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現代の環境病に挑む「エコ村」

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現代の環境病に挑む「エコ村」
最終回
Germany
ド イツ
Germany
ヴォルフハーゲン
現代の環境病に挑む
「エコ村」
臨床環境学の権威、ルノー博士を訪ねて
ヴォルフハーゲン
文/片野 優 写真提供/ IFU 高台に立つ村長舎が環境病院・エコホテルに改築予定
グリムのおとぎの国に
風力発電機が回っている
ドイツ語でヴォルフは狼、ハーゲンは森。そ
の名の通り、
『狼の森』の大きな時計台の前に
は、グリム童話『狼と7匹の子やぎ』の像が立
ドイツ・ヘッセン州のカッセル市の東にヴォ
ルフハーゲンという小さな村がある。教会を中
っている。
風光明媚なグリムのおとぎの国に、臨床環境
心に、絵本からぬけ出したようなかわいい家々
学の権威がいると聞き、はるばるこの村を訪ね
が軒を連ねる。その中には、グリム兄弟の末弟
てみた。取材の朝、ルノー博士は若々しい村長
ルードヴィヒの家も残る。
を連れ立ってやって来た。
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村の中心の大きな時計台の前に立つ
「狼と7匹の子ヤ
ギ」
の像
おり、かつてケネディー大統領
の医師団のひとり、環境医学者
のレア博士に出会い、師事した。
その後、短時間診療と薬漬け
治療の現代医療に疑問をもつよ
うになった博士は、1989年に温
昨年、シャーケ村長の英断で、この村は「エ
泉保養地バードエムステルにIFU(環境病研究
コ・エネルギービレッジ賞」を受賞。すでにい
所)を設立。昨年まで、ここで環境病の治療に
くつか風力発電機が回っているが、2050年を
当たっていた。
目標に太陽光発電、バイオガスを導入し、一
大エコプロジェクトを計画中だ。
加えて、高台に立つ見晴らしのよい村庁舎
に、ルノー博士の環境病療養施設を兼ねたエ
コホテルを建設する予定だという。
ドイツでは約3000万人の人が
何らかのアレルギー症状を訴えている
博士は、現代の環境病は食物アレルギー、
金属アレルギー、化学物質過敏症、電磁場障
害等、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こ
ると考えている。
実際の治療に当たっては、患者の人間性を
尊重し、個体差を重んじて、時間をかけて問
診や検査を繰り返す。臨床環境学と言われる
所以がここにある。
まず環境病治療においては、この個体差が
ミュンヘン大学とマーブルグ大学で皮膚と内
前提となる。例えば、1杯のビールで酔って
分泌線の研究を修めたルノー博士は、米テキ
しまう人もいれば、何杯飲んでも酔わない人
サス州のダラスの環境健康センターに勤務した
もいるというように、アレルギーとは個体に
おける過敏症にほかなら
ない。
博士によると、ドイツ
では約3000万人の人が
何らかのアレルギー症状
を訴えているというから、
2.7人に1人がアレルギー
に感染していることにな
る。ドイツでは、白樺花
粉による花粉症が主流だ
が、花粉症に苦しむ人は
同時に食物アレルギーを
発症していることが多い
という。一人が複数のア
気泡レンガを使って通気性と断熱性を考慮した屋根
レルギーに感染すること
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明るく清潔なルノー博士の現在の診療所
をクロスアレルギーと呼ぶ。
これに関して、ドイツ国内で1300人の新生
児を対象に調査したところ、約30%の430人
にアトピーが見られた。1才未満で約6%の80
人に鶏卵アレルギー、その後80人に家ダニ過
敏症の症状が表れ、6年後に喘息を発症した。
これは、アトピーが食物アレルギーから埃ア
レルギー、喘息へと発展したクロスアレルギー
の一例である。
毛髪中から検出された650㎎の鉛
2006年、ルノー博士は旧ユーゴスラビアの
コソボを訪ねた。この町の鉛工場のそばで暮ら
す4才の男の子は嘔吐を繰り返し、意識を失っ
たまま病院に運ばれてそのまま亡くなった。
この男の子の毛髪中から650 ㎎の鉛が検出
された。正常値は1㎎、10㎎で致死量と言わ
れるから、いかに多量の鉛が蓄積されていたか
理解できよう。
また、アパレルメーカーでアイロンがけして
いた20歳の女性は血色が悪く、疲労と集中力
手前がグリム兄弟の末弟で画家だったルードヴィヒの家
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環境病院そばには美しい自然が広がる
の低下を感じていた。いくつもの病院をまわっ
た末、
博士の研究所を訪れた。検査の結果、
ジー
決定的な効果はない。
研究を重ねるうちに、ルノー博士は食品や食
ンズの染料によるケミカルアレルギーと診断。
品添加物が原因しているのではないかとの結
転職した後、腎臓も回復し、健康を取り戻した。
論に至った。
さらに博士は、母乳の危険性についても指
アレルギーとADHDの関係性を調査したと
摘する。食物連鎖の頂点に立つ人間にはさま
ころ、合成色素や防腐剤アレルギー患者の実
ざまな有害物質が蓄積する。この有害物資は
に79%がADHDを発症していた。同様に、牛
油脂に溶けるため、母乳に入り込む。 乳64%、チョコレート59%、ぶどう50%、チー
そのため、ドライクリーニングの溶液、香料、
サンオイルのほか、許容量の40倍を越えるダ
ズ45%、卵40%と、アレルギーとADHDは密
接に関係していた。
イオキシンまでが母乳から検出された例がある。
「この映像を見てください」
。子どもは、チョ
次に博士はビデオを見せながら、異常な行
コレートを食べた10分後に泣き叫び、手がつ
動をとるADHD(注意欠陥・多動性障害)の子
どもについて説明してくれた。
けられないほど暴れ出した。
この子は特殊学校に入れられ、8年間毎日リ
ADHDは脳の前頭葉の意欲・感情・注意力
タリンを8粒飲まされてきたが、まさかチョコ
・集中力の部分が約20%縮小し、症状として
レートが原因だったとは、ルノー博士以外誰も
は落ち着きがなく、破壊的な行動に出る。
気づかなかった。
アメリカには約300万人のADHDがおり、
ほかにはナッツ、栗、桃、トマト、バナナ、
治療には覚醒剤の一種である塩酸メチルフェ
パイナップル、パパイヤ、マンゴ等が異常行動
ニデート(薬剤名「リタリン」
)を投与するが、
の原因になることがあるという。
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ルノー博士(左)とシャーケ村長(右)
「この患者は方向転換
できませんでした」博士
はパーキンソン病患者の
映像を見せながら、脳に
あるタンパク質が酸性ス
トレス(環境毒)に侵され
ている状況を説明する。
不治の病とされるパー
キンソン病だが、精密検査で患者個人の詳細
なデータを収集後、毒素を体外に排出するグ
ルタシオンを600㎎注射。すると15分後に患
者の震えは止まり、しっかりした足取りで180°
方向転換できるようになった。同様に、難病の
アルツハイマーの治療も進んでいる。
環境病院の病室を備えたエコホテル
村を一望する村庁舎の庭には、樹齢100年
を越える木々が立っていた。環境病院の病室
を備えたエコホテルにとって、最高のロケーシ
ョンだ。
病院は電磁波過敏症患者のため、鉄筋を使
わない昔ながらの “樽型アーチ建築法”。金属
ケーブルもシールドして電磁波を封じ込め、ポ
リエチレンの断熱材は健康に悪いので気泡レ
ンガを選んだ。また、病室の中や家具は無農
薬で育てた木材を使用。木材は無塗装で麻の
オイルと蜜蝋で磨き、金属は釘に至るまでいっ
さい使わず木釘を使う念の入れようだ。しかも、
ベッドのマットはラテックス(ゴム)アレルギー
用のポリエステル製と細かな配慮がなされて
いる。
夜寝ている間、肝臓が解毒作用するため、
寝室は清潔に保ち、あわせて木材や衣服から
発散する有害物資や電磁波を除去する寝室作
りを睡眠建築と呼ぶそうだ。
鉄筋を使わない昔ながらの“樽型アーチ建築法”
。中で家畜を
飼っていた
「ほら、向こうに風車が見えますよ」
。
ルノー博士の笑顔に、現代環境病の闇を照
らす曙光が見えた。
本誌ヨーロッパ総支局長
片野 優(かたの・まさる)
1961年生まれ。群馬県館林市出身。東京都立大学法
学部卒業。集英社退社。国際ジャーナリスト。東欧自
由化以後、ウィーン、ブタペスト、ベオグラードで暮ら
す。
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