名であっ
たが、1 人が調査への協力を辞退し、1 人が SMP のアプリケーションを誤消去して途中脱
落となったため、インタビュー調査の対象者は 200 名となった。
② インタビュー調査の方法
インタビュアーと対象者との 1 対 1 の対面式インタビューとした。ただし、対象者が
中学生以下である場合には保護者同伴の上で調査を行 った。インタビューの内容は
Mobi-Kids で使用している調査項目に準じた。2012 年 6 月~10 月に 18~24 歳に対するイ
ンタビュー調査を行い、2012 年 11 月~2013 年 2 月に 10~17 歳に対するインタビュー調
15
査を行った。
C.研究結果
① インタビュー調査の対象者プロフィール
表 3-1 にインタビュー対象者 200 名のプロフィールを示した。なお、年齢、学校、居
住地の情報は SMP 貸出時のものである。200 名のうち男性は 97 名、女性は 103 名で、平
均年齢は 17.2 歳であった。
②
インタビュー調査の実施状況
表 3-2 にインタビューの実施状況を示した。2013 年 2 月に、対象者 200 名全員に対す
るインタビュー調査が全て完了した。同意撤回、音信不通などで脱落症例となった者は
存在しない。
D.考察
2013 年 2 月末をもって、脱落なく 200 名全例のインタビューを終えられた。今回の調査
では、年齢、性別、居住地域に大きな偏りなくデータを収集することができた。今後、前
年度に収集した SMP のデータを用いて、今回のインタビュー調査との一致度を検討してい
く予定である。
E.結論
過去の携帯電話の通話状況を尋ねるインタビュー調査が実状とどの程度一致するかを明
らかにするための調査を完了した。今後、SMP で測定した実際の通話状況とインタビュー調
査との一致度を分析・検討する。
F. 研究発表(学会発表)
・Kiyohara K, Wake K, Watanabe S, Arima T, Furushima D, Sato Y, Kojimahara N, Taki
M, Yamaguchi N
Using
Software
Recall Accuracy of Laterality of Mobile Phone Call: A Validation Study
Modified
Phone
in
Japan.
34th
Annual
Conference
of
The
Bioelectromagnetics Society June. 2012
・清原康介、和氣加奈子、渡邊聡一、有馬卓司、古島大資、福島教照、佐藤康仁、小島原
典子、多氣昌生、山口直人
携帯電話の通話に使用した耳側を尋ねる質問紙調査の妥当性
第 23 回日本疫学会学術総会 2013 年 1 月
16
表 3-1
インタビュー対象者 200 名のプロフィール
(SMP 貸出時点の情報)
性別
年齢
学校
※1
居住地 ※ 2
男性
97
(
49 %
)
女性
103
(
52 %
)
10歳
11
(
6 %
)
11歳
12
(
6 %
)
12歳
14
(
7 %
)
13歳
12
(
6 %
)
14歳
13
(
7 %
)
15歳
14
(
7 %
)
16歳
12
(
6 %
)
17歳
13
(
7 %
)
18歳
17
(
9 %
)
19歳
16
(
8 %
)
20歳
15
(
8 %
)
21歳
15
(
8 %
)
22歳
15
(
8 %
)
23歳
13
(
7 %
)
24歳
8
(
4 %
)
小学校
23
(
12 %
)
中学校
39
(
20 %
)
高等学校
39
(
20 %
)
大学・文系
36
(
18 %
)
大学・理系
22
(
11 %
)
大学・医療系
16
(
8 %
)
大学・その他
9
(
5 %
)
大学院・文系
9
(
5 %
)
大学院・理系
5
(
3 %
)
大学院・医療系
0
(
0 %
)
大学院・その他
2
(
1 %
)
東京都・都心5区
11
(
6 %
)
東京都・その他23区内
59
(
30 %
)
東京都・23区外
24
(
12 %
)
千葉県・千葉市
6
(
3 %
)
千葉県・その他地域
23
(
12 %
)
埼玉県・さいたま市
7
(
4 %
)
埼玉県・その他地域
21
(
11 %
)
神奈川県・川崎市
9
(
5 %
)
神奈川県・相模原市
5
(
3 %
)
神奈川県・横浜市
22
(
11 %
)
神奈川県・その他地域
11
(
6 %
)
茨城県・稲敷市
1
(
1 %
)
栃木県・河内郡
1
(
1 %
)
※1 大学・大学院の分類について:
・文系…文、社会、経済、経営、会計、法、教育、教養
・理系…理、農、工、生命
・医療系…医、歯、薬、獣医、保健
・その他…文理、文芸、スポーツ、造形研究、芸術、人間、海洋、
健康マネジメント、音楽、国際地域
※2 東京都・都心5区について:
新宿区、渋谷区、港区、千代田区、中央区
17
表 3-2
インタビュー調査の実施状況
インタビュー実施日時
6月
7月
8月
2012年
9月
10月
11月
12月
1月
2013年
2月
計
完了件数
1-10日
0
11-20日
2
21-30日
3
1-10日
12
11-20日
9
21-31日
21
1-10日
11
11-20日
8
21-31日
19
1-10日
3
11-20日
5
21-30日
4
1-10日
2
11-20日
0
21-31日
0
1-10日
0
11-20日
6
21-30日
14
1-10日
10
11-20日
16
21-31日
21
1-10日
12
11-20日
13
21-31日
5
1-10日
1
11-20日
3
200
18
第4章 コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状
況の把握
研究要旨
本調査は、コホートを設定し追跡調査を行うことで、小児・若年者の携帯電話端末の使
用状況の変化を把握するものである。本報告では、2008 年より開始したコホート調査から
得られたデータにについて、性別年齢別参加者数、地域別参加者数、2012 年登録者の携帯
電話利用状況、追跡調査の状況について集計した。また、出生年別、性別、地域別の携帯
電話所有率を計算し、携帯電話所有曲線を示した。これにより、携帯電話利用の疫学調査
を実施する際には、出生年、性別、地域による携帯電話所有率の違いを考慮する必要性を
示した。
A.研究目的
携帯電話利用の安全性を明らかにする疫学研究は、世界的に進められているところであ
る。携帯電話利用の疫学研究においては、曝露(携帯電話の利用)と疾病(脳腫瘍をはじ
めとした頭部の腫瘍性疾患)の正確な把握が特に重要になる。一方で、携帯電話の普及ス
ピードと技術革新は著しく、携帯電話利用の状況は、年齢、時代、出生コホートにより大
きく異なることが予想される。
現在、本研究班は、 16 ヶ国が参加する国際共同症例対照研究である MOBI-KIDS
(http://www.mbkds.net/)に参加し、データ収集を進めている。MOBI-KIDS の対象者は
10~24 歳、MOBI-KIDS JAPAN の対象者は 10~30 歳であるが、我が国の小児・若年者を
中心とした年齢層の携帯電話の利用状況およびその変化を把握することは、リスク評価を
する際の基本データとして重要となる。本研究は、小児・若年者の全国コホートを設定し
追跡調査を行うことで、携帯電話端末の使用状況とその変化を把握するものである。
B.研究方法
調査の対象者は 6 歳(小学校 1 年生)以上とした。小学生、中学生は保護者が調査に回
答し、高校生以上、一般の者は本人が調査に回答した。調査はインターネット上で行った。
本調査は、インターネット上のデータベースシステムである疫学調査システムを用いるこ
とで調査を進めた。疫学調査システムでは参加者登録、ベースライン調査、追跡調査、参
加者からの相談受け付け、問い合わせ対応を実施した。
19
コホートの設定は 2008 年から 2012 年まで継続して実施した。全国の小学校、中学校、
中等教育学校、高等学校、大学、短期大学、高等専門学校、専修学校に対して、本調査を
周知するチラシの配布をお願いし、参加者の募集を行った。
参加者はパソコンまたは携帯電話端末から調査ホームページにアクセスすることで、調
査に参加した。参加者は参加登録の後に最初の調査であるベースライン調査に回答した。
ベースライン調査回答後 6 か月が経過すると、電子メールにて追跡調査への協力依頼が発
信された。参加者は電子メール内にある URL(Uniform Resource Locator)より調査サイ
トにアクセスし、調査に回答した。調査で質問する内容は、携帯電話の利用状況と入院を
伴う病気の有無であった。
本調査のデータはインターネット上のデータベースサーバに蓄積された。データは、参
加登録データ、ベースライン調査データ、追跡調査データに分けられる。これらのデータ
は随時更新されるが、本解析では 2013 年 3 月時点の最終データを用いた。参加登録データ
については、性別年齢別参加者数、地域別参加者数を集計した。ベースライン調査データ
については、2012 年にベースライン調査に答えた者の携帯電話利用状況について集計した。
携帯電話利用状況は、携帯電話の有無、通話での使用、電子メールの使用、インターネッ
トの使用、1 日通話回数、1 回通話時間、1 日通話時間、左耳使用割合、ハンズフリー装置
の使用とした。追跡調査データについては、観察人年を計算し、入院数を集計した。また、
追跡データを用いて、出生年別、性別、地域別の携帯電話所有率を求めた。出生年別の携
帯電話所有率は、現在 18 歳以上、高校生・中学生、小学生に分けてグラフに示した。性別
の携帯電話所有率は、現在 18 歳以上、高校生~小学生に分けてグラフに示した。地域別の
携帯電話所有率は、ビル・マンションの多い地域に住んでいる者、一戸建ての多い地域に
住んでいる者、住宅が点在している地域に住んでいる者別に、現在高校生・中学生、小学
生に分けてグラフに示した。
C.研究結果
性別年齢別参加者数については表 4-1 に示した。本調査への登録者数は 7,550 人であった。
性別では、男性 3,578 人、女性 3,972 人であり、女性がやや多くなっていた。年齢別では
18~25 歳の登録数がやや少なくなっていた。地域別参加者数については表 4-2 に示した。
本調査への参加は、全都道府県からの参加が見られたが、東京女子医科大学から近い地域
の登録が多くなっていた。
2012 年登録者の携帯電話利用状況については表 4-3 に示した。自分専用の携帯電話所有
率は年齢が上がるほど高くなる傾向が見られ、22 歳以上でほぼ 100%を示した(図 4-1)
。
通話での使用は年齢が上がるほど高くなる傾向が見られた。6 歳で 3 分の 2 が通話で使用し
ており、18 歳以上でほぼ 100%を示した(図 4-2)
。電子メールの利用は小学生では通話利
用より少なくなっていたが、中学生では通話利用より多くなっていた。インターネットの
20
使用は中学生から増加していた。1 日通話時間は上下があるものの、全体的に年齢が上がる
ほど多くなる傾向がみられた(図 4-3)。左耳使用割合およびハンズフリー装置の使用は、
特に傾向は見られなかった。
追跡調査による総観察人日は、2,621,805 人日(7,178 人年)であった。退会者数は 454
人(6.2%)であった。追跡調査の状況については表 4-4 に示した。追跡調査は 6 か月に 1
回実施した。小学生および中学生は第 10 回追跡調査まで実施した。高校生以上、一般は第
3 回追跡調査までを実施した。入院数は 178 件を把握した。
1962-1993 年生まれの出生年別携帯電話所有率を図 4-4 に示した。グラフの横軸は観察年、
縦軸は携帯電話所有率とした。携帯電話の普及は 1972-76 年生(現在 35-39 歳)が一番早
く、続いて 1977-81 年生(現在 30-34 歳)、1982-85 年生(現在 26-29 歳)の順になってい
た。また、1967-71 年生(現在 40-44 歳)、1962-66 年生(現在 45-49 歳)は緩やかに所有
率が上昇していた。
1994-1999 年生まれ
(現在高校生、
中学生)の出生年別携帯電話所有率を図 4-5 に示した。
グラフの横軸は年齢、縦軸は携帯電話所有率とした。携帯電話の所有は 6 歳前後から始ま
るのが観察された。また、若いコホート程、携帯電話の所有が早くなる傾向が見られた。
2000~2005 年生まれ(現在小学生)の出生年別携帯電話所有率を図 4-6 に示した。グラ
フの横軸は年齢、縦軸は携帯電話所有率とした。携帯電話の所有は 6 歳前後から増え始め
るのが観察された。また、若いコホート程、携帯電話の所有が早くなる傾向が見られた。
性別携帯電話所有率(18 歳以上)を図 4-7 に示した。グラフの横軸は観察年、縦軸は携
帯電話所有率とした。1962-71 年生(現在 40-49 歳)、および 1982-93 年生(現在 18-29 歳)
では男性の普及が早くなっていた。1972-81 年生(現在 30-39 歳)は男女で普及に大きな差
はなかった。
性別携帯電話所有率(18 歳未満)を図 4-8 に示した。グラフの横軸は年齢、縦軸は携帯
電話所有率とした。高校生、中学生、小学校高学年、小学校低学年のいずれも女性の普及
が早くなっていた。
地域別携帯電話所有率(高校生・中学生)を図 4-9 に示した。高校生、中学生ともに都市
化した地域に住む者の方が携帯電話の所有率が高くなっていた。地域別携帯電話所有率(小
学生)を図 4-10 に示した。高学年、低学年ともに都市化した地域に住む者の方が携帯電話
の所有率が高くなっていた。
D.考察
本コホート調査への参加者募集は、主に学校を通じて実施したが、学年(年齢)により
参加者数が異なっていた。2008 年に本コホート調査を開始した際は、小学校 4 年生~6 年
生のみが対象であったが、その後、対象者を小学 1 年生以上に拡大、また高校生以上一般
に拡大している。そのため、募集期間が長い年齢層と短い年齢層がある。また、本コホー
21
トはオープンコホートであり、随時参加者を受け付けた。これらの理由により、本コホー
ト調査の参加者は 11 歳(現在小学校 6 年生)~15 歳(高校 1 年生)が多くなる結果とな
った。また、18 歳~25 歳の層は、参加者募集期間が短かったことに加えて、調査への協力
を得るのが難しく、参加者数が少なくなっていた。
性別の分布では女性の方が登録数がやや多くなっていた。理由は定かではないが、小学
生~高校生では、女性の方が携帯電話所有率が高いこと、本調査は携帯電話やパソコンか
らインターネットにアクセスして調査に参加するものであること等が影響している可能性
がある。
本調査の参加者募集は、全国的に行っているため、北海道から沖縄まで全都道府県から
の参加が見られたが、東京女子医科大学に近い地域からの参加数が多くなっていた。特に
東京女子医科大学八千代医療センターのある千葉県 988 人(都道府県別 1 位)、東京女子医
科大学医学部がある東京都 927 人(都道府県別 2 位)、東京女子医科大学看護学部のある静
岡県 811 人(都道府県別 3 位)の登録数が多くなっていた。
横断データの解析より、携帯電話の所有率や通話時間は年齢に比例して高くなっていた
が、一方で中学生では電子メールの利用率が通話での利用率を上回っていた。携帯電話端
末の通信機能の利用は、通話だけではなく、電子メール、インターネット、ゲーム、など
多様化している。また、通話に限っても、携帯電話回線による通話だけでなくインターネ
ット回線を利用した通話もある。このような携帯電話端末の多様な利用は近年特に著しく
なり、本コホート調査では把握しきれていない。今後の調査では、このような多様な携帯
電話端末の利用を把握する必要がある。
出生年別の携帯電話所有率より、出生年により所有曲線が異なることが明らかとなった。
18 歳以上においては、1990 年代半ばに始まった携帯電話の普及とその時点での年齢が大き
く関係していることが窺える。高校生以下においては、大人において携帯電話が普及しき
っている中で、年々携帯電話所有が早くなる傾向が窺えた。出生年の違いにより携帯電話
が利用する電波の生涯曝露量が異なることが示唆された。
性別の携帯電話所有率においても、性別出生年別に所有率に違いが認められた。1962-71
年生まれ(現在 40-49 歳)においては、男性で早い普及が見られた。仕事での使用がこの
ような結果をもたらしている可能性がある。18 歳未満では、一貫して女性の所有率が高く
なっているが、安全のため保護者が携帯電話を子供に持たせているものと思われる。
地域別の携帯電話所有曲線においては、18 歳以上では傾向は見られなかったが、18 歳未
満では、都市化した地域ほど携帯電話所有が高い傾向がみられた。要因としては、安全の
ため、流行などが考えられる。本研究班で実施している症例対照研究では、症例群(脳腫
瘍)と対照群(虫垂炎)の携帯電話使用歴のデータを収集している。データ収集は病院を
ベースに実施しているが、脳腫瘍の患者は広い地域から集まる傾向があるのに対して、虫
垂炎の患者はより狭い地域から集まる傾向がある。対照群を主に東京 23 区から収集した場
合、対照群の携帯電話利用率が高くなり、リスクを打ち消す方向に影響する可能性がある。
22
出生年別携帯電話所有率、性別携帯電話所有率、地域別携帯電話所有率より、出生年、
性別、地域により携帯電話の所有状況が異なることが観察された。携帯電話利用の疫学調
査を実施する際には、出生年、性別、地域の 3 要素をマッチングまたは解析において考慮
する必要性がある。
E.結論
本研究は、小児・若年者のコホートを設定し追跡調査を行うことで、携帯電話端末の使
用状況とその変化を把握した。解析より、携帯電話の利用状況は、出生年、性別、居住地
で異なることが明らかとなった。携帯電話利用と健康の疫学調査を実施する際には、これ
らの違いを考慮した上で実施することが重要であることが示唆された。
表1 性別年齢別参加者数
表 4-1
男性
n
6歳
7歳
8歳
9歳
10歳
11歳
12歳
13歳
14歳
15歳
16歳
17歳
18-21歳
22-25歳
26-29歳
30-34歳
35-39歳
40-44歳
45-49歳
50歳以上
不明
合計
35
129
137
162
152
307
377
614
454
363
57
25
31
28
65
80
127
134
122
176
3
3578
女性
n
47
133
169
155
159
377
414
731
426
402
57
40
99
35
49
84
165
220
142
62
6
3972
合計
n
82
262
306
317
311
684
791
1345
880
765
114
65
130
63
114
164
292
354
264
238
9
7550
23
表 4-2
表2 地域別参加者数
n
北海道・東北
関東
中部
近畿
中国・四国
九州・沖縄
合計
%
10.6
44.1
20.5
9.7
6.7
8.5
800
3327
1545
735
504
639
7550
表 4-3表3 2012年登録者の携帯電話利用状況
全体
n
6歳
7歳
8歳
9歳
10歳
11歳
12歳
13歳
14歳
15歳
16歳
17歳
18-21歳
22-29歳
30-34歳
35-39歳
62
143
124
125
133
105
93
128
92
52
45
40
72
45
46
83
携帯電話の所有
n
%
21 33.9
37 25.9
36 29.0
27 21.6
33 24.8
33 31.4
40 43.0
65 50.8
55 59.8
40 76.9
37 82.2
36 90.0
62 86.1
44 97.8
44 95.7
83 100.0
通話で使用
n
%
14 66.7
30 81.1
30 83.3
24 88.9
29 87.9
29 87.9
31 77.5
55 84.6
44 80.0
32 80.0
32 86.5
33 91.7
61 98.4
42 95.5
44 100.0
82 98.8
電子メールを使用
n
10
19
21
16
18
22
36
60
51
24
%
47.6
51.4
58.3
59.3
54.5
66.7
90.0
92.3
92.7
インターネットを使 1日通話 1回通話 1日通話 左耳使 ハンズフリー装置
用
回数
時間
時間
用
の使用
n
1
2
1
1
2
2
8
28
19
%
4.8
5.4
2.8
3.7
6.1
6.1
20.0
43.1
34.5
0.41
0.66
0.88
0.59
0.84
0.88
1.01
0.58
1.00
0.74
0.43
0.95
1.19
0.91
1.00
1.47
(秒)
92.9
114.7
95.7
87.9
108.1
131.0
143.7
145.6
131.6
452.8
468.5
611.3
950.9
692.1
856.2
480.7
(秒)
44.6
70.0
103.2
50.6
119.9
209.5
309.8
98.6
91.2
464.5
168.1
534.4
858.9
601.2
890.2
780.7
%
34.6
49.3
45.0
43.5
30.3
48.3
47.7
31.6
47.0
45.2
34.8
33.8
37.2
40.5
58.4
59.3
n
2
4
0
0
5
2
1
5
6
3
5
7
13
6
6
11
%
14.3
13.3
0.0
0.0
17.2
6.9
3.2
9.1
13.6
9.4
15.6
21.2
21.3
14.3
13.6
13.4
通話
電子メール
25
インターネット
60
40
20
0
22-29歳
18-21歳
17歳
16歳
15歳
14歳
13歳
12歳
11歳
10歳
9歳
8歳
7歳
6歳
35-39歳
80
35-39歳
100
30-34歳
図4-2 携帯電話端末の利用状況
30-34歳
22-29歳
18-21歳
17歳
16歳
15歳
14歳
13歳
12歳
11歳
10歳
9歳
8歳
7歳
利
用
者
の
割
合
%
6歳
図4-1 携帯電話端末の所有率
100
80
所
60
有
率 40
%
20
0
図4-3 1日通話時間
表4 追跡調査の状況
表 4-4
入院数
回答数
n
n
%
小学生・中学生
第1回追跡調査
1962
14
0.71
第2回追跡調査
1454
10
0.69
第3回追跡調査
1134
8
0.71
第4回追跡調査
909
10
1.10
第5回追跡調査
651
3
0.46
第6回追跡調査
3368
54
1.60
第7回追跡調査
2157
33
1.53
第8回追跡調査
1368
16
1.17
第9回追跡調査
710
5
0.70
第10回追跡調査
46
0
0.00
高校生以上・一般
第1回追跡調査
1061
18
1.70
第2回追跡調査
547
7
1.28
第3回追跡調査
90
0
0.00
合計
178
*小学生・中学生は2011年3月より第6回追跡調査に繰り上げて実施
(調査項目見直しのため)
26
35-39歳
30-34歳
22-29歳
18-21歳
17歳
16歳
15歳
14歳
13歳
12歳
11歳
10歳
9歳
8歳
7歳
6歳
900
800
700
600
500
秒 400
300
200
100
0
図4-4 出生年別携帯電話所有率(1962-93年生)
100
90
80
1962-66年生(45-9歳)n=251
70
1967-71年生(40-4歳)n=339
60
1972-76年生(35-9歳)n=269
所
有 50
率
40
1977-81年生(30-4歳)n=160
1982-85年生(26-9歳)n=106
30
1986-89年生(22-5歳)n=57
20
1990-93年生(18-21歳)n=93
10
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
0
観察年
図4-5 出生年別携帯電話所有率(1994-99年生)
100
90
80
1994年生(17歳)n=55
70
1995年生(16歳)n=105
60
所
有 50
率
40
1996年生(15歳)n=749
1997年生(14歳)n=875
1998年生(13歳)n=1330
30
1999年生(12歳)n=781
20
10
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18
年齢
27
図4-6 出生年別携帯電話所有率(2000-05年生)
50
45
40
35
2000年生(11歳)n=665
30
2001年生(10歳)n=295
所
有 25
率
20
2002年生(9歳)n=302
2003年生(8歳)n=294
2004年生(7歳)n=251
15
2005年生(6歳)n=69
10
5
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
年齢
図4-7 性別携帯電話所有率(18歳以上)
100
90
80
70
1962-71年生(40-9歳)男性(n=246)
60
1962-71年生(40-9歳)女性(n=344)
所
有 50
率
40
1972-81年生(30-9歳)男性(n=204)
1972-81年生(30-9歳)女性(n=225)
30
1982-93年生(18-29歳)男性(n=116)
20
1982-93年生(18-29歳)女性(n=140)
10
0
観察年
28
図4-8 性別携帯電話所有率(18歳未満)
80
70
高校生(15-17歳)男性(n=428)
60
高校生(15-17歳)女性(n=481)
50
中学生(12-14歳)男性(n=1429)
所
有 40
率
30
中学生(12-14歳)女性(n=1557)
小学校高学年(9-11歳)男性(n=594)
小学校高学年(9-11歳)女性(n=668)
20
小学校低学年(6-8歳)男性(n=285)
10
小学校低学年(6-8歳)女性(n=329)
0
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16
年齢
図4-9 地域別携帯電話所有率(高校生・中学生)
90
80
70
1994-96年生(高校生)ビル・マンション地域(n=90)
60
1994-96年生(高校生)一戸建て地域(n=422)
所 50
有
率 40
1994-96年生(高校生)住宅点在地域(n=122)
1997-99年生(中学生)ビル・マンション地域(n=307)
30
1997-99年生(中学生)一戸建て地域(n=1641)
20
1997-99年生(中学生)住宅点在地域(n=395)
10
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18
年齢
29
図4-10 地域別携帯電話所有率(小学生)
50
45
40
35
2000-02年生(高学年)ビル・マンション地域(n=144)
30
2000-02年生(高学年)一戸建て地域(n=897)
所
有 25
率
20
2000-02年生(高学年)点在地域(n=144)
2003-05年生(低学年)ビル・マンション地域(n=100)
15
2003-05年生(低学年)一戸建て地域(n=423)
10
2003-05年生(低学年)点在地域(n=70)
5
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
年齢
30
10
第5章 全国青少年における脳腫瘍罹患症例の疫学的分析
研究要旨
本研究の目的は、全国青少年における新規発症の脳腫瘍患者を対象として、携帯電話端
末利用と脳腫瘍との関連を疫学的に検討することである。2006~2010 年に 6~18 歳で小児
脳腫瘍と診断された者 89 名の内、携帯電話所有者は 17 人であり、本研究のコホートデー
タから算出した期待所有者数 22.1 人を下回っていた。また、携帯電話端末利用者 17 人の
携帯電話利用は 1 名、10 年以上の長期使用者はいなかった。本研究より、携帯電話利用と
小児脳腫瘍との関連を示唆する結果は認められなかった。
A.研究目的
本研究では、全国青少年における新規発症の脳腫瘍症例を対象として、携帯電話端末利
用と脳腫瘍との関連を疫学的に検討することを研究目的とした。う
B.研究方法
対象者は、全国 22 医療機関の脳神経外科において、2006 年から 2010 年までに新規に脳
腫瘍と診断され、診断時に 6~18 歳の患者とした。22 施設における 調査対象患者数は 178
名であった。この内、92 名(51.7%)から同意が得られ、臨床情報およびアンケート情報
の両方に不備のなかった 89 名を解析対象とした。
解析では、まず、携帯電話の利用状況別(診断 1 年前に携帯電話を利用していた者 17 名、
診断 1 年前に携帯電話を利用してなかった者 72 名)に背景情報および臨床情報の違いを検
討した。続いて、携帯電話利用者の携帯電話利用状況について分析した。
次に、対象となった脳腫瘍患者 89 名の携帯電話端末所有率が、健常者の携帯電話端末所
有率と等しいと仮定して算出した期待所有者数が、実際に観察された所有者数(17 名)と
比較して高いかどうかを分析した。健常者の携帯電話端末所有率としては、コホート調査
で得られた携帯電話所有率を利用した。利用に当たっては、コホート調査における携帯電
話端末所有率と、他調査における携帯電話所有率の比較を行い、コホート調査のデータが
基準集団として妥当であることを確認した。本研究の対象者は 2006~2010 年に 6~18 歳の
者であるが、診断 1 年前である 2005~2009 年における 5~17 歳の携帯電話所有率をコホ
ートから抽出した。各年各歳における「基準集団(コホート)の携帯電話所有率」に「観
察集団(症例群)の人口」を乗算し、その総和から期待所有者数を求めた。
31
C.研究結果
携帯電話所有の有無別の背景情報を表 5-1 に示した。診断時年齢が上がるほど、携帯電話
所有者割合は大きくなる傾向が見られた。携帯電話利用有無別の臨床情報を表 5-2 に示した。
診断名別では、携帯電話利用者において髄芽腫が少なく、上衣腫が多い傾向が見られた。
腫瘍の場所では携帯電話利用者にテント下が少なくなっていた。腫瘍径は携帯電話利用者
の方が小さい傾向があった。診断前 1 年前に携帯電話を利用していた者の携帯電話の利用
状況を表 5-3 に示した。診断 5 年前から携帯電話を利用していた者は 1 名であった。
コホート調査と他調査の携帯電話所有率の比較を表 5-4 に示した。文部科学省の調査との
比較では、14 歳において差が大きくなっていた。総務省の調査との比較では、2001 年にお
いて差が大きくなっていた。症例群における期待携帯電話所有者数 22.1 人であった。観察
された症例群の携帯電話所有者数は 17 人であり、期待所有者数を下回った。
D.考察
本研究では、全国の小児脳腫瘍患者の携帯電話使用状況を分析することにより携帯電話
使用と脳腫瘍との関連性を検討した。2006~2010 年に 6~18 歳で小児脳腫瘍と診断された
者の携帯電話所有者数は 17 人であり、期待所有者数である 22.1 人を下回っていた。また、
携帯電話利用者 17 人の携帯電話利用状況の分析より、極端な携帯電話ヘビーユーザはおら
ず、診断 5 年前から使用していたものは 1 名であり、10 年以上の長期使用者はいなかった。
2006~2010 年に診断された全国の小児脳腫瘍患者においては、携帯電話利用と脳腫瘍との
関連を示唆する事項は見あたらなかった。
基準集団としたコホートの携帯電話所有率は、総務省の調査と比較した場合には、概ね
近い所有率を示していた。2001 年のデータには大きな差が見られたが、今回の解析では
2005~2009 年の所有率を用いたため、影響はない。文部科学省の調査と比較した場合には、
14 歳においてコホートで低めの所有率を示していた。コホートは保護者が調査に回答して
いるが、文部科学省の調査では本人が回答していることが影響している可能性がある。実
際の所有率がコホートよりも高いと想定した場合には、期待携帯電話所有者数は増えるこ
とになり、リスクを打ち消す方向に動くことになるため、本研究の結果には影響しない。
限界点としては、本研究では一般集団との比較を行っているが、対照群を設定しての比
較は行っていないことがあげられる。本研究では全国におけるケースの把握に努めたが、
対照群を設定して把握することまでは実施できなかった。
本研究では対象者を 2006~2010 年に 6~18 歳の者としたが、病気になるまでの曝露期間
と病気を発症するまでの潜伏期間を考慮すると、年齢的にこれらを満たすには十分な時間
が経っていない可能性がある。現在の 20 歳代を対象に調査を実施した方が、若年期の曝露
の影響を観察することができると考える。
32
携帯電話の利用開始年齢の低下、各歳における携帯電話普及率の上昇は、年々進んでい
ることがコホートにより確認されている。また、携帯電話端末やネットワークの技術革新
により、携帯電話回線による通話に加え、インターネット回線による通話も可能になって
きている。青少年における携帯電話利用の疫学調査を実施する際には、曝露状況が変化し
続けていることを考慮した調査を実施する必要がある。
E.結論
本研究では、全国の小児脳腫瘍患者の携帯電話使用状況を分析することにより携帯電話
使用と脳腫瘍との関連性を疫学的に検討した。本研究では、症例群に対して一般集団との
比較を実施したが、2006~2010 年に診断された小児脳腫瘍患者において、携帯電話利用と
脳腫瘍との関連を示唆する事項は見られなかった。
表5-1 携帯電話利用有無別の背景情報
診断前携帯電話
利用者(n=17)
n
%1)
9
52.9
8
47.1
診断前携帯電話
非利用者(n=72)
n
%2)
42
58.3
30
41.7
1)/2)
0.9
1.1
性別
男性
女性
診断時年齢
6~9歳
10~13歳
14~18歳
2
6
9
11.8
35.3
52.9
35
26
11
48.6
36.1
15.3
0.2
1.0
3.5
診断年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
5
3
2
5
2
29.4
17.6
11.8
29.4
11.8
23
14
17
13
5
31.9
19.4
23.6
18.1
6.9
0.9
0.9
0.5
1.6
1.7
利き手
右
左
両方
16
0
1
94.1
0.0
5.9
64
7
1
88.9
9.7
1.4
1.1
0.0
4.2
住んでいる地域 ビルやマンションが多い地域
4
9
4
23.5
52.9
23.5
10
51
11
13.9
70.8
15.3
1.7
0.7
1.5
一戸建て住宅が多い地域
住宅が点在している地域
33
表5-2 携帯電話利用有無別の臨床情報
診断前携帯電話
利用者(n=17)
n
% 1)
3
17.6
1
5.9
6
35.3
1
5.9
2
11.8
4
23.5
診断前携帯電話
非利用者(n=72)
n
% 2)
18
25.0
17
23.6
15
20.8
5
6.9
4
5.6
13
18.1
1)/2)
0.7
0.2
1.7
0.8
2.1
1.3
診断名
星細胞腫
髄芽腫
胚細胞腫瘍
頭蓋咽頭腫
上衣腫
その他
既往歴
初発
再発
16
1
94.1
5.9
70
2
97.2
2.8
1.0
2.1
腫瘍の場所1
テント上
テント下
その他
15
1
1
88.2
5.9
5.9
43
27
2
59.7
37.5
2.8
1.5
0.2
2.1
腫瘍の場所2
左
右
中央
その他
4
3
9
1
23.5
17.6
52.9
5.9
11
4
55
2
15.3
5.6
76.4
2.8
1.5
3.2
0.7
2.1
腫瘍径
平均値
標準偏差
最大値
最小値
診断根拠
(複数回答)
手術所見
画像所見
その他
14
2
2
82.4
11.8
11.8
64
14
2
88.9
19.4
2.8
0.9
0.6
4.2
治療法
(複数回答)
手術
放射線
抗がん剤
治療なし
14
11
9
1
82.4
64.7
52.9
5.9
63
43
38
2
87.5
59.7
52.8
2.8
0.9
1.1
1.0
2.1
30.5
16.2
70.0
8.0
36.7
13.2
70.0
5.0
34
表5-3 携帯電話の利用状況
診断前携帯電話
利用者(n=17)
n
%
17
100.0
1
5.9
携帯電話の利用
診断1年前
診断5年前
診断1年前、1日回数
1回未満
1回
1回超
5
6
6
29.4
35.3
35.3
診断1年前、1回時間
1分まで
1分超3分まで
3分超
3
6
8
17.6
35.3
47.1
診断1年前、1日時間
1分まで
1分超3分まで
3分超
4
6
7
23.5
35.3
41.2
診断1年前、携帯電話の利用耳側
右が多い
左右50%
左が多い
12
3
2
70.6
17.6
11.8
ハンズフリー装置
使っていない
時々使う
いつも使う
15
2
0
88.2
11.8
0.0
携帯電話の利用開始年
1995-1999年
2000-2004年
2005-2009年
1
6
10
5.9
35.3
58.8
どのように情報を得たか
(複数回答)
子供に直接聞く
子供の様子を思い出す
利用明細を参照
12
8
0
70.6
47.1
0.0
35
表5-4 コホート調査と他調査の携帯電話所有率比較
他調査
調査年
年齢
所有率1)
文部科学省全国学力・学習状況調査
2007年
11歳
28.4
14歳
60.2
2008年
11歳
31.9
14歳
62.7
2009年
11歳
30.9
14歳
61.0
2010年
11歳
30.6
14歳
60.2
2012年
11歳
36.4
14歳
63.5
総務省通信動向利用調査
2001年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2002年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2003年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2004年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2005年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2006年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2007年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2008年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2009年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
2010年
6-12歳
13-19歳
20-29歳
5.9
49.2
71.8
13.2
68.6
87.4
12.7
67.4
84.7
12.8
69.6
95.2
21.1
81.6
96.6
24.9
78.4
95.4
31.6
85.4
96.7
29.8
83.6
97.3
31.6
84.0
97.3
26.0
81.6
95.7
コホート調査
n
所有率2)
差1)-2)
105
18
749
35
786
55
1059
103
427
370
31.4
50.0
26.0
48.6
26.7
63.6
29.6
52.4
30.7
47.3
-3.0
10.2
5.9
14.1
4.2
-2.6
1.0
7.8
5.7
16.2
181
155
476
273
143
429
1002
130
413
1863
111
386
3167
113
349
3930
115
310
4560
141
275
4800
181
262
4666
272
239
4040
756
97
7.9
67.0
92.1
8.7
71.4
94.8
9.1
70.4
95.7
11.6
68.4
96.8
15.4
76.6
97.0
18.9
79.7
96.4
23.5
78.6
97.6
21.3
80.4
97.9
19.9
76.5
98.5
21.3
74.5
98.0
-2.0
-17.8
-20.3
4.5
-2.8
-7.4
3.6
-3.0
-11.0
1.2
1.2
-1.6
5.7
5.0
-0.4
6.0
-1.3
-1.0
8.1
6.8
-0.9
8.5
3.2
-0.6
11.7
7.5
-1.2
4.7
7.1
-2.3
36
(以下、首都大学東京 受託分)
目次
I
旨 .............................................................................................................................................. 4
要
II
研究目的 ....................................................................................................................................... 7
III
研究方法および結果 ..................................................................................................................... 9
1.
小児若年者の携帯電話端末使用のばく露評価 .............................................................................. 9
1.1
1.1.1
解析に利用したデータ.................................................................................................... 9
1.1.2
送信出力電力の分布 ....................................................................................................... 9
1.1.3
送信電力の時間的推移.................................................................................................. 11
1.2
2.
携帯電話端末の左右の持ち手に関する検討 ......................................................................... 13
1.2.1
SMPに記録されるロール角に関する検討 .................................................................. 13
1.2.2
左右の持ち手に関する解析 .......................................................................................... 15
携帯電話端末使用時の頭蓋内比吸収率(SAR)分布に基づくばく露評価 .............................. 17
2.1
携帯電話端末使用時のSAR分布の検討 ............................................................................ 17
2.1.1
携帯電話端末モデルと頭部モデル ................................................................................ 17
2.1.2
数値解析の方法 ............................................................................................................ 19
2.1.3
携帯電話端末の頭部に対するポジション ..................................................................... 19
2.1.4
成人モデルと小児モデルのSAR分布の比較 .............................................................. 21
(1)
SARの値 ................................................................................................................... 21
(2)
SAR分布の比較 ......................................................................................................... 23
2.2
3.
通話状況記録用携帯電話端末(SMP)を用いた送信電力の解析 ....................................... 9
環境の電波ばく露と携帯端末使用によるばく露の頭部SARの比較.................................. 28
2.2.1
携帯電話端末によるSAR値 ....................................................................................... 28
2.2.2
外来の環境電波の電界強度・電力密度 ......................................................................... 30
2.2.3
遠方の波源によるSAR値 .......................................................................................... 30
2.2.4
端末からの電波と環境電波によるばく露の比較........................................................... 30
携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価 ..................................................................... 31
3.1
研究概要 .............................................................................................................................. 31
3.2
低周波磁界測定実験 ............................................................................................................ 31
3.2.1
実験概要 ....................................................................................................................... 31
3.2.2
基地局シミュレータの closed loop 制御を用いたSMPの送信電力の特性 .................. 32
3.2.3
バッテリー電流のSMP送信電力特性 ......................................................................... 33
3.2.4
低周波磁界測定条件 ..................................................................................................... 34
3.2.5
低周波磁界測定結果(送信電力:低) ......................................................................... 36
3.2.6
低周波磁界測定(送信電力:高) ................................................................................ 37
3.3
考察 ..................................................................................................................................... 38
3.3.1
Mag-03 のノイズについて ........................................................................................... 38
3.3.2
低周波磁界(送信電力:低)について ......................................................................... 39
2
3.3.3
バッテリー電流(送信電力:低)について ...................................................................... 39
3.3.4
低周波磁界(送信電力:高)について ......................................................................... 40
3.3.5
.バッテリー電流(送信電力:高)について ................................................................. 41
3.4
IV
結論 ..................................................................................................................................... 42
参考文献 ..................................................................................................................................... 42
3
I
要
旨
小児・若年期に携帯電話端末を使用することが、健康に影響を与える可能性がないかを疫学的手法で
検討し、携帯電話端末使用の安全性を確認するのが本研究の目的である。可能性のある健康影響として
は、携帯電話端末を使用する際に電磁波ばく露が集中する部位における脳腫瘍の発症リスクに焦点を当
てる。
世界保健機関(WHO)は、小児の脳腫瘍の発症に及ぼす潜在的影響の調査を勧告しており、本研究
はそれに応えるものである。携帯電話端末からの電波の影響について評価するための疫学的手法におい
て、ばく露評価には電気工学的手法を要する多くの課題がある。本研究は、東京女子医大で実施する疫
学研究に寄与するための、ばく露評価を実施したものである。また、国内での研究と並行して、小児・
及び若年者を対象とした国際共同研究である Mobi-Kids における、ばく露評価にも寄与することを目
的としている。
本年度の研究成果の要旨をまとめると以下のように要約される。
ア
小児・若年者の携帯電話端末使用と脳腫瘍リスクに関する症例対照研究の実施
東京女子医大が中心となって実施しており、首都大学東京では、ばく露評価の観点からの寄与を行っ
た。具体的には、23 年度に構築した携帯電話の使用歴を調査するために利用する、携帯電話端末のデー
タベースの追加作業を行った。
イ
小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
イ-1
疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価
妥当性評価研究そのものは、首都大学東京で実施する課題ではないが、妥当性評価研究で収集された
SMPのデータを利用して、イ-2で実施する頭蓋内ばく露評価の基礎となる事項を工学的に検討する
ことが首都大学東京における主要な実施項目である。
23年度に、インタビュー調査で得られる携帯電話端末使用情報に関する妥当性評価研究のためのデ
ータ収集が東京女子医大で行われ、18~24歳を対象として97名、10~17歳を対象として10
1名の計198名の1ヶ月間の通話状況データが、通話状況記録用携帯電話端末(ソフトウェア修正端
末、SMP)を用いて収集された。このデータを解析し、ばく露評価のために必要とされる情報を得た。
人体頭部のばく露は、(1) 携帯電話端末からの送信電力、(2) 携帯電話端末の頭部に対する保持位置、
(3) 携帯電話端末のアンテナ位置による頭部内のエネルギー吸収の分布、に依存する。(1)について、S
MPの記録情報に基づき、送信電力の特性について検討した。その結果、第 3 世代携帯電話端末の送信
電力が、18~24歳の被験者によるデータでは、最大送信電力250mWに対し、中央値が40μW、
平均値で1.2mWと、第2世代の端末に比べて非常に小さいことがわかった。10~17歳の被験者
によるデータでは、送信電力はさらに小さいという結果であった。また、送信電力と使用時間帯、使用
4
場所などの状況にはある程度の規則性が認められた。
通信時間の大半で送信電力が非常に小さいことから、他の発生源によるばく露との比較という課題が
生じたため、遠方の基地局からのばく露との相対比較を行った。その結果、端末からの送信電力が比較
的強い場合には、端末からのばく露が十分に支配的であること、一方、送信電力が低い場合、基地局な
どからの外来電波によるばく露に比べて、必ずしも支配的とはいえない場合もあることが示唆された。
携帯電話端末の持ち手は、頭部のばく露部位に大きな影響を与える。したがって、妥当性評価でも持
ち手についての回答の信頼性は重要である。首都大学東京では、SMPに記録されたデータから、持ち
手の特性について解析を行った。その結果、持ち手は右手での使用時間が左手での使用時間の 2 倍程度
であり、右手での使用が有意に多いことが示唆された。
イ-2
携帯電話端末使用時の頭蓋内比吸収率(SAR)分布に基づく頭蓋内のばく露評価
23年度に引き続き、小児・若年者が携帯電話端末を使用した際の頭蓋内のSAR分布と腫瘍の部位
を考慮した、ばく露指標を示すための検討を行った。小児・若年者の使用頻度が高い端末から、当初は
端末の上部(耳の付近)、中間部、下部(口に近い部分)にSARのピークが生じる 3 機種にグループ
分けできる。但し、中間部と下部にピークが生じる機種では、SAR分布に大差がないことが判明した
ため、上部と中間部にピークのある2機種を選定し、前年度に開発した端末の数値モデルを用いて、数
値計算により小児・若年者頭部のSAR分布を推定した。
推定したSAR分布を、疫学研究において腫瘍部位での個人ばく露量の推定に用いる可能性について
検討を行った。しかし、インタビュー調査による情報が限定されること、さまざまな不確かさがあるこ
となど、インターフォン研究において実施したようなばく露評価を行うことは、現時点では困難であり、
むしろSAR分布の統計量を用いることが望ましいとの結論を得た。この方針は、本研究も参加してい
る国際共同疫学研究 Mobi-Kids での検討を踏まえたものであり、国際共同研究と整合している。国際共
同研究での方針に沿って、成人及び小児の頭部モデルを用いて、携帯電話端末の保持位置として5つの
ポジションでSARの推定を行い、それぞれの分布から頭部内のばく露の濃淡を評価した。
イ-3
携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価
低周波磁界による頭部ばく露評価については、Mobi-Kids プロジェクトにおいて共通のプロトコルで
実施する観点から必須項目とされており、昨年度に引き続き検討を行った。わが国では、第2世代の携
帯電話の使用が終了し、第3世代に移行している。このことを踏まえて、第3世代携帯電話端末からの
低周波磁界に着目した検討を行った。
昨年度までの検討から、低周波磁界は主に時間的に変動するバッテリー電流が主な発生源であり、バ
ッテリー電流が電波の出力とともに大きくなることから、送信電力とバッテリー電流の関係を調べた。
5
また、電波の伝搬路の状況により、送信電力制御が行われ、急激な電流の変化が起き、それによって低
周波磁界が発生する場合を想定し、人為的にフェージングを生じさせて実験を行った。検討の結果、送
信電力が5dBm程度以上で送信電力の大きな変動がある場合はある程度の大きさの低周波磁界が発
生するが、5dBm程度以下の送信電力では、低周波磁界は第2世代の携帯電話端末に比べて十便小さ
かった。5dBm以上の送信電力は、通話時間の5%以下であることがイ-1の検討から得られており、
したがって、第3世代携帯電話端末からの低周波磁界によるばく露は非常に小さいと結論された。
ウ
コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状況の把握
東京女子医大で実施している本課題に対し、前年度に引き続き、技術的な立場からの支援を行った。
6
II
研究目的
小児・若年期に携帯電話端末を使用することが、健康に影響を与える可能性について、疫学的手法に
よる検討を行う。本研究は、東京女子医科大学との共同研究であり、首都大学東京では、疫学的手法に
よる検討のための、ばく露評価を工学的な立場から実施する。本研究では、携帯電話端末を使用する際
に電波のばく露が集中する頭部への健康影響に着目し、特に、世界保健機関(WHO)が優先度の高い
研究として勧告する、小児の脳腫瘍の発症に及ぼす影響の可能性についての調査を目的としている。
また本研究は、平成23年度から、研究目的が共通する国際共同研究Mobi-Kidsに参加して
おり、国際共同研究と整合するためのばく露評価研究を国内の研究と並行して実施する。
本研究の目的を達成するための、24年度における具体的な個別目標は以下の通りである。
ア 小児・若年者の携帯電話端末使用と脳腫瘍リスクに関する症例対照研究の実施
東京女子医大が担当する症例対照研究であり、首都大学東京は直接の担当ではないが、イで実施
するばく露評価を通して、工学的立場から寄与する。また、東京女子医大で実施する症例対照研究
の研究システムに対し、工学的立場から支援を行う。
イ 小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
小児・若年者が携帯電話端末を使用した際のばく露レベルを正確に把握して、アで実施する症例
対照研究で収集した情報から、携帯電話端末使用時のばく露を定量的に推計する。具体的には、以
下のイ-1~3を目標とする。
イ-1
疫学調査で得られる携帯電話端末使用情報の妥当性評価
通話状況記録用携帯電話端末(ソフトウェア修正端末,SMP)を用いて東京女子医大が実施
したインタビュー調査および自記式質問票調査を用いて収集された情報の信頼性を検討するた
めの妥当性評価研究を、東京女子医大の研究グループと連携して実施する。23年度に開発した、
多数の被験者のデータを処理するためのシステムを用いて、使用状況を把握するためのデータ処
理、送受信電力などのわが国の携帯電話システムの特性を把握する。また、次項イ-2の頭蓋内
のばく露評価をより精密に行うための一つの指標として、携帯端末の持ち手の傾向を分析する。
イ-2
携帯電話端末使用時の頭蓋内比吸収率(SAR)分布に基づく頭蓋内のばく露評価
小児・若年者が携帯電話端末を使用した際の頭蓋内のSAR分布を推定して、携帯電話端末の
使用状況に関する情報から定量的なばく露レベルを推計する方法を確立する。また、外来の環境
電波ばく露と携帯端末使用によるばく露による、頭部SARの比較を行い、環境からの電波の寄
与について考察を行う。
7
イ-3
携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価
Mobi-Kidsプロジェクトでは、頭部付近で使用する携帯電話端末からの電磁界ばく露
として、高周波電磁界だけでなく、主にバッテリー電流の変動によって発生する低周波磁界への
ばく露に関する検討を求めている。わが国の携帯電話端末における固有の特性に留意しつつ、ば
く露評価のための基礎データを得るとともに、第3世代携帯電話端末に関する低周波磁界ばく露
について、疫学研究における取り扱いを検討する。
ウ コホート追跡調査による小児・若年者の携帯電話端末の使用状況の把握
東京女子医大が担当する研究項目である、小児・若年者による携帯電話端末の使用状況を調査
するためのシステムの運用に、工学的側面から寄与し、その結果を、イ-1およびイ-2のばく
露評価の基礎資料として活用する。
8
III
研究方法および結果
前記の目的を達成するために行った具体的な研究内容と方法、結果を以下1~3にて報告する。首都
大学東京で実施した研究は、前項で述べた研究目的のうち、小児・若年者の携帯電話端末使用のばく露
評価(項目イ)が中心であり、項目アおよびウは、東京女子医大で実施している疫学研究に対する工学
的な支援が主である。本報告では、まず、1では、妥当性評価研究(項目イ-1)に対し工学的な立場
から行った研究を報告する。ここではSMPで収集したデータに基づき、携帯電話端末から送信される
電力の特性についての検討および携帯端末の持ち手の傾向に関する検討について述べる。これらのデー
タは、項目イ-2の基礎データを与えるものである。次に2において、携帯電話端末使用時の頭蓋内の
比吸収率(SAR)分布に基づくばく露評価(項目イ-2)に関して、小児・若年者による携帯電話端
末の使用状況の調査(項目ウ)に基づき選定された端末のSAR分布の実験および数値解析による検討、
更に外来の環境電波ばく露と携帯端末使用に伴うばく露による脳のSARの比較について報告する。ま
た、3では、携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価(項目イ-3)の結果について報告する。
1. 小児若年者の携帯電話端末使用のばく露評価
1.1
1.1.1
通話状況記録用携帯電話端末(SMP)を用いた送信電力の解析
解析に利用したデータ
使用した通話状況記録用携帯電話端末(SMP)については、22年度の報告書で述べたものと同じ
である。具体的な記録項目は、①通話開始時間、②通話終了時間、③使用された周波数帯(800MHz 帯
または 2GHz 帯のうち、通話開始時の周波数帯が記録されるが、通話途中に切り替わる場合がある)、
④ハンズフリー用ヘッドセット使用の有無、⑤着信と発信の識別、⑥音声通話とデータ通信の識別、の
6項目が通話毎に記録される。また、⑦送信電力(dBm)、⑧受信電力(dBm)、⑨ロール角の情報が、
通話時間内の 1 秒毎に記録される。
23年度~24年度に東京女子医大で行われた、疫学調査で得られる携帯電話端末使用状況に関する
端末利用者の記憶の妥当性評価研究のためのデータを用いて以下の解析を行った。データは、18~2
4歳を対象とした97名の 1 ヶ月間の使用記録(以下「調査1」と呼ぶ)、および10~17歳を対象
とした101名の1ヶ月間の使用記録(以下「調査2」と呼ぶ)の計198名のデータである。
1.1.2
送信出力電力の分布
携帯電話端末による頭部に対するばく露の尺度として、単位質量当たりの吸収電力で定義されるSA
R[W/kg]が用いられる。SARは、単位質量の組織における単位時間の発熱量であるため、熱作用の指
標になるが、同時に内部電界の 2 乗に比例する量であることから、電界による作用の指標にもなる。ま
た、体表面を流れる電流は、境界条件から体表での磁界の接線成分と相関が高く、人体に近接した波源
に対して、磁界の作用の指標にもなる。このことから、SARを指標に用いることは、非熱作用を含め
た検討に対しても、妥当である。
SARは端末からの送信電力に比例する。したがって、携帯電話端末を耳元で使用して通話した場合
9
の頭部におけるSARは送信電力に比例する。携帯電話端末の送信電力は、通信路の状況によって最適
となるように制御されており、大幅に変動する。携帯電話端末のSAR値は、携帯電話オペレータによ
り公開されているが、そのSARの値は、IEC62209-1で規定されているSAR標準測定法で
測定されたものであり、最大出力の条件で測定するように規定されている。このため、実際のSAR値
とは異なる。したがって、実際のばく露を推定するためには、各端末について公開されているSAR値
だけでは不十分である。特に、送信電力制御により詳細に制御され変動している送信電力の特性を考慮
することは重要である。
そこで、ばく露レベルを詳細に検討するために、SMPの持つ1秒単位での送信出力電力を記録する
機能を用いて、送信電力の特性についての解析を行った。図1-1-1、図1-1-2に被験者の送信
出力電力のすべての記録からの送信電力のヒストグラムを示す。
データより、高い送信電力の割合は10mW(10dBm)以上が、全通話時間の2.64%(調査1)、
1.18%(調査2)であり、100mW(20dBm)以上が0.30%(調査1)、0.19%(調査2)
であった(表1-1-1)。この結果は、23年度に報告した予備調査における56人の大学生被験者が
7日間にわたりSMPを使用した際のデータ(10mW以上の割合:2.4%、100mW以上の割合:
0.19%)と比較すると、同じ年齢層の被験者によるデータである調査1については、ほぼ同じ結果
となった。調査1より若い年齢層の調査2に関しては、調査1の結果より更に低い数値となっている。
これは、年齢によって使用場所や通話目的、使用時間帯が異なることに起因していると考えられる。
送信電力の制御は対数軸上のステップで行われる。このため、図1-1-1及び図1-1-2の横軸
は対数軸であるデシベルで表示されている。最頻値と中央値はほぼ一致し、調査1では-14dBm(4
0μW)、調査2では-19dBm(13μW)であり、電力の平均値に蔵へ数100分の1であること
に注意が必要である。
図1-1-1
調査1(18~24歳を対象とした97名)の送信電力のヒストグラム。1ヶ月間利用
した累積通話時間は 1,667,840 秒(約 463 時間)。中央値は14dBm(約 40W)
10
図1-1-2
調査2(10~17歳を対象とした101名)の送信出力電力のヒストグラム。1ヶ月
間利用した累積通話時間は 407,318 秒(約 113 時間)。中央値は19dBm(約 13W)
表1-1-1
送信電力が10mWW 及び100mWを超える割合
送信電力
≧10mW(10dBm)
≧100mW(20dBm)
1.1.3
秒数/総通話秒数
割合
調査1
43494/1642264
2.61%
調査2
4786/404031
1.18%
調査1
4942/1642264
0.30%
調査2
780/404031
0.19%
送信電力の時間的推移
調査1および調査2のデータより、送信電力を時間帯別に見てみると、図1-1-3、図1-1-4
のようになった。図には、SMPに記録された各時間帯の平均送信電力[W]とともに、各時間帯の総
通話時間[秒]、総通話時間で重みづけした送信電力[W]、および各通話の通話時間を示した。
図1-1-3、図1-1-4より、SMPに記録された時間帯別の送信電力の分布について以下の
特徴が見られる。
① 深夜帯(調査1では3-4時、調査2では1-2時)で比較的高い電力分布となる。但し、深夜帯の通
話は少なく、データ数が限られることに注意が必要である。特に、調査1の3-4時の時間帯につ
いては、郊外に住む1人の被験者が、高いパワーレベルを維持した状態で長時間通話していること
に起因しており、他の被験者と共通の特徴ではない。
11
② 調査1,2共に通勤・通学時間帯(7-8時は共通、調査1は17-18時、調査2は18-19
時)で比較的高い電力分布となる。
③ 調査2では12-13時、15-16時も他の時間帯と比べてやや高い傾向にある。
図1-1-3
時間帯別送信電力の分布(調査1)
図1-1-4
時間帯別送信電力の分布(調査2)
総務省の統計資料である、
「通信量からみた我が国の通信利用状況(平成22年度)」[1]より、時
12
間帯別通信回数、時間帯別通話時間、時間帯別平均通話時間はそれぞれ、次のように報告されてい
る。
・時間帯別通信回数:朝8時頃から増加した後、12時から13時の落ち込みもなく、夕方18
時前後に通信回数のピークを迎え、その後減少する。
・時間帯別通話時間:朝8時頃から増加し始めるが、夕方18時から19時頃にピークを迎え、
その後減少するものの、深夜24時を過ぎても通信時間が多い傾向が見られる。
・時間帯別平均通話時間:ピークは1時から2時である。
この総務省の資料は固定電話・携帯電話の通信(通話)に関する統計である。通話回数・通話時
間共に、帰宅ラッシュの18時頃にピークを迎えており、ネットワーク全体のトラフィックに影響
していると考えられる。一方、平均通話時間のピークは深夜の1-2時台という結果になっている。
以上のように、時間帯別のトラフィックの変化が送信電力の時間帯別の変動にある程度相関して
いることが推察できる。
1.2
携帯電話端末の左右の持ち手に関する検討
頭部内のSAR分布については、携帯電話端末を使用している側では反対側より高いばく露であるた
め、携帯電話端末の持ち手の傾向を知ることは、精度の良いばく露評価を行うために重要である。
本項では、疫学研究におけるばく露評価をより精密化するために、通話状況記録用携帯電話端末(S
MP)を用いて取得した通話情報を用いて、使用者が携帯電話端末をどちらの手で保持するかに関して、
その傾向を分析した。
1.2.1
SMPに記録されるロール角に関する検討
SMPに記録される情報として、ロール角(携帯電話の左右の傾き)がある。計測されたロール角によ
る左右の持ち手の判定可能性について実験による検証を行った。
初めに、SMP に図1-2-1に示すように一定の傾斜をつけてロール角を測定した結果の一例を
表1-2-1に示す。
図1-2-1
測定時のθとφの定義
13
表1-2-1
θ,φ の角度と SMP のロール角の測定結果
θ [◦ ]
ロール角 [◦ ]
◦
φ[ ]
ロール角 [◦ ]
-90
-60
-30
0
30
60
90
-82
-56
-30
-1
27
55
84
-90
-60
-30
0
30
60
90
-5
-4
-2
-1
-3
-2
-2
表1-2-1より、SMP に記録されるロール角は、図1-2-1のθに対応していることが確認
できる。
次に、左右それぞれの手で持って通話したときのロール角を測定した結果を図1-2-2に示す。S
MPに電話をかけ、端末が机に置かれた状態で通話を開始し、左手で端末を持ち、左手で端末を保持し
たまま下を向く(頷く)動作をし、その後右に持ち替えて右手で端末を持つ、という一連の動きに対し
て、SMPのロール角がどのように記録されるかを調べた。図1-2-2では、左手で端末を持つとロ
ール角は負になり、右手で持つとロール角は正の値を示すが、左で持ったまま頷くという下を向く動作
では正の角度をとることもあることが示されている。
これらの結果より、通話時のSMPに記録されるロール角は、正の角度(+)を示す時は右手で使用、負
の角度(−)を示す時は左手で使用している可能性が高く、ロール角の角度の符号を用いて左右の持ち手
を概略推定できることが分かった。但し、ロール角は持ち手の目安にはなるが、持ち手そのものを測定
しているわけではないので、端末を保持する姿勢によっては正負が反転することがあることに注意する
必要がある。
図
1-2-2
SMPのロール角測定例
14
1.2.2
左右の持ち手に関する解析
調査1と2において、SMPから得たロール角の値から、左右での使用時間の推定を行う。調査1、
調査2の全てのデータから留守番電話を除いた全データにおいて、通話中1秒ごとに記録されているロ
ール角のヒストグラムを図1-2-3、図1-2-4に示す。
調査2(図1-2-4)と調査1(図1-2-3)を比べると、調査2では、調査1に見られなかっ
た 0°付近でのピークが見られる。しかし、調査2において、0°付近に集中しているデータは、特定の
被験者によるものであった。調査1全体では、ロール角が負(左)で使用された時間が約32%、ロー
ル角が正(右)で使用された時間が約67%であり、調査1全体としては、右での使用時間が左での使
用時間の約 2 倍であることが分かった。調査2でも調査1とほぼ同様の傾向が得られた。すなわち、全
体として、右での使用が左での使用の 2 倍程度であった。右での使用が左での使用の約 2 倍を占めるこ
とは、被験者の多くが右利きであったこと、端末のボタンの配置などの構造や、衣服のポケットの位置
など、身の回りの環境が右利きを前提に作られていることが影響していると考えられる。
調査1と調査2のデータは、東京女子医大において、通話状況に関するインタビュー調査の妥当性評
価のために取得されたものであり、インタビュー調査では、発着信別に「主に使用する耳側」に関して、
右・両方・左のいずれかの回答を得ている。これらの回答と、SMPに記録された客観的なデータの比
較検討は、東京女子医大が中心となって実施している妥当性評価研究において解析される予定である。
図1-2-3
調査1で得られたロール角のヒストグラム(留守番電話を除く)
15
図
1-2-4
調査2で得られたロール角のヒストグラム(留守番電話を除く)
16
2. 携帯電話端末使用時の頭蓋内比吸収率(SAR)分布に基づくばく露評価
2.1
携帯電話端末使用時のSAR分布の検討
2.1.1
携帯電話端末モデルと頭部モデル
腫瘍部位とSAR分布を考慮したばく露指標に関する検討を目的として、数値解析による検討を行っ
た。端末モデルとして、23 年度の本研究において、口に近い部分、耳付近、口と耳の中間付近にそれぞ
れSAR分布のピークを持つ、典型的な3つの端末を選び、数値解析のための詳細な端末モデルが作成
された。
SAR分布を考慮したばく露評価は、国際共同研究 Mobi-Kids と連携して実施している。Mobi-Kids
では、SAR分布を個別に利用するのではなく、統計的に利用する方針で研究を進めている。このため、
国内研究として個別にSAR分布を検討するのと並行して、国際共同研究に、SAR分布に関する統計
的なデータを提供するための解析を行った。携帯電話端末として、詳細なSAR分布の評価に用いたの
は、口付近にピークのある端末(機種 A)と、耳付近にピークのある端末(機種 B)である。但し、機
種 B については、国際共同研究において韓国およびフランスでの数値解析との比較が可能なように、フ
ランスで開発された端末モデルを海外のグループと共通に使用する端末として用いた。機種 A はフリ
ップタイプであり、機種 B はストレートタイプである。また、新たな端末として、スマートフォンのモ
デル(機種 C)も作成した。このスマートフォン端末は国際共同研究において、アプリケーション上で
通話状況を記録できる端末(送信電力は記録できない)を用いた妥当性評価研究が計画されており、そ
こで使用される予定の機種である。今後の国際共同研究の進展をみて、活用するために開発したもので
ある。
モデルの分解能については、端末各部の詳細な構造を考慮した精密モデルを作成し、このモデルを元
に、国際共同研究において共通の条件で検討を進めるため、分解能を1mmの均一メッシュに改変した
モデルを併せて作成した。図2-1-1~図2-1-4に数値解析に使用した端末モデルを示す。
図2-1-1:機種A数値モデル全体図
図2-1-2:機種A数値モデルのアンテナ部分
17
図2-1-3
機種 C 全体図
図2-1-4
機種 C アンテナ部分
頭部モデルとして、成人男性のモデルと小児女性のモデルを用いた。解剖学的構造を考慮した頭部モ
デルとして、ここでは、成人モデルとして、スイスで開発された Virtual Family の Duke モデル(34 歳、
男性)と、小児モデルとして Virtual Classroom の 8 歳女性モデル(Eartha)を元に、日本人の寸法に
合わせた 7 歳女性モデル Isabella を用いた。使用した人体頭部モデルを図2-1-5~図2-1-8
に示す。
図2-1-5
成人モデル頭部全体図
図2-1-6
18
成人モデル脳部
図2-1-7
2.1.2
小児モデル頭部全体図
図2-1-8
小児モデル脳部分
数値解析の方法
数値解析には時間領域差分法(FDTD 法)を用いた。計算には Schmidt &Partner 社(SPEAG)に
よるソフトウェア SEMCAD X を使用した。計算を高速化するために、ハードウェアアクセラレータと
して NVIDIA 社の Tesla C2075 を使用した。計算条件を表2-1-1に示す。
表2-1-1:計算条件
Excitation
Harmonic
1950MHz
Frequency
および
835MHz,
900MHz
Simulation Time
30 Periods
セルサイズ
1.0 mm(均一)
Source
Voltage (75Ω)
Amplitude 1V
PML
吸収境界条件
*SAR値は、頭部では質量10g単位で平均した値、脳では質量1g単位で平均した値を算出した。
2.1.3
携帯電話端末の頭部に対するポジション
携帯電話端末と頭部の位置関係による頭部内、脳内SAR分布の比較検討をする為、5つのポジショ
ンで数値計算を行った。この5ポジションは Mobi-Kids で連携する、フランスおよび韓国の研究チーム
と共通のポジションである。5ポジションを、以下 Cheek, Tilt15, Tilt25, Tilt8Phi+10, Tilt8Phi10 と
称する。これらのポジションは、フランスのばく露評価チームにより提案されたものであり、その平均
が、ランダムに選んださまざまなポジションにおけるSAR分布の平均を代表する、という検討結果を
根拠としている。各ポジションの定義は以下に示す通りである。
19
① Cheek ポジション
国際標準規格 IEC 62209-1 において標準的なポジションの一つとして定義されている「頬の位置」
であり、耳中央から口を結ぶ直線と端末が平行かつ耳の中央と頬を結ぶ直線と端末が平行なポジション。
図2-1-9
Cheek ポジション
② Tilt15 ポジション(Theta=15°)
国際標準規格 IEC 62209-1 で標準のポジションとして定義されている「傾斜の位置」。頬の位置から、
耳中央を軸に 15 度口から離す方向に回転した位置。
図2-1-10
Tilt15 ポジション
③ Tilt25 ポジション(Theta=25°)
Tilt15 ポジションに対し、15 度よりさらに口から離し、角度を 25 度まで広げたポジション。
図2-1-11
Tilt25 ポジション
20
Tilt8Phi+10 ポジション(Theta=8°
④
Phi=+10°)
Cheek と Tilt の中間の 8 度だけ頬から離した状態で、端末の下端(マイクロフォン側)を耳と口を
結ぶラインより 10 度上方に持ち上げたポジション。
図2-1-12
Tilt8Phi+10 ポジション
Tilt8Phi10 ポジション(Theta=8°
⑤
Phi= 10°)
Tilt8Phi10 ポジションと同様に、頬から 8 度傾けた上で、下方(顎側)に 10 度下げたポジション。
図2-1-13
Tilt8Phi10 ポジション
2.1.4
成人モデルと小児モデルのSAR分布の比較
(1)
SARの値
SAR値の計算では、人体頭部の接近によりアンテナ入力インピーダンスが変化するため、給電条件
によって結果が異なる可能性がある。ここでは、出力電力を一定にする場合と、給電点の電流を一定に
する場合でそれぞれSAR値を数値解析により求めた。計算結果を表2-1-2~表2-1-3に示す。
21
表
2-1-2
頭部・脳部における最大局所 SAR の 5 ポジションにおける平均値
(出力電力を一定値 0.25W とした場合)
携帯端末
周波数
小児モデル
成人モデル
(MHz)
局所 SAR 最大平均値
局所 SAR 最大平均値
(W/kg)
(Wk/g)
頭 10g
0.32
0.41
脳 1g
0.059
0.10
脳 10g
0.045
0.070
頭 10g
0.34
0.61
脳 1g
0.037
0.018
脳 10g
0.022
0.007
頭 10g
1.15
0.96
脳 1g
0.49
0.45
脳 10g
0.36
0.32
機種 A
835
1
950
機種 B
900
表2-1-3
頭部・脳部における最大局所SARの 5 ポジションにおける平均値
(給電電流を成人モデルの出力電力 0.25W 時の電流値で一定とした場合)
携帯端末
周波数
小児モデル
成人モデル
(MHz)
局所 SAR 最大平均値
局所 SAR 最大平均値
(Wk/g)
機種 A
835
1950
機種 B
900
(Wk/g)
頭 10g
0.29
0.41
脳 1g
0.052
0.10
脳 10g
0.038
0.07
頭 10g
0.34
0.61
脳 1g
0.037
0.018
脳 10g
0.022
0.007
頭 10g
1.25
0.96
脳 1g
0.52
0.45
脳 10g
0.37
0.32
頭部及び脳部の最大局所SAR値は、小児と成人で 2 倍程度の違いが見られ、小児と成人のいずれ
が大きいかについて一定の傾向は見られない。SAR値はアンテナ位置と頭部の位置関係並びに形状
に依存し、アンテナの位置は端末ごとに異なり、また一つの端末でも周波数帯によってアンテナ位置
が異なるためである。
脳部の最大局所SAR値は頭部全体での最大局所SARに比べてかなり小さい。脳は皮膚と頭蓋骨
22
の内側に位置するためである。脳部の最大SAR値と頭部の最大SAR値の比を求めた結果を表2-
1-4~2-1-5に示す。
表2-1-4
出力電力(0.25W)一定時の 5 ポジションにおける脳部・頭部の
局所SAR最大値平均の比
(脳部 SAR 最大値平均/頭部 10g 平均 SAR 最大値平均)
携帯端末
周
波
数
(MHz)
小児モデル
成人モデル
局所 SAR 最大平均値
局所 SAR 最大平均
脳部/頭部
比(%)
値
脳部/頭部
機種 A
835
1950
機種 B
900
比(%)
脳 1g
18.6
25.3
脳 10g
14.0
17.5
脳 1g
11.1
2.9
脳 10g
6.5
1.2
脳 1g
42.8
46.8
脳 10g
31.2
33.6
給電電流一定時(成人モデルの出力電力 0.25W 時の電流値)の
表2-1-5
5 ポジションにおける脳部・頭部の局所SAR最大値平均の比
(脳部 SAR 最大値平均/頭部 SAR 最大値平均)
携帯端末
周波数
小児モデル
成人モデル
(MHz)
局所 SAR 最大平均値
局所 SAR 最大平均値
脳部/頭部
機種 A
835
1950
機種 B
(2)
900
比(%)
脳部/頭部
比(%)
脳 1g
18.0
25.3
脳 10g
13.3
17.5
脳 1g
10.9
2.9
脳 10g
6.5
1.2
脳 1g
41.4
46.8
脳 10g
29.8
33.6
SAR分布の比較
小児モデル及び成人モデルを用いて計算した、各ポジションにおける頭部正面の表面、頭部側面の表
面、頭部横断面、脳横断面のSAR分布を図2-1-14~図2-1-19に示す。
23
Cheek
Tilt15/0
Tilt25/0
小児モデル, 機種A, 1950 MHz
図2-1-14
図2-1-15
24
Tilt8/+10
Tilt8/‐10
図2-1-16
図2-1-17
25
図2-1-18
図2-1-19
26
図より。端末の機種、周波数、頭部の形状、保持するポジションによって分布は変化する。しか
し、ばく露の濃淡の特徴は見られる。これを疫学研究のばく露評価に取り入れることが国際共同研究
で計画されている。
注目すべき結果として、機種Aの 1950MHz の結果において、小児モデルで持ち手側である左側で
なく、右側に最大値が現れたことである。この結果は、持ち手の側に最大値が生じるという前提に整
合しないことから、注意が必要である。成人が使用した場合には見られない結果であり、その原因に
ついて考察を行った。その結果、機種 A はフリップタイプの長いモデルで、下端付近にアンテナが置
かれている。小児ではアンテナが口よりかなり前方に位置する結果となり、反対側にピークが生じた
ことが推察された。図2-1-20に、上記の分布図から、これらの結果について比較するために一
部の図を抽出した結果を示す。
図2-1-20
27
2.2
環境の電波ばく露と携帯端末使用によるばく露の頭部SARの比較
わが国においては、現在は第 2 世代の携帯電話システムは停波され、第 3 世代以降の携帯が使用され
ている。第 3 世代端末では送信電力が極めて小さくなっていることを踏まえ、本項では、外来の環境電
波ばく露と携帯端末使用によるばく露の頭部及び脳のSARの比較を行い、外来の環境電波ばく露の影
響を検討する。尚、ここでは外来の環境電波として、携帯電話の基地局からの電波を対象とした。
2.2.1
携帯電話端末によるSAR値
本項では携帯電話端末のSAR値を求める。典型的な場合を具体的に論じるために、前項で求めた平
均的な数値ではなく、成人男性モデル(Virtual Family の Duke モデル)を用いて、頬の位置(Cheek
Position)で、機種 A の携帯電話端末モデル(フリップタイプ)を使用したときのSAR値を用いる。
図2-2-1に計算に使用した頭部モデルと端末を示す。
図2-2-1
計算に使用した人体頭部モデル(Duke)と携帯電話端末モデル
上記のモデルを用いて、FDTD法による数値計算より、SAR分布を求め、端末からの出力を 0.25
W としたときの、頭部全体での最大局所SAR(10g 平均)と脳における最大局所SAR(10g 平均及
び 1g 平均)を求めた。周波数は 2GHz とした。結果を表2-2-1に示す。
表2-2-1
最大局所SAR
人体頭部及び脳における最大局所SAR(出力 0.25W、機種 A、頬の位置)
頭部(10g 平均)
脳(10g 平均)
脳(1g 平均)
1.58 W/kg
1.52×102 W/kg
4.73×102 W/kg
図2-2-2は、疫学研究においてデータベース化した各携帯電話(約 1200 機種)の公表されてい
るSAR値の分布である。この数値は国際標準規格IEC62209-1に準拠して測定されたもの
であり、最大送信電力のときの頭部における 10g 平均最大局所SAR値である。上記の計算値は、これ
らの数値と比較すると、比較的大きな値であり、端末の機種によって大幅に異なることに注意が必要で
ある。
28
機種数
30
25
20
15
10
5
最大局所 SAR [W/kg]
図2-2-2
1.60
1.55
1.50
1.45
1.40
1.35
1.30
1.25
1.20
1.15
1.10
1.05
1.00
0.95
0.90
0.85
0.80
0.75
0.70
0.65
0.60
0.55
0.50
0.45
0.40
0.35
0.30
0.25
0.20
0.15
0.10
0
0.05
0
W/kg
市販の携帯電話(約 1200 機種)の公表されている最大局所SAR値(10g 平均)の分布
携帯電話端末の出力電力は実環境では詳細に制御されており、実際の出力電力は非常に小さい場合も
ある。通話情報記録端末(SMP)を用いたボランティアによる使用データから、出力電力の分布が本
報告書の図1-1-1及び図1-1-2のように得られている。18から24歳の被験者97名の1ヶ
月間の使用データから得た図1-1-1のヒストグラムから、出力電力の90%タイル値、平均値、中
央値、10%タイル値を求め、それぞれの出力電力に対応するSAR値に表2-2-1の値を換算した
結果を表2-2-2に示す。
表2-2-3
SMPを用いて収集したデータ(図1-1-1)から求めた出力電力に換算した最大
局所SAR(2GHz)
頭部(10g 平均)
脳(10g 平均)
脳(1g 平均)
90%タイル値(1.3mW)
7.9×103 W/kg
7.6×105 W/kg
2.4×104 W/kg
平均値(1.2 mW)
7.6×103 W/kg
7.3×105 W/kg
2.3×104 W/kg
中央値(40W)
2.5×104 W/kg
2.4×106 W/kg
7.6×106 W/kg
10%タイル値(1.6W)
1.0×105 W/kg
9.6×108 W/kg
3.0×107 W/kg
29
2.2.2
外来の環境電波の電界強度・電力密度
携帯電話基地局からの電界強度については、総務省による実測データ[2]から、典型的なレベルを 90
dBV/m(0.032 V/m, 2.7×10-6 W/m2)とし、高レベルの環境を 110 dBV/m(0.32 V/m, 2.7×10-4 W/m2)
とした。これらの値は、場所によって異なることに注意が必要である。
2.2.3
遠方の波源によるSAR値
基地局などの遠方の波源からの外来の電波によって生じる頭部および脳内の最大局所SARを推定
する。遠方の波源なので、入射波を一様平面波とし、偏波面は垂直偏波を仮定した。入射方向は、正面、
正面左 45 度、正面上方 45 度を仮定した。周波数は 2GHz と 800MHz とし、頭部での最大局所SAR
(10g 平均)、脳での最大局所SAR(10g 平均および 1g 平均)を数値解析により求めた。人体頭部モデ
ルは前述の成人男性モデル Duke を用いた。数値解析は FDTD 法を用いた。結果を表2-2-4~表
2-2-5に示す。波源の到来方向により 2 倍近くSAR値は変化するが、桁が変わることはない。
表2-2-4
基地局から典型的なレベル(90dBV/m)でのばく露による最大局所 SAR( 2GHz )
脳 10g [W/kg]
脳 1g [W/kg]
頭部 10g [W/kg]
正面
1.64×108
2.54×108
1.52×107
正面上 45°
1.97×108
2.84×108
2.63×107
正面左 45°
2.78×108
4.21×108
1.48×107
表2-2-5
2.2.4
基地局から高レベル(110dBV/m)でのばく露による最大局所 SAR( 2GHz )
脳 10g [W/kg]
脳 1g [W/kg]
頭部 10g [W/kg]
正面
1.64×106
2.54×106
1.52×105
正面上 45°
1.97×106
2.84×106
2.63×105
正面左 45°
2.78×106
4.21×106
1.48×105
端末からの電波と環境電波によるばく露の比較
表2-2-3及び、表2-2-4、表2-2-5より、外来の環境電波による影響と携帯電話通話時
の曝露を比較する。環境からのSARは、到来方向によって 2 倍程度異なることに注意が必要である。
SARは、人体防護の規制値で評価対象となっている頭部での最大局所SAR(10g 平均)と、疫学研
究において、脳腫瘍の位置でのばく露量の評価対象となる、脳の 1g 平均最大局所SARに着目した。
頭部SARでみると、最大局所SAR(10g 平均)については、いずれの場合も携帯電話端末による
ばく露が大きい。しかし、脳 1g 平均SARについては、環境の電界強度が高レベル(110dBV/m)の
とき、端末から出力レベルが 10%タイルの微弱な出力電力の場合は、環境からの電磁界によるばく露が
支配的となる場合がある。但し、携帯電話端末からのばく露部位は、持ち手が同じであればほぼ一定で
あるのに対し、環境からのばく露は、電波の到来方向がさまざまであるため、最大の局所SARが生じ
る位置は一定でない点に注意が必要である。
30
3. 携帯電話端末使用時の低周波磁界へのばく露評価
3.1
研究概要
携帯電話に関する疫学研究では、通信に利用される高周波の電磁界ばく露に注目してばく露評価が行
われてきた。しかし、携帯電話端末近傍には、高周波電磁界に加えて、バッテリー電流の変動に伴う低
周波磁界が発生していることが知られている。時分割多元接続(TDMA)方式の携帯電話端末(わが国
では第2世代の PDC、欧州等では GSM など)は送信電波の波形がパルス波であることから、バッテリ
ー電流もパルス波の包絡線の波形で変動し、低周波磁界が発生する。その大きさは、端末から少し離れ
れば非常に小さいが、端末の近傍では、日常環境における送電線などからの低周波磁界と比較して、小
さいとはいえない。通話時に携帯電話端末は頭部に接近して使用することから、低周波磁界についての
検討も必要である。
第3世代の携帯電話では、符号分割多元接続(CDMA)方式が用いられており、TDMA 方式のよう
に波形の包絡線に断続的なパルス波形によって生じる明確な低周波成分は見られない。一方、送信出力
の制御はきわめて高速に行われ(W-CDMAでは 1.5kHz、cdma2000 では 800Hz)、送信電力の変動
によるによるバッテリー電流の変化が予想される。電流の変化は変動磁界を発生する。
Mobi-kids の欧州の研究グループでは、第2世代の GSM 方式(TDMA 方式を採用している)の携帯
電話端末について精力的に低周波磁界の検討が行われている。わが国では、すでに第 2 世代から第 3 世
代への移行が完了している。このため、第3世代の携帯電話について、わが国独自の検討が必要である。
本検討では、日本の第3世代携帯電話から放出される低周波磁界について、測定実験によりその特性
を明らかにし、携帯電話に関する疫学研究において、低周波磁界のばく露が有意なレベルであるか検討
する。
3.2
低周波磁界測定実験
3.2.1
実験概要
本研究では、送信電力を記録する機能のついた通話状況記録用携帯電話端末(Software
Modified Phone,SMP)を用いて検討を行った。SMPは cdma2000 方式の携帯電話端末であ
り、市販の携帯電話端末のソフトウェアが修正されたものである。
実験では、基地局シミュレータ(MT-8820A, ANRITSU)を用いて、SMPの送信電力を制御し
た。SMPの送信電力は、最大の電力を送信する設定、および、最大値の場合のシミュレータに
よる受信電力に対し、指定しただけ弱い受信電力になるような出力を要求する設定(closed loop
制御)を用いた。また、電波伝搬に急激な変動がある場合を想定して、アルミ箔で一部を覆った
ファンを伝搬路に挿入しファンを回転させることによって、周期的なフェージング環境での測定
も行った。
低周波磁界はフラックスゲートセンサー(Mag-03, Bartington 社)を用いて測定した。測定位
置は強い磁界分布が得られた点(図3-2-1)とし、センサーと携帯電話端末表面の距離は 25
mm とした。低周波磁界の発生源として、バッテリー電流が支配的とされていることから、バッ
31
テリー電流の測定も行った。バッテリー電流はカレントプローブ(HIOKI 9274)を用いて測定し
た。
図3-2-1 低周波磁界の測定位置(×で示した位置)
3.2.2
基地局シミュレータの closed loop 制御を用いたSMPの送信電力の特性
基地局シミュレータを用いてSMPの送信電力を最大に設定にしたところ、基地局シミュレータの
Input Level(Rx)は24dBmであった。基地局シミュレータの closed loop 制御における Input Level
設定値を、24dBmから10秒毎に3dBmずつ63dBmまで下げていった時のSMPに記録さ
れた送信電力の数値を図3-2-2に示す。Input Level を1つの値に設定しても、SMP送信電力は
一義に定まらない傾向が見られ瑠ことに注意が必要である。
図3-2-2 closed loop 制御におけるSMP送信電力の応答
32
3.2.3
バッテリー電流のSMP送信電力特性
低周波磁界の主な発生源と考えられる、バッテリー電流に関してSMPの送信電力との関係を明
らかにしておく必要がある。そこで、バッテリー電流の測定実験を行った。測定実験の実験系を図
3-2-3に、測定使用機器を表3-2-1に、実験の様子を図3-2-4に示す。
図3-2-3 バッテリー電流測定実験の実験系
表3-2-1 バッテリー電流測定使用機器
機器名
メーカー
型番
基地局シミュレータ
Anritsu
MT8820A
カレントプローブ
HIOKI
9204
データロガー
GRAPHTEC
GL900-4
33
図3-2-4 バッテリー電流測定の実験風景
SMPの送信電力に対するバッテリー電流の特性を図3-2-5に示す。SMP送信電力は1つ
の Input Level につき10秒間平均の値を、バッテリー電流についても同様に10秒間平均の値を
用いている。結果は、800 MHz 帯と 2 GHz 帯において同様の傾向を示した。SMP送信電力が5
dBm 以下ではバッテリー電流値は 200 mA 程度で一定であり、5dBm 程度以上では送信電
力の増加に伴い 600 mA 程度まで増加することが確認できた。これは、SMP送信電力が5dBm
程度以下の領域では、携帯電話の内部制御に使用される電流が電波の出力に使用される電流よりも
十分大きく支配的であるためだと考察される。
低周波磁界はバッテリー電流の変動により発生するものだという予測のもと、低周波磁界解析は、
SMP送信電力が5dBmより十分小さい領域と5dBmより十分大きい領域の 2 つに分けて行
った。
図3-2-5 バッテリー電流の出力電力に対する特性
3.2.4
低周波磁界測定条件
低周波磁界測定の実験系を図3-2-6に、実験に使用した機器を表3-2-2に示す。
図3-2-6 低周波磁界測定の実験系
34
表3-2-2 低周波磁界測定使用機器
機器名
メーカー
型番
基地局シミュレータ
Anritsu
MT8820A
送信アンテナ 900 MHz 帯
SPEAG
D900V2
送信アンテナ 2 GHz 帯
SPEAG
D1950V2
オシロスコープ
LeCroy
waveJet 354
フィルタ装置
エヌエフ回路ブロック
MS-521
フィルタユニット
エヌエフ回路ブロック
P84
フラックスゲート 電源装置
Kokusai Electronics Corp
特注品
フラックスゲート センサー
Bartington
Mag-03 MS-70
本研究では 3.2.4 で述べたように、SMP送信電力が5dBmより十分大きな領域(送信電力:高)
と5dBmより十分小さな領域(送信電力:低)の2つの領域に分けて低周波磁界の測定を行う。
「送
信電力:低」では Input Level を60dBm、「送信電力:高」では Input Level を25dBm
とした。また、それぞれの条件に対して、ファンが無回転のパターン(ファン:停止)とファンが
低速運転のパターン(ファン:低速)とファンが高速運転のパターン(ファン:高速)でのフェー
ジング環境を設定した。以上の計6パターンの測定条件で、低周波磁界とバッテリー電流の測定を
行った。実験の様子を図3-2-7と図3-2-8に示す。
図3-2-7 低周波磁界測定の実験風景 1:手前は受信アンテナと
伝搬路を変動させる場合に用いたファン
35
図3-2-8低周波磁界測定の実験風景 2:被測定端末とセンサーの配置
3.2.5
低周波磁界測定結果(送信電力:低)
携帯電話端末表面近傍では、本体垂直方向の磁界が支配的であった。そこで、以下では本体垂直
方向の磁界の測定結果を述べる。
「送信電力:低」においては、低周波磁界(図3-2-9から図3
-2-11)とバッテリー電流(図3-2-12から図3-2-14)ともにフェージングの有無に
よる波形の変化は確認できなかった。
図3-2-9 低周波磁界
図3-2-10 低周波磁界
(送信電力:低、ファン:停止)
(送信電力:低、ファン:低速)
36
図3-2-11 低周波磁界
図3-2-12 バッテリー電流
(送信電力:低、ファン:高速)
(送信電力:低、ファン:停止)
図3-2-13 バッテリー電流
図3-2-14 バッテリー電流
(送信電力:低、ファン:低速)
(送信電力:低、ファン:高速)
3.2.6
低周波磁界測定(送信電力:高)
「送信電力:高」においては、ファンの回転数に応じた波形の変化が低周波磁界とバッテリー電
流ともに見られた。低周波磁界の結果を図3-2-15から図3-2-17に、バッテリー電流の
結果を図3-2-18から図3-2-20に示す。
図3-2-15 低周波磁界
図3-2-16 低周波磁界
37
(送信電力:高、ファン:停止)
(送信電力:高、ファン:低速)
図3-2-17 低周波磁界
図3-2-18 バッテリー電流
(送信電力:高、ファン:高速)
(送信電力:高、ファン:停止)
図3-2-19 バッテリー電流
図3-2-20 バッテリー電流
(送信電力:高、ファン:低速)
(送信電力:高、ファン:高速)
3.3
考察
3.3.1
Mag-03 のノイズについて
低周波磁界の測定に用いたフラックスゲートセンサーMag-03 に、周期的なノイズが生じている
ことがわかった。ノイズ波形の様子を図3-3-1に示し、そのスペクトルを図3-3-2に示す。
ノイズ波形は最大で振幅 60 nT に相当する大きさとなっており、周波数成分は 50 Hz とその高調
波成分からなる。測定される低周波磁界が微小なものであった場合、Mag-03 のノイズが支配的に
なる場合があるため、注意する必要がある。
38
図3-3-1 Mag-03 のノイズ波形
3.3.2
図3-3-2 Mag-03 のノイズ波形の FFT 結果
低周波磁界(送信電力:低)について
SMP送信電力が5dBmより十分小さい時、低周波磁界は 100 nT 程度発生した。低周波磁界
のレベルが Mag-03 のノイズに比べて相対的に小さいため、ノイズの評価も合わせて行う必要があ
る。FFT 結果をまとめたものを表3-3-1に示す。測定データに 50 Hz の高調波成分が表れた
が、図3-3-2で示した振幅と近い値を示していたため、それらはノイズとして表のデータから
省いた。また、200 Hz 以上の周波数成分は 50 Hz の高調波成分以外どれも微小なものとなってい
たため、200 Hz までの解析を行った。
表3-3-1 「送信電力:低」での低周波磁界 FFT 結果のまとめ
測定条件
ピーク周波数[Hz]
有意な周波数成分
ファン:停止
35.7
35.7 Hz の高調波
(6.29 nTp-p)
90.6 Hz の高調波
71.3
35.7 Hz の高調波
(6.26 nTp-p)
90.5 Hz の高調波
ファン:低速
7.63 Hz
71.3
35.7 Hz の高調波
(5.19 nTp-p)
90.6 Hz の高調波
ファン:高速
11.4 Hz
表3-3-1より 35.7 Hz の高調波成分が低周波磁界の支配的な周波数成分であることが確認で
きた。90.6 Hz 程度の高周波成分が 35.7 Hz の半分程度の振幅で確認できた。また、ファン:低速
では 7.63 Hz(ピーク値の振幅の 14 %程度)が、ファン:高速では 11.4 Hz(ピーク値の振幅の 17 %
程度)にそれぞれ周波数成分が確認された。
3.3.3
バッテリー電流(送信電力:低)について
SMP送信電力が5dBmより十分小さい時、バッテリー電流は 200 mA 程度で安定している。
39
0 から 200 Hz までの FFT 結果をまとめたものを表3-3-2に示す。また、2 kHz において、
2.1 mIp-p 程度の周波数成分が確認された。
表3-3-2 送信電力:低でのバッテリー電流 FFT 結果のまとめ
測定条件
ピーク周波数[Hz]
有意な周波数成分
ファン:停止
35.9
35.9 Hz の高調波
(5.14 mAp-p)
90.5 Hz の高調波
35.9
35.9 Hz の高調波
(5.79 mAp-p)
90.5 Hz の高調波
ファン:低速
7.78 Hz の高調波
ファン:高速
35.9
35.9 Hz の高調波
(5.77 mAp-p)
90.5 Hz の高調波
11.4 Hz の高調波
表3-3-2より 35.7 Hz の高調波成分がバッテリー電流の支配的な周波数成分であることが
確認できた。90.6 Hz 程度の高周波成分が 35.7 Hz の半分程度の振幅で確認できた。また、ファン:
低速では 7.78 Hz(ピーク値の振幅の 31 %程度)が、ファン:高速では 11.4 Hz(ピーク値の振幅の
49 %程度)にそれぞれ周波数成分が確認された。
3.3.4
低周波磁界(送信電力:高)について
SMP送信電力が5dBmより十分大きい時、低周波磁界は 400 nT から 600 nT 程度発生した。
FFT 結果をまとめたものを表3-3-3に示す。200 Hz 以上の周波数成分は 50 Hz の高調波成分
以外どれも微小なものとなっていたため、200 Hz までの解析を行った。
表3-3-3より波形の支配的な周波数成分が、フェージングの強さ(ファンの速度)によって変
化することが分かった。また、SMP送信電力が5dBmより十分小さい時に特に強い値が確認さ
れた、磁界強度の 35.7 Hz、91.5 Hz の周波数成分の振幅をまとめたものを表3-3-4に示す。
表3-3-3 送信電力:高での低周波磁界 FFT 結果のまとめ
測定条件
ピーク周波数[Hz]
含まれる周波数成分
ファン:停止
90.5(18.1 nTp-p)
確認不可
ファン:低速
7.63(91.1 nTp-p)
7.63 Hz の高調波
ファン:高速
11.4(115 nTp-p)
11.4 Hz の高調波
40
表3-3-4 送信電力:高での低周波磁界 FFT 結果のまとめ
(35.7 Hz、91.5 Hz に着目したもの)
測定条件
3.3.5
磁界強度の振幅
磁界強度の振幅
@35.7 Hz[nTp-p]
@91.5 Hz[nTp-p]
ファン:停止
4.94
9.60
ファン:低速
4.09
4.54
ファン:高速
6.19
5.41
.バッテリー電流(送信電力:高)について
SMP送信電力が5dBmより十分大きい時、バッテリー電流は 300 mA から 600 mA 程度で
あった。0 から 200 Hz までの FFT 結果をまとめたものを表3-3-5に示す。また、SMP送信
電力が 5 dBmより十分小さい時に特に強い値が確認された 35.7 Hz、91.5 Hz の磁界強度の振幅
をまとめたものを表3-3-6に示す。
表3-3-5 送信電力:高でのバッテリー電流 FFT 結果のまとめ
測定条件
ピーク周波数[Hz]
含まれる周波数成分
ファン:停止
32.3(4.26 mAp-p)
89.9 Hz
ファン:低速
7.63(75.8 mAp-p)
7.63 Hz の高調波
ファン:高速
11.3(72.7 mAp-p)
11.4 Hz の高調波
表3-3-6 送信電力:高でのバッテリー電流 FFT 結果のまとめ
(35.7 Hz、91.5 Hz に着目したもの)
測定条件
磁界強度の振幅
磁界強度の振幅
@35.7 Hz[mAp-p]
@91.5 Hz[mAp-p]
ファン:停止
0.47
0.47
ファン:低速
3.95
2.93
ファン:高速
5.37
1.92
表3-3-5より波形の支配的な周波数成分がフェージングの変動周波数(ファンの回転速度)
によって変化していることがわかった。
41
3.4
結論
SMP送信電力が5dBmより十分小さい時、低周波磁界はおよそ 100 nT 程度とノイズに埋もれる
程度の微小なレベルである。一方、SMP送信電力が5dBmより十分大きい時、低周波磁界はフェー
ジング環境の影響を強く受け、400 nT~600 nT の範囲で大きく変動した。
しかし、送信電力が5dBm以上となる条件は、基地局シミュレータを用いて人工的に再現した極端
な例である。また、実環境の使用において、送信電力が5dBm以上を占める割合はわずか 4.8 %とな
っている[3]。
このことから、わが国の第3世代携帯電話から発生する低周波磁界は、実環境において微小なレベル
となり、人体頭部へのばく露量は、日常環境での低周波磁界ばく露に比べて十分に小さいと考えられる。
本研究でのフェージング環境は、人工的に作り出した極端な例であるため、実環境での低周波磁界に
関して検討する必要がある。
IV
参考文献
[1] 総 務 省 , 「 通 信 量 か ら み た 我 が 国 の 通 信 利 用 状 況 【 平 成
22 年 度 】」 :
http://www.soumu.go.jp/main_content/000140758.pdf.
[2] 総 務 省 , “ 電 界 強 度 等 調 査 に 関 す る 報 告 書 , ”
[ オ ン ラ イ ン ]. Available:
http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/purpose/hitsuyo/body/report/index.htm.
[3] 渋谷まりこ, “通話情報記録端末(SMP)を用いた疫学研究ばく露評価の基礎的検討,” 信学技報,
vol. 112, no. 361,EMCJ2012-87, pp. 7-10, 2012 年 12 月.
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